Download as pdf or txt
Download as pdf or txt
You are on page 1of 25

社会資本としての住宅街

世代循環型社会の創造に向けた施策

Ver.1.04

作成日 : 2017 年 6 月 10 日

作 成 : H. M
~ 目次 ~

1. 序 ............................................................................................................................................................................................. 4

2. 社会資本としての住宅街 ................................................................................................................................................. 5

3. 住宅標準化の経済............................................................................................................................................................. 8

【1】住居の構造 ................................................................................................................................... 8

【2】住宅街の構造 ............................................................................................................................... 9

4. 新たな地方社会の創出 .................................................................................................................................................. 11

【3】住宅街向けのサービス ................................................................................................................ 11

(1)「自治(町内)会」活動の合理化 ................................................................................................ 11

(2)ユーティリティ .......................................................................................................................... 12

(3)日々の買物 ............................................................................................................................. 12

(4)医療・介護 ............................................................................................................................... 12

(5)埋葬・供養 ............................................................................................................................... 13

【4】地域との関わり ........................................................................................................................... 13

(1)人材バンクへの登録 ................................................................................................................ 13

(2)農耕作業 ................................................................................................................................. 14

(3)ボランティア活動...................................................................................................................... 14

5. 世代循環型社会 ............................................................................................................................................................... 16

【1】乳幼児育成期 ............................................................................................................................. 17

【2】学童育成期 ................................................................................................................................. 17

【3】中高生育成期 ............................................................................................................................. 17

【5】大学生活期 ................................................................................................................................. 18

【4】社会人としての独立期 ................................................................................................................. 18

2
6. 顧客視点の重要性........................................................................................................................................................... 20

7. 樹木葬型公的霊園の経済性 ........................................................................................................................................ 22

3
1. 序
(本稿は、様々な社会的問題に対する考察を記録した個人的なブログ上の記事を再編集したも
のです。 元記事においては、政策立案者や行政に携わる人々を睥睨するかのように不遜な表現
が多用されていましたが、より多くの方々に現実的な社会政策案として評価していただけるよう、改
めて丁寧な文体に整え直したものです。)

2012年12月に発生した中央自動車道笹子トンネル内の天井崩落事故では、残念な事に多くの
方の生命が奪われてしまいました。 この様に痛ましい犠牲を出した事故からは多くの事を学ばね
ばいけないと思うのです。

同事故の原因究明及び緊急対応措置には1ヶ月近い時間を要する事となり、首都圏と山梨/長
野方面を接続する幹線陸上輸送路としての機能が暫く止まってしまいました。 このような偶発的事
故が発生した場合だけでなく、インフラを継続的に運営する上での課題の一つが、新たなシステム
へ移行するまでの期間も既存システムの稼働を保証しなければならないという事だと思います。
例えば、赤字経営を続けるローカル鉄道は、保有している「駅舎及び駅間を接続する線路(土地)」
という資産を活用し、これを専用道路に作り替えてBRT(Bus Rapid Transit)等の代替輸送システム
へ移行することで経済効率性を向上させる事が可能だと思いますが、既存の土地(線路)を活用す
る場合には、新たなシステムが稼働するまで既存システムの運用を停止しなければならなくなってし
まいます。

従って各種のインフラを構築する上では、将来的な環境の変化等を予測した上で初期設計段階か
らシステム移行の容易性等を考慮する事が重要なのですが、どうも我が国では、「長期的運用を想
定したグランド・デザイン」 という意識が乏しい様に思われます。

トンネルに限らず、鉄道/高速道路の橋脚や都心部の高層アパート等、これから昭和期に作ら
れた様々な建築物が老朽化/経年劣化によって安全性を問われる事になっていくと予想されます。
建設当時は経済が拡大基調にあったので、建設費用に充てられた各種公債/民間社債も殆ど償
還されているのでしょうが、人口動態の変化などにより嘗ての様な経済成長を見込めない中で、老
朽化した社会インフラを立て直していく事は経済効率性の点においても難しい問題だと思います。

そこで、「社会インフラの在り方」及び「地方の再生」を同時に考察してみるのです。

4
2. 社会資本としての住宅街

高齢化が進む社会の持続性に関して、以前に政策研究大学院大学の松谷さんが日経新聞に
以下のような記事を寄稿していました

(中)少子化前提に発想転換を

財政・福祉、見直し急務 生活費下げ、住宅政策カギ

高齢化時代に必須の社会資本は公共賃貸住宅であろう。年金には持続可能性はない
が、発想を転換すれば、安定的な社会福祉も可能である。年金というフローで 高齢者の収
入を増やすのではなく、公共住宅というストックで高齢者の生活支出を減らせばよい。まず
100 年以上の耐久性と維持経費の極小化のための住宅技術開発を推進する。その建設の
ための超長期の公債を発行する。公共用地や公共施設の上部を建設用地として活用する。
以上3点で、家賃補助をせずとも格段に低家賃の賃貸住宅を大量に建設できる。

公債償還は家賃収入のみで可能だから、財政負担が増加することはない。官民パートナ
ーシップ (PPP)を活用すれば、民業圧迫の非難も回避できる。都市部では4割もいる借家
の高齢者だけでなく、今後終身雇用の消滅で持ち家が困難となる多くの働く世代も助けられ
る。持ち家の高齢者にとっても、賃貸住宅に移り、自己のストック(持ち家)を生活費に回すと
いう選択肢ができる。今後の社会福祉は年金一辺 倒でなく、もっと多様であるべきだろう。

老後生活の経済的持続性に加え、社会資本としての住宅を集約して公的に管理するとい
う松谷さんの考え方には私も同意するのですが、現在都市部に居住している高齢者の移住
先として、鉄筋の高層アパートの類の集合住宅を同じく都市部に構築する事を想定しているア
イデアには違和感を覚えるのです。

