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緊急被ばく医療Remnet
緊急被ばく医療Remnet
t
ne
M
○一般目標
RE
体内汚染時の診断と治療の概要を理解する
療
○行動目標
医
①体内汚染時の被ばく医療に関する放射線学的基礎知識を習得する
②体内汚染時の線量評価の概要を理解する
く
③体内汚染時の診断に必要な基礎知識を習得する
④体内汚染時の治療の概要を理解する
ば
被
急
緊
第 10 章 体内汚染の診断と治療
1.はじめに
このテキストをご覧になっている皆さんは、医療関係者と協力しながら、緊急被ばく
医療に参画される可能性がある方々だと思います。
「汚染の有無を問わず、救命が優先さ
れる」というフレーズは、すでに幾度も目にされていることでしょう。過去の苦い歴史
から、慣れない放射線に気を取られすぎず、命の視点が最も大切であるべきという教訓
t
も得て、医療関係者による医療行為は最優先されます。しかし、緊急被ばく医療の特殊
ne
性から医療関係者だけでは対応できない専門分野があり、そのアドバイスと専門性を発
揮してもらうことが体内汚染への医療対応に関してです。
M
「体内汚染が起こった場合、医療はどのような対応をするのでしょうか。」
RE
第 10 章では、この問いかけに対して、体内汚染のある患者さん(傷病者)への医療の対
応について、理解が深まることを期待します。
療
2.体内汚染とは
医
体内汚染とは、体内に放射性物質を取り込んでしまうことです。本来ないはずの放射
性物質で体内が汚れたというイメージでしょうか、汚染という表現が使われます。しか
く
し、体内汚染については、いろいろな医学的方法を駆使しながら体内の放射性物質を体
外に排泄させ、その量を低減することを除染と呼ばず、治療と呼んでいます。また放射
ば
性物質が体内にあるか否かを決めることを診断と呼んでいます(「第 3 章 緊急被ばく医
被
療の実際」(P27∼)参照)。
急
3.体内に入った放射性物質はその後どうなるのか
体内に放射性物質が取り込まれる(intake)と、血管内に入り(absorb)、血管内を運ば
緊
れ(transport)、細胞に取り込まれ(uptake)、最終的には臓器や組織に蓄積(deposition)
されます。いったん放射性物質が細胞内に蓄積されてしまうと、どの治療法もその効果
が著しく減少しますので、蓄積されるより前の段階で、医学的な手を打つことが必要で
す。特に体内にあるものの、全身への血流に吸収される段階より前で抑えることができ
れば、最も効果が高いことが判明しています。したがって、できるだけ早期に体外へ排
泄を促すことが治療上重要となります。次項で確認してみましょう。
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
4.体内汚染の診断と治療は、緊急被ばく医療のどの段階で行われるのか
図 1 を見て下さい。先ほど「全身への血流に吸収される段階より前で抑えることがで
きれば最も効果が高い」と述べました。血流に吸収されると困るから・・・、外傷で出
血している部位からの体内汚染を防ぐことが急がれることになります。体内汚染の防止
の観点からも、やはり「創傷部」へのアプローチが優先されています。続いて吸い込ん
だり、飲み込んだりしてしまって、体内汚染にある場合、血流に吸収される前に、早期
に体外へ排泄することが必要です。図 1 のフローでは早い段階に「★内部被ばくの場合
t
はキレート剤を考慮」と書かれています。このように体内汚染への医療の対応は、救命
ne
救急処置に続き、早期に実施されます。
M
RE
療
医
く
ば
被
急
緊
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
患者到着(到着前にできるだけ脱衣されていること)
全身状態の安定化
声かけ、視診等による全身状態の把握
バイタルサインの安定化
クイックサーベイ(針を刺す部位、血圧測定部位等)
生命を脅かす病態の治療
事故の概略・情報を得る
t
創傷部サーベイ
ne
★創傷部汚染検査
すべての検体はラベルをつけた容器・ビニール袋の中へ
放射線源の同定に必要な情報を得る
