Download as doc, pdf, or txt
Download as doc, pdf, or txt
You are on page 1of 100

外来語について

-分類と和語・漢語と外来語の類義語分析-

                           
                 アグラハリ・アプルワ
                     AGRAHARI, APOORVA

目次

1. はじめに
2. 外来語について-和語・漢語との関係
2.1.外来語の定義
2.2.和語・漢語・外来語の関係
2.3.外来語導入の理由
2.4.外来語の分類
2.4.1.文法的な側面からの分類
2.4.2.意味的な側面からの分類
2.4.3.特殊な使い方

3. 和語・漢語と外来語の類義語分析
3.1.「運転」と「ドライブ」の意味分析
3.2.「遠足」と「ピクニック」の意味分析
3.3.「署名」と「サイン」の意味分析

4.終わりに

参考文献

外来語について
-分類と和語・漢語と外来語の類義語分析-

1.はじめに
本稿では、日本語における外来語を取りあげ、その性質を明らかにした上で、
和語・漢語とそれに対応する外来語とが類義関係にある場合、どのように使い分
ければいいかについて考察する。
まず、このテーマを選んだ理由について簡単に述べたいと思う。去年日本に来
て、日本人と話をしていた時、自分の食生活について聞かれ、「菜食主義者です」
と答えたら、「あっ、ベジタリアンですか」と言われたことがある。「魚などの海産
物、肉類などをとらず、穀物や野菜・果物類だけを食べる人」という意味で、国で
は「菜食主義者」と習っており、そのつもりで使ったのに、その時どうして英語の
vegetarian から由来した「ベジタリアン」に直されたのかと不思議に思った。「菜食
主義者」と「ベジタリアン」は意味が違うのか、違うならどう違うのかという疑問が
頭に浮かんできた。また、日本人の友達と買い物に行った時、「主に女性が履く、
ふくらはぎの上まである長い靴」を見て、「あの長靴かわいいね。OOちゃんによ
く似合うと思うよ」と言ったら、その友達は「あの黒いブーツか。うん、かわいい
ね」と答えた。その時、「長靴」と「ブーツ」は違うものなのかと思い、家に帰って辞
書を引いてみたら、二語はほとんど同じような意味記述がされていた。しかし、
その後、他の本を読んだり、何人かの日本人に聞いたりして、両語には違いがあ
ることがわかった。まず、「ベジタリアン」はおしゃれで、格好いい感じがすると
いうことで口語的な使い方のほうが多く、「菜食主義者」は硬くて古めかしい感じ
がすることから文語的な改まった使い方のほうが多いということである。次に「長
靴」といった場合は雨の時や農作業の時などに履くゴムでできた靴のイメージがあ
るが、「ブーツ」といった場合は日常において、女性がよく履くおしゃれな、皮で
できた靴のイメージがある。
このように、日本語の中には外国語から借り入れられた外来語と意味が似てい
る本来の日本語、つまり、和語・漢語があり、どんな時どちらを使えばいいかと、
何回も迷ったことがある。前述のようないくつかの出来事をきっかけに、外来語
の使用についていろいろ考えさせられ、本来の日本語(和語・漢語)と外来語の中
で、意味の似ているペアを取りあげ、比較することにした。日本語学習者がどち
らを使っても、相手にだいたいの意味は通じるかもしれないが、日本人には不自
然に聞こえ、場合によっては、まったく意味がずれてしまうケースもある。
一般的に外来語は、日本に今まで存在しなかった事物や現象を表すために、あ
るいは言葉に新鮮さを求めるためにといった理由で日本語の中に取り入れられる
が、その外来語は元々の外国語の意味や使い方と必ずしも一致しない。つまり、
外国語の元々の意味の範囲を拡大したり、縮小したりして使われている場合もあ
れば、元々の意味とまったく違う意味や使い方の場合もある。中には、和製英語
のように日本人が英語を使って作った新しい外来語、つまり、英語の中には存在
しないものもある。(詳しくは後述)
以上のように本稿では、外来語の様々な種類について考察し、また上にも指摘
したように、漢語・和語と外来語の中で互いに意味の似ている語のペアを取り上
げ、意味分析を行う。研究方法としては、まず、先行研究を整理・検討し、漢
語・和語と関連づけながら外来語の定義と分類を行う。次に、意味の似ている漢
語・和語と外来語のペアを取り上げ、日本語の文学作品やインターネットのホー
ムページなどから分析対象語の用いられた実例を収集する。さらに、先行研究を
踏まえて分析を行い、両者の意味の共通点と相違点を明らかにする。(注1)

2.外来語について-和語・漢語との関係

2.1.外来語の定義

本稿では、外来語と和語・漢語の間で類義語関係にある語を取り上げ、その類
似点・相違点を明らかにすることを目指す。それに先だち、和語、漢語、外来語
について検討する必要があると考え、本節では、外来語の定義と外来語と和語・
漢語との関係について見ていくことにする。
まず、外来語の定義については、主に楳垣(1963)、日本語大辞典(1997)、柴田
(1987)、学研国語大辞典(1985)を参考にし、以下のように示す。(注 2)
まず、楳垣(1963:11)では、「外来語とは、他国語の語句を自国語の中に借り入
れて、その使用が社会的習慣化したもののことである。言い換えれば、外来語と
は、外国語の語句をだいたいもとの形で自国語に借り入れて、一般に自国語とし
て使っているもののことであるということになる」と述べられている。
次に、日本語大辞典(1997:351)は、「外国語から取り入れて、その国の国語と
して使われるようになった言葉である」と説明している。
また、柴田(1987:140)は、「外の言葉から、文化の一部として入ってきてその
言語の語彙体系の中に自分の座を獲得した単語のことである」としている。
さらに、学研国語大辞典(1985)では、「外来語を外国の言語から入ってきて、同
化して、その国の言葉のように用いられる語である」と述べられている。
以上の先行研究に基づいて、外来語を定義すると次のように示すことができる。

外来語とは、主に、日本にはない事物を示すために、外国語から日本語の中に
取り入れられ、定着し、一般に日本語として使われている言葉のことである。

但し、楳垣(1963)、学研国語大辞典(1985)にも指摘されているように、外国か
ら日本語の中に入ってきたすべての語が外来語であるとは言い切れない。という
のは、いわゆる漢語も中国から取り入れられたものであるから、外来語といっても
良いはずであるが、習慣として漢語は外来語に含めない。漢語は奈良時代からき
わめて大量に取り入れられ、それまで文字のなかった日本語を書き表すために、
借用されたと言われている。その結果、日本人はかなり古くから日本語の中に定
着した漢語に対して、外来語という意識がほとんどなく、既に日本語に定着して
いるため、漢語は外来語に含めないのが一般的となっている。しかし、近代中国
から借りてきた「チャーハン(炒飯)」、「マージャン(麻雀)」、「ウーロン茶(烏龍
茶)」、「ギョーザ(餃子)」などは一般的に漢字をそのままの形かカタカナの形で示
し、外来語として扱うのが一般的である。これ以外に、本稿において「外来語」と
いった場合は、漢語は含めないことにする。
一方、仏教用語の中には、いわゆる梵語といわれるものがある。これはインド
のサンスクリト語が起源であるから、厳密に言えばこれも外来語として扱うべき
であるが、時代とともに、仏教は日本の主な宗教となっており、またこれらの語
は中国を経て(中国語化したものから)日本語に入ってきているので、インド語源
といっても日本語に定着しているため、これらの語は外来語に含めないのが一般
的となっている。例としては「だるま(達磨)」、「ぶっだ(仏陀)」、「ねはん(涅槃)」、
「もんじゅ(文殊)」、「ぼさつ (菩薩) ぼだいさったの略」、「あしゅら(阿修羅)」な
どが考えられる。

2.2.和語・漢語・外来語の関係

それではここで、主に、楳垣(1963)、吉沢他(1979)、張(1999)を参考にし、日
本語を構成している和語、漢語、外来語の関係について簡単に述べたいと思う。

和語:和語とは、日本に元々存在した語彙、つまり、日本本来の言葉で、助詞、
助動詞または接続詞のように仮名で書かれたものである。また、漢字で書かれて
いても訓読みされるものは和語として扱う。例は以下のようなものがある。
助詞、助動詞、接続詞:「が」、「を」、「らしい」、「しかし」、「けれども」など。
漢字で書かれ、訓読みされるものとして、名詞の「お父さん」、「部屋」、動詞の「待
つ」、「切る」、形容詞の「美しい」、「鋭い」、形容動詞の「爽やか」、「鮮やか」、「静
か」などがあげられる。(文化庁(1998)、張(1999))

漢語:漢語とは古く中国から伝来された言葉で、漢字で書かれ、音読みされるも
のである。例は「住宅」、「瞬間」、「国家」などがあげられる。その他に、「火事」、
「大根」、「返事」、「峠」のようないわゆる和製漢語というものもある。(あらかわ
(1984)、張(1999))

外来語:外来語とは、漢語を除く外国語、主としてヨーロッパの諸言語から日本
語の中に入ってきた言葉で、日本語の語彙体系の中に自分の座を獲得したものを
指す。外来語の中のほとんどは英語からきたものであるが、ポルトガル語、オラ
ンダ語、フランス語、ドイツ語、イタリア語から入ってきたものもある。たとえ
ば、「ガーゼ」、「パン」、「ガラス」などはそれぞれ「ドイツ語」と「ポルトガル語」と
「オランダ語」から入ってきたものである。(張(1999))

2.3.外来語導入の理由
歴史を遡ってみると、日本が外来語をはじめて導入したのは16世紀の室町時
代であると言われている。明治時代以前の日本は、鎖国政策により、一部の国を
のぞき、他国との交流が厳禁されていたので外来語の数も少なく使用率も低かっ
たが、明治時代に入り、外国との交流が増えるにつれて語数も増加し、使用も一
般化してきた。明治以前は、「蛮語」「舶来語」という名で呼ばれていたが、明治以
降からは世間一般にもかなりなじみの深いものとして認識されるようになった。
それでは、ここで日本語における外来語はどのような理由で入ってきたかを簡
単に述べたいと思う。まず、考えられるのは社会的な背景である。明治時代以降、
外国との交流が増えるにつれて、今まで日本にはなかった事物や新しい現象が数
多く入って来るようになった。その場合、翻訳をするなどして既存の日本語を使
って表す場合も考えられるが、ただそれだけでは適切に表せない場合が出てくる。
そこで、外国語から当該の事物や現象を表す語を借りてきて、その語の発音を日
本語の五十音に合わせて作った言葉を日本語の一部、外来語として使うようにな
ったのである。例えば、アルバイト(ドイツ語)、アルコール(オランダ語)、ズボ
ン(フランス語)、ビロード(ポルトガル語)などがあげられる。(注3)(石綿
(1984)、田中牧郎(2003))
外来語導入のもう一つの理由はいわゆる心理的な背景である。日本語に同じ事
物や現象を表す語が既に存在しているのに、導入される場合で、これは人間の一
般的な心理として、新奇さを求めるところから来る場合が多い。つまり、言い方
が古い感じがするという理由で単なる新鮮なイメージを求める場合である。例え
ば、「便所」の代わりに「トイレ」、「帳面」の代わりに「ノート」、「写真機」の代わり
に「カメラ」、「背広」の代わりに「スーツ」、「乳母車」の代わりに「ベビーカー」、「道
化師」の代わりに「ピエロ」などがあげられる。また、日本に存在している事物に似
ていることを表す外来語もある。例えば、「百貨店、デパート」、「お菓子、ケー
キ」、「旅館、ホテル」、「手ぬぐい、タオル」。本稿では、このような、意味の似て
いる語を考察対象とし、両者の共通点と相違点を明らかにする。(高橋(1984))

2.4.外来語の分類
日本語の外来語は様々な形があり、その使い方も様々である。また、外国語の
本来の意味をほとんど変えずに取り入れたものもあれば、もともとの意味と違う
意味で使われるものもある。以下では、外来語を文法的な側面、意味的な側面、
特殊な使い方という三つのグループに分けて考察する。

2.4.1.文法的な側面から分類

名詞としての使い方:外国の事物を表すのが外来語の主な役割であることを考え
れば、外来語の中には多くの名詞が存在する。例は以下の通りである。
「ラジオ」、「チョコレート」、「クリーム」、「ギター」、「カセット」、「ジーンス」な
ど。

動詞としての使い方:外来語の言葉を動詞として取り入れる時は、当該の外来語
に「する」または、外来語の語尾に「る」を加えて、動詞化して使う。例は以下の通
りである。
「デートする」、「キスする」、「エスカレートする」、「デモる」、「サボる」、「アジ
る」、「ダブる」など。
それ以外に、「メモる」、「コピる」、「ビニる」、「タクる」、「パロる」などのような
例もあるが、これらは主に若者の間で作られ、流行っている言葉であり、一般的
なものとは言い難い。

形容動詞としての使い方:日本語の中に形容動詞を表す働きを持っている「な」が
あるため、外来語に「な」または「に」を付けて形容動詞化する場合である。例は以
下のようなものがある。
「ハードな」、「ソフトな」、「ウェットな」、「シンプルな」、「オリジナルな」、「ユニ
ークな」、「スムーズな」、「デリケートな」など。

形容詞としての使い方:外来語の語尾に「い」をつけて、形容詞化して使われる例
は非常に少ない。主に若者を中心に作られ、流行している場合が多く、定着して
使われている語はほとんどない。例は以下の通りである。
「ナウい」、「エロい」、「キャバい」など。
これらの語は、一時的にはやり、時が経つにつれてだんだん使わなくなって消え
てしまう語であると考えられる。

混種語:混種語は外来語と日本語(和語・漢語)を組み合わせて作った言葉である。
例は以下の通りである。
「板チョコ」、「満タン」、「ガス欠」、「自己 PR」、「懐メロ」、「脱サラ」、「輪ゴム」、
「夏バイト」、「省エネ」、「どたキャン (土壇場でキャンセルする)」、「口コミ」、
「安全ピン」、「名コンビ」、「酎ハイ」、「豚カツ」など。
その他に、英語と英語の組み合わせや英語と他の外国語との組み合わせもあるが、
これらの語は和製外来語として扱い、2.4.3.節で詳しく述べる。

略語:略語は外来語のスペルをそのまま表記することではなく、一部分だけの音
をとって表す言葉である。スペルの長い言葉を短縮化したものもあり、二語の場
合はそれぞれ最初の部分を取り、結びつける。例としては次のようなものがあげ
られる。和製英語やローマ字表記の語は略語として分類することも可能であるが、
ここでは別のグループに分けて考察する。略語の例として以下のような例があげ
られる。
「スト」、「レジ」、「プロ」、「アド」、「アパマン」、「リモコン」、「デジカメ」、「ラジ
カセ」、「セクハラ」など。
           (陣内(2003)、吉沢他(1984)、戸村(1984)、文化庁(1997))

2.4.2.意味的な側面からの分類

意味が縮小された場合:意味が縮小されたというのは、ある外来語が日本語に入
ってきた際に、元の外国語が持っている意味より、狭い意味で使われる場合であ
る。例えば、「レジュメ」は「概要」の意味で使われているが、英語またはフランス
語(語源)では resume′は「履歴書」という意味も持っている。日本語ではそのよう
な意味では用いられない。また、英語で accessory は装飾品の意味でネクタイ、
香水、バッグなども含まれているが、日本語の「アクセサリー」は宝石類、貴金属
製のネックレスや指輪などに限られている。さらに、英語の young は、若者はも
ちろん、子供・幼児に対しても使うが、日本語の「ヤング」は、若者の意味でしか
使わない。

意味が拡大された場合:元の外国語が持っている意味より、広い意味で使われる
場合である。例えば、日本語の「トレーナー」は「運動選手の健康を管理し、練習の
指導をする人、馬などの調教師(trainer)」の意味と「競技者などが着る練習着
(sweat shirt)」の意味がある。英語の場合は前者の意味しかない。同様に、日本
語の「サービス」は service と同じく「レストラン、ホテルなどで客のために気を配
ってつくすこと」の意味と「品物を売るとき、客の便宜を図ったり値引きや景品を
つけたりすること」の意味があるが、英語の場合は前者の意味しかない。さらに、
日本語の「ハンドル」は「ドアなどの取っ手」と「車・機械などを運転操作する部分
(steering wheel)」という二つの意味を持っているが、英語の場合は後者の意味は
ない。
一方、「マイホーム(my home)」、「マイカー(my car)」、「マイペース(my pace)」
のような外来語がある。日本では、これらの言葉を自分以外の人に対しても使う
ことができるが、英語の場合はできない。つまり、日本語では「太郎君、マイカー
持っている?」のように「自分所有のもの」という意味で人称と関係なく使うことが
できるということである。英語の場合は、「my car」といった時、もっぱら話し手
自身のことしか表せない。それ以外に、「マイペース」などの表現もあげられる。

意味がずれた場合:もともとの外国語と外来語の間に共通点が少ないか、または
共通点がない場合である。例えば、日本語で「カンニング」といった場合は、「試験
で受験者が監督者の目を盗んで不正行為をする」ことを表す。つまり、英語の
cheating に当たる。カンニングに当たる英語は「cunning」で、「悪知恵、ずるさ」と
いう意味であり、両語は意味がずれていることが分かる。また、日本で「タレン
ト」といった場合は「テレビ・ラジオなどに出演する芸能人」を意味するが、英語の
talent は「才能、才能のある人」という意味である。さらに、日本の「マンション」
は集合住宅の一つであるが、英語の場合は立派な豪邸を意味する。そして、「バイ
キング」は、英語で viking と書き、もともと海賊のことであるが、日本語では、
各種の料理を並べ、客が好みによって自由に取って食べられる方式の食事の一つ
を意味する。
その他に、まだ日本語として定着はしていないが、「ギャル」という言葉がある。
髪を金髪に染め、厚い化粧をした活発な若者(女性)のことを指す。英語の girl は
このような意味としては使わない。(石綿(1992))

2.4.3.特殊な使い方

和製外来語(和製英語):これらは主に、英語または、他の外国語の言葉を使って
日本人が独自に作った言葉である。元の言葉の形を変えたり、二つ以上の言葉を
結びつけたりし、新しい言葉を作る場合である。従って、元の外国語には存在し
ない言葉である。
まず、英語を使った例は以下のようなものがあげられる。
「ナイター」、「アイターン」、「スキンシップ」、「アクアポリス」、「ベッドタウン」、
「ゴーストップ」、「コスプレ」、「ポケベル」、「プリクラ」、「オート・バイ」、「ジ
ー・パン」など。
以上の例には「ナイター」、「アイターン」、「スキンシップ」、「アクアポリス」は
それぞれを英語にすると nighter、I-turn、skinship、aquapolis になるが、この
言葉は英語に存在しないものである。まず、「ナイター」は夜間試合・夜に照明の
下で行う試合(主に、野球)のことを意味し、「アイターン」は都会出身者が地方に
就職・再就職することを指す。また、「スキンシップ」は人間関係を確立するため
の肌の触れ合い、また親が愛情を伝えるために、直接子供と体を触れ合うことで
あり、「アクアポリス」は人工の海上都市を意味する。さらに、「ベッドタウン」は
bed と town を組み合わせた語で、働く人々が夜寝るためだけに帰る町(住宅地区)
のことを意味し、「ゴーストップ」は交通信号の「進め」go と「止まれ」stop という意
味で使われている。その他に「コスプレ」costume+play、「プリクラ」print+club、
「ポケベル」pocket+bell、「オート・バイ」auto+bike、「ジー・パン」jeans+pants の
ような例もある。
続いて、英語と他の外国語を組み合わせた場合、つまり、二つの外国語の言葉
を組み合わせた語を取り上げる。
まず、「マッチポンプ」はマッチ(matchstick、英語)とポンプ(pomp、オランダ
語)を組み合わせた語で、自分で起こしたもめごとを鎮めてやるという意味を表す。
その他、「クラフト・ペーパー」のように kraft(ドイツ語)と paper(英語)からなっ
ているもの、「オムライス」のように omelette(フランス語)と rice(英語)からなっ
ているものもある。また、日本が今直面しているフリーター問題の「フリーター」
は free(英語)と arbeiter(ドイツ語)からなっている言葉である。

ローマ字表記の語:ローマ字表記の語は英文字の省略語をそのまま使ったり、和
製英語の頭文字を取ったりして作った言葉である。例は以下の通りである。
「OK」、「OB」、「TV」、「GW」、「OD」、「CM」、「OL」、「TPO」、「PHS」、「1LDK」。
これらの言葉の読み方については、ローマ字のまま読むものもあれば、元の長
い言葉の読みをする場合もある。以上の例の中で、「OK」、「OB」は英語の省略語が
そのまま使われ、頭文字で呼ばれるが、「TV」はローマ字で書かれるが、読む時は
「テレビ」と読まれることがある。和製英語の「GW」golden week、「OD」over doctor
はローマ字で書かれるが、それぞれ英語の発音通りに読まれる。「CM」commercial
message は元の長い読み方でも読まれるし、ローマ字のままでも読まれることもあ
る。「OL」office lady と「TPO」(時 time 場所 place 場合 occasion の意味で服装の選
択や行動の基準となる 3 要素)と「PHS」personal handyphone system((日本の)簡易
型携帯電話)と「1LDK」1 living,dining,kitchen(居間・食堂・台所を兼ねる洋風の
部屋)はローマ字のままで読まれるが、英語には存在しない言葉であるから、和製
英略語であるといってもいいだろう。

商標名:外来語は、日本に今まで存在しなかった事物や現象を表すために外国語
から取り入れるのが一般的であるが、商標(商品)の名付け方にはやや特殊な場合
もある。つまり、当該の商標(商品)について日本独自の名付け方をするというこ
とである。例としては以下のようなものがある。

