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日臨外会誌 78( 9 ),2117―2123,2017

  症  例

画像所見の異なる肝血管筋脂肪腫の 3 例

北九州市立医療センター外科
岡 山 卓 史  阿 部 祐 治  渡 邉 雄 介
西 原 一 善  岩 下 俊 光  中 野   徹

 血管筋脂肪腫(angiomyolipoma;AML)は血管・平滑筋・脂肪の 3 成分から成る間
質系良性腫瘍であり,構成成分の比率により異なる画像所見を示す.腎臓に好発し肝原
発は比較的まれとされる.今回それぞれ画像所見が異なる30,40歳台女性の肝血管筋脂
肪腫 3 症例を経験した.基本的には良性腫瘍であるが,時に肝細胞癌との鑑別が困難な
症例や悪性化例も認めるため,肝血管筋脂肪腫の診断や手術適応の決定には慎重な検討
が必要である.

索引用語:肝血管筋脂肪腫,ペコーマ,多血性腫瘍

はじめに 時に腹部 CT 上 7 cm と増大していた.破裂や悪性の


 血管筋脂肪腫(angiomyolipoma;以下,AML と略 可能性も否定できず,手術の方針となった.
記)は血管・平滑筋・脂肪の 3 成分から成る間質系良  現症:身長156.5cm,体重50.7kg,BMI 20.7.頭部
性腫瘍で,腎臓に好発するが,肝臓原発の AML は比 から体幹にかけて結節が散在.右眼瞼に多数の小結節.
較的まれである.AML は,腫瘍に含まれる脂肪成分 肝腫瘤は触知しなかった.
が一定ではないため,その比率によって多彩な画像所  血液検査所見:腫瘍マーカー,肝機能,感染症等異
見を呈する.特に被膜を有する場合や脂肪成分の少な 常所見なかった(Table 1).
い 際 は 肝 細 胞 癌(hepatocellular carcinoma; 以 下,  腹部超音波検査所見:肝外側から穹窿部後壁にかけ
HCC と略記)との鑑別を要することがある.今回画 て7.3×5.1cm の腫瘤を認めた.大部分は等エコーで内
像所見の異なる 3 症例を経験したので,文献的考察を 部に数カ所高エコー領域を認めた.造影エコーでは著
含めて報告する. 明な早期濃染を示した.Kuppfer image では欠損なか
症  例 った.背景肝と等エコーであった(Fig. 1a).
 症例 1 :35歳,女性.  腹部造影 CT 所見:肝外側より胃穹窿部後壁に接す
 主訴:特になし. る 7 ×5.5cm の腫瘤を認めた.ほぼ全体が急激に強く
 既往歴:17歳 結節性硬化症.27歳 両側卵巣嚢腫, 増強され,上部には低吸収部分も見られた.内部は不
両側腎 AML の手術.34歳 肺リンパ脈管筋腫症. 均一に増強され辺縁は比較的明瞭であった.栄養血管
 家族歴:父 結節性硬化症. は肝内より伸びているが胃にも分布する分枝を認め
 生活歴:喫煙・飲酒なし. た.左肝静脈に流入血管を認め,肝由来の可能性が高
 現病歴:17歳時に結節性硬化症と診断され,27歳時 かった(Fig. 2a).
に両側卵巣嚢腫,両側腎 AML の手術を受けた.同時  腹部造影 MRI 所見:やや内部不均一な T1 強調等信
期より肝左葉の外側と胃壁の間に 3 cm 大の結節を指 号,T2 強調やや高信号を呈する7.2×6.7cm の腫瘤を
摘され,gastrointestinal stromal tumor(GIST)とし 認めた.左肝動脈から栄養されており早期相から良好
て経過観察されていた.腫瘤は32歳時に 4 cm,35歳 に造影され,軽度 wash out されていたため,肝由来
が考えられた.明らかな脂肪成分はなかった.平滑筋
 2017年 5 月22日受付 2017年 6 月22日採用 成分主体の AML の可能性が高かったが,増大傾向か
 〈所属施設住所〉 ら悪性の可能性も否定できなかった(Fig. 3a).
  〒802-0077 北九州市小倉北区馬借 2 - 1 - 1  手術所見:肝臓は正常肝であった. 7 cm 程度の腫

