みえる、みられる

You might also like

Download as pdf or txt
Download as pdf or txt
You are on page 1of 14

奈良教育大学学術リポジトリNEAR

日本語教育における「見える」「見られる」の提示
方法に関する一提案−

著者 森 敦子
雑誌名 奈良教育大学国文 : 研究と教育
巻 37
ページ 175-163
発行年 2014-03-30
URL http://hdl.handle.net/10105/10896
日本 語 教 育 にお け る 「見 え る」 「
見 られ る」 の
提 示 方 法 に関 す る一 提 案

森 敦 子
1は じめに

日 本 語 の 文 法 規 則 につ い て 日 本 語 非 母 語 話 者(以 下 、 非 母 語 話 者 と表 記)に わ か りや す
く提 示 す るた め に は 、 まず 、 日 本 語 母 語 話 者(以 下 、 母 語 話 者 と表 記)が 無 意 識 に理 解 し
て い る部 分 を意 識 化 し な け れ ぼ な ら な い 。 その た め に は 、 日本 語 を詳 細 に 分 析 し、 体 系 化
す る必 要 が あ る。 これ は、 日本 語 学 の こ れ まで の 研 究 成 果 を 整 理 す る こ とで 実 現 す る。 し
か しな が ら、 日本 語 学 に お け る 研 究 成 果 を 、 そ の ま ま の 形 で 非 母 語 話 者 対 象 の 日 本 語 教 育
に応 用 す るの は 、 適 切 で あ る と は言 え な い 。 何 故 な ら、 日 本 語 学 と 日本 語 教 育 と は、 同 じ

日本 語 とい う言 語 を扱 っ て い る も の の 、 そ れ ぞ れ 目 指 して い る もの が 異 な る か らで あ る。
庵(2011a)の 以 下 の 記 述 が 、 日本 語 学 と 日 本 語 教 育 の 方 向 性 の 違 い を 端 的 に 表 して い
る。 な お 、 こ こ で 言 う 「日本 語 記 述 文 法 」 とは 従 来 の 日本 語 学 の こ とで あ り、 「
教 育文法 」
とは 日本 語 教 育 に直 接 役 立 っ 文 法(記 述)を 意 味 して い る も の と思 わ れ る。

日本 語 記 述 文 法(日 本 語 学)は 基 本 的 に理 解 レ ベ ル の 文 法 で あ る。 な ぜ な ら、 上 で 述
べ た よ う にω、 日本 語 記 述 文 法 で は 母 語 話 者 が もっ 文 法 能 力 が 前 提 と さ れ て い る か ら

で あ る。あ るい は 、日本 語 記 述 文 法 で は 母 語 話 者 が もつ 文 法 能 力 が 前 提 と さ れ る た め 、
理 解 レベ ル と産 出 レベ ル の 区 別 が 問 題 に な ら な い と言 って も よ い か も し れ な い 。
一方
、 教 育 文 法 が 対 象 とす るの は そ う した 文 法 能 力 を もた な い(少 な く と もそ れ を
持 つ こ とを 前 提 とは で き な い)学 習 者 で あ る 。 そ の た め 、 理 解 は で き て い て も産 出 で
き な い と い う こ とは 十 分 に あ り う る。 そ の 意 味 で 、 理 解 レベ ル と産 出 レ ベ ル の 区 別 は
必 要 で あ る。 ま た 、 学 習 者 の 学 習 レベ ル に合 わ せ て 理 解 レベ ル と産 出 レ ペ ル を 区 別 す
る と い う こ と も必 要 で あ る。(庵(2011a:5-6))

つ ま り、 日本 語 学 が 、 「前 提 と さ れ る文 法 能 力 」(い わ ゆ る母 語 直 観)を もつ 母 語話 者 を

対 象 に して い るの に 対 し、 日 本 語 教 育 は 、 日本 語 に 対 す る母 語 直 観 の な い 非 母 語 話 者 を 対
象 に して い る の で あ る 。 こ の こ とが 、 日本 語 学 の 研 究 成 果 を そ の ま ま 日本 語 教 育 に 応 用 す
る こ とが で き な い 所 以 で あ る。 日本 語 学 に お け る研 究 成 果(文 法 記 述)は 、 母語 話者 であ

る 日本 語 教 師 自 身 が 文 法 に 関 す る理 解 を深 め る た め に 利 用 す る に は 有 用 で あ る。 しか し、

(1)
-175一
日本 語 教 育 の 対 象 で あ る非 母 語 話 者 に と って 、 直 接 役 に 立 つ もの で は な い の で あ る。EI本
語 学 の 研 究 成 果 を 、 い か に して 非 母 語 話 者 に役 立 つ も の に変 え て い くか 。 そ れ が 、 日 本 語
教 育 の 課 題 の 一 つ で あ る と言 え る だ ろ う。
本 稿 で は ま ず 、 可 能 の 意 味 を表 す 「見 え る」 「
見 ら れ る」 の 日本 語 教 育 に お け る 扱 い に
つ い て 概 観 す る。 そ して 、 「見 え る」 「(可能 形 の)見 ら れ る」(以 下 、 「
見 られ る」 と表 記)
に 関 す る 日本 語 学 的 知 見 を 日本 語 教 育 に応 用 す る 一 案 と して 、 「
見 え る」 「
見 られ る」 の 使
い 分 け に 関 す る規 則 を 明 示 的 に 示 した 、 「「見 え る」 「
見 ら れ る」 の 使 い 分 け フ ロー チ ャ ー

ト」 を提 示 す る。
なお、 「
見 え る」 「
見 られ る 」 と語 根 を 同 じ くす る動 詞 「
見 る」 に は 様 々 な 意 味 ・用 法 が
あ るが 、 本 稿 で は 「
視 覚 で 対 象 物 を と ら え る」 と い う意 味 の 「
見 る」 に限 定 して 考 察 を 行
う。 ま た 、 可 能 以 外 の 意 味 で 用 い ら れ る 「
見 ら れ る 」(受 け 身 、 敬 語 な ど)に つ いて は、
今 後 の 課 題 と し、 本 稿 で は 扱 わ な い こ と とす る 。

