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「Basic」

Naniwa Saxophone 1 Basic


絶対!!上手くなるための

Saxophone Book

「Basic」

Naniwa Saxophone 2 Basic


はじめに

本書は、サクソフォーンを練習するにあたって必要最低限知っておくべき事や上達す
る近道を項⽬別に書いてあります。
普段、講習会で教わる事やサクソフォン奏者(須川展也を始めとする)が出版してい
る教本からも引⽤しています。そして、スケールの練習法や半⾳階、ラクールも何曲
か取り上げていますので、取り組んで下さい。

Naniwa Sax

楽器というものは、⾒よう⾒まねで練習していてもなかなか上達しにくいものです
が、何⽇もかかってようやくできるようになっていた事が、ちょっとした“気づき”に
よって⼀瞬でできるようになることもあります。そんなきっかけになればと思い、サ
クソフォーンにまつわる項⽬について書いてみました。
サクソフォーンを始めて間もない⽅にとっては、難しいと思われる項⽬もたくさん
あると思いますが、「こんな技術もあるんだな」と興味を持ち、トライしてみるも
の、何かに“気づく”チャンスであり、上達に繋がる道かもしれません。
書いてあることを読み、イメージし、実際に練習するのが基本的な形ですが、⼀番
⼤事なのは「楽器を吹くのが楽しい!」という気持ちを持ち続けることだと思いま
す。サクソフォーンを練習する⽇々は、上⼿くいくことばかりではありません。上⼿
くなったと感じると、それ以外の不得意なところがよりはっきりと⾒えて、それが原
因で負のループに陥るような⽇もあるでしょう。そのようなときにこの本を開いてい
ただけたら、どこかに解決の⽷⼝があるかもしれません。そんな存在として、⻑く⼿
元に置いていただけたら嬉しいです。

須川展也

Naniwa Saxophone 3 Basic


CONTENTS

<知識>

1.サクソフォーンを吹く前に知っておくこと
・「うまい」ってどういうこと?
・サクソフォンってどんな楽器?
・どんな構造になっているのか

2.⾳を出す基本
楽器の構え⽅と指の動かし⽅
・楽器の持ち⽅・構え⽅(姿勢)
・指の形・動かし⽅(主鍵部分)
サクソフォン奏法
・アンブシュア○
1 ・○
2 ・○
3

・息の吸い⽅、息を⼊れる⽅向
・タンギング(テヌート、スタッカート)
・ビブラート

3.基礎練習と練習⽅法

4.各楽器の特性・役割

5.楽器(マウスピース、リード)のケア

6.備考欄

7.memo

8.サクソフォン講座(上野耕平)

Naniwa Saxophone 4 Basic


<実践>

1. 練習⽅法のすすめ

2. 4つのジャンル別プリント

3. Long tone

4. 1octave scale

5. F-dur

6. 故郷の⼈々

7. 君をのせて

8. 夢⾒る⼈

9. 花は咲く

10. ラクール

Naniwa Saxophone 5 Basic


1.サクソフォンを吹く前に知っておくこと

<知識>

「うまい」ってどういうこと?
サクソフォーンのよい音というものを、一言で語るのは難しいです。
実はみなさん、それぞれが全員よい音を持っているんですよ。そのよい音を出すのに邪魔
をしている奏法の問題を取り除くことで、だんだん自分の理想の音になっていくと思いま
す。何がよい音なのか、と考える前に、基礎的な奏法などをチェックして、皆さんが持っ
ているよい音を活かす方法を探っていきましょう。
「うまい」とは、聴いている人に音楽の喜びや表情を伝えられるということです。その
ガイドになるのが、作曲家の書いた楽譜です。楽譜には作曲家のなかにあるイメージが残
されているので、その内容を音にして聴いている人に伝えられるのが、うまいということ
だと思います。
うまくなるにはどうするか。これも同じことです。最初から自由自在楽器を操れる人な
んて世界中どこにもいません。おのおのが順序立ててていねいに基礎練習をしたり、知識
を増やしたり、音楽を聴いたり感動したりすることによって、もっと練習をしたくなりま
す。そのときに、この本で紹介するようなさまざまな方法を自分に取り入れていくこと
で、無駄な練習が減ります。それが上達に繋がるのです。
まずは楽器を大好きになって、音楽にかんすることに興味を持って取り組んでいけば、
気がついたときにはうまくなっているでしょう。
それを、これから一緒に学んでいきましょう!
須川展也

まとめ

聴いている人に音楽の喜びや表情を伝えられること

が「うまい」ということばにまとめられている

Naniwa Saxophone 6 Basic


<知識>

サクソフォーンってどんな楽器?

サックスは、「サクソフォーン」というのが正式名称です。「サクソフォ
ン」と明記する場合もありますが、本書では「サクソフォーン」、「サクソフ
ォン」両方書いています。
サクソフォーンは、アドルフ・サックスというベルギーの楽器発明家が考案
した楽器です。サクソフォーンという楽器名は、発明者の名前からきていま
す。彼は、バスクラリネットを改造しているうちに、管を金属で作ることによ
って、より豊かな倍音が出せるんじゃないか?と思いつきました。先にバリト
ンサクソフォーンとバスサクソフォーンが作られ、その後ソプラノ、アルト、
テナーなどと、種類が増えていきました。
金属を使うことで比較的大きな音が出るので、野外でも室内でも演奏できる
という利点があり、金管楽器の華やかさと木管楽器の繊細さを兼ね備えた楽器
として、1840 年代に発明されました。実際は金属で作られていますが、木管
楽器をベースに作られた楽器なので、「木管楽器」に分類されているのです。
サクソフォーンの魅力は、何と言ってもその音色と豊かな響きにあります。
メロディを吹けば、とても説得力のある音がしますし、サクソフオーンの同族
楽器だけでアンサンブルをすれば、合唱のように響きます。表現の変化もつけ
やすく、まるで人間の声のようだとたとえられることもあります。

まとめ

サクソフォーンは金管楽器の華やかさと、木管楽器

の繊細さを兼ね備えた楽器

Naniwa Saxophone 7 Basic


<知識>

どんな構造になっているのか

サクソフォーンは、マウスピース、リード、
リガチャー、ネック(吹込管)、本体から成
っています。さらに本体は、二番管、一番管
(U 字管)、ベル(朝顔管)で構成されてい
ます。
演奏するときは、まず、ネックを本体にセッ
トして、マウスピースを差し込み、リードを
リガチャーでセットし、息を吹き込むことで
音を鳴らしていきます。フルートやクラリネ
ットと同じように本体にはたくさんの穴が開
いていて、そこをキィで塞いで音程を変えて
いく構造になっています。穴は下にいけばい
くほど大きくなっており、指で直接、塞ぐこ
とはできません。そこで、キィの穴を塞ぐ面
には、革でできた「タンポ」というものが取
り付けられています。たくさんの穴を 10 本
の指で操作するため、指でキィを抑えて穴を
塞ぐものや、連結棒でつながっていて、ひとつのキィを押せばいくつかの穴が
同時に塞がる部分など、さまざまな仕掛けがなされています。そうしたさまざ
まなパーツを組み合わせてできているので、1つのサクソフォンを構成するパ
ーツの数は約 600 にもなります。
サクソフォーンはシンプルな構造になっていますが、非常にデリケートな作
りを求められるため、今でも世界中の楽器メーカーが日々研究を重ねていま
す。

まとめ

楽器は自分の目で構造を確かめておこう

Naniwa Saxophone 8 Basic


2.音を出す基本

<知識>

楽器の構え方と指の動かし方

楽器の持ち方・構え方(姿勢)

ポイントは、自然に!

