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【土 木 計 画 学 研 究 ・論 文 集No.23no.

42006年9月 】

MOVlC-T4を 活 用 した 都 市 内地 下道 路 の 走 行 安 全 性 に関 す る基 礎 的研 究*

Traffic Safety Analysis in an Underground Urban Expressway using MOVIC-T4*

平 田 輝 満**・ 馬 原 崇 史***・ 屋 井 鉄 雄****

By Terumitsu HIRATA**•ETakashi MAHARA***•ETetsuo YAI****

1. は じめに の注視点3)や視線 誘導方策 に関する研究9),ト ンネル内


照明 の明 るさと運転挙動の関係に関する研 究10)などが あ
都市部 にお いて近年検討 され ることの多い地下高速道 る.し か し,都 市内の長大な地下道路を対象 とした研究
路は,建 設用地 の問題や周辺環境へ の悪影響,地 域分断 は筆者の知 る限 り存在 しな い.ま た,本 研 究で特 に着 目
の問題 を軽減 できる一方で,既 存 の道路空間 とは異な る して いる トンネル内走行時の覚醒水準低下現 象であるが,
「トンネル」 と 「
都 市内交通」 の複合的 な走行環境であ トンネル 内の視覚刺激の単調性,つ ま り,景 色 の変化が
るが故の未知 の危 険性を有す ると考 え られ る.都 市内地 少な く,視 界か ら得 られる情報が変化 しない状況 では,
下道路な どの次世代 型道路 の走行安全性 は,既 存の事故 脳が複雑な判断を必要 とせず,次 第に覚醒水準 が低下す
データでは説明できず,ま してや実際 に走行実験 をす る る可能性が あり11),12),実
際 に,長 大な トンネルほど事故
こともできない.そ こで,近 年進展著 しいバーチ ャル リ 率が高 く,こ れは覚醒水準 ・注意 力の低下が起 因 してい
ア リテ ィ技 術 を活 用 した ドライ ビング シ ミュ レー タ る可能性が ある との報告13)や,長大 トンネルの設 計に際
(DS)実 験によ り,そ れ ら道路の走行安全 性を分析す る して は退屈感の減少 とい う視点 も必 要 との指摘 な どもあ
ことが,1つ の方法 と して考 えられ る.筆 者 らは これ ま る14).図-1に都市内地下道路における運 転者の覚醒水準
でに10kmを 超 える都市 内地下道路で仮想的 に走行実験 に影響 を与える要因をま とめているが,ト ンネル 内の圧
が可能 なDSを 開発 し,特 に ドライバー の覚醒水準に着 迫感,地 上道路 との接続のための縦 断勾配変化,ま た都
目して,そ の走行安全性分析 を行って きた1).初期 のDS 市内道路 における高密度交通流な どの要因が重 な り,普
は体 感 加速 度 を再 現 す るた め の動 揺 装 置 を持 たな い 段よ り緊張 した走行 状態が予想される都市内地下道路で
Fixed-base型DSで あったが,覚 醒水準や減速挙動 を分析 はあ るが,あ る程度の長時間走行 が続 くと,ト ンネル 内
す る際には運転 中の体感加速度が大 きく影響する と考え の単調な視覚刺激や追従走行 の継続,ま た大深度地下 の
られ る.そ のため,体 感加速 度を再現可能で,さ らに可 活用 によ る線形の直線 化な どの影 響によ り覚醒水準低下
視 範囲を拡大 した ドライ ビングシミュレータMOVIC-T4 が生 じ得 る可能 性もあ り,そ うした場合,区 間途 中で存
を新 たに開発 した2).本 研 究では,こ のMOVIC-T4を 活 在す るであ ろう分合流部で回避行動 が正常 に行 えない恐
用 した走行安全性分析(新 たな評価指標 による運転者の れ もある.筆 者 らの過去の研究1)で,Fixed-base型DSに
覚醒水準評価,イ ンシデ ン ト発生時の追突危険性分析) よる走行実験か ら都市内地下道路 における覚醒水準低下
につ いて報告す る. につ いて検証 を行 った ものの,DSの 再現性及び覚醒水
準評価 指標の信 頼性 の問題 も残 され ていた.
2. 既往研究 と本研究 における分析の視点 以上 の問題意識 のもと,本 研究で は,都 市内地下道路
において覚醒水準低下 が起 こりうるか,ど のような要 因
トンネル内の運 転挙 動 ・走行安 全性 については過去 に が影 響を与えているか,ま た覚醒水準低下 の防止対策 を
も研究が行われてお り,ト ンネル内事故の発生箇所や事 検 討する際 には何 を考慮すべ きか につ いて,MOVIC-T4
故形態の統計分析3)4)5),トンネル抗 口 ・内部における速 による走行実験 を通 じて分析 を行 った.な お,覚 醒水準
度推移 ・速度低下に関する研究6)7)8),トンネル 内走行時 評 価指標 につ いて も,よ り信頼性 の高 い皮 膚電位 水準
(SPL)を 新たに活用 した.最 後 に,地 下道路では大規
模事故 の防止が特 に求 め られ るため,実 際 にイ ンシデ ン
*キ ー ワ ー ド:都 市 内 地 下道 路
,DS,走 行 安 全 性,覚 醒 水 準
**正 会 員 博 士(工 学) ,学 振 特 別 研 究 員(PD),東 トが発 生 した場合 の後続 車両 の追突危険性 と簡易な情報
京工業大学 総
合 理 工 学 研究 科,〒226-8502横 浜 市 緑 区 長 津 田町4259G3-14 提供 システムの効果分析 を行 い,今 後行 う予定で ある多
TEL&FAX:045-924-5675,hirata@plan.cv.titech.ac.jp 重衝突事 故の防止対策 の検討 に繋 げるため の基礎データ
***正 会 員 修 士(工 学),NTT東 日本
****正 会 員 工 博 ,東 京 工 業 大 学 総 合 理 工 学 研究 科 を収集 した.

