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社会技術論最終レポート

03-090052 工学部社会基盤学科 C コース 3 年 古川由己

BASIC INCOME

0.ABSTRACT

本レポートは、1.日本の現在の社会保障制度が抱える問題を把握し、2.それを克服する手段
としてのベーシック・インカムを分析し、3.ベーシック・インカム自体が抱える問題とその
改善案を提案することを目的とする。

就職難が叫ばれている(でも生産性が上がったら、人が余るのは当然だろう。じゃあ余っ
た人はどうするのだ?)。工業化が進み、生産性が上がったにも関わらず、ゆとりが減尐し
ている(なぜ余るはずの時間が無いのだろうか?)。正月にも公園で過ごさざるをえない人
達がいる(泊めてくれる友達はいないのだろうか?)。かならずしも本レポートの問題設定
と直結している疑問ばかりではないが、本レポートの根っこにはこういったことに対する
問題意識がある。本レポートを通じて、私だけでなく、読んでくださる方もそこに思いを
馳せていただけると幸いである。

ベーシック・インカム(BI)とは、「全国民に無条件で最低限の生活ができる額(6 万~8
万円?)を支給する制度」のことを指す。ポイントは「無条件で」という点にあり、1 億円
収入があろうが収入が全くなかろうが関係ない。まだ実現されていない政策であり、一口
にい BI と言っても、その内容にはバリエーションがあるのが実情である。
目次

0.Abstract ..............................................................................................................................................1

1.問題の構造化と分析........................................................................................................................3

1.0 問題設定の妥当性の確認.........................................................................................................3

1.1 情報の整理 ................................................................................................................................4

1.2 情報の構造化 ............................................................................................................................5

2.対策分析 ...........................................................................................................................................6

2.0 解決策診断カルテとは.............................................................................................................6

2.2 解決策診断カルテによる対策分析.........................................................................................6

3.対策評価 ...........................................................................................................................................9

3.0 対策評価とは ............................................................................................................................9

3.1Role Playing .................................................................................................................................9


3.2Scenario Planning ......................................................................................................................10

3.3Twitter’s FB ...............................................................................................................................10

3.4 まとめ ......................................................................................................................................10

4.まとめ ............................................................................................................................................. 11

5.追記 ................................................................................................................................................. 11

6.補註 ................................................................................................................................................. 11
1.問題の構造化と分析

―――ジグソーパズルのピース(知識の断片)を集めて全体像を描く作業を誰かがしなき
ゃいけない。それを「知の構造化」と呼んでいます。いくらグーグルが便利といっても、
パズルを組み立ててはくれない(小宮山宏)

1.0 問題設定の妥当性の確認

ベーシック・インカムを検討するという問題設定が妥当かどうか、個人の人生にかかわる
リスクの存在(病気・失業など)から出発し、Toulmin Model(補註1)を使って検討する。

根拠:失業や病気、災害に因る被害など、生活に大きく関るリスクが存在する。

推論:すべての日本国民は最低限の文化的生活を送る権利がある。

主張:国民が最低限の生活を遅れるような制度が必要である。

これは妥当であろう。次のステップに進もう。

根拠:日本には、国民皆保険や公的扶助をはじめとした社会保障制度がある。

推論:社会保障制度が整備されていれば国民は最低限の生活を送ることができる。

主張:日本の社会保障制度がしっかりしているので問題ない。

とりあえず社会保障制度はしっかり機能しており、ベーシック・インカムを論ずる必要が
ないという主張を考えてみた。これは反論できる。

根拠:現状の社会保障制度はこれまでの人口増加社会という構造が前提となっている。

推論:前提が変われば結論が変わる。

主張:社会保障制度は再構築する必要がある。

ベーシック・インカムという形が最適なのかまではわからないが、妥当性のある主張だと
考えられる。
1.1 情報の整理

現代日本の社会保障に関する情報を上記のように整理することができる。
(補註 2)
1.2 情報の構造化

ベーシック・インカム

ベーシック・インカム
価値観の変化

その結果 家庭福祉
性別分業

その結果
余暇時間発生
人口構造変化 会社福祉

補う

財政難 補う 手続き煩雑 文化的活動


産業構造変化(生産性向上し、全員労働の必要なし) 社会保障
要素として
要素として
社会保険 要素として
景気循環
社会福祉

景気悪化 生活保護
減退
労働意欲
けが・病気 障害
失業 加齢
人間の尊厳を傷つける(スティグマ)

