2014N-JSASS 1500NクラスN2Ov0.19

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1500N クラス N2O/EA エンジン試験と供給系安全対策について

○平岩 徹夫、竹腰 正雄、小野 文衛、齋藤 俊仁、川口 淳一郎(JAXA)

Experimental results and safety assessment for 1500N class N2O/ethanol engine test

Tetsuo HIRAIWA, Masao TAKEGOSHI, Fumiei ONO, Toshihito SAITO


and
Junichiro KAWAGUCHI (JAXA)

Key words: Nitrous Oxide, ethanol rocket engine, safe practices

Abstract

For the closed-loop pressurization system with liquefied carbon dioxide (CO2), hot-firing test of a
rocket engine with nitrous oxide (N2O) and ethanol combination was conducted in JAXA Kakuda
space center in 2014. To prevent hazards and health effects, a N2O supply rig was designed and a
written work instruction / filling procedure were regulated based on re-assessment of N2O
characteristics.

1. はじめに の再生冷却構造やコーティングなど、ロケットエンジン
大型液体推進系を主な研究対象とする JAXA 角田宇 や極超音速エンジン用冷却構造の加熱試験を実施して
宙センタでは、これまでに多種多様な液体推進薬が試験 いる.そのためガス酸素およびガス水素、エタノールの
されてきている.酸化剤については、かつて四酸化二窒 供給系が用意されている.また高熱負荷に対応できるよ
素(NTO) を使用したことはあるものの液体およびガス う、大流量の冷却水供給系が用意されているため、新規
1

酸素に限られている.角田宇宙センタでテストされるエ の酸化剤を使ったロケットエンジン試験には適切なス
ンジンは打ち上げ機向けのものが多く、性能の面から酸 タンドである.ここに後述する N2O 供給系を新設して
素が好ましいと判断されているからである.一方、最近 試験を計画した.N2O/EA エンジンは加圧システム用の
国内のロケットエンジン研究においては、液体酸素の極 加熱源として使用されることから、a)要求燃焼条件を満
低温流体という特性に起因する取扱にくさを回避する 足し安定に作動する作動点を見つけること、b)そのとき
ために、一酸化二窒素(以下 N2O)を使用する事例が増え の熱流束分布を求めること、を目的とした.
てきている.たとえば大学等において、ハイブリッドロ
ケットエンジン用の酸化剤としての実例 が数多く報告 2.2 供試体
2

されている.JAXA でも、宇宙科学研究所(ISAS)におい 本試験で使用する供試体の概略図を図 1 に示す.燃焼


てエチルアルコール(以下 EA)との組み合わせで実用化 器部は、これまで LOx/EA エンジン試験で使用していた
を目指した開発が進められている .このように宇宙開 ものをそのまま転用した.噴射速度や加圧条件が適切で
3

発の多様性に対して、酸化剤も考慮される時代が到来し はないので、インジェクタは転用せず新規に作成した.
ていると言えよう. インジェクタヘッドには中心部にあるトーチイグナイ
このような状況のなか、ISAS で液化二酸化炭素を使 タ孔を中心に、衝突型エレメント 12 本が埋め込まれて
用したタンク加圧システム の研究が進められており、 いる(図 1 左).エンジンの主要緒元を表 1 に示す.噴射
4

これと実際のエンジンとの連動試験が計画された.その エレメントは、これも LOx/EA エンジンで採用している


ため角田宇宙センタにて N2O/EA エンジンを実際に作 unlike の衝突型を再設計し採用した.形態は図 2 に示す.
動させることとなった.本報告ではタンク加圧システム 噴射流量や運動量を考え、N2O 側はφ0.96、EA 側はφ
との連動試験における N2O/EA エンジン側の燃焼試験 0.6mm とした.
結果を報告する.また、N2O 用供給系を製作、運用す
るにあたって再度運用性や安全性を再考したので、この 2.3 燃焼試験結果
結果についても併せて報告する. N2O/EA エンジンの基本特性を把握するために,混合
比、燃焼圧を変化させた燃焼試験を実施した.着火試験
2. N2O/EA エンジン試験 を含めば総試験回数は 18 回、うち燃焼試験は計 10 回、