・ホッチキス:紙をとじ合わせる器具で、コの字型のとじ金を押さえて留める。
発明者である米国の「B.B.ホッチキス」の名にちなむ名前で、アメリカのメーカ名
である。米国や英国では「paper fastener」、「stapler」と呼ばれている。
・クラクション:自動車の警笛のことであり、米国の「klaxon」製造会社の名が語
源である。米国や英国では「horn」や「siren」と呼ばれる。

・シャーペン:シャープ・ペンシルの略で、形は万年筆に似ており、インクの代
わりに鉛筆の芯のようなものを使う。1837 年に米国で発売された商標名「ever-
sharp」が語源である。米国や英国では「mechanical pencil」、「clutch pencil」と
呼ばれている。

・ビー玉:子供の遊び用のガラスの玉のことである。語源は不明であるが、ビー
玉の「ビー」は、「B」であり、元々業界用語で、輸出の際に、着色される玉を「A
玉」、透明なものを「B玉」と呼ぶことからきたという説がある。一方では、ポルト
ガル語でガラスを「ビードル」と言い、室町時代にポルトガル人が来日し、ガラス
の製造方法を伝える際に、「ビードル玉」を「ビー玉」に省略して使ったことからき
たという説もある。

3.和語・漢語と外来語の類義語分析

類義語分析方法はいろいろあるが、本稿では、例 8)のように類義語以外の部分
がまったく同じである文を比較しながら、両語の置き換えが可能かどうかを検討
する。両方言える場合、それぞれが持つ意味特徴のどの部分が類似していて、ま
たどの部分が違うかを明らかにする。また、置き換えが不可能な場合、どういっ
た理由でそうなのかを考察する。
2.2.では、外来語の導入の理由として心理的な理由を取り上げ、日本語の
中に既に意味の似ているものを表す表現があっても外来語が入ってきた場合があ
ると指摘した。そこで当然出てくる問題が両語の意味の違いである。日本語学習
者の場合は、両語の意味を辞書などに書かれている説明を見て、理解するわけで
あるが、それだけではなかなか違いが分からない。そこで、本稿ではこのような
ペアを取り上げて、相互の意味の類似点、相違点について分析を行う。本稿で取
り上げる例は以下の通りである。
「運転」と「ドライブ」
「遠足」と「ピクニック」
「署名」と「サイン」

3.1.「運転」と「ドライブ」の意味分析

この節では、漢語の「運転」と外来語の「ドライブ」を取り上げ、分析を行う。ま
ず、次の例文を見てみよう。

例 1)ぼくらはやたらとかんだかいことばを投げかわしながら車にとびのり、今度
は侯爵が運転した。                  (聖少女、p.245)
例 2)私は新車で友達とドライブに出かけた。

以上の例から分かるように、「運転(する)」と「ドライブ(する)」は「自動車を操作
して走らせる」という共通点を持っていると考えられる。それでは続いて、先行研
究を踏まえて(主に、「新明解国語辞典・類語大辞典」などの辞書類)、「運転」の意
味について考察する。
次の例を見てみよう。

例 3)バス/タクシー/耕耘機を運転する。

この例から「運転」の意味は、「機械や動力のある乗り物を操作して走らせるこ
と」と示すことができる。但し、機械や乗り物すべてに対して「運転する」が使える
わけではない。例えば、構造が非常に複雑であり、操作に高度な技術や能力を必
要とする飛行機については「運転する」とは言わず、「操縦する」という言い方をす
る。一方、自転車は「運転」の定義からすると、燃料ではなく、人が自分の足の力
で動かすので、当てはまらないことになるが、実際には「自転車を運転する」も可
能である。だが、日常では「自転車に乗る」という言い方が一般的であると考えら
れる。これはわりと構造が単純であり、容易に操作できる乗り物であるから「運転
する」という言い方をしないのかもしれない。
次に「ドライブ」の意味について考察する。

例 4)ベンツでドライブする。
例 5)フン先生、わたしとドライブにいきませんか。気分がすーっとしますよ。
                        (ブンとフン、p.260)
例 6)女の子とは、夕方、新宿の喫茶店で知りあい、湘南の海岸にドライブに行こ
う、と連れてきた子で、車は第三京浜を走っていた。   (冬の旅、p.123)

まず、例 4 から言えることは、「ドライブ」は単に車を操作するということではな
く、車を利用する、つまり手段としていることが分かる。また、例 5、6 から分か
るように「運転という過程と周りの景色などを楽しむこと」であると言える。
以上のことから、「ドライブ」の意味は、「自動車に乗って、(景色のいいところな
どを走ったりして)楽しむこと」と示すことができる。
それでは、次に「運転」と「ドライブ」の相違点を考察する。以下の例を見てみよ
う。

例 7)a 車を運転する。
b 車でドライブする。
例 8)助手席に坐り、高崎の寂しい夜の繁華街に眼をやりながら、私は運転(*ドラ
イブ)している森田に訊ねた。             (一瞬の夏、p.529)
例 9)女の子とは、夕方、新宿の喫茶店で知りあい、湘南の海岸にドライブ(*運
転)に行こう、と連れてきた子で、車は第三京浜を走っていた。   (=例 6)

まず、例 7 から言えることは、「運転」の場合は車が対象になる。つまり車を操
作すること自体が運転である。それに対して、上でも指摘したように、「ドライ
ブ」の場合は車が手段になる。つまり、車そのものを操作することだけが目的では
ないということである。
これは、例 8 と 9 で説明ができると考えられる。例 8 と 9 において、「運転」を
「ドライブ」に、「ドライブ」を「運転」にそれぞれ置き換えることができない。その
理由は、「運転」は車を走らせることだけだが、「ドライブ」はそれだけではなく、
「景色のいいところを走りながら、楽しむ」という意味もあるからである。
さらに次の例を見てみよう。

例 10)半身不随でベッドにころがっているどころか、ひさしぶりに自分で車を運転
(*ドライブ)して会社にでかけていたのです。第一、父の病気は脳溢血では
ありませんでした。                  (聖少女、p.450)
例 11)ドライブ(*運転)。いつも助手席にすわっているんじゃ物足りない。時には
自分でハンドルを握り、お気に入りの服を着こなすように、車も上手に着こ
なしたい。(http://www.e-colle.com/mag/act/trv/trv0401/trv04011.html)

例 10 と例 11 の場合においても、「運転」を「ドライブ」で、「ドライブ」を「運転」で
言い換えることができない。その理由は、「運転」の場合は、自分自身が車のハン
ドルを握って操作することだが、「ドライブ」は自分が直接ハンドルを握らなくて
も(つまり、助手席などに座っても)、「景色のいいところを走りながら、楽しむ」
というような意味があれば、用いられるからである。例 10 において、「ドライブ」
が言えないのは、「景色のいいところを走りながら、楽しむ」という解釈ができな
いからである。

3.2.「遠足」と「ピクニック」の意味分析

本節では、漢語の「遠足」と外来語の「ピクニック」を取り上げ、意味分析を行う。
まず、以下の例を見てみよう。

例 12)夏になると、島には沢山青いゴリがなった。城山へ遠足に行った時なんか、
弁当を開くと、裏で出来た女竹の煮たのが三切れはいっていて、大阪の鉄工
場へはいっていた両親を、どんなにか私は恋しく思った事です。
                             (放浪記、p.568)
例 13)それから台所に行って、床にちらばった食品の中からパンを二個とコンビー
フと桃とソーセージとグレープフルーツの缶詰をあつめて、ナップザックの
中に入れた。水筒にもたっぷりと水を入れた。次にズボンのポケットに家に
置いてあった現金のぜんぶをつっこんだ。「ピクニックみたいね」と娘は言っ
た。       (世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.632)
例 14)a 日帰りで遠足(ピクニック)に行く。
 b *2 泊 3 日で遠足(ピクニック)に行った。

以上の例から「遠足」と「ピクニック」は「弁当、飲み物などを持って行楽のために
日帰りで野山や公園などに出かける」という共通点を持っていると言える。
続いて、次の例を見てみよう。

例 15)触れ合いコーナー、ポニー乗馬を遠足など団体(サークル、子供会などを含む)
で、利用される場合は必ず、事前の予約が必要となります。
(http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/soko/zoo-dan.htm)
例 16)今日は次男が、初めての遠足で東板橋公園に行ってきたそうです。(中略)
でもクラス皆で行くのは、また別でとても楽しかったようです。
           (http://www.k-uriba.com/diary/2004/0405/040518.htm)
例 17)本村にさしかかり、おかあさんとわかれねばならぬ場所が近づくと、さすが
のきょうだいもすこし不安になったらしく、かわるがわるきいた。
「おかあさん、ぼくらのピクニックのほうが早くすんだらどうしよう。」
「そしたら水月の下の浜で、石でもなげてあそんどればいい。」
(世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.405)
例 18)バスケットの中にはピクニックのセットが入っていた。ナイフとフォーク、
皿とカップ、そして変色して黄ばんでしまった白いナプキンが一セット、き
ちんと整理されて詰められていた。
(世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.808)

 例 15、例 16 から分かるように、「遠足」は弁当、飲み物などを持って単に行楽の
ために出かけるというだけではなく、幼稚園や学校の行事の一つ、つまり集団で、
見物や見学の目的で行楽に行くという意味特徴を持っている。このような場合は
「ピクニック」より「遠足」のほうがよく使われる。
 それに対して、「ピクニック」の特徴は例 17 と例 18 から分かるように、食べ物・
飲み物を持参し、野山や公園などでそれを楽しむことが主な目的であると考えら
れる。そのことから、野山や公園などに出かけずに、自分の家の庭で「ピクニック
を楽しむ」のように言えるのは「食事を楽しむ」という意味特徴が強いからであると
考えられる。例 17 と例 18 において、「ピクニック」の代わりに、「遠足」を用いると
不自然な文になるのはそのためであると考えられる。

3.3.「署名」と「サイン」の意味分析

 最後にこの節では、「署名」と「サイン」を取り上げ、両語の意味の類似点・相違
点について考察する。まず、以下の例を見てみよう。

例 19)彼はあの白い幻影をいまさらのように思い出す。あの瞬間、彼は終生の単独
行の契約書に署名して、山という偉大なる権力者の前に差出したように考え
られてならない。                (孤高の人、p.782)
例 20)私はエディに、自分の満足するような契約の条文を英語で書いてくれないか
と頼んだ。それをもとに、弁護士に英和二通の正式な契約書を作ってもらい、
それに全員でサインする。           (一瞬の夏、p.836)
例 21)契約書を机の上に置くと、思いがけぬほど穏やかな調子で、
「わかりました」と言った。
「それでは、みんなでサインしませんか」
私はポケットからボールペンを取り出した。     (一瞬の夏、p.851)

 例 19~例 21 から明確であるように「署名」と「サイン」は、両方とも印刷したもの
は不可能で、手書きで書く必要がある。また、賛成や承認の上で、「署名」あるい
は「サイン」をするということも共通の特徴であると考えられる。しかし、「署名」
と「サイン」には意味の違う面もある。次の例を見てみよう。
例 22)四人は狭い事務室で体をぶつけながら入れ替わり立ち替わり契約書に自分の
名を書き入れた。内藤が洒落たつもりで「JUN NAITOH」とサインすると、エ
ディが上機嫌で生意気ねと言った。         (一瞬の夏、p.853)
例 23)彼は極めて気分屋の人です。その性格はサインにも現れ、サインを貰うのが
難しい人物にリストアップされています。だからイニシャルだけの R.C.だけ
というものなんていうものがあるのです。
         (http://www.boots-room.com/01topics/spain/spain-04.html)

 サインは署名と重なるところもあるが、自分の名前を書いて賛成・承認を表す
場合に加え、おしゃれな感じで自分の名前を記すこともサインという。また、名
字と名前を書かかず、頭文字、つまり、自分のイニシャルを記してもサインとい
う言い方をする。場合によっては、走り書きではっきりとわからないように名前
を書くこともサインという言い方をする。(注 4)
それでは、続いて、次の例を見てみよう。

例 24)名誉会員 「山本五十六 草鹿任一 小沢治三郎 鮫島具重 武田哲郎 柳
川教茂」と六人の署名があり、日付は四月十三日、山本の前線巡視計画がラ
バウルから電報で出されたその晩になっている。  (山本五十六、p.1409)
例 25)作戦会議に列席している人々の間でさえ、精神的統一など夢であったのだ。
ギリシア人同士でも、西欧派のイシドロスと、教会合同に反対で署名(?サ
イン)さえ拒否した宰相ノタラスは、同席していながら、彼らの間では言葉
も交わそうとしなかった。    (コンスタンティノーブルの陥落、p.195)

 例 25 において、署名はあらたまった、正式的な感じがするのでサインは使いに
くくなる。「署名運動」のように使われ、署名はサインより正式なイメージがある
ことが分かる。

例 26)戦争初期のことではあるし、社内には一種のスターシステムが布かれ、派手
な特種を取れば、社会面に大きく署名入り(サイン入り)で記事が載った。
(あすなろ物語、p.209)
 例 26 は、賛成・承認のうえ、自分の名前を記すことが分かるので「署名」と「サ
イン」、両方用いられる。「署名」を用いた場合は、改まった正式的な感じがする。
それに対し、「サイン」を用いた場合は、その言い方が「署名」より軽い感じがする。

4.終わりに

以上本稿では、日本語の外来語を取り上げ、定義と分類を行った。次に和語・
漢語と外来語の間で類義関係にある語を取り上げ、意味分析を行った。分析の結
果の要点をまとめると以下の通りである。

「運転」:機械を操作する。動力のある乗り物を走らせる。複雑な構造を持つ機
械・乗り物(飛行機・船など)については用いられない。自転車は動力を持たない
が、「自転車を運転する」と言える。本人が操作することである。
「ドライブ」:乗り物を手段として、運転の過程と周りの景色などを楽しむこと。
自分自身が乗り物を操作しなくても使用可能。

「遠足」:日帰りで、飲食品を持参し、団体で野山などに出かけることを表す。幼
稚園や学校の行事などに主に使われる。サークルやクラブ仲間などの団体にも使
用可能。
「ピクニック」:景色と弁当(食事)を楽しむことを主な目的とし、日帰りで野山や
公園へ行くことを表す。家の庭でも可能。遠足より少人数。

「署名」:賛成・承認の上で、自分の名字と名前をはっきりと記すことを表す。改
まった正式的な使い方。
「サイン」:賛成・承認上の使い方もあるが、軽い感じで名字と名前を記す場合に
も使う。頭文字やイニシャルを走り書きで記す場合にも使う。有名人やスターの
サインという使い方もある。
その他に、「機会」と「チャンス」についても分析を行ったが、まだその結果が明
確にされていないため今回は除外することにした。
 それから、今回の分析では、「運転」と「ドライブ」、「遠足」と「ピクニック」、「署
名」と「サイン」の3つのペアしか扱えなかったが、今後の課題として、「贈り物」と
「プレゼント」、「試験」と「テスト」などのような類義的意味を持つ語についても考
察していきたいと思う。
このレポートを通じて、日本語の外来語について、いろいろ考えさせられ、前
よりよく理解できるようになったと思う。研究上難しかったのは、外来語の言葉
を選別し、分類することであった。しかし、言葉の成り立ちと語源についていろ
いろな点に気づき、とてもいい勉強になった。特に、外来語の特殊な使い方(2.
4.3)のところで述べた商標名の外来語である。
一方、電子工業が盛んである日本で発明された Pokemon、Play
Station、Walkman などはそれぞれ、グローバル化時代の波に乗って、世界の国々
に日本で名付けられた名前のまま知られるようになったことがわかった。これに
限らず、日本語の言葉が英語の中に入った場合もある。例えば、samurai 侍、
geisha (geisha girl)芸者、shogun 将軍、shogunate 幕府、kimono 着物、origami
折り紙、bonsai 盆栽、judo 柔道、karate 空手、sumo wrestling 相撲などがある。
また、日本語が語源となっている tsunami 津波、kamikaze 神風、hara-kiri 腹切り、
rickshaw 人力車、tycoon 大君などもある。さらに、typhoon 台風は日本語語源で
あると考えられがちであるが、そうではないことが分かってきた。また、アメリ
カで carry o.k.と発音されているのが日本語から英語に入ったカラオケであるが、
それは和製英語の(空+オケ orchestra)である。また、英語の anime はアニメがそ
のまま使われ、日本のアニメーションを指す言葉になったと分かってきた。した
がって、言葉が生まれ、時代の流れに沿っていろいろ変形して行くことを強く感
じた。その面で、日本語の外来語に対する柔軟性と創造性はダイナミックで、印
象的だと思うようになった。
そしてその上、辞書の記述だけに頼らず、日本語母語話者に言葉の使用を判断
してもらった結果、辞書の記述の範囲を超えた使い方もあると分かってきて、大
変勉強になったと思う。これからも、日本語の外来語だけではなく、様々な言葉
の意味に対して自分の知識を広め、研究を深めて行きたいと思う。
【注】

(注1) 本稿において、例文は主に『CD-ROM 版 新潮文庫の 100 冊』(1995)と


『CD-ROM 版 新潮文庫の絶版1 00 冊』(2000)から引用した。作品名、掲載
ページは引用した文の後ろにかっこつきで示した。インターネットからの引
用はそのホームページのURLを示した。検索エンジンは「実例出典」を参照
されたい。出典の付していない例は作例である。なお、引用例の中で分析対
象となっている二つの語同士が、それぞれ置き換えが可能かどうかについて
は日本語母語話者に判断してもらった。
(注 2) 外来語をカタカナ語と呼ぶことがある。これは、外来語は基本的にカタカ
ナで表記するからである。だが、厳密に言えば、カタカナで表記されるすべ
ての語が外来語とは限らない。つまり、カタカナが用いられているのは外来
語また、外国の人名や地名だけではなく、難しい漢字の用いられた日本語の
生物名や植物名もカタカナで書かれることがある。さらに、筆者がある言葉
を強調して使う場合と、ヒト、モノのような使い方の場合にも使われる。日
本語の擬声語・擬態語もカタカナで表記されることがある。(深尾(1979))
(注 3) かつて外来語に当て字を当てることや外来語を翻訳することもあった。例
えば、硝子(ガラス)、護謨(ゴム)、木乃伊(ミイラ)、瓦斯(ガス)、麦酒(ビ
ール)、燐寸(マッチ)などがあげられる。しかし、現在では、ほとんど使わ
れなくなった。ただ、頁(ページ)、釦(ボタン)、倶楽部(クラブ)、珈琲(コ
ーヒー)、煙草(タバコ)などの例は希ではあるが漢字のほうを使うこともあ
る。また、テニス(庭球)、バレー・ボール(排球)、サッカー(蹴球)、ビリヤ
ード(撞球や玉突き)のように外国から入ってきたスポーツは、当初は日本語
に翻訳されて取り入れられたが、時代の流れとともに、だんだん外来語(カ
タカナ)のほうを使うのが一般的となってきた。もちろん、「野球、ベース・
ボール」「卓球、ピンポン」のように翻訳語と外来語の両方が使われている例
もある。
(注 4) 次の例文を見てみると「サイン」にはいわゆる「合図」の意味もある。「署名」
にはこのような意味はない。
① そして、ぱっ!といなくなってしまった。長官はあわててピストルの引金
をひいたが、庭の土の中のモグラ三匹に重傷をおわせただけである。ディ
レクターから司会者にサインがきた。「時間がない!おわりの挨拶!」
(ブンとフン、p.163)

また次の例文のように、「サイン」には英語の「autograph」に当たる意味も
あることが分かる。「署名」にはこのような意味はない。

② 私が大きく頷くと、少年は手にしたバッグからノートとボールペンを取
り出し、内藤に差し出した。サインをしてくれということのようだった。
(一瞬の夏、p.987)

参考文献

1.あらかわ そおべえ(1984) 「じつは外来語だった」『言語生活』391 号 pp.24-


49 明治書院
2.石綿敏雄(1984) 「外来語論争史」『言語生活』391 号 pp.14-23 明治書院
3.石綿敏雄(1992) 「外来語と日本文化」『日本語学』3 月号 pp.25-32 明治書院
4.楳垣実(1963) 『日本外来語の研究』 研究社
5.陣内正敬(2003) 「外来語の課題と将来像」『日本語学』7月号 pp.12-18 明
治書院
6.高橋圭三(1984) 「外来語と私」『言語生活』391 号 pp.72-78 明治書院
7.田中牧郎(2003) 「外来語言い換え提案について」『日本語学』7月号 pp.50-60
明治書院
8.張威(1999) 「外来語について」『日本語・日本文化一年研修コース研究レ
ポート集』pp.377-427 名古屋大学留学生センター
9.戸村幸一(1984) 「外来語を積極的に使うことの是非について」『言語生活』391
号 pp.50-66 明治書院
10.深尾凱子(1979)『カタカナことば』 サイマル出版会
11.文化庁編(1997)『新「ことば」シリーズ6言葉に関する問答集-外来語編-』 
大蔵省
12.文化庁編(1998)『新「ことば」シリーズ8言葉に関する問答集-外来語編-』 
大蔵省
13.吉沢典男・石野博史・江川清(1984) 「外来語の現状を考える」『言語生
活』391 号 pp.2-13 明治書院

辞書類
1.金田一春彦・梅忠夫(1997) 『日本語大辞典』第 2 版 講談社
2.金田一春彦・池田弥三郎(1985) 『学研大辞典』学習研究社
3.金田一京助(1997) 『新明解国語辞典』 三省堂
4.柴田武・山田進(2002) 『類語大辞典』 講談社
5.中村洋一郎(1990) 『カタカナ用語の意味が分かる辞典』 日本実業出版社
6.吉沢典男・石綿敏雄(1979) 『外来語の語源』 角川書店
7.吉沢典男・土岐島雄(1979) 『図解外来語辞典』 角川書店

実例出典
1.『CD-ROM 版 新潮文庫の 100 冊』(1995) NEC
2.『CD-ROM 版 新潮文庫の絶版1 00 冊』(2000) NEC
3. 検索エンジン (http://www.google.ne.jp)

