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情報知識学会誌 2020 Vol. 30, No.

第 28 回年次大会予稿

戦後の歴代首相の施政方針演説と所信表明演説の計量分析
Quantitative Analysis of Post-War Japanese
Prime Ministers’ Diet Speeches
河瀬 彰宏 †∗ ,吉原秀樹 †
Akihiro KAWASE†∗ ,Hideki YOSHIHARA†

同志社大学文化情報学部
Faculty of Culture and Information Science, Doshisha University
〒 610-0394 京都府京田辺市多々羅都谷 1–3
E-Mail: akawase@mail.doshisha.ac.jp
∗ 連絡先著者 Corresponding Author

本研究では,戦後日本の首相の国会演説(施政方針演説・所信表明演説)に対してテキスト分析を行い,
その内容の通時的変化を明らかにした.1945 年の東久邇宮内閣から 2019 年の第四次安倍内閣までの全 179
本の演説を収集し,昭和前期,昭和後期,平成前期,平成後期の 4 時代に区分した上で,頻出名詞に対して
TF-IDF 値を算出した.そして,全演説に対して LDA によるトピックモデルを作成し,首相ごとのトピッ
クの推定を実施した.

In this study, we conducted text mining on the Diet speeches (both administrative policy speech and
prime minister’s general policy speech) of post-war Japanese prime ministers to clarify the chronological
changes in political thoughts. A total of 179 speeches from the Higashikuni-no-miya Cabinet (1945) to
the fourth Abe Cabinet (2019) were collected, and morphological analysis was performed after dividing
them into four periods: the first half and latter half of the Showa era, and the first half and latter half
of the Heisei era. Characteristic words were extracted by calculating TF-IDF values for frequent nouns
in each era. Then, a topic model using LDA was created for all speeches, and topics were estimated for
each prime minister.

キーワード: 国会演説,政治思想,テキスト分析,LDA
Diet speeches, political thoughts, text analysis, LDA

1 はじめに 精緻な分析も実現しつつある.
これまでに政治テキストに対する統計的分析は数
小泉政権の誕生以降,日本の政治家の話し方が変 多く実施されてきた.東(2006)は,東条英機から
化している.東(2006)によれば,政治学者とマス 小泉純一郎までの所信表明演説と国会答弁の発言に
コミは,小泉純一郎が就任した 2001 年以降の小泉 ついて,発話内容の総字数,文節数,文末表現,頻
首相の演説様式を「ワンフレーズ・ポリティクス」 出語彙を時系列データとして表現・比較した.その
と呼称した [1].瀬良 (2009) は,このワンフレーズ・ 結果,文末表現「∼あります」や動詞の名詞化「∼こ
ポリティクスが言葉の繰り返しによって聴衆に影響 と」の使用率が時代の経過とともに減少しているこ
を与え,演説者自身の意志を反映させる効果をもつ とから,首相の演説は聴衆を意識した内容に変化し
と考察している [2].第 95 代内閣総理大臣の野田佳 ていることを明らかにした [1].村井ら(2008)は,
彦の演説は,比喩表現を多用した演説が高い評価に 2006 年 12 月から 2007 年 5 月に Web サイトを開設
繋がっていたという指摘もされている [3]. している 646 名の議員のテキストに対して形態素解
従来より,演説に対するテキスト分析によって演 析を実施し, 『分類語彙表』を用いて形容詞の頻出
説者の思想を明らかにする試みが多くなされており, 上位語をカテゴリ分類・比較した.その結果,政党
自然言語処理技術の利便性が向上したことにより, 間で用いられる感性語に差異があること,議員の所

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属が自民党 ≻ 民主党 ≻ 共産党 ⪰ 社民党の順にポジ 2.2 形態素解析