5
一方、国土交通省が策定した長期優良住宅認定基準には、以下の様に記されています。

○良好な景観の形成その他の地域における居住環境の維持及び向上に配慮され
たものであること。
居住環境
・地区計画、景観計画、条例によるまちなみ等の計画、建築協定、景観協定等の
区域内にある場合には、これらの内容と調和が図られること。

○良好な居住水準を確保するために必要な規模を有すること。
〔一戸建ての住宅〕
・75 ㎡以上(2 人世帯の一般型誘導居住面積水準)
〔共同住宅等〕
・55 ㎡以上(2人世帯の都市居住型誘導居住面積水準)
住戸面積
※一戸建ての住宅、共同住宅等とも、少なくとも1の階の床面積が 40 ㎡以上(階段
部分を除く面積)
※一戸建ての住宅、共同住宅等とも、地域の実情に応じて引上げ・引下げを可能
とする。ただし、一戸建ての住宅 55 ㎡、共同住宅等 40 ㎡(いずれも1人世帯の誘導
居住面積水準)を下限とする。

既に大手住宅メーカー等が 100 年住宅というものを宣伝し始めてもいるのですが、居住環境に永


続的な価値を付帯ならしめるのは建材や工法で無く、快適な「空間」だと思うのです。 松谷さんが
指摘する経済性だけでなく、ゴミゴミとした都市部から移り住みたいと思わせる居住環境も、子育て
を終えて定年退職した非生産年齢世代の人々にとってのインセンティブになると思うのです。 従っ
て、安直に鉄筋コンクリートの高層アパートで大量の住人を収容しようという発想ではいけないと思
うのです。

例えば、英国の中小都市に数多く見られるような、適度な広さの裏庭を備える集合住宅を自治
体等の公的機関が提供する賃貸物件として整備すれば、長期の使用を想定した社会資本とする事
ができると思うのです。

6
一般的なアパートの建築費は坪当たり 50-60 万円程度でしょうから、100 年住宅という建材/構
造/工法の特殊性を考慮しても、自治体が管理する社会資本としての採算性は十分に確保できる
と思うのです。

建設費用の概算(例)

・1区画当たり敷地面積:20m × 40m = 800 ㎡


・1戸当たり敷地面積:5m × 20m = 100 ㎡
・1戸当たり総床面積:70 - 80 ㎡
・各戸標準的間取り:2LDK 又は 3DK

・1 戸当たり平均建設費(含インフラ):1500 万円
・1 戸当たり賃貸料:6 万円/月 = 72 万円/年
4世帯/棟の建屋×2=1区画とする → 72 万円×21 年 =1512 万円

維持費、入居率、金利負担等を考慮しても 30 年以内で初期投資分を回収可能であり、初期投
資回収後の賃料は自治体の安定収入源となる。

7
3. 住宅標準化の経済

戦後のベビー・ブームが供給した大量の労働力は、昭和期の高度経済成長を支えた一方、特に
地方農村部から都市部への大量の人口流入を招きました。 嘗て「団塊の世代」とも称された人々
の殆どは、既に子育ても終えて自らも現役を退いたのですが、今さら出身地に帰郷する訳にもいか
ず、猥雑な都市部に居住し続けているのだと思うのです。

この様な人々の中には、現在の住環境に不足を感じていない方も少なくないのでしょうが、その
多くは、日々を漫然と過ごす中で「現役引退後の、より良い住環境」に対する理解/願望も乏しいの
だろうと推測しています。

そこで、都市部の「快適でない」住環境に暮らしているであろう人々を潜在的な対象者と想定し、
地方への移住を促す施策として「快適な住環境を提供する公的賃貸住宅(街)」を考察してみます。

【1】住居の構造
前章において、快適な住居として以下のようなモデルを想定しました。

4世帯/棟の建屋×2=1区画
・1区画当たり敷地面積:20m × 40m = 800 ㎡
・1戸当たり敷地面積:5m × 20m = 100 ㎡
・1戸当たり総床面積:70 - 80 ㎡
・各戸標準的間取り:2LDK 又は 3DK

この程度の住空間であれば、都市部へ流入する労働力の収容先として経済成長期に建築され
た団地群(50-60 ㎡:2DK+ベランダ)よりも遥かに快適だと思われます。 かの団地群は「2人の小
さい子供を育てる4人家族」という様な世帯の入居を想定していたのに対し、本モデルの住居には、
前述の様に、都市部から移住する「高齢者夫婦世帯」が暮らす事を想定しているのですから。

8
【2】住宅街の構造
既に述べたとおり、「4戸/棟×2棟=8世帯」分の居住空間を区画単位とすれば、確保可能な
土地面積や想定する移住人口などに応じ、「ビルディング・ブロック」方式で住宅街の規模を設計す
る事が可能だと思います。 また、試験運用も含め、開発資金の調達事情などに応じて段階的に街
を拡張していく事もできるでしょう。

区画単位を格子状に配置する事により、各種インフラの敷設/管理効率も向上する。

上図の例における建設事業費概算:
・32 区画 = 64 棟 = 256 戸(コミュニティ・センター分を除くと 62 棟 = 248 戸)
・1 棟当たり建設費(15,000,000 円×4 戸)×64 棟 = 38 億 4 千万円

現在の都市部において、この様な規模の住宅地の建設に必要な土地を妥当な費用で確保する
事は非常に困難だろうと思われます。 しかし、地方の中心市街地から離れた地域においては、こ
の程度の土地を確保する事も比較的に容易であろうと思うのです。 後継者不足で放棄された耕作
地や、景気後退/産業構造の変化等によって撤退した工場跡地などを抱える自治体も少なくない
のですから。

