308Lオ ース テナ イ トステ ンレス鋼溶接金属 の

低 温 じん 性 に 及 ぼ す 再 熱 の 影 響
オ ー ステ ナ イ トス テ ン レ ス鋼 溶 接 金 属 の低 温 じん 姓(第5報)

恩沢 忠 男,高 崎 明 人,関口 優

Effect of Reheating on Low Temperature Toughness of Type 308L

Austenitic Stainless Steel Weld Metal
Low Temperature Toughness of Austenitic Stainless Steel Weld Metal (Report 5)

by Tadao Onzawa, Akito Takasaki, and Masaru Sekiguchi

原 稿受付 昭 和62年7月13日 昭 棚62年 度 春 季 全 国 大 会 で 発 表

正 員 東 京 工 業 大 学 工 学:部Member , Fuculty of Engi-
neering, Tokyo Institute of Technology
正員 東 京 工 業 大 学 大 学 院(現 日 本 原 子 力 研 究 所)Member ,
Graduate School, Tokyo Institute of Technology

(Present Adress, Japan At, Energy Res, Inst.

東 京 工 業 大 学 大 学 院Graduate School, Tokyo Insti-
lute of Technology

76
 溶 接 学 会論 文 集 第6巻(1988)第2号273

An auther's previous paper had reported on the effect of heat-treating on the low temperature tough-

ness of Type 316L weld metal.

In this paper, the same study on Type 308L weld metal was carried out whose the heat-treating con-

dition was at temperature from 923 to 1523K for time from 2s to 24h.

In heat-treating the weld metal with ƒÂ ferrite above 2%, the absorbed energy decreased with increasing

the amount of prior a ferrite and particulary in the case of heat-treated temperature of 923K, degradation

of absorbed energy was remarkable. This tendency was opposite to the result of Type 316L weld metal.

This aws suggested that the addition of Mo was shifted Time-Temperature-Sensitization curve of the weld

metal to the left side.

In the other hand, the absorbed energy of fully austenitic weld metal was constant independent of

heat-treating time and temperature.

In the Type 316L weld metal reported previously, the absorbed energy tended to rise slightly by

heat-treating for time up to 120s. In this Type 308L weld metal, however, such a tendency was not

observed. This was considered to be attributed to somewhat good coherency of ƒÂ/ƒÁ intreface as com-

pared to the case of Type 316L weld metal, in particular, in case of eutectic ƒÂ ferrite weld metal.
The decomposition of ƒÂ ferrite in this Type 308L was somewhat slower than that in the Type 316L.

This was considered to be due to good coherency of ƒÂ/ƒÁ interface.

Key Words: Austenitic Stainless Steel, Weld Metal, Low Temperature Toughness, Heat Treatment,

