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フーリエ級数論

平成 24 年 6 月 11 日

1 Introduction(フーリエ係数・フーリエ級数)
f が R 上周期 p の関数であるとは, f (x + p) = f (x) (∀x) が成り立つことをいう.
R 上の関数 f を, [−π, π] 上可積分であるような周期 2π の関数とする. これに対し, 関
数 f を三角関数 sin nx と cos nx の無限和で表すことを考える.
関数 f が, 次のように表されたとしよう:


f (x) = a′0 + (an cos nx + bn sin nx) (1)
n=1

このように関数 f が表されたとき, 各係数 a′0 , an , bn はどのように定まりそうか?


以下, 形式的に議論を進める. (1) 式を両辺 [−π, π] 上で積分すると,
∫ π ∫ π { ∞
∑ }
f (x)dx = a′0 + (an cos nx + bn sin nx) dx
−π −π n=1
∫ π ∑∞
= 2πa′0 + (an cos nx + bn sin nx) dx
−π n=1

↓項別積分(積分記号とΣ記号を交換)して
∞ ∫ π


= 2πa0 + (an cos nx + bn sin nx) dx
n=1 −π
∑∞ ( ∫ π ∫ π )
= 2πa′0 + an cos nx dx + bn sin nx dx
n=1 −π −π

↓三角関数と合成関数の積分法により
∞ ( [ [ − cos nx ]π )

∑ sin nx ]π
= 2πa0 + an + bn
n −π n −π
n=1
∑∞
= 2πa′0 + (an · 0 + bn · 0) = 2πa′0
n=1

となり, ∫ π
1
a′0 = f (x) dx
2π −π

1 π
がまず得られる. ここで, a′0
に対して a0 = f (x) dx とおいておく.
π −π
次に, an , bn を求める. とくに今, ak を求めよう.

1
さっきは f (x) をそのまま積分したが, 今度は f (x) cos kx を積分してみる.
∫ π ∫ π { ∞
∑ }
f (x) cos kx dx = a′0 + (an cos nx + bn sin nx) cos kx dx
−π −π n=1
∫ π { ∞
∑ }
= a′0 cos kx + (an cos nx cos kx + bn sin nx cos kx) dx
−π n=1
∫ π ∫ π ∞

= a′0 cos kx dx + (an cos nx cos kx + bn sin nx cos kx) dx
−π −π n=1

↓項別積分(積分記号とΣ記号を交換)して
∞ ∫ π


= a0 · 0 + (an cos nx cos kx + bn sin nx cos kx) dx
n=1 −π
∞ (
∑ ∫ π ∫ π )
= an cos nx cos kx dx + bn sin nx cos kx dx
n=1 −π −π

ここで, 三角関数の積和の公式を確認する. すなわち, 次の等式が一般に成り立つ:


1( )
cos α cos β =cos(α + β) + cos(α − β)
2
1( )
sin α cos β = sin(α + β) + sin(α − β)
2
α = nx, β = kx として代入すれば, 積分計算の続きは
∫ π ∑∞ ( ∫ π ∫ π )
f (x) cos kx dx = an cos nx cos kx dx + bn sin nx cos kx dx
−π n=1 −π −π
∑∞ ( ∫ π
1
= an {cos(n + k)x + cos(n − k)x} dx
2 −π
n=1
∫ π )
1
+ bn {sin(n + k)x + sin(n − k)x} dx
2 −π

となる. Σの中の第2項目の積分は計算すれば 0 であることがわかる.


また第1項目は
∫ π [ ]
sin(n + k)x π
cos(n + k)x dx = =0
−π (n + k) −π
∫ π
であるが, cos(n − k)x dx は少し事情が異なる:
−π
k が固定されているのに対して, n は総和の添え字であり, したがって自然数を走る.
まず n ̸= k のときは
∫ π [ ]
sin(n − k)x π
cos(n − k)x dx = =0
−π (n − k) −π

である.
では n = k のときはというと, cos(n − k)x = cos 0 = 1 なので, 総和は n = k にあたる
所だけ残る.

2
積分計算は結局
∫ π ∑∞ ( ∫
1 π
f (x) cos kx dx = an {cos(n + k)x + cos(n − k)x} dx
−π 2 −π
n=1
∫ )
1 π
+ bn {sin(n + k)x + sin(n − k)x} dx
2 −π
∑∞ ( ∫ )
1 π
= an cos(n − k)x dx + bn · 0
2 −π
n=1
1
= ak · · 2π = πak
2
となり, ak について解いて
∫ π
1
ak = f (x) cos kx dx
π −π

が得られる.
全く同様にして, bk を求める際は f (x) sin kx を積分したものを考える. そうすれば,

1 π
bk = f (x) sin kx dx
π −π

が得られる. ただしこのとき積和の公式は
1( )
cos α sin β = sin(α + β) − sin(α − β)
2
1( )
sin α sin β = − cos(α + β) − cos(α − β)
2
に注意すればよい.

これまでの議論はあくまで形式的なものであり, まだフーリエ級数の理論としては不完
全である. いわゆる項別積分可能であるかの問題はあるし, また係数が求まったとして
も, その級数はもとの f (x) を再現するかどうかも疑問である. というのも, 上の考察は
関数が三角級数で表されているのなら(議論の怪しいところは目をつぶるにしても)その
係数が上のように決まることをいっただけで, その逆(つまり係数を上のように定めたら
三角級数がもとの f に収束するか)については何も言及していないからである.
だがひとまず関数を三角級数で表すことの鍵にはなりえそうということで, 上記の考察
から係数を定義づけ, フーリエ級数論を正当化していく.

3
1.1 フーリエ係数, フーリエ級数(定義)
 
Definition 1. R 上の関数 f を, [−π, π] 上可積分であるような周期 2π の関数とす
る. このとき, ∫
1 π
a0 = f (x) dx
π −π

1 π
an = f (x) cos nx dx (n ∈ N)
π −π

1 π
bn = f (x) sin nx dx (n ∈ N)
π −π
と定め, これらを f のフーリエ係数という. また, a0 , an , bn が f のフーリエ係数であ
ることを

a0 ∑
f (x) ∼ + (an cos nx + bn sin nx) (∗)
2
n=1

と書く. 記述 (∗) を f のフーリエ級数展開といい, 右辺の級数を f のフーリエ級数と


いう.
 
