Download as pdf or txt
Download as pdf or txt
You are on page 1of 959

ふくいんしょ

マタイによる福音書
第一章
こ こ けいず
一 アブラハムの子であるダビデの子、イエス・キリストの系図。
ちち ちち
二 アブラハムはイサクの父であり、イサクはヤコブの父、ヤコブはユダとその
きょうだい ちち ちち
兄 弟たちとの父、 三ユダはタマルによるパレスとザラとの父、パレスはエス
ちち ちち ちち
ロンの父、エスロンはアラムの父、 四アラムはアミナダブの父、アミナダブは
ちち ちち
ナアソンの父、ナアソンはサルモンの父、五サルモンはラハブによるボアズの
ちち ちち ちち
父、ボアズはルツによるオベデの父、オベデはエッサイの父、 六エッサイはダ
おう ちち
ビデ王の父であった。
マタイによる福音書

つま ちち
ダビデはウリヤの妻によるソロモンの父であり、 七ソロモンはレハベアムの
ちち ちち ちち ちち
父、レハベアムはアビヤの父、アビヤはアサの父、 八アサはヨサパテの父、ヨ
ちち ちち ちち
サパテはヨラムの父、ヨラムはウジヤの父、 九ウジヤはヨタムの父、ヨタムは
ちち ちち ちち
アハズの父、アハズはヒゼキヤの父、 一〇ヒゼキヤはマナセの父、マナセはア

0
ちち ちち うつ
モンの父、アモンはヨシヤの父、 一一ヨシヤはバビロンへ移されたころ、エコ
きょうだい ちち
ニヤとその兄 弟たちとの父となった。
うつ ちち
一二 バビロンへ移されたのち、エコニヤはサラテルの父となった。サラテルは
ちち ちち ちち
ゾロバベルの父、一三ゾロバベルはアビウデの父、アビウデはエリヤキムの父、
ちち ちち ちち
エリヤキムはアゾルの父、 一四アゾルはサドクの父、サドクはアキムの父、ア
ちち ちち
キムはエリウデの父、 一五エリウデはエレアザルの父、エレアザルはマタンの
ちち ちち おっと ちち
父、マタンはヤコブの父、一六ヤコブはマリヤの夫 ヨセフの父であった。この
うま
マリヤからキリストといわれるイエスがお生れになった。
だい あ だい
一七 だから、アブラハムからダビデまでの代は合わせて十四代、ダビデからバ
うつ だい うつ
ビロンへ移されるまでは十四代、そして、バビロンへ移されてからキリスト
だい
までは十四代である。
マタイによる福音書

たんじょう しだい はは
一八 イ エ ス・キ リ ス ト の 誕 生 の 次第 は こ う で あ っ た。母 マ リ ヤ は ヨ セ フ と
こんやく いっしょ まえ せいれい みおも
婚約していたが、まだ一緒にならない前に、聖霊によって身重になった。 一九
おっと ただ ひと かのじょ おおや この
夫 ヨセフは正しい人であったので、彼女のことが公けになることを好まず、
りえん けっしん かれ おも
ひそかに離縁しようと決心した。 二〇彼がこのことを思いめぐらしていたと
しゅ つかい ゆめ あらわ い こ しんぱい
き、主の使が夢に現れて言った、
﹁ダビデの子ヨセフよ、心配しないでマリヤ

1
つま むか たいない やど せいれい
を 妻 と し て 迎 え る が よ い。そ の 胎内 に 宿 っ て い る も の は 聖霊 に よ る の で あ
かのじょ おとこ こ う な な かれ
る。 二一彼女は男の子を産むであろう。その名をイエスと名づけなさい。彼
たみ つみ すく もの
は、おのれの民をそのもろもろの罪から救う者となるからである﹂。 二二すべ
おこ しゅ よげんしゃ い じょうじゅ
てこれらのことが起ったのは、主が預言者によって言われたことの成 就する
ためである。すなわち、
み おとこ こ う
二三 ﹁見よ、おとめがみごもって男の子を産むであろう。
な よ
その名はインマヌエルと呼ばれるであろう﹂。
かみ とも い み ねむ
これは、
﹁神われらと共にいます﹂という意味である。 二四ヨセフは眠りからさ
のち しゅ つかい めい つま むか こ
めた後に、主の使が命じたとおりに、マリヤを妻に迎えた。 二五しかし、子が
うま かのじょ し こ な
生れるまでは、彼女を知ることはなかった。そして、その子をイエスと名づ
けた。
マタイによる福音書

第二章
おう だい うま み
一 イエスがヘロデ王の代に、ユダヤのベツレヘムでお生れになったとき、見
ひがし はかせ つ い じん おう
よ、東からきた博士たちがエルサレムに着いて言った、二﹁ユダヤ人の王とし

2
うま ひがし ほう
てお生れになったかたは、どこにおられますか。わたしたちは東の方でその
ほし み おが おう き
星を見たので、そのかたを拝みにきました﹂。 三ヘロデ王はこのことを聞いて
ふあん かん ひとびと どうよう おう
不安 を 感 じ た。エ ル サ レ ム の 人々 も み な、同様 で あ っ た。 四 そ こ で 王 は
さいしちょう たみ りっぽうがくしゃ ぜ ん ぶ あつ うま
祭司長たちと民の律法学者たちとを全部集めて、キリストはどこに生れるの
かれ と かれ おう い
かと、彼らに問いただした。 五彼らは王に言った、
﹁それはユダヤのベツレヘ
よげんしゃ
ムです。預言者がこうしるしています、

六 ﹃ユダの地、ベツレヘムよ、
きみ なか
おまえはユダの君たちの中で、
けっ もっと ちい
決して最も小さいものではない。
なか きみ で
おまえの中からひとりの君が出て、
たみ ぼくしゃ
わが民イスラエルの牧者となるであろう﹄﹂。
マタイによる福音書

はかせ よ ほし あらわ とき くわ
七 そこで、ヘロデはひそかに博士たちを呼んで、星の現れた時について詳しく
き かれ い い おさ ご
聞き、 八彼らをベツレヘムにつかわして言った、
﹁行って、その幼な子のこと
くわ しら み し おが い
を詳しく調べ、見つかったらわたしに知らせてくれ。わたしも拝みに行くか
かれ おう い き で み かれ とうほう み ほし
ら﹂。 九彼らは王の言うことを聞いて出かけると、見よ、彼らが東方で見た星
かれ さき すす おさ ご ところ い うえ
が、彼らより先に進んで、幼な子のいる所まで行き、その上にとどまった。 一

3
かれ ほし み ひじょう よろこ いえ はは
〇 彼らはその星を見て、非常な喜びにあふれた。 一一そして、家にはいって、母
おさ ご あ ふ おが たから はこ
マリヤのそばにいる幼な子に会い、ひれ伏して拝み、また、宝の箱をあけて、
おうごん にゅうこう もつやく おく もの ゆめ
黄金・乳 香・没薬などの贈り物をささげた。 一二そして、夢でヘロデのところ
かえ つ う た みち じぶん くに かえ い
に帰るなとのみ告げを受けたので、他の道をとおって自分の国へ帰って行っ
た。
かれ かえ い み しゅ つかい ゆめ あらわ い
一三 彼 ら が 帰 っ て 行 っ た の ち、見 よ、主 の 使 が 夢 で ヨ セ フ に 現 れ て 言 っ た、
た おさ ご はは つ に
﹁立って、幼な子とその母を連れて、エジプトに逃げなさい。そして、あなた
し おさ ご さが だ
に知らせるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが幼な子を捜し出して、
ころ た よる あいだ おさ ご はは
殺そうとしている﹂。 一四そこで、ヨセフは立って、夜の間に幼な子とその母と
つ い し
を連れてエジプトへ行き、一五ヘロデが死ぬまでそこにとどまっていた。それ
しゅ よげんしゃ こ よ だ い
は、主が預言者によって﹁エジプトからわが子を呼び出した﹂と言われたこ
マタイによる福音書

じょうじゅ
とが、 成 就するためである。
はかせ し ひじょう りっぷく
一六 さて、ヘロデは博士たちにだまされたと知って、非常に立腹した。そして
ひとびと はかせ たし とき もとづ ふきん
人々をつかわし、博士たちから確かめた時に基いて、ベツレヘムとその附近
ちほう さい い か おとこ こ ころ
の 地方 と に い る 二 歳以下 の 男 の 子 を、こ と ご と く 殺 し た。 一 七 こ う し て、
よげんしゃ い じょうじゅ
預言者エレミヤによって言われたことが、 成 就したのである。

4
さけ な おお かな こえ
一八 ﹁叫び泣く大いなる悲しみの声が
きこ
ラマで聞えた。

ラケルはその子らのためになげいた。

子らがもはやいないので、
なぐさ ねが
慰められることさえ願わなかった﹂。
し み しゅ つかい ゆめ
一九 さて、ヘロデが死んだのち、見よ、主の使がエジプトにいるヨセフに夢で
あらわ い た おさ ご はは つ ち い
現れて言った、 二〇﹁立って、幼な子とその母を連れて、イスラエルの地に行
おさ ご いのち ひとびと し
け。幼な子の命をねらっていた人々は、死んでしまった﹂。 二一そこでヨセフ
た おさ ご はは つ ち かえ
は立って、幼な子とその母とを連れて、イスラエルの地に帰った。 二二しかし、
ちち かわ おさ き
アケラオがその父ヘロデに代ってユダヤを治めていると聞いたので、そこへ
い おそ ゆめ つ う ちほう しりぞ
行くことを恐れた。そして夢でみ告げを受けたので、ガリラヤの地方に退き、
マタイによる福音書

まち い す よげんしゃ かれ
二三 ナザレという町に行って住んだ。これは預言者たちによって、﹁彼はナザ
びと よ い じょうじゅ
レ人と呼ばれるであろう﹂と言われたことが、 成 就するためである。

5
第三章
あらわ あらの おしえ の い
一 そのころ、バプテスマのヨハネが現れ、ユダヤの荒野で教を宣べて言った、
く あらた てんごく ちか よげんしゃ
二 ﹁悔い改めよ、天国は近づいた﹂。 三預言者イザヤによって、
あらの よ もの こえ
﹁荒野で呼ばわる者の声がする、
しゅ みち そな
﹃主の道を備えよ、
みちすじ
その道筋をまっすぐにせよ﹄﹂
い ひと
と言われたのは、この人のことである。
け きもの こし かわ おび
四 このヨハネは、らくだの毛ごろもを着物にし、腰に皮の帯をしめ、いなごと
の みつ しょくもつ ぜんど
野蜜 と を 食 物 と し て い た。 五す る と、エ ル サ レ ム と ユ ダ ヤ 全土 と ヨ ル ダ ン
ふ き ん いったい ひとびと で じぶん つみ こくはく
附近一帯の人々が、ぞくぞくとヨハネのところに出てきて、六自分の罪を告白
マタイによる福音書

がわ う びと
し、ヨルダン川でヨハネからバプテスマを受けた。 七ヨハネは、パリサイ人や
びと おお う み かれ い
サドカイ人が大ぜいバプテスマを受けようとしてきたのを見て、彼らに言っ
こ せま かみ いか
た、
﹁まむしの子らよ、迫ってきている神の怒りから、おまえたちはのがれら
おし くいあらた み むす じぶん
れると、だれが教えたのか。 八だから、悔 改めにふさわしい実を結べ。 九自分
ちち こころ なか おも
たちの父にはアブラハムがあるなどと、心の中で思ってもみるな。おまえた

6
い かみ いし こ おこ
ちに言っておく、神はこれらの石ころからでも、アブラハムの子を起すこと
おの き ね お よ み
ができるのだ。 一〇斧がすでに木の根もとに置かれている。だから、良い実を
むす き き ひ なか な こ
結ばない木はことごとく切られて、火の中に投げ込まれるのだ。 一一わたしは
くいあらた みず さず
悔 改めのために、水でおまえたちにバプテスマを授けている。しかし、わた
く ひと ちから
しのあとから来る人はわたしよりも力のあるかたで、わたしはそのくつをぬ
ね せいれい ひ
がせてあげる値うちもない。このかたは、聖霊と火とによっておまえたちに
さず み て も う ば むぎ
バプテスマをお授けになるであろう。 一二また、箕を手に持って、打ち場の麦
わ むぎ くら おさ き ひ や す
をふるい分け、麦は倉に納め、からは消えない火で焼き捨てるであろう﹂。
で がわ あらわ
一三 そのときイエスは、ガリラヤを出てヨルダン川に現れ、ヨハネのところに
う おも
きて、バプテスマを受けようとされた。 一四ところがヨハネは、それを思いと
い う
どまらせようとして言った、﹁わたしこそあなたからバプテスマを受けるはず
マタイによる福音書

ですのに、あなたがわたしのところにおいでになるのですか﹂。 一五しかし、イ
こた い いま う
エスは答えて言われた、
﹁今は受けさせてもらいたい。このように、すべての
ただ じょうじゅ
正しいことを成 就するのは、われわれにふさわしいことである﹂。そこでヨ
い う
ハネはイエスの言われるとおりにした。 一六イエスはバプテスマを受けると
みず あ み てん ひら かみ みたま
すぐ、水から上がられた。すると、見よ、天が開け、神の御霊がはとのよう

7
じぶん うえ くだ てん こえ
に自分の上に下ってくるのを、ごらんになった。 一七また天から声があって
い あい こ こころ もの
言った、﹁これはわたしの愛する子、わたしの心にかなう者である﹂。
第四章
みたま あらの みちび あくま こころ
一 さて、イエスは御霊によって荒野に導かれた。悪魔に試みられるためであ
にち や だんじき くうふく
る。 二そして、四十日四十夜、断食をし、そののち空腹になられた。 三すると
こころ もの い かみ こ いし
試みる者がきて言った、
﹁もしあなたが神の子であるなら、これらの石がパン
めい こた い ひと
になるように命じてごらんなさい﹂。 四イエスは答えて言われた、
﹁﹃人はパン
い かみ くち で ことば い
だけで生きるものではなく、神の口から出る一つ一つの言で生きるものであ
か あくま せい みやこ つ い みや
る﹄と書いてある﹂。 五それから悪魔は、イエスを聖なる都に連れて行き、宮
マタイによる福音書

ちょうじょう た い かみ こ した と
の頂 上に立たせて 六言った、﹁もしあなたが神の子であるなら、下へ飛びおり
てごらんなさい。
かみ みつかい めい
﹃神はあなたのために御使たちにお命じになると、
あし いし う
あなたの足が石に打ちつけられないように、
かれ て
彼らはあなたを手でささえるであろう﹄

8
か かれ い しゅ かみ こころ
と書いてありますから﹂。 七イエスは彼に言われた、
﹁﹃主なるあなたの神を試
か つぎ あくま ひじょう たか やま
みてはならない﹄とまた書いてある﹂。 八次に悪魔は、イエスを非常に高い山
つ い よ くにぐに えいが み い
に連れて行き、この世のすべての国々とその栄華とを見せて 九言った、
﹁もし
ふ おが みな
あなたが、ひれ伏してわたしを拝むなら、これらのものを皆あなたにあげま
かれ い しりぞ しゅ
しょう﹂。 一〇するとイエスは彼に言われた、
﹁サタンよ、 退け。﹃主なるあな
かみ はい かみ つか か あくま
たの神を拝し、ただ神にのみ仕えよ﹄と書いてある﹂。 一一そこで、悪魔はイエ
はな さ みつかい つか
スを離れ去り、そして、御使たちがみもとにきて仕えた。
とら き しりぞ
一二 さて、イエスはヨハネが捕えられたと聞いて、ガリラヤへ退かれた。 一三そ
さ ちほう うみ まち
してナザレを去り、ゼブルンとナフタリとの地方にある海べの町カペナウム
い す よげんしゃ い ことば じょうじゅ
に行って住まわれた。 一四これは預言者イザヤによって言われた言が、 成 就
するためである。
マタイによる福音書

ち ち
一五 ﹁ゼブルンの地、ナフタリの地、
うみ そ ちほう む ち
海に沿う地方、ヨルダンの向こうの地、
いほうじん
異邦人のガリラヤ、
あんこく なか す たみ おお ひかり み
一六 暗黒の中に住んでいる民は大いなる光を見、
し ち し かげ す ひとびと ひかり
死の地、死の陰に住んでいる人々に、 光がのぼった﹂。

9
とき おしえ の い く あらた てんごく
この時からイエスは教を宣べはじめて言われた、﹁悔い改めよ、天国は
一七
ちか
近づいた﹂。
うみ ある きょうだい
一八 さて、イエスがガリラヤの海べを歩いておられると、ふたりの兄 弟、すな
よ きょうだい うみ あみ う
わち、ペテロと呼ばれたシモンとその兄 弟 アンデレとが、海に網を打ってい
かれ りょうし かれ い
るのをごらんになった。彼らは漁師であった。 一九イエスは彼らに言われた、
にんげん りょうし
﹁わたしについてきなさい。あなたがたを、人間をとる漁師にしてあげよう﹂。
かれ あみ す したが すす い
二〇 すると、彼らはすぐに網を捨てて、イエスに従 った。 二一そこから進んで行
きょうだい こ きょうだい
かれると、ほかのふたりの兄 弟、すなわち、ゼベダイの子ヤコブとその兄 弟
ちち いっしょ ふね なか あみ つくろ
ヨハネとが、父ゼベダイと一緒に、舟の中で網を繕 っているのをごらんに
かれ まね ふね ちち
なった。そこで彼らをお招きになると、 二二すぐ舟と父とをおいて、イエスに
したが い
従 って行った。
マタイによる福音書

ぜん ち めぐ ある しょかいどう おし みくに ふくいん の


二三 イエスはガリラヤの全地を巡り歩いて、諸会堂で教え、御国の福音を宣べ
つた たみ なか びょうき
伝え、民の中のあらゆる病気、あらゆるわずらいをおいやしになった。 二四そ
ひょうばん ぜん ち ひとびと やまい
こで、その評 判はシリヤ全地にひろまり、人々があらゆる病にかかっている
もの びょうき くる なや もの あくれい
者、すなわち、いろいろの病気と苦しみとに悩んでいる者、悪霊につかれて
もの ちゅうぶ もの つ
いる者、てんかん、中風の者などをイエスのところに連れてきたので、これ

10
ひとびと
らの人々をおいやしになった。 二五こうして、ガリラヤ、デカポリス、エルサ
およ む ぐんしゅう
レム、ユダヤ及びヨルダンの向こうから、おびただしい群 衆がきてイエスに
したが
従 った。
第五章
ぐんしゅう み やま のぼ ざ で し
一 イエスはこの群 衆を見て、山に登り、座につかれると、弟子たちがみもと
ちかよ くち ひら かれ おし い
に近寄ってきた。 二そこで、イエスは口を開き、彼らに教えて言われた。
まず ひと
三﹁こころの貧しい人たちは、さいわいである、
てんごく かれ
天国は彼らのものである。
かな ひと
四悲しんでいる人たちは、さいわいである、
マタイによる福音書

かれ なぐさ
彼らは慰められるであろう。
にゅうわ ひと
五柔和な人たちは、さいわいである、
かれ ち う
彼らは地を受けつぐであろう。
ぎ う ひと
六義に飢えかわいている人たちは、さいわいである、
かれ あ た
彼らは飽き足りるようになるであろう。

11
ぶか ひと
七 あわれみ深い人たちは、さいわいである、
かれ う
彼らはあわれみを受けるであろう。
こころ きよ ひと
八 心の清い人たちは、さいわいである、
かれ かみ み
彼らは神を見るであろう。
へいわ だ ひと
九 平和をつくり出す人たちは、さいわいである、
かれ かみ こ よ
彼らは神の子と呼ばれるであろう。
ぎ はくがい ひと
一〇 義のために迫害されてきた人たちは、
さいわいである、
てんごく かれ
天国は彼らのものである。
ひとびと はくがい
一一 わたしのために人々があなたがたをののしり、また迫害し、あなたがたに
たい いつわ さまざま あっこう い とき よろこ
対し偽 って様々の悪口を言う時には、あなたがたは、さいわいである。 一二 喜
マタイによる福音書

てん う むく おお
び、よろこべ、天においてあなたがたの受ける報いは大きい。あなたがたよ
まえ よげんしゃ おな はくがい
り前の預言者たちも、同じように迫害されたのである。
ち しお しお なに
一三 あなたがたは、地の塩である。もし塩のききめがなくなったら、何によっ
あじ と やく た そと す
てその味が取りもどされようか。もはや、なんの役にも立たず、ただ外に捨
ひとびと よ ひかり
てられて、人々にふみつけられるだけである。 一四あなたがたは、世の光であ

12
やま うえ まち かく
る。山の上にある町は隠れることができない。 一五また、あかりをつけて、そ
ます した もの しょくだい うえ いえ なか
れを枡の下におく者はいない。むしろ燭 台の上において、家の中のすべての
てら ひかり ひとびと まえ かがや
ものを照させるのである。 一六そのように、あなたがたの光を人々の前に輝か
ひとびと み てん
し、そして、人々があなたがたのよいおこないを見て、天にいますあなたが
ちち
たの父をあがめるようにしなさい。
りっぽう よげんしゃ はい おも はい
一七 わたしが律法や預言者を廃するためにきた、と思ってはならない。廃する
じょうじゅ い てんち
ためではなく、 成 就するためにきたのである。 一八よく言っておく。天地が
ほろ ゆ りっぽう てん いっかく まっと
滅び行くまでは、律法の一点、一画もすたることはなく、ことごとく全うさ
もっと ちい やぶ
れるのである。 一九それだから、これらの最も小さいいましめの一つでも破
ひと おし もの てんごく もっと ちい もの よ
り、またそうするように人に教えたりする者は、天国で最も小さい者と呼ば
おし もの てんごく おお
れるであろう。しかし、これをおこないまたそう教える者は、天国で大いな
マタイによる福音書

もの よ い ぎ りっぽう
る者と呼ばれるであろう。 二〇わたしは言っておく。あなたがたの義が律法
がくしゃ びと ぎ けっ てんごく
学者やパリサイ人の義にまさっていなければ、決して天国に、はいることは
できない。
むかし ひとびと ころ ころ もの さいばん う い
二一 昔の人々に﹃殺すな。殺す者は裁判を受けねばならない﹄と言われていた

ことは、あなたがたの聞いているところである。 二二しかし、わたしはあなた

13
い きょうだい たい いか もの さいばん う
が た に 言 う。 兄 弟 に 対 し て 怒 る 者 は、だ れ で も 裁判 を 受 け ね ば な ら な い。
きょうだい おろ もの い もの ぎかい ひ
兄 弟にむかって愚か者と言う者は、議会に引きわたされるであろう。また、
もの い もの じごく ひ な こ さいだん そな
ばか者と言う者は、地獄の火に投げ込まれるであろう。 二三だから、祭壇に供
もの ばあい きょうだい じぶん たい なに
え物をささげようとする場合、兄 弟が自分に対して何かうらみをいだいてい
おも だ そな もの さいだん まえ のこ
ることを、そこで思い出したなら、二四その供え物を祭壇の前に残しておき、ま
い きょうだい わかい かえ そな もの
ず行ってその兄 弟と和解し、それから帰ってきて、供え物をささげることに
うった もの いっしょ みち い とき とちゅう はや
しなさい。 二五あなたを訴える者と一緒に道を行く時には、その途中で早く
なかなお うった もの さいばんかん
仲直りをしなさい。そうしないと、その訴える者はあなたを裁判官にわたし、
さいばんかん したやく ごく い
裁判官は下役にわたし、そして、あなたは獄に入れられるであろう。 二六よく
い さいご しはら けっ
あなたに言っておく。最後の一コドラントを支払ってしまうまでは、決して

そこから出てくることはできない。
マタイによる福音書

かんいん い き
二七 ﹃姦淫するな﹄と言われていたことは、あなたがたの聞いているところで
い じょうよく おんな
ある。 二八しかし、わたしはあなたがたに言う。だれでも、情 欲をいだいて女
み もの こころ なか かんいん みぎ め
を見る者は、 心の中ですでに姦淫をしたのである。 二九もしあなたの右の目
つみ おか ぬ だ す ごたい いちぶ うしな
が罪を犯させるなら、それを抜き出して捨てなさい。五体の一部を失 って
ぜんしん じごく な い ほう えき
も、全身が地獄に投げ入れられない方が、あなたにとって益である。 三〇もし

14
みぎ て つみ おか き す ごたい いちぶ
あなたの右の手が罪を犯させるなら、それを切って捨てなさい。五体の一部
うしな ぜんしん じごく お こ ほう えき
を失 っても、全身が地獄に落ち込まない方が、あなたにとって益である。 三一
つま だ もの り え ん じょう わた い
また﹃妻を出す者は離縁 状を渡せ﹄と言われている。 三二しかし、わたしはあ
い ふひんこう い が い りゆう じぶん つま だ もの かんいん
なたがたに言う。だれでも、不品行以外の理由で自分の妻を出す者は、姦淫
おこな だ おんな もの かんいん おこな
を行わせるのである。また出された女をめとる者も、姦淫を行うのである。
むかし ひとびと ちか ちか しゅ たい はた
三三 また昔の人々に﹃いつわり誓うな、誓ったことは、すべて主に対して果せ﹄
い き
と言われていたことは、あなたがたの聞いているところである。 三四しかし、
い ちか てん ちか
わ た し は あ な た が た に 言 う。い っ さ い 誓 っ て は な ら な い。天 を さ し て 誓 う
かみ み ざ ち ちか かみ あし
な。そこは神の御座であるから。 三五また地をさして誓うな。そこは神の足
だい ちか だいおう みやこ
台であるから。またエルサレムをさして誓うな。それは﹃大王の都﹄である
じぶん あたま ちか かみ け ひと しろ
から。 三六また、自分の頭をさして誓うな。あなたは髪の毛一すじさえ、白く
マタイによる福音書

くろ ことば
も黒くもすることができない。 三七あなたがたの言葉は、ただ、しかり、しか
いな いな いじょう で あく く
り、否、否、であるべきだ。それ以上に出ることは、悪から来るのである。
め め は は い き
三八 ﹃目には目を、歯には歯を﹄と言われていたことは、あなたがたの聞いて
い あくにん て む
いるところである。 三九しかし、わたしはあなたがたに言う。悪人に手向かう
みぎ ほお う ほお む
な。もし、だれかがあなたの右の頬を打つなら、ほかの頬をも向けてやりな

15
うった したぎ と もの うわぎ あた
さい。 四〇あなたを訴えて、下着を取ろうとする者には、上着をも与えなさい。
い ひと
四一 もし、だれかが、あなたをしいて一マイル行かせようとするなら、その人
とも い もと もの あた か もの ことわ
と共に二マイル行きなさい。 四二求める者には与え、借りようとする者を断る
な。
とな びと あい てき にく い き
四三 ﹃隣り人を愛し、敵を憎め﹄と言われていたことは、あなたがたの聞いて
い てき あい はくがい
いるところである。 四四しかし、わたしはあなたがたに言う。敵を愛し、迫害
もの いの てん ちち こ
する者のために祈れ。 四五こうして、天にいますあなたがたの父の子となるた
てん ちち わる もの うえ よ もの うえ たいよう ただ
めである。天の父は、悪い者の上にも良い者の上にも、太陽をのぼらせ、正
もの ただ もの あめ ふ くだ
しい者にも正しくない者にも、雨を降らして下さるからである。 四六あなたが
じぶん あい もの あい むく
たが自分を愛する者を愛したからとて、なんの報いがあろうか。そのような
しゅぜいにん きょうだい
こ と は 取税人 で も す る で は な い か。 四七 兄 弟 だ け に あ い さ つ を し た か ら と
マタイによる福音書

こと いほうじん
て、なんのすぐれた事をしているだろうか。そのようなことは異邦人でもし
てん ちち かんぜん
ているではないか。 四八それだから、あなたがたの天の父が完全であられるよ
かんぜん もの
うに、あなたがたも完全な者となりなさい。

16
第六章
じぶん ぎ み ひと まえ おこな ちゅうい
一 自分の義を、見られるために人の前で行わないように、注意しなさい。も
てん ちち むく う
し、そうしないと、天にいますあなたがたの父から報いを受けることがない
であろう。
ほどこ とき ぎぜんしゃ ひと かいどう まち
二 だから、 施しをする時には、偽善者たちが人にほめられるため会堂や町の
なか じぶん まえ ふ い かれ
中でするように、自分の前でラッパを吹きならすな。よく言っておくが、彼
むく う ほどこ ばあい みぎ て
らはその報いを受けてしまっている。 三あなたは施しをする場合、右の手の
ひだり て し ほどこ かく
していることを左の手に知らせるな。 四それは、あなたのする施しが隠れて
かく こと み ちち むく
いるためである。すると、隠れた事を見ておられるあなたの父は、報いてく
ださるであろう。
マタイによる福音書

いの とき ぎぜんしゃ かれ ひと み
五 また祈る時には、偽善者たちのようにするな。彼らは人に見せようとして、
かいどう おおどお た いの この い かれ
会堂や大通りのつじに立って祈ることを好む。よく言っておくが、彼らはそ
むく う いの とき じぶん と
の報いを受けてしまっている。 六あなたは祈る時、自分のへやにはいり、戸を
と かく ところ ちち いの かく
閉じて、隠れた所においでになるあなたの父に祈りなさい。すると、隠れた
こと み ちち むく いの
事 を 見 て お ら れ る あ な た の 父 は、報 い て く だ さ る で あ ろ う。 七ま た、祈 る

17
ばあい いほうじん いの かれ ことば おお き
場合、異邦人のように、くどくどと祈るな。彼らは言葉かずが多ければ、聞
おも かれ
きいれられるものと思っている。 八だから、彼らのまねをするな。あなたが
ちち かみ もと さき ひつよう ぞん
たの父なる神は、求めない先から、あなたがたに必要なものはご存じなので
いの
ある。 九だから、あなたがたはこう祈りなさい、
てん ちち
天にいますわれらの父よ、
み な
御名があがめられますように。
みくに
一〇 御国がきますように。
てん おこな
みこころが天に行われるとおり、
ち おこな
地にも行われますように。
ひ しょくもつ
一一 わたしたちの日ごとの食 物を、
あた
きょうもお与えください。
マタイによる福音書

ふさい もの
一二 わたしたちに負債のある者をゆるしましたように、
ふさい
わたしたちの負債をもおゆるしください。
こころ あ
一三 わたしたちを試みに会わせないで、
あ もの すく
悪しき者からお救いください。
ひとびと てん
一四 もしも、あなたがたが、人々のあやまちをゆるすならば、あなたがたの天

18
ちち くだ ひと
の父も、あなたがたをゆるして下さるであろう。 一五もし人をゆるさないなら
ちち くだ
ば、あなたがたの父も、あなたがたのあやまちをゆるして下さらないであろ
う。
だんじき とき ぎぜんしゃ いんき かお かれ
一六 また断食をする時には、偽善者がするように、陰気な顔つきをするな。彼
だんじき ひと み じぶん かお みぐる
らは断食をしていることを人に見せようとして、自分の顔を見苦しくするの
い かれ むく う
である。よく言っておくが、彼らはその報いを受けてしまっている。 一七あな
だんじき とき じぶん あたま あぶら ぬ かお あら
たがたは断食をする時には、自分の頭に油を塗り、顔を洗いなさい。 一八それ
だんじき ひと し かく ところ
は断食をしていることが人に知れないで、隠れた所においでになるあなたの
ちち し かく こと み ちち むく
父に知られるためである。すると、隠れた事を見ておられるあなたの父は、報
くだ
いて下さるであろう。
じぶん むし く ぬすびと お
一九 あなたがたは自分のために、虫が食い、さびがつき、また、盗人らが押し
マタイによる福音書

い ぬす だ ちじょう たから じぶん


入って盗み出すような地上に、 宝をたくわえてはならない。 二〇むしろ自分
むし く ぬすびと お い ぬす だ
のため、虫も食わず、さびもつかず、また、盗人らが押し入って盗み出すこ
てん たから たから ところ こころ
ともない天に、宝をたくわえなさい。 二一あなたの宝のある所には、心もある
め め す
からである。 二二目はからだのあかりである。だから、あなたの目が澄んでお
ぜんしん あか め わる ぜんしん くら
れば、全身も明るいだろう。 二三しかし、あなたの目が悪ければ、全身も暗い

19
うち ひかり くら くら
だろう。だから、もしあなたの内なる光が暗ければ、その暗さは、どんなで
しゅじん か つか いっぽう にく
あろう。 二四だれも、ふたりの主人に兼ね仕えることはできない。一方を憎ん
たほう あい いっぽう した たほう
で他方を愛し、あるいは、一方に親しんで他方をうとんじるからである。あ
かみ とみ か つか
なたがたは、神と富とに兼ね仕えることはできない。
い なに た なに の
二五 それだから、あなたがたに言っておく。何を食べようか、何を飲もうかと、
じぶん いのち おも なに き じぶん おも
自分の命のことで思いわずらい、何を着ようかと自分のからだのことで思い
いのち しょくもつ きもの そら
わずらうな。 命は食 物にまさり、からだは着物にまさるではないか。 二六空
とり み か くら と
の鳥を見るがよい。まくことも、刈ることもせず、倉に取りいれることもし
てん ちち かれ やしな くだ
ない。それだのに、あなたがたの天の父は彼らを養 っていて下さる。あなた
かれ もの
がたは彼らよりも、はるかにすぐれた者ではないか。 二七あなたがたのうち、
おも じぶん じゅみょう の
だれが思いわずらったからとて、自分の寿 命をわずかでも延ばすことができ
マタイによる福音書

きもの おも の はな
ようか。 二八また、なぜ、着物のことで思いわずらうのか。野の花がどうして
そだ かんが み はたら つむ
育っているか、 考えて見るがよい。 働きもせず、紡ぎもしない。 二九しかし、
い えいが とき はな
あなたがたに言うが、栄華をきわめた時のソロモンでさえ、この花の一つほ
きかざ は ろ な い
どにも着飾ってはいなかった。 三〇きょうは生えていて、あすは炉に投げ入れ
の くさ かみ よそお くだ
られる野の草でさえ、神はこのように装 って下さるのなら、あなたがたに、そ

20
いじょう しんこう うす もの
れ以上よくしてくださらないはずがあろうか。ああ、信仰の薄い者たちよ。 三
なに た なに の なに き い おも
一 だから、何を食べようか、何を飲もうか、あるいは何を着ようかと言って思
いほうじん せつ もと
いわずらうな。 三二これらのものはみな、異邦人が切に求めているものであ
てん ちち ひつよう
る。あなたがたの天の父は、これらのものが、ことごとくあなたがたに必要
ぞん かみ くに かみ ぎ もと
であることをご存じである。 三三まず神の国と神の義とを求めなさい。そう
そ あた
すれば、これらのものは、すべて添えて与えられるであろう。 三四だから、あ
おも じしん おも
すのことを思いわずらうな。あすのことは、あす自身が思いわずらうであろ
にち くろう ひ にち じゅうぶん
う。一日の苦労は、その日一日だけで十 分である。
第七章
マタイによる福音書

ひと じぶん
一 人をさばくな。自分がさばかれないためである。 二あなたがたがさばくそ
じぶん はか じぶん はか
のさばきで、自分もさばかれ、あなたがたの量るそのはかりで、自分にも量
あた きょうだい め み じぶん め
り与えられるであろう。 三なぜ、 兄 弟の目にあるちりを見ながら、自分の目
はり みと じぶん め はり きょうだい
にある梁を認めないのか。 四自分の目には梁があるのに、どうして兄 弟にむ
め と い ぎぜんしゃ
かって、あなたの目からちりを取らせてください、と言えようか。 五偽善者

21
じぶん め はり と み
よ、まず自分の目から梁を取りのけるがよい。そうすれば、はっきり見える
きょうだい め と
ようになって、 兄 弟の目からちりを取りのけることができるだろう。
せい いぬ しんじゅ ぶた な おそ かれ
六 聖なるものを犬にやるな。また真珠を豚に投げてやるな。恐らく彼らはそ
あし ふ む
れらを足で踏みつけ、向きなおってあなたがたにかみついてくるであろう。
もと あた さが み
七 求めよ、そうすれば、与えられるであろう。捜せ、そうすれば、見いだすで
もん もと
あろう。門をたたけ、そうすれば、あけてもらえるであろう。 八すべて求める
もの え さが もの み もん もの
者は得、捜す者は見いだし、門をたたく者はあけてもらえるからである。 九あ
じぶん こ もと いし あた もの
なたがたのうちで、自分の子がパンを求めるのに、石を与える者があろうか。
うお もと あた もの
一〇 魚を求めるのに、へびを与える者があろうか。 一一このように、あなたがた
わる もの じぶん こども よ おく もの し
は悪い者であっても、自分の子供には、良い贈り物をすることを知っている
てん ちち もと もの よ
とすれば、天にいますあなたがたの父はなおさら、求めてくる者に良いもの
マタイによる福音書

くだ なにごと ひとびと のぞ
を下さらないことがあろうか。 一二だから、何事でも人々からしてほしいと望
ひとびと りっぽう よげんしゃ
むことは、人々にもそのとおりにせよ。これが律法であり預言者である。
せま もん ほろ もん おお みち ひろ
一三 狭い門からはいれ。滅びにいたる門は大きく、その道は広い。そして、そ
い もの おお いのち もん せま みち ほそ
こからはいって行く者が多い。 一四 命にいたる門は狭く、その道は細い。そ
み もの すく
して、それを見いだす者が少ない。

22
よげんしゃ けいかい かれ ひつじ ころも き く
一五 にせ預言者を警戒せよ。彼らは、 羊の衣を着てあなたがたのところに来
うちがわ ごうよく み
るが、その内側は強欲なおおかみである。 一六あなたがたは、その実によって
かれ み いばら あつ もの
彼らを見わけるであろう。 茨からぶどうを、あざみからいちじくを集める者
よ き よ み むす わる き わる み
があろうか。 一七そのように、すべて良い木は良い実を結び、悪い木は悪い実
むす よ き わる み わる き よ み
を結ぶ。 一八良い木が悪い実をならせることはないし、悪い木が良い実をなら
よ み むす き き ひ なか
せることはできない。 一九良い実を結ばない木はことごとく切られて、火の中
な こ み かれ み
に投げ込まれる。 二〇このように、あなたがたはその実によって彼らを見わけ
しゅ しゅ い もの てんごく
るのである。 二一わたしにむかって﹃主よ、主よ﹄と言う者が、みな天国には
てん ちち みむね おこな もの
いるのではなく、ただ、天にいますわが父の御旨を行う者だけが、はいるの
ひ おお もの しゅ しゅ
である。 二二その日には、多くの者が、わたしにむかって﹃主よ、主よ、わた
な よげん な
したちはあなたの名によって預言したではありませんか。また、あなたの名
マタイによる福音書

あくれい お だ な おお ちから おこな


によって悪霊を追い出し、あなたの名によって多くの力あるわざを行 ったで
い かれ
はありませんか﹄と言うであろう。 二三そのとき、わたしは彼らにはっきり、こ
い まった し ふほう はたら もの い
う言おう、﹃あなたがたを全く知らない。不法を働く者どもよ、行ってしま
え﹄。
ことば き おこな いわ うえ じぶん いえ
二四 それで、わたしのこれらの言葉を聞いて行うものを、岩の上に自分の家を

23
た かしこ ひと くら あめ ふ こうずい お よ かぜ
建てた賢い人に比べることができよう。 二五雨が降り、洪水が押し寄せ、風が
ふ いえ う たお いわ どだい
吹いてその家に打ちつけても、倒れることはない。岩を土台としているから
ことば き おこな もの すな うえ
である。 二六また、わたしのこれらの言葉を聞いても行わない者を、砂の上に
じぶん いえ た おろ ひと くら あめ ふ こうずい お
自分の家を建てた愚かな人に比べることができよう。 二七雨が降り、洪水が押
よ かぜ ふ いえ う たお たお
し寄せ、風が吹いてその家に打ちつけると、倒れてしまう。そしてその倒れ
かた
方はひどいのである﹂。
ことば かた お ぐんしゅう おしえ おどろ
二八 イエスがこれらの言を語り終えられると、群 衆はその教にひどく驚いた。
りっぽうがくしゃ けんい もの おし
二九 それは律法学者たちのようにではなく、権威ある者のように、教えられた
からである。
第八章
マタイによる福音書

やま お ぐんしゅう
一 イエスが山をお降りになると、おびただしい群 衆がついてきた。 二すると、
びょうにん ふ い
そのとき、ひとりのらい病 人がイエスのところにきて、ひれ伏して言った、
しゅ て の
﹁主よ、みこころでしたら、きよめていただけるのですが﹂。 三イエスは手を伸
かれ い
ばして、彼にさわり、
﹁そうしてあげよう、きよくなれ﹂と言われた。すると、

24
びょう ただ かれ い はな
らい病は直ちにきよめられた。 四イエスは彼に言われた、
﹁だれにも話さない
ちゅうい い じぶん さいし み
ように、注意しなさい。ただ行って、自分のからだを祭司に見せ、それから、
めい そな もの ひとびと しょうめい
モーセが命じた供え物をささげて、人々に証 明しなさい﹂。
かえ ひゃくそつちょう
五 さて、イエスがカペナウムに帰ってこられたとき、ある百 卒 長がみもとに
うった い しゅ しもべ ちゅうぶ くる いえ ね
きて訴えて言った、 六﹁主よ、わたしの僕が中風でひどく苦しんで、家に寝て
かれ い い
います﹂。 七イエスは彼に、
﹁わたしが行ってなおしてあげよう﹂と言われた。
ひゃくそつちょう こた い しゅ や ね した い
八 そこで百 卒 長は答えて言った、
﹁主よ、わたしの屋根の下にあなたをお入
しかく ことば くだ
れする資格は、わたしにはございません。ただ、お言葉を下さい。そうすれ
しもべ けんい した もの した
ば 僕 は な お り ま す。 九わ た し も 権威 の 下 に あ る 者 で す が、わ た し の 下 に も
へいそつ もの い い い もの
兵卒がいまして、ひとりの者に﹃行け﹄と言えば行き、ほかの者に﹃こい﹄と
い しもべ い
言えばきますし、また、 僕に﹃これをせよ﹄と言えば、してくれるのです﹂。
マタイによる福音書

き ひじょう かんしん ひとびと い


一〇 イエスはこれを聞いて非常に感心され、ついてきた人々に言われた、﹁よく
き ひと なか しんこう み
聞きなさい。イスラエル人の中にも、これほどの信仰を見たことがない。 一一
い おお ひと ひがし にし てんごく
なお、あなたがたに言うが、多くの人が東から西からきて、天国で、アブラ
とも えんかい せき くに こ そと
ハム、イサク、ヤコブと共に宴会の席につくが、 一二この国の子らは外のやみ
お だ な さけ は
に追い出され、そこで泣き叫んだり、歯がみをしたりするであろう﹂。 一三それ

25
ひゃくそつちょう い しん い
からイエスは百 卒 長に﹁行け、あなたの信じたとおりになるように﹂と言わ
とき しもべ
れた。すると、ちょうどその時に、 僕はいやされた。
いえ い ねつびょう
一四 それから、イエスはペテロの家にはいって行かれ、そのしゅうとめが熱 病
とこ て
で、床についているのをごらんになった。 一五そこで、その手にさわられると、
ねつ ひ おんな お ゆうぐれ
熱が引いた。そして女は起きあがってイエスをもてなした。 一六夕暮になる
ひとびと あくれい もの おお つ
と、人々は悪霊につかれた者を大ぜい、みもとに連れてきたので、イエスは
ことば れい お だ びょうにん
み言葉をもって霊どもを追い出し、病 人をことごとくおいやしになった。 一七
よげんしゃ かれ み う
これは、預言者イザヤによって﹁彼は、わたしたちのわずらいを身に受け、わ
やまい お い ことば じょうじゅ
たしたちの病を負うた﹂と言われた言葉が成 就するためである。
ぐんしゅう じぶん むら み む ぎし い
一八 イエスは、群 衆が自分のまわりに群がっているのを見て、向こう岸に行く
で し めい りっぽうがくしゃ ちか
ようにと弟子たちにお命じになった。 一九するとひとりの律法学者が近づい
マタイによる福音書

い せんせい ところ したが


てきて言った、
﹁先生、あなたがおいでになる所なら、どこへでも従 ってまい
ひと い あな そら とり
ります﹂。 二〇イエスはその人に言われた、
﹁きつねには穴があり、空の鳥には
す ひと こ ところ で し
巣がある。しかし、人の子にはまくらする所がない﹂。 二一また弟子のひとり
い しゅ ちち ほうむ い くだ かれ い
が言った、
﹁主よ、まず、父を葬りに行かせて下さい﹂。 二二イエスは彼に言わ
したが しにん ほうむ しにん まか
れた、
﹁わたしに従 ってきなさい。そして、その死人を葬ることは、死人に任

26
せておくがよい﹂。
ふね の こ で し したが
二三 それから、イエスが舟に乗り込まれると、弟子たちも従 った。 二四すると
とつぜん かいじょう はげ ぼうふう おこ ふね なみ
突然、海 上に激しい暴風が起って、舟は波にのまれそうになった。ところが、
ねむ で し よ
イエスは眠っておられた。 二五そこで弟子たちはみそばに寄ってきてイエス
おこ しゅ たす し い
を起し、
﹁主よ、お助けください、わたしたちは死にそうです﹂と言った。 二六
かれ い しんこう うす もの
するとイエスは彼らに言われた、
﹁なぜこわがるのか、信仰の薄い者たちよ﹂。
お かぜ うみ おお
それから起きあがって、風と海とをおしかりになると、大なぎになった。 二七
かれ おどろ い ひと かぜ うみ したが
彼らは驚いて言った、﹁このかたはどういう人なのだろう。風も海も従わせる
とは﹂。
む ぎし びと ち つ あくれい
二八 それから、向こう岸、ガダラ人の地に着かれると、悪霊につかれたふたり
もの はかば で で あ かれ て お らんぼうもの
の者が、墓場から出てきてイエスに出会った。彼らは手に負えない乱暴者で、
マタイによる福音書

へん みち とお とつぜん かれ
だれもその辺の道を通ることができないほどであった。 二九すると突然、彼ら
さけ い かみ こ かか
は叫んで言った、
﹁神の子よ、あなたはわたしどもとなんの係わりがあるので
とき くる
す。まだその時ではないのに、ここにきて、わたしどもを苦しめるのですか﹂。
はな ところ ぶた む か
三〇 さて、そこからはるか離れた所に、おびただしい豚の群れが飼ってあった。
あくれい ねが い お だ
三一 悪霊どもはイエスに願って言った、﹁もしわたしどもを追い出されるのな

27
ぶた む なか くだ い
ら、あの豚の群れの中につかわして下さい﹂。 三二そこで、イエスが﹁行け﹂と
い かれ で い ぶた なか こ む
言われると、彼らは出て行って、豚の中へはいり込んだ。すると、その群れ
ぜんたい うみ う か くだ みず なか し
全体が、がけから海へなだれを打って駆け下り、水の中で死んでしまった。 三
か もの に まち い あくれい もの
三 飼う者たちは逃げて町に行き、悪霊につかれた者たちのことなど、いっさい
し まちじゅう もの あ で
を知らせた。 三四すると、町 中の者がイエスに会いに出てきた。そして、イエ
あ ちほう さ たの
スに会うと、この地方から去ってくださるようにと頼んだ。
第九章
ふね の うみ わた じぶん まち かえ ひとびと
一 さて、イエスは舟に乗って海を渡り、自分の町に帰られた。 二すると、人々
ちゅうぶ もの とこ うえ ね はこ かれ
が中風の者を床の上に寝かせたままでみもとに運んできた。イエスは彼らの
マタイによる福音書

しんこう み ちゅうぶ もの こ つみ
信仰を見て、中風の者に、
﹁子よ、しっかりしなさい。あなたの罪はゆるされ
い りっぽうがくしゃ こころ なか い
たのだ﹂と言われた。 三すると、ある律法学者たちが心の中で言った、
﹁この
ひと かみ けが かれ かんが み ぬ
人は神を汚している﹂。 四イエスは彼らの考えを見抜いて、
﹁なぜ、あなたがた
こころ なか わる かんが つみ い
は心の中で悪いことを考えているのか。 五あなたの罪はゆるされた、と言う
お ある い ひと こ ちじょう
のと、起きて歩け、と言うのと、どちらがたやすいか。 六しかし、人の子は地上

28
つみ けんい い
で罪をゆるす権威をもっていることが、あなたがたにわかるために﹂と言い、
ちゅうぶ もの お とこ と いえ かえ い
中風の者にむかって、
﹁起きよ、床を取りあげて家に帰れ﹂と言われた。 七す
かれ お いえ かえ い ぐんしゅう み おそ
ると彼は起きあがり、家に帰って行った。 八群 衆はそれを見て恐れ、こんな
おお けんい ひと あた かみ
大きな権威を人にお与えになった神をあがめた。
すす い ひと しゅうぜいしょ
九 さてイエスはそこから進んで行かれ、マタイという人が収 税 所にすわって
み したが い かれ た
いるのを見て、﹁わたしに従 ってきなさい﹂と言われた。すると彼は立ちあ
したが いえ しょくじ せき
がって、イエスに従 った。 一〇それから、イエスが家で食事の席についておら
とき おお しゅぜいにん つみびと で し
れた時のことである。多くの取税人や罪人たちがきて、イエスや弟子たちと
とも せき つ びと み で し い
共にその席に着いていた。 一一パリサイ人たちはこれを見て、弟子たちに言っ
せんせい しゅぜいにん つみびと しょくじ とも
た、
﹁なぜ、あなたがたの先生は、取税人や罪人などと食事を共にするのか﹂。
き い じょうぶ ひと い しゃ
一二 イエスはこれを聞いて言われた、﹁丈夫な人には医者はいらない。いるの
マタイによる福音書

びょうにん この
は病 人である。 一三﹃わたしが好むのは、あわれみであって、いけにえではな
い み まな ぎじん まね
い﹄とはどういう意味か、学んできなさい。わたしがきたのは、義人を招く
つみびと まね
ためではなく、罪人を招くためである﹂。
で し い
一四 そのとき、ヨハネの弟子たちがイエスのところにきて言った、﹁わたしたち
びと だんじき で し だんじき
とパリサイ人たちとが断食をしているのに、あなたの弟子たちは、なぜ断食

29
い こんれい きゃく はなむこ いっしょ
をしないのですか﹂。 一五するとイエスは言われた、
﹁婚礼の客は、花婿が一緒
あいだ かな はなむこ うば さ ひ く
にいる間は、悲しんでおられようか。しかし、花婿が奪い去られる日が来る。
とき だんじき まあたら ぬの ふる きもの
その時には断食をするであろう。 一六だれも、真新しい布ぎれで、古い着物に
あ きもの ひ やぶ やぶ
つぎを当てはしない。そのつぎきれは着物を引き破り、そして、破れがもっ
あたら しゅ ふる かわぶくろ い
とひどくなるから。 一七だれも、新しいぶどう酒を古い皮 袋に入れはしない。
かわぶくろ は さ さけ なが で かわぶくろ
もしそんなことをしたら、その皮 袋は張り裂け、酒は流れ出るし、皮 袋もむ
あたら しゅ あたら かわぶくろ い
だになる。だから、新しいぶどう酒は新しい皮 袋に入れるべきである。そう
りょうほう なが
すれば両 方とも長もちがするであろう﹂。
かれ はな かいどうづかさ
一八 これらのことを彼らに話しておられると、そこにひとりの会 堂 司がきて、
はい い むすめ いま し
イエスを拝して言った、﹁わたしの娘がただ今死にました。しかしおいでに
て うえ くだ むすめ い かえ
なって手をその上においてやって下さい。そうしたら、娘は生き返るでしょ
マタイによる福音書

た かれ い で し いっしょ
う﹂。 一九そこで、イエスが立って彼について行かれると、弟子たちも一緒に
い ねんかん なが ち おんな ちかよ
行った。 二〇するとそのとき、十二年間も長血をわずらっている女が近寄って
ころも ころも
きて、イエスのうしろからみ衣のふさにさわった。 二一み衣にさわりさえすれ
こころ なか おも
ば、なおしていただけるだろう、と心の中で思っていたからである。 二二イエ
ふ む おんな み い むすめ
スは振り向いて、この女を見て言われた、
﹁娘よ、しっかりしなさい。あなた

30
しんこう すく おんな とき
の信仰があなたを救ったのです﹂。するとこの女はその時に、いやされた。 二三
つかさ いえ つ ふえ ふ さわ ぐんしゅう み い
それからイエスは司の家に着き、笛吹きどもや騒いでいる群 衆を見て言われ
い しょうじょ し ねむ
た。 二四﹁あちらへ行っていなさい。 少 女は死んだのではない。眠っている
ひとびと わら ぐんしゅう そと だ
だけである﹂。すると人々はイエスをあざ笑った。 二五しかし、群 衆を外へ出
うち しょうじょ て と しょうじょ お
したのち、イエスは内へはいって、少 女の手をお取りになると、少 女は起き
ち ほ う ぜんたい
あがった。 二六そして、そのうわさがこの地方全体にひろまった。
すす い もうじん こ
二七 そこから進んで行かれると、ふたりの盲人が、
﹁ダビデの子よ、わたしたち
くだ さけ
をあわれんで下さい﹂と叫びながら、イエスについてきた。 二八そしてイエス
いえ もうじん かれ
が家にはいられると、盲人たちがみもとにきたので、彼らに﹁わたしにそれ
しん い かれ い しゅ しん
ができると信じるか﹂と言われた。彼らは言った、
﹁主よ、信じます﹂。 二九そ
かれ め い しんこう
こで、イエスは彼らの目にさわって言われた、
﹁あなたがたの信仰どおり、あ
マタイによる福音書

み かれ め ひら かれ
なたがたの身になるように﹂。 三〇すると彼らの目が開かれた。イエスは彼ら
いまし い し き
をきびしく戒めて言われた、﹁だれにも知れないように気をつけなさい﹂。 三一
かれ で い ち ほ う ぜんたい い
しかし、彼らは出て行って、その地方全体にイエスのことを言いひろめた。
かれ で い ひとびと あくれい つ
三二 彼らが出て行くと、人々は悪霊につかれたおしをイエスのところに連れて
あくれい お だ もの い ぐんしゅう
きた。 三三すると、悪霊は追い出されて、おしが物を言うようになった。 群 衆

31
おどろ なか み
は驚いて、﹁このようなことがイスラエルの中で見られたことは、これまで
いちど い びと い かれ あくれい
一度もなかった﹂と言った。 三四しかし、パリサイ人たちは言った、﹁彼は、悪霊
あくれい お だ
どものかしらによって悪霊どもを追い出しているのだ﹂。
まちまちむらむら めぐ ある しょかいどう おし みくに ふくいん
三五 イエスは、すべての町々村々を巡り歩いて、諸会堂で教え、御国の福音を
の つた びょうき
宣べ伝え、あらゆる病気、あらゆるわずらいをおいやしになった。 三六また
ぐんしゅう か もの ひつじ よわ は たお
群 衆が飼う者のない羊のように弱り果てて、倒れているのをごらんになっ
かれ ふか で し い しゅうかく おお
て、彼らを深くあわれまれた。 三七そして弟子たちに言われた、
﹁収 穫は多い
はたら びと すく しゅうかく しゅ ねが しゅうかく はたら
が、 働き人が少ない。 三八だから、 収 穫の主に願って、その収 穫のために働
びと おく だ
き人を送り出すようにしてもらいなさい﹂。
第一〇章
マタイによる福音書

で し よ よ けが れい お だ
一 そこで、イエスは十二弟子を呼び寄せて、汚れた霊を追い出し、あらゆる
びょうき けんい さず
病気、あらゆるわずらいをいやす権威をお授けになった。
し と な つぎ よ
二 十二使徒の名は、次のとおりである。まずペテロと呼ばれたシモンとその
きょうだい こ きょうだい
兄 弟 アンデレ、それからゼベダイの子ヤコブとその兄 弟 ヨハネ、 三ピリポと

32
しゅぜいにん こ ねっしん
バルトロマイ、トマスと取税人マタイ、アルパヨの子ヤコブとタダイ、 四熱心
とう うらぎ もの
党のシモンとイスカリオテのユダ。このユダはイエスを裏切った者である。
にん あた かれ めい い いほうじん
五 イエスはこの十二人をつかわすに当り、彼らに命じて言われた、
﹁異邦人の
みち い びと まち いえ
道に行くな。またサマリヤ人の町にはいるな。 六むしろ、イスラエルの家の
うしな ひつじ い い てんごく ちか の つた
失われた羊のところに行け。 七行って、﹃天国が近づいた﹄と宣べ伝えよ。 八
びょうにん しにん びょうにん あくれい お だ
病 人をいやし、死人をよみがえらせ、らい病 人をきよめ、悪霊を追い出せ。
う あた さいふ なか きん ぎん ぜに
ただで受けたのだから、ただで与えるがよい。 九財布の中に金、銀または銭を
い い りょこう ふくろ まい したぎ も
入れて行くな。 一〇旅行のための袋も、二枚の下着も、くつも、つえも持って
い はたら びと しょくもつ え とうぜん まち むら
行くな。 働き人がその食 物を得るのは当然である。 一一どの町、どの村には
なか ひと だ た さ
いっても、その中でだれがふさわしい人か、たずね出して、立ち去るまでは
ひと いえ へいあん いの
その人のところにとどまっておれ。 一二その家にはいったなら、平安を祈って
マタイによる福音書

へいあん う いえ いの
あげなさい。 一三もし平安を受けるにふさわしい家であれば、あなたがたの祈
へいあん いえ く へいあん
る平安はその家に来るであろう。もしふさわしくなければ、その平安はあな
かえ く むか
たがたに帰って来るであろう。 一四もしあなたがたを迎えもせず、またあなた
ことば き ひと いえ まち た さ とき あし
がたの言葉を聞きもしない人があれば、その家や町を立ち去る時に、足のち
はら おと い ひ
りを払い落しなさい。 一五あなたがたによく言っておく。さばきの日には、ソ

33
ち ほう まち た
ドム、ゴモラの地の方が、その町よりは耐えやすいであろう。
ひつじ なか おく
一六 わたしがあなたがたをつかわすのは、 羊をおおかみの中に送るようなも
かしこ すなお ひとびと
のである。だから、へびのように賢く、はとのように素直であれ。 一七人々に
ちゅうい かれ しゅうぎしょ ひ わた かいどう う
注意しなさい。彼らはあなたがたを衆議所に引き渡し、会堂でむち打つであ
ちょうかん おう まえ ひ
ろう。 一八またあなたがたは、わたしのために長 官たちや王たちの前に引き
だ かれ いほうじん たい
出されるであろう。それは、彼らと異邦人とに対してあかしをするためであ
かれ ひ わた なに い しんぱい
る。 一九彼らがあなたがたを引き渡したとき、何をどう言おうかと心配しない
い とき さず かた もの
がよい。言うべきことは、その時に授けられるからである。 二〇語る者は、あ
なか かた ちち れい きょうだい
なたがたではなく、あなたがたの中にあって語る父の霊である。 二一兄 弟は
きょうだい ちち こ ころ わた こ おや さか た かれ ころ
兄 弟を、父は子を殺すために渡し、また子は親に逆らって立ち、彼らを殺さ
な ひと にく
せるであろう。 二二またあなたがたは、わたしの名のゆえにすべての人に憎ま
マタイによる福音書

さいご た しの もの すく まち はくがい
れるであろう。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。 二三一つの町で迫害
た まち に い
されたなら、他の町へ逃げなさい。よく言っておく。あなたがたがイスラエ
まちまち まわ おわ ひと こ く
ルの町々を回り終らないうちに、人の子は来るであろう。
で し し いじょう しもべ しゅじんいじょう もの
二四 弟子はその師以上のものではなく、 僕はその主人以上の者ではない。 二五
で し し しもべ しゅじん じゅうぶん
弟子がその師のようであり、僕がその主人のようであれば、それで十 分であ

34
いえ しゅじん い いえ もの
る。もし家の主人がベルゼブルと言われるならば、その家の者どもはなおさ
わる い かれ おそ
ら、どんなにか悪く言われることであろう。 二六だから彼らを恐れるな。おお
あらわ かく し
われたもので、 現れてこないものはなく、隠れているもので、知られてこな
くら はな あか い
いものはない。 二七わたしが暗やみであなたがたに話すことを、明るみで言
みみ や ね うえ い
え。耳にささやかれたことを、屋根の上で言いひろめよ。 二八また、からだを
ころ たましい ころ もの おそ たましい
殺しても、 魂を殺すことのできない者どもを恐れるな。むしろ、からだも魂
じごく ほろ ちから おそ わ
も地獄で滅ぼす力のあるかたを恐れなさい。 二九二羽のすずめは一アサリオ
う ちち ゆる
ンで売られているではないか。しかもあなたがたの父の許しがなければ、そ
わ ち お あたま け かぞ
の一羽も地に落ちることはない。 三〇またあなたがたの頭の毛までも、みな数
おそ おお
えられている。 三一それだから、恐れることはない。あなたがたは多くのすず
もの ひと まえ う もの
めよりも、まさった者である。 三二だから人の前でわたしを受けいれる者を、
マタイによる福音書

てん ちち まえ う
わたしもまた、天にいますわたしの父の前で受けいれるであろう。 三三しか
ひと まえ こば もの てん ちち まえ こば
し、人の前でわたしを拒む者を、わたしも天にいますわたしの父の前で拒む
であろう。
ちじょう へいわ おも へいわ
三四 地上に平和をもたらすために、わたしがきたと思うな。平和ではなく、つ
な こ ひと ちち
るぎを投げ込むためにきたのである。 三五わたしがきたのは、人をその父と、

35
むすめ はは よめ なか
娘をその母と、嫁をそのしゅうとめと仲たがいさせるためである。 三六そし
いえ もの ひと てき ちち はは あい
て家の者が、その人の敵となるであろう。 三七わたしよりも父または母を愛す
もの むすめ あい もの
る者は、わたしにふさわしくない。わたしよりもむすこや娘を愛する者は、わ
じぶん じゅうじか したが
たしにふさわしくない。 三八また自分の十字架をとってわたしに従 ってこな
もの じぶん いのち え もの うしな
い者はわたしにふさわしくない。 三九自分の命を得ている者はそれを失い、わ
じぶん いのち うしな もの え
たしのために自分の命を失 っている者は、それを得るであろう。
う もの う う
四〇 あなたがたを受けいれる者は、わたしを受けいれるのである。わたしを受
もの う
けいれる者は、わたしをおつかわしになったかたを受けいれるのである。 四一
よげんしゃ な よげんしゃ う もの よげんしゃ むく う ぎじん
預言者の名のゆえに預言者を受けいれる者は、預言者の報いを受け、義人の
な ぎじん う もの ぎじん むく う
名のゆえに義人を受けいれる者は、義人の報いを受けるであろう。 四二わたし
で し な ちい もの つめ みず ぱい
の弟子であるという名のゆえに、この小さい者のひとりに冷たい水一杯でも
マタイによる福音書

の もの い けっ むく
飲ませてくれる者は、よく言っておくが、決してその報いからもれることは
ない﹂。

36
第一一章
で し めい お まちまち おし の つた
一 イエスは十二弟子にこのように命じ終えてから、町々で教えまた宣べ伝え
た さ
るために、そこを立ち去られた。
ごくちゅう つた き じぶん で し
二 さて、ヨハネは獄 中でキリストのみわざについて伝え聞き、自分の弟子た

ちをつかわして、 三イエスに言わせた、
﹁﹃きたるべきかた﹄はあなたなのです
ま こた い
か。それとも、ほかにだれかを待つべきでしょうか﹂。 四イエスは答えて言わ
い み き ほうこく
れた、﹁行って、あなたがたが見聞きしていることをヨハネに報告しなさい。
もうじん み あし ある びょうにん みみ きこ しにん
五 盲人は見え、足なえは歩き、らい病 人はきよまり、耳しいは聞え、死人は
い まず ひとびと ふくいん き
生きかえり、貧しい人々は福音を聞かされている。 六わたしにつまずかない
もの かれ かえ
者は、さいわいである﹂。 七彼らが帰ってしまうと、イエスはヨハネのことを
マタイによる福音書

ぐんしゅう かた なに み あらの で かぜ
群 衆に語りはじめられた、
﹁あなたがたは、何を見に荒野に出てきたのか。風
ゆ あし なに み で やわ きもの
に 揺 ら ぐ 葦 で あ る か。 八で は、何 を 見 に 出 て き た の か。柔 ら か い 着物 を ま
ひと やわ きもの ひとびと おう いえ
とった人か。柔らかい着物をまとった人々なら、王の家にいる。 九では、なん
で よげんしゃ み い
のために出てきたのか。預言者を見るためか。そうだ、あなたがたに言うが、
よ げ ん し ゃ いじょう もの
預言者以上の者である。

37
み つかい さき
一〇﹃見よ、わたしは使をあなたの先につかわし、
まえ みち ととの
あなたの前に、道を整えさせるであろう﹄
か ひと い
と書いてあるのは、この人のことである。 一一あなたがたによく言っておく。
おんな う もの なか おお じんぶつ おこ
女の産んだ者の中で、バプテスマのヨハネより大きい人物は起らなかった。
てんごく もっと ちい もの かれ おお
しかし、天国で最も小さい者も、彼よりは大きい。 一二バプテスマのヨハネの
とき いま いた てんごく はげ おそ はげ おそ もの
時から今に至るまで、天国は激しく襲われている。そして激しく襲う者たち
うば と よげんしゃ りっぽう よげん
がそれを奪い取っている。 一三すべての預言者と律法とが預言したのは、ヨハ
とき う のぞ
ネの時までである。 一四そして、もしあなたがたが受けいれることを望めば、
ひと みみ もの き
この人こそは、きたるべきエリヤなのである。 一五耳のある者は聞くがよい。
いま じだい なに くら こども ひろば
一六 今の時代を何に比べようか。それは子供たちが広場にすわって、ほかの
こども よ
子供たちに呼びかけ、
マタイによる福音書

ふえ ふ
一七﹃わたしたちが笛を吹いたのに、
おど
あなたたちは踊ってくれなかった。
とむら うた うた
弔いの歌を歌ったのに、
むね う
胸を打ってくれなかった﹄
い に た の
と言うのに似ている。 一八なぜなら、ヨハネがきて、食べることも、飲むこと

38
あくれい い ひと こ
もしないと、あれは悪霊につかれているのだ、と言い、一九また人の子がきて、
た の み しょく もの おおざけ の もの
食べたり飲んだりしていると、見よ、あれは食をむさぼる者、大酒を飲む者、
しゅぜいにん つみびと なかま い ち え ただ はたら
また取税人、罪人の仲間だ、と言う。しかし、知恵の正しいことは、その働
しょうめい
きが証 明する﹂。
かずかず ちから く あらた
二〇 それからイエスは、数々の力あるわざがなされたのに、悔い改めることを
まちまち せ
しなかった町々を、責めはじめられた。 二一﹁わざわいだ、コラジンよ。わざ
ちから
わいだ、ベツサイダよ。おまえたちのうちでなされた力あるわざが、もしツ
かれ むかし あらぬの はい
ロとシドンでなされたなら、彼らはとうの昔に、荒布をまとい灰をかぶって、
く あらた い ひ
悔い改めたであろう。 二二しかし、おまえたちに言っておく。さばきの日に
ほう た
は、ツロとシドンの方がおまえたちよりも、耐えやすいであろう。 二三ああ、カ
てん あ よ み おと
ペナウムよ、おまえは天にまで上げられようとでもいうのか。黄泉にまで落
マタイによる福音書

なか ちから
されるであろう。おまえの中でなされた力あるわざが、もしソドムでなされ
まち きょ う のこ
たなら、その町は今日までも残っていたであろう。 二四しかし、あなたがたに
い ひ ち ほう た
言 う。さ ば き の 日 に は、ソ ド ム の 地 の 方 が お ま え よ り は 耐 え や す い で あ ろ
う﹂。
こえ い てんち しゅ ちち
二五 そのときイエスは声をあげて言われた、﹁天地の主なる父よ。あなたをほ

39
こと ち え もの かしこ もの かく おさ ご
めたたえます。これらの事を知恵のある者や賢い者に隠して、幼な子にあら
ちち こと
わしてくださいました。 二六父よ、これはまことにみこころにかなった事でし
こと ちち まか こ し もの
た。 二七すべての事は父からわたしに任せられています。そして、子を知る者
ちち ちち し もの こ ちち こ えら
は父のほかにはなく、父を知る者は、子と、父をあらわそうとして子が選ん
もの
だ者とのほかに、だれもありません。
おもに お くろう もの
二八 すべて重荷を負うて苦労している者は、わたしのもとにきなさい。あなた
やす にゅうわ こころ もの
がたを休ませてあげよう。 二九わたしは柔和で心のへりくだった者であるか
お まな
ら、わたしのくびきを負うて、わたしに学びなさい。そうすれば、あなたが
たましい やす あた お
たの魂に休みが与えられるであろう。 三〇わたしのくびきは負いやすく、わた
に かる
しの荷は軽いからである﹂。
マタイによる福音書

第一二章
あんそくにち むぎばたけ なか とお で し
一 そのころ、ある安息日に、イエスは麦 畑の中を通られた。すると弟子たち
くうふく ほ つ た びと
は、空腹であったので、穂を摘んで食べはじめた。 二パリサイ人たちがこれを
み い で し あんそくにち
見て、イエスに言った、
﹁ごらんなさい、あなたの弟子たちが、安息日にして

40
かれ い
はならないことをしています﹂。 三そこでイエスは彼らに言われた、﹁あなた
とも もの う なに よ
がたは、ダビデとその供の者たちとが飢えたとき、ダビデが何をしたか読ん
かみ いえ さいし じぶん
だことがないのか。 四すなわち、神の家にはいって、祭司たちのほか、自分も
とも もの た そな た あんそくにち
供の者たちも食べてはならぬ供えのパンを食べたのである。 五また、安息日
みやづか さいし あんそくにち やぶ つみ
に 宮仕 え を し て い る 祭司 た ち は 安息日 を 破 っ て も 罪 に は な ら な い こ と を、
りっぽう よ い みや おお
律法で読んだことがないのか。 六あなたがたに言っておく。宮よりも大いな
もの この
る者がここにいる。 七﹃わたしが好むのは、あわれみであって、いけにえでは
い み し つみ もの
ない﹄とはどういう意味か知っていたなら、あなたがたは罪のない者をとが
ひと こ あんそくにち しゅ
めなかったであろう。 八人の子は安息日の主である﹂。
さ かれ かいどう
九 イエスはそこを去って、彼らの会堂にはいられた。 一〇すると、そのとき、
かたて ひと ひとびと うった おも あんそくにち ひと
片手のなえた人がいた。人々はイエスを訴えようと思って、﹁安息日に人をい
マタイによる福音書

たず かれ い
やしても、さしつかえないか﹂と尋ねた。 一一イエスは彼らに言われた、
﹁あな
ぴき ひつじ も ひと あんそくにち
たがたのうちに、一匹の羊を持っている人があるとして、もしそれが安息日
あな お て ひ あ ひと ひつじ
に穴に落ちこんだなら、手をかけて引き上げてやらないだろうか。 一二人は羊
あんそくにち よ
よりも、はるかにすぐれているではないか。だから、安息日に良いことをす
ただ ひと て の
るのは、正しいことである﹂。 一三そしてイエスはその人に、
﹁手を伸ばしなさ

41
い て の て よ
い﹂と言われた。そこで手を伸ばすと、ほかの手のように良くなった。 一四パ
びと で い ころ そうだん
リサイ人たちは出て行って、なんとかしてイエスを殺そうと相談した。 一五イ
し さ い おお ひとびと
エスはこれを知って、そこを去って行かれた。ところが多くの人々がついて
かれ みな じぶん ひとびと
きたので、彼らを皆いやし、 一六そして自分のことを人々にあらわさないよう
かれ いまし よげんしゃ い ことば じょうじゅ
にと、彼らを戒められた。 一七これは預言者イザヤの言った言葉が、成 就する
ためである、
み えら しもべ
﹁見よ、わたしが選んだ僕、
一八
こころ あい もの
わたしの心にかなう、愛する者。
かれ れい さず
わたしは彼にわたしの霊を授け、
かれ せいぎ いほうじん の つた
そして彼は正義を異邦人に宣べ伝えるであろう。
かれ あらそ さけ
彼は争わず、叫ばず、
一九
マタイによる福音書

こえ おおじ き もの
またその声を大路で聞く者はない。
かれ せいぎ か え とき
彼が正義に勝ちを得させる時まで、
二〇
あし お
いためられた葦を折ることがなく、
けむ とうしん け
煙っている燈心を消すこともない。
いほうじん かれ な のぞ お
異邦人は彼の名に望みを置くであろう﹂。
二一

42
ひとびと あくれい もうじん つ
二二 そのとき、人々が悪霊につかれた盲人のおしを連れてきたので、イエスは
かれ もの い め み ぐんしゅう
彼をいやして、物を言い、また目が見えるようにされた。 二三すると群 衆はみ
おどろ い ひと こ
な驚いて言った、
﹁この人が、あるいはダビデの子ではあるまいか﹂。 二四しか
びと き い ひと あくれい お だ
し、パリサイ人たちは、これを聞いて言った、
﹁この人が悪霊を追い出してい
あくれい かれ
るのは、まったく悪霊のかしらベルゼブルによるのだ﹂。 二五イエスは彼らの
おも み ぬ い ないぶ わか あらそ くに じめつ うち わか
思いを見抜いて言われた、
﹁おおよそ、内部で分れ争う国は自滅し、内わで分
あらそ まち いえ た い お だ
れ争う町や家は立ち行かない。 二六もしサタンがサタンを追い出すならば、そ
うち わか あらそ くに た い
れは内わで分れ争うことになる。それでは、その国はどうして立ち行けよう。
あくれい お だ
二七 もしわたしがベルゼブルによって悪霊を追い出すとすれば、あなたがたの
なかま お だ かれ
仲間はだれによって追い出すのであろうか。だから、彼らがあなたがたをさ
もの かみ れい あくれい お だ
ばく者となるであろう。 二八しかし、わたしが神の霊によって悪霊を追い出し
マタイによる福音書

かみ くに
ているのなら、神の国はすでにあなたがたのところにきたのである。 二九また
つよ ひと しば ひと いえ お い
だれでも、まず強い人を縛りあげなければ、どうして、その人の家に押し入っ
かざい うば と しば いえ りゃくだつ
て家財を奪い取ることができようか。縛ってから、はじめてその家を掠 奪す
みかた もの はんたい
ることができる。 三〇わたしの味方でない者は、わたしに反対するものであ
とも あつ もの ち
り、わたしと共に集めない者は、散らすものである。 三一だから、あなたがた

43
い ひと おか つみ かみ けが ことば
に言っておく。人には、その犯すすべての罪も神を汚す言葉も、ゆるされる。
せいれい けが ことば ひと こ たい
しかし、聖霊を汚す言葉は、ゆるされることはない。 三二また人の子に対して
い さか もの せいれい たい い さか もの
言い逆らう者は、ゆるされるであろう。しかし、聖霊に対して言い逆らう者
よ よ き よ
は、この世でも、きたるべき世でも、ゆるされることはない。 三三木が良けれ
み よ き わる み わる き み
ば、その実も良いとし、木が悪ければ、その実も悪いとせよ。木はその実で
こ わる もの
わかるからである。 三四まむしの子らよ。あなたがたは悪い者であるのに、ど
よ かた こころ
うして良いことを語ることができようか。おおよそ、 心からあふれること
くち かた ぜんにん くら よ もの と だ あくにん わる
を、口が語るものである。 三五善人はよい倉から良い物を取り出し、悪人は悪
くら わる もの と だ い しんぱん ひ ひと
い倉から悪い物を取り出す。 三六あなたがたに言うが、審判の日には、人はそ
かた むえき ことば たい い ひら
の語る無益な言葉に対して、言い開きをしなければならないであろう。 三七あ
じぶん ことば ただ じぶん ことば つみ
なたは、自分の言葉によって正しいとされ、また自分の言葉によって罪あり
マタイによる福音書

とされるからである﹂。
りっぽうがくしゃ びと ひとびと
三八 そのとき、律法学者、パリサイ人のうちのある人々がイエスにむかって
い せんせい み
言った、
﹁先生、わたしたちはあなたから、しるしを見せていただきとうござ
かれ こた い じゃあく ふ ぎ じだい
います﹂。 三九すると、彼らに答えて言われた、
﹁邪悪で不義な時代は、しるし
もと よげんしゃ あた
を求める。しかし、預言者ヨナのしるしのほかには、なんのしるしも与えら

44
か ばん たいぎょ はら うち
れないであろう。 四〇すなわち、ヨナが三日三晩、大魚の腹の中にいたように、
ひと こ か ばん ち なか ひとびと いま じだい
人の子も三日三晩、地の中にいるであろう。 四一ニネベの人々が、今の時代の
ひとびと とも ば た かれ つみ さだ
人々と共にさばきの場に立って、彼らを罪に定めるであろう。なぜなら、ニ
ひとびと せんきょう く あらた み
ネベの人々はヨナの宣 教によって悔い改めたからである。しかし見よ、ヨナ
もの みなみ じょおう いま じだい ひとびと とも
にまさる者がここにいる。 四二 南の女王が、今の時代の人々と共にさばきの
ば た かれ つみ さだ かのじょ ち え
場に立って、彼らを罪に定めるであろう。なぜなら、彼女はソロモンの知恵
き ち はて み
を聞くために地の果から、はるばるきたからである。しかし見よ、ソロモン
もの けが れい ひと で やす ば もと みず
にまさる者がここにいる。 四三汚れた霊が人から出ると、休み場を求めて水の
な ところ ある み で もと いえ かえ
無い所を歩きまわるが、見つからない。 四四そこで、出てきた元の家に帰ろう
い かえ み いえ うえ かざ
と言って帰って見ると、その家はあいていて、そうじがしてある上、飾りつ
で い じ ぶ ん いじょう わる た れい
けがしてあった。 四五そこでまた出て行って、自分以上に悪い他の七つの霊を
マタイによる福音書

いっしょ ひ つ なか す こ ひと
一緒に引き連れてきて中にはいり、そこに住み込む。そうすると、その人の
じょうたい はじ わる いま じだい
のちの状 態は初めよりももっと悪くなるのである。よこしまな今の時代も、
このようになるであろう﹂。
ぐんしゅう はな はは きょうだい
四六 イエスがまだ群 衆に話しておられるとき、その母と兄 弟たちとが、イエス
はな おも そと た ひと い
に話そうと思って外に立っていた。 四七それで、ある人がイエスに言った、
﹁ご

45
ははうえ きょうだい はな おも そと
ら ん な さ い。あ な た の 母上 と 兄 弟 が た が、あ な た に 話 そ う と 思 っ て、外 に
た し もの こた い
立っておられます﹂。 四八イエスは知らせてくれた者に答えて言われた、
﹁わた
はは きょうだい
しの母とは、だれのことか。わたしの兄 弟とは、だれのことか﹂。 四九そして、
で し ほう て の い
弟子たちの方に手をさし伸べて言われた、﹁ごらんなさい。ここにわたしの
はは きょうだい てん ちち おこな もの
母、わたしの兄 弟がいる。 五〇天にいますわたしの父のみこころを行う者は
きょうだい しまい はは
だれでも、わたしの兄 弟、また姉妹、また母なのである﹂。
第一三章
ひ いえ で うみ おお
一 その日、イエスは家を出て、海べにすわっておられた。 二ところが、大ぜい
ぐんしゅう あつ ふね の ぐんしゅう
の群 衆がみもとに集まったので、イエスは舟に乗ってすわられ、群 衆はみな
マタイによる福音書

きし た たとえ おお こと かた い み たね
岸に立っていた。 三イエスは譬で多くの事を語り、こう言われた、
﹁見よ、種
たね で い みち お たね
ま き が 種 を ま き に 出 て 行 っ た。 四ま い て い る う ち に、道 ば た に 落 ち た 種 が
とり た たね つち うす いしじ お
あった。すると、鳥がきて食べてしまった。 五ほかの種は土の薄い石地に落
つち ふか め だ ひ のぼ や ね
ちた。そこは土が深くないので、すぐ芽を出したが、 六日が上ると焼けて、根
か たね ち お
がないために枯れてしまった。 七ほかの種はいばらの地に落ちた。すると、

46
の たね よ ち お み むす
いばらが伸びて、ふさいでしまった。 八ほかの種は良い地に落ちて実を結び、
ばい ばい ばい みみ
あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍にもなった。 九耳のあ
もの き
る者は聞くがよい﹂。
で し ちかよ い かれ たとえ
一〇 それから、弟子たちがイエスに近寄ってきて言った、
﹁なぜ、彼らに譬でお
はな こた い
話しになるのですか﹂。 一一そこでイエスは答えて言われた、﹁あなたがたに
てんごく おくぎ し ゆる かれ ゆる
は、天国の奥義を知ることが許されているが、彼らには許されていない。 一二
も ひと あた ゆた も
おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていな
ひと も と あ かれ
い人は、持っているものまでも取り上げられるであろう。 一三だから、彼らに
たとえ かた かれ み み き き さと
は譬で語るのである。それは彼らが、見ても見ず、聞いても聞かず、また悟
い よげん かれ うえ じょうじゅ
らないからである。 一四こうしてイザヤの言った預言が、彼らの上に成 就し
たのである。
マタイによる福音書

き き けっ さと
﹃あなたがたは聞くには聞くが、決して悟らない。
み み けっ みと
見るには見るが、決して認めない。
たみ こころ にぶ
一五 この民の心は鈍くなり、
みみ きこ
その耳は聞えにくく、
め と
その目は閉じている。

47
かれ め み みみ き こころ さと
それは、彼らが目で見ず、耳で聞かず、 心で悟らず、
く あらた
悔い改めていやされることがないためである﹄。
め み みみ き
一六 しかし、あなたがたの目は見ており、耳は聞いているから、さいわいであ
い おお よげんしゃ ぎじん
る。 一七あなたがたによく言っておく。多くの預言者や義人は、あなたがたの
み み ねっしん ねが み
見ていることを見ようと熱心に願ったが、見ることができず、またあなたが
き き き
たの聞いていることを聞こうとしたが、聞けなかったのである。 一八そこで、
たね たとえ き みくに ことば き さと わる
種まきの譬を聞きなさい。 一九だれでも御国の言を聞いて悟らないならば、悪
もの ひと こころ うば い みち
い者がきて、その人の心にまかれたものを奪いとって行く。道ばたにまかれ
ひと いしじ
たものというのは、そういう人のことである。 二〇石地にまかれたものという
みことば き よろこ う ひと なか ね
のは、御言を聞くと、すぐに喜んで受ける人のことである。 二一その中に根が
つづ みことば こんなん はくがい おこ
ないので、しばらく続くだけであって、御言のために困難や迫害が起ってく
マタイによる福音書

なか みことば
ると、すぐつまずいてしまう。 二二また、いばらの中にまかれたものとは、御言
き よ こころ とみ まど みことば み むす
を聞くが、世の心づかいと富の惑わしとが御言をふさぐので、実を結ばなく
ひと よ ち みことば き さと
なる人のことである。 二三また、良い地にまかれたものとは、御言を聞いて悟
ひと ひと み むす ばい ばい
る人のことであって、そういう人が実を結び、百倍、あるいは六十倍、ある
ばい
いは三十倍にもなるのである﹂。

48
たとえ かれ しめ い てんごく よ たね じぶん はたけ
二四 また、ほかの譬を彼らに示して言われた、
﹁天国は、良い種を自分の畑にま
ひと ひとびと ねむ あいだ てき むぎ
いておいた人のようなものである。 二五人々が眠っている間に敵がきて、麦の
なか どくむぎ た さ め で み むす どうじ どくむぎ
中に毒麦をまいて立ち去った。 二六芽がはえ出て実を結ぶと、同時に毒麦もあ
しもべ いえ しゅじん い しゅじんさま はたけ
らわれてきた。 二七 僕たちがきて、家の主人に言った、
﹃ご主人様、 畑におま
よ たね どくむぎ
きになったのは、良い種ではありませんでしたか。どうして毒麦がはえてき
しゅじん い てき しもべ
た の で す か﹄。 二 八主人 は 言 っ た、﹃そ れ は 敵 の し わ ざ だ﹄。す る と 僕 た ち が
い い ぬ あつ かれ い どく
言った﹃では行って、それを抜き集めましょうか﹄。 二九彼は言った、
﹃いや、毒
むぎ あつ むぎ いっしょ ぬ し しゅうかく りょうほう
麦を集めようとして、麦も一緒に抜くかも知れない。 三〇収 穫まで、 両 方と
そだ しゅうかく とき か もの どくむぎ あつ
も育つままにしておけ。 収 穫の時になったら、刈る者に、まず毒麦を集めて
たば や むぎ ほう あつ くら い い
束にして焼き、麦の方は集めて倉に入れてくれ、と言いつけよう﹄﹂。
たとえ かれ しめ い てんごく つぶ だね
三一 また、ほかの譬を彼らに示して言われた、
﹁天国は、一粒のからし種のよう
マタイによる福音書

ひと はたけ たね
なものである。ある人がそれをとって畑にまくと、三二それはどんな種よりも
ちい せいちょう やさい なか おお そら とり
小さいが、 成 長すると、野菜の中でいちばん大きくなり、空の鳥がきて、そ
えだ やど き
の枝に宿るほどの木になる﹂。
たとえ かれ かた てんごく だね
三三 またほかの譬を彼らに語られた、﹁天国は、パン種のようなものである。
おんな と と こな なか ま ぜんたい
女がそれを取って三斗の粉の中に混ぜると、全体がふくらんでくる﹂。

49
たとえ ぐんしゅう かた たとえ
三四 イエスはこれらのことをすべて、 譬で群 衆に語られた。 譬によらないで
なにごと かれ かた よげんしゃ い
は何事も彼らに語られなかった。 三五これは預言者によって言われたことが、
じょうじゅ
成 就するためである、
くち ひら たとえ かた
﹁わたしは口を開いて譬を語り、
よ はじ かく かた だ
世の初めから隠されていることを語り出そう﹂。
ぐんしゅう のこ いえ で し
三六 それからイエスは、 群 衆をあとに残して家にはいられた。すると弟子た
い はたけ どくむぎ たとえ せつめい
ちは、みもとにきて言った、
﹁畑の毒麦の譬を説明してください﹂。 三七イエス
こた い よ たね もの ひと こ はたけ せかい
は答えて言われた、
﹁良い種をまく者は、人の子である。 三八 畑は世界である。
よ たね い みくに こ どくむぎ わる もの こ
良い種と言うのは御国の子たちで、毒麦は悪い者の子たちである。 三九それを
てき あくま しゅうかく よ おわ か もの みつかい
まいた敵は悪魔である。 収 穫とは世の終りのことで、刈る者は御使たちであ
どくむぎ あつ ひ や よ おわ
る。 四〇だから、毒麦が集められて火で焼かれるように、世の終りにもそのと
マタイによる福音書

ひと こ つかい
おりになるであろう。 四一人の子はその使たちをつかわし、つまずきとなるも
ふほう おこな もの みくに あつ ろ ひ な い
のと不法を行う者とを、ことごとく御国からとり集めて、 四二炉の火に投げ入
な さけ は
れさせるであろう。そこでは泣き叫んだり、歯がみをしたりするであろう。 四
ぎじん かれ ちち みくに たいよう かがや
三 そのとき、義人たちは彼らの父の御国で、太陽のように輝きわたるであろ
みみ もの き
う。耳のある者は聞くがよい。

50
てんごく はたけ かく たから ひと み
四四 天国は、 畑に隠してある宝のようなものである。人がそれを見つけると
かく よろこ い も もの う はたけ
隠しておき、 喜びのあまり、行って持ち物をみな売りはらい、そしてその畑

を買うのである。
てんごく よ しんじゅ さが しょうにん こうか
四五 また天国は、良い真珠を捜している商 人のようなものである。 四六高価な
しんじゅ こ み い も もの う か
真珠一個を見いだすと、行って持ち物をみな売りはらい、そしてこれを買う
のである。
てんごく うみ しゅるい うお かこ あみ
四七 また天国は、海におろして、あらゆる種類の魚を囲みいれる網のようなも
きし ひ あ よ
のである。 四八それがいっぱいになると岸に引き上げ、そしてすわって、良い
うつわ い わる そと す よ おわ
のを器に入れ、悪いのを外へ捨てるのである。 四九世の終りにも、そのとおり
みつかい ぎじん あくにん わ
になるであろう。すなわち、御使たちがきて、義人のうちから悪人をえり分
ろ ひ な な さけ は
け、 五〇そして炉の火に投げこむであろう。そこでは泣き叫んだり、歯がみを
マタイによる福音書

したりするであろう。
みな かれ
五一 あなたがたは、これらのことが皆わかったか﹂。彼らは﹁わかりました﹂と
こた かれ い てんごく まな
答えた。 五二そこで、イエスは彼らに言われた、
﹁それだから、天国のことを学
がくしゃ あたら ふる くら と だ いっ か しゅじん
んだ学者は、 新しいものと古いものとを、その倉から取り出す一家の主人の
ようなものである﹂。

51
たとえ かた お た さ
五三 イエスはこれらの譬を語り終えてから、そこを立ち去られた。 五四そして
きょうり い かいどう ひとびと おし かれ おどろ い ひと
郷里に行き、会堂で人々を教えられたところ、彼らは驚いて言った、
﹁この人
ち え ちから なら ひと
は、この知恵とこれらの力あるわざとを、どこで習ってきたのか。 五五この人
だいく こ はは きょうだい
は大工の子ではないか。母はマリヤといい、兄 弟たちは、ヤコブ、ヨセフ、シ
しまい いっしょ
モン、ユダではないか。 五六またその姉妹たちもみな、わたしたちと一緒にい
かずかず なら
るではないか。こんな数々のことを、いったい、どこで習ってきたのか﹂。 五七
ひとびと い よげんしゃ
こうして人々はイエスにつまずいた。しかし、イエスは言われた、﹁預言者は、
じぶん きょうり じぶん いえ い が い うやま
自分の郷里や自分の家以外では、どこででも敬われないことはない﹂。 五八そ
かれ ふ しんこう ちから
して彼らの不信仰のゆえに、そこでは力あるわざを、あまりなさらなかった。
第一四章
マタイによる福音書

りょうしゅ き けらい い
一 そのころ、領 主 ヘロデはイエスのうわさを聞いて、 二家来に言った、
﹁あれ
しにん なか
はバプテスマのヨハネだ。死人の中からよみがえったのだ。それで、あのよ
ちから かれ はたら さき じぶん
うな力が彼のうちに働いているのだ﹂。 三というのは、ヘロデは先に、自分の
きょうだい つま とら しば ごく い
兄 弟 ピリポの妻ヘロデヤのことで、ヨハネを捕えて縛り、獄に入れていた。 四

52
おんな い
すなわち、ヨハネはヘロデに、
﹁その女をめとるのは、よろしくない﹂と言っ
ころ おも ぐんしゅう おそ
た か ら で あ る。 五そ こ で ヘ ロ デ は ヨ ハ ネ を 殺 そ う と 思 っ た が、 群 衆 を 恐 れ
かれ よげんしゃ みと たんじょう
た。彼 ら が ヨ ハ ネ を 預言者 と 認 め て い た か ら で あ る。 六さ て ヘ ロ デ の 誕 生
び いわい むすめ せきじょう まい よろこ
日の祝に、ヘロデヤの娘がその席 上で舞をまい、ヘロデを喜ばせたので、 七
かのじょ ねが あた かれ ちか やくそく
彼女の願うものは、なんでも与えようと、彼は誓って約束までした。 八すると
かのじょ はは くび ぼん の
彼女は母にそそのかされて、
﹁バプテスマのヨハネの首を盆に載せて、ここに
も い おう こま
持ってきていただきとうございます﹂と言った。 九王は困ったが、いったん
ちか れつざ ひと てまえ あた めい ひと
誓ったのと、また列座の人たちの手前、それを与えるように命じ、 一〇人をつ
ごくちゅう くび き くび ぼん の はこ
か わ し て、 獄 中 で ヨ ハ ネ の 首 を 切 ら せ た。 一一そ の 首 は 盆 に 載 せ て 運 ば れ、
しょうじょ しょうじょ はは も い
少 女にわたされ、 少 女はそれを母のところに持って行った。 一二それから、
で し したい ひ と ほうむ
ヨハネの弟子たちがきて、死体を引き取って葬 った。そして、イエスのとこ
マタイによる福音書

い ほうこく
ろに行って報告した。
き ふね の さ じぶん さび
一三 イエスはこのことを聞くと、舟に乗ってそこを去り、自分ひとりで寂しい
ところ い ぐんしゅう き まちまち と ほ お
所へ行かれた。しかし、群 衆はそれと聞いて、町々から徒歩であとを追って
ふね あ おお ぐんしゅう かれ ふか
きた。 一四イエスは舟から上がって、大ぜいの群 衆をごらんになり、彼らを深
びょうにん ゆうがた
くあわれんで、そのうちの病 人たちをおいやしになった。 一五夕方になった

53
で し い さび ところ
ので、弟子たちがイエスのもとにきて言った、
﹁ここは寂しい所でもあり、も
とき ぐんしゅう かいさん しょくもつ か むらむら
う時もおそくなりました。 群 衆を解散させ、めいめいで食 物を買いに、村々
い い かれ で い
へ行かせてください﹂。 一六するとイエスは言われた、
﹁彼らが出かけて行くに
およ て しょくもつ で し い
は及ばない。あなたがたの手で食 物をやりなさい﹂。 一七弟子たちは言った、
うお も
﹁わたしたちはここに、パン五つと魚二ひきしか持っていません﹂。 一八イエス
い も ぐんしゅう めい くさ
は言われた、
﹁それをここに持ってきなさい﹂。 一九そして群 衆に命じて、草の
うえ うお て と てん あお
上 に す わ ら せ、五 つ の パ ン と 二 ひ き の 魚 と を 手 に 取 り、天 を 仰 い で そ れ を
しゅくふく で し わた で し ぐんしゅう あた
祝 福し、パンをさいて弟子たちに渡された。弟子たちはそれを群 衆に与え
もの た まんぷく のこ あつ
た。 二〇みんなの者は食べて満腹した。パンくずの残りを集めると、十二のか
た もの おんな こども のぞ
ごにいっぱいになった。 二一食べた者は、女と子供とを除いて、おおよそ五千
にん
人であった。
マタイによる福音書

ぐんしゅう かいさん あいだ で し


二二 それからすぐ、イエスは群 衆を解散させておられる間に、しいて弟子たち
ふね の こ む ぎし さき ぐんしゅう かいさん
を舟に乗り込ませ、向こう岸へ先におやりになった。 二三そして群 衆を解散
いの やま のぼ ゆうがた
させてから、祈るためひそかに山へ登られた。夕方になっても、ただひとり
ふね りく すうちょう はな
そ こ に お ら れ た。 二四と こ ろ が 舟 は、も う す で に 陸 か ら 数 丁 も 離 れ て お り、
ぎゃくふう ふ なみ なや よ あ じ
逆 風が吹いていたために、波に悩まされていた。 二五イエスは夜明けの四時

54
うみ うえ ある かれ ほう い で し うみ うえ
ごろ、海の上を歩いて彼らの方へ行かれた。 二六弟子たちは、イエスが海の上
ある み ゆうれい い まど きょうふ さけ ごえ
を歩いておられるのを見て、幽霊だと言っておじ惑い、恐怖のあまり叫び声
かれ こえ
をあげた。 二七しかし、イエスはすぐに彼らに声をかけて、﹁しっかりするの
おそ い こた
だ、わたしである。恐れることはない﹂と言われた。 二八するとペテロが答え
い しゅ めい みず うえ わた
て言った、
﹁主よ、あなたでしたか。では、わたしに命じて、水の上を渡って
い い
みもとに行かせてください﹂。 二九イエスは、
﹁おいでなさい﹂と言われたので、
ふね みず うえ ある い
ペテロは舟からおり、水の上を歩いてイエスのところへ行った。 三〇しかし、
かぜ み おそ かれ さけ しゅ たす
風を見て恐ろしくなり、そしておぼれかけたので、彼は叫んで、
﹁主よ、お助
い て の かれ い
けください﹂と言った。 三一イエスはすぐに手を伸ばし、彼をつかまえて言わ
しんこう うす もの うたが ふね の こ かぜ
れた、
﹁信仰の薄い者よ、なぜ疑 ったのか﹂。 三二ふたりが舟に乗り込むと、風
ふね なか もの はい
はやんでしまった。 三三舟の中にいた者たちはイエスを拝して、
﹁ほんとうに、
マタイによる福音書

かみ こ い
あなたは神の子です﹂と言った。
かれ うみ わた ち つ と ち
三四 それから、彼らは海を渡ってゲネサレの地に着いた。 三五するとその土地
ひとびと し ふ き ん ぜんたい ひと
の人々はイエスと知って、その附近全体に人をつかわし、イエスのところに
びょうにん つ かれ うわぎ
病 人 を み な 連 れ て こ さ せ た。 三六そ し て 彼 ら に イ エ ス の 上着 の ふ さ に で も、
ねが もの みな
さわらせてやっていただきたいとお願いした。そしてさわった者は皆いやさ

55
れた。
第一五章
びと りっぽうがくしゃ
一 ときに、パリサイ人と律法学者たちとが、エルサレムからイエスのもとにき
い で し むかし ひとびと いいつた やぶ
て言った、 二﹁あなたの弟子たちは、なぜ昔の人々の言伝えを破るのですか。
かれ しょくじ とき て あら こた い
彼らは食事の時に手を洗っていません﹂。 三イエスは答えて言われた、
﹁なぜ、
じぶん いいつた かみ やぶ
あなたがたも自分たちの言伝えによって、神のいましめを破っているのか。 四
かみ い ちち はは うやま ちち はは もの かなら
神は言われた、
﹃父と母とを敬え﹄、また﹃父または母をののしる者は、 必ず
し さだ ちち はは
死に定められる﹄と。 五それだのに、あなたがたは﹃だれでも父または母にむ
そな もの い ちち
かって、あなたにさしあげるはずのこのものは供え物です、と言えば、 六父ま
マタイによる福音書

はは うやま い じぶん
たは母を敬わなくてもよろしい﹄と言っている。こうしてあなたがたは自分
いいつた かみ ことば む ぎぜんしゃ
たちの言伝えによって、神の言を無にしている。 七偽善者たちよ、イザヤがあ
てきせつ よげん
なたがたについて、こういう適切な預言をしている、
たみ くち うやま
﹃この民は、口さきではわたしを敬うが、

こころ とお はな
その心はわたしから遠く離れている。

56
にんげん おしえ おし
九 人間のいましめを教として教え、
む い み おが
無意味にわたしを拝んでいる﹄﹂。
ぐんしゅう よ よ い き さと くち
一〇 それからイエスは群 衆を呼び寄せて言われた、﹁聞いて悟るがよい。 一一口
ひと けが くち で ひと けが
にはいるものは人を汚すことはない。かえって、口から出るものが人を汚す
で し ちかよ い
のである﹂。 一二そのとき、弟子たちが近寄ってきてイエスに言った、
﹁パリサ
びと みことば き ぞん こた
イ人たちが御言を聞いてつまずいたことを、ご存じですか﹂。 一三イエスは答
い てん ちち う ぬ と
えて言われた、
﹁わたしの天の父がお植えにならなかったものは、みな抜き取
かれ かれ もうじん て び
られるであろう。 一四彼らをそのままにしておけ。彼らは盲人を手引きする
もうじん もうじん もうじん て び あな お こ
盲人である。もし盲人が盲人を手引きするなら、ふたりとも穴に落ち込むで
こた い たとえ せつめい
あろう﹂。 一五ペテロが答えて言った、
﹁その譬を説明してください﹂。 一六イエ
い くち
スは言われた、
﹁あなたがたも、まだわからないのか。 一七口にはいってくるも
マタイによる福音書

はら なか そと で い し
のは、みな腹の中にはいり、そして、外に出て行くことを知らないのか。 一八
くち で い こころ なか で ひと
しかし、口から出て行くものは、 心の中から出てくるのであって、それが人
けが わる おも さつじん かんいん ふひんこう
を汚すのである。 一九というのは、悪い思い、すなわち、殺人、姦淫、不品行、
ぬす ぎしょう そし こころ なか で ひと
盗み、偽証、誹りは、 心の中から出てくるのであって、 二〇これらのものが人
けが あら て しょくじ ひと けが
を汚すのである。しかし、洗わない手で食事することは、人を汚すのではな

57
い﹂。
で ちほう い
二一 さて、イエスはそこを出て、ツロとシドンとの地方へ行かれた。 二二する
ちほう で おんな で しゅ こ
と、そこへ、その地方出のカナンの女が出てきて、
﹁主よ、ダビデの子よ、わ
むすめ あくれい くる
たしをあわれんでください。 娘が悪霊にとりつかれて苦しんでいます﹂と
い さけ こと こた
言って叫びつづけた。 二三しかし、イエスはひと言もお答えにならなかった。
で し ねが い おんな お はら
そこで弟子たちがみもとにきて願って言った、﹁この女を追い払ってくださ
さけ こた い
い。叫 び な が ら つ い て き て い ま す か ら﹂。 二四す る と イ エ ス は 答 え て 言 わ れ
いえ うしな ひつじ い が い もの
た、
﹁わたしは、イスラエルの家の失われた羊 以外の者には、つかわされてい
おんな ちかよ はい い しゅ たす
ない﹂。 二五しかし、 女は近寄りイエスを拝して言った、
﹁主よ、わたしをお助
こた い こども と こいぬ
けください﹂。 二六イエスは答えて言われた、
﹁子供たちのパンを取って小犬に
な おんな い しゅ ことば
投げてやるのは、よろしくない﹂。 二七すると女は言った、
﹁主よ、お言葉どお
マタイによる福音書

こいぬ しゅじん しょくたく お


り で す。で も、小犬 も そ の 主人 の 食 卓 か ら 落 ち る パ ン く ず は、い た だ き ま
こた い おんな しんこう み
す﹂。 二八そこでイエスは答えて言われた、
﹁女よ、あなたの信仰は見あげたも
ねが とき むすめ
のである。あなたの願いどおりになるように﹂。その時に、娘はいやされた。
さ うみ い やま のぼ
二九 イエスはそこを去って、ガリラヤの海べに行き、それから山に登ってそこ
おお ぐんしゅう あし ふ ぐ しゃ もうじん
にすわられた。 三〇すると大ぜいの群 衆が、足なえ、不具者、盲人、おし、そ

58
おお ひとびと つ あし お かれ
のほか多くの人々を連れてきて、イエスの足もとに置いたので、彼らをおい
ぐんしゅう もの い ふ ぐ しゃ なお あし ある
やしになった。 三一群 衆は、おしが物を言い、不具者が直り、足なえが歩き、
もうじん み み おどろ かみ
盲人が見えるようになったのを見て驚き、そしてイスラエルの神をほめたた
えた。
で し よ よ い ぐんしゅう
三二 イエスは弟子たちを呼び寄せて言われた、﹁この群 衆がかわいそうであ
かかん いっしょ なに た
る。もう三日間もわたしと一緒にいるのに、何も食べるものがない。しかし、
かれ くうふく かえ おそ とちゅう よわ き
彼らを空腹のままで帰らせたくはない。恐らく途中で弱り切ってしまうであ
で し い あらの なか おお ぐんしゅう
ろう﹂。 三三弟子たちは言った、
﹁荒野の中で、こんなに大ぜいの群 衆にじゅう
た て い
ぶん食べさせるほどたくさんのパンを、どこで手に入れましょうか﹂。 三四イ
で し たず
エスは弟子たちに﹁パンはいくつあるか﹂と尋ねられると、﹁七つあります。
ちい うお すこ こた ぐんしゅう ち
また小さい魚が少しあります﹂と答えた。 三五そこでイエスは群 衆に、地にす
マタイによる福音書

めい うお と かんしゃ で し
わるようにと命じ、 三六七つのパンと魚とを取り、感謝してこれをさき、弟子
で し ぐんしゅう いちどう もの た
た ち に わ た さ れ、弟子 た ち は こ れ を 群 衆 に わ け た。 三 七一同 の 者 は 食 べ て
まんぷく のこ あつ
満腹した。そして残ったパンくずを集めると、七つのかごにいっぱいになっ
た もの おんな こども のぞ にん
た。 三八食べた者は、 女と子供とを除いて四千人であった。 三九そこでイエス
ぐんしゅう かいさん ふね の ちほう い
は群 衆を解散させ、舟に乗ってマガダンの地方へ行かれた。

59
第一六章
びと びと ちかよ こころ てん
一 パリサイ人とサドカイ人とが近寄ってきて、イエスを試み、天からのしるし
み い かれ い
を見せてもらいたいと言った。 二イエスは彼らに言われた、﹁あなたがたは
ゆうがた そら はれ い あ がた そら
夕方になると、
﹃空がまっかだから、晴だ﹄と言い、 三また明け方には﹃空が
くも あ い そら もよう み わ
曇ってまっかだから、きょうは荒れだ﹄と言う。あなたがたは空の模様を見分
し とき み わ じゃあく
けることを知りながら、時のしるしを見分けることができないのか。 四邪悪
ふ ぎ じだい もと
で不義な時代は、しるしを求める。しかし、ヨナのしるしのほかには、なん
あた かれ のこ た
のしるしも与えられないであろう﹂。そして、イエスは彼らをあとに残して立

ち去られた。
で し む ぎし い も く わす
五 弟子たちは向こう岸に行ったが、パンを持って来るのを忘れていた。 六そ
マタイによる福音書

い びと びと だね
こでイエスは言われた、﹁パリサイ人とサドカイ人とのパン種を、よくよく
けいかい で し じぶん も
警戒せよ﹂。 七弟子たちは、これは自分たちがパンを持ってこなかったためで
い たがい ろん あ し い しんこう
あろうと言って、 互に論じ合った。 八イエスはそれと知って言われた、
﹁信仰
うす もの たがい ろん あ
の薄い者たちよ、なぜパンがないからだと互に論じ合っているのか。 九まだ
おぼ にん わ いく
わからないのか。覚えていないのか。五つのパンを五千人に分けたとき、幾

60
ひろ にん わ いく ひろ
かご拾ったか。 一〇また、七つのパンを四千人に分けたとき、幾かご拾ったか。
い さと
一一 わたしが言ったのは、パンについてではないことを、どうして悟らないの
びと びと だね けいかい
か。ただ、パリサイ人とサドカイ人とのパン種を警戒しなさい﹂。 一二そのと
かれ けいかい い だね
き彼らは、イエスが警戒せよと言われたのは、パン種のことではなく、パリ
びと びと おしえ さと
サイ人とサドカイ人との教のことであると悟った。
ちほう い で し たず い
一三 イエスがピリポ・カイザリヤの地方に行かれたとき、弟子たちに尋ねて言
ひとびと ひと こ い かれ い ひとびと
われた、
﹁人々は人の子をだれと言っているか﹂。 一四彼らは言った、
﹁ある人々
い ひと
はバプテスマのヨハネだと言っています。しかし、ほかの人たちは、エリヤ
い よげんしゃ い もの
だと言い、また、エレミヤあるいは預言者のひとりだ、と言っている者もあ
かれ い
ります﹂。 一五そこでイエスは彼らに言われた、
﹁それでは、あなたがたはわた
い こた い い
しをだれと言うか﹂。 一六シモン・ペテロが答えて言った、﹁あなたこそ、生け
マタイによる福音書

かみ こ かれ い
る神の子キリストです﹂。 一七すると、イエスは彼にむかって言われた、
﹁バル
こと
ヨナ・シモン、あなたはさいわいである。あなたにこの事をあらわしたのは、
けつにく てん ちち
血肉ではなく、天にいますわたしの父である。 一八そこで、わたしもあなたに
い いわ うえ きょうかい
言う。あなたはペテロである。そして、わたしはこの岩の上にわたしの教 会
た よ み ちから う か
を建てよう。黄泉の力もそれに打ち勝つことはない。 一九わたしは、あなたに

61
てんごく さず ちじょう てん
天国のかぎを授けよう。そして、あなたが地上でつなぐことは、天でもつな
ちじょう と てん と
がれ、あなたが地上で解くことは天でも解かれるであろう﹂。 二〇そのとき、イ
じぶん い で し
エスは、自分がキリストであることをだれにも言ってはいけないと、弟子た
いまし
ちを戒められた。
とき じぶん かなら い ちょうろう
二一 この時から、イエス・キリストは、自分が必ずエルサレムに行き、 長 老、
さいしちょう りっぽうがくしゃ おお くる う ころ か め
祭司長、律法学者たちから多くの苦しみを受け、殺され、そして三日目によ
で し しめ
みがえるべきことを、弟子たちに示しはじめられた。 二二すると、ペテロはイ
ひ よ しゅ
エスをわきへ引き寄せて、いさめはじめ、
﹁主よ、とんでもないことです。そ
い ふ む
んなことがあるはずはございません﹂と言った。 二三イエスは振り向いて、ペ
い ひ じゃ ま もの
テロに言われた、
﹁サタンよ、引きさがれ。わたしの邪魔をする者だ。あなた
かみ おも ひと おも
は 神 の こ と を 思 わ な い で、人 の こ と を 思 っ て い る﹂。 二四そ れ か ら イ エ ス は
マタイによる福音書

で し い おも じぶん す
弟子たちに言われた、
﹁だれでもわたしについてきたいと思うなら、自分を捨
じぶん じゅうじか お したが じぶん いのち すく
て、自分の十字架を負うて、わたしに従 ってきなさい。 二五自分の命を救おう
おも もの うしな じぶん いのち うしな もの み
と思う者はそれを失い、わたしのために自分の命を失う者は、それを見いだ
ひと ぜん せ か い じぶん いのち そん
すであろう。 二六たとい人が全世界をもうけても、自分の命を損したら、なん
とく ひと だいか はら いのち か
の得になろうか。また、人はどんな代価を払って、その命を買いもどすこと

62
ひと こ ちち えいこう みつかい したが く
ができようか。 二七人の子は父の栄光のうちに、御使たちを従えて来るが、そ
とき じっさい おう むく き
の時には、実際のおこないに応じて、それぞれに報いるであろう。 二八よく聞
ひと こ みくに ちから く み し あじ
いておくがよい、人の子が御国の力をもって来るのを見るまでは、死を味わ
もの た もの なか
わない者が、ここに立っている者の中にいる﹂。
第一七章
むいか きょうだい つ
一 六日ののち、イエスはペテロ、ヤコブ、ヤコブの兄 弟 ヨハネだけを連れて、
たか やま のぼ かれ め まえ すがた かわ かお
高い山に登られた。 二ところが、彼らの目の前でイエスの姿が変り、その顔は
ひ かがや ころも ひかり しろ み
日のように輝き、その衣は光のように白くなった。 三すると、見よ、モーセと
かれ あらわ かた あ
エ リ ヤ が 彼 ら に 現 れ て、イ エ ス と 語 り 合 っ て い た。 四ペ テ ロ は イ エ ス に む
マタイによる福音書

い しゅ
かって言った、﹁主よ、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。
こ や た
もし、おさしつかえなければ、わたしはここに小屋を三つ建てましょう。一
かれ
つはあなたのために、一つはモーセのために、一つはエリヤのために﹂。 五彼
はな お かがや くも かれ くも
がまだ話し終えないうちに、たちまち、 輝く雲が彼らをおおい、そして雲の
なか こえ あい こ こころ もの
中から声がした、﹁これはわたしの愛する子、わたしの心にかなう者である。

63
き で し き ひじょう おそ かお ち ふ
これに聞け﹂。 六弟子たちはこれを聞いて非常に恐れ、顔を地に伏せた。 七イ
ちか て かれ い お おそ
エスは近づいてきて、手を彼らにおいて言われた、
﹁起きなさい、恐れること
かれ め み
はない﹂。 八彼らが目をあげると、イエスのほかには、だれも見えなかった。
いちどう やま くだ く ひと こ しにん なか
九 一同が山を下って来るとき、イエスは﹁人の子が死人の中からよみがえるま
み はな かれ めい
では、いま見たことをだれにも話してはならない﹂と、彼らに命じられた。 一
で し たず い りっぽうがくしゃ
〇 弟子たちはイエスにお尋ねして言った、
﹁いったい、律法学者たちは、なぜ、
さき く い こた い たし
エリヤが先に来るはずだと言っているのですか﹂。 一一答えて言われた、
﹁確か
ばんじ もと あらた
に、エリヤがきて、万事を元どおりに改めるであろう。 一二しかし、あなたが
い ひとびと かれ みと じぶん
たに言っておく。エリヤはすでにきたのだ。しかし人々は彼を認めず、自分
かれ ひと こ かれ くる う
かってに彼をあしらった。人の子もまた、そのように彼らから苦しみを受け
で し
ることになろう﹂。 一三そのとき、弟子たちは、イエスがバプテスマのヨハネの
マタイによる福音書

い さと
ことを言われたのだと悟った。
かれ ぐんしゅう かえ ひと ちかよ
一四 さて彼らが群 衆のところに帰ると、ひとりの人がイエスに近寄ってきて、
い しゅ こ
ひざまずいて、言った、 一五﹁主よ、わたしの子をあわれんでください。てん
くる なん ど なん ど ひ なか みず なか たお
かんで苦しんでおります。何度も何度も火の中や水の中に倒れるのです。 一六
こ で し つ
それで、その子をお弟子たちのところに連れてきましたが、なおしていただ

64
こた い ふ しんこう
けませんでした﹂。 一七イエスは答えて言われた、
﹁ああ、なんという不信仰な、
まが じだい いっしょ
曲った時代であろう。いつまで、わたしはあなたがたと一緒におられようか。
がまん こ
いつまであなたがたに我慢ができようか。その子をここに、わたしのところ
つ あくれい こ で
に連れてきなさい﹂。 一八イエスがおしかりになると、悪霊はその子から出て
い こ とき で し
行った。そして子はその時いやされた。 一九それから、弟子たちがひそかにイ
い れい お だ
エスのもとにきて言った、
﹁わたしたちは、どうして霊を追い出せなかったの
い しんこう た
ですか﹂。 二〇するとイエスは言われた、
﹁あなたがたの信仰が足りないからで
い き だね つぶ しんこう
ある。よく言い聞かせておくが、もし、からし種一粒ほどの信仰があるなら、
やま うつ い うつ
この山にむかって﹃ここからあそこに移れ﹄と言えば、移るであろう。この
こと なに
ように、あなたがたにできない事は、何もないであろう。︹ 二一しかし、このた
いのり だんじき お だ
ぐいは、 祈と断食とによらなければ、追い出すことはできない︺﹂。
マタイによる福音書

かれ あつ とき い ひと こ ひとびと て
二二 彼らがガリラヤで集まっていた時、イエスは言われた、﹁人の子は人々の手
かれ ころ か め で し
にわたされ、二三彼らに殺され、そして三日目によみがえるであろう﹂。弟子た
ひじょう こころ
ちは非常に心をいためた。
かれ みや のうにゅうきん あつ ひと
二四 彼らがカペナウムにきたとき、宮の納 入 金を集める人たちがペテロのと
い せんせい みや のうにゅうきん おさ
ころにきて言った、﹁あなたがたの先生は宮の納 入 金を納めないのか﹂。 二五

65
おさ い かれ いえ
ペテロは﹁納めておられます﹂と言った。そして彼が家にはいると、イエス
さき はな い おも よ おう
から先に話しかけて言われた、
﹁シモン、あなたはどう思うか。この世の王た
ぜい みつぎ と じぶん こ ひと
ちは税や貢をだれから取るのか。自分の子からか、それとも、ほかの人たち
ひと こた い
からか﹂。 二六ペテロが﹁ほかの人たちからです﹂と答えると、イエスは言われ
こ おさ かれ
た、
﹁それでは、子は納めなくてもよいわけである。 二七しかし、彼らをつまず
うみ い はり さいしょ うお
かせないために、海に行って、つり針をたれなさい。そして最初につれた魚
くち ぎんか まい み だ
をとって、その口をあけると、銀貨一枚が見つかるであろう。それをとり出
おさ
して、わたしとあなたのために納めなさい﹂。
第一八章
マタイによる福音書

で し い てんごく
一 そのとき、弟子たちがイエスのもとにきて言った、
﹁いったい、天国ではだ
えら おさ ご よ よ かれ
れがいちばん偉いのですか﹂。 二すると、イエスは幼な子を呼び寄せ、彼らの
なか た い き こころ おさ ご
まん中に立たせて言われた、 三﹁よく聞きなさい。 心をいれかえて幼な子の
てんごく おさ ご
ようにならなければ、天国にはいることはできないであろう。 四この幼な子
じぶん ひく もの てんごく えら
のように自分を低くする者が、天国でいちばん偉いのである。 五また、だれで

66
おさ ご な う もの
も、このようなひとりの幼な子を、わたしの名のゆえに受けいれる者は、わ
う しん ちい もの
たしを受けいれるのである。 六しかし、わたしを信ずるこれらの小さい者の
もの おお くび うみ ふか しず
ひとりをつまずかせる者は、大きなひきうすを首にかけられて海の深みに沈
ほう ひと えき よ つみ ゆうわく
められる方が、その人の益になる。 七この世は、罪の誘惑があるから、わざわ
つみ ゆうわく かなら く ひと
いである。罪の誘惑は必ず来る。しかし、それをきたらせる人は、わざわい
かたて かたあし つみ おか き
である。 八もしあなたの片手または片足が、罪を犯させるなら、それを切って
す りょうて りょうあし えいえん ひ な こ
捨てなさい。両手、両 足がそろったままで、永遠の火に投げ込まれるよりは、
かたて かたあし いのち はい ほう かため つみ おか
片手、片足になって命に入る方がよい。 九もしあなたの片目が罪を犯させる
ぬ だ す りょうがん じごく ひ な
なら、それを抜き出して捨てなさい。 両 眼がそろったままで地獄の火に投げ
い かため いのち はい ほう
入れられるよりは、片目になって命に入る方がよい。 一〇あなたがたは、これ
ちい もの かろ き
らの小さい者のひとりをも軽んじないように、気をつけなさい。あなたがた
マタイによる福音書

い かれ みつかい てん てん ちち かお
に言うが、彼らの御使たちは天にあって、天にいますわたしの父のみ顔をい
あお ひと こ ほろ もの すく
つも仰いでいるのである。︹ 一一 人の子は、滅びる者を救うためにきたのであ
おも ひと ぴき ひつじ なか ぴき
る。︺一二あなたがたはどう思うか。ある人に百匹の羊があり、その中の一匹が
まよ で ひき やま のこ まよ で ひつじ さが
迷い出たとすれば、九十九匹を山に残しておいて、その迷い出ている羊を捜
で み き
しに出かけないであろうか。 一三もしそれを見つけたなら、よく聞きなさい、

67
まよ ひき ぴき よろこ
迷わないでいる九十九匹のためよりも、むしろその一匹のために喜ぶであろ
ちい もの ほろ てん
う。 一四そのように、これらの小さい者のひとりが滅びることは、天にいます
ちち
あなたがたの父のみこころではない。
きょうだい つみ おか い かれ ところ ちゅうこく
一五 もしあなたの兄 弟が罪を犯すなら、行って、彼とふたりだけの所で忠 告し
き きょうだい え き
なさい。もし聞いてくれたら、あなたの兄 弟を得たことになる。 一六もし聞
いっしょ つ い
いてくれないなら、ほかにひとりふたりを、一緒に連れて行きなさい。それ
にん しょうにん くち たし
は、ふたりまたは三人の証 人の口によって、すべてのことがらが確かめられ
かれ い き きょうかい もう で
るためである。 一七もし彼らの言うことを聞かないなら、 教 会に申し出なさ
きょうかい い き ひと いほうじん しゅぜいにんどうよう
い。もし教 会の言うことも聞かないなら、その人を異邦人または取税人同様
あつか い ちじょう てん
に扱いなさい。 一八よく言っておく。あなたがたが地上でつなぐことは、天で
みな ちじょう と てん と
も皆つながれ、あなたがたが地上で解くことは、天でもみな解かれるであろ
マタイによる福音書

い ねが
う。 一九また、よく言っておく。もしあなたがたのうちのふたりが、どんな願
ごと ちじょう こころ あ てん ちち
い事についても地上で心を合わせるなら、天にいますわたしの父はそれをか
くだ にん な あつ
なえて下さるであろう。 二〇ふたりまたは三人が、わたしの名によって集まっ
ところ なか
ている所には、わたしもその中にいるのである﹂。
い しゅ きょうだい
二一 そのとき、ペテロがイエスのもとにきて言った、
﹁主よ、兄 弟がわたしに

68
たい つみ おか ばあい いく
対 し て 罪 を 犯 し た 場合、幾 た び ゆ る さ ね ば な り ま せ ん か。七 た び ま で で す
かれ い い
か﹂。 二二イエスは彼に言われた、
﹁わたしは七たびまでとは言わない。七たび
ばい てんごく おう しもべ けっさん
を七十倍するまでにしなさい。 二三それだから、天国は王が僕たちと決算をす
けっさん はじ ふさい もの おう
るようなものだ。 二四決算が始まると、一万タラントの負債のある者が、王の
つ かえ しゅじん ひと じ し ん
ところに連れられてきた。 二五しかし、返せなかったので、主人は、その人自身
さいし も もの ぜ ん ぶ う かえ めい しもべ
とその妻子と持ち物全部とを売って返すように命じた。 二六そこで、この僕は
ふ あいがん ま ぜんぶ かえ
ひれ伏して哀願した、﹃どうぞお待ちください。全部お返しいたしますから﹄。
しもべ しゅじん おも かれ ふさい めん
二七 僕の主人はあわれに思って、彼をゆるし、その負債を免じてやった。 二八そ
しもべ で い か なかま で あ かれ
の僕が出て行くと、百デナリを貸しているひとりの仲間に出会い、彼をつか
くび しゃっきん かえ い なかま ふ
まえ、首をしめて﹃借 金を返せ﹄と言った。 二九そこでこの仲間はひれ伏し、
ま かえ い たの しょうち
﹃どうか待ってくれ。返すから﹄と言って頼んだ。 三〇しかし承知せずに、その
マタイによる福音書

ひと い しゃっきん かえ ごく い ひと なかま
人をひっぱって行って、 借 金を返すまで獄に入れた。 三一その人の仲間たち
ようす み ひじょう こころ い しゅじん
は、この様子を見て、非常に心をいため、行ってそのことをのこらず主人に
はな しゅじん かれ よ い わる しもべ ねが
話した。 三二そこでこの主人は彼を呼びつけて言った、
﹃悪い僕、わたしに願っ
ふさい ぜんぶ
たからこそ、あの負債を全部ゆるしてやったのだ。 三三わたしがあわれんで
なかま
やったように、あの仲間をあわれんでやるべきではなかったか﹄。 三四そして

69
しゅじん りっぷく ふさいぜんぶ かえ かれ ごくり ひ
主人は立腹して、負債全部を返してしまうまで、彼を獄吏に引きわたした。 三
こころ きょうだい てん
五 あなたがためいめいも、もし心から兄 弟をゆるさないならば、わたしの天
ちち たい
の父もまたあなたがたに対して、そのようになさるであろう﹂。
第一九章
かた お さ
一 イエスはこれらのことを語り終えられてから、ガリラヤを去ってヨルダン
む ちほう い おお ぐんしゅう
の向こうのユダヤの地方へ行かれた。 二すると大ぜいの群 衆がついてきたの
かれ
で、彼らをそこでおいやしになった。
びと ちか こころ い なに
三 さてパリサイ人たちが近づいてきて、イエスを試みようとして言った、
﹁何
りゆう おっと つま だ
かの理由で、 夫がその妻を出すのは、さしつかえないでしょうか﹂。 四イエス
マタイによる福音書

こた い よ そうぞうしゃ はじ
は答えて言われた、﹁あなたがたはまだ読んだことがないのか。﹃創造者は初
ひと おとこ おんな つく い ひと ふ ぼ はな
めから人を男と女とに造られ、 五そして言われた、それゆえに、人は父母を離
つま むす もの いったい かれ
れ、その妻と結ばれ、ふたりの者は一体となるべきである﹄。 六彼らはもはや、
いったい かみ あ ひと はな
ふたりではなく一体である。だから、神が合わせられたものを、人は離して
かれ い つま だ
はならない﹂。 七彼らはイエスに言った、
﹁それでは、なぜモーセは、妻を出す

70
ばあい り え ん じょう わた さだ い
場合には離縁 状を渡せ、と定めたのですか﹂。 八イエスが言われた、﹁モーセは
こころ つま だ ゆる はじ
あなたがたの心が、かたくななので、妻を出すことを許したのだが、初めか
い ふひんこう
らそうではなかった。 九そこでわたしはあなたがたに言う。不品行のゆえで
じぶん つま だ た おんな もの かんいん おこな
なくて、自分の妻を出して他の女をめとる者は、姦淫を行うのである﹂。 一〇
で し い つま たい おっと たちば けっこん
弟子たちは言った、
﹁もし妻に対する夫の立場がそうだとすれば、結婚しない
ほう かれ い ことば う
方がましです﹂。 一一するとイエスは彼らに言われた、
﹁その言葉を受けいれる
ひと さず ひとびと
ことができるのはすべての人ではなく、ただそれを授けられている人々だけ
はは たいない どくしんしゃ うま
である。 一二というのは、母の胎内から独身者に生れついているものがあり、
ほか どくしんしゃ てんごく すす
また他から独身者にされたものもあり、また天国のために、みずから進んで
どくしんしゃ ことば う もの う
独身者 と な っ た も の も あ る。こ の 言葉 を 受 け ら れ る 者 は、受 け い れ る が よ
い﹂。
マタイによる福音書

て いの ひとびと おさ ご
一三 そのとき、イエスに手をおいて祈っていただくために、人々が幼な子らを
つ で し かれ
みもとに連れてきた。ところが、弟子たちは彼らをたしなめた。 一四するとイ
い おさ ご
エスは言われた、﹁幼な子らをそのままにしておきなさい。わたしのところに
く てんごく もの くに て
来るのをとめてはならない。天国はこのような者の国である﹂。 一五そして手
かれ うえ さ い
を彼らの上においてから、そこを去って行かれた。

71
ひと ちかよ い せんせい えいえん せいめい
一六 すると、ひとりの人がイエスに近寄ってきて言った、
﹁先生、永遠の生命を
え い
得るためには、どんなよいことをしたらいいでしょうか﹂。 一七イエスは言わ
こと たず
れた、﹁なぜよい事についてわたしに尋ねるのか。よいかたはただひとりだけ
いのち はい おも まも かれ
で あ る。も し 命 に 入 り た い と 思 う な ら、い ま し め を 守 り な さ い﹂。 一八彼 は
い い ころ かんいん
言った、
﹁どのいましめですか﹂。イエスは言われた、
﹁﹃殺すな、姦淫するな、
ぬす ぎしょう た ちち はは うやま じぶん あい
盗むな、偽証を立てるな。 一九父と母とを敬え﹄。また﹃自分を愛するように、
とな びと あい せいねん い
あ な た の 隣 り 人 を 愛 せ よ﹄﹂。 二〇こ の 青年 は イ エ ス に 言 っ た、﹁そ れ は み な
まも なに た かれ い
守ってきました。ほかに何が足りないのでしょう﹂。 二一イエスは彼に言われ
かんぜん おも かえ も もの う
た、
﹁もしあなたが完全になりたいと思うなら、帰ってあなたの持ち物を売り
はら まず ひとびと ほどこ てん たから も
払い、貧しい人々に施しなさい。そうすれば、天に宝を持つようになろう。そ
したが ことば き せいねん かな
して、わたしに従 ってきなさい﹂。 二二この言葉を聞いて、青年は悲しみなが
マタイによる福音書

た さ しさん も
ら立ち去った。たくさんの資産を持っていたからである。
で し い き と もの
二三 それからイエスは弟子たちに言われた、﹁よく聞きなさい。富んでいる者
てんごく い
が天国にはいるのは、むずかしいものである。 二四また、あなたがたに言うが、
と もの かみ くに はり あな とお ほう
富んでいる者が神の国にはいるよりは、らくだが針の穴を通る方が、もっと
で し き ひじょう おどろ い
やさしい﹂。 二五弟子たちはこれを聞いて非常に驚いて言った、
﹁では、だれが

72
すく かれ み い ひと
救われることができるのだろう﹂。 二六イエスは彼らを見つめて言われた、
﹁人
かみ こと
にはそれはできないが、神にはなんでもできない事はない﹂。 二七そのとき、ペ
こた い す
テロがイエスに答えて言った、
﹁ごらんなさい、わたしたちはいっさいを捨て
したが なに
て、あなたに従いました。ついては、何がいただけるでしょうか﹂。 二八イエス
かれ い き よ あらた ひと こ
は彼らに言われた、﹁よく聞いておくがよい。世が改まって、人の子がその
えいこう ざ とき したが くらい
栄光の座につく時には、わたしに従 ってきたあなたがたもまた、十二の位に
ざ ぶぞく な
座してイスラエルの十二の部族をさばくであろう。 二九おおよそ、わたしの名
いえ きょうだい しまい ちち はは こ はたけ す もの いく
のために、家、 兄 弟、姉妹、父、母、子、もしくは畑を捨てた者は、その幾
ばい う えいえん せいめい う おお さき もの
倍もを受け、また永遠の生命を受けつぐであろう。 三〇しかし、多くの先の者
もの さき
はあとになり、あとの者は先になるであろう。
マタイによる福音書

第二〇章
てんごく いえ しゅじん じぶん えん ろうどうしゃ やと よ あ
一 天国は、ある家の主人が、自分のぶどう園に労働者を雇うために、夜が明け
どうじ で い かれ ろうどうしゃ にち
ると同時に、出かけて行くようなものである。 二彼は労働者たちと、一日一デ
やくそく かれ えん おく じ で
ナ リ の 約束 を し て、彼 ら を ぶ ど う 園 に 送 っ た。 三そ れ か ら 九 時 ご ろ に 出 て

73
い た ひとびと いちば なに た み ひと
行って、他の人々が市場で何もせずに立っているのを見た。 四そして、その人
い えん い そうとう ちんぎん はら
たちに言った、
﹃あなたがたも、ぶどう園に行きなさい。相当な賃銀を払うか
かれ で い しゅじん じ じ
ら﹄。 五そこで、彼らは出かけて行った。主人はまた、十二時ごろと三時ごろ
で い おな とき で い た
とに出て行って、同じようにした。 六五時ごろまた出て行くと、まだ立ってい
ひとびと み かれ い なに にちぢゅう た
る人々を見たので、彼らに言った、
﹃なぜ、何もしないで、一日 中ここに立っ
かれ やと こた
ていたのか﹄。 七彼らが﹃だれもわたしたちを雇ってくれませんから﹄と答え
ひとびと い えん い
たので、その人々に言った、
﹃あなたがたも、ぶどう園に行きなさい﹄。 八さて、
ゆうがた えん しゅじん かんりにん い ろうどうしゃ よ
夕方になって、ぶどう園の主人は管理人に言った、﹃労働者たちを呼びなさい。
さいご ひとびと じゅんじゅん さいしょ ひとびと
そ し て、最後に き た 人々 か ら は じ め て 順 々 に 最初 に き た人々 に わた る よ う
ちんぎん はら とき やと ひとびと
に、賃銀を払ってやりなさい﹄。 九そこで、五時ごろに雇われた人々がきて、そ
さいしょ ひとびと おお
れぞれ一デナリずつもらった。 一〇ところが、最初の人々がきて、もっと多く
マタイによる福音書

おも かれ
もらえるだろうと思っていたのに、彼らも一デナリずつもらっただけであっ
いえ しゅじん ふへい い
た。 一一もらったとき、家の主人にむかって不平をもらして 一二 言った、
﹃この
さいご もの じかん はたら にち ろうく
最後の者たちは一時間しか働かなかったのに、あなたは一日じゅう、労苦と
あつ しんぼう おな あつか かれ
暑さを辛抱したわたしたちと同じ扱いをなさいました﹄。 一三そこで彼はその
こた い とも たい ふせい
ひとりに答えて言った、﹃友よ、わたしはあなたに対して不正をしてはいない。

74
やくそく じぶん ちんぎん
あ な た は わ た し と 一 デ ナ リ の 約束 を し た で は な い か。 一 四自分 の 賃銀 を も
い さいご もの どうよう はら
らって行きなさい。わたしは、この最後の者にもあなたと同様に払ってやり
じぶん もの じぶん あた
たいのだ。 一五自分の物を自分がしたいようにするのは、当りまえではない
きまえ おも
か。それともわたしが気前よくしているので、ねたましく思うのか﹄。 一六こ
もの さき さき もの
のように、あとの者は先になり、先の者はあとになるであろう﹂。
のぼ で し よ
一七 さて、イエスはエルサレムへ上るとき、十二弟子をひそかに呼びよせ、そ
とちゅう かれ い み のぼ い
の途中で彼らに言われた、 一八﹁見よ、わたしたちはエルサレムへ上って行く
ひと こ さいしちょう りっぽうがくしゃ て わた かれ かれ しけい
が、人の子は祭司長、律法学者たちの手に渡されるであろう。彼らは彼に死刑
せんこく かれ う じゅうじか
を宣告し、 一九そして彼をあざけり、むち打ち、十字架につけさせるために、
いほうじん ひ かれ か め
異邦人に引きわたすであろう。そして彼は三日目によみがえるであろう﹂。
こ はは こ いっしょ
二〇 そのとき、ゼベダイの子らの母が、その子らと一緒にイエスのもとにきて
マタイによる福音書

なにごと ねが かのじょ い なに
ひざまずき、何事かをお願いした。 二一そこでイエスは彼女に言われた、
﹁何を
かのじょ い
してほしいのか﹂。彼女は言った、﹁わたしのこのふたりのむすこが、あなた
みくに みぎ ひだり ことば
の御国で、ひとりはあなたの右に、ひとりは左にすわれるように、お言葉を
こた い じぶん なに もと
ください﹂。 二二イエスは答えて言われた、
﹁あなたがたは、自分が何を求めて
の さかずき の
いるのか、わかっていない。わたしの飲もうとしている杯を飲むことができ

75
かれ こた かれ い たし
るか﹂。彼らは﹁できます﹂と答えた。 二三イエスは彼らに言われた、
﹁確かに、
さかずき の みぎ ひだり
あなたがたはわたしの杯を飲むことになろう。しかし、わたしの右、 左にす
ちち そな
わらせることは、わたしのすることではなく、わたしの父によって備えられ
ひとびと ゆる にん もの き
ている人々だけに許されることである﹂。 二四十人の者はこれを聞いて、この
きょうだい ふんがい かれ よ よ
ふたりの兄 弟たちのことで憤慨した。 二五そこで、イエスは彼らを呼び寄せ
い し いほうじん しはいしゃ たみ
て言われた、
﹁あなたがたの知っているとおり、異邦人の支配者たちはその民
おさ えら ひと たみ うえ けんりょく
を治め、また偉い人たちは、その民の上に権 力をふるっている。 二六あなたが
あいだ あいだ えら
たの間ではそうであってはならない。かえって、あなたがたの間で偉くなり
おも もの つか ひと あいだ
たいと思う者は、仕える人となり、 二七あなたがたの間でかしらになりたいと
おも もの しもべ ひと こ つか
思う者は、 僕とならねばならない。 二八それは、人の子がきたのも、仕えられ
つか おお ひと じぶん
るためではなく、仕えるためであり、また多くの人のあがないとして、自分
マタイによる福音書

いのち あた おな
の命を与えるためであるのと、ちょうど同じである﹂。
かれ で い おお ぐんしゅう したが
二九 それから、彼らがエリコを出て行ったとき、大ぜいの群 衆がイエスに従 っ
もうじん みち
てきた。 三〇すると、ふたりの盲人が道ばたにすわっていたが、イエスがと
い き さけ い しゅ こ
おって行かれると聞いて、叫んで言った、
﹁主よ、ダビデの子よ、わたしたち
くだ ぐんしゅう かれ だま かれ
をあわれんで下さい﹂。 三一群 衆は彼らをしかって黙らせようとしたが、彼ら

76
さけ い しゅ こ
はますます叫びつづけて言った、
﹁主よ、ダビデの子よ、わたしたちをあわれ
くだ た かれ よ い なに
んで下さい﹂。 三二イエスは立ちどまり、彼らを呼んで言われた、
﹁わたしに何
かれ い しゅ め
をしてほしいのか﹂。 三三彼らは言った、﹁主よ、目をあけていただくことで
ふか かれ め かれ
す﹂。 三四イエスは深くあわれんで、彼らの目にさわられた。すると彼らは、た
み したが い
ちまち見えるようになり、イエスに従 って行った。
第二一章
かれ ちか やま ぞ つ
一 さて、彼らがエルサレムに近づき、オリブ山沿いのベテパゲに着いたとき、
で し い む むら い
イエスはふたりの弟子をつかわして言われた、 二﹁向こうの村へ行きなさい。
こ み
するとすぐ、ろばがつながれていて、子ろばがそばにいるのを見るであろう。
マタイによる福音書

と ひ
それを解いてわたしのところに引いてきなさい。 三もしだれかが、あなたが
なに い しゅ い よう い い
たに何か言ったなら、主がお入り用なのです、と言いなさい。そう言えば、す
わた よげんしゃ い
ぐ 渡 し て く れ る で あ ろ う﹂。 四こ う し た の は、預言者 に よ っ て 言 わ れ た こ と
じょうじゅ
が、 成 就するためである。 五すなわち、
むすめ つ
﹁シオンの娘に告げよ、

77
み おう
見よ、あなたの王がおいでになる、
にゅうわ の
柔和なおかたで、ろばに乗って、
お こ の
くびきを負うろばの子に乗って﹂。
で し で い めい こ
六 弟子たちは出て行って、イエスがお命じになったとおりにし、七ろばと子ろ
ひ うえ じぶん うわぎ
ばとを引いてきた。そしてその上に自分たちの上着をかけると、イエスはそ
の ぐんしゅう おお もの じぶん うわぎ みち し
れにお乗りになった。 八群 衆のうち多くの者は自分たちの上着を道に敷き、
もの き えだ き みち し ぐんしゅう まえ
また、ほかの者たちは木の枝を切ってきて道に敷いた。 九そして群 衆は、前に
ゆ もの したが もの とも さけ
行く者も、あとに従う者も、共に叫びつづけた、

﹁ダビデの子に、ホサナ。
しゅ み な もの しゅくふく
主の御名によってきたる者に、 祝 福あれ。
たか ところ
いと高き所に、ホサナ﹂。
マタイによる福音書

い まちじゅう さわ た
一〇 イエスがエルサレムにはいって行かれたとき、町 中がこぞって騒ぎ立ち、
い ぐんしゅう ひと
﹁これは、いったい、どなただろう﹂と言った。 一一そこで群 衆は、
﹁この人は
で よげんしゃ い
ガリラヤのナザレから出た預言者イエスである﹂と言った。
みや みや にわ う か
一二 それから、イエスは宮にはいられた。そして、宮の庭で売り買いしていた
ひとびと お だ りょうがえにん だい う もの こしかけ
人々をみな追い出し、また両 替 人の台や、はとを売る者の腰掛をくつがえさ

78
かれ い いえ いのり いえ
れた。 一三そして彼らに言われた、
﹁﹃わたしの家は、祈の家ととなえらるべき
か ごうとう す
である﹄と書いてある。それだのに、あなたがたはそれを強盗の巣にしてい
みや にわ もうじん あし かれ
る﹂。 一四そのとき宮の庭で、盲人や足なえがみもとにきたので、彼らをおいや
さいしちょう りっぽうがくしゃ ふ し ぎ
しになった。 一五しかし、祭司長、律法学者たちは、イエスがなされた不思議
み みや にわ こ さけ こども
なわざを見、また宮の庭で﹁ダビデの子に、ホサナ﹂と叫んでいる子供たち
み りっぷく い こ なに い き
を見て立腹し、一六イエスに言った、
﹁あの子たちが何を言っているのか、お聞
かれ い き
きですか﹂。イエスは彼らに言われた、﹁そうだ、聞いている。あなたがたは
おさ ご ち ご くち そな よ
﹃幼な子、乳のみ子たちの口にさんびを備えられた﹄とあるのを読んだことが
かれ のこ みやこ で
ないのか﹂。 一七それから、イエスは彼らをあとに残し、 都を出てベタニヤに
い よ す
行き、そこで夜を過ごされた。
あさ みやこ かえ くうふく みち
一八 朝はやく都に帰るとき、イエスは空腹をおぼえられた。 一九そして、道のか
マタイによる福音書

ぽん き み い は
たわらに一本のいちじくの木があるのを見て、そこに行かれたが、ただ葉の
なに みあた き いま のち
ほかは何も見当らなかった。そこでその木にむかって、﹁今から後いつまで
み い き
も、おまえには実がならないように﹂と言われた。すると、いちじくの木は
か で し み おどろ い
たちまち枯れた。 二〇弟子たちはこれを見て、 驚いて言った、
﹁いちじくがど
か こた い
うして、こうすぐに枯れたのでしょう﹂。 二一イエスは答えて言われた、
﹁よく

79
き しん うたが
聞いておくがよい。もしあなたがたが信じて疑わないならば、このいちじく
やま うご だ
にあったようなことが、できるばかりでなく、この山にむかって、動き出し
うみ なか い いのり
て海の中にはいれと言っても、そのとおりになるであろう。 二二また、祈のと
しん もと あた
き、信じて求めるものは、みな与えられるであろう﹂。
みや さいしちょう たみ ちょうろう おし
二三 イエスが宮にはいられたとき、祭司長たちや民の長 老たちが、その教えて
ところ い なに けんい こと
おられる所にきて言った、﹁何の権威によって、これらの事をするのですか。
けんい さず かれ い
だれが、そうする権威を授けたのですか﹂。 二四そこでイエスは彼らに言われ
たず こた
た、
﹁わたしも一つだけ尋ねよう。あなたがたがそれに答えてくれたなら、わ
なに けんい こと い
たしも、何の権威によってこれらの事をするのか、あなたがたに言おう。 二五
てん ひと
ヨハネのバプテスマはどこからきたのであったか。天からであったか、人か
かれ たがい ろん い てん い
らであったか﹂。すると、彼らは互に論じて言った、
﹁もし天からだと言えば、
マタイによる福音書

かれ しん い
では、なぜ彼を信じなかったのか、とイエスは言うだろう。 二六しかし、もし
ひと い ぐんしゅう おそ ひとびと よげんしゃ おも
人からだと言えば、群 衆が恐ろしい。人々がみなヨハネを預言者と思ってい
かれ こた
るのだから﹂。 二七そこで彼らは、﹁わたしたちにはわかりません﹂と答えた。
い なに けんい こと
すると、イエスが言われた、
﹁わたしも何の権威によってこれらの事をするの

か、あなたがたに言うまい。

80
おも ひと こ あに
二八 あなたがたはどう思うか。ある人にふたりの子があったが、兄のところに
い い こ えん い はたら かれ
行って言った、
﹃子よ、きょう、ぶどう園へ行って働いてくれ﹄。 二九すると彼
まい こた い おとうと
は﹃おとうさん、参ります﹄と答えたが、行かなかった。 三〇また弟のところ
おな い かれ こた こころ か
にきて同じように言った。彼は﹃いやです﹄と答えたが、あとから心を変え
で ちち のぞ
て、出かけた。 三一このふたりのうち、どちらが父の望みどおりにしたのか﹂。
かれ い もの い き
彼 ら は 言 っ た、﹁あ と の 者 で す﹂。イ エ ス は 言 わ れ た、﹁よ く 聞 き な さ い。
しゅぜいにん ゆうじょ さき かみ くに
取税人や遊女は、あなたがたより先に神の国にはいる。 三二というのは、ヨハ
ぎ みち と かれ しん
ネがあなたがたのところにきて、義の道を説いたのに、あなたがたは彼を信
しゅぜいにん ゆうじょ かれ しん み
じなかった。ところが、取税人や遊女は彼を信じた。あなたがたはそれを見
こころ か かれ しん
たのに、あとになっても、 心をいれ変えて彼を信じようとしなかった。
たとえ き ところ いえ しゅじん
三三 もう一つの譬を聞きなさい。ある所に、ひとりの家の主人がいたが、ぶど
マタイによる福音書

えん つく なか さか あな ほ た
う園を造り、かきをめぐらし、その中に酒ぶねの穴を掘り、やぐらを立て、そ
のうふ か たび で しゅうかく きせつ わ
れを農夫たちに貸して、旅に出かけた。 三四収 穫の季節がきたので、その分け
まえ う と しもべ のうふ おく のうふ
前を受け取ろうとして、僕たちを農夫のところへ送った。 三五すると、農夫た
しもべ ふくろ ころ
ちは、その僕たちをつかまえて、ひとりを袋だたきにし、ひとりを殺し、も
いし う ころ べつ まえ おお しもべ おく
うひとりを石で打ち殺した。 三六また別に、前よりも多くの僕たちを送った

81
かれ おな さいご こ うやま
が、彼らをも同じようにあしらった。 三七しかし、最後に、わたしの子は敬 っ
おも しゅじん こ かれ ところ
てくれるだろうと思って、主人はその子を彼らの所につかわした。 三八すると
のうふ こ み たがい い と ころ
農夫たちは、その子を見て互に言った、
﹃あれはあと取りだ。さあ、これを殺
ざいさん て い かれ えん そと
して、その財産を手に入れよう﹄。 三九そして彼をつかまえて、ぶどう園の外に
ひ だ ころ えん しゅじん かえ のうふ
引き出して殺した。 四〇このぶどう園の主人が帰ってきたら、この農夫たちを
かれ い あくにん みなごろ
どうするだろうか﹂。 四一彼らはイエスに言った、
﹁悪人どもを、皆殺しにして、
きせつ しゅうかく おさ のうふ えん か あた
季節ごとに収 穫を納めるほかの農夫たちに、そのぶどう園を貸し与えるで
かれ い せいしょ よ
しょう﹂。 四二イエスは彼らに言われた、
﹁あなたがたは、聖書でまだ読んだこ
とがないのか、
いえつく す いし
﹃家造りらの捨てた石が
すみ いし
隅のかしら石になった。
マタイによる福音書

しゅ
これは主がなされたことで、
め ふ し ぎ み
わたしたちの目には不思議に見える﹄。
い かみ くに と あ
四三 それだから、あなたがたに言うが、神の国はあなたがたから取り上げられ
みくに み むす いほうじん あた
て、御国にふさわしい実を結ぶような異邦人に与えられるであろう。 四四また
いし うえ お もの う くだ うえ お
その石の上に落ちる者は打ち砕かれ、それがだれかの上に落ちかかるなら、そ

82
ひと さいしちょう びと
の人はこなみじんにされるであろう﹂。 四五祭司長たちやパリサイ人たちがこ
たとえ き じぶん い さと
の譬を聞いたとき、自分たちのことをさして言っておられることを悟ったの
とら ぐんしゅう おそ ぐんしゅう よげんしゃ
で、 四六イエスを捕えようとしたが、 群 衆を恐れた。 群 衆はイエスを預言者
おも
だと思っていたからである。
第二二章
たとえ かれ かた い てんごく おう
一 イエスはまた、 譬で彼らに語って言われた、 二﹁天国は、ひとりの王がその
おうじ こんえん もよお おう しもべ
王子のために、婚宴を催すようなものである。 三王はその僕たちをつかわし
こんえん まね ひと よ ひと
て、この婚宴に招かれていた人たちを呼ばせたが、その人たちはこようとは
しもべ い まね ひと
しなかった。 四そこでまた、ほかの僕たちをつかわして言った、
﹃招かれた人
マタイによる福音書

い しょくじ ようい うし こ けもの


たちに言いなさい。食事の用意ができました。牛も肥えた獣もほふられて、
ようい こんえん かれ
すべての用意ができました。さあ、婚宴においでください﹄。 五しかし、彼ら
し かお じぶん はたけ じぶん しょうばい で い
は知らぬ顔をして、ひとりは自分の畑に、ひとりは自分の商 売に出て行き、 六
ひとびと しもべ ぶじょく くわ うえ ころ
またほかの人々は、この僕たちをつかまえて侮辱を加えた上、殺してしまっ
おう りっぷく ぐんたい おく ひとごろ ほろ まち
た。 七そこで王は立腹し、軍隊を送ってそれらの人殺しどもを滅ぼし、その町

83
や はら しもべ い こんえん ようい まね
を焼き払った。 八それから僕たちに言った、
﹃婚宴の用意はできているが、招
ひとびと まち おおどお で
かれていたのは、ふさわしくない人々であった。 九だから、町の大通りに出て
い で あ ひと こんえん つ しもべ
行って、出会った人はだれでも婚宴に連れてきなさい﹄。 一〇そこで、 僕たち
みち で い で あ ひと あくにん ぜんにん あつ こん
は道に出て行って、出会う人は、悪人でも善人でもみな集めてきたので、婚
えん せき きゃく おう きゃく むか
宴の席は客でいっぱいになった。 一一王は客を迎えようとしてはいってきた
れいふく ひと み かれ い とも
が、そこに礼服をつけていないひとりの人を見て、 一二彼に言った、
﹃友よ、ど
れいふく
うしてあなたは礼服をつけないで、ここにはいってきたのですか﹄。しかし、
かれ だま おう もの い もの てあし
彼は黙っていた。 一三そこで、王はそばの者たちに言った、
﹃この者の手足をし
そと くら だ な さけ は
ばって、外の暗やみにほうり出せ。そこで泣き叫んだり、歯がみをしたりす
まね もの おお えら もの すく
るであろう﹄。 一四招かれる者は多いが、選ばれる者は少ない﹂。
びと ことば
一五 そのときパリサイ人たちがきて、どうかしてイエスを言葉のわなにかけよ
マタイによる福音書

そうだん かれ で し とう もの とも
うと、相談をした。 一六そして、彼らの弟子を、ヘロデ党の者たちと共に、イ
い せんせい しんじつ
エスのもとにつかわして言わせた、
﹁先生、わたしたちはあなたが真実なかた
しんり もとづ かみ みち おし ひと わ へだ
であって、真理に基いて神の道を教え、また、人に分け隔てをしないで、だ
し おも
れをもはばかられないことを知っています。 一七それで、あなたはどう思われ
こた ぜいきん おさ
ますか、答えてください。カイザルに税金を納めてよいでしょうか、いけな

84
かれ あくい し い ぎぜんしゃ
いでしょうか﹂。 一八イエスは彼らの悪意を知って言われた、﹁偽善者たちよ、
ぜい おさ かへい み かれ
なぜわたしをためそうとするのか。 一九税に納める貨幣を見せなさい﹂。彼ら
も い
はデナリ一つを持ってきた。 二〇そこでイエスは言われた、﹁これは、だれの
しょうぞう きごう かれ こた
肖 像、だれの記号か﹂。 二一彼らは﹁カイザルのです﹂と答えた。するとイエ
い かみ かみ かえ
スは言われた、
﹁それでは、カイザルのものはカイザルに、神のものは神に返
かれ き きょうたん のこ た さ
しなさい﹂。 二二彼らはこれを聞いて驚 嘆し、イエスを残して立ち去った。
ふっかつ しゅちょう びと ひ
二三 復活ということはないと主 張していたサドカイ人たちが、その日、イエス
しつもん せんせい い
のもとにきて質問した、 二四﹁先生、モーセはこう言っています、
﹃もし、ある
ひと こ し おとうと あに つま あに こ
人が子がなくて死んだなら、その弟は兄の妻をめとって、兄のために子をも
にん きょうだい
うけねばならない﹄。 二五さて、わたしたちのところに七人の兄 弟がありまし
ちょうなん つま し こ つま
た。 長 男は妻をめとったが死んでしまい、そして子がなかったので、その妻
マタイによる福音書

おとうと のこ じなん さんなん にん おな


を弟に残しました。 二六次男も三男も、ついに七人とも同じことになりまし
さいご おんな し ふっかつ とき おんな
た。 二七最後に、その女も死にました。 二八すると復活の時には、この女は、七
にん つま おんな つま
人のうちだれの妻なのでしょうか。みんながこの女を妻にしたのですが﹂。 二
こた い せいしょ かみ ちから し おも
九 イエスは答えて言われた、
﹁あなたがたは聖書も神の力も知らないから、思
ちが ふっかつ とき かれ
い違いをしている。 三〇復活の時には、彼らはめとったり、とついだりするこ

85
かれ てん みつかい しにん ふっかつ
とはない。彼らは天にいる御使のようなものである。 三一また、死人の復活に
かみ い ことば よ
ついては、神があなたがたに言われた言葉を読んだことがないのか。 三二﹃わ
かみ かみ かみ か かみ
たしはアブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である﹄と書いてある。神
し もの かみ い もの かみ ぐんしゅう き
は死んだ者の神ではなく、生きている者の神である﹂。 三三群 衆はこれを聞い
おしえ おどろ
て、イエスの教に驚いた。
びと びと い き
三四 さて、パリサイ人たちは、イエスがサドカイ人たちを言いこめられたと聞
いっしょ あつ かれ なか りっぽうがくしゃ
いて、一緒に集まった。 三五そして彼らの中のひとりの律法学者が、イエスを
しつもん せんせい りっぽう なか
ためそうとして質問した、 三六﹁先生、律法の中で、どのいましめがいちばん
たいせつ い こころ せいしん おも
大切なのですか﹂。 三七イエスは言われた、
﹁﹃心をつくし、精神をつくし、思い
しゅ かみ あい たいせつ だい
をつくして、主なるあなたの神を愛せよ﹄。 三八これがいちばん大切な、第一の
だい どうよう じぶん あい
いましめである。 三九第二もこれと同様である、﹃自分を愛するようにあなた
マタイによる福音書

とな びと あい りっぽうぜんたい よげんしゃ
の隣り人を愛せよ﹄。 四〇これらの二つのいましめに、律法全体と預言者とが、
かかっている﹂。
びと あつ かれ たず
四一 パリサイ人たちが集まっていたとき、イエスは彼らにお尋ねになった、四二
おも こ かれ
﹁あなたがたはキリストをどう思うか。だれの子なのか﹂。彼らは﹁ダビデの
こ こた い みたま
子です﹂と答えた。 四三イエスは言われた、
﹁それではどうして、ダビデが御霊

86
かん しゅ よ
に感じてキリストを主と呼んでいるのか。 四四すなわち
しゅ しゅ おお
﹃主はわが主に仰せになった、
てき あし お
あなたの敵をあなたの足もとに置くときまでは、
みぎ ざ
わたしの右に座していなさい﹄。
じしん しゅ よ
四五 このように、ダビデ自身がキリストを主と呼んでいるなら、キリストはど
こ こと こた もの
う し て ダ ビ デ の 子 で あ ろ う か﹂。 四六イ エ ス に ひ と 言 で も 答 え う る 者 は、な
ひ すす しつもん もの
かったし、その日からもはや、進んでイエスに質問する者も、いなくなった。
第二三章
ぐんしゅう で し かた い りっぽうがくしゃ
一 そのときイエスは、群 衆と弟子たちとに語って言われた、二﹁律法学者とパ
マタイによる福音書

びと ざ かれ い
リサイ人とは、モーセの座にすわっている。 三だから、彼らがあなたがたに言
まも じっこう かれ
うことは、みな守って実行しなさい。しかし、彼らのすることには、ならう
かれ い じっこう おも にもつ ひとびと
な。彼らは言うだけで、実行しないから。 四また、重い荷物をくくって人々の
かた うご じぶん ゆび ぽん か
肩にのせるが、それを動かすために、自分では指一本も貸そうとはしない。 五
ひと み かれ きょうふだ
そ の す る こ と は、す べ て 人 に 見せ る た め で あ る。す な わち、彼 ら は経 札 を

87
はばひろ ころも おお えんかい じょうざ かいどう じょうせき
幅広くつくり、その衣のふさを大きくし、 六また、宴会の上座、会堂の上 席を
この ひろば ひとびと せんせい よ この
好み、七広場であいさつされることや、人々から先生と呼ばれることを好んで
せんせい よ
い る。 八し か し、あ な た が た は 先生 と 呼 ば れ て は な ら な い。あ な た が た の
せんせい きょうだい
先生は、ただひとりであって、あなたがたはみな兄 弟なのだから。 九また、
ちじょう ちち よ ちち
地上のだれをも、父と呼んではならない。あなたがたの父はただひとり、す
てん ちち きょうし よ
なわち、天にいます父である。 一〇また、あなたがたは教師と呼ばれてはなら
きょうし
ない。あなたがたの教師はただひとり、すなわち、キリストである。 一一そこ
えら もの つか ひと
で、あなたがたのうちでいちばん偉い者は、仕える人でなければならない。 一
じぶん たか もの ひく じぶん ひく もの たか
二 だれでも自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高くされるで
あろう。
ぎぜん りっぽうがくしゃ びと
一三 偽善な律法学者、パリサイ人たちよ。あなたがたは、わざわいである。あ
マタイによる福音書

てんごく と ひとびと じぶん


なたがたは、天国を閉ざして人々をはいらせない。自分もはいらないし、は
ひと ぎぜん りっぽうがくしゃ びと
いろうとする人をはいらせもしない。︹ 一四 偽善な律法学者、パリサイ人たち
いえ く
よ。あなたがたは、わざわいである。あなたがたは、やもめたちの家を食い
たお み なが いのり う
倒し、見えのために長い祈をする。だから、もっときびしいさばきを受ける
ちが ぎぜん りっぽうがくしゃ びと
に違いない。︺一五偽善な律法学者、パリサイ人たちよ。あなたがたは、わざわ

88
かいしゅうしゃ うみ りく めぐ ある
いである。あなたがたはひとりの改 宗 者をつくるために、海と陸とを巡り歩
かれ じぶん ばい じごく こ
く。そして、つくったなら、彼を自分より倍もひどい地獄の子にする。
もうもく あんないしゃ い
一六 盲目な案内者たちよ。あなたがたは、わざわいである。あなたがたは言
しんでん ちか しんでん こがね ちか
う、
﹃神殿をさして誓うなら、そのままでよいが、神殿の黄金をさして誓うな
はた せきにん おろ もうもく ひと こがね こがね しんせい
ら、果す責任がある﹄と。 一七愚かな盲目な人たちよ。黄金と、黄金を神聖に
しんでん だいじ い さいだん
する神殿と、どちらが大事なのか。 一八また、あなたがたは言う、
﹃祭壇をさし
ちか うえ そな もの ちか はた せきにん
て誓うなら、そのままでよいが、その上の供え物をさして誓うなら、果す責任
もうもく ひと そな もの そな もの しんせい さいだん
がある﹄と。 一九盲目な人たちよ。供え物と供え物を神聖にする祭壇とどちら
だいじ さいだん ちか もの さいだん うえ もの
が大事なのか。 二〇祭壇をさして誓う者は、祭壇と、その上にあるすべての物
ちか しんでん ちか もの しんでん なか す
とをさして誓うのである。 二一神殿をさして誓う者は、神殿とその中に住んで
ちか てん ちか もの かみ
おられるかたとをさして誓うのである。 二二また、天をさして誓う者は、神の
マタイによる福音書

み ざ うえ ちか
御座とその上にすわっておられるかたとをさして誓うのである。
ぎぜん りっぽうがくしゃ びと
二三 偽善 な 律法学者、パ リ サ イ 人 た ち よ。あ な た が た は、わ ざ わ い で あ る。
やくみ ぶん みや おさ
はっか、いのんど、クミンなどの薬味の十分の一を宮に納めておりながら、
りっぽう なか じゅうよう こうへい ちゅうじつ み
律法の中でもっと重 要な、公平とあわれみと忠 実とを見のがしている。それ
み もうもく あんないしゃ
もしなければならないが、これも見のがしてはならない。 二四盲目な案内者た

89
ちよ。あなたがたは、ぶよはこしているが、らくだはのみこんでいる。
ぎぜん りっぽうがくしゃ びと さかずき
二五 偽善な律法学者、パリサイ人たちよ。あなたがたは、わざわいである。 杯
さら そとがわ うちがわ どんよく ほうじゅう み もうもく
と皿との外側はきよめるが、内側は貪欲と放 縦とで満ちている。 二六盲目な
びと さかずき うちがわ そとがわ きよ
パリサイ人よ。まず、 杯の内側をきよめるがよい。そうすれば、外側も清く
なるであろう。
ぎぜん りっぽうがくしゃ びと
二七 偽善な律法学者、パリサイ人たちよ。あなたがたは、わざわいである。あ
しろ ぬ はか に そとがわ うつく み うちがわ しにん
なたがたは白く塗った墓に似ている。外側は美しく見えるが、内側は死人の
ほね ふけつ
骨や、あらゆる不潔なものでいっぱいである。 二八このようにあなたがたも、
そとがわ ひと ただ み うちがわ ぎぜん ふほう
外側は人に正しく見えるが、内側は偽善と不法とでいっぱいである。
ぎぜん りっぽうがくしゃ びと
二九 偽善な律法学者、パリサイ人たちよ。あなたがたは、わざわいである。あ
よげんしゃ はか た ぎじん ひ かざ た い
なたがたは預言者の墓を建て、義人の碑を飾り立てて、こう言っている、 三〇
マタイによる福音書

せんぞ じだい い よげんしゃ ち なが くわ


﹃もしわたしたちが先祖の時代に生きていたなら、預言者の血を流すことに加
よげんしゃ
わってはいなかっただろう﹄と。 三一このようにして、あなたがたは預言者を
ころ もの しそん じぶん しょうめい
殺した者の子孫であることを、自分で証 明している。 三二あなたがたもまた
せんぞ あく ますめ み こ
先祖たちがした悪の枡目を満たすがよい。 三三へびよ、まむしの子らよ、どう
じごく けいばつ
し て 地獄 の 刑罰 を の が れ る こ と が で き よ う か。 三四そ れ だ か ら、わ た し は、

90
よげんしゃ ち しゃ りっぽうがくしゃ もの
預言者、知者、律法学者たちをあなたがたにつかわすが、そのうちのある者
ころ じゅうじか もの かいどう う まち まち
を殺し、また十字架につけ、そのある者を会堂でむち打ち、また町から町へ
はくがい い ぎじん ち せいじょ さいだん
と迫害して行くであろう。 三五こうして義人アベルの血から、聖所と祭壇との
あいだ ころ こ ち いた ちじょう なが
間であなたがたが殺したバラキヤの子ザカリヤの血に至るまで、地上に流さ
ぎじん ち むく およ い
れた義人の血の報いが、ことごとくあなたがたに及ぶであろう。 三六よく言っ
むく いま じだい およ
ておく。これらのことの報いは、みな今の時代に及ぶであろう。
よげんしゃ ころ
三七 ああ、エルサレム、エルサレム、預言者たちを殺し、おまえにつかわされ
ひと いし う ころ もの つばさ した あつ
た人たちを石で打ち殺す者よ。ちょうど、めんどりが翼の下にそのひなを集
こ いく あつ
めるように、わたしはおまえの子らを幾たび集めようとしたことであろう。
おう み いえ
それだのに、おまえたちは応じようとしなかった。 三八見よ、おまえたちの家
み す い
は見捨てられてしまう。 三九わたしは言っておく、
マタイによる福音書

しゅ み な もの しゅくふく
﹃主の御名によってきたる者に、 祝 福あれ﹄
い とき こんご あ
とおまえたちが言う時までは、今後ふたたび、わたしに会うことはないであ
ろう﹂。

91
第二四章
みや で い で し ちかよ みや
一 イエスが宮から出て行こうとしておられると、弟子たちは近寄ってきて、宮
たてもの ちゅうい うなが かれ い
の 建物 に イ エ ス の 注意 を 促 し た。 二そ こ で イ エ ス は 彼 ら に む か っ て 言 わ れ
み い
た、
﹁あなたがたは、これらすべてのものを見ないか。よく言っておく。その
いし た いし うえ のこ
石 一 つ で も く ず さ れ ず に、そ こ に 他 の 石 の 上 に 残 る こ と も な く な る で あ ろ
う﹂。
やま で し
三 またオリブ山ですわっておられると、弟子たちが、ひそかにみもとにきて
い はな おこ
言った、
﹁どうぞお話しください。いつ、そんなことが起るのでしょうか。あ
とき よ おわ ぜんちょう
なたがまたおいでになる時や、世の終りには、どんな前 兆がありますか﹂。 四
こた い ひと まど き
そこでイエスは答えて言われた、﹁人に惑わされないように気をつけなさい。
マタイによる福音書

おお もの な な あらわ じぶん い おお
五 多くの者がわたしの名を名のって現れ、自分がキリストだと言って、多くの
ひと まど せんそう せんそう き ちゅうい
人を惑わすであろう。 六また、戦争と戦争のうわさとを聞くであろう。注意
おこ おわ
していなさい、あわててはいけない。それは起らねばならないが、まだ終り
たみ たみ くに くに てきたい た あ
ではない。 七民は民に、国は国に敵対して立ち上がるであろう。またあちこ
おこ じしん う
ちに、ききんが起り、また地震があるであろう。 八しかし、すべてこれらは産

92
くる はじ ひとびと くる
みの苦しみの初めである。 九そのとき人々は、あなたがたを苦しみにあわせ、
ころ な たみ にく
また殺すであろう。またあなたがたは、わたしの名のゆえにすべての民に憎
おお ひと たがい うらぎ にく
まれるであろう。 一〇そのとき、多くの人がつまずき、また互に裏切り、憎み
あ おお よげんしゃ おこ おお ひと まど
合うであろう。 一一また多くのにせ預言者が起って、多くの人を惑わすであろ
ふほう おお ひと あい ひ
う。 一二また不法がはびこるので、多くの人の愛が冷えるであろう。 一三しか
さいご た しの もの すく みくに ふくいん
し、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。 一四そしてこの御国の福音は、すべての
たみ たい ぜん せ か い の つた
民に対してあかしをするために、全世界に宣べ伝えられるであろう。そして
さいご く
それから最後が来るのである。
よげんしゃ い あ にく もの せい ば しょ た
一五 預言者ダニエルによって言われた荒らす憎むべき者が、聖なる場所に立つ
み どくしゃ さと ひとびと やま に
のを見たならば︵読者よ、悟れ︶、 一六そのとき、ユダヤにいる人々は山へ逃げ
おくじょう もの いえ と だ した
よ。 一七屋 上にいる者は、家からものを取り出そうとして下におりるな。 一八
マタイによる福音書

はたけ もの うわぎ と ひ みおも おんな


畑にいる者は、上着を取りにあとへもどるな。 一九その日には、身重の女と
ち の ご おんな ふこう に ふゆ
乳飲み子をもつ女とは、不幸である。 二〇あなたがたの逃げるのが、冬または
あんそくにち いの とき よ はじ げんざい いた
安息日にならないように祈れ。 二一その時には、世の初めから現在に至るま
こんご おお かんなん おこ
で、かつてなく今後もないような大きな患難が起るからである。 二二もしその
きかん ちぢ すく もの せんみん
期間が縮められないなら、救われる者はひとりもないであろう。しかし、選民

93
きかん ちぢ
のためには、その期間が縮められるであろう。

二三 そのとき、だれかがあなたがたに﹃見よ、ここにキリストがいる﹄、また、
い しん
﹃あそこにいる﹄と言っても、それを信じるな。 二四にせキリストたちや、にせ
よげんしゃ おこ おお きせき おこな せんみん
預言者たちが起って、大いなるしるしと奇跡とを行い、できれば、選民をも
まど み まえ い
惑わそうとするであろう。 二五見よ、あなたがたに前もって言っておく。 二六
ひとびと み かれ あらの い で い み
だから、人々が﹃見よ、彼は荒野にいる﹄と言っても、出て行くな。また﹃見
なか い しん ひがし
よ、へやの中にいる﹄と言っても、信じるな。 二七ちょうど、いなずまが東か
にし わた ひと こ あらわ したい
ら西にひらめき渡るように、人の子も現れるであろう。 二八死体のあるところ
あつ
には、はげたかが集まるものである。
とき おこ かんなん のち ひ くら つき ひかり はな
二九 しかし、その時に起る患難の後、たちまち日は暗くなり、月はその光を放
ほし そら お てんたい ゆ うご
つことをやめ、星は空から落ち、天体は揺り動かされるであろう。 三〇そのと
マタイによる福音書

ひと こ てん あらわ ち みんぞく
き、人の子のしるしが天に現れるであろう。またそのとき、地のすべての民族
なげ ちから おお えいこう ひと こ てん くも の く
は嘆き、そして力と大いなる栄光とをもって、人の子が天の雲に乗って来る
ひとびと み かれ おお おと とも みつかい
のを、人々は見るであろう。 三一また、彼は大いなるラッパの音と共に御使た
てん いた しほう せんみん よ あつ
ちをつかわして、天のはてからはてに至るまで、四方からその選民を呼び集
めるであろう。

94
き たとえ まな えだ やわ は で
三二 いちじくの木からこの譬を学びなさい。その枝が柔らかになり、葉が出る
なつ ちか
ようになると、夏の近いことがわかる。 三三そのように、すべてこれらのこと
み ひと こ とぐち ちか し き
を見たならば、人の子が戸口まで近づいていると知りなさい。 三四よく聞いて
こと おこ じだい ほろ
おきなさい。これらの事が、ことごとく起るまでは、この時代は滅びること
てんち ほろ ことば ほろ
がない。 三五天地は滅びるであろう。しかしわたしの言葉は滅びることがな
ひ とき し てん みつかい こ し
い。 三六その日、その時は、だれも知らない。天の御使たちも、また子も知ら
ちち し ひと こ あらわ
ない、ただ父だけが知っておられる。 三七人の子の現れるのも、ちょうどノア
とき こうずい で まえ はこぶね ひ
の時のようであろう。 三八すなわち、洪水の出る前、ノアが箱舟にはいる日ま
ひとびと く の こうずい おそ
で、人々は食い、飲み、めとり、とつぎなどしていた。 三九そして洪水が襲っ
い かれ き ひと
てきて、いっさいのものをさらって行くまで、彼らは気がつかなかった。人
こ あらわ もの はたけ
の子の現れるのも、そのようであろう。 四〇そのとき、ふたりの者が畑にいる
マタイによる福音書

と さ と のこ おんな
と、ひとりは取り去られ、ひとりは取り残されるであろう。 四一ふたりの女が
と さ のこ
うすをひいていると、ひとりは取り去られ、ひとりは残されるであろう。 四二
め ひ しゅ
だから、目をさましていなさい。いつの日にあなたがたの主がこられるのか、
あなたがたには、わからないからである。 四三このことをわきまえているがよ
いえ しゅじん とうぞく く め
い。家の主人は、盗賊がいつごろ来るかわかっているなら、目をさましてい

95
じぶん いえ お い ゆる
て、自分の家に押し入ることを許さないであろう。 四四だから、あなたがたも
ようい おも とき ひと こ く しゅじん
用意をしていなさい。思いがけない時に人の子が来るからである。 四五主人
いえ しもべ うえ た とき おう しょくもつ ちゅうじつ し りょ
がその家の僕たちの上に立てて、時に応じて食 物をそなえさせる忠 実な思慮
ぶか しもべ しゅじん かえ
深い僕は、いったい、だれであろう。 四六主人が帰ってきたとき、そのように
み しもべ い
つ と め て い る の を 見 ら れ る 僕 は、さ い わ い で あ る。 四七よ く 言 っ て お く が、
しゅじん かれ た じぶん ぜんざいさん かんり わる
主人は彼を立てて自分の全財産を管理させるであろう。 四八もしそれが悪い
しもべ じぶん しゅじん かえ こころ なか おも しもべ な か ま
僕であって、自分の主人は帰りがおそいと心の中で思い、四九その僕 仲間をた
さけの なかま いっしょ た の
たきはじめ、また酒飲み仲間と一緒に食べたり飲んだりしているなら、 五〇そ
しもべ しゅじん おも ひ き とき かえ かれ げんばつ
の僕の主人は思いがけない日、気がつかない時に帰ってきて、 五一彼を厳罰に
しょ ぎぜんしゃ おな め かれ な さけ は
処し、偽善者たちと同じ目にあわせるであろう。彼はそこで泣き叫んだり、歯
がみをしたりするであろう。
マタイによる福音書

第二五章
てんごく にん て はなむこ むか で
一 そこで天国は、十人のおとめがそれぞれあかりを手にして、花婿を迎えに出
い に なか にん し りょ あさ にん し り ょ ぶか もの
て 行 く の に 似 て い る。 二そ の 中 の 五 人 は 思慮 が 浅 く、五 人 は 思慮深 い 者 で

96
し りょ あさ もの も あぶら ようい
あった。 三思慮の浅い者たちは、あかりは持っていたが、 油を用意していな
し り ょ ぶか もの じぶん いっしょ い
かった。 四しかし、思慮深い者たちは、自分たちのあかりと一緒に、入れもの
なか あぶら ようい はなむこ く かれ いねむ
の中に油を用意していた。 五花婿の来るのがおくれたので、彼らはみな居眠
ね よなか はなむこ むか で よ
りをして、寝てしまった。 六夜中に、
﹃さあ、花婿だ、迎えに出なさい﹄と呼
こえ お ととの
ぶ声がした。 七そのとき、おとめたちはみな起きて、それぞれあかりを整え
し りょ あさ おんな し り ょ ぶか おんな い
た。 八ところが、思慮の浅い女たちが、思慮深い女たちに言った、
﹃あなたが
あぶら き
たの油をわたしたちにわけてください。わたしたちのあかりが消えかかって
し り ょ ぶか おんな こた い
いますから﹄。 九すると、思慮深い女たちは答えて言った、
﹃わたしたちとあな
た たぶん みせ い ぶん
たがたとに足りるだけは、多分ないでしょう。店に行って、あなたがたの分
か ほう かれ か で はなむこ
をお買いになる方がよいでしょう﹄。 一〇彼らが買いに出ているうちに、花婿
つ ようい おんな はなむこ いっしょ こんえん
が着いた。そこで、用意のできていた女たちは、花婿と一緒に婚宴のへやに
マタイによる福音書


はいり、そして戸がしめられた。 一一そのあとで、ほかのおとめたちもきて、
しゅじんさま しゅじんさま い かれ こた
﹃ご主人様、ご主人様、どうぞ、あけてください﹄と言った。 一二しかし彼は答
い し い
えて、
﹃はっきり言うが、わたしはあなたがたを知らない﹄と言った。 一三だか
め ひ とき
ら、目をさましていなさい。その日その時が、あなたがたにはわからないか
らである。

97
てんごく ひと たび で しもべ よ じぶん ざいさん
一四 また天国は、ある人が旅に出るとき、その僕どもを呼んで、自分の財産を
あず のうりょく おう もの
預けるようなものである。 一五すなわち、それぞれの能 力に応じて、ある者に
もの もの あた たび
は五タラント、ある者には二タラント、ある者には一タラントを与えて、旅
で わた もの い しょうばい
に出た。 一六五タラントを渡された者は、すぐに行って、それで商 売をして、
もの どうよう
ほかに五タラントをもうけた。 一七二タラントの者も同様にして、ほかに二タ
わた もの い ち ほ
ラントをもうけた。 一八しかし、一タラントを渡された者は、行って地を掘り、
しゅじん かね かく とき しもべ しゅじん
主人の金を隠しておいた。 一九だいぶ時がたってから、これらの僕の主人が
かえ かれ けいさん わた もの
帰ってきて、彼らと計算をしはじめた。 二〇すると五タラントを渡された者が
すす で だ い しゅじんさま
進み出て、ほかの五タラントをさし出して言った、
﹃ご主人様、あなたはわた
あず
しに五タラントをお預けになりましたが、ごらんのとおり、ほかに五タラン
しゅじん かれ い よ ちゅうじつ しもべ
トをもうけました﹄。 二一主人は彼に言った、
﹃良い忠 実な僕よ、よくやった。
マタイによる福音書

ちゅうじつ おお かんり
あ な た は わ ず か な も の に 忠 実 で あ っ た か ら、多 く の も の を 管理 さ せ よ う。
しゅじん いっしょ よろこ もの すす で い
主人 と 一緒 に 喜 ん で く れ﹄。 二 二 二 タ ラ ン ト の 者 も 進 み 出 て 言 っ た、﹃ご
しゅじんさま あず
主人様、あなたはわたしに二タラントをお預けになりましたが、ごらんのと
しゅじん かれ い よ ちゅうじつ
おり、ほかに二タラントをもうけました﹄。 二三主人は彼に言った、
﹃良い忠 実
しもべ ちゅうじつ おお
な僕よ、よくやった。あなたはわずかなものに忠 実であったから、多くのも

98
かんり しゅじん いっしょ よろこ わた もの
のを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ﹄。 二四一タラントを渡された者
すす で い しゅじんさま ところ か ち
も進み出て言った、
﹃ご主人様、わたしはあなたが、まかない所から刈り、散
ところ あつ こく ひと しょうち おそ
らさない所から集める酷な人であることを承知していました。 二五そこで恐
い ち なか かく
ろしさのあまり、行って、あなたのタラントを地の中に隠しておきました。ご
かね しゅじん かれ
らんください。ここにあなたのお金がございます﹄。 二六すると、主人は彼に
こた い わる たいだ しもべ ところ か
答えて言った、﹃悪い怠惰な僕よ、あなたはわたしが、まかない所から刈り、
ち ところ あつ し かね
散らさない所から集めることを知っているのか。 二七それなら、わたしの金を
ぎんこう あず かえ り し
銀行に預けておくべきであった。そうしたら、わたしは帰ってきて、利子と
いっしょ かね かえ
一緒にわたしの金を返してもらえたであろうに。 二八さあ、そのタラントをこ
もの と も もの
の者から取りあげて、十タラントを持っている者にやりなさい。 二九おおよ
も ひと あた ゆた も ひと
そ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、
マタイによる福音書

も と あ やく た しもべ
持っているものまでも取り上げられるであろう。 三〇この役に立たない僕を
そと くら ところ お だ かれ な さけ は
外の暗い所に追い出すがよい。彼は、そこで泣き叫んだり、歯がみをしたり
するであろう﹄。
ひと こ えいこう なか みつかい したが く かれ えいこう
三一 人の子が栄光の中にすべての御使たちを従えて来るとき、彼はその栄光の
ざ こくみん まえ あつ ひつじかい ひつじ
座につくであろう。 三二そして、すべての国民をその前に集めて、羊 飼が羊と

99
わ かれ わ ひつじ みぎ ひだり
やぎとを分けるように、彼らをより分け、 三三 羊を右に、やぎを左におくであ
おう みぎ ひとびと い ちち しゅくふく
ろう。 三四そのとき、王は右にいる人々に言うであろう、
﹃わたしの父に祝 福
ひと よ はじ ようい みくに
された人たちよ、さあ、世の初めからあなたがたのために用意されている御国
う くうふく た
を受けつぎなさい。 三五あなたがたは、わたしが空腹のときに食べさせ、かわ
の たびびと やど か はだか
いていたときに飲ませ、旅人であったときに宿を貸し、三六 裸であったときに
き びょうき み ま ごく たず
着せ、病気のときに見舞い、獄にいたときに尋ねてくれたからである﹄。 三七そ
ただ もの こた い しゅ
のとき、正しい者たちは答えて言うであろう、﹃主よ、いつ、わたしたちは、
くうふく み しょくもつ み の
あなたが空腹であるのを見て食 物をめぐみ、かわいているのを見て飲ませま
たびびと み やど か はだか み き
したか。 三八いつあなたが旅人であるのを見て宿を貸し、 裸なのを見て着せ
びょうき ごく み ところ
ましたか。 三九また、いつあなたが病気をし、獄にいるのを見て、あなたの所
まい おう こた い
に参りましたか﹄。 四〇すると、王は答えて言うであろう、
﹃あなたがたによく
マタイによる福音書

い きょうだい もっと ちい もの
言っておく。わたしの兄 弟であるこれらの最も小さい者のひとりにしたの
ひだり ひとびと い
は、すなわち、わたしにしたのである﹄。 四一それから、 左にいる人々にも言
もの はな あくま つかい
うであろう、
﹃のろわれた者どもよ、わたしを離れて、悪魔とその使たちとの
ようい えいえん ひ
ために用意されている永遠の火にはいってしまえ。 四二あなたがたは、わたし
くうふく た の たびびと
が空腹のときに食べさせず、かわいていたときに飲ませず、 四三旅人であった

100
やど か はだか き びょうき ごく
ときに宿を貸さず、 裸であったときに着せず、また病気のときや、獄にいた
たず かれ
ときに、わたしを尋ねてくれなかったからである﹄。 四四そのとき、彼らもまた
こた い しゅ くうふく
答えて言うであろう、﹃主よ、いつ、あなたが空腹であり、かわいておられ、
たびびと はだか びょうき ごく み
旅人であり、 裸であり、病気であり、獄におられたのを見て、わたしたちは
せ わ かれ こた い
お世話をしませんでしたか﹄。 四五そのとき、彼は答えて言うであろう、
﹃あな
い もっと ちい もの
た が た に よ く 言 っ て お く。こ れ ら の 最 も 小 さ い 者 の ひ と り に し な か っ た の
かれ えいえん けいばつ
は、すなわち、わたしにしなかったのである﹄。 四六そして彼らは永遠の刑罰を
う ただ もの えいえん せいめい い
受け、正しい者は永遠の生命に入るであろう﹂。
第二六章
マタイによる福音書

ことば かた お で し い
一 イエスはこれらの言葉をすべて語り終えてから、弟子たちに言われた。 二
し のち すぎこし まつり ひと こ
﹁あなたがたが知っているとおり、ふつかの後には過越の祭になるが、人の子
じゅうじか ひ わた さいしちょう たみ
は十字架につけられるために引き渡される﹂。 三そのとき、祭司長たちや民の
ちょうろう だいさいし なかにわ あつ さくりゃく
長 老たちが、カヤパという大祭司の中庭に集まり、 四策 略をもってイエスを
とら ころ そうだん かれ い まつり あいだ

101
捕 え て 殺 そ う と 相談 し た。 五 し か し 彼 ら は 言 っ た、﹁祭 の 間 は い け な い。
みんしゅう なか さわ おこ し
民 衆の中に騒ぎが起るかも知れない﹂。
びょうにん いえ
六 さて、イエスがベタニヤで、らい病 人 シモンの家におられたとき、七ひとり
おんな こうか こうゆ い せっこう も ちかよ
の女が、高価な香油が入れてある石膏のつぼを持ってきて、イエスに近寄り、
しょくじ せき あたま こうゆ そそ で し
食事の席についておられたイエスの頭に香油を注ぎかけた。 八すると、弟子
み いきどお い づかい
たちはこれを見て憤 って言った、﹁なんのためにこんなむだ使をするのか。 九
たか う まず ひと ほどこ
それを高く売って、貧しい人たちに施すことができたのに﹂。 一〇イエスはそ
き かれ い おんな こま こと
れを聞いて彼らに言われた、
﹁なぜ、女を困らせるのか。わたしによい事をし
まず ひと いっしょ
てくれたのだ。 一一貧しい人たちはいつもあなたがたと一緒にいるが、わたし
いっしょ おんな こうゆ
はいつも一緒にいるわけではない。 一二この女がわたしのからだにこの香油
そそ ほうむ ようい き
を注いだのは、わたしの葬りの用意をするためである。 一三よく聞きなさい。
ぜん せ か い ふくいん の つた ところ おんな こと
全世界のどこででも、この福音が宣べ伝えられる所では、この女のした事も
マタイによる福音書

きねん かた
記念として語られるであろう﹂。
とき で し もの さいしちょう
一四 時に、十二弟子のひとりイスカリオテのユダという者が、祭司長たちのと
い い かれ ひ わた
ころに行って 一五 言った、﹁彼をあなたがたに引き渡せば、いくらくださいます
かれ ぎんか まい かれ しはら とき
か﹂。すると、彼らは銀貨三十枚を彼に支払った。 一六その時から、ユダはイエ
ひ きかい
スを引きわたそうと、機会をねらっていた。

102
じょこうさい だい にち で し い すぎこし
一七 さて、除酵祭の第一日に、弟子たちはイエスのもとにきて言った、
﹁過越の
しょくじ ようい
食事をなさるために、わたしたちはどこに用意をしたらよいでしょうか﹂。 一八
い しない はな ひと ところ い い
イエスは言われた、
﹁市内にはいり、かねて話してある人の所に行って言いな
せんせい とき ちか いえ で し いっしょ すぎこし
さい、
﹃先生が、わたしの時が近づいた、あなたの家で弟子たちと一緒に過越
まも い で し めい
を守ろうと、言っておられます﹄﹂。 一九弟子たちはイエスが命じられたとおり
すぎこし ようい
にして、過越の用意をした。
ゆうがた で し いっしょ しょくじ せき
二〇 夕方になって、イエスは十二弟子と一緒に食事の席につかれた。 二一そし
いちどう しょくじ い とく い
て、一同が食事をしているとき言われた、﹁特にあなたがたに言っておくが、
うらぎ で し
あなたがたのうちのひとりが、わたしを裏切ろうとしている﹂。 二二弟子たち
ひじょう しんぱい しゅ
は非常に心配して、つぎつぎに﹁主よ、まさか、わたしではないでしょう﹂と
い だ こた い いっしょ おな はち て い
言い出した。 二三イエスは答えて言われた、﹁わたしと一緒に同じ鉢に手を入
マタイによる福音書

もの うらぎ ひと こ じぶん
れている者が、わたしを裏切ろうとしている。 二四たしかに人の子は、自分に
か さ い ひと こ うらぎ ひと
ついて書いてあるとおりに去って行く。しかし、人の子を裏切るその人は、わ
ひと うま ほう かれ
ざわいである。その人は生れなかった方が、彼のためによかったであろう﹂。
うらぎ こた い せんせい
二五 イエスを裏切ったユダが答えて言った、
﹁先生、まさか、わたしではないで

しょう﹂。イエスは言われた、﹁いや、あなただ﹂。

103
いちどう しょくじ と しゅくふく
二六 一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、祝 福してこれをさき、
で し あた い と た
弟子たちに与えて言われた、
﹁取って食べよ、これはわたしのからだである﹂。
さかずき と かんしゃ かれ あた い さかずき の
二七 また杯を取り、感謝して彼らに与えて言われた、
﹁みな、この杯から飲め。
つみ え おお ひと なが
二八 これは、罪のゆるしを得させるようにと、多くの人のために流すわたしの
けいやく ち い ちち くに
契約の血である。 二九あなたがたに言っておく。わたしの父の国であなたが
とも あたら の ひ こ ん ご けっ み
たと共に、 新しく飲むその日までは、わたしは今後決して、ぶどうの実から
つく の
造ったものを飲むことをしない﹂。
かれ うた のち やま で い
三〇 彼らは、さんびを歌った後、オリブ山へ出かけて行った。
で し い こんや みな
三一 そのとき、イエスは弟子たちに言われた、
﹁今夜、あなたがたは皆わたしに
ひつじかい う ひつじ む ち
つまずくであろう。﹃わたしは羊 飼を打つ。そして、 羊の群れは散らされる

であろう﹄と、書いてあるからである。 三二しかしわたしは、よみがえってか
マタイによる福音書

さき い
ら、あなたがたより先にガリラヤへ行くであろう﹂。 三三するとペテロはイエ
こた い もの
スに答えて言った、
﹁たとい、みんなの者があなたにつまずいても、わたしは
けっ い い
決してつまずきません﹂。 三四イエスは言われた、﹁よくあなたに言っておく。
こんや にわとり な まえ ど し い
今夜、 鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう﹂。 三五ペ
い いっしょ し
テロは言った、
﹁たといあなたと一緒に死なねばならなくなっても、あなたを

104
し けっ もう で し おな い
知らないなどとは、決して申しません﹂。弟子たちもみな同じように言った。
かれ いっしょ ところ い
三六 それから、イエスは彼らと一緒に、ゲツセマネという所へ行かれた。そし
で し い む い いの あいだ
て弟子たちに言われた、﹁わたしが向こうへ行って祈っている間、ここにす
こ つ い
わっていなさい﹂。 三七そしてペテロとゼベダイの子ふたりとを連れて行かれ
かな もよお なや かれ い
たが、悲しみを催しまた悩みはじめられた。 三八そのとき、彼らに言われた、
かな し ま いっしょ
﹁わたしは悲しみのあまり死ぬほどである。ここに待っていて、わたしと一緒
め すこ すす い いの
に目をさましていなさい﹂。 三九そして少し進んで行き、うつぶしになり、祈っ
い ちち さかずき
て言われた、
﹁わが父よ、もしできることでしたらどうか、この杯をわたしか
す さ おも
ら過ぎ去らせてください。しかし、わたしの思いのままにではなく、みここ
くだ で し ところ
ろのままになさって下さい﹂。 四〇それから、弟子たちの所にきてごらんにな
かれ ねむ い
ると、彼らが眠っていたので、ペテロに言われた、﹁あなたがたはそんなに、
マタイによる福音書

とき いっしょ め
ひ と 時 も わ た し と 一緒 に 目 を さ ま し て い る こ と が、で き な か っ た の か。 四一
ゆうわく おちい め いの こころ ねっ
誘惑に陥らないように、目をさまして祈っていなさい。 心は熱しているが、
にくたい よわ ど め い いの い ちち
肉体が弱いのである﹂。 四二また二度目に行って、祈って言われた、
﹁わが父よ、
さかずき の みち おこな
この杯を飲むほかに道がないのでしたら、どうか、みこころが行われますよ
かれ ねむ め おも
うに﹂。 四三またきてごらんになると、彼らはまた眠っていた。その目が重く

105
かれ い ど め
なっていたのである。 四四それで彼らをそのままにして、また行って、三度目
おな ことば いの で し ところ かえ い
に同じ言葉で祈られた。 四五それから弟子たちの所に帰ってきて、言われた、
ねむ やす み とき せま ひと こ つみびと
﹁まだ眠っているのか、休んでいるのか。見よ、時が迫った。人の子は罪人ら
て わた た い み うらぎ もの ちか
の手に渡されるのだ。 四六立て、さあ行こう。見よ、わたしを裏切る者が近づ
いてきた﹂。
はな で し
四七 そして、イエスがまだ話しておられるうちに、そこに、十二弟子のひとり
さいしちょう たみ ちょうろう おく おお ぐんしゅう けん
のユダがきた。また祭司長、民の長 老たちから送られた大ぜいの群 衆も、剣
ぼう も かれ うらぎ もの かれ
と棒とを持って彼についてきた。 四八イエスを裏切った者が、あらかじめ彼ら
せっぷん もの ひと ひと あいず
に、
﹁わたしの接吻する者が、その人だ。その人をつかまえろ﹂と合図をして
かれ ちかよ せんせい い
おいた。 四九彼はすぐイエスに近寄り、
﹁先生、いかがですか﹂と言って、イエ
せっぷん かれ い とも
スに接吻した。 五〇しかし、イエスは彼に言われた、
﹁友よ、なんのためにきた
マタイによる福音書

ひとびと すす よ て
のか﹂。このとき、人々が進み寄って、イエスに手をかけてつかまえた。 五一す
いっしょ もの て の けん ぬ
る と、イ エ ス と 一緒 に い た 者 の ひ と り が、手 を 伸 ば し て 剣 を 抜 き、そ し て
だいさいし しもべ き かたみみ き おと かれ
大祭司の僕に切りかかって、その片耳を切り落した。 五二そこで、イエスは彼
い けん ところ けん もの けん
に言われた、
﹁あなたの剣をもとの所におさめなさい。剣をとる者はみな、剣
ほろ ちち ねが てん つかい ぐんだんいじょう
で滅びる。 五三それとも、わたしが父に願って、天の使たちを十二軍団以上も、

106
いま おも
今つかわしていただくことができないと、あなたは思うのか。 五四しかし、そ
か せいしょ ことば じょうじゅ
れでは、こうならねばならないと書いてある聖書の言葉は、どうして成 就さ
ぐんしゅう い ごうとう
れようか﹂。 五五そのとき、イエスは群 衆に言われた、
﹁あなたがたは強盗にむ
けん ぼう も とら まいにち みや
かうように、剣や棒を持ってわたしを捕えにきたのか。わたしは毎日、宮で
おし
すわって教えていたのに、わたしをつかまえはしなかった。 五六しかし、すべ
よげんしゃ か じょうじゅ
てこうなったのは、預言者たちの書いたことが、成 就するためである﹂。その
で し みな み す に さ
とき、弟子たちは皆イエスを見捨てて逃げ去った。
ひと だいさいし つ
五七 さて、イエスをつかまえた人たちは、大祭司カヤパのところにイエスを連
い りっぽうがくしゃ ちょうろう あつ とお
れて行った。そこには律法学者、 長 老たちが集まっていた。 五八ペテロは遠
だいさいし なかにわ い み
くからイエスについて、大祭司の中庭まで行き、そのなりゆきを見とどける
なか したやく いっしょ さいしちょう
ために、中にはいって下役どもと一緒にすわっていた。 五九さて、祭司長たち
マタイによる福音書

ぜん ぎ か い しけい ふ り ぎしょう もと
と全議会とは、イエスを死刑にするため、イエスに不利な偽証を求めようと
おお ぎしょうしゃ で しょうこ
していた。 六〇そこで多くの偽証者が出てきたが、証拠があがらなかった。し
さいご もの で い ひと かみ みや
かし、最後にふたりの者が出てきて 六一言った、
﹁この人は、わたしは神の宮を
う か のち た い
打ちこわし、三日の後に建てることができる、と言いました﹂。 六二すると、
だいさいし た あ い なに こた ひとびと
大祭司が立ち上がってイエスに言った、﹁何も答えないのか。これらの人々が

107
たい ふ り しょうげん もう た
あなたに対して不利な証 言を申し立てているが、どうなのか﹂。 六三しかし、
だま だいさいし い かみ こ
イエスは黙っておられた。そこで大祭司は言った、﹁あなたは神の子キリスト
い かみ ちか こた かれ い
なのかどうか、生ける神に誓ってわれわれに答えよ﹂。 六四イエスは彼に言わ
い い
れた、
﹁あなたの言うとおりである。しかし、わたしは言っておく。あなたが
ま ひと こ ちから もの みぎ ざ てん くも の く み
たは、間もなく、人の子が力ある者の右に座し、天の雲に乗って来るのを見
だいさいし ころも ひ さ い かれ かみ けが
るであろう﹂。 六五すると、大祭司はその衣を引き裂いて言った、
﹁彼は神を汚
いじょう しょうにん ひつよう いま
した。どうしてこれ以上、証 人の必要があろう。あなたがたは今このけがし
ごと き いけん かれ こた い
言を聞いた。 六六あなたがたの意見はどうか﹂。すると、彼らは答えて言った、
かれ し あた かれ かお
﹁彼は死に当るものだ﹂。 六七それから、彼らはイエスの顔につばきをかけて、
う ひと て い い
こぶしで打ち、またある人は手のひらでたたいて言った、六八﹁キリストよ、言

いあててみよ、打ったのはだれか﹂。
マタイによる福音書

そと なかにわ じょちゅう かれ
六九 ペテロは外で中庭にすわっていた。するとひとりの女 中が彼のところに
びと いっしょ い
きて、
﹁あなたもあのガリラヤ人イエスと一緒だった﹂と言った。 七〇するとペ
まえ う け い なに い
テロは、みんなの前でそれを打ち消して言った、
﹁あなたが何を言っているの
い いりぐち ほう で い じょちゅう かれ
か、わからない﹂。 七一そう言って入口の方に出て行くと、ほかの女 中が彼を
み ひとびと ひと びと いっしょ
見て、そこにいる人々にむかって、﹁この人はナザレ人イエスと一緒だった﹂

108
い かれ ふたた う け ひと し
と言った。 七二そこで彼は再びそれを打ち消して、﹁そんな人は知らない﹂と
ちか い た ひとびと ちかよ
誓って言った。 七三しばらくして、そこに立っていた人々が近寄ってきて、ペ
い たし かれ なかま ことば
テロに言った、﹁確かにあなたも彼らの仲間だ。言葉づかいであなたのことが
かれ ひと なに し い はげ ちか
わかる﹂。 七四彼は﹁その人のことは何も知らない﹂と言って、激しく誓いはじ
にわとり な にわとり な まえ ど し
めた。するとすぐ鶏が鳴いた。 七五ペテロは﹁鶏が鳴く前に、三度わたしを知
い い ことば おも だ そと で はげ
らないと言うであろう﹂と言われたイエスの言葉を思い出し、外に出て激し

く泣いた。
第二七章
よ あ さいしちょう たみ ちょうろう いちどう ころ
一 夜が明けると、祭司長たち、民の長 老たち一同は、イエスを殺そうとして
マタイによる福音書

きょうぎ うえ しば ひ だ そうとく わた
協議をこらした上、 二イエスを縛って引き出し、総督ピラトに渡した。
うらぎ つみ さだ み こうかい
三 そのとき、イエスを裏切ったユダは、イエスが罪に定められたのを見て後悔
ぎんか まい さいしちょう ちょうろう かえ い つみ ひと
し、銀貨三十枚を祭司長、長 老たちに返して 四言った、
﹁わたしは罪のない人
ち う つみ おか かれ い
の血を売るようなことをして、罪を犯しました﹂。しかし彼らは言った、﹁そ
し じぶん しまつ かれ

109
れ は、わ れ わ れ の 知 っ た こ と か。自分 で 始末 す る が よ い﹂。 五そ こ で、彼 は
ぎんか せいじょ な こ で い くび し さいしちょう
銀貨を聖所に投げ込んで出て行き、首をつって死んだ。 六祭司長たちは、その
ぎんか ひろ い ち だいか みや きんこ い
銀貨を拾いあげて言った、
﹁これは血の代価だから、宮の金庫に入れるのはよ
かれ きょうぎ うえ がいこくひと ぼ ち かね
く な い﹂。 七そ こ で 彼 ら は 協議 の 上、外国人 の 墓地 に す る た め に、そ の 金 で
とうき し はたけ か はたけ きょ う ち はたけ よ
陶器師の畑を買った。 八そのために、この畑は今日まで血の畑と呼ばれてい
よげんしゃ い ことば じょうじゅ
る。 九こ う し て 預言者 エ レ ミ ヤ に よ っ て 言 わ れ た 言葉 が、 成 就 し た の で あ
かれ ね こ
る。すなわち、
﹁彼らは、値をつけられたもの、すなわち、イスラエルの子ら
ね だいか ぎんか と しゅ めい
が値をつけたものの代価、銀貨三十を取って、一〇主がお命じになったように、
とうき し はたけ だいか かね あた
陶器師の畑の代価として、その金を与えた﹂。
そうとく まえ た そうとく たず い
一一 さて、イエスは総督の前に立たれた。すると総督はイエスに尋ねて言っ
じん おう い
た、﹁あなたがユダヤ人の王であるか﹂。イエスは﹁そのとおりである﹂と言
さいしちょう ちょうろう うった あいだ こと
われた。 一二しかし、祭司長、長 老たちが訴えている間、イエスはひと言もお
マタイによる福音書

こた い つぎつぎ
答えにならなかった。 一三するとピラトは言った、
﹁あんなにまで次々に、あな
ふ り しょうげん た きこ
たに不利な証 言を立てているのが、あなたには聞えないのか﹂。 一四しかし、
そうとく ひじょう ふ し ぎ おも なに い こと
総督が非常に不思議に思ったほどに、イエスは何を言われても、ひと言もお
こた まつり そうとく ぐんしゅう ねが で
答 え に な ら な か っ た。 一 五さ て、 祭 の た び ご と に、総督 は 群 衆 が 願 い 出 る
しゅうじん かんれい
囚 人ひとりを、ゆるしてやる慣例になっていた。 一六ときに、バラバという

110
ひょうばん しゅうじん かれ あつ い
評 判の囚 人がいた。 一七それで、彼らが集まったとき、ピラトは言った、
﹁お
まえたちは、だれをゆるしてほしいのか。バラバか、それとも、キリストと
かれ ひ
いわれるイエスか﹂。 一八彼らがイエスを引きわたしたのは、ねたみのためで
あることが、ピラトにはよくわかっていたからである。 一九また、ピラトが
さいばん せき つま ひと かれ ぎじん
裁判の席についていたとき、その妻が人を彼のもとにつかわして、
﹁あの義人
かんけい ゆめ ひと
には関係しないでください。わたしはきょう夢で、あの人のためにさんざん
くる い さいしちょう ちょうろう
苦しみましたから﹂と言わせた。 二〇しかし、祭司長、長 老たちは、バラバを
ころ ぐんしゅう と ふ そうとく かれ
ゆるして、イエスを殺してもらうようにと、群 衆を説き伏せた。 二一総督は彼
い かれ
らにむかって言った、﹁ふたりのうち、どちらをゆるしてほしいのか﹂。彼ら
ほう い い
は﹁バラバの方を﹂と言った。 二二ピラトは言った、
﹁それではキリストといわ
かれ じゅうじか
れるイエスは、どうしたらよいか﹂。彼らはいっせいに﹁十字架につけよ﹂と
マタイによる福音書

い い ひと あくじ
言った。 二三しかし、ピラトは言った、
﹁あの人は、いったい、どんな悪事をし
かれ はげ さけ じゅうじか い
たのか﹂。すると彼らはいっそう激しく叫んで、
﹁十字架につけよ﹂と言った。
て ぼうどう み みず
二四 ピラトは手のつけようがなく、かえって暴動になりそうなのを見て、水を
と ぐんしゅう まえ て あら い ひと ち せきにん
取り、群 衆の前で手を洗って言った、
﹁この人の血について、わたしには責任
じぶん しまつ みんしゅうぜんたい こた
がない。おまえたちが自分で始末をするがよい﹂。 二五すると、民 衆 全体が答

111
い ち せきにん しそん うえ
えて言った、
﹁その血の責任は、われわれとわれわれの子孫の上にかかっても

よい﹂。 二六そこで、ピラトはバラバをゆるしてやり、イエスをむち打ったの
じゅうじか ひ
ち、十字架につけるために引きわたした。
そうとく へいし かんてい つ い ぜん ぶ た い
二七 それから総督の兵士たちは、イエスを官邸に連れて行って、全部隊をイエ
あつ うわぎ あか がいとう き
スのまわりに集めた。 二八そしてその上着をぬがせて、赤い外套を着せ、二九ま
かんむり あ あたま みぎ て あし ぼう も
た、いばらで冠を編んでその頭にかぶらせ、右の手には葦の棒を持たせ、そ
まえ ちょうろう じん おう い
れからその前にひざまずき、嘲 弄して、
﹁ユダヤ人の王、ばんざい﹂と言った。
あし ぼう と あたま
三〇 また、イエスにつばきをかけ、葦の棒を取りあげてその頭をたたいた。 三一
ちょうろう がいとう と もと うわぎ き
こうしてイエスを嘲 弄したあげく、外套をはぎ取って元の上着を着せ、それ
じゅうじか ひ だ
から十字架につけるために引き出した。
かれ で い な びと で あ
三二 彼らが出て行くと、シモンという名のクレネ人に出会ったので、イエスの
マタイによる福音書

じゅうじか む り お ば
十字架を無理に負わせた。 三三そして、ゴルゴタ、すなわち、されこうべの場、
ところ かれ しゅ の
という所にきたとき、三四彼らはにがみをまぜたぶどう酒を飲ませようとした
の かれ
が、イエスはそれをなめただけで、飲もうとされなかった。 三五彼らはイエス
じゅうじか ひ きもの わ
を十字架につけてから、くじを引いて、その着物を分け、 三六そこにすわって
ばん あたま うえ ほう じん おう
イエスの番をしていた。 三七そしてその頭の上の方に、﹁これはユダヤ人の王

112
か ざいじょう が どうじ ごうとう
イエス﹂と書いた罪 状 書きをかかげた。 三八同時に、ふたりの強盗がイエスと
いっしょ みぎ ひだり じゅうじか とお
一緒に、ひとりは右に、ひとりは左に、十字架につけられた。 三九そこを通り
もの あたま ふ い しんでん
かかった者たちは、 頭を振りながら、イエスをののしって 四〇 言った、
﹁神殿
う か た もの かみ こ じぶん すく
を打ちこわして三日のうちに建てる者よ。もし神の子なら、自分を救え。そ
じゅうじか さいしちょう おな りっぽうがくしゃ ちょうろう
して十字架からおりてこい﹂。 四一祭司長たちも同じように、律法学者、 長 老
いっしょ ちょうろう い たにん すく じぶんじしん すく
たちと一緒になって、嘲 弄して言った、 四二﹁他人を救ったが、自分自身を救
おう じゅうじか
うことができない。あれがイスラエルの王なのだ。いま十字架からおりてみ
しん かれ かみ かみ
よ。そうしたら信じよう。 四三彼は神にたよっているが、神のおぼしめしがあ
いま すく じぶん かみ こ い
れば、今、救ってもらうがよい。自分は神の子だと言っていたのだから﹂。 四四
いっしょ じゅうじか ごうとう おな
一緒に十字架につけられた強盗どもまでも、同じようにイエスをののしった。
ひる じ ちじょう ぜんめん くら じ およ
四五 さて、昼の十二時から地上の全面が暗くなって、三時に及んだ。 四六そして
マタイによる福音書

じ おおごえ さけ い
三時ごろに、イエスは大声で叫んで、
﹁エリ、エリ、レマ、サバクタニ﹂と言
かみ かみ み す
われた。それは﹁わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったので
い み た ひとびと
すか﹂という意味である。 四七すると、そこに立っていたある人々が、これを
き い よ かれ
聞いて言った、
﹁あれはエリヤを呼んでいるのだ﹂。 四八するとすぐ、彼らのう
はし よ かいめん と す しゅ ふく あし
ちのひとりが走り寄って、海綿を取り、それに酢いぶどう酒を含ませて葦の

113
ぼう の ひとびと い ま
棒につけ、イエスに飲ませようとした。 四九ほかの人々は言った、
﹁待て、エリ
かれ すく く み い ち ど おおごえ さけ
ヤが彼を救いに来るかどうか、見ていよう﹂。 五〇イエスはもう一度大声で叫
いき み しんでん まく うえ した
んで、ついに息をひきとられた。 五一すると見よ、神殿の幕が上から下まで
まっぷた さ じしん いわ さ はか あ ねむ
真二つに裂けた。また地震があり、岩が裂け、 五二また墓が開け、眠っている
おお せいと したい い かえ ふっかつ はか
多くの聖徒たちの死体が生き返った。 五三そしてイエスの復活ののち、墓から
で せい みやこ おお ひと あらわ ひゃくそつちょう かれ
出てきて、聖なる都にはいり、多くの人に現れた。 五四百 卒 長、および彼と
いっしょ ばん ひとびと じしん み ひじょう
一緒にイエスの番をしていた人々は、地震や、いろいろのできごとを見て非常
おそ ひと かみ こ い
に恐れ、
﹁まことに、この人は神の子であった﹂と言った。 五五また、そこには
とお ほう み おんな おお かれ つか
遠くの方から見ている女たちも多くいた。彼らはイエスに仕えて、ガリラヤ
したが ひと なか
から従 ってきた人たちであった。 五六その中には、マグダラのマリヤ、ヤコブ
はは こ はは
とヨセフとの母マリヤ、またゼベダイの子たちの母がいた。
マタイによる福音書

ゆうがた かねもち な ひと かれ
五七 夕方になってから、アリマタヤの金持で、ヨセフという名の人がきた。彼
で し ひと ところ い
もまたイエスの弟子であった。 五八この人がピラトの所へ行って、イエスのか
ひきと ねが わた めい
らだの引取りかたを願った。そこで、ピラトはそれを渡すように命じた。 五九
したい う と あ ま ぬ の つつ いわ ほ つく かれ
ヨセフは死体を受け取って、きれいな亜麻布に包み、 六〇岩を掘って造った彼
あたら はか おさ はか いりぐち おお いし かえ
の新しい墓に納め、そして墓の入口に大きい石をころがしておいて、帰った。

114
はか
六一 マグダラのマリヤとほかのマリヤとが、墓にむかってそこにすわってい
た。
ひ じゅんび ひ よくじつ ひ さいしちょう びと
六二 あくる日は準備の日の翌日であったが、その日に、祭司長、パリサイ人た
あつ い ちょうかん いつわ もの い
ちは、ピラトのもとに集まって言った、 六三﹁長 官、あの偽り者がまだ生きて
か のち じぶん い おも だ
いたとき、﹃三日の後に自分はよみがえる﹄と言ったのを、思い出しました。
か め はか ばん くだ
六四 ですから、三日目まで墓の番をするように、さしずをして下さい。そうし
で し かれ ぬす だ しにん なか
ないと、弟子たちがきて彼を盗み出し、
﹃イエスは死人の中から、よみがえっ
みんしゅう い し まえ
た﹄と、民 衆に言いふらすかも知れません。そうなると、みんなが前よりも、
かれ い
もっとひどくだまされることになりましょう﹂。 六五ピラトは彼らに言った、
ばんにん い かぎ ばん かれ
﹁番人がいるから、行ってできる限り、番をさせるがよい﹂。 六六そこで、彼ら
い いし ふういん ばんにん お はか ばん
は行って石に封印をし、番人を置いて墓の番をさせた。
マタイによる福音書

第二八章
あんそくにち おわ しゅう はじ ひ あ がた
一 さて、安息日が終って、 週の初めの日の明け方に、マグダラのマリヤとほ
はか み おお じしん おこ しゅ

115
かのマリヤとが、墓を見にきた。 二すると、大きな地震が起った。それは主の
つかい てん くだ いし うえ
使が天から下って、そこにきて石をわきへころがし、その上にすわったから
すがた かがや ころも ゆき まっしろ
である。 三その姿はいなずまのように輝き、その衣は雪のように真白であっ
み は ひと おそ あま ふる しにん
た。 四見張りをしていた人たちは、恐ろしさの余り震えあがって、死人のよう
みつかい おんな い おそ
になった。 五この御使は女たちにむかって言った、
﹁恐れることはない。あな
じゅうじか さが
たがたが十字架におかかりになったイエスを捜していることは、わたしにわ

かっているが、六もうここにはおられない。かねて言われたとおりに、よみが
おさ ば しょ
えられたのである。さあ、イエスが納められていた場所をごらんなさい。 七
いそ い で し つた しにん なか
そして、急いで行って、弟子たちにこう伝えなさい、
﹃イエスは死人の中から
み さき い
よみがえられた。見よ、あなたがたより先にガリラヤへ行かれる。そこでお
あ い おんな
会いできるであろう﹄。あなたがたに、これだけ言っておく﹂。 八そこで女た
おそ おおよろこ いそ はか た さ で し し
ちは恐れながらも大 喜びで、急いで墓を立ち去り、弟子たちに知らせるため
マタイによる福音書