一方、この様に同一構造の建屋が整然と連なる街並みに対して「気持ち悪い」「不自然だ」という
様な感覚を持つ方々は、行政の無策によって雑然となってしまった現在の都市空間に慣らされてし
まったのだと思うのです。 前章に掲載した写真の様に、同一構造の建屋を整然と並べた街区とい
うのは世界中の様々な国で一般的に見られる光景です。 嘗ての日本においても、大量の人口が
流入した都市部(江戸や大坂等)では、同一構造の建屋を整然と並べた下町が一般的な町人の居
住区であり、その多くは賃貸の棟割り長屋だったのです。

他の先進国に比べて土地行政のレベルが低い日本では、目先の利益だけを追求する開発業者
達によって目も当てられぬ程に雑然とした街が作られてしまいました。 その上、同一業者が開発し
た多棟物件においてさえ、全ての建物が異なる構造を持っているのです。 この様な部分にも、経

9
済効率性や次世代へ継承すべき社会資本に対する日本人の意識の低さが垣間見えるように思え
ます。 異なる構造の建物を建築する場合、各建屋の構造を個別に設計する必要があるだけでなく、
調達する資材や建築作業手順までも異なってしまうので、様々な無駄が生じてしまいます。 更には、
個々人の嗜好によって構造/外観が異なる住宅というのは、その建築主(1世代)が満足するだけ
の構造物となり、複数の世代に亘って使用される社会資本とは成り難いと思うのです。

一方、本稿で考察している様に、標準化された同一構造の建屋を大量に建設すれば、建設費だ
けでなく、その後の維持・管理のコストも低減する事が可能だと思われます。

例えば、上図の様に 250 戸強の住宅を建設するプロジェクトに対して公正な入札を実施すれば、


各住建業者は懸命になってコスト削減を工夫するでしょうから、現実的には上記に示した概算事業
費よりも遥かに低い費用で建築する事ができると思います。

多分に余裕を持たせた上記の概算見積りを前提とする場合、同様の公共賃貸住宅地区を全国
に 100 ヶ所設ける場合の総費用は約 3800 億円となります。 これを5年間に亘って実施すると仮定
した場合、毎年約 760 億円のプロジェクトとなり、景気刺激策としても妥当なレベルであろうと思いま
す。 更に、一つの公共賃貸住宅地区の居住者を約 500 人とすると、百ヶ所の総計は約 5 万人とな
り、人口の移動に伴う副次的な影響も含めた内需喚起策としての経済効果は決して小さくないと思
うのです。

嘗ての政官業の癒着構造によって不要な道路/港湾/橋/空港などを乱造した愚を繰り返さ
ぬよう、政策立案者の方々には社会の構造的変化に対応した実効性のある施策を考えてもらいた
いものです。

10
4. 新たな地方社会の創出

1985 年のプラザ合意を契機とした「円高不況」を脱すべく、過度に緩和的な金融政策を実施した
事で投機マネーが不動産バブルを引き起こしたと主張する人々が少なくありません。 その当時、建
設省等の役所も全国各地に大規模な住宅団地を造成しました。 この様な官主導の住宅地開発を
推進したのが、住宅・都市整備公団(現UR都市機構)や各県に作られた地方住宅供給公社等であ
った事にも留意する必要があるでしょう。 更に、これらの官主導で作られた住宅団地の一部では、
天下り事業体が住宅団地内のTV受信用ケーブル事業を排他的に提供していました。 ”排他的”と
いうのは、「住宅地の景観保持の観点から各戸の屋根上にアンテナを設置してはいけません。指定
された業者のケーブルサービスを利用しなければいけません。」という類の町条例の様なものを策
定し、独占的な利益を享受させていた状況を表します。

付加的なチャンネル等のサービスも提供せずに暴利を貪っていた件の事業者は、昨今の通信サ
ービスの発展から取り残されて経営状態が急速に悪化してもいる様です。

前項に引き続き、社会構造の変化に対応して地方を再生する(と同時に都市部の過密解消にも
資する)方策として、現役を引退した世代にとっての快適な居住環境について考察してみますが、利
権に群がる人々の食い物とされぬ様に配慮することも大事だと思います。

【3】住宅街向けのサービス

(1)「自治(町内)会」活動の合理化
我が国の殆どの町や村には、住人が組織する自治会というものが存在します。 しかし、その主
な活動内容は住民の生活に絶対的に必須のものでも無く、「町内盆踊り大会」や「ゴミ収集美化デー」
や「健康増進歩ing運動」という様な類のものではないかと思われます。 この様な催しを楽しみにす
る住人もいる一方、「あらぁ、来年は役員の順番が回ってくるわ、いやねぇ。」という具合に、その活
動へ主体的に参加する事を厭う人々も少なくないものと考えられます。

本提案で想定される住宅地の住民の多くは都市部からの移住者ですから、地方に特有の「濃密
な土着的近所付き合い」は敬遠される傾向があるだろうと思うのです。

そこで、「ゴミ集積所の清掃」等のサービスについては自治体が提供し、その費用を賃貸料に含
めてしまえば良いと思うのです。 更には、相応に賃金を提供することで、「現役を引退」して自由な
時間を十分に持っているであろう住宅地内の住民の中から、その様なサービスの労働力を得る事も
可能であろうと考えられます。

11
(2)ユーティリティ
電気については、原発事故以来「発送電分離」という類の議論も起きていますが、基本的にはガ
スや上下水道と同様に、従来通りの地域独占企業からサービスを提供してもらわざるを得ないと思
います。 しかし、情報通信サービスについては既に例示した様な愚行を繰り返さぬよう注意する必
要があります。

