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ことはじ

プライマリ・ケア言始め
−今さら聞けないひととことば−

第14 回

患者中心のケアとはどういうことか
南砺市民病院総合診療科 大浦  誠
鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山
日本プライマリ・ケア連合学会 学会のあり方・知的活性化プロジェクトチーム(通称チーム岡田) 岡田 唯男(監修)

 これまでの連載では医療の質の四つの軸の一つ,患者の受療体験 ダの研究者ですから,第3版出版前にHudonらの論文,もしくは本
を改善するという項目の紹介がありました.前回はその一つpatient 人との直接の会話で,考えを改めたからかもしれません.当時の
experience(患者経験:PX)をどう測定するのか,というお話でし 研究者たちの息遣いが聞こえてくるようなエピソードですね3).
た.今回はPXの一要素を占める患者中心のケアについて解説します.  では,患者中心のケアはどのように測定するのでしょう.先

 患者中心のケアは1950年代,アメリカの人文主義心理学者 述のレビューでは13のツールが同定されました.そのうち前述

Rogersが提唱した“クライアント中心療法”がもとになっていま の4項目が網羅されていたのはCCM,CPCI,PACS,GPAS,

す .これを家庭医療分野で“患者中心のケア”という用語で紹介
1)
PCAT-A,CAREでした(CAREは日本語版が存在)ですが,とく

したのは,心理分析学者Balintでした.やがて患者中心のケアは家 に患者中心のケアのスコアの高さと,さまざまな(短期的)健康

庭医療の中核的価値となり ,患者中心のケアを行うと,患者満足
2)
アウトカムとの相関を示したのがCCMとPPPCでした.

度やエンパワーメントを高め,重症度を軽減させ,医療費削減にも  PPPCはカナダでStewartが開発した直近の家庭医療外来を患者

役立つことがわかっています . 3)
の視点で評価する方法です.4段階のリッカート尺度を用いた14の

  患 者 中 心 性 の 概 念 で 有 名 な も の は ,S t e w a r t が P a t i e n t 質問項目で構成され,不快や不安からの回復・軽減,初回外来から

Centered Clinical Method(PCCM)で提唱した四つの要素, 2ヵ月後の感覚的な健康観,不要な検査や専門医へのコンサルトの

①疾患と病い両方の経験を探る*,②地域・家族を含め全人的に 少なさとよく相関しました.一方,CCMは英国で発達した直近の

理解する,③患者-医師関係を強化する,④共通の理解基盤を見出 家庭医療外来を患者の視点で評価する方法です.Stewartのモデル

す,です(詳細は成書を).患者中心のケアの測定ツールの比較 を参考に21の質問項目で構成され,患者満足度,実施可能性,症

検討したシステマティックレビュー では,そのツールが,家庭医 4)
状の軽減,不要な専門医へのコンサルトの減少と相関しました.
療で最も引用されるStewartの6要素(当時),とMeadとBower  患者中心のケアを構成する4要素とその測定ツールの紹介でし

の文献レビューによって同定された四つの要素とに共通する4要素 た.重要なのは,この4項目は行うべきタスクのチェックリストで

を網羅しているかどうかを評価基準として使用しています(図). はないということです.つまり,事務的に行うものでもなく,順序

ちなみに2010年出版の第2版までは6項目(上記四つに加えて, を気にする必要もありません.一方、患者中心のケアとは「患者さ

⑤診療に予防 んの気持ちになって」とか「患者第一主義で」というスローガンや
一個人として 生物心理社会 健康増進を取 心構えの話ではなく,それを達成するための4要素が学術的に定義
の患者   的視点
り入れる,⑥実 されているのですから,何らかの形でそれらを担保する診療の構

際に実行可能で 造を個人または組織として作り出す必要があるのです.悩ましい
疾病と病いの経験* 全人的アプローチ
あること)だっ のは,患者中心のケアとは別に人中心のケア(person centered

たStewartの care)という概念も存在することです(それはまたの機会に).

PCCMは第3版 *第3版にて「健康,疾患と病いの経験」に変更(筆者注)

共通の理解基盤 患者−医師関係 ( 2014 年 )で


文献
4項目に減って
1)Rogers CR. J Consult Psychol. 1957; 21: 95-103.
権限と   治療に います.Hudon 2)Balint M. Lancet. 1955 Apr 2; 268(6866): 683-688.
責任の共有 おける同盟
の論文が2011 3)
岡田唯男翻案.一目で分かる PCCM:患者中心の医療の方法 第 3 版 (One
■ PCC model(Stewartら) Pager) Patient Centered Clinical Method 3rd ed., Stewart ら 2013
■ PCC model(Mead,Bower) PCC:patient-centerd care 年,Stewartも (ウェブで検索可能)
図 患者中心のケアの概念的枠組み
Hu d o nもカナ 4)Hudon C, et al. Ann Fam Med. 2011 Mar-Apr; 9(2): 155-164.

68 プライマリ・ケア Vol.5 No.1 2020

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