Download as pdf or txt
Download as pdf or txt
You are on page 1of 6

垂直性骨欠損に対し EMD 単独と EMD・DBBM 併用の

双方により歯周組織再生療法を行った一症例
Clinical evaluation of EMD combined with deproteinized bovine bone mineral
for the treatment of intrabony periodontal defects: A case report

高尾 康祐
TAKAO Kousuke

キーワード:重度慢性歯周炎,歯周組織再生療法,EMD,DBBM

緒言 による修復処置をしている.40 代の半ばに
(EMD)
エナメルマトリックスデリバティブ を骨縁下 6 の強い痛みを覚え,近医を受診し根管
欠損へ応用した歯周組織再生療法は,その手技および 治療ののちに補綴処置を受けている.50 代
治療成果の双方において,多くの研究によりエビデン に入り咀嚼の際に左右両側臼歯部に軽い痛
スの確立された治療法である 1-3)
.また, 2001 年の みと違和感を覚えていた.同部位のブラッ
Froum らの研究によると,EMD を用いた歯周組織再 シング時の出血がひどくなってきたので,
生療法を行う際,罹患歯の骨欠損形態が深い Well- 歯周病が心配になり当院を受診した
contained defect である場合は EMD を骨内欠損部へ満 全身的既往歴:特記事項なし
たし歯根面に塗布するのみで,確かな歯周組織再生が 喫煙歴:なし
期待できるとされている.一方で罹患歯の骨欠損形態
が,骨壁の裏打ちのない 1-2 壁性骨欠損
(noncontained 口腔内所見:縁上,縁下歯石の沈着を認め,辺縁
である場合,塗布された EMD を根面に留める
defect) 歯肉には顕著な炎症所見が認められた.
ため,またフラップを支持し組織再生スペースを保持 6 5 4 4 5 6 , 6 5 には浮腫性の歯肉腫脹を認め,

すべく,自家骨移植,あるいは代用骨補塡剤を使用し 6 頰側においては排膿を伴う膿瘍が確認できた
た骨移植を併用することが望ましいとデシジョンツリ (図 1)
.臼歯部の伵合支持の減少,および歯の動
ーにて示されている 4). 揺に伴う上顎前歯部のフレアーアウトを認めた.
今回,広汎型慢性歯周炎を呈する患者において, エックス線所見: 7 6 5 4 近遠心に垂直性骨縁下欠
EMD 単 独 と EMD・ ウ シ 由 来 多 孔 性 骨 移 植 材 損, 6 遠心根を取り囲む骨吸収像,そして 5 の
(deproteinized bovine bone mineral:DBBM,Bio-Oss®, 近遠心には根尖 1/3 に到達する深い垂直性の欠損
Geistich Pharma 社)
併用の双方により,歯周組織再生 を認めた.また, 1 遠心には根尖 1/3 を越える深
療法を行った結果,興味深い結果を得たため報告する. (図 2)
い垂直性骨欠損が認められた .
歯周組織検査所見:PCR は 70.5 %,プロービング
症例の概要
(PPD)
ポケットデプス は最小 3 mm,最大 11 mm
患 者:58 歳,女性,無職 で,平均 5.0 mm であった.またプロービング時
初 診:2014 年 2 月 には 7 1 , 5 6 より排膿が認められた.プロービ
主 訴:右下の歯が嚙むと痛い (BOP)
ング時の出血 はすべての計測歯にみられ,
歯科的既往歴:30 代にう のため臼歯部にインレー BOP 陽性率は 80.4 %であった.PPD が 1∼3 mm

受付日:2022 年 12 月 12 日
福岡市開業.九州支部所属.
〒812-0016 福岡県福岡市博多区博多駅南 1 丁目 4-4 FUSHI ビル 203
指導医 船越栄次

86 特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会会誌 JJACP Vol. 41 No. 1/2023


垂直性骨欠損に対しEMD単独とEMD・DBBM併用の双方により歯周組織再生療法を行った一症例

図 1 下顎右側臼歯部の初診時の口腔内写真
(2014.2).臼歯部歯頸部には帯状に,プラークの停滞,縁上歯石の沈着を認める.
また辺縁歯肉には発赤,腫脹などの炎症所見を認める. 6 頰側には,排膿を伴う膿瘍が確認できる.