高齢者という住民の特性を考慮すれば、1区画(4戸×2棟)で1本のGbpsクラスの光回線を共
有するだけで十分でしょうから、これを「標準通信サービス」として複数の通信事業者に入札させれ
ば良いと思われます。 勿論、「私は、HD画質でビデオを観たい」というようなニーズも存在するでし
ょうから、「標準」以外の通信サービスを個別に利用する選択の自由を与えることが必要となるかも
しれません。

(3)日々の買物
流通/小売というのは公的サービスとなり得ないので、基本的には経済原理に則って既存のス
ーパー/ショッピング・モールを利用してもらう事となるでしょう。 本賃貸住宅地の入居者には生活
の移動手段として自家用車/バスを使用してもらう事を想定しているので、近隣の主要駅周辺の商
業施設若しくは幹線道路沿いのスーパーを利用してもらう事が最善だろうと思います。

ただし、後述の様に要介護状態となってしまった場合や、伴侶と死別して自動車の利用も困難と
なった場合には、インターネットを活用して近隣スーパーの宅配サービス等を利用してもらう事が想
定されます。 宅配サービスを提供する側にしても、顧客の住所が特定の地区に集中する事で配送
効率を向上させる事ができると思います。 これは、既に進行しつつある小売/流通の形態の大き
な変化であり、本構想に限らず、特に近未来の高齢化社会においては典型的なサービス形態の一
つになるものと考えられます。

(4)医療・介護
入居者の年齢特性により、健康に関わる問題を無視することはできません。 ただし、地方の医
療機関の経営が厳しい状況にあるという現実に鑑み、公的賃貸住宅地に併設して医療サービス機
関を設置することは容易でありません。 基本的には、近隣の中心市街区にある既存の医療機関
へ通院してもらう事が最善だろうと思います。(医療機関側にとっては潜在顧客の増加という利点に
なります)

一方、介護が必要となった場合の対応については、本賃貸住宅の設計段階からバリアフリーや
介護設備の設置等を想定する事で、出張介護サービスを受け易い環境を作る事が可能だと考えら
れます。

12
(5)埋葬・供養
医療・介護という過程の先に訪れる問題として高齢世帯が心配するのは、自身が死んだ後の措
置でしょう。

元来、「永代供養」等というサービスも既存の寺社が顧客である檀家から世襲的に布施を納めさ
せるべく作り出したシステムであり、「宗派」というのは顧客を囲い込む為の方便に過ぎないとも考え
られます。 元々地方から都市部に移住した人々の多くは、老後を郷里で暮らす事に躊躇するだけ
で無く、死去した後に先祖代々の墓に葬られる事も想定し難いだろうと思われます。 都市部に移住
した後に伴侶となった夫人にしても、「あなたの実家のお墓に入るなんてイヤよ。 私にとっては縁の
薄い土地だし、私の実家の宗派とも違いますからね。」という具合の拒否反応を示す事も考えられま
す。 この様な機微は、「(先進国で進展した核家族化による)個人の価値観や意識の変化」と人口
統計学者でもあるエマニュエル・トッドが指摘した様な傾向であり、嘗ての大家族/家父長制を前提
とした伝統的な葬祭習慣の衰退は今後も続くものと考えられます。

そこで、特定の宗教/宗派に偏らず、持続的な埋葬スペースの確保を可能とする「自然(樹木/
森林)葬」の機能を備えて公園の風情を持つ霊園を、自治体が本住宅地の近くに提供すれば良いと
思います。 現役引退後に移住する人々は、周辺の自然環境等も考慮しつつ「終の棲家」としての
移住先を決定するでしょうから、同じ地域内に葬ってもらう事への抵抗も少なかろうと考えられます。
また、霊園内の清掃等の日常的な維持管理作業についても、本住宅地の住民から労働力を調達す
ることが可能であろうと思われます。

「どうしても個人の墓標が欲しい」というニーズに対しては、オプションとしてサービスを提供して
あげれば良いでしょう。 ただし、数世代に亘って様々な人々が 100 年住宅に入れ替わり入居すると
いう持続性を考慮し、個人墓標のオプションも「永代」では無く適当な期間に限定すれば良いと考え
られます。 故人に対して想いを馳せるのは、一つ家屋に同居した子や孫、若しくは同時代を共に
過ごした朋友達であり、死去後 20-30 年も経過した頃には、当の故人を偲ぶ人々もいなくなってし
まうでしょうから。

【4】地域との関わり

(1)人材バンクへの登録
若年層の流出を防ぐべく、多くの地方自治体が地域の産業を振興しようと努力していますが、そ
のような地域において渇望されているのが、大手企業等に蓄積されている事業運営/組織運営等
のノウハウではないかと思うのです。 本住宅地への移住を想定するのは、自らの人生を能動的に
設計するという主体性を持った生き方を実践するような人々であり、そのような人々の中には定年を
迎えて退職するまでに大手企業や公的機関等で高いレベルの知識/経験を得た方々も少なくない
でしょうから、経済構造の変化に対応を迫られる中小企業の経営に役立てることができると思うので
す。

13
豊富な経験を有しつつも定年によって現役を引退した人々の中には、自らの知識を役立てたい
という思いもあるでしょう。 自身が築いてきたキャリアに相応の敬意を払ってもらえるならば、高い
報酬を得られずとも次世代の経営者/事業運営者達への支援に労を惜しまないという気概もある
だろうと思うのです。

