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論 文

高 強 度 ス テ ン レス鋼 の フ レ ッテ ィ ング疲 労 特 性 †
武 藤 睦 治 ＊ 田 中 紘 一 ＊＊ 伊 藤 晋 三 ＊＊＊

Fretting Fatigue Properties of High Strength Stainless Steel

by
Yoshiharu MUTOH*, Kohichi TANAKA** and Shinzo ITOH***

Fretting fatigue tests of high strength stainless steel 440C were carried out to investigate the basic
properties of fretting fatigue and the effects of contact material and variable loading on fretting fati-
gue strength. The fatigue life and the fatigue limit of 440C steel decreased significantly under the fret-
ting fatigue condition. A soft contact material was effective to improve the fretting fatigue strength.
The difference in fatigue life among contact materials will be caused by the difference in the concen-
tration of frictional force in the edge region of contact surface: The softer the contact material, the
lower the concentration of frictional force. Therefore, the softer contact material induces the lower
acceleration of crack growth rate, and gives the higher fatigue limit and the longer fatigue life. The
modified Miner's rule seemed to hold in the case of fretting fatigue under a program loading simulat-
ing the actual load of bearing for airplane.
Key words: Fretting fatigue, Contact material, Program load, High strength stainless steel

1 緒
圧 入 軸 や軸 受 な どの 接 触 部 を有 す る機 械 要 素 で は,
しば しば フ レ ッテ ィ ン グ を生 じ,そ こ を起 点 と して疲
労 破 壊 に至 り,寿 命 が 著 し く低 下 す る.近 年 の機 械 要
言 は次 の よ う に推 察 され る.高 硬 度 に な る と き裂 伝 ぱ特
2)
性 の硬 度 依 存 性 は ほ と ん ど な くな るの で ,き 裂 発 生 が
寿 命 の初 期 に起 こ り,き 裂 伝 ぱ寿 命 が 第1近 似 と して
疲 労 の全 寿 命 と考 え て よ い フ レ ッテ ィ ング疲 労 の場 合

素 の結 合 部 は,軽 量 化 な ど に よ り高 負 荷 に な りつ つ あ に は,疲 労 強 度 は ほ ぼ一 定 値 を示 す.

り,フ レ ッテ ィ ング疲 労 の可 能 性 が ます ます 高 くな っ 航 空 機 に使 用 さ れ る高 強度 鋼 は一 般 に脱 ガ ス処 理 が
て い る.軽 量 化 お よ び高 負 荷 化 に対 処 す るた め 高 強 度 施 され,非 金属 介 在 物 含 有量 を極 度 に 減 じ,疲 労 き裂

鋼 が使 用 され る こ とが 多 いが,こ れ まで 高 強 度 鋼 の フ の発 生 を防 い で い る.同 鋼 は さ らに軸 受 な どの機 械 要

レ ッテ ィ ング疲 労 特 性 を検 討 した例 は少 な い. 素 結 合 部 に お け る摩 耗,フ レ ッテ ィ ン グ損 傷 な どに 対

フ レ ッテ ィ ン グ疲 労 強 度 は,Fig. 1に 示 す よ う に, して も高 い 抵 抗 を示 す こ とが 望 まれ て い る.

硬 度 に 比 例 して 増 加 す る が,硬 度 が3.6GPa程 度 そ こで 本 研 究 で は,ま ず,航 空 機 の 軸 受 材 と して 使

(引 張 強 度 で は1200MPa程 度 に相 当)を 越 え る と飽 用 され て い る高 強 度 ス テ ン レ ス鋼440Cを と りあ げ,

1)
和 しほぼ 一 定 値 を示 す よ うに な る .こ の よ う に高 硬 度 そ の 基 本 的 フ レ ッテ ィ ン グ疲 労 特 性 を調 べ る と と も に,
に な る と疲 労 強 度 が ほ ぼ 一定 値 を示 す よ うに な る理 由 そ れ に及 ぼ す 接 触 材 の 影 響,お よ び変 動 荷 重 の 影 響 な
ど につ いて 検 討 した.つ ぎ に,著 者 らが これ まで に提

案 して い る破 壊 力 学 的 手 法 に基 づ くフ レ ッテ ィン グ疲
3)4)

