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総 説
Malassezia furfur の 引 き 起 こ す 皮 膚 の 炎 症 ・免 疫 反 応
照 井 正 工 藤 和 浩 田 上 八 朗
東北大学医学部附属病院皮膚科教室
要 旨
最 近, い くつ か の炎 症 性 皮 膚 疾 患 の発 症 や 悪 化 に Malassezia furfur が関連している事実が報告され, 注目を浴びて
い る. しか し, これ らの皮 膚 疾 患 の 病 変形 成 に Malassezia furfur がどのように関連しているかは充分に明らかにされ
て い な い. これ らの 皮 膚疾 患 の 臨 床 な らび に病 理 組 織 学 的所 見 をみ てみ る とか な り違 い が あ り, 最 近 知 ら れ て い る7
調 べ, 各皮 膚 疾 患 で の差 違 を比 較 検 討 す る必 要 が あ る. 角 層 のバ リア機 能 や 表 皮 角 化 細 胞 の サ イ トカ イ ン 産 生, 細 胞
性 免 疫 の 三 つ の視 点 か ら, 皮 膚 の 感染 防 御機 構 を概 説 す る と と もに, 各 疾 患 に お け る Malassezia furfurに よ っ て 引 き
起 こ さ れ る 炎症 ・免 疫 反 応 の違 い に つ い て ま とめ て報 告 したい.
Key words: 角 層 (stratum corneum), 表 皮 角 化 細 胞 (epidermal keratinocyte), サ イ トカ イ ン(cytokine), 好 中
球 (neutrophil), T細 胞 (T cell)
Malassezia furfur (M. furfur) は, Castelli & Chalmers M. furfur の 関与 が 考 え られ る皮 膚 疾 患 は1), M. furfur
に よ って 人 の 正 常 皮 膚 お よ び脂 漏 性 皮 膚 炎 の 病 変 部 位 よ の増 殖 が 直 接 発 病 につ なが る疾 患 と2)直 接 発 病 に 関与 し
り酵 母 用 真 菌 と して 分 離 され た 好 脂 質 性 の 真 菌 で1), サ て い な い が病 変 を悪 化 させ た りす る疾患 の 二 つ に分 け ら
ブ ロ ー培 地 で は発 育 が 非常 に遅 く,サ ブロ ー培 地 にオ リー れ る. 第一 の グ ル ー プ に属 す るの が, 綴 風 とマ ラ セ チ ア
ブ油 を乗 せ た培 地 や, 脂 肪 酸 で あ る Tween の 添 加 され 毛 包 炎 で あ る. 一 方, 最 近 に な っ て, 脂 漏 性 皮 膚 炎 や 乾
たDIXSON平 板 培 地 を用 い る と3∼5日 で コロニ ーの 癬, ア トピー性 皮 膚 炎 な どの皮 膚 疾 患 に お い て, そ れ ら
形 成 を示 す. の 発 症 や 増 悪 にM. furfur が 関与 して い る デ ー タ が い く
M. furfur は ア クネ桿 菌 と と もに 正 常 皮 膚 細 菌 ・真 菌 つ か 報 告 され, 話 題 を呼 んで い る.
叢 の 一 つ で あ り, ほ ぼ 全 身 に分 布 す る が, と くに 脂 漏 M. furfur が 発 症 に関 与 す る皮 膚 疾 患 を観 察 す る と, そ
部位 で あ る被 髪頭 部, 顔 面, 頚 部, 上 背 部 に 多 く存 在 す れ ぞ れ, 臨床 症 状 だ け で な く病 理 組 織 学 的 所 見 も大 い に
る2). また, M. furfur の菌 数 は年 齢 と と もに 変 化 す る こ 異 な る. M. furfur の 形 態 は疾 患 に よ り異 な り, 菌 糸 形 で
とが 知 られ3), これ は皮 脂 の 分 泌 の 年齢 的 な 変 動 に 一 致 あ っ た り, 酵 母 形 で あ っ た りす る. さ ら に, 最 近, 一 種
す る4). M. furfur の発 育 を促 進 す る よ うに働 く宿 主 側 の 類 と考 え られ て い た本 菌 が, 少 な く と も7種 類 か ら な る
要 因 と して, 多汗, 皮 脂 分 泌 過 多, 抗 生 物 質 や ス テ ロ イ こ とが 分 子 生 物 学 的 な検 索 に よ り, 分 か りつ つ あ り, 菌
ド剤 の使 用, 免 疫 不 全 が あ げ られ る. 種 の 違 い が これ らの皮 膚 疾 患 の病 態 の違 い に当 然 影響 し
