パーパス経営、成果の測定を 真の「インパクト組織」になるために:日経ビジネス電子版

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グローバルインテリジェンス

パーパス経営、成果の測定を 真
From MITスローンマネジメントレビュー

の「インパクト組織」になるため

2023.6.23

クリスチャン・ ブッシュ 他1名


米ニューヨーク大学国際問題センター世界経済プログラムダイレクター

企業のパーパス(存在意義)を定めたことで満足し、その実現への取り組みがおざ
なりになっていないだろうか。社会や環境への確かな貢献を果たすには、パーパス
に基づく取り組みの成果を的確に把握することが大切だ。

クリスチャン・ブッシュ[Christian Busch]
米ニューヨーク大学国際問題センター世界経済プログラムダイレクター

英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で
博士号(Ph.D)取得。英国、米国などでのビジネス経験
を経て、現在は米ニューヨーク大学の国際問題センター
で世界経済プログラムのダイレクターを務める。世界経
済フォーラム(WEF)などの場で積極的に意見を発信。
著書に『セレンディピティ 点をつなぐ力(原題:The
Serendipity Mindset: The Art and Science of Creating
Good Luck)』(東洋経済新報社)。

リサ・ヘーエンバーガー[Lisa Hehenberger]
スペイン・エサデビジネススクール准教授

スペインのビジネススクール、IESEで博士号(Ph.D)取
得。スイスの大手銀行やスペインの投資銀行での勤務を
経て、現在はスペインのエサデビジネススクールで教壇
に立つ。ソーシャルアントレプレナーシップ(社会課題
解決のための起業家精神)、ベンチャーフィランソロピ
ー、インパクト投資、インパクト測定などに精通してい
る。欧州委員会や経済協力開発機構(OECD)の活動に
も参画。

有意義な仕事を求める従業員、持続可能でトレーサビリティー(生産履
歴の追跡)がしっかりした製品を求める顧客、そして良いことをうまくや
るよう企業に求める投資家──。組織内外からの圧力に加え、所得格差が
拡大し、気候変動はますます深刻な脅威となっている状況を踏まえ、経営
者たちは組織のパーパスを再定義している。

今日の大企業において、組織の存在理由を表すステートメントに「より
良い」という言葉が組み込まれていないのは珍しい。しかし、企業のパー
パスが単なるお飾りではなく、意欲にあふれる従業員やロイヤルティー
(忠誠心)の高い顧客をもたらすには、多くの企業がまだ十分に身に付け
られていない能力を開発する必要がある。

それは、パーパス主導の戦略の実行結果を正確に評価する能力だ。パー
パスが社会や自然環境への良いインパクトをうたっているならば、なおさ
らこの能力が重要になる。

(写真=背景:PIXTA)

パーパスと事業は表裏一体

このような評価を行う場合、コンサルタントに外部委託したり、CSR
(企業の社会的責任)部門に委ねたり、あるいはインターンに任せたりす
ることが多い。だが、これはコアビジネスを全体的に見ることができず、
主要なステークホルダー(利害関係者)から相手にされず、役に立たない
粗悪なデータを生み出すばかりの不適切なやり方といえる。

パーパスを実現するために真摯に取り組んでいる企業であっても、従業
員(の意識や行動)をパーパスと合致させることに主眼を置く場合が多
い。その場合、パーパスのインパクトを把握する手立てが、パーパスに対
する従業員の理解度、エンゲージメント(会社に貢献したいという意欲)
や離職率への影響の測定に偏ってしまう可能性がある。
しかし、パーパスをサステナブル(持続可能)にするには、すべての事
業活動において、パーパスが具体的な目標やアウトプット(直接的な結
果)、アウトカム(最終的な成果)という形で具現化されているか否かを
評価するという、難しい仕事に取り組まなければならない。

真のパーパス主導型企業では、パーパスのマネジメントは事業のマネジ
メントと表裏一体となっており切り離せない。このような企業は財務、社
会、環境に関する目標を戦略的に定義し、測定し、マネジメントする、い
わゆる「インパクト組織」へと進化する。

企業がパーパスに沿った具体的な目標やその実現方法を定義すると、新
たな取り組みによるインパクトだけを追跡しようとする。しかし、組織全
体のオペレーションを見渡して、従来の事業がもたらす潜在的なマイナス
のインパクトを見つけ出すことが重要である。

例えば、フードデリバリーのプラットフォームを運営し、そのパーパス
を「すべてのコミュニティーに食料を供給すること」と定義している企業
があるとしよう。この企業は放っておけばレストランが廃棄してしまう食
料を、配達員が困っている人々へ届ける取り組みを始めるかもしれない。

