Download as pdf or txt
Download as pdf or txt
You are on page 1of 50

難病と闘い続ける少女

亜也の日記
木藤亜也

工フ工-出版

1
5 1
4 1
1
)
y


受兆 忍 わメ わ レ
J
たリ の
診 し ひ し l た 波
よ のが し r一
一、
19 14
る 家死
族ん
の !
l
l
i難

病 だ 家 也と
魔 13 族 闘
のL 、
II

14 11 日け

記少


に一J
悔悟幻
発熱月
個性叫
進路巧
巣立ち め
公立 入 試 幻
出発必
母のひとこと
29
入院 0
3
日歳苦悩の始まり

33
入院生活お
研究幻
二学期 。
魔の十三 日 付
将来について灯
QU
悩達
苦友

A吟



d
わたしの診断日
空白の 二時 間 同
大きくなんかなりたくない

57
決断臼
革命日
気持ちの整理日
お別れ伽
反省句
直訴匂
買い物部
車椅子町
障害者 の 仲 間 卯
転 校l寄 宿 舎 生 活 引
葛藤児
障害者 を 埋 解 す る っ て い う こと

96
げ歳ーも﹃つ 、歌えない
106
7

夏休み│帰省
0
1

転ぶ川
自問自答川
秋の行事川
年の瀬 m
目立つ、 言 語 障 害

122
欲求不満叫
わたしの食事哨
三 月町
高 校 三年 生 取
修学旅行川
将来哨
四歳│本当のことを知 って

140
142141

最後の夏休み
2回 目 の 入 院
訓練桝
卒業哨
在宅ゆ
52

3度 目 の 入 院
鏡町 1
盗難引
宣告明
独ヨ

62




1
176172 165 164163


晩秋
残酷
同級会
交通事故

179
182

お母さん、もう歩けない
限界湖
お 歳 l病気に負けたくない

89
1
189

トイレで転ぶ
病院探し叩

193
入院、家政婦さんに付いてもらう
今を懸命に生きるぬ
ア・リ ・ガ・ト m
引歳│ 生命ある限り

204
先生 、 わたし結婚で きる? 藤田学閥呆健衛生大学

207
神経内科助教 授
山本績子
あとがき 母 ・木



I
¥Eリットルの涙 ノ
難病と闘い続ける少女
亜也の日記

小 4)
元気なころの亜也 (
題 字 ・装 画
須永博士
扉・本文挿絵
日歳lわたしの家族
メリーが死んだ
きょう
今日はわたしの誕生日。ずいぶん大きくなった。

4歳一わたしの家族
父と母に感謝しなくてはいけないと思う。
もっともっと、いい成績をとって、丈夫になって、悲しい思いをさせないようにするんだ。
そのためにも、この青春の始まりを、悔いのないように大切にしたい。
あさってからキャンプに行く。がんばって勉強をやっちやわにや安心して行けないもん。

1
フレ l、 フレ l、E也ちゃん。
あや

11
メ リ ー が 、 隣 の 猛 犬 タ イ ガ l に首をくい破られて死んだ。

12
体の小さなメリーが、大きいタイガ lに親しみの情をこめて、短いシッポをピンピンふって
近づいて行った。
ひっし
﹁メリ l、だめっ 1 こ っ ち へ お い で ﹂ と 必 死 に 叫 ん だ の に :::
︿や
何 も 言 え ず に 死 ん じ ゃ っ た メ リ 1、 悔 し か っ た だ ろ う 。 犬 に 生 ま れ て こ な き ゃ あ こ ん な に 早
ノ¥宇氾工工ミっこ
7 ナr,刀,T A
/¥司列・ FJ久ノこ。
Fよ J
メリ l、 ど こ か で 幸 せ に な っ て !
新居完成。 二階 の 東 側 の 広 い 部 屋 が 、 わ た し と 妹 の 城 。 天 井 は 白 。壁 は 茶 色 の 化 粧 板。窓か
しんきょが わ てんじようけしようばん
ら 見 る 外 の 景 色 が 、 い つ も と 違 う よ う に 見 え る 。 自 分 の 部 屋 が あ る ことは う れ し い け ど 、 広 く
て さ み し い 感 じ も す る 。 こんばん眠れるかな。
新しい気分で出発 1
服装は、 T シャツル﹂ズボン (活動しやすいから)
日 課 と し て や る こ と │ 庭 の 水 ま き 。 草 と り 。 一 本 だ け 植 え て お い た ト マト の葉の裏に、
たいじ
虫がいないかを見る。菊の葉のあぶらむしも見る。いたらすぐに退治する。
勉 強 を お ろ そ か に し な い こと 。
その他、毎日のできごとを日記にきちんとつける。

以上、申しつける。
わたしの家族
きし よ う は げ やさ
四十 一歳。ちょ っぴり気性が激しいけど、優しい。
私 母 父

四十歳。尊敬しているが、ピシャツと急所をつくのでこわい 。
しし ゅ ん さ む つか ひ と こと
十四歳。思春期の始まり。難しい年ごろ。 一言 で言 えば、泣き虫。感情のかたまり人問。
単純ですぐ怒り、すぐ笑う。
妹 十 三歳 。 こ の 妹 に は 、 勉 強 で も 性 格 で も ラ イ バ ル 意 識 を 持 っ て い る 。 と言ってもこのご
ぎみ
ろ はや や 押 さ れ 気 味 。

4歳ーわたしの家族
十 二歳。これがくせ者。こわいんだよなあ。弟のくせして時には兄貴に化ける。コロ(犬 )

の育ての親でもある。
十一歳。想像力豊かであるが、軽はずみなところあり 。
妹 弟
かわい
特に目、 八時 二十 分
二歳 。 母 ゆ ず り の ち ぢ れ 毛 と 、 父 ゆ ず り の 顔 ( とても可愛い。

1

3
1
4
1
日歳 l忍びよる病魔
兆3

このごろ何だかやせてきた。
山 ほ ど あ る 宿 題 や 自 由 研 究 で 、食 事 を 抜 き に し た せ い か な ?