Remark.
(1) 記述 (∗) はいかにもフーリエ級数がもとの f (x) に一致しそうな表記だが, f (x) に収
束しているかどうかは現時点では何も言っていない.
(2) f は周期 2π であることから, フーリエ係数に現れる積分の区間は ∀α に対し
[α − π, α + π] としてもよい.

上では周期 2π の関数のフーリエ係数・級数展開について述べたが, より一般に周期


2L(L > 0) の関数についてもフーリエ係数・級数展開が定義される. それについても述べ
ておく:

 
Definition 2. R 上の関数 f を, [−L, L] 上可積分であるような周期 2L の関数とす
る. このとき,

1 L
a0 = f (x) dx
L −L

1 L nπx
an = f (x) cos dx (n ∈ N)
L −L L

1 L nπx
bn = f (x) sin dx (n ∈ N)
L −L L
と定め, これらを f のフーリエ係数という. また, a0 , an , bn が f のフーリエ係数であ
ることを
a0 ∑ ( nπx )

nπx
f (x) ∼ + an cos + bn sin (∗)
2 L L
n=1

と書く. 記述 (∗) を f のフーリエ級数展開といい, 右辺の級数を f のフーリエ級数と


いう.
 

4
ここでは, 周期 2π の関数に限定して進めていく.
上に述べたフーリエ級数に対し, 複素数(オイラーの公式 eiθ = cos θ + i sin θ)を用い
た形のフーリエ係数・級数がある. 以下, そのことについて見ていく.
まず, 実数変数複素数値関数の微分積分について定義する:
 
Definition 3. f (x) を [a, b] 上の実数変数複素数値関数, つまり変数 x が実数で

f (x) = u(x) + iv(x) (u(x), v(x) ∈ R)

のように表されるとする.
このとき f (x) が点 x で微分可能であるとは u(x) , v(x) がともに x で微分可能であ
ることとし, f ′ (x) を
f ′ (x) := u′ (x) + iv ′ (x)

と定める.
また f (x) が可積分であるとは u(x) , v(x) がともに可積分であることとし, f (x) の積
分を ∫ ∫ ∫
b b b
f (x) dx := u(x) dx + i v(x) dx
a a a

と定める.
 

以上をもとに, 複素型のフーリエ級数の定義を述べる. まずは以下の考察から始める.


周期 2π をもつ一般の複素数値関数 f が, 次のように表されたとする:


f (x) = cn einx
n=−∞

∑ ∑
N
ただし, an = lim an と定める. このとき, 最初の考察と同じように係数 ck
N →∞
n=−∞ n=−N
がどう定まるかを考えてみる. そこで, e−ikx (ただし k は整数範囲)を掛けて積分する.
∫ π ∫ π ∑

−ikx
f (x)e dx = cn einx e−ikx dx
−π −π n=−∞
∫ π ∑ ∞
= cn ei(n−k)x dx
−π n=−∞

↓項別積分して
∞ ∫ π

= cn ei(n−k)x dx
n=−∞ −π
∑∞ ∫ π
= cn ei(n−k)x dx
n=−∞ −π

↓e i(n−k)x
= cos(n − k)x + i sin(n − k)x と積分の定義 3 より
= ck · 2π
となり, 結果として ∫ π
1
ck = f (x)e−ikx dx
2π −π

5
が得られる.
以上の考察から, 複素型フーリエ係数を定める:
 
Definition 4. 複素数値関数 f が [−π, π] 上可積分とする. このとき,
∫ π
1
cn = f (x)e−inx dx (n ∈ Z)
2π −π

を f の複素型フーリエ係数という. cn が f のフーリエ係数であることを


f (x) ∼ cn einx
n=−∞

と書き, これを関数 f の複素型フーリエ級数展開という. 右辺の級数を, f の複素型


フーリエ級数という.
 
最初に述べたフーリエ級数と, ここで述べた複素型フーリエ級数は, 実は一致しているこ
とが示される:

Theorem 1.

N
a0 ∑
N
cn einx = + (an cos nx + bn sin nx)
2
n=−N n=1

証明


N −1
∑ ∑
N
cn einx = cn einx + c0 ei·0·x + cn einx
n=−N n=−N n=1


N ∑
N
= c−n e−inx + c0 + cn einx
n=1 n=1

N ∑N
= c0 + c−n e−inx + cn einx
n=1 n=1
∫ π
1 a0
ここで, フーリエ係数の定義から c0 = f (x) dx = であるので
2π −π 2
a0 ∑
N ∑
N
= + c−n e−inx + cn einx
2
n=1 n=1

a0 ∑N
= + {c−n e−inx + cn einx }
2
n=1

a0 ∑N
= + {c−n (cos nx − i sin nx) + cn (cos nx + i sin nx)}
2
n=1

a0 ∑N
= + {(cn + c−n ) cos nx + i(cn − c−n ) sin nx}
2
n=1

となる. ここで, cos と sin の係数を計算していく.


まず, cos の係数 cn + c−n を計算すると

6
∫ π ∫ π
1 −iny 1
cn + c−n = f (y)e dy + f (y)einy dy
2π −π 2π −π
∫ π
1
= f (y)(e−iny + einy ) dy
2π −π
∫ π
1
= f (y)2 cos ny dy
2π −π

1 π
= f (y) cos ny dy
π −π
= an

である. 次に, sin の係数 i(cn − c−n ) を計算すると


( ∫ π ∫ π )
1 1
i(cn − c−n ) = i f (y)e−iny dy − f (y)einy dy
2π −π 2π −π
∫ π
i
= f (y)(e−iny − einy ) dy
2π −π
∫ π
i
= f (y)(−2i sin ny) dy
2π −π

1 π
= f (y) sin ny dy
π −π
= bn

となる. したがって,


N
a0 ∑
N
cn e inx
= + {(cn + c−n ) cos nx + i(cn − c−n ) sin nx}
2
n=−N n=1

a0 ∑
N
= + (an cos nx + bn sin nx)
2
n=1

がいえる. □
定義 4 で述べたものを複素型フーリエ係数・級数というのに対し, 最初に述べたものは
実型フーリエ係数・級数と呼ぶことがある.
オイラーの公式による表示の方がすっきりしていて, 実型フーリエ級数よりも複素型
フーリエ級数の方が形として扱いやすい.