★内部被ばくの場合はキレート剤の投与を考慮
M
除染と治療、全身サーベイ
RE
採血、創傷部治療
除染とサーベイ:創傷→口・鼻→健常皮膚
チームメンバーが手袋を代えるたびにサーベイ
療
チームメンバーの被ばく線量も頻回にチェック
除染中も頻回に患者をサーベイ
口角・鼻腔スメア
医
血液、尿もサーベイ
サーベイ結果を記録
く
検体を採取(傷、口・鼻・耳、皮膚、血液、尿、便、吐物等)
除染後再度サーベイ
ば
患者の全身をサーベイ
輸液セットやドレーン等医療器具もサーベイ
被
患者の下に敷いているシートも汚染がないことを確認
(汚染があれば交換し、再度サーベイ)
急
患者退室
清潔な通路の設定、清潔なストレッチャーの用意
緊
除染に携わらなかったスタッフが患者の退出を手伝う
退出時ストレッチャーの車輪も忘れずサーベイ
スタッフ退室
手術着を脱いで医療関係者のサーベイ
除染室をサーベイ
★汚染がないことを確認
図 1 外来処置室での処置手順
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
5.体内汚染の診断の方法は
まず体内汚染の有無を診断します。次にどの程度の内部被ばく線量があるのかを診断
することになります。その方法は測定することによってではなく、計算することで推定
します。
では体内汚染の有無の診断から見ていきましょう。そもそもどこから体内へ入るのか、
それがヒントになります。
(1)内部汚染の進入経路
t
1)吸入(inhalation)
ne
呼吸によって体内に入る場合で、以下の経路に比べ「吸い込んだのではないか。」
と最も関心が高い経路です。放射性物質の粒子の大きさによっては、肺の奥深くまで
M
入ります。肺からの排泄は、溶解して排泄されるか、絨毛の運動により排泄されるか、
RE
そのいずれかが主なパターンとなっています。溶解度は様々な核種やその化合物によ
って異なります。その他、pH 等の化学的要因も、体内分布や医学的な影響を及ぼし
ます。
療
2)飲み込み(経口摂取)(ingestion)
医
飲み込んでしまうことによる体内汚染です。吸入に次いで関心の高い経路です。肺
から絨毛運動によって運ばれてきた放射性物質が、嚥下により胃腸管に入ることもあ
く
ります。便として排泄されます。
3)傷口(wounds)および皮膚(skin)
ば
傷口のみならず熱傷も含め、損傷を受けた皮膚開口部から直接血管内へ入りますの
で、対応が急がれる部位です。汚染された破片が突き刺さった場合も、破片を取り除
被
かない限り被ばくし続けるため、外科的処置も必要となる場合といえます。このため、
急
傷口にて放射性核種からの放射線を検出することは非常に有益となります。
皮膚からの吸収は、主にトリチウムが知られています。なお、皮膚表面の除染が不
緊
十分であれば、血管確保のため注射針で皮膚を穿刺しますが、穿刺により体内汚染が
起こる可能性があるため、十分注意が必要です。
実際には、これらの経路が複合して体内汚染が生じる場合もあります。これらの進
入経路から体内に放射性物質が入ったかどうか等を調べることになります。
(2)診断
体内からの放射線の検出もしくは口角・鼻腔スメアや尿、便中の放射性物質の同定
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
により診断します。具体的には口角・鼻腔スメア(拭い取ったもの)、鼻をかんでもら
った鼻汁や痰、傷口からの分泌物等に汚染が認められれば、体内汚染を示唆する有力
な証拠となります。また、口や鼻腔周囲の表面や傷口に汚染があれば、原則として体
内汚染を疑い対応します。
次に汚染した放射性核種を確認します。これは核種に応じた治療が必要となるため
です。核種同定の手掛かりとしては、(放出された核種がわかる事故であれば)どの場
所にどれぐらいの時間、どのような服装でいたか等について聞き取りを行い、空気、
t
着衣、包帯等に付着した放射性物質を検出すること等があります。特にアクチノイド
ne
系(特にプルトニウム、アメリシウム)、放射性ヨウ素、セシウム、トリチウム、スト
ロンチウムはできるだけ早期からの治療が必要とされています。
M
また、内部被ばく線量を計算するための測定を行いますが、その過程で核種の同定