せ しト
- A
-ad
b,
ua
思っても実行できなくて悩む。自分を責めながらもはかどらない。 エネルギーが消耗するば
かり 。 も う 少 し 太 り た いなあ。
明日からは、計画表をむだにしないように行動しよう。
雨 が し と し と 降 っ て い る 。 重 い カ パ ン と 手 さ げ 、 おまけに傘を差しての登校はきらい。
やだなあ、と思ったとたん、家から百メートルくらい先の小石の敷いてある細い道で、突然
ひざがガクッとなってずっこけた。
あごをひどくぶった。そっとさわってみると、ベトッと血がついた。散らかったカバンや傘
を拾って、まわれ右して家へ帰った。
奥の方から母が
﹁忘れ物したの?早く行かんと遅刻するよ﹂
と言いながら、玄関まで出てきた。
﹁どうしたのつ・﹂
でも泣くだけで何も言えない。
てば m
v
母は、血だらけの顔を手早くタオルでふいてくれた。割れた傷口に砂がくいこんでいた。

5歳一忍びよる病魔
﹁これは医者へ行かにゃあいかんわ﹂
ぬきがばんそ う こ一

と言って急いで濡れた服を着替えさせてくれ、傷口にピタッと紳創膏をあて、車にとび乗った。
ぬがまん
麻酔もかけず、二針縫う。自分がドジだから、痛くても歯をくいしばって我慢した。それよ
り、急に仕事を休ませてしまったお母さん、ごめんなさい。

1
にぷ
運動神経が鈍いから手が前にでなかったのかと、痛むあごを鏡で見ながら思った。

5
でも、あごの裏でよかった。まだ嫁入り前の女の子だから、見えるところに傷が残ったらお

1
16
先まつくら。
体育の成績。
中一 H 3 中二日 2 中三 Hl
悔しい ! 努力がたりないのか。
夏 休 み 中 の サ ー キ ッ ト ・トレーニ ングで 、 ち っ と は 体 力 が 向 上 す る か と 期 待 し た の に 、



ばりダメだった。
もっとも、長く続けなかったからあたりまえかなあ (
あたりまえだ 1 。
日陰の声﹀
R
n、 キッチンの窓の黄色いレ 1 スのカーテンをすかして入ってくる光と風、 わたしは泣いて
法に崎 l
、 p-o
lv+h
﹁どう して、 わ た し ば か り こ ん な に 運 動 神 経 が 鈍 い の か し ら っ ﹂
実は 、 今 日 平 均 台 の テ ス トがある 。
母は、目を伏せるようにして言った。
﹁でも、亜也は勉強ができるからいいじゃん。将来のことは好きな学科を生かせばいい。英語
てっていてき
が 得 意 だ か ら 徹 底 的 に マ ス タ ー し り ん 。 英 語 は 国 際 語 だ か ら き っ と 役 に 立 つ よ 。 体 育 が ー であっ
てもかまわないから:::﹂
わたしの涙は止まっていた。残されたものはあったのだ。
一俣もろくなっていけない。
自分の体、が思うように動いてくれない。 一日五時間やれば消化できる宿題をさぼったから、
あせっているのかっ いや違う、体の中で何かが故障しはじめているようだ。
こわい 1
胸が締めつけられる思いがする。運動したい。思いつきり走りまわりたい。勉強したい。き
れいな字が書きたい。

5歳 忍 び よ る 病 魔

一俣のトッカータ﹂って本当にいい曲だ。好きになってしもうたんよ。あの曲を聞きながら食事
をすると、夢みたいにおいしくなってしまうんです。
ろん

妹 L 論デス。

1
今までは、妹の意地悪なところしか気づかなかったけど、本当は優しいんだなあと思うよう

7
こ £っこ o
そのわけは、朝登校する時、弟はわたしをおいてどんどん先に行っちゃうのに、妹

1
bvd/ ナ

18
のろいわたしといっしょに歩いてくれる。

歩道橋を渡る時も、カバンを持ってくれて
﹁手すりをつかんで上がりんよL
と言 ってくれた 。

夏休み気分もだいぶん抜けてきた。
夕 食 の 後 か た づ け が 終 わ り 、 二階へ行こうと したら、母が
雀のレ 'h
﹁亜也ちゃん、ちょ っと 座 り ん L
しかさんちょうしんけん
と言った。何を叱られるかと緊張したほど、母は真剣な顔をしている。

寸亜也ちゃん、このごろヒヨコン、ヒヨコンと上半身が前のめりになって、左右フラフラ揺れ
ょうす
て 歩 い て い る よ う だ け ど 、 自 分 で も わ か る ? 様子を見てたけど、 お 母 さ ん 何 だ か 心配な の

一度病院へ行こうか﹂
﹁::・どこの病院 へ? L

れ 。

く T

つや

てい
診み聞
りと
「と

:
まかしときん﹂









一夜がとめどもなくでてきた 。 本 当 は ﹁ お 母 さ ん あ り が と う 、 心 配 か け て ご め ん ね ﹂ と 言 い た
のどことば
かったのに、喉がつかえて言葉にならなかった。
じもんじとう
運動神経が鈍いせいか、夜ふかしするせいか、食事が不規則だったせいか、と自問自答して
いたが、病院へ行こうというのは、やっぱりどこか悪いのかしら、そう考えたら泣けでしょう
がない。泣き過ぎて目が痛くなる。
三ゐ し
.じ

ロP ん
:又ゅ
I
.1
I

目的O Z F巾げ
。∞円
)-片
山凶ロ Zm
ご wm
N 5052 ・
O否 認三回日出、
ぐ あ
午前九時出発。妹の具合い悪し。でも保育園へ行った。わたしが病院へ行くために、 :::か
わいそうな妹。
ふぞ︿
、 病院 (
十 一時 国 立 名 古 屋 大 学 付 属 病 院 )着
。 三時間ぐらい待つ問、 本を読んでいたが、緊

5歳一忍びよる病魔
張。不安と 心 配 で い つ も の よ う に 熱 中 で き な か っ た 。 母 は
﹁祖 父 江 逸 郎 教 授 (
だいじようよ
現 在 、 国 立 療 養 所 中 部 病 院 長 ﹀ に電話してあるから大丈夫よ ﹂
と言ってくれたが・
やっと呼ばれた。 心臓がドッキン、 ドッキン。

