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Renovation
Renovation
改修 京都西山の家
House in Kyoto Nishiyama
Renovation
京都府京都市
南側全景。1976年に竣工した吉村順三設計の「京都西山の家」(『新建築』7702掲載時は「松ヶ崎の家」)の
改修。現オーナーがこの住宅を引き継いだ時は増改築が繰り返された状態だったため、竣工当時の状態に戻す
ように改修を行った。庭は杉本博司氏が作庭。外装の木材は、京都の洗い師が木の素地を出しつつ清掃した。
0 4 0 2022 12
2022 12 0 4 1
居間から庭を見る。床は既存のカーペットを剥がし、出てきたコンクリートをそのまま研ぎ出した。
天井のラワン合板はオリジナルのまま使用。壁は解体し左官で塗り直した。
0 4 2 2022 12
巡り会いの家 西山の家はもともと画家のために設計された家で 線など、とことん生活する人の心地よさを考えた
仕事柄、国内外からゲストを招く機会が多く、 あり、アトリエと住居を兼ねた設計であったため、 設計であると思い知らされる。一見簡素であり
ikken設計室の吉田隆人氏と共に京都の物件を ゲストを招く場所としてもギャラリーとしても非常 ながら、住むほどに奥深さを感じる建築である。
探していたところ、図らずもこの吉村順三氏設 にマッチしたように思う。加えて、海外からのゲ 今回の改修に差し当たり、オーナーとしてのリク
計の西山の家と巡り会った。主人が不在となっ ストにはなおのこと、洋と和の要素が混じり合っ エストは、職人や作家の丁寧な手仕事が残る改
たその家は元の姿を失いつつあったが、それが た吉村氏の建築は、日本の生活様式を体感しつ 修にしたいと伝えた。
かえって再生することへの意欲と使命感となり2 つも、彼らにとって無理なく過ごせるバランスの オリジナルを後世へと繋ぐ使命感と同時に、職
代目オーナーとして譲り受けることとなった。 とれた空間であることも魅力のひとつである。 人の技が活かせる場を提供したいという想いは、
吉田氏の師である中村好文氏は、かつて吉村順 西山の家で過ごして思うのは、随所への機能的 結果として細部まで手が行き届いた空間となり、
三氏の設計事務所で家具デザインを担当してい な計らいもさることながら、そのディテールの意 より豊かな居心地のよさへと繋がっている。
たこともあり、不思議と導かれたような縁を感じる。 図に気づき驚かされること。景色の見え方、目 (現オーナー)
2022 12 0 4 3
左に庭を、右にライブラリーを、正面奥にゲストルームBを見る。室内側の窓額縁
は新しくつくり替えた。ライブラリーのカーペットは既存の色味を参照し張り替えた。
居間から食堂越しにダイニングルームを見る。ダイニングルームは
改修するまでの間に増築された。食堂、台所はカウンターを新設。
0 4 4 2022 12
食堂から見通す。椅子はカウンターに合わせてikken設計室がデザイン。右手の開口部の
上部に空調を新設した。また収納だった窓の下のスペースにも温水パネル放射暖房を設置。
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普遍性を感じながら
西山の家は、画家のために設計された住宅で
あったが、作品を収蔵するための画庫は容量を
遥かに超え、作品保管のために大規模な増築
が行われていた。工事はまず竣工時の状態に近
づけるように減築を行い、鬱蒼とした植栽を整
理することから始まった。
高低差のある敷地のため、エントランスは地下
階に配置されている。元は車庫とエントランスが
同じ空間であったが、今回の計画では壁を設け、
建物へと導く空間をより効果的につくっている。
地下階はほぼオリジナルのプランに近く、ふたつ
の階段のうち、北側の階段はつくり直した。1階
は居間、応接室はほぼオリジナルの状態ではあ
るが、木製窓枠の調整を行っているため、壁に
関してはすべて解体し、砂漆喰により塗り替え、
2階ゲストルームA。子供室だったのを和室に変更した。和室の壁と天井は和紙袋貼り。
また居間の北側窓、天窓は老朽化に伴いつくり 床は目積畳。廊下の床はクリ材をなぐり加工で仕上げた。
直した。床の仕上げはカーペットを剥がし、出
てきたコンクリートをそのまま研ぎ出した。台所、
食堂
(増築) 屋根(増築)
ランドリールームの家具は新たに私たちの家具 台所 屋根(増築) …既存増築部分
(増築)
工房にて制作し、つくり付け家具に合わせ、椅
8帖間 3帖間 納戸
子なども制作する機会を得た。2階は、家族そ 食堂 台所
れぞれの個室からゲストを招く部屋へと用途が 床の間
変わったため、オリジナルのもつ魅力的な動線 子供室2
を活かしつつすべて改修した。アトリエは、螺 居間
旋階段をコンパクトにし、北・南窓とも大きくつ 子供室1
浴室
物干場
くり直している。オリジナルの建築に最大限の配 洗面所 テラス
(増築)
慮をしながら、丁寧にオーナー、職人たちとつく 応接室 画庫 寝室
池 クローゼット
り上げた改修工事となった。 (吉田隆人)
アトリエ(増築)
吹抜け
N
書斎 アトリエ
サンルーム アトリエ アトリエ
(増築) 吹抜け
(増築)
改修前1階配置平面図 縮尺1:300 改修前2階平面図
初出掲載誌面(『新建築』7702「松ヶ崎の家」)
0 4 6 2022 12
和室であった空間に水回りを
浴室 増設し主寝室とした。
4,500
主寝室
廊下
廊下幅を広げ、天井を板張りから漆喰へ変更し
突き当たりにトップライトを設けた。
ゲストルームA
子供室2部屋を和室に変更。
四畳半のスペースは
5,400
和紙袋貼りで仕上げた。
シャワー
ルーム
18,300
主寝室を洗面・浴室を備えた
ゲストルームに変更。
洗面所のトップライトは新設。
3,600
ゲストルームB
洗面所 浴室
テラス
2階廊下は幅を広げ、突き当たりにトップライ 2階浴室と水回り。洗面所にトップライトを
トを新設。また天井は板張りから漆喰塗りに 新設した。床はヒノキの漆塗り。浴室の壁と 下部の庭を印象的に見せるため、
4,800
ライブラリー 2階の開口を撤去。
変更し、壁と一緒に塗り直した。 天井はヒノキ縁甲板仕上げ。 吹抜け 吹抜け
オリジナルは
吹抜けと戸襖で仕切れる書斎。 増築部分は安全上スラブを残した。
ロフト幅を広げ傷んでいた 屋根越しに大文字を眺めるテラス
螺旋階段をつくり直している。 として利用。
大文字山を眺められる開口に変更。
2階平面図 600 4,200 1,500 2,400
この部屋のみ増築部を利用。
N
床は特注のタイル。
2,850
ダイニングルーム カウンター形式の台所に変更、
ランドリルームを配置。
ランドリールーム
台所
食堂
4,500
北西側の階段。開口の位置は既存のままで、
床仕上げは 苔庭
階段は新たにつくり替えた。 既存カーペットを撤去し トップライトおよび
出てきたコンクリートを 下部木製建具は新設。
研ぎ出した。
居間
5,400
18,300
ワインセラー
応接室は
オリジナルの状態を残し
3,600
仕上げを補修。 応接室 倉庫
苔庭 増築されていた
池 画庫、アトリエは撤去。
壁を立ち上げ
増築されていた 裏庭とした。
サンルームは撤去。
4,800
裏庭
ギャラリー
1枚の大きなガラスに
見えるようつくり替えた。
連結式の小幅網戸を付けている。
エントランスから玄関までを見通す。左手の
開口は車庫に繋がる。 1,200 6,900
1階配置平面図 縮尺1:200 8,100 3,000
洗面、
シャワールーム新設。
2,700
予備室
車庫
1,800
車庫とエントランスの間に新設壁を設け、
9,750
アプローチとした。
1,800
玄関は
研ぎ出しの床が続く、
玄関 上り框のない形式とした。
アプローチ
1,800
倉庫 倉庫
1,650
2022 12 0 4 7
地階平面図
ギャラリーの吹抜けを見る。床は既存のカーペットを剥がし、コンクリートを研ぎ出した。左手の庭は杉本博司氏が作庭。北側の大きな開口は縦幅を半分にし、
ふたつの窓を繋げて横幅を出していたところはひとつの大窓に変更。窓の下は収納を取り払い温水パネル放射暖房を設置。また敷地北側の法面を隠すように壁を新設した。
朝霧の庭 に幻視する。すると私の石寄せ場の石のひとつ
吉村順三の庭は荒れていた。その荒れた庭に追 が、私ですと手を挙げるのだ。そしてその石は
い討ちをかけるような庭の改修工事が、私がこ 最近寄せられてきた庭石だった。ある美術館が
の家を訪れた時に進められていた。その晩、私 ある事情により閉館することになり、
その庭にあっ
はその家で眠りについた。朝、薄明の頃に目覚 た庭石が到来したのだ。その庭は明治時代に作
めると、辺りには朝霧が立ち込めていた。この 庭され、石は滋賀県の三井寺にあったものだと
家は北側に山を背負っている、その山からの湿 いう。私はこの石を景石として友人に改築竣工
気が毎日のように駆け降りてくるのだ。この感覚 祝いとして進呈することにした。この石の対にな
はどこかで感じたことがある、そうだそれは西芳 る石としては、江戸時代と思われる古井戸石組
寺の庭だとその時思った。人はこの寺を苔寺と と橋石、それと高麗時代の朝鮮燈篭を置いた。
呼ぶ。同じように山を背にして苔が嬉しがる適 その周りに植えられたスギゴケは、ご宣託の通り
度な湿気に満ちていた。私はこの吉村順三の庭 に生き生きとして、その穂先の小さな水滴に深
は苔庭に最適なのではないかと、何かの啓示を い緑を宿している。
受けたかのように思ったのだ。友人の家主が寝 これは後日談だが、京都国立博物館で開催さ
ぼけ顔で起きてきた。私はお節介にも私の受け れた「茶の湯」展を最近見に行った。そこには
た霊感を話した。友人は怪訝な顔をして私にいっ 西本願寺伝来の盆石、銘「末の松山」が展示さ
た。
「それってお節介よね」。こうして私は無償で れていた。砂張盆は室町将軍家の宝である東
この庭を作庭する羽目に陥ってしまったのだ。 山御物で、その上に小さな石が乗せられている。
庭には景石が必要だ。私は常日頃から石を集め この盆石は秀吉も愛でたといわれる名品なのだ。
ている。見所のある石は、自然石名石を問わず そしてその姿形は私が友人に寄贈したあの景石
私の石寄せ場に寄せてある。庭の未完空間を と、得もいわれず響き合うものがあるのだ。私
見て、その空間に最適の石の配置を想念の内 は心の中で「しまった」と叫んだ。 (杉本博司)
0 4 8 2022 12
食堂から庭を見る。正面開口右の収納棚は新設。
ギャラリーから上にライブラリーを、下に庭を見る。螺旋階段は小さくつくり直した。 居間。右手のトップライトと建具は新しくつくり替えた。
正面の開口の先にはサンルームが増築されていたが、今回の改修に際して撤去した。 またトップライト側の天井は板張りから左官に変更。
9,000
600 4,200 1,500 2,400 300
▽最高高さ
屋根材は
既存の瓦を組み直した。 2階天井仕上げは
ラワンベニヤから、
壁同材の漆喰塗回しへ変更。
2,065
▽軒高
2,400
外部開口は 主寝室
2,250
3層分の階段は石、鉄、木を
可能な限り建具を残し、 組み合わせてつくり直した。
7,465
枠材はつくり直した。
▽2FL
屋根、窓周り含む外部化
粧木部は塗料を丁寧に洗
い出し、既存材を活かした。
収納としてデザインされていた
2,850
窓下は温水パネルを 食堂 台所
2,400
組み込み利用。
▽1FL
▽SGL±0
150
2,550
2,280
予備室
車庫
▽BFL
950
▽車庫 水下
断面詳細図 縮尺1:100
北側テラス。もともとアトリエが増築されていたため床のみを残した。屋根は既存の瓦を使って修復。
南側夕景。1階は既存の障子を利用、2階の障子は新設で、太鼓張りとした。 敷地東側から見通す。モミジなど樹木は既存のものを多く残し、池は既存のまま。
0 5 0 2022 12
壁/左官仕上げ t=3mm 特注タイル 壁・天井/左官仕上げ t=3mm 壁・天井/ヒノキ縁甲板 t=12mm その他 温水パネル放射暖房(PSヒーター)
(NOTA&design) 主寝室 便器/ TOTO 換気方式/第3種換気
天井/左官仕上げ t=3mm 既存ラワンベニヤ 床/オーク3層フローリング t=15mm(ATOM 洗面カウンター/制作左官研ぎ出し 給排水 給水方式/上水道直結
