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転 依 -二 分 依 他

-﹃ 摂 論 ﹄ 金 ・土 ・蔵 の讐 喩 の解 明 を 通 路 と し て-
竹 村 牧 男
仏 教 で は響 喩 が多 用 さ れ る が、鉱 石 の中 の金 と いう 響喩 は、 次 に、 ﹃大 乗 荘 厳 経論 ﹄ に使 われ て いる も のを 見 る と、 ﹁法
特 に 如来 蔵 系 経 典 を中 心に よ く 使 わ れ て いる。 そ し て唯 識 論 の真 実 を尋 求 す る こ とに 関 す る 二頚 ﹂ の中 で三性 を説 い て お
書 に は こ の流 れを つぐ 響喩 と し て、 金 ・水 ・虚 空 の響 喩 が 見 り、 そ の中 の 円成 実 性 を 表 わす も のと し て金 ・水 ・虚 空 の讐
出 さ れ る。 さ ら に ﹃摂 論﹄ に は これ に類 す る金 土蔵 の響 喩 な 喩 が使 わ れ て いる。 そ こ では、 円成実 性 は 無言 説 ・無 戯 論 を
る も のが説 かれ てお り、 こ の響 喩 に 託 し て 二分 依 他 お よ び転 自 性 とす る、 と さ れ てお り、 また 無 垢 清 浄 でか つ本性 上 も 清

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依 の思 想 が説 かれ てい る。 そ こで、 上述 の 一連 の響 喩 の検 討 浄 であ る も の と さ れ て いる。 この、 特 に 本 性 清 浄 の意義 を表
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を 経 た 上 で、 転 依 お よ び二分 依 他 の思 想 を究 明 し てみ た い。 わ す も の と し て、 金 ・水 ・虚 空 の讐 喩 が 使 わ れ る の であ る。
ま ず、 唯 識 論 書 に 見 ら れ る金 ・水 ・虚 空 の響 喩 を 調 べ てみ 次 に、 ﹃喩 伽 論 ﹄に お い て は、転 依 に 関 し て こ の響 喩 が 使 わ
よう。 初 め に、 ﹃弁 中 辺 論﹄に 見 ら れ る そ れ は、真 如 ・実 際 等 れ て いる。 同 論 に ﹁此転 依 性、 皆 無 動 法。 無 動 法 故、 先 有後
と同 義 でも あ る 空性 が、 自 性 と し て不 変 であ る こと の響 え と 無、 不応 道 理。 又 此法 性、 非 衆縁 生、 無 生 無 滅 ﹂ とあ り、 転
し て使 われ て いる。 空 性 に は雑 染 ・有 垢 と清 浄 ・無 垢 の差 別 依、 い い か え れ ば法 性 は無 動 法 であ り、 不 生 不 滅 だと 主 張 さ
があ る が、 有 垢 か ら無 垢 へは変 異 な の で はな い。 た だ客 塵 が れ て い る。 そ し て こ のこと の説 明 のた め に、 金 ・水 ・虚 空 の
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離 れ る だ け であ り、 自 性 が他 のも の にな る の で はな い。 こ の 響 喩 が使 わ れ る の であ る。
こと を 明 か す た め に、 金 ・水 ・虚 空 の響 喩 が使 わ れ て いる の な お、 ﹃顕 揚 論 ﹄ でも、 転 依 が常 性 であ る こと の響 喩 と し
(1) (4)
であ る。 て、 ﹁真 金 の調 柔 性 ﹂ が 用 いら れ て い る。
転 依-二 分 依 他 (竹 村)
転依-二分依他 (竹 村)
以 上 に よれば、 ﹃喩 伽 論 ﹄ ﹃顕揚 論 ﹄ で は、 金 等 の響 喩 が転 こと の響 喩 と し て、 金 ・水 ・虚 空 の響 喩 が使 われ てい る ので
依 と結 び つけ て説 か れ て い た。 また ﹃弁 中 辺論 ﹄でも、 ﹃安 慧 あ る。
釈﹄ に よ れば、 それ は や は り 転依 と未 転 依 に よ つて 解説 され 以 上、 唯 識 論 書 では、 金 ・水 ・虚 空 の響 喩 が し ばし ば見 ら
