付着生物研究 Marine Fouling 6 (1) 1-5, 1986

表 層 の剥 離 に よ る有 節 サ ンゴモ類 の付 着 生物 排 除

藤 田 大 介 ＊・正 置 富 太 郎 ＊
(昭和60年10月3日 受理)

The Antifouling by Shedding of Epithallium in

Articulated Coralline Algae

Daisuke FUJITA and Tomitaro MASAKI

Laboratory of Marine Botany, Faculty of Fisheries, Hokkaido University,
Hakodate, Hokkaido 041
(Received October 3, 1985)

The surface ultrastructure and epithallium shedding were observed on the following
seven species of articulated coralline algae from Hakodate: Amphiroa zonata, Alatocladia
modesta, Bossiella cretacea, Calliarthron yessoense, Corallina officinalis, C. pilulifera and
Corallina X. The morphology and arrangement of epithallial cells were different between
the two subfamilies Amphiroideae (A. zonata) and Corallinoideae (the remaining species),
but epithallium shedding occurred in all species examined, removing fouling microalgae
and bacteria. When the zoospores of Laminaria japonica were cultured on living and dead
C. yessoense as well as microscope slides, germlings didn't grow on the living plant, but
florished on the other substrata. The surface observation under scanning electron micro-
scope revealed that the peeling off of epithallium works as cleaning effect for C. yessoense.
From these results, it was concluded that the shedding of epithallium in articulated coral-
lines plays a role on antifouling.

サ ン ゴモ 科 植 物 は 体 内 に 炭 酸 カ ル シ ウム を多 量 に含 む い る ウ ス カ ワ カ ニ ノ テ Amphiroa zonata YENDO, ヤハ

紅 藻 類 の 一 群 で あ る。 そ の うち有 節 サ ン ゴモ類 は膝 節 を ズ シ コ ロ Alatocladia modesta (YENDO) JOHANSEN, イ

もつ グル ー プで 世 界 各 地 の潮 間 帯 か ら漸 深 帯 上 部 にか け ソ キ リ Bossiella cretacea (POSTELS et RUPRECHT) JOHA-

て ふ つ うに み られ, 函 館 市 付 近 の 平 磯 に も豊 富 に生 育 し NSEN, エ ゾシ コ ロ Calliarthron yessoense (YENDO)

て い る。 一 般 に 海 藻 類 の 表 面 に は 付 着 生 物 が あ ま り見 ら MANZA, サ ン ゴ モ Corallina officinalis LINNAEUS, ピ リ

れ な い が, こ の仲 間 につ い て も例 外 で は な い。 著 者 ら は ヒ バ Corallina pilulifera POSTELS et RUPRECHT, ミヤ ヒ

同 じサ ン ゴ科 で 膝 節 が な い グル ー プの 無 節 サ ンゴ モ類 の バ Corallina Xの7種 で, 採 集 し た 場 所 と 日時 を Ta-

エ ゾイ シ ゴ ロモほ か 数 種 で表 層 細 胞 層 が 剥 離 して ゆ くこ ble 1に 示 し た 。 採 集 後 藻 体 を 直 ち に 海 水 に 入 れ, その

とに よ って 付 着 生 物 が脱 落 して ゆ く こ とを 観 察 して い る ま ま 北 大 水 産 学 部 の 実 験 室 に 持 ち 帰 り実 験 及 び 観 察 に 供

(正置 ら, 1981; MASAKI et al., 1984)。 そ こ で有 節 サ ン ゴ し た 。 マ コ ン ブ Laminaria japonica の遊 走 子 の 播 種 実

モ類 に つ い て も付 着 生物 の 排 除 の 原 因 を 明 らか にす るた 験 に 際 し て は, エ ゾシ コ ロの生 き た 藻 体 と熱 湯 に 浸 して
め に, 藻 体 表 面 の微 細 構 造 を観 察 し, そ の うち の 一 種 に 枯 死 さ せ た 藻 体 及 び ス ラ イ ド グ ラ ス の3種 類 の基 質 を用
マ コ ンブ の遊 走 子 を播 種 して 生 残状 況 を 調 べ た の で 結 果 意 し, 別 々 に シ ャ ー レ (径15cm, 高 さ3.5cm) に 入れ

を報 告 す る。 て ろ 過 滅 菌 海 水 を 満 た し, マ コ ンブ遊 走 子 液 を等 量 に加

え て 一 昼 夜 放 置 した 後, 培 養 液 をESI栄 養 添 加 海 水
材 料及 び方 法 250mlと 交 換 し, 恒温培養器 (サ ン ヨ ー イ ン キ ュベ ー タ

ーMIR-550型) を 用 い10℃, 1000lux (白 色 蛍 光 灯)

材 料 に用 いた 有 節 サ ン ゴモ類 は函 館 市 付 近 に 生 育 して
12L:12Dで 培 養 を 行 な っ た 。 な お 培 養 は 正 置 ら (1981)
＊北 海 道 大 学 水 産 学 部 水 産 植 物 学 講 座 が 無 節 サ ン ゴ モ 類 で 行 な っ た の と 同 じ方 法 で 行 な い, 脱
 2 藤 田大 介 ・正 置 富 太 郎

Table 1. Species examined and their collection data

* Usujiri locates in Minamikayabe Town near Hakodate, and other sites in Hakodate City.

