J365

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防御特化と八層2。

水上まで飛び出た建造物同士に掛けられた橋を渡って、メイプル達は八層のギルドホームへとやってきた。八
層のギルドホームでは一部水没した部分があり、完全に水中に沈んだ階段からさらに下へと進んでいけるよう
になっている。

「こっちって行っても大丈夫なのかな?」

「ギルドホームの中にあるんだし、危険ってことはないと思うけど……ちょっと見てみようか?」

泳ぎが得意なサリーが足を踏み入れようとすると、ウィンドウが表示されて現在進入不可であることが告げら
れる。

「っと、駄目みたい。でも……この感じだと条件を達成すればいいのかな?」

まだまだ分からないことばかりなため、まずは探索が必要だろう。サリーは運営から届いていたメッセージに
改めて目を通す。前回のイベントの累計討伐数達成によって、八層でプレイヤーを助ける要素が解放されてい
るはずである。

「きっとそれが関わってるんじゃない?」

「じゃあ早速探索だね!」

メイプルに合わせて、いつも通り全員がそれぞれ町へと繰り出してざっと様子を見にいくことにする。

町自体もほとんどが水没しており、NPC が船で移動している様子も見ることができる。徒歩で行くなら建物の
間にかかった橋を渡っていく必要があるようだ。

メイプルは今回はサリーと二人、八層の町を見て回ることにして、ギルドホームから出ると八層の町を歩いて
いく。

「水の中の建物も入れるのかな?」

「どうだろう?結構深いところまであるみたいだけど……」

透明度の高い水中には今の建物の土台になっている建物が見える。サリーの言うように、それはいくつも重な
ってかなり深くまで続いているように見える。

「町の外を見てもずっと向こうまで水没してるし、水中探索の方法があるはず」

そうでなければ水面から突き出た僅かな建物を探索するだけの層ということになる。そんなはずはないだろう
と町を歩く二人は、早速探していたものを見つける。

それは三層で空を飛ぶための機械を売っていた NPC によく似たものだった。いくつも並べられた潜水服はまさ


に水中探索をしてくれといっているようなものである。
「ちょっと見てみよっか」

「うん!」

二人が品物を見ていると、NPC が勝手に話し始める。

「水中探索にはこいつらが必須さ!水の中から引き揚げたお宝次第じゃもっと深くまで潜れるようにできるか
もしれないぞ?」

それと同時に二人の前にウィンドウが表示され、運営からのメッセージが伝えられる。

八層で早めに解放されたのはこの潜水服であり、水中探索を助けるものになっているとのことだった。前回の
イベントで手に入ったアイテムと合わせて探索を進め、より深くにまで至り、水底に眠る装備品を手に入れる
のがこの層での目的となるのだ。

「ガンガン潜って強化パーツになりそうなものを手に入れて、もっと深くまで行けるようにしてレア装備を探
すって感じだね。ギルドの下もこれで入れるようになるみたい」

「おおー……こんなに深かったら色んなものが沈んでそうだよね!」

「沈没船のお宝とかあるかもよ?サルベージしないとね!」

かつての文明の跡とも言えるような水に侵食された建造物。その中にはサリーが言うようにいくつもお宝が眠
っているのかもしれない。四層のように要素解放のために時間をかける必要があるため、急ぐに越したことは
ないだろう。

「じゃあ早速買っちゃおう!」

「うん、そうしよう。で、試しに潜ってみようよ」

「さんせーい!」

メイプルとサリーはそれぞれ潜水服を選ぶと、ほとんど足場すらない、水に覆われたフィールドへと向かって
いくのだった。

そうしてサリーはボートにメイプルを乗せるとフィールドへと漕ぎ出る。

八層は四層に性質が近く、先ほど買った潜水服をグレードアップさせていかなければ思うように行動できない。
潜水服の説明から分かるのは適性のない深さまで潜ると、水中での活動可能時間が急速に減少していくという
ことである。そのため、何箇所かある浅めのエリアを探索することで素材をサルベージし、より深いところを
目指すことになる。
「ほんとにもう海って感じだね」

「うん、足場がないからモンスターも歩き回ってないし。今までにない探索になりそう」

「私は泳ぐのは得意じゃないし……頑張ってアイテム集めないと!」

潜水服や前回のイベントで手に入った水中探索用アイテムは、あくまで探索を補助するものである。【水泳】
や【潜水】のスキルを持たないメイプルは、それらを持つサリーと比べれば、元々潜っていられる時間が短く、
機動力も劣る。じっくり探索するにはアイテムを揃えて、その時間をより伸ばしていく必要がある。

水中の様子もまだよく分からないため、町からそこまで離れることはせず、二人は初期潜水服で潜れるエリア
にやってきた。

サリーはそこでボートを漕ぐのをやめると、潜水服を身につける。潜水服は装備品ではないものの、見た目を
上書きするようで、サリーはいつもの青い服ではなくウェットスーツを身に纏った状態となった。

水中での機動力に補正がかかるが水中での活動可能時間はそこまで伸びないタイプで、素早く探索するサリー
向けと言える。

「見た目は変わるけど……うん。装備自体はそのままみたいだね」

「そういうのは初めてかも!今までは着替えたりしてたし……」

「これでフィールドに出るわけだし、装備のスキルとかステータスはそのままじゃないと大変だからかな?こ
ういうのが今後増えるなら戦略にも追加できるかも……」

メイプルの黒装備の見た目を変更してしまえば、相手の想定外のスキルを使用することもできるだろう。潜水
服は八層限定のため、今後に期待というわけである。

ともあれ、今は探索ということで、メイプルも潜水服を身につける。メイプルのそれは宇宙服のように全身を
きっちり覆っており、後ろに酸素ボンベらしきものまで背負っているものである。顔の部分だけが透明になっ
ているため、そこからメイプルの表情がうかがえる。