労寿命推定 法 に よ り,寿 命 推 定 を試 み,実 験 結 果 とよ

く一 致 す る こ とを示 す と と もに,前 述 の高 強 度 材 の フ
レ ッテ ィ ング疲 労 強 度 が ほ ぼ一 定 値 を示 す こ との説 明
が 妥 当 で あ る こ と を示 す.
2 実 験 方 法

供 試 材 は 製 造 方 法 の 異 な る 同 一 規格 の マ ル テ ンサ イ
ト系 ス テ ン レ ス鋼440C(A,B材)で あ る.こ こ で,
A材 は 脱 ガ ス処 理 材 お よ びB材 は 真 空 溶 解 材 で あ る.
Fig. 1. Relationship between strength and
hardness. 接 触 材 と して は 共材,SUJ2鋼 お よ びマ ル エ ー ジ ン グ

† 原 稿 受 理 昭和62年7月22日 Received July, 22, 1987

＊ 正 会 員 長岡技術 科学大学 長 岡市上富 岡町, Technological University of Nagaoka, Kamitomioka-cho, Nagaoka
＊＊ 長岡技術科学大学 長岡市上富 岡町, Technological University of Nagaoka, Kamitomioka-cho, Nagaoka

＊＊＊ (株)クラ レ 岡 山 市 海 岸 通 り, Kuraray Co. Ltd., Kaigandori, Okayama

昭 和63年6月 (59)
644 武 藤 睦 治,田 中紘 一,伊 藤晋三

Table I. Chemical composition (wt%).

Table II. Heat treatment conditions and mechanical properties.

90MPa一 定 とな る よ う調 節 した.試 験 中 に お け るブ
リ ッジ端 部 と試 験 片 間 の 相 対 す べ り振 幅 は特 殊 な小 形
伸 び計 に よ り,ま た,ブ リ ッジ/試 験 片 間 の 摩 擦 力 振
幅 は ブ リ ッジ中 心 部 裏 面 に貼 付 した ひず み ゲ ー ジに よ
り測 定 した.フ レ ッテ ィ ン グ疲 労 試 験 後,フ レ ッテ ィ
ング 面,破 断 面 等 の 走 査 形 電 子 顕 微 鏡(SEM)に よ

る観 察 を行 う と と も に,フ レ ッテ ィ ン グ部 の 表 面 あ ら
さ を測 定 した.疲 労 破 断 試 験 に加 え,通 常 疲 労 試 験 片
を用 い,振 幅 変 動 法 に よ る繰 返 し応 力 ・ひず み 曲 線 を
Fig. 2. Fatigue specimens and bridge.
求 め る試 験 も行 っ た.な お,以 上 の 試 験 法 の 詳 細 につ
5)
鋼 を用 い た.そ れ らの化 学 成 分 をTable Iに,熱 処理 いて は別 報 に 述 べ た.
条 件 と機 械 的 性 質 をTable IIに 示 す.ま た,通 常 疲 3 実 験 結 果
労 試 験 片,フ レ ッテ ィ ン グ疲 労 試 験 片 お よ び接 触 材 3・1 基本疲労特性
(ブ リ ッジ)の 形 状,寸 法 をFig. 2に 示 す. Fig. 4にS-N曲 線 を示 す.通 常 疲 労 の 疲 労 限 は2

通 常 疲 労 お よ び フ レ ッテ ィ ング 疲 労試 験 の い ず れ も 種 類 の440C鋼 で 異 な っ て お り,440C(A)材 の場 合
容 量98kNの 油 圧 サ ー ボ 式 疲 労 試 験 機 を用 い,温 度 625MPa,440C(B)材 の 場 合775MPaと な っ た.
20℃,湿 度55%の 恒 温 恒 湿 下 で 行 った.荷 重 波 形 は 440C(A)材 の 繰 返 し応 力 ・ひず み 曲線 はFig. 5に 実 線
主 と して正 弦 波 を用 い,一 定 荷 重 振 幅 試 験(繰 返 し速 で示 す 通 りで あ り,一 点 鎖 線 で 示 した 単 調 負 荷 の 場 合
度20Hz,応 力 比R=-1)を 行 っ た.荷 重 変 動 の影 と比 べ る と,繰 返 し軟 化 す る こ とが わ か る.440C(B)
響 を調 べ るた め,Fig. 3に 示 す 航 空 機 軸 受 の実 働 荷 重 材 の繰 返 し応 力 ・ひず み 曲線 は重 な る ので 図 中 に は示
を標 準 化 した変 動 波 形 を用 い た プ ロ グ ラム 荷 重 試験 も して い な い が,440C(A)材 の場 合 とほ ぼ 同一 で あ っ た.
行 った。 3・2 フ レ ッテ ィ ン グ疲 労 特 性
フ レ ッテ ィ ング は ブ リ ッジ を プル ー フ リ ン グに よ り Fig. 4中 に フ レ ッテ ィ ン グ疲 労 試 験 結 果 も示 した.