t=6mm SERIESE) 洗面用水栓金物/ドンブラハ 排水方式/下水道直結
厨房機器 壁・天井/漆喰こて押え t=3mm ゲストルーム A 給湯 給湯方式/ガス給湯器
食洗器/ miele 家具/置き家具 制作(ikken家具工房) 床/クリ なぐり加工(原田銘木店)
目積畳 撮影/新建築社写真部
オーブン/ベルタゾーニ 浴室 t=60mm
ガスコンロ/ ASKO 床/左官洗い出し(ストーンフィーネ) 壁/左官中塗り仕上げ t=10mm 和紙袋貼り
レンジフード/アリアフィーナ 壁・天井/ヒノキ縁甲板 t=12mm 天井/キリ縁甲板 t=12mm 和紙袋貼り
家具/つくり付け家具 制作(ikken家具工房) バスタブ/特注木製浴槽(檜創建) 設備システム
置き家具 無垢カウンター(大西仁) シャワー水栓金物/ドンブラハ 空調 冷暖房方式/ビルトイン 天井埋め
ダイニングルーム 洗面所 込みカセット型(ダイキン)
床/特注タイル(NOTA&design) 床/ヒノキ 漆溜塗り t=15mm(関健一) 床暖房 ガス温水式床暖房(大阪ガス)
2022 12 0 5 1
特集:住宅遺産の継承
津田山の家
(改修 G邸)
House in Tsudayama
神奈川県川崎市
アトリエ・ワン+東京工業大学塚本研究室
Atelier Bow-Wow+Tokyo Institute of
Technology Tsukamoto Laboratory
0 5 2 2022 12
南西側全景。1965年に竣工した浜口ミホ設計の「G邸(旧中村邸)」の改修。山小屋のような外観で、敷
地の北側半分に建物が寄せられている。2階の頂部から東側は、 「G邸」の竣工後に増築されていた。改修
に際して、外壁は既存の羽目板に耐候性塗料を塗り、周辺の風景に馴染む赤みのあるグレー色とした。バ
ルコニーの曲面コンクリート部分は出隅を補修し、鉄部手摺りと縦樋は改修前の色味を参照して塗り直した。
2022 12 0 5 3
玄関からホールを見る。地階は鉄筋コンクリート造。既存の開口部を塞ぐことなく耐震補強を行うために、多用室内と、ホールの
柱の外側に補強袖壁を追加した。開口部はサッシを再塗装し、ガラス破損部はシングルガラスに交換した。それ以外は既存のまま。
0 5 4 2022 12
右手に居間、左手に食堂兼台所を見る。階段は既存のものを使用。1階は階段を中心とした回遊性
のある動線計画で、既存の計画を活かした改修を行った。床はタモフローリングを新たに張った。
2022 12 0 5 5
1階居間。木造部分は構造用合板や金物補強で耐力を確保したうえで発泡ウレタン吹
付け工法により断熱補強を行い、気密性も高めた。天井は、既存のラワン縁甲板を剥
がし、発泡ウレタンを吹き付け、スギ縁甲板で仕上げた。天井高は4,260∼5,060mm。
0 5 6 2022 12
2022 12 0 5 7
食堂兼台所。タイルは既存のまま。天井はプラスターボードを張り替え、ポーターズペイント塗装とした。 階段から台所を見る。システムキッチンは新しく入れ替えた。
天井:
スギ縁甲板 無塗装 t=12mm w=105mm
発泡ウレタン吹付け(A種1H)t=65mm
既存鉄骨トラス
▽軒高 GL+5,750
内壁:
ポーターズペイント
構造用合板 t=12mm
軒天・樋: 制作カウンター
耐候性塗料
天井: カーテンレール受け
スギ縁甲板無塗装 t=12mm w=105mm
1,800
手摺り: 床:
ポーターズペイント塗装 タモフローリング(塗装品)t=15mm w=190mm
構造用合板 t=12mm
▽2FL GL+3,950
天井:ポーターズペイント
8,640
PB t=9.5mm
内壁:
ポーターズペイント 内壁:
構造用合板 t=12mm ガルバリウム鋼鈑シート貼り
発泡ウレタン吹付け(A種1H) t=30mm 居間 食堂兼台所 PB t=15mm
2,420
構造用合板 t=12mm
コンクリート手摺り:
出隅補修
▽1FL GL+1,530
1,530
床:
タモフローリング(塗装品)t=15mm w=190mm 鉄筋コンクリート補強袖壁
捨て合板 t=12mm
PB t=20mm
発泡ウレタン吹付け(A種1H)t=55mm
プラスチック束 ホール
▽GL±0
カーポート
2,465
タイル補修
土間コンクリ−ト t=100mm 床:
テラゾー仕上げ t=20mm
ナラシモルタル t=30mm
土間コンクリート t=100mm
▽地階 GLー1,120
▽カーポート GLー1,200
断面詳細図 縮尺1:60
4,500 4,500
13,500
0 5 8 2022 12
トイレ
バルコニー
2階平面図
1,100
1,350
トイレ 脱衣室 浴室
7,850
5,400
バルコニー 居間 食堂兼台所 主寝室
上:子供部屋B。今回の改修前に増築されていた部分で、既存の天
井を解体し、屋根の棟木に相当する鉄骨トラスを現しにした。カウン
ター前の壁は建主によって子供が作業に集中できる色が選定された。
下:子供部屋A。正面にある既存の本棚は1度取り外し、構造用合
板で壁を補強した後に再度設置した。 バルコニー
▽軒高 GL+6,720
外壁:
耐候性塗料
ケレン
子供部屋B ラワン堅羽目板 t=12mm
アスファルトフェルト
内壁:
ポーターズペイント N
2,770
▽2FL GL+3,950
6,720
ポーチ
多用室
主寝室
玄関
カーポート
3,950
床:
羊毛カーペット t=11mm ホール
フェルト t=6mm
構造用合板 t=12mm ▽主寝室 GL+1,150
発泡ウレタン吹付け
(A種1H)t=55mm
サンクンガーデン
床下スチールパイプ:
SOP
▽GL±0
床下: 新築部
珪酸カルシウム板 t=4mm 地階平面図
撤去部
既存
4,500
2022 12 0 5 9
南側全景。居間から直接庭に出ることができる。主寝室南側にあったバルコニーは地面に近く劣化していたことと、庭を広くするために撤去した。
2022 12 0 6 3
特集:住宅遺産の継承
改修 葉山加地邸
Renovation, Kachi Residence
in Hayama
神奈川県三浦郡葉山町
神谷修平+カミヤアーキテクツ
Shuhei Kamiya+KAMIYA ARCHITECTS
東側外観。1928年に竣工した、フランク・ロイド・ライトの弟子である遠藤新設計の「葉山
加地邸」の改修。国の登録有形文化財として指定されているため、オリジナルの保存をメイ
ンで行いつつ、既存のバックスペースなどに付加価値をつけるかたちで改修を行った。
0 6 4 2022 12
2022 12 0 6 5
テラス。改修は3つのレベルに分けている。テラスはレベル2(遠藤新のプレーリースタイルの意匠を継承し、新しくデザインした家
具を加え、歴史性と現代性を融合)で、プレーリースタイルの柱の石積みの意匠を応用して木製ブロックを積み重ね、ベンチを設計。
0 6 6 2022 12
2022 12 0 6 7
レベル1(保存に徹し、間接照明で照度を補う)で改修したサロン。窓の下に空調を設置し、上部の壁に間接照明を新設した。
黄色いソファはオリジナルの色と同じものを張り直している。
通常国内の歴史的建造物の保存・再生は、オ
リジナルの復元保存に徹するか、実用性を重視
して現代的な家具などを組み合わせるかの二者
択一になりがちである。それに対して、物理的な
意匠だけを保存するのではなく、意匠のもつ規
範や精神を保存していく「創造的保存」というア
プローチを採った。 (神谷修平)
▽FL−1,212
△FL−1,363.5
▽FL−2,317.95
プレイルーム。既存の設計で反復して用いられている三角形と六角形を継承し、
フレキシブルな用途に対応するスツールとローテーブルを制作。間接照明も新たに設置。
0 6 8 2022 12 ▽FL−3,499.65
主寝室。既存の木の色味に合わせて家具を制作。
使用人室だった地下は意匠的な特徴がなく、文化財としての改修制限が緩いため、レベル3(新しくデザインを施す)で改修。 寝室1。設計者がデザインした六角形のローテーブルと三角
床を抜き、また天井を吹抜けとすることで約100年前からの梁を露出させた。 形のスツールを置いた。
天井:
内装薄塗装 ジョリパット
(アイカ工業)
屋根平葺き部コーキング 天井:
内装薄塗装 ジョリパット
(アイカ工業)
開口部:
既存補修
内壁:
1,210
4,705
2,800
3,715
内壁: プレイルーム
2,425
1,775
内装薄塗装 ジョリパット
(アイカ工業)
サロン 床:
既存フローリング
クリア塗装 ▽FL+1,515
▽FL+909
床:
既存フローリング
クリア塗装
909 4,545 606 5,757
11,817
BB'断面詳細図
換気筒不足分取付け
屋根パーゴラ補修
天井:
755
内装薄塗装 ジョリパット
(アイカ工業)
天井: 開口部:
1,000
開口部: 既存補修
2,310
1,395
1,085
2,550
眺望室
床:
2,240
既存フローリング
440
クリア塗装
▽FL+4,848
▽FL+4,545
▽FL+4,242
床: 床:
既存フローリング 既存フローリング
クリア塗装 クリア塗装
開口部:
既存補修
1,515
天井:
2,400
内装薄塗装 ジョリパット
(アイカ工業)
2,790
ランドリー室
2,550
3,455
天井: ▽FL+1,515
外装高対候性薄塗材(アイカ工業)
2,395
2,065
壁: △FL+909
外装高対候性薄塗材(アイカ工業) 床:
既存フローリング
クリア塗装
テラス △エントランス FL±0
外壁塗装
床:
既存タイル補修
AA'断面詳細図 縮尺1:120
2022 12 0 6 9
サンルーム。建具の補修塗装、家具の再生(ガラス・ファブリックの追加)を施した。
プレイルーム
ランドリー室
シャワー 倉庫
・
吹抜け トイレ
浴室 トイレ メイクルーム
ライブラリー1 ライブラリー2
洗面脱衣室 キッチン サロン 吹抜け
主寝室
寝室2
寝室1
書斎
ダイニング サンルーム
眺望室
ギャラリー
地下1階平面図 テラス
N
2階平面図
: レベル1 歴史性を尊重し保存に徹するエリア
: レベル2 新規家具と照明により歴史と現代を
融合するエリア
: レベル3 現代的な考え方により歴史性を
再定義し再生するエリア
A
1階配置平面図 縮尺1:200
0 7 0 2022 12
敷地南のアプローチ夕景。
2022 12 0 7 1
特集:住宅遺産の継承
再生 喜多源逸邸
Restoration, Genitsu Kita Residence
京都府京都市
窪添正昭建築設計事務所
Masaaki Kubozoe Architects
0 7 2 2022 12
南側外観。藤井厚二により1926年に完成し、2006年に国登録有形文化財として登録された「喜多博士
の家」
(『新建築』2710)の改修。内外共に大きく変更を加えることなく、竣工当時の浅葱色の外壁へ戻
す補修、耐久補強を主に行った。今回の一連のプロセスは住宅遺産トラストの協力のもと進められた。
2022 12 0 7 3
2階和室より縁側2を見る。南側開口は細竹と腰部分を
すりガラスで構成され、柔らかい光と風を室内に取り込
む。庭のイロハモミジの樹冠越しに大文字山が望める。
右に居間1、左に居間2を見る。椅子座の目線の高さを考慮し、
床座である居室2を、床1段高くしている。
0 7 4 2022 12
階段室。元建主が「大文字」を眺められるよう、
2階建てとした。階段の手摺りは刃掛け仕上げ。
2022 12 0 7 5
上:居間1より居間2を見る。 下:縁側1より居間1を見る。 上:居間1。 下:居間2より庭を見通す。庭のイロハモミジは竣工当初から植えられている。
初出掲載誌面(『新建築』2710「喜多博士の家」)
0 7 6 2022 12
瓦屋根:
既存能登瓦 水切:
ずれ落ちや損傷等は修理 銅板新調材 t=0.4mm
笠木:
ヒノキ既存材 21×158mm
上框:
ヒノキ新調材 43×40mm
漆喰水切は既存下地を遺す
鏡板:
ベイスギ柾板新調材 削ぎ継ぎ
外壁左官壁:
浅葱漆喰仕上げ
既存壁刮げ落とし 側板:
水摺り(水摺土 1回)t=3mm ヒノキ既存材 30×140mm
中塗り(中塗土 2回)t=6mm 腐朽部を取り除き、同等材を用いて
上塗り
(浅葱漆喰 2回)t=2mm 埋木、剥木により繕う
ЅԬᷥণಊಠ