サリーのものと違い潜っていられる時間は長くなるものの、水中移動の初期性能は劣るタイプのもので、いっ
そ素早い移動は諦めてゆっくり歩いて水中探索をするつもりなのだ。

「おおー、付けてるところをみると結構本格的だね」

「そう?」

「うん、長く潜れそう」

「よーし、じゃあ早速どれくらい潜れるか確かめてみよう!」

「そうだね。せーので潜ろうか」
「うん!」

二人はタイミングを合わせて水中へと飛びこむ。水飛沫が上がり、目の前を大量の泡が通過していく。そうし
て、クリアになった二人の前に広がったのは、透き通った青い水の世界と、水に侵食され遺跡と言っていいほ
どに古びて、ボロボロになってしまった建造物群だった。

その周囲をモンスターでない小魚が泳いでいたり、様々な水草が揺らめいていたりする中に、ちらほらとモン
スターの姿も見える。今すぐこちらに向かっては来ないようだが、注意は必要だろう。

「どう?メイプル」

「わっ!?サリー?」

二人が今いるのは水中なのだが、サリーの方から自然に声が聞こえてくる。メイプルはしっかり確認していな
かったものの、八層の潜水服は特別仕様なのだ。

「八層は見ての通りこんな感じだから、水中で快適に探索するために、意思疎通は取れるようになってるみた
い」

「へぇー、そうだったんだ……何か不思議な感じだね」

「活動限界だけ気をつけて、ちょっと探索していこう。普段と違って移動も大変だしね」

声は聞こえるとはいえ、水中であることに変わりはないため、泳いで移動していくしかないのだ。

「少なくともこの辺りはこっちから攻撃しなければモンスターも襲ってこないみたいだから、まずは建物の中
入ってみよう」

「うん!」

すぐに浮上できないような場所は余裕のあるうちに入っておくべきだと言える。サリーが先導しつつ、水中に
沈んでしまった建物の中へと入っていく。既に扉や窓ガラスはなくなっているため、たやすく侵入することが
でき、二人は早速内部を探索することにした。

部屋の中には家具などは既になく、かわりに水草やそこに住む小魚、大きなシャコガイなどが見て取れた。

「宝箱っていう感じのはなさそう?」

「まだまだ水面から数メートルだからね。そういう本命は結構先かも」

「おおー、楽しみだね!」

「ま、そのためにも潜水服強化の素材集めが必要なんだけど……」
それらしいものはないかと、二人で水草を掻き分ける。

「サリー、こっち階段あるよ!」

「下りてみよっか。外から見た感じだと何かあっても窓とかから飛び出せそうだし」

沈みゆく中で上に増築を繰り返したという風になっているため、階段や窓、扉などの配置は普通の家とは少し
違う。どの階も水面が上昇すれば地上一階になるのだから、出入り口や階段がいくつもあるのも不思議ではな
い。

二人が今いるのは一番最近水に沈んだと思われる階なため、まだまだ下へと部屋は続いている。

「うん!もし、モンスターが出てきても大丈夫!」

「……毒だけはなしだからね?ほら、水に溶けるかもしれないし」

「う、うん!気をつける」

第二回イベントの巨大イカを倒したときのように水中に毒が広がってしまうとしたら目も当てられない。サリ
ーを含めてモンスターや一部プレイヤーなど、無差別に毒殺することになってしまうだろう。そうなったとき
にメイプルには毒を回収する方法もないため、とんでもないことになる可能性があるのだ。

使うなら即効性があり辺りを汚染する危険もない『パラライズシャウト』でとどめておくが吉である。

気をつけていれば特に問題が発生することもなく。二人は強化素材らしきものを探してより深くへと潜ってい
く。潜水服が初期状態でも建物一つの探索くらいなら支障はなく、何階か下りたところで二人は水草の中にキ
ラキラと光る何かを見つけた。それは光が当たって輝いているというよりは、分かりやすいようにエフェクト
がつけられているといった風である。

「サリー、何かあるよ!」

泳ぐというよりはそのまま歩いて近づいたメイプルが伸びた水草を掻き分けるとそこにあったのは青く輝く球
体と、機械の部品といえるようなネジやボルトだった。

「素材っぽいのと……何だろう?」

「全部そうなんじゃないかな?ほら、前のイベントの時のドロップの中にも水の塊とかあったし」

サリーは取得をメイプルに譲ると、手に入れたアイテムが何なのか二人で確認する。

「お、やっぱり全部素材みたいだね」

「他も見つけやすいように光ってるのかな?」

「そうなんじゃない?まだ分からないけど、偶然光ってたって感じじゃないし。サクサク集めていけそうだ
ね」

流石に数分に一度浮上というようなレベルでは、八層での探索にかかる時間が膨大すぎるため、潜水服は元が
メイプルレベルでもかなりの活動時間と水中移動能力を与えてくれている。とはいえ、元々水中探索に向いて
いないことの影響は確かに出てもいるのだが。ともあれ、思っていたよりも早く素材が見つかったのは嬉しい
ことである。潜水服の性能が上がれば、スキルを持たないことによる影響も小さくなっていくだろう。

「これならもう一個くらいはいけそう!」

「じゃあもう少し行こうか。溺れちゃわないように気をつけててね?」

「うん、八層はそれが一番大変かも」

気づいた時には溺れていましたではやりきれないというものである。そう考えると、やはりメイプルの一番の
敵は溶岩然り水然り、地形なのかもしれなかった。

随分お待たせしました。

申し訳ありません。

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