試 験 片 板 状 部 に 押 付 けて 起 こ させ た.押 付 け 面 圧 は 共 材 を用 い た場 合 の 疲 労 限 は275MPaで,通 常疲労

(440C(A)材)の 値 の0.44倍 程 度 に低 下 して い る.ブ
リ ッ ジ材 にSUJ2鋼 お よ び マ ル エ ー ジ ン グ鋼 を 用 い
た 場 合 は,い ず れ も同 程 度 の425MPaで あ り,共 材
の 場 合 よ り55%ほ ど疲 労 限 の 改 善 が み られ るが,応
力振 幅 が 上 昇 す る に した が って疲 労 寿 命 の差 は小 さ く
な り,600MPa以 上 で は 同 程 度 の寿 命 とな っ て い る.
Fig. 6に 相 対 す べ り振 幅Sと 応 力 振 幅 σaの関 係 を

示 す.図 中 の相 対 すべ り振 幅 と して は いず れ の条 件 の
Fig. 3. Program load.
場 合 も試験 の ご く初 期 を 除 い て ほ ぼ一 定 値 を示 した の

(60) 「材 料 」 第37巻 第417号

 高 強 度 ステ ン レス 鋼 の フ レ ッテ ィ ング疲 労 特 性 645

Fig. 7. Relationship between friction coefficient

and relative slip amplitude.

Fig. 4. S-N diagram.

の で,図 中 に は こ の定 常 値 を用 い て い る.図 に示 す 結

果 は,い ず れ の場 合 も相 対 す べ り振 幅 に比 例 して増 加
す るが,あ る すべ り振 幅 以 上 で は頭 打 ち とな り一 定 値
とな る傾 向 を示 す.こ れ と同様 な傾 向 は,軟 鋼,ば ね
3)6)7)
鋼 な ど多 くの材 料 につ い て見 出 さ れ て い る.し か し,

飽 和 す る摩 擦 係 数 は材 料 の組 合 せ,押 付 け力 な ど の条
4)8)
件 に よ って異 な る.本 実 験 で は そ の領 域 の実 験 点 が 少
な い の で 明確 で は な いが,い ず れ の場 合 も,相 対 す べ

り振 幅S=40μm以 上 で0.8∼0.9と な って い る よ う
で あ る.
3・3 フ レ ッテ ィ ン グ損 傷
Fig. 8に 試験 片 フ レ ッテ イ ング 面 のSEM観 察結果
Fig. 5. Cyclic stress-strain curve.
を示 す.同 図(a)は ブ リ ッジ が共 材 で 高 応 力 レベ ル の
場 合 の観 察 例 で あ るが,フ レ ッテ ィン グ に よ る損 傷 が
著 し く,あ ば た状 の損 傷 お よ び デ ブ リ状 の多 数 の は く
離 が 認 め ら れ る.ブ リ ッジ がSUJ2鋼 の場 合 の フ
レ ッテ ィ ン グ損 傷 は 共 材 に比 べ 顕 著 で な く,図(c)に

示 す よ うな し ま状 模 様 が 現 れ て い た.こ の よ う な形 態
は 図(b)に 示 す 共 材 の 低 応 力 レベ ル の 損 傷 と類 似 して
い た.ブ リ ッジが マ ルエ ー ジ ング鋼 の場 合 の損 傷 の様