ティヴな語彙が多用されることを明らかにした [4].
本研究における形態素解析は,解析器に MeCab,
鈴木・影浦(2011)は,データベース「世界と日
解析辞書に現代話し言葉 UniDic を用いて,Python
本」[6] における第二次世界大戦後の歴代首相 27 人
3.6.5 で記述したスクリプトで実施し,名詞のみを
28 期が行った計 150 本の国会演説(施政方針演説
抽出した.抽出した名詞について誤って判定された
と所信表明演説)に対して,時代ごとに名詞の使用
名詞(句),接頭辞,接尾辞を解析対象から除外し
頻度,語彙の多様性と偏差を比較した.その結果,
た上で再解析を実施した.単語リストの選定につい
日本政治において強いリーダーシップを発揮したと
ては,解析器の ChaSen を用いて複合語を検出し,
報道されている中曽根康弘と小泉純一郎の特徴を各
Zipf の法則における「中程度の頻度」を索引語とし
種語彙の統計量を用いて明確に裏付けた [5].
て採用した Maron(1961)[7] に基づき,出現回数
このように,政治家の演説に対するテキスト分析
7 回以上の語彙を解析辞書に登録した.
は,政治的解釈に有効であること,首相の使用語彙
本研究では,語彙の重要度を測る指標として各名
は時代ごとに変化していること,首相の演説の変化
詞の TF-IDF 値を算出した.TF 値は,ある文書 d
には,社会的な要因が存在すること,などが明らか
に存在する単語 t の出現回数 nt,d を全単語の総出現
にされてきた.首相の国会演説の内容は,経済・外 ∑
回数 s∈d ns,d で割った値として定義する.IDF 値
交・行政など多岐に及びものの,その射程は概ね決
は,対象とする全文書数 U を単語 t が出現する文書
められていることから,演説に現れる政治思想につ
数 df (t) で割り,対数をとった値として定義する:
いても社会的な要因が関係していると考えられる.
そこで,本研究では,戦後日本の首相の国会演説 nt,d U
TF = ∑ , IDF = log .
に着目し,その演説から政治トピックを推定するこ ns,d df (t) + 1
とで,政治思想の遷移を明らかにすることを目的と s∈d

した. ここでは首相ごとの演説と時代区分をそれぞれ d と
して設定した場合の TF-IDF 値を算出し,首相間で
の重要度の高い語彙と時代区分での重要度の高い語
2 分析方法
彙を比較した.
2.1 分析データの概要
本研究では,データベース「世界と日本」[6] に 2.3 トピックモデル
記録された歴代首相の施政方針演説と所信表明演説
トピックモデルとは,文書の内容が複数の話題(ト
のうち,東久邇宮内閣以降の全演説を収集した.
ピック)から構成されるものと仮定して,確率モデ
表 4 は,本研究に用いた全 33 名の首相の氏名,就
ルを用いて単語の出現頻度から文書ごとのトピック
任年月,演説本数,後述する語彙の豊富さに関する
とその割合を推定する方法である.代表的な手法
指標を就任年月順に並べた表である.ただし,∗ を
として,本研究では,学習データに依存せず文書
付与した吉田茂と安倍晋三については,2 回の就任
内トピックの推定が行える LDA(Latent Dirichlet
のうち演説本数の多かった時期に配置した.また,
次の社会情勢の変化に基づき時代区分を設けた:I.
Allocation)を用いてモデルを構築した.トピック
モデルでは,抽出するトピック数は任意に設定でき
東久邇宮稔彦から安保闘争が終了した岸信介までの
るが,ここでは客観性を担保するために,モデルの
内閣を昭和前期;II. 池田勇人からバブル経済の発
性能を評価する Perplexity と Coherence の 2 つの
生と日経平均株価の最高値を更新した竹下登までの
指標を用いてトピック数を決定した.Perplexity に
内閣を昭和後期;III. 宇野宗佑から自民党が公明党
ついては,文書数 d,出現した単語数 N ,周辺の単
との連立政権に至った小渕恵三までの内閣を平成前
語に対するある単語 wi の発生確率を P (wi | d) と
期;IV. それ以降の森喜朗から安倍晋三までの内閣
するとき,次式で定義される指標 P P L を用いた:
を平成後期.
{ }
1 ∑
N
P P L = exp − log2 P (wi | d) .
N i=1