(2)農耕作業
前述した様に、本住宅地の構築場所として想定する地域には、後継者不足等から放棄された耕
作地も少なく無いでしょうから、住宅地の住民を労働力として耕作を復活させる事もできるだろうと思
うのです。 現役を引退した世代の人々には、パソコンと格闘するデスクワークより体を動かす労働
を好む傾向もあるだろうと思うのです。 更に、収穫された作物を住宅地内のコミュニティ・センター
で販売すれば、小なりとも地産地消型の閉域経済が成立するかもしれません。

一方、趣味として自分のペースで作物を栽培したいというニーズに対しては、住宅地の近くに家
庭菜園を提供してあげれば良いでしょう。 これは各個人の嗜好に応えるサービスとなるので、適当
な利用料を徴収することも可能だと思われます。

何れの場合でも、体を動かす農作業は健康の増進にも寄与する事となり、結果的には医療・介
護の必要性を低減するという副次的効果を期待できるかもしれません。

(3)ボランティア活動
山間部等の過疎地域において深刻化しつつあるのは、日々の食材の調達にも不自由する「買い
物難民」と呼ばれる人々の存在です。 嘗ては地域社会に貢献してくれたであろう方々ですから、経
済合理性だけで見捨てるようなことがあってもいけません。 高齢化した当の住民達はインターネッ
トで買い物をする事も容易でありませんが、地域のスーパーにしても僅かな需要に応える為の宅配
サービスのコストは無視できないと考えられます。

この様な問題に対しては、本住宅地の住民からボランティア要員を募り、燃料費等の実費分だ
けを加算する形で小型トラック/バン等による移動販売サービスを提供してあげても良いのではな
いかと思います。

地域によっては、冬季の雪下ろし作業等にボランティア要員を募る事もできると思います。 現役
を退いた人々の中には、「余る時間を社会に役立てたい」と考える方も少なく無いだろうと思います。

14
各個人の意思で適度な距離を保ちながら地域社会と交わる事により、精神的な充足感を味
わう事が可能な老後の生活を実現できる。

15
5. 世代循環型社会
Reuters に興味深い記事が掲載されていましたが、翌日にはロイター・ジャパンも同記事の和訳
文を掲載してくれました。

コラム:米国での出生率低下、その脅威とジレンマ

[ニューヨーク 6日 ロイター] 不安か共感か。社会的変化の触媒としてより強力に働く


のはどちらだろうか。富裕国や中所得国で暮らす女性たちは間もなく、この問題を試す社会
実験に参加することになるだろう。世界の多くの場所で出生率が低下しているからだ。

人口動態はほどなく、政治の最優先課題に駆け上がることになるはずだ。そこでは、女
性、母親、経済について、これまでとはまったく違う新しい考え方が求められる。

そうした変化の要因の1つは、言うなれば米国で生まれた。なぜなら米国はこれまで長い
間、西欧やロシア、中国などでの出生率低下を第三者的に眺めてきたからだ。元気で精力
的な米国は、人口減少の傾向に逆らってきた。

しかし先週、2011年の米国の出生率が過去最低に落ち込んだことが明らかになった。
女性1000人当たりの出生数を示す総出生率は4年連続で下がり、63.2となった。

重要なのは、これまで米国の人口増を支えていた移民女性の出生率低下が顕著なこと
だ。調査機関ピュー・リサーチ・センターの分析では、米国で生まれた女性の出生率は200
7─10年に6%低下した。移民女性に限ると14%の低下となっており、特にメキシコ系移民
では23%の落ち込みだ。

これは米国にとっては大きな変化だ。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を表す合
計特殊出生率は昨年に1.89となり、他の先進国の水準に一歩近づいたことになる。

これまで、人口動態をベースに社会構造の変化を考察してきましたが、社会構造の変化が現役
世代にとっての子育てを難しくしつつあるという身近な生活環境の変化についても、十分に理解する
必要があります。 以下では、「地方社会の活性化」と不可分な「都市部と地方との関係」について
考察してみます。

前項において、「社会資本としての優良な賃貸住宅環境を長期的に提供する事で、現役引退世
代の地方への循環的な移住を促進する。」という施策による地方活性化を考察してみました。 しか
し、現役を引退した高齢者世代だけを移住対象としたのでは、活気に満ちた街を生み出す事が難し
いかもしれません。 そこで、優良公共賃貸住宅の入居対象を育児世帯にも拡げる事により、現代
の日本における都市部/地方社会の構造的問題(の一部)を同時に改善する事が可能ではないか
と思うのです。
16
【1】乳幼児育成期
初めての子供を授かった時、父親は喜びと戸惑いを交錯させながら子供に関心を向けるでしょう
し、2-3 年の間を空けて誕生した第2子に対しても同様の愛情を示すでしょう。 「イクメン」という言
葉が各種メディアを賑わせる一方、壮年期に向かい始める父親は仕事で多忙となる時期であり、子
供が幼稚園へ通う頃には子育ての多くを母親が負担する様になるというのが依然として一般的なの
だろうと思われます。 残業/休日出勤や飲み会等で父親が子育てを顧みなくなる(ならざるを得な
くなる)に従い、毎日の子供の食事の世話だけでなく、急な発熱への対応や各種予防接種の措置等
に忙しくなる母親は、精神的/肉体的疲労を積み重ねる一方なのだと思われます。

日本に限らず、嘗ての社会では、乳幼児を育てる母親に対して祖父母や近隣に住む親類縁者
が様々な形で支援してくれたのですが、都市部への人口流入で核家族化が進展した現代では、子
育てに忙殺される母親のストレスは増える一方なのだと考えられます。

ですから、乳幼児を育成する母親は、前項で考察した公共賃貸住宅で両親と同居しても良いと
思うのです。 孫との同居を嫌がる祖父母は少ないでしょうし、賃貸住宅への移住で生活費の負担
が軽減される事と併せ、退蔵している資産を孫の為に支出するという副次的経済効果を期待できる
かもしれません。 両親(子供の祖父母)に面倒を見てもらう事により、母親が職務へ復帰する場合
でも朝から夕方まで乳幼児を預ける保育所の類は不要となるでしょう。

