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SNS利用者の満足要因分析に関する一考察 

Study of Satisfaction Factor Analysis of SNS Users 

伊東俊彦 柴田聡
Toshihiko ITO Satoshi SHIBATA 

Graduate School of Economics, Tokoku University

要旨: 
近年 mixi に代表されるような大規模な SNS に加えて、地域 SNS 1 ・大学 SNS 2 ・企業内 SNS といった小規
模な SNS 3 の可能性に注目が集まっている。 

一方で SNS 分析の枠組みは単一の SNS を想定したものとなって
おり、小規模 SNS に対応した分析が行われているとは言い難い。本研究では、SNS における利用者の満足度
調査についてのサーベイを行い SNS の満足度分析についての SNS 間の相違について考慮した新しい分析方
法を提案する。 

Abstract: 
Recently,  large­scale  SNS  represented  by  mixi,  and  the  possibilities  of  small  SNSs  such  as  local  SNSs,  university 
SNSs and corporate SNSs have been attracting attention. However, most studies have focused on SNSs in general. We 
suggest  a  new  method  in  which  we  describe  differences  among  small  SNSs  using  satisfaction  survey  results  we  are 
developing. 

1.  はじめに  的消費」を行い他者と「コミュニケーション」する能


SNS  はインターネット上に作られた仮想コミュ 動的消費者と定義される。 
ニティである。SNS において利用者は、SNS 内にあ SNS において、ブログの書き込みやコミュニティ
るリソースへのアクセス、参加者間のコミュニケー への参加は、SNS  へのリソースへの提供であり「新
ションによって満足を得ることになる。 しい製品・サービスをつくる(製品創造)」ことを意味
しかし一方で、  SNS の価値はサービスの提供主体 している。したがって、SNS  の参加者をアクティ
と利用者双方向の共創によって形作られていく。利 ブ・コンシューマーとして捉えなおすことは  SNS 
用者である個人は異なる利用者の視点からは、リソ 研究のひとつの視点になりうる。この視点に立てば、 
ースの提供者であり、なおかつ、コミュニケーショ SNS の価値創造のためには利用者をアクティブ・コ
ンの可能性を提供する他者でもある。この利用者/  ンシューマー化することが  SNS  運営において一つ
提供者という参加者の二重性は、  SNS 研究に対して の重要なファクターであるといえる。
アクティブ・コンシューマーの概念の援用可能性を アクティブ・コンシューマーに関する濱岡の一連
示している。 の研究(2001,2002)において、アクティブ・コンシュ
濱岡(2002)によると、アクティブ・コンシューマ ーマーに関する特性がいくつか示されている。一つ
ーとは、 「既存の製品・サービスを修正する(製品の は、創造的行為とその普及要因として、「楽しさ」に
修正)」「新しい製品・サービスをつくる(製品創造)」 よる動機付けが挙げられている。加えて、重要な要
「新しい用途を発見する(用途創造)」といった「創造 因として所属コミュニティからの影響が挙げられ 


地域 SNS の実態調査については、地方自治情報センター『地域 SNS の活用状況などに関する調査 報告書』 
2007.がある。 

大学 SNS の導入については、伊東俊彦,  柴田聡「大学教育支援のための SNS 導入の調査研究」 『経営情報
学会  2008 年春季全国研究発表大会予稿集』C3­3, 2008.がある。 

