論 文

自動 車 用 ヘ ッ ドア ッ プ デ ィ ス プ レイ の 前 景 視 認 特 性
― 表 示像 と前景が 重畳 す る場合―

正会員 岡 林 繁 †,正 会員 畑 田 豊 彦 ††

Driver's Ability to Recognize Forward View with

Superimposition of Head-Up Display Images

Shigeru Okabayashi† and Toyohiko Hatada† †

Abstract Although originally developed for aircraft use, head-up displays (HUDs) have recently been
applied to automobiles. As these devices are adapted to other applications such as navigation , route
guidance, and obstacle avoidance systems, they will require more complex display patterns and wider
display areas.
It is critical that these HUD images do not affect a driver's ability to recognize objects in the outside
environment under any condition because recognizing these objects is always a primary driver task .
In driving a vehicle equipped with a HUD, the most difficult condition for recognizing the outside
environment seems to be when the displayed image is superimposed on objects in the road and more than
50 percent of oncoming vehicles have their headlights turned on .
In this paper, we investigate a driver's ability to recognize the outside environment , under these condi-
tions in both the central and the peripheral field of vision, using tachistoscopic exposure of test targets .
It is determined that the level of displayed image luminance affects a driver's ability to recognize outside
objects. However, objects recognition
in the forward view is found to be much improved , not only in the
central field of vision, but also in the peripheral field of vision if the velocity of the vehicle is increased
slgihtly.

プ タ や 自動 車 に も 応 用 さ れ 始 め て い る3)4).自 動 車 へ
1.  ま え が き
の応 用 は まだ車速 表示 や簡 単 な警報 表示 に限 られて い
第2次 世 界 大 戦 中 に 戦 闘 機 用 表 示 装 置 と して 開 発 さ る が,前 景 視 認 が 常 に 要 求 され る運 転 環 境 を 考 慮 す る
れ た1)2)ヘ ッ ドア ップ デ ィ ス プ レ イ(HUD)は,光 学技 と,ナ ビゲ ー シ ョ ン表 示 や ル ー トガ イ ダ ン ス 表 示 等 へ
術 や 電 子 技 術 の 進 歩 に よ り,民 間 航 空 機 を初 めヘ リコ の 応 用 も考 え られ る.将 来 は 表 示 パ タ ー ンが よ り複 雑

キ ー ワー ド:ヘ ッ ドア ッ プデ ィ ス プ レ イ,自 動 車 ,中 心 視,周 辺 視

1990年10月26日,ヒ ュー マ ンイ ン タ フ ェ イ ス シ ンポ ジ ウム(計 測 自動 制 御 学 会 主 催 ,テ レ ビジ ョ ン学 会 協 賛)で 発 表
1991年11月26日 受付
† 日産 自動 車 株 式 会 社 中 央 研 究 所(〒237横 須 賀市夏 島町 一番地,TELO468-62-5182)
†† 東 京 工 芸 大 工 学 部(〒243厚 木市飯 山1583,TELO462―41-0454)
† Central Engineering Laboratories, Nissan Motor Co ., Ltd. (1 Natsushima-cho, Yokosuka, Kanagawa 237, Japan)
†† School of Engineering, Tokyo Institute of Polytechnics (1583 Iiyama , Atsugi, Kanagawa 243, Japan)

508 (128) テ レ ビ ジ ョ ン 学 会 誌Vol. 46, No. 4, pp. 508∼517 (1992)

化 ・大 型 化 す る 可 能 性 が あ る5)6). し,ラ ジ ア ン/度,時 間/秒 等 の 変 換 を 行 え ば,原 点か

航 空 機 用HUDに つ い て,搭 載 した航 空機 の操 縦性 ら見 た 視 標 移 動 速 度 ω(度/秒)は,(1)式 の よ うに表

や,目 標 タ ー ゲ ッ トの 見 つ け や す さ等 の 研 究 が 多 く見 せ る.

ら れ る7)∼9).しか し な が ら,前 景 と表 示 像 へ の 注 意 の

比 重,視 対 象 の 配 置 や 種 類,ユ ー ザ の プ ロ フ ェ シ ョナ

リ テ ィ等,自 動 車 の 場 合 の 走 行 ・使 用 環 境 は,航 空機
に比 較 して 異 な る 点 が 多 い10)11).
(度/秒) (1)
最 も顕 著 な 差 異 はHeintzやHaller, Bouisも 指摘
す る よ う12)に,自 動 車 の 運 転 で は 前 景 の 知 覚 ・認 識 が 10km/h程 度 の 低 い 車 速 で 直 進 す る と,車 両 前端

常 に プ ラ イ マ リー タ ス ク で,表 示 情 報 は セ カ ン ダ リー の 路 面 上 の 視 標(r=10m,φ=10度)は1秒 間 に約
タ ス ク とな る が,航 空 機 で は逆 に表 示 情 報 が プ ラ イ マ 2.8度 移 動 す る.ま た,道 路 交通 法 の徐 行 に相 当す る
リ ー マ タ ス ク に な る場 合 が 多 い こ とで あ ろ う. ゆ っ く り と し た 旋 回(10km/h以 下)を 想 定 す る と,ω
筆 者 ら は 先 の 論 文13)14)で短 時 間 視 標 呈 示 に よ る ダ (度/秒)は 約3度/秒 とな る.実 験 で はHUD表 示像 と
ブ ル タ ス ク法 を用 い,表 示 像 と前 景 視 標 が 重 畳 しな い 前 景 視 標 が 重 な りな が ら相 対 的 に 低 速 で 移 動 す る場 合
場 合,HUDに よ る表 示 情 報 の 取 り込 み が 前 景 の 認 識 を想 定 し て,視 標 認 識 の 程 度 を短 時 間 呈 示 時 の視 標 正
に殆 ん ど影 響 を与 え な い ば か りか,従 来 の ヘ ッ ドダ ウ 答 率 で 評 価 し た.
ン デ ィ ス プ レ イ に比 較 し て 表 示 ・前 景 の 両 方 の 情 報 取 2.3  前 景 の 輝 度
り込 み に 有 利 で あ る こ と を 示 した. 自 動 車 の 走 行 時,ド ラ イ バ に と っ て 前 景 が 最 も見 に
本 論 文 で は,自 動 車 用HUD表 示 像 が 大 型 化 ・複 雑 くい 条 件 は,前 照 燈 を 点 灯 す る 直 前 と 考 え ら れ る.
化 した 場 合 を 想 定 し,表 示 像 と前 景 視 標 とが 重 畳 し た HUD表 示 像 は路 面 上 空 中 に 表 示 さ れ る場 合 が 多 い こ
場 合 の 前 景 情 報 の 取 込 み へ の 影 響 を,短 時 間視 標 呈 示 と を 考 え,種 々の道 路状 況 で走行 車両 の過 半数 が前 照
に よ り実 験 評 価 した. 燈 を 点 灯 す る平 均 的 な路 面 輝 度 を 計 測 し た.結 果 は約
2cd/m2で あ っ た10).こ れ は 関 西 地 区 で 計 測 し た 野 口
2.  実 験 条 件 の 設 定
等 の デ ー タ18)と ほ ぼ 同 じ値 で あ っ た.本 実 験 で は2
2.1  中 心 視 と周 辺 視 の 役 割 cd/m2を 前 景 輝 度 と し た.