Delta Ferrite

溶接金 属は前報 と同様,2s∼120sま で は高 周 波 誘 導

1.緒 言
加 熱 装 置 に よ り,そ れ よ り侵 時 間 の もの は電 気 灯炉によ り
Moを 多量 に 含 有 した オ ー ス テ ナ イ トス テ ン レス鋼 を 熱 処 理 を 行 い,そ の 後 空 冷 とす る熱 処 理 条 件 及 び方 法 で
熱 処 理 す る と,特 に 鋭敏 化 温 度 域 で じん 性 は一 般 に低 下 熱 処 理 を 行 った 後,試 験 混 度77Kで シ ャル ピー衝 撃 試
しや す くな る と言 わ れて い る.こ れ はMoを 含 有 した 験 を 行 った.
こ とに よ り σ 相 が 生 成 し易 くな り,し か も,そ の 量 の 熱 処 理 後 の 析 出物 の 同 定 は 電 子 線 回 折 に よ って 行 っ
増 加 と共 に σ 相 も増 え る こ と に原 因 して い る もの と考 た 。 こ の場 合 の 試 料 作 製 方 法 も前 報 と同一 で あ る.
え られ て い る.
3.実 験 結 果
著 者 らは 既 に2.2wt.%Moを 含 有 して い る316L溶
接 金 属 の 低 温 じん 性 に及 ぼ す熱 処 理 の影 響 につ いて 検 討 3.1熱 処 理 材 の 吸 収 エ ネ ル ギ ー と熱 処 理 前 の ∂ フ ェ
した.そ の 結 果,共 晶 δ フ ェラ イ トを 生 成 す る場 合, ラ イ ト量 の 関 係
熱 処 理 に よ る δ フ ェ ラ イ トの 残 存 率 の 低 下 は 初 晶 δ 熱 処 理 後 の 溶 接 金 属 の 吸収 エ ネ ル ギ ー と熱 処 理 前 の δ
フ ェ ラ イ トの 場合 よ り大 きい こ と,ま た120s以 内の短 フ ェ ラ イ ト量 の 関 係 を 熱 処 理 時 間 別 に ま とめ た も の を
時 間 熱 処 理 を 行 った 溶接 金 属 の 吸収 エ ネ ル ギ ー は溶 接 の Fig.1(a)∼(f)に 示 す.
ま ま材 の そ れ よ り上 昇 す る こ とな ど を 報 告 した. 熱 処 理 時 間 が2s,の 場 合(a),吸 収 エ ネ ル ギ ーは 固 溶 化
そ こで 本 報 で は,Moが ほ とん ど含 ま れ な い308L溶 温度 域 で あ る1423及 び1523Kで は溶 接 の まま 材 の そ れ
接 金 属 を 用 い,そ の 低 温 じん 性 に 及 ぼ す 再熱 の影 響 を 調 よ り若 干 上 昇 す る傾 向 を 示 して い る.こ れ らのSEM破
べ た .ま た,前 報 の316L溶 接金 属 の場 合 と も比 較 面 は 全 て 溶 接 の ま ま材 と同 様 全 面 にデ ィンプ ル を 示 して
を 行 い,Mo添 加 の 効 果 に つ い て も検 討 を行 った. い た.熱 処 理 温 度 が923び1123Kに な る と,熱 処HN
材 の 吸 収 エ ネ ル ギ ー は溶 接 の ま ま材 の その 値 と比 較 して
2.供 試材及び実験方法
ほ とん ど変 化 を示 して い な い.
母材及び溶接金属は前報 で 用 い た 試 料 と同 じ もの で Fig.1に 破 線 で 示 した 溶 接 の まま 材 の 吸収 エ ネ ル ギ ー
あ る.母 材 はSUS304Lオ ー ステ ナ イ トステ ン レ ス鋼 を,δ フェ ラ イ ト量 が2∼3%と6%の と こ ろで 比 較 す
で,溶 接 金 属 はER308Lワ イ ヤを 用 い,1パ スの サ ブ る と前 者 の 方 が約10J低 い.熱 処 理 材 で は,熱 処 理 時
マ ー ジア ー ク溶 接 に よ り作 製 した もの で あ る.ま た,δ 間120∼600sま で この 傾 向(δ フェ ラ イ ト量2∼30の
フ ェ ラ イ ト量 の 調 節 は フ ラ ッ ク ス中 にCr,Niを 添加 す 溶 接 の ま ま材 の 吸収 エ ネ ル ギ ーが5∼6%の もの よ り低
る こ とに よ り行 った.そ れ らの 化 学 成 分 及 び δ フ ェ ラ い こ と)が 残 って い る(Fig.1(d),(e) .し か し,そ れ よ
イ ト量(pointcount法)をTablelに 示 す.こ れ らの り熱 処 理 時間 が 増 加 す る と吸 収 エ ネル ギ ー は単 純 に熱 処
理 前 の δ フ ェ ラ イ ト量 の増 加 と共 に低 下
Table 1 Chemical compositions of base metal and weld metals す る.こ の 傾 向 は 熱処 理温 度 が1123K
used (wt.%) よ り923Kの 場 合 の 方 が著 し く,前 報
の316L溶 接 金 属の 場 合 と逆 の 関 係 を 示
して い る.
3.2熱 処 理 材 の 吸収 エ ネ ル ギ ーと 熱
処理時間の関係
Fig.2(a)∼(d)に 各溶 接 金 属 の 吸 収 エ ネ
ル ギ ー と 熱 処理 時 間 の関 係 を 示 す.完全

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274研 究論 文 恩 沢 他:308Lオ ー ス テ ナ イ トス テ ン レ ン鋼 溶 接 金 属 の 低 温 じん性 に 及ぼ す 再 熱 の影 響

Fig. 1 Relation between absorbed energy and delta ferrite content before PWHT for various heat
treating times

Fig. 2 Relation between absorbed energy and heat treating time for various weld metals