本論文では、地域 SNS・大学 SNS・企業内 SNS をまとめて小規模 SNS と呼ぶ。 

地域 SNS の可能性と拡大については、朝日新聞社 Asahi.com の記事『広がる地域限定型 SNS』がある。 
http://www.asahi.com/digital/techno/TKY200804130109.html(確認:2008.10) 
ている。 
SNS の使用動機の一つとして娯楽性があり、  Kekre et al. (1995)は、ソフトウェア製品の満足度に
SNS  における満足度が「楽しさ」によって規定され 関するアンケートにたいして 5 段階評価の順序プロ
ていると考えることが出来る。さらに、SNS はイン ビットモデルを用いて分析し要因の寄与度を測っ
ターネット空間上におけるコミュニティ活動その ている。C. Lawson1 & D. C. Montgomery (2006)は、2 
ものであり、所属コミュニティからの影響を無視す 項ロジットモデルによる満足度分析についての紹
ることは出来ない。以上の議論から  SNS  の価値向 介を行っている。また、金融サービスに対する満足
上/活性化のためには SNS に対する利用者の満足度 度分析では M. S. Krishnan et al.  (1999)が、ベイズ推
向上が必要であると考える。したがって、本研究で 測を用いた順序プロビットモデルによる研究を行
は満足度に注目し、かつコミュニティの影響をふま っている。
えて分析の枠組みを展開していく。  これらの研究では、順序プロビットモデルあるい
はロジットモデルに基づき顧客満足度モデルを構
2.  満足度に関する先行研究 築している。このモデルでは満足度をいくつかの段
顧客満足度研究に関する研究はマーケティング 階で質問し、その回答に対してプロビット/ロジット
分野を中心に多岐に渡っており、また同時に研究の 変換を施した後に、満足度に関連があると見込まれ
膨大な蓄積がなされている。特に満足度は心理的尺 る要素で回帰を行っている。このモデルの優れてい
度であるため、それ自体を計測することが困難であ る点として、「満足度についての潜在変数を仮定す
りその測定には多くの努力が払われてきた。代表的 る必要が無いためアンケートが簡便に出来る」・「操
な満足度研究に関する研究の一つとして満足度指 作可能な変数からの影響を明示的に分析できるた
標に関するものがある。C Fornell et al. (1996)は、ア め経営的インプリケーションを獲得しやすい」こと
メリカを対象として、満足度についての消費者行動 が挙げられる。
モデルにもとづき、満足度を規定する潜在的な要因 一方で、このモデルでは消費者の心理モデルを仮
間の構造を分析し、マーケティングマネジメントに 定していない。精緻な研究を行ううえでは大きな欠
活用できる指標(ACSI)を提案している。同様にして 陥である。しかし、SNS における満足度研究の現状
ヨーロッパに適応させたモデルを提案した論文と はまだその緒についてばかりであり、統一的なモデ
して J. A. Eklöf &; A. H. Westlund (2002)が、デンマー ルの構築よりも個々の要因についての研究を蓄積
クに適用した論文として  E.  Ciavolino  &  J.  J.  していくことが重要であると考える。
Dahlgaard (2007)が挙げられる。J. M.D.Gustafsson et  それゆえ本研究では順序プロビットモデルに基
al. (2001)は ACSI の改善をおこなっている。 づく顧客満足度モデルを採用する。モデルは表,1 に
これら一連の研究では、潜在的な満足度を構成す 示す、yは回答者 i の満足度アンケートに対する満
る要素間の関係性の解明を主眼としており、満足度 足度の回答である。y*はアンケートで得られた満
そのものを管理維持することには重きを置いてい 足度データをプロビット変換したものである。また, 
ない。一つには顧客満足度の研究は CRM に関連し アルファは切片,X  は満足度要因でβはそのパラメ
た顧客ロイヤリティの概念と密接に結びついてお ータである。
り、むしろ顧客ロイヤリティの構成要素としての側
面が注目されたためと考えられる。マーケティング 表 1  順序プロビット型の顧客満足度モデル 
Model 1 
においては顧客の購買行動こそが重要であるため、
y * i  = a + b X i + e i 
これは当然の帰結ともいえる。
しかし、前節で述べたように、本研究で対象とす yi = j if g j -1  < y i*  £ g j 
る SNS では SNS 運営者と利用者間での価値の共創 for j = 1, 2,3, 4,5 
がきわめて重要である。すなわち、価値共創の要因
として満足度そのものの重要性が極めて高くなる
ことを意味する。この点を踏まえて、本研究では満 3.  モデルの拡張
足度を向上させるための要因とその効果について 前節では順序プロビット型の満足度 model の紹介
分析することを主眼に置き研究を進めていく。 をおこなった。しかし、紹介した model は、代表的
満足度の個々の要因に関する研究として  (S.  な利用者について同質な  SNS  における満足度とそ
れを規定する要因間との関係を示しているに過ぎ 4.  アンケート
ない。本研究の対象とする小規模  SNS  にそのまま 表 3  アンケートの項目
適用することはいくつかの問題をかかえている。
満足度要因 質問項目
まず、小規模  SNS  を研究する際一つ問題になる
有効性  SNS内において必要な情報が得られ
点として、異なる小規模  SNS  間で目的・サービス
たか 
内容・参加者特性など様々な点で特異性をもってお
SNS内においてコミュニケーション
り、小規模  SNS  間の異質性を無視することは、分
ができているか
析に大きな誤りをもたらす危険性がある。
効果性  SNSで得られた情報は役に立ったか 
加えて、小規模 SNS では 1 つ 1 つの SNS に関し
SNSで期待するコミュニケーション
てのサンプル数が分析するモデルに対して十分で
が出来たか
ないという状況に陥る危険性がある。一つの解決方
機能性  SNS。が提供するサービスの数は十
法として、複数の小規模  SNS  のデータをプールし
分か 
て満足度分析を施すという方法が考えられる。しか
SNSが提供するサービスの質は満足
しこの方法では、異なる小規模  SNS  間の異質性を

