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ジェンダー批評 レポート

ジェンダー学 M1 ニチェ

グローバル化する BL 研究:日本 BL 研究からトランスナショナル BL 研究へ

長池一美

A. 著者情報

University of British Columbia のアジアスタディーズ博士を卒業し、現在大分大学の准教授である。比較文


学・社会、ジェンダー理論、ポピュラーカルチャー研究を中心として活躍している。特に、BL 研究界において、数々
の研究と理論を貢献した。

B. まとめ

1.はじめに

国際的に広がりつつあるボーイズラブ(以降、BL で省略)は、Dru Pagliassoti によると、グローバル BL 化


(GloBLization)であり、BL をグローバル化のお具象と定義した(p. 134)。BL のグローバル化は、グローバリゼ
ーションと同時に、各国でローカリゼーションが起こっている。従って、BL のグローバル化とローカル化について比較
的な文化の視点から研究していく重要性を著者が強調した。日本では 90 年代の BL 文化の拡大とともに、BL
を研究対象として認識されるようになった。その研究は、女性の想像力や主体性の様相、自らが属する社会の
在り方を自省的にとらえなおす試みである発見まで発展できた。しかし、日本 BL 研究と海外 BL 研究の間に、
BL 文化の共有を通じて越境対話がなされていない。本章は、海外での BL をめぎる規制問題、ファン文化、セ
クシュアリティ―やクィア視点の分析、BL のレジスタンス性に関する研究を総括することによって、ローカル化した
BL 文化に持ち込まれる各国の特有の文化的、イデオロギー的特徴を考察する。

2.BL 規制研究

BL のグローバル化のなかに、BL の性的描写(過激な描写、未成年の性的描写、フィクションと現実社会の性
犯罪のありかたなど)を問題視されている。日本だけではなく、海外でも問題になり、規制についてトランスナシ
ョナル BL 研究で重要である。

 日本 ➡東京都少年健全育成条例改正問題(非実在青少年問題)

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アニメやマンガについて十分な見識を持たない法整備側の関係者が、アニメやマンガファンを仮想敵としな
がら、青少年を性犯罪から守るという名目で規制を強化する。

★Sharalyn Orbaugh:日本の刑法 175 条の猥褻物規制の対象は男性向け作品中心、女性向けの BL


やレディースコミックスなどは、規制にも価値がないとして、規制の対象にならない。

 オーストラリア、イギリス、カナダ ➡現実とフィクションの児童ポルノ禁止

例:『ザ・シンプソンズ』のエロティックな画像所持 ☞ 間違った性認識強化の恐れ

★Mark McLelland :BL を単純に青少年に対する有害物として批判することは、社会で作動する権力作


用が異性愛を排除する構図をなぞっているに過ぎない。

McLelland:現実実施されている過剰な規制の在り方はアニメやマンガの後退を招いている。さらに、児童
ポルノはウェブ上で取引されていない、また BL などのファン活動と児童ポルノ犯罪の関連について検証が全
くされていない現状を批判した。

 ドイツ ➡BL にエロティカのイメージが強いため、批判・告発を避けるため、BL 作品を出版できるのは小規


模の出版社のみである。(大規模出版社が子供向けの読みものを出版)
例:ドイツの女性漫画家である Fahr Sindram の「Losing Neverland」と BL 要素をもつ日本漫画「Loveless」
の問題
★Paul Malone:Sindram はオリエンタリズムを測る上で、自分の作品が反児童ポルノを宣言した。そのた
め、日本のマンガが児童ポルノ促進の作品だとみられる。既存の権力構造に迎合している宣言を繰り返す
ことによって、文化の発信者が持ちうるレジスタンス性を失っている。
 アメリカ ➡BL をアメリカの社会・文化形態に適応した形に再フォーマット化し、性描写の自主規制に取
込(近親相姦、ショタ作品を検閲し、未成年の性的描写や過剰な性的描写を消除する)
アニメやマンガが「子供向け」のメディア文化だという一般認識がある。
 中国 ➡Ting Liu:中国本土と台湾で、BL は有害物としてみなされている
 フィリピン、インドネシア ➡性的描写があるものが禁止されているが、アンダーグラウンドでアクセス可能
インドネシアで、性的描写がなくても、同性愛(または LGBT)の内容を取り上げた物が禁止されている。
しかし、社会がそのようなものの存在を知らないため、今まで存在できる。