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Coherence については,自然言語処理モジュール
表 1: 時代区分ごとの TF-IDF 値 (上位 20 位)
Gensim [10] における定義のうち,最も精度が高い
とされている引数 Cv を用いた.Perplexity の値が 昭和前期 昭和後期 平成前期 平成後期
順位 名詞 TF-IDF 名詞 TF-IDF 名詞 TF-IDF 名詞 TF-IDF
小さいほど,そのトピック数を用いて構築したモデ 1 国民 0.362 国 0.305 国 0.323 日本 0.257
ルの性能が優れていると評価でき,Coherence の値 2 政府 0.332 経済 0.289 社会 0.275 社会 0.232
3 経済 0.257 国民 0.279 経済 0.263 改革 0.230
が大きいほど,そのトピック数を用いて構築したモ 4 国 0.248 社会 0.203 改革 0.226 国 0.215
5 平和 0.149 国際 0.195 国民 0.215 国民 0.213
デルの性能が優れていると評価できる.さらに,こ 6 世界 0.127 政府 0.185 政治 0.185 一 0.204
の 2 つの指標を用いる妥当性を示すために,採用し 7 国際 0.123 関係 0.175 国際 0.178 経済 0.201
8 日本 0.122 問題 0.165 一 0.149 世界 0.175
た各トピックが属する文書の割合とトピック間の距 9 努力 0.120 世界 0.163 関係 0.148 年 0.136
一 努力 問題 二
離を多次元尺度構成法(MDS)で表した(図 1). 10 0.119 0.150 0.147 0.130
11 安定 0.115 一 0.149 世界 0.146 地域 0.120
12 民主 0.114 平和 0.142 協力 0.125 皆 0.117
13 主義 0.108 安定 0.139 平和 0.122 実現 0.115

3 分析結果 14
15
問題
国家
0.104
0.101
協力
日本
0.133
0.112
地域
推進
0.119
0.115
制度
支援
0.107
0.104

3.1 語彙の豊富さ 16
17
生産
協力
0.100
0.099
政治
発展
0.108
0.101
努力
実現
0.114
0.106

関係
0.101
0.092
18 国会 0.099 推進 0.095 生活 0.095 問題 0.091
表 1 は,時代区分ごとに算出した TF-IDF 値の 19 諸君 0.096 生活 0.086 行政 0.095 地方 0.090
20 産業 0.096 今後 0.086 環境 0.093 国際 0.090
上位 20 位の頻出名詞の結果である.いずれの時代
についても「国」
「国民」
「経済」が上位に位置して
いることが読み取れる.昭和前期に「平和」
「努力」
「安定」といった名詞が上位に位置しているが,時
代が下るにつれてその順位を落としている.また,
昭和前期では「民主」
「主義」が 12 位と 13 位に位置
していることに対して,昭和後期以降には登場しな
い.その一方で,平成前期と平成後期において「改
革」がそれぞれ 4 位と 3 位に位置していることに対 図 1: トピック数ごとの Perplexity と Coherence
して,昭和前期と昭和後期の上位 20 位以内には出
現していない.同様に,平成前期と平成後期には, 表 3 より,全時代に渡って首相が国会演説におい
「地域」が 14 位と 11 位に位置していることに対し て言及するトピックは,2,5,7,4,9 の順に高い
て,それ以前の時代では上位 20 位以内に位置しな ことがわかった.
い.また,昭和前期には「諸君」が 19 位に出現し, 図 3 は,9 つのトピック間の距離を MDS によっ
昭和前期と昭和後期には,
「平和」
「努力」
「安定」と て平面上に配置した結果である.円の中心に付記さ
いった形容詞的名詞が上位に出現した. れた数値は表 2 のトピック番号と対応しており,円
の半径は各トピックに所属する文書数の合計(演説
3.2 トピックモデル 数)に正比例している.いずれのトピックも重なり
がなく,各トピックが適切に分離しており,特に,
図 1 は,全演説を対象にしたモデルに対してト
トピック 1 は,3,4,8 と近い話題であることがわ
ピック数ごとの Perplexity と Coherence の値を比
かった.
較した結果である.ここでは,各トピックの解釈を
明確に行えるように 9 つのトピックを採用した.表
2 は,全演説から構築したトピックモデルにおける, 4 考察
出現率上位 10 位の名詞の一覧である.表中の 1 行目
各時代区分によりトピックの遷移が存在し,その
は,各トピックに出現する名詞から命名したトピッ
特徴語彙に変化があったことが明らかになった.昭
ク名である.以上の 9 トピックに基づき,歴代の各
和前期では,
「平和」「努力」
「安定」といった語彙や,
首相の演説における使用語彙の割合を図 2 に,時代
「諸君」といった二人称の単語が上位に位置してい
ごとの各トピックの出現率の平均値を表 3 に示す.
た.これらは,第二次世界大戦後に首相が,国民や
国会議員に対して戦後復興へ向けた奮起を及ぼそう