2日 本 語 教 育 に お ける 「
見 え る」 「
見 られ る 」 の 扱 い

非 母 語 話 者 を対 象 に し た 日本 語 教 育 で は 、 「見 え る」 と 「
見 ら れ る 」 は ど ち ら も初 級 の
文 法 項 目 と して 扱 わ れ て い る。 初 級 の 段 階 で は 、 複 雑 な 文 法 体 系 よ り基 本 的 な 文 型 を 習 得
す る こ と の ほ うが 重 要 で あ り、 ま た 、 直 接 法 で は 使 用 で き る文 型 や 語 彙 に も限 りが あ るた
め 、詳 細 な 文 法 解 説 は行 わ な い の が 一 般 的 で あ る〔2}。
「見 え る」 と 「見 られ る」 に 関 して も、
典 型 的 な 例 を 提 示 す る に と ど ま り、 使 い分 け にっ い て は あ ま り詳 し く触 れ ら れて い な い の
が 現 状 で あ る。 代 表 的 な 日本 語 初 級 教 材 『み ん な の 日 本 語 初 級II』 の 教 師 用 指 導 書 で あ る
『み ん な の 日本 語 初 級II教 え方 の 手 引 き』 に は
、 「見 え る」 と 「見 ら れ る 」 に つ い て 以 下
の よ う に 記 述 さ れ て い る。

〈留 意 点 〉 「
見 え る」 「
聞 こえる」 と 「
見 ら れ る」 「
聞 け る」 の 違 い につ い て 質 問 が 出

た ら 、 前 者 は話 し手 が 何 も しな くて も 、 対 象 が 自然 と 目 や 耳 に 入 っ て く る状 態 に あ る
こ と、 後 者 は時 間 、 労 力 、 手 段 な ど を使 って 何 か を 見 た り、 聞 い た りで き る こ と を例
を 挙 げ て 説 明 す る。
例:暗 い で す か ら 、 何 も見 え ま せ ん 。

毎 日忙 しい で す か ら 、 テ レ ビ が 見 られ ませ ん 。
静 か で す か ら、 隣 の うち か ら声 が 聞 こ え ま す 。
テ ー プ レ コ ー ダー が あ っ た ら、 こ の テ ー プ が 聞 け ま す 。

(『み ん な の 日本 語 初 級II教 え方 の 手 引 き 』(ス リー エ ー ネ ッ トワ ー ク編(2001:31)))

特 に 意 識 せ ず 視 界 に 入 っ て くる も の に は 「
見 え る」、 意 志 を 持 っ て 見 よ う とす る も の に

(2)
-174一
は 「
見 られ る」 を使 う とい う説 明 で あ る。 日本 語 教 育 で 使 用 され て い る文 法 解 説 書 『初 級
の 日本 語 文 法 と教 え方 の ポ イ ン ト』(市 川(2005))に お いて も、 ほぼ同様 の説 明 が なされ
て い る。 初 め て 可 能 形 を学 ぶ 初 級 の 学 習 者 向 け の 教 材 で あ る こ とを考 慮 に 入 れ る と、 妥 当

な 解 説 で あ ろ う。 しか し、 「
見 える」 「
見 られ る」 の意 味 ・用 法 は 一 つ だ け で は な く、 多 岐
に わ た って い る。 そ の た め 、 日本 語 の レベ ル が 中 級 、 上 級 と上 が る に した が って 、 上 記 の

記 述 で は説 明 が っ か な い もの も 出 て くる 。

(1)(望 遠 鏡 で 富 士 山 を探 して いて)あ 、 富 士 山 、 見 え た!!(作 例)


(2)最 近 は ど こ の キ ャ ンパ ス で も 留 学 生 の 姿 が 見 ら れ る 。(山 内 ・清 水(2001:II4))

(1)は 富 士 山 を 目の 前 に して の 発 言 で あ り、 下 岡(2005)の 言 う 「眼 前 性(3)」が あ る た


め 、可 能 性 の 有 無 を表 す 「見 られ る」 で は な く、 「自発 」 の 「
見 え る」 を 使 う。 ま た 、(2)
は、「
視 野 内 に あ る も の が 自然 と目 に入 る」 と い う 自発 の 条 件 〔4}(山内 ・清 水(2001:109))
を 満 た して い な い た め 、 「
見 え る」 で は な く 「
見 られ る」 を使 う 。 しか し 、 前 述 の 『み ん
な の 日本 語 初 級II』 や 『
初 級 日本 語 文 法 と教 え 方 の ポ イ ン ト』 の よ うな 説 明 で 、 非 母 語 話
者 が 、(1)(2)の よ うな 文 を正 し く使 え る よ う に な る だ ろ うか 。(1)は 発話 者 に富 士 山 を
見 る とい う明 らか な 意 志 が あ るた め 「見 られ る」 を 使 用 し、(2)は 特 に 意 識 して い な くて
も視 野 に入 って く る もの な の で 「見 え る」 を 使 用 す る と解 釈 す る非 母 語 話 者 が い て も不 思

議 で はない。
以 下 の よ うに 、 意 志 性 の 有 無 だ け で な く眼 前 性 の 有 無 に つ い て も述 べ て い る文 法 解 説 書
もある。

【見 え る ・聞 こ え る(自 発)】
自発 は 「自然 とそ う な る」 と い う意 味 を 持 ち 、 目 の 前 に 現 れ た 出 来 事 を そ の ま ま伝
え る場 合 な どに 使 い ます 。 こ の 場 合 可 能 形 は 使 え ませ ん 。
〈4>あ、 富 士 山 が{○ 見 え る/× 見 られ る}。
〈5>おや 、 虫 の 声 が{○ 聞 こ え る/聞 け る}。 も う秋 だ な あ。
テ レ ビ番 組 や 試 合 ・演 奏 な どに 意 識 的 に注 意 を 向 け る場 合 に は、 可 能 形 を 用 い 、 自

発 形 は 使 え ませ ん 。
<6>電 車 に 間 に 合 え ば 、9時 の ドラ マ が{× 見 え る/○ 見 られ る}。
〈7>や っ と コ ン サ ー トの チ ケ ッ トを手 に 入 れ た 。 これ で あ の 歌 手 の 歌 が{× 聞 こ え
る/○ 聞 け る}。
<8>こ の ボ タ ンで 選 べ ぼ 、 好 き な 曲 が{× 聞 こ え ま す/○ 聞 け ます}。

