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集合
集合
本章においては, 第 1 章において定義された公理論的集合論にお
いて, 集合の演算の諸公式と特性について考察する.
本書においては, 公理論的集合論において公理系 I によって定義
された集合論 I を考える. 集合は集合論 I において定義された集合
を考える.
2.6 節において, 集合族において定義された和, 差, 交わりの集合
算に関して, 半環, 環, 代数とプール代数などの集合の代数系の概念
を定義する.
2.1 等号の公理
1
x と y が異なる対象であるならば, x と y は等しくないといって,
x ̸= y
と表す.
(1) x = x が成り立つ.
2.2 集合の要素と部分集合
2
2.2.1 集合と要素
本項においては, 集合と集合の要素の関係について考察する.
a ∈ A あるいは A ∋ a
a ̸∈ A あるいは A ̸∋ a
元を一つも含まない集合を空集合であると定義し, これを記号 ∅
で表す.
A=B
と表す.
二つの集合 A, B が等しくないとき,
A ̸= B
と表す.
3
(2) x ∈ A であることは x ∈ B であることと同値である.
集合 A の元が a, b, c, · · · であるとき,
A = {a, b, c, · · · }
と表し, 集合 A は元 a, b, c, · · · からなるという.
条件 P (x) を満たす対象 x の全体からなる集合を
と表す.
2.2.2 部分集合
本項においては部分集合の定義とその基本的性質について考察
する.
図 2.2.1 A ⊂ B
A ⊂ B あるいは B ⊃ A
4
と表す.
A が B の部分集合であるとき, B は A を含むということがある.
あるいはこれを A が B に含まれるということもある.
このとき, 次の系が成り立つ.
(1) A ⊂ A である.
∅⊂A
が成り立つ.
二つの集合 A, B に対し, A ⊂ B であるときには, A = B である
ことも起こり得る. 特に, A ⊂ B かつ A ̸= B であるとき, A は B の
真部分集合であるといって, これを
A ⫋ B あるいは B ⫌ A
と表す.
2.3 集合の演算の定義と基本性質
本節においては, 集合の演算とその基本性質について考察する.
5
まず, 集合の和集合の定義を与える.
図 2.3.1 A ∪ B
と表す. A と B の合併集合を和集合であるということがある.
有限個あるいは無限個の集合 A, B, C, · · · の合併集合を同様に
定義し, これを
A ∪ B ∪ C ∪ ···
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と表す. A と B の共通部分を A と B の交わり, あるいは積集合で
あるということがある.
有限個あるいは無限個の集合 A, B, C, · · · の共通部分を同様に
定義し, これを
A ∩ B ∩ C ∩ ···
と表す.
図 2.3.2 A ∩ B
ここで, 集合の演算に関する諸公式について考察する.
(1) 可換法則
A ∪ B = B ∪ A, A ∩ B = B ∩ A
が成り立つ.
(2) 結合法則
(A ∪ B) ∪ C = A ∪ (B ∪ C),
(A ∩ B) ∩ C = A ∩ (B ∩ C)
が成り立つ.
7
(3) 分配法則
A ∪ (B ∩ C) = (A ∪ B) ∩ (A ∪ C),
A ∩ (B ∪ C) = (A ∩ B) ∪ (A ∩ C)
が成り立つ.
(4) 吸収法則
A ∪ (A ∩ B) = A, A ∩ (A ∪ B) = A
が成り立つ.
A∩B =∅
であることを意味する.
二つの集合 A と B が互いに素であるとき, 二つの集合 A と B の
和集合 A ∪ B は A と B の直和であるといい, これを
A∪B =A+B
と表す.
有限個あるいは無限個の集合 A, B, C, · · · のどの二つも互いに
素であるとき, これらの集合 A, B, C, · · · の和集合 A ∪ B ∪ C ∪ · · ·
は集合 A, B, C, · · · の直和であるといい, これを
A ∪ B ∪ C ∪ ··· = A + B + C + ···
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と表す.