子 は図(d)に 示 す よ う に全 般 的 にSUJ2鋼 の場 合 と ほ
ぼ類 似 して い た.
Fig. 6. Relationship between stress amplitude フ レ ッテ ィ ング面 の表 面 あ らさ測 定 結 果 に よ る と,
and relative slip amplitude.
表 面 あ ら さは すべ り方 向 の ブ リ ッジ接 触 部 外 端 部 近 傍
で,こ の 定 常 値 を用 い た.図 よ り明 ら か な よ う に,相 で 最 もあ ら く,こ の傾 向 は こ れ ま で の報 告 例 と同一 で
3)4)
対 す べ り振 幅Sは 接 触 材 の 材 質 に依 存 せ ず,本 実験 あ った .Fig. 9に フ レ ッテ ィ ング面 の 最 大 表 面 あ ら さ

範 囲 内 で は,ブ リ ッジ材 を剛体 と して算 定 した 下 記 の と相 対 すべ り振 幅 の 関係 を示 す.表 面 あ らさ は ブ リ ッ

関 係 式 で 表 せ る. ジ材 がSUJ2鋼 とマ ルエ ー ジ ン グ鋼 の 場 合 に は 同 一
S=l・ εa=l・ σa/E (1) で あ る が,共 材 の場 合 は そ れ ら よ り大 きな値 で あ っ た.
こ こ で,4は ブ リ ッジ ス パ ンの 半 長(=10mm)で あ これ はSUJ2鋼 お よ びマ ル エ ー ジ ン グ鋼 の 場 合 は試
4)
り,εaは 全 ひず み 振 幅,Eは ヤ ング 率 で あ る. 験 片 の 方 が 硬 く,摩 耗 しに くい た め と考 え られ,前 報
Fig. 7に 摩 擦 係 数 μ と相 対 す べ り振 幅 の 関 係 を示 す. の ば ね 鋼 に 共 材 お よ びSS41鋼 を接 触 させ た場 合 と

こ こで,摩 擦 係 数 は ブ リ ッジ と試験 片 の 間 の摩 擦 力 振 司 一 の 傾 向 を 示 し て い る.な お,Fig. 9の 結 果 を

幅Faと 押 付 け力Pの 比 Rmax=0の 点 ま で 外 挿 す る と.S=3.4μmと な る.同

9) 4)
μ=Fa/P (2) 様 の こ と を,平 川 はS35C鋼 でS=4μm,著 者 らは

で 定 義 す る.ま た,摩 擦係 数 は相 対 すべ り振 幅 の場 合 ばね 鋼 でS=7.5μmと な る こ と を示 して お り,こ れ

と 同様,試 験 の ご く初 期 を除 け ば,ほ ぼ一 定 値 を示 す らの 結 果 は,表 面 が摩 耗 損 傷 を うけ る 下 限 の相 対 す べ

昭 和63年6月 (61)
646 武 藤 睦 治,田 中紘 一,伊 藤晋三

(a) 440C; ƒÐa=700MPa (b) 440C; ƒÐa=400MPa (c) SUJ2; ƒÐa=600MPa (d) Maraging; ƒÐa=450MPa

Fig. 8. SEM observations of fretted surface.

るS-N曲 線 を 示 す.図 中 の プ ロ グ ラ ム荷 重 下 の応 力

振 幅 と し て は 修 正 マ イ ナ ー 則 に 基 づ き算 定 し た 等 価 応

力 振 幅 を用 い て い る.す な わ ち,累 積損傷度

D=Σ(ni/Ni)=[(n1/N1)+… …+(n8/N8)]・Nb (3)

が,D=1と な る と き の ブ ロ ッ ク の 繰 返 し 数Nbを 求

め,そ の 場 合 と 同 一 の 総 繰 返 し 数(n1+… …+n8)・Nb

を 与 え る 一 定 振 幅 荷 重 下 の 応 力 振 幅 を σa,eqと し た.

こ こ で,niは 応 力 レベ ル σiで の 負 荷 繰 返 し 数 で あ り,

Niは σiの 一 定 振 幅 下 に お け る 破 断 繰 返 し 数 で あ る.