Definition 5. 関数 f が [a, b] 上区分的に連続であるとは, 次の条件が成り立つことと定


義する:
(1)f の不連続点は [a, b] 内に高々有限個しかない.
(2)c を f の任意の不連続点とするとき, lim f (c + ε) と lim f (c − ε) は有限の値として存
ε↓0 ε↓0
在する.
また, f が R 上で区分的に連続であるとは, 任意の有限閉区間において区分的に連続で
あることとする.

Definition 6. f が [a, b] 上区分的に連続とし, 不連続点の全体を {aj }kj=1 とする. ただし

a ≤ a1 < a 2 < · · · < a k ≤ b

7
であるとしておく. このとき, f の積分を
∫ b (∫ a1 −0 ∫ a2 −0 ∫ b )
f (x) dx := + +··· + f (x) dx
a a a1 +0 ak +0

と定める. ここで,
∫ q−0 ∫ c ∫ q−ε′
= lim + lim

p+0 ε↓0 p+ε ε ↓0 c

とする(ただし p < c < q ). また a1 = a や ak = b のときは, それぞれ


∫ a1 −0 ∫ b
f (x) dx = 0 , f (x) dx = 0
a ak +0

と考える.
例 
(a)[−π, π) 上の関数 f0 (x) = x を R 上へ周期拡張した関数 f は区分的に連続である.
1
(b)[−1, 1] 上で f (x) = (ただし f (0) := 0)は, [−1, 1] 上区分的に連続ではない.
x
1
(c)[−1, 1] 上で f (x) = sin (ただし f (0) := 0)は, [−1, 1] 上区分的に連続ではない.
x

1
sin のグラフ
x
Definition 7. f が [a, b] 上区分的に滑らかであるとは, 次の条件が成り立つことと定義
する:
(1)f は [a, b] 上の高々有限個の点 {aj }kj=1 以外で微分可能で, かつ f ′ は連続である.
(2) 任意の aj に対し, lim f (aj − ε) , lim f (aj + ε) , lim f ′ (aj − ε) , lim f ′ (aj + ε) が有
ε↓0 ε↓0 ε↓0 ε↓0
限の値として存在する.
また, f が R 上区分的に滑らかであるとは, 任意の有限閉区間において区分的に滑らか
であることと定める. 定義 7 では, f ′ が aj でそもそも定まっていない可能性もある.

(d)[−π, π) 上の関数 f0 (x) = x2 を R 上へ周期拡張した関数 f は区分的に滑らかで
ある.

(e)[0, 1] 上の関数 f0 (x) = x を R 上へ周期拡張した関数 f は区分的に滑らかでない.

さて, ある一定の条件のもとで, フーリエ級数はもとの関数を再現することを示して


いく:

8
 
Theorem 2. f を R 上連続かつ区分的に滑らかな周期 2π の関数とする.
このとき, cn を f の複素型フーリエ係数として,


f (x) = cn einx
n=−∞

がすべての x ∈ R に対し成り立つ.
 

2 証明の準備
定理 2 の証明には, フーリエ級数論における基本的な補題をいくつか用いる. それらを
まず示していく.

2.1 Bessel の不等式


 
Lemma 1. (Bessel の不等式)
[−π, π] 上区分的に連続な複素数値関数 f に対し, cn を f のフーリエ係数として

∑ ∫ π
1
|cn | ≤
2
|f (x)|2 dx
n=−∞
2π −π

が成り立つ.
 
証明 複素数 z = x + iy に対し
z := x − iy
と定め, これを z の共役複素数という. また複素数の絶対値を

|z| = |x + iy| := x2 + y 2

と定める. 一般に zz = |z|2 が成り立つことに注意して

∫ π ∫ π
0≤ |SN (x) − f (x)| dx =
2
(SN (x) − f (x))(SN (x) − f (x)) dx
−π
∫−π
π
= (SN (x) − f (x))(SN (x) − f (x)) dx
∫−π
π (
= SN (x)SN (x) − SN (x)f (x)
−π
)
− f (x)SN (x) + f (x)f (x) dx
∫ π ∫ π
= SN (x)SN (x) dx − SN (x)f (x) dx
−π −π
∫ π ∫ π
− f (x)SN (x) dx + |f (x)|2 dx
−π −π

となる. 各項について見ていく.

9
第1項目:
 
∫ π ∫ π ∑
N
SN (x)SN (x) dx =  cj eijx  SN (x) dx
−π −π j=−N
∫ π N (
∑ )
= cj eijx SN (x) dx
−π j=−N
 
∫ π ∑
N ∑
N
= cj eijx ck eikx  dx
−π j=−N k=−N
∫ ( )
π ∑
N ∑
N
= cj eijx ck eikx dx
−π j=−N k=−N

↓一般に, eiθ = e−iθ が成り立つことから


∫ π
= SN (x)SN (x) dx
−π
∫ ( )
π ∑
N ∑
N
= cj eijx ck e−ikx dx
−π j=−N k=−N
∫ ( )
π ∑
N ∑
N
= cj ck ei(j−k)x dx
−π j=−N k=−N


N ∑
N ∫ π
= cj ck ei(j−k)x dx
j=−N k=−N −π

↓積分は j ̸= k のとき 0 で, j = k のとき 2π である



N ∑
N
= cn cn · 2π = 2π |cn |2
n=−N n=−N

第2項目:
∫ π ∫ π ∑
N
SN (x)f (x) dx = cn einx f (x) dx
−π −π n=−N


N ∫ π
= cn f (x)einx dx
n=−N −π


N ∫ π
= cn f (x)e−inx dx
n=−N −π

↓複素数値関数の積分の定義 3 より, 一般に


∫ π ∫ π
    F (x)dx = F (x)dx であることが示される
−π −π

N ∫ π
= cn f (x)e−inx dx
n=−N −π


N ∑
N
= 2π cn cn = 2π |cn |2
n=−N n=−N

10
第3項目:
∫ π ∫ π ∑
N
f (x)SN (x) dx = f (x) cn einx dx
−π −π n=−N
∫ π ∑
N
= f (x) cn e−inx dx
−π n=−N