1
母が説明する。
普 通なら手をつくのに、顔を直接地面に打った )。
ころ
転んであごを切ったこと (

19
歩 き 方 が 不 安 定 な こ と (ひざの曲げが小さい

20
。﹀
やせてきたこと。
きぴん
動作がのろいこと ( 機敏さが欠けてきた


)
いそが
聞 い て い て 、 わ た し は こ わ く な ってきた。 忙し く 動 き ま わ っ て い る 母 が 、 こ ん な に 細 か く 観
。 すべてお見通しだったのか:::。でも安心した 。
察していたとは : ・・
これで、 ひ と り ひ そ か に 心 配 し て い た 自 分 の 体 の こ と が 、 医 師 に 伝 え ら れ た 。 悩みは解消す
るわけだ。
丸 い 椅 子 に 座 り 、 先 生 の 顔 を 見 た 。 メガネをかけ、ニコニコして優しい顕だ ったのでほ っと
いす,
す る 。 目 を つ む っ て 両 手 を 広 げ 、 人指 し 指 を 近 づ け る 。 片 足 で 立 つ 。 ベ ッ ド に 寝 て 足 を 伸 ば し
ひとき
たり曲げたりする。 ハンマーでひざをポンとたたく。されるがままの診察が終わった。
C
﹁ Tを やりましょう﹂
と先生がおっしゃった。
わぎ
つ亜也、痛くもかゆくもないよ。頭の中を輪切りにして見る機械だからね﹂
と母。
寸ウヘェ l、 ワ ギ リ 1じ
いち ば
にいじ
本人にしてみれば一大事。大きな機械が上からゆっくりおりてくる。宇宙船に乗っているみ
たいに頭がすっぽりはまった。
﹁動かないで、じっと寝ていればいいよ﹂
ねむ
と白衣の人が言ったので、じっとしていたら、ウトウト眠たくなった。
議﹄噌ムツ
長いこと待たされて、薬をもらって帰路につく。
仕事が一つふえた。飲んで良くなるなら腹いっぱいになるほどたくさんのクスリがあっても、

r
abJん
文句は言うまい。先生タノミマス。花ならつぼみの亜也さんの人生を狂わせないように、力に
なって下さい。
病 院 ま で 遠 い し 学 校 が あ る か ら 、 月 一 回 通 え ば い い と 言っ て く れ た 。 必 ず 通 う し 、 言 わ れ た
なお
ことをきちんと守るから、どうか治して下さい。
天下の名古屋大学 1 祖父江先生 ! お願いします。

5歳一忍びよる病魔
悔悟
せいりょうゆいいっしゅうか︿ぷつ
青 陵 中 学 の 唯 一の 収 穫 物 の 夏 み か ん 。 そ の 並 木 の 草 取 り に 行 っ た 時 、 男 子 生 徒 が わ た し の 歩
き方に文句をつけるんだ。

1
﹁何だね、その歩き方はつ 幼稚園の子みたい﹂
﹁おうおうはりきっちゃって、ちとガニマ夕、だね﹂

21
むし
もう頭にくることばかり並べたてて笑う。もちろん無視した。そんなの相手にしてたら海の

22
水がなくなっちゃうもん。でも一涙をこらえるのに苦労したよ。どうにか泣かずにすんだけど ・::・
今回、ものすごく悔しいことがありました。
体育の時間のこと、いつものように着替えて集合場所に行った。
﹁今日は一キロ先の公固まで走って行く。そこでバスケットボールのパスの練習をする﹂
と先生。
私 は ド ッ キ ン と し た 。 走 る 、 パス ・
::できない 、 わたしにはできないよ。
﹁木藤君.とうする?﹂
わたしは、うつむくだけだった。続けて先生は
﹁じゃあ 、O さんと教室で自習しとりん﹂ ︿
O さんは体操服を忘れてきたためなのです)
すかさず級友の声がとぶ
わ 7 l、 いいね、自習なんて﹂

わたしの腹の中は煮えくり返った。
こうかん
﹁そんなに自習がいいのなら替わってあげる。たとえ一日でもいいから体を交換してほしい。
やりたくてもできない人の気持ちがわかるにィ﹂
歩 く た び に 、 そ う 、 一 歩 踏 み 出 す ご と に 感 じ る 体 の 不 安 定 さ 、頼りなき、みんなができるこ
︿つじよ︿かんみじ
とがやれない屈辱感、惨めさ。そんな気持ちは実際に体験しなければ理解できないものなの
本 当 に そ の 人 の 気 持 ち に な れ な く て も 、 少 し く ら い は 、 わ た し の 立 場 に 立 ってほしい 。

でも難しいことだと思い直した。 わたしだって 、 こうなって初めてわか ったこ とだから::


発熱
かぜ
風邪をひいたらしい。熱があるようだが気分はいいし食欲もある。 しかし、体に自信がな く
なった。
体温計がほ し い(割って しまったので 自分の健康状態を数字で確かめたい。父に頼もう。

) じようぷ
亜也は、よく病気をする。弟妹の倍以上お金を使う子だ。大人になったら、丈夫になったら、

5歳 一忍びよる病魔
その分らくさせてあげます。大事にしてもらった分、うんと親孝行します。
寝ていると、 いろんなことを考える 。
社会の時間に先生がおっしゃったこと 。

1
いじめられることも 、 自 分 を 強 く す る 一つ のいい体験なんだ。中学生の勉強は、 コツコツや
ることに よ って、 ょ く で き る よ う に な る ん だ っ て 。 今 か ら で も 遅 く は な い 。 が ん ば っ て や って

23

eeh

24
みよう。:::と思うかたわら、体の不調が精 神の 不安を招く。
すぱ
泣くな弱虫
H
μ 苦しい時は人聞が成長している時。今をきり抜ければ、素晴らしい朝がやっ
みかわ n
て く る ん だ 。 光 に 満 ち あ ふ れ 、 鳥 が さ え ず り 、 白 い パ ラ が 香 る 、 豊 か な 朝 が : ・・
幸 福 っ て 、 い ったいどこにあるのでしょう。
幸 福 っ て 、 い ったい何で しょ う

﹁亜也さん 、 今、幸福かい?﹂
寸とんでもな い 。 今 は 底 な し の 悲 し み の 中 。 苦 しい 。 精 神 的 に も 、肉体的にも:::﹂
事実、わたしは今、気が変になる一歩手前にいるのだ !
だ っ て 泣 い た カ ラ ス が 、 もう笑った調ですもん。