経済的困窮

人間的最低限の生活ができない

精神的に満足できない

1.1 で整理した情報を因果関係を基準に上記の図のように構造化することができる。

(図の説明:□で囲まれているのは現象や問題点、◯で囲まれているのは対策。実線矢印
は基本的に正の因果関係、破線矢印は負の因果関係。)

図だけではわかりづらいので文章化しよう。

原問題は、様々なリスクにより、経済的困窮に陥ることで、人間的最低限の生活ができな
くなる(ことがある)という点にあった。
(図、下から二番目の□)。そのリスクとしては、
失業・怪我・病気・加齢・障害などが考えられる。その背景には産業構造変化や経済循環
がある。このリスクへの対策として、社会保険・社会福祉・生活保護などの社会保障制度
が存在する。
社会保障制度というのは日本では戦前ビスマルクの社会政策を倣い始まり、戦後には憲法
で保障される最低限の生活を保障する具体策として整備されてきた。これはまた、性別分
業によって生まれた女性が担い手となる家庭福祉、会社によって主に男性を対象に提供さ
れた会社福祉で不足する面を補うものとして機能してきた。

社会保障制度は最低限の生活を多く実現してきた一方で、数々の制度が乱立し手続きが煩
雑化するとともに、生活保護を受けることが精神的にダメージになったり(スティグマ)、
一度生活保護を受けると下手に働くと収入が減るため勤労意欲が失われるという問題(失
業の罠)が発生するようになった。また、1970 年代以降税収の減尐とともに、財政難とい
う課題が表面化してきた。

ベーシック・インカムは、全国民に無条件で最低限の生活ができる額(6 万~8 万円?)を


支給することで、既存の社会保障制度の煩雑さを解決する。また、スティグマや失業の罠
といった問題を発生することもない。だから勤労意欲を削ぐことはない、という主張もあ
れば、働かなくても生きて行けるのであれば働かなくなるのではないか、という主張もあ
る。必要以上に働く必要がなく、余暇時間を文化的活動に割く人が増えるとも考えられる。
財政難に対しては、ベーシック・インカムを推進する学者からは財源が確保できるとの主
張がされているが、議論の余地があるところである。

2.対策分析

―――問題の分析によって解決案が一つしか見つからなければ、その解決案は、先入観に
理屈をつけたにすぎないものと疑うべきである。(ドラッカー)

2.0 解決策診断カルテとは

解決策診断カルテとは、問題特性と解決メカニズムを適度に抽象化し、それらを対応させ
たものである。様々な問題と解決策の対応データを蓄積し、それらがどういう問題と解決
策が対応しやすいかを明らかにし、新たに問題を分析し、解決策を立案するときのヒント
となるようにするのが目的である。

2.2 解決策診断カルテによる対策分析

解決策診断カルテ

1.解決策名
ベーシック・インカム 1

2.問題特性
問題の原因
□ 利便性の追求
□ 悪意
☑ リスク認知不足
・失業をはじめとした個人的リスクを理解せず、対策が不十分である
□ 情報不足
☑ 知識・能力の不足
・個人で対策しようにも、貯金などには限界がある。
□ 急速な被害の拡大
□ システムの複雑性
□ 連携不足
□ 無責任
□ その他( )

問題の種類
□ 不正行為
□ 不適切な行動
☑ 対策が不適切
・対策が不十分である
□ その他( )