応 力 比 がR=-1以 外 の 荷 重 ブ ロ ッ ク に つ い て は,次
10)
に示 す 修正 グ ッ ドマ ン式 を用 いR=-1の 場 合 に引 き
Fig. 9. Relationship between surface roughness 直 して修 正 マ イ ナ ー則 を適 用 した.
and relative slip amplitude.
σa0=σa/(1-σm/σB) (4)
こ こで,σa0はR=-1に 引 き直 した と き の応 力 振 幅,
σa,σmお よ び σBはそ れ ぞ れ 応 力 振 幅,平 均応 力 お よ
び 引 張 強 さで あ る.ま た,図 中 に は一 定 振 幅 荷 重 下 の

通常 お よび フ レ ッテ ィ ング疲 労 のS-N曲 線 をそ れ ぞ
れ 実線 お よび 一点 鎖 線 で示 して い る.図 よ り,本 研 究
で 用 い た プ ロ グ ラ ム荷 重 下 の疲 労 寿 命 は通 常 疲 労 の場
合 若 干 短寿 命 とな っ て い る が,修 正 マ イ ナ ー則 に も と
づ く等 価 応 力振 幅 に よ り,よ く整 理 で きる こ とが わ か
る.
プ ロ グラ ム荷 重 の 各 ス テ ップ ご とに測 定 した相 対 す
べ り振 幅 と応 力振 幅 の 関係 お よ び相 対 すべ り振 幅 と摩
Fig. 10. S-N diagram under program loading.
擦係 数 の 関係 をそ れ ぞ れFig. 6お よ び7中 に示 した.
り振 幅 の 存 在 を 示 唆 し て い る. これ らの 図 か らわ か る よ うに,プ ロ グ ラ ム荷 重 下 に お
3・4 プ ロ ブラ ム 荷 重下 の フ レ ッテ ィ ン グ疲 労 特性 い て も相対 すべ り振 幅 お よび摩 擦 係 数 と も荷 重 変 動 の
Fig. 10にFig. 3に 示 した プ ロ グ ラ ム荷 重 下 に お け 影響 は 顕著 で は な く,一 定 振 幅 荷 重 下 と同様 の値 を示

(62) 「材 料 」 第37巻 第417号

 高強 度 ステ ン レス 鋼 の フ レ ッテ ィ ング疲 労 特 性 647

(a) 440C(A) (b) 440C(B)

Fig. 11. Fractographs for the center of fish-eye under plane fatigue condition.

す.フ レ ッテ ィ ン グ面 損 傷 の 様 子 も,Fig. 8(c)に 示 す 生 ず る が,小 さ い の で 無 視 す る.

一 定 振 幅 荷 重 の 場 合 と差 は認 め られ な か
っ た. 応 力 拡 大 係 数 範 囲 ΔKは 繰 返 し応 力 σaと 摩 擦 力Fa
4 考 察 に よ り次 式 で 与 え ら れ る.

4・1 440C(A)お よ び(B)材 の 通 常疲 労 強 度 につ い ΔK/2=1.12σa(πa)1/2+KF1+KF2 (6)

て た だ し,

Fig. 3に 示 した よ うに 同 一 規格 の440C(A)お よび(B) KF1=1.29αFal(1πa)1/2,

材 で 疲 労 限 が そ れ ぞ れ625MPaお よ び775MPaと KF2=1.29(1-α)Fa(πa)1/2[(3/2π)ln{l+(l2

大 幅 に異 な って い る.巨 視 的破 面 は 両 者 と も明 り ょ う +a2)1/2}/a-(1/2π)l/(l2+a2)1/2]

な フ ィ ッシ ュ ア イが 存 在 す る ほぼ 同 様 の 形 態 を示 して こ こ で,aは き 裂 長 さ,KF1は 接 触 部 端 部 に集 中す る

い た.き 裂 発 生 源 を調 べ るた め,フ ィ ッシ ュア イ 中心 摩 擦 力 に よ るK値,KF2は 接 触 部 に 一 様 分 布 す る摩

部 をSEM観 察 す る と,Fig. 11に 示 す ご と く板 状 の 擦 力 に よ るK値 で あ る.高 応 力 領 域 あ る い は高 伝 ぱ

偏 析 物 が 観 察 さ れ た.XMA分 析 結 果 に よ る と,こ の 速 度 領 域 で の き裂 伝 ぱ に 際 し て は,ΔKをShih-Hut-

13)

偏 析 物 は 両 材 と もCr炭 化 物 と推 定 され た.偏 析 物 の chinsonの 解 に も とづ く繰 返 しJ積 分 に置 き換 え,弾

平 均 の大 き さ2aはAお よ びB材 で そ れ ぞ れ20μm 塑性 き裂 と して扱 っ た.

