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Educational Headings and Lecture Types of Building Production
Educational Headings and Lecture Types of Building Production
1.研究の背景と目的 表1 調査概要
建築の技術的教育は、単に施工管理や工事監理に止まるものではな (1) 教育項目の整理に用いた教科書類
い。実際、平成 20 年建築士法改正によって指定科目制が導入された ①「建築生産システム(新建築学体系 44)」1)、②「建築生産論」2)、
際には、「施工」ではなく「建築生産」という名称で指定科目カテゴ ③「現代建築生産」3)、④「最新建築施工(第 11 版)」4)、⑤「建築
リーが設定された。しかし工業高等専門学校や大学における建築生産 経済学と LCC」5)、⑥「建築生産」6)、⑦「建築施工教科書(第 5 版)」
教育について必ずしも共通認識があるわけではない。指定科目「建築
7)
、⑧「建築生産(第 2 版)」8)、⑨「建設業ハンドブック」9)
視点1「日本経済と建築生産」
2.調査概要
本報が検討対象とする建築生産関連科目とは、建築生産活動のあり 視点2「建築生産の社会的分業」 (隣接産業に
ようを教示する科目である。科目名としては主に「建築生産」や「生 よる分担)
視点3「建築プロジェクトの編成」
産工学」などが該当する。但し調査は「建築施工」を含めて実施した。
視点4「工事の実施」
講義内容に建設業の仕組みなどを含む場合があるためである注 2)。 視点0 視点5 視点6
「建築生産社 需要 発注 「建築の 「建築生産
教育項目の整理は表1(1)に示す教科書類 9 冊に基づく。これらは現 会の形成」 発生 企画 設計 契約 施工
利用」 の国際化」
在の大学等の建築生産関連科目に使用されている代表的な教科書で
ある注 3)。講義類型の整理は、一級建築士受験が可能なカリキュラムを 工場
製作
持つ大学等 242 学科・課程を対象とするアンケート調査に基づく注 4),
注 5)
。調査は 2012 年 11 月から 12 月にかけて実施し、有効回答 93 件
(有効回答率 38%)を得た。調査対象と回答の内訳を表1(2)に示す。 図1 建築生産を捉える視点の整理注 6)
*1
A/E WORKS 代表理事・博士(工学) *1
Chairman of The Board of Directors, A/E WORKS Association, Dr. Eng.
(〒
*1
A/E 171-0014 豊島区池袋
WORKS 代表理事・博士(工学)
2-24-2-106)
*1
Chairman of the board of directors, A/E WORKS Association, Dr.Eng.
*2
(〒171-0014
首都大学東京大学院都市環境科学研究科建築学域 教授・博士(工学)
豊島区池袋 2-24-2-106) *2
Prof., Graduate School, Tokyo Metropolitan Univ., Dr. Eng.
*3
*2
首都大学東京大学院都市環境科学研究科建築学域
東京工芸大学工学部建築学科 准教授・博士(工学) 教授・博士(工学) *2 *3
Prof., Graduate
Assoc. Prof., Faculty
School, of Engineering,
Tokyo MetropolitanTokyo Polytechnic
University, Univ., Dr. Eng.
Dr.Eng.
*3 国士舘大学理工学部理工学科建築学系 准教授・博士(環境学)
*4 *4
東京工芸大学工学部建築学科 准教授・博士(工学) *3
Assoc. Prof.,
Assoc.Faculty
Prof., School
of of Science and
Engineering, Engineering,
Tokyo Kokushikan
Polytechnic Univ.,Dr.
University, Dr. Eng.
Env.
*4 建築研究所 研究員・博士(工学)
*5 *5
国士舘大学理工学部理工学科建築学系 准教授・博士(環境学) *4
Assoc. Prof.,
Researcher,
SchoolBuilding Research
of Science Institute, Dr. Eng.
and Engineering, Kokushikan University, Dr.Env.
*5
建築研究所 研究員・博士(工学) *5
Researcher, Building Research Institute, Dr. Eng.