①背筋を伸ばし、顔をまっすぐ前に向ける。

②その状態を崩さないで、マウスピースが自然に口
に入るようにストラップで調節。

[チェック・ポイント] 図1を参照

• 肩の力が抜けている。
• ネックについている楽器のマークが、ほぼ体の正面の中心線上にきてい
る(図1)(バリトンはロールの部分がほぼ正面)。
• 左や右の肩が高く上がっていない。
• 立奏と座奏で角度が少し異なる場合、マウスピースを少し動かす。顔を
傾けないこと。右手は体の横の中心線よりうしろにならない。

まとめ

リラックス(力まない状態)して立つのがもっとも良い姿勢。

悪い「くせ」がつかないように鏡でチェックしよう

Naniwa Saxophone 9 Basic


<知識>

指の形・動かし方(主鍵部分)

軽くボールをつかんだような形(図2A)が理想的です。
図 2C のように指がまっすぐに伸びている状態でも悪くないが、キイから指があ
まり離れると、バタバタとノイズが大きくなるので注意。B(図 2)は悪い形。
リラックスして、押す時も離す時も素早く。

[チェック・ポイント]

・キイから指を離した時に離れすぎない。

・いつもキイに指先が触れているつもりで
(上げた指に力が入って伸びきっているのをよく見かける)。

・カいっぱいキイを押さないこと。

・(重要)ゆっくりな曲でも素早い指の動きが必要。

上記のチェックポイントに注意すれば、とても速いパッセージの時にもスムー
ズに指を回せます。キーをしっかり押さえないと音が鳴りません。
一つ一つ丁寧に確認しましょう。特に注意してください!

あと、クロスフィンガーの場合には、
サイドキーを使用するので日々心がけましょう!

まとめ

力まずリラックスした状態だが、押す時も離す時も

素早く指を動かす事が大切!!

Naniwa Saxophone 10 Basic


<知識>

サクソフォン奏法

アンブシュア○
1

重要
人それぞれ、骨格や歯並び、体の大きさは違うので、「これが正解。」はありません。
ですから、自分が目指している音や自分に合うなと思う奏法をいろいろ試行錯誤してみ
て、取捨選択する必要があります。しかし、よいアンブシュアが近道です。

よいアンブシュアとは?
マウスピースをくわえたときの口の形を「アンブシュア」といいま
す。形のイメージは、「イ→ウ」と実際に声に出したときの「ウ」
に移る直前で、上下左右からの圧力がうまく真ん中に集まっている
ような形です。
下唇は下の歯に沿って内側に巻き込みますが、唇の赤い部分と下の
肌の部分の境目あたりがリードに触れるといいですね。外から唇の
赤い部分がチラリと見えるくらい。上の歯の位置は、アルト・サクソフォーンの場合はマウス
ピースの先端から 1 センチ以内、ソプラノなら 0.8 センチ前後、テナーとバリトンは 1.2 セン
チくらいを基準として、歯の形などに合わせて調整してみてください。上の歯の位置があまり
深く(奥に)ならないように注意しましょう。
普段の噛み合わせを工夫し、上の歯と下の歯がほぼそろうのが理想です。下あごを少し前に
出すイメージを持つ人が多いと思いますが、出しすぎて下の歯が上の歯より前に出てしまうの
はよくありません。歯の形は人それぞれですので、上下の位置関係を多少工夫することでコン
トロールしやすくなる場合もあります。上の歯がマウスピースにあたる位置が深すぎると、音
のコントロールが難しくなります。下あごの前(唇の下部分中央)がくぼむように意識してく
ださい。

まとめ
「イ→ウ」の中間くらいの口の形で。上・下の歯の位置をチェックしよう

Naniwa Saxophone 11 Basic


<知識>

アンブシュア○
2

マウスピースを囲む唇の形や筋肉の状態、口の中の舌や歯の状態を総称して、
アンブシュアと言います。

[チェック・ポイント]
①上歯が、しっかりマウスピースに固定されている(歯の位置は楽器によりますが、マウス
ピースの先端から 1 cm 前後が目安)。

②下歯は下唇で巻く(唇と肌との境がリードに触れている。外からは下唇が少し見えてい
る)。

③下唇の下のあごが伸びていること(うめぼしの種状態にならない)。

④上歯と下歯の位置をそろえる(マウスピースをくわえた時、上下の歯がほぼ垂直にそろ
う。通常より下歯を少し前に出した感じ)

⑤頬はふくらませない。

⑥下唇や上唇と歯ぐきの間に空気がたまらない。

⑦ノドはリラックスして、口の中は広い状態をイメージする(舌の奥が上がらないように注
意)。

⑧マウスピースをくわえた時、口の形のイメージは「イ」の状態から「ウ」に向かう途中(「イ
→ウの中間」
)そして、「オ」。 口の中は「ホ」

以上のチェック・ポイントは、上達とともによい状態に向かいます。
人によっては長い時間かかることもありますが、焦らずじっくり、時々このポイントをチェ
ックしてくださいね。
もちろん、この状態でなくてもとてもいい音を出す人はいます。
これはあくまでも標準的なものです。

Naniwa Saxophone 12 Basic


<知識>

アンブシュア○
3

演奏しているときの舌の位置

須川流をご紹介すると、舌は真ん中をすり鉢のように少しくぼませ、「ホ
ー」(Ho)と発音するときのような形を基準にしています(イラスト参照)。
音域によって息のスピードが変わるので、無意識ですが口の中全体の容積は変
わっています。とくに高音域は H。の形のまま口の中の容積を狭くして、息の
スピードを速くしています。
最適な舌の位置は人によって違うので、音階練習の際に、音階によっていろ
いろな位置を試して見つけるほかありません。とくに基本音域を超える高い音
(フラジオ)における舌の位置はとてもデリケートで、いつもと 1 ミリでも違
うと音が外れてしまうこともあります。研究を重ねて、自分にとって一番よい
位置を探しておきましょう。
口の中のことは、見て確認することができないため説明するのはとても難し
いですが、イメージとして、口笛でフクロウの鳴き真似をするときの口の形を
思い浮かべてみてください。普通の口笛の音よりも低い音を出そうとするの
で、舌の位置を下げて調節すると思います。そういった練習をしてみると、そ
れぞれの音域にとって適切な位置を見つけられるかもしれません。

