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ペットボトル分別に伴う住民の“煩わしさ”の定量的評価法に関する研究(2)

○(正)高橋史武 1) (正)鈴木慎也 2) (正)立藤綾子 2) (正)松藤康司 2)


1)東京工業大学大学院 2)福岡大学

1.はじめに
循環型社会の形成という社会的機運を背景に、ペットボトルやプラスチック製容器包装等の資源性廃棄物を多品目に
分別収集する自治体が増えつつある。しかしながら、現状では資源性廃棄物リサイクルが良好に進んでいるとは言いが
たい。その要因は様々であるが、リサイクルコストがその重要な原因の一つであると考えられる。リサイクルプロセス
は資源性廃棄物の選別回収から始まり、かつその回収精度がリサイクルコストに大きく関与してくる。よって、選別回
収は重要なプロセスである。しかし、不適切分別が生じる根本的原因について答える研究はこれまで行われてこなかっ
た。不適切分別を招く要因には様々なものが考えられるが、本研究では資源性廃棄物としてペットボトルを選定し、そ
の適切な分別に対する心理的負担感(=煩わしさ)に着目した。分別に対する煩わしさを定量的に評価する手法として
は、環境経済的評価手法で貨幣換算することが挙げられる。例えば「ペットボトルの分別作業」における煩わしさを、
その作業を回避するための支払意思額として仮想評価法により定量化すれば良い。ただし、このように直接的に貨幣換
算する手法(表明選好アプローチ)では、偽る動機を与える戦略バイアスや手がかりを与える開始点バイアスなど様々
なバイアスが生じやすい問題点が指摘されている 1)。そこで本研究では、煩わしさを直接的に貨幣換算せず、二段階構
成で貨幣価値に定量化する手法を開発することとした。これより本稿の目的は、本稿で提案する“二段階構成定量化法”
(以下、新評価法と述べる)の妥当性について考察、検討することである。
1.0
2.新評価法の概要 0.9
(1)心理測定法による煩わしさの相対的定量化(参照作業) 0.8
新評価法の第一段階では、煩わしさを相対的に定量化する。幾つかの作業 0.7
を設計し(以下、この作業を参照作業と述べる)、参照作業同士をその煩わし

選択率 (-)
0.6
さの強弱で序列化する。ここでは、参照作業間の「煩わしさの差」に応じて 0.5
参照作業間の「距離」を与えるため、相対的に定量化された序列化となる。 0.4
この序列化はサーストンの一対比較法で行う。一対比較法ではアンケート回 0.3
答者に参照作業 A と参照作業 B のどちらが煩わしいか尋ねるだけであり、 「煩 0.2
わしさ」同士の単純かつバイアスの少ない比較評価が可能である。サースト 0.1
ンの一対比較法では、参照作業 A および B の選択率が参照作業 A と B の「煩 0.0
わしさの差」の累積標準正規分布に従うと想定する(図1) 。例えば参照作業 -3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0
A と B の煩わしさに差がない場合、参照作業 A と B の選択率はそれぞれ 0.5 煩わしさの差 (-)
となる。一対比較法で得られたアンケート回答結果(それぞれの産業作業の 図 1 煩わしさの差と選択率の関係
選択率)を逆標準正規換算することで、ある参照作業と他の参照作業との「煩
わしさの差」を求め、その平均値を得ることで参照作業の相対的な「煩わしさの度合い」とする。これは正から負の値
まで取るため、最も負となった参照作業(=最も煩わしさが少ない参照作業)をゼロ基準とし、他の参照作業の「煩わ
しさの度合い」を加法的に修正する。この修正された「煩わしさの度合い」を本稿では相対化 Z 値と呼ぶことにし、相
対化 Z 値をもとに全参照作業を序列化する。なお、本稿では一対比較法でのアンケート質問総数を抑えるために、32 個
の参照作業を4つにグループ化している。各グループで序列化した後に、グループ間を再統合することで全参照作業を
序列化している。これより選択率は相対化 Z 値の累積正規分布に従うものの、その平均と分散はそれぞれ1と0から異
なる値とることをここに注記する。