387
表2 建築生産関連科目の教育項目の整理
視点 教育項目とその内訳(キーワード) 視点 教育項目とその内訳(キーワード)
0-1.古代から中世の建築生産 4-1.コスト管理
a)古代前期:律令制に基づく建築生産 a)工事費の積算方法(概算、工種別、部分別)
視点0「建築生産社会
b)古代後期:荘園制への移行と建設系行政組織の衰退 b)コスト管理手法(バリューエンジニアリング、実行予算など)
の形成(前史)
c)中世前期:僧侶と工匠集団の提携 4-2.工事管理
d)中世後期:大工職の空洞化、分業化の進展 a)PDCA サイクルと ISO マネジメント
視点4「工事の実施」
0-2.近世から近代の建築生産 b)品質管理(建築確認・検査、瑕疵担保責任など)
a)近世前期:座の解体と近世工匠の誕生 c)工程管理(工程表、CPM など)
」
b)近世後期:工匠の階層分化と木造請負業の発達 d)労災防止(労働安全衛生法、安全衛生活動など)
c)明治初期:西洋建築の導入-直営工事から指名競争入札へ 4-3.工事準備
d)明治中期以降:近代請負業の発生 a)届出(建築基準法や労働安全衛生法によるものなど)
1-1.建築生産の経済規模 b)測量・地盤調査(測量の種類、事前調査、各種調査方法など)
a)建設投資の規模(GDP 比など) 4-4.各種工事
視点1「日本経済と建築生産」
b)建設投資の構造(建築土木比、民間公共比、住宅非住宅比など) a)仮設工事
c)建設投資の変化(公共工事額の推移など) b)土工事・山留め、地業・基礎工事
d)建設業の雇用規模(建設業就業者数の推移など) c)躯体工事
1-2.建築生産を担う業種 d)仕上工事
a)元請業者の種類(規模、許可、通称など) e)設備工事
b)建築士と建設業者(人数・業者数の推移など) 5-1.建築の利用と再生
c)建設業の許可業種(元請業者と専門工事業者の種類など) a)建築再生の多様性(保全・修繕、改修、転用、建替え)
d)労働環境(建設業就業者数、労働条件、福利厚生、労働災害、技能訓練など) b)業務領域の広がり(ファイナンス、不動産業、建物管理業など)
1-3.建築生産を担う業種 c)建築の余剰と要求水準の上昇(空家率、技術基準の改正など)
a)住宅市場の拡大と縮小(着工数の推移など) d)建築市場の構造変化(新築の減少など)
b)住宅市場の多様性(住宅生産気象図など) e)土地の所有と利用(定期借地、定期借家など)
c)新築市場の優位性(欧米との比較など) f)建築の長寿命化とライフサイクルコスト
2-1.建築工事の機械化・工業化、情報化 5.2 建築を評価する様々な視点
a)建築工事の機械化(施工機械の国産化、揚重機械などの導入、自動化) a)建築への投資と工事の発生(新築、修繕、改修、解体)
視点5「建築の利用」
a)建築市場の並立性(町場と野丁場、公共工事と民間工事) c)海外工事の特徴(受注額の国別内訳、業務内容、工事対象の偏りなど)
b)直営工事の残存(工事手段・過程への介入(契約)、専属下請による躯体工事) d)外国企業の日本市場への参入(建設業許可取得の状況など)
c)専門工事業の細かな階層構成(世話役を中心とした請負・雇用関係の連鎖) 6-2.住宅メーカー関連
3-1.設計と施工の分節と統合 a)住宅メーカーの国際化の経緯(1970 年代の輸出、国内市場の縮小など)
視点3「建築プロジェ
a)設計と施工のプロセス(設計と監理、施工と管理) b)海外進出の類型(生産拠点移転、海外市場の開拓など)
b)監理業務のシフト(建築家業務規程の変遷など) c)住宅の輸入(海外工法の導入、海外デザインの移入など)
クトの編成」
c)公共建築工事の入札と設計・施工の分離(一般・指名競争、プロポーザル方式) 6-3.建材関連
d)設計と施工の統合(標準設計、プレハブ住宅、性能発注、欧米のデザインビルド方式など) a)生産拠点の移転(海外工場の設立時期や設置数など)
e)発注者による統合(CM 方式など) b)建材輸入の状況(木材・鋼材・ガラスの輸入など)
3-2.住宅生産の様々な分業と統合 6-4.規格や資格の相互認証
a)住宅生産の棲分け(供給規模に応じた分業の違いなど) a)建材規格の相互認証(木材規格、ホルムアルデヒド発散建材など)
b)工区分割と工期短縮(建売住宅の流れ作業、集合住宅の多工区分割など) b)建築設計に関する資格の相互認証