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南側立面図 縮尺1:250
後年の修理によるスギ板材
140
当初の浅葱大津壁を保存する
胴縁: 側板:
ヒノキ新調材 44×14mm 3本 ヒノキ既存材 30×140mm
腐朽部を取り除き、同等材を用いて埋木、剥木により繕う
鏡板:
ベイスギ柾板新調材 t=7.5mm 削ぎ継ぎ
地袋
押入れ
和室
次之間 床2
縁側2
2階平面図
過去の増改築部
(2006年6月竣工)
便所
1,000 1,000
玄関
階段室
過去の増改築部
1,000
7,500
(2006年6月竣工)
8,900
応接室
1,500
居間2
居間1
2,000
床1
本棚
900
縁側1
N
初出掲載誌面内の平面図 1階平面図 縮尺1:130
2022 12 0 7 7
北白川
ウィリアム・メリル・ヴォーリズ設計
増田友也設計 過去の増築部 駒井家住宅
K邸
過去の増築部
駐車場
過去の増築部
N
改修後北西側外観。竣工当初の北側部分は増改築によって失われている。 配置図 縮尺1:1,200
* 提供:窪添正昭建築設計事務所
色味表現検証:再生前* 色味表現検証CG:浅葱漆喰仕上げ*
外壁再生の工程
計画にあたって、まず過去に新素材にて修理されていた外壁仕上げ材を慎重に取り除き、外
壁全体についての詳細な調査を行った。そのうえで、関係者や有識者と建物についての公聴会
を行い、外壁を浅葱色とすること決定。ただし当初の浅葱大津は耐候性に劣るため、同等の
色彩と質感をもち、耐候性にも優る浅葱漆喰を仕上げ材に採用し、竣工当時と同様の材料や
工法により、何度か見本を作成したうえで最終的な配合と色味を決定している。後年の修理で
意匠が変わり、傷みも進んでいた戸袋などについても、当初の姿に戻す工事を行った。当初の
浅葱大津壁については標本を保存すると共に、軒下や戸袋に隠れている部分など状態のよい部
分を2ヵ所選び、竣工当時の貴重な資料として現状のまま保存している。今回の再生工事は、
再生前。 左上:既存仕上げ材を撤去し、竣工当初の壁面を現しにした。* 左下:後年の改修で意匠 京都市の「京都を彩る建物や庭園修理事業」による補助金の交付を受けた。また、白壁であっ
が変わり、傷みも進んでいた戸袋や屋根なども今回の工事で当初の姿へ戻した。* 右上:剥落した浅葱 た「喜多源逸邸」の姿は、複数名の写真家が撮影し、
記録として残している。 (窪添)
色の壁材サンプル。* 右下:有識者・関係者による修理方針の検討会。*
庭より縁側1を見る。縁側は床座ではなく、ガラス障
子で囲まれた椅子座のモダンな空間。
0 7 8 2022 12
再生 喜多源逸邸 建築面積 75.19m2
所在地/京都府京都市 (国登録有形文化財部分のみ)
主要用途/専用住宅 (許容50%)
延床面積 107.19m2
原設計 (国登録有形文化財部分のみ)
藤井厚二 (許容80%)
(竣工1926年 初出掲載『新建築』2710) 1階 75.19m2 2階 32.00m2
設計 工程
窪添正昭建築設計事務所 担当/窪添正昭 設計期間 2022年2月∼8月
施工 工事期間 2022年9月∼11月
安井杢工務店 代表/安井洋 担当/芝原忠 敷地条件
池田有爾 大工/馬場浩太朗 地域地区 第1種低層住居専用地域 10m高度地区
左官 壁勝 田中健一 その他の条件 山並み背景型建造物修景地区
瓦 竹村瓦商会 竹村優孝 遠景デザイン保全区域 屋外広告第2種地域
板金 ストロベリーセブン 橋爪均 道路幅員 東5.5m
家具 Relevant Object 駐車台数 2台(増築部分)+3台
照明 gallery KITASHIRAKAWA 工事費
構造・構法 総工費 5,060,000円(税込)円
主体構造・構法 木造 外部仕上げ
基礎 布基礎 屋根/能登瓦葺き
規模 外壁/浅葱漆喰仕上げ
階数 地上2階 最高高さ 7,500mm 開口部/木製建具
敷地面積 920.41m2 撮影/新建築社写真部
南側外壁近景。浅葱漆喰の外壁面は時間帯や天候によりさまざまな表情を見せ
る。板張りの外壁は、腐朽した部分を当初と同材のベイスギ柾板にて補修。
2022 12 0 7 9
特集
特集作品 6 題
烏丸御池のタイポロジーハウス
タイポロジーがつくる家 北山恒+川畑智宏
「意思決定 が 外在化される」ことについて 北山恒
特集論考:
御所町プロジェクト
背割下水とアンチノミー 吉村理建築設計事務所
土蔵と家とレストラン NIM
間・時・食を繋ぐ鏡 青柳創+青柳綾夏/アオヤギデザイン
2 階リビングの織屋建て町家 鞍馬口の町家
森田一弥+吉川青/森田一弥建築設計事務所
修学院離宮の家
水平連続窓と和風庭園 竹口健太郎+山本麻子/アルファヴィル
特集:町家・古民家の継承
烏丸御池の
タイポロジーハウス
Typology House in Karasumaoike
京都府京都市
東側外観。京都の二重旗竿敷地に建つ設計者の二拠点居住の自邸。南北に細長い京都独特の
町家を改修した。建築は正面の冠木門をくぐり路地を進んだ右手にある。この建物に立面はない。
2022 12 0 9 1
南側の表ニワから土間、居間、裏ニワまでを見通す。トンネル状の1階は暗い空間にし、ニワに意識が
向かうようにしている。構造用合板で固めた構造壁をカチオン樹脂モルタル仕上げとして、外部の塀と
一体化させている。床は硬質木片セメント版UC、天井は既存梁と明度を合わせたチャコールグレー OS。
0 9 2 2022 12
2022 12 0 9 3
0 9 4 2022 12
路地から続く室内。右手に路地のスギ板の塀が見える。既存の階段と同じ位置にφ=9mmの鉄筋で組んだ軽い階段を
設けた。その背後はトップライトの光を導く光壁。構造用合板AEP拭き取り仕上げ。構造壁小口の古材は土壁の中にあっ
た間柱で、ホールダウン金物を隠す付柱として再利用している。家具は設計者の東京の自宅で使っていた30数年来のもの。
2022 12 0 9 5
ロフトから見下ろす。書斎は1階からロフトに繋がる空気的に開放された空間。
床はクリフローリングなぐり加工仕上げ。梁や棟木などの構造躯体は既存のまま。
書斎。トップライトの光を下階に下ろしている。ロフトに見えるパイプは
リターンダクト。妻面に見えるパンチングパネルには2台の換気扇が組
み込まれており、室内空気を動かして一室空間の環境を制御している。
0 9 6 2022 12
タイポロジーがつくる家 ため、通りニワや火袋はもっていないが、路地 をコントロールするために、開口部には必ず縁
昨春、法政大学を退任し、近代以前の都市構 に繋がる表ニワと奧ニワを繋ぐ続き間で、片側に 側のような緩衝を設け、大きな一室空間となる
造をもつ京都と東京の二拠点居住、異なる都市 階段が並ぶ築100年ほどの京町家である。 ためファンを使ったリターンダクトや温度セン
水回り、
構造の中での生活実践をしてみようと物件探し 未接道宅地の再建不可物件なので、構造躯体 サー付きの換気扇を入れ、内部の空気を動かし
を始めた。 や外形の大きな改変は許されない。 て室内環境をつくることにした。
不動産屋から取得前の街区の奥深くにある二重 表ニワと裏ニワを繋ぐトンネルのような単純な空 既存にあるモノから設計を進めることは、新築
旗竿敷地の物件を紹介された。それは街区中央 間をつくろうと考えた。軸組構造では解けなかっ での設計行為とは異なり発掘するような作業で
の背割線に沿った京町家、長年空き家で、屋 たが、構造家の陶器浩一さんから柱を構造用 ある。個人の意志ではつくれない何者かに助け
根は落ち雨漏りのために崩れかかった家屋だ。 合板で固め4枚の壁で解く提案をいただいた。 られてできたもののようだが、それが時間概念
手描きの間取り図を見て、増築された南側の下 階段位置、水回りの配列は既存と同じ。それは が導入されるブリコラージュなのだろう。そして、
屋を取れば平入りの京町家のタイポロジーが浮 100年ほど前の続き間でも、間口2間半の中で それはタイポロジーがつくる空間なのだ。
き出てくることが分かった。間口が2間半と狭い 考えれば合理的配置であったのだろう。微気候 (北山恒)
書斎 寝室
2階平面図
土間 居間 縁側
裏ニワ
表ニワ
キッチン トイレ・洗面所 浴室
グレーは構造壁を示す
2階書斎と寝室の建具は常開の納まり。南北に風が抜ける。
1階配置平面図 縮尺1:120
改修前2階平面図
減築部分
N
寝室から書斎を見る。障子は既存の雪見障子と網代建具の
改修前1階配置平面図 縮尺1:200 脚に接木をして再利用。
2022 12 0 9 7
2,927.5 23
52.5 @207mm×14段=2,898mm
207 207
埋木
φ=8mm コーチボルト @265mm 10.5 166.5 30
24 118.5 24
▽2FL-152
24 15
20
2.3
158.6
60.8
既設柱を抱き込む4枚の壁
133
50
推定築100年の町家で間口方向に壁はない。内
20
.9°
199,1
装を剥がしてみると少し傾いていたり雨漏りでとこ
m m
6 6
1.7
ろどころ傷んでいるが、ほぞ穴のある柱や接木し
2
φ=
75
た梁からは時を紡いできた痕跡が確認できた。柱
φ=6mm 皿タッピングビス 21
0.8
は石場建てで外周は貧調合モルタルらしき土台に
載っていた。改修後は全面土間床を検討していた
上ツナギ: のでRCべた基礎として足元をしっかり固めること
St L-6×75×50mm
とし、ジャッキアップして一旦躯体を浮かせ、ま
105 9
ず土間基礎を確実に施工した。
耐震要素を集中させると力の伝達経路で無理が
生じるので、できるだけ力を分散させる「そっと寄
8.7
り添う」補強を心掛けた。間口方向は水回りの境
75
界部分を耐震要素とし、既設の柱を抱き込むよう
に4枚の壁を設置した。これにより、既設躯体に
無理な力を生じさせることなく、筒抜けのリビン
グ空間を実現した。 (陶器浩一)
.3
27
.7
16
15 100
@199.14mm×14段=2,788mm
P=
16 .6 4
3.6
5.7
.3
27
ささら:
St 丸鋼 φ=9mm
トラス組み
段板受け:
St 丸鋼 φ=9mm
PL t=2.3mm
φ=4mm 皿タッピングビス
段板 283 段板:
木集成材 t=20mm
段板受け: 216
St 丸鋼 φ=9mm
PL t=2.3mm
2.3
φ=4mm 皿タッピングビス
20
m
9m
≒R13 24 175 24
φ=
(R9∼18) 215.1
30 223 30
199.1
76 207
208.1
5.6
14
4.6
ささら:
15
St 丸鋼φ=9mm 28
トラス組み 7.2
4
m
9m
20
φ=
133
.9°
199.1
179.1
43.5 φ=9mm
50
24
7.2
°
136
.1°
43.9
▽1FL
階段部分断面詳細図 縮尺1:8
42
75
101
下ツナギ:
120
ベース: st L-6×75×50mm
78
St FB 9×65mm
2-M10アンカー固定
10 9
100
階段上から見る。手摺りはφ=21.7mmスチールパイプ焼付け塗装。 150
既存の柱・梁に留め付けている。 換気扇・温度センサー付き換気扇
収納パネル 棟梁上端高さ
既存垂木に新規垂木 h=200mm 補強
黒塩ビ管 φ=150mm 棟部、棟部換気材設置
手摺り St φ=21.7mm 焼付け塗装
隠ぺい型
ハウジングエアコン ラワン合板 t=9mm OS 既製樋
小口
構造用合板 UC ヒノキ板
鴨居ヒノキ材
3,935
壁:
構造用合板
古建具加工 AEP拭取り
寝室 書斎 すだれ
1,945
1,078
ライン照明
梁下 2,010
2,139
2,115
デスク
構造用合板t=24mm 構造用合板t=24mm
376
2FL
SUS 2B
庇:StPL t=3.2mm
溶融亜鉛メッキ
リン酸処理
補強梁 空調吹出し
隠ぺい型
ハウジングエアコン 中間ダクトファン
可動
梁下 2,509
梁下 2,454
パネル
2,350
2,350
壁内
キッチン スパイラルダクト 居間 土間 表ニワ
裏ニワ
硬質木片セメント板 t=12mm
ヒノキ板 t=12mm 床暖房パネル t=12mm
構造用合板 t=12mm 構造用合板 t=12mm
木下地 ウレタンフォーム t=50mm 木下地 ウレタンフォーム t=50mm
コンクリートスラブ コンクリートスラブ
リタンダクト開口(両面)
コンクリート 1FL
120
洗出し
171
