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【目次】

第1章・・・・・・・・・・1頁目

第2章・・・・・・・・・19頁目

第3章・・・・・・・・・65頁目

第4章・・・・・・・・107頁目

第5章・・・・・・・・156頁目

第6章・・・・・・・・195頁目

エピローグ1・・・・・238頁目

エピローグ2・・・・・256頁目
 第1章

 1

 子供の頃から格闘技に興味があった。
 テレビで放送される格闘技関係の番組―――そこで繰
り広げられる男たちの戦いに胸を熱くした。
 だから英雄が格闘技を始めたことは自然な流れだった
のだ。
 柔道とブラジリアン柔術。
 英雄としてはブラジリアン柔術だけをやりたかった。
 柔道教室にも通うことになったのは親の意向だ。
 よく分からないマイナーなスポーツをやるよりも、メ
ジャーな柔道をやったほうが息子の将来にとっては有意
義だろう。そう考えた英雄の両親が、ブラジリアン柔術
教室に通うための条件として、柔道教室に通うことも要
求したのだった。

 *

 英雄は熱心に練習に取り組んだ。
 もともと同年代の男子と比べても身長が低かったが、
そんなハンデがありながらも、ブラジリアン柔術教室で
の英雄の活躍はめざましかった。
 小さな体をいかして、機敏に動き、フェイントを重ね
ながら相手の首や関節を狙っていく。相手がたとえ自分

1
より大きな体であっても、工夫次第で勝利できるという
感覚に、英雄は夢中になった。めきめきと頭角をあらわ
していき、中等部にあがったころにはブラジリアン柔術
教室の指導役に抜擢された。尊敬する師範から、教室に
入ったばかりの初等部生徒たちの指導役に選ばれたの
だ。

 *

 初等部の生徒は基本的に言うことをきかない。
 やんちゃで、すぐに集中力をなくす。
 それでも、強さに対する憧れをもっていることは自分
と同じで、英雄は熱心に初等部の生徒を指導していっ
た。
 指導にあたっては自分が今まで感覚でやっていたこと
をわかりやすく言葉にすることが必要で、英雄にとって
も勉強になった。
 やんちゃで元気だけがありあまっているような少年た
ちを指導するのは大変だったが、面倒見のいい英雄は根
気強く彼らに向きあった。乱暴そうな少年たちも英雄の
強さを知るにつれて言うことを聞くようになり、ブラジ
リアン柔術教室の初等部クラスは盛況となって、毎日や
かましい日々が続いていた。

 *

2
 そんなある日、気弱そうな少女がブラジリアン柔術教
室に入会してきた。
 富山明日香。
 それが少女の名前だった。
(なんでこんな子が?)
 明日香を一目見て、英雄は疑問に思ったことを覚えて
いる。
 目の前の少女はとても小さかった。
 気弱そうで、現に教室に現れてからというもの、ずっ
と涙目になって、眉を下げっぱなしだ。
 とてもではないが、格闘技に興味があるとは思えな
い。
「どうして、ブラジリアン柔術をやろうと思ったの?」
 英雄が問いかける。
 すると、少女が、
「パ、パパが」
「え?」
「パパが、体をきたえるためにかよえって」
 両親から言われて嫌々通わされている。
 そういう子供も少なからず存在する。
 けれども、英雄としてはそういう子供も大歓迎だっ
た。きっかけがどうであれ、ブラジリアン柔術のすばら
しさを知って欲しい。英雄はおびえている明日香にむ
かってニッコリとほほえみながら言った。
「大丈夫。怖くないよ」
「…………」

3
「少しづつやっていけばいいんだ。今日は簡単な動作か
らやっていこう。基本的なことだけど、この繰り返しが
大事なんだ」
「は、はい」
 明日香への指導が始まる。
 これまで運動をあまりやっていなかったようで、明日
香の動きはお世辞にもいいとは言えなかった。
 けれども、英雄の熱心な指導のおかけで、明日香もブ
ラジリアン柔術の楽しさを感じるようになっていった。
涙目ではなくなり、表情にも生き生きとしたものが浮か
ぶ。
 明日香も英雄を慕うようになり、英雄のことを「師匠」
と呼んでなつくようになった。師匠はやめてくれと英雄
が言っても、
「師匠は師匠です」とかたくなに呼び名を
変えてくれない。師匠と呼ばれて、英雄はどこかこそば
ゆい気持ちになりながらも、誇らしさも感じていた。
 指導と練習が続く。
 まだまだ教室内では誰にも勝つことはできず、誰より
も弱かったが、明日香は日々まじめに練習に取り組んで
いった。

 *

「うん。だいぶ上達したね、明日香」
 道場での練習後。
 肩で息をして汗だくになっている小柄な少女を見下ろ

4
しながら、英雄が言った。
「ありがとうございます。これも師匠のおかげです」
 にっこりとした笑顔。
 かわいらしい少女のほほえみ。
 楽しそうにしている明日香を見て、英雄もほんわかと
した気分になった。
「師匠のおかげで、ブラジリアン柔術が好きになりまし
た。体を動かすのも気持ちがいいです」
「いや、僕のおかげとかじゃなく、明日香ががんばって
るからだよ。練習、いつもまじめに取り組んでるもんね」
「そんなことないです。これは師匠のおかげです」
 かたくなにそう言う。
 自分のことを慕ってくる妹弟子の存在はただただ嬉し
く、英雄も笑顔になる。特に意図することもなく、自然
と英雄の手が明日香の頭に置かれ、優しく撫で始めた。
「明日香なら強くなれるよ。がんばろうな」
「は、はい」
 顔を真っ赤にして、されるがままに頭を撫でられてい
く少女。
 英雄を見上げた彼女の瞳はトロンと溶けていた。

 *

 練習が続く。
 明日香はまじめに練習に励み続けた。
 けれども、やはり教室内で一番弱いのは明日香だっ

5
た。
 試合ではいつも明日香が負けた。
 残酷な男子たちは、弱い明日香のことを痛めつけて、
締め落としてしまうこともあった。特に明日香と同い年
の少年が彼女のことを目の敵にしていて、試合ごとに明
日香を締め落としては勝ち誇っていた。
「こら聡、加減をしろと言ってるだろ」
「うるせえ。弱いこいつが悪いんだよ。弱い奴は強い奴
に従うべきなんだ」
「なに言ってるんだ。明日香はまだ始めたばかりなんだ
から、手加減してやらないとダメだろう」
「くそっ。なんだよ、こいつのことばっかり特別扱いし
て」
 ふてくされたようにして、どこかへ行ってしまう聡。
 英雄はやれやれと明日香の介抱をして、彼女が意識を
取り戻すのを待った。
 これが日常茶飯事だった。
 明日香は何度も締め落とされた。
 けれども、けっしてブラジリアン柔術教室を辞めよう
とはしなかった。
 一生懸命に練習に励んでいく明日香。
 英雄はそんな明日香のことをほほえましく思い、ます
ます熱を入れて明日香のことを指導していった。

 *

6
 英雄の中学3年生の冬。
 ブラジリアン柔術と柔道を続けていた彼だったが、高
校からは柔道一本で勝負をすることにした。
 高校の推薦を柔道でとったからだ。
 もちろん、ブラジリアン柔術への未練もあったが、そ
の高校は全寮制の学校で、柔道部の練習に明け暮れなが
らブラジリアン柔術の練習をすることはできそうにな
かった。だから、英雄は長年通っていたブラジリアン柔
術教室にも来れなくなる。それは明日香との別れも意味
していた。
「さびしいです」
 明日香が涙目になりながら言った。
 それは英雄にとってなつかしい姿だった。
 明日香が教室に入ってきた時に浮かべていた表情。数
年が経過し、男子に締め落とされても泣かなくなった明
日香が、その瞳に涙をためて英雄のことを見上げてい
る。
「……明日香、がんばります」
 それでも気丈に、小柄な少女が言った。
「がんばって、それでこの教室の誰よりも強くなってみ
せます」
 覚悟をきめた明日香の顔。
 それを見下ろした英雄は誇らしい気持ちになり、彼女
の頭に手を置いて、撫でた。
「ああ、明日香ならできる。がんばれ」
「はい」

7
 元気よく返事をした明日香。
 それが彼女との別れになった。
 
 2

 高校時代の英雄は無双した。
 1年の時から大会に出て、インターハイでも好成績を
おさめた。
 誰よりも練習に励み、誰よりも技術を高めていった。
 身長は中学時代の160センチメートルのまま。
 柔道をやる人間としてはかなり小柄な部類である。
 けれども、英雄はそのハンデをものともせず、練習に
励み、県内では敵なしの猛者として名をはせていた。
 小柄な体格をめいいっぱいにつかって、相手を翻弄し
て、投げる。
 特にブラジリアン柔術をやっていた影響からか寝技が
得意だった。
 柔よく剛を制す。
 その言葉を体言する存在として、英雄は自分よりも大
きく、体重だって倍以上ある相手にも遅れをとることは
なかった。高校3年の大会ではついに優勝し、団体戦で
も大将として君臨して、団体戦優勝まで果たした。大学
でも柔道をやるつもりで、はやくも推薦で都内の名門大
学への入学を決めていた。
 まさに順風満帆。
 そんな3年生の秋のこと―――突然、ブラジリアン柔

8
術教室の師範から連絡を受けた。
 
 *

「久しぶりだな」
 喫茶店。
 英雄が店に入ると師範はすでにコーヒーを飲んでい
た。
 大柄でいかつい大人の男だ。
 眼光が鋭くて、こうして近くにいるだけで威圧感を覚
える。その様子は3年前と変わらなくて、英雄は自然と
背筋が伸びた。
「お久しぶりです。師範」
「ああ。英雄の活躍は見ていたよ。すごいな」
「そんな」
 師範にほめられて、胸を熱くさせる英雄。
 ブラジリアン柔術の世界大会で入賞したこともある男
からの言葉は、英雄にとって素直に嬉しいものだった。
「それで、今日は何かあったんですか?」
「うむ。そうなんだ」
 師範はそこでコーヒーにもう一度口をつけた。
 ゆっくりと咀嚼するように飲んでいる。
 何か言いにくそうにしている。それが英雄にも分かっ
た。
「今度、ブラジリアン柔術協会の世界戦がある」
「はい、確か師範も参加されるんですよね」

9
「うむ。それで頼みごとがあるんだ」
「頼みごと?」
 どういうことだろうか。
 疑問に思った英雄に対して、師範が、
「大会は外国で行われる」
「そうなんですか」
「ああ、おそらく1ヶ月ほどは向こうに滞在することに
なるだろう」
「はい」
「その間、英雄にブラジリアン柔術教室の師範代を頼め
ないか?」
 英雄は目を丸くして驚いた。
 自分はブラジリアン柔術の練習をしなくなって3年の
ブランクがある。その間はずっと柔道の練習に明け暮れ
ていた。そんな自分に師範代なんてできるわけがない。
そう思ったのだ。
「おまえの強さは分かっている」
「師範」
「おまえの試合も何度かみた。寝技には柔術の技術が使
われていた。なんの問題もない」
「ですが、」
「うちの道場を任せられるのは英雄しかいないんだ。後
生だ。頼まれてくれないか」
 そう言って、師範は頭を下げた。
 それを見て、英雄はうっとうめく。
 師範に頭を下げられるなんて初めてだった。熱いもの

10
を感じた英雄は腹を決めた。
「分かりました。やらせてもらいます」
「本当か?」
「師範の頼みですからね。俺でよければ、お力になりま
す。ちょうど、部活も引退式を終えたばかりですから、
大学に行くまで時間もありますし」
「そうか」
 ほっとした様子の師範。
 しかし、どこかそわそわとした落ち着きのない様子が
見受けられた。こんな師範を見るのは初めてで、やはり
英雄は面食らってしまった。歯切れが悪そうに師範が口
を開く。
「英雄、明日香のことは覚えているか?」
「明日香? ああ、もちろんです。あの子はまだ教室に
通ってるんですか」
「……ああ、通ってる」
「そうですか。練習熱心だったあの子のことだ。だいぶ
実力をつけたんじゃないですか?」
「……そうだな。強くなった。いや、強くなりすぎた」
「え?」
 師範の声がよく聞こえなかった英雄が問いかける。
 それを無視する形で、師範が真剣な表情で言った。
「明日香のしてることを止めるな」
「ど、どういうことですか」
「そのままだ。行けば分かる。理解する。けれど、明日
香のしていることだけは止めるな」

11
 真剣な表情。
 そこにさらなる質問を向けることはできなかった。
 英雄は気圧されてコクリと頷いた。
 その選択が、自分の人生を変えてしまうことになると
も知らずに。

 3

 部活は引退していたので放課後は暇だ。
 英雄はさっそく次の日に道場に向かうことにした。
「変わらないな、ここは」
 郊外の住宅ひとつ建っていない一角にある道場。
 看板にはブラジリアン柔術の言葉と、協会に所属して
いることが分かるマークがつけられているだけの簡素な
たたずまいだ。
 まさに、質実剛健。
 強さを追い求めた戦いの場所がそこにはあった。
「さっそく入るか」
 建物内へ。
 かって知ったる我が家とばかりに更衣室に向かい、ブ
ラジリアン柔術の道着をひっぱりだした。
 中学時代から体格は変わっていなかったので、その道
着はすんなりと体にフィットした。
「なつかしいな」
 初等部の頃から着慣れた道着。
 それを身につけるといつでも初心に戻れる気がした。

12
背筋が自然と伸びて、心が澄み渡る。ああ、戻ってきた
んだなと、英雄は感慨深く思った。
(それにしても、師範のあの言葉はどういうことなんだ
ろうか)
 英雄は昨日から疑問に思っていた。
 師範の言葉。
 明日香のやっていることを止めるな。
 その意味が分からず、英雄としては困惑するしかな
かった。けれども、道場に行けば分かるだろう。久しぶ
りの道場。そして、久しぶりの明日香との再開だった。
彼女がどれだけ強くなっているのか、兄弟子として楽し
みでもあった。
「行ってみよう」
 英雄はウキウキした気持ちで、道場に向かった。

 *

 更衣室から離れたところ。
 そこに、レスリングの試合会場を思わせる空間があっ
た。
 かなり広く、試合をするのにも、練習をするのにも十
分なスペースが広がっている。
 日夜、男たちの熱い熱気が繰り広げられていた聖域。
強さを求め、毎日のように大勢の男たちがトレーニング
に励んでいる場所。
 そこで英雄は信じられないものを見た。

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「え?」
 最初、理解できなかった。
 道場の中央。
 そこで、大柄な女性が男の首を締め上げ、宙づりにし
ていた。

14
「は?」
 女性はかなり背が高かった。
 少なくとも英雄とは比べものにならないほど高い身長
であることは間違い。しかも、身長だけではない。それ
以外のいろいろなところが大きかった。
(で、でかい)
 胸。
 道着からこぼれおちそうになっているおっぱいが、英
雄の視界に飛び込んでくる。
 さらには下半身の充実具合もけたはずれだった。その
女性は下半身の道着をつけていなかった。そのせいで、
彼女のムチムチかつ強靱な太ももが惜しげもなくさらさ
れている。信じられないくらいに長い足。それを支える
鍛え上げられた太ももとふくらはぎにはうっすらと筋
肉がのっていて、見ているだけで圧倒されるくらいだっ
た。
「ぐげえええええッ!」
 断末魔。
 それは女性に締め上げられている男があげているもの
だった。
 その顔には見覚えがあった。青年部で働きながら格闘
技をしている男。それほど強いわけではないが、毎日ま
じめにトレーニングをしていた人だった。そんな成人男
性が、手も足も出ずに女性に首を締められ、吊るされて
いた。
 吊るされている。

15
 その言葉どおりだった。
 男性の足は床についていない。首を締められ、宙づり
にされているのだ。しかも、女性は片手一本で男の首を
わしづかみにしていた。彼女は片手だけで成人男性を持
ち上げ、その首を締め上げているのだ。 
「ぐげえええええッ!」
 苦しんでいる。
 顔を真っ赤にして、舌を飛び出させて、涙をぽろぽろ
流しながら苦しみ続けている。
 男は自分の首を絞めている女性の手をつかんで、なん
とかそこから脱出しようと必死だった。足をバタバタと
暴れさせて、女性からの首締めから逃れようと滑稽に暴
れまわっている。
 しかし、無駄な努力だった。
 男がどんなに暴れようが、女性はビクともしなかっ
た。泰然と二本の足で立ち、ぶれることもなく片手で男
を吊るして、締め上げていくだけ。
 ピクピクと痙攣が始まる。
 じたばたと暴れていた足が弱々しくなっていく。そし
て、男の両手がガクンと下に落ちた。墜ちたのだ。宙づ
りにされたまま、男は気絶してしまった。
「あは、よわっ」
 弾むような声。
 幼い。
 そう感じさせる声だった。
 その声には聞き覚えがあった。

16
 どこだろう。
 英雄は疑問に思う。
 その女性。
 いや、少女。
 英雄は彼女の顔をその時はじめて見上げた。
 かなり幼い。
 体は大きいのにその顔立ちは無邪気そのものに見え
た。男を片手だけで締め落としたというのに、そこには
ニコニコとした純粋無垢な笑顔しか浮かんでいなかった
のだ。
 しかし、この顔―――。
 どこかで見たことがあるような……。
 そんな具合に英雄が困惑していると、少女が英雄に気
づき、満面の笑みになった。
「師匠っ! きてたんですね!」
 無邪気に喜んだ少女。
 彼女はつかんでいた男の首を投げ捨てると、そのまま
こちらに歩いてきた。
 その顔立ち。
 その声。
 なにより、師匠という言葉。
 そこでようやく、英雄は目の前の少女が誰であるか思
い至った。
「あ、明日香か?」
「そうですッ。お久しぶりです、師匠」
 笑顔で明日香はそう言った。

17
 英雄はそんな彼女のことを見上げるしかなかった。
 自分よりも格段に背が高い妹弟子。
 肩幅も、体の分厚さも、その筋肉量だって自分よりも
勝っていることが一目で分かる成長しきった肉体。英雄
は呆然として、成長した明日香のことを呆けた顔で見上
げ続けた。

18
 第2章

 1

 英雄は明日香と向かい合って座っていた。
 お互いに正座。
 目の前。
 そこにはニコニコ笑う明日香の姿があった。
 こうして座っているだけで、体の圧がすさまじかっ
た。道着の胸元はひらけていて、その大きなおっぱいの
谷間が強調されている。道着を着用していない下半身で
はムチムチの太ももが自己主張をしていて、英雄として
も目のやり場に困った。
「大きくなったね、明日香」
「はい。成長しました」
「しかし、3年でここまで大きくなるなんて、すごいよ」
「ふふっ、師匠と別れてから、ぐんぐん身長が伸びて、
体も大人になったんです。この前の身体測定では186
センチだったので、今はもっと高くなっていると思いま
す」
「そ、そうか」
 具体的な身長の数字を知ると英雄も戸惑った。
 自分よりも30センチ近く身長が違うことになる。
 あの小さかった妹弟子に身長を抜かされている―――
それを実感すると、英雄は、悔しさと劣等感が入り混
じった複雑な感情が自分の中に生まれるのを感じた。

19
(しかも、明日香はまだ初等部なんだよな)
 成長期。
 まだまだこれから大きくなる。
 自分との差はますます広がってしまうだろう。そう思
うと屈辱感がさらに増すようだった。
「師匠にまた会えて、明日香、本当に嬉しいです」
 素直な言葉。
 純粋そうな声と表情。
 それは英雄が知っている明日香そのものだった。
 この純粋無垢そうな少女と、さきほど成人男性の首を
締めて吊るし上げ容赦なく気絶させていた残酷な女性と
が同一人物とは思えないくらいだ。
「鍛錬を欠かさなかったみたいだね」
「はい。師匠に言われたとおり練習してたら、強くなれ
ました。今、この道場では、明日香が一番強いんですよ」
「そ、そうなのか」
「はいっ」
 ニコニコと笑顔で言う明日香。
 英雄に再会できたことが本当に嬉しいということを全
身で表現しているような少女に、英雄としても悪い気は
しなかった。劣等感のようなものが、自然と消えていく。
「そうだっ、師匠にも明日香がどれだけ強くなったのか
見てもらいたいです」
 明日香が立ち上がった。
 座った状態から見上げると、その体の大きさは威圧的
の一言だった。かわいらしい幼い顔立ちなのに、体だけ

20
はもう大人のものだ。そのギャップに英雄もクラクラし
た。
「スパーリングするので見ていてください」

 *

 そうして明日香の締め落としが始まった。
 彼女の強さは明らかに異質だった
 立ち上がった男女が向き合う。
 男の顔は、はやくも怯えと緊張でこわばっていた。
「いきますよ〜」
 明日香は終始笑顔だ。
 ニコニコしながら男に襲いかかった。
「えい」
 速い。
 英雄は目で追うのがやっとだった。
 瞬間、明日香の長い足がバっとひろがった。
 まるで女郎蜘蛛がその長い足で獲物に襲いかかったか
のような俊敏さ。彼女は両太ももの間に男の胴体をがっ
ちりと挟み込むと、そのまま仰向けの体勢で男を地面に
引きずり込んだ。
「ふふっ、つかまえた」
 ニコニコと笑顔の明日香。
 対照的に絶望で眉を下げている男。
 明日香は地面に仰向けで寝ころがっている。まるで自
分の部屋でリラックスしているような格好。しかし、そ

21
の屈強な太ももの間には男の胴体が挟み込まれていた。
ムチムチの筋肉質な足が容赦なく男の胴体に食い込んで
いる。男の背中で明日香の足は四の字に組まれてがっち
りとホールドされていた。もはや脱出する可能性が0で
あることは一目瞭然だった。
「見ててくれましたか、師匠」
 その体勢のまま明日香が言う。
 目の前の男から視線をはずし、ニコニコとした笑顔を
英雄に向けながら、
「あっという間に寝技に持ち込めました」
「あ、ああ。すごいよ」
「ありがとうございますっ! こうやって明日香が太も
もで挟み込むと、もう男の人は抵抗もできないんです
よ。見ていてください」
 ニッコリとした笑顔。
 そのまま、明日香が太ももで男の胴体を潰した。
 ぎゅううううううッ!
「ひっぎいいいいいッ!」
 男の悲鳴。
 それが道場中に響き、周囲を取り囲んだほかの男たち
が顔をそむけた。そんな中にあっても、英雄は明日香の
脚に視線がくぎづけになってしまっていた。
(す、すごい)
 その太もも。
 ムチムチの太ももの下から現れた筋肉は凶悪の一言
だった。柔らかさを失っていない女性らしい筋肉が、皮

22
下脂肪の下から出現し、強烈な自己主張をしている。
 その強靱な太ももはどん欲に男の胴体を喰らい、捕食
していた。ギチギチギチッと肉が潰れ、それだけで男は
抵抗一つできず、早くも若干白目をむいて悶えている。
「ね、この人、もう苦しそうです」
 またしても明日香が英雄に顔を向けて言う。
 ニコニコとした少女。
 自分の成果を憧れの人に見て自慢したいという幼児性
がそこにはかいま見られた。けれどもやっていることは
残酷の一言だ。英雄に話しかけながらも、そのアナコン
ダのような太ももはひたすらに締めつけを止めない。ベ
ギバギッと骨が軋む音すら響き始めていく。
「こうすればあとは簡単です。見ていてくださいね、師
匠」
 明日香が動く。
 英雄は圧倒された。
(は、速いっ)
 ばっと、またしても明日香の両脚が花開く。
 がっちりと男の胴体をホールドしていた足が、あっと
いう間に男の首に巻きつき、終わった。
 それは一瞬の出来事だった。
 瞬きをするその瞬間に、明日香は三角締めを極めてし
まったのだ。
「はい、いっちょうあがりです」
 嬉しそうな、誇らしそうな、
 明日香のニコニコした笑顔。

23
 それとは対照的に、男は明日香の股の間に顔をつっこ
み、まるで土下座をするみたいにして四つん這いになっ
ていた。
 顔が鬱血している。頭部全体を明日香のムチムチかつ
筋肉質な太ももに埋もれさせて、三角締めが完璧に決
まっていた。男に許されたのはギブアップのタップだけ
だ。苦しさのあまり、男が早々に明日香の太ももをぺし
ぺしと叩き始める。
「師匠見ていてくれましたか」
 明日香が英雄に顔を向けて言った。
 その間も、男のタップが必死に繰り返されている。
「明日香、こんなに強くなれました」
「あ、ああ」
「これも師匠の教えのおかげです。師匠の教えどおりに
練習していたら強くなれたんです」
「そ、そうだな。でも、それより明日香、もう相手はタッ
プしているんだから、もう技をやめたほうがいいんじゃ
ないか?」
 英雄の視線の先では、男が半狂乱になって暴れてい
た。
 明日香の太ももを何度タップしても決して許しても
らえず、男は体全体を暴れさせてなんとか逃げようとし
ていた。それは体の本能。命を守ろうとする必死の行動
だった。
「え、なんでですか?」
 しかし、男の必死の行動は、明日香にとってはどうで

24
も良いものらしい。
 キョトンとした表情を浮かべ、男が暴れてもビクとも
しない三角締めを継続したまま、明日香が言う。
「弱い人には分からせないとダメじゃないですか」
「わ、分からせる?」
「はい。自分の立場ってやつを分からせてあげなきゃ」
 こんなふうに。
 ぎゅうううううッ!
「ぐげえええええッ!」
 締めつけ。
 明日香の太ももの体積が増した。
 それとともに男の顔面は彼女の豊満な太ももの間に
すっぽりと埋まり、見えなくなってしまう。聞こえるの
は踏み潰されたウシガエルのような断末魔の悲鳴だけ。
それが永遠に続き、道場中に響きわたった。
「今、気道だけ締めてます」
 ニコニコ。
 笑顔で師匠に自慢する少女。
「そうすると、本当に苦しそうに暴れるんですよね。そ
れでも許さず締めつけていきます」
 えい。
 かわいらしい声。
 さらに締めつけの強さが増す。
 まだ手加減しているのだろう。
 全力ではない。余裕の表情で太ももに力をこめてい
く。
「グッゲエエエエエッ!」という悲鳴が強くなる。そ

25
れでも明日香はニコニコしたまま、三角締めを残酷に続
けた。
「頸動脈ではなく、こめかみを締めます」
 バギベギバギッ!
 骨が軋む。
 頭蓋骨が悲鳴をあげている。男がジタバタと暴れ、発
狂したように痙攣し始める。
「ふふっ、もう少し力こめたら潰れちゃいそうですね。
このまま、明日香の太ももで、頭潰しちゃおうかな」
 にこにこ。
 笑いながら、冗談のような言葉。
 しかし、道場にいる男全員が明日香の言葉が冗談では
ないことを知っていた。今も、ベギバギと頭蓋骨が軋ん
でいく。
「グッゲエエエエッ!」という悲鳴はもはや壊
れた人間があげる鬼気迫るものへと変わっていた。
 圧倒的な太ももの存在感。
 その間にすっぽりと埋まり、四つん這いの格好で頭を
強制的に下げさせられて死への痙攣を踊っていく男。も
はや限界。その瞬間、明日香の締めつけが終わった。
「墜ちろ」
 くいっ。
 太ももの内側の筋肉が蠢く。
 的確に男の頸動脈だけを締めつけたかと思うと、次の
瞬間、男が盛大なイビキをかき始めた。
 気絶したのだ。
 男の体が脱力し、ビクンビクンと痙攣している。グボ

26
オオオオッというイビキが大きく響いていった。
「ほら師匠、見てくださいよこいつの顔」
 起きあがった明日香が言う。
 彼女は気絶したまま動かない男の髪の毛をつかむと、
そのまま持ち上げてしまった。
 髪の毛をつかんで宙づりにしながら、まるで戦利品の
ようにして英雄に展示する。
「う、あ」
 英雄の目の前。
 そこには、白目をむき、顔を鬱血させ、涙と鼻水と涎
でぐちゃぐちゃにされた男の顔があった。人間の尊厳な
んて1ミリも残っていない情けない姿。成人男性が、初
等部の少女に手も足も出ずにボコボコにされてしまった
のだ。
「おもしろい顔ですよね〜。まさにザコって感じです」
「あ、明日香」
「こんな弱い人は吊るしてあげないといけません」
 明日香の瞳がキラリと光った。
 英雄が止めるヒマもなく彼女は男の胸ぐらをつかむ
と、そのまま宙づりにさせた。吊るしている。身長差か
ら男の足は地面につかず、ぶらぶらと男の死体が揺れて
いるようだった。
「起きろ」
 ベッチイインンッ!
 びんた。
 強烈な往復びんたが何度も炸裂する。

27
 男の頭部が左右に吹き飛び、首がねじきれそうになっ
ていた。
「ふは?」
 起きた。
 男の視線がきょろきょろとする。
 そして、自分が吊されていることを自覚し、明日香の
ニコニコした笑顔を見て、
「ひい」と悲鳴をもらした。
「起きましたね、井上さん」
 ニコニコ。
 純粋無垢な少女が成人男性を吊るし上げながら言う。
「井上さんは10歳以上も年下の女の子に手も足もでず
に締め落とされてしまったんですよ? なさけないと思
わないんですか?」
「あ、ああああッ!」
「なにか言うことはないんですか?」
 ん?
 回答の催促。
 成人男性を吊るしながらの言葉。
 吊るされている男に選択の余地はないようだった。
「ゆ、ゆるしてください明日香様アアアッ!」
 命乞い。
 吊るされた男が、自分よりも一回り年下の少女にむ
かって命乞いを始める。
「おゆるしください。弱くて申し訳ありません。たすけ
て、たすけてください」
 必死。

28
 心の底から命乞いをしている。
 それが英雄にとっては衝撃的だった。
 命のやりとりが目の前では繰り広げられている。
 スポーツとして格闘技をやっていた英雄にとって、そ
の光景はあまりにも規格外すぎた。
「ん」
 ぎゅううううううッ!
「ぐげえええええええッ!」
 明日香が動いた。
 両手でつかんでいた襟を左右に閉じる。
 右手は左へ、左手は右へ。
 襟締め
 宙づりにされた男がバタバタと暴れ始め、顔を鬱血さ
せていく。
「ふふっ、吊るして終わりにしてあげますね、井上さん」
 にこにこ。
 必死に暴れ始めた男には微動だにせず、明日香が言
う。彼女の体の逞しさが分かる光景。男がどんなに暴れ
ても、明日香は1ミリだってよろけることなく、淡々と
襟締めで男の意識を奪っていく。
「ぎっぎいいいいいッ!」
 悲鳴。
 同時に明日香の腕を何度もたたき、必死の命乞いが始
まる。
 それを無視した明日香が、致命的な締めつけを男の頸
動脈に与えた。

29
「グッボオオオオオッ!」
 墜ちた。
 明日香の腕の中で意識を失った男がイビキをあげ、ダ
ランと脱力した。
「あらら、もう墜ちちゃいました。だいぶ墜ち癖がつき
ましたね。まあ、明日香がそうさせたんですが」
 くすりとした笑顔。
 男にはもう明日香の言葉は届かない。
 足が地面につかず、その物体となった体がゆらゆらと
揺れている。絞首刑にされた死刑囚の体。絶対的な存在
となった明日香はにこにことしながら気絶した男を見上
げていた。
「どうですか、師匠」
 明日香が英雄にむかって、
「明日香、強くなれましたか?」
「う、あ、ああ」
 うなずく。
 うなずいてしまった。
 英雄の視界には、ぱああっと笑顔になる明日香の幼い
顔がうつった。
「ありがとうございます。ほかの人たちも落としていく
ので、見ていてください」
 明日香が続けていく。
 屈強な男たちを、それよりも優れた体格の少女が蹂躙
していく。英雄はただ呆然と、その締め落としの様子を
見守るしかなかった。

30
 2

 衝撃的な再会の翌日。
 英雄はブラジリアン柔術教室が変わってしまっている
ことを実感していた。
 もはやこの教室は男たちのためにあるものではなかっ
た。一人の少女。明日香のために存在しているのだ。
「馬乗りになっちゃいました。岡村さん、逃げられます
か?」
 馬乗り三角締め。
 仰向けに倒れた男の顔面に座るような格好で、明日香
が三角締めをしている。顔面騎乗のように見えるが、彼
女の鍛え上げられたムチムチの足は男の首に絡みつき、
容赦なく締め上げていた。
「ぐ、ぎいいいいいッ」
 男が必死に抵抗している。
 体を暴れさせ、なんとか逃げようとする。
 しかし、
「なにしてるんですか、岡村さん」
 男の顔面で座りながら明日香はにこにこ笑っていた。
部屋で座ってくつろいでいるような余裕さ。その太もも
の間で男を殺しながら、明日香は楽しそうに笑っている
だけだった。
「ほら、もっとがんばってください」
「ひ、っぎっぎいいい」

31
「そうしないと、本気で締めますよ」
「ひっぎいいいいいッ!」
 暴れた。
 明日香の脅しに男が命をかけて暴れ始めた。
 残った片手でぽかぽかと明日香の体を叩く。両足をば
たつかせてなんとか逃れようとあがいていく。明日香の
尻の下でかろうじて見える男の横顔は滑稽にもゆがみ、
恐怖におののきながら、必死に抵抗していた。
「はい、時間切れです」
 ぎゅううううううッ!
 締めつけ。
 彼女の太ももの体積が増す。
 途端に男の体からいっさいの抵抗がなくなった。
「吊るしますね」
 自然な流れ。
 またしても明日香が男を吊るす。
 明日香が岡村の首を片手でつかんで、持ち上げた。高
身長で立ち上がり、自分の頭よりも上に男を持ち上げて
しまったのだ。鑑賞会の時間が流れ、満足した明日香が
残ったもう片方の手で拳をつくり、男のみぞおちめがけ
て正拳突きを放った。
「ひいいいいいいッ!」
 木の葉のように男の体が吹っ飛ぶ。
 けれども首をわしづかみにされているので、地面に倒
れ込むこともできない。宙づりの状態で目をさまし、激
痛に身を悶えさせた男が見たのは、自分のことをにこに

32
こと見上げてくる明日香の幼い顔だった。
「あ、ああ、ああ」
 恐怖。
 男が眉を下げ、目の前の少女に恐怖している。それを
見上げる明日香はなおもニコニコとした笑顔を浮かべた
ままだった。その幼い相貌は、公園の砂場でおままごと
をしているような少女にしか見えなかった。
「落としますね」
「や、やめ」
「えい」
 片手だけ。
 明日香が握力だけで締めつけると、まるで手品のよう
に男は気絶した。
 1秒もかかっていない。片手による締めつけだけで男
は意識を刈り取られてしまった。
「う〜ん、岡村さんも墜ち癖がひどいですね」
 他人事のように明日香が語る。
「これは気道責めで再教育してあげなければいけませ
ん。ほら、岡村さん、起きてください。とりあえず、気
絶させないまま1時間は苦しめますから」
 そこで明日香はにっこりと英雄を見下ろした。
 英雄は明日香を呆然と見上げるしかなかった。
「師匠、見ててくださいね」
 無邪気な笑顔。
 英雄は何も言えなかった。
(つ、強すぎる)

33
 驚嘆。
 目の前の圧倒的性能をもった肉体を前にして、英雄は
どこか恐怖のようなものを感じていた。
 ひょっとしたら明日香は自分より強いかもしれない。
 そんな気持ちがめばえるほど、目の前の少女は圧倒的
だった。
 その高い身長。
 まだ初等部なのに、男たちの誰よりも身長が高い。し
かも、ひょろひょろしているわけではなく、その体はム
チムチとしていながらも筋肉の鎧に覆われているのだ。
(いや、体もそうだけど、規格外なのは精神性だ)
 無邪気な残虐さ。
 そう表現するのが一番しっくりくると英雄は思った。
 今も、気絶した岡村を覚醒させて、再び床に引きずり
こんで三角締めを始めている少女。ニコニコしながら、
宣言どおり気道だけを締めて、男に断末魔の悲鳴を永遠
にあげさせていく。
 もし。
 もしあの加虐性が自分に向けられたら……。
 そう考えると英雄は足がすくんでしまった。それほど
までに、目の前の明日香は圧倒的だった。
「あ、明日香。その辺にしておいてやらないか」
 けれども、英雄は指導係だ。
 やりすぎている門下生は止めなければならない。英雄
はなんとか明日香にむかって言った。
「岡村さんも限界みたいだから。今日はそのへんにして

34
おこう」
「そうですか? でも、まだまだ指導が足りないような
気がするんですが」
「いや、もう十分だよ。これ以上はまずい。な、明日香、
やめておこう」
 キョトンとした明日香。
 その間も明日香による三角締めで、岡村が「ぐげええ
ええ」と悲鳴をあげ、何度も何度もタップを繰り返して
いる。そのアナコンダのような太もも。英雄はごくりと
唾を飲み込んで、男に巻きついている明日香の長い足を
凝視するしかなかった。
「わかりました。師匠がそう言うなら」
 明日香が技を解いた。
 さきほどまで男を半殺しにしていた少女とは思えない
純粋無垢な笑顔で立ち上がる。
「それじゃあ、次いきますね」
「え?」
「見ていてください、師匠」
 あくまでも師匠に自慢がしたい。
 自分が強くなったところを見て欲しい。
 そんなふうに考えていることが分かる純粋無垢さで、
明日香は次の獲物を手早く決め、そいつを引きずって
マットの上に連行する。そして、またしても凄惨な拷問
を始めてしまうのだった。
「あ、明日香」
 声をかけることもできず、英雄はそれを見守るしかな

35
い。
 明日香はニコニコしながら、その日も、道場中の男た
ちを締め落とし、吊るして、恐怖の支配者として君臨し
ていた。

 3

 明日香の締め落としは続いた。
 道場は男たちの悲鳴と叫び声で満ち、地獄のような様
相を呈していた。
 英雄が明日香に注意すると、彼女は締め落としを一時
中断してくれる。
 しかし、すぐにニコニコ笑いながらスパーリングを始
め、またしてもその逞しい太ももで男の意識を刈り取
り、最後には見せしめのために吊るすのだ。
(このままじゃ、ダメだよな)
 締め落としはやまない。
 吊るすこともやめない。
 こんな状態が正常でないことは明らかだった。
 どうしようか。
 英雄は思い悩む。
 脳裏に浮かぶのは師範の言葉だ。
(明日香のやっていることを止めるなって、これのこと
だったのか?)
 締め落としと、吊るし上げ。
 それを止めるなと師範は言っていたのだろうか。

