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魔法使いの弟子 こら聞こえぬか、

箒のばけもの。
ありし姿の棒となれ、
老先生のお出掛けじゃ、 棒となって立ち止まれ。
鬼の留守の羽翼(はね)伸ばし、  
いかな 霊ども、  どうでも
今日はおれの厳命にそむくまいぞや、  やめぬか。
呪文も印も一切合財  つかむぞ、
老師のすること残らず見てある、  しめるぞ。
細工はりゅうりゅう、  古びたその柄に
師匠にまさる念力で  まさかり見舞うぞ。
いよいよこれから秘宝のはじまり。  
  ほら またしてもあくせく運ぶ、
 ひたひた さらさら 体(たい)でとめるぞ 飛びつくぞ、
 流れよ 流れよ 他愛もない奴、ばったり倒れた こ
 そこまで ここまで のとおり、
 流れよ あふれよ 水の霊 一刀両断、これ食らえ。
 たっぷりみなぎれ でかした 割れた、真二つ。
 ゆあみ 水あび できるまで これで安心。
  一息できる。
おつぎはおまえだ 古箒!  
そこらのありぎれ引っかぶれ。  悲しや 悲しや、
下男仕事がおまえのがらだ。  割れた二つが
しっかり果たせ わたしのいいつけ。  すぐさま立って
ほら立て しゃんと、足を突っぱり  今度は二人で
頭を起し。  水運ぶ。
いそいで汲め汲め  お助けください ああ神さま
水甕(みずがめ)持って。  
   下男二人がやすまずうごく、
 ひたひた さらさら だんだん増す水
 流れよ 流れよ 階段ひたす。
 そこまで ここまで おそろしや 大洪水、
 流れよ あふれよ 水の霊 お師匠さま、お師匠さまはござらぬか。
 たっぷりみなぎれ あ、お師匠さまが見えられた。
 ゆあみ 水あび できるまで 先生、大変が起こりました。
  私が呼び出した霊どもが
ほらほら 岸を目がけて幕の下男、 いいつけ聞かず
早くも着いた 水際に。 始末に困じておりまする。
雷光石火、  
水汲み運ぶ、  「隅に寄れ、
たちまち返して二度目 三度目。  片よれ 片よれ
盤は溢れる、  古箒 古箒、
うつわも鉢も  なんじ本来箒の性(しょう)、
なみなみみなぎる。  汝に霊力授けて
   使役にしうるは
 とまれ とまれ。  ただ練達の師あるのみじゃ」
 汝のはたらき    
 しっかりと  
 見えたぞ。 ゲーテ:「魔法使いの弟子」
 あっ、これは大変。 訳:手塚富雄
 ここのところの呪文を忘れた。 出典:世界の詩集 Ⅰ ゲーテ詩集
  / 角川書店
ああああ 箒を箒にかえす
呪文を忘れた。
ああ あの目まぐるしい走りよう、
もとの箒にもどらぬか、
汲んで運び 運んであける。
ああ 八方からの
水攻めだ。
 
 もうこの上は
 捨ておけぬ。
 ひっとらまえよう。
 あまりの沙汰だ。
 ああ 心配がひどくなる。
 あの形相は! あの目つきは!
 
こやつ、悪魔の出来そこないめ!
この家(うち)もすっかり流す気か。
扉から窓から
大洪水。

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