たまねぎ通信 FEBRUARY 2011 No 16

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社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院・勤医協伏古10条クリニック

2011.2
No.
016

冬:しばれる朝 photo by 藤原 幹人

特 集
当院の緩和ケア診療
 日頃からお世話になっている皆様に謹んで新春のご挨拶を申し上げます。本年4月には、いよいよ2013
年春に新築移転予定の新病院建設が開始されます。ご不便とご迷惑をおかけしないように心して準備に当た
りますが、ご理解のほどをよろしくお願い申し上げます。
 さて、昨年は、保険外併用療養の拡大に見られる医療の産業化、国際化の名の下に推進されようとしてい
る医療ツーリズムなど、医療・介護提供体制の根幹に関わる「健康大国戦略」の工程表が発表されました。
勤医協中央病院
わたしたちは、受療権をおびやかすこうした動きに対する監視を強め、誰もが安心して医療を受けられる街 院長
づくり、貧困・健康格差の解消めざして、皆様と力をあわせて努力して参りたいと存じます。 田村 裕昭
ホスピスケア病棟
開設4年目を迎えて

勤医協中央病院緩和ケア科科長 小林 良裕

 2007年10月に開設されました当院ホスピスケア病棟(緩
和ケア病棟)は多くの皆さまのお支えを頂き4年目を迎えるこ だけではなく、終末期を人間が死に向かう自然な過程として認
とができました。この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。 め、全人的にとらえることを主張したものです。こうした考え
 現在、緩和ケア科ではホスピスケア病棟18床の運用のほか が緩和ケアの成立にも大きく影響しています。この影響は
に、緩和ケア外来(月・水午後、予約制)、緩和ケア往診(火・ 1989年の世界保健機関(WHO)による緩和ケアの定義にも
金午前)、院内緩和ケア回診(木午後)を行っています。これ 見ることができます。
により入院、外来、在宅と患者さんやご家族が希望する場所で
「切れ目のない」そして全人的な苦痛を緩和するケアを受けて  「緩和ケアとは治癒を目的とした治療に反応しなくなった疾
頂きたいと願っています(図1)。また私たちは民医連、勤医 患を持つ患者に対する積極的な全人的ケアである」(WHO、
協が掲げている無差別平等の理念のもとで「誰もが安心して受 1989年。太字は筆者)
けられる」医療の提供にも心がけたいと思っています。当院で
はホスピスをはじめすべての病棟で個室差額料金の設定はあり  これにより緩和ケアは積極的治療を終えた後で「治癒を目的
ません。また無料・低額診療にも取り組んでいます。さらに とした治療に反応しなくなった」疾患、病期に適用されるケア
2013年には新病院6階に24床全室個室のホスピスケア病棟 として理解されることになりました。そのため日本では緩和ケ
が誕生する予定です。 アは主としてホスピスや緩和ケア病棟を中心に、そこにほぼ限
定される形で発展していきました(図2)。

図2

 2002年にWHOはこの緩和ケアの定義を大きく改訂しまし
図1 た。この背景には世界的な緩和ケアの普及のなかで、診断早期
から緩和ケアが関わることの有用性が次第に明らかになってき
■ ターミナルケアからパラレルケアへ たことがあげられます。ですから新しい定義では緩和ケアはも
 最新の医学的知見に基づく現代的なホスピス緩和ケアは はやターミナルケアと同義語としては捉えられていません。
1967年、シシリー・ソンダース医師によるセントクリスト
ファーズホスピス(ロンドン)設立と共に始まりました。この  「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患に起因した諸問題に直面
新しいケアは早くから西ヨーロッパ、北アメリカ、オセアニア している患者とその家族のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)
に広まり、日本にも1970年代に紹介されましたが、やはり終 を高めるアプローチである。疼痛その他の身体的、心理社会的、
末期の医療いわゆるターミナルケアとして理解されることが多 そしてスピリチュアルな問題の早期からの同定や確実な評価に
かったと思います。1950年代からアメリカ、イギリスで「ター よって苦痛を予防し、また苦痛からの解放を実現する」
(WHO、
ミナルケア」という考えが生まれました。これはがんに限らず 2002年。太字は筆者)
終末期のケアを身体的な症状の改善、つまり医学的な観点から

