下垂体腺腫

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「下垂体腺腫」
今月のテーマ

間脳
下垂体
1)
 
福原宏和 Hirokazu FUKUHARA

1)東京都立大塚病院脳神経外科 〒 170-8476 東京都豊島区南大塚 2 丁目 8 番 1 号

Q.1 次のうち,誤っているものを一つ選べ.
A.正常下垂体には血液脳関門がないため,よく造影される.正常下垂体と腺腫との
区別が困難な場合にはダイナミック造影 MRI が有用である.
B. プロラクチン産生下垂体腺腫では,腫瘍体積と血清プロラクチン値はおおむね相
関し,200 ng/mL を超える場合はまずプロラクチン産生腺腫である可能性が高い.
C. ACTH 産生下垂体腺腫では,約半数が微小腺腫であるため精度の高い画像診断が
必要である.画像所見が確定的でない場合は静脈洞サンプリング(下錐体静脈洞・
海綿静脈洞)を追加する.
D.頭蓋咽頭腫のエナメル上皮型は約 70 〜 90 %の症例で石灰化が認められ,嚢胞壁の
結節状あるいは環状の石灰化が特徴である.特に小児では石灰化を高率に認める.
E. ラトケ嚢胞の典型的な画像所見は単房性嚢胞で充実成分を伴わないこと,壁は薄く,
さらに造影されないこと,石灰化を高率で認めることなどである.

Q.2 次のうち,誤っているものを一つ選べ.
A.下垂体卒中は突然の頭痛で発症するが,神経症状(視力視野障害,眼球運動障害)
B o a r d

と下垂体機能低下症が問題となる.
B. ホルモン負荷試験が下垂体卒中を引き起こす場合がある.
C. 診断には CT が最も有用であり,可能な限り造影を行う.
D.下垂体卒中と診断した場合,続発性副腎不全の予防が重要であり,内分泌評価の
ための採血を行ったら結果を待たずにステロイド補充を行う.
E. 視神経や脳の圧迫による視機能障害や意識障害が進行性の場合は緊急手術の適応
C e r t i f i e d

となる.

Q.3 次のうち,誤っているものを一つ選べ.
A.成長ホルモン産生下垂体腺腫の治療の第一選択は手術療法である.
B. 成長ホルモン産生下垂体腺腫の治療の目的は,成長ホルモン分泌過剰に起因する
症候の是正と合併症の罹患率減少を図り,死亡率を一般人口の平均まで引き下げ
るとともに腫瘍周辺正常組織の障害を軽減することにある.
N e u r o s u r g e o n

C. ACTH 産生下垂体腺腫の治療の第一選択は薬物療法である.
D.クッシング病を未治療の場合,5 年生存率は 50 %と不良で,死因は重症感染症,心
血管障害,電解質異常などである.
E. TSH 産生下垂体腺腫の内分泌所見は甲状腺ホルモン(free T3, T4)高値にもかか
わらず TSH が抑制されない(必ずしも高値ではない),すなわち SITSH(不適切
TSH 分泌)を呈する.

1126 脳神経外科速報 vol.30 no.10 2020.10.

