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玄妙基数と精妙基数 PDF
玄妙基数と精妙基数 PDF
藤田 博司
更新:2009 年 4 月 6 日∗
概要
弱コンパクト基数より強いけれど V = L とは両立するような, 二つの巨大基数概念, 玄妙基数 (ineffable
cardinals) と 精妙基数 (subtle cardinals) についての概説です. 新しいオリジナルな結果はありません.
はじめに
in·ef·fa·ble adj.
too great or extreme to be expressed or
described in words: the ineffable natural
beauty of the Everglades.
• not to be uttered: the ineffable Hebrew
name that gentiles write as Jehovah.
—New Oxford American Dictionary
1
1 玄妙基数と精妙基数
漸通玄妙理、
(ようやく玄妙の理を通じ)
深得坐忘心。
(深く坐忘の心を得る)
— 孟浩然*1
定義 1.1 無限基数 κ が 概玄妙 (almost ineffable) であるとは次の条件をみたすことである. 集合の列
¯
Aα ¯ α < κ i が ∀α < κ(Aα ⊂ α) となるように与えられたとき, κ の部分集合 S を
³ ´
(I) ∀α, β ∈ S α < β −→ Aα = Aβ ∩ α
かつ,
|S| = κ
となるようにとれる. J
¯
定義 1.2 無限基数 κ が 玄妙 (ineffable) であるとは, 集合の列 Aα ¯ α < κ i が ∀α < κ(Aα ⊂ α) となる
ように与えられたとき, 定義 1.1 における条件 (I) をみたす集合 S を κ の定常部分集合としてとれる場合にい
う. J
¯
定義 1.3 無限基数 κ が 精妙 (subtle) であるとは次の条件をみたすことである. 集合の列 Aα ¯ α < κ i が
∀α < κ(Aα ⊂ α) となるように与えられたとき, κ の任意の club 部分集合 C から,
α, β ∈ C, α < β, Aα = Aβ ∩ α
をみたす二つの要素 α と β を取り出せる. J
2
¯
補題 1.5 無限基数 κ が玄妙基数であるためには次のことが必要かつ十分である: 集合の列 Aα ¯ α < κ i
が ∀α < κ(Aα ⊂ α) となるように与えられたとき, κ の部分集合 A が存在して
n ¯ o
¯
α < κ ¯ A ∩ α = Aα
が κ の定常部分集合になる.
S
{ Aα | α ∈ S } とすればよい. J
[証明] 定義 1.1 の式 (I) が成立するような定常部分集合 S について A =
¯
補題 1.6 無限基数 κ が概玄妙基数であるためには次のことが必要かつ十分である: 集合の列 Aα ¯ α < κ i
が ∀α < κ(Aα ⊂ α) となるように与えられたとき, κ の部分集合 A が存在して
¯n ¯ o ¯¯
¯
¯ α < κ ¯¯ A ∩ α = Aα ¯ = κ
¯ ¯
となる.
[証明] 補題 1.5 の証明と同様. J
2 精妙イデアル I Sbtl
花を研究してその本性を明にするというは、自己の主観的
臆断をすてて、花其物の本性に一致するの意である。理を
考えるという場合にても、理は決して我々の主観的空想で
はない、理は万人に共通なるのみならず、また実に客観的
実在がこれに由りて成立する原理である。動かすべからざ
る真理は、常に我々の主観的自己を没し客観的となるに
由って得らるるのである。これを要するに我々の知識が深
遠となるというは即ち客観的自然に合するの意である。
— 西田幾多郎*2
イデアルとフィルターについての基本的なことは, ノート [19] にまとめてあります. 不可算正則基数 κ 上
の club フィルター NS∗κ と, 可測基数上の正規超フィルターが正規フィルターの例として与えられていまし
た. ここではさらに, 精妙フィルターおよび玄妙フィルターという二種類の正規フィルター (の候補) を導入し
ます.
