粒子と波動の二重性

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粒⼦と波動の⼆重性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
粒⼦と波動の⼆重性(りゅうしとはどうのにじゅうせい、Wave– 量⼦⼒学
particle duality)とは、光や電気といった様々な物理現象が、粒⼦の
ような性質と波のような性質を併せ持つことをいう。
このような性質への着⽬は、クリスティアーン・ホイヘンスとアイ
ザック・ニュートンにより光の本質についての対⽴した理論(光の 不確定性原理
粒⼦説と光の波動説)が提出された1600年代に遡る。その後19世紀 序論 · 数学的定式化
後半以降、アルベルト・アインシュタインやルイ・ド・ブロイらを 背景
はじめとする多くの研究によって、光や電⼦をはじめ、そういった 古典⼒学
現象を⾒せる全てのものは、粒⼦のような性質と波動のような性質 前期量⼦論
を併せ持つと結論付けられた[1]。この現象は、素粒⼦だけではな
く、原⼦や分⼦といった複合粒⼦でも⾒られる。実際にはマクロサ 基本概念
イズの粒⼦も波動性を持つが、⼲渉のような波動性に基づく現象を 量⼦状態 · 波動関数
観測するのは、相当する波⻑の短さのために困難である 。 [2]
重ね合わせ · 可観測量
相補性 · ⼆重性 · 不確定性
トンネル効果 · 排他原理
⽬次 エーレンフェストの定理
量⼦もつれ · デコヒーレンス
歴史 定式化
研究の進展 シュレーディンガー描像
ハイゼンベルク描像
ホイヘンスとニュートン 相互作⽤描像
ヤング、フレネルとマクスウェル 波動⼒学
黒体放射に関するプランクの法則 ⾏列⼒学
ファインマン経路積分
アインシュタインの光電効果の実験 ⽅程式
ド・ブロイの仮説 シュレーディンガー⽅程式
ハイゼンベルクの不確定性原理 ハイゼンベルク⽅程式
パウリ⽅程式
脚注 クライン=ゴルドン⽅程式
ディラック⽅程式
歴史 実験
⼆重スリット実験
世紀の終わりまでには、物質は原⼦と呼ばれるような基本的な粒 シュテルン=ゲルラッハの実
19
⼦でできているとする原⼦論が確⽴していた。電流は初めは流体だ 験
と考えられていたが、陰極線を⽤いたジョゼフ・ジョン・トムソン デイヴィソン=ガーマーの実
の研究によって、電⼦と呼ばれる粒⼦の流れであることがわかっ 験
た。これらの事実によって、⾃然界の⼤部分は粒⼦からできている ベル不等式のテスト
と考えられるようになっていた。波動については同じ頃までに、回 ポッパーの実験
シュレーディンガーの猫
折や⼲渉の現象を通じて、⼗分に理解が得られていた。ヤングの実 爆弾検査問題
験やフラウンホーファー回折の現象から、光は波動だと考えられて 量⼦消しゴム実験
いた。 解釈
しかし20世紀になると新たな問題が持ち上がった。1905年のアイン
観測問題 · ボーム解釈 · 無⽭
シュタインによる光電効果の実験などよって、光が粒⼦のような性 盾歴史 · コペンハーゲン解
質も持つことが⽰され、1923年のコンプトン散乱の発⾒によって確釈 · アンサンブル解釈 · 隠れ
かなものになった。⼀⽅で、粒⼦だと考えられていた電⼦につい た変数理論 · 多世界解釈 · 客
て、電⼦回折が予⾔された後、実験により確かめられ、電⼦が波動 観的崩壊 · 量⼦論理 · 関係性
のような性質も持つことも⽰された。 量⼦⼒学 (RQM) · 統計解釈 ·
交流解釈
粒⼦と波として、それぞれ互いに相容れないように⾒えるが、20世関連項⽬