―797―
図-2  MOVIC-T4の 外 観 と走 行 画 面

図-1 
都 市内地下道路 にお ける運転者の覚醒水
準 に影響 を与 える要因

表-1 MOVIC-T4に よ る走 行 実 験 デ ー タ の 再 現 性 分析 結 果 の概 要

3. MOVIC-T4の システム概要 4. MOVIC-T4に よる走行 実験デ ータの再現性分析の概要

MOVIC-T4(図-2)で は,走 行 画 面 をヘ ッ ドマ ウ ン ト (1) 


は じめに
デ ィス プ レイ(HMD)に 表 示 し,頭 部 トラ ッキ ン グセ ン 本研究 の先行研 究で,実 道走行実験デー タとの比較 に
サ ー によ り運 転 者 の 顔 の 向 き と走 行 画 面 を連 動 さ せ360 よ りMOVIC-T4に よる走行実験データの再現性検討 を
度 視 界 を再 現 して い る.ま た 走 行 時 の体 感加 速 度 を 小 型 行った15)16).本
稿では以下にそ の概要 のみ を説明す る.
の2軸 モ ー シ ョ ンベ ー ス によ る 素 早 い 傾 斜運 動 で 再現 し (2) 
再現 性検 討を行 う走行 データ
て い る.以 上 の構 成 に よ り,MOVIC-T4は 非常 に小型で 本研究で行 う都市 内地下道路 の走行安全性分析のため
あ る に も関 わ らず体 感 加 速 度 を 再 現 し,ま たHMDに よ の走行実験 では,(1)追従 時の覚醒水準 の変動,(2)前方停
り広 い 可 視 範 囲 及 びVR空 間 へ の 高 い 没 入感 を達 成 して 止車両に対 する衝突 回避挙 動,に 関 して主 に分析 を行 う
い る点 が 既 存DSと 異 な る 特 徴 で あ る.再 現 道 路 は約 ため,再現性 を検 討す べき最 低限の走行デー タとしては,
15kmの3車 線 地 下 道 路 で あ り,周 辺 走 行車 の 台 数,車 追従 時の覚醒水準変動 を評価す る指標,追 従車間距離,
種,走 行 特性 を 変 化 させ,様 々 な 交 通 流 シ ナ リオ を 自 由 前方停止車両に対す る減 速挙動 デー タで ある.本 分析で
度 高 く設 定 可 能 で あ る2). は,こ れ らに加 え,走 行 速度(知 覚速度)に 関 して も分
析 を行 った.
(3) 
実験 方法 と結果 の概 要
以下 にそれぞれの走行デー タに関す る再現性分析の結