。身 ほ ん と に 個 性 の な い あ り ふ れ た 考 え 方 し か で き な い 人 間だから、個性の強い人
憧 わ
れ"た
まし
i
す自
人 間 ひ と り ひ と り が 、 違 っ た 個 性 を 出 し 合 っ てい く こ と に 、 大きな魅力を感じます。
わ た し 達 の 生 き て い る 社 会 も 、 映 画 ﹁0 0 7﹂ の よ う に 、 個 性 と 特 技 が 生 か さ れ て で き て い
るのかもしれない。
世の中は個性の強い人を必要としている。
しょ ゅうぶっ
ただし、個性は自分の所有物であって、他人に押しつけるものではない。
でも、人って、 いろんな受けとめ方をするから、ややこしくなってしまうんだ。
下 校 す る 時 、 自 転 車 置 き 場 で 恵 子 と 会 っ た 。 わ た し が ﹁ヤマト﹂と﹁ラストコンサート﹂


レコードを持って、恵子は、 わたしの重いカバンを自転車のかごに入れてくれた。
恵 子 は 、 用 事 が あ る か ら と 言 っ て 、 歩 道 橋 の 下 で 別れた 。
わ た し は 、 恵 子 の そ う し た 、 は っ き り と し た と こ ろ が 大 好 き な ん だ け ど 、 他 の 人 は 、恵子の
HM , eλ2
態度を、薄ド
情と思っているらしい。


ν
I

5歳 一忍びよる 病 魔
個 人 懇 談 会 が あ り 、 先生と母とわたしの三人で、話し合う。
実力 H公 立 で 大 丈 夫 、いける 。
体のこと H今 は 、 歩 く こ と が 不 安 定 だ け で あ る が 、状 態 が ど う 変 化 す る か わ か ら な い か
ぐんせいえんぼう
ら、通 学 距 離 の 近 い 高 校 が 条 件 で あ る 。 群 制 だ か ら 、 遠 方 の 学 校 に な ら な い よ う に 理 白 書

1
を提出して、手続きを事前にとる。

25
私立 ) H母 も わ た し も 、 公 立 一本ときめていたけど、受験のふ
すベり止めを受験する (
26
んい気を味わうだけでも意義はあるという先生のすすめに従うことにする。
すだ
巣立ち
ありありと 花に花 鳥に鳥 京二
と書いた立派な色紙、裏には﹁木藤君の卒業を祝って﹂。岡本先生が書いてくれたんだよ、亜也
うれ
だ け に ::
・ 嬉しかった。
ちょっとこわい顔だけど、草花の好きな優しい先生です。
わたしは心からお礼を言い、感謝のほほえみを浮かべました。先生は歌の意味を教えて下さっ

﹁あのなあ、ありありというのは、 はっきり 、 まざまざという意味なんだ。 花


H
H と人聞が名
づけてよんでいる花、 空とぶ鳥 u と人聞がよんでいる鳥があるっていうことなんだよ
H
L
パッ と 青 い 空 、 校 舎 の い ら か 、 そ し て 濃 い 緑 の 木 を ふ り あ お い だ 。
歌の意味は 、 半 分 も わ か ら ん か っ た け ど 、 先 生 が がんばれよ
H
H
と励まして下さっているこ
とはわかるような 気 が し た ん で す 。 わ た しも やるぞ
H
H という勇気がわいてきました 。
﹁あの字 、何で 書いたと思う?﹂
寸筆じゃあないし :::L
先生はニタッと し て
﹁実はねえ、 つまようじをかみほぐして書いたん
すみ
だよ。上等のすずりと墨を使ってね L
すごいアイデアだと感心した。
﹁壁にかけるリボンがあったのわかった?﹂
匹、巴
﹁+
t4
l - -

日記 =卒業式の前 日

﹃'
先生はにっこり笑って去って行った。
卒業式の日に、こんな素晴らしい出会いが生ま 一
れたなんて、いつまでも忘れません。これからも

5歳一忍びよる病魔
心の支えになってください。
公立入試
朝は注文どおり でえこん
H
大根)の味噌汁を
H(

1
作ってもらう。私立入試の朝もそうだつた。この
時は注文したわけではないけど、それで合格した

27
えんぎ

8
から、縁起をかついだまで。

2
ちょっとこだわりすぎかなっ
ト イ レ へ 二 回 行 き 、 試 験 場 の 豊 丘 高 校 ま で 、 母の車で送ってもらう。
ぞ く ぞ く 集 ま っ て く る 子 が み な 利 口 そ う に 見 え 、気おくれとあせりがわいてくる。
先生に従ってそれぞれの教室へ案内された。

わ た し は 二 階 へ 上 が る 階 段 の 途 中 、 ズ ッ コ ケ て 足 を く じ い て し ま っ た 。 結 局、保 健 室 で 一 人
y向
﹀ ﹄企 m 山FA
で受験する。 ド ミジメ 、 クソミ ジ メ

母から借りた時計を耳にあて、心を落ち着かせた。

合格、 ヤ ッ タ 71 母もわたしも涙でくちゃくちゃの顔になった。
自 分 の 力 を う ん と 出 し て、 友 達 も た く さ ん つ く っ て 、 転 ば な い よ うに 、 が ん ば る ぞ 1
ニろ
夕 食 は 、 わた し のリクエストで、 ハンバーグ。
主 役 に な っ た み た い で ホ ク 、 ホク。
思 う よ う に 動 か な い 体 に ム チ 打 っ て 、が む し ゃ ら に 勉 強 し た 苦 し さなんて、ふっとんでしまっ
た。このいい気持ち。
でも、心細さもある。最初からハンディをしよっている。行動の不自由さが目立ってきてい
る 。 歩 く の も お ぼ つ か な い 。 人 に ぶ つ か り そ う に な っ て も 、 さっとよけられない。
だから、廊下は端の方を歩こう。新しい友達の目は、わたしに集中するだろう。どうせわかる
ことだから 、 隠さないで本当の姿を最初から見せてしまえばいい。
ー ー と 頭 ではそう思っても、 やはり不安だ。 ついていけるだろうか。体育の時聞はどうなるだ
ろう。
母のひとニと
﹁これからの高校生活はけっして楽な道ではないよ。毎日の行動そのものが、制限を受けたり、
他 の 子 と 区 別 さ れ た り し て 、 つ ら い こ と の 方 が 多 い か も 知 れ な い よ 。 だ け ど 、 人 は 皆 一つや二