外来語について
-分類と和語・漢語と外来語の類義語分析-
                           
                 アグラハリ・アプルワ
                     AGRAHARI, APOORVA

目次

1. はじめに

2. 外来語について-和語・漢語との関係
2.1.外来語の定義
2.2.和語・漢語・外来語の関係
2.3.外来語導入の理由
2.4.外来語の分類
2.4.1.文法的な側面からの分類
2.4.2.意味的な側面からの分類
2.4.3.特殊な使い方

3. 和語・漢語と外来語の類義語分析
3.1.「運転」と「ドライブ」の意味分析
3.2.「遠足」と「ピクニック」の意味分析
3.3.「署名」と「サイン」の意味分析

4.終わりに

参考文献

外来語について
-分類と和語・漢語と外来語の類義語分析-

1.はじめに

本稿では、日本語における外来語を取りあげ、その性質を明らかにした上で、
和語・漢語とそれに対応する外来語とが類義関係にある場合、どのように使い分
ければいいかについて考察する。
まず、このテーマを選んだ理由について簡単に述べたいと思う。去年日本に来
て、日本人と話をしていた時、自分の食生活について聞かれ、「菜食主義者です」
と答えたら、「あっ、ベジタリアンですか」と言われたことがある。「魚などの海産
物、肉類などをとらず、穀物や野菜・果物類だけを食べる人」という意味で、国で
は「菜食主義者」と習っており、そのつもりで使ったのに、その時どうして英語の
vegetarian から由来した「ベジタリアン」に直されたのかと不思議に思った。「菜食
主義者」と「ベジタリアン」は意味が違うのか、違うならどう違うのかという疑問が
頭に浮かんできた。また、日本人の友達と買い物に行った時、「主に女性が履く、
ふくらはぎの上まである長い靴」を見て、「あの長靴かわいいね。OOちゃんによ
く似合うと思うよ」と言ったら、その友達は「あの黒いブーツか。うん、かわいい
ね」と答えた。その時、「長靴」と「ブーツ」は違うものなのかと思い、家に帰って辞
書を引いてみたら、二語はほとんど同じような意味記述がされていた。しかし、
その後、他の本を読んだり、何人かの日本人に聞いたりして、両語には違いがあ
ることがわかった。まず、「ベジタリアン」はおしゃれで、格好いい感じがすると
いうことで口語的な使い方のほうが多く、「菜食主義者」は硬くて古めかしい感じ
がすることから文語的な改まった使い方のほうが多いということである。次に「長
靴」といった場合は雨の時や農作業の時などに履くゴムでできた靴のイメージがあ
るが、「ブーツ」といった場合は日常において、女性がよく履くおしゃれな、皮で
できた靴のイメージがある。
このように、日本語の中には外国語から借り入れられた外来語と意味が似てい
る本来の日本語、つまり、和語・漢語があり、どんな時どちらを使えばいいかと、
何回も迷ったことがある。前述のようないくつかの出来事をきっかけに、外来語
の使用についていろいろ考えさせられ、本来の日本語(和語・漢語)と外来語の中
で、意味の似ているペアを取りあげ、比較することにした。日本語学習者がどち
らを使っても、相手にだいたいの意味は通じるかもしれないが、日本人には不自
然に聞こえ、場合によっては、まったく意味がずれてしまうケースもある。
一般的に外来語は、日本に今まで存在しなかった事物や現象を表すために、あ
るいは言葉に新鮮さを求めるためにといった理由で日本語の中に取り入れられる
が、その外来語は元々の外国語の意味や使い方と必ずしも一致しない。つまり、
外国語の元々の意味の範囲を拡大したり、縮小したりして使われている場合もあ
れば、元々の意味とまったく違う意味や使い方の場合もある。中には、和製英語
のように日本人が英語を使って作った新しい外来語、つまり、英語の中には存在
しないものもある。(詳しくは後述)
以上のように本稿では、外来語の様々な種類について考察し、また上にも指摘
したように、漢語・和語と外来語の中で互いに意味の似ている語のペアを取り上
げ、意味分析を行う。研究方法としては、まず、先行研究を整理・検討し、漢
語・和語と関連づけながら外来語の定義と分類を行う。次に、意味の似ている漢
語・和語と外来語のペアを取り上げ、日本語の文学作品やインターネットのホー
ムページなどから分析対象語の用いられた実例を収集する。さらに、先行研究を
踏まえて分析を行い、両者の意味の共通点と相違点を明らかにする。(注1)

2.外来語について-和語・漢語との関係

2.1.外来語の定義

本稿では、外来語と和語・漢語の間で類義語関係にある語を取り上げ、その類
似点・相違点を明らかにすることを目指す。それに先だち、和語、漢語、外来語
について検討する必要があると考え、本節では、外来語の定義と外来語と和語・
漢語との関係について見ていくことにする。
まず、外来語の定義については、主に楳垣(1963)、日本語大辞典(1997)、柴田
(1987)、学研国語大辞典(1985)を参考にし、以下のように示す。(注 2)
まず、楳垣(1963:11)では、「外来語とは、他国語の語句を自国語の中に借り入
れて、その使用が社会的習慣化したもののことである。言い換えれば、外来語と
は、外国語の語句をだいたいもとの形で自国語に借り入れて、一般に自国語とし
て使っているもののことであるということになる」と述べられている。
次に、日本語大辞典(1997:351)は、「外国語から取り入れて、その国の国語と
して使われるようになった言葉である」と説明している。
また、柴田(1987:140)は、「外の言葉から、文化の一部として入ってきてその
言語の語彙体系の中に自分の座を獲得した単語のことである」としている。
さらに、学研国語大辞典(1985)では、「外来語を外国の言語から入ってきて、同
化して、その国の言葉のように用いられる語である」と述べられている。
以上の先行研究に基づいて、外来語を定義すると次のように示すことができる。
外来語とは、主に、日本にはない事物を示すために、外国語から日本語の中に
取り入れられ、定着し、一般に日本語として使われている言葉のことである。

但し、楳垣(1963)、学研国語大辞典(1985)にも指摘されているように、外国か
ら日本語の中に入ってきたすべての語が外来語であるとは言い切れない。という
のは、いわゆる漢語も中国から取り入れられたものであるから、外来語といっても
良いはずであるが、習慣として漢語は外来語に含めない。漢語は奈良時代からき
わめて大量に取り入れられ、それまで文字のなかった日本語を書き表すために、
借用されたと言われている。その結果、日本人はかなり古くから日本語の中に定
着した漢語に対して、外来語という意識がほとんどなく、既に日本語に定着して
いるため、漢語は外来語に含めないのが一般的となっている。しかし、近代中国
から借りてきた「チャーハン(炒飯)」、「マージャン(麻雀)」、「ウーロン茶(烏龍
茶)」、「ギョーザ(餃子)」などは一般的に漢字をそのままの形かカタカナの形で示
し、外来語として扱うのが一般的である。これ以外に、本稿において「外来語」と
いった場合は、漢語は含めないことにする。
一方、仏教用語の中には、いわゆる梵語といわれるものがある。これはインド
のサンスクリト語が起源であるから、厳密に言えばこれも外来語として扱うべき
であるが、時代とともに、仏教は日本の主な宗教となっており、またこれらの語
は中国を経て(中国語化したものから)日本語に入ってきているので、インド語源
といっても日本語に定着しているため、これらの語は外来語に含めないのが一般
的となっている。例としては「だるま(達磨)」、「ぶっだ(仏陀)」、「ねはん(涅槃)」、
「もんじゅ(文殊)」、「ぼさつ (菩薩) ぼだいさったの略」、「あしゅら(阿修羅)」な
どが考えられる。

2.2.和語・漢語・外来語の関係

それではここで、主に、楳垣(1963)、吉沢他(1979)、張(1999)を参考にし、日
本語を構成している和語、漢語、外来語の関係について簡単に述べたいと思う。
和語:和語とは、日本に元々存在した語彙、つまり、日本本来の言葉で、助詞、
助動詞または接続詞のように仮名で書かれたものである。また、漢字で書かれて
いても訓読みされるものは和語として扱う。例は以下のようなものがある。
助詞、助動詞、接続詞:「が」、「を」、「らしい」、「しかし」、「けれども」など。
漢字で書かれ、訓読みされるものとして、名詞の「お父さん」、「部屋」、動詞の「待
つ」、「切る」、形容詞の「美しい」、「鋭い」、形容動詞の「爽やか」、「鮮やか」、「静
か」などがあげられる。(文化庁(1998)、張(1999))

漢語:漢語とは古く中国から伝来された言葉で、漢字で書かれ、音読みされるも
のである。例は「住宅」、「瞬間」、「国家」などがあげられる。その他に、「火事」、
「大根」、「返事」、「峠」のようないわゆる和製漢語というものもある。(あらかわ
(1984)、張(1999))

外来語:外来語とは、漢語を除く外国語、主としてヨーロッパの諸言語から日本
語の中に入ってきた言葉で、日本語の語彙体系の中に自分の座を獲得したものを
指す。外来語の中のほとんどは英語からきたものであるが、ポルトガル語、オラ
ンダ語、フランス語、ドイツ語、イタリア語から入ってきたものもある。たとえ
ば、「ガーゼ」、「パン」、「ガラス」などはそれぞれ「ドイツ語」と「ポルトガル語」と
「オランダ語」から入ってきたものである。(張(1999))

2.3.外来語導入の理由

歴史を遡ってみると、日本が外来語をはじめて導入したのは16世紀の室町時
代であると言われている。明治時代以前の日本は、鎖国政策により、一部の国を
のぞき、他国との交流が厳禁されていたので外来語の数も少なく使用率も低かっ
たが、明治時代に入り、外国との交流が増えるにつれて語数も増加し、使用も一
般化してきた。明治以前は、「蛮語」「舶来語」という名で呼ばれていたが、明治以
降からは世間一般にもかなりなじみの深いものとして認識されるようになった。
それでは、ここで日本語における外来語はどのような理由で入ってきたかを簡
単に述べたいと思う。まず、考えられるのは社会的な背景である。明治時代以降、
外国との交流が増えるにつれて、今まで日本にはなかった事物や新しい現象が数
多く入って来るようになった。その場合、翻訳をするなどして既存の日本語を使
って表す場合も考えられるが、ただそれだけでは適切に表せない場合が出てくる。
そこで、外国語から当該の事物や現象を表す語を借りてきて、その語の発音を日
本語の五十音に合わせて作った言葉を日本語の一部、外来語として使うようにな
ったのである。例えば、アルバイト(ドイツ語)、アルコール(オランダ語)、ズボ
ン(フランス語)、ビロード(ポルトガル語)などがあげられる。(注3)(石綿
(1984)、田中牧郎(2003))
外来語導入のもう一つの理由はいわゆる心理的な背景である。日本語に同じ事
物や現象を表す語が既に存在しているのに、導入される場合で、これは人間の一
般的な心理として、新奇さを求めるところから来る場合が多い。つまり、言い方
が古い感じがするという理由で単なる新鮮なイメージを求める場合である。例え
ば、「便所」の代わりに「トイレ」、「帳面」の代わりに「ノート」、「写真機」の代わり
に「カメラ」、「背広」の代わりに「スーツ」、「乳母車」の代わりに「ベビーカー」、「道
化師」の代わりに「ピエロ」などがあげられる。また、日本に存在している事物に似
ていることを表す外来語もある。例えば、「百貨店、デパート」、「お菓子、ケー
キ」、「旅館、ホテル」、「手ぬぐい、タオル」。本稿では、このような、意味の似て
いる語を考察対象とし、両者の共通点と相違点を明らかにする。(高橋(1984))

2.4.外来語の分類

日本語の外来語は様々な形があり、その使い方も様々である。また、外国語の
本来の意味をほとんど変えずに取り入れたものもあれば、もともとの意味と違う
意味で使われるものもある。以下では、外来語を文法的な側面、意味的な側面、
特殊な使い方という三つのグループに分けて考察する。

2.4.1.文法的な側面から分類

名詞としての使い方:外国の事物を表すのが外来語の主な役割であることを考え
れば、外来語の中には多くの名詞が存在する。例は以下の通りである。
「ラジオ」、「チョコレート」、「クリーム」、「ギター」、「カセット」、「ジーンス」な
ど。

動詞としての使い方:外来語の言葉を動詞として取り入れる時は、当該の外来語
に「する」または、外来語の語尾に「る」を加えて、動詞化して使う。例は以下の通
りである。
「デートする」、「キスする」、「エスカレートする」、「デモる」、「サボる」、「アジ
る」、「ダブる」など。
それ以外に、「メモる」、「コピる」、「ビニる」、「タクる」、「パロる」などのような
例もあるが、これらは主に若者の間で作られ、流行っている言葉であり、一般的
なものとは言い難い。

形容動詞としての使い方:日本語の中に形容動詞を表す働きを持っている「な」が
あるため、外来語に「な」または「に」を付けて形容動詞化する場合である。例は以
下のようなものがある。
「ハードな」、「ソフトな」、「ウェットな」、「シンプルな」、「オリジナルな」、「ユニ
ークな」、「スムーズな」、「デリケートな」など。

形容詞としての使い方:外来語の語尾に「い」をつけて、形容詞化して使われる例
は非常に少ない。主に若者を中心に作られ、流行している場合が多く、定着して
使われている語はほとんどない。例は以下の通りである。
「ナウい」、「エロい」、「キャバい」など。
これらの語は、一時的にはやり、時が経つにつれてだんだん使わなくなって消え
てしまう語であると考えられる。

混種語:混種語は外来語と日本語(和語・漢語)を組み合わせて作った言葉である。
例は以下の通りである。
「板チョコ」、「満タン」、「ガス欠」、「自己 PR」、「懐メロ」、「脱サラ」、「輪ゴム」、
「夏バイト」、「省エネ」、「どたキャン (土壇場でキャンセルする)」、「口コミ」、
「安全ピン」、「名コンビ」、「酎ハイ」、「豚カツ」など。
その他に、英語と英語の組み合わせや英語と他の外国語との組み合わせもあるが、
これらの語は和製外来語として扱い、2.4.3.節で詳しく述べる。

略語:略語は外来語のスペルをそのまま表記することではなく、一部分だけの音
をとって表す言葉である。スペルの長い言葉を短縮化したものもあり、二語の場
合はそれぞれ最初の部分を取り、結びつける。例としては次のようなものがあげ
られる。和製英語やローマ字表記の語は略語として分類することも可能であるが、
ここでは別のグループに分けて考察する。略語の例として以下のような例があげ
られる。
「スト」、「レジ」、「プロ」、「アド」、「アパマン」、「リモコン」、「デジカメ」、「ラジ
カセ」、「セクハラ」など。
           (陣内(2003)、吉沢他(1984)、戸村(1984)、文化庁(1997))

2.4.2.意味的な側面からの分類

意味が縮小された場合:意味が縮小されたというのは、ある外来語が日本語に入
ってきた際に、元の外国語が持っている意味より、狭い意味で使われる場合であ
る。例えば、「レジュメ」は「概要」の意味で使われているが、英語またはフランス
語(語源)では resume′は「履歴書」という意味も持っている。日本語ではそのよう
な意味では用いられない。また、英語で accessory は装飾品の意味でネクタイ、
香水、バッグなども含まれているが、日本語の「アクセサリー」は宝石類、貴金属
製のネックレスや指輪などに限られている。さらに、英語の young は、若者はも
ちろん、子供・幼児に対しても使うが、日本語の「ヤング」は、若者の意味でしか
使わない。

意味が拡大された場合:元の外国語が持っている意味より、広い意味で使われる
場合である。例えば、日本語の「トレーナー」は「運動選手の健康を管理し、練習の
指導をする人、馬などの調教師(trainer)」の意味と「競技者などが着る練習着
(sweat shirt)」の意味がある。英語の場合は前者の意味しかない。同様に、日本
語の「サービス」は service と同じく「レストラン、ホテルなどで客のために気を配
ってつくすこと」の意味と「品物を売るとき、客の便宜を図ったり値引きや景品を
つけたりすること」の意味があるが、英語の場合は前者の意味しかない。さらに、
日本語の「ハンドル」は「ドアなどの取っ手」と「車・機械などを運転操作する部分
(steering wheel)」という二つの意味を持っているが、英語の場合は後者の意味は
ない。
一方、「マイホーム(my home)」、「マイカー(my car)」、「マイペース(my pace)」
のような外来語がある。日本では、これらの言葉を自分以外の人に対しても使う
ことができるが、英語の場合はできない。つまり、日本語では「太郎君、マイカー
持っている?」のように「自分所有のもの」という意味で人称と関係なく使うことが
できるということである。英語の場合は、「my car」といった時、もっぱら話し手
自身のことしか表せない。それ以外に、「マイペース」などの表現もあげられる。

意味がずれた場合:もともとの外国語と外来語の間に共通点が少ないか、または
共通点がない場合である。例えば、日本語で「カンニング」といった場合は、「試験
で受験者が監督者の目を盗んで不正行為をする」ことを表す。つまり、英語の
cheating に当たる。カンニングに当たる英語は「cunning」で、「悪知恵、ずるさ」と
いう意味であり、両語は意味がずれていることが分かる。また、日本で「タレン
ト」といった場合は「テレビ・ラジオなどに出演する芸能人」を意味するが、英語の
talent は「才能、才能のある人」という意味である。さらに、日本の「マンション」
は集合住宅の一つであるが、英語の場合は立派な豪邸を意味する。そして、「バイ
キング」は、英語で viking と書き、もともと海賊のことであるが、日本語では、
各種の料理を並べ、客が好みによって自由に取って食べられる方式の食事の一つ
を意味する。
その他に、まだ日本語として定着はしていないが、「ギャル」という言葉がある。
髪を金髪に染め、厚い化粧をした活発な若者(女性)のことを指す。英語の girl は
このような意味としては使わない。(石綿(1992))

2.4.3.特殊な使い方
和製外来語(和製英語):これらは主に、英語または、他の外国語の言葉を使って
日本人が独自に作った言葉である。元の言葉の形を変えたり、二つ以上の言葉を
結びつけたりし、新しい言葉を作る場合である。従って、元の外国語には存在し
ない言葉である。
まず、英語を使った例は以下のようなものがあげられる。
「ナイター」、「アイターン」、「スキンシップ」、「アクアポリス」、「ベッドタウン」、
「ゴーストップ」、「コスプレ」、「ポケベル」、「プリクラ」、「オート・バイ」、「ジ
ー・パン」など。
以上の例には「ナイター」、「アイターン」、「スキンシップ」、「アクアポリス」は
それぞれを英語にすると nighter、I-turn、skinship、aquapolis になるが、この
言葉は英語に存在しないものである。まず、「ナイター」は夜間試合・夜に照明の
下で行う試合(主に、野球)のことを意味し、「アイターン」は都会出身者が地方に
就職・再就職することを指す。また、「スキンシップ」は人間関係を確立するため
の肌の触れ合い、また親が愛情を伝えるために、直接子供と体を触れ合うことで
あり、「アクアポリス」は人工の海上都市を意味する。さらに、「ベッドタウン」は
bed と town を組み合わせた語で、働く人々が夜寝るためだけに帰る町(住宅地区)
のことを意味し、「ゴーストップ」は交通信号の「進め」go と「止まれ」stop という意
味で使われている。その他に「コスプレ」costume+play、「プリクラ」print+club、
「ポケベル」pocket+bell、「オート・バイ」auto+bike、「ジー・パン」jeans+pants の
ような例もある。
続いて、英語と他の外国語を組み合わせた場合、つまり、二つの外国語の言葉
を組み合わせた語を取り上げる。
まず、「マッチポンプ」はマッチ(matchstick、英語)とポンプ(pomp、オランダ
語)を組み合わせた語で、自分で起こしたもめごとを鎮めてやるという意味を表す。
その他、「クラフト・ペーパー」のように kraft(ドイツ語)と paper(英語)からなっ
ているもの、「オムライス」のように omelette(フランス語)と rice(英語)からなっ
ているものもある。また、日本が今直面しているフリーター問題の「フリーター」
は free(英語)と arbeiter(ドイツ語)からなっている言葉である。
ローマ字表記の語:ローマ字表記の語は英文字の省略語をそのまま使ったり、和
製英語の頭文字を取ったりして作った言葉である。例は以下の通りである。
「OK」、「OB」、「TV」、「GW」、「OD」、「CM」、「OL」、「TPO」、「PHS」、「1LDK」。
これらの言葉の読み方については、ローマ字のまま読むものもあれば、元の長
い言葉の読みをする場合もある。以上の例の中で、「OK」、「OB」は英語の省略語が
そのまま使われ、頭文字で呼ばれるが、「TV」はローマ字で書かれるが、読む時は
「テレビ」と読まれることがある。和製英語の「GW」golden week、「OD」over doctor
はローマ字で書かれるが、それぞれ英語の発音通りに読まれる。「CM」commercial
message は元の長い読み方でも読まれるし、ローマ字のままでも読まれることもあ
る。「OL」office lady と「TPO」(時 time 場所 place 場合 occasion の意味で服装の選
択や行動の基準となる 3 要素)と「PHS」personal handyphone system((日本の)簡易
型携帯電話)と「1LDK」1 living,dining,kitchen(居間・食堂・台所を兼ねる洋風の
部屋)はローマ字のままで読まれるが、英語には存在しない言葉であるから、和製
英略語であるといってもいいだろう。

商標名:外来語は、日本に今まで存在しなかった事物や現象を表すために外国語
から取り入れるのが一般的であるが、商標(商品)の名付け方にはやや特殊な場合
もある。つまり、当該の商標(商品)について日本独自の名付け方をするというこ
とである。例としては以下のようなものがある。

・ホッチキス:紙をとじ合わせる器具で、コの字型のとじ金を押さえて留める。
発明者である米国の「B.B.ホッチキス」の名にちなむ名前で、アメリカのメーカ名
である。米国や英国では「paper fastener」、「stapler」と呼ばれている。