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 溶 接 学 会論 文 集
オ ー ス テ ナ イ ト組 織 の 場 斜(a),吸 収 エ ネル ギ ー は 熱処 理
温 度 及 び 時 間 に 関 係 な くほ ぼ 一 定 で70J程 度 で あ る.
これ らのSEM破 面 は 全 て 完 全 デ ィンプ ル を 示 して お
り,熱 処 理 時 間86-4ks(24h)ま で の再 熱 に よ る じん 性
の 低 下 は み られ な い.
一 方,共 晶 δ フ ェ ラ イ ト溶 接 金属(b)の 吸 収 エ ネ ル
ギ ーは 熱 処 理 温度 が 異 な って も顕 著 な変 化 は 認 め られ な
い.ま た,両 熱 処 理 温度 と も熱 処 理時 間600sま でで は
吸 収 エ ネル ギ ーは ほ とん ど 一定 で,溶 接 の ま ま材 の そ れ
と同 じ値 を 示 して い る.し か し,そ れ 以上 熱 処 理 時 間 が
増 加 す る と吸 収 エ ネル ギ ー は多 少 低 下 す る よ う に な り,
86.4ks(24h)で は,両 熱 処 理 温 度 と も溶 接 の ま ま材 の
値 よ り約10J低 くな って い る.
共 晶 δ フ ェラ イ ト組 織 の 溶 接 金 属 の 場 合 のSEM破
面 をFig.3に 示す,比 較 的 短 時 間 の 熱 処 理 の 場 合(a)で
は,完 全 デ ィンプ ル を示 して い る.し か し,熱 処 理 時 間
が600sに な ると(b)完全 デ ィ ンプ ルを 示 し て い る も の
の,凝 固組 織 に 沿 って デ ィ ンプ ル が伸 び て い る.ま た,
熱処 理 時 間 が3.6ks(1h)で は(c),凝 固 組 織 に沿 った 破
壊 が 顕 著 に な り,破 面 内 の フ ラ ッ トな 部 分 は セ ル も し く
は セ ル ラ ーデ ン ドラ イ ト境 界部 に 沿 って 破 壊 して い る こ
Fig. 3 Scanning electron microfractographs of
specimen WM12 at 923K: (a) 30s, (b)
600s, (c) 3.6 ks
79
第6巻(1988)第2号275
とが 明 らか で あ る.
初 晶 δ フェ ライ ト組 織 の 場 合 の 吸収 エ ネ ル ギ ー と 熱
処 理 時 間の 関 係 をFig.2(c)及 び(d)に示 す.熱 処 理 温 度 が
1123Kで は(C)及び(d)共に,熱 処 理 時 間が 増 加 して も吸
収 エ ネ ル ギ ー は ほ とん ど変 化 しな い.こ れ らの 破 面 は 企
て 完 全 デ ィ ンプ ルを 示 して いた 。 しか し,熱 処 理 温 度 が
923Kで は,吸 収 エ ネ ル ギ-は 熱 処 理 時 間 が2∼120sま
で は ほ とん ど変 化 しない が,そ れ 以 上 熱 処 理 時 間 が 増 加
す る と大 き く低 下 す る 傾 向 を示 して い る.こ の 場 合 の
SEM破 面 をFig.4に 示 す.熱 処 理 時 間 が120sま で は
(a),完 全 デ ィ ンプ ルを 示 して い る.し か し,熱 処 理 時 間
が600sで は(b)デ ィンプ ル が 破 面 の 大 部 分 を 占 め て い
る もの の,部 分 的 に 擬 へ き開 が 認 め られ る.ま た,熱 処
理 時 間 が86.4ks(24h)で は,ぜ い 性 破 面 の 占 め る割 合
が 多 くな って い る 。
3.3析 出物の同定及び透過電子顕微鏡観察
析 出 物 の 同 定 は 一 般 にX線 回 折 に よ り行 わ れ て い る,
しか し,本 報 で 用 い た 試 料 は 熱 処 理 時 間 が 比 較 的 短 い た
め 析 出 物 の 量 が 少 な く,電 解 抽 出 残 渣 を 取 る こ とが 因 難
で あ った.そ こで,本 報 で は 析 出 物 の 同 定 は電子 線 回 折
Fig. 4 Scanning electron microfractographs of
specimen WM14 at 923K: (a) 30s, (b)
600s, (c) 86.4ks
 278研 究論文 恩 沢 他:308Lオー ステ ナ イト ステ ン レス鋼 溶 接 金 属 の 低 温 じん 性 に及ぼ す 再 熱 の 影 響

の み に よっ て行っ た.そ の 結 果 をTable2に 示 す.こ こ 認 め られ る が,こ の析 出 量 は923Kの 場 合 よ り少 な い.