Club フィルターに先立って定常集合の概念が提示されたように, まず精妙集合の定義から出発します.
定義 2.1 基数 κ の部分集合 S が κ において精妙である (subtle in κ) , あるいは κ の精妙部分集
合であるとは次のことである: κ の club 部分集合 C と, 各 α の部分集合 Aα を選んで作った集合列
¯ ® Q
Aα ¯ α ∈ S ∈ α∈S P(α) が任意に与えられたとき, これに対して
(1) α, β ∈ C ∩ S, α < β, Aα = Aβ ∩ α
をみたす順序数 α と β が, 必ず存在する. J
次の補題はこの定義からすぐにわかります.
3
もまた κ の精妙部分集合である. (iv) κ の精妙部分集合は κ において定常である. (v) A が κ の精妙部分集
合, C が κ の club 部分集合であれば, A ∩ C は κ の精妙部分集合である. J
となっている. この仮定から矛盾が導かれることを示そう.
そのためまず C = 4γ<κ Cγ とおく. これは κ の club 部分集合である.
全単射 π : κ → κ×κ を任意に固定し, D = { α < κ | π“α = α × α } とする. D は κ の club 部分集合で
ある.
π −1 “({f (α)} × Aα
f (α)
ここで, X が κ の精妙部分集合であることにより, 集合列 ) | α ∈ X i と club 集合
C ∩ D に対して,
によって定める. J
4
集合 X と Y がいずれも κ の精妙部分集合でないという仮定により, κ の club 部分集合 C と D, それと
集合列 h Aα | α ∈ X i と h Bα | α ∈ Y i を
¡ ¢
∀α, β ∈ X ∩ C α < β → Aα 6= Aβ ∩ α ,
¡ ¢
∀α, β ∈ Y ∩ D α < β → Bα 6= Bβ ∩ α
∗ ∗ ∗
となるようにとれる. J
精妙集合の場合と同様に, 次のことがすぐにわかります.
5
次の補題も, 精妙集合について同様のことを述べた補題 2.3 の論法で証明できます.
先ほど精妙でない集合のなすイデアルを考えたように, 玄妙でない部分集合の全体がなすイデアルを定義し
ます.
によって定める. J
さっそく, これらがイデアルとフィルターになっていることを検証しましょう.
となっていたら, S ∩ X ∩ C か S ∩ Y ∩ D のすくなくとも一方は定常集合のはずなので, Aα , Bα , C, D の取
りかたと矛盾する. J
この節のしめくくりにこれらのイデアルとフィルターの大きさを比較してみます. 精妙集合は定常なので,
定常でない集合は精妙でなく IκSbtl に属します. 玄妙集合は精妙なので, 精妙でない集合は IκInef に属します.
このことから,
補題 2.13 (i) κ が精妙基数のとき NSκ ⊂ IκSbtl , したがって NS∗κ ⊂ FκSbtl . (ii) κ が玄妙基数のとき
IκSbtl ⊂ IκInef , したがって FκSbtl ⊂ FκInef . J
あとの補題 3.4 で, 精妙でない定常集合の例を述べます.
6
3 精妙基数の大きさ
The subtlety of nature is
greater many times over
than the subtlety of the
senses and understanding.
— Sir Francis Bacon*3
ここでは, 精妙基数がマーロ基数や弱コンパクト基数と比較してずっと大きな基数概念であることを示します.
補題 3.1 精妙基数は正則である.
[証明] 基数 κ が特異基数だったとして γ = cf(κ) < κ とおく. このとき関数 f : γ → κ を
(1) f (0) = γ,
(2) f (ξ + 1) > f (ξ),
(3) δ < γ かつ δ が極限順序数のときは f (δ) = sup f “δ,
(4) sup f “γ = κ
Aα = {g(α)} 6= {g(β)} = Aβ ∩ α
補題 3.2 精妙基数は強極限基数である.