次 の よ う な 場 合 、 意 識 的 に 注 意 を 向 け る意 味 の 他 、 「そ の よ うな 状 況 に な れ ば 、 そ
こ で は 自然 と∼ 」とい う意 味 に も とれ ま す の で 、基 本 的 に は両 方 使 う こ とが で き ま す 。

(3)
-173一
〈9>東京 タ ワ ー に登 れ ば、 富 士 山 が{○ 見 え る/○ 見 ら れ る}。

(『初 級 を 教 え る人 の た めの 日本 語 文 法 ハ ン ドブ ッ ク』(庵 他(2000:84)))

目 の 前 に 現 れ た 出 来 事 を そ の ま ま伝 え る場 合 に は 「見 え る 」 を使 う と明 記 さ れて お り、
(1)の よ う な例 に は 対 応 して い る と言 え る 。 しか し こ こ で も、 非 母 語 話 者 が(2)の 例を
正 し く判 断 で き る よ う な 記 述 は 見 られ な い 。
『新 版 日本 語 教 育 事 典 』(日 本 語 教 育 学 会 編(2005))の 〈2-M教 育 のた めの文法 分析

〉 の 「見 え る ・聞 こ え る」 の 項 で は、 次 の よ う に 解 説 さ れ て い る。

■ 見 え る ・聞 こ え る

可 能 と 自発 の 両 方 の 意 味 を もつ 動 詞 で 、 学 習 の 困 難 点 は 、 ① 可 能 形 「見 られ る ・聞 け
る」 との 違 い 、 ② 格 助 詞 「に ・か ら」 に あ る。

○ 可 能 形 との 違 い 一 「
見 え る」 「聞 こ え る 」 は 自 発 の 意 味 を 担 っ て い る の で 、 主 体
の 意 志 の 有 無 と関 係 な く、 単 に対 象 の ほ うか ら視 覚 や 聴 覚 に 入 っ て く る、 あ る い は 入
って こ な い こ とを 表 す(用 例 〈1>〈2>)。可 能 か ど うか の 原 因 が 主 体 側 に な く、 対 象 の

側 に あ る とす る言 い 方 で あ る。一 方 、原 因 が 主 体 の 側 に あ る場 合 は 、可 能 形 を使 う(用
例 く4>)。 また 、 原 因 が 主 体 以 外 に あ る場 合 で あ っ て も、 「
見 る、 聞 く」 と い う行 為 が
主 体 の 意 志 と関 係 が あ る場 合 に は 、 可 能 形 を 使 うの が 基 本 で あ る(用 法 〈3>)。
<1>「 も し も し聞 こ え ます か。」
「す み ませ ん 、 よ く聞 こ え ませ ん 。 も う一 度 お 願 い し ま す 。」

<2>福 岡 で は 韓 国 の ラ ジ オ が 聞 こ え るん で す 。
<3>福 岡 で は 韓 国 の ラ ジ オ が 聞 け るん で す 。
<4>私 は 臆 病 な の で ホ ラー 映 画 は見 られ ませ ん 。

(『新 版 日本 語 教 育 事 典 』(日 本 語 教 育 学 会 編(2005:204)))

可 能 か ど うか の 原 因 が 主 体 に あ るか 否 か が 判 断 の 基 準 と して 示 さ れ て い る。 しか し、(1)
(2)ど ち らの 例 を とっ て み て も、 可 能 か ど うか の 原 因 が 主 体 に あ る か 否 か 、 容 易 に は 判
断 が つ か な い の で は な い だ ろ うか 。(1)は 、「
主 体 が 視 覚 能 力 を 有 して お り、 望 遠 鏡 を使
って 遠 く を 見 て 探 し 当 て た か ら こ そ富 士 山 を 見 る こ とが で き た 」 と考 え れ ば、 可 能 か ど う
か の 原 因 は主 体 の 側 に あ る と も言 え るだ ろ う。 逆 に(2)は 「留 学 生 を 目 に す るか ど う か
は 留 学 生 が い るか 否 か に よって 決 ま るの で 、 可 能 か ど うか の 原 因 は 対 象 側 に あ る」 と も考

え られ る 。 他 に も、 以 下 の(3)∼(5)の ように、既 存の 文法解 説書 の記 述 だ けでは説 明


し きれ な い 例 は 多 い 。

(3)い か の す み が 入 って い るす み 袋 は 、 内 臓 を取 り出 す とす ぐに 見 え る の で …(略)

(4)
-172一
(BCCWJコ ア:PMsIOO338)

(4)志 津 は動 か な か った が 、表 情 が平 七 郎 の次 の 言葉 を待 って い る よ う に見 え た。

(BCCWJコ ア:PB4900005)

(5)み ん な が 見 え る よ う な 大 き な 字 で 書 く。(BCCWJコ アlPB4300001)

日本 語 に 対 す る母 語 直 観 を もっ 母 語 話 者 で あ れ ぼ 、これ まで 見 て き た 文 法 記 述 に よ って 、
「見 え る」 「見 ら れ る」 の 違 い を 理 解 す る こ とが で き る か も しれ な い
。 しか し、母 語話 者
が無意 識 にで きてい る 「
見 え る」 「見 られ る」 の 使 い 分 け を 、 多 くの 非 母 語 話 者 は 意 識 的
に 習 得 して い か な け れ ば な ら な い の で あ る。 母 語 話 者 を 対 象 に した 文 法 記 述 で は 、 カバ ー
し きれ な い 部 分 が あ るの は 当 然 で あ ろ う。 実 際 、 「
見 え る」 「見 られ る」 は 初 級 の 文 法 項 目
で あ る に も か か わ らず 、 日本 語 上 級 レベ ル の 非 母 語 話 者 に お い て も誤 用 が 多 い 表 現 な の で
あ る。 「見 え る」 「見 られ る」 の 使 い分 け に 関 す る規 則 を 、 日本 語 に 対 す る母 語 直 観 の な い