で は 共晶δ フェ ラ イ ト組 織 のWM12及 び 初晶δ フェ また,σ 相 の 析 出 は 認 め られ な か った.
ラ イ ト組 織 のWM14の 結 果 を 示 した . Fig.5にM23C6及 び σ相 の典 型的 な透 過 電子 顕 微 鏡
熱 処 理温度923Kの 場 合,WM12で は熱 処 理 時 間が 組 織 を 示 す.(a)に 示す よ う に,本 報 で用 い た308L溶 接
30s以上 及 びWM14で は600s以上 でM23C6の 析出 金 属 の 試 料 で は,316L溶 接 金 属 の そ れ に 認 め られ た よ
が 認 め ら れ る.こ の温 度 で はM23C6の 析出 はWM12 うなδ フ ェラ イ ト内 に析 出 したM23C6は 認 ふ られ な
の 方 がWM14よ り 早 い こ と が わ か る .ま た,σ 相 の 析 か った.ま た,(a)で はM23C6が δ→ γ 変 態 の後 に で き
出 に つ い て もWM12の 場 合3.6ks(1h)か ら で あ り, た 新 しい δ フェ ラ イ ト/オー ス テナ イ ト界 面 に も析 出す
W M14で は86.4ks(24h)か ら と,そ の 析 出 時 間 は る こ とを 示 して い る.
WM12の 方 がWM14よ り 早 い.
4.考 察
一方
,熱 処 理 温 度1123Kの 場 合,WM12及 び14両 溶
前報 と同 じ方 法 に よ り各 溶 接 金 属 の δ フェ ラ イ ト
援 金 属 と もM23C6の 析 出 は 熱 処 理 時 間 が600s以上 で
量の 残 存 率 を 測 定 した.Fig.6(a)及 び(b)にそ の 残 存 率 と
Table 2 Results of electron diffraction analysis 熱 処 理 時 間 の 関 係 を 熱 処 理 温 度923及 び1123Kそ れぞ
れ の 場 合 に つ い て 示 す.な お,δ フェ ラ イ ト量の残 存 率
は 前 報 と 同様,溶 接 の ま ま材 の δ フ ェラ イ ト蟻 をX0,
熱 処理 後の δ フェ ラ イ ト量をXと した と きのX/X0で
定 義 した,こ こで,δ フェ ラ イ ト量 は フェ ラ イ トス コー
フ に よ り測 定 した.
熱 処 理 温 度923Kの 場 合(a),各 溶 接 金 属 と も熱 処 理
時 間増 加 に対 す る δ フェ ラ イ ト残 存 卒 の 低下 は ほぼ 同
じ傾 向を 示 して い る.こ の 場 合 の δ フェ ラ イ ト残 存 率
は熱 処 理 時 間 が600s以 上 にな る と低下 し始 め る こ とが
わ か る.δ フ ェ ライ トを 含 有 す る溶 接 金 属 の 場 合,前 述
の 吸 収 エ ネル ギ ー は600s以上 で低 下 し始 め る こ とが 認
め られ た,す な わ ち,こ の低下 と δ フ ェ ラ イ ト残 存 率
の低下 は対 応 して い る.こ の こ とか ら,再 熱 に よ る吸 収
エ ネル ギ ーの低 下 は,M23C6や σ 相 の析 出 に原 因 して
い る もの で あ り,特 に σ相 の 析 出 が 認 め られ る と,そ の
低 下 は 著 し くな る こ とが わか る.
熱 処 理 温 度1123Kの 場 合(b)では,初 晶 δ フェ ライ ト

Fig. 5 Transmission electron microstructures o

f precipitates: (a) M23C6 (WM114, 923K,
3.6ks), (b) sigma phase (WM114, 923K,
86.4 ks), (c) selected area diffraction Fig. 6 Relation between fraction of delta Ferrite
remaining and heat treating time
pattern of sigma phase

