トランスフォーメーションを成功させるリーダーの共通点 揺れ動く感情をマネジメントする - リーダーシップ|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

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トランスフォーメーションを成功させるリーダーの共通点
揺れ動く感情をマネジメントする
アンドリュー・ホワイト,マイケル・ウィーロック,アダム・キャンウェル,マイケル・スメッツ
2023.07.15

Illustration by Mr. Nelson Design


トランスフォーメーションを成功させたリーダーに共通する「感情面のサポート」
かつてディスラプションはコダック、ポラロイド、ブラックベリーなど、一部の不運な企業を襲う例外的な出来事だった。だが今日のよう
に、気候変動やデジタル化から地政学、DEI(多様性、公平性、包摂)まで多くの難題が降りかかる複雑かつ不確実な世界においては、組織はト
ランスフォーメーションを一回限りの出来事ではなく、手法を会得すべき中核的ケイパビリティと見なす必要がある。
同時に、リーダーはトランスフォーメーションにはリスクが付き物だと認識する必要もある。1995年、ジョン P. コッターは組織のトランスフ
ォーメーションの70%が失敗に終わったことを明らかにした。
それから30年近くを経たいまも、状況はあまり変わっていない。筆者らは900人以上の経営幹部と、企業のトランスフォーメーションを経験し
た1100人以上の従業員を対象に独自の調査を行ったが、その結果も同様だった。リーダーの67%が、過去5年間に少なくとも一度はトランスフ
ォーメーションの失敗を経験していると答えたのである。
今後1年の間に多くの組織がトランスフォーメーションに何十億ドルも投じることを考えれば、70%という失敗率は企業価値の大暴落と同義
だ。では、成功の確率を高めるために、リーダーは何をすべきなのか。
筆者らはトランスフォーメーションを担うリーダー30人にインタビューを行い、23カ国、16セクターにまたがる2000人以上のシニアリーダー
および従業員を対象に調査を実施した。回答者の半数は成功したトランスフォーメーションに携わっていた一方、残りの半数はトランスフォー
メーションの失敗を経験していた。
では、トランスフォーメーションを成功させたリーダーたちは、どのような戦術を用いて感情の揺れ動きを乗り切ったのか。この疑問に答え
るために、筆者らは、トランスフォーメーションの11の領域において50の行動が表れる度合いに基づき、組織がトランスフォーメーションのKPI
(重要業績評価指標)を達成できる可能性を予測するモデルを構築した。
その結果、11のうち6つの領域における行動が一貫して、トランスフォーメーションの成功確率を向上させることが判明した。これらの領域の
数値が平均を上回る組織は、トランスフォーメーションのKPIを達成できるか、またはそれを上回る割合が73%に上る。それに対し、数値が平均
以下の組織ではKPIを上回る比率が28%に留まった。つまり、組織がこれら6つの領域で「てこ」を効果的に活用できれば、成功確率を最大限に
高められると考えられる。
さらに、トランスフォーメーションの成否を左右する重要なカギは、リーダーが従業員の感情の揺れ動きを受け入れることだという点も明ら
かになった。成功したトランスフォーメーションに携わった回答者の52%が、その過程で必要な感情面のサポートを、組織が「かなりしっかり
と」提供してくれたと答えた(失敗に終わったトランスフォーメーションに携わった回答者は、この数字が27%だった)。
トランスフォーメーションは、あらゆる関係者にとって、個人レベルでは極めて困難な経験だ。筆者らが調査した成功事例では、リーダーは
チームに必要なプロセスとリソース、テクノロジーを提供するだけでなく、感情面でも適切なサポート環境を構築していた。彼らはトランスフ
ォーメーションを推し進めるために説得力のある論拠を提示し、従業員に必要な感情面のサポートを用意していた。その結果、厳しい事態を避
けられなくても、従業員はそれを必要な困難だと感じ、ストレスを活力に変えることができた。
対照的に、失敗したトランスフォーメーションを率いたリーダーたちは、そうした感情面への投資を行っていなかった。そのため、チームが
避けがたい困難に直面した時、否定的な感情が高まり、下降スパイラルに陥ってしまった。リーダーが信念を失ってプロジェクトから距離を置
こうとすると、それを受けて従業員も同じように振舞うようになった。

トランスフォーメーションのカギとなる6つの「てこ」
では、トランスフォーメーションを成功させたリーダーは、感情の揺れ動きをうまく管理するために、どのような戦術を用いたのか。筆者ら
の調査によって浮かび上がった、成功確率を最大化する6つの「てこ」を紹介しよう。