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表 2: 9 トピックに所属する上位語(上位 10 位)
1:国家制度 2:国内情勢 3:執政内容 4:外交政策 5:地方創生 6:教育研究 7:労働環境 8:インフラ 9:国家予算
順位 名詞 出現率 名詞 出現率 名詞 出現率 名詞 出現率 名詞 出現率 名詞 出現率 名詞 出現率 名詞 出現率 名詞 出現率
1 警察 0.087 社会 0.083 行政 0.110 経済 0.207 国 0.109 教育 0.18 労働 0.072 政治 0.099 予算 0.073
2 改革 0.060 基本 0.058 年 0.041 協力 0.022 地方 0.095 日本 0.122 対策 0.055 防衛 0.044 関係 0.059
3 制度 0.044 問題 0.042 住宅 0.034 アジア 0.012 平和 0.044 エネルギー 0.017 一 0.034 整備 0.014 円 0.033
4 国家 0.008 国民 0.041 内閣 0.019 安定 0.011 税 0.035 開発 0.016 企業 0.026 医療 0.014 ○ 0.032
5 産業 0.005 地域 0.032 核 0.013 計画 0.01 世界 0.023 文化 0.011 雇用 0.023 民主 0.006 財政 0.029
6 法 0.004 年金 0.030 九 0.006 日米 0.002 金融 0.016 施設 0.01 失業 0.021 面 0.005 年度 0.026
7 時間 0.003 保障 0.016 機構 0.002 積極 0.001 規制 0.012 技術 0.009 安全 0.019 活動 0.004 二 0.017
8 再生 0.003 政府 0.015 六十 0.001 支援 0.001 所得 0.009 保険 0.008 事業 0.016 決定 0.001 補正 0.014
9 税制 0.002 情報 0.008 兵器 0.001 五 0.001 民間 0.007 研究 0.007 石油 0.014 閣議 0.001 億 0.011
10 案 0.001 大量 0.006 実績 0.001 カ年 0.001 分離 0.006 科学 0.005 国連 0.008 議会 0.001 日米 0.010