0 9 8 2022 12 断面詳細図 縮尺1:75
裏ニワと縁側。織部灯籠、庭石、つくばいはすべて残置されていたもの。
烏丸御池のタイポロジーハウス (建蔽率51% 許容80%) 床/コンクリート洗い出し トイレ・洗面所
所在地/京都府京都市 延床面積 77.65m2 壁/樹脂モルタル仕上げ 床/ヒノキ板
主要用途/専用住宅 (容積率82% 許容300%) 天井/ラワン合板 t=9mm AEP拭き取り 壁/構造用合板 t=9mm AEP拭き取り
2 2
1階 48.10m 2階 29.55m 居間 天井/ラワン合板 t=9mm AEP拭き取り
設計 工程 床/硬質木片セメント板 t=12mm ウレタン塗装 書斎
awn / AWN 担当/北山恒 川畑智宏 設計期間 2021年7月∼ 2022年2月 壁/樹脂モルタル仕上げ 構造用合板 t=9mm 床/クリフローリング なぐり加工
構造 陶器浩一 高橋俊哉 工事期間 2022年2月∼ 10月 AEP拭き取り 壁/構造用合板 t=9mm AEP拭き取り
設備・電気 ピロティ 敷地条件 天井/構造用合板 t=24mm AEP拭き取り 天井/ラワン合板 t=9mm AEP拭き取り
照明 岡安泉 近隣商業地域 15m第3種高度地区 準防火地域 縁側 寝室
外構・造園 オイコス庭園計画研究所 外部仕上げ 床/ヒノキ板 床/クリフローリング
担当/笹原晋平 屋根/ガルバリウム鋼板 竪はぜ葺き 壁/樹脂モルタル仕上げ 壁/ラワン合板 クリア仕上げ
不動産仲介 いえ屋 担当/上村正義 外壁/ガルバリウム鋼板 竪はぜ(一部小波)葺き 天井/ラワン合板 t=9mm AEP拭き取り 天井/構造用合板 t=24mm クリア仕上げ
施工 一部スギ板 キッチン 設備システム
木々のや 担当/奥村英史 開口部/木製建具 アルミサッシ 床/硬質木片セメント板 t=12mm ウレタン塗装 空調 冷暖房方式/ハウジングエアコン
大工 今井康智 SHIMOKEN 担当/下出健一 外構/コンクリート洗い出し 石敷き 砂利敷き 壁/フレキシブルボード t=6mm ウレタン塗装 その他/温水床暖房
左官 小屋工業 担当/小屋恒男 植栽 天井/ラワン合板 AEP拭き取り 給排水 給水方式/直結方式
塗装 鮫島塗装 担当/鮫島弘義 その他/塀 スギ板 一部樹脂モルタル仕上げ 浴室 排水方式/合流方式
金属 ミツギ 担当/桑原正康 内部仕上げ 床/磁器質タイル t=8.5mm 給湯 給湯方式/ガス給湯器
建具 瀬戸建具 担当/瀬戸健一 土間 壁・天井/ヒノキ板 撮影/新建築社写真部
設備 山一工業所 担当/山口貴史
電気 徳弘電気 担当/徳弘修治
家具 守山工芸 担当/守山元之 平山日用
品店 担当/平山和彦 平山真喜子
外構・造園 オイコス庭園計画研究所
担当/笹原晋平
構造・構法
主体構造・構法 木造
基礎 直接基礎(べた基礎)
規模
階数 地上2階
軒高 約5,600mm 最高高さ 約7,250mm
敷地面積 130.82m2
(有効宅地面積94.77m2 路地状面積36.17m2)
建築面積 48.10m2
路地奥の表ニワ。春日灯籠、庭石は敷地に残置されていたもの。 既存町家の台所と同じ位置に設けたキッチン。柱を抜くために補強梁を入れ
右側の黒壁は隣家の外壁。左側のスギ板の塀は新設。 ている。その下は空調の吹出し。水屋棚は今回京都で購入した古家具。
2022 12 0 9 9
特集論考
「意思決定が外在化される」ことについて
北山恒(建築家)
4 4 4 4 4 4 4 4
提供:OMA
の結果できてしまったような意思決定が外在化 京都
された都市だ。 ところが、同じ未接道の再建不可物件であって
自律した建築物が、規模の大小に関係なく周囲 も、京都ではその置かれている文脈は異なる。
と無関係に、経済効率を狙って最大ヴォリュー 戦災にあっていない京都は近代以前の都市構
ムのエンベロップ(法的外形限界)を領有してしまう 造が残っており、中心地区は歴史地区として建
都市空間である。そこは、江戸からの地形的基 物高さが抑えられ、築100年を超す町家や商家
盤を引き継ぎながらも、震災、戦災、高度経済 が多数残されている。1950年に施行された建
成長期のスクラップアンドビルドなどを経て、絶 築基準法、都市計画法以前に存在していた建
えず上書きされ更新されていく。この資本ゲーム 物はほとんど自動的に既存不適格の違法建築と
フリースタンディング・オブジェクトの商品集合としての都市
City of the Captive Globe, published in Delirious New York. の中で「短期的利益の最大化」というルールに なるのだが、東京ではこのような未接道宅地を
drawn by Rem Koolhaas with Zoe Zenghelis.
支配され自動機械のように都市空間がつくられ クリアランスし是正することが狙われるのに対し
東京 ている。 て、京都では再建築不可である建物を維持する
東京は2002年の都市再生特別措置法施行以 長年、東京の木密にある都市組織(アーバンファ ことが認められている。
来、なし崩しに進む経済活性化のための規制緩 ブリック)の研究を大学でやってきたが、実際に 1950年以前に存在していたことが認められれば
和によって、実需要があるのか不明のまま巨大 未接道宅地をシェアやコモンズに変換する事業 京町家として承認され、行政の支援を受けるこ
再開発がいたるところで進行している。久しぶり を立ち上げようと企画しても、その未接道敷地も とができる。さらに、商家や工房などが遍在し
に訪ねると、街の記憶がすっかり消去され居場 接道敷地との合筆を狙った投資物件となってい ていた既存の都市構造を追認するように、職住
所がなくなる。再開発が行われた場所は、マー て思いのほか高価である。もともと木密リングと 共存特別地区という用途混在を推奨する地区が
ケティングの精度が高いのかどこでも同じ店舗 呼ばれるエリアは都心周縁の好立地であるため 中心地区に設けられている。京町家は通りに開
が並び空間のつくりもほぼ同じのっぺりとした風 不動産開発のターゲットになっているのだ。 いて商売ができるようにしたつくりとなっているの
景となっていく。これがレム・コールハースが名 木密の都市組織は脆弱なので開発によって容易 で、道路との浸透性が高い。そのため街区の内
付けたジェネリックシティだ。1980年代、ブレー に壊されてしまう。その未接道の再建不可物件 側ではなく通りを挟んだ両側町というコミュニ
ドランナーで使われた悪意のある?東京の未来 は震災や戦災の時につくられたバラックが出自と ティの構造をもっている。間口が狭く平入りで、
都市イメージは、それでも文化アイデンティティ なっているので、建て詰まった木造家屋ではあ 通りから奥行きが長く
「通り庭」
や「続き間」
で「奥
を背景とした都市の可能性を示していた。だが るが 類型化できる建物としてのタイポロジーは 庭」まで繋がるトンネルのような空間が特徴であ
2022年、現実に展開している東京は資本活動 存在していない。 る。この京町家の原型は江戸中期に形成され
新設した冠木門の建具・軒瓦は隣家の写し。屋根上の鍾馗さんは残置されていたもの。 切妻の隣家に挟まれた二重旗竿の路地。この路地が都市との
緩衝をつくっている。敷石は残置された市電敷石。
1 0 0 2022 12
© F.L.C. / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 X0114
現在も残るタイポロジーである。 が残置されていたニワは、造園家がその配置を
今回の対象物件は京都市内の歴史地区のほぼ すべて決めた。春日は表ニワ、織部は裏ニワな
中央に位置する街区の中にあり、さらにその街 のだそうである。その空間配置も約束事で決ま
区の中央奥深く、背割線に沿って置かれた築 る。庭石は役石といってそれぞれ役割をもって
100年ほどの二重旗竿敷地の再建不可物件で いて位置が決まる。構造躯体や残置された建具
4 4 4
ある。もとは街区の背割線から通りに向かって などによって設計が導かれる。そこでは意思決
4 4 4 4 4
一敷地で呉服屋の地所があって、この敷地のい 定が外在化している。
ちばん奥にその番頭が住んで地所の管理をして 都市内での配置は背割線に沿っているので、そ
いたそうである。所有者が通り側を区分して売 の背割線の両側は物干し場などがある都市の背 思想の塊としてのフリースタンディング・オブジェクト
(コルビュジエ/サヴォア邸)
却し、その敷地をぐるっと回るような袋路が長屋 中のようだ。その背割線を通して2階は思いのほ
のアクセスのために設けられ、この袋路に接道し か遠望がきく。卓越風である南北の風道になっ 的な建築なのだ。
て長屋の奥にある旗竿の敷地が当該敷地である。 ているので部屋の中に思いがけない風が流れる。 20世紀中葉、このモダニズムの運動によって都
連棟長屋でもないのに間口2間半、南北に細長 南北に設けた小さな庭は採光通気の微気候を 市組織(建築だけではなく社会構造も含む)が壊される
く平入りの町家の空間形式をもっている。敷地 調整する。平入りの切妻屋根の勾配で北側の ことに対抗する都市理論が提出されている。学生
奥に押し込められた短冊状の地割なのは、長屋 庭も思いがけず明るい。ここには都市構造に支 の時に読んだ『You can't design the ordinary』
と同じモジュールで組み立てるのが部材の汎用 えられた環境がある。 というニコラス・ジョン・ハブラーケンの
(1971年)
計画地
計画地
袋路
LLOVE HOUSE
ONOMICHI
広島県尾道市
スキーマ建築計画+スタジオバスケット
Schemata Architects+studio basket
1 0 2 2022 12
敷地北側上空から尾道中心市街地、尾道水道を望む。築110年を超える古民家を
宿泊兼文化交流施設として修繕し、尾道水道を一望する風景を将来へ残すプロジェ
クト。敷地は山の中腹に位置し、車が近づけるのは坂の下の国道までである。
2022 12 1 0 3
2階、寝室・広間からの眺め。東西に広がる尾道水道が端から端まで望める連窓が特徴的である。基本的に
は修繕を中心として、間取りは当時のまま、天はのレッドシダー板張り、壁は既存の土壁の仕上げを剥がしたう
えで中塗りのまま硬化させている。床に新たに畳を入れ直し、建具もレッドシダー材でつくり直した。レッドシダー
は高広木材から提供を受け、建具の制作は武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科木工研究室が協力。
1 0 8 2022 12
2022 12 1 0 9
広間から西側を見る。修繕にあたり間取りはほとんど変えておらず、この風景も当時のままである。
建物南側にある露天風呂。風景を楽しむためだけでなく、
工事で出た廃材を燃料とすることで処理する役割をもつ。
内風呂。既存の浴室を参照しながら、タイルを入れ替え
浴槽を含めて再構成した。タイルはLIXIL提供。
1 1 0 2022 12
階段室 トイレ2
廊下3
板の間
寝室 広間
2階平面図
上:玄関から階段・ダイニングを見る。
下:キッチン。設備はフレンチ料理店sioの協賛および監修。
370
1,755
キッチン 洗面所
洗濯室
内風呂
955
廊下2 階段室 トイレ1
955
倉庫
8,810
ダイニング
1,910
アトリエ
はなれ 廊下1
居間
1,910
和室
955
縁側
玄関
1階配置平面図 縮尺1:100
N
露天風呂
表門
浄化槽 2022 12 1 1 1
建物南側から居間を見る。縁側のガラス戸は、当時か
らある古い建具を修理してそのまま利用している。
建物南東角の居間が建物内でもっとも沈んでおり歪みもひどかった
ため、躯体をもち上げ、柱梁を差し替える工事を行った。
1 1 2 2022 12
LLOVE HOUSE ONOMICHI 内部仕上げ
所在地/広島県尾道市 居間
主用途/宿泊施設+文化交流施設 床/新規畳
壁/既存土壁仕上げ剥がし 硬化剤
設計 天井/新規レッドシダー板(提供:高広木材、
スキーマ建築計画 担当/長坂常 松下有為 以下同様)
石橋知美 ユン・ヨンシク 山口大輝 和室
垣田伊武紀 山下裕子 庄里佳子 床/新規畳
studio basket 担当/中田雅実 壁/既存漆喰
施工 天井/既存板張り
宮大工 のじま家大工店 担当/野島英史 縁側
市川歩 床/既存板張り