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― 2118 ― 日本臨床外科学会雑誌 78 巻

Table 1: 3 症例の採血所見

症例 1 症例 2 症例 3 症例 1 症例 2 症例 3
血算 凝固
WBC 5,110 5,140 8,500 /μl PT 12.7 13.3 11.5 s
RBC 394×104 464×104 421×104 /μl PT-% 99 88 104.1 %
Hb 9.9 14.2 12.8 g/dl PT(INR) 1.01 1.01 0.98 %
Plt 262×103 191×103 247×103 /μl APTT 25.1 28.9 44.8 s

生化 腫瘍マーカー
T-Bil 0.4 1.4 0.6 mg/dl CEA 1.6 0.9 6.1 ng/ml
AST 17 17 14 U/l CA19-9 29.8 6.6 12.5 U/ml
ALT 8 11 14 U/l AFP 3.4 3.2 1.6 ng/ml
LDH 167 146 140 PIVKA-II 21 27 9 mAU/ml
ALP 179 178 139 U/l
γ-GTP 21 13 58 U/l 感染症
CHE 240 221 U/l HBs 抗原 - - -
TP 7.1 7.4 6.8 mg/dl HBs 抗原 0 0 0 IU/ml
Alb 4.2 4.8 4.2 mg/dl HCV 抗体 - - -
BUN 10.9 10.1 13.4 mg/dl HCV 抗体 0.1 0 0 S/C
Cr 0.8 0.5 0.45 mg/dl
Na 140 138 137 mEq/l
K 4.2 3.5 4.1 mEq/l
CRP 0.3 0 0.377 mg/dl

Fig. 1:腹部超音波検査
 a:症例 1 .肝外側に7.3×5.1cm の大部分は等エコーで内部に数カ所強い高エコー領域を認める腫瘤.
 b:症例 2 .左上腹部に 6 × 4 cm の均一な高エコー腫瘤を認めた.
 c:症例 3 .肝 S1 に7.1×5.4×5.9cm の等エコー腫瘤を認め,中肝静脈,下大静脈を円弧状に圧排していた.

瘍が肝外側区域(S3)から吊り下がるように存在し め,比較的血管成分に富んだ組織標本であった.散在
ていた.周囲への浸潤はなかった.肝部分切除術を施 する大きく拡張した血管が見られた(Fig. 4a).免疫
行した. 染色:HMB-45
(+)

 病理組織学的検査所見:血管・脂肪・筋肉成分を認  症例 2 :44歳,女性.

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9 号 肝血管筋脂肪腫の 3 例 ― 2119 ―

Fig. 2:腹部造影 CT
 a:症例 1 .肝外側より胃穹窿部後壁に接する 7 ×5.5cm の腫瘤.ほぼ全体が急激に強く増強され,上部には低吸収部
分も見られた.内部は不均一に増強され辺縁は比較的明瞭であった.左肝静脈に流入血管を認め肝由来の可能性が高か
った.
 b:症例 2 .左横隔膜下に 5 cm の脂肪成分に富む腫瘤を認めた.左肝静脈への還流血管を認め,肝臓由来と考えた.
 c:症例 3 .肝尾状葉に5.7cm の境界明瞭な多血性腫瘤を認めた.Dynamic study にて被膜ははっきりとせず,腫瘤辺
縁から下大静脈への還流が疑われた.下大静脈は腫瘤により圧排・偏位していた.

 主訴:特になし. 接しており,起源ははっきりしなかった.ほとんどが
 既往歴:特記事項なし. 脂肪成分だが,内部に増強される血管あるいは隔壁様
 家族歴:祖父 膵臓癌. 構造が見られ,脂肪腫様脂肪肉腫も疑われた(Fig.
 現病歴:検診の CT やエコーで左上腹部腫瘤を指摘 3b).
され,精査加療目的で当科紹介受診となった.なお,  手術所見:肝臓は正常肝.外側区域の左外側に約 5
PET では軽度の FDG 集積(SUVmax=1.82)を示して cm の黄色・弾性軟な腫瘤を触知し,胃・横隔膜への
いた. 浸潤はなかった.肝外側区域切除を施行した.
 現症:身長155cm,体重46.3kg,BMI 19.3.腹部腫  病理組織学的検査所見:血管・脂肪・筋肉成分を認
瘤は触知しなかった. めた.ほとんどが脂肪成分に囲まれた,紡錘型腫瘍細
 血液検査所見:腫瘍マーカー,肝機能,感染症等異 胞であった.比較的脂肪成分の多い組織像であった
常所見なかった(Table 1). (Fig. 4b)
.免疫染色染色:S-100
(+)
,HMB-45
(+)
 腹部超音波検査所見:左上腹部肝左葉背側・脾内側・ (Fig. 4b1),Desmin
(-),SMA
(+).
横隔膜足側に 6 × 4 cm の均一な高エコー腫瘤を認め  症例 3 :39歳,女性.
た.エコー上は脂肪腫で矛盾しなかった(Fig. 1b).  主訴:心窩部痛.
 腹部造影 CT 所見:左横隔膜下に 5 cm の腫瘤を認  既往歴:19歳 大腸癌疑いで手術が行われたが,癌
めた.栄養血管ははっきりとしなかったが,左肝静脈 で は な か っ た( 詳 細 不 明 ).30歳  帝 王 切 開.35歳 
への還流血管を認め,肝臓由来と考えられた.脂肪成 Basedow 病.
分の多い AML が考えられた(Fig. 2b).  生活歴:喫煙 10-15本/日,飲酒 機会飲酒.
 腹部造影 MRI 所見:左横隔膜下に T1 強調で高信  家族歴:特記事項なし.
号,脂肪抑制 T1 強調で低信号を呈する 5 ×3.3cm の  現病歴:2016年 7 月,急に心窩部痛が出現して近医
境界明瞭な腫瘤を認めた.横隔膜,肝外側区域,胃と を受診.腹部エコーで肝腫瘤を指摘され,精査加療目

