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境界要素法
境界要素法
出典 フリー百科事典『ウィキペディア(
: Wikipedia )』
境界要素法(きょうかいようそほう、英 : boundary element method、BEM)とは、汎⽤性の⾼い
離散化解析⼿法の1つで 、有限差分法[4][5]、有限体積法[6]、有限要素法[7][8][9][10]と並び、
[1][2][3]
汎⽤離散化解析⼿法の主要3解法の1つとして理⼯学の分野で受け⼊れられている。電⼦計算機
の発明・発展以前から進められてきた、応⽤数学における積分⽅程式の研究[11][12][13][14]に端
を発していることもあり、境界積分⽅程式法( Boundary Integral Equation Method 、略して
BIEM)と呼ばれることもある [15][16]。
電磁気学では、この境界要素法をもちいた電磁界解析をモーメント法( Method of Moments 、
MOM)と呼んでいる [17][18][19][20] 。
⽬次
解法の基本的な考え⽅[1][2][3]
境界積分⽅程式の定式化[1][2][3]
例:2次元ラプラス問題
境界積分⽅程式の離散化[1][2][3]
境界上の未知量の近似
残差⽅程式の取り扱いと代数⽅程式の導出
境界形状の近似
境界上の積分計算
基本解
解法の特徴・利点と⽋点
境界上の離散化のみで近似解が得られる
離散化して得られる問題の規模を⼩さく抑えることができる
離散化により得られた連⽴⽅程式の係数⾏列が密な⾏列となる
開領域(無限領域)の問題をそのまま取り扱うことができる
得意とする問題
(開領域の)波動伝播の問題
形状最適化問題
関連記事
脚注
参考⽂献
解法の基本的な考え⽅[1][2][3]
解析⼿法は、積分⽅程式の定式化と離散化の2段階を経て構成される。
境界積分⽅程式の定式化[1][2][3]
境界要素法では、まず対象とする問題の⽀配(微分)⽅程式から境界積分⽅程式を導出する。
定式化には直接法と間接法の2種類がある。今⽇では、⽀配⽅程式の未知量をそのまま積分⽅
程式の未知量として取り扱うことのできる、直接法定式化を採⽤する場合が多い。ここでは、
2次元ラプラス問題を例に、直接法定式化による境界積分⽅程式の導出⽅法を説明する。
例:2次元ラプラス問題
ラプラス問題は、⽀配⽅程式:
と、境界条件:
とを同時に満たす解(ポテンシャル)u を求める問題である。ここで、Ωは領域であり、領域
の境界Γは、ポテンシャルu が規定されている境界Γu と、フラックス が規定されて
いる境界Γq からなり、 であるものとする。また、n は境界での外向
き法線⽅向を⽰す。
上で⽰した⽀配⽅程式と関数u* とをかけ合わせてΩに関する領域積分を考えると、u が真の解
であれば⽀配⽅程式を満⾜するため、これを含む項を積分しても0となる。
この恒等式を2回部分積分すると、 として、
を得る。この式は、境界上のポテンシャルとフラックスの分布が得られている時に、領域内部
の点x におけるポテンシャル値を計算する際に⽤いることができる。ラプラス問題や静弾性問
題などでは、観測されるポテンシャル値に及ぼす境界上の解の変動の影響は距離が離れると共
に⼩さくなるため、境界要素法によると内部の点でのポテンシャル値は精度よく計算できると
考えられている。
次に、この積分⽅程式において、ポテンシャル値を評価する点 ξを領域内部から境界上の点に
移動させる。基本解u ,q は r = 0 で関数値が無限⼤に発散するため、点ξの境界上への移動
* *
は、境界積分が有限確定値となるように注意しながら、極限の意味で考える必要がある。その
結果、先に⽰した積分⽅程式は、極限操作によって次のようになる。
境界積分⽅程式の離散化[1][2][3]
境界要素法は、先に⽰した境界積分⽅程式を離散化し、近似解を得るための⽅法である。離散
化においては、
1. 境界上の未知量(ラプラス問題であればポテンシャルu とフラックスq )の近似
2. 近似関数を代⼊した後に得られる(積分⽅程式の)残差⽅程式の取り扱い
3. 境界形状の近似
4. 境界上の積分計算