c)職種の分化と統合(新建材の材工販売、プレハブ化、多能工化) c)品質管理・環境管理のグローバル化(TQC 手法、ISO9000 シリーズなど)
388
3.建築生産関連科目の教育項目の整理 表3 アンケート調査の回答者と回答科目の概要
(1) 建築生産を捉える視点の整理 勤務形態:「常勤」67%、
「非常勤」33%
建築生産関連科目が扱いうる内容は多岐にわたるため、まず建築生 実務経験:
「なし」26%、「施工管理」28%、 「設計」23%、
回答者
「開発・構造設計等」17%
産の捉え方を 7 種類に整理した(図1)
。これは「建築生産システム
当該科目講義年数:「2~5 年」27%、
「5~10 年」27%
(新建築学体系 44)」に示された建築生産の概念モデルを拡張したも
科目名称:「建築施工」等 49%、 「建築生産」等 42%
のである。つまり国内の新築活動を捉える四つのレベル分け(視点1 回答
履修学年:「2 年」16%、
「3 年」55%、「4 年」13%
科目
から4)に対して、既存建物の利用や改修を捉える視点(視点5「建 教科書:「指定あり」65%、 「指定なし」26%
築の利用」)を加え、次いで建設業のグローバリゼーションを捉える 備考:上記の設問回答数は全て 93 件。
視点(視点6「建築生産の国際化」)と建築生産活動の歴史的背景を 0% 20% 40% 60% 80% 100%
捉える視点(視点0「建築生産社会の形成」)を追加した。 方針①「各種工事が中心」(38) 14 20 4
(2) 建築生産関連科目が扱いうる内容の整理 方針②「新築中心に幅広く」(19) 7 9 3
建築生産関連科目に関する教育項目の整理結果を表2に示す。図1 方針③「再生を含め幅広く」(20) 8 4 8
に示した七つの視点をそれぞれ二つから五つの「教育項目」に分割し、 その他(11) 8 2 1
4.建築生産関連科目の講義担当者と講義の進め方 図2 講義の方針と重点を置く建物分野
(1) 講義担当者の現状
0% 20% 40% 60% 80% 100%
アンケート回答者の概要を表3に示す。常勤教員が約 2/3、実務経
視点0:建築生産社会の形成(73) 40 30 3
験者が約 3/4 を占める。非常勤教員は、2/3 近くがゼネコン勤務者
視点1:日本経済と建築生産(73) 5 48 19 1
と考えられる注 7)。なお学校所在地や学校種別の偏りは特に見られない 視点2:建築生産の社会的分業(73) 3 32 29 9
(表1) 「建築施工」等の名称が約 5 割、
。回答対象となった科目は、 視点3:建築プロジェクトの編成(73) 4 39 28 2
「建築生産」等が約 4 割である注 8)。履修学年は「3 年」が 5 割を超え 視点4:工事の実施(73) 1 5 13 17 36 1
る。回答科目の 7 割近くで教科書指定が行われている注 9)。 視点5:建築の利用(73) 12 39 19 3
(2) 講義方針と講義の進め方 視点6:建築生産の国際化(73) 19 45 9
講義方針は選択肢四つに対して回答を求めた(図2)。
「各種工事が
なし ~1回 ~3回 ~7回 ~15回 15回超
」が約 4 割を占め、「新築中心に幅広く(方針②)
中心(方針①) 」と
(1) 講義回数の配分注 11)
「建築再生を含めて幅広く(方針③)」が共に 2 割ほどになった注 10)。
0% 20% 40% 60% 80% 100%
なお方針①と②は「非住宅分野に重点を置いている」回答者が約半数
視点0:建築生産社会の形成(89*) 4 13 72
を占めるのに対し、方針③は「住宅分野に重点を置いている」回答者
視点1:日本経済と建築生産(90*) 33 27 30
が 4 割を占めた。
視点2:建築生産の社会的分業(88*) 22 30 36
講義の進め方を図3に示す。図3(1)の講義回数の配分を見ると、視
視点3:建築プロジェクトの編成(89*) 34 28 27
点0は「なし(教えていない)」が約半数を占める。視点1と6は 1
視点4:工事の実施(91*) 53 22 15
「~1 回」)が約 2/3 を占めるが、視点6は「なし(教えてい
回以下(
視点5:建築の利用(90*) 15 22 53
ない)」も約 1/4 を占める。視点2、3、5は 3 回以下(