まとめ

舌の位置には個人差がある。音階練習で
自分のベストポジションを見つけよう

Naniwa Saxophone 13 Basic


<知識>

サクソフォン奏法
息の吸い方
息を使って音を出す管楽器(作音楽器)にとって、呼吸は大変重要です。

「音の 80%は息で決まる」とも言われています。また、表情豊かな演奏には、
「息の使い方」に秘密があります。短い時間に大量の息を吸い、その息を自由に
操って演奏するのが管楽器奏者の呼吸ですが、それは腹筋を使って横隔膜をコ
ントロールする「腹式呼吸」なのです。
下記の点に注意して、いい音を鳴らすことを意識し、始めていけば、呼吸は自然
に上達します。

[チェック・ポイント]
①息は口からたくさん吸うこと。

②息を吸う時は、上歯はマウスピースに固定したまま(口の両横から吸うが、アンプシュア
が安定していれば、下あごはマウスピースから離してもよい。そのほうがより静かに、多く
吸える)。

③息を吸う時、肩を上げない(体が緊張し、多くの息が入らない)。

④息を吸う時、おなかがふくらむ(横に広がっている)。

⑤曲想に合わせた息の吸い方をする。

⑥曲やフレーズの頭は、曲想に合ったニュアンスでそのテンポで息を吸う
(速く鋭い曲は、力強くより速く吸う。静かな曲は、静かにテンポに合わせてゆっくりたく
さん吸うなど)。

慣れないうちは時間を多くかけてもよいので、たっぷり息を吸って、たっぷり吐くこと
に注意してください。

Naniwa Saxophone 14 Basic


<知識>

サクソフォン奏法

息を入れる方向

サクソフォンには、楽器の構造上、もとから出しやすい音と出しにくい音と
いうものが存在します。出しにくい音を出そうとするとき、息の方向を調節し
ようとするかもしれませんね。でも、のどを開いたり細めたりしても、音その
ものが開いたり細くなったりするだけで、音の方向や高さは変わりません。息
の方向を調節しようとして極端に上を向いたり下を向いたり、あごを操作して
いるようなら、それはやめてくださいね。
どんな音域であろうと息はマウスピースの中にまっすぐ入れるのが基本で
す。音域によっていちいち息を入れる方向を変えていては、忙しくて曲など吹
けません。ただ、イメージの範囲内で息の方向を意識することで、出しにくい
音域が出やすくなることがあるかもしれません。楽に音を出せるアンブシュア
さえ安定すれば、息を入れる方向を頭で考える必要はありません。
全音域をまんべんなく均等に出すためには全音域をつかったスケール練習で
一音一音に意識向けるのがもっとも効果的です。スケール練習はゆっくりとし
たテンポで行い、音そのものや音域のくせを見極め、頭で考えなくても自然と
均等に出せるよう、日々練習していきましょう。

まとめ

スケールを使ってよい息の入れ方をつかもう

Naniwa Saxophone 15 Basic


<知識>

サクソフォン奏法

タンギング
音を出すときに、舌をリードにあてて発音のきっかけを作ることを
「タンギングする」といいます。

このテクニックを身につけることで、音を切るだけでなく、音の立ち上がりの輪郭をコントロ
ールできるようになります。ここでは基本的なタンギングをご紹介しましょう。
タンギングは基本的に、音を出す前にリードに触れていた舌を、息を出すと同時に離しま
す。そのとき、
「トゥ」
(Tu)という発音をイメージしながら息を吹き込みます。
「タ」
(Ta)
と下あごが動いて音程がずり上がったり音が弾けたりしますが、
「Tu だと下あごは動かず、
安定した息を吹き込むことができるのです。
」(Yo)もよい感じがつかめます。
まずは、舌がリードに触れる位置を把握しましょう。リードの先端に舌が触れるのが原則で
すが、「舌のほぼ先端がリードの先端に触れる場合(O)」と、「舌の少し中に入ったところ
に触れる場合(②)」と 2 パターンあります。自分に合うほうを使いましょう。リードと舌が
触れ合うのは「面」ではなく「線」だとイメージしてください。

[チェック・ポイント]
①舌(真ん中)は
リードの先端に触れる。

②発音は「Tu」
、あごは動かさない。

③音の止め方は2通り、息と舌で。

④アンブシュアの状態はしっかり保つ。

⑤息の支えも保つ。舌の動きに気を取られていて息が
十分入らないと、ノイズが多くなる。
⑥舌はリードに軽く触れること。

⑦リズムを正確に。アタック、リリースのタイミングが悪いと、リズムが悪くなる。音の出だし
と終わりは大切なポイント。

Naniwa Saxophone 16 Basic


<知識>

テヌート

<知識>

スタッカート

Naniwa Saxophone 17 Basic


<知識>

サクソフォン奏法

ビブラート

Naniwa Saxophone 18 Basic


3.基礎練習と練習⽅法

Naniwa Saxophone 19 Basic


4.各楽器の特性・役割

吹奏楽において、サクソフォンは
ソプラノ、アルト、テナー、バリトンの 4 本が一番多く使われます。
それぞれの楽器の特性、役割を理解しましょう。

【アルトサクソフォン】
アルトはサックスの基本です。アルトの最低音から最高音まで均一に、ストレスを最小
限にして吹けるようにすることを心がけましょう。楽器の構造も他のサックスより完成
度が高く、バランス良く設計されていると思います。ロングトーンである程度音がまっ
すぐのびて安定してきたら、全音域の音階練習を多く取り入れて、まんべんなくこなせ
るようにしておくことが一番大事です。音楽の役割としても、特にアルトは低音から高
音まで幅広さを求められます。

【テナーサクソフォン】
テナーはアルトの低い音域より更に低くなりますが、楽器本体が太くなっている分、響
きもその分多く含んでいる感じですね。音楽の中で豊かな響き作りの役割を与えられる
ことが多いと思います。ですから、テナーの場合はアンブシュアをあまり固くしめすぎ
ず、楽器本体が持つ響きを生かせるように吹くことがコツです。アルトで言えば、低音
域を柔らかく豊かに吹くときのアンブシュアと息の方向を心がけてください。その上で、
アルトよりも上の歯の位置が深くなるとバランスがとりやすくなります。
また、テナーは基本的に第 1 オクターブあたりの響きの豊かさを求められることが多
いので、その辺りの音域を聴く耳を持ちましょう。ヘ音記号の五線の上のほうの音域が、
豊かに柔らかく響けばテナーサックス本来の味が出ると言えます。そしてその響きを意
識したまま高い音域にいけば良いでしょう。テナーの高音域は、少し音程が下がり気味
になることが多いと思います。中低音の響きを生かしつつ、高音域の音程が下がらない、
良いバランスで吹ける息の入れ方とアンブシュアを自分で研究して見つけましょう。