2.1 試験の概要と目的 図 1 試験燃焼器形状(下) 項目 仕様

試験は液体酸素(LOx)/EA エンジン燃焼試験 の経験を


5 とフェイスプレート上エ
レメント配置(下左) 推進剤 N2O/EA
ベースに、供試体などを部分的に新造して 2014 年 4~
5 月にかけて実施された.試験は JAXA 角田宇宙センタ、 スロート径 33 mm
表 1 EA エンジン主要諸
ラムジェット試験設備に併設されている冷却構造スタ 元(右) 平行部径 66 mm
ンドにて実施された.このスタンドは、通常燃焼室など
全長 144 mm(nozzle)
+200 mm(平行)
+77 mm(噴射器)

燃焼圧力 最大 3.0 MPa

燃焼器冷却 環状 水冷却

エレメント 12 本(FFOOFF 衝突型)

着火器 ガス酸素/水素内部トーチ
表2 試験条件一覧と結果
試験番号 日時 時間 目標 設定条件 結果
PC/O/F EA/N2Oタンク圧
NEA14-H001 5/12 0 1.5/3.0 6.5/2.0 着火せず初期O/F過小
NEA14-H002 5/12 0 1.5/3.0 6.5/1.7 一瞬着火するが持続せず
NEA14-H003 5/13 0 1.3/3.0 6.5/1.9 着火せず
NEA14-H004 5/13 6 1.3/3.0 6.5/2.0 EAにオリフィス増設 燃焼達成
NEA14-H005 5/14 0 1.3/3.5 7.4/2.2 高O/F設定だが着火せず
NEA14-H006 5/15 0 1.3/3.0 6.5/2.0 H004再試 一瞬着火するが失火
NEA14-H007 5/15 0 1.3/3.0 6.5/1.8 H006再試 一時着火
NEA14-H008 5/15 6 1.1/3.5 6.5/1.7 低OFで燃焼
NEA14-H009 5/15 0 1.3/4.5 7.7/1.5 着火せず
NEA14-H010 5/15 6 1.4/4.0 6.7/1.7 高OFで燃焼
NEA14-H011 5/16 15 1.1/3.5 6.0/1.5 H008再試 長秒時試験
NEA14-H012 5/26 40 1.1/3.5 6.5/1.5 長秒時試験
NEA14-H013 5/27 40 1.1/3.5 6.5/1.6 連動試験(1)
NEA14-H014 5/27 40 1.1/3.5 6.5/1.6 連動試験(2)
NEA14-H015 5/28 0 1.1/3.5 6.5/1.6 2回(15A/B)不着火 OF過小
NEA14-H016 5/28 40 1.1/3.5 7.0/1.6 連動試験(3)
図 2 N2O/EA 用 FFOOFF 衝突型 NEA14-H017 5/28 40 1.1/3.5 7.0/1.5 連動試験(4)
NEA14-H018 5/29 40 1.1/3.5 7.0/1.5 連動試験(5)
エレメント
合計 273 秒/10 回

総燃焼時間は 273 秒実施した.結果は表 2 の通りであ は EA が多めとなる 3.5 を目標にした結果、H008 およ


る.連動試験では加圧システムの試験条件に従い 40 秒 び H011 以後の試験では持続的な燃焼が可能となった.
の燃焼時間としている.
2.3.2 短秒時燃焼試験 < NEA14-H011~H012>
2.3.1 試験条件テスト < NEA14-H001~H010>
定常着火条件が H010 まで確定できたので、連動試験
今試験では試験当初、着火に至らないか着火しても持 に先立ち燃焼秒時を 8、15、40 秒とした場合の性能変
続できない場合が多発した.H010 までの 10 回の試験 化の計測を次に試みた.
のうち 6 回は不着火となった.結果をまとめると以下の
通りになる: ■C*効率
着火不能 H001・H003・H005 燃焼性能の指標である C*効率の変化を見る.理論 C*
一時的着火 H002・H006・H007 は、各測定時における計測データを元に、NASACEA で
着火燃焼持続 H004・H008・H009・H010 計算した燃焼器での反応凍結値(frozen)を採用している.
着火しない場合でも噴射終了後のパージのタイミン 着火直後では 0.9 近傍だったが、その後試験時間が長
グで一時的に爆発的な燃焼が生じていることから、O/F くなり 1 を越える数値を示すようになる.燃焼室の圧力
が適切でないか噴射形態が適していないかが疑われた. 測定は通常二カ所で行うが、今回の試験では使用可能な
そこで H005 からの試験では、O/F および燃焼圧を調整 測定チャンネル数が少なく、噴射器近傍でしか測定でき
し、初期噴射状態を変化させつつ、継続して燃焼できる なかった.後述する熱流束のパターンから見るように、
条件を求めることとした. 通常では燃焼が不十分な燃焼器上流側において、局所的
厳密な意味で着火限界を求めるのは難しいが、一時的 に活発な燃焼が生じている可能性があり、そのため過剰
に着火した場合と着火燃焼が持続した場合(長秒時試験 な値が出たと考えられる.
のデータも含む)の燃焼圧と O/F をプロットすると図 3
の通りとなった.着火直前 O/F が 2 前後に着火下限界
があることがわかる.今回の噴射器は F 側と O 側の噴
射径、個数も異なるため、インジェクタ部での噴射差圧
も両者で大きく異なる.特に N2O では燃焼圧に対し
300%ほどの差圧を与えており、燃焼圧が立つまでは EA
側が多量に噴射される.その結果 O/F は燃料リッチ側
になり着火に至らない事象が多発したことが明らかに
なった.O/F は当初 3.0 を目指していたが、試験後半で