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― 2120 ― 日本臨床外科学会雑誌 78 巻

Fig. 3:腹部造影 MRI


 a1~3:症例 1 .造影後第一層で多血性の腫瘍.T1 強調で早期濃染し,肝静脈への早期還流(画像非提示)を認めた.
T1 強調化学シフト画像で微量の脂肪を検出した(a1;造影第一相,a2;In-phase,a3;Out-of-phase).
 b1~3:症例 2 .造影第一層で濃染.肝静脈への早期還流していた(画像非提示).T1 強調で高信号.脂肪抑制 T1 強調
で低信号の腫瘤性病変であった(b1;造影第 1 相,b2;脂肪抑制 T1,b3;T1 強調).
 c1~3:症例 3 .肝尾状葉に T1 強調で低信号,T2 強調で高信号を呈する被膜を有さない境界明瞭な多血性腫瘤であっ
た(c1;造影第 1 相,c2;In-phase,c3;Out-of-phase).

Fig. 4:病理組織学的検査
 a;症例 1 .血管・脂肪・筋肉成分を認めた.散在する大きく拡張した血管が見られ,比較的血管成分に富んでいた.
 b;症例 2 .血管・脂肪・筋肉成分を認めた.ほとんどが脂肪成分に囲まれた,紡錘型腫瘍細胞であった.b1;HMB-
45染色.
 c;症例 3 .血管・脂肪・筋肉成分を認めるが,脂肪成分が乏しく,上皮様の形態をとる平滑筋細胞有意な組織像であ
った.c1;HMB-45染色.

