SCI'20 - I: A Proposal of Remaining Useful Time Prediction Utilizing Operation Data of Construction Machinery

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 システム制御情報学会論文誌,Vol. 34, No. 4, pp.

107–112, 2021 107

SCI’20 論文 特集号—I 論 文

建設機械の稼働データを活用した残存耐用時間予測の
一提案*

小熊 尚太 † ・大松  繁 † ・大野 修一 ‡ ・岩崎 和宏 § ・宍戸 義昭 §

A Proposal of Remaining Useful Time Prediction Utilizing


Operation Data of Construction Machinery*

Shota Oguma† , Shigeru Omatsu† , Shuichi Ohno‡ ,


Kazuhiro Iwasaki§ and Yoshiaki Shishido§

For users to carry out various jobs according to the construction plan, if unexpected machine
failures occur and their machines go down for an extended time, they will be huge losses. Therefore,
machine maintenances are required for their machines to prevent from machine failures. However, due
to operation in severe environment condition such as high load or long time use and in unexpected use,
they often fail earlier than expected. For the maintenance of construction machinery, we propose to
detect early indications of failure by predicting remaining useful times. Thereby, their machines can
be performed maintenance before their failures and prevent unexpected machine failures. We propose
to predict the machine failures of lower traveling bodies of hydraulic excavators by estimating their
remaining useful times. Moreover, we also propose a practical example of maintenance activity using
remaining useful times prediction in addition to failure prediction by neural network for hydraulic
excavators and its effectiveness is shown.

1. はじめに 近年では機械に取り付けられたセンサデータや IoT デー


タなどを活用した「状態監視保全」が多く見られる.こ
建設機械をはじめとする産業機械を製造するメーカに
の「状態監視保全」により故障に至る前にその予兆を捉
とって,ユーザへ機械を納入・納品した後もユーザの生
えることができれば,突発的な故障の前に保全計画を立
産・施工計画通りに設備を運用するため,定期的なメン
ててメンテナンスを行うことが可能である.その結果,
テナンスやアフターサービスなどの保全活動は欠かせな
ユーザの損害を最小限に抑えられ,さらに長期間にわた
い [1].万一,突発的な機械故障が発生し,長期間にわた
り機械を使うことが期待できる.
る機械停止/マシンダウンとなれば,ユーザ/メーカ双
このような研究の先行事例として,切通らは化学プラ
方に多大なる損失が生じる [2].
ントのセンサデータを用いて機械学習により工場機器の
このような故障を防ぐためには保全活動が必要であり,
故障を予測するモデルを作成し,比較・評価を行うこと

原稿受付  2020 年 7 月 27 日
∗ でニューラルネットワークの有用性を確認している [3].
第 64 回システム制御情報学会研究発表講演会にて発表
(2020 年 5 月) また,袖子田らは実際のプラントや産業機械のデータを
† 用いて,MT 法(Mahalanobis Taguchi 法)をベースと
広島大学 デジタルものづくり教育研究センター  Digital
Monozukuri Education and Research Center, Hiroshima したデータ解析による診断技術の開発を行い,その有効
University; 1-4-1, Kagamiyama, Higashi-Hiroshima, Hi- 性を検証している [4].さらに,植木らは化学プラント機
roshima 739-8527, JAPAN 器の予防保全を目的に,時系列計測データと故障/保全

広 島 大 学 大 学 院 先 進 理 工 系 科 学 研 究 科 Graduate
データから生存時間解析に基づくデータの分析手法を提
School of Advanced Science and Engineering, Hiroshima
案している [5].このようにセンサデータを活用した「状
University;1-4-1, Kagamiyama, Higashi-Hiroshima, Hi-
態監視保全」には機械学習などの統計的な手法が広く用
roshima 739-8527, JAPAN
§ いられている.しかし,コスト(製造費,通信料など)
コベルコ建機株式会社  KOBELCO Construction Ma-
chinery Co., Ltd.; 2-2-1, Itsukaichikou, Saeki-ku, Hi- や記憶媒体容量などの制約条件のため,数多くの短周期
roshima 731-5161, JAPAN のセンサデータが必ずしも得られるとは限らない.とく
Key Words : hydraulic excavator, remaining useful time,
に,機体の移動を伴う建設機械(油圧ショベル,クレー
operation data, predictive maintenance.