(2)心理測定法による煩わしさの相対的定量化(ペットボトルの分別作業)
参照作業(幾つかで良い)とペットボトルの分別作業について、その煩わしさの大小を一対評価法で求め、アンケー
ト回答データとして選択率を得る。ここで分別作業の選択率は、分別作業の相対化 Z 値と参照作業の相対化 Z 値の差の
累積正規分布に従うとする。よって一対比較法で得られた選択率と予測選択率が最も一致するような相対化 Z 値および
累積正規分布の分散値を非線形回帰分析によって求め、個々の分別作業の相対化 Z 値を得る。

(3)参照作業の損失金額の推定および煩わしさ(相対化 Z 値)との相関化
参照作業を回避するため(=参照作業の煩わしさを回避するため)、その代替サービスや代替製品を購入するのに必要な
額を「参照作業の損失金額」とする。例えば「やかんで麦茶を沸かす」場合、その必要金額は麦茶パック代であり、麦
茶飲料を購入することで先の参照作業を回避できる。よって、損失金額は麦茶飲料代と麦茶パック代の差額である。こ
のようにして損失金額が算出しやすい参照作業を設計し、得られた損失金額について既報 2)にその詳細を示した。相対
化 Z 値と損失金額で良い相関性が現れているものを選択し、回帰式を得る。

(4)分別作業の損失金額の推定
先に求めた回帰式をもとに、各分別作業の相対化 Z 値から損失金額を求める。

【連絡先】〒226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259 G5-303


高橋史武 Tel:045-924-5585 FAX:045-924-5585 e-mail:takahashi.f.af@m.titech.ac.jp
【キーワード】ペットボトルリサイクル 分別作業 煩わしさ 定量化
3.新評価法での損失金額推定と従来法による支払意思額推定
2011 年 12 月に福岡大学学生を対象にアンケート調査(以下、大学生調査と呼ぶ.) を行った。314 件中 205 件の回
答(回収率 65%)が得られ,有効回答率は 94%であった。回答者の男女比は 10:1、平均年齢は約 20 歳である。また 2012
年 3 月に Web アンケート調査(以下、Web 調査と呼ぶ)を行い、男女比および年齢構成(20~60 代)で回答者属性の偏
りのない 400 件の標本が得られた。本調査では新評価法による損失金額のみならず、仮想評価法による支払意志額を求
めた。なお、生存関数はワイブル分布型とし、最尤法によって支払意思額を求めた。
2.50
4.結果と考察
2.00
(1)ペットボトルの分別作業における相対化 Z 値
1.50
ペットボトルの分別作業を①分別方法の把握、②ボト
1.00
ルの洗浄、③キャップの洗浄、④ラベルを剥がす、⑤ボ

相対化Z値 (-)
0.50
トルを潰す、⑥ボトルを収集日まで保管する、⑦指定袋
0.00
に入れて指定場所に廃棄、⑧スーパーに持っていき廃棄、
1 2 3 4 5 6 7 8

-0.50
の8分類とした。学生調査および Web アンケートで得ら Web
-1.00
れた各分類の相対化 Z 値を図 2 に示す。①分別方法の把 大学生
-1.50
握や⑧スーパーに持っていき廃棄など、アンケート回答
-2.00
者の年齢や地域性に大きな影響を受けると予想される項 分別方法を ボトルを キャップを ラベルを ボトルを 収集日まで 指定袋で スーパーに
把握する 洗浄する 外す はがす 潰す 保管する 指定場所 持っていっ
目は、学生調査と Web 調査で大きな差が生じた。一方、 に捨てる て捨てる
図 2 ペットボトル分別作業の相対化 Z 値
②ボトルの洗浄、③キャップの洗浄、④ラベルを剥がす、
⑤ボトルを潰す、と言った回答者の年齢や地域性などが出づらい項目について、求められた相対化 Z 値は良い一致を得
た。これは相対化 Z 値による「煩わしさ」の定量化がある程度妥当な結果であることを示唆している。