非 母 語 話 者 の 立 場 に立 っ て整 理 し直 す 必 要 が あ る だ ろ う。

3日 本 語教 育 への応 用


見 え る 」 「見 られ る 」 に 関 す る先 行 研 究 は数 多 く存 在 し
、「
見 え る」 「
見 られ る」 の意
味 ・用 法 に っ い て も詳 細 な 記 述 が な され て い る。 しか しな が ら、 そ れ ら の 研 究 成 果 が そ の
ま ま の 形 で 日 本 語 教 育 に 応 用 で き る わ けで は な い 。 なぜ な ら、 用 法 を 詳 細 に分 析 し体 系 化
す る と い う行 為 は 、 日本 語 学 的 試 み だ か らで あ る。
前 述 し た と お り、 日本 語 学 と日 本 語 教 育 は 、 ど ち ら も 日 本 語 と い う言 語 を対 象 に して い
る も の の 、 そ の 目 的 は 異 な る。 庵(2011b)が 述 べ て い る と お り、 日本 語 記 述 文 法(日 本

語 学)は 基 本 的 に 理 解 を 目的 と し た文 法 で あ り、 日本 語 教 育 文 法 は 産 出 を 目 的 と した 文 法
な の で あ る。

日本 語 記 述 文 法 は 基 本 的 に理 解 レベ ル の 文 法 で あ る。 理 解 レベ ル とい う こ と は規 則
の カ バ ー 率 とい う こ とか ら言 え ば 、 「(規則 の カ バ ー 率)100%を 目指 す 文 法 」 と い う
こ とで あ る。 こ う した 文 法 で は 「
体 系 」 や 「隙 間 の な い 記 述 」 が 重 視 され る。(中 略)

しか し、 一 般 の 非 母 語 話 者 を 対 象 に 、 産 出 レ ベ ル の 記 述 を 目指 す とな る と、 こ う し
た 記 述 の あ り方 は 通 用 しな い。 こ の場 合 の 規 則 は 学 習 者 に と って 操 作 可 能 な もの で あ

る必 要 が あ る 。 っ ま り 「(規則 の カ バ ー 率)100%を 目指 さ な い 文 法 」 が 必 要 と な っ
て く るの で あ る。(庵(2011b:81))

庵(2011b)は 、 上 記 の 考 え 方 に した が い 、 「は 」 と 「が 」 の 使 い 分 け に 関 す る、 産 出 を
目 的 と し た フ ロ ー チ ャ ー トを 作 成 して い る。 そ の 際 、 有 標 ・無 標5)と い う観 点 を 導 入 す る

(5)
-171一
こ とが 有 効 で あ る と述 べ て い る。 た だ し、 有 標 ・無 標 とい う観 点 か らの 文 法 記 述 は 、 規 則
の カ バ ー率100%を 目 指 す もの で は な く、例 外 が 存 在 す る た め 、 規 則 の カ バ ー 率 を コ ーパ
ス な ど で 検 証 す る必 要 が あ る と して い る 。 本 稿 で は 、 庵(2011b)を 参 考 に、 日本語 学 の

成 果 を 日本 語 教 育 に 応 用 す る一 つ の案 と して 、 「
見 え る」 「
見 られ る」 の 使 い 分 け に 関 す る
フ ロ ー チ ャ ー トを提 案 し た い 。

3.1「 見 え る」 「
見 られ る」 の 用 法 の 分 類

フ ロ ー チ ャー トを作 成 す る に あ た っ て 、 以 下 の分 類 を基 準 に し た。 森(2013)で は、 以
下 の9用 法 に 「風 景 描 写 」 及 び 「
判 断 を表 す モ ダ リテ ィ ー 表 現 」 を加 え た11の 用 法 に分
類 して い る が 、 「風 景 描 写 」 は用 法 ② ま た は③ 、 「判 断 を 表 す モ ダ リテ ィ ー 表 現 」 は用 法 ④
に 統 合 しだ6)。

用法 ① 能 力 可 能:「 見 え る」 を使 用
視 覚 能 力 の 有 無 、 視 力 の 良 し悪 し な ど、 対 象 物 を 視 覚 で と らえ る能 力 を 有 して い るか
ど うか を 問 題 にす る場 合
(6)(視 力 検 査 で)こ の 字 が 見 え ます か 。(山 内 ・清 水(2001:107))
用 法② 自発1典 型 的 な 自発 ●「
見 え る」 を 使 用
眼 前 性 あ り/特 に可 能 の 意 味 は な い
(7)ほ ら、 あ そ こ に 、 鹿 の 赤 ち ゃ ん が 見 え る よ!か わ い い ね 。(作 例)
用 法③ 自発2特 筆 すべ き も の:「 見 え る」 を 使 用
特 筆 す べ き も の が 目 に 飛 び込 ん で く る(目 に つ く)場 合/何 か が 視 野 内 に 飛 び 込 んで
くる(出 現 ・発 見)場 合/眼 前 性 は な くて も可

(8)必 要 な ら、蛍 光 管 が 直 接 見 え る器 具 を避 け て …(略)(BCCWJコ ア:OC1202182)


用法 ④ 自発3見 え 方 を 問 題 に す る もの:「 見 え る 」 を使 用
既 に視 覚 で と ら え て い る もの が 、 どの よ う に 目 に映 るの か を 問題 に す る場 合/「 きれ
い に見 え る 」 な どの 外 見 、 「は っ き り見 え る 」 な どの 程 度 、 「
彼 は うそをつ いてい るよ
うに 見 え る」 な どの 判 断 ・評 価 な ど

(9)今 日 の 彼 女 は 、 い つ も よ り きれ い に 見 え る 。(山 内 ・清 水(2001:111))


(10)星 が は っ き り と見 え る か ど うか で 、 大 気 汚 染 の バ ロ メ ー タ ー に な る。(BCCWJコ
ア:PN2g _OOOO4)

(11)彼 は 、 あ ま り行 きた くな さ そ う に見 え る。(山 内 ・清 水(2001:111))


用 法⑤ 状 況 可 能1:「 見 え る」 を 使 用
状 況 可 能 の 中で 、 自発 の 条 件 を 満 た し自発 と解 釈 し う る もの/可 能 の 意 味 を含 む
(12)コ ピー の字 が 薄 くて 見 え な い 。(山 内 ・清 水(2001:lI2))