T A M A N E G I 2 T S U U S H I N
 新しい定義の重要な点は二つあります。ひとつは適応となる められたという結
疾患が広げられたことです。「生命を脅かす疾患」として悪性 果が得られました
疾患だけでなく、様々な慢性疾患や神経難病が想定されていま (11.6ヶ月 vs. 
す。実際アメリカでは緩和ケア施設の98%以上が慢性の呼吸 8.9ヶ月、p=
器疾患や心疾患、神経筋疾患、アルツハイマー病などがん以外 0.02)
(図4、5)。
の患者を受け入れ、全人的な苦痛の緩和が提供されています。  この研究はただ
もうひとつの重要な点は早期から介入によって苦痛の予防、防 ち に8月 のThe
止が勧められていることです。 New England
 こうした変化を受けてわが国でも、2007年4月に施行され Journal of Medicine誌(N Engl J Med 2010; 363:
た「がん対策基本法」とこれに基づいて作成された「がん対策 733-42)に掲載され、日本を含め国内外で大きな反響を呼び
推進基本計画」の中で、がんの予防、診断、治療そして緩和ケ ました。これまでも小規模の臨床研究や臨床の現場での経験に
アが一体となる包括的がん治療が提唱され、診断早期からの緩 よって同様の指摘はされてきました。しかし今回はよりエビデ
和ケアの導入が求められるようになりました。治療の時期にお ンスレベルの高い試験によって、緩和ケアの早期からの導入が
いてもまた避けることができない終末期においても、患者さん 進行がんの患者さんのQOLを維持し、結果的に予後にも良好
がより良いQOLを維持し続けるために緩和ケアががん治療と な影響を与えるということが明らかになったものです。先に書
並行して行われる、いわばパラレルケアとして理解されるよう きましたように緩和ケアはもはや終末期の医療、ターミナルケ
になったと言えるでしょう(図3)。 アではありません。やがてすべての人に訪れる死は避けられな
いとしても、そこに至るまで患者さん、ご家族の辛い症状を緩
和し、生きる希望を支え、より良質の時間をより長く持って頂
くための医療、ケアです。最近抗がん治療と並行して緩和ケア
を受ける方も増えてきました。今後とも患者さんをご紹介いた
だければ幸いです。

図3

■ 緩和ケアの早期導入の意義
 2010年6月、アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)年次学術集
会で、緩和ケアと予後との関係に関する第Ⅲ相無作為化比較試
験が発表されました。マサチューセッツ総合病院(ボストン)
のTemelらによるもので、新たに臨床病期Ⅳ期と診断された非
小細胞進行肺がんの患者151名を対象にし、標準的な抗がん
治療と並行して早期から緩和ケアが導入された群とそうでない
群を比較した研究でした。緩和ケアを導入された群では、外来
をベースに最低月に1回は緩和ケア医を含めた緩和ケアチーム 図4
が定期的に関わりました。標準治療だけの群では、患者の必要
に応じて要望があったときにのみ緩和ケアチームが関わってい
ます。緩和ケアチームは、患者が自らの疾患について理解する
こと、抗がん治療に関しての選択や決定を援助し、身体的・精
神的苦痛を伴う症
状の評価とマネジ
メントを行いまし
た。その結果、前
者 で は う つ 症 状、
不安など精神症状
の出現が有意に抑
制され、さらに生
緩和ケアチームによる院内回診中 存期間の延長も認 図5

T A M A N E G I 3 T S U U S H I N
緩和ケアにおけるチームアプローチの必要性 患者さん・ご家族
 緩和ケアを受ける患者は様々な身体的苦痛と共に精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛・
苦悩をもち、これらの苦痛・苦悩は相互に影響しあっています。その多面的問題に対し、専門
的知識・技術のある職種が共通の目標を持ち関わる事が重要とされています。患者・家族の
QOLを高める為にはなにが最善か、なにが必要かを共に考え協働しています。
 それぞれの知識や技術を補いながら、1人、またはひとつの職種では出来ない事を可能にす
る事が緩和ケアにおけるチームアプローチです。