・クラクション:自動車の警笛のことであり、米国の「klaxon」製造会社の名が語
源である。米国や英国では「horn」や「siren」と呼ばれる。

・シャーペン:シャープ・ペンシルの略で、形は万年筆に似ており、インクの代
わりに鉛筆の芯のようなものを使う。1837 年に米国で発売された商標名「ever-
sharp」が語源である。米国や英国では「mechanical pencil」、「clutch pencil」と
呼ばれている。

・ビー玉:子供の遊び用のガラスの玉のことである。語源は不明であるが、ビー
玉の「ビー」は、「B」であり、元々業界用語で、輸出の際に、着色される玉を「A
玉」、透明なものを「B玉」と呼ぶことからきたという説がある。一方では、ポルト
ガル語でガラスを「ビードル」と言い、室町時代にポルトガル人が来日し、ガラス
の製造方法を伝える際に、「ビードル玉」を「ビー玉」に省略して使ったことからき
たという説もある。

3.和語・漢語と外来語の類義語分析

類義語分析方法はいろいろあるが、本稿では、例 8)のように類義語以外の部分
がまったく同じである文を比較しながら、両語の置き換えが可能かどうかを検討
する。両方言える場合、それぞれが持つ意味特徴のどの部分が類似していて、ま
たどの部分が違うかを明らかにする。また、置き換えが不可能な場合、どういっ
た理由でそうなのかを考察する。
2.2.では、外来語の導入の理由として心理的な理由を取り上げ、日本語の
中に既に意味の似ているものを表す表現があっても外来語が入ってきた場合があ
ると指摘した。そこで当然出てくる問題が両語の意味の違いである。日本語学習
者の場合は、両語の意味を辞書などに書かれている説明を見て、理解するわけで
あるが、それだけではなかなか違いが分からない。そこで、本稿ではこのような
ペアを取り上げて、相互の意味の類似点、相違点について分析を行う。本稿で取
り上げる例は以下の通りである。

「運転」と「ドライブ」
「遠足」と「ピクニック」
「署名」と「サイン」

3.1.「運転」と「ドライブ」の意味分析
この節では、漢語の「運転」と外来語の「ドライブ」を取り上げ、分析を行う。ま
ず、次の例文を見てみよう。

例 1)ぼくらはやたらとかんだかいことばを投げかわしながら車にとびのり、今度
は侯爵が運転した。                  (聖少女、p.245)
例 2)私は新車で友達とドライブに出かけた。

以上の例から分かるように、「運転(する)」と「ドライブ(する)」は「自動車を操作
して走らせる」という共通点を持っていると考えられる。それでは続いて、先行研
究を踏まえて(主に、「新明解国語辞典・類語大辞典」などの辞書類)、「運転」の意
味について考察する。
次の例を見てみよう。

例 3)バス/タクシー/耕耘機を運転する。

この例から「運転」の意味は、「機械や動力のある乗り物を操作して走らせるこ
と」と示すことができる。但し、機械や乗り物すべてに対して「運転する」が使える
わけではない。例えば、構造が非常に複雑であり、操作に高度な技術や能力を必
要とする飛行機については「運転する」とは言わず、「操縦する」という言い方をす
る。一方、自転車は「運転」の定義からすると、燃料ではなく、人が自分の足の力
で動かすので、当てはまらないことになるが、実際には「自転車を運転する」も可
能である。だが、日常では「自転車に乗る」という言い方が一般的であると考えら
れる。これはわりと構造が単純であり、容易に操作できる乗り物であるから「運転
する」という言い方をしないのかもしれない。
次に「ドライブ」の意味について考察する。

例 4)ベンツでドライブする。
例 5)フン先生、わたしとドライブにいきませんか。気分がすーっとしますよ。
                        (ブンとフン、p.260)
例 6)女の子とは、夕方、新宿の喫茶店で知りあい、湘南の海岸にドライブに行こ
う、と連れてきた子で、車は第三京浜を走っていた。   (冬の旅、p.123)

まず、例 4 から言えることは、「ドライブ」は単に車を操作するということではな
く、車を利用する、つまり手段としていることが分かる。また、例 5、6 から分か
るように「運転という過程と周りの景色などを楽しむこと」であると言える。
以上のことから、「ドライブ」の意味は、「自動車に乗って、(景色のいいところな
どを走ったりして)楽しむこと」と示すことができる。
それでは、次に「運転」と「ドライブ」の相違点を考察する。以下の例を見てみよ
う。

例 7)a 車を運転する。
b 車でドライブする。
例 8)助手席に坐り、高崎の寂しい夜の繁華街に眼をやりながら、私は運転(*ドラ
イブ)している森田に訊ねた。             (一瞬の夏、p.529)
例 9)女の子とは、夕方、新宿の喫茶店で知りあい、湘南の海岸にドライブ(*運
転)に行こう、と連れてきた子で、車は第三京浜を走っていた。   (=例 6)

まず、例 7 から言えることは、「運転」の場合は車が対象になる。つまり車を操
作すること自体が運転である。それに対して、上でも指摘したように、「ドライ
ブ」の場合は車が手段になる。つまり、車そのものを操作することだけが目的では
ないということである。
これは、例 8 と 9 で説明ができると考えられる。例 8 と 9 において、「運転」を
「ドライブ」に、「ドライブ」を「運転」にそれぞれ置き換えることができない。その
理由は、「運転」は車を走らせることだけだが、「ドライブ」はそれだけではなく、
「景色のいいところを走りながら、楽しむ」という意味もあるからである。
さらに次の例を見てみよう。
例 10)半身不随でベッドにころがっているどころか、ひさしぶりに自分で車を運転
(*ドライブ)して会社にでかけていたのです。第一、父の病気は脳溢血では
ありませんでした。                  (聖少女、p.450)
例 11)ドライブ(*運転)。いつも助手席にすわっているんじゃ物足りない。時には
自分でハンドルを握り、お気に入りの服を着こなすように、車も上手に着こ
なしたい。(http://www.e-colle.com/mag/act/trv/trv0401/trv04011.html)

例 10 と例 11 の場合においても、「運転」を「ドライブ」で、「ドライブ」を「運転」で
言い換えることができない。その理由は、「運転」の場合は、自分自身が車のハン
ドルを握って操作することだが、「ドライブ」は自分が直接ハンドルを握らなくて
も(つまり、助手席などに座っても)、「景色のいいところを走りながら、楽しむ」
というような意味があれば、用いられるからである。例 10 において、「ドライブ」
が言えないのは、「景色のいいところを走りながら、楽しむ」という解釈ができな
いからである。

3.2.「遠足」と「ピクニック」の意味分析

本節では、漢語の「遠足」と外来語の「ピクニック」を取り上げ、意味分析を行う。
まず、以下の例を見てみよう。

例 12)夏になると、島には沢山青いゴリがなった。城山へ遠足に行った時なんか、
弁当を開くと、裏で出来た女竹の煮たのが三切れはいっていて、大阪の鉄工
場へはいっていた両親を、どんなにか私は恋しく思った事です。
                             (放浪記、p.568)
例 13)それから台所に行って、床にちらばった食品の中からパンを二個とコンビー
フと桃とソーセージとグレープフルーツの缶詰をあつめて、ナップザックの
中に入れた。水筒にもたっぷりと水を入れた。次にズボンのポケットに家に
置いてあった現金のぜんぶをつっこんだ。「ピクニックみたいね」と娘は言っ
た。       (世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.632)
例 14)a 日帰りで遠足(ピクニック)に行く。
 b *2 泊 3 日で遠足(ピクニック)に行った。

以上の例から「遠足」と「ピクニック」は「弁当、飲み物などを持って行楽のために
日帰りで野山や公園などに出かける」という共通点を持っていると言える。
続いて、次の例を見てみよう。

例 15)触れ合いコーナー、ポニー乗馬を遠足など団体(サークル、子供会などを含む)
で、利用される場合は必ず、事前の予約が必要となります。
(http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/soko/zoo-dan.htm)
例 16)今日は次男が、初めての遠足で東板橋公園に行ってきたそうです。(中略)
でもクラス皆で行くのは、また別でとても楽しかったようです。
           (http://www.k-uriba.com/diary/2004/0405/040518.htm)
例 17)本村にさしかかり、おかあさんとわかれねばならぬ場所が近づくと、さすが
のきょうだいもすこし不安になったらしく、かわるがわるきいた。
「おかあさん、ぼくらのピクニックのほうが早くすんだらどうしよう。」
「そしたら水月の下の浜で、石でもなげてあそんどればいい。」
(世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.405)
例 18)バスケットの中にはピクニックのセットが入っていた。ナイフとフォーク、
皿とカップ、そして変色して黄ばんでしまった白いナプキンが一セット、き
ちんと整理されて詰められていた。
(世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.808)

 例 15、例 16 から分かるように、「遠足」は弁当、飲み物などを持って単に行楽の
ために出かけるというだけではなく、幼稚園や学校の行事の一つ、つまり集団で、
見物や見学の目的で行楽に行くという意味特徴を持っている。このような場合は
「ピクニック」より「遠足」のほうがよく使われる。
 それに対して、「ピクニック」の特徴は例 17 と例 18 から分かるように、食べ物・
飲み物を持参し、野山や公園などでそれを楽しむことが主な目的であると考えら
れる。そのことから、野山や公園などに出かけずに、自分の家の庭で「ピクニック
を楽しむ」のように言えるのは「食事を楽しむ」という意味特徴が強いからであると
考えられる。例 17 と例 18 において、「ピクニック」の代わりに、「遠足」を用いると
不自然な文になるのはそのためであると考えられる。

3.3.「署名」と「サイン」の意味分析

 最後にこの節では、「署名」と「サイン」を取り上げ、両語の意味の類似点・相違
点について考察する。まず、以下の例を見てみよう。

例 19)彼はあの白い幻影をいまさらのように思い出す。あの瞬間、彼は終生の単独
行の契約書に署名して、山という偉大なる権力者の前に差出したように考え
られてならない。                (孤高の人、p.782)
例 20)私はエディに、自分の満足するような契約の条文を英語で書いてくれないか
と頼んだ。それをもとに、弁護士に英和二通の正式な契約書を作ってもらい、
それに全員でサインする。           (一瞬の夏、p.836)
例 21)契約書を机の上に置くと、思いがけぬほど穏やかな調子で、
「わかりました」と言った。
「それでは、みんなでサインしませんか」
私はポケットからボールペンを取り出した。     (一瞬の夏、p.851)

 例 19~例 21 から明確であるように「署名」と「サイン」は、両方とも印刷したもの
は不可能で、手書きで書く必要がある。また、賛成や承認の上で、「署名」あるい
は「サイン」をするということも共通の特徴であると考えられる。しかし、「署名」
と「サイン」には意味の違う面もある。次の例を見てみよう。

例 22)四人は狭い事務室で体をぶつけながら入れ替わり立ち替わり契約書に自分の
名を書き入れた。内藤が洒落たつもりで「JUN NAITOH」とサインすると、エ
ディが上機嫌で生意気ねと言った。         (一瞬の夏、p.853)
例 23)彼は極めて気分屋の人です。その性格はサインにも現れ、サインを貰うのが
難しい人物にリストアップされています。だからイニシャルだけの R.C.だけ
というものなんていうものがあるのです。
         (http://www.boots-room.com/01topics/spain/spain-04.html)

 サインは署名と重なるところもあるが、自分の名前を書いて賛成・承認を表す
場合に加え、おしゃれな感じで自分の名前を記すこともサインという。また、名
字と名前を書かかず、頭文字、つまり、自分のイニシャルを記してもサインとい
う言い方をする。場合によっては、走り書きではっきりとわからないように名前
を書くこともサインという言い方をする。(注 4)
それでは、続いて、次の例を見てみよう。

例 24)名誉会員 「山本五十六 草鹿任一 小沢治三郎 鮫島具重 武田哲郎 柳
川教茂」と六人の署名があり、日付は四月十三日、山本の前線巡視計画がラ
バウルから電報で出されたその晩になっている。  (山本五十六、p.1409)
例 25)作戦会議に列席している人々の間でさえ、精神的統一など夢であったのだ。
ギリシア人同士でも、西欧派のイシドロスと、教会合同に反対で署名(?サ
イン)さえ拒否した宰相ノタラスは、同席していながら、彼らの間では言葉
も交わそうとしなかった。    (コンスタンティノーブルの陥落、p.195)

 例 25 において、署名はあらたまった、正式的な感じがするのでサインは使いに
くくなる。「署名運動」のように使われ、署名はサインより正式なイメージがある
ことが分かる。

例 26)戦争初期のことではあるし、社内には一種のスターシステムが布かれ、派手
な特種を取れば、社会面に大きく署名入り(サイン入り)で記事が載った。
(あすなろ物語、p.209)

 例 26 は、賛成・承認のうえ、自分の名前を記すことが分かるので「署名」と「サ
イン」、両方用いられる。「署名」を用いた場合は、改まった正式的な感じがする。
それに対し、「サイン」を用いた場合は、その言い方が「署名」より軽い感じがする。

4.終わりに
以上本稿では、日本語の外来語を取り上げ、定義と分類を行った。次に和語・
漢語と外来語の間で類義関係にある語を取り上げ、意味分析を行った。分析の結
果の要点をまとめると以下の通りである。

「運転」:機械を操作する。動力のある乗り物を走らせる。複雑な構造を持つ機
械・乗り物(飛行機・船など)については用いられない。自転車は動力を持たない
が、「自転車を運転する」と言える。本人が操作することである。
「ドライブ」:乗り物を手段として、運転の過程と周りの景色などを楽しむこと。
自分自身が乗り物を操作しなくても使用可能。

「遠足」:日帰りで、飲食品を持参し、団体で野山などに出かけることを表す。幼
稚園や学校の行事などに主に使われる。サークルやクラブ仲間などの団体にも使
用可能。
「ピクニック」:景色と弁当(食事)を楽しむことを主な目的とし、日帰りで野山や
公園へ行くことを表す。家の庭でも可能。遠足より少人数。

「署名」:賛成・承認の上で、自分の名字と名前をはっきりと記すことを表す。改
まった正式的な使い方。
「サイン」:賛成・承認上の使い方もあるが、軽い感じで名字と名前を記す場合に
も使う。頭文字やイニシャルを走り書きで記す場合にも使う。有名人やスターの
サインという使い方もある。

その他に、「機会」と「チャンス」についても分析を行ったが、まだその結果が明
確にされていないため今回は除外することにした。
 それから、今回の分析では、「運転」と「ドライブ」、「遠足」と「ピクニック」、「署
名」と「サイン」の3つのペアしか扱えなかったが、今後の課題として、「贈り物」と
「プレゼント」、「試験」と「テスト」などのような類義的意味を持つ語についても考
察していきたいと思う。
このレポートを通じて、日本語の外来語について、いろいろ考えさせられ、前
よりよく理解できるようになったと思う。研究上難しかったのは、外来語の言葉
を選別し、分類することであった。しかし、言葉の成り立ちと語源についていろ
いろな点に気づき、とてもいい勉強になった。特に、外来語の特殊な使い方(2.
4.3)のところで述べた商標名の外来語である。
一方、電子工業が盛んである日本で発明された Pokemon、Play
Station、Walkman などはそれぞれ、グローバル化時代の波に乗って、世界の国々
に日本で名付けられた名前のまま知られるようになったことがわかった。これに
限らず、日本語の言葉が英語の中に入った場合もある。例えば、samurai 侍、
geisha (geisha girl)芸者、shogun 将軍、shogunate 幕府、kimono 着物、origami
折り紙、bonsai 盆栽、judo 柔道、karate 空手、sumo wrestling 相撲などがある。
また、日本語が語源となっている tsunami 津波、kamikaze 神風、hara-kiri 腹切り、
rickshaw 人力車、tycoon 大君などもある。さらに、typhoon 台風は日本語語源で
あると考えられがちであるが、そうではないことが分かってきた。また、アメリ
カで carry o.k.と発音されているのが日本語から英語に入ったカラオケであるが、
それは和製英語の(空+オケ orchestra)である。また、英語の anime はアニメがそ
のまま使われ、日本のアニメーションを指す言葉になったと分かってきた。した
がって、言葉が生まれ、時代の流れに沿っていろいろ変形して行くことを強く感
じた。その面で、日本語の外来語に対する柔軟性と創造性はダイナミックで、印
象的だと思うようになった。
そしてその上、辞書の記述だけに頼らず、日本語母語話者に言葉の使用を判断
してもらった結果、辞書の記述の範囲を超えた使い方もあると分かってきて、大
変勉強になったと思う。これからも、日本語の外来語だけではなく、様々な言葉
の意味に対して自分の知識を広め、研究を深めて行きたいと思う。

【注】

(注1) 本稿において、例文は主に『CD-ROM 版 新潮文庫の 100 冊』(1995)と


『CD-ROM 版 新潮文庫の絶版1 00 冊』(2000)から引用した。作品名、掲載
ページは引用した文の後ろにかっこつきで示した。インターネットからの引
用はそのホームページのURLを示した。検索エンジンは「実例出典」を参照
されたい。出典の付していない例は作例である。なお、引用例の中で分析対
象となっている二つの語同士が、それぞれ置き換えが可能かどうかについて
は日本語母語話者に判断してもらった。
(注 2) 外来語をカタカナ語と呼ぶことがある。これは、外来語は基本的にカタカ
ナで表記するからである。だが、厳密に言えば、カタカナで表記されるすべ
ての語が外来語とは限らない。つまり、カタカナが用いられているのは外来
語また、外国の人名や地名だけではなく、難しい漢字の用いられた日本語の
生物名や植物名もカタカナで書かれることがある。さらに、筆者がある言葉
を強調して使う場合と、ヒト、モノのような使い方の場合にも使われる。日
本語の擬声語・擬態語もカタカナで表記されることがある。(深尾(1979))
(注 3) かつて外来語に当て字を当てることや外来語を翻訳することもあった。例
えば、硝子(ガラス)、護謨(ゴム)、木乃伊(ミイラ)、瓦斯(ガス)、麦酒(ビ
ール)、燐寸(マッチ)などがあげられる。しかし、現在では、ほとんど使わ
れなくなった。ただ、頁(ページ)、釦(ボタン)、倶楽部(クラブ)、珈琲(コ
ーヒー)、煙草(タバコ)などの例は希ではあるが漢字のほうを使うこともあ
る。また、テニス(庭球)、バレー・ボール(排球)、サッカー(蹴球)、ビリヤ
ード(撞球や玉突き)のように外国から入ってきたスポーツは、当初は日本語
に翻訳されて取り入れられたが、時代の流れとともに、だんだん外来語(カ
タカナ)のほうを使うのが一般的となってきた。もちろん、「野球、ベース・
ボール」「卓球、ピンポン」のように翻訳語と外来語の両方が使われている例
もある。
(注 4) 次の例文を見てみると「サイン」にはいわゆる「合図」の意味もある。「署名」
にはこのような意味はない。

① そして、ぱっ!といなくなってしまった。長官はあわててピストルの引金
をひいたが、庭の土の中のモグラ三匹に重傷をおわせただけである。ディ
レクターから司会者にサインがきた。「時間がない!おわりの挨拶!」
(ブンとフン、p.163)
また次の例文のように、「サイン」には英語の「autograph」に当たる意味も
あることが分かる。「署名」にはこのような意味はない。

② 私が大きく頷くと、少年は手にしたバッグからノートとボールペンを取
り出し、内藤に差し出した。サインをしてくれということのようだった。
(一瞬の夏、p.987)

参考文献

1.あらかわ そおべえ(1984) 「じつは外来語だった」『言語生活』391 号 pp.24-


49 明治書院
2.石綿敏雄(1984) 「外来語論争史」『言語生活』391 号 pp.14-23 明治書院
3.石綿敏雄(1992) 「外来語と日本文化」『日本語学』3 月号 pp.25-32 明治書院
4.楳垣実(1963) 『日本外来語の研究』 研究社
5.陣内正敬(2003) 「外来語の課題と将来像」『日本語学』7月号 pp.12-18 明
治書院
6.高橋圭三(1984) 「外来語と私」『言語生活』391 号 pp.72-78 明治書院
7.田中牧郎(2003) 「外来語言い換え提案について」『日本語学』7月号 pp.50-60
明治書院
8.張威(1999) 「外来語について」『日本語・日本文化一年研修コース研究レ
ポート集』pp.377-427 名古屋大学留学生センター
9.戸村幸一(1984) 「外来語を積極的に使うことの是非について」『言語生活』391
号 pp.50-66 明治書院
10.深尾凱子(1979)『カタカナことば』 サイマル出版会
11.文化庁編(1997)『新「ことば」シリーズ6言葉に関する問答集-外来語編-』 
大蔵省
12.文化庁編(1998)『新「ことば」シリーズ8言葉に関する問答集-外来語編-』 
大蔵省
13.吉沢典男・石野博史・江川清(1984) 「外来語の現状を考える」『言語生
活』391 号 pp.2-13 明治書院

辞書類
1.金田一春彦・梅忠夫(1997) 『日本語大辞典』第 2 版 講談社
2.金田一春彦・池田弥三郎(1985) 『学研大辞典』学習研究社
3.金田一京助(1997) 『新明解国語辞典』 三省堂
4.柴田武・山田進(2002) 『類語大辞典』 講談社
5.中村洋一郎(1990) 『カタカナ用語の意味が分かる辞典』 日本実業出版社
6.吉沢典男・石綿敏雄(1979) 『外来語の語源』 角川書店
7.吉沢典男・土岐島雄(1979) 『図解外来語辞典』 角川書店

実例出典
1.『CD-ROM 版 新潮文庫の 100 冊』(1995) NEC
2.『CD-ROM 版 新潮文庫の絶版1 00 冊』(2000) NEC
3. 検索エンジン (http://www.google.ne.jp)
外来語について
-分類と和語・漢語と外来語の類義語分析-
                           
