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Japanese Joint
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Japanese Joint
スギ圧縮込み栓の回復特性による金輪継ぎ手接合部の
抗クリープ性能向上*1
鄭 基浩*2,北守顕久*2,小松幸平*2
A very important problem that cannot be overlooked is the occurrence of long term relaxation on the contact
stress and creep of Japanese traditional joints. This research to gain understanding and improving creep of
Kanawa-tsugi(Japanese traditional beam to beam joint), was focused on improving the degree of coupling in the
joint by the recovery property of compressed sugi komisen(wooden square key)by introducing compressed sugi as
the komisen material. It was verified that the joint with compressed komisen inserted showed less relaxation of the
contact stress. It maintained over 59% of initial stress to the last cycle even though being exposed to cyclic humidity
change(shirakashi komisen : 19%). Also, the creep of compressed sugi komisen by influence of cyclic humidity
change was relatively lower than that of shirakashi one. It was concluded that compressed wood gives good
performance as a type of key or wedge fastener and it maintains large cross-direction stresses due to its low stress-
relaxation in company with its recovery property.
伝統木造構法において,継ぎ手,仕口部の長期における緩みとクリープの発生は剛性の低下な
どをもたらす無視できない問題である。本研究では,伝統的な金輪継ぎ手接合部のクリープ性状
を把握し,向上させる事を目的として,込み栓材としてスギ圧縮木材を導入し,その変形回復特
性を利用して接合部の抗クリープ性能を向上させることが可能かどうかの検証を行った。
実験の結果,シラカシ込み栓挿入金輪継ぎ手の接触応力は,挿入直後から大幅に減少し,周期
的湿度変化により19%まで低下しその後も減少傾向にあったが,スギ圧縮込み栓を挿入した接合
部は,湿度変化を受けても59%を維持し,長期に亘り接合部の剛性を維持することが明らかとな
った。一方,継ぎ手接合部のクリープ撓みは,湿度変化第3期目からシラカシ込み栓挿入型にお
いて徐々に増大したのに対し,スギ圧縮込み栓挿入型では,全周期においてクリープの増大が見
られなかった。高密度に圧縮されたスギ圧縮材は横圧縮応力緩和の発生を抑えることができ,そ
の回復特性と合わせて,大きな横圧縮応力を持続的に受ける耐圧特性に優れた接合具であること
が確認された。
よる回復特性は,接合部内の応力緩和の防止機能を
1. 諸 言
持ち,その高い曲げ剛性・強度性能と合わせて,込
130℃以下の比較的低温で高密度(1100 kg/m3 以 み栓などのせん断型の木質接合具として応用可能で
上)に圧縮したスギ圧縮木材の周期的な湿度変化に はないかという提案を筆者らは行ってきた1−3)。さ
らに高い圧縮性能を持つことから,シラカシなど伝
*1 統的に用いられてきた高比重の広葉樹材と比較して
Received December 8, 2006 ; accepted May 14, 2007.