5歳 一忍びよる病魔

つは苦 し い も の を 持 っ て 生 き て い る ん だ よ 。 そ れ に 耐 え て 耐 えぬいて生きて いかなければなら
ないんだよ。自分を不幸と思つてはいけない。 そ れ 以 上 に 不 幸 な 人 が い る ん だ と 考 え れ ば 、 ま
た我慢もできるからね L
なるほど、と思った。わたしが苦しんでいる以上に母は苦しいに違いないんだ。自分より困 つ

1
いっしょう付んめい
ている人、苦しんでいる人のことを考えて、母は一生懸命仕事をしている。そんな母のことを

29
考えると、わたしの不満なんて、 まだ耐えられる。父母のため、自分のため、社会のために、
生きていくことに希望をもって、これからもがんばろうと決心した。

30

高 校 に 入 学 し て 初 め て の 受 診 。 東 名 高 速 道 路 で 行 っ て も 二 時 間 は か か る の で 、 朝早く出発し
じゅしん


先生に伝えたいことをメモしておこう。
歩きづらくなった。物にったって歩かないと転ぶ。足がっつばって運びにくい。特に朝
はいかん。

ごはんを急いで食べる時、お茶を飲む時に、よくむせてしまう。
おもしろ
ひとり笑いをよくする (ニタニタした感じ。これは、何が面白いと弟に言われて、


ノ、
と気がついた)。
わたしは、どういう病気ですか?

いつものように長く待たされた後、祖父江先生と三人の若い先生の診察を受けた。運動神経
や 反 応 を 診 る た め か 、 曲 げ 伸 ば し 、 た た く 、 歩かせるなど、いつもといっしょのことをやる。
みの
てみじか
母がわたしのメモを手短に伝え、普通高校で級友の手助けのもとに通学していることも伝え

診察を終えて、先生は
﹁夏休みを 利用して、 一度入院しましょう。検査と治療の目的でね。帰りに入院手続きをして
いくように﹂と 、 ひとこと。
と、あっ
しんぼう
ウヘェ l、入院。 エライコッチャ。今の状態から脱出できればこれも辛抱じゃ !
さり受け入れたつもりだったが、いったいわたしの体はどうなっとるんだ。 何 かがこわれかかっ
しゅうぜん日りゅう
て い る ん だ 。 早 く 修 繕 せ ん と え ら い こ と に な る 。 こ わ い 。 第 四 の 質 問は、 入院まで保留と言わ
れた。
帰りの車中で母にたずねた。
﹁名大 (
名 古 屋 大 学 付 属 病 院 ﹀っていい病院ワ き っ と 治 し て く れ る ? 高校生になって初めて
の夏休みなので 、 や り た い こ と が い っ ぱ い あ る か ら 短 い 方 が い い

5歳一忍びよる病魔
L
亜 也 、 こ れ か ら も 体 の こ と で 気づ いた点はメモして おきんね。どんな 小 さなことでも必ず話

ちりょう
すんだよ。治療の 助けになる か ら ね 。 そ う す れ ば 入 院 は 短 く て す む か も しれないよ 。入院も長
い人生の一時と思えば、いい体験と して残るよ 。 そ れ よ り 、 お 母 さ ん は 、日 曜日しか行けない
から、洗濯も無理せん程度に自分でやるんだよ。下着はたくさん買ってあげるけど、帰ったら

1
ほかに入用な 物を 書 き 出 し て 準 備 せ ん と い か ん ね L
途中、岡 崎イ ンターチェンジを出て、おばちゃん (母の妹 ) の家へ寄った。母が説明するの

31
を 聞 い て い た ら 、 涙が出てきた。

32
﹁どんなことを し て で も 治 し て や り た い 。 名 大 病 院 で ダ メ な ら 、 東 京 へ で も ア メ リ カ へ で も 、
E也 の 病 気 を 治 し て く れ る と こ ろ を 探 し 出 す L
と言う母の言葉に ・
.
おばさんは
寸亜也ちゃん、早く治そうね。今じゃあどんな病気でもたいてい治るんだから、それに、まだ
若いんだから:::。だけど 治す
H
H という気力をもたんといかんよ。弱気でメソメソしとった
ら、効く薬も効かんくなるからね。おばさんもちょくちょく行ってあげる。用事があったら電
話しなさい。すっとんでくから、何も心配せんとがんばりなよ﹂
と言ってティシュペーパーを取り出し、
はなじる
﹁はよう鼻かんでジュースを飲みん。 一
疾と鼻汁が入ったら、しょっぱくなるに﹂
と笑わしてくれた。
後、 二か月のことだけど、時間よ止まれ !
あと
亜也の病気もいっしょに止まれ 1
日山歳!苦悩の始まり
入院生活
初めて家を離れての生活が始まる。

6歳一苦悩の始まり
あいさ つ
五十歳くらいのおばさんとの二人部屋だ。﹁くれぐれもよろしく﹂と母が挨拶したので 、い っ
きび
しょ に 頭 を さ げ た 。 も の 静 か な 感 じ で 寂 し そ う な 日 を し て い た 。 ど ん な 生 活 が 始 ま る の か 心 配
きんちょうぎ み
で、わたしは緊張気味。
夕方 、おばさんと散歩に行く。桜の木の下のベンチに座った。葉の聞から光が躍って見えた 。
おど

1
ひどい近視なのでは っき り と 見 え な い け ど 、 緑 と 白 光 の 関 係 に 美 守 。 そして葉を無む
μ を 感 した
H
ぞうさ均

33
造作に揺らす風に 変
H
H
を感じた。
34
病 院 生 活 に も だ い ぶ ん 慣 れ た け ど 、 何 と 言 っ て も 消 灯 が 九 時 、 夕 食 は 四 時 半 と 早 い 。ベース
が変わり、あくせくと一日が駆け足で過ぎて行く。
きんでんずしんでんずらょうりよ ︿
筋電図 (
痛 lイ ) 、 心 電 図 、 レ ン ト ゲ ン 、 聴 力 検 査 と 、 毎 日 た く さ ん の 検 査 を す る 。 広 い 病
まい ご ろうか
院内を迷子になるくらいあちこちつれて行かれる。でもうす暗い廊下はいただけない。気分ま
で暗くなってしまう。
ひろこ
いよいよよく効く注射を開始する と 山 本 繍 子 先 生 (現在、