はし い かれ で あ へいあん い
に走って行った。 九すると、イエスは彼らに出会って、
﹁平安あれ﹂と言われ
かれ ちかよ あし はい
たので、彼らは近寄りイエスのみ足をいだいて拝した。 一〇そのとき、イエス
かれ い おそ い きょうだい い
は彼らに言われた、﹁恐れることはない。行って兄 弟たちに、ガリラヤに行
あ つ
け、そこでわたしに会えるであろう、と告げなさい﹂。
おんな い あいだ ばんにん ひとびと みやこ かえ
女たちが行っている間に、番人のうちのある人々が都に帰って、いっさい

116
一一
で き ご と さいしちょう はな さいしちょう ちょうろう あつ きょうぎ
の出来事を祭司長たちに話した。 一二祭司長たちは長 老たちと集まって協議
へいそつ かね あた い で し よなか
をこらし、兵卒たちにたくさんの金を与えて言った、一三﹁﹃弟子たちが夜中に
ね あいだ かれ ぬす い まんいち そうとく
きて、われわれの寝ている間に彼を盗んだ﹄と言え。 一四万一このことが総督
みみ そうとく と めいわく か
の耳にはいっても、われわれが総督に説いて、あなたがたに迷惑が掛からな
かれ かね う と おし
いようにしよう﹂。 一五そこで、彼らは金を受け取って、教えられたとおりにし
はなし きょ う いた じん あいだ
た。そしてこの話は、今日に至るまでユダヤ人の間にひろまっている。
にん で し い かれ い
一六 さて、十一人の弟子たちはガリラヤに行って、イエスが彼らに行くように
めい やま のぼ あ はい うたが もの
命じられた山に登った。 一七そして、イエスに会って拝した。しかし、疑う者
かれ ちか い てん
もいた。 一八イエスは彼らに近づいてきて言われた、
﹁わたしは、天においても
ち けんい さず
地においても、いっさいの権威を授けられた。 一九それゆえに、あなたがたは
い こくみん で し ちち こ せいれい な かれ
行って、すべての国民を弟子として、父と子と聖霊との名によって、彼らに
マタイによる福音書

ほどこ めい まも
バプテスマを施し、二〇あなたがたに命じておいたいっさいのことを守るよう
おし み よ おわ とも
に教えよ。見よ、わたしは世の終りまで、いつもあなたがたと共にいるので
ある﹂。

117
ふくいんしょ
マルコによる福音書
第一章
かみ こ ふくいん
一 神の子イエス・キリストの福音のはじめ。
よげんしゃ しょ
二 預言者イザヤの書に、
み つかい さき
﹁見よ、わたしは使をあなたの先につかわし、
みち ととの
あなたの道を整えさせるであろう。
あらの よ もの こえ
荒野で呼ばわる者の声がする、

しゅ みち そな
﹃主の道を備えよ、
みちすじ
その道筋をまっすぐにせよ﹄﹂
マルコによる福音書

か あらの あらわ つみ え
と書いてあるように、四バプテスマのヨハネが荒野に現れて、罪のゆるしを得
くいあらた の つた ぜんど
させる悔 改めのバプテスマを宣べ伝えていた。 五そこで、ユダヤ全土とエル
ぜんじゅうみん かれ で い じぶん つみ こくはく
サレムの全 住 民とが、彼のもとにぞくぞくと出て行って、自分の罪を告白し、
がわ う け
ヨルダン川でヨハネからバプテスマを受けた。 六このヨハネは、らくだの毛

0
み こし かわ おび の みつ しょくもつ
ごろもを身にまとい、腰に皮の帯をしめ、いなごと野蜜とを食 物としていた。
かれ の つた い ちから
七 彼は宣べ伝えて言った、
﹁わたしよりも力のあるかたが、あとからおいでに
と ね
なる。わたしはかがんで、そのくつのひもを解く値うちもない。 八わたしは
みず さず せいれい さず
水でバプテスマを授けたが、このかたは、聖霊によってバプテスマをお授け
になるであろう﹂。
で がわ
九 そのころ、イエスはガリラヤのナザレから出てきて、ヨルダン川で、ヨハネ
う みず なか あ
からバプテスマをお受けになった。 一〇そして、水の中から上がられるとす
てん さ せいれい じぶん くだ く
ぐ、天が裂けて、聖霊がはとのように自分に下って来るのを、ごらんになっ
てん こえ あい こ こころ
た。 一一すると天から声があった、
﹁あなたはわたしの愛する子、わたしの心に
もの
かなう者である﹂。
みたま あらの お にち
一二 それからすぐに、御霊がイエスを荒野に追いやった。 一三イエスは四十日
マルコによる福音書

あらの こころ けもの


のあいだ荒野にいて、サタンの試みにあわれた。そして獣もそこにいたが、
みつかい つか
御使たちはイエスに仕えていた。
とら のち い かみ ふくいん の つた
一四 ヨハネが捕えられた後、イエスはガリラヤに行き、神の福音を宣べ伝えて
い とき み かみ くに ちか く あらた ふくいん しん
言われた、 一五﹁時は満ちた、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信ぜよ﹂。
うみ ある い きょうだい
一六 さて、イエスはガリラヤの海べを歩いて行かれ、シモンとシモンの兄 弟 ア

1
うみ あみ う かれ りょうし
ンデレとが、海で網を打っているのをごらんになった。彼らは漁師であった。
かれ い にんげん
一七 イエスは彼らに言われた、﹁わたしについてきなさい。あなたがたを、人間
りょうし かれ あみ す
をとる漁師にしてあげよう﹂。 一八すると、彼らはすぐに網を捨てて、イエスに
したが すこ すす い こ きょうだい
従 った。 一九また少し進んで行かれると、ゼベダイの子ヤコブとその兄 弟 ヨ
ふね なか あみ つくろ かれ
ハネとが、舟の中で網を繕 っているのをごらんになった。 二〇そこで、すぐ彼
まね ちち やといにん いっしょ ふね
らをお招きになると、父ゼベダイを雇 人たちと一緒に舟において、イエスの

あとについて行った。
かれ い あんそくにち
二一 それから、彼らはカペナウムに行った。そして安息日にすぐ、イエスは
かいどう おし ひとびと おしえ おどろ りっぽうがくしゃ
会堂にはいって教えられた。 二二人々は、その教に驚いた。律法学者たちのよ
けんい もの おし
うにではなく、権威ある者のように、教えられたからである。 二三ちょうどそ
とき れい もの かいどう さけ い
の時、けがれた霊につかれた者が会堂にいて、叫んで言った、 二四﹁ナザレの
マルコによる福音書

かか
イエスよ、あなたはわたしたちとなんの係わりがあるのです。わたしたちを
ほろ かみ
滅ぼしにこられたのですか。あなたがどなたであるか、わかっています。神
せいじゃ だま ひと で い
の聖者です﹂。 二五イエスはこれをしかって、
﹁黙れ、この人から出て行け﹂と
い れい かれ おおごえ
言われた。 二六すると、けがれた霊は彼をひきつけさせ、大声をあげて、その
ひと で い ひとびと おどろ たがい ろん い
人から出て行った。 二七人々はみな驚きのあまり、 互に論じて言った、
﹁これ

2
なにごと けんい あたら おしえ れい めい
は、いったい何事か。権威ある新しい教だ。けがれた霊にさえ命じられると、
かれ したが ぜん
彼 ら は 従 う の だ﹂。 二八こ う し て イ エ ス の う わ さ は、た ち ま ち ガ リ ラ ヤ の 全
ちほう ところ
地方、いたる所にひろまった。
かいどう で つ
二九 それから会堂を出るとすぐ、ヤコブとヨハネとを連れて、シモンとアンデ
いえ い ねつびょう
レとの家にはいって行かれた。 三〇ところが、シモンのしゅうとめが熱 病で
とこ ひとびと し
床についていたので、人々はさっそく、そのことをイエスに知らせた。 三一イ
ちかよ て おこ ねつ ひ おんな かれ
エスは近寄り、その手をとって起されると、熱が引き、 女は彼らをもてなし
た。
ゆうぐれ ひ しず ひとびと びょうにん あくれい もの
三二 夕暮になり日が沈むと、人々は病 人や悪霊につかれた者をみな、イエスの
つ まちじゅう もの とぐち あつ
ところに連れてきた。 三三こうして、 町 中の者が戸口に集まった。 三四イエス
やまい おお ひとびと おお あくれい
は、さまざまの病をわずらっている多くの人々をいやし、また多くの悪霊を
マルコによる福音書

お だ あくれい ものい ゆる かれ
追い出された。また、悪霊どもに、物言うことをお許しにならなかった。彼

らがイエスを知っていたからである。
あさ よ あ まえ お さび ところ で い
三五 朝はやく、夜の明けるよほど前に、イエスは起きて寂しい所へ出て行き、そ
いの なかま お
こで祈っておられた。 三六すると、シモンとその仲間とが、あとを追ってきた。
み さが い
三七 そしてイエスを見つけて、
﹁みんなが、あなたを捜しています﹂と言った。

3
かれ い ふきん まちまち い
三八 イエスは彼らに言われた、
﹁ほかの、附近の町々にみんなで行って、そこで
おしえ の つた で
も教を宣べ伝えよう。わたしはこのために出てきたのだから﹂。 三九そして、
ぜん ち めぐ しょかいどう おしえ の つた あくれい お だ
ガリラヤ全地を巡りあるいて、諸会堂で教を宣べ伝え、また悪霊を追い出さ
れた。
びょうにん ねが い
四〇 ひとりのらい病 人が、イエスのところに願いにきて、ひざまずいて言っ
ふか
た、
﹁みこころでしたら、きよめていただけるのですが﹂。 四一イエスは深くあ
て の かれ い
われみ、手を伸ばして彼にさわり、
﹁そうしてあげよう、きよくなれ﹂と言わ
びょう ただ さ ひと
れた。 四二すると、らい病が直ちに去って、その人はきよくなった。 四三イエス
かれ いまし さ い き なに
は彼をきびしく戒めて、すぐにそこを去らせ、こう言い聞かせられた、四四﹁何
ひと はな ちゅうい い じぶん さいし
も人に話さないように、注意しなさい。ただ行って、自分のからだを祭司に
み めい もの ひとびと
見せ、それから、モーセが命じた物をあなたのきよめのためにささげて、人々
マルコによる福音書

しょうめい かれ で い じぶん み おこ さか
に証 明しなさい﹂。 四五しかし、彼は出て行って、自分の身に起ったことを盛
かた い おもてだ まち
んに語り、また言いひろめはじめたので、イエスはもはや表立っては町に、は
そと さび ところ ひとびと
いることができなくなり、外の寂しい所にとどまっておられた。しかし、人々
ほうぼう あつ
は方々から、イエスのところにぞくぞくと集まってきた。

4
第二章
いくにち かえ いえ
一 幾日かたって、イエスがまたカペナウムにお帰りになったとき、家におられ
た おお ひとびと あつ とぐち
るといううわさが立ったので、二多くの人々が集まってきて、もはや戸口のあ
な みことば かれ かた
たりまでも、すきまが無いほどになった。そして、イエスは御言を彼らに語っ
ひとびと ちゅうぶ もの にん ひと はこ
ておられた。 三すると、人々がひとりの中風の者を四人の人に運ばせて、イエ
つ ぐんしゅう ちかよ
スのところに連れてきた。 四ところが、 群 衆のために近寄ることができない
や ね あな ちゅうぶ もの ね
ので、イエスのおられるあたりの屋根をはぎ、穴をあけて、中風の者を寝か
とこ かれ しんこう み ちゅうぶ もの こ
せたまま、床をつりおろした。 五イエスは彼らの信仰を見て、中風の者に、
﹁子
つみ い いくにん りっぽう
よ、あなたの罪はゆるされた﹂と言われた。 六ところが、そこに幾人かの律法
がくしゃ こころ なか ろん ひと い
学者がすわっていて、心の中で論じた、 七﹁この人は、なぜあんなことを言う
マルコによる福音書

かみ かみ つみ
のか。それは神をけがすことだ。神ひとりのほかに、だれが罪をゆるすこと
かれ ないしん ろん じぶん こころ
ができるか﹂。 八イエスは、彼らが内心このように論じているのを、自分の心
み こころ なか ろん
ですぐ見ぬいて、﹁なぜ、あなたがたは心の中でそんなことを論じているのか。
ちゅうぶ もの つみ い お とこ と
九 中風の者に、あなたの罪はゆるされた、と言うのと、起きよ、床を取りあげ
ある い ひと こ ちじょう つみ
て歩け、と言うのと、どちらがたやすいか。 一〇しかし、人の子は地上で罪を

5
けんい かれ い
ゆるす権威をもっていることが、あなたがたにわかるために﹂と彼らに言い、
ちゅうぶ もの めい お とこ と いえ かえ
中風の者にむかって、 一一﹁あなたに命じる。起きよ、床を取りあげて家に帰
い かれ お とこ と
れ﹂と言われた。 一二すると彼は起きあがり、すぐに床を取りあげて、みんな
まえ で い いちどう おお おどろ かみ こと
の前を出て行ったので、一同は大いに驚き、神をあがめて、
﹁こんな事は、ま
ど み い
だ一度も見たことがない﹂と言った。
うみ で い おお ひとびと あつ
一三 イエスはまた海べに出て行かれると、多くの人々がみもとに集まってきた
かれ おし とちゅう こ しゅうぜいしょ
ので、彼らを教えられた。 一四また途中で、アルパヨの子レビが収 税 所にす
したが い
わっているのをごらんになって、
﹁わたしに従 ってきなさい﹂と言われた。す
かれ た したが かれ いえ しょくじ せき
ると彼は立ちあがって、イエスに従 った。 一五それから彼の家で、食事の席に
おお しゅぜいにん つみびと
つ い て お ら れ た と き の こ と で あ る。多 く の 取税人 や 罪人 た ち も、イ エ ス や
で し とも せき つ ひと おお
弟子たちと共にその席に着いていた。こんな人たちが大ぜいいて、イエスに
マルコによる福音書

したが は りっぽうがくしゃ つみびと


従 っ て き た の で あ る。 一 六パ リ サ イ 派 の 律法学者 た ち は、イ エ ス が 罪人 や
しゅぜいにん しょくじ とも み で し い
取税人たちと食事を共にしておられるのを見て、弟子たちに言った、﹁なぜ、
かれ しゅぜいにん つみびと しょくじ とも き い
彼は取税人や罪人などと食事を共にするのか﹂。 一七イエスはこれを聞いて言
じょうぶ ひと い しゃ びょうにん
われた、﹁丈夫な人には医者はいらない。いるのは病 人である。わたしがき
ぎじん まね つみびと まね
たのは、義人を招くためではなく、罪人を招くためである﹂。

6
で し びと だんじき ひとびと
一八 ヨハネの弟子とパリサイ人とは、断食をしていた。そこで人々がきて、イ
い で し びと で し だんじき
エスに言った、﹁ヨハネの弟子たちとパリサイ人の弟子たちとが断食をしてい
で し だんじき
るのに、あなたの弟子たちは、なぜ断食をしないのですか﹂。 一九するとイエス
い こんれい きゃく はなむこ いっしょ だんじき
は言われた、
﹁婚礼の客は、花婿が一緒にいるのに、断食ができるであろうか。
はなむこ いっしょ あいだ だんじき はなむこ うば さ ひ
花婿と一緒にいる間は、断食はできない。 二〇しかし、花婿が奪い去られる日
く ひ だんじき まあたら ぬの ふる
が来る。その日には断食をするであろう。 二一だれも、真新しい布ぎれを、古
きもの ぬ あたら ふる きもの ひ
い着物に縫いつけはしない。もしそうすれば、新しいつぎは古い着物を引き
やぶ やぶ あたら しゅ
破り、そして、破れがもっとひどくなる。 二二まただれも、 新しいぶどう酒を
ふる かわぶくろ い しゅ かわぶくろ さ
古い皮 袋に入れはしない。もしそうすれば、ぶどう酒は皮 袋をはり裂き、そ
しゅ かわぶくろ あたら しゅ
して、ぶどう酒も皮 袋もむだになってしまう。︹だから、 新しいぶどう酒は
あたら かわぶくろ い
新しい皮 袋に入れるべきである︺﹂。
マルコによる福音書

あんそくにち むぎばたけ なか い で し
二三 ある安息日に、イエスは麦 畑の中をとおって行かれた。そのとき弟子た
ある ほ びと
ちが、歩きながら穂をつみはじめた。 二四すると、パリサイ人たちがイエスに
い かれ あんそくにち
言った、﹁いったい、彼らはなぜ、安息日にしてはならぬことをするのですか﹂。
かれ い とも もの
二五 そ こ で 彼 ら に 言 わ れ た、﹁あ な た が た は、ダ ビ デ と そ の 供 の 者 た ち と が
しょくもつ う なに よ
食 物がなくて飢えたとき、ダビデが何をしたか、まだ読んだことがないのか。

7
だいさいし とき かみ いえ さいし た
二六 すなわち、大祭司アビアタルの時、神の家にはいって、祭司たちのほか食
そな じぶん た とも もの あた
べてはならぬ供えのパンを、自分も食べ、また供の者たちにも与えたではな
かれ い あんそくにち ひと ひと
い か﹂。 二 七ま た 彼 ら に 言 わ れ た、﹁安息日 は 人 の た め に あ る も の で、人 が
あんそくにち ひと こ あんそくにち
安息日のためにあるのではない。 二八それだから、人の子は、安息日にもまた
しゅ
主なのである﹂。
第三章
かいどう かたて ひと ひとびと
一 イエスがまた会堂にはいられると、そこに片手のなえた人がいた。 二人々
うった おも あんそくにち ひと
はイエスを訴えようと思って、安息日にその人をいやされるかどうかをうか
かたて ひと た なか で
がっていた。 三すると、イエスは片手のなえたその人に、
﹁立って、中へ出て
マルコによる福音書

い ひとびと あんそくにち ぜん おこな あく おこな


きなさい﹂と言い、 四人々にむかって、
﹁安息日に善を行うのと悪を行うのと、
いのち すく ころ い かれ だま
命を救うのと殺すのと、どちらがよいか﹂と言われた。彼らは黙っていた。 五
いか ふく かれ み こころ なげ
イエスは怒りを含んで彼らを見まわし、その心のかたくななのを嘆いて、そ
ひと て の い て の て もと
の人に﹁手を伸ばしなさい﹂と言われた。そこで手を伸ばすと、その手は元
びと で い とう もの
どおりになった。 六パリサイ人たちは出て行って、すぐにヘロデ党の者たち

8
ころ そうだん
と、なんとかしてイエスを殺そうと相談しはじめた。
で し とも うみ しりぞ
七 それから、イエスは弟子たちと共に海べに退かれたが、ガリラヤからきたお
ぐんしゅう い
びただしい群 衆がついて行った。またユダヤから、 八エルサレムから、イド
さら む
マヤから、更にヨルダンの向こうから、ツロ、シドンのあたりからも、おび
ぐんしゅう き
ただしい群 衆が、そのなさっていることを聞いて、みもとにきた。 九イエスは
ぐんしゅう じぶん お せま さ こぶね ようい で し
群 衆が自分に押し迫るのを避けるために、小舟を用意しておけと、弟子たち
めい おお ひと びょうく なや もの みな
に命じられた。 一〇それは、多くの人をいやされたので、病苦に悩む者は皆イ
お よ れい
エスにさわろうとして、押し寄せてきたからである。 一一また、けがれた霊ど
み ふ さけ かみ こ
もはイエスを見るごとに、みまえにひれ伏し、叫んで、
﹁あなたこそ神の子で
い ご じしん ひと かれ
す﹂と言った。 一二イエスは御自身のことを人にあらわさないようにと、彼ら
いまし
をきびしく戒められた。
マルコによる福音書

やま のぼ もの よ よ
一三 さてイエスは山に登り、みこころにかなった者たちを呼び寄せられたの
かれ にん た かれ じぶん
で、彼らはみもとにきた。 一四そこで十二人をお立てになった。彼らを自分の
お せんきょう あくれい お だ けんい
そばに置くためであり、さらに宣 教につかわし、一五また悪霊を追い出す権威
も にん た
を持たせるためであった。 一六こうして、この十二人をお立てになった。そし
な こ
てシモンにペテロという名をつけ、 一七またゼベダイの子ヤコブと、ヤコブの

9
きょうだい かれ かみなり こ な
兄 弟 ヨハネ、彼らにはボアネルゲ、すなわち、 雷の子という名をつけられた。

一八 つぎにアンデレ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨの子
ねっしんとう
ヤコブ、タダイ、熱心党のシモン、 一九それからイスカリオテのユダ。このユ
うらぎ
ダがイエスを裏切ったのである。
いえ ぐんしゅう あつ いちどう しょくじ
イエスが家にはいられると、二〇群 衆がまた集まってきたので、一同は食事を
ひま みうち もの こと き
する暇もないほどであった。 二一身内の者たちはこの事を聞いて、イエスを
とりおさ で き くる おも
取押えに出てきた。気が狂ったと思ったからである。 二二また、エルサレムか
くだ りっぽうがくしゃ かれ い
ら下ってきた律法学者たちも、﹁彼はベルゼブルにとりつかれている﹂と言い、
あくれい あくれい お だ い
﹁悪霊どものかしらによって、悪霊どもを追い出しているのだ﹂とも言った。
かれ よ よ たとえ い
二三 そこでイエスは彼らを呼び寄せ、 譬をもって言われた、
﹁どうして、サタ
お だ くに ないぶ わか あらそ
ンがサタンを追い出すことができようか。 二四もし国が内部で分れ争うなら、
マルコによる福音書

くに た い いえ うち わか あらそ いえ た
その国は立ち行かない。 二五また、もし家が内わで分れ争うなら、その家は立
い ないぶ たいりつ ぶんそう かれ た
ち行かないであろう。 二六もしサタンが内部で対立し分争するなら、彼は立ち
い ほろ つよ ひと しば
行けず、滅んでしまう。 二七だれでも、まず強い人を縛りあげなければ、その
ひと いえ お い かざい うば と しば
人の家に押し入って家財を奪い取ることはできない。縛ってからはじめて、
いえ りゃくだつ い き ひと こ
その家を略 奪することができる。 二八よく言い聞かせておくが、人の子らに

10
おか つみ かみ ことば せいれい
は、その犯すすべての罪も神をけがす言葉も、ゆるされる。 二九しかし、聖霊
もの えいえん つみ さだ い
をけがす者は、いつまでもゆるされず、永遠の罪に定められる﹂。 三〇そう言わ
かれ れい い
れたのは、彼らが﹁イエスはけがれた霊につかれている﹂と言っていたから
である。
はは きょうだい そと た ひと よ
三一 さて、イエスの母と兄 弟たちとがきて、外に立ち、人をやってイエスを呼
ぐんしゅう かこ
ばせた。 三二ときに、群 衆はイエスを囲んですわっていたが、
﹁ごらんなさい。
ははうえ きょうだい しまい そと たず い
あなたの母上と兄 弟、姉妹たちが、外であなたを尋ねておられます﹂と言っ
かれ こた い はは きょうだい
た。 三三すると、イエスは彼らに答えて言われた、
﹁わたしの母、わたしの兄 弟
じぶん ひとびと
とは、だれのことか﹂。 三四そして、自分をとりかこんで、すわっている人々を
み い はは きょうだい
見まわして、言われた、
﹁ごらんなさい、ここにわたしの母、わたしの兄 弟が
かみ おこな もの きょうだい しまい
いる。 三五神のみこころを行う者はだれでも、わたしの兄 弟、また姉妹、また
マルコによる福音書

はは
母なのである﹂。
第四章
うみ おし ぐんしゅう
一 イエスはまたも、海べで教えはじめられた。おびただしい群 衆がみもとに

11
あつ ふね の かいじょう ぐんしゅう
集まったので、イエスは舟に乗ってすわったまま、海 上におられ、群 衆はみ
うみ そ りくち たとえ おお こと おし おしえ
な海に沿って陸地にいた。 二イエスは譬で多くの事を教えられたが、その教
なか かれ い き たね たね で い
の中で彼らにこう言われた、三
﹁聞きなさい、種まきが種をまきに出て行った。
みち お たね とり た
四 まいているうちに、道ばたに落ちた種があった。すると、鳥がきて食べてし
たね つち うす いしじ お つち ふか
まった。 五ほかの種は土の薄い石地に落ちた。そこは土が深くないので、す
め だ ひ のぼ や ね か
ぐ芽を出したが、 六日が上ると焼けて、根がないために枯れてしまった。 七ほ
たね なか お の
かの種はいばらの中に落ちた。すると、いばらが伸びて、ふさいでしまった
み むす たね よ ち お そだ
ので、実を結ばなかった。 八ほかの種は良い地に落ちた。そしてはえて、育っ
み むす ばい ばい ばい い
て、ますます実を結び、三十倍、六十倍、百倍にもなった﹂。 九そして言われ
き みみ もの き
た、﹁聞く耳のある者は聞くがよい﹂。
とき もの で し とも
一〇 イエスがひとりになられた時、そばにいた者たちが、十二弟子と共に、こ
マルコによる福音書

たとえ たず い かみ
れらの譬について尋ねた。 一一そこでイエスは言われた、﹁あなたがたには神
くに おくぎ さず もの たとえ かた
の国の奥義が授けられているが、ほかの者たちには、すべてが譬で語られる。
一二 それは
かれ み み みと
﹃彼らは見るには見るが、認めず、
き き さと
聞くには聞くが、悟らず、

12
く あらた
悔い改めてゆるされることがない﹄ためである﹂。
かれ い たとえ
一三 また彼らに言われた、﹁あなたがたはこの譬がわからないのか。それでは、
たとえ たね みことば
どうしてすべての譬がわかるだろうか。 一四種まきは御言をまくのである。 一
みち みことば ひと
五 道ばたに御言がまかれたとは、こういう人たちのことである。すなわち、
みことば き かれ なか みことば うば い
御言を聞くと、すぐにサタンがきて、彼らの中にまかれた御言を、奪って行
おな いしじ ひと
くのである。 一六同じように、石地にまかれたものとは、こういう人たちのこ
みことば き よろこ う じぶん なか ね
とである。御言を聞くと、すぐに喜んで受けるが、 一七自分の中に根がないの
つづ みことば こんなん はくがい おこ
で、しばらく続くだけである。そののち、御言のために困難や迫害が起って
なか
くると、すぐつまずいてしまう。 一八また、いばらの中にまかれたものとは、こ
ひと みことば き よ こころ とみ まど
ういう人たちのことである。御言を聞くが、 一九世の心づかいと、富の惑わし
た よく みことば み むす
と、その他いろいろな欲とがはいってきて、御言をふさぐので、実を結ばな
マルコによる福音書

よ ち ひと
くなる。 二〇また、良い地にまかれたものとは、こういう人たちのことである。
みことば き う ばい ばい ばい み むす
御言を聞いて受けいれ、三十倍、六十倍、百倍の実を結ぶのである﹂。
かれ い した しんだい した お も
二一 また彼らに言われた、﹁ますの下や寝台の下に置くために、あかりを持って
しょくだい うえ お かく
くることがあろうか。 燭 台の上に置くためではないか。 二二なんでも、隠さ
あらわ ひみつ あか
れているもので、 現れないものはなく、秘密にされているもので、明るみに

13
で き みみ もの き かれ い
出 な い も の は な い。 二三聞 く 耳 の あ る 者 は 聞 く が よ い﹂。 二四ま た 彼 ら に 言 わ
き ちゅうい はか じぶん
れた、
﹁聞くことがらに注意しなさい。あなたがたの量るそのはかりで、自分
はか あた うえ ま くわ
に も 量 り 与 え ら れ、そ の 上 に な お 増 し 加 え ら れ る で あ ろ う。 二五だ れ で も、
も ひと さら あた も ひと も と
持っている人は更に与えられ、持っていない人は、持っているものまでも取

り上げられるであろう﹂。
い かみ くに ひと ち たね
二六 また言われた、﹁神の国は、ある人が地に種をまくようなものである。 二七
よるひる ね お あいだ たね め だ そだ い
夜昼、寝起きしている間に、種は芽を出して育って行くが、どうしてそうな
ひと し ち み むす はじ
るのか、その人は知らない。 二八地はおのずから実を結ばせるもので、初めに
め ほ ほ なか ゆた み み
芽、つぎに穂、つぎに穂の中に豊かな実ができる。 二九実がいると、すぐにか
い かりい とき
まを入れる。刈入れ時がきたからである﹂。
い かみ くに なに くら たとえ い
三〇 また言われた、﹁神の国を何に比べようか。また、どんな譬で言いあらわそ
マルコによる福音書

つぶ たね ち とき
うか。 三一それは一粒のからし種のようなものである。地にまかれる時には、
ちじょう たね ちい せいちょう やさい
地上のどんな種よりも小さいが、三二まかれると、成 長してどんな野菜よりも
おお おお えだ は かげ そら とり やど
大きくなり、大きな枝を張り、その陰に空の鳥が宿るほどになる﹂。
おお たとえ ひとびと き ちから みことば かた
三三 イエスはこのような多くの譬で、人々の聞く力にしたがって、御言を語ら
たとえ かた じぶん で し
れた。 三四 譬によらないでは語られなかったが、自分の弟子たちには、ひそか

14
と あ
にすべてのことを解き明かされた。
ひ ゆうがた で し む ぎし わた
三五 さてその日、夕方になると、イエスは弟子たちに、
﹁向こう岸へ渡ろう﹂と
い かれ ぐんしゅう のこ ふね の
言われた。 三六そこで、彼らは群 衆をあとに残し、イエスが舟に乗っておられ
の だ ふね いっしょ い はげ とっぷう おこ
るまま、乗り出した。ほかの舟も一緒に行った。 三七すると、激しい突風が起
なみ ふね なか う こ ふね み
り、波が舟の中に打ち込んできて、舟に満ちそうになった。 三八ところがイエ
じしん とも ほう ねむ で し
ス自身は、舳の方でまくらをして、眠っておられた。そこで、弟子たちはイ
せんせい し
エスをおこして、
﹁先生、わたしどもがおぼれ死んでも、おかまいにならない
い お かぜ うみ
のですか﹂と言った。 三九イエスは起きあがって風をしかり、海にむかって、
しず だま い かぜ おお かれ
﹁静まれ、黙れ﹂と言われると、風はやんで、大なぎになった。 四〇イエスは彼
い しんこう
らに言われた、
﹁なぜ、そんなにこわがるのか。どうして信仰がないのか﹂。 四
かれ おそ たがい い かた かぜ
一 彼らは恐れおののいて、 互に言った、
﹁いったい、この方はだれだろう。風
マルコによる福音書

うみ したが
も海も従わせるとは﹂。
第五章
かれ うみ む ぎし びと ち つ
一 こうして彼らは海の向こう岸、ゲラサ人の地に着いた。 二それから、イエス

15
ふね れい ひと はかば で
が舟からあがられるとすぐに、けがれた霊につかれた人が墓場から出てきて、
で あ ひと はかば くさり
イエスに出会った。 三この人は墓場をすみかとしており、もはやだれも、鎖で
かれ お かれ あし くさり
さえも彼をつなぎとめて置けなかった。 四彼はたびたび足かせや鎖でつなが
くさり ひ あし くだ かれ おさ
れたが、 鎖を引きちぎり、足かせを砕くので、だれも彼を押えつけることが
よるひる はかば やま さけ
できなかったからである。 五そして、夜昼たえまなく墓場や山で叫びつづけ
いし じぶん きず ひと とお
て、石で自分のからだを傷つけていた。 六ところが、この人がイエスを遠くか
み はし よ はい おおごえ さけ い たか かみ こ
ら見て、走り寄って拝し、 七大声で叫んで言った、
﹁いと高き神の子イエスよ、
かか かみ ちか ねが
あなたはわたしとなんの係わりがあるのです。神に誓ってお願いします。ど
くる れい
うぞ、わたしを苦しめないでください﹂。 八それは、イエスが、
﹁けがれた霊よ、
ひと で い い かれ なまえ
この人から出て行け﹂と言われたからである。 九また彼に、
﹁なんという名前
たず い おお こた
か﹂と尋ねられると、
﹁レギオンと言います。大ぜいなのですから﹂と答えた。
マルコによる福音書

じぶん と ち お だ ねが
一〇 そして、自分たちをこの土地から追い出さないようにと、しきりに願いつ
やま ちゅうふく ぶた たいぐん か れい
づけた。 一一さて、そこの山の中 腹に、豚の大群が飼ってあった。 一二霊はイエ
ねが い ぶた なか おく
スに願って言った、
﹁わたしどもを、豚にはいらせてください。その中へ送っ
ゆる れい で い
てください﹂。 一三イエスがお許しになったので、けがれた霊どもは出て行っ
ぶた なか こ む ひき
て、豚の中へはいり込んだ。すると、その群れは二千匹ばかりであったが、が

16
うみ う か くだ うみ なか し ぶた
けから海へなだれを打って駆け下り、海の中でおぼれ死んでしまった。 一四豚
か もの に だ まち むら ひとびと なにごと おこ
を飼う者たちが逃げ出して、町や村にふれまわったので、人々は何事が起っ
み あくれい ひと
たのかと見にきた。 一五そして、イエスのところにきて、悪霊につかれた人が
きもの き しょうき やど もの
着物を着て、正気になってすわっており、それがレギオンを宿していた者で
み おそ み ひと あくれい ひと
あるのを見て、恐れた。 一六また、それを見た人たちは、悪霊につかれた人の
み おこ こと ぶた かれ はな き ひとびと
身に起った事と豚のこととを、彼らに話して聞かせた。 一七そこで、人々はイ
ちほう で い たの
エスに、この地方から出て行っていただきたいと、頼みはじめた。 一八イエス
ふね の あくれい ひと とも ねが で
が舟に乗ろうとされると、悪霊につかれていた人がお供をしたいと願い出た。
ゆる かれ い かぞく
一九 しかし、イエスはお許しにならないで、彼に言われた、
﹁あなたの家族のも
かえ しゅ おお
とに帰って、主がどんなに大きなことをしてくださったか、またどんなにあ
し かれ た さ
われんでくださったか、それを知らせなさい﹂。 二〇そこで、彼は立ち去り、そ
マルコによる福音書

じぶん ちほう
して自分にイエスがしてくださったことを、ことごとくデカポリスの地方に
い だ ひとびと おどろ あや
言いひろめ出したので、人々はみな驚き怪しんだ。
ふね む ぎし わた おお ぐんしゅう あつ
二一 イ エ ス が ま た 舟 で 向 こ う 岸 へ 渡 ら れ る と、大 ぜ い の 群 衆 が み も と に 集
うみ かいどうづかさ
まってきた。イエスは海べにおられた。 二二そこへ、 会 堂 司のひとりである
もの み あし ふ
ヤイロという者がきて、イエスを見かけるとその足もとにひれ伏し、 二三しき

17
ねが い おさな むすめ し こ
りに願って言った、
﹁わたしの幼い娘が死にかかっています。どうぞ、その子
たす て
がなおって助かりますように、おいでになって、手をおいてやってください﹂。
かれ いっしょ で おお ぐんしゅう お
二四 そこで、イエスは彼と一緒に出かけられた。大ぜいの群 衆もイエスに押
せま い
し迫りながら、ついて行った。
ねんかん なが ち おんな おお い しゃ
二五 さてここに、十二年間も長血をわずらっている女がいた。 二六多くの医者
くる も もの ついや
にかかって、さんざん苦しめられ、その持ち物をみな費してしまったが、な
わる いっぽう
んのかいもないばかりか、かえってますます悪くなる一方であった。 二七この
おんな き ぐんしゅう なか こ ころも
女がイエスのことを聞いて、群 衆の中にまぎれ込み、うしろから、み衣にさ
ころも
わった。 二八それは、せめて、み衣にでもさわれば、なおしていただけるだろ
おも ち もと おんな びょうき
うと、思っていたからである。 二九すると、血の元がすぐにかわき、 女は病気
み かん じぶん うち ちから で
がなおったことを、その身に感じた。 三〇イエスはすぐ、自分の内から力が出
マルコによる福音書

い き ぐんしゅう なか ふ む きもの
て行ったことに気づかれて、群 衆の中で振り向き、﹁わたしの着物にさわった
い で し い
のはだれか﹂と言われた。 三一そこで弟子たちが言った、﹁ごらんのとおり、
ぐんしゅう お せま
群 衆があなたに押し迫っていますのに、だれがさわったかと、おっしゃるの
もの み み
ですか﹂。 三二しかし、イエスはさわった者を見つけようとして、見まわしてお
おんな じぶん み おこ し おそ すす
られた。 三三その女は自分の身に起ったことを知って、恐れおののきながら進

18
で ふ もう あ
み出て、みまえにひれ伏して、すべてありのままを申し上げた。 三四イエスは
おんな い むすめ しんこう すく あんしん
その女に言われた、
﹁娘よ、あなたの信仰があなたを救ったのです。安心して
い たっしゃ
行きなさい。すっかりなおって、達者でいなさい﹂。
はな かいどうづかさ いえ ひとびと い
三五 イエスが、まだ話しておられるうちに、 会 堂 司の家から人々がきて言っ
むすめ せんせい わずら およ
た、
﹁あなたの娘はなくなりました。このうえ、先生を煩わすには及びますま
はな ことば き なが かいどうづかさ い おそ
い﹂。 三六イエスはその話している言葉を聞き流して、会 堂 司に言われた、
﹁恐
しん
れ る こ と は な い。た だ 信 じ な さ い﹂。 三 七そ し て ペ テ ロ、ヤ コ ブ、ヤ コ ブ の
きょうだい く ゆる
兄 弟 ヨハネのほかは、ついて来ることを、だれにもお許しにならなかった。 三
かれ かいどうづかさ いえ つ ひとびと おおごえ な さけ
八 彼らが会 堂 司の家に着くと、イエスは人々が大声で泣いたり、叫んだりし
さわ うち かれ い
て、騒いでいるのをごらんになり、 三九内にはいって、彼らに言われた、
﹁なぜ
な さわ こども し ねむ
泣き騒いでいるのか。子供は死んだのではない。眠っているだけである﹂。 四
マルコによる福音書

ひとびと わら もの そと だ こども
〇 人々はイエスをあざ笑った。しかし、イエスはみんなの者を外に出し、子供
ふ ぼ とも もの つ こども ところ い
の父母と供の者たちだけを連れて、子供のいる所にはいって行かれた。 四一そ
こども て と い しょうじょ
して子供の手を取って、
﹁タリタ、クミ﹂と言われた。それは、
﹁少 女よ、さ
お い み しょうじょ お あ
あ、起きなさい﹂という意味である。 四二すると、少 女はすぐに起き上がって、
ある だ さい かれ ひじょう おどろ
歩き出した。十二歳にもなっていたからである。彼らはたちまち非常な驚き

19
う こと し かれ めい
に打たれた。 四三イエスは、だれにもこの事を知らすなと、きびしく彼らに命
しょうじょ しょくもつ あた い
じ、また、 少 女に食 物を与えるようにと言われた。
第六章
さ きょうり い で し したが い
一 イエスはそこを去って、郷里に行かれたが、弟子たちも従 って行った。 二そ
あんそくにち かいどう おし き おお
して、安息日になったので、会堂で教えはじめられた。それを聞いた多くの
ひとびと おどろ い ひと なら
人々は、 驚いて言った、
﹁この人は、これらのことをどこで習ってきたのか。
ひと さず ち え ちから て
また、この人の授かった知恵はどうだろう。このような力あるわざがその手
おこな ひと だいく
で行われているのは、どうしてか。 三この人は大工ではないか。マリヤのむ
きょうだい しまい
すこで、ヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄 弟ではないか。またその姉妹たち
マルコによる福音書

いっしょ かれ
も、ここにわたしたちと一緒にいるではないか﹂。こうして彼らはイエスにつ
い よげんしゃ じぶん きょうり しんぞく いえ い が い
まずいた。 四イエスは言われた、
﹁預言者は、自分の郷里、親族、家以外では、
うやま ちから
どこででも敬われないことはない﹂。 五そして、そこでは力あるわざを一つも
しょうすう びょうにん て
することができず、ただ少 数の病 人に手をおいていやされただけであった。
かれ ふ しんこう おどろ あや
六 そして、彼らの不信仰を驚き怪しまれた。

20
ふきん むらむら めぐ おし で し
それからイエスは、附近の村々を巡りあるいて教えられた。 七また十二弟子
よ よ かれ れい せい けんい
を呼び寄せ、ふたりずつつかわすことにして、彼らにけがれた霊を制する権威
あた たび ぽん なに も
を与え、八また旅のために、つえ一本のほかには何も持たないように、パンも、
ぶくろ おび なか ぜに も したぎ まい き
袋も、帯の中に銭も持たず、九ただわらじをはくだけで、下着も二枚は着ない
めい かれ い い いえ
ように命じられた。 一〇そして彼らに言われた、
﹁どこへ行っても、家にはいっ
と ち さ
たなら、その土地を去るまでは、そこにとどまっていなさい。 一一また、あな
むか はなし き ところ
たがたを迎えず、あなたがたの話を聞きもしない所があったなら、そこから
で い かれ たい こうぎ あし うら はら おと
出て行くとき、彼らに対する抗議のしるしに、足の裏のちりを払い落しなさ
かれ で い くいあらた の つた おお あくれい お
い﹂。 一二そこで、彼らは出て行って、悔 改めを宣べ伝え、 一三多くの悪霊を追
だ おお びょうにん あぶら
い出し、大ぜいの病 人に油をぬっていやした。
な し おう みみ ひとびと
一四 さて、イエスの名が知れわたって、ヘロデ王の耳にはいった。ある人々は
マルコによる福音書

しにん なか
﹁バプテスマのヨハネが、死人の中からよみがえってきたのだ。それで、あの
ちから かれ はたら い た ひとびと かれ
ような力が彼のうちに働いているのだ﹂と言い、 一五他の人々は﹁彼はエリヤ
い た ひとびと むかし よげんしゃ よげんしゃ い
だ﹂と言い、また他の人々は﹁昔の預言者のような預言者だ﹂と言った。 一六
き くび き
ところが、ヘロデはこれを聞いて、
﹁わたしが首を切ったあのヨハネがよみが
い じぶん きょうだい つま
えったのだ﹂と言った。 一七このヘロデは、自分の兄 弟 ピリポの妻ヘロデヤを

21
ひと とら ごく
めとったが、そのことで、人をつかわし、ヨハネを捕えて獄につないだ。 一八
きょうだい つま い
それは、ヨハネがヘロデに、
﹁兄 弟の妻をめとるのは、よろしくない﹂と言っ
うら かれ ころ おも
たからである。 一九そこで、ヘロデヤはヨハネを恨み、彼を殺そうと思ってい
ただ せい ひと
たが、できないでいた。 二〇それはヘロデが、ヨハネは正しくて聖なる人であ
し かれ おそ かれ ほ ご くわ おしえ き ひじょう なや
ることを知って、彼を恐れ、彼に保護を加え、またその教を聞いて非常に悩
よろこ き きかい
みながらも、なお喜んで聞いていたからである。 二一ところが、よい機会がき
じぶん たんじょう び いわい こうかん しょうこう おもだ ひと
た。ヘロデは自分の誕 生 日の祝に、高官や将 校やガリラヤの重立った人た
まね えんかい もよお むすめ まい
ちを招いて宴会を催したが、 二二そこへ、このヘロデヤの娘がはいってきて舞
れつざ ひと よろこ おう しょうじょ
をまい、ヘロデをはじめ列座の人たちを喜ばせた。そこで王はこの少 女に
い い
﹁ほしいものはなんでも言いなさい。あなたにあげるから﹂と言い、二三さらに
くに はんぶん ちか い しょうじょ
﹁ほしければ、この国の半分でもあげよう﹂と誓って言った。 二四そこで少 女
マルコによる福音書

ざ はは なに ねが たず はは
は座をはずして、母に﹁何をお願いしましょうか﹂と尋ねると、母は﹁バプ
くび こた しょうじょ いそ おう
テスマのヨハネの首を﹂と答えた。 二五するとすぐ、少 女は急いで王のところ
い ねが いま くび ぼん
に行って願った、
﹁今すぐに、バプテスマのヨハネの首を盆にのせて、それを
おう ひじょう こま ちか
いただきとうございます﹂。 二六王は非常に困ったが、いったん誓ったのと、ま
れつざ ひと てまえ しょうじょ ねが しりぞ この
た列座の人たちの手前、 少 女の願いを退けることを好まなかった。 二七そこ

22
おう えいへい くび も く めい えいへい
で、王はすぐに衛兵をつかわし、ヨハネの首を持って来るように命じた。衛兵
で い ごくちゅう くび き ぼん も しょうじょ あた
は出て行き、 獄 中でヨハネの首を切り、 二八盆にのせて持ってきて少 女に与
しょうじょ はは で し き
え、少 女はそれを母にわたした。 二九ヨハネの弟子たちはこのことを聞き、そ
したい ひ と はか おさ
の死体を引き取りにきて、墓に納めた。
し と あつ じぶん おし
三〇 さて、使徒たちはイエスのもとに集まってきて、自分たちがしたことや教
ほうこく かれ い
えたことを、みな報告した。 三一するとイエスは彼らに言われた、
﹁さあ、あな
ひと さ さび ところ い やす で い
たがたは、人を避けて寂しい所へ行って、しばらく休むがよい﹂。それは、出入
ひと おお しょくじ ひま かれ ひと
りする人が多くて、食事をする暇もなかったからである。 三二そこで彼らは人
さ ふね の さび ところ い おお ひとびと かれ で
を避け、舟に乗って寂しい所へ行った。 三三ところが、多くの人々は彼らが出
い み き ほうぼう まちまち か
かけて行くのを見、それと気づいて、方々の町々からそこへ、一せいに駆け
かれ さき つ ふね あ おお ぐんしゅう
つけ、彼らより先に着いた。 三四イエスは舟から上がって大ぜいの群 衆をご
マルコによる福音書

か もの ひつじ ありさま ふか
らんになり、飼う者のない羊のようなその有様を深くあわれんで、いろいろ
おし とき で し
と教えはじめられた。 三五ところが、はや時もおそくなったので、弟子たちは
い さび ところ とき
イエスのもとにきて言った、
﹁ここは寂しい所でもあり、もう時もおそくなり
かいさん なに た もの か
ました。 三六みんなを解散させ、めいめいで何か食べる物を買いに、まわりの
ぶらく むらむら い こた い
部落や村々へ行かせてください﹂。 三七イエスは答えて言われた、
﹁あなたがた

23
て しょくもつ で し い
の手で食 物をやりなさい﹂。弟子たちは言った、
﹁わたしたちが二百デナリも
か た い
のパンを買ってきて、みんなに食べさせるのですか﹂。 三八するとイエスは言
いく み かれ たし
われた、
﹁パンは幾つあるか。見てきなさい﹂。彼らは確かめてきて、
﹁五つあ
うお い くみぐみ
ります。それに魚が二ひき﹂と言った。 三九そこでイエスは、みんなを組々に
わ あおくさ うえ めい ひとびと にん
分けて、青草の上にすわらせるように命じられた。 四〇人々は、あるいは百人
にん れつ
ずつ、あるいは五十人ずつ、列をつくってすわった。 四一それから、イエスは
うお て と てん あお しゅくふく
五つのパンと二ひきの魚とを手に取り、天を仰いでそれを祝 福し、パンをさ
で し くば うお わ
き、弟子たちにわたして配らせ、また、二ひきの魚もみんなにお分けになっ
もの た まんぷく うお のこ あつ
た。 四二みんなの者は食べて満腹した。 四三そこで、パンくずや魚の残りを集
た もの おとこ にん
めると、十二のかごにいっぱいになった。 四四パンを食べた者は男 五千人で
あった。
マルコによる福音書

じぶん ぐんしゅう かいさん あいだ


四五 それからすぐ、イエスは自分で群 衆を解散させておられる間に、しいて
で し ふね の こ む ぎし さき
弟子たちを舟に乗り込ませ、向こう岸のベツサイダへ先におやりになった。 四
ぐんしゅう わか いの やま しりぞ ゆうがた
六 そして群 衆に別れてから、祈るために山へ退かれた。 四七夕方になったと
ふね うみ なか で りくち
き、舟は海のまん中に出ており、イエスだけが陸地におられた。 四八ところが
ぎゃくふう ふ で し なや
逆 風が吹いていたために、弟子たちがこぎ悩んでいるのをごらんになって、

24
よ あ じ うみ うえ ある かれ ちか とお す
夜明けの四時ごろ、海の上を歩いて彼らに近づき、そのそばを通り過ぎよう
かれ うみ うえ ある み ゆうれい おも
とされた。 四九彼らはイエスが海の上を歩いておられるのを見て、幽霊だと思
おおごえ さけ もの み おそ
い、大声で叫んだ。 五〇みんなの者がそれを見て、おじ恐れたからである。し
かれ こえ おそ
かし、イエスはすぐ彼らに声をかけ、
﹁しっかりするのだ。わたしである。恐
い かれ ふね の こ かぜ
れることはない﹂と言われた。 五一そして、彼らの舟に乗り込まれると、風は
かれ こころ なか ひじょう おどろ さき さと
やんだ。彼らは心の中で、非常に驚いた。 五二先のパンのことを悟らず、その
こころ にぶ
心が鈍くなっていたからである。
かれ うみ わた ち つ ふね ふね
五三 彼らは海を渡り、ゲネサレの地に着いて舟をつないだ。 五四そして舟から
ひとびと し ちほう か
あがると、人々はすぐイエスと知って、五五その地方をあまねく駆けめぐり、イ
き びょうにん とこ はこ
エスがおられると聞けば、どこへでも病 人を床にのせて運びはじめた。 五六
むら まち ぶらく い ところ びょうにん
そして、村でも町でも部落でも、イエスがはいって行かれる所では、病 人た
マルコによる福音書

ひろば うわぎ
ちをその広場におき、せめてその上着のふさにでも、さわらせてやっていた
ねが もの みな
だきたいと、お願いした。そしてさわった者は皆いやされた。

25
第七章
びと りっぽうがくしゃ
一 さて、パリサイ人と、ある律法学者たちとが、エルサレムからきて、イエス
あつ で し ふじょう て あら
のもとに集まった。 二そして弟子たちのうちに、不浄な手、すなわち洗わない
て た もの み びと
手で、パンを食べている者があるのを見た。 三もともと、パリサイ人をはじめ
じん むかし ひと いいつた まも ねんい て あら
ユダヤ人はみな、 昔の人の言伝えをかたく守って、念入りに手を洗ってから
しょくじ いちば かえ み きよ
でないと、食事をしない。 四また市場から帰ったときには、身を清めてからで
しょくじ さかずき はち どうき あら むかし
ないと、食事をせず、なおそのほかにも、 杯、鉢、銅器を洗うことなど、 昔
う まも こと
から受けついでかたく守っている事が、たくさんあった。 五そこで、パリサイ
びと りっぽうがくしゃ たず で し むかし
人と律法学者たちとは、イエスに尋ねた、
﹁なぜ、あなたの弟子たちは、 昔の
ひと いいつた したが あゆ ふじょう て た
人の言伝えに従 って歩まないで、不浄な手でパンを食べるのですか﹂。 六イエ
マルコによる福音書

い ぎぜんしゃ か
スは言われた、﹁イザヤは、あなたがた偽善者について、こう書いているが、
てきせつ よげん
それは適切な預言である、
たみ くち うやま
﹃この民は、口さきではわたしを敬うが、
こころ とお はな
その心はわたしから遠く離れている。
にんげん おしえ おし
人間のいましめを教として教え、

26
む い み おが
無意味にわたしを拝んでいる﹄。
かみ にんげん いいつた こしつ
八 あなたがたは、神のいましめをさしおいて、人間の言伝えを固執している﹂。
い じぶん いいつた まも
九 また、言われた、
﹁あなたがたは、自分たちの言伝えを守るために、よくも
かみ す い ちち はは
神のいましめを捨てたものだ。 一〇モーセは言ったではないか、﹃父と母とを
うやま ちち はは もの かなら し さだ
敬え﹄、また﹃父または母をののしる者は、 必ず死に定められる﹄と。 一一そ
ひと ちち はは さしあ
れだのに、あなたがたは、もし人が父または母にむかって、あなたに差上げ
そな もの い
るはずのこのものはコルバン、すなわち、供え物ですと言えば、それでよい
ひと ふ ぼ たい なに す い
として、一二その人は父母に対して、もう何もしないで済むのだと言っている。
じぶん う いいつた かみ ことば
一三 こうしてあなたがたは、自分たちが受けついだ言伝えによって、神の言を
む こと
無にしている。また、このような事をしばしばおこなっている﹂。 一四それか
ふたた ぐんしゅう よ よ い
ら、イエスは再び群 衆を呼び寄せて言われた、
﹁あなたがたはみんな、わたし
マルコによる福音書

い き さと そと ひと なか ひと
の言うことを聞いて悟るがよい。 一五すべて外から人の中にはいって、人をけ
ひと なか で ひと
がしうるものはない。かえって、人の中から出てくるものが、人をけがすの
き みみ もの き
である。︹ 一六 聞く耳のある者は聞くがよい︺﹂。
ぐんしゅう はな いえ で し たとえ たず
一七 イエスが群 衆を離れて家にはいられると、弟子たちはこの譬について尋
い にぶ そと
ねた。 一八すると、言われた、
﹁あなたがたも、そんなに鈍いのか。すべて、外

27
ひと なか く ひと けが え
から人の中にはいって来るものは、人を汚し得ないことが、わからないのか。
ひと こころ なか はら うち そと で
一九 それは人の心の中にはいるのではなく、腹の中にはいり、そして、外に出
い しょくもつ
て行くだけである﹂。イエスはこのように、どんな食 物でもきよいものとさ
い ひと で く ひと
れた。 二〇さらに言われた、﹁人から出て来るもの、それが人をけがすのであ
ないぶ ひと こころ なか わる おも で く ふひんこう ぬす
る。 二一すなわち内部から、人の心の中から、悪い思いが出て来る。不品行、盗
さつじん かんいん どんよく じゃあく あざむ こうしょく ねた そし こうまん ぐ ち
み、殺人、 二二姦淫、貪欲、邪悪、 欺き、 好 色、妬み、誹り、高慢、愚痴。 二
あく ないぶ で ひと
三 これらの悪はすべて内部から出てきて、人をけがすのである﹂。
た さ ちほう い
二四 さて、イエスは、そこを立ち去って、ツロの地方に行かれた。そして、だ
し いえ なか かく
れにも知れないように、家の中にはいられたが、隠れていることができなかっ
れい おさな むすめ おんな
た。 二五そして、けがれた霊につかれた幼い娘をもつ女が、イエスのことをす
き あし ふ おんな じん
ぐ聞きつけてきて、その足もとにひれ伏した。 二六この女はギリシヤ人で、ス
マルコによる福音書

うま むすめ あくれい お だ
ロ・フェニキヤの生れであった。そして、 娘から悪霊を追い出してください
ねが おんな い こども じゅうぶん た
とお願いした。 二七イエスは女に言われた、
﹁まず子供たちに十 分 食べさすべ
こども と こいぬ な
きである。子供たちのパンを取って小犬に投げてやるのは、よろしくない﹂。
おんな こた い しゅ ことば しょくたく した
二八 すると、 女は答えて言った、
﹁主よ、お言葉どおりです。でも、食 卓の下
こいぬ こども い
にいる小犬も、子供たちのパンくずは、いただきます﹂。 二九そこでイエスは言

28
ことば かえ あくれい むすめ で
われた、
﹁その言葉で、じゅうぶんである。お帰りなさい。悪霊は娘から出て
おんな いえ かえ こ とこ うえ ね
しまった﹂。 三〇そこで、女が家に帰ってみると、その子は床の上に寝ており、
あくれい で
悪霊は出てしまっていた。
ちほう さ へ ちほう
三一 それから、イエスはまたツロの地方を去り、シドンを経てデカポリス地方
とお うみ ひとびと みみ きこ くち
を通りぬけ、ガリラヤの海べにこられた。 三二すると人々は、耳が聞えず口の
ひと つ て お ねが
きけない人を、みもとに連れてきて、手を置いてやっていただきたいとお願
かれ ぐんしゅう なか つ だ りょうみみ
いした。 三三そこで、イエスは彼ひとりを群 衆の中から連れ出し、その両 耳に
ゆび い した うるお てん あお いき
指をさし入れ、それから、つばきでその舌を潤し、 三四天を仰いでため息をつ
ひと い ひら い み
き、その人に﹁エパタ﹂と言われた。これは﹁開けよ﹂という意味である。 三
かれ みみ ひら した と はな
五 すると彼の耳が開け、その舌のもつれもすぐ解けて、はっきりと話すように
こと い ひとびと くちど
なった。 三六イエスは、この事をだれにも言ってはならぬと、人々に口止めを
マルコによる福音書

くちど い
されたが、口止めをすればするほど、かえって、ますます言いひろめた。 三七
かれ おどろ い こと なに
彼らは、ひとかたならず驚いて言った、
﹁このかたのなさった事は、何もかも、
みみ きこ もの きこ くち もの
すばらしい。耳の聞えない者を聞えるようにしてやり、口のきけない者をき
けるようにしておやりになった﹂。

29
第八章
おお ぐんしゅう あつ なに た
一 そのころ、また大ぜいの群 衆が集まっていたが、何も食べるものがなかっ
で し よ よ い ぐんしゅう
たので、イエスは弟子たちを呼び寄せて言われた、二﹁この群 衆がかわいそう
かかん いっしょ なに た
である。もう三日間もわたしと一緒にいるのに、何も食べるものがない。 三
かれ くうふく いえ かえ とちゅう よわ き
もし、彼らを空腹のまま家に帰らせるなら、途中で弱り切ってしまうであろ
とお もの で し こた
う。それに、なかには遠くからきている者もある﹂。 四弟子たちは答えた、
﹁こ
あらの て い ひとびと た
んな荒野で、どこからパンを手に入れて、これらの人々にじゅうぶん食べさ
で し
せることができましょうか﹂。 五イエスが弟子たちに、
﹁パンはいくつあるか﹂
たず こた ぐんしゅう ち
と尋ねられると、
﹁七つあります﹂と答えた。 六そこでイエスは群 衆に地にす
めい と かんしゃ ひとびと
わるように命じられた。そして七つのパンを取り、感謝してこれをさき、人々
マルコによる福音書

くば で し わた で し ぐんしゅう くば
に配るように弟子たちに渡されると、弟子たちはそれを群 衆に配った。 七ま
ちい うお すこ しゅくふく ひとびと くば
た小さい魚が少しばかりあったので、祝 福して、それをも人々に配るように
い かれ た まんぷく のこ あつ
と言われた。 八彼らは食べて満腹した。そして残ったパンくずを集めると、
ひとびと かず にん かれ
七かごになった。 九人々の数はおよそ四千人であった。それからイエスは彼
かいさん で し とも ふね の ちほう い
らを解散させ、 一〇すぐ弟子たちと共に舟に乗って、ダルマヌタの地方へ行か

30
れた。
びと で こころ ぎろん てん
一一 パリサイ人たちが出てきて、イエスを試みようとして議論をしかけ、天か
もと こころ なか ふか たんそく い
らのしるしを求めた。 一二イエスは、心の中で深く嘆息して言われた、
﹁なぜ、
いま じだい もと い き いま
今の時代はしるしを求めるのだろう。よく言い聞かせておくが、しるしは今
じだい けっ あた かれ のこ
の時代には決して与えられない﹂。 一三そして、イエスは彼らをあとに残し、ま
ふね の む ぎし い
た舟に乗って向こう岸へ行かれた。
で し も く わす ふね なか
一四 弟子たちはパンを持って来るのを忘れていたので、舟の中にはパン一つし
も あ かれ いまし びと
か持ち合わせがなかった。 一五そのとき、イエスは彼らを戒めて、
﹁パリサイ人
だね だね けいかい い で し
のパン種とヘロデのパン種とを、よくよく警戒せよ﹂と言われた。 一六弟子た
じぶん も たがい ろん あ
ちは、これは自分たちがパンを持っていないためであろうと、 互に論じ合っ
し かれ い
た。 一七イエスはそれと知って、彼らに言われた、
﹁なぜ、パンがないからだと
マルコによる福音書

ろん あ さと こころ
論じ合っているのか。まだわからないのか、悟らないのか。あなたがたの心
にぶ め み みみ きこ
は鈍くなっているのか。 一八目があっても見えないのか。耳があっても聞え
おも だ にん わ
ないのか。まだ思い出さないのか。 一九五つのパンをさいて五千人に分けた
ひろ あつ いく で し こた
とき、拾い集めたパンくずは、幾つのかごになったか﹂。弟子たちは答えた、
にん わ いく
﹁十二かごです﹂。 二〇﹁七つのパンを四千人に分けたときには、パンくずを幾

31
ひろ あつ こた かれ
つのかごに拾い集めたか﹂。﹁七かごです﹂と答えた。 二一そこでイエスは彼ら
い さと
に言われた、﹁まだ悟らないのか﹂。
かれ つ ひとびと もうじん
二二 そのうちに、彼らはベツサイダに着いた。すると人々が、ひとりの盲人を
つ ねが
連れてきて、さわってやっていただきたいとお願いした。 二三イエスはこの
もうじん て むら そと つ だ りょうほう め りょうて
盲人の手をとって、村の外に連れ出し、その両 方の目につばきをつけ、両手
かれ あ なに み たず かれ かお あ い
を彼に当てて、
﹁何か見えるか﹂と尋ねられた。 二四すると彼は顔を上げて言っ
ひと み き み ある
た、
﹁人が見えます。木のように見えます。歩いているようです﹂。 二五それか
ふたた め うえ りょうて あ もうじん み
ら、イエスが再び目の上に両手を当てられると、盲人は見つめているうちに、

なおってきて、すべてのものがはっきりと見えだした。 二六そこでイエスは、
むら い かれ いえ かえ
﹁村にはいってはいけない﹂と言って、彼を家に帰された。
で し むらむら で
二七 さて、イエスは弟子たちとピリポ・カイザリヤの村々へ出かけられたが、そ
マルコによる福音書

とちゅう で し たず い ひとびと い
の途中で、弟子たちに尋ねて言われた、
﹁人々は、わたしをだれと言っている
かれ こた い い
か﹂。 二八彼らは答えて言った、
﹁バプテスマのヨハネだと、言っています。ま
い よげんしゃ い もの
た、エリヤだと言い、また、預言者のひとりだと言っている者もあります﹂。
かれ たず
二九 そこでイエスは彼らに尋ねられた、﹁それでは、あなたがたはわたしをだれ
い こた い
と言うか﹂。ペテロが答えて言った、﹁あなたこそキリストです﹂。 三〇すると

32
じぶん い かれ いまし
イエスは、自分のことをだれにも言ってはいけないと、彼らを戒められた。
ひと こ かなら おお くる う ちょうろう さいしちょう りっぽうがくしゃ
三一 それから、人の子は必ず多くの苦しみを受け、長 老、祭司長、律法学者た
す ころ か のち かれ
ちに捨てられ、また殺され、そして三日の後によみがえるべきことを、彼ら
おし こと はな
に教えはじめ、 三二しかもあからさまに、この事を話された。すると、ペテロ
ひ よ ふ かえ
はイエスをわきへ引き寄せて、いさめはじめたので、三三イエスは振り返って、
で し み い ひ
弟子たちを見ながら、ペテロをしかって言われた、﹁サタンよ、引きさがれ。
かみ おも ひと おも
あなたは神のことを思わないで、人のことを思っている﹂。
ぐんしゅう で し いっしょ よ よ かれ い
三四 それから群 衆を弟子たちと一緒に呼び寄せて、彼らに言われた、
﹁だれで
おも じぶん す じぶん じゅうじか お
もわたしについてきたいと思うなら、自分を捨て、自分の十字架を負うて、わ
したが じぶん いのち すく おも もの うしな
たしに従 ってきなさい。 三五自分の命を救おうと思う者はそれを失い、わた
ふくいん じぶん いのち うしな もの すく
しのため、また福音のために、自分の命を失う者は、それを救うであろう。 三
マルコによる福音書

ひと ぜん せ か い じぶん いのち そん とく
六 人が全世界をもうけても、自分の命を損したら、なんの得になろうか。 三七
ひと だいか はら いのち か
また、人はどんな代価を払って、その命を買いもどすことができようか。 三八
じゃあく つみぶか じだい ことば は もの たい
邪悪で罪深いこの時代にあって、わたしとわたしの言葉とを恥じる者に対し
ひと こ ちち えいこう せい みつかい とも く
ては、人の子もまた、父の栄光のうちに聖なる御使たちと共に来るときに、そ
もの は
の者を恥じるであろう﹂。

33
第九章
かれ い き かみ くに ちから く
一 また、彼らに言われた、
﹁よく聞いておくがよい。神の国が力をもって来る
み けっ し あじ もの た もの なか
のを見るまでは、決して死を味わわない者が、ここに立っている者の中にい
る﹂。
むいか のち つ たか やま
二 六日の後、イエスは、ただペテロ、ヤコブ、ヨハネだけを連れて、高い山に
のぼ かれ め まえ すがた かわ ころも まっしろ かがや
登られた。ところが、彼らの目の前でイエスの姿が変り、三その衣は真白く輝
ぬの しろ
き、どんな布さらしでも、それほどに白くすることはできないくらいになっ
とも かれ あらわ かた あ
た。 四すると、エリヤがモーセと共に彼らに現れて、イエスと語り合ってい
い せんせい
た。 五ペテロはイエスにむかって言った、
﹁先生、わたしたちがここにいるの
こ や た
は、すばらしいことです。それで、わたしたちは小屋を三つ建てましょう。一
マルコによる福音書

つはあなたのために、一つはモーセのために、一つはエリヤのために﹂。 六そ
い もの ひじょう おそ なに い
う言ったのは、みんなの者が非常に恐れていたので、ペテロは何を言ってよ
くも おこ かれ
いか、わからなかったからである。 七すると、雲がわき起って彼らをおおっ
くも なか こえ あい こ
た。そして、その雲の中から声があった、﹁これはわたしの愛する子である。
き かれ いそ み み
これに聞け﹂。 八彼らは急いで見まわしたが、もはやだれも見えず、ただイエ

34
じぶん いっしょ
スだけが、自分たちと一緒におられた。
いちどう やま くだ く ひと こ しにん なか
九 一同が山を下って来るとき、イエスは﹁人の子が死人の中からよみがえるま
み はな かれ めい
では、いま見たことをだれにも話してはならない﹂と、彼らに命じられた。 一
かれ ことば こころ しにん なか
〇 彼らはこの言葉を心にとめ、死人の中からよみがえるとはどういうことか
たがい ろん あ たず りっぽうがくしゃ
と、互に論じ合った。 一一そしてイエスに尋ねた、
﹁なぜ、律法学者たちは、エ
さき く い い たし
リヤが先に来るはずだと言っているのですか﹂。 一二イエスは言われた、
﹁確か
さき ばんじ もと あらた ひと こ
に、エリヤが先にきて、万事を元どおりに改める。しかし、人の子について、
かれ おお くる う は か
彼が多くの苦しみを受け、かつ恥ずかしめられると、書いてあるのはなぜか。
い かれ
一三 しかしあなたがたに言っておく、エリヤはすでにきたのだ。そして彼につ
か ひとびと じぶん かれ
いて書いてあるように、人々は自分かってに彼をあしらった﹂。
かれ で し ところ み おお ぐんしゅう で し
一四 さて、彼らがほかの弟子たちの所にきて見ると、大ぜいの群 衆が弟子たち
マルコによる福音書

と かこ りっぽうがくしゃ かれ ろん あ ぐんしゅう
を取り囲み、そして律法学者たちが彼らと論じ合っていた。 一五群 衆はみな、
み ひじょう おどろ か よ
すぐイエスを見つけて、非常に驚き、駆け寄ってきて、あいさつをした。 一六
かれ かれ なに ろん たず
イエスが彼らに、﹁あなたがたは彼らと何を論じているのか﹂と尋ねられると、
ぐんしゅう こた せんせい れい
一七 群 衆のひとりが答えた、
﹁先生、おしの霊につかれているわたしのむすこ
つ まい れい
を、こちらに連れて参りました。 一八霊がこのむすこにとりつきますと、どこ

35
かれ ひ たお かれ ふ は
ででも彼を引き倒し、それから彼はあわを吹き、歯をくいしばり、からだを
で し れい お だ
こわばらせてしまいます。それでお弟子たちに、この霊を追い出してくださ
ねが こた い
るように願いましたが、できませんでした﹂。 一九イエスは答えて言われた、
ふ しんこう じだい
﹁ああ、なんという不信仰な時代であろう。いつまで、わたしはあなたがたと
いっしょ がまん こ
一緒におられようか。いつまで、あなたがたに我慢ができようか。その子を
ところ つ ひとびと こ つ
わたしの所に連れてきなさい﹂。 二〇そこで人々は、その子をみもとに連れて
れい み いな こ こ ち たお
きた。霊がイエスを見るや否や、その子をひきつけさせたので、子は地に倒
ふ ちちおや
れ、あわを吹きながらころげまわった。 二一そこで、イエスが父親に﹁いつご
たず ちちおや こた おさな とき
ろから、こんなになったのか﹂と尋ねられると、父親は答えた、
﹁幼い時から
れい こ ひ なか みず なか な い ころ
です。 二二霊はたびたび、この子を火の中、水の中に投げ入れて、殺そうとし
たす
ました。しかしできますれば、わたしどもをあわれんでお助けください﹂。 二三
マルコによる福音書

かれ い い しん もの
イエスは彼に言われた、
﹁もしできれば、と言うのか。信ずる者には、どんな
こと こ ちちおや さけ い しん ふ しんこう
事でもできる﹂。 二四その子の父親はすぐ叫んで言った、
﹁信じます。不信仰な
たす ぐんしゅう か よ く
わたしを、お助けください﹂。 二五イエスは群 衆が駆け寄って来るのをごらん
れい い れい
になって、けがれた霊をしかって言われた、
﹁おしとつんぼの霊よ、わたしが
めい こ で い ど く
おまえに命じる。この子から出て行け。二度と、はいって来るな﹂。 二六する

36
れい さけ ごえ はげ ひ で い こ しにん
と霊は叫び声をあげ、激しく引きつけさせて出て行った。その子は死人のよ
おお ひと し い て
うになったので、多くの人は、死んだのだと言った。 二七しかし、イエスが手
と おこ こ た あ いえ で し
を取って起されると、その子は立ち上がった。 二八家にはいられたとき、弟子
たず れい お だ
たちはひそかにお尋ねした、
﹁わたしたちは、どうして霊を追い出せなかった
い いのり
のですか﹂。 二九すると、イエスは言われた、
﹁このたぐいは、 祈によらなけれ
お だ
ば、どうしても追い出すことはできない﹂。
かれ た さ い
三〇 それから彼らはそこを立ち去り、ガリラヤをとおって行ったが、イエスは
ひと き この で し おし
人に気づかれるのを好まれなかった。 三一それは、イエスが弟子たちに教え
ひと こ ひとびと て かれ ころ ころ か のち
て、
﹁人の子は人々の手にわたされ、彼らに殺され、殺されてから三日の後に
い かれ
よみがえるであろう﹂と言っておられたからである。 三二しかし、彼らはイエ
い さと たず おそ
スの言われたことを悟らず、また尋ねるのを恐れていた。
マルコによる福音書

かれ いえ
三三 それから彼らはカペナウムにきた。そして家におられるとき、イエスは
で し たず とちゅう なに ろん かれ
弟子たちに尋ねられた、
﹁あなたがたは途中で何を論じていたのか﹂。 三四彼ら
だま とちゅう えら たがい ろん あ
は黙っていた。それは途中で、だれが一ばん偉いかと、 互に論じ合っていた
で し よ い
からである。 三五そこで、イエスはすわって十二弟子を呼び、そして言われた、
さき おも つか
﹁だれでも一ばん先になろうと思うならば、一ばんあとになり、みんなに仕え

37
もの おさ ご かれ
る者とならねばならない﹂。 三六そして、ひとりの幼な子をとりあげて、彼らの
なか た だ い おさ ご
まん中に立たせ、それを抱いて言われた。 三七﹁だれでも、このような幼な子
な う もの う
のひとりを、わたしの名のゆえに受けいれる者は、わたしを受けいれるので
う もの う
ある。そして、わたしを受けいれる者は、わたしを受けいれるのではなく、わ

たしをおつかわしになったかたを受けいれるのである﹂。
い せんせい もの
三八 ヨハネがイエスに言った、
﹁先生、わたしたちについてこない者が、あなた
な つか あくれい お だ み ひと
の名を使って悪霊を追い出しているのを見ましたが、その人はわたしたちに

ついてこなかったので、やめさせました﹂。 三九イエスは言われた、
﹁やめさせ
な ちから おこな
ないがよい。だれでもわたしの名で力あるわざを行いながら、すぐそのあと
はんたい もの
で、わたしをそしることはできない。 四〇わたしたちに反対しない者は、わた
みかた もの
したちの味方である。 四一だれでも、キリストについている者だというので、
マルコによる福音書

みずいっぱい の い けっ
あなたがたに水一杯でも飲ませてくれるものは、よく言っておくが、決して
むく しん
その報いからもれることはないであろう。 四二また、わたしを信じるこれらの
ちい もの もの おお くび うみ
小さい者のひとりをつまずかせる者は、大きなひきうすを首にかけられて海
な こ ほう かたて つみ おか
に投げ込まれた方が、はるかによい。 四三もし、あなたの片手が罪を犯させる
き す りょうて じごく き ひ なか
なら、それを切り捨てなさい。両手がそろったままで地獄の消えない火の中

38
お こ いのち はい ほう じごく
に落ち込むよりは、かたわになって命に入る方がよい。︹ 四四 地獄では、うじが
ひ き かたあし つみ おか
つきず、火も消えることがない。︺四五もし、あなたの片足が罪を犯させるなら、
き す りょうあし じごく な い
それを切り捨てなさい。 両 足がそろったままで地獄に投げ入れられるより
かたあし いのち はい ほう じごく ひ き
は、片足で命に入る方がよい。︹ 四六 地獄では、うじがつきず、火も消えること
かため つみ おか ぬ だ
がない。︺四七もし、あなたの片目が罪を犯させるなら、それを抜き出しなさい。
りょうがん じごく な い かため かみ くに
両 眼がそろったままで地獄に投げ入れられるよりは、片目になって神の国に
はい ほう じごく ひ き ひと
入る方がよい。 四八地獄では、うじがつきず、火も消えることがない。 四九人は
ひ しお しお
すべて火で塩づけられねばならない。 五〇塩はよいものである。しかし、もし
しお あじ なに あじ と
その塩の味がぬけたら、何によってその味が取りもどされようか。あなたが
じしん うち しお も たがい やわ
た自身の内に塩を持ちなさい。そして、 互に和らぎなさい﹂。
マルコによる福音書

第一〇章
さ ちほう む がわ い
一 それから、イエスはそこを去って、ユダヤの地方とヨルダンの向こう側へ行
ぐんしゅう よ あつ おし
かれたが、群 衆がまた寄り集まったので、いつものように、また教えておら
びと ちか こころ
れた。 二そのとき、パリサイ人たちが近づいてきて、イエスを試みようとして

39
しつもん おっと つま だ さ
質問した、﹁夫はその妻を出しても差しつかえないでしょうか﹂。 三イエスは
こた い めい かれ い
答えて言われた、
﹁モーセはあなたがたになんと命じたか﹂。 四彼らは言った、
り え ん じょう か つま だ ゆる
﹁モーセは、離縁 状を書いて妻を出すことを許しました﹂。 五そこでイエスは
い こころ
言われた、
﹁モーセはあなたがたの心が、かたくななので、あなたがたのため
さだ か て ん ち そうぞう はじ かみ ひと おとこ
にこの定めを書いたのである。 六しかし、天地創造の初めから、
﹃神は人を男
おんな つく ひと ふ ぼ はな もの いったい
と女とに造られた。 七それゆえに、人はその父母を離れ、 八ふたりの者は一体
かれ いったい
となるべきである﹄。彼らはもはや、ふたりではなく一体である。 九だから、
かみ あ ひと はな いえ
神が合わせられたものを、人は離してはならない﹂。 一〇家にはいってから、
で し たず い
弟子たちはまたこのことについて尋ねた。 一一そこで、イエスは言われた、
﹁だ
じぶん つま だ た おんな もの つま たい かんいん おこな
れでも、自分の妻を出して他の女をめとる者は、その妻に対して姦淫を行う
つま おっと わか た おとこ かんいん おこな
のである。 一二また妻が、その夫と別れて他の男にとつぐならば、姦淫を行う
マルコによる福音書

のである﹂。
ひとびと おさ ご つ
一三 イエスにさわっていただくために、人々が幼な子らをみもとに連れてき
で し かれ み いきどお
た。ところが、弟子たちは彼らをたしなめた。 一四それを見てイエスは憤り、
かれ い おさ ご ところ く と
彼らに言われた、﹁幼な子らをわたしの所に来るままにしておきなさい。止め
かみ くに もの くに き
てはならない。神の国はこのような者の国である。 一五よく聞いておくがよ

40
おさ ご かみ くに う もの
い。だれでも幼な子のように神の国を受けいれる者でなければ、そこにはい
けっ かれ いだ て うえ しゅくふく
ることは決してできない﹂。 一六そして彼らを抱き、手をその上において祝 福
された。
みち で い ひと はし よ
一七 イエスが道に出て行かれると、ひとりの人が走り寄り、みまえにひざまず
たず し えいえん せいめい う なに
いて尋ねた、
﹁よき師よ、永遠の生命を受けるために、何をしたらよいでしょ
い もの い かみ
うか﹂。 一八イエスは言われた、
﹁なぜわたしをよき者と言うのか。神ひとりの
もの し
ほ か に よ い 者 は い な い。 一九い ま し め は あ な た の 知 っ て い る と お り で あ る。
ころ かんいん ぬす ぎしょう た あざむ と ちち はは うやま
﹃殺すな、姦淫するな、盗むな、偽証を立てるな。 欺き取るな。父と母とを敬
かれ い せんせい こと ちい とき まも
え﹄﹂。 二〇すると、彼は言った、
﹁先生、それらの事はみな、小さい時から守っ
かれ め い
ております﹂。 二一イエスは彼に目をとめ、いつくしんで言われた、
﹁あなたに
た かえ も う はら まず
足りないことが一つある。帰って、持っているものをみな売り払って、貧し
マルコによる福音書

ひとびと ほどこ てん たから も


い人々に施しなさい。そうすれば、天に宝を持つようになろう。そして、わ
したが かれ ことば き かお くも かな
たしに従 ってきなさい﹂。 二二すると、彼はこの言葉を聞いて、顔を曇らせ、悲
た さ しさん も
しみながら立ち去った。たくさんの資産を持っていたからである。
み で し い ざいさん もの かみ
二三 それから、イエスは見まわして、弟子たちに言われた、
﹁財産のある者が神
くに で し
の 国 に は い る の は、な ん と む ず か し い こ と で あ ろ う﹂。 二四弟子 た ち は こ の

41
ことば おどろ あや さら い こ かみ くに
言葉に驚き怪しんだ。イエスは更に言われた、
﹁子たちよ、神の国にはいるの
と もの かみ くに
は、なんとむずかしいことであろう。 二五富んでいる者が神の国にはいるより
はり あな とお ほう かれ
は、らくだが針の穴を通る方が、もっとやさしい﹂。 二六すると彼らはますます
おどろ たがい い すく
驚いて、 互に言った、
﹁それでは、だれが救われることができるのだろう﹂。 二
かれ み い ひと かみ かみ
七 イエスは彼らを見つめて言われた、
﹁人にはできないが、神にはできる。神
い だ
はなんでもできるからである﹂。 二八ペテロがイエスに言い出した、
﹁ごらんな
す したが まい
さい、わたしたちはいっさいを捨てて、あなたに従 って参りました﹂。 二九イ
い き
エスは言われた、﹁よく聞いておくがよい。だれでもわたしのために、また
ふくいん いえ きょうだい しまい はは ちち こ はたけ す もの
福音のために、家、 兄 弟、姉妹、母、父、子、もしくは畑を捨てた者は、 三〇
かなら ばい う いま じだい いえ きょうだい しまい はは こ
必ずその百倍を受ける。すなわち、今この時代では家、兄 弟、姉妹、母、子
はたけ はくがい とも う よ えいえん せいめい う
および畑を迫害と共に受け、また、きたるべき世では永遠の生命を受ける。 三
マルコによる福音書

おお さき もの もの さき
一 しかし、多くの先の者はあとになり、あとの者は先になるであろう﹂。
いちどう のぼ とじょう せんとう た い
三二 さて、一同はエルサレムへ上る途上にあったが、イエスが先頭に立って行
かれ おどろ あや したが もの おそ
かれたので、彼らは驚き怪しみ、 従う者たちは恐れた。するとイエスはまた
で し よ よ じぶん み おこ かた
十二弟子を呼び寄せて、自分の身に起ろうとすることについて語りはじめら
み のぼ い ひと こ さいしちょう
れた、 三三﹁見よ、わたしたちはエルサレムへ上って行くが、人の子は祭司長、

42
りっぽうがくしゃ て ひ かれ しけい せんこく うえ かれ
律法学者たちの手に引きわたされる。そして彼らは死刑を宣告した上、彼を
いほうじん ひ かれ う
異邦人に引きわたすであろう。 三四また彼をあざけり、つばきをかけ、むち打
ころ かれ か のち
ち、ついに殺してしまう。そして彼は三日の後によみがえるであろう﹂。
こ い
三五 さ て、ゼ ベ ダ イ の 子 の ヤ コ ブ と ヨ ハ ネ と が イ エ ス の も と に き て 言 っ た、
せんせい たの
﹁先生、わたしたちがお頼みすることは、なんでもかなえてくださるようにお
ねが かれ なに ねが い
願いします﹂。 三六イエスは彼らに﹁何をしてほしいと、願うのか﹂と言われた。
かれ い えいこう う みぎ
三七 すると彼らは言った、
﹁栄光をお受けになるとき、ひとりをあなたの右に、
ひだり い
ひとりを左にすわるようにしてください﹂。 三八イエスは言われた、
﹁あなたが
じぶん なに もと
たは自分が何を求めているのか、わかっていない。あなたがたは、わたしが
の さかずき の う う かれ
飲む杯を飲み、わたしが受けるバプテスマを受けることができるか﹂。 三九彼
こた い
らは﹁できます﹂と答えた。するとイエスは言われた、
﹁あなたがたは、わた
マルコによる福音書

の さかずき の う う
しが飲む杯を飲み、わたしが受けるバプテスマを受けるであろう。 四〇しか
みぎ ひだり
し、わたしの右、 左にすわらせることは、わたしのすることではなく、ただ
そな ひとびと ゆる にん もの き
備えられている人々だけに許されることである﹂。 四一十人の者はこれを聞い
ふんがい だ かれ よ
て、ヤコブとヨハネとのことで憤慨し出した。 四二そこで、イエスは彼らを呼
よ い し いほうじん しはいしゃ み
び寄せて言われた、
﹁あなたがたの知っているとおり、異邦人の支配者と見ら

43
ひとびと たみ おさ えら ひと たみ うえ けんりょく
れている人々は、その民を治め、また偉い人たちは、その民の上に権 力をふ
あいだ
るっている。 四三しかし、あなたがたの間では、そうであってはならない。か
あいだ えら おも もの つか ひと
えって、あなたがたの間で偉くなりたいと思う者は、仕える人となり、 四四あ
あいだ おも もの ひと しもべ
なたがたの間でかしらになりたいと思う者は、すべての人の僕とならねばな
ひと こ つか つか
らない。 四五人の子がきたのも、仕えられるためではなく、仕えるためであり、
おお ひと じぶん いのち あた
また多くの人のあがないとして、自分の命を与えるためである﹂。
かれ で し おお
四六 それから、彼らはエリコにきた。そして、イエスが弟子たちや大ぜいの
ぐんしゅう とも で こ
群 衆と共にエリコから出かけられたとき、テマイの子、バルテマイという
もうじん みち
盲人のこじきが、道ばたにすわっていた。 四七ところが、ナザレのイエスだと
き かれ こ さけ
聞いて、彼は﹁ダビデの子イエスよ、わたしをあわれんでください﹂と叫び
だ おお ひとびと かれ だま かれ はげ
出した。 四八多くの人々は彼をしかって黙らせようとしたが、彼はますます激
マルコによる福音書

さけ こ
しく叫びつづけた、
﹁ダビデの子イエスよ、わたしをあわれんでください﹂。 四
た かれ よ めい ひとびと もうじん
九 イエスは立ちどまって﹁彼を呼べ﹂と命じられた。そこで、人々はその盲人
よ い よろこ た よ かれ うわぎ
を呼んで言った、﹁喜べ、立て、おまえを呼んでおられる﹂。 五〇そこで彼は上着
ぬ す おど かれ い
を脱ぎ捨て、踊りあがってイエスのもとにきた。 五一イエスは彼にむかって言
なに もうじん い せんせい み
われた、
﹁わたしに何をしてほしいのか﹂。その盲人は言った、
﹁先生、見える

44
い い しんこう
ようになることです﹂。 五二そこでイエスは言われた、
﹁行け、あなたの信仰が
すく かれ み したが
あなたを救った﹂。すると彼は、たちまち見えるようになり、イエスに従 って

行った。
第一一章
かれ ちか やま そ
一 さて、彼らがエルサレムに近づき、オリブの山に沿ったベテパゲ、ベタニヤ
ふきん とき で し い
の附近にきた時、イエスはふたりの弟子をつかわして言われた、 二﹁むこうの
むら い の
村へ行きなさい。そこにはいるとすぐ、まだだれも乗ったことのないろばの
こ み と ひ
子が、つないであるのを見るであろう。それを解いて引いてきなさい。 三も
こと い しゅ
し、だれかがあなたがたに、なぜそんな事をするのかと言ったなら、主がお
マルコによる福音書

い よう かえ い
入り用なのです。またすぐ、ここへ返してくださいますと、言いなさい﹂。 四
かれ で い おもてどお とぐち こ
そこで、彼らは出かけて行き、そして表 通りの戸口に、ろばの子がつないで
み と た ひとびと い
あるのを見たので、それを解いた。 五すると、そこに立っていた人々が言っ
こ と で し い
た、
﹁そのろばの子を解いて、どうするのか﹂。 六弟子たちは、イエスが言われ
かれ はな で し
たとおり彼らに話したので、ゆるしてくれた。 七そこで、弟子たちは、そのろ

45
こ ひ じぶん うわぎ な
ばの子をイエスのところに引いてきて、自分たちの上着をそれに投げかける
うえ の おお ひとびと じぶん
と、イ エ ス は そ の 上 に お 乗 り に な っ た。 八す る と 多 く の 人々 は 自分 た ち の
うわぎ みち し た ひとびと は えだ のはら き し
上着を道に敷き、また他の人々は葉のついた枝を野原から切ってきて敷いた。
まえ ゆ もの したが もの とも さけ
九 そして、前に行く者も、あとに従う者も共に叫びつづけた、
﹁ホサナ、
しゅ み な もの しゅくふく
主の御名によってきたる者に、 祝 福あれ。
いま ちち くに しゅくふく
一〇 今きたる、われらの父ダビデの国に、 祝 福あれ。
たか ところ
いと高き所に、ホサナ﹂。
つ みや
一一 こうしてイエスはエルサレムに着き、宮にはいられた。そして、すべての
み のち とき で し とも
ものを見まわった後、もはや時もおそくなっていたので、十二弟子と共にベ
で い
タニヤに出て行かれた。
マルコによる福音書

よくじつ かれ で くうふく
一二 翌日、彼らがベタニヤから出かけてきたとき、イエスは空腹をおぼえられ
は しげ き とお き
た。 一三そして、葉の茂ったいちじくの木を遠くからごらんになって、その木
なに ちかよ は なに みあた
に何かありはしないかと近寄られたが、葉のほかは何も見当らなかった。い
きせつ き
ちじくの季節でなかったからである。 一四そこで、イエスはその木にむかっ
いま のち み た もの い
て、
﹁今から後いつまでも、おまえの実を食べる者がないように﹂と言われた。

46
で し き
弟子たちはこれを聞いていた。
かれ みや はい みや にわ う か
一五 それから、彼らはエルサレムにきた。イエスは宮に入り、宮の庭で売り買
ひとびと お だ りょうがえにん だい う もの こしかけ
いしていた人々を追い出しはじめ、両 替 人の台や、はとを売る者の腰掛をく
うつわ も みや にわ とお ぬ ゆる
つがえし、 一六また器ものを持って宮の庭を通り抜けるのをお許しにならな
かれ おし い いえ こくみん
かった。 一七そして、彼らに教えて言われた、
﹁﹃わたしの家は、すべての国民
いのり いえ か
の祈の家ととなえらるべきである﹄と書いてあるではないか。それだのに、あ
ごうとう す さいしちょう りっぽうがくしゃ
なたがたはそれを強盗の巣にしてしまった﹂。 一八祭司長、律法学者たちはこ
き ころ はか かれ ぐんしゅう
れを聞いて、どうかしてイエスを殺そうと計った。彼らは、群 衆がみなその
おしえ かんどう おそ
教に感動していたので、イエスを恐れていたからである。
ゆうがた で し みやこ そと で い
一九 夕方になると、イエスと弟子たちとは、いつものように都の外に出て行っ
た。
マルコによる福音書

あさ みち かれ さき ねもと か
二〇 朝はやく道をとおっていると、彼らは先のいちじくが根元から枯れている
み おも だ い せんせい
のを見た。 二一そこで、ペテロは思い出してイエスに言った、
﹁先生、ごらんな
か こた
さい。あなたがのろわれたいちじくが、枯れています﹂。 二二イエスは答えて
い かみ しん き やま
言われた、
﹁神を信じなさい。 二三よく聞いておくがよい。だれでもこの山に、
うご だ うみ なか い い かなら な こころ うたが
動き出して、海の中にはいれと言い、その言ったことは必ず成ると、 心に疑

47
しん な
わないで信じるなら、そのとおりに成るであろう。 二四そこで、あなたがたに
い いの もと しん
言うが、なんでも祈り求めることは、すでにかなえられたと信じなさい。そ
た いの たい
うすれば、そのとおりになるであろう。 二五また立って祈るとき、だれかに対
なに うら こと てん
して、何か恨み事があるならば、ゆるしてやりなさい。そうすれば、天にい
ちち
ますあなたがたの父も、あなたがたのあやまちを、ゆるしてくださるであろ
てん ちち
う。︹ 二六 もしゆるさないならば、天にいますあなたがたの父も、あなたがたの
あやまちを、ゆるしてくださらないであろう︺﹂。
かれ みや うち ある
二七 彼らはまたエルサレムにきた。そして、イエスが宮の内を歩いておられる
さいしちょう りっぽうがくしゃ ちょうろう い なに けんい
と、祭司長、律法学者、長 老たちが、みもとにきて言った、 二八﹁何の権威に
こと けんい さず
よ っ て こ れ ら の 事 を す る の で す か。だ れ が、そ う す る 権威 を 授 け た の で す
かれ い たず こた
か﹂。 二九そこで、イエスは彼らに言われた、
﹁一つだけ尋ねよう。それに答え
マルコによる福音書

なに けんい こと
てほしい。そうしたら、何の権威によって、わたしがこれらの事をするのか、
い てん ひと
あなたがたに言おう。 三〇ヨハネのバプテスマは天からであったか、人からで
こた かれ たがい ろん い てん
あったか、答えなさい﹂。 三一すると、彼らは互に論じて言った、
﹁もし天から
い かれ しん い
だと言えば、では、なぜ彼を信じなかったのか、とイエスは言うだろう。 三二
ひと い かれ ぐんしゅう おそ ひとびと みな
しかし、人からだと言えば⋮⋮﹂。彼らは群 衆を恐れていた。人々が皆、ヨハ

48
よげんしゃ おも かれ
ネを預言者だとほんとうに思っていたからである。 三三それで彼らは﹁わたし
こた い なに
たちにはわかりません﹂と答えた。するとイエスは言われた、
﹁わたしも何の
けんい こと い
権威によってこれらの事をするのか、あなたがたに言うまい﹂。
第一二章
たとえ かれ かた だ ひと えん つく かき
一 そこでイエスは譬で彼らに語り出された、
﹁ある人がぶどう園を造り、垣を
さか あな ほ た のうふ か
めぐらし、また酒ぶねの穴を掘り、やぐらを立て、それを農夫たちに貸して、
たび で きせつ のうふ しもべ おく
旅に出かけた。 二季節になったので、農夫たちのところへ、ひとりの僕を送っ
えん しゅうかく わ まえ と た かれ
て、ぶどう園の収 穫の分け前を取り立てさせようとした。 三すると、彼らはそ
しもべ ふくろ て かえ た しもべ おく
の僕をつかまえて、袋だたきにし、から手で帰らせた。 四また他の僕を送った
マルコによる福音書

あたま ぶじょく た もの おく こんど


が、その頭をなぐって侮辱した。 五そこでまた他の者を送ったが、今度はそれ
ころ おお もの おく かれ う
を殺してしまった。そのほか、なお大ぜいの者を送ったが、彼らを打ったり、
ころ もの かれ あいし
殺したりした。 六ここに、もうひとりの者がいた。それは彼の愛子であった。
じぶん こ うやま おも さいご かれ
自分の子は敬 ってくれるだろうと思って、最後に彼をつかわした。 七すると、
のうふ と ころ
農夫たちは﹃あれはあと取りだ。さあ、これを殺してしまおう。そうしたら、

49
ざいさん はな あ かれ ころ
その財産はわれわれのものになるのだ﹄と話し合い、 八彼をつかまえて殺し、
えん そと な す えん しゅじん
ぶどう園の外に投げ捨てた。 九このぶどう園の主人は、どうするだろうか。
かれ で のうふ ころ えん た ひとびと あた
彼は出てきて、農夫たちを殺し、ぶどう園を他の人々に与えるであろう。 一〇
せいしょ く よ
あなたがたは、この聖書の句を読んだことがないのか。
いえつく す いし
﹃家造りらの捨てた石が
すみ いし
隅のかしら石になった。
しゅ
一一 これは主がなされたことで、
め ふ し ぎ み
わたしたちの目には不思議に見える﹄﹂。
かれ たとえ じぶん あ かた さと
一二 彼らはいまの譬が、自分たちに当てて語られたことを悟ったので、イエス
とら ぐんしゅう おそ のこ た さ
を捕えようとしたが、群 衆を恐れた。そしてイエスをそこに残して立ち去っ
た。
マルコによる福音書

ひとびと びと とう もの すうにん
一三 さて、人々はパリサイ人やヘロデ党の者を数人、イエスのもとにつかわし
ことば とら かれ い せんせい
て、その言葉じりを捕えようとした。 一四彼らはきてイエスに言った、
﹁先生、
しんじつ し
わたしたちはあなたが真実なかたで、だれをも、はばかられないことを知っ
ひと わ へだ しんり もとづ かみ みち おし
ています。あなたは人に分け隔てをなさらないで、真理に基いて神の道を教
ぜいきん おさ
えてくださいます。ところで、カイザルに税金を納めてよいでしょうか、い

50
おさ おさ
け な い で し ょ う か。納 め る べ き で し ょ う か、納 め て は な ら な い の で し ょ う
かれ ぎぜん み ぬ い
か﹂。 一五イエスは彼らの偽善を見抜いて言われた、
﹁なぜわたしをためそうと
も み かれ も
するのか。デナリを持ってきて見せなさい﹂。 一六彼らはそれを持ってきた。
い しょうぞう きごう かれ
そこでイエスは言われた、
﹁これは、だれの肖 像、だれの記号か﹂。彼らは﹁カ
こた い
イザルのです﹂と答えた。 一七するとイエスは言われた、
﹁カイザルのものはカ
かみ かみ かえ かれ きょうたん
イザルに、神のものは神に返しなさい﹂。彼らはイエスに驚 嘆した。
ふっかつ しゅちょう びと
一八 復活ということはないと主 張していたサドカイ人たちが、イエスのもと
しつもん せんせい か
にきて質問した、 一九﹁先生、モーセは、わたしたちのためにこう書いていま
ひと あに し のこ つま こ ばあい おとうと
す、
﹃もし、ある人の兄が死んで、その残された妻に、子がない場合には、 弟
おんな あに こ にん
はこの女をめとって、兄のために子をもうけねばならない﹄。 二〇ここに、七人
きょうだい ちょうなん つま こ し じなん
の兄 弟がいました。 長 男は妻をめとりましたが、子がなくて死に、 二一次男
マルコによる福音書

おんな こ し さんなん どうよう


がその女をめとって、また子をもうけずに死に、三男も同様でした。 二二こう
にん しそん のこ さいご おんな し
して、七人ともみな子孫を残しませんでした。最後にその女も死にました。 二
ふっかつ かれ みな ばあい おんな つま
三 復活のとき、彼らが皆よみがえった場合、この女はだれの妻なのでしょう
にん かのじょ つま い
か。七人とも彼女を妻にしたのですが﹂。 二四イエスは言われた、
﹁あなたがた
おも ちが せいしょ かみ ちから し
がそんな思い違いをしているのは、聖書も神の力も知らないからではないか。

51
かれ しにん なか
二五 彼らが死人の中からよみがえるときには、めとったり、とついだりするこ
かれ てん みつかい しにん
とはない。彼らは天にいる御使のようなものである。 二六死人がよみがえる
しょ しば へん かみ おお ことば よ
ことについては、モーセの書の柴の篇で、神がモーセに仰せられた言葉を読
かみ かみ かみ
んだことがないのか。﹃わたしはアブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神で
かみ し もの かみ い もの かみ
ある﹄とあるではないか。 二七神は死んだ者の神ではなく、生きている者の神
ひじょう おも ちが
である。あなたがたは非常な思い違いをしている﹂。
りっぽうがくしゃ かれ たがい ろん あ き
二八 ひとりの律法学者がきて、彼らが互に論じ合っているのを聞き、またイエ
たく こた みと しつもん
スが巧みに答えられたのを認めて、イエスに質問した、
﹁すべてのいましめの
なか だい こた だい
中で、どれが第一のものですか﹂。 二九イエスは答えられた、
﹁第一のいましめ
き しゅ かみ
はこれである、
﹃イスラエルよ、聞け。主なるわたしたちの神は、ただひとり
しゅ こころ せいしん おも ちから
の主である。 三〇 心をつくし、精神をつくし、思いをつくし、 力をつくして、
マルコによる福音書

しゅ かみ あい だい じぶん あい
主なるあなたの神を愛せよ﹄。 三一第二はこれである、
﹃自分を愛するようにあ
とな びと あい だいじ
なたの隣り人を愛せよ﹄。これより大事ないましめは、ほかにない﹂。 三二そこ
りっぽうがくしゃ い せんせい おお かみ
で、この律法学者はイエスに言った、﹁先生、仰せのとおりです、﹃神はひと
かみ い
りであって、そのほかに神はない﹄と言われたのは、ほんとうです。 三三また
こころ ち え ちから かみ あい じぶん あい
﹃心をつくし、知恵をつくし、力をつくして神を愛し、また自分を愛するよう

52
とな びと あい はんさい ぎせい だいじ
に隣り人を愛する﹄ということは、すべての燔祭や犠牲よりも、はるかに大事
かれ てきせつ こたえ み い
なことです﹂。 三四イエスは、彼が適切な答をしたのを見て言われた、
﹁あなた
かみ くに とお のち と もの
は神の国から遠くない﹂。それから後は、イエスにあえて問う者はなかった。
みや おし い りっぽうがくしゃ
三五 イエスが宮で教えておられたとき、こう言われた、
﹁律法学者たちは、どう
こ い じしん せいれい かん
し て キ リ ス ト を ダ ビ デ の 子 だ と 言 う の か。 三 六ダ ビ デ 自身 が 聖霊 に 感 じ て

言った、
しゅ しゅ おお
﹃主はわが主に仰せになった、
てき あし お
あなたの敵をあなたの足もとに置くときまでは、
みぎ ざ
わたしの右に座していなさい﹄。
じしん しゅ よ
三七 このように、ダビデ自身がキリストを主と呼んでいる。それなら、どうし

てキリストはダビデの子であろうか﹂。
マルコによる福音書

おお ぐんしゅう よろこ みみ かたむ おしえ なか


大ぜいの群 衆は、 喜んでイエスに耳を傾けていた。 三八イエスはその教の中
い りっぽうがくしゃ き かれ なが ころも き ある
で言われた、﹁律法学者に気をつけなさい。彼らは長い衣を着て歩くことや、
ひろば かいどう じょうせき えんかい じょうざ この
広場であいさつされることや、 三九また会堂の上 席、宴会の上座を好んでい
いえ く たお み なが いのり かれ
る。 四〇また、やもめたちの家を食い倒し、見えのために長い祈をする。彼ら

はもっときびしいさばきを受けるであろう﹂。

53
はこ ぐんしゅう はこ かね な い
四一 イエスは、さいせん箱にむかってすわり、群 衆がその箱に金を投げ入れる
ようす み おお かねもち かね な い
様子を見ておられた。多くの金持は、たくさんの金を投げ入れていた。 四二と
まず い
ころが、ひとりの貧しいやもめがきて、レプタ二つを入れた。それは一コド
あた で し よ よ い き
ラントに当る。 四三そこで、イエスは弟子たちを呼び寄せて言われた、
﹁よく聞
まず はこ な い ひと なか
きなさい。あの貧しいやもめは、さいせん箱に投げ入れている人たちの中で、
い もの なか な い
だれよりもたくさん入れたのだ。 四四みんなの者はありあまる中から投げ入
ふじん とぼ なか も もの せいかつ ひ ぜ ん ぶ
れたが、あの婦人はその乏しい中から、あらゆる持ち物、その生活費全部を

入れたからである﹂。
第一三章
マルコによる福音書

みや で い で し い せんせい
一 イエスが宮から出て行かれるとき、弟子のひとりが言った、
﹁先生、ごらん
みごと いし りっ ぱ たてもの
なさい。なんという見事な石、なんという立派な建物でしょう﹂。 二イエスは
い おお たてもの いし
言われた、
﹁あなたは、これらの大きな建物をながめているのか。その石一つ
た いし うえ のこ
でもくずされないままで、他の石の上に残ることもなくなるであろう﹂。
やま みや
三 またオリブ山で、宮にむかってすわっておられると、ペテロ、ヤコブ、ヨハ

54
たず はな
ネ、アンデレが、ひそかにお尋ねした。 四﹁わたしたちにお話しください。い
おこ じょうじゅ
つ、そんなことが起るのでしょうか。またそんなことがことごとく成 就する
ばあい ぜんちょう はな
ような場合には、どんな前 兆がありますか﹂。 五そこで、イエスは話しはじめ
ひと まど き おお もの な
られた、
﹁人に惑わされないように気をつけなさい。 六多くの者がわたしの名
な あらわ じぶん い おお ひと まど
を名のって現れ、自分がそれだと言って、多くの人を惑わすであろう。 七ま
せんそう せんそう き おこ
た、戦争と戦争のうわさとを聞くときにも、あわてるな。それは起らねばな
おわ たみ たみ くに くに てきたい た あ
らないが、まだ終りではない。 八民は民に、国は国に敵対して立ち上がるであ
じしん おこ う
ろう。またあちこちに地震があり、またききんが起るであろう。これらは産
くる はじ
みの苦しみの初めである。
じぶん き
九 あなたがたは自分で気をつけていなさい。あなたがたは、わたしのために、
しゅうぎしょ ひ かいどう う ちょうかん おう まえ た かれ
衆議所に引きわたされ、会堂で打たれ、長 官たちや王たちの前に立たされ、彼
マルコによる福音書

たい ふくいん
らに対してあかしをさせられるであろう。 一〇こうして、福音はまずすべての
たみ の つた ひとびと つ い
民に宣べ伝えられねばならない。 一一そして、人々があなたがたを連れて行っ
ひ なに い まえ しんぱい ばあい じぶん
て引きわたすとき、何を言おうかと、前もって心配するな。その場合、自分
しめ かた かた もの じしん せいれい
に示されることを語るがよい。語る者はあなたがた自身ではなくて、聖霊で
きょうだい きょうだい ちち こ ころ わた こ りょうしん さか
ある。 一二また兄 弟は兄 弟を、父は子を殺すために渡し、子は両 親に逆らっ

55
た かれ ころ な
て立ち、彼らを殺させるであろう。 一三また、あなたがたはわたしの名のゆえ
ひと にく さいご た しの もの すく
に、すべての人に憎まれるであろう。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われ
る。
あ にく た ところ た み どくしゃ
一四 荒らす憎むべきものが、立ってはならぬ所に立つのを見たならば︵読者よ、
さと ひとびと やま に おくじょう もの した
悟れ︶、そのとき、ユダヤにいる人々は山へ逃げよ。 一五屋 上にいる者は、下
いえ もの と だ うち はたけ
におりるな。また家から物を取り出そうとして内にはいるな。 一六 畑にいる
もの うわぎ と ひ みおも おんな ち の ご
者は、上着を取りにあとへもどるな。 一七その日には、身重の女と乳飲み子を
おんな ふこう こと ふゆ いの ひ
もつ女とは、不幸である。 一八この事が冬おこらぬように祈れ。 一九その日に
かみ ばんぶつ つく そうぞう はじ げんざい いた こんご
は、神が万物を造られた創造の初めから現在に至るまで、かつてなく今後も
かんなん おこ しゅ きかん ちぢ
ないような患難が起るからである。 二〇もし主がその期間を縮めてくださら
すく もの えら せんみん
ないなら、救われる者はひとりもないであろう。しかし、選ばれた選民のた
マルコによる福音書

きかん ちぢ
めに、その期間を縮めてくださったのである。 二一そのとき、だれかがあなた
み み い
がたに﹃見よ、ここにキリストがいる﹄、
﹃見よ、あそこにいる﹄と言っても、
しん よげんしゃ おこ
それを信じるな。 二二にせキリストたちや、にせ預言者たちが起って、しるし
きせき おこな せんみん まど き
と奇跡とを行い、できれば、選民をも惑わそうとするであろう。 二三だから、気
こと まえ い
をつけていなさい。いっさいの事を、あなたがたに前もって言っておく。

56
ひ かんなん のち ひ くら つき ひかり はな
二四 その日には、この患難の後、日は暗くなり、月はその光を放つことをやめ、
ほし そら お てんたい ゆ うご おお
二五 星は空から落ち、天体は揺り動かされるであろう。 二六そのとき、大いなる
ちから えいこう ひと こ くも の く ひとびと み
力と栄光とをもって、人の子が雲に乗って来るのを、人々は見るであろう。 二
かれ みつかい ち てん しほう
七 そのとき、彼は御使たちをつかわして、地のはてから天のはてまで、四方か
せんみん よ あつ
らその選民を呼び集めるであろう。
き たとえ まな えだ やわ は で
二八 いちじくの木からこの譬を学びなさい。その枝が柔らかになり、葉が出る
なつ ちか こと おこ
ようになると、夏の近いことがわかる。 二九そのように、これらの事が起るの
み ひと こ とぐち ちか し き
を見たならば、人の子が戸口まで近づいていると知りなさい。 三〇よく聞いて
こと おこ じだい ほろ
おきなさい。これらの事が、ことごとく起るまでは、この時代は滅びること
てんち ほろ ことば ほろ
がない。 三一天地は滅びるであろう。しかしわたしの言葉は滅びることがな
ひ とき し てん みつかい こ
い。 三二その日、その時は、だれも知らない。天にいる御使たちも、また子も
マルコによる福音書

し ちち し き め
知らない、ただ父だけが知っておられる。 三三気をつけて、目をさましていな
とき
さい。その時がいつであるか、あなたがたにはわからないからである。 三四そ
たび た ひと いえ で あた しもべ しごと
れはちょうど、旅に立つ人が家を出るに当り、その僕たちに、それぞれ仕事
わ あ せきにん もんばん め めい
を割り当てて責任をもたせ、門番には目をさましておれと、命じるようなも
め いえ しゅじん かえ く
のである。 三五だから、目をさましていなさい。いつ、家の主人が帰って来る

57
ゆうがた よなか な あ がた
のか、夕方か、夜中か、にわとりの鳴くころか、明け方か、わからないから
きゅう かえ ねむ み
である。 三六あるいは急に帰ってきて、あなたがたの眠っているところを見つ
し め い
けるかも知れない。 三七目をさましていなさい。わたしがあなたがたに言う
ことば ひとびと い
この言葉は、すべての人々に言うのである﹂。
第一四章
すぎこし じょこう まつり か まえ さいしちょう りっぽうがくしゃ
一 さて、過越と除酵との祭の二日前になった。祭司長たちや律法学者たちは、
さくりゃく とら ころ はか かれ
策 略をもってイエスを捕えたうえ、なんとかして殺そうと計っていた。 二彼
まつり あいだ みんしゅう さわ おこ し い
らは、
﹁祭の間はいけない。 民 衆が騒ぎを起すかも知れない﹂と言っていた。
びょうにん いえ しょくたく
三 イエスがベタニヤで、らい病 人 シモンの家にいて、食 卓についておられた
マルコによる福音書

おんな ひじょう こうか じゅんすい こうゆ い せっこう


とき、ひとりの女が、非常に高価で純 粋なナルドの香油が入れてある石膏の
も こうゆ あたま そそ
つぼを持ってきて、それをこわし、香油をイエスの頭に注ぎかけた。 四する
ひとびと いきどお たがい い こうゆ
と、ある人々が憤 って互に言った、﹁なんのために香油をこんなにむだにす
こうゆ いじょう う まず ひと ほどこ
るのか。 五この香油を三百デナリ以上にでも売って、貧しい人たちに施すこ
おんな い
とができたのに﹂。そして女をきびしくとがめた。 六するとイエスは言われ

58
おんな こま こと
た、﹁するままにさせておきなさい。なぜ女を困らせるのか。わたしによい事
まず ひと いっしょ
をしてくれたのだ。 七貧しい人たちはいつもあなたがたと一緒にいるから、
こと
したいときにはいつでも、よい事をしてやれる。しかし、わたしはあなたが
いっしょ おんな かぎ こと
た と い つ も 一緒 に い る わ け で は な い。 八こ の 女 は で き る 限 り の 事 を し た の
あぶら そそ ほうむ ようい
だ。すなわち、わたしのからだに油を注いで、あらかじめ葬りの用意をして
き ぜん せ か い ふくいん の つた
くれたのである。 九よく聞きなさい。全世界のどこででも、福音が宣べ伝え
ところ おんな こと きねん かた
られる所では、この女のした事も記念として語られるであろう﹂。
で し さいしちょう
一〇 ときに、十二弟子のひとりイスカリオテのユダは、イエスを祭司長たちに
ひ かれ ところ い かれ き よろこ かね
引きわたそうとして、彼らの所へ行った。 一一彼らはこれを聞いて喜び、金を
あた やくそく ひ
与えることを約束した。そこでユダは、どうかしてイエスを引きわたそうと、
きかい
機会をねらっていた。
マルコによる福音書

じょこうさい だい にち すぎこし こひつじ ひ で し


一二 除酵祭の第一日、すなわち過越の小羊をほふる日に、弟子たちがイエスに
たず すぎこし しょくじ ようい い
尋ねた、
﹁わたしたちは、過越の食事をなさる用意を、どこへ行ってしたらよ
で し つか だ い
いでしょうか﹂。 一三そこで、イエスはふたりの弟子を使いに出して言われた、
しない い みず も おとこ で あ ひと い
﹁市内に行くと、水がめを持っている男に出会うであろう。その人について行
ひと い いえ しゅじん い で し
きなさい。 一四そして、その人がはいって行く家の主人に言いなさい、
﹃弟子た

59
いっしょ すぎこし しょくじ ざしき せんせい い
ちと一緒に過越の食事をする座敷はどこか、と先生が言っておられます﹄。 一五
しゅじん せき ととの ようい かい ひろま み
するとその主人は、席を整えて用意された二階の広間を見せてくれるから、そ
ようい で し で しない
こ に わ た し た ち の た め に 用意 を し な さ い﹂。 一六弟子 た ち は 出 か け て 市内 に
い み い すぎこし しょくじ ようい
行って見ると、イエスが言われたとおりであったので、過越の食事の用意を
した。
ゆうがた で し いっしょ い
一七 夕方になって、イエスは十二弟子と一緒にそこに行かれた。 一八そして、
いちどう せき しょくじ い とく い
一同が席について食事をしているとき言われた、﹁特にあなたがたに言ってお
なか いっしょ しょくじ もの
くが、あなたがたの中のひとりで、わたしと一緒に食事をしている者が、わ
うらぎ で し しんぱい
たしを裏切ろうとしている﹂。 一九弟子たちは心配して、ひとりびとり﹁まさ
い だ い にん
か、わたしではないでしょう﹂と言い出した。 二〇イエスは言われた、
﹁十二人
なか いっしょ おな はち もの
の中のひとりで、わたしと一緒に同じ鉢にパンをひたしている者が、それで
マルコによる福音書

ひと こ じぶん か さ い
ある。 二一たしかに人の子は、自分について書いてあるとおりに去って行く。
ひと こ うらぎ ひと ひと うま
しかし、人の子を裏切るその人は、わざわいである。その人は生れなかった
ほう かれ
方が、彼のためによかったであろう﹂。
いちどう しょくじ と しゅくふく
二二 一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、祝 福してこれをさき、
で し あた い と
弟子たちに与えて言われた、
﹁取れ、これはわたしのからだである﹂。 二三また

60
さかずき と かんしゃ かれ あた いちどう さかずき の
杯を取り、感謝して彼らに与えられると、一同はその杯から飲んだ。 二四イエ
い おお ひと なが けいやく ち
スはまた言われた、﹁これは、多くの人のために流すわたしの契約の血である。
い かみ くに あたら の ひ
二五 あなたがたによく言っておく。神の国で新しく飲むその日までは、わたし
けっ ど み つく の
は決して二度と、ぶどうの実から造ったものを飲むことをしない﹂。
かれ うた のち やま で い
二六 彼らは、さんびを歌った後、オリブ山へ出かけて行った。
で し い みな
二七 そのとき、イエスは弟子たちに言われた、
﹁あなたがたは皆、わたしにつま
ひつじかい う ひつじ ち
ずくであろう。﹃わたしは羊 飼を打つ。そして、羊は散らされるであろう﹄と

書いてあるからである。 二八しかしわたしは、よみがえってから、あなたがた
さき い い
より先にガリラヤへ行くであろう﹂。 二九するとペテロはイエスに言った、
﹁た
もの い
とい、みんなの者がつまずいても、わたしはつまずきません﹂。 三〇イエスは言
い こんや ど な まえ
われた、
﹁あなたによく言っておく。きょう、今夜、にわとりが二度鳴く前に、
マルコによる福音書

い ど し い ちから
そう言うあなたが、三度わたしを知らないと言うだろう﹂。 三一ペテロは力を
い いっしょ し
こめて言った、
﹁たといあなたと一緒に死なねばならなくなっても、あなたを
し けっ もう もの おな
知らないなどとは、決して申しません﹂。みんなの者もまた、同じようなこと

を言った。
いちどう ところ で し い
三二 さて、一同はゲツセマネという所にきた。そしてイエスは弟子たちに言わ

61
いの あいだ
れた、
﹁わたしが祈っている間、ここにすわっていなさい﹂。 三三そしてペテロ、
いっしょ つ い おそ なや
ヤコブ、ヨハネを一緒に連れて行かれたが、恐れおののき、また悩みはじめ
かれ い かな し
て、彼らに言われた、 三四﹁わたしは悲しみのあまり死ぬほどである。ここに
ま め すこ すす い ち ふ
待っていて、目をさましていなさい﹂。 三五そして少し進んで行き、地にひれ伏
とき す さ いの
し、もしできることなら、この時を過ぎ去らせてくださるようにと祈りつづ
い ちち
け、そして言われた、 三六﹁アバ、父よ、あなたには、できないことはありま
さかずき と
せん。どうか、この杯をわたしから取りのけてください。しかし、わたしの
おも
思いではなく、みこころのままになさってください﹂。 三七それから、きてごら
で し ねむ い ねむ
んになると、弟子たちが眠っていたので、ペテロに言われた、
﹁シモンよ、眠っ
とき め ゆうわく
ているのか、ひと時も目をさましていることができなかったのか。 三八誘惑に
おちい め いの こころ ねっ にくたい
陥らないように、目をさまして祈っていなさい。 心は熱しているが、肉体が
マルコによる福音書

よわ はな い おな ことば いの
弱 い の で あ る﹂。 三九ま た 離 れ て 行 っ て 同 じ 言葉 で 祈 ら れ た。 四〇ま た き て ご
かれ ねむ め おも
らんになると、彼らはまだ眠っていた。その目が重くなっていたのである。
かれ こた ど め い
そして、彼らはどうお答えしてよいか、わからなかった。 四一三度目にきて言
ねむ やす とき
われた、
﹁まだ眠っているのか、休んでいるのか。もうそれでよかろう。時が
み ひと こ つみびと て わた た い み
きた。見よ、人の子は罪人らの手に渡されるのだ。 四二立て、さあ行こう。見

62
うらぎ もの ちか
よ、わたしを裏切る者が近づいてきた﹂。
はな で し
四三 そしてすぐ、イエスがまだ話しておられるうちに、十二弟子のひとりのユ
すす さいしちょう りっぽうがくしゃ ちょうろう おく ぐんしゅう
ダが進みよってきた。また祭司長、律法学者、 長 老たちから送られた群 衆
けん ぼう も かれ うらぎ もの
も、剣と棒とを持って彼についてきた。 四四イエスを裏切る者は、あらかじめ
かれ あいず せっぷん もの ひと ひと
彼らに合図をしておいた、
﹁わたしの接吻する者が、その人だ。その人をつか
ひ い かれ く ちかよ
まえて、まちがいなく引ひっぱって行け﹂。 四五彼は来るとすぐ、イエスに近寄
せんせい い せっぷん ひとびと て
り、
﹁先生﹂と言って接吻した。 四六人々はイエスに手をかけてつかまえた。 四
た もの けん ぬ だいさいし しもべ
七 すると、イエスのそばに立っていた者のひとりが、剣を抜いて大祭司の僕に
き かたみみ き おと かれ い
切りかかり、その片耳を切り落した。 四八イエスは彼らにむかって言われた、
ごうとう けん ぼう も とら
﹁あなたがたは強盗にむかうように、剣や棒を持ってわたしを捕えにきたの
まいにち いっしょ みや おし
か。 四九わたしは毎日あなたがたと一緒に宮にいて教えていたのに、わたしを
マルコによる福音書

せいしょ ことば じょうじゅ


つ か ま え は し な か っ た。し か し 聖書 の 言葉 は 成 就 さ れ ね ば な ら な い﹂。 五 〇
で し みな み す に さ
弟子たちは皆イエスを見捨てて逃げ去った。
わかもの み あ ま ぬ の い
五一 ときに、ある若者が身に亜麻布をまとって、イエスのあとについて行った
ひとびと かれ あ ま ぬ の す はだか に
が、人々が彼をつかまえようとしたので、 五二その亜麻布を捨てて、 裸で逃げ

て行った。

63
だいさいし つ い さいしちょう ちょうろう りっぽう
五三 それから、イエスを大祭司のところに連れて行くと、祭司長、長 老、律法
がくしゃ あつ とお い
学者たちがみな集まってきた。 五四ペテロは遠くからイエスについて行って、
だいさいし なかにわ こ したやく ひ
大祭司の中庭まではいり込み、その下役どもにまじってすわり、火にあたっ
ていた。
さいしちょう ぜん ぎ か い しけい ふ り
五五 さて、祭司長たちと全議会とは、イエスを死刑にするために、イエスに不利
しょうこ み え おお もの たい
な証拠を見つけようとしたが、得られなかった。 五六多くの者がイエスに対し
ぎしょう た しょうげん あ
て偽証を立てたが、その証 言が合わなかったからである。 五七ついに、ある
ひとびと た たい ぎしょう た い
人々が立ちあがり、イエスに対して偽証を立てて言った、 五八﹁わたしたちは
ひと て つく しんでん う か のち て つく
この人が﹃わたしは手で造ったこの神殿を打ちこわし、三日の後に手で造ら
べつ しんでん た い き
れない別の神殿を建てるのだ﹄と言うのを聞きました﹂。 五九しかし、このよう
しょうげん たがい あ だいさいし た なか すす
な証 言も互に合わなかった。 六〇そこで大祭司が立ちあがって、まん中に進
マルコによる福音書

き い なに こた ひとびと
み、イエスに聞きただして言った、
﹁何も答えないのか。これらの人々があな
たい ふ り しょうげん もう た
たに対して不利な証 言を申し立てているが、どうなのか﹂。 六一しかし、イエ
だま なに こた だいさいし ふたた き
ス は 黙 っ て い て、何 も お 答 え に な ら な か っ た。大祭司 は 再 び 聞 き た だ し て
い もの こ い
言った、
﹁あなたは、ほむべき者の子、キリストであるか﹂。 六二イエスは言わ
ひと こ ちから もの みぎ ざ てん
れた、
﹁わたしがそれである。あなたがたは人の子が力ある者の右に座し、天

64
くも の く み だいさいし ころも ひ さ
の雲に乗って来るのを見るであろう﹂。 六三すると、大祭司はその衣を引き裂
い いじょう しょうにん ひつよう
いて言った、
﹁どうして、これ以上、 証 人の必要があろう。 六四あなたがたは
ごと き いけん かれ みな
このけがし言を聞いた。あなたがたの意見はどうか﹂。すると、彼らは皆、イ
し あた だんてい もの
エスを死に当るものと断定した。 六五そして、ある者はイエスにつばきをか
めかく い い
け、目隠しをし、こぶしでたたいて、
﹁言いあててみよ﹂と言いはじめた。ま
したやく ひ て
た下役どもはイエスを引きとって、手のひらでたたいた。
した なかにわ だいさいし じょちゅう
六六 ペテロは下で中庭にいたが、大祭司の女 中のひとりがきて、 六七ペテロが
ひ み かれ み びと
火にあたっているのを見ると、彼を見つめて、
﹁あなたもあのナザレ人イエス
いっしょ い う け し
と一緒だった﹂と言った。 六八するとペテロはそれを打ち消して、
﹁わたしは知
い こと い にわぐち ほう
らない。あなたの言うことがなんの事か、わからない﹂と言って、庭口の方
で い さき じょちゅう かれ み た ひとびと
に出て行った。 六九ところが、先の女 中が彼を見て、そばに立っていた人々
マルコによる福音書

ひと なかま い
に、またもや﹁この人はあの仲間のひとりです﹂と言いだした。 七〇ペテロは
ふたた う け た ひと
再びそれを打ち消した。しばらくして、そばに立っていた人たちがまたペテ
い たし かれ なかま びと
ロに言った、﹁確かにあなたは彼らの仲間だ。あなたもガリラヤ人だから﹂。 七
かれ はな ひと なに し
一 しかし、彼は、
﹁あなたがたの話しているその人のことは何も知らない﹂と
い は はげ ちか ど め な
言い張って、激しく誓いはじめた。 七二するとすぐ、にわとりが二度目に鳴い

65
ど な まえ ど し い
た。ペテロは、
﹁にわとりが二度鳴く前に、三度わたしを知らないと言うであ
い ことば おも だ おも な
ろう﹂と言われたイエスの言葉を思い出し、そして思いかえして泣きつづけ
た。
第一五章
よ あ さいしちょう ちょうろう りっぽうがくしゃ ぜん ぎ か い きょうぎ
一 夜が明けるとすぐ、祭司長たちは長 老、律法学者たち、および全議会と協議
すえ しば ひ だ わた
をこらした末、イエスを縛って引き出し、ピラトに渡した。 二ピラトはイエス
たず じん おう
に尋ねた、﹁あなたがユダヤ人の王であるか﹂。イエスは、﹁そのとおりである﹂
こた さいしちょう うった
とお答えになった。 三そこで祭司長たちは、イエスのことをいろいろと訴え
いちど たず なに こた み
た。 四ピラトはもう一度イエスに尋ねた、
﹁何も答えないのか。見よ、あなた
マルコによる福音書

たい つぎつぎ うった
に対してあんなにまで次々に訴えているではないか﹂。 五しかし、イエスはピ
ふ し ぎ おも なに こた
ラトが不思議に思うほどに、もう何もお答えにならなかった。
まつり ひとびと ねが で しゅうじん
六 さて、 祭のたびごとに、ピラトは人々が願い出る囚 人ひとりを、ゆるして
ぼうどう おこ ひとごろ
や る こ と に し て い た。 七こ こ に、暴動 を 起 し 人殺 し を し て つ な が れ て い た
ぼうと なか もの ぐんしゅう お
暴徒の中に、バラバという者がいた。 八群 衆が押しかけてきて、いつものと

66
ようきゅう かれ
おりにしてほしいと要 求しはじめたので、 九ピラトは彼らにむかって、
﹁おま
じん おう い
え た ち は ユ ダ ヤ 人 の 王 を ゆ る し て も ら い た い の か﹂と 言 っ た。 一〇そ れ は、
さいしちょう ひ
祭司長たちがイエスを引きわたしたのは、ねたみのためであることが、ピラ
さいしちょう ほう
トにわかっていたからである。 一一しかし祭司長たちは、バラバの方をゆるし
ぐんしゅう せんどう かれ い
て も ら う よ う に、 群 衆 を 煽動 し た。 一二そ こ で ピ ラ ト は ま た 彼 ら に 言 っ た、
じん おう よ ひと
﹁それでは、おまえたちがユダヤ人の王と呼んでいるあの人は、どうしたらよ
かれ さけ じゅうじか い
いか﹂。 一三彼らは、また叫んだ、
﹁十字架につけよ﹂。 一四ピラトは言った、
﹁あ
ひと あくじ かれ はげ さけ
の人は、いったい、どんな悪事をしたのか﹂。すると、彼らは一そう激しく叫
じゅうじか い ぐんしゅう まんぞく
んで、
﹁十字架につけよ﹂と言った。 一五それで、ピラトは群 衆を満足させよ
おも う じゅうじか
うと思って、バラバをゆるしてやり、イエスをむち打ったのち、十字架につ

けるために引きわたした。
マルコによる福音書

へいし ていたく そうとくかんてい うち つ い ぜん ぶ た い


一六 兵士たちはイエスを、邸宅、すなわち総督官邸の内に連れて行き、全部隊
よ あつ むらさき ころも き かんむり あ
を呼び集めた。 一七そしてイエスに紫の衣を着せ、いばらの冠を編んでかぶら
じん おう い けいれい あし
せ、 一八﹁ユダヤ人の王、ばんざい﹂と言って敬礼をしはじめた。 一九また、葦
ぼう あたま おが
の棒でその頭をたたき、つばきをかけ、ひざまずいて拝んだりした。 二〇こう
ちょうろう むらさき ころも もと うわぎ き
して、イエスを嘲 弄したあげく、 紫の衣をはぎとり、元の上着を着せた。そ

67
かれ じゅうじか ひ だ
れから、彼らはイエスを十字架につけるために引き出した。 二一そこへ、アレ
ちち びと こうがい とお
キ サ ン デ ル と ル ポ ス と の 父 シ モ ン と い う ク レ ネ 人 が、郊外 か ら き て 通 り か
ひとびと じゅうじか む り お
かったので、人々はイエスの十字架を無理に負わせた。 二二そしてイエスをゴ
い み ところ つ い
ルゴタ、その意味は、されこうべ、という所に連れて行った。 二三そしてイエ
もつやく しゅ だ う
スに、没薬をまぜたぶどう酒をさし出したが、お受けにならなかった。 二四そ
じゅうじか ひ なに と
れから、イエスを十字架につけた。そしてくじを引いて、だれが何を取るか
さだ きもの わ じゅうじか あさ
を定めたうえ、イエスの着物を分けた。 二五イエスを十字架につけたのは、朝
じ ざいじょう が じん おう
の九時ごろであった。 二六イエスの罪 状 書きには﹁ユダヤ人の王﹂と、しるし
とも ごうとう みぎ
てあった。 二七また、イエスと共にふたりの強盗を、ひとりを右に、ひとりを
ひだり じゅうじか かれ つみびと かぞ
左に、十字架につけた。︹ 二八 こうして﹁彼は罪人たちのひとりに数えられた﹂
か ことば じょうじゅ とお もの
と書いてある言葉が成 就したのである。︺ 二九そこを通りかかった者たちは、
マルコによる福音書

あたま ふ い しんでん う
頭を振りながら、イエスをののしって言った、
﹁ああ、神殿を打ちこわして三
か た もの じゅうじか じぶん すく さいしちょう
日のうちに建てる者よ、 三〇十字架からおりてきて自分を救え﹂。 三一祭司長た
おな りっぽうがくしゃ いっしょ ちょうろう い
ちも同じように、律法学者たちと一緒になって、かわるがわる嘲 弄して言っ
たにん すく じぶんじしん すく おう
た、
﹁他人を救ったが、自分自身を救うことができない。 三二イスラエルの王キ
じゅうじか み しん
リスト、いま十字架からおりてみるがよい。それを見たら信じよう﹂。また、

68
いっしょ じゅうじか もの
一緒に十字架につけられた者たちも、イエスをののしった。
ひる じ ぜん ち くら じ およ じ
三三 昼の十二時になると、全地は暗くなって、三時に及んだ。 三四そして三時
おおごえ さけ
に、イエスは大声で、
﹁エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ﹂と叫ばれた。そ
かみ かみ み す
れは﹁わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか﹂とい
い み た ひとびと き い
う意味である。 三五すると、そばに立っていたある人々が、これを聞いて言っ
よ ひと はし い かいめん す
た、
﹁そら、エリヤを呼んでいる﹂。 三六ひとりの人が走って行き、海綿に酢い
しゅ ふく あし ぼう の い ま
ぶどう酒を含ませて葦の棒につけ、イエスに飲ませようとして言った、﹁待て、
かれ く み こえたか さけ
エリヤが彼をおろしに来るかどうか、見ていよう﹂。 三七イエスは声高く叫ん
いき しんでん まく うえ した まっぷた
で、ついに息をひきとられた。 三八そのとき、神殿の幕が上から下まで真二つ
さ た ひゃくそつちょう いき
に裂けた。 三九イエスにむかって立っていた百 卒 長は、このようにして息を
み い ひと かみ こ
ひきとられたのを見て言った、
﹁まことに、この人は神の子であった﹂。 四〇ま
マルコによる福音書

とお ほう み おんな なか しょう
た、遠くの方から見ている女たちもいた。その中には、マグダラのマリヤ、小
はは かれ
ヤコブとヨセとの母マリヤ、またサロメがいた。 四一彼らはイエスがガリラヤ
したが つか おんな
におられたとき、そのあとに従 って仕えた女たちであった。なおそのほか、
とも のぼ おお おんな
イエスと共にエルサレムに上ってきた多くの女たちもいた。
ゆう ひ じゅんび ひ あんそくにち ぜんじつ
四二 さて、すでに夕がたになったが、その日は準備の日、すなわち安息日の前日

69
だいたん ところ い
であったので、 四三アリマタヤのヨセフが大胆にもピラトの所へ行き、イエス
ひきと ねが かれ ち い たか ぎいん かれ じ し ん かみ
のからだの引取りかたを願った。彼は地位の高い議員であって、彼自身、神
くに ま のぞ ひと し
の国を待ち望んでいる人であった。 四四ピラトは、イエスがもはや死んでし
ふしん おも ひゃくそつちょう よ し たず
まったのかと不審に思い、 百 卒 長を呼んで、もう死んだのかと尋ねた。 四五
ひゃくそつちょう たし うえ したい わた
そして、 百 卒 長から確かめた上、死体をヨセフに渡した。 四六そこで、ヨセ
あ ま ぬ の か もと あ ま ぬ の つつ いわ ほ
フは亜麻布を買い求め、イエスをとりおろして、その亜麻布に包み、岩を掘っ
つく はか おさ はか いりぐち いし
て造った墓に納め、墓の入口に石をころがしておいた。 四七マグダラのマリヤ
はは おさ ば しょ み
とヨセの母マリヤとは、イエスが納められた場所を見とどけた。
第一六章
マルコによる福音書

あんそくにち おわ はは
一 さて、安息日が終ったので、マグダラのマリヤとヤコブの母マリヤとサロメ
い ぬ こうりょう か もと しゅう はじ
とが、行ってイエスに塗るために、 香 料を買い求めた。 二そして週の初めの
ひ そうちょう ひ で はか い かれ
日に、 早 朝、日の出のころ墓に行った。 三そして、彼らは﹁だれが、わたし
はか いりぐち いし はな あ
たちのために、墓の入口から石をころがしてくれるのでしょうか﹂と話し合っ
め み いし
ていた。 四ところが、目をあげて見ると、石はすでにころがしてあった。この

70
いし ひじょう おお はか なか みぎて まっしろ なが ころも き
石 は 非常 に 大 き か っ た。 五墓 の 中 に は い る と、右手 に 真白 な 長 い 衣 を 着 た
わかもの み ひじょう おどろ わかもの い
若者 が す わ っ て い る の を 見 て、非常 に 驚 い た。 六す る と こ の 若者 は 言 っ た、
おどろ じゅうじか びと さが
﹁驚くことはない。あなたがたは十字架につけられたナザレ人イエスを捜し
ているのであろうが、イエスはよみがえって、ここにはおられない。ごらん
おさ ば しょ いま で し ところ
なさい、ここがお納めした場所である。 七今から弟子たちとペテロとの所へ
い つた さき い
行って、こう伝えなさい。イエスはあなたがたより先にガリラヤへ行かれる。
い あ
かねて、あなたがたに言われたとおり、そこでお会いできるであろう、と﹂。
おんな おそ はか で に さ ひと なに
八 女たちはおののき恐れながら、墓から出て逃げ去った。そして、人には何
い おそ
も言わなかった。恐ろしかったからである。
しゅう はじ ひ あさはや
︹ 九 週の初めの日の朝早く、イエスはよみがえって、まずマグダラのマリヤに
ご じしん いぜん おんな あくれい お だ
御自身をあらわされた。イエスは以前に、この女から七つの悪霊を追い出さ
マルコによる福音書

いっしょ ひとびと な かな
れたことがある。 一〇マリヤは、イエスと一緒にいた人々が泣き悲しんでいる
ところ い し かれ い こと かのじょ
所に行って、それを知らせた。 一一彼らは、イエスが生きておられる事と、彼女
ご じしん こと き しん
に御自身をあらわされた事とを聞いたが、信じなかった。
のち ほう ある
一二 この後、そのうちのふたりが、いなかの方へ歩いていると、イエスはちがっ
すがた ご じしん ひとびと ところ い はな
た姿で御自身をあらわされた。 一三このふたりも、ほかの人々の所に行って話

71
かれ はなし しん
したが、彼らはその話を信じなかった。
のち で し しょくたく あらわ かれ ふ
一四 その後、イエスは十一弟子が食 卓についているところに現れ、彼らの不
しんこう こころ せ かれ
信仰と、 心のかたくななことをお責めになった。彼らは、よみがえられたイ
み ひとびと い しん かれ い
エスを見た人々の言うことを、信じなかったからである。 一五そして彼らに言
ぜん せ か い で い つく ふくいん の つた
われた、﹁全世界に出て行って、すべての造られたものに福音を宣べ伝えよ。
しん う もの すく ふ しんこう もの つみ さだ
一六 信じてバプテスマを受ける者は救われる。しかし、不信仰の者は罪に定め
しん もの ともな かれ
られる。 一七信じる者には、このようなしるしが伴う。すなわち、彼らはわた
な あくれい お だ あたら ことば かた
しの名で悪霊を追い出し、新しい言葉を語り、一八へびをつかむであろう。ま
どく の けっ がい う びょうにん て
た、毒を飲んでも、決して害を受けない。 病 人に手をおけば、いやされる﹂。
しゅ かれ かた おわ てん かみ みぎ
一九 主イエスは彼らに語り終ってから、天にあげられ、神の右にすわられた。 二
で し で い いた ところ ふくいん の つた しゅ かれ とも はたら
〇 弟子たちは出て行って、至る所で福音を宣べ伝えた。主も彼らと共に働き、
マルコによる福音書

みことば ともな たし しめ
御言に伴うしるしをもって、その確かなことをお示しになった。︺

72
ふくいんしょ
ルカによる福音書
第一章
あいだ じょうじゅ で き ご と さいしょ した み ひとびと
一 わ た し た ち の 間 に 成 就 さ れ た 出来事 を、最初 か ら 親 し く 見 た 人々 で あ っ
みことば つか ひとびと つた ものがたり か つら おお ひと
て、 二御言に仕えた人々が伝えたとおり物 語に書き連ねようと、多くの人が
て つ かっ か こと はじ くわ
手を着けましたが、三テオピロ閣下よ、わたしもすべての事を初めから詳しく
しら じゅんじょただ か かっ か けん
調べていますので、ここに、それを順 序 正しく書きつづって、閣下に献じる
き こと かくじつ
ことにしました。 四すでにお聞きになっている事が確実であることを、これ
じゅうぶん し
によって十 分に知っていただきたいためであります。
おう よ くみ さいし な もの
五 ユダヤの王ヘロデの世に、アビヤの組の祭司で名をザカリヤという者がい
つま け むすめ な
た。その妻はアロン家の娘のひとりで、名をエリサベツといった。 六ふたり
ルカによる福音書

かみ ただ ひと しゅ いまし さだ おちど
と も 神 の み ま え に 正 し い 人 で あ っ て、主 の 戒 め と 定 め と を、み な 落度 な く
おこな ふにん おんな かれ こ
行 っていた。 七ところが、エリサベツは不妊の女であったため、彼らには子が
としお
なく、そしてふたりともすでに年老いていた。

0
くみ とうばん かみ さいし つとめ
八 さてザカリヤは、その組が当番になり神のみまえに祭司の務をしていたと
さ い し しょく かんれい したが ひ しゅ せいじょ こう
き、 九祭司 職の慣例に従 ってくじを引いたところ、主の聖所にはいって香を
こう あいだ おお みんしゅう そと いの
たくことになった。 一〇香をたいている間、多くの民 衆はみな外で祈ってい
しゅ みつかい あらわ こうだん みぎ た
た。 一一すると主の御使が現れて、香壇の右に立った。 一二ザカリヤはこれを
み まど きょうふ ねん おそ みつかい かれ い おそ
見て、おじ惑い、恐怖の念に襲われた。 一三そこで御使が彼に言った、
﹁恐れる
いのり き つま
な、ザカリヤよ、あなたの祈が聞きいれられたのだ。あなたの妻エリサベツ
おとこ こ う こ な かれ
は男の子を産むであろう。その子をヨハネと名づけなさい。 一四彼はあなた
よろこ たの おお ひとびと たんじょう よろこ
に喜びと楽しみとをもたらし、多くの人々もその誕 生を喜ぶであろう。 一五
かれ しゅ おお もの しゅ つよ さけ の はは
彼は主のみまえに大いなる者となり、ぶどう酒や強い酒をいっさい飲まず、母
たいない とき せいれい み
の胎内にいる時からすでに聖霊に満たされており、 一六そして、イスラエルの
おお こ しゅ かれ かみ た かえ かれ れい
多くの子らを、主なる彼らの神に立ち帰らせるであろう。 一七彼はエリヤの霊
ちから さきだ い ちち こころ こ む さか もの
と力とをもって、みまえに先立って行き、父の心を子に向けさせ、逆らう者
ルカによる福音書

ぎじん おも も ととの たみ しゅ そな
に義人の思いを持たせて、 整えられた民を主に備えるであろう﹂。 一八すると
みつかい い こと
ザカリヤは御使に言った、﹁どうしてそんな事が、わたしにわかるでしょうか。
ろうじん つま とし みつかい こた い
わたしは老人ですし、妻も年をとっています﹂。 一九御使が答えて言った、
﹁わ
かみ た よろこ し
たしは神のみまえに立つガブリエルであって、この喜ばしい知らせをあなた

1
かた つた とき く じょうじゅ
に語り伝えるために、つかわされたものである。 二〇時が来れば成 就するわ
ことば しん こと おこ ひ
たしの言葉を信じなかったから、あなたはおしになり、この事の起る日まで、
い みんしゅう ま かれ せいじょない
ものが言えなくなる﹂。 二一民 衆はザカリヤを待っていたので、彼が聖所内で
ひま ふ し ぎ おも かれ で もの い
暇どっているのを不思議に思っていた。 二二ついに彼は出てきたが、物が言え
ひとびと かれ せいじょない み さと かれ かれ
なかったので、人々は彼が聖所内でまぼろしを見たのだと悟った。彼は彼ら
あいず ひ つとめ きじつ
に合図をするだけで、引きつづき、おしのままでいた。 二三それから務の期日
おわ いえ かえ
が終ったので、家に帰った。
つま げつ ひ
二四 そののち、妻エリサベツはみごもり、五か月のあいだ引きこもっていたが、
しゅ いま こころ ひとびと あいだ はじ と
二五 ﹁主は、今わたしを心にかけてくださって、人々の間からわたしの恥を取
のぞ い
り除くために、こうしてくださいました﹂と言った。
げつ め みつかい かみ
二六 六か月目に、御使ガブリエルが、神からつかわされて、ナザレというガリ
まち いちしょじょ しょじょ け で
ラヤの町の一処女のもとにきた。 二七この処女はダビデ家の出であるヨセフ
ルカによる福音書

ひと な みつかい
という人のいいなづけになっていて、名をマリヤといった。 二八御使がマリヤ
い めぐ おんな しゅ とも
のところにきて言った、
﹁恵まれた女よ、おめでとう、主があなたと共におら
ことば むなさわ
れます﹂。 二九この言葉にマリヤはひどく胸騒ぎがして、このあいさつはなん
こと おも みつかい い おそ
の事であろうかと、思いめぐらしていた。 三〇すると御使が言った、﹁恐れる

2
かみ めぐ み
な、マリヤよ、あなたは神から恵みをいただいているのです。 三一見よ、あな
おとこ こ う こ な
たはみごもって男の子を産むでしょう。その子をイエスと名づけなさい。 三二
かれ おお もの たか もの こ
彼は大いなる者となり、いと高き者の子と、となえられるでしょう。そして、
しゅ かみ かれ ちち おうざ あた かれ
主なる神は彼に父ダビデの王座をお与えになり、三三彼はとこしえにヤコブの
いえ しはい しはい かぎ つづ みつかい
家を支配し、その支配は限りなく続くでしょう﹂。 三四そこでマリヤは御使に
い こと え おっと
言った、
﹁どうして、そんな事があり得ましょうか。わたしにはまだ夫があり
みつかい こた い せいれい のぞ たか もの
ませんのに﹂。 三五御使が答えて言った、
﹁聖霊があなたに臨み、いと高き者の
ちから うま で こ せい
力があなたをおおうでしょう。それゆえに、生れ出る子は聖なるものであり、
かみ こ しんぞく ろうねん
神の子と、となえられるでしょう。 三六あなたの親族エリサベツも老年ながら
こ やど ふにん おんな げつ
子を宿しています。不妊の女といわれていたのに、はや六か月になっていま
かみ
す。 三七神 に は、な ん で も で き な い こ と は あ り ま せ ん﹂。 三八そ こ で マ リ ヤ が
い しゅ ことば み な
言った、﹁わたしは主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますよう
ルカによる福音書

みつかい かのじょ はな い
に﹂。そして御使は彼女から離れて行った。
た おおいそ やまざと まち い
三九 そのころ、マリヤは立って、大急ぎで山里へむかいユダの町に行き、 四〇ザ
いえ
カリヤの家にはいってエリサベツにあいさつした。 四一エリサベツがマリヤ
き こ たいない せいれい み
のあいさつを聞いたとき、その子が胎内でおどった。エリサベツは聖霊に満

3
こえたか さけ い おんな なか しゅくふく
たされ、 四二声高く叫んで言った、
﹁あなたは女の中で祝 福されたかた、あな
たい み しゅくふく しゅ ははうえ
たの胎の実も祝 福されています。 四三主の母上がわたしのところにきてくだ
こうえい
さるとは、なんという光栄でしょう。 四四ごらんなさい。あなたのあいさつの
こえ みみ こども たいない よろこ しゅ
声がわたしの耳にはいったとき、子供が胎内で喜びおどりました。 四五主のお
かた かなら じょうじゅ しん おんな
語りになったことが必ず成 就すると信じた女は、なんとさいわいなことで

しょう﹂。 四六するとマリヤは言った、
たましい しゅ
﹁わたしの魂は主をあがめ、
れい すくいぬし かみ
わたしの霊は救 主なる神をたたえます。
四七
いや おんな こころ
この卑しい女をさえ、 心にかけてくださいました。
四八
いま よ よ ひとびと おんな い
今からのち代々の人々は、わたしをさいわいな女と言うでしょう、
ちから おお こと
四九 力あるかたが、わたしに大きな事をしてくださったからです。

そのみ名はきよく、
ルカによる福音書

よ よ かぎ
そのあわれみは、代々限りなく
五〇
しゅ おそ もの およ
主をかしこみ恐れる者に及びます。
しゅ うで ちから
主はみ腕をもって力をふるい、
五一
こころ おも たか もの お ち
心の思いのおごり高ぶる者を追い散らし、

4
けんりょく もの おうざ ひ
五二 権 力ある者を王座から引きおろし、
いや もの ひ あ
卑しい者を引き上げ、
う もの よ あ
五三 飢えている者を良いもので飽かせ、
と もの くうふく かえ
富んでいる者を空腹のまま帰らせなさいます。
しゅ わす
五四 主は、あわれみをお忘れにならず、
しもべ たす
その僕 イスラエルを助けてくださいました、
ふ そ しそん
五五 わたしたちの父祖アブラハムとその子孫とを
やくそく
とこしえにあわれむと約束なさったとおりに﹂。
げつ たいざい いえ かえ
五六 マリヤは、エリサベツのところに三か月ほど滞在してから、家に帰った。
つき み おとこ こ う きんじょ ひとびと しんぞく
五七 さてエリサベツは月が満ちて、男の子を産んだ。 五八近所の人々や親族は、
しゅ おお かのじょ き とも よろこ
主が大きなあわれみを彼女におかけになったことを聞いて、共どもに喜んだ。
か め おさ ご かつれい ひとびと ちち な
八日目になったので、幼な子に割礼をするために人々がきて、父の名にち
ルカによる福音書

五九
な ははおや
なんでザカリヤという名にしようとした。 六〇ところが、母親は、
﹁いいえ、ヨ
な い ひとびと しんぞく
ハネという名にしなくてはいけません﹂と言った。 六一人々は、
﹁あなたの親族
なか な もの かのじょ い
の中には、そういう名のついた者は、ひとりもいません﹂と彼女に言った。 六
ちちおや な あいず たず
二 そして父親に、どんな名にしたいのですかと、合図で尋ねた。 六三ザカリヤ

5
かきいた も な か
は書板を持ってこさせて、それに﹁その名はヨハネ﹂と書いたので、みんな
もの ふ し ぎ おも た くち ひら した
の者は不思議に思った。 六四すると、立ちどころにザカリヤの口が開けて舌が
かた だ かみ きんじょ ひとびと おそ
ゆるみ、語り出して神をほめたたえた。 六五近所の人々はみな恐れをいだき、
やまざと いた こと かた つた
またユダヤの山里の至るところに、これらの事がことごとく語り伝えられた
き もの みな こころ と こ もの
ので、 六六聞く者たちは皆それを心に留めて、
﹁この子は、いったい、どんな者
かた あ しゅ て かれ とも
になるだろう﹂と語り合った。主のみ手が彼と共にあった。
ちち せいれい み よげん い
六七 父ザカリヤは聖霊に満たされ、預言して言った、
しゅ かみ
六八 ﹁主なるイスラエルの神は、ほむべきかな。
かみ たみ かえり
神はその民を顧みてこれをあがない、
すくい つの
六九 わたしたちのために救の角を
しもべ いえ た
僕 ダビデの家にお立てになった。
ふる せい よげんしゃ くち かた
古くから、聖なる預言者たちの口によってお語りになったように、
ルカによる福音書

七〇
てき にく もの て すく
七一 わたしたちを敵から、またすべてわたしたちを憎む者の手から、救い

出すためである。
かみ ふ そ せい
七二 こうして、神はわたしたちの父祖たちにあわれみをかけ、その聖なる
けいやく
契約、

6
ふ そ た ちか
七三 すなわち、父祖アブラハムにお立てになった誓いをおぼえて、
てき て すく だ
七四 わたしたちを敵の手から救い出し、
い かぎ ただ
七五 生きている限り、きよく正しく、
おそ つか
みまえに恐れなく仕えさせてくださるのである。
おさ ご たか もの よげんしゃ よ
七六 幼な子よ、あなたは、いと高き者の預言者と呼ばれるであろう。
しゅ さきだ い みち そな
主のみまえに先立って行き、その道を備え、
つみ すくい
七七 罪のゆるしによる救を
たみ し
その民に知らせるのであるから。
かみ ふか
七八 これはわたしたちの神のあわれみ深いみこころによる。
ひ ひかり うえ のぞ
また、そのあわれみによって、日の光が上からわたしたちに臨み、
あんこく し かげ す もの てら
七九 暗黒と死の陰とに住む者を照し、
あし へいわ みち みちび
わたしたちの足を平和の道へ導くであろう﹂。
ルカによる福音書

おさ ご せいちょう れい つよ あらわ ひ
八〇 幼な子は成 長し、その霊も強くなり、そしてイスラエルに現れる日まで、
あらの
荒野にいた。

7
第二章
ぜん せ か い じんこうちょうさ ちょくれい こうてい で
一 そのころ、全世界の人口調査をせよとの勅 令が、皇帝アウグストから出た。
そうとく とき おこな さいしょ じんこうちょうさ
二 これは、クレニオがシリヤの総督であった時に行われた最初の人口調査で
ひとびと とうろく じぶん まち かえ い
あった。 三人々はみな登録をするために、それぞれ自分の町へ帰って行った。
かけい けっとう まち
四 ヨセフもダビデの家系であり、またその血統であったので、ガリラヤの町ナ
で まち のぼ い
ザレを出て、ユダヤのベツレヘムというダビデの町へ上って行った。 五それ
みおも つま とも とうろく
は、すでに身重になっていたいいなづけの妻マリヤと共に、登録をするため
かれ たいざい あいだ つき
であった。 六ところが、彼らがベツレヘムに滞在している間に、マリヤは月が
み ういご う ぬの かいば なか ね きゃくま かれ
満ちて、 七初子を産み、布にくるんで、飼葉おけの中に寝かせた。客間には彼
よ ち
らのいる余地がなかったからである。
ちほう ひつじかい よる のじゅく ひつじ む ばん
さて、この地方で羊 飼たちが夜、野宿しながら羊の群れの番をしていた。 九
ルカによる福音書


しゅ みつかい あらわ しゅ えいこう かれ てら かれ ひじょう
すると主の御使が現れ、主の栄光が彼らをめぐり照したので、彼らは非常に
おそ みつかい い おそ み たみ あた おお
恐れた。 一〇御使は言った、
﹁恐れるな。見よ、すべての民に与えられる大きな
よろこ つた まち
喜びを、あなたがたに伝える。 一一きょうダビデの町に、あなたがたのために
すくいぬし うま しゅ
救 主がお生れになった。このかたこそ主なるキリストである。 一二あなたが

8
おさ ご ぬの かいば なか ね み
たは、幼な子が布にくるまって飼葉おけの中に寝かしてあるのを見るであろ
あた
う。それが、あなたがたに与えられるしるしである﹂。 一三するとたちまち、お
てん ぐんぜい あらわ みつかい いっしょ かみ い
びただしい天の軍勢が現れ、御使と一緒になって神をさんびして言った、
たか かみ えいこう
一四 ﹁いと高きところでは、神に栄光があるように、
ち うえ こころ ひとびと へいわ
地の上では、み心にかなう人々に平和があるように﹂。
みつかい かれ はな てん かえ ひつじかい
一五 御使たちが彼らを離れて天に帰ったとき、羊 飼たちは﹁さあ、ベツレヘム
い しゅ し くだ で き ご と み たがい
へ行って、主がお知らせ下さったその出来事を見てこようではないか﹂と、互
かた あ いそ い かいば ね
に語り合った。 一六そして急いで行って、マリヤとヨセフ、また飼葉おけに寝
おさ ご さが かれ あ うえ こ じぶん
かしてある幼な子を捜しあてた。 一七彼らに会った上で、この子について自分
つ し こと ひとびと つた ひとびと ひつじかい はな
たちに告げ知らされた事を、人々に伝えた。 一八人々はみな、羊 飼たちが話し
き ふ し ぎ おも こと
てくれたことを聞いて、不思議に思った。 一九しかし、マリヤはこれらの事を
こころ と おも ひつじかい み き
ことごとく心に留めて、思いめぐらしていた。 二〇羊 飼たちは、見聞きしたこ
ルカによる福音書

なに じぶん かた かみ
とが何もかも自分たちに語られたとおりであったので、神をあがめ、またさ
かえ い
んびしながら帰って行った。
か す かつれい とき じゅたい みつかい つ
二一 八日が過ぎ、割礼をほどこす時となったので、受胎のまえに御使が告げた
おさ ご な
とおり、幼な子をイエスと名づけた。

9
りっぽう かれ きかん す りょうしん
二二 それから、モーセの律法による彼らのきよめの期間が過ぎたとき、両 親は
おさ ご つ のぼ しゅ りっぽう はは たい はじ
幼な子を連れてエルサレムへ上った。 二三それは主の律法に﹁母の胎を初めて
ひら おとこ こ しゅ せいべつ もの か
開く男の子はみな、主に聖別された者と、となえられねばならない﹂と書い
おさ ご しゅ おな しゅ りっぽう
てあるとおり、幼な子を主にささげるためであり、 二四また同じ主の律法に、
やま いえ わ さだ したが ぎせい
﹁山ばと一つがい、または、家ばとのひな二羽﹂と定めてあるのに従 って、犠牲
とき な ひと
をささげるためであった。 二五その時、エルサレムにシメオンという名の人が
ひと ただ しんこうふか ひと なぐさ ま のぞ
いた。この人は正しい信仰深い人で、イスラエルの慰められるのを待ち望ん
せいれい かれ やど しゅ すくいぬし あ
でいた。また聖霊が彼に宿っていた。 二六そして主のつかわす救 主に会うま
し せいれい しめ う ひと みたま かん
では死ぬことはないと、聖霊の示しを受けていた。 二七この人が御霊に感じて
みや りっぽう さだ おこな りょうしん こ
宮にはいった。すると律法に定めてあることを行うため、両 親もその子イエ
つ おさ ご うで いだ かみ
スを連れてはいってきたので、 二八シメオンは幼な子を腕に抱き、神をほめた

たえて言った、
ルカによる福音書

しゅ いま ことば
二九 ﹁主よ、今こそ、あなたはみ言葉のとおりに
しもべ やす さ
この僕を安らかに去らせてくださいます、
め いま すくい み
三〇 わたしの目が今あなたの救を見たのですから。
すくい ばんみん そな
三一 この救はあなたが万民のまえにお備えになったもので、

10
いほうじん てら けいじ ひかり
三二 異邦人を照す啓示の光、
たみ えいこう
み民イスラエルの栄光であります﹂。
ちち はは おさ ご かた ふ し ぎ おも
三三 父と母とは幼な子についてこのように語られたことを、不思議に思った。
かれ しゅく はは い
三四 するとシメオンは彼らを祝し、そして母マリヤに言った、
﹁ごらんなさい、
おさ ご おお ひと たお た
この幼な子は、イスラエルの多くの人を倒れさせたり立ちあがらせたりする
はんたい う さだ
ために、また反対を受けるしるしとして、定められています。︱︱ 三五 そして、
じしん むね さ つらぬ おお ひと こころ
あなた自身もつるぎで胸を刺し貫かれるでしょう。︱︱それは多くの人の心
おも あらわ
にある思いが、 現れるようになるためです﹂。
ぞく むすめ おんな よ げ ん し ゃ かのじょ
三六 また、アセル族のパヌエルの娘で、アンナという女 預言者がいた。彼女は
ひじょう とし じだい ねんかん おっと とも す
非常に年をとっていた。むすめ時代にとついで、七年間だけ夫と共に住み、 三
のち さい みや はな よる
七 その後やもめぐらしをし、八十四歳になっていた。そして宮を離れずに夜
ひる だんじき いのり かみ つか ろうじょ
も昼も断食と祈とをもって神に仕えていた。 三八この老女も、ちょうどそのと
ルカによる福音書

ちかよ かみ かんしゃ おさ ご
き近寄ってきて、神に感謝をささげ、そしてこの幼な子のことを、エルサレ
すくい ま のぞ ひとびと かた
ムの救を待ち望んでいるすべての人々に語りきかせた。
りょうしん しゅ りっぽう こと
三九 両 親は主の律法どおりすべての事をすませたので、ガリラヤへむかい、
じぶん まち かえ
自分の町ナザレに帰った。

11
おさ ご せいちょう つよ ち え み かみ めぐ
四〇 幼な子は、ますます成 長して強くなり、知恵に満ち、そして神の恵みがそ
うえ
の上にあった。
りょうしん すぎこし まつり まいとし のぼ
四一 さて、イエスの両 親は、過越の祭には毎年エルサレムへ上っていた。 四二イ
さい とき かんれい したが まつり じょうきょう
エスが十二歳になった時も、慣例に従 って祭のために上 京した。 四三ところ
まつり おわ かえ しょうねん いのこ
が、 祭が終って帰るとき、少 年 イエスはエルサレムに居残っておられたが、
りょうしん き みちづ なか おも
両 親はそれに気づかなかった。 四四そして道連れの中にいることと思いこん
にち じ い しんぞく ちじん なか さが
で、一日路を行ってしまい、それから、親族や知人の中を捜しはじめたが、 四
み さが ひきかえ
五 見つからないので、捜しまわりながらエルサレムへ引返した。 四六そして三
か のち みや なか きょうし なか かれ はなし き
日の後に、イエスが宮の中で教師たちのまん中にすわって、彼らの話を聞い
しつもん み き ひとびと かしこ
たり質問したりしておられるのを見つけた。 四七聞く人々はみな、イエスの賢
こたえ きょうたん りょうしん み おどろ はは かれ
さ や そ の 答 に 驚 嘆 し て い た。 四八 両 親 は こ れ を 見 て 驚 き、そ し て 母 が 彼 に
い こと さま
言った、
﹁どうしてこんな事をしてくれたのです。ごらんなさい、おとう様も
ルカによる福音書

しんぱい さが い
わたしも心配して、あなたを捜していたのです﹂。 四九するとイエスは言われ
さが じぶん ちち いえ
た、﹁どうしてお捜しになったのですか。わたしが自分の父の家にいるはずの
ぞん りょうしん かた ことば
ことを、ご存じなかったのですか﹂。 五〇しかし、 両 親はその語られた言葉を
さと りょうしん いっしょ くだ
悟ることができなかった。 五一それからイエスは両 親と一緒にナザレに下っ

12
い かれ つか はは こと こころ と
て行き、彼らにお仕えになった。母はこれらの事をみな心に留めていた。
ち え くわ せ の かみ ひと あい
五二 イエスはますます知恵が加わり、背たけも伸び、そして神と人から愛され
た。
第三章
こうてい ざいい だい ねん そうとく
一 皇帝テベリオ在位の第十五年、ポンテオ・ピラトがユダヤの総督、ヘロデが
りょうしゅ きょうだい ちほう りょうしゅ
ガリラヤの領 主、その兄 弟 ピリポがイツリヤ・テラコニテ地方の領 主、ルサ
りょうしゅ だいさいし かみ
ニヤがアビレネの領 主、 二アンナスとカヤパとが大祭司であったとき、神の
ことば あらの こ のぞ かれ ぜん ち ほ う
言が荒野でザカリヤの子ヨハネに臨んだ。 三彼はヨルダンのほとりの全地方
い つみ え くいあらた の つた
に行って、罪のゆるしを得させる悔 改めのバプテスマを宣べ伝えた。 四それ
よげんしゃ ことば しょ か
は、預言者イザヤの言葉の書に書いてあるとおりである。すなわち
ルカによる福音書

あらの よ もの こえ
﹁荒野で呼ばわる者の声がする、
しゅ みち そな
﹃主の道を備えよ、
みちすじ
その道筋をまっすぐにせよ﹄。
たに う
すべての谷は埋められ、

13
やま おか たい
すべての山と丘とは、平らにされ、
まが
曲ったところはまっすぐに、
みち
わるい道はならされ、
ひと かみ すくい み
六 人はみな神の救を見るであろう﹂。
かれ う で ぐんしゅう
七 さ て、ヨ ハ ネ は、彼 か ら バ プ テ ス マ を 受 け よ う と し て 出 て き た 群 衆 に む
い こ せま かみ いか
かって言った、
﹁まむしの子らよ、迫ってきている神の怒りから、のがれられ
おし くいあらた み
ると、おまえたちにだれが教えたのか。 八だから、 悔 改めにふさわしい実を
むす じぶん ちち こころ なか おも
結べ。自分たちの父にはアブラハムがあるなどと、 心の中で思ってもみる
い かみ いし
な。おまえたちに言っておく。神はこれらの石ころからでも、アブラハムの
こ おこ おの き ね お
子を起すことができるのだ。 九斧がすでに木の根もとに置かれている。だか
よ み むす き き ひ なか な こ
ら、良い実を結ばない木はことごとく切られて、火の中に投げ込まれるのだ﹂。
ぐんしゅう かれ なに
そこで群 衆が彼に、﹁それでは、わたしたちは何をすればよいのですか﹂と
ルカによる福音書

一〇
たず かれ こた い したぎ まい もの も もの わ
尋ねた。 一一彼は答えて言った、
﹁下着を二枚もっている者は、持たない者に分
しょくもつ も もの どうよう しゅぜいにん
け て や り な さ い。 食 物 を 持 っ て い る 者 も 同様 に し な さ い﹂。 一二取税人 も バ
う かれ い せんせい なに
プテスマを受けにきて、彼に言った、
﹁先生、わたしたちは何をすればよいの
かれ い いじょう と た
ですか﹂。 一三彼らに言った、﹁きまっているもの以上に取り立ててはいけな

14
へいそつ い なに
い﹂。 一四兵卒たちもたずねて言った、
﹁では、わたしたちは何をすればよいの
かれ い ひと と
ですか﹂。彼は言った、
﹁人をおどかしたり、だまし取ったりしてはいけない。
じぶん きゅうよ まんぞく
自分の給与で満足していなさい﹂。
みんしゅう すくいぬし ま のぞ こころ なか
一五 民 衆は救 主を待ち望んでいたので、みな心の中でヨハネのことを、もし
ひと かんが
かしたらこの人がそれではなかろうかと考えていた。 一六そこでヨハネはみ
もの い みず さず
んなの者にむかって言った、﹁わたしは水でおまえたちにバプテスマを授ける
ちから
が、わたしよりも力のあるかたが、おいでになる。わたしには、そのくつの
と ね せいれい ひ
ひもを解く値うちもない。このかたは、聖霊と火とによっておまえたちにバ
さず み て も う ば むぎ
プテスマをお授けになるであろう。 一七また、箕を手に持って、打ち場の麦を
わ むぎ くら おさ き ひ や す
ふるい分け、麦は倉に納め、からは消えない火で焼き捨てるであろう﹂。
すす みんしゅう おしえ と
一八 こうしてヨハネはほかにもなお、さまざまの勧めをして、民 衆に教を説い
りょうしゅ きょうだい つま じぶん
た。 一九ところが領 主 ヘロデは、 兄 弟の妻ヘロデヤのことで、また自分がし
ルカによる福音書

あくじ ひなん かれ ごく と
たあらゆる悪事について、ヨハネから非難されていたので、 二〇彼を獄に閉じ
こ あくじ うえ あくじ かさ
込めて、いろいろな悪事の上に、もう一つこの悪事を重ねた。
みんしゅう う う
二一 さて、民 衆がみなバプテスマを受けたとき、イエスもバプテスマを受けて
いの てん ひら せいれい すがた
祈っておられると、天が開けて、 二二聖霊がはとのような姿をとってイエスの

15
うえ くだ てん こえ あい こ こころ
上に下り、そして天から声がした、
﹁あなたはわたしの愛する子、わたしの心
もの
にかなう者である﹂。
せんきょう とし さい とき ひとびと
二三 イエスが宣 教をはじめられたのは、年およそ三十歳の時であって、人々の
かんが こ こ
考えによれば、ヨセフの子であった。ヨセフはヘリの子、 二四それから、さか
のぼって、マタテ、レビ、メルキ、ヤンナイ、ヨセフ、 二五マタテヤ、アモス、
ナホム、エスリ、ナンガイ、 二六マハテ、マタテヤ、シメイ、ヨセク、ヨダ、 二
七 ヨハナン、レサ、ゾロバベル、サラテル、ネリ、 二八メルキ、アデイ、コサ
ム、エルマダム、エル、 二九ヨシュア、エリエゼル、ヨリム、マタテ、レビ、 三
〇 シメオン、ユダ、ヨセフ、ヨナム、エリヤキム、 三一メレヤ、メナ、マタタ、
ナタン、ダビデ、 三二エッサイ、オベデ、ボアズ、サラ、ナアソン、 三三アミナ
ダブ、アデミン、アルニ、エスロン、パレス、ユダ、 三四ヤコブ、イサク、ア
ブラハム、テラ、ナホル、 三五セルグ、レウ、ペレグ、エベル、サラ、 三六カイ
ルカによる福音書

ナン、アルパクサデ、セム、ノア、ラメク、 三七メトセラ、エノク、ヤレデ、マ
かみ
ハラレル、カイナン、 三八エノス、セツ、アダム、そして神にいたる。

16
第四章
せいれい み がわ かえ あらの にち
一 さて、イエスは聖霊に満ちてヨルダン川から帰り、二荒野を四十日のあいだ
みたま あくま こころ なに た
御霊にひきまわされて、悪魔の試みにあわれた。そのあいだ何も食べず、そ
ひかず くうふく あくま い
の日数がつきると、空腹になられた。 三そこで悪魔が言った、
﹁もしあなたが
かみ こ いし めい
神の子であるなら、この石に、パンになれと命じてごらんなさい﹂。 四イエス
こた い ひと い か
は答えて言われた、﹁﹃人はパンだけで生きるものではない﹄と書いてある﹂。
あくま たか ところ つ い せかい
五 それから、悪魔はイエスを高い所へ連れて行き、またたくまに世界のすべて
くにぐに み い くにぐに けんい えいが
の国々を見せて 六言った、
﹁これらの国々の権威と栄華とをみんな、あなたに
まか す ひと
あげましょう。それらはわたしに任せられていて、だれでも好きな人にあげ
まえ
てよいのですから。 七それで、もしあなたがわたしの前にひざまずくなら、こ
ぜんぶ こた い
れ を 全部 あ な た の も の に し て あ げ ま し ょ う﹂。 八イ エ ス は 答 え て 言 わ れ た、
ルカによる福音書

しゅ かみ はい かみ つか か
﹁﹃主なるあなたの神を拝し、ただ神にのみ仕えよ﹄と書いてある﹂。 九それか
あくま つ い みや ちょうじょう た い
ら悪魔はイエスをエルサレムに連れて行き、宮の頂 上に立たせて言った、﹁も
かみ こ した と
し あ な た が 神 の 子 で あ る な ら、こ こ か ら 下 へ 飛 び お り て ご ら ん な さ い。 一〇
かみ みつかい めい まも
﹃神はあなたのために、御使たちに命じてあなたを守らせるであろう﹄とあり、

17
あし いし う かれ て
一一 また、﹃あなたの足が石に打ちつけられないように、彼らはあなたを手でさ
か こた い しゅ
さえるであろう﹄とも書いてあります﹂。 一二イエスは答えて言われた、
﹁﹃主な
かみ こころ い あくま こころ
るあなたの神を試みてはならない﹄と言われている﹂。 一三悪魔はあらゆる試
いちじ はな
みをしつくして、一時イエスを離れた。
みたま ちから み かえ
一四 それからイエスは御霊の力に満ちあふれてガリラヤへ帰られると、そのう
ち ほ う ぜんたい しょかいどう おし もの
わさがその地方全体にひろまった。 一五イエスは諸会堂で教え、みんなの者か
そんけい う
ら尊敬をお受けになった。
そだ い あんそくにち かいどう
一六 それからお育ちになったナザレに行き、安息日にいつものように会堂には
せいしょ ろうどく た よげんしゃ しょ てわた
いり、聖書を朗読しようとして立たれた。 一七すると預言者イザヤの書が手渡
しょ ひら か ところ だ
されたので、その書を開いて、こう書いてある所を出された、
しゅ みたま やど
一八 ﹁主の御霊がわたしに宿っている。
まず ひとびと ふくいん の つた
貧しい人々に福音を宣べ伝えさせるために、
ルカによる福音書

せいべつ
わたしを聖別してくださったからである。
しゅ
主はわたしをつかわして、
しゅうじん かいほう もうじん め ひら つ し
囚 人が解放され、盲人の目が開かれることを告げ知らせ、
う もの じゆう え
打ちひしがれている者に自由を得させ、

18
しゅ とし つ し
一九 主のめぐみの年を告げ知らせるのである﹂。
せいしょ ま かか もの かえ せき つ かいどう
二〇 イエスは聖書を巻いて係りの者に返し、席に着かれると、会堂にいるみん
もの め そそ せい く
なの者の目がイエスに注がれた。 二一そこでイエスは、
﹁この聖句は、あなたが
みみ ひ じょうじゅ と かれ
たが耳にしたこの日に成 就した﹂と説きはじめられた。 二二すると、彼らはみ
くち で く ことば かんたん い
なイエスをほめ、またその口から出て来るめぐみの言葉に感嘆して言った、
ひと こ かれ い
﹁この人はヨセフの子ではないか﹂。 二三そこで彼らに言われた、﹁あなたがた
い しゃ じぶんじしん ひ
は、きっと﹃医者よ、自分自身をいやせ﹄ということわざを引いて、カペナ
おこな き こと きょうり ち
ウムで行われたと聞いていた事を、あなたの郷里のこの地でもしてくれ、と
い い い よげんしゃ じぶん
言うであろう﹂。 二四それから言われた、
﹁よく言っておく。預言者は、自分の
きょうり かんげい き
郷里 で は 歓迎 さ れ な い も の で あ る。 二 五よ く 聞 い て お き な さ い。エ リ ヤ の
じだい ねん げつ てん と ぜんど だい
時代に、三年六か月にわたって天が閉じ、イスラエル全土に大ききんがあっ
さい おお
た際、そこには多くのやもめがいたのに、 二六エリヤはそのうちのだれにもつ
ルカによる福音書

かわされないで、ただシドンのサレプタにいるひとりのやもめにだけつかわ
よげんしゃ じだい おお びょうにん
された。 二七また預言者エリシャの時代に、イスラエルには多くのらい病 人
がいたのに、そのうちのひとりもきよめられないで、ただシリヤのナアマン
かいどう もの き いきどお み
だけがきよめられた﹂。 二八会堂にいた者たちはこれを聞いて、みな憤りに満

19
た あ まち そと お だ まち た おか
ち、 二九立ち上がってイエスを町の外へ追い出し、その町が建っている丘のが
い つ おと かれ
けまでひっぱって行って、突き落そうとした。 三〇しかし、イエスは彼らのま
なか とお ぬ さ い
ん中を通り抜けて、去って行かれた。
まち くだ い
三一 それから、イエスはガリラヤの町カペナウムに下って行かれた。そして
あんそくにち ひとびと おし ことば けんい
安息日になると、人々をお教えになったが、三二その言葉に権威があったので、
かれ おしえ おどろ けが あくれい ひと かいどう
彼らはその教に驚いた。 三三すると、汚れた悪霊につかれた人が会堂にいて、
おおごえ さけ だ
大声で叫び出した、 三四﹁ああ、ナザレのイエスよ、あなたはわたしたちとな
かか ほろ
んの係わりがあるのです。わたしたちを滅ぼしにこられたのですか。あなた
かみ せいじゃ
がどなたであるか、わかっています。神の聖者です﹂。 三五イエスはこれをし
だま ひと で い い あくれい かれ ひと
かって、
﹁黙れ、この人から出て行け﹂と言われた。すると悪霊は彼を人なか
な たお きず お ひと で い もの おどろ
に投げ倒し、傷は負わせずに、その人から出て行った。 三六みんなの者は驚い
たがい かた あ い ことば けんい
て、互に語り合って言った、﹁これは、いったい、なんという言葉だろう。権威
ルカによる福音書

ちから けが れい めい かれ で い
と力とをもって汚れた霊に命じられると、彼らは出て行くのだ﹂。 三七こうし
ひょうばん ちほう ところ
てイエスの評 判が、その地方のいたる所にひろまっていった。
かいどう で いえ
三八 イエスは会堂を出てシモンの家におはいりになった。ところがシモンの
たか ねつ や ひとびと かのじょ ねが
しゅうとめが高い熱を病んでいたので、人々は彼女のためにイエスにお願い

20
た ねつ ひ めい
した。 三九そこで、イエスはそのまくらもとに立って、熱が引くように命じら
ねつ ひ おんな お あ かれ
れると、熱は引き、 女はすぐに起き上がって、彼らをもてなした。
ひ く びょうき もの ひとびと みな
四〇 日が暮れると、いろいろな病気になやむ者をかかえている人々が、皆それ
つ て お
をイエスのところに連れてきたので、そのひとりびとりに手を置いて、おい
あくれい かみ こ さけ おお ひとびと
やしになった。 四一悪霊も﹁あなたこそ神の子です﹂と叫びながら多くの人々
で かれ いまし もの い ゆる
から出ていった。しかし、イエスは彼らを戒めて、物を言うことをお許しに
かれ し
ならなかった。彼らがイエスはキリストだと知っていたからである。
よ あ さび ところ で い ぐんしゅう さが
四二 夜が明けると、イエスは寂しい所へ出て行かれたが、 群 衆が捜しまわっ
あつ じぶん はな い ひ と
て、みもとに集まり、自分たちから離れて行かれないようにと、引き止めた。
まちまち かみ くに ふくいん の つた
四三 しかしイエスは、﹁わたしは、ほかの町々にも神の国の福音を宣べ伝えねば
じぶん い
ならない。自分はそのためにつかわされたのである﹂と言われた。 四四そし
しょかいどう おしえ と
て、ユダヤの諸会堂で教を説かれた。
ルカによる福音書

第五章
ぐんしゅう かみ ことば き お よ
一 さて、群 衆が神の言を聞こうとして押し寄せてきたとき、イエスはゲネサ

21
こはん た こぶね よ
レ湖畔に立っておられたが、 二そこに二そうの小舟が寄せてあるのをごらん
りょうし ふね あみ あら
になった。漁師たちは、舟からおりて網を洗っていた。 三その一そうはシモ
ふね の こ たの きし すこ
ンの舟であったが、イエスはそれに乗り込み、シモンに頼んで岸から少しこ
だ ふね なか ぐんしゅう おし はなし
ぎ出させ、そしてすわって、舟の中から群 衆にお教えになった。 四 話がすむ
おき だ あみ りょう い
と、シモンに﹁沖へこぎ出し、網をおろして漁をしてみなさい﹂と言われた。
こた い せんせい よどお はたら なに と
五 シモンは答えて言った、
﹁先生、わたしたちは夜通し働きましたが、何も取
ことば あみ
れませんでした。しかし、お言葉ですから、網をおろしてみましょう﹂。 六そ
うお む あみ やぶ
してそのとおりにしたところ、おびただしい魚の群れがはいって、網が破れ
ふね なかま かせい く あいず
そうになった。 七そこで、もう一そうの舟にいた仲間に、加勢に来るよう合図
かれ うお りょうほう ふね い ふね
をしたので、彼らがきて魚を両 方の舟いっぱいに入れた。そのために、舟が
しず み
沈みそうになった。 八これを見てシモン・ペテロは、イエスのひざもとにひれ
ふ い しゅ はな つみふか もの
伏して言った、
﹁主よ、わたしから離れてください。わたしは罪深い者です﹂。
ルカによる福音書

かれ いっしょ もの と うお おどろ
九 彼も一緒にいた者たちもみな、取れた魚がおびただしいのに驚いたからで
なかま こ どうよう
ある。 一〇シモンの仲間であったゼベダイの子ヤコブとヨハネも、同様であっ
い おそ いま
た。すると、イエスがシモンに言われた、
﹁恐れることはない。今からあなた
にんげん りょうし かれ ふね りく ひ あ
は人間をとる漁師になるのだ﹂。 一一そこで彼らは舟を陸に引き上げ、いっさ

22
す したが
いを捨ててイエスに従 った。
まち とき ぜんしん びょう ひと
一二 イエスがある町におられた時、全身らい病になっている人がそこにいた。
み かお ち ふ ねが い しゅ
イエスを見ると、顔を地に伏せて願って言った、﹁主よ、みこころでしたら、
て の かれ
きよめていただけるのですが﹂。 一三イエスは手を伸ばして彼にさわり、
﹁そう
い びょう さ
してあげよう、きよくなれ﹂と言われた。すると、らい病がただちに去って
はな かれ い き
しまった。 一四イエスは、だれにも話さないようにと彼に言い聞かせ、﹁ただ
い じぶん さいし み
行って自分のからだを祭司に見せ、それからあなたのきよめのため、モーセ
めい もの ひとびと しょうめい めい
が命じたとおりのささげ物をして、人々に証 明しなさい﹂とお命じになった。
ひょうばん い ぐんしゅう
一五 しかし、イエスの評 判はますますひろまって行き、おびただしい群 衆が、
おしえ き びょうき あつ
教を聞いたり、病気をなおしてもらったりするために、集まってきた。 一六し
さび ところ しりぞ いの
かしイエスは、寂しい所に退いて祈っておられた。
ひ おし ほうぼう むら
ある日のこと、イエスが教えておられると、ガリラヤやユダヤの方々の村
ルカによる福音書

一七
びと りっぽうがくしゃ
から、またエルサレムからきたパリサイ人や律法学者たちが、そこにすわっ
しゅ ちから はたら ひとびと とき ひとびと
ていた。主の力が働いて、イエスは人々をいやされた。 一八その時、ある人々
ちゅうぶ ひと とこ つ いえ なか
が、ひとりの中風をわずらっている人を床にのせたまま連れてきて、家の中
はこ い まえ お ぐんしゅう
に運び入れ、イエスの前に置こうとした。 一九ところが、群 衆のためにどうし

23
はこ い ほうほう や ね かわら びょうにん とこ
ても運び入れる方法がなかったので、屋根にのぼり、 瓦をはいで、病 人を床
ぐんしゅう なか まえ かれ
ごと群 衆のまん中につりおろして、イエスの前においた。 二〇イエスは彼ら
しんこう み ひと つみ い りっぽう
の信仰を見て、
﹁人よ、あなたの罪はゆるされた﹂と言われた。 二一すると律法
がくしゃ びと かみ けが い ひと なにもの
学者とパリサイ人たちとは、
﹁神を汚すことを言うこの人は、いったい、何者
かみ つみ い ろん
だ。神おひとりのほかに、だれが罪をゆるすことができるか﹂と言って論じ
かれ ろんぎ み こころ なか なに
はじめた。 二二イエスは彼らの論議を見ぬいて、﹁あなたがたは心の中で何を
ろん つみ い お ある い
論じているのか。 二三あなたの罪はゆるされたと言うのと、起きて歩けと言う
ひと こ ちじょう つみ けんい
のと、どちらがたやすいか。 二四しかし、人の子は地上で罪をゆるす権威を
も かれ たい い ちゅうぶ
持っていることが、あなたがたにわかるために﹂と彼らに対して言い、中風
もの めい お とこ と あ いえ かえ い
の者にむかって、
﹁あなたに命じる。起きよ、床を取り上げて家に帰れ﹂と言
びょうにん そくざ まえ お ね とこ と
われた。 二五すると病 人は即座にみんなの前で起きあがり、寝ていた床を取
かみ いえ かえ い もの きょうたん
りあげて、神をあがめながら家に帰って行った。 二六みんなの者は驚 嘆して
ルカによる福音書

かみ み おどろ
しまった。そして神をあがめ、おそれに満たされて、
﹁きょうは驚くべきこと
み い
を見た﹂と言った。
で い な しゅぜいにん しゅうぜいしょ
二七 そののち、イエスが出て行かれると、レビという名の取税人が収 税 所にす
み したが い かれ
わっているのを見て、
﹁わたしに従 ってきなさい﹂と言われた。 二八すると、彼

24
す た したが
はいっさいを捨てて立ちあがり、イエスに従 ってきた。 二九それから、レビは
じぶん いえ せいだい えんかい もよお しゅぜいにん おお
自分の家で、イエスのために盛大な宴会を催したが、取税人やそのほか大ぜ
ひとびと とも しょくたく つ びと りっぽう
いの人々が、共に食 卓に着いていた。 三〇ところが、パリサイ人やその律法
がくしゃ で し たい い
学者たちが、イエスの弟子たちに対してつぶやいて言った、
﹁どうしてあなた
しゅぜいにん つみびと いんしょく とも こた い
がたは、取税人や罪人などと飲 食を共にするのか﹂。 三一イエスは答えて言わ
けんこう ひと い しゃ びょうにん
れた、
﹁健康な人には医者はいらない。いるのは病 人である。 三二わたしがき
ぎじん まね つみびと まね く あらた
たのは、義人を招くためではなく、罪人を招いて悔い改めさせるためである﹂。
かれ い で し だんじき
三三 また彼らはイエスに言った、
﹁ヨハネの弟子たちは、しばしば断食をし、ま
いのり びと で し で し
た祈をしており、パリサイ人の弟子たちもそうしているのに、あなたの弟子
た の い
たちは食べたり飲んだりしています﹂。 三四するとイエスは言われた、
﹁あなた
はなむこ いっしょ こんれい きゃく だんじき
がたは、花婿が一緒にいるのに、婚礼の客に断食をさせることができるであ
はなむこ うば さ ひ く ひ だんじき
ろうか。 三五しかし、花婿が奪い去られる日が来る。その日には断食をするで
ルカによる福音書

たとえ かた あたら
あろう﹂。 三六それからイエスはまた一つの譬を語られた、﹁だれも、 新しい
きもの ぬの き と ふる きもの あ
着物から布ぎれを切り取って、古い着物につぎを当てるものはない。もしそ
あたら きもの さ あたら と ぬの
んなことをしたら、新しい着物を裂くことになるし、新しいのから取った布
ふる あ あたら しゅ ふる
ぎれも古いのに合わないであろう。 三七まただれも、 新しいぶどう酒を古い

25
かわぶくろ い あたら しゅ かわぶくろ
皮 袋に入れはしない。もしそんなことをしたら、 新しいぶどう酒は皮 袋を
さ しゅ な で かわぶくろ あたら
はり裂き、そしてぶどう酒は流れ出るし、皮 袋もむだになるであろう。 三八 新
しゅ あたら かわぶくろ い ふる さけ
しいぶどう酒は新しい皮 袋に入れるべきである。 三九まただれも、古い酒を
の あたら ふる よ かんが
飲んでから、新しいのをほしがりはしない。﹃古いのが良い﹄と考えているか
らである﹂。
第六章
あんそくにち むぎばたけ なか い で し ほ
一 ある安息日にイエスが麦 畑の中をとおって行かれたとき、弟子たちが穂を
て た びと い
つみ、手でもみながら食べていた。 二すると、あるパリサイ人たちが言った、
あんそくにち
﹁あなたがたはなぜ、安息日にしてはならぬことをするのか﹂。 三そこでイエ
こた い とも もの う
スが答えて言われた、
﹁あなたがたは、ダビデとその供の者たちとが飢えてい
ルカによる福音書

よ かみ
たとき、ダビデのしたことについて、読んだことがないのか。 四すなわち、神
いえ さいし た そな と
の家にはいって、祭司たちのほかだれも食べてはならぬ供えのパンを取って
た とも もの あた かれ い ひと
食べ、また供の者たちにも与えたではないか﹂。 五また彼らに言われた、
﹁人の
こ あんそくにち しゅ
子は安息日の主である﹂。

26
あんそくにち かいどう おし みぎて
六 また、ほかの安息日に会堂にはいって教えておられたところ、そこに右手の
ひと りっぽうがくしゃ びと うった こうじつ
な え た 人 が い た。 七律法学者 や パ リ サ イ 人 た ち は、イ エ ス を 訴 え る 口実 を
み つ おも あんそくにち
見付けようと思って、安息日にいやされるかどうかをうかがっていた。 八イ
かれ おも し て ひと お
エスは彼らの思っていることを知って、その手のなえた人に、
﹁起きて、まん
なか た い お あ た かれ
中に立ちなさい﹂と言われると、起き上がって立った。 九そこでイエスは彼ら
い き あんそくにち ぜん おこな あく おこな
にむかって言われた、
﹁あなたがたに聞くが、安息日に善を行うのと悪を行う
いのち すく ころ かれ いちどう み
のと、 命を救うのと殺すのと、どちらがよいか﹂。 一〇そして彼ら一同を見ま
ひと て の い
わして、その人に﹁手を伸ばしなさい﹂と言われた。そのとおりにすると、そ
て もと かれ はげ いか
の手は元どおりになった。 一一そこで彼らは激しく怒って、イエスをどうかし
たがい はなしあ
てやろうと、 互に話合いをはじめた。
いの やま い よ てっ かみ いの よ
一二 このころ、イエスは祈るために山へ行き、夜を徹して神に祈られた。 一三夜
あ で し よ よ なか にん えら だ し と
が明けると、弟子たちを呼び寄せ、その中から十二人を選び出し、これに使徒
ルカによる福音書

な あた よ
という名をお与えになった。 一四すなわち、ペテロとも呼ばれたシモンとその
きょうだい
兄 弟 アンデレ、ヤコブとヨハネ、ピリポとバルトロマイ、一五マタイとトマス、
こ ねっしんとう よ こ
アルパヨの子ヤコブと、熱心党と呼ばれたシモン、 一六ヤコブの子ユダ、それ
うらぎりもの
からイスカリオテのユダ。このユダが裏切者となったのである。 一七そして、

27
かれ いっしょ やま くだ ひらち た おお で し
イエスは彼らと一緒に山を下って平地に立たれたが、大ぜいの弟子たちや、ユ
ぜんど かいがん ち ほ う だいぐんしゅう おしえ
ダヤ全土、エルサレム、ツロとシドンの海岸地方などからの大 群 衆が、一八 教
き びょうき
を聞こうとし、また病気をなおしてもらおうとして、そこにきていた。そし
けが れい なや もの ぐんしゅう
て汚れた霊に悩まされている者たちも、いやされた。 一九また群 衆はイエス
つと ちから うち で もの つぎつぎ
にさわろうと努めた。それは力がイエスの内から出て、みんなの者を次々に
め で し み い
いやしたからである。 二〇そのとき、イエスは目をあげ、弟子たちを見て言わ
れた、
まず ひと
﹁あなたがた貧しい人たちは、さいわいだ。
かみ くに
神の国はあなたがたのものである。
う ひと
二一 あなたがたいま飢えている人たちは、さいわいだ。
あ た
飽き足りるようになるからである。
な ひと
あなたがたいま泣いている人たちは、さいわいだ。
ルカによる福音書

わら
笑うようになるからである。
ひとびと にく ひと こ はいせき
二二 人々があなたがたを憎むとき、また人の子のためにあなたがたを排斥
おめい き
し、ののしり、汚名を着せるときは、あなたがたはさいわいだ。
ひ よろこ み てん う むく
二三 その日には喜びおどれ。見よ、天においてあなたがたの受ける報いは

28
おお かれ そせん よげんしゃ たい おな
大きいのだから。彼らの祖先も、預言者たちに対して同じことをしたの
である。
と ひと
二四 しかしあなたがた富んでいる人たちは、わざわいだ。
なぐさ う
慰めを受けてしまっているからである。
いままんぷく ひと
二五 あなたがた今満腹している人たちは、わざわいだ。

飢えるようになるからである。
いまわら ひと かな な
あなたがた今笑っている人たちは、わざわいだ。悲しみ泣くようになる
からである。
ひと みな かれ
二六 人が皆あなたがたをほめるときは、あなたがたはわざわいだ。彼らの
そせん よげんしゃ たい おな
祖先も、にせ預言者たちに対して同じことをしたのである。
き い てき あい にく もの しんせつ
二七 しかし、聞いているあなたがたに言う。敵を愛し、憎む者に親切にせよ。 二
もの しゅくふく もの いの ほお う もの
のろう者を祝 福し、はずかしめる者のために祈れ。 二九あなたの頬を打つ者
ルカによる福音書


ほお む うわぎ うば と もの したぎ こば
にはほかの頬をも向けてやり、あなたの上着を奪い取る者には下着をも拒む
もと もの あた も もの うば もの と
な。 三〇あなたに求める者には与えてやり、あなたの持ち物を奪う者からは取
ひとびと のぞ
り も ど そ う と す る な。 三一人々 に し て ほ し い と、あ な た が た の 望 む こ と を、
ひとびと じぶん あい もの あい
人々にもそのとおりにせよ。 三二自分を愛してくれる者を愛したからとて、ど

29
てがら つみびと じぶん あい もの あい
れほどの手柄になろうか。罪人でさえ、自分を愛してくれる者を愛している。
じぶん もの てがら
三三 自分 に よ く し て く れ る 者 に よ く し た と て、ど れ ほ ど の 手柄 に な ろ う か。
つみびと こと かえ か
罪人でさえ、それくらいの事はしている。 三四また返してもらうつもりで貸し
てがら つみびと おな かえ
たとて、どれほどの手柄になろうか。罪人でも、同じだけのものを返しても
なかま か てき あい ひと
らおうとして、仲間に貸すのである。 三五しかし、あなたがたは、敵を愛し、人
なに あ か う むく
によくしてやり、また何も当てにしないで貸してやれ。そうすれば受ける報
おお たか もの こ たか もの おん
いは大きく、あなたがたはいと高き者の子となるであろう。いと高き者は、恩
し もの あくにん ぶか ちち かみ
を知らぬ者にも悪人にも、なさけ深いからである。 三六あなたがたの父なる神
じ ひ ぶか じ ひ ぶか もの ひと
が慈悲深いように、あなたがたも慈悲深い者となれ。 三七人をさばくな。そう
じぶん ひと つみ さだ
すれば、自分もさばかれることがないであろう。また人を罪に定めるな。そ
じぶん つみ さだ
うすれば、自分も罪に定められることがないであろう。ゆるしてやれ。そう
じぶん あた じぶん あた
すれば、自分もゆるされるであろう。 三八与えよ。そうすれば、自分にも与え
ルカによる福音書

ひとびと い い で りょう
られるであろう。人々はおし入れ、ゆすり入れ、あふれ出るまでに量をよく
い はか
して、あなたがたのふところに入れてくれるであろう。あなたがたの量るそ
はか じぶん はか
の量りで、自分にも量りかえされるであろうから﹂。
たとえ かた もうじん もうじん てびき
三九 イエスはまた一つの譬を語られた、﹁盲人は盲人の手引ができようか。ふ

30
あな お こ で し し いじょう
たりとも穴に落ち込まないだろうか。 四〇弟子はその師以上のものではない
しゅうぎょう し きょうだい め
が、 修 業をつめば、みなその師のようになろう。 四一なぜ、兄 弟の目にある
み じぶん め はり みと じぶん め はり
ちりを見ながら、自分の目にある梁を認めないのか。 四二自分の目にある梁は
み きょうだい きょうだい め
見ないでいて、どうして兄 弟にむかって、兄 弟よ、あなたの目にあるちりを
と い ぎぜんしゃ じぶん め はり と
取らせてください、と言えようか。偽善者よ、まず自分の目から梁を取りの
み きょうだい め
けるがよい、そうすれば、はっきり見えるようになって、兄 弟の目にあるち
と わる み よ き
りを取りのけることができるだろう。 四三悪い実のなる良い木はないし、また
よ み わる き き み
良い実のなる悪い木もない。 四四木はそれぞれ、その実でわかる。いばらから
と の つ ぜんにん
いちじくを取ることはないし、野ばらからぶどうを摘むこともない。 四五善人
よ こころ くら よ もの と だ あくにん わる くら わる もの と だ
は良い心の倉から良い物を取り出し、悪人は悪い倉から悪い物を取り出す。
こころ で くち かた
心からあふれ出ることを、口が語るものである。
しゅ しゅ よ い おこな
わたしを主よ、主よ、と呼びながら、なぜわたしの言うことを行わないの
ルカによる福音書

四六
ことば き おこな もの なに に
か。 四七わたしのもとにきて、わたしの言葉を聞いて行う者が、何に似ている
おし ち ふか ほ いわ うえ どだい
か、あなたがたに教えよう。 四八それは、地を深く掘り、岩の上に土台をすえ
いえ た ひと に こうずい で げきりゅう いえ お よ
て家を建てる人に似ている。洪水が出て激 流がその家に押し寄せてきても、
ゆ うご た
それを揺り動かすことはできない。よく建ててあるからである。 四九しかし

31
き おこな ひと どだい つち うえ いえ た ひと に
聞 い て も 行 わ な い 人 は、土台 な し で、土 の 上 に 家 を 建 て た 人 に 似 て い る。
げきりゅう いえ お よ たお ひがい おお
激 流がその家に押し寄せてきたら、たちまち倒れてしまい、その被害は大き
いのである﹂。
第七章
ことば ひとびと き
一 イエスはこれらの言葉をことごとく人々に聞かせてしまったのち、カペナ
かえ ひゃくそつちょう たの しもべ
ウ ム に 帰 っ て こ ら れ た。 二と こ ろ が、あ る 百 卒 長 の 頼 み に し て い た 僕 が、
びょうき し ひゃくそつちょう き
病気になって死にかかっていた。 三この百 卒 長はイエスのことを聞いて、ユ
じん ちょうろう じぶん しもべ たす
ダヤ人の長 老たちをイエスのところにつかわし、自分の僕を助けにきてくだ
ねが かれ ねっしん ねが
さるようにと、お願いした。 四彼らはイエスのところにきて、熱心に願って
い ひと
言った、﹁あの人はそうしていただくねうちがございます。 五わたしたちの
ルカによる福音書

こくみん あい かいどう た
国民を愛し、わたしたちのために会堂を建ててくれたのです﹂。 六そこで、イ
かれ つ で いえ とお
エスは彼らと連れだってお出かけになった。ところが、その家からほど遠く
ひゃくそつちょう とも おく い
ないあたりまでこられたとき、百 卒 長は友だちを送ってイエスに言わせた、
しゅ そくろう や ね した
﹁主よ、どうぞ、ご足労くださいませんように。わたしの屋根の下にあなたを

32
い しかく じぶん むか
お入れする資格は、わたしにはございません。 七それですから、自分でお迎え
おも ことば くだ
にあがるねうちさえないと思っていたのです。ただ、お言葉を下さい。そし
しもべ けんい した ふく もの
て、わたしの僕をなおしてください。 八わたしも権威の下に服している者で
した へいそつ もの い い い
すが、わたしの下にも兵卒がいまして、ひとりの者に﹃行け﹄と言えば行き、
もの い しもべ い
ほかの者に﹃こい﹄と言えばきますし、また、 僕に﹃これをせよ﹄と言えば、
き ひじょう かんしん
し て く れ る の で す﹂。 九イ エ ス は こ れ を 聞 い て 非常 に 感心 さ れ、つ い て き た
ぐんしゅう ほう ふ む い い
群 衆の方に振り向いて言われた、﹁あなたがたに言っておくが、これほどの
しんこう なか み つかい もの いえ
信仰 は、イ ス ラ エ ル の 中 で も 見 た こ と が な い﹂。 一〇 使 に き た 者 た ち が 家 に
かえ しもべ げんき
帰ってみると、 僕は元気になっていた。
ま まち で し おお
一一 そののち、間もなく、ナインという町へおいでになったが、弟子たちや大
ぐんしゅう いっしょ い まち もん ちか
ぜいの群 衆も一緒に行った。 一二町の門に近づかれると、ちょうど、あるやも
もの し ほうむ だ
めにとってひとりむすこであった者が死んだので、葬りに出すところであっ
ルカによる福音書

おお まち ひと はは しゅ ふじん み
た。大ぜいの町の人たちが、その母につきそっていた。 一三主はこの婦人を見
ふか どうじょう よ な い
て 深 い 同 情 を 寄 せ ら れ、﹁泣 か な い で い な さ い﹂と 言 わ れ た。 一 四そ し て
ちかよ かん て もの た ど
近寄って棺に手をかけられると、かついでいる者たちが立ち止まったので、
わかもの お い しにん お あ もの
﹁若者よ、さあ、起きなさい﹂と言われた。 一五すると、死人が起き上がって物

33
い だ かれ はは わた ひとびと おそ
を言い出した。イエスは彼をその母にお渡しになった。 一六人々はみな恐れ
だい よ げ ん し ゃ あいだ あらわ かみ たみ かえり
をいだき、
﹁大預言者がわたしたちの間に現れた﹂、また、
﹁神はその民を顧み
い かみ はなし
てくださった﹂と言って、神をほめたたえた。 一七イエスについてのこの話は、
ぜんど ふきん ところ
ユダヤ全土およびその附近のいたる所にひろまった。
で し ぜ ん ぶ かれ ほうこく
一八 ヨハネの弟子たちは、これらのことを全部彼に報告した。するとヨハネは
で し なか もの よ しゅ おく
弟子の中からふたりの者を呼んで、一九主のもとに送り、﹁﹃きたるべきかた﹄は
ま たず
あなたなのですか。それとも、ほかにだれかを待つべきでしょうか﹂と尋ね
ひと い
させた。 二〇そこで、この人たちがイエスのもとにきて言った、
﹁わたしたちは
つかい
バプテスマのヨハネからの使ですが、﹃きたるべきかた﹄はあなたなのですか、
ま たず
それとも、ほかにだれかを待つべきでしょうか、とヨハネが尋ねています﹂。
びょうく あくれい なや ひとびと おお
二一 そのとき、イエスはさまざまの病苦と悪霊とに悩む人々をいやし、また多
もうじん み こた い い
くの盲人を見えるようにしておられたが、二二答えて言われた、
﹁行って、あな
ルカによる福音書

み き ほうこく もうじん み あし
たがたが見聞きしたことを、ヨハネに報告しなさい。盲人は見え、足なえは
ある びょうにん みみ きこ しにん い まず ひとびと
歩き、らい病 人はきよまり、耳しいは聞え、死人は生きかえり、貧しい人々
ふくいん き もの
は福音を聞かされている。 二三わたしにつまずかない者は、さいわいである﹂。
つかい い ぐんしゅう かた
二四 ヨハネの使が行ってしまうと、イエスはヨハネのことを群 衆に語りはじ

34
なに み あらの で かぜ ゆ あし
められた、
﹁あなたがたは、何を見に荒野に出てきたのか。風に揺らぐ葦であ
なに み で やわ きもの ひと
るか。 二五では、何を見に出てきたのか。柔らかい着物をまとった人か。きら
つ くら ひとびと きゅうでん
びやかに着かざって、ぜいたくに暮している人々なら、 宮 殿にいる。 二六で
なに み で よげんしゃ い よげんしゃ
は、何を見に出てきたのか。預言者か。そうだ、あなたがたに言うが、預言者
いじょう もの
以上の者である。
み つかい さき
二七﹃見よ、わたしは使をあなたの先につかわし、
まえ みち ととの
あなたの前に、道を整えさせるであろう﹄
か ひと い おんな
と書いてあるのは、この人のことである。 二八あなたがたに言っておく。 女
う もの なか おお じんぶつ かみ くに もっと
の産んだ者の中で、ヨハネより大きい人物はいない。しかし、神の国で最も
ちい もの かれ おお き みんしゅう みな しゅぜいにん
小さい者も、彼よりは大きい。 二九︵これを聞いた民 衆は皆、また取税人たち
う かみ ただ みと
も、ヨハネのバプテスマを受けて神の正しいことを認めた。 三〇しかし、パリ
びと りっぽうがくしゃ かれ う じぶん たい
サイ人と律法学者たちとは彼からバプテスマを受けないで、自分たちに対す
ルカによる福音書

かみ む いま じだい ひとびと なに くら
る神のみこころを無にした。︶ 三一だから今の時代の人々を何に比べようか。
かれ なに に こども ひろば たがい よ
彼らは何に似ているか。 三二それは子供たちが広場にすわって、 互に呼びか
け、
ふえ ふ
﹃わたしたちが笛を吹いたのに、

35
おど
あなたたちは踊ってくれなかった。
とむら うた うた
弔いの歌を歌ったのに、

泣いてくれなかった﹄
い に た
と言うのに似ている。 三三なぜなら、バプテスマのヨハネがきて、パンを食べ
しゅ の あくれい
ることも、ぶどう酒を飲むこともしないと、あなたがたは、あれは悪霊につ
い ひと こ た の
かれているのだ、と言い、三四また人の子がきて食べたり飲んだりしていると、
み しょく もの おおざけ の もの しゅぜいにん つみびと なかま
見よ、あれは食をむさぼる者、大酒を飲む者、また取税人、罪人の仲間だ、と
い ち え ただ こ しょうめい
言う。 三五しかし、知恵の正しいことは、そのすべての子が証 明する﹂。
びと しょくじ とも もう で
三六 あるパリサイ人がイエスに、食事を共にしたいと申し出たので、そのパリ
びと いえ しょくたく つ まち つみ
サイ人の家にはいって食 卓に着かれた。 三七するとそのとき、その町で罪の
おんな びと いえ しょくたく つ き
女であったものが、パリサイ人の家で食 卓に着いておられることを聞いて、
こうゆ い せっこう も な
香油が入れてある石膏のつぼを持ってきて、 三八泣きながら、イエスのうしろ
ルカによる福音書

あし よ なみだ あし じぶん かみ け
でその足もとに寄り、まず涙でイエスの足をぬらし、自分の髪の毛でぬぐい、
あし せっぷん こうゆ ぬ まね びと
そして、その足に接吻して、香油を塗った。 三九イエスを招いたパリサイ人が
み こころ なか い ひと よげんしゃ じぶん
それを見て、 心の中で言った、﹁もしこの人が預言者であるなら、自分にさ
おんな おんな つみ おんな
わっている女がだれだか、どんな女かわかるはずだ。それは罪の女なのだか

36
かれ い い
ら﹂。 四〇そこでイエスは彼にむかって言われた、
﹁シモン、あなたに言うこと
かれ せんせい い い
がある﹂。彼は﹁先生、おっしゃってください﹂と言った。 四一イエスが言われ
かねか かね ひと
た、
﹁ある金貸しに金をかりた人がふたりいたが、ひとりは五百デナリ、もう
か かえ
ひとりは五十デナリを借りていた。 四二ところが、返すことができなかったの
かれ とも かれ おお
で、彼はふたり共ゆるしてやった。このふたりのうちで、どちらが彼を多く
あい こた い おお
愛するだろうか﹂。 四三シモンが答えて言った、
﹁多くゆるしてもらったほうだ
おも い はんだん ただ おんな
と思います﹂。イエスが言われた、﹁あなたの判断は正しい﹂。 四四それから女
ほう ふ む い おんな み
の方に振り向いて、シモンに言われた、
﹁この女を見ないか。わたしがあなた
いえ とき あし あら みず
の家にはいってきた時に、あなたは足を洗う水をくれなかった。ところが、こ
おんな なみだ あし かみ け
の女は涙でわたしの足をぬらし、髪の毛でふいてくれた。 四五あなたはわたし
せっぷん かのじょ いえ とき
に接吻をしてくれなかったが、彼女はわたしが家にはいった時から、わたし
あし せっぷん あたま あぶら ぬ
の足に接吻をしてやまなかった。 四六あなたはわたしの頭に油を塗ってくれ
ルカによる福音書

かのじょ あし こうゆ ぬ い
なかったが、彼女はわたしの足に香油を塗ってくれた。 四七それであなたに言
おんな おお あい おお つみ すこ
うが、この女は多く愛したから、その多くの罪はゆるされているのである。少
もの すこ あい おんな
しだけゆるされた者は、少しだけしか愛さない﹂。 四八そして女に、
﹁あなたの
つみ い どうせき もの こころ なか い
罪はゆるされた﹂と言われた。 四九すると同席の者たちが心の中で言いはじめ

37
つみ ひと なにもの
た、
﹁罪をゆるすことさえするこの人は、いったい、何者だろう﹂。 五〇しかし、
おんな い しんこう すく
イ エ ス は 女 に む か っ て 言 わ れ た、﹁あ な た の 信仰 が あ な た を 救 っ た の で す。
あんしん い
安心して行きなさい﹂。
第八章
かみ くに ふくいん と つた まちまちむらむら じゅんかい
一 そののちイエスは、神の国の福音を説きまた伝えながら、町々村々を巡 回
つづ で し とも あくれい お だ びょうき
し続けられたが、十二弟子もお供をした。 二また悪霊を追い出され病気をい
すうめい ふじん あくれい お だ
やされた数名の婦人たち、すなわち、七つの悪霊を追い出してもらったマグ
よ かれい つま
ダラと呼ばれるマリヤ、 三ヘロデの家令クーザの妻ヨハンナ、スザンナ、その
おお ふじん いっしょ じぶん も もの いっこう ほうし
ほか多くの婦人たちも一緒にいて、自分たちの持ち物をもって一行に奉仕し
た。
ルカによる福音書

おお ぐんしゅう あつ うえ まちまち ひと
四 さて、大ぜいの群 衆が集まり、その上、町々からの人たちがイエスのとこ
お よ たとえ はなし たね
ろに、ぞくぞくと押し寄せてきたので、一つの譬で話をされた、 五﹁種まきが
たね で い たね みち お ふ
種をまきに出て行った。まいているうちに、ある種は道ばたに落ち、踏みつ
そら とり た たね いわ うえ お
けられ、そして空の鳥に食べられてしまった。 六ほかの種は岩の上に落ち、は

38
みずけ か たね あいだ お
えはしたが水気がないので枯れてしまった。 七ほかの種は、いばらの間に落
いっしょ しげ
ちたので、いばらも一緒に茂ってきて、それをふさいでしまった。 八ところ
たね よ ち お そだ ばい み むす
が、ほかの種は良い地に落ちたので、はえ育って百倍もの実を結んだ﹂。こう
かた こえ き みみ もの き い
語られたのち、声をあげて﹁聞く耳のある者は聞くがよい﹂と言われた。
で し たとえ い み しつもん
九 弟子たちは、この譬はどういう意味でしょうか、とイエスに質問した。 一〇
い かみ くに おくぎ し ゆる
そこで言われた、
﹁あなたがたには、神の国の奥義を知ることが許されている
ひと み み き さと たとえ はな
が、ほかの人たちには、見ても見えず、聞いても悟られないために、 譬で話
たとえ い み たね かみ ことば みち
すのである。 一一この譬はこういう意味である。種は神の言である。 一二道ば
お き しん すく あくま
たに落ちたのは、聞いたのち、信じることも救われることもないように、悪魔
こころ みことば うば と ひと いわ うえ
によってその心から御言が奪い取られる人たちのことである。 一三岩の上に
お みことば き とき よろこ う ね な
落ちたのは、御言を聞いた時には喜んで受けいれるが、根が無いので、しば
しん しれん とき く しんこう す ひと
らくは信じていても、試錬の時が来ると、信仰を捨てる人たちのことである。
ルカによる福音書

なか お き ひ す せいかつ こころ
一四 いばらの中に落ちたのは、聞いてから日を過ごすうちに、生活の心づかい
とみ かいらく み じゅく ひと
や富や快楽にふさがれて、実の熟するまでにならない人たちのことである。 一
よ ち お みことば き ただ よ こころ
五 良い地に落ちたのは、御言を聞いたのち、これを正しい良い心でしっかりと
まも た しの み むす いた ひと
守り、耐え忍んで実を結ぶに至る人たちのことである。

39
なに うつわ しんだい した
一六 だれもあかりをともして、それを何かの器でおおいかぶせたり、寝台の下
お しょくだい うえ お く ひと ひかり み
に置いたりはしない。 燭 台の上に置いて、はいって来る人たちに光が見える
かく
ようにするのである。 一七隠されているもので、あらわにならないものはな
ひみつ し あか だ
く、秘密にされているもので、ついには知られ、明るみに出されないものは
き ちゅうい も ひと さら あた
ない。 一八だから、どう聞くかに注意するがよい。持っている人は更に与えら
も ひと も おも と あ
れ、持っていない人は、持っていると思っているものまでも、取り上げられ
るであろう﹂。
はは きょうだい ぐんしゅう
一九 さて、イエスの母と兄 弟たちとがイエスのところにきたが、 群 衆のため
ちか い ははうえ
そば近くに行くことができなかった。 二〇それで、だれかが﹁あなたの母上と
きょうだい め おも そと た とりつ
兄 弟がたが、お目にかかろうと思って、外に立っておられます﹂と取次いだ。
ひとびと い かみ みことば き おこな もの
二一 するとイエスは人々にむかって言われた、﹁神の御言を聞いて行う者こそ、
はは きょうだい
わたしの母、わたしの兄 弟なのである﹂。
ルカによる福音書

ひ で し ふね の こ みずうみ む ぎし わた
二二 ある日のこと、イエスは弟子たちと舟に乗り込み、﹁湖の向こう岸へ渡ろ
い いちどう ふなで わた い あいだ ねむ
う﹂と言われたので、一同が船出した。 二三渡って行く間に、イエスは眠って
とっぷう みずうみ ふ かれ みず
しまわれた。すると突風が湖に吹きおろしてきたので、彼らは水をかぶって
きけん よ おこ せんせい せんせい
危険になった。 二四そこで、みそばに寄ってきてイエスを起し、
﹁先生、先生、

40
し い お あ かぜ あらなみ
わたしたちは死にそうです﹂と言った。イエスは起き上がって、風と荒浪と
や かれ い
をおしかりになると、止んでなぎになった。 二五イエスは彼らに言われた、
﹁あ
しんこう かれ おそ おどろ たがい い あ
な た が た の 信仰 は、ど こ に あ る の か﹂。彼 ら は 恐 れ 驚 い て 互 に 言 い 合 っ た、
めい かぜ みず したが
﹁いったい、このかたはだれだろう。お命じになると、風も水も従うとは﹂。
かれ たいがん びと ち わた りく
二六 それから、彼らはガリラヤの対岸、ゲラサ人の地に渡った。 二七陸にあがら
まち ひと あくれい なが きもの き いえ い
れると、その町の人で、悪霊につかれて長いあいだ着物も着ず、家に居つか
はかば ひと で あ ひと み さけ だ
ないで墓場にばかりいた人に、出会われた。 二八この人がイエスを見て叫び出
ふ おおごえ い たか かみ こ
し、みまえにひれ伏して大声で言った、
﹁いと高き神の子イエスよ、あなたは
かか ねが くる
わたしとなんの係わりがあるのです。お願いです、わたしを苦しめないでく
けが れい ひと で い めい
ださい﹂。 二九それは、イエスが汚れた霊に、その人から出て行け、とお命じに
あくれい なん ど かれ とら かれ くさり
なったからである。というのは、悪霊が何度も彼をひき捕えたので、彼は鎖
あし かんし た き あくれい
と足かせとでつながれて看視されていたが、それを断ち切っては悪霊によっ
ルカによる福音書