―798―
e)停止挙 動
一般 道 直線 部にて80km/hで 走行 し,前 方 の停止車両

のなるべ く近 くに停止 させ た.減 速 中の減速度 の調整


は認 めたが,一 度 ブ レーキを踏 んだ ら離 さないよう指
示 した.そ の結果,実 走ではほぼ一定 の減速 度で滑 ら
かに停 止 してい るが,DSで は初動減速度が小 さく,
前方停止車 の直 前で急激 に減速度が大 きくなって いる.
Motionで 体感 加速度 を再現 して いる とはいえ実走 と
同程度 の減速 度を再現 できないことな どが影響 して い
ると考 え られ る.し か し,Motionに よ り若干で はある
が最大 限速度が抑 え られ,実 走 の減速 度に近づ いて い
た.
図-3 
追従走行時のSPL変 化の被験者平均 (4) 
再現性分析 のまとめ
以上 のMOVIC-T4に よる走行実験 データの再現性
果 の概 要 を示 す.実 走 及 びDS走 行 実 験 は ア クア ライ ン 分析の結果,速 度,車 間距離,覚 醒水準評価 指標(SPL)
トン ネル(約10km)を 対 象 と して 行 った.被 験 者 は10 に関 して は概ね再現性 を有 してい ることが分かった.減
名 の本 学 学 生で あ る.表-1に 結 果 の 概 要(各 指 標 の 被 験 速挙動 に関 しては過大な減速 度が再現 され る傾向があ り,
者 平 均)を 示 す. 安全性分析の際 には,そ の点 を留意す る必要がある.(よ
a)知覚 速 度 り詳細な分析内容は文献15)16)参照)
被 験 者 に60,100km/hと 感 じ る速 度 で 走 行 さ せ た 結 果,
両 速 度 に お いて 実 走 とDSに 有 意 な差 は見 られ ず,DSの 5. 都市 内地下道路の走行安全性分析
知 覚 速 度 は再 現 性 を有 して い る と いえ る.
b)選 択 車 間 距 離 (1)都市 内地下道路 にお ける覚醒水準低下 に関す る分析
被 験 者 に普 段 通 りの,安 全 だ と感 じる 車 間 距 離 で 前 方 (平常走行時の潜在的危険性分析)
車 両 に追 従 させ た(走 行 速 度 は60・100km/h).そ の 結 果, a)実験 目的
実 走 とDS共 に速 度 が 上が る と車 間 距 離 も大 き くな り, 都 市内地下道路では,ト ンネル内の圧迫感や都市内道
速 度 に応 じた車 間距 離 変 化 を再 現 して お り,ま た 実 走 と 路特有の交通量の多 さ,分 合流車の存在な どの心理的負
DSの 差 をみ る と,60・100km/h走 行 時 共 にDSの 方が車 担要因が存在す る 一
方で,ト ンネル内の視覚刺激の単調
間距 離 を 小 さ く選 択 す る傾 向 が あ るが 有 意 差 は な か っ た. 性か ら覚醒水準の低下が起 こる こともある11)12).筆者 ら
c)知覚 車 間距 離 の先行研究1)では主 に後者 の視点か ら分析 を行ってきて
上 記 選 択 車 間 距 離 な ど をよ り深 く分 析 す るた め に,知 いるが,使 用 して いたDSがFixed-base型 である ことか
覚 車 間距 離 も併 せ て 計測 した.こ こで は,25,50,100,150m ら,体 感 の加速度や揺れ,振 動な どの刺激が一切な く,
だ と感 じる車 間距 離 で 前 方 車 両 を追 従 させ た.そ の 結 果, 実際よ り覚醒水準低下 を引き起 こしやす い可能性 も否め
DSの 知 覚 車 間 距 離 が 若 干 大 き い 傾 向 が あ っ た もの の, な い.ま た覚醒水準 の評価指標 として瞬 き頻 度を使用 し
50∼150mで は有 意 差 は な く,25mで は有意差が認め ら て いたが,覚 醒水準 と相関が あるとされて いる 「
生理的
れ る も の の,そ の差 は大 き く はな か った. 瞬 き」 と 「
意識的な瞬 き」 を分離で きな い問題や,シ ミ
d)覚 醒 水 準 の 評価 指 標(皮 膚電 位 水 準:SPL17)18)) ュレー シ ョン画面 を注視 し続 けることによる眼の疲労の
皮 膚 電 位 水 準(SPL)は 掌 と腕 内 側 との 電 位 差 で あ り, 影響な ど,改 善すべ き点が幾つか あった.本 研究で も同
覚 醒 水 準 に敏 感 に反 応 し,時 間 分 解 能 高 く計 測 可 能 で あ 様 の視点か ら都市 内地下道路 の走行安全性分析 を試み る
る.掌 に 生 じる精 神 的発 汗 に よ り,覚 醒 水 準 が 低 下 す る が,上 記課 題 を改善す るた めに,新 たな シ ミュ レータ
とSPLも 低 下 す る.実 験 で は,ト ンネ ル 前 半 が60km/h, MOVIC-T4と 覚醒水準評価指標SPLを 用 いて分析 を行 う.
後 半 が100km/hで 走 行 す る普 通 車 を 追従 させ た.そ の 結 本研究では,交 通密度,走 行速度,大 型車混入率 を既
果,実 走 ・DSの 走 行 全体 を通 した 変 動 傾 向 に 差 は な く 存高速 道路 のデー タをもとに幾つか設定 し,生 体反応デ
(図-3,交 互 作 用 効 果 検 定 で 有 意 差 な し),SPLを 評価指 ー タ(SPL)か ら都市内地下道路 での覚醒水準低下 に起