図2 (2014.2)
初診時のデンタルエックス線写真 .臼歯部を中心に,高度な歯周組織破壊の様相を呈していた.

図 3 初診時の歯周組織検査 (2014.2).PCR は 70.5 %.PPD は 3∼11 mm であり


平均 5.0 mm であった.BOP 陽性率は 80.4 %であった. (太字:出血部位)

の部位は 6 点計測 168 部位中 18 部位(10.7 %)


, 治療計画:
4∼5 mm の部位は 168 部位中 100 部位
(59.5 %)
, ①歯周基本治療;炎症性因子および外傷性因子の
6 mm 以上の部位は 168 部位中 50 部位(29.8 %) 除去
であった.動揺度は 4 3 2 1 1 2 3 ,7 4 2 3 4 5 は 1 度, (1) (2)
歯周組織検査, (3)
口腔清掃指導, スケー
7 6 5 4 5 , 6 5 7 は 2 度,また 6 は 3 度であっ (SRP)
リング・ルートプレーニング ,(4)
外傷性因
(図 3)
た . 子への対応として 7 6 5 4 および 7 6 5 4 のレジン被
保存不可と判断した 6
(5)
覆冠による暫間固定,
診 断:広汎型慢性歯周炎(ステージ III グレード (6)5 7 を支台とするレジン被覆冠による
の抜歯,
B)
. (7)
暫間補綴, 伵合診査・調整
②再評価
③歯周外科処置;歯周基本治療後,4 mm を超える

特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会会誌 JJACP Vol. 41 No. 1/2023 87


図 4 再評価時の歯周組織検査 (2014.5).右側前歯部および臼歯部に深い残存ポケ
ットを認めた.PCR:18.5 %,BOP 陽性率:23.5 %,4 mm 以上の PPD:32.7 %.
(太字:出血部位)

図 5 上顎右側臼歯部 FOP のデブライド 図 6 上顎右側前歯部再生療法術中のデブ


メント終了時の口腔内写真 (2014.6). ライドメント終了時, EMD 塗布直前の口腔
内写真 (2014.6)
. 1 遠心に上部 1 壁性,
底部 3 壁性の骨内欠損を認める.

PPD を呈する歯に全層弁歯肉剝離搔爬術を行う. (2014.5)


②再評価
また,6 mm を超える部位に関しては,適応であ 歯周基本治療後, 7 4 において 4∼6 mm の残存
れば EMD,および骨補塡材 DBBM を併用した歯 ポケットを認めたため,同部位に対し歯周外科処
周組織再生療法を行う 置として全層弁歯肉剝離搔爬術を行う旨を患者に
④再評価 説明した.また, 1 , 7 6 5 4 4∼7 mm の残存ポケ
⑤口腔機能回復治療;最終補綴処置 7 6 5 4 および ットを認めたので,同部位に対して EMD,骨欠
7 6 5 4 ,連結冠装着 5 6 7 のブリッジ装着 損の形態,幅を確認して効果が期待できる場合は
⑥再評価 DBBM を併用して歯周組織再生療法を行う旨を
(SPT)
⑦サポーティブペリオドンタルセラピー (図 4)
提案したところ,患者の同意が得られた .

治療経過: (2014.6∼7)
③歯周外科処置
(2014.2∼)
①歯周基本治療 (1)7 2 に対して全層弁歯肉剝離搔爬術を行った
モチベーション,口腔衛生指導を通じて口腔内の (2014.6)
.歯肉弁翻転後,徹底的な歯石除去,デ
清掃状態の改善に努めた.また,SRP による炎症 ブライドメント,根面滑沢化を行い,縫合した
性因子の除去を行った.動揺を認める 7 6 5 4 およ (図 5)

び 7 6 5 4 はレジン被覆冠による暫間固定を行っ (2)1 に対して歯周組織再生療法を行った
(2014.6)