N ∫ π
= cn f (x)e−inx dx
n=−N −π


N
= 2π cn cn
n=−N

N
= 2π |cn |2
n=−N

以上により,
∫ π ∫ π ∫ π
0≤ |SN (x) − f (x)| dx =
2
SN (x)SN (x) dx − SN (x)f (x) dx
−π −π −π
∫ π ∫ π
− f (x)SN (x) dx + |f (x)|2 dx
−π −π

N ∑
N
= 2π |cn |2 − 2π |cn |2
n=−N n=−N

N ∫ π
− 2π |cn | +
2
|f (x)|2 dx
n=−N −π

ゆえに

N ∫ π
0 ≤ −2π |cn | +
2
|f (x)|2 dx
n=−N −π

よって

N ∫ π
2π |cn |2 ≤ |f (x)|2 dx
n=−N −π

がいえる. □

11
2.2 ディリクレ核とフェイエール核について

フーリエ部分和を式変形する. フーリエ係数の定義から


N
SN (x) = cn einx
n=−N
N (
∑ ∫ π )
1
= f (y)e−iny dy einx
2π −π
n=−N

↓ einx を積分の中に入れる
∑N ( ∫ π )
1 in(x−y)
= f (y)e dy
2π −π
n=−N
N (∫
∑ π )
1 in(x−y)
= f (y) · e dy
−π 2π
n=−N

1 ∑ in(x−y)
π N
= f (y) · e dy (2)
−π 2π
n=−N

1 ∑ inθ
N
ここで, DN (θ) := e とおく. すると (2) 式は

n=−N
∫ π
SN (x) = f (y)DN (x − y) dy
−π

となる. この DN の部分を, ディリクレ核という. DN (θ) は周期 2π の偶関数である.


ディリクレ核の性質として, 次が挙げられる:
( )
1 sin N + 12 θ
DN (θ) = (3)
2π sin 2θ
∫ π
DN (θ) dθ = 1 (4)
−π

(∵)  (3) 式:


N
2πDN (θ) = einθ
n=−N

↓等比数列の和の公式;公比が eiθ で項数は 2N + 1 である


e−iN θ (1 − (eiθ )2N +1 )
=
1 − eiθ
↓分母分子に e−iθ/2 をかける
e−i(N + 2 )θ (1 − (eiθ )2N +1 )
1

= −iθ iθ
e 2 −e2
−i(N + 12 )θ 1
e − ei(N + 2 )θ
= −iθ iθ
e 2 −e2
( ) ( )
−2i sin N + 12 θ sin N + 21 θ
= =  □
−2i sin 2θ sin 2θ

12
(4) 式:
∫ π ∫ π ∑
N
1
DN (θ) dθ = einθ dθ
−π 2π −π n=−N
N ∫ π
1 ∑
= einθ dθ
2π −π
n=−N

↓ n = 0 のときだけ積分値は 2π
=1 □

Remark. ∫ π
同様の議論により DN (x − y) dy = 1 も示される.
−π
ディリクレ核 DN (θ) のグラフは次のようになる:

N=2

N=3

N=4

13
次にフェイエール核について述べる.
SN (x) は f のフーリエ部分和であったのに対し, f のフェイエール部分和を次のように
定める:
1 ∑
N
S0 (x) + S1 (x) + · · · + SN (x)
σN (x) := Sk (x) =
N +1 N +1
k=0
∫ π
Sk (x) = f (y)Dk (x − y) dy と表せていたので, 以下の等式が成り立つ:
−π

1 ∑
N
σN (x) = Sk (x)
N +1
k=0
N ∫
1 ∑ π
= f (y)Dk (x − y) dy
N +1 −π
k=0
∫ π
1 ∑
N
= f (y) Dk (x − y) dy
−π N +1
k=0

1 ∑
N
↓ここで FN (θ) = Dk (θ) とおくと
N +1
k=0
∫ π
= f (y)FN (x − y) dy
−π

ここで置いた FN (θ) をフェイエール核という. FN (θ) は周期 2π の偶関数である.


フェイエール核は次の性質をもつ:
1 sin2 N 2+1 θ
FN (θ) = (5)
2π(N + 1) sin2 2θ
∫ π
FN (θ) dθ = 1 (6)
−π

(∵)(5) 式:ディリクレ核の性質 (3) より


N ∫
∑ π sin(k + 12 )θ
2π(N + 1)FN (θ) = dθ
k=0 −π sin 2θ
θ
↓分母分子に sin をかけて
2
N ∫
∑ π sin(k + 12 )θ sin 2θ
= θ

k=0 −π sin2 2
1
↓ sin α sin β = − {cos(α + β) − cos(α − β)} により
2
∫ π ( )
1 ∑
N
1
= 2 θ
− (cos(k + 1)θ − cos kθ) dθ
−π sin 2 k=0 2
∫ π ( )
1 1
= 2 θ
− (cos(N + 1)θ − 1) dθ
−π sin 2 2
∫ π ∫ π
1 1 − cos(N + 1)θ sin2 N 2+1 θ
= 2 θ
dθ = dθ □
−π sin 2 2 −π sin2 2θ

14
(6) 式:ディリクレ核の性質 (4) より
∫ π ∫ π
1 ∑
N
FN (θ) dθ = Dk (θ) dθ
−π −π N + 1 k=0
N ∫
1 ∑ π
= Dk (θ) dθ
N +1 −π k=0

1 ∑N
1
= 1= · (N + 1) = 1 □
N +1 N +1
k=0
∫ π ∫ π
同様の議論により FN (x − y) dy = 1 も示される( DN (x − y) dy = 1 を用いる).
−π −π
(5) の性質から, フェイエール核はつねに非負値である.
フェイエール核 FN (θ) のグラフは次のようになる:

N=2

N=3

N=4

15
N=9

さて, 次のことを示す:
 
Lemma 2. f を R 上連続な周期 2π の関数とする. このとき

σN (x) → f (x) (N → ∞)

がすべての x ∈ R に対し成り立つ.
 