(6)
-170一
1用 法⑥ 状 況 可 能2:「 見 え る」 「
見 られ る」 どち ら も使 用 可1
状 況 可 能 の 中 で 、 「自発 の条 件 を 満 た す 」 「自発 の 条 件 を 満 た さ な い」 ど ち ら と も解 釈
しう る も の

(13)あ の 山 の 山 頂 に 登 れ ば 、 摩 周 湖 の 全 景 が 見 え る/見 られ る。
(山 内 ・清 水(2001:113))

1用 法⑦ 状 況 可 能3:「 見 ら れ る」 を 使 用
状 況 可 能 の 中 で 、 「自然 に 目 に飛 び 込 ん で 来 る 」 とい う 自発 の 条 件 を 満 た さ な い も の
/鑑 賞 ・評 価 な ど、 精 神 活 動 を伴 う もの/「 見 る」 とい う動 作 が 実 現 す る 可 能 性 にっ
い て述 べ る もの

(14)18時 の 電 車 に乗 れ ぼ 、私 は19時 か らの 『忠 臣 蔵 』 が 見 られ る。(下 岡(2005:5))


用 法⑧ 状 況 可 能4:「 見 ら れ る」 を 使 用
状 況 可 能 の 中 で 、 「視 野 内 の もの が 」 と い う自 発 の 条 件 を満 た さ な い も の/「 存在 す
る 」 とい う意 味 で 用 い ら れ る こ とが 多 い

(15)南 の 島 々 で は1年 中 色 と り ど りの 花 が 見 ら れ る。(山 内 ・清 水(2001:ll4))

1用 法⑨ 心 情 可 能:「 見 ら れ る」 を 使 用1
心 理 的 側 面 に着 目 した も の
(16)あ い つ の 顔 は、 とて も見 ら れ た もん じ ゃ な い 。(山 内 ・清 水(2001:II3))

(7)
-169一
3.2「 見 える」 「
見 られ る 」 使 い 分 け フ ロー チ ャ ー ト

3.1で 示 した 用 法 の 分 類 を ふ ま えて 、 「
見 え る」 「
見 ら れ る」 の 使 い 分 け に 関 す る フ ロ
ー チ ャ ー トを作 成 し た(図1)

<図1>「 見える」 「
見 ら れ る」 使 い分 け フ ロ ー チ ャ ー ト

国 目で は見 る 回 「存 在 す る」「い る」
・ と の で き なYe・ ・あ る・ と い う意 味 でN・ 一一 ・[互 峯iコ
い 、抽 象 的 なモ ある

ノで あ るYes

(例)傾 向、 改

善'備 兆候
囹,気 づく、,わか る、 施 ・一{亟]
N・ という意味であるN・ 一 一→ 題 麺]

巨]見 て い るモ ノが 、どの よ う に見 え るか に Ye・一一 一 一{亟1]


つ い て 言 う(外 見 、 程 度 、 評 価 、 判 断)

No

固 「存 在 す る 」 「い 囹 「

Yes 楠・ 一 一 →[見 え る]
る 」 「あ る 」 と い う 意 るモ ノ」

味である が 目 の前
N・ 一 一[見 られる]
にあ る
No

囮 「目 で 見 て 、 モ ノ が
驚 ・一 一一 一 一 一 一一 一 →[見 え る]
確 認 で き る か ど うか」 に
つ いて だ け を言 う
回 「見 る
(鑑 賞 す る/恐 れ る/楽 モ ノ」 が 自
し む な どの 気 持 ち が あ る
距・ 一
一 →[亟 コ
No→ 然 物 ま た
場 合 は 、Noへ) は 風 景 で N・ 一 →[見 られる]
ある

(8)
-168一
ま ず 、 見 る対 象 が 具 体 物 の場 合 と抽 象 物 の 場 合 とで は 、 「
見 え る」 「見 られ る 」 の と ら え

方 が 異 な るた め 、 最 初 に 抽 象 物 か ど うか を 問 う項 目 を 設 け た(国)。 抽 象物 の場 合 に用 い
られ るの は 、用 法 ②(「 見 え る 」 を使 用)か 用 法 ⑧(「 見 られ る」 を 使 用)で あ る。 用 法 ②
は本来 「そ こ に あ るモ ノ が 自然 と目 に 入 る」 とい う意 味 の 自発 表 現 で あ る が 、 抽 象 物 に用
い ら れ た場 合 に は 、 「
抽 象 的 事 象 に気 づ く/抽 象 的 事 象 が 明 らか に な る 」 と い う意 味 に な

る((17))。 一 方 、 用 法 ⑧ は 、 抽 象 物 に用 い られ た 場 合 、 「抽 象 的 事 象 が 存 在 す るJと いう
意 味 を 表 す((18))。 この場合 の 「
見 ら れ る 」 は(18)'の よ うに 、 「あ る 」 とい う言 葉 に
置 き換 え る こ とが 可 能 で あ る。

(17)業 界 の 変 化 は商 品 に注 目 す れ ぼ 見 えて くる(BCCWJコ ア:PN4g _OOOO5)


(18)こ の 膜 は、 ダニ や ウ ド ン粉 病 、 菌 核 病 に も効 果 が 見 られ ま し た 。(BCCWJコ ァ:
PM2100167)
(18)ノこ の 膜 は 、 ダニ や ウ ド ン粉 病 、 菌 核 病 に も効 果 が あ り ま した 。

た だ し、 用 法 ② の 中 に も 「あ る」 に置 き換 え られ る例 が あ る((19)(19)')。

(19)も し そ ん な 兆 候 が 見 え た と き は 、市 民 が 声 を 上 げ我 々 が 預 け た 権 力 を 返 して 貰 う 。
(BCCWJコ ア:OYO600060)
(19)'も し そ ん な 兆 候 が あ っ た と き は 、市 民 が 声 を 上 げ我 々 が 預 け た 権 力 を 返 して貰 う。

つ ま り、 抽 象 物 に 関 して 、 用 法 ② と用 法 ⑧ を正 し く使 い 分 け るた め に は 、(18)と(19)