1. 変化に対するリーダー自身の意欲
リーダーの仕事は外に目を向け、周囲の人々に指針を提供することだと思われがちだ。しかし筆者らの研究によれば、従業員による組織のト
ランスフォーメーションを支援するには、まずリーダーが自分の内面に目を向け、変化に対する自身の向き合い方を精査する必要がある。GEX
ベンチャーズのエグゼクティブチェアマンであるパトリック・リュー博士が指摘したように、「あなたが自分自身を変化させる準備が整ってい
ないなら、チームや組織を変えるなんて無理な話」なのである。
筆者らのインタビューに対し、リーダーたちは自身の感情とより深く向き合う、個人の成長に付き物の不快感に慣れるなど、自分を成長させ
るために取り組んでいることを語ってくれた。あるリーダーの言葉を借りれば、前向きな軌道修正を実現するにはまず、リーダーは「鏡を見
て」、自分自身が問題の一部であると認識する必要がある。まず自身の恐怖心を取り除かなければ、従業員が変化を乗り切れるようサポートす
ることはできない。
自動車業界のあるCOOは次のように語った。「トランスフォーメーションを率いる立場の人間として、正直なところ、最初はかなり不安でし
た。たいていの人はこれから進もうとしている道について知っておきたいと思うものです」
また、グローバルビジネスサービス業界のシニアバイスプレジデントは、自己発見の過程で、弱さをさらけ出し、正直になる必要があったと
話してくれた。「自分が何者なのか、より強く意識するようになったと思う」

2. 成功のビジョンの共有
将来の成功について共通のビジョンを描くことも、トランスフォーメーションの重要な土台となる。筆者らの調査では、成功したトランスフ
ォーメーションに携わった回答者の50%が、ビジョンのおかげで活力を得て、さらに努力しようという気持ちになれたと答えた(うまくいかな
かったトランスフォーメーションに携わった回答者の場合は29%だった)。
従業員は、いますぐに現状を打破する必要性を理解すべきであり、リーダーは、彼らに向けて説得力のある理由を提示することが、トランス
フォーメーションの過程で避けられない問題を乗り切る助けとなる。筆者らの調査では、従業員の多くが、ビジョンの明確な伝達を「望んでい
た」「必要としていた」と回答した。
リーダーが明確なビジョンを共有していれば、従業員も賛同しやすくなる。一方、彼らがトランスフォーメーションのビジョンや必要性を理
解していなければ、成功はおぼつかない。
医療機器業界のあるマネージングディレクターは、「私がすべきなのは『今後、こういうことが起きる』と伝えることではありません」と語っ
た。「共有できる当事者意識を醸成し、何を達成すべきかをチームに対してコーチングすることが私の仕事です。これが自分たちの、集団とし
ての仕事の進め方なのだとチームが納得できるよう強く意識しています」

3. 信頼と心理的安全性の文化
リーダーからの信頼と配慮は、困難なトランスフォーメーションを感情的に受け入れやすいものに変えてくれる。人は誰しも極めて根源的な
レベルで、他者から見られ、耳を傾けられ、話を聞いてもらうことの喜びを知っている。そうした感覚のおかげで、努力の意義を感じ、さらに
頑張ろうと思い、疑念や恐れ、怒り、悲しみといった感情を和らげることができるのだ。筆者らの調査に参加した従業員は、忍耐力と「穏やか
で素直な精神」を備えたリーダーを望んでいると語ってくれた。
心理的安全性の高い職場では、従業員は報復を恐れることなく、率直な意見や懸念点を打ち明けてよいと感じている。一方、信頼と心理的安
全性が欠けている職場で、必要な変革を実行するよう従業員を説得するのは困難だ。たとえば、あるシニアリーダーは、自社の従業員がトラン
スフォーメーションに多大な恐怖心を抱いており、問題点に気づいても指摘してよいと思っていない、と語った。当然ながら、この会社のトラン
スフォーメーションは失敗に終わった。