患者さん・ご家族とともに
 医師はチーム内で他の職種の専門性を尊重しつつ、コーディネー
ターあるいはリーダーの役割を果たします。緩和ケアでは身体的苦
痛だけではなく精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛など全人的
苦痛の緩和が求められます。そのためにも緩和医療だけではなく内
科学、精神医学、腫瘍学などの知識が必要になります。
 現在、ホスピスケア病棟だけではなく病院全体の緩和ケアの質の
向上を目指してコンサルテーション、院内回診を行なっています。
(医師 藤原葉子、小林良裕)

よりよい生活をめざして
 ソーシャルワーカーはチームの一員として、院外からの入院・外来相談をはじめ、
療養生活上のご相談をうけています。ホスピス・緩和ケアの患者さんには、貴重な時
間を住み慣れた我が家で過ごしたいという方も多いのですが、 「症状が悪化したら…」
「一人での介護に自信がない」「家でも点滴はできるの?」など不安を多く抱えておられ、
自宅で安心して穏やかに過ごしていただくには、地域のサポートが必要不可欠です。
訪問診療や訪問看護、居宅介護支援事業所など地域の各サービス事業所の方々には、
急な依頼も多い中いつもお力を貸していただき、大変お世話になっております。
 また、病状の変化・進行にともなって、患者さんとご家族の中に気持ちの葛藤や経
済的問題など社会的な変化が少なからず表面化してきます。患者さんは『病人』にな
られたわけではなく、人生を歩まれ生活してこら
れた中で病気を患っています。まだまだ至らない
のが現状ですが、ソーシャルワーカーとして、気
持ちの揺らぎに真摯に向き合うこと、人間は生
涯成長する存在と信じて、日々悩み迷うことを
大切にし、患者さんにとってよりよい生活・生命・
人生の質を向上できるよう努めていきたいと思
います。
(ソーシャルワーカー 水上寿恵、本間絵里子)

ベットサイドで症状緩和に関って
 薬剤師はカンファレンスや面談を通じて、患者さんそれぞれの状況を把握し、病状にあわせたお薬
を提供し、より良い時間を過ごしていただけるようにサポートしています。
 緩和ケアでは医療用麻薬を使用しますが、「麻薬」という言葉にまだまだ、驚かれ不安を感じられ
る方も多くいます。そういった不安をなくし、安心してお薬を使用していただくためにも、お話をしっ
かり伺い、情報提供を行っていくことが大切だと感じています。
 薬剤師の視点から、患者さんが自分らしく過ごしていただけることを目標に、薬の効果や安全性
の評価を行い、チームと情報を共有していくことがよりよいケアに繋がっていると感じています。
(緩和ケア病棟担当薬剤師 高田千尋)

T A M A N E G I 4 T S U U S H I N
の価値観を大切にして 生きる支えの食事を提供して
 ホスピスケア病棟の患者さんは1日、  これまでの病院食は「身体状況、病状に見合った適切なエネルギーと栄養の補
1日の生活をよりよく送ることが今ま 給」という側面が強かったと思います。しかしホスピス病棟における食事は「楽
でにもまして大切になってきます。患 しみとしての食事」「生活リズムのめりはり」であり、
「生きる支え」ともなります。
者さんの大切にしてきた価値観を尊重 例え、実際に食べられる量が数口であっても…です。そのことを念頭に置きながら、
し、その生活を支える看護が重要です。 患者さんが入院され食事が開始されたら、可能な限り訪問を行うようにしていま
この時期の患者さんにとって症状緩和 す。食事の量や嗜好、食べづらいもの(食材の大きさ・硬さなど)を中心にお聞
のみではなく、身体を清潔にする事、 きし、患者さんやご家族の食事に対する思いも感じ取るよう意識します。訪問に
個人の尊厳、家族ケアなど必要とされ よって得られた情報や食事への反映を病棟看護スタッフとも共有できるように、
る援助は多岐多様に渡っています。ホ 直接担当看護師に伝えるだけでなくカルテにも記載しています。また訪問で得ら
スピスケア病棟が開設してから様々な れる情報には限りがあるため、主治医や病棟看護スタッフが得る情報をカルテや
出会いとお別れがありました。私達看 カンファレンス等で把握し、連携しながら食事に生かしていくことも栄養部の役
護師は、多くの患者さん・ご家族との 割と考えています。
出会いから学び、成長させていただいているこ  クリスマスや夏祭りなどの行事では、栄養部からもデザートを提供し喜んでい
とを日々実感しています。これからも患者さん・ ただいています。全て手作りです!と言い
ご家族とともによりよいパートナーシップとし たいところですが、口当たりの良いデザー
ての看護を実践していきます。 ト、特にアイスクリームが好評なので市販
(病棟師長:認定看護師 加藤真由美) のものを利用することもあります。
 一口、二口食べることがやっとの状況の
中でも「おいしい。」と感じていただける
よう、これからも努力してまいりたいと
思います。
(栄養部科長:管理栄養士 渡辺郁)