– 19 –
108 システム制御情報学会論文誌 第 34 巻 第 4 号  (2021)

ン車など)では対象設備の目的やその作業特性により,
プラント設備や他の産業機械(工作機械,コンプレッサ
など)のように多量のデータを得られない場合が多い.
本論文では,対象とする複数の油圧ショベルから取得
可能な限られた稼働データを用いて,故障が発生する前
に早期に兆候を予知し,保全活動へ繋げる方法を提案す
る.具体的には,下部走行体の故障発生の有無を機械学
習による診断で予測し,故障までの残存耐用時間を予測
することにより,保全が必要な機械を判定する.
なお,筆者らの先行研究では,下部走行体の故障発生
の有無を予測する方法として,ニューラルネットワーク
を用いた予測手法を提案している [6,7].機械の構造上,
損傷具合を測定できない下部走行体に対し,追加機器や
レイアウトの変更なく,既存の搭載センサから取得され
たデータを使うことで,故障を予測できることを確認し Fig. 1 Hydraulic excavator (SK200-10)
た.油圧ショベルのポンプ圧やポンプトルク,作業時間
などの故障に関わる変数を用いてニューラルネットワー
集約したデータ(稼働時間やポンプ圧力など)とともに,
クを構築し,未知の稼働データに対して故障の予測がで
個体番号や稼働日などの情報が含まれている.
き,さらにニューラルネットワークのノード数の違いに
油圧ショベルは,その作業特性から土面や未舗装の道
より再現率や誤検出率などの評価指標が変わることを確
路などで使われることが多い.これらの場所で作業を行
認した.しかし,故障前にメンテナンスの実施を判断す
うと,とくに走行作業中に下部走行体 (Lower traveling
るために必要な下部走行体が故障するまでの残存耐用時
body) とよばれる足回りの構造部品への損傷が大きい.
間を予測するまでには至っていない.とくに,油圧ショ
また,機械の構造上,下部走行体には損傷具合を測定す
ベルのような建設機械の場合,過酷な環境下で使われる
るセンサが搭載できない.この下部走行体に関する故障
ことが多く,機械ごとの稼働状況が異なる.そのため,
を評価対象に,既存のセンサから得られたデータを使っ
取得されたデータから機械ごとの稼働状況を考慮して残
て故障前にメンテナンスを実施する方法を示す.
存耐用時間を予測する必要がある.
本論文では,油圧ショベルの下部走行体を対象に故障 3. 建機の残存耐用時間予測
するまでの残存耐用時間を予測する方法を提案する.機
油圧ショベルの下部走行体における故障の兆候を早期
械ごとの使われ方による違いを考慮するため,まず故障
に見つけ,残存耐用時間を予測する方法を示す.まず,
データを稼働状況が近い機械ごとにクラスタリングする
ニューラルネットワークによる故障予測モデルを作成し,
ことにより分類する.つぎに,データを十分に確保でき
未知の稼働データに対して,正常もしくは故障の判定を
ているクラスタに対し残存耐用時間を予測するモデルを
行う.故障と判定された機械のメンテナンス時期を知る
作成する.実際の残存時間と予測した残存時間の差を評
必要があるため,故障データを使ってクラスタリング結
価することで予測モデルの有効性を示す.また,実際の
果から故障のグループを分類する.なお,故障データに
油圧ショベルのアフターサービスにおいて,ニューラル
は過去に故障歴を含まない機械を選定する.故障データ
ネットワークを用いた故障予測と残存耐用時間予測を合
が十分に含まれているクラスタの残存耐用時間の予測モ
わせた運用例を提示することにより,その有効性を示す.
デルを作成し,残存時間を予測する.このような方法に
2. 診断の評価対象 することで,正常と診断されるデータも含めてすべての
機械の残存時間を評価する必要がなく,効率的に保全が
Fig. 1 に評価対象の油圧ショベルを示す.対象とする
必要な機械を判断することができる.ニューラルネット
油圧ショベルは,コベルコ建機株式会社製 SK200-10 ア
ワークを用いた故障予測方法については,先行研究にお
セラ・ジオスペックである.この油圧ショベルには,油
いて示しているため [6,7],以下では故障データのクラス
圧ポンプや作業部分を稼働させるアクチュエータなどが
タリングと残存耐用時間の予測方法を示す.
搭載されており,それらを制御するためにさまざまなセ
ンサが搭載されている.油圧ショベルが行う日々の作業 3.1 故障データのクラスタリング
において,稼働時のセンサ情報を取得している.また, 油圧ショベルに代表される建設機械は,とくに機械特