0.3

0.25
1:国家制度

2:国内情勢

0.2 3:執政内容

4:外交政策

5:地方創生
出現率

6:教育研究
0.15
7:労働環境

8:インフラ

9:国家予算
0.1

0.05

0
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33

図 2: トピックの推移

の順位が下がっていた.戦後復興から高度経済成長
表 3: 時代ごとのトピックの平均出現率
期へと遷移する時期であったので,前期よりも抽象
トピック 1 2 3 4 5 6 7 8 9 的でない具体的な語彙の使用に変化があったと考え
昭和前期 0.093 0.210 0.072 0.114 0.134 0.071 0.141 0.082 0.091
昭和後期 0.052 0.212 0.052 0.133 0.149 0.096 0.109 0.066 0.132
られる.図 2 と表 3 からは,
「外交政策」が全時代区
平成前期 0.100 0.211 0.061 0.113 0.162 0.074 0.102 0.087 0.088 分と比べて昭和後期から最も大きな出現率を示し,
平成後期 0.103 0.209 0.056 0.095 0.116 0.098 0.140 0.062 0.121
全時代 0.086 0.210 0.060 0.115 0.140 0.085 0.122 0.074 0.107 「国家予算」も同様に最も大きな出現率を示した.こ
れは,高度経済成長期に向けた財政の運用や経済に
対する関心が高かったからだと考えられる.また,
としたからだと考えられる.図 2 からは,
「国家制 表 3 より,
「教育研究」が前期よりも増加していた.
度」
「執政内容」
「労働環境」が,他の時代よりも大 これは,1968 年にアメリカで開催された「世界教育
きな値を示した.これは,地方重視よりも国家の機 危機会議」から日本を含めた世界各国で教育への関
能を回復させようとしたからだと考えられる.以上 心が高まったからだと考えられる.以上から,昭和
から,昭和前期の演説は,国内の制度の整備や行政 後期の演説は,前期の国家制度の整備のマクロな視
機関の正常な運営,国民の労働環境の整備などを重 点を継承しつつも,高度経済成長期に向けて経済に
要視し,マクロな視点で国家の回復を促そうとして 関するトピックへ遷移していることが明らかになっ
いることが明らかになった. た.それに伴い,対外諸国に関する語彙の増加も現
昭和後期では,前期よりも「平和」
「努力」
「安定」 れ,国家の整備が段々と重要視されなくなっていっ

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大値を示していた.これは,旧時代の制度を新しく
作り変えようとした新時代的なトピックへの遷移が
表れたと考えられる.また,
「教育研究」のトピック
が全時代区分で最大値を示しており,特に鳩山由紀
夫(首相 ID:30)で最大値を示した.これは,近年
問題視されている少子化対策が教育に関するトピッ
クの増加を起因したと考えられる.一方で,
「地方創
生」は全時代区分で平均出現率が最小値を示し,首
相鳩山由紀夫(首相 ID:30)と菅直人(首相 ID:31)
において小さな値を示した.これは,近年問題視さ
れている人口の東京一極集中と関連があると考えら
れる.以上から,平成後期の演説は,前期と同じく
現状打破に関連した特徴語彙の出現や国家制度に関
連したトピックの増加から,新時代への変革を施そ
うとする傾向が明らかになった.
図 3: トピック間の距離の可視化

たことが明らかになった. 5 結論
平成前期では,表 1 によると,昭和期と比べて
本研究では,戦後の歴代首相の国会演説から政治
「改革」が上位に位置した.これは,平成後期にも
トピックを計量し,特徴語彙の抽出とトピックモデ
上位 20 位に位置しており,前期から既存の体制を
ルによる演説トピックの推量を行った.その結果,
変革させるトピックが多く表れたと考えられる.実
各時代区分で政治思想の変化がみられ,戦後から現
際に図 1 から「国家制度」のトピックに増加が確認
在にかけて国家制度の整備,経済の発展,国家制度
できる.
「国家制度」は昭和前期で増加したものの,
の再建と遷移していることが明らかになった.
昭和後期で減少していた.これは,平成前期に特徴
本研究では,時代区分を任意で設定したが,社会
語として「改革」が表れたように,戦前復興で施し
情勢との関連性をより詳細に明らかにするためには,
た制度が時代を経て旧世代のものとなり,制度を新
異なる観点からの時代区分を適用することが求めら
しいものに変革しようとしたと表れと考えられる.
れる.例えば,本研究では経済に関するトピックと
特に平成前期はバブル経済崩壊の影響を強く受けた
政治思想の変遷には大きな関連が見られたが,その
時代であり,その回復を促そうとして表れたとも考
場合,経済史の観点から制定された時代区分を適用
えられる.また,表 1 によると,
「地域」が上位 20
することで,政治思想の変遷の明確な時期を明らか
位に位置した.これは,図 1 と表 3 からもわかるよ
にできる可能性がある.
うに,
「地方創生」の出現率が増加していることと関
連している.昭和前期に重視されていた,国家やマ 参考文献
クロな国内制度に関するトピックが,平成前期にか
けて,ミクロな視点に遷移してきたと考えられる. [1] 東照二: 歴代首相の言語力を診断する, 研究社,
以上から,平成前期の演説は,昭和前期で整備した 2006.
制度を旧世代と認識し,それらを新しい時代のもの [2] 瀬良晴子:「小泉元首相の言葉—ワンフレーズ・
へと変化させようとしたことが明らかになった.ま ポリティックスと演説—」, 人文論集, Vol. 44,
た,地方に関する特徴語彙の出現からも,時代の変 No.1, pp. 99–112, 2009.
遷ごとに具体性を帯びたトピックが重視される傾向 [3] 東 照 二:「 ど じょう 宰 相 の 言 語 力 を 診 断 す
があることが明らかになった. る 」, 中 央 公 論. http://www.chuko.co.
平成後期では,表 2 によると,前期と同じく「改 jp/chuokoron/2011/10/post_106_1.html
革」が上位に位置していた.また,図 1 と表 3 から (2020 年 4 月 10 日参照).
「国家制度」が全時代区分の平均出現率において最