屋根・樋 藤井製瓦工業 担当/藤井孝浩 壁/既存土壁仕上げ剥がし 硬化剤
内装・露天風呂・浄化槽・雑工事 TANK 天井/既存軒天
担当/福元成武 土谷豊 荒井隆志 キッチン ダイニング アトリエ 廊下2 倉庫
新井隆史 樋口青彦 溝口裕司 大島伸吾 床/既存板張り
大工 前岡工務店 担当/前岡亮太 壁/既存漆喰
大工 神田太郎 天井/既存躯体現し
左官 左官工業島田組 担当/島田典幸 トイレ1
畳 西原たたみ店 担当/西原修 床/既存タイル貼り 縁側上部近景。ワークショップで作成した 居間にある、竣工時からの意匠が残る一角。
建具・家具 武蔵野美術大学 工芸工業デザイ 壁/既存タイル貼り 既存土壁 パーツで屋根の隙間を埋めている。
ン学科 木工研究室 担当/熊野亘 天井/既存軒天 既存屋根:
瓦葺き(土葺き)
大嶋洋二郎 佐藤佑 便器/タンクレストイレ(提供:LIXIL) 瓦:
菊間瓦 万十
建具 尾道建具 担当/増本良司 内風呂
新規天井:
電気 高垣デンキ産業 担当/赤木祐太 床・壁・天井/新規在来工法タイル貼り(提供: レッドシダー板
給排水 川岡設備工事 担当/川岡祥侍 LIXIL)
ガス 広島ガスライフ 担当/榎本誠 階段室 廊下3
空調 SHIBI 担当/小林洸至 床/既存板張り
厨房 ホシザキ東京 担当/幸本正秀(提供:sio) 壁/既存土壁仕上げ剥がし 硬化剤
その他施工・運搬協力 ボランティアスタッフ多数 天井/新規レッドシダー板
既存軒:
構造・構法 板の間 化粧垂木天井
垂木 35×50mm
主体構造・構法 木造在来軸組構法 床/新規レッドシダー突板 広間
▽棟梁天端
1,330
既存壁:
土壁仕上げ剥がし
▽小屋梁天端 硬化剤
新規床:
2,735
寝室 広間
8,053
▽2FL
既存屋根:
瓦葺き(土葺き)
瓦:
菊間瓦 一文字駒付
2,955
居間
縁側
アトリエ
廊下2 ダイニング 廊下1
新規天井:
レッドシダー 板
▽1FL
530
▽GL
既存床: 既存床: 既存床: 新規床: 既存床:
板張り 板張り 板張り 畳 板張り
長手断面詳細図 縮尺1:100
御所町プロジェクト
Gose Project
奈良県御所市
吉村理建築設計事務所
Tadashi Yoshimura Architects
背割下水とアンチノミー
奥行きの長い敷地の背面を流れる、江戸時代に築
造された御所町の背割り下水は、ほぼそのままの
「宿チャリンコ」
(本誌120頁)
かたちで大切に保存され今も機能している。水をコ
ントロールできたことで奥に緑豊かな庭やハナレ、
工場、蔵などが自由に増築され、その間を縫うよう
に庭や土間が張り巡らされ、表通りとは背反する
風景をつくっている。連歌のように増築を重ねたあ
らゆる時代の建物の間に想定外の場所が生まれ、
計画された表とは違った魅力がある。過去に遡れ
ば表通りに面した土間は商売する場所として開放さ
れ、奥にある作業場や蔵からものが運ばれ、子供
たちは勝手に敷地の奥まで入り込み遊んでいた。
人びとが表通りから奥まで頻繁に行き来し、表と裏
が繋がっていた。表から見えないがゆえに長らく放
置され傷みも激しい奥に残る多くの建物を再生し、
表とは異なった豊かさをもつ空間を表通りに表出さ
せることでまちの空間体験に厚みが生れる。
まちの一角にある自邸「旧花内屋」(本誌1710)を少し
ずつ改修し、生活や仕事する場所として整えてきた。
2011年より現在まで、並行して大小さまざまなプロ
ジェクトにまちの「よろず屋」的立ち位置で携わって
きた。近所付合いの延長で店先の陳列方法を一緒
に考え、塀の修理に大工を紹介する一方、行政・
文化財専門家と話をする。古建具や木格子、古材
を近隣から譲り受けスポリアするために作業場で加 「桜茶屋」
(本誌123頁)
工し、近くに住む職人に土壁の発酵を教えてもらう。
職能を横断しながら生活と仕事の境なくつくること
を楽しんできた。まちには私同様住みながら商売を
している人びとが多く、職と住が混じり合った独特
な活気を生み出している。生活も商売も町と密接に
関わるため、町のこれからを真剣に考える人が多
い。そんな町に魅力を感じ近年県内外から移り住
む人や、飲食や宿泊などの新しい事業を始める人
も増えてきた。セルフビルドから会社組織まで規模
も背景も異なるが、まちの小さなスケール感が関わ
る人びとを繋げ面的な広がりを生んでいる。
表と裏、職と住、観光と日常、個人と組織、新
と旧といったさまざまなアンチノミーが複雑に重
ね合わさり、まちに活気が生まれるように、この
改修を続けていく。 (吉村理)
1 1 4 2022 12
「西蔵」(本誌1609) 「大和蒸留所」
(本誌1904) 「A+」
(本誌118頁)
「旧花内屋」
(本誌1710)
「辰巳蔵」
(本誌116頁)
「洋食屋ケムリ」
(本誌122頁)
2022 12 1 1 5
辰巳蔵
ふたつの通りの結び目 あった辰巳蔵と旧荒物屋の役割を反転させることで、通りからミセ空間(事務所)まで引きを取り、
明治元年建立の「旧花内屋」
(本誌1710)
敷地南東角に建つ蔵を、
私たちの設計事務所にリノベーショ 旧荒物屋は保管場所だけではなく、事務所の拡張として利用しながら通りから自由に出入りできる
ンした。蔵の西側に建つ長らく使われていなかった旧荒物屋を道に開放し、奥に隠れていた蔵を通 作業土間空間として町と繋がる。
りに現わすことで、西側の裏道と北側の表通りから続く通り庭を繋いだ。長大な高塀で囲まれた人 壁土を落とした後に残った既存貫越しに、辰巳蔵に新しく耐震補強のため挿入された貫立体格子が
気の少ない裏通りから敷地奥にある辰巳蔵の内部が見え、更に奥にある通り庭の気配も感じる。「辰 重なり合って見え、その向こうで漆器を保管してある「入れ子蔵」に繋がる。
巳蔵」と旧荒物屋の間に設けた半屋外の光庭は、蔵内部に光を取り込むだけではなく、層状に重なっ 土蔵の柱がすべて1、2階の通し柱であることを利用して、2階の耐震要素の50%を1階の耐震要素
た空間構成を照らし裏通りに表出させる。 に加えることができた。これによって1階は机天板の支持を兼用する最小限の耐震壁だけを設置した。
旧荒物屋の天井、壁のベニヤ仕上げを剥がし、耐震検討のうえ残された下地の荒板と中から現れ 既存蔵の外周に張り巡らされた貫壁のパターンを3次元で展開し、耐震要素でありながら、西日を
た土壁や厨子2階の床板をそのまま見せている。古建具と古材を保管する場所とミセという関係で 受け深い陰影をつくり、模型を置くなどの棚板の支持体にもなっている。 (吉村)
事務室から西通りまで見通す。耐震補強のため挿入した貫立体格子はデスクや棚の一部としても活用。
1 1 6 2022 12
990 990 990 990
N
床: うちくら
構造用合板素地
うちくら 荒壁 プラスター仕上げ
漆器の保管
事務室 くら
既存通気窓
ツインポリカーボネートはめ込み
荒壁 プラスター仕上げ
古階段転用 荒物屋
事務室
吹抜け
花内屋に続く通り庭
柱:新設 改修前
柱:新設 スギ 120×120mm
スギ 24×120mm 1階平面図
おいなりさん
縮尺1:400
立体貫格子構造
シダ
貫:新設
スギ 24×120mm
貫:新設
床: スギ 24×120mm
構造用合板素地
2階平面図
既存仕上げ撤去
壁下地材残し
(建蔽率79.55% 許容80%)
作業土間 路地
古い建具などの保管
延床面積 571.60m2(改修部83.71m2)
(容積率90.09% 許容200%)
1階 504.70m2(改修部68.03m2)
2階 66.9m2(改修部15.68m2)
工程
設計期間 2020年10月∼2021年3月
工事期間 2021年4月∼6月
3,020 760 880 敷地条件
西通り 地域地区 近隣商業地域 法第22条地域
20m高度地区
1階配置平面図 縮尺1:150
道路幅員 西3.6m
外部仕上げ
辰巳蔵 屋根/瓦葺 ポリカーボネート波板
所在地/奈良県御所市 外壁/漆喰・スギ板
主要用途/事務所+作業土間 開口部/既存木製建具転用 ツインポリカー
ボネート
設計 外構/植栽 コンクリート平板
吉村理建築設計事務所 内部仕上げ
担当/吉村理 小西健陽 作業土間
構造 ナカオ建築設計舎 担当/中尾敏也 床/コンクリート金ごて押え
施工 壁/既存壁下地材 既存荒壁
おかもと建築 担当/岡本啓達 天井/既存天井下地材
大工・基礎 中尾等 橋本恭二 石橋亮宏 事務所
左官 山中左官 担当/山中一良 床/構造用合板素地
電気 織田電気 担当/織田信英 壁/漆喰
構造・構法 天井/既存野地板補修
主体構造・構法 木造 設備システム
基礎 玉石基礎 一部コンクリート基礎 空調 冷暖房方式/エアコン
規模 換気方式/第3種換気
階数 地上2階 給排水 給水方式/上水道直結
軒高 4,345mm 最高高さ 5,865mm 排水方式/下水道直結 上:事務室から左に作業土間、右に旧花内屋に続く通り土間を見る。 下:光庭。面する
2棟の壁を解体し、北側にはトイレを新設し壁で囲った。既存庇の一部をポリカーボネート
敷地面積 634.50m2 給湯 給湯方式/ガス
2 2
とすることで、2棟を繋ぐ明るい居場所となっている。
建築面積 504.70m (改修部68.03m ) 撮影/新建築社写真部
▽軒高
1,170
新設梁:
▽軒高 スギ 120mm角
800
1,710
800
事務室 長持 貫: ツシ2階
スギ 24×120mm
ポリカーボネート
波板透明
構造用合板 t=24mm
ツインポリカーボネート
865
▽2FL 既存床板下地
はめ込み 既存天井下地材
865
595
既存仕上げ撤去
595
開口古建具はめ込み
605
事務室 光庭
605
うちくら
700
ばったり床机転用
635
521
構造用合板 t=24mm
▽1FL 既存床板下地 西通り
コンクリート土間
435
▽GL
断面図 縮尺1:100
990 990 990 990 990 990 990 990 990 2,090 990 1,980 1,980 990 2022 12 1 1 7
レストラン内部。既存の土蔵とハナレ座敷間の壁に穴を空け、1階ではカウンターテーブルが長手方向を貫く。
A+
多重入れ子 漆喰壁が見える。耐震補強を兼ねたこの巨大な白い漆喰壁は座敷と縁側の間に新設され日光を反
御所町の蔵元が手掛けた「西蔵」(本誌1609)「大和蒸溜所」(本誌1904)と連なるプロジェクト。 射し暗かった庭に明るさをもたらすと同時に、縁側を漆喰壁と庭に囲まれた高揚感を誘うレストラン
表通りに面した大和蒸溜所の敷地奥の庭に建つ、土蔵とハナレ座敷をフレンチレストランにコンバー へのアプローチとして再生した。蒸溜所のバーカウンターからも漆喰壁の手前に明るい庭を楽しむ
ジョンした。敷地の一番奥にある明治時代に建てられた蔵を覆うように昭和初期にハナレ座敷が増 ことができる。明るい廊下からレストラン内部に入ると、暗がりの向こうに4重目として蔵の外壁が
築され、さらに中庭や塀が新たにつくられてきたという時間的多層構造を展開させ、新しい多重の みえる。異なる年代に建てられた蔵とハナレ座敷は、狭い床面を有効利用するために上部に向って
入れ子構造をつくる。表にはない裏の重層的な空間の魅力を引き出すと同時に、隣の町家が解体さ アスタリスク状に垂壁を積層させる事で耐震補強しながら一体化した。8mの巨大なモルタル仕上
れて生まれた空地に面したトタン張りの妻面や、使われなくなった縁側、暗かった庭を再生した。 げのテーブルカウンター、寺の建替えに際し不要になった長押のケヤキ巨木廃材を積み上げた階段、
入れ子構造の1重目として見立てた妻面に新たに設けた入口を開けると明るい庭が見え、裏から表 天井に浮かぶ巨大なアスタリスク構造体が開口部の少ない狭い空間に配置され、インテリアスケー
に反転する仕掛けとしてトタンの壁を機能させている。庭に入ると2重目の縁側の向こうに3重目の ルではない土木構造物的スケールで設えられている。 (吉村)
既存瓦屋根 A+ 施工
所在地/奈良県御所市 下記のほか、本誌116頁「辰巳蔵」と同様
▽棟高 主要用途/レストラン 電気 ベルテック 担当/澤辰彦
既存天井板
墨漆喰仕上げ 厨房設備 フジマック 担当/井上収
1,150
816
アスタリスク構造
階数 地上2階
フローリングt=15mm バックヤード
構造用合板t=28mm 既存蔵外壁補修
軒高 4,680mm 最高高さ 6,785mm
816
▽2FL 既存床板
敷地面積 383.53m2
荒壁パネルt=26mm 建築面積 254.31m2(改修部48.95m2)
