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現代文編  評論1

ラジオ学習メモ

未来をつくる想像力 (全二回) 石田英敬


講師 論を進めるかを考えて文章を組み立てるのです。そして筆者は、
渡部真一 具体例を挙げるなどして根拠を示しながら、そのテーマについ
て述べていきます。ですから読者である私たちは、筆者が何を、
どんな順番で論じてゆくのか、また、どんな根拠を挙げて、結
■学習のねらい■ 局は何を言いたいのか、という点に注目して読んでゆくことが
評論を読んでその内容を的確に理解し、筆者の考えを読 大切です。

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み取ります。また、現代の社会における問題点について考
えます。
 学習のポイント2
 イメージの「過剰」と
 全二回
の 一 [未来をつくる想像力]
 
  「貧困」の関係をとらえる
現代文編

第一段落で筆者は、ある同じ内容を、言葉をかえて表現して
学習のポイント1
 
います。そのことに気づけば、とても読み取りやすくなります。
 「評論」とはどのようなものか *「情報が与えられ、
大量のイメージが与えられることによっ

高校講座・学習メモ
「評論」とは、ある物事についての筆者の考えや意見を、筋 て失われるものの一つは、人間が自分でイメージをつくる
国語総合
道立てて述べたものです。 力、つまり、『想像力』だ」
第 22・23 回
「評論」を書く場合、筆者は、自分の言いたいこと(テーマ・ *「産業的に大量生産されたイメージをあまりに大量に与え
主題)を、どのように述べれば、読者を納得させることができ られ過ぎると、人間は自分でイメージをつくり出す力をし
るかを考え、工夫します。どんな題材を用いて、どんな順序で だいに使わなくなっていってしまう」
*「イメージの過剰が、かえってイメージの貧困という事態 このように文章は展開します。その中で筆者は、「想像」す
ラジオ学習メモ

を生み出している」 ることの大切さを指摘していきます。
これらを読み比べると、ほぼ同じ趣旨のことだとわかります。
ですから、
*    *    *    * 
 「イメージの過剰」……写真や映像などの大量のイメージが
世の中にあふれていること。 全二回 の
 
二 [未来をつくる想像力]
 
 「イメージの貧困」……現代人が、「イメージの過剰」のた
めに、かえって、想像力を使わなく
 学習のポイント1
なっていること。
であることがわかります。   「未来」が「なくなる」というのはなぜか
第二段落の後半で、筆者は、
「人々が誰も想像しなくなる時
代が来たら、何が起こるだろうか。」と問いかけ、「最終的には、
学習のポイント3 
 

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その世界には『未来』がなくなってしまう」と答えています。
 第二段落への展開を読み取る なぜ「『未来』がなくなってしまう」のでしょうか。
第二段落前半では、「想像力の貧困」が、「イメージの過剰」 こんなふうにも言えるでしょう。…未来の世界は、私たちが
だけではなく、「みんなが同時に同じイメージを受け取ってい まだ実際には体験していない世界であって、言い換えれば、我々
ることからも生じている」と指摘されています。すると、どう の「想像の中にしかない」ものだから。
現代文編

なるのか。 筆者は次のようにも言っています。
→「それぞれの人が持つ単独性は失われて、みんなが、誰で *「想像力とは、人々の『未来』を成り立たせている『心の
もない、
なんとなく
『みんな』
みたいな存在になってしまう」 エネルギー資源』でもある」

高校講座・学習メモ
「『全部分かってる。』『どうせ同じでしょ。』と言って、 *(「心のエネルギー資源〔=想像力〕」は、
)「『間違った状況』
国語総合
お互いの心の中にある『世界』に想像をめぐらさなくなる」 におかれると、
湧き出てこなくなってしまう」(この「間違っ
第 22・23 回
すると、どうなるのか。 た状況」とは何を指すのか、それは第一段落と第二段落前
→「社会はつながる力を失い、分裂してしまう」 半の内容から考えましょう。)
この「間違った状況」においては、「想像力」がいきいきと
発揮できなくなって、「『未来』がなくなってしまう」と言うの 困」という事態。
ラジオ学習メモ