油圧ショベル本体には,蓄積されたデータを送信する通 有の高負荷・長時間稼働・高温多湿などの過酷な使われ

信装置が搭載されており,稼働データを外部サーバにて 方により,稼働状況が機械ごとに異なるので,その違い

受信可能となっている.稼働データには,1 日の作業を を考慮する必要がある.稼働状況が近い機械ごとにグ

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小熊・大松・大野・岩崎・宍戸:建設機械の稼働データを活用した残存耐用時間予測の一提案 109

ループ分けするため,故障データをクラスタリング手法
Table 1 Overview of failure data
のひとつである k-Means 法により,いくつかのクラスタ
に分類を行う [8].この際,下部走行体の故障予測を行う 値 単位
ニューラルネットワークモデルを構築するために使った データ数 13,116 データ
13 変数(ポンプ圧力分布,ポンプトルク分布,作業別の 台数 82 台
稼働時間)を用いて,クラスタリングを行う.故障が発 サンプリング 1 回/日
生する頻度は低くデータ数が少ないことが想定される. 入力変数 13 変数
また,大多数は近い運転状態で,少数の稼働状態がいく
ぶんか存在していると推測される.したがって,十分な Table 2 Input variables
量を確保できているクラスタに対して残存耐用時間の予
測モデルを作成し,その評価を行う. 分類 変数 項目 備考

3.2 残存耐用時間の予測方法 x1 低圧力 x1 < Plo


下部走行体の故障に対して,故障データから残存耐用
圧力 x2 中圧力 Plo  x2 < Pmi
時間を予測するモデルをつくる.予測モデルの作成には,
分布 x3 高圧力 Pmi  x3 < Phi
先行研究 [6,7] において使用した故障データを利用する.
x4 超高圧力 Phi  x4
故障データの詳細を Table 1 に示す.82 台の機械の故障 x5 トルク T1 T0  x 5 < T 1
データがあり,Table 2 に示す 13 個の入力変数を含ん x6 トルク T2 T1  x 6 < T 2
でいる.ただし,Table 2 の入力変数は,たとえば「低 トルク x7 トルク T3 T2  x 7 < T 3
圧力」であれば Plo [MPa] 未満,
「中圧力」であれば Plo 分布 x8 トルク T4 T3  x 8 < T 4
[MPa] 以上かつ Pmi [MPa] 未満の圧力範囲(Plo ,Pmi x9 トルク T5 T4  x 9 < T 5
は任意の値)で稼働した状態を示し, 「トルク T1 」であ x10 トルク T6 T5  x10 < T6
れば T0 [Nm] 以上かつ T1 [Nm] 未満のトルク範囲(T0 ,    x11 掘削作業
T1 は任意の値)で稼働した状態を示す.これらの故障 作業時間 x12 走行作業
データは機械ごとに日々,取得されているデータである x13 待機状態
ため,入力変数ごとに積算する.そして任意の日数間隔
ずつデータを抽出し,残存耐用時間の予測モデルを作成 作成し,評価を行った際に使った故障データ [6,7] を学習
する. データと検証データに分類する.学習データに該当する
残存耐用時間の予測モデルには,医療分野の生存時間 機械のデータを使って,(1) 式により残存耐用時間の予
解析や工学分野の信頼性分析などで用いられている Cox 測モデルを作成する.作成したモデルに検証データを入
比例ハザードモデル 力することで予測残存耐用時間を算出する.実際の残存
  時間と予測した残存時間を基準時間に対する比率で表し,
1
log = a0 + a1 x1 + ··· + an xn (1) 実際の残存時間比率と予測した残存時間の比率の相関を
t0
評価する.さらに任意の故障日数前での実際の残存時間
を使う [9].ここで t は,その時点における故障までの残 比率と予測した残存時間比率の差分を評価し,ばらつき
存耐用時間 [hr] を示し,t0 は稼働開始から故障までの累 が少なければ良好な精度が得られていると判断する.
積稼働時間 [hr] を表す.xn は説明変数を示し,ポンプ圧 また,k-Means 法によるクラスタリングを行わずに残
力やポンプトルクなどの Table 2 に示す 13 個の入力変 存耐用時間の予測モデルを作成し,検証データを入力し
数とする. 結果を評価する.クラスタに分けた場合と比較すること
また,an は説明変数の回帰係数を示す.この (1) 式に で,油圧ショベルの稼働状況の違いに分けて残存耐用時
学習データの入力変数と累積稼働時間 t0 [hr],および残 間を予測することの有効性を評価する.
存耐用時間 t [hr] を使って,重回帰分析を行うことによ
り回帰係数 an(n = 0,1, …,13) を決定する.これにより, 5. 結果
残存耐用時間の予測モデルが作成できる.作成したモデ 稼働データにより構築されたニューラルネットワーク
ルに検証データを入力し,実際の残存時間と予測した残 により,油圧ショベルの下部走行体の故障を予測できる
存時間の比較・評価を行う. ことが先行研究において示された [6,7].ニューラルネッ
トワークのノード数が 18 個と 6 個の場合を比較し,前者
4. 残存耐用時間の評価方法
のほうが正解率は高く誤検出率も低く,後者は再現率・
十分にデータ量を確保されたクラスタに対し残存耐用 適合率が高いことが示された.以下では故障データのク
時間を予測するモデルを作成し,その評価を行う.先行 ラスタリングと残存耐用時間予測の結果を示す.
研究でニューラルネットワークによる故障予測モデルを

