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化 学 の

ク レオ パ トラの 香 りをつ くる
分 子 内 閉環 反応 に よ る ジ カルボ ン酸 か らの 大環 状 ムス ク合 成

ムス ク (じ ゃ こ う) は, 古 くか ら珍 重 され て きた香 料 で あ る.「 ム ス ク」 は, 以 前 はチ ベ ッ トお よび ヒマ ラ ヤ 山 岳 地 帯 に生 息 す るジ ャ コ ウ ジカ の オ スが 分 泌 す る香 気 物 質 を含 ん だ香 嚢 を指 して いた が, 現在 で は類 似 の 香 気 を も った化 合 物 全 般 も指 す よ うに な った. 性 誘 引 性 (フ ェ ロ モ ン作 用) が あ る とい わ れ る特 徴 あ る香 り(1)に えて, 調 合香 料 の芳 加 香 を長 期 間 保 た せ る保 留 剤 と して の 機 能 も併 せ も って い る. その た め に, 高 級 な香 水 な どの コ ス メ テ ィ クス製 品 か ら, 石 鹸, 洗剤 な どの トイ レタ リー製 品 に至 る まで 幅広 く 使 用 され て い る. 絶 世 の 美 女 と うた わ れ たエ ジ プ トの女 王 ク レオパ トラ は, ロー マ の権 力者 ア ン ト ウス の た め に ム ニ ス ク を浴 び る よ うに使 った とも伝 え られ て い る(2). ム ス ク は その構 造 か ら, 大 環状 ム ス ク, ニ トロム ス ク, 多環 状 ムス クの3種 類 に分 類 され る(図1). この よ うに, 大 き く 造 が 異 な る化 合 物 群 が 類似 の香 りを もつ こ とは興 味 構 深 い現 象 で あ り, 構 造 と香 りの相 関 関係 に つ いて 研 究 が行 な わ れ て い る(3).大 環 状 ム ス ク と して は, 14か ら19員 環 の ケ トン, ラ ク トン な ど多 種 類 の 化 合 物 が 報 告 さ れ て い る(4). 近 年, ニ トロム ス ク は人 体 へ の 安 全性 の 問題 か ら使 用 が 制 限 され, 多 環状 ム ス ク は難 分 解性 で あ るた め に, 河 川 の 水 質汚 染 な ど環境 上 の 問題 が 議 論 され て い るが, 大 環状 ム ス ク は他 の ム ス ク に 比 べ て 安 全 性 が 高 く易 分 解 性 で あ る(5). この よ うな優 れ た性 質 を もつ に もか か わ らず, 高価

で あ るた め にそ の使 用 量 は少 ない. そ こで, 合成 研 究 に よ る コ ス トダ ウ ンの検 討 が進 め られ て い る. 大 環 状 ムス ク合成 研 究 は, 大 環状 構 造 へ の興 味 と実 用 面 か らの要 請 に よ って, 数 十 年 にわ た って産 学 で 行 な わ れ て きた. 本 稿 で は, 分 子 内閉 環 反 応 に よ る長 鎖 ジカ ル ボ ン酸 か らの大 環 状 ム ス ク合成 に焦 点 を当 て, 工 業 化 を 目的 と し た最 近 の研 究 結 果 を, 筆 者 らの試 み を中心 に紹 介 す る. 対 象 と した大 環 状 ム ス クは, 天 然 に存 在 す るシ ク ロペ ンタ デ カ ノ ン (1), ム ス コ ン(2), シベ トン (3), シ ク ロ ペ ン タ デ カ ノ リ ド(4) の4種 類 で あ る (図2).

▼分 子 内 閉環 反 応 大環 状 ム ス クや マ ク ロ リ ドと呼 ばれ る抗 生 物 質 な ど, 大 環状 化 合 物 を合 成 す る戦 略 の一 つ に, 両端 に官 能 基 を も っ た 長 鎖化 合 物 を原 料 として, 分 子 内で の 反応 に よ って 閉環 させ る, 分 子 内閉 環 反 応 が あ る. 分 子 内 閉環 反 応 の 実 用 化 に お け る キー ポ イ ン トとして, 以 下 に, 安 価 な長 鎖 化 合物 の利 用 と, 副 反応 で あ る分 子 間 反 応 の抑 制 に よ る収 率 向 上 に触 れ る.