です。 第二段落……○想像力の貧困による弊害。
      ○人間の未来のため想像力の必要性。
第三段落……○想像力を取り戻すための「空白の時間」

 学習のポイント2
      ○想像力を取り戻し、
育てていくことの大切さ。
 「想像力を取り戻す」方法を読み取る 筆者の言いたいこと……
「想像力を取り戻す」ために、筆者の提案する方法は、もち 現代のイメージ過剰の状況は、私たちの未来をつくる力
ろん、 になる大切な想像力を貧しくする事態になっていること。
*「時々テレビやパソコンを消してみること」=「空白の時 だから、情報の侵入を断ち切る空白の時間を持ち、想像力
間をつくる」こと を取り戻し、育てていく必要があること。
ですね。同じことを筆者は、「タブラ・ラサして『空白のスク
リーン』を挟む」とも言っています。つまり、情報の侵入を

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いったん断ち切って、自分の中をまっさらの状態に戻すという
ことでしょう。
なぜ、そうするとよいのでしょうか。それは、「イメージの
過剰」の状況から逃れることによって、自分の想像力をはたら
かせやすい状況を作り出すことができるからです。
現代文編

 学習のポイント3
 全体の論の展開と

高校講座・学習メモ
国語総合
  筆者の言いたいことを確認する
第 22・23 回
各段落の主な内容をまとめてみましょう。
 第一段落……○「想像力」とは?
       ○「イメージの過剰」による「イメージの貧
ラジオ学習メモ

未来をつくる想像力 講師
 渡
部真一
いし だ ひでたか
石田英敬
メディア・テクノロジーと文化産業が発達することによって、人々の頭の中に
は、大量の情報やイメージが送り込まれるようになった。僕たちは今では、どう
やって情報を得ようか、ということよりも、どうやってたくさんの情報の中から
大事なもの、必要なものを選ぼうか、ということに悩まされている。テレビにし
ろネットにしろ、広告にしろゲームにしろ、僕たちにイメージを送るメディアは、
いつも僕たちを取り巻いている。

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情報が与えられ、大量のイメージが与えられることによって失われるものの一
つは、人間が自分でイメージをつくる力、つまり、「想像力」だ。ある国語辞典
には「想像」の定義がこう書かれている。
そうぞう【想像】①実際に経験していないことを、こうではないかと推し
しん ぞう
量 る こ と 。 ② 現 前 の 知 覚 に 与 え ら れ て い な い 物 事 の心 像 ( イ メ ー ジ ) を 心
現代文編

に浮かべること。
どちらも重要な定義だが、まず②に注目すると、「心像(イメージ)を心に浮
かべる」とある。想像力とは、イメージ(像)をつくりあげる力なのだ。

高校講座・学習メモ
「現前の知覚に与えられていない物事の心像(イメージ)を心に浮かべる」能
国語総合
力は、人間に昔から備わっていたものだ。そして、そのような「心像(イメージ)」
第 22・23 回 を目に見えるものにしよう、五官で感じ取れるようにしようというのは、人類に
とって、道具を作るのと同じくらい古くからある営みだ。約二万年前とされるク
ロマニョン人が描いた「ラスコーの壁画」は、その表れの一つだ。
書かれた文字や、人から聞く話でしか物事を伝えられない時代には、見たこと
ラジオ学習メモ

がないものの実際の姿については、想像するほかなかった。絵画も、実際の姿を
写実的に描いたのではなく、それ自体、想像に基づいて描かれたものも多かった
だろうし、人々が多くの絵画を自由に見られるわけでもなかった。ところが、写
真や映像がやりとりされるようになると、かえって、想像力には出番がなくなっ
てくる。産業的に大量生産されたイメージをあまりに大量に与えられ過ぎると、
人間は自分でイメージをつくり出す力をしだいに使わなくなっていってしまうの
だ。イメージの過剰が、かえってイメージの貧困という事態を生み出していると
いうことなのだ。
想像力の貧困は、イメージが過剰なことだけではなくて、例えばテレビを通じ
て、みんなが同時に同じイメージを受け取っていることからも生じている。どん
なイメージも共存されているような世界では、あらゆることが「あ、あれね。
」「知っ