【バリトンサクソフォン】
バリトンは

Naniwa Saxophone 20 Basic


バスラインを担当することが多いので、ヘ音記号の下第 2 線のドの音(バリトンの最低
音)まで普段から出しておくことが大事です。
アルト、テナーに比べ、アンブシュアの圧力はもっと柔軟性が必要です。少し柔らかく、
あまり強くくわえすぎないことが響きを消さないポイントです。バリトンに慣れない人
は、アルトサックスを吹くような感じで吹いてしまうために、全部の音が詰まってこも
り気味になっている場合があります。それはアルトと同じくらいのアンブシュアの力で
リードをしめすぎているからだと思います。また、バリトンは第 2 オクターブのレ(実
音 F)のあたりの音程が非常に上ずりやすいので、口の中を細く、速い息で吹くのでは
なく、むしろ「フォ∼」というようなイメージで暖かい息でしっかり響かすと音程も上
がりにくいし、締まった音になりにくいです。

まとめ

楽器の音域が高いほうは速い息でアンブシュアもしっか

り、低いほうはアンブシュアに柔軟性を持ち、リラックス

して息の通りも太くする。

それぞれの楽器ごとにアンブシュアの浅さ・深さや、強

い・弱いをコントロールするのがポイントだと思います。

ソプラノ、アルト、テナー、バリトン。すべて同じ サクソフォン なのに、それ


ぞれの楽器が本当に奥深く、全然音の方向が違います。

それぞれの魅力や特徴を知り、本当の音に耳を傾け、自分の思い通りに楽器を操る(ま
るで魔術師のような)演奏ができるようになると、表現の幅がグンと広がってきます。

Naniwa Saxophone 21 Basic


5.楽器(マウスピース、リード)のケア

Naniwa Saxophone 22 Basic


6.備考欄

Q&A 須川展也

教えること、教わること その 1

僕が教育者としての立場で考える、教えることの究極は「生徒が何が何でもやる気になるよ
うにしてあげる」ということだと思っています。練習したくてしょうがない、レッスンに行
くのが楽しみで仕方ないっていうくらいのものを生徒に与えたい。自分から好奇心を持っ
て、どうやったらいいかを能動的に求めていけるようなアドバイスをしなければなりませ
ん。

そうは言いながら、やっぱり僕もレッスンでつい「練習して来い!」なんて強制するような
ことも言ってしまいます。練習しろと言われてしたものは、受動的です。そこをどう、能動
的にするかが大事なところですね。

具体的に、まずは「こうしたら音がラクに出る」といったアドバイスをします。音がラクに
出せたらそこに使う神経が少なくて済むので、もっと音楽に集中できるでしょう?と。また
「セッティングが間違っているなら練習量を増やしても意味がない」ことや「環境の悪いと
ころで練習しても自分の実にならない」こと、
「吹いている姿勢が悪かったら身体を壊すし、
上手に身体を使わないといい音は出ない」こと、この 4 項目は教える時の最初のポイント
と考えています。いい練習をするための環境作りを手伝ってあげる。まず、即実感できるこ
とをアドバイスすることで、多くの生徒は「練習したい!」と思います。そうして練習に熱
が入るようになった時に、楽器の奏法について、自己流になってないか……自分はそれでい
いと思っていても他人が聴いたら決してよくないこともありますし、目的にそぐわない練
習をしているなら正してあげます。

また、こちらは音楽経験が長い分どう演奏したら効果が得られるかが解っているので、それ
を具体例を示しながら導いていきます。以前このコラムでも紹介しましたが、 音楽におけ
る音の方向性 ですね。これが一番大事ですから、自分が実際に吹いてみて理解してもらい
ます。実感すれば、他にも応用が利きますからね。
「ここはこうしなさい」
「次はこう吹きな
さい」というふうにピンポイントにやってしまうと、その場は解決しても、同じようなこと
が少し先に出てきたときにはもう 0 に戻ってしまう生徒が多い。ですから、
「ここは」では
なく、「こういう場合は」というふうに指導します。曲の場合、同じ動きが続いた時多くの

Naniwa Saxophone 23 Basic


作曲家は変化を求めていることが多いですから、2 回目や 3 回目は 1 回目を踏まえた上で
変化をつけてみるように言います。音色を変えてみる、大きさを変えてみる、そういう具体
例をアドバイスしていき、生徒が「ハッ」とひらめいた顔をしたとき、僕は「しめしめ」と
思うわけです。

とは言え、いつもすんなりこの状態に持っていけるわけではないのが難しいところ。教える
には、同じことを 10 回言ってようやくインプットされるだろう、くらいの忍耐力も必要な
んです。繰り返し同じことを言ってあげることによって生徒に自覚させる。自覚した時点で
生徒の中ではその言葉が実感に変わり、それが実になり、楽しみになる。この 4 つのプロセ
スを踏めるようにするのが、教えることの理想だと思っています。僕も学生時代、先生に何
度も同じことを言われ、苦しんで手に入れたことは今でもしっかり持っていますし、逆にそ
の場しのぎでできるようになったことは、すぐにできなくなってしまいました。音楽に一夜
漬けは効かないということですね。

とは言え(笑)、たくさんの生徒を教えていると僕も前回のことを忘れてしまったりするこ
とがあるので、定期的に来る生徒にはレッスンノートを持ってきてもらって、レッスンの時
に言ったことを走り書きしながら教えます。次のレッスンでそのノートを見て、今何に取り
組んでいるのかを振り返り、続きに入ります。このレッスンノートは僕のためにもなるし、
生徒が普段練習する時の道しるべにもなります。さらに、僕の元を離れて独り立ちした時に
でも、何かに迷った時にはきっと役立ててくれているだろうと思っています。そう思うとも
っとキレイに書かなきゃいけないという反省もありますが、その辺はまあ、レッスンの臨場
感が残っていていいんじゃないかと……思いたいですね(笑)。

この他には、曲を教える時には毎回細かいところばかりを突っ込まないようにとも思って
います。どんなに練習が足りてなくて指が回っていなくても、1 曲を通すレッスンをする日
も作ります。なぜなら、部分のことだけにこだわると全体を見失ってしまうことがあるから
です。やはり音楽というものその全体で表現するわけですから、一部分にこだわりすぎると
全体のバランスが崩れてしまうことがあります。点の部分と全体の部分。これを両立させて
教えているつもりです。

