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1 漢字原始

漢字原子

字 説明 絵 甲骨 金文 篆書

人体

目の形を描いた字。横だったのが、た
001 目(罒) てに置きかえられた。
うつむいている目の姿。主人の前で固
002 臣 くなっている臣下の姿。

奴隷や臣従の目に、鋭い針を突き刺し
003 民 て、盲目にした姿を描いた字。

五本の指を開いて物をつかもうとして
004 手(扌) いる手の姿を描いた字。

又(ナ 右手を表わす。雙(双の旧字)は二羽
005
の鳥を右手で持つさま。
ヨ)
左手の形を描いた字。「左」は工作の
006 ナ 時、物を支えて助けること。

手の動作を示す。また、手や手の指一
007 寸 本の幅の長さを表わす。

つめの意味を表わすこの字は、手の形
008 爪 を描いた字。
両手をいっしょにそろえた形を表わして
009 廾 いる。

二つの両手が合わさって、四つ手にな
010
ろうとする姿。
2 漢字原始

親指と他の四本の指を、ピラミッド型に
011 尺 広げて長さを測る姿。

012 丑(尹) 上下に達する棒を持つさま。


曲線としゃがんだ人を描き両手を差し
013 丸(丮) 伸べた姿を示す。

踏みしめた足が地に付けた跡を描いた
014 止 字で、止まるを意味する。

ひざ頭から下の部分の足の全形を描
015 足 いた字で、足りる意を示す。

音符として「ソ」となる印で、別々に離れ
016 疋 て対をなす足を指す。

下向きの足の形で、たとえば各は歩く
017 夂 足が固い物につかえるさま。
左右の足が開く、または開いてよろけ
018 舛 る姿を表わしている。
目標物に向けて足を踏み出し、まっす
019 之 ぐ進むことを表わす字。

ある方向に向って進む。または道を歩
020 辵(辶) いて行く意。

人が歩調を縮めてせかせかと歩くさま
021 走 で、走るの意に転化した。

ある地点(口)の上下を、一つの足が右
022 韋 へ、もう一つが左へ進む。
3 漢字原始


人の口、穴を描いた字で口に出してし
ゃべるの意もある。
023 口 白川説では、神への祈りの文である祝
詞を入れる器の形。

「千(物を突く棒)+口」で口から出入り
024 舌 する棒のような舌の意。

人の頭部をかたどって人の頭の意を表
025 頁 わす。頭の字の豆も首。

赤ちゃんの頭を上から見たときの頭骨
026 囟(田) のオドリの姿。

人のくびから上の頭部に髪が生えた姿
027 首 を描いた字で、くび、頭。

その他の人体

心臓の形を描いた字で、血液を全身に
028 心(忄) 行き渡らせる心臓の意。

みみたぶの形を描いた字で、みみを指
029 耳 す。

人の鼻の形を描いた字。自分を言うと
030 自 き鼻をさすので自分の意。

ほおひげが柔らかく垂れ下がったさま
を描いた字。
031 而 白川説では、頭髪を切ってまげのない
巫祝の姿。
4 漢字原始

人間の髪の毛がびっしり生えた姿。す
032
きまなく充実している意。

上の骨の穴に下の骨がはまり込んで
033 冎 いる関節の形を表わす字。

風雨にさらされ白くなって残った骨の断
034 歹 片の意味を表わす。

背骨がひとすじに連なった形で、似たも
035 呂 のが一列になる意。

動物の肉片に二本の筋がはいった姿
036 肉(月) を描いた字で、鳥獣の肉。

手に力を込めて、筋肉を筋張らせてい
037 力 る姿を描いた字。
白川説では、すきの形。

人の両脇を示し、腕の元字で同一物の
038 亦 連なることを示す。

両手で腰の部分を締める姿を描いた字
039 要 で、下部の一はベルト。

しり(尻)を表わすが、一方シカバネカ
040 尸 ンムリとも呼ばれる。

人間

人(亻 少しかがんだひとを横から見た姿で、く
041
っつき合う仲間の意。
ク)

人が尻もちをついて倒れたかっこうを
042 匕 表わしている。
5 漢字原始

人がふたり同じ方向を向いて、ぴったり
043 比 とくっついている姿。

人が両足を並べて地面につっ立ってい
044 立 る姿を描いた字。

045 卩( ) 人がひざまづいている姿を描いた印。

背中の曲がった人、突き出ている人の
046 儿 意。

頭の大きい人。そこから兄弟のうち大
きい方の人を指す。
白川説では、儀式に使う器を持った
047 兄 人。
家で儀式を司るのは長兄であることか
ら兄の意。

つるの巻き付いた棒の下の字を示す。
048 弟 転じて弟を意味する。

丸くて大きい頭の人の姿。昔は死者の
049 鬼 イメージがそう意識された。

天地の間に手足を広げた人が立って
いる姿で、偉大な人の意。
050 王 白川説では、大きなまさかりの頭部の
形。
男の性器が直立した形を描いた字で、
一人前の男を意味する。
051 士 白川説では、小さなまさかりの頭部の
形。
竹筒の中に入れる竹札を手に持つ記
052 史 録係の人のこと。
6 漢字原始