標 と して 覚 醒水 準 の 時 間変 動 を捕 らえ る こ と は可 能 と考 因す る潜在 的な危 険性 について分析す る.


え られ る. b)被験者
本実験 は,比 較的危険性 の高 い運転者 と考え られ る,

―799―
表-2 平 常時走行実験の走行条件

【A】 【B】 【C】

図-4  走 行 条 件 の イ メ ー ジ

図-6 基準化SPLの 時間変動(被 験者平均:学 生)

図-5 道路構造の概要

学生 ドライバー13サ ンプル(22∼30歳)と 高齢 ドライバ


ー21サ ンプル(63∼72歳)を 対象被験者 として行った.

高齢者 は一般 的 に身体能力の衰え によ り,学 生 ドライバ


ー に関 しては運転経歴 の短 さによる未熟な運 転技能や リ

ス クテイキ ングな運転な どによ り危険性が高い と考 え ら


れ る.
c)実験条件 ・手順
十分 な練習 走行 を行 った後,学 生 ドライバーは表-2及
図-7 基準化SPLの 時 間変動(被 験者平均:高齢者)
び図-4に 示す3つ の実験条件を1回 ずつ ランダムに走行
し(各 走行後 は十分な休憩を取る),高 齢者は3つ の実験
条件の うち どれか1つ を走行 した.従 って,各 走行条件
のサ ンプル数は,学 生が13,高 齢が7で ある.被 験者 は
3車 線 ある うちの中央 車線 で指示 され た特定車両 を追従
走行 した,ま た,走 行 区間の途 中4箇 所で左側合流車 ・
分流車 が存在す るが(図-5),被 験者 は中央車線 を走行 し
てお り,直 接それ ら車両 の影響 は受 けな いが,左 車線走
行車が合流車 に対 して減速 を行 った り(中 央車線 に避走
は行わな いが,そ ういった情報は一切被験者へは与えて
いな い),分 流 した りす るため,視 覚情報 として間接的 に
影響 を与 えて いる. 図-8 皮 膚 電 位 水 準(SPL)の 基 準化