一般に集合族 F が互いに素な集合族であるということは, F のど
の二つの異なる集合も互いに素であることと定義する. 特に, F =
{A1 , A2 , · · · , An } がどの二つも互いに素な集合族であるとき, F
の集合の直和を
∪
n ∑
n
Ai = A1 + A2 + · · · + An = Ai
i=1 i=1
と表し, 可算列
F = {An ; n ≥ 1}
がどの二つも互いに素な集合族であるとき,
∞
∪ ∞
∑
An = A1 + A2 + A3 + · · · = , An
n=1 n=1
と表す.
二つの集合 A と B に対し, A から B を引いた差集合とは, A の元
であって, B の元ではないような元全体からなる集合であると定義
し, これを
A − B あるいは A\B
と表す. このとき, A ⊂ B である必要はない. したがって, 等式
A−B =A−A∩B
が成り立つ.
図 2.3.3 A − B
9
三つの集合 A, B, C に対し, 等式
A − (B ∪ C) = (A − B) ∩ (A − C)
が成り立つ.
特に, A ⊃ B のとき, A − B を A に対する B の補集合であると
いう.
二つの集合 A と B に対し, A と B の対称差は, 集合
(A − B) + (B − A)
A△B = A ∪ B − A ∩ B = (A ∩ B c ) ∪ (Ac ∩ B)
が成り立つ.
図 2.3.4 A△B
10
このとき, 次の定理が成り立つ.
(6) A − B = A ∩ Bc.
(7) A ∪ Ac = X, A ∩ Ac = ∅.
(8) Acc = A, ∅c = X, X c = ∅.
(9) ド・モルガンの法則
(A ∪ B)c = Ac ∩ B c , (A ∩ B)c = Ac ∪ B c
が成り立つ.
集合の族というのは, 集合を要素とする集合のことであると定義
する. 集合族に対しても集合に対して用いられる記号や用語を同様
に用いることにする.
二つの集合族 A と B に対して, A が B の部分集合であるとき, A
は B の部分集合族であるといい, これを
A⊂B
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などと表す.
特別の集合族の合併に対して様々な特別な記号を用いる.
例えば, F = {A1 , A2 } であるとき,
∪ ∪
F= {Ai ; i = 1, 2} = A1 ∪ A2
と表す.
同様に, F = {An ; n ≥ 1} が集合の可算列であるとき,
∪ ∪ ∪ ∞
∪
F = A1 A2 ··· = An
n=1
と表す.
一般に, ある添数集合 Γ の各要素 γ に一つの集合 Aγ が対応して
いるならば, 集合族
F = {Aγ ; γ ∈ Γ}
の合併集合は ∪ ∪ ∪
F= Aγ = Aγ
γ∈Γ γ
と表す.
添数集合 Γ が空集合であるとき,
∪
Aγ = ∅
γ∈Γ
であると規約する.
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集合 A は集合 X の任意の部分集合であるとき, 等式
∪ ∪
A ∅ = A, A X = X
が成り立つ.
もっと一般に, 二つの集合 A, B に対し, A ⊂ B であるための必要
十分条件は ∪
A B=B
が成り立つことである.
また, F に含まれるすべての集合に属する元の全体からなる集合
を F の共通部分あるいは積集合といって,
∩
A
A∈F
であると規約する.
集合 A は集合 X の任意の部分集合であるとき, 等式
A ∩ ∅ = ∅, A ∩ X = A
が成り立つ.
もっと一般に, X の任意の二つの部分集合 A, B に対し, A ⊂ B
であるための必要十分条件は,
A∩B =A
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が成り立つことである.
(10) 結合法則
∪ ∪ ∪ ∩ ∩ ∩
A= A, A= A
A∈∪A∈F A A∈F A∈A A∈∪A∈F A A∈F A∈A
が成り立つ.
(11) 分配法則
( ∪ )∩( ∪ ) ∪ ( ∩ )
A B = A B ,
A∈F B∈G A∈F ,B∈G
( ∩ )∪( ∩ ) ∩ ( ∪ )
A B = A B
A∈F B∈G A∈F ,B∈G
が成り立つ.
(12) ド・モルガンの法則
( ∪ )c ∩ c ( ∩ )c ∪ c
A = A, A = A
A∈F A∈F A∈F A∈F
が成り立つ.
14
2.4 クラス分けと商集合
本節においては, 集合 S を S において定義された同値関係によっ
てクラス分けすることと, S の同値関係による商集合の概念につい
て考察する.