RE
が行われ、診断への手掛かりとなります。測定には生体試料分析による線量測定と、
体外計測による線量測定があります。後者にはホールボディカウンタによる全身計測、
肺モニタによる計測、甲状腺モニタによる計測があります。
療
(3)測定における体内汚染診断への手掛かり
医
体内汚染は、短期的には重金属類の身体への影響は大きいとされているものの、比
較的希で、発がんをはじめとする長期的影響が大きいとされています。そのため放射
く
線測定は長期的なリスクの最小化を目的とするほか、作業場の管理の妥当性の点検や
法の遵守の適合度を確認する目的でも実施されています。体内にある放射性物質によ
ば
る線量測定に与える因子は下記のように非常に多く、正確に測定することは容易では
ありません。
被
なお、測定の方法については、
「第 5 章 放射線測定」(P77∼)にその詳細が記されて
急
います。
内部被ばく線量に影響を与える因子
緊
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
1)生体試料からの線量測定
体内汚染があると、放射性物質を体外へ排泄しようとします。その排泄物である尿
や便、痰等、検体を採取して測定することで、体内汚染の有無や量、除染や治療効果
を推定します。尿と便の分析からの線量の推定に関しては、検体全量が必要とされる
こと、検体そのものが得られるのに時間がかかること、また得られた検体そのものが
汚染される可能性があり、迅速性や安定性に欠ける側面があります。
t
参考 検体について
ne
尿検体は、溶解性のある放射性核種の検出が目的です。多くの放射性核種は重
金属であり、腎臓への影響を検査するため、頻回に尿検査が行われます。全量の
尿中としても長半減期を持つ放射性物質は極めて少量ですが、保健物理の専門家
M
とともに放射能のタイプと量について計測することが必要とされています。尿と
便については少なくとも 4 日間、特に尿については 24 時間蓄尿しておくべきべき
RE
とされています。
検体の特徴
・便:吸入または摂取された非溶解性物質を測定
療
・汗:トリチウム、ヨウ素
その他、吐瀉物も測定されます。
医
く
2)体外計測による線量測定
放射性物質が体内に入ると、物理的半減期や排泄によって除去されない限り、被ば
ば
くが継続します。体内汚染に対するモニタリング方法には、体外計測法と生体試料測
定(バイオアッセイ)法があります。体外計測法では、ホールボディカウンタ、肺モニ
被
タまたは甲状腺モニタによって被検者の測定を行います。これらの体外計測機器によ
急
って、全身中または特定器官中の放射性同位元素の量を定量し、内部被ばく線量を評
価します。
緊
体外計測法では、体内の放射性核種から放出される透過性の放射線(γ線またはX
線)を体外に配置した放射線検出器で測定するため、体表面汚染があると著しく過大
評価となる可能性があることから、測定の前には十分に身体サーベイを行うことが必
要です。
ホールボディカウンタは、放射性物質の体内汚染に対するモニタリングに活用さ
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
れ、全身中の放射性同位元素の量(放射能量:Bq)を定量するための機器であり、
ンタの機器構成としては、放射線検出部、遮蔽部およびデータ解析部があります。
放射線検出部には、NaI(Tℓ)シンチレーション検出器、プラスチックシンチレーショ
ン検出器またはゲルマニウム(Ge)半導体検出器が一般的に用いられますが、性能や
保守の簡便さの観点から、NaI(Tℓ)シンチレーション検出器を有するホールボディカ
ウンタが最も普及しています。遮蔽体は、検出部周囲からの自然放射線(バックグラ
t
ウンド)の影響を低減して検出感度を向上させるために備えられています。簡易測定
ne
用のホールボディカウンタでは、検出器周囲または被検者の背面に簡易な遮蔽体が
施されています。精密測定を目的としたホールボディカウンタでは、検出器は特殊
M
な遮蔽室内に納められており、被検者自身も遮蔽室内で測定がなされます。検出器
RE
からの信号は解析部に送られ、そこで波高スペクトルの解析と体内放射能量の定量
が行われます。