自 動 車 運 転 で は ドラ イ バ は通 常 適 宜 視 線 を 掃 引 し な 2.4  視 標 の 設 定

が ら,周 辺 視 野 で は 前 景 中 の 物 標(視 標)の 存 在 を 知 覚 前 景 視 標 は 前 照 燈 評 価 で 用 い られ て い る 灰 黒 色 正 方

し,中 心 視 野 で は視 標 の 認 識 ・判 読 を して い る と考 え 形 視 標(CIE1982;車 両 後 部 か ら見 た タ イ ヤ を想 定)19)
ら れ る15). と 同 様 の 形 状 で,か つ 視 力 の 定 量 評 価 に広 く用 い られ
こ の 中 心 視 野 と 周 辺 視 野 で の 機 能 を 考 慮 す る と, て い る 白地 に 灰 黒 色 表 示 の ス ネ レ ン 図 形 を用 い た(図
HUD表 示 像 が 前 景 視 標 と重 な る 状 況 に は2つ のケ ー 1).ケ ー ス1で は ス ネ レ ン図 形 の 輝 度 対 比*を 約0.82
ス が あ ろ う.

(1)  ケ ー ス1;中 心 視 で 前 景 視 標 を 認 識 ・判 読 す
る場合

(2)  ケ ー ス2;周 辺視 で前 景視 標 を知覚 す る場合

本 実 験 で は,こ の2つ の ケ ー ス に つ い て,HUD表

示 像 に よ る前 景 情 報 受 容 の 影 響 を評 価 した.
2.2  前 景 の 移 動

自 動 車 の 移 動 に 伴 っ て,前 景 は車 両 に 対 して 相 対 的
に移 動 す る.車 両 が 左 右 に 旋 回 す る 場 合,前 景 は右左
に移 動 し,直 進 時 に は,進 行 方 向 無 限 遠 点 を 中 心 に放 図1  前 景 視 標(ス ネ レ ン 図形 対)
Visual targets (A pair of Snellen figures).
射 状 の 移 動 を す る よ う に ドラ イ バ に は見 え る16)17).
車 両 がZ軸 方 向 に 直 進 す る場 合,ド ラ イバ の 目の *
スネ レ ン図形 の輝 度対 比=(背 景輝 度-ス ネ レ ン図形 輝 度)/(背
景 輝度+ス ネ レ ン図形輝 度)=(CRT白 地 面 輝度-ス ネ レ ン図 形
位 置(正 確 に は 両 眼 の 中 心 点)を 原 点 と して,上 記 の無
輝 度)/(CRT白 地面輝 度+ス ネ レ ン図形 輝度)
限 遠 点 方 向 と対 象 視 標 の 方 向 とが 成 す 角 度 を φ(度), 通 常 の視 力表視 標 の輝 度 対 比 は0.9∼0.82で,本 実 験 の輝 度 対
視 標 ま で の 距 離r(m),車 速v(km/h),時 間t(秒)と 比 もこれに準拠 した.

論 文 □ 自動車 用ヘ ッ ドア ップデ ィスプ レイの前景視認特 性 (129) 509

に 設 定 し,図 形 の サ イ ズ(図 中 線 幅aで 規 定)を 被 験 OFFセ グ メ ン トの 数 で あ る.

者 の 視 認 能 力 に 応 じて 変 化 さ せ,ケ ー ス2で は輝度 対 2.7  視 標 の 相 対 的 移 動 速 度

比 も被 験 者 に応 じ て 変 化 し た(詳 細 は4.1節 実験手 移 動 速 度 ω(度/秒)は 被 験 者 の 目 か ら計 測 し た 視 角

順 参 照). で 表 現 し,0度/秒 か ら約2度/秒 まで 変 化 させ た.後

2.5  HUD表 示像 述 す る視標 移 動 に よ る前 景視 標 の正 答 率改 善 度 合 い

前 景 視 標 へ の 注 意 配 分 の 安 定 性(表 示 図 形 の 無 意 味 は,予 備 実 験 で 水 平 ・垂 直 両 方 向 に つ い て 調 べ た が 大

性)や 表 示 像 の ラ ン ダ ム 性(図 形 の 不 偏 性),ス ネレン きな 差 が 見 ら れ な か っ た の で,以 下 すべ て水平 方 向で

図 形 との 干 渉 性(認 識 の 妨 害)等 を考 え,HUD表 示像 評 価 した.