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9 号 肝血管筋脂肪腫の 3 例 ― 2121 ―

的で当科紹介となった. ため4),その比率によって多彩な画像所見を呈し,時
 現症:身長156cm,体重48.1kg,BMI:19.8.上下腹 に肝細胞癌との鑑別が困難とされる.報告された当初
部手術瘢痕,臍左下に圧痛あり.肝脾や腫瘤は触知し は「過誤腫」,すなわち正常な成熟細胞が過剰に増殖
なかった. した「組織奇形」の一種と考えられていた5)が,近年
 血液検査所見:腫瘍マーカー,肝機能,感染症等異 では血管周囲に存在する多分化能のある perivascular
常所見なかった(Table 1). epithelioid cell(PEC)がクローン性増生を示す
「腫瘍」
 腹部超音波検査所見: 肝 S1 に7.1×5.4×5.9cm の 等 と考えられている6).PEC 由来の腫瘍は,由来する細
エコー腫瘤を認めた.中肝静脈,下大静脈を円弧状に 胞名に因んで PEComa と呼ばれ,AML のほか,肺の
圧排していた.門脈横行部を腹側に圧排していたが, clear cell sugar tumor,lymphangiomyomatosis があ
浸潤傾向はなかった.エコーレベルからは focal nodu- る.
lar hyperplasia(以下,FNH と略記)が考えられた(Fig.  AML は血管・脂肪・平滑筋細胞の 3 細胞成分のう
1c). ち一つが80%以上占める場合をそれぞれ血管腫型・脂
 腹部造影 CT 所見:肝臓の形態は正常範囲.肝尾状 肪腫型・筋腫型と分類している.一つの細胞成分が80
葉に5.7cm の被膜ははっきりとしない境界明瞭な腫瘤 %に満たず他の細胞成分が混在している場合,混合
(通
性病変を認めた.単発の多血性腫瘤で,HCC の他に 常)型と分類している.肝 AML において悪性と診断
FNH や AML,adenoma が鑑別に上がった.腫瘤辺縁 する所見は腫瘍の大きさ,mitotic activity,脈管侵襲,
から下大静脈への還流が疑われ,FNH や AML がより 周囲への浸潤,腫瘍塞栓,腫瘍壊死,細胞異型,遠隔
疑われた.下大静脈は腫瘤により圧排・偏位していた 転移などが挙げられている.どの所見をもって悪性肝
(Fig. 2c). AML と診断するかについては議論が多く一定のコン
 腹部造影 MRI 所見:肝尾状葉に周囲肝実質と比較 センサスは得られていない.
して T1 強調で低信号,T2 強調で高信号を呈した5.8×  肝 AML は本邦でも約300例報告されている.本邦
4.1cm の被膜を有さない境界明瞭な単発の多血性腫瘤 での報告例(医学中央雑誌1993~2011年 3 月)は203
を認めた.Dynamic study では high-low pattern を示 例(男性 _ 女性:58_145例)で40~60歳台に好発し,
し,肝細胞相は EOB の取り込みが欠損していた.被 女性に多いとされている7)8).出現形態としては単発
膜を有さない点や CT で静脈還流様所見が疑われた点 93.3%,多発例6.7%である.本邦で報告されている肝
から AML>adenoma>HCC と考えられた(Fig. 3c). AML は筋腫型の割合が多く,筋腫型には様々な増生
 手術所見:肝臓は正常肝であった.左尾状葉に弾性 パターンが観察される2)9).また大部分は正常肝を背
軟の腫瘤を触れた.下大静脈と癒着していたが,剥離 景としている10).今回の症例は,35・44・39歳と比較
可能であった.肝左葉+左尾状葉切除術を施行した. 的若い女性であった.腫瘍は正常肝に単発で発症して
 病理組織学的検査所見:血管・脂肪・筋肉成分を認 おり,部位は左葉に 2 例存在していた.また,症例 1
めるが,脂肪成分が乏しく,上皮様の形態をとる平滑 は血管成分,症例 2 は脂肪成分,症例 3 は筋肉成分有
筋細胞有意な組織像であった(Fig. 4c).免疫染色: 意とそれぞれ異なる特徴的所見を示した(Table 2).
AE1/AE3(-)
,hepatocyte(-),HMB-45(+)
(Fig.  典型的な肝 AML は豊富な腫瘍血管を有する多血性
4c1),SMA(+). 腫瘍で,周囲肝を圧排することなく置換性に増生し,
考  察 被膜を有さないことが特徴である11).通常の病理組織
 血管筋脂肪腫(angiomyolipoma;AML)は血管・ 診断では診断に至らない場合も多く,メラノーマ特異
平滑筋・脂肪の 3 成分から成る間質系良性腫瘍で,腎 抗 体 で あ る HMB(human melanomablack)-45や
臓に好発する.腎 AML の約半数は結節性硬化症(tu- Melan A などの免疫染色の陽性を得ることが診断に
berous sclerosis;TS)に伴い発症する.肝 AML で 有 用 で あ る10).HMB-45は 肝 原 発 性 腫 瘍 の 中 で は
は 6 ~10%に TS を伴って発症する 1)
といわれてい
2)
AML に極めて特異性が高く,確定診断に有用であ
る.当院での 3 症例中 1 例は TS を合併しており,両 る10).
側の腎 AML の既往を認めた.  画像診断としては,流出血管である肝静脈への早期
 肝臓原発の AML は Ishak3)によって初めて報告さ 還流所見が注目され,肝 AML の特徴的所見の一つと
れ,腫瘍に含まれる脂肪成分が 5 ~90%と一定でない して報告されている12).被膜様構造を伴った場合は

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― 2122 ― 日本臨床外科学会雑誌 78 巻

Table 2: 3 症例の比較(腹部エコー,腹部造影 CT,腹部造影 MRI,病理組織学的検査)

症例 1 症例 2 症例 3
腹部超音波 大部分は等エコーで内部に数カ 高エコー腫瘤. 等エコー腫瘤.
所高エコー領域を含む腫瘤.

腹部造影 CT 全体が不均一に増強され,一部 脂肪成分に富む腫瘤. 多血性腫瘤.


低吸収部分も見られる腫瘤.

