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土木学会論文集C Vol.63 No.2, 487-501, 2007.

液状化に起因した地盤の側方流動に対する
杭基礎設計法の提案

須田嘉彦1・佐藤正行2・溜幸生3・國生剛治4
1正会員東京電力株式会社 送変電建設センター(元社団法人電力土木技術協会)
(〒108-0023 東京都港区芝浦4-19-1)
E-mail: suda.yoshihiko@tepco.co.jp
2正会員 東電設計株式会社 地盤・構造部(〒110-0015 東京都台東区東上野3-3-3)

E-mail: sato@tepsco.co.jp
3正会員 東電設計株式会社 構造・耐震技術部(〒110-0015 東京都台東区東上野3-3-3)

E-mail: etamari@tepco.co.jp
4正会員 中央大学教授 理工学部土木工学科(〒112-8551 東京都文京区春日1-13-27)

E-mail: kokusho@civil.chuo-u.ac.jp

本論文では,著者らが実施した側方流動現象を模擬した小型振動台実験および大型振動台実験による杭
への作用力評価法に基づき,非液状化層については応答変位法,液状化層については土圧法を適用した液
状化に起因した地盤の側方流動に対する杭基礎設計法を提案している.この設計法では,地盤バネと杭の
両方に非線形特性を考慮していることから,杭に発生する断面力だけでなく,クラックの発生,降伏,応
答塑性率等も得られるため,杭の終局状態の予測や上部構造物の性能が変位で規定された場合の照査も行
えるというメリットを有している.また,この設計法を用いて著者らが実施した大型振動台実験のシミュ
レーション解析を行い,杭の挙動をほぼ再現できることを確認した.

Key Words : liquefaction, lateral flow, pile foundation, design of pile, non-linear analysis

1.はじめに 杭間隔も広いといった特色を持つ比較的柔らかい杭基礎
構造も多く,また,杭種や基礎形状も様々である.この
兵庫県南部地震においては,日本では初めて近代的な ように多様な杭基礎に安易に簡易設計法を適用すると,
大都市が直下型地震による被害を受け,想像をはるかに 場合によっては過大評価になったり,過小評価となるこ
越える被害が発生した.特に,埋立地や海岸線の近くに とも考えられることから,設計時には十分な注意が必要
位置していた多くの構造物に関しては,液状化に起因し となる.
た地盤の側方流動(以降,側方流動と略す)により著し 本論文では,杭径が細く,杭間隔が広いといった特色
い被害を受け,これらの被害の大半は構造物を支える杭 を持つ比較的柔らかい杭基礎構造を用いることが多い,
基礎の破壊 1),2)によるものであった. 電力施設の杭基礎構造物に適用可能な護岸近傍で発生す
その後,これらの被害を教訓に,側方流動に対する杭 る液状化に起因した側方流動に対する杭基礎設計法(以
基礎設計法の確立に向け多くの機関が研究に取り組み, 降,本設計法と略す)を提案している.本設計法は,非
非液状化層からは受働土圧,液状化層からは流動圧とし 液状化層については応答変位法を,また,液状化層につ
ての土圧を杭に作用させる方法(以降,土圧法と略す) いては土圧法を適用した設計法となっている.
や応答変位法による方法等の簡易設計法が設計指針・基 設計法の構築に当たっては,作用荷重の評価および非
準類 3)~ 6)において既に採用されている. 線形の地盤バネの設定法が大きなテーマとなった.既往
しかし,これらの設計法は,それぞれの機関が対象と の設計法では,実被害との整合性から非液状化層からは
する構造物を念頭に,その被害調査と分析結果に実験や 受働土圧を,液状化層には上載荷重に応じた荷重を杭へ
解析等による検討を加えながら開発されたものであり, の作用荷重としてそのまま作用させる方法 3)や,作用
自ずと適用範囲は限られたものとなっている.一方,一 荷重の上限値を設定せずに健全地盤の地盤バネに一定の
般の土木構造物には,比較的剛な杭基礎構造を採用して 係数(例えば,非液状化層では1/10程度)を乗じた線形
いる道路橋や鉄道橋等の構造物だけでなく,杭径が細く バネを用いて,応答変位法により解析する方法 7)等が

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クレーンによる クレーンによる
牽引方向 *数値は内寸法
牽引方向
側方流動発生方向 せん断枠
せん断枠
側方流動発生方向

150cm
150cm
加振方向
加振方向

85cm
85cm
200cm
200cm

200cm
200cm

(側面図) (平面図)

図-1 せん断土槽の概要(小型振動台実験)

表-1 振動台の仕様(小型振動台実験) 表-2 実験ケース一覧(小型振動台実験)


振動台寸法 3m×3m 杭配置 地盤条件
実験 杭剛性
ケース (kN・mm2) D=杭径 流動方向
最大積載重量 98kN 地盤厚さ
d=杭間隔
振動数範囲 DC~30Hz 低剛性杭 注1)
ケース (7.97×104)
最大加速度 水平:0.8G 上下:0.5G 1-1 高剛性杭
単杭
(1.99×106)
非液状化層
表-3 加振条件(小型振動台実験) 12.5cm
ケース 3本×3本杭
ケース 1-1~1-4 ケース 2-1~2-5 1-2 (d=4D) (1cmは
高剛性杭 砂利層)
加 振 波 形 正弦波 正弦波 非液状化層
Dr≒90%
加 振 周 波 数 10Hz 4Hz (1.99×106) 有り
ケース 5本杭 液状化層
加振加速度振幅 700gal 600gal 1-3 (d=2D) 37.5cm
加 振 時 間 6~8sec 10sec Dr≒50%

ケース 低剛性杭 3本×3本杭


1-4 (7.97×104) (d=4D)
提案されている.しかし,本来,地盤反力は地盤物性,
注1) 高剛性杭 低剛性杭
杭の寸法や配列等の条件に応じて上限値を持ち,また,
上限値に到達するまでは杭と地盤間の相対変位に応じて 杭配列 地盤条件
実験 杭剛性
ケース (kN・mm2) D=杭径 流動方向
地盤反力が変化するものであり,この精度が設計法の精 地盤厚さ
d=杭間隔
度に直結すると考えられる.これらの設定には,著者ら ケース
単杭
2-1
が実施した実験結果 8)を最大限に利用することとした.
また,本設計法を用いて著者らが実施した大型振動台実 ケース 2本杭
験のシミュレーション解析を行うことで,杭の挙動をほ 2-2 (d=8D)

ぼ再現できることを確認した. ケース 高剛性杭 3本×3本杭 非液状化層


液状化層
50.0cm
2-3 (1.99×106) (d=4D) 無し
Dr≒50%

ケース 5本杭
2.実験概要と設計法への反映事項 2-4 (d=2D)