生きる希望につながるリハビリテーション
 緩和ケアのリハビリの目的は、余命の長さに関わらず、患者さんとその家族の要求(Demands)
を十分に把握した上で、その時期におけるできる限り可能な最高のADLを実現することに集約されま
す。緩和ケアでは一般医療と違い、患者さんの要求が優先されることに注意が必要です。
 リハビリの介入によりある時期まではADLの維持、改善を見ることができますが、病状の進行と
ともにADLが下降する時期が訪れ、それ以降は緩和的リハビリに目的を修正していくとになります。
要望を尊重しながら、身体的、精神的、社会的にもQOLの高い生活が送れるようにします。具体的
には①疼痛緩和のため、物理療法の活用、補装具や杖の使用、②呼吸困難の緩和のため呼吸法の指導、
呼吸介助、③浮腫による症状緩和のため、リンパドレナー
ジ、④心理的支持のためのアクティビティー、会話などが
あります。
 当院でも緩和ケアの患者さんに対し、PT、OT、STが一
時退院される方のお手伝いや、長く安全に食べれるような
援助、一緒に好きな小説を読みながら声を出す練習、リハ
ビリをしていることが生きる支えとなるような心的援助を
行っています。
(作業療法士主任 本間奈津美、言語聴覚士主任 笹谷正吾)

ここちよい日常の風を提供して
∼ボランティア∼
 ホスピス病棟のボランティアさんは閉鎖的になりがちな病棟の中に、ここち
よい日常の風を通してくれています。専門家でなくてもできる日常生活のサ
ポートをボランティアさんは担っています。
 今は、水槽の水換え、車椅子清掃、お茶会の飲み物サービス、リフレクソロ
ジー、音楽ボランティアなど様々な方がチームに参加しています。

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在 宅 ホ ス ピ ス・ 緩 和 ケ ア 緩 和 ケ ア 外 来
緩和ケア科医師:藤原葉子 緩和ケア認定看護師:加藤真由美

 在宅緩和ケアとは、施設  緩和ケア外来は週2回予約制で診療しています。診療に
(入院や外来)ではなく自宅 関るメンバーは、緩和ケア医、緩和ケア認定看護師、ソーシャ
で緩和ケアを受けることで ルワーカーの3名です。新患患者には1時間、再来患者には
す。訪問診療と訪問看護が 30分の診察枠で診療にあたっています。
中心となり、ご家族やヘル  初診の場合はご家族にも一緒に受診していただき、今ま
パ ー、 ケ ア マ ネ ー ジ ャ ー、 での経過、ご病気に対する思いや、これからどこでどのよ
薬剤師などの多職種のチー うに過ごしていきたいかなども診察の中で確認させていた
愛犬とともに
ムで行ないます。 だいています。早期から緩和ケアを導入し、症状緩和を積
極的に行っていくことが予後によい影響を与えている事も
 当院では10条クリニック在宅保健医療部を通して、東区内の訪 わかってきています。症状緩和のため短期間のホスピスケ
問診療を週2回行なっており、在宅医療支援診療所のため24時間 ア病棟での入退院を繰り返し、在宅生活を継続されている
の対応が可能です。また、ホスピス病棟と在宅医療部の密な情報 方が緩和ケア外来に通院されています。
共有を心がけており、必要な時にはスムーズに入院することがで  現在治療中の方も、症状緩和のため積極的に緩和ケアを
きます。実際に、入院と在宅緩和ケアを繰り返しながら過ごす方 受ける事をお勧めしています。どうぞご相談下さい。
も多く、2010年12月末までに当院で在宅緩和ケアを行なった方
は79名、そのうちの30名の方がご家族の介護を受け、最期まで 緩和ケア外来患者数
住み慣れたご自宅で過ごされました。  2010年1月∼2010年12月末まで新患外来者数は130名
 2007年外来診療開始時からは延べ505名を診療
 チーム一同、地域の皆様の在宅療養に少しでもお役に立てれば
と思っております。どうぞお気軽にご相談下さい。