紀前半の量⼦⼒学の確⽴によってこの難問は解消された。量⼦論に
より、粒⼦と波動の⼆重性は、その両⽅の性質を⽰す量⼦というも 散乱理論
のとして明確化され、20世紀の終わりには⼆重性の正確な定量もな 相対論的量⼦⼒学
された。こうして現代では、古典的な粒⼦説、波動説の⽋点を補 場の量⼦論
い、微⼩系の振る舞いを記述できる。 量⼦情報
量⼦カオス
研究の進展 科学者
ベル • ボーム • ボーア • ボル
ン • ボース • ド・ブロイ • デ
ホイヘンスとニュートン ィラック • エーレンフェスト
最初期の光に関する総合的な理論は、まずホイヘンス、次いでニュ ン• エヴェレット • ファインマ
• ハイゼンベルク • ヨルダ
ートンにより、それぞれ対⽴するようなモデルが提唱された。 ン • クラマース • フォン・ノ
イマン • パウリ • プランク •
ホイヘンスによる光の波動説は光の⼲渉等をよく説明したが、他の シュレーディンガー • ゾンマ
現象について説明できない点があった。 ーフェルト • ヴィーン • ウィ
続いてニュートンによって光の粒⼦説が唱えられた。粒⼦説では光 グナー
の反射が容易に説明され、レンズによる屈折や、プリズムや虹など
で⾒られる分光現象も説明できた[3][4]。
ヤング、フレネルとマクスウェル
1800年代初頭、ヤングとオーギュスタン・ジャン・フレネル
による⼆重スリット実験によってホイヘンスの波動説の証拠 ヤングにより1803年に描かれた⼆重
が得られた。⼆重スリット実験によって、格⼦を通った光 スリット実験の⼲渉縞
は、⽔の流れが作るものと良く似た⼲渉縞を作る。光の波⻑
もこの⼲渉縞のパターンから計算できた。光の波動説はすぐ
に粒⼦説に置き換わることはなかったが、粒⼦説では説明がつかない偏光等の性質も説明できる
ことが分かり、1800年代中頃には光に対する主流な考え⽅になってきた。
1800年代終わり、ジェームズ・クラーク・マクスウェルは、マクスウェルの⽅程式により光は電
磁波の伝播であることを⽰した。この⽅程式は多くの実験によって検証され、ホイヘンスの考え
は広く受け⼊れられていった。
黒体放射に関するプランクの法則
詳細は「プランクの法則」を参照
年、マックス・プランクは、黒体放射の光のスペクトルを再⽣することに成功したと発表し
1901
た。この問題のために、プランクは放射線を発⽣する原⼦のエネルギーは量⼦化されているとい
う数学的な仮定を置いた。後に、量⼦化されているのは原⼦ではなく電磁放射線⾃⾝だと提案し
たのはアインシュタインだった。
アインシュタインの光電効果の実験
詳細は「光電効果」を参照
1905年、アインシュタインはそれまで問題となっていた光電
効果に対して説明を与えた。彼はこの説明のために、光のエ
ネルギーの量⼦である光⼦の存在を仮定した。
光電効果では、⾦属に光を照射することにより、回路に電流
が⽣じる。これは、光が⾦属から電⼦を弾き出し、電流が流
れたものだと推定された。しかし、暗い⻘⾊の光でも電流を
発⽣させるのに対し、強い⾚⾊の光では電流を全く発⽣させ
ないことが分かった。波動説によると、光の波動の振幅は光
の強さに⽐例するとされ、強い光は必ず⼤きな電流を発⽣さ
せるはずである。しかし、奇妙なことに観測の結果はそうな
らなかった。
アインシュタインは、この難問に対し、電⼦は離散的な電磁 光電効果の模式図
場(光⼦と呼ばれる量⼦)からエネルギーを受け取ると説明
した。エネルギー量Eは光の周波数fと、次の関係式で結び付けられる。