「~1 回」と
視点6:建築生産の国際化(90*) 11 20 59
「~3 回」)が 8 割前後を占める。一方、視点4は「(7 回超)~15 回」
教えている 一部分なら教えている 教えていない
が約半数を占める。
*設問(教育項目の内訳)当たりの回答数の平均
図3(2)の教示の程度を見ると、視点0は「教えていない」が約 8 割
(2) 教示の程度
を占める。視点1~3は「教えている」と「一部分なら教えている」
図3 講義の進め方
を合わせると 2/3 前後を占め、視点4はそうした回答者が 8 割を超
0% 20% 40% 60% 80% 100%
える。一方、視点5と視点6は「教えている」と「一部分なら教えて
類型Ⅰ 視点5講義回数
いる」を合わせても 1/3 前後である。なお視点ごとに教育項目の自 7回超(37) 37
講義回数
3回未満(62)
視点4
講義類型Ⅰ:視点4の講義 7 回超
5.建築生産関連科目の講義類型の整理 講義類型Ⅱ:視点4の講義 7 回以下かつ視点5の講義 3 回未満
(1) 講義の分類方法 講義類型Ⅲ:視点4の講義 7 回以下かつ視点5の講義 3 回以上
図4に建築生産関連科目の分類結果を示す。本報では視点4「工事 図4 講義の分類
389
の実施」と視点5「建築の利用」の講義時間配分に注目して三つに分 表4 講義類型と学校所在地
類する。講義類型Ⅰは各種工事が中心のいわゆる「施工」の講義であ 北海道 北陸・ 中国・
学校所在地 関東 近畿 九州 合計
・東北 東海 四国
る。一方、講義類型ⅡとⅢは建築生産のありようを広く扱う講義であ
講義類型Ⅰ 6 4 8 3 6 10 37
り、建築の利用について比較的時間を割いているものを類型Ⅲとした。 講義類型Ⅱ 3 13 3 4 1 1 25
その結果、類型Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの比率はほぼ 3:2:1 になった。 講義類型Ⅲ 3 5 0 1 2 0 11
講義類型と学校所在地との関係を表4に示す。講義類型Ⅰの割合が 合計 12 22 11 8 9 11 73
大きいのは九州地方と北陸・東海地方である。一方、講義類型Ⅱの割
合が大きいのは関東地方と近畿地方である。講義類型Ⅲは北陸・東海 0% 20% 40% 60% 80% 100%
地方と九州地方には見られなかった。なお学校種別では、どの類型も 講義類型Ⅰ(37) 19 11 7
1科目(25)
大学が約 8 割を占めており、特に違いは見られない。
講義類型Ⅱ(25) 3 9 13 2科目(24)
(2) 建築生産系指定科目としての位置付け 3科目以上(24)
講義類型Ⅲ(11) 3 4 4
現在、大学等の建築系学科・課程は、一級建築士の受験要件を満た
すカリキュラムを提供するため、1 科目以上を建築生産系指定科目と (1) 当該学科・課程の指定科目「建築生産」の科目数
注 13)
して位置づけている 。基本的に講義類型ⅡとⅢは、こうした指定
0% 20% 40% 60% 80% 100%
科目を複数持つ学科・課程で行われており、名目上も「建築施工」と
講義類型Ⅰ(37) 24 11 2 「建築施工」等(33)
は別講義として実施されていることが確認できる(図5)。つまり講
「建築生産」等(35)
義類型Ⅰの約半数は建築生産系指定科目が 1 科目だけの学科・課程で 講義類型Ⅱ(25) 8 14 21
その他(2)
行われており、科目名称も「建築施工」等が 6 割を超える 注 14)
。とこ 講義類型Ⅲ(11) 1 10 複数科目で回答(3)
ろが講義類型ⅡやⅢでは、建築生産系指定科目が 1 科目だけの学科・
(2) 回答科目の名称
課程は 3 割に満たない。講義名称も「建築生産」等が講義類型Ⅱの半
図5 建築生産系指定科目における位置付けの比較
数を超え、講義類型Ⅲになると 9 割を超える。
(3) 講義担当者の違い
0% 20% 40% 60% 80% 100%
一方、講義担当者の内訳を見ると、講義類型ⅠとⅡに類似性が認め
22 15
。類型ⅠとⅡの担当は非常勤教員が 4 割を超えるのに
られる(図6) 講義類型Ⅰ(37)
常勤(45)
対し、類型Ⅲでは常勤教員が 8 割を超える。そのため類型Ⅲの担当者 講義類型Ⅱ(25) 14 11 非常勤(28)