いま, ある集合 S が与えられていて, S の任意の二つの元 a と b の
間にある関係が成り立っているか否かが一意に定められているとす
る. このとき, S の二つの元 a と b の間にこの関係が成り立ってい
るならば,
a∼b
と表し, この関係が成り立っていないならば,
a ̸∼ b
C(a) = {b ∈ S; b ∼ a}
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を対応させることができる. このとき, 部分集合 C(a) は, a を代表
元とする同値類であるという. このとき, S の任意の二つの同値類
C(a) と C(b) に対して, 次の条件
∩
(4) C(a) C(b) = ∅,
のいずれか一方が必ず成り立ち, 両者が同時に成り立つことはない.
このとき, S の任意の元はどれかただ一つの同値類に必ず含まれ, し
かも, どの同値類にも含まれない S の元は存在しない. したがって,
いま, S の互いに素な同値類の各々から一つずつ選ばれた代表元よ
∑
りなる S の元の代表系を と表すとき, 等式
∪
S= C(a)
∑
a∈
と表す.
2.5 直積集合と選択公理
本節においては直積集合と選択公理の関係について考察する. ま
ず, 直積集合の定義を思い出しておく.
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対象 a, b の対を (a, b) と表す. このとき, 二つの対 (a, b) と (c, d)
に対し, (a, b) = (c, d) であるとは, 等式 a = c, b = d が成り立つ
ことであると定義する. このような対 (a, b) を順序対ということが
ある. 一般に n 個の対象 a, b, c, · · · , d の n 組 (a, b, c, · · · , d)
を考えることができる. このとき, 二つの n 組 (a, b, c, · · · , d) と
(a′ , b′ , c′ , · · · , d′ ) に対し, (a, b, c, · · · , d) = (a′ , b′ , c′ , · · · , d′ )
であるとは, 等式 a = a′ , b = b′ , c = c′ , · · · , d = d′ が成り立つこ
とであると定義する. 集合 A, B に対して, a ∈ A, b ∈ B の対 (a, b)
の全体からなる集合を集合 A, B の直積集合であるといい, これを
A × B と表す. A × B = ∅ であることは, A = ∅ または B = ∅ であ
ることと同値である.
一般に, 集合
A × B × · · · × D = {(a, b, · · · , d); a ∈ A, b ∈ B, · · · , d ∈ D}
を集合 A, B, · · · , D の直積集合であるという.
いま, 集合族 {Xλ }λ∈∧ を考える. 各 λ ∈ ∧ に対し, xλ ∈ Xλ を対
応させる写像の全体からなる集合 X を, 集合の族 {Xλ }λ∈∧ の直積
集合であるといい,
∏ ∏ ∏
Xλ , Xλ , Xλ
λ∈∧ λ
などと表す.
各 Xλ を X の直積因子であるという. X の元を {xλ }λ∈∧ または
(xλ )λ∈∧ と表し, xλ をその λ 成分または λ 座標であるという.
このとき, 選択公理は次の命題と同値である. これも選択公理と
いうことがある.
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も空でない. ここで, ∧ は任意の空でない添数集合を表す.
数列や関数を考えることができるのはこの選択公理に依拠してい
るからである.
集合族において, 和, 差, 交わりの集合算を考えることにより, 半
環, 環, 代数とブール代数などの集合の代数系が考えられる. 本節に
おいてはこのような集合の代数系の概念について考察する.
(i) A ∩ B ∈ P.
18
のは, 2 点 x = (x1 , x2 , · · · , xd ) と y = (y1 , y2 , · · · , yd ) に対し,
条件
xi ≤ yi , (i = 1, 2, · · · , d)
が成り立っているとき, 直積集合
∏
d
[xi , yi ] = [x1 , y1 ] × [x2 , y2 ] × · · · × [xd , yd ]
i=1
あるいは, その境界線と境界面の一部あるいは全部を除いた集合で
ある.
集合の環はそれ自身半環になっていることを注意する.
任意の集合族 P に対し, P を含む最小の環 R を集合族 P によっ
て生成される環であるという. このとき, R = R(P) と表す.
A = E1 ∪ E2 ∪ · · · ∪ En
が成り立つ.
が成り立つ.
19
また, 集合の環は二つの集合の対称差をとる演算に関して閉じて
いる. 集合の環の元の和, 差, 交わりをとる演算を有限回行って得ら
れる集合もまたその環の元である.