無視してしまうため十分な研究成果が得られない
信頼性  SNSのシステムは安定していると思
可能性がある。
うか 

表 2  階層化プロビットモデル  SNS 参加者を信頼できるか 


SNSで得られる情報は信頼できるか
y * ij  = a j + b j X ij + e ij 
操作性  SNS のサービスは使いやすいか
yi = j if g j -1  < y i*  £ g j 
明瞭性  SNSのレイアウトはわかりやすいか
for j = 1, 2,3, 4,5  必要ない機能はないか
b j  = q Z + w 安全性 プライバシーポリシーは十分と思
a j  = q Z + w うか 
SNS 内でのトラブル対策は十分か
これらの要因を考慮すると、model  1 で示した順 コミュニティ  SNSにおける所属コミュニティの数 
序プロビット型の満足度モデルを  SNS  ごとの異質 SNS における友人の数
性を組み込んだモデルへと拡張する必要がある。  イベント  SNS 内のイベントは楽しいか 
E. C. Malthouse et al. (2004)は、同種のサービスで SNS運営主催のイベントに参加して
も異なる組織間で満足度が異なる可能性を考慮し、 いるか 
階層回帰モデルによる満足度分析を述べている。 SNS内のイベントには参加している
本研究では同様に、前述の順序プロビットモデル か
に対して階層モデルを仮定して階層化プロビット 個人特性  SNS に満足しているか
モデルによって  SNS  の異質性を表現するモデルを 性別
表2に示す。表 1 の順序プロビットモデルとの違い 年齢
はパラメータであるβ・αに回帰モデルを設定して 結婚の有無
いる点である。この回帰モデルは  SNS  の異質性、 当該 SNS に加入して何年たったか
人数・アクティブユーザー数・書き込み量などの  ネット歴 
SNS の特性を表すデータを用いる。このモデルでは  SNS を今後も継続するつもりか
SNS の満足度を決定する要素に対して SNS 毎の特 ブログの更新頻度
徴が影響を及ぼし、 
SNS ごとに異なったパラメータ 閲覧ブログ数
を設定できる。また、SNS の特性が個々の満足要因 ログイン頻度 
に対して与える影響も同時に見ることが出来るた off 会への参加 
めより深い分析が可能である。  SNS に対して愛着があるか
分析にあたってのアンケート作成の指針として、 参考文献 
力,藤野(1997)を参考にする。彼ら(1997)の研究は社 [1]  C Fornell, MD Johnson, EW Anderson, J Cha ,“The 
内情報システムの満足度評価について行われたも American  Customer  Satisfaction  Index:  Nature, 
のであり、そのまま  SNS  研究に適用することは問 Purpose,  and  Findings,”  Journal  of  Marketing, 
題である。しかし  SNS  研究において満足度要因に pp.7­18, Oct. 1996. 
関する研究は乏しく、 
SNS と同じ情報システムに関 [2]  S. Kekre, M. S. Krishnan, K. Srinivasan,”Drivers of 
Customer  Satisfaction  for  Software  Products: 
する分野であることからアナロジー的に活用する。
Implications  for  Design  and  Service  Support,” 
この研究は情報システムに対する個人の満足度
Management Science, Vol. 41, No. 9, 1995. 
の要因として、有効性・効果性・機能性・信頼性・
[3]  J. A.  Eklöf  &  A. H.  Westlund  “The  pan­European 
操作性・明瞭性・保守性・安全性を挙げている。こ
customer  satisfaction  index  programme—current 
れらの要因に加えて  SNS  のもつコミュニティ的特 work  and  the  way  ahead”  Total  Quality 
性・SNS  独自のイベント要因・個人特性を加えて  Management & Business Excellence, Vol. 13, N0. 8, 
SNS に対応する形でアンケートを作成する。作成し 2002 