[証明] 基数 κ が強極限基数でなかったとすると, κ より小さいある基数 γ について 2γ ≥ κ となるので, 1 対
1 写像 f : κ → P(γ) がとれる. そこで, α < γ のときは Aγ = ∅, α ≥ γ のときは Aα = f (α) と Aα を定め
よう. そして C = κ \ γ とおけば C は κ の club 部分集合だけれども, α, β ∈ C, α < β のとき
Aα = f (α) 6= f (β) = Aβ = Aβ ∩ α
これら二つの補題から直ちに, 次の定理が得られます.
定理 3.3 精妙基数は強到達不能基数である. J
7
補題 3.4 κ を精妙基数とする. このとき λ を κ より小さい任意の正則基数とする. このとき α < κ と
cf(α) = λ をみたす順序数 α 全体のなす集合 Eλκ は, κ において精妙でない.
[証明] 各 α ∈ Eλκ に対し, Aα ⊂ α を α において共終で順序型 λ をもつ部分集合とすると, α, β ∈ Eλκ かつ
α < β のとき Aβ ∩ α の順序型は λ 未満であるから Aα 6= Aβ ∩ α である. J
この補題と, 精妙でない部分集合のイデアル IκSbtl が正規イデアルであることから, 次の定理が得られます.
定理 3.6 精妙基数は強マーロ基数である. J
であり, また他方で ³ ´
®
∀γ < β Vγ , ∈, Aβ ∩ Vγ 6|= ϕβ (Aβ ∩ Vγ )
となり, 矛盾が生じる. J
8
部分集合が任意に与えられたとして云々, という議論をするときには, その精妙部分集合の要素が弱コンパク
ト基数ばかりからなると仮定しても一般性を損なわない場合が多いわけです. この意味で, 精妙基数は弱コン
パクト基数よりはるかに大きいのですが, それでも, 精妙基数がすべて弱コンパクト基数になるわけではあり
ません.
定理 3.8 最小の精妙基数は弱コンパクト基数ではない.
[証明] 最小の精妙基数 κ について考える. κ が精妙基数であるための条件は,
Y ³ ® ¡ ¢´
∀h Aα | α < κ i ∈ P(α)∀C ∈ Clubκ Vκ , ∈, hAα i, C |= ∃α, β α, β ∈ C ∧ Aα = Aβ ∩ α
α<κ
4 玄妙基数の大きさ
No! No! Life is woe.
Thou dost not know
How ineffably great
Is the weight of Fate.
— Aleister Crowley*4
今度は, 玄妙基数が精妙基数と比較してずっと大きな基数概念であることを示します.
定理 4.1 概玄妙基数は弱コンパクトである.
[証明] ([7] の演習問題へのヒントから借用) κ が概玄妙基数だったとして, 分割の性質 κ → (κ)22 を導く. 任
© ¯ ª
意の 2-彩色 F : [κ]2 → {0, 1} が与えられたとしよう. α < κ のとき Aα = ξ < α ¯ F ({ξ, α}) = 1 とお
くと, S ⊂ κ を ³ ´
∀α, β ∈ S α < β −→ Aα = Aβ ∩ α
S
かつ |S| = κ となるようにとれる. A = α∈S Aα とおこう. α, β ∈ S ∩ A かつ α < β のとき, α ∈ A, β ∈ S
より α ∈ Aβ したがって F ({α, β}) = 1 となる. また, α, β ∈ S \ A かつ α < β のときは, α ∈
/ A, β ∈ S よ
りα∈
/ Aβ , したがって F ({α, β}) = 0 となる. このように S ∩ A と S \ A はいずれも単色集合であるが, す
くなくとも一方は濃度 κ を有する. J
9
となる. 定理 4.1 により概玄妙基数は弱コンパクト, したがって Π11 -記述不能であるから, ある α < κ につ
いて ®
Vα , ∈, C ∩ α |= φ ∧ “C ∩ α は club)
が κ の定常部分集合になる.