あらの お かれ なまえ
て荒野へ追いやられていたのである。 三〇イエスは彼に﹁なんという名前か﹂
たず い こた かれ なか
とお尋ねになると、﹁レギオンと言います﹂と答えた。彼の中にたくさんの
あくれい こ あくれい そこ し ところ お い
悪霊がはいり込んでいたからである。 三一悪霊どもは、底知れぬ所に落ちて行
じぶん めい ねが
くことを自分たちにお命じにならぬようにと、イエスに願いつづけた。 三二と

41
やま ぶた む か ぶた
ころが、そこの山べにおびただしい豚の群れが飼ってあったので、その豚の
なか ゆる あくれい ねが で
中へはいることを許していただきたいと、悪霊どもが願い出た。イエスはそ
ゆる あくれい ひと で ぶた なか
れをお許しになった。 三三そこで悪霊どもは、その人から出て豚の中へはいり
こ む みずうみ う か くだ
込んだ。するとその群れは、がけから湖へなだれを打って駆け下り、おぼれ
し か もの で き ご と み に だ まち むらざと
死んでしまった。 三四飼う者たちは、この出来事を見て逃げ出して、町や村里
ひとびと で き ご と み で
にふれまわった。 三五人々はこの出来事を見に出てきた。そして、イエスのと
あくれい お だ ひと きもの き しょうき
ころにきて、悪霊を追い出してもらった人が着物を着て、正気になってイエ
あし み おそ み ひと
スの足もとにすわっているのを見て、恐れた。 三六それを見た人たちは、この
あくれい もの すく しだい かれ かた き
悪霊につかれていた者が救われた次第を、彼らに語り聞かせた。 三七それか
ちほう みんしゅう じぶん ところ た さ
ら、ゲラサの地方の民 衆はこぞって、自分たちの所から立ち去ってくださる
たの かれ ひじょう きょうふ おそ
ようにとイエスに頼んだ。彼らが非常な恐怖に襲われていたからである。そ
ふね の かえ あくれい お だ ひと
こで、イエスは舟に乗って帰りかけられた。 三八悪霊を追い出してもらった人
ルカによる福音書

とも ねが い かれ かえ
は、お供をしたいと、しきりに願ったが、イエスはこう言って彼をお帰しに
いえ かえ かみ おお
なった。 三九﹁家へ帰って、神があなたにどんなに大きなことをしてくださっ
かた き かれ た さ じぶん くだ
たか、語り聞かせなさい﹂。そこで彼は立ち去って、自分にイエスがして下
まちじゅう い
さったことを、ことごとく町 中に言いひろめた。

42
かえ ぐんしゅう よろこ むか ま
四〇 イエスが帰ってこられると、 群 衆は喜び迎えた。みんながイエスを待ち
な ひと ひと
うけていたのである。 四一するとそこに、ヤイロという名の人がきた。この人
かいどうづかさ あし ふ じぶん いえ
は会 堂 司であった。イエスの足もとにひれ伏して、自分の家においでくださ
ねが かれ さい むすめ
るようにと、しきりに願った。 四二彼に十二歳ばかりになるひとり娘があった
し で い とちゅう ぐんしゅう お せま
が、死にかけていた。ところが、イエスが出て行かれる途中、群 衆が押し迫っ
てきた。
ねんかん なが ち い しゃ じぶん しんだい
四三 ここに、十二年間も長血をわずらっていて、医者のために自分の身代をみ
つか はた おんな
な使い果してしまったが、だれにもなおしてもらえなかった女がいた。 四四こ
おんな ちかよ ころも なが ち
の女がうしろから近寄ってみ衣のふさにさわったところ、その長血がたちま
と い
ち止まってしまった。 四五イエスは言われた、﹁わたしにさわったのは、だれ
ひとびと じぶん い せんせい ぐんしゅう
か﹂。人々はみな自分ではないと言ったので、ペテロが﹁先生、群 衆があなた
と かこ あ こた い
を取り囲んで、ひしめき合っているのです﹂と答えた。 四六しかしイエスは言
ルカによる福音書

ちから で い かん
われた、﹁だれかがわたしにさわった。 力がわたしから出て行ったのを感じ
おんな かく し ふる すす で
たのだ﹂。 四七 女は隠しきれないのを知って、震えながら進み出て、みまえに
ふ わけ
ひれ伏し、イエスにさわった訳と、さわるとたちまちなおったこととを、み
まえ はな おんな い むすめ しんこう
んなの前で話した。 四八そこでイエスが女に言われた、
﹁娘よ、あなたの信仰が

43
すく あんしん い
あなたを救ったのです。安心して行きなさい﹂。
はな かいどうづかさ いえ ひと じょう
四九 イエスがまだ話しておられるうちに、会 堂 司の家から人がきて、
﹁お嬢さ
うえ せんせい わずら およ い
んはなくなられました。この上、先生を煩わすには及びません﹂と言った。 五
き かいどうづかさ い おそ
〇 しかしイエスはこれを聞いて会 堂 司にむかって言われた、﹁恐れることは
しん むすめ たす いえ
な い。た だ 信 じ な さ い。 娘 は 助 か る の だ﹂。 五一そ れ か ら 家 に は い ら れ る と
こ ふ ぼ いっしょ
き、ペテロ、ヨハネ、ヤコブおよびその子の父母のほかは、だれも一緒には
く ゆる ひとびと むすめ な
いって来ることをお許しにならなかった。 五二人々はみな、 娘のために泣き
かな い な むすめ し ねむ
悲しんでいた。イエスは言われた、
﹁泣くな、娘は死んだのではない。眠って
ひとびと むすめ し し
いるだけである﹂。 五三人々は娘が死んだことを知っていたので、イエスをあ
わら むすめ て と よ い むすめ お
ざ笑った。 五四イエスは娘の手を取って、呼びかけて言われた、
﹁娘よ、起きな
れい むすめ そくざ た あ
さい﹂。 五五するとその霊がもどってきて、 娘は即座に立ち上がった。イエス
なに た もの あた りょうしん おどろ
は何か食べ物を与えるように、さしずをされた。 五六両 親は驚いてしまった。
ルカによる福音書

で き ご と はな かれ めい
イエスはこの出来事をだれにも話さないようにと、彼らに命じられた。

44
第九章
で し よ あつ かれ あくれい せい びょうき
一 それからイエスは十二弟子を呼び集めて、彼らにすべての悪霊を制し、病気
ちから けんい さず かみ くに の つた びょうき
をいやす力と権威とをお授けになった。 二また神の国を宣べ伝え、かつ病気
い たび なに たずさ ふくろ
をなおすためにつかわして 三言われた、
﹁旅のために何も携えるな。つえも袋
ぜに も したぎ まい も いえ
もパンも銭も持たず、また下着も二枚は持つな。 四また、どこかの家にはいっ
とど で
たら、そこに留まっておれ。そしてそこから出かけることにしなさい。 五だ
むか まち で い かれ
れもあなたがたを迎えるものがいなかったら、その町を出て行くとき、彼ら
たい こうぎ あし はら おと で し で
に対する抗議のしるしに、足からちりを払い落しなさい﹂。 六弟子たちは出て
い むらむら めぐ ある ところ ふくいん の つた びょうき
行って、村々を巡り歩き、いたる所で福音を宣べ伝え、また病気をいやした。
りょうしゅ で き ご と みみ まど
七 さて、領 主 ヘロデはいろいろな出来事を耳にして、あわて惑っていた。そ
ひと しにん なか い
れは、ある人たちは、ヨハネが死人の中からよみがえったと言い、 八またある
ルカによる福音書

ひと あらわ い ひと むかし よげんしゃ


人たちは、エリヤが現れたと言い、またほかの人たちは、 昔の預言者のひと
ふっかつ い い
りが復活したのだと言っていたからである。 九そこでヘロデが言った、
﹁ヨハ
くび き ひと
ネはわたしがすでに首を切ったのだが、こうしてうわさされているこの人は、
あ おも
いったい、だれなのだろう﹂。そしてイエスに会ってみようと思っていた。

45
し と かえ じぶん はな
一〇 使徒たちは帰ってきて、自分たちのしたことをすべてイエスに話した。そ
かれ つ まち しりぞ
れからイエスは彼らを連れて、ベツサイダという町へひそかに退かれた。 一一
ぐんしゅう し むか かみ くに
ところが群 衆がそれと知って、ついてきたので、これを迎えて神の国のこと
かた き ちりょう よう ひと ひ かたむ
を語り聞かせ、また治療を要する人たちをいやされた。 一二それから日が傾き
で し い ぐんしゅう かいさん
かけたので、十二弟子がイエスのもとにきて言った、
﹁群 衆を解散して、まわ
むらむら ぶらく い やど と しょくもつ て
りの村々や部落へ行って宿を取り、 食 物を手にいれるようにさせてくださ
さび ところ
い。わたしたちはこんな寂しい所にきているのですから﹂。 一三しかしイエス
い て しょくもつ かれ い
は言われた、
﹁あなたがたの手で食 物をやりなさい﹂。彼らは言った、
﹁わたし
うお おお ひと しょくもつ
たちにはパン五つと魚二ひきしかありません、この大ぜいの人のために食 物
か い おとこ にん
を買いに行くかしなければ﹂。 一四というのは、 男が五千人ばかりもいたから
で し い ひとびと にん
である。しかしイエスは弟子たちに言われた、﹁人々をおおよそ五十人ずつの
くみ かれ
組にして、すわらせなさい﹂。 一五彼らはそのとおりにして、みんなをすわらせ
ルカによる福音書

うお て と てん あお
た。 一六イエスは五つのパンと二ひきの魚とを手に取り、天を仰いでそれを
しゅくふく で し ぐんしゅう くば もの た
祝 福してさき、弟子たちにわたして群 衆に配らせた。 一七みんなの者は食べ
まんぷく あま あつ
て満腹した。そして、その余りくずを集めたら、十二かごあった。
いの で し ちか かれ
一八 イエスがひとりで祈っておられたとき、弟子たちが近くにいたので、彼ら

46
たず い ぐんしゅう い かれ こた
に尋ねて言われた、﹁群 衆はわたしをだれと言っているか﹂。 一九彼らは答え
い い ひと
て言った、﹁バプテスマのヨハネだと、言っています。しかしほかの人たちは、
い むかし よげんしゃ ふっかつ い もの
エリヤだと言い、また昔の預言者のひとりが復活したのだと、言っている者
かれ い
もあります﹂。 二〇彼らに言われた、
﹁それでは、あなたがたはわたしをだれと
い こた い かみ かれ
言うか﹂。ペテロが答えて言った、﹁神のキリストです﹂。 二一イエスは彼らを
いまし こと い めい い ひと こ かなら
戒め、この事をだれにも言うなと命じ、そして言われた、 二二﹁人の子は必ず
おお くる う ちょうろう さいしちょう りっぽうがくしゃ す ころ
多くの苦しみを受け、長 老、祭司長、律法学者たちに捨てられ、また殺され、
か め もの い
そして三日目によみがえる﹂。 二三それから、みんなの者に言われた、
﹁だれで
おも じぶん す ひ び じぶん じゅうじか お
もわたしについてきたいと思うなら、自分を捨て、日々自分の十字架を負う
したが じぶん いのち すく おも もの うしな
て、わたしに従 ってきなさい。 二四自分の命を救おうと思う者はそれを失い、
じぶん いのち うしな もの すく ひと ぜん せ か い
わたしのために自分の命を失う者は、それを救うであろう。 二五人が全世界を
じぶんじしん うしな そん とく
もうけても、自分自身を失いまたは損したら、なんの得になろうか。 二六わた
ルカによる福音書

ことば は もの たい ひと こ じぶん えいこう ちち


しとわたしの言葉とを恥じる者に対しては、人の子もまた、自分の栄光と、父
せい みつかい えいこう あらわ く もの は
と聖なる御使との栄光のうちに現れて来るとき、その者を恥じるであろう。 二
き かみ くに み し あじ もの
七 よく聞いておくがよい、神の国を見るまでは、死を味わわない者が、ここに
た もの なか
立っている者の中にいる﹂。

47
はな のち か
二八 これらのことを話された後、八日ほどたってから、イエスはペテロ、ヨハ
つ いの やま のぼ いの あいだ
ネ、ヤコブを連れて、祈るために山に登られた。 二九祈っておられる間に、み
かお さま かわ ころも しろ かがや み
顔の様が変り、み衣がまばゆいほどに白く輝いた。 三〇すると見よ、ふたりの
ひと かた あ えいこう
人がイエスと語り合っていた。それはモーセとエリヤであったが、三一栄光の
なか あらわ と さいご はな
中に現れて、イエスがエルサレムで遂げようとする最後のことについて話し
なかま もの じゅくすい め
ていたのである。 三二ペテロとその仲間の者たちとは熟 睡していたが、目を
えいこう すがた とも た ひと み
さますと、イエスの栄光の姿と、共に立っているふたりの人とを見た。 三三こ
はな さ じぶん なに い
のふたりがイエスを離れ去ろうとしたとき、ペテロは自分が何を言っている
い せんせい
のかわからないで、イエスに言った、﹁先生、わたしたちがここにいるのは、
こ や た
すばらしいことです。それで、わたしたちは小屋を三つ建てましょう。一つ
かれ
はあなたのために、一つはモーセのために、一つはエリヤのために﹂。 三四彼が
い あいだ くも おこ かれ くも
こう言っている間に、雲がわき起って彼らをおおいはじめた。そしてその雲
ルカによる福音書

かこ かれ おそ くも なか こえ
に囲まれたとき、彼らは恐れた。 三五すると雲の中から声があった、
﹁これはわ
こ えら もの き こえ や
たしの子、わたしの選んだ者である。これに聞け﹂。 三六そして声が止んだと
で し ちんもく まも じぶん
き、イエスがひとりだけになっておられた。弟子たちは沈黙を守って、自分
み はな
たちが見たことについては、そのころだれにも話さなかった。

48
よくじつ いちどう やま お く おお ぐんしゅう でむか
三七 翌日、一同が山を降りて来ると、大ぜいの群 衆がイエスを出迎えた。 三八す
とつぜん ひと ぐんしゅう なか おおごえ い せんせい ねが
ると突然、ある人が群 衆の中から大声をあげて言った、
﹁先生、お願いです。
み こ
わたしのむすこを見てやってください。この子はわたしのひとりむすこです
れい と かれ きゅう さけ だ れい かれ
が、 三九霊が取りつきますと、彼は急に叫び出すのです。それから、霊は彼を
ふ かれ よわ は で い
ひきつけさせて、あわを吹かせ、彼を弱り果てさせて、なかなか出て行かな
で し れい お だ ねが
いのです。 四〇それで、お弟子たちに、この霊を追い出してくださるように願
こた い
いましたが、できませんでした﹂。 四一イエスは答えて言われた、
﹁ああ、なん
ふ しんこう まが じだい いっしょ
という不信仰な、曲った時代であろう。いつまで、わたしはあなたがたと一緒
がまん こ
におられようか、またあなたがたに我慢ができようか。あなたの子をここに
つ こ く とき あくれい
連れてきなさい﹂。 四二ところが、その子がイエスのところに来る時にも、悪霊
かれ ひ たお ひ けが れい
が彼を引き倒して、引きつけさせた。イエスはこの汚れた霊をしかりつけ、そ
こども ちちおや わた ひとびと かみ いだい ちから
の子供をいやして、父親にお渡しになった。 四三人々はみな、神の偉大な力に
ルカによる福音書

ひじょう おどろ
非常に驚いた。
もの かずかず こと ふ し ぎ おも で し
みんなの者がイエスのしておられた数々の事を不思議に思っていると、弟子
い ことば みみ お ひと
たちに言われた、 四四﹁あなたがたはこの言葉を耳におさめて置きなさい。人
こ ひとびと て わた かれ
の子は人々の手に渡されようとしている﹂。 四五しかし、彼らはなんのことか

49
かれ かく さと
わからなかった。それが彼らに隠されていて、悟ることができなかったので
かれ たず おそ
ある。また彼らはそのことについて尋ねるのを恐れていた。
で し あいだ かれ えら
四六 弟子たちの間に、彼らのうちでだれがいちばん偉いだろうかということ
ぎろん かれ こころ おも み ぬ おさ
で、議論がはじまった。 四七イエスは彼らの心の思いを見抜き、ひとりの幼な
ご と じぶん た かれ い おさ
子を取りあげて自分のそばに立たせ、彼らに言われた、 四八﹁だれでもこの幼
ご な う もの う
な子をわたしの名のゆえに受けいれる者は、わたしを受けいれるのである。
う もの う
そしてわたしを受けいれる者は、わたしをおつかわしになったかたを受けい
なか ちい もの おお
れるのである。あなたがたみんなの中でいちばん小さい者こそ、大きいので
ある﹂。
こた い せんせい ひと な
四九 するとヨハネが答えて言った、﹁先生、わたしたちはある人があなたの名を
つか あくれい お だ み ひと なかま
使って悪霊を追い出しているのを見ましたが、その人はわたしたちの仲間で
かれ い
ないので、やめさせました﹂。 五〇イエスは彼に言われた、
﹁やめさせないがよ
ルカによる福音書

はんたい もの みかた
い。あなたがたに反対しない者は、あなたがたの味方なのである﹂。
てん あ ひ ちか い
五一 さて、イエスが天に上げられる日が近づいたので、エルサレムへ行こうと
けつい ほう かお じぶん さきだ し しゃ
決意して、その方へ顔をむけられ、 五二自分に先立って使者たちをおつかわし
かれ びと むら い
に な っ た。そ し て 彼 ら が サ マ リ ヤ 人 の 村 へ は い っ て 行 き、イ エ ス の た め に

50
じゅんび むらびと すす い
準備をしようとしたところ、 五三村人は、エルサレムへむかって進んで行かれ
かんげい で し
るというので、イエスを歓迎しようとはしなかった。 五四弟子のヤコブとヨハ
み い しゅ かれ や はら
ネとはそれを見て言った、
﹁主よ、いかがでしょう。彼らを焼き払ってしまう
てん ひ もと ふ かれ
ように、天から火をよび求めましょうか﹂。 五五イエスは振りかえって、彼らを
いちどう むら い
おしかりになった。 五六そして一同はほかの村へ行った。
みち すす い ひと い ところ
五七 道を進んで行くと、ある人がイエスに言った、﹁あなたがおいでになる所な
したが ひと い
らどこへでも従 ってまいります﹂。 五八イエスはその人に言われた、﹁きつね
あな そら とり す ひと こ ところ
には穴があり、空の鳥には巣がある。しかし、人の子にはまくらする所がな
ひと したが い
い﹂。 五九またほかの人に、
﹁わたしに従 ってきなさい﹂と言われた。するとそ
ひと い ちち ほうむ い かれ い
の人が言った、
﹁まず、父を葬りに行かせてください﹂。 六〇彼に言われた、
﹁そ
しにん ほうむ しにん まか で い かみ
の死人を葬ることは、死人に任せておくがよい。あなたは、出て行って神の
くに つ ひと い しゅ したが
国を告げひろめなさい﹂。 六一またほかの人が言った、
﹁主よ、従 ってまいりま
ルカによる福音書

いえ もの わか い い い
すが、まず家の者に別れを言いに行かせてください﹂。 六二イエスは言われた、
て み もの かみ くに
﹁手をすきにかけてから、うしろを見る者は、神の国にふさわしくないもので
ある﹂。

51
第一〇章
のち しゅ べつ にん えら い まち むら
一 その後、主は別に七十二人を選び、行こうとしておられたすべての町や村
さき かれ い しゅうかく
へ、ふたりずつ先におつかわしになった。 二そのとき、彼らに言われた、﹁収 穫
おお はたら びと すく しゅうかく しゅ ねが しゅうかく
は多いが、働き人が少ない。だから、収 穫の主に願って、その収 穫のために
はたら びと おく だ い
働き人を送り出すようにしてもらいなさい。 三さあ、行きなさい。わたしが
こひつじ なか おく
あなたがたをつかわすのは、小羊をおおかみの中に送るようなものである。 四
さいふ ふくろ も い みち
財布も袋もくつも持って行くな。だれにも道であいさつするな。 五どこかの
いえ へいあん いえ い
家にはいったら、まず﹃平安がこの家にあるように﹄と言いなさい。 六もし
へいあん こ いの へいあん ひと うえ
平安の子がそこにおれば、あなたがたの祈る平安はその人の上にとどまるで
うえ かえ く
あろう。もしそうでなかったら、それはあなたがたの上に帰って来るであろ
おな いえ とど いえ ひと だ の
う。 七それで、その同じ家に留まっていて、家の人が出してくれるものを飲み
ルカによる福音書

く はたら びと むく え とうぜん いえ いえ わた
食いしなさい。 働き人がその報いを得るのは当然である。家から家へと渡
ある まち ひとびと むか まえ
り歩くな。 八どの町へはいっても、人々があなたがたを迎えてくれるなら、前
だ た まち びょうにん
に出されるものを食べなさい。 九そして、その町にいる病 人をいやしてやり、
かみ くに ちか い まち
﹃神の国はあなたがたに近づいた﹄と言いなさい。 一〇しかし、どの町へはいっ

52
ひとびと むか ばあい おおどお で い い
ても、人々があなたがたを迎えない場合には、大通りに出て行って言いなさ
あし まち す い
い、一﹃
一 わたしたちの足についているこの町のちりも、ぬぐい捨てて行く。し
かみ くに ちか しょうち い
かし、神の国が近づいたことは、承知しているがよい﹄。 一二あなたがたに言っ
ひ まち ほう た
ておく。その日には、この町よりもソドムの方が耐えやすいであろう。 一三わ
なか
ざわいだ、コラジンよ。わざわいだ、ベツサイダよ。おまえたちの中でなさ
ちから かれ むかし
れた力あるわざが、もしツロとシドンでなされたなら、彼らはとうの昔に、
あらぬの はい なか く あらた
荒布をまとい灰の中にすわって、悔い改めたであろう。 一四しかし、さばきの
ひ ほう た
日には、ツロとシドンの方がおまえたちよりも、耐えやすいであろう。 一五あ
てん あ よ み
あ、カペナウムよ、おまえは天にまで上げられようとでもいうのか。黄泉に
おと き したが もの き したが
まで落されるであろう。 一六あなたがたに聞き従う者は、わたしに聞き従うの
こば もの こば こば
であり、あなたがたを拒む者は、わたしを拒むのである。そしてわたしを拒
もの こば
む者は、わたしをおつかわしになったかたを拒むのである﹂。
ルカによる福音書

にん よろこ かえ い しゅ な
一七 七十二人が喜んで帰ってきて言った、﹁主よ、あなたの名によっていたしま
あくれい ふくじゅう かれ い
すと、悪霊までがわたしたちに服 従します﹂。 一八彼らに言われた、
﹁わたしは
でんこう てん お み
サタンが電光のように天から落ちるのを見た。 一九わたしはあなたがたに、へ
ふ てき ちから う か けんい さず
びやさそりを踏みつけ、敵のあらゆる力に打ち勝つ権威を授けた。だから、あ

53
がい もの な れい
なたがたに害をおよぼす者はまったく無いであろう。 二〇しかし、霊があなた
ふくじゅう よろこ な てん
がたに服 従することを喜ぶな。むしろ、あなたがたの名が天にしるされてい
よろこ
ることを喜びなさい﹂。
せいれい よろこ い てんち しゅ ちち
二一 そのとき、イエスは聖霊によって喜びあふれて言われた、﹁天地の主なる父
こと ち え もの かしこ もの かく
よ。あ な た を ほ め た た え ま す。こ れ ら の 事 を 知恵 の あ る 者 や 賢 い 者 に 隠 し
おさ ご ちち
て、幼な子にあらわしてくださいました。父よ、これはまことに、みこころ
こと こと ちち まか
に か な っ た 事 で し た。 二二す べ て の 事 は 父 か ら わ た し に 任 せ ら れ て い ま す。
こ ちち し もの ちち
そして、子がだれであるかは、父のほか知っている者はありません。また父
こ ちち こ えら もの
がだれであるかは、子と、父をあらわそうとして子が選んだ者とのほか、だ
し もの で し ほう ふ
れも知っている者はいません﹂。 二三それから弟子たちの方に振りむいて、ひ
い み み め
そかに言われた、﹁あなたがたが見ていることを見る目は、さいわいである。
い おお よげんしゃ おう み
あなたがたに言っておく。多くの預言者や王たちも、あなたがたの見てい
ルカによる福音書

二四
み み き
ることを見ようとしたが、見ることができず、あなたがたの聞いていること
き き
を聞こうとしたが、聞けなかったのである﹂。
りっぽうがくしゃ あらわ こころ い
二五 す る と そ こ へ、あ る 律法学者 が 現 れ、イ エ ス を 試 み よ う と し て 言 っ た、
せんせい なに えいえん せいめい う かれ い
﹁先生、何 を し た ら 永遠 の 生命 が 受 け ら れ ま し ょ う か﹂。 二 六彼 に 言 わ れ た、

54
りっぽう か よ かれ こた い
﹁律法にはなんと書いてあるか。あなたはどう読むか﹂。 二七彼は答えて言っ
こころ せいしん ちから おも しゅ
た、
﹁﹃心をつくし、精神をつくし、 力をつくし、思いをつくして、主なるあ
かみ あい じぶん あい とな びと あい
なたの神を愛せよ﹄。また、
﹃自分を愛するように、あなたの隣り人を愛せよ﹄
かれ い こたえ ただ おこな
とあります﹂。 二八彼に言われた、
﹁あなたの答は正しい。そのとおり行いなさ
え かれ じぶん たちば べんご
い。そうすれば、いのちが得られる﹂。 二九すると彼は自分の立場を弁護しよ
おも い とな びと
うと思って、イエスに言った、﹁では、わたしの隣り人とはだれのことですか﹂。
こた い ひと くだ い
三〇 イエスが答えて言われた、﹁ある人がエルサレムからエリコに下って行く
とちゅう ごうとう かれ おそ きもの と きず お はんごろ
途中、強盗どもが彼を襲い、その着物をはぎ取り、傷を負わせ、半殺しにし
に さ さいし みち くだ
たまま、逃げ去った。 三一するとたまたま、ひとりの祭司がその道を下ってき
ひと み む がわ とお い どうよう びと
たが、この人を見ると、向こう側を通って行った。 三二同様に、レビ人もこの
ば しょ かれ み む がわ とお い
場所にさしかかってきたが、彼を見ると向こう側を通って行った。 三三ところ
びと たび ひと とお かれ み き
が、あるサマリヤ人が旅をしてこの人のところを通りかかり、彼を見て気の
ルカによる福音書

どく おも ちかよ きず ゆ しゅ そそ
毒に思い、三四近寄ってきてその傷にオリブ油とぶどう酒とを注いでほうたい
じぶん かちく の やどや つ い かいほう よくじつ
をしてやり、自分の家畜に乗せ、宿屋に連れて行って介抱した。 三五翌日、デ
と だ やどや しゅじん てわた ひと み
ナリ二つを取り出して宿屋の主人に手渡し、﹃この人を見てやってください。
ひよう かえ しはら い
費用がよけいにかかったら、帰りがけに、わたしが支払います﹄と言った。 三

55
にん ごうとう おそ ひと とな びと おも
六 この三人のうち、だれが強盗に襲われた人の隣り人になったと思うか﹂。 三七
かれ い ひと じ ひ ぶか おこな ひと い
彼が言った、﹁その人に慈悲深い行いをした人です﹂。そこでイエスは言われ
い おな
た、﹁あなたも行って同じようにしなさい﹂。
いちどう たび つづ むら
三八 一同が旅を続けているうちに、イエスがある村へはいられた。するとマル
な おんな いえ むか い おんな いもうと
タという名の女がイエスを家に迎え入れた。 三九この女にマリヤという妹が
しゅ あし みことば き い
いたが、主の足もとにすわって、御言に聞き入っていた。 四〇ところが、マル
せったい いそ こころ い
タは接待のことで忙がしくて心をとりみだし、イエスのところにきて言った、
しゅ いもうと せったい おも
﹁主よ、 妹がわたしだけに接待をさせているのを、なんともお思いになりま
てつだ いもうと しゅ
せんか。わたしの手伝いをするように妹におっしゃってください﹂。 四一主は
こた い おお こころ くば おも
答えて言われた、
﹁マルタよ、マルタよ、あなたは多くのことに心を配って思
な おお
いわずらっている。 四二しかし、無くてならぬものは多くはない。いや、一つ
よ ほう えら かのじょ と
だけである。マリヤはその良い方を選んだのだ。そしてそれは、彼女から取
ルカによる福音書


り去ってはならないものである﹂。

56
第一一章
ところ いの おわ で し
一 また、イエスはある所で祈っておられたが、それが終ったとき、弟子のひと
い しゅ で し おし
りが言った、
﹁主よ、ヨハネがその弟子たちに教えたように、わたしたちにも
いの おし かれ い いの
祈ることを教えてください﹂。 二そこで彼らに言われた、
﹁祈るときには、こう
い ちち み な みくに
言いなさい、﹃父よ、御名があがめられますように。御国がきますように。 三
ひ しょくもつ ひ び あた ふさい
わたしたちの日ごとの食 物を、日々お与えください。 四わたしたちに負債の
もの みな つみ
ある者を皆ゆるしますから、わたしたちの罪をもおゆるしください。わたし
こころ あ かれ い
たちを試みに会わせないでください﹄﹂。 五そして彼らに言われた、
﹁あなたが
ゆうじん ひと ま よ な か い とも
たのうちのだれかに、友人があるとして、その人のところへ真夜中に行き、﹃友
か とも たびさき つ
よ、パンを三つ貸してください。 六友だちが旅先からわたしのところに着い
なに だ い ばあい かれ うち
たのですが、何も出すものがありませんから﹄と言った場合、 七彼は内から、
ルカによる福音書

めんどう と し こども
﹃面倒をかけないでくれ。もう戸は締めてしまったし、子供たちもわたしと
いっしょ とこ お なに
一緒に床にはいっているので、いま起きて何もあげるわけにはいかない﹄と
い き ゆうじん お あた
言うであろう。 八しかし、よく聞きなさい、友人だからというのでは起きて与
ねが お あ ひつよう だ
えないが、しきりに願うので、起き上がって必要なものを出してくれるであ

57
い もと あた
ろう。 九そこでわたしはあなたがたに言う。求めよ、そうすれば、与えられる
さが み もん
であろう。捜せ、そうすれば見いだすであろう。門をたたけ、そうすれば、あ
もと もの え さが もの み もん
けてもらえるであろう。 一〇すべて求める者は得、捜す者は見いだし、門をた
もの ちち
たく者はあけてもらえるからである。 一一あなたがたのうちで、父であるもの
こ うお もと うお かわ あた たまご もと
は、その子が魚を求めるのに、魚の代りにへびを与えるだろうか。 一二 卵を求
あた わる もの
めるのに、さそりを与えるだろうか。 一三このように、あなたがたは悪い者で
じぶん こども よ おく もの し てん
あっても、自分の子供には、良い贈り物をすることを知っているとすれば、天
ちち もと く もの せいれい くだ
の父はなおさら、求めて来る者に聖霊を下さらないことがあろうか﹂。
あくれい お だ れい
一四 さて、イエスが悪霊を追い出しておられた。それは、おしの霊であった。
あくれい で い もの い ぐんしゅう ふ し ぎ おも
悪霊が出て行くと、おしが物を言うようになったので、群 衆は不思議に思っ
なか ひとびと かれ あくれい あくれい
た。 一五その中のある人々が、
﹁彼は悪霊のかしらベルゼブルによって、悪霊ど
お だ い ひとびと こころ
もを追い出しているのだ﹂と言い、 一六またほかの人々は、イエスを試みよう
ルカによる福音書

てん もと かれ おも み ぬ
として、天からのしるしを求めた。 一七しかしイエスは、彼らの思いを見抜い
い くに ないぶ ぶんれつ じめつ いえ わか
て言われた、
﹁おおよそ国が内部で分裂すれば自滅してしまい、また家が分れ
あらそ たお ないぶ ぶんれつ くに
争えば倒れてしまう。 一八そこでサタンも内部で分裂すれば、その国はどうし
た い あくれい お だ
て立ち行けよう。あなたがたはわたしがベルゼブルによって悪霊を追い出し

58
い あくれい お だ
ていると言うが、一九もしわたしがベルゼブルによって悪霊を追い出すとすれ
なかま お だ かれ
ば、あなたがたの仲間はだれによって追い出すのであろうか。だから、彼ら
もの かみ ゆび
があなたがたをさばく者となるであろう。 二〇しかし、わたしが神の指によっ
あくれい お だ かみ くに
て悪霊を追い出しているのなら、神の国はすでにあなたがたのところにきた
つよ ひと じゅうぶん ぶそう じぶん ていたく まも かぎ
のである。 二一強い人が十 分に武装して自分の邸宅を守っている限り、その
も もの あんぜん つよ もの おそ かれ う か
持ち物は安全である。 二二しかし、もっと強い者が襲ってきて彼に打ち勝て
たの ぶ ぐ うば ぶんどりひん わ
ば、その頼みにしていた武具を奪って、その分捕品を分けるのである。 二三わ
みかた もの はんたい とも あつ
たしの味方でない者は、わたしに反対するものであり、わたしと共に集めな
もの ち けが れい ひと で やす ば もと みず
い者は、散らすものである。 二四汚れた霊が人から出ると、休み場を求めて水
な ところ ある み で もと いえ かえ い
の無い所を歩きまわるが、見つからないので、出てきた元の家に帰ろうと言っ
かえ み いえ うえ かざ
て、二五帰って見ると、その家はそうじがしてある上、飾りつけがしてあった。
で い じ ぶ ん いじょう わる た れい ひ つ なか
そこでまた出て行って、自分以上に悪い他の七つの霊を引き連れてきて中
ルカによる福音書

二六
す こ ひと のち じょうたい はじ
に は い り、そ こ に 住 み 込む。そ う す る と、そ の 人 の後 の状 態 は初 め よ り も
わる
もっと悪くなるのである﹂。
はな ぐんしゅう なか おんな こえ は
二七 イエスがこう話しておられるとき、 群 衆の中からひとりの女が声を張り
い やど たい す ちぶさ
あげて言った、
﹁あなたを宿した胎、あなたが吸われた乳房は、なんとめぐま

59

れていることでしょう﹂。 二八しかしイエスは言われた、
﹁いや、めぐまれてい
かみ ことば き まも ひと
るのは、むしろ、神の言を聞いてそれを守る人たちである﹂。
ぐんしゅう むら あつ かた だ じだい
二九 さて群 衆が群がり集まったので、イエスは語り出された、﹁この時代は
じゃあく じだい もと
邪悪な時代である。それはしるしを求めるが、ヨナのしるしのほかには、な
あた ひとびと たい
んのしるしも与えられないであろう。 三〇というのは、ニネベの人々に対して
ひと こ じだい たい
ヨナがしるしとなったように、人の子もこの時代に対してしるしとなるであ
みなみ じょおう いま じだい ひとびと とも ば た かれ つみ
ろう。 三一 南の女王が、今の時代の人々と共にさばきの場に立って、彼らを罪
さだ かのじょ ち え き ち はて
に定めるであろう。なぜなら、彼女はソロモンの知恵を聞くために、地の果
み もの
からはるばるきたからである。しかし見よ、ソロモンにまさる者がここにい
ひとびと いま じだい ひとびと とも ば た かれ
る。 三二ニネベの人々が、今の時代の人々と共にさばきの場に立って、彼らを
つみ さだ ひとびと せんきょう く あらた
罪に定めるであろう。なぜなら、ニネベの人々はヨナの宣 教によって悔い改
み もの
めたからである。しかし見よ、ヨナにまさる者がここにいる。
ルカによる福音書

あなぐら なか ます した お
三三 だれもあかりをともして、それを穴倉の中や枡の下に置くことはしない。
く ひと み しょくだい うえ
むしろはいって来る人たちに、そのあかりが見えるように、燭 台の上におく。
め め す ぜんしん
三四 あなたの目は、からだのあかりである。あなたの目が澄んでおれば、全身
あか め くら うち ひかり
も明るいが、目がわるければ、からだも暗い。 三五だから、あなたの内なる光

60
くら ちゅうい ぜんたい あか
が暗くならないように注意しなさい。 三六もし、あなたのからだ全体が明るく
くら ぶぶん すこ かがや てら とき
て、暗い部分が少しもなければ、ちょうど、あかりが輝いてあなたを照す時
ぜんしん あか
のように、全身が明るくなるであろう﹂。
かた とき びと じぶん いえ しょくじ
三七 イエスが語っておられた時、あるパリサイ人が、自分の家で食事をしてい
もう で しょくたく しょくぜん
ただきたいと申し出たので、はいって食 卓につかれた。 三八ところが、食 前に
あら み びと ふ し ぎ おも
まず洗うことをなさらなかったのを見て、そのパリサイ人が不思議に思った。
しゅ かれ い びと さかずき ぼん
三九 そこで主は彼に言われた、
﹁いったい、あなたがたパリサイ人は、 杯や盆
そとがわ うちがわ どんよく じゃあく み おろ
の外側をきよめるが、あなたがたの内側は貪欲と邪悪とで満ちている。 四〇愚
もの そとがわ つく うちがわ つく
かな者たちよ、外側を造ったかたは、また内側も造られたではないか。 四一た
うちがわ
だ、内側にあるものをきよめなさい。そうすれば、いっさいがあなたがたに
きよ
とって、清いものとなる。
がた びと こう
しかし、あなた方パリサイ人は、わざわいである。はっか、うん香、あら
ルカによる福音書

四二
やさい ぶん みや おさ ぎ かみ たい あい
ゆる野菜などの十分の一を宮に納めておりながら、義と神に対する愛とをな
おこな
おざりにしている。それもなおざりにはできないが、これは行わねばならな
びと かいどう じょうせき ひろば
い。 四三あなたがたパリサイ人は、わざわいである。会堂の上 席や広場での
けいれい この ひとめ はか
敬礼を好んでいる。 四四あなたがたは、わざわいである。人目につかない墓の

61
うえ ある ひとびと き
ようなものである。その上を歩いても人々は気づかないでいる﹂。
りっぽうがくしゃ こた い せんせい い
四五 ひとりの律法学者がイエスに答えて言った、﹁先生、そんなことを言われる
ぶじょく い
のは、わたしたちまでも侮辱することです﹂。 四六そこで言われた、
﹁あなたが
りっぽうがくしゃ お き おもに ひと お じぶん
た律法学者も、わざわいである。負い切れない重荷を人に負わせながら、自分
に ゆび ぽん ふ
ではその荷に指一本でも触れようとしない。 四七あなたがたは、わざわいであ
よげんしゃ ひ た かれ ころ せんぞ
る。預言者たちの碑を建てるが、しかし彼らを殺したのは、あなたがたの先祖
じぶん せんぞ どうい
であったのだ。 四八だから、あなたがたは、自分の先祖のしわざに同意する
しょうにん せんぞ かれ ころ ひ た
証 人なのだ。先祖が彼らを殺し、あなたがたがその碑を建てるのだから。 四九
かみ ち え い よげんしゃ し と かれ
それゆえに、﹃神の知恵﹄も言っている、﹃わたしは預言者と使徒とを彼らに
かれ もの ころ はくがい
つかわすが、彼らはそのうちのある者を殺したり、迫害したりするであろう﹄。
ち さいだん しんでん あいだ ころ ち いた
五〇 それで、アベルの血から祭壇と神殿との間で殺されたザカリヤの血に至る
よ はじ なが よげんしゃ ち じだい
まで、世の初めから流されてきたすべての預言者の血について、この時代が
ルカによる福音書

せきにん と い じだい
その責任を問われる。 五一そうだ、あなたがたに言っておく、この時代がその
せきにん と りっぽうがくしゃ ちしき
責任を問われるであろう。 五二あなたがた律法学者は、わざわいである。知識
と じぶん ひと
のかぎを取りあげて、自分がはいらないばかりか、はいろうとする人たちを
さまた
妨げてきた﹂。

62
で い りっぽうがくしゃ びと はげ つ よ
五三 イエスがそこを出て行かれると、律法学者やパリサイ人は、激しく詰め寄
こと と くち なに い え
り、いろいろな事を問いかけて、 五四イエスの口から何か言いがかりを得よう
と、ねらいはじめた。
第一二章
あいだ ぐんしゅう たがい ふ あ むら
一 その間に、おびただしい群 衆が、 互に踏み合うほどに群がってきたが、イ
で し かた びと だね かれ
エスはまず弟子たちに語りはじめられた、
﹁パリサイ人のパン種、すなわち彼
ぎぜん き あらわ
らの偽善に気をつけなさい。 二おおいかぶされたもので、 現れてこないもの
かく し
はなく、隠れているもので、知られてこないものはない。 三だから、あなたが
くら い あか き みっしつ みみ
たが暗やみで言ったことは、なんでもみな明るみで聞かれ、密室で耳にささ
や ね うえ い とも
やいたことは、屋根の上で言いひろめられるであろう。 四そこでわたしの友
ルカによる福音書

い ころ いじょう
であるあなたがたに言うが、からだを殺しても、そのあとでそれ以上なにも
もの おそ おそ もの おし
できない者どもを恐れるな。 五恐るべき者がだれであるか、教えてあげよう。
ころ さら じごく な こ けんい おそ
殺したあとで、更に地獄に投げ込む権威のあるかたを恐れなさい。そうだ、あ
い おそ わ
なたがたに言っておくが、そのかたを恐れなさい。 六五羽のすずめは二アサ

63
う わ かみ わす
リオンで売られているではないか。しかも、その一羽も神のみまえで忘れら
うえ あたま け かぞ
れてはいない。 七その上、あなたがたの頭の毛までも、みな数えられている。
おそ おお もの
恐れることはない。あなたがたは多くのすずめよりも、まさった者である。 八
い ひと まえ う もの ひと
そこで、あなたがたに言う。だれでも人の前でわたしを受けいれる者を、人
こ かみ つかい まえ う ひと まえ
の子も神の使たちの前で受けいれるであろう。 九しかし、人の前でわたしを
こば もの かみ つかい まえ こば ひと こ い さか
拒む者は、神の使たちの前で拒まれるであろう。 一〇また、人の子に言い逆ら
もの せいれい もの
う者はゆるされるであろうが、聖霊をけがす者は、ゆるされることはない。 一
かいどう やくにん こうかん まえ い ばあい なに
一 あなたがたが会堂や役人や高官の前へひっぱられて行った場合には、何を
べんめい なに い しんぱい い
どう弁明しようか、何を言おうかと心配しないがよい。 一二言うべきことは、
せいれい とき おし
聖霊がその時に教えてくださるからである﹂。
ぐんしゅう なか い せんせい きょうだい いさん わ
一三 群 衆の中のひとりがイエスに言った、
﹁先生、わたしの兄 弟に、遺産を分
かれ い ひと
けてくれるようにおっしゃってください﹂。 一四彼に言われた、
﹁人よ、だれが
ルカによる福音書

さいばんにん ぶんぱいにん た ひとびと


わたしをあなたがたの裁判人または分配人に立てたのか﹂。 一五それから人々
い どんよく たい けいかい
にむかって言われた、﹁あらゆる貪欲に対してよくよく警戒しなさい。たとい
もの も ひと も もの
たくさんの物を持っていても、人のいのちは、持ち物にはよらないのである﹂。
たとえ かた かねもち はたけ ほうさく かれ
一六 そこで一つの譬を語られた、
﹁ある金持の畑が豊作であった。 一七そこで彼

64
こころ なか さくもつ ところ
は心の中で、﹃どうしようか、わたしの作物をしまっておく所がないのだが﹄
おも い くら と
と思いめぐらして 一八 言った、﹃こうしよう。わたしの倉を取りこわし、もっと
おお た こくもつ しょくりょう ぜんぶ こ じぶん
大きいのを建てて、そこに穀物や食 糧を全部しまい込もう。 一九そして自分
たましい い ながねんぶん しょくりょう
の魂に言おう。たましいよ、おまえには長年分の食 糧がたくさんたくわえて
あんしん く の たの かみ かれ い おろ
ある。さあ安心せよ、食え、飲め、楽しめ﹄。 二〇すると神が彼に言われた、
﹃愚
もの たましい こんや と さ
かな者よ、あなたの魂は今夜のうちにも取り去られるであろう。そしたら、あ
ようい もの じぶん たから つ
なたが用意した物は、だれのものになるのか﹄。 二一自分のために宝を積んで
かみ たい と もの おな
神に対して富まない者は、これと同じである﹂。
で し い い なに
二二 それから弟子たちに言われた、﹁それだから、あなたがたに言っておく。何
た いのち おも なに き
を食べようかと、 命のことで思いわずらい、何を着ようかとからだのことで
おも いのち しょくもつ きもの
思いわずらうな。 二三 命は食 物にまさり、からだは着物にまさっている。 二四
かんが み か な や
からすのことを考えて見よ。まくことも、刈ることもせず、また、納屋もな
ルカによる福音書

くら かみ かれ やしな くだ とり
く倉もない。それだのに、神は彼らを養 っていて下さる。あなたがたは鳥よ
おも
りも、はるかにすぐれているではないか。 二五あなたがたのうち、だれが思い
じぶん じゅみょう の
わずらったからとて、自分の寿 命をわずかでも延ばすことができようか。 二六
ちい こと おも
そんな小さな事さえできないのに、どうしてほかのことを思いわずらうのか。

65
の はな かんが み つむ お
二七 野の花のことを考えて見るがよい。紡ぎもせず、織りもしない。しかし、
い えいが とき はな
あなたがたに言うが、栄華をきわめた時のソロモンでさえ、この花の一つほ
きかざ の ろ な い
どにも着飾ってはいなかった。 二八きょうは野にあって、あすは炉に投げ入れ
くさ かみ よそお くだ
られる草でさえ、神はこのように装 って下さるのなら、あなたがたに、それ
いじょう しんこう うす もの
以上よくしてくださらないはずがあろうか。ああ、信仰の薄い者たちよ。 二九
なに た なに の き つか
あなたがたも、何を食べ、何を飲もうかと、あくせくするな、また気を使う
みな よ いほうじん せつ もと
な。 三〇これらのものは皆、この世の異邦人が切に求めているものである。あ
ちち ひつよう ぞん
なたがたの父は、これらのものがあなたがたに必要であることを、ご存じで
みくに もと そ あた
ある。 三一ただ、御国を求めなさい。そうすれば、これらのものは添えて与え
おそ ちい む みくに くだ
られるであろう。 三二恐れるな、小さい群れよ。御国を下さることは、あなた
ちち じぶん も もの う ほどこ
が た の 父 の み こ こ ろ な の で あ る。 三三自分 の 持 ち 物 を 売 っ て、 施 し な さ い。
じぶん ふる さいふ ぬすびと ちかよ むし く やぶ
自分のために古びることのない財布をつくり、盗人も近寄らず、虫も食い破
ルカによる福音書

てん つ たから たから
らない天に、尽きることのない宝をたくわえなさい。 三四あなたがたの宝のあ
ところ こころ
る所には、 心もあるからである。
こし おび しゅじん こんえん かえ
三五 腰に帯をしめ、あかりをともしていなさい。 三六主人が婚宴から帰ってき
と ま ひと
て戸をたたくとき、すぐあけてあげようと待っている人のようにしていなさ

66
しゅじん かえ め さま み しもべ
い。 三七主人が帰ってきたとき、目を覚しているのを見られる僕たちは、さい
い しゅじん おび しもべ しょくたく すす
わいである。よく言っておく。主人が帯をしめて僕たちを食 卓につかせ、進
よ きゅうじ しゅじん よなか よ あ
み寄って給仕をしてくれるであろう。 三八主人が夜中ごろ、あるいは夜明けご
かえ み ひと
ろに帰ってきても、そうしているのを見られるなら、その人たちはさいわい
いえ しゅじん とうぞく
である。 三九このことを、わきまえているがよい。家の主人は、盗賊がいつご
く じぶん いえ お い
ろ来るかわかっているなら、自分の家に押し入らせはしないであろう。 四〇あ
ようい おも とき ひと こ く
なたがたも用意していなさい。思いがけない時に人の子が来るからである﹂。
い しゅ たとえ はな
四一 するとペテロが言った、﹁主よ、この譬を話しておられるのはわたしたちの
もの しゅ
ためなのですか。それとも、みんなの者のためなのですか﹂。 四二そこで主が
い しゅじん めしつかい うえ た とき おう さだ しょくじ
言われた、
﹁主人が、召 使たちの上に立てて、時に応じて定めの食事をそなえ
ちゅうじつ し り ょ ぶか かれい しゅじん かえ
させる忠 実な思慮深い家令は、いったいだれであろう。 四三主人が帰ってき
み しもべ
たとき、そのようにつとめているのを見られる僕は、さいわいである。 四四よ
ルカによる福音書

い しゅじん しもべ た じぶん ぜんざいさん かんり


く言っておくが、主人はその僕を立てて自分の全財産を管理させるであろう。
しもべ しゅじん かえ こころ なか おも だんじょ めしつかい
四五 しかし、もしその僕が、主人の帰りがおそいと心の中で思い、男女の召 使
う た の よ
たちを打ちたたき、そして食べたり、飲んだりして酔いはじめるならば、 四六
しもべ しゅじん おも ひ き とき かえ く
その僕の主人は思いがけない日、気がつかない時に帰って来るであろう。そ

67
かれ げんばつ しょ ふ ちゅうじつ おな め
して、彼を厳罰に処して、不 忠 実なものたちと同じ目にあわせるであろう。 四
しゅじん し したが ようい つと
七 主人のこころを知っていながら、それに従 って用意もせず勤めもしなかっ
しもべ おお う し う
た僕は、多くむち打たれるであろう。 四八しかし、知らずに打たれるようなこ
もの う かた すく おお あた もの おお もと
とをした者は、打たれ方が少ないだろう。多く与えられた者からは多く求め
おお まか もの さら おお ようきゅう
られ、多く任せられた者からは更に多く要 求されるのである。
ひ ちじょう とう ひ も
四九 わたしは、火を地上に投じるためにきたのだ。火がすでに燃えていたなら
ねが う
と、わたしはどんなに願っていることか。 五〇しかし、わたしには受けねばな

らないバプテスマがある。そして、それを受けてしまうまでは、わたしはど
くる おも へいわ
んなにか苦しい思いをすることであろう。 五一あなたがたは、わたしが平和を
ちじょう おも い
こ の 地上 に も た ら す た め に き た と 思 っ て い る の か。あ な た が た に 言 っ て お
ぶんれつ いま のち いっ か
く。そうではない。むしろ分裂である。 五二というのは、今から後は、一家の
うち にん あいわか にん にん たいりつ ちち
内で五人が相分れて、三人はふたりに、ふたりは三人に対立し、 五三また父は
ルカによる福音書

こ こ ちち はは むすめ むすめ はは よめ よめ
子に、子は父に、母は娘に、 娘は母に、しゅうとめは嫁に、嫁はしゅうとめ
たいりつ
に、対立するであろう﹂。
ぐんしゅう たい い くも にし おこ
五四 イエスはまた群 衆に対しても言われた、
﹁あなたがたは、雲が西に起るの
み あめ く い はた
を見るとすぐ、にわか雨がやって来る、と言う。果してそのとおりになる。 五

68
みなみかぜ ふ あ い はた
五 それから南 風が吹くと、暑つくなるだろう、と言う。果してそのとおりに
ぎぜんしゃ てんち もよう み わ し
なる。 五六偽善者よ、あなたがたは天地の模様を見分けることを知りながら、
いま じだい み わ
どうして今の時代を見分けることができないのか。 五七また、あなたがたは、
ただ じぶん はんだん うった ひと
なぜ正しいことを自分で判断しないのか。 五八たとえば、あなたを訴える人と
いっしょ やくにん い とちゅう ひと わかい つと
一緒に役人のところへ行くときには、途中でその人と和解するように努める
ひと さいばんかん い
がよい。そうしないと、その人はあなたを裁判官のところへひっぱって行き、
さいばんかん ごくり ひ わた ごくり ごく な こ
裁判官はあなたを獄吏に引き渡し、獄吏はあなたを獄に投げ込むであろう。 五
い お さいご しはら けっ
九 わたしは言って置く、最後の一レプタまでも支払ってしまうまでは、決して
で く
そこから出て来ることはできない﹂。
第一三章
ルカによる福音書

とき ひとびと びと ち なが
一 ちょうどその時、ある人々がきて、ピラトがガリラヤ人たちの血を流し、そ
かれ ぎせい ち ま し
れを彼らの犠牲の血に混ぜたことを、イエスに知らせた。 二そこでイエスは
こた い びと さいなん
答えて言われた、﹁それらのガリラヤ人が、そのような災難にあったからと
た びといじょう つみ ふか おも
いって、他のすべてのガリラヤ人以上に罪が深かったと思うのか。 三あなた

69
い く あらた おな
がたに言うが、そうではない。あなたがたも悔い改めなければ、みな同じよ
ほろ とう たお ころ
うに滅びるであろう。 四また、シロアムの塔が倒れたためにおし殺されたあ
にん た ぜんじゅうみんいじょう つみ ふさい おも
の十八人は、エルサレムの他の全 住 民 以上に罪の負債があったと思うか。 五
い く あらた
あなたがたに言うが、そうではない。あなたがたも悔い改めなければ、みな
おな ほろ
同じように滅びるであろう﹂。
たとえ かた ひと じぶん えん き
六 それから、この譬を語られた、
﹁ある人が自分のぶどう園にいちじくの木を
う お み さが み えんてい
植 え て 置 い た の で、実 を 捜 し に き た が 見 つ か ら な か っ た。 七そ こ で 園丁 に
い ねんかん み もと き
言った、
﹃わたしは三年間も実を求めて、このいちじくの木のところにきたの
み き き たお
だが、いまだに見あたらない。その木を切り倒してしまえ。なんのために、
と ち お えんてい こた い
土地 を む だ に ふ さ が せ て 置 く の か﹄。 八 す る と 園丁 は 答 え て 言 っ た、﹃ご
しゅじんさま お ほ ひりょう
主人様、ことしも、そのままにして置いてください。そのまわりを掘って肥料
み らいねん み けっこう
をやって見ますから。 九それで来年実がなりましたら結構です。もしそれで
ルカによる福音書

き たお
もだめでしたら、切り倒してください﹄﹂。
あんそくにち かいどう おし ねんかん びょうき れい
一〇 安息日に、ある会堂で教えておられると、一一そこに十八年間も病気の霊に
の まった おんな
つかれ、かがんだままで、からだを伸ばすことの全くできない女がいた。 一二
おんな み よ おんな びょうき い
イエスはこの女を見て、呼びよせ、
﹁女よ、あなたの病気はなおった﹂と言っ

70
て うえ お た
て、 一三手をその上に置かれた。すると立ちどころに、そのからだがまっすぐ
かみ かいどうづかさ あんそくにち
になり、そして神をたたえはじめた。 一四ところが会 堂 司は、イエスが安息日
びょうき いきどお ぐんしゅう い はたら ひ むいか
に病気をいやされたことを憤り、群 衆にむかって言った、﹁働くべき日は六日
あいだ あんそくにち しゅ
ある。その間に、なおしてもらいにきなさい。安息日にはいけない﹂。 一五主
こた い ぎぜんしゃ あんそくにち
はこれに答えて言われた、
﹁偽善者たちよ、あなたがたはだれでも、安息日で
じぶん うし かちく こ や と みず の ひ だ
あっても、自分の牛やろばを家畜小屋から解いて、水を飲ませに引き出して
ねんかん しば
やるではないか。 一六それなら、十八年間もサタンに縛られていた、アブラハ
むすめ おんな あんそくにち そくばく と
ムの娘であるこの女を、安息日であっても、その束縛から解いてやるべきで
い はんたい ひと
はなかったか﹂。 一七こう言われたので、イエスに反対していた人たちはみな
は い ぐんしゅう
恥じ入った。そして群 衆はこぞって、イエスがなされたすべてのすばらしい
み よろこ
みわざを見て喜んだ。
い かみ くに なに に なに
そこで言われた、﹁神の国は何に似ているか。またそれを何にたとえよう
ルカによる福音書

一八
つぶ だね ひと と にわ
か。 一九一粒のからし種のようなものである。ある人がそれを取って庭にま
そだ き そら とり えだ やど い
くと、育って木となり、空の鳥もその枝に宿るようになる﹂。 二〇また言われ
かみ くに なに だね おんな
た、
﹁神の国を何にたとえようか。 二一パン種のようなものである。 女がそれ
と と こな なか ま ぜんたい
を取って三斗の粉の中に混ぜると、全体がふくらんでくる﹂。

71
おし まちまちむらむら とお す たび つづ
二二 さてイエスは教えながら町々村々を通り過ぎ、エルサレムへと旅を続けら
ひと しゅ すく ひと すく
れた。 二三すると、ある人がイエスに、
﹁主よ、救われる人は少ないのですか﹂
たず ひとびと い せま とぐち
と尋ねた。 二四そこでイエスは人々にむかって言われた、﹁狭い戸口からはい
つと じじつ ひと おお
るように努めなさい。事実、はいろうとしても、はいれない人が多いのだか
いえ しゅじん た と と そと た と
ら。 二五家の主人が立って戸を閉じてしまってから、あなたがたが外に立ち戸
はじ しゅじんさま い しゅじん
をたたき始めて、
﹃ご主人様、どうぞあけてください﹄と言っても、主人はそ
こた ひと し い
れに答えて、
﹃あなたがたがどこからきた人なのか、わたしは知らない﹄と言
いっしょ の く
うであろう。 二六そのとき、﹃わたしたちはあなたとご一緒に飲み食いしまし
おおどお おし い だ
た。また、あなたはわたしたちの大通りで教えてくださいました﹄と言い出
かれ ひと し
しても、 二七彼は、
﹃あなたがたがどこからきた人なのか、わたしは知らない。
あくじ はたら もの い い
悪事を働く者どもよ、みんな行ってしまえ﹄と言うであろう。 二八あなたがた
よげんしゃ かみ くに
は、アブラハム、イサク、ヤコブやすべての預言者たちが、神の国にはいっ
ルカによる福音書

じぶん そと な だ な さけ
ているのに、自分たちは外に投げ出されることになれば、そこで泣き叫んだ
は ひとびと ひがし にし
り、歯がみをしたりするであろう。 二九それから人々が、 東から西から、また
みなみ きた かみ くに えんかい せき
南から北からきて、神の国で宴会の席につくであろう。 三〇こうしてあとのも
さき さき
ので先になるものがあり、また、先のものであとになるものもある﹂。

72
とき びと ちかよ い
三一 ちょうどその時、あるパリサイ人たちが、イエスに近寄ってきて言った、
で い ころ
﹁ここから出て行きなさい。ヘロデがあなたを殺そうとしています﹂。 三二そ
かれ い い い み
こで彼らに言われた、﹁あのきつねのところへ行ってこう言え、﹃見よ、わた
あくれい お だ びょうき か め
しはきょうもあすも悪霊を追い出し、また、病気をいやし、そして三日目に
お つぎ ひ
わざを終えるであろう。 三三しかし、きょうもあすも、またその次の日も、わ
すす い よげんしゃ いがい ち し
た し は 進 ん で 行 か ね ば な ら な い。預言者 が エ ル サ レ ム 以外 の 地 で 死 ぬ こ と
え よげんしゃ
は、あり得ないからである﹄。 三四ああ、エルサレム、エルサレム、預言者たち
ころ ひとびと いし う ころ もの
を殺し、おまえにつかわされた人々を石で打ち殺す者よ。ちょうどめんどり
つばさ した あつ こ いく あつ
が翼の下にひなを集めるように、わたしはおまえの子らを幾たび集めようと
おう み
したことであろう。それだのに、おまえたちは応じようとしなかった。 三五見
いえ み す い お
よ、おまえたちの家は見捨てられてしまう。わたしは言って置く、
しゅ な しゅくふく
﹃主の名によってきたるものに、 祝 福あれ﹄
ルカによる福音書

い とき く ふたた あ
とおまえたちが言う時の来るまでは、 再びわたしに会うことはないであろ
う﹂。

73
第一四章
あんそくにち しょくじ は いえ
一 ある安息日のこと、食事をするために、あるパリサイ派のかしらの家には
い ひとびと ようす
いって行かれたが、人々はイエスの様子をうかがっていた。 二するとそこに、
すいしゅ ひと りっぽうがくしゃ
水腫をわずらっている人が、みまえにいた。 三イエスは律法学者やパリサイ
びと い あんそくにち ひと ただ
人たちにむかって言われた、﹁安息日に人をいやすのは、正しいことかどう
かれ だま ひと て お
か﹂。 四彼らは黙っていた。そこでイエスはその人に手を置いていやしてや
かえ かれ い
り、そしてお帰しになった。 五それから彼らに言われた、
﹁あなたがたのうち
じぶん うし い ど お こ あんそくにち
で、自分のむすこか牛が井戸に落ち込んだなら、安息日だからといって、す
ひ あ もの かれ たい かえ
ぐ に 引 き 上 げ て や ら な い 者 が い る だ ろ う か﹂。 六彼 ら は こ れ に 対 し て 返 す
ことば
言葉がなかった。
きゃく まね もの じょうざ えら ようす かれ
客に招かれた者たちが上座を選んでいる様子をごらんになって、彼らに一
ルカによる福音書


たとえ かた こんえん まね じょうざ
つの譬を語られた。 八﹁婚宴に招かれたときには、上座につくな。あるいは、
みぶん たか ひと まね し ばあい
あなたよりも身分の高い人が招かれているかも知れない。 九その場合、あな
ひと まね もの ざ ゆず い
たとその人とを招いた者がきて、
﹃このかたに座を譲ってください﹄と言うで
は い まつざ
あろう。そのとき、あなたは恥じ入って末座につくことになるであろう。 一〇

74
まね ばあい まつざ い まね
むしろ、招かれた場合には、末座に行ってすわりなさい。そうすれば、招い
ひと とも じょうざ ほう すす い
てくれた人がきて、
﹃友よ、上座の方へお進みください﹄と言うであろう。そ
せき とも まえ めんぼく
のとき、あなたは席を共にするみんなの前で、面目をほどこすことになるで
じぶん たか もの ひく じぶん ひく もの たか
あろう。 一一おおよそ、自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高
くされるであろう﹂。
じぶん まね ひと い ごさん ばんさん せき もう
一二 また、イエスは自分を招いた人に言われた、﹁午餐または晩餐の席を設ける
ばあい ゆうじん きょうだい しんぞく かねもち とな びと よ おそ かれ
場合には、友人、 兄 弟、親族、金持の隣り人などは呼ばぬがよい。恐らく彼
まね へんれい う
らもあなたを招きかえし、それであなたは返礼を受けることになるから。 一三
えんかい もよお ばあい びんぼうにん ふ ぐ しゃ あし もうじん まね
むしろ、宴会を催す場合には、貧乏人、不具者、足なえ、盲人などを招くが
かれ へんれい
よい。 一四そうすれば、彼らは返礼ができないから、あなたはさいわいになる
ただ ひとびと ふっかつ さい むく
であろう。正しい人々の復活の際には、あなたは報いられるであろう﹂。
れっせきしゃ き かみ くに しょくじ ひと
列席者のひとりがこれを聞いてイエスに﹁神の国で食事をする人は、さい
ルカによる福音書

一五
い い ひと せいだい ばんさんかい
わいです﹂と言った。 一六そこでイエスが言われた、
﹁ある人が盛大な晩餐会を
もよお おお ひと まね ばんさん じこく まね ひと
催して、大ぜいの人を招いた。 一七晩餐の時刻になったので、招いておいた人
しもべ おく じゅんび
たちのもとに僕を送って、
﹃さあ、おいでください。もう準備ができましたか
い いちよう ことわ さいしょ ひと
ら﹄と言わせた。 一八ところが、みんな一様に断りはじめた。最初の人は、
﹃わ

75
と ち か い み
たしは土地を買いましたので、行って見なければなりません。どうぞ、おゆ
い ひと つい うし か
るしください﹄と言った。 一九ほかの人は、
﹃わたしは五対の牛を買いましたの

で、それをしらべに行くところです。どうぞ、おゆるしください﹄、二〇もうひ
ひと つま まい い
とりの人は、﹃わたしは妻をめとりましたので、参ることができません﹄と言っ
しもべ かえ いじょう こと しゅじん ほうこく いえ しゅじん
た。 二一 僕は帰ってきて、以上の事を主人に報告した。すると家の主人はお
しもべ い まち おおどお こみち い びんぼうにん ふ ぐ しゃ
こって僕に言った、﹃いますぐに、町の大通りや小道へ行って、貧乏人、不具者、
もうじん あし つ しもべ い しゅじんさま
盲人、足なえなどを、ここへ連れてきなさい﹄。 二二 僕は言った、
﹃ご主人様、
おお せき しゅじん しもべ い
仰せのとおりにいたしましたが、まだ席がございます﹄。 二三主人が僕に言っ
みち で い いえ ひとびと
た、﹃道やかきねのあたりに出て行って、この家がいっぱいになるように、人々
む り い お まね
を無理やりにひっぱってきなさい。 二四あなたがたに言って置くが、招かれた
ひと ばんさん もの
人で、わたしの晩餐にあずかる者はひとりもないであろう﹄﹂。
おお ぐんしゅう かれ ほう む い
大ぜいの群 衆がついてきたので、イエスは彼らの方に向いて言われた、 二
ルカによる福音書

二五
ちち はは つま こ きょうだい しまい じぶん いのち す
六 ﹁だれでも、父、母、妻、子、 兄 弟、姉妹、さらに自分の命までも捨てて、
く で し
わたしのもとに来るのでなければ、わたしの弟子となることはできない。 二七
じぶん じゅうじか お く で し
自分の十字架を負うてわたしについて来るものでなければ、わたしの弟子と
ていたく た おも
なることはできない。 二八あなたがたのうちで、だれかが邸宅を建てようと思

76
し あ た かね も み
うなら、それを仕上げるのに足りるだけの金を持っているかどうかを見るた
ひよう けいさん どだい
め、まず、すわってその費用を計算しないだろうか。 二九そうしないと、土台
かんせい み ひと ひと
をすえただけで完成することができず、見ているみんなの人が、 三〇﹃あの人
た し あ い わら
は建てかけたが、仕上げができなかった﹄と言ってあざ笑うようになろう。 三
おう おう たたか まじ で い ばあい
一 また、どんな王でも、ほかの王と戦いを交えるために出て行く場合には、ま
ざ まんにん まんにん ひき む く てき たいこう
ず座して、こちらの一万人をもって、二万人を率いて向かって来る敵に対抗
かんが み じぶん ちから てき
できるかどうか、考えて見ないだろうか。 三二もし自分の力にあまれば、敵が
とお し しゃ おく わ もと おな
まだ遠くにいるうちに、使者を送って、和を求めるであろう。 三三それと同じ
じぶん ざいさん す き
ように、あなたがたのうちで、自分の財産をことごとく捨て切るものでなく
で し しお よ しお
ては、わたしの弟子となることはできない。 三四塩は良いものだ。しかし、塩
なに しおあじ と つち
もききめがなくなったら、何によって塩味が取りもどされようか。 三五土にも
ひりょう やく た そと な す き みみ き
肥料にも役立たず、外に投げ捨てられてしまう。聞く耳のあるものは聞くが
ルカによる福音書

よい﹂。

77
第一五章
しゅぜいにん つみびと みな はなし き ちかよ
一 さて、取税人や罪人たちが皆、イエスの話を聞こうとして近寄ってきた。 二
びと りっぽうがくしゃ ひと つみびと むか
するとパリサイ人や律法学者たちがつぶやいて、﹁この人は罪人たちを迎えて
いっしょ しょくじ い かれ たとえ はな
一緒に食事をしている﹂と言った。 三そこでイエスは彼らに、この譬をお話し
ぴき ひつじ も もの
になった、 四﹁あなたがたのうちに、百匹の羊を持っている者がいたとする。
ぴき ひき のはら のこ
その一匹がいなくなったら、九十九匹を野原に残しておいて、いなくなった
ぴき み さが ある み よろこ
一匹を見つけるまでは捜し歩かないであろうか。 五そして見つけたら、 喜ん
じぶん かた の いえ かえ ゆうじん とな びと よ あつ
でそれを自分の肩に乗せ、 六家に帰ってきて友人や隣り人を呼び集め、
﹃わた
いっしょ よろこ ひつじ み い
しと一緒に喜んでください。いなくなった羊を見つけましたから﹄と言うで
き おな つみびと く あらた
あろう。 七よく聞きなさい。それと同じように、罪人がひとりでも悔い改め
くいあらた ひつよう にん ただ ひと おお
るなら、悔 改めを必要としない九十九人の正しい人のためにもまさる大きい
ルカによる福音書

てん
よろこびが、天にあるであろう。
おんな ぎんか まい も まい
八 また、ある女が銀貨十枚を持っていて、もしその一枚をなくしたとすれば、
かのじょ いえじゅう は み ちゅういぶか さが
彼女はあかりをつけて家 中を掃き、それを見つけるまでは注意深く捜さない
み おんなとも きんじょ おんな よ あつ
であろうか。 九そして、見つけたなら、 女 友だちや近所の女たちを呼び集め

78
いっしょ よろこ ぎんか み
て、﹃わたしと一緒に喜んでください。なくした銀貨が見つかりましたから﹄
い き おな つみびと
と言うであろう。 一〇よく聞きなさい。それと同じように、罪人がひとりでも
く あらた かみ みつかい まえ
悔い改めるなら、神の御使たちの前でよろこびがあるであろう﹂。
い ひと おとうと
一一 また言われた、
﹁ある人に、ふたりのむすこがあった。 一二ところが、 弟が
ちちおや い ちち ざいさん ぶん
父親に言った、﹃父よ、あなたの財産のうちでわたしがいただく分をくださ
ちち しんだい わ いくにち
い﹄。そこで、父はその身代をふたりに分けてやった。 一三それから幾日もた
おとうと じぶん ぜんぶ とお ところ い
たないうちに、 弟は自分のものを全部とりまとめて遠い所へ行き、そこで
ほうとう み も ざいさん つか はた なに ろうひ
放蕩に身を持ちくずして財産を使い果した。 一四何もかも浪費してしまった
ちほう かれ た きゅう
のち、その地方にひどいききんがあったので、彼は食べることにも窮しはじ
ちほう じゅうみん い み よ
めた。 一五そこで、その地方のある住 民のところに行って身を寄せたところ
ひと かれ はたけ ぶた か かれ ぶた た まめ
が、その人は彼を畑にやって豚を飼わせた。 一六彼は、豚の食べるいなご豆で
はら み おも なに ひと
腹を満たしたいと思うほどであったが、何もくれる人はなかった。 一七そこで
ルカによる福音書

かれ ほんしん た い ちち しょくもつ あま
彼 は 本心 に 立 ち か え っ て 言 っ た、﹃父 の と こ ろ に は 食 物 の あ り 余 っ て い る
やといにん おお う し た
雇 人が大ぜいいるのに、わたしはここで飢えて死のうとしている。 一八立っ
ちち かえ い ちち てん たい
て、父のところへ帰って、こう言おう、父よ、わたしは天に対しても、あな
つみ おか よ しかく
たにむかっても、罪を犯しました。 一九もう、あなたのむすこと呼ばれる資格

79
やといにん どうよう た
はありません。どうぞ、雇 人のひとり同様にしてください﹄。 二〇そこで立っ
ちち で とお はな ちち かれ あわ
て、父のところへ出かけた。まだ遠く離れていたのに、父は彼をみとめ、哀
おも はし よ くび せっぷん ちち い ちち
れに思って走り寄り、その首をだいて接吻した。 二一むすこは父に言った、
﹃父
てん たい つみ おか
よ、わたしは天に対しても、あなたにむかっても、罪を犯しました。もうあ
よ しかく ちち しもべ い
なたのむすこと呼ばれる資格はありません﹄。 二二しかし父は僕たちに言いつ
はや さいじょう きもの だ こ き ゆびわ て
けた、
﹃さあ、早く、最 上の着物を出してきてこの子に着せ、指輪を手にはめ、
あし こ こ うし ひ
はきものを足にはかせなさい。 二三また、肥えた子牛を引いてきてほふりなさ
た たの し い かえ
い。食べて楽しもうではないか。 二四このむすこが死んでいたのに生き返り、
み しゅくえん
いなくなっていたのに見つかったのだから﹄。それから祝 宴がはじまった。
あに はたけ かえ いえ ちか おんがく おど おと
二五 ところが、兄は畑にいたが、帰ってきて家に近づくと、音楽や踊りの音が
きこ しもべ よ なにごと たず
聞えたので、 二六ひとりの僕を呼んで、
﹃いったい、これは何事なのか﹄と尋ね
しもべ こた きょうだい かえ ぶ じ むか
た。 二七 僕は答えた、
﹃あなたのご兄 弟がお帰りになりました。無事に迎えた
ルカによる福音書

ちちうえ こ こ うし あに
というので、父上が肥えた子牛をほふらせなさったのです﹄。 二八兄はおこっ
いえ ちち で あに ちち
て家にはいろうとしなかったので、父が出てきてなだめると、 二九兄は父にむ
い なん ねん つか ど い
かって言った、
﹃わたしは何か年もあなたに仕えて、一度でもあなたの言いつ
とも たの こ ぴき くだ
け に そ む い た こ と は な か っ た の に、友 だ ち と 楽 し む た め に 子 や ぎ 一 匹 も 下

80
ゆうじょ いっしょ
さったことはありません。 三〇それだのに、遊女どもと一緒になって、あなた
しんだい く こ かえ こ こ
の身代を食いつぶしたこのあなたの子が帰ってくると、そのために肥えた子
うし ちち い こ
牛をほふりなさいました﹄。 三一すると父は言った、
﹃子よ、あなたはいつもわ
いっしょ ぜんぶ
たしと一緒にいるし、またわたしのものは全部あなたのものだ。 三二しかし、
おとうと し い かえ み
このあなたの弟は、死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかっ
よろこ いわ
たのだから、 喜び祝うのはあたりまえである﹄﹂。
第一六章
で し い かねもち かれい
一 イエスはまた、弟子たちに言われた、
﹁ある金持のところにひとりの家令が
かれ しゅじん ざいさん ろうひ つ ぐち もの
いたが、彼は主人の財産を浪費していると、告げ口をする者があった。 二そこ
しゅじん かれ よ い き
で主人は彼を呼んで言った、
﹃あなたについて聞いていることがあるが、あれ
ルカによる福音書

かいけいほうこく だ かれい お
はどうなのか。あなたの会計報告を出しなさい。もう家令をさせて置くわけ
かれい こころ なか おも しゅじん
にはいかないから﹄。 三この家令は心の中で思った、﹃どうしようか。主人が
しょく と あ つち ほ ちから もの
わたしの職を取り上げようとしている。土を掘るには力がないし、物ごいす
は しょく
るのは恥ずかしい。 四そうだ、わかった。こうしておけば、職をやめさせられ

81
ばあい ひとびと いえ むか かれ
る 場合、人々 が わ た し を そ の 家 に 迎 え て く れ る だ ろ う﹄。 五そ れ か ら 彼 は、
しゅじん ふ さ い しゃ よ だ はじ ひと
主人の負債者をひとりびとり呼び出して、初めの人に、
﹃あなたは、わたしの
しゅじん ふさい たず あぶら たる こた
主人にどれだけ負債がありますか﹄と尋ねた。 六﹃油 百樽です﹄と答えた。そ
かれい い しょうしょ
こで家令が言った、
﹃ここにあなたの証 書がある。すぐそこにすわって、五十
たる か か つぎ ふさい
樽と書き変えなさい﹄。 七次に、もうひとりに、
﹃あなたの負債はどれだけです
たず むぎ こく こた たい
か﹄と尋ねると、﹃麦百石です﹄と答えた。これに対して、﹃ここに、あなた
しょうしょ こく か か い しゅじん
の証 書があるが、八十石と書き変えなさい﹄と言った。 八ところが主人は、こ
ふせい かれい りこう かた よ こ じだい たい
の 不正 な 家令 の 利口 な や り 方 を ほ め た。こ の 世 の 子 ら は そ の 時代 に 対 し て
ひかり こ りこう い ふせい とみ もち
は、光の子らよりも利口である。 九またあなたがたに言うが、不正の富を用い
じぶん とも とみ な
てでも、自分のために友だちをつくるがよい。そうすれば、富が無くなった
ばあい えいえん むか しょうじ ちゅうじつ
場合、あなたがたを永遠のすまいに迎えてくれるであろう。 一〇小事に忠 実
ひと だいじ ちゅうじつ しょうじ ふ ちゅうじつ ひと だいじ ふ ちゅうじつ
な人は、大事にも忠 実である。そして、小事に不 忠 実な人は大事にも不 忠 実
ルカによる福音書

ふせい とみ ちゅうじつ
である。 一一だから、もしあなたがたが不正の富について忠 実でなかったら、
しん とみ まか ひと
だ れ が 真 の 富 を 任 せ る だ ろ う か。 一 二ま た、も し ほ か の 人 の も の に つ い て
ちゅうじつ あた
忠 実でなかったら、だれがあなたがたのものを与えてくれようか。 一三どの
しもべ しゅじん か つか いっぽう にく たほう あい
僕でも、ふたりの主人に兼ね仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛

82
いっぽう した たほう
し、あるいは、一方に親しんで他方をうとんじるからである。あなたがたは、
かみ とみ か つか
神と富とに兼ね仕えることはできない﹂。
よく ふか びと ことば き
一四 欲の深いパリサイ人たちが、すべてこれらの言葉を聞いて、イエスをあざ
わら かれ い ひとびと まえ じぶん
笑った。 一五そこで彼らにむかって言われた、
﹁あなたがたは、人々の前で自分
ただ ひと かみ こころ ぞん
を正しいとする人たちである。しかし、神はあなたがたの心をご存じである。
ひとびと あいだ たっと かみ い りっぽう
人々 の 間 で 尊 ば れ る も の は、神 の み ま え で は 忌 み き ら わ れ る。 一 六律法 と
よげんしゃ とき いらい かみ くに の つた
預言者とはヨハネの時までのものである。それ以来、神の国が宣べ伝えられ、
ひとびと みな とつにゅう りっぽう いっかく お てんち
人々は皆これに突 入している。 一七しかし、律法の一画が落ちるよりは、天地
ほろ ほう じぶん つま だ た おんな
の滅びる方が、もっとたやすい。 一八すべて自分の妻を出して他の女をめとる
もの かんいん おこな おっと だ おんな もの かんいん
者は、姦淫を行うものであり、また、 夫から出された女をめとる者も、姦淫
おこな
を行うものである。
かねもち かれ むらさき ころも ほそぬの き まいにち あそ くら
ある金持がいた。彼は紫の衣や細布を着て、毎日ぜいたくに遊び暮してい
ルカによる福音書

一九
びんぼうにん ぜんしん もの かねもち
た。 二〇ところが、ラザロという貧乏人が全身でき物でおおわれて、この金持
げんかん まえ しょくたく お う のぞ
の玄関の前にすわり、 二一その食 卓から落ちるもので飢えをしのごうと望ん
うえ いぬ かれ もの びんぼうにん
でいた。その上、犬がきて彼のでき物をなめていた。 二二この貧乏人がついに
し みつかい つ おく かねもち し
死に、御使たちに連れられてアブラハムのふところに送られた。金持も死ん

83
ほうむ よ み くる め
で葬られた。 二三そして黄泉にいて苦しみながら、目をあげると、アブラハム
み こえ
とそのふところにいるラザロとが、はるかに見えた。 二四そこで声をあげて
い ちち
言った、
﹃父、アブラハムよ、わたしをあわれんでください。ラザロをおつか
ゆびさき みず した ひ
わしになって、その指先を水でぬらし、わたしの舌を冷やさせてください。わ
かえん なか くる い こ
たしはこの火炎の中で苦しみもだえています﹄。 二五アブラハムが言った、
﹃子
おも だ せいぜん う ほう わる
よ、思い出すがよい。あなたは生前よいものを受け、ラザロの方は悪いもの
う いま かれ なぐさ くる
を受けた。しかし今ここでは、彼は慰められ、あなたは苦しみもだえている。
あいだ おお ふち
二六 そればかりか、わたしたちとあなたがたとの間には大きな淵がおいてあっ
ほう わた おも
て、こちらからあなたがたの方へ渡ろうと思ってもできないし、そちらから
ほう こ く かねもち い ちち
わたしたちの方へ越えて来ることもできない﹄。 二七そこで金持が言った、
﹃父
ねが ちち いえ
よ、ではお願いします。わたしの父の家へラザロをつかわしてください。 二八
にん きょうだい くる ところ く
わたしに五人の兄 弟がいますので、こんな苦しい所へ来ることがないよう
ルカによる福音書

かれ けいこく い かれ
に、彼らに警告していただきたいのです﹄。 二九アブラハムは言った、
﹃彼らに
よげんしゃ き かねもち い
はモーセと預言者とがある。それに聞くがよかろう﹄。 三〇金持が言った、
﹃い
ちち しにん なか きょうだい
えいえ、父アブラハムよ、もし死人の中からだれかが兄 弟たちのところへ
い かれ く あらた い
行ってくれましたら、彼らは悔い改めるでしょう﹄。 三一アブラハムは言った、

84
かれ よげんしゃ みみ かたむ しにん なか
﹃もし彼らがモーセと預言者とに耳を傾けないなら、死人の中からよみがえっ
もの かれ すす き い
てくる者があっても、彼らはその勧めを聞き入れはしないであろう﹄﹂。
第一七章
で し い つみ ゆうわく く さ
一 イエスは弟子たちに言われた、
﹁罪の誘惑が来ることは避けられない。しか
もの ちい もの
し、それをきたらせる者は、わざわいである。 二これらの小さい者のひとりを
つみ ゆうわく くび うみ な い
罪に誘惑するよりは、むしろ、ひきうすを首にかけられて海に投げ入れられ
ほう じぶん ちゅうい
た方が、ましである。 三あなたがたは、自分で注意していなさい。もしあなた
きょうだい つみ おか かれ く あらた
の兄 弟が罪を犯すなら、彼をいさめなさい。そして悔い改めたら、ゆるして
たい にち ど つみ おか ど く あらた
やりなさい。 四もしあなたに対して一日に七度罪を犯し、そして七度﹃悔い改
い かえ
めます﹄と言ってあなたのところへ帰ってくれば、ゆるしてやるがよい﹂。
ルカによる福音書

し と しゅ しんこう ま い
五 使徒たちは主に﹁わたしたちの信仰を増してください﹂と言った。 六そこで
しゅ い だね つぶ しんこう くわ き
主が言われた、﹁もし、からし種一粒ほどの信仰があるなら、この桑の木に、
ぬ だ うみ う い ことば
﹃抜け出して海に植われ﹄と言ったとしても、その言葉どおりになるであろう。
こうさく ぼくちく しもべ
七 あなたがたのうちのだれかに、耕作か牧畜かをする僕があるとする。その

85
しもべ はたけ かえ き かれ しょくたく い
僕が畑から帰って来たとき、彼に﹃すぐきて、 食 卓につきなさい﹄と言うだ
ゆうしょく ようい の く
ろうか。 八かえって、﹃夕 食の用意をしてくれ。そしてわたしが飲み食いをす
おび きゅうじ の く
るあいだ、帯をしめて給仕をしなさい。そのあとで、飲み食いをするがよい﹄
い しもべ めい しゅじん かれ
と、言うではないか。 九 僕が命じられたことをしたからといって、主人は彼に
かんしゃ どうよう めい みな
感謝するだろうか。 一〇同様にあなたがたも、命じられたことを皆してしまっ
しもべ こと す
たとき、
﹃わたしたちはふつつかな僕です。すべき事をしたに過ぎません﹄と

言いなさい﹂。
い あいだ とお
一一 イエスはエルサレムへ行かれるとき、サマリヤとガリラヤとの間を通られ
むら にん びょうにん で あ かれ
た。 一二そして、ある村にはいられると、十人のらい病 人に出会われたが、彼
とお ほう た こえ は
らは遠くの方で立ちとどまり、一三声を張りあげて、
﹁イエスさま、わたしたち
い かれ さいし
をあわれんでください﹂と言った。 一四イエスは彼らをごらんになって、
﹁祭司
い み い い とちゅう
たちのところに行って、からだを見せなさい﹂と言われた。そして、行く途中
ルカによる福音書

かれ じぶん し
で彼らはきよめられた。 一五そのうちのひとりは、自分がいやされたことを知
おおごえ かみ かえ あし ふ
り、大声で神をほめたたえながら帰ってきて、 一六イエスの足もとにひれ伏し
かんしゃ びと かれ い
て感謝した。これはサマリヤ人であった。 一七イエスは彼にむかって言われ
にん にん
た、
﹁きよめられたのは、十人ではなかったか。ほかの九人は、どこにいるの

86
かみ かえ た こ く じん
か。 一八神をほめたたえるために帰ってきたものは、この他国人のほかにはい
ひと い た い
ないのか﹂。 一九それから、その人に言われた、
﹁立って行きなさい。あなたの
しんこう すく
信仰があなたを救ったのだ﹂。
かみ くに く びと たず こた い
二〇 神の国はいつ来るのかと、パリサイ人が尋ねたので、イエスは答えて言わ
かみ くに み く み
れた、
﹁神の国は、見られるかたちで来るものではない。 二一また﹃見よ、ここ
い かみ くに じつ
にある﹄
﹃あそこにある﹄などとも言えない。神の国は、実にあなたがたのた
なか
だ中にあるのだ﹂。
で し い ひと こ ひ にち み
二二 それから弟子たちに言われた、﹁あなたがたは、人の子の日を一日でも見た
ねが み とき く ひとびと
いと願っても見ることができない時が来るであろう。 二三人々はあなたがた
み み い い
に、﹃見よ、あそこに﹄﹃見よ、ここに﹄と言うだろう。しかし、そちらへ行
かれ お てん はし で てん はし
くな、彼らのあとを追うな。 二四いなずまが天の端からひかり出て天の端へと
わた ひと こ ひ おな
ひらめき渡るように、人の子もその日には同じようであるだろう。 二五しか
ルカによる福音書

かれ おお くる う じだい ひとびと す
し、彼はまず多くの苦しみを受け、またこの時代の人々に捨てられねばなら
とき ひと こ とき どうよう おこ
ない。 二六そして、ノアの時にあったように、人の子の時にも同様なことが起
はこぶね ひ ひとびと く の
るであろう。 二七ノアが箱舟にはいる日まで、人々は食い、飲み、めとり、と
こうずい おそ かれ ほろ
つぎなどしていたが、そこへ洪水が襲ってきて、彼らをことごとく滅ぼした。

87
とき おな おこ ひとびと く の か う う
二八 ロトの時にも同じようなことが起った。人々は食い、飲み、買い、売り、植
た で い ひ てん ひ
え、建てなどしていたが、 二九ロトがソドムから出て行った日に、天から火と
いおう ふ かれ ほろ ひと こ あらわ ひ
硫黄とが降ってきて、彼らをことごとく滅ぼした。 三〇人の子が現れる日も、
どうよう ひ おくじょう もの じぶん も
ちょうどそれと同様であろう。 三一その日には、屋 上にいる者は、自分の持ち
もの いえ なか と はたけ もの おな
物が家の中にあっても、取りにおりるな。 畑にいる者も同じように、あとへ
つま おも だ じぶん いのち すく
もどるな。 三二ロトの妻のことを思い出しなさい。 三三自分の命を救おうとす
うしな うしな たも
るものは、それを失い、それを失うものは、保つのである。 三四あなたがたに
い よ おとこ ねどこ と さ
言っておく。その夜、ふたりの男が一つ寝床にいるならば、ひとりは取り去
た のこ おんな いっしょ
られ、他のひとりは残されるであろう。 三五ふたりの女が一緒にうすをひいて
と さ た のこ
いるならば、ひとりは取り去られ、他のひとりは残されるであろう。︹ 三六 ふた
おとこ はたけ と さ た のこ
り の 男 が 畑 に お れ ば、ひ と り は 取 り 去 ら れ、他 の ひ と り は 残 さ れ る で あ ろ
で し しゅ たず
う︺﹂。 三七弟子たちは﹁主よ、それはどこであるのですか﹂と尋ねた。すると
ルカによる福音書

い したい ところ あつ
イエスは言われた、
﹁死体のある所には、またはげたかが集まるものである﹂。

88
第一八章
しつぼう つね いの ひとびと たとえ おし
一 また、イエスは失望せずに常に祈るべきことを、人々に譬で教えられた。 二
まち かみ おそ ひと ひと おも さいばんかん
﹁ある町に、神を恐れず、人を人とも思わぬ裁判官がいた。 三ところが、その
おな まち かれ
同じ町にひとりのやもめがいて、彼のもとにたびたびきて、
﹃どうぞ、わたし
うった もの まも ねが かれ
を訴える者をさばいて、わたしを守ってください﹄と願いつづけた。 四彼はし
あいだ い こころ かんが
ばらくの間きき入れないでいたが、そののち、心のうちで考えた、
﹃わたしは
かみ おそ ひと ひと おも めんどう
神をも恐れず、人を人とも思わないが、五このやもめがわたしに面倒をかける
かのじょ さいばん た
から、彼女のためになる裁判をしてやろう。そうしたら、絶えずやってきて
なや しゅ い ふ ぎ
わたしを悩ますことがなくなるだろう﹄﹂。 六そこで主は言われた、
﹁この不義
さいばんかん い き かみ に ち や さけ もと せんみん
な裁判官の言っていることを聞いたか。 七まして神は、日夜叫び求める選民
ただ なが あいだ
のために、正しいさばきをしてくださらずに長い間そのままにしておかれる
ルカによる福音書

い かみ
ことがあろうか。 八あなたがたに言っておくが、神はすみやかにさばいてく
ひと こ く ちじょう しんこう み
ださるであろう。しかし、人の子が来るとき、地上に信仰が見られるであろ
うか﹂。
じぶん ぎじん じにん たにん み さ ひと たい
九 自分を義人だと自任して他人を見下げている人たちに対して、イエスはま

89
たとえ はな ひと いの みや のぼ
たこの譬をお話しになった。 一〇﹁ふたりの人が祈るために宮に上った。その
びと しゅぜいにん びと
ひとりはパリサイ人であり、もうひとりは取税人であった。 一一パリサイ人は
た いの かみ ひと どんよく
立って、ひとりでこう祈った、
﹃神よ、わたしはほかの人たちのような貪欲な
もの ふせい もの かんいん もの しゅぜいにん にんげん
者、不正な者、姦淫をする者ではなく、また、この取税人のような人間でも
かんしゃ しゅう ど だんじき ぜんしゅうにゅう
ないことを感謝します。 一二わたしは一 週に二度断食しており、全 収 入の十
ぶん しゅぜいにん とお はな た め てん
分の一をささげています﹄。 一三ところが、取税人は遠く離れて立ち、目を天に
むね う い かみさま つみびと
むけようともしないで、胸を打ちながら言った、
﹃神様、罪人のわたしをおゆ
い かみ ぎ じぶん いえ
るしください﹄と。 一四あなたがたに言っておく。神に義とされて自分の家に
かえ しゅぜいにん びと
帰ったのは、この取税人であって、あのパリサイ人ではなかった。おおよそ、
じぶん たか もの ひく じぶん ひく もの たか
自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高くされるであろう﹂。
ひとびと おさ ご つ
一五 イエスにさわっていただくために、人々が幼な子らをみもとに連れてき
で し み かれ
た。ところが、弟子たちはそれを見て、彼らをたしなめた。 一六するとイエス
ルカによる福音書

おさ ご よ よ い おさ ご く
は幼な子らを呼び寄せて言われた、﹁幼な子らをわたしのところに来るままに
と かみ くに もの くに
しておきなさい、止めてはならない。神の国はこのような者の国である。 一七
き おさ ご かみ くに う もの
よく聞いておくがよい。だれでも幼な子のように神の国を受けいれる者でな
けっ
ければ、そこにはいることは決してできない﹂。

90
やくにん たず し なに えいえん せいめい う
一八 また、ある役人がイエスに尋ねた、
﹁よき師よ、何をしたら永遠の生命が受
い もの い
けられましょうか﹂。 一九イエスは言われた、﹁なぜわたしをよき者と言うの
かみ もの し
か。神ひとりのほかによい者はいない。 二〇いましめはあなたの知っている
かんいん ころ ぬす ぎしょう た ちち はは
とおりである、
﹃姦淫するな、殺すな、盗むな、偽証を立てるな、父と母とを
うやま かれ い ちい とき まも
敬え﹄﹂。 二一すると彼は言った、
﹁それらのことはみな、小さい時から守ってお
き い こと
ります﹂。 二二イエスはこれを聞いて言われた、﹁あなたのする事がまだ一つ
のこ も う はら まず ひとびと わ
残っている。持っているものをみな売り払って、貧しい人々に分けてやりな
てん たから も したが
さい。そうすれば、天に宝を持つようになろう。そして、わたしに従 ってき
かれ ことば き ひじょう かな おおがねもち
なさい﹂。 二三彼はこの言葉を聞いて非常に悲しんだ。大金持であったからで
かれ ようす み い ざいさん もの かみ くに
ある。 二四イエスは彼の様子を見て言われた、﹁財産のある者が神の国にはい
と もの かみ くに
るのはなんとむずかしいことであろう。 二五富んでいる者が神の国にはいる
はり あな とお ほう き ひとびと
よりは、らくだが針の穴を通る方が、もっとやさしい﹂。 二六これを聞いた人々
ルカによる福音書

すく たず
が、
﹁それでは、だれが救われることができるのですか﹂と尋ねると、 二七イエ
い ひと こと かみ い
スは言われた、﹁人にはできない事も、神にはできる﹂。 二八ペテロが言った、
じぶん す したが
﹁ごらんなさい、わたしたちは自分のものを捨てて、あなたに従いました﹂。 二
い き かみ くに いえ
九 イエスは言われた、﹁よく聞いておくがよい。だれでも神の国のために、家、

91
つま きょうだい りょうしん こ す もの かなら じだい いくばい う
妻、兄 弟、両 親、子を捨てた者は、 三〇 必ずこの時代ではその幾倍もを受け、
よ えいえん せいめい う
また、きたるべき世では永遠の生命を受けるのである﹂。
で し よ よ い み
三一 イエスは十二弟子を呼び寄せて言われた、﹁見よ、わたしたちはエルサレム
のぼ い ひと こ よげんしゃ じょうじゅ
へ上って行くが、人の子について預言者たちがしるしたことは、すべて成 就
ひと こ いほうじん ひ
するであろう。 三二人の子は異邦人に引きわたされ、あざけられ、はずかしめ
う う ころ
を受け、つばきをかけられ、 三三また、むち打たれてから、ついに殺され、そ
か め で し なにひと
して三日目によみがえるであろう﹂。 三四弟子たちには、これらのことが何一
ことば かれ かく い
つわからなかった。この言葉が彼らに隠されていたので、イエスの言われた
こと りかい
事が理解できなかった。
ちか もうじん みち もの
三五 イエスがエリコに近づかれたとき、ある盲人が道ばたにすわって、物ごい
ぐんしゅう とお す おと みみ かれ なにごと たず
をしていた。 三六群 衆が通り過ぎる音を耳にして、彼は何事があるのかと尋
とお き こえ
ねた。 三七ところが、ナザレのイエスがお通りなのだと聞かされたので、三八声
ルカによる福音書

こ くだ い
をあげて、
﹁ダビデの子イエスよ、わたしをあわれんで下さい﹂と言った。 三九
せんとう た ひとびと かれ だま かれ はげ さけ
先頭に立つ人々が彼をしかって黙らせようとしたが、彼はますます激しく叫
こ くだ
びつづけた、
﹁ダビデの子よ、わたしをあわれんで下さい﹂。 四〇そこでイエス
た もの つ く めい かれ ちか
は立ちどまって、その者を連れて来るように、とお命じになった。彼が近づ

92
なに しゅ
いたとき、 四一﹁わたしに何をしてほしいのか﹂とおたずねになると、
﹁主よ、
み こた い み
見えるようになることです﹂と答えた。 四二そこでイエスは言われた、
﹁見える
しんこう すく かれ み
ようになれ。あなたの信仰があなたを救った﹂。 四三すると彼は、たちまち見
かみ したが い
えるようになった。そして神をあがめながらイエスに従 って行った。これ
み ひとびと かみ
を見て、人々はみな神をさんびした。
第一九章
まち とお
一 さて、イエスはエリコにはいって、その町をお通りになった。 二ところが、
な ひと ひと しゅぜいにん かねもち
そ こ に ザ ア カ イ と い う 名 の 人 が い た。こ の 人 は 取税人 の か し ら で、金持 で
かれ ひと み おも せ ひく
あった。 三彼は、イエスがどんな人か見たいと思っていたが、背が低かったの
ぐんしゅう み み
で、 群 衆にさえぎられて見ることができなかった。 四それでイエスを見るた
ルカによる福音書

まえ ほう はし い くわ き のぼ とお
めに、前の方に走って行って、いちじく桑の木に登った。そこを通られると
ば しょ うえ み
ころだったからである。 五イエスは、その場所にこられたとき、上を見あげて
い いそ お いえ と
言われた、
﹁ザアカイよ、急いで下りてきなさい。きょう、あなたの家に泊ま
いそ
ることにしているから﹂。 六そこでザアカイは急いでおりてきて、よろこんで

93
むか い ひとびと み かれ つみびと いえ
イエスを迎え入れた。 七人々はみな、これを見てつぶやき、
﹁彼は罪人の家に
きゃく い た しゅ い しゅ
はいって客となった﹂と言った。 八ザアカイは立って主に言った、
﹁主よ、わ
ちか じぶん ざいさん はんぶん ひんみん ほどこ
た し は 誓 っ て 自分 の 財産 の 半分 を 貧民 に 施 し ま す。ま た、も し だ れ か か ら
ふせい とりた ばい かえ かれ
不正な取立てをしていましたら、それを四倍にして返します﹂。 九イエスは彼
い すくい いえ ひと こ
に言われた、
﹁きょう、救がこの家にきた。この人もアブラハムの子なのだか
ひと こ うしな たず だ すく
ら。 一〇人の子がきたのは、 失われたものを尋ね出して救うためである﹂。
ひとびと ことば き たとえ はな
一一 人々がこれらの言葉を聞いているときに、イエスはなお一つの譬をお話し
ちか ひとびと かみ くに
になった。それはエルサレムに近づいてこられたし、また人々が神の国はた
あらわ おも い みぶん たか
ちまち現れると思っていたためである。 一二それで言われた、﹁ある身分の高
ひと おうい う かえ とお ところ たびだ
い人が、王位を受けて帰ってくるために遠い所へ旅立つことになった。 一三そ
にん しもべ よ わた い かえ く
こで十人の僕を呼び十ミナを渡して言った、
﹃わたしが帰って来るまで、これ
しょうばい ほんごく じゅうみん かれ にく
で商 売をしなさい﹄。 一四ところが、本国の住 民は彼を憎んでいたので、あと
ルカによる福音書

し しゃ ひと おう のぞ い
から使者をおくって、
﹃この人が王になるのをわれわれは望んでいない﹄と言
かれ おうい う かえ
わせた。 一五さて、彼が王位を受けて帰ってきたとき、だれがどんなもうけを
し かね わた しもべ よ さいしょ
したかを知ろうとして、金を渡しておいた僕たちを呼んでこさせた。 一六最初
もの すす で い しゅじんさま
の者が進み出て言った、﹃ご主人様、あなたの一ミナで十ミナをもうけまし

94
しゅじん い しもべ ちい こと ちゅうじつ
た﹄。 一七主人は言った、
﹃よい僕よ、うまくやった。あなたは小さい事に忠 実
まち しはい つぎ もの い しゅじんさま
であったから、十の町を支配させる﹄。 一八次の者がきて言った、﹃ご主人様、あ
もの
なたの一ミナで五ミナをつくりました﹄。 一九そこでこの者にも、
﹃では、あな
まち い もの
たは五つの町のかしらになれ﹄と言った。 二〇それから、もうひとりの者がき
い しゅじんさま
て言った、
﹃ご主人様、さあ、ここにあなたの一ミナがあります。わたしはそ
つつ かた
れをふくさに包んで、しまっておきました。 二一あなたはきびしい方で、おあ
と か ひと
ずけにならなかったものを取りたて、おまきにならなかったものを刈る人な
かれ い わる しもべ
ので、おそろしかったのです﹄。 二二彼に言った、
﹃悪い僕よ、わたしはあなた
い ことば
の言ったその言葉であなたをさばこう。わたしがきびしくて、あずけなかっ
と か にんげん し
たものを取りたて、まかなかったものを刈る人間だと、知っているのか。 二三
かね ぎんこう い かえ
では、なぜわたしの金を銀行に入れなかったのか。そうすれば、わたしが帰っ
かね り し いっしょ ひ だ
てきたとき、その金を利子と一緒に引き出したであろうに﹄。 二四そして、そば
ルカによる福音書

た ひとびと かれ と あ も
に立っていた人々に、
﹃その一ミナを彼から取り上げて、十ミナを持っている
もの あた い かれ い しゅじんさま ひと すで
者に与えなさい﹄と言った。 二五彼らは言った、
﹃ご主人様、あの人は既に十ミ
も い も ひと
ナを持っています﹄。 二六﹃あなたがたに言うが、おおよそ持っている人には、
あた も ひと も と あ
なお与えられ、持っていない人からは、持っているものまでも取り上げられ

95
おう この てき
るであろう。 二七しかしわたしが王になることを好まなかったあの敵どもを、
まえ う ころ
ここにひっぱってきて、わたしの前で打ち殺せ﹄﹂。
い せんとう た のぼ い
二八 イエスはこれらのことを言ったのち、先頭に立ち、エルサレムへ上って行
やま そ ちか
かれた。 二九そしてオリブという山に沿ったベテパゲとベタニヤに近づかれ
で し い む むら い
たとき、ふたりの弟子をつかわして言われた、三〇﹁向こうの村へ行きなさい。
の こ
そこにはいったら、まだだれも乗ったことのないろばの子がつないであるの
み と ひ と
を見るであろう。それを解いて、引いてきなさい。 三一もしだれかが﹃なぜ解
と しゅ い よう い
くのか﹄と問うたら、
﹃主がお入り用なのです﹄と、そう言いなさい﹂。 三二そ
もの い み はた い
こで、つかわされた者たちが行って見ると、果して、言われたとおりであっ
かれ こ と も ぬし
た。 三三彼らが、そのろばの子を解いていると、その持ち主たちが、
﹁なぜろば
こ と い しゅ い よう こた
の子を解くのか﹂と言ったので、 三四﹁主がお入り用なのです﹂と答えた。 三五
ひ こ うえ じぶん
そ し て そ れ を イ エ ス の と こ ろ に 引 い て き て、そ の 子 ろ ば の 上 に 自分 た ち の
ルカによる福音書

うわぎ の すす い ひとびと じぶん


上着をかけてイエスをお乗せした。 三六そして進んで行かれると、人々は自分
うわぎ みち し やま くだ みち ちか
たちの上着を道に敷いた。 三七いよいよオリブ山の下り道あたりに近づかれ
おお で し よろこ かれ み ちから
ると、大ぜいの弟子たちはみな喜んで、彼らが見たすべての力あるみわざに
こえたか かみ い
ついて、声高らかに神をさんびして言いはじめた、

96
しゅ み な おう
﹁主の御名によってきたる王に、
三八
しゅくふく
祝 福あれ。
てん へいわ
天には平和、
たか えいこう
いと高きところには栄光あれ﹂。
ぐんしゅう なか びと い せんせい
三九 ところが、群 衆の中にいたあるパリサイ人たちがイエスに言った、﹁先生、
で し くだ こた い い
あなたの弟子たちをおしかり下さい﹂。 四〇答えて言われた、
﹁あなたがたに言
ひと だま いし さけ
うが、もしこの人たちが黙れば、石が叫ぶであろう﹂。
みやこ ちか み な い
四一 いよいよ都の近くにきて、それが見えたとき、そのために泣いて言われた、
ひ へいわ みち し
四二 ﹁もしおまえも、この日に、平和をもたらす道を知ってさえいたら⋮⋮し
いま め かく てき しゅうい るい きず
かし、それは今おまえの目に隠されている。 四三いつかは、敵が周囲に塁を築
と しほう お せま うち こ
き、おまえを取りかこんで、四方から押し迫り、 四四おまえとその内にいる子
ち う たお じょうない いし た いし うえ のこ お ひ く
らとを地に打ち倒し、城 内の一つの石も他の石の上に残して置かない日が来
ルカによる福音書

かみ とき し
るであろう。それは、おまえが神のおとずれの時を知らないでいたからであ
みや しょうばいにん お だ かれ い
る﹂。 四五それから宮にはいり、商 売 人たちを追い出しはじめて、 四六彼らに言
や いのり いえ か
われた、﹁﹃わが家は祈の家であるべきだ﹄と書いてあるのに、あなたがたは
とうぞく す
それを盗賊の巣にしてしまった﹂。

97
まいにち みや おし さいしちょう りっぽうがくしゃ みんしゅう おもだ
四七 イエスは毎日、宮で教えておられた。祭司長、律法学者また民 衆の重立っ
もの ころ おも みんしゅう ねっしん
た者たちはイエスを殺そうと思っていたが、 四八民 衆がみな熱心にイエスに
みみ かたむ て
耳を傾けていたので、手のくだしようがなかった。
第二〇章
ひ みや ひとびと おし ふくいん の さいしちょう りっぽう
一 ある日、イエスが宮で人々に教え、福音を宣べておられると、祭司長や律法
がくしゃ ちょうろう とも ちかよ い なに けんい
学者たちが、長 老たちと共に近寄ってきて、 二イエスに言った、
﹁何の権威に
こと けんい あた
よってこれらの事をするのですか。そうする権威をあなたに与えたのはだれ
い こた い
ですか、わたしたちに言ってください﹂。 三そこで、イエスは答えて言われた、
こと こた
﹁わたしも、ひと言たずねよう。それに答えてほしい。 四ヨハネのバプテスマ
てん ひと かれ たがい ろん い
は、天からであったか、人からであったか﹂。 五彼らは互に論じて言った、
﹁も
ルカによる福音書

てん い かれ しん い
し天からだと言えば、では、なぜ彼を信じなかったのか、とイエスは言うだ
ひと い みんしゅう よげんしゃ
ろう。 六しかし、もし人からだと言えば、 民 衆はみな、ヨハネを預言者だと
しん いし う かれ
信じているから、わたしたちを石で打つだろう﹂。 七それで彼らは﹁どこから
し こた たい い なに
か、知りません﹂と答えた。 八イエスはこれに対して言われた、
﹁わたしも何

98
けんい こと い
の権威によってこれらの事をするのか、あなたがたに言うまい﹂。
つぎ たとえ みんしゅう かた だ ひと えん つく
九 そこでイエスは次の譬を民 衆に語り出された、﹁ある人がぶどう園を造っ
のうふ か なが たび で きせつ のうふ
て農夫たちに貸し、長い旅に出た。 一〇季節になったので、農夫たちのところ
しもべ おく えん しゅうかく わ まえ だ
へ、ひとりの僕を送って、ぶどう園の収 穫の分け前を出させようとした。と
のうふ しもべ ふくろ て かえ
ころが、農夫たちは、その僕を袋だたきにし、から手で帰らせた。 一一そこで
かれ しもべ おく かれ しもべ ふくろ ぶじょく くわ
彼はもうひとりの僕を送った。彼らはその僕も袋だたきにし、侮辱を加えて、
て かえ さら にん め もの おく かれ もの
から手で帰らせた。 一二そこで更に三人目の者を送ったが、彼らはこの者も、
きず お お だ えん しゅじん い
傷を負わせて追い出した。 一三ぶどう園の主人は言った、﹃どうしようか。そ
あいし うやま
うだ、わたしの愛子をつかわそう。これなら、たぶん敬 ってくれるだろう﹄。
のうふ かれ み と ころ
一四 ところが、農夫たちは彼を見ると、﹃あれはあと取りだ。あれを殺してしま
ざいさん たがい はな あ
おう。そうしたら、その財産はわれわれのものになるのだ﹄と互に話し合い、
かれ えん そと お だ ころ えん しゅじん かれ
彼をぶどう園の外に追い出して殺した。そのさい、ぶどう園の主人は、彼
ルカによる福音書

一五
かれ で のうふ ころ えん
らをどうするだろうか。 一六彼は出てきて、この農夫たちを殺し、ぶどう園を
た ひとびと あた ひとびと き
他の人々に与えるであろう﹂。人々はこれを聞いて、﹁そんなことがあっては
い かれ み い
なりません﹂と言った。 一七そこで、イエスは彼らを見つめて言われた、
﹁それ
では、

99
いえつく す いし
﹃家造りらの捨てた石が
すみ いし
隅のかしら石になった﹄
か いし うえ お もの う
と書いてあるのは、どういうことか。 一八すべてその石の上に落ちる者は打ち
くだ うえ お ひと
砕かれ、それがだれかの上に落ちかかるなら、その人はこなみじんにされる
であろう﹂。
りっぽうがくしゃ さいしちょう て おも
一九 このとき、律法学者たちや祭司長たちはイエスに手をかけようと思った
みんしゅう おそ たとえ じぶん あ かた さと
が、民 衆を恐れた。いまの譬が自分たちに当てて語られたのだと、悟ったか
かれ きかい ぎじん よそお もの
らである。 二〇そこで、彼らは機会をうかがい、義人を装うまわし者どもを
おく そうとく しはい けんい ひ わた ことば とら
送って、イエスを総督の支配と権威とに引き渡すため、その言葉じりを捕え
かれ たず い せんせい かた
させようとした。 二一彼らは尋ねて言った、
﹁先生、わたしたちは、あなたの語
おし ただ わ へだ しんり もとづ
り教えられることが正しく、また、あなたは分け隔てをなさらず、真理に基
かみ みち おし しょうち
いて神の道を教えておられることを、承知しています。 二二ところで、カイザ
ルカによる福音書

みつぎ おさ かれ
ルに貢を納めてよいでしょうか、いけないでしょうか﹂。 二三イエスは彼らの
わるだく みやぶ い み
悪巧みを見破って言われた、 二四﹁デナリを見せなさい。それにあるのは、だ
しょうぞう きごう かれ こた
れの肖 像、だれの記号なのか﹂。﹁カイザルのです﹂と、彼らが答えた。 二五す
かれ い かみ
るとイエスは彼らに言われた、
﹁それなら、カイザルのものはカイザルに、神

100
かみ かえ かれ みんしゅう まえ ことば
のものは神に返しなさい﹂。 二六そこで彼らは、民 衆の前でイエスの言葉じり
とら こたえ きょうたん だま
を捕えることができず、その答に驚 嘆して、黙ってしまった。
ふっかつ い は びと もの
二七 復活ということはないと言い張っていたサドカイ人のある者たちが、イエ
ちかよ しつもん せんせい
スに近寄ってきて質問した、 二八﹁先生、モーセは、わたしたちのためにこう
か ひと あに つま こ し おとうと
書いています、﹃もしある人の兄が妻をめとり、子がなくて死んだなら、 弟
おんな あに こ
はこの女をめとって、兄のために子をもうけねばならない﹄。 二九ところで、こ
にん きょうだい ちょうなん つま こ し
こに七人の兄 弟がいました。 長 男は妻をめとりましたが、子がなくて死に、
じなん さんなん つぎつぎ おんな にん どうよう こ
三〇 そして次男、三男と、次々に、その女をめとり、 三一七人とも同様に、子を
し おんな し ふっかつ とき
もうけずに死にました。 三二のちに、その女も死にました。 三三さて、復活の時
おんな にん つま にん かのじょ つま
には、この女は七人のうち、だれの妻になるのですか。七人とも彼女を妻に
かれ い よ こ
したのですが﹂。 三四イエスは彼らに言われた、
﹁この世の子らは、めとったり、
よ しにん ふっかつ
とついだりするが、三五かの世にはいって死人からの復活にあずかるにふさわ
ルカによる福音書

もの かれ てんし ひと
しい者たちは、めとったり、とついだりすることはない。 三六彼らは天使に等
ふっかつ かみ こ し
しいものであり、また復活にあずかるゆえに、神の子でもあるので、もう死
え しにん しば
ぬことはあり得ないからである。 三七死人がよみがえることは、モーセも柴の
へん しゅ かみ かみ かみ よ
篇で、主を﹃アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神﹄と呼んで、これを

101
しめ かみ し もの かみ い もの かみ ひと
示した。 三八神は死んだ者の神ではなく、生きている者の神である。人はみな
かみ い りっぽうがくしゃ ひとびと こた い
神に生きるものだからである﹂。 三九律法学者のうちのある人々が答えて言っ
せんせい おお かれ いじょうなに と
た、
﹁先生、仰せのとおりです﹂。 四〇彼らはそれ以上何もあえて問いかけよう
としなかった。
かれ い ひとびと こ い
四一 イエスは彼らに言われた、﹁どうして人々はキリストをダビデの子だと言
じしん しへん なか い
うのか。 四二ダビデ自身が詩篇の中で言っている、
しゅ しゅ おお
﹃主はわが主に仰せになった、
てき あしだい とき
四三 あなたの敵をあなたの足台とする時までは、
みぎ ざ
わたしの右に座していなさい﹄。
しゅ よ
四四 このように、ダビデはキリストを主と呼んでいる。それなら、どうしてキ

リストはダビデの子であろうか﹂。
みんしゅう き で し い りっぽうがくしゃ
民 衆がみな聞いているとき、イエスは弟子たちに言われた、四六
﹁律法学者
ルカによる福音書

四五
き かれ なが ころも き ある この ひろば けいれい かいどう
に気をつけなさい。彼らは長い衣を着て歩くのを好み、広場での敬礼や会堂
じょうせき えんかい じょうざ いえ く たお み
の上 席や宴会の上座をよろこび、四七やもめたちの家を食い倒し、見えのため
なが いのり かれ う
に長い祈をする。彼らはもっときびしいさばきを受けるであろう﹂。

102
第二一章
め かねもち はこ けんきん な い み
一 イエスは目をあげて、金持たちがさいせん箱に献金を投げ入れるのを見ら
まず い み い
れ、 二また、ある貧しいやもめが、レプタ二つを入れるのを見て 三言われた、
き まず い
﹁よ く 聞 き な さ い。あ の 貧 し い や も め は だ れ よ り も た く さ ん 入 れ た の だ。 四
ひと なか けんきん な い ふじん
これらの人たちはみな、ありあまる中から献金を投げ入れたが、あの婦人は、
とぼ なか も せいかつ ひ ぜ ん ぶ い
その乏しい中から、持っている生活費全部を入れたからである﹂。
ひとびと みごと いし ほうのうぶつ みや かざ はな
五 ある人々が、見事な石と奉納物とで宮が飾られていることを話していたの

で、イエスは言われた、 六﹁あなたがたはこれらのものをながめているが、そ
いし た いし うえ のこ ひ く
の石一つでもくずされずに、他の石の上に残ることもなくなる日が、来るで
かれ せんせい おこ
あろう﹂。 七そこで彼らはたずねた、
﹁先生、では、いつそんなことが起るので
おこ ばあい ぜんちょう
しょうか。またそんなことが起るような場合には、どんな前 兆があります
ルカによる福音書

い まど き
か﹂。 八イエスが言われた、
﹁あなたがたは、惑わされないように気をつけなさ
おお もの な な あらわ じぶん とき ちか
い。多くの者がわたしの名を名のって現れ、自分がそれだとか、時が近づい
い かれ い せんそう そうらん き
たとか、言うであろう。彼らについて行くな。 九戦争と騒乱とのうわさを聞
おそ おこ おわ
くときにも、おじ恐れるな。こうしたことはまず起らねばならないが、終り

103
はすぐにはこない﹂。
かれ い たみ たみ くに くに てきたい た あ
一〇 それから彼らに言われた、﹁民は民に、国は国に敵対して立ち上がるであろ
だい じ し ん えきびょう おこ おそ
う。 一一また大地震があり、あちこちに疫 病やききんが起り、いろいろ恐ろし
てん もの ぜんちょう
いことや天からの物すごい前 兆があるであろう。 一二しかし、これらのあら
で き ご と まえ ひとびと て はくがい かいどう ごく
ゆる出来事のある前に、人々はあなたがたに手をかけて迫害をし、会堂や獄
ひ わた な おう そうとく まえ い
に引き渡し、わたしの名のゆえに王や総督の前にひっぱって行くであろう。 一
きかい
三 それは、あなたがたがあかしをする機会となるであろう。 一四だから、どう
とうべん まえ かんが こころ き
答弁しようかと、前もって考えておかないことに心を決めなさい。 一五あなた
はんたいしゃ こうべん ひてい ことば ち え
の反対者のだれもが抗弁も否定もできないような言葉と知恵とを、わたしが
さず りょうしん きょうだい しんぞく ゆうじん うらぎ
授けるから。 一六しかし、あなたがたは両 親、兄 弟、親族、友人にさえ裏切ら
なか ころ
れるであろう。また、あなたがたの中で殺されるものもあろう。 一七また、わ
な ひと にく
たしの名のゆえにすべての人に憎まれるであろう。 一八しかし、あなたがたの
ルカによる福音書

かみ け うしな た しの
髪 の 毛 一 す じ で も 失 わ れ る こ と は な い。 一 九あ な た が た は 耐 え 忍 ぶ こ と に
じぶん たましい と
よって、自分の魂をかち取るであろう。
ぐんたい ほうい み めつぼう
二〇 エルサレムが軍隊に包囲されるのを見たならば、そのときは、その滅亡が
ちか ひとびと やま に
近 づ い た と さ と り な さ い。 二一そ の と き、ユ ダ ヤ に い る 人々 は 山 へ 逃 げ よ。

104
しちゅう もの で い もの しない
市中にいる者は、そこから出て行くがよい。また、いなかにいる者は市内に
せいしょ こと じつげん
はいってはいけない。 二二それは、聖書にしるされたすべての事が実現する
けいばつ ひ ひ みおも おんな ち の ご おんな
刑罰の日であるからだ。 二三その日には、身重の女と乳飲み子をもつ女とは、
ふこう ちじょう おお くなん たみ いか のぞ かれ
不幸である。地上には大きな苦難があり、この民にはみ怒りが臨み、 二四彼ら
は たお とら しょこく ひ
はつるぎの刃に倒れ、また捕えられて諸国へ引きゆかれるであろう。そして
いほうじん じ き み かれ ふ
エルサレムは、異邦人の時期が満ちるまで、彼らに踏みにじられているであ
ひ つき ほし あらわ ちじょう
ろう。 二五また日と月と星とに、しるしが現れるであろう。そして、地上では、
しょこくみん なや うみ おおなみ まど ひとびと せかい おこ
諸国民が悩み、海と大波とのとどろきにおじ惑い、 二六人々は世界に起ろうと
こと おも きょうふ ふあん きぜつ てんたい ゆ うご
する事を思い、恐怖と不安で気絶するであろう。もろもろの天体が揺り動か
おお ちから えいこう ひと こ くも
されるからである。 二七そのとき、大いなる力と栄光とをもって、人の子が雲
の く ひとびと み こと おこ
に乗って来るのを、人々は見るであろう。 二八これらの事が起りはじめたら、
み おこ あたま すくい ちか
身を起し頭をもたげなさい。あなたがたの救が近づいているのだから﹂。
ルカによる福音書

たとえ はな き き み
二九 それから一つの譬を話された、﹁いちじくの木を、またすべての木を見なさ
め だ み なつ ちか じぶん
い。 三〇はや芽を出せば、あなたがたはそれを見て、夏がすでに近いと、自分
き こと おこ み
で気づくのである。 三一このようにあなたがたも、これらの事が起るのを見た
かみ くに ちか き
なら、神の国が近いのだとさとりなさい。 三二よく聞いておきなさい。これら

105
こと おこ じだい ほろ てんち ほろ
の事が、ことごとく起るまでは、この時代は滅びることがない。 三三天地は滅
ことば けっ ほろ
びるであろう。しかしわたしの言葉は決して滅びることがない。
ほうじゅう でいすい よ わずら こころ にぶ
三四 あなたがたが放 縦や、泥酔や、世の煩いのために心が鈍っているうちに、
おも ひ とら
思いがけないとき、その日がわなのようにあなたがたを捕えることがないよ
ちゅうい ひ ち ぜんめん す ひと のぞ
うに、よく注意していなさい。 三五その日は地の全面に住むすべての人に臨む
おこ こと ひと
のであるから。 三六これらの起ろうとしているすべての事からのがれて、人の
こ まえ た た め いの
子の前に立つことができるように、絶えず目をさまして祈っていなさい﹂。
ひる みや おし よる で い やま よ
三七 イエスは昼のあいだは宮で教え、夜には出て行ってオリブという山で夜を
みんしゅう おしえ き あさはや みや
すごしておられた。 三八民 衆はみな、み教を聞こうとして、いつも朝早く宮に
い あつ
行き、イエスのもとに集まった。
第二二章
ルカによる福音書

すぎこし じょこうさい ちか さいしちょう りっぽうがくしゃ


一 さて、過越といわれている除酵祭が近づいた。 二祭司長たちや律法学者た
ころ はか みんしゅう おそ
ちは、どうかしてイエスを殺そうと計っていた。 民 衆を恐れていたからであ

106
る。
で し よ
三 そのとき、十二弟子のひとりで、イスカリオテと呼ばれていたユダに、サタ
かれ さいしちょう みやもり
ン が は い っ た。 四す な わ ち、彼 は 祭司長 た ち や 宮守 が し ら た ち の と こ ろ へ
い かれ わた ほうほう きょうぎ
行って、どうしてイエスを彼らに渡そうかと、その方法について協議した。 五
かれ よろこ かね あた とりき しょうだく
彼らは喜んで、ユダに金を与える取決めをした。 六ユダはそれを承 諾した。
ぐんしゅう ひ わた きかい
そして、 群 衆のいないときにイエスを引き渡そうと、機会をねらっていた。
すぎこし こひつじ じょこうさい ひ
七 さて、過越の小羊をほふるべき除酵祭の日がきたので、八イエスはペテロと
つか だ い い すぎこし しょくじ じゅんび
ヨハネとを使いに出して言われた、
﹁行って、過越の食事ができるように準備
かれ い じゅんび
をしなさい﹂。 九彼らは言った、﹁どこに準備をしたらよいのですか﹂。 一〇イエ
い しない みず も おとこ で あ
スは言われた、﹁市内にはいったら、水がめを持っている男に出会うであろう。
ひと いえ い いえ しゅじん い で し
その人がはいる家までついて行って、一一その家の主人に言いなさい、﹃弟子た
いっしょ すぎこし しょくじ ざしき せんせい い
ちと一緒に過越の食事をする座敷はどこか、と先生が言っておられます﹄。 一二
しゅじん せき ととの かい ひろま み
すると、その主人は席の整えられた二階の広間を見せてくれるから、そこに
ルカによる福音書

ようい で し で い い
用意をしなさい﹂。 一三弟子たちは出て行ってみると、イエスが言われたとお
すぎこし しょくじ ようい
りであったので、過越の食事の用意をした。
じかん しょくたく し と とも せき
一四 時間になったので、イエスは食 卓につかれ、使徒たちも共に席についた。
かれ い くる う まえ
イエスは彼らに言われた、﹁わたしは苦しみを受ける前に、あなたがたとこ

107
一五
すぎこし しょくじ せつ のぞ い お
の過越の食事をしようと、切に望んでいた。 一六あなたがたに言って置くが、
かみ くに すぎこし じょうじゅ とき ど すぎこし しょくじ
神の国で過越が成 就する時までは、わたしは二度と、この過越の食事をする
さかずき と かんしゃ い と たがい
ことはない﹂。 一七そして杯を取り、感謝して言われた、
﹁これを取って、 互に
わ の い いま かみ くに く
分けて飲め。 一八あなたがたに言っておくが、今からのち神の国が来るまで
み つく の
は、わたしはぶどうの実から造ったものを、いっさい飲まない﹂。 一九またパン
と かんしゃ で し あた い
を取り、感謝してこれをさき、弟子たちに与えて言われた、
﹁これは、あなた
あた きねん
がたのために与えるわたしのからだである。わたしを記念するため、このよ
おこな しょくじ さかずき おな よう い さかずき
うに行いなさい﹂。 二〇食事ののち、 杯も同じ様にして言われた、
﹁この杯は、
なが ち た あたら けいやく
あなたがたのために流すわたしの血で立てられる新しい契約である。 二一し
うらぎ もの いっしょ しょくたく て お
かし、そこに、わたしを裏切る者が、わたしと一緒に食 卓に手を置いている。
ひと こ さだ さ い ひと こ うらぎ ひと
二二 人の子は定められたとおりに、去って行く。しかし人の子を裏切るその人
で し じぶん こと
は、わざわいである﹂。 二三弟子たちは、自分たちのうちのだれが、そんな事を
ルカによる福音書

たがい ろん
しようとしているのだろうと、 互に論じはじめた。
じぶん なか えら い そうろん
二四 それから、自分たちの中でだれがいちばん偉いだろうかと言って、争論が
かれ あいだ おこ い いほう おう たみ
彼らの間に、起った。 二五そこでイエスが言われた、
﹁異邦の王たちはその民の
うえ くんりん けんりょく もの おんじん よ
上に君臨し、また、 権 力をふるっている者たちは恩人と呼ばれる。 二六しか

108
なか
し、あなたがたは、そうであってはならない。かえって、あなたがたの中で
えら ひと わか もの しどう ひと つか もの
いちばん偉い人はいちばん若い者のように、指導する人は仕える者のように
しょくたく ひと きゅうじ もの えら
な る べ き で あ る。 二 七 食 卓 に つ く 人 と 給仕 す る 者 と、ど ち ら が 偉 い の か。
しょくたく ひと ほう なか きゅうじ
食 卓につく人の方ではないか。しかし、わたしはあなたがたの中で、給仕を
もの しれん
する者のようにしている。 二八あなたがたは、わたしの試錬のあいだ、わたし
いっしょ さいご しの ひと ちち くに
と一緒に最後まで忍んでくれた人たちである。 二九それで、わたしの父が国の
しはい
支配をわたしにゆだねてくださったように、わたしもそれをあなたがたにゆ
くに しょくたく の く くらい ざ
だね、三〇わたしの国で食 卓について飲み食いをさせ、また位に座してイスラ
ぶぞく み
エルの十二の部族をさばかせるであろう。 三一シモン、シモン、見よ、サタン
むぎ ねが ゆる
はあなたがたを麦のようにふるいにかけることを願って許された。 三二しか
しんこう いの
し、わたしはあなたの信仰がなくならないように、あなたのために祈った。そ
た なお きょうだい ちから
れで、あなたが立ち直ったときには、 兄 弟たちを力づけてやりなさい﹂。 三三
ルカによる福音書

い しゅ ごく し いた
シモンが言った、
﹁主よ、わたしは獄にでも、また死に至るまでも、あなたと
いっしょ い かくご い
ご一緒に行く覚悟です﹂。 三四するとイエスが言われた、
﹁ペテロよ、あなたに
い にわとり な ど し い
言っておく。きょう、 鶏が鳴くまでに、あなたは三度わたしを知らないと言
うだろう﹂。

109
かれ い さいふ ふくろ も
三五 そして彼らに言われた、﹁わたしが財布も袋もくつも持たせずにあなたが
なに かれ なに
たをつかわしたとき、何かこまったことがあったか﹂。彼らは、﹁いいえ、何
こた い いま さいふ
もありませんでした﹂と答えた。 三六そこで言われた、
﹁しかし今は、財布のあ
も い ふくろ どうよう も い
るものは、それを持って行け。 袋も同様に持って行け。また、つるぎのない
もの じぶん うわぎ う か い かれ
者は、自分の上着を売って、それを買うがよい。 三七あなたがたに言うが、
﹃彼
つみびと かぞ み な
は罪人のひとりに数えられた﹄としるしてあることは、わたしの身に成しと
かか じょうじゅ
げ ら れ ね ば な ら な い。そ う だ、わ た し に 係 わ る こ と は 成 就 し て い る﹂。 三 八
で し い しゅ ふ
弟子たちが言った、﹁主よ、ごらんなさい、ここにつるぎが二振りございます﹂。

イエスは言われた、﹁それでよい﹂。
で やま い で し したが
三九 イエスは出て、いつものようにオリブ山に行かれると、弟子たちも従 って
い ば しょ つ かれ い ゆうわく おちい
行った。 四〇いつもの場所に着いてから、彼らに言われた、
﹁誘惑に陥らないよ
いの じぶん いし な はな
うに祈りなさい﹂。 四一そしてご自分は、石を投げてとどくほど離れたところ
ルカによる福音書

しりぞ いの い ちち
へ退き、ひざまずいて、祈って言われた、 四二﹁父よ、みこころならば、どう
さかずき と おも
ぞ、この杯をわたしから取りのけてください。しかし、わたしの思いではな
な みつかい てん
く、みこころが成るようにしてください﹂。 四三そのとき、御使が天からあらわ
ちから くる せつ いの
れてイエスを力づけた。 四四イエスは苦しみもだえて、ますます切に祈られ

110
あせ ち ち お いのり お た
た。そして、その汗が血のしたたりのように地に落ちた。 四五 祈を終えて立
で し い かれ かな ね い
ちあがり、弟子たちのところへ行かれると、彼らが悲しみのはて寝入ってい
い ねむ ゆうわく おちい
るのをごらんになって 四六 言われた、﹁なぜ眠っているのか。誘惑に陥らない
お いの
ように、起きて祈っていなさい﹂。
い ぐんしゅう あらわ で し
四七 イエスがまだそう言っておられるうちに、そこに群 衆が現れ、十二弟子の
もの せんとう た せっぷん ちか
ひとりでユダという者が先頭に立って、イエスに接吻しようとして近づいて
い せっぷん ひと こ
きた。 四八そこでイエスは言われた、﹁ユダ、あなたは接吻をもって人の子を
うらぎ ひと こと み しゅ
裏切るのか﹂。 四九イエスのそばにいた人たちは、事のなりゆきを見て、
﹁主よ、
き い
つ る ぎ で 切 り つ け て や り ま し ょ う か﹂と 言 っ て、 五〇そ の う ち の ひ と り が、
さいしちょう しもべ き みぎ みみ き おと たい
祭司長の僕に切りつけ、その右の耳を切り落した。 五一イエスはこれに対して
い しもべ みみ て ふれ
言われた、﹁それだけでやめなさい﹂。そして、その僕の耳に手を触て、おい
じぶん く さいしちょう みやもり ちょうろう
やしになった。 五二それから、自分にむかって来る祭司長、宮守がしら、長 老
ルカによる福音書

たい い ごうとう けん ぼう も
たちに対して言われた、
﹁あなたがたは、強盗にむかうように剣や棒を持って
で まいにち いっしょ みや とき て
出てきたのか。 五三毎日あなたがたと一緒に宮にいた時には、わたしに手をか
いま とき しはい とき
けなかった。だが、今はあなたがたの時、また、やみの支配の時である﹂。
ひとびと とら だいさいし ていたく い
それから人々はイエスを捕え、ひっぱって大祭司の邸宅へつれて行った。

111
五四
とお い ひとびと なかにわ なか ひ いっしょ
ペテロは遠くからついて行った。 五五人々は中庭のまん中に火をたいて、一緒
なか じょちゅう
にすわっていたので、ペテロもその中にすわった。 五六すると、ある女 中が、
かれ ひ み かれ み ひと いっしょ
彼が火のそばにすわっているのを見、彼を見つめて、
﹁この人もイエスと一緒
い う け ひと し
にいました﹂と言った。 五七ペテロはそれを打ち消して、
﹁わたしはその人を知
い ひと み い
らない﹂と言った。 五八しばらくして、ほかの人がペテロを見て言った、
﹁あな
なかま い
たもあの仲間のひとりだ﹂。するとペテロは言った、﹁いや、それはちがう﹂。
やく じかん もの い は ひと
五九 約一時間たってから、またほかの者が言い張った、﹁たしかにこの人もイエ
いっしょ ひと びと い
スと一緒だった。この人もガリラヤ人なのだから﹂。 六〇ペテロは言った、
﹁あ
い かれ い おわ
なたの言っていることは、わたしにわからない﹂。すると、彼がまだ言い終ら
にわとり な しゅ ふ み
ぬうちに、たちまち、 鶏が鳴いた。 六一主は振りむいてペテロを見つめられ
にわとり な まえ ど し
た。そのときペテロは、﹁きょう、 鶏が鳴く前に、三度わたしを知らないと
い い しゅ ことば おも だ そと で はげ
言うであろう﹂と言われた主のお言葉を思い出した。 六二そして外へ出て、激
ルカによる福音書


しく泣いた。
かんし ひと ちょうろう う め
六三 イエスを監視していた人たちは、イエスを嘲 弄し、打ちたたき、六四目かく
い う
しをして、
﹁言いあててみよ。打ったのは、だれか﹂ときいたりした。 六五その
こと い ぐろう
ほか、いろいろな事を言って、イエスを愚弄した。

112
よ あ じんみん ちょうろう さいしちょう りっぽうがくしゃ あつ
六六 夜が明けたとき、人民の長 老、祭司長たち、律法学者たちが集まり、イエ
ぎかい ひ だ い い
スを議会に引き出して言った、 六七﹁あなたがキリストなら、そう言ってもら
い い しん
いたい﹂。イエスは言われた、﹁わたしが言っても、あなたがたは信じないだ
こた ひと こ
ろう。 六八また、わたしがたずねても、答えないだろう。 六九しかし、人の子は
いま ぜんのう かみ みぎ ざ かれ い
今からのち、全能の神の右に座するであろう﹂。 七〇彼らは言った、
﹁では、あ
かみ こ い い
な た は 神 の 子 な の か﹂。イ エ ス は 言 わ れ た、﹁あ な た が た の 言 う と お り で あ
かれ い いじょう しょうこ
る﹂。 七一すると彼らは言った、
﹁これ以上、なんの証拠がいるか。われわれは
ちょくせつかれ くち き
直 接 彼の口から聞いたのだから﹂。
第二三章
ぐんしゅう た つ い
群 衆はみな立ちあがって、イエスをピラトのところへ連れて行った。 二そ
ルカによる福音書


うった で い ひと こくみん まど みつぎ
して訴え出て言った、
﹁わたしたちは、この人が国民を惑わし、貢をカイザル
おさ きん じぶん おう
に納めることを禁じ、また自分こそ王なるキリストだと、となえているとこ
もくげき たず じん おう
ろを目撃しました﹂。 三ピラトはイエスに尋ねた、﹁あなたがユダヤ人の王で
こた

113
あるか﹂。イエスは﹁そのとおりである﹂とお答えになった。 四そこでピラト
さいしちょう ぐんしゅう い ひと つみ
は祭司長たちと群 衆とにむかって言った、﹁わたしはこの人になんの罪もみ
かれ い かれ
とめない﹂。 五ところが彼らは、ますます言いつのってやまなかった、
﹁彼は、
ところ ぜんこく おし みんしゅう せんどう
ガリラヤからはじめてこの所まで、ユダヤ全国にわたって教え、民 衆を煽動
き ひと びと たず
しているのです﹂。 六ピラトはこれを聞いて、この人はガリラヤ人かと尋ね、七
し は い か たし
そしてヘロデの支配下のものであることを確かめたので、ちょうどこのころ、
おく
ヘロデがエルサレムにいたのをさいわい、そちらへイエスを送りとどけた。 八
み ひじょう よろこ き
ヘロデはイエスを見て非常に喜んだ。それは、かねてイエスのことを聞いて
あ み なが おも なに きせき
いたので、会って見たいと長いあいだ思っていたし、またイエスが何か奇跡
おこな み のぞ しつもん こころ
を行うのを見たいと望んでいたからである。 九それで、いろいろと質問を試
なに こた さいしちょう りっぽうがくしゃ
みたが、イエスは何もお答えにならなかった。 一〇祭司長たちと律法学者たち
た はげ ごちょう うった へいそつ
とは立って、激しい語調でイエスを訴えた。 一一またヘロデはその兵卒どもと
いっしょ ぶじょく ちょうろう きもの
一緒になって、イエスを侮辱したり嘲 弄したりしたあげく、はなやかな着物
ルカによる福音書

き おく いぜん たがい てきし


を着せてピラトへ送りかえした。 一二ヘロデとピラトとは以前は互に敵視し
ひ した なか
ていたが、この日に親しい仲になった。
さいしちょう やくにん みんしゅう よ あつ い
一三 ピラトは、祭司長たちと役人たちと民 衆とを、呼び集めて言った、 一四﹁お
ひと みんしゅう まど つ
まえたちは、この人を民 衆を惑わすものとしてわたしのところに連れてきた

114
めんぜん うった で つみ ひと
ので、おまえたちの面前でしらべたが、 訴え出ているような罪は、この人に
すこ げん かれ
少しもみとめられなかった。 一五ヘロデもまたみとめなかった。現に彼はイ
おく ひと し あた
エスをわれわれに送りかえしてきた。この人はなんら死に当るようなことは
かれ う
していないのである。 一六だから、彼をむち打ってから、ゆるしてやることに
まつり しゅうじん
しよう﹂。︹ 一七 祭ごとにピラトがひとりの囚 人をゆるしてやることになって
かれ さけ い ひと ころ
いた。︺ 一八ところが、彼らはいっせいに叫んで言った、
﹁その人を殺せ。バラ
みやこ おこ ぼうどう さつじん
バをゆるしてくれ﹂。 一九このバラバは、 都で起った暴動と殺人とのかどで、
ごく とう もの
獄 に 投 ぜ ら れ て い た 者 で あ る。 二 〇ピ ラ ト は イ エ ス を ゆ る し て や り た い と
おも ど よ かれ
思 っ て、も う 一 度 か れ ら に 呼 び か け た。 二 一し か し 彼 ら は、わ め き た て て
じゅうじか かれ じゅうじか い ど め
﹁十字架につけよ、彼を十字架につけよ﹂と言いつづけた。 二二ピラトは三度目
かれ い ひと あくじ
に彼らにむかって言った、
﹁では、この人は、いったい、どんな悪事をしたの
かれ し あた つみ まった う
か。彼には死に当る罪は全くみとめられなかった。だから、むち打ってから
ルカによる福音書

かれ かれ おおごえ つ よ
彼をゆるしてやることにしよう﹂。 二三ところが、彼らは大声をあげて詰め寄
じゅうじか ようきゅう こえ か
り、イエスを十字架につけるように要 求した。そして、その声が勝った。 二四
かれ ねが けってい ぼうどう
ピラトはついに彼らの願いどおりにすることに決定した。 二五そして、暴動と
さつじん ごく とう もの ほう かれ ようきゅう おう
殺人とのかどで獄に投ぜられた者の方を、彼らの要 求に応じてゆるしてや

115
ほう かれ ひ わた い
り、イエスの方は彼らに引き渡して、その意のままにまかせた。
かれ とちゅう びと こうがい で
二六 彼らがイエスをひいてゆく途中、シモンというクレネ人が郊外から出てき
とら じゅうじか お い
たのを捕えて十字架を負わせ、それをになってイエスのあとから行かせた。
おお みんしゅう かな なげ おんな む したが
二七 大ぜいの民 衆と、悲しみ嘆いてやまない女たちの群れとが、イエスに従 っ
い おんな ほう ふ い むすめ
て行った。 二八イエスは女たちの方に振りむいて言われた、﹁エルサレムの娘
な じしん じぶん
たちよ、わたしのために泣くな。むしろ、あなたがた自身のため、また自分
こども な ふにん おんな こ う たい
の子供たちのために泣くがよい。 二九﹃不妊の女と子を産まなかった胎と、ふ
ちぶさ い ひ く
くませなかった乳房とは、さいわいだ﹄と言う日が、いまに来る。 三〇そのと
ひとびと やま うえ たお い おか
き、人々は山にむかって、われわれの上に倒れかかれと言い、また丘にむかっ
い だ なまき
て、われわれにおおいかぶされと言い出すであろう。 三一もし、生木でさえも
かれき
そうされるなら、枯木はどうされることであろう﹂。
とも けい う はんざいにん ひ
さて、イエスと共に刑を受けるために、ほかにふたりの犯罪人も引かれて
ルカによる福音書

三二
よ ところ つ ひとびと
いった。 三三されこうべと呼ばれている所に着くと、人々はそこでイエスを
じゅうじか はんざいにん みぎ ひだり じゅうじか
十字架につけ、犯罪人たちも、ひとりは右に、ひとりは左に、十字架につけ
い ちち かれ かれ
た。 三四そのとき、イエスは言われた、
﹁父よ、彼らをおゆるしください。彼ら
なに ひとびと きもの ひ
は何をしているのか、わからずにいるのです﹂。人々はイエスの着物をくじ引

116
わ あ みんしゅう た み やくにん わら い
き で 分 け 合 っ た。 三 五 民 衆 は 立 っ て 見 て い た。役人 た ち も あ ざ 笑 っ て 言 っ
かれ たにん すく かれ かみ えら もの じぶん
た、﹁彼は他人を救った。もし彼が神のキリスト、選ばれた者であるなら、自分
じしん すく へいそつ ちかよ す
自身を救うがよい﹂。 三六兵卒どももイエスをののしり、近寄ってきて酢いぶ
しゅ だ い じん おう じぶん すく
どう酒をさし出して言った、 三七﹁あなたがユダヤ人の王なら、自分を救いな
うえ じん おう か ふだ
さい﹂。 三八イエスの上には、
﹁これはユダヤ人の王﹂と書いた札がかけてあっ
た。
じゅうじか はんざいにん
三九 十字架にかけられた犯罪人のひとりが、﹁あなたはキリストではないか。
じぶん すく すく わるくち い
それなら、自分を救い、またわれわれも救ってみよ﹂と、イエスに悪口を言
い おな けい
いつづけた。 四〇もうひとりは、それをたしなめて言った、
﹁おまえは同じ刑を
う かみ おそ たがい じぶん こと う
受けていながら、神を恐れないのか。 四一お互は自分のやった事のむくいを受
とうぜん なに わる
けているのだから、こうなったのは当然だ。しかし、このかたは何も悪いこ
い みくに けんい
とをしたのではない﹂。 四二そして言った、
﹁イエスよ、あなたが御国の権威を
ルカによる福音書

とき おも だ い
もっておいでになる時には、わたしを思い出してください﹂。 四三イエスは言
い いっしょ
われた、
﹁よく言っておくが、あなたはきょう、わたしと一緒にパラダイスに
いるであろう﹂。
とき ひる じ たいよう ひかり うしな ぜん ち くら
時はもう昼の十二時ごろであったが、太陽は光を失い、全地は暗くなって、

117
四四
じ およ せいじょ まく なか さ
三時に及んだ。 四五そして聖所の幕がまん中から裂けた。 四六そのとき、イエ
こえたか さけ い ちち れい て
スは声高く叫んで言われた、﹁父よ、わたしの霊をみ手にゆだねます﹂。こう
い いき ひ ひゃくそつちょう ありさま み かみ
言 っ て つ い に 息 を 引 き と ら れ た。 四七 百 卒 長 は こ の 有様 を 見 て、神 を あ が
ひと ただ ひと い こうけい み
め、
﹁ほんとうに、この人は正しい人であった﹂と言った。 四八この光景を見に
あつ ぐんしゅう で き ご と み むね う かえ
集 ま っ て き た 群 衆 も、こ れ ら の 出来事を 見 て、み な胸 を 打 ち な がら帰 っ て
い し もの したが おんな
行った。 四九すべてイエスを知っていた者や、ガリラヤから従 ってきた女た
とお ところ た み
ちも、遠い所に立って、これらのことを見ていた。
ぎいん ぜんりょう ただ ひと
五〇 ここに、ヨセフという議員がいたが、 善 良で正しい人であった。 五一この
ひと まち しゅっしん かみ くに ま のぞ かれ ぎかい
人はユダヤの町アリマタヤの出 身で、神の国を待ち望んでいた。彼は議会の
ぎけつ こうどう さんせい ひと い
議決や行動には賛成していなかった。 五二この人がピラトのところへ行って、
ひきと かた ねが で と あ ま ぬ の つつ
イエスのからだの引取り方を願い出て、 五三それを取りおろして亜麻布に包
ほうむ いわ ほ つく はか おさ ひ
み、まだだれも葬 ったことのない、岩を掘って造った墓に納めた。 五四この日
ルカによる福音書

じゅんび ひ あんそくにち はじ いっしょ


は準備の日であって、安息日が始まりかけていた。 五五イエスと一緒にガリラ
おんな はか み
ヤからきた女たちは、あとについてきて、その墓を見、またイエスのからだ
おさ ようす み かえ こうりょう こうゆ ようい
が納められる様子を見とどけた。 五六そして帰って、 香 料と香油とを用意し
た。

118
したが あんそくにち やす
それからおきてに従 って安息日を休んだ。
第二四章
しゅう はじ ひ よ あ まえ おんな ようい こうりょう たずさ はか
一 週の初めの日、夜明け前に、 女たちは用意しておいた香 料を携えて、墓に
い いし はか なか
行った。 二ところが、石が墓からころがしてあるので、 三中にはいってみる
しゅ みあた とほう み
と、主イエスのからだが見当らなかった。 四そのため途方にくれていると、見
かがや ころも き もの かれ あらわ おんな おどろ おそ かお
よ、輝いた衣を着たふたりの者が、彼らに現れた。 五 女たちは驚き恐れて、顔
ち ふ もの い い
を地に伏せていると、このふたりの者が言った、
﹁あなたがたは、なぜ生きた
ほう しにん なか
方を死人の中にたずねているのか。 六そのかたは、ここにはおられない。よ
はな
み が え ら れ た の だ。ま だ ガ リ ラ ヤ に お ら れ た と き、あ な た が た に お 話 し に
おも だ ひと こ かなら つみびと て わた
なったことを思い出しなさい。 七すなわち、人の子は必ず罪人らの手に渡さ
ルカによる福音書

じゅうじか か め おお
れ、十字架につけられ、そして三日目によみがえる、と仰せられたではない
おんな ことば おも だ はか かえ
か﹂。 八そこで女たちはその言葉を思い出し、 九墓から帰って、これらいっさ
で し た ひと ほうこく おんな
いのことを、十一弟子や、その他みんなの人に報告した。 一〇この女たちとい
はは

119
うのは、マグダラのマリヤ、ヨハンナ、およびヤコブの母マリヤであった。
かのじょ いっしょ おんな し と はな
彼女たちと一緒にいたほかの女たちも、このことを使徒たちに話した。 一一と
し と おろ はなし おも しん
ころが、使徒たちには、それが愚かな話のように思われて、それを信じなかっ
た はか はし い なか み あ ま ぬ の
た。︹ 一二 ペテロは立って墓へ走って行き、かがんで中を見ると、亜麻布だけが
こと しだい ふ し ぎ おも かえ い
そこにあったので、事の次第を不思議に思いながら帰って行った。︺
ひ で し はな
一三 この日、ふたりの弟子が、エルサレムから七マイルばかり離れたエマオと
むら い で き ご と たがい かた あ
いう村へ行きながら、 一四このいっさいの出来事について互に語り合ってい
かた あ ろん あ じしん ちか かれ
た。 一五語り合い論じ合っていると、イエスご自身が近づいてきて、彼らと
いっしょ ある い かれ め みと
一緒に歩いて行かれた。 一六しかし、彼らの目がさえぎられて、イエスを認め
かれ い ある たがい かた
ることができなかった。 一七イエスは彼らに言われた、﹁歩きながら互に語り
あ はなし かれ かな かお た
合っているその話は、なんのことなのか﹂。彼らは悲しそうな顔をして立ちど
もの こた い
まった。 一八そのひとりのクレオパという者が、答えて言った、
﹁あなたはエル
と みやこ おこ
サレムに泊まっていながら、あなただけが、この都でこのごろ起ったことを
ルカによる福音書

ぞん い かれ い
ご存じないのですか﹂。 一九
﹁それは、どんなことか﹂と言われると、彼らは言っ
かみ みんしゅう まえ
た、
﹁ナザレのイエスのことです。あのかたは、神とすべての民 衆との前で、
ことば ちから よげんしゃ さいしちょう やくにん しけい
わざにも言葉にも力ある預言者でしたが、 二〇祭司長たちや役人たちが、死刑
しょ ひ わた じゅうじか
に処するために引き渡し、十字架につけたのです。 二一わたしたちは、イスラ

120
すく ひと のぞ うえ
エルを救うのはこの人であろうと、望みをかけていました。しかもその上に、
こと おこ か め
この事が起ってから、きょうが三日目なのです。 二二ところが、わたしたちの
なかま すうにん おんな おどろ かれ あさ
仲間である数人の女が、わたしたちを驚かせました。というのは、彼らが朝
はや はか い みあた かえ
早く墓に行きますと、 二三イエスのからだが見当らないので、帰ってきました
みつかい あらわ い つ もう
が、そのとき御使が現れて、
﹃イエスは生きておられる﹄と告げたと申すので
なかま すうにん はか い み はた おんな
す。 二四それで、わたしたちの仲間が数人、墓に行って見ますと、果して女た
い みあた い
ちが言ったとおりで、イエスは見当りませんでした﹂。 二五そこでイエスが言
おろ こころ よげんしゃ と こと しん
われた、
﹁ああ、愚かで心のにぶいため、預言者たちが説いたすべての事を信
もの かなら くなん う えいこう
じられない者たちよ。 二六キリストは必ず、これらの苦難を受けて、その栄光
はい い よげんしゃ
に入るはずではなかったのか﹂。 二七こう言って、モーセやすべての預言者か
せいしょぜんたい じしん こと と
らはじめて、聖書全体にわたり、ご自身についてしるしてある事どもを、説
かれ い むら ちか
きあかされた。 二八それから、彼らは行こうとしていた村に近づいたが、イエ
ルカによる福音書

さき すす い ようす ひ と い
スがなお先へ進み行かれる様子であった。 二九そこで、しいて引き止めて言っ
いっしょ と くだ ゆうぐれ ひ
た、
﹁わたしたちと一緒にお泊まり下さい。もう夕暮になっており、日もはや
かたむ かれ とも と いえ
傾いています﹂。イエスは、彼らと共に泊まるために、家にはいられた。 三〇
いっしょ しょくたく と しゅくふく かれ わた
一緒に食 卓につかれたとき、パンを取り、祝 福してさき、彼らに渡しておら

121
かれ め ひら
れるうちに、 三一彼らの目が開けて、それがイエスであることがわかった。す
すがた み かれ たがい い みちみち はな
ると、み姿が見えなくなった。 三二彼らは互に言った、
﹁道々お話しになったと
せいしょ と めい たがい こころ うち も
き、また聖書を説き明してくださったとき、お互の心が内に燃えたではない
た かえ み で し
か﹂。 三三そして、すぐに立ってエルサレムに帰って見ると、十一弟子とその
なかま あつ しゅ あらわ
仲間が集まっていて、 三四﹁主は、ほんとうによみがえって、シモンに現れな
い もの とちゅう
さった﹂と言っていた。 三五そこでふたりの者は、途中であったことや、パン
ようす はな はな
をおさきになる様子でイエスだとわかったことなどを話した。 三六こう話し
かれ なか た い
ていると、イエスが彼らの中にお立ちになった。︹そして﹁やすかれ﹂と言わ
かれ おそ おどろ れい み おも
れた。︺ 三七彼らは恐れ驚いて、霊を見ているのだと思った。 三八そこでイエス
い まど こころ うたが おこ
が言われた、﹁なぜおじ惑っているのか。どうして心に疑いを起すのか。 三九
て あし み み れい
わたしの手や足を見なさい。まさしくわたしなのだ。さわって見なさい。霊
にく ほね み
には肉や骨はないが、あなたがたが見るとおり、わたしにはあるのだ﹂。︹
ルカによる福音書

四〇
い て あし み かれ よろこ しん
こう言って、手と足とをお見せになった。︺四一彼らは喜びのあまり、まだ信じ
ふ し ぎ おも なに しょくもつ
られないで不思議に思っていると、イエスが﹁ここに何か食 物があるか﹂と
い かれ や うお
言われた。 四二彼らが焼いた魚の一きれをさしあげると、 四三イエスはそれを
と まえ た
取って、みんなの前で食べられた。

122
かれ たい い いぜん いっしょ
四四 それから彼らに対して言われた、﹁わたしが以前あなたがたと一緒にいた
じぶん はな き ことば りっぽう よげん
時分に話して聞かせた言葉は、こうであった。すなわち、モーセの律法と預言
しょ しへん か かなら じょうじゅ
書と詩篇とに、わたしについて書いてあることは、 必ずことごとく成 就す
せいしょ さと かれ こころ ひら い
る﹂。 四五そこでイエスは、聖書を悟らせるために彼らの心を開いて 四六 言われ
くる う か め しにん なか
た、
﹁こう、しるしてある。キリストは苦しみを受けて、三日目に死人の中か
な つみ え くいあらた
らよみがえる。 四七そして、その名によって罪のゆるしを得させる悔 改めが、
こくみん の つた
エルサレムからはじまって、もろもろの国民に宣べ伝えられる。 四八あなたが
こと しょうにん み ちち やくそく
たは、これらの事の証 人である。 四九見よ、わたしの父が約束されたものを、
おく うえ ちから さず みやこ
あなたがたに贈る。だから、上から力を授けられるまでは、あなたがたは都
にとどまっていなさい﹂。
かれ ちか つ い て かれ
五〇 それから、イエスは彼らをベタニヤの近くまで連れて行き、手をあげて彼
しゅくふく しゅくふく かれ はな てん
らを祝 福された。 五一祝 福しておられるうちに、彼らを離れて、
︹天にあげら
ルカによる福音書

かれ はい ひじょう よろこ かえ
れた。︺ 五二彼らは︹イエスを拝し、︺非常な喜びをもってエルサレムに帰り、 五
た みや かみ
三 絶えず宮にいて、神をほめたたえていた。

123
ふくいんしょ
ヨハネによる福音書
第一章
はじ ことば ことば かみ とも ことば かみ ことば
一 初 め に 言 が あ っ た。 言 は 神 と 共 に あ っ た。 言 は 神 で あ っ た。 二こ の 言 は
はじ かみ とも
初めに神と共にあった。 三すべてのものは、これによってできた。できたも
ことば いのち
ののうち、一つとしてこれによらないものはなかった。 四この言に命があっ
いのち ひと ひかり ひかり なか かがや
た。そ し て こ の 命 は 人 の 光 で あ っ た。 五 光 は や み の 中 に 輝 い て い る。そ し

て、やみはこれに勝たなかった。
ひと かみ な
六 ここにひとりの人があって、神からつかわされていた。その名をヨハネと
い ひと ひかり かれ
言った。 七この人はあかしのためにきた。 光についてあかしをし、彼によっ
ヨハネによる福音書

ひと しん かれ ひかり ひかり
てすべての人が信じるためである。 八彼は光ではなく、ただ、光についてあか
しをするためにきたのである。
ひと てら ひかり よ かれ よ
九 すべての人を照すまことの光があって、世にきた。 一〇彼は世にいた。そし
よ かれ よ かれ し かれ じぶん
て、世は彼によってできたのであるが、世は彼を知らずにいた。 一一彼は自分

0
じぶん たみ かれ う かれ う
のところにきたのに、自分の民は彼を受けいれなかった。 一二しかし、彼を受
もの な しん ひとびと かれ かみ こ ちから あた
けいれた者、すなわち、その名を信じた人々には、彼は神の子となる力を与
ひと ち にく よく ひと
えたのである。 一三それらの人は、血すじによらず、肉の欲によらず、また、人
よく かみ うま
の欲にもよらず、ただ神によって生れたのである。
ことば にくたい やど
一四 そして言は肉体となり、わたしたちのうちに宿った。わたしたちはその
えいこう み ちち こ えいこう
栄光を見た。それは父のひとり子としての栄光であって、めぐみとまことと
み かれ さけ い
に満ちていた。 一五ヨハネは彼についてあかしをし、叫んで言った、
﹁﹃わたし
く さき
のあとに来るかたは、わたしよりもすぐれたかたである。わたしよりも先に
い ひと
おられたからである﹄とわたしが言ったのは、この人のことである﹂。 一六わた
もの み み なか う
したちすべての者は、その満ち満ちているものの中から受けて、めぐみにめ
くわ りっぽう あた
ぐみを加えられた。 一七律法はモーセをとおして与えられ、めぐみとまことと
ヨハネによる福音書

かみ み もの
は、イエス・キリストをとおしてきたのである。 一八神を見た者はまだひとり
ちち こ かみ かみ
もいない。ただ父のふところにいるひとり子なる神だけが、神をあらわした
のである。
じん さいし びと
一九 さて、ユダヤ人たちが、エルサレムから祭司たちやレビ人たちをヨハネの
と とき
もとにつかわして、
﹁あなたはどなたですか﹂と問わせたが、その時ヨハネが

1
た かれ こくはく いな
立てたあかしは、こうであった。 二〇すなわち、彼は告白して否まず、
﹁わたし
こくはく かれ と
はキリストではない﹂と告白した。 二一そこで、彼らは問うた、
﹁それでは、ど
かれ い
なたなのですか、あなたはエリヤですか﹂。彼は﹁いや、そうではない﹂と言っ
よげんしゃ かれ こた かれ
た。﹁では、あの預言者ですか﹂。彼は﹁いいえ﹂と答えた。 二二そこで、彼ら
い ひとびと こたえ
は言った、﹁あなたはどなたですか。わたしたちをつかわした人々に、 答を
も い じしん かんが
持って行けるようにしていただきたい。あなた自身をだれだと考えるのです
かれ い よげんしゃ い しゅ みち
か﹂。 二三彼は言った、﹁わたしは、預言者イザヤが言ったように、﹃主の道を
あらの よ もの こえ
まっすぐにせよと荒野で呼ばわる者の声﹄である﹂。
ひと びと かれ と
二四 つかわされた人たちは、パリサイ人であった。 二五彼らはヨハネに問うて
い よげんしゃ
言った、
﹁では、あなたがキリストでもエリヤでもまたあの預言者でもないの
さず かれ こた い
なら、なぜバプテスマを授けるのですか﹂。 二六ヨハネは彼らに答えて言った、
ヨハネによる福音書

みず さず し
﹁わたしは水でバプテスマを授けるが、あなたがたの知らないかたが、あなた
なか た かた
が た の 中 に 立 っ て お ら れ る。 二 七そ れ が わ た し の あ と に お い で に な る 方 で
ひと と ね
あって、わたしはその人のくつのひもを解く値うちもない﹂。 二八これらのこ
さず む
とは、ヨハネがバプテスマを授けていたヨルダンの向こうのベタニヤであっ
たのである。

2
よくじつ じぶん ほう み い み
二九 その翌日、ヨハネはイエスが自分の方にこられるのを見て言った、
﹁見よ、
よ つみ と のぞ かみ こひつじ く
世の罪を取り除く神の小羊。 三〇﹃わたしのあとに来るかたは、わたしよりも
さき
す ぐ れ た か た で あ る。わ た し よ り も 先 に お ら れ た か ら で あ る﹄と わ た し が
い ひと し
言ったのは、この人のことである。 三一わたしはこのかたを知らなかった。し
あらわ
かし、このかたがイスラエルに現れてくださるそのことのために、わたしは
みず さず
きて、水でバプテスマを授けているのである﹂。 三二ヨハネはまたあかしをし
い みたま てん くだ かれ うえ
て言った、
﹁わたしは、御霊がはとのように天から下って、彼の上にとどまる
み ひと し みず さず
のを見た。 三三わたしはこの人を知らなかった。しかし、水でバプテスマを授

けるようにと、わたしをおつかわしになったそのかたが、わたしに言われた、
ひと うえ みたま くだ み ひと みたま
﹃ある人の上に、御霊が下ってとどまるのを見たら、その人こそは、御霊によっ
さず み
てバプテスマを授けるかたである﹄。 三四わたしはそれを見たので、このかた
ヨハネによる福音書

かみ こ
こそ神の子であると、あかしをしたのである﹂。
よくじつ で し いっしょ た
三五 その翌日、ヨハネはまたふたりの弟子たちと一緒に立っていたが、三六イエ
ある め い み かみ こひつじ
スが歩いておられるのに目をとめて言った、
﹁見よ、神の小羊﹂。 三七そのふた
で し い き い
りの弟子は、ヨハネがそう言うのを聞いて、イエスについて行った。 三八イエ
む かれ み い なに ねが
スはふり向き、彼らがついてくるのを見て言われた、
﹁何か願いがあるのか﹂。

3
かれ い やく い せんせい
彼らは言った、
﹁ラビ︵訳して言えば、先生︶どこにおとまりなのですか﹂。 三
かれ い
九 イエスは彼らに言われた、
﹁きてごらんなさい。そうしたらわかるだろう﹂。
かれ い と ところ み
そこで彼らはついて行って、イエスの泊まっておられる所を見た。そして、そ
ひ と とき ご ご じ
の日はイエスのところに泊まった。時は午後四時ごろであった。 四〇ヨハネ
き い
から聞いて、イエスについて行ったふたりのうちのひとりは、シモン・ペテ
きょうだい かれ じぶん きょうだい で あ
ロ の 兄 弟 ア ン デ レ で あ っ た。 四 一彼 は ま ず 自分 の 兄 弟 シ モ ン に 出会 っ て
い やく で あ
言った、
﹁わたしたちはメシヤ︵訳せば、キリスト︶にいま出会った﹂。 四二そ
かれ め い
し て シ モ ン を イ エ ス の も と に つ れ て き た。イ エ ス は 彼 に 目 を と め て 言 わ れ
こ やく
た、
﹁あなたはヨハネの子シモンである。あなたをケパ︵訳せば、ペテロ︶と

呼ぶことにする﹂。
よくじつ い で あ い
四三 その翌日、イエスはガリラヤに行こうとされたが、ピリポに出会って言わ
ヨハネによる福音書

したが まち
れた、
﹁わたしに従 ってきなさい﹂。 四四ピリポは、アンデレとペテロとの町ベ
ひと で あ い
ツサイダの人であった。 四五このピリポがナタナエルに出会って言った、﹁わ
りっぽう なか よげんしゃ
たしたちは、モーセが律法の中にしるしており、預言者たちがしるしていた
ひと こ で あ かれ い
人、ヨセフの子、ナザレのイエスにいま出会った﹂。 四六ナタナエルは彼に言っ
で かれ い
た、
﹁ナザレから、なんのよいものが出ようか﹂。ピリポは彼に言った、
﹁きて

4
み じぶん ほう く み かれ
見なさい﹂。 四七イエスはナタナエルが自分の方に来るのを見て、彼について
い み ひと びと こころ
言われた、
﹁見よ、あの人こそ、ほんとうのイスラエル人である。その心には
いつわ い ぞん
偽りがない﹂。 四八ナタナエルは言った、﹁どうしてわたしをご存じなのです
こた い よ まえ
か﹂。イエスは答えて言われた、﹁ピリポがあなたを呼ぶ前に、わたしはあな
き した み こた せんせい
たが、いちじくの木の下にいるのを見た﹂。 四九ナタナエルは答えた、﹁先生、あ
かみ こ おう こた い
なたは神の子です。あなたはイスラエルの王です﹂。 五〇イエスは答えて言わ
き した み い
れた、
﹁あなたが、いちじくの木の下にいるのを見たと、わたしが言ったので
しん おお み
信じるのか。これよりも、もっと大きなことを、あなたは見るであろう﹂。 五一
い い てん あ かみ みつかい
また言われた、
﹁よくよくあなたがたに言っておく。天が開けて、神の御使た
ひと こ うえ のぼ くだ み
ちが人の子の上に上り下りするのを、あなたがたは見るであろう﹂。
ヨハネによる福音書

第二章
か め こんれい はは
一 三日目にガリラヤのカナに婚礼があって、イエスの母がそこにいた。 二イ
で し こんれい まね しゅ はは
エスも弟子たちも、その婚礼に招かれた。 三ぶどう酒がなくなったので、母は
い しゅ はは い
イエスに言った、﹁ぶどう酒がなくなってしまいました﹂。 四イエスは母に言

5
ふじん かか
われた、
﹁婦人よ、あなたは、わたしと、なんの係わりがありますか。わたし
とき はは しもべ い
の時は、まだきていません﹂。 五母は僕たちに言った、
﹁このかたが、あなたが
い くだ じん
たに言いつけることは、なんでもして下さい﹂。 六そこには、ユダヤ人のきよ
したが と いし みず お
めのならわしに従 って、それぞれ四、五斗もはいる石の水がめが、六つ置い
かれ みず い い
てあった。 七イエスは彼らに﹁かめに水をいっぱい入れなさい﹂と言われたの
かれ くち い かれ い
で、彼らは口のところまでいっぱいに入れた。 八そこで彼らに言われた、
﹁さ
りょうり も い かれ も
あ、くんで、料理がしらのところに持って行きなさい﹂。すると、彼らは持っ
い りょうり しゅ みず
て行った。 九料理がしらは、ぶどう酒になった水をなめてみたが、それがどこ
し みず しもべ し はなむこ よ
からきたのか知らなかったので、
︵水をくんだ僕たちは知っていた︶花婿を呼
い ひと はじ しゅ だ よ
んで 一〇 言った、
﹁どんな人でも、初めによいぶどう酒を出して、酔いがまわっ
だ しゅ いま
たころにわるいのを出すものだ。それだのに、あなたはよいぶどう酒を今ま
ヨハネによる福音書

さいしょ
でとっておかれました﹂。 一一イエスは、この最初のしるしをガリラヤのカナ
おこな えいこう あらわ で し しん
で行い、その栄光を現された。そして弟子たちはイエスを信じた。
はは きょうだい で し いっしょ
一二 そののち、イエスは、その母、兄 弟たち、弟子たちと一緒に、カペナウム
くだ いくにち
に下って、幾日かそこにとどまられた。
じん すぎこし まつり ちか のぼ
一三 さて、ユダヤ人の過越の祭が近づいたので、イエスはエルサレムに上られ

6
うし ひつじ う もの りょうがえ もの みや にわ こ
た。 一四そして牛、羊、はとを売る者や両 替する者などが宮の庭にすわり込ん
つく ひつじ うし みや お
でいるのをごらんになって、一五なわでむちを造り、羊も牛もみな宮から追い
りょうがえにん かね ち だい う ひとびと
だし、両 替 人の金を散らし、その台をひっくりかえし、 一六はとを売る人々に
も で い ちち いえ しょうばい いえ
は﹁これらのものを持って、ここから出て行け。わたしの父の家を商 売の家
い で し いえ おも ねっしん
とするな﹂と言われた。 一七弟子たちは、
﹁あなたの家を思う熱心が、わたしを
く か おも だ じん
食いつくすであろう﹂と書いてあることを思い出した。 一八そこで、ユダヤ人

はイエスに言った、
﹁こんなことをするからには、どんなしるしをわたしたち
み かれ こた い しんでん
に見せてくれますか﹂。 一九イエスは彼らに答えて言われた、
﹁この神殿をこわ
か おこ じん
したら、わたしは三日のうちに、それを起すであろう﹂
。 二〇そこで、ユダヤ人
い しんでん た ねん
たちは言った、
﹁この神殿を建てるのには、四十六年もかかっています。それ
か た じぶん
だのに、あなたは三日のうちに、それを建てるのですか﹂。 二一イエスは自分の
ヨハネによる福音書

しんでん い しにん なか
からだである神殿のことを言われたのである。 二二それで、イエスが死人の中
で し い おも だ
からよみがえったとき、弟子たちはイエスがこう言われたことを思い出して、
せいしょ ことば しん すぎこし まつり あいだ
聖書とイエスのこの言葉とを信じた。 二三過越の祭の間、イエスがエルサレム
たいざい おお ひとびと おこな み
に滞在しておられたとき、多くの人々は、その行われたしるしを見て、イエ
な しん じしん かれ じぶん まか
スの名を信じた。 二四しかしイエスご自身は、彼らに自分をお任せにならな

7
ひと し ひと
かった。それは、すべての人を知っておられ、 二五また人についてあかしする
もの ひつよう じ し ん ひと こころ なか
者を、必要とされなかったからである。それは、ご自身人の心の中にあるこ

とを知っておられたからである。
第三章
びと な じん しどうしゃ
一 パリサイ人のひとりで、その名をニコデモというユダヤ人の指導者があっ
ひと よる い せんせい
た。 二この人が夜イエスのもとにきて言った、
﹁先生、わたしたちはあなたが
かみ きょうし し かみ いっしょ
神からこられた教師であることを知っています。神がご一緒でないなら、あ
なたがなさっておられるようなしるしは、だれにもできはしません﹂。 三イエ
こた い い あたら うま
スは答えて言われた、﹁よくよくあなたに言っておく。だれでも新しく生れな
ヨハネによる福音書

かみ くに み い ひと とし
ければ、神の国を見ることはできない﹂。 四ニコデモは言った、
﹁人は年をとっ
うま いちど はは たい うま
てから生れることが、どうしてできますか。もう一度、母の胎にはいって生
こた
れ る こ と が で き ま し ょ う か﹂。 五イ エ ス は 答 え ら れ た、﹁よ く よ く あ な た に
い みず れい うま かみ くに
言っておく。だれでも、水と霊とから生れなければ、神の国にはいることは
にく うま もの にく れい うま もの れい
できない。 六肉から生れる者は肉であり、霊から生れる者は霊である。 七あな

8
あたら うま い ふ し ぎ
たがたは新しく生れなければならないと、わたしが言ったからとて、不思議
おも およ かぜ おも ふ おと き
に思うには及ばない。 八風は思いのままに吹く。あなたはその音を聞くが、
い し れい うま もの
それがどこからきて、どこへ行くかは知らない。霊から生れる者もみな、そ
おな こた い
れと同じである﹂。 九ニコデモはイエスに答えて言った、
﹁どうして、そんなこ
え かれ こた い
とがあり得ましょうか﹂。 一〇イエスは彼に答えて言われた、
﹁あなたはイスラ
きょうし
エルの教師でありながら、これぐらいのことがわからないのか。 一一よくよく
い じぶん し かた じぶん み
言っておく。わたしたちは自分の知っていることを語り、また自分の見たこ

とをあかししているのに、あなたがたはわたしたちのあかしを受けいれない。
ちじょう かた しん
一二 わ た し が 地上 の こ と を 語 っ て い る の に、あ な た が た が 信 じ な い な ら ば、
てんじょう かた ばあい しん てん くだ
天 上のことを語った場合、どうしてそれを信じるだろうか。 一三天から下っ
もの ひと こ てん のぼ もの
てきた者、すなわち人の子のほかには、だれも天に上った者はない。 一四そし
ヨハネによる福音書

あらの あ ひと こ あ
て、ちょうどモーセが荒野でへびを上げたように、人の子もまた上げられな
かれ しん もの えいえん いのち え
ければならない。 一五それは彼を信じる者が、すべて永遠の命を得るためであ
る﹂。
かみ こ たま よ あい くだ
一六 神はそのひとり子を賜わったほどに、この世を愛して下さった。それは
み こ しん もの ほろ えいえん いのち え かみ
御子を信じる者がひとりも滅びないで、永遠の命を得るためである。 一七神が

9
み こ よ よ み こ
御子を世につかわされたのは、世をさばくためではなく、御子によって、こ
よ すく かれ しん もの しん もの
の世が救われるためである。 一八彼を信じる者は、さばかれない。信じない者
かみ こ な しん
は、すでにさばかれている。神のひとり子の名を信じることをしないからで
ひかり よ ひとびと
ある。 一九そのさばきというのは、光がこの世にきたのに、人々はそのおこな
わる ひかり ほう あい あく おこな
いが悪いために、 光よりもやみの方を愛したことである。 二〇悪を行 ってい
もの ひかり にく あか だ おそ
る者はみな光を憎む。そして、そのおこないが明るみに出されるのを恐れて、
ひかり しんり おこな もの ひかり く
光にこようとはしない。 二一しかし、真理を行 っている者は光に来る。その
ひと かみ あき
人のおこないの、神にあってなされたということが、明らかにされるためで
ある。
で し ち い かれ いっしょ
二二 こののち、イエスは弟子たちとユダヤの地に行き、彼らと一緒にそこに
たいざい さず ちか
滞在して、バプテスマを授けておられた。 二三ヨハネもサリムに近いアイノン
ヨハネによる福音書

さず みず
で、バ プ テ ス マ を 授 け て い た。そ こ に は 水 が た く さ ん あ っ た か ら で あ る。
ひとびと う
人々がぞくぞくとやってきてバプテスマを受けていた。 二四そのとき、ヨハネ
ごく い で し
はまだ獄に入れられてはいなかった。 二五ところが、ヨハネの弟子たちとひと
じん あいだ そうろん おこ かれ
りのユダヤ人との間に、きよめのことで争論が起った。 二六そこで彼らはヨハ
い せんせい くだ む
ネのところにきて言った、
﹁先生、ごらん下さい。ヨルダンの向こうであなた

10
いっしょ
と一緒にいたことがあり、そして、あなたがあかしをしておられたあのかた
さず みな もの で
が、バプテスマを授けており、皆の者が、そのかたのところへ出かけていま
こた い ひと てん あた なに う
す﹂。 二七ヨハネは答えて言った、
﹁人は天から与えられなければ、何ものも受
さき
けることはできない。 二八﹃わたしはキリストではなく、そのかたよりも先に
もの い
つかわされた者である﹄と言ったことをあかししてくれるのは、あなたがた
じしん はなよめ もの はなむこ はなむこ ゆうじん た かれ こえ
自身である。 二九花嫁をもつ者は花婿である。花婿の友人は立って彼の声を
き こえ き おお よろこ よろこ み た
聞き、その声を聞いて大いに喜ぶ。こうして、この喜びはわたしに満ち足り
かれ かなら さか おとろ
ている。 三〇彼は必ず栄え、わたしは衰える。
うえ く もの うえ ち で もの ち ぞく
三一 上から来る者は、すべてのものの上にある。地から出る者は、地に属する
もの ち かた てん く もの うえ
者であって、地のことを語る。天から来る者は、すべてのものの上にある。 三
かれ み き
二 彼はその見たところ、聞いたところをあかししているが、だれもそのあかし
ヨハネによる福音書

う う もの かみ
を受けいれない。 三三しかし、そのあかしを受けいれる者は、神がまことであ
みと かみ かみ
ることを、たしかに認めたのである。 三四神がおつかわしになったかたは、神
ことば かた かみ せいれい かぎ たま ちち み こ あい
の言葉を語る。神は聖霊を限りなく賜うからである。 三五父は御子を愛して、
ばんぶつ て あた み こ しん もの えいえん いのち
万物 を そ の 手 に お 与 え に な っ た。 三 六 御子 を 信 じ る 者 は 永遠 の 命 を も つ。
み こ したが もの いのち かみ いか うえ
御子に従わない者は、 命にあずかることがないばかりか、神の怒りがその上

11
にとどまるのである﹂。
第四章
おお で し さず
一 イエスが、ヨハネよりも多く弟子をつくり、またバプテスマを授けておられ
びと き しゅ し
るということを、パリサイ人たちが聞き、それを主が知られたとき、 二︵しか
さず で し
し、イエスみずからが、バプテスマをお授けになったのではなく、その弟子
さ い
たちであった︶ 三ユダヤを去って、またガリラヤへ行かれた。 四しかし、イエ
つうか
スはサマリヤを通過しなければならなかった。 五そこで、イエスはサマリヤ
まち まち こ あた
のスカルという町においでになった。この町は、ヤコブがその子ヨセフに与
と ち ちか い ど たび
えた土地の近くにあったが、 六そこにヤコブの井戸があった。イエスは旅の
ヨハネによる福音書

つか おぼ い ど とき ひる
疲れを覚えて、そのまま、この井戸のそばにすわっておられた。時は昼の十
じ おんな みず
二時ごろであった。 七ひとりのサマリヤの女が水をくみにきたので、イエス
おんな みず の くだ い で し しょくもつ か
はこの女に、
﹁水を飲ませて下さい﹂と言われた。 八弟子たちは食 物を買いに
まち い おんな い
町に行っていたのである。 九すると、サマリヤの女はイエスに言った、
﹁あな
じん おんな の
たはユダヤ人でありながら、どうしてサマリヤの女のわたしに、飲ませてく

12
じん びと こうさい
れとおっしゃるのですか﹂。これは、ユダヤ人はサマリヤ人と交際していな
こた い かみ たまもの
かったからである。 一〇イエスは答えて言われた、﹁もしあなたが神の賜物の
し みず の い もの し
ことを知り、また、
﹃水を飲ませてくれ﹄と言った者が、だれであるか知って
ほう ねが で ひと い みず
いたならば、あなたの方から願い出て、その人から生ける水をもらったこと
おんな い しゅ もの も
であろう﹂。 一一 女はイエスに言った、
﹁主よ、あなたは、くむ物をお持ちにな
うえ い ど ふか い みず て い
らず、その上、井戸は深いのです。その生ける水を、どこから手に入れるの
い ど くだ ちち えら
ですか。 一二あなたは、この井戸を下さったわたしたちの父ヤコブよりも、偉
じしん の こ かちく い ど
いかたなのですか。ヤコブ自身も飲み、その子らも、その家畜も、この井戸
の おんな こた い みず の もの
から飲んだのですが﹂。 一三イエスは女に答えて言われた、
﹁この水を飲む者は
あた みず の もの
だれでも、またかわくであろう。 一四しかし、わたしが与える水を飲む者は、い
あた みず ひと
つまでも、かわくことがないばかりか、わたしが与える水は、その人のうち
ヨハネによる福音書

いずみ えいえん いのち いた みず おんな


で泉となり、永遠の命に至る水が、わきあがるであろう﹂。 一五 女はイエスに
い しゅ
言った、
﹁主よ、わたしがかわくことがなく、また、ここにくみにこなくても
みず くだ おんな い
よいように、その水をわたしに下さい﹂。 一六イエスは女に言われた、
﹁あなた
おっと よ い つ おんな こた い
の夫を呼びに行って、ここに連れてきなさい﹂。 一七 女は答えて言った、
﹁わた
おっと おんな い おっと い
しには夫はありません﹂。イエスは女に言われた、﹁夫がないと言ったのは、

13
にん おっと いま おっと
もっともだ。 一八あなたには五人の夫があったが、今のはあなたの夫ではな
ことば おんな い しゅ
い。あなたの言葉のとおりである﹂。 一九 女はイエスに言った、
﹁主よ、わたし
よげんしゃ み せんぞ やま れいはい
はあなたを預言者と見ます。 二〇わたしたちの先祖は、この山で礼拝をしたの
れいはい ば しょ い
ですが、あなたがたは礼拝すべき場所は、エルサレムにあると言っています﹂。
おんな い おんな い しん
二一 イエスは女に言われた、﹁女よ、わたしの言うことを信じなさい。あなたが
やま ところ ちち れいはい とき く
たが、この山でも、またエルサレムでもない所で、父を礼拝する時が来る。 二
じぶん し おが し
二 あなたがたは自分の知らないものを拝んでいるが、わたしたちは知ってい
れいはい すくい じん く
るかたを礼拝している。 救はユダヤ人から来るからである。 二三しかし、ま
れいはい もの れい ちち れいはい とき く
ことの礼拝をする者たちが、霊とまこととをもって父を礼拝する時が来る。
いま ちち れいはい もの もと
そうだ、今きている。父は、このような礼拝をする者たちを求めておられる
かみ れい れいはい もの れい
からである。 二四神は霊であるから、礼拝をする者も、霊とまこととをもって
ヨハネによる福音書

れいはい おんな い よ
礼拝すべきである﹂。 二五 女はイエスに言った、
﹁わたしは、キリストと呼ばれ

るメシヤがこられることを知っています。そのかたがこられたならば、わた
し くだ おんな い
したちに、いっさいのことを知らせて下さるでしょう﹂。 二六イエスは女に言
はなし
われた、﹁あなたと話をしているこのわたしが、それである﹂。
で し かえ き おんな はな
二七 そのとき、弟子たちが帰って来て、イエスがひとりの女と話しておられる

14
み ふ し ぎ おも なに もと なに
のを見て不思議に思ったが、しかし、﹁何を求めておられますか﹂とも、﹁何
かのじょ はな たず もの
を彼女と話しておられるのですか﹂とも、尋ねる者はひとりもなかった。 二八
おんな みず お まち い ひとびと い
この女は水がめをそのままそこに置いて町に行き、人々に言った、 二九﹁わた
なに い ひと み
しのしたことを何もかも、言いあてた人がいます。さあ、見にきてごらんな
ひと し ひとびと まち で
さい。もしかしたら、この人がキリストかも知れません﹂。 三〇人々は町を出
い あいだ で し
て、ぞくぞくとイエスのところへ行った。 三一その間に弟子たちはイエスに、
せんせい め い
﹁先生、召しあがってください﹂とすすめた。 三二ところが、イエスは言われた、
し しょくもつ で し たがい
﹁わたしには、あなたがたの知らない食 物がある﹂。 三三そこで、弟子たちが互
い なに た も
に言った、﹁だれかが、何か食べるものを持ってきてさしあげたのであろう
かれ い しょくもつ
か﹂。 三四イエスは彼らに言われた、
﹁わたしの食 物というのは、わたしをつか
おこな と
わされたかたのみこころを行い、そのみわざをなし遂げることである。 三五あ
ヨハネによる福音書

かりい とき く げつ い
なたがたは、刈入れ時が来るまでには、まだ四か月あると、言っているでは
い め はたけ み
ないか。しかし、わたしはあなたがたに言う。目をあげて畑を見なさい。は
いろ かりい ま か もの ほうしゅう う えいえん いのち いた
や色づいて刈入れを待っている。 三六刈る者は報 酬を受けて、永遠の命に至
み あつ もの か もの ともども よろこ
る実を集めている。まく者も刈る者も、共々に喜ぶためである。 三七そこで、

﹃ひとりがまき、ひとりが刈る﹄ということわざが、ほんとうのこととなる。

15
ろうく
三八 わたしは、あなたがたをつかわして、あなたがたがそのために労苦しな
か ひとびと ろうく かれ ろうく
かったものを刈りとらせた。ほかの人々が労苦し、あなたがたは、彼らの労苦

の実にあずかっているのである﹂。
まち おお びと ひと
三九 さて、この町からきた多くのサマリヤ人は、
﹁この人は、わたしのしたこと
なに い おんな ことば しん
を何もかも言いあてた﹂とあかしした女の言葉によって、イエスを信じた。 四
ひと じぶん たいざい
〇 そこで、サマリヤ人たちはイエスのもとにきて、自分たちのところに滞在し
ねが たいざい
ていただきたいと願ったので、イエスはそこにふつか滞在された。 四一そして
おお ひとびと ことば き しん かれ おんな い
なお多くの人々が、イエスの言葉を聞いて信じた。 四二彼らは女に言った、
﹁わ
しん はな じぶんじしん
たしたちが信じるのは、もうあなたが話してくれたからではない。自分自身
した き ひと よ すくいぬし
で親しく聞いて、この人こそまことに世の救 主であることが、わかったから
である﹂。
ヨハネによる福音書

のち さ い
四三 ふつかの後に、イエスはここを去ってガリラヤへ行かれた。 四四イエスは
よげんしゃ じぶん こきょう うやま い
みずからはっきり、
﹁預言者は自分の故郷では敬われないものだ﹂と言われた
つ ひと かんげい
のである。 四五ガリラヤに着かれると、ガリラヤの人たちはイエスを歓迎し
かれ まつり い まつり とき
た。それは、彼らも祭に行っていたので、その祭の時、イエスがエルサレム

でなされたことをことごとく見ていたからである。

16
い みず しゅ
四六 イエスは、またガリラヤのカナに行かれた。そこは、かつて水をぶどう酒
ところ びょうき も やくにん
にかえられた所である。ところが、病気をしているむすこを持つある役人が
ひと
カペナウムにいた。 四七この人が、ユダヤからガリラヤにイエスのきておられ
き くだ かれ こ
ることを聞き、みもとにきて、カペナウムに下って、彼の子をなおしていた
ねが こ し
だきたいと、願った。その子が死にかかっていたからである。 四八そこで、イ
かれ い きせき み かぎ けっ
エスは彼に言われた、
﹁あなたがたは、しるしと奇跡とを見ない限り、決して
しん やくにん い しゅ こども し
信じないだろう﹂。 四九この役人はイエスに言った、
﹁主よ、どうぞ、子供が死
くだ かれ い かえ
なないうちにきて下さい﹂。 五〇イエスは彼に言われた、
﹁お帰りなさい。あな
たす かれ じぶん い ことば しん かえ
たのむすこは助かるのだ﹂。彼は自分に言われたイエスの言葉を信じて帰っ
い くだ い とちゅう しもべ かれ で あ こ たす
て行った。 五一その下って行く途中、僕たちが彼に出会い、その子が助かった
つ かれ しもべ じこく たず
ことを告げた。 五二そこで、彼は僕たちに、そのなおりはじめた時刻を尋ねて
ヨハネによる福音書

ご ご じ ねつ ひ こた
みたら、
﹁きのうの午後一時に熱が引きました﹂と答えた。 五三それは、イエス
たす い おな じこく
が﹁あなたのむすこは助かるのだ﹂と言われたのと同じ時刻であったことを、
ちち し かれ じ し ん か ぞ く いちどう しん
この父は知って、彼自身もその家族一同も信じた。 五四これは、イエスがユダ
だい
ヤからガリラヤにきてなされた第二のしるしである。

17
第五章
じん まつり のぼ
一 こののち、ユダヤ人の祭があったので、イエスはエルサレムに上られた。
ひつじ もん ご よ いけ
二 エ ル サ レ ム に あ る 羊 の 門 の そ ば に、ヘ ブ ル 語 で ベ テ ス ダ と 呼 ば れ る 池 が
ろう ろう なか びょうにん もうじん あし
あった。そこには五つの廊があった。 三その廊の中には、 病 人、盲人、足な
おとろ もの おお よこ かれ みず うご
え、やせ衰えた者などが、大ぜいからだを横たえていた。︹彼らは水の動くの
ま ときどき しゅ みつかい いけ お みず
を待っていたのである。 四それは、時々、主の御使がこの池に降りてきて水を
うご みず うご とき さき もの びょうき
動かすことがあるが、水が動いた時まっ先にはいる者は、どんな病気にかかっ
ねん びょうき
ていても、いやされたからである。︺ 五さて、そこに三十八年のあいだ、病気
なや ひと ひと よこ み
に悩んでいる人があった。 六イエスはその人が横になっているのを見、また
なが あいだ し ひと い
長い間わずらっていたのを知って、その人に﹁なおりたいのか﹂と言われた。
ヨハネによる福音書

びょうにん こた しゅ みず うご とき いけ なか い
七 この病 人はイエスに答えた、
﹁主よ、水が動く時に、わたしを池の中に入れ
ひと ひと さき お い
てくれる人がいません。わたしがはいりかけると、ほかの人が先に降りて行
かれ い お とこ と
くのです﹂。 八イエスは彼に言われた、
﹁起きて、あなたの床を取りあげ、そし
ある ひと とこ ある
て歩きなさい﹂。 九すると、この人はすぐにいやされ、床をとりあげて歩いて

行った。

18
ひ あんそくにち じん ひと
その日は安息日であった。 一〇そこでユダヤ人たちは、そのいやされた人に
い あんそくにち とこ と かれ
言った、
﹁きょうは安息日だ。床を取りあげるのは、よろしくない﹂。 一一彼は
こた くだ とこ と ある
答えた、
﹁わたしをなおして下さったかたが、床を取りあげて歩けと、わたし
い かれ たず と ある い ひと
に言われました﹂。 一二彼らは尋ねた、﹁取りあげて歩けと言った人は、だれ
ひと し
か﹂。 一三しかし、このいやされた人は、それがだれであるか知らなかった。
ぐんしゅう ば で い
群 衆がその場にいたので、イエスはそっと出て行かれたからである。 一四そ
みや ひと で あ かれ い
ののち、イエスは宮でその人に出会ったので、彼に言われた、
﹁ごらん、あな
つみ おか なに わる
たはよくなった。もう罪を犯してはいけない。何かもっと悪いことが、あな
み おこ し かれ で い じぶん
たの身に起るかも知れないから﹂。 一五彼は出て行って、自分をいやしたのは
じん つ じん
イ エ ス で あ っ た と、ユ ダ ヤ 人 た ち に 告 げ た。 一六そ の た め ユ ダ ヤ 人 た ち は、
あんそくにち い せ
安息日にこのようなことをしたと言って、イエスを責めた。 一七そこで、イエ
ヨハネによる福音書

かれ こた ちち いま いた はたら
スは彼らに答えられた、﹁わたしの父は今に至るまで働いておられる。わたし
はたら じん ころ
も働くのである﹂。 一八このためにユダヤ人たちは、ますますイエスを殺そう
はか あんそくにち やぶ かみ
と計るようになった。それは、イエスが安息日を破られたばかりではなく、神
じぶん ちち よ じぶん かみ ひと
を自分の父と呼んで、自分を神と等しいものとされたからである。
かれ こた い い
一九 さて、イエスは彼らに答えて言われた、﹁よくよくあなたがたに言ってお

19
こ ちち み いがい じぶん なにごと
く。子は父のなさることを見てする以外に、自分からは何事もすることがで
ちち こ
きない。父のなさることであればすべて、子もそのとおりにするのである。 二
ちち こ あい こ しめ
〇 なぜなら、父は子を愛して、みずからなさることは、すべて子にお示しにな
おお しめ
るからである。そして、それよりもなお大きなわざを、お示しになるであろ
ふ し ぎ おも ちち
う。あなたがたが、それによって不思議に思うためである。 二一すなわち、父
しにん おこ いのち あた こ ひとびと
が死人を起して命をお与えになるように、子もまた、そのこころにかなう人々
いのち あた ちち
に命を与えるであろう。 二二父はだれをもさばかない。さばきのことはすべ
こ ひと ちち うやま どうよう
て、子にゆだねられたからである。 二三それは、すべての人が父を敬うと同様
こ うやま こ うやま もの こ ちち うやま
に、子を敬うためである。子を敬わない者は、子をつかわされた父をも敬わ
い ことば き
ない。 二四よくよくあなたがたに言っておく。わたしの言葉を聞いて、わたし
しん もの えいえん いのち う
をつかわされたかたを信じる者は、永遠の命を受け、またさばかれることが
ヨハネによる福音書

し いのち うつ い
なく、死から命に移っているのである。 二五よくよくあなたがたに言ってお
し ひと かみ こ こえ き とき く いま
く。死んだ人たちが、神の子の声を聞く時が来る。今すでにきている。そし
き ひと い ちち じぶん せいめい も
て聞く人は生きるであろう。 二六それは、父がご自分のうちに生命をお持ちに
どうよう こ じぶん せいめい も ゆる
なっていると同様に、子にもまた、自分のうちに生命を持つことをお許しに
こ ひと こ こ おこな けんい
なったからである。 二七そして子は人の子であるから、子にさばきを行う権威

20
あた おどろ およ はか なか もの
をお与えになった。 二八このことを驚くには及ばない。墓の中にいる者たち
かみ こ こえ き ぜん ひとびと せいめい う
がみな神の子の声を聞き、 二九善をおこなった人々は、生命を受けるためによ
あく ひとびと う
みがえり、悪をおこなった人々は、さばきを受けるためによみがえって、そ
で とき く
れぞれ出てくる時が来るであろう。
じぶん なにごと き
三〇 わたしは、自分からは何事もすることができない。ただ聞くままにさばく
ただ じしん かんが
のである。そして、わたしのこのさばきは正しい。それは、わたし自身の考
むね もと
えでするのではなく、わたしをつかわされたかたの、み旨を求めているから
じぶんじしん
である。 三一もし、わたしが自分自身についてあかしをするならば、わたしの
あかしはほんとうではない。 三二わたしについてあかしをするかたはほかに
ひと し
あり、そして、その人がするあかしがほんとうであることを、わたしは知っ
ひと かれ
ている。 三三あなたがたはヨハネのもとへ人をつかわしたが、そのとき彼は
ヨハネによる福音書

しんり ひと う
真理についてあかしをした。 三四わたしは人からあかしを受けないが、このこ
い すく も かがや
とを言うのは、あなたがたが救われるためである。 三五ヨハネは燃えて輝くあ
あいだ ひかり よろこ たの
かりであった。あなたがたは、しばらくの間その光を喜び楽しもうとした。 三
ちから
六 しかし、わたしには、ヨハネのあかしよりも、もっと力あるあかしがある。
ちち じょうじゅ あた いま
父がわたしに成 就させようとしてお与えになったわざ、すなわち、今わたし

21
ちち
がしているこのわざが、父のわたしをつかわされたことをあかししている。 三
ちち じぶん
七 また、わたしをつかわされた父も、ご自分でわたしについてあかしをされ
こえ き すがた み
た。あなたがたは、まだそのみ声を聞いたこともなく、そのみ姿を見たこと
かみ もの しん かみ みことば
もない。 三八また、神がつかわされた者を信じないから、神の御言はあなたが
せいしょ なか えいえん いのち
たのうちにとどまっていない。 三九あなたがたは、聖書の中に永遠の命がある
おも しら せいしょ
と思って調べているが、この聖書は、わたしについてあかしをするものであ
いのち え
る。 四〇しかも、あなたがたは、命を得るためにわたしのもとにこようともし
ひと ほまれ う
ない。 四一わたしは人からの誉を受けることはしない。 四二しかし、あなたが
かみ あい あい し ちち な
たのうちには神を愛する愛がないことを知っている。 四三わたしは父の名に
う ひと かれ
よってきたのに、あなたがたはわたしを受けいれない。もし、ほかの人が彼
じしん な く ひと う たがい ほまれ
自身の名によって来るならば、その人を受けいれるのであろう。 四四 互に誉
ヨハネによる福音書

う かみ ほまれ もと
を受けながら、ただひとりの神からの誉を求めようとしないあなたがたは、ど
しん ちち うった
うして信じることができようか。 四五わたしがあなたがたのことを父に訴え
かんが うった もの たの
ると、 考えてはいけない。あなたがたを訴える者は、あなたがたが頼みとし
ひと しん
ているモーセその人である。 四六もし、あなたがたがモーセを信じたならば、
しん か
わたしをも信じたであろう。モーセは、わたしについて書いたのである。 四七

22
か しん ことば しん
しかし、モーセの書いたものを信じないならば、どうしてわたしの言葉を信
じるだろうか﹂。
第六章
うみ こ む ぎし わた
一 そののち、イエスはガリラヤの海、すなわち、テベリヤ湖の向こう岸へ渡ら
おお ぐんしゅう びょうにん
れた。 二すると、大ぜいの群 衆がイエスについてきた。 病 人たちになさって
み やま のぼ で し いっしょ
いたしるしを見たからである。 三イエスは山に登って、弟子たちと一緒にそ
ざ とき じん まつり すぎこし まぢか
こで座につかれた。 四時に、ユダヤ人の祭である過越が間近になっていた。 五
め おお ぐんしゅう じぶん ほう あつ く み
イエスは目をあげ、大ぜいの群 衆が自分の方に集まって来るのを見て、ピリ
い か ひとびと た
ポに言われた、
﹁どこからパンを買ってきて、この人々に食べさせようか﹂。 六
ヨハネによる福音書

い じぶん
これはピリポをためそうとして言われたのであって、ご自分ではしようとす
しょうち こた
ることを、よくご承知であった。 七すると、ピリポはイエスに答えた、
﹁二百
すこ た
デナリのパンがあっても、めいめいが少しずついただくにも足りますまい﹂。
で し きょうだい い
八 弟子のひとり、シモン・ペテロの兄 弟 アンデレがイエスに言った、 九﹁ここ
おおむぎ も こども
に、大麦のパン五つと、さかな二ひきとを持っている子供がいます。しかし、

23
おお ひと なに ひとびと
こんなに大ぜいの人では、それが何になりましょう﹂。 一〇イエスは﹁人々をす
い ば しょ くさ おお おとこ
わらせなさい﹂と言われた。その場所には草が多かった。そこにすわった男
かず にん と かんしゃ
の数は五千人ほどであった。 一一そこで、イエスはパンを取り、感謝してから、
ひとびと わ あた どうよう かれ のぞ
すわっている人々に分け与え、また、さかなをも同様にして、彼らの望むだ
わ あた ひとびと た で し
け分け与えられた。 一二人々がじゅうぶんに食べたのち、イエスは弟子たちに
い すこ あつ
言われた、﹁少しでもむだにならないように、パンくずのあまりを集めなさ
かれ あつ おおむぎ た のこ
い﹂。 一三そこで彼らが集めると、五つの大麦のパンを食べて残ったパンくず
ひとびと
は、十二のかごにいっぱいになった。 一四人々はイエスのなさったこのしるし
み ひと よ よげんしゃ い
を見て、﹁ほんとうに、この人こそ世にきたるべき預言者である﹂と言った。
ひとびと じぶん おう し
一五 イエスは人々がきて、自分をとらえて王にしようとしていると知って、た
やま しりぞ
だひとり、また山に退かれた。
ヨハネによる福音書

ゆうがた で し うみ くだ ふね の うみ わた む
一六 夕方になったとき、弟子たちは海べに下り、 一七舟に乗って海を渡り、向こ
ぎし い くら
う岸のカペナウムに行きかけた。すでに暗くなっていたのに、イエスはまだ
かれ うえ つよ かぜ ふ うみ
彼らのところにおいでにならなかった。 一八その上、強い風が吹いてきて、海
あ だ ちょう だ うみ うえ ある ふね
は荒れ出した。 一九四、五十 丁こぎ出したとき、イエスが海の上を歩いて舟に
ちか み かれ おそ かれ い
近づいてこられるのを見て、彼らは恐れた。 二〇すると、イエスは彼らに言わ

24
おそ かれ よろこ ふね
れた、
﹁わたしだ、恐れることはない﹂。 二一そこで、彼らは喜んでイエスを舟
むか ふね かれ い ち つ
に迎えようとした。すると舟は、すぐ、彼らが行こうとしていた地に着いた。
よくじつ うみ む ぎし た ぐんしゅう こぶね
二二 その翌日、海の向こう岸に立っていた群 衆は、そこに小舟が一そうしかな
で し いっしょ こぶね の で し
く、またイエスは弟子たちと一緒に小舟にお乗りにならず、ただ弟子たちだ
ふなで み すう こぶね しゅ
けが船出したのを見た。 二三しかし、数そうの小舟がテベリヤからきて、主が
かんしゃ ひとびと た ば しょ ちか ぐんしゅう
感謝されたのちパンを人々に食べさせた場所に近づいた。 二四群 衆は、イエ
で し し こぶね の
スも弟子たちもそこにいないと知って、それらの小舟に乗り、イエスをたず
い うみ む ぎし で あ
ねてカペナウムに行った。 二五そして、海の向こう岸でイエスに出会ったので
い せんせい こた
言った、
﹁先生、いつ、ここにおいでになったのですか﹂。 二六イエスは答えて
い い たず
言われた、﹁よくよくあなたがたに言っておく。あなたがたがわたしを尋ねて
み た まんぷく
きているのは、しるしを見たためではなく、パンを食べて満腹したからであ
ヨハネによる福音書

く しょくもつ えいえん いのち いた く しょくもつ


る。 二七朽ちる食 物のためではなく、永遠の命に至る朽ちない食 物のために
はたら ひと こ あた ちち かみ
働くがよい。これは人の子があなたがたに与えるものである。父なる神は、
ひと こ かれ い
人の子にそれをゆだねられたのである﹂。 二八そこで、彼らはイエスに言った、
かみ おこな なに
﹁神のわざを行うために、わたしたちは何をしたらよいでしょうか﹂。 二九イエ
かれ こた い かみ もの しん かみ
スは彼らに答えて言われた、
﹁神がつかわされた者を信じることが、神のわざ

25
かれ い み しん
である﹂。 三〇彼らはイエスに言った、
﹁わたしたちが見てあなたを信じるため
おこな くだ くだ
に、どんなしるしを行 って下さいますか。どんなことをして下さいますか。
せんぞ あらの た てん かれ
三一 わたしたちの先祖は荒野でマナを食べました。それは﹃天よりのパンを彼
あた た か かれ
らに与えて食べさせた﹄と書いてあるとおりです﹂。 三二そこでイエスは彼ら
い い てん あた
に言われた、﹁よくよく言っておく。天からのパンをあなたがたに与えたの
てん あた
は、モーセではない。天からのまことのパンをあなたがたに与えるのは、わ
ちち かみ てん くだ よ いのち あた
たしの父なのである。 三三神のパンは、天から下ってきて、この世に命を与え
かれ い しゅ
るものである﹂。 三四彼らはイエスに言った、
﹁主よ、そのパンをいつもわたし
くだ かれ い いのち
たちに下さい﹂。 三五イエスは彼らに言われた、
﹁わたしが命のパンである。わ
く もの けっ う しん もの けっ
たしに来る者は決して飢えることがなく、わたしを信じる者は決してかわく
い み
ことがない。 三六しかし、あなたがたに言ったが、あなたがたはわたしを見た
ヨハネによる福音書

しん ちち あた くだ もの みな く
のに信じようとはしない。 三七父がわたしに与えて下さる者は皆、わたしに来
く もの けっ こば てん
るであろう。そして、わたしに来る者を決して拒みはしない。 三八わたしが天
くだ じぶん おこな
から下ってきたのは、自分のこころのままを行うためではなく、わたしをつ
おこな
かわされたかたのみこころを行うためである。 三九わたしをつかわされたか
あた くだ もの うしな
たのみこころは、わたしに与えて下さった者を、わたしがひとりも失わずに、

26
おわ ひ ちち こ み
終りの日によみがえらせることである。 四〇わたしの父のみこころは、子を見
しん もの えいえん いのち え
て信じる者が、ことごとく永遠の命を得ることなのである。そして、わたし
ひとびと おわ ひ
はその人々を終りの日によみがえらせるであろう﹂。
じん てん くだ い
四一 ユダヤ人らは、イエスが﹁わたしは天から下ってきたパンである﹂と言わ
はじ い
れたので、イエスについてつぶやき始めた。 四二そして言った、
﹁これはヨセフ
こ ふ ぼ し
の子イエスではないか。わたしたちはその父母を知っているではないか。わ
てん くだ いま かれ こた
たしは天から下ってきたと、どうして今いうのか﹂。 四三イエスは彼らに答え
い たがい ちち ひ
て言われた、﹁互につぶやいてはいけない。 四四わたしをつかわされた父が引
くだ く
きよせて下さらなければ、だれもわたしに来ることはできない。わたしは、そ
ひとびと おわ ひ よげんしゃ しょ かれ
の人々を終りの日によみがえらせるであろう。 四五預言者の書に、﹃彼らはみ
かみ おし か ちち き まな もの
な神に教えられるであろう﹄と書いてある。父から聞いて学んだ者は、みな
ヨハネによる福音書

く かみ で もの ちち み
わたしに来るのである。 四六神から出た者のほかに、だれかが父を見たのでは
もの ちち み い
ない。その者だけが父を見たのである。 四七よくよくあなたがたに言ってお
しん もの えいえん いのち いのち
く。信じる者には永遠の命がある。 四八わたしは命のパンである。 四九あなた
せんぞ あらの た し てん
がたの先祖は荒野でマナを食べたが、死んでしまった。 五〇しかし、天から
くだ た ひと けっ し てん
下ってきたパンを食べる人は、決して死ぬことはない。 五一わたしは天から

27
くだ い た もの い
下ってきた生きたパンである。それを食べる者は、いつまでも生きるであろ
あた よ いのち あた にく
う。わたしが与えるパンは、世の命のために与えるわたしの肉である﹂。
じん たがい ろん い ひと じぶん にく
五二 そこで、ユダヤ人らが互に論じて言った、
﹁この人はどうして、自分の肉を
あた た かれ い
わたしたちに与えて食べさせることができようか﹂。 五三イエスは彼らに言わ
い ひと こ にく た ち の
れた、
﹁よくよく言っておく。人の子の肉を食べず、また、その血を飲まなけ
うち いのち にく た ち の
れば、あなたがたの内に命はない。 五四わたしの肉を食べ、わたしの血を飲む
もの えいえん いのち ひと おわ ひ
者には、永遠の命があり、わたしはその人を終りの日によみがえらせるであ
にく しょくもつ ち の もの
ろう。 五五わたしの肉はまことの食 物、わたしの血はまことの飲み物である。
にく た ち の もの
五六 わたしの肉を食べ、わたしの血を飲む者はわたしにおり、わたしもまたそ
ひと い ちち ちち
の人におる。 五七生ける父がわたしをつかわされ、また、わたしが父によって
い た もの い
生きているように、わたしを食べる者もわたしによって生きるであろう。 五八
ヨハネによる福音書

てん くだ せんぞ た し
天から下ってきたパンは、先祖たちが食べたが死んでしまったようなもので
た もの い
はない。このパンを食べる者は、いつまでも生きるであろう﹂。 五九これらの
かいどう おし い
ことは、イエスがカペナウムの会堂で教えておられたときに言われたもので
ある。
で し おお もの き い ことば
六〇 弟子たちのうちの多くの者は、これを聞いて言った、
﹁これは、ひどい言葉

28
き で し
だ。だれがそんなことを聞いておられようか﹂。 六一しかしイエスは、弟子た
みやぶ かれ い
ちがそのことでつぶやいているのを見破って、彼らに言われた、
﹁このことが
ひと こ まえ ところ
あなたがたのつまずきになるのか。 六二それでは、もし人の子が前にいた所に
のぼ み ひと い れい にく
上るのを見たら、どうなるのか。 六三人を生かすものは霊であって、肉はなん
やく た はな ことば れい いのち
の役にも立たない。わたしがあなたがたに話した言葉は霊であり、また命で
なか しん もの はじ
ある。 六四しかし、あなたがたの中には信じない者がいる﹂。イエスは、初めか
しん かれ うらぎ し
ら、だれが信じないか、また、だれが彼を裏切るかを知っておられたのであ
い ちち あた くだ もの
る。 六五そしてイエスは言われた、
﹁それだから、父が与えて下さった者でなけ
く い
れば、わたしに来ることはできないと、言ったのである﹂。
いらい おお で し さ こうどう とも
六六 それ以来、多くの弟子たちは去っていって、もはやイエスと行動を共にし
で し い さ
なかった。 六七そこでイエスは十二弟子に言われた、﹁あなたがたも去ろうと
ヨハネによる福音書

こた しゅ
するのか﹂。 六八シモン・ペテロが答えた、﹁主よ、わたしたちは、だれのとこ
い えいえん いのち ことば
ろに行きましょう。永遠の命の言をもっているのはあなたです。 六九わたし
かみ せいじゃ しん し
たちは、あなたが神の聖者であることを信じ、また知っています﹂。 七〇イエス
かれ こた にん えら
は彼らに答えられた、
﹁あなたがた十二人を選んだのは、わたしではなかった
あくま
か。それだのに、あなたがたのうちのひとりは悪魔である﹂。 七一これは、イス

29
こ い
カ リ オ テ の シ モ ン の 子 ユ ダ を さ し て 言 わ れ た の で あ る。こ の ユ ダ は、十 二
で し うらぎ
弟子のひとりでありながら、イエスを裏切ろうとしていた。
第七章
じゅんかい じん じぶん
一 そののち、イエスはガリラヤを巡 回しておられた。ユダヤ人たちが自分を
ころ じゅんかい とき
殺そうとしていたので、ユダヤを巡 回しようとはされなかった。 二時に、ユダ
じん かりいお まつり ちか きょうだい
ヤ 人 の 仮庵 の 祭 が 近 づ い て い た。 三そ こ で、イ エ ス の 兄 弟 た ち が イ エ ス に
い で し み さ
言った、
﹁あなたがしておられるわざを弟子たちにも見せるために、ここを去
い じぶん おおや おも ひと
りユダヤに行ってはいかがです。 四自分を公けにあらわそうと思っている人
かく しごと
で、隠れて仕事をするものはありません。あなたがこれらのことをするから
ヨハネによる福音書

じぶん よ い きょうだい
には、自分をはっきりと世にあらわしなさい﹂。 五こう言ったのは、兄 弟たち
しん かれ い
も イ エ ス を 信 じ て い な か っ た か ら で あ る。 六そ こ で イ エ ス は 彼 ら に 言 わ れ
とき とき そな
た、
﹁わたしの時はまだきていない。しかし、あなたがたの時はいつも備わっ
よ にく え にく
ている。 七世はあなたがたを憎み得ないが、わたしを憎んでいる。わたしが
よ わる
世のおこないの悪いことを、あかししているからである。 八あなたがたこそ

30
まつり い まつり い とき み
祭に行きなさい。わたしはこの祭には行かない。わたしの時はまだ満ちてい
かれ い
ないから﹂。 九彼らにこう言って、イエスはガリラヤにとどまっておられた。
きょうだい まつり い ひとめ
一〇 しかし、兄 弟たちが祭に行ったあとで、イエスも人目にたたぬように、ひ
い じん まつり とき ひと
そかに行かれた。 一一ユダヤ人らは祭の時に、﹁あの人はどこにいるのか﹂と
い さが ぐんしゅう なか
言って、イエスを捜していた。 一二群 衆の中に、イエスについていろいろとう
た ひとびと ひと い た ひとびと
わさが立った。ある人々は、
﹁あれはよい人だ﹂と言い、他の人々は、
﹁いや、
ぐんしゅう まど い じん おそ
あれは群 衆を惑わしている﹂と言った。 一三しかし、ユダヤ人らを恐れて、イ
こうぜん くち もの
エスのことを公然と口にする者はいなかった。
まつり なか みや のぼ おし はじ
一四 祭も半ばになってから、イエスは宮に上って教え始められた。 一五すると、
じん おどろ い ひと がくもん
ユダヤ人たちは驚いて言った、
﹁この人は学問をしたこともないのに、どうし
りっぽう ちしき かれ こた い
て律法の知識をもっているのだろう﹂。 一六そこでイエスは彼らに答えて言わ
ヨハネによる福音書