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110 システム制御情報学会論文誌 第 34 巻 第 4 号  (2021)

5.1 k-Means クラスタリングの結果


油圧ショベルの稼働状況による使われ方の違いを考慮
するため,ニューラルネットワークによる故障予測を行
う際に使った故障データの入力変数(ポンプ圧力分布,ポ
ンプトルク分布,作業別の稼働時間)を使い,k-Means
法(k = 4)によりクラスタリングを行った.最も多くの
機械が含まれるクラスタ内に,残存耐用時間の予測モデ
ルを作成するのに十分なデータ量を確保できており,ク
ラスタの数を k = 4 とした.
油圧ショベルの使われ方は掘削や走行などの作業別の
稼働時間によって表されることが多いため,横軸に掘削 Fig. 2 k-Means clustering (k = 4)
作業時間,縦軸に走行作業時間をとったものを Fig. 2 に
示す.なお,横軸と縦軸は共に 0 から 1 の間の値となる Table 3 Number of data in clusters
ように正規化している.各クラスタの特徴としては,ク
     台数
ラスタ1は掘削作業の割合と走行作業の割合が近い機械
クラスタ 1 57
が多い傾向があり,クラスタ 2 およびクラスタ 3 は掘削
クラスタ 2 2
作業が比較的高い割合の傾向がある.クラスタ 4 は他の
クラスタ 3 7
クラスタと比較し,掘削作業割合に対して走行作業の割
クラスタ 4 16
合が大きい機械が多い傾向が見られた.
また,各クラスタに分けられた台数を Table 3 に示す.
クラスタ 2 に分けられた機械が最も少なく,クラスタ 1
に分けられた機械が最も多かった.クラスタ 2 は,他の
クラスタと比べて掘削作業の割合が相対的に多く,特有
な使われ方をされていると考えられる.クラスタ 1 に分
けられた機械は,掘削作業時間と走行作業時間が機械ご
とに近いため,機械の使われ方も同じような稼働状況で
使われているものと考えられる.
5.2 残存耐用時間の予測結果
4 個に分けられたクラスタのうち,分類された台数が
多く,学習データを十分に確保されたクラスタ 1 に該当 Fig. 3 Comparison of remaining time (cluster 1)
する機械のデータを使って,(1) 式により下部走行体の
残存耐用時間を予測するモデルを作成した.学習モデル
を作成するために,528 データ分(45 台)の故障データ
を使用した.
作成した残存耐用時間を予測するモデルに対し,検証
データ(140 データ,12 台分)を入力した結果を Fig. 3
に示す.横軸に故障までの残存時間をとり,縦軸は検証
データから予測した残存耐用時間を示す.なお,横軸と
縦軸は共に 0[%] から 100[%] の間の値となるように正規
化している.相関係数が 0.84 程度であり,また,グラフ
からもわかるように,実際の残存耐用時間を比較的高い Fig. 4 Histogram of the difference between actual and
精度で予測できている. predicted (20 days before failure)

つぎに,基準時間に対する実際の残存時間と予測した
ラフからわかるように 80[%] 以上の機械が基準時間に対
残存耐用時間の差の比率を考える.たとえば,故障の 20
して,−5[%] から +5[%] 以内の誤差での予測が可能で
日前における時点での比率のヒストグラムを Fig. 4 に示
ある.
す.横軸に 5[%] 間隔で差の比率の範囲をとり,棒グラフ
同様に故障の 60 日前における時点での比率のヒスト
の縦軸には,範囲に該当するデータ数を示す.また,折
グラムを Fig. 5 に示す.基準時間に対して −5[%] から
れ線グラフは,横軸の差の比率の範囲が小さい方から順
+5[%] 以内の誤差で予測される機械は 60[%] 程度であ
に該当データ数を累積して比率で示したものである.グ
り,故障の 20 日前における時点よりも少なかった.ま