ケース
[単杭連結]
(1) 実験概要 2-5
(d=1D)
著者らが実施した小型振動台実験および大型振動台実
験は,いずれもせん断土槽内に模型杭を設置した地盤を
作製し,この地盤を液状化させた後にせん断土槽を強制 (2) 設計法への反映事項
的に変形させることにより側方流動現象を模擬した実験 a) 地盤からの杭への作用力
である.小型振動台実験の概要を図-1および表-1~表-3 前記の実験結果の詳細分析結果から得られた非液状化
に,大型振動台実験の概要を表-4,図-2~図-4,写真-1 層および液状化層からの杭への作用力の算定方法の概要
および写真-2に示す.実験内容および実験結果の詳細に を以下に述べる.
ついては文献8)を参照して頂きたい. 非液状化層からの杭への作用力 Pn l に関しては,非液

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11.6
11 . 6m m
表-4 振動台の仕様(大型振動台実験) 2.8
2. 8m m 4.5
4. 5mm 4.3
4. 3mm

加振台 15.0m×14.5m 重量 1568kN 高剛性杭 低剛性杭 流動方向


高 剛 性杭 低剛性杭 地盤流動
駆動装置 電気油圧サーボ方式 (φ318.5mm, t=55mm
( φ318. 5㎜, 鋼管杭)
t=55㎜鋼管杭) (φ300mm, PHC杭C種)
( φ300㎜, PHC杭C 種)

霞ヶ浦砂
霞 ヶ 浦 砂

1 .0 m
加振機出力 3528kN(882kN×4台) 非液状化層

1.0m
Drr=50% 非液状化層
Dr= 50 %
最大搭載重量 4900kN

6.1 m
最大変位・速度 ±220㎜ 75cm/sec
最大加速度 0.5G(4900kN時),0.94G(1960kN時)

6 .1 m

5.25 .2mm
霞ヶ浦砂 液状化層

3 .8 mm
加振周波数範囲 DC~50Hz Dr=
霞 ヶ 浦50
砂 %
液状化層

3.8
加振波形 正弦波,不規則波,地震波 Drr=50%

杭固定架構
杭固定架構 杭固定架構

(実験-1)
11.6
11 .6 m m

2.8
2. 8 m m 4.5
4. 5mm 4.3
4 . 3mm

高剛性杭 低剛性杭 流動方向


地盤流動
(φ318.5mm, t=55mm 鋼管杭)
(φ300mm, PHC杭C種)
6.3m (6.1m)
霞ヶ浦砂 非液状化層

2.0m
霞 ヶ 浦砂

2 .0 m
非液状化層
Dr= 50 %
Drr=50%

6 .1 m m

5.25 .2mm
6.1
(側面図) 霞ヶ浦砂
液状化層
液状化層

2.8m
Dr= 50 %

2. 8m
霞 ヶ 浦砂
Drr=50%

杭固定架構
杭固定架構 杭固定架構

(実験-2)

3.5m (3.1m)
図-4 実験ケースおよび地盤モデルの概要
(大型振動台実験)


*( )内の数値は
内寸法
12.0m (11.6m) (大型振動台実験)

(平面図)

図-2 せん断土槽の概要(大型振動台実験)

強制変位時 写真-1 せん断土槽の外観(大型振動台実験)


液状化加振時 (高周波微小加振)
周波数:2 Hz 周波数:10 Hz
加速度:200 gal 加速度:50 gal
波形:正弦波 波形:正弦波
一定加速度区間:30 秒 一定加速度区間:強制変位中
300
200
加速度(gal)

強制変位開始
100
0
-100 強制変位が終了した時点で
-200 高周波微小加振を終了
-300
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
時間(sec)
図-3 加振条件の模式図(大型振動台実験) 写真-2 実験後のせん断土槽の外観(大型振動台実験)

状化層厚Hn lと杭径Dとの比Hn l /Dおよび杭のレイアウト 方法,また,液状化層からの杭への作用力 P l に関して


から求まる閉鎖率η(η=D/d,D:杭径,d:隣接する杭 は,杭の閉鎖率ηとの関係からαを算定し,これに流動
の中心間隔)との関係からパラメータαを算定し,これ 方向の作用力の低減率β(=0.8)を乗じることで,液状化
に流動方向の作用力の低減率β(=0.8)を乗じることで, 層からの個々の杭への作用力上限値を算定する方法であ
非液状化層からの個々の杭への作用力上限値を算定する る.非液状化層および液状化層からの杭への作用力上限

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表-5 杭への作用力上限値の算定方法
評価式 評価式により算定されるαとηの関係
H nl
Pnl = αβ j −1
K p D∫ σ 'v ( z )dz (1)
0

ここに, 8
Hnl/D=3.8
Pnl:非液状化層からの杭への作用力(kN) Hnl/D=4 0.877(1 − η )
σ’v(z):深度 z(m)における有効上載圧(kN/m2) α=
6 Hnl/D=5 0.877η + 0.123
Hnl :非液状化層厚(m)
非液状化層からの作用力の算定方法

Hnl/D=6 × f ( H nl / D ) + 1.0
D:杭径(m)

α
4 Hnl/D=7
d:杭の中心間隔(m) Hnl/D=8
η:杭の閉鎖率(=D/d )
Kp:受働土圧係数[=tan2(45°+φ/2)] 2
φ:内部摩擦角(°)
Hnl/D=9 Hnl/D=10
α:流動直角方向の杭の離隔に関する 0
パラメータ(閉鎖率ηの関数) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
閉鎖率η
β:流動方向の杭への作用力の低減率
j:着目する杭の上流からの杭列番号 d
D
0.877(1 − η )
α= × f ( H nl / D) + 1.0
0.877η + 0.123
f ( H nl / D) = 1.0  
( H nl / D ≦ 3.8のとき) Hnl
2
⎡ 1 ⎤
f ( H nl / D) = 14.00⎢ ⎥ + 0.03  
( H nl / D>3.8のとき)
(
⎣ nlH / D ) ⎦
β = 0.8
H nl + H l
Pl = αβ j −1
KD ∫ σ v ( z )dz (2)
H nl

ここに,
Pl:液状化層からの杭への作用力(kN)
σv(z):深度 z(m)における全上載圧(kN/m2)
液状化層からの作用力の算定方法

Hnl :非液状化層厚(m) 8
Hl :液状化層厚(m)
D:杭径(m)
6
d:杭の中心間隔(m)
η:杭の閉鎖率(=D/d ) 1
α=
α

K:η = 1.0 における側圧係数 4 0.599η + 0.401


(小型振動台実験より,0.13 を設定)
α:流動直角方向の杭の離隔に関する 2
パラメータ(閉鎖率ηの関数)
β:流動方向の杭への作用力の低減率
0
j:着目する杭の上流からの杭列番号 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
閉鎖率 η
1
α=
0.599η + 0.401
β = 0 .8