か学

を科
ボ衛

ン大

け神
な経
階藤

の 学

タ生

ど内



段回

降i
昇E
教授)がおっしゃった。 注 射の前後を比較するために、 歩 行 、

i
日ミリカメラにおさめる 。
将来、わたしは何になるだろう、 いやなれるだろうかつ
条件 体を使わないでできること。
頭を使ってできること。
収入が安定していること。
難しい。この 三条件を満たす職業なんてあるだろうか。
若いドクターが数人で、わたしをひねくりまわす。爪先立ちをして 1 目をつむって立って 1
これ、できるかな?
こっ ば ん
そして骨盤がどうのこうの:・
あげくの果てに ﹁おもしろい?L。
いや 。 わたしは、 モルモッ トじゃない、もうやめて !
きけ
J ﹀勺ノ、
U
臥 と叫びたくなった。
待ちに待った日曜日。母上と妹二人がきてくれる。みんなで屋上へ洗濯物を干しに行った 。
h-ee雀伺れ ト
青い空がきれいだった。雲も白くてきれいだった。風も生暖かかったけど気持ち良かった。久

6歳ー苦悩の始まり
しぶりに人聞に返った気がした。
せ き ず いえS
脊 髄 液 を と る 。 頭 が イ タ イ。 猛 烈 に 痛 い 。 注 射のせいか 1
みいちゃん一家 (母の弟家族 )が きてくれる 。 おじちゃんの自 は、 まっ赤だった。 よほど言

1
おう と思ったけど 言えなくて 、 じ っ と 見 て い た ら

仕 事 で 日 焼 け し た し 、 タ ベ 遅 く ま で 起 き て いたから・ :
:、 変な顔しとるかっ﹂

5
3
とおじちゃんが言っ た。

36
気 の 毒 な ほ ど 、 黒かった。そして兎のような目だった。泣いた後のようだ。
うさぎ
﹁亜也 、がんば れよ 。今度うまいもの持ってきてやる。 何がほしい?﹂
﹁本がほし い。 サガ ンの﹃悲しみょこんにちは﹄、前から読みたかったの﹂
と頼んだ。
りが︿りょうほうぷ
地下の理学療法部へ行く。
門 川 端 と 今 枝 (打 川 理学療法土 ) より、学力テストを受ける。
その時、わたしはパカなことを言ってしまった。国語と英語が大好きで自信があるとか、成
績は上位だとか、よくもまあ言えたもんだ。もうこれっきりにしよう。成績のことを自慢する
のは 、よけい自分、が惨めにな って銀行強盗でもしたくなるから


だいたい頭が いいなんでい うのは、内からにじみでてくるもので、通知表の成績なんかで、
わかるもんじゃあない 。
打川端は、 学 生 時 代 、 い た ず らばかりしてい たそうだ。
ほんとは 、 その方がいい、健康的だもの。
わたしは、まだ若いのにこんな体になってしまって :
あまりにも情けなくて、 不覚にも一俣が出てしまった。
も う 、 こ れ 以 上 言うまい。書くだけ書いたら、 サパサパした。
わたしがガリガリ勉強するのは、これしかとりえがないから。
わたしから学ぶことを取ったら、不自由な体、が残るだけ。こんなことは思いたくない。
きびきび
寂しいけど、厳しいけど、これが現実 !
じよう一ぷ
頭なんか悪くてもいいから、丈夫な体がほしい。
ブL
ワ恒

︿その l ﹀ テスト お星さまキラキラって手を動かす。

6歳ー苦悩の始まり
R (右 ) ロ 回 L (左)

7
注射する前

1

注射3分後 R (右 ) 四 回 L (左 ) 幻 回
注射 5分後 R (右 ) 同 回 L (左 ) 幻 回
︿その 2 ﹀ リハビリ

1
)
l 四つんばい
(

37
重心の移動(半円を描くように)
38
︿骨盤の回転﹀
もど
四つんばいになるとき
汁 Jhも と に 戻 る と き│ │ J
足 を 曲 げ る ふ 骨 盤 の 回 転 ふ 手 を つ く み 骨 盤 の 回 転4手 を 上 げ る
*足を逃がさない 。 け ん こ う 骨 を 内 転 さ せ な い 。
)

反射運動 足をパッと上げたとき、手をつく。転んだとき役立つ。
2
(

*けんこ う 骨 内 転 、 重 心 が 後 ろ に あ る 。
)

手 の 振 幅 運 動 手 を 前 後 に 振 幅 し て 骨 盤 の 動 き をみる。
3
(

右手前日右骨盤後ろ
右 手 後 ろ H右 骨 盤 前
要するに、歩くときに交互に手と足を出すということ。
わたし

盤後
右右

右骨
骨盤
手手
後前


1

後、ろ



1
) おかしい。出る足と手が、いっしょになってしまう。
四つんばいから、ひざ立て。

4
)(
きょうせいぞ
矯正後ろへ両肩を反らして、ひざを背骨にあててもらいまっすぐにする。

5
(
病状を細か く記録

39 1
6歳一苦悩の始まり
)

はいはいの練習

40
6
(

右 手 を 出 し て4左 足 を 出 し て4左 手 を 出 し て4右 足 を 出 し て


足はまっすぐに出す。
ふつうに歩くって、大変なことなんだ。
)

起き上がり
7
(

山本先生から、﹁今日K君 と い う 子 が 入 院 す る よ 。 亜 也 ち ゃ ん と 病 状 が 似 て い る ん だ よ ﹂ と 聞
いていたが、その子と廊下で行き会った。
む ︿
き ゃ し ゃ な 小 六か 中 一 の 男 の 子 。 無 垢 な 子 で 体 の 悪 い こ と な ん か ち っ と も 気 に し て な い よ う
な、明るい感じの子だった。
﹁注射が効くといいね。早くなおりんね﹂
心の中で声援を送った。
注射の後、頭、が痛くて気持ち悪くなったけど、薬が効いてきたせいか、慣れてきたせいか、
だんだん痛みが少なくなってきた。
声の録音をした。喉か舌の運動神経を調べるのかな。
リ ハ ビ リ は と て も 大 切 で す って 1 山本先生がおっしゃった。がんばらなくっちゃと思って
つらかった。正常でないわたし、泣けそうだつたよ、 お母さん。