灰 及 び 組 織 標 本 作 製 はSUNESON (1937) に従 っ た。 また 微 細 藻 類 や 細 菌 類 の付 着 が み られ, これ ら も とも に藻 体

藻 体 表 面 微 細 構 造 は走 査 電 子 顕 微 鏡 (日本 電 子K. K. 製 表 面 か ら除 去 され た こ と を示 して い る (Fig. 6)。
SEM-25) を用 い て観 察 し, 試 料 の 固定 はMASAKI et al. また マ コ ン ブ の遊 走 子 の播 種 実 験 で は, 1か 月 後 に は
(1984) に よ った。 ス ライ ドグ ラ スや エ ゾシ コ ロ の枯 死 体 の 上 に は マ コ ン ブ

の胞 子 体 が 濃 密 に 生 育 した の に 対 し, 生 きて い る藻 体 の
結 果及 び 考察
上 で は実 験 期 間 中 殆 どみ られ な か った。 培 養 後88日 目
観 察 を行 な った 有 節 サ ンゴ モ類 の うち, サ ン ゴモ亜 科 の各 基 質 の上 の マ コ ン ブの 生 育状 況 を Fig. 8示 す。 ま
の6種, 即 ち ヤハ ズ シ コ ロ, イ ソキ リ, エ ゾシ コ ロ, サ た こ の培 養 の途 中 で も マ コ ンブ の発 芽 体 (配偶 体) が エ
ン ゴモ, ピ リヒバ, ミヤ ヒバ は, い ず れ の 藻 体 表 面 で も ゾシ コ ロ生 体 の 表 層 剥 離 に よ って 脱 落 して ゆ く様 子 を 観
円形 また は 不 規 則 な形 の 表 層 細 胞 が 密 に 接 して 配 列 して 察 す る こ とが で きた (Fig. 9)。
い る。 一 方, カ ニ ノテ亜 科 の ウス カ ワ カ ニ ノテ で は, 表 この よ うな 藻 体 表 面 の 剥 離 は 褐 藻 ヒバ マ タ科 植物 で は
層 細 胞 が 同 じ く円形 ま た は不 規 則 な形 を して い る が 互 い 表 層 細 胞 の 外側 の 細胞 壁 に 生 じ (FILION-MYKLEBUST and
に少 し離 れ て配 列 し, 個 々 の細 胞 が や や突 出 して い る よ NORTON, 1981; SIEBURTH and TOOTLE, 1981; Moss,
うに見 えた。 これ ら の表 層 細 胞 の形 態, 配 列 状 態 は有 節 1982), 緑 藻 ボ ウア オ ノ リ Enteromorpha intestinalis
サ ンゴ モ類 の分 類 基 準 と して注 目 に値 す る も の と考 え, で は細 胞 壁 の最 外 層 (MCARTHUR and Moss, 1977),
現 在 日本 各 地 に分 布 す る有 節 サ ンゴ モ類 につ い て検 討 中 紅 藻 トチ ャ カ Chondrus crispus で は クチ ク ラ 層
で あ る (藤田, 1984)。 今 回 調 べ た 有 節 サ ン ゴモ 類 は 表 層 (SIEBURTH and TOOTLE, 1981), 無 節 サ ン ゴモ 類 数 種 で
細 胞 の形 態 や配 列 状 態 に 関 係 な くい ず れ の 種 で も表 層 細 は 表 層 自体 が 剥 離 す る (MASAKI et al., 1984)。 有 節 サ ン
胞 層 の剥 離 を観 察 す る こ とが 出来 た。 特 に ウス カ ワ カ ニ ゴモ類 で は BOROWITZKA and VESK (1978, 1979) が サ ン
ノ テ, イ ソキ リ, エ ゾ シ コ ロは この 剥離 が 盛 ん で そ の様 ゴモ Corallina cuvierii (=Haliptilon cuvierii) 及び
子 を Figs. 1-4に 示 す。 ウス カ ワカ ニ ノ テ の枝 の先 端 付 Lithothrix aspergillum の表 層 細 胞 の微 細 構 造 を 透 過
近 で は Fig. 1に 示 す よ うに連 続 して剥 離 してい る様 子
電 子 顕 微 鏡 で観 察 して表 層 剥 離 を 示 唆 して いた が, 今 回
も見 られ た. 剥 離 は 藻 体 表 面 の一 細 胞 層, 即 ち表 層 に限 の 観 察 及 び 実 験 で こ の現 象 が 実 際 に存 在 し, 付 着 生 物 の
られ, この 時 既 に 新 しい 組 織 が 形 成 され て い る こ とは 断
排 除 効 果 を 有 す る こ とを 確 か め る こ とが で き た。 し か
面 の 観 察 で も明 らか で あ る (Fig. 7)。 これ は 中 層 の 先 端 し, 今 回観 察 を 行 な った7種 の 有 節 サ ン ゴモ類 の うち サ
細胞 が 分 裂 して 介 生 的 な 生 長 を行 な い新 しい組 織 を 作 る ン ゴモ属 の2種, 即 ち サ ン ゴモ と ピ リヒバ, ま た ほ か の
た め に古 い部 分 が 剥離 脱 落 す る もの と考 え られ る。 この 4種 で も クチ ク ラに 覆 わ れ て い る枝 の 頂端 部 で は表 層 の
よ うな 剥離 に よ り脱 落 し た 表 層 薄 片 (epithallium
剥 離 はそ れ ほ ど頻 繁 に は見 る こ とが で き なか った に もか
flake) は培 養 中 の シ ャー レの底 に も見 つ け る こ とが で き か わ らず そ の部 分 に も付 着 生 物 は少 なか った。 ウ ス カ ワ
た (Figs. 5-6)。 脱 落 して 間 も な い 表 層 薄 片 の表 面 に は カ ニ ノ テ, ピ リヒバ, フサ カ ニ ノテ Marginisporum
 表 層 の 剥 離 に よ る 有 節 サ ン ゴモ 類 の付 着 生 物 排 除 3