値の算定方法をまとめて表-5に示す. 部での地盤反力係数の低減率を表-6に示す.ここで示し
b) 地盤反力係数と圧縮ひずみ ている地盤反力係数の低減率は,側方流動時の地盤反力
前記の大型振動台実験結果の詳細分析結果から得られ 係数を健全地盤の地盤反力係数(杭径の1%の変位:3mm
た非液状化層および液状化層の側方流動時の地盤反力係 に該当する地盤反力係数)で除したものである.これよ
数の低減率と非液状化層が受働破壊する際の圧縮ひずみ り,側方流動時の地盤反力係数の低減率は,非液状化層
に関する検討結果について以下に述べる. で1/10程度,液状化層で1/100程度であることが判明した.
杭への作用力最大時の非液状化層および液状化層中央 圧縮ひずみについては,実験後に行った高剛性杭前面

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表-6 側方流動時の地盤反力係数の低減率一覧表 地盤変位 杭変位


地盤変位 杭変位 相対変位
相対変位 非液状化層からの荷重
非液状化層からの荷重

実験-1 実験-2
非液状 液状 非液状 液状 受働崩壊角
受働崩壊面
化層 化層 化層 化層 上部非液状化層
上部非液状化層
健全地盤の地盤反
15.0 22.9 受働土圧分布
受働土圧分布
力係数(MN/m 3) ※1
流動地盤の地盤反
1.70 0.19 1.86 0.23
力係数(MN/m 3) ※1
高剛性杭
高剛性の杭
地盤反力係数の 0.113 0.013 0.081 0.010 液状化層
液状化層

低減率 ※2 (1/8.8) (1/78.9) (1/12.3) (1/99.6)


※1 杭への作用力最大時の値 ※2 下段のカッコ内は分数表示
図-6 非液状化層から高剛性杭に作用する荷重
図 3-2-2 上部非液状化層から高剛性の杭に作用する荷重
地盤の圧縮ひずみ(%)

地盤変位 杭変位 相対変位 非液状化層からの荷重


非液状化層からの荷重
20 地盤変位 杭変位 相対変位
ひずみ発生区間
実験-1
10
ε=4.2% 上部非液状化層
上部非液状化層
0 受働土圧分布
受働土圧分布

-10
柔剛性杭
柔剛性の杭
液状化層
液状化層
20
地盤の圧縮ひずみ(%)

ひずみ発生区間
実験-2
10 図-7 非液状化層から柔剛性杭に作用する荷重
図 3-2-3 上部非液状化層から柔剛性の杭に作用する荷重
ε=3.9%
0

-10 結果から,非液状化層から杭に作用する荷重が非常に大
0 50 100 150
きいこと,また,側方流動量が同じであっても杭基礎が 200 250
杭縁からの距離(cm) 剛な場合と柔らかい場合では,杭に作用する荷重が異な
図-5 圧縮ひずみの分布
ることが判明した.これは下記のような理由によるもの
と判断される.
地盤の掘削状況を参考に受働崩壊領域を想定し,これを 比較的剛な構造の杭基礎では,図-6に示すように,側
地盤に生じた圧縮ひずみの検討範囲と設定して地表面に 方流動により非液状化層が移動しようとした場合,わず
設置した色砂およびターゲットの変形状況から圧縮ひず かな変位が生じた段階で基礎背後の地盤が受働崩壊し,
みを算出した.圧縮ひずみの算出結果を図-5に示す.こ それに見合った荷重(受働土圧)が地盤から杭基礎に作
の結果より,局所的には15%程度の圧縮ひずみが発生し 用することになるため,側方流動が生じることが非液状
ている部分もあるが,杭への作用力上限時における地表 化層から杭に受働土圧が生じることとほぼ直結している
面の平均圧縮ひずみは約4%程度となっていることが判 と考えられる.従って,杭に受働土圧が作用すると考え
明した. ることで実現象と整合した検討ができるものと思われる.
一方,比較的柔な構造の杭基礎においては,図-7に示
すように,側方流動によって多少地盤が移動しても,液
3.側方流動に対する杭基礎設計法の提案 状化層内の杭の変形によって非液状化層の移動に杭が追
随し,地盤と杭の相対変位があまり生じないため,地盤
本論文では,杭径が細く,杭間隔が広いといった特色 から杭に作用する荷重が受働土圧に達しないことがあり
を持つ比較的柔らかい杭基礎構造を用いることが多い, 得る.このような場合には,側方流動の発生が即非液状
電力施設の杭基礎構造物に適用可能な側方流動に対する 化層の受働土圧の発生につながると仮定すると作用荷重
杭基礎設計法として,非液状化層については応答変位法, を過大評価してしまうことになると考えられる.また,
液状化層に対しては土圧法を適用した設計法を提案する 非液状化層内の杭の変形により,地盤と杭の相対変位の
こととした.以下にその設計法の概要を述べる. 分布が複雑になり,受働土圧のような三角形分布となら
ないこともあり得る.この場合には,地盤から杭に作用
(1)解析モデル する荷重の合力の上限値が受働土圧とはならない.
小型振動台実験および大型振動台実験結果の詳細分析 図-6および図-7における地盤変位と非液状化層から地

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盤に作用する荷重の概念図を図-8に示す.同図に示した

非液状化層から杭に働く荷重
点AとBが,それぞれ図-6と図-7の状態に相当している.