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てい る。 と ころ で、 こ のよ う に 金 等 の響 喩 と転 依 と の結 び つ れ る が、 これら を 整 理す る と次 のよ う にな ろ う。
き を 詳細 に説く も のが、 ﹃法 法 性 分 別 論 ﹄ であ る。 そ こ では、 1 金 ・水 ・虚 空 の響 喩 は、 転 依 の論 理 を 閾 明 する も の で
ま ず、 転 依 は他 に転 じた のだ か ら変 異 し た の で はな いか、 の あ る。
問 い に対 し、決 し て変 異 し た の では な い と答 え、 そ の こと の 2 転 依 は即、法性 と し て表 現 さ れ、そ れ は空 性 ・真 如 等、
響 喩 と し て金 ・水 ・虚 空 の響 喩 が あ る こ と を 告 げ る。 そ し ま た 円成 実 性 等 と 同 義 でも あ る。
て、 そ れ ら はみ な、 自 性 清 浄 であ り、 た だ 客 塵 に よ つて清 浄 3 そ こ で、転 依 は、 変 異 では な いと強 調 さ れ、 常 と 表現
でな く な る が、 それ を 離 れ れ ば 清浄 と な る の であ つて、 これ さ れ る。 "転 " と は、 た だ法 性 が不 可 得 (不 顕 現 ) か ら 可 得
は、 新 た に 清浄 に な る こ と でも、 変 異 し た も のでも な いと い (顕 現) へに す きな い。 変 る のは 客 塵 が 離 れ る こ と であ る。
う 理 路 を 表 わす、 と説 明 す る。 そ の上 で、転 依 に つ いて は 次

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4 転 依 の性 格 は本 性 清 浄 で代表 さ れ る。
のよ う に 述 べて いる。
そ のように転依にお いても、自性とし て明浄なるものは先 に無 一方、 ﹃摂 論 ﹄の金 土蔵 の響 喩 は次 のよ う であ る。 ま ず、法
な のではなく、客障が顕現す るが故に (明浄が) 顕現しな いだけ に 三種 あ り、 そ れ は雑 染 な る遍 計 所 執 性 と、 清浄 な る 円成 実
である。(
虚空 の)不浄と、(金 の) 無妙と、(水 の)非清澄 のよう 性 と、 そ の 二者 に 属 す る依 他 起 性 であ る こと が説 明さ れ、 そ
である。それ (客障)を離れる故に (明浄は)顕 現す るのである の響喩 と し て次 のよ う に説 か れ る。
が、法性 (
自体) が変異を具す る故に変異が現われて (
明浄が)
この意義にお いて、響喩 は何があ るか。響 喩は ﹁
地 中に金 があ
不生から (
新たに)生じた のではな い。そうでな いからこそ、法
(6) ること﹂ である。たとえば、地 中に金 があ るときは、地界 と、土
性 と、それによ つて言 い表わされる転依は常である。
と、金 との三が可得である。そこで、(普通)地界にお いては、無
こ こで も や はり、 法 性 そ のも の でも あ る 転 依 が、 変 異 す る なる土が可得 であるが、有なる金 は不可得 であ る。そして火によ
も の では な く常 性 のも の であ る こと、 そ の内 容 は 明浄 であ る つて (
地界 が)焼かれるとき、土は顕 われず、金が顕現す る。地
界は、土として顕われると き、虚妄として顕現している。金 とし 4 遍 計 所執 性 は虚 妄 であ り、 円 成 実 性 は如 実 であ る。
て顕われるときは、如とし て顕現している。そういうわけ で、地
界は二者 の分に属す のであ る。 さ て、 以 上 の金 ・水 ・虚 空 の響 喩 と金 土 蔵 の響 喩 を 比 較 検
そ のように、識にお いて、無分別智の火 によ つて焼 かれな いこ
討 し て みよ う。 まず、 ど ちら の響 喩 も 転 依 を 明 かす も の と し