最終的には、生徒がいろんなことを思い描きながら練習できるようになってくれること。最
初に戻りますが、能動的に練習し、それが楽しいと思えるようになってくれることを、僕は
教育者として一番に願っています。

Naniwa Saxophone 24 Basic


教えること、教わること その 2

僕が教える時よく生徒に言うのは、
「レッスンは毎回本番だと思うように」ということです。
レッスンで先生に聞いてもらうのは 1000 人のお客さんの前で吹いているのと同じ、疑似本
番だと思って臨んでほしいと。僕は、ある程度の技術に達した生徒の場合は、レッスンの冒
頭は何も言わずに一通り演奏を聴くようにしています。本番さながらに演奏してもらい、そ
れを受けて足りないところをアドバイスするんです。そうすることで、レッスンの中身は濃
いものになりますからね。ですから、教えてもらうほうとしては、先生に会う前にレッスン
で何をしたらいいかを 予定 しておくことが大事です。習うほうにも準備は必要です。1 対
1 のレッスンであれば、本番さながらに演奏して先生に聞いてもらうというのも、相当な準
備が必要ですね。先生はその気合いを感じて様々なアドバイスをしてくれるのです。

吹奏楽の合奏やアンサンブルのグループレッスンの場合は、指揮者・指導者が何をしたいの
かを探るアンテナを持っておくと、練習が楽しくなると思います。ポイントは、他の人が注
意されて指導を受けているときにもきちんと耳を傾けること。何のためにそこを注意して
練習させているのかを考えてみましょう。例えば合奏だとして、縦の線が合わないから何度
も練習しているのか、ニュアンスが足りないのなら具体的にどのようなことをやってほし
いと言っているのか。指揮者は本来、一人一人のできるできないを見ているのではなく、音
楽全体を考えて指導します。指揮者がその音楽で伝えたいこと、そのイメージに近づくよう
に、同じフォルテでも「この楽器は大きく、この楽器は少し控えめに」ということや、同じ
タンギングでも「ここは堅く、こっちは堂々と」
、また楽譜に書いてなくても高揚感を出す
ために微妙なクレッシェンドをつけてみようというようなアイデアを、練習中に指示して
くるわけです。ですから、他の楽器への指導だとしても、彼らが何を言われているのか、そ
れは何のためなのかを考える「心の余裕」を持って臨んでみましょう。だんだんと曲の全体
像が見えて結果的には自分のためにもなるはず。そして自分はどうしたらいいのかを自ら
考えることができたなら、これはもう教わるほうの鑑ですね!

とはいえ、これは理想論であってなかなか難しいかもしれません。先生にもいろいろなキャ
ラクターがありますしね。怖い先生、優しい先生。でも、知っておいてほしいのは、どんな
先生も生徒が少しでも上手くなる手助けをしたいと思っているんです。レッスン中に生徒
の中に「探求心」がかいま見えれば、先生のほうにも情熱がふくらんできます。しかしなが
ら、教わるほうもその日の体調や心の状態によって毎回良い状態で臨めるとは限りません。
どうしてもレッスンに行きたくないという日もあると思います。そうすると引っ込み思案
な演奏になり、ますます先生が怖くなる……といったスパイラルに陥ってしまった人も見
かけます。それを乗り越えるには、
「結局、誰のために演奏するのか?」という初心を思い

Naniwa Saxophone 25 Basic


出すことです。コンサートだったら、せっかくの時間を割いてきてくれる人に楽しい思いを
してもらいたい、そのために上手くなりたい、だからレッスンを受ける。苦しくなったら、
本番でお客さんからもらった拍手を思い出して、その拍手をもっとたくさんもらうために
はどうしたらいいかを考えるところから始めたらどうでしょうか。

先生が好き、嫌い、性格が合う、合わないという人間関係の根本的な問題もあるかもしれま
せんが、先生は皆、生徒が少しでも上手くなることが一番の喜びであるはずです。先生に本
気の演奏を聴いてもらっていいアドバイスをもらおうという態度で臨み、
「よーし!それだ
け練習してきたんならいろいろ教えてやるぞ」と、先生のモチベーションを上げることがで
きたら素晴らしい。さらに、ただ先生の言うことを「ハイ、ハイ」と聞いているだけじゃな
く、
「ここが疑問なんですけど、教えてください」というように、
「先生はどう考えているか」
を積極的に質問してみるのもいいですね。僕なんかはそういう質問があるとすごく張り切
って、ついおしゃべりになってしまいます(笑)
。先生が何か言ってくれるのを待つだけじ
ゃなくて、先生をうまく「頼る」んです。そのためには、きちんと練習して自分なりの疑問
点が持てるように準備しなければなりませんよ。

前号でお話したように、もともと先生側は生徒のやる気を起こさせるレッスンをしようと
準備しているのです。一方通行ではなく、教える側、教わる側の情熱が上手く合わさってい
けば、とても充実したレッスンになるでしょう。人間同士ですから、先生と生徒という立場
に縛られることなく、
「自分よりも経験が豊かな人から学ぶ」と思ってコミュニケーション
していけば、さらに楽しい音楽作りができると思いますよ!

Naniwa Saxophone 26 Basic


良いパートリーダーって??

今度最上級生になり、パートリーダーに選ばれました。でも私は、
パートのみんなに指示を出したり、注意するのがとても苦手なんで
す。 偉そうに と思われるかもしれないと……。どうすれば、良いパ
ートリーダーになれるでしょうか。

まず、リーダーという役割を与えられたことは、あなたのこれから
の人生に大いに役立つ良い勉強になると思います。何人かの人が集まり、一つのグループと
して活動するとき、その人たちをまとめるには、どう指示を出せばみんながその気になり、
動いてくれるのか。そのグループを形成する人たちがどんな性格の持ち主なのか、何を目指
しているのかによって、指示の出し方は変わりますから、模範的な解答はありません。もち
ろん、吹奏楽部のパートだけでなく、グループで活動することは社会人になって仕事の上で
も外すことはできませんから、人生勉強としていろいろと試してみて、悩んで、考えて、大
いに苦しむことで勉強になると思います。それは一つ乗り越えれば次にまた新しい問題が
起き、悩み、考え……人生はこうしたことの繰り返し。というとなんだか絶望的のように思
えますが、それを乗り越えたとき、うまくいったとき、みんなで立てた目標に到達できたと
きの喜びは、悩んだ日々を吹き飛ばすくらい素晴らしい経験になるのです。その達成感を得
るために、人は悩み、苦しみ、努力するんですね。

