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日本教育工学会研究報告集 JSET2023-2-B11

「思考・判断・表現」を意図した記述課題の採点と妥当性
Grading and Validity of Written Assignments with "Thinking, Judgment, and
Expression"
-情報Ⅰの授業における実践研究-
- A Case Study on Class of InformaticsⅠ -

時任 隼平
Jumpei Tokito

関西学院大学高等教育推進センター
Center for the Study of Higher Education, Kwansei Gakuin University

<あらまし> 本研究の目的は, 「思考・判断・表現」を評価するための短答自由記述課題


を対象に, 「1回の授業で完結可能な思考・判断・表現の育成を目的とし学習課題の評価と
その妥当性を検討する」事である.具体的には,私立 A 高等学校の情報Ⅰの授業を取り上
げ,40 名を対象に行った短答自由記述課題の評価結果とその結果の妥当性に関する教員の
自信について,データ収集を行った.その結果,表現の抽象度によってルーブリックでは捉
えきることのできない箇所が明らかになった.

<キーワード> 高等学校教育 情報Ⅰ 観点別評価 思考・判断・表現 妥当性

1. 研究の背景 である.西岡(2020)の事例のように単元を通
新学習指導要領の実施に伴い,2023 年度現在 して学習活動に取り組み,生徒が十分な時間を
の高等学校教育では,観点別学習状況の評価の かけて行う学習活動を評価する方法に加え,今
実施が始まっている.具体的には,新学習指導 後はより効率的に労力をかけすぎに観点別評価
要領に示された育成すべき資質・能力の「知識 をする方法も必要になると考えられる.そこで,
及び技能」
「思考力・判断力・表現力」
「学びに 本研究では高等学校の情報Ⅰの授業における
向かう力,人間性等」について,観点ごとに評 「思考・判断・表現」を評価するための短答自
価し,学習状況を分析的に捉えることが求めら 由記述課題に着目し,研究の目的を「1回の授
れている(文部科学省国立教育政策研究所教育 業で完結可能な思考・判断・表現の育成を目的
課程研究センター 2021)
. とし学習課題の評価とその妥当性を検討する」
一方,高等学校教育においては,かねてから に設定した.
初等教育や中学校教育に比べ,観点別評価が十
分に行われていないことが指摘されてきた(例 3. 本研究が対象とする事例と課題
えば,株式会社浜銀総合研究所 2018)
.そのた 3.1. 対象とする事例
め,西岡(2020)や田中(2016)など多様な教 本研究で事例とするのは,私立A高等学校(以
科における観点別評価の実践が行われ,これま 下,A 校)の情報Ⅰの授業である.本授業の受
で様々な知見が蓄積されてきた. 講生は1年生約 400 名であり,9クラスに分か
れて2単位で授業が展開されている.
2. 問題意識と研究の目的 具体的には,2023 年度1学期の授業からデー
本研究の問題意識は,現在取り組まれている タを収集した.1学期は,全 18 回の授業で構成
観点別評価は,評価にまとまった時間と労力が されており,第1回~第 10 回はタイピングの
必要なパフォーマンス課題を対象としたものが 練習やアプリケーション(Word や PowerPoint
多く,1回の授業で時間と労力をかけすぎずに 等)の操作方法に関する練習,第 11 回目以降は
観点別評価を行う方法が,検討されていない事 著作権に関する講義と動画制作の実習を行って

─ 162 ─
表1 第 11 回~第 18 回の授業内容 分の意見」と「他者の意見」の記入を行う前に
は,ペア・グループでの話し合いの時間を設け
回 授業内容
た(項目1,2)
.その後,教員による解説を行
11 講義「知的財産権/肖像権」
た(項目3)