を識 別 で き る よ う に しな け れ ば な ら な い 。 そ こで 、 ま ず 項 目回 で(17)を 排 除 し、 さ らに
項 目囹 で(18)と(1g)を 識 別 で き る よ う に し た。
次 に 、 具 体 物 につ い て 考 え た い 。 コ ーパ ス に お い て は 、 「見 え る 」 と 「見 られ る」 で は 、
圧 倒 的 に 「見 え る」 を使 っ た 表 現 が 多 い{7)。「
見 られ る」 を 使 う場 面 さ え 限 定 で き れ ぼ 、
残 りは 全 て 「
見 え る 」 を使 う と して(産 出 レ ベ ル に お い て は)問 題 な い だ ろ う。 つ ま り、

見 られ る」 を使 う用 法 ⑦ ⑧ ⑨ を 識 別 で き る よ うな 項 目 を設 定 す れ ば い い と言 え る 。

用 法 ⑨ は コ ー パ ス に お け る 出 現 確 率 が 極 め て 低 く`S)、
非 母 語 話 者 に と っ て 重 要 な用 法 で
あ る と は考 え に くい た め 、 こ こ で は 考 慮 に 入 れ な い こ と と し、用 法 ⑦ の 「鑑 賞 ・評 価 な ど

精 神 活 動 を 伴 う もの 」 と用 法 ⑧ の 「
存 在 す る とい う意 味 を表 す も の 」の2点 に 焦 点 を 絞 る。
まず 、 用 法 ⑧ に っ い て 考 え た い 。

(20)青 ア ザ の な か で 皆 さ ん が 一 番 良 く ご存 知 な もの は、 乳 幼 児 の お 尻 に見 られ る蒙 古
斑 で し ょ う。(BCCWJコ ア:PB5400015)

(20)ノ青 アザ の な か で 皆 さ ん が 一 番 良 く ご存 知 な もの は、 乳 幼 児 の お 尻 に あ る 蒙 古 斑 で

(9)
-167一
し ょ う。

(20)は 用 法 ⑧ で あ り、 抽 象 物 の 場 合 と同 様 、(20)/の よ う に 「見 られ る」 を 「あ る」
とい う言 葉 で 言 い換 え る こ とが 可 能 で あ る。 一 方 、(21)は 用 法 ②(眼 前 性 の あ る典 型 的
な 自 発)で あ る が 、 こ ち ら も(21)!の よ う に 「見 え る 」 を 「あ る」 とい う言 葉 で 置 き換 え
る こ とが で き る。

(21)「 あ の 小 山 の 麓 に 見 え る の が 倭 館 で ご ざ い ま す よ 」 喜 三 郎 が 指 さ し た 。(BCCWJ
コ ア:PB3900013)

(21)/「 あ の 小 山 の 麓 に あ るの が 倭 館 で ご ざ い ま す よ 」 喜 三 郎 が 指 差 し た 。

つ ま り、 具 体 物 の 場 合 に お い て も 、 用 法 ② と用 法 ⑧ を正 し く使 い 分 け るた め に は、 「

在 す る とい う意 味 を 表 す も の 」 とい う項 目 だ けで は 不 十 分 だ と言 え る 。 用 法 ② は 眼 前 性 の
あ る 自発 表 現 で あ る。そ こ で 、眼 前 性 の あ る 自発 表 現 か 否 か を判 断 す る下 位 項 目囹 を設 け、
用 法 ②((21))と 用 法 ⑧((20))を 識 別 で き る よ うに し た 。

次 に 、 用 法 ⑦ に っ いて 考 え た い 。

(22)ゲ ー ム の 、 機 械 で も 、DVDが 見 れ る 、 ら し い で す よ ね 。(名 大 会 話C:dataO23)

(23)「 乱 れ髪 」 全盛 の 今、 きちん とロー ルで巻 い た よ うなヘ ァス タイルが 新 鮮 に見 え

る 。(BCCWJコ ア:PM2100306)

(22)は 「見 る」 とい う行 為 に 「
鑑 賞 す る 」 と い う意 味 が 含 ま れて お り、 用 法 ⑦(「 見
られ る」 を 使 用)の 典 型 的 な 例 で あ る。 一 方 、(23)は 用 法 ④(見 え 方 を 問 題 に す る もの
/「 見 え る 」 を 使 用)で あ るが 、 「き ち ん と ロ ー ル で 巻 い た よ う な ヘ ア ス タイ ル 」 は鑑 賞
・評 価 の 対 象 と と ら え る こ と もで き る。 つ ま り、 「
鑑 賞 ・評 価 な どの 精 神 活 動 を伴 う もの 」
とい う定 義 だ け で は 、 用 法 ④ と用 法 ⑦ を 正 確 に 使 い 分 け る こ とは で き な い と言 え る。 用 法

⑦ を 正 し く産 出 す る た め に は 、 あ らか じ め用 法 ④ を識 別 して お く必 要 が あ る。 そ こで 、 「

て い る モ ノ が 、 どの よ う に見 え る か に つ い て 言 う」 とい う項 目[iコ
を 設 け 、 用 法 ④ を あ らか
じ め 排 除 で き る よ う に した 。

また 、 「
見 る モ ノ」 が 自然 物(海 や 山 等)や 風 景(窓 か ら眺 め る花 火 や 東 京 タ ワ ー 等)
の場 合 に は 、 「
鑑 賞 の 対 象 」 と と ら え ら れ る 一 方 で 、 自 発 の 条 件 も満 た して い る と考 え ら

れ るた め 、 「
見 え る」 「
見 られ る」 の どち ら も使 用 可 能 で あ る 。 しか し、 「見 え る 」 と 「見
ら れ る」 が 重 な る部 分(用 法 ⑥)に 関 して 、 実 際 の 言 語 使 用 に お いて は 「
見 え る」 を使 用
す る傾 向 が あ る〔'}。
そ こで 、 項 目回 の後 に 「「
見 る モ ノ」 が 自 然 物 ま た は 風 景 で あ る」 と
い う下 位 項 目囹 を 設 け 、 実 際 の 言 語 使 用 に 即 した フ ロ ー チ ャ ー ト に な る よ う配 慮 した 。