*2
京 都 大 学 生 存 圏 研 究 所 Research Institute for も,楔,車知などの横圧縮抵抗型の接合具としての
Sustainable Humanosphere, Kyoto University, Uji 611− 使用が期待される。
0011 本研究では金輪継ぎ手接合部4)において,周辺湿
2007年11月] 伝統接合部の抗クリープ性能向上 307
度の周期的変化が継ぎ手の嵌合度に及ぼす影響,ま 伝達するので,集中的に高い横圧縮応力を受け,ク
たスギ圧縮込み栓を挿入することにより,その変形 リープ変形の影響がもっとも著しいと思われる。こ
回復性能が接合部のクリープ性状に及ぼす影響につ れに対して,大工棟梁は伝統的に,横圧縮に対する
いて検証を行った。 抵抗力の高い,高比重の広葉樹材を込み栓材料とし
伝統的な継ぎ手接合部で最も強度接合効率が高い て使用してきた。また,部材を長期間に亘り乾燥さ
金輪継ぎ手であるが5, 6),長期に亘って荷重を受け せ,込み栓の増し打ちを行うなどの様々な緩みの防
続けた場合に大きなクリープ変形が継ぎ手部分にお 止対策を行ってきた。今回,新たな接合部の緩みの
いて発生する。金輪継ぎ手は,同じ形の梁を嵌め合 防止方法として,スギ圧縮木材の回復特性の利用を
わせ,Fig. 1 のようにその中央に込み栓を打ち込む 提案するものである。
ことによって,込み栓の側面面圧応力が両部材の軸 本研究では,シラカシ込み栓とスギ圧縮込み栓に
方向に作用し嵌合度を高める接合法である。込み栓 ついて,込み栓を挿入することによる接合部材同士
の打ち込みによって生じた接合部の応力は,部材各 の接触応力を計測し,周期的な湿度変化を受けた場
所の微少な遊びを無くし,高い剛性を与える。しか 合の接触応力の変化を調べた。また,周期的な湿度
し,周辺環境の経年変化によって次第に嵌合度が低 変化を受ける接合部のクリープ特性の評価を行っ
下する。特に,接合部の中央に位置する込み栓は, た。さらに,込み栓材及び接合部材の応力緩和試験
継ぎ手に負荷された引張力を局所的面圧応力として を行い,通常木材と圧縮木材の緩和特性の違いと,
それが接合部に与える影響について考察を行った。
2. 材料及び方法
2.1 供試材料
本研究で用いた試験体は,徳島県産80年生の120
×120 mm のスギ正角材で,Fig. 2 のように金輪継ぎ
手接合部の加工を行った。同寸法の2部材が接合部
1組になる。継ぎ手の長さは通常材せいの3∼4倍
になることから,480 mm とした。試験体の全長は
1050 mm であり,実際の建物の梁における接合部よ
り非常に短いことから,切断面から繊維方向への水
分移動の影響を防ぐために,木口面に油性ペイント
で防湿処理を施した。継ぎ手に挿入する込み栓の寸
Fig. 1. Mechanism and relationship between contact stress
and Komisen insertion for Kanawa-tsugi(Japanese 法は15×15×165 mm とし,片方の先端部には挿入
traditional beam to beam joint). するための先細り加工を施した。継ぎ手部材同士の
Quercus myrsinaefolia
15×15×165 860 28 1201
Blume
Cryptomeria japonica
15×15×165 1,100 43 1057
D. Don
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て込み栓近縁の部材に鉛直定荷重を与えると共に, 接触応力計測用小型ロードセル及びクリープ測定用
中央の込み栓部分において東京測器製 CDP−50を用 の変位ゲージの装着及び測定と同時に,相対湿度70
いて曲げ撓み量を連続計測した。金輪継ぎ手のクリ % RH 条件で保持し,接触応力及びクリープ値が完
ープは,応力が最大となる込み栓挿入部において最 全に安定になるまで継続した。その後,相対湿度を
も顕著であることが想定される。クリープ試験に関 40% RH(EMC:8%)に切り替え,その条件下で,
して,試験体における引張側のモーメント全てが込 接触応力及びクリープ値が安定するのを確認した。