053 父 手に石斧を持った姿を描いた。

背が丸くなってかがんだ老人を表わ
054 久 す。転じて、ひさしいの意。

髪が長く腰の曲がった老人が、つえを
055 老 ついて立っている姿。

なよなよと体をくねらせた、なまめかし
056 女 い女性の姿を描いた字。

女とほとんど同形だが、胸の両脇にお
057 母 っぱいがあるのを示す。

女性の身ごもった体を描いた字で、の
058 身 ちに単に体の意に用いる。

女が両股を開いてしゃがみ、胎児を分
059 免 娩する姿を描いた字。

しゃがんだ女の股の間から、胎児を両
060 奐 手で抜き取るさまを描く。

両手を広げた子供の姿を描いた字で、
061 子 小さい子供の意を表わす。

子の字の逆さの形で赤ちゃんが体内
062
から出るところを表わす。

動物

上から見た犬の姿を描いた字で「ケン」
063 犬(犭) という音は泣き声。
7 漢字原始

牛の角と頭とを背後から見た形を描い
064 牛 た字で、牛馬・水牛。

羊の頭を描いた字。羊は有益なので、
065 羊 めでたい意を表わす。

たてがみをなびかせて、がむしゃらに
066 馬 進む馬の姿を描いた字。

尾が細長く垂れている鳥の姿を描いた
067 鳥 字で、鳥類の総称である。

下ぶくれした鳥の姿を表わし、ずっしり
068 隹 下に落ち着く意を含む。

鳥が翼を左右に開いて、飛びあがって
069 飛 いく姿を描いた字。

070 舄 カササギの姿を描いた字。

豚の姿を描いた字で、豚を意味した
071 豕 が、のち「豚」の字ができた。

豚の全身に張り渡った堅固な骨組みを
072 亥 描いた字。

けものの姿を表わした字で、貌、墾、懇
073 豸 などの字に含まれる。
8 漢字原始

象の姿を象り、象が巨大で目立つの
074 象 で、姿や形の意となる。

虎の皮の模様を象った字。去、却など
075 虍 と同系でうつろの意。

想像上の動物、竜を描いた字で、筒状
076 龍(竜) の意を含む。
蛇の姿かたちを描いた字。巴は胎児を
077 巳(巴) 表わす。

大きな頭をした人まね猿を描いた字。
078 禺 愚は猿のような石頭。

二つの大きいはさみを持ったサソリの
079 萬(万) 姿を描いた字。

鹿の姿を描いた字。上部は角、中部は
080 鹿 頭、下部は四足を象る。

ウサギの姿を描いた字、逸はウサギが
081 兔(兎) さっと逃げるさま。

ネズミの姿を描いた字。ひそかに害を
082 鼠(鼡) なすものの意を含む。

亀の姿を描いた字。その甲は亀卜の用
083 龜(亀) に供された。

魚の姿を描いた字。固い芯の骨がある
084 魚 という意味を含む。

細長い蛇や長虫の姿を描いた字。虫
085 虫 一般の意となる。
9 漢字原始

二つに割れる二枚貝の姿を描いた字。
086 貝 広く貝を意味する。

子安貝を数個、ひもで連ねて二筋に垂
087 朋 らした姿を描いた字。

動物の部分

鳥の体をおおう長い毛の姿を描いた
088 羽 字。飛び立つ時の両方の翼。

水牛や羊の角の生え始めの形を描い
089 角 た字。角一般の意。

頭付きの獣の皮、手で押しやるか引き
090 皮 寄せてかぶった形の字。

頭から尾までついた動物の皮をぴんと
091 革 張って乾かした形を示す。

細く生え出た毛の形を描いた字。細く
092 毛 かすかなという意味を含む。

虫や魚などの多数の卵が丸く連なった
093 卵 さまを描いた字。

自然

太陽の形を描いた字。肌をうるおす暖
094 日 かさに親しむ意を含む。

欠けた三日月の形を描いた字。「げつ」
095 月 の音は欠ける音からくる。

燃え上がる炎の姿を描いた字。あかり
096 火(灬) の意も。
10 漢字原始

水(氵 流れている水の姿を描いた字。浸み出
097
て流れるものの意。
氺)

氷を示す印で音は「ひょう」。氷結の
098 冫 意。

空から雨足が垂れ、雨粒が落ちてくる
099 雨 さまを描いた字。

もやもやと水蒸気が立ちこめている姿
を表している。
100 云 白川説では、雲の下に竜のまいた尾が
少し現れている形。

水が曲がって流れて行く姿を描き、
101 川 「穿」と同系の字

立ち上る湯気の姿を描いた字で、汽の
102 气 字のもとの字。

いなずまが走る姿。または直線を伸ば
103 申 す姿を描いた字。

人の頭上にあるもの。脳天から転じ
104 天 て、高く広がる空を表す。

がけ(厂印)の下に、固まったいし(口
105 石 印)があるのを表す。

点々とした鉱物が、土中に含まれてい
106 金 るさまを表している。
11 漢字原始

地上に土を盛り上げるか、木を立てる
107 土 かして土を祭ったさま。

108 山 三つの峰がある山の姿を描いた字。

盛り上げた土、または丘を表している。
109 阜(阝) 白川説では、神が上り下りするはしご
の形。

四角い区切りをつけた田んぼの姿を描
110 田 いた字。平らな畑の意も。

植物

小さな米粒が四方に散らばったさまを
111 米 表している。

稲を示す印。音は「か」。そこから穂の
112 禾 ある穀物の意。

麦の原字で、穂の垂れた麦の姿を描い
113 來(来) た字。

もちあわの原字で茎に皮または実がへ
114 朮 ばりついている姿。

家の中で麻をよっている姿を表してい
115 麻 る字。

瓜の姿を描いた字。西瓜の「か」、孤独
116 瓜 の「こ」が音符。
コノテカシワやクヌギなどの、白いドン
117 白 グリの実を描いた字。
白川説では、人の白い頭骨。
12 漢字原始