た.遠心根の縦破折により高度な骨吸収を呈し, 歯周基本治療後,遠心に 7 mm の残存ポケットを
また動揺度も 3 度であった 6 は患者に要抜歯であ 認めた 1 については,欠損部形態が EMD を根面
る旨を説明したところ同意が得られたので抜歯を に十分留めておくことが可能と思われる上部 1 壁
行い, 5 6 7 テンポラリーブリッジを装着した. 性底部 3 壁性の骨内欠損であったため(図 6),

88 特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会会誌 JJACP Vol. 41 No. 1/2023


垂直性骨欠損に対しEMD単独とEMD・DBBM併用の方により歯周組織再生療法を行った一症例

図 7 下顎右側臼歯部デブライドメント終 図 8 下顎右側臼歯部 EMD 塗布直後の口 図 9 下顎右側臼歯部 DBBM 塡入後の口


了時の口腔内写真 (2014.7).1-2 壁性の 腔内写真
(2014.7). 腔内写真 (2014.7).
骨内欠損を認める.

3
3 3

3 3
3
図 10 SPT 移行時(2015.5)の歯周組織
検査. PCR: 21.3 %, BOP 陽性率:
3.7 %,4 mm 以上の PPD:0 %.(太
字:出血部位)

3
3 3 3 3

3
3
図 11 SPT 移行後 5 年時(2020.5)の歯
周組織検査.PCR:22.2 %,BOP 陽性
率:4.7 %,4 mm 以上の PPD:0 %.
(太字:出血部位)

EMD 単独による再生療法を選択し,EMD を欠損 (2015.1)


④再評価
内部に満たし根面に塗布後,縫合した. 歯周外科処置後約 6 ヵ月で再評価を行った.PPD
(3)5 に対して EMD および DBBM を用いた歯周組 は 2∼3 mm へと顕著な歯周組織の改善を認めたの
(2014.7)
織再生療法を行った .歯肉溝内切開を行 で,口腔機能回復治療へと移行した.
い歯肉弁を翻転した. 5 歯根面には歯石沈着を,
また近遠心にカップ状の骨欠損を認め,頰側の骨 (2015.2)
⑤口腔機能回復治療
(図 7)
壁も喪失していた .徹底的な歯石除去,デ 補綴処置として 7 6 5 4 および 7 6 5 4 に連結冠装着
ブライドメント,根面滑沢化を行い,汚染のない を行い,永久固定を行った.また,下顎左側臼歯
歯根面に EMD を塗布したのちに,あらかじめ 部に対してブリッジを装着した.
EMD と混和しておいた DBBM を塡入し,縫合し
(図 8,9)
た . ⑥SPT
(2015.5∼)
補綴処置後の再評価にて PPD はすべて 2∼3 mm
であり,病状の安定を確認し,メインテナンスに
(図 10)
移行した .

特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会会誌 JJACP Vol. 41 No. 1/2023 89


図 12 SPT 移行後 5 年時の口腔内所見
(2020.5).

図 13 SPT 移行後 5 年時のデンタルエックス線写真


(2020.5).