表紙の写真  しばれた朝、郊外の
街路樹は真っ白い衣を
冬:しばれる朝 着る。朝日を反射し、
[撮影地] 目 に ま ば ゆ い。 樹 霜
北区あいの里 (じゅそう)とよばれ
る も の で、wikipedia
によれば、空気中の水
蒸気が昇華して樹枝な
どの地物に付着した樹枝状ないし針状の結晶。いわゆ
る霜。過冷却水滴が凝固してできる樹氷や粗氷とは区
別されるのだそうです。私はずっと樹氷だと思ってい
ました。陽が高くなると溶けてしまうはかなさが哀れ
を誘います。キンと冷えた朝に自然が魅せてくれる芸
術です。温暖化の影響で次第に見られなくなってくる
のかもしれませんね。 ホスピスケア病棟・緩和ケア外来診察のご希望は、下記にお願い
いたします。なお、緩和ケア外来は予約制です。
 一年間4回わたり、表紙写真を担当させていただき
麻酔科医師 ました。四季をテーマに写真を選ぶことは得難い経験
藤原 幹人 でした。ありがとうございます。10月から釧路に転 医療福祉課 011-782-4660(直通)
勤しました。また会う日まで、皆様、お元気で。 受付時間 平日9:00∼17:00

【基本方針】
勤医協中央病院「医療・福祉宣言(理念)」
1)東区の地域に根ざして、患者さんの要求に応え、急性期医療を中心に
2003年1月31日作成  2007年8月2日改訂
保健予防から在宅医療まで総合的に医療・福祉を担う地域中核病院と
して発展していきます。
 私たち勤医協中央病院は、地域の人々に支えられ、この地域にな
2)患者さんとの信頼関係を大切にしながら、より良質で安全な、そして
くてはならない病院として発展していくことを目指し、ここに「勤
安心できる医療を「共同の営み」として提供できる病院をめざします。
医協中央病院 医療・福祉宣言」を発表し、「勤医協綱領」に基づき、
3)臨床研修病院として、民主的な集団医療の実践をめざし、人間として
その実現に努めます。
の尊厳および権利を尊重できる医療人を育成します。
1.安全・安心で納得のいく医療・福祉をすすめます。 4)子供から高齢者まで安心して住みつづけられるまちづくり、憲法と平
2.地域・友の会とともに健康で住みやすいまちづくりをめざします。 和が守られる国づくり、医療改善の運動をすすめます。
3.互いに学び成長する職場・病院づくりに努力します。 5)勤医協綱領に基づき「いつでも、どこでも、だれもが安心してかかれ
る」無差別平等の医療の実践をめざします。

T A M A N E G I 6 T S U U S H I N
がん性疼痛緩和のコツ
アセトアミノフェンの有用性
 1986年に世界保健機関(WHO)が公表したいわゆる「3 2400mg/日から4000mg/日の使用を推奨しています。
段階除痛ラダー」は現在でもなおがん性疼痛に対する極めて この量であれば、肝硬変やアルコール多飲者でなければ安全
有効な対処法です。最近は日本でも使用できるオピオイド製 に使用できます。
剤が増え、またガバペンチンやプレガバリンなど優れた鎮痛  除痛ラダーの第1ステップはNSAIDsやアセトアミノフェ
補助薬が使用できるようになって疼痛に対する薬物療法の可 ンなど非オピオイド性鎮痛薬の使用ですが、アセトアミノ
能性が広がっています。WHOは「3段階除痛ラダー」を正 フェンはNSAIDsと比較して①胃、腸管など消化管粘膜障害
しく使用することによって、がんの痛みの90%から95%は の危険が少ない、②腎機能障害の危険が少ない、③血小板凝
除痛が可能であるとしています。さらに、難治性疼痛である 集能に影響せず易出血性をきたさない、④アスピリン過敏反
骨転移での体動時痛や強い神経因性疼痛に対して、放射線照 応のある患者の3分の2に使用可能である、などの点で優れ
射や神経ブロックを併用すれば、ほとんどの疼痛は緩和が可 ています。またこれは経験の域を出ませんが、特に筋骨格系
能な時代になったと言っても過言ではありません。 の 疼 痛 に 有 効 で あ る よ う に 思 わ れ、 骨 転 移 の 痛 み に は
 ここではアセトアミノフェンの有用性についてご紹介した NSAIDsと併用することで鎮痛効果を増す方がいます。
いと思います。アセトアミノフェンは古くから使われている  生理的に腎機能の低下している高齢者の患者さんの疼痛に
鎮痛薬ですが、実はその鎮痛のメカニズムは解明されていま は、特に有用かと思います。アセトアミノフェンを上手に使っ
せん。NSAIDsが末梢で作用するのに対して、中枢で作用し て頂ければ幸いです。
ているとも言われています。そのため中枢におけるシクロオ
キゲナーゼⅢの存在が仮定されています。末梢での抗炎症作
用は持ちませんが、強力な解熱、鎮痛作用を有しています。 筆 者 勤医協中央病院 緩和ケア科科長