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小熊・大松・大野・岩崎・宍戸:建設機械の稼働データを活用した残存耐用時間予測の一提案 111

の予測モデルを使った方が少ないばらつきで評価できる
ため,機械ごとの稼働状況を考慮したクラスタリングは
有効であるといえる.
5.3 残存耐用時間予測と故障予測を用いた建機
メンテナンスの一例
故障発生有無の予測モデルと残存耐用時間を予測する
モデルを用いた一例として,実際の油圧ショベルのアフ
ターサービスにおける運用を例にとり,本手法を用いた
予知保全活動の方法を提案する.
まず,ニューラルネットワークを使った故障発生の有
Fig. 5 Histogram of the difference between actual and
無を予測するモデルに対して,未知データを入力し評価
predicted (60 days before failure)
を行い,特定の故障が発生する可能性を判定する.この
際,少ないノード数で構築したニューラルネットワーク
などの汎化能力を持たせた予測モデルで評価を行う.こ
れにより,誤検出が発生しても,故障発生の見逃しを少
なくすることが可能となる.
故障と判断されるデータを事前に決めたクラスタのい
ずれかに分類する.その結果,機械の稼働状況による使
われ方の違いが反映されていることが示される.クラス
タ分類を行った後に,実際には,まだ故障に至っていな
い機械や誤検出の可能性がある.故障データが十分に含
まれるクラスタであれば,残存耐用時間を予測するモデ
Fig. 6 Comparison of remaining time(all clusters)
ルを使って故障までの残存時間を予測できる.メンテナ
ンスを行うために必要な準備期間(保守部品の手配,施
Table 4 Comparison of mean and standard deviation
工計画など)を考慮して,目標とする残存時間をしきい
平均 標準偏差 値として設定する.しきい値を下回ると予想される機械
クラスタあり −2.49 3.64 に対して,メンテナンス計画と実施を行う.
クラスタなし −6.93 4.18 油圧ショベルのような建設機械の場合,数千から数万
台の機械が市場で稼働している.これらの機械すべてに
た,+5[%] から +20[%] 以内の誤差で予測される機械が 対して,日々,残存耐用時間を予測し続けるには,膨大
30[%] 程度見られた.したがって,故障までの日数が短 な計算量となる.したがって,このような提案手法を実
い方が,残存耐用時間をより正確に予測できているとい 施することで故障発生を予測し,対象機械を絞り込み,
える. 故障の疑いがある機械の稼働データから残存耐用時間を
また,油圧ショベルの機械ごとにおける稼働状況の違 予測する.それにより,少ない計算量で効率的にメンテ
いを k-Means クラスタリングにより分類する有効性を評 ナンスが必要な機械を判定することが可能となる.
価するため,クラスタに分けずに残存耐用時間の予測モ
6. おわりに
デルを作成した.クラスタ 1 から 4 に該当する 828 デー
タ分(65 台)の故障データを使用し予測モデルを作成し 本論文では油圧ショベルの下部走行体を対象に故障が
た.作成した予測モデルに対して,クラスタ 1 の残存時 発生する前に,早期に故障の兆候を捉えて保全活動へ繋
間予測モデルを検証したデータを入力し評価した. げる方法を提案した.稼働データからニューラルネット
クラスタ 1 のときと同様に,実際の残存時間と予測残 ワークモデルにより故障発生の有無を予測し,残存耐用
存時間を比較した結果を Fig. 6 に示す.相関係数が 0.88 時間を予測することで保全が必要な機械を判定する方法
程度であり,クラスタ 1 と同等の精度で予測できている を示した.
が,グラフを見ると予測残存時間が y 軸のプラス方向へ 残存耐用時間の予測において,故障データを k-Means
オフセットしていることがわかる. クラスタリングにより使われ方ごとに分類を行い,故障
Table 4 に示すように,故障の 20 日前における時点で データを十分に確保できているクラスタに対して予測モ
の検証データで平均値と標準偏差を比較すると,クラス デルを作成することで,少ない誤差で残存時間を予測で
タ 1 を用いた予測モデルの方が,平均値が 0 に近くて標 きることを示した.また,これらの異常診断を行うモデ
準偏差も小さいことがわかる.したがって,クラスタ 1 ルを用いて特定部位の故障発生,および故障までの残存
耐用時間を予測する.それにより,実際のアフターサー