(ii) Ai ∈ B, (i = 1, 2, 3 · · · ) であるならば,
∞
∪
Ai ∈ B
i=1
が成り立つ.
もまた B に属する.
20
系 2.6.2 において, 集合 lim En と lim En は関係式
∞ ∪
∩ ∞
lim En = lim En = Em ,
n→∞
n=1 m=n
∞ ∩
∪ ∞
lim En = lim , En = Em
n→∞
n=1 m=n
lim En = lim En
n→∞
E1 ⊂ E2 ⊂ E3 ⊂ · · ·
が成り立つことであると定義する.
また, 集合列 {En } が減少列であるということは, 条件
E1 ⊃ E2 ⊃ E3 ⊃ · · ·
が成り立つことであると定義する. 両者を総称して単調列であると
いう. 集合列 {En } が単調列であれば, 集合列 {En } は収束する.
特に, 集合列 {En } が増大列であれば, 等式
∞
∪
lim En = , En
n=1
21
が成り立ち, {En } が減少列であれば, 等式
∞
∩
lim En = , En
n=1
が成り立つ.
証明 可算個の P の元によって被覆される集合全体の族を F であ
るとすると, F は σ 環で, P ⊂ F が成り立つ. ゆえに, B = σ(P) ⊂ F
が成り立つ.
さらに, B = σ(R) が成り立つから, P を R にとりかえても同様
である. //
22
この定義 2.6.5 についてはフォン・ノイマン [1], 84 ページ, 定義
10.1.2 を参照してもらいたい.
制限ボレル環は環になっているが, 一般に σ 環とは限らないこと
を注意する.
空間 X 上の σ 代数 B は σ 環で, X ∈ B を満たすものである. 特
に, Rd 上のボレル環は σ 代数である. これを Rd 上のボレル代数で
あるという.
A ∪ B, A ∩ B, A′ = E − A, (A, B ∈ B)
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(1) A ∪ B = B ∪ A, A ∩ B = B ∩ A. (交換法則).
(3) A ∪ (B ∩ C) = (A ∪ B) ∩ (A ∪ C), A ∩ (B ∪ C) = (A ∩ B) ∪
(A ∩ C). (分配法則).
(4) A ∪ A = A, A ∩ A = A. (吸収法則).
(5) (A′ )′ = A.
(6) A ∪ A′ = E, A ∩ A′ = ∅. (相補法則).
(8) 0 = ∅, 1 = E とおくと, 0 ̸= 1.
(9) ∅′ = E, E ′ = ∅.
(10) A ∪ ∅ = A, A ∪ E = E.
(11) A ∩ ∅ = ∅, A ∩ E = A.
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2.7 写像の定義と基本性質
本節においては, 写像の概念の定義と基本性質について考察する.
を φ による A の像であるという.
また, 集合
φ−1 (B) = {x ∈ A; φ(x) ∈ B}
定理 2.7.1 X, Y は二つの集合であるとし, φ は X から Y の中
への写像であるとする. このとき, A ⊂ X に対し, φ(A) = B であ
るとすると, 関係式
が成り立つ.
定理 2.7.2 X, Y は二つの集合であるとし, f は X から Y の中
への写像であるとする. このとき, 次の (1), (2) が成り立つ:
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(1) A, B ⊂ X のとき, 関係式
が成り立つ.
f −1 (A ∪ B) = f −1 (A) ∪ f −1 (B),
f −1 (A ∩ B) = f −1 (A) ∩ f −1 (B)
が成り立つ.
二つの写像 φ : A → B と ψ : A → B が与えられているとき, φ
と ψ が等しいということは, A の各元 a に対し, 等式
φ(a) = ψ(a)
と表す.
φ が単射であるとは, A の元 a, a′ に対し, φ(a) = φ(a′ ) ならば
a = a′ となることと定義する. φ が全射であるとは, B の各元 b に
対し, b = φ(a) となる A の元 a が存在することと定義する. φ が全
単射であるということは, φ が全射かつ単射であることと定義する.
(φ ◦ ψ)(a) = φ(ψ(a)), (a ∈ A)
によって定義する. φ ◦ ψ は A から C への写像である.