日本でのアセトアミノフェンの常用量は1500mg/日です 小林 良裕
か ら (こばやし よしひろ)
が、これは海外と比較しても非常に少ない量です。最近出版
 2年前に同じ全日本民医連所属の石川県城北病院
された日本緩和医療学会によるガイドラインはがん性疼痛に (金沢市)の取り組みが「笑って死ねる病院」として
対 し て は1日4回、1回 量 が1000mgを 超 え な い よ う に NHKに紹介され、大きな反響を呼びました。患者さ
んや家族の生きる希望を支え、人間としての尊厳を守り、最期のときま
で寄り添い続ける医療者の姿を描いたものでした。その後は出版もされ
広く読まれています。当時番組をみた方のなかには病院なのに何という
題だ、縁起でもないと思われた方もいたかも知れません。しかし言うま
でもありませんが私たちは皆やがて現在の生を終え、そして死を迎えま
す。哲学者マルティン・ハイデッガーが言うように「人は死へと向かっ
ている存在である」とも言えるでしょう。そこに例外はありません。人
は生きているがゆえに死を迎えるのであって、死は縁起が悪いものでも、
まして医学の敗北でもありません。また空しいものでもないと思います。
 患者さんの死を看取りながら思うことがあります。それは人にとって
大切なことは与えられた生を存分に生きる、つまり良い生を生きること
であり、そしてそれは良い死へと続いていくのではないかということで
す。良い生の結果、良い死もあるのです。しかし良い死を迎えるには一
方で最期まで人間としての尊厳を守られ、人間として尊重され、苦痛や
苦悩が緩和されている必要があります。緩和ケアに携わって8年になり
ますが、生きる希望を支え、また良い死のためにも図られるケアが緩和
ケアだと考えています。

勤医協中央病院ホスピスケア病棟(緩和ケア病棟)理念
1.がんに伴う様々な苦痛に直面している患者さん、ご家族の「生命(い 4.地域の他機関との協力、連携を深め、地域におけるホスピス・緩
のち)の質」(QOL)の向上に努め、希望を支えつつ、より良き 和ケアの普及に力を尽くします。
生を送ることができるように援助をいたします。 5.ホスピスケア病棟を多職種が学ぶ研修施設として、教育・研究活
2.患者さんの身体的、精神的、社会的、スピリチュアル(霊的、実 動を重視します。
存的)な全人的苦痛の緩和を図り、全ての病期において患者さん、 6.「尊厳をもって死を迎える権利および終末期にあっても可能な支援
ご家族の人間性と尊厳を守ります。 を最大限受ける権利」(当院の患者の権利に関する宣言より)を大
3.医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、作業・理学療法士、 切にし、無差別・平等の医療とホスピスケアが実現される社会を
栄養士、ボランティアなどの専門的な多職種によるチームアプロー 目指して、多くの方々と力を合わせていきます。
チを重視し、民主的集団医療の下で最善のケアの実現に努めます。

T A M A N E G I 7 T S U U S H I N
2013年春
病院の特徴
01 各分野の専門医が協力して治療にあたる
新築移転予定
集学的ながん治療が可能な無差別平等を掲げた病院
がん治療センターとして、化学療法室と放射線治療室を隣接させ、
がん治療に特化したセンターを構成
● がん放射線治療分野の展開
 勤医協中央病院は1975年に札幌市東区伏古に開院して以来、
「無差別・ ● 外科系・内科系が共同してとりくむがん治療
● 全室個室のホスピスケア病棟(24 床) ● 化学療法室の拡大(10 床配備) 
平等の医療と福祉の実現をめざす民医連の病院」として、多くの医療機関、 ● がんサロンの設置

