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Effects on throwing distance and kinematics of learning program to improve


throwing ability

Article · May 2019

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0 10

5 authors, including:

Keitaro Seki Junichi Igawa


Nihon University Nihon University
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SEE PROFILE SEE PROFILE

Ryoji Isano
Nihon University
3 PUBLICATIONS   2 CITATIONS   

SEE PROFILE

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65
身体と教育の実践知
Vol.1 No.1 2019 pp.65-72
原著論文
投能力向上のための学習プログラムが
女子中学生の投能力と動作に及ぼす影響
* ** ** * *
関慶太郎 ,松原拓矢 ,井川純一 ,伊佐野龍司 ,青山清英

Effects on throwing distance and kinematics of learning program to


improve throwing ability
* ** ** * *
Keitaro Seki , Takuya Matsubara , Junichi Igawa , Ryoji Isano and Kiyohide Aoyama

Keywords: ハンドボール投げ,体育授業,遠投,キネマティクス
hand ball throwing, physical education class, long throw, kinematics

Ⅰ.緒 言
投運動は歩行や走運動と並んでヒトの基本的な運動形態のひとつである。これらの運動は日常生
活の中で自然に習得されていくものであり,多くのヒトは生活の中で歩行や走運動を習得する。し
かしながら,投運動は走運動や跳運動と比較して技術構造が複雑であるため,適切な時期にある程
度の経験や練習を積まないと上達がみられないと言われている(桜井ほか,1997)。走運動や跳運動
が下肢を主に用いる運動であるのに対して,投運動は上肢を主に用いる運動であるという点におい
ても,走運動や跳運動とは異なる運動様式であることが伺える。また,投運動は上肢の運動に加え
て,下肢の運動による助走と組み合わせることで投擲距離が向上することも知られており,上肢と
下肢のコーディネーションもその能力に深く関係している難しい運動であると言えよう。
新体力テストの結果をみると,全体的な体力水準は年々増加しているのに対して,ボール投げの
記録は年々低下する傾向が報告されており(スポーツ庁,2018),投運動を経験する機会が減少して
いることがその一因と考えられる。中村(1999)は,遊びの形態が屋外から屋内へと変化し,戸外
での遊び時間が減少していることを報告している。青木(1986)は,女子大生における幼少期の投
運動の経験と投擲距離との間に有意な正の相関関係が認められたことを報告しており,外遊びで投
運動を経験する機会が減少したことが,投能力の低下に繋がったと考えられる。
日常生活の中で投運動を行う機会が少ない一方で,学校教育における保健体育の授業は投運動を
経験する貴重な機会である。保健体育の授業における「球技」は全学年で取り扱う領域であり(文
部科学省,2017),球技を行う際にボールを投げる運動は避けることができない。しかしながら,
新体力テストのボール投げの記録が年々減少していることを鑑みると,保健体育の授業において投
運動の指導が十分できていない可能性も考えられる。保健体育の授業において,教員と生徒の共通
の関心事は「できない」運動が「できる」ようになることである(青山,2017)。実際の教育現場では,
生徒の指導を行う際に,身体の動き方に関する知識や運動経験をもとに指導を行っている教員が多

 *
日本大学文理学部
College of Humanities and Sciences, Nihon University
**
日本大学大学院文学研究科
Graduate School of Literature and Social Sciences, Nihon University
66 身体と教育の実践知 第 1 巻第 1 号,65 ∼ 72