3.ファン研究

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日本の BL 研究は精神分析で始まったが、「なぜ読む」から「どのように楽しむ」にシフトし、ファン研究中心になっ
たという歴史がある。海外の BL 研究でも、BL ファン活動、ファンとしてのアイデンティティ構築、ファン・コミュニティ
の構成が広く論じられている。

★Lucy Glasspool:日本の「におい」

特定のナショナル・ブランドとして大衆文化を解釈すれば、「BL」という言葉には日本的な「におい」(日本性)
がある。Glasspool がイギリスの RPG「ファイナルファンタジー」のオンライン BL 同人サイトを研究し、その作り手や
読者が「日本性」に魅力され、ユーザー名や日本語の使用をはじめ、「想像」としての日本を生産しているのを
説明した。想像の日本を構築し、自分をその想像の日本に重ね合うことで、快楽を得られる。

☆岩渕功一の「無国籍論」:日本の大衆文化のグローバル化は、日本の大衆文化が基本的に日本性
(日本的な特異性)を持たない「無国籍」であるためとした(p. 141)。

☆東浩紀の「データベース論」:「他者」によって無限に「想像」される「日本性」は「他者」によってカテゴリー
化され、データベース化される。その日本性というデータが際限なく新しいナラティブを生産していく過程を可
能にする(p. 141)。

★Hope Donovan:BL コミュニティーは前-資本主義

ファンとして、同じ嗜好をもつファン間の連帯性を基盤にするコミュニティーを求められると著者が述べた(p.
141)。Donovan が、アメリカでの BL 文化は一見すると資本主義に測った消費の連続性が重要であるが、実
は前-資本主義を反映している。アメリカで、BL ファンサイトは BL 作品を無料で交換されている。例:
Aarinfantasy で「Thank you」ボタンで同人誌を無料でアクセスできる。

★Bjorn-Ole Kamm の調査によると、BL をエンターテインメントとして楽しむパターンは:

 性的欲望・欲動として BL を楽しむパターン
 ファン間の密接なコミュニケーションを楽しむパターン
 イベントを楽しむパターン
 その混合形と分類し、エンターテインメントとしての BL を肯定的にとらえた。

生産と消費の境を簡単に越境できるという特徴を持つ限り、BL の受容と使用は無限に多様化すると述べた。

4.セクシュアリティ・クィア研究

初期の日本 BL 研究は主にフェミニズムとジェンダーの枠組みのなかで、「女性」と「女性性」を考え直し、①女
性性否定、②女性特有のガイネーシス的なナラティブであることの強調、③「なぜ」に対する女性深層心理と

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いう議論が開かれた。しかし、1990 年代に、「やおい論争」で起こった BL へゲイからの批判があり、そして 2000
年腐男子研究で異性愛男性の BL 受容という新しい視点の可能性が明らかにした。

★Tan Bee Kee によると、英語圏の BL ファンの多くは、BL を既存のジェンダー構造の枠組みを破って新たなセク


シュアリティ言説として認識していて、自分のセクシュアリティ―がクィア的か固定されないものだと定義している。
英語圏の BL ファンは周縁化されている主体の存在を、同性愛の権利のロビー活動などを手掛かりとしながら模
索しているとし、BL を想像上の関係性の描写とするより、社会構造に包括的に組み入れられるべき文化力を
持ちうるものとしている(p. 143)。

★Alexis Hall が、男性同性愛の基盤的な「現実性」がどのように BL 文化に反映されるべきかについての認識


は、文化・社会背景の影響によって個人差があると述べた。例えば、カミングアウトと BL 受容の関連性。

★Pagliassoti の 2005-2007 で実施した調査によると、西洋の BL ファンは性自認または性自認に対する考え方


が多様であり、異性愛として自認している BL ファンはその半分(英語圏で 47%であり、イタリア語で 62%)と
いうことが分かった。一方、日本では定説なっている BL ファンは異性愛女性である。昨今、日本の BL 研究で
異性愛女性ではない BL 読者についての研究が進められている。例えば、吉本たいまつが展開している、女性
によって作られた BL が社会的構築から逸脱する男性の性と男性性という要素を持ちうる理論である。

5.レジスタンスとしての BL 研究

★Miyake Toshio によると、「Axis Powers ヘタリア」で、西洋の国をマチョな人物として表象され、東洋の国を女


性、もしくは女性的に表象され、オリエンタリズムがみられる。さらに、「ヘタリア」同人誌が内包する「パロディーの
パロディー」としての可能性、また国際的レベルで、政治・歴史・地政学的文脈が女性の欲望と連動しているこ
との革新性を論じ、BL 文化のサバーシブ(破壊)性に注目した。