80
 溶 接 学会 論 文 集 第6巻(1988)第2号277

溶 接 金 属 の場 合 よ り共 晶 δ フ ェ ラ イ ト溶 接 金 属 の場 合 86.4ksの 熱 処 理(1423及 び1523Kは2sの み)を 行

の 方 が δ フ ェ ライ ト残 存 率 の 低 下 が 大 きい こと が わか い,シ ャル ピ ー衝 撃 試 験(温 度77K)及 び電 子 顕 微 鏡 観
る.こ れ は,共 晶 δ フ ェ ラ イ ト/オ ー スデ ナ イ ト界 面 の 察 等 か ら,そ の 低 温 じん 性 へ の 再 熱 の 影 響 の検 討 及 び前
整 合 性 が 初 晶 δ フ ェ ラ イ トの 場 合 の そ れ と比較 して 多 報 の316Lの デ ー タ との 比較 を 行 い,Mo添 加 の効 果 に
少 悪 い こ とに原 因 して い る もの と考 え られ る3).こ の こ つ いて も検 討 した結 果,以 下 の 結 論 が 得 られ た.
と は,Table2に 示 した 熱 処 理 温 度923Kの 場 合 に も現 1)完 全 オ ー ス テ ナ イ ト組 織 の308L溶 接 金 属 は,本
わ れ て い る と考 え られ る.熱 処 理 温 度1123Kの 場合の 研 究 で の熱 処 理 条 件 下 で は,吸 収 エ ネル ギ ー に大 きな 変
δ フ ェ ライ ト残 存 率 の 低 下 は,Table2に 示 した よ うに 化 は認 め られ ず,溶 接 の ま ま材 と同 程 度 の 値 を 示 した 。
ほ とん どM23C6に の み 原 因 して い る こ とが わ か る.こ 2)δ フ ェ ライ トを含 有 す る溶 接 金 属 で は,熱 処 理 時
の 場 合 の 吸 収 エ ネ ルギ ー は,前 述 の よ うに 熱 処 理 時 間増 間が120∼600sま で は吸 収 エ ネル ギ ーは ほ ぼ溶 接 の ま
加 に対 して も大 き く低 下 して い な い.す な わ ち,M23C6 ま材 の傾 向を 示 す が,そ れ 以 上 熱処 理 時 間 が 増 加 す る
の み の 析 出 で は 吸 収 エ ネル ギ ー は著 し く低 下 しな い こ と と,そ れ は単 純 に熱 処 理 前 の δ フ ェ ラ イ ト量 の増 加 と
が 言 え る. 共 に低 下 す る.こ の 傾 向 は 熱 処 理 温 度1123Kよ り923
Vitekら は308系 のGTA溶 接金 属 に つ い て,残 存 δ Kの 場 合 で 著 し く,316L溶 接 金 属 の 場 合 と逆 の関 係 を
フ ェ ラ イ ト量 と熱 処 理 時 間の 関 係 を 調 査 して い る.こ れ 示 して い る.
に よ る と,熱 処 理 時 間が923及 び1123Kの 場 合 で は, 3)3081.溶 接 金 属 の 短 時 間熱 処 理 で は,316Lで 認
ほ ぼ同 一 の 傾 収 を示 す こ とが 報 告 され て い る.し か し, め られ た よ う な傾 向 す な わ ち熱 処 理 材 の 吸収 エ ネル ギ ー
この 場 合 の析 出 物 の定 量 評 価 を 電 解 抽 出 に よ り行 わ れた が溶 接 の ま ま材 の それ と比 較 して 著 し く上昇(も し くは
結 果,同 一 熱処 理 時間 にお い て は,熱 処 理 温 度1123K 回復)す る と い う傾 向 は 認 め られ な か った.こ れ は層,308
の 場 合 よ り923Kの 場 合 の 方 が 得 られ た 析 出 物量 が多 い L溶 接 金 属 が316Lの 場 合 よ り,特 に共 晶 δ フェ ラ イ
こ と も示 され て い る.本 研 究 の 場 合 の δ フ ェ ラ イ ト残 ト/オー ス テ ナ イ ト界 面 の 整 合 姓 が 良 好 な こ とに 起 因 し
存 率 の 低 下 は,熱 処 理 温 度 が1123Kの 場 合 よ り923K て い る と考 え られ る.
の方 が 大 き く,上 述のVitekら の 電 解 抽 出 結 果 と一 致 す 4)308L溶 接 金 属 の 熱 処 理 に よ る δ フ ェラ イ ト残 存