おしえ じしん おしえ


れた、
﹁わたしの教はわたし自身の教ではなく、わたしをつかわされたかたの
おしえ かみ おこな おも もの
教である。 一七神のみこころを行おうと思う者であれば、だれでも、わたしの
かた おしえ かみ じしん で
語っているこの教が神からのものか、それとも、わたし自身から出たものか、
じぶん で かた もの じぶん えいこう もと
わかるであろう。 一八自分から出たことを語る者は、自分の栄光を求めるが、
じぶん えいこう もと もの しんじつ ひと うち
自分をつかわされたかたの栄光を求める者は真実であって、その人の内には

31
いつわ りっぽう あた
偽りがない。 一九モーセはあなたがたに律法を与えたではないか。それだの
りっぽう おこな もの
に、あなたがたのうちには、その律法を行う者がひとりもない。あなたがた
ころ おも ぐんしゅう こた
は、なぜわたしを殺そうと思っているのか﹂。 二〇群 衆は答えた、﹁あなたは
あくれい と ころ おも
悪霊に取りつかれている。だれがあなたを殺そうと思っているものか﹂。 二一
かれ こた い
イエスは彼らに答えて言われた、
﹁わたしが一つのわざをしたところ、あなた
みな み おどろ かつれい めい
がたは皆それを見て驚いている。 二二モーセはあなたがたに割礼を命じたの
じつ はじ せんぞ はじ
で、
︵これは、実は、モーセから始まったのではなく、先祖たちから始まった
あんそくにち ひと かつれい ほどこ
ものである︶あなたがたは安息日にも人に割礼を施している。 二三もし、モー
りっぽう やぶ あんそくにち かつれい う あんそくにち
セの律法が破られないように、安息日であっても割礼を受けるのなら、安息日
ひと ぜんしん じょうぶ
に人の全身を丈夫にしてやったからといって、どうして、そんなにおこるの
ひと ただ
か。 二四うわべで人をさばかないで、正しいさばきをするがよい﹂。
ヨハネによる福音書

ひと い ひと ひとびと ころ おも
二五 さて、エルサレムのある人たちが言った、﹁この人は人々が殺そうと思って
もの み かれ こうぜん かた ひとびと たい
いる者ではないか。 二六見よ、彼は公然と語っているのに、人々はこれに対し
なに い やくにん ひと
て何も言わない。役人たちは、この人がキリストであることを、ほんとうに
し ひと
知っているのではなかろうか。 二七わたしたちはこの人がどこからきたのか
し あらわ とき く し
知っている。しかし、キリストが現れる時には、どこから来るのか知ってい

32
もの みや うち おし さけ い
る者は、ひとりもいない﹂。 二八イエスは宮の内で教えながら、叫んで言われ

た、
﹁あなたがたは、わたしを知っており、また、わたしがどこからきたかも
し じぶん
知っている。しかし、わたしは自分からきたのではない。わたしをつかわさ
しんじつ し
れたかたは真実であるが、あなたがたは、そのかたを知らない。 二九わたしは、
し もの
そのかたを知っている。わたしはそのかたのもとからきた者で、そのかたが
ひとびと とら はか
わたしをつかわされたのである﹂。 三〇そこで人々はイエスを捕えようと計っ
て もの とき
たが、だれひとり手をかける者はなかった。イエスの時が、まだきていなかっ
ぐんしゅう なか おお もの しん い
たからである。 三一しかし、 群 衆の中の多くの者が、イエスを信じて言った、
ひと おこな おお おこな
﹁キリストがきても、この人が行 ったよりも多くのしるしを行うだろうか﹂。
ぐんしゅう びと
三二 群 衆がイエスについてこのようなうわさをしているのを、パリサイ人た
みみ さいしちょう びと とら
ちは耳にした。そこで、祭司長たちやパリサイ人たちは、イエスを捕えよう
ヨハネによる福音書

したやく い いま あいだ
として、下役どもをつかわした。 三三イエスは言われた、
﹁今しばらくの間、わ
いっしょ
たしはあなたがたと一緒にいて、それから、わたしをおつかわしになったか
い さが み
たのみもとに行く。 三四あなたがたはわたしを捜すであろうが、見つけること
ところ く
はできない。そしてわたしのいる所に、あなたがたは来ることができない﹂。
じん たがい い み
三五 そこでユダヤ人たちは互に言った、﹁わたしたちが見つけることができな

33
い じん なか りさん
いというのは、どこへ行こうとしているのだろう。ギリシヤ人の中に離散し
ひと い じん おし
ている人たちのところにでも行って、ギリシヤ人を教えようというのだろう
さが み
か。 三六また、
﹃わたしを捜すが、見つけることはできない。そしてわたしのい
ところ く い ことば い み
る所には来ることができないだろう﹄と言ったその言葉は、どういう意味だ
ろう﹂。
まつり おわ だいじ ひ た さけ い
三七 祭の終りの大事な日に、イエスは立って、叫んで言われた、
﹁だれでもか
もの の しん もの せいしょ
わく者は、わたしのところにきて飲むがよい。 三八わたしを信じる者は、聖書
か はら い みず かわ なが で
に書いてあるとおり、その腹から生ける水が川となって流れ出るであろう﹂。
しん ひとびと う みたま い
三九 これは、イエスを信じる人々が受けようとしている御霊をさして言われた
えいこう う みたま
のである。すなわち、イエスはまだ栄光を受けておられなかったので、御霊
くだ ぐんしゅう もの ことば き
がまだ下っていなかったのである。 四〇群 衆のある者がこれらの言葉を聞い
ヨハネによる福音書

よげんしゃ い ひと
て、
﹁このかたは、ほんとうに、あの預言者である﹂と言い、 四一ほかの人たち
い ひとびと
は﹁このかたはキリストである﹂と言い、また、ある人々は、
﹁キリストはま
で しそん
さか、ガリラヤからは出てこないだろう。 四二キリストは、ダビデの子孫から、
むら で せいしょ か
またダビデのいたベツレヘムの村から出ると、聖書に書いてあるではないか﹂
い ぐんしゅう あいだ ぶんそう しょう かれ
と言った。 四三こうして、 群 衆の間にイエスのことで分争が生じた。 四四彼ら

34
ひとびと とら おも て
のうちのある人々は、イエスを捕えようと思ったが、だれひとり手をかける
もの
者はなかった。
したやく さいしちょう びと かえ
四五 さて、下役どもが祭司長たちやパリサイ人たちのところに帰ってきたの
かれ したやく い ひと つ
で、彼らはその下役どもに言った、
﹁なぜ、あの人を連れてこなかったのか﹂。
したやく こた ひと かた かた もの
四六 下役どもは答えた、﹁この人の語るように語った者は、これまでにありませ
びと かれ こた
んでした﹂。 四七パリサイ人たちが彼らに答えた、
﹁あなたがたまでが、だまさ
やくにん びと なか かれ
れているのではないか。 四八役人たちやパリサイ人たちの中で、ひとりでも彼
しん もの りっぽう ぐんしゅう
を信じた者があっただろうか。 四九律法をわきまえないこの群 衆は、のろわ
かれ なか いぜん あ
れている﹂。 五〇彼らの中のひとりで、以前にイエスに会いにきたことのある
かれ い りっぽう ひと
ニコデモが、彼らに言った、 五一﹁わたしたちの律法によれば、まずその人の
い ぶん き ひと し うえ
言い分を聞き、その人のしたことを知った上でなければ、さばくことをしな
ヨハネによる福音書

かれ こた い で
いのではないか﹂。 五二彼らは答えて言った、
﹁あなたもガリラヤ出なのか。よ
しら よげんしゃ で
く調べてみなさい、ガリラヤからは預言者が出るものではないことが、わか
るだろう﹂。
ひとびと いえ かえ い
︹ 五三 そして、人々はおのおの家に帰って行った。

35
第八章
やま い あさはや みや ひとびと みな
一 イエスはオリブ山に行かれた。 二朝早くまた宮にはいられると、人々が皆
あつ かれ おし
みもとに集まってきたので、イエスはすわって彼らを教えておられた。 三す
りっぽうがくしゃ びと かんいん とき
ると、律法学者たちやパリサイ人たちが、姦淫をしている時につかまえられ
おんな なか た うえ い せんせい おんな
た女をひっぱってきて、中に立たせた上、イエスに言った、 四﹁先生、この女
かんいん ば りっぽう なか おんな いし
は姦淫の場でつかまえられました。 五モーセは律法の中で、こういう女を石
う ころ めい おも かれ い
で打ち殺せと命じましたが、あなたはどう思いますか﹂。 六彼らがそう言った
うった こうじつ え
のは、イエスをためして、 訴える口実を得るためであった。しかし、イエス
み ゆび じめん なに か かれ と つづ
は身をかがめて、指で地面に何か書いておられた。 七彼らが問い続けるので、
み おこ かれ い なか つみ もの
イエスは身を起して彼らに言われた、
﹁あなたがたの中で罪のない者が、まず
ヨハネによる福音書

おんな いし な み じめん もの か
この女に石を投げつけるがよい﹂。 八そしてまた身をかがめて、地面に物を書
き かれ としより はじ で
きつづけられた。 九これを聞くと、彼らは年寄から始めて、ひとりびとり出て
い おんな なか のこ
行き、ついに、イエスだけになり、 女は中にいたまま残された。 一〇そこでイ
み おこ おんな い おんな ばっ
エスは身を起して女に言われた、
﹁女よ、みんなはどこにいるか。あなたを罰
もの おんな い しゅ
する者はなかったのか﹂。 一一 女は言った、
﹁主よ、だれもございません﹂。イ

36
い ばっ かえ こんご つみ
エスは言われた、﹁わたしもあなたを罰しない。お帰りなさい。今後はもう罪
おか
を犯さないように﹂。︺
ひとびと かた い よ ひかり
一二 イエスは、また人々に語ってこう言われた、﹁わたしは世の光である。わた
したが く もの ある いのち ひかり
しに従 って来る者は、やみのうちを歩くことがなく、 命の光をもつであろ
びと い じぶん
う﹂。 一三するとパリサイ人たちがイエスに言った、
﹁あなたは、自分のことを
しんじつ かれ こた
あかししている。あなたのあかしは真実ではない﹂。 一四イエスは彼らに答え
い じぶん
て言われた、
﹁たとい、わたしが自分のことをあかししても、わたしのあかし
しんじつ い
は真実である。それは、わたしがどこからきたのか、また、どこへ行くのか

を知っているからである。しかし、あなたがたは、わたしがどこからきて、ど
い し にく ひと
こへ行くのかを知らない。 一五あなたがたは肉によって人をさばくが、わたし
はだれもさばかない。 一六しかし、もしわたしがさばくとすれば、わたしのさ
ヨハネによる福音書

ただ
ばきは正しい。なぜなら、わたしはひとりではなく、わたしをつかわされた
いっしょ りっぽう
かたが、わたしと一緒だからである。 一七あなたがたの律法には、ふたりによ
しょうげん しんじつ か じしん
る証 言は真実だと、書いてある。 一八わたし自身のことをあかしするのは、わ
ちち くだ
たしであるし、わたしをつかわされた父も、わたしのことをあかしして下さ
かれ い ちち
るのである﹂。 一九すると、彼らはイエスに言った、
﹁あなたの父はどこにいる

37
こた ちち し
のか﹂。イエスは答えられた、﹁あなたがたは、わたしをもわたしの父をも知っ
し ちち し
ていない。もし、あなたがたがわたしを知っていたなら、わたしの父をも知っ
みや うち おし とき ことば
ていたであろう﹂。 二〇イエスが宮の内で教えていた時、これらの言葉をさい
はこ かた とき
せん箱のそばで語られたのであるが、イエスの時がまだきていなかったので、
とら もの
だれも捕える者がなかった。
かれ い さ い
二一 さて、また彼らに言われた、﹁わたしは去って行く。あなたがたはわたしを
さが もと じぶん つみ し い
捜し求めるであろう。そして自分の罪のうちに死ぬであろう。わたしの行く
ところ く じん い
所には、あなたがたは来ることができない﹂。 二二そこでユダヤ人たちは言っ
い ところ く い
た、﹁わたしの行く所に、あなたがたは来ることができないと、言ったのは、
じさつ かれ い
あるいは自殺でもしようとするつもりか﹂。 二三イエスは彼らに言われた、
﹁あ
した で もの うえ もの
なたがたは下から出た者だが、わたしは上からきた者である。あなたがたは
ヨハネによる福音書

よ もの よ もの
この世の者であるが、わたしはこの世の者ではない。 二四だからわたしは、あ
じぶん つみ し い
なたがたは自分の罪のうちに死ぬであろうと、言ったのである。もしわたし
もの しん つみ し
がそういう者であることをあなたがたが信じなければ、罪のうちに死ぬこと
かれ い
になるからである﹂。 二五そこで彼らはイエスに言った、
﹁あなたは、いったい、
かれ い もの
どういうかたですか﹂。イエスは彼らに言われた、﹁わたしがどういう者であ

38
はじ い
るかは、初めからあなたがたに言っているではないか。 二六あなたがたについ

て、わたしの言うべきこと、さばくべきことが、たくさんある。しかし、わ
しんじつ き
たしをつかわされたかたは真実なかたである。わたしは、そのかたから聞い
よ かた かれ ちち はな
たままを世にむかって語るのである﹂。 二七彼らは、イエスが父について話し
さと い
ておられたことを悟らなかった。 二八そこでイエスは言われた、﹁あなたがた
ひと こ あ のち もの
が人の子を上げてしまった後はじめて、わたしがそういう者であること、ま
じぶん なに ちち おし くだ はな
た、わたしは自分からは何もせず、ただ父が教えて下さったままを話してい
たことが、わかってくるであろう。 二九わたしをつかわされたかたは、わたし
いっしょ かみ
と一緒におられる。わたしは、いつも神のみこころにかなうことをしている
お かた
から、わたしをひとり置きざりになさることはない﹂。 三〇これらのことを語
おお ひとびと しん
られたところ、多くの人々がイエスを信じた。
ヨハネによる福音書

じぶん しん じん い ことば
三一 イエスは自分を信じたユダヤ人たちに言われた、﹁もしわたしの言葉のう
で し
ちにとどまっておるなら、あなたがたは、ほんとうにわたしの弟子なのであ
しんり し しんり じゆう え
る。 三二また真理を知るであろう。そして真理は、あなたがたに自由を得させ
かれ い
るであろう﹂。 三三そこで、彼らはイエスに言った、
﹁わたしたちはアブラハム
しそん ひと どれい いちど
の子孫であって、人の奴隷になったことなどは、一度もない。どうして、あ

39
じゆう え い かれ
なたがたに自由を得させるであろうと、言われるのか﹂。 三四イエスは彼らに
こた い つみ おか もの つみ
答えられた、﹁よくよくあなたがたに言っておく。すべて罪を犯す者は罪の
どれい どれい いえ もの こ
奴隷である。 三五そして、奴隷はいつまでも家にいる者ではない。しかし、子
こ じゆう え
はいつまでもいる。 三六だから、もし子があなたがたに自由を得させるなら
じゆう もの
ば、あなたがたは、ほんとうに自由な者となるのである。 三七わたしは、あな
しそん し
たがたがアブラハムの子孫であることを知っている。それだのに、あなたが
ころ ことば ね
たはわたしを殺そうとしている。わたしの言葉が、あなたがたのうちに根を
ちち み
お ろ し て い な い か ら で あ る。 三 八わ た し は わ た し の 父 の も と で 見 た こ と を
かた じぶん ちち き おこな かれ
語っているが、あなたがたは自分の父から聞いたことを行 っている﹂。 三九彼
こた い ちち
らはイエスに答えて言った、﹁わたしたちの父はアブラハムである﹂。イエス
かれ い こ
は彼らに言われた、
﹁もしアブラハムの子であるなら、アブラハムのわざをす
ヨハネによる福音書

いま かみ き しんり かた
るがよい。 四〇ところが今、神から聞いた真理をあなたがたに語ってきたこの
ころ
わたしを、殺そうとしている。そんなことをアブラハムはしなかった。 四一あ
ちち おこな かれ い
なたがたは、あなたがたの父のわざを行 っているのである﹂。彼らは言った、
ふひんこう けっ か もの
﹁わたしたちは、不品行の結果うまれた者ではない。わたしたちにはひとりの
ちち かみ かれ い かみ
父がある。それは神である﹂。 四二イエスは彼らに言われた、
﹁神があなたがた

40
ちち あい かみ
の父であるならば、あなたがたはわたしを愛するはずである。わたしは神か
で もの かみ もの じぶん
ら出た者、また神からきている者であるからだ。わたしは自分からきたので
かみ
はなく、神からつかわされたのである。 四三どうしてあなたがたは、わたしの
はな ことば さと
話すことがわからないのか。あなたがたが、わたしの言葉を悟ることができ
じぶん ちち あくま で もの
ないからである。 四四あなたがたは自分の父、すなわち、悪魔から出てきた者
ちち よくぼう おこな おも かれ はじ ひとごろ
であって、その父の欲望どおりを行おうと思っている。彼は初めから、人殺
しんり た もの かれ しんり
しであって、真理に立つ者ではない。彼のうちには真理がないからである。
かれ いつわ い じぶん ほんね かれ いつわ もの
彼が偽りを言うとき、いつも自分の本音をはいているのである。彼は偽り者
いつわ ちち しんり かた
であり、 偽りの父であるからだ。 四五しかし、わたしが真理を語っているの
しん
で、あなたがたはわたしを信じようとしない。 四六あなたがたのうち、だれが
つみ せ しんり かた
わたしに罪があると責めうるのか。わたしは真理を語っているのに、なぜあ
ヨハネによる福音書

しん かみ もの かみ ことば き したが
なたがたは、わたしを信じないのか。 四七神からきた者は神の言葉に聞き従う
き したが かみ もの
が、あなたがたが聞き従わないのは、神からきた者でないからである﹂。
じん こた い びと あくれい と
四八 ユダヤ人たちはイエスに答えて言った、﹁あなたはサマリヤ人で、悪霊に取
い とうぜん こた
りつかれていると、わたしたちが言うのは、当然ではないか﹂。 四九イエスは答
あくれい と ちち
えられた、
﹁わたしは、悪霊に取りつかれているのではなくて、わたしの父を

41
おも かろ じぶん
重んじているのだが、あなたがたはわたしを軽んじている。 五〇わたしは自分
えいこう もと もと べつ
の栄光を求めてはいない。それを求めるかたが別にある。そのかたは、また
い ひと ことば まも
さばくかたである。 五一よくよく言っておく。もし人がわたしの言葉を守る
ひと し み じん
ならば、その人はいつまでも死を見ることがないであろう﹂。 五二ユダヤ人た
い あくれい と いま
ちが言った、
﹁あなたが悪霊に取りつかれていることが、今わかった。アブラ
し よげんしゃ し ことば
ハムは死に、預言者たちも死んでいる。それだのに、あなたは、わたしの言葉
まも もの し あじ い
を守る者はいつまでも死を味わうことがないであろうと、言われる。 五三あな
ちち えら かれ し よげんしゃ
たは、わたしたちの父アブラハムより偉いのだろうか。彼も死に、預言者た
し じぶん おも
ちも死んだではないか。あなたは、いったい、自分をだれと思っているのか﹂。
こた じぶん えいこう き
五四 イエスは答えられた、﹁わたしがもし自分に栄光を帰するなら、わたしの
えいこう えいこう あた ちち
栄光は、むなしいものである。わたしに栄光を与えるかたは、わたしの父で
ヨハネによる福音書

じぶん かみ い
あって、あなたがたが自分の神だと言っているのは、そのかたのことである。
かみ し し
五五 あなたがたはその神を知っていないが、わたしは知っている。もしわたし
かみ し い おな いつわ もの
が神を知らないと言うならば、あなたがたと同じような偽り者であろう。し
し みことば まも ちち
かし、わたしはそのかたを知り、その御言を守っている。 五六あなたがたの父
ひ み たの
アブラハムは、わたしのこの日を見ようとして楽しんでいた。そしてそれを

42
み よろこ じん い
見て喜んだ﹂。 五七そこでユダヤ人たちはイエスに言った、
﹁あなたはまだ五十
み かれ い
にもならないのに、アブラハムを見たのか﹂。 五八イエスは彼らに言われた、
い うま まえ
﹁よくよくあなたがたに言っておく。アブラハムの生れる前からわたしは、い
かれ いし な
るのである﹂。 五九そこで彼らは石をとって、イエスに投げつけようとした。
み かく みや で い
しかし、イエスは身を隠して、宮から出て行かれた。
第九章
みち うま もうじん み で し
一 イエスが道をとおっておられるとき、生れつきの盲人を見られた。 二弟子
たず い せんせい ひと うま もうじん
たちはイエスに尋ねて言った、
﹁先生、この人が生れつき盲人なのは、だれが
つみ おか ほんにん りょうしん
罪を犯したためですか。本人ですか、それともその両 親ですか﹂。 三イエスは
ヨハネによる福音書

こた ほんにん つみ おか りょうしん おか
答えられた、
﹁本人が罪を犯したのでもなく、また、その両 親が犯したのでも
かみ かれ うえ あらわ
ない。ただ神のみわざが、彼の上に現れるためである。 四わたしたちは、わた
ひる あいだ よる く
しをつかわされたかたのわざを、昼の間にしなければならない。夜が来る。
はたら よ あいだ よ ひかり
すると、だれも働けなくなる。 五わたしは、この世にいる間は、世の光であ
い ち
る﹂。 六イエスはそう言って、地につばきをし、そのつばきで、どろをつくり、

43
もうじん め ぬ い もの い
そのどろを盲人の目に塗って言われた、七﹁シロアム︵つかわされた者、の意︶
いけ い あら かれ い あら み
の池に行って洗いなさい﹂。そこで彼は行って洗った。そして見えるように
かえ い きんじょ ひとびと かれ
な っ て、帰 っ て 行 っ た。 八近所 の 人々 や、彼 が も と、こ じ き で あ っ た の を
み し ひとびと い ひと もの
見知っていた人々が言った、
﹁この人は、すわってこじきをしていた者ではな
ひとびと ひと い た ひとびと ひと
いか﹂。 九ある人々は﹁その人だ﹂と言い、他の人々は﹁いや、ただあの人に
に い ほんにん い
似ているだけだ﹂と言った。しかし、本人は﹁わたしがそれだ﹂と言った。 一
ひとびと かれ い め
〇 そこで人々は彼に言った、﹁では、おまえの目はどうしてあいたのか﹂。 一一
かれ こた め ぬ
彼は答えた、
﹁イエスというかたが、どろをつくって、わたしの目に塗り、
﹃シ
い あら い い あら み
ロアムに行って洗え﹄と言われました。それで、行って洗うと、見えるよう
ひとびと かれ い ひと かれ し
になりました﹂。 一二人々は彼に言った、
﹁その人はどこにいるのか﹂。彼は﹁知
こた
りません﹂と答えた。
ヨハネによる福音書

ひとびと もうじん ひと びと
一三 人々は、もと盲人であったこの人を、パリサイ人たちのところにつれて
い かれ め あんそくにち
行った。 一四イエスがどろをつくって彼の目をあけたのは、安息日であった。
びと み かれ たず
一五 パリサイ人たちもまた、
﹁どうして見えるようになったのか﹂、と彼に尋ね
かれ こた め ぬ あら
た。彼は答えた、﹁あのかたがわたしの目にどろを塗り、わたしがそれを洗い、
み びと い
そして見えるようになりました﹂。 一六そこで、あるパリサイ人たちが言った、

44
ひと かみ ひと あんそくにち まも
﹁そ の 人 は 神 か ら き た 人 で は な い。安息日 を 守 っ て い な い の だ か ら﹂。し か
ひとびと い つみ ひと おこな
し、ほかの人々は言った、
﹁罪のある人が、どうしてそのようなしるしを行う
かれ あいだ ぶんそう しょう かれ
ことができようか﹂。そして彼らの間に分争が生じた。 一七そこで彼らは、も
ど もうじん き め ひと おも
う一度この盲人に聞いた、﹁おまえの目をあけてくれたその人を、どう思う
よげんしゃ おも かれ い じん かれ
か﹂。﹁預言者 だ と 思 い ま す﹂と 彼 は 言 っ た。 一八ユ ダ ヤ 人 た ち は、彼 が も と
もうじん み しん かれ
盲人であったが見えるようになったことを、まだ信じなかった。ついに彼ら
め み ひと りょうしん よ たず い
は、目が見えるようになったこの人の両 親を呼んで、 一九尋ねて言った、
﹁こ
うま もうじん い
れが、生れつき盲人であったと、おまえたちの言っているむすこか。それで
め み りょうしん こた い
はどうして、いま目が見えるのか﹂。 二〇両 親は答えて言った、
﹁これがわたし
うま もうじん ぞん
どものむすこであること、また生れつき盲人であったことは存じています。 二
み し
一 しかし、どうしていま見えるようになったのか、それは知りません。また、
ヨハネによる福音書

め くだ し き くだ
だれがその目をあけて下さったのかも知りません。あれに聞いて下さい。あ
じぶん じぶん はな りょうしん
れはもうおとなですから、自分のことは自分で話せるでしょう﹂。 二二両 親は
じん おそ こた
ユダヤ人たちを恐れていたので、こう答えたのである。それは、もしイエス
こくはく もの かいどう お だ じん
をキリストと告白する者があれば、会堂から追い出すことに、ユダヤ人たち
すで き かれ りょうしん き
が既に決めていたからである。 二三彼の両 親が﹁おとなですから、あれに聞い

45
くだ い
て下さい﹂と言ったのは、そのためであった。
かれ もうじん ひと いちど よ い かみ えいこう き
二四 そこで彼らは、盲人であった人をもう一度呼んで言った、﹁神に栄光を帰す
ひと つみびと
るがよい。あの人が罪人であることは、わたしたちにはわかっている﹂。 二五
かれ い つみびと し
すると彼は言った、﹁あのかたが罪人であるかどうか、わたしは知りません。
し めくら いま み
ただ一つのことだけ知っています。わたしは盲であったが、今は見えるとい
かれ い ひと なに
うことです﹂。 二六そこで彼らは言った、
﹁その人はおまえに何をしたのか。ど
め かれ こた はな
んなにしておまえの目をあけたのか﹂。 二七彼は答えた、
﹁そのことはもう話し
き き
てあげたのに、聞いてくれませんでした。なぜまた聞こうとするのですか。
ひと で し かれ かれ
あなたがたも、あの人の弟子になりたいのですか﹂。 二八そこで彼らは彼をの
い で し で し
のしって言った、﹁おまえはあれの弟子だが、わたしたちはモーセの弟子だ。
かみ かた し ひと
二九 モーセに神が語られたということは知っている。だが、あの人がどこから
ヨハネによる福音書

もの し かれ こた い め
きた者か、わたしたちは知らぬ﹂。 三〇そこで彼が答えて言った、
﹁わたしの目
くだ ぞん ふ し ぎ
をあけて下さったのに、そのかたがどこからきたか、ご存じないとは、不思議
せんばん し かみ つみびと い
千万です。 三一わたしたちはこのことを知っています。神は罪人の言うこと
き かみ うやま おこな ひと い
はお聞きいれになりませんが、神を敬い、そのみこころを行う人の言うこと
き くだ うま めくら もの め ひと
は、聞きいれて下さいます。 三二生れつき盲であった者の目をあけた人がある

46
せかい はじ いらい き
ということは、世界が始まって以来、聞いたことがありません。 三三もしあの
かみ ひと なにひと
かたが神からきた人でなかったら、何一つできなかったはずです﹂。 三四これ
き かれ い まった つみ なか うま
を聞いて彼らは言った、
﹁おまえは全く罪の中に生れていながら、わたしたち
おし かれ そと お だ
を教えようとするのか﹂。そして彼を外へ追い出した。
ひと そと お だ き かれ あ
三五 イエスは、その人が外へ追い出されたことを聞かれた。そして彼に会って
い ひと こ しん かれ こた い しゅ
言われた、
﹁あなたは人の子を信じるか﹂。 三六彼は答えて言った、
﹁主よ、それ
しん かれ い
は ど な た で す か。そ の か た を 信 じ た い の で す が﹂。 三七イ エ ス は 彼 に 言 わ れ
ひと あ いま はな
た、
﹁あなたは、もうその人に会っている。今あなたと話しているのが、その
ひと かれ しゅ しん い はい
人である﹂。 三八すると彼は、
﹁主よ、信じます﹂と言って、イエスを拝した。 三
い よ
九 そこでイエスは言われた、﹁わたしがこの世にきたのは、さばくためである。
み ひと み み ひと み
すなわち、見えない人たちが見えるようになり、見える人たちが見えないよ
ヨハネによる福音書

いっしょ びと
う に な る た め で あ る﹂。 四〇そ こ に イ エ ス と 一緒 に い た あ る パ リ サ イ 人 た ち
き い めくら
が、それを聞いてイエスに言った、
﹁それでは、わたしたちも盲なのでしょう
かれ い もうじん つみ
か﹂。 四一イエスは彼らに言われた、
﹁もしあなたがたが盲人であったなら、罪
いま み い は
はなかったであろう。しかし、今あなたがたが﹃見える﹄と言い張るところ
つみ
に、あなたがたの罪がある。

47
第一〇章
い ひつじ かこ もん
一 よ く よ く あ な た が た に 言 っ て お く。 羊 の 囲 い に は い る の に、門 か ら で な
ところ く もの ぬすびと ごうとう もん
く、ほかの所からのりこえて来る者は、盗人であり、強盗である。 二門からは
もの ひつじ ひつじかい もんばん かれ もん ひら ひつじ かれ こえ き
いる者は、 羊の羊 飼である。 三門番は彼のために門を開き、 羊は彼の声を聞
かれ じぶん ひつじ な つ だ じぶん ひつじ だ
く。そして彼は自分の羊の名をよんで連れ出す。 四自分の羊をみな出してし
かれ ひつじ せんとう た い ひつじ こえ し かれ
まうと、彼は羊の先頭に立って行く。 羊はその声を知っているので、彼につ
い ひと い に さ ひと
いて行くのである。 五ほかの人には、ついて行かないで逃げ去る。その人の
こえ し かれ ひ ゆ はな かれ
声を知らないからである﹂。 六イエスは彼らにこの比喩を話されたが、彼らは
じぶん はな なに
自分たちにお話しになっているのが何のことだか、わからなかった。
い い
七 そこで、イエスはまた言われた、
﹁よくよくあなたがたに言っておく。わた
ヨハネによる福音書

ひつじ もん まえ ひと ぬすびと ごうとう


しは羊の門である。 八わたしよりも前にきた人は、みな盗人であり、強盗であ
ひつじ かれ き したが もん
る。 羊は彼らに聞き従わなかった。 九わたしは門である。わたしをとおって
もの すく で い ぼくそう ぬすびと く
はいる者は救われ、また出入りし、牧草にありつくであろう。 一〇盗人が来る
ぬす ころ ほろ
のは、盗んだり、殺したり、滅ぼしたりするためにほかならない。わたしが
ひつじ いのち え ゆた え
きたのは、 羊に命を得させ、豊かに得させるためである。 一一わたしはよい

48
ひつじかい ひつじかい ひつじ いのち す ひつじかい ひつじ
羊 飼である。よい羊 飼は、羊のために命を捨てる。 一二羊 飼ではなく、羊が
じぶん やといにん く み ひつじ に さ
自分のものでもない雇 人は、おおかみが来るのを見ると、羊をすてて逃げ去
ひつじ うば お ち かれ やといにん
る。そして、おおかみは羊を奪い、また追い散らす。 一三彼は雇 人であって、
ひつじ こころ ひつじかい
羊のことを心にかけていないからである。 一四わたしはよい羊 飼であって、
ひつじ し ひつじ し
わたしの羊を知り、わたしの羊はまた、わたしを知っている。 一五それはちょ
ちち し ちち し おな
うど、父がわたしを知っておられ、わたしが父を知っているのと同じである。
ひつじ いのち す
そして、わたしは羊のために命を捨てるのである。 一六わたしにはまた、この
かこ た ひつじ かれ みちび かれ
囲いにいない他の羊がある。わたしは彼らをも導かねばならない。彼らも、
こえ き したが む ひつじかい
わたしの声に聞き従うであろう。そして、ついに一つの群れ、ひとりの羊 飼
ちち じぶん いのち す あい
となるであろう。 一七父は、わたしが自分の命を捨てるから、わたしを愛して
くだ いのち す ふたた え
下さるのである。 命を捨てるのは、それを再び得るためである。 一八だれか
ヨハネによる福音書

と さ じぶん す
が、わたしからそれを取り去るのではない。わたしが、自分からそれを捨て
す ちから う ちから
るのである。わたしには、それを捨てる力があり、またそれを受ける力もあ
ちち さず さだ
る。これはわたしの父から授かった定めである﹂。
ことば かた じん あいだ ぶんそう しょう
一九 これらの言葉を語られたため、ユダヤ人の間にまたも分争が生じた。 二〇
おお もの い かれ あくれい と き くる
そのうちの多くの者が言った、﹁彼は悪霊に取りつかれて、気が狂っている。

49
い き た ひとびと い
どうして、あなたがたはその言うことを聞くのか﹂。 二一他の人々は言った、
あくれい と もの ことば あくれい もうじん め
﹁それは悪霊に取りつかれた者の言葉ではない。悪霊は盲人の目をあけるこ
とができようか﹂。
みや まつり おこな とき ふゆ
二二 そのころ、エルサレムで宮きよめの祭が行われた。時は冬であった。 二三
みや なか ろう ある じん
イエスは、宮の中にあるソロモンの廊を歩いておられた。 二四するとユダヤ人
と かこ い ふあん
たちが、イエスを取り囲んで言った、
﹁いつまでわたしたちを不安のままにし

ておくのか。あなたがキリストであるなら、そうとはっきり言っていただき
かれ こた はな
たい﹂。 二五イエスは彼らに答えられた、
﹁わたしは話したのだが、あなたがた
しん ちち な
は信じようとしない。わたしの父の名によってしているすべてのわざが、わ
しん ひつじ
たしのことをあかししている。 二六あなたがたが信じないのは、わたしの羊で
ひつじ こえ き したが かれ
ないからである。 二七わたしの羊はわたしの声に聞き従う。わたしは彼らを
ヨハネによる福音書

し かれ く かれ えいえん いのち あた
知っており、彼らはわたしについて来る。 二八わたしは、彼らに永遠の命を与
かれ ほろ かれ
える。だから、彼らはいつまでも滅びることがなく、また、彼らをわたしの
て うば さ もの ちち くだ
手から奪い去る者はない。 二九わたしの父がわたしに下さったものは、すべて
ちち て うば と
にまさるものである。そしてだれも父のみ手から、それを奪い取ることはで
ちち じん
きない。 三〇わたしと父とは一つである﹂。 三一そこでユダヤ人たちは、イエス

50
う ころ いし と かれ こた
を打ち殺そうとして、また石を取りあげた。 三二するとイエスは彼らに答えら
ちち おお しめ なか
れた、
﹁わたしは、父による多くのよいわざを、あなたがたに示した。その中
いし う ころ じん
のどのわざのために、わたしを石で打ち殺そうとするのか﹂。 三三ユダヤ人た
こた いし ころ
ちは答えた、﹁あなたを石で殺そうとするのは、よいわざをしたからではなく、
かみ けが にんげん じぶん かみ
神を汚したからである。また、あなたは人間であるのに、自分を神としてい
かれ こた りっぽう
るからである﹂。 三四イエスは彼らに答えられた、
﹁あなたがたの律法に、
﹃わた
い かみがみ か かみ ことば
しは言う、あなたがたは神々である﹄と書いてあるではないか。 三五神の言を
たく ひとびと かみがみ せいしょ ことば
託された人々が、神々といわれておるとすれば、
︵そして聖書の言は、すたる
え ちち せいべつ よ もの かみ
ことがあり得ない︶三六父が聖別して、世につかわされた者が、
﹃わたしは神の
こ い かみ けが もの い
子である﹄と言ったからとて、どうして﹃あなたは神を汚す者だ﹄と言うの
ちち おこな しん
か。 三七もしわたしが父のわざを行わないとすれば、わたしを信じなくてもよ
ヨハネによる福音書

おこな しん
い。 三八しかし、もし行 っているなら、たといわたしを信じなくても、わたし
しん ちち ちち
のわざを信じるがよい。そうすれば、父がわたしにおり、また、わたしが父
し さと かれ とら
におることを知って悟るであろう﹂。 三九そこで、彼らはまたイエスを捕えよ
かれ て さ い
うとしたが、イエスは彼らの手をのがれて、去って行かれた。
む ぎし はじ
四〇 さて、イエスはまたヨルダンの向こう岸、すなわち、ヨハネが初めにバプ

51
さず ところ い たいざい おお ひとびと
テスマを授けていた所に行き、そこに滞在しておられた。 四一多くの人々がイ
たがい い おこな
エスのところにきて、 互に言った、﹁ヨハネはなんのしるしも行わなかった
い みな
が、ヨハネがこのかたについて言ったことは、皆ほんとうであった﹂。 四二そし
おお もの しん
て、そこで多くの者がイエスを信じた。
第一一章
びょうにん しまい むら
一 さて、ひとりの病 人がいた。ラザロといい、マリヤとその姉妹マルタの村
ひと しゅ こうゆ じぶん かみ け しゅ
ベタニヤの人であった。 二このマリヤは主に香油をぬり、自分の髪の毛で、主
あし おんな びょうき かのじょ きょうだい
の足をふいた女であって、病気であったのは、彼女の兄 弟 ラザロであった。 三
しまい ひと しゅ いま あい
姉妹たちは人をイエスのもとにつかわして、
﹁主よ、ただ今、あなたが愛して
ヨハネによる福音書

もの びょうき い き い
おられる者が病気をしています﹂と言わせた。 四イエスはそれを聞いて言わ
びょうき し かみ えいこう
れた、﹁この病気は死ぬほどのものではない。それは神の栄光のため、また、
かみ こ えいこう う
神の子がそれによって栄光を受けるためのものである﹂。
しまい あい
五 イ エ ス は、マ ル タ と そ の 姉妹 と ラ ザ ロ と を 愛 し て お ら れ た。 六ラ ザ ロ が
びょうき き ところ たいざい
病気であることを聞いてから、なおふつか、そのおられた所に滞在された。 七

52
で し ど い い で し
それから弟子たちに、
﹁もう一度ユダヤに行こう﹂と言われた。 八弟子たちは
い せんせい じん いし ころ
言った、
﹁先生、ユダヤ人らが、さきほどもあなたを石で殺そうとしていまし
い こた にち
たのに、またそこに行かれるのですか﹂。 九イエスは答えられた、
﹁一日には十
じかん ひるま ひと よ
二時間あるではないか。昼間あるけば、人はつまずくことはない。この世の
ひかり み よる ひと
光を見ているからである。 一〇しかし、夜あるけば、つまずく。その人のうち
ひかり い かれ い
に、 光がないからである﹂。 一一そう言われたが、それからまた、彼らに言わ
とも ねむ かれ おこ い
れた、﹁わたしたちの友ラザロが眠っている。わたしは彼を起しに行く﹂。 一二
で し い しゅ ねむ たす
すると弟子たちは言った、
﹁主よ、眠っているのでしたら、助かるでしょう﹂。
し い で し ねむ
一三 イエスはラザロが死んだことを言われたのであるが、弟子たちは、眠って
やす い おも
休んでいることをさして言われたのだと思った。 一四するとイエスは、あから
かれ い し
さまに彼らに言われた、
﹁ラザロは死んだのだ。 一五そして、わたしがそこにい
ヨハネによる福音書

よろこ しん
あわせなかったことを、あなたがたのために喜ぶ。それは、あなたがたが信
かれ い
じるようになるためである。では、彼のところに行こう﹂。 一六するとデドモ
よ なかま で し い い
と呼ばれているトマスが、仲間の弟子たちに言った、﹁わたしたちも行って、
せんせい いっしょ し
先生と一緒に死のうではないか﹂。
い かかん はか なか
一七 さて、イエスが行ってごらんになると、ラザロはすでに四日間も墓の中に

53
お ちか ちょう はな
置かれていた。 一八ベタニヤはエルサレムに近く、二十五 丁ばかり離れたと
おお じん きょうだい
ころにあった。 一九大ぜいのユダヤ人が、その兄 弟のことで、マルタとマリヤ
なぐさ き でむか
とを慰めようとしてきていた。 二〇マルタはイエスがこられたと聞いて、出迎
い いえ い しゅ
えに行ったが、マリヤは家ですわっていた。 二一マルタはイエスに言った、
﹁主
くだ きょうだい し
よ、もしあなたがここにいて下さったなら、わたしの兄 弟は死ななかったで
ねが かみ
しょう。 二二しかし、あなたがどんなことをお願いになっても、神はかなえて
くだ いま ぞん い
下さることを、わたしは今でも存じています﹂。 二三イエスはマルタに言われ
きょうだい い おわ ひ
た、
﹁あなたの兄 弟はよみがえるであろう﹂。 二四マルタは言った、
﹁終りの日
とき ぞん かのじょ い
のよみがえりの時よみがえることは、存じています﹂。 二五イエスは彼女に言
いのち しん もの
われた、
﹁わたしはよみがえりであり、命である。わたしを信じる者は、たと
し い い しん もの
い死んでも生きる。 二六また、生きていて、わたしを信じる者は、いつまでも
ヨハネによる福音書

し しん い しゅ
死なない。あなたはこれを信じるか﹂。 二七マルタはイエスに言った、﹁主よ、
しん よ かみ み こ しん
信じます。あなたがこの世にきたるべきキリスト、神の御子であると信じて
い かえ しまい よ せんせい
おります﹂。 二八マルタはこう言ってから、帰って姉妹のマリヤを呼び、
﹁先生
よ こごえ い
がおいでになって、あなたを呼んでおられます﹂と小声で言った。 二九これを
き た あ い
聞いたマリヤはすぐ立ち上がって、イエスのもとに行った。 三〇イエスはまだ

54
むら むか ば しょ
村に、はいってこられず、マルタがお迎えしたその場所におられた。 三一マリ
いっしょ いえ かのじょ なぐさ じん いそ た
ヤと一緒に家にいて彼女を慰めていたユダヤ人たちは、マリヤが急いで立ち
あ で い み かのじょ はか な い おも
上がって出て行くのを見て、彼女は墓に泣きに行くのであろうと思い、その
い ところ い め
あとからついて行った。 三二マリヤは、イエスのおられる所に行ってお目にか
あし ふ い しゅ くだ
かり、その足もとにひれ伏して言った、﹁主よ、もしあなたがここにいて下さっ
きょうだい し かのじょ な
たなら、わたしの兄 弟は死ななかったでしょう﹂。 三三イエスは、彼女が泣き、
かのじょ いっしょ じん な はげ
また、彼女と一緒にきたユダヤ人たちも泣いているのをごらんになり、激し
かんどう こころ さわ い かれ お
く感動し、また心を騒がせ、そして言われた、 三四﹁彼をどこに置いたのか﹂。
かれ い しゅ くだ なみだ なが
彼らはイエスに言った、
﹁主よ、きて、ごらん下さい﹂。 三五イエスは涙を流さ
じん い かれ あい
れた。 三六するとユダヤ人たちは言った、
﹁ああ、なんと彼を愛しておられたこ
かれ ひと い もうじん め
とか﹂。 三七しかし、彼らのある人たちは言った、
﹁あの盲人の目をあけたこの
ヨハネによる福音書

ひと し
人でも、ラザロを死なせないようには、できなかったのか﹂。 三八イエスはまた
はげ かんどう はか ほらあな いし
激しく感動して、墓にはいられた。それは洞穴であって、そこに石がはめて
い いし と し しまい
あった。 三九イエスは言われた、
﹁石を取りのけなさい﹂。死んだラザロの姉妹
い しゅ くさ か
マルタが言った、﹁主よ、もう臭くなっております。四日もたっていますか
かのじょ い しん かみ えいこう み
ら﹂。 四〇イエスは彼女に言われた、
﹁もし信じるなら神の栄光を見るであろう

55
い ひとびと いし と
と、あなたに言ったではないか﹂。 四一人々は石を取りのけた。すると、イエス
め てん い ちち ねが き くだ
は目を天にむけて言われた、﹁父よ、わたしの願いをお聞き下さったことを
かんしゃ ねが き くだ
感謝します。 四二あなたがいつでもわたしの願いを聞きいれて下さることを、
し もう た ひとびと
よく知っています。しかし、こう申しますのは、そばに立っている人々に、あ
しん
なたがわたしをつかわされたことを、信じさせるためであります﹂。 四三こう
い おおごえ で よ しにん
言いながら、大声で﹁ラザロよ、出てきなさい﹂と呼ばわれた。 四四すると、死人
てあし ぬの かお かお つつ で ひとびと
は手足を布でまかれ、顔も顔おおいで包まれたまま、出てきた。イエスは人々
い かれ かえ
に言われた、﹁彼をほどいてやって、帰らせなさい﹂。
み おお じん
四五 マリヤのところにきて、イエスのなさったことを見た多くのユダヤ人たち
しん すうにん びと
は、イエスを信じた。 四六しかし、そのうちの数人がパリサイ人たちのところ
い つ さいしちょう
に行って、イエスのされたことを告げた。 四七そこで、祭司長たちとパリサイ
ヨハネによる福音書

びと ぎかい しょうしゅう い ひと おお おこな


人たちとは、議会を召 集して言った、
﹁この人が多くのしるしを行 っている
たがい なに かれ
のに、お互は何をしているのだ。 四八もしこのままにしておけば、みんなが彼
しん じん
を信じるようになるだろう。そのうえ、ローマ人がやってきて、わたしたち
と ち じんみん うば かれ とし
の土地も人民も奪ってしまうであろう﹂。 四九彼らのうちのひとりで、その年
だいさいし かれ い なに
の大祭司であったカヤパが、彼らに言った、
﹁あなたがたは、何もわかってい

56
ひと じんみん かわ し ぜんこくみん ほろ
ないし、 五〇ひとりの人が人民に代って死んで、全国民が滅びないようになる
とく かんが
のがわたしたちにとって得だということを、 考えてもいない﹂。 五一このこと
かれ じぶん い かれ とし だいさいし よげん
は彼が自分から言ったのではない。彼はこの年の大祭司であったので、預言
こくみん こくみん さんざい
をして、イエスが国民のために、 五二ただ国民のためだけではなく、また散在
かみ こ あつ し い
している神の子らを一つに集めるために、死ぬことになっていると、言った
かれ ひ ころ そうだん
のである。 五三彼らはこの日からイエスを殺そうと相談した。 五四そのためイ
こうぜん じん あいだ ある で あらの ちか
エスは、もはや公然とユダヤ人の間を歩かないで、そこを出て、荒野に近い
ちほう まち い で し いっしょ たいざい
地方のエフライムという町に行かれ、そこに弟子たちと一緒に滞在しておら
れた。
じん すぎこし まつり ちか おお ひとびと み
五五 さて、ユダヤ人の過越の祭が近づいたので、多くの人々は身をきよめるた
まつり まえ ちほう のぼ ひとびと さが もと
めに、 祭の前に、地方からエルサレムへ上った。 五六人々はイエスを捜し求
ヨハネによる福音書

みや にわ た たがい い おも まつり
め、宮の庭に立って互に言った、
﹁あなたがたはどう思うか。イエスはこの祭
さいしちょう びと とら
にこないのだろうか﹂。 五七祭司長たちとパリサイ人たちとは、イエスを捕え
し もの もう で しれい
ようとして、そのいどころを知っている者があれば申し出よ、という指令を

出していた。

57
第一二章
すぎこし まつり か い
一 過越の祭の六日まえに、イエスはベタニヤに行かれた。そこは、イエスが
しにん なか ところ
死人の中からよみがえらせたラザロのいた所である。 二イエスのためにそこ
ゆうしょく ようい きゅうじ いっしょ しょくたく
で夕 食の用意がされ、マルタは給仕をしていた。イエスと一緒に食 卓につい
もの くわ とき こうか じゅんすい
ていた者のうちに、ラザロも加わっていた。 三その時、マリヤは高価で純 粋な
こうゆ きん も あし じぶん かみ け
ナルドの香油一斤を持ってきて、イエスの足にぬり、自分の髪の毛でそれを
こうゆ いえ で し
ふいた。すると、香油のかおりが家にいっぱいになった。 四弟子のひとりで、
うらぎ い こうゆ
イエスを裏切ろうとしていたイスカリオテのユダが言った、五
﹁なぜこの香油
う まず ひと ほどこ かれ
を三百デナリに売って、貧しい人たちに、 施さなかったのか﹂。 六彼がこう
い まず ひと たい おも じぶん
言ったのは、貧しい人たちに対する思いやりがあったからではなく、自分が
ヨハネによる福音書

ぬすびと さいふ あず なかみ


盗人であり、財布を預かっていて、その中身をごまかしていたからであった。
い おんな ほうむ
七 イエスは言われた、
﹁この女のするままにさせておきなさい。わたしの葬り
ひ まず ひと
の日のために、それをとっておいたのだから。 八貧しい人たちはいつもあな
とも とも おお
たがたと共にいるが、わたしはいつも共にいるわけではない﹂。 九大ぜいのユ
じん し お
ダヤ人たちが、そこにイエスのおられるのを知って、押しよせてきた。それ

58
あ しにん
はイエスに会うためだけではなく、イエスが死人のなかから、よみがえらせ
み さいしちょう ころ
たラザロを見るためでもあった。 一〇そこで祭司長たちは、ラザロも殺そうと
そうだん おお じん かれ はな さ
相談した。 一一それは、ラザロのことで、多くのユダヤ人が彼らを離れ去って、
しん いた
イエスを信じるに至ったからである。
よくじつ まつり おお ぐんしゅう
一二 その翌日、祭にきていた大ぜいの群 衆は、イエスがエルサレムにこられる
き えだ て むか で い さけ
と聞いて、 一三しゅろの枝を手にとり、迎えに出て行った。そして叫んだ、
﹁ホサナ、
しゅ み な もの しゅくふく
主の御名によってきたる者に祝 福あれ、
おう
イスラエルの王に﹂。
こ み うえ の
一四 イエスは、ろばの子を見つけて、その上に乗られた。それは
むすめ おそ
一五 ﹁シオンの娘よ、恐れるな。
ヨハネによる福音書

み おう
見よ、あなたの王が
こ の
ろばの子に乗っておいでになる﹂
か で し はじ さと
と 書 い て あ る と お り で あ っ た。 一 六弟子 た ち は 初 め に は こ の こ と を 悟 ら な
えいこう う とき か
かったが、イエスが栄光を受けられた時に、このことがイエスについて書か
ひとびと たい
れてあり、またそのとおりに、人々がイエスに対してしたのだということを、

59
おも おこ はか よ だ しにん なか
思い起した。 一七また、イエスがラザロを墓から呼び出して、死人の中からよ
いっしょ ぐんしゅう ぐんしゅう
みがえらせたとき、イエスと一緒にいた群 衆が、そのあかしをした。 一八群 衆
むか で おこな き
がイエスを迎えに出たのは、イエスがこのようなしるしを行われたことを、聞
びと たがい い なに
いていたからである。 一九そこで、パリサイ人たちは互に言った、
﹁何をしても
よ かれ お い
むだだった。世をあげて彼のあとを追って行ったではないか﹂。
まつり れいはい のぼ ひとびと すうにん じん
二〇 祭で礼拝するために上ってきた人々のうちに、数人のギリシヤ人がいた。
かれ で きみ
二一 彼らはガリラヤのベツサイダ出であるピリポのところにきて、﹁君よ、イエ
め い たの
スにお目にかかりたいのですが﹂と言って頼んだ。 二二ピリポはアンデレのと
い はな い
ころに行ってそのことを話し、アンデレとピリポは、イエスのもとに行って
つた こた い ひと こ えいこう う とき
伝えた。 二三すると、イエスは答えて言われた、
﹁人の子が栄光を受ける時がき
い つぶ むぎ ち お し
た。 二四よくよくあなたがたに言っておく。一粒の麦が地に落ちて死ななけ
ヨハネによる福音書

つぶ し ゆた み
れば、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を
むす じぶん いのち あい もの うしな よ じぶん いのち
結ぶようになる。 二五自分の命を愛する者はそれを失い、この世で自分の命を
にく もの たも えいえん いのち いた つか
憎む者は、それを保って永遠の命に至るであろう。 二六もしわたしに仕えよう
ひと ひと したが く
とする人があれば、その人はわたしに従 って来るがよい。そうすれば、わた
ところ つか もの つか
しのおる所に、わたしに仕える者もまた、おるであろう。もしわたしに仕え

60
ひと ひと ちち おも くだ いま
ようとする人があれば、その人を父は重んじて下さるであろう。 二七今わたし
こころ さわ い ちち とき
は心が騒いでいる。わたしはなんと言おうか。父よ、この時からわたしをお
すく くだ とき いた ちち
救い下さい。しかし、わたしはこのために、この時に至ったのです。 二八父よ、
な てん こえ
み名があがめられますように﹂。すると天から声があった、﹁わたしはすでに
えいこう さら
栄光をあらわした。そして、更にそれをあらわすであろう﹂。 二九すると、そこ
た ぐんしゅう き かみなり い ひと
に立っていた群 衆がこれを聞いて、
﹁雷がなったのだ﹂と言い、ほかの人たち
みつかい かれ はな い こた い
は、﹁御使が彼に話しかけたのだ﹂と言った。 三〇イエスは答えて言われた、﹁こ
こえ いま
の声があったのは、わたしのためではなく、あなたがたのためである。 三一今
よ とき いま よ きみ お だ
は こ の 世 が さ ば か れ る 時 で あ る。今 こ そ こ の 世 の 君 は 追 い 出 さ れ る で あ ろ
ち あ とき ひと
う。 三二そして、わたしがこの地から上げられる時には、すべての人をわたし
ひ い じぶん し
のところに引きよせるであろう﹂。 三三イエスはこう言って、自分がどんな死
ヨハネによる福音書

かた し しめ ぐんしゅう
に方で死のうとしていたかを、お示しになったのである。 三四すると群 衆は
い りっぽう
イエスにむかって言った、
﹁わたしたちは律法によって、キリストはいつまで
い き ひと
も生きておいでになるのだ、と聞いていました。それだのに、どうして人の
こ あ い ひと こ
子は上げられねばならないと、言われるのですか。その人の子とは、だれの
かれ い あいだ ひかり
ことですか﹂。 三五そこでイエスは彼らに言われた、
﹁もうしばらくの間、光は

61
いっしょ ひかり あいだ ある お
あなたがたと一緒にここにある。 光がある間に歩いて、やみに追いつかれな
なか ある もの じぶん い
いようにしなさい。やみの中を歩く者は、自分がどこへ行くのかわかってい
ひかり あいだ ひかり こ ひかり しん
ない。 三六 光のある間に、 光の子となるために、 光を信じなさい﹂。
はな た さ かれ み かく
イエスはこれらのことを話してから、そこを立ち去って、彼らから身をお隠
おお かれ まえ かれ
しになった。 三七このように多くのしるしを彼らの前でなさったが、彼らはイ
しん よげんしゃ つぎ ことば じょうじゅ
エスを信じなかった。 三八それは、預言者イザヤの次の言葉が成 就するため
しゅ と しん
である、
﹁主よ、わたしたちの説くところを、だれが信じたでしょうか。また、
しゅ うで しめ かれ しん
主のみ腕はだれに示されたでしょうか﹂。 三九こういうわけで、彼らは信じる
い かみ かれ め
ことができなかった。イザヤはまた、こうも言った、 四〇﹁神は彼らの目をく
こころ かれ め み こころ さと
らまし、 心をかたくなになさった。それは、彼らが目で見ず、 心で悟らず、
く あらた い
悔 い 改 め て い や さ れ る こ と が な い た め で あ る﹂。 四一イ ザ ヤ が こ う 言 っ た の
ヨハネによる福音書

えいこう み かた
は、イエスの栄光を見たからであって、イエスのことを語ったのである。 四二
やくにん なか しん もの おお びと
しかし、役人たちの中にも、イエスを信じた者が多かったが、パリサイ人を
こくはく かいどう お だ おそ
はばかって、告白はしなかった。会堂から追い出されるのを恐れていたので
かれ かみ ひと この
ある。 四三彼らは神のほまれよりも、人のほまれを好んだからである。
おおごえ い しん もの しん
四四 イエスは大声で言われた、﹁わたしを信じる者は、わたしを信じるのではな

62
しん み もの
く、わたしをつかわされたかたを信じるのであり、 四五また、わたしを見る者
み ひかり よ
は、わたしをつかわされたかたを見るのである。 四六わたしは光としてこの世
しん もの
にきた。それは、わたしを信じる者が、やみのうちにとどまらないようにな
い き まも ひと
るためである。 四七たとい、わたしの言うことを聞いてそれを守らない人が
ひと よ
あっても、わたしはその人をさばかない。わたしがきたのは、この世をさば
よ すく す
くためではなく、この世を救うためである。 四八わたしを捨てて、わたしの
ことば う ひと ひと かた
言葉を受けいれない人には、その人をさばくものがある。わたしの語ったそ
ことば おわ ひ ひと じぶん かた
の言葉が、終りの日にその人をさばくであろう。 四九わたしは自分から語った
ちち じしん い かた
のではなく、わたしをつかわされた父ご自身が、わたしの言うべきこと、語
めい めいれい えいえん いのち
るべきことをお命じになったのである。 五〇わたしは、この命令が永遠の命で
し かた
あることを知っている。それゆえに、わたしが語っていることは、わたしの
ヨハネによる福音書

ちち おお かた
父がわたしに仰せになったことを、そのまま語っているのである﹂。
第一三章
すぎこし まつり まえ よ さ ちち い じぶん とき
一 過越の祭の前に、イエスは、この世を去って父のみもとに行くべき自分の時

63
し よ じぶん もの あい かれ さいご あい とお
がきたことを知り、世にいる自分の者たちを愛して、彼らを最後まで愛し通
ゆうしょく あくま こ こころ
さ れ た。 二 夕 食 の と き、悪魔 は す で に シ モ ン の 子 イ ス カ リ オ テ の ユ ダ の 心
うらぎ おも い ちち
に、イエスを裏切ろうとする思いを入れていたが、 三イエスは、父がすべての
じぶん て あた じぶん かみ で かみ
ものを自分の手にお与えになったこと、また、自分は神から出てきて、神に
おも ゆうしょく せき た あ うわぎ ぬ
かえろうとしていることを思い、四夕 食の席から立ち上がって、上着を脱ぎ、
て こし ま みず い で し あし
手ぬぐいをとって腰に巻き、五それから水をたらいに入れて、弟子たちの足を
あら こし ま て はじ
洗い、腰に巻いた手ぬぐいでふき始められた。 六こうして、シモン・ペテロの
ばん かれ しゅ あし あら
番になった。すると彼はイエスに、
﹁主よ、あなたがわたしの足をお洗いにな
い かれ こた い
るのですか﹂と言った。 七イエスは彼に答えて言われた、
﹁わたしのしている
いま
ことは今あなたにはわからないが、あとでわかるようになるだろう﹂。 八ペテ
い あし けっ あら くだ かれ
ロはイエスに言った、﹁わたしの足を決して洗わないで下さい﹂。イエスは彼
ヨハネによる福音書

こた あし あら
に答えられた、
﹁もしわたしがあなたの足を洗わないなら、あなたはわたしと
かか い しゅ
なんの係わりもなくなる﹂。 九シモン・ペテロはイエスに言った、
﹁主よ、では、
あし て あたま かれ い
足だけではなく、どうぞ、手も頭も﹂。 一〇イエスは彼に言われた、
﹁すでにか
あら もの あし あら ひつよう ぜんしん
らだを洗った者は、足のほかは洗う必要がない。全身がきれいなのだから。
あなたがたはきれいなのだ。しかし、みんながそうなのではない﹂。 一一イエ

64
じぶん うらぎ もの し
スは自分を裏切る者を知っておられた。それで、﹁みんながきれいなのではな

い﹂と言われたのである。
かれ あし あら うわぎ せき かれ
一二 こうして彼らの足を洗ってから、上着をつけ、ふたたび席にもどって、彼

らに言われた、﹁わたしがあなたがたにしたことがわかるか。 一三あなたがた
きょうし しゅ よ い ただ
はわたしを教師、また主と呼んでいる。そう言うのは正しい。わたしはその
しゅ きょうし
とおりである。 一四しかし、主であり、また教師であるわたしが、あなたがた
あし あら たがい あし あら あ
の足を洗ったからには、あなたがたもまた、互に足を洗い合うべきである。 一
五 わたしがあなたがたにしたとおりに、あなたがたもするように、わたしは
てほん しめ い しもべ しゅじん
手本を示したのだ。 一六よくよくあなたがたに言っておく。 僕はその主人に
もの もの
まさるものではなく、つかわされた者はつかわした者にまさるものではない。
おこな
一七 もしこれらのことがわかっていて、それを行うなら、あなたがたはさいわ
ヨハネによる福音書

ぜんぶ もの い
いである。 一八あなたがた全部の者について、こう言っているのではない。わ
じぶん えら ひと し た
たしは自分が選んだ人たちを知っている。しかし、﹃わたしのパンを食べてい
もの せいしょ じょうじゅ
る者が、わたしにむかってそのかかとをあげた﹄とある聖書は成 就されなけ
おこ いま い
ればならない。 一九そのことがまだ起らない今のうちに、あなたがたに言って
こと おこ
おく。いよいよ事が起ったとき、わたしがそれであることを、あなたがたが

65
しん い
信じるためである。 二〇よくよくあなたがたに言っておく。わたしがつかわ
もの う もの う う
す者を受けいれる者は、わたしを受けいれるのである。わたしを受けいれる
もの う
者は、わたしをつかわされたかたを、受けいれるのである﹂。
い のち こころ さわ い
二一 イエスがこれらのことを言われた後、その心が騒ぎ、おごそかに言われた、

﹁よくよくあなたがたに言っておく。あなたがたのうちのひとりが、わたしを
うらぎ で し い さっ
裏切 ろ う と し て い る﹂。 二二弟子 た ち は だ れ の こ と を 言 わ れ た の か 察 し か ね
たがい かお み あ で し あい
て、互に顔を見合わせた。 二三弟子たちのひとりで、イエスの愛しておられた
もの むね ちか せき かれ あいず
者が、み胸に近く席についていた。 二四そこで、シモン・ペテロは彼に合図を
い し で し
して言った、
﹁だれのことをおっしゃったのか、知らせてくれ﹂。 二五その弟子
むね しゅ たず
はそのままイエスの胸によりかかって、
﹁主よ、だれのことですか﹂と尋ねる
こた しょくもつ あた もの
と、二六イエスは答えられた、
﹁わたしが一きれの食 物をひたして与える者が、
ヨハネによる福音書

しょくもつ あ こ
それである﹂。そして、一きれの食 物をひたしてとり上げ、シモンの子イスカ
あた しょくもつ う
リ オ テ の ユ ダ に お 与 え に な っ た。 二七こ の 一 き れ の 食 物 を 受 け る や い な や、
かれ い
サタンがユダにはいった。そこでイエスは彼に言われた、﹁しようとしている
いま せき とも もの
ことを、今すぐするがよい﹂。 二八席を共にしていた者のうち、なぜユダにこう
い もの ひとびと
言われたのか、わかっていた者はひとりもなかった。 二九ある人々は、ユダが

66
かねい かれ まつり ひつよう か
金入れをあずかっていたので、イエスが彼に、﹁祭のために必要なものを買え﹂
い まず もの なに ほどこ おも
と言われたか、あるいは、貧しい者に何か施させようとされたのだと思って
しょくもつ う で い とき よる
い た。 三 〇ユ ダ は 一 き れ の 食 物 を 受 け る と、す ぐ に 出 て 行 っ た。時 は 夜 で
あった。
かれ で い い いま ひと こ えいこう う
三一 さて、彼が出て行くと、イエスは言われた、
﹁今や人の子は栄光を受けた。
かみ かれ えいこう う かれ えいこう う
神もまた彼によって栄光をお受けになった。 三二彼によって栄光をお受けに
かみ じしん かれ えいこう さず さず
なったのなら、神ご自身も彼に栄光をお授けになるであろう。すぐにもお授
こ いっしょ
けになるであろう。 三三子たちよ、わたしはまだしばらく、あなたがたと一緒
さが じん い
にいる。あなたがたはわたしを捜すだろうが、すでにユダヤ人たちに言った
いま い い ところ く
とおり、今あなたがたにも言う、
﹃あなたがたはわたしの行く所に来ることは
あたら あた たがい あい
できない﹄。 三四わたしは、 新しいいましめをあなたがたに与える、 互に愛し
ヨハネによる福音書

あ あい たがい あい あ
合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互に愛し合
たがい あい あ
いなさい。 三五 互に愛し合うならば、それによって、あなたがたがわたしの
で し もの みと
弟子であることを、すべての者が認めるであろう﹂。
い しゅ
三六 シモン・ペテロがイエスに言った、
﹁主よ、どこへおいでになるのですか﹂。
こた い いま く
イエスは答えられた、
﹁あなたはわたしの行くところに、今はついて来ること

67

はできない。しかし、あとになってから、ついて来ることになろう﹂。 三七ペテ
い しゅ いま い
ロはイエスに言った、
﹁主よ、なぜ、今あなたについて行くことができないの
いのち す こた
ですか。あなたのためには、命も捨てます﹂。 三八イエスは答えられた、
﹁わた
いのち す い い にわとり な
しのために命を捨てると言うのか。よくよくあなたに言っておく。 鶏が鳴
まえ ど し い
く前に、あなたはわたしを三度知らないと言うであろう﹂。
第一四章
こころ さわ かみ しん しん
一 ﹁あなたがたは、 心を騒がせないがよい。神を信じ、またわたしを信じな
ちち いえ
さい。 二わたしの父の家には、すまいがたくさんある。もしなかったならば、
い ば しょ ようい
わたしはそう言っておいたであろう。あなたがたのために、場所を用意しに
ヨハネによる福音書

い い ば しょ ようい
行くのだから。 三そして、行って、場所の用意ができたならば、またきて、あ
むか ところ
なたがたをわたしのところに迎えよう。わたしのおる所にあなたがたもおら
い みち
せるためである。 四わたしがどこへ行くのか、その道はあなたがたにわかっ
い しゅ
ている﹂。 五トマスはイエスに言った、
﹁主よ、どこへおいでになるのか、わた
みち
したちにはわかりません。どうしてその道がわかるでしょう﹂。 六イエスは

68
かれ い みち しんり いのち
彼に言われた、
﹁わたしは道であり、真理であり、命である。だれでもわたし
ちち い
によらないでは、父のみもとに行くことはできない。 七もしあなたがたがわ
し ちち し いま ちち
たしを知っていたならば、わたしの父をも知ったであろう。しかし、今は父
し ちち み い
を知っており、またすでに父を見たのである﹂。 八ピリポはイエスに言った、
しゅ ちち しめ くだ くだ
﹁主よ、わたしたちに父を示して下さい。そうして下されば、わたしたちは
まんぞく かれ い なが
満足します﹂。 九イエスは彼に言われた、
﹁ピリポよ、こんなに長くあなたがた
いっしょ み もの ちち
と一緒にいるのに、わたしがわかっていないのか。わたしを見た者は、父を
み ちち しめ い
見たのである。どうして、わたしたちに父を示してほしいと、言うのか。 一〇
ちち ちち しん
わたしが父におり、父がわたしにおられることをあなたは信じないのか。わ
はな ことば じぶん はな ちち
たしがあなたがたに話している言葉は、自分から話しているのではない。父
ちち
がわたしのうちにおられて、みわざをなさっているのである。 一一わたしが父
ヨハネによる福音書

ちち しん しん
におり、父がわたしにおられることを信じなさい。もしそれが信じられない
しん い
ならば、わざそのものによって信じなさい。 一二よくよくあなたがたに言って
しん もの
おく。わたしを信じる者は、またわたしのしているわざをするであろう。そ
おお ちち い
ればかりか、もっと大きいわざをするであろう。わたしが父のみもとに行く
な ねが
からである。 一三わたしの名によって願うことは、なんでもかなえてあげよ

69
ちち こ えいこう う なにごと
う。父が子によって栄光をお受けになるためである。 一四何事でもわたしの
な ねが
名によって願うならば、わたしはそれをかなえてあげよう。 一五もしあなたが
あい まも
たがわたしを愛するならば、わたしのいましめを守るべきである。 一六わたし
ちち ねが ちち べつ たす ぬし おく
は父にお願いしよう。そうすれば、父は別に助け主を送って、いつまでもあ
とも くだ しんり みたま
なたがたと共におらせて下さるであろう。 一七それは真理の御霊である。こ
よ み し う
の世はそれを見ようともせず、知ろうともしないので、それを受けることが

できない。あなたがたはそれを知っている。なぜなら、それはあなたがたと
とも
共におり、またあなたがたのうちにいるからである。
す こ じ
一八 わ た し は あ な た が た を 捨 て て 孤児 と は し な い。あ な た が た の と こ ろ に
かえ く よ み
帰って来る。 一九もうしばらくしたら、世はもはやわたしを見なくなるだろ
み い
う。しかし、あなたがたはわたしを見る。わたしが生きるので、あなたがた
ヨハネによる福音書

い ひ ちち
も生きるからである。 二〇その日には、わたしはわたしの父におり、あなたが
たはわたしにおり、また、わたしがあなたがたにおることが、わかるであろ
こころ まも もの あい もの
う。 二一わたしのいましめを心にいだいてこれを守る者は、わたしを愛する者
あい もの ちち あい
である。わたしを愛する者は、わたしの父に愛されるであろう。わたしもそ
ひと あい ひと じしん
の人を愛し、その人にわたし自身をあらわすであろう﹂。 二二イスカリオテで

70
ほう い しゅ じしん
ない方のユダがイエスに言った、
﹁主よ、あなたご自身をわたしたちにあらわ
よ かれ
そうとして、世にはあらわそうとされないのはなぜですか﹂。 二三イエスは彼
こた い あい ことば まも
に答えて言われた、
﹁もしだれでもわたしを愛するならば、わたしの言葉を守
ちち ひと あい
るであろう。そして、わたしの父はその人を愛し、また、わたしたちはその
ひと い ひと いっしょ す あい もの
人のところに行って、その人と一緒に住むであろう。 二四わたしを愛さない者
ことば まも き ことば ことば
はわたしの言葉を守らない。あなたがたが聞いている言葉は、わたしの言葉
ちち ことば
ではなく、わたしをつかわされた父の言葉である。
いっしょ とき かた
二五 これらのことは、あなたがたと一緒にいた時、すでに語ったことである。 二
たす ぬし ちち な せいれい
六 しかし、助け主、すなわち、父がわたしの名によってつかわされる聖霊は、
おし はな
あなたがたにすべてのことを教え、またわたしが話しておいたことを、こと
おも おこ へいあん のこ い
ごとく思い起させるであろう。 二七わたしは平安をあなたがたに残して行く。
ヨハネによる福音書

へいあん あた あた よ あた
わたしの平安をあなたがたに与える。わたしが与えるのは、世が与えるよう
こと こころ さわ
なものとは異なる。あなたがたは心を騒がせるな、またおじけるな。 二八﹃わ
さ い かえ く
たしは去って行くが、またあなたがたのところに帰って来る﹄と、わたしが
い き あい
言ったのを、あなたがたは聞いている。もしわたしを愛しているなら、わた
ちち い よろこ ちち おお
しが父のもとに行くのを喜んでくれるであろう。父がわたしより大きいかた

71
いま おこ さき
であるからである。 二九今わたしは、そのことが起らない先にあなたがたに
かた こと おこ とき しん
語った。それは、事が起った時にあなたがたが信じるためである。 三〇わたし
おお かた よ きみ く
はもはや、あなたがたに、多くを語るまい。この世の君が来るからである。だ
かれ たい ちから ちち あい
が、彼はわたしに対して、なんの力もない。 三一しかし、わたしが父を愛して
よ し ちち めい おこな
いることを世が知るように、わたしは父がお命じになったとおりのことを行
た で い
うのである。立て。さあ、ここから出かけて行こう。
第一五章
き ちち のうふ
一 わたしはまことのぶどうの木、わたしの父は農夫である。 二わたしにつな
えだ み むす ちち み むす
がっている枝で実を結ばないものは、父がすべてこれをとりのぞき、実を結
ヨハネによる福音書

ゆた みの て い
ぶものは、もっと豊かに実らせるために、手入れしてこれをきれいになさる
かた ことば すで
のである。 三あなたがたは、わたしが語った言葉によって既にきよくされて
いる。 四わたしにつながっていなさい。そうすれば、わたしはあなたがたと
えだ き じぶん
つながっていよう。枝がぶどうの木につながっていなければ、自分だけでは
み むす
実を結ぶことができないように、あなたがたもわたしにつながっていなけれ

72
み むす き えだ
ば実を結ぶことができない。 五わたしはぶどうの木、あなたがたはその枝で
ひと ひと
ある。もし人がわたしにつながっており、またわたしがその人とつながって
ひと み ゆた むす はな
おれば、その人は実を豊かに結ぶようになる。わたしから離れては、あなた
なにひと ひと
が た は 何一 つ で き な い か ら で あ る。 六人 が わ た し に つ な が っ て い な い な ら
えだ そと な か ひとびと あつ ひ な
ば、枝のように外に投げすてられて枯れる。人々はそれをかき集め、火に投
い や
げ入れて、焼いてしまうのである。 七あなたがたがわたしにつながっており、
ことば のぞ もと
わたしの言葉があなたがたにとどまっているならば、なんでも望むものを求
あた み ゆた
めるがよい。そうすれば、与えられるであろう。 八あなたがたが実を豊かに
むす で し ちち えいこう
結び、そしてわたしの弟子となるならば、それによって、わたしの父は栄光
う ちち あい
をお受けになるであろう。 九父がわたしを愛されたように、わたしもあなた
あい あい
がたを愛したのである。わたしの愛のうちにいなさい。 一〇もしわたしのい
ヨハネによる福音書

まも あい
ましめを守るならば、あなたがたはわたしの愛のうちにおるのである。それ
ちち まも あい おな
はわたしがわたしの父のいましめを守ったので、その愛のうちにおるのと同
はな よろこ
じである。 一一わたしがこれらのことを話したのは、わたしの喜びがあなたが
やど よろこ み
たのうちにも宿るため、また、あなたがたの喜びが満ちあふれるためである。
あい
一二 わたしのいましめは、これである。わたしがあなたがたを愛したように、

73
たがい あい あ ひと とも じぶん いのち す
あなたがたも互に愛し合いなさい。 一三人がその友のために自分の命を捨て
おお あい めい
ること、これよりも大きな愛はない。 一四あなたがたにわたしが命じることを
おこな とも
行うならば、あなたがたはわたしの友である。 一五わたしはもう、あなたがた
しもべ よ しもべ しゅじん し
を僕とは呼ばない。 僕は主人のしていることを知らないからである。わた
とも よ ちち き みな
しはあなたがたを友と呼んだ。わたしの父から聞いたことを皆、あなたがた
し えら
に知らせたからである。 一六あなたがたがわたしを選んだのではない。わた
えら た
しがあなたがたを選んだのである。そして、あなたがたを立てた。それは、あ
い み み のこ
なたがたが行って実をむすび、その実がいつまでも残るためであり、また、あ
な ちち もと ちち あた くだ
なたがたがわたしの名によって父に求めるものはなんでも、父が与えて下さ
めい たがい あい あ
るためである。 一七これらのことを命じるのは、あなたがたが互に愛し合うた
めである。
ヨハネによる福音書

よ にく さき にく
一八 もしこの世があなたがたを憎むならば、あなたがたよりも先にわたしを憎
し よ で
んだことを、知っておくがよい。 一九もしあなたがたがこの世から出たもので
よ じぶん あい
あったなら、この世は、あなたがたを自分のものとして愛したであろう。し

かし、あなたがたはこの世のものではない。かえって、わたしがあなたがた
よ えら だ よ にく
をこの世から選び出したのである。だから、この世はあなたがたを憎むので

74
しもべ しゅじん
ある。 二〇わたしがあなたがたに﹃僕はその主人にまさるものではない﹄と
い ひとびと はくがい
言ったことを、おぼえていなさい。もし人々がわたしを迫害したなら、あな
はくがい かれ ことば まも
たがたをも迫害するであろう。また、もし彼らがわたしの言葉を守っていた
ことば まも かれ な
なら、あなたがたの言葉をも守るであろう。 二一彼らはわたしの名のゆえに、
たい
あなたがたに対してすべてそれらのことをするであろう。それは、わたしを
かれ し かれ
つかわされたかたを彼らが知らないからである。 二二もしわたしがきて彼ら
かた かれ つみ おか いま
に語らなかったならば、彼らは罪を犯さないですんだであろう。しかし今と
かれ つみ い みち にく
なっては、彼らには、その罪について言いのがれる道がない。 二三わたしを憎
もの ちち にく
む者は、わたしの父をも憎む。 二四もし、ほかのだれもがしなかったようなわ
かれ あいだ かれ つみ おか
ざを、わたしが彼らの間でしなかったならば、彼らは罪を犯さないですんだ
じじつ かれ ちち み にく
であろう。しかし事実、彼らはわたしとわたしの父とを見て、憎んだのであ
ヨハネによる福音書

かれ りゆう にく か かれ りっぽう
る。 二五それは、
﹃彼らは理由なしにわたしを憎んだ﹄と書いてある彼らの律法
ことば じょうじゅ ちち
の言葉が成 就するためである。 二六わたしが父のみもとからあなたがたにつ
たす ぬし ちち く しんり みたま くだ
かわそうとしている助け主、すなわち、父のみもとから来る真理の御霊が下
とき はじ
る時、それはわたしについてあかしをするであろう。 二七あなたがたも、初め
いっしょ
からわたしと一緒にいたのであるから、あかしをするのである。

75
第一六章
かた
一 わたしがこれらのことを語ったのは、あなたがたがつまずくことのないた
ひとびと かいどう お だ さら
めである。 二人々はあなたがたを会堂から追い出すであろう。更にあなたが
ころ もの じぶん かみ つか おも とき
たを殺す者がみな、それによって自分たちは神に仕えているのだと思う時が
く かれ ちち し
来るであろう。 三彼らがそのようなことをするのは、父をもわたしをも知ら
い かれ
ないからである。 四わたしがあなたがたにこれらのことを言ったのは、彼ら
とき ばあい かれ い おも おこ
の時がきた場合、わたしが彼らについて言ったことを、思い起させるためで
はじ い
あ る。こ れ ら の こ と を 初 め か ら 言 わ な か っ た の は、わ た し が あ な た が た と
いっしょ いま
一緒にいたからである。 五けれども今わたしは、わたしをつかわされたかた

のところに行こうとしている。しかし、あなたがたのうち、だれも﹃どこへ
ヨハネによる福音書

い たず もの い
行くのか﹄と尋ねる者はない。 六かえって、わたしがこれらのことを言ったた
こころ うれ み
めに、あなたがたの心は憂いで満たされている。 七しかし、わたしはほんとう
い さ い えき
のことをあなたがたに言うが、わたしが去って行くことは、あなたがたの益
さ い たす ぬし
になるのだ。わたしが去って行かなければ、あなたがたのところに助け主は

こないであろう。もし行けば、それをあなたがたにつかわそう。 八それがき

76
つみ ぎ よ ひと め ひら つみ
たら、罪と義とさばきとについて、世の人の目を開くであろう。 九罪について
い かれ しん ぎ い
と言ったのは、彼らがわたしを信じないからである。 一〇義についてと言った
ちち い み
のは、わたしが父のみもとに行き、あなたがたは、もはやわたしを見なくな
い よ きみ
るからである。 一一さばきについてと言ったのは、この世の君がさばかれるか
らである。
い おお
一二 わたしには、あなたがたに言うべきことがまだ多くあるが、あなたがたは
いま た しんり みたま く とき
今はそれに堪えられない。 一三けれども真理の御霊が来る時には、あなたがた
しんり みちび じぶん かた
をあらゆる真理に導いてくれるであろう。それは自分から語るのではなく、
き かた こと し
その聞くところを語り、きたるべき事をあなたがたに知らせるであろう。 一四
みたま えいこう え う
御霊はわたしに栄光を得させるであろう。わたしのものを受けて、それをあ
し ちち も
なたがたに知らせるからである。 一五父がお持ちになっているものはみな、わ
ヨハネによる福音書

みたま う し
たしのものである。御霊はわたしのものを受けて、それをあなたがたに知ら

せるのだと、わたしが言ったのは、そのためである。

一六 しばらくすれば、あなたがたはもうわたしを見なくなる。しかし、またし
あ で し
ばらくすれば、わたしに会えるであろう﹂。 一七そこで、弟子たちのうちのある
もの たがい い あ み
者は互に言い合った、﹁﹃しばらくすれば、わたしを見なくなる。またしばら

77
あ い ちち い
くすれば、わたしに会えるであろう﹄と言われ、
﹃わたしの父のところに行く﹄
い かれ い
と言われたのは、いったい、どういうことなのであろう﹂。 一八彼らはまた言っ

た、
﹁﹃しばらくすれば﹄と言われるのは、どういうことか。わたしたちには、
ことば い み かれ たず
その言葉の意味がわからない﹂。 一九イエスは、彼らが尋ねたがっていること
き かれ い み
に気がついて、彼らに言われた、
﹁しばらくすればわたしを見なくなる、また
あ い たがい ろん
しばらくすればわたしに会えるであろうと、わたしが言ったことで、 互に論
あ い な
じ合っているのか。 二〇よくよくあなたがたに言っておく。あなたがたは泣
かな よ よろこ うれ うれ
き悲しむが、この世は喜ぶであろう。あなたがたは憂えているが、その憂い
よろこ かわ おんな こ う ばあい とき
は喜びに変るであろう。 二一 女が子を産む場合には、その時がきたというの
ふあん かん こ う くる
で、不安を感じる。しかし、子を産んでしまえば、もはやその苦しみをおぼ
ひと よ うま よろこ
えてはいない。ひとりの人がこの世に生れた、という喜びがあるためである。
ヨハネによる福音書

いま ふあん ふたた
二二 このように、あなたがたにも今は不安がある。しかし、わたしは再びあな
あ こころ よろこ み
たがたと会うであろう。そして、あなたがたの心は喜びに満たされるであろ
よろこ と さ もの ひ
う。その喜びをあなたがたから取り去る者はいない。 二三その日には、あなた
と なに い
がたがわたしに問うことは、何もないであろう。よくよくあなたがたに言っ
ちち もと な くだ
ておく。あなたがたが父に求めるものはなんでも、わたしの名によって下さ

78
いま な もと
るであろう。 二四今までは、あなたがたはわたしの名によって求めたことはな
もと あた
かった。求めなさい、そうすれば、与えられるであろう。そして、あなたが
よろこ み
たの喜びが満ちあふれるであろう。
ひ ゆ はな ひ ゆ はな
二五 わたしはこれらのことを比喩で話したが、もはや比喩では話さないで、あ
ちち はな とき く
からさまに、父のことをあなたがたに話してきかせる時が来るであろう。 二六
ひ な もと
その日には、あなたがたは、わたしの名によって求めるであろう。わたしは、
ちち ねが い ちち じしん
あなたがたのために父に願ってあげようとは言うまい。 二七父ご自身があな
あい あい
たがたを愛しておいでになるからである。それは、あなたがたがわたしを愛
かみ しん
したため、また、わたしが神のみもとからきたことを信じたためである。 二八
ちち で よ よ さ ちち い
わたしは父から出てこの世にきたが、またこの世を去って、父のみもとに行
くのである﹂。
ヨハネによる福音書

で し い いま はな すこ ひ ゆ
二九 弟子たちは言った、﹁今はあからさまにお話しになって、少しも比喩ではお
はな ぞん
話しになりません。 三〇あなたはすべてのことをご存じであり、だれもあなた
たず ひつよう いま
にお尋ねする必要のないことが、今わかりました。このことによって、わた
かみ しん こた
したちはあなたが神からこられたかたであると信じます﹂。 三一イエスは答え
いましん み ち
られた、﹁あなたがたは今信じているのか。 三二見よ、あなたがたは散らされ

79
じぶん いえ かえ のこ とき く
て、それぞれ自分の家に帰り、わたしをひとりだけ残す時が来るであろう。い
ちち
や、すでにきている。しかし、わたしはひとりでいるのではない。父がわた
いっしょ はな
しと一緒におられるのである。 三三これらのことをあなたがたに話したのは、
へいあん え よ
わたしにあって平安を得るためである。あなたがたは、この世ではなやみが
ゆうき だ よ か
ある。しかし、勇気を出しなさい。わたしはすでに世に勝っている﹂。
第一七章
かた お てん み い ちち とき
一 これらのことを語り終えると、イエスは天を見あげて言われた、
﹁父よ、時
こ えいこう こ えいこう
がきました。あなたの子があなたの栄光をあらわすように、子の栄光をあら
くだ こ たま もの えいえん いのち さず
わして下さい。 二あなたは、子に賜わったすべての者に、永遠の命を授けさせ
ヨハネによる福音書

ばんみん しはい けんい こ あた えいえん いのち


るため、万民を支配する権威を子にお与えになったのですから。 三永遠の命
ゆいいつ かみ
とは、唯一の、まことの神でいますあなたと、また、あなたがつかわされた

イエス・キリストとを知ることであります。 四わたしは、わたしにさせるため
さず と ちじょう えいこう
にお授けになったわざをなし遂げて、地上であなたの栄光をあらわしました。
ちち よ つく まえ も えいこう いま まえ
五 父よ、世が造られる前に、わたしがみそばで持っていた栄光で、今み前にわ

80
かがや くだ
たしを輝かせて下さい。
よ えら たま ひとびと な
六 わたしは、あなたが世から選んでわたしに賜わった人々に、み名をあらわし
かれ くだ
ました。彼らはあなたのものでありましたが、わたしに下さいました。そし
かれ ことば まも かれ たま
て、彼らはあなたの言葉を守りました。 七いま彼らは、わたしに賜わったもの
で し
はすべて、あなたから出たものであることを知りました。 八なぜなら、わたし
ことば かれ あた かれ う
はあなたからいただいた言葉を彼らに与え、そして彼らはそれを受け、わた
で し
しがあなたから出たものであることをほんとうに知り、また、あなたがわた
しん いた かれ
しをつかわされたことを信じるに至ったからです。 九わたしは彼らのために
ねが ねが よ
お願いします。わたしがお願いするのは、この世のためにではなく、あなた
たま もの かれ
が わ た し に 賜 わ っ た 者 た ち の た め で す。彼 ら は あ な た の も の な の で す。 一〇
みな
わたしのものは皆あなたのもの、あなたのものはわたしのものです。そして、
ヨハネによる福音書

かれ えいこう う よ
わたしは彼らによって栄光を受けました。 一一わたしはもうこの世にはいな
かれ よ のこ まい せい
くなりますが、彼らはこの世に残っており、わたしはみもとに参ります。聖
ちち たま み な かれ まも くだ
なる父よ、わたしに賜わった御名によって彼らを守って下さい。それはわた
かれ
したちが一つであるように、彼らも一つになるためであります。 一二わたしが
かれ いっしょ あいだ み な かれ まも
彼らと一緒にいた間は、あなたからいただいた御名によって彼らを守り、ま

81
ほ ご かれ ほろ ほろ こ
た保護してまいりました。彼らのうち、だれも滅びず、ただ滅びの子だけが
ほろ せいしょ じょうじゅ いま まい
滅びました。それは聖書が成 就するためでした。 一三今わたしはみもとに参
よ あいだ かた よろこ かれ
ります。そして世にいる間にこれらのことを語るのは、わたしの喜びが彼ら
み かれ みことば あた
のうちに満ちあふれるためであります。 一四わたしは彼らに御言を与えまし
よ かれ にく よ かれ よ
たが、世は彼らを憎みました。わたしが世のものでないように、彼らも世の
ねが かれ よ と さ
ものではないからです。 一五わたしがお願いするのは、彼らを世から取り去る
かれ あ もの まも くだ
ことではなく、彼らを悪しき者から守って下さることであります。 一六わたし
よ かれ よ しんり
が世のものでないように、彼らも世のものではありません。 一七真理によって
かれ せいべつ くだ みことば しんり
彼らを聖別して下さい。あなたの御言は真理であります。 一八あなたがわた
よ かれ よ
しを世につかわされたように、わたしも彼らを世につかわしました。 一九また
かれ しんり せいべつ かれ じしん せいべつ
彼らが真理によって聖別されるように、彼らのためわたし自身を聖別いたし
ヨハネによる福音書

ます。
かれ かれ ことば き しん
二〇 わたしは彼らのためばかりではなく、彼らの言葉を聞いてわたしを信じて
ひとびと ねが ちち
いる人々のためにも、お願いいたします。 二一父よ、それは、あなたがわたし
もの
のうちにおられ、わたしがあなたのうちにいるように、みんなの者が一つと
かれ
なるためであります。すなわち、彼らをもわたしたちのうちにおらせるため

82

であり、それによって、あなたがわたしをおつかわしになったことを、世が
しん えいこう
信じるようになるためであります。 二二わたしは、あなたからいただいた栄光
かれ あた かれ
を彼らにも与えました。それは、わたしたちが一つであるように、彼らも一
かれ
つになるためであります。 二三わたしが彼らにおり、あなたがわたしにいます
かれ かんぜん
のは、彼らが完全に一つとなるためであり、また、あなたがわたしをつかわ
あい かれ あい よ し
し、わたしを愛されたように、彼らをお愛しになったことを、世が知るため
ちち たま ひとびと ところ
であります。 二四父よ、あなたがわたしに賜わった人々が、わたしのいる所に
いっしょ くだ てんち つく まえ あい くだ
一緒にいるようにして下さい。天地が造られる前からわたしを愛して下さっ
たま えいこう かれ み くだ ただ ちち
て、わたしに賜わった栄光を、彼らに見させて下さい。 二五正しい父よ、この
よ し し かれ
世はあなたを知っていません。しかし、わたしはあなたを知り、また彼らも、

あなたがわたしをおつかわしになったことを知っています。 二六そしてわた
ヨハネによる福音書

かれ み な し し
しは彼らに御名を知らせました。またこれからも知らせましょう。それは、
あい くだ あい かれ
あなたがわたしを愛して下さったその愛が彼らのうちにあり、またわたしも
かれ
彼らのうちにおるためであります﹂。

83
第一八章
かた お で し いっしょ たに む
一 イエスはこれらのことを語り終えて、弟子たちと一緒にケデロンの谷の向
い その で し いっしょ なか
こうへ行かれた。そこには園があって、イエスは弟子たちと一緒にその中に
うらぎ ところ し
はいられた。 二イエスを裏切ったユダは、その所をよく知っていた。イエス
で し あつ
と弟子たちとがたびたびそこで集まったことがあるからである。 三さてユダ
いったい へいそつ さいしちょう びと おく したやく ひ つ
は、一隊の兵卒と祭司長やパリサイ人たちの送った下役どもを引き連れ、た
ぶ き も じぶん
いまつやあかりや武器を持って、そこへやってきた。 四しかしイエスは、自分
み おこ しょうち すす で かれ い
の身に起ろうとすることをことごとく承知しておられ、進み出て彼らに言わ
さが かれ こた
れた、
﹁だれを捜しているのか﹂。 五彼らは﹁ナザレのイエスを﹂と答えた。イ
かれ い うらぎ
エスは彼らに言われた、
﹁わたしが、それである﹂。イエスを裏切ったユダも、
ヨハネによる福音書

かれ いっしょ た かれ い
彼らと一緒に立っていた。 六イエスが彼らに﹁わたしが、それである﹂と言わ
かれ ひ ち たお かれ
れたとき、彼らはうしろに引きさがって地に倒れた。 七そこでまた彼らに、
さが たず かれ
﹁だれを捜しているのか﹂とお尋ねになると、彼らは﹁ナザレのイエスを﹂と
い こた い
言った。 八イエスは答えられた、
﹁わたしがそれであると、言ったではないか。
さが ひと さ
わたしを捜しているのなら、この人たちを去らせてもらいたい﹂。 九それは、

84
あた くだ ひと なか うしな
﹁あなたが与えて下さった人たちの中のひとりも、わたしは失わなかった﹂と
い ことば じょうじゅ けん
イエスの言われた言葉が、 成 就するためである。 一〇シモン・ペテロは剣を
も ぬ だいさいし しもべ き みぎ みみ き
持っていたが、それを抜いて、大祭司の僕に切りかかり、その右の耳を切り
おと しもべ な い
落した。その僕の名はマルコスであった。 一一すると、イエスはペテロに言わ
けん おさ ちち くだ さかずき の
れた、
﹁剣をさやに納めなさい。父がわたしに下さった杯は、飲むべきではな
いか﹂。
いったい へいそつ せんそつちょう じん したやく とら
一二 それから一隊の兵卒やその千 卒 長やユダヤ人の下役どもが、イエスを捕
しば ひ つ い かれ とし
え、縛りあげて、 一三まずアンナスのところに引き連れて行った。彼はその年
だいさいし まえ ひと たみ
の大祭司カヤパのしゅうとであった。 一四カヤパは前に、ひとりの人が民のた
し じん じょげん もの
めに死ぬのはよいことだと、ユダヤ人に助言した者であった。
で し い
一五 シモン・ペテロともうひとりの弟子とが、イエスについて行った。この
ヨハネによる福音書

で し だいさいし し あ いっしょ だいさいし なかにわ


弟子 は 大祭司 の 知 り 合 い で あ っ た の で、イ エ ス と 一緒 に 大祭司 の 中庭 に は
そと とぐち た だいさいし し あ
いった。 一六しかし、ペテロは外で戸口に立っていた。すると大祭司の知り合
で し そと で い もんばん おんな はな うち い
いであるその弟子が、外に出て行って門番の女に話し、ペテロを内に入れて
もんばん おんな い ひと
やった。 一七すると、この門番の女がペテロに言った、﹁あなたも、あの人の
で し こた
弟子のひとりではありませんか﹂。ペテロは﹁いや、そうではない﹂と答えた。

85
しもべ したやく さむ とき すみび た
一八 僕や下役どもは、寒い時であったので、炭火をおこし、そこに立ってあ
かれ ま た
たっていた。ペテロもまた彼らに交じり、立ってあたっていた。
だいさいし で し おしえ たず
一九 大祭司はイエスに、弟子たちのことやイエスの教のことを尋ねた。 二〇イ
こた よ たい こうぜん かた
エスは答えられた、﹁わたしはこの世に対して公然と語ってきた。すべてのユ
じん あつ かいどう みや おし なにごと かく かた
ダヤ人が集まる会堂や宮で、いつも教えていた。何事も隠れて語ったことは
たず かれ かた
ない。 二一なぜ、わたしに尋ねるのか。わたしが彼らに語ったことは、それを
き ひとびと たず い かれ し
聞いた人々に尋ねるがよい。わたしの言ったことは、彼らが知っているのだ
い た したやく
か ら﹂。 二 二イ エ ス が こ う 言 わ れ る と、そ こ に 立 っ て い た 下役 の ひ と り が、
だいさいし こたえ い ひらて う
﹁大祭司にむかって、そのような答をするのか﹂と言って、平手でイエスを打っ
こた なに わる い
た。 二三イエスは答えられた、
﹁もしわたしが何か悪いことを言ったのなら、そ
わる りゆう い ただ い
の悪い理由を言いなさい。しかし、正しいことを言ったのなら、なぜわたし
ヨハネによる福音書

う しば だいさいし
を打つのか﹂。 二四それからアンナスは、イエスを縛ったまま大祭司カヤパの
おく た ひ
ところへ送った。 二五シモン・ペテロは、立って火にあたっていた。すると
ひとびと かれ い ひと で し かれ
人々が彼に言った、﹁あなたも、あの人の弟子のひとりではないか﹂。彼はそ
け い だいさいし しもべ
れをうち消して、﹁いや、そうではない﹂と言った。 二六大祭司の僕のひとりで、
みみ き ひと しんぞく もの い その ひと
ペテロに耳を切りおとされた人の親族の者が言った、﹁あなたが園であの人と

86
いっしょ み う け
一緒にいるのを、わたしは見たではないか﹂。 二七ペテロはまたそれを打ち消
にわとり な
した。するとすぐに、 鶏が鳴いた。
ひとびと かんてい い とき
二八 それから人々は、イエスをカヤパのところから官邸につれて行った。時は
よ あ かれ う すぎこし しょくじ
夜明けであった。彼らは、けがれを受けないで過越の食事ができるように、
かんてい かれ で い
官邸にはいらなかった。 二九そこで、ピラトは彼らのところに出てきて言っ
ひと たい うった おこ かれ
た、
﹁あなたがたは、この人に対してどんな訴えを起すのか﹂。 三〇彼らはピラ
こた い ひと あくじ ひ
トに答えて言った、
﹁もしこの人が悪事をはたらかなかったなら、あなたに引
わた かれ い
き 渡 す よ う な こ と は し な か っ た で し ょ う﹂。 三一そ こ で ピ ラ ト は 彼 ら に 言 っ
かれ ひ と じぶん りっぽう
た、﹁あなたがたは彼を引き取って、自分たちの律法でさばくがよい﹂。ユダ
じん かれ い ひと しけい けんげん
ヤ人らは彼に言った、
﹁わたしたちには、人を死刑にする権限がありません﹂。
じしん し しめ い
三二 これは、ご自身がどんな死にかたをしようとしているかを示すために言わ
ヨハネによる福音書

ことば じょうじゅ
れたイエスの言葉が、 成 就するためである。
かんてい よ だ い
三三 さて、ピラトはまた官邸にはいり、イエスを呼び出して言った、﹁あなたは、
じん おう こた い
ユダヤ人の王であるか﹂。 三四イエスは答えられた、﹁あなたがそう言うのは、
じぶん かんが ひとびと
自分 の 考 え か ら か。そ れ と も ほ か の 人々 が、わ た し の こ と を あ な た に そ う
い こた じん どうぞく
言ったのか﹂。 三五ピラトは答えた、
﹁わたしはユダヤ人なのか。あなたの同族

87
さいしちょう ひ わた なに
や祭司長たちが、あなたをわたしに引き渡したのだ。あなたは、いったい、何
こた くに よ
をしたのか﹂。 三六イエスは答えられた、﹁わたしの国はこの世のものではな
くに よ したが もの
い。もしわたしの国がこの世のものであれば、わたしに従 っている者たち
じん わた たたか じじつ
は、わたしをユダヤ人に渡さないように戦 ったであろう。しかし事実、わた
くに よ い
しの国はこの世のものではない﹂。 三七そこでピラトはイエスに言った、
﹁それ
おう こた い
では、あなたは王なのだな﹂。イエスは答えられた、
﹁あなたの言うとおり、わ
おう しんり うま
たしは王である。わたしは真理についてあかしをするために生れ、また、そ
よ しんり もの こえ みみ
のためにこの世にきたのである。だれでも真理につく者は、わたしの声に耳
かたむ い しんり なに い かれ
を傾ける﹂。 三八ピラトはイエスに言った、
﹁真理とは何か﹂。こう言って、彼は
じん ところ で い かれ い ひと
またユダヤ人の所に出て行き、彼らに言った、
﹁わたしには、この人になんの
つみ み すぎこし とき
罪も見いだせない。 三九過越の時には、わたしがあなたがたのために、ひとり
ヨハネによる福音書

ひと ゆる
の人を許してやるのが、あなたがたのしきたりになっている。ついては、あ
じん おう ゆる かれ
なたがたは、このユダヤ人の王を許してもらいたいのか﹂。 四〇すると彼らは、
さけ ひと い ごうとう
また叫んで﹁その人ではなく、バラバを﹂と言った。このバラバは強盗であっ
た。

88
第一九章
とら う へいそつ
一 そこでピラトは、イエスを捕え、むちで打たせた。 二兵卒たちは、いばらで
かんむり あたま むらさき うわぎ き まえ
冠をあんで、イエスの頭にかぶらせ、 紫の上着を着せ、 三それから、その前
すす で じん おう い ひらて う
に進み出て、
﹁ユダヤ人の王、ばんざい﹂と言った。そして平手でイエスを打
で い じん い み
ちつづけた。 四するとピラトは、また出て行ってユダヤ人たちに言った、
﹁見
ひと まえ ひ だ ひと
よ、わたしはこの人をあなたがたの前に引き出すが、それはこの人になんの
つみ み し
罪も見いだせないことを、あなたがたに知ってもらうためである﹂。 五イエス
かんむり むらさき うわぎ き そと で かれ
はいばらの冠をかぶり、 紫の上着を着たままで外へ出られると、ピラトは彼
い み ひと さいしちょう したやく み
らに言った、
﹁見よ、この人だ﹂。 六祭司長たちや下役どもはイエスを見ると、
さけ じゅうじか じゅうじか い かれ い
叫んで﹁十字架につけよ、十字架につけよ﹂と言った。ピラトは彼らに言っ
ヨハネによる福音書

ひと ひ と じゅうじか
た、﹁あなたがたが、この人を引き取って十字架につけるがよい。わたしは、
かれ つみ み じん かれ こた
彼にはなんの罪も見いだせない﹂。 七ユダヤ人たちは彼に答えた、﹁わたした
りっぽう りっぽう かれ じぶん かみ こ
ちには律法があります。その律法によれば、彼は自分を神の子としたのだか
しざい あた もの ことば き
ら、死罪に当る者です﹂。 八ピラトがこの言葉を聞いたとき、ますますおそれ、
ど かんてい い
九 もう一度官邸にはいってイエスに言った、
﹁あなたは、もともと、どこから

89
こたえ
きたのか﹂。しかし、イエスはなんの答もなさらなかった。 一〇そこでピラト
い なに こた ゆる けんい
は言った、
﹁何も答えないのか。わたしには、あなたを許す権威があり、また
じゅうじか けんい し こた
十字架につける権威があることを、知らないのか﹂。 一一イエスは答えられた、
うえ たま たい けんい
﹁あなたは、上から賜わるのでなければ、わたしに対してなんの権威もない。
ひ わた もの つみ おお き
だから、わたしをあなたに引き渡した者の罪は、もっと大きい﹂。 一二これを聞
ゆる つと じん さけ い
いて、ピラトはイエスを許そうと努めた。しかしユダヤ人たちが叫んで言っ
ひと ゆる みかた
た、﹁も し こ の 人 を 許 し た な ら、あ な た は カ イ ザ ル の 味方 で は あ り ま せ ん。
じぶん おう もの
自分を王とするものはすべて、カイザルにそむく者です﹂。 一三ピラトはこれ
ことば き そと ひ だ い しきいし ご
らの言葉を聞いて、イエスを外へ引き出して行き、敷石︵ヘブル語ではガバ
ば しょ さいばん せき ひ すぎこし じゅんび ひ
タ︶という場所で裁判の席についた。 一四その日は過越の準備の日であって、
とき ひる じ じん い み
時は昼の十二時ころであった。ピラトはユダヤ人らに言った、
﹁見よ、これが
ヨハネによる福音書

おう かれ さけ ころ ころ かれ じゅうじか
あなたがたの王だ﹂。 一五すると彼らは叫んだ、
﹁殺せ、殺せ、彼を十字架につ
かれ い おう じゅうじか
けよ﹂。ピラトは彼らに言った、﹁あなたがたの王を、わたしが十字架につけ
さいしちょう こた いがい おう
るのか﹂。祭司長たちは答えた、﹁わたしたちには、カイザル以外に王はあり
じゅうじか かれ ひ
ません﹂。 一六そこでピラトは、十字架につけさせるために、イエスを彼らに引
わた
き渡した。

90
かれ ひ と じゅうじか せ お
彼らはイエスを引き取った。 一七イエスはみずから十字架を背負って、されこ
ご ば しょ で い かれ
うべ︵ヘブル語ではゴルゴダ︶という場所に出て行かれた。 一八彼らはそこで、
じゅうじか なか もの りょうがわ
イエスを十字架につけた。イエスをまん中にして、ほかのふたりの者を両 側
いっしょ じゅうじか ざいじょう が か じゅうじか
に、イエスと一緒に十字架につけた。 一九ピラトは罪 状 書きを書いて、十字架
うえ じん おう か
の上にかけさせた。それには﹁ユダヤ人の王、ナザレのイエス﹂と書いてあっ
じゅうじか ば しょ みやこ ちか おお
た。 二〇イエスが十字架につけられた場所は都に近かったので、多くのユダヤ
じん ざいじょう が よ こくご か
人がこの罪 状 書きを読んだ。それはヘブル、ローマ、ギリシヤの国語で書い
じん さいしちょう い じん おう
てあった。 二一ユダヤ人の祭司長たちがピラトに言った、
﹁﹃ユダヤ人の王﹄と
か ひと じん おう じ しょう か
書かずに、
﹃この人はユダヤ人の王と自 称していた﹄と書いてほしい﹂。 二二ピ
こた か か
ラトは答えた、﹁わたしが書いたことは、書いたままにしておけ﹂。
へいそつ じゅうじか うわぎ
二三 さて、兵卒たちはイエスを十字架につけてから、その上着をとって四つに
ヨハネによる福音書

わ と したぎ て と
分け、おのおの、その一つを取った。また下着を手に取ってみたが、それに
ぬ め うえ ほう ぜんぶ お かれ
は縫い目がなく、上の方から全部一つに織ったものであった。 二四そこで彼ら
たがい い さ ひ
は互に言った、
﹁それを裂かないで、だれのものになるか、くじを引こう﹂。こ
かれ たがい うわぎ わ あ ころも
れは、
﹁彼らは互にわたしの上着を分け合い、わたしの衣をくじ引にした﹂と
せいしょ じょうじゅ へいそつ
いう聖書が成 就するためで、兵卒たちはそのようにしたのである。 二五さて、

91
じゅうじか はは はは しまい つま
イエスの十字架のそばには、イエスの母と、母の姉妹と、クロパの妻マリヤ
はは あ い で し
と、マグダラのマリヤとが、たたずんでいた。 二六イエスは、その母と愛弟子
た はは ふじん
とがそばに立っているのをごらんになって、母にいわれた、
﹁婦人よ、ごらん
こ で し い
なさい。これはあなたの子です﹂。 二七それからこの弟子に言われた、
﹁ごらん
はは いらい で し はは
なさい。これはあなたの母です﹂。そのとき以来、この弟子はイエスの母を
じぶん いえ ひ
自分の家に引きとった。
いま ばんじ おわ し
二八 そののち、イエスは今や万事が終ったことを知って、
﹁わたしは、かわく﹂
い せいしょ まっと す
と言われた。それは、聖書が全うされるためであった。 二九そこに、酢いぶど
しゅ い うつわ ひとびと しゅ
う酒がいっぱい入れてある器がおいてあったので、人々は、このぶどう酒を
ふく かいめん くき むす くち だ
含ませた海綿をヒソプの茎に結びつけて、イエスの口もとにさし出した。 三〇
しゅ う おわ い くび
すると、イエスはそのぶどう酒を受けて、
﹁すべてが終った﹂と言われ、首を
ヨハネによる福音書

いき
たれて息をひきとられた。
じん ひ じゅんび ひ あんそくにち したい
三一 さてユダヤ人たちは、その日が準備の日であったので、安息日に死体を
じゅうじか うえ のこ とく あんそくにち だいじ ひ
十字架の上に残しておくまいと、︵特にその安息日は大事な日であったから︶、
ねが あし お うえ したい と
ピラトに願って、足を折った上で、死体を取りおろすことにした。 三二そこで
へいそつ いっしょ じゅうじか はじ もの
兵卒らがきて、イエスと一緒に十字架につけられた初めの者と、もうひとり

92
もの あし お かれ とき
の者との足を折った。 三三しかし、彼らがイエスのところにきた時、イエスは
し み あし お
もう死んでおられたのを見て、その足を折ることはしなかった。 三四しかし、
へいそつ つ ち みず なが で
ひとりの兵卒がやりでそのわきを突きさすと、すぐ血と水とが流れ出た。 三五
み もの しんじつ ひと
それを見た者があかしをした。そして、そのあかしは真実である。その人は、
じぶん しんじつ かた し しん
自分が真実を語っていることを知っている。それは、あなたがたも信ずるよ
おこ ほね
うになるためである。 三六これらのことが起ったのは、﹁その骨はくだかれな
せいしょ ことば じょうじゅ せいしょ
いであろう﹂との聖書の言葉が、成 就するためである。 三七また聖書のほかの
かれ じぶん さ とお もの み
ところに、﹁彼らは自分が刺し通した者を見るであろう﹂とある。
じん で し
三八 そののち、ユダヤ人をはばかって、ひそかにイエスの弟子となったアリマ
ひと したい と ねが
タヤのヨセフという人が、イエスの死体を取りおろしたいと、ピラトに願い
で ゆる かれ したい と い
出た。ピラトはそれを許したので、彼はイエスの死体を取りおろしに行った。
ヨハネによる福音書

まえ よる い もつやく ぢんこう
三九 また、前に、夜、イエスのみもとに行ったニコデモも、没薬と沈香とをま
きん も かれ したい と
ぜたものを百斤ほど持ってきた。 四〇彼らは、イエスの死体を取りおろし、ユ
じん まいそう しゅうかん こうりょう い あ ま ぬ の ま
ダヤ人の埋葬の習 慣にしたがって、 香 料を入れて亜麻布で巻いた。 四一イエ
じゅうじか ところ その ほうむ
スが十字架にかけられた所には、一つの園があり、そこにはまだだれも葬ら
あたら はか ひ じん じゅんび ひ
れたことのない新しい墓があった。 四二その日はユダヤ人の準備の日であっ

93
はか ちか おさ
たので、その墓が近くにあったため、イエスをそこに納めた。
第二〇章
しゅう はじ ひ あさはや くら はか
一 さて、一 週の初めの日に、朝早くまだ暗いうちに、マグダラのマリヤが墓
い はか いし み はし
に行くと、墓から石がとりのけてあるのを見た。 二そこで走って、シモン・ペ
あい で し い かれ
テロとイエスが愛しておられた、もうひとりの弟子のところへ行って、彼ら
い しゅ はか と さ お
に言った、
﹁だれかが、主を墓から取り去りました。どこへ置いたのか、わか
で し で はか
りません﹂。 三そこでペテロともうひとりの弟子は出かけて、墓へむかって
い いっしょ はし だ で し ほう
行った。 四ふたりは一緒に走り出したが、そのもうひとりの弟子の方が、ペテ
はや はし さき はか つ み あ ま ぬ の
ロよりも早く走って先に墓に着き、五そして身をかがめてみると、亜麻布がそ
ヨハネによる福音書

お み なか つづ
こに置いてあるのを見たが、中へははいらなかった。 六シモン・ペテロも続い
はか なか かれ あ ま ぬ の お み
てきて、墓の中にはいった。彼は亜麻布がそこに置いてあるのを見たが、七イ
あたま ま ぬの あ ま ぬ の べつ ば しょ
エスの頭に巻いてあった布は亜麻布のそばにはなくて、はなれた別の場所に
さき はか つ で し
くるめてあった。 八すると、先に墓に着いたもうひとりの弟子もはいってき
み しん かれ しにん
て、これを見て信じた。 九しかし、彼らは死人のうちからイエスがよみがえる

94
せい く さと
べきことをしるした聖句を、まだ悟っていなかった。 一〇それから、ふたりの
で し じぶん いえ かえ い
弟子たちは自分の家に帰って行った。
はか そと た な な み
一一 しかし、マリヤは墓の外に立って泣いていた。そして泣きながら、身をか
はか なか しろ ころも き みつかい したい
がめて墓の中をのぞくと、 一二白い衣を着たふたりの御使が、イエスの死体の
ば しょ あたま ほう あし ほう
おかれていた場所に、ひとりは頭の方に、ひとりは足の方に、すわっている
み かれ おんな な い
のを見た。 一三すると、彼らはマリヤに、
﹁女よ、なぜ泣いているのか﹂と言っ
かれ い しゅ と さ
た。マリヤは彼らに言った、
﹁だれかが、わたしの主を取り去りました。そし
お い む
て、どこに置いたのか、わからないのです﹂。 一四そう言って、うしろをふり向
た み
くと、そこにイエスが立っておられるのを見た。しかし、それがイエスであ
き おんな い おんな な
ることに気がつかなかった。 一五イエスは女に言われた、
﹁女よ、なぜ泣いてい
さが ひと その ばんにん おも
るのか。だれを捜しているのか﹂。マリヤは、その人が園の番人だと思って
ヨハネによる福音書

い うつ お
言った、﹁もしあなたが、あのかたを移したのでしたら、どこへ置いたのか、
くだ ひ と
どうぞ、おっしゃって下さい。わたしがそのかたを引き取ります﹂。 一六イエ
かのじょ い かえ
スは彼女に﹁マリヤよ﹂と言われた。マリヤはふり返って、イエスにむかっ
ご い せんせい い み
てヘブル語で﹁ラボニ﹂と言った。それは、先生という意味である。 一七イエ
かのじょ い ちち
スは彼女に言われた、
﹁わたしにさわってはいけない。わたしは、まだ父のみ

95
のぼ きょうだい ところ い
もとに上っていないのだから。ただ、わたしの兄 弟たちの所に行って、
﹃わた
ちち ちち かみ
しは、わたしの父またあなたがたの父であって、わたしの神またあなたがた
かみ のぼ い かれ つた
の神であられるかたのみもとへ上って行く﹄と、彼らに伝えなさい﹂。 一八マグ
で し い じぶん しゅ あ
ダラのマリヤは弟子たちのところに行って、自分が主に会ったこと、またイ
じぶん おお ほうこく
エスがこれこれのことを自分に仰せになったことを、報告した。
ひ しゅう はじ ひ ゆうがた で し じん
一九 その日、すなわち、一 週の初めの日の夕方、弟子たちはユダヤ人をおそれ
じぶん ところ と かれ
て、自分たちのおる所の戸をみなしめていると、イエスがはいってきて、彼
なか た やす い い て かれ
らの中に立ち、
﹁安かれ﹂と言われた。 二〇そう言って、手とわきとを、彼らに
み で し しゅ み よろこ かれ い
お見せになった。弟子たちは主を見て喜んだ。 二一イエスはまた彼らに言わ
やす ちち
れた、
﹁安かれ。父がわたしをおつかわしになったように、わたしもまたあな
い かれ いき ふ おお
たがたをつかわす﹂。 二二そう言って、彼らに息を吹きかけて仰せになった、
ヨハネによる福音書

せいれい う つみ つみ
﹁聖霊を受けよ。 二三あなたがたがゆるす罪は、だれの罪でもゆるされ、あなた
つみ のこ
がたがゆるさずにおく罪は、そのまま残るであろう﹂。
で し よ
二四 十二弟子のひとりで、デドモと呼ばれているトマスは、イエスがこられた
かれ いっしょ で し かれ
とき、彼らと一緒にいなかった。 二五ほかの弟子たちが、彼に﹁わたしたちは
しゅ め い かれ い て
主にお目にかかった﹂と言うと、トマスは彼らに言った、
﹁わたしは、その手

96
くぎ み ゆび くぎ い て
に釘あとを見、わたしの指をその釘あとにさし入れ、また、わたしの手をそ
い けっ しん
のわきにさし入れてみなければ、決して信じない﹂。
か で し いえ うち いっしょ
二六 八日ののち、イエスの弟子たちはまた家の内におり、トマスも一緒にいた。
と と なか た やす
戸はみな閉ざされていたが、イエスがはいってこられ、中に立って﹁安かれ﹂
い い ゆび
と言われた。 二七それからトマスに言われた、
﹁あなたの指をここにつけて、わ
て み て い しん
たしの手を見なさい。手をのばしてわたしのわきにさし入れてみなさい。信
もの しん もの こた
じない者にならないで、信じる者になりなさい﹂。 二八トマスはイエスに答え
い しゅ かみ かれ い
て言った、
﹁わが主よ、わが神よ﹂。 二九イエスは彼に言われた、
﹁あなたはわた
み しん み しん もの
しを見たので信じたのか。見ないで信ずる者は、さいわいである﹂。
しょ か おお で し
三〇 イエスは、この書に書かれていないしるしを、ほかにも多く、弟子たちの
まえ おこな か
前で行われた。 三一しかし、これらのことを書いたのは、あなたがたがイエス
ヨハネによる福音書

かみ こ しん しん
は神の子キリストであると信じるためであり、また、そう信じて、イエスの
な いのち え
名によって命を得るためである。

97
第二一章
うみ じしん で し
一 そののち、イエスはテベリヤの海べで、ご自身をまた弟子たちにあらわされ
しだい よ
た。そのあらわされた次第は、こうである。 二シモン・ペテロが、デドモと呼

ばれているトマス、ガリラヤのカナのナタナエル、ゼベダイの子らや、ほか
で し いっしょ とき かれ
のふたりの弟子たちと一緒にいた時のことである。 三シモン・ペテロは彼ら
りょう い い かれ いっしょ い
に﹁わたしは漁に行くのだ﹂と言うと、彼らは﹁わたしたちも一緒に行こう﹂
い かれ で い ふね の よ えもの
と言った。彼らは出て行って舟に乗った。しかし、その夜はなんの獲物もな
よ あ きし た で し
かった。 四夜が明けたころ、イエスが岸に立っておられた。しかし弟子たち
し かれ い こ
はそれがイエスだとは知らなかった。 五イエスは彼らに言われた、﹁子たち
なに た かれ こた
よ、何か食べるものがあるか﹂。彼らは﹁ありません﹂と答えた。 六すると、イ
ヨハネによる福音書

かれ い ふね みぎ ほう あみ み
エスは彼らに言われた、﹁舟の右の方に網をおろして見なさい。そうすれば、
なに かれ あみ うお おお ひ
何かとれるだろう﹂。彼らは網をおろすと、魚が多くとれたので、それを引き
あ あい で し
上げることができなかった。 七イエスの愛しておられた弟子が、ペテロに﹁あ
しゅ い しゅ き はだか
れは主だ﹂と言った。シモン・ペテロは主であると聞いて、 裸になっていた
うわぎ うみ で し ふね の
ため、上着をまとって海にとびこんだ。 八しかし、ほかの弟子たちは舟に乗っ

98
うお あみ ひ かえ い りく とお
たまま、魚のはいっている網を引きながら帰って行った。陸からはあまり遠
けん ところ
くない五十間ほどの所にいたからである。
かれ りく のぼ み すみび うえ うお
九 彼らが陸に上って見ると、炭火がおこしてあって、その上に魚がのせてあ
かれ い いま うお すこ
り、またそこにパンがあった。 一〇イエスは彼らに言われた、
﹁今とった魚を少
も い あみ りく ひ あ
し持ってきなさい﹂。 一一シモン・ペテロが行って、網を陸へ引き上げると、百
おお うお おお あみ
五十三びきの大きな魚でいっぱいになっていた。そんなに多かったが、網は
かれ い あさ しょくじ
さけないでいた。 一二イエスは彼らに言われた、
﹁さあ、朝の食事をしなさい﹂。
で し しゅ
弟子たちは、主であることがわかっていたので、だれも﹁あなたはどなたで
すす たず もの かれ
すか﹂と進んで尋ねる者がなかった。 一三イエスはそこにきて、パンをとり彼
あた うお おな しにん なか
らに与え、また魚も同じようにされた。 一四イエスが死人の中からよみがえっ
で し すで ど め
たのち、弟子たちにあらわれたのは、これで既に三度目である。
ヨハネによる福音書

かれ しょくじ い
一五 彼らが食事をすませると、イエスはシモン・ペテロに言われた、
﹁ヨハネの
こ ひと あい いじょう あい
子シモンよ、あなたはこの人たちが愛する以上に、わたしを愛するか﹂。ペテ
い しゅ あい
ロは言った、
﹁主よ、そうです。わたしがあなたを愛することは、あなたがご
ぞん かれ こひつじ やしな い
存じです﹂。イエスは彼に﹁わたしの小羊を養いなさい﹂と言われた。 一六また
い ち ど かれ い こ あい かれ
もう一度彼に言われた、﹁ヨハネの子シモンよ、わたしを愛するか﹂。彼はイ

99
い しゅ あい
エスに言った、
﹁主よ、そうです。わたしがあなたを愛することは、あなたが
ぞん かれ い ひつじ か
ご存じです﹂。イエスは彼に言われた、﹁わたしの羊を飼いなさい﹂。 一七イエ
ど め い こ あい
スは三度目に言われた、﹁ヨハネの子シモンよ、わたしを愛するか﹂。ペテロ
あい ど い こころ
は﹁わたしを愛するか﹂とイエスが三度も言われたので、 心をいためてイエ
い しゅ ぞん あい
スに言った、
﹁主よ、あなたはすべてをご存じです。わたしがあなたを愛して
かれ い
いることは、おわかりになっています﹂。イエスは彼に言われた、﹁わたしの
ひつじ やしな い わか とき
羊を養いなさい。 一八よくよくあなたに言っておく。あなたが若かった時に
じぶん おび おも ある とし
は、自分で帯をしめて、思いのままに歩きまわっていた。しかし年をとって
じぶん て ひと おび
からは、自分の手をのばすことになろう。そして、ほかの人があなたに帯を
むす い ところ つ い
結びつけ、行きたくない所へ連れて行くであろう﹂。 一九これは、ペテロがどん
し かた かみ えいこう しめ はな
な死に方で、神の栄光をあらわすかを示すために、お話しになったのである。
ヨハネによる福音書

はな したが い
こう話してから、
﹁わたしに従 ってきなさい﹂と言われた。 二〇ペテロはふり
かえ あい で し く み で し
返ると、イエスの愛しておられた弟子がついて来るのを見た。この弟子は、あ
ゆうしょく むねちか よ しゅ うらぎ もの
の夕 食のときイエスの胸近くに寄りかかって、
﹁主よ、あなたを裏切る者は、
たず ひと で し み
だれなのですか﹂と尋ねた人である。 二一ペテロはこの弟子を見て、イエスに
い しゅ ひと かれ い
言った、
﹁主よ、この人はどうなのですか﹂。 二二イエスは彼に言われた、
﹁たと

100
く とき かれ い のこ のぞ
い、わたしの来る時まで彼が生き残っていることを、わたしが望んだとして
かか したが
も、あなたにはなんの係わりがあるか。あなたは、わたしに従 ってきなさ
で し し きょうだい
い﹂。 二三こういうわけで、この弟子は死ぬことがないといううわさが、 兄 弟
あいだ かれ し い
たちの間にひろまった。しかし、イエスは彼が死ぬことはないと言われたの
く とき かれ い のこ
ではなく、ただ﹁たとい、わたしの来る時まで彼が生き残っていることを、わ
のぞ かか い
たしが望んだとしても、あなたにはなんの係わりがあるか﹂と言われただけ
である。
こと こと か で し
二四 これらの事についてあかしをし、またこれらの事を書いたのは、この弟子
かれ しんじつ し
である。そして彼のあかしが真実であることを、わたしたちは知っている。 二
かずおお か
五 イエスのなさったことは、このほかにまだ数多くある。もしいちいち書き
せかい か ぶんしょ おさ おも
つけるならば、世界もその書かれた文書を収めきれないであろうと思う。
ヨハネによる福音書

101
し と ぎょうでん
使徒 行 伝
第一章
さき だい かん あら おこな おし
一 テオピロよ、わたしは先に第一巻を著わして、イエスが行い、また教えはじ
えら し と せいれい めい てん あ
めてから、 二お選びになった使徒たちに、聖霊によって命じたのち、天に上げ
ひ くなん う
られた日までのことを、ことごとくしるした。 三イエスは苦難を受けたのち、
じぶん い かずかず たし しょうこ しめ にち
自分の生きていることを数々の確かな証拠によって示し、四十日にわたって
かれ あらわ かみ くに かた しょくじ とも
たびたび彼らに現れて、神の国のことを語られた。 四そして食事を共にして
かれ めい はな
いるとき、彼らにお命じになった、
﹁エルサレムから離れないで、かねてわた
き ちち やくそく ま みず
しから聞いていた父の約束を待っているがよい。 五すなわち、ヨハネは水で
さず ま せいれい
バプテスマを授けたが、あなたがたは間もなく聖霊によって、バプテスマを
さず
授けられるであろう﹂。
で し いっしょ あつ と い しゅ
六 さて、弟子たちが一緒に集まったとき、イエスに問うて言った、
﹁主よ、イ
使徒行伝

くに ふっこう とき かれ い
スラエルのために国を復興なさるのは、この時なのですか﹂。 七彼らに言われ

0
じ き ばあい ちち じぶん けんい さだ
た、﹁時期や場合は、父がご自分の権威によって定めておられるのであって、
し かぎ せいれい とき
あなたがたの知る限りではない。 八ただ、聖霊があなたがたにくだる時、あな
ちから う ぜんど ち
たがたは力を受けて、エルサレム、ユダヤとサマリヤの全土、さらに地のは
しょうにん い おわ かれ
てまで、わたしの証 人となるであろう﹂。 九こう言い終ると、イエスは彼らの
み まえ てん あ くも むか すがた み
見ている前で天に上げられ、雲に迎えられて、その姿が見えなくなった。 一〇
のぼ い かれ てん み み しろ ころも
イエスの上って行かれるとき、彼らが天を見つめていると、見よ、白い衣を
き ひと かれ た い ひと
着たふたりの人が、彼らのそばに立っていて 言った、﹁ガリラヤの人たち
一一
てん あお た はな てん あ
よ、なぜ天を仰いで立っているのか。あなたがたを離れて天に上げられたこ
てん のぼ い み おな ありさま
のイエスは、天に上って行かれるのをあなたがたが見たのと同じ有様で、ま
たおいでになるであろう﹂。
かれ やま くだ かえ やま
一二 それから彼らは、オリブという山を下ってエルサレムに帰った。この山は
ちか あんそくにち ゆる きょ り かれ
エルサレムに近く、安息日に許されている距離のところにある。 一三彼らは、
しない い と おくじょう ま ひと
市内に行って、その泊まっていた屋 上の間にあがった。その人たちは、ペテ
ロ、ヨハネ、ヤコブ、アンデレ、ピリポとトマス、バルトロマイとマタイ、ア
使徒行伝

こ ねっしんとう こ かれ
ルパヨの子ヤコブと熱心党のシモンとヤコブの子ユダとであった。 一四彼ら
ふじん とく はは きょうだい とも
はみな、婦人たち、特にイエスの母マリヤ、およびイエスの兄 弟たちと共に、

1
こころ あ いのり
心を合わせて、ひたすら祈をしていた。
めい ひとびと いちだん あつ
一五 そのころ、百二十名ばかりの人々が、一団となって集まっていたが、ペテ
きょうだい なか た い きょうだい とら
ロはこれらの兄 弟たちの中に立って言った、一六﹁兄 弟たちよ、イエスを捕え
もの て せいれい くち
た 者 た ち の 手 び き に な っ た ユ ダ に つ い て は、聖霊 が ダ ビ デ の 口 を と お し て
よげん ことば じょうじゅ かれ
預言したその言葉は、 成 就しなければならなかった。 一七彼はわたしたちの
なかま くわ つとめ さず もの かれ ふ ぎ ほうしゅう
仲間 に 加 え ら れ、こ の 務 を 授 か っ て い た 者 で あ っ た。︵ 一八彼 は 不義 の 報 酬
じ しょ て い お はら なか
で、ある地所を手に入れたが、そこへまっさかさまに落ちて、腹がまん中か
ひ さ なが で こと
ら引き裂け、はらわたがみな流れ出てしまった。 一九そして、この事はエルサ
ぜんじゅうみん し じ しょ かれ こくご
レムの全 住 民に知れわたり、そこで、この地所が彼らの国語でアケルダマと
よ ち じ しょ い しへん
呼ばれるようになった。﹁血の地所﹂との意である。︶ 二〇詩篇に、
やしき あ は
﹃その屋敷は荒れ果てよ、
す もの
そこにはひとりも住む者がいなくなれ﹄

と書いてあり、また
しょく もの と
﹃その職は、ほかの者に取らせよ﹄
使徒行伝

しゅ あいだ
とあるとおりである。 二一そういうわけで、主イエスがわたしたちの間にゆき
きかんちゅう とき はじ
きされた期間中、 二二すなわち、ヨハネのバプテスマの時から始まって、わた

2
はな てん あ ひ いた しじゅう こうどう とも
したちを離れて天に上げられた日に至るまで、始終わたしたちと行動を共に
ひと くわ しゅ ふっかつ しょうにん
した人たちのうち、だれかひとりが、わたしたちに加わって主の復活の証 人
いちどう よ な
にならねばならない﹂。 二三そこで一同は、バルサバと呼ばれ、またの名をユス
た いの い
トというヨセフと、マッテヤとのふたりを立て、二四祈って言った、
﹁すべての
ひと こころ ぞん しゅ えら
人の心をご存じである主よ。このふたりのうちのどちらを選んで、二五ユダが
し と しょくむ お じぶん い い つ
この使徒の職務から落ちて、自分の行くべきところへ行ったそのあとを継が
しめ くだ ひ
せなさいますか、お示し下さい﹂。 二六それから、ふたりのためにくじを引いた
あた ひと にん し と くわ
ところ、マッテヤに当ったので、この人が十一人の使徒たちに加えられるこ
とになった。
第二章
ごじゅんせつ ひ もの いっしょ あつ とつぜん はげ かぜ
一 五旬節の日がきて、みんなの者が一緒に集まっていると、 二突然、激しい風
ふ おと てん おこ いちどう いえ
が吹いてきたような音が天から起ってきて、一同がすわっていた家いっぱい
使徒行伝

ひび した ほのお わか あらわ
に響きわたった。 三また、舌のようなものが、炎のように分れて現れ、ひとり
うえ いちどう せいれい み みたま かた
びとりの上にとどまった。 四すると、一同は聖霊に満たされ、御霊が語らせる

3
たこく ことば かた だ
ままに、いろいろの他国の言葉で語り出した。
てんか くにぐに しんこうぶか じん
五 さて、エルサレムには、天下のあらゆる国々から、信仰深いユダヤ人たちが
す ものおと おお ひと あつ かれ うま こきょう
きて住んでいたが、六この物音に大ぜいの人が集まってきて、彼らの生れ故郷
こくご し と はな き と
の国語で、使徒たちが話しているのを、だれもかれも聞いてあっけに取られ
おどろ あや い み はな ひと みな
た。 七そして驚き怪しんで言った、
﹁見よ、いま話しているこの人たちは、皆
びと うま こきょう
ガリラヤ人ではないか。 八それだのに、わたしたちがそれぞれ、生れ故郷の
こくご かれ き
国語を彼らから聞かされるとは、いったい、どうしたことか。 九わたしたちの
なか びと びと びと
中には、パルテヤ人、メジヤ人、エラム人もおれば、メソポタミヤ、ユダヤ、
カパドキヤ、ポントとアジヤ、 一〇フルギヤとパンフリヤ、エジプトとクレネ
ちか ちほう す もの じん たび もの
に近いリビヤ地方などに住む者もいるし、またローマ人で旅にきている者、 一
じん かいしゅうしゃ びと じん ひとびと
一 ユダヤ人と改 宗 者、クレテ人とアラビヤ人もいるのだが、あの人々がわた
こくご かみ おお はたら の き
したちの国語で、神の大きな働きを述べるのを聞くとは、どうしたことか﹂。
もの おどろ まど たがい い あ
一二 みんなの者は驚き惑って、 互に言い合った、
﹁これは、いったい、どうい
ひと わら ひと
うわけなのだろう﹂。 一三しかし、ほかの人たちはあざ笑って、
﹁あの人たちは
使徒行伝

あたら さけ よ い
新しい酒で酔っているのだ﹂と言った。
にん もの とも た こえ ひとびと かた
一四 そこで、ペテロが十一人の者と共に立ちあがり、声をあげて人々に語りか

4
けた。
ひと す
﹁ユダヤの人たち、ならびにエルサレムに住むすべてのかたがた、どうか、こ
こと し い みみ かたむ
の事を知っていただきたい。わたしの言うことに耳を傾けていただきたい。
いま あさ じ ひと おも
一五 今は朝の九時であるから、この人たちは、あなたがたが思っているように、
さけ よ よげんしゃ よげん
酒に酔っているのではない。 一六そうではなく、これは預言者ヨエルが預言し
ほか
ていたことに外ならないのである。すなわち、
かみ おお
一七 ﹃神がこう仰せになる。
おわ とき
終りの時には、
れい ひと そそ
わたしの霊をすべての人に注ごう。
むすめ よげん
そして、あなたがたのむすこ娘は預言をし、
わかもの まぼろし み
若者たちは幻を見、
ろうじん ゆめ み
老人たちは夢を見るであろう。
とき だんじょ しもべ
一八 その時には、わたしの男女の僕たちにも
れい そそ
わたしの霊を注ごう。
使徒行伝

かれ よげん
そして彼らも預言をするであろう。
うえ てん きせき み
一九 また、上では、天に奇跡を見せ、

5
した ち
下では、地にしるしを、
ち ひ た けむり
すなわち、血と火と立ちこめる煙とを、

見せるであろう。
しゅ おお かがや ひ く まえ
二〇 主の大いなる輝かしい日が来る前に、

日はやみに
つき ち かわ
月は血に変るであろう。
しゅ な よ もと もの
二一 そのとき、主の名を呼び求める者は、
すく
みな救われるであろう﹄。
ひと いま かた き
二二 イスラエルの人たちよ、今わたしの語ることを聞きなさい。あなたがたが
し びと かみ かれ
よく知っているとおり、ナザレ人イエスは、神が彼をとおして、あなたがた
なか おこな かずかず ちから きせき かみ
の中で行われた数々の力あるわざと奇跡としるしとにより、神からつかわさ
もの しめ
れた者であることを、あなたがたに示されたかたであった。 二三このイエスが
わた かみ さだ けいかく よ ち かれ
渡されたのは神の定めた計画と予知とによるのであるが、あなたがたは彼を
ふほう ひとびと て じゅうじか ころ かみ し くる
不法の人々の手で十字架につけて殺した。 二四神はこのイエスを死の苦しみ
使徒行伝

と はな し しはい
から解き放って、よみがえらせたのである。イエスが死に支配されているは

ずはなかったからである。 二五ダビデはイエスについてこう言っている、

6
つね め まえ しゅ み
﹃わたしは常に目の前に主を見た。
しゅ うご
主は、わたしが動かされないため、
みぎ くだ
わたしの右にいて下さるからである。
こころ たの
二六 それゆえ、わたしの心は楽しみ、
した うた
わたしの舌はよろこび歌った。
にくたい のぞ い
わたしの肉体もまた、望みに生きるであろう。
たましい よ み す
二七 あなたは、わたしの魂を黄泉に捨ておくことをせず、
せいじゃ く は ゆる
あなたの聖者が朽ち果てるのを、お許しにならないであろう。
みち しめ
二八 あなたは、いのちの道をわたしに示し、
まえ よろこ み くだ
み前にあって、わたしを喜びで満たして下さるであろう﹄。
きょうだい ぞくちょう
二九 兄 弟たちよ、 族 長 ダビデについては、わたしはあなたがたにむかって
だいたん い かれ し ほうむ げん はか きょ う いた
大胆に言うことができる。彼は死んで葬られ、現にその墓が今日に至るまで、
あいだ のこ かれ よげんしゃ しそん
わたしたちの間に残っている。 三〇彼は預言者であって、﹃その子孫のひとり
おうい かみ かた かれ ちか みと
を王位につかせよう﹄と、神が堅く彼に誓われたことを認めていたので、 三一
使徒行伝

ふっかつ し かれ よ み す
キリストの復活をあらかじめ知って、﹃彼は黄泉に捨ておかれることがなく、
にくたい く は かた
またその肉体が朽ち果てることもない﹄と語ったのである。 三二このイエス

7
かみ みな しょうにん
を、神はよみがえらせた。そして、わたしたちは皆その証 人なのである。 三三
かみ みぎ あ ちち やくそく せいれい う
それで、イエスは神の右に上げられ、父から約束の聖霊を受けて、それをわ
そそ げん み き
たしたちに注がれたのである。このことは、あなたがたが現に見聞きしてい
てん のぼ かれ じ し ん い
るとおりである。 三四ダビデが天に上ったのではない。彼自身こう言ってい
る、
しゅ しゅ おお
﹃主はわが主に仰せになった、
てき あしだい
三五 あなたの敵をあなたの足台にするまでは、
みぎ ざ
わたしの右に座していなさい﹄。
ぜん か こと し
三六 だから、イスラエルの全家は、この事をしかと知っておくがよい。あなた
じゅうじか かみ しゅ た
がたが十字架につけたこのイエスを、神は、主またキリストとしてお立てに
なったのである﹂。
ひとびと き つよ こころ さ し と きょうだい
三七 人々はこれを聞いて、強く心を刺され、ペテロやほかの使徒たちに、﹁兄 弟

たちよ、わたしたちは、どうしたらよいのでしょうか﹂と言った。 三八すると、
こた く あらた つみ
ペテロが答えた、
﹁悔い改めなさい。そして、あなたがたひとりびとりが罪の
使徒行伝

え な う
ゆるしを得るために、イエス・キリストの名によって、バプテスマを受けな
せいれい たまもの う やくそく
さい。そうすれば、あなたがたは聖霊の賜物を受けるであろう。 三九この約束

8
しゅ かみ め もの
は、われらの主なる神の召しにあずかるすべての者、すなわちあなたがたと、
こ とお ものいちどう あた
あなたがたの子らと、遠くの者一同とに、与えられているものである﹂。 四〇ペ
おお ことば ひとびと まが じだい
テロは、ほかになお多くの言葉であかしをなし、人々に﹁この曲った時代か
すく い すす かれ すす ことば う もの
ら救われよ﹂と言って勧めた。 四一そこで、彼の勧めの言葉を受けいれた者た
う ひ なかま くわ にん
ちは、バプテスマを受けたが、その日、仲間に加わったものが三千人ほどあっ
いちどう し と おしえ まも しんと まじ とも
た。 四二そして一同はひたすら、使徒たちの教を守り、信徒の交わりをなし、共
いのり
にパンをさき、 祈をしていた。
もの ねん しょう おお きせき し と
四三 みんなの者におそれの念が生じ、多くの奇跡としるしとが、使徒たちに
つぎつぎ おこな しんじゃ いっしょ もの
よって、次々に行われた。 四四信者たちはみな一緒にいて、いっさいの物を
きょうゆう しさん も もの う ひつよう おう もの わ あた
共 有にし、四五資産や持ち物を売っては、必要に応じてみんなの者に分け与え
ひ び こころ た みや いえ
た。 四六そして日々 心を一つにして、絶えず宮もうでをなし、家ではパンをさ
しょくじ とも かみ
き、よろこびと、まごころとをもって、食事を共にし、 四七神をさんびし、す
ひと こうい も しゅ すく もの ひ び なかま くわ
べての人に好意を持たれていた。そして主は、救われる者を日々仲間に加え
くだ
て下さったのである。
使徒行伝

9
第三章
ご ご じ いのり みや のぼ
一 さて、ペテロとヨハネとが、午後三時の祈のときに宮に上ろうとしている
うま あし おとこ おとこ みや
と、 二生れながら足のきかない男が、かかえられてきた。この男は、宮もうで
く ひとびと ほどこ まいにち うつく もん よ みや もん
に来る人々に施しをこうため、毎日、
﹁美しの門﹂と呼ばれる宮の門のところ
お もの かれ みや い
に、置かれていた者である。 三彼は、ペテロとヨハネとが、宮にはいって行こ
み ほどこ かれ み
うとしているのを見て、 施しをこうた。 四ペテロとヨハネとは彼をじっと見
み い かれ なに きたい
て、
﹁わたしたちを見なさい﹂と言った。 五彼は何かもらえるのだろうと期待
ちゅうもく い きんぎん な
して、ふたりに注 目していると、六ペテロが言った、
﹁金銀はわたしには無い。
びと な
しかし、わたしにあるものをあげよう。ナザレ人イエス・キリストの名によっ
ある い かれ みぎて と おこ あし
て歩きなさい﹂。 七こう言って彼の右手を取って起してやると、足と、くるぶ
た つよ おど た ある だ
しとが、立ちどころに強くなって、八踊りあがって立ち、歩き出した。そして、
ある まわ おど かみ かれ とも みや
歩 き 回 っ た り 踊 っ た り し て 神 を さ ん び し な が ら、彼 ら と 共 に 宮 に は い っ て
い みんしゅう かれ ある まわ かみ み
行った。 九民 衆はみな、彼が歩き回り、また神をさんびしているのを見、 一〇
使徒行伝

みや うつく もん ほどこ もの し
これが宮の﹁美しの門﹂のそばにすわって、 施しをこうていた者であると知
かれ み おこ おどろ あや
り、彼の身に起ったことについて、 驚き怪しんだ。

10
かれ ひとびと みな おどろ
一一 彼がなおもペテロとヨハネとにつきまとっているとき、人々は皆ひどく驚
ろう よ ちゅうろう かれ か あつ
いて、
﹁ソロモンの廊﹂と呼ばれる柱 廊にいた彼らのところに駆け集まってき
み ひとびと い ひと
た。 一二ペテロはこれを見て、人々にむかって言った、﹁イスラエルの人たち
こと ふ し ぎ おも じぶん ちから しんじん
よ、なぜこの事を不思議に思うのか。また、わたしたちが自分の力や信心で、
ひと ある み
あの人を歩かせたかのように、なぜわたしたちを見つめているのか。 一三アブ
かみ せんぞ かみ しもべ えいこう
ラハム、イサク、ヤコブの神、わたしたちの先祖の神は、その僕 イエスに栄光
たま ひ わた
を賜わったのであるが、あなたがたは、このイエスを引き渡し、ピラトがゆ
き かれ めんぜん こば
るすことに決めていたのに、それを彼の面前で拒んだ。 一四あなたがたは、こ
せい ただ こば ひとごろ おとこ ようきゅう
の聖なる正しいかたを拒んで、人殺しの男をゆるすように要 求し、一五いのち
きみ ころ かみ しにん なか
の君を殺してしまった。しかし、神はこのイエスを死人の中から、よみがえ
こと しょうにん な
らせた。わたしたちは、その事の証 人である。 一六そして、イエスの名が、そ
しん しんこう み し ひと つよ
れを信じる信仰のゆえに、あなたがたのいま見て知っているこの人を、強く
しんこう かれ いちどう まえ
したのであり、イエスによる信仰が、彼をあなたがた一同の前で、このとお
かんぜん
り完全にいやしたのである。
使徒行伝

きょうだい し こと
一七 さて、兄 弟たちよ、あなたがたは知らずにあのような事をしたのであり、
しどうしゃ どうよう
あなたがたの指導者たちとても同様であったことは、わたしにわかっている。

11
かみ よげんしゃ くち じゅなん よこく
一八 神はあらゆる預言者の口をとおして、キリストの受難を予告しておられた
じょうじゅ じぶん つみ
が、それをこのように成 就なさったのである。 一九だから、自分の罪をぬぐい
さ く あらた ほんしん た しゅ
去っていただくために、悔い改めて本心に立ちかえりなさい。 二〇それは、主
まえ なぐさ とき さだ
のみ前から慰めの時がきて、あなたがたのためにあらかじめ定めてあったキ
かみ くだ
リストなるイエスを、神がつかわして下さるためである。 二一このイエスは、
かみ せい よげんしゃ くち むかし よげん ばんぶつこうしん
神が聖なる預言者たちの口をとおして、昔から預言しておられた万物更新の
とき てん い しゅ
時まで、天にとどめておかれねばならなかった。 二二モーセは言った、
﹃主なる
かみ た きょうだい なか
神は、わたしをお立てになったように、あなたがたの兄 弟の中から、ひとり
よげんしゃ た よげんしゃ かた
の 預言者 を お 立 て に な る で あ ろ う。そ の 預言者 が あ な た が た に 語 る こ と に
き かれ き もの たみ
は、ことごとく聞きしたがいなさい。 二三彼に聞きしたがわない者は、みな民
なか ほろ さ のち
の中から滅ぼし去られるであろう﹄。 二四サムエルをはじめ、その後つづいて
かた よげんしゃ とき よこく
語 っ た ほ ど の 預言者 は み な、こ の 時 の こ と を 予告 し た。 二 五あ な た が た は
よげんしゃ こ かみ せんぞ むす けいやく こ
預言者の子であり、神があなたがたの先祖たちと結ばれた契約の子である。
かみ たい ちじょう しょみんぞく しそん しゅくふく う
神はアブラハムに対して、
﹃地上の諸民族は、あなたの子孫によって祝 福を受
使徒行伝

おお かみ しもべ た
けるであろう﹄と仰せられた。 二六神がまずあなたがたのために、その僕を立
あく た
てて、おつかわしになったのは、あなたがたひとりびとりを、悪から立ちか

12
しゅくふく
えらせて、 祝 福にあずからせるためなのである﹂。
第四章
かれ ひとびと かた さいし みやもり
一 彼らが人々にこのように語っているあいだに、祭司たち、宮守がしら、サド
びと ちかよ かれ ひとびと おしえ と じしん おこ
カイ人たちが近寄ってきて、 二彼らが人々に教を説き、イエス自身に起った
しにん ふっかつ せんでん き た かれ て とら
死人の復活を宣伝しているのに気をいら立て、三彼らに手をかけて捕え、はや
ひ く よくあさ りゅうち かれ はなし き
日が暮れていたので、翌朝まで留置しておいた。 四しかし、彼らの話を聞いた
おお ひと しん おとこ かず にん
多くの人たちは信じた。そして、その男の数が五千人ほどになった。
あ ひ やくにん ちょうろう りっぽうがくしゃ しょうしゅう
五 明 く る 日、役人、 長 老、律法学者 た ち が、エ ル サ レ ム に 召 集 さ れ た。 六
だいさいし だいさいし
大祭司アンナスをはじめ、カヤパ、ヨハネ、アレキサンデル、そのほか大祭司
いちぞく あつ なか し と た じんもん
の一族もみな集まった。 七そして、そのまん中に使徒たちを立たせて尋問し
けんい な
た、
﹁あなたがたは、いったい、なんの権威、また、だれの名によって、この
とき せいれい み い たみ やくにん
ことをしたのか﹂。 八その時、ペテロが聖霊に満たされて言った、
﹁民の役人た
使徒行伝

ちょうろう とりしら う
ち、ならびに長 老たちよ、九わたしたちが、きょう、取調べを受けているのは、
びょうにん たい よ ひと
病 人に対してした良いわざについてであり、この人がどうしていやされたか

13
いちどう ひとびとぜんたい
についてであるなら、一〇あなたがたご一同も、またイスラエルの人々全体も、
し ひと げんき まえ た
知 っ て い て も ら い た い。こ の 人 が 元気 に な っ て み ん な の 前 に 立 っ て い る の
じゅうじか ころ かみ しにん なか
は、ひとえに、あなたがたが十字架につけて殺したのを、神が死人の中から
びと み な
よみがえらせたナザレ人イエス・キリストの御名によるのである。 一一このイ
いえつく す すみ いし いし
エスこそは﹃あなたがた家造りらに捨てられたが、隅のかしら石となった石﹄
ひと いがい すくい すく な
なのである。 一二この人による以外に救はない。わたしたちを救いうる名は、
べつ てんか あた
これを別にしては、天下のだれにも与えられていないからである﹂。
ひとびと だいたん はな み どうじ
一三 人々はペテロとヨハネとの大胆な話しぶりを見、また同時に、ふたりが
むがく ひと し ふ し ぎ おも かれ
無学な、ただの人たちであることを知って、不思議に思った。そして彼らが
とも もの みと かれ もの
イエスと共にいた者であることを認め、 一四かつ、彼らにいやされた者がその
た み かえ ことば
そばに立っているのを見ては、まったく返す言葉がなかった。 一五そこで、ふ
ぎかい たいじょう めい たがい きょうぎ い
たりに議会から退 場するように命じてから、互に協議をつづけて 一六言った、
ひと かれ いちじる おこな
﹁あの人たちを、どうしたらよかろうか。彼らによって著しいしるしが行われ
じゅうみんぜんたい し ひてい
たことは、エルサレムの住 民 全体に知れわたっているので、否定しようもな
使徒行伝

いじょう みんしゅう あいだ こんご


い。 一七ただ、これ以上このことが民 衆の間にひろまらないように、今後はこ
な かた
の名によって、いっさいだれにも語ってはいけないと、おどしてやろうでは

14
よ い な かた と
ないか﹂。 一八そこで、ふたりを呼び入れて、イエスの名によって語ることも説
あいな い
くことも、いっさい相成らぬと言いわたした。 一九ペテロとヨハネとは、これ
たい い かみ き したが き したが ほう かみ まえ
に対して言った、
﹁神に聞き従うよりも、あなたがたに聞き従う方が、神の前
ただ はんだん じぶん み
に正しいかどうか、判断してもらいたい。 二〇わたしたちとしては、自分の見
き かた かれ
たこと聞いたことを、語らないわけにはいかない﹂。 二一そこで、彼らはふたり
さら もの で き ご と
を更におどしたうえ、ゆるしてやった。みんなの者が、この出来事のために、
かみ ひとびと てまえ ばっ
神をあがめていたので、その人々の手前、ふたりを罰するすべがなかったか
さい ひと
らである。 二二そのしるしによっていやされたのは、四十歳あまりの人であっ
た。
なかま もの かえ さいしちょう
二三 ふたりはゆるされてから、仲間の者たちのところに帰って、祭司長たちや
ちょうろう い ほうこく いちどう き くち
長 老たちが言ったいっさいのことを報告した。 二四一同はこれを聞くと、口
かみ こえ い てん ち うみ なか
をそろえて、神にむかい声をあげて言った、
﹁天と地と海と、その中のすべて
つく しゅ せんぞ しもべ
のものとの造りぬしなる主よ。 二五あなたは、わたしたちの先祖、あなたの僕
くち せいれい おお
ダビデの口をとおして、聖霊によって、こう仰せになりました、
使徒行伝

いほうじん さわ た
﹃なぜ、異邦人らは、騒ぎ立ち、
たみ はか
もろもろの民は、むなしいことを図り、

15
ちじょう おう た
地上の王たちは、立ちかまえ、
二六
しはいしゃ とう く
支配者たちは、党を組んで、
しゅ さか
主とそのキリストとに逆らったのか﹄。
いほうじん たみ
二七 まことに、ヘロデとポンテオ・ピラトとは、異邦人らやイスラエルの民と
いっしょ みやこ あつ あぶら そそ せい しもべ
一緒になって、この都に集まり、あなたから油を注がれた聖なる僕 イエスに
さか て むね さだ
逆らい、 二八み手とみ旨とによって、あらかじめ定められていたことを、なし
と しゅ かれ きょうはく め しもべ おも き
遂げたのです。 二九主よ、いま、彼らの脅 迫に目をとめ、 僕たちに、思い切っ
だいたん み こ と ば かた くだ て の
て大胆に御言葉を語らせて下さい。 三〇そしてみ手を伸ばしていやしをなし、
せい しもべ な きせき おこな くだ かれ
聖なる僕 イエスの名によって、しるしと奇跡とを行わせて下さい﹂。 三一彼ら
いの お あつ ば しょ ゆ うご いちどう せいれい み
が祈り終えると、その集まっていた場所が揺れ動き、一同は聖霊に満たされ
だいたん かみ ことば かた だ
て、大胆に神の言を語り出した。
しん もの む こころ おも も
三二 信じた者の群れは、心を一つにし思いを一つにして、だれひとりその持ち
もの じぶん しゅちょう もの もの きょうゆう
物を自分のものだと主 張する者がなく、いっさいの物を共 有にしていた。 三三
し と しゅ ふっかつ ひじょう ちからづよ おお
使徒たちは主イエスの復活について、非常に力 強くあかしをした。そして大
使徒行伝

かれ いちどう そそ かれ なか とぼ もの
きなめぐみが、彼ら一同に注がれた。 三四彼らの中に乏しい者は、ひとりもい
じ しょ かおく も ひと う う もの だいきん
なかった。地所や家屋を持っている人たちは、それを売り、売った物の代金

16
し と あし お ひつよう おう
をもってきて、三五使徒たちの足もとに置いた。そしてそれぞれの必要に応じ
わ あた
て、だれにでも分け与えられた。
うま びと し と なぐさ こ い よ
三六 クプロ生れのレビ人で、使徒たちにバルナバ︵﹁慰めの子﹂との意︶と呼ば
じぶん しょゆう はたけ う だいきん し と
れていたヨセフは、三七自分の所有する畑を売り、その代金をもってきて、使徒
あし お
たちの足もとに置いた。
第五章
ひと つま とも しさん う
一 ところが、アナニヤという人とその妻サッピラとは共に資産を売ったが、 二
きょうぼう だいきん いちぶ も し と あし
共 謀して、その代金をごまかし、一部だけを持ってきて、使徒たちの足もと
お い じぶん
に置いた。 三そこで、ペテロが言った、
﹁アナニヤよ、どうしてあなたは、自分
こころ うば せいれい あざむ じ しょ だいきん う
の心をサタンに奪われて、聖霊を欺き、地所の代金をごまかしたのか。 四売ら
のこ う じゆう
ずに残しておけば、あなたのものであり、売ってしまっても、あなたの自由

になったはずではないか。どうして、こんなことをする気になったのか。あ
使徒行伝

ひと あざむ かみ あざむ ことば


なたは人を欺いたのではなくて、神を欺いたのだ﹂。 五アナニヤはこの言葉を
き たお いき た つた き ひとびと
聞いているうちに、倒れて息が絶えた。このことを伝え聞いた人々は、みな

17
ひじょう かん わかもの た したい つつ はこ
非常なおそれを感じた。 六それから、若者たちが立って、その死体を包み、運
だ ほうむ
び出して葬 った。
じかん かれ つま で き ご と し
七 三時間ばかりたってから、たまたま彼の妻が、この出来事を知らずに、は
かのじょ い じ しょ
いってきた。 八そこで、ペテロが彼女にむかって言った、
﹁あの地所は、これ
ねだん う かのじょ ねだん
これの値段で売ったのか。そのとおりか﹂。彼女は﹁そうです、その値段です﹂
こた い こころ あ しゅ みたま
と答えた。 九ペテロは言った、
﹁あなたがたふたりが、 心を合わせて主の御霊
こころ なにごと み おっと ほうむ ひと あし
を試みるとは、何事であるか。見よ、あなたの夫を葬 った人たちの足が、そ
かどぐち はこ だ おんな
この門口にきている。あなたも運び出されるであろう﹂。 一〇すると女は、た
かれ あし たお いき た わかもの
ちまち彼の足もとに倒れて、息が絶えた。そこに若者たちがはいってきて、
おんな し み はこ だ おっと ほうむ
女が死んでしまっているのを見、それを運び出してその夫のそばに葬 った。
きょうかいぜんたい つた き ひと ひじょう かん
一一 教 会 全体ならびにこれを伝え聞いた人たちは、みな非常なおそれを感じ
た。
おお きせき つぎつぎ し と て ひとびと なか
一二 そのころ、多くのしるしと奇跡とが、次々に使徒たちの手により人々の中
おこな いちどう こころ ろう あつ
で行われた。そして、一同は心を一つにして、ソロモンの廊に集まっていた。
使徒行伝

もの まじ はい
一三 ほ か の 者 た ち は、だ れ ひ と り、そ の 交 わ り に 入 ろ う と は し な か っ た が、
みんしゅう かれ そんけい しゅ しん なかま くわ もの だんじょ
民 衆は彼らを尊敬していた。 一四しかし、主を信じて仲間に加わる者が、男女

18
おお びょうにん おおどお はこ だ
と も、ま す ま す 多 く な っ て き た。 一五つ い に は、 病 人 を 大通 り に 運 び 出 し、
しんだい ねどこ うえ お とお かれ かげ
寝台や寝床の上に置いて、ペテロが通るとき、彼の影なりと、そのうちのだ
ふきん まちまち
れかにかかるようにしたほどであった。 一六またエルサレム附近の町々から
おお ひと びょうにん けが れい くる ひと ひ つ
も、大ぜいの人が、病 人や汚れた霊に苦しめられている人たちを引き連れて、
あつ ぜんぶ もの のこ
集まってきたが、その全部の者が、ひとり残らずいやされた。
だいさいし なかま もの は ひと
一七 そこで、大祭司とその仲間の者、すなわち、サドカイ派の人たちが、みな
しっ と ねん み た し と て とら こうきょう
嫉妬の念に満たされて立ちあがり、 一八使徒たちに手をかけて捕え、 公 共の
りゅうちじょう い よる しゅ つかい ごく と ひら かれ つ だ
留 置 場に入れた。 一九ところが夜、主の使が獄の戸を開き、彼らを連れ出して
い い みや にわ た いのち ことば も
言った、 二〇﹁さあ行きなさい。そして、宮の庭に立ち、この命の言葉を漏れ
ひとびと かた かれ き よ あ みや おし
なく、人々に語りなさい﹂。 二一彼らはこれを聞き、夜明けごろ宮にはいって教
えはじめた。
いっぽう だいさいし なかま もの あつ ぎかい びと
一方では、大祭司とその仲間の者とが、集まってきて、議会とイスラエル人
ちょうろういちどう しょうしゅう し と ひ だ ひと ごく
の長 老 一同とを召 集し、使徒たちを引き出してこさせるために、人を獄につ
したやく い み し と ごく
かわした。 二二そこで、下役どもが行って見ると、使徒たちが獄にいないので、
使徒行伝

ひ かえ ほうこく ごく じょう とぐち ばんにん


引き返して報告した、二﹁
三 獄には、しっかりと錠がかけてあり、戸口には、番人
た み なか
が立っていました。ところが、あけて見たら、中にはだれもいませんでした﹂。

19
みやもり さいしちょう ほうこく き
二四 宮守がしらと祭司長たちとは、この報告を聞いて、これは、いったい、ど
こと まど ひと し
んな事になるのだろうと、あわて惑っていた。 二五そこへ、ある人がきて知ら
い ごく い ひと みや にわ
せた、
﹁行ってごらんなさい。あなたがたが獄に入れたあの人たちが、宮の庭
た みんしゅう おし みやもり したやく いっしょ
に立って、 民 衆を教えています﹂。 二六そこで宮守がしらが、下役どもと一緒
で い し と つ ひとびと いし う ころ
に出かけて行って、使徒たちを連れてきた。しかし、人々に石で打ち殺され
おそ てあら かれ つ ぎかい なか た
るのを恐れて、手荒なことはせず、 二七彼らを連れてきて、議会の中に立たせ
だいさいし と い な つか おし
た。すると、大祭司が問うて 言った、﹁あの名を使って教えてはならない
二八
めい こと
と、きびしく命じておいたではないか。それだのに、なんという事だ。エル
ぢゅう おしえ たし
サレム 中にあなたがたの教を、はんらんさせている。あなたがたは確かに、
ひと ち せきにん お
あの人の血の責任をわたしたちに負わせようと、たくらんでいるのだ﹂。 二九
たい し と い にんげん したが かみ
これに対して、ペテロをはじめ使徒たちは言った、
﹁人間に従うよりは、神に
したが せんぞ かみ き ころ
従うべきである。 三〇わたしたちの先祖の神は、あなたがたが木にかけて殺し
く あらた つみ
たイエスをよみがえらせ、 三一そして、イスラエルを悔い改めさせてこれに罪
あた みちび て すくいぬし じしん みぎ
のゆるしを与えるために、このイエスを導き手とし救 主として、ご自身の右
使徒行伝

あ こと しょうにん かみ
に上げられたのである。 三二わたしたちはこれらの事の証 人である。神がご
じしん したが もの たま せいれい しょうにん
自身に従う者に賜わった聖霊もまた、その証 人である﹂。

20
き もの はげ いか し と ころ おも
三三 これを聞いた者たちは、激しい怒りのあまり、使徒たちを殺そうと思った。
こくみんぜんたい そんけい りっぽうがくしゃ
三四 ところが、国民全体に尊敬されていた律法学者ガマリエルというパリサイ
びと ぎかい た し と そと だ ようきゅう
人が、議会で立って、使徒たちをしばらくのあいだ外に出すように要 求して
いちどう い しょくん ひと あつか
から、三五一同にむかって言った、
﹁イスラエルの諸君、あの人たちをどう扱う
き さき おこ じぶん なに えら もの
か、よく気をつけるがよい。 三六先ごろ、チゥダが起って、自分を何か偉い者
い かれ したが おとこ かず にん
のように言いふらしたため、彼に従 った男の数が、四百人ほどもあったが、
けっきょく かれ ころ したが もの しさん まった あとかた
結 局、彼は殺されてしまい、従 った者もみな四散して、全く跡方もなくなっ
じんこうちょうさ とき ひと みんしゅう ひき はんらん
ている。 三七そののち、人口調査の時に、ガリラヤ人ユダが民 衆を率いて反乱
おこ ひと ほろ したが もの ち
を起したが、この人も滅び、 従 った者もみな散らされてしまった。 三八そこ
さい しょくん もう あ ひと て ひ
で、この際、諸君に申し上げる。あの人たちから手を引いて、そのなすまま
くわだ にんげん で じめつ
にしておきなさい。その企てや、しわざが、人間から出たものなら、自滅す
かみ で ひと ほろ
るだろう。 三九しかし、もし神から出たものなら、あの人たちを滅ぼすことは
ちが しょくん かみ てき し
できまい。まかり違えば、諸君は神を敵にまわすことになるかも知れない﹂。
かれ かんこく し と よ い う
そこで彼らはその勧告にしたがい、 四〇使徒たちを呼び入れて、むち打ったの
使徒行伝

こんご な かた あいな い
ち、今後イエスの名によって語ることは相成らぬと言いわたして、ゆるして
し と み な はじ くわ た もの
やった。 四一使徒たちは、御名のために恥を加えられるに足る者とされたこと

21
よろこ ぎかい で まいにち みや いえ
を喜びながら、議会から出てきた。 四二そして、毎日、宮や家で、イエスがキ
ひ おし の つた
リストであることを、引きつづき教えたり宣べ伝えたりした。
第六章
で し かず ご つか じん
一 そのころ、弟子の数がふえてくるにつれて、ギリシヤ語を使うユダヤ人たち
ご つか じん たい じぶん ひ び
から、ヘブル語を使うユダヤ人たちに対して、自分たちのやもめらが、日々
はいきゅう くじょう もう た し と
の配 給で、おろそかにされがちだと、苦情を申し立てた。 二そこで、十二使徒
で し ぜんたい よ あつ い かみ ことば しょくたく
は弟子全体を呼び集めて言った、﹁わたしたちが神の言をさしおいて、食 卓の
たずさ きょうだい なか
ことに携わるのはおもしろくない。 三そこで、 兄 弟たちよ、あなたがたの中
みたま ち え み ひょうばん ひと にん さが だ
から、御霊と知恵とに満ちた、 評 判のよい人たち七人を捜し出してほしい。
ひと しごと いのり みことば よう
その人たちにこの仕事をまかせ、四わたしたちは、もっぱら祈と御言のご用に
あた ていあん かいしゅういちどう さんせい
当ることにしよう﹂。 五この提案は会 衆 一同の賛成するところとなった。そ
しんこう せいれい み ひと
して信仰と聖霊とに満ちた人ステパノ、それからピリポ、プロコロ、ニカノ
使徒行伝

かいしゅうしゃ えら だ
ル、テモン、パルメナ、およびアンテオケの改 宗 者 ニコラオを選び出して、 六
し と まえ た し と いの て かれ うえ
使徒たちの前に立たせた。すると、使徒たちは祈って手を彼らの上においた。

22
かみ ことば で し かず
七 こうして神の言は、ますますひろまり、エルサレムにおける弟子の数が、
ひじょう さいし たすう しんこう う
非常にふえていき、祭司たちも多数、信仰を受けいれるようになった。
めぐ ちから み みんしゅう なか きせき
八 さて、ステパノは恵みと力とに満ちて、 民 衆の中で、めざましい奇跡とし
おこな かいどう ぞく ひとびと
るしとを行 っていた。 九すると、いわゆる﹁リベルテン﹂の会堂に属する人々、
びと びと ひとびと た
クレネ人、アレキサンドリヤ人、キリキヤやアジヤからきた人々などが立っ
ぎろん かれ ち え みたま かた
て、ステパノと議論したが、 一〇彼は知恵と御霊とで語っていたので、それに
たいこう かれ ひとびと
対抗できなかった。 一一そこで、彼らは人々をそそのかして、
﹁わたしたちは、
かれ かみ けが ことば は き い うえ
彼 が モ ー セ と 神 と を 汚 す 言葉 を 吐 く の を 聞 い た﹂と 言 わ せ た。 一二そ の 上、
みんしゅう ちょうろう りっぽうがくしゃ せんどう かれ おそ とら ぎかい
民 衆や長 老たちや律法学者たちを煽動し、彼を襲って捕えさせ、議会にひっ
いつわ しょうにん た い ひと
ぱってこさせた。 一三それから、 偽りの証 人たちを立てて言わせた、
﹁この人
せいじょ りっぽう さか ことば は
は、この聖所と律法とに逆らう言葉を吐いて、どうしても、やめようとはし
びと せいじょ う
ません。 一四﹃あのナザレ人イエスは、この聖所を打ちこわし、モーセがわた
つた かんれい か かれ い
したちに伝えた慣例を変えてしまうだろう﹄などと、彼が言うのを、わたし
き ぎかい せき ひと みな め
たちは聞きました﹂。 一五議会で席についていた人たちは皆、ステパノに目を
使徒行伝

そそ かれ かお てんし かお み
注いだが、彼の顔は、ちょうど天使の顔のように見えた。

23
第七章
だいさいし たず い
一 大祭司は﹁そのとおりか﹂と尋ねた。 二そこで、ステパノが言った、
きょうだい ちち き くだ ふ そ
﹁兄 弟たち、父たちよ、お聞き下さい。わたしたちの父祖アブラハムが、カラ
す まえ えいこう かみ かれ あらわ おお
ンに住む前、まだメソポタミヤにいたとき、栄光の神が彼に現れて 三仰せに
と ち しんぞく はな しめ ち い
なった、﹃あなたの土地と親族から離れて、あなたにさし示す地に行きなさ
びと ち で す
い﹄。 四そこで、アブラハムはカルデヤ人の地を出て、カランに住んだ。そし
かれ ちち し かみ かれ いま す
て、彼の父が死んだのち、神は彼をそこから、今あなたがたの住んでいるこ
ち いじゅう いさん なに いっ ぽ はば と ち
の地に移住させたが、 五そこでは、遺産となるものは何一つ、一歩の幅の土地
あた ち しょりょう さず やくそく
すらも、与えられなかった。ただ、その地を所 領として授けようとの約束を、
かれ かれ こ しそん あた
彼と、そして彼にはまだ子がなかったのに、その子孫とに与えられたのであ
かみ おお かれ しそん たこく み よ
る。 六神はこう仰せになった、
﹃彼の子孫は他国に身を寄せるであろう。そし
ねん どれい ぎゃくたい う
て、そこで四百年のあいだ、奴隷にされて虐 待を受けるであろう﹄。 七それか
おお かれ どれい こくみん
ら、さらに仰せになった、
﹃彼らを奴隷にする国民を、わたしはさばくであろ
使徒行伝

のち かれ で ば しょ れいはい
う。その後、彼らはそこからのがれ出て、この場所でわたしを礼拝するであ
かみ かつれい けいやく あた
ろう﹄。 八そして、神はアブラハムに、割礼の契約をお与えになった。こうし

24
かれ ちち か め かつれい ほどこ
て、彼はイサクの父となり、これに八日目に割礼を施し、それから、イサク
ちち にん ぞくちょう ちち
はヤコブの父となり、ヤコブは十二人の族 長たちの父となった。
ぞくちょう う かみ
九 族 長たちは、ヨセフをねたんで、エジプトに売りとばした。しかし、神は
かれ とも くなん かれ すく だ おう まえ
彼と共にいまして、 一〇あらゆる苦難から彼を救い出し、エジプト王パロの前
めぐ あた ち え かれ さいしょう にん
で恵みを与え、知恵をあらわさせた。そこで、パロは彼を宰 相の任につかせ、
お う け ぜんたい しはい あた とき
エジプトならびに王家全体の支配に当らせた。 一一時に、エジプトとカナンと
ぜんど おこ おお くなん おそ
の全土にわたって、ききんが起り、大きな苦難が襲ってきて、わたしたちの
せんぞ しょくもつ え しょくりょう
先祖たちは、 食 物が得られなくなった。 一二ヤコブは、エジプトには食 糧が
き はじ せんぞ かい め とき
あると聞いて、初めに先祖たちをつかわしたが、 一三二回目の時に、ヨセフが
きょうだい じぶん み うえ う あ かれ しんぞくかんけい し
兄 弟たちに、自分の身の上を打ち明けたので、彼の親族関係がパロに知れて
つかい ちち にん しんぞくいちどう まね
きた。 一四ヨセフは使をやって、父ヤコブと七十五人にのぼる親族一同とを招
くだ かれ じ し ん せんぞ し
いた。 一五こうして、ヤコブはエジプトに下り、彼自身も先祖たちもそこで死
かれ うつ
に、 一六それから彼らは、シケムに移されて、かねてアブラハムがいくらかの
かね だ ち こ か はか ほうむ
金を出してこの地のハモルの子らから買っておいた墓に、 葬られた。
使徒行伝

かみ たい た やくそく じ き ちか たみ
一七 神がアブラハムに対して立てられた約束の時期が近づくにつれ、民はふえ
ぜんど し べつ おう
てエジプト全土にひろがった。 一八やがて、ヨセフのことを知らない別な王

25
おこ おう どうぞく たい さくりゃく
が、エジプトに起った。 一九この王は、わたしたちの同族に対し策 略をめぐら
せんぞ ぎゃくたい おさ ご い す
して、先祖たちを虐 待し、その幼な子らを生かしておかないように捨てさせ
うま かれ み
た。 二〇モーセが生れたのは、ちょうどこのころのことである。彼はまれに見
うつく こ げつ あいだ ちち いえ そだ す
る美しい子であった。三か月の間は、父の家で育てられたが、 二一そののち捨
むすめ ひろ じぶん こ そだ
てられたのを、パロの娘が拾いあげて、自分の子として育てた。 二二モーセは
じん がくもん おし こ ことば ちから
エジプト人のあらゆる学問を教え込まれ、言葉にもわざにも、 力があった。
さい とき じぶん きょうだい びと
二三 四十歳になった時、モーセは自分の兄 弟であるイスラエル人たちのため
つく おも た
に尽すことを、思い立った。 二四ところが、そのひとりがいじめられているの
み ぎゃくたい ひと あいて じん
を見て、これをかばい、虐 待されているその人のために、相手のエジプト人
う しかえ かれ じぶん て かみ きょうだい すく
を撃って仕返しをした。 二五彼は、自分の手によって神が兄 弟たちを救って
くだ さと おも じっさい さと
下さることを、みんなが悟るものと思っていたが、実際はそれを悟らなかっ
よくじつ かれ あらそ あ あらわ ちゅうさい
たのである。 二六翌日モーセは、彼らが争い合っているところに現れ、仲 裁し
い きみ きょうだい ど う し たがい きず
ようとして言った、﹃まて、君たちは兄 弟 同志ではないか。どうして互に傷つ
あ なかま もの つ と
け合っているのか﹄。 二七すると、仲間をいじめていた者が、モーセを突き飛ば
使徒行伝

い きみ しはいしゃ さいばんにん きみ
して言った、
﹃だれが、君をわれわれの支配者や裁判人にしたのか。 二八君は、
じん ころ ころ おも
きのう、エジプト人を殺したように、わたしも殺そうと思っているのか﹄。 二九

26
ことば き に ち み よ おとこ こ
モーセは、この言葉を聞いて逃げ、ミデアンの地に身を寄せ、そこで男の子
ふたりをもうけた。
ねん とき ざん あらの みつかい しば も ほのお なか
三〇 四十年たった時、シナイ山の荒野において、御使が柴の燃える炎の中で
あらわ かれ こうけい み ふ し ぎ おも み
モーセに現れた。 三一彼はこの光景を見て不思議に思い、それを見きわめるた
ちかよ しゅ こえ きこ せんぞ
めに近寄ったところ、主の声が聞えてきた、 三二﹃わたしは、あなたの先祖た
かみ かみ おそ
ちの神、アブラハム、イサク、ヤコブの神である﹄。モーセは恐れおののいて、
み ゆうき しゅ かれ い
もうそれを見る勇気もなくなった。 三三すると、主が彼に言われた、
﹃あなたの
あし ぬ た ば しょ せい ち
足から、くつを脱ぎなさい。あなたの立っているこの場所は、聖なる地であ
たみ ぎゃくたい ありさま たし
る。 三四わたしは、エジプトにいるわたしの民が虐 待されている有様を確か
み くのう ごえ き かれ すく だ くだ
に見とどけ、その苦悩のうめき声を聞いたので、彼らを救い出すために下っ
いま
てきたのである。さあ、今あなたをエジプトにつかわそう﹄。
きみ しはいしゃ さいばんにん い はいせき
三五 こうして、
﹃だれが、君を支配者や裁判人にしたのか﹄と言って排斥された
かみ しば なか かれ あらわ みつかい て しはいしゃ かいほうしゃ
このモーセを、神は、柴の中で彼に現れた御使の手によって、支配者、解放者
ひと ひとびと みちび だ
として、おつかわしになったのである。 三六この人が、人々を導き出して、エ
使徒行伝

ち こうかい ねん あらの
ジプトの地においても、紅海においても、また四十年のあいだ荒野において
きせき おこな ひと ひと
も、奇跡としるしとを行 ったのである。 三七この人が、イスラエル人たちに、

27
かみ た きょうだい なか
﹃神はわたしをお立てになったように、あなたがたの兄 弟たちの中から、ひと
よげんしゃ た い ひと
りの預言者をお立てになるであろう﹄と言ったモーセである。 三八この人が、
ざん かれ かた みつかい せんぞ とも あらの しゅうかい
シナイ山で、彼に語りかけた御使や先祖たちと共に、荒野における集 会にい
い み こ と ば さず つた
て、生ける御言葉を授かり、それをあなたがたに伝えたのである。 三九ところ
せんぞ かれ したが かれ しりぞ こころ なか
が、先祖たちは彼に従おうとはせず、かえって彼を退け、 心の中でエジプト
みちび かみがみ つく くだ
にあこがれて、 四〇﹃わたしたちを導いてくれる神々を造って下さい。わたし
ち みちび
たちをエジプトの地から導いてきたあのモーセがどうなったのか、わかりま
い かれ こ うし ぞう つく ぐうぞう
せんから﹄とアロンに言った。 四一そのころ、彼らは子牛の像を造り、その偶像
そな もの じぶん て つく まつ
に供え物をささげ、自分たちの手で造ったものを祭ってうち興じていた。 四二
かみ かお かれ てん ほし おが まか よげんしゃ
そこで、神は顔をそむけ、彼らを天の星を拝むままに任せられた。預言者の
しょ か
書にこう書いてあるとおりである、
いえ
﹃イスラエルの家よ、
ねん あらの とき
四十年のあいだ荒野にいた時に、
そな もの
いけにえと供え物とを、わたしにささげたことがあったか。
使徒行伝

まくや ほし かみ まわ
四三 あなたがたは、モロクの幕屋やロンパの星の神を、かつぎ回った。
おが じぶん つく ぐうぞう す
それらは、拝むために自分で造った偶像に過ぎぬ。

28
うつ
だからわたしは、あなたがたをバビロンのかなたへ、移してしまうであ
ろう﹄。
せんぞ あらの まくや み
四四 わたしたちの先祖には、荒野にあかしの幕屋があった。それは、見たまま
かた つく かた めいれい つく
の型にしたがって造るようにと、モーセに語ったかたのご命令どおりに造っ
まくや せんぞ ひき かみ
たものである。 四五この幕屋は、わたしたちの先祖が、ヨシュアに率いられ、神
しょみんぞく かれ まえ お はら しょりょう と
によって諸民族を彼らの前から追い払い、その所 領をのり取ったときに、そ
も こ つぎつぎ う つ じだい およ
こに持ち込まれ、次々に受け継がれて、ダビデの時代に及んだものである。 四
かみ めぐ かみ みや ぞうえい
六 ダビデは、神の恵みをこうむり、そして、ヤコブの神のために宮を造営した
ねが みや た
いと願った。 四七けれども、じっさいにその宮を建てたのは、ソロモンであっ
たか もの て つく いえ うち す
た。 四八し か し、い と 高 き 者 は、手 で 造 っ た 家 の 内 に は お 住 み に な ら な い。
よげんしゃ い
預言者が言っているとおりである、
しゅ おお
四九 ﹃主が仰せられる、
いえ た
どんな家をわたしのために建てるのか。
ば しょ
わたしのいこいの場所は、どれか。
使徒行伝

てん おうざ
天はわたしの王座、
ち あしだい
地はわたしの足台である。

29
みな て つく ごうじょう こころ
五〇 これは皆わたしの手が造ったものではないか﹄。 五一ああ、強 情で、心にも
みみ かつれい ひと せいれい さか
耳にも割礼のない人たちよ。あなたがたは、いつも聖霊に逆らっている。そ
せんぞ おな せんぞ
れは、あなたがたの先祖たちと同じである。 五二いったい、あなたがたの先祖
はくがい よげんしゃ かれ ただ く
が迫害しなかった預言者が、ひとりでもいたか。彼らは正しいかたの来るこ
よこく ひと ころ いま ただ うらぎ もの
とを予告した人たちを殺し、今やあなたがたは、その正しいかたを裏切る者、
ころ もの みつかい つた りっぽう
また殺す者となった。 五三あなたがたは、御使たちによって伝えられた律法を
う まも
受けたのに、それを守ることをしなかった﹂。
ひとびと き こころ そこ はげ いか は
五四 人々はこれを聞いて、心の底から激しく怒り、ステパノにむかって、歯ぎ
かれ せいれい み てん み かみ
しりをした。 五五しかし、彼は聖霊に満たされて、天を見つめていると、神の
えいこう あらわ かみ みぎ た み かれ
栄光が現れ、イエスが神の右に立っておられるのが見えた。 五六そこで、彼は
てん ひら ひと こ かみ みぎ た み い
﹁ああ、天が開けて、人の子が神の右に立っておいでになるのが見える﹂と言っ
ひとびと おおごえ さけ みみ め
た。 五七人々は大声で叫びながら、耳をおおい、ステパノを目がけて、いっせ
さっとう かれ しがい ひ だ いし う た あ ひと
いに殺到し、 五八彼を市外に引き出して、石で打った。これに立ち合った人た
じぶん うわぎ ぬ わかもの あし お
ちは、自分の上着を脱いで、サウロという若者の足もとに置いた。 五九こうし
使徒行伝

かれ いし な あいだ いの い
て、彼らがステパノに石を投げつけている間、ステパノは祈りつづけて言っ
しゅ れい う くだ
た、﹁主イエスよ、わたしの霊をお受け下さい﹂。 六〇そして、ひざまずいて、

30
おおごえ さけ しゅ つみ かれ お くだ
大声で叫んだ、﹁主よ、どうぞ、この罪を彼らに負わせないで下さい﹂。こう
い かれ ねむ
言って、彼は眠りについた。
第八章
ころ さんせい
一 サウロは、ステパノを殺すことに賛成していた。
ひ きょうかい たい だいはくがい おこ し と いがい もの
その日、エルサレムの教 会に対して大迫害が起り、使徒以外の者はことごと
ちほう ち い しんこうぶか ひと
く、ユダヤとサマリヤとの地方に散らされて行った。 二信仰深い人たちはス
ほうむ かれ むね う ひじょう かな
テパノを葬り、彼のために胸を打って、非常に悲しんだ。 三ところが、サウロ
いえいえ お い おとこ おんな ひ だ つぎつぎ ごく わた きょうかい あら
は家々に押し入って、 男や女を引きずり出し、次々に獄に渡して、教 会を荒
まわ
し回った。
ち い ひと みことば の つた ある
四 さて、散らされて行った人たちは、御言を宣べ伝えながら、めぐり歩いた。
まち くだ い ひとびと の
五 ピリポはサマリヤの町に下って行き、人々にキリストを宣べはじめた。 六
ぐんしゅう はなし き おこな み かれ かた
群 衆はピリポの話を聞き、その行 っていたしるしを見て、こぞって彼の語る
使徒行伝

みみ かたむ けが れい おお ひとびと れい おおごえ


ことに耳を傾けた。 七汚れた霊につかれた多くの人々からは、その霊が大声
で い おお ちゅうぶ もの あし
でわめきながら出て行くし、また、多くの中風をわずらっている者や、足の

31
もの まち ひとびと たいへん
きかない者がいやされたからである。 八それで、この町では人々が、大変なよ
ろこびかたであった。
まち いぜん ひと かれ まじゅつ おこな
九 さて、この町に以前からシモンという人がいた。彼は魔術を行 ってサマリ
ひと おどろ じぶん えら もの い
ヤの人たちを驚かし、自分をさも偉い者のように言いふらしていた。 一〇それ
ちい もの おお もの みな かれ い ひと
で、小さい者から大きい者にいたるまで皆、彼について行き、
﹁この人こそは
たいのう よ かみ ちから い かれ ひと
﹃大能﹄と呼ばれる神の力である﹂と言っていた。 一一彼らがこの人について
い あいだ まじゅつ おどろ
行ったのは、ながい間その魔術に驚かされていたためであった。 一二ところ
かみ くに な の つた およ おとこ
が、ピリポが神の国とイエス・キリストの名について宣べ伝えるに及んで、男
おんな しん う じしん しん
も女も信じて、ぞくぞくとバプテスマを受けた。 一三シモン自身も信じて、バ
う ひ い かずかず
プテスマを受け、それから、引きつづきピリポについて行った。そして、数々
きせき おこな み おどろ
のしるしやめざましい奇跡が行われるのを見て、 驚いていた。
し と ひとびと かみ ことば う い
一四 エルサレムにいる使徒たちは、サマリヤの人々が、神の言を受け入れたと

聞いて、ペテロとヨハネとを、そこにつかわした。 一五ふたりはサマリヤに
くだ い せいれい う かれ いの
下って行って、みんなが聖霊を受けるようにと、彼らのために祈った。 一六そ
使徒行伝

かれ しゅ な う せいれい
れは、彼らはただ主イエスの名によってバプテスマを受けていただけで、聖霊
くだ て かれ
はまだだれにも下っていなかったからである。 一七そこで、ふたりが手を彼ら

32
うえ かれ せいれい う し と て
の上においたところ、彼らは聖霊を受けた。 一八シモンは、使徒たちが手をお
みたま ひとびと さず み かね だ
いたために、御霊が人々に授けられたのを見て、金をさし出し、 一九﹁わたし
て せいれい さず ちから くだ
が手をおけばだれにでも聖霊が授けられるように、その力をわたしにも下さ
い かれ い かね
い﹂と言った。 二〇そこで、ペテロが彼に言った、
﹁おまえの金は、おまえもろ
かみ たまもの かね え おも
とも、うせてしまえ。神の賜物が、金で得られるなどと思っているのか。 二一
こころ かみ まえ ただ こと
おまえの心が神の前に正しくないから、おまえは、とうてい、この事にあず
あくじ く しゅ いの
かることができない。 二二だから、この悪事を悔いて、主に祈れ。そうすれば
おも こころ し
あるいはそんな思いを心にいだいたことが、ゆるされるかも知れない。 二三お
にが たんじゅう ふ ぎ め
まえには、まだ苦い胆 汁があり、不義のなわ目がからみついている。それが、
き い おお こと
わたしにわかっている﹂。 二四シモンはこれを聞いて言った、
﹁仰せのような事
み おこ しゅ いの くだ
が、わたしの身に起らないように、どうぞ、わたしのために主に祈って下さ
い﹂。
し と ちからづよ しゅ ことば かた のち びと おお
二五 使徒たちは力 強くあかしをなし、また主の言を語った後、サマリヤ人の多
むらむら ふくいん の つた かえ
くの村々に福音を宣べ伝えて、エルサレムに帰った。
使徒行伝

しゅ つかい い た なんぽう い
二六 しかし、主の使がピリポにむかって言った、
﹁立って南方に行き、エルサレ
くだ みち で いま あ
ムからガザへ下る道に出なさい﹂
︵このガザは、今は荒れはてている︶。 二七そ

33
かれ た で じん じょおう
こで、彼は立って出かけた。すると、ちょうど、エチオピヤ人の女王カンダ
こうかん じょおう ざいほう ぜ ん ぶ かんり かんがん じん れいはい
ケの高官で、女王の財宝全部を管理していた宦官であるエチオピヤ人が、礼拝
のぼ き と かれ
のためエルサレムに上り、 二八その帰途についていたところであった。彼は
じぶん ば しゃ の よげんしゃ しょ よ みたま
自分の馬車に乗って、預言者イザヤの書を読んでいた。 二九御霊がピリポに
すす よ ば しゃ なら い い か
﹁進み寄って、あの馬車に並んで行きなさい﹂と言った。 三〇そこでピリポが駆
い よげんしゃ しょ よ ひと こえ きこ
けて行くと、預言者イザヤの書を読んでいるその人の声が聞えたので、
﹁あな
よ たず かれ て
たは、読んでいることが、おわかりですか﹂と尋ねた。 三一彼は﹁だれかが、手
こた ば しゃ
びきをしてくれなければ、どうしてわかりましょう﹂と答えた。そして、馬車
の いっしょ かれ よ せいしょ
に乗って一緒にすわるようにと、ピリポにすすめた。 三二彼が読んでいた聖書
か しょ
の箇所は、これであった、
かれ ば ひ い ひつじ
﹁彼は、ほふり場に引かれて行く羊のように、
もくもく
また、黙々として、
け か もの まえ た こひつじ
毛を刈る者の前に立つ小羊のように、
くち ひら
口を開かない。
使徒行伝

かれ
三三 彼は、いやしめられて、
おこな
そのさばきも行われなかった。

34
かれ しそん かた
だれが、彼の子孫のことを語ることができようか、
かれ いのち ちじょう と さ
彼の命が地上から取り去られているからには﹂。
かんがん い たず よげんしゃ
三四 宦官はピリポにむかって言った、﹁お尋ねしますが、ここで預言者はだれの
い じぶん ひと
ことを言っているのですか。自分のことですか、それとも、だれかほかの人
くち ひら せい く と おこ
のことですか﹂。 三五そこでピリポは口を開き、この聖句から説き起して、イエ
の つた みち すす い みず ところ
スのことを宣べ伝えた。 三六道を進んで行くうちに、水のある所にきたので、
かんがん い みず う
宦官が言った、
﹁ここに水があります。わたしがバプテスマを受けるのに、な
たい
んのさしつかえがありますか﹂。︹ 三七 これに対して、ピリポは、﹁あなたがまご
しん う い かれ
ころから信じるなら、受けてさしつかえはありません﹂と言った。すると、彼
かみ こ しん こた
は﹁わたしは、イエス・キリストを神の子と信じます﹂と答えた。︺ 三八そこで
くるま かんがん みず なか お い
車をとめさせ、ピリポと宦官と、ふたりとも、水の中に降りて行き、ピリポ
かんがん さず みず あ しゅ れい
が宦官にバプテスマを授けた。 三九ふたりが水から上がると、主の霊がピリポ
い かんがん かれ み かんがん
をさらって行ったので、宦官はもう彼を見ることができなかった。宦官はよ
たび のち すがた
ろこびながら旅をつづけた。 四〇その後、ピリポはアゾトに姿をあらわして、
使徒行伝

まちまち ある ふくいん の つた
町々をめぐり歩き、いたるところで福音を宣べ伝えて、ついにカイザリヤに

着いた。

35
第九章
しゅ で し たい きょうはく さつがい いき
一 さてサウロは、なおも主の弟子たちに対する脅 迫、殺害の息をはずませな
だいさいし い しょかいどう てんしょ もと
がら、大祭司のところに行って、二ダマスコの諸会堂あての添書を求めた。そ
みち もの み しだい だんじょ べつ しば
れは、この道の者を見つけ次第、男女の別なく縛りあげて、エルサレムにひっ
く みち いそ ちか
ぱって来るためであった。 三ところが、道を急いでダマスコの近くにきたと
とつぜん てん ひかり かれ てら かれ ち たお
き、突然、天から光がさして、彼をめぐり照した。 四彼は地に倒れたが、その
とき はくがい よ こえ き
時﹁サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか﹂と呼びかける声を聞いた。
かれ しゅ たず こたえ
五 そこで彼は﹁主よ、あなたは、どなたですか﹂と尋ねた。すると答があった、
はくがい た まち
﹁わたしは、あなたが迫害しているイエスである。 六さあ立って、町にはいっ
い こと つ
て行きなさい。そうすれば、そこであなたのなすべき事が告げられるであろ
どうこうしゃ もの い た こえ きこ
う﹂。 七サウロの同行者たちは物も言えずに立っていて、声だけは聞えたが、
み ち お あ め ひら なに
だれも見えなかった。 八サウロは地から起き上がって目を開いてみたが、何
み ひとびと かれ て ひ つ い
も見えなかった。そこで人々は、彼の手を引いてダマスコへ連れて行った。 九
使徒行伝

かれ かかん め み た の
彼は三日間、目が見えず、また食べることも飲むこともしなかった。
で し ひと しゅ まぼろし
一〇 さて、ダマスコにアナニヤというひとりの弟子がいた。この人に主が幻の

36
なか あらわ よ かれ しゅ
中に現れて、
﹁アナニヤよ﹂とお呼びになった。彼は﹁主よ、わたしでござい
こた しゅ かれ い た ま な
ます﹂と答えた。 一一そこで主が彼に言われた、
﹁立って、
﹃真すぐ﹄という名
ろ じ い いえ びと たず かれ
の 路地 に 行 き、ユ ダ の 家 で サ ウ ロ と い う タ ル ソ 人 を 尋 ね な さ い。彼 は い ま
いの かれ ひと て じぶん うえ
祈っている。 一二彼はアナニヤという人がはいってきて、手を自分の上におい
ふたた み まぼろし み こた
て再び見えるようにしてくれるのを、 幻で見たのである﹂。 一三アナニヤは答
しゅ ひと こと せいと
えた、
﹁主よ、あの人がエルサレムで、どんなにひどい事をあなたの聖徒たち
おお ひと き かれ
にしたかについては、多くの人たちから聞いています。 一四そして彼はここで
み な もの ほばく けん さいしちょう え
も、御名をとなえる者たちをみな捕縛する権を、祭司長たちから得てきてい
しゅ おお い ひと
るのです﹂。 一五しかし、主は仰せになった、﹁さあ、行きなさい。あの人は、
いほうじん おう こ な つた うつわ
異邦人たち、王たち、またイスラエルの子らにも、わたしの名を伝える器と
えら もの な かれ くる
して、わたしが選んだ者である。 一六わたしの名のために彼がどんなに苦しま
かれ し で
なければならないかを、彼に知らせよう﹂。 一七そこでアナニヤは、出かけて
い いえ て うえ い きょうだい
行ってその家にはいり、手をサウロの上において言った、
﹁兄 弟 サウロよ、あ
く とちゅう あらわ しゅ ふたた み
なたが来る途中で現れた主イエスは、あなたが再び見えるようになるため、そ
使徒行伝

せいれい み
して聖霊に満たされるために、わたしをここにおつかわしになったのです﹂。
め お もと
一八 するとたちどころに、サウロの目から、うろこのようなものが落ちて、元

37
み かれ た う
どおり見えるようになった。そこで彼は立ってバプテスマを受け、 一九また
しょくじ げんき と
食事をとって元気を取りもどした。
で し とも すうじつかん す
サウロは、ダマスコにいる弟子たちと共に数日間を過ごしてから、 二〇ただち
しょかいどう の つた かみ こ と
に諸会堂でイエスのことを宣べ伝え、このイエスこそ神の子であると説きは
き ひと ひじょう おどろ い
じめた。 二一これを聞いた人たちはみな非常に驚いて言った、
﹁あれは、エルサ
な もの くる おとこ うえ
レムでこの名をとなえる者たちを苦しめた男ではないか。その上ここにやっ
かれ しば さいしちょう い
てきたのも、彼らを縛りあげて、祭司長たちのところへひっぱって行くため
ちから くわ
ではなかったか﹂。 二二しかし、サウロはますます力が加わり、このイエスがキ
ろんしょう す じん い ふ
リストであることを論 証して、ダマスコに住むユダヤ人たちを言い伏せた。
そうとう にっすう じん ころ そうだん
二三 相当の日数がたったころ、ユダヤ人たちはサウロを殺す相談をした。 二四
いんぼう かれ し かれ ころ
ところが、その陰謀が彼の知るところとなった。彼らはサウロを殺そうとし
よるひる まち もん みまも かれ で し よる
て、夜昼、町の門を見守っていたのである。 二五そこで彼の弟子たちが、夜の
あいだ かれ の まち じょうへき
間に彼をかごに乗せて、町の城 壁づたいにつりおろした。
つ で し なかま くわ つと
二六 サウロはエルサレムに着いて、弟子たちの仲間に加わろうと努めたが、み
使徒行伝

もの かれ で し しん おそ
んなの者は彼を弟子だとは信じないで、恐れていた。 二七ところが、バルナバ
かれ せ わ し と つ い とちゅう しゅ かれ あらわ かた
は彼の世話をして使徒たちのところへ連れて行き、途中で主が彼に現れて語

38
かれ な だいたん の つた しだい かれ
りかけたことや、彼がダマスコでイエスの名で大胆に宣べ伝えた次第を、彼
せつめい き いらい かれ し と なかま くわ
らに説明して聞かせた。 二八それ以来、彼は使徒たちの仲間に加わり、エルサ
で い しゅ な だいたん かた ご つか じん
レムに出入りし、主の名によって大胆に語り、 二九ギリシヤ語を使うユダヤ人
かた あ ろん あ かれ かれ ころ
たちとしばしば語り合い、また論じ合った。しかし、彼らは彼を殺そうとね
きょうだい し かれ つ
らっていた。 三〇兄 弟たちはそれと知って、彼をカイザリヤに連れてくだり、
おく だ
タルソへ送り出した。
きょうかい ぜん ち ほ う へいあん たも
三一 こうして教 会は、ユダヤ、ガリラヤ、サマリヤ全地方にわたって平安を保
き そ しゅ せいれい あゆ しだい しんと かず
ち、基礎がかたまり、主をおそれ聖霊にはげまされて歩み、次第に信徒の数
ま い
を増して行った。
ほうぼう ある す せいと くだ
三二 ペテロは方々をめぐり歩いたが、ルダに住む聖徒たちのところへも下って
い ねんかん とこ ひと
行った。 三三そして、そこで、八年間も床についているアイネヤという人に
あ ひと ちゅうぶ かれ い
会った。この人は中風であった。 三四ペテロが彼に言った、
﹁アイネヤよ、イエ
くだ お とこ と
ス・キリストがあなたをいやして下さるのだ。起きなさい。そして床を取り
かれ お す
あげなさい﹂。すると、彼はただちに起きあがった。 三五ルダとサロンに住む
使徒行伝

ひと み しゅ き え
人たちは、みなそれを見て、主に帰依した。
やく
三六 ヨッパにタビタ︵これを訳すと、ドルカス、すなわち、かもしか︶という

39
おんな で し かずかず はたら ほどこ ふじん
女 弟子がいた。数々のよい働きや施しをしていた婦人であった。 三七ところ
びょうき し ひとびと あら おくじょう
が、そのころ病気になって死んだので、人々はそのからだを洗って、屋 上の
ま あんち ちか で し
間に安置した。 三八ルダはヨッパに近かったので、弟子たちはペテロがルダに
き もの かれ はや
きていると聞き、ふたりの者を彼のもとにやって、
﹁どうぞ、早くこちらにお
くだ たの た もの つ
いで下さい﹂と頼んだ。 三九そこでペテロは立って、ふたりの者に連れられて
かれ つ おくじょう ま あんない
きた。彼が着くとすぐ、屋 上の間に案内された。すると、やもめたちがみん
かれ よ せいぜん したぎ うわぎ かずかず な
な彼のそばに寄ってきて、ドルカスが生前つくった下着や上着の数々を、泣
み もの そと だ
きながら見せるのであった。 四〇ペテロはみんなの者を外に出し、ひざまずい
いの したい ほう む お い
て祈った。それから死体の方に向いて、﹁タビタよ、起きなさい﹂と言った。
かのじょ め み お かのじょ て
すると彼女は目をあけ、ペテロを見て起きなおった。 四一ペテロは彼女に手を
た せいと よ い かのじょ
かして立たせた。それから、聖徒たちや、やもめたちを呼び入れて、彼女が
い み ちゅう し おお
生きかえっているのを見せた。 四二このことがヨッパ 中に知れわたり、多く
ひとびと しゅ しん かわ ひと いえ と
の人々が主を信じた。 四三ペテロは、皮なめしシモンという人の家に泊まり、
あいだ たいざい
しばらくの間 ヨッパに滞在した。
使徒行伝

40
第一〇章
な ひと たい よ
一 さて、カイザリヤにコルネリオという名の人がいた。イタリヤ隊と呼ばれ
ぶたい ひゃくそつちょう しんじんぶか か ぞ く いちどう とも かみ うやま たみ かずかず ほどこ
た部隊の百 卒 長で、 二信心深く、家族一同と共に神を敬い、民に数々の施し
た かみ いのり ひ ご ご じ かみ つかい かれ
をなし、絶えず神に祈をしていた。 三ある日の午後三時ごろ、神の使が彼のと
よ まぼろし み かれ みつかい
ころにきて、
﹁コルネリオよ﹂と呼ぶのを、 幻ではっきり見た。 四彼は御使を
み おそ しゅ い
見つめていたが、恐ろしくなって、﹁主よ、なんでございますか﹂と言った。
みつかい い いのり ほどこ かみ まえ
すると御使が言った、
﹁あなたの祈や施しは神のみ前にとどいて、おぼえられ
いま ひと よ
ている。 五ついては今、ヨッパに人をやって、ペテロと呼ばれるシモンという
ひと まね ひと うみ いえ かわ もの きゃく
人を招きなさい。 六この人は、海べに家をもつ皮なめしシモンという者の客
つ みつかい た さ
となっている﹂。 七このお告げをした御使が立ち去ったのち、コルネリオは、
しもべ ぶ か なか しんじんぶか へいそつ よ こと
僕 ふ た り と、部下 の 中 で 信心深 い 兵卒 ひ と り と を 呼 び、 八い っ さ い の 事 を
せつめい き おく だ
説明して聞かせ、ヨッパへ送り出した。
よくじつ にん たび まち ちか いのり
九 翌日、この三人が旅をつづけて町の近くにきたころ、ペテロは祈をするため
使徒行伝

おくじょう とき ひる じ かれ くうふく
屋 上 に の ぼ っ た。時 は 昼 の 十 二 時 ご ろ で あ っ た。 一〇彼 は 空腹 を お ぼ え て、
なに た おも ひとびと しょくじ ようい あいだ ゆめごこち
何か食べたいと思った。そして、人々が食事の用意をしている間に、夢心地

41
てん ひら おお ぬの い もの よ
になった。 一一すると、天が開け、大きな布のような入れ物が、四すみをつる
ちじょう お く み なか ちじょう あし は
されて、地上に降りて来るのを見た。 一二その中には、地上の四つ足や這うも
そら とり かくしゅ い こえ かれ きこ
の、また空の鳥など、各種の生きものがはいっていた。 一三そして声が彼に聞
た た
えてきた、
﹁ペテロよ。立って、それらをほふって食べなさい﹂。 一四ペテロは
い しゅ いま きよ けが
言った、
﹁主よ、それはできません。わたしは今までに、清くないもの、汚れ
なにひと た こえ ど め
たものは、何一つ食べたことがありません﹂。 一五すると、声が二度目にかかっ
かみ きよ い
てきた、
﹁神がきよめたものを、清くないなどと言ってはならない﹂。 一六こん
ど い もの てん ひ あ
なことが三度もあってから、その入れ物はすぐ天に引き上げられた。
み まぼろし こと しあん
一七 ペテロが、いま見た幻はなんの事だろうかと、ひとり思案にくれていると、
とき おく ひと いえ たず あ
ちょうどその時、コルネリオから送られた人たちが、シモンの家を尋ね当て
かどぐち た こえ よ
て、その門口に立っていた。 一八そして声をかけて、
﹁ペテロと呼ばれるシモン
と たず
というかたが、こちらにお泊まりではございませんか﹂と尋ねた。 一九ペテロ
まぼろし おも みたま い
はなおも幻について、思いめぐらしていると、御霊が言った、
﹁ごらんなさい、
にん ひと たず た した お
三人の人たちが、あなたを尋ねてきている。 二〇さあ、立って下に降り、ため
使徒行伝

かれ いっしょ で かれ
らわないで、彼らと一緒に出かけるがよい。わたしが彼らをよこしたのであ
ひと お い い
る﹂。 二一そこでペテロは、その人たちのところに降りて行って言った、
﹁わた

42
たず よう かれ
しがお尋ねのペテロです。どんなご用でおいでになったのですか﹂。 二二彼ら
こた ただ ひと かみ うやま ぜんこくみん こうかん も
は答えた、﹁正しい人で、神を敬い、ユダヤの全国民に好感を持たれている
ひゃくそつちょう いえ まね はなし うかが つ
百 卒 長 コルネリオが、あなたを家に招いてお話を伺うようにとのお告げを、
せい みつかい う まい かれ
聖なる御使から受けましたので、参りました﹂。 二三そこで、ペテロは、彼らを
むか と
迎えて泊まらせた。
よくじつ た かれ つ しゅっぱつ きょうだい すうにん
翌日、ペテロは立って、彼らと連れだって出 発した。ヨッパの兄 弟たち数人
いっしょ い つぎ ひ いっこう つ
も一緒に行った。 二四その次の日に、一行はカイザリヤに着いた。コルネリオ
しんぞく した ゆうじん よ あつ ま
は親族や親しい友人たちを呼び集めて、待っていた。 二五ペテロがいよいよ
とうちゃく でむか かれ あし ふ はい
到 着すると、コルネリオは出迎えて、彼の足もとにひれ伏して拝した。 二六す
かれ ひ おこ い た おな にんげん
るとペテロは、彼を引き起して言った、
﹁お立ちなさい。わたしも同じ人間で
とも はな い
す﹂。 二七それから共に話しながら、へやにはいって行くと、そこには、すでに
おお ひと あつ かれ い し
大ぜいの人が集まっていた。 二八ペテロは彼らに言った、﹁あなたがたが知っ
じん たこく ひと こうさい で い
ているとおり、ユダヤ人が他国の人と交際したり、出入りしたりすることは、
きん かみ にんげん きよ けが
禁じられています。ところが、神は、どんな人間をも清くないとか、汚れて
使徒行伝

い しめ まね
いるとか言ってはならないと、わたしにお示しになりました。 二九お招きにあ
とき すこ まい うかが
ずかった時、少しもためらわずに参ったのは、そのためなのです。そこで伺

43
まね
いますが、どういうわけで、わたしを招いてくださったのですか﹂。 三〇これに
たい こた か まえ じこく じたく
対してコルネリオが答えた、
﹁四日前、ちょうどこの時刻に、わたしが自宅で
ご ご じ いのり とつぜん かがや ころも き ひと まえ た もう
午後三時の祈をしていますと、突然、 輝いた衣を着た人が、前に立って申し
いのり き ほどこ かみ
ました、 三一﹃コルネリオよ、あなたの祈は聞きいれられ、あなたの施しは神
まえ ひと おく よ
のみ前におぼえられている。 三二そこでヨッパに人を送ってペテロと呼ばれ
まね ひと かわ うみぞ いえ と
るシモンを招きなさい。その人は皮なめしシモンの海沿いの家に泊まってい
さっそく よ くだ
る﹄。 三三それで、早速あなたをお呼びしたのです。ようこそおいで下さいま
いま しゅ つ のこ うかが
した。今わたしたちは、主があなたにお告げになったことを残らず伺おうと
かみ まえ で
して、みな神のみ前にまかり出ているのです﹂。
くち ひら い かみ ひと
三四 そこでペテロは口を開いて言った、﹁神は人をかたよりみないかたで、 三五
かみ うやま ぎ おこな もの こくみん う くだ
神を敬い義を行う者はどの国民でも受けいれて下さることが、ほんとうによ
かみ もの しゅ
くわかってきました。 三六あなたがたは、神がすべての者の主なるイエス・キ
へいわ ふくいん の つた こ おく くだ
リストによって平和の福音を宣べ伝えて、イスラエルの子らにお送り下さっ
みことば ぞん と のち
た御言をご存じでしょう。 三七それは、ヨハネがバプテスマを説いた後、ガリ
使徒行伝

はじ ぜんど ふくいん の かみ
ラヤから始まってユダヤ全土にひろまった福音を述べたものです。 三八神は
せいれい ちから そそ かみ とも
ナザレのイエスに聖霊と力とを注がれました。このイエスは、神が共におら

44
はたら あくま おさ ひとびと
れるので、よい働きをしながら、また悪魔に押えつけられている人々をこと
じゅんかい
ごとくいやしながら、巡 回されました。 三九わたしたちは、イエスがこうして
じん ち しょうにん
ユ ダ ヤ 人 の 地 や エ ル サ レ ム で な さ っ た す べ て の こ と の 証 人 で あ り ま す。
ひとびと き ころ かみ か
人々はこのイエスを木にかけて殺したのです。 四〇しかし神はイエスを三日
め ぜんぶ ひとびと しょうにん
目によみがえらせ、四一全部の人々にではなかったが、わたしたち証 人として
えら もの あらわ くだ
あ ら か じ め 選 ば れ た 者 た ち に 現 れ る よ う に し て 下 さ い ま し た。わ た し た ち
しにん なか ふっかつ のち とも いんしょく
は、イエスが死人の中から復活された後、共に飲 食しました。 四二それから、
じしん せいじゃ し しゃ しんぱんしゃ かみ さだ
イエスご自身が生者と死者との審判者として神に定められたかたであること
ひとびと の つた かみ めい
を、人々に宣べ伝え、またあかしするようにと、神はわたしたちにお命じに
よげんしゃ しん もの
なったのです。 四三預言者たちもみな、イエスを信じる者はことごとく、その
な つみ う
名によって罪のゆるしが受けられると、あかしをしています﹂。
ことば かた お き
四四 ペテロがこれらの言葉をまだ語り終えないうちに、それを聞いていたみん
ひと せいれい かつれい う しんじゃ
なの人たちに、聖霊がくだった。 四五割礼を受けている信者で、ペテロについ
ひと いほうじん せいれい たまもの そそ み おどろ
てきた人たちは、異邦人たちにも聖霊の賜物が注がれたのを見て、驚いた。 四
使徒行伝

かれ いげん かた かみ き
六 それは、彼らが異言を語って神をさんびしているのを聞いたからである。
い だ ひと おな せいれい
そこで、ペテロが言い出した、四﹁
七 この人たちがわたしたちと同じように聖霊

45
う かれ みず さず え
を受けたからには、彼らに水でバプテスマを授けるのを、だれがこばみ得よ
い ひとびと めい な
うか﹂。 四八こう言って、ペテロはその人々に命じて、イエス・キリストの名に
う かれ ねが すうじつ
よってバプテスマを受けさせた。それから、彼らはペテロに願って、なお数日
たいざい
のあいだ滞在してもらった。
第一一章
いほうじん かみ ことば う し と
一 さて、異邦人たちも神の言を受けいれたということが、使徒たちやユダヤに
きょうだい きこ のぼ
い る 兄 弟 た ち に 聞 え て き た。 二そ こ で ペ テ ロ が エ ル サ レ ム に 上 っ た と き、
かつれい おも もの かれ い かつれい ひと
割礼を重んじる者たちが彼をとがめて言った、 三﹁あなたは、割礼のない人た
い しょくじ とも くち
ちのところに行って、食事を共にしたということだが﹂。 四そこでペテロは口
ひら じゅんじょただ せつめい い まち いの
を開いて、 順 序 正しく説明して言った、 五﹁わたしがヨッパの町で祈ってい
ゆめごこち まぼろし み おお ぬの い もの よ
ると、夢心地になって幻を見た。大きな布のような入れ物が、四すみをつる
てん お ちゅうい み
されて、天から降りてきて、わたしのところにとどいた。 六注意して見つめて
使徒行伝

ちじょう あし の けもの は そら とり
いると、地上の四つ足、野の獣、這うもの、空の鳥などが、はいっていた。 七
こえ た た
それから声がして、﹃ペテロよ、立って、それらをほふって食べなさい﹄と、

46
い きこ い しゅ
わたしに言うのが聞えた。 八わたしは言った、
﹃主よ、それはできません。わ
いま きよ けが くち い いちど
たしは今までに、清くないものや汚れたものを口に入れたことが一度もござ
ど め てん こえ かみ
いません﹄。 九すると、二度目に天から声がかかってきた、
﹃神がきよめたもの
きよ い ど
を、清くないなどと言ってはならない﹄。 一〇こんなことが三度もあってから、
ぜんぶ てん ひ あ とき
全部のものがまた天に引き上げられてしまった。 一一ちょうどその時、カイザ
にん ひと と いえ つ
リヤからつかわされてきた三人の人が、わたしたちの泊まっていた家に着い
みたま かれ とも い い
た。 一二御霊がわたしに、ためらわずに彼らと共に行けと言ったので、ここに
にん きょうだい いっしょ で い いちどう ひと いえ
いる六人の兄 弟たちも、わたしと一緒に出かけて行き、一同がその人の家に
かれ みつかい かれ いえ あらわ ひと
はいった。 一三すると彼はわたしたちに、御使が彼の家に現れて、
﹃ヨッパに人
よ まね ひと
をやって、ペテロと呼ばれるシモンを招きなさい。 一四この人は、あなたとあ
ぜん か ぞ く すく ことば かた くだ つ しだい はな
なたの全家族とが救われる言葉を語って下さるであろう﹄と告げた次第を、話
かた だ せいれい さいしょ
してくれた。 一五そこでわたしが語り出したところ、聖霊が、ちょうど最初わ
うえ おな かれ うえ とき
たしたちの上にくだったと同じように、彼らの上にくだった。 一六その時わた
しゅ みず さず せいれい
しは、主が﹃ヨハネは水でバプテスマを授けたが、あなたがたは聖霊によっ
使徒行伝

う おお ことば おも だ
てバプテスマを受けるであろう﹄と仰せになった言葉を思い出した。 一七この
しゅ しん とき くだ おな たまもの
ように、わたしたちが主イエス・キリストを信じた時に下さったのと同じ賜物

47
かみ かれ あた もの
を、神が彼らにもお与えになったとすれば、わたしのような者が、どうして
かみ さまた ひとびと き だま
神を妨げることができようか﹂。 一八人々はこれを聞いて黙ってしまった。そ
かみ かみ いほうじん いのち くいあらた あた
れから神をさんびして、
﹁それでは神は、異邦人にも命にいたる悔 改めをお与