腹部造影 MRI T1強調等信号,T2強調やや高 T1強調で高信号.脂肪 T1強調で低信号,T2


信号. 抑制 T1強調で低信号. 強調で高信号.
病理所見 比較的血管成分に富む. 大部分が脂肪成分. 平滑筋細胞に富む.

HCC との鑑別が非常に困難になる.腫瘍の脂肪成分 る,③通院コンプライアンスが良好でフォローができ


が乏しく,被膜様構造も伴っていたことで HCC の可 る,④肝炎ウイルス陰性,を全て満たす場合は厳重経
能性が否定できず手術に至った報告も認める .典型 13)
過観察可能とされる21).
的画像所見として,超音波検査では高エコー,CT 検  今回報告した 3 症例は積極的に悪性腫瘍を疑い,手
査の単純で低吸収,造影では早期濃染,MRI の T1 強 術を行った症例はなかった.そのため,手術リスクや
調画像は低~高信号,T2 強調画像は高信号,血管造 悪性の可能性等を含め患者や家族にしっかりとした説
影では早期に腫瘍濃染,血管増生,コイル状の屈曲, 明が大切と考えられた.
蛇行が特徴的とされている7)14).しかし,脂肪成分の 結  語
割合が 5 ~90%と様々 ,その割合により画像所見も
4)
 肝 AML は基本的に良性腫瘍であるが,構成成分に
変化するため,脂肪成分が少ない場合は HCC と鑑別 より画像所見が異なる.そのため,診断や手術適応を
が困難になる.本症例は 3 例とも被膜を有しておらず, 含め,慎重な検討が必要である.また,悪性化等の評
HCC を強く疑って手術を施行した症例はなかった 価を含め更なる症例の蓄積が必要と考えられる.
(Table 2).しかし,症例 1 は増大速度が速く悪性の 謝  辞
可能性も否定できず,症例 2 は脂肪肉腫の可能性があ  原稿を終えるにあたり,病理組織学的検討等におい
り,症例 3 は HCC を完全には否定できなかった. てご指導を賜りました,病理診断科の田宮貞史先生お
 肝多血性腫瘍の鑑別として,良性の肝細胞腺腫,限 よび豊島里志院長,放射線診断科の高山幸久先生およ
局性結節性過形成,血管腫,肝 AML や,HCC,胆管 び小野稔副院長に厚く御礼申し上げます.
細胞癌,転移性腫瘍などがあげられる.
 一般的には腫瘍破裂や,出血のリスクは低いが, 5 利益相反:なし
cm 以上の病変では腫瘍破裂よる腹腔内出血をきたし 文  献
た症例も報告されている15).また,悪性肝 AML につ  1) Stillwell TJ, Gomez MR, Kelalis PP : Renal le-
いて こ れ ま で 数 例 の報告があり,腫瘍の大きさが sions in tuberous sclerosis. J Urol 1987 ; 138 :
10cm 以上 ,診断がついても増大傾向を示す場合は
16) 477-481

悪性化のリスクが高いとされており,腫瘍の面積増大  2) Tsui WM, Colombari R, Portmann BC, et al : He-


patic angiomyolipoma : a clinicopathologic study
率が 1 年から 3 年で1.5倍程度になったところが手術
of 30 cases and delineation of unusual morpho-
適応という報告もある17).病理学的には p53の変異に
logic variants. Am J Surg Pathol 1999 ; 23 : 34
よ り 悪 性 化 す る と の 報 告18)な ど が あ る. ま た, 肝
-48
AML は単発例が多く,多発例は6.7%と報告されてい
 3) Ishak KG : Mecenchymal tumors of the liver.
る7).肝内以外には肺,膵臓,僧帽筋,腹膜,後腹膜 In : Okuda K, Peters RL, editors, Hepatocellular
などへの遠隔転移があり,転移症例の予後は非常に悪 Carcinoma, Wiley Medical, New York, 1976, p247
いと報告されている16)18)~20). -307
 最近推奨された新たなマネージメントの方針では,  4) Goodman ZD, Ishak KG : Angiomyolipomas of
①腫瘍径が 5 cm 以下,②生検で確定診断がついてい the liver. Am J Surg Pathol 1984 ; 18 : 745-750