枝葉がかぶさるように付き、根も付けた
118 木 木の姿を描いた字。

たばねた木を、ひもで締め付けて縛っ
119 束 た姿を描いた字。

人が一本の竹の枝を手で持ってささえ
120 支 ている姿を描いた字。

竹の枝二本、または小さい笹竹をを描
121 竹 いた字。

草の芽の形を描いた印。生の字は屮+
122 屮 土で芽生えている意。

草二つで不ぞろいにずらっと生えてい
123 艸(艹) る野草の姿を描いている。

クヌギ、またはハンノキの木の実の姿
124 早 を描いた字。
白川説では、さじの形。

草の根が大地に定着した姿を描いた
125 乇 印。安定したの意を持つ。

植物のぎざぎざにとげが生えたさまを
126 朿 表している。


道具

まっすぐではなく曲線状に反った刀。ま
127 刀(刂) っすぐなのは剣。

人を突く、あるいは身を守るための長
128 干 い柄のついたY型の棒。
13 漢字原始

鋭い刃物の姿を描いた字。罪人に刑罰
129 辛 を加えるのに用いた。

手かせの形。運良くそこから逃れて、さ
130 幸 いわいの意となった。

くいの原字で、縄をつけて獲物を絡め
131 弋 とる棒を描いた印。

ほこを示す印。両刃の剣に長い柄をつ
132 戈 けた武器の形をあらわす。

石斧の刃を物に近づけて切ろうとして
133 斤 いる姿を描いた字。

戈と同じほこを示す字。抵抗にさからっ
134 矛 て切り進む意を持つ。

木を曲げて弦を張った弓の姿を描いた
135 弓 字。

まっすぐな矢の形を描いた字。矢のよ
136 矢 うに急速な意味を含む。

魚を捕らえる網を示す印。部首名あみ
137 网(罒) がしら。
14 漢字原始

人が竹棒を手にして仕事をする姿を描
138 殳 いた印。動詞記号。

小さな木の棒を手に持つ姿を描いた
139 攴(攵) 字。動詞記号。

さらの形を描いた字だが、もとの器は
140 皿 飯を盛る台付きの容器。

皿に盛ったごちそうの姿を描いた印。
141 皀( ) 即や既にある。

ふたつの取っ手と三本の脚の付いたか
142 鼎 なえの姿を描いた字。

ほとぎの形。つまり、酒や水を入れた
143 缶 胴太細首の土器。
腹の丸くふくらんだ、酒のたっぷり入る
144 畐 とっくりの姿を描く。

穀物を入れる蒸し器の部分と、水入れ
145 鬲 とが分離している土器。

酒だる、酒つぼの形を描いた字。酒を
146 酉 醸造した容器とも思える。

もとの意味は酒。それに手を添えた儀
147 鬯( ) 式用の杯の姿。

畑を耕す鋤の形を描いた印。耕は、す
148 耒 きで土を治める意となる。

まんなかが曲がりくぼんだ臼の姿を描
149 臼 いた字。音符は「きゅう」
15 漢字原始

杵の原字で、交差して上下に動くきね
150 午 の姿を描いた字。

箕の原字で四角い箕の形を描いた字。
151 其 遠称指示詞に借用された。

すきまの多いざるの姿を描いた字。分
152 西(覀) 散させる意を含む。

酒をくむ柄の付いたひしゃくの姿を描い
153 斗 た字。容量の単位にも。

ひしゃくで器の中の物をくみあげるさま
154 勺 を描いた字。

直角を測る定規に取っ手の付いた形を
155 巨 描いた字。

左右に対をなして皿が等しく釣り合うは
156 兩(両) かりの姿を描いた字。

手に持つほうきの姿を描いたもので、
157 帚 掃の原字。

左右に耳の付いた薄くて平べったいは
158 單(単) たきの姿を描いた字。

脚付きの台。腰かけの姿を描いた字。
159 几 木に付ければ机になる。

筆の先から点々としずくがしたたるさま
160 聿 を描いた字。

柄が付き、両側にひも飾りが垂れた印
161 爾(尓) 鑑の形を描いた字。
ヤママユが二つ木の上に繭を作った姿
162 樂(楽) を描いた字。
白川説では、柄のある手鈴の形。
16 漢字原始

台の上に太鼓を立てた姿を描いた字。
163 壴 支が付く鼓は打つ動作。

二輪のくるまを描いた字だったが、車
164 車 輪一個に省略された形。

平で四角い板、または舟に張る帆の姿
165 凡 を描いた印。

丸木をくりぬいて造った舟の姿を描い
166 舟 た字。湯舟、酒舟とも。

織物

細くて細かい生糸を寄り合わせた姿を
167 幺 描いた字。

細かい繊維を寄り合わせてできた糸の
168 糸 姿を描いた字。

衣服の左右の襟を合わせ、後ろの襟を
169 衣(衤) 立てた姿を描いた字。
体の前に垂らした三筋の布切れの姿を
170 巾 描いた字。身を包む布。
頭も両足も尾も付いたままの皮衣の姿
171 求 を描いた字。求める意。

並んだ二つの一反の布を示す。二反一
172 匹 続きなので一の意を持つ。

旗ざおに付けた吹き流しがなびいてい
173
る姿を描いた字。

いろいろな色の布で作られた吹き流し
174 勿 が垂れる姿を描いた字。
17 漢字原始

その他の物
打ち込まれた釘の頭の姿を描いた字。
175 丁 釘や打の元になる字。
れんがを積み重ねて重しをかけること
176 ( ) を示す字。
井戸の中に水がたまったさまを描いた
177 井(丼) 字。もと丼が正しい字。
地面を掘り下げた古代の住居の土台
178 亞(亜) の姿を描いた字。

門の片方の扉を描いた字。扉が二枚
179 戸 合わさったのが門。

左右に開く二枚の扉を描いた字で、人
180 門 の出入りする所。

高い丘に築かれた楼閣の姿を描いた
181 京 字。みやこの意を持つ。
城壁の南北に向かい合って立ち、遠く
182 亨(享) を見通す高楼を描いた字。

183 高 高い楼閣の姿を描いた字。

高い建物のてっぺんがしなって曲がっ
184 喬 ているさまを描いた字。

抽象概念
動作

十字路の形。直線状の道路。その上を
185 行 まっすぐ進む意を表す。

「てき」という音を持ち「行く、歩く」の意
186 彳 を表す印。
18 漢字原始

横に伸ばすことを示す印。もとは「行」
187 廴 の省略形。

矢が目標線に届くさまを描いた字で、
188 至 ぴったり届く意を含む。

二枚貝が、ぴらぴらと舌をふるわせるさ
189 辰 まを描いた字。

静止

灯火が燭台の上で、じっと直立して燃
190 主 えている姿を描いた字。

祭祀に用いるたかつき(食物を盛る脚
191 豆 付きの器)を描いた字。

アオイの葉などにじっとしている目の大
192 蜀(虫) きい虫の姿。

小刀で目の回りに入れた入れ墨が消
193 艮 えずに痕となるのを示す。
消え去る

人がついたてや囲いで隠され、姿を消
194 亡 すさまを表している字。

人が舞う姿を描いた字。舞の原字で、
195 無 見えなくなる意を持つ。

覆い隠す。心を隠して外に出さないこと
196
を示す字。
積み上げる
19 漢字原始

物を一直線上に段々と積み重ねたさま
197 且 を示す字。上に重なる意。
同じ物がたくさん積み重なっているさま
198 畾 を描いた印。

多くの物が積み重なったり、集まったり
199 していることを示す。
白川説では、祭りに供える肉の形。

こんろの上にせいろが乗り、湯気が立
200 曾(曽) ち昇る姿の字。

稲の穂先のように、とがって上部が合
201 丰 わさったものを示す印。

まとめる

縦線に横線が加わり、一つ所に集め
202 十 る、集まるの意味になった。

ふたをかぶせること。合わせること。対
203 亼 応することを示す印。

三本のひも状のものを一つにまとめて
204 帝 締めたさまを描いた字。

もつれて垂れ下がった物を短くからげ
205 了 た形を描いた字。
集合

いろいろな名前の物が数多く集められ
206 品 ていることを表す字。

ひげや模様など、線状のものが集まっ
207 彡 ているさまを描いた字。
組み立てる
20 漢字原始

木を組み合わせ、手前と向こう側が同
208 冓 じ形に積み重なった姿。

伸ばし広げる

サソリの姿を描いた字で、横に平に伸
209 也 びる意味を持っている。

記や起の原字で、人目を引きハッと意
210 己 識を起こすものを示す。
動物の脂肪を燃やした矢の形で、光を
211 黄 広げる意を持つ。
肱(ひじ)のもとの字で、肱を広く張り出
212 厷 したさまを描いた字。