に は 図2に 示 す よ う な チ ェ ッ カ ー ドパ タ ー ン を 用 い 2.8  視 標 呈 示 タイ ム チ ャー ト

た.表 示 エ リ ア は 視 角 で 約35mrad×140mrad(約2 自 動 車 走 行 時 の 通 常 の 視 点 停 留 時 間0.4∼0.7秒20)

度 ×約8度)で,チ ェ ッ カ ー ドパ タ ー ンセ グ メ ン トの と,視 点 移 動 の 遅 れ と 実 移 動 時 間 の0.2秒21)の 加 算

幅 は 視 角 ろで 表 現 し た.ま た,HUD表 示像 の明 る さ 値 を考 慮 し,ま た 正 答 率 の 飽 和 を 避 け る た め視 標 呈 示

に は 前 景 の 明 る さ が 見 か け 上 加 算 さ れ る た め,実 質的 時 間 は0.8秒 と し た.図3に 示 す よ う に1回 の試行 は
な 明 る さ を表 す 値 と し て,(2)式 に 示 す 輝 度 指 数S* 約3秒 か らな る.最 初 の1秒 は被 験 者 の 瞬 目 を 避 け る
を定 義 して 用 い た. た め に設 け て あ る.被 験 者 は 最 初 左15度 に設 け られ

(表示像 の見 か けの輝度)-(前 景輝度)/ た 注 視 点 を注 視 し,ブ ザ ー 音 の1秒 後 に注 視 点 が 消 滅

S=
前景輝度 (ま た は変 化)す る と同 時 に,ほ ぼ 中央 位 置 に あ る前 景
×100(%) (2) 視 標 を見 て ス ネ レ ン 図 形 の 開 口 部 方 向 を 答 え る(図
また,前 景 視 標 とHUD表 示 像 は,表 示 像 距 離 の 設
4).走 行 中 の ドラ イ バ の 視 線 の 大 半 は,2.2節 に述 べ
定 値 に よ ら ず,セ グ メ ン トを見 込 む 視 角 が 一 定 の 条 件
た 無 限 遠 点 方 向 に あ る10).本 実 験 に お け る15度 はこ
で 実 験 した.
の 無 限 遠 点 方 向 か ら視 野 周 辺 部(ウ イ ン ド シ ー ル ド<車
2.6  充 填 率

表 示 像 パ タ ー ンの 複 雑 さ や 妨 害 度 の 目 安 を 表 す パ ラ
メ ー タ と し て,充 填 率(Fフ ァ ク タ)を 用 い た.充 填率

は チ ェ ッ カ ー ドパ タ ー ン が ス ネ レ ン図 形 対 に 重 な る領

域 で 定 義 す る.数 式 的 に は(3)式 の よ う に表 現 で き る.

(3)

た だ し,NONNは,ONセ グ メ ン ト の 数,NOFFは

図3  前 景 視 標 呈 示 タ イ ム チ ャー ト(1試 行)
Time chart for a trial.

図2  HUD表 示 像(チ ェ ッカ ー ドパ ター ン)

HUD image (Checkered pattern).

*
前 景輝度 が順 応 輝度 と見 なせ る とパ ーセ ン トコン トラ ス トに対
応 す る.実 用 上 はパ ーセ ン トコ ン トラス トに等 しい と思 わ れ る 図4  各視標 の配置
が,正 確 を期す ため輝度 指数 として定義 した. Experimental set-up.

510 (130) テ レ ビ ジ ョ ン 学 会 誌Vol. 46, No. 4 (1992)

 表1  被験者の特性 データ 度 と し た.注 視 点 用CRTか ら 右15度 の 位 置 に前 景
List of the subjects.
視 標 用CRTを 設 置 しス ネ レ ン 図 形 対 を表 示 した.ま
たCRTの 白 地 と ス ク リ ー ン 色 は 色 差 最 小(ΔE*ab≦
1.0)に 調 整 した.

(2)  HUD表 示系
緑 色 表 示CRTと 表 示 距 離 可 変 台 か ら な る.ハ ーフ
ミラ ー でCRT画 像(チ ェ ッ カ ー ドパ タ ー ン)を 虚 像 表

示 す る.表 示 距 離 可 変 台 は 表 示 像 の 距 離 を0.7mか
ら5mの 間 に 任 意 に設 定 で き る.

(3)  ミラ ー 系
二 重 像 防 止 の た め 裏 面 無 反 射 コー テ ィ ン グ の ハ ー フ

ミ ラ ー(表 面 反 射 像 対 裏 面 反 射 像 輝 度 比15以 上)と,

表 面 ミラ ー 構 造 の 全 反 射 ミ ラー を用 い た.

(4)  制 御 系
注 視 点 の オ ン オ フや チ ェ ッ カ ー ドパ タ ー ン の 種 類 や
サ イ ズ,輝 度 対 比,ス ネ レ ン図 形 開 口 部 の 方 向,視 標

移 動 速 度 等 の 制 御 を行 う.

(5)  モ ニ タ系
眼 球 運 動 観 察 用 カ メ ラ,輝 度 計 測 器,照 明装 置等 か
ら な る.実 験 中,被 験 者 の 頭 部 は 顎 台 で 軽 く固 定 し,

頭 部 ・顔 面 の 移 動 に よ る前 景 視 標 の誤 認 を避 け る と共
に,眼 球 の 運 動 を 赤 外 線 カ メ ラ で 常 時 モ ニ タ しデ ー タ

取 捨 の 参 考 に し た.
図5  評 価 装 置 の ブ ロ ッ クダ イ ヤ グ ラ ム (6)  暗 室
Block diagram of the evaluation system. 被 験 者 を 含 む す べ て の シ ス テ ム は 大 き さ5W×6D×
5Hmの 暗 室 に設 置.室 内 は一 部 は 暗 幕,天 井 ・壁 面 は

黒 色 塗 装 を施 し て い る.