―800―
d)実験 結果 表-3 SPL時 間変動の検定結果
図-6,図-7に,3つ の走行条件(表-2)に おけるSPL
の時間変動の学生 ・高齢者 ごとの平均値を示す.SPLは
個人 ごとにその値や変動幅が異な り,ま た,あ るSPLの
値が どの程度の覚醒水準 を表すか も異なる.従 って,本
分析で は,被 験者 ごとに軽い運 動時及び 目を閉 じて安静
時のSPLを 別 途計測 し,そ れぞれ 最大 ・最小SPLと し,
デー タの基準化(最 小値0∼ 最大値1)を 行 った(図-8
参照).「SPLが 小 さいほ ど覚 醒水準 が低下 している」 こ
表-4 全走行時 間平均SPLの 条件 間比較
とを示す.
全体 を通 して言える事は,学 生 ドライバーは走行 開始
後,単 調 にSPLが 低下,つ ま り覚醒水準 が低下 してお り
(SPLに 対す る時間の主効果 は3条 件全てで1%有 意:
表-3参 照),一 方,高 齢者 は3条 件 と も有意な覚醒水準
の低下は見 られない.学 生 ドライバ ーでは都市 内地下道
路の心理的負担要因よ り覚醒水準低下要 因が勝 り,高 齢
者はその逆であった ことが推察 され る.リ スクの感受性 表-5 イ ンシデ ン ト発生 時走行 実験の走行条件
が低い学生等の若年 ドライバー は,5分 程度 の走行で覚
醒水準が低下 しうる とともに,道 路構造か らみ ると,前
半の単路部において覚 醒水準が低下 しきってお り,そ の
後の分合流部において周辺車両 との コンフリク トが ある
場合は,覚 醒水準低下 の影響で適切な 回避行動が取れな
い可能性 も十分 にあることが示唆 された.
続いて条件 間の差 を見 る.表-4に 各条件別の全走行時
間のSPL平 均値 を示 して いるが,さ ほど大 きな差はない
ものの,「 【A】交通量大 一大型車混入率小」が他の2条
展す る可能性があ り,大 深度地 下道路 ともなれ ば災害時
件(共 に大型車混入率大)に 比べ覚醒水準の低下が小さ
の避難 もよ り困難 であろ う.単 発 の事故 を防ぐことも当
い傾 向が ある(い ずれ のペア も統計的 に有意な差はない
然重要ではあるが,単 発 の事故 は前述 の覚醒水準低下等
が,高 齢者の 【A】と 【C】の間は15%有 意).大 型車 混
によ り確率的に生 じて しま う(完 全 には防ぐことはで き
入率が大 きいほ ど圧迫感が大き く,心理的負担は高ま り,
ない)と 考える と,事 故車両 の後続車が巻 き込 まれ る事
覚醒水準 も低下 しにくいと想像されたが,結 果 は逆 の傾
故,つ まり2次 的追突事故や多重衝突事故 を防止す る方
向で あった.前 方車が大型車の場 合,前 方視界 が大き く
法 も併せて検 討 し,大 災害 に発展 させな い工夫 をす るこ
遮 られ視覚刺激の変化が抑制され,そ の状態 の継続は覚
とが,地 下 トンネルで は特 に重要で あると考え られ る.
醒水準の低下を助長する との報告 もあるが,今 回,大 型
今後,都 市内地下道路 にお ける多重衝突事故分析及び事
車混入率大の条件では追従対 象車 は大型車,混 入率小 で
故 防止対 策を検討す るにあた り,本 実験では まず,実 際
は普通車であったため,そ の ことが結果 の一 因とも考 え
に走行 中にインシデ ン ト(事 故車)が 発生 した場合 に,
られ る.大 型車に追従する場合 は前方 の交通状況が把握
そ の後続車 がどの程度衝突する可能性が あるのか,ま た
しづ らい上,覚 醒水準の低下 も引き起 こす とな ると,非
簡 易な前方事故車 に関す る情報提供 システムの効果が ど
常 に危険な走行 状態 と言える.ま た,ス リー ドリミッタ
の程度 あるのか につ いて基礎的な分析 を行った.
ーの装備義務のある大型車 に追従す る場合 は
,比 較的走
b)被験者
行速度が低いため車 間が詰 ま り易 いとも考え られ る.従
被験者は,学 生 ドライバーと して本学学 生7サ ンプル
って,前 方車 が大型車 の場合 は特 に広 い車間 を維持 させ
(22∼30歳),高 齢 ドライバー18サ ンプル(63∼72歳)
る工夫が必要で あろう.
で ある.
(2)インシデ ン ト発 生時 の追突危 険性 と前 方障害物 の情
c)実験条件 ・手順
報提供効果 の分析
事故車は,区間中間の分流部及 びやや後 半の合流部(図
a)実験 目的 -4)で 発生 させた2ケ ース を模 擬 し,そ れぞれ の交通流
トンネル内事故は,閉 塞空間であるが故に大災害に発

―801―
表-6 インシデ ン ト発生 時の追突危険性 と情報提供効果

(1) 追 突 人数

(2) 反応 時間(被 験 者 ブ レー キ開 始時 刻 一前 方車 ブ レー キ 開始 時刻)