両面張り 漆喰仕上げ
(建蔽率66.31% 許容80%)
延床面積 419.25m2(改修部65.59m2)
2,515
透明ガラス
古材転用階段 透明ガラス
モールテックス (容積率109.32% 許容200%)
カウンター席 縁側 庭 蒸留所
1階 254.31m2(改修部48.95m2)
新設土台 墨漆喰仕上げt=7mm(下塗り共)
HD金物固定 モルタル金ごて押え 荒壁パネルt=26mm 2階 164.94m2(改修部16.64m2)
漆喰大壁仕上げt=2mm
▽1FL クリア塗装 下地 PBt=12.5mm
胴縁t=90mm(縦横 36+30mm@303mm)
工程
540
荒壁パネルt=26mm 桟木
▽GL 設計期間 2021年2月∼6月
工事期間 2021年6月∼2022年6月
1,000 985 985 985 985 1005 985 985 985 975
4,940 4,935
1 1 8 2022 12 断面図 縮尺1:100
庭から縁側を見る。縁側はハナレ座敷と同時期につくられたもので、老朽化の進ん
でいた箇所を取り替えている。客席の出入り口を縁側の最奥に設けることで、来訪
者は縁側を渡りながら、庭の眺めと共に建物の歴史の記憶を体験できる。
蒸留所
土蔵 座敷棟 蔵 座敷
明治時代 昭和初期
柱:130mm角 柱:110mm角
別棟 便所 漆喰大壁仕上げt=2mm
下地PBt=12.5mm
胴縁t=90mm 既存平面図 縮尺1:400
荒壁パネルt=26mm
建具新設
3重目垂壁 耐力壁
990
客席
庭 バーカウンター 荒壁パネル両面張り
井戸
カウンター 縁側 小屋伏図2
990
990
漆喰仕上げt=7mm(下塗とも) 4重目垂壁 水平構面/耐力壁
荒壁パネル下地 厨房 既存漆喰補修 荒壁パネルt=26mm 120×150mm 水平交い
荒壁パネル両面張り
古材転用ベンチ
990
小屋伏図1
古建具転用
トタン仕上げ
1,000 985 985 985 985 1,005 985 985 985 975
N
4,940 4,935 空地
2重目垂壁 水平構面/耐力壁
120×150mm 水平交い
荒壁パネル両面張り
1階配置平面図 縮尺1:150
2階床伏図
南東側外観。南東西面が接道する敷地に建つ。手前がコミュニティ棟、
奥が宿泊棟。
前面道路
庭
5,545
595 1,070 3,880
居住スペース
環濠
1,930
客室4
3,860
PB t=12.5mm
10
和紙
0
トイレ3
1,930
ミセ
(自転車屋さん) 自転車土間
庭 10,500
1,850 3,700 1,010 3,940 光庭
既存平面図 縮尺1:400
980
焼スギ板 PB t=12.5mm
t=9mm 和紙
5,880
通路 自転車土間
ガルバ小波板
1,960
洗面室
シャワールーム
トイレ2 トイレ1
客室1
980
貫:スギ t=24mm
1,030
スギ板 収納
柿渋塗装
PB t=12.5mm
既存ブロック 和紙
再利用 貫:スギ t=24mm
1,970
フロント
駐車スペース
PB t=12.5mm
和紙
6,000
柱新設
レンタサイクルスペース 本棚 貫:スギ t=24mm
ラワン塗装 交流ラウンジ
1,970
1,030
N
宿泊棟の通路。奥のコミュニティ棟と同じくコンクリート土間で、宿泊者が客室に自
配置平面図 縮尺1:150 転車をもち込むことも想定している。上部には天窓を設けて明るい吹抜けとした。
前面道路
1 2 0 2022 12 2,765 2,040 2,980
7,785
コミュ二ティ棟内部。内壁や天井は解体し、露出する既存の部材間に耐震
補強の抜き壁を挿入。それらが間仕切る気積の大きな一室空間とした。
既存瓦屋根土葺 ▽棟高
瓦葺き
800
ルーフィング
野地合板 t=12mm 既存野地板
既存垂木再利用 断熱パネル ▽軒高
既存屋根 構造用合板 t=24mm
120
貫:
スギ t=24mm
PB t=12.5mm 550
和紙 PB t=12.5mm 左官補修
和紙
既存吹抜け 240
120380120380120 380120 500
PB t=12.5mm
3,320
貫: 和紙 棚板 棚板:スギ
スギ t=24mm 棚板
既存天井保存 貫:
120 380120 380120380120
N
荷神社の巨樹の隣に巨大な灯籠さながらツシ2階の妻 スギ面格子 レジ台
面開口部から内部の格子が浮かび上がる。 (吉村) 客席1 土間
小上がり
カウンター席
腰壁古板材転用
客席2 厨房1
古建具転用目隠格子
スギ面格子
客用トイレ
庭
スタッフ
1,850
トイレ
厨房2
910 910
収納
1階配置平面図 縮尺1:250
吉村理建築設計事務所
担当/吉村理 里見佳香
構造 ナカオ建築設計舎 担当/中尾敏也
施工
120頁「宿チャリンコ」と同様
構造・構法
主体構造・構法 木造
基礎 玉石基礎 一部コンクリート基礎
規模
階数 地上2階
軒高 4,545mm 最高高さ 5,950mm
敷地面積 101.92m2
建築面積 67.55m2
(建蔽率67% 許容80%)
延床面積 94.85m2
(容積率94% 許容200%)
1階 67.55m2 2階 27.30m2
工程
客席1から土間を見る。上下でピッチの異なる面格子の耐震補強壁が吹抜けを貫く。 設計期間 2021年10月∼ 12月
工事期間 2021年12月∼ 2022年5月
縦:40×75mm 洋食屋ケムリ 敷地条件
55/2相欠 (構造:40×55mm)
所在地/奈良県御所市 地域地区 近隣商業地域 法第22条地域
横:40×75mm
新設梁 120mm (構造:40×55mm) 主要用途/レストラン 20m高度地区
角母屋間に入込み ビス止め
道路幅員 南3.6m 東3.6m
640
t=30mm N75×2本
20mm 梁
480
新設柱 受材
120mm角
160〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 240 320 400
40 40
新設柱 120mm角
受材 受材
新設梁 受材
40
120mm角
40
40
スギ厚板t=30 スギ厚板t=30
スギ厚板t=30mm
スギ厚板t=30
格子の変形に抵抗
新設柱
40
左:客席3からの見下ろし。 右:敷地南側、稲荷神社からの外観。機能の変化に応じて開口部を更新しており、
面格子構造詳細図 縮尺1:100 そのほかの外観は改修前のタバコ屋兼用住宅のまま。
1 2 2 2022 12
桜茶屋
町の縁側とキャンパスウォール
セルフビルドで仲間たちと3軒長屋を改修し、地域からの
要望が多いにも関わらず今までなかった場所である、子
供とお年寄りとの交流や子育ての世帯の拠点をつくった。
レストラン、ギャラリー、イベントスペースが完成し、現
在宿泊スペースを施工している最中である。
前面道路が袋小路で車の進入ができないことを逆手に
とって、表に対して閉じていたファサードを全面開口とし、
通りに開かれたまちの大きな縁側として再生した。春には
お年寄りやベビーカーを押す家族連れが散歩の途中に腰
掛け、線路土手の豊かな桜並木を眺めることができる。
通りに面していない敷地奥には、倉庫や水回り、ハナレ
として増築され洗濯物干し用の屋外テラスとして利用され
ていたフラットな屋上空間をもつ、コンクリート造の小屋
がいくつか未利用で放置されていた。表から見えない裏
手に、このような建築物が増築されるのは御所町ではよ
く見られる。小屋同士の間には大小さまざまなスケール
の空地が生まれて、意図されていない不思議な魅力があ
る。これらを解体せずにトイレや厨房などのバックヤード
として利用し、「図」である小屋群の間の「地」の空間を表
から連続するパブリックな路地として再生した。表の歴史
的文脈との不連続な面白さをペインターが小屋の壁=
キャンパスウォールに自由に装飾することで実現している。 南側外観。地域の人が交流する、レストラン兼宿泊兼ギャラリー
(吉村) 兼イベントスペース。宿泊スペースは現在工事中(建物西側)。
920
2,955 5301,001 2,004 968 968 1,986 1,295 3,130 5,588
宿泊室
(工事中)
井戸
階段
1,870
長屋3
界壁
2,100
既存仕上げ撤去
合板塗装仕上げ
畳の間1 畳の間2
2,904
空地 板間3
裏庭
左:2階ギャラリー。床を張り替え、界壁を解体し長手方向に抜けをつくった。
ベビーベッド
右:路地。奥に通り土間2と繋がる。床も同じペインターによるデザイン。 表通り
多目的トイレ
キャンパスウォール
3,802
長屋2 既存間仕切り壁解体
通り土間2 構造柱のみ残し 路地 キャンパスウォール
桜茶屋 敷地条件 既存仕上げ板撤去
下地左官補修 石タイル埋め込みコンクリート刷毛引き
N
界壁
地域地区 近隣商業地域 法第22条地域
所在地/奈良県御所市
830
施工 通り土間1 レジ
倉庫
自主施工 担当/山本智彦 西井勝哉
▽棟高
構造・構法 既存瓦屋根
1,005 1,001 1,003 968 968 969 1,017 1,017 1,019 960 2,583 1,780
主体構造・構法 木造
1,216
基礎 玉石基礎 一部コンクリート基礎
裏土間から外階段で上ることができる
▽軒高 湾曲板張り
規模 ギャラリー バーベキューテラスとして利用予定
ポリカ透明波板
階数 地上2階 漆喰補修
1,143
床一部解体し固定テーブル新設
断面図 縮尺1:100 天板は古材再利用
3,005 2,905 3,053 5,323 2022 12 1 2 3
レストラン入口へのアプローチ。岐阜県高山市の中でも古い商家や建築物が建ち並ぶ一角に
建つ。築約130年の土蔵をフレンチレストラン兼住宅にリノベーションした。1階は東西方向
に、2階では南北方向に空間を分節。南北方向に長いこの蔵の空間体験をそれぞれに踏襲
特集:町屋・古民家の継承
土蔵と家と
レストラン NIM
Storehouse, House, and Restaurant
NIM
岐阜県高山市
青柳創+青柳綾夏/アオヤギデザイン
Hajime Aoyagi+Ayaka Aoyagi /
aoyagi design
1 2 4 2022 12
土蔵東面のレストラン入口。明治期の姿をそのまま残す漆喰壁の外観に沿っ
たアプローチを抜けた、妻側東面から入る。新設した金属板張りの木製建具
の先に、象徴的な吊り階段を中心とした土間空間が広がる。
2022 12 1 2 5
リビング1から坪庭までを見通す。リビング1は土蔵で、ダイニングか
ら先は昭和期に増築された木造の下屋。右手前の合板壁には建具把
手を兼ねた縦リブを土蔵の柱梁と同じ間隔で設けた。
1 2 6 2022 12
正面に土間を、左手に厨房を見る。2階長手方面に分節する金属
壁は棟木からずらして挿入され、レストラン側では梁現し。金属壁
は一部吊り構造で、土間と厨房を隔てる間の間仕切りにもなる。
2022 12 1 2 7
土間上部の吹抜けから客室を見る。土壁側をライティングすることで、中央の金属壁に空間の像を映す。
3 点提供:アオヤギデザイン
吹抜け 客室
土間 ワインセラー
増築部
AA 長手断面詳細図 縮尺1:120
寝室 客席
吹抜け
土間 個室客室
リビング1 洗面 トイレ ワインセラー
改修前の土蔵内部。 上・中:2階内部。もとは階段以
外の全面に床が張られていた。 下:1階内部。奥の開口
が東面の出入口。
BB 断面詳細図 CC 断面詳細図
1 2 8 2022 12
間・時・食を繋ぐ鏡 ための壁を挿入する行為自体を設計のテーマに を介して下階に吊り下げ、薄い鉄板による吊り
飛騨高山の伝統的な町並みを残す大新町に、 し、挿入された壁のみで店舗のインテリアを成 階段と合わせて浮遊感をもたせ、亡霊的に振る
明治期から残る築約130年の土蔵を、フレンチ 立させようと考えるに至った。 舞わせることで土蔵がもつ独特の空気感を浮か
レストラン「NIM」と、オーナーシェフとその家族 大まかな壁配置の取っ掛かりとして、東西方向 び上がらせることを意図した。壁の芯ずれは、
の住まいにリノベーションする計画である。土蔵 に長い空間特性を活かすこと、そして限られた 構造面では耐震要素でありつつも効き過ぎない
は高山市が定める伝統的建造物群保存地区に 既存の窓位置の制約の中で、極力住宅部分に 効果を得て、硬さと柔かさを併せもつ既存架構