▼安 価 な長 鎖化 合 物: 長 鎖 ジ カ ル ボ ン酸 分 子 内 閉環 反 応 に よ る大 環状 ム ス ク合 成 の原 料 とな りう る, 両端 に 官能 基 を も った長 鎖 化 合 物 として, 長 鎖 ジカ ル ボ ン酸 が工 業 的 に利 用 で き る. 長 鎖 ジカ ル ボ ン酸 は, Candida 属 の酵 母 に よ り, n-ア ル カ ンの 両端 の メ チ ル 基 だ け が位 置選 択 的 に酸 化 され る こ とで 生 産 さ れ る(6). また, 脂 肪 酸 お よび脂 肪 酸 エ ス テ ル も原 料 とな る. ジ カル ボ ン酸発 酵 プ ロセ ス は, 異 な る炭 素鎖 長 の ジ カル ボ ン酸 を同 一 装 置 を使 って製 造 で き る とい う汎 用 性 が 大 きな特 徴 で あ る.

▼分 子 間 反応 の抑 制: 高 度 希 釈法 とその 問 題 点
図1 ■大 環 状 ム ス ク, ニト ロ ム ス ク, 多 環 状 ム ス ク の 構 造

両端 に官 能 基 を もつ 長 鎖化 合 物 に よ る反応 で は, 希 望 す

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図2

■本稿 の対象 と し 大環状 ムス ク た

ア シ ロイ ン縮 合 反 応 で は, 高度 希 釈 法 に よ らな くと も分 子 内 閉 環 反応 が高 収 率 で 進行 す るので, 生産 効 率 の面 で 非 常 に優 れ て い る. 分 子 内 反応 が優 先 す るの は, 使 用 され る 金 属 ナ トリウ ム の表 面 に同 一分 子 の2つ の エ ス テル 基 が 吸 着 され, 近接 した状 態 で 縮 合 反応 が起 こるた め と説 明 され て い る. 6の 濃 度 が0.35M 率90%で7が 7は, 図3 ■両端 に官能 基 を もつ長 鎖 化 合 物 の 分 子 内反 応 に よ る 閉環 と, 分 子 間反応 に よ る重合 る分子 内反 応 と, 希 望 しな い分 子 間 反応 との競 争 反 応 にな る場 合 が多 い. す な わ ち, 近 接 した 反応 性 官 能 基 が, 自分 子 の もの で あれ ば分子 内反 応 に よ り閉環 し, 他 分 子 の もの で あ れ ば分 子 間 反応 に よ り重 合 す る可能 性 が高 い (図3). 分子 間反 応 を抑 制 し, 目的 とす る大環 状 化 合 物 の 収 率 を 向上 させ るた め に, 一 般 に分 子 内 閉 環 反応 で は, 高 度 希 釈 法 が使 われ る. この 方法 は, 希 釈 した鎖 状 化 合 物 を反 応 系 内 に ゆ っ く りと滴下 して, 迅 速 な 反応 に よっ て速 や か に消 費 させ る こ とに よ り, 反 応 系 内 の 未反 応 鎖 状 化 合 物 濃 度 を 低 下 させ て, 分 子 間反 応 を抑 制 す る. この高 度 希 釈法 の一 般 的 な問題 点 は, 希 釈 と slow additionの た め に, 体 積 あ た り, 時 間 あ た りの 収 量 が 低 くな り, 生 産 性 が低 下 す る こ とで あ る. した が っ て, 本 稿 で 取 り上 げ る大 環状 ム ス ク合 成 で は, 高度 希 釈 法 を 回避 す る方 策 が取 られ て い る. 得 られ る(7). (約100g/l) まで で あ れ ば, 収