み栓の圧縮応力を介し伝達され,かつモーメントに ここまでの期間を第1期と定義した。その後,湿度
起因する断面内の応力分布が梁の初等理論通り中央 80% RH(EMC:16%)に切り替え,その条件下で
でゼロとなる三角形分布であると仮定する。今回中 接触応力及びクリープ値が安定するまで相対湿度を
央集中荷重として150 N を負荷し,込み栓最大圧縮 一定に保った。さらに,恒温恒湿槽内の相対湿度を
応力がシラカシ降伏強度の約 1/3 となるように調整 40% RH に切り替え,この条件下で接触応力及びク
した。 リープ値が安定するまで相対湿度を一定に保った。
2.4 温湿度条件 ここまでの期間を第2期と定義し,相対湿度85%
恒温恒湿槽内相対湿度の調整スケジュールを Fig. RH(EMC:18%)条件まで全4周期を行った。
5 に示す。温度22℃の恒温状態で,相対湿度のみ周 2.5 込み栓材及び継ぎ手部材の応力緩和試験
期的に変化させた。湿度条件は基本的に前報1, 2)に 継ぎ手部材及び込み栓材料の応力緩和試験は,
従い,相対湿度40−70,80,及び85% RH の乾湿繰 Fig. 6 に示すように上部中央にロードセル設置した
り返しとした。 上下鋼板の間にボルトを介して挟み込み,拘束治具
試験体の組立及び込み栓挿入過程が終った直後, に試験体を挟み,22℃40% RH の一定条件で応力緩
和試験を行った。供試体は30×30×30 mm のスギ,
カシ,75%圧縮率のスギ圧縮木材とし,それぞれ半
径方向における圧縮応力緩和を行い,継ぎ手部材の
圧縮していないスギについては繊維方向の応力緩和
も合わせて行った。各試験体同質のものを二つずつ
作製し,予備圧縮試験を行い,その降伏応力の50%
応力を初期応力として緩和試験体に負荷し,時間と
緩和後応力を計測した。これらの応力緩和試験用の
試験体は22℃40% RH 環境で1ケ月以上養生し,重
量が恒量に達したことを確認した後に試験を行っ
た。
Fig. 5. Schedule of humidity control in the chamber. 一方,金輪継ぎ手の試験に供したものと同じ材料
310 鄭 基浩,北守顕久,小松幸平 [木材学会誌 Vol. 53, No. 6
は,込み栓挿入後,70% RH での第1期から急激に
低下し,初期応力の50%をすでに失い,初期応力が
第2期で28%から徐々に安定になり,第4期で19%
まで低下した。一方,スギ圧縮込み栓を挿入した試
験体の場合,70% RH での第1期で接触応力は,
103%に増加する。これは,初期スギ圧縮込み栓の
挿入後,湿度70% RH で変形が回復し,接合部の接
触応力を増加させたと考えられる。その後,第2期
で接触応力は元の65%まで急激に低下し,第3期か
ら接触応力が56%で安定になり,第4期に59%で殆
ど平衡に到達した。
以上の結果から,スギ圧縮込み栓を挿入した試験
体はシラカシ込み栓を挿入した試験体より周期的湿
Fig. 6. Exp erimental app aratus fo r me asu ring the 度変化による応力緩和が少なく,初期に込み栓挿入
relaxation of stress.
直後の接触応力のほぼ60%の応力を保つことが判
る。これは,接合部の嵌合度が剛性に大きい影響を
から採取したスギ圧縮木材に,Fig. 6 に示したもの 与える金輪継ぎ手接合法において,スギ圧縮込み栓
と同様の拘束治具に異なる初期支圧応力を負荷し, 材の低い横圧縮応力緩和及び回復特性による接合部
温 度 一 定(22℃), 周 囲 湿 度 を 変 化(40−80% RH) の初期応力緩和防止効果が,既往のシラカシ込み栓
させた条件での応力変化を計測した。試験体に負荷 挿入接合部と比べ,より長期に亘る高剛性を保証す
した初期圧力はそれぞれ,1,2,3 MPa とし,これ るものと考えられる。
は,70%スギ圧縮木材の降伏応力42.9 MPa に対して 3.2 周期的な湿度変化がクリープに及ぼす影響
それぞれ2,5,7%である。 Fig. 8 は1000 mm スパンの中央に一定荷重(150 N)
を掛け,湿度変化を繰り返した場合のクリープ撓み
3. 結果及び考察
の測定結果を示す。この撓み量は,各条件とも試験
3.1 周期的な湿度変化が接触応力に及ぼす影響 体3体の平均値である。周囲湿度が高い条件で試験