福祉施設、そして地域住民に支えられながら、今日まで取り組んでまいりま
した。
「いのちの重みと人権」を何よりも大切にしていくことはもちろん、 02 24 時間 365 日受入れ可能な急性期医療の整備
● 救急診療部の強化。
(救急処置室の拡大、救急車専用入口設置)
今後とも「安心・安全でよりよい医療を提供できる病院」として貢献して ● 救急診療部から手術室(6 室)
・ICU
(6 床)
・HCU
(20 床)
・シネアンギ
オ部門への専用エレベーター連結
いくためには、技術の向上と人間性豊かな医療人を育成していくことも重 ● 一般エリアと分離できる感染対応専用エリアと出入口を設置

要です。
 これらの課題を実現するために、2013年開院をめざし、各種疾患セン 03 災害時、緊急時には病院をあげて
地域と住民を守る病院。耐震構造に優れた設計を実現
ターと総合診療教育部機能をもつ新勤医協中央病院を建設するにいたりま ● 札幌市災害時基幹指定病院として被災者受入れ、トリアージ、支援物資の
受入れに対応できる、ゆとりのエントランスホール。外来待合・講堂等に
した。新病院では「急性期の医療、がん診療、専門的医療を提供し、連携
医療ガスや非常用電源を完備、災害時の初期治療に対応できる空間を整備
を推進しながら、まちづくりに貢献できる病院」をめざし、開院以来一貫し ● 大規模地震時における人命の保護、及び病院機能を継続するための耐震

性を確保
て追及してきた「患者さん中心のチーム医療」を発展させ、
多くの医療機関、
福祉施設の皆様方と協力し、健康で住みよいまちづくりのために努力して
まいります。
04 臨床研修病院として、人間の尊厳及び権利を
尊重できる医療人を育成する病院
● 研修医や看護師など研修専用室としてのスキルラボの設置、各種セミナー
 今号では、現在計画中の新病院の特徴について紹介させて頂きます。 や講演会でも活用できる 350 人収容可能な大講堂併設。初期研修医、
後期研修医をはじめ、次の世代を担う医療従事者を育成する環境整備

現在地 05 特色あるセンター機能
呼吸器疾患センター・乳腺外科 ホスピスケアセンター

総合診療病棟 消化器センター

運動器リウマチセンター 循環器センター
回復期リハビリ病棟

糖尿病内分泌センター、
腎・血液浄化センター、泌尿器科 ※センター名は仮称
移転予定地

06 憩いのエリア
● 外来から少し離れた光庭を囲むように、ラウンジ・患者図書室・がんサ
ロンを配置。周辺にはコンビニ・理容室・レストランと落ち着いて利用
できる環境を整備

編 集 後記
サンワドー コープ セブン
さっぽろ
札樽自動車道 伏古IC
勤医協中央病院 イレブン

札幌新道
 例年より雪が少なく暖かいとはいえ、やはり北海道の寒さは厳しい。厳しい 勤医協伏古10条
びっくり
クリニック
ドンキー
からこそその美しさに感動できるのだろう。当院が属する北海道民医連の患者 勤医協メンタル 新道ひまわり薬局
クリニック東 勤医協札幌ふしこ歯科診療所
さんを対象とした聞き取り調査結果で、
「医療費の自己負担が高い」ことが困っ ひまわり薬局
苗穂 通

東在宅
ていると46%が訴え、支払いのために「生活費を削っている」23%、他にも「受 総合センター

診を我慢している」
「検査をしないようにしている」
「薬を減らしている」など、
必要な医療が制限されている実態が報告された。この厳しさには寒さこそ感じ
ても美しさはない。この国はどこに向けて歩もうとしているのか。今年は地方 北ガス 回転寿し
BigBoy ジェネックストリトン
選挙で信が問われる。
宮の森北24条通

2011.2 勤 医 協 中 央 病 院 ●〒0 0 7 - 8 5 0 5 札 幌 市 東 区 伏 古 1 0 条 2 丁 目 1 5 - 1

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