(3) 平 均減 速 度

条件 を表-2の 【B】,【C】
に設定 した.当 初は,発 生位 d)実験結果 と考 察
置の違いで,前 節の覚醒水準低下 の影響 を見 ようと考 え 表-6は 情報提供のない場合,あ る場合の追突 人数,反
ていたが,学 生は区間中間です でに低 い覚醒水準 に達 し 応時 間,平 均減速度 を示 してい る.当 然ではあるが,合
てお り,ま た高齢者は覚醒水準 に変化 がなか ったので, 流部事故 の方が,分 流部事故 に比べて追突可能 性が高い
事故車の発生位置の違いは,本 分析 には特 に影響 を及 ぼ (走行速度 が速 いた め).ま た,全 体的 に高齢者の方が追
さない と考え られる.ま た,走 行 条件の 【B】と 【C】で 突危 険性が 高く,そ の分,高 齢者 に対 して情報提供の効
は走行速度が異なるため追突可能性 に大きな影響 を及 ぼ 果 が大きいが,学 生には効果は小 さい.条 件(4)の情報提
す. 供 のタイミングは前方車 の減速 開始 とほぼ同 じか若干早
実験 では被験者 が追従 している前方車 が事故車両直 前 い程度であるため,も ともと効果 は小 さいと考え られる
で急減速 し,そ のブ レーキ ランプに被験 者が反応す る こ が,前 方車 の減速 に対す る反応時間が非常 に遅 い高齢者
とにな る.学 生,高 齢者それぞれ を2グ ループに分け,1 には,今 回のよ うな比 較的余裕 の少な い情報提供であっ
つ は情報提供な し(表-5の(1)(2)),も う1つ は情報提 供 て も効 果がある ことが示唆され る.し か し,合 流部事故
あ り(表-5の(3)(4))の実験を行 った.情 報提供 はフロン では,情 報 提供 によ り高齢者 の平均減速度 はむ しろ大き
トガ ラス部 にヘ ッ ドア ップディスプ レイ として 「
前方 に くなっている.減 速度 が大きくなった ことで追突 を回避
低速車 あ り」 とい う画像情報を警告音 とともに提 供 し, できた とも言えるが,一 方 で,非 日常 的な情報提供 に慌
「もし情報提供があった場合は前方に注意 して運 転 し, て必 要以上の急減 速が引き起 こされた とも考 えられ る.
停止車両がある場合はその まま停止 して ください」 と指 このよ うな,情 報提 供による急減速が新 たな事故 に繋が
示 した.情 報提供 タイ ミ ング は,分 流部 で は事 故車 の る可能 性も伺える.た だ し,MOVIC-T4で は過大な減速
200M前,合 流部 では150M前 であ り,合 流 部事故の方 度が生 じやすいため(再 現性検討参照),あ くまで条件間
が余裕の少ない状況で ある(前 者はイ ンフラ側 で事故車 の相対的な値の差 の議論 に とどまる.
を検知 し,後 者は車載 システムによ り前方車 の急 減速 を (3) 
走行 安全 性分析のま とめ
検知す るイ メー ジ).このよ うな情報提供システムは試験 以上の走行安 全 性の分析 よ り,約15kmの 都市内地下
的 に実用化 もされてお り,本 研 究にお いて も地下道路に 道路において,特 に若年 ドライバー の覚醒水準低下が起
お ける多重衝突事故分析 を行 うにあた り,ま ず は このよ こり得る こと,一 方,高 齢 ドライバ ーは緊張状態が続 く
うな簡易な情報提供 システムの効果 と影響について把握 こと(高 覚醒を維持),大 型車追従が覚 醒水準低下 の一 因
し,今 後の研究 にお ける走行支援 システムの検 討に繋げ になっている可能性 がある ことが分 かった.つ ま り,高
る. 齢 ドライバーに とって都市内地 下道路 は,ト ンネル 内の
圧迫感や高密度交通流な どの要 因によ り,普 段 よ り緊張

―802―
した走行状態 とな り易 い一方で,リ スク感受性 の低い若 2) 平 田 輝 満, 山 口晋 弘, 屋 井 鉄雄, 高 川 剛: ドライ ビ ン グ シ