                 アグラハリ・アプルワ
                     AGRAHARI, APOORVA

目次

1. はじめに

2. 外来語について-和語・漢語との関係
2.1.外来語の定義
2.2.和語・漢語・外来語の関係
2.3.外来語導入の理由
2.4.外来語の分類
2.4.1.文法的な側面からの分類
2.4.2.意味的な側面からの分類
2.4.3.特殊な使い方

3. 和語・漢語と外来語の類義語分析
3.1.「運転」と「ドライブ」の意味分析
3.2.「遠足」と「ピクニック」の意味分析
3.3.「署名」と「サイン」の意味分析

4.終わりに

参考文献

外来語について
-分類と和語・漢語と外来語の類義語分析-

1.はじめに

本稿では、日本語における外来語を取りあげ、その性質を明らかにした上で、
和語・漢語とそれに対応する外来語とが類義関係にある場合、どのように使い分
ければいいかについて考察する。
まず、このテーマを選んだ理由について簡単に述べたいと思う。去年日本に来
て、日本人と話をしていた時、自分の食生活について聞かれ、「菜食主義者です」
と答えたら、「あっ、ベジタリアンですか」と言われたことがある。「魚などの海産
物、肉類などをとらず、穀物や野菜・果物類だけを食べる人」という意味で、国で
は「菜食主義者」と習っており、そのつもりで使ったのに、その時どうして英語の
vegetarian から由来した「ベジタリアン」に直されたのかと不思議に思った。「菜食
主義者」と「ベジタリアン」は意味が違うのか、違うならどう違うのかという疑問が
頭に浮かんできた。また、日本人の友達と買い物に行った時、「主に女性が履く、
ふくらはぎの上まである長い靴」を見て、「あの長靴かわいいね。OOちゃんによ
く似合うと思うよ」と言ったら、その友達は「あの黒いブーツか。うん、かわいい
ね」と答えた。その時、「長靴」と「ブーツ」は違うものなのかと思い、家に帰って辞
書を引いてみたら、二語はほとんど同じような意味記述がされていた。しかし、
その後、他の本を読んだり、何人かの日本人に聞いたりして、両語には違いがあ
ることがわかった。まず、「ベジタリアン」はおしゃれで、格好いい感じがすると
いうことで口語的な使い方のほうが多く、「菜食主義者」は硬くて古めかしい感じ
がすることから文語的な改まった使い方のほうが多いということである。次に「長
靴」といった場合は雨の時や農作業の時などに履くゴムでできた靴のイメージがあ
るが、「ブーツ」といった場合は日常において、女性がよく履くおしゃれな、皮で
できた靴のイメージがある。
このように、日本語の中には外国語から借り入れられた外来語と意味が似てい
る本来の日本語、つまり、和語・漢語があり、どんな時どちらを使えばいいかと、
何回も迷ったことがある。前述のようないくつかの出来事をきっかけに、外来語
の使用についていろいろ考えさせられ、本来の日本語(和語・漢語)と外来語の中
で、意味の似ているペアを取りあげ、比較することにした。日本語学習者がどち
らを使っても、相手にだいたいの意味は通じるかもしれないが、日本人には不自
然に聞こえ、場合によっては、まったく意味がずれてしまうケースもある。
一般的に外来語は、日本に今まで存在しなかった事物や現象を表すために、あ
るいは言葉に新鮮さを求めるためにといった理由で日本語の中に取り入れられる
が、その外来語は元々の外国語の意味や使い方と必ずしも一致しない。つまり、
外国語の元々の意味の範囲を拡大したり、縮小したりして使われている場合もあ
れば、元々の意味とまったく違う意味や使い方の場合もある。中には、和製英語
のように日本人が英語を使って作った新しい外来語、つまり、英語の中には存在
しないものもある。(詳しくは後述)
以上のように本稿では、外来語の様々な種類について考察し、また上にも指摘
したように、漢語・和語と外来語の中で互いに意味の似ている語のペアを取り上
げ、意味分析を行う。研究方法としては、まず、先行研究を整理・検討し、漢
語・和語と関連づけながら外来語の定義と分類を行う。次に、意味の似ている漢
語・和語と外来語のペアを取り上げ、日本語の文学作品やインターネットのホー
ムページなどから分析対象語の用いられた実例を収集する。さらに、先行研究を
踏まえて分析を行い、両者の意味の共通点と相違点を明らかにする。(注1)

2.外来語について-和語・漢語との関係

2.1.外来語の定義

本稿では、外来語と和語・漢語の間で類義語関係にある語を取り上げ、その類
似点・相違点を明らかにすることを目指す。それに先だち、和語、漢語、外来語
について検討する必要があると考え、本節では、外来語の定義と外来語と和語・
漢語との関係について見ていくことにする。
まず、外来語の定義については、主に楳垣(1963)、日本語大辞典(1997)、柴田
(1987)、学研国語大辞典(1985)を参考にし、以下のように示す。(注 2)
まず、楳垣(1963:11)では、「外来語とは、他国語の語句を自国語の中に借り入
れて、その使用が社会的習慣化したもののことである。言い換えれば、外来語と
は、外国語の語句をだいたいもとの形で自国語に借り入れて、一般に自国語とし
て使っているもののことであるということになる」と述べられている。
次に、日本語大辞典(1997:351)は、「外国語から取り入れて、その国の国語と
して使われるようになった言葉である」と説明している。
また、柴田(1987:140)は、「外の言葉から、文化の一部として入ってきてその
言語の語彙体系の中に自分の座を獲得した単語のことである」としている。
さらに、学研国語大辞典(1985)では、「外来語を外国の言語から入ってきて、同
化して、その国の言葉のように用いられる語である」と述べられている。
以上の先行研究に基づいて、外来語を定義すると次のように示すことができる。

外来語とは、主に、日本にはない事物を示すために、外国語から日本語の中に
取り入れられ、定着し、一般に日本語として使われている言葉のことである。

但し、楳垣(1963)、学研国語大辞典(1985)にも指摘されているように、外国か
ら日本語の中に入ってきたすべての語が外来語であるとは言い切れない。という
のは、いわゆる漢語も中国から取り入れられたものであるから、外来語といっても
良いはずであるが、習慣として漢語は外来語に含めない。漢語は奈良時代からき
わめて大量に取り入れられ、それまで文字のなかった日本語を書き表すために、
借用されたと言われている。その結果、日本人はかなり古くから日本語の中に定
着した漢語に対して、外来語という意識がほとんどなく、既に日本語に定着して
いるため、漢語は外来語に含めないのが一般的となっている。しかし、近代中国
から借りてきた「チャーハン(炒飯)」、「マージャン(麻雀)」、「ウーロン茶(烏龍
茶)」、「ギョーザ(餃子)」などは一般的に漢字をそのままの形かカタカナの形で示
し、外来語として扱うのが一般的である。これ以外に、本稿において「外来語」と
いった場合は、漢語は含めないことにする。
一方、仏教用語の中には、いわゆる梵語といわれるものがある。これはインド
のサンスクリト語が起源であるから、厳密に言えばこれも外来語として扱うべき
であるが、時代とともに、仏教は日本の主な宗教となっており、またこれらの語
は中国を経て(中国語化したものから)日本語に入ってきているので、インド語源
といっても日本語に定着しているため、これらの語は外来語に含めないのが一般
的となっている。例としては「だるま(達磨)」、「ぶっだ(仏陀)」、「ねはん(涅槃)」、
「もんじゅ(文殊)」、「ぼさつ (菩薩) ぼだいさったの略」、「あしゅら(阿修羅)」な
どが考えられる。

2.2.和語・漢語・外来語の関係

それではここで、主に、楳垣(1963)、吉沢他(1979)、張(1999)を参考にし、日
本語を構成している和語、漢語、外来語の関係について簡単に述べたいと思う。

和語:和語とは、日本に元々存在した語彙、つまり、日本本来の言葉で、助詞、
助動詞または接続詞のように仮名で書かれたものである。また、漢字で書かれて
いても訓読みされるものは和語として扱う。例は以下のようなものがある。
助詞、助動詞、接続詞:「が」、「を」、「らしい」、「しかし」、「けれども」など。
漢字で書かれ、訓読みされるものとして、名詞の「お父さん」、「部屋」、動詞の「待
つ」、「切る」、形容詞の「美しい」、「鋭い」、形容動詞の「爽やか」、「鮮やか」、「静
か」などがあげられる。(文化庁(1998)、張(1999))

漢語:漢語とは古く中国から伝来された言葉で、漢字で書かれ、音読みされるも
のである。例は「住宅」、「瞬間」、「国家」などがあげられる。その他に、「火事」、
「大根」、「返事」、「峠」のようないわゆる和製漢語というものもある。(あらかわ
(1984)、張(1999))

外来語:外来語とは、漢語を除く外国語、主としてヨーロッパの諸言語から日本
語の中に入ってきた言葉で、日本語の語彙体系の中に自分の座を獲得したものを
指す。外来語の中のほとんどは英語からきたものであるが、ポルトガル語、オラ
ンダ語、フランス語、ドイツ語、イタリア語から入ってきたものもある。たとえ
ば、「ガーゼ」、「パン」、「ガラス」などはそれぞれ「ドイツ語」と「ポルトガル語」と
「オランダ語」から入ってきたものである。(張(1999))

2.3.外来語導入の理由

歴史を遡ってみると、日本が外来語をはじめて導入したのは16世紀の室町時
代であると言われている。明治時代以前の日本は、鎖国政策により、一部の国を
のぞき、他国との交流が厳禁されていたので外来語の数も少なく使用率も低かっ
たが、明治時代に入り、外国との交流が増えるにつれて語数も増加し、使用も一
般化してきた。明治以前は、「蛮語」「舶来語」という名で呼ばれていたが、明治以
降からは世間一般にもかなりなじみの深いものとして認識されるようになった。
それでは、ここで日本語における外来語はどのような理由で入ってきたかを簡
単に述べたいと思う。まず、考えられるのは社会的な背景である。明治時代以降、
外国との交流が増えるにつれて、今まで日本にはなかった事物や新しい現象が数
多く入って来るようになった。その場合、翻訳をするなどして既存の日本語を使
って表す場合も考えられるが、ただそれだけでは適切に表せない場合が出てくる。
そこで、外国語から当該の事物や現象を表す語を借りてきて、その語の発音を日
本語の五十音に合わせて作った言葉を日本語の一部、外来語として使うようにな
ったのである。例えば、アルバイト(ドイツ語)、アルコール(オランダ語)、ズボ
ン(フランス語)、ビロード(ポルトガル語)などがあげられる。(注3)(石綿
(1984)、田中牧郎(2003))
外来語導入のもう一つの理由はいわゆる心理的な背景である。日本語に同じ事
物や現象を表す語が既に存在しているのに、導入される場合で、これは人間の一
般的な心理として、新奇さを求めるところから来る場合が多い。つまり、言い方
が古い感じがするという理由で単なる新鮮なイメージを求める場合である。例え
ば、「便所」の代わりに「トイレ」、「帳面」の代わりに「ノート」、「写真機」の代わり
に「カメラ」、「背広」の代わりに「スーツ」、「乳母車」の代わりに「ベビーカー」、「道
化師」の代わりに「ピエロ」などがあげられる。また、日本に存在している事物に似
ていることを表す外来語もある。例えば、「百貨店、デパート」、「お菓子、ケー
キ」、「旅館、ホテル」、「手ぬぐい、タオル」。本稿では、このような、意味の似て
いる語を考察対象とし、両者の共通点と相違点を明らかにする。(高橋(1984))

2.4.外来語の分類

日本語の外来語は様々な形があり、その使い方も様々である。また、外国語の
本来の意味をほとんど変えずに取り入れたものもあれば、もともとの意味と違う
意味で使われるものもある。以下では、外来語を文法的な側面、意味的な側面、
特殊な使い方という三つのグループに分けて考察する。

2.4.1.文法的な側面から分類

名詞としての使い方:外国の事物を表すのが外来語の主な役割であることを考え
れば、外来語の中には多くの名詞が存在する。例は以下の通りである。
「ラジオ」、「チョコレート」、「クリーム」、「ギター」、「カセット」、「ジーンス」な
ど。
動詞としての使い方:外来語の言葉を動詞として取り入れる時は、当該の外来語
に「する」または、外来語の語尾に「る」を加えて、動詞化して使う。例は以下の通
りである。
「デートする」、「キスする」、「エスカレートする」、「デモる」、「サボる」、「アジ
る」、「ダブる」など。
それ以外に、「メモる」、「コピる」、「ビニる」、「タクる」、「パロる」などのような
例もあるが、これらは主に若者の間で作られ、流行っている言葉であり、一般的
なものとは言い難い。

形容動詞としての使い方:日本語の中に形容動詞を表す働きを持っている「な」が
あるため、外来語に「な」または「に」を付けて形容動詞化する場合である。例は以
下のようなものがある。
「ハードな」、「ソフトな」、「ウェットな」、「シンプルな」、「オリジナルな」、「ユニ
ークな」、「スムーズな」、「デリケートな」など。

形容詞としての使い方:外来語の語尾に「い」をつけて、形容詞化して使われる例
は非常に少ない。主に若者を中心に作られ、流行している場合が多く、定着して
使われている語はほとんどない。例は以下の通りである。
「ナウい」、「エロい」、「キャバい」など。
これらの語は、一時的にはやり、時が経つにつれてだんだん使わなくなって消え
てしまう語であると考えられる。

混種語:混種語は外来語と日本語(和語・漢語)を組み合わせて作った言葉である。
例は以下の通りである。
「板チョコ」、「満タン」、「ガス欠」、「自己 PR」、「懐メロ」、「脱サラ」、「輪ゴム」、
「夏バイト」、「省エネ」、「どたキャン (土壇場でキャンセルする)」、「口コミ」、
「安全ピン」、「名コンビ」、「酎ハイ」、「豚カツ」など。
その他に、英語と英語の組み合わせや英語と他の外国語との組み合わせもあるが、
これらの語は和製外来語として扱い、2.4.3.節で詳しく述べる。
略語:略語は外来語のスペルをそのまま表記することではなく、一部分だけの音
をとって表す言葉である。スペルの長い言葉を短縮化したものもあり、二語の場
合はそれぞれ最初の部分を取り、結びつける。例としては次のようなものがあげ
られる。和製英語やローマ字表記の語は略語として分類することも可能であるが、
ここでは別のグループに分けて考察する。略語の例として以下のような例があげ
られる。
「スト」、「レジ」、「プロ」、「アド」、「アパマン」、「リモコン」、「デジカメ」、「ラジ
カセ」、「セクハラ」など。
           (陣内(2003)、吉沢他(1984)、戸村(1984)、文化庁(1997))

2.4.2.意味的な側面からの分類

意味が縮小された場合:意味が縮小されたというのは、ある外来語が日本語に入
ってきた際に、元の外国語が持っている意味より、狭い意味で使われる場合であ
る。例えば、「レジュメ」は「概要」の意味で使われているが、英語またはフランス
語(語源)では resume′は「履歴書」という意味も持っている。日本語ではそのよう
な意味では用いられない。また、英語で accessory は装飾品の意味でネクタイ、
香水、バッグなども含まれているが、日本語の「アクセサリー」は宝石類、貴金属
製のネックレスや指輪などに限られている。さらに、英語の young は、若者はも
ちろん、子供・幼児に対しても使うが、日本語の「ヤング」は、若者の意味でしか
使わない。

意味が拡大された場合:元の外国語が持っている意味より、広い意味で使われる
場合である。例えば、日本語の「トレーナー」は「運動選手の健康を管理し、練習の
指導をする人、馬などの調教師(trainer)」の意味と「競技者などが着る練習着
(sweat shirt)」の意味がある。英語の場合は前者の意味しかない。同様に、日本
語の「サービス」は service と同じく「レストラン、ホテルなどで客のために気を配
ってつくすこと」の意味と「品物を売るとき、客の便宜を図ったり値引きや景品を
つけたりすること」の意味があるが、英語の場合は前者の意味しかない。さらに、
日本語の「ハンドル」は「ドアなどの取っ手」と「車・機械などを運転操作する部分
(steering wheel)」という二つの意味を持っているが、英語の場合は後者の意味は
ない。
一方、「マイホーム(my home)」、「マイカー(my car)」、「マイペース(my pace)」
のような外来語がある。日本では、これらの言葉を自分以外の人に対しても使う
ことができるが、英語の場合はできない。つまり、日本語では「太郎君、マイカー
持っている?」のように「自分所有のもの」という意味で人称と関係なく使うことが
できるということである。英語の場合は、「my car」といった時、もっぱら話し手
自身のことしか表せない。それ以外に、「マイペース」などの表現もあげられる。

意味がずれた場合:もともとの外国語と外来語の間に共通点が少ないか、または
共通点がない場合である。例えば、日本語で「カンニング」といった場合は、「試験
で受験者が監督者の目を盗んで不正行為をする」ことを表す。つまり、英語の
cheating に当たる。カンニングに当たる英語は「cunning」で、「悪知恵、ずるさ」と
いう意味であり、両語は意味がずれていることが分かる。また、日本で「タレン
ト」といった場合は「テレビ・ラジオなどに出演する芸能人」を意味するが、英語の
talent は「才能、才能のある人」という意味である。さらに、日本の「マンション」
は集合住宅の一つであるが、英語の場合は立派な豪邸を意味する。そして、「バイ
キング」は、英語で viking と書き、もともと海賊のことであるが、日本語では、
各種の料理を並べ、客が好みによって自由に取って食べられる方式の食事の一つ
を意味する。
その他に、まだ日本語として定着はしていないが、「ギャル」という言葉がある。
髪を金髪に染め、厚い化粧をした活発な若者(女性)のことを指す。英語の girl は
このような意味としては使わない。(石綿(1992))

2.4.3.特殊な使い方

和製外来語(和製英語):これらは主に、英語または、他の外国語の言葉を使って
日本人が独自に作った言葉である。元の言葉の形を変えたり、二つ以上の言葉を
結びつけたりし、新しい言葉を作る場合である。従って、元の外国語には存在し
ない言葉である。
まず、英語を使った例は以下のようなものがあげられる。
「ナイター」、「アイターン」、「スキンシップ」、「アクアポリス」、「ベッドタウン」、
「ゴーストップ」、「コスプレ」、「ポケベル」、「プリクラ」、「オート・バイ」、「ジ
ー・パン」など。
以上の例には「ナイター」、「アイターン」、「スキンシップ」、「アクアポリス」は
それぞれを英語にすると nighter、I-turn、skinship、aquapolis になるが、この
言葉は英語に存在しないものである。まず、「ナイター」は夜間試合・夜に照明の
下で行う試合(主に、野球)のことを意味し、「アイターン」は都会出身者が地方に
就職・再就職することを指す。また、「スキンシップ」は人間関係を確立するため
の肌の触れ合い、また親が愛情を伝えるために、直接子供と体を触れ合うことで
あり、「アクアポリス」は人工の海上都市を意味する。さらに、「ベッドタウン」は
bed と town を組み合わせた語で、働く人々が夜寝るためだけに帰る町(住宅地区)
のことを意味し、「ゴーストップ」は交通信号の「進め」go と「止まれ」stop という意
味で使われている。その他に「コスプレ」costume+play、「プリクラ」print+club、
「ポケベル」pocket+bell、「オート・バイ」auto+bike、「ジー・パン」jeans+pants の
ような例もある。
続いて、英語と他の外国語を組み合わせた場合、つまり、二つの外国語の言葉
を組み合わせた語を取り上げる。
まず、「マッチポンプ」はマッチ(matchstick、英語)とポンプ(pomp、オランダ
語)を組み合わせた語で、自分で起こしたもめごとを鎮めてやるという意味を表す。
その他、「クラフト・ペーパー」のように kraft(ドイツ語)と paper(英語)からなっ
ているもの、「オムライス」のように omelette(フランス語)と rice(英語)からなっ
ているものもある。また、日本が今直面しているフリーター問題の「フリーター」
は free(英語)と arbeiter(ドイツ語)からなっている言葉である。

ローマ字表記の語:ローマ字表記の語は英文字の省略語をそのまま使ったり、和
製英語の頭文字を取ったりして作った言葉である。例は以下の通りである。
「OK」、「OB」、「TV」、「GW」、「OD」、「CM」、「OL」、「TPO」、「PHS」、「1LDK」。
これらの言葉の読み方については、ローマ字のまま読むものもあれば、元の長
い言葉の読みをする場合もある。以上の例の中で、「OK」、「OB」は英語の省略語が
そのまま使われ、頭文字で呼ばれるが、「TV」はローマ字で書かれるが、読む時は
「テレビ」と読まれることがある。和製英語の「GW」golden week、「OD」over doctor
はローマ字で書かれるが、それぞれ英語の発音通りに読まれる。「CM」commercial
message は元の長い読み方でも読まれるし、ローマ字のままでも読まれることもあ
る。「OL」office lady と「TPO」(時 time 場所 place 場合 occasion の意味で服装の選
択や行動の基準となる 3 要素)と「PHS」personal handyphone system((日本の)簡易
型携帯電話)と「1LDK」1 living,dining,kitchen(居間・食堂・台所を兼ねる洋風の
部屋)はローマ字のままで読まれるが、英語には存在しない言葉であるから、和製
英略語であるといってもいいだろう。

商標名:外来語は、日本に今まで存在しなかった事物や現象を表すために外国語
から取り入れるのが一般的であるが、商標(商品)の名付け方にはやや特殊な場合
もある。つまり、当該の商標(商品)について日本独自の名付け方をするというこ
とである。例としては以下のようなものがある。

・ホッチキス:紙をとじ合わせる器具で、コの字型のとじ金を押さえて留める。
発明者である米国の「B.B.ホッチキス」の名にちなむ名前で、アメリカのメーカ名
である。米国や英国では「paper fastener」、「stapler」と呼ばれている。