[証明] 条件が十分であることはあきらか. 必要性をいう. κ を玄妙基数とすれば, κ は強到達不能基数である
から, 全単射 π : κ → Vκ がある. π“α = Vα をみたす α の全体を C とすれば, C は κ の club 部分集合であ
る. α ∈ C のとき Bα = π −1 “Aα とし, α ∈
/ C のとき Bα = ∅ としよう. 補題 1.5 により, B ⊂ κ が存在し
て, 集合 D ¯ E
¯
E= α < κ ¯ B ∩ α = Bα
となる. したがって条件は必要である. J
φ ≡ ∀X∃Y ψ(X, Y )
となっている.
いま, hVκ , ∈, Ai |= φ(A) なのに, どんな α < κ にもこの事実が反映されなかったと仮定しよう. このとき,
α < κ に対して Xα ⊂ Vα が存在して,
10
は κ の club 部分集合になっている. そこで α ∈ S ∩ C なる α が存在することになるが, そうすると式 (1)–(3)
から矛盾が出る. J
そして, 2-彩色 F : [κ]2 → 2 を, α < β かつ fα <∗ fβ のとき F ({α, β}) = 0, α < β かつ fβ <∗ fα のとき
F ({α, β}) = 1 となるように定める. 仮定により, κ の定常部分集合 S で F にかんして単色なものが存在す
© ¯ ª
る. 以下, F “[S]2 = {0} すなわち fα ¯ α ∈ S が <∗ に関して単調増加である場合を証明するが, <∗ に関
して単調減少である場合も同様である.
定常集合 S から増加列
γ0 < γ1 < · · · < γξ < · · · (ξ < κ)
α, β ∈ S ∩ C ∧ α < β → fβ ¹ α = fγα ¹ α = fα
をみたす順序数 α 全体のクラス.
11
S© ¯
となるので, いま f = fα ¯ α ∈ S ∩ C } とおけば f ∈ κ 2 かつ
n ¯ o
¯
S ∩ C ⊂ α < κ ¯ fα = f ¹ α ∈ Statκ
となって, 期待どおりの結果が得られる. J
この定理の結果からは, なにか
弱コンパクト基数
玄妙基数 = × 定常集合
共終集合
という印象を受けますが, 定義からは,
玄妙基数
× 共終集合 = 概玄妙基数
定常集合
となってしまうのが面白いところです. 概玄妙基数が弱コンパクト基数よりはるかに強力な巨大基数であるこ
とを考えると, このことはおそらく, [κ]n の彩色にかんする単色集合の存在よりも集合列のなかのコヒーレン
トな部分列の存在のほうがはるかに強力な原理であることを意味するのでしょう.
5 玄妙基数, 精妙基数と構成可能的集合の世界
I personally find it a very attractive axiom.
Nevertheless, it has been rejected by the
majority of set theorists, beginning with
Gödel himself.
— Ronald Jensen*8
ここでは玄妙基数の存在が構成可能性公理 V = L と矛盾しないことを証明します. これには玄妙基数が弱コ
ンパクト基数であることと, 次の補題を利用します.
補題 5.1 κ を弱コンパクト基数とし, A ⊂ κ とする. もしも κ 未満のすべての順序数 α について A ∩ α ∈ L
であるならば, A ∈ L である.
E = { α < κ | Aα = A ∩ α }
12
となる. したがって補題 5.1 により, A ∈ L となる. このことから E ∈ L もいえる. C を κ の任意の (club
部分集合)L としよう. すると, 閉部分集合であることも共終であることも V, L に対して絶対的な性質である
から, C は κ の club 部分集合であり, E ∩ C 6= ∅ となる. E は κ の任意の (club 部分集合)L と交わるから
(κ の定常部分集合)L である. こうして, κ が玄妙基数であることを保証する条件が L に相対化されるので,
(κ は玄妙基数である)L . J
したがって, 玄妙基数の存在はそれ自体が集合論の公理と矛盾しないかぎりは, V = L とも矛盾しません.