非液状化層から杭に働く荷重
高剛性杭
A
比較的柔な杭基礎の非液状化層におけるこのような特
性を設計で簡便的に考慮する方法として,本設計法では, B
柔剛性杭
非液状化層については側方流動による地盤変位を地盤バ
ネを介して杭に作用させる応答変位法を採用することと
した.この地盤バネに上限値を設定 4)するという取り扱
いによって,剛な杭基礎に対しても非液状化層から受働
土圧を作用させることと等価な荷重を作用させることが
地盤変位
可能となる.また,柔な杭基礎の場合には,杭の変形に
図-8 非液状化層から高剛性杭と柔剛性杭が受ける荷重
応じた受働土圧を上限とする荷重分布が非液状化層内に
と地盤変位の関係の概念図
生じることになる.
一方,液状化層については,液状化し,流体となった
地盤が杭間をすり抜けることにより杭に荷重が作用する た.
というメカニズムの方が,固体である地盤の変形により このような簡易な関係を設定した場合には,必ずしも
杭に荷重が作用するというメカニズムよりも現象として 実現象と整合しない結果が得られる可能性もあるが,解
適切であると考えた.なお,既往の実験的研究 9)では, 析結果が実現象と異なることが懸念される場合には,よ
流体となった液状化層から杭に作用する荷重は杭と地盤 り詳細な地盤バネ(トリリニア型モデルまたは曲線型モ
の相対速度に依存すると提言されているが,本設計法で デル)を設定し,検討することが望ましいと考えられる.
は,小型振動台実験および大型振動台実験結果を重視し, b) 地盤バネの設定に用いる荷重上限値
その詳細分析結果に基づいて設定した液状化層からの杭 地盤バネの設定に用いる荷重上限値 Pn l は,表-5の上
間隔に応じた荷重を作用させることとした. 段に示す式(1)によって算定することとした.この Pn l は,
また,本設計法では,地盤バネと杭の両方に非線形特 小型振動台実験および大型振動台実験の詳細分析結果等
性を考慮 10)しているため,結果として,杭に発生する から得られた側方流動によって上部非液状化層から杭に
断面力だけでなく,杭の状態(クラックの発生,降伏, 作用する荷重の上限値である.ただし,実施工での杭の
応答塑性率)や基礎の変形量も得られるため,杭の終局 使用実績等を踏まえ,流動直角方向の杭の離隔に関する
状態の予測や上部構造物の性能が変位で規定される設計 パラメータαと杭の閉鎖率ηの関係は,η>0.5 (杭間隔
を行った場合においてもその照査が可能であるというメ が2 D以下,D:杭径)の場合Hn l /D≦3.8の曲線に漸近す
リットがある.ただし,実際には連続的に変化する地盤 ると考え,Hn l /D≦3.8の曲線を用いることとし,Hn l /D
バネをバイリニア型モデル(弾塑性型モデル)という簡 >3.8の曲線におけるη>0.5の範囲は破線で示すこととし
易な関係に設定しているため,必ずしも実現象と整合し た.採用した流動直角方向の杭の離隔に関するパラメー
ない結果が得られる可能性もあることを十分注意する必 タαと杭の閉鎖率ηの関係を図-10に示す.
要がある. 荷重の上限値算定に当たりHn l /Dをパラメータとして
この課題に対しては,地盤バネを精度良く表現するこ 設定したのは,大型振動台実験による高剛性杭周辺の非
とにより,解析結果の精度も向上すると考えられる. 液状化層の破壊形態の観察結果および杭への作用力の詳
以上より,上部非液状化層については側方流動による 細分析結果を反映したためである.
地盤変位を地盤バネを介して杭に作用させる応答変位法 この実験結果から,地表面から杭径の3.8倍程度の深
を,液状化層については流動圧を作用させる土圧法を用 さの拘束圧が小さい領域では,通常よく考えられている
いることを基本として,側方流動の影響を考慮すること ような上方へ土塊がすべり上がるような受働崩壊の形態
とした.側方流動に対する杭基礎構造物の設計に用いる を示している状況が,また,それ以深の比較的拘束圧が
解析モデルを図-9に示す. 大きな領域では,上方へ土塊がすべり上がらずに杭周辺
を回り込むような水平方向に移動する局所破壊の形態を
(2) 非液状化層の地盤バネ 示している状況が確認されている.このような局所破壊
a) 地盤バネの形状 が生じた影響を受け,非液状化層厚が厚い場合には,単
上部非液状化層の地盤バネは,後述する(図-12参 純に受働土圧を非液状化層厚に応じて増加させた場合よ
照)ように,k h n l を初期勾配とした地盤反力の上限値 pn l りも小さな作用荷重しか得られないことが判明した.
を有するバイリニア型の弾塑性モデルを用いることとし 図-10は,このような実験結果に基づき小型振動台実

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M 杭の非線形特性 (M-φ) P 地盤バネの非線形特性


杭の非線形特性(M-φ) 地盤バネの非線形特性
Mu
My 上流側地盤バネ
上流側地盤バネ

Mcr 下流側地盤バネ
下流側地盤バネ

Φcr Φy Φu φ δ

KhNUj:上部非液状化層の下流側 KhNU1:上部非液状化層の上流側
地盤バネ (bi-linear,j=2,3,・・) 地盤バネ (bi-linear)

フーチング 地表面
地表面

DN:側方流動による非液
状化層の地盤変位

上部非液状化層

PL1:上流側の杭に作用す
る液状化層の流動力
液状化層

PLj:下流側の杭に作用する
液状化層の流動力
(j=2,3,・・)

下部非液状化層の地盤バネ

下部非液状化層

・杭およびフーチングは梁でモデル化し,杭頭の境界条件は対象構造物に合わせて
回転固定もしくはピンとする.

図-9 側方流動に対する杭基礎構造物の設計に用いる解析モデル(2次元モデル)

8 Hnl/D=3.8以下

Hnl/D=4

6 Hnl/D=5
Hnl/D=6
α

Hnl/D=7
4 Hnl/D=8
0.877(1 − η )
α= × f ( H nl / D) + 1.0
0.877η + 0.123
2

Hnl/D=9 Hnl/D=10
0 0.5
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
閉鎖率η

図-10 流動直角方向の杭離隔に関するパラメータα
と杭閉鎖率ηの関係

493
土木学会論文集C Vol.63 No.2, 487-501, 2007. 5

地盤変位
地盤変位 杭変位
杭変位 δp:相対変位 非液状化層からの荷重
δp:相対変位 非液状化層からの荷重

受働崩壊面
受働崩壊面
受働土圧
受働土圧 Hp:受働崩壊する深さ
Hp:受働崩壊する深さ
(非液状化層厚と杭径の
(非液状化層厚と
Εp:受働崩壊時の破 3.8 倍の小さい方の値)
杭径の 3.8 倍の小
εP:受働崩壊時の
壊ひずみ さい方)
破壊ひずみ
θp:受働崩壊角
θP:受働崩壊角

δp=εP・LP
δp=εp・Lp
εp=4%
εP=4%
LP:破壊ひずみを考慮する範囲
Lp:破壊ひずみを考慮する範囲
杭 LP=Hp・tanθP
Lp=Hp・tanθp 液状化層
液状化層