トカゲの姿を描いた字。体形が平らな
213 易 のでやさしいの意となる。

すねのまっすぐ伸びた人が地上にすっ
214
くと立つ姿を描いた字。

食物を分ける薄いさじの形を示し、
215 氏 代々伝わる血筋を示す。

人の背に細長く水を流すさまを示し、細
216 攸 く伸びる意を表す。

長いあぜ道の原字で長々と祝詞を言う
217 壽(寿) 意から長寿を示す。

離す
21 漢字原始

左と右に反り返って分かれているさま
218 八 を描いた字。数字の8。
左右に払いのけて分離する意を持つ
219 弗(ム) 字。

羽が左右にそむきあって分かれた形
220 非 で、引き離すことを示す。

古代の占いで亀の甲に現れる左右に
221 兆 分かれた割れ目を示す。

花のつぼみや萼(がく)の形を示し、ふ
222 不 くれてぷっと吐き捨てる意。
切る
縦線を横線で切ったさま。中途の切断
223 七 なので数の7になった。

木を組んだセキの姿で、せき止める、
224 才 途中で断つ意を持つ。

刃物でさっと切って、裂け目を入れるさ
225 乍 まを示した印である。

剥ぎ取る

竹や木の表皮をばさばさとはぎ取るさ
226 彔(录) まを表す。

突き出す
両方に柄の張り出た鋤を象り、突き出
す意から、方向を示す。
227 方 白川説では、横に渡した木に死者をつ
るした形。

机または人の両足が、左右にぴんと張
228 丙 り出した姿を描いた字。

覆う
22 漢字原始

音は「べき」で、屋根を示す印。そこか
229 冖 ら「おおう」意を持つ。
ひょうたんなどを縦割りにしたおおきい
230 勹 椀のような道具を描いた字。

四角い定規を示し、囲って測るところか
231 匚 ら「おおう」意を持つ。

音は「けい」で体を曲げ、腕で覆っては
232 匸 さむかたちを描いた字。
おおいや納屋を示す印。例えば「内」は
233 冂 納屋の中に入れる意となる。
何かに覆いをかぶせたさまを示す印。
234 冃(日) 冒の場合は目を覆うこと。
家のまわりの囲いを表す印。取り囲む
235 囗 意味を持つ。
覆いをかぶせることを示す印である。
236 襾(覀) 西とは別字。

がけを示す印。「がん」が音で、山の
237 厂 岩、巌を意味する。

前方を開いた家を示す印。家のように
238 广 覆う意を含む。

家の屋根を象った印で、下の物を覆う
239 宀 という意味を含む。

弓の変形で、伸びようとするものに、わ
240
くをはめる意を含む。
垂れ下がる

植物の葉や花が垂れ下がっている姿
241 垂 を描いた字。

両側から物が垂れ下がっているさまを
242 耑 描いた字。
入れ込む
23 漢字原始

物が上向きに、入り込むことを表した字
243 入 である。

霜よけのために植物などを入れ込む納
屋の形を描いた字。
244 南 白川説では、南方の民族の使っていた
銅鼓。

真中がふくれた糸巻きの姿で、子種を
245 壬 腹に入れ込む意も持つ。

あわせに綿くずなどを詰め込んださま。
246 襄( ) 中に入れ込む意を持つ。

かんざしが髪に入り込むように、中に
247 朁(替) 入り込む動きを示す字。
交差する

人が足のすねを交互に交わらせている
248 交 姿を描いた字。

X型に交差する、交わるを示す印。爾
249 爻 の字の爻もこれである。

もとは糸巻き機の形を描いた字で、物
250 五 の交差したさまを示す。

切れ込み入れ、噛み合うにした組み細
251 互 工の姿を描いた字。
二本の木に切れ込みを入れ、噛み合
252 牙 わせた姿を描いた字。

傾く意の印の上に口があり、ことばが
253 呉 常と反して交差する意。

もつれる
24 漢字原始

二本の糸を寄せ集めて、よじり合わす
254 丩 さまを描いた印。

もつれた糸が、もつれにもつれて解け
255 (亦) ないさまを示す。
糸巻きを上と下から両手で両手で引っ
256 (舌) 張るさまを描いた字。
突きぬける
物を貫き通した形を描いた字。患は心
257 串 が突き通された思いの意。

むかし貨幣として用いられた子安貝に
258 毌 棒かひもを通した姿。

長方形の板に筒型の穴を突き抜いたさ
259 同 まを描いた字である。

ニ線の間を縦の線で貫き通したことを
260 工 表す字である。

旗か棒が、筒か枠の真中を、突き抜け
261 中 て両端が飛び出た形。

長方形の板を、棒か錐(きり)が突き通
262 用 ったさまを描いた字である

心棒を突き通して布で覆い、両端をひ
263 東 もで括った袋の形。

二枚の板に横軸を通した形を描いた
264 丱 印。貫き通す意を持つ。

多くの物が一筋に並んで連なる意味を
265 婁(娄) 表す印。

出る
25 漢字原始

液体を抜き出す細い口が付いた壷の
266 由 姿を描いた字である。

人の足が、敷居の外へ一歩踏み出し
267 出 たさまを描いた字である。
押す
重圧を押しのけて、外へ伸び出ること
268 乙(乁) を表す字。
人が首の付け根にかせをはめられ押し
269 冘 付けられた姿を象る字。
中に種を封じ込めた堅い殻の姿を示
270 甲 す。押し込めるの意。