図 4 C*効率の時間変化比較

■噴射口流量係数
試験中の噴射流量や O/F に関係する噴射流量係数、
Cd は噴射条件を見るためにも重要な指標である.計測
結果を図 5 に示す.N2O 噴射流量係数は試験中安定し
ているものの全体に低く 0.4 程度である.一方の EA の
方は大きな変化があり、H008 では 0.8 程度.一方 H011
図 3 N2O/EA 着火可能 O/F と燃焼圧の相関
EA タンク加圧系の能力が不足し、流量が低下したため
である.

■熱流束分布
燃焼器は環状に冷却水を流しているため、局所的な熱
流束分布を測定することが可能である.H008、011 お
よび 012 の結果をあわせて図 6 に表示した.Bartz 式か
ら予測した平行部熱流束は約 5MW/m 、スロートでは
2

15MW/m と求まっていた.しかし結果はこれとは大き
2

く異なり、平行部上流側フェイスプレート近傍では
9MW/m と高く、平行部中心ではせいぜい 4MW/m 、
2 2

スロートも上昇せず最大で約 7MW/m であり予測の半


2

分程度となった.
壁面各所に埋め込んだ熱電対(K 種φ1mm シース熱電
対.内壁から 1mm に固定)の出力もこれを支持するもの
であり、スロートでは最大でも 330K なのに対し、上流
にさかのぼるほど高くフェイスプレート近傍では最大
500K を越えるほどの高温となったことがわかった.
N2O は噴射後直ちにガス化されていることから噴射直
後に壁面近傍でよく燃え、その後未燃部分と混ざりなが
ら壁面を流れていったものと推測する.噴射形態と燃焼
器寸法から、外周壁面近くで燃えた可能性が高く、試験
終了後内壁を観測したところ、強いヒートマークが観測
されており、上記推測を裏付けている.

3. N2O 運用の安全性確保について

図 5 N2O および EA の噴射 Cd 値変動


では 1 を越える.長秒時の H012 では 0.6 程度まで低下
する傾向にある.LOx/EA 燃焼試験では通常 0.95 程度
で安定、試験中に大幅な変動は観測された事はない.
H011 の結果より体積流量や噴射差圧は一定であること
はわかっていることから、密度もしくは噴射孔面積変化
がこのような傾向をもたらしたと推定される.噴射温度
の変化は観測されていないため、噴射口近傍の活発な燃
焼によるものと推定するが、原因は本実験データからは
わからなかった.一方、N2O の値は流体の一般的な値
よりかなり低く、噴射時に気化している可能性を示して
いる.

2.3.3 長秒時連動燃焼試験 < NEA14-H013~H018>


図 7 燃焼器壁面熱流束分布

連動試験では設定は変化させず、5 回 40 秒の試験を 本節では、N2O 供給系を安全に運用するために実施


実施している。結果の再現性はよく、C*効率は 0.90 か した文献調査と試験手順について検討を行った結果に
ら 1.0、N2O の Cd は 0.4、エタノールの Cd は試験前 ついて示す.
半に大きな変動があるものの、後半では 0.60 から 0.65
で安定して作動した.O/F が大きく変化しているのは、 N2O は安全な酸化剤と言われており、化学物質等安
全データシート(SDS) においても助燃性を持つ危険性、
6

吸引による麻酔作用および液接触による凍傷という有
害性のみを示している.環境影響についても温暖化物質
という以外特段明記されておらず、暴露防止のための管
理濃度も特段決められていない.そのため、SDS を見る
限り安全で安心して使用できる物質と見なすことが可
能である.厚生労働省の N2O 製品安全シート において
7