位置するため、外観にはほとんど手が付けられ 採光や通風をもたらすために、2階は空間を南 の特性を活かしながらも不足する耐震性能を補
ない。建主からはこの制約を逆手にとって、外 北に二分した。1階も同様の壁位置にして上下 強している。壁は金属板を貼ることで、既存部
観からは想像もつかないような世界観をもった 階を同一平面上に重ねてしまうと、下階の厨房 分とのマテリアルのコントラストを明確にすること
店にしてほしいと依頼を受けた。 から上階の客席の様子が把握しづらい。そこで、 に加え、この鈍く反射する壁は用途を分けるた
何の先入観もアイデアもないまま訪れた初見の 1階は上階とは直交する方向に壁を設けて空間 めに失われた片割れの空間を虚像として浮かび
既存土蔵は、間口4間、桁行8間と土蔵として を東西に二分することで、上下階の空間がL字 上がらせ、空間を完結させる鏡としても機能する。
はかなり大きく、立派な丸太による棟木と交錯 状にひと繋がりになるようにした。反転した住宅 壁を挿入する行為によって新たな空間を創造す
する2本の梁による高山らしい武骨な架構が印 側も同様、L字状に各部屋が連続し家族の気配 ることは、明治期からの時の流れを空間内に留
象的だ。まずは空間のスケールと架構の軸組み、 がお互いに伝わるよう意識した。 めながらも、生活と生業の拠点としての新たな
土蔵の暗がりが醸し出す独特の空気感を尊重す 大まかな壁配置を決定し、壁の存在が空間に 命を空間内に吹き込むことであり、地場の食材
べきだと感じた。一方で、この空間特性を壊さ 作用する効果について考えた。2階に挿入する を活かしながらも、まだ見ぬ料理の世界を創造
ずに壁を挿入して用途を二分することの難しさも 壁はあえて棟木の芯からずらして配することで力 しようとするシェフの想いを重ねた鏡なのである。
感じた。そして予算の都合で手を加える範囲を 強い架構の軸組を隠蔽することなく、むしろ強 (青柳創+青柳綾夏)
限定したい事情もあり、ふたつの用途を隔てる 調することを意図した。また壁の一部は吹抜け
910
910
客室
吹抜け
910
910
7,280
350
910
クローゼット
910
吹抜け
910
リビング2 寝室
910
上下階共通
レストランと住宅の境界線をまずは棟の位置に設定。
910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910
14,560
上下階共通
立派な木曽檜の棟木と梁を隠すことを避け、
また構造的にも既存躯体に影響を与えすぎないために壁芯を南へずらす。 2階配置平面図
C B
910
A ワインセラー
A
910
トイレ トイレ
上下階共通
玄関
住宅の長手の空間を遮らないために、 ストッカー トイレ 浴室 土間
910
梁間方向の壁は短い壁を短冊状に並べる。
910
7,280
キッチン 子供室
室外機置場 洗面
910
910
厨房
個室客室
910
坪庭 ダイニング リビング1
910
2階
910 910 910 910 910 400 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910 910
2 階床梁から縁を切る 4,550 14,560
1階
既存躯体への影響を最適化するために 2 階の桁行方向の壁は
C B
中央付近で互い違いにし、2 階と 1 階の構造壁の位置をずらす。 N
付属小屋
耐力壁の芯ずれに至るプロセス 1階配置平面図 縮尺1:200
2022 12 1 2 9
サービスカウンター(制作)/
クリ材(テーブルと同材)
黒皮鉄板下地
照明/間接ライン(遠藤照明)
ペンダント(コイズミ照明)
ワインセラー
床/土間たたき(既存)
壁/漆喰(既存)
天井/梁型 木製床板(既存)
建具/ガラス
棚収納(制作)/木製
照明/間接ライン(遠藤照明)
トイレ
床/コンクリート土間
壁・天井・建具/木毛セメント板
棚収納(制作)/木毛セメント板 木製カウン
タートップ OS
照明/間接ライン(遠藤照明)
厨房
床/塗り床
壁/ガルバリウム鋼板 木毛セメント板
天井/梁型 木製床板(既存)
建具/メッキ鋼板 ガルバリウム鋼板 木毛セ
メント板
棚収納(制作)/木製
レンジフード(制作)/ステンレス鋼板
照明/ライン(遠藤照明)
ヒートランプ(FUJIMAK)
キッチン ダイニング トイレ 洗面
床/長尺ビニルシート
壁・天井/ PB t=9.5mm EP
家具・建具/ラワン合板 オスモ塗装
洗面カウンター/ラワン合板 メラミン化粧板
サッシ/アルミサッシ(LIXIL)
厨房機器/既成システムキッチン
食器棚/ラワン合板 オスモ塗装(制作)
照明/ダウン・ライン(遠藤照明)
便器/水洗便器(ジャニス)
洗面用水栓金物/混合水栓(サンワカンパニー)
リビング1・2 寝室 子供部屋
床/長尺ビニルシート
壁/ PB t=9.5mm EP ラワン合板 オスモ塗装
天井/ PB t=9.5mm EP
建具/ラワン合板 オスモ塗装
寝室間仕切り家具/ラワン合板 オスモ塗装
照明/間接ライン(遠藤照明)
設備システム
空調 冷暖房方式/
ルームエアコン+アローファン
換気方式/第3種換気
給排水 給水方式/上水道直結
土間から吊り階段を見る。ささら板は極力内側に寄せることで
排水方式/下水道直結
階段をシャープに見せ、手摺りは階段の吊材で支え要素を最小
化し、吊り階段に浮遊感を与えている。 給湯 給湯方式/灯油ボイラー
撮影/新建築社写真部
設計 鉄筋コンクリート布基礎(改修部) 塗装鉄板(店舗サイン部)
アオヤギデザイン 担当/青柳創 青柳綾夏 規模 内部仕上げ
吊材 φ=10mm(SS400)
構造 朝光構造設計 担当/朝光拓也 階数 地上2階 土間 個室客室 既存梁
1 3 0 2022 12
昭和期の増築部分である住宅側のダイニング・キッチンを見る。 リビング2より寝室を見る。
構造設計のコンセプト
一般的に土蔵の土壁は住宅の土壁より厚く、せん断耐力が非常に高い。加えて、外壁の開口が最小限のため、桁行方向は外周の土壁だ
新規柔壁
けでも十分な耐震性能がある。一方、梁間方向は一般的に開口を大きく確保することが多く、この建築物では以前の下屋の増築に合わ
既存土壁
せて土壁の一部が撤去されていた。そのため、1階で耐震性能の不足が生じていた。今回の改修では、まず土壁からセットバックした位
置に面材を使った高耐力壁を配置して補強を行った。
最低限の耐震性能を確保したうえで、さらに構造的な観点から何ができるかを考えた時、建築家からの「既存の軸組からずらして壁を挿
入する」提案を活かせると感じた。靭性の高い壁を内部に挿入することには、大地震時の建築物全体のエネルギー吸収量を底上げするメ
リットがある。しかし、壁を追加すると平面的な剛性バランスが変わる点に注意が必要である。一般的に土蔵建築物は自重や中小地震を
受けて少しずつ変形し、傷んだ箇所があれば補修する。そうして、長い時間をかけて建築物を流れる力が安定していく。そのため、耐震
性能が不足する箇所を除いて既存建築物の力の流れを保てるよう、挿入する壁は低剛性のものにしたいと考えた。壁を軸組からずらし梁
に丘立ちさせることで、弾性変形域での壁の効きを弱められることを解析により確認できた。このほか、梁間方向の壁長の短い壁や壁端
の木梁の鋼板補強によって低剛性・高靭性の特性を付与している。既存の軸組からずれて挿入された壁は、架構全体で建築物のダンパー
のように振る舞っている。 (朝光拓也/朝光構造設計)
大変形域での
Q Q Q 脆性破壊の抑制
高耐力
脆性破壊の可能性
+ 高靭性 =
小変形域での
高剛性 力の流れの保持
低剛性
既存土壁の開口補剛用7倍壁
柔壁架構の配置 低剛性かつ高靭性の柔壁架構の特性
西側外観。板塀の切れ目が駐車場から
レストランへのアプローチと通じる。
2022 12 1 3 1
特集:町家・古民家の継承
鞍馬口の町家
House in Kuramaguchi
京都府京都市
森田一弥+吉川青/
森田一弥建築設計事務所
Kazuya Morita Architecture Studio
1 3 2 2022 12
南東側全景。築約100年の2連棟町家の角地側を改修。改修前は1階奥側に作業場をもつ職住一体型の織り屋建て
と呼ばれる町家で、老朽化が進んでいたため構造と断熱の補強、防音対策を施した。現在の敷地環境や新たな暮ら
しに沿った間取りに更新。外壁には焼きスギを採用し、新旧の建具や部材が調和を保つファサードとしている。
2022 12 1 3 3
2階リビングの織屋建て町家
京都市上京区の西陣地区に位置する、築約
100年の2棟続きの連棟町家の改修である。近
隣は今でも古い町家が密集するエリアで、街路
にはあちこちで織機の音が響き渡っている。角
地に位置するこの町家は織屋建てと呼ばれる形
式の平面で、奥に作業スペースとして広い土間
と吹抜けをもっていた。
ただ、1階部分は日当たりが悪く、冬の寒さも厳
しく、その対策が必要であった。基本設計では、
1階にリビングを置く案と2階にリビングを置く案
を並行して検討したが、1階が接する2面の街
路は生活道路で、日中は人も車も往来が思いの
ほか多く、騒音の心配があったこと、その一方
で2階は2面接道という条件から日当たりがよく、
プライバシーを気にすることなく、周囲の街並み
や行き交う人びとを眺めることができるということ
で、2階リビング案を採用した。
1階は既存の土間が広い平面形式を基本的に
継承した。玄関横に客を招く土間を配置し、ま
た庭側の土間は洗面との間にも壁を設けないこ
とで最大限広い土間を庭に面して確保し、奥さ
んの趣味の作業場や子供の遊び場となることを
想定している。1階の土間の中央に確保した板
張りの個室を寝室として使用し、子供の思春期
は個室を分割して一部を子供部屋として使用す
る予定である。1階に個室を配置したことで、場
面に合わせて個室を開いたり閉じたり、フレキシ
ブルに活用できる空間となると期待している。
構造的には、2棟続きの長屋形式の町家であり、
かつ妻側の既存柱の痛みが激しかったため、既
存の柱の内側に新しい壁を立てて構造補強をし
つつ、断熱および防音対策を行った。壁の構
造補強は棟続きの隣家とのバランスを考慮して、
妻側は合板で固定しつつも既存土壁を残して靭
性を確保し、桁行側の構造壁も竹小舞下地の
土壁とした。内側に新しい構造体をつくり直した
ため、既存の構造の多くが見えなくなってしまっ
たが、古い建具や板をできる限り再利用するこ
とで、建物の歴史と素材の記憶の継承を試みた。
また2階の中央に残る古い土壁もそのまま残して
露出させることで、ワンルームの中に拠りどころ
ができ、家族の団欒の場であるキッチン、リビン
グ、ダイニングを柔らかく区切っている。
(森田一弥+吉川青)
1階西側の土間から東側を見る。1階は暮らしの変化に柔軟に対応し得るように、中央北側の板間をコンクリート土間が
囲う明快な空間構成とした。子供が小さい現在では板間を寝室、土間は作業場や遊び場として機能している。
1 3 4 2022 12
2022 12 1 3 5
2階リビングから東側を見る。もともと1階にあった台所を2階に上げ、日当たり良好かつ街路との距離が取れたリビングダイニング リビングからダイニングを見る。1階中央の土壁はあえて既
キッチンとした。構造補強では、平側の既存柱の内側に新たな構造体を構築。一部露出した古い部材が際立つ内部となっている。 存のまま残している。
床の間
書斎
キッチン 吹抜け
板間 畳間 畳間
吹抜け 板間
リビング
改修前2階平面図
吹抜け
トイレ
土間 畳間 板間
駐車場
ダイニング
台所
土間
2階平面図 改修前1階平面図 縮尺1:300
1,020 1,820
935
1,925
浴室 洗面
寝室 土間
2,985
1,995
5,890
庭 土間
1,050
1,050
玄関
収納 収納 収納
920
920
トイレ
1階配置平面図 縮尺1:100
書斎から吹抜けを見下ろす。
1 3 6 2022 12
ダイニングからキッチンを見る。既存窓の位置を踏襲したガラス窓からは、
プライバシーを気にせず、周辺の街並みや街路の様子を楽しむことができる。
階段上部からリビング、
左奥に書斎を見る。2階の天井高は365∼3,320mm。
2022 12 1 3 7
N
配置図 縮尺1:2,000
天井/構造用合板 t=24mm
家具/ヒノキ合板 t=24mm ノンロットクリーン
クリア塗布
便器/ TOTO CS232B SH232BA TCF6622