4. 実行と探求のバランスを取るプロセス
トランスフォーメーションの際に、規律あるプロジェクトマネジメントによってプログラムを推進する必要があるのは明白だ。ただし、筆者
らの調査によれば、トランスフォーメーションを成功させたリーダーは、実行の必要性と、従業員が探索したり、創造性を発揮したり、新たな
アイデアを生み出したりする自由のバランスを取れるようなプロセスを構築していた。そのおかげで、従業員は、トランスフォーメーションの
長期的な目標達成に向けた解決策やチャンスを見出せる。
匿名アンケートには「イノベーションには、適切な人材とプロセスが必要です」という回答もあった。「コラボレーションと実験的取り組み
を促進するには、その両方が重要です」
また、小さな失敗をする余地を空けておくことが、最終的に大きな成功につながることも明らかになった。逆に、いかなる失敗も許されない
という恐怖心があると、チャンスをつかみ損ねてしまう。
成功したトランスフォーメーションに携わった回答者の48%が、実験的な取り組みに失敗しても、キャリアや報酬に劇的な悪影響が生じない
ようなプロセスが用意されていたと答えた。一方、失敗したトランスフォーメーションに携わった回答者のうちで、そう答えた人は29%に留ま
った。

5. テクノロジーには感情の揺れ動きが伴うものだという認識
調査に参加したリーダーたちは、トランスフォーメーションで直面した最大の壁として、テクノロジーを挙げた。新たなシステムやテクノロ
ジーが導入される際には、使い方をめぐるストレスや、仕事が奪われる、システムが遅くなるといった不安など、多くの感情と向き合う必要が
生じる。
失敗したトランスフォーメーションでは、話題の中心がビジョンからテクノロジーそのものにシフトしていたのに対し、成功したトランスフ
ォーメーションでは、リーダーはテクノロジーを、戦略的ビジョンを達成するための手段だと強調していた。また彼らは、新技術の迅速な導入
を優先し、完璧を追求することなく、実行可能な最小限のプロダクトを採り入れた。そして、従業員が新たなテクノロジーを使って価値を創造
できるよう、スキルアップにリソースを投入した。
「プロセスの立ち上げ時点で、シニアマネジャーを集めたキックオフセッションを行いました」と、メディア広告業界のある企業の副社長は語
った。「セッションの目的は、これから構築するものが既成事実として与えられるものではなく、自分たちが設計から携わったものだと示すこ
とでした。おかげで、積極的に反対する人を最小限に抑えられました」

6. 結果に対する当事者意識の共有
成功したトランスフォーメーションでは、リーダーと従業員が力を合わせ、変革のビジョンと結果に対して全員が当事者意識を共有できる環
境をつくり上げていた。
典型的な例が、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの際に、多くの企業が迅速に対応したバーチャルワークやリモートワークへの切り
替えだ。スピードと緊急性が求められる変化だったため、リーダーは従業員と緊密に連携して新たな働き方を創造し、うまくいったことと、う
まくいかなかったことに関する従業員の意見に耳を傾ける必要性に迫られた。この大規模な共同作業を通して、リーダーシップと従業員の双方
が誇りを感じ、当事者意識を共有することができた。
「トランスフォーメーションの過程では、常に新しいことが起こり続けます」と、ベーリンガーインゲルハイムの企業戦略を率いるクリスチャ
ン・ワイセンは筆者らに語った。「あなたの周囲で物事が動いていれば、支持者たちはその衝撃を和らげ、そのつど、微調整を加えてくれます。
一方、物事が動かないと、あなたは一人になってしまいます」
* * *
最後に、あらゆるトランスフォーメーションは厳しいものだという点を再確認しておくべきだ。順調に進んでいても、ストレスを感じ始めるタ
イミングはある。この困難な段階で求められるのは、悲観と業績不振の悪循環にはまり込むことなく、従業員に活力を与え、プレッシャーを生
産的なものに変えるスキルである。
調査を通じて筆者らが感じたのは、従業員と本気で協働したリーダーほど、大きな成功を手にしているということだ。彼らは、感情を脇に追
いやったり、無視したりすることなく、感情を認め、うまく管理している。最高のリーダーとは、組織全体にまたがるビジョンを描き、一緒に
働きながら、互いの意見に耳を傾けられる安全な環境をつくり出すリーダーである。
「実務レベルでは、他者を極めて尊重しなければなりません」と、DXCテクノロジーのロンドンマーケット・ジョイントベンチャーのCEO、ト
ーマス・セバスチャンは語っている。「感情の側面を理解し、このトランスフォーメーションのおかげで彼らの生活がどのように楽になるのか
といった、まったく異なる視点に目を向けるべきです」
成功は成功を呼び込む。ひとたびトランスフォーメーションを成功させた従業員は、再び動き出す準備が整っているはずだ。そして、世界が
変化するスピードを考えれば、組織も再び動けるよう準備を進めなければならない。

"6 Key Levers of a Successful Organizational Transformation," HBR.org, May 10, 2023.

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