ここでhは6.626 × 10-34ジュール秒の値を持つプランク定数であり、⼗分⾼い周波数の光⼦のみが
電⼦を弾き出せることが分かる。例えば、⻘⾊光の光⼦は⾦属から電⼦を解放するのに⼗分なエ
ネルギーを持っているのに対し、⾚⾊光の光⼦は⼗分なエネルギーを持たない。より⾼い周波数
の光⼦は、より多くの電⼦を弾き出せるが、周波数が基準以下だと、いくら強い光でも電⼦は弾
き出せないことが分かる。
光電効果は、アインシュタインの1921年度のノーベル物理学賞受賞の受賞理由とされた。
ド・ブロイの仮説
詳細は「ド・ブロイ波」を参照
1924年、ド・ブロイはド・ブロイ波の仮説を発表した。この仮説は光⼦だけではなく全ての物質
が波動性を持つとするもので[5][6]、波⻑λと運動量pが次の式で関係付けられた。

これは、光⼦の運動量pをp= 、光⼦の波⻑λをλ= (cは真空中の光速度)とした、アインシュ


タインの式の⼀般化である。
ド・ブロイの式は3年後に電⼦について電⼦回折の観察をする2つの別々の実験によって検証され
た。アバディーン⼤学のジョージ・パジェット・トムソンは薄い⾦属フィルムに電⼦ビームを通
し、予想された⼲渉パターンを得た。ベル研究所のクリントン・デイヴィソンとレスター・ジャ
マーは結晶格⼦に電⼦ビームを通して同じ結果を得た。
ド・ブロイはド・ブロイ波の考案によって、1929年にノーベル物理学賞を受賞した。トムソンと
ディヴィソンも1937年のノーベル物理学賞を分け合った。
ハイゼンベルクの不確定性原理
詳細は「不確定性原理」を参照
ヴェルナー・ハイゼンベルクは、量⼦⼒学の公式化を進める中で、次のように表される不確定性
原理を仮定した。

ここで、
は標準偏差、
xとpはそれぞれ粒⼦の位置と運動量、
はプランク定数を2πで除したものを表している。
ハイゼンベルクは、初めのうちは⾃⾝の発⾒を、測定のプロセス上⽣じる現象だと説明してい
た。粒⼦の位置を正確に測定しようとすると運動量が乱され、逆に粒⼦の運動量を正確に測定し
ようとすると位置が乱される。しかしこれは現在では不確定性の⼀部にすぎず、不確定性は観測
のプロセスではなく粒⼦そのものに存在することが理解されている。
実際に、現在の不確定性原理の説明は、ニールス・ボーアとハイゼンベルクによって考案された
コペンハーゲン解釈に拡張され、粒⼦の波動性に明確に依存している。ここでは波動の正確な位
置を論じることは意味をなさず、粒⼦の完全に正確な位置も決まらない。さらに位置が⽐較的よ
く定まると、波動はパルス状になり、波⻑は定まらなくなる。
ド・ブロイ⾃⾝は粒⼦と波動の⼆重性を説明するためにパイロット波を提案していた。この考え
⽅では、それぞれの粒⼦の位置と運動量は精度良く定まるが、シュレディンガーの式に由来する
波の性質も⽰す。パイロット波理論は、複数の粒⼦に適⽤すると局在性を⽰さなくなることか
ら、初めは否定された。しかしすぐに、⾮局在性は量⼦理論の積分により得られることが分かっ
た。また、デヴィッド・ボームによってド・ブロイのモデルが拡張された。
脚注
1. ^ Walter Greiner (2001). Quantum Mechanics: An Introduction (http://books.google.com/books?i
d=7qCMUfwoQcAC&pg=PA29&dq=wave-particle+all-particles&as_brr=3&sig=2uPutqrcV_8vP
VJwJnw3jstZj-o#PPA30,M1). Springer. ISBN 3540674586
2. ^ R. Eisberg and R. Resnick (1985). Quantum Physics of Atoms, Molecules, Solids, Nuclei, and
Particles (2nd ed. ed.). John Wiley & Sons. pp. 59-60. ISBN 047187373X. "For both large and
small wavelengths, both matter and radiation have both particle and wave aspects. ... But the
wave aspects of their motion become more difficult to observe as their wavelengths become
shorter. ... For ordinary macroscopic particles the mass is so large that the momentum is always
sufficiently large to make the de Broglie wavelength small enough to be beyond the range of
experimental detection, and classical mechanics reigns supreme."
3. ^ "light (http://www.bartleby.com/65/li/light.html)", The Columbia Encyclopedia, Sixth Edition.
2001-05.
しかし、固定端や⾃由端における波の反射現象はよく知られるものであり、屈折や分光とい
4. ^
った現象も媒質による光速の違いやその周波数依存性などとして、こんにちでは波で説明され
ることも多い。
5. ^ Donald H Menzel, "Fundamental formulas of Physics", volume 1, page 153; Gives the de
Broglie wavelengths for composite particles such as protons and neutrons.
6. ^ Brian Greene, The Elegant Universe, page 104 "all matter has a wave-like character"

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