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てる、知ってる。」「もう分かってるよ。」で済まされてしまうことになる。そこでは、
それぞれの人が持つ単独性は失われて、みんなが、誰でもない、なんとなく「み
んな」みたいな存在になってしまう。
想像力というのは、さっきの国語辞典の①の定義にあったように、「実際に経
験していないことを、こうではないかと推し量る」ものでもある。いくら同じイ
現代文編

メージを共有していても、他の人の経験やその時の気持ちは、本当は見えていな
いのだ。でも想像して「推し量る」ことで、僕たちは他の人の経験を分かち合い、
ともに手をつなぐ場所を探すことができる。いっしょにアイディアを出し合って、

高校講座・学習メモ
いろんなことを計画することだって可能だ。だが、「全部分かってる。」「どうせ
国語総合
同じでしょ。」と言って、お互いの心の中にある、「世界」に想像をめぐらさなく
第 22・23 回 なると、社会はつながる力を失い、分裂してしまう。想像力には、他人を思いや
ることで、社会を成り立たせているという側面もあるわけだ。
そしてもし、人々が誰も想像しなくなる時代が来たら、何が起こるだろうか。
イメージを描けなくなり、他人を思いやれなくなるだけではない。もちろんそれ
ラジオ学習メモ

もとても重大な事態なのだが、最終的には、その世界には「未来」がなくなって
しまうのだ。
「未来」というのはまだ訪れていない時のことだ。未来の世界というのは、想
像の中にしかない。そして、想像力を使って自分たちの世界や自分の人生の未来
を思い描くことで、僕たちは新しいことを企て、実行していくエネルギーを得て
いる。だから、想像力とは、人々の「未来」を成り立たせている「心のエネルギー
資源」でもあるのだ。
だが、この「心のエネルギー資源」は、石油や天然ガスみたいな自然のエネル
ギー資源に限りがあるように、間違った状況におかれると、湧き出てこなくなっ
てしまう。この世界の未来を持続可能なものにするためにも、みんながそれぞれ
の想像力をいきいきと発揮することが、絶対に必要なのだ。

− 57 −
それでは、その大切な想像力を取り戻し、育てていくために、僕たちはいった
いどうしたらいいのだろう。それには、時々テレビやパソコンを消してみること
が必要だ。それは、空白の時間をつくるということでもある。人間の心はスクリー
ンみたいにできていると考えてみよう。外部からいろいろな情報がもたらされる
ことで、そのスクリーンにはさまざまな像(イメージ)が結ばれる。しかし、あ
現代文編

まりにも情報が多過ぎると、君の意識の中で、そのイメージを処理したり、想像
力によってオリジナルのイメージをつくり出したりする余地がなくなってしまう。
だから、情報の侵入をいったん断ってみる。そして、意識を自分ではたらかせて、

高校講座・学習メモ
自分のイメージを描き出す時間と空白をつくってあげるのだ。
国語総合
せきばん
この方法を、昔の哲学者は「タブラ・ラサ」と呼んだ。それは、石板に書き込
第 22・23 回 まれていた文字を一度全て消し去って、さらの状態に戻すことをいう。みんなも
情報を一回消し去って、空白のスクリーンをつくってみてほしい。するとその白
い画面の上で、メディアから視聴したイメージを捉え返して書き換えたり、いろ
んなところから得たイメージを組み合わせて「編集」したり、新しいイメージを
ラジオ学習メモ

自分で生み出す可能性が生まれてくる。テレビを見たらタブラ・ラサして「空白
のスクリーン」を挟む。それからまた映画を見て「空白」を入れる。それから今
度は、本を読んだり、友達と会話したりする── 。
そうすることで、君は自分なりのタイミングとリズムでメディアと付き合うこ
とができる。そしてそのことによって、君の中に想像力が生み出されるようになっ
ていくのだ。

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現代文編

高校講座・学習メモ
国語総合

▼作者紹介
石田英敬(いしだ・ひでたか) 1953年〜。千葉県
第 22・23 回

生まれ。メディア情報学者。一九世紀以降のメディア・
テクノロジーの発達と人間文明との関係を研究する。主
な著作に、『現代思想の教科書』『現代思想の地平』『記
号の知/メディアの知』『知のデジタル・シフト』など
がある。本文は『自分と未来のつくり方』(2010年刊)
による。

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