両 の 前 窓 ガ ラ ス 部 分>の 周 辺 部)に 出 現 し た 視 標 ま で の
4.  中 心 視 に よ る 視 標 認 識 実 験(ケ ー ス1)
視 角 差 を想 定 して 設 定 した.
2.9  試 行 回 数 とデ ー タ の 安 定 度 4.1  実 験 手 順

各 条 件 で の 試 行 回 数 は100回 以 上.被 験 者 の疲労 度 (1)  正 答 率 ηs

合 い や 正 答 率 の 安 定 度(±5%を 目 安)を モ ニ タ し な が 同 一 条 件 で 前 景 視 標 を100回 以 上 呈 示 し,ス ネ レン

ら デ ー タ と し た. 図 形 対 の 開 口 部 方 向 を 被 験 者 に 口 頭 報 告 さ せ た(不 明

2.10  被 験 者 応 答 は許 さ な い).評 価 尺 度 で あ る正 答 率 ηsは次 の よ

被 験 者 は 表1に 示 す 運 転 免 許 を有 す る20歳 代か ら う に定 義 し た.

30歳 代 の 男 子7名 を用 い た. 呈示視 標 の開 口部 方向 を正 し く答 えた回数/

ηs=
全 視標 呈示 回数
3.  評 価 実 験 装 置 ×100(%) (4)
(2)  手 順
評 価 実 験 装 置 の ブ ロ ッ ク ダ イ ア グ ラ ム を 図5に 示
(a)  評 価 装 置 の調 整 ・設 定;前 景 輝 度,前 景 視標
す.装 置 は つ ぎ の6つ の 部 分 か ら構 成 さ れ る.
輝 度 対比 等
(1)  前 景
(b)  屈 折 力(視 力 等)の 測 定
白 色 ス ク リー ン,注 視 点 表 示 用CRT,前 景視標用
(c)  被 験 者 の 目 の 順 応(10分 間)
CRT,同 移 動 台 か ら な る.被 験 者 の 目 か ら約5mに
(d)  約100回 の 試 行 に よ る 予 備 練 習;被 験者 は
設 置.通 常 運 転 時 の 視 線 移 動 領 域22)の90%以 上(左 右
HUD表 示 像 が な い 状 態 で 図3に 示 す よ う に,
15度 上 下5度)と 試験 中 の視 点移 動範 囲 の均 一 性 を考
注 視 点 表 示 用CRTを 注 視 し,CRT上 の視標
慮 して ス ク リー ン の 視 野 は 左20度,右15.度,上 下5

論 文 □ 自動車 用ヘ ッ ドア ップデ ィス プレイの前景視認特性 (131) 511

 図6正 答 率<ηs>セ グ メ ン トの サ イ ズ依 存
図7  正 答 率(ηs)の 輝 度 指 数Sへ の依 存 性
Dependency of correct response rate on the seg-
Dependency of correct response rate on the
ment sizes.
luminan ce factor S.

が 消 え る と同 時 に視 線 を 移 動 し て 約15度 右 に の 平 均 正 答 率<ηs>の 関 係 を 図7に 示 す.表 示像距離

離 れ た ス ネ レ ン 図 形 を注 視 し,開 口部方 向 を 口 に よ る 依 存 は 殆 ん ど見 ら れ な い が,輝 度 指 数Sが 上
頭 報 告 す る. 昇 す る に伴 い 正 答 率 は 低 下 傾 向 を 示 す.次 に 充填 率
(e)  前 景 視 標 サ イ ズ の基 準 化;2種 類 の スネ レン Fと 正 答 率 ηsの関 係 を 図8,図9に 示 す.表 示距 離
図 形 を 呈 示 し,正 答 率 が80%に な る図 形 寸 法 や 輝 度 指 数 の 大 小 に よ っ て 若 干 の差 異 は あ るが,充 填
(線 幅a)を 内 挿 法 で 定 め る. 率 が 上 昇 す る に 従 い 正 答 率 が 低 下 し,充 填 率 が
(f)  HUD表 示 像 の 距 離 や 充 填 率,輝 度 指 数,前 50∼60%で 正 答 率 が 最 小 に な る.さ らに 充 填 率 を増 加
景 視 標 の 移 動 速 度 等 を変 化 させ,ス ネ レ ン図形 す る と正 答 率 は 再 び 上 昇 す る 下 に 凸 の 曲 線 に な る.
の正 答 率 を評 価 す る. (3)  前 景 視 標 の 移 動 の 効 果
4.2  実 験 結 果 ス ネ レ ン図 形 の 移 動 が 正 答 率 に与 え る 影 響 を 調 べ
(1)  HUD表 示 像 セ グ メ ン トサ イ ズ の 決 定 た.充 填 率 は 各 輝 度 指 数 で 正 答 率 が 最 小 に な る50%
予 備 実 験 で 応 答 の 安 定 し て い た 中 か ら3名 の被 験 者 と し,表 示 像 距 離 は0.7mと5mの2通 りに設 定 し
(M.F, Y.N, N.O)を 選 び,正 答 率 の セ グ メ ン トサ た.7名 の 被 験 者 の 平 均 正 答 率<ηs>と 移 動 速 度 ω の
イ ズ 依 存 を 調 べ た.実 験 条 件 と し て 充 填 率50%,輝 関 係 を図10,図11に 示 す.表 示 像距 離 や輝 度 指 数 の
度 指 数50,表 示 像 距 離 は5m(前 景 と 同 じ)と0.7m 大 小 に よ ら ず,角 速 度 ω が 増 加 す る と正 答 率 は 上 昇
(通 常 の メ ー タ で あ る ヘ ッ ドダ ウ ン デ ィ ス プ レ イ に 相 す る.正 答 率 の 上 昇 度 合 い は,ω が0.5度/秒 まで急
当)の2条 件 を調 べ た.ス ネ レ ン 図 形 セ グ メ ン トサ イ 峻 で,そ れ 以 降 は 飽 和 の 傾 向 が 見 られ る.例 えば輝度
ズ に対 す る チ ェ ッ カ ー ドパ タ ー ン セ グ メ ン トサ イ ズ の 指 数Sが100,表 示 像 距 離5mで は,ω が1.5度/秒
比(a/b)と 正 答 率 の 関 係 を 図6に 示 す.正 答 率 はチ ェ 以 上 に な る と正 答 率 ηsは,ω が0度/秒 の 状 態 に対 し
ッ カ ー ドパ タ ー ン の セ グ メ ン トサ イ ズ に 大 き くは 依 存 て40%以 上 も改 善 し,そ の 後 飽 和 す る こ とが わ か る.
し な い こ とが わ か っ た.以 下 の実験 で はチ ェ ッカー ド 表 示 像 輝 度 指 数Sが100以 下 で は,HUD表 示 像 が存
パ タ ー ン の セ グ メ ン トサ イ ズ と ス ネ レ ン図 形 の セ グ メ
在 しな い 時 の 正 答 率80%近 くま で 改 善 す る.
ン トサ イ ズ を 同 一(a/b=1)に し た.表 示距離 によっ
5.  周 辺 視 に よ る 知 覚 実 験(ケ ー ス2)
て 正 答 率 ηsが異 な る の は,両 眼 の位置 の差 に よ り
HUD表 示 像 とス ネ レ ン 図 形 と の 重 な り具 合 が 異 な る 5.1  実 験 手 順
た め の 効 果 と考 え ら れ る. (1)  正 答 率 ηr
(2)  輝 度 指 数 と充 填 率 の 影 響 次 の4点 以 外 は中 心視 に よ る評価 実験 と同 一 で あ
表 示 距 離0.7mと5mに つ い て,そ れ ぞ れHUD る.
の 輝 度 指 数Sを パ ラ メ ー タ に正 答 率 の 充 填 率 依 存 性 (a)  図3に 示 す タ イ ム チ ャ ー トで ブ ザ ー 音 の1秒
を 調 べ た.充 填 率100%で の 表 示 像 輝 度 指 数Sと7名 後,注 視 点 ◎ が1桁 数 字 に 変 わ る.