3.解決メカニズム
解決の手段
□ 規制・強制・懲罰
□ 情報の提供
□ 教育
□ 能力向上
□ 経済的誘導
□ 技術的対策
□ 社会運動
☑ その他(一定額の無条件配布)

解決の種類
□ 好ましい行動の選択
☑ 適切な対策
・選択などをせずとも最低限の生活を無条件で保障
□ 選択的行動の支援
□ 合理的判断の支援
□ 不正行為の抑止
□ その他( )
解決策診断カルテ

1.解決策名
ベーシック・インカム 2

2.問題特性
問題の原因
□ 利便性の追求
□ 悪意
□ リスク認知不足
□ 情報不足
□ 知識・能力の不足
□ 急速な被害の拡大
☑ システムの複雑性
・既存社会保障は対象認定が煩雑。モレ・ダブリや中間コストの発生。
□ 連携不足
□ 無責任
□ その他( )

問題の種類
□ 不正行為
□ 不適切な行動
☑ 対策が不適切
・対象認定の煩雑さにより補助金の支給が遅れたり、補助金のモレ・ダブリが発生する。
また、作業にコストがかかる。
□ その他( )

3.解決メカニズム
解決の手段
□ 規制・強制・懲罰
□ 情報の提供
□ 教育
□ 能力向上
□ 経済的誘導
□ 技術的対策
□ 社会運動
☑ その他(既存の給付金に関する社会保障制度を一掃し、国民全員に無条件で一定額を
支給する制度に一本化する)

解決の種類
□ 好ましい行動の選択
☑ 適切な対策(簡潔化。既存の金銭給付社会保障制度を一掃し、単純化する。)
□ 選択的行動の支援
□ 合理的判断の支援
□ 不正行為の抑止
□ その他

3.対策評価

3.0 対策評価とは

思いついた問題解決策をとりあえず試す、というのが有効なこともあるが、大きく社会制
度を変革するときにはうまくいかなかった時の弊害が大きく、そういうわけにもいかない。
そこで、事前にその対策が妥当か検討する必要がある。いくら事前に検討しても確実なこ
とがわかるわけではないという限界はあるが、大きな誤りを避けられると期待できる。

3.1Role Playing

Role Playing とはその名の通り、関係者であったらどうするか、ということを考えることで、


様々な立場から解決策を評価することを目的とする。時間や資金などのリソースがあれば、
直接インタビューをすることも大切である。今回は

1. 生活保護を受けている人、ホームレスなど

2. 厚生労働省

3. 高額納税者(=「受給額<納税額」

の 3 つの立場から考えてみる。

1. 「下手に働くと収入が減ってしまっていたのが、ベーシック・インカム制度に移行
し、働いたら働いただけ収入が増える。働こう」 (模範的生活保護受給者 A 氏)、「やっ
とアパートに住めそうだ」 (ホームレス B 氏)「一発当てて人生変えよう!」 (ホームレ
ス C 氏)、
「シューカツめんどいし、BI あるし、田舎か~えろ」(大学生 D 氏)

2. 「仕事減る。いやだ」(3 年目 E 氏)。「なんで死ぬほど働いてる俺らがプータロー
に毎月そんなに支給しなくちゃいけないんだ」 (10 年目 F 氏)、
「前例ないことやりたく
ない」 (あとちょっとで天下り G 氏)

3. 「なんでそんな払わなきゃいけないんだ」
(大家 H 氏)
「面白い試みだと思います。」
(サラリーマン I 氏)
「解雇しても食べていけるので、雇いやすく、首切りやすく、経
営しやすいです」(会社経営 J 氏)

まとめると、立場が同じような人でも個人個人によって趣向違うと言える。ベーシッ
ク・インカム導入によって勤労意欲が上がるか下がるかといわれると、その両方の人
間がいるだろう。その割合が問題になってくるだろう。