窓や扉を反対方向に無理に押しあける
271 卯 さまを描いた字。

曲げる

物を曲げて作った定規、または容器の
272 曲 姿を描いた字である。

腕が何かにつかえて、人が肘を曲げた
273 九 格好を描いた字。

水面に浮かぶ浮き草の形を表し、曲が
274 丂( ) る意を持つ。

のどをかすらせ、やっと声を出す。曲げ
275 可 て良しとする意を持つ。

小さく区切ったわく。また、ことばを区切
276 句 って曲げる意。

あやしいほどに細くしなやかな身をくね
277 夭 らせる姿を描いた字。


26 漢字原始

穴を表す。人や生き物の口意外の鼻
278 口 腔、火口など穴を示す。

穴に落ち込んでもがくさまを描いた字。
279 凶 空と同系で吉の反対。

ほら穴を掘り分けて造った穴居住宅の
280 穴 姿を描いた字である。

筒抜けになることを示し、ばらばらにな
281 悤(忩) る意を含む。

中が空っぽ

人が口をあけ、からだをくぼませてか
282 欠 がんださま。

中がくぼんだ容器。飯入れの容器の形
283 凵(ム) を描いた字で、中は空洞。

指を曲げて中をコの字型にえぐり取る
284 夬 ことを表している印。

いろいろな性質

人が大の字型にのびのびと四肢を広
285 大 げた姿で、大きい意。

二つの点で小さい物や小さく削るさまを
286 小 示す字で、小さい意。

人間の頭髪が長く伸びた姿を描いた字
287 長(镸) で、長いことを表す。

丈の長い寝台の板の形を描いた字で、
288 爿(丬) 丈が長いことを表す。
27 漢字原始

紡錘の重しの形で、心を印象づける、
289 叀 賢いの意を持つ。

乾いた頭蓋骨をひもでぶら下げた形を
290 古 描いた字で、古い意。

織機に縦糸が張られているさまで、ま
291 巠(圣) っすぐの意。

杭の元の字で、まっすぐ立つさまを描
292 亢 いた印。

物の下の部分を示すところから低く安
293 氐 定したさまを示す印。

水準線の上に、また一線が重なってい
294 上 る形を示し、上を指す。

穀物の粒を水でとき、きれいにする姿
295 良 で、良いことを表す字。

土を払いのけ押し広げるスコップの形
296 余 で、余るほどある意味。
輪をずらして、向こうへ押しやるしぐさ
297 予 で、予めの意。

井戸の中に赤い丹砂が含まれているさ
298 丹 まで、朱色を示す。

平ら

浮き草が水面に浮かんでいる姿。高低
299 平 がなく、公平なことを示す。

薄くて平らなスプーンを手に持つ人。程
300 卑 度の低いことを示す。

その他の抽象概念
28 漢字原始

業と同じく左右に向かい合う鐘や鼓を
301 丵 つるす台座の片方の姿。

土器につけた模様。のち事物を模様の
形に描いた文字を示す。
302 文 白川説では、人の胸部に入れた入れ
墨の形。
口の変形。口は穴を示し、物を食べる
303 ム 口とは異なる。出入り口。
棒一本で「いち」。一つを示す字であ
304 一 る。人差し指を横にした形。
二つの物がくっついて並んでいるさま
305 二 を描いた字。

脚付きの祭壇の姿を描いた字で神の
306 示(礻) 意を示し、神様を表す。

亀の甲を焼く占いで、ぼくっと割れて生
307 卜 じる割れ目を表す。
神様への五体そろった動物の捧げ物、
308
または玉串の姿を描く。

補足

似たもの原子

026 田(囟) 110 田


001 罒(目) 137 罒(网)
29 漢字原始

231 匚 232 匸
023 口(くち) 235 囗(囲む) 278 口(穴)

219 ム(弗) 283 ム(凵) 303 ム(入り口)


038 亦(わき) 255 亦( )

141 (皀) 147 (鬯) 193 艮(きずあと)


070 舄(カササギ) 213 易(トカゲ)

214 (爪先立つ人) 245 壬(ふくれた糸巻き)


009 廾(両手) 123 艹(艸)

010 (両手) 149 臼(うす)


057 母(はは) 258 毌(貫く)

094 日(ひ) 234 日(冃)


152 覀(西) 236 覀(襾)

085 虫(むし) 192 虫(蜀)


036 月(肉) 095 月(つき)

化合物だけどよく使われるので原子としたもの

020 辵 彳 + 止

021 走 大 + 疋
032 人 + 彡
30 漢字原始

196 爪 + 工 + ヨ + 心
255 糸 + 言 + 糸

265 婁 母 + 中 + 女
281 悤 囱 + 心

原子的に使われる化合物

疒 爿 + 人

邑(阝) 囗 + 巴
青 屮 + 土 + 井

言 辛 + 口
音 言 + 丶
食 亼 + 皀

http://www5b.biglobe.ne.jp/~shu-sato/kanji/gensi.htm

「漢字原子論」はハルペン・ジャック氏が1987年に出した「漢字の再発見」という本に書かれている説で
ある。残念ながらこの本は今は絶版になっている。

「漢字原子論」では、基本的な漢字を漢字原子とし、それを組み合わせて他の漢字ができているとして
いる。しかし、漢字が他の漢字の組み合わせでできていることは、古くから言われている。紀元100年ご
ろ、許慎(キョシン)が著した「説文解字(セツモンカイジ)」では、象形文字と指事文字の基本漢字があり、
それを組み合わせて会意文字と形声文字ができていると述べている。では、漢字原子論が従来と違っ
ている点は何かというと、基本漢字を漢字原子と名付け、この数を308個に特定し、原子番号を付けた
ことである。
31 漢字原始

漢字原子がどういうものかというと、たとえば、「解」は「角」「刀」「牛」に分解でき、それぞれの要素には意
味があるが、「角」を「ク」「冂」「土」に分解しても、それぞれの要素には意味がない。だから、「解」の場合、
「角」「刀」「牛」は漢字原子であるが、「ク」「冂」「土」は漢字原子ではない。(「土」は別の字の中では漢
字原子である)。この漢字原子の組み合わせでできた漢字を漢字化合物という。

漢字原子は従来の部首を言い換えただけではない。漢字原子と部首の間には根本的な違いがある。
部首は辞書を引くための分類に過ぎない。単に字形の違いによって分類していることがある。そのため、
部首の要素には意味のある場合とない場合がある。一方、漢字原子はそれぞれの要素に明確な意味
がある。たとえば、「萬」の部首は「艹」(くさかんむり)であるが、この「艹」は草を意味するものではない。
「萬」はサソリをかたどった字で、「艹」の部分は2つのはさみの部分である。だから、これを「艹」「禺」に分
けずに「萬」の形で漢字原子としている。「若」も部首は「艹」であるが、これは踊る人の手をあらわすので、
これも「草」をあらわさない。部首「亠」は、これ自体には何の意味も持たないので、漢字原子ではない。
部首「亠」に属する「亡」「交」「京」はこれ以上分解できないので、これ自体が漢字原子である。