36
 しかし、なぜ止めてはいけないのか理解できなかっ
た。
 明日香の加虐趣味は暴走している。
 無邪気に、なんの悪気もなく、男たちを締め落として
楽しんでいる初等部の少女。おそらく急成長した自分の
体に精神の成長が追いついていないのではないかと、英
雄は予想する。強さを手にした人間には配慮すべき一線
がある。幼い明日香にはそれが分からないのだ。
(誰かが、注意して、明日香を正しい道に導いてやるべ
きだ)
 英雄は決意していた。
 明日香を正しい道に導いてあげることができるのは自
分だけだと思った。
 師匠師匠と慕ってくれる可愛い妹弟子。
 彼女のために、きちんと注意をしよう。
 正しい道に戻してやろう。
 英雄はそう決意していた。

 * 

「え? 締め落としは禁止、ですか?」
 道場の中。
 いつものように明日香が男たちを締め落とそうとした
時、英雄がそれを制止した。
「そうだ。さすがに明日香はやりすぎだよ」
 堂々と英雄は言った。

37
 道場の中で対峙する二人。
 体格差は明らかだった。
 道着からこぼれそうになっている明日香の大きな胸
と、ムチムチの太ももが、威圧するように英雄に迫って
くる。
 しかし、英雄としても一歩も引くつもりはなかった。
 これは明日香のためなのだ。
 肉体的な強さを手に入れて自分を見失ってしまってい
る明日香。正しい道に戻してやらなければならない。そ
の一心で、英雄は明日香に話しかけていた。
「もうこんなことは止めるんだ。明日香は、もっと謙虚
に、周りに感謝しながら練習をするべきだよ」
「……でも、あの人たちが弱いのが悪いんです。口だけ
で、まじめに練習もしてないですし」
「だからって、締め落としたり吊るしたりするのは違う
だろう。やりすぎだよ、明日香は」
「…………」
 英雄の言葉に、明日香は下を向いて黙り込んでしまっ
た。
 その反応は年相応の幼い少女のものだった。精神的な
未熟さ。それを教えさとしてやろうと英雄は決意を固く
する。
「そもそも、なんで明日香はほかの男のことを締め落と
すんだ?」
「え?」
「執拗に男を絞め落とすことには、何か目的があるん

38
じゃないか?」
 疑問。
 それは明日香と再会した時から感じていたものだっ
た。
 毎日毎日、飽きもせずに男たちを締め落とす明日香の
目的はなんなのか。英雄としても気になっていたところ
だった。
(ひょっとすると、彼女なりの指導の一環なのかもしれ
ない)
 強くなった彼女が、自分よりも劣った男たちに奮起を
促すため、あえて鬼になって締め落としを継続している
のかも。しかし、明日香からかえってきたのは信じられ
ない言葉だった。
「そんなの、楽しいからに決まってるじゃないですか」
 無邪気。
 少女がニコニコ笑って言葉を続けてくる。
「偉そうにしていた男の人が、明日香に手も足も出ずに
負けて、絶望に染まった顔で苦しんでいるのを見ている
と、とても楽しいです」
「…………」
「太ももで締めつけて顔真っ赤にさせるのも好きです
し、白目むいてダランって体から力が抜ける瞬間も大好
きです。ちょっと締めつけただけでバタバタ暴れてタッ
プしてくるのなんかも楽しいですし、許してくださいっ
て命乞いしてくるのもそそります」
「…………」

39
「それに、なんといっても吊るした時の反応です。みん
な年下の明日香より小さいので、足が地面につかなくて
バタバタ暴れてお魚さんになるんです。首を締めながら
吊るすとピチピチ跳ねたお魚さんになって、白目むいて
口から泡吹きながら気絶するんですが、それをジっと観
察するのが楽しいです。いっしょうけんめい暴れていた
のが、気絶してダランって体から力が抜けて、私の手の
中でビクンビクン痙攣しているのを眺めていると心がポ
カポカします」
「もういい」
 英雄は決意していた。
 明日香にはお灸が必要だ。
 弱いものをいたぶって楽しむなんていう邪道から目を
覚まさせてやらなければならない。
「明日香、俺と勝負しろ」
「え?」
「スパーリングだよ。明日香には、自分よりも強い相手
が世の中にはごまんといることを教えてやる」

 4

 男女が向き合っていた。
 体格のいい幼い顔立ちをした少女。
 そんな彼女よりも一回り小さい精悍な顔立ちの男。
 ほかの門下生たちは、そんな二人を遠巻きにして、勝
負の行く末を案じていた。

40
「師匠、本当にやるんですか?」
 明日香は気乗りしないように言った。
 いつものニコニコした笑顔さえなりを潜め、明らかに
やる気のない様子で棒立ちしているだけだ。
 英雄はそれを怯えととらえた。
 強い者と戦うことに対する躊躇。
 英雄はあくまでも指導者として、明日香と対峙してい
た。
「あたり前だ。いいかい明日香、戦いというのは相手を
選べないんだ。自分より弱い相手としか戦わないなん
て、そんなことは許されない」
「はあ」
「君には一度、現実というものを思い知ってもらおうと
思う。これは明日香のためなんだ」
「そうですか。わかりました。でも、いくら師匠といえ
ども、明日香は手加減できませんからね」
 対峙する二人。
 試合開始を告げるブザーが鳴った。
(いっきに決める)
 英雄が動いた。
 低空タックル。
 地面スレスレまでかがんで相手の足を巻き取る英雄の
得意技だ。どんな体格の良い相手も地面に引きずりこん
できた技が、明日香の足に直撃する。
 しかし、
「な!?」

41
 英雄が驚愕の声をあげた。
 明日香のむき出しの足を抱きかかえ、そのまま全力を
もって押し倒そうとした。しかし、明日香はまったく微
動だにせず、棒立ちのまま英雄のタックルを受けきって
しまったのだ。
「師匠、なにしてるんですか?」
 頭上からの声。
 恐る恐る英雄が上を見上げると、そこにはキョトンと
した顔でこちらを見下ろす明日香がいた。
「ひょっとして、タックルのつもりですか?」
「く、くそ」
「ほら、もっと力こめてください。全力でやらないと、
明日香のことは倒せませんよ」
 最初から全力なのだ。
 それなのに明日香はフラつくこともしない。
 英雄は顔を真っ赤にさせて明日香の体を押す。彼女の
下半身にへばりついて、全身全霊で明日香のことを倒そ
うと力をこめる。
「くおおおおおおッ!」
 全力。
 それなのに明日香は泰然としたまま棒立ちを続けるだ
けだった。
 英雄はまるで大木を抱きかかえているかのような錯
覚に陥っていた。明日香の下半身の強靱さが伝わってく
る。そのムチムチした太ももやふくらはぎの皮下脂肪の
下に眠っている筋肉の存在感が感じられ、自分との差を

42
嫌がおうにも思い知らされた。
「ひょっとしてそれが全力ですか?」
 明日香の言葉。
 それにビクンと英雄が震える。
「もういいです」
 ベチンッ!
「ひいいいいいいッ!」
 明日香の張り手。
 それが英雄の背中に炸裂し、英雄は地面に叩きつけら
れて倒れ込んだ。あまりの激痛に息ができない。英雄は
地面にうつ伏せで倒れたまま、カヒューとか細い声をあ
げるしかなかった。
「たあいもないですね、師匠」
 明日香が地面に倒れ込んだ英雄にむかって言う。
 その高身長から、少女が容赦なく自分の師匠を見下ろ
している。
 彼女の肉体の逞しさと、地面にはいつくばって苦しん
でいる矮小な男の対比。二人のうちのどちらが上なの
か、一目瞭然な光景がそこにはあった。
「ほら師匠、いつまでも悶えてないで立ってください」
 明日香が英雄の腕をつかんだ。フラフラしている英雄
のことをまるで荷物みたいに持ち上げて、強引に立たせ
てしまう。
「まさかこれで終わりじゃないですよね?」
 明日香の何かを確信している声。
 相手のすべてを見切った上での言葉。

43
 ニヤニヤと笑いそうになるのをこらえている明日香の
笑顔に、英雄は戦々恐々とした。
「明日香からは技をかけないであげるので、どんどん来
てください。柔道の技をつかってもいいですよ? 明日
香は柔道だけはやったことないので、初見の技には苦戦
するかもしれませんし」
 くすくすと、余裕たっぷりの顔。
 英雄が顔を歪ませて目の前の巨体に手を伸ばした。
「くそッ」
 自分の得意技。
 背負い投げ。
 どんな体格の良い相手でも小さくかがんで背負ってき
た。
 英雄は素早く明日香の道着をつかみ、全身全霊をかけ
て腕を引き込んで、彼女の体に自分の背中を押し当て
た。
 この3年間を捧げてきた柔道の技。初見で対処するこ
となんて不可能。そのはずだった。
「あはっ、なにしてるんですか、師匠」
 返ってきたのは笑い声だった。
 英雄は彼女に背を向けた体勢から一歩も動くことが
できなかった。全身全霊をかけた背負い投げ。それなの
に、またしても明日香の体勢すらフラつかせることもで
きなかったのだ。
(そ、そんな)
 英雄は驚愕する。

44
 技を解いて再度明日香と向かい合う。
 英雄の前には同じ生物とは思えないほどの力を秘めた
肉体があった。
「ほらほら、どんどんかけてきてくださいよ」
 ニコニコした笑顔。
 それに対して、英雄はプライドをグジャグジャにさ
れ、怯えきった表情を浮かべていた。
(嘘だ。こんなの嘘だ)
 焦燥感。
 下に見ていた妹弟子が、自分よりも圧倒的に強いとい
うことを受け入れられない。自分の人生をすべて捧げて
きた柔術と柔道で、自分よりもはるか年下の少女に劣っ
ているということが、英雄にはどうしても信じられな
かった。
「うわああああッ!」
 虚勢をはって襲いかかる。
 ありとあらゆる柔道の技。
 大外刈り、内股、小外刈り。
 英雄は一生懸命に技をかけ、そのことごとくを明日香
に無効化されてしまった。英雄が必死の形相で、ハアハ
アと息を荒げながら技を繰り出していく。
(う、嘘だ)
 焦り。
 焦燥感。
 自分の技がまったく通用しない。何度も何度も技をか
け、何度も何度も跳ね返される。

45
 彼女の強すぎる肉体。
 そして、技をつぶす天性の勘。
 内股を繰り出せばスカされ、背負おうとしてもビクと
もしない。
 次第に英雄の動きが緩慢になっていった。技を繰り出
してはいるものの、最初のころの勢いはなくなってい
く。
 よろよろと。
 申し訳なさそうに技を繰り出し、それが明日香に通用
しないことを思い知らされる。
(う、ううう)
 泣き顔。
 自分のプライドを年下の妹弟子に粉々にされてしまっ
た男は、ついに明日香の道着をつかんだまま、力なくへ
たりこんでしまった。
「終わりですか? 師匠」
 明日香がニコニコしながら言った。
 それに対して英雄は返答すらできなかった。
 うつむき、ハアハアと息を荒くしながら、明日香の強
靱な体にぶらさがるようにして膝をついている男。
「じゃあ、次は明日香の番です」
 攻守交代。
 明日香が初めて、英雄の道着を力強くつかんだ。
 有無を言わせない暴力的な力。
 袖と襟を完全にがっちりとつかまれた英雄は、体の全
ての自由を奪われた気がした。その感覚は、自分よりも

46
はるか格上の選手につかまれた時と同じものだった。
「師匠の一番の得意技はコレですよね」
 えい。
 電光石火。
 明日香の大きな体が信じられない速さで反転し、背
負った。英雄の体が大きな弧を描いて飛ばされ、そのま
ま背中をマットに強打した。
「がはああああッ!」
 受け身一つとれなかった。
 英雄は何がおこったかも分からない。
 分かるのは今、自分の体が仰向けで倒れていること。
全身を強打し、息すら吸えないこと。ただそれだけだっ
た。
「どうですか、明日香の背負い投げ」
 ニコニコ。
 英雄を背負い投げで投げ飛ばした明日香が得意げに語
る。
「明日香、人の技を見るだけで完コピできちゃうんです。
師匠の技も、覚えちゃいました」
「な、な、な」
「ほかにも色々おぼえましたよ? さっき師匠がいっ
しょうけんめい明日香にかけようとした技、ぜんぶ完コ
ピ済みです。見ててください」
 それから始まったのは公開処刑だった。
 明日香は柔道の技で英雄を投げに投げた。
 豪快。

47
 その一言に尽きる。
 英雄の体は嵐の中の木の葉のように道場を舞い、マッ
トに叩きつけられていく。
 英雄は手も足も出ない。
 まったく歯がたたないのだ。
 なんとか逃れようとしても、明日香に重心を崩され
て、気づいた瞬間には宙を飛び、マットに叩きつけられ
ていく。
(嘘だ……こんなの……嘘だ…………)
 信じられなかった。
 明日香は柔道の素人。
 それなのに、明日香は言葉どおり、英雄の技を見るだ
けで完全コピーしてしまっていた。英雄が何年も厳しい
練習を積んで体得した数々の技が、初見の明日香によっ
て再現されてしまっている。
 いや、再現どころではない。
 その技の精度は英雄を軽く超えていた。
 重心の崩し方も。
 絶妙なタイミングで技をかける天性の勘も。そして、
豪快な技の数々も。すべてが明日香のほうが上だ。英雄
にはそれが分かった。
(そ、そんな……俺が……何年もかけて……いっしょう
けんめいがんばって……それを明日香はなんの苦労もせ
ずに……)
 才能の差。
 人間としての圧倒的格差。

48
 それを感じ取ってしまった英雄は動けなくなった。
 ただただ、明日香に投げ飛ばされ、地面に全身を強打
して、息すら吸えない状態に追い込まれる。
 何度も何度も投げ飛ばされて、英雄はもはやぼろ雑巾
になってしまった。足はがくがくと震え、腰を滑稽に引
いて明日香から逃れようとしている。しかし、明日香の
強靱な体がそれを許さず、英雄がどんなに逃げようが執
拗に追いつめ、襟と袖をつかんで、投げ飛ばす。
「ふふっ、師匠の体、軽〜い」
「かひゅう――ひっぎい……」
「ほらいつまで地面でのたうちまわっているんですか師
匠。はやく立ってください」
 地面に倒れるとすぐに引きずり起こされ、またしても
明日香による柔道の技の披露会が始まるのだ。
 ニコニコ。無邪気に笑いながら、妹弟子が慕っていた
はずの師匠をぼろ雑巾にしていく。道場中に、男の体が
壊されていく音が響き続けた。
「柔よく剛を制す」
 明日香が言う。
「師匠の座右の銘ですよね」
「ひいい……ひいいい……」
「そんなバカみたいな言葉を信じて一生懸命練習をして
きたんですもんね」
 くすりと。
 妹弟子が師匠を鼻で笑った。
「そんなわけないのに。チビがどんなにがんばってもチ

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ビなのに。ふふっ」
 人を小馬鹿にしたような笑み。
 はるか年下の少女が、圧倒的な身長差を見せつけるよ
うに、その大きな体を英雄に寄せた。大きくて強靭な少
女の体と、矮小で惨めな男の体。その対比をまじまじと
見せつけてから、明日香が英雄の耳元で囁く。
「チビなのにがんばれば強くなれると本気で思うなん
て……本当、師匠はバカですね」
「うわああああッ!」
 なけなしのプライドを総動員して英雄が明日香に襲い
かかる。
 自分の曲げてはいけない矜持。
 自らの人生をかけて、英雄が強大な妹弟子の豊満な体
めがけて技を繰り出そうと、
「はい、無駄〜」
「ひっぎいいいッ!」
 どっすんんッ!
 簡単に一本背負いが決まった。
 背中をマットに強打して、英雄の呼吸が奪われる。肺
が潰され、その中にたまっていた空気を根こそぎ奪われ
て、英雄が「かひゅ――かひゅ―――」と悶え苦しんで
いる。
「ふっ、惨め〜」
 そんな師匠のことを明日香はじっくりと鑑賞してい
た。
 地面に仰向けに転がって悶え苦しむ英雄のことを、膝

50
を曲げて座り、間近で見下ろしている。
 両手で頬杖をついて、リラックスした状態で、師匠が
苦しんでいる様子を見つめているのだ。その瞳には明ら
かな愉悦があった。
「これで分かりましたよね、師匠」
 なおも地面でのたうちまわっている男を見下ろして、
明日香が言う。
「チビがどんなにがんばっても、体の大きな女性には勝
てないんです」
「カヒュウ――ッ! ひゅううっ―――」
「師匠はチビだから、体の大きな明日香には勝てないん
ですよ」
 それくらいわかりましょうよ。
 バカにしたように笑って、明日香が英雄の道着をつか
む。
 大きな手によって、英雄の襟首がわしづかみにされ、
そのまま力任せに持ち上げられ、立たされる。
 それだけで英雄は敗北を分からされた。それほどまで
に明日香の力は規格外だった。これからすぐに自分の体
は宙を舞って床に叩きつけられる。目の前の優秀な肉体
をもった明日香に才能の差を見せつけられ、完膚なきま
でに敗北するのだ。
「ふふっ」
 恐ろしい少女が笑っている。
 純粋な恐怖で英雄の背筋が震えた。
 ぎゅううっとさらに力強く道着をつかまれ、柔道の技

51
が叩き込まれようとする瞬間―――ついに、
「……ゆるして」
 英雄が言った。
 力強く襟首をわしづかみにされ、生殺与奪の権利を全
て奪われてしまっている―――そんな情けない状況に追
い込まれ、英雄は観念したように声を漏らしていた。
「もう、やめて……ゆるして」
「師匠?」
「もう、明日香のほうが強い。わかったから、もうやめ
てください」
 プライドもなにもなく懇願する。
 それほど今の英雄はボロボロだった。
 今の投げ飛ばし地獄から逃れることができるならばな
んでもする。そんな負け犬の心境になるまで、英雄は明
日香に追いつめられてしまったのだ。
「ふふっ、師匠、かわいい」
 明日香はそんな情けない英雄を見て笑った。
 ニコニコと純粋無垢な娼婦のように笑う。その笑顔を
前にして英雄は「ひい」と悲鳴をあげた。
「でも、まだですよ、師匠」
 笑いながら、
 明日香がぎゅううっと英雄の道着をつかんだ。
「柔術の技でとどめをさしてあげます」

 *

52
 消えた。
 英雄には明日香の体が消えたように見えた。
 その瞬間、自分の体が何か大きなものに挟み込まれ、
そのまま前のめりになって地面に引きずりこまれる。
「ふふっ、つかまえちゃいました」
 仰向けで地面に寝ころんだ明日香が言った。
 そのむき出しの丸太のような太ももには英雄の胴体が
挟み込まれている。明日香の体に覆いかぶさるようにし
て、英雄は倒されてしまったのだ。
「あ」
 気づいた時にはもう遅い。
 英雄の胴体はムッチムチの明日香の太ももに挟み込ま
れ、身動き一つとれない状態になっている。英雄の背中
では明日香の足が4の字になってがっちりと組まれてい
た。
 絶体絶命。
 英雄はさああっと顔を青くした。
「力こめます」
 ぎゅううううッ!
「ひいいいいいいッ!」
 万力。
 明日香の太ももが英雄の胴体を潰す。
 ムチムチの太ももに筋肉が浮かびあがり、その間に挟
んだ全てを押し潰していた。英雄の鍛えてきた体すら矮
小に見えるほどの太もも。その肉にぎっちりと挟み込ま
れ、まるで英雄の胴体が明日香の太ももの中に埋もれて

53
しまっているように見えた。
「どうですか、師匠」
 ニコニコ。
 力強い万力を繰り出しているのに、明日香はあくまで
も余裕だった。
「師匠も、明日香の締めつけには耐えられないですか?」
「く、くううううッ!」
「苦しそうですね〜。まあ、ほかの男の人たちも、明日
香の締めつけに耐えられた人なんていませんから、気に
しないでください」
 ぎゅうううううッ!
「ぎいいいいッ!」
 息も吸えない。
 明日香の太ももが英雄の胴体を潰している。
 英雄の意識は彼女の太もも一色になり、本当に防御す
るべきものを忘れてしまった。
「がら空きっ♪」
 がしっ。
 明日香の長い足が豪快に開かれる。
 一瞬。
 俊敏な野生動物を思わせる動きで、彼女の長く逞しい
脚が獲物を喰らった。
「ああああああッ!」
 絶望の声。
 英雄の首にまきついた明日香の太もも。
 左足のふくらはぎが英雄の後頭部にまきつき、綺麗な

54
4の字となる。その鍛え上げられた脚の間で締めつけら
れているのは英雄の頭部だった。

55
「三角締め、極まっちゃいましたね」
 嬉しそうな明日香。
 それとは対照的に顔を真っ赤にしていく英雄。
(ぐ、ぐるじいいいい)
 その圧倒的な太もも。
 自分の頬に食い込んだその脚はムチムチとしながら
も、その奥には化け物が潜んでいた。男よりも筋肉量が
豊富であることが分かる太もも。後頭部にまわされたふ
くらはぎの感触からも、逃げ場一つないことが英雄にも
分かった。
 さきほどから息が吸えない。
 圧迫感で目の前が暗くなっていく。
 けれども地獄はこれからだった。
「師匠、まだ組んだだけですよ?」
 明日香の笑顔。
 彼女の股の間に閉じ込められた男は、そんな無邪気な
笑顔を絶望のまなざしで見上げるしかなかった。
「まだ力もこめてません。脚を組んだだけでそんなに苦
しそうでは、先が思いやられますね」
「か、ひゅうう、ひゃああ」
「あらら、もう言葉も喋れませんか。まあ、それも仕方
ないです。明日香の三角はすごく深く相手を締めるの
で、力をこめてないこの状態でも師匠の声帯をごりごり
押し潰しちゃいますからね」
 ニコニコ。
 明日香が師匠である英雄を太ももで挟み、三角締めを

56
極めながら笑っている。自分の股の間で悶え苦しみ、顔
を真っ赤にしていく師匠のことを、明日香は仰向けに寝
ころびながら嬉しそうに見つめていた。
「師匠、信じられないですか?」
 勝ち誇るように。
 妹弟子が師匠を追いつめる。
「自分のほうが強いって、そう思ってたんですよね」
「く、くうううう」
「それなのに、手も足も出ずに投げ飛ばされて、得意の
柔術でも抵抗一つできずに三角締めを極められてしまい
ました。年下の、自分の教え子に、師匠はこてんぱんに
負けたんですよ」
 明日香が英雄の頭を撫で始めた。
 太ももの間からひょっこり生えている男の頭を慈愛を
こめて撫でている。強者が弱者に施す慈悲。それはあま
りにも象徴的だった。
「これで分かりましたよね。師匠は明日香よりも弱いん
です」
 にっこり。
 成長した明日香が事実を突きつける。
「明日香はだいぶ前に気づいてましたよ? 明日香、師
匠の柔道の試合を見に行った時があったんですが、その
時、ああもう明日香のほうが師匠よりも強いんだなって
気づいちゃったんです。師匠ったら、ザコみたいな試合
してましたもんね」
 くすくす。

57
 無邪気な少女が男のプライドを粉々にする。
「それなのに、道場に戻ってきた師匠はまだ明日香より
も強いって思いこんでいて、笑いそうになっちゃいまし
たよ。師匠は師匠なので、その顔をたてて大人しくして
いてあげようと思ってましたけど……まさか、師匠から
勝負を挑んでくるとは思いませんでした」
 ふふっ。
 身のほど知らずの弱者をはるか高みから見下ろす少
女。
「この勝負は師匠が申し込んだことなんですからね。も
う、明日香は自分をおさえられませんよ?」
「カヒュ――カヒュウ―――」
「あはっ、もう限界っぽいですね。このまま力をこめず
に、脚を組み続けているだけで締め落とすこともできま
すけど……」
 にっこり。
 英雄の頭を撫でながら明日香が死刑宣告をした。
「師匠のことは気持ちよく墜としてあげます」
 ギュウウウウウウウウウッ!
 ボゴオッ!
 明日香の太ももが膨張した。
 筋肉の鎧が皮下脂肪の下から浮かびあがり、英雄の首
を的確に締めつけていく。
(あ、あああああッ!)
 もはや英雄は声にならなかった。
 存在感を増した明日香の太ももの中で、英雄は自分の

58
命が刈り取られていくのが分かった。
 視界がまっしろになる。
 息が吸えないというより頭部が消えている。
 少女の脚に押し潰され存在ごと消されている感覚。そ
れなのに不思議と苦しみを感じることはまったくなかっ
た。
(き、きもちいいい)
 視界が真っ白になる。
 なぜか頭がすううっとさえ渡り、なにもかもが吸収
されていくのがわかった。見えない。なにも……ただ
ただきもちがいい……全身が……浮遊して……そのま
ま…………天国に…………墜ち……………………。
「はい、墜ちました」
 明日香の声。
 弾むような笑顔。
 その言葉どおり英雄は明日香の太ももの間で昇天して
いた。顔を真っ赤にしながら、ぴくぴくと痙攣し、だら
んと体中の力を弛緩させてしまった姿。白目をむき、口
からはダランと舌を飛び出させて、無防備に気絶してい
る。
 それは二人の関係性を変える一つのターニングポイン
トだった。
 年上の男が。
 指導者だった男が。
 師匠と呼ばれた男が。
 無邪気な少女によって締め落とされた瞬間だった。

59
 *

 英雄が目覚めた。
 気持ち悪さが全身を支配している。
 体中が痛い。
 なにがなんだか分からない。
 きょろきょろと周囲を見渡す。
 さきほどから、男たちの悲鳴が鳴り響いているのに遅
れて気づいた。
「あ、起きましたね師匠」
 その声に英雄はビクンと体を震わせた。
 声がした方を見上げると、そこには明日香がいた。自
分のことを容赦なく締め落とした妹弟子が、地面に倒れ
た自分のことを見下ろしている。
「ひ、ひい」
 思わず英雄の口から悲鳴が漏れる。
 明日香は今、二人の男の首をそれぞれ片手でわしづか
みにして、持ち上げて吊るしていた。その足下には倒れ
た男がいて、明日香の大きな足裏が情け容赦なく男の顔
面を踏み潰していた。
「だいぶ深く墜ちてましたね、師匠」
 ニコニコした笑顔。
 それとは対照的な凄惨な拷問行為。
 男たちは全裸だった。
 生まれたままの格好で、道着姿の明日香によって責め

60
苦しめられている。よく見ると、その周りには気絶した
全裸の男たちが積みあがっていた。
「な、なにをして」
「ああ、これは最後の仕上げです。師匠が来る前はこう
やって練習の最後に全員を締め落としてあげていたんで
すよ」
「な、なんのために」
「自分たちが弱い存在だって分からせてあげるんです。
そうすれば、練習をさぼることだってないですからね」
 その言葉の間も明日香は男二人を吊るしていた。
 男たちの脚は地面についておらず、ブラブラと揺れる
だけ。その顔は真っ赤を通り越して鬱血しており、涙と
涎でぐじょぐじょに汚れ果てていた。しかもそれだけで
はない。
「見ててください、師匠。練習後のお掃除もこいつらの
仕事なんです」
 明日香が、仰向けになった男の顔面を踏み潰した。
「ほら、舐めろ」
 高圧的な明日香の言葉。
 彼女の大きな足裏によって潰されている男は即座に反
応した。ぺちゃべちゃという唾液音が響く。
 舐めているのだ。
 明日香の足裏を。
 自分の顔面を踏み潰している大きな足裏に媚びを売る
ように、ぺろぺろと舐め続けている。男の顔からはぽろ
ぽろと涙がこぼれていた。

61
「練習の後は足裏が汚れちゃいますからね、こうして掃
除させてるんです」
 ニコニコ。
 悪ぶることも罪悪感を覚えた様子もない少女が笑う。
「こうすると綺麗になっていいんですよ。でも、こいつ
は下手くそですね」
 もういいです。
 言葉と同時に明日香が脚を振り上げた。
 仰向けに倒れた男の視界には明日香の足裏が大きく見
えたことだろう。
「ひ」と声を漏らそうとしたのもつか
の間、ドッスウンンッと男の顔面に足裏が襲いかかり、
そのまま意識を刈り取ってしまった。
「よわ〜い」
 笑った少女。
 彼女は吊るした男二人も手早く締め落としてしまっ
た。道場には明日香と英雄だけが残された。
「さてと、仕上げといきましょう」
「ひ、ひいいい」
「逃げようとしても無駄ですよ、師匠」
 明日香が英雄のことを軽く蹴る。
 それだけで地面に転がった英雄の顔面めがけて、明日
香の生足が炸裂した。
 ドッスウウンッ!
「むううううううッ!」
 顔全体を覆い隠されてしまった。
 足一本で地面に縫いつけにされてしまう。それはまる

62
で、針一本で標本に縫いつけられた虫のようだった。
「師匠にも、分からせてあげないとダメですよね」
 笑う。
 高身長の高みから、明日香が地面で這いづりまわって
いる虫けらを見下ろしている。
「舐めてください、師匠」
 ニコニコ。
 強者が弱者を追いつめる。
「明日香の足を舐めて、認めてください。師匠は明日香
より弱いんだって」
 ぎゅうううううッ!
 全体重がかけられる。
 足一本で殺されかけている。
 英雄は自分の顔を潰す明日香の足を両手でつかみ、な
んとかそこから脱出しようとするのだが、どうにもなら
なかった。全身をバタつかせても、ビクともしない。自
分は彼女の足一本にも勝つことができない存在なのだ。
それを嫌というほど思い知らされる。
「ほら、舐めてください。そうじゃないと、このまま潰
しちゃいますよ?」
 さらに力がこめられる。
 明日香の太ももにボゴンッと筋肉が浮かびあがった。
それを見て英雄は恐怖した。
(こ、殺される)
 目の前の少女に。
 教え子だった女の子に。

63
 このままだと殺されてしまう。
 彼女が本気を出せば、自分なんてあっという間に殺さ
れてしまうだろう。それが分かる。分かるが、英雄には
どうしてもできなかった。
(できない。舐めるなんて、そんな、できない)
 ベギバギという音。
 頭蓋骨が軋む音。
 それを聞いても英雄は舐めなかった。
 次第に白目をむき、ピクピクと体が痙攣し始める。
「もう、師匠は強情ですね」
 明日香の困った声。
 彼女はしかし、
「まあいいです」という言葉のあと。
「時間はたっぷりあるので、時間をかけて分からせてあ
げます」
 足を振り上げる。
 その大きな足裏。
 自分みたいな矮小な存在を踏み潰してしまう凶悪な存
在。
 英雄は意識をもうろうとさせながら、自分よりも圧倒
的に強い足が自分に襲いかかってくるのを目撃し、意識
を手放した。どこからか、少女の声がした。
「楽しみですね、師匠」

64
 第3章

 1

 英雄は明日香に締め落とされていった。
 毎日毎日。
 継続して締め落とされていく。
 もはや遊び。
 道場に英雄の悲鳴が響き続ける。明日香は遊び感覚で
英雄を締め落とし続けた。
「師匠、どうですか、明日香の太ももは?」
 にっこりとした笑顔。
 マットの上で明日香が寝ころび、その逞しい太ももの
間に英雄の胴体を挟み込んで、潰している。
 しかも今回は、英雄の両腕ごと挟み込んでいた。
 英雄の上半身をがっぷりと食らい、捕食している明日
香の逞しい下半身。英雄はその足に食べられ、
「かひゅ
う――」という声にならない悲鳴を漏らし続ける。
「ほら師匠、少しは抵抗してくださいよ」
 ニコニコ笑いながら明日香が言う。
「両腕も挟み込んであげて手加減してるんですから、腕
の力で一生懸命脱出してみてください」
「く、くうううううッ」
 英雄が歯を食いしばって腕に力をこめた。
 なんとか腕を広げて、明日香の太ももの拘束から逃れ
ようとする。これまで鍛えてきた全てをかけて明日香の

65
太ももに抵抗していく。
「お、すごいすごい。少し開いてきましたね~」
 言葉どおり。
 英雄の必死の力で明日香の万力のような太ももの挟
み込みが少しだけ緩んだ。胴体に密着していたそのアナ
コンダのような太ももが、少しだけ英雄の胴体から遠ざ
かった。
「く、くううううッ!」
 全力の力。
 顔を真っ赤にして、腕をぷるぷるさせながら、必死に
明日香の太ももに抵抗している。しかし、それを見つめ
ている明日香はどこまでも余裕だった。
「ほーら、がんばれがんばれ。師匠、もっと力入れない
と脱出できませんよ?」
「く、くそおおおおッ!」
「あはっ、よわすぎ」
 みちいいいいッ!
「あああああああッ!」
 容赦なく明日香の太ももが閉じられる。
 再び、英雄の胴体には、明日香の太ももがみっちりと
密着し、挟み潰されてしまった。あれだけ一生懸命に腕
の力で太ももを押し広げたのに、一瞬で腕ごと挟まれて
しまったのだ。
「残念でしたね、師匠」
 にこにこ。
 楽しそうに己の圧倒的肉体でもって年上の男をいじめ

66
る少女。 
「ほら、がんばってください。また腕の力で明日香の太
ももを押しのけてくださいよ」
「く、くうううううッ!」
「そうそう。ふふっ、顔真っ赤にしてかわいいですね~。
そんな師匠のことはちゃんと撮影してあげますからね」
 笑った明日香がスマフォを取り出した。
 録画ボタンを押して、それを英雄にむける。
 仰向けに寝ころがり、その太ももの間に男を挟み込ん
で潰し、苦しむ男の顔を撮影し始めた少女。それは男虐
め遊びに他ならなかった。
「ほら、がんばれがんばれ」
「く、っくううううッ」
「あ、太ももが押し広げられてきました。ぷるぷる震え
る腕でがんばってますね~」
「く、くそおおおおおッ!
「ほら、あと少しで脱出できますよ。がんばれ♪ がん
ばれ♪」
「く、くうううううううッ!」
 全力。
 英雄は全身全霊をこめて明日香の太ももに食い下が
る。またしても、少しだけ空間があいて、つかの間の呼
吸が許される。さきほどまでみっちりと押し潰されペ
チャンコにされていた胴体が元通りになって、
「カヒュ
ウカヒュウ」と呼吸をむさぼっている。そんな英雄の情
けない様子を堪能し、撮影した明日香は、手加減を止め

67
ることにしたようだった。
「はい、ぺっちゃんこ」
 ぎゅうううううッ!
「カヒュウウ―――」
 ムチムチの太ももが男の胴体を喰らう。
 腕ごと巻きこまれ、またしても胴体と肺をぺちゃんこ
にされてしまった英雄は、悲鳴を発することもできずに
悶絶した。
「師匠ってば、ほんとうに力弱いですよね」
 白目をむきかけた英雄を執拗に撮影し、ぎゅっぎゅと
その胴体を潰しながら明日香が言う。
「明日香、まだ4割くらいしか力こめてないんですよ?
 さっきまでの3割くらいだったらなんとか抵抗できる
みたいですけど、4割にした途端に手も足も出ないじゃ
ないですか」
 ぎゅうううううッ!
 ミチミチミチミチッ!
 肉が潰れている。
 腕ごと。
 肺と胴体に明日香の太ももが食い込み、ぺちゃんこに
されて、その内蔵を痛めつけられていく。
「カヒュウウウ―――ッ!」
 英雄はもはや声もあげられない。
 腕の力でなんとか抵抗しようとしても無駄だ。明日香
の屈強な太ももを1ミリだって動かすことができない。
(し、死ぬうううう)

68
 白目をむいて英雄が悶絶する。
 今、自分は殺されようとしている。
 呼吸が一つもできない。全ては自分の胴体をぺちゃん
こにしている太もものせいだ。そのムチムチの柔らかさ
と、凶悪な筋肉のポテンシャルを前にしては、自分のよ
うな矮小な体ではどうにもならない。
 呼吸どころではない。
 もしかすると、このまま本当に潰されて殺されてしま
うかもしれない。この太ももが本気になれば、自分の体
なんてひとたまりもないだろう。肉を潰され、骨を砕か
れ、その内部に守られた内蔵が潰される。口から臓物を
吐き出す自分の未来が明確に想像できてしまい、英雄は
半狂乱に陥った。
「かひゅううう! かひゅうううッ! ひゅうううッ
ッ」
 許してください。
 助けてください。
 殺さないで。
 そんな命乞いの声は、明日香の太ももに奪われてし
まった。肺をぺちゃんこにされてしまっているせいで、
声も発せられない。命乞いの言葉も奪われてしまい、英
雄は絶望に染まった顔で、明日香の笑顔を見つめるしか
なかった。
「むうううううッ!」
 ダンダンダンッ!
 英雄が暴れる。

69
 明日香の太ももに腕ごと胴体を挟み込まれて拘束さ
れているので、自由になっているのは足だけだった。そ
の足をジタバタと暴れさせて、マットを必死に叩いてい
る。
 ギブアップ。
 命乞いの意思表示。
 英雄は唯一自由がきく体の部位を用いて、必死に明日
香に懇願していた。じたばたと、一生懸命に足でマット
を叩く。道場中に響くように、その滑稽な命乞いが繰り
広げられていった。
「ふふっ、もちあげちゃいま~す」
 しかし、そんな命乞いすら明日香は許さなかった。
 彼女は完全にマットに背中を預け、そのまま足を上に
持ち上げた。太ももの間には英雄の胴体が挟まれてい
る。その状態のままで、明日香は腹筋の力だけで足を上
に持ち上げ、胴体と足でもってL字を描いた。
「かひゅうううううッ!」
 宙づり。
 英雄の体が宙に浮く。
 まるでスーパーマンのように宙に浮かんだ英雄は、足
をマットにつけることもできなくなった。
 全ての意志疎通の道具を奪われ、英雄はぽろぽろと涙
を流した。
「ふふっ、師匠、いい顔ですね」
 笑って明日香が言う。
 ミチミチミチッと明日香の太ももが男の胴体を喰らっ