とによれば、識は虚妄な遍計所執性として顕われるが、如 実な円
て共 通 だ と いい う る。 し か し金 ・水 ・虚 空 の響 喩 で は、 転 依
成実性としては顕われな い。識にお いて、無分別智 の火によ つて
が法 性 と し て表 現 さ れ、 転 依 の主 題 はあ く ま でも 金 等 に喩 説
焼かれることによれば、そ の識は、如実 な円成実性 として顕 われ
さ れ る法 性 に あ る。 そ こで転 の内 容 は本 性 清 浄 か ら無 垢 清 浄
るが、虚妄なる遍計所執性 としては顕わ れ な い。そ う いう わ け
へであ つて、 実 質 的 に 変 異 な ので は な い。 一方、 金 土蔵 の響
で、虚妄分別なる識 の依他起性は二者の分 に属す ので あ り、(そ
(7) 喩 では、 主題 は金 に あ る の では な く、 依 他 起 性 に あ る。 そ こ
れはあたかも) 地中に金があるとき のよう である。
で転 の内容 は、 依 他 起 性 を 場 と し て の遍 計所 執 性 か ら 円成 実
こ こ で、金 土 蔵 の讐 喩 が 二分 依 他 説 の響 喩 とし て使 わ れ て 性 へであ る。 し か し これ は、 依他 起性 そ のも のが、 遍 計 所 執
いる のは 明了 であ る が、 そ の内 容 は、 先 に 見る 転 依 の事 態 と 性 と な り、 そ の遍 計 所 執 性 が 円成 実 性 に な る、 と いう ので は

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同様 だ と いえ よ う。 事 実、 後 (果断分)に転 依 は 二 分依 他 であ な い。 依他 起 性 は永 遠 に か わ ら ず 依 他 起 的 なあ り 方 に お い て
る と の明記 も あ る。 あ る。 た だ、 そ こを 場 と し て、 遍 計 所執 性 が顕 現 か ら不 顕 現
さ て、 こ の響 喩 を 前 に な ら つて整 理 す れ ば、 次 のよ う であ へ、逆 に 円成 実 性 が 不 顕 現 か ら 顕 現 へと、 二 重 の 動 き が 交
ろう。 差 す る のであ る。 こ こ で注 意 し な け れ ば な らな い こと は、 金
1 金 土蔵 の響 喩 は、 二 分依 他 : 転
依 の論理 を 閲 明 す る も 土蔵 の響 喩 に お い ても、 自 性 清 浄 か ら 無 垢 清浄 へと いう、 法
の であ る。 性 を主 題 と し た転 依 の見 方 も 含 ま れ て い る と い う こ と で あ
2 地 界 の金 は、 依他 起性 中 の円成 実 性 を 表 わ し て い る。 る。 それ を 主題 の地 界 で はな く、 地 中 の金 が表 わ し てい る。
3 二 分依 他 と い う事 態 は、虚 妄 分 別 ・識 な る 依 他 起 性 中、 円成 実 性 の不顕 現 か ら顕 現 へは、 あ る時 を 境 い に先 無 な る も
顕 現 し て い る遍 計 所執 性 が 滅 し、 潜在 的 な 円成実 性 が顕 現 す のが有 とな る と いう こと で はな く、 無 始 来、 依 他起 に即 し て
る こと であ る。 備 わ つて いる 円 成実 性 が、 智 に照 ら され て表 面 に出 てく る と
転 依-二 分 依 他 (竹 村)
転依-二分依他 (
竹 村)
い う こ とな のであ る。 と いう のは、 雑 染 の依 他 起 で さ え、 そ よ、 阿頼 耶 識 が所 依 な の では な か つた のであ る。
れ は縁 起 ・空 であ り、 そ こ に空 性 が有 る か ら であ る。 こ の空 ま た、 二分 依 他 は、 確 に、 依 他 起性 が 遍計 所 執性 と し て顕
性 が、 不 顕現 か ら顕 現 へ転 ず る。 この とき、 金 土 蔵 の金 は、 現 し てい る時 と、 円成 実 性 と し て顕 現 し て いる 時 と の二分 を
金 ・水 ・虚空 の金 等 と同 一の理 路 を表 わ す も のと し てあ る。 意 味 す る であ ろう。 これ は時 を 異 にし て の二分 であ る。 し か