炎天下の屋上で、十六ミリの撮影をした。体がとてもつらかった。
打 川 端、わたしはやっぱりロボット式でないと歩けません。悲しいな。
一服した時、 門 川 端は子供のころの話をして下さった。
﹁屋上からしょんべんをして、先生の頭にひっかけてぶんなぐられた﹂
まね
誠に豪快なるいたずら:::わたしには真似できんことだけど、むずむずと何かやりたくなる
わざ
気 持 ち が わ い て き た 。 木 に 止 ま っ て い る ア ブ ラ ゼ ミ (いずれも 平 ) をすばやくつかま与える技が

6歳 苦悩の始まり
あったのよ。
どっ ぴ
セミの脱皮のことをセミヌードだって !
やっぱり男だなあと思った。

1
熱 が で る 。 三 九 度 二 分 。 死 ん で し ま う の で は な い か ? いや、病気になんか負けてたまるか 1
母と家が恋しくなった。

41
くそっ ! ふんばろうとしたところでいつもこうなんだ。精神と肉体のアンバランスが、ど

42
。ヵ:
ので

わ予

今す
い感
まっ

こな
年き

十る
をま
こま

まも

とと

のよ
るう

がう

歳t
あと数本で注射も終わり。そして一応退院。 ノ¥
ばんばんざい
普 通 な ら こ れ で 晴 れ て 万 万 歳 と な る と こ ろ 、わたし は違う。注射を始めたころは副作用(は
き気 ・頭 痛 ﹀ に 悩 ま さ れ た 。 先 生 は 効 果 は あ っ た と 言って いるが、以前のよ うに正 常に歩ける
ようになると期待していたわたしは、よくなったと思えない 。
三 級 ) がふえた。
生徒手帳の 他 に、身体障害者手帳 (
しようのうさいぼう
運 動 神 経 を 支 配 す る 小 脳 の 細 胞 が 、 何 者 か に よ っ て 働 き が 悪 く な ってくる病気で、百年くら
い前に、初めて報告された病気だという。
病気は、どうしてわたしを選んだのだろう。
運命という言葉では、かたづけられないよう 1
二学期
母の教訓Hのろくてもいい、下手でもいい、 一生懸命やるという姿勢が大事だ。
わたしはいつも真剣よ、 と 言 い た い が 、 行 動 に つ い て は そ う で あ っ て も 中 身 に つ い て は 、


クンときた。
始業式後、母は先生と話し合った。
入院治療により、多少改善の徴候はあったが、難しい病気であるため回復は困難である

と。
二 教 室 移 動 、 そ の 他 の 作 業 で 、 級 友 に 迷 惑 を か け る こ と が 多 々あると思うけど、その点は
配慮してほしい、いろいろ問題も生じてくると予測されるがやれるだけやらせてほしい、
夫 1し
工 〈申
。入


のと

教 科 書 は 、 バ ラ バ ラ に し て 必 要 な ぺ lジだけを持って行く。 ノ ー ト は ル ー ズ リ ー フ 一 冊

6歳 苦 悩 の始まり
︿ ぷん
にして、見出しをつけ、区分する。
カバンは、手さげから、肩にかけるズックの軽いのに替える。
通学は、朝のラッシュは危険だから、家からタクシーを使う。帰りは状況判断して、パ
スかタクシーを利用する。

1
﹁絶対に無理はしないこと。 タクシー会社にわけは話してあるから、 お 金 は 払 わ ん で い い か ら

43


4
と母。

4
どこまで 、 わたしは、金くい虫で、迷惑をかける子なんだ、ごめんね。
魔の十三日
あさひぱ し
学校の正門前からパスに乗った。旭橋で乗り換えのため下車、横断歩道を渡り次に乗るパス
こ さめ
停まで歩く。信号が青になった。小雨、が降っている。小学生の男の子が傘に入れてくれた。歩
調を合わせなくてはと急いだ。とたん、前につんのめるようにして転んでしまった。
ぬそ
口から血が吹き出し、雨で濡れているアスファルトを、みるみる赤く染めた。あんまり出る
の で 、 こ の ま ま 出 血 多 量 で 死 ぬ ん で は な い か と 不 安 に な っ て 、 こ の 世 の 泣 き お さ め に ワ l ワl
泣いた。
かど
角のパン屋のおばさんがとび出してきて、起こしてくれた。活の中までつれていかれ、タオ
ルでふいてくれた。そして、車で近くの外科病院まで運んでもらった。
生徒手帳を見て学校へ電話してくれたので、受け持ちの先生がとんできてくれた。
手当てが終わってから、車で家まで送ってもらう。パン屋のおばさん、先生、アリガ トウ

︿ ちびる
亜也の唇はボンボンにはれあがり、前歯が三本も折れてなくなってしまった。 ハンカチでふ
くと、まだ赤くついてくる。
みに く
わたしだって 女
H
μ です。 ち ょ っ と 大 き め の 前 歯 が 折 れ て し ま い 、 醜 い 顔 に な っ て し ま っ た
のです。
わたしの病気は、 ガ ン よ り ひ ど い !
わたしの青春の美しさを奪った。
こんなへんな病気でなかったら、恋だってできるでしょうに、だれかにすがりつきたくてた
まらないのです。
わたしは、もう イヤ
H 1 H です。
かおるきみ
薫 の 君 ( ﹃ お に い さ ま へ ﹄ 池 田 理 代 子 ) は、﹁愛しているから ! ﹂ と 言 っ て 、 愛 す る 人 と 別 れ
たのです。わたしには、人を愛したり愛されたりする自由も許されないのですかっ

6歳 苦 悩 の 始 ま り
卑ひL、
夢の中では、歩いたり、走ったり、自由に動いているのに:


てれ
とは

しが
っそ

。な
うき
まで
奈々子が駆け出そうとする場面を読むと、こんなことできたらなあ、


かなっ

1
転んだ時のことを思い浮かべて一日中寝ていた。 K 子さんから﹁大丈夫?﹂と電話。嬉しかっ

45
た。しばらくは休まなければいけないだろう。
46
かわい
七 時 半 起 床 。 妹 の ア コ ち ゃ ん 、 名 古 屋 へ お 出 か け 。 あ ん ま り 可 愛 か ったので、 イジケちゃっ
た。
さんもんなま
早起きは三文のトク。ひとつしかないシュークリームにありつけた。生クリームが口の中いっ
ばいに広がっておいしい。前歯がないので食べにくい。とびださんように口をキュッとむすん
で食べた。
明日から歯医者通い。早くもとの亜也になりたい。机の上の鏡は、引出しにしまった。
あみもの
母と編物の本を読んでいた。小さいころ母が編んでくれた白いモへヤのリング編みのワン
ピースが載っていた。
寸お母さん、これ見て作ってくれたん?﹂
﹁うん 、正月にこれを着て、 へヤlパンドでお し ゃれして 、 玄 関 で 写 真 撮 っ た よ ね L
わ た し が 健 康 だ っ た ら ﹁ あ の こ ろ は :::L と 、 昔 話 に 花 が 咲 く の だ け ど 、 悲 し く な る の で そ
れ以上話は続かなかった。
将来について