3.2Scenario Planning

Scenario Planning とは、ストーリーを考えることでどのように物事が進むかを考える手法で


ある。特に、不確実性(どちらに転ぶかわからない)が大きく、重大性(影響が大きい)
が大きい 2 つの事項についてマトリクスを作り、4 つのパターンについて考えることが多い。

今回は、財政(毎月8万円支給できる OR 毎月2万円しか支給できない)と国民の勤労意欲
(チャレンジする人が増える OR 働きたがらない人が増える)の2軸で考える。

1. 「毎月8万円∧チャレンジする人が増える」ベーシック・インカム導入により、多尐
事業で失敗しても最低限の生活ができるようになった。失敗が怖く二の足を踏んでい
た起業予備軍などが積極的に新しいことにチャレンジし、経済も文化も活性化。財政
も健全化するなど、好循環が生まれる。

2. 「毎月8万円∧働きたがらない人が増える」ベーシック・インカムが導入され、毎月
8万円を支給された人々は、あくせく働くことに嫌気が指し、働かなくても大丈夫な
暮らしを志向するようになった。東京都などでは家賃などが高く暮らしていけないの
で、できるだけ基本生活費の安い地方へ多くの人が移動した。その結果地域格差は減
尐したが、財政難が依然続く。

3. 「毎月2万円∧チャレンジする人が増える」ベーシック・インカムが導入されたとは
いえ、2万円では生活できない。チャレンジャー増加と雇用の流動化により社会が活
性化されるが、一部に生活に困る人達が発生する。チャレンジャー同士はお互い助け
合うが、チャレンジしない人がむしろこまるという状況が生まれる。

4. 「毎月2万円∧働きたがらない人が増える」ベーシック・インカム導入により小遣い
が増えたと思った人々は、尐し支出を増やしつつ、余り働きたくないと考える。その
結果労働賃金の上昇と、移民などの新規労働力の発生が生じる。ベーシック・インカ
ム受給資格のない勤勉な新規労働者が働かないベーシック・インカム受給者の収入を
超え、社会不安が生じる。

3.3Twitter’s FB

Social Media として(一部で?)注目される Twitter により、関心をもつ多様な人からのフィ


ードバックが得られる(と現時点では期待している)。それを踏まえた上で再度考察したい。

3.4 まとめ

当たり前のことではあるが、すべての人にとって無条件に好ましい政策はありえず、ベー
シック・インカムも例外ではない。しかし、社会保障制度がこのままでは立ち行かなくな
るのが目にみえている中で、ベーシック・インカムは有望な政策として検討されるに十分
値するのではないだろうか。
4.まとめ

ベーシック・インカムはただの意表をついた突飛なアイデアではなく、産業構造や人口構
造が変化したことを受け、社会保障制度を変革する中で有望な選択肢である。

また、本レポートでは取り上げなかったが、ベーシック・インカム導入により、雑多な補
助金の数々を撤廃ことができると考えられる。たとえば、農家戸別保証制度というものが
あるが、これも、ベーシック・インカムで最低限の生活が保証されれば不要になるのでは
ないだろうか。ベーシック・インカムの導入は、社会保障だけでなく、その他の金銭的補
助制度を不要にする非常に強力な政策になる可能性を持っているのではなかろうか。

5.追記

レポートに必要な情報を教えてくださった方々、レポートにツッコミを入れてくださった
方々、に感謝します。

6.補註

1. Toulmin Model

(図:初心者のディベーターを救う団 HP より)

Toulmin Model とは、議論の構造化の一手段であり、主張の説得力を見極めるために用いら


れる。このモデルに従うと、議論は、根拠・推論・主張の 3 つに分析できる。根拠が真で
あるか、推論が妥当か、根拠・推論・主張のつながりが妥当であるかを確かめる。反論を
繰り返し、反論ができなくなったところで主張の確からしさが確かめられる。

2.用語解説

原問題:もともとの問題

既存の解決策:既に実行されている解決策。これ自体に問題があることも多い。

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