70
ていく。
「絶望して、白目むきかけて、とってもエッチな顔です。
明日香に勝てないって分からされた顔していて、とって
も興奮しちゃいます」
 ぎゅうううううッ!
 さらに締めつける。
 もはや英雄は悶えることもできなかった。
 そんな師匠のことをニコニコと見上げ、スマフォで撮
影しながら、明日香が太ももの締めつけを継続する。す
ぐに限界は訪れた。
「はい、墜ちました」
 明日香の太ももの間でダランと体中の力を弛緩させて
気絶した男の姿。
 人間プレス機によってぺちゃんこにされてしまった男
がそこにはいた。白目をむき、口からは舌を出し、ブク
ブクと泡をふきながら、年下の少女によって締め落とさ
れてしまったのだ。
「だいぶいい動画がとれました。ふふっ、今日はこれ
で……」
 明日香が顔を赤らめて興奮している。
 彼女はふふっと笑って。
「さあ、次は三角締めで落とします。それも録画してあ
げますからね、無様に気絶してください」

 *

71
 最後には吊るされる。
 それは毎日の恒例行事だった。
 今日も英雄はぼろ雑巾になるまで締め落とされた後、
明日香によって吊るされていた。
「今日もありがとうございました、師匠」
「あ、ああ、ぎっぎいい」
「最後、とどめ刺しますね?」
 片手。
 それで首をわしづかみにされて、英雄は持ち上げられ
ている。
 身長差から、足は地面についていない。
 はるか高くに持ち上げられた英雄の視界からは、道場
中で意識を奪われ横たわっている男たちの屍が一望でき
た。
「師匠の足、地面から離れちゃってますよ?」
 明日香の言葉どおり、英雄の足はぶらぶらと宙で揺れ
ていた。
 そんなふうに暴れているのに、明日香は微動だにせ
ず、じっくりと英雄の首を絞め、吊るしあげていく。
「前にも言いましたが、師匠が明日香に勝てない理由が
これですよ」
 ニンマリ笑って、
「師匠がチビだからです」
 ねっとりとした声色で、分からせるように、
「師匠の身長が低すぎてチビだから、身長の高い明日香
には手も足も出ずに勝てない。今も首を絞められて吊る

72
しあげられて、足ブラブラさせてお魚さんになっちゃっ
た。それもこれも、師匠がチビだからです。ほんっと、
チビって惨めですね」
「カヒュウウ―――かひゅううう―――」
「あはっ、こんなにバカにされてるのに逃げられないん
ですね。そりゃあそうですよね。チビすぎて足が地面に
ついてないんですもん。ふふっ、高身長の女の子に宙づ
りにされたチビはそのまま殺されるしかないんですよ。
見動き一つとれないチビザコ。本当にチビって悲しいで
すよね。つくづく思うんですが、明日香、チビに生まれ
なくてよかったです」
 ニヤニヤと勝ち誇った明日香。
 かつて慕ってくれた妹弟子が、身長の低い師匠のこと
をバカにしてくる。
「チ~ビ♡ チ~ビ♡ チ~ビ♡」
 ねっとりとした視線を向けられながら、愛情たっぷり
の声色でバカにされる。
 そんな屈辱的なことのはずなのに、英雄はなぜか、自
分の下半身が反応してしまうのを感じた。
(なんで……どうして……)
 自分で自分のことが分からなくなる。
 はるか年下の明日香に「チビ」とバカにされればされ
るほどに興奮した。体が震え彼女に服従したくてたまら
なくなっているのが分かる。長身で肉厚な肉体。そんな
彼女の体を前にすると自分の体なんか同じ人間とは思え
なくなるほどチビだった。それをまざまざと見せつけら

73
れる。
(吊るされているんだ……ちっちゃいから、俺……デカ
い明日香に吊るされちゃってる……)
 吊るされて、足が地面につかない。
 反対に明日香はどっしりと足裏を地面につけたまま余
裕そうに自分のことを吊るしている。
 明らかな体格差。
 吊るされることによって肉体の格差を教え込まれ、
「チビ」とバカにされて、分からされる。体がピクピク
と震え始め、気絶にむかって意識が落ちていく。
「ふふっ、師匠もだいぶ簡単に墜ちるようになってしま
いましたね」
「グッギイ……カヒュウ――」
「墜ち癖がついちゃいました」
「ぐ、っぐげえええッ!」
「明日香が締めつけただけですぐに気絶しちゃう。落ち
癖がついたチビとか本当にザコですよね。これじゃあ、
大学で柔道を続けるなんてできないです」
 追いつめる。
 その間も明日香の片手は英雄の首をわしづかみにし
て締めつけていた。英雄の顔は鬱血して、じたばたとそ
の体が暴れている。それをくすくす笑って見上げて鑑賞
し、今日も明日香は仕上げをすることにしたらしい。
「墜ちろ」
 ぎゅうううううッ!
「ぐっぼおおおおおおッ!」

74
 一瞬。
 明日香の締めつけが的確に英雄の頸動脈をシャットア
ウトすると、すぐに英雄は気絶した。
 絞首刑となった罪人のように、体をダランとさせて、
ぶらぶらと揺れる英雄の死体。
「ほ~ら、一瞬」
 明日香がニコニコ笑う。
「完全に墜ち癖ついちゃいました」
 勝ち誇る。
 少女が師匠のことを、持ち上げ、吊るして、宙づりに
して、その命を自由にできる立場を楽しんでいる。
「いつまで強情が続くか、楽しみです」

 2

 英雄は毎日のように明日香に責められた。
 その年齢に似合わない発達した肉体。
 今日も英雄は成長した妹弟子によって分からされてい
く。
「ふふっ、今日は師匠がいつも見つめてくる明日香の
おっぱいで絞め落とします」
 ニコニコと、笑いながら明日香が言う。
「ほら見てください。明日香のおっぱい、すごく大きく
なりました」
 明日香がドンと胸を張って見せつけてくる。
 肌着を着用せず、生乳の上から道着を着用しただけに

75
なっている明日香の胸部。そこには張りのある大きな
おっぱいが大迫力で鎮座していて、英雄の視線はそこに
くぎ付けになってしまった。
「身長が高くなっていくのと同時に、明日香のおっぱい
も大きくなってきてしまったんです。この前はかったら
109cmのIカップになっていました。ブラがきつく
なってるので、今はもっと大きくなっているはずです」
 明日香の言葉に英雄がゴクリと唾を飲み込む。
 109cmのIカップなんて高等部ですらそんな巨乳
の女の子を見たことがない。まだ幼い少女の発達した肉
体を前にして呆然自失となってしまう。そんな英雄を見
下ろして、ふふっと、明日香が笑った。
「おっぱいが大きくなると男子たちがバカみたいに寄っ
てきましたよ。道場でも明日香のおっぱいにちょっか
い出してくる男の人が多くて最初はとまどったんです
が……みんな返り討ちにしちゃいました」
 ぎゅううっと、明日香がおっぱいを左右から挟み込
む。
 それによってぐんにゃりと乳肉と乳肉が歪み、谷間が
深くなった。
「このおっぱいに男子の顔面を押しつけて潰します。そ
うするとすぐに気絶してしまうんです。気絶しても許さ
ずに何度もおっぱいで窒息させていくと泣いてしまいま
す。許してえええ……やめてええええって、明日香の胸
の中で泣きながら命乞いしてくるんです」
 明日香が、ぎゅっぎゅっと力強くおっぱいを左右から

76
寄せ上げて、英雄に見せつけていく。
 その大ボリュームな乳肉の迫力を前に、英雄は自分ま
でその巨大なおっぱいによって潰されていくような感覚
に陥った。
「師匠のことも、おっぱいでいじめてあげますね」
 明日香が笑う。
「いきます♪」
 抵抗しても無駄だ。
 明日香のほうが優秀な肉体をしているので、英雄がど
んなに逃げたところで最後には捕まる。まるで俊敏で獰
猛な肉食動物みたいに明日香が英雄に襲いかかり、あっ
という間に英雄の頭部をおっぱいに生き埋めにしてし
まった。
「ふふっ、師匠の顔、ちっちゃ~い」
 バカにしたように明日香が言う。
 その生乳の谷間の中に男の頭部を拘束し、ぎゅううっ
と抱きしめてしまう。巨大な乳房と乳房の間でプレスさ
れてしまった矮小な男の頭部はひとたまりもなかった。
「むううううううッ!」
 英雄がくぐもった悲鳴をあげながら悶え苦しむ。
 両頬や首にもあふれかえってくる豊満な乳肉。そのす
べてがぐんにゃりと沈み込み、自分の顔面を覆い隠して
しまっている。弾力のある巨大なおっぱい。その中に生
き埋めにされて、さきほどからまったく息が吸えなかっ
た。
(ぐ、ぐるじいいいいッ!)

77
 酸素が欲しくて、肺に空気を送り込みたくて英雄が必
死に息を吸い込もうとする。
 けれどまったくの無駄。鼻からも口からもまったく
呼吸ができない。強いおっぱいによって呼吸が完全に
シャットアウトされていた。死の恐怖から体が暴れる。
おっぱいの拘束から逃れようとして全力でじたばたとあ
がいていく。しかし、
「なにをしているんですか、師匠」
 明日香の強靭な肉体の前に、英雄の貧弱な体では手も
足も出なかった。
 大きな女の子の肉体に埋もれるような格好で、英雄が
抱きしめられていた。体格差が嫌がおうにも強調され
る。男の顔面が完全に乳房の間に挟まってしまい、肉の
監獄の中にとじこめられてしまった。その貧弱な下半身
に、それよりも数段長くて太い明日香の足がからみつい
て、絶対に逃げられない状態に追い込まれた。
「妹弟子の体に完敗ですね。師匠は明日香のおっぱいに
も勝てないんです」
「むうううううッ!」
「純粋な体格差でボロ負けしてしまいました。年下の女
の子のおっぱいにボコボコにされて、今どんな気分です
か? 師匠♪」
 楽しそうに言う。
 ぎゅううっとさらに英雄の頭部を宝物みたいに抱き
しめて、さらに英雄を苦しめる。おっぱいに顔を埋もれ
させている英雄の体が、ピクピクと痙攣し始めてしまっ

78
た。
「酸欠寸前って感じですね」
「むううううッ! むううううッ!」
「ふふっ、師匠の体ちっちゃ過ぎて壊さないようにする
のが大変です」
 ニコニコ笑いながらの言葉。
 その間も、明日香の強くて大きな体が英雄の小さな体
を圧倒していた。おっぱい監獄の中にとじこめられ、顔
面を圧迫されて呼吸を奪われた英雄は、ぴくぴくと体を
痙攣させることしかできなかった。
「あと少しで師匠は気絶します」
「むうう……んむうう……」
「明日香のおっぱいで顔面潰されて、窒息してしまうん
です。惨めですね」
「むうう……ううう……」
「師匠はチビすぎるのでいくら暴れても無駄ですよ。体
の大きな女の子に羽交い絞めにされて、チビでザコな師
匠はおっぱいだけで殺されていくんです。本当、チビっ
てかわいそうですね」
 チビであることをバカにされる。
 そのことに屈辱を感じてもどうすることもできない。
目の前のおっぱいの感触で悶絶し、さらには窒息の苦し
みで殺されていく。
 息ができない。
 英雄の体が死んでいく。
(死ぬ……死んじゃう……おっぱいに殺される……)

79
 限界。
 その一歩手前で、明日香が、
「はい、息継ぎしてください」
「ぷはっッ!」
 明日香が生き埋めにしていた英雄の顔面をおっぱいか
ら引き抜いた。
 その途端に、英雄がむさぼるように空気を吸ってい
く。
 涙を浮かべて「カヒュ――カヒュ――」と酸素を補給
して、気体でせきこみ、さらに苦しんでしまう。
「師匠、死ぬ一歩手前でしたね」
 そんな情けない様子で必死に呼吸を続けている英雄の
ことを、明日香がニンマリと見つめていた。
 トロンと溶けた欲情しきった瞳で、年上の男が死にそ
うになっている様子を鑑賞している。
「明日香のおっぱいで殺されそうになってました」
「ひゃめでえええ……もう……明日香ああ……」
「負け犬って感じがして、とっても素敵です。もっと
もっとおっぱいで殺しますね」
 ぐいっと、おっぱいを突き出す。
 英雄の顔面めがけて近づけられた乳肉の暴力によっ
て、英雄は怯え狂ってしまった。
「ムリいいいい……このおっぱい、無理ですううう」
 涙をぽろぽろと流しながら懇願する。
 明日香に胸倉をつかまれ、おっぱいの間近まで顔面を
近づけさせられる。その道着からこぼれている大きな乳

80
房。その大迫力の乳肉の強さを前にして、英雄は純粋な
恐怖で逃げようとする。けれども胸倉をつかまれ持ち上
げられているせいで地面に足がついていない。結果とし
て宙づりにされ、目の前のおっぱいを見せつけられ、そ
のいい匂いを強制的に嗅がされていく。
「死ぬ直前で息継ぎさせます」
「ひゃだああああ……ゆるしでええ……」
「おっぱいだけでチビな師匠のことボコボコにしてあげ
ますね」
 えい。
 かわいらしい声と共に、再び明日香の大きなおっぱい
が男の顔面を捕食する。
 まさしく丸飲み。爆乳の谷間が大きな口となって、男
の頭部をすっぽりと食べてしまった。英雄の顔面が明日
香の乳肉に押し潰され、呼吸を奪われ、時間をかけて殺
されていく。
「はい、息継ぎ」
「カヒュ―――ッ!」
「すぐ再開」
「むぐううううッ!」
「苦しいでしょ? 師匠の体じたばた暴れて死にそうに
なってます」
 ぎゅうううううッ!
「んむううううううッ!」
「今日は明日香の成長したおっぱいで、ずっと殺し続け
てあげますから、覚悟してくださいね」

81
 さらにおっぱいで英雄の顔面を潰す。
 ぐんにゃりと柔らかそうに潰された明日香の爆乳。そ
の柔らかそうな乳肉が暴力的な凶器にかわって、男の顔
面を捕食し、破壊していく。呼吸を奪い、窒息死直前ま
で追い込んでから一瞬だけ息継ぎを許し、再びおっぱい
の監獄の中にとじこめる。
 息継ぎの瞬間だけ解放される英雄は壊れていった。呼
吸をしながら見せつけられる明日香の巨大なおっぱい。
それが今か今かと獲物である自分に狙いを定めて鎮座し
ている。その大迫力の生乳に純粋な恐怖を感じ、
「許し
て」と命乞いをした瞬間に捕食される。苦しみながら、
その極上の柔らかさといい匂いで悶絶してしまう。
 苦痛と快感の二重苦で頭をバカにさせられていく。年
下少女の成長しきった女の象徴で、男である自分がボコ
ボコにされていくのだ。
(無理……もう無理……)
 屈服していく。
 肉体が……精神が……。
 英雄の体が一切の抵抗を止め、おっぱいを支点にして
ダランと脱力して、巨大な少女の体にぶらさがった死体
になるまで、それほど時間はかからなかった。
「は~い、おっぱいに完全敗北で~す」
 明日香が英雄の頭部を力強く抱きしめながら言う。
「おっぱいに窒息させられて、潰されて、心が折れてし
まいましたね、師匠」
「あひん……ひいん……」

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「体もプルプル痙攣してきました。全身を脱力させて、
おっぱいに夢中になってしまってます。ふふっ、師匠が
どんなにがんばっても、明日香のおっぱいにも勝てな
いってこと、分からされちゃいましたね」
 ぎゅうううううッ!
 さらにおっぱいの谷底まで引きずりこむ。
 英雄の矮小な頭部が明日香の大きな爆乳の谷間の中
に、完全に生き埋めにされてしまった。
「命乞いしてください、師匠」
 にやにや笑いながら、
 かつての教え子が、師匠である男をさらに追い込んで
いく。
「このままでは、おっぱいに殺されてしまいます。殺さ
れたくなかったら、命乞いしてください。明日香の格上
おっぱい様に必死に命乞いするんです」
「むううううッ! むうううううッ!」
「ほら、はやく」
 ぎゅううううううッ!
 ベギバギイイッ!
「むっぐうううううううッ!」
 潰された。
 英雄の顔面が明日香のおっぱいによって潰され、圧殺
されていく。
 男の頭蓋骨が軋んでいく音。
 それはすべて、おっぱいの押し潰しによる結果だっ
た。大迫力の乳房によって潰されていく男の顔面。その

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力強さの前に、英雄はあっという間に屈服した。
「たじゅけてくだふぁいいいいッ!」
 叫ぶ。
 明日香のおっぱいの中で、くぐもった声で命乞いを始
める。
「もっと」
「ふるふぃてえええッ! おっふぁいひはかへまへん
んッ!」
「もっと」
「たふけへええええッ! おっふぁいはめえええッ! 
おへのまふぇへすうううッ!」
「もっと」
 明日香が止まらない。
 その頬が赤く染まる。
 興奮しているのだ。
 師匠の顔面をおっぱいで潰し、命乞いをさせていると
いうことに性的な悦びを覚えている。残酷過ぎる少女
が、心をボギボギに折って壊した師匠のことをさらに追
い詰めていく。
「さいこ~」
 股間をすりあわせてトロンとした瞳を浮かべた少女が
さらに英雄の顔面を潰す。
 おっぱいがぐんにゃりと変形して、男の命を刈り取っ
ていった。
「師匠の命乞い、子宮にびんびんきます。これはやめら
れないですね」

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「ゆるひへええええッ! おっふぁいふりいいいッ!」
「ふふっ、師匠がどんなに抵抗しても無駄」
「たふけてくだふぁいいいいいッ! おっふぁいはまあ
ああッ!」
「師匠の力より、明日香の力のほうが、上」
「こ ろ ふ ぁ な い へ え え え え ッ!   た ふ け へ え え え え
ッ!」
「あ~、きもち~」
 獰猛な笑顔を浮かべた明日香。
 彼女のニンマリとした笑顔は、明らかに「女」だった。
 興奮した女が、持ち前のサディストぶりを発揮し、さ
らに英雄の顔面を潰す。その力強さの前に、英雄の体は
すべての抵抗をやめ、ピンと体を伸ばした状態で硬直し
てしまった。
(無理……このおっぱい様には……勝てない)
 それが英雄には分かった。
 分からされた。
 目の前の乳房は自分よりも格上の存在。
 どんなに自分ががんばっても勝つことなどできない。
 それを分からされた英雄は、明日香と一体となるほど
力強く抱きしめられ、恐怖と興奮で頭をおかしくしなが
ら、ゆっくりと意識を手放した。

 3

 明日香に締め落とされる毎日。

85
 それは英雄にとって地獄の日々だった。
 地獄。
 そのはずだった。
 それなのに、夜一人になると、脳裏に浮かぶのは明日
香の姿だけだった。
「明日香……」
 自分よりもはるか年下の少女。
 しかし、その体は誰よりも豊満で育ちきっている。
 そんな少女の体に毎日毎日手も足も出ずに負けるに
つれて、英雄は夜、彼女の姿を思い浮かべて悶々とする
日々を送るようになっていた。
「俺よりも強い……明日香の体」
 脳裏に浮かぶのは彼女の姿だ。
 あの太もも。
 あの大きなおっぱい。
 それとは不釣り合いな幼い顔立ち。自分とは比べもの
にならないほど高い身長と逞しい体。
 それを脳裏に思い浮かべると、英雄は自分の肉棒が固
くなるのを感じた。
「明日香……様」
 その言葉。
 周囲の男たちが絶叫して許しを乞いている名前。
 それを唱えたとたん、自分の体がビクンと震えるのを
英雄は感じた。思い浮かべるのは明日香に締めつけられ
ている自分だ。
 あの逞しい太ももに挟まれて、

86
 あの太い腕に潰されて、
 あの大きな手に首をわしづかみにされて、
 そして締めつけられる。
 苦しい。けれど、それ以上に頭が真っ白になって頭が
トんでいく感覚。それがどんどん自分の中に興奮として
募っていく。
「だ、だめだ。俺は格闘家なんだ」
 英雄は頭をぶんぶんと振って抵抗した。
 この感覚に身を任せたらダメになる。
 それが実感として分かった。
 明日香の圧倒的な存在に身も心も捧げてしまったら、
格闘家として終わりだ。
 まだ初等部の少女に、自分が今まで打ち込んできた人
生を丸ごと否定されてしまう屈辱。英雄はなんとか脳裏
に浮かぶ魅力的な明日香の体を打ち払って、ポジティブ
なことを考えようとした。
「もう少しで、師範が帰ってくる」
 英雄はカレンダーを見上げた。
 1週間後、師範が外国から帰ってくる。
 世界大会の様子は遠く日本にまで届いていた。
 それは世界的ニュースだった。
 師範は、アジア人で初めて、世界大会で優勝したのだ。
 その様子を英雄はインターネットで食い入るように見
つめた。
 自分たちブラジリアン柔術教室の誇り。男として最強
な存在となった師範。そんな世界最強の称号を手にした

87
男が、道場に帰ってくるのだ。
「師範なら、明日香のことを止めてくれるはずだ」
 自分では力不足だった。
 師範の代わりはできなかったのだ。
 これまで師範が明日香のストッパーになってくれてい
たのだろう。だからこそ、師範が留守の今、明日香は歯
止めがきかず、やりすぎてしまっている。自分には止め
ることはできなかった。けれど、師範が帰ってくればも
う大丈夫だ。
「もう少しだ。もう少しの辛抱だ」
 英雄は決意を新たにした。
 師範に明日香を止めてもらうこと。
 それだけを希望にして、英雄は明日からもがんばろう
と、そう思った。しかし、そんな決意とは裏腹に、彼の
肉棒はバッギバギに勃起していた。

 4

「今日は首絞め処刑をします」
 ニコニコ笑いながら明日香が言った。
 さんざんにスパーリングで絞め落とされた後。今日も
お遊びのような首絞めが始まってしまう。
「いきますよ、師匠」
 明日香の巨体が近づいてくる。
 英雄はひいひいと怯えながら逃げることもできない。
 あっという間に、英雄は背後からチョークスリーパー

88
で首を絞めあげられ、吊るされてしまった。
「は~い、首絞め処刑の開始で~す」
 背後からのチョークスリーパー。
 明日香の巨体が小さな英雄を圧倒している。
「ほら、がんばってください師匠。これくらいの高さな
ら、師匠の短い脚でも床につきますよ?」
 明日香の言葉どおり。
 片方の足を限界まで伸ばせばかろうじてつま先が床に
触れることができる。しかしそれは本当にかろうじてと
いう程度でしかなかった。床に触れていたつま先はすぐ
に浮き上がり、がっちりと固められた明日香の両腕にぶ
らさがって首を絞められる。
「カヒュウ――」
 苦しい。
 だから英雄は床を求めてつま先を伸ばす。
(なんとか……なんとか足を……)
 一生懸命に片足を伸ばす。
 限界ギリギリまで足を伸ばせば床に届く。そんな絶妙
な位置に吊るされているのが英雄には分かった。だから
がんばれば助かる。背後から首を絞められ、宙づりにさ
れても、足さえつけば殺されなくてすむのだ。
(くっそ……あと……少し……)
 必死に片足を伸ばす。
 ぎりぎり。
 骨盤から股関節が離れてしまうくらいに片足だけを伸
ばして、ようやく地面に片足のつま先が触れた。

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「ひゃ、ひゃった」
 助かった。
 英雄がそう思った瞬間、ずるっとつま先がすべって、
またしても完全に宙づりにされてしまった。
「ふふっ、残念でしたね、師匠」
 明日香は腕を持ち上げていない。
 ただただ英雄の足が短すぎて床に届かなくなってし
まったのだ。
(く、くそ……もう一度……)
 必死に足を伸ばす。
 プルプルと脚を震わせて、顔を真っ赤にさせて命をつ
なごうとする。
 それだけ必死にがんばって……ようやく一瞬だけ床に
つま先がつく。吊られていた状態から解放されて―――
すぐにまたしてもつま先が床から離れてしまった。足が
地面につかなければ吊るされる。チョークスリーパーで
吊るされ、自分の体重が自分の首を絞めてしまうのだ。
それが続いていく。
「カヒュ――ッ!」
 苦しみ悶え、足を伸ばす。
 それが繰り返される。
 英雄がダンスを踊り始めた。
 床を求めて必死に足踏みをして、つま先をなんとか床
につけようと必死の努力を続ける滑稽な死のダンス。
 がんばればかろうじて片足のつま先が床に触れる程度
に調整された首絞め宙づりによって、英雄が何度も何度

90
も足を伸ばしては空振りし、滑稽な死のダンスを披露し
ていく。
「あはっ! 師匠、ダンスがお上手ですね」
「カヒュ――ッ! カヒュウ――ッ!」
「ほら、もっとがんばらないと死にますよ? がんばっ
て足を床につけないと殺されてしまいます」
 ミチミチミチッ!
 英雄の首にまきついた二本の逞しい腕に、さらに力が
こめられる。
 気道だけを押し潰した肌色たっぷりの筋肉質な腕。
 柔らかそうな筋肉と脂肪に覆われた女性の腕によっ
て、英雄は絶妙な高さで吊るされ、ダンスを踊り続ける。
「明日香は絶対にこの高さを継続しますからね」
「カヒュ――ッ! カヒュウウッ!」
「師匠はがんばって足を地面につけようとするしかない
んです。ダンスを諦めた瞬間に師匠は死にます。明日香
の両腕に吊るされて、絞首刑が完成してしまうんです」
「カヒュウ――ッ! かひゅううっ!」
「明日香の腕の中でブラブラ揺れる死体になんて、師匠
はなりたくないでしょ? だったらがんばらないと。み
じめな窒息ダンスを一生懸命踊ってください」
 英雄がダンスを踊る。
 地面を切望して足を滑稽に伸ばしていく。
 それでも無駄だ。
 短い足が地面に届くはずがない。
(チビだから……俺が明日香よりもチビだから……地面

91
に足が届かない……)
 年下の女の子よりも身長が低い。
 何年も余分に生きて成長する機会があった自分のほう
が劣っている。
 だからこそチビな自分は吊るされ、命で遊ばれて、ダ
ンスを踊っていくしかないのだ。英雄の心に諦めが浮か
んでくる。
(無駄……もう……無駄なんだ……)
 どんなにがんばっても無駄。
 足を伸ばしても届かない。
 宙づりにされて首を絞められる。
「カヒュウ―――ッ!」
 悶え苦しむ。
 自分の首には逞しい少女の両腕が巻きついている。
 勝てない。
 殺される。
 いや、死ぬことすらできない。
 絶妙な高さで吊るされて、かろうじて一瞬だけ足が地
面にかするせいで呼吸ができてしまう。
 窒息できないギリギリの呼吸だけが許されて、気絶と
いう安息すら奪われる。
 ずっと、
 ずっとこのまま。
 明日香の玩具になって、彼女を楽しませるために死の
ダンスを踊っていくしかない。
(助け……助けて……)

92
 苦しむ。
 悶えて暴れてダンスを踊る。
 それでも許されない。
 足をバタバタ動かし、地面を求めて滑稽なダンスを踊
り続ける。それがずっと、永遠に続いた。
(解放されたい……この地獄から……解放……)
 ついに英雄の心が折れた。
 死のダンスが唐突に終わる。
 ブランと垂れさがった英雄の死体。
 年下の少女によっていたぶられた男は、自分から進ん
で明日香の両腕に体重を預け、完全に吊るされてしまっ
た。
「あはっ、師匠、もう諦めるんですか?」
 明日香が笑う。
「体をダランと脱力させて、自分から首を絞められにき
てますね」
「かひゅう――かひゅ―――」
「気絶したくて生きることを諦めてしまいました。足を
伸ばせば少しだけでも呼吸できるのに、それすらも諦め
て足を自分から折り曲げてしまいましたね。首吊り自殺
の完成です」
 ぎゅうううううッ!
 明日香が両腕に力をこめる。男の意識を完全に刈り取
るための力強い首絞め。英雄の視界がブラックアウトす
る。
 殺される恐怖。

93
 しかしさんざんにいたぶられた今となっては、英雄に
とって気絶とは救いに他ならなかった。
(楽に……もう……楽になれる……)
 気絶する。
 その一瞬。
 明日香がニンマリ笑った。
「はい、息継ぎしてください、師匠」
 両腕の力が緩められる。
 絶望に英雄の顔が歪む。
 吸いたくなくても吸ってしまう。
 体が自動的に呼吸をしてしまうのだ。
 自分のことを苦しめてしまうと分かっていながらも、
英雄は「ゴッボオッ!」と空気でえづきながら、貪るよ
うに酸素を肺に補給してしまった。1分……2分……。
えづきながら呼吸をする男を背後から明日香がじっくり
と観察している。ようやく呼吸も整ってきた男にむかっ
て、明日香が無慈悲に宣告した。
「これで師匠は気絶もできません」
「ああああああッ!」
「残念ですね。またダンスのお時間ですよ?」
 腕の力が少しづつ増していく。
 その絶望と恐怖。
 英雄の頭はおかしくなった。
「ゆるじでええええッ! もうひゃめでええええッ!」
 絶叫。
 涙を流し、顔を絶望に歪ませながら、妹弟子の腕の中

94
で絶叫する。
「たじゅげでえええッ! もう、もうやめでくださいい
いッ!」
「あはっ、泣き入っちゃいましたね」
「やめでえええッ! ひと思いに絞めでえええッ! 絞
めで気絶させでえええッ!」
 明日香の両腕の中で暴れ始める。
 じたばたと、宙づりにされている男が、少女の腕の中
で命をかけて暴れ続ける。
 しかし、体格差が違い過ぎて男が暴れてもどうにもな
らなかった。
 明日香の巨体は地面にどっしりと足裏をつけて巨木の
ように仁王立ちして、チビ男を持ち上げ、宙づりにして
しまっていた。またしても滑稽な死のダンスが始まる。
「ほら、がんばって足を地面につけてくださーい」
「かひゅう―――ッ!」
「限界がきたらまた息継ぎさせてあげますからね。がん
ばりましょう、師匠」
 悪魔。
 男がもがき苦しむ様子を見て悦ぶサディスト。
 そんな恐ろしい女性の腕によって首を絞められ宙づり
にされながら、英雄はぽろぽろと涙を流して絶望する。
(俺じゃあ……明日香には勝てない……)
 骨の髄まで分からされる。
 それでも一つだけ希望があった。
 それは、

95
(師範……もう少しで師範がかえってくる……)
 世界大会で優勝した強い男。
 自分よりも身長が高くて、強い男が、この道場に帰っ
てくるのだ。
(師範が帰ってくれば……大丈夫だ)
 師範が帰ってきさえすれば、この地獄から解放され
る。
 明日香のことを止めてくれる。
 この絞め落とし地獄が終わってくれるのだ。
(それまでの……師範が帰ってくるまでの辛抱だ)
 師範が最後の希望だった。
 英雄は明日香に宙づりにされて、首を絞められなが
ら、師範が帰ってくることだけを希望にして、いつ終わ
るかも分からないダンスを踊り続けた。

 5

 1週間後。
 師範が帰ってくる日。
 英雄はその日、期待を胸に秘めて道場に向かった。
 学校が終わった放課後。
 当然、高等部よりも初等部のほうが学校が終わるのは
早い。だから、もう明日香は道場に着いていて、師範と
会っているに違いない。
(師範のことだ。ぜったい明日香の暴走も止めてくれる
はず)

96
 英雄はそれを信じて疑わなかった。
 柔術の世界大会でも結果を出した頼れる大人の男性。
 強さの象徴のような男によって、明日香がボコボコに
されていく様子を脳裏に思い浮かべる。
(師範なら……師範ならやってくれるはずだ)
 あの暴れん坊の明日香が師範にお灸を据えられてい
る。
 そんな光景を思い浮かべて道場の門をくぐる。これで
締め落としの地獄から解放される。英雄はそう思ってい
た。

「師範、もう終わりですか?」

 英雄の期待は、道場に入った瞬間、あっけなく壊され
た。
 マットの上。
 そこにはニコニコ笑う明日香と、ぼろぼろになった師
範がいた。英雄は「え」とつぶやいたまま、ただ呆然と
その処刑を見つめることしかできなかった。
「ゆるして、もう、やめてください」
 師範の声。
 怯えきった大柄な男が少女に許しを乞いている。
 それは世界最強の男のはずだった。柔術の世界戦で優
勝した男。誰よりも強く、誰よりも気高い存在。そんな
彼が今、怯えきって、少女に頭を垂れているのだ。
(し、師範)

97
 英雄の中の大事なものが壊れた。
 男としてのプライド。
 格闘家としてのヒエラルキー。
 そんなこれまで自分を支えていた制度やルールといっ
たものが、粉々にされるのを英雄は感じた。目の前の少
女によって、これまでの常識がすべて塗り替えられてい
く。
「ダメです。まだまだこれからですよ」
 明日香がニコニコして言う。
「世界戦で優勝したんですから、もっとがんばって明日
香を楽しませてくれないと」
「ゆるして……もう、これ以上は」
「だあめ」
「ひい」
 電光石火。
 明日香の大柄な体が俊敏に躍動し、師範の道着をつか
むと、そのまま長い足で師範の足を払って、マットに叩
きつけた。
「がかあああッ!」
 受け身もとれずに背中を強打した師範が悶える。
 そんな彼に慈悲も与えず、嬉々として明日香が襲いか
かる。仰向けに倒れた師範に馬乗りになって、その胴体
をがっしりと太ももで挟み込んだ。そのまま、ぎゅうう
ううっと締めつけを開始。彼女のむき出しの太ももが、
凶悪な筋肉の鎧によって禍々しく変貌した。
「ほら、がんばってください師範」

98
「あ、ああああ」
「あらら、太ももの締めつけだけで手も足も出ないなん
て、情けないですね」
 ニコニコ。
 笑いながら、明日香がてきぱきと料理をしていく。
 師範を。
 世界最強の男を軽くあしらいながら、次々に技を繰り
出して追いつめていく。
「ひゃだああああッ!」
 今の師範はまるでまな板の上の魚だ。
 明日香によって調理されてしまう食材でしかない。
「はい、馬乗り三角の完成です」
 あっという間に終わってしまった。
 手も足もでなかった。
 師範の首は明日香の強大な下半身によって潰され、そ
の凶悪な太ももの間に挟まれて、身動き一つできない状
態にされてしまった。
「あいかわらず弱いですね~師範」
 ニコニコ。
 馬乗り三角で男に顔面騎乗しながら少女が言う。
「世界戦で優勝したんですから、少しは強くなって帰っ
てきたのかなと思いましたけど、ぜんぜんでしたね」
「むうううう! むううううッ!」
「これじゃあ、大会に行く前、明日香に締め落とされ続
けてた弱い師範のままじゃないですか。なんのために世
界戦に出たんですか?」

99
 衝撃。
 英雄は信じられない思いで明日香を見つめた。はあは
あと自分の息が荒くなっているのが分かる。明日香は最
初から師範より上だったのだ。
 この道場は最初から明日香の巣だった。
 彼女が暴虐の限りを尽くす狩り場。
 そこに自分はひょこひょこと足を踏み入れてしまった
のだ。
「ほら、次やりますよ。締め落としちゃうと動きが悪く
なるので、最後まで締め落としはしないであげます。ど
んどんいきましょう」
 歌うように言う明日香。
 彼女は言葉どおりにした。
 よろよろする師範を強引に立たせて、またしてもマッ
トに叩きつける。
 ありとあらゆる寝技で師範をズタボロにし、その尊厳
をみじんも残さず粉々にしていく。
 師範はただ嵐に翻弄されるぼろ雑巾のように、明日香
に壊されていった。それがただひたすらに続いた。

 *

「ゆるじでくだじゃい……たしゅけてええ……じ、死に
だくない……」
 世界最強の男の末路。
 1時間近くただひたすら負け続け、痛めつけられた男

100
がとった行動。
 師範は土下座していた。
 綺麗な土下座だった。
 額をマットにこすりつけて、全身全霊をこめて土下座
している。
 少女の足下で。
 教え子の生足のすぐ近くで、師範は頭を下げて、命乞
いをしていた。
「ふふっ、情けないですね」
 明日香が笑った。
 彼女はそのまま、土下座を続ける師範の後頭部を踏み
潰した。
 大きな足裏が、生足のままで、ぐりぐりと師範の後頭
部を蹂躙する。師範の顔面はマットにこすりつけられ、
さらに深く頭を下げることになった。そんなことをされ
ても師範が土下座を止めることはなかった。ぷるぷると
震えながら、最強の男がただ震えて、ひたすらに土下座
を続けることに集中していた。
「どうやったら許されるか、わかってますよね?」
 明日香の声。
 それはどこか冷酷に聞こえた。
 彼女は後頭部を踏み潰していた足を師範の顔の前に差
し出した。
「ん」
 その一言。
 それだけで、師範が勢いよく明日香の足を舐め始め

101
た。
「ジュバア……じゅるじゅる……」
 舐めている。
 成人男性が。
 最強の格闘家が、少女の足を一心不乱に舐めていた。
 そこに尊厳なんてかけらもなかった。
 目を血走らせんがごとく真剣な表情で舌を動かし続け
ている。それはひとえに、目の前の少女に許してもらう
ための行動だった。これ以上痛めつけられないために、
許してもらうために、師範が明日香の足を舐めている。
(そ、そんな)
 英雄は信じられない思いでいっぱいだった。
 尊敬すべき師範。
 自分にブラジリアン柔術を手取り足取り教えてくれた
存在。
 そんな目標にしていた男が、今、こうして明日香にボ
ロボロにされ、足を舐めさせられている。その光景を見
ていると、英雄はわなわなと体が震え、ゴクリと唾を飲
み込んでいた。
「いつまでそんなところで見てるんですか、師匠」
 明日香の言葉。
 道場の出入り口で呆然とたたずむ英雄にむかって彼女
が続ける。
「そんな遠くから凝視していないで、近くで見たらどう
ですか?」
 英雄はふらふらと明日香に近づいた。