Fig. 7 は,シラカシ込み栓及びスギ圧縮込み栓を 体の撓みは増大するが徐々にその変化は小さくなっ
挿入した金輪継ぎ手接合部において,全4周期に亘 た。また低湿度条件に於いて撓みは次第に回復した。
って測定された接触応力の,各周期の最低平衡値と 低湿度条件で平衡状態に達した撓みを,クリープ撓
その平均値結んだ折れ線を示す。接触応力最低平衡 みであると考える。第1期と第2期においては,シ
値は,それぞれの周期における接触応力が最低に到 ラカシ込み栓挿入試験体の撓み量が,やや高いもの
達し,平衡になった5日間の平均値である。 の,スギ圧縮込み栓挿入試験体と概ね同じ傾向で変
シラカシ込み栓を挿入した金輪継ぎ手の接触応力 形が増加し,低湿度条件で最終的に元の撓み量まで
回復した。しかし,第3期と第4期に至ると,シラ
カシ込み栓挿入試験体において,高湿度時の平衡撓 の膨潤及び収縮をうける。一般の木材における応力
み量は周期ごとに大きくなり,さらに低湿度条件で 緩和において,菅野らは9−11),膨張を拘束すること
元の撓み量まで回復しなかった。木材は応力を受け により生じる膨潤応力は,その発生過程から考え,
た状態で含水率が増加すると,曲げ,ねじりなどの 常に応力緩和を受けると報告している。更に,水分
歪が大きくなり,その変形が乾燥過程でドライング 平衡状態の応力緩和より水分非平衡状態での応力緩
セット,これが累積されることでクリープが進行す 和がより激しいことも報告している。しかし,今回
る8)。そして,継ぎ手接合部においても,中央にあ 高圧縮率の圧縮木材の場合,圧縮降伏変形によって
るシラカシ込み栓の圧縮応力を受ける部分が固定荷 細胞内腔が殆ど存在しない状態であるため12−14),周
重を受けて,湿度変化の繰り返しによって圧縮変形 期的な湿度変化による圧縮木材の回復によって寸法
が累加され,圧縮クリープ変形が大きくなったため 減少が一般木材より少なく,最大膨潤応力の低下が
と考えられる。 少なかったと考えられる。
一方でスギ圧縮込み栓型では第3期と第4期に至 3.4 スギ圧縮込み栓の回復による嵌合度向上
っても低湿度時には元の撓みまで回復する傾向を示 金輪継ぎ手では曲げモーメントに対し,引張側に
した。これは,スギ圧縮込み栓の場合はすでに圧密 おいては込み栓を介した圧縮力,圧縮側では両部材
化が進んでいるので更なる収縮は起こらず,加えて, が直接接する箇所における圧縮力によって抵抗す
湿度が増加すると込み栓が膨潤回復するため,湿度 る。両者の力は釣り合うが,今回の試験体の場合,
変化の繰り返しを受けても圧縮側の嵌合度がほぼ一 部材同士が接する箇所の断面積が込み栓部分の断面
定であったためと考えられる。 積の4倍であったため,込み栓に最も応力が集中す
3.3 込み栓材及び継ぎ手部材の応力緩和性状 る。込み栓に負荷された最大圧縮応力は,込み栓挿
Fig. 9 に各材料の温湿度一定条件下での応力緩和 入による初期嵌合応力とモーメントによる応力を合
の傾向を示す。スギ横圧縮とカシ横圧縮はほぼ同じ わせると,シラカシの場合横圧縮降伏応力の約33%,
傾向で減少し,600時間経過後にほぼ初期応力の40 圧縮スギの場合で約17%に当たる。部材同士が接す
%にまで低下した。一方でスギの縦圧縮の場合には る箇所では,荷重は継ぎ手部材の繊維方向に対し平
緩和割合は大幅に小さく,600時間経過後で初期応 行であり応力レベルは降伏値から比べれば遙かに低
力の80%程度に減少した。同様に75%圧縮スギの応 いが,込み栓部では込み栓の繊維方向が荷重に対し
力緩和曲線は開始直後に初期応力の80%程度にまで 直交であるため,クリープは集中的に込み栓のみで
低下するものの,その後の低下が見られず,600時 発生すると考えられる。
間経過後にも初期応力の80%を維持した。 Fig. 9 で示したように,温湿度一定条件下での応
Fig. 10に圧縮込み栓に初期支圧力 1,2,3 MPa を 力緩和性状で注目すべきは,たとえ樹種が比重の大
負荷し,周辺湿度を周期的に変化させた場合の応力 きいカシであったとしても,放射方向に対する応力
と時間の関係を示す。この場合,込み栓は繰り返し 緩和速度は低比重のスギと変わらない点である。大
工棟梁は伝統的にシラカシの様な高比重の広葉樹材
を込み栓材として利用しているが,これはシラカシ