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No264 Tokubetukikaku1
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除染事業による
地域復興支援の取り組み
すがわらかず し
コープふくしま 住宅部 除染チームリーダー 菅原一志氏
東日本大震災による震災被害だけでなく、東京電力・福島第一原子力発電所(双葉郡大熊町)
の事故に伴う、さまざまな被害に苦しむ福島県。コープふくしまでは、組合員や地域住民、
とりわけ将来の福島を担う子どもたちや若い世代の方がたが安心して暮らせる環境を早急に
取り戻すため、除染ボランティアの派遣や除染カーの無料貸し出し、除染事業をスタートさ
せている。この取り組みについて、住宅部・除染チームリーダーの菅原一志氏にお聞きした。
生協としても除染事業(活動)を担うことで
地域の除染の取り組みを後押ししたい
2012年の年明けから、ようやく政府による除染活動に向けた動き
が始まりました。しかし具体的な除染は、思うようにはかどってい
ないのが現状です。
現在、福島県から6万人を超える人たちが、子どもを連れて県外
菅原一志 氏
に避難しています。また、10万人に近い人たちが県内各地で避難生
活を余儀なくされています。中でも、家族が分かれて暮らす「二重
生活」をされている家庭では、蓄えが底を尽き始めている方もいる
と聞きます。もちろんその中には、コープふくしまの組合員も含ま
れています。コープふくしまが除染チームを立ち上げた最大の理由
は、1日も早くこのような人たちの暮らしを元の状態に戻し、ふる
さとに戻れる状態をつくる一助となることです。
とりわけ、将来、福島を担う子どもたちや若い世代の方々が福島
で安心して暮らせる環境を早急につくらなければなりません。しか
し、自治体による除染活動は遅れています。そこで、生協としても
除染活動や事業を担うことで、地域の除染の取り組みを後押しする
ことにつながればと思いました。
除染事業(活動)に取り組むきっかけは、2011年夏ごろまで、具
資料1
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生協運営資料 2012.3 111
◆特別企画1
体的な除染が進んでいないことでした。しかし、地域の除染が必要
なのは間違いありません。「国や東京電力、どうにかしてくれ」と
言ってみたところで、放射能に関わる現実問題は解決しません。や
はり、除染を実践していかない限りは、くらしを取り戻すことに近
づきません。また、行政の対応を待っていたら、いつになるか分か
らない状況もありました。
そこで11年8月に、専務理事と常務理事、それに住宅部の数人に
よる「除染プロジェクト」を立ち上げ、除染事業(活動)の検討を
始めました。翌9月には、専門家に教えていただきながら除染作業
のテストを開始しました。民間での除染事業(活動)が始まれば、
行政などの除染を後押しすることにもなります。ですから、まず始
めることが重要で、「除染のノウハウは専門家から学び試行錯誤し
ながら覚えればいい」と私たちは考えました。
またコープふくしまでは、「除染は地域住民のくらしを取り戻し、
地域経済を建て直すためのとりくみ」として考えています。そのた
めに、専門家、行政、事業者、地元住民、ボランティア、避難して
いる人たちも含めた“オール福島”で一体となって除染を進め(資
料1参照)、元の暮らしを取り戻せる状態を早急につくり出してい
かなければならないと考えています。
生協による除染事業
実際の作業の流れについて
1. まず、正確な線量測定を実施
除染を進める上で重要なのが、放射線量の正確な測定です(資料
2参照)。最近ではインターネットなどを通じて、外国製の安価な
測定器を誰でも購入できます。しかし、これらの測定器の中には、
測定値に大きな誤差が生じるものも含まれています。「高い線量を
示した」とのことで、あるお宅に伺ったところ、そのお宅で使用し
ている測定器は、私たちが使用する測定器の1.4∼1.5倍の値を示す
こともありました。そこで、除染のお問い合わせがあった際には、
県や市が持っている、より正確な測定器での測定をお願いしていま
す。まずはこれで測ってもらい、1時間当たり1マイクロシーベル
ト(資料3参照)を超えているかどうかを確認してもらいます。こ
の値を超えており、除染を希望される場合には、お伺いして、コー
プの測定器で再度測定して、放射線量を確認します。
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資料2
資料3
資料出典:コープふくしま機関紙『協働のうから』No.534(2012/2月)号
2. 施工(除染)は、施主さんの立場にたって
現場を測定し、放射線量の確認が終わりましたら見積書を出し、
施工契約を結ばせていただいた上で、除染に取り掛かります。
費用は施主さんに負担いただきますが、後々に施主さんが行政や
東京電力に費用請求されることも考慮して、放射線の測定データや
除染の写真などをそろえてお渡ししています。
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3. 施工(除染)し、再測定を行なう
施工期間は、一般住宅では1週間が目安です。実際の作業は3∼
4日間ですが、雨が降ったり、風が吹いたりすると除染作業ができ
ないこともありますので、1週間いただいています。作業は高いと
ころから低いところへ、つまり、屋根→壁→ウッドデッキ→庭→コ