亜 鉛/塩 酸 を使 った ク レ メ ンゼ ン型 還 元 に よ り, 導 か れ る(8). しか し, この ク レ メ ン ゼ ン

収 率80%で1に

型 還 元 反 応 で は, 亜 鉛 を化 学量 論 量 必 要 とす る うえ, 目的 とす る還 元反 応 以 外 に塩 酸 と亜鉛 の一 部 が 無駄 に消 費 され るた め, 反応 終 了後 に多 量 の塩 化 亜 鉛 や 酸廃 水 が発 生 し, 製 造 工 程 で は廃 棄 物 処 理 が 問題 とな って い た. この ク レメ ン ゼ ン型 還 元 反応 を 回避 す るた め に, 新 た に 見 い だ され た触 媒 を用 い た脱 水 反 応 に よ って7を シ ク ロペ ン タデ セ ノ ン(8,9) へ 変 換 し, 引 き続 き接触 水 素 化 す る と い う2段 階反 応 に よ って, 目的 とす る1を 収 率 よ く得 る こ とが で きた(10). 7の 直 接 的 な脱 水 は, 1の α-位 にカ チ オ ンが 生 じ に くい た め, ほ とん ど検 討 され て い な い. 7の α-ヒ ドロ キ シ 基 の1段 階 で の脱 離 は, 1940年 代 に行 な わ れ た ア ル ミナ を 触 媒 と した約550℃で の 気相 反 応 の 例(7)があ るが, 最 高 使 用 温 度 が300℃以 上 の設 備 は フ ァイ ンケ ミカ ル 製 造 で は稀 で あ る. そ こで, 実 用 性 の観 点 か ら一 般 的 な 多 目的 プ ラ ン トで の 製 造 を前 提 と して, 300℃以 下 で の 液 相 反 応 に よ る 触 媒 的脱 水 方法 を新 た に検 討 した. ▼シ ク ロペ ン タデ カ ノン (図4) ム ス ク ラ ッ トか ら分 離 され た シ ク ロペ ン タ デ カ ノ ン (1) は, 15員 環 の ケ トンで あ る. これ まで1は, シ ク ロ ドデ カ 触 媒 の ス ク リー ニ ン グの結 果, オ ル トリ ン酸, メ タ リン 酸, ピロ リン酸 な どや, あ る い は石 油産 業 で よ く使 わ れ る シ リカ ア ル ミナ, ゼ オ ライ トな どの 固体 酸 に脱 水 能 を見 い だ した. これ らの 触 媒 と と もに, 必 要 に応 じて炭 化 水 素 系 溶 媒 を用 い, 7を 約200∼250℃で 加 熱 攪 拌 す る と, α-ヒ

ノ ンの 環 拡 大(7)によ り製 造 され て い た. ペ ン タデ カ ン二 酸 ジ メ チ ル エ ス テ ル (6)が 工 業 的 に入 手 可 能 に な った こ とに 伴 い, 6の ア シ ロ イ ン縮 合 に よる2-ヒ ドロ キ シ シク ロ ペ ン タ デ カ ノ ン (ア シ ロ イ ン(7)) の 合成 と, 引 き続 く7の ク レ メ ンゼ ン型 還元(8)に よ り製 造 され る よ うに な った(9). そ の た め, 1985年 に は22万 円/kgだ った1の 販 売 価 格(2)が,

ドロ キ シ基 が 脱 離 し, cis-8, trans-8, cis-9, trans-9の 4異 性 体 混 合 物 が 得 られ る こ とが わ か った. 固体 酸 触 媒 は脱 水 反応 後 に濾 過 で 除 去 可能 で あ り, リ ン 酸類 の よ うな均 一 系 酸触 媒 に比 べ る と, 中和 や 水 洗, そ れ に伴 って発 生 す る廃 棄物 の後 処 理 が 不 要 に な る た め, プ ロ

近 年 で は5分 の1以 下 に低 下 して い る.

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図4

■亜 鉛/塩 酸 還 元 に よ る 現 在 の シ ク ロペ ン タ デ カ ノ ン (1) の 製 造 法 と, 脱 水 ・ 素 化 に よ る新 しい 製 造 法 水

5: 1, 15-ペ ンタ デ カ ン二酸

セ ス上 の メ リ ッ ト 大 きい. そ こで, 固 体 酸 につ い て さ ら が に検 討 した と ころ, 市 販 され て い る シ リカア ル ミナ触 媒 を 使 用 し, テ トラ デ カ ン中, 220℃で7時 と に よ り, 転 化 率93%, 収 率85%で8, 間加 熱 攪 拌 す る こ 9の 混 合 物 を得

▼シ ベ トン (図5) ジ ャ コ ウネ コ (シベ ッ ト)か ら分 離 され た シベ トン(3) は, 9位 に不 飽 和 結合 を もつ17員 環 ケ トンで あ る. 9-オ ク タ デセ ン二酸 ジ メ チル エ ス テ ル (10) を原料 と した デ ィー ク マ ン縮 合 *1と, 引 き続 く加 水 分 解 ・ 炭 酸 に よ 脱 る合 成 例 が 報 告 さ れ て い る(7).10は オ レ イ ン 酸 の メ タ セ シス 反 応 を利 用 し て合 成 す る と, cis/trans 体 の 混 合 物 が 得 られ る(7).一 方, Candida 属 の 酵 母 に よ るオ レ イ ン酸

