第 86 回

論文情報管理・共有ツール“Mendeley”

（正会員）高 取 憲 一†
キーワード： Mendeley，論文情報管理，情報共有，論文執筆

2.2 インストールとサインイン
1．まえがき
前述のように，さまざまなプラットフォームに対応する
今回ご紹介させて頂く Mendeley は，これまで紹介され が，ここでは最初に Windows のデスクトップ版を例にと
ている開発プラットフォーム，数値計算ソフト，標準画像 る．ダウンロードされたインストールプログラムのアイコ
等とはまったく毛色が異なるが，研究開発に非常に役立つ ンもしくはファイル本体をダブルクリックし，インストー
無料ツールである．Mendeley は，研究論文を管理，共有， ルする．インストールに際しては，ライセンス条項への同
閲覧，注釈，引用するための無料の学術向けソフトであり 意が必要である．
（容量を増やす等の有料のオプションが存在する），文献管 インストールが完了すると，ユーザ登録時に使用した電
理・共有ツールに分類される． 子メールアドレスとパスワードによるサインイン（ログイ
簡単にまとめると，以下のような特徴がある． ン）が可能となる．
・オンライン/オフラインで管理でき同期も簡単である．
3．デスクトップ版の使い方
・各種文献データベースからワンクリックもしくは PDF
ファイルの参照で文献情報を取り込める． 最初にプラットフォームごとに異なる部分を説明する．
・Word 等のワープロソフトへの挿入が容易である． デスクトップ版は Windows 版を前提に，まず文献の追加
・研究トレンドや統計情報を見て，同じ分野の研究者を と書誌情報の編集を解説し，最後に検索・分類を説明する．
つなぐ研究ネットワークとして利用できる． 3.1 文献の追加
・多様なプラットフォームに対応する．またプラット 文献管理・共有ツールであるので，文献を追加すること
フォーム間の同期が可能である． からすべてが始まる．まず，所有する PDF ファイルをデ
Windows, Mac, Linux の各 OS に対応しインストール スクトップ版に追加する方法を説明する．文献の追加には，
し使用するデスクトップ版“Mendeley Desktop”，ウェ 複数の方法がある．
ブブラウザで利用するウェブ版“Mendeley Web”，iOS, （1）個別もしくは複数のPDFファイルをドラッグ&ドロッ
Android 対応のモバイル版“Mendeley”が存在する． プする．または［File］→［Add Files］で追加する．
（2）PDF ファイルが入ったフォルダをドラッグ&ドロッ
2．導入方法
プする．または［File］→［Add Folder］で追加する．
2.1 ユーザ登録，ダウンロード （3）Watched folder 機能を利用する．この機能では，
1）
Mendeley を使い始めるには，ホームページ にアクセ 指定したフォルダを監視し，そのフォルダに PDF が
スし，ユーザ登録（アカウント作成）する［Create a free 入れられると自動的に Mendeley に追加される．こ
account］．登録時点で最初に必要な情報は，姓［First のため，特定フォルダに PDF をダウンロードしてい
name］，名［Last name］，電子メールアドレス［E-mail］ る場合に便利である．対象のフォルダは［File］→
とパスワード［Password］である．［Get started］を選 ［Watched Folder］で指定する．
択後，分野と肩書を選択し，［Finish］をクリックすると， なお，
［File］メニューの選択等で示した方法は，メニュー
各プラットフォームに対応したインストールプログラムが の下のアイコンをクリック・展開して同じ機能を実現するこ
ダウンロードできる．なお，現在は，世界的な出版社 ともできる（以降の他の説明の多くでも同様である）
．
2）
Elsevier の傘下となったため，Elsevier のホームページ これらの方法で文献を追加すると，PDF から自動的に書
からは日本語で説明を読み，登録することが可能である． 誌情報（論文名，著者名，掲載誌名・巻号・ページ等の引
用情報）が抽出され，右のフレームに表示される．
† NLT テクノロジー株式会社 研究開発部
"Mendeley; Reference manager" by Kenichi Takatori (Research & 他の文献の追加方法として，データベースや他の文献管
Development Department, NLT Technologies, Ltd., Kawasaki) 理ツールのファイル形式からのインポート機能がある．

320 （120） 映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 2, pp. 320 ∼ 323（2016）