企業がこの新しい取り組みによるプラスのインパクトを測定する一方
で、最低賃金で働いている配達員たちの潜在的な食料不安や(配達員など
として単発で仕事を請け負う)ギグワーカーたちの雇用不安を顧みないと
したら、これは不誠実と言わざるを得ない。

多くの組織は“良い仕事”に投じた資金の額で社会貢献を定量化すること
に慣れている。本来は単にインプット(投資した経営資源)を数値化する
だけでは不十分で、アウトプットやアウトカムまでの測定が必要だが、そ
れは容易ではない。取り組みの範囲が小さく、焦点が絞られているなら、
アウトプットやアウトカムの測定は容易になる傾向がある。

アウトプット(食料が供給された人数など)は組織の努力の量に直接関
係することが多く、データも入手しやすいため、まずはアウトプットを測
定することから始めるとよい。他方、アウトカムの測定には外部情報が必
要になるケースが多い。例えば、「食料不安の改善」というアウトカムは
地域住民へのアンケートにより測定できる。

さらに、組織の努力の量がアウトプットやアウトカムにどの程度、貢献
したかを明らかにする必要がある。特に、組織の活動と長期的なアウトカ
ムの間の因果関係は特定するのが難しい。

成果を規模と深度で評価

アウトカムがその組織の取り組みによるものなのか、それとも他の誰か
や何かによるものなのかを理解するには、組織がその努力をしていなけれ
ばどうなっていたのかを考える必要がある。
当該地域における他の組織の活動を把握するだけでなく、その組織の努
力に貢献したパートナーの活動も把握しなければならない。そうすること
でコミュニティーなどの全体レベルでのインパクトを測定でき、自分たち
の努力が生んだ成果に関する洞察を得られる。

アウトカムの領域ごとに「規模」の評価指標と「深度」の評価指標の両
方を選ぶ必要がある。

例えば、ある業界の仕事に若者を就かせるための教育プログラムを組織
が開発した場合、プログラムリーダーは何人の若者がプログラムを修了し
たか(規模)と、そのプログラムが彼らの就職にどう役立ったか(深度)
の両方を把握したいと考えるだろう。

組織の直接的な管理下にあるアウトプット指標は少なくとも四半期ごと
の追跡が必要である。

組織が達成しようとしている変化、すなわちアウトカムについては、変
化に時間がかかることから、より少ない頻度で測るケースもある。

プログラム参加者の生活実態とアウトプットを結びつける質的データは
分析に深みを持たせ、今後の活動の設計に役立つ。例えば、実習プログラ
ムを修了した学生は就職したことを報告するだけでなく、このプログラム
によって関心が広がり、より高いレベルの教育を受けるきっかけとなった
と教えてくれるかもしれない。

美辞麗句を現実に変える

パーパスのインパクトの測定に企業が真剣になると、インパクトのデー
タを収集・追跡する正式なシステムを開発し、財務情報と同じようなデー
タ品質基準を適用する必要がある。

ビジネスリーダーはそのデータを社内のレポーティングおよびガバナン
スのシステムへ統合し、透明性とアクセス性を確保するとともに、その結
果を主要なステークホルダーに説明すべきである。

心からパーパスにコミットしている経営幹部はそれ以上のことを行うだ
ろう。データは、従業員の中のアクティビストや顧客、インパクト投資家
など、パーパス達成への説明責任を強調するステークホルダーからの監視
に耐えられるものでなければならない。

アウトプットとアウトカムに関する優れたデータは、組織が生み出した
価値を検証するだけでなく、経営分析ツールや意思決定支援システムに取
り込むことで、パーパス主導の戦略の実行を反復し、学習し、改善する機
会を生み出す。

適切なインパクトデータは日々の業務にも関わってくる。例えば、サス
テナビリティー(持続可能性)へのコミットメントの進捗を追跡するため
に収集した工場のエネルギー効率のデータは、バリューチェーン全体をい
かにマネジメントするかを意思決定するための材料となる。

インパクトデータを追跡・報告し、組織の説明責任に応え、行動に結び
つくタイムリーな事業運営データを意思決定者へ提供する戦略やシステム
の開発がもっとも重要だ。それによってパーパスを単なるスローガンでは
なく組織の使命へと昇華させられる。

変化の激しい世界では、データが新たな解決策につながるセレンディピ
ティー(偶然の出合い)をもたらす可能性もある。特に多様なステークホ
ルダーのニーズに応えるパーパスのような複雑な課題に挑む上では歓迎す
べきことだ。

これが企業をインパクト組織に変化させ、パーパスに書かれている美辞
麗句を現実に変えるのだ。

(写真=背景:PIXTA)

MIT Sloan Management Review: ©2023 Massachusetts Institute of Technology.

(翻訳=佐々木 博之(山梨大学准教授))

日経ビジネス2023年6月26日号 50~52ページより
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