勿論、幼児期から社会性を身に着けさせる為の幼稚園の様な環境の拡充については、是非とも
自治体に力を入れてもらいたいものです。

【2】学童育成期
子供が小学生となる頃には、両親と同居する家屋も手狭となるかもしれませんが、その様な場
合には同じ住宅地内の別棟に母子が移り住んでも良いでしょう。 当然、 経済的負担は増しますが、
物心両面で両親の支援を得やすい環境を維持する事ができます。 母親が仕事を続ける場合も学
童保育等は不要であり、夕食準備の為に帰宅するまで子供を両親宅に預けておけば良いのです。

子供が中学生となる迄には独立した部屋を求める事となるでしょうが、本稿で想定している住環
境(70-80 ㎡:2LDK又は3DK)ならば、母親+子供2人の家族が暮らす上で大きな不自由も無い
と思うのです。

【3】中高生育成期
この頃に自我が芽生え始める子供(達)は独立心も持ち始め、家族と過ごす時間よりも学友等と
の付き合いを好む様になります。 親としての心配の質も変化し、特に教育熱心な多くの母親達が
近い将来の進学に関して悩み始めるものと考えられます。

17
現在の社会では、偏差値の高い有名進学校というのが都市部に集中している一方、地方におい
ても、県庁所在地等の中心市街区に所在する○○一校という類の県立高校や伝統のある私立校
が、学業成績の優秀な生徒達に高い水準の教育を施しています。 都市部と地方における勉学環
境の格差の一つは、学校での授業を補完して受験の為のテクニックを教えてくれる民間経営の学習
塾(予備校)の拡充度かもしれません。 しかし、本稿で考察する様な施策で若年人口分布の変化
が進展すれば、需要と供給の経済原則に従い、民間経営の学習塾が中高生の分布密度が高い地
方中核都市へ進出する可能性もあるように思います。 故(もと)より、少子化によって経営環境が
厳しくなりつつある学習塾自体もインターネットを活用した運営形態へと移行しつつあるので、都市
/地方という地理的な差異は解消されていくとも考えられます。

一方、優秀な大学への進学を目指して高いレベルの教育を施す際の経済的負担については、
公的な支援制度を拡充すべきだと思います。 「子ども手当」という様な安直なバラマキ政策では、
公的資金が将来の日本を担う人材の育成に有効に活かされないように思えるのです。 少子化の
背景にある子育て期の経済的負担の最大の項目が教育費なのですから、一部の有識者の方々が
提案している様に「教育バウチャー」という類の制度を導入すべきだと思うのです。 その運用には
柔軟性を持たせ、塾の費用にも充当できる様にすれば良いでしょうし、本稿で提案する住宅地の入
居世帯へ優先的に提供することで、子供の教育費に悩む世帯の移住を促すインセンティブとするこ
ともできるでしょう。

【5】大学生活期
地方で高校までの勉学に励んだ子供達が都市部の有名大学を志望するならば、親元を離れて
生活すれば良いのです。

この時点でも親の経済的負担が増えるので、子育て期間中に地方へ移住していた妻が都市部
に戻って夫と同居しても良いでしょう。 可能ならば、「教育バウチャー」制度と同様に、高い水準の
学究に励む学生に対して公的に経済的支援を行って欲しいものです。 奨学金制度の拡充という方
法もあるでしょうし、各藩が江戸期/明治初期に運営していた学寮の様な環境を整備しても良いと
思うのです。

【4】社会人としての独立期
子供も社会人となれば親の経済的負担が無くなるだけでなく、独立した生計を営み始める子供
達が次世代の経済的駆動力となって既述の様な社会サービスの財政を支援する側に回るのです。

18
この頃には夫の定年退職の時期も迫ってくるでしょうから、子育てを終えた夫婦には、現役引退
後の生活の場として地方に所在する快適な公共賃貸住宅地への移住を検討してもらえるでしょう。

都市部においては、現役勤労世代(独身男女、子供を持たない家庭、単身赴任の父親)
及び高水準の教育を受ける学生を中心に、事業/学術研究の効率向上を図る。 地方部に
おいては、現役引退世代及び育児世帯(母と子)にとっての生活環境の拡充を図る。

上記の考察においては、子供が自立するまで父親が単身生活しながら都市部で働く事を想定し
ています。 一見すると歪んだ家族形態とも思えますが、他の多くの高等生物の生き方と比較する
ならば強(あなが)ち不自然では無いと思うのです。 繁殖期のみオスとメスが共同で暮らし、生まれ
た子供の面倒を専ら母親が看るというのは、ある意味で合理的な生活形態だとも思えるのです。

例えば、幕藩体制下では江戸勤番の藩士が国許に妻子を残すというのも一般的な事でした。
尤(もっと)も、太平の世が続いた江戸後期には仕事も少なくなって江戸在府の藩士達が時間的余
裕を持つようになり、吉原他の遊郭が隆盛したという世俗文化の要因にもなった様ですが。 勿論、
現代社会においても、妻子と離れて単身生活を送る壮年期の男性の周囲には様々な誘惑が存在
するでしょう。 「健全な家族」という建前論で述べるならば、単身生活中でも夫が休日を利用して妻
子の元を訪ねたり、一時的に子供を両親へ預けた妻が単身生活を監視すべく夫を訪れるという様な
家族としての交流が望ましいのだと思います。

19
6. 顧客視点の重要性

(本章は、幾つかの地方自治体が推進している「移住促進策」を調査する過程で、私自身が問
題と感じた点を「不適切な(典型的)事例」として指摘すべく追記したものです。)