年 ドライバー にとっては,ト ンネル内の単調な視覚刺 激 ミ ュ レー シ ョ ン シス テ ムMovic-T4の 開 発 とパ フ ォー マ ン

ス 評 価, 第24回 交 通 工 学 研 究 発 表 会 論 文 報 告 集, pp.17-20,
な どの影響 によ り,5分 程度の走行 で覚醒水準低 下が生
2004.
ず る可能性が高 いことが示唆された.従 って,緊 張状態
3) 阪 神 高 速 道 路 公 団 ・財 団 法 人災 害 科 学 研 究 所: トンネ ル 事
を緩和す るための道路線形の改良や交通流の制御 を検 討
故 に関する研究 (そ の3), 1999.
す るとともに,道 路線形や トンネル内壁デザイ ンの単調
4) F. H. Amundsen and G Ranes: Studies on traffic accidents in
性 を緩和す るな どの覚醒水準低下防止対策も併 せて検 討
Norwegian road tunnels, Tunnelling and Underground Space
す る必要が あると考え られる(特 に分合流部手前区間に Technology, Vol. 15, Issue. 1,pp.3-11, 2000.
お いて).ま た,大 型車 に追従する車両の車間距 離を広め 5) 後 藤 秀 典, 田 中 淳, 赤 羽 弘 和, 割 田 博: 都 市 高 速 道 路 の ト
に維持す る対策 も検討事項 として挙げ られる. ン ネ ル 区 間 を対 象 と し た事 故 分 析, 第25回 交通工学研究
また,イ ンシデ ン ト発生時の追突 危険性 の分析 よ り, 発 表 会 論 文 報 告 集, pp.49-52, 2005.

特 に高齢者が事故発生時 に前方の事故車へ追突する可能 6) 越 正毅: 高 速道 路 トンネ ル の交 通 現 象, 国 際 交 通 安 全 学 会

性が高 いこと,簡 易な情報提供で も追突を回避させる効 誌, Vol..10, No.1, pp.32-38, 1984.


7) 飯 田 克 弘, 森 康 男, 金 鍾 曼, 池 田武 司, 三 木 隆 史: ドラ イ
果が十分 にあること,ま た情報提供によ り過度の急減速
ビ ン グ シ ミ ュ レー タ を 用 い た 室 内 実 験 シ ス テ ム に よ る運
が 引き起 こされ る可能 性もある こと,な どが分かった.
転 者 行 動 分 析-実 験 デ ー タ の 再 現 性 検 討 と 高 速 道 路 トン ネ
過度 の急減速 によ り次の後続車の追突が引き起 こされる
ル 項 口 の 評 価,土 木 計 画 学 研 究 ・論 文 集No.16, pp93-100,
ことも考 えられ るので,単 純に急減速によ り追突を回避
1999.
で きたか ら問題な しとす るのではな く,さ らなる後続車
8) 仲 柴 二 三 夫, 竹 本 勝 典, 上 野 卓 雄: トン ネ ル 抗 口に お け る
を巻 き込 む多重衝突事故 に発展 させないための追突回避
視 環 境 改 善 対 策 につ い て, 第19回 交 通 工 学研 究 発 表 会 論
をさせ る走行支援策 も併せて必要である と考え られる. 文 報 告 集, pp.5-8, 1999.

9) 実 車 実 験 に よ る トン ネ ル 走 行 時 の 視 線 誘 導 方 策 に 関 す る
6. おわ りに 研 究, 第22回 交 通 工学 研 究 発 表 会 論 文 報 告 集, pp.9-12,
2002.