いものの,教員自身が専門としない運動でも指導することが求められる。このことから,技術習得
が難しいとされる投運動に関して,指導に苦手意識を持っている教員も少なくない(大矢・新保,
2016)。
このような現実を踏まえ,尾縣ほか(2001)は小学生を対象に,投能力改善のための学習プログ
ラムを提案し,それが有効であったことを報告している。尾縣ほか(2001)は,奥野ほか(1989)
の報告をもとに,小学校 2–3 年生が投能力を改善し易い時期であると考えられることから,これら
の学年の児童を対象に選んでいる。しかし,中学生も小学生と同様に投能力の低下がみられ(スポー
ツ庁,2018),投動作の発達も未熟である(Halverson et al.,1982)ことから,中学生を対象とした投
能力向上のための学習プログラムも検討する必要があると言えよう。中学生は身体の著しい発達に
より,身体のバランスが崩れ,運動を行うことが困難な時期であり(マイネル,1981),練習効果が
表れない時期である(奥野ほか,1989)ことを鑑みると,投運動の下位運動で構成された学習プロ
グラムを行うことが望ましいと考えられる。また,女子は男子と比較して投運動の経験が不足して
おり,投動作が未熟であると言われていることからも ( 青木ほか,1989),学習プログラムによって
女子中学生の投能力向上の可能性を検討することは意義深いものである。そこで,本研究では,投
能力向上のための学習プログラムが女子中学生の投能力および投動作に与える影響を明らかにする
ことを目的とした。

Ⅱ.方 法
1.被験者
被験者は,東京都立 A 中学校の女子生徒 231 名であった。ただし,全被験者(231 名)を分析する
ことは現実的ではないため,この中からランダムに抽出した 40 名(年齢:14.0 ± 0.7 歳,身長:
1.55 ± 0.05 m,体重:46.2 ± 6.69 kg)を分析対象者とした。実験参加に先立ち,研究の目的,方法,
実験参加に伴う安全性に関して学校長および学級担任に十分な説明を行った後,生徒およびその保
護者から実験参加の同意を得た。また,本研究は授業内で実施した実践的研究のため,時間の制約
や倫理的配慮から対照群を設定することができなかった。
2.学習プログラム
本研究で用いた学習プログラムは,次の 6 つの教材で構成した。
①体重移動を意識した投げ(尾縣ほか,2001)
②上肢の大きな外転動作からの投げ(尾縣ほか,2001)
③サイドステップからの投げ(尾縣ほか,2001)
④紙鉄砲(細井ほか,2004)
⑤バトン投げ(尾縣ほか,2001)
⑥遠投
学習プログラムは尾縣ほか(2001)が提案した 4 つの教材(①,②,③,⑤)に 2 つの教材(④,⑥)
を加えて作成した。教材①は,準備動作から主動作中の体重移動の感覚を養うとともに,全身を使っ
てボールを投げる感覚を養うことをねらいとしている(尾縣ほか,2001)。教材②は,主動作で肘が
ボールよりも先行し,リリース前に一気に前腕が振り出される動作(ムチ動作)を引き出すことを
ねらいとしている(尾縣ほか,2001)。教材③は,準備動作における脚の動作を習熟させることや,
主動作における下肢と上肢の動きの連結を円滑にすることをねらいとしている(尾縣ほか,2001)

教材④は,手首のスナップを上手く使うことで音が鳴る遊びであり,手軽に楽しくスナップ動作を
身に付けることをねらいとしている(細井ほか,2004)。紙鉄砲を鳴らすことでリリース時のスナッ
プ動作を習得することをねらいとしている。教材⑤は,バトンを縦にできるだけ多く回転させて投
げることで,スナップ動作を強調させることをねらいとしている(尾縣ほか,2001)。また,主動作
投能力向上のための学習プログラムが女子中学生の投能力と動作に及ぼす影響 67