そういう意味でも僕は、人一倍努力しなければならない立場のパートリーダーさんを応援
していますが、実際どうすればよいのでしょうか? パートリーダーは練習の計画を立て、
パートのみんなを招集して実践しますが、音楽的なことにまで指示を出すと、不具合が生じ
ることが多いんです。なぜなら、パート練習は全体合奏のための下練習だから。バンド全体
の音楽は、顧問の先生や指揮者の方がまとめて作っていきますよね。ですからパートリーダ
ーは、合奏の時に先生(指揮者)が何を言っていたか、 サックスセクション に求めたこと
は何だったか、もっと具体的に「これをやっておきなさい」と指示されたならばその意味を
きちんと理解して、パート練習を効果的に進めることが大事なんです。

以前僕はこのコーナーで「パートノートを作るといいよ」と言いました。毎日の練習で何を
やったか、何ができるようになったか、起きた問題などを書いていくノートです。そのノー
トに、先生から言われたことを箇条書きにしておいてパート練習の時に持って行き、
「先生
はこういうことを要求されたので、今日はこんな練習をしませんか?」というふうに進めて
いけばよいと思います。合奏とパート練習はリンクしていなければ効果的ではありません
からね。実はこのあたりが、たくさんのパートリーダーが誤解しているところだと感じま

Naniwa Saxophone 27 Basic


す。バンドのサックスセクションは、あくまでバンドの中での自分たちの役割を全うするべ
きですから、パートリーダーの好みで勝手に演奏を変えてしまうわけにはいきません。逆に
言えば、音楽的なことまで指導するのがパートリーダーではないのです。

「じゃあ、ただの伝達役じゃないか」と思った方もいるかもしれませんが、そうではありま
せん。
先生の要求に応える演奏ができるような練習の仕方を考え、結果を出さなければいけない
のですから、やはりとても重要な役割と言えます。

例えば……「細かい動きをそろえなさい」と言われれば、メトロノームを少しずつあげなが
ら全員で根気よく練習するのがいいのか、その前に個人練習をしておくほうがいいのかを
考えます。
「音程を合わせなさい」と言われれば、音程を合わせる方法を知っておかなければ、パート
リーダーは務まらないでしょう。

「じゃあ、自分がやりたい音楽はできないの?」そんなことはありません。サックスだけで
アンサンブルをする機会があれば、自分のやりたい音楽をアイデアとして出しながらパー
トだけで音楽を作っていく場面もあるでしょう。これはとても楽しい機会であって、前述し
た「達成感」を得やすい場面であると言えますね。また、これは中高生にはちょっと難しい
と思いますが、指揮者の要求する音楽がどうしても理解できないとサックスセクション全
員の意見が一致した時には、代表して指揮者と話し合いをするような場面もあるかと思い
ます。

それから、パート練習は曲だけでなく基礎練習もやりますが、そのメニューを考えるのもパ
ートリーダーの役目ですね。いつもやっていることをただ慣例的にやるのではなく、いまパ
ートにとって必要な練習を考えて取り組んでいくのです。そしてメンバーひとりひとりが
どれくらい吹けるのかを把握して、成長のための助言などもしてあげなければなりません。

口で言うのは簡単だけど、実際にやるとなると難しく、とても悩んでしまうと思います。一
人で抱え込まずに、先生やほかのパートのリーダーと相談しながら、ポジティブに取り組ん
でくださいね。立ち止まってしまったときは、「なぜサックスを吹いているのか、初めて音
が出たときの感動」を思い出して、好きな音楽のために前を向いて歩きだしてください!
そして最後にひとつ、
「THE SAX」という雑誌を読んで勉強し、僕のコーナーにこうした質
問をされるくらい真剣に考えているということは、あなたはすでにとても良いパートリー
ダーだと思いますよ!
頑張ってください。応援しています。

Naniwa Saxophone 28 Basic


「もう一歩進んだ合奏術を身につけよう」

サクソフォーンの音は、発音してから息を吹き込むと音がどんどん響いて広がっていきま
す。同じ音量で吹いているつもりでも、音がフワーンと広がって、聴覚的には後から膨らん
でいるように聞こえる。そうすると、アンサンブルにおいて誰かがメロディを吹いた後に入
ってくる人は、音が膨らんでいるからさらに大きい音で入ってこなければなりません。その
後に入ってくる人はまたさらに大きく、次の人はまたさらに……、そして結局、常に大音響
になってしまう。
「サックスは音が大きい」と言われますが、「大きい音 も 出る楽器」だと、僕は思ってい
ます。 主張するべきところは主張し、他の人にメロディを渡した後の音量は思っている半
分くらいでもいい。例えば、メロディの後ろで音を伸ばしている時。普通に吹くだけでは音
が拡散して大きく聞こえてしまうので、伸ばし始めたら少し静かに、ディミヌエンドするく
らいの気持ちでいるほうがうまくいくと思います。 僕は現状、むしろ反対になってしまっ
ているケースが多いと感じています。特に、普段あまり響かない部屋で練習していて本番を
迎え、広いホールで吹くときの気持ちよさはたまらないものですが、そこであまりの気持ち
よさに全員が朗々と吹ききってしまうと……結果はどうなるか、おわかりでしょう。
アンサンブルで、自分がメロディを吹いているときはある程度主張してもいいですが、まず
は長い音符を少し小さく吹くこと。長い音符を吹きながら、他でメロディを吹いている人た
ちを、自分で意識して聞けているかどうか。1 曲の全体像はみんなで作り上げていくもので
すから、一番のクライマックスで力を抜くことはないと思いますが、全体のバランスを立て
直すことで、全体のメリハリ、印象ががらりとかわってきます。
もうひとつ、サクソフォーンの難しいところは、音が出る瞬間。発音です。ソロを演奏する
ときは発音をデリケートに、タンギングのノイズが聞こえないようにと、我々は習うし、教
えます。ただ、アンサンブルにおいては、そこがデリケートになりすぎているばかりに音の
頭がモヤッとしてしまうことがすごく多いと感じます。ステージでお客さんとちょっと離
れてしまえばタンギングがちょっと堅めに入ったとしてもあまり気になるものではありま
せんから、ソロ(ピアノ伴奏含め)のときとアンサンブル(サックス属だけ演奏する)の時
の発音方法は、少し変えてみてもいいと思います。ある程度クリアに、やさしいメロディで
あっても、思っているよりも少し大きくハッキリめに発音するほうがいいでしょう。その音
が鳴って、自分がメロディの中心になったなと判ったらスッと弱めにする。そうしたとして
も、もともと小さかったように聞こえる
これは吹奏楽にも共通することですが、よくあるのは f で「バン!」と鳴らした残響がある
中に静かなメロディが入っていく場合。p という表記通りに小さくデリケートな発音で入っ
ていったら、頭の音は残響に負けて絶対に聞こえません。コツとしては、「バン!」という