Fig. 1. Successive peeling off of epithallial layers at a branch tip of Amphiroa zonata.
Scanning electron micrograph (SEM). Bar=100μm.

Fig. 2. A part of the shedding epithallium of Amphiroa zonata, (SEM). Bar=100μm.

Fig. 3. A part of the shedding epithallium of Bossiella cretacea. (SEM). Bar=10μm.

Fig. 4. A part of the shedding epithallium of Calliarthron yessoense. Epiphytic microal-

gae and bacteria are being removed with the shedding part. (SEM). Bar=100μm.
Fig. 5. An epithallium flake sloughed from an apical part of Bossiella cretacea. Bar=

100μm.

Fig. 6. An enlargement of a part of epithallium flake sloughed from an apical part of

Amphiroa zonata, showing a diatom and some bacteria on it. Bar=10μm.

 4 藤 田大 介・正 置 富 太 郎

要 約

函 館 付 近 に産 す る有 節 サ ン ゴモ類 ウス カ ワ カニ ノテ,
ヤ ハ ズ シ コ ロ, イ ソキ リ, エ ゾ シ コ ロ, サ ン ゴモ, ピ リ
ヒバ, ミヤ ヒバ の7種 につ い て主 と して走 査 電 子 顕 微 鏡

に よ り藻体 の 表面 を観 察 した。 そ の 結 果, ウス カ ワ カ ニ
ノ テ (カニ ノテ亜 科) とそ の 他 の6種 (サ ン ゴ モ亜 科)

で は 表 層細 胞 の 形 態 や 配 列 状 態 に 差 が 見 られ た が, これ
ら に 関 係 な くい ず れ の 種 に お い て も表 層 の 一 部 が 剥 離
Fig. 7. Camera lucida drawing of longitudinal
section through an intergeniculum of し, これ に 伴 い 汚 損 生 物 の微 細 藻 類 や 細 菌 類 が排 除 され
Bossiella cretacea, showing a process る こ と, また 生 きた エ ゾシ コ ロに播 種 した マ コ ン ブの発
of epithallial shedding. 芽 体 が こ の表 層 剥 離 の た め に脱 落す る こ とを 確認 した。
以 上 の こ とか ら有 節 サ ン ゴモ類 の 表 層 の 剥 離 脱 落 は 付 着
aberrans で は抗 菌性 物 質 の存 在 が知 られ て お り (OHTA 生 物 の排 除 に役 立 って い る と考 え られ る。
and TAKAGI, 1977 a, b), 有 節 サ ン ゴモ 類 の 表 面 で は 表
文 献
層 の剥 離 の よ うな 機 械 的 な 付 着 生 物 排 除 だ け で な く, 化
学 的 な物 質 に よ る生 物 付 着 の阻 害 も行 な わ れ て い る可 能 BOROWITZKA, M. A. and M. VESK (1978). Ultra-
性 が あ る と考 え られ る。 structure of the Corallinaceae. I. The vegeta-
tive cells of Corallina officinalis and C.
最 後 に 稿 を ま とめ る に あ た って御 意 見 を賜 っ たClark
cuvierii. Mar. Biol., 46, 295-304.
University の JOHANSEN博 士 に感 謝 の意 を表 す る次 第 BOROWITZKA, M. A. and M. VESK (1979). Ultra-
で あ る。 structure of the Corallinaceae (Rhodophyta).

Fig. 8. Comparison of cultures of Laminaria japonica after 88 days' incubation of zoo-

spores on two substrata, living (left) and dead (right) thalli of Calliarthron yesso-
ense. Sporophytes grow densely only on the dead thallus. Bar=1cm.
Fig. 9. Surface detail of the same specimen in Fig. 8, showing the removal of embryo-
phytes with a shedding epithallial layer. (SEM). Bar=10μm.
 表 層 の剥 離 に よ る有 節 サ ンゴ モ類 の付 着 生 物 排 除 5

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