えになったのだ﹂と言った。
おこ はくがい ち ひとびと
一九 さて、ステパノのことで起った迫害のために散らされた人々は、ピニケ、ク
すす い じん い が い もの
プロ、アンテオケまでも進んで行ったが、ユダヤ人以外の者には、だれにも
みことば かた なか すうにん びと びと
御言を語っていなかった。 二〇ところが、その中に数人のクプロ人とクレネ人
い じん よ しゅ の
がいて、アンテオケに行ってからギリシヤ人にも呼びかけ、主イエスを宣べ
つた しゅ て かれ とも しん しゅ き え
伝えていた。 二一そして、主のみ手が彼らと共にあったため、信じて主に帰依
かず おお
するものの数が多かった。
きょうかい つた きょうかい
二二 このうわさがエルサレムにある教 会に伝わってきたので、 教 会はバルナ
かれ つ かみ み
バをアンテオケにつかわした。 二三彼は、そこに着いて、神のめぐみを見てよ
しゅ たい しんこう ゆ こころ も
ろこび、主に対する信仰を揺るがない心で持ちつづけるようにと、みんなの
もの はげ かれ せいれい しんこう み りっ ぱ ひと
者を励ました。 二四彼は聖霊と信仰とに満ちた立派な人であったからである。
使徒行伝

しゅ くわ ひとびと おお
こうして主に加わる人々が、大ぜいになった。 二五そこでバルナバはサウロを
さが で い かれ み つ
捜しにタルソへ出かけて行き、 二六彼を見つけたうえ、アンテオケに連れて

48
かえ ねん きょうかい あつ おお ひとびと
帰った。ふたりは、まる一年、ともどもに教 会で集まりをし、大ぜいの人々
おし はじ で し よ
を教えた。このアンテオケで初めて、弟子たちがクリスチャンと呼ばれるよ
うになった。
よげんしゃ
二七 そのころ、預言者たちがエルサレムからアンテオケにくだってきた。 二八
なか もの た せかいじゅう だい おこ
その中のひとりであるアガボという者が立って、世界中に大ききんが起るだ
みたま よげん はた てい とき おこ
ろうと、御霊によって預言したところ、果してそれがクラウデオ帝の時に起っ
で し ちから おう す きょうだい
た。 二九そこで弟子たちは、それぞれの力に応じて、ユダヤに住んでいる兄 弟
えんじょ おく き て
たちに援助を送ることに決めた。 三〇そして、それをバルナバとサウロとの手
たく ちょうろう おく
に託して、 長 老たちに送りとどけた。
第一二章
おう きょうかい もの あっぱく て
一 そのころ、ヘロデ王は教 会のある者たちに圧迫の手をのばし、 二ヨハネの
きょうだい き ころ じん い
兄 弟 ヤコブをつるぎで切り殺した。 三そして、それがユダヤ人たちの意にか
使徒行伝

み とら じょこうさい とき
なったのを見て、さらにペテロをも捕えにかかった。それは除酵祭の時のこ
とら ごく とう にん くみ へいそつ くみ ひ
とであった。 四ヘロデはペテロを捕えて獄に投じ、四人一組の兵卒四組に引

49
わた み は すぎこし まつり かれ みんしゅう まえ ひ
き渡して、見張りをさせておいた。過越の祭のあとで、彼を民 衆の前に引き
だ ごく い
出すつもりであったのである。 五こうして、ペテロは獄に入れられていた。
きょうかい かれ ねっしん いのり かみ
教 会では、彼のために熱心な祈が神にささげられた。
かれ ひ だ よる にじゅう くさり
六 ヘロデが彼を引き出そうとしていたその夜、ペテロは二重の鎖につながれ、
へいそつ あいだ お ねむ ばんぺい とぐち ごく み は
ふたりの兵卒の間に置かれて眠っていた。番兵たちは戸口で獄を見張ってい
とつぜん しゅ つかい た ひかり ごくない てら みつかい
た。 七すると、突然、主の使がそばに立ち、光が獄内を照した。そして御使は
ばら おこ はや お い
ペテロのわき腹をつついて起し、
﹁早く起きあがりなさい﹂と言った。すると
くさり かれ りょうて お みつかい おび
鎖が彼の両手から、はずれ落ちた。 八御使が﹁帯をしめ、くつをはきなさい﹂
い かれ うわぎ き
と言ったので、彼はそのとおりにした。それから﹁上着を着て、ついてきな
い で い かれ みつかい
さい﹂と言われたので、九ペテロはついて出て行った。彼には御使のしわざが
げんじつ かんが まぼろし み おも かれ だい
現実のこととは考えられず、ただ幻を見ているように思われた。 一〇彼らは第
だい えいしょ とお まち ぬ てつもん く
一、第二の衛所を通りすぎて、町に抜ける鉄門のところに来ると、それがひ
ひら で つうろ すす みつかい かれ
とりでに開いたので、そこを出て一つの通路に進んだとたんに、御使は彼を
はな さ とき い いま
離れ去った。 一一その時ペテロはわれにかえって言った、
﹁今はじめて、ほんと
使徒行伝

しゅ みつかい て
うのことがわかった。主が御使をつかわして、ヘロデの手から、またユダヤ
じん ま わざわい すく だ くだ
人たちの待ちもうけていたあらゆる災から、わたしを救い出して下さったの

50
だ﹂。
よ はは
一二 ペテロはこうとわかってから、マルコと呼ばれているヨハネの母マリヤの
いえ い いえ おお ひと あつ いの かれ もん と
家に行った。その家には大ぜいの人が集まって祈っていた。 一三彼が門の戸
じょちゅう とりつ で こえ
をたたいたところ、ロダという女 中が取次ぎに出てきたが、一四ペテロの声だ
よろこ もん いえ か こ かどぐち
とわかると、喜びのあまり、門をあけもしないで家に駆け込み、ペテロが門口
た ほうこく ひとびと き くる い
に立っていると報告した。 一五人々は﹁あなたは気が狂っている﹂と言ったが、
かのじょ じぶん い まちが い は かれ
彼女は自分の言うことに間違いはないと、言い張った。そこで彼らは﹁それ
みつかい い もん
では、ペテロの御使だろう﹂と言った。 一六しかし、ペテロが門をたたきつづ
かれ み おどろ
けるので、彼らがあけると、そこにペテロがいたのを見て驚いた。 一七ペテロ
て ふ かれ しず しゅ ごく かれ つ だ くだ しだい せつめい
は手を振って彼らを静め、主が獄から彼を連れ出して下さった次第を説明し、
きょうだい つた くだ い のこ
﹁このことを、ヤコブやほかの兄 弟たちに伝えて下さい﹂と言い残して、どこ
ところ で い
かほかの所へ出て行った。
よ あ へいそつ あいだ
一八 夜が明けると、兵卒たちの間に、ペテロはいったいどうなったのだろうと、
たい さわ おこ さが み
大 へ ん な 騒 ぎ が 起 っ た。 一九ヘ ロ デ は ペ テ ロ を 捜 し て も 見 つ か ら な い の で、
使徒行伝

ばんぺい と しら かれ しけい しょ めい
番兵たちを取り調べたうえ、彼らを死刑に処するように命じ、そして、ユダ
い たいざい
ヤからカイザリヤにくだって行って、そこに滞在した。

51
ひとびと いか ふれ いちどう
二〇 さて、ツロとシドンとの人々は、ヘロデの怒りに触ていたので、一同うち
おう おう じじゅうかん と わかい いらい
そろって王をおとずれ、王の侍従官ブラストに取りいって、和解かたを依頼
かれ ちほう おう くに しょくりょう え さだ
した。彼らの地方が、王の国から食 糧を得ていたからである。 二一定められ
ひ おうふく おうざ かれ えんぜつ
た日に、ヘロデは王服をまとって王座にすわり、彼らにむかって演説をした。
あつ ひとびと かみ こえ にんげん こえ さけ
二二 集まった人々は、
﹁これは神の声だ、人間の声ではない﹂と叫びつづけた。
しゅ つかい かれ う かみ えいこう き
二三 するとたちまち、主の使が彼を打った。神に栄光を帰することをしなかっ
かれ むし いき た
たからである。彼は虫にかまれて息が絶えてしまった。
しゅ ことば さか い
二四 こうして、主の言はますます盛んにひろまって行った。
にんむ はた よ
二五 バルナバとサウロとは、その任務を果したのち、マルコと呼ばれていたヨ
つ かえ
ハネを連れて、エルサレムから帰ってきた。
第一三章
きょうかい よ
一 さて、アンテオケにある教 会には、バルナバ、ニゲルと呼ばれるシメオン、
使徒行伝

びと りょうしゅ ちきょうだい よげんしゃ


クレネ人ルキオ、領 主 ヘロデの乳兄弟マナエン、およびサウロなどの預言者
きょうし いちどう しゅ れいはい だんじき せいれい
や教師がいた。 二一同が主に礼拝をささげ、断食をしていると、聖霊が﹁さあ、

52
せいべつ かれ さず しごと
バルナバとサウロとを、わたしのために聖別して、彼らに授けておいた仕事
あた つ いちどう だんじき いのり て
に当らせなさい﹂と告げた。 三そこで一同は、断食と祈とをして、手をふたり
うえ のち しゅっぱつ
の上においた後、 出 発させた。
せいれい おく だ ふね
四 ふたりは聖霊に送り出されて、セルキヤにくだり、そこから舟でクプロに
わた つ じん しょかいどう かみ ことば の
渡った。 五そしてサラミスに着くと、ユダヤ人の諸会堂で神の言を宣べはじ
かれ たす て つ しまぜんたい じゅんかい
めた。彼らはヨハネを助け手として連れていた。 六島全体を巡 回して、パポ
い じん まじゅつ し よげんしゃ
スまで行ったところ、そこでユダヤ人の魔術師、バルイエスというにせ預言者
で あ かれ ち ほ う そうとく で い
に出会った。 七彼は地方総督セルギオ・パウロのところに出入りをしていた。
そうとく けんめい ひと まね かみ ことば き
この総督は賢明な人であって、バルナバとサウロとを招いて、神の言を聞こ
まじゅつ し かれ な まじゅつ し い そうとく
うとした。 八ところが魔術師エルマ︵彼の名は﹁魔術師﹂との意︶は、総督を
しんこう じゃ ま な
信仰からそらそうとして、しきりにふたりの邪魔をした。 九サウロ、またの名
せいれい み かれ い
はパウロ、は聖霊に満たされ、彼をにらみつけて 一〇 言った、
﹁ああ、あらゆる
いつわ じゃあく あくま こ ただ てき しゅ
偽りと邪悪とでかたまっている悪魔の子よ、すべて正しいものの敵よ。主の
みち ま や み しゅ て うえ
まっすぐな道を曲げることを止めないのか。 一一見よ、主のみ手がおまえの上
使徒行伝

およ めくら とうぶん ひ ひかり み


に及んでいる。おまえは盲になって、当分、日の光が見えなくなるのだ﹂。た
かれ かれ て て
ちまち、かすみとやみとが彼にかかったため、彼は手さぐりしながら、手を

53
ひ ひと さが そうとく で き ご と み しゅ おしえ
引いてくれる人を捜しまわった。 一二総督はこの出来事を見て、主の教にすっ
おどろ しん
かり驚き、そして信じた。
いっこう ふなで わた
一三 パウロとその一行は、パポスから船出して、パンフリヤのペルガに渡った。
いっこう み ひ かえ
ここでヨハネは一行から身を引いて、エルサレムに帰ってしまった。 一四しか
すす い あんそくにち
しふたりは、ペルガからさらに進んで、ピシデヤのアンテオケに行き、安息日
かいどう せき つ りっぽう よ げ ん しょ ろうどく
に 会堂 に は い っ て 席 に 着 い た。 一 五 律法 と 預言書 の 朗読 が あ っ た の ち、
かいどうづかさ かれ ひと きょうだい
会 堂 司たちが彼らのところに人をつかわして、
﹁兄 弟たちよ、もしあなたが
ひとびと なに しょうれい ことば
たのうち、どなたか、この人々に何か奨 励の言葉がありましたら、どうぞお
はな くだ い た て ふ
話し下さい﹂と言わせた。 一六そこでパウロが立ちあがり、手を振りながら

言った。
ひと かみ うやま き くだ
﹁イスラエルの人たち、ならびに神を敬うかたがたよ、お聞き下さい。 一七この
たみ かみ せんぞ えら ち たいざいちゅう
民イスラエルの神は、わたしたちの先祖を選び、エジプトの地に滞在 中、こ
たみ おお うで たか あ かれ ち みちび だ
の民を大いなるものとし、み腕を高くさし上げて、彼らをその地から導き出
やく ねん あらの かれ
された。 一八そして約四十年にわたって、荒野で彼らをはぐくみ、一九カナンの
使徒行伝

ち い みんぞく う ほろ ち かれ ゆず あた
地では七つの異民族を打ち滅ぼし、その地を彼らに譲り与えられた。 二〇それ
やく ねん ねんげつ のち かみ びと
らのことが約四百五十年の年月にわたった。その後、神はさばき人たちをお

54
よげんしゃ とき およ とき ひとびと おう ようきゅう
つかわしになり、預言者サムエルの時に及んだ。 二一その時、人々が王を要 求
かみ ぞく ひと こ ねんかん かれ
したので、神はベニヤミン族の人、キスの子サウロを四十年間、彼らにおつ
かみ しりぞ た おう
かわしになった。 二二それから神はサウロを退け、ダビデを立てて王とされた
かれ こ み かれ
が、彼についてあかしをして、
﹃わたしはエッサイの子ダビデを見つけた。彼
こころ ひと おも じっこう
はわたしの心にかなった人で、わたしの思うところを、ことごとく実行して
い かみ やくそく しそん
くれるであろう﹄と言われた。 二三神は約束にしたがって、このダビデの子孫
なか すくいぬし おく まえ
の中から救 主 イエスをイスラエルに送られたが、二四そのこられる前に、ヨハ
たみ くいあらた の つた
ネがイスラエルのすべての民に悔 改めのバプテスマを、あらかじめ宣べ伝え
いっしょう こうてい おわ あた い
ていた。 二五ヨハネはその一 生の行程を終ろうとするに当って言った、
﹃わた
かんが もの
しは、あなたがたが考えているような者ではない。しかし、わたしのあとか
く ぬ ね
ら来るかたがいる。わたしはそのくつを脱がせてあげる値うちもない﹄。 二六
きょうだい しそん みな なか かみ うやま ひと
兄 弟たち、アブラハムの子孫のかたがた、ならびに皆さんの中の神を敬う人
すくい ことば おく
たちよ。この救の言葉はわたしたちに送られたのである。 二七エルサレムに
す ひとびと しどうしゃ みと けい しょ
住む人々やその指導者たちは、イエスを認めずに刑に処し、それによって、
使徒行伝

あんそくにち よ よげんしゃ ことば じょうじゅ し あた りゆう


安息日ごとに読む預言者の言葉が成 就した。 二八また、なんら死に当る理由
み きょうよう ころ
が見いだせなかったのに、ピラトに強 要してイエスを殺してしまった。 二九

55
か みな と ひとびと
そして、イエスについて書いてあることを、皆なし遂げてから、人々はイエ
き と はか ほうむ かみ しにん なか
スを木から取りおろして墓に葬 った。 三〇しかし、神はイエスを死人の中か
いっしょ
ら、よみがえらせたのである。 三一イエスは、ガリラヤからエルサレムへ一緒
のぼ ひと いくにち あらわ かれ いま ひとびと たい
に上った人たちに、幾日ものあいだ現れ、そして、彼らは今や、人々に対し
しょうにん かみ せんぞ たい
てイエスの証 人となっている。 三二わたしたちは、神が先祖たちに対してな
やくそく の つた かみ
された約束を、ここに宣べ伝えているのである。 三三神は、イエスをよみがえ
しそん やくそく はた しへん だい
らせて、わたしたち子孫にこの約束を、お果しになった。それは詩篇の第二
へん こ う
篇にも、
﹃あなたこそは、わたしの子。きょう、わたしはあなたを生んだ﹄と
か かみ しにん なか
書いてあるとおりである。 三四また、神がイエスを死人の中からよみがえらせ
く は
て、いつまでも朽ち果てることのないものとされたことについては、
﹃わたし
やくそく たし せい しゅくふく さず い
は、ダビデに約束した確かな聖なる祝 福を、あなたがたに授けよう﹄と言わ
か しょ い せいじゃ く
れた。 三五だから、ほかの箇所でもこう言っておられる、
﹃あなたの聖者が朽ち
は ゆる じじつ
果てるようなことは、お許しにならないであろう﹄。 三六事実、ダビデは、その
じだい ひとびと かみ むね つか ねむ せんぞ
時代の人々に神のみ旨にしたがって仕えたが、やがて眠りにつき、先祖たち
使徒行伝

なか くわ く は かみ
の中に加えられて、ついに朽ち果ててしまった。 三七しかし、神がよみがえら
く は きょうだい
せたかたは、朽ち果てることがなかったのである。 三八だから、 兄 弟たちよ、

56
こと しょうち つみ
こ の 事 を 承知 し て お く が よ い。す な わ ち、こ の イ エ ス に よ る 罪 の ゆ る し の
ふくいん いま の つた りっぽう
福音が、今やあなたがたに宣べ伝えられている。そして、モーセの律法では
ぎ こと しん もの
義とされることができなかったすべての事についても、三九信じる者はもれな
ぎ よげんしゃ しょ
く、イエスによって義とされるのである。 四〇だから預言者たちの書にかいて
つぎ み おこ き
ある次のようなことが、あなたがたの身に起らないように気をつけなさい。
み あなど もの おどろ ほろ さ
四一 ﹃見よ、 侮る者たちよ。 驚け、そして滅び去れ。
じだい こと
わたしは、あなたがたの時代に一つの事をする。
ひと せつめい き
それは、人がどんなに説明して聞かせても、
しん こと
あなたがたのとうてい信じないような事なのである﹄﹂。
かいどう で とき ひとびと つぎ あんそくにち おな はなし
四二 ふたりが会堂を出る時、人々は次の安息日にも、これと同じ話をしてくれ
ねが しゅうかい おわ おお
るようにと、しきりに願った。 四三そして集 会が終ってからも、大ぜいのユダ
じん しんじんぶか かいしゅうしゃ
ヤ人や信心深い改 宗 者たちが、パウロとバルナバとについてきたので、ふた
かれ ひ かみ と
りは、彼らが引きつづき神のめぐみにとどまっているようにと、説きすすめ
た。
使徒行伝

つぎ あんそくにち ぜんし かみ ことば き あつ


四四 次の安息日には、ほとんど全市をあげて、神の言を聞きに集まってきた。 四
じん ぐんしゅう み おも かた
五 するとユダヤ人たちは、その群 衆を見てねたましく思い、パウロの語るこ

57
くち はんたい だいたん かた かみ ことば
とに口ぎたなく反対した。 四六パウロとバルナバとは大胆に語った、﹁神の言
かた つた
は、まず、あなたがたに語り伝えられなければならなかった。しかし、あな
しりぞ じぶんじしん えいえん いのち もの
たがたはそれを退け、自分自身を永遠の命にふさわしからぬ者にしてしまっ
ほうこう いほうじん ほう い
たから、さあ、わたしたちはこれから方向をかえて、異邦人たちの方に行く
しゅ めい
のだ。 四七主はわたしたちに、こう命じておられる、
た いほうじん ひかり
﹃わたしは、あなたを立てて異邦人の光とした。
ち はて すくい
あなたが地の果までも救をもたらすためである﹄﹂。
いほうじん き しゅ みことば
四八 異邦人たちはこれを聞いてよろこび、主の御言をほめたたえてやまなかっ
えいえん いのち さだ もの しん
た。そして、永遠の命にあずかるように定められていた者は、みな信じた。 四
しゅ みことば ち ほ う ぜんたい い
九 こうして、主の御言はこの地方全体にひろまって行った。 五〇ところが、ユ
じん しんじんぶか き ふ じ ん まち ゆうりょくしゃ せんどう
ダヤ人たちは、信心深い貴婦人たちや町の有 力 者たちを煽動して、パウロと
はくがい ちほう お だ かれ
バルナバを迫害させ、ふたりをその地方から追い出させた。 五一ふたりは、彼
む あし はら おと い で し
らに向けて足のちりを払い落して、イコニオムへ行った。 五二弟子たちは、ま
よろこ せいれい み
すます喜びと聖霊とに満たされていた。
使徒行伝

58
第一四章
おな じん かいどう かた
一 ふ た り は、イ コ ニ オ ム で も 同 じ よ う に ユ ダ ヤ 人 の 会堂 に は い っ て 語 っ た
けっ か じん じん おお しん しん
結果、ユダヤ人やギリシヤ人が大ぜい信じた。 二ところが、信じなかったユダ
じん いほうじん きょうだい たい あくい
ヤ人たちは異邦人たちをそそのかして、 兄 弟たちに対して悪意をいだかせ
なが きかん す だいたん しゅ
た。 三それにもかかわらず、ふたりは長い期間をそこで過ごして、大胆に主の
かた しゅ かれ て きせき おこな
ことを語った。主は、彼らの手によってしるしと奇跡とを行わせ、そのめぐ
ことば まち ひとびと は わか ひと
みの言葉をあかしされた。 四そこで町の人々が二派に分れ、ある人たちはユ
じん がわ ひと し と がわ とき いほうじん
ダヤ人の側につき、ある人たちは使徒の側についた。 五その時、異邦人やユダ
じん やくにん いっしょ はんたいうんどう おこ し と いし
ヤ人が役人たちと一緒になって反対運動を起し、使徒たちをはずかしめ、石
う き まちまち
で打とうとしたので、 六ふたりはそれと気づいて、ルカオニヤの町々、ルステ
ふきん ち ひ ふくいん つた
ラ、デルベおよびその附近の地へのがれ、 七そこで引きつづき福音を伝えた。
あし ひと かれ うま
八 ところが、ルステラに足のきかない人が、すわっていた。彼は生れながらの
あし ある けいけん まった ひと かた き
足なえで、歩いた経験が全くなかった。 九この人がパウロの語るのを聞いて
使徒行伝

かれ み しんこう かれ みと
いたが、パウロは彼をじっと見て、いやされるほどの信仰が彼にあるのを認
おおごえ じぶん あし た い かれ
め、 一〇大声で﹁自分の足で、まっすぐに立ちなさい﹂と言った。すると彼は

59
おど あ ある だ ぐんしゅう み こえ は
踊り上がって歩き出した。 一一群 衆はパウロのしたことを見て、声を張りあ
ちほう ご かみがみ にんげん すがた
げ、ルカオニヤの地方語で、
﹁神々が人間の姿をとって、わたしたちのところ
くだ さけ かれ よ
にお下りになったのだ﹂と叫んだ。 一二彼らはバルナバをゼウスと呼び、パウ
かた ひと かれ よ こうがい
ロはおもに語る人なので、彼をヘルメスと呼んだ。 一三そして、郊外にあるゼ
しんでん さいし ぐんしゅう とも ぎせい おも お うし
ウス神殿の祭司が、群 衆と共に、ふたりに犠牲をささげようと思って、雄牛
すうとう はなわ もんぜん も し と
数頭と花輪とを門前に持ってきた。 一四ふたりの使徒バルナバとパウロとは、
き じぶん うわぎ ひ さ ぐんしゅう なか と こ い さけ
これを聞いて自分の上着を引き裂き、群 衆の中に飛び込んで行き、叫んで 一五
い みな こと
言った、
﹁皆さん、なぜこんな事をするのか。わたしたちとても、あなたがた
おな にんげん ぐ
と同じような人間である。そして、あなたがたがこのような愚にもつかぬも
す てん ち うみ なか つく い
のを捨てて、天と地と海と、その中のすべてのものをお造りになった生ける
かみ た かえ ふくいん と かみ す さ
神に立ち帰るようにと、福音を説いているものである。 一六神は過ぎ去った
じだい くにぐに ひと みち い
時代には、すべての国々の人が、それぞれの道を行くままにしておかれたが、
じぶん
一七 それでも、ご自分のことをあかししないでおられたわけではない。すなわ
てん あめ ふ みの きせつ あた しょくもつ よろこ
ち、あなたがたのために天から雨を降らせ、実りの季節を与え、食 物と喜び
使徒行伝

こころ み あた
とで、あなたがたの心を満たすなど、いろいろのめぐみをお与えになってい
い ぐんしゅう じぶん
るのである﹂。 一八こう言って、ふたりは、やっとのことで、 群 衆が自分たち

60
ぎせい おも とど
に犠牲をささげるのを、思い止まらせた。
じん お
一九 ところが、あるユダヤ人たちはアンテオケやイコニオムから押しかけてき
ぐんしゅう なかま ひ い いし う し おも
て、群 衆を仲間に引き入れたうえ、パウロを石で打ち、死んでしまったと思っ
かれ まち そと ひ だ で し と かこ
て、彼を町の外に引きずり出した。 二〇しかし、弟子たちがパウロを取り囲ん
あいだ かれ お まち い よくじつ
でいる間に、彼は起きあがって町にはいって行った。そして翌日には、バル
いっしょ で まち ふくいん つた おお
ナバと一緒にデルベにむかって出かけた。 二一その町で福音を伝えて、大ぜい
ひと で し のち まちまち かえ い
の人を弟子とした後、ルステラ、イコニオム、アンテオケの町々に帰って行
で し ちから しんこう も しょうれい
き、 二二弟子たちを力づけ、信仰を持ちつづけるようにと奨 励し、
﹁わたした
かみ くに おお くなん へ かた
ちが神の国にはいるのには、多くの苦難を経なければならない﹂と語った。 二
きょうかい かれ ちょうろう にんめい だんじき いの かれ
三 また教 会ごとに彼らのために長 老たちを任命し、断食をして祈り、彼らを
しん しゅ
その信じている主にゆだねた。
つうか
二四 それから、ふたりはピシデヤを通過してパンフリヤにきたが、二五ペルガで
みことば かた のち ふね かえ
御言を語った後、アタリヤにくだり、 二六そこから舟でアンテオケに帰った。
かれ いま おわ はたら かみ しゅくふく う おく だ
彼らが今なし終った働きのために、神の祝 福を受けて送り出されたのは、こ
使徒行伝

かれ とうちゃくそうそう きょうかい ひとびと よ あつ


の ア ン テ オ ケ か ら で あ っ た。 二七彼 ら は 到 着 早々、 教 会 の 人々 を 呼 び 集 め
かみ かれ とも くだ かずかず しんこう もん いほうじん
て、神が彼らと共にいてして下さった数々のこと、また信仰の門を異邦人に

61
ひら くだ ほうこく あいだ
開いて下さったことなどを、報告した。 二八そして、ふたりはしばらくの間、
で し いっしょ す
弟子たちと一緒に過ごした。
第一五章
ひと くだ きょうだい
一 さて、ある人たちがユダヤから下ってきて、 兄 弟たちに﹁あなたがたも、
かんれい かつれい う すく と
モーセの慣例にしたがって割礼を受けなければ、救われない﹂と、説いてい
かれ あいだ すく ふんきゅう そうろん
た。 二そこで、パウロやバルナバと彼らとの間に、少なからぬ紛 糾と争論とが
しょう すうにん もの のぼ し と
生じたので、パウロ、バルナバそのほか数人の者がエルサレムに上り、使徒
ちょうろう もんだい きょうぎ かれ きょうかい
たちや長 老たちと、この問題について協議することになった。 三彼らは教 会
ひとびと みおく みち いほうじん
の人々に見送られ、ピニケ、サマリヤをとおって、道すがら、異邦人たちの
かいしゅう もよう せつめい きょうだい おお よろこ
改 宗の模様をくわしく説明し、すべての兄 弟たちを大いに喜ばせた。 四エル
つ かれ きょうかい し と ちょうろう むか かみ かれ
サレムに着くと、彼らは教 会と使徒たち、長 老たちに迎えられて、神が彼ら
とも ほうこく は
と共にいてなされたことを、ことごとく報告した。 五ところが、パリサイ派か
使徒行伝

しんこう ひと た いほうじん かつれい ほどこ


ら信仰にはいってきた人たちが立って、
﹁異邦人にも割礼を施し、またモーセ
りっぽう まも しゅちょう
の律法を守らせるべきである﹂と主 張した。

62
し と ちょうろう もんだい しんぎ あつ
六 そこで、使徒たちや長 老たちが、この問題について審議するために集まっ
はげ そうろん のち た い きょうだい しょうち
た。 七激しい争論があった後、ペテロが立って言った、
﹁兄 弟たちよ、ご承知
いほうじん くち ふくいん ことば き しん かみ
のとおり、異邦人がわたしの口から福音の言葉を聞いて信じるようにと、神
はじ しょくん なか えら
は初めのころに、諸君の中からわたしをお選びになったのである。 八そして、
ひと こころ ぞん かみ せいれい たま どうよう かれ たま
人の心をご存じである神は、聖霊をわれわれに賜わったと同様に彼らにも賜
かれ たい しんこう かれ こころ
わって、彼らに対してあかしをなし、 九また、その信仰によって彼らの心をき
かれ あいだ わ
よめ、われわれと彼らとの間に、なんの分けへだてもなさらなかった。 一〇し
しょくん いま せんぞ じしん お
かるに、諸君はなぜ、今われわれの先祖もわれわれ自身も、負いきれなかっ
で し くび かみ こころ たし しゅ
たくびきをあの弟子たちの首にかけて、神を試みるのか。 一一確かに、主イエ
すく しん かれ どうよう
スのめぐみによって、われわれは救われるのだと信じるが、彼らとても同様
である﹂。
ぜんかいしゅう だま かれ
一二 すると、全 会 衆は黙ってしまった。それから、バルナバとパウロとが、彼
いほうじん あいだ かみ おこな かずかず きせき せつめい
らをとおして異邦人の間に神が行われた数々のしるしと奇跡のことを、説明
き かた お のち おう の
するのを聞いた。 一三ふたりが語り終えた後、ヤコブはそれに応じて述べた、
使徒行伝

きょうだい いけん き かみ はじ いほうじん


﹁兄 弟たちよ、わたしの意見を聞いていただきたい。 一四神が初めに異邦人た
かえり なか み な お たみ えら だ しだい
ちを顧みて、その中から御名を負う民を選び出された次第は、シメオンがす

63
せつめい よげんしゃ ことば いっ ち
でに説明した。 一五預言者たちの言葉も、それと一致している。すなわち、こ

う書いてある、
のち かえ
﹃その後、わたしは帰ってきて、
一六
たお まくや た
倒れたダビデの幕屋を建てかえ、
か しょ しゅうり
くずれた箇所を修理し、
た なお
それを立て直そう。
のこ ひとびと
残っている人々も、
一七
な とな いほうじん
わたしの名を唱えているすべての異邦人も、
しゅ たず もと
主を尋ね求めるようになるためである。
よ はじ こと し しゅ おお
一八 世の初めからこれらの事を知らせておられる主が、こう仰せになっ
た﹄。
いけん いほうじん なか かみ き え ひと
一九 そこで、わたしの意見では、異邦人の中から神に帰依している人たちに、わ
ぐうぞう そな けが もの ふひんこう し
ずらいをかけてはいけない。 二〇ただ、偶像に供えて汚れた物と、不品行と、絞
ころ ち さ かれ か おく
め殺したものと、血とを、避けるようにと、彼らに書き送ることにしたい。 二
使徒行伝

ふる じだい まち りっぽう の つた もの あんそくにち


一 古い時代から、どの町にもモーセの律法を宣べ伝える者がいて、安息日ごと
しょかいどう ろうどく
にそれを諸会堂で朗読するならわしであるから﹂。

64
し と ちょうろう ぜんきょうかい きょうぎ すえ たがい なか ひとびと
二二 そこで、使徒たちや長 老たちは、全 教 会と協議した末、お互の中から人々
えら とも はけん き えら
を選んで、パウロやバルナバと共に、アンテオケに派遣することに決めた。選
きょうだい
ばれたのは、バルサバというユダとシラスとであったが、いずれも兄 弟たち
あいだ おも ひと ひと たく しょめん
の間で重んじられていた人たちであった。 二三この人たちに託された書面は
こうである。
きょうだい し と ちょうろう
﹁あなたがたの兄 弟である使徒および長 老たちから、アンテオケ、シリヤ、キ
いほうじん きょうだい おく い
リキヤにいる異邦人の兄 弟がたに、あいさつを送る。 二四こちらから行った
もの し じ い
ある者たちが、わたしたちからの指示もないのに、いろいろなことを言って、
さわ こころ みだ つた き
あなたがたを騒がせ、あなたがたの心を乱したと伝え聞いた。 二五そこで、わ
ひとびと えら あい とも
たしたちは人々を選んで、愛するバルナバおよびパウロと共に、あなたがた
はけん しゅうぎいっけつ しゅ
のもとに派遣することに、衆議一決した。 二六このふたりは、われらの主イエ
な いのち な だ ひとびと かれ とも
ス・キリストの名のために、その命を投げ出した人々であるが、 二七彼らと共
はけん しだい ひと おな
に、ユダとシラスとを派遣する次第である。この人たちは、あなたがたに、同
しゅ し こうとう つた せいれい
じ趣旨のことを、口頭でも伝えるであろう。 二八すなわち、聖霊とわたしたち
使徒行伝

つぎ ひつよう じ こ う ふたん お
とは、次の必要事項のほかは、どんな負担をも、あなたがたに負わせないこ
き ぐうぞう そな ち し ころ
と に 決 め た。 二 九そ れ は、偶像 に 供 え た も の と、血 と、絞 め 殺 し た も の と、

65
ふひんこう さ とお
不品行とを、避けるということである。これらのものから遠ざかっておれば、
いじょう
それでよろしい。以上﹂。
いっこう ひとびと みおく くだ い かいしゅう あつ
三〇 さて、一行は人々に見送られて、アンテオケに下って行き、会 衆を集めて、
しょめん てわた ひとびと よ すす ことば
その書面を手渡した。 三一人々はそれを読んで、その勧めの言葉をよろこん
とも よげんしゃ おお ことば
だ。 三 二ユ ダ と シ ラ ス と は 共 に 預言者 で あ っ た の で、多 く の 言葉 を も っ て
きょうだい はげ ちから とき す
兄 弟たちを励まし、また力づけた。 三三ふたりは、しばらくの時を、そこで過
のち きょうだい たび へいあん いの みおく う じぶん はけん
ごした後、兄 弟たちから、旅の平安を祈られて、見送りを受け、自分らを派遣
ひとびと かえ い ひ
した人々のところに帰って行った。︹ 三四 しかし、シラスだけは、引きつづきと
たいざい
どまることにした。︺三五パウロとバルナバとはアンテオケに滞在をつづけて、
おお ひと とも しゅ ことば おし の つた
ほかの多くの人たちと共に、主の言葉を教えかつ宣べ伝えた。
いくにち のち い まえ しゅ ことば つた
三六 幾日かの後、パウロはバルナバに言った、
﹁さあ、前に主の言葉を伝えたす
まちまち きょうだい ほうもん み
べての町々にいる兄 弟たちを、また訪問して、みんながどうしているかを見
いっしょ
てこようではないか﹂。 三七そこで、バルナバはマルコというヨハネも一緒に
つ い まえ いっこう
連れて行くつもりでいた。 三八しかし、パウロは、前にパンフリヤで一行から
使徒行伝

はな はたら とも もの つ い かんが
離れて、働きを共にしなかったような者は、連れて行かないがよいと考えた。
げきろん おこ けっ か たがい わか わか
三九 こうして激論が起り、その結果ふたりは互に別れ別れになり、バルナバは

66
つ わた い えら きょうだい
マルコを連れてクプロに渡って行き、四〇パウロはシラスを選び、兄 弟たちか
しゅ めぐ で はっ
ら主の恵みにゆだねられて、出発した。 四一そしてパウロは、シリヤ、キリキ
ちほう しょきょうかい ちから
ヤの地方をとおって、諸 教 会を力づけた。
第一六章
かれ い つぎ い
一 それから、彼はデルベに行き、次にルステラに行った。そこにテモテという
な で し しんじゃ ふじん はは じん ちち
名の弟子がいた。信者のユダヤ婦人を母とし、ギリシヤ人を父としており、 二
きょうだい あいだ ひょうばん じんぶつ
ルステラとイコニオムの兄 弟たちの間で、評 判のよい人物であった。 三パウ
つ い ちほう じん てまえ
ロはこのテモテを連れて行きたかったので、その地方にいるユダヤ人の手前、
かれ かつれい う かれ ちち じん し
まず彼に割礼を受けさせた。彼の父がギリシヤ人であることは、みんな知っ
かれ とお まちまち し と
ていたからである。 四それから彼らは通る町々で、エルサレムの使徒たちや
ちょうろう と き じこう まも ひとびと わた
長 老たちの取り決めた事項を守るようにと、人々にそれを渡した。 五こうし
しょきょうかい しんこう つよ ひ かず ま
て、諸 教 会はその信仰を強められ、日ごとに数を増していった。
使徒行伝

かれ みことば かた せいれい きん
六 それから彼らは、アジヤで御言を語ることを聖霊に禁じられたので、フルギ
ちほう い
ヤ・ガラテヤ地方をとおって行った。 七そして、ムシヤのあたりにきてから、

67
すす い みたま ゆる
ビテニヤに進んで行こうとしたところ、イエスの御霊がこれを許さなかった。
つうか くだ い よる
八 それで、ムシヤを通過して、トロアスに下って行った。 九ここで夜、パウロ
まぼろし み びと た わた
は一つの幻を見た。ひとりのマケドニヤ人が立って、﹁マケドニヤに渡ってき
たす くだ かれ こんがん
て、わたしたちを助けて下さい﹂と、彼に懇願するのであった。 一〇パウロが
まぼろし み とき かれ ふくいん つた かみ まね
この幻を見た時、これは彼らに福音を伝えるために、神がわたしたちをお招
かくしん わた い
きになったのだと確信して、わたしたちは、ただちにマケドニヤに渡って行
くことにした。
ふなで ちょっこう よくじつ
一一 そこで、わたしたちはトロアスから船出して、サモトラケに直 航し、翌日
つ い
ネアポリスに着いた。 一二そこからピリピへ行った。これはマケドニヤのこ
ち ほ う だい まち しょくみん と し まち すうじつかんたいざい
の地方第一の町で、植 民 都市であった。わたしたちは、この町に数日間滞在
あんそくにち まち もん で いの ば おも
した。 一三ある安息日に、わたしたちは町の門を出て、祈り場があると思って、
かわ い あつ ふじん はなし
川のほとりに行った。そして、そこにすわり、集まってきた婦人たちに話を
し むらさきぬの しょうにん かみ うやま
し た。 一四と こ ろ が、テ ア テ ラ 市 の 紫 布 の 商 人 で、神 を 敬 う ル デ ヤ と い う
ふじん き しゅ かのじょ こころ ひら かた みみ かたむ
婦人が聞いていた。主は彼女の心を開いて、パウロの語ることに耳を傾けさ
使徒行伝

ふじん かぞく とも う
せた。 一五そして、この婦人もその家族も、共にバプテスマを受けたが、その
とき かのじょ しゅ しん もの おも
時、彼女は﹁もし、わたしを主を信じる者とお思いでしたら、どうぞ、わた

68
いえ と くだ こんもう い
しの家にきて泊まって下さい﹂と懇望し、しいてわたしたちをつれて行った。
とき いの ば い とちゅう うらな れい おんな ど れ い
一六 ある時、わたしたちが、祈り場に行く途中、占いの霊につかれた女 奴隷に
で あ かのじょ うらな しゅじん おお りえき え もの
出会った。彼女は占いをして、その主人たちに多くの利益を得させていた者
おんな お ひと
である。 一七この女が、パウロやわたしたちのあとを追ってきては、
﹁この人た
たか かみ しもべ すくい みち つた さけ
ちは、いと高き神の僕たちで、あなたがたに救の道を伝えるかただ﹂と、叫
だ いくにちかん
び出すのであった。 一八そして、そんなことを幾日間もつづけていた。パウロ
こま れい な めい
は困りはてて、その霊にむかい﹁イエス・キリストの名によって命じる。そ
おんな で い い しゅんかん れい おんな で い
の女から出て行け﹂と言った。すると、その瞬 間に霊が女から出て行った。
かのじょ しゅじん じぶん りえき え のぞ た み
一九 彼女の主人たちは、自分らの利益を得る望みが絶えたのを見て、パウロと
とら やくにん ひ わた ひろば ひ い
シラスとを捕え、役人に引き渡すため広場に引きずって行った。 二〇それか
ちょうかん まえ ひ だ うった ひと じん
ら、ふたりを長 官たちの前に引き出して訴えた、
﹁この人たちはユダヤ人であ
まち みだ じん さいよう じっこう
りまして、わたしたちの町をかき乱し、二一わたしたちローマ人が、採用も実行
ふうしゅう せんでん ぐんしゅう た
もしてはならない風 習を宣伝しているのです﹂。 二二 群 衆もいっせいに立っ
せ ちょうかん うわぎ と
て、ふたりを責めたてたので、長 官たちはふたりの上着をはぎ取り、むちで
使徒行伝

う めい なに ど くわ ごく
打つことを命じた。 二三それで、ふたりに何度もむちを加えさせたのち、獄に
い ごくり ばん めい ごくり げんめい う
入れ、獄吏にしっかり番をするようにと命じた。 二四獄吏はこの厳命を受けた

69
おく ごくや い あし あし
ので、ふたりを奥の獄屋に入れ、その足に足かせをしっかとかけておいた。
ま よ な か かみ いの うた
二五 真夜中ごろ、パウロとシラスとは、神に祈り、さんびを歌いつづけたが、
しゅうじん みみ き とつぜん おお じ し ん おこ
囚 人たちは耳をすまして聞きいっていた。 二六ところが突然、大地震が起っ
ごく どだい ゆ うご と ぜんぶ ひら もの くさり と
て、獄の土台が揺れ動き、戸は全部たちまち開いて、みんなの者の鎖が解け
ごくり め ごく と ひら み
てしまった。 二七獄吏は目をさまし、獄の戸が開いてしまっているのを見て、
しゅうじん に だ おも ぬ じさつ
囚 人たちが逃げ出したものと思い、つるぎを抜いて自殺しかけた。 二八そこ
おおごえ い じがい みな
でパウロは大声をあげて言った、﹁自害してはいけない。われわれは皆ひとり
のこ ごくり て い うえ ごく か
残らず、ここにいる﹂。 二九すると、獄吏は、あかりを手に入れた上、獄に駆け
こ まえ ふ
込んできて、おののきながらパウロとシラスの前にひれ伏した。 三〇それか
そと つ だ い せんせい すく
ら、ふたりを外に連れ出して言った、﹁先生がた、わたしは救われるために、
なに い しゅ しん
何をすべきでしょうか﹂。 三一ふたりが言った、
﹁主イエスを信じなさい。そう
かぞく すく かれ かぞく
したら、あなたもあなたの家族も救われます﹂。 三二それから、彼とその家族
いちどう かみ ことば かた き かれ ま よ な か
一同とに、神の言を語って聞かせた。 三三彼は真夜中にもかかわらず、ふたり
ひ と う きず あら ば じぶん かぞく
を引き取って、その打ち傷を洗ってやった。そして、その場で自分も家族も、
使徒行伝

のこ う じぶん いえ あんない
ひとり残らずバプテスマを受け、 三四さらに、ふたりを自分の家に案内して
しょくじ かみ しん もの ぜん か ぞ く とも こころ よろこ
食事のもてなしをし、神を信じる者となったことを、全家族と共に心から喜

70
んだ。
よ あ ちょうかん けい り ひと しゃくほう
三五 夜が明けると、 長 官たちは警吏らをつかわして、﹁あの人たちを釈 放せ
い ごくり ことば つた い ちょうかん
よ﹂と言わせた。 三六そこで、獄吏はこの言葉をパウロに伝えて言った、
﹁長 官
しゃくほう つかい で
たちが、あなたがたを釈 放させるようにと、 使をよこしました。さあ、出て
ぶ じ かえ けい り い かれ
きて、無事にお帰りなさい﹂。 三七ところが、パウロは警吏らに言った、
﹁彼ら
じん さいばん こうしゅう まえ う
は、ローマ人であるわれわれを、裁判にかけもせずに、公 衆の前でむち打っ
ごく い いま
たあげく、獄に入れてしまった。しかるに今になって、ひそかに、われわれ
だ かれ じしん
を出そうとするのか。それは、いけない。彼ら自身がここにきて、われわれ
つ だ けい り ことば ちょうかん ほうこく
を 連 れ 出 す べ き で あ る﹂。 三八警吏 ら は こ の 言葉 を 長 官 た ち に 報告 し た。す
ちょうかん じん き おそ じぶん
ると長 官たちは、ふたりがローマ人だと聞いて恐れ、三九自分でやってきてわ
うえ ごく つ だ まち た さ たの
びた上、ふたりを獄から連れ出し、町から立ち去るようにと頼んだ。 四〇ふた
ごく で いえ い きょうだい あ すす
りは獄を出て、ルデヤの家に行った。そして、兄 弟たちに会って勧めをなし、

それから出かけた。
使徒行伝

71
第一七章
いっこう い
一 一行は、アムピポリスとアポロニヤとをとおって、テサロニケに行った。こ
じん かいどう れい かいどう
こにはユダヤ人の会堂があった。 二パウロは例によって、その会堂にはいっ
い あんそくにち せいしょ もとづ かれ ろん かなら
て行って、三つの安息日にわたり、聖書に基いて彼らと論じ、 三キリストは必
くなん う しにん なか
ず苦難を受け、そして死人の中からよみがえるべきこと、また﹁わたしがあ
つた せつめい
なたがたに伝えているこのイエスこそは、キリストである﹂とのことを、説明
ろんしょう ひと なっとく
もし論 証もした。 四ある人たちは納得がいって、パウロとシラスにしたがっ
なか しんじんぶか じん たすう き ふ じ ん すく
た。その中には、信心深いギリシヤ人が多数あり、貴婦人たちも少なくなかっ
じん まち
た。 五ところが、ユダヤ人たちは、それをねたんで、町をぶらついているなら
もの あつ ぼうどう おこ まち さわ いえ おそ
ず者らを集めて暴動を起し、町を騒がせた。それからヤソンの家を襲い、ふ
みんしゅう まえ だ さが み
たりを民 衆の前にひっぱり出そうと、しきりに捜した。 六しかし、ふたりが見
きょうだい すうにん し とうきょくしゃ ひ
つからないので、ヤソンと兄 弟たち数人を、市の当 局 者のところに引きずっ
い さけ い てんか まわ ひと
て行き、叫んで言った、
﹁天下をかき回してきたこの人たちが、ここにもはい
使徒行伝

こ ひと じぶん いえ むか い
り込んでいます。 七その人たちをヤソンが自分の家に迎え入れました。この
れんちゅう しょうちょく こうどう べつ おう
連 中は、みなカイザルの詔 勅にそむいて行動し、イエスという別の王がいる

72
い き ぐんしゅう し とうきょくしゃ ふあん かん
などと言っています﹂。 八これを聞いて、群 衆と市の当 局 者は不安に感じた。
もの ほしょうきん と うえ かれ しゃくほう
九 そして、ヤソンやほかの者たちから、保証金を取った上、彼らを釈 放した。
きょうだい よる あいだ おく
一〇 そこで、兄 弟たちはただちに、パウロとシラスとを、夜の間にベレヤへ送
だ とうちゃく じん かいどう い
り出した。ふたりはベレヤに到 着すると、ユダヤ人の会堂に行った。 一一こ
じん もの すなお こころ おしえ う
こにいるユダヤ人はテサロニケの者たちよりも素直であって、心から教を受
はた し ひ び せいしょ しら
けいれ、果してそのとおりかどうかを知ろうとして、日々聖書を調べていた。
かれ おお もの しんじゃ
一二 そういうわけで、彼らのうちの多くの者が信者になった。また、ギリシヤ
き ふ じ ん だんし しん もの すく じん
の貴婦人や男子で信じた者も、少なくなかった。 一三テサロニケのユダヤ人た
かみ ことば つた し お
ちは、パウロがベレヤでも神の言を伝えていることを知り、そこにも押しか
ぐんしゅう せんどう さわ きょうだい
けてきて、 群 衆を煽動して騒がせた。 一四そこで、 兄 弟たちは、ただちにパ
おく だ うみ い いのこ
ウロを送り出して、海べまで行かせ、シラスとテモテとはベレヤに居残った。
あんない ひと かれ つ い
一五 パウロを案内した人たちは、彼をアテネまで連れて行き、テモテとシラス
はや く でんごん う かえ
とになるべく早く来るようにとのパウロの伝言を受けて、帰った。
かれ ま あいだ しない ぐうぞう
一六 さて、パウロはアテネで彼らを待っている間に、市内に偶像がおびただし
使徒行伝

み こころ いきどお かん かれ かいどう じん


くあるのを見て、 心に憤りを感じた。 一七そこで彼は、会堂ではユダヤ人や
しんじんぶか ひと ろん ひろば まいにち で あ ひとびと あいて ろん
信心深い人たちと論じ、広場では毎日そこで出会う人々を相手に論じた。 一八

73
は は てつがくしゃすうにん ぎろん たたか
また、エピクロス派やストア派の哲学者数人も、パウロと議論を戦わせてい
なか もの い なに い
たが、その中のある者たちが言った、
﹁このおしゃべりは、いったい、何を言
もの いこく かみがみ つた
おうとしているのか﹂。また、ほかの者たちは、﹁あれは、異国の神々を伝え
い ふっかつ の つた
ようとしているらしい﹂と言った。パウロが、イエスと復活とを、宣べ伝え
かれ ひょうぎしょ つ
ていたからであった。 一九そこで、彼らはパウロをアレオパゴスの評議所に連
い きみ かた あたら おしえ し
れて行って、
﹁君の語っている新しい教がどんなものか、知らせてもらえまい
きみ めず き
か。 二〇君がなんだか珍らしいことをわれわれに聞かせているので、それがな
こと し おも い びと
んの事なのか知りたいと思うのだ﹂と言った。 二一いったい、アテネ人もそこ
たいざい がいこくじん なに みみあたら はな き
に滞在している外国人もみな、何か耳 新しいことを話したり聞いたりするこ
とき す
とのみに、時を過ごしていたのである。 二二そこでパウロは、アレオパゴスの
ひょうぎしょ なか た い
評議所のまん中に立って言った。
ひと てん しゅうきょうしん
﹁アテネの人たちよ、あなたがたは、あらゆる点において、すこぶる宗 教 心
と み じつ みち とお
に富んでおられると、わたしは見ている。 二三実は、わたしが道を通りながら、
おが み し かみ
あなたがたの拝むいろいろなものを、よく見ているうちに、﹃知られない神に﹄
使徒行伝

きざ さいだん き し おが
と刻まれた祭壇もあるのに気がついた。そこで、あなたがたが知らずに拝ん
し せかい なか ばんぶつ
でいるものを、いま知らせてあげよう。 二四この世界と、その中にある万物と

74
つく かみ てんち しゅ て つく みや す
を造った神は、天地の主であるのだから、手で造った宮などにはお住みにな
なに ふそく ひと て つか
らない。 二五また、何か不足でもしておるかのように、人の手によって仕えら
ひつよう かみ ひとびと いのち いき ばんぶつ あた
れる必要もない。神は、すべての人々に命と息と万物とを与え、 二六また、ひ
ひと みんぞく つく りだ ち ぜんめん す
とりの人から、あらゆる民族を造り出して、地の全面に住まわせ、それぞれ
じだい くぶん こくど きょうかい さだ くだ ひとびと
に時代を区分し、国土の境 界を定めて下さったのである。 二七こうして、人々
ねっしん お もと さが かみ み くだ
が熱心に追い求めて捜しさえすれば、神を見いだせるようにして下さった。
じじつ かみ とお はな
事実、神はわれわれひとりびとりから遠く離れておいでになるのではない。 二
かみ い うご そんざい
八 われわれは神のうちに生き、動き、存在しているからである。あなたがたの
しじん い
ある詩人たちも言ったように、
たし しそん
﹃われわれも、確かにその子孫である﹄。
かみ しそん かみ もの にんげん ぎこう
二九 このように、われわれは神の子孫なのであるから、神たる者を、人間の技巧
くうそう きん ぎん いし ほ つ おな み
や空想で金や銀や石などに彫り付けたものと同じと、見なすべきではない。 三
かみ む ち じだい み す いま
〇 神は、このような無知の時代を、これまでは見過ごしにされていたが、今は
ひと く あらた めい
どこにおる人でも、みな悔い改めなければならないことを命じておられる。 三
使徒行伝

かみ ぎ せかい ひ さだ えら
一 神は、義をもってこの世界をさばくためその日を定め、お選びになったかた
と しにん なか
によってそれをなし遂げようとされている。すなわち、このかたを死人の中

75
かくしょう ひと しめ
からよみがえらせ、その確 証をすべての人に示されたのである﹂。
しにん き もの わら もの
三二 死人のよみがえりのことを聞くと、ある者たちはあざ笑い、またある者た
こと き い
ちは、
﹁この事については、いずれまた聞くことにする﹂と言った。 三三こうし
かれ なか で い かれ しん もの
て、パウロは彼らの中から出て行った。 三四しかし、彼にしたがって信じた者
いくにん なか さいばんにん
も、幾人かあった。その中には、アレオパゴスの裁判人デオヌシオとダマリ
おんな た ひとびと
スという女、また、その他の人々もいた。
第一八章
のち さ い
一 その後、パウロはアテネを去ってコリントへ行った。 二そこで、アクラとい
うま じん つま で あ てい
うポント生れのユダヤ人と、その妻プリスキラとに出会った。クラウデオ帝
じん たいきょ めいれい かれ
が、すべてのユダヤ人をローマから退去させるようにと、命令したため、彼
ちか で かれ い
らは近ごろイタリヤから出てきたのである。 三パウロは彼らのところに行っ
たがい どうぎょう いえ す こ いっしょ しごと てんまく
たが、互に同 業であったので、その家に住み込んで、一緒に仕事をした。天幕
使徒行伝

づく しょくぎょう あんそくにち かいどう ろん


造りがその職 業であった。 四パウロは安息日ごとに会堂で論じては、ユダヤ
じん じん せっとく つと
人やギリシヤ人の説得に努めた。

76
くだ みことば つた
五 シラスとテモテが、マケドニヤから下ってきてからは、パウロは御言を伝え
せんねん じん ちからづよ
ることに専念し、イエスがキリストであることを、ユダヤ人たちに力 強くあ
かれ はんこう つづ
かしした。 六しかし、彼らがこれに反抗してののしり続けたので、パウロは
じぶん うわぎ ふ かれ い ち
自分の上着を振りはらって、彼らに言った、
﹁あなたがたの血は、あなたがた
じしん せきにん いま いほうじん ほう い
自身にかえれ。わたしには責任がない。今からわたしは異邦人の方に行く﹂。
い かれ さ かみ うやま ひと いえ い
七 こう言って、彼はそこを去り、テテオ・ユストという神を敬う人の家に行っ
いえ かいどう とな あ かいどうづかさ か ぞ く いちどう
た。その家は会堂と隣り合っていた。 八会 堂 司 クリスポは、その家族一同と
とも しゅ しん おお びと はなし き しん
共に主を信じた。また多くのコリント人も、パウロの話を聞いて信じ、ぞく
う よ まぼろし しゅ い
ぞくとバプテスマを受けた。 九すると、ある夜、 幻のうちに主がパウロに言
おそ かた だま
われた、
﹁恐れるな。語りつづけよ、黙っているな。 一〇あなたには、わたしが
おそ きがい くわ
ついている。だれもあなたを襲って、危害を加えるようなことはない。この
まち たみ おお ねん げつ あいだ こし
町には、わたしの民が大ぜいいる﹂。 一一パウロは一年六か月の間ここに腰を
かみ ことば かれ あいだ おし
すえて、神の言を彼らの間に教えつづけた。
そうとく とき じん いっしょ
一二 ところが、ガリオがアカヤの総督であった時、ユダヤ人たちは一緒になっ
使徒行伝

おそ かれ ほうてい い うった ひと りっぽう


てパウロを襲い、彼を法廷にひっぱって行って訴えた、 一三﹁この人は、律法
かみ おが ひとびと くち
にそむいて神を拝むように、人々をそそのかしています﹂。 一四パウロが口を

77
ひら じん い じんしょくん なに ふほう
開こうとすると、ガリオはユダヤ人たちに言った、
﹁ユダヤ人諸君、何か不法
こうい あくしつ はんざい とうぜん しょくん うった と あ
行為とか、悪質の犯罪とかのことなら、わたしは当然、諸君の訴えを取り上
しょくん ことば めいしょう りっぽう かん もんだい
げもしようが、 一五これは諸君の言葉や名 称や律法に関する問題なのだから、
しょくん しまつ こと さいばんにん
諸君みずから始末するがよかろう。わたしはそんな事の裁判人にはなりたく
い かれ ほうてい お
ない﹂。 一六こう言って、彼らを法廷から追いはらった。 一七そこで、みんなの
もの かいどうづかさ ひ とら ほうてい まえ う
者は、会 堂 司 ソステネを引き捕え、法廷の前で打ちたたいた。ガリオはそれ
たい し かお
に対して、そ知らぬ顔をしていた。
いくにち たいざい のち きょうだい わか つ
一八 さてパウロは、なお幾日ものあいだ滞在した後、 兄 弟たちに別れを告げ
む しゅっぱん どうこう
て、シリヤへ向け出 帆した。プリスキラとアクラも同行した。パウロは、か
せいがん た あたま いっこう
ねてから、ある誓願を立てていたので、ケンクレヤで頭をそった。 一九一行が
つ のこ じぶん かいどう
エペソに着くと、パウロはふたりをそこに残しておき、自分だけ会堂にはいっ
じん ろん ひとびと なが たいざい
て、ユダヤ人たちと論じた。 二〇人々は、パウロにもっと長いあいだ滞在する
ねが かれ き かみ
ように願ったが、彼は聞きいれないで、 二一﹁神のみこころなら、またあなた
かえ い わか つ ふなで
がたのところに帰ってこよう﹂と言って、別れを告げ、エペソから船出した。
使徒行伝

じょうりく のぼ きょうかい
二二 それから、カイザリヤで上 陸してエルサレムに上り、 教 会にあいさつし
くだ い かれ
てから、アンテオケに下って行った。 二三そこにしばらくいてから、彼はまた

78
で ちほう れきほう で し ちから
出かけ、ガラテヤおよびフルギヤの地方を歴訪して、すべての弟子たちを力
づけた。
うま せいしょ せいつう ゆうべん
二四 さて、アレキサンデリヤ生れで、聖書に精通し、しかも、雄弁なアポロと
じん ひと しゅ みち つう れい
いうユダヤ人が、エペソにきた。 二五この人は主の道に通じており、また、霊
も くわ かた おし
に燃えてイエスのことを詳しく語ったり教えたりしていたが、ただヨハネの
し かれ かいどう だいたん かた はじ
バプテスマしか知っていなかった。 二六彼は会堂で大胆に語り始めた。それ
き かれ まね くわ かみ みち と
をプリスキラとアクラとが聞いて、彼を招きいれ、さらに詳しく神の道を解
き わた おも
き 聞 か せ た。 二七そ れ か ら、ア ポ ロ が ア カ ヤ に 渡 り た い と 思 っ て い た の で、
きょうだい かれ はげ せんぽう で し かれ むか てがみ
兄 弟たちは彼を励まし、先方の弟子たちに、彼をよく迎えるようにと、手紙
か おく かれ とうちゃく しんじゃ ひと
を書き送った。彼は到 着して、すでにめぐみによって信者になっていた人た
おお ちから かれ せいしょ もとづ
ちに、大いに力になった。 二八彼はイエスがキリストであることを、聖書に基
しめ こうぜん じん はげ ごちょう ろんぱ
いて示し、公然と、ユダヤ人たちを激しい語調で論破したからである。
第一九章
使徒行伝
とき おくち
一 アポロがコリントにいた時、パウロは奥地をとおってエペソにきた。そし

79
で し で あ かれ しんこう とき
て、ある弟子たちに出会って、二彼らに﹁あなたがたは、信仰にはいった時に、
せいれい う たず せいれい
聖霊を受けたのか﹂と尋ねたところ、
﹁いいえ、聖霊なるものがあることさえ、
き こた な
聞いたことがありません﹂と答えた。 三﹁では、だれの名によってバプテスマ
う かれ かれ な う
を受けたのか﹂と彼がきくと、彼らは﹁ヨハネの名によるバプテスマを受け
こた い くいあらた
ました﹂と答えた。 四そこで、パウロが言った、
﹁ヨハネは悔 改めのバプテス
さず じぶん く
マを授けたが、それによって、自分のあとに来るかた、すなわち、イエスを
しん ひとびと すす ひとびと き しゅ
信じるように、人々に勧めたのである﹂。 五人々はこれを聞いて、主イエスの
な う かれ うえ て
名によるバプテスマを受けた。 六そして、パウロが彼らの上に手をおくと、
せいれい かれ かれ いげん かた よげん だ
聖霊が彼らにくだり、それから彼らは異言を語ったり、預言をしたりし出し
ひと にん
た。 七その人たちはみんなで十二人ほどであった。
かいどう げつ だいたん かみ くに
八 それから、パウロは会堂にはいって、三か月のあいだ、大胆に神の国につい
ろん すす ひと こころ しん
て論じ、また勧めをした。 九ところが、ある人たちは心をかたくなにして、信
かいしゅう まえ みち い かれ で し
じようとせず、会 衆の前でこの道をあしざまに言ったので、彼は弟子たちを
ひ つ ひと はな こうどう まいにちろん
引き連れて、その人たちから離れ、ツラノの講堂で毎日論じた。 一〇それが二
使徒行伝

ねんかん つづ す もの じん じん みな しゅ
年間も続いたので、アジヤに住んでいる者は、ユダヤ人もギリシヤ人も皆、主
ことば き
の言を聞いた。

80
かみ て いじょう ちから つぎつぎ
一一 神は、パウロの手によって、異常な力あるわざを次々になされた。 一二たと
ひとびと かれ み て まえか と びょうにん
えば、人々が、彼の身につけている手ぬぐいや前掛けを取って病 人にあてる
びょうき のぞ あくれい で い じん
と、その病気が除かれ、悪霊が出て行くのであった。 一三そこで、ユダヤ人の
し へんれき もの あくれい もの しゅ
まじない師で、遍歴している者たちが、悪霊につかれている者にむかって、主
な の つた めい で
イエスの名をとなえ、﹁パウロの宣べ伝えているイエスによって命じる。出て
い い さいしちょう もの にん
行け﹂と、ためしに言ってみた。 一四ユダヤの祭司長スケワという者の七人の
あくれい たい い
むすこたちも、そんなことをしていた。 一五すると悪霊がこれに対して言っ
じぶん し
た、
﹁イエスなら自分は知っている。パウロもわかっている。だが、おまえた
なにもの あくれい ひと かれ と
ちは、いったい何者だ﹂。 一六そして、悪霊につかれている人が、彼らに飛びか
おさ ま かれ きず お はだか
かり、みんなを押えつけて負かしたので、彼らは傷を負ったまま裸になって、
いえ に だ す じん
その家を逃げ出した。 一七このことがエペソに住むすべてのユダヤ人やギリ
じん し きょうふ おそ しゅ な
シヤ人に知れわたって、みんな恐怖に襲われ、そして、主イエスの名があが
しんじゃ もの おお じぶん こうい う
められた。 一八また信者になった者が大ぜいきて、自分の行為を打ちあけて
こくはく まじゅつ おこな おお もの まじゅつ ほん も だ
告白した。 一九それから、魔術を行 っていた多くの者が、魔術の本を持ち出し
使徒行伝

まえ や す ねだん そうけい ぎん
てきては、みんなの前で焼き捨てた。その値段を総計したところ、銀五万に
のぼ しゅ ことば さか
も上ることがわかった。 二〇このようにして、主の言はますます盛んにひろま

81
ちから ま くわ
り、また力を増し加えていった。
こと のち みたま かん
二一 これらの事があった後、パウロは御霊に感じて、マケドニヤ、アカヤをと
い けっしん い い
おって、エルサレムへ行く決心をした。そして言った、﹁わたしは、そこに行っ
み じぶん つか
たのち、ぜひローマをも見なければならない﹂。 二二そこで、自分に仕えている
もの なか おく だ
者の中から、テモテとエラストとのふたりを、まずマケドニヤに送り出し、パ
じしん
ウロ自身は、なおしばらくアジヤにとどまった。
みち ようい そうどう おこ
二三 そのころ、この道について容易ならぬ騒動が起った。 二四そのいきさつは、
ぎんざいくにん ぎん しんでん もけい
こ う で あ る。デ メ テ リ オ と い う 銀細工人 が、銀 で ア ル テ ミ ス 神殿 の 模型 を
つく しょくにん すく りえき え おとこ しょくにん
造って、 職 人たちに少なからぬ利益を得させていた。 二五この男がその職 人
どうるい しごと もの あつ い しょくん
たちや、同類の仕事をしていた者たちを集めて言った、
﹁諸君、われわれがこ
しごと かね しょうち しょくん
の仕事で、金もうけをしていることは、ご承知のとおりだ。 二六しかるに、諸君
み き て つく かみさま
の見聞きしているように、あのパウロが、手で造られたものは神様ではない
い ぜんたい おお
などと言って、エペソばかりか、ほとんどアジヤ全体にわたって、大ぜいの
ひとびと と あやま たがい しごと あくひょう た
人々を説きつけて誤らせた。 二七これでは、お互の仕事に悪 評が立つおそれ
使徒行伝

おお め が み みや かろ ぜん
があるばかりか、大女神アルテミスの宮も軽んじられ、ひいては全アジヤ、い
ぜん せ か い おが おお め が み いこう き
や 全世界 が 拝 ん で い る こ の 大女神 の ご 威光 さ え も、消 え て し ま い そ う で あ

82
る﹂。
き ひとびと いか も おおごえ おお びと
二八 これを聞くと、人々は怒りに燃え、大声で﹁大いなるかな、エペソ人のア
さけ まちじゅう だいこんらん おちい ひとびと
ルテミス﹂と叫びつづけた。 二九そして、町 中が大混乱に陥り、人々はパウロ
みちづ びと とら
の道連れであるマケドニヤ人ガイオとアリスタルコとを捕えて、いっせいに
げきじょう こ ぐんしゅう なか い
劇 場 へ な だ れ 込 ん だ。 三 〇パ ウ ロ は 群 衆 の 中 に は い っ て 行 こ う と し た が、
で し しゅう ぎいん ゆうじん
弟子 た ち が そ れ を さ せ な か っ た。 三 一ア ジ ヤ 州 の 議員 で、パ ウ ロ の 友人 で
ひと かれ つかい げきじょう い
あった人たちも、彼に使をよこして、劇 場にはいって行かないようにと、し
たの なか しゅうかい こんらん おちい もの
きりに頼んだ。 三二中では、集 会が混乱に陥 ってしまって、ある者はこのこと
もの だいたすう もの
を、ほかの者はあのことを、どなりつづけていたので、大多数の者は、なん
あつ じん まえ
のために集まったのかも、わからないでいた。 三三そこで、ユダヤ人たちが、前
お だ もの ぐんしゅう なか ひと うなが
に押し出したアレキサンデルなる者を、 群 衆の中のある人たちが促したた
かれ て ふ ひとびと べんめい こころ かれ
め、彼は手を振って、人々に弁明を試みようとした。 三四ところが、彼がユダ
じん もの おお びと
ヤ人だとわかると、みんなの者がいっせいに﹁大いなるかな、エペソ人のア
じかん さけ し し ょ き やく ぐんしゅう
ルテミス﹂と二時間ばかりも叫びつづけた。 三五ついに、市の書記役が群 衆を
使徒行伝

お しず い しょくん し おお め が み あま
押し静めて言った、﹁エペソの諸君、エペソ市が大女神アルテミスと、天くだっ
しんたい し ゅ ご やく し もの
たご神体との守護役であることを知らない者が、ひとりでもいるだろうか。 三

83
ひてい じじつ しょくん しず
六 これは否定のできない事実であるから、諸君はよろしく静かにしているべ
らんぼう こうどう しょくん ひと
きで、乱暴な行動は、いっさいしてはならない。 三七諸君はこの人たちをここ
かれ みや あら もの めがみ もの
にひっぱってきたが、彼らは宮を荒す者でも、われわれの女神をそしる者で
しょくにん な か ま たい
もない。 三八だから、もしデメテリオなりその職 人 仲間なりが、だれかに対し
うった ごと さいばん ひ そうとく うった
て訴え事があるなら、裁判の日はあるし、総督もいるのだから、それぞれ訴
で なに ようきゅう こと せいしき
え出るがよい。 三九しかし、何かもっと要 求したい事があれば、それは正式の
ぎかい かいけつ じけん さわ べんご
議会で解決してもらうべきだ。 四〇きょうの事件については、この騒ぎを弁護
りゆう まった ちあん つみ と
できるような理由が全くないのだから、われわれは治安をみだす罪に問われ
い かれ しゅうかい かいさん
るおそれがある﹂。 四一こう言って、彼はこの集 会を解散させた。
第二〇章
さわ のち で し よ あつ げきれい あた うえ わか
一 騒ぎがやんだ後、パウロは弟子たちを呼び集めて激励を与えた上、別れのあ
の む しゅっぱつ ちほう
いさつを述べ、マケドニヤへ向かって出 発した。 二そして、その地方をとお
使徒行伝

おお ことば ひとびと はげ かれ げつ
り、多くの言葉で人々を励ましたのち、ギリシヤにきた。 三彼はそこで三か月
す む ふなで やさき かれ
を過ごした。それからシリヤへ向かって、船出しようとしていた矢先、彼に

84
たい じん いんぼう おこ けいゆ かえ けっ
対するユダヤ人の陰謀が起ったので、マケドニヤを経由して帰ることに決し
こ びと びと
た。 四プロの子であるエペソ人ソパテロ、テサロニケ人アリスタルコとセク
びと びと
ンド、デルベ人ガイオ、それからテモテ、またアジヤ人テキコとトロピモが
どうこうしゃ ひと せんぱつ
パウロの同行者であった。 五この人たちは先発して、トロアスでわたしたち
ま じょこうさい おわ しゅっぱん
を待っていた。 六わたしたちは、除酵祭が終ったのちに、ピリピから出 帆し、
か とうちゃく かれ お あ な ぬ か か ん たいざい
五日かかってトロアスに到 着して、彼らと落ち合い、そこに七日間滞在した。
しゅう はじ ひ あつ とき
七 週 の 初 め の 日 に、わ た し た ち が パ ン を さ く た め に 集 ま っ た 時、パ ウ ロ は
よくじつしゅっぱつ ひとびと かた あ よなか かた
翌日 出 発することにしていたので、しきりに人々と語り合い、夜中まで語り
あつ おくじょう ま
つづけた。 八わたしたちが集まっていた屋 上の間には、あかりがたくさんと
わかもの まど こし
もしてあった。 九ユテコという若者が窓に腰をかけていたところ、パウロの
はなし つづ ねむ ね い
話がながながと続くので、ひどく眠けがさしてきて、とうとうぐっすり寝入っ
かい した お いだ おこ し
てしまい、三階から下に落ちた。抱き起してみたら、もう死んでいた。 一〇そ
お わかもの うえ み かれ いだ さわ
こでパウロは降りてきて、若者の上に身をかがめ、彼を抱きあげて、
﹁騒ぐこ
いのち い あ い
とはない。まだ命がある﹂と言った。 一一そして、また上がって行って、パン
使徒行伝

た あ なが ひとびと かた あ
を さ い て 食 べ て か ら、明 け が た ま で 長 い あ い だ 人々 と 語 り 合 っ て、つ い に
しゅっぱつ ひとびと い わかもの つ なぐさ
出 発した。 一二人々は生きかえった若者を連れかえり、ひとかたならず慰め

85
られた。
さき ふね の こ む しゅっぱん
一三 さて、わたしたちは先に舟に乗り込み、アソスへ向かって出 帆した。そこ
ふね の い かれ りくろ き
からパウロを舟に乗せて行くことにしていた。彼だけは陸路をとることに決
お あ とき
めていたからである。 一四パウロがアソスで、わたしたちと落ち合った時、わ
かれ ふね の い しゅっぱん よくじつ
たしたちは彼を舟に乗せてミテレネに行った。 一五そこから出 帆して、翌日
おきあい つぎ ひ よ よくじつ つ
キヨスの沖合にいたり、次の日にサモスに寄り、その翌日ミレトに着いた。 一
じかん よ ぞっ
六 それは、パウロがアジヤで時間をとられないため、エペソには寄らないで続
こう き かれ ひ
航することに決めていたからである。彼は、できればペンテコステの日には、
つ たび いそ
エルサレムに着いていたかったので、旅を急いだわけである。
つかい きょうかい ちょうろう よ
一七 そこでパウロは、ミレトからエペソに使をやって、 教 会の長 老たちを呼
よ かれ よ あつ とき かれ い
び寄せた。 一八そして、彼のところに寄り集まってきた時、彼らに言った。
ち あし ふ い さいしょ ひ いらい
﹁わたしが、アジヤの地に足を踏み入れた最初の日以来、いつもあなたがたと
す ぞん けんそん かぎ
どんなふうに過ごしてきたか、よくご存じである。 一九すなわち、謙遜の限り
なみだ なが じん いんぼう み およ かずかず
をつくし、 涙を流し、ユダヤ人の陰謀によってわたしの身に及んだ数々の
使徒行伝

しれん なか しゅ つか えき
試練の中にあって、主に仕えてきた。 二〇また、あなたがたの益になることは、
こうしゅう まえ いえいえ はな き
公 衆の前でも、また家々でも、すべてあますところなく話して聞かせ、また

86
おし じん じん かみ たい くいあらた
教え、 二一ユダヤ人にもギリシヤ人にも、神に対する悔 改めと、わたしたちの
しゅ たい しんこう つよ すす いま
主イエスに対する信仰とを、強く勧めてきたのである。 二二今や、わたしは
みたま せま い みやこ こと み
御霊に迫られてエルサレムへ行く。あの都で、どんな事がわたしの身にふり
く せいれい いた まちまち
かかって来るか、わたしにはわからない。 二三ただ、聖霊が至るところの町々
つ とうごく かんなん ま
で、わたしにはっきり告げているのは、投獄と患難とが、わたしを待ちうけ
じぶん こうてい はし お しゅ
ているということだ。 二四しかし、わたしは自分の行程を走り終え、主イエス
たま かみ ふくいん にんむ はた え
から賜わった、神のめぐみの福音をあかしする任務を果し得さえしたら、こ
じぶん すこ お おも しん
のいのちは自分にとって、少しも惜しいとは思わない。 二五わたしはいま信じ
あいだ ある まわ みくに の つた かお
ている、あなたがたの間を歩き回って御国を宣べ伝えたこのわたしの顔を、み
こんご ど み ひ
んなが今後二度と見ることはあるまい。 二六だから、きょう、この日にあなた
だんげん ひと ち せきにん
がたに断言しておく。わたしは、すべての人の血について、なんら責任がな
かみ むね みな つた
い。 二七神のみ旨を皆あますところなく、あなたがたに伝えておいたからであ
じしん き む き
る。 二八どうか、あなたがた自身に気をつけ、また、すべての群れに気をくばっ
せいれい かみ み こ ち と かみ きょうかい ぼく
ていただきたい。聖霊は、神が御子の血であがない取られた神の教 会を牧さ
使徒行伝

む かんとくしゃ た
せるために、あなたがたをその群れの監督者にお立てになったのである。 二九
さ のち きょうぼう なか こ
わたしが去った後、狂 暴なおおかみが、あなたがたの中にはいり込んできて、

87
ようしゃ む あら し
容赦なく群れを荒すようになることを、わたしは知っている。 三〇また、あな
じしん なか まが い で し じぶん ほう
たがた自身の中からも、いろいろ曲ったことを言って、弟子たちを自分の方
こ もの おこ め
に、ひっぱり込もうとする者らが起るであろう。 三一だから、目をさましてい
ねん あいだ よる ひる なみだ
なさい。そして、わたしが三年の間、夜も昼も涙をもって、あなたがたひと
た わす いま
りびとりを絶えずさとしてきたことを、忘れないでほしい。 三二今わたしは、
しゅ めぐ ことば みことば とく
主とその恵みの言とに、あなたがたをゆだねる。御言には、あなたがたの徳
せいべつ ひとびと とも みくに ちから
をたて、聖別されたすべての人々と共に、御国をつがせる力がある。 三三わた
ひと きん ぎん いふく じしん し
しは、人の金や銀や衣服をほしがったことはない。 三四あなたがた自身が知っ
りょうて じぶん せいかつ いっしょ
ているとおり、わたしのこの両手は、自分の生活のためにも、また一緒にい
ひと はたら
た人たちのためにも、働いてきたのだ。 三五わたしは、あなたがたもこのよう
はたら よわ もの たす う あた
に働いて、弱い者を助けなければならないこと、また﹃受けるよりは与える
ほう い しゅ ことば きおく
方が、さいわいである﹄と言われた主イエスの言葉を記憶しているべきこと
ばんじ おし しめ
を、万事について教え示したのである﹂。
い いちどう とも いの もの
三六 こう言って、パウロは一同と共にひざまずいて祈った。 三七みんなの者は、
使徒行伝

な かな くび いだ いくど せっぷん ど じぶん


はげしく泣き悲しみ、パウロの首を抱いて、幾度も接吻し、三八もう二度と自分
かお み かれ い とく こころ いた かれ
の顔を見ることはあるまいと彼が言ったので、特に心を痛めた。それから彼

88
ふね みおく
を舟まで見送った。
第二一章
ひとびと わか ふなで ちょっこう つぎ ひ
一 さて、わたしたちは人々と別れて船出してから、コスに直 航し、次の日は
つ い ふね み
ロドスに、そこからパタラに着いた。 二ここでピニケ行きの舟を見つけたの
の こ しゅっぱん み ひだりて
で、それに乗り込んで出 帆した。 三やがてクプロが見えてきたが、それを左手
とお こうこう にゅうこう つみに
に し て 通 り す ぎ、シ リ ヤ へ 航行 を つ づ け、ツ ロ に 入 港 し た。こ こ で 積荷 が
りくあ で し さが
陸上げされることになっていたからである。 四わたしたちは、弟子たちを捜
だ なぬかかん と かれ みたま しめ う
し出して、そこに七日間泊まった。ところが彼らは、御霊の示しを受けて、エ
のぼ い ちゅうい
ルサレムには上って行かないようにと、しきりにパウロに注意した。 五しか
たいざい き か ん おわ とき たびだ
し、滞在期間が終った時、わたしたちはまた旅立つことにしたので、みんな
もの つま こども ひ つ まち みおく
の者は、妻や子供を引き連れて、町はずれまで、わたしたちを見送りにきて
とも かいがん いの たがい わか つ
くれた。そこで、共に海岸にひざまずいて祈り、 六 互に別れを告げた。それ
使徒行伝

ふね の こ かれ じぶん いえ かえ
から、わたしたちは舟に乗り込み、彼らはそれぞれ自分の家に帰った。
こうこう おわ つ きょうだい
七 わたしたちは、ツロからの航行を終ってトレマイに着き、そこの兄 弟たち

89
かれ にちたいざい よくじつ
にあいさつをし、彼らのところに一日滞在した。 八翌日そこをたって、カイザ
つ にん でんどうしゃ いえ い と
リヤに着き、かの七人のひとりである伝道者ピリポの家に行き、そこに泊まっ
ひと にん むすめ しょじょ よげん
た。 九この人に四人の娘があったが、いずれも処女であって、預言をしてい
いくにち たいざい あいだ よげんしゃ くだ
た。 一〇幾日か滞在している間に、アガボという預言者がユダヤから下ってき
おび と じぶん
た。 一一そして、わたしたちのところにきて、パウロの帯を取り、それで自分
てあし しば い せいれい つ おび も ぬし
の手足を縛って言った、﹁聖霊がこうお告げになっている、﹃この帯の持ち主
じん しば いほうじん て わた
を、ユダヤ人たちがエルサレムでこのように縛って、異邦人の手に渡すであ
き と ち ひと いっしょ
ろう﹄﹂。 一二わたしたちはこれを聞いて、土地の人たちと一緒になって、エル
のぼ い ねが つづ とき
サレムには上って行かないようにと、パウロに願い続けた。 一三その時パウロ
こた な こころ
は答えた、
﹁あなたがたは、泣いたり、わたしの心をくじいたりして、いった
しゅ な
い、どうしようとするのか。わたしは、主イエスの名のためなら、エルサレ
しば し かくご
ムで縛られるだけでなく、死ぬことをも覚悟しているのだ﹂。 一四こうして、パ
かんこく き しゅ おこな
ウロが勧告を聞きいれてくれないので、わたしたちは﹁主のみこころが行わ
い いじょう なに い
れますように﹂と言っただけで、それ以上、何も言わなかった。
使徒行伝

すうじつご りょそう ととの のぼ い


一五 数日後、わたしたちは旅装を整えてエルサレムへ上って行った。 一六カイ
で し すうにん どうこう ふる で し
ザリヤの弟子たちも数人、わたしたちと同行して、古くからの弟子であるク

90
びと いえ あんない いえ と
プロ人マナソンの家に案内してくれた。わたしたちはその家に泊まることに
なっていたのである。
とうちゃく きょうだい よろこ むか
一七 わ た し た ち が エ ル サ レ ム に 到 着 す る と、 兄 弟 た ち は 喜 ん で 迎 え て く れ
よくじつ つ ほうもん い
た。 一八翌日パウロはわたしたちを連れて、ヤコブを訪問しに行った。そこに
ちょうろう あつ かれ のち かみ
長 老たちがみな集まっていた。 一九パウロは彼らにあいさつをした後、神が
じぶん はたら いほうじん あいだ こと いちいちせつめい
自分 の 働 き を と お し て、異邦人 の 間 に な さ っ た 事 ど も を 一々説明 し た。 二〇
いちどう き かみ かれ い きょうだい しょうち
一同はこれを聞いて神をほめたたえ、そして彼に言った、
﹁兄 弟よ、ご承知の
じん なか しんじゃ もの すうまん
ように、ユダヤ人の中で信者になった者が、数万にものぼっているが、みん
りっぽう ねっしん ひと かれ つた き
な律法に熱心な人たちである。 二一ところが、彼らが伝え聞いているところに
いほうじん なか じんいちどう たい こども かつれい ほどこ
よれば、あなたは異邦人の中にいるユダヤ人一同に対して、子供に割礼を施
かんれい い おし
すな、またユダヤの慣例にしたがうなと言って、モーセにそむくことを教え
ている、ということである。 二二どうしたらよいか。あなたがここにきている
かれ き こ ちが いま い
ことは、彼らもきっと聞き込むに違いない。 二三ついては、今わたしたちが言
なか せいがん た もの にん
うとおりのことをしなさい。わたしたちの中に、誓願を立てている者が四人
使徒行伝

ひと つ い かれ とも おこな かれ
いる。 二四この人たちを連れて行って、彼らと共にきよめを行い、また彼らの
あたま ひよう ひ う
頭をそる費用を引き受けてやりなさい。そうすれば、あなたについて、うわ

91
ね は りっぽう まも ただ
さされていることは、根も葉もないことで、あなたは律法を守って、正しい
せいかつ いほうじん しんじゃ
生活をしていることが、みんなにわかるであろう。 二五異邦人で信者になった
ひと てがみ ぐうぞう そな ち し ころ
人たちには、すでに手紙で、偶像に供えたものと、血と、絞め殺したものと、
ふひんこう つつし けつぎ し
不品行とを、 慎むようにとの決議が、わたしたちから知らせてある﹂。 二六そ
つぎ ひ にん もの つ かれ とも う
こでパウロは、その次の日に四人の者を連れて、彼らと共にきよめを受けて
みや きかん おわ そな
から宮にはいった。そしてきよめの期間が終って、ひとりびとりのために供
もの とき ほうこく
え物をささげる時を報告しておいた。
なぬか きかん おわ とき じん みや
二七 七日の期間が終ろうとしていた時、アジヤからきたユダヤ人たちが、宮の
うち み ぐんしゅうぜんたい せんどう て さけ
内でパウロを見かけて、群 衆 全体を煽動しはじめ、パウロに手をかけて叫び
た ひとびと かせい ひと
立てた、 二八﹁イスラエルの人々よ、加勢にきてくれ。この人は、いたるとこ
たみ りっぽう ば しょ おし うえ
ろで民と律法とこの場所にそむくことを、みんなに教えている。その上に、ギ
じん みや うち つ こ しんせい ば しょ けが かれ
リシヤ人を宮の内に連れ込んで、この神聖な場所を汚したのだ﹂。 二九彼らは、
まえ びと いっしょ まち ある み
前にエペソ人トロピモが、パウロと一緒に町を歩いていたのを見かけて、そ
ひと みや うち つ こ おも し
の人をパウロが宮の内に連れ込んだのだと思ったのである。 三〇そこで、市
使徒行伝

ぜんたい さわ だ みんしゅう か あつ とら みや そと ひ
全体が騒ぎ出し、民 衆が駆け集まってきて、パウロを捕え、宮の外に引きず
だ みや もん と かれ
り出した。そして、すぐそのあとに宮の門が閉ざされた。 三一彼らがパウロを

92
ころ とき ぜんたい こんらんじょうたい おちい じょうほう
殺そうとしていた時に、エルサレム全体が混乱 状 態に陥 っているとの情 報
し ゅ び たい せんそつちょう かれ へいそつ ひゃくそつちょう
が、守備隊の千 卒 長にとどいた。 三二そこで、彼はさっそく、兵卒や百 卒 長
ひき ば か ひとびと せんそつちょう へいそつ み
たちを率いて、その場に駆けつけた。人々は千 卒 長や兵卒たちを見て、パウ
う せんそつちょう ちかよ とら かれ
ロを打ちたたくのをやめた。 三三千 卒 長は近寄ってきてパウロを捕え、彼を
にじゅう くさり しば めい うえ なにもの なに
二重の鎖で縛っておくように命じた上、パウロは何者か、また何をしたのか、
たず ぐんしゅう ちが さけ さわ
と尋ねた。 三四しかし、群 衆がそれぞれ違ったことを叫びつづけるため、騒が
たし かれ へいえい つ い
しくて、確かなことがわからないので、彼はパウロを兵営に連れて行くよう
めい かいだん とき ぐんしゅう ぼうこう さ
に命じた。 三五パウロが階段にさしかかった時には、 群 衆の暴行を避けるた
へいそつ い しまつ おお みんしゅう
め、兵卒たちにかつがれて行くという始末であった。 三六大ぜいの民 衆が﹁あ
さけ
れをやっつけてしまえ﹂と叫びながら、ついてきたからである。
へいえい なか つ い とき せんそつちょう こと
三七 パウロが兵営の中に連れて行かれようとした時、千 卒 長に、
﹁ひと言あな
はな たず せんそつちょう い
たにお話してもよろしいですか﹂と尋ねると、千 卒 長が言った、
﹁おまえはギ
ご はな さき はんらん おこ のち
リシヤ語が話せるのか。 三八では、もしかおまえは、先ごろ反乱を起した後、四
にん しかく ひ つ あらの に い じん
千人の刺客を引き連れて荒野へ逃げて行ったあのエジプト人ではないのか﹂。
使徒行伝

こた うま じん
三九 パウロは答えた、﹁わたしはタルソ生れのユダヤ人で、キリキヤのれっきと
と し しみん ねが みんしゅう はなし くだ
し た 都市 の 市民 で す。お 願 い で す が、 民 衆 に 話 を さ せ て 下 さ い﹂。 四 〇

93
せんそつちょう ゆる かいだん うえ た みんしゅう て
千 卒 長が許してくれたので、パウロは階段の上に立ち、民 衆にむかって手を
ふ いちどう せいしゅく ご はな
振った。すると、一同がすっかり静 粛になったので、パウロはヘブル語で話

し出した。
第二二章
きょうだい ちち もう あ べんめい き
一 ﹁兄 弟たち、父たちよ、いま申し上げるわたしの弁明を聞いていただきた
ご かた き ひとびと
い﹂。 二パ ウ ロ が、ヘ ブ ル 語 で こ う 語 り か け る の を 聞 い て、人々 は ま す ま す
せいしゅく かれ ことば い
静 粛になった。 三そこで彼は言葉をついで言った、﹁わたしはキリキヤのタル
うま じん みやこ そだ
ソで生れたユダヤ人であるが、この都で育てられ、ガマリエルのひざもとで
せ ん ぞ でんらい りっぽう くんとう う きょ う みな おな かみ
先祖伝来の律法について、きびしい薫陶を受け、今日の皆さんと同じく神に
たい ねっしん もの みち はくがい おとこ おんな しば
対して熱心な者であった。 四そして、この道を迫害し、男であれ女であれ、縛
ごく とう かれ し いた だいさいし ちょうろう
りあげて獄に投じ、彼らを死に至らせた。 五このことは、大祭司も長 老たち
いちどう しょうめい ひと
一同も、証 明するところである。さらにわたしは、この人たちからダマスコ
使徒行伝

どうし てがみ ち もの しば
の同志たちへあてた手紙をもらって、その地にいる者たちを縛りあげ、エル
しょばつ で い
サレムにひっぱってきて、処罰するため、出かけて行った。

94
たび ちか とき まひる とつぜん ひかり てん
六 旅をつづけてダマスコの近くにきた時に、真昼ごろ、突然、つよい光が天か
てら ち たお
らわたしをめぐり照した。 七わたしは地に倒れた。そして、
﹃サウロ、サウロ、
はくがい よ こえ き たい
なぜわたしを迫害するのか﹄と、呼びかける声を聞いた。 八これに対してわた
しゅ い こえ
しは、﹃主よ、あなたはどなたですか﹄と言った。すると、その声が、﹃わた
はくがい びと こた
しは、あなたが迫害しているナザレ人イエスである﹄と答えた。 九わたしと
いっしょ もの ひかり み かた こえ き
一緒にいた者たちは、その光は見たが、わたしに語りかけたかたの声は聞か
しゅ なに たず
なかった。 一〇わたしが﹃主よ、わたしは何をしたらよいでしょうか﹄と尋ね
しゅ い お い
たところ、主は言われた、﹃起きあがってダマスコに行きなさい。そうすれば、
き こと つ
あなたがするように決めてある事が、すべてそこで告げられるであろう﹄。 一一
ひかり かがや め なに み つ もの
わたしは、 光の輝きで目がくらみ、何も見えなくなっていたので、連れの者
て ひ い
たちに手を引かれながら、ダマスコに行った。
りっぽう ちゅうじつ ざいじゅう じんぜんたい ひょうばん
一二 すると、律法に忠 実で、ダマスコ 在 住のユダヤ人全体に評 判のよいアナ
ひと た きょうだい み
ニヤという人が、一三わたしのところにきて、そばに立ち、
﹃兄 弟 サウロよ、見
い しゅんかん め ひら
えるようになりなさい﹄と言った。するとその瞬 間に、わたしの目が開いて、
使徒行伝

かれ すがた み かれ い せんぞ かみ えら
彼の姿が見えた。 一四彼は言った、
﹃わたしたちの先祖の神が、あなたを選んで
むね し ぎじん み くち こえ き
み旨を知らせ、かの義人を見させ、その口から声をお聞かせになった。 一五そ

95
み き こと ひと たい かれ しょうにん
れはあなたが、その見聞きした事につき、すべての人に対して、彼の証 人に
いま た
なるためである。 一六そこで今、なんのためらうことがあろうか。すぐ立っ
な う つみ あら おと
て、み名をとなえてバプテスマを受け、あなたの罪を洗い落しなさい﹄。
かえ みや いの ゆめ
一七 それからわたしは、エルサレムに帰って宮で祈っているうちに、夢うつつ
しゅ しゅ い いそ で
になり、 一八主にまみえたが、主は言われた、
﹃急いで、すぐにエルサレムを出
い ひとびと う
て行きなさい。わたしについてのあなたのあかしを、人々が受けいれないか
い しゅ かれ
ら﹄。 一九そこで、わたしが言った、
﹃主よ、彼らは、わたしがいたるところの
かいどう しん ひとびと ごく とう う
会堂で、あなたを信じる人々を獄に投じたり、むち打ったりしていたことを、
し しょうにん ち なが とき
知っています。 二〇また、あなたの証 人 ステパノの血が流された時も、わたし
た あ さんせい かれ ころ ひと うわぎ ばん
は立ち合っていてそれに賛成し、また彼を殺した人たちの上着の番をしてい
しゅ い い
たのです﹄。 二一すると、主がわたしに言われた、
﹃行きなさい。わたしが、あ
とお いほう たみ
なたを遠く異邦の民へつかわすのだ﹄﹂。
かれ ことば き ひとびと こえ は い
二二 彼の言葉をここまで聞いていた人々は、このとき、声を張りあげて言った、
おとこ ちじょう と のぞ い
﹁こ ん な 男 は 地上 か ら 取 り 除 い て し ま え。生 か し お く べ き で は な い﹂。 二 三
使徒行伝

ひとびと た くうちゅう うわぎ な ち しまつ


人々がこうわめき立てて、空 中に上着を投げ、ちりをまき散らす始末であっ
せんそつちょう へいえい ひ い めい
たので、 二四千 卒 長はパウロを兵営に引き入れるように命じ、どういうわけ

96
かれ たい た たし かれ
で、彼に対してこんなにわめき立てているのかを確かめるため、彼をむちの
ごうもん と しら い かれ あ
拷問にかけて、取り調べるように言いわたした。 二五彼らがむちを当てるた
かれ しば とき た ひゃくそつちょう い
め、彼 を 縛 り つ け て い た 時、パ ウ ロ は そ ば に 立 っ て い る 百 卒 長 に 言 っ た、
しみん もの さいばん う
﹁ローマの市民たる者を、裁判にかけもしないで、むち打ってよいのか﹂。 二六
ひゃくそつちょう き せんそつちょう い ほうこく い
百 卒 長はこれを聞き、千 卒 長のところに行って報告し、そして言った、
﹁ど
ひと しみん せんそつちょう
うなさいますか。あの人はローマの市民なのです﹂。 二七そこで、千 卒 長がパ
い い しみん
ウロのところにきて言った、﹁わたしに言ってくれ。あなたはローマの市民な
い たい せんそつちょう い
のか﹂。パウロは﹁そうです﹂と言った。 二八これに対して千 卒 長が言った、
し み ん けん たがく かね か と い
﹁わたしはこの市民権を、多額の金で買い取ったのだ﹂。するとパウロは言っ
うま しみん と しら
た、
﹁わたしは生れながらの市民です﹂。 二九そこで、パウロを取り調べようと
ひと かれ み ひ せんそつちょう
していた人たちは、ただちに彼から身を引いた。 千 卒 長も、パウロがローマ
しみん ひと しば おそ
の市民であること、また、そういう人を縛っていたことがわかって、恐れた。
よくじつ かれ じん うった で しんそう し
三〇 翌日、彼は、ユダヤ人がなぜパウロを訴え出たのか、その真相を知ろうと
おも かれ と どうじ さいしちょう ぜん ぎ か い しょうしゅう かれ
思って彼を解いてやり、同時に祭司長たちと全議会とを召 集させ、そこに彼
使徒行伝

ひ だ かれ まえ た
を引き出して、彼らの前に立たせた。

97
第二三章
ぎかい み い きょうだい きょ う かみ まえ
一 パウロは議会を見つめて言った、
﹁兄 弟たちよ、わたしは今日まで、神の前
あき りょうしん こうどう だいさいし
に、ひたすら明らかな良 心にしたがって行動してきた﹂。 二すると、大祭司ア
た もの かれ くち う めい
ナニヤが、パウロのそばに立っている者たちに、彼の口を打てと命じた。 三そ
い しろ ぬ かべ かみ
のとき、パウロはアナニヤにむかって言った、
﹁白く塗られた壁よ、神があな
う りっぽう ざ
たを打つであろう。あなたは、律法にしたがって、わたしをさばくために座
りっぽう う めい
についているのに、律法にそむいて、わたしを打つことを命じるのか﹂。 四す
た もの い かみ だいさいし たい ぶれい
ると、そばに立っている者たちが言った、
﹁神の大祭司に対して無礼なことを
い い きょうだい かれ だいさいし し
言うのか﹂。 五パウロは言った、﹁兄 弟たちよ、彼が大祭司だとは知らなかっ
せいしょ たみ わる い か
た。聖書に﹃民のかしらを悪く言ってはいけない﹄と、書いてあるのだった﹂。
ぎいん いちぶ びと いちぶ びと み
六 パウロは、議員の一部がサドカイ人であり、一部はパリサイ人であるのを見
ぎかい なか こえ たか い きょうだい びと
て、議会の中で声を高めて言った、﹁兄 弟たちよ、わたしはパリサイ人であり、
びと こ しにん ふっかつ のぞ
パリサイ人の子である。わたしは、死人の復活の望みをいだいていることで、
使徒行伝

さいばん う かれ い びと
裁判を受けているのである﹂。 七彼がこう言ったところ、パリサイ人とサドカ
びと あいだ そうろん しょう かいしゅう あいわか がんらい びと ふっかつ
イ人との間に争論が生じ、 会 衆が相分れた。 八元来、サドカイ人は、復活と

98
てんし れい そんざい い びと
か天使とか霊とかは、いっさい存在しないと言い、パリサイ人は、それらは、
そんざい しゅちょう おおさわ は
みな存在すると主 張している。 九そこで、大騒ぎとなった。パリサイ派のあ
りっぽうがくしゃ た つよ しゅちょう い ひと なに
る律法学者たちが立って、強く主 張して言った、
﹁われわれは、この人には何
わる おも れい てんし かれ つ し
も悪いことがないと思う。あるいは、霊か天使かが、彼に告げたのかも知れ
そうろん はげ せんそつちょう かれ
ない﹂。 一〇こうして、争論が激しくなったので、千 卒 長は、パウロが彼らに
ひ さ き へいそつ お い かれ なか
引き裂かれるのを気づかって、兵卒どもに、降りて行ってパウロを彼らの中
ちから ひ だ へいえい つ く めい
から力づくで引き出し、兵営に連れて来るように、命じた。
よ しゅ のぞ い
一一 その夜、主がパウロに臨んで言われた、
﹁しっかりせよ。あなたは、エルサ
レムでわたしのことをあかししたように、ローマでもあかしをしなくてはな
らない﹂。
よ あ じん もう あ ころ いんしょく
一二 夜が明けると、ユダヤ人らは申し合わせをして、パウロを殺すまでは飲 食
た ちか あ いんぼう くわ もの にん
をいっさい断つと、誓い合った。 一三この陰謀に加わった者は、四十人あまり
かれ さいしちょう ちょうろう い い
であった。 一四彼らは、祭司長たちや長 老たちのところに行って、こう言っ
ころ なに た かた ちか あ
た。﹁われわれは、パウロを殺すまでは何も食べないと、堅く誓い合いました。
使徒行伝

ぎかい く かれ くわ とりしら
一五 ついては、あなたがたは議会と組んで、彼のことでなお詳しく取調べをす
み つ だ せんそつちょう
るように見せかけ、パウロをあなたがたのところに連れ出すように、千 卒 長

99
たの くだ ころ
に頼んで下さい。われわれとしては、パウロがそこにこないうちに殺してし

まう手はずをしています﹂。
しまい こ まちぶ みみ へいえい
一六 ところが、パウロの姉妹の子が、この待伏せのことを耳にし、兵営にはいっ
い し ひゃくそつちょう
て行って、パウロにそれを知らせた。 一七そこでパウロは、 百 卒 長のひとり
よ い わかもの せんそつちょう つ い なに
を呼んで言った、﹁この若者を千 卒 長のところに連れて行ってください。何
ほうこく ひゃくそつちょう わかもの つ い
か報告することがあるようですから﹂。 一八この百 卒 長は若者を連れて行き、
せんそつちょう ひ い しゅうじん わかもの はな
千 卒 長に引きあわせて言った、
﹁囚 人のパウロが、この若者があなたに話し
つ い
たいことがあるので、あなたのところに連れて行ってくれるようにと、わた
よ たの せんそつちょう わかもの て と ひと
しを呼んで頼みました﹂。 一九そこで千 卒 長は、若者の手を取り、人のいない
つ い たず はな なに
ところへ連れて行って尋ねた、
﹁わたしに話したいことというのは、何か﹂。 二
わかもの い じん くわ とりしら
〇 若者が言った、
﹁ユダヤ人たちが、パウロのことをもっと詳しく取調べをす
み ぎかい かれ つ だ たの き
ると見せかけて、あす議会に彼を連れ出すように、あなたに頼むことに決め
かれ たの と あ くだ にん
ています。 二一どうぞ、彼らの頼みを取り上げないで下さい。四十人あまりの
もの まちぶ かれ ころ いんしょく
者が、パウロを待伏せしているのです。彼らは、パウロを殺すまでは飲 食を
使徒行伝

た かた ちか あ て
いっさい断つと、堅く誓い合っています。そして、いま手はずをととのえて、
きょ か ま せんそつちょう
あなたの許可を待っているところなのです﹂。 二二そこで千 卒 長は、﹁このこ

100
し こうがい めい わかもの かえ
とをわたしに知らせたことは、だれにも口外するな﹂と命じて、若者を帰し
た。
かれ ひゃくそつちょう よ い ほへい めい きへい めい
二三 それから彼は、百 卒 長ふたりを呼んで言った、﹁歩兵二百名、騎兵七十名、
そうへい めい む しゅっぱつ こんや じ ようい
槍兵二百名を、カイザリヤに向け出 発できるように、今夜九時までに用意せ
の うま ようい かれ そうとく
よ。 二四また、パウロを乗せるために馬を用意して、彼を総督ペリクスのもと
ぶ じ つ い かれ つぎ ぶんめん てがみ か
へ無事に連れて行け﹂。 二五さらに彼は、次のような文面の手紙を書いた。 二六
そうとく かっ か へいあん いの
﹁クラウデオ・ルシヤ、つつしんで総督ペリクス閣下の平安を祈ります。 二七
ほんにん じん とら ころ
本人のパウロが、ユダヤ人らに捕えられ、まさに殺されようとしていたのを、
かれ しみん し へいそつ ひき い
彼のローマ市民であることを知ったので、わたしは兵卒たちを率いて行って、
かれ すく だ かれ うった りゆう し おも かれ
彼を救い出しました。 二八それから、彼が訴えられた理由を知ろうと思い、彼
ぎかい つ い かれ じん りっぽう もんだい うった
を議会に連れて行きました。 二九ところが、彼はユダヤ人の律法の問題で訴え
しけい とうごく あた つみ
られたものであり、なんら死刑または投獄に当る罪のないことがわかりまし
ひと たい いんぼう ほうこく
た。 三〇しかし、この人に対して陰謀がめぐらされているとの報告がありまし
と かれ かっ か おく うった
たので、わたしは取りあえず、彼を閣下のもとにお送りすることにし、 訴え
使徒行伝

もの かっ か まえ かれ たい もうし た めい
る者たちには、閣下の前で、彼に対する申 立てをするようにと、命じておき
ました﹂。

101
ほへい めい ひ と よる あいだ
三一 そこで歩兵たちは、命じられたとおりパウロを引き取って、夜の間にアン
つ い よくじつ きへい ごそう
テパトリスまで連れて行き、 三二翌日は、騎兵たちにパウロを護送させること
へいえい かえ い きへい つ てがみ
にして、兵営に帰って行った。 三三騎兵たちは、カイザリヤに着くと、手紙を
そうとく てわた かれ ひ そうとく てがみ よ
総督に手渡し、さらにパウロを彼に引きあわせた。 三四総督は手紙を読んでか
しゅう もの たず で し うった ひと
ら、パウロに、どの州の者かと尋ね、キリキヤの出だと知って、 三五﹁訴え人
とき しら い
たちがきた時に、おまえを調べることにする﹂と言った。そして、ヘロデの
かんてい かれ まも めい
官邸に彼を守っておくように命じた。
第二四章
か のち だいさいし ちょうろうすうめい べんごにん つ
一 五日の後、大祭司アナニヤは、長 老 数名と、テルトロという弁護人とを連
くだ そうとく うった で よ だ
れて下り、総督にパウロを訴え出た。 二パウロが呼び出されたので、テルトロ
ろんこく はじ
は論告を始めた。
かっ か かっ か かげ へいわ たの
﹁ペリクス閣下、わたしたちが、閣下のお陰でじゅうぶんに平和を楽しみ、ま
使徒行伝

くに はいりょ ほうめん かいぜん


たこの国が、ご配慮によって、 三あらゆる方面に、またいたるところで改善さ
かんしゃ

102
れていることは、わたしたちの感謝してやまないところであります。 四しか
めいわく の てみじ もう あ
し、ご迷惑をかけないように、くどくどと述べずに、手短かに申し上げます
しの き と ねが おとこ
から、どうぞ、忍んでお聞き取りのほど、お願いいたします。 五さて、この男
えきびょう にんげん せかいじゅう じん なか さわ おこ
は、疫 病のような人間で、世界中のすべてのユダヤ人の中に騒ぎを起してい
もの びと いたん もの みや
る者であり、また、ナザレ人らの異端のかしらであります。 六この者が宮まで
けが かれ ほばく りっぽう
も汚そうとしていたので、わたしたちは彼を捕縛したのです。︹そして、律法
せんそつちょう かんしょう かれ
にしたがって、さばこうとしていたところ、 七千 卒 長 ルシヤが干 渉して、彼
む り て ひ はな かれ うった ひと
を無理にわたしたちの手から引き離してしまい、 八彼を訴えた人たちには、
かっ か く めい かっ か じしん しら
閣下のところに来るようにと命じました。︺それで、閣下ご自身でお調べにな
かれ うった で りゆう ぜんぶ
れば、わたしたちが彼を訴え出た理由が、全部おわかりになるでしょう﹂。 九
じん うった どうちょう まった い
ユダヤ人たちも、この訴えに同 調して、全くそのとおりだと言った。 一〇そこ
そうとく あいず はつげん うなが とうべん い
で、総督が合図をして発言を促したので、パウロは答弁して言った。
かっ か たねん こくみん さいばん
﹁閣下が、多年にわたり、この国民の裁判をつかさどっておられることを、よ
しょうち よろこ じぶん べんめい
く承知していますので、わたしは喜んで、自分のことを弁明いたします。 一一
しら れいはい のぼ
お調べになればわかるはずですが、わたしが礼拝をしにエルサレムに上って
使徒行伝

にち みや うち かいどう
から、まだ十二日そこそこにしかなりません。 一二そして、宮の内でも、会堂
うち しない そうろん ぐんしゅう せんどう
内でも、あるいは市内でも、わたしがだれかと争論したり、群 衆を煽動した

103
み いま うった で
りするのを見たものはありませんし、一三今わたしを訴え出ていることについ
かっ か まえ しょうこ
て、閣下の前に、その証拠をあげうるものはありません。 一四ただ、わたしは
こと みと かれ いたん みち
この事は認めます。わたしは、彼らが異端だとしている道にしたがって、わ
せんぞ かみ つか りっぽう おし よげんしゃ しょ か
たしたちの先祖の神に仕え、律法の教えるところ、また預言者の書に書いて
しん ただ もの ただ もの
あることを、ことごとく信じ、 一五また、正しい者も正しくない者も、やがて
きぼう かみ あお きぼう かれ
よみがえるとの希望を、神を仰いでいだいているものです。この希望は、彼
じしん も かみ たい ひと たい
ら 自身 も 持 っ て い る の で す。 一六わ た し は ま た、神 に 対 し ま た 人 に 対 し て、
りょうしん せ つね つと
良 心に責められることのないように、常に努めています。 一七さてわたしは、
いくねん かえ どうほう ほどこ そな もの
幾年ぶりかに帰ってきて、同胞に施しをし、また、供え物をしていました。 一
かれ みや おこな み
八 そのとき、彼らはわたしが宮できよめを行 っているのを見ただけであっ
ぐんしゅう そうどう すうにん
て、群 衆もいず、騒動もなかったのです。 一九ところが、アジヤからきた数人
じん かれ たい なに た
のユダヤ人が︱︱彼らが、わたしに対して、何かとがめ立てをすることがあっ
かっ か まえ うった なに
たなら、よろしく閣下の前にきて、 訴えるべきでした。 二〇あるいは、何かわ
ふせい ぎかい まえ た とき かれ
たしに不正なことがあったなら、わたしが議会の前に立っていた時、彼らみ
使徒行伝

してき かれ なか た
ずから、それを指摘すべきでした。 二一ただ、わたしは、彼らの中に立って、﹃わ
しにん まえ う
たしは、死人のよみがえりのことで、きょう、あなたがたの前でさばきを受

104
さけ
けているのだ﹄と叫んだだけのことです﹂。
みち そうとう せんそつちょう
二二 ここでペリクスは、この道のことを相当わきまえていたので、
﹁千 卒 長 ル
くだ く ま じけん はんけつ
シヤが下って来るのを待って、おまえたちの事件を判決することにする﹂と
い さいばん えんき ひゃくそつちょう かんきん
言って、裁判を延期した。 二三そして百 卒 長に、パウロを監禁するように、し
かれ かんだい と あつか ゆうじん せ わ と めい
かし彼を寛大に取り扱い、友人らが世話をするのを止めないようにと、命じ
た。
すうじつ じん つま いっしょ
二四 数日たってから、ペリクスは、ユダヤ人である妻ドルシラと一緒にきて、パ
よ だ たい しんこう かれ き
ウロを呼び出し、キリスト・イエスに対する信仰のことを、彼から聞いた。 二
せいぎ せっせい みらい しんぱん ろん
五 そこで、パウロが、正義、節制、未来の審判などについて論じていると、ペ
ふあん かん い かえ
リクスは不安を感じてきて、言った、
﹁きょうはこれで帰るがよい。また、よ
きかい え よ だ かれ どうじ
い機会を得たら、呼び出すことにする﹂。 二六彼は、それと同時に、パウロから
かね した よ だ かた
金をもらいたい下ごころがあったので、たびたびパウロを呼び出しては語り

合った。
ねん とき こうたい にん
二七 さて、二か年たった時、ポルキオ・フェストが、ペリクスと交代して任に
使徒行伝

じん かんしん か おも かんきん
ついた。ペリクスは、ユダヤ人の歓心を買おうと思って、パウロを監禁した
ままにしておいた。

105
第二五章
にんち つ か のち
一 さて、フェストは、任地に着いてから三日の後、カイザリヤからエルサレム
のぼ さいしちょう じん おもだ もの うった
に上ったところ、二祭司長たちやユダヤ人の重立った者たちが、パウロを訴え
で かれ よ だ と はか
出て、三彼をエルサレムに呼び出すよう取り計らっていただきたいと、しきり
ねが かれ とちゅう ま ぶ かれ ころ かんが
に願った。彼らは途中で待ち伏せして、彼を殺す考えであった。 四ところが
かんきん じぶん かえ
フェストは、パウロがカイザリヤに監禁してあり、自分もすぐそこへ帰るこ
こた い おとこ なに ふ つ ご う
とになっていると答え、 五そして言った、
﹁では、もしあの男に何か不都合な
ゆうりょくしゃ いっしょ くだ
ことがあるなら、おまえたちのうちの有 力 者らが、わたしと一緒に下って
い うった
行って、 訴えるがよかろう﹂。
かれ か か たいざい のち くだ
六 フェストは、彼らのあいだに八日か十日ほど滞在した後、カイザリヤに下っ
い よくじつ さいばん せき ひ だ めい
て行き、その翌日、裁判の席について、パウロを引き出すように命じた。 七パ
すがた くだ じん かれ と
ウロが姿をあらわすと、エルサレムから下ってきたユダヤ人たちが、彼を取
かれ たい おも ざいじょう もう た
りかこみ、彼に対してさまざまの重い罪 状を申し立てたが、いずれもその
使徒行伝

しょうこ じん りっぽう
証拠をあげることはできなかった。 八パウロは﹁わたしは、ユダヤ人の律法に
たい みや たい たい つみ おか
対しても、宮に対しても、またカイザルに対しても、なんら罪を犯したこと

106
べんめい じん かんしん か おも
はない﹂と弁明した。 九ところが、フェストはユダヤ人の歓心を買おうと思っ
い のぼ じけん かん
て、パウロにむかって言った、
﹁おまえはエルサレムに上り、この事件に関し、
さいばん う しょうち い
わたしからそこで裁判を受けることを承知するか﹂。 一〇パウロは言った、
﹁わ
いま ほうてい た ほうてい さいばん
たしは今、カイザルの法廷に立っています。わたしはこの法廷で裁判される
しょうち じん なに わる
べきです。よくご承知のとおり、わたしはユダヤ人たちに、何も悪いことを
わる し あた
してはいません。 一一もしわたしが悪いことをし、死に当るようなことをして
し まぬか かれ うった
いるのなら、死を免れようとはしません。しかし、もし彼らの訴えることに、
こんきょ かれ ひ わた けんり
なんの根拠もないとすれば、だれもわたしを彼らに引き渡す権利はありませ
じょうそ ばいせき もの
ん。わたしはカイザルに上訴します﹂。 一二そこでフェストは、陪席の者たち
きょうぎ こた じょうそ もう で
と協議したうえ答えた、﹁おまえはカイザルに上訴を申し出た。カイザルのと

ころに行くがよい﹂。
すうじつ のち おう けいい ひょう
一三 数日たった後、アグリッパ王とベルニケとが、フェストに敬意を表するた
なににちかん たいざい
め、カイザリヤにきた。 一四ふたりは、そこに何日間も滞在していたので、フェ
おう はな い しゅうじん
ストは、パウロのことを王に話して言った、
﹁ここに、ペリクスが囚 人として
使徒行伝

のこ い おとこ い とき おとこ
残して行ったひとりの男がいる。 一五わたしがエルサレムに行った時、この男
さいしちょう じん ちょうろう ほうこく かれ つみ
のことを、祭司長たちやユダヤ人の長 老たちが、わたしに報告し、彼を罪に

107
さだ ようきゅう かれ こた うった
定めるようにと要 求した。 一六そこでわたしは、彼らに答えた、
﹃訴えられた
もの うった もの まえ た こくそ たい べんめい きかい あた まえ
者が、訴えた者の前に立って、告訴に対し弁明する機会を与えられない前に、
ひと みはな じん かんれい
その人を見放してしまうのは、ローマ人の慣例にはないことである﹄。 一七そ
かれ あつ とき とき つぎ ひ さいばん
れで、彼らがここに集まってきた時、わたしは時をうつさず、次の日に裁判
せき おとこ ひ だ うった もの た あ
の席について、その男を引き出させた。 一八 訴えた者たちは立ち上がったが、
すいそく あくじ かれ なにひと もう た
わたしが推測していたような悪事は、彼について何一つ申し立てはしなかっ
かれ あらそ あ かれ じしん しゅうきょう かん し
た。 一九ただ、彼と争い合っているのは、彼ら自身の宗 教に関し、また、死ん
い しゅちょう もの かん
でしまったのに生きているとパウロが主 張しているイエスなる者に関する
もんだい す もんだい と あつか
問題に過ぎない。 二〇これらの問題を、どう取り扱 ってよいかわからなかっ
かれ い もんだい
たので、わたしは彼に、
﹃エルサレムに行って、これらの問題について、そこ
たず こうてい
でさばいてもらいたくはないか﹄と尋ねてみた。 二一ところがパウロは、皇帝
はんけつ う とき じぶん い
の判決を受ける時まで、このまま自分をとどめておいてほしいと言うので、カ
かれ おく とき めい
イザルに彼を送りとどける時までとどめておくようにと、命じておいた﹂。 二二
ひと い ぶん き み
そこで、アグリッパがフェストに﹁わたしも、その人の言い分を聞いて見た
使徒行伝

い かれ き
い﹂と言ったので、フェストは、
﹁では、あす彼から聞きとるようにしてあげ
こた
よう﹂と答えた。

108
よくじつ おお い ぎ せんそつちょう
二三 翌日、アグリッパとベルニケとは、大いに威儀をととのえて、千 卒 長たち
し おもだ ひと とも いんけんじょ
や市の重立った人たちと共に、引見所にはいってきた。すると、フェストの
めい ひ だ い
命によって、パウロがそこに引き出された。 二四そこで、フェストが言った、
おう りんせき しょくん じんぶつ
﹁アグリッパ王、ならびにご臨席の諸君。ごらんになっているこの人物は、ユ
じん ち
ダヤ人たちがこぞって、エルサレムにおいても、また、この地においても、こ
いじょう い さけ うった で もの
れ以上、生かしておくべきでないと叫んで、わたしに訴え出ている者である。
かれ し あた なに み
二五 しかし、彼は死に当ることは何もしていないと、わたしは見ているのだが、
かれ じ し ん こうてい じょうそ い だ かれ おく き
彼自身が皇帝に上訴すると言い出したので、彼をそちらへ送ることに決めた。
かれ しゅくん か たし なに
二六 ところが、彼について、主君に書きおくる確かなものが何もないので、わ
かれ しょくん まえ とく おう まえ ひ だ
たしは、彼を諸君の前に、特に、アグリッパ王よ、あなたの前に引き出して、
とりしら じょうしょ ざいりょう え おも しゅうじん おく
取調べをしたのち、 上 書すべき材 料を得ようと思う。 二七囚 人を送るのに、
こくそ りゆう しめ ふ ご う り おも
その告訴の理由を示さないということは、不合理だと思えるからである﹂。
第二六章
使徒行伝
じしん はな い

109
一 アグリッパはパウロに、
﹁おまえ自身のことを話してもよい﹂と言った。そ
て の べんめい はじ
こでパウロは、手をさし伸べて、弁明をし始めた。
おう じん うった こと かん
二 ﹁アグリッパ王よ、ユダヤ人たちから訴えられているすべての事に関して、
まえ べんめい おも
きょう、あなたの前で弁明することになったのは、わたしのしあわせに思う
じん かんれい もんだい し
ところであります。 三あなたは、ユダヤ人のあらゆる慣例や問題を、よく知り
ぬ もう かんだい こころ き
抜いておられるかたですから、わたしの申すことを、寛大なお心で聞いてい
ただきたいのです。
わか じだい はじ じ こくみん なか す
四 さて、わたしは若い時代には、初めから自国民の中で、またエルサレムで過
せいかつ じん し
ごしたのですが、そのころのわたしの生活ぶりは、ユダヤ人がみんなよく知っ
かれ はじ し しょうげん
ているところです。 五彼らはわたしを初めから知っているので、 証 言しよう
おも しゅうきょう もっと げんかく は
と思えばできるのですが、わたしは、わたしたちの宗 教の最も厳格な派にし
びと せいかつ いま かみ
たがって、パリサイ人としての生活をしていたのです。 六今わたしは、神がわ
せんぞ やくそく きぼう さいばん う
たしたちの先祖に約束なさった希望をいだいているために、裁判を受けてい
ぶぞく よるひる ねっしん かみ つか
るのであります。 七わたしたちの十二の部族は、夜昼、熱心に神に仕えて、そ
やくそく え のぞ おう きぼう
の約束を得ようと望んでいるのです。王よ、この希望のために、わたしはユ
使徒行伝

じん うった かみ しにん
ダヤ人から訴えられています。 八神が死人をよみがえらせるということが、
しん おも
あなたがたには、どうして信じられないことと思えるのでしょうか。

110
じしん いぜん びと な さか はんたい こうどう
九 わたし自身も、以前には、ナザレ人イエスの名に逆らって反対の行動をすべ
おも かんこう
きだと、思っていました。 一〇そしてわたしは、それをエルサレムで敢行し、
さいしちょう けんげん あた おお せいと ごく と こ かれ
祭司長たちから権限を与えられて、多くの聖徒たちを獄に閉じ込め、彼らが
ころ とき さんせい い あらわ
殺される時には、それに賛成の意を表しました。 一一それから、いたるところ
かいどう かれ ばっ む り かみ ことば い
の会堂で、しばしば彼らを罰して、無理やりに神をけがす言葉を言わせよう
かれ たい あ くる がいこく まちまち はくがい て
とし、彼らに対してひどく荒れ狂い、ついに外国の町々にまで、迫害の手を
いた
のばすに至りました。
さいしちょう けんげん いにん う
一二 こうして、わたしは、祭司長たちから権限と委任とを受けて、ダマスコに
い おう とちゅう まひる ひかり てん く み
行ったのですが、 一三王よ、その途中、真昼に、 光が天からさして来るのを見
たいよう ひか かがや どうこうしゃ
ました。それは、太陽よりも、もっと光り輝いて、わたしと同行者たちとを
てら ち たお とき ご
めぐり照しました。 一四わたしたちはみな地に倒れましたが、その時ヘブル語
よ こえ き
でわたしにこう呼びかける声を聞きました、
﹃サウロ、サウロ、なぜわたしを
はくがい きず お
迫害するのか。とげのあるむちをければ、傷を負うだけである﹄。 一五そこで、
しゅ たず しゅ い
わたしが﹃主よ、あなたはどなたですか﹄と尋ねると、主は言われた、
﹃わた
使徒行伝

はくがい お じぶん
しは、あなたが迫害しているイエスである。 一六さあ、起きあがって、自分の
あし た あらわ あ こと
足で立ちなさい。わたしがあなたに現れたのは、あなたがわたしに会った事

111
あらわ しめ こと つた つとめ
と、あなたに現れて示そうとしている事とをあかしし、これを伝える務に、あ
にん こくみん いほうじん なか
なたを任じるためである。 一七わたしは、この国民と異邦人との中から、あな
すく だ かれ かれ め
たを救い出し、あらためてあなたを彼らにつかわすが、 一八それは、彼らの目
ひら かれ ひかり あくま しはい かみ かえ かれ
を開き、彼らをやみから光へ、悪魔の支配から神のみもとへ帰らせ、また、彼
つみ え しん しんこう せいべつ ひとびと くわ
らが罪のゆるしを得、わたしを信じる信仰によって、聖別された人々に加わ
るためである﹄。
おう てん けいじ
一九 それですから、アグリッパ王よ、わたしは天よりの啓示にそむかず、 二〇ま
はじ ひとびと ひとびと
ず初めにダマスコにいる人々に、それからエルサレムにいる人々、さらにユ
ぜんど いほうじん く あらた かみ た かえ くいあらた
ダヤ全土、ならびに異邦人たちに、悔い改めて神に立ち帰り、悔 改めにふさ
おこな と すす じん
わしいわざを行うようにと、説き勧めました。 二一そのために、ユダヤ人は、わ
みや ひ とら ころ こんにち いた
たしを宮で引き捕えて殺そうとしたのです。 二二しかし、わたしは今日に至る
かみ か ご う た ちい もの おお もの
まで神の加護を受け、このように立って、小さい者にも大きい者にもあかし
よげんしゃ こ ん ご おこ かた
をなし、預言者たちやモーセが、今後起るべきだと語ったことを、そのまま
の くなん う しにん
述べてきました。 二三すなわち、キリストが苦難を受けること、また、死人の
使徒行伝

なか さいしょ こくみん いほうじん ひかり の つた いた


中から最初によみがえって、この国民と異邦人とに、 光を宣べ伝えるに至る
べんめい
ことを、あかししたのです﹂。 二四パウロがこのように弁明をしていると、フェ

112
おおごえ い き くる はくがく
ストは大声で言った、
﹁パウロよ、おまえは気が狂っている。博学が、おまえ
くる い かっ か き くる
を狂わせている﹂。 二五パウロが言った、
﹁フェスト閣下よ、わたしは気が狂っ
しんじつ ことば かた おう
てはいません。わたしは、まじめな真実の言葉を語っているだけです。 二六王
し おう たい そっちょく もう あ
はこれらのことをよく知っておられるので、王に対しても、率 直に申し上げ
かた おこな
ているのです。それは、片すみで行われたのではないのですから、一つとし
おう み しん おう
て、王が見のがされたことはないと信じます。 二七アグリッパ王よ、あなたは
よげんしゃ しん しん おも
預言者を信じますか。信じておられると思います﹂。 二八アグリッパがパウロ
い すこ と
に言った、
﹁おまえは少し説いただけで、わたしをクリスチャンにしようとし
い と すこ おお
ている﹂。 二九パウロが言った、
﹁説くことが少しであろうと、多くであろうと、
かみ いの ことば き
わたしが神に祈るのは、ただあなただけでなく、きょう、わたしの言葉を聞
ひと くだ くさり べつ
いた人もみな、わたしのようになって下さることです。このような鎖は別で
すが﹂。
おう そうとく れっせき ひとびと た
三〇 それから、王も総督もベルニケも、また列席の人々も、みな立ちあがった。
たいじょう たがい かた あ い ひと し とうごく あた
三一 退 場してから、 互に語り合って言った、
﹁あの人は、死や投獄に当るよう
使徒行伝


なことをしてはいない﹂。 三二そして、アグリッパがフェストに言った、
﹁あの
ひと じょうそ
人は、カイザルに上訴していなかったら、ゆるされたであろうに﹂。

113
第二七章
ふね い き とき
一 さて、わたしたちが、舟でイタリヤに行くことが決まった時、パウロとその
すうにん しゅうじん こ の え たい ひゃくそつちょう たく
ほか数人の囚 人とは、近衛隊の百 卒 長 ユリアスに託された。 二そしてわた
えんがん かくしょ きこう ふね
したちは、アジヤ沿岸の各所に寄港することになっているアドラミテオの舟
の こ しゅっぱん びと どうこう
に乗り込んで、出 帆した。テサロニケのマケドニヤ人アリスタルコも同行し
つぎ ひ にゅうこう しんせつ と あつか
た。 三次の日、シドンに入 港したが、ユリアスは、パウロを親切に取り扱い、
ゆうじん う ゆる
友人をおとずれてかんたいを受けることを、許した。 四それからわたしたち
ふなで ぎゃくふう しま こうこう
は、ここから船出したが、 逆 風にあったので、クプロの島かげを航行し、 五
おき す にゅうこう
キリキヤとパンフリヤの沖を過ぎて、ルキヤのミラに入 港した。 六そこに、イ
い ふね ひゃくそつちょう
タリヤ行きのアレキサンドリヤの舟があったので、百 卒 長は、わたしたちを
ふね の こ いくにち ふね すす
その舟に乗り込ませた。 七幾日ものあいだ、舟の進みがおそくて、わたしたち
おきあい かぜ ゆ て
は、かろうじてクニドの沖合にきたが、風がわたしたちの行く手をはばむの
おき しま こうこう きし そ すす
で、サルモネの沖、クレテの島かげを航行し、 八その岸に沿って進み、かろう
使徒行伝

よ みなと よ ところ つ ちか まち
じて﹁良き港﹂と呼ばれる所に着いた。その近くにラサヤの町があった。
なが とき けいか だんじき き す こうかい きけん きせつ
長い時が経過し、断食期も過ぎてしまい、すでに航海が危険な季節になった

114

ひとびと けいこく い みな み
ので、パウロは人々に警告して言った、 一〇﹁皆さん、わたしの見るところで
こうかい つみに せんたい せいめい きがい
は、この航海では、積荷や船体ばかりでなく、われわれの生命にも、危害と
おお そんしつ およ ひゃくそつちょう いけん
大 き な 損失 が 及 ぶ で あ ろ う﹂。 一一し か し 百 卒 長 は、パ ウ ロ の 意見 よ り も、
せんちょう せんしゅ ほう しんらい みなと ふゆ す てき
船 長や船主の方を信頼した。 一二なお、この港は冬を過ごすのに適しないの
だいたすう もの で なんせい ほくせい
で、大多数の者は、ここから出て、できればなんとかして、南西と北西とに
めん こう い ふゆ す しゅちょう
面しているクレテのピニクス港に行って、そこで冬を過ごしたいと主 張し
た。
とき なんぷう しず ふ かれ とき
一三 時に、南風が静かに吹いてきたので、彼らは、この時とばかりにいかりを
あ きし そ こうこう ま
上げて、クレテの岸に沿って航行した。 一四すると間もなく、ユーラクロンと
よ ぼうふう しま ふ ふね なが かぜ
呼ばれる暴風が、島から吹きおろしてきた。 一五そのために、舟が流されて風
さか ふ なが まか
に逆らうことができないので、わたしたちは吹き流されるままに任せた。 一六
こじま かげ こ
それから、クラウダという小島の陰に、はいり込んだので、わたしたちは、やっ
こぶね しょ ち ふね ひ あ つな
とのことで小舟を処置することができ、 一七それを舟に引き上げてから、綱で
せんたい ま す の あ おそ ほ
船体を巻きつけた。また、スルテスの洲に乗り上げるのを恐れ、帆をおろし
使徒行伝

なが ぼうふう なや
て流れるままにした。 一八わたしたちは、暴風にひどく悩まされつづけたの
つぎ ひ ひとびと つみに す か め ふなぐ
で、次の日に、人々は積荷を捨てはじめ、 一九三日目には、船具までも、てず

115
な いくにち たいよう ほし み ぼうふう はげ ふ
から投げすてた。 二〇幾日ものあいだ、太陽も星も見えず、暴風は激しく吹き
たす さいご のぞ
すさぶので、わたしたちの助かる最後の望みもなくなった。
もの なが しょくじ とき かれ
二一 みんなの者は、長いあいだ食事もしないでいたが、その時、パウロが彼ら
なか た い みな ちゅうこく き
の中に立って言った、
﹁皆さん、あなたがたが、わたしの忠 告を聞きいれて、
で きがい そんしつ こうむ
クレテから出なかったら、このような危害や損失を被らなくてすんだはずで
さい すす げんき だ ふね うしな
あった。 二二だが、この際、お勧めする。元気を出しなさい。舟が失われるだ
なか せいめい うしな
け で、あ な た が た の 中 で 生命 を 失 う も の は、ひ と り も い な い で あ ろ う。 二三
さくや つか おが かみ みつかい た
昨夜、わたしが仕え、また拝んでいる神からの御使が、わたしのそばに立っ
い おそ かなら まえ た
て言った、 二四﹃パウロよ、恐れるな。あなたは必ずカイザルの前に立たなけ
かみ どうせん もの たま
ればならない。たしかに神は、あなたと同船の者を、ことごとくあなたに賜
みな げんき だ ばんじ つ
わっている﹄。 二五だから、皆さん、元気を出しなさい。万事はわたしに告げら
な い かみ しん
れたとおりに成って行くと、わたしは、神かけて信じている。 二六われわれは、
しま う そうい
どこかの島に打ちあげられるに相違ない﹂。
うみ ただよ か め よる とき ま よ な か
二七 わたしたちがアドリヤ海に漂 ってから十四日目の夜になった時、真夜中
使徒行伝

すいふ りくち ちか かん みず ふか
ごろ、水夫らはどこかの陸地に近づいたように感じた。 二八そこで、水の深さ
はか すこ すす
を測ってみたところ、二十ひろであることがわかった。それから少し進んで、

116
い ち ど はか まんいちあんしょう の
もう一度測ってみたら、十五ひろであった。 二九わたしたちが、万一 暗 礁に乗
あ たいへん ひとびと き な
り上げては大変だと、人々は気づかって、ともから四つのいかりを投げおろ
よ あ ま とき すいふ ふね に だ
し、夜の明けるのを待ちわびていた。 三〇その時、水夫らが舟から逃げ出そう
おも な み こぶね うみ
と思って、へさきからいかりを投げおろすと見せかけ、小舟を海におろして
ひゃくそつちょう へいそつ い ひと ふね
いたので、 三一パウロは、百 卒 長や兵卒たちに言った、
﹁あの人たちが、舟に
のこ たす へいそつ こぶね
残っていなければ、あなたがたは助からない﹂。 三二そこで兵卒たちは、小舟の
つな た き なが い まか
綱を断ち切って、その流れて行くままに任せた。
よ あ いちどう もの しょくじ すす い
三三 夜が明けかけたころ、パウロは一同の者に、食事をするように勧めて言っ
しょくじ み は つづ なに た
た、
﹁あなたがたが食事もせずに、見張りを続けてから、何も食べないで、きょ
か め あた しょくじ と すす
うが十四日目に当る。 三四だから、いま食事を取ることをお勧めする。それ
すく かみ け
が、あなたがたを救うことになるのだから。たしかに髪の毛ひとすじでも、あ
あたま うしな かれ い
なたがたの頭から失われることはないであろう﹂。 三五彼はこう言って、パン
と まえ かみ かんしゃ た
を取り、みんなの前で神に感謝し、それをさいて食べはじめた。 三六そこで、み
もの げんき しょくじ ふね あ
んなの者も元気づいて食事をした。 三七舟にいたわたしたちは、合わせて二百
使徒行伝

にん もの しょくじ のち こくもつ うみ
七十六人であった。 三八みんなの者は、じゅうぶんに食事をした後、穀物を海
な ふね かろ
に投げすてて舟を軽くした。

117
よ あ と ち すなはま いりえ み
三九 夜が明けて、どこの土地かよくわからなかったが、砂浜のある入江が見え
ふね の い
たので、できれば、それに舟を乗り入れようということになった。 四〇そこで、
き はな うみ す どうじ つな かぜ まえ ほ
いかりを切り離して海に捨て、同時にかじの綱をゆるめ、風に前の帆をあげ
すなはま すす ちょうりゅう なが あ ところ つ すす
て、砂浜にむかって進んだ。 四一ところが、 潮 流の流れ合う所に突き進んだ
ふね あさせ の こ うご
ため、舟を浅瀬に乗りあげてしまって、へさきがめり込んで動かなくなり、と
ほう げきろう へいそつ しゅうじん およ に
もの方は激浪のためにこわされた。 四二兵卒たちは、 囚 人らが泳いで逃げる
ころ はか ひゃくそつちょう すく
おそれがあるので、殺してしまおうと図ったが、 四三百 卒 長は、パウロを救
おも い と およ もの うみ と こ
いたいと思うところから、その意図をしりぞけ、泳げる者はまず海に飛び込
りく い た もの いた ふね はへん の い めい
んで陸に行き、 四四その他の者は、板や舟の破片に乗って行くように命じた。
ぜんぶ もの じょうりく すく
こうして、全部の者が上 陸して救われたのであった。
第二八章
すく よ
一 わたしたちが、こうして救われてからわかったが、これはマルタと呼ばれる
使徒行伝

しま と ち ひとびと なみなみ しんせつ


島であった。 二土地の人々は、わたしたちに並々ならぬ親切をあらわしてく
ふ あめ さむ ひ

118
れた。すなわち、降りしきる雨や寒さをしのぐために、火をたいてわたした
いちどう しば
ち一同をねぎらってくれたのである。 三そのとき、パウロはひとかかえの柴
ひ ねっ き で かれ て
をたばねて火にくべたところ、熱気のためにまむしが出てきて、彼の手にか
と ち ひとびと い て さ
みついた。 四土地の人々は、この生きものがパウロの手からぶら下がってい
み たがい い ひと ひとごろ ちが うみ
るのを見て、互に言った、
﹁この人は、きっと人殺しに違いない。海からはの
かみさま かれ い
がれたが、ディケーの神様が彼を生かしてはおかないのだ﹂。 五ところがパウ
ひ なか ふ おと がい こうむ かれ かれ
ロは、まむしを火の中に振り落して、なんの害も被らなかった。 六彼らは、彼
ま あ たお し ようす
が間もなくはれ上がるか、あるいは、たちまち倒れて死ぬだろうと、様子を
なが あいだ かれ み かわ
うかがっていた。しかし、長い間うかがっていても、彼の身になんの変った
おこ み かれ かんが か ひと かみさま い だ
ことも起らないのを見て、彼らは考えを変えて、
﹁この人は神様だ﹂と言い出
した。
ば しょ ちか しま しゅちょう ひと しょゆう ち
七 さて、その場所の近くに、島の首 長、ポプリオという人の所有地があった。
かれ しょうたい か しんせつ
彼は、そこにわたしたちを招 待して、三日のあいだ親切にもてなしてくれた。
ちち せきり こうねつ とこ
八 たまたま、ポプリオの父が赤痢をわずらい、高熱で床についていた。そこで
ひと い いの て かれ うえ
パウロは、その人のところにはいって行って祈り、手を彼の上においていや
使徒行伝

びょうき しま ひと
してやった。 九このことがあってから、ほかに病気をしている島の人たちが、
かれ ひじょう そんけい
ぞくぞくとやってきて、みないやされた。 一〇彼らはわたしたちを非常に尊敬

119
しゅっぱん とき ひつよう しなじな も
し、 出 帆の時には、必要な品々を持ってきてくれた。
げつ のち しま ふゆ
一一 三か月たった後、わたしたちは、この島に冬ごもりをしていたデオスクリ
ふねかざ ふね しゅっぱん
の船飾りのあるアレキサンドリヤの舟で、出 帆した。 一二そして、シラクサに
きこう か ていはく すす い
寄港して三日のあいだ停泊し、一三そこから進んでレギオンに行った。それか
にち なんぷう ふ じょう め つ
ら一日おいて、南風が吹いてきたのに乗じ、ふつか目にポテオリに着いた。 一
きょうだい あ すす かれ なぬかかん たいざい
四 そこで兄 弟たちに会い、勧められるまま、彼らのところに七日間も滞在し
とうちゃく きょうだい
た。それからわたしたちは、ついにローマに到 着した。 一五ところが、兄 弟た

ちは、わたしたちのことを聞いて、アピオ・ポロおよびトレス・タベルネま
でむか かれ あ かみ かんしゃ いさ た
で出迎えてくれた。パウロは彼らに会って、神に感謝し勇み立った。
つ のち ばんぺい
一六 わたしたちがローマに着いた後、パウロは、ひとりの番兵をつけられ、ひ
す ゆる
とりで住むことを許された。
か おもだ じん まね もの
一七 三日たってから、パウロは、重立ったユダヤ人たちを招いた。みんなの者
あつ かれ い きょうだい こくみん たい
が集まったとき、彼らに言った、
﹁兄 弟たちよ、わたしは、わが国民に対して
せ ん ぞ でんらい かんれい たい なにひと こうい
も、あるいは先祖伝来の慣例に対しても、何一つそむく行為がなかったのに、
使徒行伝

しゅうじん じん て ひ わた かれ
エルサレムで囚 人としてローマ人たちの手に引き渡された。 一八彼らはわた
と しら けっ か し あた ざいじょう しゃくほう
しを取り調べた結果、なんら死に当る罪 状もないので、わたしを釈 放しよう

120
おも じん はんたい
と思ったのであるが、 一九ユダヤ人たちがこれに反対したため、わたしはやむ
え じょうそ いた どうほう
を得ず、カイザルに上訴するに至ったのである。しかしわたしは、わが同胞
うった
を訴えようなどとしているのではない。 二〇こういうわけで、あなたがたに
あ かた あ ねが じじつ
会って語り合いたいと願っていた。事実、わたしは、イスラエルのいだいて
きぼう くさり かれ
いる希望のゆえに、この鎖につながれているのである﹂。 二一そこで彼らは、パ
い じん
ウロに言った、
﹁わたしたちは、ユダヤ人たちから、あなたについて、なんの
ぶんしょ う と きょうだい なか
文書も受け取っていないし、また、兄 弟たちの中からここにきて、あなたに
ふ り ほうこく あっこう い もの
ついて不利な報告をしたり、悪口を言ったりした者もなかった。 二二わたした
かんが ちょくせつ き ただ
ちは、あなたの考えていることを、直 接あなたから聞くのが、正しいことだ
おも じつ しゅうは はんたい
と思っている。実は、この宗派については、いたるところで反対のあること
みみ
が、わたしたちの耳にもはいっている﹂。
ひ さだ おお ひと やど あさ
二三 そこで、日を定めて、大ぜいの人が、パウロの宿につめかけてきたので、朝
ばん かた つづ かみ くに りっぽう
から晩まで、パウロは語り続け、神の国のことをあかしし、またモーセの律法
よげんしゃ しょ ひ かれ せっとく もの
や預言者の書を引いて、イエスについて彼らの説得につとめた。 二四ある者は
使徒行伝

い う もの しん たがい
パウロの言うことを受けいれ、ある者は信じようともしなかった。 二五 互に
いけん あ もの かえ とき の
意見が合わなくて、みんなの者が帰ろうとしていた時、パウロはひとこと述

121
い せいれい よげんしゃ せんぞ かた
べて言った、
﹁聖霊はよくも預言者イザヤによって、あなたがたの先祖に語っ
たものである。
たみ い い
二六 ﹃この民に行って言え、
き き けっ さと
あなたがたは聞くには聞くが、決して悟らない。
み み けっ みと
見るには見るが、決して認めない。
たみ こころ にぶ
二七 この民の心は鈍くなり、
みみ きこ
その耳は聞えにくく、
め と
その目は閉じている。
かれ め み
それは、彼らが目で見ず、
みみ き
耳で聞かず、
こころ さと く あらた
心で悟らず、悔い改めて
いやされることがないためである﹄。
し かみ すくい ことば いほうじん
二八 そこで、あなたがたは知っておくがよい。神のこの救の言葉は、異邦人に
おく かれ き
送られたのだ。彼らは、これに聞きしたがうであろう﹂。︹ 二九 パウロがこれら
使徒行伝

の おわ じん たがい ろん あ かえ い
のことを述べ終ると、ユダヤ人らは、 互に論じ合いながら帰って行った。︺
じぶん か いえ まん ねん す く ひとびと
パウロは、自分の借りた家に満二年のあいだ住んで、たずねて来る人々を

122
三〇
むか い さまた かみ くに の つた
みな迎え入れ、 三一はばからず、また妨げられることもなく、神の国を宣べ伝
しゅ おし
え、主イエス・キリストのことを教えつづけた。
使徒行伝

123
びと てがみ
ローマ人への手紙
第一章
しもべ かみ ふくいん えら わか め し と
一 キリスト・イエスの僕、神の福音のために選び別たれ、召されて使徒となっ
ふくいん かみ よげんしゃ せいしょ なか
たパウロから︱︱ 二この福音は、神が、預言者たちにより、聖書の中で、あら
やくそく み こ かん み こ にく
かじめ約束されたものであって、三御子に関するものである。御子は、肉によ
しそん うま せい れい しにん ふっかつ み
ればダビデの子孫から生れ、 四聖なる霊によれば、死人からの復活により、御
ちから かみ み こ さだ しゅ
力をもって神の御子と定められた。これがわたしたちの主イエス・キリスト
み な いほうじん しんこう じゅうじゅん
である。 五わたしたちは、その御名のために、すべての異邦人を信仰の従 順
いた かれ めぐ し と つとめ う
に至らせるようにと、彼によって恵みと使徒の務とを受けたのであり、六あな
かれ なか め ぞく もの
たがたもまた、彼らの中にあって、召されてイエス・キリストに属する者と
ローマ人への手紙

かみ あい め せ い と いちどう
なったのである︱︱ 七ローマにいる、神に愛され、召された聖徒一同へ。
ちち かみ しゅ めぐ へいあん
わたしたちの父なる神および主イエス・キリストから、恵みと平安とが、あ
なたがたにあるように。

0
だい しんこう ぜん せ か い い つた
八 まず第一に、わたしは、あなたがたの信仰が全世界に言い伝えられているこ
いちどう かみ
とを、イエス・キリストによって、あなたがた一同のために、わたしの神に
かんしゃ いのり た おぼ
感謝する。 九一〇わたしは、 祈のたびごとに、絶えずあなたがたを覚え、いつ
みむね みち ひら ところ い
かは御旨にかなって道が開かれ、どうにかして、あなたがたの所に行けるよ
ねが くだ
うにと願っている。このことについて、わたしのためにあかしをして下さる
れい み こ ふくいん の つた つか かみ
のは、わたしが霊により、御子の福音を宣べ伝えて仕えている神である。 一一
あ ねつぼう れい たまもの
わたしは、あなたがたに会うことを熱望している。あなたがたに霊の賜物を
いくぶん わ あた ちから なか
幾分でも分け与えて、力づけたいからである。 一二それは、あなたがたの中に
たがい しんこう とも はげ あ
いて、あなたがたとわたしとのお互の信仰によって、共に励まし合うために
きょうだい し
ほ か な ら な い。 一三 兄 弟 た ち よ。こ の こ と を 知 ら ず に い て も ら い た く な い。
いほうじん あいだ え あいだ いくぶん み
わたしはほかの異邦人の間で得たように、あなたがたの間でも幾分かの実を
え ところ い くわだ いま さまた
得るために、あなたがたの所に行こうとしばしば企てたが、今まで妨げられ
ローマ人への手紙

じん みかい ひと かしこ もの む ち もの
てきた。 一四わたしには、ギリシヤ人にも未開の人にも、賢い者にも無知な者
はた せきにん せつ ねが
にも、果すべき責任がある。 一五そこで、わたしとしての切なる願いは、ロー
ふくいん の つた
マにいるあなたがたにも、福音を宣べ伝えることなのである。 一六わたしは
ふくいん はじ じん じん しん
福音を恥としない。それは、ユダヤ人をはじめ、ギリシヤ人にも、すべて信

1
もの すくい え かみ ちから かみ ぎ ふくいん なか けいじ
じる者に、救を得させる神の力である。 一七神の義は、その福音の中に啓示さ
しんこう はじ しんこう いた しんこう ぎじん い か
れ、信仰に始まり信仰に至らせる。これは、
﹁信仰による義人は生きる﹂と書
いてあるとおりである。
かみ いか ふ ぎ しんり にんげん ふしんじん
一八 神の怒りは、不義をもって真理をはばもうとする人間のあらゆる不信心と
ふ ぎ たい てん けいじ かみ し こと
不義とに対して、天から啓示される。 一九なぜなら、神について知りうる事が
かれ あき かみ かれ あき
らは、彼らには明らかであり、神がそれを彼らに明らかにされたのである。 二
かみ み せいしつ かみ えいえん ちから しんせい て ん ち そうぞう
〇 神の見えない性質、すなわち、神の永遠の力と神性とは、天地創造このかた、
ひ ぞうぶつ し あき みと
被造物において知られていて、明らかに認められるからである。したがって、
かれ べんかい よ ち かれ かみ し かみ
彼らには弁解の余地がない。 二一なぜなら、彼らは神を知っていながら、神と
かんしゃ おも む ち
してあがめず、感謝もせず、かえってその思いはむなしくなり、その無知な
こころ くら かれ みずか ち しゃ しょう おろ
心は暗くなったからである。 二二彼らは自ら知者と称しながら、愚かになり、二
ふきゅう かみ えいこう か く にんげん とり けもの は ぞう に
不朽の神の栄光を変えて、朽ちる人間や鳥や獣や這うものの像に似せたの
ローマ人への手紙


である。
かみ かれ こころ よくじょう じぶん たがい
二四 ゆえに、神は、彼らが心の欲 情にかられ、自分のからだを互にはずかしめ
けが まか かれ かみ しんり か きょ ぎ そうぞうしゃ
て、汚すままに任せられた。 二五彼らは神の真理を変えて虚偽とし、創造者の
かわ ひ ぞうぶつ おが つか そうぞうしゃ えいえん
代りに被造物を拝み、これに仕えたのである。創造者こそ永遠にほむべきも

2
のである、アァメン。
かみ かれ は じょうよく まか かれ なか
二六 それゆえ、神は彼らを恥ずべき情 欲に任せられた。すなわち、彼らの中の
おんな しぜん かんけい ふ し ぜ ん か おとこ おな おんな
女は、その自然の関係を不自然なものに代え、二七 男もまた同じように女との
しぜん かんけい す たがい じょうよく ほのお も おとこ おとこ たい は
自然の関係を捨てて、互にその情 欲の炎を燃やし、男は男に対して恥ずべき
らんぎょう とうぜん むく み う
ことをなし、そしてその乱 行の当然の報いを、身に受けたのである。
かれ かみ みと ただ かみ かれ ただ
二八 そして、彼らは神を認めることを正しいとしなかったので、神は彼らを正
おも こと まか
しからぬ思いにわたし、なすべからざる事をなすに任せられた。 二九すなわ
かれ ふ ぎ あく どんよく あくい さつい あらそ
ち、彼らは、あらゆる不義と悪と貪欲と悪意とにあふれ、ねたみと殺意と争
さ ぎ あくねん み げん もの もの かみ にく もの ふそん
いと詐欺と悪念とに満ち、また、ざん言する者、三〇そしる者、神を憎む者、不遜
もの こうまん もの たいげんそうご もの あくじ もの おや さか もの
な者、高慢な者、大言壮語する者、悪事をたくらむ者、親に逆らう者となり、
む ち ふせいじつ むじょう む じ ひ もの かれ こと
三一 無知、不誠実、無情、無慈悲な者となっている。 三二彼らは、こうした事を
おこな もの し あたい かみ さだ し みずか おこな
行う者どもが死に価するという神の定めをよく知りながら、自らそれを行う
ローマ人への手紙

おこな もの ぜにん
ばかりではなく、それを行う者どもを是認さえしている。

3
第二章
ひと もの べんかい よ ち
一 だから、ああ、すべて人をさばく者よ。あなたには弁解の余地がない。あな
たにん じぶんじしん つみ さだ
たは、他人をさばくことによって、自分自身を罪に定めている。さばくあな
おな おこな かみ
たも、同じことを行 っているからである。 二わたしたちは、神のさばきが、こ
こと おこな もの うえ ただ くだ し
のような事を行う者どもの上に正しく下ることを、知っている。 三ああ、この
こと おこな もの みずか おな おこな ひと
ような事を行う者どもをさばきながら、しかも自ら同じことを行う人よ。あ
かみ おも かみ じあい
なたは、神のさばきをのがれうると思うのか。 四それとも、神の慈愛があなた
くいあらた みちび し じあい にんたい かんよう とみ かろ
を悔 改めに導くことも知らないで、その慈愛と忍耐と寛容との富を軽んじる
くいあらた こころ かみ ただ
のか。 五あなたのかたくなな、 悔 改めのない心のゆえに、あなたは、神の正
あらわ いか ひ かみ いか じぶん み つ
しいさばきの現れる怒りの日のために神の怒りを、自分の身に積んでいるの
かみ むく
である。 六神は、おのおのに、そのわざにしたがって報いられる。 七すなわち、
ローマ人への手紙

いっぽう た しの ぜん おこな こうえい く もと ひと


一方では、耐え忍んで善を行 って、光栄とほまれと朽ちぬものとを求める人
えいえん あた たほう とうはしん しんり したが
に、永遠のいのちが与えられ、 八他方では、党派心をいだき、真理に従わない
ふ ぎ したが ひと いか はげ いきどお くわ あく おこな
で不義に従う人に、怒りと激しい憤りとが加えられる。 九悪を行うすべての
ひと じん じん かんなん くのう あた ぜん
人には、ユダヤ人をはじめギリシヤ人にも、患難と苦悩とが与えられ、 一〇善

4
おこな ひと じん じん こうえい
を行うすべての人には、ユダヤ人をはじめギリシヤ人にも、光栄とほまれと
へいあん あた かみ み
平安とが与えられる。 一一なぜなら、神には、かたより見ることがないからで
ある。
りっぽう つみ おか もの りっぽう ほろ りっぽう
一二 そのわけは、律法なしに罪を犯した者は、また律法なしに滅び、律法のも
つみ おか もの りっぽう りっぽう き もの
とで罪を犯した者は、律法によってさばかれる。 一三なぜなら、律法を聞く者
かみ まえ ぎ りっぽう おこな もの ぎ
が、神の前に義なるものではなく、律法を行う者が、義とされるからである。
りっぽう も いほうじん しぜん りっぽう めい こと おこな
一四 すなわち、律法を持たない異邦人が、自然のままで、律法の命じる事を行
りっぽう も かれ じぶんじしん りっぽう
うなら、たとい律法を持たなくても、彼らにとっては自分自身が律法なので
かれ りっぽう ようきゅう こころ あらわ
ある。 一五彼らは律法の要 求がその心にしるされていることを現し、そのこ
かれ りょうしん とも はんだん たがい うった
とを彼らの良 心も共にあかしをして、その判断が互にあるいは訴え、あるい
べんめい あ ふくいん
は弁明し合うのである。 一六そして、これらのことは、わたしの福音によれば、
かみ ひとびと かく こと ひ あき
神がキリスト・イエスによって人々の隠れた事がらをさばかれるその日に、明
ローマ人への手紙

らかにされるであろう。
みずか じん しょう りっぽう やす かみ ほこり みむね
一七 もしあなたが、自らユダヤ人と称し、律法に安んじ、神を誇とし、 一八御旨
し りっぽう おし
を知り、律法に教えられて、なすべきことをわきまえており、 一九二〇さらに、
ちしき しんり りっぽう なか かたち みずか もうじん て び
知識と真理とが律法の中に形をとっているとして、 自ら盲人の手引き、やみ

5
もの ひかり おろ もの みちび て おさ ご きょうし にん
におる者の光、愚かな者の導き手、幼な子の教師をもって任じているのなら、
ひと おし じぶん おし ぬす ひと と みずか ぬす
二一 なぜ、人を教えて自分を教えないのか。盗むなと人に説いて、自らは盗む
かんいん い みずか かんいん ぐうぞう い
のか。 二二姦淫するなと言って、 自らは姦淫するのか。偶像を忌みきらいな
みずか みや もの りっぽう ほこり みずか りっぽう
がら、自らは宮の物をかすめるのか。 二三律法を誇としながら、自らは律法に
いはん かみ あなど せいしょ か かみ み な
違反して、神を侮 っているのか。 二四聖書に書いてあるとおり、
﹁神の御名は、
いほうじん あいだ けが りっぽう
あなたがたのゆえに、異邦人の間で汚されている﹂。 二五もし、あなたが律法を
おこな かつれい やく た りっぽう おか
行うなら、なるほど、割礼は役に立とう。しかし、もし律法を犯すなら、あ
かつれい む かつれい む かつれい もの りっぽう
な た の 割礼 は 無割礼 と な っ て し ま う。 二六だ か ら、も し 無割礼 の 者 が 律法 の
きてい まも む かつれい かつれい み うま
規定を守るなら、その無割礼は割礼と見なされるではないか。 二七かつ、生れ
む かつれい もの りっぽう まっと もの りっぽう もんじ かつれい も
ながら無割礼の者であって律法を全うする者は、律法の文字と割礼とを持ち
りっぽう おか がいけんうえ
ながら律法を犯しているあなたを、さばくのである。 二八というのは、外見上
じん じん がいけんうえ にく かつれい かつれい
のユダヤ人がユダヤ人ではなく、また、外見上の肉における割礼が割礼でも
ローマ人への手紙

かく じん じん もんじ
ない。 二九かえって、隠れたユダヤ人がユダヤ人であり、また、文字によらず
れい こころ かつれい かつれい ひと かみ
霊による心の割礼こそ割礼であって、そのほまれは人からではなく、神から

来るのである。

6
第三章
じん てん なに かつれい えき なに
一 では、ユダヤ人のすぐれている点は何か。また割礼の益は何か。 二それは、
てん かずおお だい かみ ことば かれ
いろいろの点で数多くある。まず第一に、神の言が彼らにゆだねられたこと
かれ ふ しんじつ もの
である。 三すると、どうなるのか。もし、彼らのうちに不真実の者があったと
ふ しんじつ かみ しんじつ む だん
したら、その不真実によって、神の真実は無になるであろうか。 四断じてそう
ひと いつわ もの かみ しんじつ
ではない。あらゆる人を偽り者としても、神を真実なものとすべきである。
それは、
ことば の ぎ
﹁あなたが言葉を述べるときは、義とせられ、
う しょうり え
あなたがさばきを受けるとき、勝利を得るため﹂

と書いてあるとおりである。
ふ ぎ かみ ぎ あき
しかし、もしわたしたちの不義が、神の義を明らかにするとしたら、なんと
ローマ人への手紙


い いか くだ かみ ふ ぎ い にんげんてき い
言うべきか。怒りを下す神は、不義であると言うのか︵これは人間的な言い
かた だん かみ よ
方ではある︶。 六断じてそうではない。もしそうであったら、神はこの世を、
かみ しんじつ いつわ
どうさばかれるだろうか。 七しかし、もし神の真実が、わたしの偽りにより
あき かみ えいこう
いっそう明らかにされて、神の栄光となるなら、どうして、わたしはなおも

7
つみびと ぜん
罪人としてさばかれるのだろうか。 八むしろ、
﹁善をきたらせるために、わた
あく い ひとびと
したちは悪をしようではないか﹂
︵わたしたちがそう言っていると、ある人々
かれ ばっ とうぜん
はそしっている︶。彼らが罰せられるのは当然である。
なに
九 すると、どうなるのか。わたしたちには何かまさったところがあるのか。
ぜったい じん じん つみ もと
絶対にない。ユダヤ人もギリシヤ人も、ことごとく罪の下にあることを、わ
してき つぎ か
たしたちはすでに指摘した。 一〇次のように書いてある、
ぎじん
﹁義人はいない、ひとりもいない。
さと ひと
一一 悟りのある人はいない、
かみ もと ひと
神を求める人はいない。
ひと まよ で
一二 すべての人は迷い出て、
むえき
ことごとく無益なものになっている。
ぜん おこな もの
善を行う者はいない、
ローマ人への手紙

ひとりもいない。
かれ ひら はか
一三 彼らののどは、開いた墓であり、
かれ した ひと あざむ
彼らは、その舌で人を欺き、
かれ どく
彼らのくちびるには、まむしの毒があり、

8
かれ くち にが ことば み
彼らの口は、のろいと苦い言葉とで満ちている。
一四
かれ あし ち なが はや
彼らの足は、血を流すのに速く、
一五
かれ みち はかい ひさん
彼らの道には、破壊と悲惨とがある。
一六
かれ へいわ みち し
そして、彼らは平和の道を知らない。
一七
かれ め まえ かみ たい おそ し
一八 彼らの目の前には、神に対する恐れがない﹂。 一九さて、わたしたちが知っ
りっぽう い りっぽう もの たい
ているように、すべて律法の言うところは、律法のもとにある者たちに対し
かた くち ぜん せ か い かみ ふく
て語られている。それは、すべての口がふさがれ、全世界が神のさばきに服
りっぽう おこな にんげん
するためである。 二〇なぜなら、律法を行うことによっては、すべての人間は
かみ まえ ぎ りっぽう つみ じかく しょう
神の前に義とせられないからである。律法によっては、罪の自覚が生じるの
みである。
いま かみ ぎ りっぽう べつ りっぽう よげんしゃ
二一 しかし今や、神の義が、律法とは別に、しかも律法と預言者とによってあ
あらわ しん しんこう かみ
かしされて、 現された。 二二それは、イエス・キリストを信じる信仰による神
ローマ人への手紙

ぎ しん ひと あた
の義であって、すべて信じる人に与えられるものである。そこにはなんらの
さべつ ひと つみ おか かみ えいこう う
差別もない。 二三すなわち、すべての人は罪を犯したため、神の栄光を受けら
かれ あたい かみ めぐ
れなくなっており、 二四彼らは、 価なしに、神の恵みにより、キリスト・イエ
ぎ かみ た
スによるあがないによって義とされるのである。 二五神はこのキリストを立

9
ち しんこう う そな もの
てて、その血による、信仰をもって受くべきあがないの供え物とされた。そ
かみ ぎ しめ いま おか つみ かみ にんたい
れは神の義を示すためであった。すなわち、今までに犯された罪を、神は忍耐
み いま とき かみ ぎ しめ
をもって見のがしておられたが、 二六それは、今の時に、神の義を示すためで
かみ ぎ しん もの ぎ
あった。こうして、神みずからが義となり、さらに、イエスを信じる者を義
ほこり まった
とされるのである。 二七すると、どこにわたしたちの誇があるのか。 全くな
ほうそく おこな ほうそく しんこう
い。なんの法則によってか。 行いの法則によってか。そうではなく、信仰の
ほうそく おも ひと ぎ
法則 に よ っ て で あ る。 二八わ た し た ち は、こ う 思 う。人 が 義 と さ れ る の は、
りっぽう おこな しんこう かみ
律法の行いによるのではなく、信仰によるのである。 二九それとも、神はユダ
じん かみ いほうじん かみ たし
ヤ人だけの神であろうか。また、異邦人の神であるのではないか。確かに、
いほうじん かみ かみ ゆいいつ かつれい もの しんこう
異邦人の神でもある。 三〇まことに、神は唯一であって、割礼のある者を信仰
ぎ む かつれい もの しんこう ぎ
によって義とし、また、無割礼の者をも信仰のゆえに義とされるのである。 三
しんこう りっぽう むこう だん
すると、信仰のゆえに、わたしたちは律法を無効にするのであるか。断じて
ローマ人への手紙


りっぽう かくりつ
そうではない。かえって、それによって律法を確立するのである。

10
第四章
にく せんぞ ばあい
一 それでは、肉によるわたしたちの先祖アブラハムの場合については、なんと
い おこな ぎ
言ったらよいか。 二もしアブラハムが、その行いによって義とされたのであ
かれ ほこ かみ
れば、彼は誇ることができよう。しかし、神のみまえでは、できない。 三なぜ
せいしょ い かみ しん
なら、聖書はなんと言っているか、﹁アブラハムは神を信じた。それによって、
かれ ぎ みと はたら ひと たい ほうしゅう おんけい
彼は義と認められた﹂とある。 四いったい、 働く人に対する報 酬は、恩恵と
とうぜん しはら みと はたら
してではなく、当然の支払いとして認められる。 五しかし、 働きはなくても、
ふしんじん もの ぎ しん ひと しんこう ぎ みと
不信心な者を義とするかたを信じる人は、その信仰が義と認められるのであ
おこな かみ ぎ みと ひと こうふく
る。 六ダビデもまた、行いがなくても神に義と認められた人の幸福について、
つぎ い
次のように言っている、
ふほう つみ ひと
﹁不法をゆるされ、罪をおおわれた人たちは、
ローマ人への手紙


さいわいである。
つみ しゅ みと ひと
罪を主に認められない人は、さいわいである﹂。

こうふく かつれい もの う む かつれい もの
九 さて、この幸福は、割礼の者だけが受けるのか。それとも、無割礼の者にも
およ い しんこう ぎ みと
及ぶのか。わたしたちは言う、﹁アブラハムには、その信仰が義と認められた﹂

11
ばあい みと かつれい う
のである。 一〇それでは、どういう場合にそう認められたのか。割礼を受けて
う まえ かつれい う む かつれい とき
からか、それとも受ける前か。割礼を受けてからではなく、無割礼の時であっ
かつれい う む かつれい
た。 一一そして、アブラハムは割礼というしるしを受けたが、それは、無割礼
しんこう う ぎ しょういん かれ む かつれい しん
のままで信仰によって受けた義の証 印であって、彼が、無割礼のままで信じ
ぎ いた ひと ちち かつれい もの ちち
て義とされるに至るすべての人の父となり、 一二かつ、割礼の者の父となるた
かつれい もの かつれい う もの
めなのである。割礼の者というのは、割礼を受けた者ばかりではなく、われ
ちち む かつれい とき も しんこう あしあと ふ ひとびと
らの父アブラハムが無割礼の時に持っていた信仰の足跡を踏む人々をもさす
せかい そうぞく やくそく
のである。 一三なぜなら、世界を相続させるとの約束が、アブラハムとその
しそん たい りっぽう しんこう ぎ
子孫とに対してなされたのは、律法によるのではなく、信仰の義によるから
りっぽう た ひとびと そうぞくにん しんこう
である。 一四もし、律法に立つ人々が相続人であるとすれば、信仰はむなしく
やくそく むこう りっぽう いか まね
なり、約束もまた無効になってしまう。 一五いったい、律法は怒りを招くもの
りっぽう いはん
であって、律法のないところには違反なるものはない。 一六このようなわけ
ローマ人への手紙

しんこう めぐ
で、すべては信仰によるのである。それは恵みによるのであって、すべての
しそん りっぽう た もの しんこう したが
子孫に、すなわち、律法に立つ者だけにではなく、アブラハムの信仰に従う
もの やくそく ほしょう かみ まえ
者にも、この約束が保証されるのである。アブラハムは、神の前で、わたし
もの ちち た おお こくみん
たちすべての者の父であって、 一七﹁わたしは、あなたを立てて多くの国民の

12
ちち か かれ かみ しにん い
父とした﹂と書いてあるとおりである。彼はこの神、すなわち、死人を生か
む ゆう よ だ かみ しん かれ のぞ え
し、無から有を呼び出される神を信じたのである。 一八彼は望み得ないのに、
のぞ しん しそん
なおも望みつつ信じた。そのために、
﹁あなたの子孫はこうなるであろう﹂と
い おお こくみん ちち
言われているとおり、多くの国民の父となったのである。 一九すなわち、およ
さい かれ じ し ん し じょうたい たい ふにん
そ百歳となって、彼自身のからだが死んだ状 態であり、また、サラの胎が不妊
みと かれ しんこう よわ かれ かみ やくそく
であるのを認めながらも、なお彼の信仰は弱らなかった。 二〇彼は、神の約束
ふ しんこう うたが しんこう つよ
を不信仰のゆえに疑うようなことはせず、かえって信仰によって強められ、
えいこう かみ き かみ やくそく じょうじゅ
栄光を神に帰し、二一神はその約束されたことを、また成 就することができる
かくしん かれ ぎ みと ぎ みと
と確信した。 二二だから、彼は義と認められたのである。 二三しかし﹁義と認め

られた﹂と書いてあるのは、アブラハムのためだけではなく、 二四わたしたち
しゅ しにん なか
のためでもあって、わたしたちの主イエスを死人の中からよみがえらせたか
しん ぎ みと しゅ
たを信じるわたしたちも、義と認められるのである。 二五主は、わたしたちの
ローマ人への手紙

ざいか し わた ぎ
罪過のために死に渡され、わたしたちが義とされるために、よみがえらされ
たのである。

13
第五章
しんこう ぎ
一 このように、わたしたちは、信仰によって義とされたのだから、わたしたち
しゅ かみ たい へいわ え
の主イエス・キリストにより、神に対して平和を得ている。 二わたしたちは、
かれ た めぐ しんこう みちび い
さらに彼により、いま立っているこの恵みに信仰によって導き入れられ、そ
かみ えいこう きぼう よろこ
し て、神 の 栄光 に あ ず か る 希望 を も っ て 喜 ん で い る。 三そ れ だ け で は な く、
かんなん よろこ かんなん にんたい う だ にんたい れんたつ う
患難をも喜んでいる。なぜなら、患難は忍耐を生み出し、四忍耐は錬達を生み
だ れんたつ きぼう う だ し きぼう
出し、錬達は希望を生み出すことを、知っているからである。 五そして、希望
しつぼう おわ たま せいれい
は失望に終ることはない。なぜなら、わたしたちに賜わっている聖霊によっ
かみ あい こころ そそ
て、神の愛がわたしたちの心に注がれているからである。 六わたしたちがま
よわ とき ふしんじん もの し
だ弱かったころ、キリストは、時いたって、不信心な者たちのために死んで
くだ ただ ひと し もの
下さったのである。 七正しい人のために死ぬ者は、ほとんどいないであろう。
ローマ人への手紙

ぜんにん すす し もの つみびと
善人のためには、進んで死ぬ者もあるいはいるであろう。 八しかし、まだ罪人
とき し くだ かみ
であった時、わたしたちのためにキリストが死んで下さったことによって、神
たい あい しめ
はわたしたちに対する愛を示されたのである。 九わたしたちは、キリストの
ち いま ぎ かれ かみ いか
血によって今は義とされているのだから、なおさら、彼によって神の怒りか

14
すく てき とき み こ し
ら救われるであろう。 一〇もし、わたしたちが敵であった時でさえ、御子の死
かみ わかい う わかい う いま かれ
によって神との和解を受けたとすれば、和解を受けている今は、なおさら、彼
すく
のいのちによって救われるであろう。 一一そればかりではなく、わたしたち
いま わかい え くだ しゅ
は、今や和解を得させて下さったわたしたちの主イエス・キリストによって、
かみ よろこ
神を喜ぶのである。
ひと つみ よ つみ
一二 このようなわけで、ひとりの人によって、罪がこの世にはいり、また罪に
し ひと つみ おか し
よって死がはいってきたように、こうして、すべての人が罪を犯したので、死
ぜんじんるい こ りっぽう い ぜ ん つみ よ
が全人類にはいり込んだのである。 一三というのは、律法以前にも罪は世に
りっぽう つみ つみ みと
あったが、律法がなければ、罪は罪として認められないのである。 一四しかし、
あいだ いはん おな つみ おか
アダムからモーセまでの間においても、アダムの違反と同じような罪を犯さ
もの し しはい まぬが もの かた
なかった者も、死の支配を免れなかった。このアダムは、きたるべき者の型
めぐ たまもの ざいか ばあい こと
である。 一五しかし、恵みの賜物は罪過の場合とは異なっている。すなわち、
ローマ人への手紙

ざいか おお ひと し かみ めぐ
もしひとりの罪過のために多くの人が死んだとすれば、まして、神の恵みと、
ひと めぐ たまもの ゆた おお ひとびと
ひとりの人イエス・キリストの恵みによる賜物とは、さらに豊かに多くの人々
み たまもの おか つみ
に満ちあふれたはずではないか。 一六かつ、この賜物は、ひとりの犯した罪の
けっ か こと ばあい ざいか つみ
結果とは異なっている。なぜなら、さばきの場合は、ひとりの罪過から、罪

15
さだ めぐ ばあい おお ひと ざいか ぎ
に定めることになったが、恵みの場合には、多くの人の罪過から、義とする
けっ か ざいか
結果になるからである。 一七もし、ひとりの罪過によって、そのひとりをとお
し しはい いた めぐ ぎ
して死が支配するに至ったとすれば、まして、あふれるばかりの恵みと義の
たまもの う もの
賜物とを受けている者たちは、ひとりのイエス・キリストをとおし、いのち
ちからづよ しはい
にあって、さらに力 強く支配するはずではないか。 一八このようなわけで、ひ
ざいか ひと つみ さだ ぎ
と り の 罪過 に よ っ て す べ て の 人 が 罪 に 定 め ら れ た よ う に、ひ と り の 義 な る
こうい え ぎ ひと およ
行為によって、いのちを得させる義がすべての人に及ぶのである。 一九すなわ
ひと ふ じゅうじゅん おお ひと つみびと おな
ち、ひとりの人の不 従 順によって、多くの人が罪人とされたと同じように、
じゅうじゅん おお ひと ぎじん りっぽう
ひとりの従 順によって、多くの人が義人とされるのである。 二〇律法がはい
こ ざいか ま くわ つみ ま くわ
り込んできたのは、罪過の増し加わるためである。しかし、罪の増し加わっ
めぐ み つみ し
たところには、恵みもますます満ちあふれた。 二一それは、罪が死によって
しはい いた めぐ ぎ しはい しゅ
支配するに至ったように、恵みもまた義によって支配し、わたしたちの主イ
ローマ人への手紙

えいえん え
エス・キリストにより、永遠のいのちを得させるためである。

16
第六章
い めぐ ま くわ つみ
一 では、わたしたちは、なんと言おうか。恵みが増し加わるために、罪にとど
だん つみ たい し
まるべきであろうか。 二断じてそうではない。罪に対して死んだわたしたち
なか い
が、どうして、なお、その中に生きておれるだろうか。 三それとも、あなたが
し う
たは知らないのか。キリスト・イエスにあずかるバプテスマを受けたわたし
かれ し う
たちは、彼の死にあずかるバプテスマを受けたのである。 四すなわち、わたし
し かれ とも ほうむ
たちは、その死にあずかるバプテスマによって、彼と共に葬られたのである。
ちち えいこう しにん なか
それは、キリストが父の栄光によって、死人の中からよみがえらされたよう
あたら い
に、わたしたちもまた、新しいいのちに生きるためである。 五もしわたしたち
かれ むす し さま かれ ふっかつ さま
が、彼に結びついてその死の様にひとしくなるなら、さらに、彼の復活の様
こと し
にもひとしくなるであろう。 六わたしたちは、この事を知っている。わたし
ローマ人への手紙

うち ふる ひと とも じゅうじか つみ
たちの内の古き人はキリストと共に十字架につけられた。それは、この罪の
ほろ つみ どれい
からだが滅び、わたしたちがもはや、罪の奴隷となることがないためである。
し もの つみ かいほう
七 それは、すでに死んだ者は、罪から解放されているからである。 八もしわた
とも し かれ とも い しん
したちが、キリストと共に死んだなら、また彼と共に生きることを信じる。 九

17
しにん なか し し
キリストは死人の中からよみがえらされて、もはや死ぬことがなく、死はも
かれ しはい し
はや彼を支配しないことを、知っているからである。 一〇なぜなら、キリスト
し ど つみ たい し い
が死んだのは、ただ一度罪に対して死んだのであり、キリストが生きるのは、
かみ い じしん つみ たい
神に生きるのだからである。 一一このように、あなたがた自身も、罪に対して
し もの かみ い もの
死んだ者であり、キリスト・イエスにあって神に生きている者であることを、
みと し つみ しはい
認むべきである。 一二だから、あなたがたの死ぬべきからだを罪の支配にゆだ
じょうよく したが したい ふ ぎ
ねて、その情 欲に従わせることをせず、 一三また、あなたがたの肢体を不義の
ぶ き つみ しにん なか い もの
武器として罪にささげてはならない。むしろ、死人の中から生かされた者と
じぶんじしん かみ じぶん したい ぎ ぶ き かみ
して、自分自身を神にささげ、自分の肢体を義の武器として神にささげるが
りっぽう もと めぐ もと
よい。 一四なぜなら、あなたがたは律法の下にあるのではなく、恵みの下にあ
つみ しはい
るので、罪に支配されることはないからである。
りっぽう もと めぐ もと
それでは、どうなのか。律法の下にではなく、恵みの下にあるからといっ
ローマ人への手紙

一五
つみ おか だん
て、わたしたちは罪を犯すべきであろうか。断じてそうではない。 一六あなた
し じしん しもべ ふくじゅう
がたは知らないのか。あなたがた自身が、だれかの僕になって服 従するな
じぶん ふくじゅう もの しもべ し いた つみ しもべ
ら、あなたがたは自分の服 従するその者の僕であって、死に至る罪の僕とも
ぎ じゅうじゅん しもべ かみ
なり、あるいは、義にいたる従 順の僕ともなるのである。 一七しかし、神は

18
かんしゃ つみ しもべ つた おしえ きじゅん こころ
感謝すべきかな。あなたがたは罪の僕であったが、伝えられた教の基準に心
ふくじゅう つみ かいほう ぎ しもべ にんげんてき い
から服 従して、一八罪から解放され、義の僕となった。 一九わたしは人間的な言
かた にく よわ
い方をするが、それは、あなたがたの肉の弱さのゆえである。あなたがたは、
じぶん したい けが ふほう しもべ ふほう おちい
かつて自分の肢体を汚れと不法との僕としてささげて不法に陥 ったように、
いま じぶん したい ぎ しもべ
今や自分の肢体を義の僕としてささげて、きよくならねばならない。 二〇あな
つみ しもべ とき ぎ えん もの とき
たがたが罪の僕であった時は、義とは縁のない者であった。 二一その時あなた
み むす いま はじ
がたは、どんな実を結んだのか。それは、今では恥とするようなものであっ
しゅうきょく し いま つみ
た。それらのものの終 極は、死である。 二二しかし今や、あなたがたは罪から
かいほう かみ つか いた み むす しゅうきょく えいえん
解放されて神に仕え、きよきに至る実を結んでいる。その終 極は永遠のいの
つみ しはら ほうしゅう し かみ たまもの
ちである。 二三罪の支払う報 酬は死である。しかし神の賜物は、わたしたち
しゅ えいえん
の主キリスト・イエスにおける永遠のいのちである。
ローマ人への手紙

第七章
きょうだい し りっぽう し
一 それとも、兄 弟たちよ。あなたがたは知らないのか。わたしは律法を知っ
ひとびと かた りっぽう ひと い きかん しはい
ている人々に語るのであるが、律法は人をその生きている期間だけ支配する

19
おっと おんな おっと い あいだ りっぽう
ものである。 二すなわち、 夫のある女は、 夫が生きている間は、律法によっ
かれ おっと し おっと りっぽう かいほう
て彼につながれている。しかし、 夫が死ねば、 夫の律法から解放される。 三
おっと せいぞんちゅう た おとこ い おんな いんぷ よ
であるから、 夫の生存 中に他の男に行けば、その女は淫婦と呼ばれるが、も
おっと し りっぽう と た おとこ い いんぷ
し夫が死ねば、その律法から解かれるので、他の男に行っても、淫婦とはな
きょうだい
らない。 四わたしの兄 弟たちよ。このように、あなたがたも、キリストのから
りっぽう たい し た ひと
だをとおして、律法に対して死んだのである。それは、あなたがたが他の人、
しにん なか
すなわち、死人の中からよみがえられたかたのものとなり、こうして、わた
かみ み むす いた
したちが神のために実を結ぶに至るためなのである。 五というのは、わたし
にく とき りっぽう つみ よくじょう し み むす
たちが肉にあった時には、律法による罪の欲 情が、死のために実を結ばせよ
したい はたら いま
うとして、わたしたちの肢体のうちに働いていた。 六しかし今は、わたしたち
たい し りっぽう かいほう
をつないでいたものに対して死んだので、わたしたちは律法から解放され、そ
けっ か ふる もんじ あたら れい つか
の結果、古い文字によってではなく、新しい霊によって仕えているのである。
ローマ人への手紙

い りっぽう つみ だん
七 それでは、わたしたちは、なんと言おうか。律法は罪なのか。断じてそうで
りっぽう つみ し
はない。しかし、律法によらなければ、わたしは罪を知らなかったであろう。
りっぽう い
すなわち、もし律法が﹁むさぼるな﹂と言わなかったら、わたしはむさぼり
し つみ いまし きかい とら
なるものを知らなかったであろう。 八しかるに、罪は戒めによって機会を捕

20
うち はたら おこ りっぽう
え、わたしの内に働いて、あらゆるむさぼりを起させた。すなわち、律法が
つみ し りっぽう い
なかったら、罪は死んでいるのである。 九わたしはかつては、律法なしに生き
いまし く およ つみ い かえ し
ていたが、戒めが来るに及んで、罪は生き返り、一〇わたしは死んだ。そして、
みちび いまし し みちび い
いのちに導くべき戒めそのものが、かえってわたしを死に導いて行くことが
つみ いまし きかい とら あざむ いまし
わかった。 一一なぜなら、罪は戒めによって機会を捕え、わたしを欺き、 戒め
ころ りっぽう
によってわたしを殺したからである。 一二このようなわけで、律法そのものは
せい いまし せい ただ ぜん
聖なるものであり、 戒めも聖であって、正しく、かつ善なるものである。 一三
ぜん し だん
では、善なるものが、わたしにとって死となったのか。断じてそうではない。
つみ つみ あらわ つみ
それはむしろ、罪の罪たることが現れるための、罪のしわざである。すなわ
つみ いまし あくせい ぜん
ち、罪は、 戒めによって、はなはだしく悪性なものとなるために、善なるも
し いた りっぽう れいてき
のによってわたしを死に至らせたのである。 一四わたしたちは、律法は霊的な
し にく もの つみ もと
ものであると知っている。しかし、わたしは肉につける者であって、罪の下
ローマ人への手紙

う じぶん
に売られているのである。 一五わたしは自分のしていることが、わからない。
じぶん ほっ こと おこな じぶん にく こと
なぜなら、わたしは自分の欲する事は行わず、かえって自分の憎む事をして
じぶん ほっ こと
いるからである。 一六もし、自分の欲しない事をしているとすれば、わたしは
りっぽう よ しょうにん こと
律法が良いものであることを承 認していることになる。 一七そこで、この事

21
うち やど つみ
をしているのは、もはやわたしではなく、わたしの内に宿っている罪である。
うち にく うち ぜん やど
一八 わたしの内に、すなわち、わたしの肉の内には、善なるものが宿っていな
し ぜん い し じぶん
いことを、わたしは知っている。なぜなら、善をしようとする意志は、自分
ちから ほっ
にあるが、それをする力がないからである。 一九すなわち、わたしの欲してい
ぜん ほっ あく おこな ほっ
る善はしないで、欲していない悪は、これを行 っている。 二〇もし、欲しない
ことをしているとすれば、それをしているのは、もはやわたしではなく、わ
うち やど つみ ぜん ほっ
たしの内に宿っている罪である。 二一そこで、善をしようと欲しているわたし
あく こ ほうそく み
に、悪がはいり込んでいるという法則があるのを見る。 二二すなわち、わたし
うち ひと かみ りっぽう よろこ したい べつ
は、内なる人としては神の律法を喜んでいるが、 二三わたしの肢体には別の
りっぽう こころ ほうそく たい たたか したい そんざい
律法があって、わたしの心の法則に対して戦いをいどみ、そして、肢体に存在
つみ ほうそく なか み
する罪の法則の中に、わたしをとりこにしているのを見る。 二四わたしは、な
にんげん し
んというみじめな人間なのだろう。だれが、この死のからだから、わたしを
ローマ人への手紙

すく しゅ かみ
救ってくれるだろうか。 二五わたしたちの主イエス・キリストによって、神は
かんしゃ じしん こころ かみ りっぽう つか
感謝すべきかな。このようにして、わたし自身は、 心では神の律法に仕えて
にく つみ りっぽう つか
いるが、肉では罪の律法に仕えているのである。

22
第八章
いま もの つみ さだ
一 こういうわけで、今やキリスト・イエスにある者は罪に定められることがな
みたま ほうそく つみ し
い。 二なぜなら、キリスト・イエスにあるいのちの御霊の法則は、罪と死との
ほうそく かいほう りっぽう にく むりょく
法則からあなたを解放したからである。 三律法が肉により無力になっている
え こと かみ と くだ み こ つみ
ためになし得なかった事を、神はなし遂げて下さった。すなわち、御子を、罪
にく さま つみ にく つみ ばっ
の肉の様で罪のためにつかわし、肉において罪を罰せられたのである。 四こ
りっぽう ようきゅう にく れい ある み
れは律法の要 求が、肉によらず霊によって歩くわたしたちにおいて、満たさ
にく したが もの にく おも れい したが もの れい
れるためである。 五なぜなら、肉に従う者は肉のことを思い、霊に従う者は霊
おも にく おも し れい おも
のことを思うからである。 六肉の思いは死であるが、霊の思いは、いのちと
へいあん にく おも かみ てき
平安とである。 七なぜなら、肉の思いは神に敵するからである。すなわち、そ
かみ りっぽう したが いな したが え にく もの かみ
れは神の律法に従わず、否、従い得ないのである。 八また、肉にある者は、神
ローマ人への手紙

よろこ かみ みたま うち やど
を喜ばせることができない。 九しかし、神の御霊があなたがたの内に宿って
にく れい
いるなら、あなたがたは肉におるのではなく、霊におるのである。もし、キ
れい も ひと ひと
リストの霊を持たない人がいるなら、その人はキリストのものではない。 一〇
うち つみ し
もし、キリストがあなたがたの内におられるなら、からだは罪のゆえに死ん

23
れい ぎ い しにん なか
でいても、霊は義のゆえに生きているのである。 一一もし、イエスを死人の中
みたま うち やど
からよみがえらせたかたの御霊が、あなたがたの内に宿っているなら、キリ
しにん なか うち やど
スト・イエスを死人の中からよみがえらせたかたは、あなたがたの内に宿っ
みたま し い
ている御霊によって、あなたがたの死ぬべきからだをも、生かしてくださる
であろう。
きょうだい はた せきにん お もの
一二 それゆえに、兄 弟たちよ。わたしたちは、果すべき責任を負っている者で
にく したが い せきにん にく たい お
あるが、肉に従 って生きる責任を肉に対して負っているのではない。 一三な
にく したが い し ほか
ぜなら、もし、肉に従 って生きるなら、あなたがたは死ぬ外はないからであ
れい はたら ころ い
る。しかし、霊によってからだの働きを殺すなら、あなたがたは生きるであ
かみ みたま みちび もの かみ こ
ろう。 一四すべて神の御霊に導かれている者は、すなわち、神の子である。 一五
ふたた おそ どれい れい う こ
あ な た が た は 再 び 恐 れ を い だ か せ る 奴隷 の 霊 を 受 け た の で は な く、子 た る
みぶん さず れい う れい ちち
身分を授ける霊を受けたのである。その霊によって、わたしたちは﹁アバ、父
ローマ人への手紙

よ みたま れい とも
よ﹂と呼ぶのである。 一六御霊みずから、わたしたちの霊と共に、わたしたち
かみ こ くだ こ そうぞくにん
が神の子であることをあかしして下さる。 一七もし子であれば、相続人でもあ
かみ そうぞくにん えいこう とも くなん とも
る。神の相続人であって、キリストと栄光を共にするために苦難をも共にし
いじょう きょうどう そうぞくにん
ている以上、キリストと共 同の相続人なのである。

24
おも いま とき くる あらわ
一八 わたしは思う。今のこの時の苦しみは、やがてわたしたちに現されようと
えいこう くら い た ひ ぞうぶつ じつ せつ おも かみ
する栄光に比べると、言うに足りない。 一九被造物は、実に、切なる思いで神
こ しゅつげん ま のぞ ひ ぞうぶつ きょ む ふく
の子たちの出 現を待ち望んでいる。 二〇なぜなら、被造物が虚無に服したの
じぶん い し ふくじゅう
は、自分の意志によるのではなく、服 従させたかたによるのであり、二一かつ、
ひ ぞうぶつ じ し ん ほろ かいほう かみ こ えいこう じゆう
被造物自身にも、滅びのなわめから解放されて、神の子たちの栄光の自由に
はい のぞ のこ じつ ひ ぞうぶつぜんたい いま いた
入る望みが残されているからである。 二二実に、被造物全体が、今に至るまで、
とも とも う くる つづ し
共にうめき共に産みの苦しみを続けていることを、わたしたちは知っている。
みたま さいしょ み も じしん こころ
二三 それだけではなく、御霊の最初の実を持っているわたしたち自身も、心の
うち こ みぶん さず
内でうめきながら、子たる身分を授けられること、すなわち、からだのあが
ま のぞ のぞ すく
なわれることを待ち望んでいる。 二四わたしたちは、この望みによって救われ
め み のぞ のぞ げん
ているのである。しかし、目に見える望みは望みではない。なぜなら、現に
み こと のぞ ひと み
見ている事を、どうして、なお望む人があろうか。 二五もし、わたしたちが見
ローマ人への手紙

のぞ にんたい ま のぞ
ないことを望むなら、わたしたちは忍耐して、それを待ち望むのである。
みたま おな よわ たす くだ
二六 御霊もまた同じように、弱いわたしたちを助けて下さる。なぜなら、わた
いの みたま ことば
したちはどう祈ったらよいかわからないが、御霊みずから、言葉にあらわせ
せつ くだ
ない切なるうめきをもって、わたしたちのためにとりなして下さるからであ

25
ひと こころ さぐ し みたま おも
る。 二七そして、人の心を探り知るかたは、御霊の思うところがなんであるか
し みたま せいと かみ みむね
を知っておられる。なぜなら、御霊は、聖徒のために、神の御旨にかなうと
くだ かみ かみ あい もの
りなしをして下さるからである。 二八神は、神を愛する者たち、すなわち、ご
けいかく したが め もの とも はたら ばんじ えき くだ
計画に従 って召された者たちと共に働いて、万事を益となるようにして下さ
し かみ し もの
ることを、わたしたちは知っている。 二九神はあらかじめ知っておられる者た
さら み こ に さだ くだ
ちを、更に御子のかたちに似たものとしようとして、あらかじめ定めて下さっ
み こ おお きょうだい なか ちょうし
た。それは、御子を多くの兄 弟の中で長子とならせるためであった。 三〇そ
さだ もの さら め め もの さら ぎ ぎ
して、あらかじめ定めた者たちを更に召し、召した者たちを更に義とし、義
もの さら えいこう あた くだ
とした者たちには、更に栄光を与えて下さったのである。
こと い かみ
三一 それでは、これらの事について、なんと言おうか。もし、神がわたしたち
みかた てき え じしん み こ
の味方であるなら、だれがわたしたちに敵し得ようか。 三二ご自身の御子をさ
お もの し わた
え惜しまないで、わたしたちすべての者のために死に渡されたかたが、どう
ローマ人への手紙

み こ ばんぶつ たま かみ
して、御子のみならず万物をも賜わらないことがあろうか。 三三だれが、神の
えら もの うった かみ かれ ぎ
選ばれた者たちを訴えるのか。神は彼らを義とされるのである。 三四だれが、
つみ さだ し いな
わたしたちを罪に定めるのか。キリスト・イエスは、死んで、否、よみがえっ
かみ みぎ ざ くだ
て、神の右に座し、また、わたしたちのためにとりなして下さるのである。 三

26
あい はな かんなん くのう
五 だれが、キリストの愛からわたしたちを離れさせるのか。患難か、苦悩か、
はくがい う はだか きなん つるぎ
迫害か、飢えか、 裸か、危難か、 剣か。
しゅうじつ
三六 ﹁わたしたちはあなたのために終 日、
し さだ
死に定められており、
ひつじ み
ほふられる羊のように見られている﹂
か あい くだ
と書いてあるとおりである。 三七しかし、わたしたちを愛して下さったかたに
こと か え あま
よって、わたしたちは、これらすべての事において勝ち得て余りがある。 三八
かくしん し せい てんし しはいしゃ げんざい しょうらい
わたしは確信する。死も生も、天使も支配者も、現在のものも将 来のものも、
ちから たか ふか た ひ ぞうぶつ
力あるものも、 三九高いものも深いものも、その他どんな被造物も、わたした
しゅ かみ あい ひ はな
ちの主キリスト・イエスにおける神の愛から、わたしたちを引き離すことは
できないのである。
ローマ人への手紙

第九章
しんじつ かた いつわ い りょうしん
一 わたしはキリストにあって真実を語る。 偽りは言わない。わたしの良 心
せいれい おお
も聖霊によって、わたしにこうあかしをしている。 二すなわち、わたしに大き

27
かな こころ た いた じっさい きょうだい
な悲しみがあり、わたしの心に絶えざる痛みがある。 三実際、わたしの兄 弟、
にく どうぞく み はな
肉による同族のためなら、わたしのこの身がのろわれて、キリストから離さ
かれ びと こ みぶん さず
れてもいとわない。 四彼らはイスラエル人であって、子たる身分を授けられ
えいこう けいやく りっぽう さず れいはい かずかず
ることも、栄光も、もろもろの契約も、律法を授けられることも、礼拝も、数々
やくそく かれ ふ そ かれ にく
の約束も彼らのもの、五また父祖たちも彼らのものであり、肉によればキリス
かれ で ばんぶつ うえ かみ えいえん
トもまた彼らから出られたのである。万物の上にいます神は、永遠にほむべ
きかな、アァメン。
かみ ことば むこう
六 しかし、神の言が無効になったというわけではない。なぜなら、イスラエル
で もの ぜんぶ しそん
から出た者が全部イスラエルなのではなく、七また、アブラハムの子孫だから
ぜんぶ こ
といって、その全部が子であるのではないからである。かえって﹁イサクか
で もの しそん よ にく こ
ら出る者が、あなたの子孫と呼ばれるであろう﹂。 八すなわち、肉の子がその
かみ こ やくそく こ しそん みと
まま神の子なのではなく、むしろ約束の子が子孫として認められるのである。
ローマ人への手紙

やくそく ことば らいねん いま く


九 約束の言葉はこうである。﹁来年の今ごろ、わたしはまた来る。そして、サ
だんし あた ひと
ラに男子が与えられるであろう﹂。 一〇そればかりではなく、ひとりの人、すな
ふ そ じゅたい ばあい どうよう
わち、わたしたちの父祖イサクによって受胎したリベカの場合も、また同様
こども うま ぜん あく さき かみ えら けいかく
である。 一一まだ子供らが生れもせず、善も悪もしない先に、神の選びの計画

28
め おこな あに おとうと つか
が、一二わざによらず、召したかたによって行われるために、
﹁兄は弟に仕える
かのじょ おお あい
であろう﹂と、彼女に仰せられたのである。 一三﹁わたしはヤコブを愛しエサ
にく か
ウを憎んだ﹂と書いてあるとおりである。
い かみ がわ ふせい だん
一四 では、わたしたちはなんと言おうか。神の側に不正があるのか。断じてそ
かみ い じぶん
うではない。 一五神はモーセに言われた、﹁わたしは自分のあわれもうとする
もの もの
者をあわれみ、いつくしもうとする者を、いつくしむ﹂。 一六ゆえに、それは
にんげん い し どりょく かみ
人間の意志や努力によるのではなく、ただ神のあわれみによるのである。 一七
せいしょ い た こと
聖書はパロにこう言っている、
﹁わたしがあなたを立てたのは、この事のため
ちから
である。すなわち、あなたによってわたしの力をあらわし、また、わたしの
な ぜん せ か い い かみ
名が全世界に言いひろめられるためである﹂。 一八だから、神はそのあわれも
おも もの おも もの
うと思う者をあわれみ、かたくなにしようと思う者を、かたくなになさるの
である。
ローマ人への手紙

い かみ ひと せ
一九 そこで、あなたは言うであろう、
﹁なぜ神は、なおも人を責められるのか。
かみ い と さか え ひと かみ い さか
だれが、神の意図に逆らい得ようか﹂。 二〇ああ人よ。あなたは、神に言い逆ら
なにもの つく つく もの む
うとは、いったい、何者なのか。造られたものが造った者に向かって、
﹁なぜ、
つく い とうき つく もの
わたしをこのように造ったのか﹂と言うことがあろうか。 二一陶器を造る者

29
おな つち たっと うつわ ほか いや うつわ つく けんのう
は、同じ土くれから、一つを尊い器に、他を卑しい器に造りあげる権能がな
かみ いか じしん ちから し
いのであろうか。 二二もし、神が怒りをあらわし、かつ、ご自身の力を知らせ
おも ほろ いか うつわ おお かんよう
ようと思われつつも、滅びることになっている怒りの器を、大いなる寛容を
しの えいこう
もって忍ばれたとすれば、 二三かつ、栄光にあずからせるために、あらかじめ
ようい うつわ じしん えいこう とみ し
用意 さ れ た あ わ れ み の 器 に ご 自身 の 栄光 の 富 を 知 ら せ よ う と さ れ た と す れ
かみ うつわ
ば、どうであろうか。 二四神は、このあわれみの器として、またわたしたちを
じん なか いほうじん なか め
も、ユダヤ人の中からだけではなく、異邦人の中からも召されたのである。 二
しょ い
五 それは、ホセアの書でも言われているとおりである、
たみ もの
﹁わたしは、わたしの民でない者を、
たみ よ
わたしの民と呼び、
あい もの あい もの よ
愛されなかった者を、愛される者と呼ぶであろう。
たみ
あなたがたはわたしの民ではないと、
ローマ人への手紙

二六
かれ い ば しょ
彼らに言ったその場所で、
かれ い かみ こ
彼らは生ける神の子らであると、

呼ばれるであろう﹂。
さけ
二七 また、イザヤはイスラエルについて叫んでいる、

30
こ かず
﹁たとい、イスラエルの子らの数は、
はま すな
浜の砂のようであっても、
すく のこ もの
救われるのは、残された者だけであろう。
しゅ みことば
主は、御言をきびしくまたすみやかに、
二八
ちじょう
地上になしとげられるであろう﹂。
よげん
二九 さらに、イザヤは預言した、
ばんぐん しゅ
﹁もし、万軍の主がわたしたちに
しそん のこ
子孫を残されなかったなら、
わたしたちはソドムのようになり、
おな
ゴモラと同じようになったであろう﹂。
い ぎ お もと いほうじん ぎ
三〇 では、わたしたちはなんと言おうか。義を追い求めなかった異邦人は、義、
しんこう ぎ え ぎ りっぽう お もと
すなわち、信仰による義を得た。 三一しかし、義の律法を追い求めていたイス
ローマ人への手紙

りっぽう たっ しんこう
ラエルは、その律法に達しなかった。 三二なぜであるか。信仰によらないで、
おこな え お もと かれ
行いによって得られるかのように、追い求めたからである。彼らは、つまず
いし
きの石につまずいたのである。

﹁見よ、わたしはシオンに、
三三

31
いし いわ お
つまずきの石、さまたげの岩を置く。
たの もの しつぼう おわ
それにより頼む者は、失望に終ることがない﹂

と書いてあるとおりである。
第一〇章
きょうだい こころ ねが かれ かみ いのり かれ
一 兄 弟たちよ。わたしの心の願い、彼らのために神にささげる祈は、彼らが
すく かれ かみ たい ねっしん
救われることである。 二わたしは、彼らが神に対して熱心であることはあか
ねっしん ふか ちしき かれ かみ
しするが、その熱心は深い知識によるものではない。 三なぜなら、彼らは神の
ぎ し じぶん ぎ た つと かみ ぎ したが
義を知らないで、自分の義を立てようと努め、神の義に従わなかったからで
しん もの ぎ え りっぽう おわ
ある。 四キリストは、すべて信じる者に義を得させるために、律法の終りとな
られたのである。
ローマ人への手紙

りっぽう ぎ おこな ひと ぎ い か
五 モーセは、律法による義を行う人は、その義によって生きる、と書いている。
しんこう ぎ い こころ
六 しかし、信仰による義は、こう言っている、
﹁あなたは心のうちで、だれが
てん のぼ い ひ お
天に上るであろうかと言うな﹂。それは、キリストを引き降ろすことである。
そこ し ところ くだ い
七 また、﹁だれが底知れぬ所に下るであろうかと言うな﹂。それは、キリストを

32
しにん なか ひ あ い ことば
死人の中から引き上げることである。 八では、なんと言っているか。﹁言葉は
ちか くち こころ ことば
あなたの近くにある。あなたの口にあり、心にある﹂。この言葉とは、わたし
の つた しんこう ことば じぶん くち
たちが宣べ伝えている信仰の言葉である。 九すなわち、自分の口で、イエスは
しゅ こくはく じぶん こころ かみ しにん なか
主であると告白し、自分の心で、神が死人の中からイエスをよみがえらせた
しん すく ひと こころ しん ぎ くち
と信じるなら、あなたは救われる。 一〇なぜなら、人は心に信じて義とされ、口
こくはく すく せいしょ かれ しん もの しつぼう
で告白して救われるからである。 一一聖書は、
﹁すべて彼を信じる者は、失望に
おわ い じん じん さべつ
終ることがない﹂と言っている。 一二ユダヤ人とギリシヤ人との差別はない。
どういつ しゅ ばんみん しゅ かれ よ もと ひと ゆた めぐ くだ
同一の主が万民の主であって、彼を呼び求めるすべての人を豊かに恵んで下
しゅ み な よ もと もの すく
さるからである。 一三なぜなら、﹁主の御名を呼び求める者は、すべて救われ
る﹂とあるからである。
しん もの よ もと き
一四 しかし、信じたことのない者を、どうして呼び求めることがあろうか。聞
もの しん の つた もの
いたことのない者を、どうして信じることがあろうか。宣べ伝える者がいな
ローマ人への手紙

き の
くては、どうして聞くことがあろうか。 一五つかわされなくては、どうして宣
つた うるわ よ つ もの あし
べ伝えることがあろうか。﹁ああ、麗しいかな、良きおとずれを告げる者の足
か ひと ふくいん き したが
は﹂と書いてあるとおりである。 一六しかし、すべての人が福音に聞き従 った
しゅ き しん
のではない。イザヤは、
﹁主よ、だれがわたしたちから聞いたことを信じまし

33
い しんこう き き
たか﹂と言っている。 一七したがって、信仰は聞くことによるのであり、聞く
ことば く い かれ
ことはキリストの言葉から来るのである。 一八しかしわたしは言う、彼らには
きこ いな
聞えなかったのであろうか。否、むしろ
こえ ぜん ち
﹁その声は全地にひびきわたり、
ことば せかい およ
その言葉は世界のはてにまで及んだ﹂。
い し
一九 なお、わたしは言う、イスラエルは知らなかったのであろうか。まずモー

セは言っている、
﹁わたしはあなたがたに、
こくみん もの たい おこ
国民でない者に対してねたみを起させ、
む ち こくみん たい
無知な国民に対して、
いか
怒りをいだかせるであろう﹂。
だいたん い
イザヤも大胆に言っている、
ローマ人への手紙

二〇
もと もの み
﹁わたしは、わたしを求めない者たちに見いだされ、
たず もの じぶん あらわ
わたしを尋ねない者に、自分を現した﹂。
二一 そして、イスラエルについては、
ふくじゅう はんこう たみ
﹁わたしは服 従せずに反抗する民に、

34
しゅうじつ て の
終 日わたしの手をさし伸べていた﹂

と言っている。
第一一章
と かみ たみ す だん
一 そこで、わたしは問う、﹁神はその民を捨てたのであろうか﹂。断じてそうで
ひと しそん ぞく
はない。わたしもイスラエル人であり、アブラハムの子孫、ベニヤミン族の
もの かみ し たみ す
者である。 二神は、あらかじめ知っておられたその民を、捨てることはされな
せいしょ い し
かった。聖書がエリヤについてなんと言っているか、あなたがたは知らない
かれ かみ うった い しゅ かれ
のか。すなわち、彼はイスラエルを神に訴えてこう言った。 三﹁主よ、彼らは
よげんしゃ ころ さいだん
あなたの預言者たちを殺し、あなたの祭壇をこぼち、そして、わたしひとり
と のこ かれ もと
が取り残されたのに、彼らはわたしのいのちをも求めています﹂。 四しかし、
ローマ人への手紙

かれ たい み つ にん
彼に対する御告げはなんであったか、﹁バアルにひざをかがめなかった七千人
のこ おな いま とき めぐ
を、わたしのために残しておいた﹂。 五それと同じように、今の時にも、恵み
えら のこ もの めぐ
の選びによって残された者がいる。 六しかし、恵みによるのであれば、もはや
おこな めぐ めぐ
行いによるのではない。そうでないと、恵みはもはや恵みでなくなるからで

35
お もと え
ある。 七では、どうなるのか。イスラエルはその追い求めているものを得な
えら もの え た もの
いで、ただ選ばれた者が、それを得た。そして、他の者たちはかたくなになっ
た。
かみ かれ にぶ こころ
﹁神は、彼らに鈍い心と、

み め きこ みみ あた
見えない目と、聞えない耳とを与えて、
ひ およ
きょう、この日に及んでいる﹂
か い
と書いてあるとおりである。 九ダビデもまた言っている、
かれ しょくたく かれ あみ
﹁彼らの食 卓は、彼らのわなとなれ、網となれ、
ほうふく
つまずきとなれ、報復となれ。
かれ め み
一〇 彼らの目は、くらんで見えなくなれ、
かれ せ まが
彼らの背は、いつまでも曲っておれ﹂。
と かれ たお
そこで、わたしは問う、﹁彼らがつまずいたのは、倒れるためであったの
ローマ人への手紙

一一
だん かれ ざいか すくい いほうじん およ
か﹂。断じてそうではない。かえって、彼らの罪過によって、救が異邦人に及
ふんき かれ
び、それによってイスラエルを奮起させるためである。 一二しかし、もし、彼
ざいか よ とみ かれ しっぱい いほうじん とみ
らの罪過が世の富となり、彼らの失敗が異邦人の富となったとすれば、まし
かれ ぜ ん ぶ すく
て彼らが全部救われたなら、どんなにかすばらしいことであろう。

36
いほうじん い じしん いほうじん し と
一三 そこでわたしは、あなたがた異邦人に言う。わたし自身は異邦人の使徒な
つとめ こうえい こつにく ふんき
のであるから、わたしの務を光栄とし、 一四どうにかしてわたしの骨肉を奮起
かれ いくにん すく ねが かれ す
させ、彼らの幾人かを救おうと願っている。 一五もし彼らの捨てられたことが
よ わかい かれ う しにん なか い
世の和解となったとすれば、彼らの受けいれられることは、死人の中から生
かえ むぎこ はつほ
き返ることではないか。 一六もし、麦粉の初穂がきよければ、そのかたまりも
ね えだ えだ き
きよい。もし根がきよければ、その枝もきよい。 一七しかし、もしある枝が切
さ やせい ね ゆた
り去られて、野生のオリブであるあなたがそれにつがれ、オリブの根の豊か
ようぶん えだ たい ほこ
な養分にあずかっているとすれば、一八あなたはその枝に対して誇ってはなら
ほこ ね ね
ない。たとえ誇るとしても、あなたが根をささえているのではなく、根があ
えだ き さ
なたをささえているのである。 一九すると、あなたは、﹁枝が切り去られたの

は、わたしがつがれるためであった﹂と言うであろう。 二〇まさに、そのとお
かれ ふ しんこう き さ しんこう た
りである。彼らは不信仰のゆえに切り去られ、あなたは信仰のゆえに立って
ローマ人への手紙

たか おも おそ かみ
いるのである。高ぶった思いをいだかないで、むしろ恐れなさい。 二一もし神
もとき えだ お お
が元木の枝を惜しまなかったとすれば、あなたを惜しむようなことはないで
かみ じあい しゅんげん み かみ しゅんげん たお もの む
あ ろ う。 二二神 の 慈愛 と 峻 厳 と を 見 よ。神 の 峻 厳 は 倒 れ た 者 た ち に 向 け ら
かみ じあい じあい む
れ、神の慈愛は、もしあなたがその慈愛にとどまっているなら、あなたに向

37
き と かれ
けられる。そうでないと、あなたも切り取られるであろう。 二三しかし彼ら
ふ しんこう つづ かみ かれ ふたた ちから
も、不信仰を続けなければ、つがれるであろう。神には彼らを再びつぐ力が
しぜん やせい き と
ある。 二四なぜなら、もしあなたが自然のままの野生のオリブから切り取ら
しぜん せいしつ はん よ しぜん
れ、自然の性質に反して良いオリブにつがれたとすれば、まして、これら自然
よ えだ もと
のままの良い枝は、もっとたやすく、元のオリブにつがれないであろうか。
きょうだい ち しゃ じ ふ
二五 兄 弟 た ち よ。あ な た が た が 知者 だ と 自負 す る こ と の な い た め に、こ の
おくぎ し いちぶ びと
奥義 を 知 ら な い で い て も ら い た く な い。一部 の イ ス ラ エ ル 人 が か た く な に
いほうじん ぜ ん ぶ すく いた とき
なったのは、異邦人が全部救われるに至る時までのことであって、 二六こうし
びと すく つぎ か
て、イスラエル人は、すべて救われるであろう。すなわち、次のように書い
てある、
すく もの
﹁救う者がシオンからきて、
ふしんじん お はら
ヤコブから不信心を追い払うであろう。
ローマ人への手紙

かれ つみ のぞ さ とき
二七 そして、これが、彼らの罪を除き去る時に、
かれ たい た けいやく
彼らに対して立てるわたしの契約である﹂。
ふくいん い かれ かみ てき
二八 福音について言えば、彼らは、あなたがたのゆえに、神の敵とされている
えら い ふ そ かみ あい もの
が、選びについて言えば、父祖たちのゆえに、神に愛せられる者である。 二九

38
かみ たまもの め か かみ
神の賜物と召しとは、変えられることがない。 三〇あなたがたが、かつては神
ふ じゅうじゅん いま かれ ふ じゅうじゅん う
に不 従 順であったが、今は彼らの不 従 順によってあわれみを受けたよう
かれ いま ふ じゅうじゅん う
に、 三一彼らも今は不 従 順になっているが、それは、あなたがたの受けたあ
かれ じしん いま う
われみによって、彼ら自身も今あわれみを受けるためなのである。 三二すなわ
かみ ひと ひと ふ じゅうじゅん と こ
ち、神はすべての人をあわれむために、すべての人を不 従 順のなかに閉じ込
めたのである。
ふか かみ ち え ちしき とみ きわ
三三 ああ深いかな、神の知恵と知識との富は。そのさばきは窮めがたく、その
みち はか
道は測りがたい。
しゅ こころ し
三四 ﹁だれが、主の心を知っていたか。
しゅ けいかく
だれが、主の計画にあずかったか。
しゅ あた
三五 また、だれが、まず主に与えて、
むく う
その報いを受けるであろうか﹂。
ローマ人への手紙

ばんぶつ かみ かみ な かみ き えいこう
三六 万物は、神からいで、神によって成り、神に帰するのである。栄光がとこ
かみ
しえに神にあるように、アァメン。

39
第一二章
きょうだい かみ すす
一 兄 弟たちよ。そういうわけで、神のあわれみによってあなたがたに勧め
かみ よろこ い せい そな もの
る。あなたがたのからだを、神に喜ばれる、生きた、聖なる供え物としてさ
れいてき れいはい
さげなさい。それが、あなたがたのなすべき霊的な礼拝である。 二あなたが
よ だきょう こころ あら
たは、この世と妥協してはならない。むしろ、心を新たにすることによって、
つく なに かみ みむね なに ぜん かみ よろこ
造りかえられ、何が神の御旨であるか、何が善であって、神に喜ばれ、かつ
まった し
全きことであるかを、わきまえ知るべきである。
じぶん あた めぐ い
三 わたしは、自分に与えられた恵みによって、あなたがたひとりびとりに言
おも げんど こ おも かみ かくじ わ あた
う。思うべき限度を越えて思いあがることなく、むしろ、神が各自に分け与
しんこう はか つつし ふか おも
えられた信仰の量りにしたがって、慎み深く思うべきである。 四なぜなら、一
したい したい おな はたら
つのからだにたくさんの肢体があるが、それらの肢体がみな同じ働きをして
ローマ人への手紙

かず おお
はいないように、五わたしたちも数は多いが、キリストにあって一つのからだ
かくじ たがい したい あた
であり、また各自は互に肢体だからである。 六このように、わたしたちは与え
めぐ こと たまもの も
られた恵みによって、それぞれ異なった賜物を持っているので、もし、それ
よげん しんこう ていど おう よげん ほうし ほうし
が預言であれば、信仰の程度に応じて預言をし、 七奉仕であれば奉仕をし、ま

40
おし もの おし すす もの すす き ふ もの お
た教える者であれば教え、八勧めをする者であれば勧め、寄附する者は惜しみ
き ふ しどう もの ねっしん しどう じぜん もの こころよ じぜん
なく寄附し、指導する者は熱心に指導し、慈善をする者は快く慈善をすべき
あい いつわ あく にく しりぞ ぜん した むす
である。 九愛には偽りがあってはならない。悪は憎み退け、善には親しみ結
きょうだい あい たがい すす たがい そんけい あ
び、 一〇兄 弟の愛をもって互にいつくしみ、進んで互に尊敬し合いなさい。 一
ねっしん れい も しゅ つか のぞ よろこ かんなん
一 熱心で、うむことなく、霊に燃え、主に仕え、 一二望みをいだいて喜び、患難
た つね いの まず せいと たす つと たびびと
に耐え、常に祈りなさい。 一三貧しい聖徒を助け、努めて旅人をもてなしなさ
はくがい もの しゅくふく しゅくふく
い。 一四あなたがたを迫害する者を祝 福しなさい。 祝 福して、のろってはな
よろこ もの とも よろこ な もの とも な たがい おも
らない。 一五 喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣きなさい。 一六 互に思うこと
たか おも ひく もの まじ
をひとつにし、高ぶった思いをいだかず、かえって低い者たちと交わるがよ
じぶん ち しゃ おも たい あく
い。自分が知者だと思いあがってはならない。 一七だれに対しても悪をもっ
あく むく ひと たい ぜん はか
て悪に報いず、すべての人に対して善を図りなさい。 一八あなたがたは、でき
かぎ ひと へいわ す あい もの じぶん ふくしゅう
る限りすべての人と平和に過ごしなさい。 一九愛する者たちよ。自分で復 讐
ローマ人への手紙