図-11 上部非液状化層が受働崩壊する時に生じる杭と地盤の相対変位の想定

水平地盤反力度
地盤反力

解析に用いる等価 地盤反力上限値到達点
最大地盤反力に到達した点
な地盤バネ pnlnl

実際の地盤反力と 実験結果による地盤反力係数
相対変位の関係 (健全地盤の 1/10 程度)

tankhnl−1 k
-1
tan
hnl

杭と地盤の相対変位
.5δ p
0δ/2
δδp

図-12 地盤バネの初期勾配の設定法と地盤反力上限値の関係

験および大型振動台実験結果を補完,総合して設計用に に,上部非液状化層の受働破壊の領域とこの領域に生じ
設定した関係である. る破壊ひずみを想定し,表-5上段の式(1)で算定される
c) 地盤バネの初期勾配と地盤反力上限値 非液状化層から杭に作用する荷重の上限値 Pn l 分布荷重
非液状化層の地盤バネは,通常,設計指針等 3), 4)を で表した地盤反力上限値 pn l を考慮することによって,
用いて算定した地盤バネに基づいて設定することが多い. 以下のように設定することとした.
ただし,これらの方法を用いる場合には,地盤の弾性係
p nl
数もしくはN値が必要となり,この値によって地盤バネ k hnl = (3)
0.5δ p
が変化することになる.しかし,上部非液状化層は地表
面近くの低拘束圧下にあることから,この地盤の物性を p nl = αβ j −1
K p Dσ ' v ( z ) (4)
精度良く求めることは難しい.
また,従来の設計指針による地盤バネは,杭の特性値 ここに,
を用いて載荷幅の補正を行う等かなり複雑な計算が必要 k hnl :上部非液状化層の地盤バネの初期勾配(kN/m2)
となると共に用いる指針により算定される地盤バネも大 p nl :非液状化層内のある深度において上流側から杭
きく異なっている.さらに,実設計では,この値に係数 に作用する地盤反力上限値(kN/m)
を乗じて1/5~1/10程度にまで低減 5)させることも行われ δ p :地盤反力上限値における圧縮ひずみから推定し
ており,様々な条件を設定して複雑な計算を行い地盤バ た杭と地盤の相対変位(m)
ネを求めても,必ずしも精度が向上するとは言い難い面 (δ p=ε p・L p,L p=H p・tanθ p )
がある. ε p :地盤反力上限値における圧縮ひずみ(実験結果
これらの実情を踏まえ,本設計法では,受働崩壊時の を参考に4%と設定)
破壊ひずみを想定して地盤バネの初期勾配を簡易的に設 H p :受働崩壊深さ(m)
定する方法を提案することとした. θ p :常時の受働崩壊角(°)
地盤バネの初期勾配は,図-11および図-12に示すよう [45°+φ /2,φ:地盤の内部摩擦角(°)]

494
土木学会論文集C Vol.63 No.2, 487-501, 2007. 5

300 300

主応力差(σ1-σ3) (kN/m2)

主応力差(σ1-σ3) (kN/m2)
σ0’=49kN/m2
200 200

σ0’=49kN/m2
100 100

0 0
0 5 10 15 20 0 5 10 15 20
軸ひずみ ε(%) 軸ひずみ ε(%)
豊浦砂100%,Dr=50% 豊浦砂100%,Dr=65%

図-13 豊浦砂の三軸圧縮試験(CD)結果の応力~ひずみの関係例(圧密圧力 49kN/m2)

α :流動直角方向の杭の離隔に関するパラメータ 参考に,豊浦砂を用いた相対密度50%および65%の供
β :流動方向の杭への作用力の低減率(β=0.8) 試体に対する圧密圧力49kN/m2における三軸圧縮試験
j :着目する杭の上流からの杭列番号 (CD)結果の応力~ひずみの関係例を図-13に示す.埋立
σ’v(z) :深度z(m)における有効上載圧(kN/m2) 地盤の場合には非液状化層厚が最大でも5m程度である
Κ p :受働土圧係数[=tan2(45°+φ/2)] と考えられることから,上部非液状化層の拘束圧はほぼ
D :杭径(m) 0~100kN/m2程度の範囲にあると考えられる.同図にはε p
=4%と仮定して図-12に示した方法と同様な考え方で設
この方法を用いる場合,受働崩壊時の破壊ひずみを想 定したバイリニア型モデルの応力~ひずみ関係を破線で
定すれば,非液状化層厚と地盤の内部摩擦角のみから簡 示している.この結果より,ε p =4%と仮定し,その1/2
易に地盤バネが設定できることになる.なお,地盤バネ のひずみで最大応力となるようなバイリニア型モデルの
をδ p とpn l から定まる点と原点を結ぶ初期勾配ではなく, 応力~ひずみ関係と豊浦砂の試験結果による曲線がほぼ
0.5 δ p と原点を結ぶ初期勾配としたのは,図-12からも分 対応していることが分かる.この結果からも,地盤の破
かるとおり,前者の方法(図中の一点破線の初期勾配) 壊ひずみε p =4%と設定したバイリニア型モデルで地盤
を用いた場合,設計上想定する荷重が常に実際の荷重を バネの初期勾配を設定することの妥当性が検証できたと
下回り,危険側の設定となるなることが懸念されたため 判断される.
である. 一方,従来の設計指針等による地盤反力係数を用いて
初期勾配の設定法としては,この他に,最大荷重の 地盤バネの初期勾配を求める場合にも,杭の閉塞率ηの
1/2の荷重となる曲線上の点と原点を結ぶ方法も考えら 影響を地盤バネの初期勾配の設定に反映させるため,下
れるが,最大荷重の1/2の荷重となる曲線上の点を求め 式によって算出することとした.
るためには,曲線形状の設定が必要となる.しかし,本
α
設計法では最初にδ p を求める必要があるため,0.5 δ p と khnl = ⋅ β j −1 ⋅ (kh ⋅ λ n ) (5)
α0
原点を結ぶ方法の方が簡便であり適当であると判断した.
なお,非液状化層から杭に作用する荷重が上限に達す ここに,
る時点の地盤の圧縮ひずみε p は,大型振動台実験結果 k hnl :上部非液状化層の地盤バネの初期勾配(kN/m2)
の地表面変位分布からひずみを算定した結果,約4%と α :流動直角方向の杭の離隔に関するパラメータ
いう値が得られたため,非液状化層の受働崩壊時の地盤 α 0 :閉鎖率η=0の時のα
の破壊ひずみを4%と設定した.このε p の値は,実際に β :流動方向の杭への作用力の低減率(β=0.8)
は地盤の種類や密度,拘束圧といった条件によって変化 j :着目する杭の上流からの杭列番号
すると考えられるが,大型振動台実験の条件下(相対密 k h :諸設計指針・基準に基づく地盤バネ(kN/m2)
度40%~70%程度の砂質地盤,非液状化層厚1m~2m程 λn :側方流動時の地盤反力係数の低減率(大型振動
度)に相当する埋立地盤に対して地盤バネの初期勾配を 台実験結果を参考に1/5と設定)
設定する際には,ε p =4%の採用が有効であると考える.