②肺モニタ
療
吸入摂取によって肺に沈着した超ウラン元素(主にプルトニウム)を測定するため
医
の機器です。検出部は被検者の胸部上に配置され、プルトニウムや同伴する Am-241
から放出される低エネルギーの特性X線やγ線の検出に適したホスウィッチ型検出
く
器や特殊な Ge 半導体検出器が用いられます。なお、肺モニタの計数効率は、被検者
の胸部軟組織の厚さに大きく依存するので、測定にはその補正が必要とされます。
ば
③甲状腺モニタ
甲状腺は、身体の発育および新陳代謝に関係ある甲状腺ホルモンを分泌する臓器
被
です。甲状腺はヨウ素を多く含んでおり、放射性ヨウ素は体内に取り込まれた時、
急
他の臓器に比べ選択的に甲状腺に集まります。甲状腺モニタは、この甲状腺に集ま
った放射性ヨウ素を検出・計測する装置です。
緊
(4)放射性核種別に見た体内汚染の診断
1)α線核種による体内汚染
プルトニウム等のα線核種の吸入の場合、肺モニタによりα線核種崩壊に伴う特性
X線を測定することで、体内汚染の診断および線量評価を行います。また、排泄物の
測定は体内の残留率の評価に有用とされています。
2)β線核種による体内汚染
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
体外計測で検出します。放射性ヨウ素の吸入の場合は、甲状腺モニタで放射能汚染を
測定し、被ばく線量を計算します。生体試料は、スペクトロスコピーによって核種の
同定および残留率を計算します。
3)γ線核種による体内汚染
ホールボディカウンタで体外計測を行います。生体試料は Ge 半導体検出器で、ヨ
ウ素等は NaI(Tℓ)検出器で測定し、核種同定や体内残留率を計算します。
t
4)中性子被ばくによる放射化
ne
体内汚染がない場合でも、放射化による放射性核種が検出される場合があります。
M
子被ばくを考慮する必要があります。ホールボディカウンタによる体外計測や単位体
積当たりの血液から被ばく線量の推定が可能です。
RE
6.体内汚染の治療は
療
体内汚染と診断された患者さん(傷病者)には、治療を始めることになります。どの段
医
階においても体内に放射性物質がある限り被ばくが続くので、治療の過程で、患者さん
(傷病者)にその時々の病状と、とるべき行動について十分なコミュニケーションをとっ
く
ておくことが重要となります。それは患者さん(傷病者)本人のみならず、その家族が精
神的な健康問題を長期にわたって、深刻に抱え込む可能性があるからです。
ば
治療が必要か否かの決定に際して、絶対的な指針としての被ばく線量を示すことは難
考えられています。治療による効果・副作用と体内汚染による被ばくによるリスクを考
急
慮し、速やかに治療を開始します。
治療方法は重篤な副作用がなく、また過去において患者さん(傷病者)に利が大きいこ
緊
とが判明している治療法を用います。
治療をどこで終了するかについては、治療を行った場合の効果とリスクの関係が判断
材料となります。例えば、治療を行った場合、あるいは治療を行わなかった場合、それ
ぞれの放射性核種尿排泄率の測定と、ホールボディカウンタで判定した放射性核種実効
半減期と治療に伴う副作用や侵襲の比較検討が行われることがあります。しかし、これ
も絶対的な基準はなく、患者さん(傷病者)やその家族に十分説明した上で決めることと
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
なります。
放射性核種が細胞内に取り込まれてしまうと、物理的崩壊とともに代謝上の排泄を待
つことになります。
(1)治療のポイント
体内汚染の患者さん(傷病者)への治療は、「速やかに体外へ」出すことと、「細胞内
への沈着を防ぐ」ことにあります。具体的には①胃腸管からの吸収の低減、②放射性
核種の阻止または希釈、③放射性核種の除去、④キレート剤、⑤不溶性放射性物質の
t
肺洗浄があげられます。
ne
1)胃腸管からの吸収の低減
①胃洗浄
M
大量の放射性核種を消化管から吸収したため、現在または将来の健康を大幅に脅
RE
かす恐れがあるか、または吸収したばかりで胃の中に放射性物質が存在している可
能性がある場合に用います。使用後の洗浄液は、放射能測定に活用します。場合に