512 (132) テ レ ビ ジ ョ ン 学 会 誌Vol. 46, No. 4 (1992)

 図8  正 答 率(ηs)の 充 填 率 依 存 性 図10  前 景 視 標 の移 動 に よる正 答 率(ηs)の 改 善
(表 示像 距 離;0.7m) (表 示 像 距 離:0.7m)
Dependency of correct response rate on F factor Improvement of correct response rate by moving
when the distance of displayed image is 0.7m. visual targets when the distance of displayed image
is 0.7m

図9  正 答 率(ηs)の 充 填 率 依 存 性 図11  前 景 視 標 の 移 動 に よ る正 答 率(ηs)の 改 善

(表 示 像 距 離;5.0m) (表示 像 距 離;5.0m)

Dependency of correct response rate on F factor Improvement of correct response rate by moving

when the distance of displayed image is 5.0m visual targets when the distance of displayed image
is 5.0m

呈示視 標 の有 無 を正 し く答 えた 回数/
ηT=
全試行回数
(b)  被 験 者 は 実 験 中,視 点 を 注 視 点 か ら動 か さ な
×100(%) (5)
い.
(2)  手 順
(c)  被 験 者 は呈 示 され た1対 の ス ネ レン図形 が存
(a)  実 験 系 の 調 整 ・設 定;前 景 輝 度,前 景視 標輝
在 す る か 否 か を答 え る.
度対 比等
(d)  正 答 率 が80%に な る よ う スネ レ ン図 形 の 輝
(b)  被 験 者 の 目 の 順 応(10分 間)
度 対 比 を被 験 者 に 応 じ て基 準 化 す る.
(c)  約100回 の 試 行 に よ る予 備 練 習;注 視 点 を注
(e)  ス ネ レ ン図 形 呈 示 回 数 約100回 の半 数 は実際
視 し続 け な が ら,右15度 の 位 置 の1対 のスネ
に は 図 形 を 呈 示 し な い.
レ ン図 形 の 有 無 を 口頭 で 答 え る.
ケ ー ス2で の 正 答 率 ηTは 次 の よ う に 定 義 し た.

論 文 □ 自動車 用ヘ ッ ドア ップデ ィスプ レイの前 景視認特性 (133) 513

 (d)  前 景 視 標 輝 度 対 比 の 基 準 化;HUD表 示像の か に な る.例 え ば,輝 度 指 数Sが100で は ωが0.5
な い 状 態 で 輝 度 対 比 を 変 化 さ せ 正 答 率80%の 度/秒 以上 に な る と正答 率 は約30%改 善 す る.輝 度 指
値 を 内 挿 法 に よ り求 め る(視 標 の 大 き さ は ケ ー 数Sが 高 くなる と正 答率 ηTは低 下 す る傾 向が あ る こ
ス1で 定 め ら れ た サ イ ズ). と を考 慮 す る と,Sが100以 下 な ら,ω が1.0度/秒

(e)  前 景 視 標 ス ネ レ ン図 形 にHUD表 示像 を重畳 程度 にな る と,HUD表 示像 が 存在 しな い 時 の基準 正

し,表 示 像 の 輝 度 指 数Sと 移 動 速 度 ω を変 え 答 率 で あ る80%近 くまで 正 答 率 の改 善 が 見 込 まれ る
正 答 率 を 計 測 す る.ケ ー ス1と 同 様,試 行 回数 ことが 予測 で きる.
は100回 以 上 取 り,正 答 率 の 安 定 度 を モ ニ タ し
6.  考 察
な が らデ ー タ とす る 。
5.2  実 験 結 果 6.1  表示像 輝 度 と表示像 パ ター ン
(1)  表 示 像 輝 度 指 数 と充 填 率 の 影 響 HUD表 示 像輝 度 が 高 くな る と前 景視 標 の認 識 ・知