・クラクション:自動車の警笛のことであり、米国の「klaxon」製造会社の名が語
源である。米国や英国では「horn」や「siren」と呼ばれる。

・シャーペン:シャープ・ペンシルの略で、形は万年筆に似ており、インクの代
わりに鉛筆の芯のようなものを使う。1837 年に米国で発売された商標名「ever-
sharp」が語源である。米国や英国では「mechanical pencil」、「clutch pencil」と
呼ばれている。

・ビー玉:子供の遊び用のガラスの玉のことである。語源は不明であるが、ビー
玉の「ビー」は、「B」であり、元々業界用語で、輸出の際に、着色される玉を「A
玉」、透明なものを「B玉」と呼ぶことからきたという説がある。一方では、ポルト
ガル語でガラスを「ビードル」と言い、室町時代にポルトガル人が来日し、ガラス
の製造方法を伝える際に、「ビードル玉」を「ビー玉」に省略して使ったことからき
たという説もある。

3.和語・漢語と外来語の類義語分析

類義語分析方法はいろいろあるが、本稿では、例 8)のように類義語以外の部分
がまったく同じである文を比較しながら、両語の置き換えが可能かどうかを検討
する。両方言える場合、それぞれが持つ意味特徴のどの部分が類似していて、ま
たどの部分が違うかを明らかにする。また、置き換えが不可能な場合、どういっ
た理由でそうなのかを考察する。
2.2.では、外来語の導入の理由として心理的な理由を取り上げ、日本語の
中に既に意味の似ているものを表す表現があっても外来語が入ってきた場合があ
ると指摘した。そこで当然出てくる問題が両語の意味の違いである。日本語学習
者の場合は、両語の意味を辞書などに書かれている説明を見て、理解するわけで
あるが、それだけではなかなか違いが分からない。そこで、本稿ではこのような
ペアを取り上げて、相互の意味の類似点、相違点について分析を行う。本稿で取
り上げる例は以下の通りである。

「運転」と「ドライブ」
「遠足」と「ピクニック」
「署名」と「サイン」

3.1.「運転」と「ドライブ」の意味分析

この節では、漢語の「運転」と外来語の「ドライブ」を取り上げ、分析を行う。ま
ず、次の例文を見てみよう。

例 1)ぼくらはやたらとかんだかいことばを投げかわしながら車にとびのり、今度
は侯爵が運転した。                  (聖少女、p.245)
例 2)私は新車で友達とドライブに出かけた。

以上の例から分かるように、「運転(する)」と「ドライブ(する)」は「自動車を操作
して走らせる」という共通点を持っていると考えられる。それでは続いて、先行研
究を踏まえて(主に、「新明解国語辞典・類語大辞典」などの辞書類)、「運転」の意
味について考察する。
次の例を見てみよう。

例 3)バス/タクシー/耕耘機を運転する。

この例から「運転」の意味は、「機械や動力のある乗り物を操作して走らせるこ
と」と示すことができる。但し、機械や乗り物すべてに対して「運転する」が使える
わけではない。例えば、構造が非常に複雑であり、操作に高度な技術や能力を必
要とする飛行機については「運転する」とは言わず、「操縦する」という言い方をす
る。一方、自転車は「運転」の定義からすると、燃料ではなく、人が自分の足の力
で動かすので、当てはまらないことになるが、実際には「自転車を運転する」も可
能である。だが、日常では「自転車に乗る」という言い方が一般的であると考えら
れる。これはわりと構造が単純であり、容易に操作できる乗り物であるから「運転
する」という言い方をしないのかもしれない。
次に「ドライブ」の意味について考察する。

例 4)ベンツでドライブする。
例 5)フン先生、わたしとドライブにいきませんか。気分がすーっとしますよ。
                        (ブンとフン、p.260)
例 6)女の子とは、夕方、新宿の喫茶店で知りあい、湘南の海岸にドライブに行こ
う、と連れてきた子で、車は第三京浜を走っていた。   (冬の旅、p.123)

まず、例 4 から言えることは、「ドライブ」は単に車を操作するということではな
く、車を利用する、つまり手段としていることが分かる。また、例 5、6 から分か
るように「運転という過程と周りの景色などを楽しむこと」であると言える。
以上のことから、「ドライブ」の意味は、「自動車に乗って、(景色のいいところな
どを走ったりして)楽しむこと」と示すことができる。
それでは、次に「運転」と「ドライブ」の相違点を考察する。以下の例を見てみよ
う。

例 7)a 車を運転する。
b 車でドライブする。
例 8)助手席に坐り、高崎の寂しい夜の繁華街に眼をやりながら、私は運転(*ドラ
イブ)している森田に訊ねた。             (一瞬の夏、p.529)
例 9)女の子とは、夕方、新宿の喫茶店で知りあい、湘南の海岸にドライブ(*運
転)に行こう、と連れてきた子で、車は第三京浜を走っていた。   (=例 6)

まず、例 7 から言えることは、「運転」の場合は車が対象になる。つまり車を操
作すること自体が運転である。それに対して、上でも指摘したように、「ドライ
ブ」の場合は車が手段になる。つまり、車そのものを操作することだけが目的では
ないということである。
これは、例 8 と 9 で説明ができると考えられる。例 8 と 9 において、「運転」を
「ドライブ」に、「ドライブ」を「運転」にそれぞれ置き換えることができない。その
理由は、「運転」は車を走らせることだけだが、「ドライブ」はそれだけではなく、
「景色のいいところを走りながら、楽しむ」という意味もあるからである。
さらに次の例を見てみよう。

例 10)半身不随でベッドにころがっているどころか、ひさしぶりに自分で車を運転
(*ドライブ)して会社にでかけていたのです。第一、父の病気は脳溢血では
ありませんでした。                  (聖少女、p.450)
例 11)ドライブ(*運転)。いつも助手席にすわっているんじゃ物足りない。時には
自分でハンドルを握り、お気に入りの服を着こなすように、車も上手に着こ
なしたい。(http://www.e-colle.com/mag/act/trv/trv0401/trv04011.html)
例 10 と例 11 の場合においても、「運転」を「ドライブ」で、「ドライブ」を「運転」で
言い換えることができない。その理由は、「運転」の場合は、自分自身が車のハン
ドルを握って操作することだが、「ドライブ」は自分が直接ハンドルを握らなくて
も(つまり、助手席などに座っても)、「景色のいいところを走りながら、楽しむ」
というような意味があれば、用いられるからである。例 10 において、「ドライブ」
が言えないのは、「景色のいいところを走りながら、楽しむ」という解釈ができな
いからである。

3.2.「遠足」と「ピクニック」の意味分析

本節では、漢語の「遠足」と外来語の「ピクニック」を取り上げ、意味分析を行う。
まず、以下の例を見てみよう。

例 12)夏になると、島には沢山青いゴリがなった。城山へ遠足に行った時なんか、
弁当を開くと、裏で出来た女竹の煮たのが三切れはいっていて、大阪の鉄工
場へはいっていた両親を、どんなにか私は恋しく思った事です。
                             (放浪記、p.568)
例 13)それから台所に行って、床にちらばった食品の中からパンを二個とコンビー
フと桃とソーセージとグレープフルーツの缶詰をあつめて、ナップザックの
中に入れた。水筒にもたっぷりと水を入れた。次にズボンのポケットに家に
置いてあった現金のぜんぶをつっこんだ。「ピクニックみたいね」と娘は言っ
た。       (世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.632)
例 14)a 日帰りで遠足(ピクニック)に行く。
 b *2 泊 3 日で遠足(ピクニック)に行った。

以上の例から「遠足」と「ピクニック」は「弁当、飲み物などを持って行楽のために
日帰りで野山や公園などに出かける」という共通点を持っていると言える。
続いて、次の例を見てみよう。
例 15)触れ合いコーナー、ポニー乗馬を遠足など団体(サークル、子供会などを含む)
で、利用される場合は必ず、事前の予約が必要となります。
(http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/soko/zoo-dan.htm)
例 16)今日は次男が、初めての遠足で東板橋公園に行ってきたそうです。(中略)
でもクラス皆で行くのは、また別でとても楽しかったようです。
           (http://www.k-uriba.com/diary/2004/0405/040518.htm)
例 17)本村にさしかかり、おかあさんとわかれねばならぬ場所が近づくと、さすが
のきょうだいもすこし不安になったらしく、かわるがわるきいた。
「おかあさん、ぼくらのピクニックのほうが早くすんだらどうしよう。」
「そしたら水月の下の浜で、石でもなげてあそんどればいい。」
(世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.405)
例 18)バスケットの中にはピクニックのセットが入っていた。ナイフとフォーク、
皿とカップ、そして変色して黄ばんでしまった白いナプキンが一セット、き
ちんと整理されて詰められていた。
(世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.808)

 例 15、例 16 から分かるように、「遠足」は弁当、飲み物などを持って単に行楽の
ために出かけるというだけではなく、幼稚園や学校の行事の一つ、つまり集団で、
見物や見学の目的で行楽に行くという意味特徴を持っている。このような場合は
「ピクニック」より「遠足」のほうがよく使われる。
 それに対して、「ピクニック」の特徴は例 17 と例 18 から分かるように、食べ物・
飲み物を持参し、野山や公園などでそれを楽しむことが主な目的であると考えら
れる。そのことから、野山や公園などに出かけずに、自分の家の庭で「ピクニック
を楽しむ」のように言えるのは「食事を楽しむ」という意味特徴が強いからであると
考えられる。例 17 と例 18 において、「ピクニック」の代わりに、「遠足」を用いると
不自然な文になるのはそのためであると考えられる。

3.3.「署名」と「サイン」の意味分析
 最後にこの節では、「署名」と「サイン」を取り上げ、両語の意味の類似点・相違
点について考察する。まず、以下の例を見てみよう。

例 19)彼はあの白い幻影をいまさらのように思い出す。あの瞬間、彼は終生の単独
行の契約書に署名して、山という偉大なる権力者の前に差出したように考え
られてならない。                (孤高の人、p.782)
例 20)私はエディに、自分の満足するような契約の条文を英語で書いてくれないか
と頼んだ。それをもとに、弁護士に英和二通の正式な契約書を作ってもらい、
それに全員でサインする。           (一瞬の夏、p.836)
例 21)契約書を机の上に置くと、思いがけぬほど穏やかな調子で、
「わかりました」と言った。
「それでは、みんなでサインしませんか」
私はポケットからボールペンを取り出した。     (一瞬の夏、p.851)

 例 19~例 21 から明確であるように「署名」と「サイン」は、両方とも印刷したもの
は不可能で、手書きで書く必要がある。また、賛成や承認の上で、「署名」あるい
は「サイン」をするということも共通の特徴であると考えられる。しかし、「署名」
と「サイン」には意味の違う面もある。次の例を見てみよう。

例 22)四人は狭い事務室で体をぶつけながら入れ替わり立ち替わり契約書に自分の
名を書き入れた。内藤が洒落たつもりで「JUN NAITOH」とサインすると、エ
ディが上機嫌で生意気ねと言った。         (一瞬の夏、p.853)
例 23)彼は極めて気分屋の人です。その性格はサインにも現れ、サインを貰うのが
難しい人物にリストアップされています。だからイニシャルだけの R.C.だけ
というものなんていうものがあるのです。
         (http://www.boots-room.com/01topics/spain/spain-04.html)

 サインは署名と重なるところもあるが、自分の名前を書いて賛成・承認を表す
場合に加え、おしゃれな感じで自分の名前を記すこともサインという。また、名
字と名前を書かかず、頭文字、つまり、自分のイニシャルを記してもサインとい
う言い方をする。場合によっては、走り書きではっきりとわからないように名前
を書くこともサインという言い方をする。(注 4)
それでは、続いて、次の例を見てみよう。

例 24)名誉会員 「山本五十六 草鹿任一 小沢治三郎 鮫島具重 武田哲郎 柳
川教茂」と六人の署名があり、日付は四月十三日、山本の前線巡視計画がラ
バウルから電報で出されたその晩になっている。  (山本五十六、p.1409)
例 25)作戦会議に列席している人々の間でさえ、精神的統一など夢であったのだ。
ギリシア人同士でも、西欧派のイシドロスと、教会合同に反対で署名(?サ
イン)さえ拒否した宰相ノタラスは、同席していながら、彼らの間では言葉
も交わそうとしなかった。    (コンスタンティノーブルの陥落、p.195)

 例 25 において、署名はあらたまった、正式的な感じがするのでサインは使いに
くくなる。「署名運動」のように使われ、署名はサインより正式なイメージがある
ことが分かる。

例 26)戦争初期のことではあるし、社内には一種のスターシステムが布かれ、派手
な特種を取れば、社会面に大きく署名入り(サイン入り)で記事が載った。
(あすなろ物語、p.209)

 例 26 は、賛成・承認のうえ、自分の名前を記すことが分かるので「署名」と「サ
イン」、両方用いられる。「署名」を用いた場合は、改まった正式的な感じがする。
それに対し、「サイン」を用いた場合は、その言い方が「署名」より軽い感じがする。

4.終わりに

以上本稿では、日本語の外来語を取り上げ、定義と分類を行った。次に和語・
漢語と外来語の間で類義関係にある語を取り上げ、意味分析を行った。分析の結
果の要点をまとめると以下の通りである。
「運転」:機械を操作する。動力のある乗り物を走らせる。複雑な構造を持つ機
械・乗り物(飛行機・船など)については用いられない。自転車は動力を持たない
が、「自転車を運転する」と言える。本人が操作することである。
「ドライブ」:乗り物を手段として、運転の過程と周りの景色などを楽しむこと。
自分自身が乗り物を操作しなくても使用可能。

「遠足」:日帰りで、飲食品を持参し、団体で野山などに出かけることを表す。幼
稚園や学校の行事などに主に使われる。サークルやクラブ仲間などの団体にも使
用可能。
「ピクニック」:景色と弁当(食事)を楽しむことを主な目的とし、日帰りで野山や
公園へ行くことを表す。家の庭でも可能。遠足より少人数。

「署名」:賛成・承認の上で、自分の名字と名前をはっきりと記すことを表す。改
まった正式的な使い方。
「サイン」:賛成・承認上の使い方もあるが、軽い感じで名字と名前を記す場合に
も使う。頭文字やイニシャルを走り書きで記す場合にも使う。有名人やスターの
サインという使い方もある。

その他に、「機会」と「チャンス」についても分析を行ったが、まだその結果が明
確にされていないため今回は除外することにした。
 それから、今回の分析では、「運転」と「ドライブ」、「遠足」と「ピクニック」、「署
名」と「サイン」の3つのペアしか扱えなかったが、今後の課題として、「贈り物」と
「プレゼント」、「試験」と「テスト」などのような類義的意味を持つ語についても考
察していきたいと思う。
このレポートを通じて、日本語の外来語について、いろいろ考えさせられ、前
よりよく理解できるようになったと思う。研究上難しかったのは、外来語の言葉
を選別し、分類することであった。しかし、言葉の成り立ちと語源についていろ
いろな点に気づき、とてもいい勉強になった。特に、外来語の特殊な使い方(2.
4.3)のところで述べた商標名の外来語である。
一方、電子工業が盛んである日本で発明された Pokemon、Play
Station、Walkman などはそれぞれ、グローバル化時代の波に乗って、世界の国々
に日本で名付けられた名前のまま知られるようになったことがわかった。これに
限らず、日本語の言葉が英語の中に入った場合もある。例えば、samurai 侍、
geisha (geisha girl)芸者、shogun 将軍、shogunate 幕府、kimono 着物、origami
折り紙、bonsai 盆栽、judo 柔道、karate 空手、sumo wrestling 相撲などがある。
また、日本語が語源となっている tsunami 津波、kamikaze 神風、hara-kiri 腹切り、
rickshaw 人力車、tycoon 大君などもある。さらに、typhoon 台風は日本語語源で
あると考えられがちであるが、そうではないことが分かってきた。また、アメリ
カで carry o.k.と発音されているのが日本語から英語に入ったカラオケであるが、
それは和製英語の(空+オケ orchestra)である。また、英語の anime はアニメがそ
のまま使われ、日本のアニメーションを指す言葉になったと分かってきた。した
がって、言葉が生まれ、時代の流れに沿っていろいろ変形して行くことを強く感
じた。その面で、日本語の外来語に対する柔軟性と創造性はダイナミックで、印
象的だと思うようになった。
そしてその上、辞書の記述だけに頼らず、日本語母語話者に言葉の使用を判断
してもらった結果、辞書の記述の範囲を超えた使い方もあると分かってきて、大
変勉強になったと思う。これからも、日本語の外来語だけではなく、様々な言葉
の意味に対して自分の知識を広め、研究を深めて行きたいと思う。

【注】

(注1) 本稿において、例文は主に『CD-ROM 版 新潮文庫の 100 冊』(1995)と


『CD-ROM 版 新潮文庫の絶版1 00 冊』(2000)から引用した。作品名、掲載
ページは引用した文の後ろにかっこつきで示した。インターネットからの引
用はそのホームページのURLを示した。検索エンジンは「実例出典」を参照
されたい。出典の付していない例は作例である。なお、引用例の中で分析対
象となっている二つの語同士が、それぞれ置き換えが可能かどうかについて
は日本語母語話者に判断してもらった。
(注 2) 外来語をカタカナ語と呼ぶことがある。これは、外来語は基本的にカタカ
ナで表記するからである。だが、厳密に言えば、カタカナで表記されるすべ
ての語が外来語とは限らない。つまり、カタカナが用いられているのは外来
語また、外国の人名や地名だけではなく、難しい漢字の用いられた日本語の
生物名や植物名もカタカナで書かれることがある。さらに、筆者がある言葉
を強調して使う場合と、ヒト、モノのような使い方の場合にも使われる。日
本語の擬声語・擬態語もカタカナで表記されることがある。(深尾(1979))
(注 3) かつて外来語に当て字を当てることや外来語を翻訳することもあった。例
えば、硝子(ガラス)、護謨(ゴム)、木乃伊(ミイラ)、瓦斯(ガス)、麦酒(ビ
ール)、燐寸(マッチ)などがあげられる。しかし、現在では、ほとんど使わ
れなくなった。ただ、頁(ページ)、釦(ボタン)、倶楽部(クラブ)、珈琲(コ
ーヒー)、煙草(タバコ)などの例は希ではあるが漢字のほうを使うこともあ
る。また、テニス(庭球)、バレー・ボール(排球)、サッカー(蹴球)、ビリヤ
ード(撞球や玉突き)のように外国から入ってきたスポーツは、当初は日本語
に翻訳されて取り入れられたが、時代の流れとともに、だんだん外来語(カ
タカナ)のほうを使うのが一般的となってきた。もちろん、「野球、ベース・
ボール」「卓球、ピンポン」のように翻訳語と外来語の両方が使われている例
もある。
(注 4) 次の例文を見てみると「サイン」にはいわゆる「合図」の意味もある。「署名」
にはこのような意味はない。

① そして、ぱっ!といなくなってしまった。長官はあわててピストルの引金
をひいたが、庭の土の中のモグラ三匹に重傷をおわせただけである。ディ
レクターから司会者にサインがきた。「時間がない!おわりの挨拶!」
(ブンとフン、p.163)

また次の例文のように、「サイン」には英語の「autograph」に当たる意味も
あることが分かる。「署名」にはこのような意味はない。
② 私が大きく頷くと、少年は手にしたバッグからノートとボールペンを取
り出し、内藤に差し出した。サインをしてくれということのようだった。
(一瞬の夏、p.987)

参考文献

1.あらかわ そおべえ(1984) 「じつは外来語だった」『言語生活』391 号 pp.24-


49 明治書院
2.石綿敏雄(1984) 「外来語論争史」『言語生活』391 号 pp.14-23 明治書院
3.石綿敏雄(1992) 「外来語と日本文化」『日本語学』3 月号 pp.25-32 明治書院
4.楳垣実(1963) 『日本外来語の研究』 研究社
5.陣内正敬(2003) 「外来語の課題と将来像」『日本語学』7月号 pp.12-18 明
治書院
6.高橋圭三(1984) 「外来語と私」『言語生活』391 号 pp.72-78 明治書院
7.田中牧郎(2003) 「外来語言い換え提案について」『日本語学』7月号 pp.50-60
明治書院
8.張威(1999) 「外来語について」『日本語・日本文化一年研修コース研究レ
ポート集』pp.377-427 名古屋大学留学生センター
9.戸村幸一(1984) 「外来語を積極的に使うことの是非について」『言語生活』391
号 pp.50-66 明治書院
10.深尾凱子(1979)『カタカナことば』 サイマル出版会
11.文化庁編(1997)『新「ことば」シリーズ6言葉に関する問答集-外来語編-』 
大蔵省
12.文化庁編(1998)『新「ことば」シリーズ8言葉に関する問答集-外来語編-』 
大蔵省
13.吉沢典男・石野博史・江川清(1984) 「外来語の現状を考える」『言語生
活』391 号 pp.2-13 明治書院

辞書類
1.金田一春彦・梅忠夫(1997) 『日本語大辞典』第 2 版 講談社
2.金田一春彦・池田弥三郎(1985) 『学研大辞典』学習研究社
3.金田一京助(1997) 『新明解国語辞典』 三省堂
4.柴田武・山田進(2002) 『類語大辞典』 講談社
5.中村洋一郎(1990) 『カタカナ用語の意味が分かる辞典』 日本実業出版社
6.吉沢典男・石綿敏雄(1979) 『外来語の語源』 角川書店
7.吉沢典男・土岐島雄(1979) 『図解外来語辞典』 角川書店

実例出典
1.『CD-ROM 版 新潮文庫の 100 冊』(1995) NEC
2.『CD-ROM 版 新潮文庫の絶版1 00 冊』(2000) NEC
3. 検索エンジン (http://www.google.ne.jp)
外来語について
-分類と和語・漢語と外来語の類義語分析-
                           