お よ び12μm程 度 で あ っ た.そ こで 疲 労 限 σwか ら 寿 命計 算 に際 して は,式(6)を 用 い き裂 伝 ぱ 曲 線 を
11)
ΔKth値 を次 式 に よ り推 定 す る と,そ れ ぞ れ2.23お よ 表 示 す るParis-Erdoganの 式 を 積 分 す る が,本 供試
び2.14MPa・m1/2と ほ ぼ 同 じ値 と な る. 材 に つ い て は き裂 伝 ぱ試 験 を行 って い ない.Fig. 1に
示 した よ うに,高 強度 に な る とフ レ ッテ ィ ング疲 労 強
し た が っ て,Aお よ びB材 の 疲 労 寿 命 特 性 の相 違 は 度 は 静 的 強 度 に依 存 せ ず ほ ぼ 一定 値(300MPa程 度)
主 と して,製 造 法 に起 因 したCr炭 化 物 大 き さの 相 違 を示 す よ うに な り,本 供 試材 もそ の範 ち ゅ うに入 って
に も とづ くもの と考 え られ る.な お,フ レ ッテ ィ ン グ い る.一 方,高 強 度 に な る と き裂 伝 ぱ特 性 も強 度依 存
2)

疲 労 の 場 合 には き裂発 生 点が 異 な り,表 面 の 接 触 部 端 を示 さな くな る こ とが知 られ て い る .そ こ で 本研 究 で

部 に あ り,そ の領 域 の 詳 細 な破 面 観 察 に よ って もCr は,ほ ぼ 同 一 の フ レ ッテ ィ ング 疲労 強 度 を示 す高 強 度

3)4)

炭 化 物 は 認 め られ ず,フ レ ッテ ィ ン グ疲 労 寿 命 に は 材 のSUP9鋼 の伝 ぱ 曲線 を 用 い 寿 命 計 算 を行 っ た.
Cr炭 化 物 の 影 響 はほ とん どな い もの と推 察 さ れ る. そ の 結 果 か ら,一 定振 幅 荷 重 下 で接 触 材 が 共 材 お よび
4・2 フ レ ッテ ィン グ疲 労 寿 命 の推 定 SUJ2鋼(マ ル エ ー ジ ン グ鋼 で も同 じ)の 場 合 に つ い
フ レ ッテ ィ ン グ疲 労 の 大 きな特 徴 は,フ レ ッテ ィ ン て,Fig. 4中 に一 点 鎖 線 で示 した.図 か ら わ か る よ う
グ疲 労 き裂 の発 生 が きわ め て 早 期 に 生 じ,寿 命 の主 た に,推 定 寿 命 は実 験 結 果 と よ く一 致 して い る.こ の こ

る部 分 は フ レ ッテ ィ ン グ下 で の き裂 伝 ぱ で 占 め られ る と は,高 強 度 材 で は き裂 伝 ぱ 特 性 の 強 度 依 存 性 が ほ と
3)4)6)7)9)
こ と で あ る.そ こ で,次 の よ う な 仮 定 に も とづ き,フ ん ど な くな るた め,伝 ぱ寿 命 が 全 寿 命 の 主 た る部 分 を
3)4)
レ ッテ ィ ング き裂 伝 ぱ寿 命 の 破 壊 力 学 的手 法 に よる推 占 め る フ レ ッテ ィン グ疲 労 強 度 も強 度 依 存 性 を示 さ な
定 を試 み た.(1)接 触 に よ り生 ず る 摩 擦 力 は 接 触 面 に くな る と い う推 察 が 妥 当 で あ る こ と を示 して い る.
12)
一様 で はな く,端 部 に αFalだ け 集 中 し て お り,残 り これ らの寿 命 計 算 の過 程 で 得 られ た摩 擦 力 の 接 触 部
の(1-α)Falが 一 様 に 分 布 して い る.こ こで,Faは 端 部 へ の集 中 割 合 α は,共 材 お よ びSUJ2鋼(あ る