12 講義「ネット関連の法令違反」
下記項目については,本時のまとめとして授
13 企画書・絵コンテ作成
業終盤に自由記述での回答を求めた.
14 動画素材の収集,編集
項目4:知的財産について新しく知ったこと
15 動画の制作
項目5:作品制作時に知的財産権の観点で気
16 動画の制作
を付けようとおもったこと
17 動画相互評価
項目6:他者と意見交換できたか
18 まとめ
項目7:他者の意見を聞いて新たに気づいた
いる.本研究では,第 11 回~第 18 回授業を研 こと
究対象期間とした.表1は,第 11 回~18 回の 本学習課題(7項目のワークシート)を記入
授業内容を示している.第 11 回授業では思考・ する際には自由記述の欄を制限し,授業時間内
判断・表現力の育成を意図した記述式課題が課 に提出可能・短い時間での評価が可能なものと
され,その内容を通して講義で得た知的財産権 した.本研究では,これら7項目の中でも,項
や法令関連の知識がそれ以降の動画編集に活か 目5の評価を中心に取り上げ,ルーブリックを
されることを目指した. 使った評価の結果と,評価結果に対する教員の
3.2. 本研究における研究者の位置づけ 妥当性の感じ方について分析を行った.表2は,
著者は A 校全体のカリキュラムアドバイザー 担当教員が自由記述課題の採点のために用いた
として関わっており,本研究の対象となる授業 ルーブリックである.全7項目を評価するため
においても授業のアドバイザーという形で関与 に,評価観点は大きくワークシート全体の「記
した.ただし,授業内容や利用する教材,授業 入量」と,
「講義で得た気づきと作品制作の接続」
案自体の作成には介入せず,教員が自己判断で の2つが設定されている.記入量とは,ワーク
作り上げた授業に対して,助言を求められた時 ートの自由記述欄に自身の考え等を十分に伝え
のみ関わる形をとった. るだけの情報量が記載されているかを意味し,
3.3. 対象とする学習課題 最高評価(A:3点)が「すべての欄を埋めて
本研究では,第 11 回授業時に使用したワー いる」であり,最低評価(C:1点)が「2つ以
クシート形式の課題を対象とした.第 11 回授 上未記入の欄がある」という基準が設けられて
業では,
「知的財産権について知識をみにつけ, いる.講義で得た気づきと作品制作の接続は,
権利の侵害にならないような考え方を身に着け 作品制作において授業(講義)の内容から気づ
る.その上で,知的財産権を考慮した制作活動 きを活用しようとすることができるかどうかを
をできるようにする」を到達目標としており, 評価する事を意図している.最高評価(A:3
著作権の目的やその内容,産業財産権との相違 点)が「授業で扱った知的財産権の内容につい
点などを教員が解説し,BGM 利用等に関する て触れ,作品制作時に気を付けるポイントにつ
事例等について検討する講義を行った.授業中 いて具体的に記述できている」であり,最低評
は,生徒に下記項目が記載されたワークシート 価(C:1点)は「授業で扱った知的財産権の内
を配布し,項目に沿って情報を入力するよう求 容について触れていないが、作品制作時に気を
めた. 付けるポイントについては具体的に記述できて
項目1:そもそも権利とは何か いる」あるいは「授業で扱った知的財産権の内
項目2:著作権と産業財産権の違いは何か 容について触れておらず、作品制作時に気を付
項目3:事例~BGM~ けるポイントについても具体的に記述していな
上記項目1~3においては,
「自分の意見」
「他 い」の基準に設定されている.
者の意見」
「教員による解説」の3つの記入欄を 本研究では,学習課題全体の評価及び項目4
設け,授業中に自由記述での回答を求めた.
「自 に対する評価(合計6点)の結果に着目すると

─ 163 ─
表2 担当教員が自由記述課題の採点に用いたルーブリック
評価観点 規準 A(3点) B(2点) C(1点)
記入量 記入欄に十分な すべての欄を埋 1つ未記入の欄 2つ以上未記入
情報が記載され めている がある の欄がある
ている
講義で得た気づ 作品制作におい 授業で扱った知 授業で扱った知 授業で扱った知
きと作品制作の て授業(講義)の 的財産権の内容 的財産権の内容 的財産権の内容
接続 内容から気づき について触れ, について触れて について触れて
を得ることがで 作品制作時に気 いるが,作品制 いないが、作品
きるかどうか を付けるポイン 作時に気を付け 制作時に気を付
トについて具体 るポイントにつ けるポイントに
的に記述できて いて具体的では ついては具体的
いる ない に記述できてい