定理 5.2 と同様にして, 概玄妙基数も L に相対化されます.
これらにくらべて, 精妙基数の場合はいくぶん話が単純になります.
(Clubκ ) = Clubκ ∩ L
L
13
6 可測基数は玄妙である
In sales, showing measurable results helps
persuade customers.
— Casey Hibbard*9
定理 6.1 可測基数は玄妙基数である. J
¯ ® Q
可測基数 κ 上の正規超フィルター D を考えます. 集合列 Aα ¯ α < κ ∈ α<κ P(α) が与えられたとし
て, 集合 A ⊂ κ を { α < κ | A ∩ α = Aα } ∈ D となるように取れることを示せばよろしい. というのも, 正
規フィルターの要素は必ず定常集合であるからです.
さて, ξ < κ に対して
と定義します. Bξ+ ∩ Bξ− = ∅ かつ Bξ+ ∪ Bξ− = κ \ (ξ+1) なので, Bξ+ と Bξ− のどちらか一方だけが D に
属することになります. D に属するほうを Bξ としましょう. そして B = 4ξ<κ Bξ とおきます. このとき
B ∈ D です. 以上の定義から,
³ ´
α ∈ B ↔ ∀ξ < α ξ ∈ Aα ↔ Bξ+ ∈ D
というフィルターの階層関係が得られることになります.
14
7 ダイヤモンド原理
ああ揺れないでメモリーズ
時の流れが傷つけても
傷つかない心は
小さなダイアモンド
— 松本隆*10
不可算基数 κ の定常部分集合全体の族を Statκ と書くことにすると, κ が玄妙基数であることは
¯ ® Y ³© ¯ ª ´
∀ Aα ¯ α < κ ∈ P(α) ∃A ⊂ κ α < κ ¯ A ∩ α = Aα ∈ Statκ
α<κ
は, 不可算基数の組み合わせ論において, たいそう重要な役割を果たすものです.
定義 7.1 κ を無限基数とする. 条件
³© ¯ ª ´
∀A ⊂ κ α < κ ¯ A ∩ α = Aα ∈ Statκ
¯ ® Q
をみたす集合列 Aα ¯ α < κ ∈ α<κ P(α) を κ におけるダイヤモンド列, 略して ♦κ -列 (♦κ -sequence)
と呼ぶ. “♦κ -列が存在する” という命題を κ におけるダイヤモンド原理 (Diamond Principle for κ) といい,
これを記号 ♦κ であらわす. J
α < β ∧ Xα = X β ∩ V α
となるようにとれる.
[証明] 補題 4.3 の証明と同様. J
定理 7.3 κ を精妙基数とするとき, ♦κ が成立する.
¯ ® ¯ ® ¯ ®
[証明] *11 集合列 Aα ¯ α < κ と Cα ¯ α < κ とを次のように再帰的に選ぼう. Aξ ¯ ξ < α と
¯ ®
Cξ ¯ ξ < α とがすでに選ばれているものとして, 次に Aα と Cα を選ぶ. もしも α ∈ Lim(κ) で, しかも
¯ ®
Aξ ¯ ξ < α が ♦α -列で なかった としたら, すなわち,
¡ ¢
Aα ⊂ α ∧ Cα ∈ Clubα ∧ ∀ξ ∈ Cα Aξ 6= Aα ∩ ξ
15
となるような (Aα , Cα ) があれば (以後この状況を, 順序数 α のところで ダイヤモンドが傷ついている*12 と
表現することにする), それをとる. それ以外の場合は Aα = Cα = ∅ としてしまう.