皮 膚 は 角層 とい うバ リア で 覆 わ れ, 物 理 的 な 外 力 や 微 う る一 方, 宿 主側 の要 因 で も病 態 が 変 化 す る こ とが 推 察
生物 な どの侵 入 を防 い で い る. 発 汗 に よ り湿 潤 した 状 態 され る. この疑 問 を解 き明 かす に は, まず, M. furfur が
が 長 く続 くと, 角 層 のバ リア機 能 は低 下 し, 微 生 物 が 侵 炎 症 や 免 疫 反 応 を どの よ うに惹 起 した り, 修 飾 した りす
入 し, 定 着 す る の に適 した状 態 に な る た め種 々 の 感 染 症 る の か, また, 各 種 皮 膚 疾 患 でM. furfur に 対 す る免 疫
が発 病 しや す くな る. ス テ ロ イ ド剤 な どの免 疫 抑 制 剤 の 反 応 は どの よ うに 変化 して い る の か を 明 らか にす る基礎
投 与, あ る い は免 疫 不 全 の病 態 を示 す よ うな患 者 で は感 的 な研 究 を通 じて 理解 す る 必要 が あ る. これ ま で 論 文 で
染 症 が起 こ りや す い こ と も経験 的 に 知 られ て い る. こ の 報 告 され て きた 実験 結 果 と当教 室 で得 られ た結 果 を ま と
よ うな状 態 で の易 感染 性 は, 皮 膚 の感 染 防御 機 構 の 理 解 め て解 説 し, 今 後 どの よ うな研 究 が必 要 で あ る か 考 え て
か ら とそ の理 由 も明 らか とな る. み たい.
皮膚 の 感染 防御 機 構
別刷 請 求先: 照 井 正
〒980-8574仙 台 市 青 葉 区星 陵 町1-1 皮 膚 の 感 染 症 に対 す る 防御 機 構 と して, 少 な くと も3
東北 大 学 医 学 部 附属 病 院皮 膚 科 教 室 つ の点 を考 慮 す る必 要 が あ る. つ ま り, 1)角 層 の バ リ
64 真 菌誌 第40巻 第2号 平 成11年
ア 機構 と, 2)表 皮 角 化 細 胞 の サ イ トカ イ ン産 生 と増 殖, ま う.
3)T細 胞 を は じめ とす る 免 疫 担 当 細 胞 の働 き で あ る 臨 床 的 に 脂 漏 性 皮 膚 炎 と判 断 で き な い よ う な ふ け 症
(Fig. 1). 角 層 は皮 膚 の最 外 層 に位 置 し て, 我 々 の 体 を の 人 の フ ケ を顕 微 鏡 で 観 察 す る と 乾 癬 の 鱗 屑 と似 て
外 部 環 境 か らの 物 理 化 学 的 な刺 激 や微 生物 の侵 入 か ら守 parakeratosis (錯 角 化)を 伴 っ た角 層 で あ る こ とが わ か
る し, 体 内 の水 分 の蒸 散 を防 い で い る. さ ら に, 角 層 は り, 好 中 球 の 浸 潤 も み ら れ る8). さらに フケの抽 出液 の
外 力 が 加 わ る と, 炎 症 を起 こす 機 能 を有 し, 表 皮 角 化 細 中 に は 好 中 球 を 引 き寄 せ る 化 学 遊 走 因 子 が 含 ま れ て お り,
胞 の 増 殖 を充 進 させ, そ れ らの 細 胞 と と も に異 物 を排 除 補 体 の 活 性 化 に よ り生 じ るC5aア ナ フ ィ ラ トキ シ ンが
す る働 きを持 つ. 表 皮 角 化 細 胞 は バ リ アで あ る角 層 を供 存 在 す る8).
給 す る大 事 な役 目 を担 って い る. い った ん外 か ら物 理 化 ま た, 角 層 は 多 量 のrL-1α を 内包 す る こ とが 分 か っ て
学 的 な刺 激 や, 微 生 物 の 侵 入 が あ る と, そ れ らに 反 応 し い る9,10). した が っ て, 角 層 の 破 壊 に よ りIL-1α が放 出
て様 々 の サ イ トカ イ ン を放 出 し, 炎 症 や 免 疫 反 応 が 起 こ さ れ 炎 症 を 惹 起 し た り, T細 胞 の 活 性 化 に 寄 与 し う る.
抗 原 提 示 の 際 の 環 境 の 違 い に よ り, ヘ ルパ ーT細 胞 の 前 1α とIL-1raに 関 し て は, そ の 産 生 細 胞 で あ る 表 皮 角 化
駆 細 胞 はTh1やTh2細 胞 へ と分 化 し, そ れ ぞ れ の 機 能 細 胞 の 項 で 述 べ る.