摩 擦 力振 幅,lは 接 触 部 の相 対 すべ り方 向長 さ,α は い は マ ルエ ー ジ ン グ鋼)に つ い て そ れ ぞ れ0.33お よ

摩 擦 力 の 端 部 へ の 集 中 割 合 を示 す 定 数 で あ る.(2)押 び0.20で あ っ た.こ の よ う な 接 触 材 が 軟 ら か い ほ ど

4).
付 け 荷 重 の押 付 け方 向 の静 的 圧 縮 力 は平 均 応 力 効 果 を αが 小 さ くな る傾 向 はSUP9鋼 で も認 め られ て い る

昭 和63年6月 (63)
648 武 藤 睦 治,田 中紘 一,伊 藤晋三

Fig. 7で 摩 擦 係 数 が 接 触 材 に依 存 せ ず ほ ぼ 同 一 の 値 を
示 して い る に もか か わ らず,フ
に は接 触 材 の影 響 が 顕 著 で あ った.こ の 主 た る要 因 は,
前 述 の α の値 を参 照 す る と,接 触 材 が 軟 らか い ほ ど
摩擦 力 の端 部 へ の集 中 の程 度 が 緩 和 され,フ
ング 下 で の き裂 の加 速 の程 度 が 低 下 す るた め と考 え ら
れ る.こ の よ うな摩 擦 力 の端 部 へ の 集 中 割 合 の 相 違 は,
Fig. 9に 示 した 最 大 表 面 粗 さが,接 触 材 がSUJ2鋼
よび マ ル エ ー ジ ング鋼 の場 合 に比 べ,共 材 の 場 合 の 方
が 大 きい とい う結 果 と も対 応 して い る.
一 定 振 幅 荷 重 下 の場 合 と同一 の手 法 に よ り
,プ ロ グ
ラ ム荷 重 下 の フ レ ッテ ィ ング疲 労 き裂 伝 ぱ寿 命 を算 定
した.そ の結 果 か ら,推 定 寿 命 と実 験 結 果 の 関係 を
Fig. 12に 示 す.図 中 に は3・4節
及 ぼす 接 触 材 の影 響 お よ び変 動 荷 重 の影 響 な ど につ い
レ ッテ ィ ング 疲 労 寿命 て検 討 した.得 られ た主 た る結 論 は以 下 の通 りで あ る.
(1) 440C鋼 の 通 常 疲 労 の 疲 労 限 お よ び疲 労 寿 命 は
ク ロ ム炭 化 物 寸 法 の影 響 を顕 著 に う け る ので,そ の疲
レ ッテ ィ 労 特 性 向上 の た め に は,ク ロ ム炭 化 物 寸 法 をで きる だ
け小 さ くす る こ とが 望 ま れ る.
(2) フ レ ッテ ィ ング の作 用 に よ る疲 労 強 度 の低 下 は
お 顕 著 で あ り,通 常 疲 労 の疲 労 限 に対 しフ レ ッテ ィ ング
疲労 の そ れ は,接 触 材 が 共 材 の場 合 に0.35倍,SUJ2
鋼 お よ び マ ル エ ー ジ ン グ 鋼 の 場 合 に0.55倍 程度で
あ った.
(3) 接 触 材 に よる疲 労 限 お よび疲 労 寿 命 の相 違 は,
主 と して,接 触 部端 部 近傍 で の摩 擦 力 の 集 中 の 程 度 の
で 求 め た修 正 マ イ 相 違 に も とづ く もの で,低 硬 度接 触 材 の 方 が 集 中 度 が

ナ ー則 に もとづ く推 定 寿 命 も示 して あ る.図 か らわか 低 く,し た が って,フ レ ッテ ィ ン グ疲 労 き裂 の 加 速 へ

る よ う に,破 壊 力 学 的 手 法 に も とづ く推 定 寿 命 は実 験 の 寄 与 も小 さ く,疲 労 限 お よ び疲 労 寿 命 が 向 上 す る と

結 果 とよ く一 致 して お り,本 実 験 で 用 い た よ うな荷 重 考 え られ る.