も、支燃性はあるとするが可燃性、引火性や自己反応性
については記述がなく、窒素などと同様な一般的な高圧
ガスとしての危険性を指摘するにとどまっている.しか
しながら、Scaled Composites による N2O ハイブリッ
ド推進系試験時の爆発で死傷者が発生する事例が発生
しており、注意を払うべき流体であることが認知されつ
つある .角田宇宙センタでは初の取り扱いであるので、
8

図 6 連動試験中の O/F および噴射 Cd 変化 再度基礎に立ち戻り N2O 取り扱い方法について調査、


検討を実施した. ら超音速風洞の空気源としての可能性に目をつけた研
究が、1962 年アメリカ空軍によって行われている .こ
13

3.1 N2O の安全性 の研究では explosion wire を使用して着火、爆発する


条件を圧力、温度をパラメタとして実験的に求めている.
N2O はロケット推進薬としては比較的新しい部類に 図 8 からわかるように、気温が約 20℃付近の蒸気圧環
入る.Sutton によると 1970 年代ハイブリッドロケット 境では着火、爆発する可能性が読み取れる.20℃以下で
用の酸化剤として検討されていた .使用実績が目に見 は N2O が 45 気圧以下で保たれている限りは、爆発し
9

えて増加してきたのは 2000 年前後からであろう.AIAA ない.また、体積比 88%の窒素で希釈された場合は爆発


の N2O 関連 proceedings の件数を見ても、90 年代は 1 しないことも記録されている.この年はまた同じ研究グ
桁から 15 件/年だったが 2000 年以降はコンスタントに ループよりデトネーションの可能性についても調べら
二桁となり、2005 年以降は年間 30 件を超えることも れている .実験は 0.25 インチデトネーションチューブ
14

ある.特にこの 10 年、航空宇宙分野で頻繁に使用され に、初期圧力は最大 207 気圧、常温より 210℃までを


るようになったと見てよい.代表的な論文に 2001 年、 パラメタに試験を実施した.その結果、N2O はデトネ
Surrey の研究者がまとめた N2O の衛星推進適用性を考 ーションを発生せず、最大圧力との比も 3.66 倍、この
察した論文 がある.この論文は、N2O は 1)無毒、2) 圧力に達するのも着火後 1 から 4 秒後と遅いため爆燃
10

液化可能、3)材料適合性、健康への危険性はすくなく安 (デフラグレーション)しか生じないと結論づけている.
全対策も最小でかまわないことの上に、Isp も比較的良 この結果は Rhodes が 1974 年に調べた結果でも確認さ
好であるため cold-gas 推進薬として適しているとした. れている .Rhodes はこの調査で、ガス、液での N2O
15

しかし、この論文が発表された年、オランダで医療用に の着火特性を調べた.常温 N2O ガスの燃焼速度は、2


使用する N2O を設備タンクへ供給していたトレーラが インチチューブでは 50~70 cm/s と見積もられた(図 9
突如爆発、炎上する事故が発生していた .このタンク 参照).水素の燃焼速度より早いが、デトネーション速
11

爆発は、液体 N2O 供給用ポンプが気相の N2O を噛ん 度が通常 30 m/s 以上であるので十分低い燃焼速度と言


だまま回転、過熱したことが原因であることが指摘され える.また 1/2 インチチューブでは、常温環境では
ている.また、N2O の取り扱い手順書がなく N2O の危 6.8MPa まで着火源があれど着火しないという結果も得
険性について周知されていなかったことがわかってお られている.
り、航空宇宙分野のみならず産業界でも多量の N2O の Rohode はまた、圧力変動量に対する自己着火の可能
取り扱いが未発達であったことを示している. 性を調べており、常温では 7MPa/s、200℃を超えると
1.3MPa/s 程度で着火する結果が得られた.これは弁の
N2O は分解する際 82 kJ/mol の発熱を伴うことから、 開閉に伴う急激な圧力変化が生じた際に、着火してしま
熱暴走(thermal runaway)を発生させる可能性があるこ う可能性を示している. この一連の試験では
とは、1920-30 年代から指摘されていた .この発熱量 quenching がたびたび観測されていたので、その結果を
12

は当量比のケロシン/空気予混合気のそれに相当してお 図示したのが図 10 である. 1/2 インチでのチューブで


り、小さな値とみなすことはできない.この熱量と N2O あれば 200℃、5MPa 程度以下の環境であれば火炎は伝
分解後空気に近い窒素酸素比のガスを生成することか 播しないことが明らかになっている.なお、液相では雷
管などによる着火テストは行ったものの着火に至らな
いことが判明している.