– 23 –
112 システム制御情報学会論文誌 第 34 巻 第 4 号  (2021)

おお まつ     しげる
ビスを運用するうえで有効な予知保全活動の一例を提案 大 松     繁 (正会員)
した. 1969 年愛媛大学工学部電気工学科卒業,
本論文では特定の故障部位を絞り,故障発生の予測と 1974 年大阪府立大学大学院工学研究科博
残存耐用時間の予測を行ったが,実際にはさまざまな故 士課程修了.同年徳島大学助手,1988 年
障が存在しうる.今後は,エンジンやポンプなどの他の 徳島大学教授,1995 年大阪府立大学教授,
部位も含めた故障を予測し,保全が必要なタイミングで 2019 年広島大学特任教授となり,現在に
至る.ニューラルネットワークの応用研究
実施できる残存時間の予測をしていく予定である.
に従事.工学博士.
参 考 文 献
おお の   しゅう いち
[1] 中川, 小熊, 亀山, 中島, 友近: 機械稼働データを活用し 大 野   修 一 (正会員)
た予知保全の仕組の実現; 神戸製鋼技報, Vol. 68, No. 1, 1990 年京都大学工学部卒業,1995 年京
pp. 69–73(2018) 都大学大学院工学研究科博士課程修了.同
[2] Q. Fan and H. Fan; Reliability analysis and failure 年島根大学総合理工学部助手,1999 年島
prediction of construction equipment with time series 根大学総合理工学部講師,2002 年広島大
models; Journal of Advanced Management Science, 学大学院工学研究科助教授,広島大学大学
Vol. 3, No. 3, pp. 203–210(2015) 院先進理工系科学研究科准教授となり,現
[3] 切通, 泉谷: 機械学習を用いた工場機器の故障予測; 在に至る.ディジタル無線通信のための信号処理などの研究
DEIM Forum 2017 に従事.博士(工学).
[4] 袖子田, 木村, 鈴木, 近藤: データ解析による予防保全技
術の開発; IHI 技報, Vol. 54, No. 2, pp. 26–31(2014) いわ さき   かず ひろ
岩 崎   和 宏
[5] 植木, 雨川, 沼田, 山東, 中島: 時系列データを活用した
1998 年津山工業高等専門学校電子制御
ダメージ基準生存時間解析に基づく機器の寿命モデル化
工学科卒業.同年油谷重工株式会社入社,
(化学プラント機器への適用の試み); 日本機械学会論文
1999 年コベルコ建機株式会社入社,2020
集, Vol. 86, No. 886(2020)
年同社 ICT 推進部スマート化推進グルー
[6] 小熊, 大松, 大野, 岩崎, 宍戸: 油圧ショベルの稼働データ
プマネージャーとなり,現在に至る.現在,
を用いた機械学習による故障予知; 電気学会論文誌(投
油圧ショベルの IT システム開発・運営の
稿中)
業務に従事.
[7] 小熊,大松,大野,岩崎,亀山: 建設機械の稼働デー
タを活用した異常診断方法の一提案; 第 64 回システム
しし ど   よし あき
制御情報学会研究発表講演会(SCI’ 20),pp. 434–436 宍 戸   義 昭
(2020) 1994 年徳山工業高等専門学校機械電気
[8] K. G. Mehrotra, C. K. Mohan and H. M. 工学科卒業.同年株式会社神戸製鋼所入社,
Huang: Anomaly Detection Principles and Algo- 1999 年コベルコ建機株式会社入社,2019
rithms, Springer(2017) 年同社 ICT 推進部ものづくりグループ長,
[9] 高 木: サ ー ビ ス サ イ エ ン ス の 事 訳, 筑波大学 出 版 会 2020 年同社 ICT 推進部スマート化推進グ
(2017) ループ長となり,現在に至る.同社の開発
著 者 略 歴 設計・調達・製造・品質保証部門のシステム運営,新システ
お ぐま   しょう た ム導入の業務に従事.
小 熊   尚 太 (正会員)
2006 年室蘭工業大学工学部卒業,2008
年室蘭工業大学大学院工学研究科修士課
程修了.同年コベルコ建機株式会社入社,
2019 年広島大学デジタルものづくり教育
研究センター共同研究講座助教,2020 年
広島大学大学院先進理工系科学研究科博士
課程後期在学,現在に至る.油圧ショベルの稼働データを使っ
たビッグデータ解析の研究・開発に従事.

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