変動 下 で も本 手 法 が 有 効 で あ る こ と を示 して い る. (4) 今 回用 い た プ ロ グ ラ ム荷 重 下 の フ レ ッテ ィ ン グ
疲 労 寿 命 は,線 形 損 傷 則 に もとづ き よ く整 理 で き た.
お わ りに,本 実 験 め遂 行 に あ た り,試 験 片 の製 作 等
多 大 の ご協 力 を い た だ い た ミネベ ア(株)平
尾 明洋 部 長 に
謝 意 を表 す.
(昭和62年6月23日 第4回破壊力学シンポジウムにて講演)

参 考 文 献
1) Y. Mutoh and K. Tanaka, •gWear (Special volume to

mark the retirement of R.B. Waterhouse)•h (1988) in

press.
2) 田 中 紘 一,鉄 と 鋼, 67, 245 (1981).

3) K. Tanaka, Y. Mutoh, S. Sakoda and G. Leadbeater,

Fatigue Fract. Engng Mater. Struct., 8, 129 (1985).
Fig. 12. Relationship between predicted lives and 4) 田 中紘 一,武 藤 睦 治,迫 田秀 一,日 本 機 械 学 会論 文 集,
experimental results. 51, 1200 (1985).
5) 武 藤 睦 治,田 中紘 一,迫 田秀 一,中 村 左 久,甘 粕 知 一 郎,
ば ね 論 文 集, 29, 38 (1984).
著 者 ら はS45C鋼 を用 い た二 段 重複 荷 重 下 の フ
6) 西 岡 邦 夫,平 川 賢 爾,日 本 機 械 学 会 論 文 集, 34, 1635
レ ッテ ィン グ疲 労 試 験 を行 い,フ レ ッテ ィ ング の影 響
(1968).
で き裂 伝 ぱ の加 速 が 顕 著 な 領 域 に 頻 度高 く各 レベ ル の 7) 遠 藤 吉 郎,後 藤 穂 積,福 永 年 宏,日 本 機 械 学 会 論 文 集,

応 力 が繰 返 さ れ る場 合 に は線 形 損 傷 則 が 成 立 す る が, 39, 2915 (1973).

8) 西 田 友 久,武 藤 睦 治,日 本 機 械 学 会 講 演 論 文 集, No.
そ の 領域 を特 定 の レベ ル の応 力 の 繰 返 しが 支 配 的 で あ
863-1, 9 (1986).
る と成 立 しな くな る こ と,お よ び,そ の よ う な場 合 で 9) 平 川 賢爾,京 都 大 学 博 士 論 文 (1976).
も破 壊 力 学 的 手 法 に も とづ く寿 命 推 定 は有 効 で あ る こ 10) N.E. Frost, K.J. Marsh and L.P. Pook, •gMetal Fatigue•h
14)
と を 示 し た .Fig. 12中 に 示 し た よ う に,修 正 マ イ (1979) Oxford Univ. Press.

11) H. Tada, P.C. Paris and G.R. Irwin, •gThe Stress

ナ ー則 に もとづ く推 定 寿 命 も実験 結 果 と よ く一 致 して Analysis of Cracks Handbook•h (1973) Del Research

い る こ とか ら,航 空 機 軸 受 の 実 験荷 重 を標 準 化 した本 Corp.

プ ロ グ ラム 荷 重 は,線 形 損 傷 則 が 成 立 す る場 合 の そ れ 12) P.R. Edwards, •gFretting Fatigue•h, edited by R.B.

Waterhouse, p. 67 (1981) Appl. Sci. Publ.

と考 え て よい よ うで あ る. 13) C.F. Shih and J.W. Hutchinson, Trans. ASME, J.

5 結 言 Engng Mater. Technol., 98, 289 (1976).

14) 武藤 睦 治,田 中紘 一,近 藤 雅 美,日 本 機 械 学 会 論 文 集,

高 強 度 ス テ ン レ ス鋼440Cの 通常 な らび にフ レ ッ
52, 1477 (1986).
テ ィ ン グ疲 労 の 基 本 的特 性 を調 べ る と と もに,そ れ に

(64) 「材 料 」 第37巻 第417号