の全習法としてのねらいも合わせもっている(尾縣ほか,2001)。教材⑥は,学習プログラム全体の
まとめとして行う。これらの教材を約 2 ヶ月間にわたって,体育の授業内で 1 時間あたり約 10 分間
ずつ実施した。1 時間目はオリエンテーションとして,6 つの教材の説明を行った。前半の 3 時間は
教材①と②を,後半の 4 時間は教材③,④,⑤を行わせ,最後の時間に教材⑥を実施した。
3.撮影およびデータ処理
学習プログラムの効果を検証するための測定は,学習プログラムの前後にハンドボール投の測定
を行った。投擲距離は,地面に 1m ごとに引いたラインを基準に計測され,1m ごとに切り下げとし
た。投動作は,動作自由度の大きな上肢を素早く動かす3次元動作であると言われている(小林ほか,
2012)が,本研究は授業時間内での実施のため,時間や設備の制約が大きく,3 次元分析を行える
測定は実施できなかった。そのため,矢状面における動作のみを分析対象とした。しかし,学習プ
ログラムの効果は 2 次元動作分析で十分に検証可能であると考えられ,先行研究(尾縣ほか,2001)
も 2 次元動作分析でその効果を検証している。
矢状面の投動作はハイスピードカメラ(GC-P100, JVC ケンウッド,神奈川)を用いて側方から
300 fps で撮影した。撮影された映像をもとに,ボール中心,頭頂,耳珠点,胸骨上縁および左右
の手先,手,肘,肩峰,つま先,MP 関節,踵,外顆,膝関節,大転子の計 24 点を Frame-DIAS V(DKH,
東京)を用いて 100 Hz でデジタイズした。本実験では,運動を行っている平面とカメラの光軸が完
全に直行する位置にカメラを設置できなかったため,試技に先立って撮影したコントロールポイン
トの座標を用いて 2 次元 DLT 法によって実長換算した。実長換算した座標値は,座標成分ごとに
Wells and Winter(1980)の残差分析方で決定した最適遮断周波数(2–14 Hz)を用いて,Butterworth
low-pass digital filter によって平滑化した。平滑化された座標値を時間微分することによって,各分
析点の速度を算出した。
ボール中心の位置座標をもとに,次の通りリリースパラメータを求めた。投射速度は,リリース
時のボール中心の速度とした。投射角度はリリース時の速度ベクトルが水平面となす角とした。投
射高はボール中心の鉛直座標とした。また,ボール速度は,身体各部の相対速度を用いて次式で示
すことができる(田内ほか,2006)。

Vball = Vball/wrist + Vwrist /shoulder + Vshoulder/hip + Vhip .............................................(Eq. 1)

ここで,Vi は部分 i の速度,Vi / j は部分 j に対する i の相対速度,ball はボール中心,wrist は手関節,


shoulder は肩,hip は股関節を示す。この式をもとに,ボール速度に対する身体各部の貢献として,
身体各部の相対速度を算出した。
本研究では,左右の足が地面に接地した瞬間(両足接地)から,ボールが手から離れる瞬間(リ
リース)までを投げ局面とし,時系列のデータは投げ局面が 100% となるように規格化した。
4.統計処理
すべての変数は平均値±標準偏差で示した。Pre と Post との間の各種変数の比較は対応のある t 検
定を用いた。また,Pre と Post の間の変化量を算出し,投擲距離の変化量と各種変数の変化量との
関係を Pearson の積率相関係数を算出して検討した。なお,有意確率は危険率 5% 未満で判定した。

Ⅲ.結 果
全被験者(231 名)の投擲距離は Pre で 10.53 ± 2.98 m,Post で 11.98 ± 3.18 m であった。Post の投擲距
離は Pre と比較して有意に大きい値を示した(p < 0.001)
。分析対象者の投擲距離は Pre で 10.75 ±
2.73 m,Postで11.85 ± 2.98 mを示し,Preと比較してPostは有意に大きい値を示した(p < 0.001, Table 1)

また,リリースパラメータである投射速度,投射角度,投射高はいずれも Pre と比較して Post で有
68 身体と教育の実践知 第 1 巻第 1 号,65 ∼ 72

Table 1 Mean(± SD)of throwing distance and release parameters and results of t test.
Variables Pre Post T value P
Throwing distance(m) 10.75 ± 2.73 11.85 ± 2.98 − 4.87 <0.001
Release velocity(m·s − 1 ) 9.85 ± 1.53 10.47 ± 1.65 − 3.23 <0.01
Release horizontal velocity(m·s − 1 ) 8.64 ± 1.48 8.74 ± 1.67 − 0.37 ns
Release vertical velocity(m·s − 1 ) 4.59 ± 1.24 5.66 ± 1.14 − 6.27 <0.001
Release angle(deg) 28.00 ± 7.17 33.19 ± 6.47 − 3.66 <0.001
Release height(m) 1.88 ± 0.09 1.92 ± 0.08 − 2.96 <0.01
   Note: ns: not significant

Vhip
Vshoulder/hip
Vwrist/shoulder
6
Vball/wrist
Relative velocity (m·s−1)

0
0 20 40 60 80 100
Normalized time (%)

Figure 1 Average patterns of relative horizontal velocities of each body segment during throwing phase.
Grey and black lines show pre and post measurement, respectively.

