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「アニメーションにおけるジェンダーと表現の変遷」

A21LA084 土居英樹
 ジェンダーとは、男女の生物学的差異に、社会的・文化的意味を与え、社会的に認知された両性
の差異を作り出し、これに基づいて社会関係を組織することである。1日本のジェンダー格差を是正
するためには様々な側面から取り組む必要がある。ここでは、私たちが日常的に触れている様々な
メディアにおけるジェンダー格差について、特にアニメーション(以下、アニメ作品)に限定して考察
したい。まず、アニメ作品が及ぼすジェンダーバイアスについて、次にそのバイアスの是正のための
取り組み、最後にその課題について論じていく。
 最初に、アニメ作品が及ぼすジェンダーバイアスがいかに人々の性別役割意識を育ててしまうか
を論じる。授業でも触れられていた TV アニメ「サザエさん」は 1969 年から現在まで放映され続け
ているまさに国民的アニメである。50 年以上も前の世界観を保ち続けているため、作中においては
男女の性別役割分業・性役割意識に関する固定観念が見られる。サザエ一家は昭和時代に典型
的な大家族の構成であり、それぞれの職業は、男性が賃金労働を行い、女性は家事育児などを行
うという性別役割分業がなされている。そして、作中において、登場人物が男らしさや女らしさを強
調するような言動をすることから、性役割意識も含まれているといえよう。さらに、制作スタッフを一
見したところ、ほとんどが男性によって占められており、そこにも問題があるように思われる。女性の
意見が作品に生かされていないと思われるからである。毎週日曜日、幼い頃からこの TV アニメを
見ていた人は、作中での登場人物にあてられた役割や振る舞いを内面化してしまう恐れがある。実
際、メディアから得たジェンダーに関する情報は「真実」となり判断・解釈・行動につながり、固定観
念を再生産し、その価値観を伝播させるということが主張されている。2
次に、日本のアニメ作品「プリキュア」シリーズと海外のディズニーのアニメシリーズを比較しな
がら、上述したような表現上のジェンダーバイアスの是正のための取り組みを論じていく。まず最初
に「プリキュア」シリーズは、2004 年に始まり少女が変身しパンチやキックなどの体術を駆使して悪
と戦う。当初掲げたコンセプトは「女の子だって暴れたい!」だった。制作元の東映アニメーションで
シリーズの立ち上げに関わった執行役員の鷲尾天さんは「誰かが助けてくれるストーリーではなく、
りりしく自分の足で立つ作品を目指した」と振り返る。一貫して「男の子だから」「女の子だから」と
いうせりふは使わず、近年は「~だわ」などのいわゆる女言葉も避けている。3当初のコンセプトの
「女の子だって」の箇所は、当時の社会的空気感の中で性役割意識が当たり前のものとなってい
たことを示唆しており、それをアニメの表現という場から是正していくことが目指されたのである。ま
た、プリキュアシリーズに出てくるキャラクターの髪色や衣装の色には、ピンク色だけではなく、キャ
ラクターごとに何色ものパターンがあり、色彩によって固定観念を植え付けないようにするといった
工夫もなされている。第一作目の「二人はプリキュア」において、主人公である墨なぎさ、雪城ほの
かの二人にはそれぞれの特徴がある。前者は「スポーツ万能、勉強嫌いで無鉄砲だが、人一倍正
義感が強くクラスでも人気者」であり、後者は「成績優秀で常にクラスのトップだが、実は天然ボ
1
『女性とメディア』p.84
2
『メディアリテラシーとジェンダー』p.
3
「プリキュアで進むジェンダー表現 鷲尾天さん「りりしさ目指す」」『秋田魁新報』
ケ」という設定がなされており、両者は比較してみると対照的な性格をしており、それぞれの違いを
尊重し、補い合っていく姿が作中で描かれる。さらに、平凡な女子中学生だった二人は不思議な生
き物メップルとミップルに出会ったことをきっかけとして、プリキュアに変身し、悪と戦っていくことに
なる。人との違いを尊重することはジェンダー格差の是正だけではなく、その他の良好な人間関係
を築く上で重要なことだと思われるし、現れる障害(=敵)に対して受動的になるのではなく、自ら
戦うことで道を切り開いていく様子は、幼い子どもだけではなく、多くの年齢層に勇気を与えてくれ
るだろう。これらの配慮から分かる通り、「男だから」「女だから」といった性役割意識に縛られない
という作品初期のコンセプトは、第一作目から通底しているものだということが分かる。第一作目か
ら数十年が経ち、近年の作品には初期に見られなかったような、ジェンダー意識に関わる新たな試
みがなされている。例えば、「HUG っと!プリキュア」の第 27 話「先生のパパ修業!こんにちは、あか
ちゃん!」において、主人公・はなのクラスの担任が父親になるストーリー展開の中で、その終盤に
約 3 分間かけて妻の出産シーンが描かれたのである。この出産の一連の展開は、現実の出産を参
考にして丁寧に描かれている。特筆すべきは夫の目線から状況が描かれており、出産が女性だけ
ではなく、男性にとっても自分事であるということを伝えている。さらに、物語の最終話では、成長し
た主人公が出産する場面が描かれた。物語の中で視聴者たちが感情移入をするであろう主人公
格のキャラクターが出産の当事者になるという描写は、ジェンダーを問わず子どもたちに対して、生
命の誕生について考えるきっかけを与えてくれるのではないだろうか。また、男性のプリキュアや以
上、プリキュアシリーズの中でも初期作品と近年のものを取り上げてそのコンセプトや新しい試みを
考察したが、2004 年に始まって以来、ジェンダーの在り方の多様性を伝えるというメッセージは作
品を通して一貫していると言えるだろう。
ここからは、ディズニーのアニメ映画の変化をいくつかの作品において見ていくことにする。その
中でも特に 20 世紀の「シンデレラ」と 21 世紀の「アナと雪の女王」を取り上げてその表現の変化を
比較考察する。まず、「シンデレラ」を取り上げる。シンデレラはグリム童話にも見られる古典的な民
話に分類される。「シンデレラ」はその一派生形であるシャルル・ペローの『シンデレラ』をモデルと
した作品であり、日本では 1952 年に公開された。あらすじは、冷遇されていたシンデレラが魔法の
力を借りて舞踏会に出席した。そこで城の王子と出会い、落としたガラスの靴を手がかりに見つけ
られたシンデレラは王子に求婚され、二人は結ばれるという典型的なシンデレラストーリーである。
この物語は、美貌と従順さがあれば、王子がやってきて結婚ができるという女性の生き方を暗に伝
えている。このようなシンデレラ物語を幼時から聞いた子どもたちは、他者への依存、自身が無力で
あるという思い込みを無意識に刷り込まれる。他者によって守られていたいという心理的依存状態
は「シンデレラ・コンプレックス」だと定義される。4さらに、家の家事や掃除を嬉々としてこなすシンデ
レラは、最終的に王子と結婚して幸せをつかむのに対して、怠けてばかりの姉娘たちは最終的に痛
い目に遭う。このような構図は、立派な主婦であってこそ幸福になる資格があったのだという主張
に解釈できてしまう。すなわち、従順で家事をこなす男性にとって理想的な女性像という固定観念