495
土木学会論文集C Vol.63 No.2, 487-501, 2007. 5

これは,杭の閉鎖率を変化させた小型振動台実験結果 表-7 大型振動台実験結果による地盤反力係数の低減率


から,杭の閉鎖率を変化させると最大荷重のみならず載 非液状化層 液状化層
荷過程においても荷重と相対変位の関係に差が生じるこ 数分の1~数十分の1 数十分の1~数百分の1
低減率
とが判明したためである.下流側の杭に作用する荷重に (荷重上限で1/10) (荷重上限で1/100)
ついても,同様に最大荷重のみならずその載荷過程にお
いても最上流側の杭よりも小さな荷重となることが判明
しており,この傾向を設計式に反映させるため,αおよ DN = const (7)
びβを地盤反力係数k hnl設定時に考慮することとした.
地盤反力係数の低減率λ n については,表-7に示すよ ここに,
うに,大型振動台実験結果から,非液状化層の側方流動 DN :側方流動による上部非液状化層の地盤変位量(m)
時の地盤反力係数が健全地盤の地盤反力係数の1/10程度 DL :側方流動による液状化層の地盤変位量(m)
に低減するという結果が得られたことおよび図-12に示 zL :液状化層上面からの深さ(m)
したように,バイリニア型モデルを用いた地盤バネの初 HL :液状化層厚(m)
期勾配を実験結果の2倍程度の初期勾配(相対変位0.5 δ p
で地盤反力が最大値に到達するような初期勾配)を想定
することで平均的な地盤バネが得られると考え,1/5と 4.大型振動台実験のシミュレーション解析
設定した.
本設計法で提案した側方流動時の杭基礎設計法の妥当
(3) 液状化層の荷重 性を検証するため,大型振動台実験のシミュレーション
側方流動によって液状化層から杭に作用する荷重 P l 解析を実施した.以下にその概要を述べる.
は,小型振動台実験および大型振動台実験の詳細分析結
果等から得られた表-5の下段に示す式(2)によって算定 (1) 解析条件および解析モデル
することとした.また,液状化層内の作用荷重分布は, 非液状化層厚,液状化層厚,地下水位,地盤物性等の
図-9の解析モデルに示したように,全上載圧に比例する 地盤条件,非液状化層の変位,液状化層の流動荷重等の
ものとした. 解析条件および解析モデルは,大型振動台実験の詳細分
析結果等を参考に図-14に示すように設定した.なお,
(4) 地盤変位量の推定法 非液状化層の地盤反力上限値の算定時に必要となるパラ
応答変位法により杭の解析を行う場合,対象地点の側 メータαは,実験-1の高剛性杭でα=6.4,低剛性杭でα
方流動による地盤変位量および地盤変位の深度分布を設 =5.8,実験-2の高剛性杭でα=3.0,低剛性杭でα=2.8
定する必要がある.本設計法で対象としている護岸近傍 となっている.
での地盤変位量および地盤変位の深度分布等の推定法と また,実験に用いた杭の仕様は以下のとおりである.
しては,鉄道指針 4)や高圧ガス設備等耐震設計指針レベ 高剛性杭:鋼管杭STK490,φ 318.5mm,t=55mm
ル2耐震性能評価解説編 5)(以降,高圧ガス指針と略 低剛性杭:PHC杭C種,φ 300mm
す)等,過去の被害事例に基づいた簡便的な方法が既に (有効プレストレス: 9.8N/mm2)
いくつか提案されている.また,例えば文献11),12), この実験杭の材料物性と実測の寸法を勘案して数値計
13) に示すようなFEM解析等を用いた詳細解析による推 算により設定した杭の曲率と曲げモーメントの関係を
定法も発表されている.しかし,この変位予測は,流動 図-15に示す.なお,解析においては,曲率と曲げモー
発生のメカニズムを含めまだ研究途上にあり,精度向上 メントの関係をトリリニア等の簡易モデルへ変換するこ
のためには多くの問題が残されているのが現状であると となく,図-15の曲率と曲げモーメントの関係を忠実に
考える. モデル化して用いることとした.
本設計法では,地盤変位量の推定法には言及せず,前
述の他の研究成果に因ることとした.例えば,高圧ガス (2) 解析結果
指針によれば,対象とする杭基礎位置における地盤変位 本設計法に従って算出した非液状化層における高剛性
量DNを求め,式(6)を用いて地盤変位の深度分布を推定 杭の地盤反力の上限値と地盤バネ値の深度分布を図-16
することになる. に示す.これより,本設計法による地盤バネ値の設定値
は,地盤反力の上限値と概ね一致していると判断される.
⎛ π zL ⎞
D L = D N ⋅ cos ⎜⎜ ⎟⎟ (6) また,代表的な解析結果として,実験- 1 および実験
⎝ 2H L ⎠

496
土木学会論文集C Vol.63 No.2, 487-501, 2007. 5

入力変位:0.173m(相対変位 0.13m 時)
変位分布:深度方向一定
杭長:4.9m

HN L=1.4m 非液状化層
γ=16.9(kN/m3)
φ=35(度)

H=4.8m

液状化層 荷重:α=2.5 の
台形分布
HL=3.4m γ=19.8(kN/m3)

実験-1
入力変位:0.175m(相対変位 0.10m 時)
変位分布:深度方向一定
杭長:4.9m

非液状化層
HN L=2.4m γ=17.3(kN/m3)
φ=40(度)

H=4.8m
荷重:α=2.5 の
台形分布
HL=2.4m

実験-2

図-14 実験結果に基づく解析モデル

既製 鋼 管 杭( STK490,φ 319.1,t= 58.4mm) PH C 杭 、C 種 (φ 300)


2000 140
軸力=0kN
軸力 = 0kN 軸力=0kN
軸力 = 0kN Mu=89.9kNm(実験-1)
1800 Mu=8 9.9kNm( 実 験- 1 )
120
曲 げ モ ー メ ン ト (kNm)
曲 げ モ ー メ ン ト (k Nm )

1600 My=73.7kNm( 実 験- 1 )
My=893kNm
My=8 93kNm Mu=1392kNm
Mu=1392kNm My=73.7kNm(実験-1)
1400 100
1200
80
1000 Mu=8 7.8kNm( 実 験- 2 )
Mu=87.8kNm(実験-2)
800 60
My=73.9kNm( 実 験- 2 )
My=73.9kNm(実験-2)
600 40
400 Mc=32.8kNm(実験-1)
Mc=3 2.8kNm( 実 験- 1 )
20
200 Mc=31.9kNm(実験-2)
Mc=3 1.9kNm( 実 験- 2 )
0 0
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.00 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06
曲率 φ (1/m) 曲率 φ (1/m)
高剛性杭(鋼管杭STK490,φ 319.1mm,t=58.4mm) 低剛性杭(PHC 杭 C 種,φ 300mm)