（4）BibTeX, EndNote XML, RIS, Zotero 形式のファ
イルであれば，［File］→［Import］を選択後に，ファ
イル形式を選択する．
3.2 書誌情報の編集
文献の登録時に抽出された書誌情報が不完全な場合は，
ついで，書誌情報の検索もしくは編集を行う．
書誌情報の検索も，複数の方法で可能である．
（1）文献のタイトルを入力する．入力されたタイトルか
らインターネットで書誌情報を探すことができる．
（2）各種の文献 ID（ArXiv ID, DOI, PMID）から書誌情報
を検索する．
タイトルや ID は文献検索サービスで容易に検索できるア
イテムであるので，後述のマニュアル編集の手間を省くこ
とができる．
マニュアルで編集する場合も二つの方法がある．
（1）図 1 の右フレームの Details タブで直接編集する．
必要な書誌情報を編集する．
（2）メニューから［File］→［Add Entry Manually］を選
択して入力する．
どちらの方法でも同じ情報を入力できるので，使いやす
い方を利用すればよい．
なお，ここに編集・入力された書誌情報は，Mendeley
のオンラインカタログに匿名で登録される．そのため，執
筆中の原稿や査読中の論文等，公開カタログに登録された
図 1 デスクトップ版 Mendeley の文献追加時の画面
論文情報管理・共有ツール“Mendeley”
て
れ
くない文献等に対しての機能が存在する．公開しない場合 び
・
は，書誌情報の最下段の Other Setting の［Unpublished さ
work - exclude from Mendeley Web catalog］にマーク ろ
ん
を付ける．
3.3 ライブラリーの検索・分類
文献の追加と書誌情報の編集により，オリジナルのライ
ブラリーが完成する．このライブラリーはデータベースで
あるので，検索・分類・ソートが可能である．
検索は，図 1 の右上にある検索ボックス（Search）を用
いる．ここにキーワードを入力すると自動で検索が始まる．
検索するライブラリーの範囲は，左フレームで選択してい
るフォルダやグループであり，All Documents を選択し
ている場合，ライブラリー全体を検索する．また，検索
ボックスの虫眼鏡の横の▼マークをクリックすることで，
検索項目（著者，タイトル等）を選択することができる．
分類したい場合，フォルダを分ける方法と，文献にタグ
を付ける方法があり，併用が可能である．
フォルダの作成は，左フレーム内で［Create Folder］を
選ぶか，［Edit］→［New Folder］を選択する．文献をフォ
ルダにドラッグ&ドロップして追加する．同じ文献を複数
のフォルダに入れることも可能である．
文献にタグをつけるには，右フレームの書誌情報の
［Tags］を使用する．
TV Cafe
（121） 321
て
れ
び とよい．
・ 4．ウェブ版の使い方
さ 追加された文献は，［Library］タブをクリックすること
ろ 4.1 Web Importer のインストール
ん
ウェブ版では，文献の追加に Web Importer という強力
なツールを利用する．このツールをインストールするには，
ログインした画面の右上に表示される［Install the Web
Importer］を選択するか直接対象ページ 3）を開く．開いた
ページに，
［Save to Mendeley］
というボタンがあるので，
それをブラウザのブックマークバーにドラッグする．この
Web Importer は，各種ブラウザに対応している．
Web Importer をインストールするページの下部に対応
しているサイト，データベースの一覧があり，現在，54
のサイトがリストアップされている．
4.2 文献の追加と閲覧
各々のサイト，データベースで検索した際の検索結果の
一覧ページもしくは個別の文献ページを開いた状態で，
ブ ッ ク マ ー ク バ ー か ら 先 ほ ど 追 加 し た［ S a v e t o
Mendeley］をクリックすると，ポップアップウィンドウ
が起動し，図 2 のような画面となる．この例では，個別の
文献ページの例であり，［Save］を選択することで保存で
きる．検索結果の一覧ページでは，個別の文献を選択する
か［Save all］で保存することができる．
ScienceDirect や CiNii 等の一部のサイト，データベー
スでは，ページ内にあらかじめ Mendeley へのエクスポー
ト機能が用意されており，容易に Mendeley への保存が可
能である．また，一部のサイト，データベースでは，PDF
をダウンロードすることが可能であり，この場合，
［Download PDFs if available］にチェックを入れておく
TV Cafe
図 2 ウェブ版 Mendeley の文献追加時の画面（Web Importer を使った Save to Mendeley 機能）
322 （122）
で確認できる．基本的な機能は，デスクトップ版と同様で
ある．
5．同期とモバイル版
同期機能を利用することで，さまざまな環境から同じ文
献データベースにアクセスできるようになる．
5.1 同期
ウェブ版はバックアップの機能も持っており，同期は，
ウェブ版を経由して行う．デスクトップ版では，起動した
時，もしくは［Sync］ボタンを押した時に同期される．
無料で利用できる容量は 2 GB であり，この範囲内では
無料で PDF も同期することが可能である．PDF の同期方
法 は ， デ ス ク ト ッ プ 版 の［ M y L i b r a r y ］で［ A l l
Documents］を選び，右側の［Edit Settings］をクリッ
ク す る ． P D F を 同 期 し た い 場 合 ，［ S y n c h r o n i z e
attached files］をチェックし，全フォルダとするか，特
定のフォルダとするかを選択する．［Save & sync］をク
リックすると，設定が保存され，同期が実行される．
5.2 モバイル版
スマホやタブレットには，モバイル版アプリをインス
トールすると便利である．ここでは iOS 版を例にとる．最
初の起動時に［Sign in］を選択し，使用中のアカウント情
報を入力すると，自動的に同期が開始される．書誌情報は
すぐに参照できるようになるが，PDF を見たい場合は，ダ
ウンロードが必要である．
映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 2（2016）