本研究では,新 たに開発 したMOVIC-T4を 活用 し,都 10) 永 関 久 信, 米 川 英 雄: 交 通 特 性 と トンネ ル 内 照 明-東 名改

市内地下道路 の走行安全 性分析 を行 った.走 行安全性分 築 ・都 夫 良 野 トンネ ル 高 速 走行 実 験 と実 態 調 査, 高 速 道 路


と 自動 車, Vol.35, No.10, pp.19-26, 1992.
析 では,運 転者 の覚醒水準低下か らみた潜在的危険性 を
11)加 藤 正 明:高 速 道 路 の 事 故 分 析-ト ンネル内の事故原 因に
検 証 し,都 市 内地下道路で も覚醒水準低下が起 こりうる
つ い て-, 人 間 工学, Vol.16, No.3, pp.99-103, 1980.
ことを示 した.さ らに,事 故発生時の2次 的追突危険性
12) 西 村 千 秋: ドライ バ ー の覚 醒 水 準 と安 全, 国 際 交 通 安 全学
及 び情報提供 の効果 につ いて定量的 に分析を行った.
会 誌, vol.19, no.4, pp.19-28, 1993.
今後の課題 として は,よ り高密度で周辺車両 とコンフ
13) Lemke, K.: Road Safety in Tunnels, Transportation Research
リク トがある状況 における走行安全性の分析,覚 醒水準 Record 1740, pp.170-174, 2000.
の低 下防止対策 の検 討(イ ンフラ側か らの対策,車 載型 14) Lidstrom, M.: Using Advanced Driving Simulator as Design Tool
の支援装置による対策等),多重追突事故 の発生 メカニズ in Road Tunnel Design, Transportation Research Record 1615,
ムの分析 及び被害 軽減対策 の検討な どが挙げ られ る. pp.51-55, 1998.
15) Terumitsu HIRATA, Tetsuo YAI and Takashi MAHARA: Traffic
Safety Analysis in an Underground Urban Expressway using
Driving Simulation System MOVIC-T4, Transportation
謝辞
Research Board 85thAnnual Meeting, CD-ROM, 2006.
本研 究は,シ ミュ レーシ ョン研究会 を通 して国土交通省
16) Terumitsu HIRATA, Tetsuo YAI and Tsuyoshi TAKAGAWA:
関東地方整備 局外環 調査事務所 に多大な ご協 力を頂 いた.
Development of Driving Simulation System MOVIC-T4 and its
また,三井住友 海上福 祉財団よ り平成16年 度研究助成 を
Validation using Field Driving Data, Joumal of the Japan Society
受けている.こ こに記 して関係 各位 に感謝 の意 を表す る. of Civil Engineers (投稿 中).
17) 宮 田洋(監 修)・ 藤 沢 清, 柿 木 昇治, 山 崎 勝 男 (編 集): 新

生 理 心 理 学<1巻>生 理 心 理学 の 基 礎, 北 大 路 書 房, 1998.
参考 文献 18) 荒 木 学, 屋 井鉄 雄, 平 田 輝 満: バ イ オ フ ィー ドバ ッ ク に よ
1) 平田輝満, 飯島雄一, 屋井鉄雄: 都市内地下道路における る 居 眠 り運 転 防 止 方 法 の 評 価, 土 木 計 画 学 研 究 ・講 演 集,
運転者の意識水準低下に関する分析, 土木計画学研究 ・論 Vol.29, CD-ROM,, 2004.
文集, Vol.21,No.4,pp.915-923,2004.

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MOVIC-T4を 活 用 した 都 市 内 地 下 道 路 の 走 行 安 全 性 に 関 す る 基 礎 的 研 究

平 田輝満 ・馬原崇史 ・屋井鉄雄

次世代道路 である都市 内地下道路 は,都 市 内道路 と トンネル の複合的走行環境 とな り,未 知の危険性 を有


す る と考 え られ る.本 研究 では,新 た に開発 した ドライ ビングシ ミュ レータMOVIC-T4を 活用 し,長 大な都
市内地下道路 の走行安全性分析 を行 った.ま ず,ト ンネル 内特有 の視覚刺激 の単調性 に起 因した運転者の覚
醒水準低下 か らみ た走行安全性 を検証 し,約5∼10分 程度の走行 で覚醒水準低下が起 こ り得 ることを示 した.
また,区 間途 中で事故車両が発 生 した場合 の後続車 の追突危険性及び,簡 易な情報提供 システム の効果 につ
いて分析 も行 った.

Traffic Safety Analysis in an Underground Urban Expressway using MOVIC-T4

By TerumitsuHIRATA TakashiMAHARA TetsuoYAI

This paperdescribesthe trafficsafetyanalysisin an undergroundurban expresswayusingthe motion-basedriving


simulatorMOVIC-T4. First, the deteriorationof a driver's awarenesslevel is analyzed. Second,the secondary
accidentrisk of rear-endcollisionto the accidentvehicle is analyzed. In addition,the effectivenessof a simple
informationsystem is analyzed under the abovementionedrisky traffic situation The results indicatedthat the
deteriorationof the driver'sawarenesslevelcan occurwhile drivingin undergroundurban expresswaysfor around 10
minutes. An informationsystemto warnthe driverof an accidentvehicleaheadcan preventa rear-endcollision.

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