このような知見が得られていたものの N2O の取り扱


い方法として体系化されないまま、前述の 2001 年の事
故に引き続き 2007 年にはロケットエンジンの事故が二
件発生した .その後の分析も不十分で、Merrill はこれ
16

らの事故の分析を試みたが定性的であいまいな記述の
みに終始し、十分な教訓は引き出せたとは言いがたい.
また、Scaled Composites の事故分析は公的には行われ
ず、単に労働安全の面からの責任追求がなされた のみ
17

で、今もって事故の詳細は不明で対応方針も不明瞭なも

図 8 圧力および温度に対する着火可能限界
13

図 9 初期圧力に対する N2O 燃焼速度 図 10 チューブ径に対する火炎伝播限界


15
のとなっている .ただし、N2O が超臨界となる外気温 開閉に伴う水撃を緩和する.
18

105 から 115F(46℃)の炎天下に N2O タンクを直射日光 3-4) 自動弁下流はあらかじめ液による均圧処置をし


下においたまま試験を実施していて、図 8 などで示され ておき、弁開時の水撃発生を防止する
た危険領域で試験を実施していたことは明確である. 3-5) 加圧および日光による温度上昇を避ける
2007 年のもう一件の事故は、N2O/エタノールロケット 3-6) 臨界温度 36℃以上の気温では試験を実施しない
におけるバックフラッシュによるものだが、これは噴射
差圧不足による燃焼不安定によるものとされた .この このほか、
19

ような事象を元に詳細な研究が進み、Karabeyoglu らは
詳細反応機構を使った着火、火炎伝播の計算を実施、そ 4) 配管は原則 1/2 インチ以下のものとする.
の結果を取り扱い注意事項として列挙している .2013 5) タンクおよびタンク下流配管に安全弁を設置する
20

年には European Industrial Gases Association (EIGA) 6) 不要な N2O や配管、タンクの残存 N2O は、GN2
が N2O の取り扱いについての指針 をまとめた.この を流しつつ GN2 で十分満たされているベントスタ
21

資料は、2004 年 2007 年 と改訂されており、2013 年 ックを経由し逃気する


22

版は 2007 年の事故を吟味した上の改訂となっている. 7) 静電気発生を防止する


そのため、本試験での設備およびシークエンス構築には、
この二資料を基本として考えていくこととした.国内で を満たす設備を構築、手順を作成した.
は経済産業省の資料 もあるが、指針はほとんど記述さ
23

れていないので参考資料とした. 2.3 N2O 供給系と作業手順


図 11 に上記条件を満たすよう設計された供給系を示
2.2 N2O 試験の基本方針 す.配管はベントスタックを除き 1/4 インチ以下とした.
これまでの報告から、N2O は相対的には安全ではあ 緊急時の遮断を行うためランタンクから燃焼器間には
るが過酸化水素と同じく、”酸化剤の特性と可燃混合気 二重の自動弁を設置している.始動弁 RV2 は燃焼器マ
との特性を合わせもつ”ことを前提として考えるのが適 ニホルドから 20cm の直近に設置している.ラインおよ
切であると判断した.また Sutton が定義しているよう びランタンクにはそれぞれ安全弁を設置している.
に N2O は酸素同様 cryogenic である と仮定し使用す
24
表 3 N2O 供給および試験手順チェックリスト
るとした.そのため気化した N2O が存在する場合に危
険が生じやすく、かつ a)加熱源がある場合、b)水撃など
による非定常圧縮加熱がある場合、c)コンタミによる反
応が生じた場合異常が生ずると考える.これらを防止す
るため供給設備および操作は、主に以下の三点を満足す
るようにした:

1) 供給系は酸素仕様とする
2) ガス N2O が存在しないようにする
3) 熱源や急激な圧力変化を避ける

具体的には、

1-1) N2O 供給系機材は酸素コンパチとする


1-2) 供給系は事前に脱脂、洗浄を実施しておく
1-3) 油脂類は Crytox のみを使用
2-1) 噴射差圧は大きくし、燃焼器マニホルド内気体発
生を防止する
2-2) ランタンク内爆発を防止するため、液を使い切ら
ない
3-1) N2O 充填時には下流側配管にあらかじめ GN2 充
填を行っておき、N2O の早い流れや急激な圧力
変化を防止する
3-2) 弁をゆっくりと操作する
3-3) 始動弁とタンク間にオリフィスを挿入し、主弁の