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表 4: 首相の時代区分と演説本数の一覧

区分 ID 氏名 就任年月 演説数 延べ語数 N 異なり語数 V TTR 修正 TTR


01 東久邇宮 稔彦 1945.08. 1 5,831 1,458 0.250 13.501
02 幣原 喜重郎 1945.10. 1 3,036 944 0.311 12.115
03 片山 哲 1947.05. 5 9,570 1,555 0.162 11.240
04 芦田 均 1948.03. 1 3,712 921 0.248 10.689
I. 昭和前期
05 吉田 茂 ∗ 1948.10. 19 34,056 3,299 0.097 12.641
06 鳩山 一郎 1954.12. 5 8,884 1,451 0.163 10.885
07 石橋 湛山 1956.12. 1 2,850 791 0.278 10.477
08 岸 信介 1957.02. 9 19,189 2,260 0.118 11.536
09 池田 勇人 1960.12. 11 37,360 3,165 0.085 11.579
10 佐藤 栄作 1964.11. 21 59,923 3,739 0.062 10.800
11 田中 角栄 1972.06. 4 15,914 2,115 0.133 11.855
12 三木 武夫 1974.12. 5 19,174 2,481 0.129 12.669
II. 昭和後期 13 福田 赳夫 1976.12. 5 17,939 2,074 0.116 10.950
14 大平 正芳 1978.12. 4 16,670 1,985 0.119 10.871
15 鈴木 善幸 1980.06. 4 14,608 1,752 0.120 10.250
16 中曽根 康弘 1982.11. 10 50,356 3,415 0.068 10.761
17 竹下 登 1987.11. 4 19,575 2,047 0.105 10.346
18 宇野 宗佑 1989.06. 1 3,921 957 0.244 10.807
19 海部 俊樹 1989.08. 5 24,696 2,526 0.102 11.366
20 宮澤 喜一 1991,11. 4 20,347 2,165 0.106 10.732
21 細川 護熙 1993.08. 3 15,537 2,070 0.133 11.743
III. 平成前期
22 羽田 孜 1994.04. 1 4,450 1,092 0.245 11.575
23 村山 富市 1994.06. 4 21,724 2,344 0.108 11.245
24 橋本 龍太郎 1996.01. 5 28,477 2,677 0.094 11.217
25 小渕 恵三 1998.06. 5 21,798 2,443 0.112 11.700
26 森 喜朗 2000.04. 4 21,374 2,350 0.110 11.366
27 小泉 純一郎 2001.04. 11 49,350 3,931 0.080 12.513
28 福田 康夫 2007.09. 2 10,491 1,732 0.165 11.957
29 麻生 太郎 2008.09. 2 8,223 1,742 0.212 13.584
IV. 平成後期
30 鳩山 由紀夫 2009.09. 2 14,966 2,367 0.158 13.681
31 菅 直人 2010.06. 3 15,381 2,337 0.152 13.325
32 野田 佳彦 2011.09. 4 20,583 2,800 0.136 13.800
33 安倍 晋三 ∗ 2006.12. 16 77,304 5,677 0.073 14.438

[4] 村井源; 松本斉子; 山本竜大; 徃住彰文:「Web [8] Carroll, J.B.: On sampling from a lognormal
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