授業で扱った知
的財産権の内容
について触れて
おらず、作品制
作時に気を付け
るポイントにつ
いても具体的に
記述していない

共に,担当教員のそれぞれの採点結果の妥当性 生徒が最も多く,20 名であった.記述量と項目


に対する自信を5件法でたずね(5:とても自 4の点数を合算した本学習活動の合計点につい
信がある,1:全く自信がない)
,分析を行った. ては,平均が 4.5 点(満点が6点)で,4点を
4. 結果と考察 取った生徒が最も多く,15 名であった.
4.1. 学習課題全体と項目4の評価結果 表4は,評価結果に対して担当教員が評価妥
当日の授業欠席者3名分を除く,計 40 名の 当性について感じる自信を示したものである.
学習課題の評価結果を分析した.表3は,評価 担当教員が評価結果の妥当性について,
「全く自
の結果を示したものである.その結果,記述量 信がない」あるいは「自信がない」と感じた回
に関する平均点は 2.75 で,40 名中 34 名が最高 答件数は0であった.一方,
「とても自信がある」
点の 3 点を獲得する結果となった.一方,授業 に該当する回答は 17 件で,
「自信がある」に該
で学んだ知識と制作する動画の関連付けについ 当した回答は 21 件と最も多かった.この結果
ては,平均点が 1.75 で,3点満点中 1 点を取る
表4 採点結果の妥当性に関する自信
表3 採点の結果
妥当性の自信 該当する回答数
点数 記述量(人数) 項目4(人数)
5 17
0点 1 1
4 21
1点 2 20
3 2
2点 3 7
2 0
3点 34 12
1 0
合計 40 40
合計 40
平均 2.75 1.75
平均 4.375

─ 164 ─
表5 評価結果の妥当性について「3:どちらともいえない」
「4:自信がある」回答内容
2点の評価結果に対して妥当性の自信が4 2点の評価結果に対して妥当性の自信が3
【回答例1】 【回答例3】
(採点結果=2点)
TikTok などで流れてくる動画などでも知的財 音楽などを使う時のルールが少しややこしか
産権が発生すると思うので,そのような動画を ったのでしっかり覚えておこうと思った.で
反面教師として学校での動画作成に取り組み きるだけネットなどを頼らずに自分の力で頑
たいと思います.そして気づかなかったでは済 張ろうと思った
まない問題なのでしっかりと注意していきた
いです.
【回答例2】 【回答例4】
(採点結果=2点)
自分が卒業論文などを書く時に引用した研究 いちばん身近なのは著作権だと思うから,イ
データを使ったり本やネットで読んだ論文を ラストをネットから使う時などはしっかりと
まねる時に知的財産権を侵害しないようにし 引用を示すように心がけたい
ないといけないと思いました.

から,ルーブリックを用いた自由記述の採点結 性に対して「3:どちらともいえない」と考え
果の妥当性について,自信をもっていることが る評価結果が生まれた可能性がある.
うかがえる. 今後は,細分化したルーブリックを検討し,
次に,具体的な採点内容について検討する. 思考・判断・表現を意識した学習活動をより効
項目4の点数が2点だった生徒は,計7名いた. 率的に評価する知見を蓄積していく必要がある.
そのうち,評価結果の妥当性に対する自信につ
いて「どちらともいえない(3点)
」に該当した 5. 付記
のは2件で,
「自信がある」は5件であった.表 本研究は,JSPS(20K14104)の支援を受け
5は,生徒の回答例を示したものである.評価 て実施されました.
の妥当性に対する自信が「4:自信がある」の
例1,2の場合は,評価2の基準である「授業 参考文献
で扱った知的財産権の内容について触れている 株式会社浜銀総合研究所(2018)学習指導と
が,作品制作時に気を付けるポイントについて 学習評価に対する意識調査報告書.
具体的ではない」のうち,作品制作時に気をつ https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/ch
けるポイントについて具体的に言及していない ukyo/chukyo3/080/siryo/__icsFiles/afieldfi
ため,2の評価になっていることがわかる(回 le/2018/09/05/1406428_9.pdf(2023.6.25
答例1の場合下線部)
.一方,評価結果の妥当性 参照)
に対する自信が「3:どちらともいえない」の 文部科学省国立教育政策研究所教育課程研究セ
場合,回答例3,4の下線部ように,動画作成 ンター(2021)
「指導と評価の一体化」の
時の注意点について言及しているものの,抽象 ための学習評価に関する参考資料-高等学
的である事例があった. 校情報-東洋館出版社,東京
つまり,今回対象とした授業では教員が「A 西岡加名恵(2020)高等学校教科と探究の新
(知識)
」+「B(動画制作時の注意点)
」の2つ しい学習評価.学事出版,東京
の内容でルーブリックを構成したものの,今回 田中容子(2016)高等学校におけるパフォー
の場合はBの回答内容が実際には抽象的な場 マンス評価の実践.カリキュラム研究,
合・具体的な場合の2つに分かれたため,妥当 25:91-98.

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