(10)
-166一
ま た 、 用 法 ⑧ の 中 に も、(24)の よ うに 「
見 る対 象 物 が 自 然 物 も し くは 風 景 」 の 例 が あ
る。

(24)「 新 明 館 」の前 を流 れ る渓 流 に は、夏 の 時 期 、蛍 の 姿 が 見 られ る こ と も あ る 。(BCCWJ


コ ア:PMl100207)

そ こで 、 用 法 ⑧ を 識 別 す るた め の 項 目固 を 、用 法 ⑦ を識 別 す る た め の 項 目匠]よ り先 に 設
定 し、(24)の よ うな 例 に も 対 応 で き る よ う に した 。
次 に 、 現 代 日本 語 書 き 言 葉 均 衡 コ ー パ ス(BCCWJ)の コ ア デ ー タ 及 び 名 大 会 話 コー パ
ス に お け る 「見 え る」 「
見 られ る」 の 用 例 が 、 図1の フ ロ ー チ ャ ー トを 用 い て 産 出 可 能 か
ど うか 検 証 し た 。 コ ーパ ス に お け る フ ロ ー チ ャ ー トの カ バ ー 率 は 、 表1の とお りで あ る。

表1母 語 話 者 コ ーパ ス にお ける フ ロ ー チ ャ ー トの カ バー 率
フ ロ ー チ ャ ー トの カ バ ー 率
「見 え る 」 「見 ら れ る 」 全体
①BCCWJコ ア 97.27% 90.72% 95.47%

②名 大会話C 96.64% 93.94% 96.15%

①+② 97.04% 91.54% 95.70%

BCCWJコ ア の 「見 ら れ る 」 の カバ ー 率 が90.72%と や や 低 め で あ り、 書 き言 葉 に お け る
「見 られ る」 の カ バ ー 率 に や や 不 安 が 残 る もの の 、 コ ー パ ス 全 体 の カ バ ー 率 は95.70%あ

り、 ま ず ま ず の 結 果 と な っ た 。 母 語 話 者 コ ーパ ス に は非 母 語 話 者 が 習 得 す る必 要 性 の 低 い
表 現 も含 ま れ て い る こ と、 特 にBCCWJコ ア は母 語 話 者 に よ る書 き言 葉 コ ー パ ス で あ り、
非 母 語 話 者 に とって 重 要 度 の 低 い 表 現 も多 く含 まれ て い る こ とな ど を考 え る と、95.70%の
カ バ ー 率 は低 くな い 数 値 だ と言 え る だ ろ う。
「見 え る」 「見 られ る」 の 様 々 な用 法 を一 通 り学 び 理 解 して い る 日 本 語 上 級 レ ベ ル の 非

母 語 話 者 で あ れ ば 、 図1の フ ロ ー チ ャ ー トを 活 用 す る こ とで 、 既 習 の 知 識 を 整 理 し直 した
り、 自 ら産 出 し た 文 の 正 誤 を 検 討 し た りで き る も の と思 わ れ る。 一 方 、 中 級 以 下 レベ ル の
非 母 語 話 者 に とって は 、自 らの 力 で フ ロ ー チ ャー トを 使 い こ なす の は容 易 で は な い だ ろ う。
し か し、 教 師 側 が フ ロ ー チ ャ ー トを 活 用 す る こ とで 、 よ り効 率 の 良 い 指 導 が 行 え る よ う に
な るの で は な い だ ろ うか 。 中級 以 下 レベ ル の 非 母 語 話 者 の 場 合 、 誤 用 に つ い て 、 自分 自身
で も 「
何 が わ らな い の か 」 が わ か っ て い な い こ とが 多 い 。 だ か ら と い っ て 、 教 師 が 誤 用 を

訂 正 す る際 に 、 「
見 え る」 「
見 られ る」 の 違 い を一 か ら全 て 説 明 す る と い う の は 、 無 駄 が 多
く、 現 実 的 で は な い 。 教 師 は、 非 母 語 話 者 の 発 話 を聞 い て(も し くは 作 文 を 読 ん で)、 誤
用 の 要 因 を瞬 時 に判 断 し 、 対 応 し な け れ ぼ な ら な い 。 教 師 側 が フ ロ ー チ ャ ー トを 活 用 す る

(11)
-165一
こ とで 、 「どの 項 目 に つ い て の 理 解 が 不 足 して い るの か 」 が 明 確 に な り、 効 率 の 良 い適 切
な 指 導 が 行 え る よ う に な るの で は な い か と考 えて い る。

残 念 な が ら 、 本 稿 で 提 示 した フ ロ ー チ ャ ー トは 、 こ の ま ま の 形 で 非 母 語 話 者 に提 示 で き
る レ ベ ル に は 至 って い な い 。 非 母 語 話者 が 自分 自 身 で 使 い こな せ る フ ロ ー チ ャ ー トに な る
よ う、 今 後 改 良 を重 ね て い きた い 。

参考
庵 功 雄(2011a)「 日 本 語 記 述 文 法 と 日本 語 教 育 文 法 」 森 篤 嗣 ・庵 功 雄 編 『日 本 語 教 育 文 法
の た め の 多 様 な ア プ ロ ー チ』1-12、 ひ つ じ書 房
庵 功 雄(2011b)「 「100%を 目 指 さ な い 文 法 」 の 重 要 性 」 森 篤 嗣 ・庵 功 雄 編 『日本 語 教 育 文
法 の た め の 多 様 な ア プ ロ ー チ 』79-94、 ひ つ じ書 房
庵 功 雄 ・高 梨 信 乃 ・中 西 久 実 子 ・山 田敏 弘(2000)『 初 級 を教 え る人 の た め の 日本 語 文 法 ハ
ン ドブ ッ ク 』 ス リー エ ー ネ ッ トワ ー ク