を発 揮 す る.
2)表 皮 角 化 細 胞 の サ イ トカ イ ン産 生 異 常
1)角 層 と Malassezia furfur の起 炎作 用 表 皮 角 化 細 胞 は, 外 部 環 境 か ら の 刺 激 に 反 応 し て 様 々
角 層 の重 要 な機 能 の 一 つ と してバ リア機 能 が 挙 げ られ の サ イ トカ イ ン を 放 出 し, そ の サ イ トカ イ ン を 介 し て 炎
る(Fig. 1). こ の破 壊 は微 生 物 の 侵 入 や 定 着 を許 し, 発 症 や 免 疫 反 応 に 関 与 す る 細 胞 に 影 響 を与 え る. ま た, 表
病 に い た る. 微 生 物 の侵 入 を 防 ぐた め に, 角 層 に は も う 皮 角 化 細 胞 は 補 体 成 分 で あ るC3と factor Bを 産 生 す る
一 つ の驚 くべ き機 能 が賦 与 され て い る. す な わ ち, 生 体 11,12).と く に, TNFα やIFNγ な どの 炎症 性 サ イ トカ イ
の最 外 層 に位 置 す る角 層 自体 が生 体 に とっ て異 物 と して ン が 存 在 す る と, C3の 産 生 が 著 明 に 増 加 す る13). さら
さ ら に種 々 の 細 菌 や真 菌 は補 体 の傍 系 路 を介 して補 体 TGFβ な ど を 放 出 し, 炎 症 や 免 疫 反 応 を コ ン ト ロ ー ル し
を活 性 化 す る こ とが知 ら れ て い る. 皮 膚 に 常 在 す るM. て い る.
furfur や ア ク ネ桿 菌, 表 皮 ブ ドウ球 菌 や 病 原 性 の あ る 黄 ア ト ピ ー 性 皮 膚 炎 や 乾 癬 を 含 む 炎 症 性 皮 膚 疾 患 と健 常
色 ブ ドウ球 菌 の補 体 活 性 化 能 を比 べ て み る と, 病 原 性 の 人 の 角 層 を 比 較 す る と, 炎 症 性 疾 患 で は, 1L. 1α は 低 下
実 か ら, い った ん角 層 が 破 壊 され, 生 きた 表 皮 細 胞 層 か 映 す る と 考 え ら れ る. 同 じ方 法 を 使 っ て, 白 癬 患 者 とM.
ら分 泌 され る補 体 成 分 を含 ん だ 間 質 液 が 角 層 に 至 る と, furfur の 増 殖 が 直 接 発 病 に 関 与 す る 綴 風 患 者 を 調 べ た
常 在 真 菌 や 細 菌 は角 層細 胞 と と もに補 体 を活 性 化 し, 好 と こ ろ, 他 の 炎 症 性 皮 膚 疾 患 と 同 様 に1L-I1α は低 下 し
表皮 の増 殖 が 充 進 し, 鱗 屑 や 痂 皮 と一 緒 に排 除 さ れ て し と に, 白 癬 患 者 に 比 べ て, 綴 風 患 者 の 健 常 部 と 病 変 部 の
Jpn, J. Med. Mycol. Vol. 40 (No. 2), 1999 65
トで は も う少 し複雑 で あ る こ とが 分 か って い る が, 類 似
したT細 胞 が存 在 す る こ とが 報 告 さ れ て い る. 以 下 に,
脂 漏 性 皮 膚 炎 や ア トピー性 皮 膚 炎, 乾癬 に お け る免 疫 異
常 につ い て, T細 胞 サ ブ セ ツ トを検 討 した論 文 を含.め て
紹 介 す る.
先 ず は じめ に, 脂 漏 性 皮 膚 炎 の 実験 結 果 を示 す. 皮 膚
テ ス トと して, IgEに よ る即 時 型 ア レ ル ギ ー 反 応 を反 映
□Uninvolved す る プ リ ック テス トと遅 延 型 反 応 を示 すパ ツチ テ ス トあ
る い はス ク ラ ツチ パ ツチ テ ス トに よ る皮 膚 反 応 テ ス ト
■Involved
が検 討 され てい る. 脂 漏 性 皮 膚 炎 患 者 の 結 果 を示 す と,
プ リ ツク テス トとパ ツチ テ ス トは ほ とん どの 症例 で 陰性
で16), 注 射針 で角 層 バ リア を破 壊 したス ク ラ ツチ パ ツチ
テ ス トで は約50%の 患 者 で 陽 性 を示 した17). AIDS患
者 で脂 漏 性 皮 膚 炎 が しば しば み られ るが, 脂 漏 性 皮 膚 炎