102
 その間も、師範は明日香の足を舐め続けていた。それ
は、英雄が間近に迫っても変わらなかった。
「驚きましたか、師匠」
「そ、そりゃあ、そうだよ」
「そうですよね。でも、これが日常なんですよ」
 妖しげな瞳。
 いつものニコニコした無邪気そうな様子がなりをひそ
め、今の明日香は妖艶なジトっとした目つきで、英雄の
ことを見下ろしていた。
「明日香が強くなって、ほかの練習生相手じゃ試合にな
らなくなったので、こいつが明日香の相手になってくれ
たんです」
 くすくす。
 明日香が師範に足を舐めさせながら言う。
「最初から明日香が圧勝しちゃいました。よわかったで
すね~。だから、ほかの練習生と同じように、締め落と
して、吊るして、足を舐めさせて掃除させるようにして
いったんです」
 じゅばあじゅるじゅる。
 明日香の言葉にも師範の舌が止まることはなかった。
唾液音が英雄の耳に嫌でも入ってくる。
「そうしたら、こんな情けないサンドバックになっちゃ
いました。最強の男が聞いて呆れますよね」
「あ、明日香」
「師匠のことも、こいつみたいにしてあげます」
 ジト目。

103
 明日香が英雄を見下ろす。
「締め落としまくって、吊るして吊るして、心が折れる
まで徹底的に師匠をボロボロにします。それで、最後に
は足を舐めさせます。こいつみたいに」
「う、ううう」
「ほら、よく見てください師匠。こいつが、師匠の未来
ですよ」

104
 明日香が足を舐め続けている師範を侮蔑のまなざしで
見下ろす。
 虫けらでも眺めているような冷たい視線。英雄はそれ
を見て、ハアハアと息を荒くした。
「吊るします」
 明日香が師範の首をつかみ、持ち上げる。
 師範が両手両足をじたばたと暴れさせ、陸揚げされた
魚になる。それを淡々と見上げ、明日香がふふっと笑っ
た。
 男の足は地面についていない。
 宙づりにされている。
 身長の高い師範でも関係がなかった。明日香はこの道
場で誰よりも身長が高く、強いのだ。どんな男も明日香
には勝てない。
「ぐぼおおおおおおッ!」
 気絶した。
 師範だった男がダランと体を弛緩させて吊るされてい
る。
 白目をむき、ブクブクと泡をふいた情けない顔。高身
長の明日香に象徴的に吊るされて、肉塊となってしまっ
た弱い男の体がいつまでも揺れていた。
「師匠のことも、こんなふうにしてあげますからね」
 師範のことを吊るしながら、明日香がかたわらの英雄
を見下ろす。
 妖艶な表情。
 興奮していることが分かるそのジト目が容赦なく英雄

105
に突き刺さる。男が恐怖でガクガクと震える。肉食動物
を前にした純粋な恐怖。しかし、その股間が固く勃起し
ていることに、英雄は最後まで気づけなかった。

106
 第4章

 1

 道場。
 英雄は捕食されていた。
 明日香のむっちりとした腕が英雄の首にめり込んでい
る。
 亀の姿勢になって逃げようとした英雄が、背後から明
日香にチョークスリーパーで締め上げられていた。
「師匠、完全に極まっちゃいましたね」
 明日香がうつ伏せになった英雄の背中に覆いかぶさっ
ている。
 体格差がすさまじく、英雄の小さな体は明日香の大き
な体の下敷きになって完全に埋まってしまっていた。
(ぐ、ぐるじいいいい)
 英雄がボロボロの顔で悶える。
 首に巻きついた明日香の腕。
 それをほどこうと暴れるのだがどうにもならない。首
に食い込んだ二本の逞しい腕は、がっちりとホールドさ
れ、抵抗してもビクともしなかった。
(ぐ、ぐるじいいい……くるじいのに……で、でも……)
 英雄が頭を真っ白にする。
 激痛。
 首の異物感。
 それなのに、

107
(ぎ、ぎもちいいいいいッ!)
 昇天。
 頭がぼんやりとして、なんだか気持ちよくなってい
く。背後には明日香の豊満な体。彼女の大きなおっぱい
が背中でぐりぐりとこすれ、その柔らかさに悶絶する。
しかし、それよりも英雄を昇天させていたのは、首に巻
きついた二本の腕だった。
「ふふっ、きもちいでしょ、師匠」
 明日香が英雄の耳元でささやくように続ける。
「頸動脈だけ締め上げて、でも気絶は許さないギリギリ
のところで手加減してあげてます。こうすると、頭に血
が十分に届かなくなって、きもちよくなるんですよね」
「ぐ、ぐぎいぎぎ」
「やりすぎると死んでしまいますし、後遺症が残るので
注意が必要ですが、何度も締め落としてきた明日香にか
かればギリギリのタイミングもお見通しです。安心して
気持ちよくなってください」
 ぎゅうううううッ。
 締めつけ。極太の二匹の蛇がさらに英雄の首に巻きつ
く。
「ひゃ」
 英雄は悲鳴をもらし、トロンとした表情を浮かべて、
体を弛緩させた。
 気絶はしていない。
 ただ、いっさいの抵抗を放棄してしまったのだ。
 それは、自分の命を相手に差し出すのと同じだった。

108
「ふふっ、締められすぎて頭働かなくなっちゃいました
ね」
「カヒュウウ――ッ!」
「きもちいのを優先して、自分のことを殺している相手
に身も心もゆだねちゃいました」
「グええええええっ!」
「ほ~ら、仰向けにしちゃいます」
 ぐいっ。
 明日香がチョークスリーパーをかけたまま、英雄の体
を引きずりこむようにして仰向けに寝ころがった。
 明日香の大きな体の上に英雄の小さな体が乗っかる。
さらには明日香の太ももが獲物に巻きつくようにして、
英雄の胴体をがっちりと挟み込んだ。
「胴締めチョークスリーパーの完成です。こうなったら、
師匠は一生逃げられません」
「かぎゅうううッ! アっひゃあああッ!」
「明日香の許しがなければ、ずっとこのまま師匠は締め
られたままです。生きる権利を奪われてしまいました。
ふふっ、恥ずかしくないんですか、師匠」
「カヒュ―――カ、ヒュウ――」
「分かってるとは思いますけど、明日香が少し力をこめ
るだけで師匠は気絶します。あとほんのちょっと、明日
香が腕に力をこめれば、頸動脈が完全にシャットアウト
して、すぐに気絶するんです。もちろん、そのまま締め
上げ続ければ、師匠は死にます」
 ニコニコ。

109
 客観的事実を教え込むように、明日香が言う。
「ほ~ら、この腕で師匠は殺されてるんですよ。首に
がっちり巻きついた明日香の腕で、師匠は命を奪われよ
うとしているんです。それなのに……」
 明日香が鼻で笑って、
「そんな気持ちよさそうな顔を浮かべてていいんですか
~?」
 明日香の言葉どおり。
 仰向けにされ、その顔を周囲にさらした英雄の顔はト
ロンとして、昇天しかかっていた。
 頭に血がまわらず、もはや英雄は英雄ではなくなって
いた。そこには、屈強な格闘家ではなく、頭を壊した廃
人がいるだけだった。
「ふふっ」
 明日香が堪能している。
 少女が師匠を壊す感触で興奮しているのだ。
「一回、墜ちましょうか」
 明日香が、くいっと腕に力をこめた。それだけで男が
気絶し「グボオオオオッ!」とイビキをかき始めた。
「はい、一秒。瞬殺でしたね」
 明日香が言う。
「まだまだこれからです。今日もたあっぷり締め落とし
まくってあげますからね」

 2

110
 道場は明日香によって完全に支配された。
 道場生たちは、皆、明日香によってボコボコにされ、
最後には吊るされる。
 男たちの足が地面から離れ、ぱたぱたと暴れる。明日
香が片手だけで男の首を絞め、微動だにせずに持ち上
げ、絞首刑を執行しているのだ。吊るされた男たちはす
ぐに白目をむき、口からブクブクと泡を吹きながら意識
を失ってしまう。今も師範が首を絞められ吊るされてい
た。最強の男が手も足も出ずにボコボコにされ、全裸に
剥かれて、体中が変色するまで痛めつけられたあげくに
宙づりにされるのだ。大柄な男でも関係なく吊るしてし
まう明日香の高身長と怪力。ついに師範もダランと脱力
して、盛大なイビキをかき始めた。
「さ、最後は師匠の番ですよ」
 気絶した師範を吊るしながら、トロンとした瞳を浮か
べた明日香が言う。
 彼女の視線の先には、ガクガクと震える英雄がいた。
「ほらほら、逃げてください師匠」
「ひ」
「明日香につかまったらどうなるか分かってますよね。
はやく逃げないとつかまえちゃいますよ?」
 ニコニコ笑いながら迫ってくる年下の少女。
 その圧倒的な肉体を前にして恐怖した英雄が、
「ひい」
と悲鳴をもらしながら道場の中を逃げる。脱兎のごとく
走って明日香から遠ざかろうとする。しかし、
「のろま~」

111
「ひいいいッ」
 信じられない速さで明日香の巨体が駆けた。
 あっという間に道場の出口前を塞ぎ、少女が英雄の前
に立ちはだかった。その豪快な走り方。彼女の太ももに
浮き出た筋肉がとんでもない推進力を与えているのが分
かる。どんなに逃げても無駄。明日香のほうが絶対に足
が速い。それが嫌でも分かった。
「スピードでも明日香の圧勝ですね」
「あ、あああああッ!」
「チビがすばしっこさで負けたら、師匠は明日香に何も
勝てませんね」
 ふふっと明日香が笑う。
 彼女が怯え切った英雄の両手をぐいっとつかんだ。上
から覆いかぶさるみたいにして明日香が英雄に迫る。明
らかに興奮した女の視線が、英雄の苦痛に満ちた顔に突
き刺さった。
「師匠がどんなに逃げても、明日香は簡単に師匠に追い
ついちゃいます」
「ひいいいッ」
「師匠は絶対に明日香から逃げられません。ふふっ、そ
もそも足の長さが違いすぎますからね。明日香の足の長
さは師匠の足の2倍くらいあるんじゃないですか? 歩
幅もぜんぜん違います。師匠はチビすぎるので、足の速
さでも明日香には勝てないんですよ」
 ぎゅううううッ!
 明日香が英雄の両手を握りしめて力比べの体勢になっ

112
た。
 その圧倒的な怪力の前に英雄はすぐに激痛で顔を歪ま
せる。あっという間に膝をつき、明日香の足元で膝まづ
く格好になってしまう。指導役だった男が、教え子だっ
た妹弟子の怪力の前で、涙を流し始めてしまった。
「ふふっ、ザ~コ」
 軽く。
 明日香が英雄の体を押す。
 それだけで男の体は仰向けに倒れてしまった。英雄が
最後に見たのは、自分の顔面めがけて跳躍する明日香の
巨尻の姿だった。
「潰れろっ!」
 どっすうんんんッ!
 ベッギイイイイッ!
「むっぐうううううううううッ!」
 ヒップドロップが英雄の顔面に直撃し、道場が揺れ
た。
 明日香の大きすぎるほどに育った巨尻が、矮小な男の
頭部全体を潰してしまったのだ。女の子座りで英雄の顔
面にまたがった少女が、かつての師匠に顔面騎乗を開始
する。
「あはっ、師匠の顔、わたしのお尻で潰されちゃいまし
たね」
 巨大な桃尻によって、首から上が完全に潰されてし
まっていた。明日香の巨体によって生き埋めにされて、
身動き一つとれなくなってしまう。

113
(ぐ、ぐるじいいいい)
 息が吸えなくなった英雄がジタバタと暴れる。
 すこしでも明日香の体を動かして、この圧迫から解放
されようと必死に手足をパタパタさせる。しかし、英雄
がどれだけ暴れても明日香の体をよろめかせることすら
できなかった。
「くすっ、なにしてるんですか、師匠」
 明日香が笑う。
「チビな男子はかわいそうですね。大きな女の子に座ら
れただけで負けちゃう」
「むうううッ! むうううッ!」
「今も、明日香は師匠の顔面の上で座っているだけです
よ? それなのに師匠は身動き一つとれない。チビすぎ
て埋もれちゃってる。惨めですね~」
 ぐりぐり。
 さらに潰す。
 潰された英雄が、半狂乱になったみたいに腕でマット
を叩き始めた。
 ギブアップの意思表示。
 助けてくださいという命乞い。
 バンッバンッとマットにむかって何度も何度もタップ
が繰り返される。
「ふふっ、だ~め」
 がしっ。
 しかし許されるわけがなかった。
 無駄な抵抗をする英雄の両手を明日香がわしづかみに

114
してしまった。ギブアップのためのタップもできない。
絶望感で英雄の背筋が凍った。
「ほ~ら、ぐりぐり~」
 おどけたように言って、明日香が巨尻を英雄の顔面に
すりつける。
 自分の命ごと押し潰そうとしている圧倒的なお尻。そ
の重量感によって英雄の抵抗しようとする心自体がぺ
ちゃんこにされてしまった。
(たじゅげで……たじゅげで……)
 英雄の目の前が暗くなっていく。
 弱っていく獲物。その息の根がとまろうとしている様
子を見て、明日香がニンマリと笑った。
「堕ちろ、チ~ビ」
 ぎゅうううううッ!
 体重がかけられ、英雄は気絶させられた。
 ただ座られただけで意識を刈り取られてしまったの
だ。小さな男が、大きな少女のお尻の下で、くぐもった
イビキをかき始めた。
「まだまだこれからですからね、師匠」
 明日香が笑って、
「師匠で遊ぶのとっても興奮するんで、時間をかけて虐
めてあげます」

 *

 時間が経過する。

115
 英雄が気づいたときには吊るされている。
 何度も何度も締め落とされた後、今日も最後に吊るさ
れて首を締められている。
 自分の足が地面についておらず、バタバタと暴れてい
るのに英雄が気づく。首に巻きついているのは明日香の
左手。片手だけで首をわしづかみにされて、持ち上げら
れているのだ。
(あ、明日香……)
 もはや言葉を奪われた英雄は、ただただ明日香のこと
を見下ろすしかない。
 こちらのことを今もニコニコしながら見上げている存
在。その逞しい体で仁王立ちして、男一人を持ち上げ、
吊るしている少女。
 英雄はまたしても頭がぼおっとするのを感じ、気持ち
よさが全身を支配するのに浸った。その股間はこれ以上
ないくらいに勃起していた。
「師匠、だいぶ墜ちちゃいましたね」
 ニコニコと明日香が笑う。
「今の師匠、格闘家の顔じゃないですよ? 女の子に虐
められて悦ぶマゾの顔です」
「カヒュ――カヒュウ―――」
「なさけないですね~。自分よりはるか年下の女の子に
手も足も出ずに締め落とされて、負け続けて、墜ち癖ま
でつけられて、あげくの果てにマゾにさせられちゃっ
た」
 ふふっ。

116
 妖しげな笑み。ジトっとした瞳で、純粋無垢なはずの
少女が、性的に興奮した視線で師匠を観察している。
「それもこれも、師匠がチビだからですよ」
 これみよがしに体格差を強調しながら明日香が言う。
「男のくせに身長が低いザコだから、師匠は明日香にボ
コボコにされちゃうんです」
「カヒュ――ぐっげえ……」
「本当に、かわいそうですよね、チビって」
 明日香が吊るしている英雄の耳元で囁く。
「チ~ビ♡」
「あひっ」
「チ~ビ♡ チ~ビ♡ チ~ビ♡ チ~ビ♡」
「アヒンッ……カヒュう―――」
「一回り以上年下の少女にも身長で勝てないチビ。明日
香の胸のあたりまでしか背が届かないチビザコ。吊るさ
れたら地面に足がつかなくなっちゃってブラブラ暴れる
しかないおチビちゃん。惨めですね~。情けないですね
~。チビって本当にかわいそうですね~」
 洗脳するように囁き続ける。
 そのたびに、英雄がビクンビクンと痙攣して、脳髄に
明日香の言葉が刻まれていく。
「おチビちゃんな師匠が、おおきな明日香に勝てるわけ
ないんです」
「カヒュ――カヒュウウ――」
「明日香がその気なら、いつでもチビな師匠のことを殺
せちゃう。それって、なんて優越感なんだろう。支配し

117
てるって気がして、とっても興奮します。ずっと、師匠
のことをこうしてボコボコにしたかったんです」
 うっとりとした顔。
 恋焦がれた乙女の表情を浮かべて明日香が英雄に宣告
する。
「もっともっと、師匠のことボコボコにして、心を折っ
て、明日香に夢中にさせてあげますからね」
 ぎゅうううううッ!
 とどめとばかりに明日香の両手で英雄の首をつかむ。
 大きな明日香の両手によって首が丸ごと包み込まれて
しまっている。まるで宝物でも扱うように、明日香が両
手で小さな英雄の首を握りしめ、絞めた。
「グッボオオオオオッ!」
 それだけで英雄はビクンと痙攣して、気絶した。
 明日香の大きな両手の中で、白目をむいて、びくんび
くん痙攣していく。そんな英雄のことを明日香がいつま
でも、じいいっと見つめていた。

 3

 ボコボコにされて吊るされる。
 明日香は男を吊るすということに変質的なこだわりを
もっているようだった。
 おそらくそれは、身長差を分かりやすく思い知らせる
のに効果的なのだろう。
 大きな自分の体と、小さな男たちの体の違いを見せつ

118
ける。今日も明日香が、英雄のことを何度も絞め落とし
てから、最後の仕上げに吊るしていた。
「あはっ、逆さ吊りになっちゃいましたね、師匠」
 心底楽しそうに明日香が言った。
 彼女の言葉どおり、英雄は逆さ吊りの状態に追い込ま
れていた。
 明日香の大きな右手が英雄の両足首をわしづかみにし
て、大きく持ち上げてしまったのだ。
「ひいいいいいッ!」
 逆さまの視界になった英雄が悲鳴をあげた。
 自分の足首をつかんでいる明日香の大きな手。その力
強さをまじまじと感じながら、自分の体が虫けらのよう
に持ち上げられていることに恐怖する。逆さ吊り。頭が
下になって宙づりにされている。しかも自分の両手すら
地面に届かないのだ。それだけの圧倒的な身長差が、明
日香と英雄の間にはあった。
「ふふっ、チビすぎですよ師匠」
 明日香が逆さ吊りにした男を見下ろしながら言う。
「頭どころか両手すら地面につかずに、ブラブラ吊るさ
れて宙づりにされてしまっています」
「ひいいいいいいッ」
「惨めですね~。チビって本当に悲しくなりますね~。
師匠は明日香よりも身長が低いせいで、こんな目にあわ
されてしまっているんですよ。逆さ吊りで吊るされて、
その無様な様子を鑑賞されています。それもこれも師匠
がチビなのがいけないんです。育ち盛りのはずなのに

119
ちっとも背が伸びないで、年下の私に身長を抜かされて
しまったのが悪いんですからね」
 くすくす笑って明日香が続ける。
「こうして逆さ吊りにされたらもうおしまいです。師匠
はこのまま、明日香の気がすむまでずっとこのままで
す」
「ゆ、ゆるじでええええッ!」
「ダメです。ほら、頭に血がのぼってきたんじゃないで
すか? このままずっと逆さ吊りにされたら師匠は死に
ます。ふふっ、人間の体って重力を考えて内臓の位置が
決まっているんですが、反対方向に内臓を支える力はな
いんです。だから、このまま逆さ吊りされていると、お
もしろいことになるんですよ」
 まるで実体験のように語る。
 明日香がニンマリと笑って、
「人間の口から内臓が出てくるんです。大腸とか小腸が
ずり落ちていって、ついには口から出てくるんですよ。
お腹がべこりってへこんで、口からピンク色の内臓が吐
瀉物みたいにこぼれおちてくるんです。吊るされている
だけで、師匠は死ぬんです」
 ふふっ。
 残酷な少女が笑う。
 英雄はもはや半狂乱になって暴れ始めた。
「たずげでええええッ! し、死にたくないいいいッ!」
 腹筋をつかって体をバネのようにして暴れる。
 それなのに英雄は明日香の体に触れることすらできな

120
かった。完全に宙づりにされてしまって、文字通り手も
足も出ないのだ。少女に両足首をつかまれ逆さ吊りにさ
れて殺されそうになっている。
「し、師匠、バッタみたい……ぷぷっ、バッタ……虫……
ふふっ」
 暴れる英雄を見て明日香が笑う。
 片手だけで男の体を持ち上げた少女がさらに男の滑稽
な姿を鑑賞していく。
「どんなにがんばっても師匠は宙づりにされたままです
ね」
「ひゃだあああああッ! ひゃめでえええッ!」
「師匠の絶叫、子宮にビンビン響いていい感じですよ?
 もっとお願いします」
「ゆるじでえええええッ! お願いいいいいいッ!」
「あはっ! 暴れてる暴れてる。あ~、きもち~」
 堪能していく。
 英雄の心が壊れていった。
(死ぬ……殺される……明日香に、このまま……)
 嫌だと思って暴れても無駄だ。
 明日香の体をよろめかすことすらできず、自分は逆さ
吊りにされるだけ。どんなに暴れても明日香に触れるこ
とすらできない。手足の長さが違いすぎるのだ。
(チビだから……俺が明日香よりチビだから……このま
ま殺される)
 それが実感として分かる。
 自分よりも圧倒的に優秀で強靭な明日香の体。その巨

121
体を前にしてはチビな自分が何をして無駄なのだ。英雄
はそれを受け入れてしまった。
「はい、また心が折れましたね、師匠」
 明日香がお見通しとばかりに言った。
 彼女の目の前。今だ逆さ吊りになっている男は両手を
ブランと垂れ下げ、脱力して、ぴくりとも動かなくなっ
てしまった。
「チビでザコであることを認めてしまいました。身長の
高い明日香に勝てないって理解しちゃった。自分はチビ
だから何をしても無駄だって、分からされちゃいました
ね」
 勝ち誇って明日香が言う。
 その罵倒の前にも英雄の体は動かない。死刑を執行さ
れて絞首台で揺れる罪人のように、分からされた男の死
体が垂れ下がっていた。
「とどめ、いきますね?」
 明日香が笑った。
 彼女はぐいっと英雄の体を持ち上げ、宙高く放り投げ
た。
 空中でくるりと回転した英雄の上半身が明日香の頭上
にくる。その瞬間に、獰猛な明日香の両手が、英雄の小
さな首を丸飲みした。
「じゃ~ん、首絞め吊るし上げの開始で~す」
「かぎゅううううッ! ぐげええええッ!」
「師匠の小さなよわっちい首~、明日香の強い両手がわ
しづかみにしちゃいました~。そのまま持ち上げられて

122
師匠の足は地面につかずにブラブラしちゃっています。
こうなったらもう師匠に逃げ場はありません。このまま
師匠は吊るされて首を絞められて、殺されてしまいま
す」
 ぎゅうううううッ!
 さらに締めつける。
 英雄の体がビクンと痙攣した。
「殺されたくないですか? 師匠」
 明日香の言葉に英雄がコクンコクンと頷く。
「なら、命乞いしてください。両手の力緩めてあげます
から、がんばって命乞いするんです」
「かぎゅううううッ!」
「ほら、やれ」
 命令。
 自分よりもはるか年下の少女に命乞いを強要される。
(だめだ……そんなこと、ダメ……)
 今さらながら、なけなしのプライドが明日香の命令を
拒否する。
 かすかに残った師匠としての意地。この少女を正しい
道に導かなければならないという気持ちが、明日香から
命令された命乞いを躊躇させる。しかし、
「や・れ」
 ぎゅうううううッ!
 一瞬。
 明日香の力に全力の力がこもった。
 まるで首を丸ごと潰された。そんな気持ちにさせられ

123
るほど明日香の締めつけの力は強烈だった。喉の肉だけ
でなく、声帯や骨ごとぺちゃんこにされ、肉片にされて
しまったのではないかと錯覚するほどの力強さ。明日香
の手と手があわさってしまうほどの強烈な締めつけに
よって、英雄のプライドは絞め潰された。
「殺さないでえええええッ!」
 命乞いが始まる。
 かつての教え子に首を絞められながら宙づりにされ
て、足が地面につかなくなるほど吊るされて、殺された
くなくて、必死に命乞いを始める。
「ゆるじでくださいいいいッ! もうひゃめでえええ
えッ!」
「もっと」
「殺 さ な い で え え え ッ!   殺 し ち ゃ い や あ あ あ あ あ
ッ!」
「もっとです」
「たずげでえええッ! たずげでえええええッ!」
 英雄は必死に絶叫した。
 体を暴れさせ、明日香の恐ろしい両手から逃れようと
必死に抵抗する。
 しかし、まったくの無駄だった。明日香の両手は貪欲
に英雄の首を丸飲みして締め上げている。英雄がいくら
暴れても、どっしりと立つ明日香のよろめかすことすら
できない。
 巨体の少女と、チビな男。
 その両極端な対比は、吊るし上げによってますます強

124
調されていた。
「ふふっ、力こめますね」
「あ、だ、ダメええええ」
「少しづつ、力をこめる」
「ゆるじ……グゲ……ひゃめオボオッ」
 英雄の言葉が奪われていく。
 首を絞められ、声帯を潰されて、英雄が少しづつ、え
づいていった。
「ほらほら、力がゆっくりこもっていきますよ~」
 悶え苦しむ英雄を見つめながら明日香が言う。
「明日香の両手が師匠の首をぺちゃんこにしていきま
す。そうなったら命乞いもできません。言葉も奪われて
命乞いもできなくなった師匠は、そのまま明日香に殺さ
れてしまうんです」
 ニンマリと笑って、
「それが嫌ならがんばって命乞いしてください。言葉を
奪われる前に、ほら、がんばれ」
「ゆるじオッボオオオッ! グゲエエッ! ひゃめ、オ
ボオッ!」
「がんばれ♪ がんばれ♪ 命乞いがんばれ♪」
「グッゲエエッ! ひゃオッボオッ……グッゲエ……ゆ
る……っぎいい……」
 次第に言葉がなくなっていく。
 白目をむいてぴくぴくと痙攣し始めた哀れな男。そん
なかつての師匠のことを、妹弟子がじっくりと鑑賞して
いた。

125
「えづいてるえづいてる。あ~、きもち~」
 笑う。
「明日香の両手が師匠の喉をぺちゃんこにしているせい
で、吐きそうになってますね。白目むいてぴくぴく痙攣
しながら、えづきっぱなしです」
 嘲笑して鑑賞する。
 残酷な少女が慕っていた年上の男を使って遊んでい
く。
「明日香、男の人がえづいているところ見るの好きなん
です。明日香の両手で喉をぺちゃんこにされて、異物感
でこみあげてくる吐き気を我慢できずにえづいている
ところを見ると興奮します。師匠の顔もいいですよ? 
とっても無様でステキです。このまま本当に、絞め殺し
てあげたくなっちゃいます」
 ニコニコ。
 純粋無垢な少女が白目をむいた男を見つめている。そ
んな嗜虐性の化け物みたいな少女に見つめられて、英雄
は恐怖し、それと同時に興奮していた。
(勝てない……俺はもう明日香には勝てない……)
 その実感が同時に快感になっている。
 自分よりも強い生物に蹂躙され、鑑賞物にされる快
感。彼女の視線を受けるたびに、体が恐怖と歓喜で痙攣
するのが分かる。
 もはや体は屈服しているのだ。
 本能は明日香という絶対的支配者に気に入られよう
と苦痛を快感に変換してしまっている。その惨めさを理

126
性が察知してしまい、さらに興奮する。酸欠状態の真っ
白になった頭の中で、英雄は明日香のことを崇拝してし
まっていた
「そうだ」
 ひとしきり英雄をえづかせ、鑑賞を楽しんだ後で、明
日香が声をあげた。
「師匠、明日、おでかけしましょう」
 少女が男をデートに誘った。
 その光景は、ほほえましい青春の1ページのはずだっ
た。しかし、少女が圧倒的巨体をいかしてチビ男を吊る
してしまっているせいで、その告白シーンは凄惨な拷問
現場にしか見えなかった。明日香がニコニコとした笑顔
で続ける。
「実は見たい映画があるんです。でも、夜しか上映して
いなくて、パパもママも忙しいので明日香一人では見に
行けません。だから、つきあってください」
 どうですか、と明日香がさらに問いかけた。
 その間も、彼女の大きな手が、矮小な英雄の首をわし
づかみにして、締め上げていた。
(あ、あしゅか……さま……あしゅか……)
 英雄は朦朧とした意識の中で昇天しかけていた。
 理性が絞め殺されてしまい、本能だけしか残されてい
ない英雄に、選択の余地はなかった。
「はひいいいいッ! デートしましゅううううッ!」
 明日香の誘いに首をガクンガクンと縦に振り始めた
男。

127
 首を締められ、前頭葉の機能を阻害された彼は、今、
欲望に忠実な猿になってしまっていた。
「ありがとうございます」
 ぎゅううううううッ!
 締めつけ。
 ニコニコ笑いながらの強烈で凶悪な首締めが開始さ
れ、一瞬で英雄が締め落とされた。断末魔の悲鳴さえな
く、静かに意識を刈り取られた男が、明日香に宙づりに
されてブラブラと揺れる。
「ふふっ」
 興奮した女豹。
 明日香は英雄を地面に投げ捨てると、仰向けに倒れた
男の顔面を容赦なく踏み潰した。
 白目をむき、口からブクブクと泡をふいている男の顔
面を大きな足裏で覆い隠し、全体重をかけて潰してい
る。むき出しの生足が、男の頭部をわしづかみにして支
配している。それはまるで、大鷲が獲物をその鋭利な足
でわしづかみにして連れ去ろうとしているかのようだっ
た。
「師匠、はやく、明日香、師匠のこと」
 うわごとのようにつぶやき、ますます男の顔面を踏み
潰していく明日香。
 グリグリと足を動かし、男の頭部をマットにすりつけ
て遊び始める。踏み潰すごとに彼女の興奮は増していく
ようで、妖艶な笑みを浮かべた明日香は、いつまでも英
雄の顔面を踏み潰していった。

128
 4

 最寄り駅で待ち合わせをすることになった。
 さすがに夜の映画館に行くので、英雄も制服から着替
えて明日香を待った。
(少し、早く来すぎたか?)
 英雄は時計を見ながら思う。
 どうにも気がはやっている。
 期待している自分、楽しみにしている自分がいること
に英雄は気づいていた。
 毎日毎日、自分のことを締め落としてくる少女。ニコ
ニコしながら執拗に自分の首を狙ってくる少女と出かけ
ることが楽しみで仕方ない。
(俺はどうしちまったんだろう)
 相手はまだ初等部。
 夜の映画館にすら一人で行けない少女なのだ。そんな
女の子のことを変に意識している自分が不思議でならな
かった。
「師匠、お待たせしました」
 声がした。
 顔をあげると、そこには大人っぽい女性がいた。
 大きな女性だ。
 身長が自分よりも格段に高かった。巨大な壁が目の前
にそびえ立っているように見える。その体は厚みもすご
かった。肩だしの白いシャツを突き破ろうとするかのよ

129
うな巨乳。それがちょうど英雄の顔の高さに鎮座してい
て、それだけでタジタジになる。しかし、それよりも英
雄の目がくぎ付けになったのは、彼女の足だった。
(す、すごい)
 長い長い足。
 それが短い丈のホットパンツからむき出しで伸びて
いる。ムチムチしていながら、その筋肉の躍動感を感じ
ざるをえない見事な太もも。うっすらとカーブを描きな
がら発達した筋肉が見えるふくらはぎ。それが目の前に
あって、英雄は思わず彼女の下半身を凝視してしまっ
た。
「師匠、どうしたんですか?」
 また声がした。
 それはどこかで聞いたことのある声だった。
 英雄が女性の顔を見上げた。髪をおろし、大人っぽい
雰囲気をまとったその女性は、明日香だった。
「あ、明日香か?」
「そうですよ。ひどいなー、きづかなかったんですか、
師匠」
 それはまさしく変貌だった。
 どこからどう見ても目の前の明日香は大人の女性にし
か見えなかった。身長だって体格だって、まとっている
大人っぽさだって、自分よりも段違いに上だった。
「とりあえず、電車に乗りましょうか。遅れたら嫌です
し」
「あ、ああ」

130
 主導権まで握られて、英雄が明日香の後を追う。
 彼女の後ろ姿をぼおおっと見つめ、自然と視線はホッ
トパンツから伸びるむき出しの生足に吸い込まれてしま
う。彼女の匂いで頭が麻痺したようになり、ますます夢
中になってしまうのを英雄は感じた。

 *

 映画館は都心にあるようだった。
 マイナーな単館の映画館。
 英雄たちの家からは乗り継ぎも含めて、電車で40分
ほどの道のりだった。その間、英雄はチラチラと明日香
の足を盗み見ていた。
(うわっ、すごい)
 ちょうど空いていたので、明日香には席に座っても
らっていた。その前に立ち、彼女を見下ろす格好になっ
ているのだが、英雄の視線は明日香の太ももにロックオ
ンされていた。
 明日香は豪快に脚を組んでいた。
 その脚線美が暴力的に強調されている。むき出しの太
ももが男たちの視線も心も独り占めしていて、英雄だけ
ではなく、周囲の乗客たちが明日香の脚をチラチラと見
つめていた。
(ダメなのに。見ちゃ、ダメなのに)
 それでも自分を抑えられない。
 そんな視線すべてが少女に気づかれているとも知ら

131
ず、英雄は自然なふうを装って何度も足を凝視する。
「ふふっ」
 明日香が足を組み替える。
 むちっとした太もも。組まれたことによって浮かびあ
がる筋肉。その魅力に英雄が「う」と呻くと、ますます
明日香はニコニコと笑うのだった。

 *

 映画は特になんの波乱もなく終わった。
 内容はよく分からなかった。
 男女が力をあわせて世界の秘密に挑んでいたと思った
ら、けっきょく女性の手のひらで遊ばれていて、すべて
は女性が裏で男を操っていたという内容だ。
 その映画の難解さもそうだが、隣に座り、足を組んだ
彼女の下半身をチラチラ盗み見ることに忙しかったせい
で、英雄には映画の内容が頭に入ってこなかった。ただ
ぼおっと、間近で彼女の匂いをかぎ、頭をバカにさせな
がら、興奮していた。
「おもしろかったですね、師匠」
 映画館近くの公園。
 かなり夜も深まっていることもあってか、周囲には人
も少ない。そこで、二人はベンチに座り、小休止をとっ
ていた。
「やっぱり、主演の女性の演技が格好よかったです」
「そ、そうだな」

132
「ネットで話題になっていたので、ぜったい見たかった
んですよ。でも、上映している映画館がぜんぜんなくて、
さすがに明日香一人だけじゃこれなかったので、師匠に
つきあってもらえてよかったです」
「あ、ああ」
 たじたじ。
 明日香の会話が頭に入ってこない。英雄はちらちらと
明日香の太ももだけを見ていた。
「師匠」
 明日香の声。
 それがねっとりと響いた。
「そんなに明日香の足、好きですか?」
 ドクン。
 その言葉に英雄は石になって、ハっと視線をあげる。
そこには、こちらのことをニヤニヤしながら眺めている
少女がいた。
「駅からずっと、明日香の足を凝視してましたもんね。
さすがに映画館の中でも見てくるとは思いませんでした
けど」
「あ、ち、違う」
「なにが違うんですか? ずっと明日香の足を凝視して
たじゃないですか。ふふっ、とってもかわいかったので、
何度も足を組み替えたりして挑発したら、ますます夢中
になってくるので、おもしろかったですけど」
 ほら。
 明日香が足を組み替える。

133
 長い足を豪快に動かす。
 その弧を描くような動きと、むっちりと組まれた足の
魅力。それにあらがうことなどできず、英雄は「う」と
呻いて、またしても彼女の太ももを凝視してしまった。
「ほら、師匠の視線を奪うなんて簡単です」
「あ、ああああ」
「でも不思議ですよね。毎日道場で締め落とされて、こ
の足の怖さを骨の髄まで教え込まれているはずなのに、
師匠はこの足に夢中なんですから」
 ニコニコ。
 いつの間にか体がくっつく距離まで近づいてきた明日
香が言う。
「道場の人たちの中には、締め落とされすぎて、この足
のことが怖くて怖くて仕方なくなっちゃった人も多いん
ですよ? 明日香の足を見ただけで悲鳴あげて、中には
お漏らししちゃう人もいるんですから」
 明日香の声。
 それは英雄に届かない。
 もはや英雄の頭の中は彼女の太ももで支配されてい
た。明日香がニンマリと笑う。
「師匠、マッサージしてく
ださい」
「え?」
「ここで膝まづいて、明日香の足をマッサージしてくだ
さい。ほら、はやく」

 *

134
 英雄の脳裏に葛藤が生まれた。
 恥ずかしい。
 誰かに見られたら。
 そんな理性は彼女がもう一度豪快に足を組み替えただ
けで霧散した。
「あすかああああッ」
 飛びつく。
 浅ましい猿が欲望を抑えきれなくなった。
 彼女の足下に膝まづいた男が、その逞しい足をもんで
いく。
「ふふっ、どうですか明日香の足は」
 勝ち誇った声。
 彼女は今、ベンチに一人で座って足を前に投げ出して
いた。長く逞しい足を、まるで自分の部屋にいるかのよ
うにダランとさせて、男に奉仕をさせていた。
「はあはあはあ」
 英雄の息が荒くなる。
 大きな体にすがりついてその行為を堪能していく。明
日香の足下に正座で膝まづく。ベンチに座った明日香が
大きな山に見えるほどの迫力。その状態で、むき出しの
太ももに手をはわせ、いっしょうけんめいにマッサージ
をしていく。
(す、すごいいい。明日香の足、すごすぎるうう)
 もはや英雄は我を忘れていた。
 明日香の太もも。