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(3) 逆写像の定義 φ : A → B が全単射であるとき, B の各元
b に対して, b = φ(a) となる A の元 a が一意に定まる. このとき, b
に a を対応させることによって, ψ : B → A が定義される. このと
き, 等式
ψ ◦ φ = 1A , φ ◦ ψ = 1B
が成り立つ. ここで, 1A と 1B はそれぞれ A, B の恒等変換で, 関
係式
1A (a) = a, (a ∈ A); 1B (b) = b, (b ∈ B)
によって定義される写像である. このとき, 写像 ψ を写像 φ の逆写
像であるといって, ψ = φ−1 と表す.
このとき, 次の系が成り立つ.
(1) A ∼ A である.
集合 A が無限集合であるとは, A の真部分集合 B で, B ∼ A とな
るものが存在することであると定義する. 集合 A は無限集合でない
とき, 有限集合であるという.
27
2.8 集合の圏
本節においては, 集合の圏と関手について考察する.
公理的集合論において, 集合論 I の存在証明が与えられた. それ
故に, 集合論とそれを基礎においた数学理論は数学的には実在論に
なった.
数学理論の対象である存在と現象はすべて集合全体のクラスの中
の存在と現象であると考えられる. 数学の概念すなわち, 数学的存
在はすべて集合であると考えることができる.
しかし, 圏と関手の理論を考えているときには, 集合とは限らない
圏とその対応である関手を考える. それ故に, 数学の研究対象を集
合だけに限るというのはきつすぎた. そうであっても, 数学的存在
としてきちんと定義されるのは集合であることにはちがいない. 圏
それ自身というより, その元である集合にこそ数学的に本質的な特
徴があるということである. しかし, 数学理論の適用を考えるとき
には, 考える対象の範囲としての圏を考えることが必要となる.
最も一般的な圏は集合の圏 Sets である. よく用いられるものに,
群の圏 Gr, 環の圏 Ring, A 加群の圏 A M などがある. このとき,
Ring の元は集合であって, 環の構造をもったものであり, A M の
元は集合であって A 加群の構造をもったものである.
それ故に, 数学の研究対象は集合であるが, 考える対象の全体を
考えようとするとき, そのような対象全体のつくるクラスは圏であ
ると考えることになる. 数学的構造を無視したとき, これは集合の
圏の部分圏であると考えられる.
このとき, 考える圏全体の集まりというようなものを表す表現は
見たことがない. 圏の「圏」という言葉を用いるようなことは経験
したことがないということである.
そこで, 集合全体のつくる圏 Sets を考えると, 数学の研究対象と
なる圏はすべて Sets の部分圏であって, 考える数学的構造を定義
されたものと考える. それ故に圏の対象はすべて集合であって何ら
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かの数学的構造を定義したものである. 圏の射はすべて, 対象であ
る集合の構造に関する準同型である.
数学の研究においては集合以外のものを考えることはない. 唯一
集合全体のクラスは集合でないものということである.
2.8.1 集合の圏
本項においては, 集合の圏とその部分圏としての種々の圏につい
て考察する,
(I) 対象 A, B, C … は集合である.
(i)(結合法則) f : A → B, g : B → C, h : C → D に対し,
(hg)f = h(gf ) が成り立つ.
29
集合の圏 Sets を Ens と表すことがある. 二つの集合 A, B に
対し, Hom(A, B) は A から B への写像全体のつくる集合である.
ただし, 空集合 ϕ に対して Hom(ϕ, A) は一つの元からなり, また
A ̸= ϕ であるとき Hom(A, ϕ) は空集合であるとする.
環としては, 可換であるものあるいは非可換であるものが考えら
れる. さらに, 環は単位元を含むと仮定する.
2.8.2 関手
本項においては, 二つの圏の対応である関手について考察する.
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定義 2.8.2 S, S ′ を二つの集合の圏であるとする. 対応 T : S →
S ′ が共変関手であるとは, T が対象と射の対応で, 次の条件 (i)∼(iii)
を満たすことであると定義する:
定義 2.8.3 S, S ′ を二つの集合の圏であるとする. 対応 T : S →
S ′ が反変関手であるとは, T が対象と射の対応で, 次の条件 (i)∼(iii)
を満たすことであると定義する:
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