「2040 年までに 896 の(地方)自治体が消滅する」という増田寛也さんの著書/レポートが各種メ


ディア上で注目されたことにも刺激されたのか、人口の減少に危機感を抱く多くの地方自治体が自
地域への移住を促進する事業/施策を推進しています。 しかし、これらの自治体が推進する施策
の多くは類似したものであり、各地域の特色/特性を活かそうとの創意/工夫を見て取ることがで
きません。 また、以下に例示するように、その施策の多くが、潜在的移住候補者(顧客)の視点か
ら乖離した「おざなり」な内容となっている状況には、人口減少という問題に直面する当事者としての
危機意識を感じることができず、残念に思います。

施策例1:「空き家」の活用

放置された「空き家」の増加は、地方に限らず都市部でも大きな社会問題となっています。 都市
部/地方の何れでも、立地条件等に相応の魅力がある家屋が「空き家」となった場合、不動産開発
業者が直ちに触手を伸ばすので、「空き家」状態が放置されることは少なかろうと考えられます。
一方、元来が都市部に比べて利便性の劣る地方で放置されている「空き家」の場合、仮に建屋の
状態が良好であったとしても、立地条件等に魅力を持つ物件は稀であろうと思います。 現実的に
は、建屋自体の老朽化/損傷が激しいだけでなく、周辺の景観も別荘地等のそれとは懸け離れた
ものであり、建設資材置き場とされている雑種地や全くメインテナンスされていない雑木林等に隣接
するような物件が紹介されていることも少なくないようです。 立地条件等の悪さにより都市部でさえ
も放置されている「空き家」が増加している状況において、「汚い」「古い」「使いにくい」「不便(な場所)
である」「周囲の環境が快適でない」という類のイメージを想起されてしまう「(地方の)空き家」への
移住を促すためには、相応の魅力/インセンティブを付帯させる必用があると思うのですが、そのよ
うな工夫/アイデアを付加した「空き家」を目にすることはありません。

施策例2:家屋新築への助成金

「移住者が自宅を新築する場合に一定金額を助成する」と宣伝する地方自治体も少なくありませ
んし、ご丁寧に、「地元の優良工務店の斡旋/紹介」というサービスまで提供している場合もあるよ
うです。

「十分な頭金を準備した上で30年程度の長期ローンを組む」というのが、我が国における新築住
宅購入者の平均的な資金計画であろうと思います。 当然のことながら、将来に渡って家計を賄え
る十分な収入を得られる(と予測できる)安定的な職に就いていることも、平均的な新築住宅購入者
が前提としている条件だろうと思います。 しかし、好条件の就労環境に乏しい地方都市において、

20
このような前提条件を満たせると考える移住希望者がどれ程存在するのかは、甚だ疑問に思うとこ
ろです。 (「就職の斡旋」を提案している自治体も存在しますが、潜在的な移住候補者にとって、現
在の職を手放すことは移住を躊躇させる最大のリスクの一つであろうと考えられます。)

施策例3:民間経営アパートの空き室紹介

このような施策には、もはや移住促進に対する自治体の熱意を感じることもできません。 何らか
の理由により既に同地域への移住(引っ越し)を検討している人ならば、独自に各種不動産関連の
ホームページ上で最適な条件の物件を検索するでしょう。

現役引退後の夫婦世帯が許容可能な範囲

親と近居/同居する子・孫
世帯が許容可能な範囲

本稿で提案している移住促進策も、全ての地域で推進可能だとは思えません。 現役引退後
に快適な居住環境/埋葬環境を求めるであろう人々は、地方へ移住した後も(都市部に居住し
続ける)家族や友人達と適度に往来し合いたいと考えるでしょう。 潜在的移住候補者が最も多く
居住していると考えられる首都圏を対象とした場合、公共交通機関を使用して2-3時間以内で
移動できる地域が本施策に適した範囲と考えられますし、「富士山」「八ヶ岳」「清里」「伊豆」「軽
井沢」「那須」等のリゾート地を連想させる地方は移住者を惹きつけるブランド価値も有しているも
のと思います。

同様に、子育ての支援を期待して親の居住地での同居/近居を望む子供世帯では、都市部
へも気軽に往来できる環境を望むでしょうから、首都圏から1時間半程度で移動可能な範囲が対
象になるものと思います。

21
7. 樹木葬型公的霊園の経済性

(本章は、死後の埋葬方法として樹木葬を希望する人々や、日本郵便の「ゆうぱっく」で遺骨を寺
院や霊園に送付する「送骨」を選択する遺族が増加しているというように、葬送に対する価値観が
変わりつつある状況及び檀家の減少や後継者不足によって(特に地方の)寺社の存続が難しくなっ
てきているという状況に鑑み、本稿の原型である筆者のブログ記事とは別に新たな考察を記したも
のです。)

横浜市が運営する「メモリアル・グリーン」という公園型霊園を見学してきました。 他の多くの自
然葬霊園と同様に、同園でも個人を偲ぶ物的象徴としての樹木の周囲に遺骨を埋葬する「樹木合
葬式」という区画を用意していますが、何よりも私が興味を抱いたのは、「芝生型」と呼ばれる西欧
的な霊園区画なのです。

(同霊園ホームページより) 概要
四角いプレートを墓標とし、全体を芝生
広場のような開放感に溢れた明るい空
間になります。芝生型墓地は、使用者に
管理していただく墓地です。プレートの
大きさは、縦 35cm×横 45cm の A3 用紙く
らいの大きさです。プレートの表面に
は、お名前などが入れられる銘板を設置
して いただきます。
規模
7,500 区画を設置し、1 区画に 6 体程度、埋蔵可能です。