¯ ®
こうやって選ばれた列 Aα ¯ α < κ が ♦κ -列になることを背理法で示そう. もしも A ⊂ κ で
{ α < κ | Aα = A ∩ α } が κ の定常部分集合に ならない ものがあったとしたら, κ の club 部分集合 C を
³ ´
∀α ∈ C Aα 6= A ∩ α
(1) α < β ∧ Aα = Aβ ∩ α ∧ Cα = Cβ ∩ α
したがって, Cβ と Aβ の選び方により
Aα 6= Aβ ∩ α
16
A を, κ+ のすべての有界部分集合全体のなす集合としよう. 仮定 2κ = κ+ より, |A| = κ+ である. そこ
で, 全単射 f : κ+ → A をとろう. κ+ 未満のすべての順序数 α に対して
n[ ¯ o
¯
Sα = f “x ¯ x ⊂ α ∧ |x| ≤ λ
¯ + ®
と定めよう. すると, 集合列 Sα ¯ α ∈ Eλκ が所要の条件をみたす.
このことを確かめるため, κ+ の部分集合 A が任意に与えられたとする. 集合 C を
n ¯ ¡ ¢o
¯
C= α < κ+ ¯ ∀β < α f −1 (A ∩ β) < α
+
によって定める. あきらかに C は κ+ の club 部分集合である. α を Eλκ の任意の要素としよう. すると
cf(α) = λ だから α の順序型 λ をもつ共終部分集合 y がとれる. x = { f −1 (A ∩ β) | β ∈ y } としよう. さら
に α ∈ C だから x ⊂ α かつ |x| = λ であり,
[¡ ¢ [
X ∩α= X ∩β = f (γ) ∈ Sα
β∈y γ∈x
© ¯
となる. こうして
+
α ∈ Eλκ ¯ A ∩ α ∈ Sα } が E κ+ ∩ C を含み, 定常集合であることがわかる. J
λ
0 0
が成立する. 各 Sα は濃度高々 κ なので, Sα = { sβα | β < κ } と数え上げることができる. κ+ の定常部分集
合を κ 個の部分集合に分割した場合, すくなくともひとつのパーツは定常部分集合になることから, 式 (1) は
³© ¯ ª ´
(2) ∀X ⊂ κ+ ×κ ∃β < κ α ∈ E ¯ X ∩ (α × κ) = sβα ∈ Statκ+
と言いかえられる.
各 β < κ に対し α ∈ E ∩ C のときに
© ¯ ª
Aβα = ξ < α ¯ hξ, βi ∈ sβα
¯ ®
と定める. このとき, 少なくともひとつの β について Aβα ¯ α ∈ E ∩ C が ♦(E ∩ C)-列になることを, 背理
法によって証明しよう. そのために, 仮に, すべての β に対して Xβ ⊂ κ+ と Cβ ⊂ κ+ がとれ, Cβ は κ+ の
club 部分集合であり, そして
¡ ¢
(3) ∀α ∈ E ∩ C ∩ Cβ Xβ ∩ α 6= Aβα
17
S
となっているとする. X = β<κ Xβ ×{β} とおいて式 (2) を使うと, 順序数 β < κ と定常集合 E 0 ⊂ κ+ を,
E 0 ⊂ E ∩ C かつ ³ ´
∀α ∈ E 0 X ∩ (α × κ) = sβα
18
く, 特定の定常部分集合 E についての ♦κ (E) の不成立) が GCH と両立するかどうか, という点に問題が絞
られてきます.
基数 κ が精妙基数であれば ♦κ が成立することはすでに示したとおりですが, 基数の条件を弱コンパクト
基数まで弱めた場合については, まだ未解決のようです. しかしながら, 基数 κ の条件をマーロ基数にまで弱
めてしまうと ♦κ が成立しない場合がありえます. ゼーマン (Martin Zeman) の [15] によると, ウッディン
(Hugh W. Woodin) は, ある巨大基数公理 (詳細にはわかりませんが o(κ) = κ++ より少し強いものだそうで
す) から出発して, ♦κ が成立しない強マーロ基数 κ が存在するような集合論のモデルを提示しました. ゼー
マンが [15] に述べている結果はいわばその逆で, ♦κ が成立しない強マーロ基数 κ の存在を仮定して, 多くの
可測基数を含む内部モデルの存在を示しています. このように, 到達不能基数においてダイヤモンド原理が成
立するかしないか, という問題には巨大基数公理がかかわっているのです.