透過像とともに,エックス線像における骨の平坦化を
考 察
(図 13)
認め,良好な治療結果を確認できる .
今回提示した患者は広汎型重度慢性歯周炎の症状 歯周外科処置時,EMD の適応症である深い 3 壁性
を呈しており,特に 1 , 5 における歯周組織破壊は の骨内欠損を呈していた 1 とは対照的に, 5 では近
顕著であった.両部位に対して EMD による歯周組織 心,遠心に高度な垂直性の骨吸収を認め,また頰側骨
再生療法を行ったが,骨欠損形態を考慮し, 1 は 壁の一部が損なわれており,幅広な 2 璧性の欠損形態
EMD 単独, 5 は EMD/DBBM 併用で処置を行った. であった.EMD はその性状が粘性のある液体である
現在 SPT 移行後 5 年が経過するが,両部位におい ため,足場を作ることが難しく,歯肉弁や歯間乳頭の
て PPD は健常値を示しており,動揺も認められない 陥没などを生じ,結果として組織再生量が減少してし
(図 11)
.口腔内所見においても歯肉に炎症所見は認 まうことも多い.それゆえ頰舌側の骨壁が損なわれた
められず,軟組織のレベルも安定しているといえる
(図 本症例 5 のような 1-2 壁性の欠損形態は EMD による
12)
.初診時と比較し,臼歯部伵合支持や当該歯の動 再生において好ましくないとされてきた 1).しかしな
揺改善が得られたことにより,初診時に認められた上 がら,種々の文献によれば EMD に骨補塡材,吸収性
顎前歯部のフレアーアウトは軽微ではあるが,改善傾 膜などを併用することで足場を維持でき,さらに歯肉
向が確認できた.また,1 ,5 の双方において,頰側 弁,歯間乳頭の維持が可能になれば,十分歯周組織再
リセッションは 1∼2 mm にとどまっており,4∼5 mm 生が期待できるとされている 4-6).
のアタッチメントゲインが得られ,良好な治療結果で 今回,組織再生に不利とされる骨欠損形態を呈して
あるといえる. いた 5 においても, 1 と同等の組織再生が認められ
SPT 移行後 5 年時のデンタルエックス線写真では, た.また辺縁歯肉の高さも維持されており, 1 と同じ
1 遠心の深い垂直性骨吸収は,再生した新生骨と思 4∼5 mm のアタッチメントゲインが得られている.こ
われるエックス線不透過像を認める.また DBBM を れは,DBBM を欠損部に足場として塡入したことが,
併用した 5 においても,近遠心に著明なエックス線不 歯根膜由来前駆細胞が歯根面へ選択的再配置されるた

90 特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会会誌 JJACP Vol. 41 No. 1/2023


垂直性骨欠損に対しEMD単独とEMD・DBBM併用の双方により歯周組織再生療法を行った一症例

めのスペース保持や,歯間部歯周組織の落ち込みを最 参考文献
1) 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 編:歯周病患者にお
小化することに寄与したためであると思われる.
ける再生治療のガイドライン 2012.医歯薬出版,東京,
本症例に限っていえば,EMD と DBBM の併用療法 37-45, 2014.
が歯周組織再生のみならず,歯肉レベルの維持に寄与 2) Cochran DL,
Heijl L,
Wennstrom JL,
Funakoshi E,
船越栄次 監
訳:エムドゲインを用いた再生療法の基礎と臨床. クイン
する一因である可能性が示唆された.今後も適用を見 テッセンス出版, 東京, 73-83, 2005.
極めつつ長期予後につながる治療選択を心がけていき 3) Miron RJ, Katsaros C, Buser D et al.: Enamel matrix protein
たい. adsorption to root surfaces in the presence or absence of human
blood. J Periodontol, 83(7): 885-892, 2012.
4) Froum S, Lemler J, Horowitz R et al.: The use of enamel matrix
結論 derivative in the treatment of periodontal osseous defects: a
・骨縁下欠損部位に対して EMD を用いた歯周組織 clinical decision tree based on biologic principles of regeneration.
Int J Periodontics Restorative Dent, 21(5): 437-449, 2001.
再生療法を行う場合,骨補塡材を併用すると術後
5) Iorio-Siciliano V, Andreuccetti G, Blasi A et al.: Clinical outcomes
の歯肉のリセッション減少が期待できる. following regenerative therapy of non-contained intrabony defects
using a deproteinized bovine bone mineral combined with either
・この症例においては,2 壁性の骨欠損形態は 3 壁
enamel matrix derivative or collagen membrane. J Periodontol,
性と比較して EMD 単体での歯周組織再生に不向 85(10): 1342-1350, 2014.
きであるといわれているが,骨補塡材 DBBM の併 6) Miron RJ, Wei L, Bosshardt DD et al.: Effects of enamel matrix
proteins in combination with a bovine-derived natural bone
用により 3 壁性の骨欠損と同等の歯周組織再生が
mineral for the repair of bone defects. Clin Oral Investig, 18(2):
得られた. 471-478, 2014.

本論文に関して,開示すべき利益相反状態はない.

特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会会誌 JJACP Vol. 41 No. 1/2023 91

You might also like