135
 それを両手でつかみ、ぎゅうぎゅうともんでいく。感
じるのは皮下脂肪の柔らかさ。手がぐにゅっと沈み込む
感覚に心が奪われる。けれどそれだけではなく、柔らか
さの下に張りがあった。まるでゴムでももんでいるかの
ように、手のひらに弾力がかえってくる。それは、皮下
脂肪の下に眠っている凶悪な筋肉の弾力だった。興奮し
た英雄がさらに必死のご奉仕を続けていく。
「あーあ、堪能しちゃってますね」
 バカにしたような声。
 ニヤニヤと笑いながら明日香が男を見下ろしていた。
 それは楽しいイベントを鑑賞する支配者の笑みだっ
た。ベンチに豪快に座って、地面に膝まづいてマッサー
ジしている男のことを鑑賞している。
「師匠、わかってると思いますけど、師匠がマッサージ
しているのは、いつも師匠のことを締め落としてる怖い
足なんですよ?」
「ああああああッ!」
「毎日毎日、この太ももに挟み込まれて、潰されて、首
を絞められているのに、そんなに堪能しちゃって、いい
んですかね~」
 侮蔑の言葉。
 しかし英雄には届かない。
「ハアハアハア」
 忘我の境地で明日香の太ももをもんでいく。目を血ば
らせて明日香の足に夢中になっている。それを見た明日
香が「ふふっ」と笑った。

136
「師匠、ほ~ら」
 明日香がその大きな両脚を左右に開脚した。
 ムッチリとした逞しい脚が、長く、長く展開される。
それはまるで肉食女郎蜘蛛の長い脚のようだった。
 迫力たっぷり。
 ムチムチした太もも。
 健康的な脚。
 筋肉質で逞しい脚。
 女性の脚。
 柔らかそうな脚。
 脚、脚、脚。
 どうしようもない。肌色たっぷりの。いつまでも見て
いられるような。思わず膝まづきたくなる、そんな魅力
的で、圧倒的な、土下座したくなりそうな脚が、英雄の
目の前で伸ばされている。
「アアああああッッ!」
 膝まづき、英雄が呆然と声を漏らす。
 明日香の脚の神々しさ。
 その迫力を前にして英雄は矮小な自分がさらに小さく
なるのを感じていた。明日香の脚の魅力に目がくぎ付け
になり、股間を盛大に勃起させて、涎を垂らしそうにな
るほど夢中になってしまった。
「師匠、どうされたいですか?」
「あ、明日香」
「師匠ならどうするべきか、わかりますよね」
「あ、ああああ」

137
 英雄はよろよろと立ち上がった。
 勃起している。
 それを隠そうともせず、明日香に近づく。
 左右に広げられている足。
 我を忘れた英雄がその脚と脚の間に自分の体を差し
込んでしまった。彼女の体温すら感じられる距離に近づ
き、その足のポテンシャルの前にがくがくと震える。そ
こは処刑台だった。恐ろしい太ももが男を容赦なく殺し
てしまう処刑台。そこに英雄は自分から足を踏み入れて
しまったのだ。
「潰れろ」
 ぎゅううううううッ!
「ひいいいいいいッ!」
 がちゃんっと。
 明日香の太ももが獲物を喰らい、とじこめる。英雄の
胴体が二匹の極太大蛇によって巻きつかれ、挟みこまれ
て潰れていく。
「ああああッ! ひいいいいいッ!」
 あまりの締めつけに獲物が暴れる。
 英雄がじたばたと体を動かし、その強烈な締めつけ
から逃れようとする。しかし無駄だ。明日香の太ももは
みっしりと英雄の胴体に食い込み、完全拘束を完成させ
ていた。明らかな体格差。英雄の胴体ほどもある太もも
が二つ、絶対的なプレス機として君臨している。英雄が
逃げることなんて、できるわけがなかった。
「ふふっ、師匠の体、丸飲みしちゃいました」

138
 明日香が悶える英雄を見下ろしながら言う。
「こうなったらもう逃げられませんよ。このまま肺がぺ
ちゃんこになるまで締めつけちゃいます」
「ああああッ! あ、ああああ」
「ほ~ら、ぺっちゃんこ」
 ぎゅうううううッ!
「ひっぎいいいいッ!」
 締めつけ。
 強烈な、男の命を刈り取る締めつけ。
 明日香の太ももが英雄の胴体を潰す。
 もはや明日香の太ももと太ももがくっついてしまって
いる。ムチムチの太もも同士がくっついて、その間に挟
み込んだ男の胴体を喰らい尽くしていた。
「カヒュウ――カヒュウ――」
 すぐに英雄は悲鳴もあげることができなくなった。
 息を吸いたくても吸えない。
 明日香の太ももで肺も横隔膜もぺちゃんこにされてい
るので、空気が体の中に入ってこなかった。呼吸もでき
ず、酸素が補給できなくて、英雄は苦しみ続けることに
なる。それなのに、
「師匠、なんて顔してるんですか」
 ニヤニヤ。
 勝ち誇ったように笑った明日香が英雄の顔を見つめ
る。彼女の視線の先には、胴体を大蛇によって喰らわれ、
潰されているのに、トロンとした表情を浮かべた男がい
た。

139
「ふふっ」
 ぎゅううううッ!
 明日香がさらに太ももに力を込め、暴れた英雄を鑑賞
していく。
 限界を迎え、英雄の体がビクンビクンと痙攣を開始す
る。
 時間をかけて堪能した明日香が、太ももをがばっと開
脚して、気絶寸前の英雄を解放した。
「あっぐうう! かひゅううッ!」
 英雄が地面に倒れ込み、四つん這いになって息をむさ
ぼっていく。
 胸をおさえ、体を丸めて、必死に呼吸をしている様子
は、まさしく負け犬だった。
「ふふっ、なさけな~い」
 ドスンッ!
 四つん這いになった男の背中を明日香が踏み潰した。
高身長からの踏みつけによって、英雄の体が地面に縫い
付けにされてしまった。
「チビな師匠のこといじめてると、とっても興奮します」
「ひっぎいいいッ!」
「あはっ、踏まれて潰れちゃってる」
「ぐっげええええ! ひゃだあああ!」
「ふふっ、口では嫌がっても、師匠もまんざらでもない
様子ですし、いいんですよね?」
「ぐげえええッ! やべでえええええッ! たしゅけて
えええ」

140
「いい声~。あ~、きもち~。すごく興奮しちゃいます」
 もうダメ。
 明日香が言って、踏みつけを止め、英雄の胸ぐらをつ
かんだ。
 そのままぐいっと持ち上げ、宙づりにしてしまう。自
分の視線の高さまで英雄を持ち上げて、その顔をにんま
りとした笑顔で観察していく。
「師匠、いい顔になりましたね」
「あしゅかああ……あしゅかあ……」
「ふふっ、まさしく負け犬って感じて興奮しちゃいます」
 ニヤニヤ。
 じいっと至近距離から英雄の顔を凝視する。
 英雄の顔。
 涙と鼻水でぐじょぐじょになり、眉は下がりっぱなし
で恐怖している男の顔。それを見て、明日香の瞳がキラ
リと光った。
「いただきま~す」
「んふうううううッ!」
 喰らった。
 明日香の口が大きく開き、獲物を丸飲みする蛇のよう
に、英雄の矮小な唇を貪り喰らう。
「んん……うううう……」
 英雄はなすすべもない。
 明日香に持ち上げられていて、足が地面についていな
かった。宙づりにされて、逃げようとしても逃げられな
い。さらに英雄の小さな体がぎゅううっと抱きしめら

141
れ、爆乳によって潰される。英雄の体は明日香の大きな
体に吸収されて、食べられてしまっていた。
「師匠」
 ひとしきり堪能した後、唇を放した明日香が至近距離
から英雄を見つめた。
 キョトンとした表情を浮かべながら、信じられないと
いう声色で、
「ひょっとして、初めてですか?」
「ふはあッ?」
「キスするの初めてなんですか?」
 図星をつかれて英雄は顔を赤くするしかない。
 ブラジリアン柔術と柔道に青春を捧げたせいで女の子
と付き合ったこともないのだ。キスをしたことなんてあ
るわけがなかった。
「ふふっ、体だけじゃなくて、エッチの経験でもおチビ
ちゃんなんですね」
 ねっとりと。
 妖艶な瞳で一人の女性が男を追いつめる。
「明日香に任せてください」
「ひいいい」
「おチビちゃんのこと、明日香がしっかりリードしてあ
げます」
 じゅぱああ……じゅるじゅるッ!
 ディープキスが始まる。
 彼女の肉厚な舌が英雄の口内で暴れ回る。
 縦横無尽。暴力的な、快楽をむさぼるためのキス。明

142
日香の力の前に、英雄は処女のように目を閉じ、ただた
だ彼女の暴力的な舌使いに悶えていく。
「あひん……ひい…ああんん……」
 あえぎ声。
 それを漏らしているのは年上の男だ。
 そんなマグロになった男をさらに追いつめ、快楽と窒
息の二重苦によって悶えさせているのは、彼よりもはる
かに年下の少女だった。
「ふふっ」
 余裕たっぷりに笑う明日香。
 彼女は目を開き、ジト目で英雄を観察しながらディー
プキスを続けていた。情けなく悶える男の顔をスパイス
にして、ますます興奮した女豹が、さらに男の痴態を引
き出すために舌を蠢かせる。英雄がそんな舌使いに耐え
られるはずがなかった。

143
(ぎ、ぎもじいいいい)
 目を白黒させて、トロンとした顔を浮かべる男。
 明日香の舌使いによって身も心もとろかされてしまっ
て、今では半開きの瞳をトロンとさせて昇天している。
瞳は若干白目をむいていて、少しだけ残った黒目がどこ
までも情けなかった。
(ぐるじいいい……ぎもじい……)
 明日香にベアハッグのように抱き潰され、呼吸ができ
ない。自分の胴体を潰している彼女の逞しい腕と、大き
なおっぱい。その苦しさに悶えさせられながら、彼女の
舌使いで昇天していく。
 だらんと脱力した体。
 明日香に抱きしめられ宙づりにされたまま、いっさい
の反抗をやめて、されるがままになってしまった男。英
雄はビクンビクンと痙攣し、目をトロンとさせながら、
限界を迎えた。
「むううううううッ!」
 どっびゅううううううッ!
 びゅっびゅううううう!
 びゅうううう!
 射精。
 それが終わることもなく続いていく。
 英雄は完全に白目をむき、快感で頭をバカにして、ま
すます体を明日香に預けていった。
(むり……もうむり……)
 ますます勢いづく射精。

144
 英雄のすべてが明日香によって奪われていく。
(あしゅかしゃま……あしゅかしゃま……)
 ビュッビュウウウウッ!
 どっびゅうううううッ!
 びゅうううううううッ!
 射精が終わらない。
 英雄は明日香に与えられる苦痛と快感で殺されてい
く。びくんびくんとした痙攣。強制的に奪われていく精
液。英雄はそのまま意識を手放した。

 5

「す、すごい量だ」
 英雄は思わずつぶやいた。
 公園のトイレ。
 そこでパンツを脱いだ英雄は、こべりついた精液を見
て呆然としていた。
「さすがに、これをはいて帰るのは無理だろうな」
 パンツをゴミ箱に捨てて、ズボンをはく。
 下半身がスウスウする。
 しかし、精液まみれのパンツで電車に乗るわけにはい
かなかった。
「明日香」
 彼女のことを考えると英雄は顔を赤くした。
 射精させられてしまったのだ。
 キスだけで射精させられてしまった。

145
 はるか年下の少女に手も足もでずに、性的に圧倒され
た。それを思うと英雄は恥ずかしく思い、どんな顔をし
て明日香に会えばいいのか分からなくなってしまった。
「でも、いつまでも待たせるわけにはいかないよな」
 英雄は意を決してトイレの出口にむかった。
 出迎えてくれたのは、ニコニコとした笑顔の明日香
だった。
「師匠、大丈夫ですか?」
 純粋無垢な笑顔。
 さきほどまでの成熟しきったサディストの女性ではな
く、天真爛漫とした彼女を見て、英雄はホっとした。
「体調は大丈夫です?」
「ああ、もう平気だよ」
「よかったです。それじゃあ、帰りましょうか」
 明日香の笑顔。
 それを見ていると、さきほどまでの出来事が夢だった
ような気がする。この年下の少女が、自分のことを暴力
的なディープキスで射精にまで導いたなんて信じられな
かった。
「いきますよ、師匠」
 がしっ。
 英雄が明日香のギャップに困惑していると、明日香が
手を握ってきた。そのまま、英雄を後ろにつれて歩き出
す。
「あ、明日香」
「師匠、まだふらついていますから、明日香に頼ってく

146
ださい」
「う、うん」
「ふふっ、ちゃんと着いてきてくださいね、師匠」
 にっこりとした笑顔。
 英雄は顔を赤らめながら、大きな明日香の後ろ姿を見
ながら歩いていく。
(あ、あすか……)
 彼女の後ろ姿をぼおっと見つめる。
 大人っぽくおろされた彼女の黒髪。
 大きな背中と、威圧的に鎮座する巨尻。
 そして、そこから伸びる長い足。
 英雄はそんな彼女から目を離すことができず、顔を赤
らめながらぼおっと見つめ続けるのだった。
「ふふっ」
 ぎゅうううううッ!
「あ」
 明日香の手に力がこもる。
 ぎしぎしと音をたてて軋むほどの力強さ。
「あ、明日香、い、痛い」
「ん〜、どうしたんですか、師匠」
「い、痛いよ明日香。手、手が」
「え〜、明日香はなんにもしてないですよ?」
 ぎゅうううッ!
「ひい」
 悲鳴がもれる。
 右手が潰されている。握力だけで、その怪力だけで、

147
自分の手が、
「あ、明日香」
 彼女の後ろ姿を見つめながら懇願する。
 それでも明日香の手の力は弱まらない。
 英雄はそんな力強い彼女の魅力に参ってしまった。
「あ、あああああ」
 むくむくっ!
 勃起する。
 手を力強く握りしめられ、力の差を思い知らされただ
けで興奮してしまったのだ。さっきあれほど搾り取られ
たというのに、英雄はまたしても明日香によって強制勃
起させられてしまった。
「ふふっ、かわいいですね、師匠」
「あ、明日香」
「また勃起しちゃいました。簡単でいいですね〜」
「う、ううううう」
「師匠、また明日香に射精させられたいんですか?」
 英雄が明日香を見上げる。
 そこに少女はいない。
 ディープキスの時と同じくサディストの笑みを浮かべ
た女豹が、英雄の股間をニヤニヤ見下ろしていた。
「また、キスだけで射精させてあげましょうか」
 長い肉厚の舌。
 それがベロンと口から出てきて、見せつけられる。そ
のイヤラシい舌使い。それがさきほどまで、自分の口内
を犯していたのだと思うと、英雄は「あああ」と声をあ

148
げて興奮してしまった。
「ふふっ」
 立ち止まった明日香。
 彼女は英雄の耳元に口を近づけ、ささやいた。
「また今度、師匠のこと犯してあげますからね」
「ああああああッ」
 へなへな。
 英雄の腰がぬけてへたりこんでしまう。
 右手をつかまれたまま、地面に正座の体勢になる。そ
れを見下ろす明日香は、さきほどまでとはうってかわっ
て、ニコニコと純粋無垢に笑っていた。

 *

 英雄はよろよろしながら歩いた。
 右手をがしっと捕獲されたまま、引きずられるように
して歩いていく。
 明日香の後ろ姿。
 英雄の意識は彼女一色となり、ぼおっと赤らんだ顔で
自分よりも年下の少女の姿を見つめ続けていた。
 まるで彼女が年上のようだった。
 体でも力でも、そして性的なことでも。
 自分が彼女に勝っていることはなにもない。
 それを思うと、英雄は、彼女に隷属したいという気持
ちが自分の中に芽ばえていくのを感じた。それほどまで
に、英雄は明日香の魅力に参ってしまったのだ。

149
 今も、明日香に手を握られて歩いていく。公園をぬ
け、市街地へ。周囲に人がたくさんいても、英雄は恥ず
かしがることもなく、ただぼおっと明日香を見つめるだ
け。それは、明らかに恋をして盲目になった人間そのも
のだった。
「おいおい、おまえ、ひょっとして明日香か?」
 そんなとき。
 明日香に声をかけてきた男がいた。
 男……いや、少年だった。髪を茶髪に染め、ピアスを
あけて、いかにも派手な感じではあったが、その顔立ち
は幼いものだった。
(あれ?)
 英雄がその少年の顔を見て疑問に思う。
 その顔。少年の姿には見覚えがあった。
「ひょっとして、聡か?」
 ブラジリアン柔術教室に通っていた少年。
 確か、明日香と同学年だった男だ。
 かなり強くて、いつも明日香を虐めていたのを覚えて
いる。何度も締め落として、明日香のことを気絶させて
いた少年。それが、こんな不良になっていたとは。
「って、おいおい、誰かと思えば英雄先輩じゃねえか」
 聡も遅れて英雄に気づく。
 そんな彼の顔が、あくどい感じにニンマリと笑った。
「なんだよおい、まさか二人、つき合ってんの?」
「な、なにいってるんだ」
「だって手だってつないじゃってよ。こんな夜に二人っ

150
きりって、そういうことだろ? うわー、英雄先輩、そ
りゃあないわー、犯罪じゃねえ?」
 はやしたててくる聡。
 ニヤニヤしながら、相手の弱みをみつけて上機嫌そう
だった。
「うるさい」
 底冷えする声。
 それはこれまで聞いたこともない明日香の声だった。
冷たい表情を浮かべた明日香が、聡のことを見下ろして
いる。
「邪魔しないでくれる?」
「あ?」
「もう帰るところなんだから、邪魔しないでよ」
 不機嫌そうに対峙する明日香と聡。
 二人の体格差は圧倒的だ。
 大人と子供。それなのに、聡はどこまでも明日香に強
気だった。
「なんだよおまえ、いつからそんな口きけるようになっ
たんだ?」
「…………」
「忘れちゃったのか? 何度も締め落としてやったの忘
れちゃったのかよ。ちょっと体が大きくなったからって、
泣き虫弱虫のお前が変わったわけじゃねえんだぞ?」
 オラつく聡。
 明日香の至近距離まで近づいて、なにも言わずにいる
明日香を「へへっ」と笑い捨てる。

151
「俺はブラジリアン柔術なんてやめて、キックボクシン
グ始めたんだよ。やっぱり、打撃技が一番だぜ。ジムの
先輩にも気に入られてるからさ、俺に舐めた口きいたら
どうなるか、泣き虫のおまえでもわかるよな」
 へへっ。
 イヤな感じに笑う聡だった。
 そんな男をただただ見下ろしていた明日香が「ふう」
とため息をついた。
「チビがなに言ってんの?」
「は?」
「そんな小さい体でごちゃごちゃうるさいんだけど」
「な、なんだとてめ、うわあああッ!」
 明日香が聡の胸ぐらをつかんだ。
 そのまま持ち上げてしまう。
 右手で聡の胸ぐらをつかんで持ち上げ、左手は相変わ
らず英雄の手を握ったまま放さない。
「て、てめえ、は、はなせ」
 じたばたと暴れる聡。
 しかし、身長差が違いすぎる。
 彼の足は地面につかず宙づりにされていた。
「まだ喋れたんだ」
 ぎゅうううッ!
「ぐぎいいいいッ!」
 胸ぐらをつかんだ右手にさらに力がこめられる。
 聡の襟が引き絞られ、彼の首を締めていく。じたばた
と暴れる体。それが永遠と続く。

152
「かひゅう――ヒッギイイッ」
 痙攣が弱まる。
 白目。顔を鬱血させ苦しむ少年。
「はっ、よわっ」
 それを淡々と見つめている明日香。
 その顔は冷え切っていて、明らかに不機嫌であること
がわかった。
「ザ〜コ」
 どすんンッ!
 投げ捨てた。
 まるでゴミでも捨てるように、明日香が聡の体を投げ
る。地面に吹っ飛ばされ、無様に転がった聡が首をおさ
えて、ケホケホとせき込みながら呼吸をむさぼってい
る。
「いきましょうか、師匠」
 にっこりとした笑顔を浮かべて明日香が言った。
 それは、さきほどまで聡を締めあげていた少女と同一
人物とは思えないほど晴れやかな笑顔だった。
「あ、ああ」
 英雄としては同意するしかない。
 聡はまだゲホゲホと苦しんでいる。
 そんな彼のことを置き去りにして、明日香と英雄は歩
き去った。

 *

153
「ごめんなさい。変な奴にからまれちゃって」
 明日香の謝罪。
 彼女は心底申し訳なく思っているらしく、真剣に謝っ
ていた。
「い、いや、別に明日香のせいじゃないよ」
 英雄としてはそう言うしかない。
 内心では目の前の締め上げをみて、興奮してしまって
いた。自分の手を握った少女は、片手だけで簡単に男を
締め落としてしまえる存在なのだと思うと、ますます彼
女の魅力に参ってしまう。
「でも聡、あいつどうしちまったんだ? だいぶ変わっ
たみたいだけど」
「そうですね、師匠が高等部で柔道に専念するように
なって、子供クラスの面倒を見てくれる人がいなくなっ
てしまったんです。それで、聡くんや他の男子は教室を
辞めてしまって」
「そうだったのか」
「はい。噂では聡くんは荒れちゃって、さっき自分で自
慢してましたけど、ちょっと筋のよくないキックボクシ
ングジムに通って、ますます不良になってしまったって
聞きました」
「ジム?」
「そうですね、半グレまがいの集団で、暴力団の手下み
たいなこともやってるところみたいです。確か、ここら
へんにジムがあったみたいですけど」
「そ、そうなのか」

154
 衝撃的だった。
 あの聡がそんなことになっていたとは。ブラジリアン
教室では、少しヤンチャなところもあったけど、一生懸
命練習に励んでいたというのに。
「帰りましょう、師匠」
 ぎゅううううっ。
 手を握りしめられ、我にかえる。
 明日香のニコニコした笑顔。
 それを見て、英雄は「あ、ああ」と呆然とつぶやき、彼
女の後をついて歩き始めた。
 聡の通っているというキックボクシングジム。その存
在に不安を覚えながらも、英雄は明日香の大きな体に身
を寄せて、帰宅の途についた。

155
 第5章

 1

「師匠、ほら、もっと強く揉んでください」
 ニコニコしながら明日香が言った。
 いつもの道場。
 彼女は今、気絶した師範の背中に座って、足を投げ出
していた。その足先には、膝まづいた英雄の姿があった。
「ハアハアハア」
 息を荒くした英雄が明日香の太ももを揉んでいく。
 それはあの夜以来日課になったことだった。
 彼女の逞しい足にご奉仕する。道場の練習中であって
も変わらない。明日香は英雄を締め落とす前に、たっぷ
りとその足をマッサージさせるようになっていた。
「うん、だいぶうまくなってきましたね、師匠」
 笑いながら、足下で膝まづく英雄のマッサージを評価
する。支配者。それは支配者の態度だった。
「教えたことをちゃんとできてます。偉いですね」
「あ、ありがとうございます」
「ふふっ、よしよし」
 明日香が体をかがめた。
 そのまま英雄の頭を撫で始める。
 ペットが披露できた芸をほめるように。年下の少女が
師匠と慕う年上の男の頭を撫でる。
「ふ、ふああああ」

156
 しかし、屈辱を感じるはずの男は、トロンとした瞳を
浮かべるだけだった。もはや完全に支配されている。英
雄は明日香に頭を撫でられ、とろとろに溶けた顔で彼女
を見上げていた。
「じゃあ、やりましょうか」
 マッサージを受けた明日香が元気よく言う。
「師匠のおかげで、他のみなさんを締め落とした疲れは
なくなりました。これで心おきなく、師匠のことを締め
落とせます」
 道場中には、男たちの屍が打ち捨てられていた。
 明日香がイスにしている師範だけではなく、何十人も
の男たちが明日香に締め落とされている。
「は~い、まずは三角締めで~す」
 元気よく言って、あっという間に技をきめる。
 仰向けに寝ころんだ明日香の太ももの間に、すっぽり
と埋まった英雄の頭部。その圧倒的な足に挟み込まれて
しまえば、もはや逃げ道なんて一つもなかった。
「ぐげええええええッ!」
 苦悶。
 天国から地獄。
 頸動脈はいっさい潰されず、気道だけをねらい打ちに
した残酷な締め方。明日香にかかれば、三角締めでも気
道だけを締めることが可能だった
「くるしそうですね、師匠」
 他人事のように語り、ニコニコ笑う少女。
 両手を頭の後ろにやって、自分の太ももの間で締めら

157
れ死にそうになっている男を楽しそうに鑑賞している。
「師匠の苦しそうな顔、とっても興奮します」
 ふふっ。
 笑った彼女がまたしても撫で始める。
 締め落としている男の頭を。慈愛をこめて、ゆっくり
と撫でてやる。
「ぐげええええッ!」
 しかし、さきほどトロンとした表情を浮かべていた男
は断末魔の悲鳴をあげるだけだった。
 それほどまでに、明日香の締めつけは規格外すぎた。
そのムチムチの筋肉質な太もも。英雄の胴体ほどに発達
した二匹の大蛇が、矮小な男の頭部を喰らい尽くしてい
る。男に許されたのは、ただただ断末魔の悲鳴をあげ、
捕食者を楽しませることだけだった。
「は~い、撮影タイムで~す」
 ニコニコしながらスマフォを取り出す。
 そして、容赦なく太ももの間で潰されている男を撮影
し始めた。
「ん~、いいですね師匠の顔~。まさしく負け犬の顔っ
て感じでとっても興奮します」
 片手でスマフォをかまえ、英雄を撮影。
 もう片方の手で英雄の頭を撫でる。
 三角締めで潰されている男は、年下の少女に頭を撫で
られながら、涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃになった顔を
さらして、その一部始終を撮影されていった。
(ぐ、ぐるじいいい)

158
 英雄は悶えていた。
 明日香の太もも。
 畏怖と羨望の対象。
 そこに顔を埋もれさせ、挟まれ、潰される。
 感触を楽しむヒマもない。
 その凶悪な筋肉が、今も自分の気道と頭蓋骨を潰し、
軋ませている。死ぬ。このままでは死んでしまう。それ
でもどうにもならなかった。
(たしゅけてえええええッ!)
 声も明日香の足によって奪われている英雄ができるこ
とは、媚びた顔を明日香に向けることだけだった。
 くうんくうんと負け犬のように泣きそうになっている
顔を明日香に差し出して、許しを乞う。
 たすけてください。
 ゆるしてください。
 殺さないで。
 必死の思いをこめて、こびへつらった顔面をさらして
命乞いする。それを容赦なくスマフォで撮影されていく
のだ。
「あはっ、さいこうですよ師匠」
 明日香がさらに嗜虐性を発揮する。
「じゃあ、少しだけ太ももの力を緩めてあげます。声が
でるくらいに。ふふっ、どうするべきか、師匠なら分か
りますよね」
 少女が残酷さを発揮する。
 ゆっくりと、凶悪な太ももの力が緩む。声が出せるよ

159
うになった瞬間、英雄が絶叫した。
「ゆるじでくだじゃいいいいいッ!」
 泣き叫ぶ。
 唾を飛ばして、必死のお願い。
「おねがいじますうううッ! もう締めつけないでええ
え……あしゅかしゃまの足、無理でしゅうううううッ!」
 必死に。
 心をこめて。
 かつて妹弟子だった教え子に命乞いを続ける。
「死んじゃいましゅううう。たしゅけてえええ……殺
さないでくださいいいい……もう太ももひゃだあああ
あッ!」
 これ以上ない情けない様子。
 それをじいっと見つめ、スマフォで撮影していた少女
が、頬を赤らめていく。
「あ~、さいこ~」
 ニヤニヤ。
 寝ころがって太ももの間に男を挟み込んで拘束した少
女が、興奮して言う。
「ヤバいくらいにきもちいです。師匠、才能ありますよ。
命乞いの才能がやばいです。明日香、すっごい興奮しま
した」
「たじゅげてええ……ゆるじでえええ」
「ほら、もっと命乞いですよ。がんばって明日香を満足
させてください。そうでないと」
「あ、あ、あ、あ、し、締めないで……力、あ、あ、あ、

160
あ」
「ちょっとづつ締まりますよ?」
「ひゃだああああああッ! ゆるじでええええ……あ
しゅかさま、あしゅかさま……あ、あ、あ、あ、し、し
め、あ、あ、締めないで……」
「はい、時間切れ」
 ぎゅうううううううッ!
「ぐげええええええッ!」
 またしても締めつけが開始。
 命乞いのための言葉が奪われる。
 英雄の頭部ががっちりと締めつけられ、凶悪な太もも
の間に埋もれた。英雄の頬がひょっとこみたいに押し潰
され、明日香の爆笑を誘った。
「このまま一度締め落としますね?」
 やめて。
 その言葉も奪われる。
 たすけて。
 その言葉を発する自由はない。
 殺さないで。
 懇願しても明日香が聞き入れてくれるわけがなかっ
た。
「墜ちろ」
 ぎゅううううううッ!
 びくんびくんッ!
 白目をむき、涙と鼻水でぐじょぐじょになった顔がさ
らに汚れ、英雄はそのまま気絶した。

161
 女の子の太ももによって意識を刈り取られてしまった
のだ。男の体が、びくんびくんと痙攣し、その一部始終
を撮影されていった。
「いい動画とれました。あとでコレは使わせてもらいま
すね」
 気絶した英雄の頭を撫でながら明日香が言う。
 気絶しても許されない英雄は、明日香の太ももの中に
埋もれたまま、いつまでも痙攣を続けた。
「それじゃあ、続けますね」
 ニコニコ。
 残酷な少女がさらなる締めつけを続けていく。
「今日もいっぱい締め落としてあげます♪」

 2

 毎日のように絞められる。
 何度も何度も締め落とされた。
 ぼおっとした意識で自分が誰かも分からなくなる。最
後に明日香の大きく開かれた口を見た。
「いただきま~す」
 ディープキス。
 貪り喰らわれる。
 立ち上がったまま抱きしめられ、宙づりにされる。ベ
アハッグで潰されて、口を奪われる。彼女の舌が英雄の
口の中で暴れ回っていく。
 喉の奥まで届く長く肉厚な舌。

162
 息もできなくなるほどの過激な舌使い。締め落とされ
て意識が朦朧となってしまっている英雄が抵抗できる
わけもない。苦しさと快感で頭がバカになって狂ってい
く。
(あしゅかしゃま……あしゅかしゃま……)
 白目をむいて悶える男。
 英雄は、体をダランと弛緩させ、締め落としとディー
プキスの拷問で身も心も明日香に売り渡してしまってい
た。
 自分よりも年下の少女に。
 妹弟子だった教え子に。
 体格でも体力でも技術でも性技でも完全に敗北してし
まったのだ。
 どっびゅううううッ!
 っびゅううううううッ!
 ビュッビュウウウウウウッ!
 悲鳴も漏らさず、英雄が射精した。
 びくんびくんと体が痙攣し、それすら明日香に抱きし
られて、奪われる。なにもかも目の前の少女に奪われ、
支配される。
「ふふっ、敗北お射精、お疲れ様でした、師匠」
「あひん……ひいん……」
「悶えているところ悪いんですけど、また首も絞めます
ね」
 ぎゅううううッ!
 再び明日香の大きな両手が英雄の矮小な首をわしづか

163
みにする。
 1ミリだって隙間なく、すっぽりと少女の両手の間に
包み込まれてしまった人体の急所。そこを容赦なく締め
上げながら、明日香が英雄の体を持ち上げる。
「首絞め宙づりの開始ですよ、師匠」
「ぐげえええええッ!」
「師匠の足がパタパタ動きだしましたね。チビな体を宙
づりにされて、なんとか足を地面につけようって必死で
す」
 言葉どおりだった。
 少女に首を絞められ持ち上げられて、宙づりになった
英雄は、地面を求めて滑稽なダンスを踊っている。しか
し悲しいことに英雄の足は短すぎた。明日香の長くて太
くて逞しい脚とは雲泥の差。男の小さくて貧弱な脚が、
地面を求めてパタパタと暴れていく。
「ふふっ、チビが足をパタパタさせて暴れてる姿を見る
と、とっても心が満たされます。チビすぎて足が地面に
届かない。どんなに暴れても無駄。体の大きな女の子に
宙づりにされて、絶対に願いは届かないって思い知らさ
れながらも、地面を求めて足をパタパタさせてしまう情
けない姿は、とっても明日香のツボです」
 英雄の滑稽な抵抗を鑑賞しながら言う。
 明らかな体格差。大きな体をした少女が、小さな男の
体を持ち上げ、宙づりにしてしまっている。
「明日香、師匠のえづく姿も見たいな~」
 ニコニコと笑いながら、

164
「1日に1回は師匠のえづく姿を見ないと気がすみませ
ん。ということで、いきますね?」
 待って。
 その静止の言葉すら明日香の大きな手によって物理
的に潰されている。絶望の視線を浮かべた英雄のことを
「くすり」と笑い、明日香がその両手に力をこめた。
「ゴオボボオッ! おえええええッ!」
 途端にえづき始める男。
 パタパタさせていた足がさらに勢いよく暴れていく。
首を絞められて宙づりにされている男が、勢いを増した
チビ男ダンスを踊り続ける。
「ふふっ、かわいい」
 ぎゅううううッ!
 容赦のない締めつけが英雄の食道を塞いでしまう。
 頸動脈は決して締めず、ただただ食道と気道だけを押
し潰し、永遠と英雄をえづかせていった。
「師匠の顔、とっても興奮します」
「おええええッ! ぐぼおおおッ!」
「顔を真っ赤にさせて死にそうになってる。負け犬の顔
で涙と涎で顔をグジャグジャにしながら苦しんでる姿、
とってもかわいいです。師匠の胃の中身が逆流してくる
のが手につたわってきます。それを明日香の両手が無理
やりふさいで通せんぼしてるんです。あ~、きもち~」
 ギュッ! ぎゅっ! ぎゅうっ!
「ぼごおおッ! オエッ! ガボオオッ!」
 明日香がさらに遊び始める。

165
 英雄の首を一定のリズムで潰す。
 そのリズムにあわせて英雄がえづき、明日香を楽しま
せた。
 ギュウッ! ゴギュッ! グジャッ!
「かぎゅうッ! グゲエッ! おえッ!」
 ギュウッ! ぎゅっ! ゴジュウッ!
「ぐげえッ! おぼおっ! ヒギッ!」
 ぎゅッ! ギュギュッ! ギュウッ!
「オボオッ! グエッ! かぎゅうッ!」
 残酷な少女による首絞め宙づりが長時間続いていく。
首締めのリズムにあわせて英雄が一定間隔でえづく。そ
れは演奏だった。明日香が、首締めえづかせマゾ楽器を
演奏していく。
「絶対に気絶はさせません」
 ニンマリと笑って、
「師匠のことをできるだけ苦しめて、えづかせたいんで
す。もっともっと惨めに悶えてください」
「がぼおおお……カヒュ―――ッ!」
「ふふっ、ほんの少しだけ息ができる程度には手加減し
てあげますからね。師匠は意識をたもっていられるギリ
ギリの酸素だけを肺に吸いこんで、ずっとずっと苦しみ
続けるんです」
 嗤っている。
 自分よりも年上の、体の小さな男の首を絞めながら宙
づりにして、一人の少女が性的に興奮しているのだ。
(無理……もう……無理……)

166
 永い時間締めつけられ、えづかせられて、そんな様子
を鑑賞される。
 英雄の精神が崩壊していく。
 体を暴れさせてどうにかこの地獄から逃れようとして
もまったくの無駄。次第にバタバタと暴れていた英雄の
足が力をなくしていった。
「師匠、なにか言いたいことがあるんですか?」
 明日香が問いかける。
 英雄は必死に目で訴えることしかできない。
「言葉をしゃべれるくらいに緩めてあげます。言いたい
ことがあったら言ってください」
 力が緩められる。
 べこりと陥没していた英雄の首が元通りになって、そ
して、
「絞めでええええッ! 絞めでくださいいいいッ!」
 滑稽に、英雄が絶叫した。
 少女の大きな両手の中で、矮小な微生物が泣きわめい
ている。
「絞 め で え え え ッ!   も う 苦 し み た く な い い い い い
ッ!」
「ありゃりゃ、完全に泣きが入ってしまいましたね」
「ひゃだあああッ! ぎゅってしてえええッ! 絞めで
えええッ!」
「え~? 絞め殺されてもいいんですか~?」
「はひいいいいッ! 絞め殺してでええええッ! 首
ぎゅっとして殺してええええッ!」

167
「アハハハッ! 今の師匠の顔、さいこ~ッ!」
「絞 め で え え え え え ッ!   絞 め で く だ じ ゃ い い い い
ッ!」
 泣き叫ぶ。
 自分の首を絞めてくださいと。
 いっそのこと殺してくださいと、命乞いよりも情けな
い宣言をして、小さな男が暴れていく。
「ふふっ」
 そんな男のことを少女は淡々と鑑賞していくのだ。
 ニンマリと笑った少女の瞳が、男の痴態を余さず鑑賞
していく。ひとしきり楽しんだ後、明日香の両手にぎゅ
ううっと力がこもった。しかも、
「いただきま~す」
「かひゅうううッ!」
 大きくあいた明日香の口。
 それが英雄の小さな口を捕食した。すぐに明日香の肉
厚な舌が男の口内に侵入し、暴虐の限りを尽くしてしま
う。
(死ぬ……殺される……)
 英雄がびくんびくんと痙攣しながら自分の末路をさ
とった。
 首を絞めてくる明日香の両手の力強さだけで負けを自
覚する。
 そんな苦しみ悶えた状態に加えて、自分の口内を犯し
てくる強い舌。その感触のきもちよさに全身が弛緩して
しまう。殺されながら気持ちよくさせられている。その