が必要となる。以下では、先に取り上げた2次元ラプラス問題を例に、順を追ってその内容を
説明する。
境界上の未知量の近似
先に⽰したように、2次元ラプラス問題ではポテンシャルu とフラックスq とが変数(未知量)
である境界積分⽅程式の離散化が必要になる。そこでまず、u とq とをN 個の補間関数を⽤い
て近似する。
ここで、φj は補間関数であり、有限要素法で⽤いられている曲線要素や三⾓形要素、四辺形要
素など[7][8][9][10]をそのまま利⽤できる。なお、境界要素近似においては、定式化の上で特段の
制約がない限り、区間⼀定近似の導⼊が可能である。その簡易さと境界積分の計算のしやすさ
から、多くの場合で区間⼀定近似が⽤いられる。
残差⽅程式の取り扱いと代数⽅程式の導出
上で⽰した近似関数を境界積分⽅程式に代⼊すると、次の残差⽅程式を得る。
近似関数をN 個の補間関数を⽤いて定義したことに注意して、残差⽅程式に対して次のいずれ
かの条件を課し、N 個の(積分)⽅程式を導出する。
境界上にN 個の代表点(選点)ξi (i = 1, 2, ... , N ) を置き、この各点で残差について
であることを求める(選点法)。
N 個の補間関数φi (i = 1, 2, ... , N ) と残差⽅程式との境界積分を考え、各々が全て 0 となる
ことを求める(ガラーキン法[21])。
境界要素法では、前者の選点法を採⽤して離散化を進めるのが⼀般的である。その結果、
ここで、
とおくと、次のN 元の代数⽅程式を得る。
なお、解の⼀意性が保証される場合では、境界値Uj , Qj はどちらか⼀⽅が未知で、もう⼀⽅が
既知である。そのため、未知境界値をまとめてXj 、未知境界値に乗じられている係数をAij 、
既知境界値と係数成分との乗算結果をまとめてbi で表すと、次の連⽴⼀次⽅程式を得る。
この式を解くことで、境界上のポテンシャルとフラックスが近似的に得られることになる。
境界形状の近似
前節で⽰したように、境界積分⽅程式の離散化においては境界値の近似と境界積分の計算が必
要となる。その際,当然のことながら物体形状も定義しておく必要がある。領域形状の近似表
現においても、有限要素法で⽤いられる曲線要素や平⾯・曲⾯要素[7][8][9][10]がそのまま利⽤で
きる。ただし、境界値の近似では区間⼀定近似が適⽤可能であったが、領域形状の近似におい
ては区間⼀定近似を⽤いることはできない。
境界上の積分計算
先に述べた選点法で積分⽅程式を代数⽅程式に置き換える場合、次の境界積分の計算が必要と
なる。
これらの積分は、被積分関数u* , q* が x = ξi で無限⼤となる特異性がある。境界要素解析にお
いて満⾜のいく結果を得るためには、この「特異性」を⽰す関数の積分をいかに精度よく、効
率よく処理するかが重要である。この特異積分は、可能ならば解析的に(⼿計算で)処理し、
不可能ならば特異性を除去した上で数値的に処理するか、または剛体移動条件や⼀定ポテンシ
ャル条件などの物理的に満たさねばならない条件を⽤いて間接的に計算することになる。
なお、境界積分は、選点が境界上にない場合でもその取り扱いには注意を要する。選点と積分
領域との距離が積分領域の代表⻑さに⽐べて⼩さい場合には、被積分関数が積分領域内で⼤き
く変動し、ガウス求積[22]などの数値積分公式を⽤いて積分計算を実⾏する場合に積分精度が
⼤幅に低下することがある。境界積分の計算は係数⾏列の作成において必要となり、その積分
誤差が⼤きくなると近似解の誤差も増⼤する。改善のためには、積分領域を細分割して積分を
計算する⽅法が最も簡単である。
基本解
主要な境界値問題・初期値境界値問題における基本解は、次の通りである。
ラプラス問題(ポテンシャル問題)
:ソース点と積分点との距離、
静弾性問題(等⽅均質の場合, Kelvin解[23])
:ソース点と積分点との距離,E :ヤング率、ν:ポアソン⽐、
:せん断弾性係数、δij :クロネッカーのデルタ、
ただし、この式は平⾯ひずみ問題の基本解である。平⾯応⼒問題の場合には、νを
に置き換えて基本解を構成すればよい。
定常スカラー波動問題
解法の特徴・利点と⽋点
境界要素法には、以下のような特徴、および利点・⽋点がある[1][2][3]。