証明 
∫ π


|σN (x) − f (x)| = f (y)FN (x − y) dy − f (x) · 1
∫−π ∫ π
π
= f (y)FN (x − y) dy − f (x) FN (x − y) dy
∫−π −π
π
= (f (y) − f (x))FN (x − y) dy
∫ π−π
≤ |f (y) − f (x)|FN (x − y) dy
−π

である. f と FN が周期 2π なので, |f (y) − f (x)|FN (x − y) は y の関数として周期 2π であ


る. ゆえに積分区間を移動しても積分値は等しい:
∫ π ∫ x+π
|f (y) − f (x)|FN (x − y) dy = |f (y) − f (x)|FN (x − y) dy
−π x−π

与えられた ε > 0 に対し, f の連続性から

∃δ > 0 s.t. y ∈ [x − π, x + π] and |y − x| < δ =⇒ |f (y) − f (x)| < ε (♪)

である. そこで積分区間を x の近傍とそれ以外の場所とに分ける:


∫ x+π
|σN (x) − f (x)| ≤ |f (y) − f (x)|FN (x − y) dy
∫x−π

= |f (y) − f (x)|FN (x − y) dy
|y−x|<δ

+ |f (y) − f (x)|FN (x − y) dy
|y−x|≥δ

16
それぞれの項について考える. まず第一項は (♪) により
∫ ∫
|f (y) − f (x)|FN (x − y) dy ≤ εFN (x − y) dy
|y−x|<δ |y−x|<δ

=ε FN (x − y) dy
|y−x|<δ

↓積分区域をもとに戻す
∫ x+π
≤ε FN (x − y) dy = ε · 1 = ε
x−π

次に第2項について考える. f は連続であるから最大値が存在する. それを M とおくと

|f (y) − f (x)| ≤ |f (y)| + |f (x)| ≤ M + M = 2M

である.
このことと FN の sin 表示の式 (5) により

∫ ∫
|f (y) − f (x)|FN (x − y) dy ≤ 2M FN (x − y) dy
|y−x|≥δ |y−x|≥δ

1 sin2 N 2+1 (x − y)
= 2M dy
|y−x|≥δ 2π(N + 1) sin2 x−y2
↓分子にて sin θ ≤ 1 により

1 1
≤ 2M dy
|y−x|≥δ 2π(N + 1) sin x−y
2
∫ 2
M 1
= dy
π(N + 1) |y−x|≥δ sin x−y
2
2

となる. ここで, | sin x| のグラフを描くとわかるように

π |y − x| δ
π ≥ |y − x| ≥ δ =⇒ ≥ ≥
2
2 2
x − y
=⇒ sin ≥ sin δ
2 2
1 1
=⇒ ≤
sin2 x−y
2 sin2 δ
2

がいえる.

17
よって
∫ ∫
M 1 M 1
2 x−y
dy ≤ δ
dy
π(N + 1) |y−x|≥δ sin 2
π(N + 1) |y−x|≥δ sin2 2
↓積分区間をもとに戻して
∫ π
M 1
≤ dy
π(N + 1) −π sin2 2δ
∫ π
M 1
= dy
π(N + 1) sin2 2δ −π
M 2π
=
π(N + 1) sin2 2δ
2M 1
= → 0(N → ∞)
(N + 1) sin2 2δ

すなわち N を十分大きくとれば

M 1
2 x−y
dy < ε
π(N + 1) |y−x|≥δ sin 2

とできる. 以上から, 十分大なる N をとれば

|σN (x) − f (x)| < ε + ε = 2ε

とできることがいえた.

3 定理 2 の証明
 
Theorem 2.(再掲)f を R 上連続かつ区分的に滑らかな周期 2π の関数とする.
このとき, cn を f の複素型フーリエ係数として,


f (x) = cn einx
n=−∞

がすべての x ∈ R に対し成り立つ.
 
証明 級数が収束することを示してから, とくに和が f (x) に収束していることを示す.
(a) フーリエ級数が収束すること:絶対収束することを示す. すなわち

∑ ∞

|cn e inx
|= |cn | < ∞
n=−∞ n=−∞

であることをいう(このことがいえればもとの級数の収束性がいえることは, 最後の補遺
で述べる). 簡単のため, f ′ はすべての点で定まっており連続であるとする(そうでない
場合の証明は補遺で述べる).

18
部分積分法により, n ̸= 0 に対し
∫ π
2πcn = f (y)e−iny dy
−π
∫ ( )′
π
e−iny
= f (y) dy
−π −in
[ ] ∫ π
e−iny π e−iny
= f (y) − f ′ (y) dy
−in −π −π −in

e−inπ einπ 1 π ′
= f (π) − f (−π) + f (y)e−iny dy
−in −in in −π
↓ f (π) = f (−π) と einπ = (−1)n であることから

1 π ′
= f (y)e−iny dy
in −π
2π ′
= c (ただし c′n は f ′ のフーリエ係数)
in n
となる. したがって
1 ′
cn = c (n ̸= 0)
in n
1 2
である. ここで一般に実数 a , b に対し 0 ≤ (a − b)2 = a2 − 2ab + b2 ゆえ ab ≤ (a + b2 )
2
であることに注意すると
∑ ∑ ∑
N N
1 ′ N
1 ′
|cn | = cn = cn
in n
n=−N,n̸=0 n=−N,n̸=0 n=−N,n̸=0


N ( )
1 1
≤ + |c′n |2
2 n2
n=−N,n̸=0
 
1 ∑
N
1 ∑
N
= + |c′n |2  (7)
2 n2
n=−N,n̸=0 n=−N,n̸=0


∑ ∑
N
1
である. は収束し, |c′n |2 はベッセルの不等式により
n2
n=1 n=−N


N ∫ π
1
|c′n |2 ≤ |f ′ (x)|2 dx
2π −π
n=−N

であるので, (7) 式は収束する.


(b) フーリエ級数が f (x) に収束すること:
∑∞
cn einx が f (x) でない数 g(x) に収束したとする. このとき, 一般に
n=−∞

a1 + a2 + · · · + an
an → a (n → ∞) =⇒ → a (n → ∞)
n
であること(最後に補遺として説明する)から,
S0 (x) + S1 (x) + · · · + SN (x)
σN (x) = → g(x) (N → ∞)
N +1
である. しかし補題 2 により σN (x) → f (x) であるのでこれは矛盾(極限の一意性).

19
4 応用
では実際に, 具体的な関数をフーリエ級数展開してみよう.

例 1. f0 (x) = x2 (−π ≤ x < π) を R 上へ周期拡張した関数を f とする.