図 3 Word ツール
6．論文執筆での利用 ∼ Word 等への挿入∼
プラグインをインストールすることで，Word 文書に参
考文献を挿入することができる．デスクトップ版の
［Tools］から［Install Word Plugin］を選択する．インス
トール完了後に，Word を起動すると，図 3 のツールバー
が現れる（図は Windows 版）．
文献符号を挿入する所で，［Insert Citation］をクリック
すると，ポップアップウィンドウが開く．文献を検索し
［OK］をクリックする．また，［Go to Mendeley］でデス
クトップ版で検索できるので，文献を選択し［Cite］をク
リックする．これらの作業で文献符号が挿入される．
参考文献リストを挿入したい場所にマウスカーソルを置
いた上で，［Insert Bibliography］をクリックすると，参
考文献リストが挿入される．挿入スタイルは Style プルダ
ウンリストから変更できる．
7．その他の機能やサービス
7.1 PDF ビューワ
各プラットフォームには PDF ビューワを備える．PDF
内の検索機能に加えて，注釈をつける Notes 機能，選択
したテキストをハイライトする Highlight 機能等が存在す
る．また，デスクトップ版とモバイル版では，選択したテ
キストを Wikipedia やオンライン辞書で調べる Define 機
能も使える．
7.2 オンラインカタログの利用
前述のように，追加した文献は Mendeley のオンライン
カタログに自動で追加される．世界中のユーザが登録した
文献を，検索することが可能である．デスクトップ版では，
［Mendeley］の下の［Literature Search］を選択すること
で，検索が可能である．
ウェブ版では，虫眼鏡マークをクリックし，検索対象の
タブで［Papers］
（デフォルト）を選択すると，検索できる．
なお，ウェブ版では，Beta 版とのことであるが，新たに
［Suggest］という個人の嗜好に合わせた論文の推奨タブ
が追加されている．
7.3 グループと研究者の検索
他のユーザと文献を共有し，コラボレーションするため
の機能としてグループが提供されている．プライベートと
招待者のみ投稿可能（Invite-only）とオープンの 3 種類の
論文情報管理・共有ツール“Mendeley”
て
れ
グループがある．オープングループでは，興味が共通する び
・
世界中のユーザと情報交換が可能である． さ
研究者の検索や，発表論文の公開も可能である． ろ
ん
7.4 その他のサービス
Mendeley 向けのサービスや，類似のサービスを抜粋し
て紹介する．
日本語の文献を取り込むための
「日本語論文to Mendeley」
サービスが提供されている 4）．
類似のサービスはいろいろ存在するが，一例として，
RedCube がある 5）．
8．注意点
重要な注意点として，初期設定では，Mendeley に PDF
を登録しても，Mendeley 自体に PDF のコピーは保存さ
れない点がある．このため，登録された文献の元の PDF
を削除すると，Mendeley からも PDF が消えてしまう．
筆者も何度か経験し，原因がわからず大いに戸惑った．こ
れを避けるには，以下のように設定する．［Tools］→
［Options］→［File Organizer］タブで［Organize my
files］で指定したフォルダに PDF がコピーされる．サブ
フォルダを自動で作る機能，ドキュメント名を自動で変え
る機能もある．
9．むすび
論文情報管理・共有ツール Mendeley の概要を説明した．
筆者の筆力では充分にその魅力を伝えることができないが，
Web Importerを使いこなすようになり，同期してモバイル
版を使うようになると，オフィスの引き出しをそのまま持ち
歩いているのと同じ環境になる．素早く検索し，必要な
PDF を必要に応じてダウンロードするだけで，論文が参照
できる便利さは手放しがたい．また，論文執筆時に参考文献
に間違いがないか何度も繰り返し確認していた過去の自分と
比べると，参考文献の貼り付けは夢のような機能である．こ
の紹介が，皆様の研究開発でMendeleyを利用する際の一助
になれば幸いである． （2015 年 12 月 22 日受付）
〔文 献〕
1）http://www.mendeley.com
2）http://jp.elsevier.com/online-tools/mendeley
3）http://www.mendeley.com/import
4）http://addon.ej-labo.jp/mendeley/top
5）https://www.readcube.com/
たかとり けんいち
高取 憲一
1990 年，東京大学教養学部基礎科学
科卒業．同年，NEC 入社．2001 年∼ 2002 年，ベル
ギー王国ルーヴァン・カトリック大学客員研究員．
2005 年，NEC 液晶テクノロジー（現 NLT テクノロ
ジー）．シミュレーション（液晶配向，光学，TFT モデ
TV Cafe
ル等），高性能化（広視野角，高速応答等），高付加価
値化（フィールドシーケンシャルカラー，システム内蔵，任意形状，内蔵
タッチパネル，触覚ディスプレイ，OLED 回路等）の研究開発に従事．正
会員．
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