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ミクロ経済学 講義資料

■第6章 市場経済の効率性と限界
需要曲線:消費者の合理的な行動の結果
供給曲線:生産者の合理的な行動の結果
・完全競争市場のメリット
価格が自由に動くので、市場では需要と供給が等しいところに価格が決まり、生産されたものは
すべて消費者によって消費され、売れ残りは発生しない

市場に参加するすべての経済主体は、他人のことを考慮しなくても、自分の満足や利潤を最大に
するよう行動すれば、市場全体にとって最も好ましい状態が実現する

・個々人は自分の利益しか追求していないのに、なぜ、社会全体としてはうまくいくのか
伝統的な経済学では、これを導くのがアダム・スミスの「(神の)見えざる手*」であると説明
ここから、スミス=自由放任主義者、市場=万能という考え方が派生する

しかし、こうしたスミス観、市場観は一面的なものであり、誤りである
*アダム・スミスの『国富論』には、このことばは1回しか登場しない

・完全競争はどのように望ましいのか
余剰概念による考察
①消費者余剰
消費者が手に入れた消費財がもたらす満足の価値から支出した金額を差し引いた部分

②生産者余剰
生産者が受け取る売上代金から可変費用を差し引いた部分*
*固定費用が存在しない場合は利潤に等しい

③総合余剰
消費者余剰+生産者余剰

前提:
①効用の可測性
人々が消費から受ける満足の大きさは測ったり計算したりすることが可能、という仮定
②貨幣の限界効用一定
貨幣の追加1単位がもたらす限界効用(追加的満足)は、常に一定である、という仮定

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・完全競争市場と独占的な市場におけるにおける消費者余剰と生産者余剰

消費者余剰

生産者余剰

独占による死荷重

独占的な市場 価格が高く、生産量が少ない
独占によるロス(死荷重 or 死重的損失)の発生+消費者生余剰の一部(斜線部分)が生産者に移転

その結果、
消費者余剰は 減少
生産者余剰は ±?
→独占は生産者の方が相対的に有利

しかし、社会全体の総合余剰は、死荷重の分だけ減少
→社会全体から見ると、完全競争が望ましく、独占状態は望ましくない

・経済学における問題:独占をいかに規制するか、いかにして競争を促進するか

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・実際の対策:独占禁止政策 これは、独占状態そのものの否定や排除ではない点に注意
法律:独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号))
GHQにより、アメリカの「反トラスト法」を手本にして導入
3つの禁止事項*
(1) 私的独占
私的独占は,独占禁止法第3条前段で禁止されている行為です。私的独占には,「排除
型私的独占」と「支配型私的独占」とがあります。前者は,事業者が単独又は他の事業
者と共同して,不当な低価格販売などの手段を用いて,競争相手を市場から排除した
り,新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為です。後者は,事業者が単独又
は他の事業者と共同して,株式取得などにより,他の事業者の事業活動に制約を与え
て,市場を支配しようとする行為です。
(2) 不当な取引制限
不当な取引制限は,独占禁止法第3条で禁止されている行為です。不当な取引制限に該
当する行為には,「カルテル」と「入札談合」があります。「カルテル」は,事業者又
は業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い,本来,各事業者が自主的に決めるべ
き商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為です。「入札談合」は,国
や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札に際し,事前に,受注事
業者や受注金額などを決めてしまう行為です。
(3) 不公正な取引方法
不公正な取引方法は,独占禁止法第19条で禁止されている行為です。不公正な取引方法
は,「自由な競争が制限されるおそれがあること」,「競争手段が公正とはいえないこ
と」,「自由な競争の基盤を侵害するおそれがあること」といった観点から,公正な競
争を阻害するおそれがある場合に禁止されます。
不公正な取引方法については,独占禁止法の規定のほか,公正取引委員会が告示によっ
てその内容を指定していますが,この指定には,全ての業種に適用される「一般指定」
と,特定の事業者・業界を対象とする「特殊指定」があります。一般指定で挙げられた
不公正な取引方法には,取引拒絶,排他条件付取引,拘束条件付取引,再販売価格維持
行為,ぎまん的顧客誘引,不当廉売などがあります。また,特殊指定は,現在,大規模
小売業者が行う不公正な取引方法,特定荷主が行う不公正な取引方法,及び新聞業の3
つについて指定されています。
*出典:公正取引委員会ホームページ https://www.jftc.go.jp/dk/dkgaiyo/kisei.html#cmsFukousei

組織:公正取引委員会
独禁法を運用するために設置された機関
「行政委員会」といわれる機関で、他の省庁から指揮監督を受けない
委員会は、委員長+4名の委員で構成

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・独占と競争の事例
政治・法律の動き 企業の動き
1934年 9月 八幡製鉄所ほかの会社が統合 日
本製鉄誕生
1941年 12月 太平洋戦争 勃発
1945年 8月 太平洋戦争 敗戦
9月 米国の対日方針の中で財閥解体を
打ち出す
1946年 8月 持株会社整理委員会発足、47年9月 三井、三菱、住友、安田の四大財閥ほ
までに83社を持株会社として指定 か、解体
1947年 4月 私的独占の禁止及び公正取引の確
保に関する法律(独禁法)公布
12月 過度経済力集中排除法(集排法)公 日本製鉄、三菱重工業など18社が集中排
布 除の対象
1950年 ~53年 朝鮮戦争 4月 日本製鉄 八幡製鉄・富士製鉄ほ
か2社の計4社に解体
1951年 9月 サンフランシスコ講和条約調印
1964年 OECDに加盟、資本自由化への動き 西日本重工業株式会社、中日本重工業株
式会社、東日本重工業株式会社の3社が
合併し、三菱重工業が発足
1965年 オリンピック終了による昭和40年不況
戦後初の国債発行
1967年 7月 資本自由化の部分的実施
1968年 八幡・富士の合併問題が表面化
100 名を越す中堅・若手の近代経済学者
が「近代経済学者による大型合併に対す
る意見書」と題する反対声明を公開
1970年 合併により新日本製鉄が発足
1997年 6月 独禁法改正、同年12月施行 ダイエーホールディングコーポレーショ
持株会社原則自由化 ン発足(持株会社第1号、経営悪化により
2001年解散)
2012年 新日本製鉄と住友金属が合併し、新日鉄
住金が発足

・独禁法の変遷
持株会社禁止規定の緩和
旧法第9条 原則禁止
戦前の財閥による産業支配への反省
その結果、株式持ち合いによる企業集団が成立
新法第9条 「事業支配力が過度に集中することとなる持株会社」を除いて、原則自由
持株会社の定義:会社の総資産の額に対して、子会社の株式の取得価額の合計額の割合
が50%を超える会社

これは、1980年代に始まる規制緩和の流れの中に位置づけられる

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・競争と独占に関する考え方の変遷
企業の大型化・独占化への問題意識

経済のグローバル化と規制緩和の流れの中で、大規模化のメリット重視へ

しかし、経済学における議論は、独占的な市場の理論に基づいて、競争のメリットを重視

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