                 アグラハリ・アプルワ
                     AGRAHARI, APOORVA

目次

1. はじめに

2. 外来語について-和語・漢語との関係
2.1.外来語の定義
2.2.和語・漢語・外来語の関係
2.3.外来語導入の理由
2.4.外来語の分類
2.4.1.文法的な側面からの分類
2.4.2.意味的な側面からの分類
2.4.3.特殊な使い方

3. 和語・漢語と外来語の類義語分析
3.1.「運転」と「ドライブ」の意味分析
3.2.「遠足」と「ピクニック」の意味分析
3.3.「署名」と「サイン」の意味分析

4.終わりに

参考文献

外来語について
-分類と和語・漢語と外来語の類義語分析-

1.はじめに

本稿では、日本語における外来語を取りあげ、その性質を明らかにした上で、
和語・漢語とそれに対応する外来語とが類義関係にある場合、どのように使い分
ければいいかについて考察する。
まず、このテーマを選んだ理由について簡単に述べたいと思う。去年日本に来
て、日本人と話をしていた時、自分の食生活について聞かれ、「菜食主義者です」
と答えたら、「あっ、ベジタリアンですか」と言われたことがある。「魚などの海産
物、肉類などをとらず、穀物や野菜・果物類だけを食べる人」という意味で、国で
は「菜食主義者」と習っており、そのつもりで使ったのに、その時どうして英語の
vegetarian から由来した「ベジタリアン」に直されたのかと不思議に思った。「菜食
主義者」と「ベジタリアン」は意味が違うのか、違うならどう違うのかという疑問が
頭に浮かんできた。また、日本人の友達と買い物に行った時、「主に女性が履く、
ふくらはぎの上まである長い靴」を見て、「あの長靴かわいいね。OOちゃんによ
く似合うと思うよ」と言ったら、その友達は「あの黒いブーツか。うん、かわいい
ね」と答えた。その時、「長靴」と「ブーツ」は違うものなのかと思い、家に帰って辞
書を引いてみたら、二語はほとんど同じような意味記述がされていた。しかし、
その後、他の本を読んだり、何人かの日本人に聞いたりして、両語には違いがあ
ることがわかった。まず、「ベジタリアン」はおしゃれで、格好いい感じがすると
いうことで口語的な使い方のほうが多く、「菜食主義者」は硬くて古めかしい感じ
がすることから文語的な改まった使い方のほうが多いということである。次に「長
靴」といった場合は雨の時や農作業の時などに履くゴムでできた靴のイメージがあ
るが、「ブーツ」といった場合は日常において、女性がよく履くおしゃれな、皮で
できた靴のイメージがある。
このように、日本語の中には外国語から借り入れられた外来語と意味が似てい
る本来の日本語、つまり、和語・漢語があり、どんな時どちらを使えばいいかと、
何回も迷ったことがある。前述のようないくつかの出来事をきっかけに、外来語
の使用についていろいろ考えさせられ、本来の日本語(和語・漢語)と外来語の中
で、意味の似ているペアを取りあげ、比較することにした。日本語学習者がどち
らを使っても、相手にだいたいの意味は通じるかもしれないが、日本人には不自
然に聞こえ、場合によっては、まったく意味がずれてしまうケースもある。
一般的に外来語は、日本に今まで存在しなかった事物や現象を表すために、あ
るいは言葉に新鮮さを求めるためにといった理由で日本語の中に取り入れられる
が、その外来語は元々の外国語の意味や使い方と必ずしも一致しない。つまり、
外国語の元々の意味の範囲を拡大したり、縮小したりして使われている場合もあ
れば、元々の意味とまったく違う意味や使い方の場合もある。中には、和製英語
のように日本人が英語を使って作った新しい外来語、つまり、英語の中には存在
しないものもある。(詳しくは後述)
以上のように本稿では、外来語の様々な種類について考察し、また上にも指摘
したように、漢語・和語と外来語の中で互いに意味の似ている語のペアを取り上
げ、意味分析を行う。研究方法としては、まず、先行研究を整理・検討し、漢
語・和語と関連づけながら外来語の定義と分類を行う。次に、意味の似ている漢
語・和語と外来語のペアを取り上げ、日本語の文学作品やインターネットのホー
ムページなどから分析対象語の用いられた実例を収集する。さらに、先行研究を
踏まえて分析を行い、両者の意味の共通点と相違点を明らかにする。(注1)
2.外来語について-和語・漢語との関係

2.1.外来語の定義

本稿では、外来語と和語・漢語の間で類義語関係にある語を取り上げ、その類
似点・相違点を明らかにすることを目指す。それに先だち、和語、漢語、外来語
について検討する必要があると考え、本節では、外来語の定義と外来語と和語・
漢語との関係について見ていくことにする。
まず、外来語の定義については、主に楳垣(1963)、日本語大辞典(1997)、柴田
(1987)、学研国語大辞典(1985)を参考にし、以下のように示す。(注 2)
まず、楳垣(1963:11)では、「外来語とは、他国語の語句を自国語の中に借り入
れて、その使用が社会的習慣化したもののことである。言い換えれば、外来語と
は、外国語の語句をだいたいもとの形で自国語に借り入れて、一般に自国語とし
て使っているもののことであるということになる」と述べられている。
次に、日本語大辞典(1997:351)は、「外国語から取り入れて、その国の国語と
して使われるようになった言葉である」と説明している。
また、柴田(1987:140)は、「外の言葉から、文化の一部として入ってきてその
言語の語彙体系の中に自分の座を獲得した単語のことである」としている。
さらに、学研国語大辞典(1985)では、「外来語を外国の言語から入ってきて、同
化して、その国の言葉のように用いられる語である」と述べられている。
以上の先行研究に基づいて、外来語を定義すると次のように示すことができる。

外来語とは、主に、日本にはない事物を示すために、外国語から日本語の中に
取り入れられ、定着し、一般に日本語として使われている言葉のことである。

但し、楳垣(1963)、学研国語大辞典(1985)にも指摘されているように、外国か
ら日本語の中に入ってきたすべての語が外来語であるとは言い切れない。という
のは、いわゆる漢語も中国から取り入れられたものであるから、外来語といっても
良いはずであるが、習慣として漢語は外来語に含めない。漢語は奈良時代からき
わめて大量に取り入れられ、それまで文字のなかった日本語を書き表すために、
借用されたと言われている。その結果、日本人はかなり古くから日本語の中に定
着した漢語に対して、外来語という意識がほとんどなく、既に日本語に定着して
いるため、漢語は外来語に含めないのが一般的となっている。しかし、近代中国
から借りてきた「チャーハン(炒飯)」、「マージャン(麻雀)」、「ウーロン茶(烏龍
茶)」、「ギョーザ(餃子)」などは一般的に漢字をそのままの形かカタカナの形で示
し、外来語として扱うのが一般的である。これ以外に、本稿において「外来語」と
いった場合は、漢語は含めないことにする。
一方、仏教用語の中には、いわゆる梵語といわれるものがある。これはインド
のサンスクリト語が起源であるから、厳密に言えばこれも外来語として扱うべき
であるが、時代とともに、仏教は日本の主な宗教となっており、またこれらの語
は中国を経て(中国語化したものから)日本語に入ってきているので、インド語源
といっても日本語に定着しているため、これらの語は外来語に含めないのが一般
的となっている。例としては「だるま(達磨)」、「ぶっだ(仏陀)」、「ねはん(涅槃)」、
「もんじゅ(文殊)」、「ぼさつ (菩薩) ぼだいさったの略」、「あしゅら(阿修羅)」な
どが考えられる。

2.2.和語・漢語・外来語の関係

それではここで、主に、楳垣(1963)、吉沢他(1979)、張(1999)を参考にし、日
本語を構成している和語、漢語、外来語の関係について簡単に述べたいと思う。

和語:和語とは、日本に元々存在した語彙、つまり、日本本来の言葉で、助詞、
助動詞または接続詞のように仮名で書かれたものである。また、漢字で書かれて
いても訓読みされるものは和語として扱う。例は以下のようなものがある。
助詞、助動詞、接続詞:「が」、「を」、「らしい」、「しかし」、「けれども」など。
漢字で書かれ、訓読みされるものとして、名詞の「お父さん」、「部屋」、動詞の「待
つ」、「切る」、形容詞の「美しい」、「鋭い」、形容動詞の「爽やか」、「鮮やか」、「静
か」などがあげられる。(文化庁(1998)、張(1999))
漢語:漢語とは古く中国から伝来された言葉で、漢字で書かれ、音読みされるも
のである。例は「住宅」、「瞬間」、「国家」などがあげられる。その他に、「火事」、
「大根」、「返事」、「峠」のようないわゆる和製漢語というものもある。(あらかわ
(1984)、張(1999))

外来語:外来語とは、漢語を除く外国語、主としてヨーロッパの諸言語から日本
語の中に入ってきた言葉で、日本語の語彙体系の中に自分の座を獲得したものを
指す。外来語の中のほとんどは英語からきたものであるが、ポルトガル語、オラ
ンダ語、フランス語、ドイツ語、イタリア語から入ってきたものもある。たとえ
ば、「ガーゼ」、「パン」、「ガラス」などはそれぞれ「ドイツ語」と「ポルトガル語」と
「オランダ語」から入ってきたものである。(張(1999))

2.3.外来語導入の理由

歴史を遡ってみると、日本が外来語をはじめて導入したのは16世紀の室町時
代であると言われている。明治時代以前の日本は、鎖国政策により、一部の国を
のぞき、他国との交流が厳禁されていたので外来語の数も少なく使用率も低かっ
たが、明治時代に入り、外国との交流が増えるにつれて語数も増加し、使用も一
般化してきた。明治以前は、「蛮語」「舶来語」という名で呼ばれていたが、明治以
降からは世間一般にもかなりなじみの深いものとして認識されるようになった。
それでは、ここで日本語における外来語はどのような理由で入ってきたかを簡
単に述べたいと思う。まず、考えられるのは社会的な背景である。明治時代以降、
外国との交流が増えるにつれて、今まで日本にはなかった事物や新しい現象が数
多く入って来るようになった。その場合、翻訳をするなどして既存の日本語を使
って表す場合も考えられるが、ただそれだけでは適切に表せない場合が出てくる。
そこで、外国語から当該の事物や現象を表す語を借りてきて、その語の発音を日
本語の五十音に合わせて作った言葉を日本語の一部、外来語として使うようにな
ったのである。例えば、アルバイト(ドイツ語)、アルコール(オランダ語)、ズボ
ン(フランス語)、ビロード(ポルトガル語)などがあげられる。(注3)(石綿
(1984)、田中牧郎(2003))
外来語導入のもう一つの理由はいわゆる心理的な背景である。日本語に同じ事
物や現象を表す語が既に存在しているのに、導入される場合で、これは人間の一
般的な心理として、新奇さを求めるところから来る場合が多い。つまり、言い方
が古い感じがするという理由で単なる新鮮なイメージを求める場合である。例え
ば、「便所」の代わりに「トイレ」、「帳面」の代わりに「ノート」、「写真機」の代わり
に「カメラ」、「背広」の代わりに「スーツ」、「乳母車」の代わりに「ベビーカー」、「道
化師」の代わりに「ピエロ」などがあげられる。また、日本に存在している事物に似
ていることを表す外来語もある。例えば、「百貨店、デパート」、「お菓子、ケー
キ」、「旅館、ホテル」、「手ぬぐい、タオル」。本稿では、このような、意味の似て
いる語を考察対象とし、両者の共通点と相違点を明らかにする。(高橋(1984))

2.4.外来語の分類

日本語の外来語は様々な形があり、その使い方も様々である。また、外国語の
本来の意味をほとんど変えずに取り入れたものもあれば、もともとの意味と違う
意味で使われるものもある。以下では、外来語を文法的な側面、意味的な側面、
特殊な使い方という三つのグループに分けて考察する。

2.4.1.文法的な側面から分類

名詞としての使い方:外国の事物を表すのが外来語の主な役割であることを考え
れば、外来語の中には多くの名詞が存在する。例は以下の通りである。
「ラジオ」、「チョコレート」、「クリーム」、「ギター」、「カセット」、「ジーンス」な
ど。

動詞としての使い方:外来語の言葉を動詞として取り入れる時は、当該の外来語
に「する」または、外来語の語尾に「る」を加えて、動詞化して使う。例は以下の通
りである。
「デートする」、「キスする」、「エスカレートする」、「デモる」、「サボる」、「アジ
る」、「ダブる」など。
それ以外に、「メモる」、「コピる」、「ビニる」、「タクる」、「パロる」などのような
例もあるが、これらは主に若者の間で作られ、流行っている言葉であり、一般的
なものとは言い難い。

形容動詞としての使い方:日本語の中に形容動詞を表す働きを持っている「な」が
あるため、外来語に「な」または「に」を付けて形容動詞化する場合である。例は以
下のようなものがある。
「ハードな」、「ソフトな」、「ウェットな」、「シンプルな」、「オリジナルな」、「ユニ
ークな」、「スムーズな」、「デリケートな」など。

形容詞としての使い方:外来語の語尾に「い」をつけて、形容詞化して使われる例
は非常に少ない。主に若者を中心に作られ、流行している場合が多く、定着して
使われている語はほとんどない。例は以下の通りである。
「ナウい」、「エロい」、「キャバい」など。
これらの語は、一時的にはやり、時が経つにつれてだんだん使わなくなって消え
てしまう語であると考えられる。

混種語:混種語は外来語と日本語(和語・漢語)を組み合わせて作った言葉である。
例は以下の通りである。
「板チョコ」、「満タン」、「ガス欠」、「自己 PR」、「懐メロ」、「脱サラ」、「輪ゴム」、
「夏バイト」、「省エネ」、「どたキャン (土壇場でキャンセルする)」、「口コミ」、
「安全ピン」、「名コンビ」、「酎ハイ」、「豚カツ」など。
その他に、英語と英語の組み合わせや英語と他の外国語との組み合わせもあるが、
これらの語は和製外来語として扱い、2.4.3.節で詳しく述べる。

略語:略語は外来語のスペルをそのまま表記することではなく、一部分だけの音
をとって表す言葉である。スペルの長い言葉を短縮化したものもあり、二語の場
合はそれぞれ最初の部分を取り、結びつける。例としては次のようなものがあげ
られる。和製英語やローマ字表記の語は略語として分類することも可能であるが、
ここでは別のグループに分けて考察する。略語の例として以下のような例があげ
られる。
「スト」、「レジ」、「プロ」、「アド」、「アパマン」、「リモコン」、「デジカメ」、「ラジ
カセ」、「セクハラ」など。
           (陣内(2003)、吉沢他(1984)、戸村(1984)、文化庁(1997))

2.4.2.意味的な側面からの分類

意味が縮小された場合:意味が縮小されたというのは、ある外来語が日本語に入
ってきた際に、元の外国語が持っている意味より、狭い意味で使われる場合であ
る。例えば、「レジュメ」は「概要」の意味で使われているが、英語またはフランス
語(語源)では resume′は「履歴書」という意味も持っている。日本語ではそのよう
な意味では用いられない。また、英語で accessory は装飾品の意味でネクタイ、
香水、バッグなども含まれているが、日本語の「アクセサリー」は宝石類、貴金属
製のネックレスや指輪などに限られている。さらに、英語の young は、若者はも
ちろん、子供・幼児に対しても使うが、日本語の「ヤング」は、若者の意味でしか
使わない。

意味が拡大された場合:元の外国語が持っている意味より、広い意味で使われる
場合である。例えば、日本語の「トレーナー」は「運動選手の健康を管理し、練習の
指導をする人、馬などの調教師(trainer)」の意味と「競技者などが着る練習着
(sweat shirt)」の意味がある。英語の場合は前者の意味しかない。同様に、日本
語の「サービス」は service と同じく「レストラン、ホテルなどで客のために気を配
ってつくすこと」の意味と「品物を売るとき、客の便宜を図ったり値引きや景品を
つけたりすること」の意味があるが、英語の場合は前者の意味しかない。さらに、
日本語の「ハンドル」は「ドアなどの取っ手」と「車・機械などを運転操作する部分
(steering wheel)」という二つの意味を持っているが、英語の場合は後者の意味は
ない。
一方、「マイホーム(my home)」、「マイカー(my car)」、「マイペース(my pace)」
のような外来語がある。日本では、これらの言葉を自分以外の人に対しても使う
ことができるが、英語の場合はできない。つまり、日本語では「太郎君、マイカー
持っている?」のように「自分所有のもの」という意味で人称と関係なく使うことが
できるということである。英語の場合は、「my car」といった時、もっぱら話し手
自身のことしか表せない。それ以外に、「マイペース」などの表現もあげられる。

意味がずれた場合:もともとの外国語と外来語の間に共通点が少ないか、または
共通点がない場合である。例えば、日本語で「カンニング」といった場合は、「試験
で受験者が監督者の目を盗んで不正行為をする」ことを表す。つまり、英語の
cheating に当たる。カンニングに当たる英語は「cunning」で、「悪知恵、ずるさ」と
いう意味であり、両語は意味がずれていることが分かる。また、日本で「タレン
ト」といった場合は「テレビ・ラジオなどに出演する芸能人」を意味するが、英語の
talent は「才能、才能のある人」という意味である。さらに、日本の「マンション」
は集合住宅の一つであるが、英語の場合は立派な豪邸を意味する。そして、「バイ
キング」は、英語で viking と書き、もともと海賊のことであるが、日本語では、
各種の料理を並べ、客が好みによって自由に取って食べられる方式の食事の一つ
を意味する。
その他に、まだ日本語として定着はしていないが、「ギャル」という言葉がある。
髪を金髪に染め、厚い化粧をした活発な若者(女性)のことを指す。英語の girl は
このような意味としては使わない。(石綿(1992))

2.4.3.特殊な使い方

和製外来語(和製英語):これらは主に、英語または、他の外国語の言葉を使って
日本人が独自に作った言葉である。元の言葉の形を変えたり、二つ以上の言葉を
結びつけたりし、新しい言葉を作る場合である。従って、元の外国語には存在し
ない言葉である。
まず、英語を使った例は以下のようなものがあげられる。
「ナイター」、「アイターン」、「スキンシップ」、「アクアポリス」、「ベッドタウン」、
「ゴーストップ」、「コスプレ」、「ポケベル」、「プリクラ」、「オート・バイ」、「ジ
ー・パン」など。
以上の例には「ナイター」、「アイターン」、「スキンシップ」、「アクアポリス」は
それぞれを英語にすると nighter、I-turn、skinship、aquapolis になるが、この
言葉は英語に存在しないものである。まず、「ナイター」は夜間試合・夜に照明の
下で行う試合(主に、野球)のことを意味し、「アイターン」は都会出身者が地方に
就職・再就職することを指す。また、「スキンシップ」は人間関係を確立するため
の肌の触れ合い、また親が愛情を伝えるために、直接子供と体を触れ合うことで
あり、「アクアポリス」は人工の海上都市を意味する。さらに、「ベッドタウン」は
bed と town を組み合わせた語で、働く人々が夜寝るためだけに帰る町(住宅地区)
のことを意味し、「ゴーストップ」は交通信号の「進め」go と「止まれ」stop という意
味で使われている。その他に「コスプレ」costume+play、「プリクラ」print+club、
「ポケベル」pocket+bell、「オート・バイ」auto+bike、「ジー・パン」jeans+pants の
ような例もある。
続いて、英語と他の外国語を組み合わせた場合、つまり、二つの外国語の言葉
を組み合わせた語を取り上げる。
まず、「マッチポンプ」はマッチ(matchstick、英語)とポンプ(pomp、オランダ
語)を組み合わせた語で、自分で起こしたもめごとを鎮めてやるという意味を表す。
その他、「クラフト・ペーパー」のように kraft(ドイツ語)と paper(英語)からなっ
ているもの、「オムライス」のように omelette(フランス語)と rice(英語)からなっ
ているものもある。また、日本が今直面しているフリーター問題の「フリーター」
は free(英語)と arbeiter(ドイツ語)からなっている言葉である。

ローマ字表記の語:ローマ字表記の語は英文字の省略語をそのまま使ったり、和
製英語の頭文字を取ったりして作った言葉である。例は以下の通りである。
「OK」、「OB」、「TV」、「GW」、「OD」、「CM」、「OL」、「TPO」、「PHS」、「1LDK」。
これらの言葉の読み方については、ローマ字のまま読むものもあれば、元の長
い言葉の読みをする場合もある。以上の例の中で、「OK」、「OB」は英語の省略語が
そのまま使われ、頭文字で呼ばれるが、「TV」はローマ字で書かれるが、読む時は
「テレビ」と読まれることがある。和製英語の「GW」golden week、「OD」over doctor
はローマ字で書かれるが、それぞれ英語の発音通りに読まれる。「CM」commercial
message は元の長い読み方でも読まれるし、ローマ字のままでも読まれることもあ
る。「OL」office lady と「TPO」(時 time 場所 place 場合 occasion の意味で服装の選
択や行動の基準となる 3 要素)と「PHS」personal handyphone system((日本の)簡易
型携帯電話)と「1LDK」1 living,dining,kitchen(居間・食堂・台所を兼ねる洋風の
部屋)はローマ字のままで読まれるが、英語には存在しない言葉であるから、和製
英略語であるといってもいいだろう。

商標名:外来語は、日本に今まで存在しなかった事物や現象を表すために外国語
から取り入れるのが一般的であるが、商標(商品)の名付け方にはやや特殊な場合
もある。つまり、当該の商標(商品)について日本独自の名付け方をするというこ
とである。例としては以下のようなものがある。

・ホッチキス:紙をとじ合わせる器具で、コの字型のとじ金を押さえて留める。
発明者である米国の「B.B.ホッチキス」の名にちなむ名前で、アメリカのメーカ名
である。米国や英国では「paper fastener」、「stapler」と呼ばれている。