★Tricia Fermin が研究している権力構造に対するフィリピンでの BL ファン・コミュニティのレジスタンスから、フィリ


ピンで BL を消費するのはエリート層であることがわかった。フィリピンの BL コンベンションである Light Out は、女
性の想像空間に限らず、同性愛の問題などについての討論会を定期的に開催していて、ゲイの参加者もいる。
一方、一見するとゲイの受け入れに寛容にみられる日本はゲイ・アイデンティティの問題を政治的な取り組みが
発展していないという疑問を Fermin が述べた。

★中国では、息子が父親に叩かれていることを眺めている女性というフロイトの精神分析を参照し、Yanrui Xu
と Ling Yang が、中国の BL 同人において父親と息子の近親相姦のテーマが人気であり、女性のレジスタンス性
を表現する装置となっているからであると述べた。中国の BL 同人では、受けの父親と攻めの息子のような、中

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国の儒教思想、または共産党支配の理想的な社会構造から逸脱した人間関係を描写している。また、中国
女性 BL ファンは潜在的に和を基盤とする人間関係性を求めていて、悲劇なオリジナルをハッピーエンドに語りな
おされていることもみられる。例えば、王朝時代の中国で息子に殺された父親の物語を、二人の恋愛話に書き
直す。

★Ting Liu:中国での BL 存在と拡大は中国女性が内包するレジスタンスの手段である。Michel de Certeau


の理論を採用し、「…力を持たなければ持たないほど、レジスタンス活動者のプロ捨てすは正政法の批判活動と
は郷里ととるようになり、活動は多様化・複雑化していくとしている(p. 146)。」中国政府の BL 規制を反対
する BL 支持者のプロテスト活動はインターネットで行っている。例えば、反対意見を海外のサーバーに投稿した
り、BL 同人サイトを復活したりする。

★韓国も同じ、Sueen Noh の研究によると、儒教の影響で女性の性的主体性というタブーの前に、韓国女性


の BL ファンにとって、BL は女性の主体性としてのアイデンティティをコントロールする試みを可能にする。さらに、BL
は儒教思想と家父長主義の社会の在方の脱構築を可能にする。

6.終わり

上記のトランスナショナル BL 研究の総括から、BL 研究は一分野に限らず、学際的な研究になされ、日本 BL


研究が培ってきた BL に関する基盤的知の体系を越境する可能性を示している。ネット社会の発展とともに、
BL のグローバル化が予想されているが、BL の根幹を探るために、トランスナショナル BL 研究という BL のグローバ
ル化とローカル化の過程をめぐる問題の研究が求められる。

C. ディスカッショントピック

1.1992 にヤオイ論争があり、日本のゲイは腐女子と BL(当時、やおいとして知られた)を激しく批判した


(Lunsing, 2006)が、BL(やおい)がゲイ恋愛話ポルノと違うもののよう理解で批判した。その批判を考えれ
ば、ゲイ恋愛話またはポルノと BL とは何が違うだろうか?

“In 1992, Satō Masaki, a gay activist/civil servant/drag queen, harshly attacked
yaoi…. He felt that his human rights as a gay man were harmed by women drawing
and enjoying yaoi manga. He compared them to the 'dirty old men' [hentai jijii] who
watch pornography including women engaging in sexual activities with each other.
In addition, he accused yaoi of creating and having a skewed image of gay men
as beautiful and handsome and regarding gay men who do not fit that image and

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tend to 'hide in the dark' as 'garbage' [gomi]. In addition, he attacked them for
creating the 'gay boom', a media wave of interest in gay issues sparked by
women's magazine Crea, which, according to him, did nothing for gay men at large
(ibid).”

2.本論文で少し触れたが、海外では BL を利用して LGBT の政治的メッセージを送信している。BL を通じて


LGBT に対する認識を高める機会があるのに、なぜ日本ではそれをしていないだろうか?

3.BL で「攻め」と「受け」という人物の役割がある。しかし、日本の BL ではなかなか欠かせないものなっている。


海外では、この役割もあるが、そのペアが恋愛関係を結べばなんでも良いという姿勢が強くなっている。皆様の
ご意見を聞かせてください。

参考文献

Lunsing Wim(2006)『Yaoi Ronsō: Discussing Depictions of Male Homosexuality in Japanese Girls' Comics,
Gay Comics and Gay Pornography』「Intersections: Gender, History and Culture in the Asian Context」
12、<http://intersections.anu.edu.au/issue12/lunsing.html>

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