よっては催吐剤を用い、吐物も同様に測定に活用されます。
療
②下剤
医
消化管で吸収されにくい核種の場合、排泄を促す方法です。排便作用が促進し、
消化管に滞留する時間が減少することで、消化管からの吸収が抑制され、消化管壁
く
や近接臓器への被ばくが低減されることになります。
③プルシアンブルー
ば
プルシアンブルー、別名ベルリンブルーは数種の形態で存在し、Fe4[Fe(CN)6]3 の
フェロシアン化第二鉄に属します。消化管に吸収されない毒性の低い細いコロイド
被
状の溶解可能な形態を持ち、ある種の単価の陽イオンに対しイオン交換体のような
急
働きがあります。プルシアンブルーは経口的に使用することができ、主にセシウム
摂取後速やかに投与されると消化管からの吸収を抑制する働きがあります。経口投
緊
与されたプルシアンブルーは、腸管から再吸収されるセシウムの消化管から吸収を
防ぐ効果があります。治療は、セシウム摂取後速やかに開始し、一定期間 1 日数回
投与することになっています。
④アルミニウムを含む制酸剤
アルミニウムを含む制酸剤は、腸で吸収されるストロンチウムを減少させる効果
があります。
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
⑤硫酸バリウム(Barium Sulfate)
硫酸バリウムは、不溶性の塩で消化管のレントゲン撮影の造影剤として使われて
います。ストロンチウムとラジウムが不溶性の硫酸塩を形成すると、腸内で放射性
核種の吸収が大幅に低減することを期待して用います。
参考 その他:
胃をアルカリ性の状態にすると比較的不溶性の水酸化化合物となる場合や、い
くつかの金属塩の溶解性を低下させ、吸収されにくくなります。鉄やプルトニウ
t
ne
ムといった金属では、ある期間胃の中で酸性の状態にとどまるため、吸収は遅く
に始まります。
M
2)阻害または希釈
RE
阻害剤は、特定の臓器を安定元素で代謝過程を飽和することによって放射性核種の
摂取を低減します。この代表例は、ヨウ化カリウムが甲状腺に取り込まれる放射性ヨ
ウ素の取り込みをブロックする場合です。阻害剤も、摂取後速やかに投与するほど効
療
果的です。
医
希釈は、大量の安定元素または化合物を投与します。確率的に放射性核種の摂取と
被ばくが減少します。代表例は、水を使うことによりトリチウムが体内に取り込まれ
く
た際の実効半減期を短縮することです。
置換療法は、希釈療法の特殊な例であり、異なった原子番号の非放射性元素が効果
ば
的に放射性核種と競合し、吸収部位で摂取を抑えます。一例としてカルシウムを投与
被
すると放射性ストロンチウムの蓄積が減少する場合があげられます。
急
参考
①ヨウ素剤
緊
放射性ヨウ素による体内汚染が考えられる場合には、できる限り速やかに安定
ヨウ素剤を投与します。我が国の製剤では、ヨウ化カリウム(KI)100mg を投与す
ることにより、76mg のヨウ素を投与したことになります。
吸入されたヨウ素は約 30 分で体液中で平衡状態となり、肺から血中へ取り込
まれ、約 30%が甲状腺に蓄積されます。そこで 2 時間以内に安定ヨウ素剤を服
薬すれば甲状腺への取り込みが約 90%抑制されます。24 時間以内であっても生
物学的半減期を短縮させることができます。
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
②ストロンチウム化合物
安定したストロンチウムは、放射性ストロンチウムに対する効果的な希釈剤と
いえます。
③水分摂取
トリチウムによる体内汚染の場合、水分を投与して排泄効果を高めます。口か
らの投与が不可能な場合には、静脈注射を考慮します。この場合、心臓血管の疾
患や腎不全を併発している患者さん(傷病者)には、十分な注意が必要となりま
す。
④カルシウム
t
経口または静脈注入でカルシウムを投与すると、放射性ストロンチウムとカル
ne
シウムの尿中排泄率が増加します。投与されたカルシウムにより放射性カルシウ
ムの吸収は相対的に抑制されます。
M
3)放射性核種の除去
RE
①利尿剤
利尿剤は、ナトリウムと水の体外への排泄を増し、細胞外液量を減らしますが、
療
放射性核種の内部沈着の治療に効果があるかどうかは不明です。ナトリウム、塩素、