また, 弱コンパクト基数の存在が矛盾を導かないなら, ♦κ (REG ∩ κ) が*14 成り立たないような弱コンパ
クト基数 κ の存在もまた (GCH を含む集合論とのあいだに) 矛盾を導かないというウッディンによる結果が
あります. 同様の結果は, ハウザー (Kai Hauser) の [5] によって Πm
n -記述不能基数へ, ザモーニャ (Mirna
Džamonja) とハムキンス (Joel D. Hamkins) の [4] によって強伸展可能基数 (strongly unfoldable cardinal)
へと拡張されています. この件に関する詳細は文献 [4] と, その末尾に挙げられている文献を見てください.
19
参考文献
[1] C. Akemann and N. Weaver, Consistency of a counterexample to Naimark’s problem, Proc. Nat.
Acad. Sci. USA 101-20 (2004), pp. 7522-7525.
[2] W. Boos, Lectures on Large Cardinals, Logic Conference, Kiel 1974 pp. 25–88, Lecture Notes
in Math. 499, Springer-Verlag 1975.
[3] K.J. Devlin, Constructibility, Springer-Verlag 1984.
[4] M. Džamonja and J.D. Hamkins, Diamond (on the regulars) can fail at any strongly unfoldable
cardinal, Ann. Pure Appl. Logic 144 (2006), pp. 83-95.
[5] K. Hauser, Indescribable cardinals without diamonds, Arch. Math. Logic 31 (1992), pp. 373–383.
[6] C. Hibbard, Four Tips – Increase Measurable Results in Your Customer Success Stories, Ezine
Articles, http://ezinearticles.com/?id=1073659
[7] T. Jech, Set Theory (3rd Edition), Springer-Verlag 2003.
[8] R. Jensen, Inner Models and Large Cardinals, Bull. Symb. Logic 1(1995), pp. 393-407.
[9] A. Kanamori, The Higher Infinite (2nd Edition), Springer-Verlag 2003; 第 1 版の邦訳: A. カナモ
リ著『巨大基数の集合論』(渕野昌訳, シュプリンガー・フェアラーク東京 1998 年)
[10] K. Kunen, Set Theory — An Introduction to Independence Proofs, Elsevier 1980; 邦訳: ケ
ネス・キューネン著『集合論: 独立性証明への案内』(藤田博司訳, 日本評論社 2008 年)
[11] S. Shelah, Web サイト: http://shelah.logic.at/
[12] —, On successors of singular cardinals, Logic Colloquium ’78 (Mons, 1978) (North-Holland,
1979) pp. 357–380.
[13] —, The generalized continuum hypothesis revisited, Israel Jour. Math. 116 (2000), pp. 285–321. 最
新校訂版は著者の Web サイト [11] から入手可能 (論文番号 460).
[14] —, Diamonds, URL: http://arxiv.org/abs/0711.3030, (2007)
[15] M. Zeman, ♦ at Mahlo cardinals, Jour. Symb. Logic 65 (2000), pp. 1813–1822.
[16] 鏡 弘道, 『集合論雑記』 Web サイト: http://evariste.jp/kagami/diary/0000/settheory.html
[17] 西田 幾多郎, 『善の研究』,
[18] 藤田 博司, ホームページ: http://www.math.sci.ehime-u.ac.jp/%7Efujita/preprints.jp.html
[19] —, 『無限基数と定常集合』, 非公式なノート (2009 年), 著者の Web サイト [18] より入手可能
[20] —, 『弱コンパクト基数』, 非公式なノート (2009 年), 著者の Web サイト [18] より入手可能
20