「漢字の再発見」という本には308個の漢字原子ですべての漢字を説明できると述べられている。そこで、
私は常用漢字の約2000文字で検証してみた。結論は約9割の漢字は308個の漢字原子で説明できた
が、残り1割は他の漢字部品を必要とすることが分かった。その結果は漢字化合物のページに載せてい
る。

漢字化合物の表では308個の原子以外に必要であると思われる漢字原子は、頭にAを付けた番号で
載せてある。また独立して存在しないが、漢字を構成する部品となっているものには、XXXという記号を
付けている。

もしかしたら、ハルペン・ジャック氏に尋ねれば、Aを付けた文字も308原子で説明できるとおっしゃるか
もしれない。機会があれば尋ねてみたいと思う。

白川説について

藤堂明保(トウドウ アキヤス)氏と白川静(シラカワ シズカ)氏はともに漢字学では著名な方々である。


しかし、二人の学説の間には違っている点が多々ある。

ハルペン・ジャック氏は藤堂明保氏から学んだそうだ。だから「漢字の再発見」は藤堂説にならっている。
このサイトは「漢字原子論」の検証という立場から藤堂説を優先している。しかし、所々に白川説も入れ
た。その部分には「白川説では」と記している。

藤堂氏の説は、同じ発音の字は共通の意味を持つということ(単語家族)が特徴である。
一方、白川氏の説は、字の成り立ちを古代の宗教儀礼や呪術から説明することが特徴である。
詳しくはこちら => 「漢字の世界」
32 漢字原始

用語解説

漢字の説明中に使われている専門用語について解説する。

仮借(カシャ)
ある事柄の単語に漢字がないとき、同じ音の漢字を借りること。
たとえば、「六」は元はテントを表す。6の意味は仮借である。
つまり、6を表す音が「六」の音と同じため、「六」を6の意味で
使うようになった。

音符
2つの漢字を組み合わせて漢字を作るとき、音を表す方の要素。
たとえば、「紅(コウ)」は「糸」と「工(コウ)」からなり、「工」が音符である。
この場合の「工」は音のみで意味はない。
べに色の糸を表す音が「工」の音と同じなため、「工」が仮借されて、
「工」と区別するために「糸」が付け加えられた。

梵語(ボンゴ)
サンスクリット語(古代インドの言葉)。
仏教用語で、漢字に音訳されたものが多い。
例)シャーキャ→釈迦。ブッダ→仏陀。

参考文献

「漢字の再発見」 ハルペン・ジャック著 祥伝社


「漢字源」 藤堂明保編 学習研究社
「常用字解」 白川静著 平凡社
「字統」 白川静著 平凡社
33 漢字原始

漢字の世界(2007.07.18)

「名」という漢字がある。私が高校時代から使っている旺文社の漢和辞典(阿部吉雄編/1964
年)には「夕方は暗くて、自分のなまえを言わなければならないので、夕と口で、名まえをいう
意とした」と出ている。「そんなアホな」と笑ってはいけない。ほかの字引きにも似たような説
明しか載ってない。ものの本によれば、後漢の西暦紀元100年に許慎が著した最古の字典『説
文解字』にそう書いてあるらしいのだ。
これに対して、白川静『常用字解』(平凡社)には「夕と口とを組み
合わせた形。夕は肉の省略形。口は〓(サイ、左の図のようにUの内
側中腹に横棒を一本引いた形)で、神への祈りの文である祝詞(のり
と)を入れる器の形。子どもが生まれて一定期間すぎると、祖先を祭
る廟に祭肉を供え、祝詞をあげて子どもの成長を告げる名という儀礼
を行う。そのとき名をつけたので、『な、なづける』の意味となる」と
説明してある。どちらのほうが説得力があるかは一目瞭然だろう。
「口はクチではない」と、初めて指摘したのが白川である。『字統』
(平凡社)の「口」の項で白川は言う。「卜文・金文にみえる字形のう
ち、口耳の口とみるべきものはほとんどなく、概ね祝祷の器の形であ
る〓の形に作る。従来の説文学において、口耳の口に従うと解するた
めに、字形の解釈を誤るものは極めて多く、……口耳の口に従う字は、
概ね後起の形声字である。卜文・金文に口耳の口の明確な用義例がな
く、〓との異同を確かめることはできない」
言われてみれば確かに、「咳」や「唱」や「吐」のように口偏の字は
たいていクチに関係ありそうに見えるが、上や下に口のついた字はク
チとどういう関係にあるのか、すんなりとは理解しがたいものが多い。

《下付き》古 占 召 各 合 吉 否 告 吾 言 吝 含 舎
咎 哲 害 唇 喜 石 右 名 后 君 唐 (舌 呑 谷 杏
善)
《上付き》兄 只 号 呈 呉 (邑 吊 足 呆 員)
《その他》句 司 可 向 同 局 咼 周 商 問 命 史 哀
品 哭 器 加 和 (呂 尚 京 束 中 串 回)

主な字をざっと並べてみた。白川説によれば、このうち太字はすべ
て〓と解すべきだという。カッコ内の字も、多くは他の象形文字の一
部がたまたま口の形になったという解釈だ。カッコ外の「言」や「唇」
の口はクチと考えるのが自然ではないか、と素人には疑問が湧くのだ
が、白川は否定する。
《言》辛と〓とに従う。辛は刑罰として入れ墨をするときに使う把手
のついた大きな針の形。違約すれば罰を受けることを示して神に誓約
することばをいう。
《唇》辰は蜃〈ハマグリ〉の元の字。古く蜃によって卜することがあ
ったらしく、辰に従う字にその意を含むものが多い。それに〓を加え
て、蜃に対する祝詞を意味する字であろう。脣〈くちびる〉と通用して、くちびるを意味す
るようになった。
34 漢字原始