図-15 実験で使用した杭の曲率と曲げモーメントの関係

497
土木学会論文集C Vol.63 No.2, 487-501, 2007. 5

5.0 5.0
杭径:0.319m 杭径:0.319m
4.5 4.5
実験-1(α=6.4) 実験-1(α=6.4)

高 さ  (m)
高 さ  (m)

4.0 4.0

3.5 3.5 実験-2


(α=3.0)
3.0 3.0

2.5 2.5 実験-1


実験-2(α=3.0) (実測値の1/5) 実験-2(実測値の1/5)
2.0 2.0
0 50 100 150 200 250 300 0 1000 2000 3000 4000
地盤反力上限値 (kN/m) 地盤バネ値 (kN/m 2 )
地盤反力上限値 地盤バネ値
図-16 非液状化層における地盤バネの設定結果(高剛性杭)

-2における曲げモーメント,杭変位,地盤反力の深度 5.まとめ
分布を実験結果と併せて図-17~図-21に示す.なお,
図-19~図-21に示す低剛性杭については,実験途中で杭 本論文では,著者らが実施した小型振動台実験および
下端が降伏したため,杭が降伏した時点の地盤変位(実 大型振動台実験による杭への作用力算定法,他機関の側
験-1:200mm,実験-2:100mm)を入力して解析を行 方流動に対する杭基礎設計法の動向等を勘案して,非液
った.これらの大型振動台実験のシミュレーション解析 状化層については応答変位法,液状化層については土圧
結果から判明した事項を以下に述べる. 法を適用した設計法を提案した.また,提案した設計法
高剛性杭の解析結果からは,杭の曲げモーメントおよ を用いて著者らが実施した大型振動台実験のシミュレー
び杭変位は共に実験結果より1~2割程度大きめの値とな ション解析を行い,杭の挙動をほぼ再現できることも確
っているが,地盤反力は非液状化層の厚さが変化しても 認した.
非液状化層内の地盤反力が全深度にわたり上限値に達し 本設計法は,杭径が細く,杭間隔が広いといった特色
ており,実際の実験結果の傾向をよく再現していること を持つ電力施設の杭基礎構造物に対して適用可能とする
が分かる. ため,地盤バネと杭の両方に非線形特性を考慮すること
低剛性杭(杭下端が降伏した時点)の解析結果からは, とした.なお,本設計法を用いることにより,杭に発生
杭の曲げモーメントは数値自体には若干のずれはあるも する断面力だけでなく,クラックの発生,降伏,基礎の
のの非液状化層と液状化層の境界部付近で正負のモーメ 応答塑性率といった杭基礎の状態や変形量も得ることが
ントが逆転している傾向を比較的よく再現しているが, できるため,杭の終局状態の予測や上部構造物の性能が
杭変位は実験結果よりも2割程度大きめの値となってい 変位で規定される設計を行った場合においてもその照査
ることが分かる.また,地盤反力からは,非液状化層の が可能であるというメリットもある.従って,本設計法
上部において杭が地盤を押し,下部において地盤が杭を を導入することにより,より合理的な設計が行えると考
押しているという実験の傾向を比較的よく再現している えられる.
ことが分かる.
このように本設計法は,地盤反力が上限値に到達する 謝辞:本論文は,社団法人電力土木技術協会が経済産業
場合には実際の現象をよく再現できるが,上限値に到達 省資源エネルギー庁より受託して検討を行った「液状化
しない場合には再現の程度がやや劣る傾向あると考えら 対策実証調査」の研究成果の一部をとりまとめたもので
れる.この面については,地盤反力特性の再現精度を高 ある.研究の推進に当たり,多大なるご助言,ご指導を
めることにより,より実際の実験結果に近い解析結果を 賜った東京大学・石原研而名誉教授を委員長とする「液
得ることが可能であると考えられる. 状化対策実証調査委員会」およびその下部組織として詳
以上から,提案する側方流動時の杭基礎設計法は妥当 細検討を行った中央大学・國生剛治教授を主査とする
であり,側方流動時における実際の杭の挙動を概ね再現 「液状化対策実証調査WG」の各関係者,実験施設を借
できる方法であると判断される. 用させて頂いた財団法人電力中央研究所および独立行政
法人防災科学技術研究所の各関係者に,紙面を借りて感
謝を申し上げる次第である.

498
土木学会論文集C Vol.63 No.2, 487-501, 2007. 5

5 5
解析結果(設計用の係数α)
解析 結 果 (設 計 用 の 係数 α )
実験-1、高剛性杭 実験-1、高剛性杭
実験結果(相対変位 130mm)
実験 結 果 (相 対 変 位 130mm)
4 4
非液 状 化 層: α = 6.4
非液状化層:α=6.4
液状 化 層  : α = 2.5

高 さ  (m)
液状化層 :α=2.5
高 さ  (m)

3 3

2 2
解析 結 果 (設 計 用 の 係数 α )
解析結果(設計用の係数α)
実験結果(相対変位 130mm)
実験 結 果 (相 対 変 位 130mm)
1 1
非液状化層:α=6.4
非液 状 化 層: α = 6.4
液状化層
液状 化 層:α=2.5
 : α = 2.5
0 0
0 200 400 600 800 1000 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10
杭の曲げモーメント (kNm) 杭変位 (m)

曲げモーメント 杭変位
図-17 実験-1 における高剛性杭のシミュレーション解析結果
5 5
実験-2、高剛性杭 解析 結 果 (設 計 用 の 係数 α )
解析結果(設計用の係数α)
実験-2、高剛性杭
実験結果(相対変位
実験 100mm)
結 果 (相 対 変 位 100mm)
4 4
非液 状 化 層: α = 3.0
非液状化層:α=3.0 解析結果(設計用の係数α)
解析 結 果 (設 計 用 の 係数 α )
液状 化 層  :
液状化層 α = 2.5
:α=2.5 実験結果(相対変位
実験 100mm)
結 果 (相 対 変 位 100mm)

高 さ  (m)
高 さ  (m)

3 3
非液状化層:α=3.0
非液 状 化 層: α = 3.0
液状化層
液状 化 層  ::α=2.5
α = 2.5
2 2

1 1

0 0
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20
杭の曲げモーメント (kNm) 杭変位 (m)