る こ とが で きた. この混 合物 は, ニ ッケル 触 媒, パ ラ ジ ウ ム触 媒, 白金触 媒 な どに よ り 易 に水 素 化 され, 定量 的 に 容 1と す る こ とが で き た. 脱 水 ・ 素 化 に よ り合 成 さ れ た1 水 の精 製 品 は, ク レメ ンゼ ン型還 元 に よる現 行 の 製 品 と同等 の優 れ た香 気 を もつ こ とが, 官能 検 査 で確 か め られ た. 以 上 の よ う に, この新 しい 合成 ル ー ト は反 応 数 は1段 で 階増 え たが, 脱 水 とそれ に続 く接触 水 素 化 で 不 均 一 系触 媒 反応 を使 用 す る こ とに よ り, 酸廃 水 や塩 類 な どの 廃 棄物 が 発 生 しな い よ う に な った. これ は, 近 年 提 唱 され て い る 「 リー ン ケ ミス トリー 」(11)の え方 に沿 った, 環 境 に優 グ 考 しい 合 成 法 とい え る. また, 新 た に 見 い だ し た α-ヒ ドロ キ シ基 の液 相 で の脱 水 法 は, 従 来 の 方法 よ り も低 温 で 反応 す るた め, 一 般 的 な設 備 が 使 用 可能 で あ り実 用 性 が 高 い. さ ら に, 同脱 水 反応 に よ って ム ス コ ン (2) の合 成 中 間 体 で あ る, 2-シ ク ロ ペ ンタ デ セ ノ ン (8)が 得 られ る 可 能 性 もあ る こ とな どか ら, 総 合 的 な メ リッ トが期 待 で き る.

の微 生 物 酸 化 を利 用 す る と cis が得 られ るた め, こち ら 体 の ほ うが天 然 型 の cis-シベ トン合 成 に有 利 で あ る. 強塩 基 を使 用 す る古典 的 な デ ィー クマ ン縮 合 で は, 高度 希 釈 が必 須 で生 産 性 が低 か っ た た め, 筆者 らは近 年 開発 さ れ た 四塩 化 チ タ ン (TiCl4)/ア ミ ン を使 用 す る強 力 な ク ラ イ ゼ ン縮 合 法 の応 用 を検 討 した(14).そ の 結 果, 四塩 化 チ タ ン/ア ミ ンに よ るデ ィー クマ ン縮 合 で は, 古典 的 反 応 法 の 報 告例 よ り10倍 以 上 高 い 濃度 で も, 収 率 約50%で 内 閉 環 が可 能 で あ った. 現在 市 販 さ れ て い る3は, アゼ ライ ン酸 ジ メチ ル か ら多 1の 混 合 分子

段 階 の 工 程 を経 て 合 成 さ れ た, cis: trans=2:

物 で あ る(7).10の デ ィー ク マ ン縮 合 に よ る プ ロ セ ス は, この 方法 に比 べ 工 程 数 が 短 い うえ, 天 然 型 の cis-シベ トン

▼ム ス コ ン ジ ャ コ ウ ジ カ か ら分 離 され た ム ス コ ン (2) は, 3位 に メ チ ル 基 を も った15員 環 の ケ トン で あ る. 天 然 の2は (R) 体 で あ り, (S) 体 に比 べ て香 気 が3倍 以 上 強 く, 香 質 も優 れ て い る. 特 殊 な リガ ン ドを使 用 す る こ とに よ って trans-8 にメ チ ル基 を立体 選 択 的 に付 加 し, (R)-ム ス コ ン (2) を合 成 す る こ とが で き る(12).ラ セ ミ体 の ム ス コ ン (2) は, 8に メチ ル基 を付 加 す る こ とで合 成 で き る(13).

(3)が 合 成 で き るた め, 新 しい 製 造 方法 として期 待 され る. ▼シ ク ロペ ンタ デ カ ノ リ ド ア ンジ ェ リカ とい う植 物 か ら分 離 され た シ ク ロペ ンタ デ カ ノ リ ド(4) は, 16員 環 ラ ク トンで あ る. 15-ヒ ドロキ シペ ンタ デ カ ン酸, あ るい は そ のエ ス テ ル14か ら, Carothers

の 方 法, ま た は Collaud の 方 法 に よ っ て 合 成 で き る (図 6)(7).Carothers に よ る合 成 法 で は, 14を 触 媒 と と もに加

*1 ステ ル基 ど う しの分 子 内反 応 の一 つ. 分 子 間 反 応 の場 合 は ク エ ライ ゼ ン縮 合 と呼 ばれ る.