フーリエ係数を求めていく.

1 π
a0 = f (x) dx
π −π
∫ [ 3 ]π
1 π 2 x 2
= x dx = = π2
π −π 3 −π 3


1 π
an = f (x) cos nx dx
π −π
∫ π
1
= x2 cos nx dx
π −π
∫ ( )
1 π 2 sin nx ′
= x dx
π −π n
{[ ]π ∫ π }
1 2 sin nx 2 ′ sin nx
= x − (x ) dx
π n −π −π n
{ ∫ }
1 2 π
= 0− x sin nx dx
π n
∫ π −π
2
=− x sin nx dx
πn −π
∫ π (
2 cos nx )′
=− x − dx
πn −π n
{[ ] ∫ π ( cos nx ) }
2 x cos nx π ′
=− − − (x) − dx
πn n −π −π n
{ ∫ }
2 π cos nπ (−π) cos(−nπ) 1 π
=− − + + cos nx dx
πn n n n −π
{ [ ] }
2 π(−1)n π(−1)n 1 sin nx π
=− − − +
πn n n n n −π
4
= (−1)n 2
n
bn については, f (x) sin nx が奇関数なので 0 である.

20
以上より, f のフーリエ級数展開は

a0 ∑
f (x) ∼ + (an cos nx + bn sin nx)
2
n=1
∑∞
1 4
= π2 + (−1)n cos nx
3 n2
n=1

となる. とくに, f は区分的に滑らかな R 上連続関数であるので, 定理 2 によりフーリエ


級数は f (x) に収束している:
∑ ∞
1 4
f (x) = π 2 + (−1)n 2 cos nx
3 n
n=1

ここで, x = π を代入すると
∑ ∞
1 4
2
π = π2 + (−1)n 2 cos nπ
3 n
n=1
∑∞ ∑ 4 ∞
1 4 1
= π2 + (−1) 2 (−1)n = π 2 +
n
3 n 3 n2
n=1 n=1

となり, 結果として

∑ 1 π2
=
n2 6
n=1
が得られる. ところで, このフーリエ部分和 SN (x) のグラフは次のようになる:

N=1

N=2

21
N=3

N=4

N=10

グラフを見ると, かなり素直にもとの f に収束しているのがわかる. 定理 2 の条件をみた


すフーリエ級数の収束の仕方を, 一様収束という.

5 不連続点がある場合のフーリエ級数展開
定理 2 は, R 上全域で連続である関数のフーリエ級数展開に関する主張であった. ここ
では, 不連続点がありうる関数のフーリエ級数の収束性について考える.

22
 
Theorem 3. f を R 上区分的に滑らかな周期 2π の関数とする. このとき

∑ f (x + 0) + f (x − 0)
cn einx =
n=−∞
2

がすべての x ∈ R に対し成り立つ. ただし, f (x + 0) と f (x − 0) はそれぞれ f の点 x


における右側極限値, 左側極限値とする.
 
定理 3 の証明には, 平均値の定理とリーマン・ルベーグの補題を用いる:
 
平均値の定理
f を [a, b] 上連続かつ (a, b) 上微分可能である実数値関数とする. このとき a < c < b
なる c で, 次をみたすものが存在する:

f (b) − f (a)
= f ′ (c)
b−a
 
証明は本質的に実数の連続性に依存するので, 省略する. 例えば瀬山さんの本参照.
Remark. 複素数値関数 f (x) = u(x) + iv(x) のときは, a < c , d < b なる 2 数 c , d で

f (b) − f (a) (u(b) + iv(b)) − (u(a) + iv(a)) (u(b) − u(a)) + i(v(b) − v(a))
= =
b−a b−a b−a
′ ′
= u (c) + iv (d)

をみたすものが存在する.
 
Lemma 3. (Riemann-Lebesgue の補題)
g を [a, b] 上連続, (a, b] 上で g ′ が連続とする. このとき, 次が成り立つ:
∫ b
g(x) cos λx dx → 0 (λ → ∞)
a
∫ b
g(x) sin λx dx → 0 (λ → ∞)
a
 ∫ 
b
証明  g(x) cos λx dx → 0 (λ → ∞) を示す. 次のことを示せばよい:
a
∫ b

∀ε > 0 ∃L = Lε > 0 s.t. λ > Lε =⇒ g(x) cos λx dx < ε
a

任意に ε > 0 をとる. 積分区間を a の近傍とそれ以外とに分ける:


∫ b ∫ a+ε ∫ b
g(x) cos λx dx = g(x) cos λx dx + g(x) cos λx dx
a a a+ε

まず第2項目を考える. 区間 [a + ε, b] において, 部分積分法から

23
∫ ∫ ( )
b b
sin λx ′
g(x) cos λx dx = g(x) dx
a+ε a+ε λ
[ ( ) ]b ∫
sin λx 1 b ′
= g(x) − g (x) sin λx dx
λ a+ε λ a+ε

sin λb sin λ(a + ε) 1 b ′
= g(b) − g(a + ε) − g (x) sin λx dx
λ λ λ a+ε

となる. 最初と2番目の項は λ → ∞ のとき 0 に収束する. 最後の積分の項は, g ′ が連続


ゆえ |g ′ | も連続, したがって最大値をもつ. そこで Mε := max |g ′ (x)| とおき, さらに
a+ε≤x≤b

(b − a)Mε
Lε >
ε
なる Lε をとれば
∫ b ∫
1 1 b

λ > Lε =⇒ ′
g (x) sin λx dx ≤ |g ′ (x) sin λx| dx
λ a+ε λ a+ε
↓ |g ′ (x)| ≤ Mε と | sin θ| ≤ 1

1 b
≤ Mε dx
λ a+ε
1
< Mε (b − a) < ε
λ
また, 区間 [a, a + ε] においては, M = max |g(x)| とおくと
a≤x≤b
∫ ∫ a+ε
a+ε
g(x) cos λx dx ≤ |g(x) cos λx| dx

a a
∫ a+ε
≤ M dx
a
= Mε

Remark. g ′ が連続という仮定のもとで証明したが, g が (a, b] において区分的に滑ら


かな(微分不可能な点が (a, b] 内に有限個ある)場合は, g の不連続点を境目にして積分区
間を分ければ同様に示せる. したがって, 補題は g が a の近傍 [a, δ] で連続かつ (a, b] にお
いて区分的に滑らかな場合でもいえる.
では, 定理 3 の証明をする.
 