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Q &A+詳細解説でわかる
脳神経外科疾患ベーシック

合格したての先輩が指南する 脳神経外科専門医への道
増強される.嚢胞成分は T1 強調画像で高信号を
下垂体腺腫の特徴(Q.1の解説) 示すことが多い.扁平上皮・乳頭型は,球形の充
実性(一部嚢胞の混在もあり)腫瘤で石灰化に乏
A について
しい.造影 T1 強調画像で比較的均一に増強され,
 下垂体腺腫では MRI の信号強度は様々である. 周囲脳実質との境界は明瞭である.嚢胞成分は
通常,造影像では正常下垂体より腺腫の造影が弱 T1 強調画像で低信号を示すことが多い.
いが,両者の区別がつかないことも多い.そこで,
E について
ダイナミック造影 MRI を施行すると,正常下垂
体は腺腫より造影のピークが早く,microadeno-  ラトケ嚢胞では MRI で嚢胞壁,嚢胞内部の結
ma の診断や,macroadenoma での正常下垂体の 節状構造とともに一般的には明らかな造影強調効
位置を同定するのに有用である.ダイナミック造 果は認められない.下垂体前葉,下垂体茎は病変
影 MRI のみで見つかる microadenoma は microad- により前方に圧排されて確認されることが多い(図
enoma 全体の 10 〜 30 %存在すると言われている. 1).嚢胞内容液は性状により様々な信号を呈し,
経過観察中に信号が変化することもある.嚢胞内
B について
の T1 強調画像で高信号,T2 強調画像で低信号を
 血清プロラクチン値と腺腫の有無・サイズとの 示す小結節(waxy nodule:図 2)は,ラトケ嚢
間には関係がある.軽度の高プロラクチン血症の 胞の診断に有用である.頭蓋咽頭腫との鑑別には,
場合には,下垂体茎への圧排・障害によるいわゆ 頭蓋咽頭腫では組織型によらず充実成分と嚢胞壁
る stalk effect によるもの,薬剤性,原発性甲状 は造影剤により強調され,ラトケ嚢胞との鑑別に
腺機能低下症,妊娠などが考えられるが,プロラ 役立つ.また通常,ラトケ嚢胞壁に石灰化は認め
クチン値が 200 ng/mL を超える場合は,プロラ ないことも有用である.
クチン産生腺腫が非常に高い.
下垂体卒中(Q.2 の解説)
C について
 下垂体卒中は,既存の下垂体腺腫内に出血また
 ACTH 産生下垂体腺腫の約半数は microadeno- は梗塞を引き起こした病態である.急な腫瘍体積
ma である.可能であれば 3T 装置で撮影すること の増大により突然の頭痛,嘔吐,視機能障害(視
が望ましい.MRI で腺腫が見つからない場合や 力視野,眼球運動など),内分泌障害,意識障害
異所性下垂体腺腫の可能性が考えられる場合に, などを引き起こす.誘引因子として高血圧が最も
下錐体静脈洞・海綿静脈洞サンプリングが施行さ 多いが,医原性としてホルモン負荷試験(TRH
れることがあるが,左右局在の診断についてはダ と GnRH が多い)直後に起こす場合や,プロラク
イナミック造影 MRI のほうが正確とされる. チン産生腺腫に対してドパミン作動薬の治療開始
後に下垂体卒中を起こすことがある.下垂体卒中
D について
を疑った場合には MRI 検査が必要で,可能な限
 頭蓋咽頭腫は病理組織学的にエナメル上皮型 り造影を行うべきである.MRI 所見は,出血型
(adamantinomatous type)と扁平上皮・乳頭型 の場合,脳内出血と同様に時期によって内部の血
(squamous-papillary type)に大別され,この 2 腫の信号強度が変わる.梗塞型では,梗塞部が造
つの画像所見は大きく異なる.エナメル上皮型は 影されず,辺縁の正常下垂体のみが造影されるの
CT で約 70-90 %の症例で石灰化が認められ,MRI が特徴である.出血性梗塞では,その両者の所見
では充実成分と嚢胞壁が造影 T1 強調画像で強く が入り混じって認められる.T2* 強調画像や拡散

脳神経外科速報 vol.30 no.10 2020.10. 1127

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図 1 ラトケ嚢胞(造影 T1 強調画像冠状断・矢状断)
下垂体前葉は前方に圧排されている(矢印).
B o a r d

図 3 下垂体卒中に伴う蝶形骨洞粘膜の肥厚
図 2 術中所見 造影 T1 強調画像矢状断.
吸引管にて,嚢胞内にある黄白色・軟性の waxy nod-
ule を摘出.
C e r t i f i e d

強調画像を追加するとすべての下垂体卒中が診断 が重度である場合,または進行性に悪化している
しやすくなる.純粋な出血型よりも出血性梗塞型 場合である.軽度の視力視野障害や眼球運動障害
や梗塞型であることが多い.その他,蝶形骨洞内 のみでは回復が得られやすいため,待機的な手術
粘膜の肥厚がみられることがある(図 3).原因 でもよいとされる.
としては,トルコ鞍内圧の急激な上昇に伴う静脈
うっ滞が考えられている.内分泌症候として最も
治療について(Q.3 の解説)
問題になるのが続発性急性副腎不全であり,下垂
A・B について
N e u r o s u r g e o n

体卒中と診断し血行動態が不安定な場合には,副
腎不全を合併しているものと想定し ACTH・コ  成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫の治療の
ルチゾールの採血を行ったのち結果を待たずに速 第一選択は手術療法である.治療の目的は,選択
やかにステロイド補充を行う.緊急手術を考慮す 肢の通りである.しかしながら,術前の血中 GH
べき要素は,意識障害が強い場合,視力視野障害 値の高いもの,腫瘍が大きいもの,海綿静脈洞へ

1128 脳神経外科速報 vol.30 no.10 2020.10.