白川の強みは、殷時代の占いに使った甲骨文字(卜文・卜辞)や、殷周時代の青銅器に刻まれ
た文字(金文)を誰よりも徹底的に調べたことにある。目で確かめるだけでなく、自分の手で図
版をトレースして、克明なノートを何冊も作った。若い日のそうした地道な努力によって、白川
は中国古代国家の呪術的な精神世界に肉薄し、殷周時代の漢字が呪術と切り離せない形で誕生・
発展してきたことを確信するに至ったのである。許慎は1千年期前の殷墟に眠る甲骨文字を知ら
なかった。それからさらに2千年期を隔てて、『説文解字』を書き換えることが白川の志となっ
た。
呪術性を重視した白川の漢字解釈は、当然のことながらアカデミズムの世界ではほとんど無視
されたようだ。「口はクチではなく、祝詞を入れる器の形」というのは、裏付けのない「ご託宣」
というわけだ。
象形文字に「目」「鼻」
「耳」があるのに、はっきりと「口」と断定できるものが見当たらない
というのは意外な感じではあるが、白川が言う以上、見た目にはその通りなのだろう。「だから
すべてクチなのだ」と全面否定するだけでは、最初に示した「名」のような珍説に戻るしかない。

白川と対極に位置するのが『学研漢和大字典』(学習研究社/1978 年)を著した藤堂明保とい
える。文字が生まれる前、言葉は音声として存在した。言い換えれば、字源に先立って語源があ
った。そこに注目した藤堂は「同じ音声は共通した意味を持つ」として、基礎的な文字を中心と
した「単語家族」という概念を立てた。字典の巻末付録「中国の文字とことば」で藤堂はこう説
いている。

漢民族は、事物の外形や感触を軸にして、同じような性状のものを一括して同じことばか
近似のことばで言いあらわすという習慣をもっていたため、音の似たものは、原則として共
通のイメージが浮かびあがる。
たとえば、靑(青)は、草の芽や、井戸の水のように、すがすがしく澄みきった色をあら
わしている。清(澄みきった水)――晴(澄みきった空や太陽)――精(澄みきった米)―
―睛(澄みきったひとみ)――請(澄みきった目でものを言う)
(中略)
青――清――晴……という形声文字の仲間において、セイ(呉音ならショウ)ということ
ばの音は、すべて「澄みきっている」という基本義をもっている。ところで、これらの形声
文字の枠外に出て、水晶の晶(呉音ショウ、漢音セイ)はどうだろうか。これもまた澄みき
っているという意味である。この字は日印三つで、清らかな天体の光をあらわしたものだが、
その基本義は清と同じである。さらにまた、清らかな光を出すほしを星(呉音ショウ、漢音
セイ)というのも、それが澄みきって輝くからである。(以下略)

従来、音符にすぎないと見なされてきた「旁(つくり)」の「音」にこそ意味があるというの
が藤堂学説の特徴だ。上の例で言えば、「青」という字と「セイ」という音と「澄みきった」と
いう意味とは、互いに喚起し合う三位一体の関係にある。「侖・輪・倫・論=リン・ロン=きち
んと揃った」「包・泡・胞・抱・砲=ホウ=外からすっぽり包まれた」「帝・蹄・締・蒂=テイ=
わかれたものを一つにまとめてしめくくる」「士・仕・事・使=シ・ジ=まっすぐ立つ、立てる」
などなど。
原則的に「一語一字一音節」を特徴とする中国語は、声の抑揚(四声)によるバリエーション
を含めても、それほど音に多様性があるわけではない。「セイ」という音の漢字は他にも「生・
姓・正・征・成・西・声・制・聖……」と数々ある。しかも、藤堂は「音の似たもの」まで含め
ている。どれが同じ家族でどれが別家族だと、誰がどうやって決めるのか。そこに恣意が入り込
む恐れはないのか。中国語の音韻に疎い門外漢から見れば、そうした疑問が残る。
35 漢字原始

或いはまた、漢字の体系がすでに確立した後世の立場から、音と概念の似通った字を集めてき
てグループに仕立てる「後講釈」や「逆立ちの議論」の恐れはないのだろうか。藤堂の著書を読
むと、AとBは関係ありとする「単語家族」論の進め方がいささか強引で、牽強付会ではないか
という印象を拭えない。
とはいえ、中国人の思考回路を想像すれば、会話の中で「セイ」という音を耳にしたとき、聞
き手はすべての「セイ」字を想起するわけではないだろう。何らかのイメージが浮かんで、話の
流れから「これは清だ」「これは青だ」と特定していくのではないか。文盲の多かった昔は音声
だけが頼りでもあった。だとすれば、「まず音声ありき」という藤堂の考え方は、個々の具体例
の当否はともかく、大筋として承認すべきではなかろうか。

白川が古代中国研究の一環としてもっぱら「字源」に関心を向けたのに対し、藤堂は専門の音
韻論を武器にして「語源」に迫った。目指すところも方法論も違う二人に学問上の接点はなかっ
た。それが、ふとしたことでバトルになった。白川が初めて一般向けに著した『漢字 生い立ち
とその背景』(岩波新書/1970 年)を、藤堂が岩波の月刊雑誌「文学」7月号(1970 年)でこっ
ぴどく批評し、「編集部は執筆者の人選を誤った」とまで書いたことだ。その一部を抜粋する。

ことばの本質は「語音と特定の意味との結びつき」という点にあるのであって、文字とい
うのは、そのことばを視覚に訴えて表わす道具にすぎない。文字はなくても、ことばはげん
に存在する。それを書き表わすのは、音標文字でもこと足りるし、音節文字でもよいし、漢
字のような表意的なものでもよい。とりわけ漢字は、表意文字だとはいっても、かなり漫画
的なものであるから、その表わす構図を過大に評価してはならない。たとえば、「伏」とい
う字は「人+犬」を組み合わせて、飼主のそばに飼犬がぴたりとくっついた姿を漫画化した
だけで biok(伏)ということばは、ぴったりとつくという基本義を含むにすぎない。降伏
といえば降参してぴたりとくっついて離反せぬことだし、伏地といえば腹をぴたりと地にく
っつけて離さぬことである。それは場合によっては服従の服(ぴたりとつく)にも近いし、
転覆の覆(ぴたりとふせる)とも同系だし、匍匐の匐(ぴたりと腹をつける)という字で表
わすこともある。たまたま犬をもってきたのは、漫画家の思いつきにすぎず、フクというこ
とばとは直接の関係はない。

(前略)一つ一つ神さまや家廟や、さては呪術にかこつけねば気がすまぬという、強引な
やり方が全書にわたって現われる。それは主観的であり、個別ばらばらであって、そこには
語学で用いるような方法論がない。…………白川さんが「伏」という宗教的儀礼の発展を説
明されたところは、きわめてユニークである。がしかし、それによって「伏という字の形は」
「それほど簡単ではない」といって、「伏」という文字自体(ことば自体)を逆に複雑化し
て説こうとするのは、本末転倒ではないか。ことばの基本義は簡単明瞭なものであって、妙
なこじつけを許さぬほどに自明なのである。