る もの と考 え られ る.こ の よ う に,308Lの 再熱による 率 の 低 下 は,熱 処 理 温 度 が1123Kよ り923Kの 場合の
δ フ ェ ラ イ ト残 存 率の 低 下 及 び 吸収 エ ネ ル ギ ー の 低 下 方 が著 しい.こ れ は316L溶 接 金 属 の場 合 の 傾 向 と逆 で
は,1123Kよ り923Kの 方 が大 きい の に対 し,316L あ る.ま た,共 晶 δ フ ェ ラ イ ト溶 接 金 属 の場 合 の そ の 低
の場 合 で は923Kよ り1123Kの 方 が 大 き く,そ れぞ 下 は,初 晶 δ フ ェ ラ イ トの 場 合 よ り著 しいが,316Lの
れ 逆 の 関 係 を 示 して い る.こ れ は溶 接 金 属 へMo添 加 場 合 ほ ど顕 著 な もの で は な い.こ れ に も両者 の 整 合 性 の
を 行 わ な い と,TTSカ ー ブが 長 時 間 側 ヘ シ フ トす る こ 相 違 が 原 因 して い る もの と考 え られ る.
とが 考 え られ る.特 に,こ の 傾 向 は 熱 処 理 温 度1123K 最 後 に御 指 導 頂 いた 田 村 博 名 誉教 授 供 試 材 を 作製 し
で 著 し くな る と考 え られ る. て 頂 い た(株)神戸製 鋼 所溶 接棒 事 業部 技 術 部 荒 井 敏 夫 氏 及
316Lの 場 合 に お い て,共 晶 δ フ ェ ラ イ トを 有 す る び 上 月 映 野 氏,並 び に御 協 力頂 い た船 舶 技 術 研 究 所 小 林
溶 接 金 属 の短 時 間熱 処 理 で は,熱 処 理 温 度増 加 と共 に吸 卓也 氏,植 松 進 氏 及 び 金 属 材料 技 術研 究 所 渡 辺 健 彦 氏 に
収 エ ネル ギー が 溶 接の ま まの もの よ り著 し く上昇 す る傾 厚 く感 謝 致 しま す.
向 を示 した.し か し,本 研 究 の308Lで は,そ の よ うな
参 考 文 献
傾 向 は ほ とん ど認 め られ な い.こ れ は,308Lの 共晶 δ
フ ェラ イ ト溶 接 金 属 の δ フ ェラ イ ト/オ ー ス テナ イ ト界 1) 例 え ば 長 谷 川 正 義 監 : ス テ ン レス 鋼 便 覧, 日刊 工 業 (1973), 357,
面 の整 合 性 が316Lの 場 合 よ り良好 な こ と に原 因 して 433
い る もの と考 え られ る.す な わ ち,316Lで は,セ ル ラ 2) 恩 沢 ら : SUS316L溶 接 金 属 の 低 温 じん 性 に及 ぼ す 再 熱 の 影 響,
ー デ ン ドラ イ ト粒 界 に沿 った破 壊 → 完 全 デ ィ ンプ ル に近 本 誌, 5-2(1987). 262-268
3) 恩 沢 ら : 308Lオ ー ス テ ナ イ トス テ ン レ ス鋼 溶 接 金 属 の 低 温 じん
い破 壊 と い った遷 移 を熱 処理 温 度増 加 と共 に示 す.し
性 に 及 ぼ す δ フ ライ トの 影 響, 本 誌, 5-4 (1987), 511-515
か し,308Lで は上 述 の 原 因 に よ り,全 て の 熱 処理 温 度
4) 田 村 ら : SUS316L溶 接 金 属の 透過 電子 顕微鏡観察 及び ミクロ
の もの と も完 全 デ ィ ンプ ル に近 い 破 壊形 態 を 示 して い 分 析, 本 誌, 5-2 (1987), 256-262
る. 5) 恩 沢 ら : SUS316L溶 接 金 属 の 再 熱 に お け るM23C6及 び σ相 の
析 出 過 程, 本 誌, 6-1(1988), 128-132
5.結 言 6) J. M. Vitek and S. A. David ; The Solidification and

δ フ ェ ラ イ ト量 の異 な る1パ ス の3081.サ ブマ ー ジ Aging Behavior of Types 308 and 308 CRE Stainless Steel
Welds Weld. J., 63-8(1984), 246s-253s
ア ー ク溶 接 金 属 を923Kか ら1523Kの 温 度 で2sか ら

81