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Q &A+詳細解説でわかる
脳神経外科疾患ベーシック

合格したての先輩が指南する 脳神経外科専門医への道
の浸潤があるものでは手術による治癒が困難とな 法の果たす役割は大きい.現在主に用いられてい
る.西岡らは,海綿静脈洞浸潤部分に対しても積 る薬剤はメチラポンであるが,単独使用とヒドロ
極的に摘出を行うことにより,内分泌学的治癒率 コルチゾン補充を併用する block & replace 法,
が 84.7 %と非常に良好な成績を報告している.薬 他の薬剤と併用する方法などがある.下垂体腫瘍
物療法では,ソマトスタチンアナログ製剤(第一 を標的とした薬剤として,ドパミン作動薬である
世代薬:オクトレオチド,ランレオチド)が第一 カベルゴリン,近年承認されたソマトスタチンア
選択薬であり,約 6 〜 7 割の患者で内分泌学的治 ナログであるパシレオチドは本症の 60 %でコル
癒が得られ,約半数で腫瘍の縮小を認める.また, チゾールを 70 %弱低下させることが示されてお
第二世代薬であるパシレオチドの登場により第一 り,その効果が期待されている.治療困難例では
世代薬ではコントロールに難渋する症例に対する 放射線治療が用いられる.内分泌学的寛解率は 3
効果が期待されている.その他,ドパミン作動薬 〜 5 年で 50 〜 60 %とされている.ガンマナイフ
であり経口投与であるカベルゴリン(特徴:有効 治療はホルモン抑制効果,腫瘍抑制効果ともに機
性は低い・保険適用は高プロラクチン血性下垂体 能性腺腫の中では,ACTH 産生腺腫に対して高
腺腫に限る)や,GH 受容体拮抗薬であるペグビ いとされている.内分泌学的寛解率は 17 〜 83 %
ソマント(特徴:有効性は高いが副作用も多い・ と報告されている.
血中 IGF-1 値を治療効果判定に用いる・腫瘍抑制
E について
効果は期待できない)などが用いられる.最近の
定位放射線治療,特にガンマナイフの治療成績の  TSH 産生下垂体腺腫は内分泌所見と MRI で診
有効性は高くなりつつある.手術,薬物療法,放 断する.頻脈などの軽度甲状腺中毒症状を呈する
射線治療を組み合わせることで血中 IGF-1 値の正 こともあるが症状は乏しいことが多い.MRI で
常化を図ることが重要である. 腺腫を認める場合,診断はほぼ確定するが,明ら
かではない場合は同じく SITSH を呈する甲状腺
C・D について
ホルモン不応症との鑑別が必要となる.治療の第
 ACTH 産生下垂体腺腫の治療の第一選択は手 一選択は手術療法である.術後の甲状腺クリーゼ
術療法である.クッシング病を未治療の場合,選 予防のために術前から甲状腺機能亢進症を十分に
択肢にあるように予後不良である.本腫瘍は局在 コントロールしておくことが望ましい.
診断の困難な症例,再発する症例もあり,薬物療

文献
1)
三木幸雄,佐藤典子編:下垂体の画像診断.メジカルビュー社, 5)
福岡秀規,吉田健一,小武由紀子,他:下垂体腺腫発生に関
東京,2017 わる分子学的異常の理解と診療への応用.日本内分泌学会雑
2) 平田結喜緒,山田正三,成瀬光栄,他編:下垂体疾患診療マ 誌 94(Suppl): 16-7, 2018
ニュアル 改訂第 2 版.診断と治療社,東京,2016 6)
黒 﨑 雅 道:機 能 性下垂 体 腺 腫.Jpn J Neurosurg(Tokyo)
3) Nishioka H, Haraoka J, Izawa H, et al: Magnetic resonance 27: 449-55, 2018
imaging, clinical manifestations, and management of Nishioka H, Fukuhara N, Yama da S: A g gressive
7)
Rathke's cleft cyst. Clin Endocrinol 64: 184-8, 2006 transsphenoidal resection of tumors invading the
4) 福原紀章:下垂体卒中(内分泌疾患に関連する緊急症への対 cavernous sinus in patients with acromegaly: predictive
応 — 最 近の進 歩) . 糖尿 病・内分泌代 謝科 50: 286-90, factors, strategies, and outcomes. J Neurosurg 121: 505-
2020 10, 2014

脳神経外科速報 vol.30 no.10 2020.10. 1129

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〈解答〉
Q.1:E,Q.2:C,Q.3:C

Expert's Comment
虎の門病院間脳下垂体外科
福原紀章

 下垂体腺腫は脳腫瘍であると同時に内分泌腫 その病態や内分泌所見を知っておく必要がある.
瘍でもある.脳神経外科医は良性脳腫瘍では 治療は手術,放射線治療のみでなく,薬物療法(ホ
mass effect のみに注目しがちであるが,下垂体 ルモン療法)が有効な症例があるのも特徴である.
腺腫ではホルモン過剰症または欠乏症による代 画像所見はラトケ囊胞や頭蓋咽頭腫とともに覚
謝障害が生命予後や QOL に影響するという特有 えておくべきである.診断・治療には,
「間脳下
の問題点がある.そのため,下垂体腺腫は腫瘍 垂体機能障害の診断と治療の手引き」
(平成 30
サイズが小さくとも治療対象となることがあり, 年度改訂)が参考になる.
B o a r d
C e r t i f i e d
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1130 脳神経外科速報 vol.30 no.10 2020.10.

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