洗面器・水栓金物/ LIXIL Y-LA401FYCB C V
寝室
床/スギフローリング t=15mm OF
壁/ヒノキ合板 竹小舞下地中塗り仕上げ(一
部既存土壁残し)
天井/構造用合板 t=24mm
家具/ヒノキ合板 t=24mm
設備システム
東側の土間。奥行き約2mの玄関を兼ねた居場所となっており、街路と寝室間のバッファーとしても機能している。 空調 冷暖房方式/ルームエアコン
換気方式/第3種機械換気
鞍馬口の町家 1階 61.86m2 2階 46.19m2 シンク水栓金物/ LIXIL JF-AJ461SYX JW その他/ガス式床暖房
所在地/京都府京都市 工程 トイレ 洗面 玄関 土間 給排水 給水方式/上水道直結
主要用途/専用住宅 設計期間 2020年7月∼2021年2月 床/モルタル金ごて仕上げ 防塵塗装 排水方式/下水道直結
家族構成/夫婦+子供1人 工事期間 2021年6月∼2022年5月 壁/ヒノキ合板 竹小舞下地中塗り仕上げ(一 給湯 給湯方式/ガス給湯器
敷地条件 部既存土壁残し) 撮影/新建築社写真部
設計 地域地区 準工業地域 準防火地域 15m第
森田一弥建築設計事務所 3種高度地域 旧市街地型美観地区 遠景
担当/森田一弥 吉川青(元スタッフ) デザイン保全区域 西陣特別工業地区
構造 柳室純構造設計 担当/柳室純 道路幅員 東4m 南4m
施工 外部仕上げ
現場監督 コラボ建築 担当/岸本周治 屋根/既存瓦葺き
大工棟梁 DENO建設 担当/出野篤史 外壁/焼スギ板 一部タイル貼り
中村静也 竹中梨矩 開口部/木製建具 アルミサッシ
左官 左官匠宮部 担当/宮部友之 外構/スギ板塀 OS
板金 佐藤板金舎 担当/佐藤晃 内部仕上げ
タイル 明美タイル 担当/井上博 リビング キッチン
材木 近治材木店 担当/神田一美 床/スギフローリング t=15mm OF
電気 KY電設 担当/吉本健二 壁/ ヒノキ合板 竹小舞下地中塗り仕上げ(一
水道 アクアライフテック 担当/田村正茂 部既存土壁残し)
既存古材板再利用
ガス キョウプロ 担当/山本公輔 天井/ヒノキ合板
左:洗面から浴室と庭を見る。 右:南側道路から庭を見る。庭の土には植栽を予定している。
床暖房 アミカーエコテック 担当/岸秀喜 厨房機器/
大屋根:
構造・構法 ガスコンロ/ハーマン DW30F2JTKST 既存瓦葺
既存野地板
主体構造・構法 既存伝統構法 換気扇(シェード)/富士工業 BFRS- 既存垂木
GW t=100mm
基礎 既存石場建て 1KM-751R SI
規模 家具/ヒノキ合板 t=24mm OF 天板:モル
階数 地上2階 タル研ぎ出し仕上げ
軒高 5,310mm 最高高さ 6,657mm
敷地面積 79.80m2 キッチン壁:
モルタル金ごて仕上げ 外壁:
焼スギ板 t=12mm
建築面積 61.86m2 撥水材塗布
通気層 t=15mm
透湿防水シート
(建蔽率77.52% 許容60%) GW t=100mm
108.05m2
延床面積 天井:
構造用合板 t=12mm
2,435
リビング キッチン
(容積率135.41% 許容200%) 袖壁:
既存土壁補修
下屋:
ガルバリウム鋼板 竪はぜ葺き
壁:
6,657
既存天井板再利用
壁: 床:
620
格子:
既存格子補修
2,191
2,725
腰掛け:
古材再利用
庭 土間 寝室 土間
庭塀: 土間:
スギ板 t=15mm OS 床:
スギフローリング t=15mm コンクリート金ごて仕上げ 壁:
構造用合板 t=24mm ガス温水式床暖房 タイル t=7mm
スタイロフォーム AT t=50mm
534
防湿フィルム
捨てコンクリート t=150mm
150
150
2 階リビングの可能性
森田一弥(建築家)
ダイアグラム
である。
「夏を旨とする」
といわれてきた日本の住宅 このように世界のあらゆる地域・気候において、 には高齢化した夫妻の居場所(介護の場)になるか
では、2階は夏の暑さが問題になるが、現代では 地面から離れて暮らす、2階リビングの例は枚挙 もしれない。想定し得ない「他者」の存在の可能
夏の暑さは断熱とエアコンで対処可能である(もちろ にいとまがないが、そこで共通するのは2階に住 性も否定できないが、
「2階リビング」がそれらす
。
んその度合いとエネルギー消費には地域差があるが) まうことでプライバシーや温熱環境などの快適さ べてを柔らかく受け入れてくれることを期待したい。
ふたつ目は開放性とプライバシーを両立させやす を確保しつつ、1階はその土地での生業や社会
*1
いことである。2階のリビングは眺めがよく、同時 的活動との基点や接点としてフレキシブルな空 「紫竹の町家」(本誌1606)、
「法然院の家」(本誌1702)、
「大原の家」(本誌2011)、「静原村の家」(本誌2206)、
「鞍
に街路から距離があるため、窓を開放していても 間運用を行っていることである。 馬口の町家」 (本誌132頁)。このうち3作は古民家のリノベー
ションである。
プライバシーを保ちやすい。2階から目が合うとす 「他者」を受け入れる場の回復 *2
『世界住居誌』(布野修司、昭和堂、2005年)
2022 12 1 3 9
特集:町屋・古民家の継承
修学院離宮の家
House in Shugakuin-Rikyu
京都府京都市
竹口健太郎+山本麻子/アルファヴィル
Kentaro Takeguchi+Asako Yamamoto
/Alphaville Architects
1 4 0 2022 12
母屋南側全景。修学院離宮周辺の山裾に建つ専用住宅を、住宅兼セミナーハウスに改装。
既存アルミサッシと間の壁を取り払い、雁行する部屋の外形に合わせた出窓を挿入し、和の
プロポーションをもつ室外と洋のプロポーションをもつ室内を有機的に接続した。
2022 12 1 4 1
水平連続窓と和風庭園
修学院離宮の麓、大通りから坂を登ると突如開
ける京都の歴史的な高級住宅街に位置するこの
住宅は、1980年代に建てられた社長宅であり、
立派な門構えと和風の庭に圧倒される。数寄屋
風の繊細な玄関から1歩中に踏み込むと、濃茶
で塗られたいわゆる洋風な意匠が施され、アル
ミの窓越しに和風庭園が断続的に見える和洋折
衷住宅であった。数年前に住まい手が変わると
同時に用途も変わり、母家と離れがブリッジで
繋がれた大規模な住宅を、住宅兼社員のセミ
ナーにも使えるよう、母家1階は訪問者が利用
する公的な広間。2階は訪問者のための宿泊空
間に、そして離れの2階をオーナーのための住
居へ改装することになった。
今回の改装の主題のひとつは、チグハグな和洋
折衷の意匠を、特に上質な素材が使われた和
の意匠を残しながら調停していくこと。ふたつ目
に、四方を緑に囲まれながら、アルミサッシの
単調な窓の連続によって暗く閉塞感を醸し出し
ていた開口部の改変が求められた。
中でも大きく改変したのは、日本庭園に面する
南側と、山の豊かな緑に隣接する北側の窓であ
り、これらの場所は椅子を配する洋間ではある
が、外部の環境は和風のプロポーションに則っ
ており、その間を繋ぐ開口には、庭から和風の
意匠が流れ込んでくるように、水平方向の広が
りが必要であると考えた。そして、景色が和風、
室内が洋風でありながらバランスの取れた和洋
折衷の空間を目指した。
和室については、外装はアルミサッシだが、内
部の障子が線の細い美しいものであり、壁の仕
上げをやり直すだけに留めている。窓を改変す
ることで四周から室内に入る光を編纂した結果、
それぞれの内外の空間の関係性が変化した。こ
の住宅ではさらに壁の色を調整することで、和
と洋とそして和洋折衷の意匠が断絶するのでな
く、なめらかに連続的なシーンとなるように配慮
した。
設計することは、内からの要請と外からの環境
が、ちょうど釣り合った境界面を探すことだと考
える。そして、改修設計では一度引かれた境界
面を問い直して、新しい釣り合いを探すことにな
る。新築に取り組む時には、この境界面をシン
プルに力強くかたちづくろうとしているが、今回
の改修では、既存の境界線を壊してつくり直す
よりも、境界の外側や内側に補助線を引くこと
で、新しい釣り合いを探した。
(竹口健太郎+山本麻子)
1 4 2 2022 12
広間から庭を見通す。出窓を床から325mm浮かし、上枠高さを1,750mm
に抑えることで、畳に腰掛けた際、視界いっぱいに庭を眺められるように構成。
2022 12 1 4 3
はね出し補強部材:
構造用合板 t=24mm @910mm
珪藻土塗り
板金 PB t=12.5mm
構造用合板 t=12mm 構造用合板 t=12mm
100
325
ラインライト
78
軒裏: ハニカムシェード
ヒノキ合板 t=24mm
オスモウッドワックス 外部用クリア
外部 広間
2,950
2,400
1,750
790 310
250 850
ダイニング。住宅内部を主に3色の珪藻土で塗り分け、空間が違和 玄関。玄関回りの壁・天井はベージュの珪藻土塗り。左手の和室は
感なく繋がることを試みている。洋間の改修では、壁・天井にブルー 障子から漏れる柔らかな光を考慮し、アイボリー色とした。
ヒノキ合板 t=24mm+オスモウッドワックスクリア塗装
ウレタンボンド+ビス止め グレー色の珪藻土を採用。
板金(水勾配1/100) 100
鋼板サイディング(アイジー工業)
325
75mm
45×75mm
寝室 サニタリー3
はね出し補強部材:
構造用合板 t=24mm @910mm 三層フローリング t=15mm
キシラデコール塗装(木口は水性ウレタン塗装) 構造用合板 t=12mm 居間
500
渡り廊下
広間出窓断面詳細図 縮尺1:50
サニタリー1
和室3
サニタリー2
既存の在来木造の住宅に、雁行した部分を
含み約12mの水平に連続する開口部を設け 廊下2
トイレ2
る構造計画。保管されていた既存図面による
と、細かい部屋割りに応じて満遍なく耐力壁
が配置されていたが、東西方向の耐力壁は 洋室
開口部の左右へと固めて移動する一方、南
北方向では同じ通り芯上への移動が難しい 和室2
平面計画だったため、隣り合う梁の上面を
繋いで一体化させることで、隣の通り芯上、
さらに構造的に余力のあった建物北側へと荷 2階平面図
重が伝わるよう補強し、開口部を獲得した。
(柳室純構造設計 柳室)
10,700
4,400 6,300
3,700
庭 倉庫
(既存) スタジオ
5,000
5,000
駐車場
6,900
既存壁・ブレースの撤去
1,300
1,900
荷重の流れ
2,730
トイレ1
ダイニング 和室1
1,820
8,645
廊下1 玄関
8,190
3,640
荷重を梁に伝達させ、反対側の壁面に負担させる
広間
3,640
1,365
日本庭園
庭をパノラマできる開口を獲得
構造ダイアグラム 1階配置平面図 縮尺1:120
1 4 4 2022 12
日本庭園の西側から広間を見る。室内に見える柱は、改修前は壁体内に
ありブレースが入っていたが、透明性を確保するため耐力壁を移動した。
2022 12 1 4 5
和室3。 居間。制作棚を見る。
新設木製内窓・出窓
2階
既存障子
既存アルミサッシ
上:居間。北に隣家の、東に比叡山の緑を感じられる離れの居間では、風景を分断していた北と
東の引違い窓4つを、室内側に大きく張り出す円弧状の上枠と下枠で繋げた。
下:寝室。隣家から西の市街地へと風景が広がっており、居間と同じ円弧状の上下枠で、風景を
連続的に切り取る。
1階
開口ダイアグラム
1,756
天井: 天井:
珪藻土塗り 珪藻土塗り
(アイボリー) (ブルーグレー)
壁:
珪藻土塗り 壁:
(アイボリー) 珪藻土塗り
2,700
(ブルーグレー)
和室2 廊下2
天井:
天井: 珪藻土塗り
珪藻土塗り (ベージュ)
(ベージュ) 壁: 壁:
床: 珪藻土塗り
畳 珪藻土塗り
(ベージュ) (ベージュ)
渡廊下 居間
天井: 天井:
珪藻土塗り 珪藻土塗り 床:
(ベージュ) (ブルーグレー) タモ3層複合フローリング t=15mm 床:
タモ3層複合フローリング t=15mm
壁:
2,900
珪藻土塗り
(ベージュ)
広間 廊下1
階段下収納
床:
タモ3層複合フローリング t=15mm 駐車場
500
断面詳細図 縮尺1:100
日本庭園。既存建物から飛び出すように付加された
縁側のような大開口が、庭を水平に切り取る。
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