意に大きい値を示した(p < 0.01–0.001, Table 1)


。投射速度を水平成分と鉛直成分に分けると,水平
成分は Pre と Post の間に有意差は認められなかったが,鉛直成分は Pre と比較して Post で有意に大き
い値を示した(p < 0.001, Table 1)

Figure 1 は投げ局面における身体各部の相対速度の変化を示したものである。Vhip は投げ局面全体
で緩やかに速度が減少していく傾向を示した。Vshoulder/hip は,両足接地時からゆるやかに速度が増加
し,リリース前にやや減少する傾向を示した。Vwrist /shoulder は投げ局面の中盤からリリースに向かっ
て相対速度が大きく増加していく傾向を示した。Vball/wrist はリリースの直前に急峻に相対速度が増加
する傾向を示した。Table 2 はキネマティクス的変数の平均値および標準偏差と Pre,Post 間の差の検
定結果を示したものである。身体各部の相対速度は Vball/wrist のみが Pre と比較して Post に有意に大き
い値を示した(p < 0.001, Table2)。
Table 3 は各変数および投擲距離の Pre から Post までの変化量の相関関係を示したものである。投
擲距離の変化量と最も強い相関関係を示したのは投射速度であった(r = 0.52, p < 0.001, Table 3)。
投射速度を水平成分と鉛直成分に分けて検討すると,水平成分の変化量と投擲距離の変化量との間
に有意な正の相関関係が認められた(r = 0.38, p < 0.05, Table 3)。身体各部の相対速度の変化量につ
いてみてみると,Vshoulder /hip(r = 0.34, p < 0.05, Table 3)と Vwrist /shoulder(r = 0.46, p < 0.01, Table 3)の変化
量と投擲距離の変化量との間に有意な正の相関関係が認められた。
投能力向上のための学習プログラムが女子中学生の投能力と動作に及ぼす影響 69

Table 2 Mean(± SD)of kinematic variables and results of t test.


Variables Pre Post T value P
Maximal Vhip(m·s − 1 ) 1.57 ± 0.31 1.56 ± 0.30 0.13 ns
Maximal Vshoulder/hip(m·s − 1 ) 2.38 ± 0.62 2.38 ± 0.68 − 0.01 ns
Maximal Vwrist/shoulder(m·s − 1 ) 7.42 ± 1.44 7.15 ± 1.28 1.35 ns
Maximal Vball/wrist(m·s − 1 ) 5.06 ± 1.26 5.99 ± 1.46 − 4.11 <0.001
    Note: ns: not significant

Table 3 Mean(±SD)of difference between pre and post measurement and correlation coefficients
with difference of throwing distance.
Variables Mean ± SD R P
Throwing distance(m) 1.10 ± 1.43 - -
Release velocity(m·s − 1 ) 0.62 ± 1.21 0.52 < 0.001
Release horizontal velocity(m·s − 1 ) 0.09 ± 1.56 0.38 < 0.05
Release vertical velocity(m·s − 1 ) 1.07 ± 1.08 0.26 ns
Release angle(deg) 5.20 ± 8.98 − 0.06 ns
Release height(m) 0.04 ± 0.09 − 0.11 ns
Maximal Vhip(m·s − 1 ) − 0.01 ± 0.39 0.09 ns
Maximal Vshoulder/hip(m·s − 1 ) 0.01 ± 0.38 0.34 < 0.05
Maximal Vwrist/shoulder(m·s − 1 ) − 0.26 ± 1.24 0.46 <0.01
Maximal Vball/wrist(m·s − 1 ) 0.93 ± 1.44 0.12 ns
    Note: ns: not significant