は、実務経験「なし」が 4 割を超え、「施工管理」の実務経験を持つ 講義類型Ⅲ(11) 9 2
者は見当たらないという結果になった。
(1) 勤務形態
(4) 講義運営の違い
三つの講義類型は、以上のような共通性と差異を持つため、講義方 0% 20% 40% 60% 80% 100%
なし(17)
針や教科書指定のあり方は三者三様である(図7)。つまり各種工事 講義類型Ⅰ(37) 9 8 12 6 2 設計(17)
を中心に講義が進められる類型Ⅰでは約 9 割が教科書指定を行ってい 施工管理(19)
講義類型Ⅱ(25) 3 5 7 8 11
るのに対し、建築の利用を含む幅広い建築生産活動を扱う類型Ⅲでは 開発・構造設計等(15)
行政(4)
2/3 近くが教科書指定を行っていない。両者に部分的に共通性を持つ 講義類型Ⅲ(11) 5 4 1 1
積算(1)
類型Ⅱは、あたかも類型ⅠとⅢの中間に位置するような講義運営が行 (2) 実務経験
われている。
図6 講義担当者の比較
6.まとめ
0% 20% 40% 60% 80% 100%
以上、建築生産関連科目の代表的な教科書類に関する調査と全国の
方
方針①「各種工事が中心」(31)
講義類型Ⅰ(36) 23 7 1 5
大学等の講義担当者に対するアンケート調査に基づき、当該科目で扱
方
方針②「新築中心に幅広く」(14)
いうる内容を 25 個の教育項目(内訳 93 項目)に整理し、講義類型を 講義類型Ⅱ(24) 6 5 8 5
方
方針③「再生を含め幅広く」(15)
三つに整理した。 講義類型Ⅲ(11) 2 2 6 1 その他(11)
本報に示した教育項目内訳を設問として講義内容を調査したとこ
(1) 講義方針
ろ、設問以外に追記された教育項目はほとんど見られなかった。従っ
て、現在の建築生産関連科目で扱いうる教育内容は、本報に示した 93 0% 20% 40% 60% 80% 100%
項目によって概ね尽くされていると考えられる。 講義類型Ⅰ(34) 32 2
指定あり(51)
講義類型については、各種工事を中心に扱う講義以外に、建築生産
講義類型Ⅱ(24) 15 9
活動を幅広く扱う講義類型を二つ示した。これらのうち建築の利用に 指定なし(18)
講義類型Ⅲ(11) 4 7
より多くの講義時間を割く類型は、他の類型に比べて常勤教員が担当
している割合が高く、教科書指定なしの割合も高い。建築生産関連科 (2) 教科書指定
目には、大学等の教育から実務への橋渡しが期待されることも少なく 図7 講義運営の比較
390
ない。しかし、こうした講義状況は、建築再生分野を教える非常勤教 注4) 2012 年 6 月現在、建築技術教育普及センターのホームページには一級建
員を捜すことが困難であり注 15)
、適切なテキストも見当たらないとい 築士受験が可能な大学等の学科・課程 296 件が示されていた。主に学科の
注 16) 重複を整理して調査対象 242 件を選定した 10)。
う実態を示唆していると考えられる 。
注5) 全国の大学等を対象とした建築生産教育に関する調査は日本建築学会に
産業構造の転換や国際化に対応した建築生産教育を実現するには、
は報告されていない。但し建築鋼構造教育や建築構法教育に関する調査の
建築生産活動を幅広く扱う講義の充実が求められる。講義内容が広が 報告はある 11),12)。
るほど非常勤教員と教材の両方が不足する傾向にあるが、即効性の高 注6) 「建築生産システム(新建築学大系 44)」p.233 に基づき作成。
い対策は教材作成である。この場合、まずは講義の重要項目を明らか 注7) 非常勤教員(31)の実務経験は、
「施工管理」
(12)と「開発・構造設計等」
るアンケート調査では全国の大学等の担当教員の方々から回答を頂 れていた。
注10) 方針④の回答は0件であった。
いた。ここに記して感謝の意を表します。
注11) 「講義時間 90 分を 1 回」として、七つの視点ごとに講義時間を求めた。
本設問の有効回答数は 73 件である。
「15 回」が 47%、
「10 回以上 15 回未
参考文献
満」が 29%を占めた。なお講義以外(演習や現場見学等)の時間配分の回
1) 古川修・永井規男・江口禎,建築生産システム(新建築学大系 44),彰国社,
答は求めていない。
1982.10.