曲げモーメント 杭変位
図-18 実験-2 における高剛性杭のシミュレーション解析結果
5 5
実験-1、低剛性杭(地盤変位200mm)

4 4
解析 結 果 (設 計 用 の 係数 α )
解析結果(設計用の係数α)
実験結果
実験 結果
高 さ  (m)
高 さ  (m)

3 3
非液状化層:α=5.8
非液 状 化 層: α = 5.8
実験-1、低剛性杭(地盤変位200mm)
液状 化 層  :
液状化層 α = 2.5
:α=2.5
2 2
解析結果(設計用の係数α)
解析 結 果 (設 計 用 の 係数 α )
実験結果
実験 結果
1 1
非液状化層:α=5.8
非液 状 化 層: α = 5.8
液状 化 層  :
液状化層 α = 2.5
:α=2.5
0 0
-50 0 50 100 150 200 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
杭の曲げモーメント (kNm) 杭変位 (m)

曲げモーメント 杭変位
図-19 実験-1 における低剛性杭のシミュレーション解析結果
5 5
実験-2、低剛性杭(地盤変位100mm)
実験-2、低剛性杭(地盤変位100mm)

4 4
解析結果(設計用の係数α)
解析 結 果 (設 計 用 の 係数 α )
実験結果
実験 結果
高 さ  (m)
高 さ  (m)

3 3
非液状化層:α=2.8
非液 状 化 層: α = 2.8
液状 化 層  ::α=2.5
液状化層 α = 2.5
2 2
解析結果(設計用の係数α)
解析 結 果 (設 計 用 の 係数 α )
実験結果
実験 結 果
1 1
非液 状 化 層: α = 2.8
非液状化層:α=2.8
液状 化 層  ::α=2.5
液状化層 α = 2.5

0 0
-50 0 50 100 150 200 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
杭の曲げモーメント (kNm) 杭変位 (m)

曲げモーメント 杭変位
図-20 実験-2 における低剛性杭のシミュレーション解析結果

499
土木学会論文集C Vol.63 No.2, 487-501, 2007. 5

解析 結 果 解析 結 果
実験 結 果 実験 結 果
地盤 反 力 上限 値 地盤 反 力 上限 値
5.0 5.0
実験-1、高剛性杭 実験-2、高剛性杭
4.5 4.5
(相対変位 130mm) (相対変位 100mm)

4.0 4.0

3.5 3.5

高 さ  (m)
3.0
高 さ  (m)

3.0

2.5 2.5

2.0 2.0

1.5 1.5

1.0 1.0

0.5 0.5

0.0 0.0
-100 0 100 200 300 -100 0 100 200 300
(kN/m)2 )
地盤反力 (kN/m (kN/m) 2 )
地盤反力 (kN/m

実験-1 における高剛性杭 実験-2 における高剛性杭

解析 結 果 解析 結 果
実験 結 果 実験 結 果
地盤 反 力 上限 値 地盤 反 力 上限 値
5.0 5.0
実験-2、低剛性杭
4.5 4.5
(地盤変位 100mm)
(地盤変位100mm)
4.0 4.0

3.5 3.5
高 さ  (m)

高 さ  (m)

3.0 3.0
実験-1、低剛性杭
2.5 2.5
(地盤変位 200mm)
(地盤変位200mm)
2.0 2.0

1.5 1.5

1.0 1.0

0.5 0.5

0.0 0.0
-100 0 100 200 300 -100 0 100 200 300
(kN/m)2 )
地盤反力 (kN/m (kN/m) 2 )
地盤反力 (kN/m

実験-1 における低剛性杭 実験-2 における低剛性杭

図-21 地盤反力のシミュレーション解析結果

参考文献 6) 日本建築学会:建築基礎構造設計指針,2001.
1) 阪神・淡路大震災調査報告編集委員会:阪神・淡路大震災 7) 小笠原政文,角田浩,坂本俊一,松尾隆志:流動化の影響
調査報告(土木構造物の被害原因の分析),pp.200-2191, を考慮した基礎構造物及び対策工の設計法,地震時の地
1996. 盤・土構造物の流動性と永久変形に関するシンポジウム発
2) 阪神大震災調査委員会:阪神・淡路大震災調査報告書(解 表論文集,pp.429-432, 1998.
説編),pp.441-473, 1996. 8) 須田嘉彦,林寛,畔柳幹雄,森本巌,國生剛治:液状化に
3) 日本道路協会:道路橋示方書・同解説 V耐震設計編,2002. 起因した地盤の側方流動時の杭への作用力に関する実験的
4) 鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震 検討と評価式の定式化,土木学会論文集,C, Vol.63, No.2,
設計,1999. 2007.
5) 高圧ガス保安協会:高圧ガス施設等耐震設計指針 レベル2 9) 澤田亮,西村昭彦:液状化による地盤の側方流動が基礎構
耐震性能評価解説編, 2000. 造物に及ぼす影響に関する研究, 土木学会論文集,

500
土木学会論文集C Vol.63 No.2, 487-501, 2007. 5

No.694/III-57,pp.1-15, 2001. Liquefaction analysis of seawall structures under both drained and
10)時松孝次,大岡弘,社本康広:液状化に伴う側方流動を受 undrained conditions, Proc. 12th WCEE, Paper No.1300, 2000.
けた建物基礎杭の残留変形モード,第31回地盤工学研究発 13)安田進,吉田望,安達健司,規矩大義,五瀬伸吾,増田民
表会講演集,Vol.2,pp.1253-1254, 1996. 夫:液状化に伴う流動の簡易評価法,土木学会論文集,
11)地盤工学会:地震時の地盤・土構造物の流動性と永久変形 No.638/III-49,pp.71-89, 1999.
に関するシンポジウム 発表論文集,pp.247-280, 1998.
12)Wang, J., Sato, M., Yoshida, N., Kurose, H. and Ozeki, K.: (2005. 6. 22 受付)

DESIGN METHOD FOR PILE FOUNDATIONS SUBJECTED TO


LIQUEFACTION-INDUCED LATERAL FLOW

Yoshihiko SUDA, Masayuki SATO, Yukio TAMARI and Takaji KOKUSHO

We are suggesting a simplified design method for pile foundations subjected to lateral flow due to soil
liquefaction considering spacing effects between piles, which was established based on the results of
small and large scale shaking table tests. The proposed method is effective for predictions and
examinations of pile foundations whose limit states of the seismic performance are limited in terms of
allowable displacements, because nonlinearities in both soils and piles are taken into consideration.
Finally, using the proposed method, single pile behaviors in the large-scale shaking table tests are
simulated to show its validity in practical situations.

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