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図5

■9-オ ク タ デ セ ン二 酸 ジ メ チ ル エ ス テ ル (10) の デ ィ ー ク マ ン 縮 合 に よ る シ ベ トン合 成 法 と

ア ゼ ラ イ ン酸 ジ メ チ ル か ら の

従 来 の製造 法 11: 2-メ トキ シ カル ボ ニ ル-9-シ ク ロヘ プ タデ セ ノ ン, 12: 9-オ キ ソ-1, 17-ヘ プ タ デカ ン二 酸 ジ メチ ル, 13: 10, 10-エ チ レ ン ジオ キ シ-2-ヒ ドロ キ シ シク ロヘ プタ デ カ ノ ン

お い て は, 原 料 の14を い か に効 率 よ く合 成 で き るか が 鍵 とな る. ペ ンタ デ カ ン二 酸誘 導体 か ら14を 合成 す るた め に は, そ の 片 端 の み を還 元 す る必 要 が あ り, 大 別 して3つ の ア プ ロー チが 試 み られ て い る. 1つ め は, ジカ ル ボ ン酸 の誘 導体 (還元 原 料) を工 夫 し て, 両 端 官 能 基 の見 か け の還 元 反 応速 度 比 を高 め る方法 で あ る. これ まで に, バ リウ ム塩-メ チ ル エ ス テ ル (15)(15), カ ル ボ ン酸-メ チ ル エ ス テ ル (16)(7)や酸 ク ロ リ ド-メ チ ル エ ス テ ル (17)(16)の組 合 せ な どが 検 討 さ れ た (図7). この

方法 の問 題 点 は, 誘 導 体 化 が 多段 階 に及 ぶ こ とに よ り, 還 元 原 料 が 高価 にな る こ とで あ る.
図6 ■15-ヒ ドロ キ シ ペ ン タ デ カ ン酸 (14) か らの ラ ク トン4

2つ め は, 還 元 試 剤 を工 夫 して, 前 述 の 速 度 比 を高 め る 方法 で あ る. 種 々 の還 元 原 料 と組 み合 わせ て, 官能 基 選 択 性 の あ る還 元 剤 や, 新 規 な水 素 化触 媒 な どが 検 討 され て い

合成 方 法

熱 し, 重 合 に よ って ポ リエ ス テ ル を まず 生 成 させ る. 次 い で, こ の ポ リエ ス テ ル を触 媒 と と も に, 減 圧 下 (1∼2 mmHg) で 約270℃に 加 熱 す る こ とで, 解 重 合 に よ り生 の方 法 で は, グ リセ リン

る(7). 3つ め は, 還 元 を低 転 化 率 に と どめ る 方法 (部分 還 元) で あ る. 転 化 率 が低 けれ ば, 両端 官能 基 が 両 方 と も還 元 さ れ る確 率 は低 くな り, 目的 とす る片 端 還 元 生 成 物14が 高 選 択 率 *2で得 られ る. 反 応 生 成 物 中 に 多 量 に残 っ た 未 還


*2選 率 (%)=収 択 率/転 化 率 ×100

成 した4を 留 出 させ る. Collaud

と14と の エ ス テル を, 触 媒 と と もに減 圧 下 で 加 熱 す る こ とに よ って4を 得 る. 以 上 の環 化 法 は, 分 子 間反 応 を防 ぐ た め に希 釈 す る必 要 が な い. そ の た め, この 合成 ル ー トに

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に感 謝 い た します.
文 献 1) 2) 3) 4) 安川 公, 阿 部 正 三 (編):“香 りの 科 学”, 大 日 本 図 書, 1989, 1973, p. 69. 54, Chemis-

p. 70. 中 村 祥 二:“香 G. Frater, 7633 B. D.

り の 世 界 を さ ぐ る”, 朝 日新 聞 社, Bajgrowicz & Press, R. A. 1982, &

J. A.

P. Kraft: Tetrahedron,

(1988). Mookherjee Wilson:“Fragrance p. 433. 50 (1999).

try”, Academic 5) 6) 7) 8) 9) 10) 11) 伊 藤 信 彦: 古 橋 敬 三: V. H. Food Prelog: Okino, 淳: Science

フ レ グ ラ ン ス ジ ャ ー ナ ル, 化 学 工 学, J. Chem. A. Taoka 18”, 62, 565 (1998). Synthesis, 1707

A. S. Williams:

(1999). (1950). in p. 753. 持続的社

Soc., 420 & N. Elsevier,

Uemura:“Developments 1988, (未 公 開). リ ー ン ケ ミ ス ト リー 2001. Soc. Perkin Chem.