表 示 距 離0.7mと5mに つ い て,そ れ ぞ れ輝 度 指 覚特 性 に影響 が 出 る場 合が あ る.こ れ は中心視 と周辺

数Sを50に 設 定 し正 答 率 と充 填 率 の 関 係 を 調 べ た. 視 と も基 本 的 には同 じ傾 向で あ る.輝 度 が高 くな るに
結 果 を 図12に 示 す.充 填率 が 上昇 す るに従 い正 答 率 従 い前景 視標 の正 答率 が低 下 す るの は,視 標 の等 価 的
が 低 下 し,充 填 率 が80∼100%で 正 答 率 が最 小 にな る な輝度対 比 が相対 的 に低 下す るため と考 え られ る.
単 調 減 少 の 傾 向 を 示 す.正 答 率 の表 示像距 離依 存 は充 HUD表 示像 の輝 度値 が 同一 で も,パ ター ンの複 雑
填 率 が 高 くな る に従 い 小 さ くな り,充 填 率100%で は さ に よっ て前景 視 標 の認 識 ・知覚 特 性 に影 響 が 出 る.
2つ の 曲 線 は ほ ぼ 一 致 し た.ま た 図12で のS=50, この影 響 は中 心視 と周辺 視 とで は異 な り,中 心 視 で は
後 述 す る 図13で のS=100, 200の 各 正 答 率 ηTの 値 表示 パ ター ンの充填 率Fが50%か ら60%周 辺 で最 も
か ら,輝 度 指 数Sが 大 き くな る と正答 率 は低 下 す る 大 き く,周 辺 視 では80%か ら100%で 最 も大 きい.
傾 向 を 有 す る こ とが わ か る. 充 填 率Fが0%や100%な ら点 灯 セ グ メ ン ト と非
(2)  前景視 標 の移動 の効 果 点 灯 セグ メ ン トとの境 界線 は存 在 しな いが,そ の 中間
ケ ー ス1と 同 じ ように前景 視標 の移 動 が正答 率 に与 の充填 率Fで は境界線 が発 生 し(点灯 セ グ メ ン トの ラ
え る 影 響 を調 べ た.充 填 率 は 各 輝 度 指 数 で 正 答 率 が 最 ンダ ム性 を考 慮 す る と),充 填 率Fが50%前 後 で境
小 に な る100%と し,表 示 像 距 離 は0.7mに 設 定 し 界 線(境 界 線 分)の 数 は最 大 とな る.充 填 率Fが50%
た.7名 の 被 験 者 の 平 均 正 答 率<ηT>と 移 動速 度 の関 前 後 で正 答 率 ηSが低 くな るの は,前 景視 標 で重 要 な
係 を 図13に 示 す.輝 度 指 数 の 大 小 に よ ら ず,角 速度 情 報 を 有 す る箇 所(実 験 で は"E"の 切 れ 目 部 分)に
ω が 増 加 す る と正 答 率 は上 昇 す る.正 答 率 の 上 昇 度 合 HUD表 示像(チ ェ ッカー ドパ ター ン)の 境界 線 が存 在
い は,ω が0.2度/秒 ま で 急 峻 で,そ れ以 降 はな だ ら す る確率 が最 も高 くな り,境 界線 の効 果 に よ って前景

図12  正 答 率<ηT>の 充 填 率 依 存 性 図13  前景視標 の移動 による正答率(ηT)の改善

Dependency of correct response rate on F factor. Improvement of correct response rate by moving
visual targets.

514 (134) テ レ ビ ジ ョ ン 学 会 誌Vol. 46, No. 4 (1992)

情 報(開 口 部 方 向)が 見 誤 り易 い た め と考 え られ る. 思 わ れ る ω が 約2度/秒 の 値 を(8)式 に 代 入 す る と,
この 結 果 は,表 示 エ リア の 大 き いHUDで は,表 示 FLは 約34Hzと な り,臨 界 フ リ ッ カ 周 波 数23)に 近 い
パ タ ー ン を で き る 限 り単 純 図 形(充 填 率 .Fが 大 か ま た こ とが わ か り,ON/OFFす る表 示 像 パ タ ー ン の 臨 界

は小)に す る の が 有 利 で あ る こ と を 示 唆 し て い る. フ リ ッ カ に よ る 融 合 を示 唆 して い る.

6.2  視 標 移 動 に よ る 改 善 メ カ ニ ズ ム 6.3  表 示 像 輝 度 の 許 容 値 推 定

チ ェ ッ カ ー ドパ タ ー ン を 通 して 低 速 で 移 動 す る 前 景 被 験 者3人 を 選 び 正 答 率 ηSの分 布 を求 め た.内 挿

視 標 を注 視 す る と,被 験 者 の 目 に は チ ェ ッ カ ー ドパ タ 法 に よ り求 め た 正 答 率80%の ス ネ レ ン サ イ ズ を 用 い,
ー ンが 前 景 視 標 と は逆 方 向 に移 動 し 被 験 者 の 疲 労 状 態 に 注 意 し な が ら,そ れ ぞ れ20試 行
,パ タ ー ン に 応 じ
てON/OFFす る 信 号 が 見 え る.充 分速 い速 度 で チ ェ を500回(100試 行100回 に 相 当)取 っ た.デ ー タの ヒ

ッ カ ー ドパ タ ー ンが 移 動 す れ ば,ON/OFFす るセ グ ス トグ ラ ム を κ2検 定(危 険 率5%)す る と,そ れ ぞ れ

メ ン トの 明 滅 が 融 合 さ れ 平 均 的 な 明 る さ の 表 示 像(充 は 正 規 分 布 と推 定 され た.そ れ ぞ れ の ヒ ス トグ ラ ム か

填 率100%に 相 当)に 見 え る と考 え ら れ る.一 般 的 に, ら母 集 団 の 標 準 偏 差 σ80を推 定 す る と3人 の間 の差 は

明 滅 が 融 合 し た と き の 平 均 的 明 る さ はTalbot-Pla- 余 りな く,6∼9%に な っ た.正 答率 の標 準偏 差 は人

teauの 法 則 に 従 い,等 価 的 な 見 か け の 輝 度B4は, 間 の 注 意 力 の 変 動 や 心 理 状 態,口 頭 応 答 まで に 至 る 過

BON, BOFFを そ れ ぞ れON, OFF時 の 輝 度 と し て次 程 で起 こ る情 報 処 理 の誤 り等 に よ っ て 起 こ る ば ら つ き

式 で 与 え ら れ る23). を意 味 して い よ う.