・クラクション:自動車の警笛のことであり、米国の「klaxon」製造会社の名が語
源である。米国や英国では「horn」や「siren」と呼ばれる。

・シャーペン:シャープ・ペンシルの略で、形は万年筆に似ており、インクの代
わりに鉛筆の芯のようなものを使う。1837 年に米国で発売された商標名「ever-
sharp」が語源である。米国や英国では「mechanical pencil」、「clutch pencil」と
呼ばれている。

・ビー玉:子供の遊び用のガラスの玉のことである。語源は不明であるが、ビー
玉の「ビー」は、「B」であり、元々業界用語で、輸出の際に、着色される玉を「A
玉」、透明なものを「B玉」と呼ぶことからきたという説がある。一方では、ポルト
ガル語でガラスを「ビードル」と言い、室町時代にポルトガル人が来日し、ガラス
の製造方法を伝える際に、「ビードル玉」を「ビー玉」に省略して使ったことからき
たという説もある。
3.和語・漢語と外来語の類義語分析

類義語分析方法はいろいろあるが、本稿では、例 8)のように類義語以外の部分
がまったく同じである文を比較しながら、両語の置き換えが可能かどうかを検討
する。両方言える場合、それぞれが持つ意味特徴のどの部分が類似していて、ま
たどの部分が違うかを明らかにする。また、置き換えが不可能な場合、どういっ
た理由でそうなのかを考察する。
2.2.では、外来語の導入の理由として心理的な理由を取り上げ、日本語の
中に既に意味の似ているものを表す表現があっても外来語が入ってきた場合があ
ると指摘した。そこで当然出てくる問題が両語の意味の違いである。日本語学習
者の場合は、両語の意味を辞書などに書かれている説明を見て、理解するわけで
あるが、それだけではなかなか違いが分からない。そこで、本稿ではこのような
ペアを取り上げて、相互の意味の類似点、相違点について分析を行う。本稿で取
り上げる例は以下の通りである。

「運転」と「ドライブ」
「遠足」と「ピクニック」
「署名」と「サイン」

3.1.「運転」と「ドライブ」の意味分析

この節では、漢語の「運転」と外来語の「ドライブ」を取り上げ、分析を行う。ま
ず、次の例文を見てみよう。

例 1)ぼくらはやたらとかんだかいことばを投げかわしながら車にとびのり、今度
は侯爵が運転した。                  (聖少女、p.245)
例 2)私は新車で友達とドライブに出かけた。

以上の例から分かるように、「運転(する)」と「ドライブ(する)」は「自動車を操作
して走らせる」という共通点を持っていると考えられる。それでは続いて、先行研
究を踏まえて(主に、「新明解国語辞典・類語大辞典」などの辞書類)、「運転」の意
味について考察する。
次の例を見てみよう。

例 3)バス/タクシー/耕耘機を運転する。

この例から「運転」の意味は、「機械や動力のある乗り物を操作して走らせるこ
と」と示すことができる。但し、機械や乗り物すべてに対して「運転する」が使える
わけではない。例えば、構造が非常に複雑であり、操作に高度な技術や能力を必
要とする飛行機については「運転する」とは言わず、「操縦する」という言い方をす
る。一方、自転車は「運転」の定義からすると、燃料ではなく、人が自分の足の力
で動かすので、当てはまらないことになるが、実際には「自転車を運転する」も可
能である。だが、日常では「自転車に乗る」という言い方が一般的であると考えら
れる。これはわりと構造が単純であり、容易に操作できる乗り物であるから「運転
する」という言い方をしないのかもしれない。
次に「ドライブ」の意味について考察する。

例 4)ベンツでドライブする。
例 5)フン先生、わたしとドライブにいきませんか。気分がすーっとしますよ。
                        (ブンとフン、p.260)
例 6)女の子とは、夕方、新宿の喫茶店で知りあい、湘南の海岸にドライブに行こ
う、と連れてきた子で、車は第三京浜を走っていた。   (冬の旅、p.123)

まず、例 4 から言えることは、「ドライブ」は単に車を操作するということではな
く、車を利用する、つまり手段としていることが分かる。また、例 5、6 から分か
るように「運転という過程と周りの景色などを楽しむこと」であると言える。
以上のことから、「ドライブ」の意味は、「自動車に乗って、(景色のいいところな
どを走ったりして)楽しむこと」と示すことができる。
それでは、次に「運転」と「ドライブ」の相違点を考察する。以下の例を見てみよ
う。
例 7)a 車を運転する。
b 車でドライブする。
例 8)助手席に坐り、高崎の寂しい夜の繁華街に眼をやりながら、私は運転(*ドラ
イブ)している森田に訊ねた。             (一瞬の夏、p.529)
例 9)女の子とは、夕方、新宿の喫茶店で知りあい、湘南の海岸にドライブ(*運
転)に行こう、と連れてきた子で、車は第三京浜を走っていた。   (=例 6)

まず、例 7 から言えることは、「運転」の場合は車が対象になる。つまり車を操
作すること自体が運転である。それに対して、上でも指摘したように、「ドライ
ブ」の場合は車が手段になる。つまり、車そのものを操作することだけが目的では
ないということである。
これは、例 8 と 9 で説明ができると考えられる。例 8 と 9 において、「運転」を
「ドライブ」に、「ドライブ」を「運転」にそれぞれ置き換えることができない。その
理由は、「運転」は車を走らせることだけだが、「ドライブ」はそれだけではなく、
「景色のいいところを走りながら、楽しむ」という意味もあるからである。
さらに次の例を見てみよう。

例 10)半身不随でベッドにころがっているどころか、ひさしぶりに自分で車を運転
(*ドライブ)して会社にでかけていたのです。第一、父の病気は脳溢血では
ありませんでした。                  (聖少女、p.450)
例 11)ドライブ(*運転)。いつも助手席にすわっているんじゃ物足りない。時には
自分でハンドルを握り、お気に入りの服を着こなすように、車も上手に着こ
なしたい。(http://www.e-colle.com/mag/act/trv/trv0401/trv04011.html)

例 10 と例 11 の場合においても、「運転」を「ドライブ」で、「ドライブ」を「運転」で
言い換えることができない。その理由は、「運転」の場合は、自分自身が車のハン
ドルを握って操作することだが、「ドライブ」は自分が直接ハンドルを握らなくて
も(つまり、助手席などに座っても)、「景色のいいところを走りながら、楽しむ」
というような意味があれば、用いられるからである。例 10 において、「ドライブ」
が言えないのは、「景色のいいところを走りながら、楽しむ」という解釈ができな
いからである。

3.2.「遠足」と「ピクニック」の意味分析

本節では、漢語の「遠足」と外来語の「ピクニック」を取り上げ、意味分析を行う。
まず、以下の例を見てみよう。

例 12)夏になると、島には沢山青いゴリがなった。城山へ遠足に行った時なんか、
弁当を開くと、裏で出来た女竹の煮たのが三切れはいっていて、大阪の鉄工
場へはいっていた両親を、どんなにか私は恋しく思った事です。
                             (放浪記、p.568)
例 13)それから台所に行って、床にちらばった食品の中からパンを二個とコンビー
フと桃とソーセージとグレープフルーツの缶詰をあつめて、ナップザックの
中に入れた。水筒にもたっぷりと水を入れた。次にズボンのポケットに家に
置いてあった現金のぜんぶをつっこんだ。「ピクニックみたいね」と娘は言っ
た。       (世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.632)
例 14)a 日帰りで遠足(ピクニック)に行く。
 b *2 泊 3 日で遠足(ピクニック)に行った。

以上の例から「遠足」と「ピクニック」は「弁当、飲み物などを持って行楽のために
日帰りで野山や公園などに出かける」という共通点を持っていると言える。
続いて、次の例を見てみよう。

例 15)触れ合いコーナー、ポニー乗馬を遠足など団体(サークル、子供会などを含む)
で、利用される場合は必ず、事前の予約が必要となります。
(http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/soko/zoo-dan.htm)
例 16)今日は次男が、初めての遠足で東板橋公園に行ってきたそうです。(中略)
でもクラス皆で行くのは、また別でとても楽しかったようです。
           (http://www.k-uriba.com/diary/2004/0405/040518.htm)
例 17)本村にさしかかり、おかあさんとわかれねばならぬ場所が近づくと、さすが
のきょうだいもすこし不安になったらしく、かわるがわるきいた。
「おかあさん、ぼくらのピクニックのほうが早くすんだらどうしよう。」
「そしたら水月の下の浜で、石でもなげてあそんどればいい。」
(世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.405)
例 18)バスケットの中にはピクニックのセットが入っていた。ナイフとフォーク、
皿とカップ、そして変色して黄ばんでしまった白いナプキンが一セット、き
ちんと整理されて詰められていた。
(世界の終わりとハートボイルドワンダーランド、p.808)

 例 15、例 16 から分かるように、「遠足」は弁当、飲み物などを持って単に行楽の
ために出かけるというだけではなく、幼稚園や学校の行事の一つ、つまり集団で、
見物や見学の目的で行楽に行くという意味特徴を持っている。このような場合は
「ピクニック」より「遠足」のほうがよく使われる。
 それに対して、「ピクニック」の特徴は例 17 と例 18 から分かるように、食べ物・
飲み物を持参し、野山や公園などでそれを楽しむことが主な目的であると考えら
れる。そのことから、野山や公園などに出かけずに、自分の家の庭で「ピクニック
を楽しむ」のように言えるのは「食事を楽しむ」という意味特徴が強いからであると
考えられる。例 17 と例 18 において、「ピクニック」の代わりに、「遠足」を用いると
不自然な文になるのはそのためであると考えられる。

3.3.「署名」と「サイン」の意味分析

 最後にこの節では、「署名」と「サイン」を取り上げ、両語の意味の類似点・相違
点について考察する。まず、以下の例を見てみよう。

例 19)彼はあの白い幻影をいまさらのように思い出す。あの瞬間、彼は終生の単独
行の契約書に署名して、山という偉大なる権力者の前に差出したように考え
られてならない。                (孤高の人、p.782)
例 20)私はエディに、自分の満足するような契約の条文を英語で書いてくれないか
と頼んだ。それをもとに、弁護士に英和二通の正式な契約書を作ってもらい、
それに全員でサインする。           (一瞬の夏、p.836)
例 21)契約書を机の上に置くと、思いがけぬほど穏やかな調子で、
「わかりました」と言った。
「それでは、みんなでサインしませんか」
私はポケットからボールペンを取り出した。     (一瞬の夏、p.851)

 例 19~例 21 から明確であるように「署名」と「サイン」は、両方とも印刷したもの
は不可能で、手書きで書く必要がある。また、賛成や承認の上で、「署名」あるい
は「サイン」をするということも共通の特徴であると考えられる。しかし、「署名」
と「サイン」には意味の違う面もある。次の例を見てみよう。

例 22)四人は狭い事務室で体をぶつけながら入れ替わり立ち替わり契約書に自分の
名を書き入れた。内藤が洒落たつもりで「JUN NAITOH」とサインすると、エ
ディが上機嫌で生意気ねと言った。         (一瞬の夏、p.853)
例 23)彼は極めて気分屋の人です。その性格はサインにも現れ、サインを貰うのが
難しい人物にリストアップされています。だからイニシャルだけの R.C.だけ
というものなんていうものがあるのです。
         (http://www.boots-room.com/01topics/spain/spain-04.html)

 サインは署名と重なるところもあるが、自分の名前を書いて賛成・承認を表す
場合に加え、おしゃれな感じで自分の名前を記すこともサインという。また、名
字と名前を書かかず、頭文字、つまり、自分のイニシャルを記してもサインとい
う言い方をする。場合によっては、走り書きではっきりとわからないように名前
を書くこともサインという言い方をする。(注 4)
それでは、続いて、次の例を見てみよう。
例 24)名誉会員 「山本五十六 草鹿任一 小沢治三郎 鮫島具重 武田哲郎 柳
川教茂」と六人の署名があり、日付は四月十三日、山本の前線巡視計画がラ
バウルから電報で出されたその晩になっている。  (山本五十六、p.1409)
例 25)作戦会議に列席している人々の間でさえ、精神的統一など夢であったのだ。
ギリシア人同士でも、西欧派のイシドロスと、教会合同に反対で署名(?サ
イン)さえ拒否した宰相ノタラスは、同席していながら、彼らの間では言葉
も交わそうとしなかった。    (コンスタンティノーブルの陥落、p.195)

 例 25 において、署名はあらたまった、正式的な感じがするのでサインは使いに
くくなる。「署名運動」のように使われ、署名はサインより正式なイメージがある
ことが分かる。

例 26)戦争初期のことではあるし、社内には一種のスターシステムが布かれ、派手
な特種を取れば、社会面に大きく署名入り(サイン入り)で記事が載った。
(あすなろ物語、p.209)

 例 26 は、賛成・承認のうえ、自分の名前を記すことが分かるので「署名」と「サ
イン」、両方用いられる。「署名」を用いた場合は、改まった正式的な感じがする。
それに対し、「サイン」を用いた場合は、その言い方が「署名」より軽い感じがする。

4.終わりに

以上本稿では、日本語の外来語を取り上げ、定義と分類を行った。次に和語・
漢語と外来語の間で類義関係にある語を取り上げ、意味分析を行った。分析の結
果の要点をまとめると以下の通りである。

「運転」:機械を操作する。動力のある乗り物を走らせる。複雑な構造を持つ機
械・乗り物(飛行機・船など)については用いられない。自転車は動力を持たない
が、「自転車を運転する」と言える。本人が操作することである。
「ドライブ」:乗り物を手段として、運転の過程と周りの景色などを楽しむこと。
自分自身が乗り物を操作しなくても使用可能。

「遠足」:日帰りで、飲食品を持参し、団体で野山などに出かけることを表す。幼
稚園や学校の行事などに主に使われる。サークルやクラブ仲間などの団体にも使
用可能。
「ピクニック」:景色と弁当(食事)を楽しむことを主な目的とし、日帰りで野山や
公園へ行くことを表す。家の庭でも可能。遠足より少人数。

「署名」:賛成・承認の上で、自分の名字と名前をはっきりと記すことを表す。改
まった正式的な使い方。
「サイン」:賛成・承認上の使い方もあるが、軽い感じで名字と名前を記す場合に
も使う。頭文字やイニシャルを走り書きで記す場合にも使う。有名人やスターの
サインという使い方もある。

その他に、「機会」と「チャンス」についても分析を行ったが、まだその結果が明
確にされていないため今回は除外することにした。
 それから、今回の分析では、「運転」と「ドライブ」、「遠足」と「ピクニック」、「署
名」と「サイン」の3つのペアしか扱えなかったが、今後の課題として、「贈り物」と
「プレゼント」、「試験」と「テスト」などのような類義的意味を持つ語についても考
察していきたいと思う。
このレポートを通じて、日本語の外来語について、いろいろ考えさせられ、前
よりよく理解できるようになったと思う。研究上難しかったのは、外来語の言葉
を選別し、分類することであった。しかし、言葉の成り立ちと語源についていろ
いろな点に気づき、とてもいい勉強になった。特に、外来語の特殊な使い方(2.
4.3)のところで述べた商標名の外来語である。
一方、電子工業が盛んである日本で発明された Pokemon、Play
Station、Walkman などはそれぞれ、グローバル化時代の波に乗って、世界の国々
に日本で名付けられた名前のまま知られるようになったことがわかった。これに
限らず、日本語の言葉が英語の中に入った場合もある。例えば、samurai 侍、
geisha (geisha girl)芸者、shogun 将軍、shogunate 幕府、kimono 着物、origami
折り紙、bonsai 盆栽、judo 柔道、karate 空手、sumo wrestling 相撲などがある。
また、日本語が語源となっている tsunami 津波、kamikaze 神風、hara-kiri 腹切り、
rickshaw 人力車、tycoon 大君などもある。さらに、typhoon 台風は日本語語源で
あると考えられがちであるが、そうではないことが分かってきた。また、アメリ
カで carry o.k.と発音されているのが日本語から英語に入ったカラオケであるが、
それは和製英語の(空+オケ orchestra)である。また、英語の anime はアニメがそ
のまま使われ、日本のアニメーションを指す言葉になったと分かってきた。した
がって、言葉が生まれ、時代の流れに沿っていろいろ変形して行くことを強く感
じた。その面で、日本語の外来語に対する柔軟性と創造性はダイナミックで、印
象的だと思うようになった。
そしてその上、辞書の記述だけに頼らず、日本語母語話者に言葉の使用を判断
してもらった結果、辞書の記述の範囲を超えた使い方もあると分かってきて、大
変勉強になったと思う。これからも、日本語の外来語だけではなく、様々な言葉
の意味に対して自分の知識を広め、研究を深めて行きたいと思う。

【注】

(注1) 本稿において、例文は主に『CD-ROM 版 新潮文庫の 100 冊』(1995)と


『CD-ROM 版 新潮文庫の絶版1 00 冊』(2000)から引用した。作品名、掲載
ページは引用した文の後ろにかっこつきで示した。インターネットからの引
用はそのホームページのURLを示した。検索エンジンは「実例出典」を参照
されたい。出典の付していない例は作例である。なお、引用例の中で分析対
象となっている二つの語同士が、それぞれ置き換えが可能かどうかについて
は日本語母語話者に判断してもらった。
(注 2) 外来語をカタカナ語と呼ぶことがある。これは、外来語は基本的にカタカ
ナで表記するからである。だが、厳密に言えば、カタカナで表記されるすべ
ての語が外来語とは限らない。つまり、カタカナが用いられているのは外来
語また、外国の人名や地名だけではなく、難しい漢字の用いられた日本語の
生物名や植物名もカタカナで書かれることがある。さらに、筆者がある言葉
を強調して使う場合と、ヒト、モノのような使い方の場合にも使われる。日
本語の擬声語・擬態語もカタカナで表記されることがある。(深尾(1979))
(注 3) かつて外来語に当て字を当てることや外来語を翻訳することもあった。例
えば、硝子(ガラス)、護謨(ゴム)、木乃伊(ミイラ)、瓦斯(ガス)、麦酒(ビ
ール)、燐寸(マッチ)などがあげられる。しかし、現在では、ほとんど使わ
れなくなった。ただ、頁(ページ)、釦(ボタン)、倶楽部(クラブ)、珈琲(コ
ーヒー)、煙草(タバコ)などの例は希ではあるが漢字のほうを使うこともあ
る。また、テニス(庭球)、バレー・ボール(排球)、サッカー(蹴球)、ビリヤ
ード(撞球や玉突き)のように外国から入ってきたスポーツは、当初は日本語
に翻訳されて取り入れられたが、時代の流れとともに、だんだん外来語(カ
タカナ)のほうを使うのが一般的となってきた。もちろん、「野球、ベース・
ボール」「卓球、ピンポン」のように翻訳語と外来語の両方が使われている例
もある。
(注 4) 次の例文を見てみると「サイン」にはいわゆる「合図」の意味もある。「署名」
にはこのような意味はない。

① そして、ぱっ!といなくなってしまった。長官はあわててピストルの引金
をひいたが、庭の土の中のモグラ三匹に重傷をおわせただけである。ディ
レクターから司会者にサインがきた。「時間がない!おわりの挨拶!」
(ブンとフン、p.163)

また次の例文のように、「サイン」には英語の「autograph」に当たる意味も
あることが分かる。「署名」にはこのような意味はない。

② 私が大きく頷くと、少年は手にしたバッグからノートとボールペンを取
り出し、内藤に差し出した。サインをしてくれということのようだった。
(一瞬の夏、p.987)
参考文献

1.あらかわ そおべえ(1984) 「じつは外来語だった」『言語生活』391 号 pp.24-


49 明治書院
2.石綿敏雄(1984) 「外来語論争史」『言語生活』391 号 pp.14-23 明治書院
3.石綿敏雄(1992) 「外来語と日本文化」『日本語学』3 月号 pp.25-32 明治書院
4.楳垣実(1963) 『日本外来語の研究』 研究社
5.陣内正敬(2003) 「外来語の課題と将来像」『日本語学』7月号 pp.12-18 明
治書院
6.高橋圭三(1984) 「外来語と私」『言語生活』391 号 pp.72-78 明治書院
7.田中牧郎(2003) 「外来語言い換え提案について」『日本語学』7月号 pp.50-60
明治書院
8.張威(1999) 「外来語について」『日本語・日本文化一年研修コース研究レ
ポート集』pp.377-427 名古屋大学留学生センター
9.戸村幸一(1984) 「外来語を積極的に使うことの是非について」『言語生活』391
号 pp.50-66 明治書院
10.深尾凱子(1979)『カタカナことば』 サイマル出版会
11.文化庁編(1997)『新「ことば」シリーズ6言葉に関する問答集-外来語編-』 
大蔵省
12.文化庁編(1998)『新「ことば」シリーズ8言葉に関する問答集-外来語編-』 
大蔵省
13.吉沢典男・石野博史・江川清(1984) 「外来語の現状を考える」『言語生
活』391 号 pp.2-13 明治書院

辞書類
1.金田一春彦・梅忠夫(1997) 『日本語大辞典』第 2 版 講談社
2.金田一春彦・池田弥三郎(1985) 『学研大辞典』学習研究社
3.金田一京助(1997) 『新明解国語辞典』 三省堂
4.柴田武・山田進(2002) 『類語大辞典』 講談社
5.中村洋一郎(1990) 『カタカナ用語の意味が分かる辞典』 日本実業出版社
6.吉沢典男・石綿敏雄(1979) 『外来語の語源』 角川書店
7.吉沢典男・土岐島雄(1979) 『図解外来語辞典』 角川書店

実例出典
1.『CD-ROM 版 新潮文庫の 100 冊』(1995) NEC
2.『CD-ROM 版 新潮文庫の絶版1 00 冊』(2000) NEC
3. 検索エンジン (http://www.google.ne.jp)

You might also like