Naniwa Saxophone 29 Basic


f の後に、新しいメロディは自分に移りましたということを少しハッキリと聞かせて、すぐ
に p にする。そうすると、聴衆に対してメリハリがつくことに加え、一緒に演奏している
メンバーの耳も新しいメロディに傾き、伴奏もデリケートになってくるというわけです。こ
のようにテクニックとして工夫すべきじゃないかなと思います。
あとは、音楽の種類をわかりやすくするために音の処理の仕方をそろえることです。音の止
め方、響かせ方をそろえることによって、音楽のジャンルも変わって聞こえます。
長い音の扱い方、発音、音の処理。この 3 つの項目をテクニックとして覚え、まずはアンサ
ンブルの骨組みを作ってみてはいかがでしょうか。メロディがどこに移ったか、何が伴奏か
を明確化してやりさえすれば、その後は音楽の内容に沿った音量調整をしていけばいいと
思います。
「小さく吹いたら聞こえない」と思うから大きく吹くのではなくて、
「聞こえさせ
た」あとに小さい音にする。こういったことがサックスアンサンブル全体の上達に繋がると
思います
我こそは!と積極的に取り組むのはいいことかもしれないし、豊かな響きがサックスの魅
力であるのは確かです。ただ、そればかり主張しては「もうお腹いっぱい」ですよね。その
魅力を一層引き立たせるためにはどうしたらいいかを、いま一度考えてみましょう。

「歌うように楽器を吹く、ということ」

まず楽器を持った時に、「どんなことを伝えたいか」と考えることから始めて
みましょう。音楽は、人間の喜怒哀楽を表現するということが一番大きなウ
ェイトを占めていると思います。作曲家の書いた譜面を自分の言葉にして伝
えることや、自分でフレーズを思い浮かべて即興的に吹いたりすることも、
基本的には何か人間の感情を表したいがためにすることですよね。
ではそれをどうやって楽器で表現すれば?と悩んだら、まずはたった一つの
音でいいので、「怒ったような音」を出してみましょう。次に「泣いているよ
うな音」「幸せな気分の音」「悲しい気持ちの音」……というように、同じ音
でそれぞれ四通りの気持ちを込めて出してみるんです。これが、楽器で人間
の感情を表現し、歌うことの第一歩であり、最終的に音楽の一番大事なとこ
ろに繋がるのです。楽譜を読んで「ドの音だ、次はレの音だ……」というこ
とだけ考えながら吹いていると、つい音の表情を忘れてしまいがちです。
一つの音に感情を込めることができたら(友だちと向かい合って聴き合うと
わかりやすくていいですね)、自分が今練習している譜面のどこか一部分で
いいから、それは曲全体の中でどういう感情のところなのか、ということを
自分なりの解釈で考えてみましょう。幸せかな?困っているかな? まだ高
度な技術を持っていなくても、そう思いながら吹くだけでずいぶんと表情が
つけられるものです。

Naniwa Saxophone 30 Basic


合奏の場合でも同じです。ただまっすぐ音を伸ばす部分があった場合、「ほと
んど聞こえないのでは?」と思ってしまうこともあると思いますが、誰かを
助けているんだと思ってみてはいかがでしょうか。誰かがこの音を頼りに歌
っているかもしれない。そういうふうに、音に感情を込めることを実践して
みれば、音楽の楽しみは広がっていくと思います。
音楽というのは、一人で演奏して喜怒哀楽を任されることもありますが、仲
間とアンサンブルすることも多いですよね。そこでは、喜怒哀楽に加えて人
間関係という、すべての社会が成り立っているコミュニケーションをはかっ
ていかなければなりません。「今自分はどんな役割?」。例えばメロディを支
えているのか、全体の中でリードを取っているのか。そう考えを巡らせれば、
すべての音に意味を感じられると思います。そこが、音楽をやっていく上で
一番大事なことなんじゃないかと思います。
自分の役割が解ったとき、そのためにどんな感情の音を出したらいいかを考
えると、それがだんだん楽しくなってくると思います。そのためには技術も
必要になってきますから、ロングトーンをしたり、タンギングの練習をした
り、そういったことが必要になります。
なぜ基礎練習をするのか?の逆転的な発想とも言えますが、やるからには必
要性やその先の「楽しみ」を知っておきたいですよね。すべてのサックスを
愛する皆さんが、歌うようにサックスを吹いて自分自身の心を表現してくだ
さることを願っています。

「あこがれの気持ちを持ってポジティブに練習しよう!!

特にフェルリングのエチュードは、 エチュード ですから細かい部分が難し


く、僕は初心に返って必死に演奏しました。エチュードって勉強するための
ものだから、 忍耐 というキーワードが思い浮かんでいたんですが、ピアノ
パートが付いた今回の出会いで「こんなに美しいメロディだったのか」とい
う再発見がありました。もちろん、人それぞれの解釈があるので「こういう
伴奏じゃないほうがいいな」と思う人もいるかもしれませんが、これも発想
のひとつだと思って取り組んでいただけたら嬉しいですね。
「練習しなさい」と言われて練習しているうちは苦痛が伴いますが、「楽しい
な」
「素敵だな」と感じてから練習に取り組めば、ポジティブに進んでいける
と僕は思うんです。上手くなるためには、プレッシャーを感じたり悩むだけ
じゃなく、楽しいと思って自分からチャレンジしてみる気持ちが一番大事で
す。よく、
「どうしたら良い音が鳴りますか?」とか「どうしたら上手くなり
ますか?」などの質問を受けますが、それにはまず「自分の好きな音」を作

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ること。
「こういう音を出したい」とか「こんなふうにスムーズに吹きたい」
というようなあこがれの気持ちを持って、それに自分から挑むことが、上達
への第一歩だと思います。
今回僕は、このレコーディングに一週間取り組んだ中でくじけそうになった
時もありました。体力的にも精神的にもキツいスケジュールでしたが、美し
いメロディ、楽しいリズムに励まされながら、とても良いものが残せたと思
います。これを聴いたみなさんがちょっとでもサックスを好きになって、目
標にして、上手くなっていってほしい。そんな思いで自分を励ましながら乗
り越えました。

「合わせの醍醐味とは?」

基本的にオーケストラ、吹奏楽などは指揮者の合図で音の始まりやニュアンスを合わせて
いきますが、管楽器は、その合図に加えてブレスが大切な合図になります。そこを合わせる
ことが、出だしを合わせるための極意であり、同じ感覚で音楽を創り上げていく、言わば
「合わせの醍醐味」と言えるでしょう。