境界上の離散化のみで近似解が得られる
境界要素法の最⼤の特徴は、対象とする問題によっては「境界上の離散化のみで近似解が得ら
れる」ことにある。境界上の離散化は、3次元問題ならば曲⾯上、2次元問題ならば曲線上で⾏
われる。そのため、有限要素法のように領域内の離散近似が必要な解法と⽐べ[7][8][9][10]、離散
化に必要な要素や節点の数が少なくて済む。
境界上の離散化だけで問題が解ける場合としては、静的問題・定常問題では ラプラス問題、線
形弾性問題 、定常波動問題
[24] [25][26][27][28][29]などのように、線形問題で離散化の際に⽤いられ
る基本解が解析的に厳密に得られ、かつ内部ソースや物体⼒のような⽀配⽅程式の⾮同次項が
存在しない場合である。ただし、⽀配⽅程式が⾮同次項を含んでいても常にこの特徴が失われ
る訳ではなく、⾮同次項の種類によっては⾮同次項を含む領域積分を境界積分に変換できる場
合もある(例:線形弾性問題における重⼒の作⽤)。
時間発展型問題において境界上の離散化のみで近似解を得るためには、線形問題の際に課され
た条件の他に、時間に関する離散化⽅法にも注意が必要である。具体的には、与えられた問題
に対応する時間と空間に関する積分⽅程式(時間域積分⽅程式)を定式化の出発点とし、空
間・時間双⽅を離散化した上で、当該の定式化の下での基本解と初期条件との領域積分(定式
化の結果として残る積分項)が消滅するか、または境界積分に置換可能な場合に限り、時間発
展問題の境界要素解析でも境界上の離散化だけで近似解が得られることになる。有限要素解析
や差分計算の場合のように、時間⽅向の離散化を時間積分法で近似的に処理すると、解析にお
ける各時刻において現時刻での場の値と基本解とを含む領域積分が⽣じ、上述の特徴は失われ
てしまうことになる。
なお、境界要素法は、幾何学的⾮線形問題や材料⾮線形問題[30]のように、領域内部で満たす
ことを求められる⽀配⽅程式や構成⽅程式そのものに⾮線形性がある場合でも近似解を得るこ
とが可能ではある。しかし、定式化の取り扱いの中で領域積分が副次的に⽣じ、境界要素法の
最⼤の利点である「境界上の離散化だけで近似解が得られる」点が失われてしまい、現在では
あまり⽤いられない。
離散化して得られる問題の規模を⼩さく抑えることができる
離散化に⽤いる要素や節点の数、場の変数の評価点の数が⼩さくなれば、最終的に得られる代
数⽅程式(多元連⽴(⼀次)⽅程式)の規模(元数、未知量の総数)も⼩さくなる。線形問
題・⾮線形問題を問わず、汎⽤の離散化解析⼿法では⽀配⽅程式を最終的に連⽴⼀次⽅程式に
帰 着 さ せ [4][5][7][8][9][10][31][32] 、 こ の ⽅ 程 式 の 解 か ら 近 似 解 を 構 成 す る た
め[4][5][7][8][9][10][31][32] 、連⽴⽅程式の元数の⼤⼩は解析時の計算負荷(使⽤メモリ、計算時
間)に直結する [33][34][35]。当然のことながら、問題の規模を⼩さくすれば、計算負荷はより⼩
さく抑えられることになる。
離散化により得られた連⽴⽅程式の係数⾏列が密な⾏列となる
上述のように、境界要素法では規模の⼩さい連⽴⼀次⽅程式を取り扱うことができるものの、
⽅程式の係数⾏列の成分はほぼ全て 0 でないものとなる。そのため、係数⾏列の保存に要する
記憶量は⽅程式の元数N に⽐例する。また、連⽴⽅程式の解を得るためには、ガウスの消去法
に代表される直接法を⽤いれば N3 に[33][34][35]、反復法 (数値計算)を⽤いてもN2 に⽐例する計
算量が必要となる[33][34][35]。
領域内の離散化が必要となる有限要素法や有限差分法では[4][5][7][8][9][10]、係数⾏列の成分のほ
とんどが 0 である疎⾏列となるため、多少問題の規模が⼤きくなっても使⽤メモリや計算量は
境界要素法と⽐べて少なくて済む場合が少なくない。そのため、この点は境界要素法の最⼤の
⽋点の⼀つとして考えられている。解決策としては、多体問題 [36]の解析の⾼速化に⽤いられ
る[40][41][42]。
開領域(無限領域)の問題をそのまま取り扱うことができる
この節の加筆 (https://ja.wikipedia.