要するに白川さんのこの書は、「漢字のなりたち」を説いた書としては、どうもふさわし
くない。そうではなくて、古代に発した宗教儀礼が後世にどう変貌し、古代人の心がどのよ
うに後世の事象に反映したかという中国の文化史の一つとして読めば、たいへんおもしろい。
じつをいうと、その点では私もたいへん教えられた。この本を読んでおもしろいと感じるの
は、まさにその点である。だから責任は、「漢字のなりたち」という企画を白川さんにおし
つけた書店編集者にあるといってよい。「ことば」の問題といえばまず語学畑の者にきくべ
きであろう。たとえば「ドイツ語辞典」の執筆を、ドイツ語学者ではなくて、ドイツ史やド
イツ思想研究者、ドイツ考古学者などにおしつけたら、どんなことになるだろうか。明治大
36 漢字原始

正のころの「漢和字典」が、いわゆる漢学者や東洋史家の手によって書かれたのは、たいへ
んな間違いである。五十年前のその誤った意識にたって、今日でも漢字漢語の研究が、言語
学者以外の人の手でなされている、と思っているとすれば、おかしな話である。

これを受けて、白川は「文学」9月号に長大な反論を寄せた。藤堂の「単語家族」の概念や字
形解釈のいくつかについて具体例を挙げて批判したあと、彼の漢字に対する考え方と方法論に矛
先を向ける。

カールグレンが試みた古代音の復原は、音韻史的にはなお十分検討を要する多くの問題を
含むものであるが、それは一応それなりの意味をもつものとして、問題の設定には役立つで
あろう。しかしその復原音を安易にとり入れ任意の文字を集めて基本義なるものを設け、そ
こから字形の解釈に向かうという倒錯した方法がいかに無意味なものであるかを、これらの
例は十分に示しているはずである。そこには、偶然的な寄せ集めという以外に、何らの意味
もなく、必然性もない。
古代の聖職者たちが、その祭祀儀礼に必要とする文字を創作したとき、文字にはそれらの
事象をしるすに最もふさわしい形を与え、構成をとることを考えたはずである。一、二のヒ
ョウキン者によって漫画的に思いつかれた形が、卜辞や金文など、当時最も神聖とされた儀
礼や彝器(イキ=宗廟に供える祭器)にしるす文字として採用されたとは考えがたい。(後
略)

古代の文字は、直接に音を示すためでなく、そのことを示すために作られた。それゆえに
象形文字がまず生まれたのである。音は約束として存在していたが、特に表記されることは
なく、あっても極めて稀であった。形と音義との結合が安定してくると、はじめてこれを声
符として利用する方法がとられた。卜文、金文に形声字がなお極めて少数であるのは、文字
の成立と展開の上から、当然のことである。文字学は、まず形を正すことからはじめるベき
である。そしてその正しい字形について、当時の人びとがその形象に与えた意味を、正しく
理解しなければならない。文字を漫画的構成などというのは、古代文字の形象に対する理解
の不十分さを、みずから表白する以外の何ものでもない。

(前略)古代文字を研究するのに、その唯一の資料である卜辞や金文を十分に理解するこ
ともなくして、他に一体どのような方法が残されているというのであろう。章太炎の音義説
を、スエーデンの東洋学者カールグレンの音韻学で改編してみても、そこには若干の思いつ
きしか生まれない。その思いつきによって逆に資料を解釈しようとするのであるから、解釈
は漫画的とならざるをえない。確かに私と藤堂氏とでは、「射程」がちがうのである。また
そのあり方がちがう。しかし私にとって、それは射程の内とか外とかいう問題ではない。文
字学は私の問題の出発点であり、また私の帰着点でもある。それゆえに私は〔説文新義〕を
起稿し、わが国でかつて試みられたことのない規模と方法とを以て、その完成を期している
のである。

いかがだろう。藤堂は無名の白川をやや見くびったのではないか。卜文・金文の研究に取り組
んだ白川のエネルギーと実績を藤堂がよく知っていれば、少なくとも「漢字の成り立ちを書く資
格がない」と言わんばかりの批評はしなかったであろう。せいぜい「資格はあるにしても、解釈
がユニークすぎる」といった疑問を呈するぐらいでとどめておくべきだったのではなかろうか。
甲骨文字がどのようにして誕生したかについて、二人の見解は一八〇度違う。藤堂はモノ・コ
トを指し示す言葉(音声・呼び方)がまずあって、それを書き表す道具として文字が作られたと
37 漢字原始

見る。これに対して白川は、漢字は表音文字と違って、対象そのものを直接的に表すために作ら
れたのであって、それをどう呼ぶかは副次的なものでしかないと考える。
例えば「伏」という字の成り立ちだ。白川は、人と犬とを犠牲(生け贄)として建物の基礎や
墓棺の下に埋めた祭祀を表す文字と見る。藤堂は「フク=ぴったりとくっつく」という音声に意
味があるのであって、 「人+犬」は漫画的表現にすぎないという。
全体として、私にはやはり白川の主張に分があるように見える。漢字が古代国家の呪術や祭祀
と分かちがたく結びついて発生した以上、藤堂の言うような「漫画的思いつき」であろうはずが
ない。少なくとも「漢字の成り立ち」という土俵で白川説を批判しようと思えば、白川と同等以
上に卜文・金文を読み込んで、別の解釈を示し、どちらが合理的かを競うしかなかろう。
藤堂はバトルから8年後の 1978 年、自説を盛り込んだ『学研漢和大字典』を出した。手頃な
漢和辞典として、今でも増補版がよく売れている。白川もこのあと平凡社から『字統』 (1984 年)、
『字訓』(1987 年)、
『字通』 (1996 年)の三部作を出し、漢字学の泰斗としての評価を得た。 「文
学」誌上でのバトルが、二人のその後のエネルギーを生んだのかも知れない。

白川 静(しらかわ しずか)1910 年(明治 43 年)福井市生まれ。苦学して 1943 年(昭和 18


年)に立命館大学卒。54 年から 76 年まで立命館大学文学部教授、引き続き 82 年まで特任教授。
2006 年 10 月没、享年 96。

藤堂 明保(とうどう あきやす)1915 年(大正4年)三重県生まれ。1938 年(昭和 13 年)


東京大学文学部卒。東大教授だった 70 年、東大闘争をめぐる教授会の対応を批判し退官、のち
早稲田大学客員教授。85 年死去。

Jack Halpern (linguist)

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