かみ いか まか しゅ い
を し な い で、む し ろ、神 の 怒 り に 任 せ な さ い。な ぜ な ら、﹁主 が 言 わ れ る。
ふくしゅう じしん ほうふく か
復 讐はわたしのすることである。わたし自身が報復する﹂と書いてあるから
てき う かれ く
である。 二〇むしろ、﹁もしあなたの敵が飢えるなら、彼に食わせ、かわくなら、
かれ の かれ あたま も
彼 に 飲 ま せ な さ い。そ う す る こ と に よ っ て、あ な た は 彼 の 頭 に 燃 え さ か る

41
すみび つ あく ま ぜん
炭火を積むことになるのである﹂。 二一悪に負けてはいけない。かえって、善
あく か
をもって悪に勝ちなさい。
第一三章
ひと うえ た けんい したが かみ
一 すべての人は、上に立つ権威に従うべきである。なぜなら、神によらない
けんい そんざい けんい かみ た
権威はなく、おおよそ存在している権威は、すべて神によって立てられたも
けんい さか もの かみ さだ もの
のだからである。 二したがって、権威に逆らう者は、神の定めにそむく者であ
もの じぶん み まね しはいしゃ
る。そむく者は、自分の身にさばきを招くことになる。 三いったい、支配者た
ぜんじ もの きょうふ あくじ もの きょうふ
ちは、善事をする者には恐怖でなく、悪事をする者にこそ恐怖である。あな
けんい おそ ねが ぜんじ
たは権威を恐れないことを願うのか。それでは、善事をするがよい。そうす
かれ かれ えき あた かみ しもべ
れば、彼からほめられるであろう。 四彼は、あなたに益を与えるための神の僕
ローマ人への手紙

あくじ おそ かれ
なのである。しかし、もしあなたが悪事をすれば、恐れなければならない。彼
けん お かれ かみ しもべ あくじ おこな
はいたずらに剣を帯びているのではない。彼は神の僕であって、悪事を行う
もの たい いか むく いか
者に対しては、怒りをもって報いるからである。 五だから、ただ怒りをのがれ
りょうしん したが みつぎ
るためだけではなく、 良 心のためにも従うべきである。 六あなたがたが貢を

42
おさ おな りゆう かれ かみ つか もの
納めるのも、また同じ理由からである。彼らは神に仕える者として、もっぱ
つとめ たずさ かれ たい
らこの務に携わっているのである。 七あなたがたは、彼らすべてに対して、
ぎ む はた みつぎ おさめ もの みつぎ おさ ぜい おさめ
義務を果しなさい。すなわち、 貢を納むべき者には貢を納め、税を納むべき
もの ぜい おさ おそ もの おそ うやま もの うやま
者には税を納め、恐るべき者は恐れ、 敬うべき者は敬いなさい。
たがい あい あ そと なにびと か ひと あい
八 互に愛し合うことの外は、何人にも借りがあってはならない。人を愛する
もの りっぽう まっと かんいん ころ ぬす
者は、律法を全うするのである。 九﹁姦淫するな、殺すな、盗むな、むさぼる
いまし けっきょく じぶん あい
な﹂など、そのほかに、どんな戒めがあっても、結 局﹁自分を愛するように
とな びと あい ことば き あい とな びと がい くわ
あなたの隣り人を愛せよ﹂というこの言葉に帰する。 一〇愛は隣り人に害を加
あい りっぽう かんせい
えることはない。だから、愛は律法を完成するものである。
とき し とく こと はげ
一一 なお、あなたがたは時を知っているのだから、特に、この事を励まねばな
ねむ とき
らない。すなわち、あなたがたの眠りからさめるべき時が、すでにきている。
いま すくい はじ しん とき ちか
なぜなら今は、わたしたちの救が、初め信じた時よりも、もっと近づいてい
ローマ人への手紙

よ ひ ちか
るからである。 一二夜はふけ、日が近づいている。それだから、わたしたちは、
す ひかり ぶ ぐ つ えんらく
やみのわざを捨てて、 光の武具を着けようではないか。 一三そして、宴楽と
でいすい いんらん こうしょく あらそ す ひるある ある
泥酔、淫乱と好 色、 争いとねたみを捨てて、昼歩くように、つつましく歩こ
しゅ き にく よく
うではないか。 一四あなたがたは、主イエス・キリストを着なさい。肉の欲を

43
み こころ む
満たすことに心を向けてはならない。
第一四章
しんこう よわ もの う いけん ひひょう
一 信仰の弱い者を受けいれなさい。ただ、意見を批評するためであってはな
ひと なに た しん よわ ひと
らない。 二ある人は、何を食べてもさしつかえないと信じているが、弱い人は
やさい た た もの た もの かろ た
野菜だけを食べる。 三食べる者は食べない者を軽んじてはならず、食べない
もの た もの かみ かれ う くだ
者も食べる者をさばいてはならない。神は彼を受けいれて下さったのである
たにん しもべ なにもの かれ た
から。 四他人の僕をさばくあなたは、いったい、何者であるか。彼が立つのも
たお しゅじん かれ た しゅ
倒れるのも、その主人によるのである。しかし、彼は立つようになる。主は
かれ た ひと ひ ひ
彼を立たせることができるからである。 五また、ある人は、この日がかの日よ
だいじ かんが ひと ひ おな かんが かくじ
りも大事であると考え、ほかの人はどの日も同じだと考える。各自はそれぞ
ローマ人への手紙

こころ なか かくしん も ひ おも もの しゅ
れ心の中で、確信を持っておるべきである。 六日を重んじる者は、主のために
おも た もの しゅ た かみ かんしゃ た
重んじる。また食べる者も主のために食べる。神に感謝して食べるからであ
た もの しゅ た かみ かんしゃ
る。食べない者も主のために食べない。そして、神に感謝する。 七すなわち、
じぶん い もの じぶん
わたしたちのうち、だれひとり自分のために生きる者はなく、だれひとり自分

44
し もの い しゅ い し
のために死ぬ者はない。 八わたしたちは、生きるのも主のために生き、死ぬの
しゅ し い し しゅ
も主のために死ぬ。だから、生きるにしても死ぬにしても、わたしたちは主
し しゃ せいしゃ しゅ
のものなのである。 九なぜなら、キリストは、死者と生者との主となるため
し い かえ きょうだい
に、死んで生き返られたからである。 一〇それだのに、あなたは、なぜ兄 弟を
きょうだい かろ かみ
さばくのか。あなたは、なぜ兄 弟を軽んじるのか。わたしたちはみな、神の
ざ まえ た
さばきの座の前に立つのである。 一一すなわち、
しゅ い い
﹁主が言われる。わたしは生きている。
たい
すべてのひざは、わたしに対してかがみ、
した かみ
すべての舌は、神にさんびをささげるであろう﹂
か かみ たい じぶん い
と書いてある。 一二だから、わたしたちひとりびとりは、神に対して自分の言
いひらきをすべきである。
こんご たがい あ
それゆえ、今後わたしたちは、 互にさばき合うことをやめよう。むしろ、
ローマ人への手紙

一三
さまた もの もの きょうだい まえ お
あなたがたは、妨げとなる物や、つまずきとなる物を兄 弟の前に置かないこ
き しゅ し かくしん
とに、決めるがよい。 一四わたしは、主イエスにあって知りかつ確信している。
じたい けが けが かんが
それ自体、汚れているものは一つもない。ただ、それが汚れていると考える
ひと けが しょくもつ きょうだい くる
人にだけ、汚れているのである。 一五もし食 物のゆえに兄 弟を苦しめるなら、

45
あい ある しょくもつ
あなたは、もはや愛によって歩いているのではない。あなたの食 物によっ
きょうだい ほろ かれ し
て、兄 弟を滅ぼしてはならない。キリストは彼のためにも、死なれたのであ
よ こと たね
る。 一六それだから、あなたがたにとって良い事が、そしりの種にならぬよう
かみ くに いんしょく ぎ へいわ せいれい よろこ
にしなさい。 一七神の国は飲 食ではなく、義と、平和と、聖霊における喜びと
つか もの かみ よろこ ひと う
である。 一八こうしてキリストに仕える者は、神に喜ばれ、かつ、人にも受け
へいわ やくだ たがい とく たか
いれられるのである。 一九こういうわけで、平和に役立つことや、互の徳を高
お もと しょくもつ かみ はかい
めることを、追い求めようではないか。 二〇食 物のことで、神のみわざを破壊
もの た ひと
してはならない。すべての物はきよい。ただ、それを食べて人をつまずかせ
もの あく にく く さけ の きょうだい
る者には、悪となる。 二一肉を食わず、酒を飲まず、そのほか兄 弟をつまずか
よ も しんこう かみ
せないのは、良いことである。 二二あなたの持っている信仰を、神のみまえに、
じぶんじしん も みずか よ さだ おも
自分自身に持っていなさい。 自ら良いと定めたことについて、やましいと思
ひと うたが た もの しんこう
わない人は、さいわいである。 二三しかし、 疑いながら食べる者は、信仰によ
ローマ人への手紙

つみ さだ しんこう つみ
らないから、罪に定められる。すべて信仰によらないことは、罪である。

46
第一五章
つよ もの つよ もの よわ じぶん
一 わたしたち強い者は、強くない者たちの弱さをになうべきであって、自分だ
よろこ とな びと
けを喜ばせることをしてはならない。 二わたしたちひとりびとりは、隣り人
とく たか えき はか かれ よろこ
の徳を高めるために、その益を図って彼らを喜ばすべきである。 三キリスト
じしん よろこ もの
さえ、ご自身を喜ばせることはなさらなかった。むしろ﹁あなたをそしる者
ふ か
のそしりが、わたしに降りかかった﹂と書いてあるとおりであった。 四これま
か こと おしえ か
でに書かれた事がらは、すべてわたしたちの教のために書かれたのであって、
せいしょ あた にんたい なぐさ のぞ
それは聖書の与える忍耐と慰めとによって、望みをいだかせるためである。 五
にんたい なぐさ かみ
どうか、忍耐と慰めとの神が、あなたがたに、キリスト・イエスにならって
たがい おな おも こころ ひと こえ あ
互に同じ思いをいだかせ、 六こうして、心を一つにし、声を合わせて、わたし
しゅ ちち かみ くだ
たちの主イエス・キリストの父なる神をあがめさせて下さるように。
ローマ人への手紙

う くだ
七 こういうわけで、キリストもわたしたちを受けいれて下さったように、あな
たがい う かみ えいこう い
たがたも互に受けいれて、神の栄光をあらわすべきである。 八わたしは言う、
かみ しんじつ あき かつれい もの しもべ
キリストは神の真実を明らかにするために、割礼のある者の僕となられた。
ふ そ う やくそく ほしょう とも いほうじん う
それは父祖たちの受けた約束を保証すると共に、 九異邦人もあわれみを受け

47
かみ
て神をあがめるようになるためである、
いほうじん なか
﹁それゆえ、わたしは、異邦人の中で
あなたにさんびをささげ、
み な うた
また、御名をほめ歌う﹂

と書いてあるとおりである。

一〇 また、こう言っている、
いほうじん しゅ たみ とも よろこ
﹁異邦人よ、主の民と共に喜べ﹂。
一一 また、
いほうじん しゅ
﹁すべての異邦人よ、主をほめまつれ。
たみ しゅ
もろもろの民よ、主をほめたたえよ﹂。

一二 またイザヤは言っている、
ね め で
﹁エッサイの根から芽が出て、
ローマ人への手紙

いほうじん おさ た あ もの く
異邦人を治めるために立ち上がる者が来る。
いほうじん かれ のぞ
異邦人は彼に望みをおくであろう﹂。
のぞ かみ しんこう く よろこ へいあん
一三 どうか、望みの神が、信仰から来るあらゆる喜びと平安とを、あなたがた
み せいれい ちから のぞ くだ
に満たし、聖霊の力によって、あなたがたを、望みにあふれさせて下さるよ

48
うに。
きょうだい じしん ぜんい
一四 さて、わたしの兄 弟たちよ。あなたがた自身が、善意にあふれ、あらゆる
ち え み たがい くんかい あ ちから かた しん
知恵に満たされ、そして互に訓戒し合う力のあることを、わたしは堅く信じ
きおく あら
ている。 一五しかし、わたしはあなたがたの記憶を新たにするために、ところ
おも か かみ たま めぐ
どころ、かなり思いきって書いた。それは、神からわたしに賜わった恵みに
か めぐ う いほうじん
よって、書いたのである。 一六このように恵みを受けたのは、わたしが異邦人
つか もの かみ ふくいん さいし やく
のためにキリスト・イエスに仕える者となり、神の福音のために祭司の役を
つと いほうじん せいれい みむね
勤め、こうして異邦人を、聖霊によってきよめられた、御旨にかなうささげ
もの かみ ほうし
物とするためである。 一七だから、わたしは神への奉仕については、キリスト・
ほこ いほうじん じゅうじゅん
イエスにあって誇りうるのである。 一八わたしは、異邦人を従 順にするため
もち ことば ふ し ぎ ちから せいれい
に、キリストがわたしを用いて、言葉とわざ、一九しるしと不思議との力、聖霊
ちから はたら くだ ほか なに かた おも
の力によって、 働かせて下さったことの外には、あえて何も語ろうとは思わ
ローマ人への手紙

はじ めぐ
ない。こうして、わたしはエルサレムから始まり、巡りめぐってイルリコに
いた ふくいん み さい せつ のぞ
至るまで、キリストの福音を満たしてきた。 二〇その際、わたしの切に望んだ
たにん どだい うえ た み な
ところは、他人の土台の上に建てることをしないで、キリストの御名がまだ
とな ところ ふくいん の つた
唱えられていない所に福音を宣べ伝えることであった。 二一すなわち、

49
かれ の つた ひとびと み
﹁彼のことを宣べ伝えられていなかった人々が見、
き ひとびと さと
聞いていなかった人々が悟るであろう﹂

と書いてあるとおりである。
ところ い さまた
二二 こういうわけで、わたしはあなたがたの所に行くことを、たびたび妨げら
いま ちほう はたら よ ち
れてきた。 二三しかし今では、この地方にはもはや働く余地がなく、かつイス
おもむ ばあい ところ い たねん ねつぼう
パニヤに赴く場合、あなたがたの所に行くことを、多年、熱望していたので、
とちゅう あ いくぶん ねが
︱︱ 二四 その途中あなたがたに会い、まず幾分でもわたしの願いがあなたがた
み おく い のぞ
によって満たされたら、あなたがたに送られてそこへ行くことを、望んでい
いま ばあい せいと つか
るのである。 二五しかし今の場合、聖徒たちに仕えるために、わたしはエルサ
い ひとびと
レムに行こうとしている。 二六なぜなら、マケドニヤとアカヤとの人々は、エ
せいと なか まず ひとびと えんじょ さんせい
ル サ レ ム に お る 聖徒 の 中 の 貧 し い 人々 を 援助 す る こ と に 賛成 し た か ら で あ
かれ さんせい どうじ かれ ひとびと ふさい
る。 二七たしかに、彼らは賛成した。しかし同時に、彼らはかの人々に負債が
ローマ人への手紙

いほうじん かれ れい もの にく
ある。というのは、もし異邦人が彼らの霊の物にあずかったとすれば、肉の
もの かれ つか とうぜん
物をもって彼らに仕えるのは、当然だからである。 二八そこでわたしは、この
しごと す かれ み てわた のち ところ
仕事を済ませて彼らにこの実を手渡した後、あなたがたの所をとおって、イ
い おも ところ ゆ とき
スパニヤに行こうと思う。 二九そしてあなたがたの所に行く時には、キリスト

50
み しゅくふく ゆ しん
の満ちあふれる祝 福をもって行くことと、信じている。
きょうだい しゅ みたま あい
三〇 兄 弟たちよ。わたしたちの主イエス・キリストにより、かつ御霊の愛に
ねが とも ちから
よって、あなたがたにお願いする。どうか、共に力をつくして、わたしのた
かみ いの ふしん と すく
めに神に祈ってほしい。 三一すなわち、わたしがユダヤにおる不信の徒から救
たい ほうし せいと う
われ、そしてエルサレムに対するわたしの奉仕が聖徒たちに受けいれられる
かみ みむね よろこ ところ
ものとなるように、 三二また、神の御旨により、 喜びをもってあなたがたの所
い とも あ いの
に行き、共になぐさめ合うことができるように祈ってもらいたい。 三三どう
へいわ かみ いちどう とも
か、平和の神があなたがた一同と共にいますように、アァメン。
第一六章
きょうかい しつじ しまい
ケンクレヤにある教 会の執事、わたしたちの姉妹フィベを、あなたがたに
ローマ人への手紙


しょうかい せいと しゅ かのじょ むか
紹 介する。 二どうか、聖徒たるにふさわしく、主にあって彼女を迎え、そして、
かのじょ なにごと たす
彼女があなたがたにしてもらいたいことがあれば、何事でも、助けてあげて
かのじょ おお ひと えんじょしゃ じしん えんじょしゃ
ほしい。彼女は多くの人の援助者であり、またわたし自身の援助者でもあっ
た。

51
どうろうしゃ
三 キリスト・イエスにあるわたしの同労者プリスカとアクラとに、よろしく
い かれ すく じぶん くび さ
言ってほしい。 四彼らは、わたしのいのちを救うために、自分の首をさえ差し
だ かれ たい いほうじん
出してくれたのである。彼らに対しては、わたしだけではなく、異邦人のす
きょうかい かんしゃ かれ いえ きょうかい
べての教 会も、感謝している。 五また、彼らの家の教 会にも、よろしく。わ
あい い かれ
たしの愛するエパネトに、よろしく言ってほしい。彼は、キリストにささげ
はつほ ひとかた ろうく
られたアジヤの初穂である。 六あなたがたのために一方ならず労苦したマリ
い どうぞく いっしょ とうごく
ヤに、よろしく言ってほしい。 七わたしの同族であって、わたしと一緒に投獄
かれ し と
されたことのあるアンデロニコとユニアスとに、よろしく。彼らは使徒たち
あいだ ひょうばん さき しん ひとびと
の間で評 判がよく、かつ、わたしよりも先にキリストを信じた人々である。 八
しゅ あい
主にあって愛するアムプリアトに、よろしく。 九キリストにあるわたしたち
どうろうしゃ あい
の同労者ウルバノと、愛するスタキスとに、よろしく。 一〇キリストにあって
れんたつ いえ ひと
錬達 な ア ペ レ に、よ ろ し く。ア リ ス ト ブ ロ の 家 の 人 た ち に、よ ろ し く。 一一
ローマ人への手紙

どうぞく いえ しゅ ひと
同族のヘロデオンに、よろしく。ナルキソの家の、主にある人たちに、よろ
しゅ ろうく しゅ
しく。 一二主にあって労苦しているツルパナとツルポサとに、よろしく。主に
ひとかた ろうく あい しゅ えら
あって一方ならず労苦した愛するペルシスに、よろしく。 一三主にあって選ば
かれ はは かれ はは はは
れたルポスと、彼の母とに、よろしく。彼の母は、わたしの母でもある。 一四

52
かれ いっしょ
アスンクリト、フレゴン、ヘルメス、パトロバ、ヘルマスおよび彼らと一緒
きょうだい
にいる兄 弟たちに、よろしく。 一五ピロロゴとユリヤとに、またネレオとその
しまい かれ いっしょ せいと
姉妹とに、オルンパに、また彼らと一緒にいるすべての聖徒たちに、よろし
い せっぷん たがい
く 言 っ て ほ し い。 一六き よ い 接吻 を も っ て、 互 に あ い さ つ を か わ し な さ い。
きょうかい
キリストのすべての教 会から、あなたがたによろしく。
きょうだい かんこく まな おしえ
一七 さて兄 弟たちよ。あなたがたに勧告する。あなたがたが学んだ教にそむ
ぶんれつ ひ おこ あた ひとびと けいかい かれ とお
いて分裂を引き起し、つまずきを与える人々を警戒し、かつ彼らから遠ざか
ひとびと しゅ つか
るがよい。 一八なぜなら、こうした人々は、わたしたちの主キリストに仕えな
じぶん はら つか かんげん び じ じゅんぼく ひとびと こころ あざむ
いで、自分の腹に仕え、そして甘言と美辞とをもって、純 朴な人々の心を欺
もの じゅうじゅん ひとびと みみ たっ
く者どもだからである。 一九あなたがたの従 順は、すべての人々の耳に達し
よろこ ねが
ており、それをあなたがたのために喜んでいる。しかし、わたしの願うとこ
ぜん あく
ろは、あなたがたが善にさとく、悪には、うとくあってほしいことである。 二
ローマ人への手紙

へいわ かみ あし した ふ くだ
〇 平和の神は、サタンをすみやかにあなたがたの足の下に踏み砕くであろう。
しゅ めぐ とも
どうか、わたしたちの主イエスの恵みが、あなたがたと共にあるように。
どうろうしゃ どうぞく
二一 わたしの同労者テモテおよび同族のルキオ、ヤソン、ソシパテロから、あ
てがみ ひっ き しゅ
なたがたによろしく。 二二︵この手紙を筆記したわたしテルテオも、主にあっ

53
ことば ぜんきょうかい やぬし
てあなたがたにあいさつの言葉をおくる。︶ 二三わたしと全 教 会との家主ガイ
し かいけいがかり きょうだい
オから、あなたがたによろしく。市の会計 係 エラストと兄 弟 クワルトから、
あなたがたによろしく。
しゅ めぐ いちどう とも
︹ 二四わたしたちの主イエス・キリストの恵みが、あなたがた一同と共にあるよ
うに、アァメン。︺
ねが ふくいん せんきょう なが
二五二六 願わくは、わたしの福音とイエス・キリストの宣 教とにより、かつ、長
よ よ かく いま よげん しょ
き世々にわたって、隠されていたが、今やあらわされ、預言の書をとおして、
えいえん かみ めいれい したが しんこう じゅうじゅん いた くにひと つ
永遠の神の命令に従い、信仰の従 順に至らせるために、もろもろの国人に告
し おくぎ けいじ ちから
げ知らされた奥義の啓示によって、あなたがたを力づけることのできるかた、
ゆいいつ ち え ふか かみ えいこう えいえん
二七 すなわち、唯一の知恵深き神に、イエス・キリストにより、栄光が永遠よ
えいえん
り永遠にあるように、アァメン。
ローマ人への手紙

54
びと だい てがみ
コリント人への第一の手紙
第一章
かみ みむね め し と きょうだい
一 神の御旨により召されてキリスト・イエスの使徒となったパウロと、 兄 弟
かみ きょうかい しゅ
ソステネから、 二コリントにある神の教 会、すなわち、わたしたちの主イエ
み な いた ところ よ もと ひとびと とも
ス・キリストの御名を至る所で呼び求めているすべての人々と共に、キリス
せいと め
ト・イエスにあってきよめられ、聖徒として召されたかたがたへ。このキリ
しゅ かれ しゅ
ストは、わたしたちの主であり、また彼らの主であられる。
コリント人への第一の手紙

ちち かみ しゅ めぐ へいあん
三 わたしたちの父なる神と主イエス・キリストから、恵みと平安とが、あなた
がたにあるように。
あた かみ めぐ
四 わたしは、あなたがたがキリスト・イエスにあって与えられた神の恵みを
おも かみ かんしゃ
思って、いつも神に感謝している。 五あなたがたはキリストにあって、すべて
ことば ちしき めぐ
のことに、すなわち、すべての言葉にもすべての知識にも恵まれ、 六キリスト
たし
のためのあかしが、あなたがたのうちに確かなものとされ、 七こうして、あな

0
めぐ たまもの か しゅ
たがたは恵みの賜物にいささかも欠けることがなく、わたしたちの主イエス・
あらわ ま のぞ しゅ さいご
キリストの現れるのを待ち望んでいる。 八主もまた、あなたがたを最後まで
かた しゅ ひ せ
堅くささえて、わたしたちの主イエス・キリストの日に、責められるところ
もの くだ かみ しんじつ かみ
のない者にして下さるであろう。 九神は真実なかたである。あなたがたは神
め み こ しゅ まじ
によって召され、御子、わたしたちの主イエス・キリストとの交わりに、は
いらせていただいたのである。
きょうだい しゅ な
一〇 さて兄 弟たちよ。わたしたちの主イエス・キリストの名によって、あなた
すす かた たがい あいだ ぶんそう おな
がたに勧める。みな語ることを一つにし、お互の間に分争がないようにし、同
こころ おな おも かた むす あ きょうだい
じ心、同じ思いになって、堅く結び合っていてほしい。 一一わたしの兄 弟たち
コリント人への第一の手紙

じつ いえ もの あいだ あらそ き
よ。実は、クロエの家の者たちから、あなたがたの間に争いがあると聞かさ

れている。 一二はっきり言うと、あなたがたがそれぞれ、
﹁わたしはパウロにつ
い あ
く﹂
﹁わたしはアポロに﹂
﹁わたしはケパに﹂
﹁わたしはキリストに﹂と言い合っ

ていることである。 一三キリストは、いくつにも分けられたのか。パウロは、
じゅうじか
あなたがたのために十字架につけられたことがあるのか。それとも、あなた
な う かんしゃ
がたは、パウロの名によってバプテスマを受けたのか。 一四わたしは感謝して
いがい
いるが、クリスポとガイオ以外には、あなたがたのうちのだれにも、バプテ

1
さず な
スマを授けたことがない。 一五それはあなたがたがわたしの名によってバプ
う い
テスマを受けたのだと、だれにも言われることのないためである。 一六もっと
いえ もの さず
も、ステパナの家の者たちには、バプテスマを授けたことがある。しかし、そ
さず おぼ
のほかには、だれにも授けた覚えがない。 一七いったい、キリストがわたしを
さず ふくいん の つた
つかわされたのは、バプテスマを授けるためではなく、福音を宣べ伝えるた
ち え ことば もち の つた
めであり、しかも知恵の言葉を用いずに宣べ伝えるためであった。それは、キ
じゅうじか むりょく
リストの十字架が無力なものになってしまわないためなのである。
じゅうじか ことば ほろ い もの おろ すくい
一八 十字架の言は、滅び行く者には愚かであるが、救にあずかるわたしたちに
かみ ちから せいしょ
は、神の力である。 一九すなわち、聖書に、
コリント人への第一の手紙

ち しゃ ち え ほろ
﹁わたしは知者の知恵を滅ぼし、
かしこ もの かしこ
賢い者の賢さをむなしいものにする﹂
か ち しゃ がくしゃ よ
と 書 い て あ る。 二 〇知者 は ど こ に い る か。学者 は ど こ に い る か。こ の 世 の
ろんしゃ かみ よ ち え おろ
論者はどこにいるか。神はこの世の知恵を、愚かにされたではないか。 二一こ
よ じぶん ち え かみ みと いた かみ ち え
の世は、自分の知恵によって神を認めるに至らなかった。それは、神の知恵
かみ せんきょう おろ しん もの すく
にかなっている。そこで神は、宣 教の愚かさによって、信じる者を救うこと
じん こ じん ち え もと
とされたのである。 二二ユダヤ人はしるしを請い、ギリシヤ人は知恵を求め

2
じゅうじか の つた
る。 二三しかしわたしたちは、十字架につけられたキリストを宣べ伝える。こ
じん いほうじん おろ
のキリストは、ユダヤ人にはつまずかせるもの、異邦人には愚かなものであ
め もの じ し ん じん じん かみ ちから
るが、二四召された者自身にとっては、ユダヤ人にもギリシヤ人にも、神の力、
かみ ち え かみ おろ ひと かしこ かみ よわ
神の知恵たるキリストなのである。 二五神の愚かさは人よりも賢く、神の弱さ
ひと つよ
は人よりも強いからである。
きょうだい め とき かんが にんげん
二六 兄 弟たちよ。あなたがたが召された時のことを考えてみるがよい。人間
てき ち え もの おお けんりょく もの おお みぶん たか
的には、知恵のある者が多くはなく、権 力のある者も多くはなく、身分の高
もの おお かみ ち しゃ
い者も多くはいない。 二七それだのに神は、知者をはずかしめるために、この
よ おろ もの えら つよ もの よ よわ もの えら
世の愚かな者を選び、強い者をはずかしめるために、この世の弱い者を選び、
コリント人への第一の手紙

ゆうりょく もの むりょく もの よ みぶん ひく もの かろ


二八 有 力な者を無力な者にするために、この世で身分の低い者や軽んじられ
もの な ひと もの えら
ている者、すなわち、無きに等しい者を、あえて選ばれたのである。 二九それ
にんげん かみ ほこ
は、どんな人間でも、神のみまえに誇ることがないためである。 三〇あなたが
かみ かみ た
たがキリスト・イエスにあるのは、神によるのである。キリストは神に立て
ち え ぎ せい
られて、わたしたちの知恵となり、義と聖とあがないとになられたのである。
ほこ もの しゅ ほこ か
三一 それは、﹁誇る者は主を誇れ﹂と書いてあるとおりである。

3
第二章
きょうだい ところ い かみ
一 兄 弟たちよ。わたしもまた、あなたがたの所に行ったとき、神のあかしを
の つた ことば ち え もち
宣べ伝えるのに、すぐれた言葉や知恵を用いなかった。 二なぜなら、わたしは
じゅうじか いがい
イエス・キリスト、しかも十字架につけられたキリスト以外のことは、あな
あいだ なに し けっしん
たがたの間では何も知るまいと、決心したからである。 三わたしがあなたが
ところ い とき よわ おそ ふあん
たの所に行った時には、弱くかつ恐れ、ひどく不安であった。 四そして、わた
ことば せんきょう たく ち え ことば れい ちから
し の 言葉 も わ た し の 宣 教 も、巧 み な 知恵 の 言葉 に よ ら な い で、霊 と 力 と の
しょうめい しんこう ひと ち え
証 明によったのである。 五それは、あなたがたの信仰が人の知恵によらない
コリント人への第一の手紙

かみ ちから
で、神の力によるものとなるためであった。
えんじゅく もの あいだ ち え かた ち え
六 しかしわたしたちは、円 熟している者の間では、知恵を語る。この知恵は、
よ もの ち え よ ほろ い しはいしゃ ち え
この世の者の知恵ではなく、この世の滅び行く支配者たちの知恵でもない。 七
かた かく おくぎ かみ ち え
むしろ、わたしたちが語るのは、隠された奥義としての神の知恵である。そ
かみ う えいこう よ はじ さき
れは神が、わたしたちの受ける栄光のために、世の始まらぬ先から、あらか
さだ よ しはいしゃ ち え
じめ定めておかれたものである。 八この世の支配者たちのうちで、この知恵
し もの し えいこう しゅ
を知っていた者は、ひとりもいなかった。もし知っていたなら、栄光の主を

4
じゅうじか せいしょ か
十字架につけはしなかったであろう。 九しかし、聖書に書いてあるとおり、
め み みみ き
﹁目がまだ見ず、耳がまだ聞かず、
ひと こころ おも うか
人の心に思い浮びもしなかったことを、
かみ じぶん あい もの そな
神は、ご自分を愛する者たちのために備えられた﹂
かみ みたま けいじ くだ
のである。 一〇そして、それを神は、御霊によってわたしたちに啓示して下
みたま かみ ふか
さったのである。御霊はすべてのものをきわめ、神の深みまでもきわめるの
にんげん おも うち にんげん れい い が い
だからである。 一一いったい、人間の思いは、その内にある人間の霊以外に、だ
し おな かみ おも かみ みたまいがい し
れが知っていようか。それと同じように神の思いも、神の御霊以外には、知
う よ れい
るものはない。 一二ところが、わたしたちが受けたのは、この世の霊ではなく、
コリント人への第一の手紙

かみ れい かみ たま めぐ さと
神からの霊である。それによって、神から賜わった恵みを悟るためである。 一
たまもの かた にんげん ち え おし ことば もち
三 この賜物について語るにも、わたしたちは人間の知恵が教える言葉を用い
みたま おし ことば もち れい れい かいしゃく
ないで、御霊の教える言葉を用い、霊によって霊のことを解 釈するのである。
うま ひと かみ みたま たまもの う かれ おろ
一四 生れながらの人は、神の御霊の賜物を受けいれない。それは彼には愚かな
みたま はんだん かれ
ものだからである。また、御霊によって判断されるべきであるから、彼はそ
りかい れい ひと はんだん
れを理解することができない。 一五しかし、霊の人は、すべてのものを判断す
じぶんじしん はんだん しゅ おも
るが、自分自身はだれからも判断されることはない。 一六﹁だれが主の思いを

5
し かれ おし おも
知って、彼を教えることができようか﹂。しかし、わたしたちはキリストの思

いを持っている。
第三章
きょうだい れい ひと たい はな
一 兄 弟たちよ。わたしはあなたがたには、霊の人に対するように話すことが
にく ぞく もの おさ ご はな
できず、むしろ、肉に属する者、すなわち、キリストにある幼な子に話すよ
はな ちち の かた しょくもつ あた た
うに話した。 二あなたがたに乳を飲ませて、堅い食 物は与えなかった。食べ
ちから いま ちから
る力が、まだあなたがたになかったからである。今になってもその力がない。
コリント人への第一の手紙

にく ひと あいだ あらそ
三 あなたがたはまだ、肉の人だからである。あなたがたの間に、ねたみや争い
にく ひと ふつう にんげん ある
があるのは、あなたがたが肉の人であって、普通の人間のように歩いている
ひと い
ためではないか。 四すなわち、ある人は﹁わたしはパウロに﹂と言い、ほかの
ひと い ふつう にんげん
人は﹁わたしはアポロに﹂と言っているようでは、あなたがたは普通の人間
なにもの なにもの
ではないか。 五アポロは、いったい、何者か。また、パウロは何者か。あなた
しんこう みちび ひと しゅ あた ぶん
がたを信仰に導いた人にすぎない。しかもそれぞれ、主から与えられた分に
おう つか う みず
応じて仕えているのである。 六わたしは植え、アポロは水をそそいだ。しか

6
せいちょう くだ かみ う もの みず もの
し成 長させて下さるのは、神である。 七だから、植える者も水をそそぐ者も、
と た だいじ せいちょう くだ かみ う
ともに取るに足りない。大事なのは、 成 長させて下さる神のみである。 八植
もの みず もの はたら おう ほうしゅう
える者と水をそそぐ者とは一つであって、それぞれその働きに応じて報 酬を
え かみ どうろうしゃ かみ はたけ
得るであろう。 九わたしたちは神の同労者である。あなたがたは神の畑であ
かみ たてもの
り、神の建物である。
かみ たま めぐ じゅくれん けんちく し どだい
一〇 神から賜わった恵みによって、わたしは熟 練した建築師のように、土台を
た ひと うえ いえ た
すえた。そして他の人がその上に家を建てるのである。しかし、どういうふ
た き
うに建てるか、それぞれ気をつけるがよい。 一一なぜなら、すでにすえられて
どだいいがい どだい
いる土台以外のものをすえることは、だれにもできない。そして、この土台
コリント人への第一の手紙

どだい うえ きん ぎん ほうせき き
はイエス・キリストである。 一二この土台の上に、だれかが金、銀、宝石、木、
くさ もち た しごと
草、または、わらを用いて建てるならば、 一三それぞれの仕事は、はっきりと
ひ ひ なか あらわ あき
わかってくる。すなわち、かの日は火の中に現れて、それを明らかにし、ま
ひ しごと
たその火は、それぞれの仕事がどんなものであるかを、ためすであろう。 一四
ひと た しごと ひと ほうしゅう う
もしある人の建てた仕事がそのまま残れば、その人は報 酬を受けるが、一五そ
しごと や そんしつ こうむ かれ じ し ん ひ なか
の仕事が焼けてしまえば、損失を被るであろう。しかし彼自身は、火の中を
もの すく
くぐってきた者のようにではあるが、救われるであろう。

7
かみ みや かみ みたま じぶん やど
一六 あなたがたは神の宮であって、神の御霊が自分のうちに宿っていることを
し ひと かみ みや はかい かみ ひと ほろ
知らないのか。 一七もし人が、神の宮を破壊するなら、神はその人を滅ぼすで
かみ みや せい
あろう。なぜなら、神の宮は聖なるものであり、そして、あなたがたはその
みや
宮なのだからである。
じぶん あざむ じぶん よ
一八 だれも自分を欺いてはならない。もしあなたがたのうちに、自分がこの世
ち しゃ おも ひと ひと ち しゃ おろ
の知者だと思う人がいるなら、その人は知者になるために愚かになるがよい。
よ ち え かみ まえ おろ かみ
一九 なぜなら、この世の知恵は、神の前では愚かなものだからである。﹁神は、
ち しゃ わ る ぢ え とら か さら しゅ
知者たちをその悪知恵によって捕える﹂と書いてあり、 二〇更にまた、
﹁主は、
ち しゃ ろんぎ ぞん か
知者たちの論議のむなしいことをご存じである﹂と書いてある。 二一だから、
コリント人への第一の手紙

にんげん ほこ
だれも人間を誇ってはいけない。すべては、あなたがたのものなのである。 二
せかい せい し げんざい しょうらい
二 パウロも、アポロも、ケパも、世界も、生も、死も、現在のものも、 将 来
のものも、ことごとく、あなたがたのものである。 二三そして、あなたがたは
かみ
キリストのもの、キリストは神のものである。

8
第四章
ひと つか もの かみ おくぎ
一 このようなわけだから、人はわたしたちを、キリストに仕える者、神の奥義
かんり もの み ばあい かんりしゃ ようきゅう
を管理している者と見るがよい。 二この場合、管理者に要 求されているのは、
ちゅうじつ にんげん さいばん
忠 実であることである。 三わたしはあなたがたにさばかれたり、人間の裁判
い かい じぶん
にかけられたりしても、なんら意に介しない。いや、わたしは自分をさばく
みずか かえり
こともしない。 四わたしは自ら省みて、なんらやましいことはないが、それで
ぎ しゅ
義とされているわけではない。わたしをさばくかたは、主である。 五だから、
しゅ なにごと さきばし しゅ
主がこられるまでは、何事についても、先走りをしてさばいてはいけない。主
コリント人への第一の手紙

くら なか かく あか だ こころ なか くわだ
は暗い中に隠れていることを明るみに出し、 心の中で企てられていること
とき かみ う
を、あらわにされるであろう。その時には、神からそれぞれほまれを受ける
であろう。
きょうだい じしん あ い
六 兄 弟たちよ。これらのことをわたし自身とアポロとに当てはめて言って
き れい
聞かせたが、それはあなたがたが、わたしたちを例にとって、
﹁しるされてい
さだ こ まな ひと ひと み
る定めを越えない﹂ことを学び、ひとりの人をあがめ、ほかの人を見さげて
たか えら
高ぶることのないためである。 七いったい、あなたを偉くしているのは、だれ

9

なのか。あなたの持っているもので、もらっていないものがあるか。もしも
ほこ
らっているなら、なぜもらっていないもののように誇るのか。
まんぷく と さか
八 あなたがたは、すでに満腹しているのだ。すでに富み栄えているのだ。わ
さ おう おう
たしたちを差しおいて、王になっているのだ。ああ、王になっていてくれた
おも とも おう
らと思う。そうであったなら、わたしたちも、あなたがたと共に王になれた
かんが かみ し と しけいしゅう
で あ ろ う。 九わ た し は こ う 考 え る。神 は わ た し た ち 使徒 を 死刑囚 の よ う に、
さいご しゅつじょう もの ひ だ ぜん せ か い てんし
最後に出 場する者として引き出し、こうしてわたしたちは、全世界に、天使
ひとびと み もの おろ
にも人々にも見せ物にされたのだ。 一〇わたしたちはキリストのゆえに愚か
もの かしこ もの
な者となり、あなたがたはキリストにあって賢い者となっている。わたした
コリント人への第一の手紙

よわ つよ たっと いや
ちは弱いが、あなたがたは強い。あなたがたは尊ばれ、わたしたちは卑しめ
いま いま う はだか う
られている。 一一今の今まで、わたしたちは飢え、かわき、裸にされ、打たれ、
やど くろう じぶん て はたら
宿 な し で あ り、 一 二苦労 し て 自分 の 手 で 働 い て い る。は ず か し め ら れ て は
しゅくふく はくがい た しの やさ ことば
祝 福し、迫害されては耐え忍び、 一三ののしられては優しい言葉をかけてい
いま いた よ にんげん
る。わたしたちは今に至るまで、この世のちりのように、人間のくずのよう
にされている。

一四 わたしがこのようなことを書くのは、あなたがたをはずかしめるためでは

10
あいじ
なく、むしろ、わたしの愛児としてさとすためである。 一五たといあなたがた
よういくがかり にん ちち おお
に、キリストにある養 育 掛が一万人あったとしても、父が多くあるのではな
ふくいん う
い。キリスト・イエスにあって、福音によりあなたがたを生んだのは、わた
すす もの
しなのである。 一六そこで、あなたがたに勧める。わたしにならう者となりな
しゅ あい ちゅうじつ こ
さい。 一七このことのために、わたしは主にあって愛する忠 実なわたしの子
ところ かれ
テモテを、あなたがたの所につかわした。彼は、キリスト・イエスにおける
せいかつ いた ところ きょうかい おし
わたしの生活のしかたを、わたしが至る所の教 会で教えているとおりに、あ
おも おこ ひとびと
なたがたに思い起させてくれるであろう。 一八しかしある人々は、わたしがあ
ところ く たか
なたがたの所に来ることはあるまいとみて、高ぶっているということである。
コリント人への第一の手紙

しゅ ところ い
一九 しかし主のみこころであれば、わたしはすぐにでもあなたがたの所に行っ
たか もの ことば ちから み かみ
て、高ぶっている者たちの言葉ではなく、その力を見せてもらおう。 二〇神の
くに ことば ちから のぞ
国は言葉ではなく、力である。 二一あなたがたは、どちらを望むのか。わたし
ところ ゆ あい にゅうわ こころ
がむちをもって、あなたがたの所に行くことか、それとも、愛と柔和な心と

をもって行くことであるか。

11
第五章
げん き あいだ ふひんこう もの
一 現に聞くところによると、あなたがたの間に不品行な者があり、しかもその
ふひんこう いほうじん あいだ ひと ちち つま いっしょ
不品行は、異邦人の間にもないほどのもので、ある人がその父の妻と一緒に
す たか
住んでいるということである。 二それだのに、なお、あなたがたは高ぶってい
おこな もの なか のぞ
る。むしろ、そんな行いをしている者が、あなたがたの中から除かれねばな
おも かな じしん
らないことを思って、悲しむべきではないか。 三しかし、わたし自身として
はな れい いっしょ ば もの
は、からだは離れていても、霊では一緒にいて、その場にいる者のように、そ
おこな もの しゅ
んな行いをした者を、すでにさばいてしまっている。 四すなわち、主イエスの
コリント人への第一の手紙

な れい とも しゅ けんい
名によって、あなたがたもわたしの霊も共に、わたしたちの主イエスの権威
あつ かれ にく ほろ れい しゅ ひ すく
のもとに集まって、五彼の肉が滅ぼされても、その霊が主のさばきの日に救わ
かれ ひ わた
れ る よ う に、彼 を サ タ ン に 引 き 渡 し て し ま っ た の で あ る。 六あ な た が た が
ほこ すこ だね こな
誇っているのは、よろしくない。あなたがたは、少しのパン種が粉のかたま
ぜんたい し あたら こな
り全体をふくらませることを、知らないのか。 七 新しい粉のかたまりになる
ふる だね と のぞ じじつ だね もの
ために、古いパン種を取り除きなさい。あなたがたは、事実パン種のない者
すぎこし こひつじ
なのだから。わたしたちの過越の小羊であるキリストは、すでにほふられた

12
ふる だね あくい じゃあく だね
のだ。 八ゆえに、わたしたちは、古いパン種や、また悪意と邪悪とのパン種を
もち だね じゅんすい しんじつ まつり
用いずに、パン種のはいっていない純 粋で真実なパンをもって、祭をしよう
ではないか。
まえ てがみ ふひんこう もの こうさい か
九 わたしは前の手紙で、不品行な者たちと交際してはいけないと書いたが、 一
よ ふひんこう もの どんよく もの りゃくだつ もの ぐうぞうれいはい
〇 それは、この世の不品行な者、貪欲な者、 略 奪をする者、偶像礼拝をする
もの ぜんぜんこうさい い
者などと全然交際してはいけないと、言ったのではない。もしそうだとした
よ で い
ら、あなたがたはこの世から出て行かねばならないことになる。 一一しかし、
じっさい か きょうだい よ ひと ふひんこう もの どんよく もの
わたしが実際に書いたのは、 兄 弟と呼ばれる人で、不品行な者、貪欲な者、
ぐうぞうれいはい もの ひと もの さけ よ もの りゃくだつ もの
偶像礼拝をする者、人をそしる者、酒に酔う者、 略 奪をする者があれば、そ
コリント人への第一の手紙

ひと こうさい しょくじ とも
んな人と交際をしてはいけない、食事を共にしてもいけない、ということで
そと ひと
あった。 一二外の人たちをさばくのは、わたしのすることであろうか。あなた
もの うち ひと そと ひと かみ
がたのさばくべき者は、内の人たちではないか。外の人たちは、神がさばく
あくにん なか のぞ
のである。 一三その悪人を、あなたがたの中から除いてしまいなさい。

13
第六章
なか なかま もの なに あらそ おこ ばあい せいと
一 あなたがたの中のひとりが、仲間の者と何か争いを起した場合、それを聖徒
うった ただ もの うった で
に訴えないで、正しくない者に訴え出るようなことをするのか。 二それとも、
せいと よ し よ
聖徒は世をさばくものであることを、あなたがたは知らないのか。そして、世
ちい じけん
があなたがたによってさばかれるべきであるのに、きわめて小さい事件でも
ちから し みつかい
さばく力がないのか。 三あなたがたは知らないのか、わたしたちは御使をさ
もの よ じけん
えさばく者である。ましてこの世の事件などは、いうまでもないではないか。
よ じけん おこ きょうかい かろ ひと
四 それだのに、この世の事件が起ると、 教 会で軽んじられている人たちを、
コリント人への第一の手紙

さいばん せき い
裁判の席につかせるのか。 五わたしがこう言うのは、あなたがたをはずかし
なか きょうだい あいだ あらそ ちゅうさい
めるためである。いったい、あなたがたの中には、兄 弟の間の争いを仲 裁す
ち しゃ きょうだい
る こ と が で き る ほ ど の 知者 は、ひ と り も い な い の か。 六し か る に、 兄 弟 が
きょうだい うった ふしんじゃ まえ も だ たがい うった
兄 弟を訴え、しかもそれを不信者の前に持ち出すのか。 七そもそも、 互に訴
あ じたい はいぼく ふ ぎ う
え合うこと自体が、すでにあなたがたの敗北なのだ。なぜ、むしろ不義を受
けないのか。なぜ、むしろだまされていないのか。 八しかるに、あなたがたは
ふ ぎ はたら と きょうだい たい
不義を働き、だまし取り、しかも兄 弟に対してそうしているのである。 九それ

14
ただ もの かみ くに し
とも、正しくない者が神の国をつぐことはないのを、知らないのか。まちがっ
ふひんこう もの ぐうぞう れいはい もの かんいん もの だんしょう
てはいけない。不品行な者、偶像を礼拝する者、姦淫をする者、男 娼となる
もの なんしょく もの ぬす もの どんよく もの さけ よ もの もの りゃくだつ
者、 男 色をする者、盗む者、 一〇貪欲な者、酒に酔う者、そしる者、 略 奪す
もの かみ くに なか
る者は、いずれも神の国をつぐことはないのである。 一一あなたがたの中に
いぜん ひと しゅ
は、以前はそんな人もいた。しかし、あなたがたは、主イエス・キリストの
な かみ れい あら ぎ
名によって、またわたしたちの神の霊によって、洗われ、きよめられ、義と
されたのである。
ゆる えき
一二 すべてのことは、わたしに許されている。しかし、すべてのことが益にな
ゆる
るわけではない。すべてのことは、わたしに許されている。しかし、わたし
コリント人への第一の手紙

なに しはい しょくもつ はら はら しょくもつ


は何ものにも支配されることはない。 一三食 物は腹のため、腹は食 物のため
かみ ほろ ふひんこう
である。しかし神は、それもこれも滅ぼすであろう。からだは不品行のため
しゅ しゅ かみ しゅ
ではなく、主のためであり、主はからだのためである。 一四そして、神は主を
ちから くだ
よみがえらせたが、その力で、わたしたちをもよみがえらせて下さるであろ
じぶん したい し
う。 一五あなたがたは自分のからだがキリストの肢体であることを、知らない
したい と ゆうじょ したい だん
のか。それだのに、キリストの肢体を取って遊女の肢体としてよいのか。断
ゆうじょ もの
じていけない。 一六それとも、遊女につく者はそれと一つのからだになること

15
し もの いったい
を、知らないのか。﹁ふたりの者は一体となるべきである﹂とあるからである。
しゅ もの しゅ れい ふひんこう さ
一七 しかし主につく者は、主と一つの霊になるのである。 一八不品行を避けな
ひと おか つみ そと ふひんこう もの
さい。人の犯すすべての罪は、からだの外にある。しかし不品行をする者は、
じぶん たい つみ おか し
自分 の か ら だ に 対 し て 罪 を 犯 す の で あ る。 一九あ な た が た は 知 ら な い の か。
じぶん かみ う じぶん うち やど せいれい みや
自分のからだは、神から受けて自分の内に宿っている聖霊の宮であって、あ
じぶんじしん
な た が た は、も は や 自分自身 の も の で は な い の で あ る。 二〇あ な た が た は、
だいか はら か じぶん かみ
代価を払って買いとられたのだ。それだから、自分のからだをもって、神の
えいこう
栄光をあらわしなさい。
コリント人への第一の手紙

第七章
か こと こた だんし ふじん
一 さて、あなたがたが書いてよこした事について答えると、男子は婦人にふれ
ふひんこう おちい だんし じぶん
ないがよい。 二しかし、不品行に陥ることのないために、男子はそれぞれ自分
つま も ふじん じぶん おっと も おっと つま ぶん はた
の妻を持ち、婦人もそれぞれ自分の夫を持つがよい。 三 夫は妻にその分を果
つま どうよう おっと ぶん はた つま じぶん じゆう
し、妻も同様に夫にその分を果すべきである。 四妻は自分のからだを自由に
おっと おっと どうよう じぶん
することはできない。それができるのは夫である。 夫も同様に自分のから

16
じゆう つま たがい こば
だを自由にすることはできない。それができるのは妻である。 五 互に拒んで
ごうい うえ いのり せんしん あいわか
はいけない。ただし、合意の上で祈に専心するために、しばらく相別れ、そ
いっしょ じせいりょく
れからまた一緒になることは、さしつかえない。そうでないと、自制力のな
じょう ゆうわく し いじょう
いのに乗じて、サタンがあなたがたを誘惑するかも知れない。 六以上のこと
じょうほ い めいれい
は、譲歩のつもりで言うのであって、命令するのではない。 七わたしとして
もの じしん
は、みんなの者がわたし自身のようになってほしい。しかし、ひとりびとり
かみ たまもの ひと た ひと
神からそれぞれの賜物をいただいていて、ある人はこうしており、他の人は
そうしている。
つぎ みこんしゃ い
八 次に、未婚者たちとやもめたちとに言うが、わたしのように、ひとりでおれ
コリント人への第一の手紙

じ せい けっこん
ば、それがいちばんよい。 九しかし、もし自制することができないなら、結婚
じょう も けっこん ほう さら
するがよい。 情の燃えるよりは、結婚する方が、よいからである。 一〇更に、
けっこん もの めい めい しゅ つま
結婚している者たちに命じる。命じるのは、わたしではなく主であるが、妻
おっと わか まんいちわか けっこん
は夫から別れてはいけない。 一一︵しかし、万一別れているなら、結婚しない
おっと わかい おっと つま りこん
でいるか、それとも夫と和解するかしなさい︶。また夫も妻と離婚してはなら
ひとびと い い しゅ
ない。 一二そのほかの人々に言う。これを言うのは、主ではなく、わたしであ
きょうだい ふしんじゃ つま とも よろこ ばあい
る。ある兄 弟に不信者の妻があり、そして共にいることを喜んでいる場合に

17
りこん ふじん おっと ふしんじゃ とも
は、離婚してはいけない。 一三また、ある婦人の夫が不信者であり、そして共
よろこ ばあい りこん
に い る こ と を 喜 ん で い る 場合 に は、離婚 し て は い け な い。 一 四 な ぜ な ら、
ふしんじゃ おっと つま ふしんじゃ つま おっと
不信者の夫は妻によってきよめられており、また、不信者の妻も夫によって
こ けが
きよめられているからである。もしそうでなければ、あなたがたの子は汚れ
じっさい ふしんじゃ ほう
ていることになるが、実際はきよいではないか。 一五しかし、もし不信者の方
はな い はな きょうだい しまい
が離れて行くのなら、離れるままにしておくがよい。 兄 弟も姉妹も、こうし
ばあい そくばく かみ へいわ くら
た場合には、束縛されてはいない。神は、あなたがたを平和に暮させるため
め つま おっと すく
に、召されたのである。 一六なぜなら、妻よ、あなたが夫を救いうるかどうか、
おっと つま すく
どうしてわかるか。また、 夫よ、あなたも妻を救いうるかどうか、どうして
コリント人への第一の手紙

わかるか。
かくじ しゅ たま ぶん おう かみ め じょうたい
一七 ただ、各自は、主から賜わった分に応じ、また神に召されたままの状 態に
あゆ きょうかい たい めい
したがって、歩むべきである。これが、すべての教 会に対してわたしの命じ
め かつれい う あと
るところである。 一八召されたとき割礼を受けていたら、その跡をなくそうと
め かつれい う かつれい う
しないがよい。また、召されたとき割礼を受けていなかったら、割礼を受け
かつれい もんだい
よ う と し な い が よ い。 一九割礼 が あ っ て も な く て も、そ れ は 問題 で は な い。
だいじ かみ いまし まも かくじ め
大事なのは、ただ神の戒めを守ることである。 二〇各自は、召されたままの

18
じょうたい め どれい
状 態にとどまっているべきである。 二一召されたとき奴隷であっても、それ
き じゆう み じゆう
を気にしないがよい。しかし、もし自由の身になりうるなら、むしろ自由に
しゅ め どれい しゅ じゆうじん もの
なりなさい。 二二主にあって召された奴隷は、主によって自由人とされた者で
め じゆうじん どれい
あり、また、召された自由人はキリストの奴隷なのである。 二三あなたがたは、
だいか はら か ひと どれい きょうだい
代価を払って買いとられたのだ。人の奴隷となってはいけない。 二四兄 弟た
かくじ め じょうたい かみ
ちよ。各自は、その召されたままの状 態で、神のみまえにいるべきである。
しゅ めいれい う しゅ
二五 おとめのことについては、わたしは主の命令を受けてはいないが、主のあ
しんにん う もの いけん の
われみにより信任を受けている者として、意見を述べよう。 二六わたしはこう
かんが げんざいせま き き ひと げんじょう
考える。現在迫っている危機のゆえに、人は現 状にとどまっているがよい。
コリント人への第一の手紙

つま むす と つま むす
二七 もし妻に結ばれているなら、解こうとするな。妻に結ばれていないなら、
つま むか けっこん つみ おか
妻を迎えようとするな。 二八しかし、たとい結婚しても、罪を犯すのではない。
けっこん つみ おか ひとびと
また、おとめが結婚しても、罪を犯すのではない。ただ、それらの人々はそ
み くなん う
の身に苦難を受けるであろう。わたしは、あなたがたを、それからのがれさ
きょうだい い き とき ちぢ
せ た い の だ。 二 九 兄 弟 た ち よ。わ た し の 言 う こ と を 聞 い て ほ し い。時 は 縮
いま つま もの な もの な
まっている。今からは妻のある者はないもののように、三〇泣く者は泣かない
よろこ もの よろこ か もの も
もののように、 喜ぶ者は喜ばないもののように、買う者は持たないもののよ

19
よ こうしょう もの ふか い
うに、三一世と交 渉のある者は、それに深入りしないようにすべきである。な
よ ありさま す さ おも
ぜなら、この世の有様は過ぎ去るからである。 三二わたしはあなたがたが、思
わずら みこん だんし しゅ こころ
い煩わないようにしていてほしい。未婚の男子は主のことに心をくばって、
しゅ よろこ けっこん だんし よ
どうかして主を喜ばせようとするが、三三結婚している男子はこの世のことに
こころ つま よろこ こころ わか
心をくばって、どうかして妻を喜ばせようとして、その心が分れるのである。
みこん ふじん しゅ こころ み たましい
三四 未婚の婦人とおとめとは、主のことに心をくばって、身も魂もきよくなろ
けっこん ふじん よ こころ おっと
うとするが、結婚した婦人はこの世のことに心をくばって、どうかして夫を
よろこ い りえき おも
喜ばせようとする。 三五わたしがこう言うのは、あなたがたの利益になると思
そくばく ただ
うからであって、あなたがたを束縛するためではない。そうではなく、正し
コリント人への第一の手紙

せいかつ おく よねん しゅ ほうし


い生活を送って、余念なく主に奉仕させたいからである。
ひと あいて たい じょうねつ ばあい
三六 もしある人が、相手のおとめに対して、情 熱をいだくようになった場合、
てきとう おも え のぞ
それは適当でないと思いつつも、やむを得なければ、望みどおりにしてもよ
つみ おか けっこん かれ
い。それは罪を犯すことではない。ふたりは結婚するがよい。 三七しかし、彼
こころ うち かた けっしん む り じぶん おも せい
が心の内で堅く決心していて、無理をしないで自分の思いを制することがで
うえ あいて こころ なか き
き、その上で、相手のおとめをそのままにしておこうと、 心の中で決めたな
あいて けっこん
ら、そうしてもよい。 三八だから、相手のおとめと結婚することはさしつかえ

20
けっこん ほう つま おっと い あいだ おっと
ないが、結婚しない方がもっとよい。 三九妻は夫が生きている間は、その夫に
おっと し のぞ ひと けっこん
つながれている。 夫が死ねば、望む人と結婚してもさしつかえないが、それ
しゅ もの かぎ いけん
は主にある者とに限る。 四〇しかし、わたしの意見では、そのままでいたなら、
こうふく かみ れい う おも
もっと幸福である。わたしも神の霊を受けていると思う。
第八章
ぐうぞう そな もの こた ちしき も
一 偶像への供え物について答えると、﹁わたしたちはみな知識を持っている﹂
ちしき ひと ほこ あい ひと とく たか
ことは、わかっている。しかし、知識は人を誇らせ、愛は人の徳を高める。 二
コリント人への第一の手紙

ひと じぶん なに し おも ひと し
もし人が、自分は何か知っていると思うなら、その人は、知らなければなら
こと し ひと かみ あい
ないほどの事すら、まだ知っていない。 三しかし、人が神を愛するなら、その
ひと かみ し ぐうぞう そな もの た
人は神に知られているのである。 四さて、偶像への供え物を食べることにつ
ぐうぞう じっさい よ そんざい ゆいいつ
いては、わたしたちは、偶像なるものは実際は世に存在しないこと、また、唯一
かみ かみ し かみがみ
の神のほかには神がないことを、知っている。 五というのは、たとい神々とい
てん ち おお
われるものが、あるいは天に、あるいは地にあるとしても、そして、多くの
かみ おお しゅ ちち ゆいいつ かみ
神、多くの主があるようではあるが、 六わたしたちには、父なる唯一の神のみ

21
ばんぶつ かみ で かみ き
がいますのである。万物はこの神から出て、わたしたちもこの神に帰する。
ゆいいつ しゅ ばんぶつ しゅ
また、唯一の主イエス・キリストのみがいますのである。万物はこの主によ
しゅ ちしき ひと
り、わたしたちもこの主によっている。 七しかし、この知識をすべての人が
も ひとびと ぐうぞう しゅうかんじょう
持っているのではない。ある人々は、偶像についての、これまでの習 慣 上、
ぐうぞう そな もの た かれ りょうしん よわ けが
偶像への供え物として、それを食べるが、彼らの良 心が、弱いために汚され
しょくもつ かみ みちび た
るのである。 八食 物は、わたしたちを神に導くものではない。食べなくても
そん た えき じゆう
損はないし、食べても益にはならない。 九しかし、あなたがたのこの自由が、
よわ もの き
弱い者たちのつまずきにならないように、気をつけなさい。 一〇なぜなら、あ
ひと ちしき ぐうぞう みや しょくじ み ばあい
る人が、知識のあるあなたが偶像の宮で食事をしているのを見た場合、その
コリント人への第一の手紙

ひと りょうしん よわ きょういく ぐうぞう そな もの た


人の良 心が弱いため、それに﹁教 育されて﹂、偶像への供え物を食べるよう
よわ ひと ちしき ほろ
にならないだろうか。 一一するとその弱い人は、あなたの知識によって滅びる
よわ きょうだい し
ことになる。この弱い兄 弟のためにも、キリストは死なれたのである。 一二
きょうだい たい つみ おか よわ りょうしん いた
このようにあなたがたが、兄 弟たちに対して罪を犯し、その弱い良 心を痛め
たい つみ おか しょくもつ
るのは、キリストに対して罪を犯すことなのである。 一三だから、もし食 物が
きょうだい きょうだい
わたしの兄 弟をつまずかせるなら、兄 弟をつまずかせないために、わたしは
えいきゅう だん にく た
永 久に、断じて肉を食べることはしない。

22
第九章
じゆう もの し と しゅ
一 わたしは自由な者ではないか。使徒ではないか。わたしたちの主イエスを
み しゅ はたら み
見たではないか。あなたがたは、主にあるわたしの働きの実ではないか。 二
ひと たい し と し と
わたしは、ほかの人に対しては使徒でないとしても、あなたがたには使徒で
しゅ し と しょく しるし
ある。あなたがたが主にあることは、わたしの使徒 職の印なのである。 三わ
ひはんしゃ たい べんめい の く
たしの批判者たちに対する弁明は、これである。 四わたしたちには、飲み食い
けんり し と しゅ きょうだい
をする権利がないのか。 五わたしたちには、ほかの使徒たちや主の兄 弟たち
しんじゃ つま つ ある けんり
やケパのように、信者である妻を連れて歩く権利がないのか。 六それとも、わ
コリント人への第一の手紙

ろうどう けんり
たしとバルナバとだけには、労働をせずにいる権利がないのか。 七いったい、
じぶん ひよう だ ぐんたい くわ もの ばたけ つく
自分で費用を出して軍隊に加わる者があろうか。ぶどう畑を作っていて、そ
み た もの ひつじ か ちち の もの
の実を食べない者があろうか。また、 羊を飼っていて、その乳を飲まない者
にんげん かんが い りっぽう
があろうか。 八わたしは、人間の考えでこう言うのではない。律法もまた、そ
い りっぽう こくもつ
のように言っているではないか。 九すなわち、モーセの律法に、
﹁穀物をこな
うし か かみ うし
している牛に、くつこをかけてはならない﹂と書いてある。神は、牛のこと
こころ
を心にかけておられるのだろうか。 一〇それとも、もっぱら、わたしたちのた

23

めに言っておられるのか。もちろん、それはわたしたちのためにしるされた
たがや もの のぞ たがや こくもつ もの
のである。すなわち、 耕す者は望みをもって耕し、穀物をこなす者は、その
わ まえ のぞ
分け前をもらう望みをもってこなすのである。 一一もしわたしたちが、あなた
れい にく か
がたのために霊のものをまいたのなら、肉のものをあなたがたから刈りとる
ゆ す ひとびと たい
のは、行き過ぎだろうか。 一二もしほかの人々が、あなたがたに対するこの
けんり
権利にあずかっているとすれば、わたしたちはなおさらのことではないか。
けんり り よう ふくいん さまた
しかしわたしたちは、この権利を利用せず、かえってキリストの福音の妨げ
しの みやづか
にならないようにと、すべてのことを忍んでいる。 一三あなたがたは、宮仕え
ひと みや さ もの た さいだん ほうし ひと
を し て い る 人 た ち は 宮 か ら 下 が る 物 を 食 べ、祭壇 に 奉仕 し て い る 人 た ち は
コリント人への第一の手紙

さいだん そな もの わ まえ し どうよう
祭壇の供え物の分け前にあずかることを、知らないのか。 一四それと同様に、
しゅ ふくいん の つた もの ふくいん せいかつ さだ
主は、福音を宣べ伝えている者たちが福音によって生活すべきことを、定め
られたのである。
けんり り よう じぶん
一五 しかしわたしは、これらの権利を一つも利用しなかった。また、自分がそ
か し
うしてもらいたいから、このように書くのではない。そうされるよりは、死
ほう ほこり なにもの うば さ
ぬ方がましである。わたしのこの誇は、何者にも奪い去られてはならないの
ふくいん の つた ほこり
だ。 一六わたしが福音を宣べ伝えても、それは誇にはならない。なぜなら、わ

24
ふくいん の つた
たしは、そうせずにはおれないからである。もし福音を宣べ伝えないなら、わ
すす ほうしゅう う
た し は わ ざ わ い で あ る。 一七進 ん で そ れ を す れ ば、 報 酬 を 受 け る で あ ろ う。
すす つとめ
しかし、進んでしないとしても、それは、わたしにゆだねられた務なのであ
ほうしゅう ふくいん の つた
る。 一八それでは、その報 酬はなんであるか。福音を宣べ伝えるのにそれを
む だいか ていきょう せんきょうしゃ も けんり り よう
無代価で提 供し、わたしが宣 教 者として持つ権利を利用しないことである。
ひと たい じゆう おお ひと え
一九 わたしは、すべての人に対して自由であるが、できるだけ多くの人を得る
みずか すす ひと どれい じん じん
ために、自ら進んですべての人の奴隷になった。 二〇ユダヤ人には、ユダヤ人
じん え りっぽう もと ひと
のようになった。ユダヤ人を得るためである。律法の下にある人には、わた
じしん りっぽう もと りっぽう もと もの りっぽう もと
し自身は律法の下にはないが、律法の下にある者のようになった。律法の下
コリント人への第一の手紙

ひと え りっぽう ひと かみ りっぽう
にある人を得るためである。 二一律法のない人には︱︱わたしは神の律法の
そと りっぽう なか りっぽう ひと
外にあるのではなく、キリストの律法の中にあるのだが︱︱律法のない人の
りっぽう ひと え よわ ひと よわ もの
よ う に な っ た。律法 の な い 人 を 得 る た め で あ る。 二 二弱 い 人 に は 弱 い 者 に
よわ ひと え ひと たい ひと
なった。弱い人を得るためである。すべての人に対しては、すべての人のよ
いくにん すく ふくいん
うになった。なんとかして幾人かを救うためである。 二三福音のために、わた
こと とも ふくいん
しはどんな事でもする。わたしも共に福音にあずかるためである。
し きょうぎじょう はし もの はし しょう
二四 あなたがたは知らないのか。 競 技 場で走る者は、みな走りはするが、 賞

25
え もの しょう え はし
を得る者はひとりだけである。あなたがたも、 賞を得るように走りなさい。
きょうぎ もの なに せっせい かれ く かんむり
二五 しかし、すべて競技をする者は、何ごとにも節制をする。彼らは朽ちる冠
え く かんむり え
を得るためにそうするが、わたしたちは朽ちない冠を得るためにそうするの
もくひょう はし かた くう
である。 二六そこで、わたしは目 標のはっきりしないような走り方をせず、空
う けんとう じぶん う
を 打 つ よ う な 拳闘 は し な い。 二 七す な わ ち、自分 の か ら だ を 打 ち た た い て
ふくじゅう ひと の つた
服 従 さ せ る の で あ る。そ う し な い と、ほ か の 人 に 宣 べ 伝 え て お き な が ら、
じぶん しっかくしゃ し
自分は失格者になるかも知れない。
第一〇章
コリント人への第一の手紙

きょうだい し
一 兄 弟 た ち よ。こ の こ と を 知 ら ず に い て も ら い た く な い。わ た し た ち の
せんぞ くも した うみ とお くも なか うみ なか
先祖はみな雲の下におり、みな海を通り、 二みな雲の中、海の中で、モーセに
う おな れい しょくもつ た おな れい
つくバプテスマを受けた。 三また、みな同じ霊の食 物を食べ、四みな同じ霊の
の もの の かれ れい いわ の
飲み物を飲んだ。すなわち、彼らについてきた霊の岩から飲んだのであるが、
いわ かれ なか だいたすう かみ
この岩はキリストにほかならない。 五しかし、彼らの中の大多数は、神のみこ
あらの ほろ
ころにかなわなかったので、荒野で滅ぼされてしまった。

26
で き ご と たい けいこく かれ あく
六 これらの出来事は、わたしたちに対する警告であって、彼らが悪をむさぼっ
あく
たように、わたしたちも悪をむさぼることのないためなのである。 七だから、
かれ なか もの ぐうぞうれいはいしゃ
彼らの中のある者たちのように、偶像礼拝者になってはならない。すなわち、
たみ ざ の く た おど たわむ か
﹁民は座して飲み食いをし、また立って踊り戯れた﹂と書いてある。 八また、あ
もの ふひんこう ふひんこう
る者たちがしたように、わたしたちは不品行をしてはならない。不品行をし
たお もの にち にん もの
たため倒された者が、一日に二万三千人もあった。 九また、ある者たちがした
しゅ こころ しゅ こころ もの ころ
ように、わたしたちは主を試みてはならない。主を試みた者は、へびに殺さ
もの
れた。 一〇また、ある者たちがつぶやいたように、つぶやいてはならない。つ
もの し つかい ほろ こと かれ おこ
ぶやいた者は、
﹁死の使﹂に滅ぼされた。 一一これらの事が彼らに起ったのは、
コリント人への第一の手紙

ほか たい けいこく か よ おわ のぞ
他に対する警告としてであって、それが書かれたのは、世の終りに臨んでい
たい くんかい た おも もの
るわたしたちに対する訓戒のためである。 一二だから、立っていると思う者
たお き あ しれん よ
は、倒れないように気をつけるがよい。 一三あなたがたの会った試錬で、世の
つね かみ しんじつ た
常 で な い も の は な い。神 は 真実 で あ る。あ な た が た を 耐 え ら れ な い よ う な
しれん あ しれん どうじ た
試錬に会わせることはないばかりか、試錬と同時に、それに耐えられるよう
みち そな くだ
に、のがれる道も備えて下さるのである。
あい もの ぐうぞうれいはい さ けんめい
一四 それだから、愛する者たちよ。偶像礼拝を避けなさい。 一五賢明なあなた

27
うった い みずか はんだん
がたに訴える。わたしの言うことを、 自ら判断してみるがよい。 一六わたし
しゅくふく しゅくふく さかずき ち
たちが祝 福する祝 福の杯、それはキリストの血にあずかることではないか。
わたしたちがさくパン、それはキリストのからだにあずかることではないか。
おお
一七 パンが一つであるから、わたしたちは多くいても、一つのからだなのであ
もの とも にく
る。みんなの者が一つのパンを共にいただくからである。 一八肉によるイス
み そな もの た ひと さいだん
ラエルを見るがよい。供え物を食べる人たちは、祭壇にあずかるのではない
い ぐうぞう そな もの なに い み
か。 一九すると、なんと言ったらよいか。偶像にささげる供え物は、何か意味
ぐうぞう なに
が あ る の か。ま た、偶像 は 何 か ほ ん と う に あ る も の か。 二〇そ う で は な い。
ひとびと そな もの あくれい かみ もの そな
人々が供える物は、悪霊ども、すなわち、神ならぬ者に供えるのである。わ
コリント人への第一の手紙

あくれい なかま のぞ しゅ さかずき あくれい


たしは、あなたがたが悪霊の仲間になることを望まない。 二一主の杯と悪霊ど
さかずき どうじ の しゅ しょくたく あくれい しょくたく
もの杯とを、同時に飲むことはできない。主の食 卓と悪霊どもの食 卓とに、
どうじ しゅ おこ
同時にあずかることはできない。 二二それとも、わたしたちは主のねたみを起
しゅ つよ
そうとするのか。わたしたちは、主よりも強いのだろうか。
ゆる えき
二三 すべてのことは許されている。しかし、すべてのことが益になるわけでは
ゆる ひと とく たか
ない。すべてのことは許されている。しかし、すべてのことが人の徳を高め
じぶん えき もと ひと えき もと
るのではない。 二四だれでも、自分の益を求めないで、ほかの人の益を求める

28
いちば う もの りょうしん と
べきである。 二五すべて市場で売られている物は、いちいち良 心に問うこと
た ち み もの しゅ
をしないで、食べるがよい。 二六地とそれに満ちている物とは、主のものだか
ふしんじゃ まね い
らである。 二七もしあなたがたが、不信者のだれかに招かれて、そこに行こう
おも ばあい じぶん まえ だ もの りょうしん と
と思う場合、自分の前に出される物はなんでも、いちいち良 心に問うことを

しないで、食べるがよい。 二八しかし、だれかがあなたがたに、これはささげ
もの にく い し ひと りょうしん
物の肉だと言ったなら、それを知らせてくれた人のために、また良 心のため
た りょうしん い じぶん りょうしん たにん
に、食べないがよい。 二九良 心と言ったのは、自分の良 心ではなく、他人の
りょうしん じゆう たにん りょうしん
良 心のことである。なぜなら、わたしの自由が、どうして他人の良 心によっ
さゆう かんしゃ た ばあい
て左右されることがあろうか。 三〇もしわたしが感謝して食べる場合、その
コリント人への第一の手紙

かんしゃ もの ひと う
感謝する物について、どうして人のそしりを受けるわけがあろうか。 三一だか
の た なにごと かみ えいこう
ら、飲むにも食べるにも、また何事をするにも、すべて神の栄光のためにす
じん じん かみ きょうかい
べ き で あ る。 三 二ユ ダ ヤ 人 に も ギ リ シ ヤ 人 に も 神 の 教 会 に も、つ ま ず き に
なにごと ひと よろこ
なってはいけない。 三三わたしもまた、何事にもすべての人に喜ばれるように
つと おお ひと すく じぶん えき かれ えき もと
努め、多くの人が救われるために、自分の益ではなく彼らの益を求めている。

29
第一一章
もの
一 わたしがキリストにならう者であるように、あなたがたもわたしにならう
もの
者になりなさい。
なに おぼ つた
二 あなたがたが、何かにつけわたしを覚えていて、あなたがたに伝えたとおり
いいつた まも まんぞく おも
に言伝えを守っているので、わたしは満足に思う。 三しかし、あなたがたに
し おとこ おんな
知っていてもらいたい。すべての男のかしらはキリストであり、女のかしら
おとこ かみ いのり よげん
は男であり、キリストのかしらは神である。 四 祈をしたり預言をしたりする
とき もの おとこ もの いのり
時、かしらに物をかぶる男は、そのかしらをはずかしめる者である。 五 祈をし
コリント人への第一の手紙

よげん とき おんな
たり預言をしたりする時、かしらにおおいをかけない女は、そのかしらをは
もの かみ おな
ずかしめる者である。それは、髪をそったのとまったく同じだからである。 六
おんな かみ き かみ き
も し 女 が お お い を か け な い な ら、髪 を 切 っ て し ま う が よ い。髪 を 切 っ た り
おんな は
そったりするのが、 女にとって恥ずべきことであるなら、おおいをかけるべ
おとこ かみ えいこう もの
きである。 七 男は、神のかたちであり栄光であるから、かしらに物をかぶるべ
おんな おとこ こうえい おとこ おんな で
きではない。 女は、また男の光栄である。 八なぜなら、 男が女から出たので
おんな おとこ で おとこ おんな つく
はなく、 女が男から出たのだからである。 九また、 男は女のために造られた

30
おんな おとこ つく おんな
のではなく、女が男のために造られたのである。 一〇それだから、女は、かし
けんい てんし
らに権威のしるしをかぶるべきである。それは天使たちのためでもある。 一一
しゅ おとこ おんな おんな おとこ
ただ、主にあっては、男なしには女はないし、女なしには男はない。 一二それ
おんな おとこ で おとこ おんな うま
は、 女が男から出たように、 男もまた女から生れたからである。そして、す
かみ で じしん はんだん
べてのものは神から出たのである。 一三あなたがた自身で判断してみるがよ
おんな かみ いの
い。 女 が お お い を か け ず に 神 に 祈 る の は、ふ さ わ し い こ と だ ろ う か。 一 四
しぜん おし おとこ なが かみ かれ はじ
自然そのものが教えているではないか。 男に長い髪があれば彼の恥になり、
おんな なが かみ かのじょ こうえい なが かみ かわ
一五 女に長い髪があれば彼女の光栄になるのである。長い髪はおおいの代り
おんな あた はんたい
に女に与えられているものだからである。 一六しかし、だれかがそれに反対の
コリント人への第一の手紙

いけん も ふうしゅう かみ しょきょうかい


意見を持っていても、そんな風 習はわたしたちにはなく、神の諸 教 会にもな
い。
つぎ めい
一七 ところで、次のことを命じるについては、あなたがたをほめるわけにはい
あつ りえき そんしつ
かない。というのは、あなたがたの集まりが利益にならないで、かえって損失
きょうかい あつ とき たがい あいだ
になっているからである。 一八まず、あなたがたが教 会に集まる時、お互の間
ぶんそう みみ しん
に分争があることを、わたしは耳にしており、そしていくぶんか、それを信
なか もの あき
じている。 一九たしかに、あなたがたの中でほんとうの者が明らかにされるた

31
ぶんぱ いっしょ あつ
めには、分派もなければなるまい。 二〇そこで、あなたがたが一緒に集まると
しゅ ばんさん まも しょくじ さい かくじ
き、主の晩餐を守ることができないでいる。 二一というのは、食事の際、各自
じぶん ばんさん さき た う ひと おも
が自分の晩餐をかってに先に食べるので、飢えている人があるかと思えば、
よ ひと しまつ の く いえ
酔っている人がある始末である。 二二あなたがたには、飲み食いをする家がな
かみ きょうかい かろ まず ひとびと
いのか。それとも、神の教 会を軽んじ、貧しい人々をはずかしめるのか。わ
たい い
たしはあなたがたに対して、なんと言おうか。あなたがたを、ほめようか。こ
こと しゅ う
の事では、ほめるわけにはいかない。 二三わたしは、主から受けたことを、ま
つた しゅ わた よ
た、あなたがたに伝えたのである。すなわち、主イエスは、渡される夜、パ
かんしゃ い
ンをとり、二四感謝してこれをさき、そして言われた、
﹁これはあなたがたのた
コリント人への第一の手紙

きねん おこな
めの、わたしのからだである。わたしを記念するため、このように行いなさ
しょくじ さかずき おな い さかずき
い﹂。 二五食事ののち、 杯をも同じようにして言われた、
﹁この杯は、わたしの
ち あたら けいやく の きねん
血による新しい契約である。飲むたびに、わたしの記念として、このように
おこな しょく さかずき の
行いなさい﹂。 二六だから、あなたがたは、このパンを食し、この杯を飲むごと
しゅ とき いた しゅ し つ し
に、それによって、主がこられる時に至るまで、主の死を告げ知らせるので
しょく しゅ さかずき の もの しゅ
ある。 二七だから、ふさわしくないままでパンを食し主の杯を飲む者は、主の
ち おか じぶん ぎんみ
からだと血とを犯すのである。 二八だれでもまず自分を吟味し、それからパン

32
た さかずき の しゅ の く
を食べ杯を飲むべきである。 二九主のからだをわきまえないで飲み食いする
もの の く じぶん まね
者は、その飲み食いによって自分にさばきを招くからである。 三〇あなたがた
なか よわ もの びょうにん おお ねむ もの すく
の中に、弱い者や病 人が大ぜいおり、また眠った者も少なくないのは、その
じぶん
ためである。 三一しかし、自分をよくわきまえておくならば、わたしたちはさ
ばかれることはないであろう。 三二しかし、さばかれるとすれば、それは、こ
よ とも つみ さだ しゅ こ う
の世と共に罪に定められないために、主の懲らしめを受けることなのである。
きょうだい しょくじ あつ とき たがい ま あ
三三 それだから、 兄 弟たちよ。食事のために集まる時には、 互に待ち合わせ
くうふく う あつ
なさい。 三四もし空腹であったら、さばきを受けに集まることにならないた
いえ た こと い とき さだ
め、家で食べるがよい。そのほかの事は、わたしが行った時に、定めること
コリント人への第一の手紙

にしよう。
第一二章
きょうだい れい たまもの つぎ し
一 兄 弟たちよ。霊の賜物については、次のことを知らずにいてもらいたくな
いほうじん とき さそ もの い ぐうぞう
い。 二あなたがたがまだ異邦人であった時、誘われるまま、物の言えない偶像
ひ い しょうち
のところに引かれて行ったことは、あなたがたの承知しているとおりである。

33
い かみ れい かた もの
三 そこで、あなたがたに言っておくが、神の霊によって語る者はだれも﹁イエ
い せいれい
スはのろわれよ﹂とは言わないし、また、聖霊によらなければ、だれも﹁イ
しゅ い
エスは主である﹂と言うことができない。
れい たまもの しゅじゅ みたま おな つとめ しゅじゅ しゅ おな
四 霊の賜物は種々あるが、御霊は同じである。 五 務は種々あるが、主は同じで
はたら しゅじゅ なか はたら
ある。 六 働きは種々あるが、すべてのものの中に働いてすべてのことをなさ
かみ おな かくじ みたま あらわ たま ぜんたい えき
る神は、同じである。 七各自が御霊の現れを賜わっているのは、全体の益にな
ひと みたま ち え ことば あた
るためである。 八すなわち、ある人には御霊によって知恵の言葉が与えられ、
ひと おな みたま ちしき ことば ひと おな みたま
ほかの人には、同じ御霊によって知識の言、 九またほかの人には、同じ御霊に
しんこう ひと みたま たまもの
よって信仰、またほかの人には、一つの御霊によっていやしの賜物、 一〇また
コリント人への第一の手紙

ひと ちから ひと よげん ひと れい み
ほかの人には力あるわざ、またほかの人には預言、またほかの人には霊を見
ちから ひと しゅじゅ いげん ひと いげん と ちから
わける力、またほかの人には種々の異言、またほかの人には異言を解く力が、
あた おな みたま はたら
与えられている。 一一すべてこれらのものは、一つの同じ御霊の働きであっ
みたま おも かくじ わ あた
て、御霊は思いのままに、それらを各自に分け与えられるのである。
したい おお したい
一二 からだが一つであっても肢体は多くあり、また、からだのすべての肢体が
おお ばあい どうよう
多くあっても、からだは一つであるように、キリストの場合も同様である。 一
みな じん じん どれい じゆうじん
三 なぜなら、わたしたちは皆、ユダヤ人もギリシヤ人も、奴隷も自由人も、一

34
みたま う みな
つの御霊によって、一つのからだとなるようにバプテスマを受け、そして皆
みたま の じっさい したい
一つの御霊を飲んだからである。 一四実際、からだは一つの肢体だけではな
おお あし て
く、多くのものからできている。 一五もし足が、わたしは手ではないから、か
ぞく い ぞく
らだに属していないと言っても、それで、からだに属さないわけではない。 一
みみ め ぞく い
六 また、もし耳が、わたしは目ではないから、からだに属していないと言って
ぞく ぜんたい め
も、それで、からだに属さないわけではない。 一七もしからだ全体が目だとす
き ぜんたい みみ
れば、どこで聞くのか。もし、からだ全体が耳だとすれば、どこでかぐのか。
かみ みむね したい そな
一八 そこで神は御旨のままに、肢体をそれぞれ、からだに備えられたのである。
したい
一九 もし、すべてのものが一つの肢体なら、どこにからだがあるのか。 二〇とこ
コリント人への第一の手紙

じっさい したい おお め て
ろが実際、肢体は多くあるが、からだは一つなのである。 二一目は手にむかっ
い あたま あし
て、﹁おまえはいらない﹂とは言えず、また頭は足にむかって、﹁おまえはい
い ほか
らない﹂とも言えない。 二二そうではなく、むしろ、からだのうちで他よりも
よわ み したい ひつよう ほか
弱く見える肢体が、かえって必要なのであり、 二三からだのうちで、他よりも
み おと おも き み うるわ
見劣りがすると思えるところに、ものを着せていっそう見よくする。 麗しく
ぶぶん うるわ うるわ ぶぶん ひつよう
な い 部分 は い っ そ う 麗 し く す る が、 二四 麗 し い 部分 は そ う す る 必要 が な い。
かみ おと ぶぶん み ちょうわ あた
神は劣っている部分をいっそう見よくして、からだに調和をお与えになった

35
なか ぶんれつ したい たがい
のである。 二五それは、からだの中に分裂がなく、それぞれの肢体が互にいた
あ したい なや したい とも
わり合うためなのである。 二六もし一つの肢体が悩めば、ほかの肢体もみな共
なや したい たっと したい とも よろこ
に悩み、一つの肢体が尊ばれると、ほかの肢体もみな共に喜ぶ。 二七あなたが
したい
たはキリストのからだであり、ひとりびとりはその肢体である。 二八そして、
かみ きょうかい なか ひとびと た だい し と だい よげんしゃ だい きょうし
神は教 会の中で、人々を立てて、第一に使徒、第二に預言者、第三に教師と
つぎ ちから おこな もの つぎ たまもの も もの ほじょしゃ
し、次 に 力 あ る わ ざ を 行 う 者、次 に い や し の 賜物 を 持 つ 者、ま た 補助者、
かんりしゃ しゅじゅ いげん かた もの し と
管理者、種々の異言を語る者をおかれた。 二九みんなが使徒だろうか。みんな
よげんしゃ きょうし ちから おこな もの
が預言者だろうか。みんなが教師だろうか。みんなが力あるわざを行う者だ
たまもの も いげん
ろうか。 三〇みんながいやしの賜物を持っているのだろうか。みんなが異言
コリント人への第一の手紙

かた いげん と
を語るのだろうか。みんなが異言を解くのだろうか。 三一だが、あなたがた
さら おお たまもの え ねっしん つと もっと
は、更に大いなる賜物を得ようと熱心に努めなさい。そこで、わたしは最も
みち しめ
すぐれた道をあなたがたに示そう。
第一三章
ひとびと ことば みつかい ことば かた あい
一 たといわたしが、人々の言葉や御使たちの言葉を語っても、もし愛がなけれ

36
かね さわ にょうはち おな
ば、わたしは、やかましい鐘や騒がしい鐃 鉢と同じである。 二たといまた、わ
よげん ちから おくぎ ちしき つう
たしに預言をする力があり、あらゆる奥義とあらゆる知識とに通じていても、
やま うつ つよ しんこう あい む
また、山を移すほどの強い信仰があっても、もし愛がなければ、わたしは無
ひと じぶん ぜんざいさん ひと ほどこ じぶん
に等しい。 三たといまた、わたしが自分の全財産を人に施しても、また、自分
や わた あい むえき
のからだを焼かれるために渡しても、もし愛がなければ、いっさいは無益で
ある。
あい かんよう あい なさけぶか あい たか
四 愛は寛容であり、愛は情 深い。また、ねたむことをしない。愛は高ぶらな
ほこ ぶ さ ほ う じぶん りえき もと うら
い、誇らない、 五不作法をしない、自分の利益を求めない、いらだたない、恨
ふ ぎ よろこ しんり よろこ しの
みをいだかない。 六不義を喜ばないで真理を喜ぶ。 七そして、すべてを忍び、
コリント人への第一の手紙

しん のぞ た
すべてを信じ、すべてを望み、すべてを耐える。
あい た よげん いげん
八 愛はいつまでも絶えることがない。しかし、預言はすたれ、異言はやみ、
ちしき し ぶぶん
知識はすたれるであろう。 九なぜなら、わたしたちの知るところは一部分で
よげん ぶぶん まった く とき ぶぶん
あり、預言するところも一部分にすぎない。 一〇 全きものが来る時には、部分
てき おさ ご とき おさ ご
的なものはすたれる。 一一わたしたちが幼な子であった時には、幼な子らしく
かた おさ ご かん おさ ご かんが
語り、幼な子らしく感じ、また、幼な子らしく考えていた。しかし、おとな
いま おさ ご す いま
となった今は、幼な子らしいことを捨ててしまった。 一二わたしたちは、今は、

37
かがみ うつ み み とき かお かお
鏡に映して見るようにおぼろげに見ている。しかしその時には、顔と顔とを
あ み し いま ぶぶん
合わせて、見るであろう。わたしの知るところは、今は一部分にすぎない。し
とき かんぜん し かんぜん し
かしその時には、わたしが完全に知られているように、完全に知るであろう。
そんぞく しんこう きぼう あい
一三 このように、いつまでも存続するものは、信仰と希望と愛と、この三つで
もっと おお あい
ある。このうちで最も大いなるものは、愛である。
第一四章
あい お もと れい たまもの よげん ねっしん もと
一 愛を追い求めなさい。また、霊の賜物を、ことに預言することを、熱心に求
コリント人への第一の手紙

いげん かた もの ひと かた かみ かた
めなさい。 二異言を語る者は、人にむかって語るのではなく、神にむかって語
かれ れい おくぎ かた
るのである。それはだれにもわからない。彼はただ、霊によって奥義を語っ
よげん もの ひと かた とく たか かれ
ているだけである。 三しかし預言をする者は、人に語ってその徳を高め、彼を
はげ なぐさ いげん かた もの じぶん とく たか よげん
励まし、慰めるのである。 四異言を語る者は自分だけの徳を高めるが、預言を
もの きょうかい とく たか じっさい のこ
す る 者 は 教 会 の 徳 を 高 め る。 五わ た し は 実際、あ な た が た が ひ と り 残 ら ず
いげん かた のぞ とく よげん きょうかい とく たか
異言を語ることを望むが、特に預言をしてもらいたい。 教 会の徳を高めるよ
いげん と かぎ いげん かた もの よげん もの ほう
うに異言を解かない限り、異言を語る者よりも、預言をする者の方がまさっ

38
ている。
きょうだい ところ い いげん かた
六 だから、兄 弟たちよ。たといわたしがあなたがたの所に行って異言を語る
けいじ ちしき よげん おしえ かた
としても、啓示か知識か預言か教かを語らなければ、あなたがたに、なんの
やく た ふえ たてごと がっ き おと へんか
役に立つだろうか。 七また、笛や立琴のような楽器でも、もしその音に変化が
なに ふ ひ し
なければ、何を吹いているのか、弾いているのか、どうして知ることができ
おと だ せんとう
ようか。 八また、もしラッパがはっきりした音を出さないなら、だれが戦闘の
じゅんび どうよう いげん
準備をするだろうか。 九それと同様に、もしあなたがたが異言ではっきりし
ことば かた かた くう
ない言葉を語れば、どうしてその語ることがわかるだろうか。それでは、空
かた よ た しゅ た よ う ことば
にむかって語っていることになる。 一〇世には多種多様の言葉があるだろう
コリント人への第一の手紙

い み ことば い み
が、意味のないものは一つもない。 一一もしその言葉の意味がわからないな
かた ひと いこくじん かた ひと
ら、語っている人にとっては、わたしは異国人であり、語っている人も、わ
いこくじん れい たまもの ねっしん
たしにとっては異国人である。 一二だから、あなたがたも、霊の賜物を熱心に
もと いじょう きょうかい とく たか ゆた
求めている以上は、教 会の徳を高めるために、それを豊かにいただくように
はげ
励むがよい。
いげん かた もの じぶん と
一三 このようなわけであるから、異言を語る者は、自分でそれを解くことがで
いの いげん いの れい
きるように祈りなさい。 一四もしわたしが異言をもって祈るなら、わたしの霊

39
いの ちせい み むす
は祈るが、知性は実を結ばないからである。 一五すると、どうしたらよいのか。
れい いの とも ちせい いの れい うた とも ちせい
わたしは霊で祈ると共に、知性でも祈ろう。霊でさんびを歌うと共に、知性
うた れい しゅくふく ことば とな
で も 歌 お う。 一六そ う で な い と、も し あ な た が 霊 で 祝 福 の 言葉 を 唱 え て も、
しょしんじゃ せき もの かんしゃ たい い
初心者の席にいる者は、あなたの感謝に対して、どうしてアァメンと言えよ
なに い かれ つう かんしゃ けっこう
うか。あなたが何を言っているのか、彼には通じない。 一七感謝するのは結構
ひと とく たか
だが、それで、ほかの人の徳を高めることにはならない。 一八わたしは、あな
おお いげん かた かみ かんしゃ
たがたのうちのだれよりも多く異言が語れることを、神に感謝する。 一九しか
きょうかい ことば いげん かた ひと おし
し教 会では、一万の言葉を異言で語るよりも、ほかの人たちをも教えるため
ことば ちせい かた ほう ねが
に、むしろ五つの言葉を知性によって語る方が願わしい。
コリント人への第一の手紙

きょうだい もの かんが こども あくじ


二〇 兄 弟たちよ。物の考えかたでは、子供となってはいけない。悪事につい
おさ ご かんが りっぽう
ては幼な子となるのはよいが、考えかたでは、おとなとなりなさい。 二一律法
か いこく した いこく たみ かた
にこう書いてある、
﹁わたしは、異国の舌と異国のくちびるとで、この民に語
かれ みみ かたむ しゅ おお
るが、それでも、彼らはわたしに耳を傾けない、と主が仰せになる﹂。 二二この
いげん しんじゃ みしんじゃ よげん
ように、異言は信者のためではなく未信者のためのしるしであるが、預言は
みしんじゃ しんじゃ ぜんきょうかい いっしょ
未信者のためではなく信者のためのしるしである。 二三もし全 教 会が一緒に
あつ ぜんいん いげん かた しょしんじゃ ふしんじゃ
集まって、全員が異言を語っているところに、初心者か不信者かがはいって

40
かれ きちが い ぜんいん よげん
きたら、彼らはあなたがたを気違いだと言うだろう。 二四しかし、全員が預言
ふしんじゃ しょしんじゃ かれ りょうしん
をしているところに、不信者か初心者がはいってきたら、彼の良 心はみんな
もの せ もの こころ ひみつ
の者に責められ、みんなの者にさばかれ、 二五その心の秘密があばかれ、その
けっ か ふ かみ おが かみ
結果、ひれ伏して神を拝み、
﹁まことに、神があなたがたのうちにいます﹂と
こくはく いた
告白するに至るであろう。
きょうだい いっしょ あつ
二六 すると、 兄 弟たちよ。どうしたらよいのか。あなたがたが一緒に集まる
とき かくじ うた おしえ けいじ つ いげん かた と
時、各自はさんびを歌い、 教をなし、啓示を告げ、異言を語り、それを解く
とく たか いげん かた もの
のであるが、すべては徳を高めるためにすべきである。 二七もし異言を語る者
おお にん もの じゅんじゅん かた
があれば、ふたりか、多くて三人の者が、 順 々に語り、そして、ひとりがそ
コリント人への第一の手紙

と と もの とき きょうかい だま
れを解くべきである。 二八もし解く者がいない時には、教 会では黙っていて、
じぶん たい かみ たい かた よげん もの ばあい
自分に対しまた神に対して語っているべきである。 二九預言をする者の場合
にん かた もの ぎんみ
にも、ふたりか三人かが語り、ほかの者はそれを吟味すべきである。 三〇しか
せき た もの けいじ う ばあい はじ もの だま
し、席にいる他の者が啓示を受けた場合には、初めの者は黙るがよい。 三一あ
まな すす う のこ
なたがたは、みんなが学びみんなが勧めを受けるために、ひとりずつ残らず
よげん よげんしゃ れい よげんしゃ ふくじゅう
預言をすることができるのだから。 三二かつ、預言者の霊は預言者に服 従す
かみ む ちつじょ かみ へいわ かみ
るものである。 三三神は無秩序の神ではなく、平和の神である。

41
せいと きょうかい おこな ふじん きょうかい
聖徒 た ち の す べ て の 教 会 で 行 わ れ て い る よ う に、 三四婦人 た ち は 教 会 で は
だま かれ かた ゆる
黙 っ て い な け れ ば な ら な い。彼 ら は 語 る こ と が 許 さ れ て い な い。だ か ら、
りっぽう めい ふくじゅう なに まな
律法も命じているように、 服 従すべきである。 三五もし何か学びたいことが
いえ じぶん おっと たず きょうかい かた ふじん は
あれば、家で自分の夫に尋ねるがよい。 教 会で語るのは、婦人にとっては恥
かみ ことば で
ずべきことである。 三六それとも、神の言はあなたがたのところから出たの
か。あるいは、あなたがただけにきたのか。
ひと じぶん よげんしゃ れい ひと おも
三七 もしある人が、自分は預言者か霊の人であると思っているなら、わたしが
か しゅ めいれい みと
あなたがたに書いていることは、主の命令だと認めるべきである。 三八もしそ
む し もの ひと む し
れを無視する者があれば、その人もまた無視される。
コリント人への第一の手紙

きょうだい よげん ねっしん もと


三九 わたしの兄 弟たちよ。このようなわけだから、預言することを熱心に求
いげん かた さまた
めなさい。また、異言を語ることを妨げてはならない。 四〇しかし、すべての
てきぎ ちつじょ ただ おこな
ことを適宜に、かつ秩序を正して行うがよい。
第一五章
きょうだい いぜん つた ふくいん う
一 兄 弟たちよ。わたしが以前あなたがたに伝えた福音、あなたがたが受けい

42
た ふくいん おも おこ
れ、それによって立ってきたあの福音を、思い起してもらいたい。 二もしあな
しん の つた ことば かた
たがたが、いたずらに信じないで、わたしの宣べ伝えたとおりの言葉を固く
まも ふくいん すく もっと だいじ
守っておれば、この福音によって救われるのである。 三わたしが最も大事な
つた じしん う
こととしてあなたがたに伝えたのは、わたし自身も受けたことであった。す
せいしょ か つみ し
なわちキリストが、聖書に書いてあるとおり、わたしたちの罪のために死ん
ほうむ せいしょ か か め
だこと、 四そして葬られたこと、聖書に書いてあるとおり、三日目によみが
あらわ つぎ にん あらわ
えったこと、五ケパに現れ、次に、十二人に現れたことである。 六そののち、五
にんいじょう きょうだい どうじ あらわ なか ねむ もの
百人以上の兄 弟たちに、同時に現れた。その中にはすでに眠った者たちもい
だいたすう せいぞん あらわ つぎ
るが、大多数はいまなお生存している。 七そののち、ヤコブに現れ、次に、す
コリント人への第一の手紙

し と あらわ さいご つき た うま
べての使徒たちに現れ、 八そして最後に、いわば、月足らずに生れたようなわ
あらわ じっさい かみ きょうかい はくがい
たしにも、 現れたのである。 九実際わたしは、神の教 会を迫害したのである
し と なか ちい もの し と よ ね
から、使徒たちの中でいちばん小さい者であって、使徒と呼ばれる値うちの
もの かみ めぐ こんにち え
ない者である。 一〇しかし、神の恵みによって、わたしは今日あるを得ている
たま かみ めぐ
のである。そして、わたしに賜わった神の恵みはむだにならず、むしろ、わ
かれ なか おお はたら じしん
たしは彼らの中のだれよりも多く働いてきた。しかしそれは、わたし自身で
とも かみ めぐ かれ
はなく、わたしと共にあった神の恵みである。 一一とにかく、わたしにせよ彼

43
の つた
らにせよ、そのように、わたしたちは宣べ伝えており、そのように、あなた
しん
がたは信じたのである。
しにん なか の つた
一二 さて、キリストは死人の中からよみがえったのだと宣べ伝えられているの
なか もの しにん ふっかつ い
に、あなたがたの中のある者が、死人の復活などはないと言っているのは、ど
しにん ふっかつ
うしたことか。 一三もし死人の復活がないならば、キリストもよみがえらな
かったであろう。 一四もしキリストがよみがえらなかったとしたら、わたした
せんきょう しんこう
ちの宣 教はむなしく、あなたがたの信仰もまたむなしい。 一五すると、わたし
かみ ぎしょうにん まんいち し に ん
たちは神にそむく偽証人にさえなるわけだ。なぜなら、万一死人がよみがえ
かみ じっさい
らないとしたら、わたしたちは神が実際よみがえらせなかったはずのキリス
コリント人への第一の手紙

い かみ はん た
トを、よみがえらせたと言って、神に反するあかしを立てたことになるから
しにん
である。 一六もし死人がよみがえらないなら、キリストもよみがえらなかった
であろう。 一七もしキリストがよみがえらなかったとすれば、あなたがたの
しんこう くうきょ つみ なか
信仰は空虚なものとなり、あなたがたは、いまなお罪の中にいることになろ
ねむ もの ほろ
う。 一八そうだとすると、キリストにあって眠った者たちは、滅んでしまった
よ せいかつ たん のぞ
のである。 一九もしわたしたちが、この世の生活でキリストにあって単なる望
ひと なか もっと
みをいだいているだけだとすれば、わたしたちは、すべての人の中で最もあ

44
そんざい
われむべき存在となる。
じじつ ねむ もの はつほ しにん なか
二〇 しかし事実、キリストは眠っている者の初穂として、死人の中からよみが
し ひと しにん
えったのである。 二一それは、死がひとりの人によってきたのだから、死人の
ふっかつ ひと
復活もまた、ひとりの人によってこなければならない。 二二アダムにあってす
ひと し おな ひと い
べての人が死んでいるのと同じように、キリストにあってすべての人が生か
かくじ じゅんじょ したが
さ れ る の で あ る。 二 三た だ、各自 は そ れ ぞ れ の 順 序 に 従 わ ね ば な ら な い。
さいしょ つぎ しゅ らいりん さい ぞく もの
最初はキリスト、次に、主の来臨に際してキリストに属する者たち、 二四それ
しゅうまつ とき きみ けんい
から終 末となって、その時に、キリストはすべての君たち、すべての権威と
けんりょく う ほろ くに ちち かみ わた
権 力とを打ち滅ぼして、国を父なる神に渡されるのである。 二五なぜなら、キ
コリント人への第一の手紙

てき あし お とき しはい つづ
リストはあらゆる敵をその足もとに置く時までは、支配を続けることになっ
さいご てき ほろ し かみ
ているからである。 二六最後の敵として滅ぼされるのが、死である。 二七﹁神は
ばんぶつ かれ あし したが ばんぶつ したが い
万物を彼の足もとに従わせた﹂からである。ところが、万物を従わせたと言
とき ばんぶつ したが ふく あき
われる時、万物を従わせたかたがそれに含まれていないことは、明らかであ
ばんぶつ かみ したが とき み こ じしん ばんぶつ したが
る。 二八そして、万物が神に従う時には、御子自身もまた、万物を従わせたそ
したが かみ もの
のかたに従うであろう。それは、神がすべての者にあって、すべてとなられ
るためである。

45
し しゃ う ひとびと
二九 そうでないとすれば、死者のためにバプテスマを受ける人々は、なぜそれ
し しゃ まった ひとびと
を す る の だ ろ う か。も し 死者 が 全 く よ み が え ら な い と す れ ば、な ぜ 人々 が
し しゃ う
死者のためにバプテスマを受けるのか。 三〇また、なんのために、わたしたち
きけん おか きょうだい しゅ
は い つ も 危険 を 冒 し て い る の か。 三 一 兄 弟 た ち よ。わ た し た ち の 主 キ リ ス
も ほこり い
ト・イエスにあって、わたしがあなたがたにつき持っている誇にかけて言う
ひ び し にんげん かんが
が、わたしは日々死んでいるのである。 三二もし、わたしが人間の考えによっ
けもの たたか やく た しにん
てエペソで獣と戦 ったとすれば、それはなんの役に立つのか。もし死人がよ
の く
みがえらないのなら、﹁わたしたちは飲み食いしようではないか。あすもわか
らぬいのちなのだ﹂。 三三まちがってはいけない。
コリント人への第一の手紙

わる まじ よ
﹁悪い交わりは、良いならわしをそこなう﹂。
め み ただ つみ おか
三四 目ざめて身を正し、罪を犯さないようにしなさい。あなたがたのうちに
かみ む ち ひとびと
は、神について無知な人々がいる。あなたがたをはずかしめるために、わた

しはこう言うのだ。
ひと い しにん
三五 しかし、ある人は言うだろう。﹁どんなふうにして、死人がよみがえるの
く ひと
か。どんなからだをして来るのか﹂。 三六おろかな人である。あなたのまくも
し い
のは、死ななければ、生かされないではないか。 三七また、あなたのまくのは、

46
な むぎ たね
やがて成るべきからだをまくのではない。麦であっても、ほかの種であって
たねつぶ かみ
も、ただの種粒にすぎない。 三八ところが、神はみこころのままに、これにか
あた たね あた
らだを与え、その一つ一つの種にそれぞれのからだをお与えになる。 三九すべ
にく おな にく ひと にく けもの にく とり にく
ての肉が、同じ肉なのではない。人の肉があり、 獣の肉があり、鳥の肉があ
うお にく てん ぞく ち ぞく
り、魚の肉がある。 四〇天に属するからだもあれば、地に属するからだもある。
てん ぞく えいこう ち ぞく えいこう ちが ひ えいこう
天に属するものの栄光は、地に属するものの栄光と違っている。 四一日の栄光
つき えいこう ほし えいこう ほし ほし あいだ
があり、月の栄光があり、星の栄光がある。また、この星とあの星との間に、
えいこう さ
栄光の差がある。
しにん ふっかつ どうよう く く
四二 死人の復活も、また同様である。朽ちるものでまかれ、朽ちないものによ
コリント人への第一の手紙

いや えいこう よわ
みがえり、 四三卑しいものでまかれ、栄光あるものによみがえり、弱いもので
つよ にく れい
まかれ、強いものによみがえり、 四四肉のからだでまかれ、霊のからだによみ
にく れい
がえるのである。肉のからだがあるのだから、霊のからだもあるわけである。
せいしょ さいしょ ひと い か
四五 聖書に﹁最初の人アダムは生きたものとなった﹂と書いてあるとおりであ
さいご いのち あた れい さいしょ れい
る。しかし最後のアダムは命を与える霊となった。 四六最初にあったのは、霊
にく のち れい く だい
のものではなく肉のものであって、その後に霊のものが来るのである。 四七第
ひと ち で つち ぞく だい ひと てん く つち ぞく ひと
一の人は地から出て土に属し、第二の人は天から来る。 四八この土に属する人

47
つち ぞく ひとびと ひと てん ぞく ひと てん ぞく ひとびと
に、土に属している人々は等しく、この天に属する人に、天に属している人々
ひと つち ぞく かたち
は等しいのである。 四九すなわち、わたしたちは、土に属している形をとって
どうよう てん ぞく かたち
いるのと同様に、また天に属している形をとるであろう。
きょうだい こと い にく ち かみ くに つ
五〇 兄 弟たちよ。わたしはこの事を言っておく。肉と血とは神の国を継ぐこ
く く つ
とができないし、朽ちるものは朽ちないものを継ぐことがない。 五一ここで、
おくぎ つ ねむ つづ
あなたがたに奥義を告げよう。わたしたちすべては、眠り続けるのではない。
おわ ひび とも ま いっしゅん か
終りのラッパの響きと共に、またたく間に、一 瞬にして変えられる。 五二とい
ひび しにん く もの
うのは、ラッパが響いて、死人は朽ちない者によみがえらされ、わたしたち
か く かなら く
は変えられるのである。 五三なぜなら、この朽ちるものは必ず朽ちないものを
コリント人への第一の手紙

き し かなら し き
着、この死ぬものは必ず死なないものを着ることになるからである。 五四この
く く き し し き
朽ちるものが朽ちないものを着、この死ぬものが死なないものを着るとき、
せいしょ か ことば じょうじゅ
聖書に書いてある言葉が成 就するのである。
し しょうり
五五 ﹁死は勝利にのまれてしまった。
し しょうり
死よ、おまえの勝利は、どこにあるのか。

死よ、おまえのとげは、どこにあるのか﹂。
し つみ つみ ちから りっぽう かんしゃ
五六 死のとげは罪である。罪の力は律法である。 五七しかし感謝すべきことに

48
かみ しゅ しょうり たま
は、神はわたしたちの主イエス・キリストによって、わたしたちに勝利を賜
あい きょうだい かた た うご
わったのである。 五八だから、愛する兄 弟たちよ。堅く立って動かされず、い
ぜんりょく そそ しゅ はげ しゅ ろうく
つも全 力を注いで主のわざに励みなさい。主にあっては、あなたがたの労苦

がむだになることはないと、あなたがたは知っているからである。
第一六章
せいと けんきん しょきょうかい めい
一 聖徒たちへの献金については、わたしはガラテヤの諸 教 会に命じておいた
しゅう はじ ひ
が、あなたがたもそのとおりにしなさい。 二一 週の初めの日ごとに、あなたが
コリント人への第一の手紙

しゅうにゅう おう て
たはそれぞれ、いくらでも収 入に応じて手もとにたくわえておき、わたしが
つ とき はじ あつ とうちゃく
着いた時になって初めて集めることのないようにしなさい。 三わたしが到 着
えら ひとびと てがみ おく もの も
したら、あなたがたが選んだ人々に手紙をつけ、あなたがたの贈り物を持た
おく だ ゆ ほう
せて、エルサレムに送り出すことにしよう。 四もしわたしも行く方がよけれ
いっしょ ゆ つうか
ば、一緒に行くことになろう。 五わたしは、マケドニヤを通過してから、あな
ゆ つうか
たがたのところに行くことになろう。マケドニヤは通過するだけだが、 六あ
ところ たいざい ふゆ す し
なたがたの所では、たぶん滞在するようになり、あるいは冬を過ごすかも知

49
い おく
れない。そうなれば、わたしがどこへ行くにしても、あなたがたに送っても
いま たび あ この
らえるだろう。 七わたしは今、あなたがたに旅のついでに会うことは好まな
しゅ ゆる ところ たいざい のぞ
い。もし主のお許しがあれば、しばらくあなたがたの所に滞在したいと望ん
ごじゅんせつ たいざい
で い る。 八し か し 五旬節 ま で は、エ ペ ソ に 滞在 す る つ も り だ。と い う の は、
ゆうりょく はたら もん おお ひら てきたい もの
有 力な働きの門がわたしのために大きく開かれているし、 九また敵対する者
おお
も多いからである。
つ ところ ふあん す
一〇 もしテモテが着いたら、あなたがたの所で不安なしに過ごせるようにして
かれ どうよう しゅ よう
あげてほしい。彼はわたしと同様に、主のご用にあたっているのだから。 一一
かれ かろ ところ く
だれも彼を軽んじてはいけない。そして、わたしの所に来るように、どうか
コリント人への第一の手紙

かれ やす おく だ かれ きょうだい いっしょ く
彼を安らかに送り出してほしい。わたしは彼が兄 弟たちと一緒に来るのを
ま きょうだい きょうだい いっしょ ところ
待っている。 一二兄 弟 アポロについては、兄 弟たちと一緒にあなたがたの所
い すす かれ いま ゆ い し まった
に行くように、たびたび勧めてみた。しかし彼には、今行く意志は、 全くな
てきとう きかい い
い。適当な機会があれば、行くだろう。
め しんこう た おとこ つよ
一三 目をさましていなさい。信仰に立ちなさい。 男らしく、強くあってほし
あい おこな
い。 一四いっさいのことを、愛をもって行いなさい。
きょうだい すす し
一五 兄 弟たちよ。あなたがたに勧める。あなたがたが知っているように、ス

50
いえ はつほ かれ み せいと ほうし
テパナの家はアカヤの初穂であって、彼らは身をもって聖徒に奉仕してくれ
ひとびと かれ とも はたら とも ろう
た。 一六どうか、このような人々と、またすべて彼らと共に働き共に労する
ひとびと したが
人々とに、従 ってほしい。 一七わたしは、ステパナとポルトナトとアカイコと
よろこ かれ た ところ み
がきてくれたのを喜んでいる。彼らはあなたがたの足りない所を満たし、 一八
こころ こころ やす ひとびと おも
わたしの心とあなたがたの心とを、安らかにしてくれた。こうした人々は、重
んじなければならない。
しょきょうかい
一九 アジヤの諸 教 会から、あなたがたによろしく。アクラとプリスカとその
いえ きょうかい しゅ こころ きょうだい
家の教 会から、主にあって心からよろしく。 二〇すべての兄 弟たちから、よろ
たがい せっぷん
しく。あなたがたも互に、きよい接吻をもってあいさつをかわしなさい。
コリント人への第一の手紙

て しゅ あい もの
二一 ここでパウロが、手ずからあいさつをしるす。 二二もし主を愛さない者が
しゅ しゅ
あれば、のろわれよ。マラナ・タ︵われらの主よ、きたりませ︶。 二三主イエス
めぐ とも あい
の恵みが、あなたがたと共にあるように。 二四わたしの愛が、キリスト・イエ
いちどう とも
スにあって、あなたがた一同と共にあるように。

51
びと だい てがみ
コリント人への第二の手紙
第一章
かみ みむね し と きょうだい
一 神の御旨によりキリスト・イエスの使徒となったパウロと、 兄 弟 テモテと
かみ きょうかい ぜんど せいと
から、コリントにある神の教 会、ならびにアカヤ全土にいるすべての聖徒た
ちへ。
ちち かみ しゅ めぐ へいあん
二 わたしたちの父なる神と主イエス・キリストから、恵みと平安とが、あなた
がたにあるように。
コリント人への第二の手紙

しゅ ちち かみ ぶか
三 ほむべきかな、わたしたちの主イエス・キリストの父なる神、あわれみ深き
ちち なぐさ み かみ かみ かんなん なか とき
父、慰めに満ちたる神。 四神は、いかなる患難の中にいる時でもわたしたちを
なぐさ くだ じしん かみ なぐさ なぐさ
慰めて下さり、また、わたしたち自身も、神に慰めていただくその慰めをもっ
かんなん なか ひとびと なぐさ くだ
て、あらゆる患難の中にある人々を慰めることができるようにして下さるの
くなん み
である。 五それは、キリストの苦難がわたしたちに満ちあふれているように、
う なぐさ み
わたしたちの受ける慰めもまた、キリストによって満ちあふれているからで

0
かんなん あ なぐさ すくい
ある。 六わたしたちが患難に会うなら、それはあなたがたの慰めと救とのた
なぐさ う なぐさ
めであり、 慰めを受けるなら、それはあなたがたの慰めのためであって、そ
なぐさ う おな くなん た ちから
の慰めは、わたしたちが受けているのと同じ苦難に耐えさせる力となるので
たい のぞ うご
ある。 七だから、あなたがたに対していだいているわたしたちの望みは、動く
とも くなん
ことがない。あなたがたが、わたしたちと共に苦難にあずかっているように、
なぐさ とも し
慰めにも共にあずかっていることを知っているからである。
きょうだい あ かんなん し
八 兄 弟たちよ。わたしたちがアジヤで会った患難を、知らずにいてもらいた
きょくど た あっぱく い のぞ
くない。わたしたちは極度に、耐えられないほど圧迫されて、生きる望みを
うしな こころ し かくご じぶんじしん たの
さえ失 ってしまい、 九 心のうちで死を覚悟し、自分自身を頼みとしないで、
コリント人への第二の手紙

しにん くだ かみ たの いた かみ
死人をよみがえらせて下さる神を頼みとするに至った。 一〇神はこのような
し きけん すく だ くだ すく だ くだ
死の危険から、わたしたちを救い出して下さった、また救い出して下さるで
かみ こんご すく だ くだ のぞ
あろう。わたしたちは、神が今後も救い出して下さることを望んでいる。 一一
いのり たす
そして、あなたがたもまた祈をもって、ともどもに、わたしたちを助けてく
おお ひとびと ねが たま めぐ
れるであろう。これは多くの人々の願いによりわたしたちに賜わった恵みに
おお ひと かんしゃ
ついて、多くの人が感謝をささげるようになるためである。
よ たい にんげん ち え
一二 さて、わたしたちがこの世で、ことにあなたがたに対し、人間の知恵によっ

1
かみ めぐ かみ しんせい しんじつ こうどう
てではなく神の恵みによって、神の神聖と真実とによって行動してきたこと
じつ ほこり りょうしん
は、実にわたしたちの誇であって、良 心のあかしするところである。 一三わた
か よ りかい
したちが書いていることは、あなたがたが読んで理解できないことではない。
かんぜん りかい きぼう ていど
それを完全に理解してくれるように、わたしは希望する。 一四すでにある程度
りかい しゅ ひ
わたしたちを理解してくれているとおり、わたしたちの主イエスの日には、あ
ほこり ほこり
なたがたがわたしたちの誇であるように、わたしたちもあなたがたの誇なの
である。
かくしん い ち ど めぐ え
一五 この確信をもって、わたしたちはもう一度恵みを得させたいので、まずあ
ところ い とお
なたがたの所に行き、 一六それからそちらを通ってマケドニヤにおもむき、そ
コリント人への第二の手紙

ふたた ところ かえ みおく う


して再びマケドニヤからあなたがたの所に帰り、あなたがたの見送りを受け
ゆ けいかく た けいかく た けいそつ
てユダヤに行く計画を立てたのである。 一七この計画を立てたのは、軽率なこ
じぶん けいかく にく おも けいかく
とであったであろうか。それとも、自分の計画を肉の思いによって計画した
どうじ いな いな
ため、わたしの﹁しかり、しかり﹂が同時に﹁否、否﹂であったのだろうか。
かみ しんじつ い たい ことば
一八 神の真実にかけて言うが、あなたがたに対するわたしの言葉は、
﹁しかり﹂
どうじ いな
と同時に﹁否﹂というようなものではない。 一九なぜなら、わたしたち、すな
の つた かみ こ
わち、わたしとシルワノとテモテとが、あなたがたに宣べ伝えた神の子キリ

2
どうじ いな
スト・イエスは、﹁しかり﹂となると同時に﹁否﹂となったのではない。そう
じつげん かみ
ではなく、
﹁しかり﹂がイエスにおいて実現されたのである。 二〇なぜなら、神
やくそく かれ
の約束はことごとく、彼において﹁しかり﹂となったからである。だから、わ
かれ とな かみ えいこう き
たしたちは、彼によって﹁アァメン﹂と唱えて、神に栄光を帰するのである。
とも かた あぶら
二一 あなたがたと共にわたしたちを、キリストのうちに堅くささえ、油をそそ
くだ かみ かみ しょういん
いで下さったのは、神である。 二二神はまた、わたしたちに証 印をおし、その
ほしょう こころ みたま たま
保証として、わたしたちの心に御霊を賜わったのである。
じぶん たましい かみ しょうにん よ もと い
二三 わたしは自分の魂をかけ、神を証 人に呼び求めて言うが、わたしがコリン
い たい かんだい
トに行かないでいるのは、あなたがたに対して寛大でありたいためである。 二
コリント人への第二の手紙

しんこう しはい もの よろこ


四 わたしたちは、あなたがたの信仰を支配する者ではなく、あなたがたの喜び
とも はたら もの しんこう かた た
のために共に働いている者にすぎない。あなたがたは、信仰に堅く立ってい
るからである。
第二章
ところ ふたた かな ゆ
一 そこでわたしは、あなたがたの所に再び悲しみをもって行くことはすまい

3
けっしん かな かな
と、決心したのである。 二もしあなたがたを悲しませるとすれば、わたしが悲
ひと い が い よろこ
しませているその人以外に、だれがわたしを喜ばせてくれるのか。 三このよ
こと か ゆ とき よろこ ひとびと
うな事を書いたのは、わたしが行く時、わたしを喜ばせてくれるはずの人々
かな おも じしん よろこ
から、悲しい思いをさせられたくないためである。わたし自身の喜びはあな
ぜんたい よろこ かくしん
たがた全体の喜びであることを、あなたがたすべてについて確信しているか
おお かんなん こころ うれ なか おお なみだ
らである。 四わたしは大きな患難と心の憂いの中から、多くの涙をもってあ
か かな
なたがたに書きおくった。それは、あなたがたを悲しませるためではなく、あ
たい あい し
なたがたに対してあふれるばかりにいだいているわたしの愛を、知ってもら
うためであった。
コリント人への第二の手紙

ひと かな かな
五 しかし、もしだれかが人を悲しませたとすれば、それはわたしを悲しませた
ひか め い ていど いちどう かな
のではなく、控え目に言うが、ある程度、あなたがた一同を悲しませたので
ひと たすう もの う しょばつ じゅうぶん
ある。 六その人にとっては、多数の者から受けたあの処罰でもう十 分なのだ
かれ なぐさ
から、七あなたがたはむしろ彼をゆるし、また慰めてやるべきである。そうし
ひと ぶか かな しず し
ないと、その人はますます深い悲しみに沈むかも知れない。 八そこでわたし
かれ たい あい しめ すす か
は、彼に対して愛を示すように、あなたがたに勧める。 九わたしが書きおくっ
こと じゅうじゅん
たのも、あなたがたがすべての事について従 順であるかどうかを、ためすた

4
なに ひと
めにほかならなかった。 一〇もしあなたがたが、何かのことについて人をゆる
なに
すなら、わたしもまたゆるそう。そして、もしわたしが何かのことでゆるし
たとすれば、それは、あなたがたのためにキリストのみまえでゆるしたので
あざむ
ある。 一一そうするのは、サタンに欺かれることのないためである。わたした
かれ さくりゃく し
ちは、彼の策 略を知らないわけではない。
ふくいん い しゅ
一二 さて、キリストの福音のためにトロアスに行ったとき、わたしのために主
もん ひら きょうだい あ
の門が開かれたにもかかわらず、一三兄 弟 テトスに会えなかったので、わたし
き き ひとびと わか で い
は気が気でなく、人々に別れて、マケドニヤに出かけて行った。 一四しかるに、
かみ かんしゃ かみ がいせん ともな ゆ
神は感謝すべきかな。神はいつもわたしたちをキリストの凱旋に伴い行き、
コリント人への第二の手紙

し ちしき いた ところ はな くだ
わたしたちをとおしてキリストを知る知識のかおりを、至る所に放って下さ
すく もの ほろ もの
るのである。 一五わたしたちは、救われる者にとっても滅びる者にとっても、
かみ たい こうしゃ し し いた
神に対するキリストのかおりである。 一六後者にとっては、死から死に至らせ
ぜんしゃ いた
るかおりであり、前者にとっては、いのちからいのちに至らせるかおりであ
にんむ た え
る。いったい、このような任務に、だれが耐え得ようか。 一七しかし、わたし
おお ひと かみ ことば うりもの まごころ かみ
たちは、多くの人のように神の言を売物にせず、真心をこめて、神につかわ
もの かみ かた
された者として神のみまえで、キリストにあって語るのである。

5
第三章
じ こ すいせん はじ
一 わたしたちは、またもや、自己推薦をし始めているのだろうか。それとも、
ひとびと すいせん
ある人々のように、あなたがたにあてた、あるいは、あなたがたからの推薦
じょう ひつよう すいせんじょう
状が必要なのだろうか。 二わたしたちの推薦 状は、あなたがたなのである。
こころ ひと し よ
それは、わたしたちの心にしるされていて、すべての人に知られ、かつ読ま
じぶんじしん おく
れている。 三そして、あなたがたは自分自身が、わたしたちから送られたキリ
てがみ すみ い かみ れい か いし いた
ストの手紙であって、墨によらず生ける神の霊によって書かれ、石の板にで
ひと こころ いた か
はなく人の心の板に書かれたものであることを、はっきりとあらわしている。
コリント人への第二の手紙

かくしん かみ たい
四 こうした確信を、わたしたちはキリストにより神に対していだいている。 五
じぶんじしん こと さだ ちから じぶん い
もちろん、自分自身で事を定める力が自分にある、と言うのではない。わた
ちから かみ かみ ちから あた あたら
したちのこうした力は、神からきている。 六神はわたしたちに力を与えて、新
けいやく つか もの もんじ つか もの れい
しい契約に仕える者とされたのである。それは、文字に仕える者ではなく、霊
つか もの もんじ ひと ころ れい ひと い いし ほ
に仕える者である。文字は人を殺し、霊は人を生かす。 七もし石に彫りつけ
もんじ し つとめ えいこう おこな こ
た文字による死の務が栄光のうちに行われ、そのためイスラエルの子らは、
かお き さ えいこう かお み
モ ー セ の 顔 の 消 え 去 る べ き 栄光 の ゆ え に、そ の 顔 を 見 つ め る こ と が で き な

6
れい つとめ えいこう
かったとすれば、 八まして霊の務は、はるかに栄光あるものではなかろうか。
つみ せんこく つとめ えいこう ぎ せんこく つとめ
九 もし罪を宣告する務が栄光あるものだとすれば、義を宣告する務は、はるか
えいこう み えいこう う
に栄光に満ちたものである。 一〇そして、すでに栄光を受けたものも、この
ばあい えいこう えいこう うしな
場合、はるかにまさった栄光のまえに、その栄光を失 ったのである。 一一もし
き さ えいこう あらわ えいぞん
消え去るべきものが栄光をもって現れたのなら、まして永存すべきものは、
えいこう
もっと栄光のあるべきものである。
のぞ おも だいたん かた
一二 こうした望みをいだいているので、わたしたちは思いきって大胆に語り、
き さ さいご こ み
一三 そしてモーセが、消え去っていくものの最後をイスラエルの子らに見られ
かお じっさい かれ おも
まいとして、顔におおいをかけたようなことはしない。 一四実際、彼らの思い
コリント人への第二の手紙

にぶ こんにち いた かれ ふる けいやく ろうどく ばあい


は鈍くなっていた。今日に至るまで、彼らが古い契約を朗読する場合、その
おな と さ のこ
同じおおいが取り去られないままで残っている。それは、キリストにあって
と のぞ こんにち いた しょ ろうどく
はじめて取り除かれるのである。 一五今日に至るもなお、モーセの書が朗読さ
かれ こころ しゅ む とき
れるたびに、おおいが彼らの心にかかっている。 一六しかし主に向く時には、
と のぞ しゅ れい しゅ れい
そのおおいは取り除かれる。 一七主は霊である。そして、主の霊のあるところ
じゆう かお しゅ えいこう かがみ
には、自由がある。 一八わたしたちはみな、顔おおいなしに、主の栄光を鏡に
うつ み えいこう えいこう しゅ おな すがた か
映すように見つつ、栄光から栄光へと、主と同じ姿に変えられていく。これ

7
れい しゅ はたら
は霊なる主の働きによるのである。
第四章
う つとめ
一 このようにわたしたちは、あわれみを受けてこの務についているのだから、
らくたん は かく す さ わるだく ある かみ
落胆せずに、 二恥ずべき隠れたことを捨て去り、悪巧みによって歩かず、神の
ことば ま しんり あき かみ ひと りょうしん じぶん
言を曲げず、真理を明らかにし、神のみまえに、すべての人の良 心に自分を
すいせん ふくいん ほろ
推薦するのである。 三もしわたしたちの福音がおおわれているなら、滅びる
もの かれ ばあい よ かみ ふしん
者どもにとっておおわれているのである。 四彼らの場合、この世の神が不信
コリント人への第二の手紙

もの おも かみ えいこう ふくいん かがや


の者たちの思いをくらませて、神のかたちであるキリストの栄光の福音の輝
み じぶんじしん の つた
きを、見えなくしているのである。 五しかし、わたしたちは自分自身を宣べ伝
しゅ の つた じしん
えるのではなく、主なるキリスト・イエスを宣べ伝える。わたしたち自身は、
はたら しもべ なか ひかり
ただイエスのために働くあなたがたの僕にすぎない。 六﹁やみの中から光が
て おお かみ かお かがや かみ えいこう ちしき あき
照りいでよ﹂と仰せになった神は、キリストの顔に輝く神の栄光の知識を明
こころ てら くだ
らかにするために、わたしたちの心を照して下さったのである。
たから つち うつわ なか も はか し
七 しかしわたしたちは、この宝を土の器の中に持っている。その測り知れな

8
ちから かみ で
い力は神のものであって、わたしたちから出たものでないことが、あらわれ
しほう かんなん う きゅう とほう
るためである。 八わたしたちは、四方から患難を受けても窮しない。途方に
ゆ づ はくがい あ み す たお ほろ
くれても行き詰まらない。 九迫害に会っても見捨てられない。倒されても滅
し み お
びない。 一〇いつもイエスの死をこの身に負うている。それはまた、イエスの
み あらわ い もの
いのちが、この身に現れるためである。 一一わたしたち生きている者は、イエ
た し わた
スのために絶えず死に渡されているのである。それはイエスのいのちが、わ
し にくたい あらわ し
たしたちの死ぬべき肉体に現れるためである。 一二こうして、死はわたしたち
はたら はたら しん
のうちに働き、いのちはあなたがたのうちに働くのである。 一三﹁わたしは信
かた おな しんこう れい も
じた。それゆえに語った﹂としるしてあるとおり、それと同じ信仰の霊を持っ
コリント人への第二の手紙

しん かた
ているので、わたしたちも信じている。それゆえに語るのである。 一四それ
しゅ とも
は、主イエスをよみがえらせたかたが、わたしたちをもイエスと共によみが
とも た くだ し
えらせ、そして、あなたがたと共にみまえに立たせて下さることを、知って
えき めぐ
いるからである。 一五すべてのことは、あなたがたの益であって、恵みがます
おお ひと ま くわ かんしゃ み かみ えいこう
ます多くの人に増し加わるにつれ、感謝が満ちあふれて、神の栄光となるの
である。
らくたん そと ひと ほろ
一六 だから、わたしたちは落胆しない。たといわたしたちの外なる人は滅びて

9
うち ひと ひ あたら かる
も、内なる人は日ごとに新しくされていく。 一七なぜなら、このしばらくの軽
かんなん はたら えいえん おも えいこう え
い患難は働いて、永遠の重い栄光を、あふれるばかりにわたしたちに得させ
み み め
るからである。 一八わたしたちは、見えるものにではなく、見えないものに目
そそ み い ち じ てき み えいえん
を注ぐ。見えるものは一時的であり、見えないものは永遠につづくのである。
第五章
す ちじょう まくや かみ たてもの
一 わたしたちの住んでいる地上の幕屋がこわれると、神からいただく建物、す
てん ひと て えいえん いえ そな
なわち天にある、人の手によらない永遠の家が備えてあることを、わたした
コリント人への第二の手紙

し てん たま うえ き せつ のぞ
ちは知っている。 二そして、天から賜わるそのすみかを、上に着ようと切に望
まくや なか くる き はだか
みながら、この幕屋の中で苦しみもだえている。 三それを着たなら、裸のまま
まくや なか おもに お
ではいないことになろう。 四この幕屋の中にいるわたしたちは、重荷を負っ
くる ぬ ねが うえ き
て苦しみもだえている。それを脱ごうと願うからではなく、その上に着よう
ねが し
と願うからであり、それによって、死ぬべきものがいのちにのまれてしまう
こと もの くだ かみ
ためである。 五わたしたちを、この事にかなう者にして下さったのは、神であ
かみ ほしょう みたま たま
る。そして、神はその保証として御霊をわたしたちに賜わったのである。 六

10
こころづよ にくたい やど あいだ しゅ
だから、わたしたちはいつも心 強い。そして、肉体を宿としている間は主か
はな し み
ら離れていることを、よく知っている。 七わたしたちは、見えるものによらな
しんこう ある こころづよ
いで、信仰によって歩いているのである。 八それで、わたしたちは心 強い。そ
にくたい はな しゅ とも す ねが おも
して、むしろ肉体から離れて主と共に住むことが、願わしいと思っている。 九
にくたい やど はな
そういうわけだから、肉体を宿としているにしても、それから離れているに
しゅ よろこ もの こころ ねが
しても、ただ主に喜ばれる者となるのが、 心からの願いである。 一〇なぜな
みな ざ まえ ぜん あく
ら、わたしたちは皆、キリストのさばきの座の前にあらわれ、善であれ悪で
じぶん おこな おう むく う
あれ、自分の行 ったことに応じて、それぞれ報いを受けねばならないからで
ある。
コリント人への第二の手紙

しゅ おそ し ひとびと と
一一 このようにわたしたちは、主の恐るべきことを知っているので、人々に説
すす かみ あき
き勧める。わたしたちのことは、神のみまえには明らかになっている。さら
りょうしん あき のぞ
に、あなたがたの良 心にも明らかになるようにと望む。 一二わたしたちは、あ
たい じ こ すいせん
なたがたに対して、またもや自己推薦をしようとするのではない。ただわた
ほこ きかい も こころ ほこ
したちを誇る機会を、あなたがたに持たせ、 心を誇るのではなくうわべだけ
ほこ ひとびと こた き
を誇る人々に答えうるようにさせたいのである。 一三もしわたしたちが、気が
くる かみ き たし
狂っているのなら、それは神のためであり、気が確かであるのなら、それは

11
あい つよ
あなたがたのためである。 一四なぜなら、キリストの愛がわたしたちに強く
せま かんが ひと
迫っているからである。わたしたちはこう考えている。ひとりの人がすべて
ひと し いじょう ひと し かれ
の人のために死んだ以上、すべての人が死んだのである。 一五そして、彼がす
ひと し い もの じぶん
べての人のために死んだのは、生きている者がもはや自分のためにではなく、
じぶん し い
自分のために死んでよみがえったかたのために、生きるためである。
こんご にく し
一六 それだから、わたしたちは今後、だれをも肉によって知ることはすまい。
にく し いま し
かつてはキリストを肉によって知っていたとしても、今はもうそのような知
かた ひと あたら つく
り方をすまい。 一七だれでもキリストにあるならば、その人は新しく造られた
もの ふる す さ み あたら
者である。古いものは過ぎ去った、見よ、すべてが新しくなったのである。 一
コリント人への第二の手紙

こと かみ で かみ
八 しかし、すべてこれらの事は、神から出ている。神はキリストによって、わ
じぶん わかい わかい つとめ さず くだ
たしたちをご自分に和解させ、かつ和解の務をわたしたちに授けて下さった。
かみ よ じぶん わかい ざいか せきにん
一九 すなわち、神はキリストにおいて世をご自分に和解させ、その罪過の責任
お わかい ふくいん
をこれに負わせることをしないで、わたしたちに和解の福音をゆだねられた
のである。
かみ すす
二〇 神がわたしたちをとおして勧めをなさるのであるから、わたしたちはキリ
し しゃ かわ ねが かみ わかい う
ストの使者なのである。そこで、キリストに代って願う、神の和解を受けな

12
かみ つみ つみ し つみ
さい。 二一神はわたしたちの罪のために、罪を知らないかたを罪とされた。そ
かれ かみ ぎ
れは、わたしたちが、彼にあって神の義となるためなのである。
第六章
かみ とも はたら もの すす かみ めぐ
一 わたしたちはまた、神と共に働く者として、あなたがたに勧める。神の恵み
う かみ い
をいたずらに受けてはならない。 二神はこう言われる、
めぐ とき ねが き
﹁わたしは、恵みの時にあなたの願いを聞きいれ、
すくい ひ たす
救の日にあなたを助けた﹂。
コリント人への第二の手紙

み いま めぐ とき み いま すくい ひ つとめ まね
見よ、今は恵みの時、見よ、今は救の日である。 三この務がそしりを招かない
こと ひと あた
ために、わたしたちはどんな事にも、人につまずきを与えないようにし、 四か
ばあい かみ しもべ じぶん ひとびと
えって、あらゆる場合に、神の僕として、自分を人々にあらわしている。す
きょくど にんく かんなん き き ゆ づ う
なわち、極度の忍苦にも、患難にも、危機にも、行き詰まりにも、 五むち打た
にゅうごく そうらん ろうく てつや き が しんじつ
れることにも、入 獄にも、騒乱にも、労苦にも、徹夜にも、飢餓にも、 六真実
ちしき かんよう じあい せいれい いつわ あい しんり ことば かみ ちから
と知識と寛容と、慈愛と聖霊と偽りのない愛と、七真理の言葉と神の力とによ
さゆう も ぎ ぶ き あくひょう
り、左右に持っている義の武器により、八ほめられても、そしられても、悪 評

13
う こうひょう はく かみ しもべ じぶん
を受けても、好 評を博しても、神の僕として自分をあらわしている。わたし
ひと まど しんじつ ひと し
たちは、人を惑わしているようであるが、しかも真実であり、 九人に知られて
みと し み い
いないようであるが、認められ、死にかかっているようであるが、見よ、生
こ ころ かな
きており、懲らしめられているようであるが、殺されず、 一〇悲しんでいるよ
つね よろこ まず おお ひと と なに
うであるが、常に喜んでおり、貧しいようであるが、多くの人を富ませ、何
も もの も
も持たないようであるが、すべての物を持っている。
ひとびと む くち ひら
一一 コリントの人々よ。あなたがたに向かってわたしたちの口は開かれてお
こころ ひろ こころ
り、わたしたちの心は広くなっている。 一二あなたがたは、わたしたちに心を
じぶん こころ
せばめられていたのではなく、自分で心をせばめていたのだ。 一三わたしは
コリント人への第二の手紙

こども たい い ほう こころ ひろ
子供たちに対するように言うが、どうかあなたがたの方でも心を広くして、わ
おう
たしに応じてほしい。
ふしんじゃ あ とも ぎ ふ ぎ かか
一四 不信者と、つり合わないくびきを共にするな。義と不義となんの係わりが
ひかり まじ
あるか。 光とやみとなんの交わりがあるか。 一五キリストとベリアルとなん
ちょうわ しんこう ふ しんこう かんけい かみ みや ぐうぞう
の 調和 が あ る か。信仰 と 不信仰 と な ん の 関係 が あ る か。 一六神 の 宮 と 偶像 と
いっ ち い かみ みや かみ おお
なんの一致があるか。わたしたちは、生ける神の宮である。神がこう仰せに
なっている、

14
かれ あいだ す
﹁わたしは彼らの間に住み、
で い
かつ出入りをするであろう。
かれ かみ
そして、わたしは彼らの神となり、
かれ たみ
彼らはわたしの民となるであろう﹂。
かれ あいだ で い
一七だから、﹁彼らの間から出て行き、
かれ ぶんり しゅ い
彼らと分離せよ、と主は言われる。
けが ふれ
そして、汚れたものに触てはならない。
ふれ う
触なければ、わたしはあなたがたを受けいれよう。
ちち
一八そしてわたしは、あなたがたの父となり、
コリント人への第二の手紙

あなたがたは、
わたしのむすこ、むすめとなるであろう。
ぜんのう しゅ い
全能の主が、こう言われる﹂。

15
第七章
あい もの やくそく あた
一 愛する者たちよ。わたしたちは、このような約束を与えられているのだか
にく れい けが じぶん かみ まった きよ
ら、肉と霊とのいっさいの汚れから自分をきよめ、神をおそれて全く清くな
ろうではないか。
こころ ひら ふ ぎ
二 どうか、わたしたちに心を開いてほしい。わたしたちは、だれにも不義をし
はめつ
たことがなく、だれをも破滅におとしいれたことがなく、だれからもだまし
と せ い まえ
取ったことがない。 三わたしは、責めるつもりでこう言うのではない。前に
い こころ せい し
も言ったように、あなたがたはわたしの心のうちにいて、わたしたちと生死
コリント人への第二の手紙

とも おお しんらい おお
を 共 に し て い る の で あ る。 四わ た し は あ な た が た を 大 い に 信頼 し、大 い に
ほこ なぐさ う かんなん なか
誇っている。また、あふれるばかり慰めを受け、あらゆる患難の中にあって
よろこ み
喜びに満ちあふれている。
つ み すこ やす
五 さて、マケドニヤに着いたとき、わたしたちの身に少しの休みもなく、さま
かんなん あ そと たたか うち おそ
ざまの患難に会い、外には戦い、内には恐れがあった。 六しかるに、うちしお
もの なぐさ かみ とうらい なぐさ くだ
れている者を慰める神は、テトスの到来によって、わたしたちを慰めて下さっ
かれ とうらい かれ う
た。 七ただ彼の到来によるばかりではなく、彼があなたがたから受けたその

16
なぐさ なぐさ くだ した
慰めをもって、 慰めて下さった。すなわち、あなたがたがわたしを慕ってい
なげ たい ねっしん し
ること、嘆いていること、またわたしに対して熱心であることを知らせてく
よろこ ま くわ
れたので、わたしの喜びはいよいよ増し加わったのである。 八そこで、たと
てがみ かな く
い、あの手紙であなたがたを悲しませたとしても、わたしはそれを悔いてい
てがみ あいだ かな み
ない。あの手紙がしばらくの間ではあるが、あなたがたを悲しませたのを見
く いま よろこ かな
て悔いたとしても、九今は喜んでいる。それは、あなたがたが悲しんだからで
かな く あらた いた
はなく、悲しんで悔い改めるに至ったからである。あなたがたがそのように
かな かみ そ
悲しんだのは、神のみこころに添うたことであって、わたしたちからはなん
そんがい う かみ そ かな く
の損害も受けなかったのである。 一〇神のみこころに添うた悲しみは、悔いの
コリント人への第二の手紙

すくい え くいあらた みちび よ かな し み


ない救を得させる悔 改めに導き、この世の悲しみは死をきたらせる。 一一見
かみ そ かな ねつじょう おこ
よ、神のみこころに添うたその悲しみが、どんなにか熱 情をあなたがたに起
べんめい ぎふん おそ あいぼ ねつい しょばつ いた
させたことか。また、弁明、義憤、恐れ、愛慕、熱意、それから処罰に至ら
もんだい てん けっぱく
せたことか。あなたがたはあの問題については、すべての点において潔白で
しょうめい か
あ る こ と を 証 明 し た の で あ る。 一 二だ か ら、わ た し が あ な た が た に 書 き お
ふ ぎ ひと ふ ぎ う ひと
くったのは、不義をした人のためでも、不義を受けた人のためでもなく、わ
たい ねつじょう かみ まえ あいだ あき
たしたちに対するあなたがたの熱 情が、神の前にあなたがたの間で明らかに

17
なぐさ
なるためである。 一三こういうわけで、わたしたちは慰められたのである。こ
なぐさ うえ よろこ くわ よろこ
れらの慰めの上にテトスの喜びが加わって、わたしたちはなおいっそう喜ん
かれ いちどう あんしん
だ。彼があなたがた一同によって安心させられたからである。 一四そして、わ
かれ たい すこ ほこ はじ
たしは彼に対してあなたがたのことを少しく誇ったが、それはわたしの恥に
しんじつ かた
ならないですんだ。あなたがたにいっさいのことを真実に語ったように、テ
たい ほこ しんじつ かれ
トスに対して誇ったことも真実となってきたのである。 一五また彼は、あなた
いちどう じゅうじゅん じぶん むか おも
がた一同が従 順であって、おそれおののきつつ自分を迎えてくれたことを思
だ こころ ほう よ
い出して、ますます心をあなたがたの方に寄せている。 一六わたしは、あなた
まった しんらい よろこ
がたに全く信頼することができて、 喜んでいる。
コリント人への第二の手紙

第八章
きょうだい しょきょうかい あた かみ
一 兄 弟たちよ。わたしたちはここで、マケドニヤの諸 教 会に与えられた神
めぐ し かれ かんなん はげ
の恵みを、あなたがたに知らせよう。 二すなわち、彼らは、患難のために激し
しれん み よろこ きょくど まず
い試錬をうけたが、その満ちあふれる喜びは、極度の貧しさにもかかわらず、
で お ほどこ とみ
あふれ出て惜しみなく施す富となったのである。 三わたしはあかしするが、

18
かれ ちから おう いな ちからいじょう ほどこ みずか すす せいと
彼らは力に応じて、否、力 以上に施しをした。すなわち、自ら進んで、四聖徒
ほうし くわ めぐ ねっしん ねが で
たちへの奉仕に加わる恵みにあずかりたいと、わたしたちに熱心に願い出て、
きぼう じぶんじしん かみ
五 わたしたちの希望どおりにしたばかりか、自分自身をまず、神のみこころに
しゅ
したがって、主にささげ、また、わたしたちにもささげたのである。 六そこで、
ぼきん ところ はじ いじょう かんせい
この募金をテトスがあなたがたの所で、すでに始めた以上、またそれを完成
かれ すす
するようにと、わたしたちは彼に勧めたのである。 七さて、あなたがたがあら
こと と しんこう ことば ちしき
ゆる事がらについて富んでいるように、すなわち、信仰にも言葉にも知識に
ねつじょう たい あい と
も、あらゆる熱 情にも、また、あなたがたに対するわたしたちの愛にも富ん
めぐ と い
でいるように、この恵みのわざにも富んでほしい。 八こう言っても、わたしは
コリント人への第二の手紙

めいれい た ひと ねつじょう あい
命令するのではない。ただ、他の人たちの熱 情によって、あなたがたの愛の
じゅんしん しゅ
純 真さをためそうとするのである。 九あなたがたは、わたしたちの主イエス・
めぐ し しゅ と
キリストの恵みを知っている。すなわち、主は富んでおられたのに、あなた
まず かれ まず
がたのために貧しくなられた。それは、あなたがたが、彼の貧しさによって
と もの めぐ
富む者になるためである。 一〇そこで、わたしは、この恵みのわざについて
いけん の えき
意見を述べよう。それがあなたがたの益になるからである。あなたがたはこ
こと さくねん い ら い た さき じっこう ねが
の事を、昨年以来、他に先んじて実行したばかりではなく、それを願ってい

19
いま こころ ねが
た。 一一だから今、それをやりとげなさい。あなたがたが心から願っているよ
も おう こころ
うに、持っているところに応じて、それをやりとげなさい。 一二もし心から
ねが も も
願ってそうするなら、持たないところによらず、持っているところによって、
かみ う ひとびと らく
神に受けいれられるのである。 一三それは、ほかの人々に楽をさせて、あなた
くろう も もの ひと
がたに苦労をさせようとするのではなく、持ち物を等しくするためである。 一
いま ばあい よゆう ひと けつぼう おぎな のち
四 すなわち、今の場合は、あなたがたの余裕があの人たちの欠乏を補い、後に
かれ よゆう けつぼう おぎな ひと
は、彼らの余裕があなたがたの欠乏を補い、こうして等しくなるようにする
おお え もの あま すこ え もの
のである。 一五それは﹁多く得た者も余ることがなく、少ししか得なかった者
た か
も足りないことはなかった﹂と書いてあるとおりである。
コリント人への第二の手紙

たい も おな ねつじょう こころ あた
一六 わたしがあなたがたに対して持っている同じ熱 情を、テトスの心にも与
くだ かみ かんしゃ かれ すす う さら
えて下さった神に感謝する。 一七彼はわたしの勧めを受けいれ、そして更に
ねっしん じぶん すす い
熱心になって、自分から進んであなたがたのところに行った。 一八わたしたち
いっしょ きょうだい おく きょうだい ふくいんせんでん うえ
はまた、テトスと一緒に、ひとりの兄 弟を送る。この兄 弟が福音宣伝の上で
え きょうかい きこ かれ しゅ じしん
得たほまれは、すべての教 会に聞えているが、 一九そのうえ、彼は、主ご自身
えいこう こうい しめ ほね お
の栄光があらわれるため、また、わたしたちの好意を示すために、骨を折っ
おく もの あつ どうはんしゃ しょきょうかい えら
て贈り物を集めているわたしたちの同伴者として、諸 教 会から選ばれたので

20
あつ き ふ きん
ある。 二〇そうしたのは、わたしたちが集めているこの寄附金のことについ
ひと い さ しゅ
て、人にかれこれ言われるのを避けるためである。 二一わたしたちは、主のみ
ひと まえ こうせい き くば
まえばかりではなく、人の前でも公正であるように、気を配っているのであ
きょうだい かれ いっしょ おく おお
る。 二二また、もうひとりの兄 弟を彼らと一緒に送る。わたしたちは、多くの
こと かれ ねっしん みと かれ いま
事について彼が熱心であったことを、たびたび認めた。彼は今、あなたがた
ひじょう しんらい ねっしん い
を非常に信頼して、ますます熱心になっている。 二三テトスについて言えば、
かれ なかま たい きょうりょくしゃ
彼はわたしの仲間であり、あなたがたに対するわたしの協 力 者である。こ
きょうだい い かれ しょきょうかい し しゃ えいこう
の兄 弟たちについて言えば、彼らは諸 教 会の使者、キリストの栄光である。
あい
二四 だから、あなたがたの愛と、また、あなたがたについてわたしたちがいだ
コリント人への第二の手紙

ほこり しんじつ しょきょうかい まえ かれ


いている誇とが、真実であることを、諸 教 会の前で彼らにあかししていただ
きたい。
第九章
せいと たい えんじょ か ひつよう
一 聖徒たちに対する援助については、いまさら、あなたがたに書きおくる必要
こうい し
はない。 二わたしは、あなたがたの好意を知っており、そのために、あなたが

21
ひとびと ほこ さくねん い ら い じゅんび
たのことをマケドニヤの人々に誇って、アカヤでは昨年以来、すでに準備を
い ねっしん おお ひと ふんき
しているのだと言った。そして、あなたがたの熱心は、多くの人を奮起させ
きょうだい おく
たのである。 三わたしが兄 弟たちを送ることにしたのは、あなたがたについ
ほこ ばあい い
てわたしたちの誇ったことが、この場合むなしくならないで、わたしが言っ
じゅんび まんいち
たとおり準備していてもらいたいからである。 四そうでないと、万一マケド
びと いっしょ い じゅんび み
ニヤ人がわたしと一緒に行って、準備ができていないのを見たら、あなたが
しん はじ
たはもちろん、わたしたちも、かように信じきっていただけに、恥をかくこ
きょうだい うなが ところ さき い
とになろう。 五だから、わたしは兄 弟たちを促して、あなたがたの所へ先に行
いぜん やくそく おく もの じゅんび ひつよう
かせ、以前あなたがたが約束していた贈り物の準備をさせておくことが必要
コリント人への第二の手紙

おも こころ ようい
だと思った。それをしぶりながらではなく、 心をこめて用意していてほし
い。
かんが すこ もの すこ か と
六 わたしの考えはこうである。少ししかまかない者は、少ししか刈り取らず、
ゆた もの ゆた か と かくじ お こころ
豊かにまく者は、豊かに刈り取ることになる。 七各自は惜しむ心からでなく、
みずか こころ き かみ よろこ
また、しいられてでもなく、 自ら心で決めたとおりにすべきである。神は喜
ほどこ ひと あい くだ かみ めぐ ゆた
んで施す人を愛して下さるのである。 八神はあなたがたにあらゆる恵みを豊
あた つね み た よ
かに与え、あなたがたを常にすべてのことに満ち足らせ、すべての良いわざ

22
と ちから
に富ませる力のあるかたなのである。
かれ まず ひと ち あた
﹁彼は貧しい人たちに散らして与えた。

ぎ えいえん つづ
その義は永遠に続くであろう﹂
か たね ひと たね た そな
と書いてあるとおりである。 一〇種まく人に種と食べるためのパンとを備え
くだ たね そな
て下さるかたは、あなたがたにも種を備え、それをふやし、そしてあなたが
ぎ み ま くだ
たの義の実を増して下さるのである。 一一こうして、あなたがたはすべてのこ
ゆた お ほどこ ほどこ て おこな
とに豊かになって、惜しみなく施し、その施しはわたしたちの手によって行
かみ かんしゃ いた えんじょ はたら せいと
われ、神に感謝するに至るのである。 一二なぜなら、この援助の働きは、聖徒
けつぼう おぎな かみ たい おお かんしゃ ゆた
たちの欠乏を補えだけではなく、神に対する多くの感謝によってますます豊
コリント人への第二の手紙

えんじょ おこな けっ か
かになるからである。 一三すなわち、この援助を行 った結果として、あなたが
ふくいん こくはく たい じゅうじゅん かれ
たがキリストの福音の告白に対して従 順であることや、彼らにも、すべての
ひと お ほどこ かれ かみ えいこう
人にも、惜しみなく施しをしていることがわかってきて、彼らは神に栄光を
き たま ゆた かみ めぐ
帰し、一四そして、あなたがたに賜わったきわめて豊かな神の恵みのゆえに、あ
した いの い たまもの
なたがたを慕い、あなたがたのために祈るのである。 一五言いつくせない賜物
かみ かんしゃ
のゆえに、神に感謝する。

23
第一〇章
あいだ めん む はな
一 さて、﹁あなたがたの間にいて面と向かってはおとなしいが、離れていると、
き つよ やさ かんだい
気が強くなる﹂このパウロが、キリストの優しさ、寛大さをもって、あなた
すす にく したが ある おも
がたに勧める。 二わたしたちを肉に従 って歩いているかのように思っている
ひとびと たい ゆうかん こうどう ところ
人々に対しては、わたしは勇敢に行動するつもりであるが、あなたがたの所
おも
では、どうか、そのような思いきったことをしないですむようでありたい。 三
にく ある にく したが たたか
わたしたちは、肉にあって歩いてはいるが、肉に従 って戦 っているのではな
たたか ぶ き にく かみ ようさい
い。 四わたしたちの戦いの武器は、肉のものではなく、神のためには要塞をも
コリント人への第二の手紙

はかい ちから ぎろん やぶ


破壊するほどの力あるものである。わたしたちはさまざまな議論を破り、 五
かみ ち え さか た しょうがいぶつ う おも
神の知恵に逆らって立てられたあらゆる障 害 物を打ちこわし、すべての思い
ふくじゅう かんぜん ふくじゅう
をとりこにしてキリストに服 従させ、 六そして、あなたがたが完全に服 従し
とき ふ じゅうじゅん もの しょばつ ようい
た時、すべて不 従 順な者を処罰しようと、用意しているのである。
こと み ひと ぞく
七 あなたがたは、うわべの事だけを見ている。もしある人が、キリストに属す
もの じにん ひと いちど はんせい
る者だと自任しているなら、その人はもう一度よく反省すべきである。その
ひと ぞく もの
人がキリストに属する者であるように、わたしたちもそうである。 八たとい、

24
たお たか しゅ たま
あなたがたを倒すためではなく高めるために主からわたしたちに賜わった
けんい ほこ はじ
権威について、わたしがやや誇りすぎたとしても、恥にはなるまい。 九ただ、
てがみ おも
わたしは、手紙であなたがたをおどしているのだと、思われたくはない。 一〇
ひと い かれ てがみ おもみ ちからづよ あ み がいけん よわ
人は言う、﹁彼の手紙は重味があって力 強いが、会って見ると外見は弱々し
はなし ひと こころえ
く、 話はつまらない﹂。 一一そういう人は心得ているがよい。わたしたちは、
はな か てがみ ことば いっしょ とき おな
離れていて書きおくる手紙の言葉どおりに、一緒にいる時でも同じようにふ
じ こ すいせん ひとびと じぶん どうれつ
るまうのである。 一二わたしたちは、自己推薦をするような人々と自分を同列
ひかく かれ なかまどうし たがい あ たがい
においたり比較したりはしない。彼らは仲間同志で互にはかり合ったり、互
くら あ ち え
に比べ合ったりしているが、知恵のないしわざである。 一三しかし、わたした
コリント人への第二の手紙

げんど ほこ かみ わ あ くだ
ちは限度をこえて誇るようなことはしない。むしろ、神が割り当てて下さっ
ちいき げんどない ほこ げんど
た地域の限度内で誇るにすぎない。わたしはその限度にしたがって、あなた
ところ い ところ い
がたの所まで行ったのである。 一四わたしたちは、あなたがたの所まで行けな
もの て の じじつ
い者であるかのように、むりに手を延ばしているのではない。事実、わたし
さいしょ ふくいん たずさ ところ い
たちが最初にキリストの福音を携えて、あなたがたの所までも行ったのであ
げんど たにん はたら ほこ
る。 一五わたしたちは限度をこえて、他人の働きを誇るようなことはしない。
しんこう せいちょう はたら はんい
ただ、あなたがたの信仰が成 長するにつれて、わたしたちの働きの範囲があ

25
なか おお のぞ
なたがたの中でますます大きくなることを望んでいる。 一六こうして、わたし
ひと ちいき ほこ
たちはほかの人の地域ですでになされていることを誇ることはせずに、あな
こ ふくいん の つた ほこ もの しゅ ほこ
たがたを越えたさきざきにまで、福音を宣べ伝えたい。 一七誇る者は主を誇る
じぶん じぶん すいせん ひと しゅ すいせん ひと
べきである。 一八自分で自分を推薦する人ではなく、主に推薦される人こそ、
たし ひと
確かな人なのである。
第一一章
すこ おろ い しの
一 わたしが少しばかり愚かなことを言うのを、どうか、忍んでほしい。もちろ
コリント人への第二の手紙

しの かみ ねつじょう ねつあい
ん忍んでくれるのだ。 二わたしは神の熱 情をもって、あなたがたを熱愛して
だんし
いる。あなたがたを、きよいおとめとして、ただひとりの男子キリストにさ
こんやく おそ わるだく
さげるために、婚約させたのである。 三ただ恐れるのは、エバがへびの悪巧み
ゆうわく おも けが たい じゅんじょう
で誘惑されたように、あなたがたの思いが汚されて、キリストに対する純 情
ていそう うしな ひと
と貞操とを失いはしないかということである。 四というのは、もしある人が
の つた こと の つた
きて、わたしたちが宣べ伝えもしなかったような異なるイエスを宣べ伝え、あ
う ちが れい う う
るいは、あなたがたが受けたことのない違った霊を受け、あるいは、受けい

26
ちが ふくいん き ばあい しの
れたことのない違った福音を聞く場合に、あなたがたはよくもそれを忍んで
じじつ だ い し と おと おも
いる。 五事実、わたしは、あの大使徒たちにいささかも劣ってはいないと思
べんぜつ ちしき こと
う。 六たとい弁舌はつたなくても、知識はそうでない。わたしは、事ごとに、
ばあい たい あき
いろいろの場合に、あなたがたに対してそれを明らかにした。
たか じぶん ひく かみ ふくいん あたい
七 それとも、あなたがたを高めるために自分を低くして、神の福音を価なしに
の つた つみ た しょ
あ な た が た に 宣 べ 伝 え た こ と が、罪 に な る の だ ろ う か。 八わ た し は 他 の 諸
きょうかい い え かね ほうし
教 会をかすめたと言われながら得た金で、あなたがたに奉仕し、 九あなたが
ところ びんぼう とき ふたん
たの所にいて貧乏をした時にも、だれにも負担をかけたことはなかった。わ
けつぼう きょうだい おぎな
たしの欠乏は、マケドニヤからきた兄 弟たちが、 補 ってくれた。こうして、
コリント人への第二の手紙

こと おもに お つと
わたしはすべての事につき、あなたがたに重荷を負わせまいと努めてきたし、
こんご つと うち しんじつ い ほこり
今後も努めよう。 一〇わたしの内にあるキリストの真実にかけて言う、この誇
ちほう ふう けっ
がアカヤ地方で封じられるようなことは、決してない。 一一なぜであるか。わ
あい かみ ぞん
たしがあなたがたを愛していないからか。それは、神がご存じである。
げんざい こんご
一二 しかし、わたしは、現在していることを今後もしていこう。それは、わた
おな ほこ た ば え きかい もの
したちと同じように誇りうる立ち場を得ようと機会をねらっている者どもか
きかい た き ひとびと し と
ら、その機会を断ち切ってしまうためである。 一三こういう人々はにせ使徒、

27
ひと はたら びと し と ぎそう
人をだます働き人であって、キリストの使徒に擬装しているにすぎないから
おどろ およ ひかり てんし ぎそう
である。 一四しかし、 驚くには及ばない。サタンも光の天使に擬装するのだ
て した ぎ ほうししゃ ぎそう
から。 一五だから、たといサタンの手下どもが、義の奉仕者のように擬装した
ふ し ぎ かれ さいご あ
としても、不思議ではない。彼らの最期は、そのしわざに合ったものとなろ
う。
く かえ い おろ もの おも
一六 繰り返して言うが、だれも、わたしを愚か者と思わないでほしい。もしそ
おも おろ もの すこ ほこ
う思うなら、愚か者あつかいにされてもよいから、わたしにも、少し誇らせ
い しゅ い おろ もの
てほしい。 一七いま言うことは、主によって言うのではなく、愚か者のように、
じぶん ほこり しん い おお ひと にく
自分の誇とするところを信じきって言うのである。 一八多くの人が肉によっ
コリント人への第二の手紙

ほこ ほこ かしこ ひと
て誇っているから、わたしも誇ろう。 一九あなたがたは賢い人たちなのだか
よろこ おろ もの しの じっさい どれい
ら、喜んで愚か者を忍んでくれるだろう。 二〇実際、あなたがたは奴隷にされ
く たお りゃくだつ かお
ても、食い倒されても、略 奪されても、いばられても、顔をたたかれても、そ
しの い は よわ
れを忍んでいる。 二一言うのも恥ずかしいことだが、わたしたちは弱すぎたの
ひと ほこ おろ もの い
だ。もしある人があえて誇るなら、わたしは愚か者になって言うが、わたし
ほこ かれ びと かれ
もあえて誇ろう。 二二彼らはヘブル人なのか。わたしもそうである。彼らは
びと かれ しそん
イ ス ラ エ ル 人 な の か。わ た し も そ う で あ る。彼 ら は ア ブ ラ ハ ム の 子孫 な の

28
かれ しもべ き
か。わ た し も そ う で あ る。 二 三彼 ら は キ リ ス ト の 僕 な の か。わ た し は 気 が
くる い かれ いじょう くろう
狂ったようになって言う、わたしは彼ら以上にそうである。苦労したことは
おお とうごく おお う
もっと多く、投獄されたことももっと多く、むち打たれたことは、はるかに
し めん じん
おびただしく、死に面したこともしばしばあった。 二四ユダヤ人から四十に一
た う ど じん う
つ足りないむちを受けたことが五度、二五ローマ人にむちで打たれたことが三
ど いし う いちど なんせん ど いっちゅうや うみ
度、石で打たれたことが一度、難船したことが三度、そして、一昼夜、海の
うえ ただよ いく たび かわ なん とうぞく なん どうこくみん なん
上を漂 ったこともある。 二六幾たびも旅をし、川の難、盗賊の難、同国民の難、
いほうじん なん とかい なん あらの なん かいじょう なん きょうだい なん あ ろう
異邦人の難、都会の難、荒野の難、海 上の難、にせ兄 弟の難に会い、 二七労し
くる ねむ よる す う しょくもつ さむ
苦しみ、たびたび眠られぬ夜を過ごし、飢えかわき、しばしば食 物がなく、寒
コリント人への第二の手紙

こご はだか こと ほか ひ び
さに凍え、裸でいたこともあった。 二八なおいろいろの事があった外に、日々
せま く しょきょうかい しんぱい よわ
わ た し に 迫 っ て 来 る 諸 教 会 の 心配 ご と が あ る。 二九だ れ か が 弱 っ て い る の
よわ つみ おか
に、わたしも弱らないでおれようか。だれかが罪を犯しているのに、わたし
こころ も ほこ
の心が燃えないでおれようか。 三〇もし誇らねばならないのなら、わたしは
じぶん よわ ほこ えいえん しゅ ちち かみ
自分の弱さを誇ろう。 三一永遠にほむべき、主イエス・キリストの父なる神は、
いつわ い ぞん
わたしが偽りを言っていないことを、ご存じである。
おう だいかん とら びと まち
三二 ダマスコでアレタ王の代官が、わたしを捕えるためにダマスコ人の町を

29
かんし とき まど まち じょうへき
監視したことがあったが、三三その時わたしは窓から町の城 壁づたいに、かご
お かれ て
でつり降ろされて、彼の手からのがれた。
第一二章
ほこ え むえき しゅ けいじ
一 わたしは誇らざるを得ないので、無益ではあろうが、主のまぼろしと啓示と
かた ひと し
について語ろう。 二わたしはキリストにあるひとりの人を知っている。この
ひと ねんまえ だい てん ひ あ
人は十四年前に第三の天にまで引き上げられた︱︱それが、からだのままで
し はな し
あったか、わたしは知らない。からだを離れてであったか、それも知らない。
コリント人への第二の手紙

かみ ぞん ひと
神がご存じである。 三この人が︱︱それが、からだのままであったか、からだ
はな し かみ ぞん
を離れてであったか、わたしは知らない。神がご存じである︱︱ 四パラダイ
ひ あ くち い あら にんげん かた ことば
スに引き上げられ、そして口に言い表わせない、人間が語ってはならない言葉
き し ひと ほこ
を聞いたのを、わたしは知っている。 五わたしはこういう人について誇ろう。
じしん じぶん よわ いがい ほこ
しかし、わたし自身については、自分の弱さ以外には誇ることをすまい。 六
ほこ こと い おろ もの
もっとも、わたしが誇ろうとすれば、ほんとうの事を言うのだから、愚か者
ひか けいじ
にはならないだろう。しかし、それはさし控えよう。わたしがすぐれた啓示

30
う み き いじょう ひと か
を受けているので、わたしについて見たり聞いたりしている以上に、人に買
し こうまん
いかぶられるかも知れないから。 七そこで、高慢にならないように、わたしの
にくたい あた こうまん
肉体に一つのとげが与えられた。それは、高慢にならないように、わたしを
う つかい かれ はな さ
打つサタンの使なのである。 八このことについて、わたしは彼を離れ去らせ
くだ ど しゅ いの しゅ い
て下さるようにと、三度も主に祈った。 九ところが、主が言われた、
﹁わたし
めぐ たい じゅうぶん ちから よわ かんぜん
の恵みはあなたに対して十 分である。わたしの力は弱いところに完全にあ
ちから やど よろこ
らわれる﹂。それだから、キリストの力がわたしに宿るように、むしろ、喜ん
じぶん よわ ほこ よわ
で自分の弱さを誇ろう。 一〇だから、わたしはキリストのためならば、弱さと、
ぶじょく き き はくがい ゆ づ あま
侮辱と、危機と、迫害と、行き詰まりとに甘んじよう。なぜなら、わたしが
コリント人への第二の手紙

よわ とき つよ
弱い時にこそ、わたしは強いからである。
おろ もの
一一 わたしは愚か者となった。あなたがたが、むりにわたしをそうしてしまっ
じっさい すいせん
たのだ。実際は、あなたがたから推薦されるべきであった。というのは、た
と た もの だ い し と おと
といわたしは取るに足りない者だとしても、あの大使徒たちにはなんら劣る
し と じつ きせき ちから
ところがないからである。 一二わたしは、使徒たるの実を、しるしと奇跡と力
にんたい あいだ
あるわざとにより、忍耐をつくして、あなたがたの間であらわしてきた。 一三
た きょうかい てん なに
いったい、あなたがたが他の教 会よりも劣っている点は何か。ただ、このわ

31
ふたん ふ ぎ
たしがあなたがたに負担をかけなかったことだけではないか。この不義は、
どうか、ゆるしてもらいたい。
いま ど め ところ ゆ ようい
一四 さて、わたしは今、三度目にあなたがたの所に行く用意をしている。しか
ふたん もと
し、負担はかけないつもりである。わたしの求めているのは、あなたがたの
も もの じしん こども おや
持ち物ではなく、あなたがた自身なのだから。いったい、子供は親のために
お ひつよう おや こども お
財をたくわえて置く必要はなく、親が子供のためにたくわえて置くべきであ
たましい おお よろこ ひよう つか
る。 一五そこでわたしは、あなたがたの魂のためには、大いに喜んで費用を使
じしん つか あい あい
い、また、わたし自身をも使いつくそう。わたしがあなたがたを愛すれば愛
あい
するほど、あなたがたからますます愛されなくなるのであろうか。 一六わたし
コリント人への第二の手紙

おもに お わる
は、あなたがたに重荷を負わせなかったとしても、悪がしこくて、あなたが
と ひと い
たからだまし取ったのだと、人は言う。 一七わたしは、あなたがたにつかわし
ひと と
た人たちのうちのだれかをとおして、あなたがたからむさぼり取っただろう
すす い きょうだい どうこう
か。 一八わたしは、テトスに勧めてそちらに行かせ、また、かの兄 弟を同行さ

せた。テトスは、あなたがたからむさぼり取ったことがあろうか。わたした
おな こころ ある おな あし な ある
ちは、みな同じ心で歩いたではないか。同じ足並みで歩いたではないか。
たい べんめい
一九 あなたがたは、わたしたちがあなたがたに対して弁明をしているのだと、

32
いま おも かみ
今までずっと思ってきたであろう。しかし、わたしたちは、神のみまえでキ
かた あい もの
リストにあって語っているのである。愛する者たちよ。これらすべてのこと
とく たか しんぱい
は、あなたがたの徳を高めるためなのである。 二〇わたしは、こんな心配をし
い ねが
ている。わたしが行ってみると、もしかしたら、あなたがたがわたしの願っ
もの ねが もの
ているような者ではなく、わたしも、あなたがたの願っているような者でな
あらそ いか とうはしん
いことになりはすまいか。もしかしたら、 争い、ねたみ、怒り、党派心、そ
こうまん そうらん ふたた
しり、ざんげん、高慢、騒乱などがありはすまいか。 二一わたしが再びそちら
い ばあい かみ まえ はじ
に行った場合、わたしの神が、あなたがたの前でわたしに恥をかかせ、その
うえ おお ひと まえ つみ おか けが ふひんこう こうしょく く
上、多くの人が前に罪を犯していながら、その汚れと不品行と好 色とを悔い
コリント人への第二の手紙

あらた かな
改めていないので、わたしを悲しませることになりはすまいか。
第一三章
いま ど め ところ い こと
一 わたしは今、三度目にあなたがたの所に行こうとしている。すべての事が
にん しょうにん しょうげん かくてい まえ つみ
らは、ふたりか三人の証 人の証 言によって確定する。 二わたしは、前に罪を
おか もの た ひとびと ど め たいざい けいこく
犯した者たちやその他のすべての人々に、二度目に滞在していたとき警告し

33
はな いま い こんど い とき けっ
ておいたが、離れている今またあらかじめ言っておく。今度行った時には、決
ようしゃ
して容赦はしない。 三なぜなら、あなたがたが、キリストのわたしにあって
かた しょうこ もと
語っておられるという証拠を求めているからである。キリストは、あなたが
たい よわ つよ
たに対して弱くはなく、あなたがたのうちにあって強い。 四すなわち、キリス
よわ じゅうじか かみ ちから い
トは弱さのゆえに十字架につけられたが、神の力によって生きておられるの
よわ もの
である。このように、わたしたちもキリストにあって弱い者であるが、あな
たい かみ ちから とも い
たがたに対しては、神の力によって、キリストと共に生きるのである。 五あな
しんこう じぶん はんせい じぶん ぎんみ
たがたは、はたして信仰があるかどうか、自分を反省し、自分を吟味するが
さと
よい。それとも、イエス・キリストがあなたがたのうちにおられることを、悟
コリント人への第二の手紙

さと み す
らないのか。もし悟らなければ、あなたがたは、にせものとして見捨てられ
じぶん み す もの し
る。 六しかしわたしは、自分たちが見捨てられた者ではないことを、知ってい
あく おこな
てもらいたい。 七わたしたちは、あなたがたがどんな悪をも行わないように
かみ いの じぶん もの み
と、神に祈る。それは、自分たちがほんとうの者であることを見せるためで
み す もの
はなく、たといわたしたちが見捨てられた者のようになっても、あなたがた
よ おこな しんり さか
に良い行いをしてもらいたいためである。 八わたしたちは、真理に逆らって
なに ちから しんり ちから じぶん よわ
は何をする力もなく、真理にしたがえば力がある。 九わたしたちは、自分は弱

34
つよ よろこ とく いの
くても、あなたがたが強ければ、それを喜ぶ。わたしたちが特に祈るのは、あ
かんぜん よ はな
なたがたが完全に良くなってくれることである。 一〇こういうわけで、離れて
いじょう か ところ い
いて以上のようなことを書いたのは、わたしがあなたがたの所に行ったとき、
たお たか しゅ さず くだ けんい もち
倒すためではなく高めるために主が授けて下さった権威を用いて、きびしい
しょ ち ひつよう
処置をする必要がないようにしたいためである。
さいご きょうだい よろこ まった もの たがい はげ
一一 最後に、兄 弟たちよ。いつも喜びなさい。 全き者となりなさい。 互に励
あ おも へいわ す
ま し 合 い な さ い。思 い を 一 つ に し な さ い。平和 に 過 ご し な さ い。そ う す れ
あい へいわ かみ とも くだ せっぷん
ば、愛と平和の神があなたがたと共にいて下さるであろう。 一二きよい接吻を
たがい せいと いちどう
もって互にあいさつをかわしなさい。聖徒たち一同が、あなたがたによろし
コリント人への第二の手紙

く。
しゅ めぐ かみ あい せいれい まじ
一三 主イエス・キリストの恵みと、神の愛と、聖霊の交わりとが、あなたがた
いちどう とも
一同と共にあるように。

35
びと てがみ
ガラテヤ人への手紙
第一章
ひとびと ひと かれ しにん なか
一 人々からでもなく、人によってでもなく、イエス・キリストと彼を死人の中
ちち かみ た し と
からよみがえらせた父なる神とによって立てられた使徒パウロ、 二ならびに
とも きょうだい いちどう しょきょうかい
わたしと共にいる兄 弟たち一同から、ガラテヤの諸 教 会へ。
ちち かみ しゅ めぐ へいあん
三 わたしたちの父なる神と主イエス・キリストから、恵みと平安とが、あなた
ちち かみ みむね したが
がたにあるように。 四キリストは、わたしたちの父なる神の御旨に従い、わた
いま あく よ すく だ じしん つみ
したちを今の悪の世から救い出そうとして、ご自身をわたしたちの罪のため
えいこう よ よ かぎ かみ
にささげられたのである。 五栄光が世々限りなく神にあるように、アァメン。
ガラテヤ人への手紙

はや めぐ うち まね
六 あなたがたがこんなにも早く、あなたがたをキリストの恵みの内へお招き
はな ちが ふくいん お ふ し ぎ
になったかたから離れて、違った福音に落ちていくことが、わたしには不思議
ふくいん しゅ ひとびと
でならない。 七それは福音というべきものではなく、ただ、ある種の人々があ
みだ ふくいん ま
なたがたをかき乱し、キリストの福音を曲げようとしているだけのことであ

0
てん みつかい
る。 八しかし、たといわたしたちであろうと、天からの御使であろうと、わた
の つた ふくいん はん の つた
したちが宣べ伝えた福音に反することをあなたがたに宣べ伝えるなら、その
ひと まえ い いま
人はのろわるべきである。 九わたしたちが前に言っておいたように、今わた
かさ い ひと う ふくいん はん
しは重ねて言う。もしある人が、あなたがたの受けいれた福音に反すること
の つた ひと
を宣べ伝えているなら、その人はのろわるべきである。
いま ひと よろこ かみ よろこ
一〇 今わたしは、人に喜ばれようとしているのか、それとも、神に喜ばれよう
ひと かんしん か つと いま
としているのか。あるいは、人の歓心を買おうと努めているのか。もし、今
ひと かんしん か しもべ
もなお人の歓心を買おうとしているとすれば、わたしはキリストの僕ではあ
るまい。
きょうだい い の つた
一一 兄 弟たちよ。あなたがたに、はっきり言っておく。わたしが宣べ伝えた
ふくいん にんげん にんげん う
福音は人間によるものではない。 一二わたしは、それを人間から受けたのでも
ガラテヤ人への手紙

おし けいじ
教えられたのでもなく、ただイエス・キリストの啓示によったのである。 一三
きょう しん こうどう
ユダヤ 教を信じていたころのわたしの行動については、あなたがたはすでに
き はげ かみ きょうかい はくがい あら
よく聞いている。すなわち、わたしは激しく神の教 会を迫害し、また荒しま
どうこくじん なか どうねんぱい おお もの
わっていた。 一四そして、同国人の中でわたしと同年輩の多くの者にまさって
きょう しょうじん せんぞ いいつた たい ねっしん
ユダヤ 教に精 進し、先祖たちの言伝えに対して、だれよりもはるかに熱心で

1
はは たいない とき せいべつ めぐ
あった。 一五ところが、母の胎内にある時からわたしを聖別し、み恵みをもっ
め いほうじん あいだ の つた
てわたしをお召しになったかたが、 一六異邦人の間に宣べ伝えさせるために、
み こ うち けいじ くだ とき ただ けつにく そうだん
御子をわたしの内に啓示して下さった時、わたしは直ちに、血肉に相談もせ
せんぱい し と あ のぼ
ず、 一七また先輩の使徒たちに会うためにエルサレムにも上らず、アラビヤに
で い ふたた かえ
出て行った。それから再びダマスコに帰った。
のち ねん のぼ かれ
一八 その後三年たってから、わたしはケパをたずねてエルサレムに上り、彼の
にちかん たいざい しゅ きょうだい いがい
もとに十五日間、滞在した。 一九しかし、主の兄 弟 ヤコブ以外には、ほかのど
し と あ か かみ い
の使徒にも会わなかった。 二〇ここに書いていることは、神のみまえで言う
けっ いつわ のち ちほう
が、決して偽りではない。 二一その後、わたしはシリヤとキリキヤとの地方に
い しょきょうかい かお し
行った。 二二しかし、キリストにあるユダヤの諸 教 会には、顔を知られていな
かれ じぶん はくがい もの いぜん ぼくめつ
かった。 二三ただ彼らは、
﹁かつて自分たちを迫害した者が、以前には撲滅しよ
ガラテヤ人への手紙

しんこう いま の つた き
うとしていたその信仰を、今は宣べ伝えている﹂と聞き、二四わたしのことで、
かみ
神をほめたたえた。

2
第二章
のち ねん いっしょ つ
一 その後十四年たってから、わたしはバルナバと一緒に、テトスをも連れて、
ふたた のぼ のぼ けいじ
再びエルサレムに上った。 二そこに上ったのは、啓示によってである。そし
いほうじん あいだ の つた ふくいん ひとびと しめ おも ひと
て、わたしが異邦人の間に宣べ伝えている福音を、人々に示し、
﹁重だった人
こ じ ん てき しめ げん はし
たち﹂には個人的に示した。それは、わたしが現に走っており、またすでに
はし つ
走ってきたことが、むだにならないためである。 三しかし、わたしが連れてい
じん かつれい
たテトスでさえ、ギリシヤ人であったのに、割礼をしいられなかった。 四それ
しの こ きょうだい かれ しの こ
は、忍び込んできたにせ兄 弟らがいたので︱︱彼らが忍び込んできたのは、
も じゆう
キリスト・イエスにあって持っているわたしたちの自由をねらって、わたし
どれい ふくいん しんり
たちを奴隷にするためであった。 五わたしたちは、福音の真理があなたがた
ガラテヤ人への手紙

つね しゅんじ かれ きょうよう くっぷく


のもとに常にとどまっているように、瞬時も彼らの強 要に屈服しなかった。
おも ひと かれ ひと
六 そして、かの﹁重だった人たち﹂からは︱︱彼らがどんな人であったにして
まった もんだい かみ ひと わ へだ
も、それは、わたしには全く問題ではない。神は人を分け隔てなさらないの
じじつ おも ひと なに くわ
だから︱︱事実、かの﹁重だった人たち﹂は、わたしに何も加えることをし
かれ かつれい もの ふくいん
なかった。 七それどころか、彼らは、ペテロが割礼の者への福音をゆだねられ

3
む かつれい もの ふくいん みと
ているように、わたしには無割礼の者への福音がゆだねられていることを認
はたら かつれい もの し と つとめ
め、 八︵というのは、ペテロに働きかけて割礼の者への使徒の務につかせたか
はたら いほうじん くだ
たは、わたしにも働きかけて、異邦人につかわして下さったからである︶、 九
たま めぐ し はしら おも
かつ、わたしに賜わった恵みを知って、 柱として重んじられているヤコブと
まじ て さ の
ケパとヨハネとは、わたしとバルナバとに、交わりの手を差し伸べた。そこ
いほうじん い かれ かつれい もの い
で、わたしたちは異邦人に行き、彼らは割礼の者に行くことになったのであ
まず ひとびと
る。 一〇ただ一つ、わたしたちが貧しい人々をかえりみるようにとのことで
こと おお つと
あったが、わたしはもとより、この事のためにも大いに努めてきたのである。
かれ ひなん
一一 ところが、ケパがアンテオケにきたとき、彼に非難すべきことがあったの
めん かれ
で、わたしは面とむかって彼をなじった。 一二というのは、ヤコブのもとから
ひとびと く かれ いほうじん しょく とも かれ
ある人々が来るまでは、彼は異邦人と食を共にしていたのに、彼らがきてか
ガラテヤ人への手紙

かつれい もの おそ み ひ はな い
らは、割礼の者どもを恐れ、しだいに身を引いて離れて行ったからである。 一
じん かれ とも ぎぜん こうい
三 そして、ほかのユダヤ人たちも彼と共に偽善の行為をし、バルナバまでがそ
ぎぜん ひ こ かれ ふくいん しんり したが
のような偽善に引きずり込まれた。 一四彼らが福音の真理に従 ってまっすぐ
ある み しゅうじん めんぜん い
に歩いていないのを見て、わたしは衆 人の面前でケパに言った、
﹁あなたは、
じん じぶんじしん じん せいかつ いほうじん
ユダヤ人であるのに、自分自身はユダヤ人のように生活しないで、異邦人の

4
せいかつ いほうじん じん
ように生活していながら、どうして異邦人にユダヤ人のようになることをし
いるのか﹂。
うま じん いほうじん つみびと
一五 わたしたちは生れながらのユダヤ人であって、異邦人なる罪人ではない
ひと ぎ りっぽう おこな
が、 一六人の義とされるのは律法の行いによるのではなく、ただキリスト・イ
しん しんこう みと しん
エスを信じる信仰によることを認めて、わたしたちもキリスト・イエスを信
りっぽう おこな しん しんこう
じたのである。それは、律法の行いによるのではなく、キリストを信じる信仰
ぎ りっぽう おこな
によって義とされるためである。なぜなら、律法の行いによっては、だれひ
ぎ ぎ
とり義とされることがないからである。 一七しかし、キリストにあって義とさ
もと じしん つみびと
れることを求めることによって、わたしたち自身が罪人であるとされるのな
つみ つか もの だん
ら、キリストは罪に仕える者なのであろうか。断じてそうではない。 一八もし
う ふたた た
わたしが、いったん打ちこわしたものを、 再び建てるとすれば、それこそ、
ガラテヤ人への手紙

じぶん いはんしゃ ひょうめい かみ い


自分が違反者であることを表 明することになる。 一九わたしは、神に生きる
りっぽう りっぽう し とも じゅうじか
ために、律法によって律法に死んだ。わたしはキリストと共に十字架につけ

られた。 二〇生きているのは、もはや、わたしではない。キリストが、わたし
い にく い
のうちに生きておられるのである。しかし、わたしがいま肉にあって生きて
あい じしん かみ み こ
いるのは、わたしを愛し、わたしのためにご自身をささげられた神の御子を

5
しん しんこう い かみ めぐ む
信じる信仰によって、生きているのである。 二一わたしは、神の恵みを無には
ぎ りっぽう え し
しない。もし、義が律法によって得られるとすれば、キリストの死はむだで
あったことになる。
第三章
もの びと じゅうじか
一 ああ、物わかりのわるいガラテヤ人よ。十字架につけられたイエス・キリス
め まえ えが だ
トが、あなたがたの目の前に描き出されたのに、いったい、だれがあなたが
まど こと き
たを惑わしたのか。 二わたしは、ただこの一つの事を、あなたがたに聞いてみ
みたま う りっぽう おこな き
たい。あなたがたが御霊を受けたのは、律法を行 ったからか、それとも、聞
しん もの みたま
いて信じたからか。 三あなたがたは、そんなに物わかりがわるいのか。御霊
ガラテヤ人への手紙

はじ いま にく し あ おお
で 始 め た の に、今 に な っ て 肉 で 仕上 げ る と い う の か。 四あ れ ほ ど の 大 き な
けいけん
経験をしたことは、むだであったのか。まさか、むだではあるまい。 五する
みたま たま ちから あいだ
と、あなたがたに御霊を賜い、力あるわざをあなたがたの間でなされたのは、
りっぽう おこな き しん
律法を行 ったからか、それとも、聞いて信じたからか。
かみ しん かれ ぎ みと
六 このように、アブラハムは﹁神を信じた。それによって、彼は義と認められ

6
しんこう もの こ し
た﹂のである。 七だから、信仰による者こそアブラハムの子であることを、知
せいしょ かみ いほうじん しんこう ぎ
るべきである。 八聖書は、神が異邦人を信仰によって義とされることを、あら
し こくみん しゅくふく
かじめ知って、アブラハムに、
﹁あなたによって、すべての国民は祝 福される
よ し よこく しんこう
であろう﹂との良い知らせを、予告したのである。 九このように、信仰による
もの しんこう ひと とも しゅくふく う
者 は、信仰 の 人 ア ブ ラ ハ ム と 共 に、 祝 福 を 受 け る の で あ る。 一〇い っ た い、
りっぽう おこな もの みな もと りっぽう しょ か
律法の行いによる者は、皆のろいの下にある。﹁律法の書に書いてあるいっさ
まも おこな もの みな か
いのことを守らず、これを行わない者は、皆のろわれる﹂と書いてあるから
りっぽう かみ ぎ もの
である。 一一そこで、律法によっては、神のみまえに義とされる者はひとりも
あき しんこう ぎじん い
ないことが、明らかである。なぜなら、
﹁信仰による義人は生きる﹂からであ
りっぽう しんこう もとづ りっぽう おこな もの
る。 一二律法は信仰に基いているものではない。かえって、﹁律法を行う者は
りっぽう い
律法によって生きる﹂のである。 一三キリストは、わたしたちのためにのろい
ガラテヤ人への手紙

りっぽう だ くだ せいしょ
となって、わたしたちを律法ののろいからあがない出して下さった。聖書に、
き もの か
﹁木にかけられる者は、すべてのろわれる﹂と書いてある。 一四それは、アブラ
う しゅくふく いほうじん およ
ハムの受けた祝 福が、イエス・キリストにあって異邦人に及ぶためであり、
やくそく みたま しんこう う
約束された御霊を、わたしたちが信仰によって受けるためである。
きょうだい よ れい い にんげん ゆいごん
一五 兄 弟 た ち よ。世 の な ら わ し を 例 に と っ て 言 お う。人間 の 遺言 で さ え、

7
さくせい むこう つ くわ
いったん作成されたら、これを無効にしたり、これに付け加えたりすること
やくそく かれ しそん たい
は、だれにもできない。 一六さて、約束は、アブラハムと彼の子孫とに対して
たすう しそん い
なされたのである。それは、多数をさして﹁子孫たちとに﹂と言わずに、ひ
しそん い
とりをさして﹁あなたの子孫とに﹂と言っている。これは、キリストのこと
い い み かみ た
である。 一七わたしの言う意味は、こうである。神によってあらかじめ立てら
けいやく ねん のち りっぽう は き やくそく
れた契約が、四百三十年の後にできた律法によって破棄されて、その約束が
そうぞく りっぽう もとづ
むなしくなるようなことはない。 一八もし相続が、律法に基いてなされるとす
やくそく もとづ じじつ かみ やくそく
れば、もはや約束に基いたものではない。ところが事実、神は約束によって、
そうぞく めぐ たま
相続の恵みをアブラハムに賜わったのである。
りっぽう いはん うなが くわ
一九 それでは、律法はなんであるか。それは違反を促すため、あとから加えら
やくそく しそん く そんぞく
れたのであって、約束されていた子孫が来るまで存続するだけのものであり、
ガラテヤ人への手紙

てんし ちゅうかいしゃ て せいてい


かつ、天使たちをとおし、仲 介 者の手によって制定されたものにすぎない。 二
ちゅうかいしゃ いっぽう ぞく もの かみ
〇 仲 介 者なるものは、一方だけに属する者ではない。しかし、神はひとりで
りっぽう かみ やくそく あい だん
ある。 二一では、律法は神の約束と相いれないものか。断じてそうではない。
ひと い ちから りっぽう あた ぎ りっぽう
もし人を生かす力のある律法が与えられていたとすれば、義はたしかに律法
じつげん やくそく しん ひとびと
によって実現されたであろう。 二二しかし、約束が、信じる人々にイエス・キ

8
たい しんこう あた せいしょ ひと つみ もと
リストに対する信仰によって与えられるために、聖書はすべての人を罪の下
と こ
に閉じ込めたのである。
しんこう あらわ まえ りっぽう もと かんし
二三 しかし、信仰が現れる前には、わたしたちは律法の下で監視されており、や
けいじ しんこう とき と こ りっぽう
がて啓示される信仰の時まで閉じ込められていた。 二四このようにして律法
しんこう ぎ つ ゆ
は、信仰 に よ っ て 義 と さ れ る た め に、わ た し た ち を キ リ ス ト に 連 れ て 行 く
よういくがかり しんこう あらわ いじょう
養 育 掛となったのである。 二五しかし、いったん信仰が現れた以上、わたした
よういくがかり
ちは、もはや養 育 掛のもとにはいない。 二六あなたがたはみな、キリスト・イ
しんこう かみ こ あ
エスにある信仰によって、神の子なのである。 二七キリストに合うバプテスマ
う みな き じん
を受けたあなたがたは、皆キリストを着たのである。 二八もはや、ユダヤ人も
じん どれい じゆうじん おとこ おんな みな
ギリシヤ人もなく、奴隷も自由人もなく、男も女もない。あなたがたは皆、キ
リスト・イエスにあって一つだからである。 二九もしキリストのものであるな
ガラテヤ人への手紙

しそん やくそく そうぞくにん


ら、あなたがたはアブラハムの子孫であり、約束による相続人なのである。
第四章
い い み そうぞくにん こども あいだ ぜんざいさん も
一 わたしの言う意味は、こうである。相続人が子供である間は、全財産の持ち

9
ぬし しもべ さべつ ちちおや さだ じ き かんりにん
主でありながら、僕となんの差別もなく、二父親の定めた時期までは、管理人
こうけんにん かんとく もと お おな
や後見人の監督の下に置かれているのである。 三それと同じく、わたしたち
こども とき よ れいりょく もと しば
も子供であった時には、いわゆるこの世のもろもろの霊 力の下に、縛られて
もの とき み およ かみ み こ おんな うま
いた者であった。 四しかし、時の満ちるに及んで、神は御子を女から生れさ
りっぽう もと うま りっぽう もと
せ、律法の下に生れさせて、おつかわしになった。 五それは、律法の下にある
もの だ こ みぶん さず
者をあがない出すため、わたしたちに子たる身分を授けるためであった。 六
こ かみ こころ なか
このように、あなたがたは子であるのだから、神はわたしたちの心の中に、﹁ア
ちち よ み こ れい おく くだ
バ、父よ﹂と呼ぶ御子の霊を送って下さったのである。 七したがって、あなた
しもべ こ こ いじょう かみ そうぞくにん
がたはもはや僕ではなく、子である。子である以上、また神による相続人で
ある。
かみ し とうじ ほんらいかみ かみがみ どれい
八 神を知らなかった当時、あなたがたは、本来神ならぬ神々の奴隷になってい
ガラテヤ人への手紙

いま かみ し いな かみ し
た。 九しかし、今では神を知っているのに、否、むしろ神に知られているのに、
むりょく ひんじゃく れいりょく ぎゃく
どうして、あの無力で貧 弱な、もろもろの霊 力に逆もどりして、またもや、
あら どれい ひ つき きせつ とし
新たにその奴隷になろうとするのか。 一〇あなたがたは、日や月や季節や年な
まも どりょく
どを守っている。 一一わたしは、あなたがたのために努力してきたことが、あ
しんぱい
るいは、むだになったのではないかと、あなたがたのことが心配でならない。

10
きょうだい ねが
一二 兄 弟たちよ。お願いする。どうか、わたしのようになってほしい。わた

しも、あなたがたのようになったのだから。あなたがたは、一度もわたしに
たい ふ つ ご う し
対して不都合なことをしたことはない。 一三あなたがたも知っているとおり、
さいしょ ふくいん つた にくたい よわ
最初わたしがあなたがたに福音を伝えたのは、わたしの肉体が弱っていたた
にくたい しれん
めであった。 一四そして、わたしの肉体にはあなたがたにとって試錬となるも
いや
のがあったのに、それを卑しめもせず、またきらいもせず、かえってわたし
かみ つかい むか とき
を、神の使かキリスト・イエスかでもあるように、迎えてくれた。 一五その時
かんげき いま い
のあなたがたの感激は、今どこにあるのか。はっきり言うが、あなたがたは、
じぶん め だ
できることなら、自分の目をえぐり出してでも、わたしにくれたかったのだ。
しんり かた てき
一六 それだのに、真理を語ったために、わたしはあなたがたの敵になったのか。
かれ たい ねっしん ぜんい じぶん
一七 彼らがあなたがたに対して熱心なのは、善意からではない。むしろ、自分
ガラテヤ人への手紙

ねっしん ひ はな
らに熱心にならせるために、あなたがたをわたしから引き離そうとしている
ところ とき よ
のである。 一八わたしがあなたがたの所にいる時だけでなく、いつも、良いこ
ねっしん した よ おさ ご
とについて熱心に慕われるのは、良いことである。 一九ああ、わたしの幼な子
うち かたち
たちよ。あなたがたの内にキリストの形ができるまでは、わたしは、またも
う くる
や、あなたがたのために産みの苦しみをする。 二〇できることなら、わたしは

11
いま ところ ごちょう か はな
今あなたがたの所にいて、語調を変えて話してみたい。わたしは、あなたが
とほう
たのことで、途方にくれている。
りっぽう もと おも ひと こた
二一 律法の下にとどまっていたいと思う人たちよ。わたしに答えなさい。あ
りっぽう い き
なたがたは律法の言うところを聞かないのか。 二二そのしるすところによる
こ おんな ど れ い じゆう
と、アブラハムにふたりの子があったが、ひとりは女 奴隷から、ひとりは自由
おんな うま おんな ど れ い こ にく うま じゆう おんな
の女から生れた。 二三 女 奴隷の子は肉によって生れたのであり、自由の女の
こ やくそく うま ものがたり ひ ゆ
子は約束によって生れたのであった。 二四さて、この物 語は比喩としてみら
おんな けいやく ざん
れる。すなわち、この女たちは二つの契約をさす。そのひとりはシナイ山か
で どれい もの う
ら出て、奴隷となる者を産む。ハガルがそれである。 二五ハガルといえば、ア
ざん いま あた こ
ラビヤではシナイ山のことで、今のエルサレムに当る。なぜなら、それは子
とも どれい うえ
たちと共に、奴隷となっているからである。 二六しかし、上なるエルサレムは、
ガラテヤ人への手紙

じゆう おんな はは か
自由の女であって、わたしたちの母をさす。 二七すなわち、こう書いてある、
よろこ ふにん おんな
﹁喜べ、不妊の女よ。
こえ よろこ う くる し おんな
声をあげて喜べ、産みの苦しみを知らない女よ。
もの おんな おお こ う
ひとり者となっている女は多くの子を産み、
かず おっと おんな こ おお
その数は、 夫ある女の子らよりも多い﹂。

12
きょうだい やくそく こ
二八 兄 弟たちよ。あなたがたは、イサクのように、約束の子である。 二九しか
とうじ にく うま もの れい うま もの はくがい
し、その当時、肉によって生れた者が、霊によって生れた者を迫害したよう
いま どうよう せいしょ い おんな ど れ い
に、今でも同様である。 三〇しかし、聖書はなんと言っているか。﹁女 奴隷と
こ お だ おんな ど れ い こ じゆう おんな こ とも そうぞく
その子とを追い出せ。 女 奴隷の子は、自由の女の子と共に相続をしてはなら
きょうだい おんな ど れ い こ
ない﹂とある。 三一だから、兄 弟たちよ。わたしたちは女 奴隷の子ではなく、
じゆう おんな こ
自由の女の子なのである。
第五章
じゆう え かいほう くだ
一 自由を得させるために、キリストはわたしたちを解放して下さったのであ
かた た ど どれい
る。だから、堅く立って、二度と奴隷のくびきにつながれてはならない。
ガラテヤ人への手紙

み い かつれい う
二 見よ、このパウロがあなたがたに言う。もし割礼を受けるなら、キリストは
よう かつれい う ひと
あなたがたに用のないものになろう。 三割礼を受けようとするすべての人た
ど い ひと りっぽう ぜんぶ おこな ぎ む
ちに、もう一度言っておく。そういう人たちは、律法の全部を行う義務があ
りっぽう ぎ はな
る。 四律法によって義とされようとするあなたがたは、キリストから離れて
めぐ お みたま たす
し ま っ て い る。恵 み か ら 落 ち て い る。 五わ た し た ち は、御霊 の 助 け に よ り、

13
しんこう ぎ のぞ つよ
信仰 に よ っ て 義 と さ れ る 望 み を 強 く い だ い て い る。 六キ リ ス ト・イ エ ス に
かつれい もんだい たっと あい
あっては、割礼があってもなくても、問題ではない。 尊いのは、愛によって
はたら しんこう
働く信仰だけである。
はし つづ じゃ ま しんり
七 あなたがたはよく走り続けてきたのに、だれが邪魔をして、真理にそむかせ
かんゆう め で
たのか。 八そのような勧誘は、あなたがたを召されたかたから出たものでは
すこ だね こな ぜんたい
ない。 九少しのパン種でも、粉のかたまり全体をふくらませる。 一〇あなたが
ちが おも しゅ しんらい
たはいささかもわたしと違った思いをいだくことはないと、主にあって信頼
どうよう もの
している。しかし、あなたがたを動揺させている者は、それがだれであろう
う きょうだい いま かつれい
と、さばきを受けるであろう。 一一兄 弟たちよ。わたしがもし今でも割礼を
の つた はくがい
宣べ伝えていたら、どうして、いまなお迫害されるはずがあろうか。そうし
じゅうじか
ていたら、十字架のつまずきは、なくなっているであろう。 一二あなたがたの
ガラテヤ人への手紙

せんどうしゃ みずか ふ ぐ
煽動者どもは、 自ら不具になるがよかろう。
きょうだい め じつ じゆう え
一三 兄 弟たちよ。あなたがたが召されたのは、実に、自由を得るためである。
じゆう にく はたら きかい あい たがい つか
ただ、その自由を、肉の働く機会としないで、愛をもって互に仕えなさい。 一
りっぽう ぜんたい じぶん あい とな びと あい
四 律法の全体は、
﹁自分を愛するように、あなたの隣り人を愛せよ﹂というこ
いっ く つ き たがい あ く
の一句に尽きるからである。 一五気をつけるがよい。もし互にかみ合い、食い

14
あ たがい ほろ
合っているなら、あなたがたは互に滅ぼされてしまうだろう。
めい みたま ある けっ にく よく
一六 わたしは命じる、御霊によって歩きなさい。そうすれば、決して肉の欲を
み にく ほっ みたま はん みたま
満たすことはない。 一七なぜなら、肉の欲するところは御霊に反し、また御霊
ほっ にく はん たがい あい
の欲するところは肉に反するからである。こうして、二つのものは互に相さ
けっ か じぶん おも
からい、その結果、あなたがたは自分でしようと思うことを、することがで
みたま みちび りっぽう もと
きないようになる。 一八もしあなたがたが御霊に導かれるなら、律法の下には
にく はたら めいはく ふひんこう けが こうしょく ぐうぞう
いない。 一九肉の働きは明白である。すなわち、不品行、汚れ、好 色、 二〇偶像
れいはい てきい あらそ いか とうはしん ぶんれつ ぶんぱ
礼拝、まじない、敵意、 争い、そねみ、怒り、党派心、分裂、分派、 二一ねた
でいすい えんらく いぜん い
み、泥酔、宴楽、および、そのたぐいである。わたしは以前も言ったように、
いま まえ い おこな もの かみ くに
今も前もって言っておく。このようなことを行う者は、神の国をつぐことが
みたま み あい よろこ へいわ かんよう じあい ぜんい ちゅうじつ
ない。 二二しかし、御霊の実は、愛、 喜び、平和、寛容、慈愛、善意、 忠 実、
ガラテヤ人への手紙

にゅうわ じせい ひてい りっぽう


二三 柔和、自制であって、これらを否定する律法はない。 二四キリスト・イエス
ぞく もの じぶん にく じょう よく とも じゅうじか
に属する者は、自分の肉を、その情と欲と共に十字架につけてしまったので
ある。
みたま い みたま すす
二五 もしわたしたちが御霊によって生きるのなら、また御霊によって進もうで
たがい あ たがい あ きょえい い
はないか。 二六 互にいどみ合い、 互にねたみ合って、虚栄に生きてはならな

15
い。
第六章
きょうだい ひと ざいか おちい れい
一 兄 弟たちよ。もしもある人が罪過に陥 っていることがわかったなら、霊の
ひと にゅうわ こころ ひと ただ どうじ
人であるあなたがたは、柔和な心をもって、その人を正しなさい。それと同時
じぶんじしん ゆうわく おちい はんせい
に、もしか自分自身も誘惑に陥ることがありはしないかと、反省しなさい。 二
たがい おもに お あ りっぽう まっと
互に重荷を負い合いなさい。そうすれば、あなたがたはキリストの律法を全
ひと じじつ じぶん なに えら もの
うするであろう。 三もしある人が、事実そうでないのに、自分が何か偉い者で
おも ひと じぶん あざむ
あるように思っているとすれば、その人は自分を欺いているのである。 四ひ
じぶん おこな けんとう じぶん
とりびとり、自分の行いを検討してみるがよい。そうすれば、自分だけには
ガラテヤ人への手紙

ほこ ひと ほこ ひと
誇ることができても、ほかの人には誇れなくなるであろう。 五人はそれぞれ、
じぶんじしん おもに お
自分自身の重荷を負うべきである。
みことば おし ひと おし ひと よ わ あ
六 御言を教えてもらう人は、教える人と、すべて良いものを分け合いなさい。
かみ あなど ひと じぶん
七 まちがってはいけない、神は侮られるようなかたではない。人は自分のま
か と じぶん にく もの にく
いたものを、刈り取ることになる。 八すなわち、自分の肉にまく者は、肉から

16
ほろ か と れい もの れい えいえん か と
滅びを刈り取り、霊にまく者は、霊から永遠のいのちを刈り取るであろう。 九
ぜん おこな つか
わたしたちは、善を行うことに、うみ疲れてはならない。たゆまないでいる
とき く か と きかい
と、時が来れば刈り取るようになる。 一〇だから、機会のあるごとに、だれに
たい しんこう なかま たい ぜん おこな
対しても、とくに信仰の仲間に対して、善を行おうではないか。
じしん ふで おお じ
一一 ごらんなさい。わたし自身いま筆をとって、こんなに大きい字で、あなた
か にく み かざ もの
がたに書いていることを。 一二いったい、肉において見えを飾ろうとする者た
じゅうじか はくがい う
ちは、キリスト・イエスの十字架のゆえに、迫害を受けたくないばかりに、あ
かつれい う じじつ かつれい じしん
なたがたにしいて割礼を受けさせようとする。 一三事実、割礼のあるもの自身
りっぽう まも にく ほこ かつれい う
が律法を守らず、ただ、あなたがたの肉について誇りたいために、割礼を受
じしん
けさせようとしているのである。 一四しかし、わたし自身には、わたしたちの
しゅ じゅうじか い が い ほこり だん
主イエス・キリストの十字架以外に、 誇とするものは、断じてあってはなら
ガラテヤ人への手紙

じゅうじか よ たい し
ない。この十字架につけられて、この世はわたしに対して死に、わたしもこ
よ たい し かつれい もんだい
の世に対して死んでしまったのである。 一五割礼のあるなしは問題ではなく、
あたら つく じゅうよう ほうそく したが すす
ただ、 新しく造られることこそ、 重 要なのである。 一六この法則に従 って進
ひとびと うえ へいわ かみ うえ
む人々の上に、平和とあわれみとがあるように。また、神のイスラエルの上
にあるように。

17
こんご わずら や
一七 だれも今後は、わたしに煩いをかけないでほしい。わたしは、イエスの焼
いん み お
き印を身に帯びているのだから。
きょうだい しゅ めぐ れい
一八 兄 弟たちよ。わたしたちの主イエス・キリストの恵みが、あなたがたの霊
とも
と共にあるように、アァメン。
ガラテヤ人への手紙

18
びと てがみ
エペソ人への手紙
第一章
かみ みむね し と
一 神の御旨によるキリスト・イエスの使徒パウロから、エペソにいる、キリス
ちゅうじつ せいと
ト・イエスにあって忠 実な聖徒たちへ。
ちち かみ しゅ めぐ へいあん
二 わたしたちの父なる神と主イエス・キリストから、恵みと平安とが、あなた
がたにあるように。
しゅ ちち かみ かみ
三 ほむべきかな、わたしたちの主イエス・キリストの父なる神。神はキリスト
てんじょう れい しゅくふく しゅくふく
にあって、天 上で霊のもろもろの祝 福をもって、わたしたちを祝 福し、 四み
きず もの てんち つく まえ
まえにきよく傷のない者となるようにと、天地の造られる前から、キリスト
えら かみ
にあってわたしたちを選び、 五わたしたちに、イエス・キリストによって神の
エペソ人への手紙

こ みぶん さず みむね したが あい


子たる身分を授けるようにと、御旨のよしとするところに従い、愛のうちに
さだ くだ あい み こ たま
あらかじめ定めて下さったのである。 六これは、その愛する御子によって賜
えいこう めぐ
わった栄光ある恵みを、わたしたちがほめたたえるためである。 七わたした

0
み こ かみ ゆた めぐ ち
ちは、御子にあって、神の豊かな恵みのゆえに、その血によるあがない、す
ざいか う かみ めぐ ま くわ
なわち、罪過のゆるしを受けたのである。 八神はその恵みをさらに増し加え
ち え さと たま みむね おくぎ みずか
て、あらゆる知恵と悟りとをわたしたちに賜わり、九御旨の奥義を、自らあら
さだ けいかく したが しめ くだ
かじめ定められた計画に従 って、わたしたちに示して下さったのである。 一〇
とき み およ じつげん けいかく
それは、時の満ちるに及んで実現されるご計画にほかならない。それによっ
かみ てん ち
て、神は天にあるもの地にあるものを、ことごとく、キリストにあって一つ
き みむね ほっ
に帰せしめようとされたのである。 一一わたしたちは、御旨の欲するままにす
こと もくてき もと さだ
べての事をなさるかたの目的の下に、キリストにあってあらかじめ定められ、
かみ たみ えら はや のぞ
神の民として選ばれたのである。 一二それは、早くからキリストに望みをおい
かみ えいこう もの
ているわたしたちが、神の栄光をほめたたえる者となるためである。 一三あな
しんり ことば すくい
たがたもまた、キリストにあって、真理の言葉、すなわち、あなたがたの救
ふくいん き かれ しん けっ か やくそく せいれい しょういん
の福音を聞き、また、彼を信じた結果、約束された聖霊の証 印をおされたの
エペソ人への手紙

せいれい かみ くに ほしょう
である。 一四この聖霊は、わたしたちが神の国をつぐことの保証であって、や
かみ もの まった かみ えいこう いた
がて神につける者が全くあがなわれ、神の栄光をほめたたえるに至るためで
ある。
しゅ たい しんこう
一五 こういうわけで、わたしも、主イエスに対するあなたがたの信仰と、すべ

1
せいと たい あい みみ いのり おぼ
ての聖徒に対する愛とを耳にし、一六わたしの祈のたびごとにあなたがたを覚
た かんしゃ しゅ
えて、絶えずあなたがたのために感謝している。 一七どうか、わたしたちの主
かみ えいこう ちち ち え けいじ れい たま
イエス・キリストの神、栄光の父が、知恵と啓示との霊をあなたがたに賜わっ
かみ みと こころ め あき くだ
て神を認めさせ、 一八あなたがたの心の目を明らかにして下さるように、そし
かみ め のぞ せいと
て、あなたがたが神に召されていだいている望みがどんなものであるか、聖徒
かみ くに えいこう と かみ
たちがつぐべき神の国がいかに栄光に富んだものであるか、 一九また、神の
ちからづよ かつどう はたら ちから しん もの ぜつだい
力 強い活動によって働く力が、わたしたち信じる者にとっていかに絶大なも
し いた いの かみ
のであるかを、あなたがたが知るに至るように、と祈っている。 二〇神はその
ちから はたら かれ しにん なか てんじょう
力をキリストのうちに働かせて、彼を死人の中からよみがえらせ、天 上にお
じぶん みぎ ざ かれ しはい けんい けんりょく けんせい うえ
いてご自分の右に座せしめ、 二一彼を、すべての支配、権威、権 力、権勢の上
よ よ とな
におき、また、この世ばかりでなくきたるべき世においても唱えられる、あ
な うえ ばんぶつ あし した したが
らゆる名の上におかれたのである。 二二そして、万物をキリストの足の下に従
エペソ人への手紙

かれ ばんぶつ うえ きょうかい あた きょうかい


わせ、彼を万物の上にかしらとして教 会に与えられた。 二三この教 会はキリ

ストのからだであって、すべてのものを、すべてのもののうちに満たしてい

るかたが、満ちみちているものに、ほかならない。

2
第二章
さき じぶん ざいか つみ し もの
一 さてあなたがたは、先には自分の罪過と罪とによって死んでいた者であっ
なか よ したが くうちゅう けん きみ
て、 二かつてはそれらの中で、この世のならわしに従い、空 中の権をもつ君、
ふ じゅうじゅん こ なか いま はたら れい したが ある
すなわち、不 従 順の子らの中に今も働いている霊に従 って、歩いていたの
かれ なか にく よく したが
である。 三また、わたしたちもみな、かつては彼らの中にいて、肉の欲に従 っ
ひ す にく おも ほっ おこな ひとびと おな うま
て日を過ごし、肉とその思いとの欲するままを行い、ほかの人々と同じく、生
いか こ と かみ
れながらの怒りの子であった。 四しかるに、あわれみに富む神は、わたしたち
あい くだ おお あい ざいか し
を愛して下さったその大きな愛をもって、 五罪過によって死んでいたわたし
とも い すく めぐ
たちを、キリストと共に生かし︱︱あなたがたの救われたのは、恵みによる
とも とも てんじょう
のである︱︱ 六キリスト・イエスにあって、共によみがえらせ、共に天 上で
ざ くだ
座につかせて下さったのである。 七それは、キリスト・イエスにあってわたし
エペソ人への手紙