168
二律背反な極致に叩き落され、人格を破壊される。生命
と性欲が直結してしまって、英雄は少女の両手の中で、
死にながら絶頂していった。
 どっびゅううううッ!
 びゅっびゅううううッ!
(明日香……明日香様……)
 ニンマリと見開かれた少女の視線。
 こちらをあますことなく観察し、見逃さない支配者の
瞳。
 それを感じて、ますます興奮した英雄は、大切な子種
を奪われ続け、またしても意識を刈り取られていった。

 3

「ハアハアハア」
 息を荒くした英雄が自分の肉棒をしこっていた。
 自宅。一人きりの部屋の中で英雄はオナニーを続けて
いく。
「明日香様……ああ、明日香様……」
 妄想しているのは彼女のこと。
 もはや様付けで呼んでもなんの葛藤も生まれなくなっ
てしまった存在。
 彼女のことを考えて肉棒をしこると、とんでもない快
感で頭がスパークする。今までしてきたオナニーが子供
だましに感じるほどに、その快感は段違いだった。
「明日香様……ぐるじいいいい……たしゅけてえええ

169
え……」
 しかも英雄は明日香に締め落とされることを妄想して
興奮していた。
 ディープキスでもなく、彼女のおっぱいの感触でもな
く、英雄が妄想して興奮しているのは、明日香の太もも
と、それによって締めつけられた自分の姿だった。
「……明日香様……たじゅげでえ」
 絶対者に締め落とされていく。
 あの太もも。
 ムチムチして柔らかくて、それでいて自分の何倍もの
筋肉量を内包した崇拝の対象。それが自分の首に巻きつ
いている。感触を思い出す。あの絶望感。ああ、今から
自分は死ぬんだという諦め。強い生物に蹂躙される恐怖
と快感。締めつけられ、グげえええっという断末魔があ
がる。ニヤニヤした明日香の笑顔が脳裏に浮かんで、限
界を迎えた。
「明日香さまあああああッ!」
 どっびゅううううッ!
 射精した。
 それは長い射精だった。
 もう頭はごちゃごちゃでどうしようもなかった。締め
落とされることを想像して興奮してしまう自分。なぜこ
んなことで興奮するのか、それがまったく分からず、英
雄は困惑してしまう。
「どうなっちゃうんだ、俺は」
 悩む英雄。

170
 そんな彼のもとに一つの転機がおとずれようとしてい
た。

 ●●●

「おいっ、どこだそのデカ女ってのは」
 道場に男たちが我が物顔で現れた。
 20人ほどの男たち。
 身長が高く、鍛えられていることが分かる屈強な男た
ちだ。皆がそろいの黒い服を着ている。Tシャツと長ズ
ボン。いかつい顔つきで、どう見てもカタギには見えな
い、そんな男たちだった。
「先輩、あいつッスよ」
 指をさしたのは聡だ。
 その指先には、いつもの道着姿でじいっと男たちを見
つめる明日香がいた。聡に先輩と呼ばれた男は「ほお」
とニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべて、明日香に近づ
いていく。そこに、英雄が割って入った。
「な、なんなんですか、あなたたち」
 声がうわずっている。
 それでも、英雄は明日香を後ろに隠すようにして、男
たちに立ちはだかっていた。
(まずい。なんとかしないと)
 英雄はその一念だった。
 いくら明日香が強いといっても、それは道場の中だけ
の話しだ。目の前の男たちは明らかにカタギではない。

171
ルールなんて関係のない荒くれ者。そんな男たちを20
人も相手にすることなんて、いくら明日香といえども無
理があった。
「なんだてめえは。どけよ」
 男がすごむ。
 ほかの男たちも迫ってきて、その圧力に英雄は屈しそ
うになった。
「ありがとうございます師匠。でも、大丈夫ですよ」
 明日香の言葉。
 彼女は、英雄の肩に手をやって、いつものニコニコし
た笑顔を浮かべていた。
「あ、明日香、で、でも」
「大丈夫です。ありがとうございます師匠。明日香、師
匠に守られて、とってもうれしかったです。ふふっ、ド
キっとしちゃいました」
 明日香が英雄の前にでる。
 堂々と、男たちに対峙した。
 特に真剣そうな様子もなく、明日香はいつもの純粋無
垢な少女として言った。
「明日香になにか用ですか?」
「おおっ? そうだよ。うちの後輩に舐めたマネしてく
れたみたいだから、そのお礼にきたんだ。それにしても、
おまえ、いい女だな」
 ニヤニヤ。
 男がイヤらしく笑う。
「たっぱも高くて、体もエロい。最高だよ。おまえの態

172
度次第では、お礼をするのは止めにして、俺の女にして
やってもいいが?」
 リーダー格の男。
 ほかの男たちよりも身長が高く、いかついツートンブ
ロックの男がニヤニヤ笑いながら言う。明日香はそんな
男の視線を真正面から受け止めて返答した。
「お断りです」
「あ?」
「明日香には心に決めた人がいますから。あなたのよう
な群れてないとなんにもできない人なんて、眼中にあり
ません」
 シーンと静まりかえる。
 ふっと、男たちが笑った。
「よし、お礼だな。まあ、死なない程度には加減してや
るよ。いくらでかいっていっても、女だしな」
 男たちが明日香を囲む。
 逃げ場はない。
 それなのに、明日香はどこまでも自然体で、男たちを
見つめていた。
「打撃技もOKのなんでもあり。それで戦ってもらおう
か。なあに、俺たち全員を倒せばいいだけの話しだ。簡
単だよなあ?」

 *

 20人相手の組み手。

173
 打撃技ありというめちゃくちゃなルールだ。
 明日香は教室で寝技しか学んでいない。打撃ありの
ルールで明日香が勝てるわけがなかった。
「明日香」
 けれども、明日香は平然として男と向き合っていた。
 道場の中央。
 そこで明日香は一人目の男を前にして棒立ちしてい
た。相手は、身長はそれほどでもないが筋肉質で、ゴリ
ラのような厚みのある体の男だった。
「相手を気絶させたほうの勝ちだ。ギブアップなし。そ
れでいいよなあ?」
 リーダー格の男が言う。
 明日香と対戦相手の男がうなづいた。
「それじゃあ、開始っ」
 リーダー格の男の宣言。
 同時に動いたのはゴリラのような男だった。
 まだ棒立ちでいる明日香にむかって腕を振り上げなが
ら突進していく。その丸太のような腕が明日香の顔に直
撃しそうに―――
「えいっ」
 どっっごおおんんんッ!
 男の体が吹っ飛んだ。
 そのまま男の体が後ろにむかって飛んでいき、壁に激
突して止まる。
 ぴくぴくと痙攣している男。
 気絶している。周囲の人間全員が、なにがおこったか

174
分からないまま、シーンとしていた。
「うん、久しぶりにやってみましたけど、覚えてるもの
ですね」
 明日香の声。
 それに反応した全員がハっとしたように彼女を見上げ
た。
「正拳突きです。明日香、空手も習っていたことあるん
ですよ」
 えい。
 拳を突き出す。
 その空気を切り裂くような音。
 そして、男を吹っ飛ばしてしまうほどの破壊力をもっ
た拳。それを前にして、男たちは誰も喋れなくなってし
まった。
「さあさあ、次は誰ですか?」
 明日香が言う。
 レクリエーション。
 楽しい行事を前にした子供。
 彼女はニンマリと笑って、獲物たちを見下ろしてい
た。
「どんどんいきましょう。先は長いですから、ね?」

 *

 始まったのは虐殺だ。
 打撃技。

175
 これまでキックボクシングの鍛錬を積んできた男たち
を、過去に空手を習ったことがあるだけの少女がボコボ
コにしていく。
「明日香、足技も得意なんですよ」
 ニコニコ笑って、上段蹴りをかます。
 その長い足が旋回し、豪快に男の体を蹴った。
「ギャアアアアッ!」
 悲鳴をあげ、吹き飛ぶ。
 顔が壊され、鮮血が舞った。
 男は動かなくなった。
 気絶したのだ。
「ありゃりゃ、弱っちいですねえ。一発で気絶しちゃい
ました。じゃあ、次の人、お願いしますね」
 にっこりとした笑顔。
 人間の体が壊されていく。
 少女の残酷さによって、男たちがボコボコにされて
いった。
「ふふっ、今度は手加減してみました。苦しいですか?」
 明日香が男の腹を重点的にねらって遊び始める。
 正拳突き。
 男の腹に拳がドスッドスッと何度もめりこんでいく。
明日香によって襟首をつかまれているので倒れることも
できず、腹に拳をめりこまされて、内蔵が入っているは
ずのお腹が陥没してしまう。ひとしきり遊んだ後、明日
香が男の襟首を放すと、男が地面にうずくまって、じた
ばたと悶えた。息も吸えないようで「かひゅ――かひゅ

176
―――」とか細い呼吸をあげ、腹をおさえて苦しんでい
る。
「ほら立ってください。まだ気絶してないんですから、
試合は終わってませんよ」
 ニコニコ。
 明日香が悶え苦しみ続ける男を強引に起きあがらせ
る。男の腰は完全に引け、顔はうつむいて、なんとか呼
吸をしようと必死だ。
「えい」
 そんな男のミゾオチめがけて、強烈な正拳突きが炸裂
する。明日香の拳。それが男のお腹にめりこむ。
 串刺し。
 明日香の腕によって串刺しにされた獲物は、悲鳴をあ
げることもなくそのまま地面に倒れ込んだ。そのまま、
「うげええええッ!」
「うわ、吐いちゃいました」
 どこか他人事のように語る明日香。
 彼女の足下。
 地べたでのたうちまわっている男の姿。
 生まれたばかりの赤ん坊のように、体を丸めて呼吸を
しようと「かひゅう――かひゅう―――」と喉をならし
ている。それなのに、息を吸うどころか胃袋の中身を吐
き出してしまっていた。
「呼吸、まったくできないでしょ?」
 明日香が屈伸するようにしてかがみこんだ。
 ニコニコしながら、両手を両頬にあてて頬杖し、間近

177
で悶え苦しんでいる男を観察している。
「あなた、ぜんぜん鍛えてないですもん。明日香の拳一
つで、ゲボはかされて、呼吸も奪われて、苦しんじゃっ
てます」
「オボオオオッ……カヒューー……おぼおおお」
「あはっ、もう胃液だけになっちゃいましたね。さてと、
仕上げです」
 明日香がニコニコ笑いながら立ち上がり、足を振りあ
げた。
 その長く逞しい足が狙いを定めてしまう。そのまま、
大きな足裏が、情け容赦なく男のミゾオチを踏み潰し
た。
「ぐっげええええええッ!」
 断末魔の悲鳴。
 そのまま男は気絶した。
 自らの吐瀉物の海の中に沈み、びくんびくんと痙攣し
ている。
「それじゃあ、次です」
 明日香が言った。
「どんどんいきましょう」

 *

 虐殺。
 少女が屈強な男たちを虐殺していく。
 拳で蹴りで。男たちの体を粉砕し、壊していく。

178
「も、もういい。全員でやっちまえ」
 リーダー格の男が叫ぶ。
 リーダーと聡を除いた10人ほど。彼らが明日香に殺
到し、返り討ちにされた。
「グッゲエエエエ!」
「ぎゃあああああ!」
「ひいいいいいいッ!」
「カヒュ――カヒュウ――」
「ひいい、ひいいいい」
「あ、やめて、た、たすけ、ブゲッ!」
「ひゃだあああ、ひゃだああああ」
「ぎやああああああ」
「ぐるじいいい……ひゃだひゃだああ」
「たしゅけ、たしゅけてえええ」
 10人の男たちの断末魔。
 ドガッ! ボゴッ!
 ドスウンンッ!
 男たちの体が壊れていく音が道場中に響く。
 少女の拳が炸裂するたびに、男たちの体のどこかが壊
される。顔面を殴られた男の口から何本かの歯が飛び散
り、ぴしゃあっと道場の壁に鮮血がこべりつく。明日香
の丸太のような太ももから放たれた蹴りをくらった男
は、交通事故にあったように吹っ飛び、両手両足が変な
方向に曲がって動かなくなる。
 屍が重なる。
 あっという間に調理されていく男たち。

179
 それを行っているのはまだ幼い少女だった。
 ニコニコと余裕の表情で男たちを壊していく。その育
ちきった体の優秀さを証明していくように、男たちの顔
を粉砕し、血反吐を吐かせ、体中のいたるところを痛め
つけていく。すぐに、10人はマットに沈んだまま、動
かなくなった。

 *

「ふふっ、最後はあなたたちですよ」
 明日香が笑った。
 それを真正面から受けたリーダーと聡はがくがくと震
えた。目の前の少女は化け物だ。けっして手を出しては
いけない危険人物だったのだ。
「ひ、ひでえ」
 リーダーと聡が、仲間たちの末路を呆然と見つめてい
る。彼らの視線の先には、顔がひしゃげ、原型もとどめ
ていない屍になってしまった仲間たちの姿があった。今
もピクピクと痙攣して、死ぬ一歩手前まで痛めつけられ
た姿を見て、リーダーも聡も足がすくんでしまった。
「ん~、どうやって痛めつけようかな」
 明日香が真剣に考えている。
 リーダー格の男の間近で、かわいらしく人差し指をあ
ごにあてて考えている少女。メイクをどうしようかと
か、どうやって気になる男の子をデートに誘おうかと
か、そんなことを考えていそうな少女はしかし、目の前

180
の男をどうやって痛めつけて壊そうかと考えているの
だった。
「どこを壊そう」
 ニコニコ。
 まるで楽しいアトラクションを前にした子供のよう
に、明日香がリーダー格の男を見下ろしている。鑑賞の
時間が流れ、男が怯えて、少女が笑った。
「ふふっ」
 明日香が片足で立った。
 丸太のような太ももがどっしりと地面を踏みしめ、ふ
らつくこともない。そのまま明日香が、もう片方の足で、
男の体を軽く蹴り始めた。
「ひ、ひいいいいい」
 まだ力はこめられていない。
 寸止め。
 明日香の強靭な足が、男のこめかみや、肩、腕、手、
腹、腰、太股、ふくらはぎへと、寸止めの蹴りを放つ。
 変幻自在。
 片足で立ったまま、男の上から下までをまんべんなく
軽くふれる程度に蹴っていく。片足で立っているという
のに、彼女の体はまったくふらつくこともなく、泰然と
していた。
「ど・こ・に・し・よ・う・か・な」
 べしっ、べしっ、ぺしっ、がしっ。
「ど・こ・に・し・よ・う・か・な」
 べしっ、ばしんっ、ばしっ、べしっ。

181
 何度も何度も。
 軽くふれる程度の生殺し。
 そんな遊び程度の蹴りなのに、男は顔を真っ青にし
て、直立不動のまま動けなかった。
 動いたらどうなるか分からない。
 自分が動けば、今、この軽く触れてくるだけの足が殺
人兵器に変わり、自分の体は粉砕されてしまうかもしれ
ない。
 それを想像したリーダー格の男は、逃げることも、反
応することもできず、いつまでも明日香の玩具にされて
いった。目の前で変幻自在で軌道が変わる蹴りを見せつ
けられながら、いつ何時やってくるか分からない本気の
蹴りに怯えて、がくがくと震える。自尊心も男のプライ
ドも奪われた男が、情けない姿をさらして怯えている。
「やっぱりここかな」
 ドッスウウウン!
 明日香が唐突に男の顔面を蹴った。
 悲鳴もあげられずに吹っ飛ぶ男。
 地面に倒れ、
「うっぎゃあああ」と遅れて悲鳴をもら
して、じたばたと地べたで暴れている。口からは大量の
血液をまきちらし、蹴りが炸裂した右頬は赤く腫れて顔
の体積が二倍になっていた。
「手加減したからまだ気絶してないですよね」
 明日香が無慈悲に言う。
「ほら、はやくこっち来て、明日香の前で直立不動で立
ちなさい。またさっきのやりますからね」

182
「……ゆるじでええ……お願い……」
「はやくしないと、手加減してあげませんよ?」
「ひいいいいッ!」
 男が立ち上がった。
 顔を腫らし、涙をぽろぽろ流しながらも勢いよく明日
香の前で直立不動になる。ぴんと腕を伸ばしたきょうつ
けをする男は、どこまでも惨めだった。
「よろしい。じゃあ、やりますね」
「や、やめて」
「ど・こ・に・し・よ・う・か・な」
 べしっ、ばしっ、ばしんっ、ぺしっ。
「ひいいいいい」
「ど・こ・に・し・よ・う・か・な」
 ばしんっ、ばしっ、ばしっ、べしんっ。
「ひゃだあああ、た、たすけてええ」
 続いていく。
 明日香の遊びが続いていく。
 きらきらした瞳で男の体に寸止めの蹴りを放ち、その
一撃一撃で男を怯えさせていく。
 もはや勝負はついていた。
 けれど、これは気絶するまで終わらないのだ。明日香
の遊びが簡単に終わるわけがなかった。

 4

「ほーら、見て聡くん。リーダーさん、すごい顔になっ

183
ちゃったよ」
 ニコニコ。
 笑いながら、明日香が男の髪の毛を片手でつかんで宙
づりにして、その顔面を聡に見せつけた。
 彼女によって持ち上げられている男は、もはや人間の
顔をしていなかった。顔は真っ赤で、ぱんぱんに腫れあ
がってしまっている。そのせいで瞳がふさがってしま
い、目がなくなっていた。
 全裸。
 服をはぎとられて、その体中を痛めつけられ、どす黒
い内出血の痕跡がそこら中に残っている。無事である体
はどこにも残されていなかった。
「ひ、ひい」
 そんな頼りになるはずだった男の末路を間近で見せら
れて、小柄な聡は悲鳴を漏らすしかなかった。
 さきほどからガクガクと体が震え、顔が戦々恐々とし
て真っ青になっている。
「明日香に復讐しにきたんだよね? それなのに、頼み
の先輩たちはみ~んな、明日香にボコボコにされちゃっ
た」
「ゆ、ゆるして」
「ふふっ、仕上げするね」
 がしっ。
 明日香の両手が背後から男の首をわしづかみにする。
 足を折り曲げてかがんで、首を締めている男の顔面を
聡の顔の高さに調整。聡の目の前で、明日香がリーダー

184
の首を締め始めた。
「ぐっげええええええッ!」
 悶え苦しみ始める。
 ピクピク痙攣するだけだったリーダーが、体を暴れさ
せて必死の抵抗を始める。
「ほ~ら、どんどん締まるよ~」
 そんな男の抵抗なんてまったく気にするそぶりもな
く、明日香は怯える聡だけを見下ろしていた。
 その大きな両手が、がっちりと男の首をわしづかみに
して、締め上げている。その様子を見せつけられて、聡
はさらにガクガクと体を震わせていった。
「墜とすね」
 ぎゅううううッ!
「グッゲエエエエエッ!」
 ぱたん。
 暴れていた体が終わる。
 ぶらんと脱力した体。
 気絶したのだ。
 無様な面をさらして、あれだけ偉そうにしていた男が
失神した。
「あはっ、よわっ」
 吐き捨てるように言う明日香。
 彼女は仕上げとばかりに気絶した男の顔面をさらに聡
に見せつけた。
「よく見て、聡くん。これが明日香にはむかった男の姿
だよ」

185
「や、やめ……たすけて……」
「ふふっ、聡くんも、この後こうなるんだよ?」
 支配者が宣言する。
「これが聡くんの10分後の未来。明日香に殴られて、
蹴られて、ボコボコにされて、最後には締め落とされ
ちゃうの。ほら、ちゃんと見て、聡くんは、これからこ
の男みたいにボコボコにされるんだよ」
 ぐいっ。
 気絶した男を聡に押しつける。
 間近。
 そこに迫ったぐじゃぐじゃに壊された男と、これから
始まるであろう地獄を想像してしまった聡が、限界を迎
えた。
「あああああああッ!」
 じょろじょろじょろっ。
 悲鳴。それと同時に、黄色いおしっこが漏れ始める。
「うわっ、漏らしたよこいつ」
 明日香の冷たい声。
 道場が汚れていくのを見て、明日香は淡々と死刑執行
を決めたようだった。
「うん、じゃあ、やろっか」
 リーダー格の男を投げ捨てる。
 今も放尿して、いやいやをするように顔を左右にふり
ながら、聡が怯えきった表情を浮かべる。その目の前に
は、仁王立ちになった明日香の姿があった。
 矮小な体躯と大きくて強靭な肉体。

186
 圧倒的な体格差。
 同い年のはずなのに、そこには越えられない生物とし
ての格差が存在していた。
「ふふっ。最後はこれにしよう」
 明日香が右足を大きくあげた。
 自分の顔よりも高く、その足を振りあげる。その逞し
い足。むっちりとして、筋肉質な太もも。そこからさら
に伸びるカモシカのようなふくらはぎ。それが大迫力で
大上段に振り上げられた。男の命を刈り取るギロチン。
聡はそれを呆然と見上げるしかなかった。
「かかと落とし」
 えいっ。
 どっすうううん!
 明日香のかかとが、そのまま聡の脳天に直撃した。
 大迫力で振り上げられたギロチンが、容赦なく罪人の
首を刈り取る。聡はそのまま顔面から地面に叩きつけら
れ、気絶してしまった。
「あはっ、ちょろ~い」
 ぐりぐりと聡の後頭部を踏み潰しながら明日香が言っ
た。
 かかと落としで聡の頭部を潰し、そのまま地面に叩き
つけて、体がバウンドすることも許さない。右足で聡の
顔面をマットに押さえつけて踏み潰していく。
「おそうじおそうじ、らんらんら~ん」
 明日香が陽気に歌って、そのまま聡の髪の毛を足の指
でつかんだ。

187
 右足の指だけで聡の後ろ髪をわしづかみにして、持ち
上げる。始まったのは、男の体を雑巾にした、道場の掃
除だった。
「まずは、漏らしたおしっこを掃除しま~す」
 ごしごし。
 聡の体を持ち上げ、モップがけを始める。
 マットにたまった黄色い液体が、聡の衣服に吸収さ
れ、みるみるうちになくなっていく。
「うんうん、ザコだけど、雑巾としては優秀かもね」
 ふふっ。
 笑った明日香が、さらに掃除を続ける。
 ほかの男がはいた吐瀉物も。
 ほかの男の鮮血まみれになった場所も。
 聡の体を雑巾に使って掃除して、ピカピカになるまで
綺麗にしてしまった。
「さてと、じゃあ、続きをしますね」
 笑っている。
 真性のサディスト。彼女がこれくらいで満足するはず
がなかったのだ。
「さあさあ、みなさん起きてください。第2ラウンドの
はじまりですよ」
 新しい玩具を手に入れた子供。
 明日香はその残酷さを遺憾なく発揮して、男たちを気
絶という安息の地から呼び戻し、さらに痛めつけてい
く。それは、明日香が満足するまで続いた。

188
 *

 英雄はその光景を呆然と眺めていた。
 少女が男たちをボコボコにしていく。
 彼女がいつも道場で見せていた残虐性が子供騙しに思
えるほどの凄惨な拷問現場。
 明日香の腕や足が躍動するたびに、男たちの体は壊さ
れ、鮮血が舞って、吹っ飛んでいく。打撃技で満足しな
くなった彼女が見せる締め技の数々で、男たちは何度も
何度も締め落とされていった。
 男たちの悲鳴。
 泣き叫び。
 命乞い。
 それを無視して明日香が続ける。
 ニコニコしながら、
 楽しそうに、
 一人の少女が20人ほどの男たちをボコボコにしてい
く。彼女が満足するまでには5時間が必要だった。
「ゆるじでくだじゃい……おねがいしまふ……たしゅけ
てくだじゃい……」
 聞いていて情けなくなってくる声色。
 必死に命乞いしているのはリーダー格の男だった。
 もはやぼろ雑巾。体中を痛めつけられ、何度も締め落
とされた結果、意識が朦朧とし、人格さえ壊されて、人
間としての尊厳も奪われてしまった男。
 そんな男を筆頭に、20人の男たちが全裸で正座をし

189
ていた。
 横一列。彼らの目の前には、ニコニコと笑った明日香
がいた。
「土・下・座」
「ひいいいいいッ!」
 明日香の端的な命令に、男たちは勢いよく従った。
 額を地面に打ち付けて自殺でも試みているような勢
いで、土下座をする。自分の額や顔面をマットにおしつ
け、これ以上ないくらいに頭を下げた男たち。
「ふふっ、どうしようっかな~」
 明日香は男たちの土下座を点検することにしたらし
い。男たち一人一人の前に立って、その土下座を点検し
始める。
「ん~?」
「ひ、ひいいい」
 明日香が立ち止まり、声をかけられただけで、男は
戦々恐々として体をガクガクと震わせた。
 土下座をしているので、男から明日香の顔は見えな
い。視界に入ってくるのは彼女の大きな足だけ。その迫
力を前に、彼女に目をつけられた男は怯え狂ってガクガ
クと震えるしかなかった。
「ふふっ」
 震える男たちが面白かったのだろう。彼女は片足を振
り上げて、男たちの後頭部を軽く踏み始めた。
 力はこもっていない。
 軽く触れる程度。

190
 高身長の高みから、大きな足を振り上げ、その足裏で
男たちの矮小な後頭部に軽く足裏を乗せていく。
「ひ、ひいいいいい」
「ゆ、ゆるしてくださいいい」
「たすけて、たすけて、たすけて」
「ひゃだあああああ」
 男たちはそれだけで滑稽に怯えた。
 大きな足裏が後頭部に乗る。
 ただそれだけで、男たちは怯え狂い、中にはそのまま
失禁してしまう者もいた。
「うん。だいぶ分からせることができましたね」
 にっこり笑った明日香が言う。
「あなたたちは明日香と比べて弱くて弱くてザコすぎ
るっていうことを、ちゃんと分からせることができたみ
たいです。教育の成果ですね」
 ふふっ。
 笑った明日香が土下座したリーダー格の背中を踏み潰
す。片足だけで、ぐりぐりと。それは、勝者と敗者が一
目瞭然に分かる光景だった。
「今後、明日香の命令には絶対服従。わかりましたか?」
「は、はひいいいいいいッ」
「よろしい。それでは、あなたたちが所属していたキッ
クボクシングジムは今日で解散です。あなたたちは今か
ら、この道場に入門してもらいます」
 男たちの境遇をあっさりと決めてしまう。
 敗者をどのように扱おうが、それは勝者の自由だっ

191
た。
「ふふっ、あなたたちは今日から、明日香のサンドバッ
クになるんですよ」
 ぐりぐりぐりっ!
 土下座したリーダー格の男の背中をさらに力強く踏み
潰す。明日香の顔が次第に赤らみ、興奮していくのが分
かった。
「明日香、ふだんはちゃんと手加減してるんです。でも、
あなたたちには手加減の必要もない。明日香の全力でボ
コボコにできる。ふふっ、あ~、たのしみだな~」
 残酷な宣言。
 そんな言葉に、男たちはさらにガクガクと震えるの
だった。
「師匠、この人たち入門させてもいいですよね?」
 明日香が妖艶な瞳を英雄に向けながら言った。
 そんな明日香の逞しい体と、残酷性を前にして、英雄
が断れるわけがなかった。
「あ、ああ。い、いいんじゃないか?」
「ありがとうございます。こいつら数だけは多いですか
ら、しばらく師匠のことボコボコにしなくても、明日香、
我慢できそうです」
「そ、そうか」
「はい。まあでも、こいつらもって1ヶ月くらいですか
ね。よわっちいですから、明日香が本気でストレス解消
の道具にしたら、1ヶ月以内に全員壊れてしまうと思い
ます。まあ、サンドバックがいくら壊れても、どうでも

192
いいですけどね」
 ニコニコ。
 笑った明日香が、
「師範、椅子」
「は、はいいいい」
 英雄と同じく呆然と拷問現場を見つめていた師範が、
明日香の足下に飛んでいって四つん這いになった。
「ん」
 どっすんんんッ!
 明日香が四つん這いになった師範の背中に全体重をか
けて腰かける。
 そのムチムチの巨尻が師範の背中全体を覆い隠すよう
にして潰していた。師範は苦悶の表情を浮かべながらも
なんとか耐え、人間椅子の職責を果たそうと努力し始め
る。
「それじゃあ、みなさん、手始めに舐めてください」
 明日香が師範にねぎらいの声をかけることもなく、そ
の背中をイスにして座り、足を前に差し出した。
 長く、逞しい足が、死刑宣告をするように投げ出され
る。その先には、ボコボコになった男たちがいた。
「かわりばんこで舐めなさい」
「あ、ああああ」
「下手だったら、また最初からヤりますからね」
 悲鳴をあげた男たちが明日香の足に殺到した。
 恥も外聞もなく、ぺろぺろと明日香の生足を舐め始め
た男たち。自分たちよりもはるか年下の少女の足下に這

193
いつくばって、その足を自分の舌で舐め清めていく。
 それはまるで、動物園の猿山の光景だった。飼育員で
ある明日香と、彼女からエサをもらうために群がる無数
の猿たち。明日香がニンマリと笑いながら男たちに足を
舐めさせていく。
「あ、明日香」
 英雄はただ呆然とそれを見つめ続けた。
 道場の支配者。
 絶対の存在として君臨する妹弟子。
 彼女はこの道場の中で誰よりも強く、傍若無人に振る
舞うことが許された支配者だった。そんな彼女がサディ
ストぶりを遺憾なく発揮し、年上の男をイスにし、さら
には無数の男たちに足を舐めさせていく。
「あ、ああああ」
 声が漏れる。
 ゴクリと誰かが生唾を飲み込んだ。
 その光景を食い入るように見つめた英雄の股間は、こ
れ以上ないほど勃起していた。

194
 第6章

 1

 ブラジリアン柔術の道場。
 英雄たち門下生は、久しぶりに、まっとうな柔術の練
習に励んでいた。
「それじゃあ、乱取りしましょう」
 英雄が主導して練習を仕切る。
 それを師範が見回って、気にかかったところを指摘す
る。男たちが強さを求めて研鑽につとめている光景。1
5名ほどの男たちが、つかの間おとずれた平和の中で、
練習に励んでいく。
「あれれ〜、聡くん、どこに隠れちゃったのかな〜」
 びくんっ。
 その声だけで英雄の体が震える。
 道場のかたすみ。
 そこで行われている凄惨な拷問。
 英雄は、練習を継続しながらも、そちらをチラ見する
ことがどうしても止められなかった。
「ふふっ、聡くんの悲鳴だけは聞こえるのに、姿が見え
ないですね〜」
 明日香。
 彼女がニコニコ笑いながら仰向けに寝ころがってい
た。ムチムチの太ももがガッチリと組まれ、閉じられて
いる。さきほどから、
「むううう」
「ぐげえええ」という

195
悲鳴がくぐもって聞こえてきた。
「どこかな〜、どこに隠れちゃったのかな〜」
 おどけて言う明日香。
 ニコニコしながら、ぎゅううう、ぎゅうううっと太も
もに力をこめている。そのたびに、くぐもった悲鳴は大
きくなった。
「ふふっ」
 ニンマリと笑った。
 明日香が手を伸ばし、自分の太ももの肉をかきわける
ようにして、広げて見せた。くぱあああっと、太ももの
皮下脂肪が広げられ、現れたのは涙と鼻水でぐじょぐ
じょになり、顔を真っ赤にさせた聡の顔面だった。
「あ、聡くん、こんなところにいたんですね」
 両手で太ももの肉を広げながら、そこに埋もれた同級
生の男子を見つめる明日香。
 聡はもう息も絶え絶えといった様子だ。明日香のぶっ
とい太ももに頭部を挟み込まれ、ベギバギと頭蓋骨を粉
砕されていく。
 体格差があまりにも違いすぎるので、聡の頭部は完全
に明日香の太ももの中に埋もれていた。顔面も、髪の毛
すらも、すべて明日香のムチムチの太ももに包み込ま
れ、そのまま頭を潰されていく。
「ゆるちて……たすけて……ひゃだああああ……殺さな
いで……」
 うわごとのようにつぶやく聡。
 ぽろぽろと涙をこぼしながら、同級生の女の子に必死

196
の命乞いをしている。かつて見下していた少女の太もも
の中で、少年が完全に心を折られていた。
「ん〜、聡くんの命乞い聞いても、明日香はぜんぜん興
奮しないんですよね。やっぱり、師匠のを聞いちゃうと、
ほかの人はぜんぜんというか」
「ひゃだあああ……ゆるしてください……あやまるか
ら……今までのこと、ぜんぶあやまりますから……」
「ふふっ、別に謝らなくていいんですよ聡くん。そのか
わり、聡くんのこともっとボコボコにさせてください」
 ぎゅうううううッ!
「むっぐううううッ!」
 膨張する明日香の太もも。
 ぼごおっと筋肉が隆起し、またしても聡の顔が見えな
くなる。完全に明日香の太ももの中に隠れ、埋もれてし
まった。
「カヒュウウ―――ぐっぎいいい」
 暴れている。
 明日香と比べれば小さすぎる聡が、その体を必死に暴
れさせて、明日香の締めつけに対抗しようとしている。
 しかし、まったくの無駄だ。
 体格差が違いすぎる。同い年の同級生だというのに、
少年より少女の体のほうが圧倒的に上だった。
 大きな体と小さな体。
 たくましい少女の太ももに捕らえられ、締めつけられ
て暴れる少年は、虫かごの中で暴れる昆虫のようだっ
た。

197
「苦しそうですね〜、聡くん」
 明日香が楽しそうに笑いながら言う。
「明日香、まだぜんぜん力こめてないんですよ? これ
で1割くらいですかね。それなのに、聡くんは悶え苦し
んで、頭蓋骨バギバギ潰されていっちゃってます」
 ニコニコ。
 かつて自分のことを何度も締め落としてきた少年に、
100倍返しをしていく明日香。
「ふふっ、よわいですね〜。どうですか聡くん、昔は圧
勝していた相手にボコボコにされて殺されていく気分
は? くやしいですか?」
 返答はできない。
 少年は暴れることで必死だ。明日香がニンマリ笑っ
た。
「次は胴体も潰しましょう」
 獲物が一瞬解放される。
 あくまでも一瞬。
 明日香の太ももが俊敏な大蛇のように動き、獲物をか
らめとってしまう。
 聡の胴体。
 そこに狙いを定め、左右に開脚された明日香の長い足
が、ゆっくりと閉じられていく。
「ほ〜ら、丸飲みされちゃいますよ〜」
 ゆっくり。
 見せつけるように。
 仰向けに寝ころがった明日香の太ももが、真正面で

198
座っている少年の胴体に迫っていく。
「あ、あ、あ、や、やめて」
 それを聡は絶望と共に見つめていた。
 ガクガクと震えながら、自分の胴体に迫ってくる二匹
の大蛇に怯え狂っていく。それでも逃げることはできな
い様子だった。蛇を前にしたカエルのように、恐怖で腰
がぬけ、身動きができなくなっている。
「あすか、やめてえええ……あすか、やめ、やめてええ
ええ」
「ほ〜ら、くっついていきます」
「やめてえええええッ! ひゃだひゃだひゃだああああ
あッ! 無理りいいッ! これ無理なののおおッ!」
 情けない顔。
 眉を下げてまさしく負け犬といった表情になった少年
が必死に懇願する。
「はい、ぱっくん」
 ぎゅうううううッ!
「ぐっげええええええッ!」
 そんな命乞いも無駄で、明日香の太ももが少年を喰ら
う。丸飲み。聡の胴体が完全に明日香の太ももの中に埋
もれてしまった。
 少年の胴体の二倍ほどはあるかと思われる太い太も
も。それが二本、貧弱な少年の胴体に巻きつけばどうな
るか、見るまでもなかった。
「あはっ、聡くんの胴体埋もれちゃった」
 寝ころがりながら、自分の太ももの中で捕獲した獲物

199
を見上げて明日香が言う。
「暴れてる暴れてる。あ〜、かわいそ〜。この子、これ
から明日香の太ももで殺されちゃうんだ〜」
 ひとごとのように言う。
 明日香の言葉どおり聡は暴れていた。
 無駄とは分かっていても暴れないではいられないよう
だった。昆虫が人間の手につかまれて暴れるように、聡
は明日香の太ももにつかまれて暴れている。
「ふふっ」
 そんな聡のことを明日香はニンマリしながら眺めてい
た。まさしく支配者。昆虫で遊ぶ幼い少女がそこにはい
た。
「2割」
 ベギバギベゲエエエッ!
 壊れていく音。
 膨張した明日香の太ももと、そこでプレスされていく
少年の胴体。明日香の太ももの間で幼い少年の体がギチ
ギチに挟み込まれてペッチャンコにされていく。
「かっぎいいいいいッ!」
 白目をむいて少年がじたばたと暴れている。
 それでも明日香の締めつけは緩まない。そのまま、聡
は同い年の女の子の太ももの中で気絶した。
「あはっ、よわ〜い」
 気絶した聡の顔をまじまじと観察しながら明日香が言
う。
「明日香、まだ2割しか力こめてないのに、胴体潰され

200
て気絶しちゃいました」
 気絶した聡は白目をむいてピクピク痙攣するだけだ。
「でも、ちょっと物足りないですね〜。やっぱり、全力
で締めつけてもすぐには壊れない玩具で遊んだほうが楽
しいかも」
 ニヤリ。
 笑った少女が聡を放り投げて、周囲を見渡した。
「それでは、次いってみましょうか」
 その言葉に男たちがガクガク震えた。
 明日香のまわり。
 そこには、元キックボクシングジムの男たちが全裸で
正座していた。
「明日香の全力の締めつけ、受けてみてください。ふ
ふっ、3分間、気絶しないで耐えられたら、明日香のサ
ンドバックから解放してあげてもいいですよ?」
 笑う。
 長身の高みから男たちを見下ろしながら、これから男
たちを刈り取る太ももを見せつけていく。
「うううううッ」
 はやくも泣き出し始めたサンドバックたち。
 彼らは確信していた。
 目の前。
 そこで威圧的に鎮座しているムチムチの太もも。今か
ら自分たちはこのぶっとい太ももによって締めつけら
れ、悲鳴を叫ばされて、締め落とされるのだ。
 それが分かっている男たちは、しかし逃げることもで