飯 田 透(1997)「
「見 え る」 「
見 ら れ る」 再 考 」 『東 京 大 学 留 学 生 セ ン タ ー 紀 要 』7:43.65 、
東京大 学 留学生 セ ンター
市 川 保 子(2005)『 初 級 日本 語 文 法 と教 え 方 の ポ イ ン ト』 ス リ ー エ ー ネ ッ トワ ー ク
下 岡 邦 子(2005)「 可 能 形態 「見 られ る」 と 「見 え る」 に 関 す る一 考 察 」 『国 語 学 論 集 』
50:158.138、 龍 谷 大 学 国 文 学 会
ス リー エ ー ネ ッ トワ ー ク編(2001)『 み ん な の 日本 語 初 級II教 え 方 の 手 引 き』 ス リー エ ー
ネ ッ トワ ー ク
日本 語 教 育 学 会 編(2005)『 新 版 日本 語 教 育 事 典 』 大 修 館 書 店
森 敦 子(2013)「 「
見 え る」 を 好 む 日本 語 学 習 者 一 可 能 を 表 す 「
見 え る」 と 「
見 ら れ る」 の
使 い 分 け に 関 す る ア ン ケ ー ト調 査 か ら わ か る こ と一 」 『国 文 研 究 と教 育 』36:89.100 、 奈
良教 育大 学国文 学会
森 篤 嗣 ・庵 功 雄 編(2011)『 日本 語 教 育 文 法 の た め の 多 様 な ア プ ロー チ 』 ひ っ じ書 房
山 内 博 之 ・清 水 孝 司(2001)「 「
∼ が 見 え る」「∼ が 見 られ る 」」『日本 文 化 学 報 』10:107-Ilg 、

韓 国 日本 文 化 学 会

使 用 した コー パ ス

現 代 日 本 語 書 き 言 葉 均 衡 コ ー パ ス(BCCWJ)中 納 言

https://chunagon.ninjal.ac.jp/search

名 大 会 話 コー パ ス

(12)
-164一
https://dbms.ninjal.ac.jp/nuc/index.php

日本 語 学 習 者 に よ る 日本 語 作 文 と、 そ の 母 語 訳 との 対 訳 デ ー タベ ー ス オ ン ラ イ ン版

hmp://jpforlife.jp/cert/taiyakUdb/sa㎞buns/

日本 語 学 習 者 会 話 デ ー タベ ース

hmps:〃dbms.ninjal.ac.jp/kaiwaノ

(1)庵(2011:2)は 、 「日 本 語 学 は 母 語 話 者 の 文 法 知 識(文 法 能 力(grammaticalcompetence))の

釈 明 を 目指 す も の と さ れ て い る 」 と述 べ て い る 。

(2)日 本 国 内 の 多 くの 日本 語 教 育機 関 にお い て 、 日本 語 を 日本 語 だ け で教 え る、 い わ ゆ る 「直 接

法 」 が 採 用 さ れ て い る。 入 門 の 段 階 か ら 日 本 語 の み で 授 業 を 行 う こ と で 、 日 本 語 に お け る聴 解

力 や コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 向 上 が は か れ る と い う メ リ ッ トが あ る 一 方 で 、 初 級 の 段 階 で

は 複 雑 な 概 念 や 文 法 の 説 明 は 困 難 で あ る とい う 問 題 点 も あ る 。

(3)下 岡(2005)は 、 「見 え る 」 「見 ら れ る 」 の 最 大 の 相 違 点 は 「眼 前 性(も し く は 現 場 性)の 有

無 」 で あ る と して い る 。 本 稿 で は 、 「眼 前 性 」 を 「見 る 対 象 と な る モ ノ が 、 発 話 の 場 ・視 点 に

お い て ま さ に 目 の 前 に あ る 状 態 」 とい う 意 味 に 解 釈 し、 用 い て い る。

(4)山 内 ・清 水(2001)は 自発 「見 え る 」 の 意 味 を 「視 野 内 に あ る も の が 自 然 と 目 に 入 る」 と 定

義 し、 状 況 可 能 の う ち 自 発 の 意 味 に 解 釈 し う る も の(=自 発 の 条 件 を 満 た す も の)に は 「見 え

る 」、 自 発 の 意 味 に 解 釈 す る こ とが で き な い も の(=自 発 の 条 件 を 満 た さ な い も の)に は 「見

られ る 」 を 使 う と して い る 。

(5)庵(2011:81-82)で は 、有 標 ・無 標 と い う 考 え 方 に つ い て 「2っ の 類 似 形 式 に あ る 言 語 形 式A、

Bが あ る と き 、 文 脈Cに お い て 、 言 語 環 境Xで は 形 式Bの みが 扱 われ 、 そ の他 の言語 環 境 で は

形 式Aが 使 わ れ る と き 、AとBの う ち 、Aは 無 標 の 形 式 で あ り、Bは 有 標 の 形 式 で あ る 。(中

略)こ の よ う に定 義 す る と、有 標 の環 境 の み を指 定 す れ ばい い こ とに な る ので 、 学 習 者 の 負

担 が 軽 減 さ れ る 」 と述 ぺ て い る 。

(6)分 類(9分 類)の 詳 細 に つ い て は 、 森(2014)「 可 能 を表 す 「見 え る 」 「見 ら れ る 」 の 用 法 別 使

用 傾 向 一 コ ーパ ス に 見 る 母 語 話 者 と非 母 語 話 者 の 使 用 の 異 な り一 」『日本 語/日 本 語 教育 研 究 』

第5号 コ コ 出 版(2014年5月 発 行 予 定)を 参 照 され た い。

(7)「 見 え る 」 「見 ら れ る 」 全 体 の 中 で 「見 え る 」 が 占 め る 割 合 は 、現 代 書 き言 葉 均 衡 コ ーパ ス(コ

ア デ ー タ の み)で72.52%、 名 大 会 話 コ ーパ ス で81.87%で あ る。

(8)用 法 ⑨ は 、 調 査 し た 範 囲 に お い て は 肯 定 の 用 例 は な か っ た 。BCCWJで 否 定 の 形 で1件 、名大

会 話 コ ー パ ス で は 否 定 の 形 で2件 の み 確 認 さ れ た 。

(9)調 査 し た 母 語 話 者 コ ー パ ス(BCCWJの コ ア デ ー タ 及 び 名 大 会 話 コ ー パ ス)に おい て、 用 法⑥


に は す べ て 「見 え る 」が 使 用 さ れ て お り、 「見 られ る 」が 使 用 さ れ て い る も の は1件 も な か っ た 。

(本 学 大 学 院 生)

(13)
-163一

You might also like