皆さんは初めて人と合わせたときに、
「せーの」などの合図を出しても合わないという経験
をたくさんしていませんか?それは目で見る合図だけで合わせる難しさを体験する最初の
機会だと思います。音を出す前に少し動いて音を出す人もいますし、ほとんどわからないく
らい少しの動きで合図を出す人もいます。
「ここで音を出したい」と思っても、そのテンポ
で前の動きに合わせて全員が出ることは、やはり難しいものです。
「せーの」
「さん、はいっ」
とやったときに、自分はそのテンポで動いているつもりでも他人にはその通りに動いてい
るように見えなかったりする。それがズレる原因です。それでズレてしまうから、何とか伝
わるように合図しようと思って大きく力を入れると、余計に体の動きが不自然になって合
わなくなる。みなさん、そういう経験をされているでしょう。

でも、この「何で合わないんだろう?」という経験をすることが成長の一歩なんです。原因
を考えてみると、体の動きで表そうということ自体、管楽器では難しいんですね。息の吸い
方、楽器の大きさや形によっても体の動きが微妙に違ってくると思います。

ではどうすれば良いか。ここで出てくるのが「ブレス」の重要性です。ブレスの取り方も厳
密に言えば一人一人違いますが、その曲のテンポに合わせて吸うという作業は、だれでも同
じタイミングになると思います。

吹奏楽やオーケストラなど、指揮者がいる場合は、指揮者が予備の拍を出したときに一緒に

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息を吸って、その指揮者の棒が動くタイミングと同じイメージで息を吸えるといいですね。
でも、そうやっているつもりでもなかなか合わないということがあるでしょう。その原因の
ほとんどは、曲の最初の音を出すとき、黙って体を止めて待っていて、指揮棒が上がった瞬
間に息を吸って吹くからその前に体が固まってしまうんです。良いブレスも吸えず、その後
も乱れてしまいます。

その場合、曲の出だしは、指揮者が合図するもう 1 拍前を感じてみてください。つまり、音
が出る 2 拍前で息を吐いて、1 拍前で指揮者と一緒に息を吸う。4 拍子の曲ならば、
「1∼
2→準備、3→吐く、4→吸う」ということができれば、ほとんどの場合魔法のように音が合
うんです。

息を止めて、体が固まっている状態で息を吸うということは、息が入ったつもりで実はうま
く入っていないことが多い。特にコンサートの本番などは、緊張して体が硬くなり余計に息
が入らないことが多いですね。そうすると乱れてしまいます。ですから指揮者がいる場合は
「さん(吐く)、はいっ(吸う)」のタイミングで息を吐いて吸う。最初にそれができるとい
いですね。

その応用で、普段演奏や練習をするときに、最初は「息を出して吸う」ことをインテンポで
やっておくと、直前で息を吸うポイントを自分で自然に身に付けることができます。テンポ
の中で音楽のニュアンスに合わせてブレスを吸うということが一番大事なことなんです。

また、音を出す 2 拍前で息を吐くと身体がリラックスしますよね。リラックスしたらその
後、自然に息がたくさん入ります。そうすると人間の体は自然にそのまま、そのテンポでい
いように跳ね返って息が出てくれる。ブレスで予備のリズムを作っておくことによって良
いリズムができる。それは合奏の練習などでやってみるといいでしょう。絶対効果テキメン
です。

1 拍前で息を吸うという感覚を覚えると、フレーズの途中で息を吸うときもその吸い方がで
きるようになります。曲の最初や長い休みの後などは、2 拍前で吐いて 1 拍前で吸うという
ことを普段からやっておくと良くなります。

これは、合わせる人数が 4 人だろうが 8 人だろうが 2 人だろうが、実際は全部同じなんで


す。リーダーの人が一応体で合図を出しますが、やっぱりそのときに一緒に息を出して吸
う。これが一番大切ですね。

ピアニストと演奏するときも同様です。ピアノは息を使わなくても弾けますが、良いピアニ

Naniwa Saxophone 33 Basic


ストは音楽の流れで常にブレスを取っています。一緒に息を出して吸うという動作をする
と、今までよりも合いやすくなるでしょう。

セクション練習が必要な時とは

この練習の形で効果を発揮する内容はいくつかあります。

例えば、サウンドバランスを作るための基礎練習。
「金管セクション」という大きな集合体
での音色や音量、響き(ピッチやハーモニー)といった基礎的な内容を作ったり確認するこ
とはとても大切です。
全てのメンバーの楽器が「鳴っている」状態で演奏できているか、フォルテやピアノでの美
しいバランスが保てるか(鳴らしすぎる人や鳴っていない人がいないか)、ハーモニーは美
しいか(ピッチにこだわりすぎず音色に対するイメージ、息のスピードが統一されている
か)、そういったことを前回までの記事「パート練習」と同じように予め目的や目標を決め
て練習する時間を持って下さい。

この練習は、可能であれば少しの時間でも良いので毎日(毎回)行えると良いと思います。
何か一つの目的、目標を定め、みんなで評価し合ってクオリティを高めていく、そんな時間
になれると少しずつかもしれませんが確実にレベルアップをしていきます(ただし、習慣に
なってダラダラやってはいけません)。

セクション練習というのは、とにかく人数が多いです。そのために「まとめ役」がいないと
収拾つかなくなる恐れが出てきます。要するに何だかわからなくなってしまう時間になる
ということ(大人数の金管アンサンブル(8 重奏や 10 重奏など)を頻繁に行っている団体
なら奏者だけで形にできるかもしれませんけどね)

ですので、これくらい規模が大きい練習の時には、指揮者や指導者など奏者以外の人が存在
したほうが効率的です。
そういった人がいれば、今練習している楽曲のどこをセクション練習で行えば良いか的確
にアドバイスや指示をしてもらえます。

したがって「金管楽器なんだから金管全員でやればいい」といった安直な発想で楽曲を作り
上げたりまとめていくセクション練習を行わないようにしましょう、ということです。金管
セクションで練習する必要があるから行うのだ、という何かしらの「意味」や「目的」を持
っていることが必要です。

Naniwa Saxophone 34 Basic


セクション練習は短時間で効率的に

セクション練習で曲作りを行う時に限って言えば、長時間ダラダラやらずに合わせる箇所
をピンポイントに絞り、集中的かつ短時間で行うほうが良いと思います(合わせる楽曲にも
よります)。
また、当たり前のことではありますが、参加する全員が個人練習やパート練習でしっかりと
完成させていなければセクション練習の意味はありません。譜読みができてない人がいた
り、苦手な箇所を克服していない人がいる状態では、ただ足を引っ張られるだけになってし
まいますから、行う時期というのも考慮しないといけませんし、逆に「セクション練習をこ
の日に行います!」と予め決めておき、その日を目標に個人、パートで完成させることも必
要だと思います。

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