Theorem 3.(再掲)f を R 上区分的に滑らかな周期 2π の関数とする. このとき

∑ f (x + 0) + f (x − 0)
cn einx =
n=−∞
2

がすべての x ∈ R に対し成り立つ. ただし, f (x + 0) と f (x − 0) はそれぞれ f の点 x


における右側極限値, 左側極限値とする.
 

24
証明  SN (x) を f のフーリエ部分和とする. フーリエ部分和の積分核表示の式により
∫ π
SN (x) = f (y)DN (x − y) dy
−π
↓ x − y = z と変数変換する. −dy = dz と積分区間の変化に注意して
∫ x+π
= f (x − z)DN (z) dz
x−π
↓積分変数を z から y に戻す
∫ x+π
= f (x − y)DN (y) dy
x−π
↓被積分関数は周期 2π なので積分区間を変えてもよい
∫ π
= f (x − y)DN (y) dy
−π
∫0 ∫ π
= f (x − y)DN (y) dy + f (x − y)DN (y) dy
−π 0
↓最初の項にて −y = z と変数変換する. −dy = dz と積分区間の変化に注意して
∫ π ∫ π
= f (x + z)DN (−z) dz + f (x − y)DN (y) dy
0 0
↓ DN は偶関数であることと, 積分変数を y に戻して
∫ π ∫ π
= f (x + y)DN (y) dy + f (x − y)DN (y) dy
∫ π
0 0

= {f (x + y) + f (x − y)}DN (y) dy
0
∫ π
1
となる. また, であるので,
DN (y) dy =
0 2
∫ π
f (x + 0) + f (x − 0)
SN (x) − = {f (x + y) + f (x − y)}DN (y) dy
2 0
∫ π
− {f (x + 0) + f (x − 0)}DN (y) dy
∫ π 0

= {f (x + y) − f (x + 0)}DN (y) dy
0
∫ π
+ {f (x − y) − f (x − 0)}DN (y) dy
0
≡ IN + JN

である. IN → 0 を示す. ディリクレ核の sin 表示の式から


∫ π ( )
sin N + 21 y
2πIN = {f (x + y) − f (x + 0)} dy
0 sin y2
∫ π ( )
f (x + y) − f (x + 0) 1
= sin N + y dy
0 sin y2 2

f (x + y) − f (x + 0)
となる. ここで, (0, π] 上の関数 g(y) := について考える.
sin y2
g(y) が y ↓ 0 としたとき極限を持つかどうかを調べる.

25
まず, x が f の不連続点の場合は f (x) := f (x + 0) と定義し直す(1点を変えただけで
は積分値は変化しないので, 積分に関する議論をする限りでは問題はない). そうすれば
f は x で右連続である. ゆえに十分小さい δ に対して f は [x, x + δ] 上連続かつ (x, x + δ)
上微分可能である. 簡単に f が実数値関数の場合だと, 0 < y < δ のとき平均値の定理から

f (x + y) − f (x + 0) = ((x + y) − x)f ′ (cy ) (x < ∃cy < x + y)


= yf ′ (cy )

がいえる. したがって,

f (x + y) − f (x + 0)
= f ′ (cy ) → f ′ (x + 0) as y ↓ 0
y
sin θ
である(これは f が複素数値関数の場合でも同様に得られる). ゆえに → 1 (θ → 0)
θ
という事実と合わせて

f (x + y) − f (x + 0) f (x + y) − f (x + 0) y
g(y) = y = → 2f ′ (x + 0) as y ↓ 0
sin 2 y sin y2

である. そこで, g(0) := 2f ′ (x + 0) と定めれば g は 0 で右連続となる.


以上より, g は [0, δ] 上連続であり (0, π] 上区分的に滑らかであるので, リーマン・ルベー
グの補題とその Remark により
∫ π ( )
1
2πIN = g(y) sin N + y dy → 0 (N → ∞)
0 2

がいえる. JN → 0 も同様に示せる.

6 応用
定理 3 を応用する. 次のような関数を考える:
f0 (x) = x (−π ≤ x < π) を R 上へ周期 2π の関数として拡張したものを f とする.
関数 f のフーリエ係数を求める.

1 π
a0 = f (x) dx
π −π
∫ π
1
= x dx
π −π
=0

an についても x cos nx が奇関数なので 0 である.

26

1 π
bn = f (x) sin nx dx
π −π

1 π
= x sin nx dx
π −π
∫ π (
1 cos nx )′
= x − dx
π −π n
{[ ( ] ∫ π ( }
1 cos nx ) π ′ cos nx )
= x − − x − dx
π n −π −π n
{ ∫ π }
1 (−1)n cos nx
= − 2π + dx
π n −π n
{ ∫ π }
1
= − 2π(−1)n + cos nx dx
nπ −π
{ [ ] }
1 sin nx π
= − 2π(−1) + n
nπ n −π
{ } n+1
1 (−1)
= − 2π(−1)n + 0 = 2
nπ n

以上より, 関数 f のフーリエ級数展開は

a0 ∑
f (x) ∼ + (an cos nx + bn sin nx)
2
n=1

∑ (−1)n+1
= 2 sin nx
n
n=1

である. また関数 f は区分的に滑らかであるので, 定理 3 より



f (x + 0) + f (x − 0) ∑ (−1)n+1
= 2 sin nx
2 n
n=1

π
ここで x = を代入すると
2

π ∑ (−1)n+1 nπ
= 2 sin
2 n 2
n=1
( )
1 1 1
= 2 1 − + − + ···
3 5 7

すなわち

∑ (−1)n+1 1 1 1 π
=1− + − + ··· =
2n + 1 3 5 7 4
n=1

が得られる.
ところで, フーリエ部分和 SN (x) のグラフは次のようになる:

27
N=1

N=2

N=3

N=4

28
N=5

N=10

N=20

N=30

f の不連続点の付近で, グラフにギザギザが現れる. このギザギザが現れる現象をギブス


の現象という. f に不連続点がある場合のフーリエ級数の収束は, R 上一様収束ではない.