たま じあい かみ めぐ ぜつだい とみ よ よ しめ
たちに賜わった慈愛による神の恵みの絶大な富を、きたるべき世々に示すた
すく じつ めぐ しんこう
めであった。 八あなたがたの救われたのは、実に、恵みにより、信仰によるの
じしん で かみ たまもの
である。それは、あなたがた自身から出たものではなく、神の賜物である。 九
けっ おこな ほこ
決して行いによるのではない。それは、だれも誇ることがないためなのであ

3
かみ さくひん よ おこな
る。 一〇わたしたちは神の作品であって、良い行いをするように、キリスト・
つく かみ よ おこな ひ
イエスにあって造られたのである。神は、わたしたちが、良い行いをして日
す そな くだ
を過ごすようにと、あらかじめ備えて下さったのである。
きおく いぜん にく いほうじん
一一 だから、記憶しておきなさい。あなたがたは以前には、肉によれば異邦人
て おこな にく かつれい もの しょう ひとびと む かつれい もの
であって、手で行 った肉の割礼ある者と称せられる人々からは、無割礼の者
よ とうじ し こくせき
と呼ばれており、 一二またその当時は、キリストを知らず、イスラエルの国籍
やくそく けいやく えん よ なか きぼう かみ
がなく、約束されたいろいろの契約に縁がなく、この世の中で希望もなく神
もの いぜん とお はな
もない者であった。 一三ところが、あなたがたは、このように以前は遠く離れ
いま ち ちか
ていたが、今ではキリスト・イエスにあって、キリストの血によって近いも
へいわ
のとなったのである。 一四キリストはわたしたちの平和であって、二つのもの
てきい へだ なかがき と のぞ じぶん にく かずかず
を一つにし、敵意という隔ての中垣を取り除き、ご自分の肉によって、一五数々
きてい な いまし りっぽう はいき かれ
の規定から成っている戒めの律法を廃棄したのである。それは、彼にあって、
エペソ人への手紙

あたら ひと つく へいわ じゅうじか


二つのものをひとりの新しい人に造りかえて平和をきたらせ、 一六十字架に
かみ わかい てきい じゅうじか
よって、二つのものを一つのからだとして神と和解させ、敵意を十字架にか
ほろ かれ うえ とお はな
けて滅ぼしてしまったのである。 一七それから彼は、こられた上で、遠く離れ
へいわ の つた ちか もの へいわ の
ているあなたがたに平和を宣べ伝え、また近くにいる者たちにも平和を宣べ

4
つた かれ りょうほう もの
伝えられたのである。 一八というのは、彼によって、わたしたち両 方の者が一
みたま なか ちち ちか
つの御霊の中にあって、父のみもとに近づくことができるからである。 一九そ
いこくじん やど びと せいと おな こくせき
こであなたがたは、もはや異国人でも宿り人でもなく、聖徒たちと同じ国籍
もの かみ かぞく し と よげんしゃ
の者であり、神の家族なのである。 二〇またあなたがたは、使徒たちや預言者
どだい うえ た じしん
たちという土台の上に建てられたものであって、キリスト・イエスご自身が
すみ いし たてものぜんたい く あ
隅のかしら石である。 二一このキリストにあって、建物全体が組み合わされ、
しゅ せい みや せいちょう しゅ とも た
主にある聖なる宮に成 長し、二二そしてあなたがたも、主にあって共に建てら
れい かみ
れて、霊なる神のすまいとなるのである。
第三章
いほうじん しゅうじん
こ う い う わ け で、あ な た が た 異邦人 の た め に キ リ ス ト・イ エ ス の 囚 人 と
エペソ人への手紙


かみ たま めぐ
なっているこのパウロ︱︱ 二わたしがあなたがたのために神から賜わった恵
つとめ き
みの務について、あなたがたはたしかに聞いたであろう。 三すなわち、すでに
かんたん か けいじ おくぎ し
簡単に書きおくったように、わたしは啓示によって奥義を知らされたのであ
よ おくぎ りかい
る。 四あなたがたはそれを読めば、キリストの奥義をわたしがどう理解して

5
おくぎ みたま かれ せい し と
いるかがわかる。 五この奥義は、いまは、御霊によって彼の聖なる使徒たちと
よげんしゃ けいじ まえ じだい ひと こ たい
預言者たちとに啓示されているが、前の時代には、人の子らに対して、その
し いほうじん ふくいん
ように知らされてはいなかったのである。 六それは、異邦人が、福音によりキ
とも かみ くに もの とも
リスト・イエスにあって、わたしたちと共に神の国をつぐ者となり、共に一
とも やくそく もの かみ
つのからだとなり、共に約束にあずかる者となることである。 七わたしは、神
ちから はたら じぶん あた かみ めぐ たまもの ふくいん しもべ
の力がわたしに働いて、自分に与えられた神の恵みの賜物により、福音の僕
せいと もっと ちい もの
とされたのである。 八すなわち、聖徒たちのうちで最も小さい者であるわた
めぐ あた むじんぞう とみ いほうじん の
しにこの恵みが与えられたが、それは、キリストの無尽蔵の富を異邦人に宣
つた さら ばんぶつ つく ぬし かみ なか よ よ かく おくぎ
べ伝え、九更にまた、万物の造り主である神の中に世々隠されていた奥義にあ
つとめ あき しめ いま
ずかる務がどんなものであるかを、明らかに示すためである。 一〇それは今、
てんじょう しはい けんい きょうかい かみ た しゅ た よ う ち え
天 上にあるもろもろの支配や権威が、教 会をとおして、神の多種多様な知恵
し いた しゅ
を知るに至るためであって、 一一わたしたちの主キリスト・イエスにあって
エペソ人への手紙

じつげん かみ えいえん もくてき しゅ


実現された神の永遠の目的にそうものである。 一二この主キリストにあって、
かれ たい しんこう かくしん だいたん かみ ちか
わたしたちは、彼に対する信仰によって、確信をもって大胆に神に近づくこ

とができるのである。 一三だから、あなたがたのためにわたしが受けている
かんなん み らくたん かんなん
患難を見て、落胆しないでいてもらいたい。わたしの患難は、あなたがたの

6
こうえい
光栄なのである。
てんじょう ちじょう
一四 こういうわけで、わたしはひざをかがめて、 一五天 上にあり地上にあって
ちち よ みなもと ちち いの ちち
﹁父﹂と呼ばれているあらゆるものの源なる父に祈る。 一六どうか父が、その
えいこう とみ みたま ちから うち ひと つよ
栄光の富にしたがい、御霊により、 力をもってあなたがたの内なる人を強く
くだ しんこう こころ
して下さるように、 一七また、信仰によって、キリストがあなたがたの心のう
す あい ね あい もとい せいかつ
ちに住み、あなたがたが愛に根ざし愛を基として生活することにより、 一八す
せいと とも ひろ なが たか ふか りかい
べての聖徒と共に、その広さ、長さ、高さ、深さを理解することができ、 一九
じんち こ あい し かみ み
また人知をはるかに越えたキリストの愛を知って、神に満ちているもののす
み いの
べてをもって、あなたがたが満たされるように、と祈る。
はたら ちから もと おも
二〇 どうか、わたしたちのうちに働く力によって、わたしたちが求めまた思う
こ くだ
ところのいっさいを、はるかに越えてかなえて下さることができるかたに、 二
きょうかい えいこう よ よ かぎ
教 会により、また、キリスト・イエスによって、栄光が世々限りなくある
エペソ人への手紙


ように、アァメン。

7
第四章
しゅ しゅうじん すす
一 さて、主にある囚 人であるわたしは、あなたがたに勧める。あなたがたが
め め ある かぎ けんきょ にゅうわ
召されたその召しにふさわしく歩き、 二できる限り謙虚で、かつ柔和であり、
かんよう しめ あい たがい しの へいわ むす せいれい
寛容を示し、愛をもって互に忍びあい、 三平和のきずなで結ばれて、聖霊によ
いっ ち まも つづ つと みたま
る一致を守り続けるように努めなさい。 四からだは一つ、御霊も一つである。
め のぞ め め どうよう
あなたがたが召されたのは、一つの望みを目ざして召されたのと同様である。
しゅ しんこう うえ
五 主は一つ、信仰は一つ、バプテスマは一つ。 六すべてのものの上にあり、す
つらぬ うち ちち かみ
べてのものを貫き、すべてのものの内にいます、すべてのものの父なる神は
たま たまもの したが
一つである。 七しかし、キリストから賜わる賜物のはかりに従 って、わたした
めぐ あた い
ちひとりびとりに、恵みが与えられている。 八そこで、こう言われている、
かれ たか のぼ とき
﹁彼は高いところに上った時、
エペソ人への手紙

とら ひ ゆ
とりこを捕えて引き行き、
ひとびと たまもの わ あた
人々に賜物を分け与えた﹂。
のぼ い いじょう ち か ひく そこ お
九 さて﹁上った﹂と言う以上、また地下の低い底にも降りてこられたわけでは
お もの じ し ん どうじ み
ないか。 一〇降りてこられた者自身は、同時に、あらゆるものに満ちるために、

8
てん うえ のぼ かれ ひと
もろもろの天の上にまで上られたかたなのである。 一一そして彼は、ある人を
し と ひと よげんしゃ ひと でんどうしゃ ひと ぼくし きょうし
使徒とし、ある人を預言者とし、ある人を伝道者とし、ある人を牧師、教師
た せいと ほうし
として、お立てになった。 一二それは、聖徒たちをととのえて奉仕のわざをさ
た もの かみ こ しん
せ、キリストのからだを建てさせ、 一三わたしたちすべての者が、神の子を信
しんこう いっ ち かれ し ちしき いっ ち とうたつ まった ひと
じる信仰の一致と彼を知る知識の一致とに到達し、全き人となり、ついに、キ
み とく たか いた
リストの満ちみちた徳の高さにまで至るためである。 一四こうして、わたした
こども まど さくりゃく ひとびと わるだく
ち は も は や 子供 で は な い の で、だ ま し 惑 わ す 策 略 に よ り、人々 の 悪巧 み に
おこ さまざま おしえ かぜ ふ
よって起る様々な教の風に吹きまわされたり、もてあそばれたりすることが
あい しんり かた てん せいちょう
なく、 一五愛にあって真理を語り、あらゆる点において成 長し、かしらなるキ
たっ もとい ぜんしん
リストに達するのである。 一六また、キリストを基として、全身はすべての
ふしぶし たす く あ むす あ ぶぶん
節々の助けにより、しっかりと組み合わされ結び合わされ、それぞれの部分
ぶん おう はたら せいちょう あい そだ
は分に応じて働き、からだを成 長させ、愛のうちに育てられていくのである。
エペソ人への手紙

しゅ すす こんご
一七 そ こ で、わ た し は 主 に あ っ て お ご そ か に 勧 め る。あ な た が た は 今後、
いほうじん こころ ある ある かれ ちりょく
異邦人がむなしい心で歩いているように歩いてはならない。 一八彼らの知力
くら うち む ち こころ こうか かみ とお はな
は暗くなり、その内なる無知と心の硬化とにより、神のいのちから遠く離れ、
みずか むかんかく ふけつ おこな ほうじゅう
一九 自ら無感覚になって、ほしいままにあらゆる不潔な行いをして、 放 縦に

9
み まな
身をゆだねている。 二〇しかしあなたがたは、そのようにキリストに学んだの
かれ き かれ おし
ではなかった。 二一あなたがたはたしかに彼に聞き、彼にあって教えられて、
しんり まな
イエスにある真理をそのまま学んだはずである。 二二すなわち、あなたがた
いぜん せいかつ ぞく じょうよく まよ ほろ い ふる ひと ぬ す こころ
は、以前の生活に属する、情 欲に迷って滅び行く古き人を脱ぎ捨て、二三 心の
ふか あら しん ぎ せい かみ つく
深みまで新たにされて、二四真の義と聖とをそなえた神にかたどって造られた
あたら ひと き
新しき人を着るべきである。
いつわ す とな びと たい
二五 こういうわけだから、あなたがたは偽りを捨てて、おのおの隣り人に対し
しんじつ かた たがい したい いか
て、真実を語りなさい。わたしたちは、お互に肢体なのであるから。 二六怒る
つみ おか いきどお ひ く
ことがあっても、罪を犯してはならない。 憤 ったままで、日が暮れるよう
あくま きかい あた ぬす
であってはならない。 二七また、悪魔に機会を与えてはいけない。 二八盗んだ
もの こんご ぬす まず ひとびと わ あた
者は、今後、盗んではならない。むしろ、貧しい人々に分け与えるようにな
じぶん て せいとう はたら わる ことば
るために、自分の手で正当な働きをしなさい。 二九悪い言葉をいっさい、あな
エペソ人への手紙

くち だ ひつよう ひと とく たか やくだ
たがたの口から出してはいけない。必要があれば、人の徳を高めるのに役立
ことば かた き もの えき かみ
つような言葉を語って、聞いている者の益になるようにしなさい。 三〇神の
せいれい かな ひ せいれい
聖霊を悲しませてはいけない。あなたがたは、あがないの日のために、聖霊
しょういん う む じ ひ いきどお いか さわ
の証 印を受けたのである。 三一すべての無慈悲、 憤り、怒り、騒ぎ、そしり、

10
あくい す さ たがい なさけぶか ぶか もの
また、いっさいの悪意を捨て去りなさい。 三二 互に情 深く、あわれみ深い者と
かみ くだ
なり、神がキリストにあってあなたがたをゆるして下さったように、あなた
たがい あ
がたも互にゆるし合いなさい。
第五章
かみ あい こども かみ もの
一 こうして、あなたがたは、神に愛されている子供として、神にならう者にな
あい ある あい くだ
りなさい。 二また愛のうちを歩きなさい。キリストもあなたがたを愛して下
じしん かみ
さって、わたしたちのために、ご自身を、神へのかんばしいかおりのささげ
もの ふひんこう
物、また、いけにえとしてささげられたのである。 三また、不品行といろいろ
けが どんよく せいと あいだ くち
な汚れや貪欲などを、聖徒にふさわしく、あなたがたの間では、口にするこ
いや ことば おろ はなし じょうだん さ
とさえしてはならない。 四また、卑しい言葉と愚かな話やみだらな冗 談を避
エペソ人への手紙

こと かんしゃ
けなさい。これらは、よろしくない事である。それよりは、むしろ感謝をさ
し ふひんこう
さげなさい。 五あなたがたは、よく知っておかねばならない。すべて不品行
もの けが もの どんよく もの ぐうぞう れいはい もの
な者、汚れたことをする者、貪欲な者、すなわち、偶像を礼拝する者は、キ
かみ くに ふせいじつ
リストと神との国をつぐことができない。 六あなたがたは、だれにも不誠実

11
ことば かみ いか ふ じゅうじゅん
な言葉でだまされてはいけない。これらのことから、神の怒りは不 従 順の
こ くだ かれ なかま
子らに下るのである。 七だから、彼らの仲間になってはいけない。 八あなたが
いぜん いま しゅ ひかり ひかり こ
たは、以前はやみであったが、今は主にあって光となっている。 光の子らし
ある ひかり ぜんい せいぎ しんじつ み むす
く 歩 き な さ い ︱︱ 九 光 は あ ら ゆ る 善意 と 正義 と 真実 と の 実 を 結 ば せ る も の
しゅ よろこ し
である︱︱ 一〇 主に喜ばれるものがなんであるかを、わきまえ知りなさい。 一一
み むす くわ してき
実を結ばないやみのわざに加わらないで、むしろ、それを指摘してやりなさ
かれ かく おこな くち は こと
い。 一二彼らが隠れて行 っていることは、口にするだけでも恥ずかしい事で
ひかり とき あき あき
ある。 一三しかし、光にさらされる時、すべてのものは、明らかになる。 一四明
みな ひかり か
らかにされたものは皆、 光となるのである。だから、こう書いてある、
ねむ もの お
﹁眠っている者よ、起きなさい。
しにん た あ
死人のなかから、立ち上がりなさい。
てら
そうすれば、キリストがあなたを照すであろう﹂。
エペソ人への手紙

ある ちゅうい かしこ もの
一五 そこで、あなたがたの歩きかたによく注意して、賢くない者のようにでは
かしこ もの ある いま とき い もち いま わる じだい
なく、賢い者のように歩き、一六今の時を生かして用いなさい。今は悪い時代
おろ もの しゅ みむね
なのである。 一七だから、愚かな者にならないで、主の御旨がなんであるかを
さと さけ よ らんぎょう
悟りなさい。 一八酒に酔ってはいけない。それは乱 行のもとである。むしろ

12
みたま み し れい うた かた あ しゅ
御霊に満たされて、 一九詩とさんびと霊の歌とをもって語り合い、主にむかっ
こころ うた
て心からさんびの歌をうたいなさい。 二〇そしてすべてのことにつき、いつ
しゅ み な ちち かみ かんしゃ
も、わたしたちの主イエス・キリストの御名によって、父なる神に感謝し、 二
たい おそ こころ たがい つか あ
一 キリストに対する恐れの心をもって、 互に仕え合うべきである。
つま もの しゅ つか じぶん おっと つか
二二 妻 た る 者 よ。主 に 仕 え る よ う に 自分 の 夫 に 仕 え な さ い。 二三キ リ ス ト が
きょうかい みずか きょうかい すくいぬし
教 会のかしらであって、自らは、からだなる教 会の救 主であられるように、
おっと つま きょうかい つか つま
夫は妻のかしらである。 二四そして教 会がキリストに仕えるように、妻もす
おっと つか おっと もの
べてのことにおいて、 夫に仕えるべきである。 二五 夫たる者よ。キリストが
きょうかい あい じしん つま あい
教 会を愛してそのためにご自身をささげられたように、妻を愛しなさい。 二六
みず あら ことば きょうかい
キリストがそうなさったのは、水で洗うことにより、言葉によって、教 会を
せい
きよめて聖なるものとするためであり、 二七また、しみも、しわも、そのたぐ
きよ きず えいこう すがた きょうかい じぶん むか
いのものがいっさいなく、清くて傷のない栄光の姿の教 会を、ご自分に迎え
エペソ人への手紙

おな おっと じぶん つま じぶん あい


るためである。 二八それと同じく、夫も自分の妻を、自分のからだのように愛
じぶん つま あい もの じぶんじしん あい
さ ね ば な ら な い。自分 の 妻 を 愛 す る 者 は、自分自身 を 愛 す る の で あ る。 二九
じぶんじしん にく もの
自分自身を憎んだ者は、いまだかつて、ひとりもいない。かえって、キリス
きょうかい そだ やしな つね
トが教 会になさったようにして、おのれを育て養うのが常である。 三〇わた

13
したい ひと ふ ぼ
したちは、キリストのからだの肢体なのである。 三一﹁それゆえに、人は父母
はな つま むす もの いったい
を 離 れ て そ の 妻 と 結 ば れ、ふ た り の 者 は 一体 と な る べ き で あ る﹂。 三二こ の
おくぎ おお きょうかい
奥義は大きい。それは、キリストと教 会とをさしている。 三三いずれにして
じぶん つま じぶんじしん あい つま
も、あなたがたは、それぞれ、自分の妻を自分自身のように愛しなさい。妻
おっと うやま
もまた夫を敬いなさい。
第六章
こ もの しゅ りょうしん したが ただ
一 子たる者よ。主にあって両 親に従いなさい。これは正しいことである。 二
ちち はは うやま だい いまし つぎ やくそく
﹁あなたの父と母とを敬え﹂。これが第一の戒めであって、次の約束がそれに
こうふく ちじょう い
ついている、 三﹁そうすれば、あなたは幸福になり、地上でながく生きながら
ちち もの こども しゅ くんとう くんかい
えるであろう﹂。 四父たる者よ。子供をおこらせないで、主の薫陶と訓戒とに
エペソ人への手紙

かれ そだ
よって、彼らを育てなさい。
しもべ もの したが おそ まごころ にく
五 僕たる者よ。キリストに従うように、恐れおののきつつ、真心をこめて、肉
しゅじん したが ひと めさき つと
による主人に従いなさい。 六人にへつらおうとして目先だけの勤めをするの
しもべ こころ かみ みむね おこな ひと しゅ つか
でなく、キリストの僕として心から神の御旨を行い、七人にではなく主に仕え

14
こころよ つか し よ
るように、 快く仕えなさい。 八あなたがたが知っているとおり、だれでも良
おこな しもべ じゆうじん そうとう むく
いことを行えば、 僕であれ、自由人であれ、それに相当する報いを、それぞ
しゅ う しゅじん もの しもべ たい どうよう
れ主から受けるであろう。 九主人たる者よ。 僕たちに対して、同様にしなさ
し かれ
い。おどすことを、してはならない。あなたがたが知っているとおり、彼ら
しゅ てん ひと み
とあなたがたとの主は天にいますのであり、かつ人をかたより見ることをな
さらないのである。
さいご い しゅ いだい ちから つよ
一〇 最後に言う。主にあって、その偉大な力によって、強くなりなさい。 一一
あくま さくりゃく たいこう た かみ ぶ ぐ み かた
悪魔の策 略に対抗して立ちうるために、神の武具で身を固めなさい。 一二わ
たたか けつにく たい しはい けんい
たしたちの戦いは、血肉に対するものではなく、もろもろの支配と、権威と、
よ しゅけんしゃ てんじょう あく れい たい たたか
やみの世の主権者、また天 上にいる悪の霊に対する戦いである。 一三それだ
あ ひ ていこう かんぜん か ぬ かた た
から、悪しき日にあたって、よく抵抗し、完全に勝ち抜いて、堅く立ちうる
かみ ぶ ぐ み た しんり おび こし
ために、神の武具を身につけなさい。 一四すなわち、立って真理の帯を腰にし
エペソ人への手紙

せいぎ むねあて むね へいわ ふくいん そな あし うえ


め、正義の胸当を胸につけ、 一五平和の福音の備えを足にはき、 一六その上に、
しんこう て と あ もの はな ひ や け
信仰のたてを手に取りなさい。それをもって、悪しき者の放つ火の矢を消す
すくい みたま つるぎ
ことができるであろう。 一七また、救のかぶとをかぶり、御霊の剣、すなわち、
かみ ことば と た いのり ねが とき みたま いの
神の言を取りなさい。 一八絶えず祈と願いをし、どんな時でも御霊によって祈

15
め せいと いの
り、そのために目をさましてうむことがなく、すべての聖徒のために祈りつ
くち ひら かた ことば たま だいたん
づけなさい。 一九また、わたしが口を開くときに語るべき言葉を賜わり、大胆
ふくいん おくぎ あき しめ いの
に福音の奥義を明らかに示しうるように、わたしのためにも祈ってほしい。 二
ふくいん しせつ くさり
〇 わたしはこの福音のための使節であり、そして鎖につながれているのであ
かた とき だいたん かた いの
るが、つながれていても、語るべき時には大胆に語れるように祈ってほしい。
ようす なに し
二一 わたしがどういう様子か、何をしているかを、あなたがたに知ってもらう
しゅ ちゅうじつ つか あい きょうだい こと
ために、主にあって忠 実に仕えている愛する兄 弟 テキコが、いっさいの事を
ほうこく かれ おく
報告するであろう。 二二彼をあなたがたのもとに送るのは、あなたがたがわた
ようす し かれ こころ はげ う
したちの様子を知り、また彼によって心に励ましを受けるようになるためな
のである。
ちち かみ しゅ へいあん しんこう ともな
二三 父なる神とわたしたちの主イエス・キリストから平安ならびに信仰に伴う
あい きょうだい かわ しんじつ しゅ
愛が、兄 弟たちにあるように。 二四変らない真実をもって、わたしたちの主イ
エペソ人への手紙

あい ひとびと めぐ
エス・キリストを愛するすべての人々に、恵みがあるように。

16
びと てがみ
ピリピ人への手紙
第一章
しもべ
一 キリスト・イエスの僕たち、パウロとテモテから、ピリピにいる、キリスト・
せいと かんとく しつじ
イエスにあるすべての聖徒たち、ならびに監督たちと執事たちへ。
ちち かみ しゅ めぐ へいあん
二 わたしたちの父なる神と主イエス・キリストから、恵みと平安とが、あなた
がたにあるように。
おも かみ かんしゃ
三 わたしはあなたがたを思うたびごとに、わたしの神に感謝し、四あなたがた
いちどう いの よろこ いの さいしょ ひ
一同のために祈るとき、いつも喜びをもって祈り、五あなたがたが最初の日か
こんにち いた ふくいん かんしゃ
ら今日に至るまで、福音にあずかっていることを感謝している。 六そして、あ
よ はじ ひ
なたがたのうちに良いわざを始められたかたが、キリスト・イエスの日まで
ピリピ人への手紙

かんせい くだ かくしん
にそれを完成して下さるにちがいないと、確信している。 七わたしが、あなた
いちどう かんが とうぜん ごく とら
がた一同のために、そう考えるのは当然である。それは、わたしが獄に捕わ
とき ふくいん べんめい りっしょう とき とも めぐ
れている時にも、福音を弁明し立 証する時にも、あなたがたをみな、共に恵

0
もの こころ ふか と
みにあずかる者として、わたしの心に深く留めているからである。 八わたし
ねつあい ふか いちどう おも
がキリスト・イエスの熱愛をもって、どんなに深くあなたがた一同を思って
しょうめい くだ かみ いの
いることか、それを証 明して下さるかたは神である。 九わたしはこう祈る。
あい ふか ちしき かんかく ま
あなたがたの愛が、深い知識において、するどい感覚において、いよいよ増
くわ なに じゅうよう はんべつ
し加わり、 一〇それによって、あなたがたが、何が重 要であるかを判別するこ
ひ そな じゅんしん せ
とができ、キリストの日に備えて、純 真で責められるところのないものとな
ぎ み み かみ えいこう
り、 一一イエス・キリストによる義の実に満たされて、神の栄光とほまれとを
いた
あらわすに至るように。
きょうだい み おこ こと ふくいん ぜんしん やくだ
一二 さて、兄 弟たちよ。わたしの身に起った事が、むしろ福音の前進に役立つ

ようになったことを、あなたがたに知ってもらいたい。 一三すなわち、わたし
ごく とら へいえいぜんたい
が獄に捕われているのはキリストのためであることが、兵営全体にもそのほ
ひとびと あき きょうだい おお もの
かのすべての人々にも明らかになり、 一四そして兄 弟たちのうち多くの者は、
ピリピ人への手紙

にゅうごく しゅ かくしん え おそ ゆうかん


わたしの入 獄によって主にある確信を得、恐れることなく、ますます勇敢に、
かみ ことば かた いっぽう とうそうしん の
神の言を語るようになった。 一五一方では、ねたみや闘争心からキリストを宣
つた もの たほう ぜんい もの こうしゃ
べ伝える者がおり、他方では善意からそうする者がいる。 一六後者は、わたし
ふくいん べんめい た し あい こころ つた
が福音を弁明するために立てられていることを知り、愛の心でキリストを伝

1
ぜんしゃ にゅうごく くる さら かんなん くわ おも じゅんしん
え、一七前者は、わたしの入 獄の苦しみに更に患難を加えようと思って、純 真
こころ とうはしん
な心からではなく、党派心からそうしている。
み しんじつ
一八 すると、どうなのか。見えからであるにしても、真実からであるにしても、
よう つた よろこ
要するに、伝えられているのはキリストなのだから、わたしはそれを喜んで
よろこ いのり
いるし、また喜ぶであろう。 一九なぜなら、あなたがたの祈と、イエス・キリ
れい たす こと すくい し
ストの霊の助けとによって、この事がついには、わたしの救となることを知っ
せつじつ おも ま のぞ
ているからである。 二〇そこで、わたしが切実な思いで待ち望むことは、わた
は いま
しが、どんなことがあっても恥じることなく、かえって、いつものように今
だいたん かた い し み
も、大胆に語ることによって、生きるにも死ぬにも、わたしの身によってキ

リストがあがめられることである。 二一わたしにとっては、生きることはキリ
し えき にくたい い
ストであり、死ぬことは益である。 二二しかし、肉体において生きていること
みの おお はたら えら
が、わたしにとっては実り多い働きになるのだとすれば、どちらを選んだら
ピリピ人への手紙

あいだ いた
よいか、わたしにはわからない。 二三わたしは、これら二つのものの間に板ば
ねが い よ さ とも
さみになっている。わたしの願いを言えば、この世を去ってキリストと共に
じつ ほう のぞ にくたい
いることであり、実は、その方がはるかに望ましい。 二四しかし、肉体にとど
ひつよう かくしん
まっていることは、あなたがたのためには、さらに必要である。 二五こう確信

2
い いちどう
しているので、わたしは生きながらえて、あなたがた一同のところにとどま
しんこう すす よろこ え おも
り、あなたがたの信仰を進ませ、その喜びを得させようと思う。 二六そうなれ
ふたた い
ば、わたしが再びあなたがたのところに行くので、あなたがたはわたしによっ
ほこり ま
てキリスト・イエスにある誇を増すことになろう。
ふくいん せいかつ
二七 ただ、あなたがたはキリストの福音にふさわしく生活しなさい。そして、
い あ はな
わたしが行ってあなたがたに会うにしても、離れているにしても、あなたが
れい かた た こころ ふくいん しんこう ちから あ
たが一つの霊によって堅く立ち、一つ心になって福音の信仰のために力を合
たたか なにごと てきたい もの
わせて戦い、 二八かつ、何事についても、敵対する者どもにろうばいさせられ
ようす き かれ ほろ
ないでいる様子を、聞かせてほしい。このことは、彼らには滅びのしるし、あ
すくい かみ く
なたがたには救のしるしであって、それは神から来るのである。 二九あなたが
かれ しん かれ くる
たはキリストのために、ただ彼を信じることだけではなく、彼のために苦し
たま み いま
むことをも賜わっている。 三〇あなたがたは、さきにわたしについて見、今ま
ピリピ人への手紙

き おな くとう つづ
たわたしについて聞いているのと同じ苦闘を、続けているのである。

3
第二章
すす あい はげ みたま まじ
一 そこで、あなたがたに、キリストによる勧め、愛の励まし、御霊の交わり、
ねつあい おな おも おな
熱愛とあわれみとが、いくらかでもあるなら、 二どうか同じ思いとなり、同じ
あい こころ も こころ あ おも よろこ み
愛の心を持ち、 心を合わせ、一つ思いになって、わたしの喜びを満たしてほ
なにごと とうはしん きょえい こころ たがい
しい。 三何事も党派心や虚栄からするのでなく、へりくだった心をもって互
ひと じぶん もの じぶん
に人を自分よりすぐれた者としなさい。 四おのおの、自分のことばかりでな
たにん かんが
く、他人のことも考えなさい。 五キリスト・イエスにあっていだいているのと
おな おも あいだ たがい い かみ
同じ思いを、あなたがたの間でも互に生かしなさい。 六キリストは、神のかた
かみ ひと こ しゅ こと おも
ちであられたが、神と等しくあることを固守すべき事とは思わず、 七かえっ
しもべ にんげん すがた ありさま
て、おのれをむなしうして僕のかたちをとり、人間の姿になられた。その有様
ひと こと ひく し いた じゅうじか し いた
は人と異ならず、 八おのれを低くして、死に至るまで、しかも十字架の死に至
ピリピ人への手紙

じゅうじゅん かみ かれ たか ひ あ な
るまで従 順であられた。 九それゆえに、神は彼を高く引き上げ、すべての名
な かれ たま み な てんじょう
にまさる名を彼に賜わった。 一〇それは、イエスの御名によって、 天 上のも
ちじょう ち か
の、地上のもの、地下のものなど、あらゆるものがひざをかがめ、 一一また、あ
した しゅ こくはく えいこう ちち かみ
らゆる舌が、﹁イエス・キリストは主である﹂と告白して、栄光を父なる神に

4

帰するためである。
あい もの
一二 わ た し の 愛 す る 者 た ち よ。そ う い う わ け だ か ら、あ な た が た が い つ も
じゅうじゅん いっしょ とき いま
従 順であったように、わたしが一緒にいる時だけでなく、いない今は、いっ
じゅうじゅん おそ じぶん すくい たっせい つと
そう従 順でいて、恐れおののいて自分の救の達成に努めなさい。 一三あなた
はたら ねが おこ じつげん いた かみ
がたのうちに働きかけて、その願いを起させ、かつ実現に至らせるのは神で
かみ
あって、それは神のよしとされるところだからである。 一四すべてのことを、
うたが せ
つぶやかず疑わないでしなさい。 一五それは、あなたがたが責められるところ
じゅんしん もの まが じゃあく じだい なか きず かみ
のない純 真な者となり、曲った邪悪な時代のただ中にあって、傷のない神の
こ ことば かた も かれ あいだ
子となるためである。あなたがたは、いのちの言葉を堅く持って、彼らの間
ほし よ かがや ひ
で星のようにこの世に輝いている。 一六このようにして、キリストの日に、わ
じぶん はし ろう ほこ
たしは自分の走ったことがむだでなく、労したこともむだではなかったと誇
しんこう そな もの
ることができる。 一七そして、たとい、あなたがたの信仰の供え物をささげる
ピリピ人への手紙

さいだん ち よろこ
祭壇に、わたしの血をそそぐことがあっても、わたしは喜ぼう。あなたがた
いちどう とも よろこ おな よろこ とも
一同と共に喜ぼう。 一八同じように、あなたがたも喜びなさい。わたしと共に
よろこ
喜びなさい。
おく しゅ
一九 さて、わたしは、まもなくテモテをあなたがたのところに送りたいと、主

5
ねが ようす し
イエスにあって願っている。それは、あなたがたの様子を知って、わたしも
ちから こころ しんみ
力づけられたいからである。 二〇テモテのような心で、親身になってあなたが
しんぱい もの ひと じぶん
たのことを心配している者は、ほかにひとりもない。 二一人はみな、自分のこ
もと もと
とを求めるだけで、キリスト・イエスのことは求めていない。 二二しかし、テ
れんたつ し こ
モテの錬達ぶりは、あなたがたの知っているとおりである。すなわち、子が
ちち たい いっしょ ふくいん つか
父に対するようにして、わたしと一緒に福音に仕えてきたのである。 二三そこ
ひと なりゆ おく
で、この人を、わたしの成行きがわかりしだい、すぐにでも、そちらへ送り
ねが じしん い しゅ かくしん
たいと願っている。 二四わたし自身もまもなく行けるものと、主にあって確信
どうろうしゃ せんゆう きょうだい
している。 二五しかし、さしあたり、わたしの同労者で戦友である兄 弟、また、
し しゃ きゅうぼう おぎな
あなたがたの使者としてわたしの窮 乏を補 ってくれたエパフロデトを、あな
おく かえ ひつよう おも かれ
たがたのもとに送り返すことが必要だと思っている。 二六彼は、あなたがた
いちどう あ うえ じぶん びょうき
一同にしきりに会いたがっているからである。その上、自分の病気のことが
ピリピ人への手紙

きこ かれ こころぐる おも かれ じつ し
あなたがたに聞えたので、彼は心 苦しく思っている。 二七彼は実に、ひん死の
びょうき かみ かれ くだ かれ
病気にかかったが、神は彼をあわれんで下さった。彼ばかりではなく、わた
くだ かな かな かさ
しをもあわれんで下さったので、わたしは悲しみに悲しみを重ねないですん
おおいそ かれ おく かえ かれ
だのである。 二八そこで、大急ぎで彼を送り返す。これで、あなたがたは彼と

6
ふたた あ よろこ しんぱい やわ
再び会って喜び、わたしもまた、心配を和らげることができよう。 二九こうい
おお よろこ しゅ かれ むか
うわけだから、大いに喜んで、主にあって彼を迎えてほしい。また、こうし
ひとびと そんちょう かれ たい ほうし
た人々は尊 重せねばならない。 三〇彼は、わたしに対してあなたがたが奉仕
ぶん おぎな いのち し
のできなかった分を補おうとして、キリストのわざのために命をかけ、死ぬ
ばかりになったのである。
第三章
さいご きょうだい しゅ よろこ か
一 最後に、わたしの兄 弟たちよ。主にあって喜びなさい。さきに書いたのと
おな く かえ わずら
同じことをここで繰り返すが、それは、わたしには煩わしいことではなく、あ
あんぜん
なたがたには安全なことになる。
いぬ けいかい わる はたら びと けいかい にく かつれい
あの犬どもを警戒しなさい。悪い働き人たちを警戒しなさい。肉に割礼の
ピリピ人への手紙


きず ひと けいかい かみ れい れいはい
傷をつけている人たちを警戒しなさい。 三神の霊によって礼拝をし、キリス
ほこり にく たの かつれい もの
ト・イエスを誇とし、肉を頼みとしないわたしたちこそ、割礼の者である。 四
にく たの な ひと
もとより、肉の頼みなら、わたしにも無くはない。もし、だれかほかの人が
にく たの い たの
肉を頼みとしていると言うなら、わたしはそれをもっと頼みとしている。 五

7
か め かつれい う もの みんぞく ぞく もの
わたしは八日目に割礼を受けた者、イスラエルの民族に属する者、ベニヤミ
ぞく しゅっしん びと なか びと りっぽう うえ びと ねっしん てん
ン族の出 身、ヘブル人の中のヘブル人、律法の上ではパリサイ人、六熱心の点
きょうかい はくがいしゃ りっぽう ぎ お ど もの
では教 会の迫害者、律法の義については落ち度のない者である。 七しかし、わ
えき そん おも
たしにとって益であったこれらのものを、キリストのゆえに損と思うように
さら すす しゅ し ちしき
なった。 八わたしは、更に進んで、わたしの主キリスト・イエスを知る知識の
ぜつだい か ち そん おも
絶大な価値のゆえに、いっさいのものを損と思っている。キリストのゆえに、
うしな ど おも
わたしはすべてを失 ったが、それらのものを、ふん土のように思っている。
え りっぽう じぶん ぎ
それは、わたしがキリストを得るためであり、 九律法による自分の義ではな
しん しんこう ぎ しんこう もとづ かみ ぎ う
く、キリストを信じる信仰による義、すなわち、信仰に基く神からの義を受
じぶん み
けて、キリストのうちに自分を見いだすようになるためである。 一〇すなわ
ふっかつ ちから し くなん し
ち、キリストとその復活の力とを知り、その苦難にあずかって、その死のさ
しにん ふっかつ たっ
まとひとしくなり、一一なんとかして死人のうちからの復活に達したいのであ
ピリピ人への手紙

え かんぜん もの い
る。 一二わたしがすでにそれを得たとか、すでに完全な者になっているとか言
とら お もと
うのではなく、ただ捕えようとして追い求めているのである。そうするのは、
とら きょうだい
キリスト・イエスによって捕えられているからである。 一三兄 弟たちよ。わ
とら おも いちじ つと
たしはすでに捕えたとは思っていない。ただこの一事を努めている。すなわ

8
うしろ わす まえ む の もくひょう め
ち、後のものを忘れ、前のものに向かってからだを伸ばしつつ、一四目 標を目
はし うえ め くだ かみ しょうよ え
ざして走り、キリスト・イエスにおいて上に召して下さる神の賞与を得よう
つと なか まった ひと
と努めているのである。 一五だから、わたしたちの中で全き人たちは、そのよ
かんが ちが かんが も
うに考えるべきである。しかし、あなたがたが違った考えを持っているなら、
かみ しめ くだ たっ え
神はそのことも示して下さるであろう。 一六ただ、わたしたちは、達し得たと
したが すす
ころに従 って進むべきである。
きょうだい もの
一七 兄 弟たちよ。どうか、わたしにならう者となってほしい。また、あなたが
もはん ある ひと め
たの模範にされているわたしたちにならって歩く人たちに、目をとめなさい。
い じゅうじか てきたい ある もの おお
一八 わたしがそう言うのは、キリストの十字架に敵対して歩いている者が多い
かれ はな いま
からである。わたしは、彼らのことをしばしばあなたがたに話したが、今ま
なみだ なが かた かれ さいご ほろ かれ かみ はら かれ
た涙を流して語る。 一九彼らの最後は滅びである。彼らの神はその腹、彼らの
えいこう はじ かれ おも ちじょう
栄光はその恥、彼らの思いは地上のことである。 二〇しかし、わたしたちの
ピリピ人への手紙

こくせき てん すくいぬし しゅ
国籍は天にある。そこから、 救 主、主イエス・キリストのこられるのを、わ
ま のぞ かれ ばんぶつ じしん したが ちから はたら
たしたちは待ち望んでいる。 二一彼は、万物をご自身に従わせうる力の働きに
いや じしん えいこう おな
よって、わたしたちの卑しいからだを、ご自身の栄光のからだと同じかたち
か くだ
に変えて下さるであろう。

9
第四章
あい した きょうだい よろこ かんむり
一 だから、わたしの愛し慕っている兄 弟たちよ。わたしの喜びであり冠であ
あい もの しゅ かた た
る愛する者たちよ。このように、主にあって堅く立ちなさい。
すす すす しゅ
二 わたしはユウオデヤに勧め、またスントケに勧める。どうか、主にあって一
おも しんじつ きょうりょくしゃ ねが
つ思いになってほしい。 三ついては、真実な協 力 者よ。あなたにお願いす
おんな たす かれ しょ な か
る。このふたりの女を助けてあげなさい。彼らは、
﹁いのちの書﹂に名を書き
た どうろうしゃ きょうりょく ふくいん
とめられているクレメンスや、その他の同労者たちと協 力して、福音のため
とも たたか おんな
にわたしと共に戦 ってくれた女たちである。
しゅ よろこ く かえ い よろこ
四 あなたがたは、主にあっていつも喜びなさい。繰り返して言うが、 喜びな
かんよう ひと しめ しゅ ちか なにごと
さい。 五あなたがたの寛容を、みんなの人に示しなさい。主は近い。 六何事も
おも わずら こと かんしゃ いのり ねが
思い煩 ってはならない。ただ、事ごとに、感謝をもって祈と願いとをささげ、
ピリピ人への手紙

もと かみ もう あ じんち
あなたがたの求めるところを神に申し上げるがよい。 七そうすれば、人知で
はか し かみ へいあん こころ おも
はとうてい測り知ることのできない神の平安が、あなたがたの心と思いとを、
まも
キリスト・イエスにあって守るであろう。
さいご きょうだい しんじつ たっと ただ
八 最後に、 兄 弟たちよ。すべて真実なこと、すべて尊ぶべきこと、すべて正

10
じゅんしん あい
しいこと、すべて純 真なこと、すべて愛すべきこと、すべてほまれあること、
とく しょうさん あたい こころ
また徳といわれるもの、称 賛に値するものがあれば、それらのものを心にと
まな う き
めなさい。 九あなたがたが、わたしから学んだこと、受けたこと、聞いたこと、
み じっこう へいわ かみ
見たことは、これを実行しなさい。そうすれば、平和の神が、あなたがたと
とも
共にいますであろう。
しゅ おお よろこ おも こころ
一〇 さて、わたしが主にあって大いに喜んでいるのは、わたしを思う心が、あ
いま め じつ
なたがたに今またついに芽ばえてきたことである。実は、あなたがたは、わ
こころ きかい
たしのことを心にかけてくれてはいたが、よい機会がなかったのである。 一一
とぼ い きょうぐう
わたしは乏しいから、こう言うのではない。わたしは、どんな境 遇にあって
た まな ひん しょ みち し とみ みち
も、足ることを学んだ。 一二わたしは貧に処する道を知っており、富におる道
し あ う と とぼ
も知っている。わたしは、飽くことにも飢えることにも、富むことにも乏し
きょうぐう しょ ひ こころえ
いことにも、ありとあらゆる境 遇に処する秘けつを心得ている。 一三わたし
ピリピ人への手紙

つよ くだ なにごと
を強くして下さるかたによって、何事でもすることができる。 一四しかし、あ
かんなん とも ひと
なたがたは、よくもわたしと患難を共にしてくれた。 一五ピリピの人たちよ。
し ふくいん せんでん はじ
あなたがたも知っているとおり、わたしが福音を宣伝し始めたころ、マケド
で い とき もの はたら さんか
ニ ヤ か ら 出 か け て 行 っ た 時、物 の や り と り を し て わ た し の 働 き に 参加 し た

11
きょうかい まった な いっさい
教 会は、あなたがたのほかには全く無かった。 一六またテサロニケでも、一再
もの おく けつぼう おぎな おく もの もと
ならず、物を送ってわたしの欠乏を補 ってくれた。 一七わたしは、贈り物を求
もと かんじょう
めているのではない。わたしの求めているのは、あなたがたの勘 定をふやし
かじつ もの う あま
ていく果実なのである。 一八わたしは、すべての物を受けてあり余るほどであ
おく もの あ た
る。エパフロデトから、あなたがたの贈り物をいただいて、飽き足りている。
かみ よろこ う くだ そな もの
それは、かんばしいかおりであり、神の喜んで受けて下さる供え物である。 一
かみ じしん えいこう とみ なか ひつよう
九 わたしの神は、ご自身の栄光の富の中から、あなたがたのいっさいの必要
み くだ ちち
を、キリスト・イエスにあって満たして下さるであろう。 二〇わたしたちの父
かみ えいこう よ よ かぎ
なる神に、栄光が世々限りなくあるように、アァメン。
せいと いっしょ
二一 キリスト・イエスにある聖徒のひとりびとりに、よろしく。わたしと一緒
きょうだい せいと とく
にいる兄 弟たちから、あなたがたによろしく。 二二すべての聖徒たちから、特
いえ もの
にカイザルの家の者たちから、よろしく。
ピリピ人への手紙

しゅ めぐ れい とも
二三 主イエス・キリストの恵みが、あなたがたの霊と共にあるように。

12
びと てがみ
コロサイ人への手紙
第一章
かみ みむね し と きょうだい
一 神の御旨によるキリスト・イエスの使徒パウロと兄 弟 テモテから、 二コロ
せいと ちゅうじつ きょうだい
サイにいる、キリストにある聖徒たち、 忠 実な兄 弟たちへ。
ちち かみ めぐ へいあん
わたしたちの父なる神から、恵みと平安とが、あなたがたにあるように。
いの しゅ
三 わたしたちは、いつもあなたがたのために祈り、わたしたちの主イエス・キ
ちち かみ かんしゃ たい
リストの父なる神に感謝している。 四これは、キリスト・イエスに対するあな
しんこう せいと たい あい みみ
たがたの信仰と、すべての聖徒に対していだいているあなたがたの愛とを、耳
あい てん
にしたからである。 五この愛は、あなたがたのために天にたくわえられてい
コロサイ人への手紙

のぞ もとづ のぞ
る望みに基くものであり、その望みについては、あなたがたはすでに、あな
つた ふくいん しんり ことば き
たがたのところまで伝えられた福音の真理の言葉によって聞いている。 六そ
ふくいん せかいじゅう ところ
して、この福音は、世界中いたる所でそうであるように、あなたがたのとこ
き かみ めぐ し いらい み むす せいちょう
ろでも、これを聞いて神の恵みを知ったとき以来、実を結んで成 長している

0
ふくいん おな しもべ あい
のである。 七あなたがたはこの福音を、わたしたちと同じ僕である、愛するエ
まな かれ ちゅうじつ
ペフラスから学んだのであった。彼はあなたがたのためのキリストの忠 実
ほうししゃ みたま あい
な奉仕者であって、八あなたがたが御霊によっていだいている愛を、わたした

ちに知らせてくれたのである。
こと みみ いらい た
九 そういうわけで、これらの事を耳にして以来、わたしたちも絶えずあなたが
いの もと れいてき ち え りかいりょく
たのために祈り求めているのは、あなたがたがあらゆる霊的な知恵と理解力
かみ みむね ふか し しゅ せいかつ しん
とをもって、神の御旨を深く知り、 一〇主のみこころにかなった生活をして真
しゅ よろこ よ おこな み むす かみ し ちしき
に主を喜ばせ、あらゆる良いわざを行 って実を結び、神を知る知識をいよい
ま くわ いた さら いの かみ
よ増し加えるに至ることである。 一一更にまた祈るのは、あなたがたが、神の
えいこう いきお たま ちから つよ なにごと よろこ
栄光の勢いにしたがって賜わるすべての力によって強くされ、何事も喜んで
た しの ひかり せいと とっけん た もの
耐えかつ忍び、 一二 光のうちにある聖徒たちの特権にあずかるに足る者とな
コロサイ人への手紙

くだ ちち かみ かんしゃ かみ
らせて下さった父なる神に、感謝することである。 一三神は、わたしたちをや
ちから すく だ あい み こ し は い か うつ くだ
みの力から救い出して、その愛する御子の支配下に移して下さった。 一四わた
み こ つみ う
したちは、この御子によってあがない、すなわち、罪のゆるしを受けている
のである。
み こ み かみ つく さき
一五 御子は、見えない神のかたちであって、すべての造られたものに先だって

1
うま ばんぶつ てん ち み
生れたかたである。 一六万物は、天にあるものも地にあるものも、見えるもの
み くらい しゅけん しはい けんい み こ つく
も見えないものも、 位も主権も、支配も権威も、みな御子にあって造られた
み こ つく み こ
からである。これらいっさいのものは、御子によって造られ、御子のために
つく かれ ばんぶつ さき ばんぶつ かれ な た
造られたのである。 一七彼は万物よりも先にあり、万物は彼にあって成り立っ
みずか きょうかい かれ はじ
ている。 一八そして自らは、そのからだなる教 会のかしらである。彼は初め
もの しにん なか さいしょ うま じしん
の者であり、死人の中から最初に生れたかたである。それは、ご自身がすべ
だい もの かみ みむね み こ
てのことにおいて第一の者となるためである。 一九神は、御旨によって、御子
み とく やど じゅうじか ち
のうちにすべての満ちみちた徳を宿らせ、 二〇そして、その十字架の血によっ
へいわ ばんぶつ ち てん
て平和をつくり、万物、すなわち、地にあるもの、天にあるものを、ことご
かれ じぶん わかい くだ
とく、彼によってご自分と和解させて下さったのである。
わる おこな かみ はな こころ なか かみ てきたい
二一 あなたがたも、かつては悪い行いをして神から離れ、心の中で神に敵対し
コロサイ人への手紙

いま み こ にく し
ていた。 二二しかし今では、御子はその肉のからだにより、その死をとおして、
かみ わかい せい きず せ
あなたがたを神と和解させ、あなたがたを聖なる、傷のない、責められると
もの た くだ
ころのない者として、みまえに立たせて下さったのである。 二三ただし、あな
しんこう き
たがたは、ゆるぐことがなく、しっかりと信仰にふみとどまり、すでに聞い
ふくいん のぞ うつ い ふくいん
て い る 福音 の 望 み か ら 移 り 行 く こ と の な い よ う に す べ き で あ る。こ の 福音

2
てん した つく たい の つた
は、天の下にあるすべての造られたものに対して宣べ伝えられたものであっ
ほうし
て、それにこのパウロが奉仕しているのである。
いま くなん よろこ う
二四 今わたしは、あなたがたのための苦難を喜んで受けており、キリストのか
きょうかい くる た
らだなる教 会のために、キリストの苦しみのなお足りないところを、わたし
にくたい おぎな かみ ことば つ つとめ
の肉体をもって補 っている。 二五わたしは、神の言を告げひろめる務を、あな
かみ あた きょうかい ほうし もの
たがたのために神から与えられているが、そのために教 会に奉仕する者に
ことば おくぎ よ よ よ かく
なっているのである。 二六その言の奥義は、代々にわたってこの世から隠され
いま かみ せいと あき かみ かれ
て い た が、今 や 神 の 聖徒 た ち に 明 ら か に さ れ た の で あ る。 二七神 は 彼 ら に、
いほうじん う おくぎ えいこう と し
異邦人の受くべきこの奥義が、いかに栄光に富んだものであるかを、知らせ
おくぎ
ようとされたのである。この奥義は、あなたがたのうちにいますキリストで
えいこう のぞ の つた ち え
あり、栄光の望みである。 二八わたしたちはこのキリストを宣べ伝え、知恵を
コロサイ人への手紙

ひと くんかい ひと おし かれ
つくしてすべての人を訓戒し、また、すべての人を教えている。それは、彼
まった もの た
らがキリストにあって全き者として立つようになるためである。 二九わたし
ちからづよ はたら ちから くとう
はこのために、わたしのうちに力 強く働いておられるかたの力により、苦闘
どりょく
しながら努力しているのである。

3
第二章
ひと ちょくせつ
一 わたしが、あなたがたとラオデキヤにいる人たちのため、また、 直 接には
あ ひとびと くとう
まだ会ったことのない人々のために、どんなに苦闘しているか、わかっても
かれ こころ はげ あい むす あ ゆた
らいたい。 二それは彼らが、心を励まされ、愛によって結び合わされ、豊かな
りかいりょく じゅうぶん あた かみ おくぎ し いた
理解力を十 分に与えられ、神の奥義なるキリストを知るに至るためである。
ち え ちしき たから かく
三 キリストのうちには、知恵と知識との宝が、いっさい隠されている。 四わた
い たく ことば まよ
しがこう言うのは、あなたがたが、だれにも巧みな言葉で迷わされることの
にくたい はな れい
ないためである。 五たとい、わたしは肉体においては離れていても、霊におい
いっしょ ちつじょただ ようす たい
てはあなたがたと一緒にいて、あなたがたの秩序正しい様子とキリストに対
きょうこ しんこう み よろこ
するあなたがたの強固な信仰とを見て、 喜んでいる。
コロサイ人への手紙

しゅ う かれ
六 このように、あなたがたは主キリスト・イエスを受けいれたのだから、彼に
ある かれ ね かれ た おし
あって歩きなさい。 七また、彼に根ざし、彼にあって建てられ、そして教えら
しんこう かくりつ かんしゃ
れたように、信仰が確立されて、あふれるばかり感謝しなさい。
てつがく ひと
八 あなたがたは、むなしいだましごとの哲学で、人のとりこにされないよう
き したが よ れいりょく したが
に、気をつけなさい。それはキリストに従わず、世のもろもろの霊 力に従う

4
にんげん いいつた もとづ み
人間 の 言伝 え に 基 く も の に す ぎ な い。 九キ リ ス ト に こ そ、満 ち み ち て い る
かみ とく やど
いっさいの神の徳が、かたちをとって宿っており、一〇そしてあなたがたは、キ
み かれ しはい けんい
リストにあって、それに満たされているのである。彼はすべての支配と権威
かれ て かつれい
とのかしらであり、一一あなたがたはまた、彼にあって、手によらない割礼、す
かつれい う にく ぬ す
なわち、キリストの割礼を受けて、肉のからだを脱ぎ捨てたのである。 一二あ
う かれ とも ほうむ どうじ かれ しにん なか
なたがたはバプテスマを受けて彼と共に葬られ、同時に、彼を死人の中から
かみ ちから しん しんこう かれ とも
よみがえらせた神の力を信じる信仰によって、彼と共によみがえらされたの
さき つみ なか にく かつれい
である。 一三あなたがたは、先には罪の中にあり、かつ肉の割礼がないままで
し もの かみ とも い
死んでいた者であるが、神は、あなたがたをキリストと共に生かし、わたし
つみ くだ かみ せ ふ り
たちのいっさいの罪をゆるして下さった。 一四神は、わたしたちを責めて不利
しょうしょ きてい け と のぞ
に お と し い れ る 証 書 を、そ の 規定 も ろ と も ぬ り 消 し、こ れ を 取 り 除 い て、
コロサイ人への手紙

じゅうじか しはい けんい ぶそう


十字架につけてしまわれた。 一五そして、もろもろの支配と権威との武装を
かいじょ がいせん かれ ぎょうれつ くわ
解除し、キリストにあって凱旋し、彼らをその行 列に加えて、さらしものと
されたのである。
しょくもつ の もの まつり しんげつ
一六 だ か ら、あ な た が た は、 食 物 と 飲 み 物 と に つ き、あ る い は 祭 や 新月 や
あんそくにち ひひょう
安息日などについて、だれにも批評されてはならない。 一七これらは、きたる

5
かげ ほんたい
べきものの影であって、その本体はキリストにある。 一八あなたがたは、わざ
けん て ん し れいはい ひとびと あくひょう
とらしい謙そんと天使礼拝とにおぼれている人々から、いろいろと悪 評され
かれ まぼろし み おも にく おも
てはならない。彼らは幻を見たことを重んじ、肉の思いによっていたずらに
ほこ つ
誇るだけで、 一九キリストなるかしらに、しっかりと着くことをしない。この
で ぜんたい ふし ふし すじ すじ つよ むす あ
かしらから出て、からだ全体は、節と節、筋と筋とによって強められ結び合
かみ そだ せいちょう
わされ、神に育てられて成 長していくのである。
とも し よ れいりょく はな
二〇 もしあなたがたが、キリストと共に死んで世のもろもろの霊 力から離れ
よ い あじ
たのなら、なぜ、なおこの世に生きているもののように、 二一﹁さわるな、味
ふ きてい しば みな つか
わうな、触れるな﹂などという規定に縛られているのか。 二二これらは皆、使
つ にんげん きてい おしえ
えば尽きてしまうもの、人間の規定や教によっているものである。 二三これら
れいはい けん くぎょう
のことは、ひとりよがりの礼拝とわざとらしい謙そんと、からだの苦行とを
コロサイ人への手紙

ち え み じつ にくよく
ともなうので、知恵のあるしわざらしく見えるが、実は、ほしいままな肉欲
ふせ やく た
を防ぐのに、なんの役にも立つものではない。

6
第三章
とも うえ
一 このように、あなたがたはキリストと共によみがえらされたのだから、上に
もと かみ みぎ ざ
あるものを求めなさい。そこではキリストが神の右に座しておられるのであ
うえ おも ちじょう こころ ひ
る。 二あなたがたは上にあるものを思うべきであって、地上のものに心を引

かれてはならない。 三あなたがたはすでに死んだものであって、あなたがた
とも かみ かく
のいのちは、キリストと共に神のうちに隠されているのである。 四わたした
あらわ とき とも えいこう
ちのいのちなるキリストが現れる時には、あなたがたも、キリストと共に栄光
あらわ
のうちに現れるであろう。
ちじょう したい ふひんこう けが じょうよく あくよく どんよく
五 だから、地上の肢体、すなわち、不品行、汚れ、 情 欲、悪欲、また貪欲を
ころ どんよく ぐうぞうれいはい
殺してしまいなさい。貪欲は偶像礼拝にほかならない。 六これらのことのた
コロサイ人への手紙

かみ いか くだ いぜん ひ す
めに、神の怒りが下るのである。 七あなたがたも、以前これらのうちに日を過
とき ある いま
ごしていた時には、これらのことをして歩いていた。 八しかし今は、これら
す いか いきどお あくい くち で は ことば
いっさいのことを捨て、怒り、 憤り、悪意、そしり、口から出る恥ずべき言葉
す たがい い ふる
を、捨ててしまいなさい。 九 互にうそを言ってはならない。あなたがたは、古
ひと おこな いっしょ ぬ す つく ぬし したが あたら
き人をその行いと一緒に脱ぎ捨て、 一〇造り主のかたちに従 って新しくされ、

7
しん ちしき いた あたら ひと き じん
真の知識に至る新しき人を着たのである。 一一そこには、もはやギリシヤ人と
じん かつれい む かつれい みかい ひと びと どれい じゆうじん さべつ
ユダヤ人、割礼と無割礼、未開の人、スクテヤ人、奴隷、自由人の差別はな
い。キリストがすべてであり、すべてのもののうちにいますのである。
かみ えら もの せい あい もの
一二 だから、あなたがたは、神に選ばれた者、聖なる、愛されている者である
こころ じあい けん にゅうわ かんよう み つ たがい
から、あわれみの心、慈愛、謙そん、柔和、寛容を身に着けなさい。 一三 互に
しの たがい せ あ しゅ
忍びあい、もし互に責むべきことがあれば、ゆるし合いなさい。主もあなた
くだ あ
がたをゆるして下さったのだから、そのように、あなたがたもゆるし合いな
うえ あい くわ あい
さい。 一四これらいっさいのものの上に、愛を加えなさい。愛は、すべてを
かんぜん むす おび へいわ こころ しはい
完全に結ぶ帯である。 一五キリストの平和が、あなたがたの心を支配するよう
め いったい
にしなさい。あなたがたが召されて一体となったのは、このためでもある。
かんしゃ ことば ゆた
いつも感謝していなさい。 一六キリストの言葉を、あなたがたのうちに豊かに
コロサイ人への手紙

やど ち え たがい おし くんかい し
宿らせなさい。そして、知恵をつくして互に教えまた訓戒し、詩とさんびと
れい うた かんしゃ こころ かみ
霊の歌とによって、感謝して心から神をほめたたえなさい。 一七そして、あな
ことば と しゅ
たのすることはすべて、言葉によるとわざによるとを問わず、いっさい主イ
な かれ ちち かみ かんしゃ
エスの名によってなし、彼によって父なる神に感謝しなさい。
つま もの おっと つか しゅ もの
一八 妻たる者よ、夫に仕えなさい。それが、主にある者にふさわしいことであ

8
おっと もの つま あい こ
る。 一九 夫たる者よ、妻を愛しなさい。つらくあたってはいけない。 二〇子た
もの なにごと りょうしん したが しゅ よろこ
る者よ、何事についても両 親に従いなさい。これが主に喜ばれることであ
ちち もの こども こころ し
る。 二一父たる者よ、子供をいらだたせてはいけない。 心がいじけるかも知
しもべ もの なにごと にく しゅじん したが
れないから。 二二 僕たる者よ、何事についても、肉による主人に従いなさい。
ひと めさき つと まごころ しゅ
人にへつらおうとして、目先だけの勤めをするのではなく、真心をこめて主
おそ したが なに ひと たい しゅ たい
を恐れつつ、 従いなさい。 二三何をするにも、人に対してではなく、主に対し
こころ はたら し
てするように、心から働きなさい。 二四あなたがたが知っているとおり、あな
みくに むく しゅ う
たがたは御国をつぐことを、報いとして主から受けるであろう。あなたがた
しゅ つか ふせい おこな もの じぶん おこな
は、主キリストに仕えているのである。 二五不正を行う者は、自分の行 った
ふせい たい むく う さ べ つ あつか
不正に対して報いを受けるであろう。それには差別 扱いはない。
コロサイ人への手紙

第四章
しゅじん もの しもべ ただ こうへい あつか しゅ てん
一 主人たる者よ、 僕を正しく公平に扱いなさい。あなたがたにも主が天にい
ますことが、わかっているのだから。
め かんしゃ いの いの つづ どうじ
二 目をさまして、感謝のうちに祈り、ひたすら祈り続けなさい。 三同時にわた

9
かみ みことば もん ひら くだ
したちのためにも、神が御言のために門を開いて下さって、わたしたちがキ
おくぎ かた じつ ごく
リストの奥義を語れるように︵わたしは、実は、そのために獄につながれて
かた かた
いるのである︶、 四また、わたしが語るべきことをはっきりと語れるように、
いの いま とき い もち ひと たい かしこ こうどう
祈ってほしい。 五今の時を生かして用い、そとの人に対して賢く行動しなさ
しお あじ ことば つか
い。 六いつも、塩で味つけられた、やさしい言葉を使いなさい。そうすれば、
たい こた
ひとりびとりに対してどう答えるべきか、わかるであろう。
ようす しゅ とも しもべ ちゅうじつ つか
七 わたしの様子については、主にあって共に僕であり、また忠 実に仕えてい
あい きょうだい ほうこく
る愛する兄 弟 テキコが、あなたがたにいっさいのことを報告するであろう。
かれ おく ようす し
八 わたしが彼をあなたがたのもとに送るのは、わたしたちの様子を知り、また
かれ こころ はげ う
彼 に よ っ て 心 に 励 ま し を 受 け る た め な の で あ る。 九あ な た が た の ひ と り、
ちゅうじつ あい きょうだい かれ とも おく かれ
忠 実な愛する兄 弟 オネシモをも、彼と共に送る。彼らはあなたがたに、こち
コロサイ人への手紙

じじょう し
らのいっさいの事情を知らせるであろう。
いっしょ とら み
一〇 わたしと一緒に捕われの身となっているアリスタルコと、バルナバのいと

こマルコとが、あなたがたによろしくと言っている。このマルコについては、
かれ い むか
もし彼があなたがたのもとに行くなら、迎えてやるようにとのさしずを、あ
う よ
なたがたはすでに受けているはずである。 一一また、ユストと呼ばれているイ

10
かつれい もの なか にん かみ くに はたら
エスからもよろしく。割礼の者の中で、この三人だけが神の国のために働く
どうろうしゃ なぐさ もの
同労者であって、わたしの慰めとなった者である。 一二あなたがたのうちのひ
しもべ かれ いのり
とり、キリスト・イエスの僕 エパフラスから、よろしく。彼はいつも、 祈の
おぼ まった ひと かみ みむね
うちであなたがたを覚え、あなたがたが全き人となり、神の御旨をことごと
かくしん た ねっしん いの かれ
く確信して立つようにと、熱心に祈っている。 一三わたしは、彼があなたがた
ひとびと しんろう
のため、またラオデキヤとヒエラポリスの人々のために、ひじょうに心労し
しょうげん あい い しゃ
ていることを、証 言する。 一四愛する医者ルカとデマスとが、あなたがたによ
きょうだい いえ きょうかい
ろしく。 一五ラオデキヤの兄 弟たちに、またヌンパとその家にある教 会とに、
てがみ ところ ろうどく
よ ろ し く。 一 六こ の 手紙 が あ な た が た の 所 で 朗読 さ れ た ら、ラ オ デ キ ヤ の
きょうかい ろうどく と はか
教 会でも朗読されるように、取り計らってほしい。またラオデキヤからま
く てがみ ろうどく しゅ
わって来る手紙を、あなたがたも朗読してほしい。 一七アルキポに、
﹁主にあっ
コロサイ人への手紙

う つとめ はた つた
て受けた務をよく果すように﹂と伝えてほしい。
じしん て か ごく
一八 パウロ自身が、手ずからこのあいさつを書く。わたしが獄につながれてい
おぼ めぐ とも
ることを、覚えていてほしい。恵みが、あなたがたと共にあるように。

11
びと だい てがみ
テサロニケ人への第一の手紙
第一章
ちち かみ しゅ
一 パウロとシルワノとテモテから、父なる神と主イエス・キリストとにあるテ
びと きょうかい
サロニケ人たちの教 会へ。
めぐ へいあん
恵みと平安とが、あなたがたにあるように。
いのり とき おぼ いちどう
二 わたしたちは祈の時にあなたがたを覚え、あなたがた一同のことを、いつも
かみ かんしゃ しんこう はたら あい ろうく しゅ
テサロニケ人への第一の手紙

神に感謝し、 三あなたがたの信仰の働きと、愛の労苦と、わたしたちの主イエ
たい のぞ にんたい ちち かみ た
ス・キリストに対する望みの忍耐とを、わたしたちの父なる神のみまえに、絶
おも おこ かみ あい きょうだい
えず思い起している。 四神に愛されている兄 弟たちよ。わたしたちは、あな
かみ えら し
た が た が 神 に 選 ば れ て い る こ と を 知 っ て い る。 五な ぜ な ら、わ た し た ち の
ふくいん つた ことば ちから せいれい
福音があなたがたに伝えられたとき、それは言葉だけによらず、 力と聖霊と
つよ かくしん あいだ
強い確信とによったからである。わたしたちが、あなたがたの間で、みんな

のためにどんなことをしたか、あなたがたの知っているとおりである。 六そ

0
おお かんなん なか せいれい よろこ みことば う
してあなたがたは、多くの患難の中で、聖霊による喜びをもって御言を受け
しゅ もの
いれ、わたしたちと主とにならう者となり、 七こうして、マケドニヤとアカヤ
しんじゃぜんたい もはん しゅ ことば
とにいる信者全体の模範になった。 八すなわち、主の言葉はあなたがたから
で ひび いた
出て、ただマケドニヤとアカヤとに響きわたっているばかりではなく、至る
かみ たい しんこう い
ところで、神に対するあなたがたの信仰のことが言いひろめられたので、こ
なに の ひつよう
れについては何も述べる必要はないほどである。 九わたしたちが、どんなに
ところ い
してあなたがたの所にはいって行ったか、また、あなたがたが、どんなにし
ぐうぞう す かみ た かえ い かみ つか
て偶像を捨てて神に立ち帰り、生けるまことの神に仕えるようになり、 一〇そ
しにん なか かみ み こ
して、死人の中からよみがえった神の御子、すなわち、わたしたちをきたる
テサロニケ人への第一の手紙

いか すく だ くだ てん くだ ま
べき怒りから救い出して下さるイエスが、天から下ってこられるのを待つよ
かれ じしん い
うになったかを、彼ら自身が言いひろめているのである。
第二章
きょうだい じしん し
一 兄 弟たちよ。あなたがた自身が知っているとおり、わたしたちがあなたが
ところ い
たの所にはいって行ったことは、むだではなかった。 二それどころか、あなた

1
し さき くる
がたが知っているように、わたしたちは、先にピリピで苦しめられ、はずか
かみ ゆうき あた はげ くとう
しめられたにもかかわらず、わたしたちの神に勇気を与えられて、激しい苦闘
かみ ふくいん かた
のうちに神の福音をあなたがたに語ったのである。 三いったい、わたしたち
せんきょう まよ けが こころ で
の宣 教は、迷いや汚れた心から出たものでもなく、だましごとでもない。 四か
かみ しんにん う ふくいん たく にんげん よろこ
えって、わたしたちは神の信任を受けて福音を託されたので、人間に喜ばれ
こころ み わ かみ よろこ ふくいん かた
るためではなく、わたしたちの心を見分ける神に喜ばれるように、福音を語
し けっ
るのである。 五わたしたちは、あなたがたが知っているように、決してへつら
ことば もち こうじつ もう
いの言葉を用いたこともなく、口実を設けて、むさぼったこともない。それ
かみ くだ し と おも
は、神があかしして下さる。 六また、わたしたちは、キリストの使徒として重
テサロニケ人への第一の手紙

ひとびと
んじられることができたのであるが、あなたがたからにもせよ、ほかの人々
にんげん えいよ もと
からにもせよ、人間からの栄誉を求めることはしなかった。 七むしろ、あなた
あいだ はは こども そだ
がたの間で、ちょうど母がその子供を育てるように、やさしくふるまった。 八
した おも かみ ふくいん
このように、あなたがたを慕わしく思っていたので、ただ神の福音ばかりで
じぶん あた ねが
はなく、自分のいのちまでもあなたがたに与えたいと願ったほどに、あなた
あい きょうだい ろうく
が た を 愛 し た の で あ る。 九 兄 弟 た ち よ。あ な た が た は わ た し た ち の 労苦 と
どりょく きおく ふたん
努力とを記憶していることであろう。すなわち、あなたがたのだれにも負担

2
おも にちや かみ ふくいん の つた
をかけまいと思って、日夜はたらきながら、あなたがたに神の福音を宣べ伝
かみ くだ
えた。 一〇あなたがたもあかしし、神もあかしして下さるように、わたしたち
しんじゃ まえ しんじんぶか ただ せ
はあなたがた信者の前で、信心深く、正しく、責められるところがないよう
せいかつ し ちち
に、生活をしたのである。 一一そして、あなたがたも知っているとおり、父が
こ たい たい みくに
その子に対してするように、あなたがたのひとりびとりに対して、 一二御国と
えいこう め くだ かみ ある すす はげ
その栄光とに召して下さった神のみこころにかなって歩くようにと、勧め、励
まし、また、さとしたのである。
かんが た かみ かんしゃ
一三 これらのことを考えて、わたしたちがまた絶えず神に感謝しているのは、
と かみ ことば き とき にんげん ことば
あなたがたがわたしたちの説いた神の言を聞いた時に、それを人間の言葉と
テサロニケ人への第一の手紙

かみ ことば じじつ う
してではなく、神の言として︱︱事実そのとおりであるが︱︱受けいれてく
かみ ことば しん はたら
れたことである。そして、この神の言は、信じるあなたがたのうちに働いて
きょうだい
いるのである。 一四兄 弟たちよ。あなたがたは、ユダヤの、キリスト・イエス
かみ しょきょうかい もの かれ じん
にある神の諸 教 会にならう者となった。すなわち、彼らがユダヤ人たちから
くる おな どうこくじん くる
苦しめられたと同じように、あなたがたもまた同国人から苦しめられた。 一五
じん しゅ よげんしゃ ころ はくがい かみ
ユダヤ人たちは主イエスと預言者たちとを殺し、わたしたちを迫害し、神を
よろこ ひと さか いほうじん すくい ことば かた
喜ばせず、すべての人に逆らい、 一六わたしたちが異邦人に救の言を語るのを

3
さまた た じぶん つみ み かみ いか もっと はげ かれ
妨げて、絶えず自分の罪を満たしている。そこで、神の怒りは最も激しく彼
のぞ いた
らに臨むに至ったのである。
きょうだい あいだ ひ はな
一七 兄 弟たちよ。わたしたちは、しばらくの間、あなたがたから引き離されて
こころ
いたので︱︱心においてではなく、からだだけではあるが︱︱なおさら、あ
かお み せつ
なたがたの顔を見たいと切にこいねがった。 一八だから、わたしたちは、あな
ところ い いっさい い
たがたの所に行こうとした。ことに、このパウロは、一再ならず行こうとし
さまた じっさい
たのである。それだのに、わたしたちはサタンに妨げられた。 一九実際、わた
しゅ らいりん のぞ よろこ ほこり かんむり
したちの主イエスの来臨にあたって、わたしたちの望みと喜びと誇の冠とな
もの ほか
るべき者は、あなたがたを外にして、だれがあるだろうか。 二〇あなたがたこ
テサロニケ人への第一の手紙

じつ よろこ
そ、実にわたしたちのほまれであり、 喜びである。
第三章
いじょう た
一 そこで、わたしたちはこれ以上耐えられなくなって、わたしたちだけがアテ
と ま
} ることに 定 さ
]( だ きょうだい ふくいん かみ
ネに 留 め、 二わ た し た ち の 兄 弟 で、キ リ ス ト の 福音 に お け る 神 の
{[
どうろうしゃ しんこう つよ
同労者テモテをつかわした。それは、あなたがたの信仰を強め、三このような

4
かんなん なか どうよう もの はげ
患難の中にあって、動揺する者がひとりもないように励ますためであった。
し かんなん あ さだ
あなたがたの知っているとおり、わたしたちは患難に会うように定められて
ところ
いるのである。 四そして、あなたがたの所にいたとき、わたしたちがやがて
かんなん あ い し
患難に会うことをあらかじめ言っておいたが、あなたがたの知っているよう
いま いじょう た
に、今そのとおりになったのである。 五そこで、わたしはこれ以上耐えられな
こころ もの こころ
くなって、もしや﹁試みる者﹂があなたがたを試み、そのためにわたしたち
ろうく き しんこう し
の労苦がむだになりはしないかと気づかって、あなたがたの信仰を知るため
かれ いま ところ
に、彼をつかわしたのである。 六ところが今テモテが、あなたがたの所からわ
かえ しんこう あい し
たしたちのもとに帰ってきて、あなたがたの信仰と愛とについて知らせ、ま
テサロニケ人への第一の手紙

おぼ
た、あなたがたがいつもわたしたちのことを覚え、わたしたちがあなたがた
あ おも おな あ
に会いたく思っていると同じように、わたしたちにしきりに会いたがってい
きっぽう きょうだい
るという吉報をもたらした。 七兄 弟たちよ。それによって、わたしたちはあ
くなん かんなん なか しんこう なぐさ
らゆる苦難と患難との中にありながら、あなたがたの信仰によって慰められ
しゅ かた た
た。 八なぜなら、あなたがたが主にあって堅く立ってくれるなら、わたしたち
い かみ
はいま生きることになるからである。 九ほんとうに、わたしたちの神のみま
よろこ おお よろこ かんしゃ かみ
えで、あなたがたのことで喜ぶ大きな喜びのために、どんな感謝を神にささ

5
かお み
げたらよいだろうか。 一〇わたしたちは、あなたがたの顔を見、あなたがたの
しんこう た おぎな にちや ねが
信仰の足りないところを補いたいと、日夜しきりに願っているのである。
ちち かみ じしん しゅ
一一 どうか、わたしたちの父なる神ご自身と、わたしたちの主イエスとが、あ
い みち ひら くだ
なたがたのところへ行く道を、わたしたちに開いて下さるように。 一二どう
しゅ そうご あい ひと たい あい
か、主が、あなたがた相互の愛とすべての人に対する愛とを、わたしたちが
あい あい おな ま くわ ゆた くだ
あなたがたを愛する愛と同じように、増し加えて豊かにして下さるように。 一
しゅ せい もの とも
三 そして、どうか、わたしたちの主イエスが、そのすべての聖なる者と共にこ
とき かみ こころ つよ きよ せ
られる時、神のみまえに、あなたがたの心を強め、清く、責められるところ
もの くだ
のない者にして下さるように。
テサロニケ人への第一の手紙

第四章
さいご きょうだい しゅ ねが
一 最後に、兄 弟たちよ。わたしたちは主イエスにあってあなたがたに願いか
すす ある かみ よろこ
つ勧める。あなたがたが、どのように歩いて神を喜ばすべきかをわたしたち
まな ある ある つづ
から学んだように、また、いま歩いているとおりに、ますます歩き続けなさ
おしえ しゅ あた
い。 二わたしたちがどういう教を主イエスによって与えたか、あなたがたは

6
し かみ きよ
よく知っている。 三神のみこころは、あなたがたが清くなることである。す
ふひんこう つつし かくじ き じぶん きよ たっと たも
なわち、不品行を慎み、 四各自、気をつけて自分のからだを清く尊く保ち、 五
かみ し いほうじん じょうよく
神を知らない異邦人のように情 欲をほしいままにせず、 六また、このような
きょうだい ふ まえ
ことで兄 弟を踏みつけたり、だましたりしてはならない。前にもあなたがた
けいこく しゅ むく
にきびしく警告しておいたように、主はこれらすべてのことについて、報い
かみ め けが
をなさるからである。 七神がわたしたちを召されたのは、汚れたことをする
きよ
ためではなく、清くなるためである。 八こういうわけであるから、これらの
けいこく こば もの ひと こば せいれい こころ たま かみ
警告を拒む者は、人を拒むのではなく、聖霊をあなたがたの心に賜わる神を
こば
拒むのである。
テサロニケ人への第一の手紙

きょうだいあい いま か ひつよう たがい あい


九 兄 弟 愛については、今さら書きおくる必要はない。あなたがたは、互に愛
あ かみ ちょくせつおし じじつ ぜんど
し合うように神に直 接 教えられており、一〇また、事実マケドニヤ全土にいる
きょうだい たい じっこう きょうだい
すべての兄 弟に対して、それを実行しているのだから。しかし、 兄 弟たち
すす
よ。あなたがたに勧める。ますます、そうしてほしい。 一一そして、あなたが
めい お つ せいかつ じぶん しごと み
たに命じておいたように、つとめて落ち着いた生活をし、自分の仕事に身を
て はたら がいぶ ひとびと たい ひんい たも
いれ、手ずから働きなさい。 一二そうすれば、外部の人々に対して品位を保ち、
せ わ せいかつ
まただれの世話にもならずに、生活できるであろう。

7
きょうだい ねむ ひとびと む ち
一三 兄 弟たちよ。眠っている人々については、無知でいてもらいたくない。
のぞ も ほか ひとびと かな
望みを持たない外の人々のように、あなたがたが悲しむことのないためであ
しん し ふっかつ
る。 一四わたしたちが信じているように、イエスが死んで復活されたからに
どうよう かみ ねむ ひとびと いっしょ みち だ
は、同様に神はイエスにあって眠っている人々をも、イエスと一緒に導き出
くだ しゅ ことば い い
して下さるであろう。 一五わたしたちは主の言葉によって言うが、生きながら
しゅ らいりん とき のこ ねむ ひとびと さき けっ
えて主の来臨の時まで残るわたしたちが、眠った人々より先になることは、決
しゅ じしん てんし こえ かみ
してないであろう。 一六すなわち、主ご自身が天使のかしらの声と神のラッパ
な ひび あいず こえ てん くだ とき
の鳴り響くうちに、合図の声で、天から下ってこられる。その時、キリスト
し ひとびと さいしょ い のこ
にあって死んだ人々が、まず最初によみがえり、 一七それから生き残っている
テサロニケ人への第一の手紙

かれ とも くも つつ ひ あ くうちゅう しゅ あ
わたしたちが、彼らと共に雲に包まれて引き上げられ、空 中で主に会い、こ
しゅ とも
うして、いつも主と共にいるであろう。 一八だから、あなたがたは、これらの
ことば たがい なぐさ あ
言葉をもって互に慰め合いなさい。
第五章
きょうだい じ き ばあい か ひつよう
一 兄 弟たちよ。その時期と場合とについては、書きおくる必要はない。 二あ

8
じしん し しゅ ひ ぬすびと よる く
なたがた自身がよく知っているとおり、主の日は盗人が夜くるように来る。 三
ひとびと へいわ ぶ じ い やさき にんぷ う くる
人々が平和だ無事だと言っているその矢先に、ちょうど妊婦に産みの苦しみ
のぞ とつじょ ほろ かれ く
が臨むように、突如として滅びが彼らをおそって来る。そして、それからの
けっ きょうだい くら
がれることは決してできない。 四しかし兄 弟たちよ。あなたがたは暗やみの
なか ひ ぬすびと ふ い おそ
中にいないのだから、その日が、盗人のようにあなたがたを不意に襲うこと
ひかり こ ひる こ
はないであろう。 五あなたがたはみな光の子であり、昼の子なのである。わ
よる もの もの ひとびと
たしたちは、夜の者でもやみの者でもない。 六だから、ほかの人々のように
ねむ め つつし ねむ もの よるねむ よ もの よる
眠っていないで、目をさまして慎んでいよう。 七眠る者は夜眠り、酔う者は夜
よ ひる もの しんこう あい むねあて
酔うのである。 八しかし、わたしたちは昼の者なのだから、信仰と愛との胸当
テサロニケ人への第一の手紙

み すくい のぞ つつし かみ
を身につけ、 救の望みのかぶとをかぶって、 慎んでいよう。 九神は、わたし
いか さだ しゅ
たちを怒りにあわせるように定められたのではなく、わたしたちの主イエス・
すくい え さだ
キリストによって救を得るように定められたのである。 一〇キリストがわた
し ねむ しゅ
したちのために死なれたのは、さめていても眠っていても、わたしたちが主
とも い いま たがい
と共に生きるためである。 一一だから、あなたがたは、今しているように、 互
なぐさ あ そうご とく たか
に慰め合い、相互の徳を高めなさい。
きょうだい ねが あいだ ろう
一二 兄 弟たちよ。わたしたちはお願いする。どうか、あなたがたの間で労し、

9
しゅ しどう くんかい ひとびと おも かれ
主にあってあなたがたを指導し、かつ訓戒している人々を重んじ、 一三彼らの
はたら おも とく あい うやま たがい へいわ す きょうだい
働きを思って、特に愛し敬いなさい。 互に平和に過ごしなさい。 一四兄 弟た
すす たいだ もの いまし しょうしん もの はげ よわ
ちよ。あなたがたにお勧めする。怠惰な者を戒め、小 心な者を励まし、弱い
もの たす ひと たい かんよう あく あく
者を助け、すべての人に対して寛容でありなさい。 一五だれも悪をもって悪に
むく こころ たがい たい ぜん お もと
報いないように心がけ、お互に、またみんなに対して、いつも善を追い求め
よろこ た いの こと
なさい。 一六いつも喜んでいなさい。 一七絶えず祈りなさい。 一八すべての事に
かんしゃ かみ
ついて、感謝しなさい。これが、キリスト・イエスにあって、神があなたが
もと みたま け よげん かろ
たに求めておられることである。 一九御霊を消してはいけない。 二〇預言を軽
しきべつ よ まも
んじてはならない。 二一すべてのものを識別して、良いものを守り、二二あらゆ
テサロニケ人への第一の手紙

しゅるい あく とお
る種類の悪から遠ざかりなさい。
へいわ かみ じしん まった くだ
二三 どうか、平和の神ご自身が、あなたがたを全くきよめて下さるように。ま
れい こころ かんぜん まも しゅ
た、あなたがたの霊と心とからだとを完全に守って、わたしたちの主イエス・
らいりん せ もの くだ
キリストの来臨のときに、責められるところのない者にして下さるように。 二
め しんじつ くだ
四 あなたがたを召されたかたは真実であられるから、このことをして下さる
であろう。
きょうだい いの
二五 兄 弟たちよ。わたしたちのためにも、祈ってほしい。

10
きょうだい せっぷん つた
二六 すべての兄 弟たちに、きよい接吻をもって、よろしく伝えてほしい。 二七わ
しゅ めい てがみ きょうだい よ き
たしは主によって命じる。この手紙を、みんなの兄 弟に読み聞かせなさい。
しゅ めぐ とも
二八 わたしたちの主イエス・キリストの恵みが、あなたがたと共にあるように。
テサロニケ人への第一の手紙

11
びと だい てがみ
テサロニケ人への第二の手紙
第一章
ちち かみ しゅ
一 パウロとシルワノとテモテから、わたしたちの父なる神と主イエス・キリス
びと きょうかい
トとにあるテサロニケ人たちの教 会へ。
ちち かみ しゅ めぐ へいあん
二 父なる神と主イエス・キリストから、恵みと平安とが、あなたがたにあるよ
うに。
きょうだい かみ かんしゃ
テサロニケ人への第二の手紙

三 兄 弟たちよ。わたしたちは、いつもあなたがたのことを神に感謝せずには
とうぜん しんこう おお
おられない。またそうするのが当然である。それは、あなたがたの信仰が大
せいちょう あい たがい あいだ ま くわ
いに成 長し、あなたがたひとりびとりの愛が、お互の間に増し加わっている
じしん う
からである。 四そのために、わたしたち自身は、あなたがたがいま受けている
はくがい かんなん なか しめ にんたい しんこう かみ しょ
あ ら ゆ る 迫害 と 患難 と の た だ 中 で 示 し て い る 忍耐 と 信仰 と に つ き、神 の 諸
きょうかい たい ほこり かみ くに
教 会に対してあなたがたを誇としている。 五これは、あなたがたを、神の国
もの かみ ただ しょうこ
にふさわしい者にしようとする神のさばきが正しいことを、証拠だてるもの

0
かみ くに くる
である。その神の国のために、あなたがたも苦しんでいるのである。 六すな
なや もの かんなん むく なや
わち、あなたがたを悩ます者には患難をもって報い、悩まされているあなた
とも きゅうそく むく くだ かみ
がたには、わたしたちと共に、休 息をもって報いて下さるのが、神にとって
ただ しゅ ほのお なか ちから てんし
正しいことだからである。 七それは、主イエスが炎の中で力ある天使たちを
ひき てん あらわ とき じつげん とき しゅ かみ みと もの
率いて天から現れる時に実現する。 八その時、主は神を認めない者たちや、わ
しゅ ふくいん き したが もの ほうふく かれ
たしたちの主イエスの福音に聞き従わない者たちに報復し、九そして、彼らは
しゅ かお ちから えいこう しりぞ えいえん ほろ いた けいばつ う
主のみ顔とその力の栄光から退けられて、永遠の滅びに至る刑罰を受けるで
ひ くだ せいと なか
あろう。 一〇その日に、イエスは下ってこられ、聖徒たちの中であがめられ、す
しん もの あいだ きょうたん
べて信じる者たちの間で驚 嘆されるであろう︱︱わたしたちのこのあかし
テサロニケ人への第二の手紙

しん
は、あなたがたによって信じられているのである。 一一このためにまた、わた
かみ め もの ぜん たい
したちは、わたしたちの神があなたがたを召しにかなう者となし、善に対す
ねが しんこう はたら ちからづよ み くだ
るあらゆる願いと信仰の働きとを力 強く満たして下さるようにと、あなたが
た いの かみ しゅ
たのために絶えず祈っている。 一二それは、わたしたちの神と主イエス・キリ
めぐ しゅ み な あいだ
ストとの恵みによって、わたしたちの主イエスの御名があなたがたの間であ
しゅ えいこう う
がめられ、あなたがたも主にあって栄光を受けるためである。

1
第二章
きょうだい しゅ らいりん
一 さて兄 弟たちよ。わたしたちの主イエス・キリストの来臨と、わたしたち
あつ ねが
がみもとに集められることとについて、あなたがたにお願いすることがある。
れい ことば で てがみ
二 霊により、あるいは言葉により、あるいはわたしたちから出たという手紙に
しゅ ひ もの こころ うご
よって、主の日はすでにきたとふれまわる者があっても、すぐさま心を動か
こと
されたり、あわてたりしてはいけない。 三だれがどんな事をしても、それにだ
はいきょう おこ ふほう もの ほろ
まされてはならない。まず背 教のことが起り、不法の者、すなわち、滅びの
こ あらわ かれ かみ よ おが
子が現れるにちがいない。 四彼は、すべて神と呼ばれたり拝まれたりするも
テサロニケ人への第二の手紙

はんこう た あ みずか かみ みや ざ じぶん かみ せんげん


のに反抗して立ち上がり、自ら神の宮に座して、自分は神だと宣言する。 五わ
ところ とき こと かえ い おも
たしがまだあなたがたの所にいた時、これらの事をくり返して言ったのを思
だ し かれ じぶん さだ
い出さないのか。 六そして、あなたがたが知っているとおり、彼が自分に定め
とき あらわ かれ そ し
られた時になってから現れるように、いま彼を阻止しているものがある。 七
ふほう ひみつ ちから はたら そ し
不法の秘密の力が、すでに働いているのである。ただそれは、いま阻止して
もの と のぞ とき とき ふほう もの
いる者が取り除かれる時までのことである。 八その時になると、不法の者が
あらわ もの しゅ くち いき ころ らいりん かがや ほろ
現れる。この者を、主イエスは口の息をもって殺し、来臨の輝きによって滅

2
ふほう もの く はたら
ぼすであろう。 九不法の者が来るのは、サタンの働きによるのであって、あら
いつわ ちから ふ し ぎ ふ ぎ まど
ゆる偽りの力と、しるしと、不思議と、 一〇また、あらゆる不義の惑わしとを、
ほろ もの たい おこな かれ ほろ じぶん すくい
滅ぶべき者どもに対して行うためである。彼らが滅びるのは、自分らの救と
しんり たい あい う むく かみ かれ
なるべき真理に対する愛を受けいれなかった報いである。 一一そこで神は、彼
いつわ しん まよ ちから おく しんり しん
らが偽りを信じるように、迷わす力を送り、 一二こうして、真理を信じないで
ふ ぎ よろこ ひと
不義を喜んでいたすべての人を、さばくのである。
しゅ あい きょうだい
一三 しかし、主に愛されている兄 弟たちよ。わたしたちはいつもあなたがた
かみ かんしゃ かみ はじ
のことを、神に感謝せずにはおられない。それは、神があなたがたを初めか
えら みたま しんり たい しんこう すくい え
ら選んで、御霊によるきよめと、真理に対する信仰とによって、 救を得させ
テサロニケ人への第二の手紙

ふくいん め
ようとし、 一四そのために、わたしたちの福音によりあなたがたを召して、わ
しゅ えいこう くだ
たしたちの主イエス・キリストの栄光にあずからせて下さるからである。 一五
きょうだい かた た ことば てがみ おし
そこで、 兄 弟たちよ。堅く立って、わたしたちの言葉や手紙で教えられた
いいつた まも つづ
言伝えを、しっかりと守り続けなさい。
しゅ じしん あい めぐ
一六 どうか、わたしたちの主イエス・キリストご自身と、わたしたちを愛し、恵
えいえん なぐさ たし のぞ たま ちち かみ
みをもって永遠の慰めと確かな望みとを賜わるわたしたちの父なる神とが、
こころ はげ つよ よ おこな
一七 あなたがたの心を励まし、あなたがたを強めて、すべての良いわざを行い、

3
ただ ことば かた もの くだ
正しい言葉を語る者として下さるように。
第三章
さいご きょうだい いの しゅ ことば
一 最後に、兄 弟たちよ。わたしたちのために祈ってほしい。どうか主の言葉
ところ おな はや ひろ
が、あなたがたの所と同じように、ここでも早く広まり、また、あがめられ
ふ つ ご う あくにん すく
るように。 二また、どうか、わたしたちが不都合な悪人から救われるように。
じじつ ひと しんこう も しゅ しんじつ
事実、すべての人が信仰を持っているわけではない。 三しかし、主は真実なか
つよ あ もの まも くだ
たであるから、あなたがたを強め、悪しき者から守って下さるであろう。 四わ
テサロニケ人への第二の手紙

めい こと げん じっこう じっこう
たしたちが命じる事を、あなたがたは現に実行しており、また、実行するで
しゅ かくしん しゅ
あろうと、わたしたちは、主にあって確信している。 五どうか、主があなたが
こころ みちび かみ あい にんたい も くだ
たの心を導いて、神の愛とキリストの忍耐とを持たせて下さるように。
きょうだい しゅ な めい たいだ
六 兄 弟たちよ。主イエス・キリストの名によってあなたがたに命じる。怠惰
せいかつ う いいつた したが きょうだい
な生活をして、わたしたちから受けた言伝えに従わないすべての兄 弟たちか
とお
ら、遠ざかりなさい。 七わたしたちに、どうならうべきであるかは、あなたが
じしん し ところ とき
た自身が知っているはずである。あなたがたの所にいた時には、わたしたち

4
たいだ せいかつ ひと た
は 怠惰 な 生活 を し な か っ た し、 八人 か ら パ ン を も ら っ て 食 べ る こ と も し な
ふたん にちや ろうく
かった。それどころか、あなたがたのだれにも負担をかけまいと、日夜、労苦
どりょく はたら つづ けんり
し努力して働き続けた。 九それは、わたしたちにその権利がないからではな
みなら み もはん しめ
く、ただわたしたちにあなたがたが見習うように、身をもって模範を示した
ところ とき はたら もの た
のである。 一〇また、あなたがたの所にいた時に、
﹁働こうとしない者は、食べ
めい き
ることもしてはならない﹂と命じておいた。 一一ところが、聞くところによる
もの たいだ せいかつ おく はたら
と、あなたがたのうちのある者は怠惰な生活を送り、 働かないで、ただいた
うご ひとびと たい しず
ずらに動きまわっているとのことである。 一二こうした人々に対しては、静か
はたら じぶん え た しゅ めい
に働いて自分で得たパンを食べるように、主イエス・キリストによって命じ
テサロニケ人への第二の手紙

すす きょうだい よ はたら
また勧める。 一三兄 弟たちよ。あなたがたは、たゆまずに良い働きをしなさ
てがみ ことば き したが ひと
い。 一四もしこの手紙にしるしたわたしたちの言葉に聞き従わない人があれ
ひと ちゅうい こうさい かれ みずか は
ば、そのような人には注意をして、交際しないがよい。彼が自ら恥じるよう
かれ てき おも きょうだい くんかい
になるためである。 一五しかし、彼を敵のように思わないで、兄 弟として訓戒
へいわ しゅ じしん ばあい
しなさい。 一六どうか、平和の主ご自身が、いついかなる場合にも、あなたが
へいわ あた くだ しゅ いちどう とも
た に 平和 を 与 え て 下 さ る よ う に。主 が あ な た が た 一同 と 共 に お ら れ る よ う
に。

5
じしん て か
一七 ここでパウロ自身が、手ずからあいさつを書く。これは、わたしのどの
てがみ か しるし か
手紙にも書く印である。わたしは、このように書く。 一八どうか、わたしたち
しゅ めぐ いちどう とも
の主イエス・キリストの恵みが、あなたがた一同と共にあるように。
テサロニケ人への第二の手紙

6
だい てがみ
テモテヘの第一の手紙
第一章
すくいぬし かみ のぞ
一 わたしたちの救 主なる神と、わたしたちの望みであるキリスト・イエスと
にんめい し と しんこう しんじつ
の任命によるキリスト・イエスの使徒パウロから、 二信仰によるわたしの真実

な子テモテへ。
ちち かみ しゅ めぐ へいあん
父なる神とわたしたちの主キリスト・イエスから、恵みとあわれみと平安と
が、あなたにあるように。
む しゅっぱつ さい たの
三 わたしがマケドニヤに向かって出 発する際、頼んでおいたように、あなた
テモテヘの第一の手紙

ひとびと ちが おしえ と つく
はエペソにとどまっていて、ある人々に、違った教を説くことをせず、 四作り
ばなし けいず き めい
話やはてしのない系図などに気をとられることもないように、命じなさい。
しんこう かみ つとめ はた ろんぎ ひ
そのようなことは信仰による神の務を果すものではなく、むしろ論議を引き
おこ めいれい きよ こころ ただ りょうしん
起させるだけのものである。 五わたしのこの命令は、清い心と正しい良 心と
いつわ しんこう で あい もくひょう ひとびと
偽りのない信仰とから出てくる愛を目 標としている。 六ある人々はこれらの

0
くうろん はし りっぽう きょうし こころざ じぶん
ものからそれて空論に走り、七律法の教師たることを志していながら、自分の
い しゅちょう
言っていることも主 張していることも、わからないでいる。 八わたしたちが
し りっぽう ほう したが もち よ
知っているとおり、律法なるものは、法に従 って用いるなら、良いものであ
りっぽう ただ ひと さだ ふほう もの
る。 九すなわち、律法は正しい人のために定められたのではなく、不法な者と
ほう ふく もの ふしんじん もの つみ もの しんせい けが もの ぞくあく もの ちち ころ
法に服さない者、不信心な者と罪ある者、神聖を汚す者と俗悪な者、父を殺
もの はは ころ もの ひと ころ もの ふひんこう もの なんしょく もの ゆう
す者と母を殺す者、人を殺す者、 一〇不品行な者、男 色をする者、誘かいする
もの いつわ もの いつわ ちか もの けんぜん おしえ
者、 偽る者、 偽り誓う者、そのほか健全な教にもとることがあれば、そのた
さだ みと しゅくふく み かみ
めに定められていることを認むべきである。 一一これは、 祝 福に満ちた神の
えいこう ふくいん しめ ふくいん
栄光の福音が示すところであって、わたしはこの福音をゆだねられているの
である。
じぶん つよ くだ しゅ
テモテヘの第一の手紙

一二 わたしは、自分を強くして下さったわたしたちの主キリスト・イエスに
かんしゃ しゅ ちゅうじつ もの み つとめ にん くだ
感謝する。主はわたしを忠 実な者と見て、この務に任じて下さったのであ
いぜん かみ もの はくがい もの ふそん もの
る。 一三わたしは以前には、神をそしる者、迫害する者、不遜な者であった。し
こと しんこう む ち
かしわたしは、これらの事を、信仰がなかったとき、無知なためにしたのだ
うえ しゅ めぐ
から、あわれみをこうむったのである。 一四その上、わたしたちの主の恵みが、
しんこう あい ともな ま くわ
キリスト・イエスにある信仰と愛とに伴い、ますます増し加わってきた。 一五

1
つみびと すく よ くだ ことば
﹁キリスト・イエスは、罪人を救うためにこの世にきて下さった﹂という言葉
かくじつ う た つみびと
は、確実で、そのまま受けいれるに足るものである。わたしは、その罪人の
かしらなのである。 一六しかし、わたしがあわれみをこうむったのは、キリス
たい かぎ かんよう しめ
ト・イエスが、まずわたしに対して限りない寛容を示し、そして、わたしが
こんご かれ しん えいえん う もの もはん よ よ
今後、彼を信じて永遠のいのちを受ける者の模範となるためである。 一七世々
しはいしゃ ふきゅう み ゆいいつ かみ よ よ かぎ えいこう
の支配者、不朽にして見えざる唯一の神に、世々限りなく、ほまれと栄光と
があるように、アァメン。
こ いぜん たい かずかず よげん ことば
一八 わたしの子テモテよ。以前あなたに対してなされた数々の預言の言葉に
したが めいれい あた ことば はげ しんこう
従 って、この命令を与える。あなたは、これらの言葉に励まされて、信仰と
ただ りょうしん たも たたか ひとびと ただ
正しい良 心とを保ちながら、りっぱに戦いぬきなさい。 一九ある人々は、正し
りょうしん す しんこう はせん あ なか
テモテヘの第一の手紙

い良 心を捨てたため、信仰の破船に会った。 二〇その中に、ヒメナオとアレキ
かみ けが まな
サンデルとがいる。わたしは、神を汚さないことを学ばせるため、このふた
て わた
りをサタンの手に渡したのである。

2
第二章
だい すす ひと おう うえ た
一 そこで、まず第一に勧める。すべての人のために、王たちと上に立っている
ひとびと ねが いのり かんしゃ
すべての人々のために、願いと、 祈と、とりなしと、感謝とをささげなさい。
やす しず いっしょう しん しんじんぶか きんげん す
二 それはわたしたちが、安らかで静かな一 生を、真に信心深くまた謹厳に過
すくいぬし かみ よ
ごすためである。 三これは、わたしたちの救 主である神のみまえに良いこと
かみ ひと すく
であり、また、みこころにかなうことである。 四神は、すべての人が救われて、
しんり さと いた のぞ かみ ゆいいつ かみ ひと あいだ
真理を悟るに至ることを望んでおられる。 五神は唯一であり、神と人との間
ちゅうほしゃ ひと かれ
の仲保者もただひとりであって、それは人なるキリスト・イエスである。 六彼
ひと じしん さだ
は、すべての人のあがないとしてご自身をささげられたが、それは、定めら
とき た
れた時になされたあかしにほかならない。 七そのために、わたしは立てられ
テモテヘの第一の手紙

せんきょうしゃ し と しんじつ い いつわ


て宣 教 者、使徒となり︵わたしは真実を言っている、 偽 ってはいない︶、ま
いほうじん しんこう しんり おし きょうし
た異邦人に信仰と真理とを教える教師となったのである。
おとこ いか あらそ ば しょ て いの
八 男は、怒ったり争 ったりしないで、どんな場所でも、きよい手をあげて祈っ
おんな み てきど つつし ぶか み かざ
てほしい。 九また、女はつつましい身なりをし、適度に慎み深く身を飾るべき
かみ あ きん しんじゅ こうか きもの き
であって、髪を編んだり、金や真珠をつけたり、高価な着物を着たりしては

3
よ かざ しんこう い
いけない。 一〇むしろ、良いわざをもって飾りとすることが、信仰を言いあら
おんな に おんな しず ばんじ じゅうじゅん
わしている女に似つかわしい。 一一 女は静かにしていて、万事につけ従 順に
おしえ まな おんな おし おとこ うえ た
教を学ぶがよい。 一二 女が教えたり、男の上に立ったりすることを、わたしは
ゆる しず
許さない。むしろ、静かにしているべきである。 一三なぜなら、アダムがさき
つく つく まど
に造られ、それからエバが造られたからである。 一四またアダムは惑わされな
おんな まど おか おんな つつし ぶか
かったが、 女は惑わされて、あやまちを犯した。 一五しかし、 女が慎み深く、
しんこう あい きよ も つづ こ う すく
信仰と愛と清さとを持ち続けるなら、子を産むことによって救われるであろ
う。
第三章
テモテヘの第一の手紙

ひと かんとく しょく のぞ よ しごと ねが ただ


一 ﹁もし人が監督の職を望むなら、それは良い仕事を願うことである﹂とは正
ことば かんとく ひなん ひと つま おっと
しい言葉である。 二さて、監督は、非難のない人で、ひとりの妻の夫であり、
みずか せい つつし ぶか れ い ぎ ただ たびびと おし
自らを制し、 慎み深く、礼儀正しく、旅人をもてなし、よく教えることがで
さけ この らんぼう かんよう ひと あらそ かね たんぱく
き、 三酒を好まず、乱暴でなく、寛容であって、人と争わず、金に淡泊で、 四
じぶん いえ おさ きんげん こども じゅうじゅん もの そだ ひと
自分の家をよく治め、謹厳であって、子供たちを従 順な者に育てている人で

4
じぶん いえ おさ こころえ ひと
なければならない。 五自分の家を治めることも心得ていない人が、どうして
かみ きょうかい あず かれ しんじゃ ま
神の教 会を預かることができようか。 六彼はまた、信者になって間もないも
こうまん あくま おな しんぱん う
のであってはならない。そうであると、高慢になって、悪魔と同じ審判を受
し きょうかいがい ひとびと おも ひと
けるかも知れない。 七さらにまた、教 会 外の人々にもよく思われている人で
う あくま
なければならない。そうでないと、そしりを受け、悪魔のわなにかかるであ
ろう。
どうよう しつじ きんげん にまいじた つか おおざけ の り
八 それと同様に、執事も謹厳であって、二枚舌を使わず、大酒を飲まず、利を
りょうしん しんこう おくぎ たも
むさぼらず、 九きよい良 心をもって、信仰の奥義を保っていなければならな
かれ しら ふ つ ご う しつじ
い。 一〇彼らはまず調べられて、不都合なことがなかったなら、それから執事
しょく おんな どうよう きんげん たにん みずか
の職につかすべきである。 一一 女たちも、同様に謹厳で、他人をそしらず、自
せい ちゅうじつ しつじ つま
テモテヘの第一の手紙

らを制し、すべてのことに忠 実でなければならない。 一二執事はひとりの妻


おっと こども じぶん いえ おさ もの
の 夫 で あ っ て、子供 と 自分 の 家 と を よ く 治 め る 者 で な け れ ば な ら な い。 一三
しつじ しょく もの よ ち い え しん
執事の職をよくつとめた者は、良い地位を得、さらにキリスト・イエスを信
しんこう おお かくしん え
じる信仰による、大いなる確信を得るであろう。
ところ い のぞ てがみ か
一四 わたしは、あなたの所にすぐ行きたいと望みながら、この手紙を書いてい
まんいち おく ばあい かみ いえ せいかつ
る。 一五万一わたしが遅れる場合には、神の家でいかに生活すべきかを、あな

5
し かみ いえ い かみ きょうかい
たに知ってもらいたいからである。神の家というのは、生ける神の教 会のこ
しんり はしら し ん り き そ たし いだい
とであって、それは真理の柱、真理の基礎なのである。 一六確かに偉大なのは、
しんじん おくぎ
この信心の奥義である、
にく あらわ
﹁キリストは肉において現れ、
れい ぎ
霊において義とせられ、
みつかい み
御使たちに見られ、
しょこくみん あいだ つた
諸国民の間に伝えられ、
せかい なか しん
世界の中で信じられ、
えいこう てん あ
栄光のうちに天に上げられた﹂。
テモテヘの第一の手紙

第四章
みたま あき つ い のち とき ひとびと まど
一 しかし、御霊は明らかに告げて言う。後の時になると、ある人々は、惑わす
れい あくれい おしえ き しんこう はな さ
霊 と 悪霊 の 教 と に 気 を と ら れ て、信仰 か ら 離 れ 去 る で あ ろ う。 二そ れ は、
りょうしん や いん いつわ もの ぎぜん いつわ
良 心 に 焼 き 印 を お さ れ て い る 偽 り 者 の 偽善 の し わ ざ で あ る。 三こ れ ら の 偽

6
もの けっこん きん しょくもつ た めい しょくもつ
り者どもは、結婚を禁じたり、食 物を断つことを命じたりする。しかし食 物
しんこう しんり みと もの かんしゃ う かみ つく
は、信仰があり真理を認める者が、感謝して受けるようにと、神の造られた
かみ つく よ かんしゃ う
ものである。 四神の造られたものは、みな良いものであって、感謝して受ける
なに す かみ ことば いのり
なら、何ひとつ捨てるべきものはない。 五それらは、神の言と祈とによって、
きよめられるからである。
きょうだい おし しんこう ことば
六 これらのことを兄 弟たちに教えるなら、あなたは、信仰の言葉とあなたの
したが よ おしえ ことば やしな ほうししゃ
従 ってきた良い教の言葉とに養われて、キリスト・イエスのよい奉仕者にな
ぞくあく ぐ つく ばなし さ しんじん
るであろう。 七しかし、俗悪で愚にもつかない作り話は避けなさい。信心の
じぶん くんれん くんれん すこ えき
た め に 自分 を 訓練 し な さ い。 八か ら だ の 訓練 は 少 し は 益 す る と こ ろ が あ る
しんじん いま のち よ やくそく ばんじ
が、信心は、今のいのちと後の世のいのちとが約束されてあるので、万事に
えき かくじつ う た ことば
テモテヘの第一の手紙

益となる。 九これは確実で、そのまま受けいれるに足る言葉である。 一〇わた


ろう くる ひと すくいぬし とく
したちは、このために労し苦しんでいる。それは、すべての人の救 主、特に
しん もの すくいぬし い かみ のぞ お
信じる者たちの救 主なる生ける神に、望みを置いてきたからである。
こと めい おし とし わか ひと かろ
一一 これらの事を命じ、また教えなさい。 一二あなたは、年が若いために人に軽
ことば ぎょうじょう あい しんこう
んじられてはならない。むしろ、言葉にも、 行 状にも、愛にも、信仰にも、
じゅんけつ しんじゃ もはん ゆ とき せいしょ
純 潔にも、信者の模範になりなさい。 一三わたしがそちらに行く時まで、聖書

7
ろうどく すす おし こころ もち
を朗読することと、勧めをすることと、教えることとに心を用いなさい。 一四
ちょうろう あんしゅ う とき よげん あた うち も めぐ
長 老の按手を受けた時、預言によってあなたに与えられて内に持っている恵
たまもの けいし こと しんぽ
みの賜物を、軽視してはならない。 一五すべての事にあなたの進歩があらわれ
こと じっこう はげ じぶん おしえ
るため、これらの事を実行し、それを励みなさい。 一六自分のことと教のこと
き つね つと じぶんじしん
とに気をつけ、それらを常に努めなさい。そうすれば、あなたは、自分自身
おしえ き もの すく
とあなたの教を聞く者たちとを、救うことになる。
第五章
ろうじん ちちおや たい はな
一 老人をとがめてはいけない。むしろ父親に対するように、話してあげなさ
テモテヘの第一の手紙

わか おとこ きょうだい たい とし おんな ははおや たい


い。若 い 男 に は 兄 弟 に 対 す る よ う に、 二年 と っ た 女 に は 母親 に 対 す る よ う
わか おんな しん じゅんけつ おも しまい たい かんこく
に、若い女には、真に純 潔な思いをもって、姉妹に対するように、勧告しな
さい。
しん
三 やもめについては、真にたよりのないやもめたちを、よくしてあげなさい。
こ まご ばあい もの じぶん いえ こうよう
四 やもめに子か孫かがある場合には、これらの者に、まず自分の家で孝養をつ
おや おん むく まな かみ
くし、親の恩に報いることを学ばせるべきである。それが、神のみこころに

8
しん ぐら のぞ
かなうことなのである。 五真にたよりのない、ひとり暮しのやもめは、望みを
かみ にちや ねが いのり せんしん はん
神において、日夜、たえず願いと祈とに専心するが、 六これに反して、みだら
せいかつ い
な生活をしているやもめは、生けるしかばねにすぎない。 七これらのことを
めい かのじょ ひなん もの ひと しんぞく
命じて、彼女たちを非難のない者としなさい。 八もしある人が、その親族を、
じぶん かぞく ばあい しんこう す
ことに自分の家族をかえりみない場合には、その信仰を捨てたことになるの
ふ し ん じ ゃ いじょう とうろく もの さい
であって、不信者以上にわるい。 九やもめとして登録さるべき者は、六十歳
い か おっと つま もの し じょ よういく
以下のものではなくて、ひとりの夫の妻であった者、 一〇また子女をよく養育
たびびと せいと あし あら こま ひと たす しゅじゅ ぜんこう
し、旅人をもてなし、聖徒の足を洗い、困っている人を助け、種々の善行に
つと みと もの
努めるなど、そのよいわざでひろく認められている者でなければならない。 一
わか じょがい かのじょ き
一 若いやもめは除外すべきである。彼女たちがキリストにそむいて気ままに
けっこん はじ ちか む し ひなん
テモテヘの第一の手紙

なると、結婚をしたがるようになり、 一二初めの誓いを無視したという非難を
う うえ かのじょ いえいえ
受けねばならないからである。 一三その上、彼女たちはなまけていて、家々を
あそ ある
遊び歩くことをおぼえ、なまけるばかりか、むだごとをしゃべって、いたず
うご くち い
らに動きまわり、口にしてはならないことを言う。 一四そういうわけだから、
わか けっこん こ う いえ はんたいしゃ
若いやもめは結婚して子を産み、家をおさめ、そして、反対者にそしられる
つく かのじょ
すきを作らないようにしてほしい。 一五彼女たちのうちには、サタンのあとを

9
お みち ふ もの おんな しんじゃ いえ も
追って道を踏みはずした者もある。 一六 女の信者が家にやもめを持っている
ばあい じぶん せ わ きょうかい
場合には、自分でそのやもめの世話をしてあげなさい。 教 会のやっかいに
きょうかい しん せ わ
なってはいけない。 教 会は、真にたよりのないやもめの世話をしなければな
らない。
しどう ちょうろう とく せんきょう おしえ ろう ちょうろう
一七 よい指導をしている長 老、特に宣 教と教とのために労している長 老は、
ばい そんけい う もの せいしょ こくもつ
二倍の尊敬を受けるにふさわしい者である。 一八聖書は、﹁穀物をこなしてい
うし はたら びと ほうしゅう う
る牛に、くつこをかけてはならない﹂また﹁働き人がその報 酬を受けるのは
とうぜん い ちょうろう たい そしょう にん しょうにん
当然である﹂と言っている。 一九長 老に対する訴訟は、ふたりか三人の証 人が
ばあい じゅ り つみ おか もの たい
ない場合には、受理してはならない。 二〇罪を犯した者に対しては、ほかの
ひとびと おそ いた ひと まえ つみ
人々も恐れをいだくに至るために、すべての人の前でその罪をとがむべきで
かみ えら みつかい まえ
テモテヘの第一の手紙

ある。 二一わたしは、神とキリスト・イエスと選ばれた御使たちとの前で、お
めい へんけん まも なにごと
ごそかにあなたに命じる。これらのことを偏見なしに守り、何事についても、
ふ こうへい しかた かるがる ひと て
不公平 な 仕方 を し て は な ら な い。 二二軽々 し く 人 に 手 を お い て は な ら な い。
ひと つみ くわ じぶん まも
ま た、ほ か の 人 の 罪 に 加 わ っ て は い け な い。自分 を き よ く 守 り な さ い。 二三
みず の い
︵これからは、水ばかりを飲まないで、胃のため、また、たびたびのいたみを
やわ しょうりょう しゅ もち ひと つみ めいはく
和らげるために、 少 量のぶどう酒を用いなさい。︶ 二四ある人の罪は明白で

10
さいばん ひと つみ
あって、すぐ裁判にかけられるが、ほかの人の罪は、あとになってわかって
く おな よ あき ばあい
来る。 二五それと同じく、良いわざもすぐ明らかになり、そうならない場合で
かく え
も、隠れていることはあり得ない。
第六章
した どれい じぶん しゅじん しん そんけい もの あお
一 くびきの下にある奴隷はすべて、自分の主人を、真に尊敬すべき者として仰
かみ み な おしえ う
ぐべきである。それは、神の御名と教とが、そしりを受けないためである。 二
しんじゃ しゅじん も もの しゅじん きょうだい
信者である主人を持っている者たちは、その主人が兄 弟であるというので
けいし はげ つか えき
軽視してはならない。むしろ、ますます励んで仕えるべきである。その益を
テモテヘの第一の手紙

う しゅじん しんじゃ あい ひと
受ける主人は、信者であり愛されている人だからである。
こと おし すす ちが おし
あなたは、これらの事を教えかつ勧めなさい。 三もし違ったことを教えて、わ
しゅ けんぜん ことば しんじん おしえ どうい
たしたちの主イエス・キリストの健全な言葉、ならびに信心にかなう教に同意
もの かれ こうまん なに し ろんぎ ことば
しないような者があれば、 四彼は高慢であって、何も知らず、ただ論議と言葉
あらそ や もの あらそ
の争いとに病みついている者である。そこから、ねたみ、 争い、そしり、さ
こころ しょう ちせい くさ しんり しんじん りとく こころ え もの
いぎの心が生じ、五また知性が腐って、真理にそむき、信心を利得と心 得る者

11
あいだ あ おこ しんじん
どもの間に、はてしのないいがみ合いが起るのである。 六しかし、信心があっ
た し おお りとく なに も
て足ることを知るのは、大きな利得である。 七わたしたちは、何ひとつ持たな
よ なに も よ さ い
いでこの世にきた。また、何ひとつ持たないでこの世を去って行く。 八ただ
いしょく た と ねが もと もの
衣食があれば、それで足れりとすべきである。 九富むことを願い求める者は、
ゆうわく おちい ひと ほろ はかい しず むふんべつ おそ
誘惑と、わなとに陥り、また、人を滅びと破壊とに沈ませる、無分別な恐ろ
じょうよく おちい きんせん あい あく
しいさまざまの情 欲に陥るのである。 一〇金銭を愛することは、すべての悪
ね ひとびと よく きんせん もと しんこう まよ で おお
の根である。ある人々は欲ばって金銭を求めたため、信仰から迷い出て、多
くつう じぶんじしん さ
くの苦痛をもって自分自身を刺しとおした。
かみ ひと こと さ ぎ しんじん
一一 しかし、神の人よ。あなたはこれらの事を避けなさい。そして、義と信心
しんこう あい にんたい にゅうわ お もと しんこう たたか たたか
と信仰と愛と忍耐と柔和とを追い求めなさい。 一二信仰の戦いをりっぱに戦
えいえん かくとく め おお
テモテヘの第一の手紙

いぬいて、永遠のいのちを獲得しなさい。あなたは、そのために召され、多
しょうにん まえ
くの証 人の前で、りっぱなあかしをしたのである。 一三わたしはすべてのも
い くだ かみ めんぜん
のを生かして下さる神のみまえと、またポンテオ・ピラトの面前でりっぱな
めい
あかしをなさったキリスト・イエスのみまえで、あなたに命じる。 一四わたし
しゅ しゅつげん いまし けが
たちの主イエス・キリストの出 現まで、その戒めを汚すことがなく、また、そ
ひなん まも とき しゅくふく み
れを非難のないように守りなさい。 一五時がくれば、祝 福に満ちた、ただひと

12
ちから おう おう しゅ しゅ しゅつげん
りの力あるかた、もろもろの王の王、もろもろの主の主が、キリストを出 現
くだ かみ ふ し たも ちか ひかり なか
させて下さるであろう。 一六神はただひとり不死を保ち、近づきがたい光の中
す にんげん なか み もの み
に住み、人間の中でだれも見た者がなく、見ることもできないかたである。ほ
えいえん しはい かみ
まれと永遠の支配とが、神にあるように、アァメン。
よ と もの めい こうまん
一七 この世で富んでいる者たちに、命じなさい。高慢にならず、たよりになら
とみ のぞ もの ゆた そな たの
ない富に望みをおかず、むしろ、わたしたちにすべての物を豊かに備えて楽
くだ かみ よ おこな よ
しませて下さる神に、のぞみをおくように、 一八また、良い行いをし、良いわ
とみ お ほどこ ひと わ あた よろこ しん
ざに富み、惜しみなく施し、人に分け与えることを喜び、 一九こうして、真の
え みらい そな どだい じぶん きず あ
いのちを得るために、未来に備えてよい土台を自分のために築き上げるよう
めい
に、命じなさい。
まも ぞくあく
テモテヘの第一の手紙

二〇 テモテよ。あなたにゆだねられていることを守りなさい。そして、俗悪な
はなし いつわ ちしき はんたいろん さ ひとびと
むだ話と、 偽りの﹁知識﹂による反対論とを避けなさい。 二一ある人々はそれ
ねっちゅう しんこう
に熱 中して、信仰からそれてしまったのである。
めぐ とも
恵みが、あなたがたと共にあるように。

13
だい てがみ
テモテヘの第二の手紙
第一章
かみ みむね やくそく た
一 神の御旨により、キリスト・イエスにあるいのちの約束によって立てられた
し と あい こ
キリスト・イエスの使徒パウロから、 二愛する子テモテへ。
ちち かみ しゅ めぐ へいあん
父なる神とわたしたちの主キリスト・イエスから、恵みとあわれみと平安と
が、あなたにあるように。
にちや いのり なか た おも だ
三 わたしは、日夜、 祈の中で、絶えずあなたのことを思い出しては、きよい
りょうしん せんぞいらい かみ かんしゃ
良 心をもって先祖以来つかえている神に感謝している。 四わたしは、あなた
テモテヘの第二の手紙

なみだ あ よろこ み せつ ねが
の涙をおぼえており、あなたに会って喜びで満たされたいと、切に願ってい
いつわ しんこう おも おこ
る。 五また、あなたがいだいている偽りのない信仰を思い起している。この
しんこう そ ぼ はは やど
信仰は、まずあなたの祖母ロイスとあなたの母ユニケとに宿ったものであっ
いま やど かくしん
たが、今あなたにも宿っていると、わたしは確信している。 六こういうわけ
ちゅうい あんしゅ うち かみ たまもの
で、あなたに注意したい。わたしの按手によって内にいただいた神の賜物を、

0
ふたた も かみ くだ おく
再び燃えたたせなさい。 七というのは、神がわたしたちに下さったのは、臆す
れい ちから あい つつし れい
る霊ではなく、力と愛と慎みとの霊なのである。 八だから、あなたは、わたし
しゅ しゅ しゅうじん けっ は
たちの主のあかしをすることや、わたしが主の囚 人であることを、決して恥
おも かみ ちから ふくいん
ずかしく思ってはならない。むしろ、神の力にささえられて、福音のために、
くる とも かみ すく せい まね
わたしと苦しみを共にしてほしい。 九神はわたしたちを救い、聖なる招きを
め くだ
もって召して下さったのであるが、それは、わたしたちのわざによるのでは
かみ じしん けいかく もとづ えいえん むかし
なく、神ご自身の計画に基き、また、永遠の昔にキリスト・イエスにあって
たま めぐ いま すくいぬし
わたしたちに賜わっていた恵み、 一〇そして今や、わたしたちの救 主 キリス
しゅつげん あき めぐ
ト・イエスの出 現によって明らかにされた恵みによるのである。キリストは
し ほろ ふくいん ふ し あき しめ
死を滅ぼし、福音によっていのちと不死とを明らかに示されたのである。 一一
ふくいん た せんきょうしゃ し と きょうし
テモテヘの第二の手紙

わたしは、この福音のために立てられて、その宣 教 者、使徒、教師になった。
くる う はじ
一二 そのためにまた、わたしはこのような苦しみを受けているが、それを恥と
じぶん しん し
しない。なぜなら、わたしは自分の信じてきたかたを知っており、またその
ひ いた まも くだ
かたは、わたしにゆだねられているものを、かの日に至るまで守って下さる
かくしん
ことができると、確信しているからである。 一三あなたは、キリスト・イエス
たい しんこう あい き けんぜん ことば もはん
に対する信仰と愛とをもって、わたしから聞いた健全な言葉を模範にしなさ

1
たっと うち
い。 一四そして、あなたにゆだねられている尊いものを、わたしたちの内に
やど せいれい まも
宿っている聖霊によって守りなさい。
し もの みな はな
一五 あなたの知っているように、アジヤにいる者たちは、皆わたしから離れて
い なか しゅ
行った。その中には、フゲロとヘルモゲネもいる。 一六どうか、主が、オネシ
いえ くだ かれ なぐさ
ポロの家にあわれみをたれて下さるように。彼はたびたび、わたしを慰めて
くさり はじ おも つ とき ねっしん
くれ、またわたしの鎖を恥とも思わないで、 一七ローマに着いた時には、熱心
さが すえ たず だ しゅ
にわたしを捜しまわった末、尋ね出してくれたのである。 一八どうか、主がか
ひ かれ たま かれ
の日に、あわれみを彼に賜わるように。︱︱彼がエペソで、どれほどわたし
つか し
に仕えてくれたかは、だれよりもあなたがよく知っている。
テモテヘの第二の手紙

第二章
こ めぐ つよ
一 そこで、わたしの子よ。あなたはキリスト・イエスにある恵みによって、強
おお しょうにん まえ き
くなりなさい。 二そして、あなたが多くの証 人の前でわたしから聞いたこと
もの おし ちゅうじつ ひとびと
を、さらにほかの者たちにも教えることのできるような忠 実な人々に、ゆだ
よ へいそつ くる とも
ねなさい。 三キリスト・イエスの良い兵卒として、わたしと苦しみを共にして

2
へいえき ふく もの にちじょうせいかつ こと わずら
ほしい。 四兵役に服している者は、日 常 生活の事に煩わされてはいない。た
へい つの しれいかん よろこ つと きょうぎ
だ、兵を募った司令官を喜ばせようと努める。 五また、競技をするにしても、
きてい したが きょうぎ えいかん え ろうく のうふ
規定に従 って競技をしなければ、栄冠は得られない。 六労苦をする農夫が、だ
さき せいさんぶつ ぶんぱい い
れよりも先に、生産物の分配にあずかるべきである。 七わたしの言うことを、
かんが しゅ じゅうぶん りかい ちから たま
よく考えてみなさい。主は、それを十 分に理解する力をあなたに賜わるであ
ろう。
しそん うま しにん
八 ダビデの子孫として生れ、死人のうちからよみがえったイエス・キリスト
おも ふくいん ふくいん
を、いつも思っていなさい。これがわたしの福音である。 九この福音のため
わるもの くる くさり いた
に、わたしは悪者のように苦しめられ、ついに鎖につながれるに至った。し
かみ ことば えら ひと
かし、神の言はつながれてはいない。 一〇それだから、わたしは選ばれた人た
た しの かれ
テモテヘの第二の手紙

ちのために、いっさいのことを耐え忍ぶのである。それは、彼らもキリスト・
すくい う とも えいえん えいこう う
イエスによる救を受け、また、それと共に永遠の栄光を受けるためである。 一
つぎ ことば かくじつ かれ とも し かれ
一 次の言葉は確実である。﹁もしわたしたちが、彼と共に死んだなら、また彼
とも い た しの かれ とも しはいしゃ
と共に生きるであろう。 一二もし耐え忍ぶなら、彼と共に支配者となるであろ
かれ いな かれ いな
う。もし彼を否むなら、彼もわたしたちを否むであろう。 一三たとい、わたし
ふ しんじつ かれ つね しんじつ かれ じぶん いつわ
たちは不真実であっても、彼は常に真実である。彼は自分を偽ることが、で

3
きないのである﹂。
かれ おも だ えき き
一四 あなたは、これらのことを彼らに思い出させて、なんの益もなく、聞いて
ひとびと はめつ ことば あらそ かみ
いる人々を破滅におとしいれるだけである言葉の争いをしないように、神の
めい しんり ことば ただ おし は
みまえでおごそかに命じなさい。 一五あなたは真理の言葉を正しく教え、恥じ
れんたつ はたら びと かみ じぶん つと
るところのない錬達した働き人になって、神に自分をささげるように努めは
ぞくあく はなし さ ひとびと
げみなさい。 一六俗悪なむだ話を避けなさい。それによって人々は、ますます
ふしんじん お かれ ことば くさ
不信心に落ちていき、一七彼らの言葉は、がんのように腐れひろがるであろう。
なか かれ しんり ふっかつ
その中にはヒメナオとピレトとがいる。 一八彼らは真理からはずれ、復活はす
す い ひとびと しんこう
でに済んでしまったと言い、そして、ある人々の信仰をくつがえしている。 一
かみ どだい つぎ く しょういん
九 しかし、神のゆるがない土台はすえられていて、それに次の句が証 印とし
しゅ じぶん もの し しゅ な よ もの
テモテヘの第二の手紙

て、しるされている。﹁主は自分の者たちを知る﹂。また﹁主の名を呼ぶ者は、
ふ ぎ はな おお いえ きん ぎん うつわ き
すべて不義から離れよ﹂。 二〇大きな家には、金や銀の器ばかりではなく、木や
つち うつわ たっと もち いや
土の器もあり、そして、あるものは尊いことに用いられ、あるものは卑しい
もち ひと いや と さ じぶん
ことに用いられる。 二一もし人が卑しいものを取り去って自分をきよめるな
かれ たっと うつわ しゅじん やくだ
ら、彼は尊いきよめられた器となって、主人に役立つものとなり、すべての
よ ま あ
良いわざに間に合うようになる。

4
わか とき じょうよく さ こころ
二二 そこで、あなたは若い時の情 欲を避けなさい。そして、きよい心をもって
しゅ よ もと ひとびと とも ぎ しんこう あい へいわ お もと おろ
主を呼び求める人々と共に、義と信仰と愛と平和とを追い求めなさい。 二三愚
む ち ろんぎ し あらそ
かで無知な論議をやめなさい。それは、あなたが知っているとおり、ただ争
おわ しゅ しもべ もの あらそ たい
いに終るだけである。 二四主の僕たる者は争 ってはならない。だれに対して
しんせつ おし しの はんたい もの にゅうわ こころ おし みちび
も親切であって、よく教え、よく忍び、 二五反対する者を柔和な心で教え導く
かみ かれ くいあらた こころ あた しんり し
べきである。おそらく神は、彼らに悔 改めの心を与えて、真理を知らせ、 二六
ど あくま とら ほっ め かれ
一度は悪魔に捕えられてその欲するままになっていても、目ざめて彼のわな
くだ
からのがれさせて下さるであろう。
第三章
テモテヘの第二の手紙

し おわ とき くなん じだい
一 しかし、このことは知っておかねばならない。終りの時には、苦難の時代が
く とき ひとびと じぶん あい もの かね あい もの たいげんそうご もの こうまん
来る。 二その時、人々は自分を愛する者、金を愛する者、大言壮語する者、高慢
もの かみ もの おや さか もの おん し もの しんせい けが もの むじょう
な者、神をそしる者、親に逆らう者、恩を知らぬ者、神聖を汚す者、 三無情な
もの ゆうわ もの もの む せっせい もの そぼう もの ぜん この もの うらぎ
者、融和しない者、そしる者、無節制な者、粗暴な者、善を好まない者、四裏切
もの らんぼうもの こうげん もの かみ かいらく あい もの しんじんぶか ようす
り者、乱暴者、高言をする者、神よりも快楽を愛する者、 五信心深い様子をし

5
じつ す もの ひとびと さ かれ
ながらその実を捨てる者となるであろう。こうした人々を避けなさい。 六彼
なか ひと いえ こ よく こころ うば おお
らの中には、人の家にもぐり込み、そして、さまざまの欲に心を奪われて、多
つみ つ かさ おろ おんな もの
く の 罪 を 積 み 重 ね て い る 愚 か な 女 ど も を、と り こ に し て い る 者 が あ る。 七
かのじょ つね まな しんり ちしき たっ
彼女たちは、常に学んではいるが、いつになっても真理の知識に達すること
さか
ができない。 八ちょうど、ヤンネとヤンブレとがモーセに逆らったように、こ
ひとびと しんり さか かれ ちせい くさ しんこう しっかくしゃ
うした人々も真理に逆らうのである。彼らは知性の腐った、信仰の失格者で
かれ すす かれ おろ
ある。 九しかし、彼らはそのまま進んでいけるはずがない。彼らの愚かさは、
ばあい おな おお ひと し く
あのふたりの場合と同じように、多くの人に知れて来るであろう。
おしえ あゆ しんこう かんよう あい にんたい
一〇 しかしあなたは、わたしの教、歩み、こころざし、信仰、寛容、愛、忍耐、
う かずかず
一一 それから、わたしがアンテオケ、イコニオム、ルステラで受けた数々の
はくがい くなん つづ はくがい た
テモテヘの第二の手紙

迫害、苦難に、よくも続いてきてくれた。そのひどい迫害にわたしは耐えて
しゅ すく だ くだ
きたが、主はそれらいっさいのことから、救い出して下さったのである。 一二
しんじんぶか い もの はくがい
いったい、キリスト・イエスにあって信心深く生きようとする者は、みな、迫害
う あくにん さ ぎ し ひと まど ひと まど あく あく お
を受ける。 一三悪人と詐欺師とは人を惑わし人に惑わされて、悪から悪へと落
じぶん まな かくしん
ちていく。 一四しかし、あなたは、自分が学んで確信しているところに、いつ
まな し
もとどまっていなさい。あなたは、それをだれから学んだか知っており、 一五

6
おさな とき せいしょ した たい しんこう
また幼い時から、聖書に親しみ、それが、キリスト・イエスに対する信仰に
すくい いた ち え あた しょもつ し
よって救に至る知恵を、あなたに与えうる書物であることを知っている。 一六
せいしょ かみ れいかん う か ひと おし いまし ただ
聖書は、すべて神の霊感を受けて書かれたものであって、人を教え、戒め、正
ぎ みちび ゆうえき かみ ひと よ
しくし、義に導くのに有益である。 一七それによって、神の人が、あらゆる良
たい じゅうぶん じゅんび かんぜん もの
いわざに対して十 分な準備ができて、完全にととのえられた者になるのであ
る。
第四章
かみ い もの し もの
一 神のみまえと、生きている者と死んだ者とをさばくべきキリスト・イエスの
テモテヘの第二の手紙

しゅつげん みくに おも めい みことば


みまえで、キリストの出 現とその御国とを思い、おごそかに命じる。 二御言を
の つた とき よ わる はげ かんよう こころ
宣べ伝えなさい。時が良くても悪くても、それを励み、あくまでも寛容な心
おし せ いまし すす ひとびと けんぜん おしえ た
でよく教えて、責め、戒め、勧めなさい。 三人々が健全な教に耐えられなくな
みみ はなし じ ぶ ん かっ て この きょうし
り、耳ざわりのよい話をしてもらおうとして、自分勝手な好みにまかせて教師
よ あつ しんり みみ つく ばなし ほう
たちを寄せ集め、 四そして、真理からは耳をそむけて、作り話の方にそれてい
とき く なにごと つつし くなん しの でんどうしゃ
く時が来るであろう。 五しかし、あなたは、何事にも慎み、苦難を忍び、伝道者

7
じぶん つとめ まっと じしん ぎせい
のわざをなし、自分の務を全うしなさい。 六わたしは、すでに自身を犠牲とし
よ さ とき たたか
てささげている。わたしが世を去るべき時はきた。 七わたしは戦いをりっぱ
たたか はし こうてい はし しんこう まも いま ぎ
に戦いぬき、走るべき行程を走りつくし、信仰を守りとおした。 八今や、義の
かんむり ま ひ こうへい しんぱんしゃ しゅ
冠がわたしを待っているばかりである。かの日には、公平な審判者である主
さず くだ しゅ しゅつげん こころ
が、それを授けて下さるであろう。わたしばかりではなく、主の出 現を心か
ま のぞ ひと さず くだ
ら待ち望んでいたすべての人にも授けて下さるであろう。
ところ いそ はや よ あい
九 わたしの所に、急いで早くきてほしい。 一〇デマスはこの世を愛し、わたし
す い
を捨ててテサロニケに行ってしまい、クレスケンスはガラテヤに、テトスは
い つ
ダルマテヤに行った。 一一ただルカだけが、わたしのもとにいる。マルコを連
いっしょ かれ つとめ やく た
れて、一緒にきなさい。彼はわたしの務のために役に立つから。 一二わたしは

テモテヘの第二の手紙

テキコをエペソにつかわした。 一三あなたが来るときに、トロアスのカルポの
ところ のこ うわぎ も しょもつ とく よ う ひ し
所に残しておいた上着を持ってきてほしい。また書物も、特に、羊皮紙のを
も どうざいくにん おお くる
持ってきてもらいたい。 一四銅細工人のアレキサンデルが、わたしを大いに苦
しゅ たい かれ むく かれ
しめた。主はそのしわざに対して、彼に報いなさるだろう。 一五あなたも、彼
けいかい かれ い つよ はんたい
を警戒しなさい。彼は、わたしたちの言うことに強く反対したのだから。 一六
だい かい べんめい さい みかた もの
わたしの第一回の弁明の際には、わたしに味方をする者はひとりもなく、み

8
す い かれ せ
なわたしを捨てて行った。どうか、彼らが、そのために責められることがな
みことば あま の つた
いように。 一七しかし、わたしが御言を余すところなく宣べ伝えて、すべての
いほうじん き しゅ たす ちから くだ
異邦人に聞かせるように、主はわたしを助け、力づけて下さった。そして、わ
くち すく だ しゅ あく
たしは、ししの口から救い出されたのである。 一八主はわたしを、すべての悪
たす だ てん みくに すく い くだ えいこう
の わ ざ か ら 助 け 出 し、天 に あ る 御国 に 救 い 入 れ て 下 さ る で あ ろ う。栄光 が
えいえん えいえん しゅ
永遠から永遠にわたって主にあるように、アァメン。
いえ つた
一九 プリスカとアクラとに、またオネシポロの家に、よろしく伝えてほしい。 二
びょうき のこ
〇 エラストはコリントにとどまっており、トロピモは病気なので、ミレトに残
ふゆ まえ いそ
してきた。 二一冬になる前に、急いできてほしい。ユブロ、プデス、リノス、ク
きょうだい
ラウデヤならびにすべての兄 弟たちから、あなたによろしく。
しゅ れい とも めぐ とも
テモテヘの第二の手紙

二二 主が、あなたの霊と共にいますように。恵みが、あなたがたと共にあるよ
うに。

9
てがみ
テトスヘの手紙
第一章
かみ しもべ し と し と
一 神の僕、イエス・キリストの使徒パウロから︱︱わたしが使徒とされたの
かみ えら もの しんこう つよ しんじん しんり ちしき かれ
は、神に選ばれた者たちの信仰を強め、また、信心にかなう真理の知識を彼
え いつわ かみ えいえん むかし やくそく えいえん
らに得させるためであり、 二 偽りのない神が永遠の昔に約束された永遠のい
のぞ もとづ かみ さだ とき およ みことば せんきょう
のちの望みに基くのである。 三神は、定められた時に及んで、御言を宣 教に
あき すくいぬし かみ にんめい
よって明らかにされたが、わたしは、わたしたちの救 主なる神の任命によっ
せんきょう しんこう おな しんじつ
て、この宣 教をゆだねられたのである︱︱ 四信仰を同じうするわたしの真実

の子テトスへ。
ちち かみ すくいぬし めぐ へいあん
父なる神とわたしたちの救 主 キリスト・イエスから、恵みと平安とが、あな
テトスヘの手紙

たにあるように。
めい
五 あなたをクレテにおいてきたのは、わたしがあなたに命じておいたように、
のこ せいり まちまち ちょうろう た
そこにし残してあることを整理してもらい、また、町々に長 老を立ててもら

0
ちょうろう せ てん つま おっと
うためにほかならない。 六長 老は、責められる点がなく、ひとりの妻の夫で
こ ふひんこう おやふこう しんじゃ
あって、その子たちも不品行のうわさをたてられず、親不孝をしない信者で
かんとく もの かみ つか もの せ てん
なくてはならない。 七監督たる者は、神に仕える者として、責められる点がな
かるがる いか さけ この らんぼう り
く、わがままでなく、軽々しく怒らず、酒を好まず、乱暴でなく、利をむさ
たびびと ぜん あい つつし ふか ただ しんこうぶか
ぼらず、 八かえって、旅人をもてなし、善を愛し、 慎み深く、正しく、信仰深
じ せい もの おしえ しんらい ことば まも ひと
く、自制する者であり、 九 教にかなった信頼すべき言葉を守る人でなければ
かれ けんぜん おしえ ひと はんたいしゃ あやま
ならない。それは、彼が健全な教によって人をさとし、また、反対者の誤り
してき
を指摘することができるためである。
じつ ほう ふく もの くうろん はし もの ひと こころ まど もの おお
一〇 実は、法に服さない者、空論に走る者、人の心を惑わす者が多くおり、と
かつれい もの なか おお かれ くち ふう かれ は
くに、割礼のある者の中に多い。 一一彼らの口を封ずべきである。彼らは恥ず
り おし おし かずかず かてい はかい
べき利のために、教えてはならないことを教えて、数々の家庭を破壊してし
びと よげんしゃ
まっている。 一二クレテ人のうちのある預言者が
テトスヘの手紙

びと
﹁クレテ人は、いつもうそつき、
わる
たちの悪いけもの、
もの く
なまけ者の食いしんぼう﹂
い ひなん かれ せ
と言っているが、 一三この非難はあたっている。だから、彼らをきびしく責め

1
しんこう けんぜん じん つく ばなし しんり
て、その信仰を健全なものにし、一四ユダヤ人の作り話や、真理からそれていっ
ひとびと さだ き
た人々の定めなどに、気をとられることがないようにさせなさい。 一五きよい
ひと けが ふ しんこう ひと
人には、すべてのものがきよい。しかし、汚れている不信仰な人には、きよ
ちせい りょうしん けが かれ かみ
いものは一つもなく、その知性も良 心も汚れてしまっている。 一六彼らは神
し くち い おこな ひてい かれ い
を知っていると、口では言うが、 行いではそれを否定している。彼らは忌ま
もの ふ じゅうじゅん もの よ かん
わ し い 者、ま た 不 従 順 な 者 で あ っ て、い っ さ い の 良 い わ ざ に 関 し て は、
しっかくしゃ
失格者である。
第二章
けんぜん おしえ かた ろうじん みずか
一 しかし、あなたは、健全な教にかなうことを語りなさい。 二老人たちには自
せい きんげん つつし ふか しんこう あい にんたい けんぜん
らを制し、謹厳で、 慎み深くし、また、信仰と愛と忍耐とにおいて健全であ
テトスヘの手紙

すす としお おんな おな い
るように勧め、 三年老いた女たちにも、同じように、たち居ふるまいをうやう
ひと たいしゅ どれい よ おし もの
やしくし、人をそしったり大酒の奴隷になったりせず、良いことを教える者
すす かのじょ わか おんな おっと
となるように、勧めなさい。 四そうすれば、彼女たちは、若い女たちに、夫を
あい こども あい つつし ふか じゅんけつ か じ つと ぜんりょう じぶん おっと
愛し、子供を愛し、 五 慎み深く、純 潔で、家事に努め、善 良で、自分の夫に

2
じゅうじゅん おし かみ ことば う
従 順であるように教えることになり、したがって、神の言がそしりを受けな
わか おとこ おな ばんじ つつし ぶか
いようになるであろう。 六若い男にも、同じく、万事につけ慎み深くあるよう
すす じしん よ もはん しめ ひと おし ばあい
に、勧めなさい。 七あなた自身を良いわざの模範として示し、人を教える場合
せいれん きんげん ひなん けんぜん ことば もち
には、清廉と謹厳とをもってし、八非難のない健全な言葉を用いなさい。そう
はんたいしゃ あっこう い みずか は
すれば、反対者も、わたしたちについてなんの悪口も言えなくなり、 自ら恥
じいるであろう。
どれい ばんじ しゅじん ふくじゅう よろこ はんこう
九 奴隷には、万事につけその主人に服 従して、 喜ばれるようになり、反抗を
ぬす こころ しんじつ しめ すす
せず、 一〇盗みをせず、どこまでも心をこめた真実を示すようにと、勧めなさ
かれ ばんじ すくいぬし かみ おしえ かざ
い。そうすれば、彼らは万事につけ、わたしたちの救 主なる神の教を飾るこ
とになろう。
ひと すく かみ めぐ あらわ みちび
一一 す べ て の 人 を 救 う 神 の 恵 み が 現 れ た。 一 二そ し て、わ た し た ち を 導 き、
ふしんじん よ じょうよく す つつし ぶか ただ しんじんぶか よ せいかつ
不信心とこの世の情 欲とを捨てて、慎み深く、正しく、信心深くこの世で生活
テトスヘの手紙

しゅくふく み のぞ おお かみ すくいぬし
し、 一三祝 福に満ちた望み、すなわち、大いなる神、わたしたちの救 主 キリ
えいこう しゅつげん ま のぞ おし
スト・イエスの栄光の出 現を待ち望むようにと、教えている。 一四このキリス
じしん
トが、わたしたちのためにご自身をささげられたのは、わたしたちをすべて
ふほう だ よ ねっしん えら たみ じしん
の不法からあがない出して、良いわざに熱心な選びの民を、ご自身のものと

3
せいべつ
して聖別するためにほかならない。
けんい かた すす せ
一五 あなたは、権威をもってこれらのことを語り、勧め、また責めなさい。だ
かろ
れにも軽んじられてはならない。
第三章
かれ すす しはいしゃ けんい もの ふく したが
一 あなたは彼らに勧めて、支配者、権威ある者に服し、これに従い、いつでも
よ ようい あらそ かんよう
良いわざをする用意があり、 二だれをもそしらず、争わず、寛容であって、す
ひと たい にゅうわ たいど しめ おも だ
べての人に対してどこまでも柔和な態度を示すべきことを、思い出させなさ
いぜん むふんべつ ふ じゅうじゅん まよ もの
い。 三わたしたちも以前には、無分別で、不 従 順な、迷っていた者であって、
じょうよく かいらく どれい あくい ひ す ひと
さまざまの情 欲と快楽との奴隷になり、悪意とねたみとで日を過ごし、人に
にく たがい にく あ すくいぬし かみ じ ひ
憎まれ、 互に憎み合っていた。 四ところが、わたしたちの救 主なる神の慈悲
テトスヘの手紙

はくあい あらわ おこな ぎ


と博愛とが現れたとき、 五わたしたちの行 った義のわざによってではなく、
かみ さいせい あら う せいれい あら
ただ神のあわれみによって、再生の洗いを受け、聖霊により新たにされて、わ
すく せいれい すくいぬし
たしたちは救われたのである。 六この聖霊は、わたしたちの救 主 イエス・キ
うえ ゆた そそ
リストをとおして、わたしたちの上に豊かに注がれた。 七これは、わたしたち

4
めぐ ぎ えいえん のぞ
が、キリストの恵みによって義とされ、永遠のいのちを望むことによって、
みくに もの ことば かくじつ
御国をつぐ者となるためである。 八この言葉は確実である。わたしは、あな
しゅちょう ねが かみ しん もの
たがそれらのことを主 張するのを願っている。それは、神を信じている者た
つと よ はげ こころ
ちが、努めて良いわざを励むことを心がけるようになるためである。これは
よ ひとびと えき おろ ぎろん けいず あらそ
良いことであって、人々の益となる。 九しかし、愚かな議論と、系図と、争い
りっぽう ろんそう さ むえき くうきょ
と、律法についての論争とを、避けなさい。それらは無益かつ空虚なことで
いたんしゃ ど くんかい くわ うえ しりぞ
ある。 一〇異端者は、一、二度、訓戒を加えた上で退けなさい。 一一たしかに、
ひと じゃどう おちい みずか あく し つみ おか
こういう人たちは、邪道に陥り、 自ら悪と知りつつも、罪を犯しているから
である。
おく いそ
一二 わたしがアルテマスかテキコかをあなたのところに送ったなら、急いでニ
ところ ふゆ す
コポリにいるわたしの所にきなさい。わたしは、そこで冬を過ごすことにし
ほうがくしゃ いそ たび ふ じ ゆ う
た。 一三法学者ゼナスと、アポロとを、急いで旅につかせ、不自由のないよう
テトスヘの手紙

なかま せま ひつよう そな つと
にしてあげなさい。 一四わたしたちの仲間も、さし迫った必要に備えて、努め
よ はげ み むす もの こころ
て良いわざを励み、実を結ばぬ者とならないように、 心がけるべきである。
とも いちどう もの あい
一五 わたしと共にいる一同の者から、あなたによろしく。わたしたちを愛して
しんと
いる信徒たちに、よろしく。

5
めぐ いちどう とも
恵みが、あなたがた一同と共にあるように。
テトスヘの手紙

6
てがみ
ピレモンヘの手紙
第一章
しゅうじん きょうだい あい
一 キリスト・イエスの囚 人 パウロと兄 弟 テモテから、わたしたちの愛する
どうろうしゃ しまい せんゆう
同労者ピレモン、 二姉妹アピヤ、わたしたちの戦友アルキポ、ならびに、あな
いえ きょうかい
たの家にある教 会へ。
ちち かみ しゅ めぐ へいあん
三 わたしたちの父なる神と主イエス・キリストから、恵みと平安とが、あなた
がたにあるように。
いのり とき かみ かんしゃ
四 わたしは、祈の時にあなたをおぼえて、いつもわたしの神に感謝している。
しゅ たい せいと たい あい しんこう
五 それは、主イエスに対し、また、すべての聖徒に対するあなたの愛と信仰と
き しんこう まじ つよ
について、聞いているからである。 六どうか、あなたの信仰の交わりが強めら
ピレモンヘの手紙

あいだ よ
れて、わたしたちの間でキリストのためになされているすべての良いことが、
し く きょうだい あい
知られて来るようになってほしい。 七兄 弟よ。わたしは、あなたの愛によっ
おお よろこ なぐさ あた せいと こころ ちから
て多くの喜びと慰めとを与えられた。聖徒たちの心が、あなたによって力づ

0
けられたからである。
こと
八 こういうわけで、わたしは、キリストにあってあなたのなすべき事を、きわ
そっちょく し じ おも あい ねが
めて率 直に指示してもよいと思うが、 九むしろ、愛のゆえにお願いする。す
ろうねん いま しゅうじん
でに老年になり、今またキリスト・イエスの囚 人となっているこのパウロが、
とら み う こども ねが
一〇 捕われの身で産んだわたしの子供オネシモについて、あなたにお願いす
かれ いぜん むえき もの いま
る。 一一彼は以前は、あなたにとって無益な者であったが、今は、あなたにも、
ゆうえき もの かれ おく かれ
わたしにも、有益な者になった。 一二彼をあなたのもとに送りかえす。彼はわ
こころ かれ みぢか ひ ふくいん
たしの心である。 一三わたしは彼を身近に引きとめておいて、わたしが福音の
とら あいだ かわ つか
ために捕われている間、あなたに代って仕えてもらいたかったのである。 一四
しょうだく なに きょうせい
しかし、わたしは、あなたの承 諾なしには何もしたくない。あなたが強 制さ
よ おこな じ は つ てき ねが かれ
れて良い行いをするのではなく、自発的にすることを願っている。 一五彼がし
あいだ はな かれ と
ばらくの間あなたから離れていたのは、あなたが彼をいつまでも留めておく
ピレモンヘの手紙

し どれい どれい
ためであったかも知れない。 一六しかも、もはや奴隷としてではなく、奴隷
いじょう あい きょうだい
以上のもの、愛する兄 弟としてである。とりわけ、わたしにとってそうであ
にく しゅ いじょう
るが、ましてあなたにとっては、肉においても、主にあっても、それ以上で
しんこう とも おも
あろう。 一七そこで、もしわたしをあなたの信仰の友と思ってくれるなら、わ

1
どうよう かれ う かれ なに ふ つ ご う
たし同様に彼を受けいれてほしい。 一八もし、彼があなたに何か不都合なこと
なに ふさい か
をしたか、あるいは、何か負債があれば、それをわたしの借りにしておいて
て へんさい
ほしい。 一九このパウロが手ずからしるす、わたしがそれを返済する。この
さい じしん お なに い
際、あなたが、あなた自身をわたしに負うていることについては、何も言う
きょうだい しゅ なに えき え
まい。 二〇兄 弟よ。わたしはあなたから、主にあって何か益を得たいもので
こころ しゅ ちから
ある。わたしの心を、主にあって力づけてもらいたい。
じゅうじゅん かた しん てがみ か たし
二一 わたしはあなたの従 順を堅く信じて、この手紙を書く。あなたは、確かに
い いじょう ねが
わたしが言う以上のことをしてくれるだろう。 二二ついでにお願いするが、わ
やど ようい いのり
たしのために宿を用意しておいてほしい。あなたがたの祈によって、あなた
ところ い のぞ
がたの所に行かせてもらえるように望んでいるのだから。
とも とら み
二三 キリスト・イエスにあって、わたしと共に捕われの身になっているエパフ
どうろうしゃ
ラスから、あなたによろしく。 二四わたしの同労者たち、マルコ、アリスタル
ピレモンヘの手紙

コ、デマス、ルカからも、よろしく。
しゅ めぐ れい とも
二五 主イエス・キリストの恵みが、あなたがたの霊と共にあるように。

2
gid}Heb{/id}
びと てがみ
ヘブル人への手紙
第一章
かみ よげんしゃ とき ほうほう
一 神は、むかしは、預言者たちにより、いろいろな時に、いろいろな方法で、
せんぞ かた おわ とき み こ かた
先祖たちに語られたが、 二この終りの時には、御子によって、わたしたちに語
かみ み こ ばんぶつ そうぞくしゃ さだ み こ
られたのである。神は御子を万物の相続者と定め、また、御子によって、も
せかい つく み こ かみ えいこう かがや かみ ほんしつ しん
ろもろの世界を造られた。 三御子は神の栄光の輝きであり、神の本質の真の
すがた ちから ことば ばんぶつ たも つみ
姿であって、その力ある言葉をもって万物を保っておられる。そして罪のき
ヘブル人への手紙

お たか ところ たいのうしゃ みぎ ざ
よめのわざをなし終えてから、いと高き所にいます大能者の右に、座につか
み こ う つ な みつかい な
れたのである。 四御子は、その受け継がれた名が御使たちの名にまさってい
かれ もの かみ みつかい
るので、彼らよりもすぐれた者となられた。 五いったい、神は御使たちのだれ
たい
に対して、

0

﹁あなたこそは、わたしの子。

きょう、わたしはあなたを生んだ﹂

と言い、さらにまた、
かれ ちち
﹁わたしは彼の父となり、
かれ こ
彼はわたしの子となるであろう﹂
い かみ ちょうし せかい みちび い
と言われたことがあるか。 六さらにまた、神は、その長子を世界に導き入れる
あた
に当って、
かみ みつかい かれ はい
﹁神の御使たちはことごとく、彼を拝すべきである﹂
い みつかい
と言われた。 七また、御使たちについては、
かみ みつかい かぜ
﹁神は、御使たちを風とし、
じぶん つか もの ほのお
ご自分に仕える者たちを炎とされる﹂
い み こ
と言われているが、 八御子については、
ヘブル人への手紙

かみ み ざ よ よ かぎ つづ
﹁神よ、あなたの御座は、世々限りなく続き、
しはい こうへい
あなたの支配のつえは、公平のつえである。
ぎ あい ふほう にく
九あなたは義を愛し、不法を憎まれた。
かみ かみ よろこ
それゆえに、神、あなたの神は、 喜びのあぶらを、

1
とも そそ おお そそ
あなたの友に注ぐよりも多く、あなたに注がれた﹂

と言い、 一〇さらに、
しゅ はじ ち もとい
﹁主よ、あなたは初めに、地の基をおすえになった。
てん て
もろもろの天も、み手のわざである。
ほろ
一一 これらのものは滅びてしまうが、
あなたは、いつまでもいますかたである。
ころも ふる
すべてのものは衣のように古び、
がいとう ま
一二 それらをあなたは、外套のように巻かれる。
ころも かわ
これらのものは、 衣のように変るが、
かわ
あなたは、いつも変ることがなく、

あなたのよわいは、尽きることがない﹂
い かみ みつかい たい
とも言われている。 一三神は、御使たちのだれに対して、
ヘブル人への手紙

てき あしだい
﹁あなたの敵を、あなたの足台とするときまでは、
みぎ ざ
わたしの右に座していなさい﹂
い みつかい つか れい すくい う
と言われたことがあるか。 一四御使たちはすべて仕える霊であって、 救を受
つ ひとびと ほうし
け継ぐべき人々に奉仕するため、つかわされたものではないか。

2
第二章
き つよ こころ
一 こういうわけだから、わたしたちは聞かされていることを、いっそう強く心
と なが
に 留 め ね ば な ら な い。そ う で な い と、お し 流 さ れ て し ま う。 二と い う の は、
みつかい かた みことば こうりょく も ざいか ふ じゅうじゅん
御使たちをとおして語られた御言が効 力を持ち、あらゆる罪過と不 従 順と
たい せいとう むく くわ たっと すくい
に対して正当な報いが加えられたとすれば、三わたしたちは、こんなに尊い救
むく すくい
をなおざりにしては、どうして報いをのがれることができようか。この救は、
はじ しゅ かた き ひとびと
初め主によって語られたものであって、聞いた人々からわたしたちにあかし
かみ ふ し ぎ ちから
され、四さらに神も、しるしと不思議とさまざまな力あるわざとにより、また、
みむね したが せいれい かくじ たま
御旨に従い聖霊を各自に賜うことによって、あかしをされたのである。
かみ かた せかい みつかい
五 いったい、神は、わたしたちがここで語っているきたるべき世界を、御使た
ふくじゅう せいしょ か しょ
ちに服 従させることは、なさらなかった。 六聖書はある箇所で、こうあかしし
ヘブル人への手紙

ている、
にんげん なにもの
﹁人間が何者だから、
み こころ と
これを御 心に留められるのだろうか。
ひと こ なにもの
人の子が何者だから、

3
これをかえりみられるのだろうか。
あいだ
七あなたは、しばらくの間、
かれ みつかい ひく もの
彼を御使たちよりも低い者となし、
えいこう かんむり かれ あた
栄光とほまれとを冠として彼に与え、
ばんぶつ あし した ふくじゅう くだ
八万物をその足の下に服 従させて下さった﹂。
ばんぶつ かれ ふくじゅう くだ いじょう ふくじゅう なに
﹁万物を彼に服 従させて下さった﹂という以上、 服 従しないものは、何ひと
のこ いま ばんぶつ かれ ふくじゅう
つ残されていないはずである。しかし、今もなお万物が彼に服 従している
じじつ み あいだ みつかい
事実を、わたしたちは見ていない。 九ただ、
﹁しばらくの間、御使たちよりも
ひく もの し くる えいこう かんむり
低い者とされた﹂イエスが、死の苦しみのゆえに、栄光とほまれとを冠とし
あた み かれ かみ めぐ ひと
て与えられたのを見る。それは、彼が神の恵みによって、すべての人のため
し あじ ばんぶつ き ばんぶつ
に死を味わわれるためであった。 一〇なぜなら、万物の帰すべきかた、万物を
つく おお こ えいこう みちび かれ すくい きみ くなん
造られたかたが、多くの子らを栄光に導くのに、彼らの救の君を、苦難をと
ヘブル人への手紙

まっと かれ じつ
おして全うされたのは、彼にふさわしいことであったからである。 一一実に、
もの みな で
きよめるかたも、きよめられる者たちも、皆ひとりのかたから出ている。そ
しゅ かれ きょうだい よ はじ
れゆえに主は、彼らを兄 弟と呼ぶことを恥とされない。 一二すなわち、
み な きょうだい つ し
﹁わたしは、御名をわたしの兄 弟たちに告げ知らせ、

4
きょうかい なか うた
教 会の中で、あなたをほめ歌おう﹂

と言い、 一三また、
かれ たの
﹁わたしは、彼により頼む﹂、
また、
み かみ たま こ
﹁見よ、わたしと、神がわたしに賜わった子らとは﹂
い こ ち にく とも
と言われた。 一四このように、子たちは血と肉とに共にあずかっているので、
どうよう し ちから も もの
イエスもまた同様に、それらをそなえておられる。それは、死の力を持つ者、
あくま じぶん し ほろ し きょうふ いっしょうがい
すなわち悪魔を、ご自分の死によって滅ぼし、 一五死の恐怖のために一 生 涯、
どれい もの と はな たし かれ てんし
奴隷となっていた者たちを、解き放つためである。 一六確かに、彼は天使たち
たす しそん たす
を助けることはしないで、アブラハムの子孫を助けられた。 一七そこで、イエ
かみ ぶか ちゅうじつ だいさいし たみ つみ
スは、神のみまえにあわれみ深い忠 実な大祭司となって、民の罪をあがなう
てん きょうだい おな
ために、あらゆる点において兄 弟たちと同じようにならねばならなかった。
ヘブル人への手紙

しゅ じしん しれん う くる しれん なか もの たす


一八 主ご自身、試錬を受けて苦しまれたからこそ、試錬の中にある者たちを助
けることができるのである。

5
第三章
てん め せい きょうだい
一 そこで、天の召しにあずかっている聖なる兄 弟たちよ。あなたがたは、わ
こくはく しんこう し しゃ だいさいし おも
たしたちが告白する信仰の使者また大祭司なるイエスを、思いみるべきであ
かれ かみ いえ ぜんたい たい ちゅうじつ じぶん た
る。 二彼は、モーセが神の家の全体に対して忠 実であったように、自分を立て
たい ちゅうじつ いえ つく もの いえ
たかたに対して忠 実であられた。 三おおよそ、家を造る者が家そのものより
たっと かれ いじょう おお こうえい う
もさらに尊ばれるように、彼は、モーセ以上に、大いなる光栄を受けるにふ
もの いえ つく
さわしい者とされたのである。 四家はすべて、だれかによって造られるもの
つく かみ のち
であるが、すべてのものを造られたかたは、神である。 五さて、モーセは、後
かた こと つか もの かみ いえ
に語らるべき事がらについてあかしをするために、仕える者として、神の家
ぜんたい たい ちゅうじつ み こ かみ いえ おさ
の全体に対して忠 実であったが、 六キリストは御子として、神の家を治める
ちゅうじつ のぞ かくしん ほこり さいご
のに忠 実であられたのである。もしわたしたちが、望みの確信と誇とを最後
ヘブル人への手紙

も つづ かみ いえ
までしっかりと持ち続けるなら、わたしたちは神の家なのである。 七だから、
せいれい い
聖霊が言っているように、
こえ き
﹁きょう、あなたがたがみ声を聞いたなら、
あらの しれん ひ
八 荒野における試錬の日に、

6
かみ とき
神にそむいた時のように、
こころ
あなたがたの心を、かたくなにしてはいけない。
せんぞ
九あなたがたの先祖たちは、
こころ
そこでわたしを試みためし、
ねん あいだ み
一〇 しかも、四十年の間わたしのわざを見たのである。
じだい ひとびと たい
だから、わたしはその時代の人々に対して、

いきどおって言った、
かれ こころ まよ
彼らの心は、いつも迷っており、
かれ みち みと
彼らは、わたしの道を認めなかった。
いか かれ あんそく
一一 そこで、わたしは怒って、彼らをわたしの安息にはいらせることはし
ちか
ない、と誓った﹂。
きょうだい き なか ふ しんこう
兄 弟たちよ。気をつけなさい。あなたがたの中には、あるいは、不信仰な
ヘブル人への手紙

一二
わる こころ い かみ はな さ もの し
悪い心をいだいて、生ける神から離れ去る者があるかも知れない。 一三あなた
なか つみ まど おちい こころ もの
が た の 中 に、罪 の 惑 わ し に 陥 っ て、 心 を か た く な に す る 者 が な い よ う に、
ひ び たがい はげ あ さいしょ かくしん
﹁きょう﹂といううちに、日々、 互に励まし合いなさい。 一四もし最初の確信
さいご も つづ
を、最後までしっかりと持ち続けるならば、わたしたちはキリストにあずか

7
もの い
る者となるのである。 一五それについて、こう言われている、
こえ き
﹁きょう、み声を聞いたなら、
かみ とき
神にそむいた時のように、
こころ
あなたがたの心を、かたくなにしてはいけない﹂。
き ひき
一六 すると、聞いたのにそむいたのは、だれであったのか。モーセに率いられ
で い ひとびと ねん
て、エジプトから出て行ったすべての人々ではなかったか。 一七また、四十年
あいだ かみ たい つみ おか
の間、神がいきどおられたのはだれに対してであったか。罪を犯して、その
し あらの もの たい かみ
死かばねを荒野にさらした者たちに対してではなかったか。 一八また、神が、
あんそく ちか む
わたしの安息に、はいらせることはしない、と誓われたのは、だれに向かっ
ふ じゅうじゅん もの む かれ
てであったか。不 従 順な者に向かってではなかったか。 一九こうして、彼ら
ふ しんこう
がはいることのできなかったのは、不信仰のゆえであることがわかる。
ヘブル人への手紙

第四章
かみ あんそく やくそく そんぞく
一 それだから、神の安息にはいるべき約束が、まだ存続しているにかかわら
まんいち もの なか で
ず、万一にも、はいりそこなう者が、あなたがたの中から出ることがないよ

8
ちゅうい かれ おな
うに、注意しようではないか。 二というのは、彼らと同じく、わたしたちにも
ふくいん つた き みことば かれ むえき
福音が伝えられているのである。しかし、その聞いた御言は、彼らには無益
き もの しんこう むす
であった。それが、聞いた者たちに、信仰によって結びつけられなかったか
しん もの あんそく
らである。 三ところが、わたしたち信じている者は、安息にはいることができ
る。それは、
いか
﹁わたしが怒って、
かれ あんそく ちか
彼らをわたしの安息に、はいらせることはしないと、誓ったように﹂
い よ はじ あ
と言われているとおりである。しかも、みわざは世の初めに、でき上がって
せいしょ か しょ なぬか め かみ なぬか
いた。 四すなわち、聖書のある箇所で、七日目のことについて、
﹁神は、七日
め やす い かれ
目にすべてのわざをやめて休まれた﹂と言われており、 五またここで、
﹁彼ら
あんそく い
をわたしの安息に、はいらせることはしない﹂と言われている。 六そこで、そ
あんそく きかい ひとびと のこ はじ
の安息にはいる機会が、人々になお残されているのであり、しかも、初めに
ヘブル人への手紙

ふくいん つた ひとびと ふ じゅうじゅん


福音を伝えられた人々は、不 従 順のゆえに、はいることをしなかったのであ
かみ ひ さだ なが とき
るから、 七神は、あらためて、ある日を﹁きょう﹂として定め、長く時がたっ
さき いんよう
てから、先に引用したとおり、
こえ き
﹁きょう、み声を聞いたなら、

9
こころ
あなたがたの心を、かたくなにしてはいけない﹂
い かれ やす
とダビデをとおして言われたのである。 八もしヨシュアが彼らを休ませてい
かみ ひ かた
たとすれば、神はあとになって、ほかの日のことについて語られたはずはな
あんそくにち やす かみ たみ のこ
い。 九こういうわけで、安息日の休みが、神の民のためにまだ残されているの
かみ あんそく もの かみ やす
である。 一〇なぜなら、神の安息にはいった者は、神がみわざをやめて休まれ
じぶん やす
たように、自分もわざを休んだからである。 一一したがって、わたしたちは、こ
あんそく どりょく おな ふ
の安息にはいるように努力しようではないか。そうでないと、同じような不
じゅうじゅん あくれい お ゆ もの で
従 順 の 悪例 に な ら っ て、落 ち て 行 く 者 が 出 る か も し れ な い。 一二と い う の
かみ ことば い ちから は するど せいしん
は、神の言は生きていて、 力があり、もろ刃のつるぎよりも鋭くて、精神と
れいこん かんせつ こつずい き はな さ こころ おも こころざし
霊魂と、関節と骨髄とを切り離すまでに刺しとおして、 心の思いと 志 とを
み わ かみ ひ ぞうぶつ
見分けることができる。 一三そして、神のみまえには、あらわでない被造物は
かみ め はだか
ひとつもなく、すべてのものは、神の目には裸であり、あらわにされている
ヘブル人への手紙

かみ たい い ひら
のである。この神に対して、わたしたちは言い開きをしなくてはならない。
てん い だいさいし かみ
一四 さて、わたしたちには、もろもろの天をとおって行かれた大祭司なる神の
こ こくはく しんこう まも
子イエスがいますのであるから、わたしたちの告白する信仰をかたく守ろう
だいさいし よわ おも
ではないか。 一五この大祭司は、わたしたちの弱さを思いやることのできない

10
つみ おか
ようなかたではない。罪は犯されなかったが、すべてのことについて、わた
おな しれん あ
したちと同じように試錬に会われたのである。 一六だから、わたしたちは、あ
う めぐ じ き え たす う
われみを受け、また、恵みにあずかって時機を得た助けを受けるために、は
めぐ み ざ ちか
ばかることなく恵みの御座に近づこうではないか。
第五章
だいさいし にんげん なか えら つみ そな もの
一 大祭司なるものはすべて、人間の中から選ばれて、罪のために供え物といけ
ひとびと かみ つか やく にん もの
にえとをささげるように、人々のために神に仕える役に任じられた者である。
かれ じぶんじしん よわ み お む ち まよ ひとびと おも
二 彼は自分自身、弱さを身に負うているので、無知な迷っている人々を、思い
とも よわ たみ じぶん
やることができると共に、 三その弱さのゆえに、民のためだけではなく自分
じしん つみ
自身のためにも、罪についてささげものをしなければならないのである。 四
ヘブル人への手紙

えいよ つとめ じぶん え ばあい


かつ、だれもこの栄誉ある務を自分で得るのではなく、アロンの場合のよう
かみ め う どうよう だいさいし
に、神の召しによって受けるのである。 五同様に、キリストもまた、大祭司の
えいよ じぶん え
栄誉を自分で得たのではなく、

﹁あなたこそは、わたしの子。

11

きょう、わたしはあなたを生んだ﹂
い う か しょ い
と言われたかたから、お受けになったのである。 六また、ほかの箇所でこう言
われている、
えいえん
﹁あなたこそは、永遠に、
ひと さいし
メルキゼデクに等しい祭司である﹂。
にく せいかつ とき はげ さけ なみだ じぶん
七 キリストは、その肉の生活の時には、激しい叫びと涙とをもって、ご自分を
し すく ちから いのり ねが ふか しんこう
死から救う力のあるかたに、 祈と願いとをささげ、そして、その深い信仰の
き かれ み こ
ゆえに聞きいれられたのである。 八彼は御子であられたにもかかわらず、さ
くる じゅうじゅん まな まった もの かれ
まざまの苦しみによって従 順を学び、 九そして、 全き者とされたので、彼に
じゅうじゅん ひと たい えいえん すくい みなもと かみ
従 順であるすべての人に対して、永遠の救の源となり、一〇神によって、メル
ひと だいさいし
キゼデクに等しい大祭司と、となえられたのである。
い みみ
このことについては、言いたいことがたくさんあるが、あなたがたの耳が
ヘブル人への手紙

一一
にぶ と あ
鈍くなっているので、それを説き明かすことはむずかしい。 一二あなたがた
ひさ いぜん きょうし ど かみ ことば
は、久しい以前からすでに教師となっているはずなのに、もう一度神の言の
しょ ほ ひと て しまつ
初歩を、人から手ほどきしてもらわねばならない始末である。あなたがたは
かた しょくもつ ちち ひつよう ちち の もの おさ
堅い食 物ではなく、乳を必要としている。 一三すべて乳を飲んでいる者は、幼

12
ご ぎ ことば あじ かた しょくもつ
な子なのだから、義の言葉を味わうことができない。 一四しかし、堅い食 物
ぜんあく み かんかく じっさい はたら くんれん せいじん
は、善悪を見わける感覚を実際に働かせて訓練された成人のとるべきもので
ある。
第六章
おしえ しょ ほ
一 そういうわけだから、わたしたちは、キリストの教の初歩をあとにして、
かんせい め すす いま し おこな くいあらた かみ
完成を目ざして進もうではないか。今さら、死んだ行いの悔 改めと神への
しんこう あら おしえ あんしゅ しにん ふっかつ えいえん
信仰、 二洗いごとについての教と按手、死人の復活と永遠のさばき、などの
きほん おしえ まな かみ ゆる え
基本の教をくりかえし学ぶことをやめようではないか。 三神の許しを得て、
ひかり う てん たまもの あじ せいれい
そうすることにしよう。 四いったん、光を受けて天よりの賜物を味わい、聖霊
もの かみ よ ことば よ ちから あじ
にあずかる者となり、 五また、神の良きみ言葉と、きたるべき世の力とを味
ヘブル人への手紙

もの だらく ばあい かみ み こ みずか


わった者たちが、 六そののち堕落した場合には、またもや神の御子を、 自ら
じゅうじか くいあらた
十字架につけて、さらしものにするわけであるから、ふたたび悔 改めにたち
かえ ふ か の う と ち うえ ふ あめ す
帰ることは不可能である。 七たとえば、土地が、その上にたびたび降る雨を吸
こん たがや ひとびと やくだ さくもつ そだ かみ しゅくふく
い込で、 耕す人々に役立つ作物を育てるなら、神の祝 福にあずかる。 八しか

13
むよう
し、いばらやあざみをはえさせるなら、それは無用になり、やがてのろわれ、

ついには焼かれてしまう。
あい もの い すくい
九 しかし、愛する者たちよ。こうは言うものの、わたしたちは、 救にかかわ
さら よ かくしん かみ ふ ぎ
る更に良いことがあるのを、あなたがたについて確信している。 一〇神は不義
はたら せいと つか
なかたではないから、あなたがたの働きや、あなたがたがかつて聖徒に仕え、
いま つか み な しめ あい わす
今もなお仕えて、御名のために示してくれた愛を、お忘れになることはない。
のこ さいご のぞ も
一一 わたしたちは、あなたがたがひとり残らず、最後まで望みを持ちつづける
おな ねつい しめ おこた しんこう にんたい やくそく
ためにも、同じ熱意を示し、 一二 怠ることがなく、信仰と忍耐とをもって約束
う つ ひとびと みなら もの ねが
のものを受け継ぐ人々に見習う者となるように、と願ってやまない。
かみ たい やくそく ちか じぶん
一三 さて、神がアブラハムに対して約束されたとき、さして誓うのに、ご自分
うえ じぶん ちか かなら
よりも上のものがないので、ご自分をさして誓って、 一四﹁わたしは、 必ずあ
しゅくふく かなら しそん い
なたを祝 福し、 必ずあなたの子孫をふやす﹂と言われた。 一五このようにし
ヘブル人への手紙

にんたいづよ ま やくそく え
て、アブラハムは忍耐強く待ったので、約束のものを得たのである。 一六いっ
にんげん じぶん うえ ちか ちか
たい、人間は自分より上のものをさして誓うのであり、そして、その誓いは
はんたいろん ふう ほしょう かみ やくそく
すべての反対論を封じる保証となるのである。 一七そこで、神は、約束のもの
う つ ひとびと けいかく ふへん しめ
を受け継ぐ人々に、ご計画の不変であることを、いっそうはっきり示そうと

14
おも ちか ほしょう いつわ え
思われ、誓いによって保証されたのである。 一八それは、偽ることのあり得な
かみ た ふへん こと まえ のぞ とら
い神に立てられた二つの不変の事がらによって、前におかれている望みを捕
よ ちからづよ はげ う
えようとして世をのがれてきたわたしたちが、力 強い励ましを受けるためで
のぞ あんぜん ふどう
ある。 一九この望みは、わたしたちにとって、いわば、たましいを安全にし不動
いかり まく うち い まく
にする錨であり、かつ﹁幕の内﹂にはいり行かせるものである。 二〇その幕の
うち えいえん ひと だいさいし
内に、イエスは、永遠にメルキゼデクに等しい大祭司として、わたしたちの
ためにさきがけとなって、はいられたのである。
第七章
おう たか かみ さいし おう
一 このメルキゼデクはサレムの王であり、いと高き神の祭司であったが、王た
げきは かえ むか しゅくふく たい
ちを撃破して帰るアブラハムを迎えて祝 福し、 二それに対して、アブラハム
ヘブル人への手紙

かれ もの ぶん わ あた な い み だい
は彼にすべての物の十分の一を分け与えたのである。その名の意味は、第一
ぎ おう つぎ おう へいわ おう かれ ちち
に義の王、次にまたサレムの王、すなわち平和の王である。 三彼には父がな
はは けいず しょうがい はじ せいめい おわ かみ こ
く、母がなく、系図がなく、 生 涯の初めもなく、生命の終りもなく、神の子
さいし
のようであって、いつまでも祭司なのである。

15
ぞくちょう もっと ひん ぶん あた
四 そこで、族 長のアブラハムが最もよいぶんどり品の十分の一を与えたのだ
ひと じんぶつ
から、この人がどんなにすぐれた人物であったかが、あなたがたにわかるで
こ さいし つとめ もの きょうだい
あろう。 五さて、レビの子のうちで祭司の務をしている者たちは、 兄 弟であ
たみ おな しそん ぶん と
る民から、同じくアブラハムの子孫であるにもかかわらず、十分の一を取る
りっぽう めい かれ けっとう ぞく
ように、律法によって命じられている。 六ところが、彼らの血統に属さないこ
ひと ぶん う やくそく う もの しゅくふく
の人が、アブラハムから十分の一を受けとり、約束を受けている者を祝 福し
い しょう もの だい もの しゅくふく う
たのである。 七言うまでもなく、 小なる者が大なる者から祝 福を受けるので
うえ いっぽう し にんげん ぶん う たほう
ある。 八その上、一方では死ぬべき人間が、十分の一を受けているが、他方で
かれ い もの ひと う
は﹁彼は生きている者﹂とあかしされた人が、それを受けている。 九そこで、
ぶん う つう ぶん おさ
十分の一を受けるべきレビでさえも、アブラハムを通じて十分の一を納めた、
い むか とき
と言える。 一〇なぜなら、メルキゼデクがアブラハムを迎えた時には、レビは
ふ そ こし なか
まだこの父祖の腰の中にいたからである。
ヘブル人への手紙

まっと けい さ い し せい かのう たみ
一一 もし全うされることがレビ系の祭司制によって可能であったら︱︱民は
さ い し せい もと りっぽう あた ひつよう
祭司制の下に律法を与えられたのであるが︱︱なんの必要があって、なお、
ひと よ べつ ひと さいし た
﹁アロンに等しい﹂と呼ばれない、別な﹁メルキゼデクに等しい﹂祭司が立て
さ い し せい へんこう りっぽう かなら へんこう
られるのであるか。 一二祭司制に変更があれば、律法にも必ず変更があるはず

16
さいだん ほうし
である。 一三さて、これらのことは、いまだかつて祭壇に奉仕したことのない、
た ぶぞく かん い しゅ
他の部族に関して言われているのである。 一四というのは、わたしたちの主が
ぞく なか で あき ぶぞく
ユダ族の中から出られたことは、明らかであるが、モーセは、この部族につ
さいし かん い こと
いて、祭司に関することでは、ひとことも言っていない。 一五そしてこの事は、
どうよう さいし た めいはく
メルキゼデクと同様な、ほかの祭司が立てられたことによって、ますます明白
かれ にく いまし りっぽう く
になる。 一六彼は、肉につける戒めの律法によらないで、朽ちることのないい
ちから た せいしょ
のちの力によって立てられたのである。 一七それについては、聖書に﹁あなた
えいえん ひと さいし
こそは、永遠に、メルキゼデクに等しい祭司である﹂とあかしされている。 一
いっぽう まえ いまし よわ むえき むこう
八 このようにして、一方では、前の戒めが弱くかつ無益であったために無効に
とも りっぽう なにごと まっと え たほう
なると共に、一九︵律法は、何事をも全うし得なかったからである︶、他方では、
のぞ あらわ かみ ちか
さらにすぐれた望みが現れてきて、わたしたちを神に近づかせるのである。 二
うえ ちか ひとびと ちか さいし
その上に、このことは誓いをもってなされた。人々は、誓いをしないで祭司
ヘブル人への手紙


ひと ばあい つぎ ちか
とされるのであるが、 二一この人の場合は、次のような誓いをもってされたの
かれ い しゅ ちか こころ
である。すなわち、彼について、こう言われている、
﹁主は誓われたが、 心を
か えいえん さいし
変えることをされなかった。あなたこそは、永遠に祭司である﹂。 二二このよ
さら けいやく ほしょう
うにして、イエスは更にすぐれた契約の保証となられたのである。 二三かつ、

17
し つとめ つづ おお ひとびと
死ということがあるために、 務を続けることができないので、多くの人々が
さいし た かれ えいえん
祭司に立てられるのである。 二四しかし彼は、永遠にいますかたであるので、
かわ さいし つとめ も かれ
変らない祭司の務を持ちつづけておられるのである。 二五そこでまた、彼は、
い かれ かれ かみ く
いつも生きていて彼らのためにとりなしておられるので、彼によって神に来
ひとびと すく
る人々を、いつも救うことができるのである。
せい あく けが つみびと くべつ
二六 このように、聖にして、悪も汚れもなく、罪人とは区別され、かつ、もろ
てん たか だいさいし
もろの天よりも高くされている大祭司こそ、わたしたちにとってふさわしい
かれ だいさいし じぶん つみ つぎ たみ
かたである。 二七彼は、ほかの大祭司のように、まず自分の罪のため、次に民
つみ ひ び ひつよう じぶん
の罪のために、日々、いけにえをささげる必要はない。なぜなら、自分をさ
ど りっぽう よわ み お にんげん
さげて、一度だけ、それをされたからである。 二八律法は、弱さを身に負う人間
た だいさいし りっぽう のち ちか みことば えいえん まっと
を立てて大祭司とするが、律法の後にきた誓いの御言は、永遠に全うされた
み こ た だいさいし
御子を立てて、大祭司としたのである。
ヘブル人への手紙

第八章
いじょう の ようてん だいさいし
一 以上述べたことの要点は、このような大祭司がわたしたちのためにおられ、

18
てん たいのうしゃ み ざ みぎ ざ にんげん しゅ もう
天にあって大能者の御座の右に座し、 二人間によらず主によって設けられた
しん まくや せいじょ つか だいさいし
真の幕屋なる聖所で仕えておられる、ということである。 三おおよそ、大祭司
た そな もの
が立てられるのは、供え物やいけにえをささげるためにほかならない。した
だいさいし なに もの も
がって、この大祭司もまた、何かささぐべき物を持っておられねばならない。
かれ ちじょう りっぽう そな もの
四 そこで、もし彼が地上におられたなら、律法にしたがって供え物をささげる
さいし げん かれ さいし え かれ
祭司たちが、現にいるのだから、彼は祭司ではあり得なかったであろう。 五彼
てん せいじょ がた かげ つか もの
らは、天にある聖所のひな型と影とに仕えている者にすぎない。それについ
まくや た み つ う やま しめ かた
ては、モーセが幕屋を建てようとしたとき、御告げを受け、
﹁山で示された型
ちゅうい つく い
どおりに、注意してそのいっさいを作りなさい﹂と言われたのである。 六とこ
つとめ え
ろがキリストは、はるかにすぐれた務を得られたのである。それは、さらに
やくそく もとづ た けいやく ちゅうほしゃ
まさった約束に基いて立てられた、さらにまさった契約の仲保者となられた
はじ けいやく か
ことによる。 七もし初めの契約に欠けたところがなかったなら、あとのもの
ヘブル人への手紙

た よ ち かみ かれ せ い
が立てられる余地はなかったであろう。 八ところが、神は彼らを責めて言わ
れた、
しゅ い み
﹁主は言われる、見よ、
いえ いえ
わたしがイスラエルの家およびユダの家と、

19
あたら けいやく むす ひ く
新しい契約を結ぶ日が来る。
かれ せんぞ て
それは、わたしが彼らの先祖たちの手をとって、

ち みち だ ひ
エジプトの地から導き出した日に、
かれ むす けいやく
彼らと結んだ契約のようなものではない。
かれ けいやく
彼らがわたしの契約にとどまることをしないので、
かれ
わたしも彼らをかえりみなかったからであると、
しゅ い
主が言われる。
ひ のち いえ た けいやく
一〇 わたしが、それらの日の後、イスラエルの家と立てようとする契約は
しゅ い
これである、と主が言われる。
りっぽう かれ おも なか い
すなわち、わたしの律法を彼らの思いの中に入れ、
かれ こころ か
彼らの心に書きつけよう。
かれ かみ
こうして、わたしは彼らの神となり、
ヘブル人への手紙

かれ たみ
彼らはわたしの民となるであろう。
かれ どうほう
一一 彼らは、それぞれ、その同胞に、
きょうだい
また、それぞれ、その兄 弟に、
しゅ し い おし
主を知れ、と言って教えることはなくなる。

20
だい もの しょう もの いた
なぜなら、大なる者から小なる者に至るまで、
かれ
彼らはことごとく、

わたしを知るようになるからである。
かれ ふ ぎ
一二 わたしは、彼らの不義をあわれみ、
かれ つみ おも だ
もはや、彼らの罪を思い出すことはしない﹂。
かみ あたら い はじ けいやく ふる
一三 神は、
﹁新しい﹂と言われたことによって、初めの契約を古いとされたので
とし へ ふる き
ある。年を経て古びたものは、やがて消えていく。
第九章
はじ けいやく れいはい きてい ちじょう せいじょ
一 さて、初めの契約にも、礼拝についてのさまざまな規定と、地上の聖所とが
まくや もう まえ ば しょ しょくだい つくえ そな
あった。 二すなわち、まず幕屋が設けられ、その前の場所には燭 台と机と供え
ヘブル人への手紙

お せいじょ よ だい まく のち
のパンとが置かれていた。これが、聖所と呼ばれた。 三また第二の幕の後に、
べつ ば しょ しせいじょ よ きん こうだん ぜんめんきん
別の場所があり、それは至聖所と呼ばれた。 四そこには金の香壇と全面金で
けいやく はこ お なか きん
おおわれた契約の箱とが置かれ、その中にはマナのはいっている金のつぼと、
め だ けいやく いしいた い はこ うえ えいこう
芽を出したアロンのつえと、契約の石板とが入れてあり、五箱の上には栄光に

21
かがや しょくざいしょ
輝くケルビムがあって、 贖 罪 所をおおっていた。これらのことについては、
いま の いじょう
今ここで、いちいち述べることができない。 六これらのものが、以上のように
ととの うえ さいし つね まくや まえ ば しょ れいはい
整えられた上で、祭司たちは常に幕屋の前の場所にはいって礼拝をするので
まくや おく だいさいし ねん ど じぶん
あるが、 七幕屋の奥には大祭司が年に一度だけはいるのであり、しかも自分
じしん たみ ち ゆ
自身 と 民 と の あ や ま ち の た め に さ さ げ る 血 を た ず さ え な い で 行 く こ と は な
せいれい ぜんぽう まくや そんざい かぎ せいじょ みち
い。 八それによって聖霊は、前方の幕屋が存在している限り、聖所にはいる道
ひら あき しめ まくや
はまだ開かれていないことを、明らかに示している。 九この幕屋というのは
いま じだい たい ひ ゆ そな もの
今の時代に対する比喩である。すなわち、供え物やいけにえはささげられる
ぎしき もの りょうしん まっと
が、儀式にたずさわる者の良 心を全うすることはできない。 一〇それらは、た
しょくもつ の もの しゅじゅ あら かん ぎょうじ かいかく とき か
だ食 物と飲み物と種々の洗いごとに関する行事であって、改革の時まで課せ
にく きてい
られている肉の規定にすぎない。
あらわ しゅくふく だいさいし て
しかしキリストがすでに現れた祝 福の大祭司としてこられたとき、手で
ヘブル人への手紙

一一
つく せかい に 属 ぞ
]( く おお かんぜん まくや
造られず、この 世 界 さない、さらに大きく、完全な幕屋をとおり、 一二か
} {[
こ うし ち じしん ち ど せいじょ
つ、やぎと子牛との血によらず、ご自身の血によって、一度だけ聖所にはい
えいえん まっと
られ、それによって永遠のあがないを全うされたのである。 一三もし、やぎや
お うし ち めうし はい けが ひと うえ にくたい
雄牛の血や雌牛の灰が、汚れた人たちの上にまきかけられて、肉体をきよめ

22
せいべつ えいえん せいれい じしん きず もの かみ
聖別するとすれば、 一四永遠の聖霊によって、ご自身を傷なき者として神にさ
ち りょうしん し
さげられたキリストの血は、なおさら、わたしたちの良 心をきよめて死んだ
と のぞ い かみ つか もの
わざを取り除き、生ける神に仕える者としないであろうか。 一五それだから、
あたら けいやく ちゅうほしゃ かれ はじ けいやく
キリストは新しい契約の仲保者なのである。それは、彼が初めの契約のもと
おか ざいか し けっ か め もの やくそく
で犯した罪過をあがなうために死なれた結果、召された者たちが、約束され
えいえん くに う つ
た永遠の国を受け継ぐためにほかならない。
ゆいごん ゆいごんしゃ し しょうめい ひつよう ゆいごん し
一六 いったい、遺言には、遺言者の死の証 明が必要である。 一七遺言は死によっ
こうりょく しょう ゆいごんしゃ い あいだ こうりょく
てのみその効 力を生じ、遺言者が生きている間は、効 力がない。 一八だから、
はじ けいやく ち なが せいりつ
初めの契約も、血を流すことなしに成立したのではない。 一九すなわち、モー
りっぽう したが いまし たみぜんたい せんげん みず あかいろ ようもう
セが、律法に従 ってすべての戒めを民全体に宣言したとき、水と赤色の羊毛
ほか こ うし ち と けいやくしょ たみぜんたい
とヒソプとの外に、子牛とやぎとの血を取って、契約書と民全体とにふりか
かみ たい た けいやく ち
け、二〇そして、﹁これは、神があなたがたに対して立てられた契約の血である﹂
ヘブル人への手紙

い かれ まくや ぎ し き よう き ぐ どうよう ち
と言った。 二一彼はまた、幕屋と儀式用の器具いっさいにも、同様に血をふり
もの りっぽう したが ち
かけた。 二二こうして、ほとんどすべての物が、律法に従い、血によってきよ
ち なが つみ え
められたのである。血を流すことなしには、罪のゆるしはあり得ない。
てん がた ひつよう
二三 このように、天にあるもののひな型は、これらのものできよめられる必要

23
てん さら
があるが、天にあるものは、これらより更にすぐれたいけにえで、きよめら
もけい
れねばならない。 二四ところが、キリストは、ほんとうのものの模型にすぎな
て つく せいじょ うえ てん いま
い、手で造った聖所にはいらないで、上なる天にはいり、今やわたしたちの
かみ で くだ だいさいし とし じぶん
ために神のみまえに出て下さったのである。 二五大祭司は、年ごとに、自分
いがい ち せいじょ
以外のものの血をたずさえて聖所にはいるが、キリストは、そのように、た
じしん よ
びたびご自身をささげられるのではなかった。 二六もしそうだとすれば、世の
はじ くなん う じじつ
初めから、たびたび苦難を受けねばならなかったであろう。しかし事実、ご
じしん つみ と のぞ よ おわ ど
自身をいけにえとしてささげて罪を取り除くために、世の終りに、一度だけ
あらわ ど し し のち う
現れたのである。 二七そして、一度だけ死ぬことと、死んだ後さばきを受ける
にんげん さだ おお ひと つみ
こととが、人間に定まっているように、 二八キリストもまた、多くの人の罪を
お ど じしん のち かれ ま のぞ ひとびと
負うために、一度だけご自身をささげられた後、彼を待ち望んでいる人々に、
つみ お ど め あらわ すくい あた
罪を負うためではなしに二度目に現れて、 救を与えられるのである。
ヘブル人への手紙

第一〇章
りっぽう よ かげ しん
一 いったい、律法はきたるべき良いことの影をやどすにすぎず、そのものの真

24
とし ひ
のかたちをそなえているものではないから、年ごとに引きつづきささげられ
おな ちか く もの まっと
る同じようないけにえによっても、みまえに近づいて来る者たちを、 全うす
ぎしき もの
ることはできないのである。 二もしできたとすれば、儀式にたずさわる者た
ど いじょう つみ じかく
ちは、一度きよめられた以上、もはや罪の自覚がなくなるのであるから、さ
もの じっさい とし
さげ物をすることがやんだはずではあるまいか。 三しかし実際は、年ごとに、
つみ おも で く お
いけにえによって罪の思い出がよみがえって来るのである。 四なぜなら、雄
うし ち つみ のぞ さ
牛ややぎなどの血は、罪を除き去ることができないからである。 五それだか
よ つぎ い
ら、キリストがこの世にこられたとき、次のように言われた、
もの のぞ
﹁あなたは、いけにえやささげ物を望まれないで、
そな くだ
わたしのために、からだを備えて下さった。
はんさい ざいさい この
六 あなたは燔祭や罪祭を好まれなかった。
とき い
その時、わたしは言った、
ヘブル人への手紙


かみ
﹃神よ、わたしにつき、
まきもの しょもつ か
巻物の書物に書いてあるとおり、
み みむね おこな
見よ、御旨を行うためにまいりました﹄﹂。
はじ もの はんさい ざいさい
八 ここで、初めに、
﹁あなたは、いけにえとささげ物と燔祭と罪祭と︵すなわ

25
りっぽう したが のぞ この
ち、律法に従 ってささげられるもの︶を望まれず、好まれもしなかった﹂と
つぎ み みむね おこな
あり、 九次に、
﹁見よ、わたしは御旨を行うためにまいりました﹂とある。す
かれ のち た はじ はいし
なわち、彼は、後のものを立てるために、初めのものを廃止されたのである。
みむね もとづ ど
一〇 この御旨に基きただ一度イエス・キリストのからだがささげられたことに
よって、わたしたちはきよめられたのである。
さいし た ひ ぎしき おこな おな
一一 こうして、すべての祭司は立って日ごとに儀式を行い、たびたび同じよう
けっ つみ のぞ さ
ないけにえをささげるが、それらは決して罪を除き去ることはできない。 一二
おお つみ えいえん のち
しかるに、キリストは多くの罪のために一つの永遠のいけにえをささげた後、
かみ みぎ ざ てき あしだい ま
神の右に座し、一三それから、敵をその足台とするときまで、待っておられる。
かれ もの もの えいえん まっと
一四 彼は一つのささげ物によって、きよめられた者たちを永遠に全うされたの
せいれい
である。 一五聖霊もまた、わたしたちにあかしをして、
ひ のち
﹁わたしが、それらの日の後、
ヘブル人への手紙

一六
かれ たい た けいやく
彼らに対して立てようとする契約はこれであると、
しゅ い
主が言われる。
りっぽう かれ こころ あた
わたしの律法を彼らの心に与え、
かれ おも か
彼らの思いのうちに書きつけよう﹂

26
い かれ つみ かれ ふほう おも だ
と言い、 一七さらに、
﹁もはや、彼らの罪と彼らの不法とを、思い出すことはし
の たい いじょう つみ
ない﹂と述べている。 一八これらのことに対するゆるしがある以上、罪のため
もの え
のささげ物は、もはやあり得ない。
きょうだい ち
一九 兄 弟たちよ。こういうわけで、わたしたちはイエスの血によって、はばか
せいじょ かれ にくたい まく
ることなく聖所にはいることができ、 二〇彼の肉体なる幕をとおり、わたした
ひら くだ あたら い みち ゆ
ちのために開いて下さった新しい生きた道をとおって、はいって行くことが
かみ いえ おさ おお さいし
できるのであり、二一さらに、神の家を治める大いなる祭司があるのだから、二
こころ りょうしん さ きよ みず あら
二 心はすすがれて良 心のとがめを去り、からだは清い水で洗われ、まごころ
しんこう かくしん み ちか
をもって信仰の確信に満たされつつ、みまえに近づこうではないか。 二三ま
やくそく くだ ちゅうじつ こくはく
た、約束をして下さったのは忠 実なかたであるから、わたしたちの告白する
のぞ うご も つづ あい ぜんこう はげ たがい
望みを、動くことなくしっかりと持ち続け、 二四愛と善行とを励むように互に
つと ひと しゅうかい
努め、二五ある人たちがいつもしているように、集 会をやめることはしないで
ヘブル人への手紙

たがい はげ ひ ちか み
互に励まし、かの日が近づいているのを見て、ますます、そうしようではな
いか。
しんり ちしき う つみ おか
二六 もしわたしたちが、真理の知識を受けたのちにもなお、ことさらに罪を犯
つみ え
しつづけるなら、罪のためのいけにえは、もはやあり得ない。 二七ただ、さば

27
さか もの や はげ ひ おそ ま
きと、逆らう者たちを焼きつくす激しい火とを、恐れつつ待つことだけがあ
りっぽう む し もの う
る。 二八モーセの律法を無視する者が、あわれみを受けることなしに、二、三
ひと しょうげん もとづ しけい しょ かみ こ ふ じぶん
の人の証 言に基いて死刑に処せられるとすれば、二九神の子を踏みつけ、自分
けいやく ち けが めぐ みたま あなど もの
がきよめられた契約の血を汚れたものとし、さらに恵みの御霊を侮る者は、ど
おも けいばつ あたい ふくしゅう
んなにか重い刑罰に価することであろう。 三〇﹁復 讐はわたしのすることで
じしん ほうふく い しゅ たみ
ある。わたし自身が報復する﹂と言われ、また﹁主はその民をさばかれる﹂と
い し い かみ て お
言われたかたを、わたしたちは知っている。 三一生ける神のみ手のうちに落ち
おそ
るのは、恐ろしいことである。
ひかり てら くる おお たたか た はじ
三二 あなたがたは、光に照されたのち、苦しい大きな戦いによく耐えた初めの
おも だ くる み もの
ころのことを、思い出してほしい。 三三そしられ苦しめられて見せ物にされた
あ ひとびと なかま
こともあれば、このようなめに会った人々の仲間にされたこともあった。 三四
ごく い ひとびと おも えいえん たから も
さらに獄に入れられた人々を思いやり、また、もっとまさった永遠の宝を持っ
ヘブル人への手紙

し じぶん ざいさん うば よろこ しの


ていることを知って、自分の財産が奪われても喜んでそれを忍んだ。 三五だか
じぶん も かくしん ほうき かくしん
ら、あなたがたは自分の持っている確信を放棄してはいけない。その確信に
おお むく ともな かみ みむね おこな やくそく う
は大きな報いが伴 っているのである。 三六神の御旨を行 って約束のものを受
ひつよう にんたい
けるため、あなたがたに必要なのは、忍耐である。

28
三七 ﹁もうしばらくすれば、

きたるべきかたがお見えになる。
おそ
遅くなることはない。
ぎじん しんこう い
三八 わが義人は、信仰によって生きる。
しんこう す
もし信仰を捨てるなら、
よろこ
わたしのたましいはこれを喜ばない﹂。
しんこう す ほろ もの しんこう た
三九 しかしわたしたちは、信仰を捨てて滅びる者ではなく、信仰に立って、い
え もの
のちを得る者である。
第一一章
しんこう のぞ こと かくしん み じじつ かくにん
さて、信仰とは、望んでいる事がらを確信し、まだ見ていない事実を確認す
ヘブル人への手紙


むかし ひと しんこう しょうさん しんこう
る こ と で あ る。 二 昔 の 人 た ち は、こ の 信仰 の ゆ え に 賞 賛 さ れ た。 三信仰 に
せかい かみ ことば つく
よって、わたしたちは、この世界が神の言葉で造られたのであり、したがっ
み あらわ で さと
て、見えるものは現れているものから出てきたのでないことを、悟るのであ
しんこう かみ
る。 四信仰によって、アベルはカインよりもまさったいけにえを神にささげ、

29
しんこう ぎ もの みと かみ かれ そな もの
信仰によって義なる者と認められた。神が、彼の供え物をよしとされたから
かれ し しんこう いま かた しんこう
である。彼は死んだが、信仰によって今もなお語っている。 五信仰によって、
し み てん うつ かみ うつ かれ み
エノクは死を見ないように天に移された。神がお移しになったので、彼は見
かれ うつ まえ かみ よろこ もの
えなくなった。彼が移される前に、神に喜ばれた者と、あかしされていたか
しんこう かみ よろこ かみ
らである。 六信仰がなくては、神に喜ばれることはできない。なぜなら、神に
く もの かみ じしん もと もの むく くだ かなら
来る者は、神のいますことと、ご自身を求める者に報いて下さることとを、必
しん しんこう み こと
ず信じるはずだからである。 七信仰によって、ノアはまだ見ていない事がら
み つ う おそ かぞく すく はこぶね つく
について御告げを受け、恐れかしこみつつ、その家族を救うために箱舟を造
しんこう よ つみ しんこう ぎ う つ もの
り、その信仰によって世の罪をさばき、そして、信仰による義を受け継ぐ者
しんこう う つ ち で い め
となった。 八信仰によって、アブラハムは、受け継ぐべき地に出て行けとの召
とき したが ゆ さき し で い しんこう
しをこうむった時、それに従い、行く先を知らないで出て行った。 九信仰に
たこく やくそく ち やど おな やくそく つ
よって、他国にいるようにして約束の地に宿り、同じ約束を継ぐイサク、ヤ
ヘブル人への手紙

とも まくや す かれ どだい うえ た みやこ ま


コブと共に、幕屋に住んだ。 一〇彼は、ゆるがぬ土台の上に建てられた都を、待
のぞ みやこ た かみ
ち望んでいたのである。その都をもくろみ、また建てたのは、神である。 一一
しんこう としお たね やど ちから あた やくそく
信仰によって、サラもまた、年老いていたが、種を宿す力を与えられた。約束
しんじつ しん
をなさったかたは真実であると、信じていたからである。 一二このようにし

30
し どうよう ひと てん ほし うみ かぞ すな
て、ひとりの死んだと同様な人から、天の星のように、海べの数えがたい砂
ひと うま
のように、おびただしい人が生れてきたのである。
ひと しんこう し やくそく う
一三 これらの人はみな、信仰をいだいて死んだ。まだ約束のものは受けていな
のぞ み よろこ ちじょう たびびと きりゅうしゃ
かったが、はるかにそれを望み見て喜び、そして、地上では旅人であり寄留者
みずか い い かれ
であることを、自ら言いあらわした。 一四そう言いあらわすことによって、彼
もと しめ で ところ
らがふるさとを求めていることを示している。 一五もしその出てきた所のこ
かんが かえ きかい じっさい かれ のぞ
とを考えていたなら、帰る機会はあったであろう。 一六しかし実際、彼らが望
よ てん かみ かれ
んでいたのは、もっと良い、天にあるふるさとであった。だから神は、彼ら
かみ よ はじ じじつ かみ かれ みやこ
の神と呼ばれても、それを恥とはされなかった。事実、神は彼らのために、都
ようい
を用意されていたのである。
しんこう しれん う
一七 信仰によって、アブラハムは、試錬を受けたとき、イサクをささげた。す
やくそく う かれ こ
なわち、約束を受けていた彼が、そのひとり子をささげたのである。 一八この
ヘブル人への手紙

こ で もの しそん よ
子については、
﹁イサクから出る者が、あなたの子孫と呼ばれるであろう﹂と
い かれ かみ しにん なか ひと ちから
言われていたのであった。 一九彼は、神が死人の中から人をよみがえらせる力
しん かれ い
がある、と信じていたのである。だから彼は、いわば、イサクを生きかえし
わた しんこう
て渡されたわけである。 二〇信仰によって、イサクは、きたるべきことについ

31
しゅくふく しんこう し
て、ヤコブとエサウとを祝 福した。 二一信仰によって、ヤコブは死のまぎわ
こ しゅくふく
に、ヨセフの子らをひとりびとり祝 福し、そしてそのつえのかしらによりか
れいはい しんこう りんじゅう こ
かって礼拝した。 二二信仰によって、ヨセフはその臨 終に、イスラエルの子ら
で ゆ おも じぶん ほね
の出て行くことを思い、自分の骨のことについてさしずした。
しんこう うま りょうしん げつ かれ かく
二三 信仰によって、モーセの生れたとき、両 親は、三か月のあいだ彼を隠した。
かれ こども み かれ おう めいれい
それは、彼らが子供のうるわしいのを見たからである。彼らはまた、王の命令
おそ しんこう せいじん むすめ
をも恐れなかった。 二四信仰によって、モーセは、成人したとき、パロの娘の
こ い こば つみ かんらく かみ
子と言われることを拒み、 二五罪のはかない歓楽にふけるよりは、むしろ神の
たみ とも ぎゃくたい えら う
民と共に虐 待されることを選び、二六キリストのゆえに受けるそしりを、エジ
たから とみ かんが かれ むく のぞ み
プトの宝にまさる富と考えた。それは、彼が報いを望み見ていたからである。
しんこう かれ おう いきどお おそ た さ かれ み
二七 信仰によって、彼は王の憤りをも恐れず、エジプトを立ち去った。彼は、見
み しの しんこう ほろ
えないかたを見ているようにして、忍びとおした。 二八信仰によって、滅ぼす
ヘブル人への手紙

もの ちょうし て くだ かれ すぎこし おこな ち ぬ


者が、長子らに手を下すことのないように、彼は過越を行い血を塗った。 二九
しんこう ひとびと こうかい と ち わた おな
信仰によって、人々は紅海をかわいた土地をとおるように渡ったが、同じこ
くわだ じん し しんこう じょうへき
とを企てたエジプト人はおぼれ死んだ。 三〇信仰によって、エリコの城 壁は、
なぬか しんこう ゆうじょ
七日にわたってまわったために、くずれおちた。 三一信仰によって、遊女ラハ

32
さぐ もの むか ふ じゅうじゅん もの いっしょ
ブは、探りにきた者たちをおだやかに迎えたので、不 従 順な者どもと一緒に
ほろ なに い
滅びることはなかった。 三二このほか、何を言おうか。もしギデオン、バラク、
およ よげんしゃ かた だ
サムソン、エフタ、ダビデ、サムエル及び預言者たちについて語り出すなら、
じかん た かれ しんこう くにぐに せいふく ぎ おこな
時間が足りないであろう。 三三彼らは信仰によって、国々を征服し、義を行い、
やくそく う くち ひ いきお け は
約束のものを受け、ししの口をふさぎ、 三四火の勢いを消し、つるぎの刃をの
よわ つよ たたか ゆうしゃ たこく ぐん しりぞ おんな
がれ、弱いものは強くされ、戦いの勇者となり、他国の軍を退かせた。 三五 女
し しゃ もの さら
たちは、その死者たちをよみがえらさせてもらった。ほかの者は、更にまさっ
ごうもん くる あま ほうめん ねが
たいのちによみがえるために、拷問の苦しみに甘んじ、放免されることを願
もの う あ
わなかった。 三六なおほかの者たちは、あざけられ、むち打たれ、しばり上げ
とうごく あ いし う
られ、投獄されるほどのめに会った。 三七あるいは、石で打たれ、さいなまれ、
ひ き ころ ひつじ かわ かわ き ある
のこぎりで引かれ、つるぎで切り殺され、 羊の皮や、やぎの皮を着て歩きま
むいちもつ なや くる よ かれ す ところ
わり、無一物になり、悩まされ、苦しめられ、 三八︵この世は彼らの住む所で
ヘブル人への手紙

あらの やま なか いわ あな つち あな つづ
はなかった︶、荒野と山の中と岩の穴と土の穴とを、さまよい続けた。
ひとびと しんこう やくそく
三九 さて、これらの人々はみな、信仰によってあかしされたが、約束のものは
う かみ よ そな
受けなかった。 四〇神はわたしたちのために、さらに良いものをあらかじめ備
くだ かれ まっと
えて下さっているので、わたしたちをほかにしては彼らが全うされることは

33
ない。
第一二章
おお しょうにん くも かこ
一 こういうわけで、わたしたちは、このような多くの証 人に雲のように囲ま
おもに つみ す
れているのであるから、いっさいの重荷と、からみつく罪とをかなぐり捨て
さんか きょうそう た しの はし
て、わたしたちの参加すべき競 走を、耐え忍んで走りぬこうではないか。 二
しんこう みちび て かんせいしゃ あお み はし
信仰の導き手であり、またその完成者であるイエスを仰ぎ見つつ、走ろうで
かれ じぶん まえ よろこ はじ
はないか。彼は、自分の前におかれている喜びのゆえに、恥をもいとわない
じゅうじか しの かみ み ざ みぎ ざ いた
で十字架を忍び、神の御座の右に座するに至ったのである。 三あなたがたは、
よわ は い き つみびと はんこう た しの
弱り果てて意気そそうしないために、罪人らのこのような反抗を耐え忍んだ
おも つみ と く たたか
かたのことを、思いみるべきである。 四あなたがたは、罪と取り組んで戦う
ヘブル人への手紙

とき ち なが ていこう こ たい
時、まだ血を流すほどの抵抗をしたことがない。 五また子たちに対するよう
かた すす ことば わす
に、あなたがたに語られたこの勧めの言葉を忘れている、

﹁わたしの子よ、
しゅ くんれん かろ
主の訓練を軽んじてはいけない。

34
しゅ せ よわ は
主に責められるとき、弱り果ててはならない。
しゅ あい もの くんれん
六 主は愛する者を訓練し、
う こ
受けいれるすべての子を、

むち打たれるのである﹂。
くんれん た しの かみ こ と
七 あなたがたは訓練として耐え忍びなさい。神はあなたがたを、子として取
あつか ちち くんれん こ
り扱 っておられるのである。いったい、父に訓練されない子があるだろう
う くんれん あた
か。 八だれでも受ける訓練が、あなたがたに与えられないとすれば、それこ
し せ い し こ うえ にくしん
そ、あなたがたは私生子であって、ほんとうの子ではない。 九その上、肉親の
ちち くんれん かれ
父はわたしたちを訓練するのに、なお彼をうやまうとすれば、なおさら、わ
ちち ふくじゅう しん い にくしん
たしたちは、たましいの父に服 従して、真に生きるべきではないか。 一〇肉親
ちち あいだ じぶん かんが したが くんれん あた ちち
の父は、しばらくの間、自分の考えに従 って訓練を与えるが、たましいの父
えき
は、わたしたちの益のため、そのきよさにあずからせるために、そうされる
ヘブル人への手紙

くんれん とうざ よろこ おも


のである。 一一すべての訓練は、当座は、 喜ばしいものとは思われず、むしろ
かな おも のち きた もの
悲しいものと思われる。しかし後になれば、それによって鍛えられる者に、
へいあん ぎ み むす
平安な義の実を結ばせるようになる。
て よわ
一二 それだから、あなたがたのなえた手と、弱くなっているひざとを、まっす

35
あし もの ふ
ぐにしなさい。 一三また、足のなえている者が踏みはずすことなく、むしろい
あし みち
やされるように、あなたがたの足のために、まっすぐな道をつくりなさい。 一
ひと あい わ みずか つと
四 すべての人と相和し、また、 自らきよくなるように努めなさい。きよくな
しゅ み き かみ めぐ
らなければ、だれも主を見ることはできない。 一五気をつけて、神の恵みから
にが ね で なや
もれることがないように、また、苦い根がはえ出て、あなたがたを悩まし、そ
おお ひと けが いっぱい
れによって多くの人が汚されることのないようにしなさい。 一六また、一杯の
しょく ちょうし けんり う ふひんこう ぞくあく もの
食のために長子の権利を売ったエサウのように、不品行な俗悪な者にならな
し かれ のち しゅくふく
いようにしなさい。 一七あなたがたの知っているように、彼はその後、祝 福を
う つ ねが す なみだ なが もと
受け継ごうと願ったけれども、捨てられてしまい、 涙を流してそれを求めた
くいあらた きかい え
が、 悔 改めの機会を得なかったのである。
ちか て ふ ひ も くろくも
一八 あなたがたが近づいているのは、手で触れることができ、火が燃え、黒雲
くら ひびき き もの
や暗やみやあらしにつつまれ、 一九また、ラッパの響や、聞いた者たちがそれ
ヘブル人への手紙