たアンケートの項目は(表 3)に示すとおりである  [4]  J. M.D.Gustafsson A.,A. T. W. Lervik L.Cha J. “The 
evolution  and  future  of  national  customer 
5.  まとめと今後の課題 satisfaction  index  models,”  Journal  of  Economic 
本研究では、小規模  SNS  の特性を考慮しつつ先 Psychology, Volume 22,Number 2, April 2001 
行研究を踏まえて満足度モデルの提案およびアン [5]  E.  C.  Malthouse  ,  J.  L.  Oakley  ,  B.  J.  Calder,  D. 
ケートの紹介を行った。本モデルでは  SNS  レベル Iacobucci  “Customer  Satisfaction  Across 
での満足度分析とその要因についてより深い理解 Organizational  Units” Journal  of  Service Research, 
を可能にする可能性を示した。 Vol. 6, No. 3, pp. 231­242, 2004 
[6]  E.  Ciavolino  a;  J.  J.  Dahlgaard “ECSI ­  Customer 
しかし、本研究では実データによる分析を行って
Satisfaction  Modelling  and  Analysis:  A  Case 
おらず model の有効性を実証するまでには至らなか
Study,”  Total  Quality  Management  &  Business 
った。今後の研究では本研究で提案した model につ
Excellence, Vol. 18, No. 5, 2007 
いて実際のデータを用いて検証することが当面の
[7]  M.  S.  Krishnan,  V.  Ramaswamy,  M.  C.  Meyer,  P. 
課題である。 Damien,”Customer  Satisfaction  for  Financial 
また、本研究では考慮しなかったが個人レベルの Services:  The  Role  of  Products,  Services,  and 
異質性もきわめて重要である。SNS 自身、いわばオ Information Technology,” Management Science, Vol. 
ンライン上のコミュニティの集合体であり、  SNS の 45, No. 9, 1999 
レベルでは個々人のコミュニティ活動を把握し切 [8]  C.  Lawson1,  and  D.  C.  Montgomery,  “Logistic 
れているとは言い難い。さらに、個人ごとに満足の Regression  Analysis  of  Customer  Satis­  faction 
基準は異なることが予想されるため  SNS  レベルで Data,”  Quality  ane  Reliability  Engineering 
の分析だけでは不十分である。この点を踏まえ今後 International, Vol.22, pp.971–984, 2006 
は個人レベルの分析に拡張する必要がある。 [9]  濱岡豊 「アクティブコンシューマー」 『未来市場
加えて、既存の  SNS  研究では、ネットワーク理 開拓プロジェクト・ディスカッションペーパー』
論に立脚したネットワーク分析が精力的に行われ 東京大学経済学部, 2001. 
[10]濱岡豊「アクティブ・コンシューマーを理解す
ている。これらの研究ではネットワークの形態とし
る」 『一橋ビジネスレビー』冬季号、東洋経済新
ての  SNS  の特徴が上手く捉えられており、さらに
報社, 2002. 
個人レベルのネットワーク特性も表現されている。
[11]力利則,藤野喜一「情報システムの顧客満足度計
ネットワークは視点を変えれば、一種のソーシャ
測モデルと計測手法についての研究」『情報処
ルキャピタルとみなすことも出来る。小規模  SNS  理学会論文誌』Vol.38, No.4, pp. 891­903, 1997.
では、地域あるいは組織内のソーシャルキャピタル
形成が重要なテーマの一つとなっており、これらの
ファクターとの関連を考察することは今後の課題
である。

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