201
きずにガクガク震えたままだった。道場から、男たちの
悲鳴がやむことはなかった。

 *

「あ、明日香」
 明日香のサンドバック虐めをチラ見しながら英雄がつ
ぶやく。
 練習に身が入らない。
 せっかく明日香が自分のことを締め落として遊ばなく
なったというのに、練習に集中ができないのだ。気づく
と、明日香が男たちをボコボコにしていくのを食い入る
ように見つめている。
「明日香……様……」
 自分の中で芽ばえつつある気持ち。
 締め落とされたい。
 あの太ももで、容赦なく。
 そんな気持ちに気づかないふりをしながら、英雄はい
つまでも自分の肉棒を勃起させていった。

 2

 明日香のサンドバック虐めは続いた。
 何人かはすでに廃棄処分とされ、消えていた。サンド
バックたちが毎日ボコボコにされ、全身を痛めつけら
れ、何度も何度も締め落とされていく。意識が朦朧とし

202
て、男たちは正常な判断もできなくなっていった。
 しかも、それだけではない。
 練習が終わった後の夜。
 そこで行われている情事。
 夜の道場で、明日香が男たちに性のご奉仕をさせてい
た。

 *

 英雄がソレを初めて目撃したのは、サンドバック虐め
が始まってから1週間が経過した頃だった。
 英雄は、練習に集中しようとしながら、明日香による
サンドバック虐めを食い入るように見つめるだけの毎日
を過ごしていた。そんなある日、
「え、居残り練習をしたい?」
 明日香が唐突に言ったのだ。
 練習が終わった後に居残り練習をしたいと。
 練習の相手はその日も徹底的に締め落とされてボロボ
ロになったサンドバックたちだった。
「だ、大丈夫か? 明日香一人で」
「どういうことですか?」
「いや、戸締まりとかさ。ちゃんと忘れずできるのか?」
 忘れがちになるが明日香は初等部の少女なのだ。
 そういった細々とした大事なことがきちんとできるの
か。英雄は心配になるのだが、
「大丈夫ですよ師匠。一人でできますから」

203
 その時見せた明日香の顔。
 それは成熟した女の顔だった。
 なぜか勝ち誇るようにして英雄を見つめたその表情。
英雄はその意味深な表情がどうしても気になってしまっ
た。だから英雄は、夜の道場に忍び込み、彼女の居残り
練習を覗くことにした。そこで行われていたソレを見
て、英雄は度肝を抜かれた。

 *

「おら、しっかり舐めろ」
 冷たい声。
 いつもの天真爛漫といった様子がない冷酷な表情。ま
さしく女王様。支配者である明日香が、道場のマットの
上で、男たちに性のご奉仕をさせていた。
(あ、明日香……)
 英雄は、道場の入り口で隠れるようにその光景を盗み
見ていた。
 明日香は全裸だった。
 衣服をなにも身につけず、その鍛え上げられた、見事
な体を惜しげもなくさらしている。割れてくびれた腹
筋。ウエストの細さとの対比でさらにデカく見える爆乳
と巨尻。
 それは女の体だった。
 グラビアアイドルでも見たことがないような見事な女
体。しかし、その体の持ち主は自分よりもはるか年下の

204
初等部の女の子でしかないのだ。
「おい、それで本気で舐めてるの?」
 乱暴な口調。
 至らない男たちに命令を下す。
 それは、彼女の体にすがりつき、必死に性のご奉仕を
続ける男たちに向けた言葉だった。
「じゅぱああ……じゅるるるッ……」
 明日香の尻の下。
 そこで仰向けで寝ころがり、顔面騎乗された男は、ひ
たすらに明日香のアナルを舐めていた。
 顔全体が巨尻の下敷きにされ、身動き一つとれなくさ
れている男に許された動作は舌を動かすことだけ。さき
ほどから粘着質な唾液音が盛大に鳴っていた。
「ほら、おまえも、もっと舐めろよ」
 明日香が自分の股の間で潰している男にむかって言
う。
 彼女の太ももの間。
 そこにはすっぽりと頭部を挟み潰され、ぎゅううっと
締めつけられながらも、必死に秘所を舐めている男がい
た。それは、かつてのリーダー格の男だった。
「じゅぱああ……じゅるじゅる……」
 唾液音。
 太ももの間で埋もれていて少しだけ外部に露出してい
る顔の上半分。涙をぽろぽろ流し、頭蓋骨を潰される恐
怖と女性の秘所で窒息死するかもしれない恐怖にさいな
まれながら、男は必死に明日香の密壷を舐めていた。

205
「へたくそ。ちゃんと教えたとおりにやれよ」
 不機嫌そうな声。
 冷酷な表情。
 彼女は必死にご奉仕を続ける男の努力なんて無視し
て、その髪の毛を片手でつかんだ。そのまま上下左右に
ゆさぶってご奉仕を要求する。
 もっと舐めろと。
 もっと舐めないと殺すと。
 彼女の太ももがさらに締めつけを増し、ムチムチの太
ももがボゴオッと筋肉で隆起する。その間に埋もれて顔
の上半分も見えなくなってしまったリーダー格の男が、
さらに勢いよく明日香の秘所を舐めていった。
「おまえらもだよ。もっと真剣に舐めろ」
 それだけではない。
 明日香は尻の下で男にアナル奉仕をさせ、太ももの間
で強制クンニを強いて、さらにその巨大なおっぱい二つ
にそれぞれ男の顔面をあてがって、乳首を舐めさせてい
た。
「ねえねえ、おまえら二人は舐めるのがうまいから壊さ
ずに生かしておいてやってるんだよ? それなのに、こ
んなへたくそでどうなるか分かってんの?」
 冷酷な声。
 それにビクンと反応した男二人が必死に明日香の乳首
を舐めていった。自分の顔面よりも巨大な乳房。そこに
顔を埋めて、柔らかさを堪能する余裕もなく、必死のご
奉仕を続けている。そのうちの一人は聡だった。同級生

206
の女の子に対して、涙をぽろぽろ流しながら、性のご奉
仕を続けている。
「もっと舐めろ、役立たずが」
 ゴンッ!
 ゴンッ!
 明日香が自分の乳房にすがりつく男の脳天に拳骨を
ふるわせる。それをくらった男たちはさらに舐めていっ
た。
 道具だ。
 男たちは玩具だった。
 明日香は、ただただ快感を感じるためだけに男たちを
使っていた。
 相互協力とか、コミュニケーションとか、そんなもの
とは全く無関係な性のご奉仕。明日香にとって、男たち
は性道具にすぎないのだろう。その人格も尊厳も無視し
て、ただただ男たちの舌を道具にしてご奉仕を強制させ
ていく。
「ほら、残りのおまえらも、足舐めとけ」
 さらにほかの男たちに命令する。
 全裸で待機していた男たちが、明日香の足下にむら
がってぺろぺろ舐め始めた。
「今日、いちばんへたくそだったやつ、明日の練習で壊
す」
 なんの感情も乗せずに淡々と宣言する。
「明日の練習で、ボコボコにして、何度も締め落として、
ぶっ壊す。いいか? おまえらのうちの一人は壊され

207
る。それがイヤだったら、ほかの奴らより一生懸命舐め
続けろ」
「ひ、ひいいいいいいいい」
 男たちの悲鳴。
 それが轟き、さらに唾液音が増した。
 男たちは壊されないようにするために、
 命だけは勘弁してもらうために、
 必死に、自分よりも年下の少女に性のご奉仕をしてい
くのだった。
「よし、そのまま舐め続けろ。少しでもさぼったら、締
め落とすからな」
 人間ローターたちの舌の動きの点検を終え、明日香が
スマフォを取り出した。
「ふふっ、今日はどの動画にしよう」
 笑った。
 男たちに性のご奉仕をさせているのをまったく恥ずか
しく思うことなく、その存在さえ無視して、明日香が目
の前のスマフォに集中している。
「これにしよう」
 動画が再生される。
 漏れてくる音。
 誰かの悲鳴。
 誰かの命乞い。
 それは聞き覚えのある声だった。
「あ〜、師匠かわいい〜、師匠の命乞いさいこ〜。あ、白
目むいちゃった、かわいい〜、あ〜、きもち〜」

208
 *

「そ、そんな」
 英雄は呆然とその光景を見つめていた。
 明日香が見ている動画。
 それは自分を締め落としているところを撮影した動画
のようだった。
「師匠……んんっ……師匠……あ、気絶しちゃった……
いい顔〜……ンッ……」
 興奮している。
 明日香が動画を見て興奮している。
 しかも、彼女は男たちの舌を道具にしてオナニーをし
ているのだった。男たちに性のご奉仕を強制しながら、
動画を見て自分の快感だけを追求していく。
 支配者。
 勝者は敗者をどのように扱っても許される。そんな圧
倒的存在。
「ハアハアハア」
 英雄は息を荒らげていた。
 興奮している。
 性的に興奮して顔を赤らめている明日香と同じく、英
雄もまた頭をバカにして目の前の明日香に興奮してい
た。
「明日香……明日香……」
 ズボンをおろした。

209
 盛大に勃起した己の分身。そこに手をあてがって、し
こり始める。
「あすか……あすか、さま……」
 つぶやきながらしこる。
 快感で頭がトぶ。
 目の前。そこでは明日香も同じくオナニーをしてい
た。
「んンッ……師匠……好き……あんッ」
 夢中になって食い入るようにスマフォの動画を見つ
め、男たちの舌使いによって性的快感を得ていく少女の
姿。
 英雄はそんな明日香の姿を見つめながら、ハアハアと
息を荒くして興奮し、限界に近づいていく。そのとき、
「ん?」
 明日香の視線が英雄に向けられた。
 気づかれたのかと思った英雄がさらに体を隠す。
 それでも英雄はシコるのを止めることはできなかっ
た。明日香がこちらに注目している。その口元が、ニン
マリと笑った。
「ふふっ」
 明日香がスマフォを置いた。
 そのまま、片手でそれぞれ、乳房に埋もれた男二人の
首をわしづかみにした。ぐいっと彼女の腕に筋肉が隆起
する。
「あっぎゃあああ」
「ぎいいいいいい」

210
 男二人が持ち上げられた。
 明日香の顔よりも高く持ち上げられ、そのままお魚さ
んになってジタバタ暴れる男たち。
「ふふっ」
 ニンマリ勝ち誇ったように明日香が笑う。
 明日香の視線がジイっと凝視してくる。その瞳に貫か
れた英雄が限界に達する―――その瞬間、
「イけ」
 ぎゅううううッ!
 締めつけが最大に。
 ガクンと男たちが気絶した。
 その瞬間、頭に火花が散ったように、英雄は射精した。
 どっびゅうううううッ!
 びゅっびゅうううううッ!
 ビュウウウウッ!
(あ、あすか……さま……)
 意識が朦朧とするほどの射精。
 英雄は呆然と明日香を凝視し続けていた。
 その視線の中で、明日香はいつまでも男を吊るしなが
ら、勝ち誇るようにして笑っていた。

 3

 英雄は明日香に狂ってしまった。
 道場で明日香と一緒の空間にいる時はもちろん。学校
でも自宅でも。英雄の頭の中にあるのは明日香のことだ

211
けだった。
「明日香……明日香……様……」
 夜。
 自宅でいつものようにオナニーが始まる。
 妄想するのは明日香のことだった。
 今日も居残り練習でサンドバックの男たちを性道具に
して、自分の性欲を解消していた少女。
 練習中にニコニコしながら男たちを締め落としている
時とはうって変わって冷酷な女王様の姿に、英雄は参っ
てしまっていた。
「明日香様……ぐるじいい……」
 英雄が妄想していく。
 あの丸太のような腕が自分の首に巻きついて締め上げ
る。
 すぐに頭が真っ白になって、きもちよくなってしま
う。さらには、あの大蛇のような太ももで挟み込まれ
て、潰されていくのだ。三角締めをくらって、すぐに気
絶する。太ももで頭部を挟みこまれて頭蓋骨だけ軋まさ
れる。胴体を挟み潰され一呼吸だって許されずに酸欠で
意識を刈り取られる。そんな光景を妄想すると、英雄は
とんでもなく興奮して肉棒を鋼鉄のように固くした。
「明日香様……もっと、もっと締めてくだしゃいいいい
い」
 懇願。
 締め落としに恋いこがれ、彼女の足下で隷属したいと
いう気持ちに身を委ねてしまう。

212
「イっちゃいますう……明日香様……」
 目の前の明日香。
 彼女がニヤニヤ笑っている。
 自分の首を締め上げて、吊るしている少女。さきほど
から足が地面についていない。宙づりにされているの
だ。自分はその状態で抵抗することもなくオナニーをし
ている。
 目の前の妹弟子の視線。
 ねっとりと妖艶な大人びた女性の視線が自分を観察し
てくる。彼女の口が、ゆっくりと動いた。

 イけ。

 居残り練習の時に聞いた彼女の命令が頭に響き、英雄
は射精した。
「ひゃああああ、あしゅかしゃまああああッ!」
 精液が巻き散る。
 明日香と出会う前にやっていたオナニーが子供だまし
に感じるほどの快感。英雄は、何か大事なものが明日香
によって奪われてしまったことを悟った。
「締め落とされたい」
 ハアハアと肩で息をしながら、
 英雄が恍惚とした表情で自分の正直な気持ちをつぶや
いた。
「明日香様に、締め落としてもらいたい」
 完全にマゾになっている。

213
 いや、マゾにさせられた。
 チビであるコンプレックスを刺激されて、チビマゾ性
癖を植えつけられてしまったのだ。年下の少女に。かつ
ての妹弟子に。師匠である自分は、明日香によってマゾ
に調教されてしまった。
「明日香様」
 恋い焦がれるようにして英雄が言う。
 明日香は最近、サンドバックしか虐めていなかった。
道場の男たちには決して手を出さずにキックボクシング
ジムの面々だけを拷問にかける毎日。逃げれば徹底的に
追いかけられて捕まえられて見せしめのためにさらにヒ
ドいことをされる。それを見せつけられたサンドバック
たちはガクガクと震えて明日香から逃げられなくなって
いた。それがここ1ヶ月の間に起こったサンドバック虐
めだった。
「俺も……明日香様に、締め落とされたい……のに……」
 正直な気持ちがおさえられない。
 英雄はかれこれ1ヶ月ほど、彼女からの締め落とし
も、吊るし上げもしてもらえていなかった。
 それが悶々とした欲求不満として英雄の中にたまって
いく。なぜそんな不満が生まれるのかとか。虐められな
いのだからそれでいいではないかとか。常識的な考えが
頭に浮かんではすぐに消える。明日香の調教によって、
英雄は重度のマゾにされてしまっていた。
「……明日香様」
 うわ言のようにつぶやく。

214
 脳裏に浮かぶのは明日香様のことだけ。
 どうすればいいのか。
 どうすれば彼女に相手をしてもらえるのか。
 そう考えた英雄は覚悟を決めた。今後の人生を左右す
る決断。英雄は意を決して、自分の覚悟を明日香様に伝
えることにした。それが、英雄が格闘家でいられた最後
の日となった。

 4

「え、明日香と試合ですか?」
 キョトンとしながら明日香が言った。
 そのかたわらには、顔を真っ赤にしながらモジモジし
ている英雄がいた。
 英雄は消え入るような声で「俺と試合してほしい」と、
そうつぶやいたのだ。
「でも師匠、いいんですか?」
 心配そうな表情。
 彼女は仁王立ちしながら、自分がつかんでいるものを
顎で指しながら問いかけた。
「明日香と試合したら、師匠もこうなっちゃいますよ?」
 明日香が指し示した先。
 そこには、明日香によって吊るし上げられ、顔を鬱血
とさせて死にそうになっている聡がいた。
「う」
 英雄はそれを思わず凝視していた。

215
 苦しそうにしている少年。
 身長差から足が地面についておらず、じたばたと体を
暴れさせてお魚さんになっている元人間。それを凝視し
た英雄が、一瞬だけ、誰にも見られずにトロンとした瞳
を浮かべた。
「すごい顔ですよね、こいつ」
「あ、ああ」
「せっかく明日香のストレス解消はこいつらで済んでる
のに、いいんですか?」
「も、問題ないよ。俺も鍛錬してきたし」
 強がりを言う。
 心臓がドキドキしている。
 そんな英雄のことを明日香が「ふ〜ん」と眺めてから、
「まあ、いいですよ?」
 どすん。
 明日香が聡に興味を失ったように放り投げた。
 気絶した聡が物体となって道場に転がる。明日香が手
を腰にやって、英雄の目の前で仁王立ちになった。
「ふふっ、師匠が言い出したんですからね?」
 ニヤニヤ。
 笑いながら英雄を見下ろす。
「明日香、自分のこと抑えられないですよ?」
 その言葉に英雄はゴクリと生唾を飲み込んだ。
 羨望しているのだ。
 自分はとっくの昔に目の前の女性に支配されていたの
だった。自分という矮小な存在が、明日香の大きな体に

216
飲み込まれていくのが分かった。最後の時間がおとずれ
ようとしていた。

 *

 対峙する二人。
 それは対照的な光景だった。
 一人はまだ幼い顔立ちの少女。
 しかし、その体は道場中の誰よりも大きかった。身長
も高く、体も分厚い。道着から伸びるムチムチの太もも
には筋肉の筋が浮かびあがり、アマゾネスの肉体を強調
している。
「ふふっ」
 そんな少女が目の前の男を、ニヤニヤしながら見下ろ
していた。
 彼女の視線の先には、矮小な体を惜しげもなくさらし
て、とろけたような表情で明日香を見上げる英雄がい
た。
「いきますよ、師匠」
 ブザーが鳴り、始まる。
 電光石火のタックル。
 その巨体がかすんで見えるほどの速さで速攻をしかけ
たのは明日香だった。
「ウグッ!」
 大型トラックに突進されたような衝撃を受け、英雄の
体が否応もなく地面に倒される。

217
 仰向け。
 そこに馬乗りになった明日香。
 彼女の強靭な太ももが、がっちりと英雄の胴体に巻き
ついて、完全拘束を完成させてしまった。
「あれれ、師匠、どうしたんですか?」
 男に馬乗りになった明日香が言う。
 悠然と髪をかきあげ、余裕たっぷりの表情で英雄を見
下ろしながら、
「なんだか前より弱くなってませんか?」
「う、あ、あすかあ」
「なんでだろう。すごく弱い」
「あしゅかああ」
「ひょっとして、師匠……」
 明日香が英雄を見下ろす。
 彼女の視線の先には、恍惚とした表情を浮かべ続ける
英雄がいた。
「ふふっ、な〜んだ」
 ニンマリ笑った。
 すべてお見通し。そんな表情を浮かべて、明日香が英
雄のことを見下ろす。
「これなんかどうですか?」
 ぎゅううううッ!
「ひっぎいいいいッ!」
 明日香が英雄の胴体に巻きつかせた太ももに力をこめ
た。
 英雄の背中でがっしりと交差した明日香のふくらは

218
ぎ。その圧倒的な下半身に巻きつかれた矮小な男の体な
ど、ひとたまりもなかった。
「ふふっ、これで3割くらい」
「カヒュ――カヒュ―――」
「あはっ、もう喋れなくなっちゃいましたね。はい、こ
れで4割」
 ぎゅううううううッ!
「ヒュウ――……カヒュ―――……」
「あ、白目むいた。よわ〜い」
 楽しそうに。
 うれしそうに。ニンマリと笑って、英雄を虐めていく。
「師匠、ほら、息継ぎしてください」
 太ももの力を調整して、英雄が呼吸できる程度の巻き
つきにしてやる。とたんに貪るように息を吸い始めた男
のことを、明日香が愛しそうに見下ろした。
「はい再開」
 ぎゅうううううッ!
「ギイイイイイッ!」
「ふふっ、師匠、苦しそうですね〜」
「あ、あ、あ、明日香ッ!」
「めちゃくちゃ手加減してあげているので、気絶できな
いですよ? ふふっ、それとも師匠は気絶させられたい
のかな?」
 ニンマリとした笑顔。
 大人と子供。
 性に目覚めた少年を手ほどきするかのような、妖艶な

219
雰囲気をまとって、明日香が英雄のことを見下ろしてい
た。
「師匠〜、大好きな明日香の太ももで虐められて、うれ
しいですか〜」
「だ、誰がうれしいなんヒッギイイイッ!」
「あはっ、ちょっと締めつけ強くしただけで喋れなく
なっちゃうなんて、弱すぎてかわいそうになっちゃいま
すね〜。ほ〜ら、明日香のムチムチの太ももが、師匠の
ちっちゃな胴体を潰しちゃってますよ〜」
 見せつける。
 力の違いを。
 生物としての優劣差を。
 これでもかというほど見せつけながら、明日香が英雄
のことを熱のこもった視線で見下ろしていく。勝ち誇っ
て師匠のことを観察していく少女。その顔に確信的な笑
顔が浮かんだ。
「あ、技がはずれちゃいました」
 わざとらしく言って、明日香が英雄の腕をつかんで立
ち上がった。英雄が「ひいひい」言いながら引きずり起
こされる。
「仕切り直しですね、師匠」
「ううううッ」
「次はがんばってくださいよ?」
 ニンマリと笑う。
 そして試合が再開されるのだ。
 もはや勝負にすらなっていない、一方的なしごき。師

220
匠が教え子によって分からされていく。
「はい、三角締めの完成です」
 圧倒的強者である少女が、てきぱきと男を調理する。
 英雄がどんなに抵抗しても、技を避けようとしても無
駄だった。力だけではなく技術でも上をいかれている。
自分がどんなに頭をつかって、これまでの経験を総動員
して逃れようとしても、明日香に全て動きを読まれ、先
回りされてしまう。結果としてできあがったのが三角締
めだった。明日香の強靭な太ももが、英雄の矮小な首に
巻きついて、捕食してしまっている。
「ぐげえええええッ!」
 喉仏にもぎっちりと食い込んだ明日香の極太の足。
 それによって言葉を奪われ、容赦なく頸動脈を締めら
れて、英雄の顔が歪んでいく。眉を下げ、白目をむき、
苦悶の表情で顔を歪ませる。
 明日香の純白の肌とは対照的なドス黒く変色した男の
顔。
 大蛇のような太ももと太ももの間から、ひょっこりと
顔を出しているその姿はあまりにも惨めだった。自分の
頭部の倍以上もある太ももに包み込まれて、万が一にも
そこから脱出できないことが見てとれる。
「ふふっ、苦しそうですね、師匠」
「グゲエエエエエエッ!」
「あはっ、えづいちゃってます。明日香の太ももで締め
上げられてえづいちゃってますね」
 つんつん。

221
 明日香が自分の太ももの間から顔を出している英雄の
額を指で突っつく。
 年相応の少女によるイタズラ。しかし今行われている
のは遊戯ではなく拷問だった。ひとまわり以上年下の妹
弟子が、師匠のことを拷問していた。
「この日のために鍛錬してきたって、そう言ってました
よね?」
 つんつん。
 明日香が英雄の額を突っついて遊ぶ。
「それなのに、なんでこんなに弱くなってるんです? 
まるで自分から負けにきてるみたい」
 それに、と。
 彼女の手が英雄の股間を握りしめた。
「なんで、勃起しているんですか、師匠?」
 ぎゅうううううッ!
 力強く握りつぶす。
 英雄の股間が少女の片手によってわしづかみにされて
しまっていた。その大きな手の平の中には英雄の勃起し
た肉棒がある。太ももで殺されかかっているのに、興奮
して、勃起してしまった敗北の証拠。それを分からせる
ために、明日香が英雄の股間をわしづかみにしながら、
さらに太ももに力をこめた。
「苦しいはずですよね、師匠」
「ぐげえええええッ!」
「それなのに、なんで勃起しているんですか?」
「おっぼおおおおッ!」

222
「こんなに痛めつけられて、死にそうになっているのに、
なんで勃起しているんでしょう」
 ぎゅうううううッ!
 さらに明日香の太ももに力がこもる。
 肌色たっぷりの生足。その柔らかそうな皮下脂肪の下
から獰猛な筋肉が隆起している。さらに体積を増してし
まった凶悪な太もも。その間に挟み込んだ獲物を容赦な
く食い散らかしてしまう化け物が、一人の男を亡き者に
しようと襲いかかっていた。
「まだ明日香、本気を出していません。これで7割くら
いです」
「ぐげえええええッ!」
「本気で絞めたら師匠の頭部をぺちゃんこにできると思
います。師匠は今、そんな恐ろしい太ももに絞めあげら
れているんですよ? それなのに、なんで興奮している
んですか?」
 ぎゅうううううッ!
 ボゴオッとさらに太ももが隆起する。
 もはや英雄の顔が太ももの肉によって埋もれて見えな
くなってしまった。それほどまでに明日香の下半身は圧
倒的だった。少女の凶悪な太ももによって、師匠であっ
たはずの男が殺されていく。
「ふふっ、まだまだこれからですよ、師匠」
 明日香が笑う。
「試合はまだ始まったばかりです」
「グボオオオオオッ!」

223
「たあっぷり堪能させて、骨の髄まで分からせてあげま
す。覚悟してください、師匠」

 *

 英雄は地獄の中にいた。
 地獄。
 そのはずだった。
 それなのに彼の体には恍惚とした快感が電流のように
走っていた。
(ぎ、ぎもじいいいいッ!)
 死にそうな表情を浮かべながら、歓喜に震えている。
 一方的な試合は続き、今は再び胴締めの時間だった。
 明日香の股の間に座らされた英雄は、背後から伸びて
くる明日香の凶悪太ももによって挟みこまれて、そのま
ま胴体を潰されてしまっていた。英雄の体の前でがっち
りと組まれて4の字になった明日香の脚。英雄の胴体よ
りも太い明日香の太ももの感触だけで、そこから逃げる
ことができないことが分かる。ミシミシと英雄の体が
ずっと軋んでいく。
(明日香の太もも、しゅごいいいいいいッ!)
 この太ももには勝てない。
 このまま自分は殺される。
 この極太の逞しい太ももによって、胴体をぺちゃんこ
にされて潰され、殺されるのだ。
「ひゃああああああッ!」

224
 それが分かっているからこその歓喜の絶叫。
 完全に分からされている。
 こうして虐めていただけるだけで嬉しい。かつての師
匠が妹弟子に殺されながら、その肉棒を滑稽に勃起させ
ていった。
「師匠、苦しいですよね」
「いっぎいいいいいッ!」
「息もできずに、胴体べこんって潰されて、内蔵を直接
痛めつけられてる。これされた男はみ〜んな無様な命乞
いをするんですよ。情けなく。明日香様許してくださ〜
いって」
「ヒッギぐイイいイッ!」
「それなのに、なんで師匠は勃起するだけでなくて、そ
んなに嬉しそうな顔をしてるんですか?」
 明日香の確信に迫る言葉。
 彼女の視線の先。
 そこには、苦しみながらも恍惚とした表情を浮かべた
男がいた。
「ふふっ、師匠、かわいい」
 ぎゅううううッ!
「カヒュ――カヒュウウ―――」
「締めつけを強くしたらすぐ息もできなくなっちゃうほ
ど弱っちいところなんかも、とってもサイコーです。ほ
ら、息継ぎしてください」
 下半身だけで男をコントロールしている。
 彼女の思うがままだった。

225
 男に悲鳴をあげさせるのも、男の呼吸を奪うのも、す
べては脚だけで調整できる。大蛇に巻きつかれた男は、
本来であれば、自分の体が丸飲みされていく恐怖にさい
なまれながら、必死の命乞いをするしかない。唾を飛ば
しながら、滑稽に、必死に。
「あしゅかしゃまああああッ!」
 それなのに、英雄はとろけた表情を浮かべるだけだっ
た。
 抵抗心とか男のプライドというものが残っていない
ことは明らかだった。それらは全て、明日香の太ももに
よって挟み潰されてしまったのだ。今ここにいるのは、
成長した妹弟子に柔術でボコボコにされて、屈服し、分
からされてしまった哀れな負け犬だけだった。
「ふふっ、師匠の恍惚とした顔を見ていたら、明日香も
我慢できなくなっちゃいます」
 明日香の顔にも熱が帯びる。
「師匠のこと、試してあげますね」

 *

 明日香がゆっくりと英雄の胴体に巻きつかせていた足
をほどいた。
 そのまま立ち上がり、悠然と男を見下ろす。
 少女は高身長の高みから男を見下ろして、時間をかけ
て鑑賞する。ねっとりとした瞳が容赦なく男を貫く。最
後に少女が「ふふっ」と笑った。

226
「ほ〜ら、首輪ですよ」
 明日香が仰向けに寝ころがった。
 そのまま右足だけあぐらをかくように開脚し、右足の
甲を左足の膝下でがっちりと固定する。
 できあがったのは明日香の言葉どおり女性の脚でつく
られた首輪だった。
 ちょうど、三角締めをするときの体勢。
 その太ももと太ももの間に頭部を挟み込まれてしまっ
た男がどうなるのか、誰でも分かる凶悪でムチムチな下
半身の迫力が、英雄の目の前に展開された。

227
「マゾの男には首輪をしなくちゃいけません」
 明日香が笑う。
 何かを確信している笑顔。
 寝ころがり、太ももとふくらはぎでつくった首輪を、
英雄に見せつける。
「ほら、師匠はやくしてください」
「ううううッ」
「どうすればいいか、師匠だったら分かりますよね?」
 そんなこと言われるまでもなかった。
 英雄がフラフラと体を起こした。
 目の前。
 そこには首輪がある。
 明日香のムチムチの足でつくられた首輪だ。その首輪
をはめた男がどうなるのかも分かっていた。けれど、今
の英雄にとってはそれこそが望みだった。
「はあ、はあはあ」
 四つん這いになって近づく。
 熱に浮かされたような視線。
 興奮して理性を奪われた猿。
 彼の脳裏にあるのは、ただただ明日香の凶悪な下半身
だけだった。
「はあ、はあ、ハアハア」
 ゆっくりと首を伸ばして近づいていく。
 近づいただけで熱量が感じられた。
 その躍動感が伝わってくる。
 ムチムチの足。

228
 柔らかそうな女の子の足。
 その下で蠢いている筋肉が、獲物を待ちかねている肉
食性のイソギンチャクのように躍動しているのが分か
る。
「あ、明日香あああッ」
 英雄にためらいはなかった。
 ゆっくりと。
 味わうように。
 英雄が頭を下げて、太ももとふくらはぎでできた首輪
に頭を通す。四つん這いの格好で、自ら処刑台であるギ
ロチンの穴に頭を通し、終わった。
「は〜い、よくできました」
 ぎゅううううううッ!
「ひいいいいいいいいいッ!」
 首輪が閉じられる。
 太ももの間で、英雄の小さな頭部が、圧倒的な明日香
の太ももによって左右から潰された。
 右足のふくらはぎががっちりと英雄の後頭部を抱き込
み、左足の膝下でホールドが完成。もう逃げることなん
てできない。その首には明日香の太もも首輪がみっちり
とはめられていた。
「師匠の気持ちは分かりました」
 明日香が寝ころがりながら言う。
 自分の太ももの間で埋もれている男。
 愛しい愛しい存在。
 その男の頭を慈愛をこめて撫でながら明日香が続け

229
る。
「両思いだったんですね、明日香たち」
 にっこり。
 うれしそうな表情を浮かべて、
「こんなひどいことしてるのに、師匠はとってもうれし
そう。明日香も、今、とっても幸せです」
「ぐ、ぐぎぎいいいい」
「これから毎日、明日香が師匠のことを虐めてあげます
からね。大丈夫。ぜったいに師匠のことは壊しませんか
ら。ほかの男たちで限界を見極める力は身についたの
で、壊れる限界ギリギリまで追い込んであげます」
 ぎゅうううううッ!
「カヒュウウ――カヒュウ―――」
「あ〜、師匠かわいい〜。大好きです師匠。まだ体がちっ
ちゃい時から、明日香、師匠のことが大好きでした。好
きです。好き好き」
 ぎゅううううううッ!
 愛の言葉を囁きながら、その太ももで愛しい男を締め
落としていく。苦しそうに歪んだ彼の顔を見て、ますま
す熱を帯びた表情となった明日香が、思い人のことを追
い込んでいく。
「今日は徹底的にやります」
 興奮している。
 一匹の女豹が、獲物を前にして性的に興奮していた。
「明日香が満足するまで、師匠のことをボコボコにしま
す。いいですよね、師匠?」

230
 明日香の言葉。
 太ももで締めつけられ、殺されそうになっているの
に、問いかけられた男は確かに首を縦に振った。
「……師匠」
 ぱああああっと笑顔になる明日香。
 彼女が、身も心も屈服させて分からせた男のことを、
さらにボコボコにしていく。

 *

(あしゅかあああ、しゅごおいいいいい)
 英雄は明日香に痛めつけられていった。
 ただひたすらに締め落とされた。
 何度も何度も。
 苦しみで発狂するような気道責めも、快感で頭を壊さ
れそうになる頸動脈締めも、そのすべてが英雄にとって
ご褒美だった。普通ならば恐怖で逃げ出しそうになるの
だろうが、英雄は明日香の優秀な体に溺れるようにし
て、恍惚とした表情で痛めつけられていった。
 1時間。
 2時間。
 3時間。
 英雄の体が限界になるまで明日香の締め落としは続
き、最後の時間が訪れた。
「師匠、かわいい〜」
 ギリギリギリッ!