本 実 験 の 正 答 率(ηS;100回 試 行 の 正 答 確 率)は5つ
(6)
の20試 行 の 平 均 値 と考 え ら れ る.100試 行で基準正
た だ し,t1, t2は そ れ ぞ れON時 間,OFF時 間. 答 率80%に 近 い 正 答 率nZxを 得 た とす る と,Δ=(80
充 填 率 がF%で,各 セ グ メ ン トが ラ ン ダ ム にON/ -m x)と し て(9)式 のZは 標 準 正 規 分 布 を と る こ と
OFFし て い る セ グ メ ン ト像 の 移 動 は デ ュ ー テ ィ比 が 知 ら れ て い る24).
F%でON/OFFす る明 滅 信 号 と見 な せ よ う.充 填 率
(9)
Fか ら等 価 的 な 平 均 の 明 る さBAを 求 め る と(7)式 の

よ う に な る.
正 答 率80%近 傍 は 近 似 的 に σ(80)=σxと お け る*の
(7)
で,mxが80%と 有 意 な 差 が 認 め られ な い 領 域 は危 険
た だ し,Bsは チ ェ ッ カ ー ドパ タ ー ン セ グ メ ン トの 率5%で8∼12%と 推 定 さ れ る.
輝 度 で あ る.す な わ ち,Talbot-Plateauの 法則 に よ 80%か ら の 低 下 が 約8%内 を 基 準 正 答 率 に 同 等 と見
る と,充 填 率F,輝 度BsのHUD表 示像 は車両 の 移 な し,図10,図11で 基 準 正 答 率 か ら8%ダ ウ ンの ラ

動 に よ っ て 輝 度B4,充 填 率100%の 表 示 像 と同 等 の イ ン を 引 く と,停 車 時 に 輝 度 指 数30の 許 容 幅 が車 両

前 景 視 認 特 性 を 有 す る こ とを 示 唆 し て い る. 移 動 時,輝 度 指 数100強 ま で 拡 大 す る こ と が わ か る.
実 際,充 填 率Fが50%,輝 度 指 数8が100,視 標 この 値 は 官 能 評 価 で 求 め た25)表 示 像 輝 度 上 限 値(前 景

移 動 速 度 ω が1.8度/秒 の 正 答 率(図10で ηS∼72%) 輝 度 の 約1倍)に も近 い.

が,F=100%, S=50,ω=0度/秒 の 正 答 率 の 値(図 周 辺 視 で の 正 答 率 ηTの 改 善 デ ー タ も合 わ せ て 考 え
7で ηs∼73%)と 比 較 的 良 い 一 致 を 見 る.充 填 率 る と,自 動 車 が 停 車 し て い る 時 に はHUD表 示像がな
100%で の輝 度指 数 対正 答 率 の関 係 をあ らか じめ知 っ い場 合 と同程 度 に前 景 が認 識 で き る表 示像 許 容 輝 度

て お け ぼ,車 両 移 動 時 の 任 意 の 充 填 率 の正 答 率 を(7) は,前 景 輝 度 の30%増 し程 度 で あ る.し か し,自 動

式 で 予 測 で き る 可 能 性 を 示 し て い る. 車 が 僅 か に 移 動 す る と,表 示 像 許 容 輝 度 は3∼4倍 に
充 填 率Fが50%の チ ェ ッ カ ー ドパ タ ー ン の 移 動 に 上 昇 す る こ とが 結 論 され る.
よ っ て 生 ず る 点 滅 の フ リ ッ カ 周 波 数 をFLHzと する 6.4  自 動 車 で の 例
と,FLは ω と 表 示 像 の 線 幅bと で次 の よ うに 記 せ 実 際 の 自動 車 で のHUDと の 関 連 を よ り明 確 に す る
る. た め最 も単 純 な 例 を 計 算 す る.CIEで 前照 燈性 能試験

(8) 用 視 標 の ひ と つ と し て 用 い ら れ て い る0.4m×1.5m
の 灰 黒 色 の 視 標(着 衣 し た 人 を想 定)19)の 認 識 とHUD
代 表 的 な ス ネ レ ン 図 形 サ イ ズaが0.5mrad(約 * 正答 率 ηS=50%近 傍 で同様 にデー タ を と り標準 偏 差 を求 め る と
0.029度)と 図10,図11で 正 答 率 が 飽 和 し安 定 し た と 正 答率80%の 時 よ り20%程 度大 き くな る.mxが80%に 近 いこ
とを考 え ると,こ の近似 は可能 と考 え られ る.

論 文 □ 自動車用ヘ ッ ドア ップデ ィス プレイの前 景視認特性 (135) 515

 係 が ある点 を考慮 し,か つ運転 にお ける路面 輝度 を順
応輝 度 と見 なす と,高 輝度 路面 で は最 も暗 い路面 条件
に相 当す る2cd/m2よ り低 い輝 度対 比 の前景 視標 で も
正 し く認 識 で きる と解 釈 で きる.
HUD表 示像 が前 景視 標 に重畳 した場 合 の視 認 性低
下 の原 因 は,表 示 像重 畳 に よる等価 的 な輝度 対比 低下
と考 え られ るた め,路 面輝 度 が2cd/m2よ り高 い場合
で は,同 程度 の前 景 の視認 性 を得 る な ら,よ り高 い輝
度指 数 のHUD表 示 像が 許容 され る こ とを意味 す る.
図14  2mrad線 分 と試 験 視 標 の 配 置 例 この意 味 で,路 面輝 度2cd/m2で の本 実験 の デー タ
Configuration of test target and displayed image
や傾 向 は,高 路面 輝度 の,ワ ー ス トケース の輝度 指数
which has line-width 2mrad.
許容 値 を与 え る と推測 され る.
本 論文 で は,自 動車 用HUDの 将来 動 向 を踏 ま え大
表 示 像 の 輝 度 の 関 係 を考 え る.表 示 像 は 最 も望 ま し い 画面 化 ・表示 パ ター ンの微細 化 ・複 雑化 を想 定 し,前
線 幅 と し て 推 薦 し た14)2mrad(約0.11度)の 線 分 が図 景視 認 の車両 移動 に よる効 果 を述 べた.今 後,高 速 走
14の よ う に表 示 さ れ て い る とす る.時 速40km/hの 行時 の視 標認 識等 の具 体 的な 問題 や運転 時 の各視 対象
市 街 地 直 進 走 行 で 右 方 向5度 の 場 所 に試 験 視 標 が あ る の一 部 欠落 が 認識 に与 える影響(ど の 部分 が妨 害 され
場 合 を 考 え る.安 全 停 止 距 離26)25mを 考 慮 し,(1) て も情 報取 り込 み に支 障が な い か),運 転 に必 要 な有
式 か ら視 標 の 相 対 速 度9は 次 の よ う に 記 せ る. 効 視界 とHUD表 示 エ リア の関係 等 につ いて,さ らに
研 究 を進 め てい きた い.
(度/秒) (10)