Ⅳ.考 察
本研究の目的は,投能力向上のための学習プログラムが女子中学生の投能力および投動作に与え
る影響を明らかにすることであった。本研究では,231 名の女子中学生を対象に保健体育の授業内
で学習プログラムを実施し,その前後にハンドボール投げの測定を行った。そして,学習プログラ
ム前後におけるハンドボール投げの距離および動作の変化を検討した。その結果,学習プログラム
実施後,投擲距離が有意に向上したことが明らかになった。この結果は学習プログラムが投能力向
上に有用であることを示唆するものであるが,本研究は中学校の保健体育の授業内で実施したため
に,時間的な制約や倫理的な問題から対照群を設定することができなかった。そこで,学習プログ
ラムの前後における動作の変化を検討することで,学習プログラムの有効性を検証した。ただし,
バイオメカニクス的分析には膨大な時間と労力を要することから,231 名の被験者全員を分析する
ことは現実的ではないことから,本研究では 40 名をランダムに抽出してバイオメカニクス的分析
を行った。
投擲距離は空気抵抗を無視した場合,投射速度,投射角度,投射高の 3 つからなるリリースパラ
メータによって決定される。本研究では,投射速度,投射角度,投射高のすべてが Pre と比較して
Post で有意に大きい値を示した。投射速度は投擲距離を決定する最も重要な要因であることが多く
の研究で報告されている(田内ほか,2007)。本研究では,投射速度の変化量と投擲距離の変化量と
の間に有意な正の相関関係が認められており,学習プログラムによって生じた投擲距離の向上は,
主に投射速度の向上の影響と考えられる。さらに,投射速度を水平成分と鉛直成分に分けて検討し
てみると,Pre と比較して Post で有意に向上したのは鉛直成分であった。一方,投擲距離の変化量
と有意な相関関係が認められたのは水平成分の変化量のみであった。学習プログラムによって投射
速度は有意に向上し,程度の差はあるものの概ね全員の投擲距離が向上した。このような投擲距離
の変化量の大きさには,投射速度の水平成分の変化量が主に影響していたと考えられ,投射角度の
過剰な増加を抑えつつ投射速度を向上させることが重要であることが示唆された。
投射速度と比較して,投射高が投擲距離に及ぼす影響が小さいことは周知の事実である。投射高
70 身体と教育の実践知 第 1 巻第 1 号,65 ∼ 72