燃焼器

図 11 JAXA 角田宇宙センタ冷却構造スタンド N2O 供給系


LOV4 および LOV6 からのベントされた N2O 共々、窒 で液 N2O を導く.
素で希釈されているベントスタックへと導かれ、操作人
員には影響しない.各所には圧力計を設け手動弁を操作 [試験後操作]
する際の参考とした.タンクへの注排液は基本タンクの STEP26 タンク内に残存している N2O は、LOV6 を
下側を利用する. 経由しゆっくりと排出する.このときもタン
この給系を操作する際のチェックリストを表 3 に示 ク上部から GN2 により加圧して実施する.
す.場内規制をした後、ランタンクへ N2O を移送、調 STEP28 タンク内に液がなくなったら、LOV2 側より
圧し実験を実施、残留 N2O を投棄するまでの手順を示 GN2 を流しつつ RV3 から排出する.下流側
している.ステップ毎の要点を以下に説明する. へ流すとタービン流量計を破損する恐れがあ
るため.
[試験前操作]
STEP1 供給操作する直前に気温を測定、飽和蒸気圧を [留意点]
求めておく.供給配管内に N2O の飽和蒸気圧 ○配管、タンクへ GN2 加圧を行うと断熱圧縮によりあ
をわずかに下回る GN2 を充填させるため飽和 ちこち高温になる.人肌温度より高い場合は危険なの
蒸気圧より 0.5MPa 低い圧力に設定しておく. で水などで除熱してから、N2O 注入作業を実施する.
STEP5~9 N2O をランタンクに移送する前に、ボンベ ○音波式のタンク液位計を導入したが、N2O が充填さ
からの N2O が流れ込む配管部(HOV1 から れると音速が変わるため使用できなかった.非接触型
HOV2 間)から、始動弁の LO-RV2 まで GN2 のものが好ましい.もしくは充填質量を計測しておく.
を充填しておく. ○本試験では気温 28℃の環境での試験も実施したが、
STEP10 ボンベの弁を開け、配管の圧力とボンベ内圧 N2O の蒸発、噴射圧などが急変し取り扱いが難しくな
力を均圧させる. った.25℃以下の気温での使用を推奨する.
STEP12 GN2 を排出しながらボンベから液相の N2O
抽出、LOV2 まで液で満たされるようにする. 3. まとめ
液 N2O がある場合配管温度が下がるので、 N2O の取り扱いについて吟味したのち、供給系を製
表面温度を確認しつつ行う. 作、N2O/EA エンジン燃焼試験を実施した.結果は以下
STEP13~14 LOV2 の下流側(タンクを含む)圧力と上 のとおり:
流側の圧力が均圧されたのを確認して、 1) O/F を定常に出来なかったが、40 秒程度安定燃焼
LOV2 を徐々に開ける. を達成した.また O リッチ側の着火限界を確認し
STEP15 RV3 を開きタンク内圧力を 0.5~1MPa 程度低 た.
くして、液 N2O の流入をすすめる. 2) 燃焼器近くが高くなるという特異的な熱流束分布
STEP17~18 充填が完了したら LOV2 を閉にした後、 を観測した.N2O ガス化および噴射器形態による
lOV1-LOV2 間を GN2 で繰り返しパージした ものと推測する.
後、ボンベを切り離し退避させる. 3) N2O の安全性に関わる文献調査を実施し、ロケッ
STEP20~21 LOV3、LOV5 を徐々に開けたのち、RV2 トエンジン試験用供給系の適切な使用手順を提案
近傍の LOV6 を徐々に開き、始動弁 RV2 ま した.

参考文献
大塚貞吉ほか、”N ロケット第 2 段用 LE-3 型エンジンの高空性能試験,” 航空宇宙技術研究所資料 TM-364、1978.
1

植田修一ほか、”N2H4/MMH 混合燃料再生冷却エンジンの性能,” 航空宇宙技術研究所資料 TR-1082、1990 など


羽生宏人ほか、”ハイブリッドロケットの飛翔実験と地上保安,” 航空宇宙技術、Vol.9、pp.15-21、2010 ほか
2

八木下剛ほか、”推力 2kN 級 N2O/エタノール推進系の技術実証試験、” 平成 21 年度宇宙輸送シンポジウム、STCP2009-24、2010.


3

J. Matsumoto, et al., “Development of Closed-Loop Pressurization System using CO2,” IAC14-D2.5.5, Toronto, 2014.
4

東ほか、”液酸/エタノールロケットエンジン基本性能計測結果について,” 第 58 回宇宙科学技術連合講演会、1J05、2014.
5

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6

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