1

母将


くに



=
J
<
A
日2

寸先天的に目や体の不自由な人と違って、過去にゃれたことがどうしても頭から離れない 。 ど
う し て で き な い か と 悩 み も 大 き い し 、 感 情 が 先 だ っ て しまう 。 だ か ら 、いつも精神と の闘いか
ら始まる。側から見ていると機械的にラジオ体操しているような訓練も、実は精神との闘い、
たんれんく
鍛 練 だ よ 。 亜 也 、 結 果は.とうあろうと、今を悔いなく生きてこそ将来があるんじゃないかと思
うよ。 E也 は よ く 泣 い て い る 。 そ し て そ ん な 亜 也 を 見 て い る と か わ い そ う で な ら な い 。 で も 現
実 、今おかれて いる 立 場 を き ち ん と 理 解 して、これから の亜也の人生を充実させていかないと 、

6歳一苦悩の始まり
足を地面につけた生き方が、永久にできなくなるよ。お母さんや弟妹は、あなたがどうしても
おか
できないことには、惜しみなく手を貸してあげる。でも、意見を言ったり、けんかをする時は、
ボンボン言うでしょ。あれは、亜也、が人間的には何も違つてはいない普通の子であり姉である
と思ってるからなのよ。だから、精神を強くする愛の言葉と受けとめるのよ。他人にグサッと

1
するようなことを言われても、耐えていけるように、これも訓練なんだよ。愛を知り、知を愛

47
す、すなわち愛知県に生まれた亜也は、その県名からして、愛と知に包まれてるんだから::・ L
48
聞いているうちに、今の病状を冷静に受け入れた上で、将来の道を考えなければいけないと
思った。
﹂'レ私
'
﹁図書館司書に
A なりたい。そのために大学へ行きたい。公務員の資格がとれるし
'
:::L
ほんや︿
﹁お勤めに出ることは難しい。自宅でできる仕事を考えた方がいい。例えば、翻訳を身につけ
るとか﹂
﹁小説も書いてみたいが、社会経験が乏しいから物にならんかもね L
﹁具体的にきめるのはまだ先でもいいから、今、できること、やるべきことに、努力 1 努力﹂
﹁うん、わたしが頼れるものは、やっぱり学力だけなんだ﹂

夕日を見ま した 。 大 き いま っ赤な ・
せん こ う は む ぴ す
線香花火が、ぼたっと落ちるように早く沈んでしまったけど、透き通った明るさ。
そりゃあ、きれいな色をしていました。リンゴの色でした。 Y 子ちゃんと、﹁きれいね﹂と言つ
ぜ つ︿め ば
たきり、絶句。その夕日に照らされて、赤く立ち上っていく飛行機雲が見えました。
Y子ちゃんは、本当にいい人だと思う。
ことわ
Y子 ち ゃ ん の 家 で い っ し ょ に 勉 強 し た い と 言 っ た ら 、 き っ ぱ り 断 ら れ た 。
わたしは、 てっきりO Kし て く れ る と ば か り 思 っ て い ま し た 。
もし、 わたしがY 子 ち ゃ ん の 立 場 だ っ た ら 、 断 り き れ な く てO Kしてしまい、 マイペースで
勉強できなくて、結局、後悔すると思う。
ょうよ︿せい
要するに、自己抑制が足りんのです。
とうひ
体のハンディが、自己抑制ホルモンにつながっとると言ったら、逃避かな?
‘奇, “
h
自分の思っていることを口に出して言える、それを聞いてくれる人がいるって、すごく嬉し

L、

友達って、対等につき合ってくれるから、ありがたい。
S ちゃんに、﹁読書するようにな った の は 、 亜 也 ち ゃ ん の 影 響 よ ﹂ と 言 わ れ た 。

6歳ー苦悩の 始まり
寸ああ 、よか った﹂。わたしは、彼女達に迷惑ばかりかけていたんじゃない・::と、思ってもか
まいませんよね。
亜 也 ち ゃ ん 、 こ の 前 ワ ン ワ ン 泣 い た で しょ 1
﹁ あの時すごく可愛かった﹂
﹁エッ、 ほんとつ いやだなあ、 そんなこと言われたの初めてよ。 でもわたし、自分の泣いた

1
顔を鏡で見たけど、あんまりよくないにィ﹂
﹁いや 、顔は見えんかった。 そいだもんで、可愛かった﹂

49
50
﹁わぁ l ドギツイ﹂
可愛かったのは、顔ではなく、 ム ー ド だ っ た わ け 。 二 人 で 大 笑 い し た 。
友達っていいな。 いつまでもいっしょにいたい。

サリドマイド禍の女性が、健康な女児を出産した。足でおむつを替えたり、ミルクを飲まし
たりするそうだ。喜んでいいのか、不安と心配が先立つ。
右足のアキレス躍が 、硬直したような感じがする。悲しくなってきた。
同り '九 、 ﹄ A, 合勺 bAFF、
教 室 を 移 動 す る 時 、 が 難 儀 で あ る 。 長 い 廊 下 や 階 段 を 、 補 助 し て も ら っ た り 、 ったって歩いた
むんぎ
りして行く。どうしても遅くなるので、時には友達も遅刻させてしまう。
ひと︿ ち
また、弁当の時間も苦痛である。みんなは五分で終了。 E也 は 五 分 か か っ て 、 や っ と 一口か
ふた ︿ 勾
二 口だ 。 お ま け に薬がある 。 ま に 合 わ ん と 思 っ た 時 は 、 ス キ ッパラに薬を 流 し 込 み 、 周 囲 を 見
まわして、まだ食べてる子がいると急いで食べ始める。全部食べれたこと、今までに何回あっ
-、
蜘 μ ナム せっかく作ってもらったのに、残すのはわるいけど、時聞がないのです。

4 P 0
I J

You might also like