視 標 が 張 る 水 平 方 向 の 視 角 θ は, 7.  む す び
θ=0.4/25×cos(5)-15.9mrad(約0.91度)
(1)  表 示像 が 前景視 標 に重 畳す る場合 で は表 示像
表 示 像 は 経 過 時 間,Θ/Ω(∼0.4)秒*で 前景 を よぎ
の輝 度 が高 くな る と中心視,周 辺視 共,前 景 の
る.実 際 は視 標 の 一 部 さ え 見 れ ば視 標 の 認 識 は で き る
視認 性 は低下 す る.こ の低 下 は表示 像 の距離 に
と 思 わ れ る が,こ こ で は よ り厳 し い 条 件 と して ,視 標
依存 す る.
全 体 を見 て 初 め て 認 識 が で き る と考 え る と,水 平 方 向
(2)  表 示像 輝度 が 同 じで も,中 心 視 で は表 示パ タ
の 視 角 θ の う ち,表 示 セ グ メ ン トの 存 在 す る 視 角 の ー ンが 複雑 にな る と前 景 の認識 特 性 が 低 下 し
,
比 率 か ら 充 填 率Fは100×2/15.9と な る.(7)式 か
周辺視 では全 面一様 表 示 に近 くな る に従 い知覚
ら 等 価 的 な 表 示 像 輝 度(B4)は 停 車 時 のHUD表 示像
特 性 は低 下す る.
輝 度Bsで 次 の よ う に 記 せ る.
(3)  車両 が僅 か で も移 動 す る と中心視,周 辺 視共
(11) 前景 の視 認性 は大 き く改 善 す る.改 善 のメ カニ
ズ ム にはTalbot-Plateauの 法則 か ら求 め られ
BAはBsの1/8に な り,HUD表 示像 の輝 度 は停車
る見 か けの表 示像輝 度条 件 での近 似 の可能 性 を
時 に許 容 され る輝 度 の8倍(輝 度 指 数 約240)ま で高 く
で き る.表 示 像 認 識 の 輝 度 指 数 の 下 限 が 約10で あ る 示 してい る.

こ と25)を 考 慮 す る と,こ の 例 で は 表 示 像 輝 度 の 適 正 (4)  車両 移 動 に よ り前景 の視 認 性 が 改善 す る と,

前 景 の視認 性 の表示 像距 離 への依 存性 はな くな
領 域 は 約14dBあ る.こ の例 は い くつ か の近 似 を し
る.
て い る が,低 い 充 填 率 が 適 正 領 域 を広 げ て い る こ とが
わ か る.
〔
参 考 文 献〕
6.5  高 輝 度 路 面 に対 す る デ ー タ の 解 釈
1) R.J. Phaneuf and O'Brien: "Head-Up Display in Corn
池 田 ら の 報 告 に よ れ ぼ27),順 応 輝 度 が 高 くな る と 同
mercial Aviation", AIAA Aircrafts Systems & Technolo-
一 視 力 値 を得 る に必 要 な輝 度 対 比 は 低 く な る
. gy Meeting, 77-1241, pp. 1-2 (Aug. 1977)
2) K.D. Wiliam: "Head-Up Displays for General Avia-
短 時 間 視 標 呈 示 に お け る正 答 率 が 視 力 値 と密 接 な 関
tion", SAE, General Aviation Aircraft Meeting , 85092, pp.
1-2 (Apr. 1985)
*
認 識 時 間 は0.4∼0.7秒 の 報 告 が あ り20),こ の 例 の0.4秒 は妥 当 3) S. Okabayashi, S. Sakata, J. Fukano, S. Daidoji, T.
な範 囲. Hashimoto and T. Ishikawa: "Development of Practical

516 (136) テ レ ビ ジ ョ ン 学 会 誌Vol. 46, No. 4 (1992)

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Head Up Display Introduced by General Motors", SAE 18) 野 口,伊 吹,成 定,松 村,西 村,江 島:"薄 暮 時 に お け る路 面 輝
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イ に お け る 前 景 情 報 と表 示 情 報 の 認 識 に つ い て",照 明 学 会 院理 工学 研究 科博 士 課程 修 了.昭 和46年,
NHK放 送 科学 基礎 研 究所 研究 員.昭 和56
論 誌, 75, pp. 267-274 (June 1991)
年よ り,東 京工芸大学 にて視覚光学 の研 究に
15) 三 浦:"実 走 行 時 に どの よ う に 見 て い る の か",自 動 車 管 理,
従事.現 在,同 大学写真工学科教授.工 学博
13, 4, pp. 12-17 (Apr. 1986)
士.正 会員.
16) U. Klamer and M. Necular: "Driver's Display, Eye-
Movements and Steering Behavior, The Visual Basis of
Car Driving", Vision in Vehicles, pp. 185-194 (1986)

論 文 □ 自動車用ヘ ッ ドア ップデ ィスプ レイの前景視認 特性 (137) 517