注12) 「その他」の追記回答は計 10 件あった。主な内訳は「施工図の描き方等」
2) 宮武保義,建築生産論,丸善,1997.9.
(3 件)、「現場見学」(2 件)、「木造住宅の壁量計算」(1 件)などである。
3) 大岸佐吉・山中五郎,現代建築生産,オーム社,1998.3.
注13) 2 単位以上が求められる(平成 20 年国土交通省告示第 740 号)。
4) 鯉田和夫,最新建築施工(第 11 版),技報堂出版,2004.3.
注14) 建築生産指定科目に位置づけられている科目は、大学では必ずしも多くな
5) 石塚義高,建築経済学と LCC,経済調査会,2006.9.
い。3 科目以上は 2 割に満たず、1 科目のみが約 4 割を占める。大学と比
6) 古阪秀三(編著),建築生産,理工図書,2009.10.
較すると、工業高等専門学校での建築生産指定科目数は少なく、職業能力
7) 建築施工教科書研究会(編著),建築施工教科書(第 5 版),彰国社,2010.3.
開発大学校は多い。
8) 松村秀一(編著),建築生産(第 2 版),市ヶ谷出版社,2010.10.
注15) 建築生産関連科目を担当する非常勤教員は、ゼネコン勤務者が多いと考え
9) 日本建設業連合会,建設業ハンドブック,日本建設業連合会(http://www.
られる注 7)。しかし建設工事施工統計調査によると、元請完成工事高におけ
nikkenren.com/publication/handbook.html),2012.7.
る維持・修繕工事は横ばい状態であり、過去 10 年間(2002~11 年)は 7.9
10)建築技術教育普及センター,
“一級建築士試験 指定科目の確認結果”
,建築
兆円前後を推移しているに過ぎない 13)。つまり新築市場が縮小する中で建
技術教育普及センター(http://www.jaeic.or.jp/kamoku-1k_kekka.htm),
(閲
築再生市場の存在感が増していることは確かであるが、この分野でゼネコ
覧 2012 年 6 月 30 日).
ンの業務が拡大しているわけではない。従って実務経験に基づいて建築再
11)松尾彰他,“高専および大学の建築鋼構造教育に関する調査研究”
,日本建築
生を講義できるような非常勤教員をゼネコンに求めても、現時点では適任
学会技術報告集第 18 号,pp.407-412,2003.12.
者を探し出すことは必ずしも容易でないと考えられる。
12)村上心他,
“大学建築構法教育に関する調査研究”
,日本建築学会大会学術講
注16) 基本的に、表1(1)に示した教科書類では、建築の利用や再生に関連する記
演梗概集,pp.617-618,1995.8.
「建築生産(第 2 版)」は最
述は改修工事や維持保全などに止まっている。
13)国土交通省,建設工事施工統計調査,建設工事関係統計(http://www.mlit.
終章などで建築再生の重要性に言及しているものの、課題提示に止まって
go.jp/statistics/details/kkoji_list.html),国土交通省,
(閲覧 2013 年 8 月 25
いる 14)。
日).
[2013 年 6 月 17 日原稿受理 2013 年 8 月 21 日採用決定]
14)佐藤考一・角田誠・森田芳朗・朝吹香菜子・角倉英明,工業高等専門学校お
よび大学の建築生産教育に関する調査研究報告書,(財)建築技術教育普及セン
ター平成 24 年度調査・研究助成,建築環境ワークス協同組合,2013.3.
注
注1) 本報では「大学、工業高等専門学校、職業能力開発大学校、短期大学」を
「大学等」と呼ぶ。
注2) アンケート回答は原則として「科目「建築生産」(「生産工学」「建築生産管
理」などを含む)を担当されている方」に依頼し、
「科目「建築生産」を開講
されていない場合、これに近いと思われる科目(「建築施工」など)の担当
者」にも回答を求めた。
注3) 教科書類①は学生向け教科書ではないが、建築生産に関する講義の底本と
して取り上げた。建築生産の広がりを記述した教科書は教科書類⑥⑧であ
る。②の記述範囲も広いが、副読本的な利用が多いと考えられる。一方、
教科書類③④⑦は施工分野の教科書である。教科書類⑤は建築経済分野の
教科書の代表として取り上げた。教科書類⑨は建設業関連の統計データ集
であり、国際化に関する情報も含んでいる。
391