図7

■ペ ン タ デ カ ン二 酸 誘 導 体 か ら の シ ク ロ ペ ン タ デ カ ノ

牧田

特 願2001-017711 村 橋 俊 一 (編):“グ

リ ド(4) 合 成

御 園 生 誠,

会 の た め の 化 学”, 講 談 社 サ イ エ ン テ ィ フ ィ ク,

元 原 料 の リサ イ ク ルが 可 能 で 経済 的 で あ り, か つ, 部 分 還 元 に と どめ る こ とに起 因 す る生 産 効 率 低 下 *3が問題 に な らな いの で あ れ ば, 還 元 反 応速 度 比 を高 め る工 夫 は重 要 で な くな る. 最 近, 5や6な に, 反 応 生 成 物 中 の14を, ど を原 料 に用 い, 部 分 還 元 の後 長 鎖 アル コー ル を使 用 した

12) 13) 14) 15) 16) 17) 18)

K. Tanaka, Trans. I, D. S. Im, 40, 243 田辺 陽,

J. Matsui 153 D. H. (1993). Shin 淳: &

& H.

Suzuki: J. Chem. Korean

D. K. Park: J.

Soc.

(1996). 牧 田 公 開 特 許 公 報 特 開2001-288136. 特 許 第2543395号. 江 尻 恵 美 子, 淵 上 高 正, 横 田 忠 史, 牧 田

横 田 忠 史, 松 本 正 勝, 淳: 青木 A. 805 崇, (1987). 淳,

渡 辺 章 夫: 藤本 保,

Collaud 法 の 変 法 に よ り4と す る方 法 が 報 告 され た(17). 反応 生 成 物 中 の未 還 元 原 料 は, 長 鎖 ア ル コー ル との ジエ ス テ ル とな り, 4に 比 べ て揮 発 性 が低 い た め留 去 さ れ な い. この ジ エ ス テル も, 5や6と 同様 に部 分 還 元 の原 料 とな り

特 許 第2582612号. 小 刀 慎 司: T. Nihira 公 開 特 許 公 報 特 開2001-199976. & Y. Yamada: Tetrahedron Lett., Makita,

(牧 田

(株) ジ ャ パ ン エ ナ ジ ー 医 薬

・バ イ オ 研 究 所)

う るた め, 未 還 元原 料 の リサ イ クル が 可能 とな った. * 1939年 に ノ ーベ ル 化 学 賞 を 受 賞 し た Ruzicka をはじ

め, 大 環 状 ム ス ク合 成 に携 わ った研 究者 は多 く, 今 回 取 り 上 げた4種 類 の化 合 物 に限 って も, 本 稿 で触 れ た 分 子 内 閉 環法 以 外 に, シク ロ ドデ カ ノ ンの 環拡 大 に よ る1, 2, 4の 合成 や, シ ク ロヘ キ サ ノ ンか ら過 酸化 物 を経 由 した4の 合 成 な ど, 様 々 な 合 成 法 が工 業 化 さ れ て い る(3,7). また 近 年 で は, 大 環 状 ム ス ク合 成 は, ジ ャ コウ ジ カや ジ ャ コ ウネ コ な どの動 物 保護 の観 点 か らも興 味 が もた れ て い る. リパ ー ゼ に よ る4の 合 成(18)を契 機 と して, 大 環 状 ム ス クの工 業 化 研 究 に携 わ って きた者 と して は, 実 用 に耐 え う る反 応 の開 発 をは じめ とした 合 成化 学 とプ ロセ ス 化 学 の進 歩 に よ り, 人 に も環 境 に も優 しい大 環 状 ム ス クが, 現代 の ク レオパ トラた ち に普 及 す る こ とを願 い た い. 謝辞: 本稿 の執筆機会 を与 えていただいた東京大学大学 院農学生 命科学研究科の作田庄平助教授 に深謝いた します. 大環状 ムスク と引き合 わせ ていただ いた こ とをはじめ, 多々御教示 いただいた 福 山大学生命工学部 (前 大阪大学工学部) の山田靖宙教授 には誠
*3高 化 率 の場 合 で あれ ば一 度 に処 理 で き る 量 の 原 料 で あ っ て 転 も, 低転 化 率 の 場 合 は繰 り返 し反応 させ る必 要が あ るた め, 生産 効 率 が 低 下 す る.

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