ンクリート面というふうに作業して、最終測定をして引き渡します。
どの部分を除染するかは、測定結果と施主さんの希望にもよります。
庭土を入れ替えたり、草木を除去することもあります。
コンクリートの除染は、ダイヤモンドカッターを使った電動カン
ナのようなもので放射性物質が付着した表面を削り取ります(写真
1)。この時出る削りかすや周りの空気は、放射性物質を抑えるフ
しゅうじん
ィルターを使った 集塵 機で同時に吸い取ります。なお、これらの
機器の購入には、日本生協連にご支援をいただきました。
これらの作業が終了した後に、再度、放射線量の測定を行ない、
線量が下がっていることを確認します。線量の高い場所が残ってい
るようでしたら、再度、除染作業を行ないます。
例えばこの間、除染を行なった幼稚園では、除染前の放射線量は
高いところで1,600CPM(前出、資料3参照)を計測していました。
計測から園庭のゴムマットに放射性物質が吸着していることが分か
りましたので、大人3人がかりで丸1日かけてゴムマットをはがし、
写真1 コンクリート除染の様子。開始前の線量測定(写真左)と、電動カンナによる表面の削り取り。
その下のコンクリートを削って線量を下げました。さらに、放射性
物質が吸着しにくいように加工を加えた後、ウレタン塗装を施した
ところ、70CPMまで下げることができました。これは、ほぼ原発
事故前の数値です。
またある施設では、「自分たちで除染を行なっても、なかなか放
射線量が下がらないところがある」ということで、最終的に「生協
さん、お願いします」と依頼がありました。この施設では子どもた
ちを放射線から守ろうと、父母たちが協力し合って(放射線を遮蔽
するため)ペットボトル1,800本を庭に敷き詰めたり、ボランティ
アに協力いただき、デッキブラシでコンクリートを洗ったりもした
そうですが、思うように放射線量が下がらなかったとのことです。
ここでも私たちが施工した後は、放射線量を大幅に下げることがで
きました。
復興需要の高まりによる人手不足の中
ネットワークを駆使し、協力業者を集める
除染に掛かる費用は、国から県、県から市町村に示された除染交
付金のモデル例で、1戸・400㎡(敷地面積)では、屋根の洗浄ま
で行なうもので約70万円、屋根壁洗わなければ60万円という基準が
あります。しかし、コープふくしまでは、この基準が示される前に、
「1戸30万円前後で施工できるのではないか」と考え、この金額で
協力してもらえる業者さんを探しました。ですから、モデル例の約
半額ぐらいで対応していることになります。
実際の施工に協力いただいている業者さんは、もともと住宅部と
取り引きがあった方たちで、庭なら園芸、建物は建築・土木業、屋
根を洗うなら塗装業・ハウスクリーニング業など、以前からつなが
りがある業者さんが主となります。1件ごとにチームをつくり、施
工(除染)工程図に基づいて、「ここは○○業者さんに協力してい
ただく」というようにしています。
ただし、地元の建築業者さんは震災復興のため本業で忙しく、ま
た、他県の震災復興の需要もある関係から、ご協力いただける地元
の業者さんが減っている状況があります。そのため、これまで付き
合いのなかった業者さんにもお願いしています。それでも、できる
限り地元の中で業者さんを探すようにしています。除染作業も試行
錯誤でやっている面もありますが、地域の雇用面からも、確実にお
役立ちにつながっていると思います。
ただし、経費が掛かり過ぎて事業として赤字になっては困るので
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すが、野中専務からは「重要な任務。損をしなければいい」といっ
てもらえましたので、積極的に取り組んでいます。
家族が一緒に、安心して暮らせる状況を
コープの除染事業でつくりたい
私たち住宅部「除染チーム」では、この3カ月で60件余りの放射
線量測定と見積書の作成を行なっています。内訳としては民間・個
人が6割、保育所や幼稚園などの公共の施設が4割です。ところが実
際に除染作業を行なったのは23件です。なぜ見積もりの3分の1し
か注文が来ないかというと、最大は除染費用の問題です。これを如
実に表しているのが施工内訳です。公共の施設が8割で、民間・個
人は2割にすぎません。
保育所などは、親たちの多くが子どもを預けるにあたり“安全な
保育所”を求めていますので、除染のニーズが高いのだと思います。
個人の場合、除染をしたいと思っても、震災前からの不景気に加え
震災による出費がかさむ中で、30万∼40万円という除染費用を用意
できない人も多いのです。
個人で除染をされる方の中には、「損害賠償を受け取れなくても、
二重生活するよりは除染して福島で暮らした方がいい」という方も
います。二重生活は本当に大変です。避難された地域での行政から
の支援の受け方がよく分からなかったり、母親とお子さんだけが県
外に避難し支援を受けたとしても一定の生活費は掛かります。父親
だけ地元で働いて仕送りをし、月1回しか会えない。しかも会うと
きは家族が戻って来るのではなく、避難先に会いに行くことになり
ます。このような状況は、家庭生活からすれば異常な状態です。
私たちは、このような状態を早く元に戻していきたいと考えてい
ます。そのためにも除染活動を進め、福島県から避難した皆さんに
早く戻ってきてもらい、生協の店舗や宅配を利用しながら、安心し
て暮らせる環境を一日も早くつくりたいと思います。
コープふくしまでは、全国の生協と日本生協連からいただいた大
きな支えに感謝申し上げるとともに、除染事業・活動を少しでも地
域に役立つ取り組みにしていきたいと考えています。