は身長や上肢の長さで大部分が決定しており,変化させることは難しい。しかしながら,本研究で
は投射高の有意な増加が認められており,これは姿勢の変化によるものと推察され,学習プログラ
ムによって何らかの動作の変容が生じたことを示唆している。そこで,学習プログラムの前後で生
じた動作の変化について検討していく。本研究は先述の通り,中学校における保健体育の授業内で
実施したため,3 次元分析が行える測定を実施することができなかった。そこで,身体各部の相対
速度を算出することで,動作の変容を検討することを試みた。Vball/wrist は,Pre と比較して Post で有
意に大きい値を示した。これは手首のスナップ動作が上達したことを示していると考えられる。ま
た,身体各部の相対速度の時系列変化をみてみると,Pre では Vwrist /shoulder がリリースまで増加し続け
るのに対して,Post ではリリース直前に増加がゆるやかになっている。また,Vball/wrist は Pre と比較
して Post でリリース直前により大きく増加している。これらの結果は,腕から手部へのエネルギー
伝達が大きくなったことを示唆している。投動作のように末端部の慣性が中心部よりも小さく,中
心部は末端部よりも大きな力やエネルギーを発揮できるとき,運動連鎖が生じることが知られてい
る(阿江・藤井,2002)。特に,投動作におけるスナップの強調は内的トルクによる運動連鎖の特徴
のひとつである(阿江・藤井,2002)。内的トルクによる運動連鎖では,中心部に位置するセグメン
トが減速すると同時に隣接する遠位のセグメントが加速される。Vwrist /shoulder と Vball/wrist の速度変化は
内的トルクによる運動連鎖の特徴を示していると考えられる。そして,このような動作の変化は教
材④,⑤がスナップ動作の上達のために有効な教材であったことを示唆しているものと考えられ
る。
このように手首のスナップ動作の上達は見受けられたものの,Vball/wrist の変化量と投擲距離の変化
量との間に有意な相関関係は認められなかった。これは,手首のスナップ動作の上達によって増加
するボール速度は小さく,スナップ動作よりも大きく影響している部位があることを示唆してい
る。他方,Vwrist /shoulder と Vshoulder /hip は Pre,Post 間に有意差は認められなかったものの,その変化量と
投擲距離の変化量との間に有意な正の相関関係が認められた。これは,腕や体幹の動作の変化が投
擲距離の向上に深く関わっていることを示唆するものである。腕や体幹は身体の中でも比較的大き
く,長い部位である。その部位の角速度を大きくすることができれば,末端部の速度が大きくなる
ことは言うまでもない。小林ほか(2012)は,小学生 4 年生以上の高い投擲能力を有する女子は,
体幹の回転運動によって効果的にボールを加速していたことを報告している。そのため,体幹や腕
の動作の改善が大きかった被験者は投擲距離の向上も大きく,そうでない被験者は投擲距離の向上
が小さかったと考えられる。教材②は腕の動作,教材①,③は体幹,腕の動作の上達をねらいとす
るものであったが,本研究の結果はこれらの教材の有効性に個人差が生じることを示唆している。
小学生を対象とした尾縣ほか(2001)も腕の動作に有意な変化が認められなかったことを報告して
おり,教材②に問題があった可能性を指摘している。本研究では腕の動作に関して,手首のスナッ
プ動作に重点を置き,尾縣ほか(2001)の学習プログラムに教材④を追加した。また,尾縣ほか
(2001)が指摘しているように,教材②では上半身と下半身の動きの連結が難しいと考えられるこ
とからプログラムの最後に教材⑥を用いて,教材① – ⑤で習得した技術のまとめを行わせた。この
ように,学習プログラムに改善を加えたものの,先行研究(尾縣ほか,2001)と同様に腕の動作の
改善に問題点が見受けられたことから,腕の動作に関する教材にはさらなる工夫が必要であると言
えよう。
このように,学習プログラムに改善を加えたものの,先行研究(尾縣ほか,2001)と同様に腕の
動作の改善に問題が見受けられた。このことから腕の動作の習熟においては既存の運動プログラム
(教材)適用の再考が示唆される。教材②が理想の運動プログラムであっても,人間は運動に意味
や価値を与えるため「遂行上の変化の余地」
(青山ほか,2017)を免れることはできない。この場合
トレベレス(1990)が指摘するように,身につける運動に関する生徒自らの内的なイメージを発達
投能力向上のための学習プログラムが女子中学生の投能力と動作に及ぼす影響 71

させ,構成させることが極めて重要になる。そのため,教師が生徒の内的なイメージや,運動の意
図,さらには運動の実行の中で出会う価値づけを理解した上で,運動処方したならば異なる結果と
なったであろう。
このことから教師は下位教材となる運動プログラムを,生徒の運動の意味を理解した上で,その
発生を促す指導方略を持ち合わせることが求められる。その方略こそが教師の実践知であり,投動
作のバイオメカニクス研究と共にその蓄積が課題として残されている。

V.要 約
本研究の目的は,投能力向上のための学習プログラムが女子中学生の投能力および投動作に与え
る影響を明らかにすることであった。中学校の保健体育の授業において先行研究をもとに作成した
投能力向上のための学習プログラムを 2 ヶ月間にわたって実施した。学習プログラム前後の投擲距
離および投動作を比較し,以下の結果が得られた。
1)投擲距離は Pre と比較して Post で有意に増加した。
2)リリースパラメータである投射速度,投射角度,投射高は Pre と比較して Post で有意に増加した。
3)手首に対するボール中心の相対速度の最大値は,Pre と比較して Post で有意に増加した。
4)股関節に対する肩の相対速度の最大値および肩に対する手首の相対速度の最大値の変化量は投
擲距離の変化量との間に有意な正の相関関係が認められた。
以上のことから,本研究で考案した学習プログラムは,女子中学生の投能力向上に有効であるこ
とが確認できた。なかでも,腕や体幹の動作が大きく改善した者は投擲距離も大きく向上した。

文 献

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