(2)参照作業での相対化 Z 値と損失金額の相関性
参照作業の相対化 Z 値および損失金額の相関性を図 3 に示す。
概して、 10000

相対化 Z 値が高いほど損失金額も高くなる傾向にあるが、同程度の相対 y = 42.973 e


1.587 x

C 2
化 Z 値に対して損失金額は最大で 1 オーダー程度の大きな違いを示して 1000 R = 0.838

いる。そこで良い対数線形性を示す参照作業を 3 つに分類化し、それぞ
れについて回帰式を求めた(図 3)。損失金額が比較的低めとなる参照作 損失金額 (-)
100
業グループ(A とする)は主に「手間」や「時間」が必要となる作業で
あった。損失金額が比較的高めとなる参照作業グループ(C とする)は、
10
小売店で代替製品(ないしは代替サービス)が入手しやすい作業である。 y = 7.850 e
1.787 x

B
損失金額が中程度となる参照作業グループ(B とする)は調理作業が主 2
R = 0.927
であり、代替製品(弁当などのいわゆる“中食” )が入手しやすい作業で 1 y = 0.615 e
2.923 x
A
ある。損失金額は「煩わしさの度合い」のみに応じたものではなく、特 2
R = 0.989
に代替製品(代替サービス)の市場競争性が金額決定に大きく関わって 0.1
くる。特に参照作業グループ B は一定の規模以上の小売店では概ね代替 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

製品(代替サービス)が提供されており、その市場競争性は完全競争に 相対化Z値 (-)


より近い。よって、参照作業グループ B の回帰式で与えられる損失金額 図 3 参照作業の相対化 Z 値と損失金額
が最も妥当性が高いと考えられるが、今後のさらなる検討を要する。

(3)ペットボトルの分別作業に関する損失金額と支払 1000
意思額の相関性 支払意思額
C
4 章(1)で挙げたペットボトルの分別作業(①~⑧)に
損失金額 または 支払意思額 (円)

B
ついて、新評価法で求めた損失金額とアンケート調査で 100
A
得られた支払意思額を比較したものを図 4 に示す。②~
⑥の分別作業の支払意思額は、参照作業グループ A およ 10
び B の回帰式(図 3)で求められる損失金額の間にあっ
た。一方、①、⑦、⑧の分別作業の支払意思額は、参照
作業グループ A での損失金額よりも低い値であった。① 1

分別方法の把握、⑦指定袋に入れて指定場所に廃棄、⑧
スーパーに持っていき廃棄する、これらの作業について 0.1
分別方法を ボトルを キャップを ラベルを ボトルを 収集日まで 指定袋で スーパーに
は、支払意思額で評価される以上に実際には「煩わしさ」 X1 X2
把握する 洗浄する
X3
外す
X4
はがす
X5
潰す
X6
保管する
X7 X8
指定場所 持っていっ
を感じている可能性が高く、今後の検証を要する。 に捨てる て捨てる

図 4 ペットボトル分別作業の損失金額と支払意思額
5.結論
設計した参照作業について、新評価法で求めた相対化 Z 値と損失金額は概ね正の相関が現れた。対数線形性
に着目すると、手間や時間が必要となる作業グループと小売店で代替製品(代替サービス)が入手しやすい作業グル
ープ 2 つに分類化された。ペットボトルの分別作業に関する支払意思額は、新評価法での損失金額よりも比較的低い値
となっており、支払意思額で評価される以上に実際には「煩わしさ」を感じている可能性が示唆された。

[謝辞] 本研究は環境省環境研究総合推進費【K113026】の助成を受けたものである。ここに謝意を表する。
[参考文献] 1) Mitchell and Carson: Using Surveys to Value Public Goods: The Contingent Valuation Method:
Washington, D.C.: Resources for the Future, 1989. 2) 松下純也ら:ペットボトル分別に伴う住民の“煩わしさ”の
定量的評価法に関する研究,平成 23 年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集, 983-984, 2012

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