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第32回廃棄物資源循環学会研究発表会 講演原稿2021

C2-10-P

廃 LIB セルにおける Li 回収率および純度向上へ向けた条件検討

○(学)五十嵐綾花 1)、(正)葛原俊介 1)、(正)寺門修 2)、(正)粕谷亮 3)


1) 仙台高等専門学校、2) 函館工業高等専門学校、3) 産総研ゼロエミッション国際共同研究センター

1.緒言
リチウムイオン二次電池(LIB)は、携帯電話やノートパソコンなどに幅広く使われている。LIB の生産量増加に伴い
原料である Li 塩の価格は高騰している。しかし、日本における水平リサイクルはほとんど進んでおらず、原料は全て
輸入に頼っているため、廃 LIB からの Li 回収は重要な課題のひとつである。
著者らは、正極活物質(LiCoO2)のモデル試料 [1]および廃 LIB の正極材 [2]を焼成および水浸出処理により、どちらの
試料でも Li を 98%回収するための条件を見出した。その一方で、電解液やバインダー由来の F も 90%以上水浸出する
ことも明らかにした。廃 LIB から Li 回収プロセスを構築するためには、検討のターゲットを正極材からセルにする
ことと、F のコントロールが必要不可欠である。
本実験では、廃 LIB セルからの Li の回収率および純度の向上を目的として焼成実験を行った。Ca(OH)2 を正極材へ
添加することで F のコントロールを行い、焼成実験を通じて Li および F の水浸出挙動について評価した。

2.実験方法
2.1 試料
・F 中和実験:使用済みノートパソコン用 LIB から手分解により正極材を取り出し、カ
表1 正極粉末試料の元素濃度
ッターミルで 250μm 以下に粉砕したものを正極粉末試料として用いた。正極粉末試料
の元素濃度を表 1 に示す。焼成時に発生する F を中和するために Ca(OH)2 を用いた。正極 元素 mass%

粉末試料中の F が熱分解により全量 HF に転化するとして、Ca(OH)2 の添加量を式 1 の反応 Co 49.5

式により決定した。本実験では、HF を中和するのに必要な 1 当量の Ca(OH)2 を[Ca(OH)2]=1 Li 5.1

と表記する。正極粉末試料と Ca(OH)2 が合計 5 g になるように調整し、メノウ乳鉢で混合 Al 9.5

して、Ca(OH)2 添加試料を調製した。 F 4.2

2HF + Ca(OH)2 → CaF2 + 2H2 O …式 1


・LIB セルの焼成実験:使用済みノートパソコンのバッテリーパックから LIB セル(18650)を取り出したものを使用し
た。豆電球を用いて放電したのち、セルの上端部を取り外して、焼成実験に用いた。

2.2 焼成実験および分析前処理
図 1 に焼成実験装置概略を示す。アルミナボートに試料をのせ、反応管の中心に挿入した。試料の焼成を表 2 に示
す条件で行った。焼成実験後、F 中和実験の場合 300 ml、LIB の焼成実験では 400 ml の超純水と焼成試料をコニカル
ビーカーにそれぞれ入れ、両者共に 1 h 超音波洗浄をした。
減圧濾過後、濾液と濾過残渣に分けた。さらに、LIB の焼成実験場合、水浸出濾過残渣を王水処理して、得られた濾
液を分析試料とした。
表2 焼成条件
反応管 試料(粉末 or LIB セル) 電気炉
F 中和 LIB セル

雰囲気ガス Ar Ar

昇温速度 [℃/min] 10 5
シリコンキャップ ガス流量 [ml/min] 100 500
アルミナボート

Ar ガス マスフローメーター
焼成温度 [℃] 500 600, 700

保持時間 [h] 1 1
図 1 焼成装置概略

2.3 分析およびマテリアルバランス
濾液中の金属を ICP-AES、F を IC でそれぞれ分析した。濾過残渣の F を微量分析装置(有機ハロゲン・硫黄分析シス
テム)で分析した。F 中和実験において、濾液で検出された F を水溶性 F、残渣の F を非水溶性 F、それ以外を排ガス

【連絡先】〒981-1239 宮城県名取市愛島塩手字野田山 48 番地
五十嵐綾花 Tel: 022-381-0333 FAX: 022-381-0333 e-mail: a2112605@sendai-nct.jp
【キーワード】リチウムイオン二次電池、Li 回収、F 中和

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第32回廃棄物資源循環学会研究発表会 講演原稿2021

へ揮散した F として、焼成前後での F のマテリアルバランスを組んだ。また、LIB セル


表3 LIB セルの元素濃度

焼成実験では、焼成後での Li、Co、Al に関するマテリアルバランスについて検討を行った。 元素 mass%
計算には表 3 に示す LIB セルの元素濃度を用いた。 Li 5.2
Co 48.2
3.結果と考察 Al 8.0
3.1 F 中和実験
図 2 に Ca(OH)2 添加による Li、F、Ca 浸出率変化を示す。[Ca(OH)2]=0.2 と[Ca(OH)2]=1 の F 浸出率は同程度である
が、Li 浸出率は減少した。また、Ca 浸出率は多くても 1~2%であり、濃度換算しても Li に影響する値ではないため
無視できるレベルであると言える。
図 3 に F のマテリアルバランスを示す。[Ca(OH)2]=0 の場合、非水溶性 F、水溶性 F でバランスした。しかし、Ca(OH)2
を添加することによって非水溶性 F と水溶性 F の総量のバランスは崩れる。排ガスとして揮散する F が存在し、その
割合は、Ca(OH)2 添加量増加に伴い増加傾向を示す。Ca(OH)2 が F を中和して固定する反応ではなく、触媒的な作用に
より有機 F 化合物の熱分解反応を促進したことが原因として考えられる。
100 10 100
Li
90 9
F
80 Ca 8 80
70 7
Li、F浸出率 [%]

60 6
Ca浸出率 [%]

60

割合 [%]
50 5
排ガス
40 4
40 水溶性
30 3
非水溶性
20 2
20
10 1
0 0
0 1 2 3 4 5 0
0 0.2 1 5
Ca(OH)2値 [-]
Ca(OH)2値 [-]

図2 Ca(OH)2 添加による Li、F、Ca 浸出率変化 図3 F のマテリアルバランス

3.2 LIB セルの焼成実験


図 3 に LIB セル焼成後における Li、Co、Al の水と王水の分配率を示す。Li は 600℃で 49%水浸出し、700℃になる
と水浸出率が 38%へと減少した。また、焼成温度上昇によって王水でも溶解できなくなった割合が 7%増加した。Co は
焼成によって 15%王水に溶解しなくなったが温度による変化はみられなかった。同様に Al は 600℃で 16%であったが、
700℃では 43%へと大幅に減少した。600℃から 700℃へかけて Al の化合物形態が大きく変化し、それが Li の浸出率
悪化と関連していると推察される。なお、F の浸出量は 600℃で 110.83 mg、700℃で 111.28 mg であり、焼成温度に
よる浸出量の変化はなかった。

600℃ 700℃
100

80
割合 [%]

60

王水
40

20

0
Li Co Al Li Co Al
図 4 LIB セル焼成後における Li、Co、Al の水と王水の分配率

参考文献
[1] Kuzuhara, S. Et al. Metals 2020, 10, 433. https://doi.org/10.3390/met10040433
[2] 山田悠人. 葛原俊介「廃 LIB 正極材からの高純度 Li 回収に向けた検討」. 2020, p.12-13.

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