カリウム、重炭酸塩、マグネシウムの排泄が利尿に伴って起こります。
医
放射線事故に関連のある放射性同位体は、Na-22、Na-24、Cℓ-38、K-43、H-3 等で
く
す。サイアザイド、スルフォナマイド誘導体、エタクリン酸、フロセミドは強い利
尿剤であり、被ばく線量が高い場合に治療薬として使用することが考慮されます。
ば
②副甲状腺/上皮小体抽出液(PTE)
PTE は、カルシウムを骨から移動させることにより、血清のカルシウムレベルを
被
骨からの放射性ストロンチウムの除去は、カルシウムの尿からの排泄増加と結び付
き、骨粗鬆症となることがあるため注意が必要です。副甲状腺ホルモンは、放射性
緊
あります。
4)キレート剤
キレート剤はある種の金属と結合します。キレート後、陽イオンは安定した環状体
に組み込まれた一部となり、遊離イオンとしての作用は弱くなり、この化合物が溶解
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
性の場合には、腎臓から容易に排泄されます。
キレート剤を用いた治療効果の評価は、治療の前後で放射性核種の尿からの排泄率
の測定に基づいて行われます。ホールボディカウンタでの放射性核種の測定データに
よる実効半減期と、計算により求められる半減期とを比較することによって治療効果
を判断します。この評価は、薬剤を継続して投与するかどうかを決定するために必要
となります。
①EDTA
t
Ethylenediaminetetraacetic acid (EDTA)は、人の鉛中毒を治療するために使用
ne
される最も一般的な薬剤です(表 1)。また、亜鉛、銅、カドミウム、クロム、マン
ガン、ニッケルをキレートするために使われますが、水銀、ヒ素、金のキレートに
M
は効果がないとされています。また、CaNa2EDTA は超ウラン金属、例えばプルトニ
RE
ウム、アメリシウムには有効であり、さらに、CaNa3DTPA は EDTA と比して 10 倍以
上の有効性を示すという報告があります。
療
表 1 EDTA
医
剤 型 投与法と用量 備 考
CaEDTA 日本では、鉛中毒の治療に経口投 EDTA の経口投与では
(calcium disodium 与できるが、米国では注射のみ。 腹 部 の不 快感 と下 痢
く
edentate) 内 服 が伴う。
[サンクレブトン E](サン) 1 日 1∼2g、2∼3 回食間または食
[ブライアン](日新) 後分服。5∼7 日間連用後、3∼7 注意:腎機能が正常の
ば
点滴連用後、2 日間休薬、 タ ン パク 質を 検査 す
総量 10gで 1 クール。 る。タンパク尿の場合
急
②DTPA
Diethylenetriaminepentaacetic acid(DTPA)は、重金属を除去するキレート剤と
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
価の放射性同位元素に対してより効果的です(表 2)。多くの重金属と形成されるキ
レート体は水溶性で腎から排泄されますが、DTPA 重金属複合体はより安定で、体外
に排泄される前には放射性同位元素を遊離しません。経静脈的に投与した後、DTPA
キレート剤を投与すると、放射性同位元素を最大限に排泄することができます。放
金属の可溶性と細胞外量に直接依存します。
t
プルトニウムは骨や肝臓に蓄積しますが、迅速に DTPA を使用すれば吸収されたプ
ne
ルトニウムの骨への取り込みが大いに低減されます。アクチノイド系のいくつかの
取り込みは速いのが特徴です。溶解性アメリシウムやキュリウムは、吸収されて 1
M
時間後には約 76%が骨に蓄積されるという報告があります。したがって、溶解性ア
RE
クチノイド化合物の吸入後、15 分から 45 分で DTPA を使用することが必要となりま
す。
療
表 2 DTPA
医
剤 型 投与法と用量 備 考
Ca-DTPA(trisodium Calcium 静脈注射 1 日 1 度の投与。分割または長期に
pentathamil, Ditripentat) 成人:1g を 250ml の 5% わたる投与をしてはならない。
く