4
『女性とメディア』pp.88-89
が投影されているのである。5ここで問題なのは、ジェンダーに対する固定観念をはらんだ物語が人
口に膾炙していること、そしてその対象が主に幼い子どもたちであるということである。さて、次は21
世紀に入って、ディズニー映画の作風はどのように変化したのかを「アナと雪の女王」(2013)を通し
て見ていくことにする。本作品は、冒頭からディズニー・プリンセスの典型を打破している。王国の王
女である主人公アナとエルサの内、前者はエルサの戴冠式の日に、運命の王子様に出会えるかも
しれないと胸を高鳴らせる。そして案の定、ハンス王子と恋に落ちることになる。しかし、エルサの魔
法の暴発によって、中止となった戴冠式の中で、ハンス王子が王国を乗っ取ろうと裏切り行為を働
くのである。さらに、もう一人の主人公エルサは、魔法の力で湖や雪山の中を闊歩しながら、「それ
を解き放とう」と歌う。彼女は異性愛にも興味を示さず、全てのしがらみを放り出して自由になるこ
とを願い、実行する。これらの表現はまさに、人生を好転させてくれる何かを待つという心理的依存
状態「シンデレラ・コンプレックス」の恒例を破っているのである。6
日本における「プリキュア」シリーズに表れているジェンダー意識の発展、そして海外における「シ
ンデレラ」から「アナと雪の女王」への作風の転換は相当劇的なものであるように思われるが、今
回考察したのはそれらシリーズの一部に過ぎない。そのため、変化はより漸次的に起こっていると
推察する。「シンデレラ」が発表された 1950 年から 2000 年代に至るまでの間に、ジェンダー平等へ
の評価・関心が社会的に普及したことが作品に影響を与えていると考えられる。創作物はその時
代の様々な側面を反映すると考えれば、逆に創作物における表現が社会の変化をもたらしうるとい
う点で、ジェンダー平等に貢献できるのではないだろうか。

参考文献
・北九州市立男女共同参画センター"ムーブ"編『女性とメディア』、明石書店、2005 年
・河野真太郎『戦う姫、働く少女』、POSSE 叢書、2017 年
・諸橋泰樹『メディアリテラシーとジェンダー』、現代書館、2009 年
・「プリキュアで進むジェンダー表現 鷲尾天さん「りりしさ目指す」」『秋田魁新報』2021 年 8 月
31 日 掲載(7 月 27 日閲覧)

5
同上 pp.90
6
『戦う姫、働く少女』pp.18-20

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