231
 吊るし上げ。
 高身長で仁王立ちした明日香が、英雄の首を両手でわ
しづかみにして吊るしている。
 英雄はとっくの昔に全裸だった。
 全身を締めつけられ、殴られたり蹴られたりしたわけ
ではないのに全身が内出血の跡でひどいことになってい
る。それだけ明日香の締めつけは強烈だったのだ。体中
をその腕で、太ももで、ふくらはぎで締めつけられ、何
度も気絶してしまった英雄は、もはや人間としての自我
も尊厳も奪われていた。
「明日香の大きな両手が、師匠のちっちゃな首を包み込
んでしまっています」
「かぎゅううううッ!」
「気道と頸動脈の同時締めが可能です。これ以上になく
力関係が分かる技ですよね、これって」
 明日香が笑う。
 両手で英雄の首をわしづかみにして締め上げ、宙づり
にして、同じ目線になって鑑賞を続ける。
「師匠の命は明日香が握っているんです。チビの師匠は、
大きな明日香に絶対に勝てない」
「ぐっぼおおおおッ!」
「ふふっ、気道だけ絞めてま〜す。次は頸動脈だけ一瞬
絞めて天国に連れていきま〜す」
「おぼおおおおッ!」
「うわっ、えづいているえづいている。あ〜、きもち〜」
 好き放題。

232
 明日香による情け容赦のない締めつけが、ずっと、
ずっと続いていく。
「あしゅかああああ」
 それでも英雄は恍惚とした表情で明日香を見つめてい
た。
 明日香と英雄の視線と視線が、熱をもって交差してい
く。それはまるで永遠の愛を誓い合った恋人のようだっ
た。
「師匠」
 明日香が、優しい声で言った。
「何か言いたいことはありますか?」
 その言葉。
 ビクンと英雄の体が痙攣した。
 もはや自分をおさえることは不可能だった。ここ最
近、ずっと妄想していたこと。それが絶叫となって口か
ら漏れた。

「俺のこと、明日香様の弟子にしてくださいいいいッ!」

 英雄が覚悟をきめたことはこれだった。
 明日香様の弟子にしていただくこと。
 これまでの師匠と妹弟子という関係を壊し、自分が明
日香様の弟子になること。
 そうすれば、ずっと二人でいられる。
 彼女から虐めてもらえる。
 英雄が思い悩み、決断したことは、明日香様の弟子に

233
なるということだった。
「いいんですか、師匠?」
 うれしさを隠し切れていない声で明日香が言う。
「明日香の弟子になったら、師匠は明日香の命令に絶対
服従ですよ?」
「はいいいいいッ! 服従しますうう。させてください
いいいッ!」
「明日香の弟子になったら、師匠には柔道をやめて、大
学にも行かないで、明日香のそばにずっといさせます
よ。それでもいいんですか?」
「い い で す う う う う ッ!   そ れ で い い で す か ら あ あ
ッ!」
「……師匠」
「俺を明日香様の弟子にしてくださいいいいいッ!」
 絶叫する英雄。
 それを見つめて感極まったようにうれし涙を浮かべた
少女。ひとしきり男の懇願を堪能すると、少女がキリっ
とした表情を浮かべた。
「よろしい。じゃあ、おまえを明日香の弟子にしてあげ
ます」
 明日香が英雄を放り投げた。
 仰向けに倒れた英雄。
 そんな顔面めがけて、明日香の足裏が炸裂し、踏み潰
した。ぐりぐりと体重をかけて、英雄の顔面を潰してい
く。
「英雄」

234
 明日香の冷たい言葉。
 師匠と妹弟子ではなく、弟子と師匠の関係になった二
人が、新たな関係性を築いていく。
「これから、道場では敬語で喋りかけること。いい?」
 命令に英雄がコクンコクンと首を縦に振った。
「師匠の命令には絶対服従。口答えは許さない。わかっ
た?」
 歓喜しかない。
 英雄が何度も何度も首を縦に振る。
「よし、じゃあ、最初の弟子の仕事よ。まず、明日香の
足を綺麗にしてもらおうかな」
 ふふっと。
 笑って、
 明日香が命じた。
「舐めろ」
「はひいいいいいいッ!」
 ぺろぺろと舐め始める。
 明日香に顔面を踏み潰されたまま、英雄が必死にその
足裏へと舌を這わせた。
 最初に締め落とされた時には、どんなことをされても
舐めなかった男が、今では率先して師匠の足裏を舐め清
めていく。弟子の身分に堕とされた英雄が、師匠となっ
た少女の足裏をぺろぺろと舐めていった。
「ふふっ」
 そんな弟子の姿を見て、明日香は満足そうに笑うの
だった。

235
 恋い焦がれた男をこれ以上なく落として
、分からせて見せた少女は、ご満悦の様子で、ひたすら
に足を舐めさせていく。
「まだまだ下手くそだから、たあっぷり躾てあげる」
 うれしそうに。
 幸せそうに。
 明日香が続ける。
「師匠の性欲処理も弟子の仕事だからね。ふふっ、おま
えも居残り練習盗み見ていたんだから、意味は分かるわ
よね?」
 ぐりぐりぐりっ。
 力強く踏み潰す。
 それでも舌の力はやまない。必死のご奉仕が続いてい
く。
「これからよろしくね、英雄」
 呼び捨てにされ、タメ口をきかれる。
 これから英雄は明日香に対して敬語で話しかけなけれ
ばならないのだ。
 柔道の道も、格闘家としての未来さえ捨てて選んだ
道。明日香様の弟子として生きる。それは、彼女とずっ
と一緒にいるために選んだ道だった。
「明 日 香 様 あ あ あ ッ!   好 き で し ゅ う う う う う う う
ッ!」
 踏み潰されたまま英雄が言う。
 ボコボコにされ、屈服して、分からされてしまった男。
 弟子は恍惚とした表情で、師匠の足裏を永遠と舐めて

236
いった。

237
 エピローグ1

 英雄は大学に行くのもあきらめ、道場のコーチとして
生計をたてるようになった。
 明日香はますます成長していった。
 幼い顔立ちから大人の女性へと変貌していく。
 体もさらに大きくなり、高等部に進学する頃には19
0センチの大台を越えることになった。ブラジリアン柔
術の技量も段違いに増していき、女性初の世界大会優勝
者となったのは1年前のことだ。
 そして。
 それを皮切りに、女性たちの躍進が始まった。
 格闘技の世界に彼女たちの殴り込みが始まったのだ。
空前の格闘技ブーム。女性の多くが強さを求めて、ス
ポーツ感覚で格闘技の世界に足を踏み入れるようになっ
た。それは初等部の少女たちも同じだった。
「よし、京香、もう一度だ」
「はい、コーチ」
 道場。
 そこで英雄が少女たちにコーチをしていた。
 道場の男女比率はだいぶ変わっていた。
 昔は男しかおらず、女性はポツポツと加入しているだ
けだったが、今では女性の数のほうが多かった。それは
英雄が担当している年少組でも同じだった。
 道場では初等部の6年生たちが、最後の追い込み練習
をしているところだった。

238
 春になれば中等部にあがり、シニアクラスに移行する
彼女たちが、ジュニアクラス最後の練習に励んでいる。
 楽しそうに笑いながら練習に集中している10人ほど
の少女たち。しかし、彼女たちの相手をさせられている
男子たちは死にそうになっていた。
「ねえねえ、結城、もっとがんばってよ」
「祐介くん、顔真っ赤だね、もうちょっとで墜ちるか
な?」
「よわいね〜、ジュニアクラス最後の練習でも、わたし
の圧勝じゃない。ふふっ、けっきょく、一度もわたしに
勝てなかったね」
 勝ち誇った声。
 10人の少女たちが支配する道場。
 その相手をしている男子たちは、彼女たちに体を締め
上げられ、絶叫をあげていく。
「グゲエエエエエエッ!」
「むりいいいッ! たしゅけてえええッ!」
「ひゃだああああッ! あ、あ、あ、し、締めないでえ
えええ」
 男子たちの断末魔。
 発育のよい少女たちに襲われている少年たち。
 最近の傾向として、少女たちのほうが少年たちよりも
体格が大きかった。身長も体の厚みもかなり違う。規格
外の明日香よりは劣っているが、中には180センチを
越える長身の少女もいた。 
「こら、おまえら。少しは手加減してやらないか」

239
 英雄がたまらず注意する。
 少女たちは「ごめんなさ〜い」と軽く笑いながらも、
一度技をといて、苦しそうにせき込む男子たちをニヤニ
ヤしながら見つめていた。
「ったく、やりすぎなんだよ」
 英雄が嘆息する。
 そんな彼のかたわらに立つ飛び切り長身の京香が、
ニッコリとした笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「ふふっ、みんなコーチのこと大好きなんですよ」
「大好きって……舐められてるようにしか思えないけど
な」
「そんなことないです。わたしたちがここまで上達でき
たのはコーチのおかげだって、みんな分かってますか
ら」
 控えめな笑顔を浮かべる京香。
 そこには初等部とは思えない色気があった。英雄より
も頭一つ身長の高い少女。慕ってくれている京香からほ
められて、英雄としても悪い気はしなかった。
「ふふっ、やってるわね」
 その声だけで英雄の体に電流が走った。
 明日香。
 彼女があふれんばかりのオーラで道場に現れた。
「あ、師範」
「おつかれさまです、師範」
「この前の世界戦、テレビでみました。連覇、おめでと
うございます」

240
 少女たちが明日香に殺到する。
 きゃあきゃあ言いながら、アイドルを前にしたように
瞳を輝かせている。彼女たちにとって、明日香は目標で
あり憧れだった。そんな明日香を慕って、道場には入門
者がひっきりなしで、新しい道場をいくつも建設するま
でに成長していた。
 全国展開する女性専用のトレーニングジムともコラボ
して、ブラジリアン柔術道場はかつてないほど繁栄して
いる。それもこれも、世界敵なしの強さを誇り、対戦相
手を締め落とし続ける明日香のおかげだった。
「みんな、練習がんばってるみたいね」
 さらに成長した明日香。
 幼い顔立ちから大人の女性へと変貌している明日香
を前にするだけで、英雄はぼおっと心を奪われてしまっ
た。
「今日は卒業試験をしようと思うの」
 明日香が言った。
 その言葉に、彼女の姿に見蕩れていた英雄がハっと顔
を歪ませた。
「卒業試験ですか?」
「なんですかそれ?」
「何をするんです?」
 少女たちが姦しく問いかける。
 英雄は顔を真っ青にしたまま明日香を見上げた。
 許してくれと。
 勘弁してくださいと。

241
 しかし、そんな懇願を無視して、明日香が英雄のこと
を指さして言った。
「この男と本気で対戦するの。ふふっ、教え子のあなた
たちが、コーチ相手にどれだけ通用するか、試してみな
さい」

 *

 卒業試験。
 これまで、かたくなに教え子たちとの乱取りだけは拒
否してきた英雄。しかし、こうなってしまえばもう手遅
れだった。これは恒例行事なのだ。6年生の少女たちに
よる卒業試験。例年どおり、対戦は一方的なものになっ
た。
「え、コーチ。本気でやってくれてますか?」
 京香の困惑した声が響いた。
 彼女は今、仰向けに寝ころんだまま、ムチムチの太も
もで英雄の頭部を巻き込み、三角締めを極めていた。開
始直後、あっさりと極まってしまった技。胸を借りるつ
もりで挑んだ京香は、あまりにも簡単にタックルで倒
れ、素早い動作に反応することもできずに技を極められ
てしまった英雄を見て、困惑しているようだった。
「コーチ?」
「ふ、ぎぎいいいいッ!」
 悶え苦しむ。
 教え子の太ももの中で、顔を真っ赤にして、じたばた

242
と暴れている英雄。はるか年下の少女の三角締めに対し
て、体力で勝っているはずの成人男性が手も足もでな
い。
「…………」
 京香の視線がすうっと冷たくなった。
 瞳が細められ、まるでゴミでも見るかのような淡々と
した表情で、太ももの中で苦しむ英雄を観察している。
「技、といてあげますね」
 冷たい声色。
 どこか他人行儀に聞こえる声に英雄はビクンと震え
た。
「仕切り直しです。体力を回復させてください」
 再び立ち上がる両者。
 京香に締め上げられたダメージが抜けない英雄がハア
ハアと息を荒くしながら、教え子と相対する。彼の目の
前。そこには、高身長から見下ろし、冷ややかな視線で
英雄を観察している京香がいた。
「う、ううううッ」
 うめき声。
 その視線には見覚えがあった。
 これまで繰り返し受けてきた視線だ。
 ジュニアクラスのコーチとして尊敬してくれ、慕って
くれていた生徒たちが、卒業試験の時に変貌する。周囲
のほかの女子生徒たちも「よわっ」
「え、コーチってザコ
じゃん」と軽蔑したように騒いでいた。
「いきます」

243
 英雄の荒い息が回復したのを見計らって京香が動く。
 低空タックル。
 速い。
 英雄は反応もできなかった。
「うわああッ!」
 地面に倒され、背中を強打する。
 息が一瞬止まるほどの衝撃。
 しかし、その苦しみを感じている暇も与えられない。
「…………」
 無言。
 京香が淡々と英雄を料理していく。
 仰向けに倒れた英雄の体によじのぼって、その胴体に
がっちりと太ももを巻きつかせる。抵抗しようと英雄が
右手を伸ばしてきたのを簡単に受け止めて、それも抱え
込んで逃がさないようにする。たまらず英雄がブリッチ
をして逃げようとするのだが、それすらも京香に先読み
されていて、彼女がどすんと巨尻を打ち付けるだけで地
面に縫いつけにされてしまった。
 てきぱき。
 淡々と。
 簡単に。
 まな板にのせられてさばかれる魚のように、英雄は馬
乗り三角締めを極められてしまった。
「ぐっぎいいいいッ!」
 京香の太ももが英雄の頭部に巻きついている。
 顔面騎乗のような格好。

244
 彼女の巨尻が容赦なく英雄の顔面を潰していた。その
圧倒的な迫力をもった巨尻は、英雄の顔面全体を押し潰
していて、その矮小な頭部は桃尻の下に埋まってしまっ
ている。
「よわっ」
 吐き捨てるようにして京香が言った。
 そこに親愛とか尊敬とかいった感情はみじんもなかっ
た。
 さきほどまで、親しげに話しかけてくれていた少女。
女子生徒の中でも一番の実力者で、コーチである英雄を
尊敬の眼差しで見上げていた少女が、今、侮蔑の視線で
もって英雄のことを見下ろしていた。
「コーチって、こんなに弱かったんですね」
 冷たい声。
 ぎりぎりと馬乗り三角締めでコーチのことを締め上げ
ながら、京香が言う。
「正直、わたしはまだ本気をだしていません。すご〜く
手加減してあげています。それなのに、コーチは手も足
もでずに、わたしに動きの全部を見極められて、先読み
されて、簡単に技を極められてしまいました」
「ぐ、ッギイイイイッ!」
「今も情けなく悶えるだけ。いっしょうけんめい体を暴
れさせても、わたしの体をよろめかせることもできな
い。ほらコーチ、わかりますか? コーチは今、教え子
のお尻の下で潰されて、教え子の太ももで首絞められ
て、死にそうになってるんですよ? というか、コーチ、

245
前から思ってましたけど、チビすぎませんか? 本当に
ザコなんですけど」
 辛辣な言葉。
 それに英雄は悶え苦しみながらも、なんとか反抗しよ
うとジタバタと暴れた。しかし、それは無駄な抵抗でし
かなかった。いくら英雄が暴れようが、京香の言葉どお
り、彼女の圧倒的な肉体はビクともしなかった。
 年下の、
 教え子である少女に文字通り手も足もでない屈辱。英
雄は涙をぽろぽろと流しながら、そっと、京香の太もも
をタップした。
(ぐるじいいいッ! も、もうむりいいい)
 ギブアップの意思表示。
 それは、年上のコーチが、年下の教え子に完全敗北し
た証だった。情けなく、手をぷるぷる震わせながら、教
え子のムチムチに育った太ももをぺしぺしと叩く。
「コーチ、なんですかソレ?」
 しかし、京香はどこまでも残酷だった。
 冷酷な視線で英雄を見下ろしながら彼女が続ける。
「コーチだったら、わかりますよね? ギブアップした
男子がどうされちゃうか」
「ぐぎぎッ! ひっぎいいッ!」
「ギブアップした男子が、決して許してもらえずに締め
落とされてきたの、コーチもさんざん見てきましたよ
ね? ギブアップした男子は、ぜったいに許してもらえ
ないんです。簡単にあきらめて、わたしたちの機嫌を損

246
ねてしまった男子は、何度も何度も締め落とされて、意
識も朦朧としてボロボロになるまで気絶させられるんで
す」
(ひゅあだあああああッ! ゆるしてえええッ! ゆる
してくださいいいいッ!)
「コーチのこともそうしますね」
 ぎゅううううッ!
 締めつけの力が増す。
 京香の太ももがボゴンッと筋肉で隆起し体積も増し
た。彼女の凶悪な太ももと巨尻に包まれて、英雄の体が
ビクンッと大きく痙攣する。
「墜ちろ」
 ぎゅううううッ!
 締めつけ。
 それで簡単に英雄は気絶した。
 暴れていた体が消えてなくなり、びくんびくんと痙攣
するだけになる。京香のムチムチの巨尻の下から、
「グッ
ボオオオッ!」という盛大なイビキの音が聞こえてき
た。
「うわっ、もう墜ちた」
 京香が淡々とつぶやいた。
 彼女はゆっくりと気絶した男を解放してやる。
 どでんと床に仰向けに倒れた男。
 その髪の毛をわしづかみにして、物体となった男を引
きずり起こす。そのまま立ち上がり、自分の顔の高さま
で英雄の頭部を持ち上げた。髪の毛が限界まで伸び、ブ

247
チブチと嫌な音を立てている。身長差から宙づりにされ
た男は、白目をむき、ぶくぶくと泡を吹いて、涙と涎で
ぐじょぐじょになった顔をさらしていた。
「ほんとザコだな、おまえ」
 冷たい声。
 尊敬の念なんて微塵もない声色。
 じいっと、自分の顔の高さまで持ち上げた英雄の顔を
見つめ続ける少女。
 それは狩人の視線だった。しとめた獲物を観察する
瞳。かつては英雄のことを慕っていた少女が、180度
変貌し、今では英雄のことを一番に侮蔑していた。
 
 *

「おつかれさま、京香」
 そこではじめて明日香が声をかけた。
 英雄の髪の毛をつかんで持ち上げている京香に近づ
き、ねぎらいの言葉を続ける。
「どう? 簡単だったでしょ」
「はい。そうですね……」
「どうしたの?」
「正直、拍子抜けというか……こんなチビ男を今まで尊
敬してきたんだなと思うと、なんだか自分が嫌になると
いうか……」
 複雑そうな表情で英雄を見つめる京香。
 彼女の視線の先には情けないまでにボロボロになった

248
顔がある。それを見ていた京香が、いらだちを隠せなく
なったようで、
「いつまで寝てるんだよ、ザコが」
 ぺっ。
 生唾。
 英雄の額に直撃した唾はそのままだらだらと墜ちてい
き、英雄の半開きになった口に入っていった。
 そんな京香のことを、明日香はほほえましいものを見
る目で見つめている。
「ふふっ、でもこいつは道場の男の中では一番強いの
よ?」
「そ、そうなんですか?」
「うん。だから、京香が自分にいらだつ必要なんてない
の。自信をもってね」
 ねぎらった明日香が京香から英雄を受け取る。
 そのまま背中にバシンと平手をくらわせると、
「ふ
わっ」と情けない声をあげて、英雄が目覚めた。
「起きたわね、負け犬コーチくん」
 ニヤニヤしながら明日香が言う。
「ほら、はやくしなさい。あとがつかえてるんだから」
 明日香が道場中を見渡して、
「まだまだ6年生の女子生徒はたくさんいるわよ? 今
日も全員と戦ってもらうからね」
 絶望。
 顔を歪ませる男。
 そして、そんな男のことをニヤニヤ見下ろしながら

249
取り囲むかつての教え子たち。その迫力に英雄は思わ
ず「ひい」と悲鳴を漏らした。その情けない様子がツボ
だったらしく、少女たちが「キャハハ」と笑いながら英
雄を見下ろし続ける。
 コーチと教え子。
 その関係性が崩れ去った瞬間だった。

 *

「ご、ごじどう、ありがとうごじゃいまじたッ!」
 英雄が土下座しながら絶叫した。
 道着は序盤ではぎとられていて、全裸に剥かれてい
る。その体は内出血でぼろぼろになっていて、これまで
少女たちにさんざん締め落とされていたことが分かっ
た。
「うわっ、土下座したよ」
「なさけな〜い」
「こいつ、マジでザコだったね。よわすぎ」
 少女たちがくすくす笑っている。
 土下座した英雄を取り囲むようにして仁王立ちして、
おもしろい見せ物でも見物するかのように、少女たちが
男のことを見下ろしている。その顔には例外なく笑顔か
侮蔑の表情があった。
「つーか、チビすぎだよね、こいつ」
「いえてる。ほんっとチビ」
「チ〜ビ」

250
「ザコチビ〜」
「弱いんだよ、チビが」
 ぴくぴくと震える男を見下ろしながら、少女たちが残
酷に追い立てていく。圧倒的肉体を強調しながら、チビ
男を囲む長身少女たち。
 少女たちのほうが優れているのだ。
 その体格でも、技の技量でも、英雄よりも年下の少女
たちの方が優れている。格闘技に人生を捧げてきた男よ
りも、まだ数年しか柔術を練習していない少女たちのほ
うが、はるかに優秀で、格上だった。
(ううう、また……また負けた)
 土下座しながら英雄が泣いていた。
 いつもと同じ。
 自分の教え子に手も足もでずにボコボコにされてし
まった。自分よりも彼女たちのほうが強いのだ。英雄と
してもそれを認める以外になかった。
 優れた少女たち。
 自分よりも比べようもないほど優秀な少女たちが、
今、自分のことを取り囲むようにして立っている。
 それを認識するだけで、英雄はガクガクと震えるの
だった。
 少女たちがその気になれば、自分は締め落とされ、殺
されてしまう。抵抗しても無駄。自分よりもはるか格上
である少女たちにボコボコにされ、息が絶える瞬間を想
像した英雄は、ますますガクガク震えながら、深く、深
く頭を下げ、土下座をするしかなかった。

251
「今年も英雄の完敗ね」
 明日香の声。
 びくんと震えた英雄の耳に、彼女の辛辣な言葉が降り
そそぐ。
「まったく、わたしの弟子だっていうのに、年下の女の
子にボコボコにされて、情けなくないのかしら」
「も、申し訳ございません」
「これはお仕置きが必要ね。いつものやってもらおうか
しら」
 その言葉に英雄がハっと顔をあげた。
 目の前。
 京香の隣に立っている明日香を絶望の顔で見上げる。
それだけは許してくださいと。勘弁してくださいと必死
に表情だけで訴える。しかし、返ってきたのは明日香の
獰猛な笑顔だけだった。
「ほら、京香の足、綺麗にしなさい」
「そ、そんな」
「なに? わたしの命令に刃向かうの?」
「ひ、ひいいい」
 骨の髄まで明日香に躾られていた英雄は、脱兎のごと
く京香の足下まで這い蹲ってすり寄った。教え子の足
下。そこで深々と頭を下げ、土下座をする。
 そして、
「京香さん、ご指導で汚れた足、綺麗にさせていただい
てもよろしいでしょうかッ」
 教え込まされた言葉。

252
 教え子に敬語を使い、許しを乞う。
 そんな男のことを冷めた視線で見下ろしていた京香
は、
「ん」と一言だけ発し、足を前に差し出した。
「失礼しますッ」
 舐める。
 英雄が舐め始めた。
 教え子の足を。
 自分よりもはるか年下の少女の足を。
 自分のことをさんざんに締め落としてきた少女の足
を、英雄は必死に舐めていった。
「…………」
 京香は無言だ。
 やはり冷めきった視線でかつてのコーチを見下ろすだ
け。その長身とあいまって、まさしく女王様といった雰
囲気で、年上の男に奉仕させていく。
「うわっ、きも〜い」
「おそうじってこと? 舐めて? うわ〜」
「マジできもいんだけど」
「ふふっ、でも無様でかわいい」
 年下の少女たちがくすくす笑いながら英雄を見下ろし
ている。
 尊敬の気持ちも何もなくなっている彼女たちは、英雄
のことを舐めきっているのだった。生意気な少女たち
が、年上の男をボコボコにして悦に浸っている。
「ほら、とっとと舐めろよ。次、わたしだからな?」
「あとがつかえてるんだから、もっと必死にやれ」

253
「もっと舐めろよ。ほら、はやく」
 少女たちが動く。
 その発達した足。
 それを振り上げ、地面にはいつくばっている英雄の体
を踏み潰していく。少女たちの人数分の足が英雄の体に
突き刺さる。頭、肩、腕、背中、腰、膝裏、足首。至る
所に少女たちの長く美しい足が突き刺さっていく。少女
たちの足に覆われた英雄の体。それはまるで、罪人が剣
山に突き刺さって悶えている地獄絵図のようだった。
「ふふっ、これで完成ね」
 明日香が言った。
 英雄は教え子たちに踏み潰されて、それでも京香の足
をぺろぺろ舐めながら、明日香の言葉を聞いた。
「これで、この学年もみんな男を支配するようになる。
シニアクラスにあがっても、問題ないでしょう」
 一人の男を生け贄にして、少女たちのサディストとし
ての人格を完成させる。
 これはジュニアクラスの通過儀礼なのだった。
 最後にコーチである英雄が完敗するところまで組み込
まれた指導プログラム。英雄は、明日香の急成長する柔
術教室のプログラムの一つにされ、今日も生きながらえ
ているのだった。
「英雄」
 京香の声。
 卒業試験が始まる前の、英雄を慕っていた少女はもう
いない。冷え切った視線で英雄のことを見下ろす女性が

254
辛辣に言う。
「明日から、おまえのこと容赦なく締め落とすからな。
何度も何度も締め落とす。覚悟しろよ?」
 サディスト。
 支配者。
 英雄は泣きながら、彼女の足を舐め続けるしかなかっ
た。教え子たちの足を。自分よりも強い少女たちの足を
必死に舐めていく。それは、少女たちが満足するまで、
何時間も続くのだった。

255
 エピローグ2

 最後の生徒が帰って行った。
 それを確認した明日香が、ドアの鍵を締める。
 道場に残されたのは、少女たちにボロボロにされ、全
裸で大の字で倒れている英雄と、そんな彼のことを見下
ろしている明日香だけだった。
「師匠♪」
 明日香が弾むような声で話しかけた。
 その表情さえ、かつての幼い少女のように緩みきって
いる。
 彼女はそのまま、倒れている英雄のことを立ち上がら
せると、ぎゅうううっと抱きしめた。
「師匠、今日もお疲れさまでした」
 相手を痛めつけるためではなく、優しく包み込むよう
な抱擁。ますます大きくなった彼女のおっぱいが英雄の
胴体でぐにゅっと潰れている。
 英雄は明日香に抱っこされて持ち上げられており、身
長差から地面に足がついていなかった。明日香の豊満な
体に吸収されているかのように、ただただ抱きしめられ
て、されるがままになっている。
「ふあああ、あしゅかあああ」
 夢心地になる英雄。
 顔をトロンとさせて、明日香のフェロモンを嗅ぎ、そ
の柔らかい体に夢中になっている。
「ふふっ、師匠はかわいいですね〜」

256
 そんな英雄のことを明日香は甘やかし続けていた。
 片手だけで英雄を抱きしめ、もう片方の手でその頭を
撫で始める。慈愛のこもった手つき。ますます英雄の喘
ぎ声が大きくなった。
「師匠のおかげでみんな立派な女の子になれました。
やっぱり、師匠は指導者として優秀ですね」
 よしよし。
 うまく芸を披露したペットをほめるように、明日香が
英雄の頭を撫でる。
「みんなの前では師匠の事をけなしましたけど、明日香
は師匠がすごいこと分かってますからね。道場の発展の
ために自分を犠牲にしてがんばってる師匠のこと、とっ
ても尊敬してます」
 甘々な明日香だった。
 道場でいる時には厳しい支配者。
 しかし、ひとたび英雄と二人きりになれば、どこまで
も英雄のことを甘やかす年下の少女になってしまう。英
雄の呼び方もかつてのように「師匠」のまま。純粋無垢
な少女になって英雄のことをかわいがるのだった。
「師匠、ご褒美はなにがいいですか?」
 明日香がいつものように聞く。
 何かを確信している笑みを浮かべた少女。
 英雄の答えは決まっていた。
「締め落としてくださいいいいッ! 明日香に締め落と
されたいいいッ!」
 絶叫。

257
 あれだけ少女たちに締め落とされたというのに、英雄
はさらに締め落としを明日香に懇願してしまうのだっ
た。それはいつもと変わらないお願いだった。
「ふふっ」
 笑う。
 明日香が英雄の体をおろすと、そのまま地面に仰向け
に倒れ込みながら、ばっと両足を開脚し、英雄の胴体を
捕食した。
「お望みどおり、締め堕としてあげます」
「あああああッ!」
 仰向けに寝ころんだ明日香と、その太ももの間に挟み
込まれてしまった英雄。
 男の胴体以上に発達した凶悪な太ももが、そのまま
ぎゅううううっと獲物に巻きついて潰し始める。

258
「ひいいいいいッ! しゅごいいいいいッ!」
 それは拷問のはずだった。
 これをくらった道場の男たちは泣き叫び、命乞いし、
一刻も早い解放を懇願し続ける。明日香の太ももをエロ
い目で盗み見ていた男たちも、明日香の下半身によって
一度締めつけられた後は、恐怖の対象として決して盗み
見るなんてしなくなる。そんな圧倒的な締めつけを受け
ているのに、英雄は恍惚とした表情を浮かべていた。
「そんなにすごいですか、師匠」
「すごいいいいッ! 明日香の太もも、これ無理いいい
いッ! 勝てませんんんッ! 負けますうううううう
うッ!」
「ふふっ、じゃあ、もっと強くしてあげます」
 ぼごんっと筋肉が隆起する。
 男の命を刈り取るための処刑モード。
 世界戦でも何人もの男たちを刈り取ってきた凶悪な太
ももだ。そんな足に締めつけられてしまっては、どんな
屈強な男でもひとたまりもなかった。
「上書きしますね」
 明日香がにこにこしながら言う。
「京香たちに締めつけられた記憶、今ここで上書きしま
す。明日香の締めつけ、堪能してください」
 ぎゅううううううッ!
 もはや声すら発せられない。
 息すらできない。
 英雄は口をパクパクさせながら、陸にあがった魚が苦

259
しむように締めつけられていく。恍惚とした表情のま
ま、英雄は本日一度目の締め落としを迎えた。

 *

 英雄の住まいは道場が準備したものだった。
 道場というより明日香が準備した。
 一人住まい。
 防音設備が施されたマンションの一室を明日香が英雄
に買い与えたのだった。
 一介の学生にすぎない明日香ではあったが、柔術の世
界戦でチャンピオンとなり、SNSでも全世界の人間が
フォロワーとなった彼女のもとにはスポンサーがひっき
りなしに現れた。動画サイトの登録者も500万人を越
えており、日頃のトレーニングの様子を動画にするだけ
で100万再生も珍しくなかった。
 たぐいまれな容姿と身体能力。
 さらには桁外れの財力さえ手に入れた明日香に不可能
はなかった。
「師匠……んんっ……好きいいい」
「あひん……ひい……あひ……」
 英雄の自宅。
 そこは二人にとっての愛のすみかになっていた。
 京香たちにボコボコにされた記憶の全てを明日香に
よって上書きされた後、英雄は今日もかわいがられてい
た。

260
「師匠……ジュウバアッ……じゅるる……好き……ん
ッ」
 ディープキス。
 明日香が仁王立ちをして抱きしめた英雄に上からキス
をしていた。身長差と体格差から、その愛の接吻は、捕
らえた獲物を捕食する肉食獣にしか見えなかった。
「あひい……ひい……んんっ……」
 豊満な体に埋もれるようにして抱きしめられ、上から
降りそそぐような熱烈な口づけの前に、英雄は白目をむ
いて悶えるだけ。
 黒目が少しだけ残ったトロンとした瞳。
 人間の意志だとか尊厳なんて残っていないアヘ顔。そ
れをさらしながら、英雄は明日香の舌使いに昇天してい
た。
 真上を向いて、まるでひな鳥が親鳥からエサでももら
うかのように、年下の長身少女からのキスに身も心も溶
かされていく。
「師匠……んんっ……かわいい……ジュルウウウッ……
もっと……」
 そんな英雄の痴態を明日香が凝視している。
 目をしっかり見開いて、自分の舌使いでビクンビクン
痙攣しながら悶えている男を観察している明日香。
 彼女の頬は赤く染まっていた。興奮しているのだ。執
拗に熱心に、ただひたすら舌でもって相手の口を犯して
いく。家に戻ってきてから1時間、ずっと飽きもせずに
英雄の口を犯し続けてきたのだ。それに英雄が耐えられ

261
るわけがない。
 どっびゅううううッ!
 びゅううううううッ!
「むふうううううッ!」
 射精。
 一物には一度も触れられていないのに、英雄はあっけ
なく射精した。年下の少女からのディープキスだけで、
興奮の限界に追い込まれ、自身の子種を強制的に奪われ
てしまった。
「ふふっ、師匠、3回目のお漏らしですね」
「あひん……あ、あしゅかあああ」
「まだキスだけなのに3回目も射精しちゃって、師匠は
なさけないでちゅね~」
 あおる。
 額と額をくっつけて、至近距離からとろけた男を見つ
めながらの、愛情たっぷりの言葉責め。英雄が「ううう
うっ」と呻いて屈辱に染まった顔をしたのを見た明日香
は、ギラリと目を輝かせて、肉食獣へと変わった。
「師匠」
 明日香が軽く一押しして英雄を地面に倒す。
 無様に転がった英雄のことをはるか高みから見下ろし
て、明日香が言った。
「舐めろ」
「は、はいいいいいい」
 英雄がはいつくばって明日香の足下で膝立ちになっ
た。そのまま、いつものように、彼女の秘所へと舌を伸

262
ばす。
「ジュパアアッ……ジュルジュルッ!」
 はじまったのは強制クンニだった。
 立ち上がったままの少女の足下に膝まづいて、英雄が
必死に性のご奉仕を始める。これまで教え込まされてき
た動きを続け、少女の象徴をぺろぺろと舐めていった。
「ん。いい感じですよ、師匠」
 勝ち誇った明日香が言う。
 彼女はそのまま、右足を上げて、英雄の頭部に巻きつ
かせた。ふくらはぎが英雄の後頭部にまわされ、膝裏で
がっしりと拘束。その状態のままで、ぐいっと英雄の顔
面を自分の秘所へと押しつけ、さらなるご奉仕を強要し
ていく。
「ふふっ、だいぶうまくなりましたね」
「ジュパアッ……じゅるじゅる……」
「厳しく躾たかいがあったというものです。えらいです
ね~」
 明日香が英雄の頭を撫で始める。
 慈愛をこめて、男の頭を撫でて、性のご奉仕を評価す
る少女。支配者と従属者。それが一目で分かる光景。
 しかも、彼女は左足一本だけで立っているのだ。
 片足で立っているというのに、明日香は微動だにしな
い。丸太のような左足が圧倒的な存在感のままに地面を
踏みしめている。それは英雄がどんなにクンニをしても
変わらなかった。性的なご奉仕をされているというの
に、明日香はどっしりと仁王立ちしたままだった。

263
「ふふっ、準備OKです」
 明日香が妖艶に笑って言った。
 そのまま、自分の秘所に押し当てていた英雄を抱きか
かえる。
 お姫様抱っこ。
 明日香に水平になるようにして持ち上げられた英雄
が、
「ふああああ」と感極まったような声をあげた。
「ふふっ」
 明日香の笑み。
 顔を赤らめ、瞳をらんらんと輝かせた肉食獣が眼下の
思い人を見下ろす。
「今日も、たあっぷり犯してあげます」
 ねっとりと。
 男の脳髄を溶かすように。
「気絶しても犯し続けます。頭おかしくなっても犯し続
けます。いいですよね?」
 ウィスパー声。
 明日香の腕の中にかかえられた英雄も、熱に浮かされ
たようにコクンコクンと首を縦にふり続ける。それを見
下ろして、
「ふふっ」と笑った明日香が歩き始めた。
 寝室へと。
 二人の愛のすみかへ。
 明日香の足音のみが響く。
 それは、肉食獣が、しとめた草食動物の肉を巣穴にひ
きずりこもうとしているようだった。

264
 *

「ひいいいいいいッ!」
 どびゅどっびゅうううっ!
 ビュッビュウウウっ!
 何度目になるか分からない射精。
 息も絶え絶えになりながら何度も子種を奪われる。
 汗だくになり、白目をむいて、快感で壊された男がこ
れ以上ない痴態の限りをさらしていた。
「ふふっ、またイっちゃいましたね、師匠」
 一人の男を壊し尽くしている少女。
 ベットの上。
 そこで獲物にまたがって、豪快に腰を振り続ける明日
香。
 彼女は今、英雄の体にもたれかかって、その豊満な体
でもって矮小な男の体を押し潰していた。大きなおっぱ
いが英雄の顔面を食らっている。英雄の頭部は完全に
おっぱいの海の中に埋もれ、溺れていた。
 パンパンッ! パジュンッ!
 そんなこれ以上ないほど密着した上での腰振り。英雄
は身動きすらとることができず、明日香とベットでサン
ドイッチにされて、射精をして叫び声をあげる人形にさ
れてしまっていた。
 何時間もずっと繋がったまま。
 明日香の名器が英雄を萎えさせることなく、永遠と勃
起させ、永遠と射精を繰り返させていく。

265
「ふふっ、でも少しやわらかくなってきましたね」
 明日香が起きあがる。
 繋がったまま上体だけを起こし、寝ころがったままの
英雄のことを見下ろす。
「カヒュ――カヒュウ―――」
 虫の息。
 白目。
 命を狩られている男の姿。
 それを見て、
「ふふっ」と笑って興奮した少女の手が、
勢いよく男の首をわしづかみにした。
「カンフル剤です」
 ぎゅううううううッ!
「かぎゅうううッ!」
 締めつけ。
 明日香なら片手だけでも十分なのに、その両手でもっ
て行う首締め。たちまち英雄の顔は真っ赤になり、恐怖
と苦しみで顔がぐちゃぐちゃになる。そんな男のことを
ねっとりとした視線で見下ろす明日香。効果はてきめん
に現れた。
「はい、完全勃起の完成です」
 自分の中で大きくなった一物。
 それを感じた明日香が、英雄の首を締めながら「ふ
ふっ」と笑う。
「便利でいいですね~。師匠が萎えたら首絞めればいい
んですもん」
「カヒュウ―――カヒュウ―――」

266
「ふふっ、普通こんなことされたら逆に萎えちゃうと思
いますけど、師匠は興奮するんだから不思議です。で
も、苦しそうにしてる師匠を見て明日香も興奮できるん
だから一石二鳥ですよね。わたしたち、体の相性もばっ
ちりです」
 ぎゅうううううッ!
 締めつけが増す。
 ビクンと震える男の体。それを見下ろす嗜虐的に笑っ
た少女。
「このままセックスしましょうね」
 明日香が言う。
 満ち足りた表情。
 満ち足りた声色。
 身も心も充足した少女が腰を打ち付け始めた。
「大好きですよ、師匠」

 *

 英雄は意識が朦朧となりながら責めを受けていた。
 首を締められ、上からのしかかられている。自分の一
物は明日香の中に閉じこめられたまま全方位からいじめ
抜かれていた。
 パンッ! パンッ!
 肉が肉を殴打する音が響く。
 首にかかった彼女の手の強さも増す。
 酸欠で頭がまわらない。

267
 射精のし過ぎで冗談ではなく命の危険を感じる。
 苦しみと快感の中。
 普通だったら恐怖しか感じないはずなのに、それでも
英雄は満ち足りていた。
「しゅぎいいいッ! おへも、あしゅかじゅぎいいいい
いいッ!」
 首を締められて満足に喋れない中での告白。
 身も心も完全に明日香に溺れてしまっている。
 支配され、従属している。
 愛されて、従属している。
 肉体的にもこれ以上ないほど密着している彼女と彼
は、精神的にも一つに溶け合っていた。
「……師匠」
 英雄の言葉を聞いて明日香が熱に浮かされたように顔
を赤くした。
 力を増す首締め。
 勢いを増す腰振り。
 興奮した女豹が刈り取った獲物を犯し尽くしていく。
それは、彼女が満足するまで、何時間だって続くことだ
ろう。
(あすか……あすか……)
 英雄は犯されながら明日香のことしか考えられなくな
る。
 目の前で笑いながら腰を打ち付けてくる少女。
 かつての教え子。
 かつての妹弟子。

268
 自分よりもはるか年下の守るべき存在。そんな彼女に
完膚なきまでに敗北し、力でも技術でもボコボコにさ
れ、セックスでも手玉にとられる。男としてのプライド
なんてバギバギに折られて、ただただ彼女の庇護のもと
で生かされていく毎日。
 それでも英雄は幸せだった。
 これ以上の幸福なんて存在するはずがなかった。
「師匠♡」
「……明日香」
 熱に浮かされた二人。
 その日も、
 夜遅くまで、
 二人の愛が終わることはなかった。

 完

269
あとがき
チビ煽りに特化した物語が書きたい。
そのための小説となりました。もともとは有料版を販売する予
定はなかったのですが、なんとか販売をすることができまし
た。イラストはこれまで同様に、てつのひじ先生に描いていた
だきました。身長差や体格差が強調されたすばらしいイラスト
の数々、ありがとうございます。表紙のムチムチの太ももが特
にお気に入りです!

以下どうでも良い話です。
小説はポメラで執筆しています。電池で起動するDM100が
お気に入りです。途中でDM250が販売されたので購入しま
した。DM200の生産が終了してDM250の技適が一時取
り下げられて、もうポメラは販売されないのだと思い、慌てて
DM100を予備にいくつか購入しました。DM250が出て
くれてよかったです。
「成長した~」の終盤の誤字脱字チェック
などはDM250でやりました。ファンティアの小説はDM2
50で書いてます。長編はこれまでどおりDM100で書くと
思います。これからもがんばります。

著者名 nyoson
イラスト てつのひじ
発行日 2022 年 10 月 1 日
印刷 シメケンプリント

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