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9 号 肝血管筋脂肪腫の 3 例 ― 2123 ―

 5) Flemming P, Lehmann U, Becker T, et al : Com- 13) 西澤明弘,堀口慎一郎,林 星舟他:診断に苦慮


mon and epithelioid variants of hepatic angio- した肝血管筋脂肪腫の 1 例.
Liver Cancer 2006;
myolipoma exhibit clonalgrowth and share adis- 12:114-119
tinctive immunophenotype. Hepatology 2000 ; 14) 金  恩,市川智章,堀 正明:肝血管筋脂肪腫
32 : 213-217 の 2 例.臨放 2001;46:947-951
 6) Pea M, Martignoni G, Zamboni G, et al : Perivas- 15) 粟根雅章,内藤雅人,松末 智他:腫瘍破裂によ
cular epithelioidcell. Am J Surg Pathol 1996 ; る腹腔内出血で発症した肝血管筋脂肪腫の 1 例.
20 : 1149-1153 日消外会誌 2010;43:724-729
 7) 白戸美穂,西野隆義,中尾絵美子他:画像検査で 16) Nguyen TT, Gorman B, Shields D : Malignant
は診断がつかず,超音波ガイド下腫瘍生検により hepatic angiomyolipoma : report of a case and
診断し得た肝血管筋脂肪腫の 1 例.肝臓 2010; review of literature. Am J Surg Pathol 2008 ;
11:637-644 32 : 793-798
 8) 伊藤卓資,荻野和功,廣吉基己他:慢性 C 型肝炎 17) 尾上俊介,片山 信,小倉 豊:経過観察中に増
症例にみられた肝血管筋脂肪腫の 1 例.日臨外会 大 し た 肝 血 管 筋 脂 肪 腫 の 1 例. 日 臨 外 会 誌 
誌 2007;68:1513-1517 2007;68:2051-2055
 9) 野々村昭:肝臓の奇異なる腫瘍 “ 血管筋脂肪腫 ”: 18) Deng YF, Lin Q, Zhang SH : Malignant angio-
病理組織学的分類と増生パターンについて.J myolipoma in the liver : a case report with path-
Nara Med Ass 2004;55: 1 -16 ological and molecular analysis. Pathol Res
10) 野々村昭孝,榎本泰典,武田麻衣子他:肝臓原発 Pract 2008 ; 204 : 911-918
の 血 管 筋 脂 肪 腫・PEComa の 病 理. 診 断 病 理  19) Dalle I, Sciot R, de Vos R, et al : Malignant angi-
2008;25:155-170 omyolipoma of the liver : a hitherto unreported
11) Nonomura A, Mizukami Y, Kadoya M : Angio- variant. Histopathology 2000 ; 36 : 443-450
myolipoma of the liver : a collective review. J 20) Parfitt JR, Bella AJ, Izawa JI : Malignant neo-
Gastroenterol 1994 ; 29 : 95-105 plasm of perivascular epithelioid cells of the liv-
12) Jeon TY, Kim SH, Lim HK, et al : Assessment of er. Arch Pathol Lab Med 2006 ; 130 : 1219-
triple-phase CT findings for the differentiation 1222
of fat-deficient hepatic angiomyolipoma from 21) Yang CY, Ho MC, Jeng YM, et al : Management
hepatocellular carcinoma in non-cirrhotic liver. of hepatic angiomyolipoma. J Gastrointest Surg
Eur J Radiol 2010 ; 73 : 601-606 2007 ; 11 : 452-457
 
THREE CASES OF ANGIOMYOLIPOMA WITH DIFFERENT IMAGING FINDINGS
 
Takafumi OKAYAMA, Yuji ABE, Yusuke WATANABE,
Kazuyoshi NISHIHARA, Toshimitus IWASHITA and Toru NAKANO
Department of Surgery, Kitakyushu Municipal Medical Center
 
  Angiomyolipoma (AML) is a stromal benign tumor, usually seen in the kidneys and comparatively
rarely in the liver, which comprises of three tissue components : blood vessels, smooth muscles, and adi-
pose cells. Recently we have experienced three female patients in their thirties or forties with AML show-
ing different imaging findings. Since in AML the tumor contains non-constant adipose cells, depending on
the adipose-cell proportion, AML produces a wide variety of imaging findings. It is occasionally difficult
to differentiate AML from hepatocellular cancer. The findings that can lead to a diagnosis of hepatic AML
as a malignant neoplasm include the tumor’s size, mitotic activity, vessel invasions, and infiltration into the
surrounding tissue. However, these points have not reached a certain level of consensus. Findings sug-
gestive of AML need to be carefully examined, including whether the patient could be a candidate for sur-
gery or not.
Key words:angiomyolipoma,PEComa,hypervascularized tumor
 

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