噴霧器にセットする。 (3)腎機能が正常のこと。使用の前
通常全体量は 15∼30 分で吸 に尿検査で正常であること。タ
入する。噴霧吸入投与は、毎 ンパクや血液、円柱が見られた
急
止。
(6)長期投与により Zn 欠乏が生じ
る。なお、以前に肺疾患のあっ
た患者には用いない。
Zn-DTPA(trisodium Zinc 1 日の静注または噴霧投与に Ca-DTPA よりは毒性が弱く、Ca-DTPA
pentathamil) 関しては、Ca-DTPA と同じ投 の効果が高い被ばく後 1∼2 日を除
(ドイツ Heyl 社) 与量とする。 いて投与する。
1 アンプル中(5ml)0.055g の
ZnDTPA を含む。
※放医研に備蓄
混合療法 第 1 回目の投与では Ca-DTPA (1)4∼6 ヵ月後、尿排泄率を再評価
1g、2 回目以降の 5 日間は した上で効果が期待できる場合
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
キュリウム、カリホルニウム、ネプツニウム)、希金属(セリウム、イットリウム、
ランタン、プロメチウム、スカンジウム)や遷移金属(ジルコニウム、ニオブ)をキレ
t
ne
ートします。これらの薬剤の臨床的使用は、一般的にプルトニウムとアメリシウム
の体内摂取時です。
M
③Dimercaprol
Dimercaprol(BAL)は、水銀、鉛、ヒ素、金、ビスマス、クロム、ニッケルと安定
RE
なキレート複合体を作り、これらの元素の放射性同位体による内部被ばくの治療薬
として使用されます。BAL は副作用も比較的強く、使用にあたっては、排泄促進に
療
よる利益とリスク(副作用)を考慮すべきです。頻脈に伴う収縮期、拡張期圧の両方
の上昇が認められることがあります。嘔気、嘔吐、頭痛、口腔内の焼けるような感
医
覚、結膜炎、胸痛等が出ることもありますが、通常軽度です。また、疼痛を伴う無
菌性膿瘍が注射部位に生じることもあります。
く
④Penicillamine
ペニシラミンはペニシリンの分解産物から由来するアミノ酸ですが、抗菌作用は
ば
ありません。銅、鉄、水銀、鉛、金等、尿中に排泄される可溶性複合体を作る重金
被
より優れています。
急
⑤Deferoxamine
デフェロキサミン(DFOA)は、鉄蓄積症治療および急性の鉄中毒の治療に有効であ
緊
り、三価の第二鉄塩としての鉄に対して高い親和性を持っています。経口 DFOA は、
小腸内で鉄と結合し非吸収性にするので、Fe-59 の吸入および摂取後に有効です。
5)気管支肺胞(肺)洗浄
気管支肺胞洗浄は、不溶性の放射性同位元素(例えば酸化プルトニウム等)を吸入し
た患者さん(傷病者)を治療する方法です。洗浄手技には危険を伴いますが、大量のα
線放出核種を吸入した場合、この方法を用いることが考慮されます。
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―第 10 章 体内汚染の診断と治療―
7.まとめ
実際に体内汚染があったのか、どこから体内に入ったのか、核種は何か、そして摂取
した量はどのくらいか等について診断し、放射性物質を体外へ排出させる治療を行いま
す。診断と治療を行うのは、体内に放射性物質がある限り被ばくが続くからです。また
効果を高めるためには、できる限り速やかに治療を開始することが必要です。
体内への侵入経路としては、気道、消化管、粘膜、皮膚、創傷等があります。核種は
放射性、非放射性にかかわらずその元素特有の体内挙動を示すので、体内汚染の健康影
t
響は、核種、その化学形等により異なります。速やかに吸収され体循環に入るような核
ne
種の場合、患者さん(傷病者)の便、尿等(生体試料)に放射活性が見られます。生体試料
の測定、体外からの計測等に基づいて放射性物質の摂取量を推定し、放射性物質が体外
M
に排出されるまで被ばくが続くことを勘案して健康影響を評価します。
RE
なお、体内汚染患者さんから医療関係者や搬送関係者が二次汚染を受けたり二次被ば
くを受け、検査や治療が必要となることはありません。
療
医
く
ば
被
急
緊
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