いじょう みみ ねが ことば やま
以上、耳にしたくないと願ったような言葉がひびいてきた山ではない。 二〇そ
かれ やま ふれ いし う ころ
こでは、彼らは、
﹁けものであっても、山に触たら、石で打ち殺されてしまえ﹂
めいれい ことば た こうけい おそ
という命令の言葉に、耐えることができなかったのである。 二一その光景が恐
おそ
ろしかったのでモーセさえも、﹁わたしは恐ろしさのあまり、おののいている﹂

36
い ちか
と言ったほどである。 二二しかしあなたがたが近づいているのは、シオンの
やま い かみ みやこ てん むすう てんし しゅくかい てん とうろく
山、生ける神の都、天にあるエルサレム、無数の天使の祝 会、 二三天に登録さ
ちょうし きょうかい ばんみん しんぱんしゃ かみ まっと ぎじん れい あたら
れている長子たちの教 会、万民の審判者なる神、全うされた義人の霊、二四 新
けいやく ちゅうほしゃ ち ちからづよ かた
しい契約の仲保者イエス、ならびに、アベルの血よりも力 強く語るそそがれ
ち かた こば
た血である。 二五あなたがたは、語っておられるかたを拒むことがないよう
ちゅうい ちじょう みむね つ もの こば ひとびと ばつ
に、注意しなさい。もし地上で御旨を告げた者を拒んだ人々が、罰をのがれ
てん つ しめ しりぞ
ることができなかったなら、天から告げ示すかたを退けるわたしたちは、な
とき み こえ ち ふる
おさらそうなるのではないか。 二六あの時には、御声が地を震わせた。しかし
いま やくそく い ど ち てん ふる
今は、約束して言われた、
﹁わたしはもう一度、地ばかりでなく天をも震わそ
ど ことば ふる のこ ふる
う﹂。 二七この﹁もう一度﹂という言葉は、震われないものが残るために、震わ
つく と のぞ しめ
れるものが、造られたものとして取り除かれることを示している。 二八このよ
ふる くに う かんしゃ
うに、わたしたちは震われない国を受けているのだから、感謝をしようでは
ヘブル人への手紙

かんしゃ おそ かみ よろこ つか
ないか。そして感謝しつつ、恐れかしこみ、神に喜ばれるように、仕えてい
かみ じつ や ひ
こう。 二九わたしたちの神は、実に、焼きつくす火である。

37
第一三章
きょうだいあい つづ たびびと わす
一 兄 弟 愛 を 続 け な さ い。 二旅人 を も て な す こ と を 忘 れ て は な ら な い。こ の
ひとびと き みつかい ごく
ようにして、ある人々は、気づかないで御使たちをもてなした。 三獄につなが
ひと じぶん いっしょ こころもち おも
れている人たちを、自分も一緒につながれている心 持で思いやりなさい。ま
じぶん おな にくたい もの くる ひと こころ
た、自分も同じ肉体にある者だから、苦しめられている人たちのことを、 心
ひと けっこん おも ねどこ けが
にとめなさい。 四すべての人は、結婚を重んずべきである。また寝床を汚し
かみ ふひんこう もの かんいん もの きんせん あい
てはならない。神は、不品行な者や姦淫をする者をさばかれる。 五金銭を愛
じぶん も まんぞく しゅ
することをしないで、自分の持っているもので満足しなさい。主は、
﹁わたし
けっ はな す い
は、決してあなたを離れず、あなたを捨てない﹂と言われた。 六だから、わた

したちは、はばからずに言おう、
しゅ たす ぬし
﹁主はわたしの助け主である。
ヘブル人への手紙

おそ
わたしには恐れはない。
ひと なに
人は、わたしに何ができようか﹂。
かみ ことば かた しどうしゃ おも おこ
七 神の言をあなたがたに語った指導者たちのことを、いつも思い起しなさい。
かれ せいかつ さいご み しんこう
彼らの生活の最後を見て、その信仰にならいなさい。 八イエス・キリストは、

38
かわ ちが おしえ
きのうも、きょうも、いつまでも変ることがない。 九さまざまな違った教に
まよ しょくもつ めぐ こころ つよ
よって、迷わされてはならない。 食 物によらず、恵みによって、 心を強くす
しょくもつ ある もの えき え
るがよい。 食 物によって歩いた者は、益を得ることがなかった。 一〇わたし
さいだん まくや つか もの さいだん しょくもつ
たちには一つの祭壇がある。幕屋で仕えている者たちは、その祭壇の食 物を
けんり だいさいし つみ
たべる権利はない。 一一なぜなら、大祭司によって罪のためにささげられるけ
ち せいじょ たずさ い えいしょ そと や
ものの血は、聖所のなかに携えて行かれるが、そのからだは、営所の外で焼
じぶん ち たみ
かれてしまうからである。 一二だから、イエスもまた、ご自分の血で民をきよ
もん そと くなん う
めるために、門の外で苦難を受けられたのである。 一三したがって、わたした
かれ み お えいしょ そと で い
ちも、彼のはずかしめを身に負い、営所の外に出て、みもとに行こうではな
ちじょう えいえん みやこ みやこ
いか。 一四この地上には、永遠の都はない。きたらんとする都こそ、わたした
もと
ちの求めているものである。 一五だから、わたしたちはイエスによって、さん
かれ み な み かみ
びのいけにえ、すなわち、彼の御名をたたえるくちびるの実を、たえず神に
ヘブル人への手紙

ぜん おこな ほどこ わす
ささげようではないか。 一六そして、善を行うことと施しをすることとを、忘
かみ よろこ
れてはいけない。神は、このようないけにえを喜ばれる。 一七あなたがたの
しどうしゃ い き したが かれ かみ い
指導者たちの言うことを聞きいれて、 従いなさい。彼らは、神に言いひらき
もの め かれ
をすべき者として、あなたがたのたましいのために、目をさましている。彼

39
なげ よろこ
らが嘆かないで、 喜んでこのことをするようにしなさい。そうでないと、あ
えき
なたがたの益にならない。
いの あき りょうしん も
一八 わたしたちのために、祈ってほしい。わたしたちは明らかな良 心を持っ
しん なにごと ただ こうどう ねが
ていると信じており、何事についても、正しく行動しようと願っている。 一九
ところ はや かえ いの とく ねが
わたしがあなたがたの所に早く帰れるため、祈ってくれるように、特にお願
いする。
えいえん けいやく ち ひつじ だいぼくしゃ しゅ しにん なか
二〇 永遠の契約の血による羊の大牧者、わたしたちの主イエスを、死人の中か
ひ あ へいわ かみ
ら引き上げられた平和の神が、 二一イエス・キリストによって、みこころにか
くだ みむね おこな
なうことをわたしたちにして下さり、あなたがたが御旨を行うために、すべ
よ そな くだ ねが えいこう よ よ かぎ かみ
ての良きものを備えて下さるようにこい願う。栄光が、世々限りなく神にあ
るように、アァメン。
きょうだい すす ことば う
兄 弟 た ち よ。ど う か わ た し の 勧 め の 言葉 を 受 け い れ て ほ し い。わ た し
ヘブル人への手紙

二二
て か きょうだい
は、ただ手みじかに書いたのだから。 二三わたしたちの兄 弟 テモテがゆるさ
し かれ はや く かれ いっしょ
れたことを、お知らせする。もし彼が早く来れば、彼と一緒にわたしはあな

たがたに会えるだろう。
し ど う し ゃ いちどう せいと いちどう つた
二四 あなたがたの指導者一同と聖徒たち一同に、よろしく伝えてほしい。イタ

40
ひとびと
リヤからきた人々から、あなたがたによろしく。
めぐ いちどう
二五 恵みが、あなたがた一同にあるように。
ヘブル人への手紙

41
てがみ
ヤコブの手紙
第一章
かみ しゅ しもべ りさん ぶぞく ひとびと
一 神と主イエス・キリストとの僕 ヤコブから、離散している十二部族の人々
へ、あいさつをおくる。
きょうだい しれん あ ばあい
二 わたしの兄 弟たちよ。あなたがたが、いろいろな試錬に会った場合、それ
ひじょう よろこ おも し
をむしろ非常に喜ばしいことと思いなさい。 三あなたがたの知っているとお
しんこう にんたい う だ
り、信仰がためされることによって、忍耐が生み出されるからである。 四だか
けってん かんぜん あ ひと にんたいりょく
ら、なんら欠点のない、完全な、でき上がった人となるように、その忍 耐 力
じゅうぶん はたら
を十 分に働かせるがよい。
ち え ふそく もの ひと
五 あなたがたのうち、知恵に不足している者があれば、その人は、とがめもせ
お ひと あた かみ ねが もと あた
ずに惜しみなくすべての人に与える神に、願い求めるがよい。そうすれば、与
ヤコブの手紙

うたが しんこう ねが もと うたが


えられるであろう。 六ただ、 疑わないで、信仰をもって願い求めなさい。 疑
ひと かぜ ふ ゆ うご うみ なみ に ひと しゅ
う人は、風の吹くままに揺れ動く海の波に似ている。 七そういう人は、主から

0
なに おも にんげん ふたごころ
何かをいただけるもののように思うべきではない。 八そんな人間は、 二 心の
もの こうどう あんてい
者であって、そのすべての行動に安定がない。
ひく みぶん きょうだい じぶん たか よろこ と
九 低い身分の兄 弟は、自分が高くされたことを喜びなさい。 一〇また、富んで
もの じぶん ひく よろこ と もの くさばな
いる者は、自分が低くされたことを喜ぶがよい。富んでいる者は、草花のよ
す さ たいよう のぼ ねっぷう くさ
うに過ぎ去るからである。 一一たとえば、太陽が上って熱風をおくると、草を
か はな お うつく すがた き おな
枯らす。そしてその花は落ち、その美しい姿は消えうせてしまう。それと同
と もの いっしょう たび ぼつらく
じように、富んでいる者も、その一 生の旅なかばで没落するであろう。
しれん た しの ひと しの かみ あい
一二 試錬を耐え忍ぶ人は、さいわいである。それを忍びとおしたなら、神を愛
もの やくそく かんむり う ゆうわく
する者たちに約束されたいのちの冠を受けるであろう。 一三だれでも誘惑に
あ ばあい ゆうわく かみ い かみ あく
会う場合、
﹁この誘惑は、神からきたものだ﹂と言ってはならない。神は悪の
ゆうわく おちい みずか すす ひと ゆうわく
誘惑に陥るようなかたではなく、また自ら進んで人を誘惑することもなさら
ひと ゆうわく おちい よく ひ
ない。 一四人が誘惑に陥るのは、それぞれ、欲に引かれ、さそわれるからであ
よく つみ う つみ じゅく し う だ あい きょうだい
る。 一五欲がはらんで罪を生み、罪が熟して死を生み出す。 一六愛する兄 弟た
ヤコブの手紙

おも ちが
ちよ。思い違いをしてはいけない。
よ おく もの かんぜん たまもの うえ ひかり ちち くだ
一七 あらゆる良い贈り物、あらゆる完全な賜物は、上から、光の父から下って
く ちち へんか かいてん かげ ちち
来る。父には、変化とか回転の影とかいうものはない。 一八父は、わたしたち

1
ひ ぞうぶつ はつほ しんり ことば みむね う
を、いわば被造物の初穂とするために、真理の言葉によって御旨のままに、生
だ くだ
み出して下さったのである。
あい きょうだい し ひと き
一九 愛する兄 弟たちよ。このことを知っておきなさい。人はすべて、聞くに
はや かた いか ひと いか かみ ぎ
早く、語るにおそく、怒るにおそくあるべきである。 二〇人の怒りは、神の義
まっと けが
を全うするものではないからである。 二一だから、すべての汚れや、はなはだ
あく す さ こころ う みことば う い
しい悪を捨て去って、 心に植えつけられている御言を、すなおに受け入れな
みことば すく ちから みことば
さい。御言には、あなたがたのたましいを救う力がある。 二二そして、御言を
おこな ひと あざむ き もの
行う人になりなさい。おのれを欺いて、ただ聞くだけの者となってはいけな
みことば き おこな ひと じぶん うま
い。 二三おおよそ御言を聞くだけで行わない人は、ちょうど、自分の生れつき
かお かがみ うつ み ひと かれ じぶん うつ み
の顔を鏡に映して見る人のようである。 二四彼は自分を映して見てそこから
た さ じぶん すがた わす
立ち去ると、そのとたんに、自分の姿がどんなであったかを忘れてしまう。 二
はん かんぜん じゆう りっぽう いっしん み ひと き
五 これに反して、完全な自由の律法を一心に見つめてたゆまない人は、聞いて
わす ひと じっさい おこな ひと ひと おこな
忘れてしまう人ではなくて、実際に行う人である。こういう人は、その行い
ヤコブの手紙

しゅくふく
によって祝 福される。
ひと しんじんぶか もの じにん した せい じぶん こころ
二六 もし人が信心深い者だと自任しながら、舌を制することをせず、自分の心
あざむ ひと しんじん ちち かみ
を欺いているならば、その人の信心はむなしいものである。 二七父なる神のみ

2
きよ けが しんじん こま こ じ み ま みずか
まえに清く汚れのない信心とは、困っている孤児や、やもめを見舞い、 自ら
よ けが そ み きよ たも
は世の汚れに染まずに、身を清く保つことにほかならない。
第二章
きょうだい えいこう しゅ しんこう
一 わたしの兄 弟たちよ。わたしたちの栄光の主イエス・キリストへの信仰を
まも わ へだ かいどう きん
守るのに、分け隔てをしてはならない。 二たとえば、あなたがたの会堂に、金
ゆびわ きもの き ひと く どうじ
の指輪をはめ、りっぱな着物を着た人がはいって来ると同時に、みすぼらし
きもの き まず ひと さい きもの き
い着物を着た貧しい人がはいってきたとする。 三その際、りっぱな着物を着
ひと たい よ せき か くだ
た人に対しては、うやうやしく﹁どうぞ、こちらの良い席にお掛け下さい﹂と
い まず ひと た
言い、貧しい人には、
﹁あなたは、そこに立っていなさい。それとも、わたし
あし い じぶん
の足もとにすわっているがよい﹂と言ったとしたら、 四あなたがたは、自分た
あいだ さべつ だ かんが ひと もの
ちの間で差別立てをし、よからぬ考えで人をさばく者になったわけではない
ヤコブの手紙

あい きょうだい き かみ よ まず ひと
か。 五愛する兄 弟たちよ。よく聞きなさい。神は、この世の貧しい人たちを
えら しんこう と かみ あい もの やくそく みくに そうぞくしゃ
選んで信仰に富ませ、神を愛する者たちに約束された御国の相続者とされた
まず ひと
ではないか。 六しかるに、あなたがたは貧しい人をはずかしめたのである。

3
さいばんしょ ひ こ と もの
あなたがたをしいたげ、裁判所に引きずり込むのは、富んでいる者たちでは
たい とな たっと み な けが じつ かれ
ないか。 七あなたがたに対して唱えられた尊い御名を汚すのは、実に彼らで
じぶん あい とな
はないか。 八しかし、もしあなたがたが、
﹁自分を愛するように、あなたの隣
びと あい せいしょ ことば したが たっと りっぽう まも
り人を愛せよ﹂という聖書の言葉に従 って、このきわめて尊い律法を守るな
よ わ へだ
らば、それは良いことである。 九しかし、もし分け隔てをするならば、あなた
つみ おか りっぽう いはんしゃ せんこく
がたは罪を犯すことになり、律法によって違反者として宣告される。 一〇なぜ
りっぽう まも てん お ど
なら、律法をことごとく守ったとしても、その一つの点にでも落ち度があれ
ぜんたい おか かんいん い
ば、全体を犯したことになるからである。 一一たとえば、
﹁姦淫するな﹂と言わ
ころ おお かんいん
れたかたは、また﹁殺すな﹂とも仰せになった。そこで、たとい姦淫はしな
ひとごろ りっぽう いはんしゃ じゆう
くても、人殺しをすれば、律法の違反者になったことになる。 一二だから、自由
りっぽう もの かた おこな
の律法によってさばかるべき者らしく語り、かつ行いなさい。 一三あわれみを
おこな もの たい かしゃく くだ
行わなかった者に対しては、仮借のないさばきが下される。あわれみは、さ

ばきにうち勝つ。
ヤコブの手紙

きょうだい ひと じぶん しんこう しょう


一四 わたしの兄 弟たちよ。ある人が自分には信仰があると称していても、も
おこな やく た しんこう かれ すく
し行いがなかったら、なんの役に立つか。その信仰は彼を救うことができる
きょうだい しまい はだか ひ しょくもつ か
か。 一五ある兄 弟または姉妹が裸でいて、その日の食 物にもこと欠いている

4
ばあい やす い あたた た
場合、 一六あなたがたのうち、だれかが、
﹁安らかに行きなさい。 暖まって、食
あ い ひつよう なに あた
べ飽きなさい﹂と言うだけで、そのからだに必要なものを何ひとつ与えなかっ
やく た しんこう どうよう おこな ともな
たとしたら、なんの役に立つか。 一七信仰も、それと同様に、 行いを伴わなけ
し ひと しんこう
れば、それだけでは死んだものである。 一八しかし、
﹁ある人には信仰があり、
ひと おこな い もの おこな
またほかの人には行いがある﹂と言う者があろう。それなら、 行いのないあ
しんこう み おこな
な た の 信仰 な る も の を 見 せ て ほ し い。そ う し た ら、わ た し の 行 い に よ っ て
しんこう み かみ しん
信仰を見せてあげよう。 一九あなたは、神はただひとりであると信じているの
けっこう あくれい しん
か。それは結構である。悪霊どもでさえ、信じておののいている。 二〇ああ、
おろ ひと おこな ともな しんこう し
愚かな人よ。 行いを伴わない信仰のむなしいことを知りたいのか。 二一わた
ふ そ こ さいだん とき おこな
したちの父祖アブラハムは、その子イサクを祭壇にささげた時、 行いによっ
ぎ し かれ
て義とされたのではなかったか。 二二あなたが知っているとおり、彼において
しんこう おこな とも はたら おこな しんこう まっと
は、信仰が行いと共に働き、その行いによって信仰が全うされ、二三こうして、
かみ しん かれ ぎ みと せいしょ
﹁アブラハムは神を信じた。それによって、彼は義と認められた﹂という聖書
ヤコブの手紙

ことば じょうじゅ かれ かみ とも とな
の言葉が成 就し、そして、彼は﹁神の友﹂と唱えられたのである。 二四これで
ひと ぎ おこな しんこう
わかるように、人が義とされるのは、 行いによるのであって、信仰だけによ
おな ゆうじょ し しゃ
るのではない。 二五同じように、かの遊女ラハブでさえも、使者たちをもてな

5
かれ べつ みち おく だ とき おこな ぎ
し、彼らを別な道から送り出した時、行いによって義とされたではないか。 二
れいこん し どうよう おこな しんこう し
六 霊魂のないからだが死んだものであると同様に、 行いのない信仰も死んだ
ものなのである。
第三章
きょうだい おお もの きょうし
一 わたしの兄 弟たちよ。あなたがたのうち多くの者は、教師にならないがよ
きょうし た ひと う
い。わたしたち教師が、他の人たちよりも、もっときびしいさばきを受ける
みな おお
ことが、よくわかっているからである。 二わたしたちは皆、多くのあやまちを
おか ことば うえ ひと ひと
犯すものである。もし、言葉の上であやまちのない人があれば、そういう人
ぜんしん せいぎょ かんぜん ひと うま ぎょ
は、全身をも制御することのできる完全な人である。 三馬を御するために、そ
くち ぜんしん ひ ふね
の口にくつわをはめるなら、その全身を引きまわすことができる。 四また船
み せんたい ひじょう おお はげ かぜ ふ
を見るがよい。船体が非常に大きく、また激しい風に吹きまくられても、ご
ヤコブの手紙

ちい そうじゅうしゃ おも うんてん おな
く小さなかじ一つで、 操 縦 者の思いのままに運転される。 五それと同じく、
した ちい きかん たいげんそうご み ちい ひ
舌は小さな器官ではあるが、よく大言壮語する。見よ、ごく小さな火でも、
ひじょう おお もり も した ひ ふ ぎ せかい
非常 に 大 き な 森 を 燃 や す で は な い か。 六舌 は 火 で あ る。不義 の 世界 で あ る。

6
した きかん ぜんしん けが
舌は、わたしたちの器官の一つとしてそなえられたものであるが、全身を汚
せいぞん しゃりん も みずか じごく ひ や しゅるい けもの
し、生存の車輪を燃やし、 自らは地獄の火で焼かれる。 七あらゆる種類の獣、
とり は うみ せいぶつ じんるい せい せい
鳥、這うもの、海の生物は、すべて人類に制せられるし、また制せられてき
した せい ひと せい あく
た。 八ところが、舌を制しうる人は、ひとりもいない。それは、制しにくい悪
し どく み した ちち しゅ
であって、死の毒に満ちている。 九わたしたちは、この舌で父なる主をさんび
おな した かみ つく にんげん
し、また、その同じ舌で、神にかたどって造られた人間をのろっている。 一〇
おな くち で く きょうだい
同じ口から、さんびとのろいとが出て来る。わたしの兄 弟たちよ。このよう
こと いずみ あま みず にが みず おな あな だ
な事は、あるべきでない。 一一 泉が、甘い水と苦い水とを、同じ穴からふき出
きょうだい き み
すことがあろうか。 一二わたしの兄 弟たちよ。いちじくの木がオリブの実を
むす き み むす しおみず あま みず
結び、ぶどうの木がいちじくの実を結ぶことができようか。塩水も、甘い水

を出すことはできない。
ち え もの ひと
一三 あなたがたのうちで、知恵があり物わかりのよい人は、だれであるか。そ
ひと ち え にゅうわ おこな せいかつ しめ
の人は、知恵にかなう柔和な行いをしていることを、よい生活によって示す
ヤコブの手紙

こころ なか にがにが とうはしん


がよい。 一四しかし、もしあなたがたの心の中に、苦々しいねたみや党派心を
ほこ たか しんり いつわ
いだいているのなら、誇り高ぶってはならない。また、真理にそむいて偽 っ
ち え うえ くだ ち
てはならない。 一五そのような知恵は、上から下ってきたものではなくて、地

7
にく ぞく あ く ま てき とうはしん
につくもの、肉に属するもの、悪魔的なものである。 一六ねたみと党派心との
こんらん い こうい うえ
あるところには、混乱とあらゆる忌むべき行為とがある。 一七しかし上からの
ち え だい きよ つぎ へいわ かんよう おんじゅん よ み
知恵は、第一に清く、次に平和、寛容、 温 順であり、あわれみと良い実とに
み み いつわ ぎ み へいわ つく りだ ひと
満ち、かたより見ず、 偽りがない。 一八義の実は、平和を造り出す人たちに
へいわ
よって、平和のうちにまかれるものである。
第四章
なか たたか あらそ おこ
一 あなたがたの中の戦いや争いは、いったい、どこから起るのか。それはほか
したい なか あいたたか よくじょう
で は な い。あ な た が た の 肢体 の 中 で 相 戦 う 欲 情 か ら で は な い か。 二あ な た
え ひとごろ ねつぼう て い
がたは、むさぼるが得られない。そこで人殺しをする。熱望するが手に入れ
あらそ たたか もと え
ることができない。そこで争い戦う。あなたがたは、求めないから得られな
もと あた かいらく つか わる もと
いのだ。 三求めても与えられないのは、快楽のために使おうとして、悪い求め
ヤコブの手紙

かた ふてい よ とも かみ てきたい
方をするからだ。 四不貞のやからよ。世を友とするのは、神への敵対である
し よ とも おも もの みずか かみ てき
ことを、知らないか。おおよそ世の友となろうと思う者は、 自らを神の敵と
かみ うち す れい
するのである。 五それとも、
﹁神は、わたしたちの内に住まわせた霊を、ねた

8
あい せいしょ か ことば おも
むほどに愛しておられる﹂と聖書に書いてあるのは、むなしい言葉だと思う
かみ ま めぐ たま かみ たか もの
のか。 六しかし神は、いや増しに恵みを賜う。であるから、
﹁神は高ぶる者を
もの めぐ たま かみ
しりぞけ、へりくだる者に恵みを賜う﹂とある。 七そういうわけだから、神に
したが あくま た かれ
従いなさい。そして、悪魔に立ちむかいなさい。そうすれば、彼はあなたが
に さ かみ ちか かみ
たから逃げ去るであろう。 八神に近づきなさい。そうすれば、神はあなたが
ちか くだ つみびと て ふたごころ もの
たに近づいて下さるであろう。罪人どもよ、手をきよめよ。 二 心の者ども
こころ きよ くる かな な わら かな
よ、 心を清くせよ。 九苦しめ、悲しめ、泣け。あなたがたの笑いを悲しみに、
よろこ うれ か しゅ しゅ
喜びを憂いに変えよ。 一〇主のみまえにへりくだれ。そうすれば、主は、あな
たか くだ
たがたを高くして下さるであろう。
きょうだい たがい わるぐち い あ きょうだい わるぐち い
一一 兄 弟たちよ。 互に悪口を言い合ってはならない。 兄 弟の悪口を言った
じぶん きょうだい もの りっぽう りっぽう
り、自分の兄 弟をさばいたりする者は、律法をそしり、律法をさばくやから
りっぽう りっぽう じっこうしゃ
で あ る。も し あ な た が 律法 を さ ば く な ら、律法 の 実行者 で は な く て、そ の
しんぱんしゃ りっぽうしゃ しんぱんしゃ
審判者なのである。 一二しかし、立法者であり審判者であるかたは、ただひと
ヤコブの手紙

すく ほろ とな びと
りであって、救うことも滅ぼすこともできるのである。しかるに、隣り人を
なにもの
さばくあなたは、いったい、何者であるか。
き まち い ねん
一三 よく聞きなさい。﹁きょうか、あす、これこれの町へ行き、そこに一か年

9
たいざい しょうばい ひと い もの
滞在し、商 売をして一もうけしよう﹂と言う者たちよ。 一四あなたがたは、あ

すのこともわからぬ身なのだ。あなたがたのいのちは、どんなものであるか。
あいだ き い きり
あなたがたは、しばしの間あらわれて、たちまち消え行く霧にすぎない。 一五
しゅ い
むしろ、あなたがたは﹁主のみこころであれば、わたしは生きながらえもし、
こと こと い ほこ
あの事この事もしよう﹂と言うべきである。 一六ところが、あなたがたは誇り
たか こうまん あく ひと ぜん
高ぶっている。このような高慢は、すべて悪である。 一七人が、なすべき善を
し おこな かれ つみ
知りながら行わなければ、それは彼にとって罪である。
第五章
と ひと き じぶん み ふ
一 富んでいる人たちよ。よく聞きなさい。あなたがたは、自分の身に降りか
おも な さけ とみ
かろうとしているわざわいを思って、泣き叫ぶがよい。 二あなたがたの富は
く は きもの きんぎん どく
朽ち果て、着物はむしばまれ、三金銀はさびている。そして、そのさびの毒は、
ヤコブの手紙

つみ せ にく ひ く
あなたがたの罪を責め、あなたがたの肉を火のように食いつくすであろう。
おわ とき たから み
あなたがたは、終りの時にいるのに、なお宝をたくわえている。 四見よ、あな
ろうどうしゃ はたけ かりい しはら ちんぎん さけ
たがたが労働者たちに畑の刈入れをさせながら、支払わずにいる賃銀が、叫

10
かりい ひと さけ ごえ ばんぐん しゅ みみ
んでいる。そして、刈入れをした人たちの叫び声が、すでに万軍の主の耳に
たっ ちじょう くら かいらく
達している。 五あなたがたは、地上でおごり暮し、快楽にふけり、
﹁ほふらる
ひ こころ こ ぎじん つみ さだ
る日﹂のために、おのが心を肥やしている。 六そして、義人を罪に定め、これ
ころ かれ ていこう
を殺した。しかも彼は、あなたがたに抵抗しない。
きょうだい しゅ らいりん とき た しの み のうふ ち
七 だから、兄 弟たちよ。主の来臨の時まで耐え忍びなさい。見よ、農夫は、地
たっと みの まえ あめ のち あめ た しの ま
の尊い実りを、前の雨と後の雨とがあるまで、耐え忍んで待っている。 八あな
しゅ らいりん ちか た しの こころ つよ
たがたも、主の来臨が近づいているから、耐え忍びなさい。 心を強くしてい
きょうだい たがい ふへい い あ う
なさい。 九 兄 弟たちよ。 互に不平を言い合ってはならない。さばきを受け
し み ぬし とぐち た
るかも知れないから。見よ、さばき主が、すでに戸口に立っておられる。 一〇
きょうだい くる た しの しゅ み な かた
兄 弟たちよ。苦しみを耐え忍ぶことについては、主の御名によって語った
よげんしゃ もはん しの ぬ ひと
預言者たちを模範にするがよい。 一一忍び抜いた人たちはさいわいであると、
おも にんたい き しゅ
わたしたちは思う。あなたがたは、ヨブの忍耐のことを聞いている。また、主
かれ けつまつ み しゅ じあい と
が彼になさったことの結末を見て、主がいかに慈愛とあわれみとに富んだか
ヤコブの手紙

たであるかが、わかるはずである。
きょうだい なに ちか てん
一二 さて、わたしの兄 弟たちよ。何はともあれ、誓いをしてはならない。天を
ち ちか
さしても、地をさしても、あるいは、そのほかのどんな誓いによっても、いっ

11
ちか いな いな
さい誓ってはならない。むしろ、
﹁しかり﹂を﹁しかり﹂とし、
﹁否﹂を﹁否﹂

としなさい。そうしないと、あなたがたは、さばきを受けることになる。
なか くる もの ひと いの よろこ
一三 あなたがたの中に、苦しんでいる者があるか。その人は、祈るがよい。 喜
もの ひと なか
んでいる者があるか。その人は、さんびするがよい。 一四あなたがたの中に、
や もの ひと きょうかい ちょうろう まね しゅ み な
病んでいる者があるか。その人は、教 会の長 老たちを招き、主の御名によっ
ゆ そそ いの しんこう いのり や
て、オリブ油を注いで祈ってもらうがよい。 一五信仰による祈は、病んでいる
ひと すく しゅ ひと た くだ ひと つみ
人を救い、そして、主はその人を立ちあがらせて下さる。かつ、その人が罪
おか たがい つみ こくはく あ
を犯していたなら、それもゆるされる。 一六だから、 互に罪を告白し合い、ま
たがい いの ぎじん いのり おお ちから
た、いやされるようにお互のために祈りなさい。義人の祈は、大いに力があ
こうか おな にんげん
り、効果のあるものである。 一七エリヤは、わたしたちと同じ人間であったが、
あめ ふ いのり ねん げつ ちじょう あめ
雨が降らないようにと祈をささげたところ、三年六か月のあいだ、地上に雨
ふ いの てん あめ ふ ち
が降らなかった。 一八それから、ふたたび祈ったところ、天は雨を降らせ、地

はその実をみのらせた。
ヤコブの手紙

きょうだい しんり みち ふ まよ もの
一九 わたしの兄 弟たちよ。あなたがたのうち、真理の道から踏み迷う者があ
かれ ひ つみびと まよ みち ひ
り、だれかが彼を引きもどすなら、 二〇かように罪人を迷いの道から引きもど
ひと し すく だ おお つみ
す人は、そのたましいを死から救い出し、かつ、多くの罪をおおうものであ

12

ることを、知るべきである。
ヤコブの手紙

13
だい てがみ
ペテロの第一の手紙
第一章
し と
一 イエス・キリストの使徒ペテロから、ポント、ガラテヤ、カパドキヤ、アジ
りさん きりゅう ひと
ヤおよびビテニヤに離散し寄留している人たち、 二すなわち、イエス・キリス
したが ち う ちち かみ よ ち
トに従い、かつ、その血のそそぎを受けるために、父なる神の予知されたと
えら みたま ひと
ころによって選ばれ、御霊のきよめにあずかっている人たちへ。
めぐ へいあん ゆた くわ
恵みと平安とが、あなたがたに豊かに加わるように。
しゅ ちち かみ かみ ゆた
三 ほむべきかな、わたしたちの主イエス・キリストの父なる神。神は、その豊
しにん なか
かなあわれみにより、イエス・キリストを死人の中からよみがえらせ、それ
ペテロの第一の手紙

あら うま い のぞ
により、わたしたちを新たに生れさせて生ける望みをいだかせ、四あなたがた
てん く けが しさん う
のために天にたくわえてある、朽ちず汚れず、しぼむことのない資産を受け
つ もの くだ おわ とき けいじ
継ぐ者として下さったのである。 五あなたがたは、終りの時に啓示さるべき
すくい しんこう かみ み ちから まも
救にあずかるために、信仰により神の御 力に守られているのである。 六その

0
おも いま しれん なや
ことを思って、今しばらくのあいだは、さまざまな試錬で悩まねばならない
し おお よろこ
かも知れないが、あなたがたは大いに喜んでいる。 七こうして、あなたがたの
しんこう ひ せいれん く ほか きん たっと
信仰はためされて、火で精錬されても朽ちる外はない金よりもはるかに尊い
あき あらわ えいこう
ことが明らかにされ、イエス・キリストの現れるとき、さんびと栄光とほま
かわ み
れとに変るであろう。 八あなたがたは、イエス・キリストを見たことはない
かれ あい げんざい み しん ことば
が、彼を愛している。現在、見てはいないけれども、信じて、言葉につくせ
かがや よろこ しんこう けっ か
ない、輝きにみちた喜びにあふれている。 九それは、信仰の結果なるたましい
すくい え すくい たい めぐ
の救を得ているからである。 一〇この救については、あなたがたに対する恵み
よげん よげんしゃ もと しら かれ
のことを預言した預言者たちも、たずね求め、かつ、つぶさに調べた。 一一彼
じぶん れい くなん つづ
らは、自分たちのうちにいますキリストの霊が、キリストの苦難とそれに続
えいこう とき とき ばあい
く栄光とを、あらかじめあかしした時、それは、いつの時、どんな場合をさ
ペテロの第一の手紙

しら しら じぶん
したのかを、調べたのである。 一二そして、それらについて調べたのは、自分
ほうし しめ
たちのためではなくて、あなたがたのための奉仕であることを示された。そ
こと てん せいれい かん ふくいん の つた
れらの事は、天からつかわされた聖霊に感じて福音をあなたがたに宣べ伝え
ひとびと いま つ し みつかい
た人々によって、今や、あなたがたに告げ知らされたのであるが、これは、御使
み ねが こと
たちも、うかがい見たいと願っている事である。

1
こころ こし おび し み つつし あらわ とき
一三 それだから、 心の腰に帯を締め、身を慎み、イエス・キリストの現れる時
あた めぐ うたが ま のぞ じゅうじゅん
に与えられる恵みを、いささかも疑わずに待ち望んでいなさい。 一四 従 順な
こども む ち じだい よくじょう したが め
子供として、無知であった時代の欲 情に従わず、 一五むしろ、あなたがたを召
くだ せい じしん おこな
して下さった聖なるかたにならって、あなたがた自身も、あらゆる行いにお
せい もの せいしょ せい もの
いて聖なる者となりなさい。 一六聖書に、
﹁わたしが聖なる者であるから、あな
せい もの か
たがたも聖なる者になるべきである﹂と書いてあるからである。 一七あなたが
ひと おう こうへい ちち よ
たは、人をそれぞれのしわざに応じて、公平にさばくかたを、父と呼んでい
ちじょう やど あいだ こころ す
るからには、地上に宿っている間を、おそれの心をもって過ごすべきである。
し せ ん ぞ でんらい くうそ せいかつ
一八 あなたがたのよく知っているとおり、あなたがたが先祖伝来の空疎な生活
だ ぎん きん く もの
からあがない出されたのは、銀や金のような朽ちる物によったのではなく、 一
こひつじ たっと ち
九 きずも、しみもない小羊のようなキリストの尊い血によったのである。 二〇
ペテロの第一の手紙

てんち つく まえ し
キリストは、天地が造られる前から、あらかじめ知られていたのであるが、こ
おわ とき いた あらわ
の終りの時に至って、あなたがたのために現れたのである。 二一あなたがた
かれ しにん なか えいこう あた
は、このキリストによって、彼を死人の中からよみがえらせて、栄光をお与
かみ しん もの しんこう
えになった神を信じる者となったのであり、したがって、あなたがたの信仰
のぞ かみ
と望みとは、神にかかっているのである。

2
しんり したが いつわ
二二 あなたがたは、真理に従うことによって、たましいをきよめ、偽りのない
きょうだいあい いた たがい こころ あつ あい あ
兄 弟 愛をいだくに至ったのであるから、 互に心から熱く愛し合いなさい。 二
あら うま く たね く たね
三 あなたがたが新たに生れたのは、朽ちる種からではなく、朽ちない種から、
かみ かわ い みことば
すなわち、神の変ることのない生ける御言によったのである。
ひと くさ
﹁人はみな草のごとく、
二四
えいが くさ はな に
その栄華はみな草の花に似ている。
くさ か
草は枯れ、
はな ち
花は散る。
しゅ ことば のこ
しかし、主の言葉は、とこしえに残る﹂。
の つた み こ と ば
二五 これが、あなたがたに宣べ伝えられた御言葉である。
ペテロの第一の手紙

第二章
あくい いつわ ぎぜん あっこう す
一 だから、あらゆる悪意、あらゆる偽り、偽善、そねみ、いっさいの悪口を捨
いまうま ち の ご ま れい ちち した もと
てて、二今生れたばかりの乳飲み子のように、混じりけのない霊の乳を慕い求
そだ すくい はい
めなさい。それによっておい育ち、 救に入るようになるためである。 三あな

3
しゅ めぐ ぶか あじ し
たがたは、主が恵み深いかたであることを、すでに味わい知ったはずである。
しゅ ひと す かみ えら たっと い いし
四 主は、人には捨てられたが、神にとっては選ばれた尊い生ける石である。 五
しゅ い いし れい いえ
この主のみもとにきて、あなたがたも、それぞれ生ける石となって、霊の家
きず あ せい さいし かみ
に築き上げられ、聖なる祭司となって、イエス・キリストにより、神によろ
れい せいしょ か
こばれる霊のいけにえを、ささげなさい。 六聖書にこう書いてある、

﹁見よ、わたしはシオンに、
えら たっと いし すみ いし お
選ばれた尊い石、隅のかしら石を置く。
たの もの
それにより頼む者は、
けっ しつぼう おわ
決して、失望に終ることがない﹂。
いし たの たっと ふ しんこう ひとびと
七 この石は、より頼んでいるあなたがたには尊いものであるが、不信仰な人々
いえつく す いし すみ いし
には﹁家造りらの捨てた石で、隅のかしら石となったもの﹂、 八また﹁つまず
ペテロの第一の手紙

いし さまた いわ かれ みことば したが


きの石、 妨げの岩﹂である。しかし、彼らがつまずくのは、御言に従わない
かれ じつ さだ
からであって、彼らは、実は、そうなるように定められていたのである。 九し
えら しゅぞく さいし くに せい こくみん かみ たみ
かし、あなたがたは、選ばれた種族、祭司の国、聖なる国民、神につける民
くら おどろ ひかり まね い くだ
である。それによって、暗やみから驚くべきみ光に招き入れて下さったかた
かた つた いぜん
のみわざを、あなたがたが語り伝えるためである。 一〇あなたがたは、以前は

4
かみ たみ かみ たみ いぜん う
神の民でなかったが、いまは神の民であり、以前は、あわれみを受けたこと
もの う もの
のない者であったが、いまは、あわれみを受けた者となっている。
あい もの すす よ たびびと
一一 愛する者たちよ。あなたがたに勧める。あなたがたは、この世の旅人であ
きりゅうしゃ たたか にく よく さ
り 寄留者 で あ る か ら、た ま し い に 戦 い を い ど む 肉 の 欲 を 避 け な さ い。 一 二
いほうじん なか おこな かれ
異邦人の中にあって、りっぱな行いをしなさい。そうすれば、彼らは、あな
あくにん よ み
たがたを悪人呼ばわりしていても、あなたがたのりっぱなわざを見て、かえっ
ひ かみ
て、おとずれの日に神をあがめるようになろう。
ひと た せい ど しゅ したが しゅけんしゃ
一三 あなたがたは、すべて人の立てた制度に、主のゆえに従いなさい。主権者
おう あく おこな もの ばっ ぜん おこな もの しょう
としての王であろうと、 一四あるいは、悪を行う者を罰し善を行う者を賞する
おう ちょうかん したが ぜん おこな
ために、王からつかわされた長 官であろうと、これに従いなさい。 一五善を行
おろ ひとびと む ち はつげん ふう かみ みむね
うことによって、愚かな人々の無知な発言を封じるのは、神の御旨なのであ
ペテロの第一の手紙

じゆうじん こうどう じゆう あく おこな こうじつ


る。 一六自由人にふさわしく行動しなさい。ただし、自由をば悪を行う口実と
もち かみ しもべ こうどう ひと
して用いず、神の僕にふさわしく行動しなさい。 一七すべての人をうやまい、
きょうだい あい かみ おう たっと
兄 弟たちを愛し、神をおそれ、王を尊びなさい。
しもべ もの こころ しゅじん つか ぜんりょう かんよう
一八 僕たる者よ。 心からのおそれをもって、主人に仕えなさい。 善 良で寛容
しゅじん き しゅじん
な主人だけにでなく、気むずかしい主人にも、そうしなさい。 一九もしだれか

5
ふとう くる う かみ あお くつう た しの
が、不当な苦しみを受けても、神を仰いでその苦痛を耐え忍ぶなら、それは
わる う しの
よみせられることである。 二〇悪いことをして打ちたたかれ、それを忍んだと
てがら ぜん おこな くる う
しても、なんの手柄になるのか。しかし善を行 って苦しみを受け、しかもそ
た しの かみ
れを耐え忍んでいるとすれば、これこそ神によみせられることである。 二一あ
じつ め
なたがたは、実に、そうするようにと召されたのである。キリストも、あな
くる う みあし あと ふ したが もはん のこ
たがたのために苦しみを受け、御足の跡を踏み従うようにと、模範を残され
つみ おか くち いつわ
たのである。 二二キリストは罪を犯さず、その口には偽りがなかった。 二三の
くる
のしられても、ののしりかえさず、苦しめられても、おびやかすことをせず、
ただ
正しいさばきをするかたに、いっさいをゆだねておられた。 二四さらに、わた
つみ し ぎ い じゅうじか つみ
したちが罪に死に、義に生きるために、十字架にかかって、わたしたちの罪
じぶん み お きず
をご自分の身に負われた。その傷によって、あなたがたは、いやされたので
ペテロの第一の手紙

ひつじ まよ いま ぼくしゃ
ある。 二五あなたがたは、 羊のようにさ迷っていたが、今は、たましいの牧者
かんとく かえ
であり監督であるかたのもとに、たち帰ったのである。

6
第三章
おな つま もの おっと つか みことば したが
一 同じように、妻たる者よ。 夫に仕えなさい。そうすれば、たとい御言に従
おっと きよ おこな み つま
わない夫であっても、二あなたがたのうやうやしく清い行いを見て、その妻の
むごん おこな すくい い
無言の行いによって、救に入れられるようになるであろう。 三あなたがたは、
かみ あ きん かざ ふくそう がいめん かざ
髪を編み、金の飾りをつけ、服装をととのえるような外面の飾りではなく、 四
うち ひと にゅうわ れい く かざ み
かくれた内なる人、柔和で、しとやかな霊という朽ちることのない飾りを、身
かみ たっと
につけるべきである。これこそ、神のみまえに、きわめて尊いものである。 五
かみ あお のぞ せい おんな み かざ
むかし、神を仰ぎ望んでいた聖なる女たちも、このように身を飾って、その
おっと つか つか かれ しゅ よ
夫に仕えたのである。 六たとえば、サラはアブラハムに仕えて、彼を主と呼ん
なにごと おく ぜん おこな むすめ
だ。あなたがたも、何事にもおびえ臆することなく善を行えば、サラの娘た
ペテロの第一の手紙

ちとなるのである。
おっと もの おな おんな じぶん よわ うつわ
七 夫たる者よ。あなたがたも同じように、女は自分よりも弱い器であること
みと ちしき したが つま とも す めぐ とも う つ もの
を認めて、知識に従 って妻と共に住み、いのちの恵みを共どもに受け継ぐ者
たっと いのり さまた
として、 尊びなさい。それは、あなたがたの祈が妨げられないためである。
さいご い みな こころ どうじょう あ きょうだいあい
八 最後に言う。あなたがたは皆、心をひとつにし、同 情し合い、兄 弟 愛をも

7
ぶか けんきょ あく あく むく あっこう
ち、あわれみ深くあり、謙虚でありなさい。 九悪をもって悪に報いず、悪口を
あっこう むく しゅくふく むく め
もって悪口に報いず、かえって、祝 福をもって報いなさい。あなたがたが召
しゅくふく う つ
されたのは、 祝 福を受け継ぐためなのである。
あい
一〇 ﹁いのちを愛し、
ひ び す ねが ひと
さいわいな日々を過ごそうと願う人は、
した せい あく い
舌を制して悪を言わず、
と いつわ かた
くちびるを閉じて偽りを語らず、
あく さ ぜん おこな
一一 悪を避けて善を行い、
へいわ もと お
平和を求めて、これを追え。
しゅ め ぎじん そそ
一二 主の目は義人たちに注がれ、
しゅ みみ かれ いのり
主の耳は彼らの祈にかたむく。
ペテロの第一の手紙

しゅ みかお あく おこな もの たい む
しかし主の御顔は、悪を行う者に対して向かう﹂。
ぜん ねっしん きがい
一三 そこで、もしあなたがたが善に熱心であれば、だれが、あなたがたに危害
くわ まんいち ぎ くる
を加えようか。 一四しかし、万一義のために苦しむようなことがあっても、あ
かれ おそ こころ みだ
なたがたはさいわいである。彼らを恐れたり、 心を乱したりしてはならな
こころ なか しゅ
い。 一五ただ、心の中でキリストを主とあがめなさい。また、あなたがたのう

8
のぞ せつめい もと ひと べんめい ようい
ちにある望みについて説明を求める人には、いつでも弁明のできる用意をし
つつし ぶか あき りょうしん べんめい
ていなさい。 一六しかし、やさしく、 慎み深く、明らかな良 心をもって、弁明
いとな よ せいかつ
しなさい。そうすれば、あなたがたがキリストにあって営んでいる良い生活
ひとびと は ぜん
をそしる人々も、そのようにののしったことを恥じいるであろう。 一七善をお
くる かみ みむね あく くる
こなって苦しむことは︱︱それが神の御旨であれば︱︱悪をおこなって苦し
かみ
むよりも、まさっている。 一八キリストも、あなたがたを神に近づけようとし
みずか ぎ ふ ぎ ひとびと つみ
て、 自らは義なるかたであるのに、不義なる人々のために、ひとたび罪のゆ
し にく ころ れい い
えに死なれた。ただし、肉においては殺されたが、霊においては生かされた
かれ ごく とら れい くだ い
のである。 一九こうして、彼は獄に捕われている霊どものところに下って行
の つた れい はこぶね
き、宣べ伝えることをされた。 二〇これらの霊というのは、むかしノアの箱舟
つく あいだ かみ かんよう ま したが もの
が造られていた間、神が寛容をもって待っておられたのに従わなかった者ど
ペテロの第一の手紙

はこぶね の こ みず へ すく
ものことである。その箱舟に乗り込み、水を経て救われたのは、わずかに八
めい みず しょうちょう いま
名だけであった。 二一この水はバプテスマを象 徴するものであって、今やあ
すく ふっかつ
なたがたをも救うのである。それは、イエス・キリストの復活によるのであっ
けが のぞ あき りょうしん かみ ねが もと
て、からだの汚れを除くことではなく、明らかな良 心を神に願い求めること
てん のぼ かみ みぎ ざ てんし
で あ る。 二 二キ リ ス ト は 天 に 上 っ て 神 の 右 に 座 し、天使 た ち と も ろ も ろ の

9
けんい けんりょく したが
権威、 権 力を従えておられるのである。
第四章
にく くる
一 このように、キリストは肉において苦しまれたのであるから、あなたがたも
おな かくご こころ ぶそう にく くる ひと つみ
同じ覚悟で心の武装をしなさい。肉において苦しんだ人は、それによって罪
にく のこ しょうがい にんげん
からのがれたのである。 二それは、肉における残りの生 涯を、もはや人間の
よくじょう かみ みむね す す さ じだい
欲 情によらず、神の御旨によって過ごすためである。 三過ぎ去った時代には、
いほうじん この こうしょく よくじょう すいしゅ えんらく ぼういん
あなたがたは、異邦人の好みにまかせて、 好 色、 欲 情、酔酒、宴楽、暴飲、
き ぐうぞうれいはい じゅうぶん いま
気ままな偶像礼拝などにふけってきたが、もうそれで十 分であろう。 四今は
ど す らんぎょう くわ かれ おどろ
あなたがたが、そうした度を過ごした乱 行に加わらないので、彼らは驚きあ
ペテロの第一の手紙

かれ い もの し もの
やしみ、かつ、ののしっている。 五彼らは、やがて生ける者と死ねる者とをさ
もう ひら しにん ふくいん の つた
ばくかたに、申し開きをしなくてはならない。 六死人にさえ福音が宣べ伝え
かれ にく にんげん う れい
られたのは、彼らは肉においては人間としてさばきを受けるが、霊において
かみ したが い
は神に従 って生きるようになるためである。
ばんぶつ おわ ちか こころ たし み つつし つと
七 万物の終りが近づいている。だから、 心を確かにし、身を慎んで、努めて

10
いの なに たがい あい あつ たも あい おお つみ
祈りなさい。 八何よりもまず、 互の愛を熱く保ちなさい。愛は多くの罪をお
ふへい い たがい あ
おうものである。 九不平を言わずに、 互にもてなし合いなさい。 一〇あなたが
たまもの かみ めぐ よ
たは、それぞれ賜物をいただいているのだから、神のさまざまな恵みの良き
かんりにん たがい やく た かた もの かみ
管理人として、それをお互のために役立てるべきである。 一一語る者は、神の
みことば かた もの かた ほうし もの かみ たま ちから もの
御言を語る者にふさわしく語り、奉仕する者は、神から賜わる力による者に
ほうし
ふさわしく奉仕すべきである。それは、すべてのことにおいてイエス・キリ
かみ えいこう ちから よ よ かぎ かれ
ストによって、神があがめられるためである。栄光と力とが世々限りなく、彼
にあるように、アァメン。
あい もの こころ ふ く ひ
一二 愛する者たちよ。あなたがたを試みるために降りかかって来る火のよう
しれん なに おも おこ おどろ
な試錬を、何か思いがけないことが起ったかのように驚きあやしむことなく、
くる よろこ
一三 むしろ、キリストの苦しみにあずかればあずかるほど、喜ぶがよい。それ
ペテロの第一の手紙

えいこう あらわ さい
は、キリストの栄光が現れる際に、よろこびにあふれるためである。 一四キリ
な とき
ストの名のためにそしられるなら、あなたがたはさいわいである。その時に
えいこう れい かみ れい やど
は、栄光の霊、神の霊が、あなたがたに宿るからである。 一五あなたがたのう
ひとごろ ぬすびと あく おこな もの たにん かんしょう もの
ち、だれも、人殺し、盗人、悪を行う者、あるいは、他人に干 渉する者とし
くる あ
て苦しみに会うことのないようにしなさい。 一六しかし、クリスチャンとして

11
くる う は な
苦しみを受けるのであれば、恥じることはない。かえって、この名によって
かみ かみ いえ はじ とき
神をあがめなさい。 一七さばきが神の家から始められる時がきた。それが、わ
はじ かみ ふくいん したが ひとびと ゆ すえ
たしたちからまず始められるとしたら、神の福音に従わない人々の行く末は、
ぎじん すく
どんなであろうか。 一八また義人でさえ、かろうじて救われるのだとすれば、
ふしん もの つみびと かみ みむね したが くる
不信なる者や罪人は、どうなるであろうか。 一九だから、神の御旨に従 って苦
う ひとびと ぜん しんじつ そうぞうしゃ じぶん
しみを受ける人々は、善をおこない、そして、真実であられる創造者に、自分
のたましいをゆだねるがよい。
第五章
ちょうろう すす ちょうろう
一 そこで、あなたがたのうちの長 老たちに勧める。わたしも、長 老のひとり
ペテロの第一の手紙

くなん しょうにん あらわ えいこう


で、キリストの苦難についての証 人であり、また、やがて現れようとする栄光
もの かみ ひつじ む ぼく
にあずかる者である。 二あなたがたにゆだねられている神の羊の群れを牧し
かみ したが みずか すす は
なさい。しいられてするのではなく、神に従 って自ら進んでなし、恥ずべき
りとく ほんしん もの
利得のためではなく、本心から、それをしなさい。 三また、ゆだねられた者た
うえ けんりょく む もはん
ちの上に権 力をふるうことをしないで、むしろ、群れの模範となるべきであ

12
だいぼくしゃ あらわ とき えいこう かんむり う
る。 四そうすれば、大牧者が現れる時には、しぼむことのない栄光の冠を受け
おな わか ひと ちょうろう したが
るであろう。 五同じように、若い人たちよ。 長 老たちに従いなさい。また、
たがい けんそん み かみ たか もの もの
みな互に謙遜を身につけなさい。神は高ぶる者をしりぞけ、へりくだる者に
めぐ たま
恵みを賜うからである。
かみ ちからづよ み て もと みずか ひく とき
六 だから、あなたがたは、神の力 強い御手の下に、 自らを低くしなさい。時
く かみ たか くだ かみ
が来れば神はあなたがたを高くして下さるであろう。 七神はあなたがたをか
くだ じぶん おも かみ
えりみていて下さるのであるから、自分の思いわずらいを、いっさい神にゆ
み つつし め てき
だねるがよい。 八身を慎み、目をさましていなさい。あなたがたの敵である
あくま く もと ある まわ
悪魔が、ほえたけるししのように、食いつくすべきものを求めて歩き回って
あくま しんこう た ていこう
いる。 九この悪魔にむかい、信仰にかたく立って、抵抗しなさい。あなたがた
し ぜん せ か い きょうだい おな
のよく知っているとおり、全世界にいるあなたがたの兄 弟たちも、同じよう
ペテロの第一の手紙

くる かずかず あ
な 苦 し み の 数々 に 会 っ て い る の で あ る。 一 〇あ な た が た を キ リ ス ト に あ る
えいえん えいこう まね い くだ めぐ かみ くる
永遠の栄光に招き入れて下さったあふるる恵みの神は、しばらくの苦しみの
のち つよ ちから ふどう くだ
後、あなたがたをいやし、強め、 力づけ、不動のものとして下さるであろう。
ちから よ よ かぎ かみ
一一 どうか、 力が世々限りなく、神にあるように、アァメン。
ちゅうじつ きょうだい しんらい て
一二 わたしは、 忠 実な兄 弟として信頼しているシルワノの手によって、この

13
みじか てがみ すす かみ めぐ
短い手紙をあなたがたにおくり、勧めをし、また、これが神のまことの恵み
めぐ た
であることをあかしした。この恵みのうちに、かたく立っていなさい。 一三あ
とも えら きょうかい こ
なたがたと共に選ばれてバビロンにある教 会、ならびに、わたしの子マルコ
あい せっぷん たがい
から、あなたがたによろしく。 一四愛の接吻をもって互にあいさつをかわしな
さい。
いちどう へいあん
キリストにあるあなたがた一同に、平安があるように。
ペテロの第一の手紙

14
だい てがみ
ペテロの第二の手紙
第一章
しもべ し と
一 イエス・キリストの僕また使徒であるシメオン・ペテロから、わたしたちの
かみ すくいぬし ぎ おな たっと しんこう さず
神と救 主 イエス・キリストとの義によって、わたしたちと同じ尊い信仰を授
ひとびと
かった人々へ。
かみ しゅ し めぐ へいあん
二 神とわたしたちの主イエスとを知ることによって、恵みと平安とが、あなた
ゆた くわ
がたに豊かに加わるように。
しんじん しゅ しんせい ちから
三 いのちと信心とにかかわるすべてのことは、主イエスの神聖な力によって、
あた じしん えいこう とく
わたしたちに与えられている。それは、ご自身の栄光と徳とによって、わた
ペテロの第二の手紙

め し ちしき
したちを召されたかたを知る知識によるのである。 四また、それらのものに
たっと おお やくそく あた
よって、 尊く、大いなる約束が、わたしたちに与えられている。それは、あ
よ よく ほろ まぬか かみ せいしつ もの
なたがたが、世にある欲のために滅びることを免れ、神の性質にあずかる者
ちから かぎ
となるためである。 五それだから、あなたがたは、力の限りをつくして、あな

0
しんこう とく くわ とく ちしき ちしき せっせい せっせい にんたい にんたい
たがたの信仰に徳を加え、徳に知識を、 六知識に節制を、節制に忍耐を、忍耐
しんじん しんじん きょうだいあい きょうだいあい あい くわ
に信心を、 七信心に兄 弟 愛を、兄 弟 愛に愛を加えなさい。 八これらのものが
そな ゆた しゅ
あなたがたに備わって、いよいよ豊かになるならば、わたしたちの主イエス・
し ちしき おこた もの み むす もの
キリストを知る知識について、あなたがたは、 怠る者、実を結ばない者とな
そな もの もうじん
ることはないであろう。 九これらのものを備えていない者は、盲人であり、
きんし もの じぶん いぜん つみ わす もの
近視の者であり、自分の以前の罪がきよめられたことを忘れている者である。
きょうだい はげ う め えら
一〇 兄 弟たちよ。それだから、ますます励んで、あなたがたの受けた召しと選
たし けっ おちい
びとを、確かなものにしなさい。そうすれば、決してあやまちに陥ることは
しゅ すくいぬし えいえん くに
ない。 一一こうして、わたしたちの主また救 主 イエス・キリストの永遠の国に
はい めぐ ゆた あた
入る恵みが、あなたがたに豊かに与えられるからである。
すで し も
一二 それだから、あなたがたは既にこれらのことを知っており、また、いま持っ
ペテロの第二の手紙

しんり かた た
ている真理に堅く立ってはいるが、わたしは、これらのことをいつも、あな
おも おこ まくや あいだ
たがたに思い起させたいのである。 一三わたしがこの幕屋にいる間、あなたが
おも おこ ふる た てきとう おも
たに思い起させて、奮い立たせることが適当と思う。 一四それは、わたしたち
しゅ しめ くだ まくや
の主イエス・キリストもわたしに示して下さったように、わたしのこの幕屋
ぬ さ とき まぢか し よ
を脱ぎ去る時が間近であることを知っているからである。 一五わたしが世を

1
さ のち おも だ つと
去った後にも、これらのことを、あなたがたにいつも思い出させるように努
しゅ ちから らいりん
めよう。 一六わたしたちの主イエス・キリストの力と来臨とを、あなたがたに
し とき たく つく ばなし もち
知らせた時、わたしたちは、巧みな作り話を用いることはしなかった。わた
いこう もくげきしゃ ちち かみ
したちが、そのご威光の目撃者なのだからである。 一七イエスは父なる神から
えいこう う とき えいこう なか つぎ
ほまれと栄光とをお受けになったが、その時、おごそかな栄光の中から次の
こえ あい こ こころ
ようなみ声がかかったのである、
﹁これはわたしの愛する子、わたしの心にか
もの とも せい やま てん で
なう者である﹂。 一八わたしたちもイエスと共に聖なる山にいて、天から出た
こえ き よげん ことば
この声を聞いたのである。 一九こうして、預言の言葉は、わたしたちにいっそ
かくじつ よ あ みょうじょう
う確実なものになった。あなたがたも、夜が明け、明 星がのぼって、あなた
こころ なか てら よげん ことば くら かがや
がたの心の中を照すまで、この預言の言葉を暗やみに輝くともしびとして、そ
め せいしょ よげん じ ぶ ん かっ て かいしゃく
れに目をとめているがよい。 二〇聖書の預言はすべて、自分勝手に解 釈すべ
ペテロの第二の手紙

だい し よげん けっ
きでないことを、まず第一に知るべきである。 二一なぜなら、預言は決して
にんげん い し で ひとびと せいれい かん かみ かた
人間の意志から出たものではなく、人々が聖霊に感じ、神によって語ったも
のだからである。

2
第二章
たみ あいだ よげんしゃ おこ おな
一 しかし、民の間に、にせ預言者が起ったことがあるが、それと同じく、あな
あいだ きょうし あらわ かれ ほろ いた いたん
たがたの間にも、にせ教師が現れるであろう。彼らは、滅びに至らせる異端
も こ じぶん くだ しゅ ひてい
をひそかに持ち込み、自分たちをあがなって下さった主を否定して、すみや
めつぼう じぶん み まね おお ひと かれ ほうじゅう みなら
かな滅亡を自分の身に招いている。 二また、大ぜいの人が彼らの放 縦を見習
しんり みち う いた かれ どんよく
い、そのために、真理の道がそしりを受けるに至るのである。 三彼らは、貪欲
かんげん り かれ
のために、甘言をもってあなたがたをあざむき、利をむさぼるであろう。彼
たい むかし ゆうよ おこな かれ めつぼう とどこお
らに対するさばきは昔から猶予なく行われ、彼らの滅亡も滞ることはない。 四
かみ つみ おか みつかい ゆる かれ げかい
神は、罪を犯した御使たちを許しておかないで、彼らを下界におとしいれ、さ
とき くら あな と こ ふる せかい
ばきの時まで暗やみの穴に閉じ込めておかれた。 五また、古い世界をそのま
ペテロの第二の手紙

ふ しんこう せかい こうずい ぎ せんでんしゃ


まにしておかないで、その不信仰な世界に洪水をきたらせ、ただ、義の宣伝者
にん もの ほ ご まちまち はい
ノアたち八人の者だけを保護された。 六また、ソドムとゴモラの町々を灰に
き はめつ しょ ふ しんこう はし ひとびと み
帰せしめて破滅に処し、不信仰に走ろうとする人々の見せしめとし、 七ただ、
ひどう もの ほうじゅう おこな ぎじん すく
非道の者どもの放 縦な行いによってなやまされていた義人ロトだけを救い
だ ぎじん かれ あいだ す かれ ふほう おこな ひ び み き
出された。 八︵この義人は、彼らの間に住み、彼らの不法の行いを日々見聞き

3
ただ こころ いた しゅ しんじん
して、その正しい心を痛めていたのである。︶ 九こういうわけで、主は、信心
ぶか もの しれん なか すく だ ふ ぎ もの とく けが じょうよく
深い者を試錬の中から救い出し、また、不義な者ども、 一〇特に、汚れた情 欲
にく あゆ けんい もの かろ ひとびと ばっ
におぼれ肉にしたがって歩み、また、権威ある者を軽んじる人々を罰して、さ
ひ と こ ぞん
ばきの日まで閉じ込めておくべきことを、よくご存じなのである。こういう
ひとびと だいたん ふ てき もの えいこう もの
人々は、大胆不敵なわがまま者であって、栄光ある者たちをそしってはばか
みつかい いきお ちから かれ
るところがない。 一一しかし、御使たちは、 勢いにおいても力においても、彼
かれ しゅ うった
らにまさっているにかかわらず、彼らを主のみまえに訴えそしることはしな
もの とら うま ふんべつ
い。 一二これらの者は、捕えられ、ほふられるために生れてきた、分別のない
どうぶつ じぶん し ふ ぎ むく
動物のようなもので、自分が知りもしないことをそしり、その不義の報いと
ばつ う かなら ほろ かれ まひる しゅしょく
して罰を受け、必ず滅ぼされてしまうのである。 一三彼らは、真昼でさえ酒 食
たの えんかい どうせき かれ
を楽しみ、あなたがたと宴会に同席して、だましごとにふけっている。彼ら
ペテロの第二の手紙

め いんこう お つみ おか あ
は、しみであり、きずである。 一四その目は淫行を追い、罪を犯して飽くこと
し かれ こころ さだ もの ゆうわく こころ どんよく な
を知らない。彼らは心の定まらない者を誘惑し、その心は貪欲に慣れ、のろ
こ かれ ただ みち まよ おちい
いの子となっている。 一五彼らは正しい道からはずれて迷いに陥り、ベオルの
こ みち したが ふ ぎ み あい じぶん
子バラムの道に従 った。バラムは不義の実を愛し、一六そのために、自分のあ
たい う い にんげん こえ
やまちに対するとがめを受けた。ものを言わないろばが、人間の声でものを

4
い よげんしゃ きょうき ひとびと
言い、この預言者の狂気じみたふるまいをはばんだのである。 一七この人々
みず い ど とっぷう ふ きり かれ くら
は、いわば、水のない井戸、突風に吹きはらわれる霧であって、彼らには暗
ようい かれ ほこり かた まよ なか い
やみが用意されている。 一八彼らはむなしい誇を語り、迷いの中に生きている
ひとびと あいだ もの にくよく しきじょう
人々 の 間か ら、か ろ う じ て の が れ て き た 者 た ち を、肉欲 と色 情 と に よっ て
ゆうわく ひとびと じゆう あた やくそく かれ じしん めつぼう どれい
誘惑し、 一九この人々に自由を与えると約束しながら、彼ら自身は滅亡の奴隷
ひと せいふくしゃ どれい かれ
になっている。おおよそ、人は征服者の奴隷となるものである。 二〇彼らが、
しゅ すくいぬし し よ けが
主また救 主なるイエス・キリストを知ることにより、この世の汚れからのが
のち ま こ せいふく かれ のち じょうたい はじ
れた後、またそれに巻き込まれて征服されるならば、彼らの後の状 態は初め
わる ぎ みち こころえ じぶん さず せい
よりも、もっと悪くなる。 二一義の道を心得ていながら、自分に授けられた聖
いまし ぎ みち し ほう
なる戒めにそむくよりは、むしろ義の道を知らなかった方がよい。 二二ことわ
いぬ じぶん は もの かえ ぶた あら なか
ざに、
﹁犬は自分の吐いた物に帰り、豚は洗われても、また、どろの中にころ
ペテロの第二の手紙

い かれ み おこ
がって行く﹂とあるが、彼らの身に起ったことは、そのとおりである。
第三章
あい もの いま だい てがみ か
一 愛する者たちよ。わたしは今この第二の手紙をあなたがたに書きおくり、

5
てがみ きおく よ おこ じゅんしん こころ ふる た
これらの手紙によって記憶を呼び起し、あなたがたの純 真な心を奮い立たせ
せい よげんしゃ かた ことば
ようとした。 二それは、聖なる預言者たちがあらかじめ語った言葉と、あなた
し と つた しゅ すくいぬし いまし おも だ
がたの使徒たちが伝えた主なる救 主の戒めとを、思い出させるためである。
つぎ し おわ とき もの
三 まず次のことを知るべきである。終りの時にあざける者たちが、あざけり
で じぶん よくじょう せいかつ しゅ らいりん やくそく
ながら出てきて、自分の欲 情のままに生活し、四﹁主の来臨の約束はどうなっ
せんぞ ねむ て ん ち そうぞう はじ
たのか。先祖たちが眠りについてから、すべてのものは天地創造の初めから
かわ い かれ
そのままであって、変ってはいない﹂と言うであろう。 五すなわち、彼らはこ
みと ふる むかし てん そんざい ち かみ ことば みず
のことを認めようとはしない。古い昔に天が存在し、地は神の言によって、水
みず な とき せかい みことば
がもとになり、また、水によって成ったのであるが、 六その時の世界は、御言
みず ほろ いま てん ち おな みことば
により水でおおわれて滅んでしまった。 七しかし、今の天と地とは、同じ御言
ほぞん ふ しんこう ひとびと ほろ ひ ひ や
によって保存され、不信仰な人々がさばかれ、滅ぼさるべき日に火で焼かれ
ペテロの第二の手紙

とき たも
る時まで、そのまま保たれているのである。
あい もの いちじ わす しゅ にち
八 愛する者たちよ。この一事を忘れてはならない。主にあっては、一日は千
ねん ねん にち ひとびと おも
年のようであり、千年は一日のようである。 九ある人々がおそいと思ってい
しゅ やくそく じっこう
るように、主は約束の実行をおそくしておられるのではない。ただ、ひとり
ほろ もの くいあらた いた のぞ
も滅びることがなく、すべての者が悔 改めに至ることを望み、あなたがたに

6
たい にんたい しゅ ひ ぬすびと
対してながく忍耐しておられるのである。 一〇しかし、主の日は盗人のように
おそ く ひ てん だいおんきょう き さ てんたい や
襲って来る。その日には、天は大 音 響をたてて消え去り、天体は焼けてくず
ち うえ つく だ や
れ、地とその上に造り出されたものも、みな焼きつくされるであろう。 一一こ
お かみ ひ とうらい
のように、これらはみなくずれ落ちていくものであるから、神の日の到来を
ねっしん ま のぞ きょくりょく しんじんぶか おこな
熱心に待ち望んでいるあなたがたは、 一二 極 力、きよく信心深い行いをして
ひ てん も てんたい や
いなければならない。その日には、天は燃えくずれ、天体は焼けうせてしま
かみ やくそく したが ぎ す あたら てん あたら
う。 一三しかし、わたしたちは、神の約束に従 って、義の住む新しい天と新し
ち ま のぞ
い地とを待ち望んでいる。
あい もの ひ ま
一四 愛する者たちよ。それだから、この日を待っているあなたがたは、しみも
やす こころ かみ で はげ
なくきずもなく、安らかな心で、神のみまえに出られるように励みなさい。 一
しゅ かんよう すくい おも
五 また、わたしたちの主の寛容は救のためであると思いなさい。このことは、
ペテロの第二の手紙

あい きょうだい かれ あた ち え
わたしたちの愛する兄 弟 パウロが、彼に与えられた知恵によって、あなたが
か かれ てがみ の
たに書きおくったとおりである。 一六彼は、どの手紙にもこれらのことを述べ
てがみ なか か しょ むがく
ている。その手紙の中には、ところどころ、わかりにくい箇所もあって、無学
こころ さだ もの せいしょ む り
で心の定まらない者たちは、ほかの聖書についてもしているように、無理な
かいしゃく じぶん めつぼう まね あい もの
解 釈をほどこして、自分の滅亡を招いている。 一七愛する者たちよ。それだ

7
こころ ひどう もの まど さそ
から、あなたがたはかねてから心がけているように、非道の者の惑わしに誘
こ じしん かくしん うしな こころ
い込まれて、あなたがた自身の確信を失うことのないように心がけなさい。 一
しゅ すくいぬし めぐ ちしき
八 そして、わたしたちの主また救 主 イエス・キリストの恵みと知識とにおい
ゆた えいこう いま えいえん ひ いた
て、ますます豊かになりなさい。栄光が、今も、また永遠の日に至るまでも、
しゅ
主にあるように、アァメン。
ペテロの第二の手紙

8
だい てがみ
ヨハネの第一の手紙
第一章
はじ き め み み て
一 初めからあったもの、わたしたちが聞いたもの、目で見たもの、よく見て手
ことば あらわ
でさわったもの、すなわち、いのちの言について︱︱ 二このいのちが現れたの
えいえん み
で、この永遠のいのちをわたしたちは見て、そのあかしをし、かつ、あなた
つ し えいえん ちち とも いま
がたに告げ知らせるのである。この永遠のいのちは、父と共にいましたが、今
あらわ み き
やわたしたちに現れたものである︱︱ 三すなわち、わたしたちが見たもの、聞
つ し
いたものを、あなたがたにも告げ知らせる。それは、あなたがたも、わたし
まじ まじ
たちの交わりにあずかるようになるためである。わたしたちの交わりとは、
ヨハネの第一の手紙

ちち み こ まじ か
父ならびに御子イエス・キリストとの交わりのことである。 四これを書きお
よろこ み
くるのは、わたしたちの喜びが満ちあふれるためである。
き つた
五 わたしたちがイエスから聞いて、あなたがたに伝えるおとずれは、こうであ
かみ ひかり かみ すこ くら かみ まじ
る。神は光であって、神には少しの暗いところもない。 六神と交わりをして

0
い なか ある いつわ
いると言いながら、もし、やみの中を歩いているなら、わたしたちは偽 って
しんり おこな かみ ひかり なか
いるのであって、真理を行 っているのではない。 七しかし、神が光の中にいま
ひかり なか ある たがい まじ
すように、わたしたちも光の中を歩くならば、わたしたちは互に交わりをも
み こ ち つみ
ち、そして、御子イエスの血が、すべての罪からわたしたちをきよめるので
つみ い じぶん あざむ しんり
ある。 八もし、罪がないと言うなら、それは自分を欺くことであって、真理は
じぶん つみ こくはく
わたしたちのうちにない。 九もし、わたしたちが自分の罪を告白するならば、
かみ しんじつ ただ つみ ふ ぎ
神は真実で正しいかたであるから、その罪をゆるし、すべての不義からわた
くだ つみ おか い
したちをきよめて下さる。 一〇もし、罪を犯したことがないと言うなら、それ
かみ いつわ もの かみ ことば
は神を偽り者とするのであって、神の言はわたしたちのうちにない。
第二章
ヨハネの第一の手紙

こ か つみ おか
一 わたしの子たちよ。これらのことを書きおくるのは、あなたがたが罪を犯
つみ おか もの ちち
さないようになるためである。もし、罪を犯す者があれば、父のみもとには、
たす ぬし ぎ
わたしたちのために助け主、すなわち、義なるイエス・キリストがおられる。
かれ つみ そな もの
二 彼は、わたしたちの罪のための、あがないの供え物である。ただ、わたした

1
つみ ぜん せ か い つみ
ちの罪のためばかりではなく、全世界の罪のためである。 三もし、わたしたち
かれ いまし まも かれ し さと
が彼の戒めを守るならば、それによって彼を知っていることを悟るのである。
かれ し い いまし まも もの いつわ もの
四 ﹁彼を知っている﹂と言いながら、その戒めを守らない者は、偽り者であっ
しんり ひと かれ みことば まも もの
て、真理はその人のうちにない。 五しかし、彼の御言を守る者があれば、その
ひと かみ あい しん まっと
人のうちに、神の愛が真に全うされるのである。それによって、わたしたち
かれ し かれ い もの かれ ある
が彼にあることを知るのである。 六﹁彼におる﹂と言う者は、彼が歩かれたよ
ひと じ し ん ある
うに、その人自身も歩くべきである。
あい もの か あたら いまし
七 愛する者たちよ。わたしがあなたがたに書きおくるのは、 新しい戒めでは
はじ う ふる いまし ふる いまし
なく、あなたがたが初めから受けていた古い戒めである。その古い戒めとは、
き みことば あたら いまし
あなたがたがすでに聞いた御言である。 八しかも、新しい戒めを、あなたがた
か かれ
に書きおくるのである。そして、それは、彼にとってもあなたがたにとって
ヨハネの第一の手紙

しんり す さ ひかり かがや


も、真理なのである。なぜなら、やみは過ぎ去り、まことの光がすでに輝い
ひかり なか い きょうだい にく もの
ているからである。 九﹁光の中にいる﹂と言いながら、その兄 弟を憎む者は、
いま なか きょうだい あい もの ひかり
今なお、やみの中にいるのである。 一〇兄 弟を愛する者は、光におるのであっ
きょうだい にく もの なか なか
て、つまずくことはない。 一一兄 弟を憎む者は、やみの中におり、やみの中を
ある じぶん い かれ め み
歩くのであって、自分ではどこへ行くのかわからない。やみが彼の目を見え

2
なくしたからである。
こ か み な
一二 子たちよ。あなたがたにこれを書きおくるのは、御名のゆえに、あなたが
おお つみ ちち か
たの多くの罪がゆるされたからである。 一三父たちよ。あなたがたに書きお
はじ し わかもの
くるのは、あなたがたが、初めからいますかたを知ったからである。若者た
か あ もの か
ちよ。あなたがたに書きおくるのは、あなたがたが、悪しき者にうち勝った
こども か
からである。 一四子供たちよ。あなたがたに書きおくったのは、あなたがたが
ちち し ちち か
父を知ったからである。父たちよ。あなたがたに書きおくったのは、あなた
はじ し わかもの
がたが、初めからいますかたを知ったからである。若者たちよ。あなたがた
か つよ もの かみ ことば やど
に書きおくったのは、あなたがたが強い者であり、神の言があなたがたに宿
あ もの か よ よ
り、そして、あなたがたが悪しき者にうち勝ったからである。 一五世と世にあ
あい よ あい もの ちち あい かれ
るものとを、愛してはいけない。もし、世を愛する者があれば、父の愛は彼
ヨハネの第一の手紙

よ にく よく め よく も もの
のうちにない。 一六すべて世にあるもの、すなわち、肉の欲、目の欲、持ち物
ほこり ちち で よ で よ よ よく
の誇は、父から出たものではなく、世から出たものである。 一七世と世の欲と
す さ かみ みむね おこな もの えいえん
は過ぎ去る。しかし、神の御旨を行う者は、永遠にながらえる。
こども いま おわ とき はん く
一八 子供たちよ。今は終りの時である。あなたがたがかねて反キリストが来
き いま おお はん あらわ
ると聞いていたように、今や多くの反キリストが現れてきた。それによって

3
いま おわ とき し かれ で い
今が終りの時であることを知る。 一九彼らはわたしたちから出て行った。し
かれ ぞく もの ぞく もの
かし、彼らはわたしたちに属する者ではなかったのである。もし属する者で
いっしょ で い
あったなら、わたしたちと一緒にとどまっていたであろう。しかし、出て行っ
がんらい かれ ぞく もの あき
たのは、元来、彼らがみなわたしたちに属さない者であることが、明らかに
せい もの あぶら そそ
されるためである。 二〇しかし、あなたがたは聖なる者に油を注がれているの
し か
で、あなたがたすべてが、そのことを知っている。 二一わたしが書きおくった
しんり し し
のは、あなたがたが真理を知らないからではなく、それを知っているからで
いつわ しんり で し
あり、また、すべての偽りは真理から出るものでないことを、知っているか
いつわ もの
らである。 二二 偽り者とは、だれであるか。イエスのキリストであることを
ひてい もの ちち み こ ひてい もの はん
否定する者ではないか。父と御子とを否定する者は、反キリストである。 二三
み こ ひてい もの ちち も み こ こくはく もの ちち も
御子を否定する者は父を持たず、御子を告白する者は、また父をも持つので
ヨハネの第一の手紙

はじ き
ある。 二四初めから聞いたことが、あなたがたのうちに、とどまるようにしな
はじ き
さい。初めから聞いたことが、あなたがたのうちにとどまっておれば、あな
み こ ちち かれみずか
たがたも御子と父とのうちに、とどまることになる。 二五これが、彼 自らわた
やくそく やくそく えいえん
したちに約束された約束であって、すなわち、永遠のいのちである。 二六わた
まど もの か
しは、あなたがたを惑わす者たちについて、これらのことを書きおくった。 二

4
あぶら
七 あなたがたのうちには、キリストからいただいた油がとどまっているので、
おし ひつよう あぶら
だれにも教えてもらう必要はない。この油が、すべてのことをあなたがたに
おし いつわ あぶら おし
教える。それはまことであって、偽りではないから、その油が教えたように、
かれ
あなたがたは彼のうちにとどまっていなさい。
こ かれ
二八 そこで、子たちよ。キリストのうちにとどまっていなさい。それは、彼が
あらわ とき かくしん も らいりん さい は
現れる時に、確信を持ち、その来臨に際して、みまえに恥じいることがない
かれ ぎ ぎ おこな もの かれ
ためである。 二九彼の義なるかたであることがわかれば、義を行う者はみな彼
うま し
から生れたものであることを、知るであろう。
第三章
ヨハネの第一の手紙

かみ こ よ おお あい ちち たま
一 わ た し た ち が 神 の 子 と 呼 ば れ る た め に は、ど ん な に 大 き な 愛 を 父 か ら 賜
かんが かみ こ
わったことか、よく考えてみなさい。わたしたちは、すでに神の子なのであ
よ し ちち し あい
る。世がわたしたちを知らないのは、父を知らなかったからである。 二愛す
もの いま かみ こ
る者たちよ。わたしたちは今や神の子である。しかし、わたしたちがどうな
あき かれ あらわ とき じぶん かれ
るのか、まだ明らかではない。彼が現れる時、わたしたちは、自分たちが彼

5
に し みすがた み
に似るものとなることを知っている。そのまことの御姿を見るからである。
かれ のぞ もの みな かれ
三 彼についてこの望みをいだいている者は皆、彼がきよくあられるように、
みずか つみ おか もの ふほう おこな もの つみ ふほう
自らをきよくする。 四すべて罪を犯す者は、不法を行う者である。罪は不法
し かれ つみ のぞ あらわ
である。 五あなたがたが知っているとおり、彼は罪をとり除くために現れた
かれ つみ かれ もの つみ おか
のであって、彼にはなんらの罪がない。 六すべて彼におる者は、罪を犯さな
つみ おか もの かれ み し もの
い。すべて罪を犯す者は彼を見たこともなく、知ったこともない者である。 七
こ まど かれ ぎじん どうよう ぎ
子たちよ。だれにも惑わされてはならない。彼が義人であると同様に、義を
おこな もの ぎじん つみ おか もの あくま で もの あくま はじ
行う者は義人である。 八罪を犯す者は、悪魔から出た者である。悪魔は初め
つみ おか かみ こ あらわ あくま ほろ
から罪を犯しているからである。神の子が現れたのは、悪魔のわざを滅ぼし
かみ うま もの つみ おか かみ たね
てしまうためである。 九すべて神から生れた者は、罪を犯さない。神の種が、
ひと ひと かみ うま
その人のうちにとどまっているからである。また、その人は、神から生れた
ヨハネの第一の手紙

もの つみ おか かみ こ あくま こ くべつ
者であるから、罪を犯すことができない。 一〇神の子と悪魔の子との区別は、
あき ぎ おこな もの かみ で
これによって明らかである。すなわち、すべて義を行わない者は、神から出
もの きょうだい あい もの どうよう たがい あい
た者ではない。 兄 弟を愛さない者も、同様である。 一一わたしたちは互に愛
あ はじ き
し合うべきである。これが、あなたがたの初めから聞いていたおとずれであ
かれ あ もの で
る。 一 二カ イ ン の よ う に な っ て は い け な い。彼 は 悪 し き 者 か ら 出 て、そ の

6
きょうだい ころ きょうだい ころ かれ わる
兄 弟 を 殺 し た の で あ る。な ぜ 兄 弟 を 殺 し た の か。彼 の わ ざ が 悪 く、そ の
きょうだい ただ
兄 弟のわざは正しかったからである。
きょうだい よ にく おどろ およ
一三 兄 弟たちよ。世があなたがたを憎んでも、驚くには及ばない。 一四わたし
きょうだい あい し うつ し
たちは、兄 弟を愛しているので、死からいのちへ移ってきたことを、知って
あい もの し し
いる。愛さない者は、死のうちにとどまっている。 一五あなたがたが知ってい
きょうだい にく もの ひとごろ ひとごろ
るとおり、すべて兄 弟を憎む者は人殺しであり、人殺しはすべて、そのうち
えいえん しゅ
に永遠のいのちをとどめてはいない。 一六主は、わたしたちのためにいのちを
す くだ あい し
捨てて下さった。それによって、わたしたちは愛ということを知った。それ
きょうだい す よ
ゆえに、わたしたちもまた、兄 弟のためにいのちを捨てるべきである。 一七世
とみ も きょうだい こま み こころ と
の富を持っていながら、兄 弟が困っているのを見て、あわれみの心を閉じる
もの かみ あい かれ こ
者には、どうして神の愛が、彼のうちにあろうか。 一八子たちよ。わたしたち
ヨハネの第一の手紙

ことば くちさき あい おこな しんじつ あい あ


は言葉や口先だけで愛するのではなく、行いと真実とをもって愛し合おうで
しんり で
はないか。 一九それによって、わたしたちが真理から出たものであることがわ
かみ こころ やす
かる。そして、神のみまえに心を安んじていよう。 二〇なぜなら、たといわた
こころ せ かみ こころ
したちの心に責められるようなことがあっても、神はわたしたちの心よりも
おお ぞん あい もの
大いなるかたであって、すべてをご存じだからである。 二一愛する者たちよ。

7
こころ せ かみ たい かくしん
もし心に責められるようなことがなければ、わたしたちは神に対して確信を
も ねが もと
持つことができる。 二二そして、願い求めるものは、なんでもいただけるので
かみ いまし まも おこな
ある。それは、わたしたちが神の戒めを守り、みこころにかなうことを、行 っ
いまし かみ こ み な
ているからである。 二三その戒めというのは、神の子イエス・キリストの御名
しん めい たがい あい あ
を信じ、わたしたちに命じられたように、 互に愛し合うべきことである。 二四
かみ いまし まも ひと かみ かみ ひと かみ
神の戒めを守る人は、神におり、神もまたその人にいます。そして、神がわ
かみ たま みたま し
たしたちのうちにいますことは、神がわたしたちに賜わった御霊によって知
るのである。
第四章
ヨハネの第一の手紙

あい もの れい しん れい かみ
一 愛する者たちよ。すべての霊を信じることはしないで、それらの霊が神か
で おお よげんしゃ よ で
ら出たものであるかどうか、ためしなさい。多くのにせ預言者が世に出てき
かみ れい し
ているからである。 二あなたがたは、こうして神の霊を知るのである。すな
にくたい こくはく れい
わち、イエス・キリストが肉体をとってこられたことを告白する霊は、すべ
かみ で こくはく れい かみ で
て神から出ているものであり、三イエスを告白しない霊は、すべて神から出て

8
はん れい
いるものではない。これは、反キリストの霊である。あなたがたは、それが
く き いま よ こ
来るとかねて聞いていたが、今やすでに世にきている。 四子たちよ。あなた
かみ で もの かれ か
がたは神から出た者であって、彼らにうち勝ったのである。あなたがたのう
よ もの おお もの かれ よ
ちにいますのは、世にある者よりも大いなる者なのである。 五彼らは世から
で かれ よ かた よ かれ い き
出たものである。だから、彼らは世のことを語り、世も彼らの言うことを聞
かみ で かみ し
くのである。 六しかし、わたしたちは神から出たものである。神を知ってい
もの い き かみ で もの い
る者は、わたしたちの言うことを聞き、神から出ない者は、わたしたちの言
き しんり れい まよ れい
うことを聞かない。これによって、わたしたちは、真理の霊と迷いの霊との
くべつ し
区別を知るのである。
あい もの たがい あい あい かみ
七 愛する者たちよ。わたしたちは互に愛し合おうではないか。愛は、神から
で あい もの かみ うま もの かみ し
出たものなのである。すべて愛する者は、神から生れた者であって、神を知っ
ヨハネの第一の手紙

あい もの かみ し かみ あい かみ こ
ている。 八愛さない者は、神を知らない。神は愛である。 九神はそのひとり子
よ かれ い くだ
を世につかわし、彼によってわたしたちを生きるようにして下さった。それ
たい かみ あい あき
によって、わたしたちに対する神の愛が明らかにされたのである。 一〇わたし
かみ あい かみ あい くだ
たちが神を愛したのではなく、神がわたしたちを愛して下さって、わたした
つみ そな もの み こ
ちの罪のためにあがないの供え物として、御子をおつかわしになった。ここ

9
あい あい もの かみ あい くだ
に 愛 が あ る。 一 一愛 す る 者 た ち よ。神 が こ の よ う に わ た し た ち を 愛 し て 下
たがい あい あ かみ み もの
さったのであるから、わたしたちも互に愛し合うべきである。 一二神を見た者
たがい あい あ かみ
は、まだひとりもいない。もしわたしたちが互に愛し合うなら、神はわたし
かみ あい まっと
たちのうちにいまし、神の愛がわたしたちのうちに全うされるのである。
かみ みたま たま かみ
一三 神が御霊をわたしたちに賜わったことによって、わたしたちが神におり、
かみ し ちち み こ よ
神 が わ た し た ち に い ま す こ と を 知 る。 一 四わ た し た ち は、父 が 御子 を 世 の
すくいぬし み
救 主としておつかわしになったのを見て、そのあかしをするのである。 一五
ひと かみ こ こくはく かみ ひと
もし人が、イエスを神の子と告白すれば、神はその人のうちにいまし、その
ひと かみ かみ たい
人は神のうちにいるのである。 一六わたしたちは、神がわたしたちに対して
も あい し しん かみ あい あい
持っておられる愛を知り、かつ信じている。神は愛である。愛のうちにいる
もの かみ かみ かれ よ かれ
者は、神におり、神も彼にいます。 一七わたしたちもこの世にあって彼のよう
ヨハネの第一の手紙

い ひ かくしん も た
に生きているので、さばきの日に確信を持って立つことができる。そのこと
あい まっと あい おそ
によって、愛がわたしたちに全うされているのである。 一八愛には恐れがな
かんぜん あい おそ のぞ おそ こ ともな おそ もの
い。完全な愛は恐れをとり除く。恐れには懲らしめが伴い、かつ恐れる者に
あい まっと あい あ かみ
は、愛が全うされていないからである。 一九わたしたちが愛し合うのは、神が
あい くだ かみ あい い
まずわたしたちを愛して下さったからである。 二〇﹁神を愛している﹂と言い

10
きょうだい にく もの いつわ もの げん み きょうだい あい もの
ながら兄 弟を憎む者は、偽り者である。現に見ている兄 弟を愛さない者は、
め み かみ あい かみ あい もの きょうだい あい
目に見えない神を愛することはできない。 二一神を愛する者は、 兄 弟をも愛
いまし かみ さず
すべきである。この戒めを、わたしたちは神から授かっている。
第五章
しん もの かみ うま もの
一 すべてイエスのキリストであることを信じる者は、神から生れた者である。
う くだ あい もの うま もの あい
すべて生んで下さったかたを愛する者は、そのかたから生れた者をも愛する
かみ あい いまし おこな かみ
のである。 二神を愛してその戒めを行えば、それによってわたしたちは、神の
こ あい し かみ あい
子たちを愛していることを知るのである。 三神を愛するとは、すなわち、その
いまし まも いまし
戒めを守ることである。そして、その戒めはむずかしいものではない。 四な
ヨハネの第一の手紙

かみ うま もの よ か
ぜなら、すべて神から生れた者は、世に勝つからである。そして、わたした
しんこう よ か しょうり ちから よ か もの
ちの信仰こそ、世に勝たしめた勝利の力である。 五世に勝つ者はだれか。イ
かみ こ しん もの みず ち
エスを神の子と信じる者ではないか。 六このイエス・キリストは、水と血とを
みず みず ち
とおってこられたかたである。水によるだけではなく、水と血とによってこ
みたま みたま しんり
られたのである。そのあかしをするものは、御霊である。御霊は真理だから

11
みたま みず ち
である。 七あかしをするものが、三つある。 八御霊と水と血とである。そし
いっ ち にんげん う
て、この三つのものは一致する。 九わたしたちは人間のあかしを受けいれる
かみ かみ
が、しかし、神のあかしはさらにまさっている。神のあかしというのは、す
み こ た かみ こ しん もの
な わ ち、御子 に つ い て 立 て ら れ た あ か し で あ る。 一〇神 の 子 を 信 じ る 者 は、
じぶん も かみ しん もの かみ いつわ もの
自分のうちにこのあかしを持っている。神を信じない者は、神を偽り者とす
かみ み こ しん
る。神が御子についてあかしせられたそのあかしを、信じていないからであ
かみ えいえん たま
る。 一一そのあかしとは、神が永遠のいのちをわたしたちに賜わり、かつ、そ
み こ み こ も もの
のいのちが御子のうちにあるということである。 一二御子を持つ者はいのち
も かみ み こ も もの も
を持ち、神の御子を持たない者はいのちを持っていない。
か かみ こ み な しん
一三 これらのことをあなたがたに書きおくったのは、神の子の御名を信じるあ
えいえん も さと
なたがたに、永遠のいのちを持っていることを、悟らせるためである。 一四わ
ヨハネの第一の手紙

かみ たい かくしん
たしたちが神に対していだいている確信は、こうである。すなわち、わたし
なにごと かみ みむね したが ねが もと かみ き くだ
たちが何事でも神の御旨に従 って願い求めるなら、神はそれを聞きいれて下
ねが もと
さるということである。 一五そして、わたしたちが願い求めることは、なんで
き くだ かみ ねが もと
も聞きいれて下さるとわかれば、神に願い求めたことはすでにかなえられた
し し いた つみ おか
ことを、知るのである。 一六もしだれかが死に至ることのない罪を犯している

12
きょうだい み かみ ねが もと かみ し いた
兄 弟を見たら、神に願い求めなさい。そうすれば神は、死に至ることのない
つみ おか ひとびと たま し いた つみ
罪を犯している人々には、いのちを賜わるであろう。死に至る罪がある。こ
ねが もと い ふ ぎ つみ
れについては、願い求めよ、とは言わない。 一七不義はすべて、罪である。し
し いた つみ
かし、死に至ることのない罪もある。
かみ うま もの つみ おか し
一八 すべて神から生れた者は罪を犯さないことを、わたしたちは知っている。
かみ うま かれ まも くだ あ もの て ふ
神から生れたかたが彼を守っていて下さるので、悪しき者が手を触れるよう
かみ で もの ぜん せ か い あ
なことはない。 一九また、わたしたちは神から出た者であり、全世界は悪しき
もの はいか し かみ こ しんじつ
者の配下にあることを、知っている。 二〇さらに、神の子がきて、真実なかた
し ちりょく さず くだ し
を知る知力をわたしたちに授けて下さったことも、知っている。そして、わ
しんじつ み こ
たしたちは、真実なかたにおり、御子イエス・キリストにおるのである。こ
しんじつ かみ えいえん こ き
のかたは真実な神であり、永遠のいのちである。 二一子たちよ。気をつけて、
ヨハネの第一の手紙

ぐうぞう さ
偶像を避けなさい。

13
だい てがみ
ヨハネの第二の手紙
第一章
ちょうろう しんじつ あい えら ふじん こ
一 長 老のわたしから、真実に愛している選ばれた婦人とその子たちへ。あな
あい しんり し もの
たがたを愛しているのは、わたしだけではなく、真理を知っている者はみな
えいえん とも
そうである。 二それは、わたしたちのうちにあり、また永遠に共にあるべき
しんり
真理によるのである。
ちち かみ ちち み こ めぐ へいあん
三 父なる神および父の御子イエス・キリストから、恵みとあわれみと平安と
しんり あい とも
が、真理と愛のうちにあって、わたしたちと共にあるように。
こども ちち う いまし しんり
四 あなたの子供たちのうちで、わたしたちが父から受けた戒めどおりに、真理
ヨハネの第二の手紙

ある もの み ひじょう よろこ ふじん


のうちを歩いている者があるのを見て、わたしは非常に喜んでいる。 五婦人
ねが あたら いまし か
よ。ここにお願いしたいことがある。それは、新しい戒めを書くわけではな
はじ も いまし たがい あい
く、初めから持っていた戒めなのであるが、わたしたちは、みんな互に愛し
ちち いまし ある あい
合おうではないか。 六父の戒めどおりに歩くことが、すなわち、愛であり、あ

0
はじ き あい ある
なたがたが初めから聞いてきたとおりに愛のうちを歩くことが、すなわち、
いまし にくたい
戒めなのである。 七なぜなら、イエス・キリストが肉体をとってこられたこと
こくはく ひと まど もの おお よ
を告白しないで人を惑わす者が、多く世にはいってきたからである。そうい
もの まど もの はん ちゅうい
う者は、惑わす者であり、反キリストである。 八よく注意して、わたしたちの
はたら え せいか うしな ゆた むく う
働いて得た成果を失うことがなく、豊かな報いを受けられるようにしなさい。
おしえ す もの かみ も
九 すべてキリストの教をとおり過ごして、それにとどまらない者は、神を持っ
おしえ もの ちち も み こ
ていないのである。その教にとどまっている者は、父を持ち、また御子をも
も おしえ も く もの ひと
持つ。 一〇この教を持たずにあなたがたのところに来る者があれば、その人を
いえ い ひと
家に入れることも、あいさつすることもしてはいけない。 一一そのような人に
もの わる おこな
あいさつする者は、その悪い行いにあずかることになるからである。
か かみ すみ か
一二 あなたがたに書きおくることはたくさんあるが、紙と墨とで書くことはす
ヨハネの第二の手紙

い ちょくせつ あ とも よろこ
まい。むしろ、あなたがたのところに行き、直 接はなし合って、共に喜びに
み えら しまい こども
満ちあふれたいものである。 一三選ばれたあなたの姉妹の子供たちが、あなた
によろしく。

1
だい てがみ
ヨハネの第三の手紙
第一章
ちょうろう しんじつ あい しんあい
一 長 老のわたしから、真実に愛している親愛なるガイオへ。
あい もの めぐ おな
二 愛する者よ。あなたのたましいがいつも恵まれていると同じく、あなたが
めぐ いの
すべてのことに恵まれ、またすこやかであるようにと、わたしは祈っている。
きょうだい しんり い
三 兄 弟たちがきて、あなたが真理に生きていることを、あかししてくれたの
よろこ じじつ しんり ある
で、ひじょうに喜んでいる。事実、あなたは真理のうちを歩いているのであ
こども しんり ある き いじょう おお
る。 四わたしの子供たちが真理のうちを歩いていることを聞く以上に、大き
よろこ
い喜びはない。
ヨハネの第三の手紙

あい もの きょうだい たびさき もの
五 愛する者よ。あなたが、兄 弟たち、しかも旅先にある者につくしているこ
しんじつ かれ しょきょうかい あい
とは、みな真実なわざである。 六彼らは、諸 教 会で、あなたの愛についてあ
ひとびと かみ おく だ
かしをした。それらの人々を、神のみこころにかなうように送り出してくれ
ねが かれ み な たびだ もの
たら、それは願わしいことである。 七彼らは、御名のために旅立った者であっ

0
いほうじん なに う しんり
て、異邦人からは何も受けていない。 八それだから、わたしたちは、真理のた
どうろうしゃ ひとびと たす
めの同労者となるように、こういう人々を助けねばならない。
すこ きょうかい か
九 わたしは少しばかり教 会に書きおくっておいたが、みんなのかしらになり

たがっているデオテレペスが、わたしたちを受けいれてくれない。 一〇だか
い とき かれ してき おも かれ くち
ら、わたしがそちらへ行った時、彼のしわざを指摘しようと思う。彼は口ぎ
きょうだい う
たなくわたしたちをののしり、そればかりか、兄 弟たちを受けいれようとも
う ひと さまた きょうかい お だ
せず、受けいれようとする人たちを妨げて、 教 会から追い出している。
あい もの あく ぜん ぜん おこな もの かみ
一一 愛する者よ。悪にならわないで、善にならいなさい。善を行う者は神から
で もの あく おこな もの かみ み もの
出た者であり、悪を行う者は神を見たことのない者である。 一二デメテリオに
ひと しんり しょうめい
ついては、あらゆる人も、また真理そのものも、証 明している。わたしたち
しょうめい し しょうめい
も証 明している。そして、あなたが知っているとおり、わたしたちの証 明は
ヨハネの第三の手紙

しんじつ
真実である。
か すみ ふで か
一三 あなたに書きおくりたいことはたくさんあるが、墨と筆とで書くことはす
あ ちょくせつ あ
まい。 一四すぐにでもあなたに会って、 直 接はなし合いたいものである。 一五
へいあん ゆうじん ゆうじん
平安が、あなたにあるように。友人たちから、あなたによろしく。友人たち
ひとりびとりに、よろしく。

1
てがみ
ユダの手紙
第一章
しもべ きょうだい ちち かみ あい
一 イエス・キリストの僕またヤコブの兄 弟であるユダから、父なる神に愛さ
まも め ひとびと
れ、イエス・キリストに守られている召された人々へ。
へいあん あい ゆた くわ
二 あわれみと平安と愛とが、あなたがたに豊かに加わるように。
あい もの とも すくい
三 愛する者たちよ。わたしたちが共にあずかっている救について、あなたが
か こころ ねが せいと
たに書きおくりたいと心から願っていたので、聖徒たちによって、ひとたび
つた しんこう たたか すす てがみ ひつよう かん
伝えられた信仰のために戦うことを勧めるように、手紙をおくる必要を感じ
いた ふ しんこう ひとびと こ
るに至った。 四そのわけは、不信仰な人々がしのび込んできて、わたしたちの
かみ めぐ ほうじゅう せいかつ か ゆいいつ きみ しゅ
神の恵みを放 縦な生活に変え、唯一の君であり、わたしたちの主であるイエ
ひてい かれ う
ス・キリストを否定しているからである。彼らは、このようなさばきを受け
ユダの手紙

むかし よこく
ることに、 昔から予告されているのである。
し しゅ たみ
五 あなたがたはみな、じゅうぶんに知っていることではあるが、主が民をエジ

0
ち すく だ のち ふ しんこう もの ほろ おも おこ
プトの地から救い出して後、不信仰な者を滅ぼされたことを、思い起しても
しゅ じぶん ち い まも ところ す
らいたい。 六主は、自分たちの地位を守ろうとはせず、そのおるべき所を捨て
さ みつかい おお ひ えいきゅう
去った御使たちを、大いなる日のさばきのために、永 久にしばりつけたまま、
くら なか と こ まちまち
暗 や み の 中 に 閉 じ 込 め て お か れ た。 七ソ ド ム、ゴ モ ラ も、ま わ り の 町々 も、
どうよう おな いんこう ふ し ぜ ん にくよく はし えいえん
同様であって、同じように淫行にふけり、不自然な肉欲に走ったので、永遠
ひ けいばつ う ひとびと み おな
の火の刑罰を受け、人々の見せしめにされている。 八しかし、これと同じよう
ひとびと ゆめ まよ にく けが けんい もの かろ えいこう
に、これらの人々は、夢に迷わされて肉を汚し、権威ある者たちを軽んじ、栄光
もの みつかい したい
ある者たちをそしっている。 九御使のかしらミカエルは、モーセの死体につ
あくま ろん あらそ とき あいて
いて悪魔と論じ争 った時、相手をののしりさばくことはあえてせず、ただ、
しゅ いまし くだ い
﹁主がおまえを戒めて下さるように﹂と言っただけであった。 一〇しかし、この
ひとびと じぶん し ふんべつ どうぶつ
人々は自分が知りもしないことをそしり、また、分別のない動物のように、た
ほんのうてき ちしき みずか めつぼう まね かれ
だ本能的な知識にあやまられて、 自らの滅亡を招いている。 一一彼らはわざ
かれ みち い り まど まよ い
わいである。彼らはカインの道を行き、利のためにバラムの惑わしに迷い入
はんぎゃく ほろ かれ
り、コラのような反 逆をして滅んでしまうのである。 一二彼らは、あなたがた
ユダの手紙

あいさん くわ けが ぶえんりょ えんかい どうせき じぶん はら こ


の愛餐に加わるが、それを汚し、無遠慮に宴会に同席して、自分の腹を肥や
かれ かぜ ふ みず くも みの か は
している。彼らは、いわば、風に吹きまわされる水なき雲、実らない枯れ果

1
ぬ す あき き じぶん はじ だ うみ あらなみ
てて、抜き捨てられた秋の木、 一三自分の恥をあわにして出す海の荒波、さま
ほし かれ えいきゅう ようい
よう星である。彼らには、まっくらなやみが永 久に用意されている。 一四ア
だいめ かれ よげん い み しゅ
ダムから七代目にあたるエノクも彼らについて預言して言った、
﹁見よ、主は
むすう せいと ひき もの おこな
無数の聖徒たちを率いてこられた。 一五それは、すべての者にさばきを行うた
ふしんじん もの しんこう む し おか ふしんじん
めであり、また、不信心な者が、信仰を無視して犯したすべての不信心なし
ふしんじん つみびと しゅ かた ぼうげん せ
わざと、さらに、不信心な罪人が主にそむいて語ったすべての暴言とを責め
かれ ふへい ふまん な もの じぶん よく
るためである﹂。 一六彼らは不平をならべ、不満を鳴らす者であり、自分の欲の
せいかつ くち たいげん は り ひと もの
ままに生活し、その口は大言を吐き、利のために人にへつらう者である。
あい もの しゅ し と よこく
一七 愛する者たちよ。わたしたちの主イエス・キリストの使徒たちが予告した
ことば おも だ かれ い おわ とき
言葉を思い出しなさい。 一八彼らはあなたがたにこう言った、
﹁終りの時に、あ
もの じぶん ふしんじん よく せいかつ
ざける者たちがあらわれて、自分の不信心な欲のままに生活するであろう﹂。
かれ ぶんぱ もの にく ぞく もの みたま も もの
一九 彼らは分派をつくる者、肉に属する者、御霊を持たない者たちである。 二〇
あい もの もっと しんせい しんこう うえ みずか きず
しかし、愛する者たちよ。あなたがたは、 最も神聖な信仰の上に自らを築き
あ せいれい いの かみ あい なか みずか たも えいえん め
上げ、聖霊によって祈り、 二一神の愛の中に自らを保ち、永遠のいのちを目あ
ユダの手紙

しゅ ま のぞ
てとして、わたしたちの主イエス・キリストのあわれみを待ち望みなさい。 二
うたが ひとびと かれ ひ なか ひ だ
二 疑いをいだく人々があれば、彼らをあわれみ、 二三火の中から引き出して

2
すく ひと こころ
救ってやりなさい。また、そのほかの人たちを、おそれの心をもってあわれ
にく けが もの たい したぎ い
みなさい。しかし、肉に汚れた者に対しては、その下着さえも忌みきらいな
さい。
まも もの えいこう きず
二四 あなたがたを守ってつまずかない者とし、また、その栄光のまえに傷なき
もの よろこ た くだ
者として、 喜びのうちに立たせて下さるかた、 二五すなわち、わたしたちの
すくいぬし ゆいいつ かみ えいこう たいのう ちから けんい しゅ
救 主なる唯一の神に、栄光、大能、 力、権威が、わたしたちの主イエス・キ
よ よ はじ いま よ よ かぎ
リストによって、世々の初めにも、今も、また、世々限りなく、あるように、
アァメン。
ユダの手紙

3
もくしろく
ヨハネの黙示録
第一章
もくし もくし かみ おこ
一 イエス・キリストの黙示。この黙示は、神が、すぐにも起るべきことをその
しもべ しめ あた みつかい
僕たちに示すためキリストに与え、そして、キリストが、御使をつかわして、
しもべ つた かみ ことば
僕 ヨハネに伝えられたものである。 二ヨハネは、神の言とイエス・キリスト
じぶん み よげん
のあかしと、すなわち、自分が見たすべてのことをあかしした。 三この預言の
ことば ろうどく もの き なか か まも もの
言葉を朗読する者と、これを聞いて、その中に書かれていることを守る者た
とき ちか
ちとは、さいわいである。時が近づいているからである。
きょうかい いま むかし
四 ヨハネからアジヤにある七つの教 会へ。今いまし、 昔いまし、やがてきた
み ざ まえ れい ちゅうじつ
るべきかたから、また、その御座の前にある七つの霊から、 五また、 忠 実な
ヨハネの黙示録

しょうにん しにん なか さいしょ うま もの ちじょう しょおう しはいしゃ


証 人、死人の中から最初に生れた者、地上の諸王の支配者であるイエス・キ
めぐ へいあん あい
リストから、恵みと平安とが、あなたがたにあるように。わたしたちを愛し、
ち つみ かいほう ちち かみ
その血によってわたしたちを罪から解放し、六わたしたちを、その父なる神の

0
みくに たみ さいし くだ よ よ かぎ えいこう けんりょく
ために、御国の民とし、祭司として下さったかたに、世々限りなく栄光と権 力
とがあるように、アァメン。
み かれ くも の ひと め かれ さ
七 見よ、彼は、雲に乗ってこられる。すべての人の目、ことに、彼を刺しとお
もの かれ あお み ちじょう しょぞく かれ
した者たちは、彼を仰ぎ見るであろう。また地上の諸族はみな、彼のゆえに
むね う なげ
胸を打って嘆くであろう。しかり、アァメン。
いま むかし もの ぜんのうしゃ しゅ かみ おお
八 今いまし、 昔いまし、やがてきたるべき者、全能者にして主なる神が仰せ
になる、﹁わたしはアルパであり、オメガである﹂。
きょうだい とも くなん みくに にんたい
九 あなたがたの兄 弟であり、共にイエスの苦難と御国と忍耐とにあずかって
かみ ことば
いる、わたしヨハネは、神の言とイエスのあかしとのゆえに、パトモスとい
しま しゅ ひ みたま かん
う島にいた。 一〇ところが、わたしは、主の日に御霊に感じた。そして、わた
ほう おお こえ き こえ
しのうしろの方で、ラッパのような大きな声がするのを聞いた。 一一その声は
い み か
こう言った、
﹁あなたが見ていることを書きものにして、それをエペソ、スミ
ヨハネの黙示録

ルナ、ペルガモ、テアテラ、サルデス、ヒラデルヒヤ、ラオデキヤにある七
きょうかい おく よ こえ
つの教 会に送りなさい﹂。 一二そこでわたしは、わたしに呼びかけたその声を
み きん しょくだい め
見ようとしてふりむいた。ふりむくと、七つの金の燭 台が目についた。 一三
しょくだい あいだ あし うわぎ き むね きん おび ひと
それらの燭 台の間に、足までたれた上着を着、胸に金の帯をしめている人の

1
こ もの かみ け ゆき しろ ようもう に
子のような者がいた。 一四そのかしらと髪の毛とは、雪のように白い羊毛に似
まっしろ め も ほのお あし ろ せいれん
て真白であり、目は燃える炎のようであった。 一五その足は、炉で精錬されて
ひか かがや こえ おおみず
光り輝くしんちゅうのようであり、声は大水のとどろきのようであった。 一六
みぎて ほし も くち するど は で
その右手に七つの星を持ち、口からは、鋭いもろ刃のつるぎがつき出ており、
かお つよ て かがや たいよう
顔は、強く照り輝く太陽のようであった。
かれ み あし たお しにん
一七 わたしは彼を見たとき、その足もとに倒れて死人のようになった。する
かれ みぎて うえ い おそ はじ
と、彼は右手をわたしの上において言った、﹁恐れるな。わたしは初めであり、
おわ い もの し み
終りであり、一八また、生きている者である。わたしは死んだことはあるが、見
よ よ かぎ い もの し よ み も
よ、世々限りなく生きている者である。そして、死と黄泉とのかぎを持って
み げんざい こ ん ご おこ
いる。 一九そこで、あなたの見たこと、現在のこと、今後起ろうとすることを、
か みぎて み ほし きん
書きとめなさい。 二〇あなたがわたしの右手に見た七つの星と、七つの金の
しょくだい おくぎ ほし きょうかい みつかい
燭 台との奥義は、こうである。すなわち、七つの星は七つの教 会の御使であ
ヨハネの黙示録

しょくだい きょうかい
り、七つの燭 台は七つの教 会である。

2
第二章
きょうかい みつかい か
一 エペソにある教 会の御使に、こう書きおくりなさい。
みぎ て ほし も もの きん しょくだい あいだ ある もの つぎ い
﹃右の手に七つの星を持つ者、七つの金の燭 台の間を歩く者が、次のように言
ろうく にんたい し
われる。 二わたしは、あなたのわざと労苦と忍耐とを知っている。また、あな
わる もの し と じ しょう
たが、悪い者たちをゆるしておくことができず、使徒と自 称してはいるが、そ
じつ し と もの もの み ぬ
の実、使徒でない者たちをためしてみて、にせ者であると見抜いたことも、
し にんたい つづ な しの よわ
知っている。 三あなたは忍耐をし続け、わたしの名のために忍びとおして、弱
は たい せ
り果てることがなかった。 四しかし、あなたに対して責むべきことがある。
はじ あい はな お
あなたは初めの愛から離れてしまった。 五そこで、あなたはどこから落ちた
おも おこ く あらた はじ おこな く
かを思い起し、悔い改めて初めのわざを行いなさい。もし、そうしないで悔
あらた しょくだい ば しょ
い改めなければ、わたしはあなたのところにきて、あなたの燭 台をその場所
ヨハネの黙示録

と しゅう
から取りのけよう。 六しかし、こういうことはある、あなたはニコライ 宗の
ひとびと にく にく みみ もの みたま
人々のわざを憎んでおり、わたしもそれを憎んでいる。 七耳のある者は、御霊
しょきょうかい い き しょうり え もの かみ
が諸 教 会に言うことを聞くがよい。勝利を得る者には、神のパラダイスにあ
き み た
るいのちの木の実を食べることをゆるそう﹄。

3
きょうかい みつかい か
八 スミルナにある教 会の御使に、こう書きおくりなさい。
はじ おわ もの し い かえ もの つぎ
﹃初めであり、終りである者、死んだことはあるが生き返った者が、次のよう
い くなん まず し じっさい
に言われる。 九わたしは、あなたの苦難や、貧しさを知っている︵しかし実際
と じん じ しょう じつ
は、あなたは富んでいるのだ︶。また、ユダヤ人と自 称してはいるが、その実
じん かいどう ぞく もの
ユダヤ人でなくてサタンの会堂に属する者たちにそしられていることも、わ
し う くる おそ
たしは知っている。 一〇あなたの受けようとする苦しみを恐れてはならない。
み あくま もの ごく い
見よ、悪魔が、あなたがたのうちのある者をためすために、獄に入れようと
か あいだ くなん し いた ちゅうじつ
している。あなたがたは十日の間、苦難にあうであろう。死に至るまで忠 実
かんむり あた みみ もの みたま しょ
であれ。そうすれば、いのちの冠を与えよう。 一一耳のある者は、御霊が諸
きょうかい い き しょうり え もの だい し ほろ
教 会に言うことを聞くがよい。勝利を得る者は、第二の死によって滅ぼされ
ることはない﹄。
きょうかい みつかい か
一二 ペルガモにある教 会の御使に、こう書きおくりなさい。
ヨハネの黙示録

するど は も つぎ い
﹃鋭いもろ刃のつるぎを持っているかたが、次のように言われる。 一三わたし
す ところ し ざ
はあなたの住んでいる所を知っている。そこにはサタンの座がある。あなた
な かた も ちゅうじつ しょうにん
は、わたしの名を堅く持ちつづけ、わたしの忠 実な証 人 アンテパスがサタン
す ところ ころ とき たい しんこう す
の住んでいるあなたがたの所で殺された時でさえ、わたしに対する信仰を捨

4
たい せ すこ
てなかった。 一四しかし、あなたに対して責むべきことが、少しばかりある。
なか げん おしえ ほう もの
あなたがたの中には、現にバラムの教を奉じている者がある。バラムは、バ
おし こ こ まえ お
ラクに教え込み、イスラエルの子らの前に、つまずきになるものを置かせて、
ぐうぞう た ふひんこう おな
偶像にささげたものを食べさせ、また不品行をさせたのである。 一五同じよう
なか しゅう おしえ ほう もの
に、あなたがたの中には、ニコライ 宗の教を奉じている者もいる。 一六だか
く あらた い
ら、悔い改めなさい。そうしないと、わたしはすぐにあなたのところに行き、
くち かれ たたか みみ もの みたま しょ
わ た し の 口 の つ る ぎ を も っ て 彼 ら と 戦 お う。 一 七耳 の あ る 者 は、御霊 が 諸
きょうかい い き しょうり え もの かく あた
教 会に言うことを聞くがよい。勝利を得る者には、隠されているマナを与え
しろ いし あた いし うえ う もの
よう。また、白い石を与えよう。この石の上には、これを受ける者のほかだ
し あたら な か
れも知らない新しい名が書いてある﹄。
きょうかい みつかい か
一八 テアテラにある教 会の御使に、こう書きおくりなさい。
も ほのお め ひか かがや あし も かみ こ
﹃燃える炎のような目と光り輝くしんちゅうのような足とを持った神の子が、
ヨハネの黙示録

つぎ い あい しんこう
次のように言われる。 一九わたしは、あなたのわざと、あなたの愛と信仰と
ほうし にんたい し のち はじ
奉仕と忍耐とを知っている。また、あなたの後のわざが、初めのよりもまさっ
し たい せ
ていることを知っている。 二〇しかし、あなたに対して責むべきことがある。
おんな おんな
あなたは、あのイゼベルという女を、そのなすがままにさせている。この女

5
おんな よ げ ん し ゃ じ しょう しもべ おし まど ふひんこう ぐうぞう
は女 預言者と自 称し、わたしの僕たちを教え、惑わして、不品行をさせ、偶像
た おんな く あらた
にささげたものを食べさせている。 二一わたしは、この女に悔い改めるおりを
あた く あらた ふひんこう み
与えたが、悔い改めてその不品行をやめようとはしない。 二二見よ、わたしは
おんな やまい とこ な い おんな かんいん もの く あらた かのじょ
この女を病の床に投げ入れる。この女と姦淫する者をも、悔い改めて彼女の
はな おお かんなん なか な い おんな こ
わざから離れなければ、大きな患難の中に投げ入れる。 二三また、この女の子
とも う ころ きょうかい ひと こころ おくそこ
供たちをも打ち殺そう。こうしてすべての教 会は、わたしが人の心の奥底ま
さぐ し もの さと
でも探り知る者であることを悟るであろう。そしてわたしは、あなたがたひ
おう むく ひと
とりびとりのわざに応じて報いよう。 二四また、テアテラにいるほかの人たち
おんな おしえ う ふか し
で、まだあの女の教を受けておらず、サタンの、いわゆる﹁深み﹂を知らな
い べつ おもに お
いあなたがたに言う。わたしは別にほかの重荷を、あなたがたに負わせるこ
く とき じぶん も かた
とはしない。 二五ただ、わたしが来る時まで、自分の持っているものを堅く
たも しょうり え もの さいご も つづ もの
保っていなさい。 二六勝利を得る者、わたしのわざを最後まで持ち続ける者に
ヨハネの黙示録

しょこくみん しはい けんい さず かれ てつ つち


は、諸国民を支配する権威を授ける。 二七彼は鉄のつえをもって、ちょうど土
うつわ くだ かれ おさ じしん ちち けんい
の器を砕くように、彼らを治めるであろう。それは、わたし自身が父から権威
う おさ どうよう かれ あ みょうじょう あた
を受けて治めるのと同様である。 二八わたしはまた、彼に明けの明 星を与え
みみ もの みたま しょきょうかい い き
る。 二九耳のある者は、御霊が諸 教 会に言うことを聞くがよい﹄。

6
第三章
きょうかい みつかい か
一 サルデスにある教 会の御使に、こう書きおくりなさい。
かみ れい ほし も つぎ い
﹃神の七つの霊と七つの星とを持つかたが、次のように言われる。わたしはあ
し い な
なたのわざを知っている。すなわち、あなたは、生きているというのは名だ
じつ し め し のこ もの
けで、実は死んでいる。 二目をさましていて、死にかけている残りの者たちを
ちから かみ かんぜん
力づけなさい。わたしは、あなたのわざが、わたしの神のみまえに完全であ
み う き
るとは見ていない。 三だから、あなたが、どのようにして受けたか、また聞い
おも おこ まも く あらた め
たかを思い起して、それを守りとおし、かつ悔い改めなさい。もし目をさま
ぬすびと く とき
していないなら、わたしは盗人のように来るであろう。どんな時にあなたの
く けっ
ところに来るか、あなたには決してわからない。 四しかし、サルデスにはその
ころも けが ひと すうにん かれ しろ ころも き とも あゆ つづ
衣を汚さない人が、数人いる。彼らは白い衣を着て、わたしと共に歩みを続
ヨハネの黙示録

かれ もの しょうり え もの
けるであろう。彼らは、それにふさわしい者である。 五勝利を得る者は、この
しろ ころも き な しょ け
ように白い衣を着せられるのである。わたしは、その名をいのちの書から消
けっ ちち みつかい まえ
すようなことを、決してしない。また、わたしの父と御使たちの前で、その
な い みみ もの みたま しょきょうかい い き
名を言いあらわそう。 六耳のある者は、御霊が諸 教 会に言うことを聞くがよ

7
い﹄。
きょうかい みつかい か
七 ヒラデルヒヤにある教 会の御使に、こう書きおくりなさい。
せい もの もの も もの ひら と
﹃聖なる者、まことなる者、ダビデのかぎを持つ者、開けばだれにも閉じられ
と ひら もの つぎ い
ることがなく、閉じればだれにも開かれることのない者が、次のように言わ
し み まえ
れる。 八わたしは、あなたのわざを知っている。見よ、わたしは、あなたの前
と もん ひら
に、だれも閉じることのできない門を開いておいた。なぜなら、あなたには
すこ ちから ことば まも な
少ししか力がなかったにもかかわらず、わたしの言葉を守り、わたしの名を
いな み かいどう ぞく もの
否まなかったからである。 九見よ、サタンの会堂に属する者、すなわち、ユダ
じん じ しょう じつ じん いつわ もの
ヤ人と自 称してはいるが、その実ユダヤ人でなくて、 偽る者たちに、こうし
み かれ あし へいふく
よう。見よ、彼らがあなたの足もとにきて平伏するようにし、そして、わた
あい かれ し にんたい
しがあなたを愛していることを、彼らに知らせよう。 一〇忍耐についてのわた
ことば まも ちじょう す もの
しの言葉をあなたが守ったから、わたしも、地上に住む者たちをためすため
ヨハネの黙示録

ぜん せ か い のぞ しれん とき ふせ まも
に、全世界に臨もうとしている試錬の時に、あなたを防ぎ守ろう。 一一わたし
く かんむり うば じぶん も
は、すぐに来る。あなたの冠がだれにも奪われないように、自分の持ってい
かた まも しょうり え もの かみ せいじょ
るものを堅く守っていなさい。 一二勝利を得る者を、わたしの神の聖所におけ
はしら かれ けっ ど そと で かれ うえ
る柱にしよう。彼は決して二度と外へ出ることはない。そして彼の上に、わ

8
かみ み な かみ みやこ てん かみ
たしの神の御名と、わたしの神の都、すなわち、天とわたしの神のみもとか
くだ あたら な あたら な か
ら下ってくる新しいエルサレムの名と、わたしの新しい名とを、書きつけよ
みみ もの みたま しょきょうかい い き
う。 一三耳のある者は、御霊が諸 教 会に言うことを聞くがよい﹄。
きょうかい みつかい か
一四 ラオデキヤにある教 会の御使に、こう書きおくりなさい。
もの ちゅうじつ しょうにん かみ つく こんげん
﹃アァメンたる者、 忠 実な、まことの証 人、神に造られたものの根源である
つぎ い し
かたが、次のように言われる。 一五わたしはあなたのわざを知っている。あな
つめ あつ つめ あつ
たは冷たくもなく、熱くもない。むしろ、冷たいか熱いかであってほしい。 一
あつ つめ くち
六 このように、熱くもなく、冷たくもなく、なまぬるいので、あなたを口から
は だ じぶん と ゆた ふ じ ゆ う
吐き出そう。 一七あなたは、自分は富んでいる、豊かになった、なんの不自由
い じつ じしん もの もの まず
もないと言っているが、実は、あなた自身がみじめな者、あわれむべき者、貧
もの め み もの はだか もの き
しい者、目の見えない者、 裸な者であることに気がついていない。 一八そこ
すす と もの ひ せいれん きん
で、あなたに勧める。富む者となるために、わたしから火で精錬された金を
ヨハネの黙示録

か はだか はじ み つ しろ ころも
買い、また、あなたの裸の恥をさらさないため身に着けるように、白い衣を
か み め めぐすり か
買いなさい。また、見えるようになるため、目にぬる目薬を買いなさい。 一九
あい もの こ
すべてわたしの愛している者を、わたしはしかったり、懲らしめたりする。だ
ねっしん く あらた み と そと た
から、熱心になって悔い改めなさい。 二〇見よ、わたしは戸の外に立って、た

9
こえ き と なか
たいている。だれでもわたしの声を聞いて戸をあけるなら、わたしはその中
かれ しょく とも かれ しょく とも
に は い っ て 彼 と 食 を 共 に し、彼 も ま た わ た し と 食 を 共 に す る で あ ろ う。 二一
しょうり え もの とも ざ
勝利を得る者には、わたしと共にわたしの座につかせよう。それはちょうど、
しょうり え ちち とも み ざ どうよう
わたしが勝利を得てわたしの父と共にその御座についたのと同様である。 二二
みみ もの みたま しょきょうかい い き
耳のある者は、御霊が諸 教 会に言うことを聞くがよい﹄﹂。
第四章
のち み み ひら もん てん
一 その後、わたしが見ていると、見よ、開いた門が天にあった。そして、さき
こえ よ き はじ こえ
にラッパのような声でわたしに呼びかけるのを聞いた初めの声が、﹁ここに
のぼ のち おこ み
上ってきなさい。そうしたら、これから後に起るべきことを、見せてあげよ
い みたま かん み み ざ てん
う﹂と言った。 二すると、たちまち、わたしは御霊に感じた。見よ、御座が天
ヨハネの黙示録

もう み ざ ざ
に設けられており、その御座にいますかたがあった。 三その座にいますかた
へきぎょく あか み み ざ りょくぎょく
は、 碧 玉や赤めのうのように見え、また、御座のまわりには、 緑 玉のよう
み あらわ み ざ ざ
に見えるにじが現れていた。 四また、御座のまわりには二十四の座があって、
にん ちょうろう しろ ころも み あたま きん かんむり ざ
二十四人の長 老が白い衣を身にまとい、頭に金の冠をかぶって、それらの座

10
み ざ こえ らいめい はっ
についていた。 五御座からは、いなずまと、もろもろの声と、雷鳴とが、発し
ひ み ざ まえ も かみ
ていた。また、七つのともし火が、御座の前で燃えていた。これらは、神の
れい み ざ まえ すいしょう に うみ
七 つ の 霊 で あ る。 六御座 の 前 は、 水 晶 に 似 た ガ ラ ス の 海 の よ う で あ っ た。
み ざ ちか い もの まえ うしろ
御座のそば近くそのまわりには、四つの生き物がいたが、その前にも後にも、
めん め だい い もの だい い もの
一面に目がついていた。 七第一の生き物はししのようであり、第二の生き物
お うし だい い もの ひと かお だい い
は雄牛のようであり、第三の生き物は人のような顔をしており、第四の生き
もの と い もの つばさ
物は飛ぶわしのようであった。 八この四つの生き物には、それぞれ六つの翼
つばさ うちがわ め み ひる よる た
があり、その翼のまわりも内側も目で満ちていた。そして、昼も夜も、絶え
ま さけ
間なくこう叫びつづけていた、
せい せい せい
﹁聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、
ぜんのうしゃ しゅ かみ
全能者にして主なる神。
むかし いま もの
昔いまし、今いまし、やがてきたるべき者﹂。
ヨハネの黙示録

い もの み ざ よ よ かぎ い
九 これらの生き物が、御座にいまし、かつ、世々限りなく生きておられるかた
えいこう き かんしゃ とき にん ちょうろう
に、栄光とほまれとを帰し、また、感謝をささげている時、一〇二十四人の長 老
み ざ ふ よ よ かぎ い
は、御座にいますかたのみまえにひれ伏し、世々限りなく生きておられるか
おが かれ かんむり み ざ な だ い
たを拝み、彼らの冠を御座のまえに、投げ出して言った、

11
しゅ かみ
一一 ﹁われらの主なる神よ、
あなたこそは、
えいこう ちから う
栄光とほまれと力とを受けるにふさわしいかた。
ばんぶつ つく
あなたは万物を造られました。
みむね ばんぶつ そんざい
御旨によって、万物は存在し、
つく
また造られたのであります﹂。
第五章
み ざ みぎ て まきもの み
一 わたしはまた、御座にいますかたの右の手に、巻物があるのを見た。その
うちがわ そとがわ じ か ふういん ふう
内側にも外側にも字が書いてあって、七つの封印で封じてあった。 二また、ひ
つよ みつかい おおごえ まきもの ひら ふういん もの
とりの強い御使が、大声で、
﹁その巻物を開き、封印をとくのにふさわしい者
ヨハネの黙示録

よ み てん ち ち した
は、だれか﹂と呼ばわっているのを見た。 三しかし、天にも地にも地の下にも、
まきもの ひら み もの
この巻物を開いて、それを見ることのできる者は、ひとりもいなかった。 四
まきもの ひら み もの みあた はげ
巻物を開いてそれを見るのにふさわしい者が見当らないので、わたしは激し

12
な ちょうろう い な み
く泣いていた。 五すると、 長 老のひとりがわたしに言った、
﹁泣くな。見よ、
ぞく わかえだ しょうり え まきもの ひら
ユダ族のしし、ダビデの若枝であるかたが、勝利を得たので、その巻物を開
ふういん と
き七つの封印を解くことができる﹂。
み ざ い もの あいだ ちょうろう あいだ
六 わたしはまた、御座と四つの生き物との間、 長 老たちの間に、ほふられた
こひつじ た み つの め
と み え る 小羊 が 立 っ て い る の を 見 た。そ れ に 七 つ の 角 と 七 つ の 目 と が あ っ
め ぜん せ か い かみ れい こひつじ すす
た。これらの目は、全世界につかわされた、神の七つの霊である。 七小羊は進
で み ざ みぎ て まきもの う まきもの う
み出て、御座にいますかたの右の手から、巻物を受けとった。 八巻物を受け
とき い もの にん ちょうろう たてごと こう み
とった時、四つの生き物と二十四人の長 老とは、おのおの、立琴と、香の満
きん はち て も こひつじ まえ ふ こう せいと いのり
ちている金の鉢とを手に持って、小羊の前にひれ伏した。この香は聖徒の祈
かれ あたら うた うた い まきもの う
である。 九彼らは新しい歌を歌って言った、
﹁あなたこそは、その巻物を受け
ふういん と ち
とり、封印を解くにふさわしいかたであります。あなたはほふられ、その血
かみ ぶぞく こくご みんぞく こくみん なか ひとびと
によって、神のために、あらゆる部族、国語、民族、国民の中から人々をあ
ヨハネの黙示録

かみ かれ みくに たみ さいし
がない、 一〇わたしたちの神のために、彼らを御国の民とし、祭司となさいま
かれ ちじょう しはい いた
した。彼らは地上を支配するに至るでしょう﹂。
み み ざ い もの ちょうろう おお みつかい
一一 さらに見ていると、御座と生き物と長 老たちとのまわりに、多くの御使た
こえ あ き かず いく ばい いく ばい
ちの声が上がるのを聞いた。その数は万の幾万倍、千の幾千倍もあって、 一二

13
おおごえ さけ
大声で叫んでいた、
こひつじ
﹁ほふられた小羊こそは、
ちから とみ ち え いきお えいこう
力と、富と、知恵と、 勢いと、ほまれと、栄光と、

さんびとを受けるにふさわしい﹂。
てん ち ち した うみ なか つく
一三 またわたしは、天と地、地の下と海の中にあるすべての造られたもの、そ
なか い こえ き
して、それらの中にあるすべてのものの言う声を聞いた、
み ざ こひつじ
﹁御座にいますかたと小羊とに、
えいこう けんりょく
さんびと、ほまれと、栄光と、 権 力とが、
よ よ かぎ
世々限りなくあるように﹂。
い もの とな ちょうろう ふ れいはい
一四 四つの生き物はアァメンと唱え、 長 老たちはひれ伏して礼拝した。
第六章
ヨハネの黙示録

こひつじ ふういん と とき み い
一 小羊がその七つの封印の一つを解いた時、わたしが見ていると、四つの生き
もの かみなり こえ よ き み
物の一つが、 雷のような声で﹁きたれ﹂と呼ぶのを聞いた。 二そして見てい
み しろ うま で の もの ゆみ て
ると、見よ、白い馬が出てきた。そして、それに乗っている者は、弓を手に

14
も かんむり あた しょうり うえ しょうり え で
持っており、また冠を与えられて、勝利の上にもなお勝利を得ようとして出
かけた。
こひつじ だい ふういん と とき だい い もの い
三 小羊が第二の封印を解いた時、第二の生き物が﹁きたれ﹂と言うのを、わた
き こんど あか うま で の
しは聞いた。 四すると今度は、赤い馬が出てきた。そして、それに乗っている
もの ひとびと たがい ころ あ ちじょう へいわ うば と
者は、人々が互に殺し合うようになるために、地上から平和を奪い取ること
ゆる おお あた
を許され、また、大きなつるぎを与えられた。
だい ふういん と とき だい い もの い
五 また、第三の封印を解いた時、第三の生き物が﹁きたれ﹂と言うのを、わた
き み み くろ うま で
しは聞いた。そこで見ていると、見よ、黒い馬が出てきた。そして、それに
の もの て も い もの
乗っている者は、はかりを手に持っていた。 六すると、わたしは四つの生き物
あいだ で く おも こえ い き こむぎ
の間から出て来ると思われる声が、こう言うのを聞いた、
﹁小麦一ますは一デ
おおむぎ ゆ しゅ
ナリ。大麦三ますも一デナリ。オリブ油とぶどう酒とを、そこなうな﹂。
こひつじ だい ふういん と とき だい い もの い こえ
七 小羊が第四の封印を解いた時、第四の生き物が﹁きたれ﹂と言う声を、わた
ヨハネの黙示録

き み み あおじろ うま で
しは聞いた。 八そこで見ていると、見よ、青白い馬が出てきた。そして、それ
の もの な し い よ み したが かれ ち
に乗っている者の名は﹁死﹂と言い、それに黄泉が従 っていた。彼らには、地
ぶん しはい けんい し ち けもの
の四分の一を支配する権威、および、つるぎと、ききんと、死と、地の獣ら
ひと ころ けんい あた
とによって人を殺す権威とが、与えられた。

15
こひつじ だい ふういん と とき かみ ことば た
九 小羊が第五の封印を解いた時、神の言のゆえに、また、そのあかしを立てた
ころ ひとびと れいこん さいだん した み かれ
ために、殺された人々の霊魂が、祭壇の下にいるのを、わたしは見た。 一〇彼
おおごえ さけ い せい しゅ
らは大声で叫んで言った、
﹁聖なる、まことなる主よ。いつまであなたは、さ
ち す もの たい ち ほうふく
ばくことをなさらず、また地に住む者に対して、わたしたちの血の報復をな
かれ しろ ころも あた
さらないのですか﹂。 一一すると、彼らのひとりびとりに白い衣が与えられ、そ
かれ おな ころ しもべ な か ま きょうだい かず み
れから、﹁彼らと同じく殺されようとする僕 仲間や兄 弟たちの数が満ちるま
あいだ やす い わた
で、もうしばらくの間、休んでいるように﹂と言い渡された。
こひつじ だい ふういん と とき み だい じ し ん おこ たいよう
一二 小羊が第六の封印を解いた時、わたしが見ていると、大地震が起って、太陽
けおり あらぬの くろ つき ぜんめん ち てん ほし
は毛織の荒布のように黒くなり、月は全面、血のようになり、一三天の星は、い
あお み おおかぜ ゆ ふ おと ち お
ちじくのまだ青い実が大風に揺られて振り落されるように、地に落ちた。 一四
てん まきもの ま き やま しま ば しょ うつ
天は巻物が巻かれるように消えていき、すべての山と島とはその場所から移
ち おう こうかん せんそつちょう と もの ゆうしゃ どれい じゆうじん
されてしまった。 一五地の王たち、高官、千 卒 長、富める者、勇者、奴隷、自由人
ヨハネの黙示録

あな やま いわ み やま いわ
らはみな、ほら穴や山の岩かげに、身をかくした。 一六そして、山と岩とにむ
い み ざ みかお こひつじ
かって言った、
﹁さあ、われわれをおおって、御座にいますかたの御顔と小羊
いか み いか おお ひ
の怒りとから、かくまってくれ。 一七御怒りの大いなる日が、すでにきたのだ。
まえ た
だれが、その前に立つことができようか﹂。

16
第七章
のち にん みつかい ち た み かれ
一 この後、わたしは四人の御使が地の四すみに立っているのを見た。彼らは
ち しほう かぜ と ち うみ き ふ
地の四方の風をひき止めて、地にも海にもすべての木にも、吹きつけないよ
みつかい い かみ いん も ひ で
うにしていた。 二また、もうひとりの御使が、生ける神の印を持って、日の出
ほう のぼ く み かれ ち うみ けんい さず
る方から上って来るのを見た。彼は地と海とをそこなう権威を授かっている
にん みつかい おおごえ さけ い かみ しもべ ひたい
四人の御使にむかって、大声で叫んで言った、 三﹁わたしたちの神の僕らの額
いん ち うみ き
に、わたしたちが印をおしてしまうまでは、地と海と木とをそこなってはな
いん もの かず き こ
らない﹂。 四わたしは印をおされた者の数を聞いたが、イスラエルの子らのす
ぶぞく いん もの にん
べての部族のうち、印をおされた者は十四万四千人であった。
ぶぞく にん いん
五 ユダの部族のうち、一万二千人が印をおされ、
ぶぞく にん
ルベンの部族のうち、一万二千人、
ヨハネの黙示録

ぶぞく にん
ガドの部族のうち、一万二千人、
ぶぞく にん
六 アセルの部族のうち、一万二千人、
ぶぞく にん
ナフタリの部族のうち、一万二千人、
ぶぞく にん
マナセの部族のうち、一万二千人、

17
ぶぞく にん
七 シメオンの部族のうち、一万二千人、
ぶぞく にん
レビの部族のうち、一万二千人、
ぶぞく にん
イサカルの部族のうち、一万二千人、
ぶぞく にん
八 ゼブルンの部族のうち、一万二千人、
ぶぞく にん
ヨセフの部族のうち、一万二千人、
ぶぞく
ベニヤミンの部族のうち、
にん いん
一万二千人が印をおされた。
のち み み こくみん ぶぞく みんぞく こくご
九 その後、わたしが見ていると、見よ、あらゆる国民、部族、民族、国語のう
かぞ おお ぐんしゅう しろ ころも み
ちから、数えきれないほどの大ぜいの群 衆が、白い衣を身にまとい、しゅろ
えだ て も み ざ こひつじ まえ た おおごえ さけ い
の枝を手に持って、御座と小羊との前に立ち、 一〇大声で叫んで言った、
すくい み ざ かみ
﹁救は、御座にいますわれらの神と
こひつじ
小羊からきたる﹂。
ヨハネの黙示録

みつかい み ざ ちょうろう い もの た
一一 御使たちはみな、御座と長 老たちと四つの生き物とのまわりに立ってい
み ざ まえ ふ かみ はい い
たが、御座の前にひれ伏し、神を拝して言った、
えいこう ち え かんしゃ
一二 ﹁アァメン、さんび、栄光、知恵、感謝、
ちから いきお よ よ かぎ
ほまれ、 力、 勢いが、世々限りなく、

18
かみ
われらの神にあるように、アァメン﹂。
ちょうろう い しろ ころも み
一三 長 老たちのひとりが、わたしにむかって言った、﹁この白い衣を身にま
ひとびと かれ こた
とっている人々は、だれか。また、どこからきたのか﹂。 一四わたしは彼に答え
しゅ ぞん かれ い
た、
﹁わたしの主よ、それはあなたがご存じです﹂。すると、彼はわたしに言っ
かれ おお かんなん ひと ころも こひつじ ち
た、
﹁彼らは大きな患難をとおってきた人たちであって、その衣を小羊の血で
あら しろ かれ かみ み ざ まえ
洗い、それを白くしたのである。 一五それだから彼らは、神の御座の前におり、
ひる よる せいじょ かみ つか み ざ かれ
昼も夜もその聖所で神に仕えているのである。御座にいますかたは、彼らの
うえ まくや は とも す かれ う
上に幕屋を張って共に住まわれるであろう。 一六彼らは、もはや飢えることが
たいよう えんしょ かれ おか み ざ
なく、かわくこともない。太陽も炎暑も、彼らを侵すことはない。 一七御座の
しょうめん こひつじ かれ ぼくしゃ みず いずみ みちび くだ
正 面にいます小羊は彼らの牧者となって、いのちの水の泉に導いて下さるで
かみ かれ め なみだ くだ
あろう。また神は、彼らの目から涙をことごとくぬぐいとって下さるであろ
う﹂。
ヨハネの黙示録

第八章
こひつじ だい ふういん と とき はん じ か ん てん しず
一 小羊が第七の封印を解いた時、半時間ばかり天に静けさがあった。 二それ

19
かみ た にん みつかい み
からわたしは、神のみまえに立っている七人の御使を見た。そして、七つの
かれ あた
ラッパが彼らに与えられた。
べつ みつかい で きん こうろ て も さいだん まえ た
三 また、別の御使が出てきて、金の香炉を手に持って祭壇の前に立った。たく
こう かれ あた せいと いのり くわ み ざ
さんの香が彼に与えられていたが、これは、すべての聖徒の祈に加えて、御座
まえ きん さいだん うえ こう けむり みつかい て
の前の金の祭壇の上にささげるためのものであった。 四香の煙は、御使の手
せいと いのり とも かみ た みつかい こうろ
から、聖徒たちの祈と共に神のみまえに立ちのぼった。 五御使はその香炉を
さいだん ひ み ち な おお らいめい
とり、これに祭壇の火を満たして、地に投げつけた。すると、多くの雷鳴と、
こえ じしん おこ
もろもろの声と、いなずまと、地震とが起った。
も にん みつかい ふ ようい
六 そこで、七つのラッパを持っている七人の御使が、それを吹く用意をした。
だい みつかい ふ な ち ひょう ひ
七 第一の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、血のまじった雹と火とがあ
ちじょう ふ ち ぶん や き ぶん
らわれて、地上に降ってきた。そして、地の三分の一が焼け、木の三分の一
や あおくさ や
が焼け、また、すべての青草も焼けてしまった。
ヨハネの黙示録

だい みつかい ふ な ひ も おお
八 第二の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、火の燃えさかっている大き
やま うみ な こ うみ ぶん ち
な山のようなものが、海に投げ込まれた。そして、海の三分の一は血となり、
うみ なか つく い もの ぶん し ふね ぶん
九 海の中の造られた生き物の三分の一は死に、舟の三分の一がこわされてし
まった。

20
だい みつかい ふ な も
一〇 第三の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、たいまつのように燃えて
おお ほし そら お かわ ぶん すいげん
いる大きな星が、空から落ちてきた。そしてそれは、川の三分の一とその水源
うえ お ほし な にが い みず ぶん にが
との上に落ちた。 一一この星の名は﹁苦よもぎ﹂と言い、水の三分の一が﹁苦
にが みず にが おお ひと
よもぎ﹂のように苦くなった。水が苦くなったので、そのために多くの人が

死んだ。
だい みつかい ふ な たいよう ぶん つき
一二 第四の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、太陽の三分の一と、月の
ぶん ほし ぶん う ぶん くら
三分の一と、星の三分の一とが打たれて、これらのものの三分の一は暗くな
ひる ぶん あか よる おな
り、昼の三分の一は明るくなくなり、夜も同じようになった。
み わ なかぞら と おお こえ い
一三 また、わたしが見ていると、一羽のわしが中空を飛び、大きな声でこう言
き ち す ひとびと
うのを聞いた、
﹁ああ、わざわいだ、わざわいだ、地に住む人々は、わざわい
にん みつかい ふ な
だ。なお三人の御使がラッパを吹き鳴らそうとしている﹂。
ヨハネの黙示録

第九章
だい みつかい ふ な ほし てん
一 第五の御使が、ラッパを吹き鳴らした。するとわたしは、一つの星が天から
ち お く み ほし そこ し ところ あな ひら あた
地に落ちて来るのを見た。この星に、底知れぬ所の穴を開くかぎが与えられ

21
そこ し ところ あな ひら あな けむり おお
た。 二そして、この底知れぬ所の穴が開かれた。すると、その穴から煙が大き
ろ けむり た あな けむり たいよう くうき くら
な炉の煙のように立ちのぼり、その穴の煙で、太陽も空気も暗くなった。 三そ
けむり なか ちじょう で ち も
の煙の中から、いなごが地上に出てきたが、地のさそりが持っているような
ちから かれ あた かれ ち くさ あおくさ き
力が、彼らに与えられた。 四彼らは、地の草やすべての青草、またすべての木
ひたい かみ いん ひと がい くわ
をそこなってはならないが、額に神の印がない人たちには害を加えてもよい
い わた かれ にんげん ころ げつ くる
と、言い渡された。 五彼らは、人間を殺すことはしないで、五か月のあいだ苦
ゆる かれ あた くつう ひと とき
しめることだけが許された。彼らの与える苦痛は、人がさそりにさされる時
くつう とき ひとびと し もと あた し
のような苦痛であった。 六その時には、人々は死を求めても与えられず、死に
ねが し に い しゅつじん
た い と 願 っ て も、死 は 逃 げ て 行 く の で あ る。 七こ れ ら の い な ご は、 出 陣 の
ようい うま に あたま きん かんむり
用意のととのえられた馬によく似ており、その頭には金の冠のようなものを
かお にんげん かお け おんな
つけ、その顔は人間の顔のようであり、 八また、そのかみの毛は女のかみのよ
は は てつ むねあて むねあて
うであり、その歯はししの歯のようであった。 九また、鉄の胸当のような胸当
ヨハネの黙示録

はね おと うま ひ せんじょう いそ おお せんしゃ ひび
をつけており、その羽の音は、馬に引かれて戦 場に急ぐ多くの戦車の響きの
うえ お はり も お
ようであった。 一〇その上、さそりのような尾と針とを持っている。その尾に
げつ にんげん ちから かれ そこ し ところ つかい
は、五か月のあいだ人間をそこなう力がある。 一一彼らは、底知れぬ所の使を
おう な ご い ご
王にいただいており、その名をヘブル語でアバドンと言い、ギリシヤ語では

22

アポルオンと言う。
だい す さ み のち く
一二 第一のわざわいは、過ぎ去った。見よ、この後、なお二つのわざわいが来
る。
だい みつかい ふ な こえ かみ
一三 第六の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、一つの声が、神のみまえ
きん さいだん つの で も だい みつかい
にある金の祭壇の四つの角から出て、一四ラッパを持っている第六の御使にこ
よ き だい がわ
う呼びかけるのを、わたしは聞いた。﹁大ユウフラテ川のほとりにつながれて
にん みつかい と とき ひ つき
いる四人の御使を、解いてやれ﹂。 一五すると、その時、その日、その月、その
とし そな にん みつかい にんげん ぶん ころ と はな
年に備えておかれた四人の御使が、人間の三分の一を殺すために、解き放た
きへいたい かず おく かず き
れ た。 一 六騎兵隊 の 数 は 二 億 で あ っ た。わ た し は そ の 数 を 聞 い た。 一 七そ し
なか うま の もの み の
て、まぼろしの中で、それらの馬とそれに乗っている者たちとを見ると、乗っ
もの ひ いろ せいぎょくしょく いおう いろ むねあて
ている者たちは、火の色と青 玉 色と硫黄の色の胸当をつけていた。そして、
うま あたま あたま くち ひ けむり いおう で
それらの馬の頭はししの頭のようであって、その口から火と煙と硫黄とが、出
ヨハネの黙示録

さいがい かれ くち で く ひ けむり いおう


ていた。 一八この三つの災害、すなわち、彼らの口から出て来る火と煙と硫黄
にんげん ぶん ころ うま ちから くち お
とによって、人間の三分の一は殺されてしまった。 一九馬の力はその口と尾と
お に あたま あたま ひと がい くわ
にある。その尾はへびに似ていて、それに頭があり、その頭で人に害を加え
さいがい ころ のこ ひとびと じぶん て つく
るのである。 二〇これらの災害で殺されずに残った人々は、自分の手で造った

23
く あらた あくれい きん ぎん どう いし
ものについて、悔い改めようとせず、また悪霊のたぐいや、金、銀、銅、石、
き つく み き ある ぐうぞう れいはい
木で造られ、見ることも聞くことも歩くこともできない偶像を礼拝して、や
かれ おか さつじん
めようともしなかった。 二一また、彼らは、その犯した殺人や、まじないや、
ふひんこう ぬす く あらた
不品行や、盗みを悔い改めようとしなかった。
第一〇章
つよ みつかい くも つつ てん お く
一 わたしは、もうひとりの強い御使が、雲に包まれて、天から降りて来るのを
み あたま かお たいよう あし ひ はしら
見た。その頭に、にじをいただき、その顔は太陽のようで、その足は火の柱
かれ ひら ちい まきもの て も
の よ う で あ っ た。 二彼 は、開 か れ た 小 さ な 巻物 を 手 に 持 っ て い た。そ し て、
みぎあし うみ うえ ひだりあし ち うえ ふ おおごえ
右足を海の上に、 左 足を地の上に踏みおろして、 三ししがほえるように大声
さけ かれ さけ かみなり こえ はっ かみなり
で叫んだ。彼が叫ぶと、七つの雷がおのおのその声を発した。 四七つの雷が
ヨハネの黙示録

こえ はっ とき か てん こえ
声を発した時、わたしはそれを書きとめようとした。すると、天から声があっ
かみなり かた ふういん か い き
て、
﹁七つの雷の語ったことを封印せよ。それを書きとめるな﹂と言うのを聞
うみ ち うえ た み みつかい てん
いた。 五それから、海と地の上に立っているのをわたしが見たあの御使は、天
みぎて あ てん なか ち なか うみ
にむけて右手を上げ、 六天とその中にあるもの、地とその中にあるもの、海と

24
なか つく よ よ かぎ い ちか
その中にあるものを造り、世々限りなく生きておられるかたをさして誓った、
とき だい みつかい ふ な おと とき かみ
﹁もう時がない。 七第七の御使が吹き鳴らすラッパの音がする時には、神がそ
しもべ よげんしゃ つ かみ おくぎ じょうじゅ
の僕、預言者たちにお告げになったとおり、神の奥義は成 就される﹂。 八する
まえ てん きこ こえ かた い い
と、前に天から聞えてきた声が、またわたしに語って言った、﹁さあ行って、
うみ ち うえ た みつかい て ひら まきもの う と
海 と 地 と の 上 に 立 っ て い る 御使 の 手 に 開 か れ て い る 巻物 を、受 け 取 り な さ
みつかい い ちい まきもの くだ
い﹂。 九そこで、わたしはその御使のもとに行って、﹁その小さな巻物を下さ
い かれ い と た
い﹂と言った。すると、彼は言った、﹁取って、それを食べてしまいなさい。
はら にが くち みつ あま みつかい て
あなたの腹には苦いが、口には蜜のように甘い﹂。 一〇わたしは御使の手から
ちい まきもの う と た くち みつ
その小さな巻物を受け取って食べてしまった。すると、わたしの口には蜜の
あま た はら にが とき
ように甘かったが、それを食べたら、腹が苦くなった。 一一その時、﹁あなたは、
いちど おお みんぞく こくみん こくご おう よげん
もう一度、多くの民族、国民、国語、王たちについて、預言せねばならない﹂
い こえ
と言う声がした。
ヨハネの黙示録

第一一章
はか あた めい
一 それから、わたしはつえのような測りざおを与えられて、こう命じられた、

25
た かみ せいじょ さいだん れいはい ひとびと はか
﹁さあ立って、神の聖所と祭壇と、そこで礼拝している人々とを、測りなさい。
せいじょ そと にわ はか
二 聖所の外の庭はそのままにしておきなさい。それを測ってはならない。そ
いほうじん あた ところ かれ げつ あいだ せい みやこ
こは異邦人に与えられた所だから。彼らは、四十二か月の間この聖なる都を
ふ しょうにん あらぬの き
踏みにじるであろう。 三そしてわたしは、わたしのふたりの証 人に、荒布を着
にち よげん ゆる かれ ぜん ち しゅ
て、千二百六十日のあいだ預言することを許そう﹂。 四彼らは、全地の主のみ
た ほん き しょくだい かれ
まえに立っている二本のオリブの木、また、二つの燭 台である。 五もし彼らに
がい くわ もの かれ くち ひ で てき ほろ
害を加えようとする者があれば、彼らの口から火が出て、その敵を滅ぼすで
かれ がい くわ もの もの ころ
あろう。もし彼らに害を加えようとする者があれば、その者はこのように殺
よげん きかん かれ てん と あめ ふ
されねばならない。 六預言をしている期間、彼らは、天を閉じて雨を降らせな
ちから も みず ち か なに ど おも
いようにする力を持っている。さらにまた、水を血に変え、何度でも思うま
さいがい ち う ちから も かれ
まに、あらゆる災害で地を打つ力を持っている。 七そして、彼らがそのあかし
お そこ し ところ く けもの かれ たたか う か かれ
を終えると、底知れぬ所からのぼって来る獣が、彼らと戦 って打ち勝ち、彼
ヨハネの黙示録

ころ かれ したい おお
らを殺す。 八彼らの死体はソドムや、エジプトにたとえられている大いなる
みやこ おおどお かれ しゅ みやこ じゅうじか
都の大通りにさらされる。彼らの主も、この都で十字架につけられたのであ
みんぞく ぶぞく こくご こくみん ぞく ひとびと か はん あいだ かれ
る。 九いろいろな民族、部族、国語、国民に属する人々が、三日半の間、彼ら
したい したい はか おさ ゆる ち す
の死体をながめるが、その死体を墓に納めることは許さない。 一〇地に住む

26
ひとびと かれ よろこ たの たがい おく もの
人々 は、彼 ら の こ と で 喜 び 楽 し み、 互 に 贈 り 物 を し あ う。こ の ふ た り の
よげんしゃ ち す もの なや か はん のち
預言者は、地に住む者たちを悩ましたからである。 一一三日半の後、いのちの
いき かみ で かれ なか かれ た あ
息が、神から出て彼らの中にはいり、そして、彼らが立ち上がったので、そ
み ひとびと ひじょう きょうふ おそ とき てん おお こえ
れを見た人々は非常な恐怖に襲われた。 一二その時、天から大きな声がして、
のぼ い かれ き かれ くも の
﹁ここに上ってきなさい﹂と言うのを、彼らは聞いた。そして、彼らは雲に乗っ
てん のぼ かれ てき み とき だい じ し ん おこ みやこ
て天に上った。彼らの敵はそれを見た。 一三この時、大地震が起って、 都の
じゅうぶん たお じしん にん し い のこ ひとびと おどろ おそ てん
十 分の一は倒れ、その地震で七千人が死に、生き残った人々は驚き恐れて、天
かみ えいこう き
の神に栄光を帰した。
だい す さ み だい く
一四 第二のわざわいは、過ぎ去った。見よ、第三のわざわいがすぐに来る。
だい みつかい ふ な おお こえごえ てん おこ
一五 第七の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、大きな声々が天に起って

言った、
よ くに
﹁この世の国は、
ヨハネの黙示録

しゅ くに
われらの主とそのキリストとの国となった。
しゅ よ よ かぎ しはい
主は世々限りなく支配なさるであろう﹂。
かみ ざ にん ちょうろう ふ かみ
一六 そして、神のみまえで座についている二十四人の長 老は、ひれ伏し、神を
はい い
拝して言った、

27
いま むかし ぜんのうしゃ しゅ かみ
一七 ﹁今いまし、 昔いませる、全能者にして主なる神よ。
おお み ちから しはい
大いなる御 力をふるって支配なさったことを、
かんしゃ
感謝します。
しょこくみん いか くる
一八 諸国民は怒り狂いましたが、
いか
あなたも怒りをあらわされました。
しにん しもべ
そして、死人をさばき、あなたの僕なる
よげんしゃ せいと ちい もの おお もの
預言者、聖徒、小さき者も、大いなる者も、
み な もの むく あた
すべて御名をおそれる者たちに報いを与え、また、
ち ほろ もの ほろ くだ とき
地を滅ぼす者どもを滅ぼして下さる時がきました﹂。
てん かみ せいじょ ひら せいじょ なか けいやく はこ み
一九 そして、天にある神の聖所が開けて、聖所の中に契約の箱が見えた。また、
こえ らいめい じしん おこ おおつぶ ひょう ふ
いなずまと、もろもろの声と、雷鳴と、地震とが起り、大粒の雹が降った。
ヨハネの黙示録

第一二章
おお てん あらわ おんな たいよう き あし した つき
一 また、大いなるしるしが天に現れた。ひとりの女が太陽を着て、足の下に月
ふ あたま ほし かんむり おんな こ やど
を踏み、その頭に十二の星の冠をかぶっていた。 二この女は子を宿しており、

28
う くる なや な さけ
産みの苦しみと悩みとのために、泣き叫んでいた。 三また、もう一つのしるし
てん あらわ み おお あか りゅう あたま つの
が天に現れた。見よ、大きな、赤い龍がいた。それに七つの頭と十の角とが
あたま かんむり お てん ほし ぶん は
あり、その頭に七つの冠をかぶっていた。 四その尾は天の星の三分の一を掃
よ ち な おと りゅう こ う おんな まえ た
き寄せ、それらを地に投げ落した。 龍は子を産もうとしている女の前に立
うま こ く つく おんな おとこ こ う
ち、生れたなら、その子を食い尽そうとかまえていた。 五 女は男の子を産んだ
かれ てつ こくみん おさ もの こ かみ
が、彼は鉄のつえをもってすべての国民を治めるべき者である。この子は、神
み ざ ひ あ おんな あらの に い
のみもとに、その御座のところに、引き上げられた。 六 女は荒野へ逃げて行っ
かのじょ にち やしな かみ ようい
た。そこには、彼女が千二百六十日のあいだ養われるように、神の用意され
ば しょ
た場所があった。
てん たたか おこ みつかい りゅう たたか
七 さて、天では戦いが起った。ミカエルとその御使たちとが、 龍と戦 ったの
りゅう つかい おうせん か てん
である。 龍もその使たちも応戦したが、 八勝てなかった。そして、もはや天
かれ ところ きょだい りゅう あくま
には彼らのおる所がなくなった。 九この巨大な龍、すなわち、悪魔とか、サタ
ヨハネの黙示録

よ ぜん せ か い まど とし へ ち な おと つかい
ンとか呼ばれ、全世界を惑わす年を経たへびは、地に投げ落され、その使た
な おと とき おお こえ てん い
ちも、もろともに投げ落された。 一〇その時わたしは、大きな声が天でこう言

うのを聞いた、
いま かみ すくい ちから くに
﹁今や、われらの神の救と力と国と、

29
かみ けんい あらわ
神のキリストの権威とは、 現れた。
きょうだい うった もの
われらの兄 弟らを訴える者、
よるひる かみ かれ うった もの
夜昼われらの神のみまえで彼らを訴える者は、
な おと
投げ落された。
きょうだい
一一 兄 弟たちは、
こひつじ ち かれ ことば
小羊の血と彼らのあかしの言葉とによって、
かれ か
彼にうち勝ち、
し いた お
死に至るまでもそのいのちを惜しまなかった。
てん なか す もの
一二 それゆえに、天とその中に住む者たちよ、
おお よろこ
大いに喜べ。
ち うみ
しかし、地と海よ、
おまえたちはわざわいである。
ヨハネの黙示録

あくま じぶん とき みじか し


悪魔が、自分の時が短いのを知り、
はげ いか
激しい怒りをもって、
くだ
おまえたちのところに下ってきたからである﹂。
りゅう じぶん ちじょう な おと し だんし う おんな お
一三 龍は、自分が地上に投げ落されたと知ると、男子を産んだ女を追いかけ

30
おんな じぶん ば しょ あらの と い おお
た。 一四しかし、女は自分の場所である荒野に飛んで行くために、大きなわし
つばさ あた ねん ねん
の二つの翼を与えられた。そしてそこでへびからのがれて、一年、二年、ま
はんとし あいだ やしな おんな うしろ みず かわ
た、半年の間、養われることになっていた。 一五へびは女の後に水を川のよう
くち は だ おんな なが ち おんな たす
に、口から吐き出して、女をおし流そうとした。 一六しかし、地は女を助けた。
ち くち ひら りゅう くち は だ かわ の
すなわち、地はその口を開いて、 龍が口から吐き出した川を飲みほした。 一七
りゅう おんな たい いか はっ おんな のこ こ かみ いまし まも
龍は、女に対して怒りを発し、女の残りの子ら、すなわち、神の戒めを守り、
も もの たい たたか で
イエスのあかしを持っている者たちに対して、 戦いをいどむために、出て
い うみ すな うえ た
行った。 一八そして、海の砂の上に立った。
第一三章
ぴき けもの うみ のぼ く み つの ぽん
一 わたしはまた、一匹の獣が海から上って来るのを見た。それには角が十本、
ヨハネの黙示録

あたま つの かんむり あたま かみ けが な


頭が七つあり、それらの角には十の冠があって、頭には神を汚す名がついて
み けもの に あし あし
いた。 二わたしの見たこの獣はひょうに似ており、その足はくまの足のよう
くち くち りゅう じぶん ちから くらい おお けんい
で、その口はししの口のようであった。 龍は自分の力と位と大いなる権威と
けもの あた あたま し きず う ちめい
を、この獣に与えた。 三その頭の一つが、死ぬほどの傷を受けたが、その致命

31
てき きず ぜん ち ひとびと おどろ けもの
的な傷もなおってしまった。そこで、全地の人々は驚きおそれて、その獣に
したが りゅう けんい けもの あた ひとびと りゅう おが
従い、 四また、 龍がその権威を獣に与えたので、人々は龍を拝み、さらに、そ
けもの おが い けもの ひってき え たたか
の獣を拝んで言った、
﹁だれが、この獣に匹敵し得ようか。だれが、これと戦
けもの たいげん は けが かた くち
うことができようか﹂。 五この獣には、また、大言を吐き汚しごとを語る口が
あた げつ かつどう けんい あた かれ くち
与えられ、四十二か月のあいだ活動する権威が与えられた。 六そこで、彼は口
ひら かみ けが かみ み な まくや てん す もの
を開いて神を汚し、神の御名と、その幕屋、すなわち、天に住む者たちとを
けが かれ せいと たたか か ゆる
汚した。 七そして彼は、聖徒に戦いをいどんでこれに勝つことを許され、さら
ぶぞく みんぞく こくご こくみん しはい けんい あた ち す
に、すべての部族、民族、国語、国民を支配する権威を与えられた。 八地に住
もの こひつじ しょ な よ はじ
む者で、ほふられた小羊のいのちの書に、その名を世の初めからしるされて
もの けもの おが みみ もの き
いない者はみな、この獣を拝むであろう。 九耳のある者は、聞くがよい。 一〇と
もの ころ もの みずか
りこになるべき者は、とりこになっていく。つるぎで殺す者は、 自らもつる
ころ せいと にんたい しんこう
ぎで殺されねばならない。ここに、聖徒たちの忍耐と信仰とがある。
ヨハネの黙示録

けもの ち のぼ く み こひつじ
一一 わたしはまた、ほかの獣が地から上って来るのを見た。それには小羊のよ
つの りゅう もの い さき けもの も
うな角が二つあって、龍のように物を言った。 一二そして、先の獣の持つすべ
けんりょく まえ はたら ち ち す ひとびと ち め い てき きず
ての権 力をその前で働かせた。また、地と地に住む人々に、致命的な傷がい
さき けもの おが おお おこな ひとびと まえ
やされた先の獣を拝ませた。 一三また、大いなるしるしを行 って、人々の前で

32
ひ てん ち ふ さき けもの まえ おこな ゆる
火を天から地に降らせることさえした。 一四さらに、先の獣の前で行うのを許
ち す ひとびと まど きず う
されたしるしで、地に住む人々を惑わし、かつ、つるぎの傷を受けてもなお
い さき けもの ぞう つく ち す ひとびと めい
生きている先の獣の像を造ることを、地に住む人々に命じた。 一五それから、
けもの ぞう いき ふ こ けもの ぞう もの い
その獣の像に息を吹き込んで、その獣の像が物を言うことさえできるように
けもの ぞう おが もの ころ ちい もの
し、また、その獣の像を拝まない者をみな殺させた。 一六また、小さき者にも、
おお もの と もの まず もの じゆうじん どれい
大いなる者にも、富める者にも、貧しき者にも、自由人にも、奴隷にも、す
ひとびと みぎ て ひたい こくいん お こくいん もの
べての人々に、その右の手あるいは額に刻印を押させ、 一七この刻印のない者
もの か う こくいん
はみな、物を買うことも売ることもできないようにした。この刻印は、その
けもの な な すうじ ち え ひつよう
獣の名、または、その名の数字のことである。 一八ここに、知恵が必要である。
し りょ もの けもの すうじ と すうじ にんげん
思慮のある者は、 獣の数字を解くがよい。その数字とは、人間をさすもので
すうじ
ある。そして、その数字は六百六十六である。
ヨハネの黙示録

第一四章
み み こひつじ やま た
一 なお、わたしが見ていると、見よ、小羊がシオンの山に立っていた。また、
ひとびと こひつじ とも ひたい こひつじ な ちち な か
十四万四千の人々が小羊と共におり、その額に小羊の名とその父の名とが書

33
おおみず はげ らいめい
かれていた。 二またわたしは、大水のとどろきのような、激しい雷鳴のような
こえ てん で き き こえ こと ひと たてごと
声が、天から出るのを聞いた。わたしの聞いたその声は、琴をひく人が立琴
おと かれ み ざ まえ い もの ちょうろう
をひく音のようでもあった。 三彼らは、御座の前、四つの生き物と長 老たちと
まえ あたら うた うた うた ち にん
の前で、 新しい歌を歌った。この歌は、地からあがなわれた十四万四千人の
まな かれ おんな もの
ほかは、だれも学ぶことができなかった。 四彼らは、女にふれたことのない者
かれ じゅんけつ もの こひつじ い ところ
である。彼らは、純 潔な者である。そして、小羊の行く所へは、どこへでも
い かれ かみ こひつじ はつほ にんげん なか
ついて行く。彼らは、神と小羊とにささげられる初穂として、人間の中から
もの かれ くち いつわ かれ きず もの
あ が な わ れ た 者 で あ る。 五彼 ら の 口 に は 偽 り が な く、彼 ら は 傷 の な い 者 で
あった。
みつかい なかぞら と み かれ ち す もの
六 わたしは、もうひとりの御使が中空を飛ぶのを見た。彼は地に住む者、すな
こくみん ぶぞく こくご みんぞく の つた えいえん ふくいん
わち、あらゆる国民、部族、国語、民族に宣べ伝えるために、永遠の福音を
おおごえ い かみ かみ えいこう き かみ
たずさえてきて、 七大声で言った、
﹁神をおそれ、神に栄光を帰せよ。神のさ
ヨハネの黙示録

とき てん ち うみ みず みなもと つく ふ
ばきの時がきたからである。天と地と海と水の源とを造られたかたを、伏し
おが
拝め﹂。
だい みつかい つづ い たお おお
八 また、ほかの第二の御使が、続いてきて言った、
﹁倒れた、大いなるバビロ
たお ふひんこう たい はげ いか しゅ こくみん
ンは倒れた。その不品行に対する激しい怒りのぶどう酒を、あらゆる国民に

34
の もの
飲ませた者﹂。
だい みつかい かれ つづ おおごえ い けもの
九 ほかの第三の御使が彼らに続いてきて、大声で言った、
﹁おおよそ、 獣とそ
ぞう おが ひたい て こくいん う もの かみ いか さかずき ま
の像とを拝み、額や手に刻印を受ける者は、一〇神の怒りの杯に混ぜものなし
も かみ はげ いか しゅ の せい みつかい こひつじ
に盛られた、神の激しい怒りのぶどう酒を飲み、聖なる御使たちと小羊との
まえ ひ いおう くる くる けむり よ よ かぎ た
前で、火と硫黄とで苦しめられる。 一一その苦しみの煙は世々限りなく立ちの
けもの ぞう おが もの な こくいん う
ぼり、そして、 獣とその像とを拝む者、また、だれでもその名の刻印を受け
もの ひる よる やす え かみ いまし まも
ている者は、昼も夜も休みが得られない。 一二ここに、神の戒めを守り、イエ
しん しんこう も せいと にんたい
スを信じる信仰を持ちつづける聖徒の忍耐がある﹂。
てん こえ い き か いま
一三 またわたしは、天からの声がこう言うのを聞いた、
﹁書きしるせ、
﹃今から
のち しゅ し しにん みたま い かれ
後、主にあって死ぬ死人はさいわいである﹄﹂。御霊も言う、
﹁しかり、彼らは
ろうく と やす かれ
その労苦を解かれて休み、そのわざは彼らについていく﹂。
み み しろ くも くも うえ ひと こ もの
一四 また見ていると、見よ、白い雲があって、その雲の上に人の子のような者
ヨハネの黙示録

ざ あたま きん かんむり て するど も


が座しており、 頭には金の冠をいただき、手には鋭いかまを持っていた。 一五
みつかい せいじょ で くも うえ ざ もの
すると、もうひとりの御使が聖所から出てきて、雲の上に座している者にむ
おおごえ さけ い か と ち こくもつ まった みの
かって大声で叫んだ、﹁かまを入れて刈り取りなさい。地の穀物は全く実り、
か と とき くも うえ ざ もの ち な
刈り取るべき時がきた﹂。 一六雲の上に座している者は、そのかまを地に投げ

35
い ち か と
入れた。すると、地のものが刈り取られた。
みつかい てん せいじょ で かれ するど
一七 また、もうひとりの御使が、天の聖所から出てきたが、彼もまた鋭いかま
も みつかい ひ しはい けんい も
を持っていた。 一八さらに、もうひとりの御使で、火を支配する権威を持って
もの さいだん で するど も みつかい おおごえ い
いる者が、祭壇から出てきて、鋭いかまを持つ御使にむかい、大声で言った、
するど ち い ち か あつ
﹁その鋭いかまを地に入れて、地のぶどうのふさを刈り集めなさい。ぶどうの
み じゅく みつかい ち な い
実がすでに熟しているから﹂。 一九そこで、御使はそのかまを地に投げ入れて、
ち か あつ かみ はげ いか おお さか な こ
地のぶどうを刈り集め、神の激しい怒りの大きな酒ぶねに投げ込んだ。 二〇そ
さか みやこ そと ふ ち さか なが で うま
して、その酒ぶねが都の外で踏まれた。すると、血が酒ぶねから流れ出て、馬
ちょう
のくつわにとどくほどになり、一千六百 丁にわたってひろがった。
第一五章
ヨハネの黙示録

てん おお おどろ み にん みつかい
一 またわたしは、天に大いなる驚くべきほかのしるしを見た。七人の御使が、
さいご さいがい たずさ さいがい かみ はげ いか
最後 の 七 つ の 災害 を 携 え て い た。こ れ ら の 災害 で 神 の 激 し い 怒 り が そ の
ちょうてん たっ ひ うみ
頂 点に達するのである。 二またわたしは、火のまじったガラスの海のような
み うみ けもの ぞう な すうじ
ものを見た。そして、このガラスの海のそばに、 獣とその像とその名の数字

36
か ひとびと かみ たてごと て た み かれ
とにうち勝った人々が、神の立琴を手にして立っているのを見た。 三彼らは、
かみ しもべ うた こひつじ うた うた い
神の僕 モーセの歌と小羊の歌とを歌って言った、
ぜんのうしゃ しゅ かみ
﹁全能者にして主なる神よ。
あなたのみわざは、
おお おどろ
大いなる、また驚くべきものであります。
ばんみん おう
万民の王よ、
みち ただ しんじつ
あなたの道は正しく、かつ真実であります。
しゅ
四 主よ、あなたをおそれず、
み な もの
御名をほめたたえない者が、ありましょうか。
せい
あなただけが聖なるかたであり、
こくみん ふ おが
あらゆる国民はきて、あなたを伏し拝むでしょう。
ただ
あなたの正しいさばきが、
ヨハネの黙示録

いた
あらわれるに至ったからであります﹂。
のち み てん まくや せいじょ ひら
五 その後、わたしが見ていると、天にある、あかしの幕屋の聖所が開かれ、 六
せいじょ さいがい たずさ にん みつかい けが ひか かがや
その聖所から、七つの災害を携えている七人の御使が、汚れのない、光り輝
あ ま ぬ の み きん おび むね で い
く亜麻布を身にまとい、金の帯を胸にしめて、出てきた。 七そして、四つの生

37
もの よ よ かぎ い かみ はげ いか み
き物の一つが、世々限りなく生きておられる神の激しい怒りの満ちた七つの
きん はち にん みつかい わた せいじょ かみ えいこう ちから た
金の鉢を、七人の御使に渡した。 八すると、聖所は神の栄光とその力とから立
けむり み にん みつかい さいがい おわ
ちのぼる煙で満たされ、七人の御使の七つの災害が終ってしまうまでは、だ
せいじょ
れも聖所にはいることができなかった。
第一六章
おお こえ せいじょ で にん みつかい い かみ
一 それから、大きな声が聖所から出て、七人の御使にむかい、
﹁さあ行って、神
はげ いか はち ち かたむ い き
の激しい怒りの七つの鉢を、地に傾けよ﹂と言うのを聞いた。
だい もの で い はち ち かたむ けもの こくいん
二 そして、第一の者が出て行って、その鉢を地に傾けた。すると、 獣の刻印
も ひとびと ぞう おが ひとびと あくせい もの
を持つ人々と、その像を拝む人々とのからだに、ひどい悪性のでき物ができ
た。
ヨハネの黙示録

だい もの はち うみ かたむ うみ しにん ち
三 第二の者が、その鉢を海に傾けた。すると、海は死人の血のようになって、
なか い もの し
その中の生き物がみな死んでしまった。
だい もの はち かわ みず みなもと かたむ ち
四 第三の者がその鉢を川と水の源とに傾けた。すると、みな血になった。 五
みず みつかい い き いま むかし
それから、水をつかさどる御使がこう言うのを、聞いた、
﹁今いまし、 昔いま

38
せい もの さだ ただ
せる聖なる者よ。このようにお定めになったあなたは、正しいかたでありま
せいと よげんしゃ ち なが もの ち の
す。 六聖徒と預言者との血を流した者たちに、血をお飲ませになりましたが、
とうぜん さいだん い き
それは当然のことであります﹂。 七わたしはまた祭壇がこう言うのを聞いた、
ぜんのうしゃ しゅ かみ しんじつ ただ
﹁全能者にして主なる神よ。しかり、あなたのさばきは真実で、かつ正しいさ
ばきであります﹂。
だい もの はち たいよう かたむ たいよう ひ ひとびと や
八 第四の者が、その鉢を太陽に傾けた。すると、太陽は火で人々を焼くことを
ゆる ひとびと はげ えんねつ や さいがい しはい かみ
許された。 九人々は、激しい炎熱で焼かれたが、これらの災害を支配する神の
み な けが く あらた かみ えいこう き
御名を汚し、悔い改めて神に栄光を帰することをしなかった。
だい もの はち けもの ざ かたむ けもの くに くら ひとびと
一〇 第五の者が、その鉢を獣の座に傾けた。すると、獣の国は暗くなり、人々
くつう した くつう もの てん かみ
は苦痛のあまり舌をかみ、 一一その苦痛とでき物とのゆえに、天の神をのろっ
じぶん おこな く あらた
た。そして、自分の行いを悔い改めなかった。
だい もの はち だい がわ かたむ みず ひ
一二 第六の者が、その鉢を大ユウフラテ川に傾けた。すると、その水は、日の
ヨハネの黙示録

で ほう く おう たい みち そな み
出る方から来る王たちに対し道を備えるために、かれてしまった。 一三また見
りゅう くち けもの くち よげんしゃ くち
ると、 龍の口から、 獣の口から、にせ預言者の口から、かえるのような三つ
けが れい で おこな あくれい れい ぜん
の汚れた霊が出てきた。 一四これらは、しるしを行う悪霊の霊であって、全
せかい おう い かれ しょうしゅう ぜんのう かみ おお
世界の王たちのところに行き、彼らを召 集したが、それは、全能なる神の大

39
ひ たたか み ぬすびと く
いなる日に、 戦いをするためであった。 一五︵見よ、わたしは盗人のように来
はだか ある はだか はじ み め
る。 裸のままで歩かないように、また、 裸の恥を見られないように、目をさ
きもの み つ もの れい ご
まし着物を身に着けている者は、さいわいである。︶一六三つの霊は、ヘブル語
ところ おう しょうしゅう
でハルマゲドンという所に、王たちを召 集した。
だい もの はち くうちゅう かたむ おお こえ せいじょ なか
一七 第七の者が、その鉢を空 中に傾けた。すると、大きな声が聖所の中から、
み ざ で こと な い
御座から出て、
﹁事はすでに成った﹂と言った。 一八すると、いなずまと、もろ
こえ らいめい おこ はげ じしん にんげん ちじょう
もろの声と、雷鳴とが起り、また激しい地震があった。それは人間が地上に
いらい はげ じしん
あらわれて以来、かつてなかったようなもので、それほどに激しい地震であっ
おお みやこ さ しょこくみん まちまち たお かみ おお
た。 一九大いなる都は三つに裂かれ、諸国民の町々は倒れた。神は大いなるバ
おも おこ かみ はげ いか しゅ さかずき あた
ビロンを思い起し、これに神の激しい怒りのぶどう酒の杯を与えられた。 二〇
しまじま に さ やまやま み おも
島々はみな逃げ去り、山々は見えなくなった。 二一また一タラントの重さほど
おお ひょう てん ひとびと うえ ふ ひとびと ひょう さいがい
の大きな雹が、天から人々の上に降ってきた。人々は、この雹の災害のゆえ
ヨハネの黙示録

かみ さいがい ひじょう おお
に神をのろった。その災害が、非常に大きかったからである。

40
第一七章
はち も にん みつかい かた い
一 それから、七つの鉢を持つ七人の御使のひとりがきて、わたしに語って言っ
おお みず うえ おお い ん ぷ たい
た、﹁さあ、きなさい。多くの水の上にすわっている大淫婦に対するさばきを、
み ち おう おんな かんいん おこな ち す ひとびと おんな
見 せ よ う。 二地 の 王 た ち は こ の 女 と 姦淫 を 行 い、地 に 住 む 人々 は こ の 女 の
かんいん しゅ よ みつかい みたま かん
姦淫のぶどう酒に酔いしれている﹂。 三御使は、わたしを御霊に感じたまま、
あらの つ い おんな あか けもの の
荒野へ連れて行った。わたしは、そこでひとりの女が赤い獣に乗っているの
み けもの かみ けが な あたま
を見た。その獣は神を汚すかずかずの名でおおわれ、また、それに七つの頭
つの おんな むらさき あか ころも きん ほうせき しんじゅ
と十の角とがあった。 四この女は紫と赤の衣をまとい、金と宝石と真珠とで
み かざ にく じぶん かんいん けが み きん さかずき て も
身を飾り、憎むべきものと自分の姦淫の汚れとで満ちている金の杯を手に持
ひたい な おくぎ おお
ち、 五その額には、一つの名がしるされていた。それは奥義であって、
﹁大い
いんぷ ち にく はは
なるバビロン、淫婦どもと地の憎むべきものらとの母﹂というのであった。 六
ヨハネの黙示録

おんな せいと ち しょうにん ち よ み


わたしは、この女が聖徒の血とイエスの証 人の血に酔いしれているのを見
た。
おんな み とき ひじょう おどろ みつかい
この女を見た時、わたしは非常に驚きあやしんだ。 七すると、御使はわたしに
い おどろ おんな おくぎ おんな の あたま
言った、
﹁なぜそんなに驚くのか。この女の奥義と、女を乗せている七つの頭

41
つの けもの おくぎ はな み けもの むかし
と十の角のある獣の奥義とを、話してあげよう。 八あなたの見た獣は、昔はい
いま そこ し ところ のぼ ほろ
たが、今はおらず、そして、やがて底知れぬ所から上ってきて、ついには滅
いた ち す もの よ はじ しょ な
びに至るものである。地に住む者のうち、世の初めからいのちの書に名をし
もの けもの むかし いま く
るされていない者たちは、この獣が、 昔はいたが今はおらず、やがて来るの
み おどろ ち え こころ ひつよう
を見て、驚きあやしむであろう。 九ここに、知恵のある心が必要である。七つ
あたま おんな やま にん おう
の頭は、この女のすわっている七つの山であり、また、七人の王のことであ
にん たお いま
る。 一〇そのうちの五人はすでに倒れ、ひとりは今おり、もうひとりは、まだ
く あいだ
き て い な い。そ れ が 来 れ ば、し ば ら く の 間 だ け お る こ と に な っ て い る。 一一
むかし いま けもの だい
昔はいたが今はいないという獣は、すなわち第八のものであるが、またそれ
にん なか ほろ いた
は、かの七人の中のひとりであって、ついには滅びに至るものである。 一二あ
み つの にん おう かれ くに う
なたの見た十の角は、十人の王のことであって、彼らはまだ国を受けてはい
けもの とも ひととき おう けんい う かれ こころ
ないが、獣と共に、一時だけ王としての権威を受ける。 一三彼らは心をひとつ
ヨハネの黙示録

じぶん ちから けんい けもの あた かれ こひつじ


にしている。そして、自分たちの力と権威とを獣に与える。 一四彼らは小羊に
たたか こひつじ しゅ しゅ おう おう かれ か
戦いをいどんでくるが、小羊は、主の主、王の王であるから、彼らにうち勝
こひつじ とも め えら ちゅうじつ もの しょうり え
つ。また、小羊と共にいる召された、選ばれた、 忠 実な者たちも、勝利を得
る﹂。

42
みつかい い み みず いんぷ
一五 御使はまた、わたしに言った、
﹁あなたの見た水、すなわち、淫婦のすわっ
ところ みんぞく ぐんしゅう こくみん こくご み
ている所は、あらゆる民族、群 衆、国民、国語である。 一六あなたの見た十の
つの けもの いんぷ にく もの はだか かのじょ にく く ひ
角と獣とは、この淫婦を憎み、みじめな者にし、裸にし、彼女の肉を食い、火
や つく かみ みことば じょうじゅ とき かれ こころ なか
で 焼 き 尽 す で あ ろ う。 一七神 は、御言 が 成 就 す る 時 ま で、彼 ら の 心 の 中 に、
みむね おこな おも かれ し は い けん けもの あた おも も
御旨を行い、思いをひとつにし、彼らの支配権を獣に与える思いを持つよう
み おんな ち おう しはい おお
にされたからである。 一八あなたの見たかの女は、地の王たちを支配する大い
みやこ
なる都のことである﹂。
第一八章
のち みつかい おお けんい も てん お
一 この後、わたしは、もうひとりの御使が、大いなる権威を持って、天から降
く み ち かれ えいこう あか かれ ちからづよ こえ
りて来るのを見た。地は彼の栄光によって明るくされた。 二彼は力 強い声で
ヨハネの黙示録

さけ い たお おお たお あくま
叫んで言った、
﹁倒れた、大いなるバビロンは倒れた。そして、それは悪魔の
す ところ けが れい そう けが にく とり そう
住む所、あらゆる汚れた霊の巣くつ、また、あらゆる汚れた憎むべき鳥の巣
こくみん かのじょ かんいん たい はげ いか
くつとなった。 三すべての国民は、彼女の姦淫に対する激しい怒りのぶどう
しゅ の ち おう かのじょ かんいん おこな ちじょう しょうにん かのじょ きょくど
酒を飲み、地の王たちは彼女と姦淫を行い、地上の商 人たちは、彼女の極度

43
とみ え
のぜいたくによって富を得たからである﹂。
こえ てん で き たみ
四 わたしはまた、もうひとつの声が天から出るのを聞いた、﹁わたしの民よ。
かのじょ はな さ つみ さいがい ま こ
彼女から離れ去って、その罪にあずからないようにし、その災害に巻き込ま
かのじょ つみ つも つ てん たっ かみ ふ ぎ
れないようにせよ。 五彼女の罪は積り積って天に達しており、神はその不義
おこな おぼ かのじょ かのじょ かえ
の行いを覚えておられる。 六彼女がしたとおりに彼女にし返し、そのしわざ
おう ばい ほうふく かのじょ ま い さかずき なか ばい りょう い
に応じて二倍に報復をし、彼女が混ぜて入れた杯の中に、その倍の量を、入
かのじょ みずか たか たい
れてやれ。 七彼女が自ら高ぶり、ぜいたくをほしいままにしたので、それに対
おな くる かな あじ かのじょ こころ なか
して、同じほどの苦しみと悲しみとを味わわせてやれ。彼女は心の中で﹃わ
じょおう くらい もの かな
たしは女王の位についている者であって、やもめではないのだから、悲しみ
し い さいがい し かな
を知らない﹄と言っている。 八それゆえ、さまざまの災害が、死と悲しみとき
にち かのじょ おそ かのじょ ひ や
きんとが、一日のうちに彼女を襲い、そして、彼女は火で焼かれてしまう。
かのじょ しゅ かみ ちからづよ かのじょ かんいん おこな
彼女をさばく主なる神は、 力 強いかたなのである。 九彼女と姦淫を行い、ぜ
ヨハネの黙示録

ち おう かのじょ や ひ けむり み
いたくをほしいままにしていた地の王たちは、彼女が焼かれる火の煙を見て、
かのじょ むね う な かな かのじょ くる おそ とお
彼女のために胸を打って泣き悲しみ、 一〇彼女の苦しみに恐れをいだき、遠く
た い おお みやこ ふらく みやこ
に立って言うであろう、
﹃ああ、わざわいだ、大いなる都、不落の都、バビロ
たい いっしゅん ち
ンは、わざわいだ。おまえに対するさばきは、一 瞬にしてきた﹄。 一一また、地

44
しょうにん かのじょ な かな かれ しょうひん か もの
の商 人たちも彼女のために泣き悲しむ。もはや、彼らの商 品を買う者が、ひ
しょうひん きん ぎん ほうせき しんじゅ あさぬの むらさきぬの
とりもないからである。 一二その商 品は、金、銀、宝石、真珠、麻布、 紫 布、
きぬ ひ ぬの かくしゅ こうぼく かくしゅ ぞうげざいく こうか もくざい どう てつ だいりせき
絹、緋布、各種の香木、各種の象牙細工、高価な木材、銅、鉄、大理石など
うつわ にっけい こうりょう こう あぶら にゅうこう しゅ ゆ むぎこ むぎ
の器、 一三肉桂、香 料、香、におい油、乳 香、ぶどう酒、オリブ油、麦粉、麦、
うし ひつじ うま くるま どれい じんしん こころ よろこ
牛、 羊、馬、 車、奴隷、そして人身などである。 一四おまえの心の喜びであっ
もの き さ
たくだものはなくなり、あらゆるはでな、はなやかな物はおまえから消え去っ
み しなじな う かのじょ
た。それらのものはもはや見られない。 一五これらの品々を売って、彼女から
とみ え しょうにん かのじょ くる おそ とお た な かな
富を得た商 人は、彼女の苦しみに恐れをいだいて遠くに立ち、泣き悲しんで
い あさぬの むらさきぬの ひ ぬの きん ほうせき しんじゅ
言う、 一六﹃ああ、わざわいだ、麻布と紫 布と緋布をまとい、金や宝石や真珠
み かざ おお みやこ とみ いっしゅん
で身を飾っていた大いなる都は、わざわいだ。 一七これほどの富が、一 瞬にし
む き せんちょう こうかいしゃ すいふ うみ
て無に帰してしまうとは﹄。また、すべての船 長、航海者、水夫、すべて海で
はたら ひと とお た かのじょ や ひ けむり み さけ
働いている人たちは、遠くに立ち、 一八彼女が焼かれる火の煙を見て、叫んで
ヨハネの黙示録

い おお みやこ かれ あたま
言う、
﹃これほどの大いなる都は、どこにあろう﹄。 一九彼らは頭にちりをかぶ
な かな さけ おお みやこ
り、泣き悲しんで叫ぶ、
﹃ああ、わざわいだ、この大いなる都は、わざわいだ。
うみ ふね も ひと とみ え みやこ
そのおごりによって、海に舟を持つすべての人が富を得ていたのに、この都
いっしゅん む き てん せいと し と
も 一 瞬 に し て 無 に 帰 し て し ま っ た﹄。 二 〇天 よ、聖徒 た ち よ、使徒 た ち よ、

45
よげんしゃ みやこ おお よろこ かみ
預言者たちよ。この都について大いに喜べ。神は、あなたがたのために、こ
みやこ
の都をさばかれたのである﹂。
ちからづよ みつかい おお いし も
二一 すると、ひとりの力 強い御使が、大きなひきうすのような石を持ちあげ、
うみ な こ い おお みやこ はげ う
それを海に投げ込んで言った、
﹁大いなる都 バビロンは、このように激しく打
たお まった すがた け なか たてごと
ち倒され、そして、 全く姿を消してしまう。 二二また、おまえの中では、立琴
もの うた うた もの ふえ ふ もの ふ な もの がく ね まった
をひく者、歌を歌う者、笛を吹く者、ラッパを吹き鳴らす者の楽の音は全く
き しごと しょくにん まった すがた け おと
聞かれず、あらゆる仕事の職 人たちも全く姿を消し、また、ひきうすの音も、
まった き なか はなむこ はなよめ
全く聞かれない。 二三また、おまえの中では、あかりもともされず、花婿、花嫁
こえ き しょうにん ちじょう せいりょく は もの
の声も聞かれない。というのは、おまえの商 人たちは地上で勢 力を張る者と
こくみん よげんしゃ せいと
なり、すべての国民はおまえのまじないでだまされ、 二四また、預言者や聖徒
ち ちじょう ころ もの ち みやこ なが
の血、さらに、地上で殺されたすべての者の血が、この都で流されたからで
ある﹂。
ヨハネの黙示録

第一九章
のち てん たいぐん おおごえ とな こえ き
一 この後、わたしは天の大群衆が大声で唱えるような声を聞いた、

46
すくい えいこう ちから
﹁ハレルヤ、 救と栄光と力とは、
かみ
われらの神のものであり、
しんじつ ただ
そのさばきは、真実で正しい。

かみ かんいん ち けが だい い ん ぷ
神は、姦淫で地を汚した大淫婦をさばき、
かみ しもべ ち ほうふく
神の僕たちの血の報復を
かのじょ
彼女になさったからである﹂。
ふたた こえ かのじょ や ひ けむり よ よ かぎ た
三 再び声があって、
﹁ハレルヤ、彼女が焼かれる火の煙は、世々限りなく立ち
い にん ちょうろう い もの ふ
のぼる﹂と言った。 四すると、二十四人の長 老と四つの生き物とがひれ伏し、
み ざ かみ はい い とき み ざ
御座にいます神を拝して言った、
﹁アァメン、ハレルヤ﹂。 五その時、御座から
こえ で い
声が出て言った、
かみ しもべ かみ もの
﹁すべての神の僕たちよ、神をおそれる者たちよ。
ちい もの おお もの
小さき者も大いなる者も、
ヨハネの黙示録

とも かみ
共に、われらの神をさんびせよ﹂。
だいぐんしゅう こえ おお みず おと はげ らいめい
六 わたしはまた、大 群 衆の声、多くの水の音、また激しい雷鳴のようなもの
き い
を聞いた。それはこう言った、
ぜんのうしゃ しゅ かみ
﹁ハレルヤ、全能者にして主なるわれらの神は、

47
おう しはいしゃ
王なる支配者であられる。
よろこ たの かみ
わたしたちは喜び楽しみ、神をあがめまつろう。

こひつじ こんいん とき
小羊の婚姻の時がきて、
はなよめ ようい
花嫁はその用意をしたからである。
かのじょ ひか かがや
彼女は、光り輝く、

けが あさぬの ころも き ゆる
汚れのない麻布の衣を着ることを許された。
あさぬの ころも せいと ただ おこな
この麻布の衣は、聖徒たちの正しい行いである﹂。
みつかい い か こひつじ こんえん まね もの
九 それから、御使はわたしに言った、
﹁書きしるせ。小羊の婚宴に招かれた者
い かみ しんじつ ことば
は、さいわいである﹂。またわたしに言った、﹁これらは、神の真実の言葉で
かれ あし ふ かれ はい
ある﹂。 一〇そこで、わたしは彼の足もとにひれ伏して、彼を拝そうとした。す
かれ い
ると、彼は言った、
﹁そのようなことをしてはいけない。わたしは、あなたと
おな しもべ な か ま きょうだい おな
同じ僕 仲間であり、またイエスのあかしびとであるあなたの兄 弟たちと同じ
ヨハネの黙示録

しもべ な か ま かみ はい よげん
僕 仲間である。ただ神だけを拝しなさい。イエスのあかしは、すなわち預言
れい
の霊である﹂。
み てん ひら み しろ うま
一一 またわたしが見ていると、天が開かれ、見よ、そこに白い馬がいた。それ
の ちゅうじつ しんじつ もの よ ぎ
に乗っているかたは、
﹁忠 実で真実な者﹂と呼ばれ、義によってさばき、また、

48
たたか め も ほのお あたま おお かんむり
戦うかたである。 一二その目は燃える炎であり、その頭には多くの冠があっ
かれ い が い し な み かれ
た。また、彼以外にはだれも知らない名がその身にしるされていた。 一三彼は
ち ぞ ころも な かみ ことば よ てん ぐんぜい
血染めの衣をまとい、その名は﹁神の言﹂と呼ばれた。 一四そして、天の軍勢
じゅんぱく けが あさぬの ころも き しろ うま の かれ したが
が、純 白で、汚れのない麻布の衣を着て、白い馬に乗り、彼に従 った。 一五そ
くち しょこくみん う するど で かれ てつ
の口からは、諸国民を打つために、 鋭いつるぎが出ていた。彼は、鉄のつえ
しょこくみん おさ ぜんのうしゃ かみ はげ いか さか ふ
をもって諸国民を治め、また、全能者なる神の激しい怒りの酒ぶねを踏む。 一
きもの おう おう しゅ しゅ な
六 その着物にも、そのももにも、
﹁王の王、主の主﹂という名がしるされてい
た。
み みつかい たいよう なか た かれ なかぞら と
一七 また見ていると、ひとりの御使が太陽の中に立っていた。彼は、中空を飛
とり おおごえ さけ かみ だいえんかい あつ
んでいるすべての鳥にむかって、大声で叫んだ、
﹁さあ、神の大宴会に集まっ
おう にく しょうぐん にく ゆうしゃ にく うま にく うま の
てこい。 一八そして、王たちの肉、将 軍の肉、勇者の肉、馬の肉、馬に乗って
もの にく じゆうじん どれい にく ちい もの おお もの
いる者の肉、また、すべての自由人と奴隷との肉、小さき者と大いなる者と
ヨハネの黙示録

にく
の肉をくらえ﹂。
み けもの ち おう かれ ぐんぜい あつ うま の
一九 なお見ていると、獣と地の王たちと彼らの軍勢とが集まり、馬に乗ってい
ぐんぜい たい たたか けもの とら
るかたとその軍勢とに対して、 戦いをいどんだ。 二〇しかし、 獣は捕えられ、
けもの まえ おこな けもの こくいん う もの ぞう おが もの
また、この獣の前でしるしを行 って、獣の刻印を受けた者とその像を拝む者

49
まど よげんしゃ けもの とも とら りょうしゃ
とを惑わしたにせ預言者も、 獣と共に捕えられた。そして、この両 者とも、
い いおう も ひ いけ な こ いがい もの
生きながら、硫黄の燃えている火の池に投げ込まれた。 二一それ以外の者たち
うま の くち で き ころ にく
は、馬に乗っておられるかたの口から出るつるぎで切り殺され、その肉を、す
とり あ た
べての鳥が飽きるまで食べた。
第二〇章
み みつかい そこ し ところ おお くさり
一 またわたしが見ていると、ひとりの御使が、底知れぬ所のかぎと大きな鎖と
て も てん お かれ あくま りゅう
を手に持って、天から降りてきた。 二彼は、悪魔でありサタンである龍、すな
とし へ とら ねん あいだ そこ し ところ
わち、かの年を経たへびを捕えて千年の間つなぎおき、 三そして、底知れぬ所
な こ いりぐち と うえ ふういん ねん きかん おわ しょこくみん
に投げ込み、入口を閉じてその上に封印し、千年の期間が終るまで、諸国民
まど のち あいだ かいほう
を惑わすことがないようにしておいた。その後、しばらくの間だけ解放され
ヨハネの黙示録

ることになっていた。
み おお ざ うえ ひとびと
四 また見ていると、かず多くの座があり、その上に人々がすわっていた。そし
かれ けん あた かみ ことば
て、彼らにさばきの権が与えられていた。また、イエスのあかしをし神の言
つた くび き ひとびと れい けもの ぞう
を伝えたために首を切られた人々の霊がそこにおり、また、 獣をもその像を

50
おが こくいん ひたい て う ひとびと かれ
も拝まず、その刻印を額や手に受けることをしなかった人々がいた。彼らは
い とも ねん あいだ しはい いがい しにん
生きかえって、キリストと共に千年の間、支配した。 五︵それ以外の死人は、
ねん きかん おわ い だい ふっかつ
千年の期間が終るまで生きかえらなかった。︶これが第一の復活である。 六こ
だい ふっかつ もの もの せい もの
の第一の復活にあずかる者は、さいわいな者であり、また聖なる者である。こ
ひと たい だい し ちから かれ かみ
の人たちに対しては、第二の死はなんの力もない。彼らは神とキリストとの
さいし とも ねん あいだ しはい
祭司となり、キリストと共に千年の間、支配する。
ねん きかん おわ ごく かいほう で い
七 千年の期間が終ると、サタンはその獄から解放される。 八そして、出て行
ち しほう しょこくみん まど かれ たたか
き、地の四方にいる諸国民、すなわちゴグ、マゴグを惑わし、彼らを戦いの
しょうしゅう かず うみ すな おお かれ ちじょう ひろ ところ
ために召 集する。その数は、海の砂のように多い。 九彼らは地上の広い所に
のぼ せいと じんえい あい みやこ ほうい てん
上ってきて、聖徒たちの陣営と愛されていた都とを包囲した。すると、天か
ひ くだ かれ や つく かれ まど あくま ひ
ら火が下ってきて、彼らを焼き尽した。 一〇そして、彼らを惑わした悪魔は、火
いおう いけ な こ けもの よげんしゃ かれ
と 硫黄 と の 池 に 投 げ 込 ま れ た。そ こ に は、 獣 も に せ 預言者 も い て、彼 ら は
ヨハネの黙示録

よ よ かぎ にちや くる
世々限りなく日夜、苦しめられるのである。
み おお しろ み ざ てん
一一 また見ていると、大きな白い御座があり、そこにいますかたがあった。天
ち みかお まえ に さ し
も地も御顔の前から逃げ去って、あとかたもなくなった。 一二また、死んでい
もの おお もの ちい もの とも み ざ まえ た み
た者が、大いなる者も小さき者も共に、御座の前に立っているのが見えた。か

51
しょもつ ひら しょもつ ひら しょ
ずかずの書物が開かれたが、もう一つの書物が開かれた。これはいのちの書
しにん おう しょもつ か
で あ っ た。死人 は そ の し わ ざ に 応 じ、こ の 書物 に 書 か れ て い る こ と に し た
うみ なか しにん だ し よ み なか
がって、さばかれた。 一三海はその中にいる死人を出し、死も黄泉もその中に
しにん だ おう う
いる死人を出し、そして、おのおのそのしわざに応じて、さばきを受けた。 一
し よ み ひ いけ な こ ひ いけ だい し
四 それから、死も黄泉も火の池に投げ込まれた。この火の池が第二の死であ
しょ な もの ひ いけ な こ
る。 一五このいのちの書に名がしるされていない者はみな、火の池に投げ込ま
れた。
第二一章
あたら てん あたら ち み さき てん ち き さ
一 わたしはまた、 新しい天と新しい地とを見た。先の天と地とは消え去り、
うみ せい みやこ あたら おっと
海もなくなってしまった。 二また、聖なる都、 新しいエルサレムが、 夫のた
ヨハネの黙示録

きかざ はなよめ ようい かみ で てん くだ


めに着飾った花嫁のように用意をととのえて、神のもとを出て、天から下っ
く み み ざ おお こえ さけ き み かみ
て来るのを見た。 三また、御座から大きな声が叫ぶのを聞いた、
﹁見よ、神の
まくや ひと とも かみ ひと とも す ひと かみ たみ かみみずか ひと とも
幕屋が人と共にあり、神が人と共に住み、人は神の民となり、神 自ら人と共
ひと め なみだ まった くだ し
にいまして、 四人の目から涙を全くぬぐいとって下さる。もはや、死もなく、

52
かな さけ いた さき す さ
悲しみも、叫びも、痛みもない。先のものが、すでに過ぎ去ったからである﹂。
み ざ い み あら
五 すると、御座にいますかたが言われた、
﹁見よ、わたしはすべてのものを新
い か ことば しん
たにする﹂。また言われた、
﹁書きしるせ。これらの言葉は、信ずべきであり、
おお こと な
まことである﹂。 六そして、わたしに仰せられた、
﹁事はすでに成った。わたし
はじ おわ もの
は、アルパでありオメガである。初めであり終りである。かわいている者に
みず いずみ あたい の しょうり え もの
は、いのちの水の泉から価なしに飲ませよう。 七勝利を得る者は、これらのも
う つ かれ かみ かれ こ
のを受け継ぐであろう。わたしは彼の神となり、彼はわたしの子となる。 八
もの しん もの い もの ひとごろ かんいん おこな もの
しかし、おくびょうな者、信じない者、忌むべき者、人殺し、姦淫を行う者、
もの ぐうぞう おが もの いつわ い もの ひ いおう も
まじないをする者、偶像を拝む者、すべて偽りを言う者には、火と硫黄の燃
いけ かれ う むく だい し
えている池が、彼らの受くべき報いである。これが第二の死である﹂。
さいご さいがい み はち も にん みつかい
九 最後の七つの災害が満ちている七つの鉢を持っていた七人の御使のひとり
かた い こひつじ つま はなよめ み
がきて、わたしに語って言った、
﹁さあ、きなさい。小羊の妻なる花嫁を見せ
ヨハネの黙示録

みつかい みたま かん おお たか やま つ い
よう﹂。 一〇この御使は、わたしを御霊に感じたまま、大きな高い山に連れて行
せいと かみ えいこう かみ で てん くだ
き、聖都エルサレムが、神の栄光のうちに、神のみもとを出て天から下って
く み みやこ かがや こうか ほうせき とうめい
来るのを見せてくれた。 一一その都の輝きは、高価な宝石のようであり、透明
へきぎょく おお たか じょうへき もん
な碧 玉のようであった。 一二それには大きな、高い城 壁があって、十二の門が

53
もん みつかい こ ぶぞく
あり、それらの門には、十二の御使がおり、イスラエルの子らの十二部族の
な か ひがし もん きた もん みなみ もん
名が、それに書いてあった。 一三 東に三つの門、北に三つの門、南に三つの門、
にし もん みやこ じょうへき どだい
西に三つの門があった。 一四また都の城 壁には十二の土台があり、それには
こひつじ し と な か
小羊の十二使徒の十二の名が書いてあった。
かた もの みやこ もん じょうへき はか きん はか
一五 わたしに語っていた者は、都とその門と城 壁とを測るために、金の測りざ
も みやこ ほうけい なが はば おな かれ
おを持っていた。 一六 都は方形であって、その長さと幅とは同じである。彼
はか みやこ はか ちょう なが はば たか
がその測りざおで都を測ると、一万二千 丁であった。長さと幅と高さとは、
おな じょうへき はか
い ず れ も 同 じ で あ る。 一七ま た 城 壁 を 測 る と、百 四 十 四 キ ュ ビ ト で あ っ た。
にんげん みつかい しゃくど じょうへき へきぎょく きず
これは人間の、すなわち、御使の尺度によるのである。 一八城 壁は碧 玉で築か
みやこ じゅんきん つく みやこ じょうへき
れ、都はすきとおったガラスのような純 金で造られていた。 一九 都の城 壁の
どだい ほうせき かざ だい どだい へきぎょく だい
土台は、さまざまな宝石で飾られていた。第一の土台は碧 玉、第二はサファ
だい だい りょくぎょく だい しま だい あか だい
イヤ、第三はめのう、第四は緑 玉、 二〇第五は縞めのう、第六は赤めのう、第
ヨハネの黙示録

せき だい りょくちゅうせき だい おうぎょくせき だい だい
七はかんらん石、第八は緑 柱 石、第九は黄 玉 石、第十はひすい、第十一は
せいぎょく だい むらさきずいしょう もん しんじゅ もん
青 玉、第十二は紫 水 晶であった。 二一十二の門は十二の真珠であり、門はそ
しんじゅ つく みやこ おおどお
れぞれ一つの真珠で造られ、 都の大通りは、すきとおったガラスのような
じゅんきん
純 金であった。

54
みやこ なか せいじょ み ぜんのうしゃ しゅ かみ
二二 わたしは、この都の中には聖所を見なかった。全能者にして主なる神と
こひつじ せいじょ みやこ ひ つき てら ひつよう
小羊とが、その聖所なのである。 二三 都は、日や月がそれを照す必要がない。
かみ えいこう みやこ あか こひつじ みやこ しょこくみん みやこ
神の栄光が都を明るくし、小羊が都のあかりだからである。 二四諸国民は都の
ひかり なか ある ち おう じぶん こうえい たずさ く みやこ
光の中を歩き、地の王たちは、自分たちの光栄をそこに携えて来る。 二五 都の
もん しゅうじつ と よる ひとびと
門は、終 日、閉ざされることはない。そこには夜がないからである。 二六人々
しょこくみん こうえい たずさ く けが もの い
は、諸国民の光栄とほまれとをそこに携えて来る。 二七しかし、汚れた者や、忌
およ いつわ おこな もの なか けっ もの
むべきこと及び偽りを行う者は、その中に決してはいれない。はいれる者は、
こひつじ しょ な もの
小羊のいのちの書に名をしるされている者だけである。
第二二章
みつかい すいしょう かがや みず かわ み
一 御使はまた、水 晶のように輝いているいのちの水の川をわたしに見せてく
ヨハネの黙示録

かわ かみ こひつじ み ざ で みやこ おおどお ちゅうおう なが


れた。この川は、神と小羊との御座から出て、 二 都の大通りの中 央を流れて
かわ りょうがわ き しゅ み むす み まいつき
いる。川の両 側にはいのちの木があって、十二種の実を結び、その実は毎月
き は しょこくみん なに
みのり、その木の葉は諸国民をいやす。 三のろわるべきものは、もはや何ひと
かみ こひつじ み ざ みやこ なか しもべ かれ れいはい みかお
つない。神と小羊との御座は都の中にあり、その僕たちは彼を礼拝し、四御顔

55
あお み かれ ひたい み な よる
を仰ぎ見るのである。彼らの額には、御名がしるされている。 五夜は、もはや
たいよう ひかり しゅ かみ かれ てら かれ
ない。あかりも太陽の光も、いらない。主なる神が彼らを照し、そして、彼
よ よ かぎ しはい
らは世々限りなく支配する。
かれ い ことば しん
六 彼はまた、わたしに言った、
﹁これらの言葉は信ずべきであり、まことであ
よげんしゃ かみ しゅ おこ しもべ
る。預言者たちのたましいの神なる主は、すぐにも起るべきことをその僕た
しめ みつかい み
ちに示そうとして、御使をつかわされたのである。 七見よ、わたしは、すぐに
く しょ よげん ことば まも もの
来る。この書の預言の言葉を守る者は、さいわいである﹂。
み き もの み き
八 これらのことを見聞きした者は、このヨハネである。わたしが見聞きした
とき しめ みつかい あし ふ はい
時、それらのことを示してくれた御使の足もとにひれ伏して拝そうとすると、
かれ い
九 彼は言った、
﹁そのようなことをしてはいけない。わたしは、あなたや、あ
きょうだい よげんしゃ しょ ことば まも もの おな しもべ な か ま
なたの兄 弟である預言者たちや、この書の言葉を守る者たちと、同じ僕 仲間
かみ はい
である。ただ神だけを拝しなさい﹂。
ヨハネの黙示録

い しょ よげん ことば ふう とき ちか
一〇 またわたしに言った、﹁この書の預言の言葉を封じてはならない。時が近
ふ ぎ もの ふ ぎ おこな けが もの
づいているからである。 一一不義な者はさらに不義を行い、汚れた者はさらに
けが おこな ぎ もの ぎ おこな せい もの せい
汚れたことを行い、義なる者はさらに義を行い、聖なる者はさらに聖なるこ
おこな
とを行うままにさせよ﹂。

56
み く むく たずさ おう
一二 ﹁見よ、わたしはすぐに来る。報いを携えてきて、それぞれのしわざに応
むく さいしょ もの
じて報いよう。 一三わたしはアルパであり、オメガである。最初の者であり、
さいご もの はじ おわ き とっけん
最後の者である。初めであり、終りである。 一四いのちの木にあずかる特権を
あた もん みやこ じぶん きもの あら もの
与えられ、また門をとおって都にはいるために、自分の着物を洗う者たちは、
いぬ もの かんいん おこな もの ひとごろ ぐうぞう
さいわいである。 一五犬ども、まじないをする者、姦淫を行う者、人殺し、偶像
おが もの いつわ この おこな もの そと だ
を拝む者、また、 偽りを好みかつこれを行う者はみな、外に出されている。
つかい しょきょうかい
一六 わたしイエスは、 使をつかわして、諸 教 会のために、これらのことをあ
わかえだ しそん かがや あ
なたがたにあかしした。わたしは、ダビデの若枝また子孫であり、 輝く明け
みょうじょう
の明 星である﹂。
みたま はなよめ とも い き もの
一七 御霊も花嫁も共に言った、
﹁きたりませ﹂。また、聞く者も﹁きたりませ﹂と
い もの く みず もの
言 い な さ い。か わ い て い る 者 は こ こ に 来 る が よ い。い の ち の 水 が ほ し い 者
あたい う
は、 価なしにそれを受けるがよい。
ヨハネの黙示録

しょ よげん ことば き ひとびと たい けいこく


一八 この書の預言の言葉を聞くすべての人々に対して、わたしは警告する。も
か くわ もの かみ ひと しょ か さいがい
しこれに書き加える者があれば、神はその人に、この書に書かれている災害
くわ よげん しょ ことば のぞ もの かみ
を加えられる。 一九また、もしこの預言の書の言葉をとり除く者があれば、神
ひと う ぶん しょ か き せい みやこ
はその人の受くべき分を、この書に書かれているいのちの木と聖なる都から、

57
のぞ
とり除かれる。
おお く
二〇 これらのことをあかしするかたが仰せになる、﹁しかり、わたしはすぐに来
しゅ
る﹂。アァメン、主イエスよ、きたりませ。
しゅ めぐ いちどう もの とも
二一 主イエスの恵みが、一同の者と共にあるように。
ヨハネの黙示録

58

You might also like