29
7 補遺
7.1 絶対収束級数は収束する

∑ ∞

定理 2 の証明には, 一般に |an | が収束するならば an も収束するという事実を
n=1 n=1
用いていた. このことについて解説する.
まず, 実数列 {an } の場合を示す.

a (a ≥ 0 のとき)
+ n n
  an :=
0 (an ≤ 0 のとき)


0 (an ≥ 0 のとき)
  a−
n :=
−an (an ≤ 0 のとき)


− n − an
a+
とおく. このとき, |an | ≥ a+
n ≥ 0 , |an | ≥ an ≥ 0 , an = が成り立つ. また
2

∑ ∞

n ≤
a+ |an | < ∞
n=1 n=1


∑ ∞

a−
n ≤ |an | < ∞
n=1 n=1

∑ ∞

ゆえ, a+
n , a−
n はいずれも収束する. よって
n=1 n=1
( )

N ∑
N
a+ − a− 1 ∑
N ∑
N
an = n n
= n −
a+ a−
n
2 2
n=1 n=1 n=1 n=1

は収束する.


次に, 複素数列 {xn + iyn } に対する級数 |cn | が収束するとする. このとき,
n=1

|xn | ≤ x2n + yn2 = |cn |

|yn | ≤ x2n + yn2 = |cn |

∑ ∞

であるので, |xn | , |yn | は収束する. ゆえに, 上の実数列の場合の結果から
n=1 n=1

∑ ∞
∑ ∑
N ∑
N ∑
N
xn , yn は収束, したがって cn = xn + i yn は N → ∞ のとき収束する.
n=1 n=1 n=1 n=1 n=1

7.2 チェザロ和の収束

数列の極限に関して, 次のことが成り立つ:

30
 
Theorem. a ∈ R とする. このとき
a1 + a2 + · · · + an
an → a (n → ∞) =⇒ → a (n → ∞)
n
 
証明  次のことを示す:

a1 + a2 + · · · + an

∀ε > 0 ∃N ∈ N s.t. n ≥ N =⇒ − a < ε
n
まず任意に ε > 0 をとる. このとき, 数列 {an } が a に収束するという条件から

∃N1 ∈ N s.t. n ≥ N1 =⇒ |an − a| < ε

が成り立つ. そこで

MN1 := |(a1 − a) + (a2 − a) + · · · + (aN1 −1 − a)|

とおくと, n ≥ N1 のとき


a1 + a2 + · · · + an a1 + a2 + · · · + an na

− a = −
n n n
n個
z }| {
a1 + a2 + · · · + an a + · · · + a
= −

n n

(a1 + a2 + · · · + an ) − (a + · · · + a)
=
n

(a1 − a) + (a2 − a) + · · · + (an − a)
=

n

(a1 − a) + (a2 − a) + · · · + (aN1 −1 − a)

n

(aN1 − a) + · · · + (an − a)
+
n
MN1 (n − N1 + 1)ε
≤ +
n ( n )
MN1 N1 − 1
= + 1− ε
n n
MN1
≤ +1·ε
n
MN1
= +ε
n
MN1
となる. とくに → 0 (n → ∞) ゆえ, N1 よりも大きい番号 N2 を適切にとって
n
MN1
n ≥ N2 =⇒ <ε
n
とできる. よって, n ≥ N2 ならば(n ≥ N1 でもあるので)

a1 + a2 + · · · + an MN1
− a ≤ + ε < 2ε
n n
となる.

31
7.3 定理 2 の証明

定理 2 の証明では簡単に f ′ が全域で定まっており連続とした. ここでは仮に, −π < c < π


なる点 c にて f ′ が定まらないとする. このとき
∫ π
2πcn = f (y)e−iny dy
−π
∫ c ∫ π
= f (y)e−iny dy + f (y)e−iny dy
−π c
∫ c−ε ∫ π
−iny
= lim f (y)e dy + lim

f (y)e−iny dy
ε↓0 −π ε ↓0 c+ε′
∫ ( )′ ∫ π ( −iny )′
c−ε
e−iny e
= lim f (y) dy + lim f (y) dy
ε↓0 −π −in ′
ε ↓0 c+ε′ −in
{[ ] ∫ c−ε }
e−iny c−ε ′ e−iny
= lim f (y) − f (y) dy
ε↓0 −in −π −π −in
{[ ] ∫ π }
e−iny π ′ e−iny
+ lim f (y) − f (y) dy
ε′ ↓0 −in c+ε′ c+ε′ −in
{ ∫ c−ε }
e−in(c−ε) einπ ′ e−iny
= lim f (c − ε) − f (−π) − f (y) dy
ε↓0 −in −in −π −in
{ −in(c+ε′ ) ∫ π }
e−inπ ′ e ′ e−iny
+ lim f (π) − f (c + ε ) − f (y) dy
ε′ ↓0 −in −in c+ε′ −in
↓ f の連続性から

e−inc einπ c−ε
e−iny
= f (c) − f (−π) − lim f ′ (y) dy
−in −in ε↓0 −π −in
∫ π
e−inπ e−inc ′ e−iny
+ f (π) − f (c) − lim f (y) dy
−in −in ε′ ↓0 c+ε′ −in
{ ∫ c−ε } {∫ π }
1 ′ −iny 1 ′ −iny
= lim f (y)e dy + lim f (y)e dy (8)
ε↓0 in −π ε′ ↓0 in c+ε′

となる. ここで, f ′ (c) が定まっていなければ, f ′ (c) = 0 とでも定めて f ′ の定義を拡張し


ておく(だからといって f が c で微分可能という意味ではない. 単に関数 f ′ を拡張した
だけであることに注意する). そうすれば f ′ は区分的に連続な関数となるので, 区分的
に連続な関数の積分の定義から

1 π ′ 2π ′
(8) = f (y)e−iny dy = c (ただし c′n は f ′ のフーリエ係数)
in −π in n
となる. あとはすでに示した証明法と同様である.

参考文献
[1] 入江昭二, 垣田高夫 (1974)『フーリエの方法』(内田老鶴圃)

[2] コルモゴロフ, フォミーン (1971)『函数解析の基礎』(岩波書店)

[3] 高木貞治 (1961)『解析概論』(岩波書店)

[4] 難波誠 (1996)『微分積分学』(裳華房)

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