使用料
永年使用:90 万円/区画
30 年使用:45 万円/区画

管理料
1 年間:8 千円/区画

その他
プレート及びカロート(納骨施設)の費用を含みます。

22
年間管理料が 8 千円/区画ということなので、(契約後)30 年間の使用料総額は 8 千円×30+
45 万円=69 万円ということになるのでしょう。 永年使用権を購入した場合、年間保管料をいつまで
支払い続ければ良いのか判りませんが、(遺族が)年間保管料を支払わなくなった時点で「永年使
用権」が消滅してしまうのでしょうか?。

同霊園は、周囲に鉄筋のアパート群や単科大学、野球場等が隣接している環境に立地している
ので、決して「大自然に囲まれた」と形容されるような土地に所在している訳ではないのです。 しか
し、ドリームランドという遊園地が廃園となった跡地の一部を利用して造成されたものである為、横
浜という大都市内にありながらも相当な敷地面積を確保できたと思うのです。 もっとも、7500 区画
というのは周辺地域の膨大な墓地需要へ応えるには全く不十分なようで、現時点では全ての区画
が完売しているとのことでした。

全ての区画が完売しているとなれば、今後は全区画の契約者が前納した/又は遺族等が継続
的に支払う年間保管料のみが同霊園の主たる収入源となるのでしょうが、単純化の為に以下の様
なモデルで同霊園の経済効率性を評価できるかもしれません。

30 年使用権: 45 万円×7500 区画 =3,375 百万円


年間管理料: 8 千円×7500 区画 = 60 百万円

同様に単純化した収支モデルを適用するならば、以下のように同霊園の収支を計算することもで
きると思います。

造成他の初期費用: 3,375 百万円以内の投資で短期間に返済可能


人件費他の管理費: 60 百万円/年以内の経費で維持可能

埋葬者との契約が満了する 30 年毎に再度同程度の一時収入(3,375 百万円の 30 年使用権料)


が得られることとなるので、現在埋葬されている遺骨の移設処理等の一時費用を差し引いても充分
な利益を計上できるでしょう。 定常的な年間収入(管理料)と 30 年に一度の一時的収入(使用権)
の差が甚だしい為に管理会計上の工夫は必要となるかもしれませんが、30 年毎に改めて大規模な
造成等を行う必要はないので、上記の単純化したモデルでもこの種の霊園を持続的に運営すること
が可能なのかもしれません。

しかし、このような運営モデルでは、30 年毎にしか新規埋葬需要に応えることができないので、
公的事業としての使命を十分に果たせるとは思えません。 (同規模の霊園を毎年1ヶ所づつ 30 年
間に亘って新設していくことができれば、理論的には毎年 7500 区画の墓地を供給する事も可能とな
りますが、現実的であるとは思えません。)
23
そこで、上記の霊園と同様に 30 年を基本的な遺骨管理期間とし、毎年定常的に一定量の遺骨
埋葬需要に応えるべく段階的に霊園の規模を拡大していくことができるのではないかと思うのです。
横浜市のメモリアル・グリーンと同規模(7500 区画)の霊園を 30 年に渡って少し(250 区画)ずつ造成
していくと仮定した場合、n年目の収入は以下のようなモデルで算定することができます。

30 年使用権: 45 万円×250 区画 =125 百万円


年間管理料: 8 千円×250 区画×n = 2 百万円×n

このように適度な単位で暫時拡張していくのであれば、毎年コンスタントに一定量の遺骨埋葬需
要へ応える事ができるだけでなく、収支の平準化によって安定的な霊園経営を実現できるだろうと
思います。 更には、第 3 章「住宅標準化の経済」で提言したような公共賃貸住宅地と同じビルディ
ング・ブロック方式で霊園区域を拡大していくこともできるのではないかと思うのです。

潜在的な全ての霊園用地を一度に造成する場合に比べ、250 区画づつ造成することによる多少
の投資効率の低下はあるでしょうが、上記のような経営の安定性やコンスタントな墓地区画の提供
だけでなく、経営リスクを低減するという効果も期待できるものと考えられます。 横浜市のような都
市部でなく、本稿が想定するような地方都市部に設ける場合には、用地取得に必要なコストも相応
に低くなるでしょうから、設定される料金体系もメモリアル・グリーンのそれより大幅に引き下げること
が可能であろうと考えられます。

250 区画の霊園敷地規模例

本稿第 4 章「新たな地方社会の創出」【4】「地域との関わり」(1)「埋葬・供養」の項で述べた様に、
隣接する上述のような公共霊園の区画利用権を優先的に提供することで、地方自治体が運営する
公共賃貸住宅への現役引退世代の人々の移住/入居を促す大きなインセンティブになるだろうと
思われます。

24
また、既に述べた様に、世代循環型社会の構成要素として永続的な運営を実現するためにも、
上述のような霊園の区画を「永代使用」する事を認めず、30 年程度の管理期間を経過した遺骨は自
動的に「樹木葬型埋葬エリア」のような共同の区画へ移してしまうことが望ましいと思うのです。

我が国の経済が低迷する中で十分な収入を得ることの困難な非正規雇用者が増加し、現時点
でも結婚しない(できない)中高年層が拡大しているという状況に鑑み、今後は(縁者による)死後の
継続的な供養を求めないという人々が増えるだろうと予想できます。 家族観/死生観/葬送観等
の変化により、現在でも樹木葬型墓苑への申込者が増加しているようですが、上記のような樹木葬
型共同埋葬エリアで定常的に埋葬希望者を募ることによって、更に社会的なニーズへの対応/霊
園経営の安定化に資することも可能であろうと考えられます。

25

You might also like