し かも こ の二 分依 他-転 依 は、 依 他起 性 ・虚 妄 分 別 な る 識 し金 土 蔵 の響 喩 にあ る よ う に、 金 はも と も と地 界 にあ つた の
に お い て説 か れ て い る。 すな わ ち、金 な る 円 成実 性 ・法性 は、 であ り、 す な わ ち、 依 他 起 性 中 に は、 それ が 遍 計所 執 性 とし
全 八識 の虚 妄 分 別 そ のも のに即 し て考 え ら れる べき であ り、 て顕 現 し て い よ う とも、 そ の直 下 に、 自 性 円成実 と し て の円
何 か第 九 識 的 な、 識 の根 底 にあ る も のと し て考 え ら れ て はな 成 実 性 が あ る の であ る。 こ の場 合、 時 を同 じく し て の 二分 で
らな い。 と い う こと は、 転 依 と いう と き の所 依 が 依 他 起 性 だ あ る。 こ の同 時 二 分を 基 に し て、 一方 で遍 計 所 執性 が顕 現 か
と いう と き、 そ れ は 阿頼 耶 識 に局 限 さ れ な い と い う こ と で ら 不顕 現 に、 他 方 でこ れ に逆 比 例 し、 円成 実 性 が 不顕 現 か ら
あ る。 所依 の語 か ら直 ち に阿 頼 耶 識 を 想 う の は 皮 相 な 見 方 顕 現 に転 ず る わ け であ る。 この 両者 の ダ イ ナ ミズ ムを 二分 依
であ る。 転 と は、 あ く ま でも 不 顕 現 (自性清浄) か ら顕 現 (無 他 は 表 わす。 つま り、 常 に 同時 の二 分 を 基 に し て、異 時 に 二

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垢清浄) ヘで あ る。 故 に 所 依 が (を) 転 ず る と い う よ り、 む 分 な のであ る。 二分 依 他 説 は そ う し た 総 合 的 な ひ ろが り の中
し ろそ の転 が お こる 場 が 所依 であ る。 こ の思 想的 意 味 に お い で解 釈 さ れね ばな ら な い。 こ の時、 三 性 説 は、 単 なる 転 換 の
て、 転 依 を転 之 依 (
転 と いうことのため の所依) と 依 主 釈 に 解 論 理 では なく、 重層 の論 理、 或 は重 層 的 転 換 の論 理 と いう べ
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釈 す る 法相 宗 の立 場 は深 く正 し い。 こ の所 依 を法 性 と 示 す の き であ ろう。
が初 期 の転 依 理 解 であ つた が、﹃摂 論 ﹄は 自 性清 浄 か ら無 垢 清 1 長 尾本、 二四頁 三-一五行。 2 レヴィ本、五八頁、 一四
浄 へと、 そ れ に 伴 な う 客 染 の有 か ら無 へを 総 合 的 に捉 え る 視 -二三行。 3 大 正蔵、三〇、 七四八、中。チ ベット北京版、
No五五三九、Vol3一三九
H、i上
、、四-六。 4 大正蔵、三 一、
野 に 立 つ て、 依 他 起 性 と 提 示 し た のであ つた。 とも か く、 転 五七八、下。 5 山 口本、五 一頁、 一九-二 〇行。 6 山 口
依 は 法性 (
現 象界に即した実性) か 依他 起 性 (実性を具 した現 象 益還暦記念 ﹃印度学 仏教学論 叢﹄所収 テキスト、四四頁 一行-四
五頁 五行。 7 佐 々木漢 訳四本対照本 所 収 チ ベット訳 テ キ ス
界) に お いて 語 ら れ た の であ つ て、 阿頼 耶 識 思 想 の整 備 に よ
ト、七〇 ・一〇行-七 二 ・四行。 8 会本成唯識論第四、四七
り、 そ の実 際 が種 子 の断 滅 等 に よ つて 説 明 され る に至 る に せ 一頁。(注は最少限 にしました。)

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