org/w/index.php?title=%E5%A2%
83%E7%95%8C%E8%A6%81%E
7%B4%A0%E6%B3%95&action=
が望まれています。
edit)
得意とする問題
上述のような当該解法の特徴,および利点・⽋点を考慮して,今⽇において境界要素法が得意
とする問題としては以下のものがある.
(開領域の)波動伝播の問題
波動伝搬問題とは、対象とする領域内で物理量の擾乱が「波動」として有限な速さで伝播して
いく問題であり、その多くは開領域の問題(領域に無限遠を含む問題)または半無限領域の問
題として定義されることが多い [43][44][45][46]。境界要素法では、開領域の問題をそのまま取り
扱うことができ[1][2][3]、特に波動問題では、無限遠での波動の放射が近似処理なしに表現でき
る。有限差分法や有限要素法では動的応答の観測点から⼗分離れたところに仮想的に境界を設
け、そこでは波動の放射を表現するような近似的な取り扱いが必要となる。そのような点か
ら、境界要素法は地盤振動解析 [47]や地震波の伝播解析、⾳響問題の解析 [48][49][50]、電磁場解
析[17][18][19][20]などで⽤いられることが多い。ただし、閉領域を対象とした動的問題(振動問
題など)においては、有限要素解析の場合のようなモード解析[51]ができない上、有限要素法
と⽐べて計算時間を要することから、あまり多⽤されないようである。
形状最適化問題
境界要素法の利点の1つに、境界上の離散化だけで問題を解くことができる点があった[1][2][3]。
形状最適化問題とは、⼯学分野の構造部材の形状を、所定の⽬的関数と制約条件の下で⾃動的
に最適化する問題である[52][53][54][55]。部材の供⽤を弾性限界内に考えた場合、弾性応答は境
界積分⽅程式を解くことで把握でき、設計感度の計算も同様となる。感度計算は形状の変更の
たびに必要となるが、境界上の離散化のみでよいため、要素分割等の作業の⼿間を⼤幅に削減
することができる。
関連記事
数値解析
CAE
有限要素法
代⽤電荷法
脚注
境界要素法 ―基本と応⽤―、
1. ^ a b c d e f g
有限要素法で学ぶ現象と数理
10. ^ a b c d e f g
―FreeFem++数理思考プログラミング―,
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訳、朝倉書店。 武史著, 共⽴出版.
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参考⽂献
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Verlag, pp. XIV+494, ISBN 978-3-211-71574-1
Cheng, Alexander H.-D.; Cheng, Daisy T. (2005), "Heritage and early history of the boundary
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Katsikadelis, John T. (2002), Boundary Elements Theory and Applications, Amsterdam:
Elsevier, pp. XIV+336, ISBN 978-0-080-44107-8.
Wrobel, L. C.; Aliabadi, M. H. (2002), The Boundary Element Method, New York: John Wiley
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